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(  ω )千年の夢のようです

99 ◆3sLRFBYImM:2016/06/07(火) 23:56:39 ID:uoQSJDlE0
骨を断つ音は肉を裂く音へと変わる。

感覚はない。 どうやら麻痺している。
頭をあげることも出来ない。
たとえ、もがく指先が硬い感触を得ていても、それをそうだと認識するにはもはや足りない。


( ↑ゝ)


クーを傍らに、デルタは深紅の涙を流す。
…謝罪の言葉を口にして。
自らと、忌まわしき一族に怨みを呟いて。


( ↑ゝ) クーよぉ…

川   - )

( ↑ゝ) ……なにか、言いたいことはアルかぃい?

川   - )


川   - )


川   - ) 「……謝るくらいなら、最初からこんなことするな」


( ↑ゝ) ……   はハ、そうだよなあ


声は音波となり、振動によって伝わるように出来ている。

音なき振動。
腕の先から微弱に伝わるのは──断末魔。
クーが手離してしまったはずの鉄の棒が、デルタのこめかみを易々と貫いていた。


苛立ちを抑えられないクーの感情が手伝い、小刻みに震えている。
まるで止めを刺すかの如く、グリグリとそれを押し込んでいく。
……デルタの声が、する。



      それでも、ごめんなあ。

川   - )

100 ◆3sLRFBYImM:2016/06/07(火) 23:57:34 ID:uoQSJDlE0
…そう言い終わると同時、デルタの身体はクーに覆い被さった。


軽くて重い圧力が、空の高さを錯覚させる。
ジュクジュクと疼き、走る激痛がクーを蝕んでいく。


川   - )


クーの瞳は虚空を仰ぐ。
姿を隠したままの月は浮かぶことなく、いつしか夜の鳥も居なくなった。

代わりに朝焼けが登り始めた頃、その痛みもやがてどこかへと消える。


川   - )


唇を咬む。 血色の良くなった薄白い頬を血が伝う。
それでも歯を喰いしばったのは、一時の痛みよりも堪え難い、所在なき怒りのやり場が無かったからだ。


あの時、デルタと別れていれば……。
あの日、外に出なければ……。

そんな "もしも" を繰り返して、悲劇を避けられたかもしれない今日を想う。


だがもう何も話すことはない。
心の通わない、虚しい抱擁を済ませるとクーは立ち上がる。


川 ゚ -゚) 「…」

101 ◆3sLRFBYImM:2016/06/07(火) 23:58:34 ID:uoQSJDlE0
骨まで達していたはずの肩の傷は塞がり、小さな痕だけが皮膚の再生を告げていた。
間違いなく…デルタの牙は彼女の身体を肉として喰らったはずだったのに、それでもクーは生きている。


            ((  川 ゚ -゚)


死ななかった女は、記憶という名の人生の旅路でもう一度男と出会い、幻想を共に過ごすことができる。
憶えている限りは永遠に。


だが、死んだ者からはその権利すら剥奪される。
デルタはそのまま朽ちていく。 二度と起き上がることは無い。





それでいいのだ。
彼は立派な村人として、此処で骨を埋めるのだから。




(推奨BGMおわり)

102 ◆3sLRFBYImM:2016/06/07(火) 23:59:58 ID:uoQSJDlE0
------------


��now roading��


( "ゞ) 

HP / C
strength / D
vitality / A
agility / D
MP / C
magic power / F
magic speed / H
magic registence / E


------------

103 ◆3sLRFBYImM:2016/06/08(水) 00:01:01 ID:QEDXTstc0
今日はここまで
続きはまた後日に投下します

投下中の支援、ありがとうございました

104名も無きAAのようです:2016/06/08(水) 00:01:19 ID:e7jQaE520


105名も無きAAのようです:2016/06/08(水) 19:35:43 ID:meFxNgkE0
来てた!久々!


106名も無きAAのようです:2016/06/12(日) 11:18:04 ID:FztRI3Sg0
乙!

107名も無きAAのようです:2016/06/30(木) 19:01:49 ID:Wzv7pdGw0
感想が少ないのは多分、みんな少し前若しくは最初から読み返してるからなんだろうなぁ

108名も無きAAのようです:2016/06/30(木) 19:55:39 ID:KVcxo7GI0
本当に読み返してて楽しい話だからねぇ

109名も無きAAのようです:2016/07/05(火) 22:23:28 ID:Eah1A3Ng0
たまにホムンクルスとごっちゃになってしまう

110 ◆3sLRFBYImM:2016/07/20(水) 19:31:41 ID:RYml97060
----------



(;´・ω・) 「……どうして君が」


──囁くほどの小さなその声に、失っていた意識が目覚めた。

ガラガラと崩れるロータウンの瓦礫が、覚醒には充分すぎるほどの物音をたてて破砕していく。


川 ゚ - ) 「…」


…夢とは、記憶にとって大切な箱庭の役目を果たす。
育み慈しむことで花は列び、和を享受する樹が生い茂り、蝶の吸う蜜を蓄える。
想い出の庭園は、人が手入れしてこそ美しさを保つものだ。

  _
(;゚∀゚)
⊇,,゚Д゚彡 「おい! いきなり大技を使うなって!!」


怒鳴るジョルジュ。
【グランデス】に巻き込ませまいと救ったナナシを抱えて。


暗雲漂う空……確かにあったはずの光る星々も、今は見えない。
そんな星の下で、クーは唐突に取り戻した。

──これまで何度も見たはずの夢。
かつての情景と、消えていった想い。
そして何故、今まで忘れていたのかも。


川 ∩ -゚) 「…………なるほどな」


だが残念なことに。
感傷に浸れるほどの余韻を味わう暇は無さそうだ。

111 ◆3sLRFBYImM:2016/07/20(水) 19:32:48 ID:RYml97060
あれほど苦しめられた頭痛も、今ではすっかり消えている。

時間にして数秒も経過していないことは、霞みとなり消滅していく八岐大蛇と、己の魔導力が教えてくれる。
見上げた先の、ショボンの顔が近い。
ときめきなど覚えるはずもないが、彼に抱えられていることに遅れて気付き、息を吐いた。


クーは立ち上がり、我が身を支えてくれていたショボンに軽く礼を陳べる。
共に眺めるは、もうもうと立ちこめる【グランデス】の痕跡、そして砂煙。

睨むは…奥に潜む呪術師の影。


ショボンの視線は動かない。
ジョルジュも、氷結して物言わぬ金髪の青年を腕に抱えながら同じく、行く末を見守っている。


川 ゚ -゚)        ミ,,゚Д゚彡


この世界では珍しい風貌をしている青年、ナナシ。
クーが生きてきた時の流れにおいてすら、ハインを除けば唯一、金髪の人間を見た気がする。


いくら痛みに苛まれようと、クーにとっては馴染み深い魔導力のコントロール。
無関係な人間をむざむざ巻き込むつもりなど毛頭ありはしなかったが、ここはジョルジュの行動と意思を尊重し、なにも言わないでおく。

だが、些か視野を狭めていたのも確かだ。


   ──それよりも問題は。

112 ◆3sLRFBYImM:2016/07/20(水) 19:33:55 ID:RYml97060
川 ゚ -゚) 「どういうつもりだ」
  _
(;゚∀゚) 「…」
つ,,゚Д゚彡

(;´・ω・)








「…………」 (^ω^ )<▼><●>;)



クーたちを遮るように、そこにはブーンがいた。
ワカッテマスを庇い、【グランデス】から救い出している。


(<▼><●>;) 「…例のものは手に入りましたか?」

(^ω^ )「これで合ってるかお?」
 つΘ

川 ゚ -゚) 「!」


ブーンの手のなかに鈍く光るそれは、モナーに依頼し、預けておいたはずの指輪。


(<▼><●>;) 「…………そう、それです、ククッ」


嗤うワカッテマス。
──だからあの時、ブーンは工房にいた。

113 ◆3sLRFBYImM:2016/07/20(水) 19:35:04 ID:RYml97060
川# ゚ -゚) 「……その指輪を返せ」

       (^ω^ )

「彼には必要不可欠でしてね…お借りしますよ」 (<▼><●>;)

川# ゚ -゚) 「許可しない。 私ですら扱いきれる物じゃあないんだ」


これまで偽りの湖に保管し、穢れを吸い込み続けていたクーの指輪。
モナーと共に浄化こそ完了したが、その性質は魔導力を無尽蔵に蓄積する…例えるなら【ドレイン】の媒体だ。


(;´・ω・) 「何を吹き込まれたのかは知らないけど…ソイツには関わるな、ブーン」

       「…」 (^ω^ )

「この方は私のために居るのではありません。
利害が一致したから共に在る…それだけです」(<▼><●>;)

(;´・ω・) 「利害……どういうことだ? お前とブーンにそんなものが」
  _
( ゚∀゚) 「!」

「…ツンのためだお」 (^ω^ )

川# ゚ -゚)
  _
(;゚∀゚) 「……ツンって…アンタ」


ジョルジュも思い出す。
ツンと共に行動した際、彼女が人の妻であったことを。

その夫の名を。

114 ◆3sLRFBYImM:2016/07/20(水) 19:36:24 ID:RYml97060

夢と現実はいまだ曖昧で、しかし確かなこともある。

不死である彼らは──長い年月をかけ、各々の人生を歩んできた。
その果てなき軌跡は常人に窺い知れるはずもない。
身も、心も。


「20年……探し続けたんだお」 (^ω^ )


永遠を生きる者と、百に満たされる刻を歩む者の人生には、大きな隔たりが確かにある。

…だが、愉楽と失望は皆同様に訪れるのだ。
たとえいつかは見つかる捜しものだとしても、失っている間の時の流れは平等に心をすり減らす。

いやむしろ。
なまじ悠久への希望があるからこそ、絶望への展望が深淵を覗いてしまうこともある。


上流からくる水が、下流へと行き着く頃には澱み濁るように。
かつての大岩も、やがては小石になるように。
    ……永ければ、永いほど。


「お願いだお、ここは見逃してくれお」 (^ω^ )

「ク…ククク」 (<▼><●>;)


狼狽するジョルジュらをよそに、ブーンはじりじりと後退する。
呪術師が不気味に嗤った。
斬りつけられたその背中を中心に、受けたはずのダメージが回復していくのは、呪術【キール】によるものか。


川# ゚ -゚) 「…」

115 ◆3sLRFBYImM:2016/07/20(水) 19:37:32 ID:RYml97060
クーの胸の内に、今まさに大きくわき上がる憤りがある。


ツンに何があったのか、この時のクーには分からない。

    ・・・ ・・・・・・・・・・・・・
だが彼はあの日、クーの記憶に【破壊】を施すまで、常にツンと共に居た。

不甲斐ない女王の代わりに……、
人生を棄却して膝をついた友の代わりに……、
ツンを護ると約束してくれた。


彼がクーの元に訪ねてきたことは、以来ない。
百歩譲って、眼前の呪術師を生かすことになんの意味があろうか。
呪術師でなくてはならない、そんな理由など────


川 ゚ -゚) 「────!」


クーのなかにひとつ、当てはまるものがある。

116 ◆3sLRFBYImM:2016/07/20(水) 19:38:39 ID:RYml97060
「……なんならこの方々を一度、  ( <▼><●>;)
この場で屠っていただけるなら私も集中して手を貸せるのですがね…」

「どうせ、死なないのですから、クヒッ」 (<▼><○>;)

(;´・ω・) 「!」
っ←──
  _     ザッ  
(;゚∀゚)o"


一同、身構える。
ショボンは内心に冷や汗を流し、ジョルジュはそんな彼の警戒に倣った。


ブーンの戦闘を目の当たりにしたことがあるショボンにとって、【破壊】の魔導力は脅威そのもの。
アサウルスの装甲を難なく剥がし、巨大な太陽すら打ち砕く。

人の身に下れば一撃で終わるだろう……出来れば戦いたくはない相手だ。

117 ◆3sLRFBYImM:2016/07/20(水) 19:40:25 ID:RYml97060
「勘違いするなお」 ( ^ω^)


だが、ブーンはこれを拒絶した。
ワカッテマスの呪術【カース】を原因としてツンが石化したことを、彼も知っている。


「…そうですか。 ですが、彼女は逃がしてくれそうにありませんが?」 (<▼><●> )

川 ゚ -゚)

「お約束しましたよね?   (<▼><●> )
 ツンさんの魂の移動が完了するまで、私を守ると」

「…」 (^ω^ )


────魂の、移動。


「私も果たしましょう…ですから、貴方も見せてください」 (<●><●> )

「……誠意というものを。  (<▼><▼> )
せいぜい体現して頂きますよ、貴方の、ツンさんへの愛情をね」 

     (^ω^ )


知ってなお、彼は今、ワカッテマス側についている。
大陸で病いを蔓延らせ、弱みにつけこみ人を操る、呪いの人形の思惑にあえて乗ってまで。


川  - ) 「……  ふっ」


────不死の魂を、どこへやるというのか?
クーは思わず噴き出した。


川 ゚ -゚) 「…持たざるものであるほどに渇望するのは、不死も人形も同じなんだな」

       (^ω^ ) "(<▼><▼> ) ピクッ

川 ゚ -゚) 「おかげで思い出したよ……私の役割」

           ・・・・・・・・・・・・・・
川 ゚ -゚) 「そして──…ブーンの姿を模したアサウルス。 貴様の "本当の役割" もな」


&nbsp;

118 ◆3sLRFBYImM:2016/07/20(水) 19:42:46 ID:RYml97060
----------


その広大さゆえ、時間を問わず滞在する人間に合わせ区画化された巨大都市…西の都。


水の都とはまた異なる、およそ人間が住まうに不自由しないであろう要素を内包している。

欲遊び、欲笑い、欲稼ぐ、【アッパータウン】の賑やかさ。
そのいずれにも属することのできないスラム…【ロータウン】の、
陰鬱でありながら来るもの拒まぬ懐の広さ。

その珠玉混在の有り方は、歴史上にも稀有な形態を長く保持する。
だが内部にいるうちは、そんな贅沢も猶予も、当たり前のように認識される事柄のひとつに過ぎなかった。


人はまず己ありきで尺度を測る。
ほとんどの住人が、貧富の差を始めとする人生格差を思い知らされる。
一年と経たぬうちに生活はどちらかに傾き、隣の芝生を青きに思い込んでは一喜一憂する。

その実、当人以上の苦楽を抱える隣人とすれ違いながら、その真実に辿り着くことなく生きていくものだ。


「準備はできた?」

119 ◆3sLRFBYImM:2016/07/20(水) 19:44:12 ID:RYml97060
…何年も此処に居た。
…正確には二十年、此処に居させられた。


静かに過ごせば何食わぬ顔で繰り返される日々。
子供らは青春時代を謳歌し、大人たちは人生設計を明確にしていくに充分な年月。

その二十年間、この場から離れることを許されなかった者が、ただただ生きてきた日々。


もちろん、街を出ようと思えばいくらでも踏み出せただろう。
……彼らにそれが赦されていたならば。


(・(エ)・) 「はい、滞りなく」


身寄りはなく、明日への希望も見出だせぬ俗世の異物。

一方は、廃墟じみたビル10階の受付カウンターに座り、時に帰らぬ人間を見送る。
タバコに灯された火種を、消えゆく命に見立てたこともある。

一方は、荒くれ者の狼藉を塞き止め、非合法のなかに秩序を作り出す。
心なく吐き出された暴言を鼻で笑っては
『望んで棄てた人間性ならば、私と代わってくれたらどんなに良いか』と羨むこともあった。


それが【ロータウン】の廃墟ビルで過ごしていた、二人の青春。
たまの宿泊客と頻繁な金持ちを適切な場所に案内し、質と量を問わず日銭を稼ぐのも、しかし今日でおしまいだ。


「そう。 それではお元気で」

(・(エ)・) 「……貴方も。 お世話になりました」

120 ◆3sLRFBYImM:2016/07/20(水) 19:45:59 ID:RYml97060
刻はまだ未明──。
クマーが深々と頭を下げると同時、寝静まるダットログにも、その大きな音と揺れが轟いた。


「……始まったようですね。 これは地の魔導力…それも、強大な」

(・(エ)・) 「やはり私たちは監視されていたのでしょうか?」

「今となってはどちらでも。 信頼関係など、元より無かったのですから」

(・(エ)・) 「…」

「重要視すべきは現実。
あの男が言った通り、もうすぐ【ロータウン】の……
いいえ、この都全体が戦場になるかもしれないということだけ」


クマーは、頭上からパラパラと降りかかる石灰を肩から払い落とす。
自分自身と……次いで、長年連れ添った性別不明のその者を、優しく包むように。


「気遣いは結構。 私はどのみちここから動くことはないし、誰に見られるわけでもない」


言葉とは裏腹に、その者はクマーの行為を受け止めていた。
拒否どころか名残惜しさすら漂わせて。


(・(エ)・) 「闘技場のモンスターは?」

「不死者から造ったという最後の人形も、あの金髪の青年が倒してくれたことで、残るは失敗作ばかり。
貴方や街の人々が程よく逃げおおせた頃にでも、適当に解き放ちますよ。
一分一秒でも時間を稼ぐことができれば上出来です」

(・(エ)・) 「……果たして、大丈夫でしょうか?」

「たとえ暴走したところで【アッパータウン】ならば衛兵がなんとかするでしょう。 そのための機能もある。
…【ロータウン】の住人こそ、私が守らなければならぬ存在────」
   ────《ガ ガガガッ》。


会話を遮るほどの、街を揺らす地震の波…。
クーが詠唱した【グランデス】はそれほどに影響力が大きい魔法だった。
地面を抉る衝撃が無遠慮に伝わり、古いビルの天井を再び破損させ、石膏を散らす。

性別不明者の被っていたフードも震動によってめくれ落ちる。


( ノAヽ)「……それともその言葉は、自分自身に向けたもの?」

121 ◆3sLRFBYImM:2016/07/20(水) 19:53:07 ID:RYml97060
露になったその顔は、水に溶かされた泥粘土のようにグニョグニョと、絶えず変型を繰り返している。
…自らの意識とは無関係に、人面と称すに足る概念を必死に守ろうとしているように。


(・(エ)・) 「……、私は」

(・(エ)・) 「ナナシという青年の闘いが最後で良かったと思います。
ダットログ、いや、データムログにおいて、あのチャンピオンを撃破した者はかつていなかった」


ワカッテマスに生み出された人形。 それが二人の正体だった。
……しかも、"人の魂をまるごと移された" 実験体。


(・(エ)・) 「そしてこのタイミング…」

( ノAヽ)「かもしれない。 我々以外の実験体は、記憶や理性を残せなかった」

(・(エ)・) 「ノーネ殿、やはり貴方も共に脱出しましょう」


ノーネと呼ばれた性別不明者が、小さく首を振る。
浮かべる表情は諦観の念。


( ノAヽ)「私は【ロータウン】だからこそ生きられた。
この顔と、内臓や生殖器すら失った半死体が外界に出ても、世間には到底受け入れられないでしょう」

(・(エ)・) 「そんなことは」

( ノAヽ)「いいのです、もはや此処が私の居場所。 いまさら故郷に未練などない。 ですが貴方なら……」

( ノAヽ)「たしか…ウォール高原、でしたね」

(・(エ)・) 「…………もっとも長く日を過ごしたのは。
ですが、今さら戻ったところで、妻と我が子に会わせる顔などありませんよ」

122 ◆3sLRFBYImM:2016/07/20(水) 19:54:30 ID:RYml97060
「ならばどうか、せめて新しい人生を」──。
ノーネの挨拶とクマーの辞儀が交差する。
二人が交わした言葉は、それが最後となった。


廃墟ビルを出たクマーは戦闘音から離れるように、しかし堂々と歩を進め、
【ロータウン】と【アッパータウン】を繋ぐ長階段を通り過ぎる。

殺到する人々を横目に、離れにある下水路への金網を外した。
ガシャガシャと内部に大きく響くその音も、外の空気に混ざれば霧散して消えていく。

おかげで周囲の人間から注視されることなく、クマーはその大柄な体躯をかがめて侵入を果たした。


(・(エ)・) 「…お待たせしました。 ここから、外に出れば良いのですか?」

('A`)y-~ 「てめーの来んのがもう少し遅けりゃあ、その保証はできなかったかもな」


そこにいたのはダットログのチャンピオン……否、そのオリジナルとなった不死者。
彼はひひひ、と卑屈に笑っていた。
薄く開けられた口の隙間からは、肺を満たした煙が再び喉を通って散っていく。

足元からは、ヒタヒタと汚水の流れる音。
水気の多い場所では、タバコの匂いは強く、酷くなる。

…ノーネの吸う銘柄とも異なるのが手伝うのか、
一時の安らぎどころか毒を含んだような苦々しい臭気がクマーの鼻をつき、離れない。


(・(エ)・) 「わかりました。 でも一つだけお訊きしたい。
貴方は何故、今回のことを知り得たのですか」

('A`)y-~ 「訊いてどうすんだ。 ワカッテマスと同じように、てめーも延々追い詰めて欲しいのか〜?」

(・(エ)・) 「…いえ」

('A`)y-~ 「ならさっさと行けよ…俺の気が変わらねーうちにな」

(∀` )y-~ 「──ひひ、ひひひッひ ひひ ひ」

(・(エ)・)

123 ◆3sLRFBYImM:2016/07/20(水) 19:57:16 ID:RYml97060
含みを隠さず笑い続ける不死者は、もはやクマーを見てはいなかった。

空いた掌で目頭を覆い、口許を隠している姿はまるで悪巧みをする少年のように無邪気で、殺人鬼の如き狂喜を撒く。
次第に小さくなる笑い声の代わりに膨らむ、禍々しい雰囲気が下水路を埋め尽くしていく。


…会話はもう成立しないだろう。
ドクを横目に、クマーは平静を装いながらその脇を通り抜けようとした。


(・(エ)・) ( 主と同じ、不死の人間……、あれが )


──根本が違う。
チャンピオンとして闘っていたあの人形とは雲泥の差だ。

そして思い知る。
すれ違う瞬間、あまりの寒気に身震いを抑えられなかった自分がいることに。


「……さて、行きますかねぇ〜…ひひひ♪」 (( ( 'A)

((エ)・ ) 「…」


クマーが通ってきた道を戻るこの不死者は、殺意の塊を原動力としているのかもしれない。

ワカッテマスが、自分たちを造り出したように "生をもって死を弄ぶ" 者ならば。
この男は、"死をもって生を弄んでいる" ように見えた。


「あぁ、言い忘れるところだった」


暗闇から暗闇へと…。
不死者ドクの声が、反響して聴こえる。


    「お前さあ…ウォール高原の出身とかきいたんだけど」

              「もうその街は無ぇよ、ひっひひひ!」

((エ)・ ) 
                         「…てめーみたいな奴がいったいどこまで生きられるのか、気が向いたら見届けてやるからなぁ〜♪」

((エ)・ )



((エ)  )

124 ◆3sLRFBYImM:2016/07/20(水) 19:59:00 ID:RYml97060
短く長い月日の経過は、置き去りにされた者たちの縁を易々と引き剥がす。

世の中は常に移ろいゆくものであると、クマーも判っていたつもりだった。
なのに言葉にすればこれほど陳腐で…、
しかし現実に照らし合わせればこれほど無常かつ残酷なことがあろうか。


クマーにとっての故郷は、もはや存在しない。


((エ)  ) 


ノーネのように諦めるべきだったのか?
あの日、ワカッテマスに連れられる際、拒絶するべきだったのか?

……それとも、離縁関係となっていた、かつての家族からそもそも逃げるべきではなかったのか?


いいや恐らくは──そうであって欲しいと、どこかで自分自身が願っているだけもしれない。
なぜならウォール高原の街さえ無くなってしまえば、故郷をなくし、家族をなくした己にも言い訳がたつ。

  拐われたのだから仕方がなかった…。
    自由の身になった頃には間に合わなかった…。
       帰りたくても、帰る家がなかったのだ…と。


((エ)  )


妻と娘はどうなったのだろう。
この肉体となり、【ロータウン】で過ごしていた間、忘れたことはない。


生まれつき身体が弱く、一度体調を崩してしまうと何日も寝込む妻の弱々しい笑顔。
ぞんざいな胎児カプセルに容れられていた我が子も、幼少期に差し掛かると親の真似をしては爪を噛むようなヒョウキン者だった。
妻も笑いながら叱ったものだ…『貴方に似たのかしら?』と。

そんな記憶の光が脳裏を走る。

125 ◆3sLRFBYImM:2016/07/20(水) 20:00:26 ID:RYml97060

あれはクマーの娘が10歳の誕生日を迎え、国からの健康診断を受けた夜のことだった。


『レモナさんの内臓を写したレントゲンです…黒い影が見えますか?
しばらく前に大陸で流行った病いがあるのですが、それに酷似していて──』


発覚したこの病気は、いつか娘の命を奪うだろうと医師は冷徹に言い放った。
挙げ句、莫大な医療費をクマーに請求する。


『それでも治るかどうかは五分五分ですがね』


…断れば費用は当然かからない。
だが、生き永らえる可能性にすがりたければ、二年間、治療薬を投与し続ける必要があった。

ウォール高原は資源に乏しく、支払う能力も足りなければ物資も限られている。
経済すらまともに回りきらないのだ。
運よく薬が供給されるとしても、清算するためには誰しも国の仕事に従事するしか道の無い、奴隷の扉が大口を開けていた。


『公安の一部署は常に人手不足だと聞きます。 そこでよければ紹介することもできますが』


……法がすべてのウォール高原において、国のために働くとはつまり一切の自由を奪われることと相違ない。


それでも娘を助けたい…。
妻のためにも…。

クマーを突き動かすのは、その一心。
娘の治療が始まると、彼は守るべき家族と離れ離れになった。



……言わばある種の義務感だったのかもしれない。
それでもクマーは、自分なりに親としての責任を果たすべくして道を選んだつもりだ。

そうして交渉の末に彼を待ち構えていたのは、家族との面会謝絶と、刑務執行官としての任務だった。

126 ◆3sLRFBYImM:2016/07/20(水) 20:01:22 ID:RYml97060

国のために働けるならば──、そう名誉に思えたのも最初の一ヶ月のみ。

先人の悉くは精神を病んで離れていった。
脱走は許されないため、例外なく死体となって。

おかげで日を追うごとに増え続ける処刑は以来、すべてクマーの手で行うことを余儀無くされてしまった。


まず朝一番に目にするのは、自身の机に置かれた犯罪者名簿。
氏名、罪名と続いて罪状が連なる。
一枚の用紙に上から下までビッシリと文字の書かれたそれは、決して枚数が減ることのない、執行官用のチェックリストだった。


     『ΟΟΟΟΟΟΟ』


犯した罪の重さによってカウント数は異なるが、書式は統一されている。


     『ΘΟΟΟΟΟΟ』


一日に一つずつ、収容所を見回りする警官がチェックマークをつけていく。


     『ΘΘΘΟΟΟΟ』


三日で3つ、五日で5つ。 …時には仲良くしていた知人の名前を見つけることもあった。


     『ΘΘΘΘΘΟΟ』


…そして確定していく。
このチェックが最後まで付けられたその日、該当犯罪者に対して下される結末だけが。


     『ΘΘΘΘΘΘΘ』


         ────それは、死刑。

127 ◆3sLRFBYImM:2016/07/20(水) 20:02:19 ID:RYml97060

自分の娘を助けるために、他人の子供を殺す作業。
自分の娘を助けたいがために、知人を殺す日常。


それでも彼は耐え続けた。
罪人と呼ばれる人々の命と共に、殺し続けた自分の心を奮い起たせて、近くて遠い離ればなれの家族のためだけに、国の罪人を裁き続けた。

拳を返り血に濡らしても、瞳を涙に濡らしても。
     来る日も、来る日も、来る日も殺し続けた。
              それなのに、それなのに。


『……ごめんなさい』


ついに宣告された二年が経過し、娘の命は峠を越える。
医師からも労いの手紙をもらった。 その矢先だった。


…職務を終え、精神を摩耗しきって帰宅したクマーを待っていたのは、心変わりした妻の謝罪。
身体の弱かった妻を支える者の存在は、クマー不在によりもたらされた紛う事なき現実の影。

設けた話し合いの場で泣きすする妻の顔が、まるで別人に見えた。


『やつれていく彼女を放っておくことができませんでした…』

『レモナのこと、貴方には本当に感謝してるわ。
だから彼を責めないで。 悪いのは私、一方的に裏切ってしまったのは私なの』


人生に、正解など無い。
クマーには妻を責めることが出来なかった。
最も身近で娘に寄り添ったのは間違いなく彼女であり、その彼女を支えたのは、やはり目の前の間男なのだ。


『貴方になら、僕は殺されても仕方ないと思います。 だから…彼女のことは怨まないであげてください』

128 ◆3sLRFBYImM:2016/07/20(水) 20:04:16 ID:RYml97060
間男と妻の異口同音は、まるで人生の伴侶を思わせる。
はじめから、自分などは愛の障害にもならなかったかのように。


本来、自分がいるべき場所に他の誰かが居座っている。
そしてそれでも満たされてしまうならば……もはや私は妻にとって不要なのだ。

強烈な孤独感がクマーを襲い、心はまるで黒い隔たりに囲われる。


『言われずとも……そのつもりだよ』


……そう呟いたが、声にはならなかったらしい。
眼前の二人の反応をもらうことは叶わず、それが余計に惨めさに拍車をかける。

二人に頭を下げると、クマーは時計の針が一回りするまでに街を脱走した。


その際、要塞を彷彿とさせる白い壁も、止めに入った若き警官を殴り倒したことで赤く染まった。


奪われた家族のことよりも、罪の無い青年に負わせた傷を気にかける。
そう……それなのに。
この日、焼きついたはずの赤の記憶は、呪術師の瞳によってさらに上書きされてしまうのだ。


&nbsp;

129 ◆3sLRFBYImM:2016/07/20(水) 20:05:05 ID:RYml97060
----------


((エ)  )

              《──── ゴオォン 》




((エ)・ ) 


…どれだけ歩いたことだろう。
前後左右、どちらを向いても暗黒の下水路が、律儀に上の様子を報せてくれる。


戦闘音は続々と轟く。
少し立ち止まっていると、それがよくわかった。

ワカッテマスにそれほどの怨みはないが、主とはいえ忠誠心も持ち合わせていない。
心配していないといえば嘘になるが、無事を祈るほどの義理もない。


(・(エ)・)


『ならばどうか、せめて新しい人生を』──。
ノーネの言葉が甦る。


( ・(エ))

130 ◆3sLRFBYImM:2016/07/20(水) 20:06:14 ID:RYml97060

日頃から笑い合うほどの仲ではなかった。
…しかし、似た境遇ゆえか結び付きを強く感じていたのは間違いない。


( ・(エ)) 


少なからず異形の姿をしてはいても、心は人と同じだ。
かつての性別など気にならないほどの友情を感じても、バチは当たらない。


( ・(エ)) 


果たして、どのような罪がお互いの生きる路を巡り合わせたのかは到底分からない。
それでも、なんらかの罰を共に受けたのだとすれば。


     ((  ( ・(エ)) 


……捨て置くことは出来ない。
クマーにとって、ノーネは "ゼロ" から結ばれた新しい人生の縁だ。


                (( ( ・(エ)) 


暗闇から暗闇へ。
クマーの背中はのっしのっしと、都へと続く下水路を歩き直す。





他人から見ればどんなに汚ならしい足跡であろうと、
当人らにしてみれば大事な…大事な一歩を、しかと証明する宝物だ。

時に雨にぬかるんで、他の足跡と交わり、グシャグシャに蹂躙されようとも、
そこに遺してきた記憶は喪われはしない。

131 ◆3sLRFBYImM:2016/07/20(水) 20:08:05 ID:RYml97060


そして、それは。







       川 ゚ -゚)






          不死者にも、平等に訪れる。


&nbsp;

132 ◆3sLRFBYImM:2016/07/20(水) 20:10:10 ID:RYml97060
------------


〜now roading〜


川 ゚ -゚)

HP / D
strength / E
vitality / E >> F
agility / C
MP / B
magic power / B >> A
magic speed / C
magic registence / C


------------

133 ◆3sLRFBYImM:2016/07/20(水) 20:12:06 ID:RYml97060
----------


川 ゚ -゚)        (^ω^ )


ブーンは無言だった。

なにも示さない。
疑問の声も…、表情も。
胸中に溜め込んでいる想いすら、今の彼からは発されない。

  _
(;゚∀゚) 「…」

( ´・ω・`) 「……なんだって?」

川 ゚ -゚) 「この世界に魔導力が広まったのがいつか、お前たちは誰も知らないだろう?」

「……」 (<▼><●> )

川 ゚ -゚) 「いいよ、指輪は持っていけばいいさ」

「…ありがとうだお、クー」 (^ω^ )

川 ゚ -゚) 「その代わり──」


クーの腕が振るわれる。
シャラン…と響く錫杖と、輝くリングが魔導力発動の合図となった。

134 ◆3sLRFBYImM:2016/07/20(水) 20:12:52 ID:RYml97060
     《パキィ────ッッ》


【フォース】の衝突音が鳴り響く。
次いでその衝撃が、ブーンとワカッテマスから離れた建物を破壊する。


          (^ω^ )
            つΓーーーー,
               ̄ ̄ ̄´

川 ゚ -゚)つ 「その剣は置いていけ」


大剣デュランダル。
【フォース】を断ち、軌道と着弾点すら変えてしまう…彼の得物。


「それはできないお…。 (^ω^ )
 僕が、僕でいられなくなる」

川 ゚ -゚)つ 「お前にはもう、その資格が無いと言っているんだ」


クーはさらに錫杖を振るう。
二つの輝きが先端のリングから同時に放たれると同時、鎖状の黄色輪がブーンを囲み、即座に縛り付けた。


「おっ……【キュア】── (^ω^;)

           ──?!」(;^ω^)


緊縛の【パライズ】。
魔法の具現から効果の発動までのタイムラグがほとんど無いのは、クーならでは。
避けられなかったブーンもこれに同時反応し、異常を回復する。

時間にして一秒にも満たない行動不能。
…そこに追い打つ、もうひとつの魔導力が彼を襲う。


川 ゚ -゚)つ 「【フレアデス】…!!!」

135 ◆3sLRFBYImM:2016/07/20(水) 20:14:04 ID:RYml97060
ブーンの頭上で突如膨れ上がる熱量。
グツグツと煮えたぎりながら増殖していくマグマの群体が、分裂増殖する植物ボルボックスを思わせる。


「──!!」    (^ω^;)


この時もし、共に放たれたものが【グランデス】レベルの魔法であれば、ブーンは躊躇なくその場を離脱していただろう。
囮は【パライズ】程度でなければならなかった。
対処しやすい先制攻撃が来たからこそ、彼はあしらってしまったのだ。


「させませんよ、【ドレイン】……!」 ⊂(<●><●> )

::川; ゚ -゚)つ:: 「…!!」
 ──ドク…ン


ブーンの陰からワカッテマスの援護が飛ぶ。 先の【キュア】は彼の【サイレス】解除にも効果を及ぼしていたらしい。
完成直前の【フレアデス】が一時的に停滞。
クーの体力と魔導力がゴボゴボと、目に見えて体外に吸出されていく。


          「?!」  ⊂(<●><●>;)
「君こそ、やらせない」 三 ( ´・ω・)


そこへ神速で迫るショボンが乱入を果たした。 
彼は傍観者ではいられない、──低い姿勢から振り上げられるのは、隕鉄の刀。

136 ◆3sLRFBYImM:2016/07/20(水) 20:15:32 ID:RYml97060
《ザシュ──》



       ∩,
       ' ゙       
        ヾ 

「ぐうぅ…っ!」 ∵;二(○><●>;) 

                      ´・ω・)

        ̄ ̄;^ω^)


なす術なく斬り離された呪術師の腕が空を舞う。
【ドレイン】の効果もすぐに消え、クーの行動を止めるものはなにもない。





《  ゴ  ゥ  ン     ッ !! 》




直後、膨張を重ねた【フレアデス】の活動が再開した。
分裂した数だけ破裂を繰り返す炎熱のビックバンが、【ロータウン】の中心地に爆轟する。

肌を焦がす熱風が、辺り一面を紅く染めていく……。

137 ◆3sLRFBYImM:2016/07/20(水) 20:16:26 ID:RYml97060
遅れて届く爆音は一度に重なり、とはいえ、聴く者の鼓膜は衝撃波に破かれ、もはや無音に等しい。

バチバチと哭く焔の涙が降り注ぎ、やがて収束を迎えた頃…。

  _
(;゚∀゚) 「すげえ…てか、ショボンがまだ居たんだぞ?!」

川 ゚ -゚)つ 「……ジョルジュ、その青年を連れて、外まで街の人たちを避難してくれないか」
  _
(;゚∀゚) 「無視かよ」


役目を終えた熱源は急速に場の温度を減退させ、天に昇りゆく火柱が残り種をかき集めていく。
魔導力によって生まれた炎にも、伝播速度なる理論が存在するのかもしれない。
破壊力という規模に見合わず、拓ける視界に映った街並みは思いの外、健在といえた。




            (^ω^::;)
             ⊃(<●><●>;::)
  _
(;゚∀゚) 「ブーン!!」

川 ゚ -゚) 「GC……、やはり魔導力を抑えて戦える相手じゃあないようだな」


瞬時の攻防が優劣を0にも100にも変える。
ブーンとワカッテマスも、ダメージはあれどまだまだ行動不能に陥ってはいない。

…他の者がどうか分からない。
だがこの時、ジョルジュは密かに胸を撫で下ろす。


「どうしても…見逃してくれないのかお」(^ω^::;)

川 ゚ -゚) 「交換条件すら飲めない奴が言う台詞ではないよ」

138 ◆3sLRFBYImM:2016/07/20(水) 20:17:47 ID:RYml97060
その答えを聞いたブーンの手に入れられる力。
大剣デュランダルが、カチャリ…と刃を鳴らす。

そこへ錫杖を構え直すクーを遮り、ついにジョルジュが一歩前に出る。

  _
(;゚∀゚) 「なあアンタ…ツンの旦那なんだろ?
俺、話したことあるんだよ、ツンと」

       (^ω^::;)
  _
( ゚∀゚) 「頼りになるんだって誇ってたよ。 よほと信頼されてるんだろうとも思った」
  _
( ゚∀゚) 「ショボンからも聞いてるんだよ。
アイツは、アンタから戦い方を教わったようなものだって」

       (^ω^::;)


ブーンは、なにも答えない。

  _
(;゚∀゚) 「……クーとも昔からの仲間なんだろ?
たまには喧嘩もするだろうけどさ、こんな風に争うの、止めないか??」
  _
(゚∀゚;) 「なあ? こんなマジにやり合うことないっての」

「……」    (^ω^::;)

川 ゚ -゚) 「だから提案しているんじゃあないか。 私の指輪を持っていくなら、その剣を置いていけ、と」

       (^ω^::;)


ブーンは……やはり、なにも答えない。

139 ◆3sLRFBYImM:2016/07/20(水) 20:18:29 ID:RYml97060
「まさか仲間ごと撃つとは……」 (<●><●>;::)


責められているかのようなブーンを庇うつもりは毛頭なかろうが、ワカッテマスが代わりに口を挟んできた。

負傷していた分を差し引いてもダメージが少ないのは、クーのいう通り、GC発動によるもの。
身近に土塊の居ない今、それを成したのは前衛を陣取るブーンに他ならない。


「しかし、思い切りましたね。  (<●><●>;::)
 ここからは貴方一人で我々を相手取るおつもりですか?」
  _
(;゚∀゚) 「──?!」

川 ゚ -゚) 「……そうならどれだけ楽なことか」


そして自らを無視するような発言に、場で一人冷めていたジョルジュの心は孤立を深めた。


…和香は自らの中に。
それでも、ワカッテマスという存在が、かつての片割れとは似ても似つかない…そんな現実を突き付けてくる。

対するクーは表情を崩さない。
それどころか言葉を付け加えて、対立の姿勢を深めた。


川 ゚ -゚) 「お前たちにとっては」
     「君たちにとってはね」 (´・ω・`)


    (::;^ω^)「!!」
          「!!」 (<●><●>;::)

  _
(;゚∀゚) 「ショボン、良かっ……え、無傷?」

「巻き添えを喰うほど油断しちゃあいないさ」 (・ω・` )

140 ◆3sLRFBYImM:2016/07/20(水) 20:19:27 ID:RYml97060
ワカッテマスへの一撃、そして離脱。

思い起こせば先の【グランデス】による広範囲魔法すら、ショボンが喰らった様子はなかった。

クーの計算、そしてショボンの想定範囲。
どちらにしても彼の神速は、攻防兼ね備えたスタイルといえる。


川 ゚ -゚) 「お前の庇うその青年も、治せるものならば後で必ず私がなんとかしよう。
だからジョルジュ、ここから離れた方がいい」
  _
(;゚∀゚) 「…何言ってんだよ、俺がなんのためにここに居ると──」

「君の前でワカッテマスを殺すのは忍びないと、クーは言ってるのさ。 (・ω・` )
 行きなよ、ここは僕らが請け負うから」
  _
(;゚∀゚)

「……更に言おうか?     (・ω・` )
 過去の姿に囚われて戦えないなら、邪魔なんだよ」


ショボンは見破っている。
ジョルジュの葛藤、迷いに。


「僕はアサウルスのために、まずワカッテマスを追った。 (・ω・` )
 それはひとつ、赤い森の清算をするためでもある。
 ……それがたとえ、かつて女王だった、このクーの手伝いだとしても」
  _
(;゚∀゚) 「赤い森…」

川 ゚ -゚)

141 ◆3sLRFBYImM:2016/07/20(水) 20:20:10 ID:RYml97060
クーの表情がわずかに曇る。
それに気が付いたのは、ショボン以外この場に居ただろうか。


かつて大陸を分かち合っていた二つの国。
[空]と[都]。
対外的には王を名乗って君臨していた[空]の女王こそ、クーその人。


とはいえ、記憶を失っていた少し前の彼女ならば異なる表情を浮かべ、否定しただろう。
『私には水の都以外、国を作った憶えなどありはしない』と。

だが────。


川 ゚ -゚) 「……そうだったな。 この世から "フゥ一族" を消すために、私は戦争を起こした」

「…………  」 (<▼><▼>;::)

川 ゚ -゚) 「それが私の見出だした、この世界での役割だった」

142 ◆3sLRFBYImM:2016/07/20(水) 20:22:40 ID:RYml97060
ワカッテマスから余裕が消え、その身に蓄えし赤黒い魔導力が怒りと共に漏れる。


記憶を【破壊】され、その破壊すらも上書きする【破壊】。
先の意識を失うほどの頭痛こそが、解放に伴う記憶の鎖を引きちぎった衝撃によるもの。


川 ゚ -゚) 「ワカッテマス、貴様の言う通りだよ。 私は繰り返し行ってきた自分自身の所業から逃げてきた」

「…」        (<▼><▼>;::)

川 ゚ -゚) 「……そこにいる "ブーン" に頼んで、記憶を【破壊】してもらってでも、あの日々から逃げ出したかったんだ」


フゥ一族。
──それはすなわち、デルタも属した種族であり、今は滅亡に王手をかけた末裔。

【ウラミド】という原始の魔導力を受け継ぎし、赤い森の呪術師の血を指した。

143 ◆3sLRFBYImM:2016/07/20(水) 20:23:46 ID:RYml97060
  _
(  ∀ ) 「……どいつも、こいつも」


クーはデルタの影を追い、
ショボンはアサウルスの影を追った。


ならば…ジョルジュは?


彼は約束した"後始末" のために、ワカッテマスを追っていた。
それは決して殺すためではない。
しかし、ここで仲間を信じるならば、場を離れることでワカッテマスが葬られるかもしれない。

  _
(  ∀ ) 「戦わない…のは、無理か?」

川 ゚ -゚) 「……私に、その約束はできないよ」

「同じく」 (・ω・` )


ジョルジュは縋るように、ワカッテマスとブーンを見る。


「今だけなら約束しましょう。 (<▼><▼>;::)
 ただしこの怨みは他ならぬ、もう一人の貴方から受け取ってたものであることをお忘れなく」

「…僕は、戦わずに済むならそれがいいお」(^ω^::;)
  _
(  ∀ ) 「…」


一見して、誰しも戦いは望んでいないような言葉を吐く。
四者四様の目的が集い、互いに火の粉を振り払おうとしているだけだと言わんばかりの。

なのにその反応はあまりに過敏で、他者を寄せ付けない。


     「こんなの、まるで、戦争じゃないか…」


哀しげに、ジョルジュは言った。

144 ◆3sLRFBYImM:2016/07/20(水) 20:24:48 ID:RYml97060
この世は争いに満ちている。
生存、守護、奪取…。
いかなる理由であろうと、とどのつまりは人が生み出した、己が為の欲望を依り代にする。


ジョルジュにとって、ワカッテマスに限れば身内から出た錆でもある。
…和香を責めているのではない。
その錆ですら、黄金と錯覚するほどの生なる糧だったからこそ、和香の亡霊をこうも突き動かすのだ。


ジョルジュは絞り出すような声で各々に語りかけた。

  _
(  ∀ ) 「……なあ、ワカッテマス。
なんのために生まれてきたんだ? 目的を果たしたら、お前はそれで本当に満足できるのか?」

「生まれた意味などどうでもいい。 (<▼><▼>;::)
 私にあるのはただ、今を生きる意味です」 

「意味がなくなることもないでしょう。 (<▼><▼>;::)
 …なにせ不死である貴方たちは、殺しても殺しても、また殺すことになるのですから」


それは永劫続く皆殺しの怨念。
赤い森どころか、はるか昔の呪術師までもが彼に呪いを背負わせているかの如く。
…和香という微かな良心すら失くした、遺恨と遺産。


  _
(  ∀ ) 「…ブーンは? ツンを助けたいんだろ?
ツンがこんな状況を望むとでも思っているのか?」

「助けたいお。 その為にこの指輪も、ワカッテマスの力も、この剣も必要なんだお」(^ω^::;)


それは突き詰めれば妄執。
温もりを求めし我執の極みが、時に他者を踏み台にすることもあるだろう。
しかし…恐らくは気付かず進むのだ。 感情ゆえに。

145 ◆3sLRFBYImM:2016/07/20(水) 20:25:31 ID:RYml97060
ジョルジュの問答は続く。

  _
(  ∀ ) 「……ショボンはさ、何をもって清算だなんて言ってるんだ?
ワカッテマスを…アサウルスを殺せば気が済むのか?」

「…僕は数えきれないほどの助けを得て、今、此処にいることを自覚してるつもりだ」 (・ω・` )

「もう僕は僕自身の幻想ではなく、誰かの未来のために戦っている」 (・ω・` )


それは変質した利他心。
見返りさえ求めなければ聖人の…、しかし保証なき未来が待ち受ける、偽りの英雄願望。


  _
(  ∀ ) 「……、じゃあクーは? どうして呪術師の一族にそこまで固執するんだよ」

川 ゚ -゚)
  _
(  ∀ ) 「…そうまでして、ワカッテマスをどうにかしたいのか?
呪術師を狙ってるなら、俺もそのうちお前に消されるのか?」

川 ゚ -゚)
  _
(  ∀ ) 「…… 答えてくれない、ってか」

川 ゚ -゚) 「いまのお前には、届く言葉が見つからないような気がするよ」
  _
(  ∀ )

川 ゚ -゚) 「深呼吸をしろ。 …でないと呑まれるぞ、【ウラミド】に」


ポン、とその肩に置かれる手のひら。
ジョルジュは跳ねるように身体を震わせたかと思うと、瞳の焦点を自分の肩、そして置かれた手を辿ってクーに合わせていく。

  _
( ゚∀゚) 「……クー?」

川 ゚ -゚) 「分かったよ。 まずは捕らえる努力をする。
お前の気が済んだ後でも、私とショボンには選択肢が残されているだろうから」

146 ◆3sLRFBYImM:2016/07/20(水) 20:34:04 ID:RYml97060
これは心変わりではない。


クーからすれば、約束は果たされるべきものであると同時に、おいそれと交わせぬ秩序の目録になってしまう。

…だから殺さない約束はできない。

しかし、努力は自由だ。
外圧力のない精神論は自分を律するための柱となる。
そこで挫けるか、貫き通せるかは己に帰依する責任だ。


川 ゚ -゚) 「ジョルジュ、もう一度頼む。 その青年を連れて避難を」


同じ言葉でも、時が経てば今度は素直に受け入れられる。
ジョルジュはナナシを背負うと、クーとショボンに頷き、駆けていく。


街に蔓延る困惑の騒々しさに反して、その原因であるはずの四人の間には静けさが風にたゆたった。

【ドッジ】の詠唱が置き去られる頃には、ブーンの傷は癒え、ワカッテマスもまた止血を済ませ、悠然と立っていた。

147名も無きAAのようです:2016/07/20(水) 20:34:09 ID:tjLtMiW20
支援

148 ◆3sLRFBYImM:2016/07/20(水) 20:35:08 ID:RYml97060
( <●><●>) 「…二対二、ですか」

(´・ω・`) 「なんだ、フェア精神に安堵してるのかい?」

( <●><●>) 「まさか。 バカバカしいとすら思いますよ」

( <●><●>) 「……少なからず私への恨みを持ってしても、なぜそうできるのかは興味がありますがね」


赤黒い、ワカッテマスの開ききった瞳孔がクーを見やる。

ぶつかる視線から判るのは、
嘘偽りのない好奇心と…それでも怨みを晴らしたがっている純粋な復讐心。


彼は賢者のことを指している。

クーのなかにある "恨み" 。
ワカッテマスの抱く "怨み" 。

道徳観においては質量と計り見なすことは出来ずとも、
たとえば無理矢理に優劣を定める罪罰法があるとするならば、後者のほうが大きく、強大と見なされるかもしれない。


川 ゚ -゚) 「……私のは、恨みなんかじゃあないさ」


クーが一歩、前に出る。
ワカッテマスがそれに応じるように、ブーンを肩で遮る。


川 ゚ -゚) 「仇討ちなどというものは本来、一時の衝動でしかない。
私はそれを持続させられるほど根気のある性格はしていなくてね」


挟撃できる位置に立つショボンも、両足を広げていつでも跳び出せる状態を作り上げる。
ブーンがワカッテマスの背中を守るように立ち塞がった。

149 ◆3sLRFBYImM:2016/07/20(水) 20:39:19 ID:RYml97060
( <●><●>) 「ならば何故、貴方はここにいるのですか?」


この期に及んで、ワカッテマスも上っ面なことを問うつもりはない。


川 ゚ -゚) 「……知りたいか? 本当の理由」


その本質。
人を突き動かす、もっとも原始的な理由。
              ────感情。


川 ゚ -゚) 「はるか昔に置き忘れて、もう永遠に取り戻すことのできない……」

川 ゚ -゚) 「…初恋のようなものを拭い取りたいだけかもな」

( <●><●>)




&nbsp;

150 ◆3sLRFBYImM:2016/07/20(水) 20:40:09 ID:RYml97060








        「──ぶッ、クク、


                   クヒヒ…」


&nbsp;

151 ◆3sLRFBYImM:2016/07/20(水) 20:41:30 ID:RYml97060
(´・ω・`;) 「!!」


       洩れるその嗤いは、まさに嘲笑を含み。


(;^ω^)「…なっ」


       泥の泪を大瀑布の如く、
       穴という穴から垂れ流した。


川;゚ -゚) 「────ワカッテマス!!」


       「もう、そういうの止めにしませんか?」
       …何かを真似るような作りものの低い声が空から響く。


(< ><○> )


       ワカッテマスは無言でその場に倒れ込む。
       その身体に向けて更に三発、穴が開けられる。


(;^ω^)「や、やめ────」


       GCを貫通し、呪術師がビクンッビクンッと痙攣するたびに。

152 ◆3sLRFBYImM:2016/07/20(水) 20:42:44 ID:RYml97060

       「下らない、凡て、死ねばいいんですよ」
        …その声は震えて、短い擬態の末に正体を露にした。


川;゚ -゚) 「…お前、どうして」


クーは驚きを隠せない。


ブーンのGCに護られるはずのワカッテマスを容易く倒されたこと。
ジョルジュへの申し訳なさと、接近に気付かなかった己の不注意にももちろんだが。


川;゚ -゚) 「今までどこでなにをしていたんだ! ずっと捜していたんだぞ?!」


──実を言えば、半ば諦めていた。
まさかこの世界にいるとは思えなかった。

何百年と過ごしてきたなかで、一度たりとも邂逅していない。
取り戻したはずの記憶に留まっていない、最後の友の姿。




;      「なぁ〜〜〜んちゃってえ♪」

 ( 'A`)   
◎)と



       不死者、ドク。
       彼の愛すべきガンアクスが硝煙を纏う。


( ゚ω゚)「ドクオーーーーーー!!!!」


('∀`)    「ひは、ひひひひはは!!

('A`)     ──は、……誰だよ、おめー?」




&nbsp;

153名も無きAAのようです:2016/07/20(水) 20:44:54 ID:XXUOzMoM0
同窓会やー

154 ◆3sLRFBYImM:2016/07/20(水) 20:50:06 ID:RYml97060


『運命とは予め決められているものだ』
と、誰が言ったかはわからない。

神の意志によるものか、星の定めによるものか。


目にも見えない偶像を、人がどうして信じるならば。
それもまた運命の輪に加わりし、使徒たる資格を持っているといえるかもしれない。



予定調和。
想像の範疇内で、すべての生き物が目の前で骸となるならばどんなに楽か。


きっと、この世の悲しみは減るだろう。
来るべき日に向けて、心緩やかになるだろう。



だとすれば唐突は、当人の想像不足による過失か?


世界で唯一独りのみが意思をもっているならばそう言えるだろう。


だが決してそうはならない。
意思ある者すべてが自己の世界だけを見ているからこそ、不可逆的因果は発動する。




二度と取り戻せない、螺旋の路が創られていく。


&nbsp;

155 ◆3sLRFBYImM:2016/07/20(水) 20:51:19 ID:RYml97060

('A`) 「さーて……こいつは預かっていくぜ」


闇に紛れる彼の背中に、ぐったりとして、意識を失っているモナーが背負われている。


( ゚ω゚) 「なんてことをしてくれたんだお! ツンが…ツンを……!!」

('A`) 「ピーピーうるせえぞ、アサウルス」


茫然とする一同を尻目に、ドクはモナーを抱えて更に跳ぶ。

そこに一陣の突風が吹き荒れたかと思うと、グリガンの翼に拾われたドクたちの姿が天に消えていく。


「うおおおおぉぉぉっっ!!!」 ( ゚ω゚)


(;´・ω・) 「っ! ブーン、待て!!」

川;゚ -と 「…くぅ!」


我を見失ったブーンはがむしゃらに地を蹴ると、尋常ならざる速度でそれを追っていく。

ブーンが纏った魔導力は、グリガンに勝るとも劣らぬ風の壁を生み出した。
アスファルトの粉塵が砂嵐と化す。
二度にわたるあまりに強烈な向かい風が、ショボンとクーの追跡を許さない。


川;゚ -と 「…!」

       (< >< > )


ドサリ…と吹き飛んだワカッテマスの顔がクーを見る。
その身体には、もう力は残されていない。

156 ◆3sLRFBYImM:2016/07/20(水) 20:53:03 ID:RYml97060

荒々しく舞う粉塵を、デルタからもらって以来、大切に手入れしてきた外套で防ぎながらクーは考える。


フゥ一族に脈々と内包されていた【ウラミド】は残り僅か。


──ワカッテマス、
    ──ジョルジュ、
そして、モナー。


【ウラミド】の具現してしまったワカッテマスは、恐らくこのまま死ぬだろう。


ジョルジュにも注意は必要だが、【ウラミド】に引き摺られさえしなければ、彼にはこれからも生きていてほしいと願う。
和香という存在が、慈夜という存在とバランスを取り合えるならば、まだ猶予は残されていると仮定する。

時間をかけて【ウラミド】を解除している最中の、モナー一族のように。


川 ゚ -゚)  「…」

( ´・ω・) 「僕が追おう。 最悪、モナーを連れて帰れば良いわけだ」

川 ゚ -゚)  「……ありがとう、頼む」

( ´・ω・) 「代わりにこの一帯の後片付けは頼むよ」


刀を収め、ショボンが跳んだ。
神速とはいえいつまでも同じ速度で走ることができるわけではない。
追い付くにはそれなりの時間がかかるはずだ。

157 ◆3sLRFBYImM:2016/07/20(水) 20:59:44 ID:RYml97060
川 ゚ -゚) 「……時間、時間か」


シャラリ、と鳴る錫杖。
寂しげに響くその音色は、思い通りいくことのない人生への慰めとするには些か情緒が足りない。


川 ゚ -゚) 「不死だからといって、時間をもて余すわけじゃあないんだな」


錫杖の先端からリングを外すと共に、アタッチメント部分の手入れを思い出してそれも取り外す。
魔導力の空になったリングを腰裏のベルトにひっかけると、錫杖だったものは単なる鉄の棒となった。

     /
川 ゚ -゚)つ 「……自分で決めて永く生きていても、
        上手くいった試しがないよ、デルタ」



&nbsp;

158 ◆3sLRFBYImM:2016/07/20(水) 21:00:43 ID:RYml97060

「……生きるって、難しいな」。
クーの独白が【ロータウン】の夜明けに吸い込まれていく。
昇りゆく朝日が少しずつ、街を照らしていく。


クーは自分自身を聡明などと自負したことは一度たりともない。
むしろ愚か者の部類に属していることを、現実として突き付けられてばかりだ。

未知との遭遇に、幾重の経験を重ねても、正解に辿り着くことがない。


終わりのない試練に延々と挑まされる様は、さしずめ操り人形との差違を探る神の戯れのようだった。


川 ゚ -゚) 「デルタ、ブーン…」


川 - ) 「娘たち、この世界の人々……」


川 - ) 


川 - ) 「…………、ツン、ハイン」


それでも歩みを止めることは、もうしないと決めた。
外套の裏、背中にしまいこんでいた最後のリングをそっと握り締める。


輝くリング。 発動する魔導力。
瓦礫に埋もれた【ロータウン】に、朝日の射す光と交差する橙色の灯りが浮かび上がった。

クーを中心として、透明な境界線が辺り一面に拡がっていく。

159 ◆3sLRFBYImM:2016/07/20(水) 21:01:46 ID:RYml97060



       『見つけて欲しくて手をおぉおきくかざすのは、人も自然もおんなじよお』


いつかのデルタの声がする。
それは誰かが助けを求める手でもあり、
誰かに差し伸べられる救いの手にもなりうることを指している気がした。


       『なあ、クーは何をやってる人なんだあ?』


かつてのデルタの声がする。
クーにとっては幾度となく繰り返した自問自答。

詠唱を完了した【パーティクル】の輝きが、壊された街並みを元の姿に復元していく。


【パーティクル】は時間を操るわけではない。
クーの記憶に眠る土地の景色を再現する、いわばこれまで彼女が見てきた人生の軌跡を試す、自分以外へと向けた関心、感情の集大成。


クー心がなにも捉え見ていない場合には、一切の効力を発揮しない。



&nbsp;

160 ◆3sLRFBYImM:2016/07/20(水) 21:05:09 ID:RYml97060

  _,
川 ´ -゚) ( …眩しい )


反射して瞳に入り込む灯りは魔導力の光だけでなく、朝の始まりを告げる刻が重なり、そうさせているだけに過ぎない。


       『俺は眩しいのが苦手なだけさあ』


……ある日のデルタの声がする。
苦手なことでも、やらなくては前に進めない時は必ず訪れる。


川 ゚ -゚)  「…ジョルジュには、謝らないとな」


ワカッテマスを抱えようとして、その軽さにクーの身体がひっくり返りそうになった。
大きく揺れたものの、ワカッテマスという人形は動かない。

それでも…大陸への怨みを蓄積した【ウラミド】の魔導力だけが、触れる肌を伝わってひしひしと流れ込んでくる。

161 ◆3sLRFBYImM:2016/07/20(水) 21:06:20 ID:RYml97060

      (( 川 ゚ -゚)



クーは歩きだす。
歩かねばならない。


              ((  川 ゚ -゚)


いつの間にか【ロータウン】内に放たれた、闘技場のモンスターが彼女に向かって押し寄せていた。

先頭に立つ闇の衣… "正体不明" の群れを爆殺しながら、もて余した魔導力を存分に発揮して、彼女は歩く。
その後ろでは辛うじて人型を留める、どろどろに溶けたスライムがにじり寄ってくる。

スライムが腕のように細めた身体の一部を振るった。
その指示に従うモンスターの群れが分散し、左右に別れた路地を埋めつくし逃げ出そうとする。


クーの魔法はそれを意に介さず、スライムを燃やし、群れを背面から切り刻んでいく。

扇動していたらしきスライムからは敵意を感じなかった。
むしろ…この結末を望んでいたように思う。

液状化したモンスターにあるはずのない瞳がクーとかち合った時、そう感じたのだ。
だからそうした。


万が一、街の人間に被害がでないように。
一匹足りとも、討ちこぼさぬように。




どれほど許されぬ罪を背負っていようとも。
彼女が踏みしめてきた骸は、彼女の記憶からの解放を求め、訴え続ける。



どうか、新しい人生を。





(了)

162 ◆3sLRFBYImM:2016/07/20(水) 21:07:27 ID:RYml97060

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    ※千年の夢 年表※
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      終末年 ***********
 【いつか帰る場所】 
→グランドスタッフ倒壊。[かがみ]への突入。

    創世-1000年 ***********
 【先駆者の踏む骸】
→( "ゞ)とフゥ一族との因縁が始まる ☆was added!

      -900年 ***********
→信仰の概念がうまれる
( ∵)は偶像生命体として同時に生誕。

      -400年 ***********
→結婚(結魂)制度のはじまり

      -350年 ***********
 【ふたごじま】
→魔導力の蔓延

      -312年 ***********
 【銷魂流虫アサウルス (´・ω・`)幼年期】
→ "隕鉄" が世界に初めて存在しはじめる

 【東方不死 〜山人の夢〜】
→('A`) がアサウルス(a)と相討ち

      -220年 ***********
 【銷魂流虫アサウルス (´・ω・`)青年期】

 【傷痕留蟲アサウルス】
→アサウルス(c)撃破
→騎兵槍と黒い槍(アサウルスb)が融合
→('A`) がアサウルス(a)から解放

163 ◆3sLRFBYImM:2016/07/20(水) 21:08:10 ID:RYml97060

      -210年 ***********
→大陸内戦争勃発。
 【帰ってきてね ミ,,゚Д゚彡幼年期】

      -200年 ***********
 【帰ってきてね ミ,,゚Д゚彡青年期】

 【死して屍拾うもの】

 【夢うつつのかがみ  "赤い森の惨劇" 】
→結魂によって二代目( ´∀`)生誕
→アサウルス(b)復活
→ミ,,゚Д゚彡は【ウラミド】に巻き込まれてアサウルス(b)もろとも氷漬けに

      -195年 ***********
→大陸内戦争終了。
 【はじめてのデザート】

      -190年 ***********
 【その価値を決めるのは貴方】

      -180年 ***********
 【老女の願い 復興活動スタート】

      -150年 ***********
 【老女の願い 荒れ地に集落が出来る】
→川 ゚ -゚) が二代目( ´∀`)に指輪依頼の時期。

      -140年 ***********
 【老女の願い 老女は間もなく死亡】

→指輪の暴走時期。 川 ゚ -゚) が湖に封印

164 ◆3sLRFBYImM:2016/07/20(水) 21:08:51 ID:RYml97060

      -130年 ***********
 【人形達のパレード】

 【此処路にある】
→(´・ω・`)( ゚∀゚)川 ゚ -゚) の三人が集結
→二代目( ´∀`)死亡時期

 【夢うつつのかがみ 水の都】

 【東方不死 湖から( <●><●>)引き揚げ】

      -120年代 ***********
 【矛盾の命】
→ξ゚⊿゚)ξが石化(?)

 【東方不死】

 【白い壁 黒い隔たり】
→ウォール高原の国法制度が崩壊

      -100年代 ***********
 【繋がれた自由】
 【遺されたもの】
 【時の放浪者】
→ミ,,゚Д゚彡( <●><●>)( ゚∀゚)川 ゚ -゚)が同じ場所にいる
( ´∀`)は四代目
 【先駆者の踏む骸】 ☆was added!
→('A`)により( <●><●>)を撃退 ☆was added!

      -40年代 ***********
 【老女の願い 集落は町として発展】

      00年代 ***********
 【老女の願い】
→( ^ω^)がプギャーとギコに再会

165 ◆3sLRFBYImM:2016/07/20(水) 21:10:47 ID:RYml97060
これにて本日の投下を終わります
投下中の支援、コメント、ありがとうございました


川 ゚ -゚) : 先駆者の踏む骸 >>19

166名も無きAAのようです:2016/07/20(水) 21:15:24 ID:x7fFZgw.0
おっつー

167名も無きAAのようです:2016/07/21(木) 07:36:43 ID:ko24R.g.0
乙です。
ここからどうなるのだろう。
次も楽しみにしています。

168名も無きAAのようです:2016/07/22(金) 13:28:42 ID:7enKi5E20
おつ!
ブーンがこれからどうなって00年代に繋がるのかが気になるなぁ

169名も無きAAのようです:2016/12/30(金) 04:20:39 ID:cfZFEIH20
訓練されたブーン系民だからまだまだ待ってるぞ!

170名も無きAAのようです:2017/04/09(日) 00:43:23 ID:KaP87llQ0
バローだからもう来ないよ

171名も無きAAのようです:2017/07/29(土) 16:56:23 ID:3TtrG//k0
紅白終了後の投下を信じて待つ

172名も無きAAのようです:2018/08/05(日) 05:51:42 ID:6IZ1vrHY0
わっふるわっふる

173名も無きAAのようです:2018/08/05(日) 06:43:39 ID:Bjl2Zlec0
もう一年以上か

174名も無きAAのようです:2018/09/09(日) 23:21:21 ID:4jf4JUVw0
まってるぞ

175名も無きAAのようです:2018/10/23(火) 23:57:38 ID:XvQlzL/s0
これもバローなの?


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