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これを魔女の九九というようです
1
:
名も無きAAのようです
:2015/04/28(火) 09:59:57 ID:SOhsxYKs0
汝、会得せよ。
.
388
:
名も無きAAのようです
:2017/10/11(水) 20:59:57 ID:PogJdj520
ζ(゚ー゚*ζ「あ、」
粉雪は、みるみるうちにテーブルを作り出した。
マジパンで作ったウェディングケーキみたいな、真っ白なテーブルだ。
整った円形に変じたその端からは、サラサラと滝がこぼれていく。
ただしよく見ると、それは細かなレースの柄を編んでいた。
スミレ、勿忘草、バラに、チューリップ、それからポピー。
どれも素敵な花ばかり。
(´・ω・`)「座りなさいな」
柔らかな声が指す方向には、いつの間にやらソファーが出来上がっていた。
深海色のベルベットが張られたクッションは、優しく体を受け止めてくれた。
ζ(゚ー゚*ζ「宇宙にいるみたい」
まるっきり体重が消え去ったような気分で、思わず肘置きへとしがみつく。
(´・ω・`)「水中だからね」
至極当然な答えに、やはり気恥ずかしくなった。
ζ(゚ー゚*ζ(そうだ、水の中に入ると体が軽いんだ)
(´・ω・`)「心配しなくても、君が思い切りジャンプでも
しない限りは何処にも行かないよ」
見透かしたように、 は微笑んだ。
389
:
名も無きAAのようです
:2017/10/11(水) 21:01:37 ID:PogJdj520
ζ(゚ー゚*ζ「じゃあもし、何処か遠くで、たしが
迷ってしまっても迎えに来てくれる?」
意地悪く返すと、 は頷いた。
(´・ω・`)「何処にいても、迎えに行くよ」
答える指は、とんとんとテーブルを叩く。
その魔法は、
ζ(゚ー゚*ζ「お茶会!」
(´・ω・`)「正解」
柔く微笑む彼を遮るように、あちらこちらからお菓子が降ってくる。
牡蠣殻の形をしたマドレーヌ。
青いジェリーの海。
その中で泳ぐクジラのエクレア。
薄い玻璃のような飴細工を纏ったヤドカリのタルト。
ヒトデそっくりの巨大なクッキー。
かわいいウツボのロールケーキ。
巻き貝の形をしたティーセット。
ζ(゚ヮ゚*ζ「すごい、すごい、すごーい!」
声をあげてはしゃぐわたしに、彼は目を細めた。
390
:
名も無きAAのようです
:2017/10/11(水) 21:02:21 ID:PogJdj520
(´・ω・`)「喜んでくれて何よりだよ」
ζ(゚ヮ゚*ζ「だって、素敵だもの!」
薄地のティーカップの中では、レモンのスライスがぷかぷかと浮かんでいる。
口にすると、爽やかな甘みと紅茶の香りがふんわり広がった。
わたしの入れたものとは大違いだった。
ζ(゚ー゚*ζ「おいしーい」
ついでにマドレーヌへと手を伸ばす。
しっとりふあふあとしたそれは、薄く塩がきかせてあった。
ζ(゚ー゚*ζ「全部おいしいよう……」
(´・ω・`)「まだまだたくさんあるから、ゆっくり食べなさい」
そう言う だって、タルトとロールケーキを交互に頬張っていた。
ζ(゚ー゚*ζ(幸せだなあ)
しんと静まり返った深海の底、わたしと の声だけが響く。
二人きりの世界。
それを見守るように、淡い光が降り注ぐ。
391
:
名も無きAAのようです
:2017/10/11(水) 21:04:00 ID:PogJdj520
ζ(゚ー゚*ζ(そういえば、この光源は何かしら)
見上げると、小さな瓜型のクラゲが漂っていた。
ζ(゚ヮ゚*ζ「光ってる!」
ランタンのような光がちろちろと、右往左往している。
(´・ω・`)「さっき撒いたリンに寄って来ているんだ」
ζ(゚ー゚*ζ「それを餌にしているの?」
問いかけに、 は頷いた。
(´・ω・`)「正確にいうと、リンを餌とする微生物があの中に住んでいる」
ζ(゚ー゚*ζ「クラゲが餌にしているわけではないの?」
(´・ω・`)「クラゲにとっては毒だね」
ζ(゚ー゚*ζ「でも死なないの?」
(´・ω・`)「クラゲはプランクトンを食べて、糞として酸素を作り出す」
ζ(゚ー゚*ζ「酸素が糞なの?」
(´・ω・`)「ほんの少しは生きるために必要だけど、
殆どの酸素はクラゲにとって毒なんだ」
392
:
名も無きAAのようです
:2017/10/11(水) 21:05:36 ID:PogJdj520
ご覧、と彼は燃える炎を指し示す。
(´・ω・`)「リンを取り込んだ微生物は、クラゲの
毒となる酸素と反応を起こして炎を生み出す。
すると酸素はリンと結合して、リン酸へと生まれ変わる」
ζ(゚ー゚*ζ「……むつかしいよ」
(´・ω・`)「はは、ちょっと難しいか」
ζ(゚ー゚*ζ「だいぶむつかしい」
(´・ω・`)「要するに、クラゲには微生物も酸素もリンも必要なのさ」
そう言われて、やっとわたしは理解する。
ζ(゚ヮ゚*ζ「わたしにとっての みたいなものなんだね!」
(´・ω・`)「……まぁ、そういうものかな」
緩い微笑みと共に、彼はエクレアを摘んだ。
突然の出来事に驚いたクジラは、背中からクリームを吹き出した。
(´・ω・`)「……君のやりたい事は、見つかったかね」
その問い掛けに、わたしは頷いた。
393
:
名も無きAAのようです
:2017/10/11(水) 21:07:29 ID:PogJdj520
ζ(゚ヮ゚*ζ「やっぱり、魔女になりたいの」
(´・ω・`)「やっぱり、か」
嬉しそうな、困ったような彼の笑みを見るたびに、わたしの胸は苦しくなる。
わたしは、 の役に立ちたかった。
助けてもらった恩もあるし、憧れもある。
魔法で人々の幸福を作り出す彼は、やっぱりかっこいい。
そう思うと同時に、心配もしていた。
だって彼はずっとひとりきりで、いつか擦り切れてしまうんじゃないかと感じていたから。
ζ(゚ー゚*ζ(だから、わたしはあなたの味方でありたいの)
わたしだけでも、彼を分かってあげなくちゃいけない。
助けてもらうばかりでは、いられない。
ζ(゚ー゚*ζ(もうお姫様は卒業するんだ)
わたしは、王子様を求めない。
もう十分に救われたはずだから。
わたしは、肉欲を求めない。
そんなものは、永遠から程遠いから。
わたしは、万人を愛したい。
それが彼の幸せに繋がるから。
わたしは、永遠を手に入れたい。
彼を支えるのは、わたしでありたい。
394
:
名も無きAAのようです
:2017/10/11(水) 21:08:32 ID:PogJdj520
ζ(゚ー゚*ζ( )
密かに、名前を呼んで、
ζ(゚ー゚*ζ「わたしは、あなたの幸せを、願わずにいられないの」
たった一言、しかし込められた想いは他の追随を許さない。
じくじくと沁みるこの想いは、きっと誰にも真似しようがない。
わたしだけの愛。
(´・ω・`)「……僕のことを考えなくても、いいんだよ」
呪いを解くように、彼は呟いた。
わたしは首を振る。
ζ(゚ー゚*ζ「あなたの幸せが、わたしの幸せだから」
(´・ω・`)「デレ……」
ζ(゚ー゚*ζ「勉強だって、たくさんするから」
だから、
ζ(゚ー゚*ζ「どうかわたしを、魔女にして」
今度はわたしが、あなたを救うんだ。
395
:
名も無きAAのようです
:2017/10/11(水) 21:09:14 ID:PogJdj520
(´・ω・`)「……今月の終わりに、」
長い長い、永遠にも続く沈黙を破ったのは、 からだった。
(´・ω・`)「ブロッケン山へ行こう」
その言葉を耳にしたわたしは、鳥肌が立つ。
ζ(゚ー゚*ζ「それって……!」
わたしの想像を肯定するように、 は頷いた。
(´・ω・`)「ヴァルプルギスの夜だ」
灰を被ったような瞳が、きらと光った。
(´・ω・`)「それで君の幸せになるのなら、力を貸そ、おっと!」
ζ(゚ヮ゚*ζ「ありがとう!」
力いっぱい、 を抱き締める。
ζ(゚ヮ゚*ζ(嬉しい、嬉しい、嬉しい!)
これはあくまでも、スタートラインに立っただけ。
そうだと分かっていても、やはり嬉しいことに変わりない。
396
:
名も無きAAのようです
:2017/10/11(水) 21:09:56 ID:PogJdj520
(´・ω・`)「……まさか、ここまで喜んでくれるとは」
ζ(゚ヮ゚*ζ「だって今、人生で一番嬉しいんだもの!」
(´・ω・`)「分かった、分かった」
嬉しそうに、彼はわたしの頭を撫でた。
そのせいで、きっとまた髪の毛はふちゃむちゃになってしまったことだろう。
だけどそんなことは些細だ。
ζ(゚ヮ゚*ζ(やっと、あなたの役に立てる……!)
使命を胸に秘め、わたしはいつまでも彼に抱きついていた。
397
:
名も無きAAのようです
:2017/10/11(水) 21:10:43 ID:PogJdj520
ヴァルプルギスの夜までの約一ヶ月間は、飛ぶように過ぎていった。
なんたって覚えなきゃいけないことは沢山ある。
先輩魔女やそれに仕えている使い魔に対する挨拶とマナー。
通過儀礼の予習と復習。
それから、
ζ(゚、゚*ζ「ふっ……おお……!」
(´・ω・`)「ああ、そんなに力んじゃうと」
ζ(>、<*ζ「あいたっ!」
(´・ω・`)「ひっくり返るよ……って、遅かったな」
箒を使って空を飛ぶ練習。
いかにも魔女です、という魔法だけれども、これが一番難しかった。
ζ(゚、゚*ζ「よい、しょっ!」
穂先へとしがみつき、地面を蹴り上げる。
よろよろと心許ない浮遊力で、わたしを持ち上げる箒。
ちなみに絵画やフィクションでは、穂を後ろにして
魔女は空を飛ぶが、現実では逆だ。
ホビーホースよろしく穂先を頭に見立てて空を飛ぶのが、正式なやり方で、
ζ(>、<*ζ「あふぇっ!」
……飛べるはずだった。
398
:
名も無きAAのようです
:2017/10/11(水) 21:11:27 ID:PogJdj520
(´・ω・`)「だからね、あんまり穂先を上げるとひっくり返っちゃうんだよ」
ζ(゚、゚;ζ「ううう……」
(´・ω・`)「うーん……。
ブロッケン山の近くまで転移して飛んでも、夜が明けてしまいそうだな」
ζ(゚、゚;ζ「間に合わないじゃない!」
(´・ω・`)「そう、間に合わない」
したたかに打ち付けた頭を撫でながら、彼はため息を吐いた。
(´・ω・`)「……来年にする?」
ζ(゚、゚*ζ「が、頑張ります……!」
もう一度立ち上がったわたしを見て、
(´・ω・`)「うんうん、僕は見守ってるからね」
彼は優しく微笑んだ。
それからは毎日のように練習して、なんとか長距離移動が可能になった。
……と言っても の魔法で、ブロッケン山の麓まで
転移したらやっと辿り着けるという程度だ。
おまけに箒の方も、ちっとも言うことを聞いてくれないから、
から灰色のリボンを付けてもらう羽目になった。
399
:
名も無きAAのようです
:2017/10/11(水) 21:12:19 ID:PogJdj520
ζ(゚、゚*ζ(補助輪付きの自転車に乗ってるみたい)
轡の役割を果たしているそれをしっかと握りつつ、わたしは苦い思いに浸っていた。
(´・c_・`)「そんな顔しないの」
微笑ましく笑っているチビの男は、 その人である。
まん丸のお月様にちいちゃなトリュフみたいな黒い鼻が付いていて、
甘やかに透った声も、今日だけは信じられないくらいのダミ声になっている。
つまり、ちっとも には見えない見た目をしていた。
どうしてこんな変装をするのかというと、彼は困ったようにこう言った。
(´・c_・`)「他の魔女には好かれていないからさ」
せっかくの祭に水を差すのも悪いだろう、と彼なりに気を使ってのことらしい。
ζ(゚、゚*ζ(いつものかっこいい がよかったのに!)
きっと彼の実力をやっかんでいる連中がいるのだろう。
そんな矮小な連中に、優しい彼は気を使っているのだ。
ζ(゚、゚*ζ(なんて嫌な奴ら)
密かに憤るわたしを乗せ、少しずつ箒は山頂へと近付いていく。
400
:
名も無きAAのようです
:2017/10/11(水) 21:13:38 ID:PogJdj520
ブロッケン山。
ドイツ中部に位置する、魔女の総本山。
一年のほとんどは雪と霧で覆われている、不可視の山。
四月最後の晩から五月の明け方に掛けて、ヴァルプルギスの夜は行われる。
今では観光用に人間が出入りしているらしいが、本物の魔女と出会う事は出来ない。
全世界より集った魔女は、霧によって神秘を守る。
修行中の魔女も、その場へ辿り着くことは出来ない。
師匠に認められた者だけが、招かれることで初めて立ち入ることが出来る。
ζ(゚ー゚*ζ(ワクワクしないわけがないよね……!)
そう思う一方で、わたしは必死に の後を追う。
凍てつくような霧の中、見失ってしまったが最後、
来年まで機を逃すことになる。
いわばこれが、見習い魔女にとって最後の試練であった。
ζ(゚ー゚*ζ「!」
霧の中に、人影が見えた気がした。
じろと不躾に、
ζ(゚ー゚*ζ(いや、品定めをされているのはこっち……)
たら、と冷や汗が背中を伝う。
401
:
名も無きAAのようです
:2017/10/11(水) 21:14:20 ID:PogJdj520
生命が終わりを迎える眠りの季節、冬。
太陽を取り戻し、芽吹きの到来を告げる季節、春。
死と生の境が最も薄くなるのが今宵、ヴァルプルギスの夜。
魔を呼び、霊を呼び、人にすり替わろうと画策する夜。
こちらへと近付いて来るのは、死者の魂だけではない。
志半ばで倒れ臥し、己が存在価値を見失った魔女は、透明な死へと誘われる。
生きながらにして透明にされてしまった魔女の行く末は、記録されていない。
いや、記録が消されてしまう。
深く愛されようが、信仰を集めていようが、
透明にされた魔女の痕跡は、跡形もなく消えてしまう。
知識をばら撒き、他人の見識を深めるきっかけを与える。
それが魔女にとって生涯を掛けた大仕事となる。
つまり、その仕事の成果を台無しにしてしまうのが透明な死である。
ζ(゚ー゚*ζ(冷え冷えとした視線を感じるわ)
透明になった魔女が、再度形を得ようともがく今。
灰色のリボンを抱くように、わたしは を追いかける。
ζ(゚ー゚*ζ(魔女になる)
ただ一つの願いを、
ζ(゚ー゚*ζ「魔女に、なる」
口にして、
ζ(゚ー゚*ζ「 を救う、魔女になる!」
402
:
名も無きAAのようです
:2017/10/11(水) 21:16:12 ID:PogJdj520
まろび出ては消え行く何者か達。
彼らの間を潜り抜けた途端、視界に広がったのは
虹色のフレアを描く巨大な篝火だった。
追っていた背中が急降下して行くのが見えた。
ζ(゚、゚*ζ「おっとっと」
慌てて後を追うと、禿山のように見えていたそれが、魔女の集団である事に気が付いた。
ζ(゚ヮ゚*ζ「わぁ……」
山羊そっくりの魔女に、鸚鵡のような鼻を持つ魔女、
梯子のように背の高い魔女に、和装姿の魔女。
見ているだけで飲み込まれてしまいそうな、魔力の渦。
(´・c_・`)「ああ、よかった」
箒を片手に、彼が歩いてくるのが見えた。
(´・c_・`)「振り向いたらいないから、置いてきてしまったのかと」
ζ(゚ー゚*ζ「ううん、大丈夫!」
(´・c_・`)「最初に比べたら随分上達したね」
ぽすぽす、と背中を叩かれるわたしは、
ζ(゚、゚*ζ(まるで馬のように扱われてるわ)
と思っていた。
403
:
名も無きAAのようです
:2017/10/11(水) 21:17:16 ID:PogJdj520
(´・c_・`)「休んでいる暇はないよ」
と指差す方向には、櫓が建っている。
ζ(゚ー゚*ζ「通過儀礼ね?」
確認するように目を走らせると、彼は頷いた。
(´・c_・`)「僕はあそこへ行くことが出来ないから、ここで待っているよ」
ζ(゚ー゚*ζ「行ってきます」
手を振りながら、わたしは再び空へと舞い上がる。
もう、最初の頃のようにずり落ちることはなかった。
404
:
名も無きAAのようです
:2017/10/11(水) 21:18:53 ID:PogJdj520
毎年ブナの木を切り出して建てられる櫓、メイポール。
そこに立ち入ることができるのは、篝火を管理する魔女と、
これから通過儀礼を受ける見習いの魔女のみ。
ζ(゚ー゚*ζ(一生に一度しか見ることの出来ない風景)
順番を待ちながら、篝火を見下ろした。
ζ(゚ー゚*ζ( も、わたしみたいにドキドキしたのかな)
ふと、疑問が湧き立った。
こう見えても長生きしていて、若く見せているのは努力によるものだと
常々彼は語っているけれど、一体果たして実年齢は何歳なのだろう。
ζ(゚ー゚*ζ(わたしが子供の頃からずっと容姿が変わっていないもの)
そんなわたしも、年を正確に数えてはいない。
お酒を飲める年齢には達した、とは思う。
ζ(゚、゚*ζ(ま、いっか)
名前を呼ばれたわたしは、思考を中断する。
とうとう、順番が回ってきた。
405
:
名も無きAAのようです
:2017/10/11(水) 21:19:33 ID:PogJdj520
*(‘‘)*「さ、どうぞです」
年端もいかない魔女が差し出すのは、サンザシの枝。
白い花は瑞々しく咲いている傍で、銀の針のごとく伸びている棘。
そこへと指を伸ばし、ぷつ、と肉を喰ませる。
ζ(゚、゚*ζ「いたた」
指先に浮かぶ赤い血は、艶めくサンザシの実のようだ。
*(‘‘)*「次は、この札に判を押すのです」
差し出された紙は、二センチ四方の小さなもので、
三行三列のマスに区切られている。
左上から順に、それぞれ一から九までの数字が描かれていた。
ひょう、ひょう、
と吹く寒風に攫われないよう、指先に貼り付ける。
じわ、と滲む血を吸い上げて、紙は数式を成長させていく。
一は十へと置き替わり、四は零へと数が減った。
五と六はそれぞれ七と八に入れ替わり、右下のマスには四を得た。
出鱈目な魔方陣。
しかし、それは人間の道理から見た場合での無意味。
ζ(゚ー゚*ζ(魔女に、なる)
強く念じ、わたしは紙を飲み込んだ。
味は、何もしない。
血の味すらも感じない。
紙を飲み込むのだから、喉に違和感があるのかと思えば、それすらも虚無だった。
ほんの一瞬、世界が止まったような気がした。
聴覚、視覚、嗅覚、触覚、味覚。
全てを失い、忽ちに引き戻される感覚。
鋭敏に研ぎ澄まされた本能。
*(‘‘)*「さあ」
さあ、さあ、さあ、さあ、
見守っている魔女の声が、何重にも重なる。
耳の奥に洞が出来て、うわんと畝るような気持ち。
ふら、と一歩を踏み出した。
406
:
名も無きAAのようです
:2017/10/11(水) 21:20:20 ID:PogJdj520
.
ζ(゚ー゚*ζ「汝、会得せよ」
唱和。
ζ(゚ー゚*ζ「一を十と成せ」
誰の声と特定することのできない、
絶対的な魔女の声。
ζ(゚ー゚*ζ「二を去るに任せよ」
聞き覚えがあった。
ζ(゚ー゚*ζ「三をただちに作れ」
聞き覚えがなかった。
.
407
:
名も無きAAのようです
:2017/10/11(水) 21:22:15 ID:PogJdj520
.
ζ(゚ー゚*ζ「しからば汝は富まん」
ただひたすらに、わたしを包み込む。
ζ(゚ー゚*ζ「四は捨てよ」
わたしを取り込まんとするその声を、
ζ(゚ー゚*ζ「五と六より、」
わたしは唱う。
ζ(゚ー゚*ζ「七と八を生め」
櫓から篝火が見える。
.
408
:
名も無きAAのようです
:2017/10/11(水) 21:23:48 ID:PogJdj520
.
ζ(゚ー゚*ζ「かく魔女は説く」
そこには透明な澱が存在していた。
ζ(゚ー゚*ζ「かくて成さん」
不可視の彼岸が見えていた。
ζ(゚ー゚*ζ「すなわち九は一にして、」
溢れんばかりに満ちている、悪魔の気配。
ζ(゚ー゚*ζ「十は無なり」
生者と死者の境界は限りなく薄くなる。
.
409
:
名も無きAAのようです
:2017/10/11(水) 21:24:34 ID:PogJdj520
.
ζ(゚ー゚*ζ「これを」
わたしは、
ζ(゚ー゚*ζ「魔女の」
落ちる。
ζ( ー *ζ「九九と」
炎へ。
ζ( ー *ζ「いう」
.
410
:
名も無きAAのようです
:2017/10/11(水) 21:25:39 ID:PogJdj520
.
生と、
.
411
:
名も無きAAのようです
:2017/10/11(水) 21:26:21 ID:PogJdj520
.
死の、
.
412
:
名も無きAAのようです
:2017/10/11(水) 21:27:05 ID:PogJdj520
.
境界を、
.
413
:
名も無きAAのようです
:2017/10/11(水) 21:27:47 ID:PogJdj520
.
超えて。
.
414
:
名も無きAAのようです
:2017/10/11(水) 21:29:13 ID:PogJdj520
わたしに体と呼べるものは存在しなかった。
そこはひたすらにあたたかく、
死者の行くすえとは思えないほどにさいわいでした。
げん未にも、これほどの救いがあれば、あのひとは決して飢えることがないのでしょう。
撹はんされゆく意しきを集め、わたしはふり向く。
ζ(゚ー゚*ζ「こんにちは、私」
ζ(゚ー゚*ζ「こんにちは、わたし」
ζ(゚ー゚*ζ「初めまして、私」
ζ(゚ー゚*ζ「初めましてでもないわ、わたし」
ζ(゚ー゚*ζ「いいえ、どうしようもないくらいに初めましてなの」
ころころと、わたしは笑う。
ζ(゚ー゚*ζ「私がそう言うのなら、わたしはそうなのかもしれないわ」
ζ(゚ー゚*ζ「ええ、そう、わたしは私と初めて出会ったの」
ζ(゚ー゚*ζ「わたしが誰だか分かる?」
ζ(゚ー゚*ζ「私が誰だか分かる?」
うなずきながらも、むねは不あんでいっぱいでした。
415
:
名も無きAAのようです
:2017/10/11(水) 21:29:58 ID:PogJdj520
ζ(゚ー゚*ζ「私は魔女のわたしよ」
ζ(゚ー゚*ζ「わたしは人間の私よ」
ζ(゚ー゚*ζ「なあんだ」
安しんしたような、えがお。
ζ(゚ー゚*ζ「こんなにもかん単な境かいだったのね」
たぐり寄せるように、のびる私の手をわたしはにぎる。
ζ(゚ー゚*ζ「どうか、私のことを忘れないでね」
ζ(゚ー゚*ζ「どうか、わたしのことを忘れないでね」
きゅ、と握る手は、ぱちんと弾けた。
ζ(゚、゚*ζ「あ、」
不安なわたしを、私はそっと見つめ返す。
416
:
名も無きAAのようです
:2017/10/11(水) 21:30:50 ID:PogJdj520
ζ(゚ー゚*ζ「さようなら、わたし」
ζ(゚、゚*ζ「さようなら、私」
ζ(゚ー゚*ζ「さようなら、泡の魔女」
ζ(゚、゚*ζ「さようなら」
ζ(゚ー゚*ζ「さようなら」
さようなら、さようなら、
惜しむことなく別れの言葉を口にして、私はぱちりぱちりと消えていく。
それはシャボン玉であり、
泡沫の夢であり、
清潔さを保った聖域にして、
いつか夢見た青い海、
永遠に得られることのない、ひと時の安寧。
417
:
名も無きAAのようです
:2017/10/11(水) 21:31:32 ID:PogJdj520
ζ(゚ー゚*ζ「わたしは、そんなもので出来ている」
それが、わたしのエフェクト。
わたしだけの、魔法。
ζ(゚ー゚*ζ(魔女に、なれた)
じんわりと胸に広がる感慨に水を差したのは、
ζ(゚ー゚*ζ「ひぇ?」
豪速球よろしく打ち上げられたからだ。
ζ(゚、゚;*ζ「びぇえええええええああいいいいああああぁぁぁぁ!!!!!!!」
まるで篝火がくしゃみをしたかのような勢いで、わたしは空へと吹っ飛んだ。
間延びする悲鳴は、はたして に届いたのか。
ζ(;、;*ζ「ひぃーん……」
多分、届いていなかった。
天高く打ち上げられた後は、ただ慣性に従うのみ。
幸か不幸か、わたしは木に引っかかった。
ζ(゚、゚;*ζ「こんなの、あんまりだよぉ……」
恐怖で竦んだ身をよじろうにも、迂闊に動けば真っ逆さまに落ちてしまう気がした。
はてどうしたものかと考えていた時だった。
418
:
名も無きAAのようです
:2017/10/11(水) 21:32:45 ID:PogJdj520
「おーい、大丈夫かー?」
快活そうな声が、下から響いた。
ζ(゚、゚;*ζ「た、助けてくださぁい……」
目一杯に叫ぶと、
「ちょーっと待ってなー」
間延びした声の後、鮮やかな赤が炸裂した。
ぐんぐんと距離を縮めてくるもの。
それは、巨大な躑躅の花弁だった。
从 ゚∀从「無事かー?」
燃えるような赤の中心に座す魔女は、ぺたぺたとわたしに触れてきた。
从 ゚∀从「ん、怪我はなさそうだな」
に、と笑う顔は、見ているこっちも元気になれるようなエネルギーがあった。
ζ(゚、゚*ζ「ごめんなさい……」
从 ゚∀从「ヘーキヘーキ、年に一人か二人はすっ飛ぶ奴が出るんだよ」
どうにも出来ずにいるわたしを、しっかと抱きかかえてくれる彼女は、
背中をよしよしと撫でてくる。
なんだか自分の未熟さを突きつけられたような気になって、居心地が悪くなった。
419
:
名も無きAAのようです
:2017/10/11(水) 21:33:45 ID:PogJdj520
从 ゚∀从「でも、すげーんだぜ」
ζ(゚、゚*ζ「な、なにが?」
躑躅の花弁は、柔らかくわたしを受け入れてくれた。
漏斗状のそれは、ゆるくゆるく、散るように地上へと近付いていく。
从 ゚∀从「ぶっ飛ばされた距離が高ければ高いほど、
イイ魔女になるって師匠が言ってた」
ζ(゚、゚*ζ「へー……」
予め教えられた知識と照らし合わせるも、記憶にはない。
つまりは初耳であった。
从 ゚∀从「知らなかった?」
気遣うような声音に、わたしは頷く。
地上はもうすぐそこまで迫っていた。
从 ゚∀从「んじゃ、篝火の中にたくさん悪魔いるってことは?」
それは、知っている。
死後の世界、透明な澱をこちらへと惹き付けるのがあの篝火で、
見習いの魔女はそこへ飛び込むことで擬似的な死を体験する。
エフェクトを手にした後、魔女は復活を遂げ、
生と死の境を越えた存在となる。
420
:
名も無きAAのようです
:2017/10/11(水) 21:36:08 ID:PogJdj520
だから、魔女に寿命はない。
探究心が続く限り、あるいは人間に戻ったり、害されない限り、死ぬ事はない。
に教わった知識を話すと、先輩の魔女はうんうんと頷いた。
从 ゚∀从「あんた、名前は何て言うのさ?」
ζ(゚ー゚*ζ「わたしは、」
ただ名前を言おうとして、
ζ(゚ー゚*ζ「泡の魔女」
するりと差し込まれた言葉に、わたしは驚いた。
从 ゚∀从「泡の魔女、かあ」
頷きながら、思わず唇を触る。
ひとりでに動いたそこは、普段通りふっくらと澄ましていた。
ζ(゚ー゚*ζ「……泡の魔女の、デレ」
誤魔化すように呟くと、微笑ましい視線が降ってきた。
从 ゚∀从「アタシは躑躅の魔女、ハイン」
よろしく、と差し出された手を、わたしは控えめに握り返す。
こんな寒空の下だというのに、ハインの手はとても温かかった。
421
:
名も無きAAのようです
:2017/10/11(水) 21:37:14 ID:PogJdj520
从 ゚∀从「アタシも二年前に魔女になったばっかりの新米なんだ」
ζ(゚ー゚*ζ「ええ!?」
从 ゚∀从「新米同士、仲良くやろうじゃん」
ねーっ、と彼女はわたしの両手を包む。
それにどう答えれば良かったのか、わたしは分からなかった。
从 ゚∀从「もーちょいで着くから、待ってろよ」
気付くと、あんなにも近くに見えた星々は遥か頭上の高みにある。
下を見れば、一人の男が手を振っていた。
从 ゚∀从「到着っ!」
飛び降りるハインの後に続くと、
ミセ*゚ー゚)リ「無事?」
と、ハインに問い掛ける彼も魔女らしい。
石の礫を二、三個、ランタンがわりに光らせていて、それがとても美しかった。
頷くハインは、わたしを抱き寄せた。
422
:
名も無きAAのようです
:2017/10/11(水) 21:38:29 ID:PogJdj520
从 ゚∀从「さっき引っかかってたの、この子だった!」
ミセ*゚ー゚)リ「へえ、見たことのない顔だね」
ζ(゚ー゚*ζ「あ、泡の魔女、デレです……」
じろじろと遠慮なしに見る彼の瞳は榛色で、凛とした知性を感じさせ、
上質なビロードを思わせるブロンドの髪は、神経質かつ
執拗なまでにかっちりと撫で付けてあった。
ミセ*゚ー゚)リ「いいエフェクトだね」
角を無理やり削いだような声に、すっと切れ込みを入れたような目付き。
それが笑顔だと気付くのには、少し時間がかかった。
ζ(゚ー゚*ζ「あなたは?」
差し出された手を掴むと、悴んだ手でもわかるほどに、芯まで冷えていた。
ハインとは色々な意味で真逆の属性を持つ、不思議な魔女。
それが、彼に対する第一印象だった。
ミセ*゚ー゚)リ「石の魔女、ミセリだ」
从 ゚∀从「アタシの弟弟子なんだよ!」
ミセ*゚ー゚)リ「三ヶ月しか違わないだろ」
从 ゚∀从「先ったら先だよ」
423
:
名も無きAAのようです
:2017/10/11(水) 21:39:31 ID:PogJdj520
やいのやいのと繰り広げられるやり取りに、わたしはすっかり置き去りにされていた。
ポカンとそのまま観察していたら、ミセリは申し訳なさそうな顔をした。
ミセ*゚ー゚)リ「悪い、いつもの癖なんだ」
ζ(゚ー゚*ζ「仲がいいんですねえ」
ミセ*゚ー゚)リ「そんなには」
从 ゚∀从「おい」
ミセ*゚ー゚)リ「普通だよ、普通」
謙遜したような物言いは、少しの道化を含んでいて、
ζ(゚ー゚*ζ(何故かしら)
それが無性に、羨ましく思えた。
ζ(゚ー゚*ζ「二人は同じお師匠さんの元で習っているの?」
湧き上がる疑問符を振り落とし、月並みな質問を投げかける。
揃って肯定を示した二人は、口々に話し出す。
424
:
名も無きAAのようです
:2017/10/11(水) 21:40:48 ID:PogJdj520
从 ゚∀从「こう見えて、生まれも育ちも日本なんだ」
ミセ*゚ー゚)リ「僕もハインも、ね」
从 ゚∀从「家の近所にアトリエがあって、そこで初めて魔法に触れたんだ」
ミセ*゚ー゚)リ「うっかり盗み見たようなものだから、こっぴどく叱られたけれど」
从 ゚∀从「でもそれがすごく綺麗だったから、
魔女になりたいってつい言っちゃってさ」
ミセ*゚ー゚)リ「あの時は肝を冷やしたよ」
从 ゚∀从「薄情なことに、こいつだけ先に逃げちゃったんだぜ!」
ミセ*゚ー゚)リ「あーあ、もう。そんなこと蒸し返さなくていいじゃないか」
从 ゚∀从「ちょっとした与太話だよ」
ミセ*゚ー゚)リ「恥ずかしいじゃないか」
从 ゚∀从「悪かったってば」
ζ(゚ー゚*ζ「ふふ」
コミカルなやり取りに、思わず笑いが漏れた。
425
:
名も無きAAのようです
:2017/10/11(水) 21:41:57 ID:PogJdj520
ζ(゚ー゚*ζ「やっぱり仲良しじゃない」
ミセ*゚ー゚)リ「よく言われるけど、腐れ縁なだけさ」
从 ゚∀从「ほんとそれ」
ケタケタと笑うハインに釣られて、わたしも笑った。
一方で、
ζ(゚ー゚*ζ( を探しに行かなくちゃ)
とも考えていた。
けれども、去るには少し惜しいとも思っていた。
ζ(゚ー゚*ζ「二人はまだ、師匠さんのところにいるの?」
从 ゚∀从「うん、普段は師匠のお店の手伝いをしてるんだ」
ミセ*゚ー゚)リ「修行時代も込みで考えると……十年は住み込みでいるのかな」
ζ(゚ー゚*ζ「じゃあ八年も修行したの!?」
思わず大きな声で叫ぶと、ミセリは不思議そうな顔をした。
426
:
名も無きAAのようです
:2017/10/11(水) 21:43:29 ID:PogJdj520
ミセ*゚ー゚)リ「普通、下積みっていうとそれくらいの時間は掛かるけど」
从 ゚∀从「デレはどのくらい修行したんだ?」
ζ(゚ー゚*ζ「ええっと……」
しまった、という思いが強く苛んでいた。
とは数えきれないほど多くの年月を過ごしては来たけれど、
みっちりと魔法を教わったのは、ここ一ヶ月での話だ。
それも基礎中の基礎だよ、と彼は言っていた。
八年の修行期間が平均的ともなれば、わたしはさっぱり勉強していないことになる。
そんな状態で魔女になったと知れた日には、一体どうなってしまうのか。
ζ(゚ー゚*ζ(魔女にも法律はあるのかしら……)
そんな初歩的なことも、この時のわたしは知らなかった。
从 ゚∀从「アンタの師匠ってどんな人なの?」
一向に答えないわたしに気を利かせてか、それとも追い詰めるためか。
ハインは核心へと触れてきた。
ζ(゚ー゚*ζ「全然、大した人じゃないよ……」
ミセ*゚ー゚)リ「それなら、僕たちの師匠だって無名に近い魔女だよ」
思いのほか小さく出た言葉を、ミセリは逃がさない。
少しずつ、少しずつ退路は埋められつつあった。
427
:
名も無きAAのようです
:2017/10/11(水) 21:44:35 ID:PogJdj520
从 ゚∀从「ねえ、教えてよ」
ぽとり、ハインの手から躑躅の花が落ちた。
真っ赤な、舌の色をした躑躅。
視認した瞬間、わたしの舌は無意識に動いた。
ζ( ー *ζ「灰色、」
从 ゚∀从「……えっ?」
ζ( ー *ζ「灰色の、魔女」
とうとう吐き出した瞬間、わたしは妙に気持ちがよかった。
ミセ*;゚ー゚)リ「灰色の……!?」
呆然と呟くミセリに、わたしはすっかり気を良くしていた。
ζ( ー *ζ「そう、灰色の魔女。 よ」
あれほど口にしてはならないと厳重に含めていたのに、
どうして話してしまったのだろう。
目の前の二人は、凍ったように動かないのに、
それを驚きによるものだとわたしは勘違いしていた。
けれども暖かな人柄を滲ませていたその瞳は、
徐々に疑惑の色へと変じていった。
从; ゚∀从「……本当に?」
信じられない、という音の滲んだ声だった。
428
:
名も無きAAのようです
:2017/10/11(水) 21:46:06 ID:PogJdj520
ミセ*;゚ー゚)リ「あの魔女が弟子を取ったという話は聞いたことがない」
ζ(゚ー゚*ζ「他の魔女と交流していないから、仕方ないよね」
冗談めいたわたしの言葉に、ミセリは口を開く。
ミセ*゚ー゚)リ「……じゃあ、自分の師匠がどう言われてるのかも分かってないんだな?」
威圧を含んだ言葉に、思わず首を傾げる。
知っている。
本当は、知っている。
どうせあの人が救った人間のような言葉を向けるって。
だけど、相手の言い分も聞いてみようじゃない、って。
ζ(゚ー゚*ζ「なぁんにも知らないわ」
それは、確認を込めての挑発だった。
从 ゚∀从「……デレ、アタシの師匠に会ってみない?」
すり替えるように、ハインは口を開く。
从 ゚∀从「きっと今からでも遅くないから、」
ζ(゚ー゚*ζ「ねぇ、今は の話をしているのよ?」
429
:
名も無きAAのようです
:2017/10/11(水) 21:47:07 ID:PogJdj520
苛立った声で話の先を促すと、
ミセ*゚ー゚)リ「狂気の灰被り」
侮蔑を含んだ声が、鼓膜を揺らす。
ζ(゚ー゚*ζ「……なんて言ったの、今?」
从 -∀从「……救済と称して弱っている人間の心に漬け込み、跡形もなく食い尽くす。
自分の手腕を見せつけるために奇跡をばら撒く詐欺師」
ミセ*゚ー゚)リ「甘い言葉に耳を貸したが最後、待っているのは身の破滅。
万人を愛する自分を愛する為に万人から愛されたいと
願う魔女の片隅にも置けない男」
ζ( ヮ *ζ「……なに、それ」
ミセ*゚ー゚)リ「全部君のお師匠さんの話さ」
冷徹な笑みを浮かべ、ミセリは吐き捨てる。
ミセ*゚ー゚)リ「不名誉な話には事欠かない、狂気の灰被りのお弟子さん」
その蔑称が、優しくて暖かい魔法の数々を生み出すエフェクトから
由来しているのだと、気付いたわたしは怒りでどうにかなりそうだった。
ζ( ヮ *ζ「……嘘よ」
薄ら笑いを浮かべながら、弁護を紡ぐ。
430
:
名も無きAAのようです
:2017/10/11(水) 21:48:07 ID:PogJdj520
ζ( ヮ *ζ「嘘、嘘、全部嘘。そんなのデタラメ」
从 ゚∀从「デレ、」
ζ( Д #*ζ「気安く呼ばないで!」
こちらへと伸ばされる手をはたき落とし、わたしは叫ぶ。
ζ( Д #*ζ「だって、わたしは彼に救われた!
誰も助けてくれなかったけど、彼だけがわたしを助けに来てくれた!」
ミセ*゚ー゚)リ「……君の過去は知らないから、君がそう言うのならきっとそうなのだろうね」
从; ゚∀从「けどさ、結局あいつは誰にも出来ないような手柄欲しさに魔女になったんだ」
ζ( Д #*ζ「そんなの、あんたたちから見た の姿でしょう!」
ずっと一緒に居たわけじゃないのに、どうして彼が悪だと言い切れるのか。
それは、一部分しか見ていないから。
彼がどれほどに献身を注いでいるのか。
無垢な祈りを拾わんとして耳を傾けているのか。
彼の愛を理解出来ずに立ち去った人間を、なおも許す姿を見ていないから。
ζ( Д #*ζ「あんた達は、見たいものしか見ていないんだ!!」
从 ゚∀从「……話は通じない、か」
諦観を含んだ嘆息に混じり、躑躅の嵐が吹き荒れる。
視界を塞ぐ色取り取りの躑躅。
腹が立つほどに匂い立つ甘露。
431
:
名も無きAAのようです
:2017/10/11(水) 21:49:10 ID:PogJdj520
それに混じる、
ぱき、
という軽快な音。
ζ(゚ー゚*ζ「……え?」
寒々とした感触に、足元を見る。
石だった。
石の礫が、わたしの足を覆うように隊列を作っていた。
ζ(゚ー゚;*ζ「なっ、」
慌てて引き抜こうにも、足はびくとも動いてくれない。
神経がそこで遮断されてしまったような感覚に、わたしは戸惑うばかりだった。
ミセ*゚ー゚)リ「動いても無駄だ」
顔を上げると、そこに躑躅の魔女はいない。
石の魔女だけが、じっとわたしを見つめていた。
ζ(゚ー゚;*ζ「離してっ!」
ミセ*゚ー゚)リ「残念ながら、そういうわけにもいかなくなった」
気の毒そうな言葉とは裏腹に、石はぞろぞろとわたしの足を固めていく。
432
:
名も無きAAのようです
:2017/10/11(水) 21:50:08 ID:PogJdj520
ζ( 、 ;*ζ「なんで、なんでこんなことするのっ?」
責めるような言葉に、魔女はただ一言、
ミセ*゚ー゚)リ「きっと君も、危険な魔女になる」
呟いた。
ミセ*゚ー゚)リ「魔女の仕事は知識の探求。際限のない好奇心は、時をも止める」
それはいつの日か、耳にしたような話。
知識は魔女にとっての金で、目には見えない財産だ。
多くの知恵を貯蓄した魔女には、加護が与えられる。
有益な情報を守らんとする、透明な掟だ。
知る事を止めない限り、その加護はどこまでも続いていく。
けれど、もしそれを悪用してしまったのなら。
ミセ*゚ー゚)リ「不老不死を手にしたも同然だよね」
悪事を働く不老不死の魔女なんて、誰の手にも負えない。
だからこそ魔女は正しくあるべきだとあの人は説いていた。
ミセ*゚ー゚)リ「富を独占することは許されていない。
富を分配し、さらに人生を豊かなものへと導くのが魔女の役目」
しかし、と魔女はわたしを睨む。
ミセ*゚ー゚)リ「中には毒で満たされた富を持つ者がいる。
それを貰い受けた者も、また毒を広めることになる」
433
:
名も無きAAのようです
:2017/10/11(水) 21:51:08 ID:PogJdj520
言いたいことは分かるな、と言いたげな目に、
ζ( 、 ;*ζ「なに、それ」
と、掠れた声。
ζ( 、 ;*ζ(毒に塗れた富って、何)
あの人のしている事はいけない事なの?
世の中から不幸を摘み取ろうとすることは、罪になるの?
じゃあいい事って何?
悪い事って何?
ζ( 、 *ζ「間違ってない……」
ミセ*゚ー゚)リ「間違ってるよ」
己が正しさを信じる声が、その場に響く。
ミセ*゚ー゚)リ「全ての人間を救うなんて、そんなのできっこないんだよ。
何を不幸と見なすのか、絶対的な基準が存在しないのだから。
灰色の魔女のやっていることは、ただの独善さ」
ζ( 、 *ζ「……そう、かもね」
ミセ*゚ー゚)リ「ほら、君もそれに感化されている」
確信を得た魔女は、勝ち誇ったように声を張る。
434
:
名も無きAAのようです
:2017/10/11(水) 21:51:53 ID:PogJdj520
ζ( 、 *ζ「だけど」
と、わたしは自らの足を見つめる。
魔力によって波打つ石像は、今や太ももへと達しようとしている。
ζ( ヮ ;*ζ「わたしは、その独善で救われたんだ!」
破裂音。
太ももから、ぶくぶくと血の泡が噴き上がる。
ちかちかとする視界を掻き集め、わたしは絶叫した。
凍てついた土の上へと、体が崩れ落ちる。
太ももから先のパーツは、見当たらない。
石だけを破壊しようとしたのだが、やはり覆われた部分は手に負えなかったらしい。
ミセ*;゚ー゚)リ「なっ……!」
絶句する魔女は、慌てて手を伸ばす。
その顔に目掛けて、わたしは泡を展開する。
大きな泡を、一つの泡を、風船のように無限に広がりゆく泡を。
ミセ*° ゚"。)リ「っ、っ! っ!?」
泡は、皮膚をも巻き込み、膨らんでいく。
435
:
名も無きAAのようです
:2017/10/11(水) 21:52:51 ID:PogJdj520
ζ( ヮ *ζ「ぁ、は、」
不意に込めていた魔力を、緩める。
支えを失った泡は、弛みを描き、自重に耐えきれず、
ヨセ*;"コぽ)リ「っっっア ゙ア ゙ア ゙ア ゙ア ゙ぁああああ!!!!!!」
弾けた。
のたうち回る相手に、美青年の面影はない。
从; ∀从「ミセリ!!」
遠くで、叫び声が聞こえた気がした。
それに続く、悲鳴の数々。
押し寄せる魔女の気配。
そこでようやく、躑躅の魔女がいなかった理由を察した。
ζ( ヮ *ζ(詰み、かな)
一人魔女を殺してしまったようだし、何よりわたしは危険な魔女の弟子らしい。
捕まれば、殺されてしまうだろう。
ζ( ヮ *ζ(それもいいかな)
とにかくもう、わたしは眠くて仕方がなくて、
「やっと見つけた」
意識を失う直前に、そんな声が聞こえた気がした。
436
:
名も無きAAのようです
:2017/10/11(水) 21:54:07 ID:PogJdj520
瞼を開けようとして、二、三度瞬いた。
景色が目に馴染むまで、そんなに時間はかからなかったと思う。
それでも妙に孤独を感じ、
ζ(-、-*ζ「 ……?」
名前を呼んだ。
(´・ω・`)「ここだよ」
存外に早く、声は返ってきた。
手繰るように腕を伸ばすと、暖かな感触。
じん、と広がる温もりを噛み締めて、手を握られているんだと理解した。
(´・ω・`)「気が付いたんだね」
覗き込む彼に、ようやく焦点が合う。
(´・ω・`)「まったく、無茶をするんだから」
ζ(゚、゚*ζ「……ごめんなさい」
窘めるような言葉には、反射的に謝ってしまう。
実のところ何に対して注意を向けられているのか、
わたしはちっとも分かっていなかった。
437
:
名も無きAAのようです
:2017/10/11(水) 21:55:46 ID:PogJdj520
(´・ω・`)「名前を出すと、厄介なことになるって言ったよね」
ζ(゚、゚*ζ「はい」
ぐうの音も出ないほどの正論。
だけどやっぱり、あいつらの方が悪いんだという気持ちが湧き出てしまう。
(´・ω・`)「……痛いところはないかい?」
強張った声を途端に柔らかくして、わたしをじっと見つめる 。
少しも痛いところはない。
苦しいとも思わない。
なんの不自由を感じないから、とりあえず起き上がろうとして、
ζ(゚、゚*ζ「?」
力が、入らない。
戸惑うわたしの背に、ショボンの腕が差し込まれる。
(´・ω・`)「あの晩から、十日も意識を失っていたんだよ」
軽々と持ち上げて、枕の位置を調節する気配。
その間に、わたしは真新しくなった部屋を見回していた。
白い壁に、ロココ調のシャンデリア。
猫足の家具には、薔薇の意匠があしらわれている。
窓の外には、摘みたてのオレンジみたいな太陽が熱烈に降り注いでいた。
438
:
名も無きAAのようです
:2017/10/11(水) 21:56:28 ID:PogJdj520
ζ(゚ー゚*ζ「また引っ越したの?」
(´・ω・`)「家がバレると面倒だからね」
ブロッケン山から立ち去ってすぐ、どこか遠い所へと逃げて来たのだろう。
自分の起こした事態が、どれほどの迷惑と労力をかけて解決したのか。
推し量るわたしの心中は、申し訳なさでいっぱいだった。
ζ(゚、゚*ζ「ごめんなさい……」
(´・ω・`)「大丈夫だよ」
ぎゅっと抱き締められると、幼い時分に戻ったような気になった。
このままずっとこうしていられたら、と思うわたしを
置き去りにして、ショボンは離れていく。
ふかふかの枕背もたれにしてわたしは座った。
そしてようやく、
ζ(゚、゚*ζ「あ」
太ももの先から、両足が消え失せている事に気が付いた。
ζ(゚ー゚*ζ(起き上がろうとしても、これじゃ力が入らないよね)
道理で、と冷静に納得するわたしに、後悔や怒りは芽生えない。
(´・ω・`)「魔法で治した方がいいよ」
ショックで言葉を失ったと思ったのか、 は優しく声を掛ける。
439
:
名も無きAAのようです
:2017/10/11(水) 21:57:11 ID:PogJdj520
その言葉にわたしは意地悪く、
ζ(゚ー゚*ζ「 の魔法で?」
と、聞いてみたら、
ζ(>、<*ζ「あいたっ」
軽く小突かれて、思わず額を撫でる。
ζ(゚ー゚*ζ「なんでぇ……」
(´・ω・`)「君はもう一人前の魔女となった。
独自のエフェクトと魔力を手にしていながら、
それとは違う魔力を沢山注いだら、体が混乱するだろう」
ζ(゚ー゚*ζ「でもわたし、 の魔法がいい」
(´・ω・`)「どうして」
ζ(゚ー゚*ζ「だって独り立ちしたら、そう簡単に会いにいけないでしょう?」
言わんとしていることが、彼にはわかったらしい。
呆れたような目を向けて、それからしばらく目を閉じて思案しているのが分かった。
440
:
名も無きAAのようです
:2017/10/11(水) 22:02:19 ID:PogJdj520
(´-ω-`)「……リハビリも大変だし、魔力が馴染むまで、
随分と苦しむことになるよ」
ζ(゚ー゚*ζ「それでも の魔法で、わたしは立ち上がりたいの」
(´・ω・`)「わがままなお姫様だね」
鋭利に割れたガラスのような言葉が、胸へと突き刺さる。
ζ(゚ヮ゚*ζ「……ごめんなさい」
謝罪を抉り出すも、彼の目には灰色の影がちらついていた。
わたしの体から、毛布が這いずり逃げていく。
淡いアイボリーのネグリジェからは、やはり太ももの一部しか見えない。
石化した両足は、今でもブロッケン山の頂上で立ち続けているのだろうか。
それとも粉々に壊されてしまったのだろうか。
ζ( ー *ζ(もしそのまま放置されているとしたら、すごく滑稽だ)
笑いそうになる口元を、慌てて制する。
わたしのために は、大いなる力を割いてくれている。
真剣な彼の祈りを、笑って受け止めるだなんて許されない。
(´・ω・`)「 、 」
透明な祈りを唱える の手から、無尽蔵に白い銀貨があふれ出す。
ざらざらとシーツの上へ落ちるそれらは、涼やかな音を奏でた。
その反響は枚数が増えるに従って、荘厳な響きを生み出していく。
441
:
名も無きAAのようです
:2017/10/11(水) 22:03:30 ID:PogJdj520
(´・ω・`)「 、 ……、 」
山になった銀貨を、 は左右に分ける。
さらに小高く積み上がったそれらを、今度は一直線に塗り広げていく。
カジノのディーラーを彷彿とさせる動きだった。
不在の足を描く銀貨は、隅々まで分配されていく。
(´・ω・`)「…… 、 」
口遊む祈りも、それに合わせて変化していく。
繊細にして熱のこもった呟きに、白銀貨は小刻みに震え出す。
熱い鉄板の上で、耐えきれずに踊り狂う様を幻視した。
一歩、二歩、と跳ねる一方で、少しずつ硬貨たちは溶ろけていく。
同時にピカピカと輝いていた白さは損なわれて、緑藻のような錆に苛まれていった。
どろどろに溶けた緑青は、失われた足を補完していく。
それは脛であり、膝であり、踝であり、
踵にして、
削げた肉を増し、仮初めの骨に、ぎゅうと接着せしめた。
鎧のような足を得たわたしは、未だ神経の通る気配を感じていなかった。
見ると、 の祈りはまだ終わっていない。
両手で挟むようにして、彼は太ももを軽く持ち上げた。
こそばゆいような感触のあと、掌は徐々に鉄へと滑らせていく。
じゅ、と肉の焼ける気配。
煙一つ上がっていないのに、ツンと鼻の奥で涙の流れる匂いがした。
ゆっくり、ゆっくりと足を撫でる彼。
その表情を思い出すことは出来ない。
ただ、わたしは泣いていた。
彼に触れてもらえたことが嬉しくて。
やはりわたしは彼に救われたのだと自覚して。
442
:
名も無きAAのようです
:2017/10/11(水) 22:04:12 ID:PogJdj520
(´・ω・`)「……出来たよ」
気付けば、両足が鎮座していた。
一点の狂いもない、完璧な作りをした精巧な足。
その先には、
ζ(゚ー゚*ζ「靴……?」
(´・ω・`)「まあ、おまけのようなものだよ」
足をさする彼の温かさを、足は感じない。
夢のような心地で、 と青銅色の靴とを見比べた。
ζ(゚ー゚*ζ「……ありがとう」
両腕を広げれば、察したように が飛び込んでくる。
ζ(゚ー゚*ζ「やっぱり、あなたは最高の魔女よ」
(´-ω-`)「……そう言ってくれるのは、君だけさ」
突き放すように、 は腕から抜け出した。
443
:
名も無きAAのようです
:2017/10/11(水) 22:05:42 ID:PogJdj520
(´・ω・`)「明日からはみっちりリハビリと魔法について
勉強してもらうから、覚悟しなさい」
ζ(゚、゚*ζ「えー!」
(´・ω・`)「せっかく僕と一緒にいるんだ、少しも時間を無駄にしないよ」
そうしてまた、乱暴にくちゃくちゃと頭を撫でられた。
でも、悪い気はしなかった。
彼との別れを先送りにしただけなのに、やっぱりわたしは嬉しかったのだ。
ζ(゚ー゚*ζ(それからは大変だったけどね)
とにかく休む暇なく、わたしは知識と訓練を詰め込まれた。
それでも楽しく過ごすことが出来たのは、 の采配のおかげだろうか。
ζ(゚ー゚*ζ(それとも、わたしが に甘いのかしら)
真偽は定かではない。
確かなのは、彼と過ごした四年間は飛ぶように過ぎていったということだけだ。
巣立ちは存外にあっさりとしたもので、わたしも二、三言葉を交わして彼の元を去った。
いつか来ると覚悟していた別れの日がたまたま
その日だったというだけで、当然といえばそれまでだった。
444
:
名も無きAAのようです
:2017/10/11(水) 22:06:23 ID:PogJdj520
また思いがけないことに、 の魔力を込めて
作られた足と靴は、彼の居場所を知らせてくれるのだ。
近くにいればほんのりと赤く足は染まり、離れていても
会いたいと願い、靴を打ち付ければ、いつでも会いに行くことができた。
ζ(゚ー゚*ζ(まるでドロシーのよう!)
さしづめ彼はオズの魔法使いといったところか。
ζ(゚、゚*ζ(ああでも、それじゃあ彼はただのインチキ男になってしまうわ)
彼は間違いなく天才で、慈愛に満ちた魔女だ。
あんな臆病者のペテン師みたいなおじさんではない。
ζ(゚ー゚*ζ(そう、素敵な魔女よ)
だからわたしは、彼の幸福を望む。
わたしの幸福を望み、叶えてくれた彼だから。
ζ(゚ー゚*ζ「わたしも、他人を救うの」
445
:
名も無きAAのようです
:2017/10/11(水) 22:07:16 ID:PogJdj520
真理よ、おのれを呪うものを救えよかし 了
.
446
:
名も無きAAのようです
:2017/10/11(水) 22:08:40 ID:PogJdj520
デレについての短編は次作にて完結します
が、書いていてどんどん設定が膨らんで来たのでまた視点の異なる番外を書くかもしれません
気長にお待ちください
447
:
名も無きAAのようです
:2017/10/11(水) 22:10:54 ID:i4pT7IZI0
お疲れ様です。デレが魔女になるとこで魔女の九九が出てきたのにグッと来た
448
:
名も無きAAのようです
:2017/10/11(水) 22:49:46 ID:bZeSi77c0
お疲れ様です。すごく面白かった。
前回と会わせて読むと、デレがショボンに執着している理由がよく分かる。
続き楽しみに待ってます。
449
:
名も無きAAのようです
:2017/10/12(木) 21:49:56 ID:bCL0o9Fs0
乙す
450
:
<^ω^;削除>
:<^ω^;削除>
<^ω^;削除>
451
:
名も無きAAのようです
:2017/10/14(土) 10:04:51 ID:SczlMVA20
乙、次も楽しみ
>>381
に一ヶ所名前が出てしまってるのは敢えて?
452
:
名も無きAAのようです
:2017/10/14(土) 10:28:32 ID:Z.Y1S9j60
>>451
わざとじゃないです…
気をつけてたんですけどすり抜けてましたね
修正版をあとで置いておきます
453
:
名も無きAAのようです
:2017/10/14(土) 15:59:05 ID:LaaPfrso0
つまんね
454
:
名も無きAAのようです
:2018/07/08(日) 00:00:21 ID:TbZH47Zc0
ミセリ→ヨセコポリ→横堀かぁ
今まで見てきた中で一番強引で一番面白いミセリAA改変でした
455
:
名も無きAAのようです
:2020/01/12(日) 04:40:38 ID:IbpjG6AQ0
好き
456
:
名も無きAAのようです
:2021/12/25(土) 18:03:31 ID:wfKNAKAs0
かくてめでたく悪より逃れて
.
457
:
名も無きAAのようです
:2021/12/25(土) 18:04:14 ID:wfKNAKAs0
果たして救済に勤しんだ期間はどれくらい続いたものか。
気が付けば冷戦は終わり、ベルリンの壁が壊れ、ソ連は崩壊。
世界は激しく変わることを望み、
その狭間に取り残される人々も多く存在した。
魔女がいくら長命とて、救える命に限りはあった。
ζ( ー *ζ(この世界には、不幸が多すぎる)
わたしと だけでは、到底間に合わない。
そもそも不幸に終わりなどないのではないか。
疑念が、つねに付きまとう。
またわたしたちの行為を、快く思わない人間の多さにも驚いた。
ζ( ー *ζ(どうしてみんな、親切心を恋慕と勘違いするのだろう)
わたしから見ればどの人間も救うべき対象だ。
そこに順位や区別などは含まない。
ζ( ー *ζ(わたしは誰の所有物でもない)
だから誰に支配される謂れもなかった。
理解を得るために、説明した事は何度でもある。
けれど、
ζ( ー *ζ(ダメだった)
怒り、恨み、悲嘆、嗚咽、それらが邪魔をした。
感情的になった相手と、対話なんて出来るはずもなかった。
やがてわたしの陰に、虚無が染み付き始めた。
最初こそ救われただの助かっただのと持ち上げてはくるものの、
いつの日かわたしに対する失望へと変化する。
初めこそ動揺し、傷付いてしまうこともあったが、
やがてはその落差に備えるようになった。
458
:
名も無きAAのようです
:2021/12/25(土) 18:04:57 ID:wfKNAKAs0
ζ( ー *ζ(きっと、あの人もこんな気持ちだったのね)
いつぞやかに怒鳴り込んできた女性を思い出して、わたしは微笑む。
食って掛かったわたしを止める彼は、きっとこんな風に笑っていた。
ζ( ー *ζ(もう、こんなこと止めてしまおうか)
鈍化した心でも、すり切れれば摩擦で火がついた。
じりじりと、燻るような苦痛の炎が灯る。
でも。
ζ(゚ー゚*ζ(わたしには足がある)
二度の癒しを得た足。
の手を取り、立ち上がった足だ。
どれほど離れていても、わたしと彼を結び付ける絆の具現。
失意の中でも足を撫でていれば、
彼と過ごした日々を思い出せた。
それでも心が癒えない時には、手紙を出した。
わざわざ書くほどのことでもないような、他愛ない手紙だ。
私生活については一切触れていない。
感情は全て隠しきった。
ここで寄りかかってしまったら、また彼の負担が増えてしまう。
だったら道化を演じている方が、彼も楽しんでくれるに違いない。
459
:
名も無きAAのようです
:2021/12/25(土) 18:05:40 ID:wfKNAKAs0
……けれども結局、わたしは弱かった。
最初こそ返事は要らないと文末に記していた。
その通りに彼は返事を寄越さなかった。
段々と腹を立てている自分に気が付いたのは、果たしていつだろう。
ζ( 、 *ζ(本当に大丈夫だったら、手紙なんか書かないのに)
言葉にせずとも分かって欲しかった。
ましてや、 の方が長く活動を行なっている。
どんな気持ちでわたしが過ごしているのか。
ちょっと考えれば分かりそうなことだろう。
ζ( 、 *ζ(こっちは気を使ってるのに)
そう思えば思うほど、ペンを握る回数が増えていった。
三ヶ月に一度のつもりが、二ヶ月、一ヶ月、二週間、一週間。
徐々に間隔は狭まっていき、添えた遠慮もいつしか消えていた。
気付けば彼も、同じような返事を寄越してきた。
現在地、気候、食事、季節の挨拶。
互いの傷に触れないよう、細心の注意を払っているような内容の手紙。
それでもやはり、便りが来るのは嬉しかった。
ζ(゚ー゚*ζ(わたしは一人じゃない)
心強く思った一方で、言外に圧力を掛けたことを後悔していた。
今までは彼一人で戦ってきたのだ。
わたしにはその孤独が分からない。
いざとなれば に頼るという選択肢が、最初から用意されていた。
わたしは、甘ったれだった。
ζ(゚ー゚*ζ「……頑張らなくちゃ」
わたしは、戦わなくてはならなかった。
逃げるなんてもってのほかだ。
確かに終わりは見えない。
けれども、彼を一人になんて出来るはずがなかった。
460
:
名も無きAAのようです
:2021/12/25(土) 18:06:20 ID:wfKNAKAs0
――いつの秋口だったか。
休む間も無く全世界を動き回っていると、
どの時間に自分が生きていたのかを忘れてしまう。
けれども、確かに秋だった。
湿気を取り払うような心地よい風に吹かれて、
わたしは彼の家へと向かっていた。
全世界の至る所に、彼の隠れ家は点在している。
その中で一番古くから存在しているのが、日府の家であった。
ζ(゚ー゚*ζ(随分と長い付き合いになるけれど、
あの家に行くのは何度目かしら)
試しに数えてみれば、片手に収まる程度にしか行ったことがない。
それだけでも十分に珍しい。
だというのに、つい昨日届いた手紙には、こんな言葉が書かれていた。
ζ(゚、゚*ζ(君の力を借りたい、か)
ベテランの ですら手を焼く事態なんて、
わたしの手にも負えないような気もする。
でもわたしは、なかば喜びで満ちていた。
ζ(゚ー゚*ζ(せっかくわたしを頼りにしてくれたんだもの)
彼の苦しみを癒すことができるのは、わたしだけ。
他の誰にも、彼を苦しみから救うことは出来ない。
わたしは、必ず彼を幸せにする。
――決意に満ちた陶酔に浸っていたのに、
('、`*川「はじめまして、デレさん」
全てをぶち壊しにしたのは間抜け面の女だった。
461
:
名も無きAAのようです
:2021/12/25(土) 18:07:16 ID:wfKNAKAs0
ζ(゚ヮ゚*ζ「……誰なの?」
おずおずと頭を下げる女に、意識が飛びかける。
拡散する理性を縫い合わせつつ、視線を這わす。
の頭一つ下の背丈。
幼さの残る顔と、大人びた感情の表出。
ζ(゚ヮ゚*ζ(まるで杜撰なパッチワークのよう)
さらに視線は、呪詛のように絡みつく。
赤茶混じりの痛んだ長髪に、かろうじて矜持がせせら笑う。
ζ(゚ヮ゚*ζ(みすぼらしい)
(´・ω・`)「すまないね、急に呼び出して」
平身平頭を貫く は、彼女の肩に触れた。
(´・ω・`)「お茶にしよう」
それはまるで、二人の睦事を暗示するかのような動作で、
('、`*川「どうぞ、上がってください」
立ち尽くすわたしに、少女は目で廊下を指し示し、
ζ(゚ヮ゚*ζ(なん、なの……)
泡沫の記憶が、パチンと弾ける。
462
:
名も無きAAのようです
:2021/12/25(土) 18:07:57 ID:wfKNAKAs0
o
。.゚ 。 ゚o 。.゚ 。 。o゚ 。 . 。°。o
。o 。.゚。 。o゚ 。 . 。°。 . 。 。°
° 。o 。.゚不快。疑問。註釈を求む。゚ 。 . o
。゚ ゚ o . .゚.。. ゚ 。 ゚o 。.゚ 。°。,
。。゚ ゚゚ 。 . 。° .。. 。 。° ,
..゜
463
:
名も無きAAのようです
:2021/12/25(土) 18:08:43 ID:wfKNAKAs0
o . .゚.。. ゚ 。 ° .。. 。 。°、 .o
。°。。。゚ ゚゚ 。 ° . 。° ..゜° .。. 。 。°
° .。. 。されど場面転換は、乱雑に行われる。 。°。
。゚ ゚ o . ゚o 。.゚ 。 。°o゚ 。 . 。o°
゚ ゚゚ 。 . 。° o .°.゚.。 . o。°。,"
.° 。
o゚ 。 .°、 .o。° o .°.゚.。 .
o゚ 。 . 。o°
゚ ゚゚ 。 . 。°。,"
。° o .°.゚.。 .
464
:
名も無きAAのようです
:2021/12/25(土) 18:09:50 ID:wfKNAKAs0
――キッチンだ。
最新の家具が揃えられていて、かすかにレモンの香りがする。
彼は紅茶を入れていた。
わたしは手伝うふりをして、あの女をリビングに置き捨てていた。
ζ(゚、゚*ζ「どういう事?」
意思に反し、言葉尻は怒りを噴き出していた。
は困ったような顔をして、ナイフを洗った。
(´-ω-`)「山の中で死体を見つけたんだ」
ζ(゚、゚*ζ「死っ……」
(´-ω-`)「生き返りたいと強く願っていたから、蘇生させたんだ」
淡々と語る口調とは裏腹に、彼は苛立っていた。
ζ(゚、゚*ζ(わたしの言葉遣いが悪かったんだ)
背骨が氷柱へと変じ、悪寒を感じた。
洗い終えた包丁を彼から奪い、布巾で丁寧に拭う。
ζ(゚ー゚*ζ「……助けてあげたのね?」
(´・ω・`)「それで済めば良かったんだけどね」
ふう、とため息を一つ吐き、彼は呟く。
465
:
名も無きAAのようです
:2021/12/25(土) 18:10:53 ID:wfKNAKAs0
(´・ω・`)「彼女、無意識に魔法を使うんだ」
ζ(゚ヮ゚;ζ「……魔法を?」
(´・ω・`)「よく考えれば当然だった。
通過儀礼で擬似的に僕らは死を迎えて蘇生をする。
彼女はまさに死んで蘇った存在だから、魔法だって自然に使えるんだ」
苦々しく吐き出した言葉に、わたしはなんと声を掛ければ良かったのだろう。
ζ( ヮ ;ζ(「それは失敗だったわね」?
それとも、「大変じゃない」?)
どれも不適切だ。
いや、どんな答えを望んでいるのか、わたしは理解できなかった。
しゅうしゅうと噴き出すケトルの音だけが、キッチンに響く。
(´・ω・`)「……書斎の封印を解いたのも彼女なんだ」
ζ(゚ヮ゚;ζ「あの結界を……!?」
日府の家には、あらゆる資料が保存されている。
全世界を転々とするには、身軽である方がいい。
ましてや他の魔女から姿を隠している彼だ。
当然、他の魔女に狙われる可能性はある。
だからわたしたちは、結界魔法を掛けていた。
とわたしの魔力が入り組んだ、複雑な魔法だ。
易々と突破できるはずもない。
466
:
名も無きAAのようです
:2021/12/25(土) 18:11:42 ID:wfKNAKAs0
ζ( ヮ ;ζ(だけど、でも、)
が、嘘をつくはずもない。
いつだって彼は誠実で、親身にわたしを導いてくれた。
魔女としての経験だって、優に積んでいる。
所詮わたしは、彼の弟子にすぎない。
ζ( ヮ ζ(そう、猿真似ばかり――)
胸裏にひとつ、泡が浮上する。
すかさずわたしは、泡を握りつぶした。
表立って割れるよりも先に、何者にも気づかれないうちに。
(´・ω・`)「あそこには何があるの、と聞かれたから
入ってはいけないよとだけ言い聞かせておいたんだ」
は悠然とした所作で、コンロの火を消した。
琴線の上で綱渡りをする心地で、わたしは次の句を待つ。
(´・ω・`)「すると彼女は、「開けばいいのに』と口に出した」
ζ(゚ヮ゚;ζ「…………」
絶句。
望みを直接口に出すことは、魔女にとっての禁句だ。
わたしたち魔女は、人の目には見えぬ境界から祈りを分けてもらう。
人の目に見えるものには、祈りを捧げない。
本来魔法というものは、この世の理を曲げて成す奇跡である。
虚構を現実へ持ち出す行為は、一般的に広く知られていいものではない。
だから祈りの言葉は暗号化され、静々と狭く広がるべきなのだ。
大々的に口にしてしまったら、それはもう祈りとは呼べない。
467
:
名も無きAAのようです
:2021/12/25(土) 18:13:28 ID:wfKNAKAs0
ζ(゚ヮ゚;ζ「呪い……」
そう呼ばれて然るべきものだった。
長い歳月をかけ、わたしたちが蒐集した知識の海。
二人の入江を、あいつは暴いたのだ。
煮え繰り返るように、感情がさざめく。
泡沫の闇が、理性の砂岩を少しずつ削いでいく。
ζ( ヮ ζ(ゆるせない)
ただ一言、強く強く思った。
(´・ω・`)「お察しの通り、二度と書斎に封印魔法は掛けられない」
ζ(゚ヮ゚;ζ「最悪ね」
(´-ω-`)「まあ、まだなんとかなるよ。
書物には暗号化する魔法があるし、
家自体も、秘匿の魔法を掛けている」
だがこのままでは、あの女が呪いを一方的に振り撒いてしまうだろう。
そうなれば、知識と重要な拠点は失われることとなる。
ようやくわたしは、彼の意図を汲む。
ζ(゚ー゚*ζ「……魔女の心得を、教えればいいの?」
(´・ω・`)「話が早くて助かるよ」
ほっとしたような笑みとともに、ティーポットへと注がれるお湯。
対流によって茶葉はされるがままに踊り狂い、
そっと押し込むように陶器の蓋がなされた。
468
:
名も無きAAのようです
:2021/12/25(土) 18:15:19 ID:wfKNAKAs0
(´・ω・`)「正確にいうと、魔女未満に育成してほしい」
蘇生の魔法には、膨大なコストがかかる。
偉大な魔女であろうと、遠隔から死体に干渉するのは難しい。
であれば死体自身が、いくつかの境界を認識させる必要があった。
そして大事なことが、もう一つ。
ζ(゚ー゚*ζ「不用意に祈りを口に出さないよう、教育するわけね」
彼が頷くのと同時に、目の前にケーキスタンドが現れた。
マカロン、マドレーヌ、フィナンシェ、クッキー。
わたしにとって馴染み深いお菓子。
ζ(゚ー゚*ζ(あいつも食べたことがあるのかしら)
思い出を穢されたような気分になる。
それでもわたしは、 の話に耳を傾ける。
(´・ω・`)「町全体にも魔法が掛けてある。
もしあの子を目撃しても、行方不明者のビラに
載っている人物と結びつかないようにする魔法をね」
ζ(゚ー゚*ζ「それも解けたら大騒ぎになる、ってわけね」
物分かりのいいふりをしながらも、腑に落ちない。
直近の手紙で目撃した、日本という地名。
ちっぽけな島国にも、救いを求める者は多い。
それを加味しても、珍しく長居していると思えば……。
469
:
名も無きAAのようです
:2021/12/25(土) 18:17:04 ID:wfKNAKAs0
ζ( ヮ *ζ(随分なお話ね)
何か彼に得があるから、守ろうとするのだろう。
だが思案せども、答えにたどり着くことは出来ない。
わたしでは与えられないようなものを、あの女は持っているのか。
ζ( 、 *ζ(わたしじゃダメなの?)
口にさえ出してくれたなら、わたしはその通りに変化してみせる。
の望むものは、何だって叶えたかった。
ζ(゚、゚*ζ(だけど、聞く事は出来ない)
触れるのが怖かった。
わたしには出来ない事だよ、と言われてしまったらとても辛いから。
ζ( 、 *ζ(ううん、違う)
君じゃなくて、あの女がいい。
そうはっきりと口に出されたら……。
(´・ω・`)「頼めるかな?」
試すような物言いに、ハッと気付く。
ような、じゃない。
明らかに、試されている。
470
:
名も無きAAのようです
:2021/12/25(土) 18:18:24 ID:wfKNAKAs0
ζ(゚ヮ゚*ζ「もちろん」
器量よく頷くと、 は初めて表情を緩めた。
(´・ω・`)「有難う」
ζ(゚ヮ゚*ζ「まだ何にもしていないわ」
首を振るわたしに、彼はそっと肩を抱いた。
(´・ω・`)「これでまた一つ、僕は君に救われたんだ」
ζ(゚ー゚*ζ「っ――!」
凪いだ鏡面のような胸の裡に、一雫のワインが落ちる。
紅茶色のそれは、ラベンダーの薫陶を受けている。
ζ( ー *ζ(ああ、)
ようやく思い出した。
彼は、救世主になろうとしている。
あまねくすべてを内包し、理解し、否定や拒絶さえも抱きしめる。
愛情深く、他の追随を許さない、唯一無二の魔女に。
ζ( ー *ζ(どうして忘れていたのだろう)
視野狭窄に陥っていた不甲斐のなさに、涙ぐむ。
471
:
名も無きAAのようです
:2021/12/25(土) 18:19:52 ID:wfKNAKAs0
(´・ω・`)「もう一つ、頼みたいことがある」
囁かれた言葉に、寸分の隙もなく肯首する。
(´・ω・`)「彼女と友達になってくれないか」
忙しければ無理にとは言わないけれど、と言いかける彼。
即座にわたしは、肯定で押し戻す。
役に立たなくちゃいけない。
わたしにとっては何の得もない。
けれど、 にとっては大事なものだから、
彼の幸福に結び付くのなら、
わたしはいくらでも耐えられる。
(´・ω・`)「君がいてよかった」
安堵する に、笑みを滲ませるわたし。
後に続く言葉がどんな修飾を得て、わたしを賛美するものだったのか。
もう思い出す事はできない。
ただ、
(´・ω・`)「ずっと一人でいる事は心細いからね。
君にはそれが良く分かるはずだから」
その言葉だけが、わたしの胸に残っている。
472
:
名も無きAAのようです
:2021/12/25(土) 18:20:45 ID:wfKNAKAs0
死体との親睦を深める席は、素晴らしい出来だった。
やはり の淹れる紅茶は、香りが良い。
ストレートはもちろん、ミルクを入れても、
レモンのスライスを入れても、その風味を邪魔しない。
ζ(゚ー゚*ζ(完璧な紅茶に、完成されたお茶菓子)
けれどもよく見れば、その端々に魔力の断片を感じ取ることが出来た。
ζ(゚ー゚*ζ( の理想が込められた世界)
その箱庭に招かれるだけでも恐れ多い。
だというのに、彼女は住まうことも許された。
('、`*川「……デレさん?」
わざとらしく小首を傾げる女に、包むような笑みを返す。
ζ(゚ー゚*ζ「きっとわたしたち、いいお友達になれるわ」
('、`*川「友達……」
噛みしめるように、女はわたしを見つめる。
媚びるような熱を持った瞳だ。
473
:
名も無きAAのようです
:2021/12/25(土) 18:22:09 ID:wfKNAKAs0
ζ(゚ヮ゚*ζ(いやな女)
けれども、わたしは許す。
ζ(゚ー゚*ζ「困ったことがあれば、なんでも相談して頂戴?」
それはきっと、 の力になれるから。
ζ(゚ー゚*ζ「わたしに出来る事なら、何でもするから」
だから。
ζ( ヮ *ζ( )
わたしには、 が必要だった。
474
:
名も無きAAのようです
:2021/12/25(土) 18:22:52 ID:wfKNAKAs0
……言い付け通り、わたしは役を果たした。
気まぐれに家へと現れてお茶を共にし、
質問には優しく答えるものの、核心には触れない。
『迂闊に祈りや望みを口にするな。』
強く、強くわたしは言い聞かせ続けてきた。
女は予想に反して従順で、逆らう事はなかった。
もちろん厳しいばかりでなく、飴も用意した。
ζ(゚ー゚*ζ「たまには出かけしましょう」
片手を差し出し、わたしは微笑む。
最大限に友愛を込めて、内心では反吐を散らして。
('、`*川「はいっ!」
あいつは、微塵も気付かない。
ζ( ー *ζ(ほんとお笑い種ね)
わたしとあいつは、ショッピングモールへ向かった。
475
:
名も無きAAのようです
:2021/12/25(土) 18:24:16 ID:wfKNAKAs0
この街に、資本主義以外の娯楽は存在しない。
代わり映えしないテナント。
どこにでもあるファストファッションの店。
甲高い声で告げられる宣伝文句。
疲弊を隠す店員と、シフトをこねるカリスマ店長。
床を這いずる子供を、カートで引きずる母親。
レストランの待ち時間で喧嘩するカップル。
フードコートでたむろする老人と学生ら。
世相をかたどる、芸能人を真似たゴムマスク。
一度も使ったことがない、虹色のカツラ。
ちゃちな雑貨を売り飛ばす、ディスカウントショップ。
店頭で埃をかぶった、リラックマの寝巻き。
ピンクを基調とした、ファンシーショップ。
ファッショナブルに飾られ、用途を見失った楽器屋。
過食嘔吐を促進する、惣菜の数々。
値引きシールを待ち望む、年金生活者。
ガチャガチャとうるさい空間で、死体女がはしゃぐ。
わたしは愛想笑いをして、受け流す。
まともに取り合っていたら、気力が保てない。
ただでさえ、動的エネルギーが満ちている。
見えざる境界の数々が、押しつぶさんばかりに溢れ出ていた。
ζ(゚ー゚*ζ「ちょっと、休憩しない?」
立ちくらみを隠しつつ、わたしはベンチを指差した。
死体女は、子犬のようにうなずいた。
癪にさわる動きだった。
476
:
名も無きAAのようです
:2021/12/25(土) 18:25:32 ID:wfKNAKAs0
('、`*川「もう、足パンパンで……」
我先に座ったあいつが、ふくらはぎを揉んでいる。
ζ(゚ー゚*ζ「あーそうね」
げんなりしつつ、適当に同調する。
死体の友達になる。
それが、 の望みだから。
眉間をほぐすふりをして、視界の端からあいつを消す。
だけど、境界が押し寄せる。
天地平面立体の境もなく、有象無象がわたしに手を伸ばす。
ζ( 、 *ζ(参ったな)
いつもなら、上手いこと調節ができるのに。
ζ( 、 *ζ(まあ、こいつのせいだろうな)
ショッピングバッグを漁る音を聞きながら、恨めしく思う。
継続して死体を動かすには、膨大な魔力がかかる。
また本人に悟られぬよう、ディテールを作りこんでいる。
だからあらゆる境界が、彼女に反応を示してしまう。
は、素晴らしい手腕を持っている。
わたしでは、とうてい成し得ない魔法だ。
愛しい彼に、わたしは拍手を送り続けてしまう。
だけど。
477
:
名も無きAAのようです
:2021/12/25(土) 18:26:17 ID:wfKNAKAs0
ζ( 、 *ζ(だけど)
……言ってはならない言葉が浮かびかける。
澱んだ泡を吹き消して、歪んだ瞳を笑顔で隠す。
ζ(^ヮ^*ζ「疲れたけど、楽しいね」
('、`*川「ええ。すっごく」
絞り出した一言に、死体がたやすく返す。
('、`*川「……デレさん?」
二の句なんて考えていない。
ζ(^ヮ^*ζ「――さっき見た寝巻き、あなたなら似合うんじゃないかな」
('、`*川「リラックマの着ぐるみ、ですか?」
適切に返答しろ。
ζ(^ヮ^*ζ「そうそう。 かわいいものって癒されるし」
('、`*川「たしかに……」
間違えるな。
478
:
名も無きAAのようです
:2021/12/25(土) 18:28:56 ID:wfKNAKAs0
ζ(^ヮ^*ζ「欲しかったら買ってあげるわよ」
('、`*川「え、でも……」
ζ(^ヮ^*ζ「いつも寂しい思いをさせてごめんね。
なかなか会えないから、そのお詫びとして、ね?」
('、`*川「そんな、悪いです。
デレさんはいつも忙しいのに……」
ζ(^ヮ^*ζ「いいのいいの」
無理やり手を取って、雑貨屋になだれ込む。
かわいい、素敵、似合ってる。
うわべの言葉に、死体が笑う。
('、`*川「ありがとうございます。すごく嬉しいです」
ζ(^ヮ^*ζ「オンオフの切り替えも、大事な境界だからね」
笑え、わたしも。
ζ(^ヮ^*ζ「大事にしてね」
.
。°。。。゚ ゚゚ 。 ° . 。° ..゜° .。. 。 。° .o
°。 .。. ° .そんなこと、ひとつも思ってない。°。。。゚ ゚゚
° . 。° ..゜°なのに、死体は笑うんだ。 .o° .。. 。
。.゚ 。 . ゚ . 、o° .。. 。 。.゚ 。 .
。°。。。゚ ゚゚ 。 ° . 。° ..゜° .。. 。 。° .o
°。o° .
.。. 。
..゚
゚ 。.
479
:
名も無きAAのようです
:2021/12/25(土) 18:30:15 ID:wfKNAKAs0
献身もむなしく、彼女の好奇心を折ることはできなかった。
('、`*川「あの、今回は眠気覚ましの薬を作ってみたんですけど……」
差し出される丸薬に、嘆息が過ぎる。
ζ(゚ヮ゚*ζ「……また、書斎に入ったの?」
萎縮する手の内から、素早く薬を取り上げる。
その刹那、出来の良さが伝わった。
薬の調合は基礎中の基礎で、人間の手でも作る事は出来る。
しかしあくまでも魔女の真似事だ。
効果には歴然とした差が出る、はずだった。
ζ( ヮ *ζ(本当に独学なの……?)
四年――わたしがリハビリと修行を両立していた期間だ。
血反吐を吐きながら、あらゆる知識をあの人から賜った。
それでも最初の数年は、失敗続きだった。
ζ(゚ヮ゚*ζ(それなのにこの女は……)
('、`*川「ごめんなさい……」
強張る表情を見た相手は、逃れるように俯く。
ζ(゚ヮ゚*ζ「わたしたちのお手伝いなんか、しなくていいのよ?」
逃げかけた猫を飼い殺し、友好的な物言いをする。
480
:
名も無きAAのようです
:2021/12/25(土) 18:30:59 ID:wfKNAKAs0
('、`*川「でも……」
ζ(゚ヮ゚*ζ「ペニサスちゃんは、何にもしなくていいのよ」
口籠る相手の肩を、わたしはそっと抱く。
無能であるから、お前は に必要とされている。
お前がなにかを成してしまったら、わたしの立場がない。
しっかり監督しろって言われているのだ。
ζ(゚ヮ゚*ζ「お願いだから、何もしないで」
何も問題を起こすな。
わたしの手を煩わせるな。
わたしはきちんと言い付けを守っている。
ζ(゚ヮ゚*ζ(約束を守れ)
わたしの言うことを聞け。
お前が言い付けを守らなければ、わたしまで責められる。
ζ( ヮ *ζ(それだけは、嫌)
とにかく、やることなすこと全てが気に食わなかった。
知識は分け与えられるものであって、奪うものではない。
暗号化されたレシピを暴くなんて、遺跡荒らし同然だ。
魔女に対する冒涜と言っていいだろう。
481
:
名も無きAAのようです
:2021/12/25(土) 18:32:28 ID:wfKNAKAs0
ζ( ヮ *ζ(お前は魔女にふさわしくない)
あいつに与える知識などない。
純粋でいい。
無垢であることを、 は望んでいるのだから。
でも。
ζ( ヮ *ζ(どうして彼は、それを許しているの?)
どうして、わたしの苦痛を認めてないのだろう。
どうして、何も気遣ってくれないのだろう。
どうして、あいつは守られるだけで済むのだろう。
ζ( ヮ *ζ(好き、なのかな)
愛して、いるのだろうか。
無力な人間を。
ζ( ヮ *ζ(わたし、強くなりすぎたのかしら)
強さの何がいけないのだろう。
そもそもわたしが強くなる事だって、あなたが望んだことでしょう。
強くなって、一人でも多くの人を救う。
不幸を摘み取るのがあなたの幸せだから。
だから、だから……。
ζ( 、 *ζ(あなたを幸せにするのはわたしだけ。そうでしょう?)
長らく顔を見ないうちに、彼は忘れてしまったのだろうか。
482
:
名も無きAAのようです
:2021/12/25(土) 18:33:14 ID:wfKNAKAs0
ζ( 、 ζ(それとも最初から、わたしのことなんか……)
絶望的な結論が、突沸する。
鈍色の泡が、理性の蓋を押し上げる。
ζ( 、 *ζ(痛い、痛い、痛い)
数々の辛酸を舐め、謂れなき中傷を投げられてきた。
それを耐えきれたのは、彼という支えがあってこそだ。
ζ( 、 *ζ(煩わしい)
溢れ出る悪露の泡を、愚直にすり潰す。
手を思い描き、抱き込んで、ぎゅっとして。
ぱちんぱちんと割れる音。
小さな泡がぬるり、逃れてほかの泡とくっついた。
肥大した界面に、たくさんの目玉模様。
じろじろとねぶるように、わたしを見る目玉。
嫌い、きらい、きらい。
わたし一人では、持て余すに決まっていた。
ζ( 、 *ζ(この苦しみを、どうにかして分かち合いたい)
他でもない、 だけに理解してほしかった。
褒めてほしかった。
認めてほしかった。
謝ってほしかった。
厄介事の種を作って申し訳なかった、って
一言貰えたのなら、たちまち許してしまいそうだった。
483
:
名も無きAAのようです
:2021/12/25(土) 18:34:19 ID:wfKNAKAs0
ζ( ー *ζ(傷付けたい)
張り裂けるような悲痛の後には、無尽蔵に怒りが込み上げて、
後悔してもしきれないくらいに加害性が増していく。
ただでは済まない致命傷を、魂に刻み付けたい。
ζ( ー *ζ(あなたにも、わたしにも)
何者にも敵わないくらい、オリジナルの傷を与えたい。
けれども同時に、膨大な羞恥心にも苛まれる。
彼との絆をひっくり返すなんて、災禍にも程がある。
たった今から一秒先まで支配する激情によって事を成したなら、
二秒先のわたしは烈しく悔いるのではないのか。
ζ( ー *ζ(やっている事が、彼の頬を叩いた女と変わらないし)
それが唯一の堤防として、吹き荒れる波濤を受け止めていた。
ζ( ー ;ζ(おかしくなりそう)
切除したい。
棄てて、焚べて、生まれた灰が、
無知蒙昧な人間を害したとしても、助かりたい。
悩みたくない。
どうして苦しい思いをしなくてはならないのだろう。
ζ( ー ;ζ(『好き』って、もっと貴い感情でしょう?)
ただれた感情の噴出は止まることを知らず、
害意のみが膨れ上がり、とうとう我慢が出来なくなったその時。
484
:
名も無きAAのようです
:2021/12/25(土) 18:35:09 ID:wfKNAKAs0
青銅の靴が、ひとりでに踊り出した。
かつ、
かつ、
かつ、
と、三たび靴が哭く。
瞬間わたしの体は泡となり、光差す海面へと投じた。
無数の泡は浮力に抗い、沈み行く。
ζ( 、 *ζ(深海へ)
いつぞやか、わたしの誕生を言祝いだ深海へ。
485
:
名も無きAAのようです
:2021/12/25(土) 18:36:01 ID:wfKNAKAs0
o° .。. 。 。.゚ 。 .
o 。.゚ 万能の魔女たる でも、 ゚。o
゚o,°行使できない魔法が唯一ある。o 。.゚ °
, .o° .。. 。 。.゚ 。 . ゚ . 、
。°。。。
それは、使い魔との契約だ。
使い魔には、重要な仕事が存在する。
見えざる境界の一つとして、人間である自分と魔女である自分とが存在する。
魔女は知恵者であり、孤立と探究心を象徴する。
知識を欲する限り、病老から逃れて長命を保つことが出来る。
一方知恵を享受する側が人間であり、還元と有限を象徴する。
終わりなき生命はメリットしか存在しないように思える。
けれどもちろん、デメリットだってある。
親交を深めていた魔女も人も、やがては死へと向かう。
一人残らず知人に先立たれることも珍しくない。
その後に人脈を広げたとて、彼らがいつ居なくなるのかは分からない。
元より人間というものは属することで、自己を安定させる生き物だ。
拠り所があるからこそ、人間は冒険できる。
探究心を殺すのは、やはり孤立だ。
その孤立から離れる方法が還元。
――つまり魔女であることを辞めて、人間に戻ってしまうことだ。
社会の心地良さを語る元魔女も、少なくはない。
ゆえに孤独と探求の境で、身動きの取れなくなる魔女はいる。
生涯付きまとう、厄介な問題だった。
――それを解決するのが、使い魔だ。
人間としての自分を使い魔に託し、距離を置いてしまうのだ。
少なくとも使い魔が存在する間、この問題で頭を悩ませることはない。
ζ(゚ー゚*ζ(けれども大仕事を受ける生き物も、なかなか見つからない)
だからこそ、使い魔を伴った魔女は尊敬と羨望を浴びることになる。
では何故、 には使い魔が存在しないのか。
486
:
名も無きAAのようです
:2021/12/25(土) 18:37:14 ID:wfKNAKAs0
使い魔には、いくつか制約が存在する。
一、魔女一人につき一体までの契約とす。
二、双方の同意あっての対等な関係であり、強要や脅迫は通用しない。
三、使い魔は魔女の第二の生を担う者、軽んじて扱うことなかれ。
いわゆる使い魔の三原則と呼ばれる制約だ。
響きから誤解されやすいのだが、使い魔は奴隷や召使ではない。
人間である自分も、魔女である自分も、どちらも結局は自分だ。
優劣をつける事は出来ない。
並行して存在する事実を、下等とする他人に預けることはできない。
しかし、彼は違う。
ζ(゚ー゚*ζ(彼にとって、この世全てに存在するものは救済の対象)
救いの手を差し伸べることが出来るのは、強者のみ。
救済を受ける側は、絶対的に弱者である。
一見すると真理のように思える彼の信念は、一つの弱点を生む。
誰を相手取っても、平等な関係を築けないことだ。
魔女と使い魔は絶対的に平等な関係を結ばなくてはならない。
仮にその関係性が揺らいだ時には、使い魔は魔女の元を去るだろう。
するとどうなるか。
人間としての自分を見失い、境界の均衡は崩れ、
魔女は透明な澱へと閉じ込められる。
だから は、使い魔を作れない。
本当に、一人ぼっちなのだ。
487
:
名も無きAAのようです
:2021/12/25(土) 18:38:23 ID:wfKNAKAs0
ζ(゚ー゚*ζ(わたしが抜け駆けしたら、余計に孤独が沁む事でしょう)
これは、 に対する裏切りだ。
長らく憧憬していた恩人に、ひどい仕打ちだと良心は責めたてる。
ζ( ー *ζ(でも、仕方ないよね)
先に裏切ったのは、彼なのだから。
……思案の結びと共に、海の底が見えてきた。
追い返すように噴きあげる硫黄の熱泉。
行方をくらますマリンスノー。
炎を宿すクラゲは、吹き遊ぶそれに紛れて消えてしまった。
着地。
足下にいたオオグソクムシや名も知らぬ甲虫、
眠っていたと思しき魚は慌てて姿を消した。
ζ(゚、゚*ζ(一人だ)
突然の訪問者を出迎える生物は、一つとして存在していないらしい。
ζ(゚、゚*ζ(なんだか馬鹿みたい)
胸を締め付けていた熱も、今やすっかりと冷めてしまった。
ぽっかりと、胸に穴が空いてしまった気分だ。
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