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('A`)百物語、のようです
1
:
名も無きAAのようです
:2013/08/17(土) 00:13:40 ID:adaBwzoE0
最初に言い出したのは、誰だっただろうか?
――今となっては、もうはっきりと思い出せない。
でも、確かに誰かがそれを言い出して、俺たちはこうして集まっている。
.
46
:
名も無きAAのようです
:2013/08/17(土) 22:09:23 ID:adaBwzoE0
( )「つらいお〜、リアルが充実してるお〜」
( )「まあまあ、ブーンも落ち着いて」
微笑ましい恋愛にはろくに縁がなかったらしいブーンが嘆く。
わかる。わかるぞ、ブーン。その言葉には一言一句同意する。
畜生、カップルなんてすべて爆発すればいいんだ。
( ゚д゚ )「……おまじないの話が出てこないようだが」
川 - )「それについては、これから話す」
ξ ⊿ )ξ「なんか、あまり先が聞きたくないような気がするけど……仕方ないわよね。
続きを聞かせてくれる、クー?」
川 - )「ああ」
少し間が空き、液体を傾ける音が響いた。
おそらく飲み物で口を湿らせているのだろう。
暗闇の中で聞く水の音とかすかな吐息はなんだか妙に淫らな気がして、俺はごくりと息を呑んだ。
川 - )「失礼した。では、続きを話そうか……」
.
47
:
名も無きAAのようです
:2013/08/17(土) 22:11:15 ID:adaBwzoE0
-----------------------------------
----------------------------
----------------------
--------------
――そんなほほえましいやりも取りもあったそうだが、二人の仲は一向に進まなかった。
私はちょくちょくキュートと連絡を取り合っていたつもりだが、ネーノ少年に関する話はそれから一切聞かなかった。
彼女の恋愛――おそらくは初恋に関する顛末に、私は興味があったから、はっきりと覚えている。
キュートはネーノとの話を、私にしようとはしなかった。
いや違うな。誰にも話そうとはしなかった。
私は何が起こっていたのか、一切知らなかった。
……だから、ここから話すのは全て、後になって聞いた話だ。
.
48
:
名も無きAAのようです
:2013/08/17(土) 22:12:30 ID:adaBwzoE0
あの雨の日以来、キュートはろくにネーノに話しかけることが出来なかった……そうだ。
教室で目があうことが合っても、それっきり。
o川*゚ー゚)o「……」
( `ー´)「…?」
o川;゚ー゚)o「……」
彼女自身は何度か話そうとしたのだそうだが、彼の顔を見るのが精一杯で、どうしても上手く行かなかった。
ネーノは男子だったから教室の中では話しかけづらかったし、面倒見のいい彼の周りはいつでも誰かがいた。
それに、彼女は例の人見知りもどきがあったから、たとえネーノが一人だとしてもなかなか話すことが出来なかった。
( `―´)「……」
(#;;;゚∀゚)「よぉーぅ! ネーノちゃんどうした?
オレ? オレは、ちょー元気ってやつ! すげーだろ!」
(; `ー´)「え、ああ。よかったんじゃねーの」
( ´_ゝ`)「お前はいつも大袈裟なんだよ」
(#;;;゚∀゚)「オオゲサ? ナニソレ、食えんの?」
.
49
:
名も無きAAのようです
:2013/08/17(土) 22:14:27 ID:adaBwzoE0
――結局、ネーノと会話らしい会話を交わしたのは、あの雨の日が最後だった。
o川*゚−゚)o フゥ
ネーノ少年の姿をじっと眺めるだけの日々が、それからしばらく続いたそうだ。
なんだかんだ言いながら、友だちの宿題を手伝いをする姿。
ぼんやりとプールを眺めている姿。
たまたま近くを通りかかったら、ノートに味噌汁、ご飯、サンマの塩焼き、肉じゃがなんてメモがしてあったとか。
(*`ー´)
ネーノの姿を見て、新しい発見をしたり、好きだなぁって思ったり、溜息をついたり。
そんな日々がずっと続いていた。
だけど、眺めているだけなのは寂しくて、またあの雨の日のように話したくて。
――要はキュートは、焦ってしまったのだ。
ネーノ少年との距離が近づいたと思えば、また話せなくなってしまって。
このまま一緒に話したことも忘れ去られてしまったらと思うと、居ても立っても居られなくなってしまった。
しかし、キュートにはネーノと話す勇気がない。
.
50
:
名も無きAAのようです
:2013/08/17(土) 22:16:19 ID:adaBwzoE0
だから、なのだろう――。
从 ゚ー゚V「ねぇ、すっごくよく効くおまじないがあるんだって」
人il.゚ ヮ゚ノ人「うそー」
从 ゚ー゚V「ほんとだって、効きすぎてヤバイんだって」
人il.゚ ヮ゚ノ人「みる、みるー」
o川*゚ー゚)o「……おまじない」
――彼女は、恋のおまじないなんてものに頼ることにしたのだ。
.
51
:
名も無きAAのようです
:2013/08/17(土) 22:18:09 ID:adaBwzoE0
超自然的な不思議な力にあこがれるというのは、よくあることだろう。
子供はお化けのでる話が大好きだし、ホラーやオカルトなんてものは巷に溢れかえっている。
中学生といえば、もっとも多感な時期だ。怪しげな話に傾倒したって何の不思議もない。
こういうのを、厨二病とでもいうのか?
……違う? ああ、そうか。すまない。私の勘違いだった、忘れてくれ。
――とにかく、おまじないという言葉に惹かれた彼女は、噂をしていた二人組に話しかけた。
o川*゚ー゚)o「ねーねー、そのおまじない教えてー」
从 ゚ー゚V「おまじない? 知りたいの?」
人il.゚ ヮ゚ノ人「じゃあ、教えてあげるー」
彼女たちはおまじないについて、快く教えてくれたそうだ。
.
52
:
名も無きAAのようです
:2013/08/17(土) 22:19:07 ID:adaBwzoE0
家に帰ると、キュートはさっそく父親のパソコンの電源を入れた。
起動するまでしばらく待ち、キーボードで学校で教えてもらった通りに文字を打ち込んでいく。
そして、表示されたホームページの群れの中から、キュートは目的のページを見つけ出した。
o川*゚ー゚)o「あった」
白い背景のこれ以上無いくらいそっけない、ホームページ。
隅にsadako.Yと小さく書かれている他は、サイトについての情報は何もない。
飾り付けも何もないページには、おまじないの種類とその方法だけが無数にあげられていた。
.
53
:
名も無きAAのようです
:2013/08/17(土) 22:23:27 ID:adaBwzoE0
o川;゚ー゚)o「……すごい、いっぱい」
富を手にするためのおまじない、不運に見舞われた時のためのおまじない、幸運を呼び込むおまじない。
恋敵をなくすためのおまじない――なんてものもあった。
o川*゚ワ゚)o「あ、あった」
そして、キュートは並んだおまじないの中からそれを見つけ出した。
『彼を自分のものにするおまじない』
キュートはごくりと息を呑むと、マウスを動かしクリックする。
ほとんど待つこともなく、画面はおまじないの詳細を記述したページに切り替わる。
必要なもの。手順。注意しなければいけないこと。
o川*゚ー゚)o「……」
キュートは画面を真剣に見つめた。
必要な材料を集めるのは、とても大変そうだ。
しかし、それさえ用意できれば、あとは自分でも何とかできそうだとキュートは判断した。
.
54
:
名も無きAAのようです
:2013/08/17(土) 22:25:13 ID:adaBwzoE0
┌───────────────────────────────────────────────────────┐
│ │
│ 彼を貴女のものにするおまじない │
│  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ │
│ │
│彼の髪。もしくは、彼が毎日身に着けているものを準備してください。 │
│髪のほうが効果が高いです。片方だけでも構いませんが、両方用意できればより効果は高まります。 │
│ │
│白い紙に、想い人の名前を書いてください。 │
│ │
│手縫いで人形(マスコットのようなものでかまいません)を作ります。 │
│人形の中には、事前に用意しておいた白い紙と、彼の髪。もしくは彼の身に着けているものを、忘れずに入れてください。.. │
│ │
│人形が完成したら、彼の名前を唱えましょう。これで人形が、彼と貴女をつないでくれます。 │
│ │
│これらの手順は絶対に人に見られたり、話たりしてはいけません。 │
│ ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ │
│肌身離さず人形を持ち歩きましょう。誰にも見つかったり話したりしないまま1ヶ月持ち続けて入れれば、彼は貴女のものです。.. │
│ │
│ │
│ │
.
.
55
:
名も無きAAのようです
:2013/08/17(土) 22:28:04 ID:adaBwzoE0
彼女はおまじないを試してみることにした。
ネーノの髪を手に入れることは大変だったから、キュートは彼の身に着けているものを手に入れることにした。
最初に思いついたのは、あの雨の日ネーノが落とした制服のボタン。
拾いそびれたまま放置されていたそれは、まだ昇降口の片隅に落ちていた。
o川*゚ー゚)o「あったー!」
キュートは靴箱の下にボタンを見つけると、教室から長いものさしを持ち出した。
そして、床に這いつくばり体を汚しながらも、なんとかそれを手に入れた。
o川*゚д゚)o「やった」
他の道具の準備も順調に終え、家に帰ったらおまじないをしようと決心したその日。
キュートは思わぬ幸運に恵まれた。
o川;゚ー゚)o「あー、もー。どうしてやっちゃったかなぁ」
キュートはその日、忘れ物をして一人教室に戻った。
大学ではもう違うが、学校には必ず体育の授業があるだろう?
キュートの学校では男子は教室で、女子は空き教室で着替えるんだ。
.
56
:
名も無きAAのようです
:2013/08/17(土) 22:31:27 ID:adaBwzoE0
それはちょうど体育の授業中だった。
だから、誰も居ない教室の中には男子が残した制服やらタオルやらが置き去りにされていた。
もちろん、そこにはネーノの制服だってある。
o川*゚−゚)o「……」
教室には誰もいない。
授業中だから、廊下を歩いている者だっていない。
キュートが何をしたかは、もう考えるまでもないだろう?
o川 − )o「……」
ネーノ少年の机に近づき、制服の上着を調べる。
制服を広げるまでもなく、目的のものはあっさりとみつかったよ。
髪の毛。
制服の上着に残されていた、彼の髪の毛だ。
手に入れるのは不可能だと思われたそれは、拍子抜けするほどにあっさりと彼女の手に入った。
.
57
:
名も無きAAのようです
:2013/08/17(土) 22:34:13 ID:adaBwzoE0
そこから先は、簡単だった。
彼女はおまじないの手順通りに、すべての準備を完了させたよ。
人形を作るのだけは大変だったそうだが、それでもなんとかキュートは人形を完成させた。
o川;゚ワ゚)o「できたっ!」
ネーノに似せた、マスコット人形。
その体の中には白い綿と、おまじないのために必要な道具たちが詰め込まれている。
縫い目がところどころ荒い不恰好な作りだったが、それなりに上手く出来たらしい。
ややつり上がった細い目と、にこにこした口元は彼にとても似ていたそうだ。
o川*- -)o「根野 ネーノくんと、両思いになれますように」
そして、彼女は彼の名前を唱え、お祈りをした。
両思いになれますようにと、彼女は心の底から真剣にお願いした。
o川*^ー^)o「ネーノくん、だいすき」
そして、作った人形を誰にも見つからないように彼女は持ち歩きづつけた。
o川*゚ー゚)o「叶うといいなぁ、おまじない」
.
58
:
名も無きAAのようです
:2013/08/17(土) 22:35:07 ID:adaBwzoE0
――おまじないの効果は、それからすぐに現れた。
o川#゚〜゚)o「ぶーぶー、なんでキューちゃんが買い物しなきゃいけないのー」
o川#゚ぺ)o「キューちゃんガッコーでつかれてるんだから、ママが行けばいーのにー」
その日、キュートは伯母さん――母親に言われて、スーパーにお使いに出ていた。
買い物くらい文句を言わず行ってやればいいだろうとは思うのだが、まあ彼女はまだ中学生だ。
仕方がないといえば、仕方がないのだろう。
ともかく、文句を言いながらも出かけた先で、キュートは出会った。
誰にだって?
そんなこと言うまでもないだろう。
――彼にだよ。
( `ー´)「――牛乳と、卵と」
キュートの想い人。クラスの人気者。優しくて面倒見のいいネーノくん。
彼がどういうわけか、カートをひいて買い物に勤しんでいた。
.
59
:
名も無きAAのようです
:2013/08/17(土) 22:36:25 ID:adaBwzoE0
( `ー´)「あれ、素直?」
o川;゚ー゚)o !
(*`ー´)「素直も、買い物?」
彼はキュートに気づくなり、笑いかけた。
まるであの雨の日の続きのように。しばらく話していないことなど嘘のように、彼は自然とキュートに話しかけてきた。
o川;゚ー゚)o「そ、そうだけど。なんで……」
(*`ー´)「ああ、オレ? 今日は、夕飯買いに。
カーチャン遅いから、チビたちに飯食わせてやんなきゃいけないんじゃねーの」
彼のカートを見れば、卵や牛乳やひき肉、玉ねぎなどが入れられている。
それが出来合いの食事じゃなくて、料理の材料だというのは、普段手伝いをしないキュートでもわかった。
o川;゚ー゚)o「ご飯作るの?」
(; `ー´)「え、あ……簡単なやつだけ。
惣菜ばっかだと、弟食べないし。オレも飽きるから」
.
60
:
名も無きAAのようです
:2013/08/17(土) 22:37:37 ID:adaBwzoE0
頭を掻きながら、ネーノは肩をすくめる。
見慣れた制服ではなくて、薄緑のシャツという私服姿が新鮮で、キュートの胸はどきりとする。
制服じゃないネーノくんもかっこいいなぁ、とキュートはネーノの姿に見とれていた。
o川*゚ー゚)o「すごいなぁ、キューちゃんなんか自分のことだけでいっぱいなのに。
ネーノくんは人のことまで、考えられるんだもん」
――はっきりと言おう。キュートは完全に浮かれていた。
だからと言うべきか、やはりというべきか……彼女の思考はしっかりと回らなくなっていた。
彼女は自分でははっきりと意識しないまま、普段は絶対に言わないようなことを口にしていた。
o川*^ワ^)o「ネーノくんのそういうとこ、……好きだなぁ」
(///〜/)「――っ」
ネーノの顔が固まり、一瞬にして真っ赤に染まる。
キュートはその顔を見てはじめて、自分が何か妙なことを口走ったのだと気づいた。
しかし、浮かれきっていた彼女は自分が何を言っていたのかすら、わかってはいなかった。
(; `ー´)「……す、素直って、たまにすごいこと言うんじゃねーの。びっくりしたー」
.
61
:
名も無きAAのようです
:2013/08/17(土) 22:39:23 ID:adaBwzoE0
o川;゚ー゚)o「えー、何? キューちゃん変なこと言った?!」
ようやく平静をとりもどしたネーノの顔色を見て、首をひねりながらしばらく考えて。
やがて、キュートは自分が何をやらかしたのか気づく。
o川///)o「……ぁ」
キュートの顔は恥ずかしさで真っ赤に染まる。
恥ずかしさと混乱で吹き出す汗を拭いながら、キュートは慌てながらも声を上げる。
o川;゚д゚)o「根野くんのこと、名前で呼んじゃってた、ごめんねっ。
き、キューちゃんついうっかり」
その次の瞬間、それこそネーノは弾けるように笑い出した。
……何故かは言わなくてもわかるよな。
この場合、名前呼びかどうかは正直どうでも良かったということだ。
(つ゚`ー´)「いや、そっちはいいんだけど」
ネーノは笑いすぎて滲んだ涙を、手で拭いながら言った。
しばらく彼の口からは笑いが漏れていたが、ネーノはそれをなんとか抑える。
.
62
:
名も無きAAのようです
:2013/08/17(土) 22:40:21 ID:adaBwzoE0
( `ー´)「オレも、素直のそういうところは好きだよ」
――そして、彼は真面目くさった様子で告げた。
場所はスーパー。手に持っているのは、カートに買い物カゴという、ロマンの欠片もない姿。
しかし、そんなネーノの姿もキュートにとっては、白馬に乗りバラを手にした王子様にも見えた。
o川///)o「ふぅぇ? わっ?」
(*`ー´)「へへへ。お返しじゃねーの」
真っ赤になって立ちすくむキュートの横を、ネーノは早足で進んでいく。
カラカラとカートは床を滑り、ネーノは客の間をすり抜けて、遠く離れていく。
(*`ー´)「じゃあな、キュート。また明日、学校でー」
o川;゚ワ゚)o「じゃ、じゃーね! ね、ね」
o川//o/)o「ね、……ネーノくん」
ネーノに向けて、キュートは精一杯の勇気を振りしきって声を上げる。
その声がちゃんと彼のもとに届いたのかはわからない。
でも、最後に振り返ったネーノの顔も赤くなっているような気がして、それだけでキュートの胸はいっぱいになった。
.
63
:
名も無きAAのようです
:2013/08/17(土) 22:44:56 ID:adaBwzoE0
o川*゚ー゚)o「……すごい」
買い物を済ませて家に帰ったキュートは、興奮のまっただ中にいた。
おまじないを試してたったの一日、それだけでネーノとこんなに話せてしまった。
それに、ネーノは「キュート」と、名前まで呼んでくれた。
o川*>ワ<)o「おまじない効果あったよ、やったぁっ!」
それが嬉しくて、その夜は遅くまで眠れなかった。
ベットに飛び込み、スーパーでのやり取りを何度も思い返して、忘れないようにノートに書いて。
そのノートを見返すだけで、幸せになって、自然と笑いがこみ上げてきた――、そうだ。
o川*゚ー゚)o「ネーノくん、かっこよかったなぁ。きょーだいいるんだ」
私服姿、料理ができること、兄弟がいること――いろんなことが知れて、とっても幸せで。
このおまじないは本当に聞くんだと、キュートは嬉しくなった。
o川///)o「いっぱい、話しちゃった」
願いが叶うまでに必要な期間は、1ヶ月。
早く1ヶ月が過ぎて、ネーノくんと両思いなりますようにとキュートは願った。
.
64
:
名も無きAAのようです
:2013/08/17(土) 22:46:47 ID:adaBwzoE0
――それからの1ヶ月は、キュートにとっては長い、長いものだった。
早く願いが叶う日がくればいいのに、というキュートの思いとは裏腹に毎日はとてもゆっくりと過ぎた。
しかし、それは悪いことばかりではかなった。
体育大会や、テストという行事も会ったし、新しい友だちも増えた。
しかし、それ以上に――、
( `ー´)「素直、ちょっとちょっとー」
o川*゚−゚)o「……どうしたの、根野くん?」
(; `ー´)「裁縫道具とか持ってない?」
ネーノ少年と話せる機会が、少しだけ増えた。
あの雨の日や、スーパーの時みたいにとはいかないけれど、ネーノはキュートにちょくちょくと話しかけてくれるようになったそうだ。
o川*゚ワ゚)o「今日も、ちょっとだけだけどお話できた」
おまじないの人形のおかげで、ネーノとの距離が近づいている。
キュートはそれを私や友人に言いふらしたい気持ちでいっぱいだった。
だけど、おまじないでは人に話すことは禁じられていたから、キュートはぐっと我慢した。
おなじないの人形を誰にも見つからないように、大切に持ち歩きキュートは毎日を過ごした。
.
65
:
名も無きAAのようです
:2013/08/17(土) 22:47:55 ID:adaBwzoE0
――そして、1ヶ月がたった。
キュートがおまじないをはじめてから、ちょうど1ヶ月。
彼女はホームページにあった方法を守り続けた。
キュートの作ったおまじないの人形は誰にも見つからないまま、ついにおまじないの叶う日を迎えた。
.
66
:
名も無きAAのようです
:2013/08/17(土) 22:52:01 ID:adaBwzoE0
……しかし、現実というやつはそううまく行かないものだな。
おまじないがようやく叶うという、1ヶ月目の、その日。
たまたま、外出していたキュートは見てしまった。
( *・−) `ー´)
それは、楽しそうに通りを歩く彼と――キュートの知らない女の子の姿だった。
( `ー´)「 ?」
( ・−・ )「……」
(; `ー´)て「 !」
( ・−・ ) ?
その女の子は、星の形の髪飾りをつけた、おとなしそうな子だった。
表情のあまりない彼女の口元にはかすかに笑みが浮かんでいて、それがとてもかわいらしかったそうだ。
ネーノのほうが一方的に話して、女の子はじっとネーノを姿を見つめる。
会話はほとんどなかったけれども、それでも二人は楽しそうだった――と、後にキュートは語った。
.
67
:
名も無きAAのようです
:2013/08/17(土) 22:53:50 ID:adaBwzoE0
o川*゚−゚)o「……」
その時、キュートは頭が真っ白になったのだという。
自分の見たものが信じられなくて。
でも、見なかったことにしようとしても、頭のなかから二人の姿は消えてくれない。
「どうして」という気持ちと、
「やっぱり」という気持ちが混ざり合って、キュートは自分が立っているのかどうかもわからなくなった。
( *・−) `ー´)
二人は仲良く話しながら、去っていく。
キュートがそこにいることには、気づかない。
しかし、もし彼らが仮に気づいたとしても、キュートには何て話せばいいのかなんてわからない。
付き合っているの、と聞けばいいのだろうか?
おめでとう、とでもいえばいいのだろうか?
彼女がいるなら言え、と怒鳴ればいいのだろうか?
少し話せるようにはなったとはいえ、ネーノにろくに話しかけることすら出来ないキュートに、そんなことできるはずがない。
o川 − )o「……」
.
68
:
名も無きAAのようです
:2013/08/17(土) 22:54:23 ID:Y9/WJ0p20
嫌な予感がひしひしと
69
:
名も無きAAのようです
:2013/08/17(土) 22:54:53 ID:adaBwzoE0
話しかけることが出来ないから、キュートはおまじないに頼った。
絶対に叶うと信じていたわけじゃない。
――だけど、こんなのはあんまりだ。
よりにもよって、効果が出るというこの日に、こんな光景を見せつけなくてもいいじゃないか。
o川 − )o「……どうして」
泣き出しそうになるのを、大声を上げそうにあげそうになるのを何とかこらえて、キュートは家まで帰り着いた。
部屋に入り、鞄からおなじないの人形を取り出す。
三ヶ月の間、大切にしてきた人形はいつもと何も変わらない様子でそこにあった。
o川#゚−゚)o「こんな、おまじないなんてっ!」
キュートは、ずっと大切にしてきたおまじないの人形の腕を掴みあげた。
ネーノに似せようと懸命に作った顔、それを見ているだけでどうしても憎らしくなって、
キュートは手にした人形を、
机に、
叩きつけ――
,
70
:
名も無きAAのようです
:2013/08/17(土) 22:56:09 ID:adaBwzoE0
――ようとして、踏みとどまった。
この人形は一生懸命作り上げた、キュートとネーノをつなぐ絆だ。
だから、想いが叶わないとしても、それを自分の手で壊すなんてしたくないと思ったんだろうな。
:: o川 − )o ::「……みたい」
人形の腕を掴んだまま、振り下ろすことも出来ずに、キュートは震えた。
腕がぐにゃりと曲がり人形の体がぷらりと垂れるが、その時のキュートは気にもとめなかった。
o川*;−;)o「ばかみたい」
涙で瞳がいっぱいになり、限界を超えて溜まった涙が一粒、二粒とこぼれ落ちていく。
一度、決壊してしまえばもう、涙は止まらない。
o川 ;д;)o「キューちゃん、ばかみたいだよぉ……」
キュートが声を上げて泣き始めるのに、時間はかからなかった。
.
71
:
名も無きAAのようです
:2013/08/17(土) 22:57:54 ID:adaBwzoE0
そして、
――異変が起こったのは、その翌日だった。
.
72
:
名も無きAAのようです
:2013/08/17(土) 22:59:19 ID:adaBwzoE0
o川;゚ー゚)o「……」
次の日、登校したキュートは教室で信じられないものを見た。
( `ー´)「……」
その日、二時間ほど遅刻してきたネーノの腕は、ギプスで固められ白い包帯が巻かれていた。
ひと目で大事だとわかる怪我に、クラスは大騒ぎになった。
お調子者なんかは、鬼の首を取ったように大騒ぎをしたと言う。
(#;;;゚∀゚)「よお。ネーノちゃん、どうしたんだ?
何、ケンカ? やられたんなら俺がほーふくに行ってやるゼ」
(; `ー´)「ちがうちがう。ちょっとドジふんだんじゃねーの」
(#;;n゚∀゚)n「かっこいいこと、いうじゃんかよー。ヒュー、かっこいいねぇネーノちゃん」
しかし、クラスのざわめきも、ネーノの言葉もキュートの耳には入らなかった。
キュートの視線は、ネーノの腕。その包帯とギプスにじっと注がれている。
大怪我をしたネーノ、その怪我をしたその患部は……。
o川;゚ー゚)o.。oO(左手)
.
73
:
名も無きAAのようです
:2013/08/17(土) 23:01:08 ID:adaBwzoE0
(#;;;゚∀゚)「で、相手ダレ? どこ中?」
(; `ー´)「……滑り台。弟と遊んでて、落ちたの。
弟ブジだったからいいけど、もうさんざんじゃねーの」
(#;;;゚∀゚)「すべり台、すげぇぇぇ。やべぇぇぇぇ!!!」
左腕、そして大怪我。
目の前で起こっている事態に、――キュートは、何か引っ掛かりを覚えたのだそうだ。
o川;゚ぺ)o.。oO(なんだろう、すごく)
はっきりとは、思い出せない。
だけど、キュートには確かに覚えがある。
なんだろう。何でこんなにも嫌な予感がするんだろう、とキュートはわけもわからないままに焦りを覚えた。
o川;゚ー゚)o「……」
.
74
:
名も無きAAのようです
:2013/08/17(土) 23:03:29 ID:adaBwzoE0
キュートは考えた。
滑り台、怪我、左腕、ネーノ……昨日の彼女、ダメだったおまじない。
そして、――おまじないの人形。
ネーノの髪を手に入れ、制服のボタンを拾い、そして、彼の名前を書いた紙を中に入れた、それ。
彼に似せて作った、手作りの人形。
キュートの、一ヶ月以上に渡る思いの結晶。
o川; ー )o「あ」
昨日の晩、ショックを受けたキュートは、腹立ちまぎれにその人形を掴んだ。
強い力を込めて、机に叩きつけようとして、そしてできなかった。
握った力で、人形の腕はぐにゃりと曲がった。
o川; − )o.。oO(わかった、わかっちゃった)
その時。
キュートが掴んでいたのは、人形の――左腕だった。
o川;゚−゚)o.。oO(いっしょだ、キューちゃんがつかんだとこと)
そして、ネーノが怪我をした場所も左腕。
――二つの場所は、寸分違わず同じだった。
.
75
:
名も無きAAのようです
:2013/08/17(土) 23:05:13 ID:adaBwzoE0
普通なら、偶然だと思って気にもとめないだろう?
気味が悪いと思うことはあっても、せいぜいそのくらいだ。
しかし、キュートはそうは思わなかった。
なんてったって、キュートの試したのは、とってもよくきくおまじないだ。
だから、何かの間違いで大変な事になってしまったのかもしれない――そう、考えたのだな。
o川; − )o「……どうしよう」
彼女の呟いた焦りの声は、教室に小さく響いた。
だけど、クラスの人気者の怪我で騒然とした教室では、誰も気づかない。
(#´_ゝ`)「ぎゃーぎゃー、うるせー」
⊂(#;;;゚∀゚)⊃「いやいや、オレ静かだよ。すっげぇ静かなの!! うっひょー!!!」
(; `ー´)「ああ、もう。ちょっとは落ち着いたほうがいいんじゃねーの?!」
ネーノ少年の怪我は純粋な事故だ。
キュートだって本当は、偶然が重なったのだと、わかっている。
だけど、どうしても――、
ネーノの怪我はおまじないのせいではないか、という思いはキュートの中から消えなかった。
.
76
:
名も無きAAのようです
:2013/08/17(土) 23:07:16 ID:adaBwzoE0
学校が終わり家に帰っても、キュートの頭はネーノの怪我のことでいっぱいだった。
女の子と一緒だった、ネーノ。
ネーノは多分その後すぐ彼女と別れて、弟の面倒を見ている間に怪我をしたのだろう。
ギプスを巻かなきゃいけないくらいの大怪我。
それが、おまじないのせいだとしたら……、
o川*゚−゚)o「……どうしよう」
ネーノと両思いになるための、おまじない。
準備をして、願いを込めて――1ヶ月間ずっと、楽しみにしてきたおまじない。
o川 − )o「でも、何で……」
キュートは人形を手に取る。
キュートが試したのは、『彼を自分のものにする』ためのおまじないだ。
恋愛をかなえるための、おなじないが、どうしてこんなことになったのかわかならい。
でも、
キュートは手にしたおまじないの人形を、そっと見る。
ネーノに似せて、キュートが縫い上げた人形。
それが急に怖いものになってしまったような気がして、キュートはぎゅっと目を閉じた。
.
77
:
名も無きAAのようです
:2013/08/17(土) 23:08:12 ID:adaBwzoE0
ネーノが怪我をしてから、数週間。
その間、キュートは彼の顔をまともに見ることが出来なかった。
o川 − )o「……」
彼の顔が見えるたびに、白い包帯とギプスが目に入り、おまじないのことを思い出してしまう。
それで、落ち込んで後悔する。
しかし、それでもネーノの姿が気になって、そのたびに彼の包帯を見て後悔するという日々を、キュートは続けていた。
( `―´)「……」
( ´_ゝ`)「どうした?」
(; `ー´)「いいや、別になんでもないんじゃねーの」
ネーノの怪我が起こったあの日以降、何もおかしなことは起こらなかった。
かわりに二人が両思いになるということもなかったが、キュートはそれでもよかった。
その時のキュートにとってはむしろ、おまじないが効いていないとわかる方が安心できた。
.
78
:
名も無きAAのようです
:2013/08/17(土) 23:10:37 ID:adaBwzoE0
……おまじないの人形は、自分の部屋に置くことにした。
ネーノの怪我のことがあって以来、キュートは人形を持ち歩く気にもなれなかった。
かといって、捨てるのも怖かったし、自分の作ったものだから、少しだけ愛着もあった。
だから、人形の置き場として部屋はちょうどよかった。
ここなら、誰かに見つかるなんてこともないし、落とすこともない。
o川*゚−゚)o「……もう何も、起こらないといいなぁ」
おまじないが気のせいだとわかったら、私に相談しようと、彼女は思っていたそうだ。
逆におまじないのせいだった場合でも、相談するつもりだったのだそうだが、その時の彼女はまだ私に相談をしなかった。
家族や友達にも相談できないまま、キュートは一人悩み続けていたらしい。
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79
:
名も無きAAのようです
:2013/08/17(土) 23:11:18 ID:adaBwzoE0
――それでも日々は過ぎる。
テストが終わると、半日授業がはじまる。
半日授業の日程に慣れたかと思えば、すぐに終業式だ。
そして、終業式が始まり。彼女は中学校生活はじめての夏休みを迎えることになった。
その頃にはキュートも少し落ち着き、これまでのことは考えすぎだったのだと思える様になっていた。
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80
:
名も無きAAのようです
:2013/08/17(土) 23:12:55 ID:adaBwzoE0
( ´_ゝ`)「ようやく休みか。長かったな」
(#;;;゚∀゚)「なーなー、お前ら休みはどうすんの? セミ? セミとか取っちゃう?
( ´_ゝ`)「テメェはガキか」
休みの間の予定で賑わう教室の中で、キュートはぼんやりとしていた。
キュートにとっても夏休みは楽しみだ。しかし、ネーノと会えなくなるのだけが、気がかりだった。
||‘‐‘||レ「楽しみね、夏休み」
o川*゚−゚)o「……うん」
||‘‐‘||レ「もう、キュートは元気ないぞー」
キュートの友達も、キュートの異変には気づいていたんだろうな。
……彼女には後ほど会ったが、とてもいい子だったよ。
o川*゚ー゚)o「カウガールちゃんとも、あんまり会えなくなるなぁと思って」
||‘‐‘*||レ「ああもう、キュートはかわいいんだから。大丈夫、いっぱい遊ぼうね」
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81
:
名も無きAAのようです
:2013/08/17(土) 23:14:46 ID:adaBwzoE0
教室の中は、夏休みを前にして浮かれて切っていた。
それは、ネーノも同様のようだった。
( l v l)ネーノ ハ?
( `ー´)「夏休みは、ずっと爺ちゃん家。
この腕じゃプールにも入れないから部活にも参加できないし、しかたねーんじゃねーの」
( `〜´)「あー、泳ぎたかったなぁ」
包帯のない方の腕を泳ぐように振り回して、少年は嘆いた。
といっても、彼の口調はふざけていたし、表情も明るかったから、クラスの中からは笑いが漏れた。
治ったらプール行こうぜという声が上がり、それにネーノも行く行くーと陽気に返す。
(*`ー´)「お土産買ってくるから、楽しみにしてるんじゃねーの!」
(#;;;゚∀゚)「よし、言ったな! 約束は守れよ―」
( l v l)ミヤゲ
ヽiリ,,゚ヮ゚ノi 「お土産!?」
その後、通知表をもらい賑やかな空気のまま、夏休み前最後の一日は終わった。
.
82
:
名も無きAAのようです
:2013/08/17(土) 23:17:47 ID:adaBwzoE0
||‘‐‘||レ「じゃあ、私。部室に顔出してから帰るから」
o川;゚〜゚)o「えー、ほんと? いっしょに帰れると思ったのに」
||‐。-*||レ「今日のところはあきらめてくださーい」
教室では何組みかのグループができ、夏休みの計画を立てている。
キュートと友人の彼女もその例にもれず教室に残っていたが、それもすぐにお開きになった。
o川;゚ー゚)o「じゃあじゃあ、途中までいっしょに行こ?」
||‘‐‘*||レ「もー、キュートは本当にあまえんぼさんねぇ〜」
廊下を歩き、キュートは友達と別れる。
一人になるのはさみしいけれども、そう我儘ばかりは言ってはいけないとキュートは我慢した。
o||‘ー‘||レ「じゃあ、電話するからー」
o川*゚ー゚)o「キューちゃんも電話するねー」
他に帰る相手もいないので、彼女と別れた後はキュート一人だ。
キュートは学校を出ると、家へと向かって歩き始める。
.
83
:
名も無きAAのようです
:2013/08/17(土) 23:19:03 ID:adaBwzoE0
――その途中で、キュートは誰かに名前を呼ばれたそうだ。
だれだろう? と思って、キュートは振り返って、
(; `ー´)「素直ーっ!」
そこにネーノがいることにとても驚いた。
教室で夏休みの話題に花を咲かせていたはずの彼が、そこにいる。
キュートの名前を呼んで、走り寄ってくる。
o川;゚ー゚)o「ね、ネー……根野くん!?」
(*`ー´)「よかったー、追いついたんじゃねーの」
彼はほっとしたように息をつくと、そのままキュートの隣に並んだ。
ネーノの顔には教室で見せるような、笑顔が浮かんでいる。
( `ー´)「素直にちょっと聞きたいことがあってさ」
o川 ゚−゚)o「……うん」
おまじないのことじゃないかと思い、キュートは体を固くする。
――しかし、ネーノが口にしたのは、まったく関係のない言葉だった。
.
84
:
名も無きAAのようです
:2013/08/17(土) 23:20:53 ID:adaBwzoE0
( `ー´)「素直は創作公園の夏祭りって行く?」
o川;゚−゚)o「うん。いちおー」
(*`ー´)「じゃあさ、一緒にいかない?」
ネーノの言葉の意味を、キュートはしばし考える。
しかし、その言葉を理解した瞬間。キュートは真っ赤になった。
これは、いわゆるデートのお誘いではないか……そう、思ったわけだな。
o川////)o「……お祭りって、2人で?」
(; `―´)て「えっ?」
ネーノは驚いたような声を上げ、しばらくした後に顔を真っ赤にした。
怪我をしたままの両手を体の前で振り、ネーノは慌てて声を上げる。
(;//д/)「い、いや。みんなで!! みんなで、なんじゃねーの!!
ついさっき、教室でそんな話題になって!!!」
o川;///)o「そ、そ、そうだよねぇー!
えへへー、キ、キューちゃん、かっかんちがいしちゃったー」
(;//―/)「そ、そ、そうなんじゃねーの!!」
.
85
:
名も無きAAのようです
:2013/08/17(土) 23:22:47 ID:adaBwzoE0
2人は互いに声を上げ、ぎくしゃくと笑いあった――そうだ。
しばらく、そうやって言い訳ともつかない不自然な会話を続けた後に、ネーノはノートの切れっ端と鉛筆を取り出した。
(; `ー´)「連絡するから、電話番号教えてほしいんじゃねーの」
o川;゚ワ゚)o「う、……うん。わかったー」
( `ー´)「じゃあ、これがオレん家の番号」
電話番号をお互いに交換し終える頃には、二人の間の空気はすっかり元通りになっていた。
キュートはそれに寂しさを覚えると同時に、少しだけほっとしたそうだ。
ネーノとちゃんと話すのは、彼が怪我をした日以来のことだった。
( *― )「……まぁ、2人で行くってのも、悪くはなかったんじゃねーの」
o川*゚ー゚)o「え?」
ネーノがふともらした言葉に、キュートは息を呑んだ。
それはなんだかドキドキするような言葉のような気がして、キュートは小さく聞き返した。
……しかし、彼女が声を上げたときにはもう、彼はいつもの明るい調子に戻っていた。
(*`ー´)「なんでもない。じゃ、そのうち電話するからー!!」
.
86
:
名も無きAAのようです
:2013/08/17(土) 23:24:15 ID:adaBwzoE0
そう言ってネーノは、キュートに背を向ける。
突然の行動に驚くキュートに向けて、彼は軽く手を振ってみせると「学校」と小さく告げた。
( `ー´)「話し合いの途中で抜けてきちゃったから戻るんじゃねーの」
o川;゚ー゚)o「……わざわざ、来てくれたの?」
(*`ー´)「オレも素直と遊びに行きたし、気にしなくてもいいんじゃねーの!」
なんでもないことのように言ってのけて、ネーノは笑った。
学校の外まで追いかけて来て、わざわざ話しをしてくれる。
それが特別なことのような気がして、キュートの顔は熱くて息も詰まりそうになる。
( `ー´)「お祭り、一緒に行こうな」
o川////)o「……」
それでも、ネーノの最後の言葉にキュートは最高の笑顔でうなずいた。
o川*゚ワ゚)o「うん!」
ネーノが嬉しそうに笑うのを、キュートは見た。
キュートはそれが嬉しくて、ネーノの姿が見えなくなるまで手を振り続けた……。
.
87
:
名も無きAAのようです
:2013/08/17(土) 23:26:23 ID:adaBwzoE0
今日の投下ここまで。明日の投下で完結の予定
88
:
名も無きAAのようです
:2013/08/17(土) 23:38:39 ID:B19XsEB.0
この後に落ちると思うとガクブル....
乙でした
89
:
名も無きAAのようです
:2013/08/18(日) 22:01:47 ID:fHkiEV2U0
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90
:
名も無きAAのようです
:2013/08/18(日) 22:11:18 ID:fHkiEV2U0
夏休みは、順調に過ぎていった。
中学校では小学校のとき以上に、夏休みの宿題があった。
短い期間ではあるが、部活動のために学校にも出なければならない。
それに、伯母さん――キュートの母親は、夏期講習にキュートを行かせていた。
ヾ||‘‐‘*||レ
ε......o川*゚ー゚)o
o川*゚ワ゚)o ||‘ワ‘*||レ
もちろん勉強だけじゃなくて、遊びの予定もたくさんあった。
友人と出かけたり、プールへ行ったり、家族旅行に行ったりと、彼女の夏はそれなりに充実していた。
――だから、キュートの中学生活はじめての夏休みは、それなりに忙しかった。
.
91
:
名も無きAAのようです
:2013/08/18(日) 22:13:03 ID:fHkiEV2U0
彼女は夏休みを、それなりに楽しく過ごしていた。
ただ一つ、気がかりがあるとしたらネーノのこと。
彼とは終業式の帰りに会ったっきりで、それからずっと姿を見かけていない。
o川*゚ー゚)o「ネーノくん……どうしてるかな」
毎日のように教室で見ていた彼の姿が見えないのは、とても寂しい。
キュートは何度かスーパーに出かけて見たけれども、ネーノに会うことは出来なかった。
……夏休み前に言った通り、祖父の家に出かけているのだろう。
キュートもそれは理解している。
しかし、それでもまだこっちにいるのではないかという思いが捨てきれなくて、ついスーパーへと足を向けてしまう。
その繰り返しだった。
o川*゚−゚)o「……元気かな」
腕の怪我はもう大丈夫だろうか?
あれからひどい怪我はしていないだろうか?
.
92
:
名も無きAAのようです
:2013/08/18(日) 22:15:50 ID:fHkiEV2U0
……彼に会えない日々は、キュートの不安を募らせた。
電話番号は知っている。
でも、かける勇気なんてないし、かけたとしても何を話したらいいのかわからない。
だから結局、キュートは机の上を見上げて溜息を付くだけ。
( ・ω・) ニャー
o川*゚ー゚)o「カラマロスー、今キューちゃん考えごとでいそがしいから後でー」
――その日もキュートは溜息をつくと、机の下をうろうろしていた猫を部屋から追い出した。
ひと仕事を終えたキュートが振り返ると、机の上に置いた人形が目に入った。
おまじないの人形。
キュートが、ネーノに似せて作ったそれ。
この人形のせいで、ネーノは腕を怪我した……様な気がする。
o川;゚ー゚)o「……」
――彼がまた、何か危ない目にあっていたとしたら?
忘れていた不安が、キュートの中に沸き起こった。
ネーノにはずっと会えていない。だから、もし彼がまた怪我をしていてもキュートにはわからない。
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93
:
名も無きAAのようです
:2013/08/18(日) 22:19:06 ID:fHkiEV2U0
……ネーノくんは、無事なのだろうか?
キュートは急に、いてもたってもいられなくなった。
部屋を飛び出すと、居間にある電話の受話器を取る。
どうしてもネーノの声を聞いて安心したくて、プッシュキーへと指を伸ばす。
o川;>ー<)o「……」
そして、キーを押そうとして、
川*` ゥ´)「――何、電話? どこ? あんまり長電話しちゃやーよ」
o川;゚ー゚)o ビクッ
――母親の声に、その動きを止めた。
.
94
:
名も無きAAのようです
:2013/08/18(日) 22:22:28 ID:fHkiEV2U0
o川;゚ー゚)o「……その」
川*` ゥ´)「なになに? ひょっとして、男の子?
男の子なのね! もー、キューもすっかりお年ごろになっちゃって」
ヒール伯母さん……キュートの母親は、キュートの様子を見るなり興味津々となった。
声をワントーン高くして、目をキラキラと輝かせて、キュートに詰め寄る。
o川;゚д゚)o「ちが」
川*` ゥ´)σ「もー、いっちょまえに照れちゃってぇ!」
ヒール伯母さんは、なんというかこういうノリの人だ。
気さくで良い人なのだけれれども、少しばかりデリカシーに欠けることがある。
そんな母親の前で、ネーノに電話をかける度胸はキュートにはなかった。
しかし、ここまできて電話をかけないのも不自然だ。彼女はそう考えて――、
o川;゚ー゚)o「……クーお姉ちゃん! どうしても相談したいことがあって!」
川*` ゥ´)「ああ、クーちゃん? だったら電話じゃなくて、家に来てもらいなさいよ。
クーちゃんも夏休みなんでしょ? せっかくだし、ごちそうしちゃうわ」
クーお姉ちゃん――つまり私に、おまじないやネーノについて相談しようと思いついた。
「相談したいことがあるの」という言葉と夕飯のお誘いに、特に予定がなかった私は二つ返事で了解した。
.
95
:
名も無きAAのようです
:2013/08/18(日) 22:25:31 ID:fHkiEV2U0
そして、電話を終え部屋に戻った彼女は、気づいた。
――部屋の扉が開いている。
確か部屋から出るときに閉めたはずなのにと、首をひねりながらキュートは部屋に入る。
o川*゚ー゚)o「……?」
しかし、そこには誰もいなかった。
正確にはいたのだけれども彼女の目には入らなかった。
彼女は首をひねりながら机をなんとなく眺め、そこにあるべきものがなくなっていることに息を呑んだ。
o川;゚ー゚)o「――っ!!」
――人形。
おまじないのための、人形。
確かに机の上におかれていたはずのそれが、なくなっている。
キュートの頭から血の気が引き、落ちているのではないかと机の下を覗きこんで。
.
96
:
名も無きAAのようです
:2013/08/18(日) 22:27:11 ID:fHkiEV2U0
――
( ・ω・)
床で動きまわる、白い猫の存在に気づいた。
カラマロス。私が大佐と呼ぶ、キュートの家の飼い猫。
彼が興奮した様子で、何かをひっかき咥え暴れまわっている。
o川;゚д゚)o「ああっ」
カラマロスはその爪で何かを熱心に攻撃をして、遊んでいた。
前足でひきよせたり、飛ばしたり、爪を出して引っ掻いてみたり。それはもう、やりたい放題だ。
そして、彼がやりたい放題している何かは――、
――キュートの作ったおまじないの人形だった。
.
97
:
名も無きAAのようです
:2013/08/18(日) 22:29:12 ID:fHkiEV2U0
o川#゚ー゚)o「やめてぇっ!!」
(; ・ω・) !
その瞬間、キュートの頭は真っ白になった。
代わりに浮かんだのは、ネーノの腕に巻かれた白い包帯とギプス。
o川# д )o「だめぇぇぇっ!!」
キュートは手を伸ばし、叫んだ。
床に広がった雑誌に足を取られながらも、カラマロス――猫を捕まえようと走り寄る。
キュートは飼い猫の狼藉を慌てて止めようとしたのだが、カラマロスはその剣幕に驚いたのだろう。
白い毛を、倍以上にふくらませた。
(# ・ω・)
.
98
:
名も無きAAのようです
:2013/08/18(日) 22:29:52 ID:fHkiEV2U0
キュートのすぐ脇を、カラマロスの白い体がすり抜けるようにして通り抜けた。
白い毛を逆立てながら、カラマロスはスピードを上げて走る。
その口は――しっかりとおまじないの人形を咥えている。
カラマロスは人形を咥えたまま、開いた扉をくぐり外へと飛び出した。
(# ・ω・)
o川; д )o「待って! 返してぇぇぇぇ!!!」
階段を凄まじい速度で駆け抜ける軽い音の後を、キュートは追いかける。
しかし、白い体はすばしっこくて手が届くどころか、逆に距離を広げられていく。
足元を踏み外しそうになる体を、腕で支えながらキュートはなんとか階段を降りきった。
川#` ゥ´)「キュー! 家の中を走らない!!
これからクーちゃん来るっていうのに、何してんのアンタは」
o川; д )o「あとで!!」
.
99
:
名も無きAAのようです
:2013/08/18(日) 22:31:43 ID:fHkiEV2U0
開いた窓の向こうへ、カラマロスは体を滑り込ませる。
それを追って、キュートも玄関へと向かう。
靴を履く時間も惜しくて、サンダルを足に突っかけると、そのまま彼女は走りだした。
o川; д )o「どこっ!? どこなのっ!!」
白い猫の姿は、どこにも見えない。
それでも、家の周りを何度もまわって、そしてようやく――キュートはカラマロスの姿をとまった車の下で見つけた。
o川;゚ O゚)o「お願い、返して!!」
車の下に潜り込んで隠れたカラマロスは、キュートの声に体をぴくりと動かした。
その口は人形を咥えたままだ。
カラマロスは緊張した様子で、キュートが車の下を覗き込むキュートを睨み返す。
しかし、彼は先程のように走り出しはしなかった。
.
100
:
名も無きAAのようです
:2013/08/18(日) 22:34:11 ID:fHkiEV2U0
カラマロスはキュートの姿を瞬きもせずにじっと見据え続けている。
彼の姿は、一見するとすぐにでも捕まえられそうだ。
しかし、実際は誰かが一定距離内に近づいたら、すぐ逃げ出せるように緊張しながら姿勢を整えている。
……猫というのは、そういうものだ。
o川;゚ー゚)o「お願い、返してっ!!」
キュートは大きな声を上げて、車の下へと手を伸ばす。
しかし、彼女の手は愛猫に届くには短すぎた。
キュートが慌てて地面にしゃがみ込む頃にはもう、カラマロスの白い体は走り出していた。
o川;゚д゚)o「カラマロスー!!!」
.
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101
:
名も無きAAのようです
:2013/08/18(日) 22:36:28 ID:fHkiEV2U0
私が、彼女の家に到着したのはちょうどその頃だ。
私とキュートの家はそう遠くない。同じ武雲市内だから、自転車でも行き来できるし。車ならばもっと早い。
何も知らない私は、カラマロスとの追いかけっこに興じるキュートに向けて、気楽に話しかけた。
川 ゚ -゚)「キュート、遊びに来てやったぞ」
o川; − )o「――っ」
しかし、彼女は私の声に返事を返さなかった。
私に目をくれることもないまま、カラマロスが逃げた方にむけて走りだした。
_,
川 ゚ -゚)「……どうしたんだ、あの子は?」
血相を変えて走る彼女の姿に、私は「ああ、暑いのにキュートもよくやるな」と脳天気なことを考えていたような気がする。
私は馬鹿だった。
もっと彼女の顔を真剣に見ていれば、ただ事ではないとすぐに気付けたはずだったのに。
川 ゚ -゚)「まあ、いいか」
――だけど、その時の私は何も考えなかった。
キュートの家にお邪魔して、涼しい部屋で伯母さんと話しながらキュートのことを待った。
……馬鹿だと言ってくれて構わない。私はキュートの助けにはなれなかったのだ。
.
102
:
名も無きAAのようです
:2013/08/18(日) 22:38:05 ID:fHkiEV2U0
キュートは、飼い猫の姿を追って走った。
白い体はすぐに捕まえられそうなのに、どれだけ走っても追いつけない。
それに距離を詰めたと思っても、気づいた瞬間にはすぐに視界からいなくなっている。
白い猫の姿を何とか見つけ出し、そして、捕まえられることのできないまま逃げられるという、追いかけっこが続いていた。
( ・ω・)
カラマロスは、人形を放そうとしない。
だから、キュートもあきらめることができない。
o川; д )o
その日は、35度を超える猛暑日。
空気はベタベタと重いのに、日差しは焼けるように強かった。
蝉の声は耳がおかしくなるくらいに煩くて、木の緑は目に痛いほどに輝いていた。
.
103
:
名も無きAAのようです
:2013/08/18(日) 22:40:39 ID:fHkiEV2U0
水も帽子も持たないままキュートは走った。
暑い日差しの中を、彼女は人形を取り返そうと、一人走り続けていた。
o川; − )o「ネーノくん」
キュートが本当に、おまじないのことを信じていたのか、それともそうでないのか。
――私には、わからない。
o川 ;д )o「ネーノくんっ!!」
それどころか私は、その時の彼女が何を思い考えていたのかすら、知らない。
彼女は語ろうとしなかったし、彼女の異変に気づかなかった私に問いかける資格もない。
o川 ;д )o「――っぁぁぁぁぁ!!」
ただ、彼女は本当にネーノのことが好きで。
彼のことだけを思って走り続けたということだけは――わかっている。
.
104
:
名も無きAAのようです
:2013/08/18(日) 22:42:11 ID:fHkiEV2U0
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;;:;;:.,;:,.:,.:.,,..,.,...:.,.:
――私がキュートを見つけた時、彼女は川にいた。
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105
:
名も無きAAのようです
:2013/08/18(日) 22:44:13 ID:fHkiEV2U0
キュートの家から何本か道路を渡った先。
その川の水の流れの中に、彼女は座り込んでいた。
帰りの遅いキュートを探し回っていた私は、ずぶ濡れのキュートを見て血の気が引いたよ。
o川 ;ー;)o「ぅ……ぁ……」
川;゚ -゚)「キュート、どうした!?」
キュートが追いかけていたはずの、カラマロスは土手で毛づくろいをしている。
だけど、彼女はもう猫には目を留めない。
彼女は呆然と川の流れていく先を見つめていた。
そして、私の姿に気づくなり声を上げて泣きだした。
o川 ;д;)o「キューちゃんが悪いの、キューちゃんがぁぁぁぁぁ!!!」
キュートの顔は涙で、くしゃくしゃだったよ。
おしゃれに気を使うような女の子が、涙も拭わず、鼻水まで出して泣くんだ。
――私は、その時になってようやく、取り返しの付かないことが起きたのだと悟った。
.
106
:
名も無きAAのようです
:2013/08/18(日) 22:46:55 ID:fHkiEV2U0
o川 ;д;)o「行っちゃった……どうしよ……ネーノくん」
川; - )「キュート!」
私はキュートを抱きしめた。
……抱きしめることしか、できなかった。
川の中で座り込むキュートは全身が濡れていて、周りの暑さが嘘のように冷えきっていた。
川 ゚ -゚)「ほら、キュート。しっかりしろ。
このままじゃ、風邪をひく。この時期に風邪をひくと辛いぞ」
o川 ;д;)o「……ぅ」
川 ゚ -゚)「いくらでも話を聞いてやるから。な?」
立ち上がろうとしないキュートの手を引いて、川から引き上げて。
二人で、手をつないだまま帰った。
――それでも、キュートは泣いたままだった。
.
107
:
名も無きAAのようです
:2013/08/18(日) 22:48:40 ID:fHkiEV2U0
その日の夜、キュートは全て私に話してくれたよ。
そして私はやっと、何が起こっていたのかを知った。
おまじないのこと、スーパーでのこと、ネーノと一緒にいた女の子のこと。
……それから、ネーノ少年の怪我のこと。
彼の怪我は、自分のおまじないのせいではないか。
それら一つ一つをキュートは、泣きながらも語ってくれた。
彼女の顔色は青くて、それでも瞳だけはギラギラと輝いていて、妙な凄みがあったことを覚えている。
それだけ彼女は思いつめていたのだろうな。
ようやく相談できる相手ができて、それで一気に感情が吹き出したようだった。
キュートは、途切れること無く語り続けたかと思えば、唐突に泣いたり、喚いたりを繰り返した。
.
108
:
名も無きAAのようです
:2013/08/18(日) 22:50:48 ID:fHkiEV2U0
彼女は、人形の行方も話してくれた。
o川 ゚−゚)o「カラマロスはね、橋のところまで逃げたの。
それでね橋の横にあるパイプみたいなところをカラマロスは走ってね、そこで落としちゃったの」
カラマロスの咥えた人形は川へと落ちた。
それを見たキュートは、慌てて川岸へと降りたそうだ。
落ちた人形は初めは川岸の草に引っかかていたが、キュートが川岸に着いた頃にはもう見えなくなっていた。
それでも、どこかにあるはずと、キュートは川の中を探しまわり。
o川 − )o「……」
――彼女が再び見つけた頃にはもう、人形は早い流れに乗っていた。
キュートは追いかけたが、もう手遅れで……人形は、とうとう彼女の手の届かないところまで行ってしまった。
o川 ;−;)o「ネーノくんに、何かあったらどうしよう」
川 ゚ -゚)「大丈夫だ。大丈夫だから、な」
そう言って泣く彼女の体を、私は抱きしめるしか出来なかった。
彼女は私の体に体を預けて、ずっと泣いていた――。
.
109
:
名も無きAAのようです
:2013/08/18(日) 22:53:04 ID:fHkiEV2U0
-----------------------------------
----------------------------
----------------------
--------------
そこまで話し終えると、クーは沈黙した。
しばらく待ってみたが、クーはなかなか続きを話そうとする気配がない。
('A`)「それで?」
とうとう俺はクーのいる暗がりに向けて話し始めた。
ほの暗い闇の中、クーの着ているブラウスだけが白く浮かび上がっている。
クーは俺の言葉に、かすかに身動きしたようだった。
微かに吐息を漏らした後に、再び話し始めた。
川 ゚ -゚)「――おまじないの人形が見つかることはなかった」
( )「残念だおー」
それはそうだろうなと、俺は頷く。
しかし、俺が気になるのは人形の行方じゃなくて、話の続きだ。
.
110
:
名も無きAAのようです
:2013/08/18(日) 22:55:40 ID:fHkiEV2U0
('A`)「……続きは? あるんだろう?」
俺の問いかけに、クーは再び沈黙した。
迷っているかのように黙りこみ、しばらくたってからようやく彼女は口を開いた。
川 ゚ -゚)「……何もなかったよ、その日は。
私は伯母さんに頼まれて、キュートの家に泊まったのだが、何もなかった」
――その日、は。
という言葉に、背筋がぞわりとした。
本当に何もなかったのならば、あえて「その日は」なんて言わない。
何かが、あったのだ。
キュートという女の子が恐れていたことが、おそらく現実に起こったのだろう。
……はっきり言おう。
俺は話を促したことを、後悔しだしていた。
.
111
:
名も無きAAのようです
:2013/08/18(日) 22:57:19 ID:fHkiEV2U0
('A`)「なあ、クー」
聞きたくない。
これから先、クーが話すことはきっと悪いことだ。
それは、きっとついこの前まで小学生だった女の子が目の当たりにするには、辛い話に違いない。
川 - )「本当に、何もなかったんだ。
キュートは涙をこらえてネーノ少年の家にも電話をかけたが、彼は元気だということだった」
俺の呼びかけを、否定するかのようにクーは話し続ける。
誰も、相槌を打ったり、話しかけようとはしない。
部屋の空気が、息苦しくて。
額から、ぬるりと汗が伝うのを俺は感じていた。
川 - )「異変が起こったのは、……二日後の、夜」
そして、クーは再び話しはじめた。
.
112
:
名も無きAAのようです
:2013/08/18(日) 22:59:51 ID:fHkiEV2U0
-----------------------------------
----------------------------
----------------------
--------------
o川 ;д;)o「ネーノくんが、ネーノくんが死んじゃったの」
――家へと戻った私のもとに、その電話がかかってきた。
.
113
:
名も無きAAのようです
:2013/08/18(日) 23:01:17 ID:fHkiEV2U0
根野ネーノが死んだ。
その言葉を私は信じることが出来なかった。
( `ー´)「お祭り、一緒に行こうな」
だって、そうだろう。
ネーノ少年が死ぬ理由が、見当たらない。
彼には腕の怪我以外には持病も、自ら死を選ぶ動機もないはずだ。
何より彼は、祭りにいくことを楽しみにしていた。
そんな彼が、死ぬなんてことがあるだろうか?
川; - )「……なんで、」
o川 ;д;)o「 」
川 ゚ -゚)「え?」
そして、私はなぜ彼が死んだのかを知った。
.
114
:
名も無きAAのようです
:2013/08/18(日) 23:03:10 ID:fHkiEV2U0
交通事故。
彼は滞在していた祖父母の家の近くで、車にはねられたのだ。
――そして、それっきり帰らなかった。
.
115
:
名も無きAAのようです
:2013/08/18(日) 23:05:13 ID:fHkiEV2U0
彼の葬儀は、それからすぐに行われることになった。
私は仕事で身動きできないキュートの両親の代わりに、彼女を連れて彼の通夜に行ったよ。
会場にはキュートと同じ制服を着た少年や少女がたくさんいた。
彼らの顔は泣き顔だったり、怒り顔だったり、呆然とした顔だったりと様々だった。
(#;;; ― )(#´_ゝ`)
ヽiリ,,゚−゚ノi ( ; v ;)
――そんな彼らの姿を見て、私はようやく、「ああ、彼は死んだのか」と、理解した。
||‘‐‘;||レ「キュート!」
o川*゚−゚)o「カウガール……ちゃん……」
.
116
:
名も無きAAのようです
:2013/08/18(日) 23:07:57 ID:fHkiEV2U0
キュートの友人の少女と別れると、私はキュートを連れて記帳を済ませる。
そして、そのままと会場へと入った。
白い祭壇と、黒い服を来た人々の群れが私とキュートを出迎えた。
席につき、ふと親族の集まる席を見た私は、そこに子供の姿をみつけた。
少年が1人と、少女が2人。
――そして、気づいた。
2人の少女は、揃いの星の形の髪飾りをつけている。
キュートよりも少し小さな彼女たちは、一人が活発そうな少女で、もう一人はおとなしそうな少女だ。
( ・−・ )「……」
黒い服を着たおとなしそうな少女の顔には、感情らしい感情が浮かんでいない。
それで、わかってしまった。
キュートが一度見かけた。ネーノと一緒に歩いていた少女。
――それは、きっと彼女だ。
.
117
:
名も無きAAのようです
:2013/08/18(日) 23:09:13 ID:fHkiEV2U0
彼女は白い花で飾られた祭壇を、じっと無言で見つめていた。
川 ゚ -゚)「……」
私は少女の視線につられるようにして、祭壇をまじまじと眺め――そして、ふと気づいた。
祭壇の中央に添えられた黒い額縁。そこには、少年の写真が飾られている。
川 - ).。oO(ああ、彼が……)
私が、ネーノの顔を見たのは、それが最初で最後だった。
遺影として飾られた少年の顔はまだあどけなくて、キュートの言う様にかっこいいというより、かわいいという言葉のほうが似合う気がした。
目を細めて、口元を上にあげた表情は、――とてもいいことがあったんだって、伝わるような笑顔でな。
あんなふうに笑えるのならば、彼はさぞかし人気があったんだろうなぁと思わされた。
それくらい、彼の笑顔は印象的だった。
川 - ).。oO(だけど、彼はもう……)
祭壇の前に安置された棺。
そこにあの少年がいるのだとは、とてもじゃないが思えなかった。
.
118
:
名も無きAAのようです
:2013/08/18(日) 23:11:20 ID:fHkiEV2U0
――まるで、質の悪い冗談だ。
川 - ).。oO(なんで……)
交通事故なんて――、そう思った、その時。
私の耳はかすかに震える小さな声を捉えた。
( ・−・。)「……ネーノ、お兄ちゃん」
それは、親族席のあの少女から聞こえた。
おそらくは無意識のうちに出たその言葉は、周囲のざわめきに埋もれて他の誰にも届かなかった。
――だけど、私はそれで大体の事情を察してしまった。
親族席にいる少年と少女たちは、ネーノの弟や妹――「チビたち」だ。
そして、あの少女は彼の妹だ。
証拠なんて上等なものはない。
しかし、それが間違ってはいないだろうという確信に似た気持ちはあった。
.
119
:
名も無きAAのようです
:2013/08/18(日) 23:13:16 ID:fHkiEV2U0
根野ネーノ。
――彼が年齢に似合わず、女の子に優しかったのは、彼に妹――女の兄弟がいたからだ。
妹や弟の面倒を見る、優しいお兄ちゃん。
それが、ネーノ少年の素顔だったのだろう。
(*`ー´)「素直はさ、なんか妹みたいな感じがするから、嫌われてたらどうしようって思った」
いつか彼がキュートに言った言葉。
それは彼に妹がいるから出た言葉なのだろう。
彼には、物言わずに自分をじっと見上げてくるキュートの姿が自分の妹と重なって見えたのだろう。
それが、妹のような少女に向けた単なる優しさだったのか。それとも、そうではなかったのか、もう二度とわかならない。
.
120
:
名も無きAAのようです
:2013/08/18(日) 23:15:37 ID:fHkiEV2U0
o川 ゚−゚)o「クー、お姉ちゃん?」
川 ゚ -゚)「いや、何でもない」
あの少女が妹かもしれないとは、言えなかったよ。
だって、そうだろう?
全てはもう終わってしまった、後なんだ。
それをいまさら告げて、どうなる。
川 - )「……」
――だって、彼はもういない。
ネーノと少女が一緒にいた時に話しかけておけば。
もしくは、おまじないに頼らないで、さっさと告白していれば。なんて、
(*`ー´)" o川*^ー^)o
そんな夢想に、もう意味は無いのだから――。
.
121
:
名も無きAAのようです
:2013/08/18(日) 23:17:13 ID:fHkiEV2U0
そして、通夜が始まり、私は異変に気づいた。
――何かがおかしい。
そう疑問に思った理由は、すぐにわかった。
.
122
:
名も無きAAのようです
:2013/08/18(日) 23:20:02 ID:fHkiEV2U0
私はそれほど経験がないのだが、通夜では普通、顔を見てやってくださいと言って故人の顔を見せるだろう。
でも、それがないんだ。
遺体の安置された棺は確かにある。
しかし、その棺の扉はしっかりと打ち付けられて、開かないようにされていた。
まるで、そこに遺体なんてないような扱い。
彼はまだ死んでいないのではないかという錯覚を起こさせてしまいそうな式だった。
でも、違った。
私はこれまで彼の死を、ごく普通の交通事故だと思っていた。
しかし、それは大きな間違いだった。
彼の遺体はそこに確かにあったのだ。
ただそれは、……人に見せられる状態ではなかった。
.
123
:
名も無きAAのようです
:2013/08/18(日) 23:22:48 ID:fHkiEV2U0
(同し同 )「一体、どうなってるのかね? 故人の顔を見せてくれって言っても、全然見せてくれん。
マサシさん。あんたは何も知らんのかね」
(;・`ー・´)「それは……」
手洗いに行こうとたまたま席を外した私は、口さがない親族の話を聞いてしまった。
酔っていたらしい彼らの話によると、……ネーノの死体はそれはもうひどい状態だったらしい。
(;・`Д・´)「あれはひどかった。母親なんかは倒れちまったよ、かわいそうに」
彼をはねた運転手はな。
通報や救急車を呼ぶこともせずに、逃げてしまったらしい。
それだけではない。運転手はネーノの体をよりにもよって道路からは見えない、斜面の下に突き落した。
……そして、そのまま逃げた。
ネーノの帰りが遅いことを心配した祖父が、近所の男たちと彼の姿を探し始めた頃にはもうとっくに手遅れになっていた。
(同し同;)「……ああ、夏だし腐」
(;-`Д・´)q「それだけじゃなくて……」
川 ゚ -゚)「……」
.
124
:
名も無きAAのようです
:2013/08/18(日) 23:24:55 ID:fHkiEV2U0
(;-`Д-´)q「誰にも言うんじゃないぞ……」
(同し同;)「誰にもってそりゃあ、大袈裟な」
(#・`―・´)「大ゲサなくらいでいいんだよ」
親戚らしい中年の男は辺りを見回し、声をひそめた。
しかし、元の声が大きいせいで、多少声を押さえた程度では何も変わらなった。
( ・`Д・´)「ネーノはな……」
男の話す声は少し離れた場所にいた私の元まで届き――、そして、私はネーノ少年に何が起こったかを知った。
( -`Д-´)「 」
誰にも見つかること無く数日間その場に放置された、彼の遺体はな、
野犬によって食い荒らされていて、原型をとどめていなかった。
噛まれ、食いちぎられ、爪によってひきさかれて――ひどい状態だったそうだよ。
持っていかれてしまったのか、見つからないパーツもあるのだと、親族の男は語った。
そう。それはまるで、――
.
125
:
名も無きAAのようです
:2013/08/18(日) 23:27:30 ID:fHkiEV2U0
猫の爪に、牙に
引き裂かれ
食い破られた
――おまじないの、人形のように。
.
126
:
名も無きAAのようです
:2013/08/18(日) 23:29:22 ID:fHkiEV2U0
o
ゝ;:ヽ-‐―r;;, 。
,,_____冫;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:\ ,,,,,,,, o /
"`ヽ;:;:;;;:::;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:从 (;:;:;:;:ヾ-r
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,,__);:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:ノ ゞイ"ヾ,:;:,ソ
(;:;:ノr-´^~;;r-ー⌒` ,.、
" ,,,, _;:;:⌒ゝソ;:/
(;:;:丿 (;:;:;:;:;:;:;:;:;:)
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´ /;:ノ 。 。
()
.
127
:
名も無きAAのようです
:2013/08/18(日) 23:31:23 ID:fHkiEV2U0
-----------------------------------
----------------------------
----------------------
--------------
川 - )「……私の話はここまでだ」
そして、クーは静かに話を締めくくった。
誰も、何も語らなかった。
その場に残るのは闇と、水の中にいるような息苦しさだけだ。
( )「……」
ξ ⊿ )ξ「……っ」
あまりにも思い雰囲気に、俺は作り話なんだろうという言葉を慌てて飲み込んだ。
クーの言葉は真剣で、怖いくらいだった。
とてもじゃないが作り話をしているようには見えない。
だから、嘘だろうと問いかけるかわりに、俺は違うことを聞くことにした。
.
128
:
名も無きAAのようです
:2013/08/18(日) 23:33:08 ID:fHkiEV2U0
('A`)「クーは本当のところは、おまじないのせいだと思っているのか?」
それは、俺がクーの話の中で一番気になっていたことだった。
もし、おまじないのせいでないのだとしたら、ネーノという中学生に起こった事態は、単なる事故だ。
しかし、キュートという女の子が試したおまじないのせいだとしたら、それはまるで……
川 - )「……私には、わからない。
だけど、おまじないなんて関係なかったと、思いたい」
話をする間、ずっと理知的だったクーの声がはじめて震える。
思うことは素直に口に出せても、冷静な態度を常に保っている、クー。
彼女の声がはじめて、大きな感情の色をあらわにする。
.
129
:
名も無きAAのようです
:2013/08/18(日) 23:35:41 ID:fHkiEV2U0
川# - )「……だって、そうじゃないか。
私がそうだと言ってやらなければ、キュートは!」
それは、怒りだった。
冷静で理知的な彼女らしくない。
理解の及ばない出来事に対する、怒りの感情。
彼女は吼えるように声を上げ、
――そこから先の言葉を、口にしなかった。
川# - )「……」
でも、何が言いたかったのかは、この場にいる全員に伝わったと思う。
そうでなきゃ、嘘だ。
だって、いくらクーでも言えるはずがないだろう。
.
130
:
名も無きAAのようです
:2013/08/18(日) 23:37:49 ID:fHkiEV2U0
中学生。
同級生に恋をした、それだけの女の子。
o川*- -)o「根野 ネーノくんと、両思いになれますように」
彼女の好意が、小さなおまじないが、何の悪意もないままに、彼女の一番大好きな人を、
――呪い殺した、なんて。
.
131
:
名も無きAAのようです
:2013/08/18(日) 23:39:31 ID:fHkiEV2U0
暗い部屋には沈黙が横たわっている。
今度こそ誰もが、口を開こうとはしなかった。
川 - )「……話し終えたら、蝋燭を消すんだったな」
それを遮ったのは、クー自身の声だった。
クーは先程までの怒りが嘘の様に静かな声で言った。
そこにはもう、激しい感情の名残は見えない。
(;'A`)「あ、ああ」
( ゚д゚ )「蝋燭は、二つ向こうの和室にある。
ふすまは開いているから、明るい方に進んでくれ」
川 - )「わかった」
ミルナの声が途切れると同時に、人が立ち上がる気配がした。
クーの着ている白いブラウスが動くのがぼんやりと見える。
足元を確かめるように、クーはゆっくりと部屋の外へとむけて進んでいく。
川 ゚ -゚)「――また、な」
――そして彼女は、開け放たれた襖の向こうへと消えた。
.
132
:
名も無きAAのようです
:2013/08/18(日) 23:42:06 ID:fHkiEV2U0
( )「……まるで、呪いだね。丑の刻の藁人形みたいだ」
( )「おまじないが、呪いにか……」
クーが去って気が緩んだのか、暗闇の中で誰かがそう言った。
それは俺が思っていても、口にしなかった言葉だった。
( ゚д゚ )「……おまじないを漢字で書くとどうなるか、知ってるか?」
そして、その声に触発されたのかミルナがポツリと声を上げた。
これまでの話とはまったく関係ない言葉に、周囲がざわめき声があがる。
ξ ⊿ )ξ「……おまじないに漢字なんてあるの?」
( )「ひらがなじゃないのかお?」
( )「うーん。漢字かぁ、僕にはわからないな。正解は?」
その言葉に、ミルナは目を閉じた。
それから、空中に字を書く素振りをしながら、答えを口にした。
.
133
:
名も無きAAのようです
:2013/08/18(日) 23:44:32 ID:fHkiEV2U0
( -д- )「――御呪い、だ」
.
134
:
名も無きAAのようです
:2013/08/18(日) 23:46:25 ID:fHkiEV2U0
( ゚д゚ )「おまじないと呪いは、本質的には同じ行為なんだ」
ミルナは淡々と話し続ける。
その顔に浮かぶのは、いつものミルナと同じ感情の読み取れない表情だ。
( ゚д゚ )「誰かを手に入れたいという願いは、裏を返せば相手を自分の思う通りに相手を支配したいということだ。
そこに、対象となる相手の意志など関係ない。いや、むしろ邪魔なだけだ」
ξ ⊿ )ξ「いくらなんでも言い過ぎよ」
( ゚д゚ )「でも、そうだろう。
おまじないとは、例え相手に好きな人がいようとお構いなしに、自分へ気持ちを向けさせるためのものなのだろう?」
ξ# ⊿ )ξ「でも、それは――」
興奮したような激しいツンの声が、止まる。
考えをまとめているのか、それともクーに声が声が伝わるのを恐れたのか、彼女はしばらく唸り声を上げて、
――結局、その言葉を口に押し込んだ。
ξ )ξ 「……」
.
135
:
名も無きAAのようです
:2013/08/18(日) 23:48:32 ID:fHkiEV2U0
誰も話さなくなった部屋に沈黙が落ちる。
俺も、周りのやつらと同じように黙りこみ――、
ふと、
「ネーノくんのそういうとこ、……好きだなぁ」
「……す、素直って、たまにすごいこと言うんじゃねーの。びっくりしたー」
「えー、何? キューちゃん変なこと言った?!」
女の子と、男の声が聞いた様な気がした。
楽しそうな、声。
不思議と、いちゃつくやつは滅べという気持ちにはなれなかった。
……むしろ、このまま続けばいいと思ってしまった。
「オレも、素直のそういうところは好きだよ」
「ふぅぇ? わっ?」
「へへへ。お返しじゃねーの」
女の子と、男の声は続く。
――俺はなんだか二度と取り返せないものを見たような気がして、ただ無性に悲しかった。
.
136
:
名も無きAAのようです
:2013/08/18(日) 23:50:12 ID:fHkiEV2U0
部屋の空気が一瞬大きく揺らぎ、闇がまた一つ濃くなる。
クーが蝋燭を一つ消したのだろう。
……気づけば、あの声は声はもう聞こえなくなっていた。
( )「さて、続きをはじめようか」
百物語の蝋燭は、まだ残っている。
全ての蝋燭が消えた時、どんな闇が待つのか。
俺は、まだ知らない――。
.
137
:
名も無きAAのようです
:2013/08/18(日) 23:51:40 ID:fHkiEV2U0
('A`)百物語、のようです
御呪いの話 了
(
)
i フッ
|_|
.
138
:
名も無きAAのようです
:2013/08/18(日) 23:54:40 ID:x0Qwof120
乙
凄まじいな…
139
:
名も無きAAのようです
:2013/08/19(月) 00:00:26 ID:5JdCnUi60
やりきれない
おつ
140
:
名も無きAAのようです
:2013/08/19(月) 00:02:07 ID:klX6calo0
乙
141
:
名も無きAAのようです
:2013/08/19(月) 09:26:17 ID:QtCWhfSgO
なにを悔やめばいいやら…
乙でした
142
:
名も無きAAのようです
:2013/08/22(木) 14:19:04 ID:qJ2BVD1.0
途中までニヤニヤして読んでたのに・・・。
乙
143
:
名も無きAAのようです
:2014/08/16(土) 20:15:22 ID:p/orKOsg0
今年も百物語の季節がやってきた
というわけで、投下します
144
:
名も無きAAのようです
:2014/08/16(土) 20:21:04 ID:p/orKOsg0
――百物語は続いている。
ミルナの爺様の家を借りて、軽い気持ちではじめた百物語。
部屋は暗く、二間先に用意した蝋燭の光もほとんど届かない。
時計もろくに見えない闇の中では、どのくらいの時間がたっているのかもわからなかった。
( )「……次は僕の番かな」
暗闇の中で声が上がった。
言葉を切り出すタイミングをうかがっていたかのような声。
少しだけ高い声は、語尾が消えかかっている。
この声は、ショボン……だろうか?
.
145
:
名も無きAAのようです
:2014/08/16(土) 20:22:17 ID:p/orKOsg0
( ゚д゚ )「頼む」
誰が。いや、そもそも何人いるかさえもわからない部屋の中。
見えるものといったら、すぐそばにいるミルナの姿くらい。
俺には、同じ部屋にいるはずの声の持ち主すらわからない。
( )「そうだね……」
('A`)「どうした? 話が思いつかないのか?」
( )「そうじゃなくて……
これって体験談でもいいのかな?」
ショボンはためらうように沈黙した後、やっとそう口にした。
体験談。ショボンは幽霊か何かを見たことがあるとでもいうのだろうか?
本当に? 偶然そう見えただけじゃないのか?
( )「んー、何でもよかったんじゃないかお?」
川 )「私の話もほぼ体験談だったしな。問題ない」
ξ )ξ「クーのは体験談とは少し違うような……。
でも、ショボンの体験談にはちょっと興味あるわ」
( )「いいから、さっさと話してほしいんだからな」
.
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