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( ・∀・)モララーは隠居暮らしのようです。 双

1 ◆hCHNY2GnWQ:2012/07/12(木) 22:37:04 ID:w.OycBSI0
お久しぶりです。2年ほど放置してしまいました。すみません。
VIPはすぐ落ちるとのことなので、こちらをお借りさせていただきます。

今回は最終話一つ前の第7話です。遅かったくせにすみません。

ご存じない方は、下記URLを参考ください。

ブーン文丸新聞 様
第一部      ttp://boonbunmaru.web.fc2.com/rensai/retire/retire.htm
第二部完結編 ttp://boonbunmaru.web.fc2.com/rensai/retire2/retire2.htm

では、開始します。

69名も無きAAのようです:2012/07/28(土) 22:22:01 ID:htD3oa8.0
最終話来てたか
支援

70 ◆hCHNY2GnWQ:2012/07/28(土) 22:23:10 ID:VC0QHqzQ0
ロマネスクの発言の通り。
モララーは手加減していた。とはいえドクオの時のような、全力全開を求めているわけではない。
あれは、間違いなく敵を殺すための魔法だ。それを今から使え、と挑発しているとも違う。

使っている魔法が下級過ぎるのだ。
片手程度で使える弱い魔法で、ロマネスクを倒せるわけがない。
もちろん、先ほどから魔術師としてあるまじき身体能力は、魔法による効果だが……。

( ФωФ)「……何を笑っているのであるか?」

( ・∀・)「え?」

指摘されたモララーは、自らの口元に手を当ててみた。
頬が吊り上っている。なるほど、確かにこれは笑顔だ。
何故、無意識にそんな表情になってしまっているか。それは考えるまでもなく、気づいていた。

( ・∀・)「あなたと手合せ出来ることが、嬉しいんですよ」

( ФωФ)「え?」

( ・∀・)「ずっとずっと、僕の家族のように接してくれたロマネスクさんと……
      自分の大切なものを賭けて戦い、そして越えて見せる」

( ・∀・)「こんな嬉しいことがありますか?」

( ФωФ)「……お主も、大概であるな。戦いは嫌いなのかとばかり思っていたのである」

( ・∀・)「嫌いですよ。大嫌いです。けど、それは命のやり取りだからですよ。
      力比べをして、相手を打ち負かすことに関しては、僕は後ろめたさを持ってはいません」

( ФωФ)「お主らしい、答えであるな。なるほど。確かに、そう考えれば吾輩も心躍るのである。
       世界最強の魔術師を相手に手合せ出来ることは、騎士として誇りなのである」

( ・∀・)「わかりました。それでは、僕もそれに応えるとしましょう」

71 ◆hCHNY2GnWQ:2012/07/28(土) 22:25:54 ID:VC0QHqzQ0
( ФωФ)「うむ!」

( ・∀・)「いきますよ!」

モララーは手に持った剣を思い切り振りかぶり、横へ払う。
そこは紛れもなく虚空だったのだが、まるで金属が切り裂かれるような甲高い音が鳴った。

( ФωФ)「!?」

切り裂いた線を中心に、視界がズレた。
ロマネスクの捉えている景色は滅茶苦茶だった。モララーの下半身と上半身がかみ合っていないのだ。
その後ろの見える木々さえも、一致していない。

が、それを確認する前に黒騎士は気配に気づく。
目の前の不可解な現象より、もっと確実な存在感が背後にあった。

( ФωФ)「ふんっ!」

敵意と判断すると、大剣を使うより早く後ろに蹴りを入れる。
手ごたえはあった。しかし、有りすぎた。

(; ФωФ)「な!?」

蹴りは、後ろの気配の腹部を貫通し背中まで突出してしまっていた。
けれど、その気配はモララーではなかった。リアルだけれども、そうではない彼の煙による幻術。

モララー自身は、最初からずっと。景色を切り裂いた、まやかしの後ろに居たのだ。
そのまま距離を詰め、ロマネスクの懐に飛び込んでいた。

( ・∀・)「!」

剣を振りかぶるより早く、ロマネスクは体勢を再び整えていた。
蹴りこんだ足を、軸足にして大剣を上段に構えている。

72 ◆hCHNY2GnWQ:2012/07/28(土) 22:27:30 ID:VC0QHqzQ0
この距離では下手に回避すると危ない。
モララーは攻撃を変更し、そのまま肘を突き出した。

(; ФωФ)「ぐおっ!」

肘先を硬質化させ、簡易的な爆風魔法で急加速。
固い鎧ごと、ロマネスクは吹き飛ばされた。

そのまま追撃が来る。
雷の魔法がモララーの剣先から発せられた。
規模は大きくなくとも、電撃は体を痺れさせる効果もある。

しかし、騎士のロマネスクでは空中で回避の出来る術はない。

だが回避はせずとも、防ぐことはできた。
振り上げた大剣をそのまま地面に突き刺し、手を放す。

ロマネスクの眼前で、大剣が激しく稲光をあげた。
クルリと空中で身軽に回転をし、着地をすると捻転を利用したままロマネスクは走り出す。
大剣を加速中に、引き抜き一気に距離を詰める!

(# ФωФ)「はぁあああ!!」

今までと同じではいけない。どうせ距離を取られるだけだ。
ならばこそ。ロマネスクは刃圏外で大剣を振り下ろした。

( ・∀・)「うわっと!」

力任せに振り下ろした大地が弾け、モララーに襲い掛かる。
けれど、そんなもの意味がない。一瞬でそれらは砕け散り、モララーには届くことがなかった。

73 ◆hCHNY2GnWQ:2012/07/28(土) 22:30:01 ID:VC0QHqzQ0
が、その一瞬があれば充分であった。
ロマネスクはその一瞬で、一足飛びをしてモララーを攻撃範囲内に収めることが出来たのだ。

(# ФωФ)「うぉおおおお!!!」

( -∀・)「!」

ギィン、と高くも鈍い音が鳴った。
騎士による大剣の横薙ぎは、モララーが手に持っていた凡剣を叩き折ったのだ。
二人の間に、土と金属のかけらが舞っている。

一瞬の隙だと思った。
モララーはそれらに見とれていたと思った。

ロマネスクは最後のチャンスだと思い、手首のみで切っ先を返し再び斬撃を振るった。

……はずだった。

(; ФωФ)「な……に……?」

腕が動かなくなっていた。
いや、腕だけではない。足も首も手先も腰も。何もかもが動かない。
正しくは動かないのではない、抗えないのであった。

先ほど砕いた刃と土。
それが紐のような物へ変形し、まるで未知の物質になったかのようにロマネスクの全身を拘束していたのだ。

( ・∀・)「僕の勝ちでいいでしょうか?」

微動だに出来ないロマネスクの首元へ、モララーが人差し指をそっと当てた。

74 ◆hCHNY2GnWQ:2012/07/28(土) 22:33:39 ID:VC0QHqzQ0
(; ФωФ)「く……」

もう一度、破れないかと全力を込めた。
けど無駄だった。力が奪われていってしまうかのごとく、ピクリともしない。
魔術師らしい、細身の体がすぐ傍にあるのに……それには決して届かないのだ。

(; ФωФ)「……まったく、お主とはまともな勝負にならないのである」

ため息をつき、ロマネスクは悔しそうに笑いながら、降参した。


――――。

/ ,' 3「気は済んだかね」

( ФωФ)「はい。ありがとうございました。ご迷惑をかけてしまって申し訳ありません」

小屋に戻り、ロマネスクは礼と謝罪を述べた。
ただのわがままであることは、最初からわかっていたのだから。

/ ,' 3「ちなみにあえて聞くが、勝てたのかの?」

( ФωФ)「いえいえ。一太刀も入りませんでしたよ」

/ ,' 3「ほっほっほっ。相変わらず無敵じゃのモララー君は」

( ・∀・)「いえいえ。ロマネスクさんの身体能力には驚かされました。
      まさか、剣を折られるとは思ってなかったので」

(゚、゚トソン(本当にすぐ終わっちゃった……)

談笑している三人を見つつトソンはそう思う。
体感としては、来客二人が来てからの話よりずっと短かった。
見ただけで、かなりの腕前と思えるロマネスク相手に短時間で勝利するなんて……。

75 ◆hCHNY2GnWQ:2012/07/28(土) 22:36:14 ID:VC0QHqzQ0
( ・∀・)「ところで、この場合は処罰は如何様に?」

/ ,' 3「もちろん、無効じゃな。処刑失敗というところかの」

( ФωФ)「この令状も必要ないのである」

先ほどの紙を懐から取り出すロマネスク。
その手から何気なくスカルチノフが紙を奪うと、火の魔法を使って燃やしてしまった。

/ ,' 3「さて、満足したことじゃ。これで帰るとするかの」

( ФωФ)「えぇ。そうしましょう」

スカルチノフが離席しようとしたので、黒騎士は優しく椅子を下げる。
ゆっくりと国王は立ち上がると、モララーを見た。

/ ,' 3「モララー君。ワシは今日、大魔術師モララー=レンデセイバーを捜索しにきた」

( ・∀・)「!」

/ ,' 3「しかし、それも叶わず捜査は失敗。森の中を彷徨うだけでおわりじゃ」

/ ,' 3「もしかしたら、もう二度と会えないかもしれない。会うこともないかもしれない」

/ ,' 3「でも、それでもワシは……今日もどこかで、モララーという青年が世界の為に生きていると」

/ ,' 3「そう確信しておる」

( ・∀・)「……おじい様……」

と、うっかり昔の呼び方をしてしまったモララーが慌てて訂正をしようとした。

76 ◆hCHNY2GnWQ:2012/07/28(土) 22:39:48 ID:VC0QHqzQ0
/ ,' 3「ほっ? まだその呼び方をしてくれるのかね?
    すっかり忘れてしまったものかと思っておったんじゃが……」

( ・∀・)「忘れるわけがありませんよ。ただ、歳月が経っていたので……その……」

/ ,' 3「良いのじゃ。時が流れても、場所が離れていても。ワシはキミを家族と思っておる」

( ・∀・)「……はい」

/ ,' 3「寂しくなったら、いつでも来るがよいぞ」

スカルチノフは皺のついた手を伸ばしてモララーの頭を撫でる。

恥ずかしそうに、でも誇らしく青年はそれを受け入れた。


( ФωФ)「そうであった」

小屋を出て、転移魔法で王都まで送ると決めた時だった。

( ФωФ)「モララー殿。吾輩の息子のことである」

( ・∀・)「ブーン君ですか?」

( ФωФ)「うむ。あの子は本物の戦を知らない。
       強くなろうと一生懸命なのは良いが、まだ心が未熟なのである」

( ・∀・)「……そうでしょうか?」

( ФωФ)「これからも、ご指導ご鞭撻のほどをよろしくお願いします」

ぺこりと頭を下げたロマネスク。

スカルチノフにも再度お礼を言い、モララーは転移魔法を発動し二人の恩人を見送った。

77 ◆hCHNY2GnWQ:2012/07/28(土) 22:42:26 ID:VC0QHqzQ0
(゚、゚トソン「何だか、嵐のような方々でしたね」

( ・∀・)「そうだね」

時分は既に夕方だった。
伸びた草地が、さらさらと風でなびいていく。
日中の熱は既に沈静化を始めており、涼やかな風が体を打った。

(; ^ω^)「あ、あのー……」

( ・∀・)「おや、キミたち一体どこに居たんだい?」

小屋の影から、子ども達が出てきた。
何か割り込んではいけなさそうな空気だったので、ずっと自重して隠れていたのだ。

(´・ω・‘)「結構前からここに居たんですけどね」

ξ゚⊿゚)ξ「具体的に言うのならば、国王様がいらっしゃった辺りから」

(*゚∀゚)「いやービックリしたわ。ホライゾネル隊長も生で見たの初めてだったし!
      更にスカルチノフ国王だぜ? 焦ったわー!!」

( ^ω^)「……」

( ・∀・)「どうしたんだい?」

やっと普段通りの声で話せると興奮している子ども達の中で、ブーン一人だけしょんぼりしていた。

( ^ω^)「あの、父ちゃんとの戦いも見ていたんですお」

( ・∀・)「そうなんだ」

78 ◆hCHNY2GnWQ:2012/07/28(土) 22:45:32 ID:VC0QHqzQ0
(; ^ω^)「……なんというか、少しでも父ちゃんに近づいたと思ってたんですけど……
       思い上がりでしたお。全然雲の上でしたお」

( ・∀・)「……」

( ^ω^)「何だか、自分が恥ずかしいですお。勝手に知った気になっていたんですお。
       もっともっと修行して、強くなりたいと思ったんですお」

( ・∀・)「ブーン君」

( ^ω^)「はい?」

( ・∀・)「僕は、キミが未熟だなんて思っていないよ」

( ^ω^)「え?」

( -∀-)「あの戦いの中で、それだけの実力を見極められて、尚且つ意気消沈せずに
      更に高みを目指そうとしているキミが、未熟なんてことはない」

( ・∀・)「もっと自信を持っていいよ。キミは強いんだから」

(* ^ω^)「そ、そうですかお? モララーさんに褒められるなんて……とっても嬉しいですお!」

照れくさそうに笑う少年。
後ろで楽しげに話す少年少女。

本当は、教えられた僕自身だったんだ。

彼らと出会い、様々な出来事を経験することで……僕はおじい様やロマネスクさんと討論することができた。

もしも、大戦後何もなく独りで生きていたら……きっと今頃王都で偉そうに指図をしていることだろう。

79 ◆hCHNY2GnWQ:2012/07/28(土) 22:47:52 ID:VC0QHqzQ0
本当に、本当に。

キミたちと出会えて、良かった。

ありがとう。




――――。

時刻も時刻ということで、そろそろお開きとなった。
面倒事に巻き込んですまない、と謝ってからモララー達は子どもを見送った。

(゚、゚トソン「あの」

小屋に戻り、一息つこうと椅子に座った時だった。
トソンは立ったまま入り口のところでモララーに声をかけた。

(゚、゚トソン「……正直に聞いて良いですか?」

( ・∀・)「何でしょうか?」

(゚、゚トソン「ここで生活するより、王都で過ごされた方がずっと有意義だと思います」

( ・∀・)「そうだね」

(゚、゚トソン「経済力、権力。共に揃っているなら、無魔法野菜の栽培など一瞬で叶う夢ですよね」

( ・∀・)「かもね」

(゚、゚トソン「おかしいじゃないですか。何でも出来るのに、何でそれほどまで自己犠牲が出来るんですか!?」

80 ◆hCHNY2GnWQ:2012/07/28(土) 22:50:50 ID:VC0QHqzQ0
( -∀-)「……」

トソンの質問は、ずっと前から抱いていたものだった。
暗殺を企てたあの馬小屋での夜。その精神の崇高さに打ちひしがれ、彼女はモララーと生きていくと決めた。

けど、その根源は一体なんなのか。それがさっぱりわからない。

( ・∀・)「……そうだね。以前の僕なら、こう答えるよ」

( ・∀・)「それが僕の罪滅ぼしだから。権力など使わず、ただ一人の人間として世界に抗いたいから」

( ・∀・)「こんな感じだろうね」

(゚、゚トソン「……では、今は違うんですか?」

( ・∀・)「うん。違う。全然違うよ」

(゚、゚トソン「……それは?」

モララーは立ち上がり、そしてトソンの正面に立ち。

恥ずかしそうに、けれど真剣に。

言った。


( ・∀・)「キミと居たいから」

(゚、゚トソン「へ?」

( -∀-)「優雅に暮らすより、ここで気兼ねなくキミと過ごしたい。
      自分の心で決めた女性と、これからもずっと生きていきたい」

( ・∀・)「それが実現できないならば、僕は富も権力もいらない。だから、断ったんだ」

81 ◆hCHNY2GnWQ:2012/07/28(土) 22:53:33 ID:VC0QHqzQ0
(゚、゚*トソン「あ、え……と……」

( ・∀・)「……ダメかな?」

( 、 *トソン「…………ダメなわけがないです」

(* -∀-)「……良かった」


( ・∀・)

(゚、゚トソン

思わず安堵してしまい。ふと見詰め合う二人。

どちらかが何かを言い出すわけでもなく。でも、何か間の悪そうに。

じっと見つめあい。そして、少しずつ距離を詰めていき


息すらかかってしまいそうなほど近くに寄っていた。




( ・∀・) (゚、゚トソン






ガチャ (*゚∀゚)「ちょいとゴメンなー! 忘れもん取りにきたz」

82 ◆hCHNY2GnWQ:2012/07/28(土) 22:56:16 ID:VC0QHqzQ0



( ・∀・)(゚、゚トソン





( ・∀・ )( ゚、゚トソン





(*゚∀゚)




(*゚∀゚*)

83 ◆hCHNY2GnWQ:2012/07/28(土) 22:59:12 ID:VC0QHqzQ0
(゚∀゚*)「みんなぁあああ!!! モララー兄ちゃんとトソン姉ちゃんがチューしてっぞぉおおおお!!!」



(* ^ω^)「な、なんだってーーー!!!??」

ξ*゚⊿゚)ξ「ちょ、まだ夜には早いわよ!?」

(*´・ω・‘)「き、キミたち! あ、あわわ慌て過ぎでしょ? 何をどどど動揺してんだい?」


(* ・∀・)「ちょ、ちょっとちょっと! な、何で? え?」

(*゚∀゚)「や、だから忘れ物取りにきたんだって」

(* ^ω^)「いやー。しかし遂にですかお。待ち焦がれましたお。
      二人とも何かそういうの鈍チンだから、心配してたんですお」

ξ゚⊿゚)ξ「ま、あんたも大概だけどね」

( ^ω^)「? どういうことだお」

ξ-⊿-)ξ「そういうことよ」

(´・ω・‘)「ともあれ、お邪魔してすみませんでした」

( 、 *トソン「いえ……まぁ……」

(*゚∀゚)「で? 結局二人はどういう関係になったわけ?」

( ・∀・)「そういう関係だよ」

( ^ω^)「おー。マジですかお!」

ξ゚⊿゚)ξ「トソンさんも、もちろんそれでいいんですよね?」

(゚、゚*トソン「……うん」

84 ◆hCHNY2GnWQ:2012/07/28(土) 23:01:32 ID:VC0QHqzQ0
(´・ω・‘)「尚更、ボク達はお邪魔みたいだね。さっさと帰ろうか」

用事を済ませ、今度こそとモララーはしっかり転移魔法を使って子どもたちを家に送った。

(゚、゚トソン「……」

( ・∀・)「トソンさん」

(゚、゚トソン「はい」

( ・∀・)「僕は、世界中を救うなんて力は持ってない」

( ・∀・)「でも、それでも。僕はこの目に見える小さな幸せだけは。何があっても守っていくよ」

( ・∀・)「だから、これからも一緒に居てくれるかな?」

(゚、゚*トソン「……勿論ですよ。私も、そうしたいです。」

(* ・∀・)「じゃ、改めて。不束ものですが今後とも、よろしくね」

(^、^*トソン「はい! こちらこそ!」


扉を閉じ、二人はぼんやりと明かりの灯った小屋へと入っていった。

85 ◆hCHNY2GnWQ:2012/07/28(土) 23:02:45 ID:VC0QHqzQ0
それから



世界最強の魔術師モララー=レンデセイバーは



小さな幸せを生涯、守り続けていったそうだ。




その人里離れた山奥の小屋では



双つの肩が、いつも楽しげに寄り添っていたという。










( ・∀・)モララーは隠居暮らしのようです。 双


              完

86 ◆hCHNY2GnWQ:2012/07/28(土) 23:05:14 ID:VC0QHqzQ0
というわけでおしまいです。
完結まで長々とかかってしまいすみませんでした。

前回はまだ続けられるかと思いましたが、今回は本当に完結です。続きはないです。

お付き合い頂いた方々に厚く御礼申し上げます。


連載中のall for〜の方も出来るだけ早く投稿していきたいと思います。

87名も無きAAのようです:2012/07/28(土) 23:18:02 ID:htD3oa8.0
乙乙
続きが読めるとは思ってなかったんで、復活は嬉しかったよ
お疲れさんす

88名も無きAAのようです:2012/07/28(土) 23:31:26 ID:Ky/Fncb60

モララーさん流石やでぇ

89名も無きAAのようです:2012/07/29(日) 00:29:55 ID:4vBKmxtI0
乙です

90名も無きAAのようです:2012/07/29(日) 01:22:39 ID:rF.ASPZ60

ロマネスクって聖騎士じゃなかったっけ

91 ◆hCHNY2GnWQ:2012/07/29(日) 01:36:39 ID:V4WD5D5w0
……あ、本当ですね
致命的すぎる。全部書き直したいレベル!!

脳内保管でオネシャス! 黒騎士の部分は聖騎士で!!

92 ◆hCHNY2GnWQ:2012/07/29(日) 01:51:30 ID:V4WD5D5w0
作者が全て勘違いしてるなんて恥ずかしいですな。

鎧も黒で統一させてるってことは、完璧にやっちまってます。

それらの記述だけ、再度書き直したい。悔しい。というか情けない!!

93名も無きAAのようです:2012/07/29(日) 03:07:48 ID:AQhY5JyMO
作者が復帰してから読みはじめたので 
他の方とは違い自分のなかでは起承転結すぐだった 
(゚、゚トソンのメインもしくはヒロインのやつはうるうるさせるね

94名も無きAAのようです:2012/07/29(日) 06:13:35 ID:a39CYh3.O
乙乙
楽しかった

95名も無きAAのようです:2012/07/29(日) 08:48:01 ID:Ed/V319MO
最初から最後まで楽しく読めたよ!
何より完結させてくれたことが本当に嬉しい
乙でした

96名も無きAAのようです:2012/07/29(日) 08:57:22 ID:yuv0NXOQ0
乙!乙乙!

97 ◆hCHNY2GnWQ:2012/07/29(日) 09:32:07 ID:V4WD5D5w0
/ ,' 3「久方ぶりじゃのう、モララーくん」

枯れた喉から発されたのは、柔らかくも気高さを感じさせる言葉。
懐旧のこもったその言葉にはどこか優しさも覚える。

(; ・∀・)「何故……こちらが……?」

/ ,' 3「まぁ、それは追々話すとしよう。立ち話もなんじゃ、キミさえよければ上がらせて頂きたいのじゃが」

ドアノブを手にしたまま、半身になってモララーは対応していた。
その余りの不敬さに、モララーは自分を恥じると同時に謝罪の言葉を紡ぐ。

(; ・∀・)「し、失礼しました。どうぞ、何分窮屈な場所でございますが……」

/ ,' 3「そこまでかしこまらなくて結構じゃよ。
    ワシはキミに、国王と匹敵するほどの位、大魔術師の称号を捧げたつもりじゃ。
    昔のように、盟友(とも)として接してくれればよいぞ」

ほっほっほっ、とスカルチノフ国王は、嫌味さを感じさせない笑いでモララーを許した。
いや、元より不敬などとは、彼は思ってもいない。
立場上、その厳しさを見せることはあれ、平時の彼は王ではなく一人の老人なのだ。

( ・∀・)「……ありがとうございます。では、改めて。いらっしゃいませ」

/ ,' 3「うむ。お、そうじゃ。ロマネスクくん、キミも入りなさい」

( ФωФ)「ハッ!」

キレのある返事と共に、扉の影からヌッと大男が出てきた。
聖騎士に与えられる、金の装飾が入った白銀の全身鎧を着こんでいる。背にはVIP大陸の紋章が刻まれたマントも着用していた。
背中には身の丈ほどもある大剣を携えた彼は、有事のロマネスク・ホライゾネルに他ならない。

98名も無きAAのようです:2012/07/31(火) 19:08:38 ID:0ATSMtLAO
結局電撃の選考どうなったんだ?

99 ◆hCHNY2GnWQ:2012/07/31(火) 19:34:23 ID:NvoWlxrU0
>>98
結局、落ちました。でも講評をもらえたので嬉しかったです。
ストーリーはつまらんけど、キャラクターが活き活きしてるね、と何ともいえない評価でした。

プロの道は険しいです。

100名も無きAAのようです:2012/08/01(水) 00:58:01 ID:WjAIrc2w0
何次まで進んだの?

101 ◆hCHNY2GnWQ:2012/08/02(木) 16:20:24 ID:OLgq5H/U0
ブログの方再開したので、そちらで色々と報告してます。
よろしければ、ご覧ください。

102名も無きAAのようです:2012/08/04(土) 23:21:51 ID:g0oCRYUUO
面白かった 乙


ブーンの美肌の秘訣は?

103名も無きAAのようです:2012/08/05(日) 03:18:25 ID:XA0OCOCwO
うわああああああまさか帰ってくるとは思わんかったああああああああああ
超面白かったよおおおおおおモララー末永く爆発しろおおおおおおおおおおおおお乙うううう

104 ◆hCHNY2GnWQ:2012/08/05(日) 13:04:12 ID:eHES3fEs0
>>102
モララーさんの新鮮なお野菜パワーですね。

思っていたより、待っていたよーという意見が多くてびっくりしてます。
逃亡だけは、ダメ、絶対と改めて思いました。ご愛読ありがとうございました。

105名も無きAAのようです:2014/10/23(木) 02:27:49 ID:q1I7r/b20
おつ

106名も無きAAのようです:2020/11/14(土) 20:46:59 ID:aUR6lmzc0
こんばんは。

作者です。トリップをうっかり喪失してしまったのですが本人です。

少しアイデアが浮かんだので、今から番外編を投下します。
8年ぶりなので、色々つたない部分ありますが読んでいただけると幸いです。

それでは、始めます。

107名も無きAAのようです:2020/11/14(土) 20:47:54 ID:aUR6lmzc0
(;・∀・)「本当に大丈夫?」

(゚、゚トソン「大丈夫ですって。何度も言っているじゃないですか」

(;-∀-)「でも、もしも本当にそうだったら……。」

ε=(゚、゚トソン「もう。なんで当事者の私より、モララーさんの方が心配してるんですか」

(:・∀・)「と、言われても……。僕だって医者じゃないし」

(-、-トソン「……わかりました。では、明日。ちゃんと病院へ行きます」

(゚、゚トソン「だから、ちゃんと。安全に連れて行ってください。ね?」

(;・∀・)「う、うん。わかったよ」






番外編「三日月の涙」  前編

108名も無きAAのようです:2020/11/14(土) 20:48:44 ID:aUR6lmzc0
( ・∀・)「……」

白い雪。

室温との差で曇った硝子越しに、モララーは外を眺める。
手にはマグカップが握られているが、熱さは既にない。

しんしんと降り積もる氷の結晶群を、ぼんやりと見つめていた。

(゚、゚トソン「……まだでしょうかねぇ」

キッチンの前に椅子を置いて、同じく座っているトソンがぽつりと呟く。
彼女の持つ、陶器の湯飲みもすっかり冷めてしまっていた。

時計のない部屋。秒針を刻む規則的な音すらも聞こえない。


暖炉からときおり薪が爆ぜて、一瞬だけ空間をよぎる。

それ以外のものは、なにもない。

二人の呼吸どころか、心臓の鼓動すら聞こえそうな静寂。



( ・∀・)「……来た」

遠くで微力な波動を察知したモララーが、小さく言う。

(゚、゚;トソン「は、はい!」

それを合図に、トソンはパタパタと準備を始める。
モララーもその手伝いをするため、腰を上げた。

109名も無きAAのようです:2020/11/14(土) 20:50:01 ID:aUR6lmzc0
…………数分後。

満足の出来る状態に仕上がった二人が、顔を見合わせたと同時だった。


(*^ω^)「モララーさん! 僕、やりましたおーー!!」

元気よく、ノックもせず、百点の笑顔で。

ブーン=ホライゾネルが、隠居小屋へと入ってきた。
手には、丸められた紙を持っている。

( ・∀・)「やあ、いらっしゃい。ブーン君」

(゚、゚トソン「いらっしゃい。あらあら、ほっぺに雪ついてるよ」

無作法な少年を二人はにこやかな顔で、迎え入れた。
礼儀なんてどうだっていい。
それぐらい、今日は彼にとって嬉しい日なのだから。

ξ#゚⊿゚)ξ「もう! 一人で勝手に行くな、って言ったじゃないの!」

(´・ω・`)「まあまあ。今更、そんなこと無駄でしょ」

(*゚∀゚)「おーす、モララー兄ちゃん、トソン姉ちゃん。お邪魔しまーす!」

ブーンの後に、遅れてやってきた少年少女。

名門と言われるVIP国立闘技学校の制服の上に、厚手のコートを着ているのが二人。
ごく一般の学校制服の少女が一人。

ξ゚⊿゚)ξ「とと。お邪魔します」

礼を欠いたのに気づき、慌てて名門校の少女が頭を下げる。

長いまつ毛、すっと通った鼻に、薄い唇。
寒さでやや紅色になった頬は、本来は透き通るぐらい白い。
眉目秀麗な彼女の名は、ツン=デ=ジェレイト。

細く繊細な手には、ブーンと同じ巻紙が握られていた。

110名も無きAAのようです:2020/11/14(土) 20:51:09 ID:aUR6lmzc0
(´・ω・`)「こんにちは、お邪魔します」

パチンと指を鳴らして、部屋に入ってきた下眉の少年はショボン=ノーファルだ。
体に降りかかる雪を、自動で防ぐ風魔法を解いたのだろう。
室内の温度を確認すると、静かにコートを脱ぎ始めている。

(*゚∀゚)「見てみー! オレも無事、ゲットできたぜ!」

他の三人より、体格も服装もやや劣る少女。
ツー=チェイルは、モララーにとって初めての下界での友人だ。
人体に害の少ないが、コストがかかる無魔法野菜を率先して斡旋してくれた
最初の商売仲間でもある。

まだあどけなさが残るが、彼女もこれはこれで立派な一人前なのである。
その証である、とある巻き紙を見せびらかしてきたのだ。


( ・∀・)「それは良かった。勉強の成果、出せたんだね」

(*゚∀゚)「なーに言ってんだよ! 兄ちゃんや、みんなが教えてくれたからだろ?」

(゚、゚トソン「お店番やりながらこっちにも来てるんだもの。そんな中で、ちゃんと出来たのはとっても偉いよ」

(*-∀゚)「へへっ、ありがとな。トソン姉ちゃん!」

( ・∀・)「……聞くまでもないとは思うけど。全員……かな?」

ツンは頷き、ショボンもコートから紙を取り出す。
問題ないみたいだ。

111名も無きAAのようです:2020/11/14(土) 20:52:23 ID:aUR6lmzc0
――――では。

( ・∀・)「みんな、卒業に試験の合格、おめでとう!」

(゚、゚トソン「おめでとー」

トソンが手に持っていた三角錐の筒を弾く。
中に込められた、微小な魔法が発動し、破裂した。

お祝い用の色とりどりの細長い紙は、机の上の御馳走に被らないよう、放射線を描いて落ちていく。


そう、今日は少年少女らにとって大切な日なのだ。
一般学校のツーは卒業の日。
名門校のブーン達は、それに加えて傭兵テストの合格発表日。


両親への報告も軽々に済ませ、彼らはどうしても報告したい恩人の下へ駆け込んだわけである。


お祝いの言葉をもらうと、各々が料理に手を出し、甘い飲み物を口にしていく。
場も温まってきたところで、徐にブーンが立ち上がると、モララーの前で止まった。

( ^ω^)「ふふん! 見てくださいお! 僕、なんと……五位で合格ですお!」

手に持っていた用紙……傭兵テストの合格通知書をブーンは広げる。
消して色あせない魔法のインクで書かれた文章の最後に、彼の名と
彼が、今年の傭兵テスト騎士コースのトップクラスである証の押印がされていた。

( ・∀・)「それはそれは。ロマネスクさんも喜ぶだろうなぁ」

(* ^ω^)「へっへっへー」

112名も無きAAのようです:2020/11/14(土) 20:53:38 ID:aUR6lmzc0
嬉しそうに照れながら、鼻の下をブーンがこする。

と、その横から被さるようにしてショボンが出てきた。
手にした証書は、ブーンの持っているものとほぼ同じ。

文言が、魔術師コースとなっているだけだ。

つまり。

(´・ω・`)「僕は三位でしたよ」

( ・∀・)「ショボン君も、よく頑張ったね。ノーファル家は安泰だ。」

(゚、゚トソン「はー……。知ってはいたけど、みんな優秀なんだねぇ……」

別段成績の良くなかったトソンが、感嘆の声を漏らす。

そんな自慢気な二人をよそに、机に肘を置いて不満そうな人物一人。

(*゚∀゚)「お? そーいや、ツンはどうだったんだ?」

至極平凡な成績の卒業証書を、胸ポケットにしまいこんでいるツーが
ごちそうの肉料理をフォークに刺しながら問う。

ξ#-⊿-)ξ「聞かないでよ、ツーちゃん」

(*゚∀゚)「なんでだ? ツンも結構すげぇって聞いてるけど?」

ξ#゚⊿゚)ξ「そうだけど!」

( ^ω^)(……否定しないのがツンらしいお)

113名も無きAAのようです:2020/11/14(土) 20:54:33 ID:aUR6lmzc0
(゚、゚トソン「成績は順位が出てるんだよね? 何位だったの?」

優しくトソンが尋ねると、ツンは嫌そうな顔をして証書を見せた。
そこには、『五位』の意味と取れる内容が書かれていたのだ。

(*゚∀゚)「おぉ、五番? すげーじゃん!」

ξ-⊿-)ξ=3「私は一位合格するつもりで、これまで頑張ってきたのよ。
       結果がこれじゃ、納得いかないわ」

(´・ω・`)「実技試験では負けてたんだけどね。筆記試験の方での差が大きくて
      それで、ボクの方が勝ってただけさ」

ξ#゚⊿゚)ξ「わざわざ解説しないでよ! 大体、その筆記試験でも
      最後の大問の計算ミスなだけじゃない!」

(´・ω・`)「そのミスが、こうして結果として出ているんだから
      仕方ないだろう?」

ξ#゚⊿゚)ξ「ムキー! もう一回やったら、絶対私が勝つんだから!」

(´-ω-`)「試験も実戦も同じだよ。次はないもんさ」

ξ#゚⊿゚)ξm9て「部隊に入ったら、絶対遅れはとらないからね!
        今のうち、せいぜい優越感に浸ってるといいわ!」

(´・ω・`)「ははは。受けて立つよ」

( ^ω^)「おっおっww 二人とも、元気だおねぇ」

114名も無きAAのようです:2020/11/14(土) 20:55:57 ID:aUR6lmzc0
なんてことない、いつものやり取り。
同じコースで、同じくらいの実力者の二人。
よくいがみあって、勝負をけしかけ、モララーに困惑されながらも審判を求める。

二人を、ブーンは穏やかに、ツーが能天気に見つめる。
楽しそうで、優しい。そんな子供たちが好きなトソンは、傍らでほほ笑む。



――いつもと、なにも変わらない風景。




(*゚∀゚)「そっかー。三人とも、春から傭兵部隊だもんなー」



柔らかくて温かい空気が、屋外の温度まで下がったような気がした。

悪気のない、当たり前に出てきた言葉。

それは……ある一つの事実を指し示すことになるから。






(゚、゚トソン「……ということは、もう今まで見たいには遊びに来れなくなっちゃうね」

115名も無きAAのようです:2020/11/14(土) 20:57:16 ID:aUR6lmzc0

固まった空気を、トソンは少しだけ間をおいてから切り裂いた。
最初からわかっていたように、諦めを含めた物言い。

( ^ω^)「……」

(´・ω・`)「……」

ξ゚⊿゚)ξ「……」

(*゚∀゚)「あ、勿論オレはそのまま家を継ぐから、いつも通りだぜ!」

( -∀-)「そうだね。これからも、ご贔屓にさせてもらうよ」

淹れなおしたアージンのカップを、机に置きながら言う。

( ・∀・)「……」

そして三人を一瞥した。

優秀な彼らだ。
これから部隊に入り、国を守る仕事を始めれば忙しくなるだろう。


……何か。


何かしてあげられないだろうか。

116名も無きAAのようです:2020/11/14(土) 20:58:48 ID:aUR6lmzc0
地位や名誉の問題じゃない。


この世界に生きている、一人の大人として何か。


少しでも、彼らにしてあげられることは……。


( ・∀・)「……!」

閃きと同時に、拳を掌に軽く叩きつける。

音に気付いた子供たちが、視線をモララーへ集めた。
それを確認すると、いつものような優しい笑顔で、彼は言う。

( ・∀・)「記念に、旅行でも行こうか」


(;´・ω・`)「……え?」


ξ;゚⊿゚)ξ「りょ……」


(* ^ω^)(*゚∀゚)「旅行------!!??」

117名も無きAAのようです:2020/11/14(土) 21:00:16 ID:aUR6lmzc0
――――――。



大きな雲が、色の濃い青空を泳いでいる。
なだらかではない、積み重なることで生成される入道雲。

輪郭をくっきりと浮かび上がらせる強い日差し。
それは、朱炎の太陽。色濃く枝葉の影を作る、強烈な光を生成している。


耳に届くのは、波の音。

引いては寄せる、浅葱色の水。
陸地付近は透明で、砂の奥には貝殻や石が輝くように反射してまるで宝石のよう。


街では感じられない、べたつく風。
潮の香りを乗せる気流が、乾いた砂を巻き上げていく。


VIP大陸において、今の季節は冬真っ盛りだ。
モララーの住む山奥でなくても、雪は積り、息は白く、手先は赤ばみ、体は震える。




だが、今。
少年少女の眼前に広がっているのは、真逆……『夏』だったのだ。

118名も無きAAのようです:2020/11/14(土) 21:01:14 ID:aUR6lmzc0
(*゚∀゚)(* ^ω^)「海だーーーーー!!!」


にぎやかし担当の二人は、さっそくエメラルドグリーンの海水へと飛び込んでいく。
耐水性能のある生地で編まれた、簡素な下着のような格好のままで、である。

(* ^ω^)「ぷえー! ホントにしょっぱいお!」

(*゚∀゚)「うぉおお!? すげえ、めっちゃ泳ぎやすい! 浮かぶ! 浮かぶぞ、ブーン!」

ξ゚⊿゚)ξ「あんた達、準備体操くらいしたら? 足攣っても知らないわよ」

どうせ言っても聞かないだろうが、という含みをこめてツンが、浮き輪を片手に声をかける。

彼女はセパレートタイプのフリル付きの水着を着用していた。
夏の日差しに照らされると、その白い肌がより一層まぶしく見える。

( ^ω^)「だいじょーぶだお! ツンも早く来るおー!!」

(*゚∀゚)「来ねえなら無理やりでも行くぞオラーー!!」

ξ;゚⊿゚)ξ「きゃっ!? ちょっと、ツーちゃんやめ……キャーー!!」

無理やりツーに手を引かれ、ツンが崩れるように海に飛び込む。
自慢のツインテールをびしょ濡れにしながら、怒りつつも笑顔で反撃した。

ξ*゚⊿゚)ξ「こんのー! くらいなさい!!」

ツンが手に魔力を込めて、波を操った。
騎士の二人には絶対作り出せない形の水を、二人にぶつける。

119名も無きAAのようです:2020/11/14(土) 21:01:57 ID:aUR6lmzc0

……はずだった。

それは果たされることもなく、普通に手の平で弾いただけの水量が
ツーの体に小さく降りかかる。

ξ゚⊿゚)ξ「あら?」

(´・ω・`)「モララーさんが言っていたじゃないか。ここは魔法が極端に制限される、って」

遅れて輪に入ってきたショボンは、フード付きの薄手なトップスと、丈の長い水着を下に履いていた。
魔法繊維で編まれた、薄いけれど突起物には絶大な防御を誇る最新のサンダルも身に着けている。

右手には、南国を連想させる編みこみのレザーブレスレットが踊っていた。

ξ゚⊿゚)ξ「確かに、普段よりちょっと身体が重い気もするわね」

(´・ω・`)「それは単なる運動不足じゃないかな」

ξ#゚⊿゚)ξ「なんですって?」

(´・ω・`)「魔術師だからって、日常的に魔法に頼ってるからそうなるんだよ。
      僕はいつも、どんな状況でも冷静さを失わないように心がけてるから」



∀゚)ω^)(´・ω・`)「キミと違って、肉体的鍛錬もやってるんだよ」



*゚∀゚)^ω^)(´-ω・`)=3「やれやれ、ちょっと力が抑えられたぐらいで違和感があるようじゃ、ツンもまだまだ……」

120名も無きAAのようです:2020/11/14(土) 21:02:51 ID:aUR6lmzc0






(*゚∀゚)( ^ω^)(´・ω・`)「…………ん?」





.

121名も無きAAのようです:2020/11/14(土) 21:03:45 ID:aUR6lmzc0


(*゚∀゚)( ^ω^)(´・ω・` )彡




(*゚∀゚)( ^ω^)(´・ω・` )




(*゚∀゚)(* ^ω^)「「つべこべ言わず、遊べ(お)----!!!」



(;´・ω・`)「うわぁああ!!!」



二人に抱えられて海に投げ込まれるショボン。

今日一番の大しぶきが、夏の空へ舞い上がった。





( -∀-)「うん。みんな楽しそうで何よりだ」

122名も無きAAのようです:2020/11/14(土) 21:04:30 ID:aUR6lmzc0
腕を組み、嬉しそうにモララーは少年たちを眺める。
簡素な薄手のシャツと短めのズボン。藁で出来た草履の、避暑地スタイルだ。

(゚、゚トソン「ええ、ホント。来てよかったですね」

横に並び立つのは、眉目秀麗なモララーに負けじ劣らず美しい女性。

幅広な麦わら帽子と、ゆったりとした真っ白なワンピース。
農作業のせいでやや焼けた肌が、衣服とのコントラストになっており
一層、その可憐さを際立たせている。

( -∀-)「……トソンさん、体調はどう?」

(゚、゚トソン「今のところは問題ないですよ。ご心配ありがとうございます」

( -∀-)「それなら良かった」

(゚、゚トソン「……?」

(゚、゚;トソン「モララーさん?」

( -∀-)「ん? どうしたの?」

(゚、゚;トソン「いえ、どうして目を瞑ったままなのかな、と……」

123名も無きAAのようです:2020/11/14(土) 21:05:35 ID:aUR6lmzc0
ξ゚⊿゚)ξ「わかる? ブーン。あれが、今更になって突然押し寄せた美貌に照れてる男の人の姿よ」

( ^ω^)「ええっ? まさか、長く一緒に住んでるのにも関わらず、あまりの美しさで直視できないってことかお?」

(´・ω・`)「意外とウブなとこあるんですね、モララーさん」

(*゚∀゚)「アッヒャッヒャ! やっぱりおもしれーな、兄ちゃんは!」

突如湧いて出てきた子供たちに、心情を完全に見据えられたモララーは
慌てつつも、笑顔で答える。


(* ・∀・)「こらこら、大人をからかうんじゃないよ。まったく……」


(^、^*トソン「……ふふ。本当に、来てよかったですね」

そう笑顔で言ってくれるパートナーを見て、モララーも全く同じことを思っていた。





( ^ω^)「しかしモララーさん。『三日月の涙』を見せてくれるって、本当ですかお?」

少し遊んだ後の休憩時間。
ブーンは濡れた身体を拭きながらモララーに尋ねた。

( ・∀・)「うん、本当だよ。今日は無理だけど、予定通りなら明日の夜かな」

124名も無きAAのようです:2020/11/14(土) 21:07:59 ID:aUR6lmzc0
ξ゚⊿゚)ξ「三日月の涙……って、聞いたことはあるけど」

(´・ω・`)「黄金の光を放つ、美しい宝石のことですよね?」

ξ゚⊿゚)ξ「見た人は、永遠に幸せになれるとか言われてるわね」

(*゚∀゚)「ほー。でも、宝石ならなんで明日じゃないとダメなんだ?
     今からでもいいんじゃね?」

( ・∀・)「まあ、それは楽しみにしておいてよ。せっかくのバカンスなんだから。
      特にそれ以外予定もないし、とにかく遊んでおいで」


( ^ω^)ξ゚⊿゚)ξ(´・ω・`)(*゚∀゚)「「「「はーーい!」」」


無邪気に駆け出す子どもたちの背中を、目を細めながらモララーは見送った。








――さて。そんな彼らが居る場所は一体どこなのか、という話であるが。


VIP大陸ともラウンジ大陸とも言えない、南に位置する小さな島。
名もなきその場所を、誰かが「レハコーナ島」と呼んだらしく。いつの間にか定着していた。

125名も無きAAのようです:2020/11/14(土) 21:09:06 ID:aUR6lmzc0
そこは何もない、ただの無人島。
領土の権利をどちらの大陸も持たないが、不可侵の条約が結ばれているので
住人は存在しない。

船で向かうには遠く、魔法を使うにしてもレハコーナ島の一帯は魔力を消す石が
海底に細かくちりばめられており、無効化されてしまう。


そもそも、たどり着くことすら困難な場所。


人の手が行き届いていないこともあり、自生している植物は活き活きとし
風は魔力もなく澄んでおり、海水も数メートル先の底まで目視できるほど美しい。

秘境と呼ぶにふさわしい名所なわけだ。

(゚、゚トソン「しかし、名前だけなら私も聞いたことありますが。
     まさか本当に存在していたとは……。」

( ・∀・)「冬の間は農作業しないから時間が余ることが多くてね。噂は実在するのかどうか
      確かめたくなってさ。数年前に偶然見つけた時は、僕も信じられなかったよ」

木陰のハンモックに腰を下ろしながら、モララーはさらりと言う。

(゚、゚トソン「そういえば、魔法が使えないって聞きましたけど。
     モララーさんは大丈夫なんですか?」

( ・∀・)「ああ。使えないっていうのは正しい表現じゃなくてね。
      結局、ここはスペルキャンセラーを自発的に出す鉱石が影響しているだけだから。
      僕は問題ないよ」

(゚、゚トソン「……まあ、そうなんでしょうね」

トソンは後ろを振り向く。

126名も無きAAのようです:2020/11/14(土) 21:10:29 ID:aUR6lmzc0

そこには、無人島には似つかわしくない、見覚えのある木製の扉があった。
後ろ側には何もない。ただのドア。

しかし、一度ノブを捻り開けると

目の前に見えるのは、知っている場所。

小さなキッチン、四つの椅子と一つのテーブル。二階へ上がるための曲がった階段。
窓から差し込む光は弱く、今日も固くなるほど積もりそうな雪が降っている。

(゚、゚トソン(家の戸を、魔法で空間ごと繋げるなんて……)

スペルキャンセラーが効かないという、モララーの魔力の強大さを改めて実感する。
と、同時にトソンの脳裏には違うことが思い浮かんでいた。

(-、-トソン(過保護というか、なんというか……)

( 、 *トソン(……そういうところが『らしい』……けど)

遠くの子供たちを見つめるモララーの優しい視線。
トソンも同じくらい、その横顔を優しく、熱っぽく見つめていた。





――――。


(;^ω^)「獲れたおーー!!」

海水から勢いよくブーンが浮かび上がる。
右手に持った銛の先には、3匹もの魚が突き刺さっていた。

127名も無きAAのようです:2020/11/14(土) 21:11:41 ID:aUR6lmzc0
(´・ω・`)「これはロックスナッパー、食べると死ぬ。
      そっちは、ベルツリー。高級魚だね。
      先っぽの奴は、ゴブリントゲカサゴ。ヒレに毒があるから注意して」

(:^ω^)「ほえー。ショボン君、よくわかるおね」

頭を振りながら水しぶきを払うブーン。
ショボンは感心する彼に、半ば呆れたように返す。

(´・ω・`)「敵地の情報を、先に仕入れておくのは常識だろう」

右手のひらを差し出し、空中に映像を浮かび上がらせた。

魔法アイテムの類は、起動用に微弱でも感知できれば、効果の出るものも存在する。
彼が身に着けていたブレスレットは、辞書の役割を果たすものだ。

内地に住む彼らにとって、海は未知な物が多い。
それを見越して、海洋生物をすぐさま検索できるよう辞典を仕込んでおいたわけだ。

( ^ω^)「それじゃ、いったん戻ろうかおね!」

(´・ω・`)「あっちも終わってるといいけど」


二人は、人数分よりやや多いくらいの収穫物を背に、島の内部へと歩き出した。

レハコーナ島は、周囲をぐるりと遠浅の海岸で包まれた孤島。
中心へ向かうほど、なだらかに勾配が増していく森林が生い茂っている。

ツンとツーは、森林地帯で山菜類を採取しているらしい。


せっかくの旅行だが、拠点がいつもの隠居小屋では少々手狭。
しかし、歓楽地でもないので設備も乏しい。

128名も無きAAのようです:2020/11/14(土) 21:12:52 ID:aUR6lmzc0
場所はあるのに、都合が悪いこの立地。
一体どうするのか、と皆が思ったことだろう。

そこで、モララーは彼らにこう告げた。


( ・∀・)「家は用意しておくから、食料をとっておいで。鍛錬にもなるだろうし」


と、軽い笑顔で見送ったのだ。




( ^ω^)「しかし、用意するって……家って言ってたおね?」

(´・ω・`)「うん、言ってた」

( ^ω^)「あまりにサラッと言うから、普通に聞き流してたけど……」

(´・ω・`)「……まあ、モララーさんのことだし」


そして二人は、あらかじめ言われていた場所へ到着する。



さっきまで、自然一杯だった地帯に、立派な木製のコテージが聳え立っていた。


( ^ω^)(´・ω・`)「「ほーらね」」


それなりに長い時間と、事前知識があれば、いい加減理解する。

モララーのすることは、規格外なのだと。

ありえない現実が目の前にあろうと、二人が口を揃えて出した言葉で全て解決するのだ。

129名も無きAAのようです:2020/11/14(土) 21:14:24 ID:aUR6lmzc0
(゚、゚トソン「ああ、おかえりなさい。二人とも、もう帰ってきてるよ」

( ^ω^)「はーいですお」


一歩、コテージの中へ入ると体中を風が突き抜けた。
乾いた肌は、涼やかな匂いを発している、

( ^ω^)「お?」

(゚、゚トソン「入る際に、体を洗ってくれる魔法みたいだよ」

(´・ω・`)「……凄い。風だけのように思えるけど、これは多重魔法だ。
      体表についた水分に、石鹸類を混ぜ込んだ風を噴出。
      泡立てることなく殺菌を済ませた後、更に人肌程度の温風で乾燥させている。
      単純なようだけど、自動発動型にここまで仕込むなんて……」

( ^ω^)「……。」

ブツブツと冷静に状況を推理するショボンを置いて、ブーンは部屋の中へ入っていく。

ξ゚⊿゚)ξ「おかえりなさい、どうだった?」

広々とした居間の奥に、大きなキッチンが設置されている。

コックを捻れば自動で清流が出てくる流し台。
ボタンを一つ押すだけで、絶妙な火加減が扱える調理場。

何の金属かもわからない光沢を放つ、包丁の切れ味も抜群で
それらを受ける鍋は、本来ならば二時間かかる煮込み料理すら
十数分で終える機能を持っているらしい。

ちょうどブーン達が帰ってくる頃合いを見計らっていたのか
ツンとツーは冷たい飲み物を準備していた。

キッチンにある、石の箱の中は常に冷気を放っており
物は腐らず飲料は夏にはうってつけの温度に下げてくれる代物。

どれでもモララーの魔法による、利器達だ。

130名も無きAAのようです:2020/11/14(土) 21:15:18 ID:aUR6lmzc0
( ^ω^)「大漁だったお! ツン達は?」

(*゚∀゚)「おー、こっちもいい感じだぜー」

冷気保管庫には、既に山菜やキノコが調理できるように並べられていた。
見たこともない彩色、大きさ、形の野菜類は子供たちの心を躍らせる。

( ^ω^)「ほえー。これ全部食べられるのかお?」

(´・ω・`)「調べてみよう」

と言いながら、ショボンが端末に魔力を込める。

(*゚∀゚)「そっちが、デューマッシュルーム。砂糖みてぇに甘いキノコだ。
    このギザギザした葉っぱがソードリーフ。魚の臭み抜きに使えるんだぜ。
     んで、こっちがレッドスカル。猛毒のドラケンピルツと見た目はそっくりだがちゃんと食えるんだ。」

ペラペラと何も見ずにツーは食材の名前と特徴をあげていく。
その数は十数種類もあるが、一度も痞えず言いのけたのだった。

ξ゚⊿゚)ξ「採る前に、全部ツーちゃんが教えてくれたのよ。
      毒があったり、調理に時間が掛かりすぎる物は採ってないわ」

(;´・ω・`)「……お見事」

ツーが言っていた内容は、すべて図鑑内の説明と相違ない。
彼女の、八百屋としての経験と知識が如実に表れていた。

( ・∀・)「やあ、おかえりみんな。食材は揃ったかな?」

モララーが、帰宅する影を見て降りてきた。二階のベランダで日向ぼっこをしていたらしい。

131名も無きAAのようです:2020/11/14(土) 21:15:59 ID:aUR6lmzc0
彼の顔を見るや否や、満足げに採った南国素材を自慢する子供たち。
成果物に対し、視線を動かしていきながらモララーは口元に指をあてて、何かを考えこむ。

数秒程度の沈黙のあと、手をポンと叩いてニッコリ笑った。

( ・∀・)「よし。今日は僕が作るよ」

( ^ω^)「ええー!? みんなでやりましょうお!」

ξ゚⊿゚)ξ「そうですよ。いくら随伴者でも、モララーさんに任せっきりっていうのは……」

( ・∀・)「まあまあ。じゃあ明日はそうしようか。今日ぐらいは任せてよ。
      ……とはいえ、待ってるだけというのも退屈だよね」

手を一度、南国素材のフルーツに差し伸べる。
指を折ると、それは重力に反するように浮いた。

それからモララーは、手を横に一度振る。
呼応するように、果物は一瞬にしてみじん切りになった、

サマーバレルという、硬いトゲトゲした皮に覆われた果実は
その外皮を器にしたまま、黄色く芳醇な果肉のみが綺麗に盛り付けられた。


( ・∀・)「せっかくだから、余興でもしながら作ろうと思うんだ。どうだい?」

(* ^ω^)ξ*゚⊿゚)ξ(*´・ω・`)(*>∀<)「「「「ぜひーー!!」」」」

前のめりになりながら、キッチンの前へ押し寄せる子供たち。

空中で火をおこしながら、そのまま風の魔法で混ぜ合わさる野菜。

その下では、気が付けば刺身になっているベルツリー。尾頭付きだ。

一挙手一投足が、一つのショーみたいで各々が歓声をあげながら楽しむ。

132名も無きAAのようです:2020/11/14(土) 21:16:41 ID:aUR6lmzc0
(゚、゚トソン(…………)

その後ろで、微笑みながらもトソンは一つだけ違和感を覚えていた。

いつものような優しい笑顔、子供たちを大事にする気持ち。
何も変わらない。普段の彼。

(゚、゚トソン(……あぁ、そっか)

その正体に気付くのは一瞬であった。


モララーが魔法を惜しげもなく使っているのだ。


共に暮らして数年になるが、トソンの記憶の中では彼が魔法を使っている姿は
数えるほどしかない。

その気になれば、天を左右する力を持つ彼が魔法を抑え込むのは何故なのだろう。

一度、聞いたことがあった。




――

――――

――――――



( ・∀・)「んー……。僕も全く使わないわけではないよ。
      人里に降りてる時は、変化の魔法を使ってるし」

133名も無きAAのようです:2020/11/14(土) 21:17:59 ID:aUR6lmzc0
(゚、゚トソン「でも、農業はさておき。お洗濯とか、料理とかぐらいには使ってもいいのでは?
     その方が楽で便利だと思うんですけど……」

( ・∀・)「……トソンさんは、この生活に不満が?」

(゚、゚;トソン「あ、いえ。そういうわけでは。単純に気になってしまって。
      普通は、そうするものなんじゃないかなぁ、と」

( ・∀・)「…………」


( -∀-)「トソンさんは魔術師じゃないから、あまり実感がないかもしれないけれど」

言いながら、モララーは手のひらに小さな火炎の球を作り出す。

( ・∀・)「魔法を使うときは、当然魔力を使うんだ。
      体の中にあるエネルギーを錬成して、魔法として使用する」

拳を握りしめると、火球は瞬時に消えた。

( ・∀・)「……その感覚が、昔の戦いを思い出しちゃってね。
     色々と……過去のことを考えてしまいそうになるんだ」

(゚、゚トソン「……そうだったんですか」

( ・∀・)「とはいえ、嫌いなわけではないから。
      いざって時は使うし。生活においても、何か不満とかがあれば
     いくらでも善処するから、言ってね」

(゚、゚トソン「ええ、わかりました」

(゚、゚トソン「けれど、便利すぎるのも問題ですからね。
     日頃の苦労があるから、便利なことに気が付けますから。
     私も、できる限りは自力で生活していきたいです」

134名も無きAAのようです:2020/11/14(土) 21:19:17 ID:aUR6lmzc0
( ・∀・)「はは。トソンさんならそう言うと思ってた」

嬉しそうに笑いあう二人。
それからモララーは少し間を置いて、窓から遠くの空を見上げながら告げた。


( ・∀・)「……そうだなぁ。もし僕が、不要不急で魔法を使うのであれば」

( -∀-)「それはきっと……」



――――――

――――

――


(゚、゚トソン(そんなこと、忘れるぐらい楽しい時……なんですね)


眼前で料理ショーは続いていく。
トソンは一つ息を吐いてから、子供たちと同じように輪に入る。

世界最高峰の魔術師は、あっという間に豪勢なフルコースを
観客を飽きさせることなく作り終えたのだった。

135名も無きAAのようです:2020/11/14(土) 21:20:39 ID:aUR6lmzc0
――――次の日。

約束通り、子供達だけで朝食の準備をしている時だった。

ブーンがショボンを誘って、朝のランニングを海岸で済ませた後の時間帯である。

(*゚∀゚)「しかし悪ぃな。オレの都合で、短い旅行になっちまってよ」

ξ゚⊿゚)ξ「まあまあ。お店を長く開けるわけにもいかないんでしょ?」

(*゚∀゚)「今年はちょっと不作の年でさ。結構頻繁に入荷しないと
     中々商品が集まらなくってよー。いつもは二、三日ぐらいは余裕なんだがなー」

( ^ω^)「商売も大変だおね。僕らと同じ歳なのに、ツーちゃんは凄いお」

(*゚∀゚)「おいおいなんだー? 急に。照れるだろぉ」

(´・ω・`)「実際、病床に伏せてるお父さんを支えながら切り盛りしてるのは
      僕たちには到底できないことだよ」

(*-∀゚)「へへ。ありがとな」



(*゚∀゚)「……? お?」

ξ゚⊿゚)ξ「あら?」

二階から、神妙な顔をして降りてくるモララーを、キッチンにいるツンとツーが心配した。

ξ゚⊿゚)ξ「どうしたんですか?」

( ・∀・)「……うん。ちょっと、トソンさんの体調が良くないみたいで」

136名も無きAAのようです:2020/11/14(土) 21:22:04 ID:aUR6lmzc0
(*゚∀゚)「えー!? マジかよ。そりゃヤベェな! オレ、診てみようか?」

支度を即座に切り上げ、ツーが階段の方へ走っていく。
それを防ぐように、モララーは手を彼女の前に出して止めた。

( ・∀・)「いや、大丈夫。僕が付いてるから。けど念のため、病院に行こうと思うんだ。
      悪いけど、今日はみんなだけで遊んでて貰って良いかな?」

ξ゚⊿゚)ξ「そんな。トソンさんが具合悪いのに、私たちだけ遊ぶなんて……」

(゚、゚;トソン「ごめんね、みんな」

気をもむ子供達に、寝間着姿のトソンがゆっくりと姿を現して声をかけた。
顔色が悪く、見るからに元気がない。

(-、-;トソン「昨日、はしゃぎ過ぎただけだと思うから。すぐ収まるよ。心配しないで」

( ・∀・)「トソンさん、座ってるよう言ったじゃないか」

せっかくの旅行に水を差したくないのか、健気にトソンはふるまったつもりだった。
しかし、モララーに諭されて部屋に戻る背中は、とても気を揉むなと言うには小さすぎる。

( ・∀・)「とにかく、安静にさせておくから。
     予定に変更がないように、善処するよ」

戸を閉める前にモララーはそう言うと、少しの間を置いて青い光が部屋から漏れた。
すっかり静かになってしまったコテージで、子供たちは顔を突き合わせる。

( ^ω^)「晩って……そんなすぐ治るのかお?」

ξ゚⊿゚)ξ「具合は悪そうだったけど……咳とかは別にしてなかったわね。
       何か他の病気かしら?」

137名も無きAAのようです:2020/11/14(土) 21:23:36 ID:aUR6lmzc0
(*゚∀゚)「うーん。どうだろうなぁ。オレの父ちゃんも、よくあんな感じで
     元気だけ出ない、って時あるしなぁ」

( ^ω^)「そもそも、トソンさん記憶がないわけだし。
      もしかしたら、自分も知らない持病があったかもしれないお?」

(´・ω・`)「…………」

三人が憶測で議論をする中、ショボンは一人ブレスレットをいじっていた。
そんな上の空の態度が気に食わないのか、ツンが咎める。

ξ゚⊿゚)ξ「ちょっとショボン君、さっきから何知らぬ顔してるのよ」

(´・ω・`)「…………あった」

ツンの静止も聞かず、辞典を開いていたショボンが手を前に出す。

そこには、不思議な光を放つ小さな草が映し出されていた。

(´・ω・`)「レハコーナ島の伝説の一つ『メディクシル』。
      万能薬とも言われてて、煎じて飲めばどんな病も傷も、たちまち治るらしいよ」

ξ゚⊿゚)ξ「はぁ〜? そんなものホントにあると思ってるの?」

( ^ω^)「でもこれ、転写魔術で映された本物だお!」

(*゚∀゚)「それじゃ実際に見たことある奴がいる、ってわけだよな」

ξ゚⊿゚)ξ「精巧な作り物の可能性も否めないわよ?」

(´・ω・`)「真偽はわからないけど。どうせなら、探してみない?
       きっとこのまま遊んでも、気がかりで集中できないよ」

138名も無きAAのようです:2020/11/14(土) 21:24:29 ID:aUR6lmzc0
( ^ω^)「おー。ショボン君にしては、良い提案だお!」

(;´・ω・`)「なんだよ僕にしては、って」

(*゚∀゚)「オレは賛成! 島の探索もしてーし、一石二鳥じゃねえか!」

ξ-⊿-)ξ=3「…………わかったわよ。私も付き合うわ」

三人の前向きな視線を感じ取ったツンも、同意して冒険の支度をする。

とはいえ、元々遠出をする準備はしてきていない。
簡素な衣服と、現地で作れる道具をありあわせ、安全な範囲での探検をすることに決めた。


持っている情報は、ショボンの持つ辞典による写真のみ。

四人はそれぞれ、それを元にあれこれ推測する。

水場の近くな気がする。

誰かがそういえば、確認できる限りの川や湖を探した。

途中で喉が渇けば、木に成っている果物をブーンが採って、ツーが調理する。

草木に隠れた危険な昆虫を、いち早く察するツンが前に立って進んでいく。
ショボンはその後ろから、辞典を見比べつつマッピングを行い、島の情報を集めていく。

皆が皆、使える知識を経験を元に散策していた。

139名も無きAAのようです:2020/11/14(土) 21:25:41 ID:aUR6lmzc0
(´・ω・`)「……思ったんだけど」

太陽が真上に君臨する頃合い。
ショボンが、サマーバレルの果肉を嚥下してから一つの思考を口にした。

彼らは今、木陰のもとで簡単なキャンプを作り、昼食を取っている。
魚や果物、野草のサバイバルメニューはどれも垂涎もの。

調味料はツーが腰につけたポーチの中に入っていたので、味付けもばっちり。

舌鼓を打って、次の行き先を決めようとしている時のことだった。

(´・ω・`)「メディクシルって、洞窟の中にあるんじゃないかな」

( ^ω^)「どうしてそう思うんだお?」

セブンストラウトという、淡水魚の塩焼きを咀嚼しながらブーンは尋ね返す。

(´・ω・`)「能動的に発光しているなら、暗いところだろう。
      この映像も、背景はゴツゴツした岩場だ」

ξ゚⊿゚)ξ「光の届きにくい岩陰って可能性もあるんじゃ?」

(´・ω・`)「高温多湿な島なのに、メディクシルの生存可能温度はそこまで高くないそうだよ。
      つまり、恒常的に低温の個所を好んで生息しているはずなんだ」

(*゚∀゚)「……おー、そういやココ。よく見ると、ディーマッシュルームが小っちゃく映ってるな」

ツーは辞典の映像の端を指さしながら言う。

140名も無きAAのようです:2020/11/14(土) 21:26:48 ID:aUR6lmzc0
ξ゚⊿゚)ξ「……? でも、これ昨日見たものとは色が違うような……?」

(*゚∀゚)「光が届いてねえ場所で育つと色抜けするんだよなー。
     岩陰とかなら、なんだかんだで光源があるから、こんな風にはならねえよ」

( ^ω^)「ってことは、ホントに洞窟の線が高いのかお?」

(´・ω・`)「うーん、そうなると……」

お手製の地図をショボンは広げる。


本格的に探索できているわけでないが、大体の全体像は見えてきた。

周囲は浅瀬の海岸、島の中心に向かって少しずつ傾斜が形成されており
そこを数本の川が流れている。開けた土地はなく、ただひたすらに樹木が生えている密林地帯。

その中で唯一、川の上流を見つけられた。
他の河川に比べると、中腹ぐらいの位置なのだが。

何故そこが上流と理解できたのかというと、ぽっかりと空いた大穴から水が流れ出していたから。

他の場所かもしれないし、先に進める保証もない。

しかし、戻る時間を含めるなら、選択肢としてはそこしか無さそうだ。

(´・ω・`)「この洞窟に入ってみようか」

ショボンの提案に、三人は力強く頷いた。

141名も無きAAのようです:2020/11/14(土) 21:27:40 ID:aUR6lmzc0

――――。


なだらかな岩場の道なき道を進んでいくと、目的地が眼前に広がった。

激しく音を立てながら、虹を作り出しつつあふれ出る水流。
少しでも足を踏み入れれば、抗う間もなく下流まで一気に運ばれてしまうことだろう。

そんな危険地域の脇道を、彼らは見つけた。

(´・ω・`)「……入れるね」

まるで誰かが作ったかのように、人ひとりが歩ける幅。

その先は、ただただ漆黒で塗り固められている。
進めるのか進めないのかすらわからない。

試しに、とブーンが小石を力いっぱい放り投げてみた。


水しぶきの音の中、耳を澄ませると反響が不規則ながらも続く。

何かに止まったというより、フェードアウトするようにそれは消えた。

( ^ω^)「……結構深そうだおね」

ξ゚⊿゚)ξ「……」

用心深く周囲を見渡した後、ツンが手持ちの鞄から松明を取り出した。
着火用の石を使い、それに火を灯す。

ξ゚⊿゚)ξ「物怖じしてても仕方ないでしょ。こういう時は、入ってみるのが一番」

(*゚∀゚)「おー、賛成さんせー!」

(´・ω・`)「……それもそうだね。あまり遅くなって、約束の時間を逃したら大変だ」

142名も無きAAのようです:2020/11/14(土) 21:28:54 ID:aUR6lmzc0
賛同する皆の前を、ブーンがツンから松明を無造作に受け取りながら進む。

( ^ω^)「前は任せるお。みんな、気を付けて行くお!」

訓練ではない、何が起こるかわからない実戦。
戦いがあるのか、ないのか。それすらもわからない。

そもそも、目的の物が存在するかも不明。


それでも、彼らは歩みを進めることに躊躇いはなかった。
自分たちのできることを、できる範囲でやりきりたい。

決意と思いやり。彼らはもう、すっかり一人前になろうとしていた。



――――。


(*゚∀゚)「お? ショボン、何を撒いてんだ?」

薄暗い洞窟内を進んでいるうちに、最後尾のショボンが何かをしていることに
ツーが気付いた。

手に持った、小さな欠片を一定間隔でしっかりと地面に置いている。
置く、というより『埋めている』という表現の方が近いだろうか。

それは赤黒い色をした、如何にも致死性のありそうなキノコの断片だった。

143名も無きAAのようです:2020/11/14(土) 21:29:58 ID:aUR6lmzc0
(´・ω・`)「ドラケンピルツだよ。来た道がわかるように、目印にしてるんだ」

ξ゚⊿゚)ξ「なんでキノコを?」

(´・ω・`)「猛毒種のものなら、生き物が誤って食べることも少ないだろうからね。
      石や文字の場合、この暗がりじゃ視認も難しいだろうから」

洞窟内の壁や床は、基本的に青銅色をしている。
生物の気配はないが、それでも念のため。

明らかに、彼らが外から持ち込んだ異物とわかる色と代物でショボンは帰り道を作っていたのだ。

( ^ω^)「さすがだお、ショボン君。僕、正直もうどっちが入り口かさっぱりだったお!」

ξ;゚⊿゚)ξ「あんたはもう少し危機意識を持ちなさいよ」

( ^ω^)「時と場合によるお。入る前に、ショボン君が『後ろは任せて』って言ってたお。
      だから僕は、目の前のことだけに集中するようにした。それだけの話だお」

ξ゚⊿゚)ξ「…………ふーん」

虐げられていたのが、遠い過去のことのようだ。
ブーンはすっかりショボンを、一人の相棒として認めていた。

そして、そんな彼を後ろから支えているショボン自身も、同じ気持ちである。


何度か分岐路を選択し、下ったり上ったり。
まっすぐ進んでいるのかどうかもわからないほど奥深くに、既にいるはずだろう。

それでも、先頭を行くブーンに迷いはなかった。

144名も無きAAのようです:2020/11/14(土) 21:30:59 ID:aUR6lmzc0
稀に見かける植生をツーが。
鉱物の種類をツンが。
『後ろ』の状況をショボンが。


的確に判断し、歩みを進めていく。
得意分野の話が出るたびに、伝説はもしかして本当なのかもしれない。

そんな気配が、どんどんとはっきりしてくる。


緊張感と、期待が洞窟の深さと比例するように大きくなっていく。

手持ちの松明が消えかかり、帰りを考え始めたその時だった。


(*゚∀゚)「……お?」

歩みを止めたツーが、道の端の方へ歩き出ししゃがみ込む。

何事だろうと、他の三人も後を追った。

背後から視線の先を、灯りで照らす。



そこには、真っ白なデューマッシュルームが生えていた。


ξ゚⊿゚)ξ「……今まで、こんなの無かったのに……」

( ^ω^)「と、いうことは……!」

145名も無きAAのようです:2020/11/14(土) 21:32:16 ID:aUR6lmzc0
胸が躍る。
足が速くなる。

慎重さを損なわないように、けれど一秒でも早く。

それが本物でであることを切望するように。

四人は道を進んでいく。


(* ^ω^)「あーーーーーーーーーーっっ!!!!???」

(;´・ω・`)「ど、どうしたんだい?」

残り少ない毒キノコを埋め込んでいる最中だった。
角を曲がり、背中が消えたと同時にブーンが大声で叫んだ。

落盤の心配すらありそうな、その声量を危惧しつつもショボンが駆けつける。

(* ^ω^)「み、み、見てお、ショボン君! あれ!!」

(;´・ω・`)「あ、あれは……!!」


岩壁の色とも違う、浅葱色の淡い光。
細く薄い葉のみで形成された、繊細な草。

図鑑で見たものと少しも違わない。


彼らの目の前に『伝説』が現れた。

146名も無きAAのようです:2020/11/14(土) 21:33:55 ID:aUR6lmzc0








――――――――が。



ξ;゚⊿゚)ξ「流石。一筋縄にはいかなそうね」

今すぐにでも手に取りたい所だが、そうはいかない。
彼らが視覚でとらえたメディクシルは、手の届く場所にはなかったのだ。


石を投げてみる。

反響する音は、ずっと遠くで聞こえた。
入り口でやった時同じように、先の見えない反音の仕方だ、

周りを見渡してみる。

ただただ、冷たい岩肌が広がっているだけ。



そう、伝説の薬草は大きな切り立った壁の中腹に、ぽつんと存在していたのだ。

147名も無きAAのようです:2020/11/14(土) 21:35:18 ID:aUR6lmzc0

(´・ω・`)「図鑑では、道端に生えているように見えたけど……」

ξ゚⊿゚)ξ「地盤沈下とかあったのかも。結構、このあたりは脆そうよ」

地面に触れたり、断面を見てからツンが言う。
彼女の弱い力でも、押し込めば大地は軽くひび割れた。

(´・ω・`)「魔法が使えるなら、訳もないんだけどなぁ」

ξ゚⊿゚)ξ「どこか下る道がないか探してみましょう」

ツンがそう提案する前だった。


( ^ω^)「ツーちゃん、どうだお?」

(*゚∀゚)「おー、この辺ぐらいまでじゃねーか?」

振り返ると、二人が足踏みを挟みながら何か調べているようだった。
一歩進んで、床を蹴る。また一歩進んで、地面を叩く。

その行為をツンが尋ねると、同時に理解できたことをブーンが答えた。

( ^ω^)「この辺りは結構硬そうだお。踏ん張っても問題ないと思うお」

ξ゚⊿゚)ξ「どういうこと?」

(*゚∀゚)「こういうこと」

ツーは探検用鞄に潜めていたロープを取り出す。
その先をブーンに渡すと、ブーンはしっかりと足をかけられる隆起を探した。

何度か試し、そして結果を告げる。

( ^ω^)「ここからロープで僕が支えるお。それなら、降りられるおね?」

148名も無きAAのようです:2020/11/14(土) 21:36:16 ID:aUR6lmzc0
ξ;゚⊿゚)ξ「あんたなら人ぐらい支えられるかもだけど……誰が行くのよ」

(´・ω・`)「僕が行こう」

ロープの先を、腰に巻き込みながらショボンが言う。

(´・ω・`)「ツンやツーちゃんが行くよりは安全だろう?」

ξ;゚⊿゚)ξ「それはそうだけど」

(´-ω-`)「ブーンほどではないけど、これでも鍛えているほうなんだ。
      少しは安心してくれていいよ」

ξ゚⊿゚)ξ「…………わかったわ」

止める間もなく、ショボンは歩き出していた。

(*゚∀゚)「岩場の様子はこっちでも見ておくからよー。
     ショボンはメディクシルに集中してくれー!」

這いつくばる姿勢でツーが声をかける。
それに対し、不安定さしかない岩場に足を踏み出した少年は、親指を立てて答えた。


(´・ω・`)(想定より、かなり脆いな……)

踏み込みながら、塵が舞う地面を蹴っていく。
少し距離のある場所で、落盤の気配がした。

ここから先、集中的に重心がかかっても問題ないのだろうか。

不安になる。

149名も無きAAのようです:2020/11/14(土) 21:37:33 ID:aUR6lmzc0
一歩進むごとに、何かしらの音が鳴る。

大丈夫。

言い聞かせなければ、緊張感に負けそうになる。

腰に巻かれた命綱を、ショボンは強く握ってみた。

近くはないが、遠くもない場所。

そこで、同じぐらい……いや、彼自身全てを守るかのように
どっしりした重圧感を、その紐の先で感じる。

(´-ω-`)(大丈夫)


綱の強度は問題ない。

確信したショボンは、遂に重力で体を保てない空間に身を投じた。


それまでの雰囲気とは全く違う。

下から聞こえていた、うるさいひび割れの音。

舞い上がっていた塵が、目の前の岩壁から噴き出る。


ミシミシと鳴っているのは、手綱なのか、周囲の地盤なのか。


心配する暇はない。

長時間の行動は危険だと、本能でわかっている。

だったら自分は、この友人に預けている細くも力強い糸を信じて。

眼下に見える、淡々しい光へ進むだけ。

150名も無きAAのようです:2020/11/14(土) 21:38:47 ID:aUR6lmzc0

ξ;゚⊿゚)ξ「……」



伸びたロープが、地面と擦れるのを何度見ただろう。

反響するその先で行われている『状況』は、もはや耳だけでは理解できなかった。

それは、彼女にただただ不安をもたらす。



……一方で。

(*゚∀゚)


(;^ω^)


二人は集中していた。

一つの音もこぼさず、一つのヒビも見逃さず。

手に握る、友人の命の状態に神経全てを預けている。

継続するその没入状態に、額から汗はこぼれはするものの。
情報を取り逃がすことは、余さずしなかった。

151名も無きAAのようです:2020/11/14(土) 21:39:45 ID:aUR6lmzc0
どれぐらい経っただろう。

自分自身を知覚できている、ツンだけがふと思った。


ξ;゚⊿゚)ξ(喉渇いた……)

飲み物を持ってきていないわけではなく
一人を除き、身動きが取れないとも言えるわけで。

洞窟のひんやりした空気と裏腹に、切迫した状況が続くと
どうしても、体が水分を求める。

荷物は、手の届く場所にはない。

取りに行きたいが、みんなの邪魔はできない。

結果として、ツンは我慢をせざるを得なかった。


あとどれだけ?

いったいいつまで?

限界はいつになるだろうか。

乾燥で咳が一つ出たのと、それは同時だった。


(;^ω^)「!」

152名も無きAAのようです:2020/11/14(土) 21:40:38 ID:aUR6lmzc0
ブーンの握る手の力が強くなった。

さっきまでの、ギリギリ均衡を保つ加減ではない。

重力に反発するような、全力の牽引だ。

地面を割らぬよう、慎重に。

だけど、一秒でも早く。

汗で濡れてしまった手のひらが、摩擦を起こさぬよう
幾重に撒いた手綱を、懸命に引っ張っていく。


待つこと、数分。


飲む固唾すら切らしていたと思ったツンが、ゴクリと嚥下運動をした時だ。


暗闇の向こうから、柔らかな光を放つ薬草を手に持ったショボンが
ひょっこりと土埃にまみれた顔を出した。


ξ;゚⊿゚)ξ「やった!」

抑えてても出てしまった感嘆の言葉を、慌ててツンは両手で塞いだ。

153名も無きAAのようです:2020/11/14(土) 21:42:13 ID:aUR6lmzc0
一歩ずつ、自分たちのいる硬い岩盤地帯に戻ってくるショボンを
最後まで見届ける三人。

(*゚∀゚)「……もう大丈夫だな!」

(;^ω^)「ふー! あー、疲れたお!」

ブーンが手に握る力を緩めたと同時に
張りつめていた空気も、一気に和らいだ。


(´・ω・`)「お疲れ様」

ξ゚⊿゚)ξ「ショボンくんこそ、お疲れ様よ。ケガとかない?」

(´-ω・`)「おかげ様でね」

(*゚∀゚)「おぉー! これがあのメディクシルかー!」

ショボンの手にあるのは、根こそぎ持ちとられた
伝説の万能薬メディクシル。

まっすぐ伸びた細い茎、その先に広がる細い卵型の葉先。

特別な見た目ではないが、自発的に光を放っているのは
他の薬草でも見ない、特異さであった。

ξ゚⊿゚)ξ「……これでトソンさんの具合も良くなるかしら?」

(´・ω・`)「わからないけど……。試してみる価値はあるんじゃないかな?」

( ^ω^)「ここまで苦労したんだお。きっと大丈夫だお!」

それぞれが意見を言い合う。
不安を、安堵を、苦労を口々にし合った。




(*゚∀゚)「にしてもよー。こーいうのって、大体、どっかでやべー状況が起こるもんだよなー」

154名も無きAAのようです:2020/11/14(土) 21:42:58 ID:aUR6lmzc0
ξ゚⊿゚)ξ「? どういうこと?」

荷物を手に取り、さあその場を去ろうとした時だ。

(*゚∀゚)「いや、だってよー。子供たちだけでやる、小さな冒険とかって
     ハプニングが付き物じゃね? そーいうのが、全然なかったなー、って思ってよ」

(´・ω・`)「そんなの、作り話だけの出来事でしょ。
      僕らはしっかり準備をして、それに打ち勝った、それだけさ」



( ^ω^)「………………?」



ξ゚⊿゚)ξ「ブーン? どうしたの?」

ロープを手に巻き取った時、ブーンの動きがピタリと止まった。

ツーとショボンが、他愛ない雑談をしているよそで
何かに、じっと耳を傾けている。

ξ゚⊿゚)ξ「ねえ、ブーンったら!」

ツンの声にも反応しない。



ただただ、何かを……。

155名も無きAAのようです:2020/11/14(土) 21:43:49 ID:aUR6lmzc0
(;^ω^)「みんな、急いで走るお!!!」

(´・ω・`)「え?」

(*゚∀゚)「ん?」

ξ;゚⊿゚)ξ「ちょっと、いきなり何……」


状況を理解できていない三人の手を、慌ててブーンが引いて駆け出す。


それは、小さな音だった。

近くの反響にばかり集中していて気付かなかった。

自分たちの帰る方向の、地面が硬いと思われた一帯。



安全地帯と思っていた場所が、一気に崩落を始めたのだった。


(;゚∀゚)「ヤベッ!?」

(;´・ω・`)「うっ!?」

ξ;゚⊿゚)ξ「そでしょ!?」

(;^ω^)「……!!」

156名も無きAAのようです:2020/11/14(土) 21:44:36 ID:aUR6lmzc0
ああ、もしここで魔法が使えていれば。


もう少し、注意深くしていれば。


安堵する間もなく、すぐにその場を離れていれば。


こんなことにはならなかったのに……。


(;゚∀゚)(;´・ω・`)ξ;゚⊿゚)ξ「「「うわぁーーーー!!!」」」



どこにつくともわからない、闇の底へ。


落下しながら、少年少女は深い後悔をしていた……。






後編へ続く。

157名も無きAAのようです:2020/11/14(土) 21:45:20 ID:aUR6lmzc0
というわけで前編でした。

ホントは前後編には分けずにやるつもりでしたが
思ったより長くなったので分割しました。

後編も今年中目標で投下します。

158名も無きAAのようです:2020/11/15(日) 00:21:12 ID:qlGfaFec0

久々でうれしい、続き楽しみにしてる

159名も無きAAのようです:2020/11/27(金) 21:24:23 ID:UTbZonSQ0
楽しいに待ってます!

160名も無きAAのようです:2020/11/27(金) 23:11:48 ID:shq1V7tQ0
こんばんは。作者です。

久しぶりに筆がノリノリだったので、後編を書き終えました。
三分割しようかと思うレベルに長くなっちゃったのですが、あえて一気投下します。


予定では、明日のお昼ごろに出現しますので。
どうか、よろしくお願いします。

161名も無きAAのようです:2020/11/28(土) 12:32:58 ID:HcbLbdA20
こんにちは。予定通り始めます

162名も無きAAのようです:2020/11/28(土) 12:33:51 ID:HcbLbdA20
こんにちは
予定通り、今から投下します

163なんか二重で投稿しちゃった。てへ:2020/11/28(土) 12:34:40 ID:HcbLbdA20
ξ;-⊿゚)ξ「……んん……」

ツンが目を覚ます。


視界がはっきりすると同時に、彼女には実感があった。


――意識が少し飛んでいた、と。


つまり、状況がどうなったのか全く理解できていない。
落盤により、一帯が崩壊。
身体が宙に浮く感覚までは記憶にあるのだが、そのあとの出来事がわからない。


ξ;゚⊿゚)ξ「みんなは!?」

噴き出る冷や汗と同時に、体を持ち上げた。
仰向けに寝転がっていたようで、視界がぐるりと反対に回る。


ξ;>⊿゚)ξ「いっ!?」

血の流れが変わったからだろうか。
全身に鋭い痛みが走る。

身体を検めてみると、あちこち衣服が破れて擦り傷が見えていた。


ξ;゚⊿゚)ξ(…………そんなわけない)

164名も無きAAのようです:2020/11/28(土) 12:36:19 ID:HcbLbdA20
その自身の状態に、ツンは違和感を覚える。

反動でクッションになる爆破魔術も、飛翔の為の風魔術も使えなかった。


生身で、崩落に巻き込まれたわけだ。


高さはわからないが、視認はできない程度。
つまり、何も対策せずに軽傷で済むわけがないのだ。

ξ;゚⊿゚)ξ「……」

誰かが、何かをしてくれたに違いない。

衝撃もあったのか、ふらつく頭を抱えながらツンが歩く。

今、どこにいるかはわからないが
先ほどまでの地面よりも、状態は安定しているらしい。

携えていた道具袋から、松明を取り出そうとした。

しかし、その手は虚空をつかむ。
どうやら、落下時にどこかへ行ってしまったみたいだ。

歯ぎしりをしながら、ツンは歩いていく。

立っているはずなのに、斜めに位置しているかのような平衡感覚。

それでも、彼女はまっすぐ歩いた。

おぼつかない足元を確認しながら、それでも確かに、一歩ずつ。



何度も繰り返した後、ツンは止まる。

165名も無きAAのようです:2020/11/28(土) 12:37:00 ID:HcbLbdA20
その先には、漆黒の空間で唯一。


淡い浅葱色の光を放つ薬草。


(; メω^)「おー……。ツン、良かった。無事だったかお」


それを手に持つ、血だらけの幼馴染の姿だった。









三日月の涙  後編

166名も無きAAのようです:2020/11/28(土) 12:38:02 ID:HcbLbdA20
(*゚∀゚)「おーい、みんな大丈夫かー?」

遅れて、遠くから元気な声がやってきた。
ツンと同様に、メディクシルの光を辿ってやってきたらしい。

ξ゚⊿゚)ξ「ツーちゃん、ケガは?」

(*゚∀゚)「おう。あちこち痛ぇけど、問題ないぜ」

(;´-ω-`)「ということは、重傷者は一人だけか」

壁を背に凭れて座っているブーンの傍、ショボンが安堵と共に
焦燥感を含めて、現状を表す一言を放った。
彼も女性陣と同様の傷を負っている。

ξ゚⊿゚)ξ「……なにしたのよ、あんた」

(; メω^)「……あの高さじゃ、きっと助からないと思ってお……」

(; メω^)「落ちる前に、持ってた綱でみんなを引き寄せたんだお……」

(; メω^)「それで……少しでも衝撃を和らげようと……」

落下の直前に、ロープを大岩に引っ掛けて速度を。

そして……彼が下敷きになることで、ダメージを分散させた、ということらしい。

ブーンがメディクシルを持っているのは、ショボンの手から落ちそうだったから。

167名も無きAAのようです:2020/11/28(土) 12:38:51 ID:HcbLbdA20
ξ; ⊿ )ξ「あんたって、ホント……!」

ツンが唇をかみしめる。
自分ひとりだけならば、回避や防御行動をすることで
無傷ですらあっただろう。

けれど、ブーンはしなかった。


いつもいつも、自分じゃなく誰かの為に。


今この時ほど、自分が腹立たしいと思ったことはない。
強く握った拳を解き、それでも出来ることを。

伏せた視線を戻し、ツンはブーンの体を調べた。


ξ;゚⊿゚)ξ「……腕や体は問題ないわね。額や目元も切ってるだけみたい。傷は浅いわ」

(´・ω・`)「頭部には見えないダメージがあるかもしれない。あまり動かしちゃダメだよ」

(*゚∀゚)「となると、パッと見で一番やべーのは……やっぱココか」

ツーの目の前には、ひどく腫れあがったブーンの片足があった。
打撲では、ここまで黒ずんだりしないだろう。
間違いなく、折れている。

(; メω^)「……ごめんお」

ξ;゚⊿゚)ξ「なんでアンタが謝るのよ! いいから、じっとして!」

168名も無きAAのようです:2020/11/28(土) 12:39:52 ID:HcbLbdA20
自分のものはないが、他の三人の道具入れは無事だった。
入っているものを駆使し、消毒や止血を行う。

だが、それはあくまで応急手当。

いくら闘技学校の知識や、看病経験があっても
治癒まではできていない。

皮膚の下の傷は、炎症を起こしたりしているだろう。
合併症など、心配事は枚挙にいとまがない。


(*゚∀゚)「……どーするよ」

焦りの気持ちをツーが代弁する。

帰り道もわからない。
食料や水だって、そう多くはない。

灯りだけは、かろうじでツーが確保した。
洞窟に入る前に釣った、セブンストラウトの油を持っていたからだ。

ブーンが持っていた綱を短く切り、石で着火させて簡素なオイルランプを作ったのである。

(´・ω・`)「ブーンを抱えて歩くにしても……。体力が持ってくれるかどうか」

ξ ⊿ )ξ「……ああ、もう。なんでこんな時に魔法が使えないのよ……」


自分たちの培ったものが、すべて無為に帰している。
そのことが、酷く気分を落ち込ませた。
同様に、怒りすら覚える。

自分はこうまで無力なのか、と。


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