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涙たちの物語7 『旅の終わりは』

1(・ω・):2004/06/28(月) 08:39 ID:GRnlniQk
【したらば@FF(仮)板】
涙たちの物語6 『旅の途中で』
前スレ:
http://jbbs.shitaraba.com/bbs/read.cgi/game/6493/1077148674/
【したらば@マターリ板】
涙たちの物語5『旅が続いて』
http://jbbs.shitaraba.com/game/bbs/read.cgi?BBS=6493&KEY=1069286910
涙たちの物語4 『旅は道連れ』
http://hyakuyen.nce.buttobi.net/FF11log2/1064882510.html
涙たちの物語3 『旅の流れ』
http://hyakuyen.nce.buttobi.net/FF11log2/1058854769.html
涙たちの物語2 『旅の続き』
http://hyakuyen.nce.buttobi.net/FF11log/1054164056.html
涙たちの物語 『旅は終わらない』(避難先)
http://hyakuyen.nce.buttobi.net/FF11log/1048778787.html
(※↑ログ消滅のため【過去ログ図書館】にリンク)

【xrea】
初代 涙たちの物語 『旅は終わらない』
http://mst.s1.xrea.com/test/read.cgi?bbs=ff11&key=042463790
(※↑見れるときと見れないときがあるらしい)

倉庫等
(Wiki)http://kooh.hp.infoseek.co.jp/
(新)http://f12.aaacafe.ne.jp/~apururu/
(旧)http://www.geocities.co.jp/Bookend-Soseki/4886/index.html

ここも姉妹スレ?
今はいないフレンドへの手紙
http://jbbs.shitaraba.com/bbs/read.cgi/game/6493/1075100271/

2(・ω・):2004/06/28(月) 08:40 ID:0NiYfqho
2ゲッツ!

3sage:2004/06/28(月) 08:53 ID:u9E6FDVA
さん?

4(・ω・):2004/06/28(月) 09:11 ID:KJtx1lJM
前スレも900超えたくらいだってのに先走りした挙句に重複スレかよ!
どっちか削除依頼出しとけ!こっちが2分遅れだな

よん?

5(・ω・):2004/06/28(月) 09:30 ID:GRnlniQk
削除依頼出したよ馬鹿

6(・ω・):2004/06/28(月) 10:47 ID:RVnQLxCk
前スレで立てる報告も無しにイキナリかよ・・・
すごい先走りだな(;´Д`)

7(・ω・):2004/06/28(月) 11:16 ID:tTcqW4JI
予告も無しにいきなり中出しした人の様ですなw

一昨日の俺な訳だが

8(・ω・):2004/06/29(火) 01:21 ID:6KKFHkaU
パパ復活きぼんぬ

レッドラムまだー?(AA略

9(・ω・):2004/06/29(火) 01:32 ID:nPWY9dVM
タイトルはこっちの方が好きな訳だが

10(・ω・):2004/06/29(火) 05:36 ID:gx3u2UQw
>>9
このスレで終わってしまいそうなタイトルですよ?

11(・ω・):2004/07/01(木) 00:20 ID:cIlpBiA6
ファッキンエレファン


〜DEATH TIME in DA MIDNIGHT〜


きれーなフックが顎をゲット。
地面に叩き付けられて、跳ね上がってるガルカの目に涙がうかんでる。
「すっげ!まじ?!」
興奮している野次馬の声。
私もその一人なんだな。

ただ美しい空。
晴れた日。それだけが救いだった日。
私はその下で楽しく生きていた。
遠い場所では、剣呑をよそに争いが日々続いているらしい。
獣人も人間もバカよね。
草を一本抜いて、咥えてピコピコ動かす。
その先が空中に描いているのは何だろうね。
さっき見たケンカを思い出すと、なんだか興奮してきた。

「ままー。おなかすいたよぅ。」
5歳くらいの女の子が、壁に向かって何か話している。
手には赤いリンクパール。
たぶん家族が連絡用につかってるんだろうな。
私は、おしりにあるポケットをまさぐってみた。
割れた赤いリンクパール。
女の子のもっている色にそっくりだから思い出したんだと想う。
いつもお守りとして持ってた。
効力は絶大なんだから。
「お腹すいてるなら、これ上げるよ。」
私は、アップルパイを出店で買って、女の子に差し出した。
女の子は、それを受け取りもせずに、きょとんとした顔をしてどこかへ走り去ってしまった。
「おいしいのに、むしゃむしゃ。・・・ん?」
私は、赤い飴玉を拾い上げた。
それは、さっきの女の子が持っていたリンクパールだった。
耳を当ててみるけど、何も聞こえない。
「もしもーし、このパール落ちてたんですが?」
返事はない。
「?」
「ミッシェル。探しまくったんだけど・・・・。」
不意に後から声がかかった。

12(・ω・):2004/07/01(木) 00:21 ID:cIlpBiA6

「あージャミの居ない内に私と浮気ですか?」
ジャックに誘われて、私は下層にあるカフェのテラスに腰掛けていた。
「ばっか!オカマに興味なんてねぇよ!俺はジャミール一筋なんだ!
 ・・・・だけど、お前ほんと綺麗だよな。男にゃ見えない。」
「ははっ。ありがと。」
運ばれてきたジュースのストローを、わざとエロチカルに咥えてみる。
あきれた様に苦笑したジャック。
本当は、私がジャックの家に行くはずでした。
なんか頼みがあった見たいなんだけど、私はそれを忘れて散歩をしていた。
今の私には、大切なことなんて何も無い。
ただ、美しい空があるだけで十分だった。
「じつはさ、ジャミールのことなんだけど、どう想う?」
ジャミールはジャックの彼女の名前。
割れたリンクシェルつながり。
なにげに、ジャックを紹介したのも私だった。
あつあつらしく、いつも惚気話を聞かされている。
「指輪でも渡して結婚しちゃえ。」
「やっぱりなぁ。」
私の冗談に、なんだか本人も満更でもない様。
なんか納得したように、ウンウンとか頷いちゃったりしている。
「やっぱり女にゃアストラルリングっすよ。」
私は、中指を立てたポーズをして見せた。
「・・・・意味わかってやってんのか?っつってもさー。アストラルリングって高いんだぜ?」
もちろんしってるし、そんなに買えない値段でも無いと思う。
それは私の考えで、ジャックには十数万もだして、女の子にプレゼントを贈る甲斐性は無いようだ。
「男なら、直接とりにいけー。」
バシッ。
「あいた。」
身を乗り出していたジャックの頭を平手で叩いてやった。
気合だー。
みたいなノリのつもり。
「ど、どこに?」
私は立ち上がり、おもむろに腰に手を当てる。
ニヤリとジャックに笑いかける。
「オズトロヤ城じゃ。」
ごくり・・・。
ジャックのつばを飲み込む音が聞こえた。
「じゃ、がんばって。」
私はクルリと振り返り、そのまま歩いて行った。
「お、おい!手伝ってくれないのかよ?」
「仕事があるの。」
立ち止まって振り向いてみると、ジャックがつまらなそうな顔をしている。
「そこの酒場で歌ってるんだっけ・・・。こんど飲みに行くよ。」
私は、冒険者という職業を辞めて歌歌いに生きることを決めた。
もともと詩人じゃない私の歌はヘタクソ。
だからジャックには聞かせたくなかった。
「くるな甲斐性なし。」
へらへら笑って別れた。
私は最後の歌を歌い、家へと戻った。
銃に弾を込める。
「エレファント・・・ペス・・・いま行く。」
情けない震えた声が漏れる。引き金を引いた。

世界が終わる時。晴れた日。それだけが救いだった日。
美しい空。
それだけで十分だった。

続く。

13(・ω・):2004/07/01(木) 00:23 ID:cIlpBiA6
作品一番乗り(☆∀☆)ノ

14セイブ・ザ・アワー・ワールド:2004/07/01(木) 05:17 ID:cCcswDPk
最近読んだ本から、引用を一つ。
「なんだってそうだけれど別に最低でさえなければ、いつも最高である必要なんてないのだ。」
 引用元では、最高の仕事が出来るか不安な主人公が自分に言い聞かすだけのセリフですが、普段ヴァナデ
ィールでPTを組む私達にとってはかなりの実感を感じうる言葉ではないでしょうか。
 貴方のメインジョブはなんですか?レベルを問うようなことはしません。特定のメインが無いという方は、複数
のジョブをあげてもよいでしょう。あなたはそのジョブを扱う者として、最高の働きをしている自信がありますか?
本当に最高である人とただの自信家以外の人は「ない」と答える筈です。では、そのことによって何か不都合が
ありますか?
 貴方は貴方自信に厳しすぎるのではないでしょうか?
 不幸にもレイズが必要になった時でさえ、仲間に対しては「ごめんなさい;;」自分が死んだときは「大丈夫です
よ^^」と言うでしょう。だから悪いなんて思わないでください。最高を目指すその過程自体を、楽しめばよいのです。
楽しければ、最高を目指さなくてもよいのです。
 とはいうものの、このスレの皆さんには釈迦に説法かもしれませんね。失敬。


 最高を目指してそれに失敗し続ける、そんな作品もよろしければ、どうぞ。
 ttp://kooh.hp.infoseek.co.jp/?page=セイブ・ザ・アワー・ワールド

・・・・という内容を某名スレに誤爆してきました

15(・ω・):2004/07/03(土) 18:11 ID:vhLEWFBA
>>14
おおいい台詞だ
おれも最低よりチョット上を目指してがんばろう(・∀・)

16(・ω・):2004/07/04(日) 01:57 ID:YzbQxiIU
ファッキンエレファン


〜1800°の世界〜

問1 幸せ?
うん。
問2 本当に?
うん。
問3 本当に?
うん?
問4うそつき
ん?

「うそつきは、舌を抜かれてしまいます。」
一匹の猫が、僕の目の前に立っていた。
それは、予告の無い映画みたいに素直に受け入れられるもの。
たぶん、それは今日の吉報のおかげだ。
僕の頭の中には、幸せについて、と言う題名のついたファイルが出来上がっていたのかも。
「僕は、嘘なんてついてないから平気だよ。僕の舌は誰にも渡さないさ。」
幸せなんだ。
本当に。
「だって、娘も出来たし。」
本当の娘じゃない。
僕のお嫁さんは、アーナという名前のエルヴァーンだった。
「娘?娘には罪はないけど・・・。」
タルタルな僕との間には、子どもは授かれなかった。
信仰深い僕の奥さんが、サンドリアの教会から孤児を一人授かってきた。
それがヒナピッピ。
僕とアーナの大切な一人娘。
立派なタルタル式の名前だけど、立派なヒュームの女の子なのだ。
「罪?」
「うん。」
「どんな?」
「う〜ん。」
そして猫は言った。
「あなた、償える?」
たぶん無理。

今朝はずいぶんと気分がよかった。
昨日、仕事が決まったから。
冒険者をやめて、ずいぶん長い間、仕事が見つからないで苦労したけど、
なんとか飛空艇公社で働くことが出来ることになった。
アーナとヒナピッピにも、結構苦労をかけちゃったから、これから幸せにしてあげなくては。
本当に、今は幸せ。
「ぱぱー。お仕事がんばってね?」
「うん?うん。まかせて。それより、昨日買って上げたパールはちゃんと持ってる?
 大事なものだから、無くしちゃだめだよ?」
「だいじょうぶ。パパはだいじょうぶ?」
「うん?」
ポケットをまさぐると、赤いリンクシェルと、同じ色の割れたパールがちゃんとあった。
「だいじょうぶ。」
昔、所属していたパールが割れた。
冒険者を辞めた理由もそこにある。
同じ色のパールをまた作ったのには、僕が過去から歩き出せていないという意味が含まれてる。
つまり、足かせが付いた僕は、まだ過去につながれたまま。
「だいじょうぶ。たぶん。」
それから、僕は古い知人と会うことになっていた。
仕事に行く前に、約束の場所までこの銃を届けなくちゃいけない。
ちゃんと届けられるように、昨日のうちにメモをドアに張っておいた。
張っておいてよかった。
ドアを開けようとして気づいた。
「あ。わすれもの。」
「パパ、だいじょうぶ?」
たぶん。

17(・ω・):2004/07/04(日) 01:58 ID:YzbQxiIU
「おしさしぶり。元気かね?」
「元気だよ。それよりこれ。」
ミッシェルは、僕の手から銃を取った。
「なつかしー。これって、結構高価よね?」
「売っちゃいなよ。」
ミッシェルは、ちょっと悲しい顔をしていた。
「うん。そうできれば幸せなんだけどね。」
自殺幇助。立派な犯罪だよね。
血の匂いがかすかにした気がする。
昨日の夜、家への帰り道に会った変なミスラからも、この匂いは漂っていた。
脳に直接届くような匂い。
体が直に受け取る。だから咽ることも出来ない匂い。
これは、鼻から入ってきたものじゃない。
たぶん、もっと深い場所に漂ってた。
「ペス、死んじゃったね。自殺なんだって。」
「君が同じ事をする必要はないよ。」
「ほんとに?」
「本当に。」
「・・・うそ。」
これは昨日も聞いた気がする。
たぶん気のせいかな?
「嘘じゃないから安心して。」
雨でもふらないかな。そう思った。
雨さえふれば、なんだか全てを洗い流してくれるきがした。
垢とか、そんなものを。
「嘘じゃないから。」
まるで、自分に確認するかのように、僕はそれを繰り返して言った。

初日の仕事は、まずまずの出来だった。
驚いたのは、一日に捕まる冒険者数。
貿易禁止品を密輸しようとする冒険者が、今日だけで10人も捕まってた。
僕も運んだことがあるだけに、ちょっと他人事じゃなかった。
それでも、なんとか上手く事は進み。日を跨ぐ頃には家路に着くことができた。
その帰り、また彼女とあった。
変なミスラは、僕の奥さんと家の前でしゃべっていた。
「あら〜そうなの?あなたも大変ね。」
「うん、それでね、ジャミがね・・・。ん?」
僕に気が付いたミスラが、にっこりと僕に微笑んだ。
そして、おもむろに剣を鞘から抜き、アーナの胸につきさした。
分からなかった。
なんで?
そんな、あたま、真っ白に。
「罪は償え。これ、常識だから。」
剣を抜くと、アーナにあいた風穴から血がほとばしった。
僕はなぜか、それにみとれた様に動けなくなった。
動こうと思わなかった。思えなかった。
「問1 幸せ?」
ミスラは一歩近づいた。
「・・・・あ・・あぁぁ。」
「問2 本当に?」
ミスラはもう一歩近づいた。
「なんで、こんなことするんだ・・・・。」
「問3 本当に?」
僕の目の前に、ミスラが立っている。
「なんで・・・なんで・・・。」
「問4 ・・・ちゃんとこたえろ糞が。」
ミスラの剣が、僕を切り裂いた。
どんな感じかと言うと、まず右手が宙に舞い、次に胸を切られた。
そのあと、右目をえぐられて、返した刃で首が飛んだ。
まるで、棒の先で地面に絵でも描いてるみたいな動きだったと思う。
血があたりを染めた。

僕は、たぶん死んだ。

真っ白な頭に、ただ一つだけ浮かんだこと。
願わくば、娘を助けて。神様。

続く

18(・ω・):2004/07/06(火) 05:07 ID:pdS4hpGM
ファッキンエレファン時間軸遡りタイプか、面白いね。
サブタイトルは、次の話(物語内部で一個遡った話)の予告?てことは次の話は
「1800°の世界」……5回転か?まあ、次の話でこのタイトルの意味が解るん
だろう。楽しみにしてます。面白いです、この作品。応援してます。がんばれ〜(^_-)b

19風の通る道:2004/07/08(木) 01:46 ID:z0jZmvus
私の家は、サンドリアの中流貴族の家系です。
生まれたときから、男子は騎士、女子は修道士になることがしきたりでした。
ただ、私の両親、父は私が生まれる前、そして母は私を生むと同時に亡くなっており、唯一の肉親は兄ただ一人でした。
歳の離れた兄は強く、やさしく、私の憧れでした。
いつしか私も騎士になり、人を護る事を夢見て、白魔導師としての修行を一通り終えた後、すぐに騎士になりました。

騎士として少しは成長した頃、国からのミッションで、バストゥークへ派遣され、そして、使いもしない鉱山の調査の依頼を受けました。
ヒュームと言うのはずる賢く、お金のためなら何でもすると幼い頃から教育され、私のヒュームに対する印象はもともとよくありませんでした。



〜第10話、幸せの権利〜



そこで、彼との出会い。第一印象は・・・最悪でした。
鉱山調査のパーティの最後の一人が見つからず、メンバー探しも兼ねて、私はバストゥークを散歩していました。
彼らの技術に感心させられ、大統領府と呼ばれる建物を見上げながら歩いていると、突然の衝撃。

「いて!一体どこ見て歩いて・・・」
開口一番がこの台詞!誇り高いサンドリアの騎士として、ヒュームに対しても出来るだけ敬意を込めて接していたはずです。
私にも非がある事は認めますが、突然の無礼な態度は私の逆鱗を逆撫でしました。
何より許せなかったのが、ぶつかった相手が私の顔を見るなり言葉を切った事。
私を女性と見て言葉を切った。そのときの私はそう判断しました。
女性騎士というのは、それだけで周囲から卑下と好奇の目で見られる。私自身そんな経験が幾度とあり、その事も少なからず影響していたでしょう。
それでも、売り言葉に買い言葉。兄には昔からお転婆と言われていましたが、彼ともここでしばらく口論になってしまいました。


少ししてから合流したパーティに「彼」が居ました。
白魔導師であるアイリスさんのお墨付きでしたが、私には納得できませんでした。
しかし、団体行動であるため、渋々行動を共にしました。

パルブロ鉱山での調査が一通り終わった頃、彼一人だけはぐれている事に気づきました。
誰かの提案で、もう少し奥も調査しないかと言う話になり、私たちは彼を放ったまま奥へ向かいました。
アイリスさんだけが心配そうでしたが、私はあんな男一人ぐらい居てもいなくても同じだと思っていました。

実際に5人居れば、クゥダフは恐るるに足らない存在でした。
しかし、一匹のクゥダフと対峙したとき、私は自分の油断、そして軽率な判断を呪いました。
明らかに私たちの上を行く技量。そう、ノートリアスモンスターと呼ばれるクゥダフと戦闘になってしまったのです。
恐らく私たちでは勝てないでしょう。全員で無事に逃げるのも至難の業。
一瞬迷いましたが、仲間を死なせて自分だけ生き残ったとなれば、それこそ騎士として一生の恥!
私は、一人でクゥダフを引き連れ、奥へと走りました。

20風の通る道:2004/07/08(木) 01:47 ID:z0jZmvus

周りには多くのクゥダフ。
私は武器を奪われ、鎧を脱がされ、下着のみと言うあられもない格好で格子状の柵に縛り付けられていました。
クゥダフは、何故か私の鎧を興味深く観察しています。
先ほどのノートリアスモンスターが私に何か話しかけていますが、私にはクゥダフの言葉はわかりません。
理解できたとしても、何も話す事はありません。
ただ、ただ睨み返すしかありませんでした。

突然、ノートリアスモンスターが怒り狂い、私を鞭で叩きました。
左肩から右脇腹にかけて衝撃が走りました。下着が破れ、左の胸があらわになります。
誰にも見せた事が無いのに・・・!痛みと恐怖と羞恥と悔しさの涙が浮かんできました。

ノートリアスモンスターが剣を手に取りました。
ああ、殺される。そう直感しました。
私は仲間を守れたでしょうか?誇りを守れたでしょうか?
静かに目を閉じます。覚悟は決めました。

一瞬後、悲鳴が聞こえました。
恐る恐る目を開けると、剣を振りかざした体勢から崩れ落ちるノートリアスモンスター。
何が起きたのかわかりませんでした。
ただ、そのクゥダフの背後には、ガンビスンとレッドキャップを着て、そしてナイフを手に持ったあの男が立っていました。
周りにいた4,5匹のクゥダフが、一斉に彼に襲い掛かりました。
あぶない!そう声を出そうと思った瞬間には彼は目の前から消えて・・・そして、すぐに全てのクゥダフが地に伏しました。


彼が私を縛り付けていた縄をナイフで切ります。
ああ、助かったんだ。そう思った瞬間、情けない話ですが、涙が浮かんできました。
声を出して泣く私を彼は抱きしめ、「大丈夫。もう大丈夫だ」そう繰り返しました。
泣きながら、私は生まれて初めて、「この人になら守られたい」そう思いました。


パルブロ鉱山の事件の後、私と彼は行動を共にする事が多くなりました。
とはいっても、私がミッションやクエストの手伝いを彼にお願いする形でしたが・・・

21風の通る道:2004/07/08(木) 01:48 ID:z0jZmvus

あるとき、ミッションでフェ・インの調査の為に北の地に向かいました。
難航が予想されたミッション。彼の相棒であるルーヴェルさんも手伝いに来てくれました。
アイリスが終始ルーヴェルさんの傍に居たのが彼には気に入らないようでした。
私は・・・複雑な心境でした。

私は断言できます。彼を愛しています。この時点で、私の心は彼に支配されていました。
彼は、私の事をどう思っているのだろう・・・?
考え事をしていた私は、うっかりロストソウルと呼ばれる骸骨に襲われてしまいました。
すぐに戦闘が始まります。
私もアイリスさんも力をつけたつもりでしたが、彼とルーヴェルさんの足元にも及ばない事をつくづく実感させられました。
次々と襲い掛かってくる骸骨。その最後の一匹の鎌を余裕で避わし、そして袈裟懸けに切り込む彼。
一瞬、その華麗な動きに見とれてしまいましたが・・・


「うわあああああ!やめろ、こいつを殺さないでくれ!!!」
突然彼が叫びました。
みんな呆気に取られてます。唯一ルーヴェルさんが冷静でした。
「アイリス、逃げるぞ!どこでも良いからテレポを!」
骸骨にパライズの詠唱を終え、ルーヴェルさんが指示を出します。

いつも冷静な彼が突然取り乱し、挙句の果てには敵を殺さないでくれ・・・
しかも、相手は一度死んだはずのアンデッド。私には全く理解が出来ませんでした。

目の前にある風景は、突然泣き出し、両膝をついてしまった彼。
わけもわからない様子でテレポを唱えるアイリスさん。
何故か悲しげな表情で彼を見つめるルーヴェルさん。

アイリスさんのテレポの詠唱が完成する直前、彼の視線の先に光るものを見つけ、とっさに私はそれを拾いました。

22風の通る道:2004/07/08(木) 01:48 ID:z0jZmvus

結局ミッションは失敗に終わりました。
彼は帰るなり、モグハウスに閉じこもってしまい、私は声をかける事も出来ませんでした。
ルーヴェルさんは何故彼がああなってしまったのか知ってるかもしれない。そう思い、私はルーヴェルさんに話を聞きにいきました。


知らなければよかった!
私は愚かな女です。
人の過去に土足で踏み入り、興味本位からそれを知り、そして知った事を後悔している!
ですが、私に出来る事は、彼の過去を知り、嘆く事だけでしょうか・・・?
私の足は、自然と彼のモグハウスに向かっていました。


「済まないな。いきなり取り乱して」
意外にあっさりと彼は私を部屋に招き入れました。
「もう大分落ち着いた。俺のせいで迷惑をかけた」
彼は頭を下げます。どうすれば良いのか私にはわかりませんでした。
ただ、次に私の口から出た言葉は、私自身予想だにしないもので・・・

「私ではだめでしょうか?」
「え?」
「代わりでも良いんです!あなたのそばにいたい!私ではだめでしょうか!?」
悲鳴のような声が出ます。私自身、私を抑える事が出来ませんでした。
「あなたの過去を知りました・・・」
一瞬の沈黙。
「そうか」とだけ彼が言葉を発しました。
「あなたは私を救ってくれました。私もあなたを救いたい。どんな形でもいい、あなたと一緒に居たい、あなたを救う努力をしたいのです」
支離滅裂な私の言葉を彼は無言で聞いています。涙があふれてきました。
「私の我が侭である事は承知しています。でも、それでも・・・!」

突然の抱擁。
「ありがとう」
彼の言葉が、私の心の最後の砦を破りました。


「俺は、幸せにならなければならない。その意味がやっとわかったよ」
「私に、あなたを幸せにする権利がありますか?」




隣に居る彼を感じます。
きっと彼は起きているでしょう。
私も寝たふりを続けます。兄が亡くなった不幸はありますが、それ以上の幸福がこの先にあるでしょう。
彼と一緒なら、どんな困難も乗り越えていける。そういう確信があります。
でも、少しだけ不安になる事があります。
彼は、まだ過去を断ち切れないでいる。だからこそ、私はあの首飾りを彼に渡しました。
そして、あの時の答えをもう一度確認するために、心の中で問いかけます。


「私に、あなたを幸せにする権利がありますか?」



つづく

23風の通る道:2004/07/08(木) 01:56 ID:z0jZmvus
前回から間が空きました・・・。
予告どおり甘々です。
次回はもう少し退屈させない展開になると思います。

作品に関して批判的なレスも、作品に目を通さないとできないわけで、そういう意味では私の作品に対するレス全てに感謝しております。
初期の頃のご意見、ご感想も勉強になりましたし、スレッドが荒れない範囲でもっと沢山のレスをいただけると幸いです。

ところで、今回文字制限にひっかかり、まんなかを二つに分けたのですが、よろしければ1レス何文字までか教えていただけませんでしょうか?

24(・ω・):2004/07/08(木) 21:04 ID:kJQvP4NA
えっと質問しちゃだめかな?wwww
だめだったらスルーおねがしますwww
主人公(?)は有名LSのシーフ(かってな想像)
が3人ひきつれて冒険している話なんだとおもいますが
10話の話は昔話彼と主人公は同一人物ですよね?
3人ほっといて何してんだおいさじあじおsじゃおいjさいおjそいあじょいあs

25ファッキンな作者:2004/07/08(木) 21:24 ID:DBPPcy9k
>>18さん、楽しみにしていますって言葉が、なによりうれしいです。
今、どうしても上手くかけないで悩んでいたんです。
だけど、なんとなくその言葉で吹っ切れました。
プロット通りにかかなければならない様な、強迫観念にとらわれていたのですが、
それが文章自体を束縛していたんだと思います。
今まで貯めといたものを、一旦全部捨てて、もう一度はじめから書いてみます!
ちょっとアップするまで時間かかると思いますが、どうか楽しみにお待ちください。
ありがとうございました!

26風の通る道:2004/07/11(日) 02:05 ID:6YSneWFw
>>24
そのとおり。同一人物です。
「回想」と言う形でアルヴァ(主人公)とイシェイル(主人公の恋人)の出会いを表現するにあたり、
どうしてもわかりにくい部分が出てしまって申し訳ないです。
一部、わざとわかりにくい表現にしたりしていますが、その意味は今後明らかにしていくので現時点ではご容赦を。

まだ続きアップできる状況じゃないです(つД`;)
水曜までには何とか・・・

これだけでは何なので、キャラクターのイメージを・・・

アルヴァ:H♂F4A
ポロムボロム:T♂F2A
アン:M♀F7B
ゲオルグ:G♂F6A
パーシヴァル:H♀F8B
イシェイル:E♀F1A
ルーヴェル:E♂F6A
アシュペルジュ:E♂F1B
アイリス:H♀F4B

ヴァンス:H♂F1A
エイミ:H♀F1B
イルル:T♀F4A

多分、今出ているキャラクターはこれで全部・・・

27名無しの話の作者:2004/07/12(月) 07:03 ID:zRfa8gbo
「名無しの話」の22 −愛しい人−

見上げたら、黒い布に砂金をふりまいたような夜空がキレイ。
今夜はタナバタ。
離れて暮らすオリヒメとヒコボシが、年に一度会えるっていう、東の国の伝説の日。
二人はとっても愛し合ってる恋人同士。
くわしくは知らないけど、いろいろあって、天の川の両岸にムリヤリ引き離されてるの。
そして、今日だけ会うことがゆるされるんだって。
今夜、一夜だけ。
一年に、一夜だけ。

考えちゃう。
もしワタシが…。
もしワタシが愛する人と遠く離れて暮らすことになったとしたら。
年に一度しか会えないとしたら。
どんなに恋しくても、どんなに寂しくても会えないとしたら。

耐えられるかな
恋しさに。
耐えられるかな
寂しさに。
耐えられるかな
一人でいることに。

愛する人の姿が見えない。
肌に触れられない。
声さえ聞こえない。
そんな日々に耐えられるかな。
……

ガルちゃん、泣いちゃうかもしれない。
クスン

28名無しの話の作者:2004/07/12(月) 07:05 ID:zRfa8gbo
「って、おまえかあぁぁーー!!」
ゲシゲシゲシ!
剣でガル戦をひっぱたくヒュム戦。
「ん〜、気分は愛の詩人だぁ」
ポッと頬など染めて夜空を見上げてるガル戦。
二・三度ターンなどしてみせる。
優雅なつもりでも、ブンブンと音。
「すなー!」
叫ぶヒュム戦。
「おとなしく座って、お茶飲んで、お団子食べる!」
びしっと敷物を指さす。
星明かりの下、草地に広げられた敷物には、タル白タル黒、エル騎士にミスラが座ってる。
涼やかな香茶に、甘めの白団子。
ミスラの手作りおやつをつまみながら、星空を眺める。
狩りと戦い。
争いの日常を忘れた緩やかなひととき。
といっても、普段も緩んでるような気もするけど。
……気のせい、気のせい。

ンクンク もぎゅもぎゅ
お茶飲んで、お団子食べて。
ふのふのうなうな、お話しして。
ンクンク もぎゅもぎゅ
お茶飲んで、お団子食べて。
ふのふのうなうな、お話しして。
その合間に夜空見上げて、星を見て…。

29名無しの話の作者:2004/07/12(月) 07:08 ID:zRfa8gbo
と、
「んー?」
夜空を見上げてたガル戦が、何か見つけたみたい。
「「「「「?」」」」」
つられてみんなも見上げる。
けど、何も見えない。
「なにー?」
「とんでるのー?」
立ち上がり、背伸びするタル白タル黒。
小さな身体を一生懸命背伸ばすけど、星しか見えない。
けど、ヒュム戦は知っていた。
こーいうときにガル戦が見つけたものは、ろくなモンじゃない。
タル白タル黒をソッと抱き寄せるヒュム戦。
そろ〜りと座をずらす。
代わりという訳じゃないけど、
「なにがあるにゃ?」
同じように一生懸命見てるミスラのシッポを、そ〜っと押しやる。
「んー、あそこだぁ」
見上げたまま、隣を探るガルカ。
手が、ミスラのシッポに触れる。
ギュッ
つかむ。
「にゃっ!?」
そのままグッ立ち上がり
「うにやにゃにゃにゃー」
「んー、ミスランハンマアァァァァーーー」
ブンブンブン
両手でつかんで振り回す。
頭の上で振り回す。
「にゃー、伸びるにゃ、抜けるにゃ、ちぎれるにゃー」
ブンブンブンブン
さらに速度が上がり
「はっしゃーーーーっっ!!」
投げる。
ほとんど真上へ向けて。
伝説のハンマー投げ。
ギューーーーン
「にゃーーー……‥‥・・」
グリングリン回りながら、
キラーン
星空へと消えるミスラ。
「あらら…」
とヒュム戦。
しばらくして。
ゴヅッ
はるか上空で、何かに当たった鈍い音。
けど。
「んー?」
首をひねるガル戦。
いつもの落下音がない。
「はずれたー?」
「しっぱいー?」
とタル白タル黒。
今回は自分たちじゃないのでお気楽。
でもしっかりとヒュム戦の後ろに隠れてる。
「ガルさん、なに狙ったの」
とヒュム戦。
「んー」
やっぱり首をひねってるガル戦。
「…あれは…」
ミスラの飛んでった夜空を指さすエル騎士。
「天の川だな…」

30名無しの話の作者:2004/07/12(月) 07:13 ID:zRfa8gbo
「ちょっと、なによこの女は!」
ユサユサユサ
男の胸ぐらをつかんで揺する女。
「私たちの年に一度の場所になんで女が来るのよ!」
ユサユサカガクガク
男を揺する力がどんどん強くなる。
「誰なの、何なの!浮気じゃないでしょうね!」
ガクガクガク
返事のない男をさらに揺する。
「こんなのがあなたの趣味なの!?耳がいいの?尻尾が欲しいの?ねえ、なんとか言いなさいよ!!」
問いつめても、ゆすっても
「返事もしたくないの!?」
頭に大きなコブを作った男はグッタリとして反応しない。
「キーー!!うらぎりものー!!」
地団駄を踏む女の足元に転がるのは、
「にゃぁ…‥」
やっぱり大きなコブを作って目を回した異形の娘だった。

「んー…まだ墜ちてこないなぁ…ガルちゃん、ちょっぴり・ふ・ま・ん」
「すなっちゅーとろーがー!」

−おわり−

31名無しの話の作者:2004/07/12(月) 07:24 ID:zRfa8gbo
ごめんなさい、ごめんなさいm(_ _)m
タイムラグありすぎです。
でも時間ないです。
あと、カーネーションごめんなさい。
「ねー、カーネーションってあったっけ」
「なにに使うの?」
「ちょっとネタに」
「んーないよね」
「見てないよ」
「ないんじゃない?」
…裏切り者ばっかり…(-_-)

32Scrapper:2004/07/12(月) 08:09 ID:nfMMuV5c
えーと,もうこちらに書いちゃっていいのでしょうかね?

毎度ありがとうございます.続きをアップしました.
書き忘れていたことがあって,ラストスパートに入れませんでした.
虚偽の次回予告って最悪ですね…orz
http://www.geocities.co.jp/Bookend-Ango/5451/


ちょこっと前スレへのレスです.

そこまで過激な応援を頂くと,
私の方も ぽっ('-'*) ってなってしまったりするのですが.

誤字,とくに名前の入れ違いについては,本当に申し訳ないです.
私は毎晩ちょっとづつ書くスタイルで,その度に読み直すのですが…どうして発見できないのか.

それでは皆様,頑張ってくださいね.

33(・ω・):2004/07/13(火) 00:14 ID:4i1qCn0o
ダブルフェイス・レッドラム  第15話「死者の呼び声」


「痛い…いやだ…死にたくない…や、やめてくれ…!」
「なんで…なんで?…信じてたのに…」
「おかぁさん…おとぅさん…おきてよぅ…おきてよぅ…」

…あれ?こいつぁなんだ?…声…が聞こえる。空耳…じゃ、ねぇな…
「だからあれ程言ったろうに!道を踏み外すなと!」
…なんだ?なんだこれ?…あー…。まっいっか…
「そんなに殺して…満足?」
………
「地獄ね、あなたの行く先は」
……あれ、俺…なんだ?胸が苦しい…いや、痛いくらいだ…
でも、それだけじゃない。わかんねぇ…でも、気持ち…いい?


― 甲板 ―

アルジャダは、ふわっと、まるで重力を感じさせない、一切の無駄の無い動きで
飛び上がり、操舵室の屋根の上に飛び乗った。

そこから見渡す景色は中々の見物である。沢山の骨と、それを迎え撃つ冒険者達。
一進一退の攻防…といいたいところだが、迎え撃つ冒険者達に逃げ場は無い。

「ふむ…」

冒険者達の中に、例の金髪の姿を見た。相も変わらず不得意な両手剣を力まかせに
振り回しているのが微笑ましい。だが、彼の獲物はそれではない。
そう、彼が探しているのは…
「ふふん…待ちかねたぞ」
甲板を軽やかな身のこなしで跳ね回るその姿。…レッドラムである。
「いいタイミング…まさにいいタイミングだ」
この海賊襲撃のどさくさに紛れ、始末できればいう事無しだ。
死体は海にでも捨てて蛸の餌にでもすればいい。
ジックラックが後で五月蝿そうだが、手加減が出来ない相手だ。
殺すつもりはなかった、とでも言っておけば黙るだろう。

34(・ω・):2004/07/13(火) 00:15 ID:4i1qCn0o
弾を込める。そして、片手で銃を構え、狙いを定める。
両手で構えて射撃した方が命中精度が良いかもしれないが、方手持ちは彼の主義である。
…次に足を止めた瞬間がいいタイミングだ。

「…まちなよ…」
首筋に、鈍く、冷たい感覚。
「あ、動かない方がいいよ?ちょっとでも動いたらあんたの首、跳んじゃうよ?」
「やれやれ…お転婆なお嬢さんだ」
「…喋らないで。銃を捨てて、それから両手をあげて」
彼の背後から忍び寄ったのはクリームだった。
「クレイの相棒というのは、お前のことか」
「ちっさいからって舐めないでよね。これでも修羅場を何度もくぐってきたんだから」
なるほど、確かにこの気配は素人の物ではない。一切の隙がないのだ。
「…で、俺をどうするつもりだ?まさか、海賊退治に加わっていた一介の冒険者を
 捕まえるつもりか?」
「さぁてね…それはクレイが決める事だよ。あたいには関係の無い話だし、さ」
「ふふん…関係無い、だと?」

彼は不気味に笑い出した。

「静かにしろ!」
クリームは牙を剥き出し、威嚇する。対するアルジャダは余裕の表情である。
「はは…いや、これは失礼。まさかお前が知らないとはな…クレイというのは本当に
 お前の事を大切に思っているんだろう」
「な、なんだっていうのさ!?」
「そうだな…お前の母親。確かミムといったか。…例えば、そいつを殺したのは俺だ、と
 言ったら…さぁ、どうする?」
「!?」
クリームの全身の毛がぞわっと逆立った。
「あまいっ!」
アジャルダはその隙を見て、腰のナイフを手に取り、クリームを斬りつける。
「くっ…!」
不意を突かれたが、軽やかな身のこなしでナイフの軌道を読み、クリームは攻撃をかわす。
しかし、アジャルダはばっと跳ねると、胸元から一枚の札を取り出す。
札からは魔力が発せられており、しまった、と思った瞬間には、
彼は黒い渦に包まれて姿を消してしまった。
残されたクリームは、ただただ呆然としていた。

35(・ω・):2004/07/13(火) 00:16 ID:4i1qCn0o
…僕は何をやっているんだろうか?
…頭が痛い…よくわからない。ただ、分かっているのは戦っているということ。
手には少し古ぼけた一振りの刀。目の前には大勢の骨や人。
「うぅ…うぅう…」
頭が痛い、しかし次々と骨が襲い掛かってくる。何故か自分は刀の扱いに慣れているようで、
いとも簡単に、まるで刀が勝手に動いているかのようにそれを叩き砕いている。
(僕は…なんでこんな事を…)
「アズマ!…アズマ!?」
(赤い…なんだ?赤い服の女…?)
「もういいから!早く刀を捨てなさい!」
(…こいつは…僕は…こいつを…!)
どすっ と手に鈍い感触。骨とは違う、肉を貫く手ごたえ。
突き刺した刀がゆっくりと、赤い服の女の腹部にめりこむ。
「あ…あぁ…」
嗚咽を上げる女の口から血が沸き出る。
「ね…?…ほら…怖くないから…もう、誰もあなたを…ね…?あなたはいい子…」
ずっ、と一気に刀を引き抜いた。刀身を見る。…血だ!真っ赤な血だ!
女は、地面に膝を突き、その場にうずくまりながら、こちらを見ている。
足元から血溜まりが広がって行く。
「…アズマ…大丈夫だから。…私が守ってあげるから…」
「…僕は…僕は…なんなんだ!?…なんでだ!お前は…なんなんだよぉっ!
 何を奪った!…僕から何を取ったんだ!お前は!…畜生!畜生!」
「まって、アズマ!…そっちはダメ!」
(…あれ!?)

36(・ω・):2004/07/13(火) 00:16 ID:4i1qCn0o
どうした事だろう?数歩後ろに下がったところで、そこに在るべきはずの地面が無くなっていた。
ふわっと、軽い浮遊感があった次の瞬間、強烈な激痛が背中に走り、次には
大量の水が口や鼻から入ってくる。
(なんだ…しょっぱい…海か…あぁ…冷たいな…)
目を開けるとそこはいつまでも続く深い闇。不思議と恐怖感は無い。
…手足を誰かが掴んでいる。そして、その誰かは耳元で囁いた。
”やぁ…君もここに来たんだね?”
「誰だ…?君は…?」
”忘れたのかい?…ほら、みてごらん?僕だけじゃないよ?”
暗闇を見回す。するとどうだろう。無数の赤く光る目がこちらを睨んでいる。
”皆待っているのさ。君が来るのを…早くおいでよ…ほら…こっちへ…”
「嫌だ!…嫌だ!やめろ!僕が何をしたっていうんだ!やめてくれ…!」



…彼の意識と体は一切の光の届かぬ闇の中へと沈んで行く。
まるで最初から何も無かったかのように、彼の意識は無へと還る。



                                    続く

37(・ω・):2004/07/13(火) 00:18 ID:4i1qCn0o
久々なのでミスってあげちゃったスマソ_| ̄|○

38(・ω・):2004/07/13(火) 00:38 ID:o7gP6.Ec
<trackback url=kita>キターーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!

39(・ω・):2004/07/13(火) 22:42 ID:DzO9j8Pc
久々に続き読みたいのきたー

40(・ω・):2004/07/14(水) 00:43 ID:2mcb/NdI
レッド・ラムキタ━━━━━(゚∀゚)━━━━━!!!!
先が気になって妄想ワールド広げまくり〜(´∀`*)

41(・ω・):2004/07/15(木) 00:49 ID:SDkDoPXQ
風の通る道楽しみage

42風の通る道:2004/07/16(金) 02:06 ID:KYvYtaPM
「誇り高き騎士、アシュペルジュの御霊よ、安らかに楽園へと旅立ちたまえ」

棺に土がかぶせられる。
まわりをぐるりと取り囲むように立つ人、人、人・・・
物言わぬ体となった彼が纏め上げていたリンクシェルのメンバーは全員そこにいた。
驚いたのは彼の名声を聞きつけたのか、多くの冒険者、そして、なんとトリオン王子までが参列していたことだ。
悲しみの音が流れる中、アシュペルジュの葬儀は幕を下ろした。



〜第11話、形成す闇〜



「とりあえずこれで落ち着いたわ」
アシュペルジュの妻であるエスメラルダが抑揚の無い声で言った。
俺がかける言葉を選んでいると、彼女は誰にでもなく、いや、自分自身にであろう、言葉を発した。
「彼が冒険者である事、騎士である事。・・・結婚した当時から覚悟は決めていました」

一般的に、冒険者に墓は無い。
近年急激に数を増やした冒険者は、毎日、世界各地で命を落としている。
戦闘で倒れた者は、普通その場に土葬と言う形で埋葬される。
激しい戦闘によって、個人の判別が不可能な場合も少なくは無いため、国も死後の面倒までは見きれないのであろう。
葬儀も本人なしで共同で行うことが多いが、彼の場合は、確かに彼が生きていたと言う証が刻まれていた。

”偉大なる騎士にして名誉ある冒険者、アシュペルジュここに眠る”

43風の通る道:2004/07/16(金) 02:07 ID:KYvYtaPM

「このシェル、どうなるんだろうな」
ルーヴェルが口を開く。
葬儀の後始末が終わったあと、俺とルーヴェルは二人で酒場に来ていた。
「リーダーがいなくなったんだ。離散するのが自然だろうな」
抜けたとは言え、自分が所属していたところが消えるのは、やはりいたたまれないものがある。

「なあ、アルヴァ。前にも言ったが戻ってこいよ?お前がリーダーの代わりをするなら、誰も文句言わないさ」
「やめてくれよ。半年も顔を出さなかった人間が出来るわけ無いだろう?それに、もう戦いは沢山なんだ・・・」
「言ってみただけだ。悪かったよ」

どこまで本気なのかわかったのものじゃないが・・・

「ところで、おまえアイリスとはまだ続いてるのか?」
ぶっ!とルーヴェルが酒を噴出す。
「な、なんだよ。仕返しか!?」
「悪かったよ。でもあのナンパなお前がねぇ・・」
「勘弁してくれよ」



「おかえりなさい。お家には?」
「母さんにはこっちに居るって伝えてきた」
「そう。今度はいつ発つの?」
「明後日にでもテレポでデムまで送ってもらうさ。多分それぐらいのタイミングで合流できるはずだし」

「なんだか、慌しすぎてわけがわからなかったわ・・・」
ティーカップを片手にイシェイルがつぶやく。
「突然だったからな。当然といえば当然だけど・・・。とりあえず終わってホッとしてるよ」
言った瞬間、自分の無神経さに嫌気がさしたが、彼女は特に気にする事もなかったようだ。
「でも、なんだか心にぽっかり穴が空いたかんじ。大切な人を失うってこういう事なのね・・・」
「エスメラルダも同じだろう。彼女を支えてやってくれ」

「ねえ、あなたは死なないわよね・・・?」
一番されたくない質問だった。
冒険者として、多くの人の死を見てきたが、その全てが、突然やってきて、そして呆気なくおわる。
そう、俺にだって死なない保障はどこにも無いんだ・・・
「大丈夫。俺は死なないさ」

44風の通る道:2004/07/16(金) 02:08 ID:KYvYtaPM

夜中に目が覚めた。
まだ涼しいのに、背中に嫌な汗をかいている。
横を見る。彼女は眠っている。
もぞもぞと起きだし、暗い部屋を見渡す。
なんだ?嫌な予感がする・・・!

バルコニーに出る。
・・・何かいる!
そう思った瞬間、ヒュッ!という音と共に何かが飛んできた。
反射的に身をかがめた瞬間、さっきまで自分の額があった位置をクロスボウの矢が飛んでいった。

「ククク、流石だな!」
「誰だ!」
「誰、だと?そうか、俺はお前の記憶から抹消されたのか」
「何だと!?」

闇から、闇が・・・姿を現した。
禍々しい鎧に巨大な両手鎌を持った暗黒騎士。
顔は深くかぶった兜によりよく見えない。
「まあいい。お前を殺せば俺は救われる」

言うが早いか、両手鎌を振り下ろす。
咄嗟に身を避わし、距離をとる。奴の両手鎌が床を貫通した。
一撃でわかった。こいつ恐ろしく強い!
「ほう?避けるか。だが、そうでなければ面白くない!」
次々と繰り出される凶刃をなんとか避ける。
だがギリギリだ。せめて武器があれば・・・!
鎌の一撃を避けた直後に蹴り飛ばされ、壁に背をぶつけてしまった。

「敵に回すとここまで面倒だとはな」
何だ?こいつは何を言っている?
昔の仲間!?
だが、暗黒騎士の仲間は一人しか知らない。それにそいつは・・・

「まだわからないのか。相変わらず鋭いのか鈍いのかよくわからない奴だな。まあいい。冥土の土産に教えてやるさ」
そう言うと、やつは兜を脱いだ。
短めに切りそろえた漆黒の髪、髪と同じ色の目・・・
そんな、死んだはずでは・・・!

「トリスタン!何故お前が!?」
「半年前に死んだはずではなかったか、か?」
そう、それに俺の知ってるトリスタンは戦士だったはずだ。
「いいぜ。答えてやるよ。まず、俺は死んではいない。現にここに居るしな」
兜をもういちどかぶる。
「そして、この”力”はお前を殺すために手に入れた」

「砂丘で亀をけしかけたが、お前は生き残ったしな。やはり俺自らがお前を殺しに来たってわけだ」
「アシュペルジュを殺したものお前か!」
「俺が知る上で冒険者最強の男だ。奴を殺せたらお前も殺せると思ってな」
「何故俺を殺す!?」
「何故、だと!?」
目に見えて怒っているのがわかる。
「お前は俺から大切なものを奪った!その復讐だ!」

「そんな事をしてあいつが、リザが喜ぶとでも思ってるのか!」
「お前が軽々しくその名前を口にするな!!」
邪気がトリスタンを取り囲み、吸収されていく。
自分の血と引き換えに驚異的な破壊力を生み出す「暗黒」と呼ばれる技!こいつ本気で・・・!

45風の通る道:2004/07/16(金) 02:08 ID:KYvYtaPM

「使って!」
暗闇から剣が飛んできて、俺の頭の真横の壁に刺さった。
危ない・・・が感謝する!
剣を引き抜き、構える。
トリスタンがイシェイルの方をちらりと見、そして笑い出した。
「ハハハハ、これは傑作だ!俺から全て奪った男が、女と幸せに暮らしてましたとさ!」
「貴様、彼女に手を出したら許さないぞ!」
「ククク、ここでお前に背中を向けたらどうなるかぐらい分かってるさ。長い付き合いだろう?」

「引けトリスタン!お前と殺しあうつもりは無い!」
「お前に無くても俺にはあるんだよ!」
瞬速!壁を背にした俺には避ける手段が・・・!
トリスタンの鎌が俺の胴体を真横になぎ払った!
「いや!いやああああ!!」
イシェイルの叫び声が聞こえる。トリスタンの満足そうな顔。だが・・・

「何!?幻影だと!?」
「お前とは争いたくない・・・が、降りかかる火の粉は払い落とさなければならない・・・!」
剣を薙ぎ払う。が、トリスタンの鎌の柄によりその一撃は阻止された。
「そうだ、そうでなければ面白くない!」
再び鎌を振り上げるトリスタン。

暗闇に飛び散る火花と響き渡る金属音。
トリスタンは人間とは思えない腕力で鎌を振るう。応戦するが明らかに押されている。
このままでは勝てない!そう思い、策を思案していると、
「遅くなって申し訳ありませぬ。大丈夫ですか、お嬢様、アルヴァ様!」
「爺!」
彼女の家の執事であるロードラントが駆けつけた。
イシェイルはともかく、ロードラントの剣は相当の戦力になる!

「ふん。応援か。流石に分が悪そうだ」
言うが早いか、トリスタンは魔法の詠唱を始める。
「待て!トリスタン!」
一瞬後、トリスタンは次元の渦と共に闇の中に消えていった・・・




つづく

46(・ω・):2004/07/16(金) 09:14 ID:8bz2rtkQ
キタアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア

47(・ω・):2004/07/16(金) 10:55 ID:04wnE.SM
風の通り道キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!

けど、初心者3人はどうなったの?

48(・ω・):2004/07/16(金) 20:55 ID:ILmh0Roo
>>47
上の>>26に作者さんから説明があるよ。
9話から回想シーンらしい。

まとめサイトのほうに簡単な時系列書いてみたけど
あれで合ってるのかなぁ・・・?

49(・ω・):2004/07/16(金) 21:36 ID:Dz4NXzec
初心者3人は、葬式中はバスで待機じゃなかったでしたっけ?
9、10話の過去回想のあと、11話は現在で葬式っぽいですね。
新キャラ トリスタン、ライバル登場('-'*)

50君の明日に祝福を。:2004/07/17(土) 00:23 ID:QCZzNGQE
…あぁ、もう!!ついてないッ!!

狭く暗い坑道を若いヒュームの女性が走っている。
思い起こせばつい三時間ほど前の事。
パルブロ鉱山の何処かにに『ブレイブハート』と言う名剣があるらしい。
という噂を酒場で耳にすると詳細も聞かず飛び出してきた結果がこれだ。
件の剣はすぐ其処にある。但し、かの悪名高い骨喰いのジ・ギの手の中に。

「誰かいないの!?誰か――?助けて――――!!!!」

必死に叫んでも何の反応も無い。既に身体は殴られた後と疲労でボロボロだ。
何時もは鉱石掘りで一発当てようと夢見る冒険者達が大勢いるハズなのに…!
あぁ…私、死ぬのかなぁ。サンドリアに居るお母さんお父さん…。
死ぬ前におなかいっぱい母さん特製コカの煮込み食べたかったなぁ…。

ジ・ギが振り上げた大剣を振り下ろすのが見え、
頭に鈍い衝撃が走るの理解するかしないかの内にイヴの意識は闇に沈んでいった。

***
初投稿してみました。
でも、やっぱ他の作者さんのクリオティには程遠いなぁ。
精進します(´・ω・`) 続く。

51(・ω・):2004/07/17(土) 14:23 ID:520KNgYU
新作歓迎!
どうぞ精進してください。どうぞがんばってください。
もう、楽しみに待ってますから!

52(・ω・):2004/07/18(日) 08:39 ID:3BBRKZ4A
前スレが1000到達したけど、まだ倉庫格納依頼が出ていないみたいなので、倉庫格納依頼に行ってきます。

53君の明日に祝福を。:2004/07/19(月) 01:55 ID:QS9boHKU
夢を見た。
私がまだ子供の頃、何時も一緒に居てくれた彼の夢を。
私はバス生まれのヒュームだけど、父の仕事の都合でサンドリアに移住していて、
学校では何時も『ヒューム』だからと馬鹿にされていた。
そんな時ただ一人、私の事を馬鹿にせず何時も一緒に居てくれたヴィユヴェールという男の子。
私と一緒に居るせいで周りの子達から疎外されてもいつも笑顔だった。
あの頃は彼が居なかったら堪えられなかったと思う。
しかし、彼は突然居なくなってしまった。
彼が10歳の誕生日を迎えた夜に行方不明になり、それきり戻って来なかった。
彼が居なくなって何日も泣いている私。忘れかけていた思い出。
―そんな夢を見た。

54君の明日に祝福を。:2004/07/19(月) 02:18 ID:QS9boHKU
「ん…」
目を覚ますとベッドの上だった。
パルブロ鉱山に向かい、骨喰いのジ・ギに襲われて・・・。
「イヴァリス!イヴァリス!?良かった…目、覚めたのね…」
「お母さん…?」
身を起こし辺りを見回すと確かに自分の部屋で、
傍らに母が目を腫らしてこっちを見ている。
「夜中にヴィルさんが、ぐったりとした貴方を連れて来たときは
心配で心配で…。本当に目を覚まして良かったわ…。」
「ヴィルさん?」
「つい最近隣に越して来たエルヴァーンの男の人よ。
昼間外に出てるのは見かけないけど…。兎に角、お礼だけはしておきなさいよ?」
そう言うと母は涙を拭くと立ち上がって自分の部屋に戻っていった。
「…ヴィル…?」
口に出して呟いてみる。
夢に見た子供の頃の思い出。
私の秘密の友人の名前はヴィユヴェール。
私が彼の名前を呼ぶときはそう、ヴィルと呼んでいた。

***
ぐぅ…。納得いかないけど投稿 orz 文才欲しい…。
まだ面白いとは思ってもらえなさげだけど頑張って盛り上げますです…。
取り合えず現在の人物紹介。
・イヴァリス:愛称イヴ。バス生まれサンド育ちのヒュム♀F1。
・ヴィル:何処かから越してきたエルのお隣さん。F7。
     イヴの子供の頃の友人と愛称が一緒。

55君の明日に祝福を。:2004/07/19(月) 02:20 ID:QS9boHKU
色々辻褄合わない所ありますが後ほどちゃんと纏めます。(´・ω・`)

56(・ω・):2004/07/19(月) 06:18 ID:.4f.lGg.
がんばれええええええ応援してるぞおおおおおおおおおおお
サンドリアァ

57(・ω・):2004/07/19(月) 10:30 ID:13btmevo
>>55
そうなの? あんまり違和感とか感じないのだけど
わしが鈍いだけなのかな(-_-;)

58(・ω・):2004/07/19(月) 14:39 ID:DDskfKuc
>>52
ご苦労様です。
>>57
私も辻褄合わないところ見つけられませんでした。
気になって眠れない・・・だれか助けて・・・。

59君の明日に祝福を。:2004/07/19(月) 23:45 ID:QS9boHKU
トントン。トントン。
目を覚ました次の日のお昼頃、私は隣家の扉の前に立っていた。
トントン。トントン。
屋根の上の煙突からは暖炉に火がついている証の煙がもうもうと青空へ昇っている。
留守、という訳ではないだろう。
コンコン。コンコン。チリリン。チリリン。
呼び鈴を鳴らしてみる。 …反応は無い。
…ガンガン!ガガン!チリーン。チャリチャリチャリチャリ。
「ヴィルさん!!ヴィルさ――――ん!?居るなら出てき…!!」
扉に拳を叩きつけ、叫びかけたところで扉が開く。
もう午後になるというのにカーテンが締め切られた薄暗い部屋の中に
クロークを着、そのフードを目深に被った男がいた。
「…なんだい?人が気持ちよく寝てたというのに・・・。」
そう言われ、ふと、自分の本来の目的を思い出し顔が赤くなる。
命の恩人にお礼を言いに来たのに逆に起こしてしまうなんて…。
「あ、あの…。パルブロで助けて頂いたそうで!!あ、ありがとうございますッ!」
しかし彼は微かに笑うと
「僕は君を運んできただけさ。驚いたよ?彼の有名なジ・ギが
 血塗れで君の隣に倒れていたんだ。ほら、コレ。預かっておいた。君の物だ」
そういって手渡されたのは布に包まれた一振りの大剣、ブレイブハートだった。
しかし…ジ・ギが血塗れで倒れていた?誰が倒したのだろうか…?
倒したなら何故この剣を持っていかなかったのか…。

60君の明日に祝福を。:2004/07/20(火) 00:00 ID:bLlzMP3E
「どうしたんだい?難しい顔をして。…まぁ、無事で何よりだった。
 じゃあ僕はまた寝るから。お休み…。」
「あ…。本当にすいませんでした…。…!?」
慌てて顔を上げると、振り向きざまに揺れるフードの奥に彼の素顔が見えた。
まるで燃え盛る炎の様な、まるで深紅の血の様な。
そんな瞳を抜かせば ―幼き頃の友人、ヴィユヴェール。 
今となっては全てが懐かしく、全てが鮮明に思い浮かべられる。
あの真っ赤で綺麗な髪。
あの眠たげで優しそうな瞳。
あの頃は少しだけ私の方が背が高かったけどあれから9年。
19歳になったらコレ位の背の高さでも不思議じゃない。
確信する。この人は“あの”ヴィルだと。
「ちょっと待って!」
思い切り、叫ぶ。
「ヴィル…?ヴィユヴェール?
 私よ、イヴァリス。イヴよ?覚えているでしょう?
 貴方が行方不明になって…。今まで何処に居たの?心配したのよ?」
―が、
「…確かに僕の名前はヴィユヴェールだ。だけど僕は君を初めて見る。
 なにより僕には此処に越す少し前以前の事をを覚えていないんだ…。
 行方不明?君は何か知っているのか?僕の…僕の失われた記憶の事を」

その言葉を聴いて私はただ…ただ呆然と立ちすくむ事しか出来なかった。

***
辻褄合わないっつーかなんで隣人さんが鉱山来てるんだyp!!
とかツッコミこないかドキドキしてたり。
あとは微妙に表現おかしかったり?
(´・ω・`)続く。
:忘れてた設定:
※イヴ:暗黒
 ヴィル:黒

61白き〜作者:2004/07/20(火) 00:11 ID:w.wDi7vE
お久しぶりですよ!

レッドラムキテタあああ! クリーム萌えなオイラは最近特に待ち遠しいと思います。
パパさん、忙しい中でしょうが執筆頑張ってください、応援しております!

最近ぼちぼち新しい作家さんも増えてますな!
上の『君の明日に祝福を。』も続きが気になりますじゃー!
他の作品もWikiでまとめ読みしてます。
面白い作品多いですじゃ。
セイブ・ファッキンエレファン・名無しの話はいつものように続きを待っております!

さて、おいらも新作UPしてきまちた。お暇な方はお越しください!

ttp://www.miracle-key.gr.jp/white/

62君の明日に祝福を。:2004/07/20(火) 02:27 ID:bLlzMP3E
白探キタ―――――(*´・ω・`*)―――――!!!!!
いやぁ、待ったかいがありましたよ。
最高ですね。
文才もある上に押絵まで描けるから凄いよなぁ…。

63(・ω・):2004/07/20(火) 08:20 ID:smtH5.wI
・・・突っ込まないのがやさしさだろうか (・ω・)

×押絵(おしえ)
○挿絵(さしえ)

64君の(ry:2004/07/20(火) 08:22 ID:bLlzMP3E
えぇ、起きて気づいてきたらやっぱ間違ってた orz
×押絵
○挿絵

65(・ω・):2004/07/20(火) 19:23 ID:8NT8lyS6
すいません。ごめんなさい。出来心です。アフォです。
どんな感じかなといじってたらなんか書いちゃいました。
消えない・・のね(汗)

66(・ω・):2004/07/20(火) 23:52 ID:z2RK/t1U
レッド 第8話「心因性幻想曲」


「目覚めさせる気?!!」
今にも飛び掛らんばかりの威勢で、ポチが目の前に立つエルヴァーンに吼えた。
そのエルヴァーンは、まるで何事かの様に、手を上げて困っている様だ。
果たして、この瞬間、私はどのような行動をとれば良かったのだろうか。
まるで見当がつかない。
それは、答えの無い問題の様な・・・。
「俺は、ギフトの匂いにつられてきただけだぜ?」
紅の目をしたエルヴァーンが答えた。
一歩二歩と、私に近づく様に歩くたびに、静寂に足音が木霊した。
「ギフトとは何だ?なぜカーバンクルがそれほど恐れている。
 お前は何者だ?」
私の問いに、紅のエルヴァーンは立ち止まり、疑問に満ちた表情をしていた。
ポチさえ、私の味方である筈のカーバンクルさえ目を伏せていた。
言いようの無い不安が、私に纏わり着く。
無音の時間が長く続いた。永遠に続くのではないかとさえ思えたほどの長さだった。
「お前・・・・。」
紅の瞳が、私に話しかけてきた瞬間、エルヴァーンの後から声が聞こえた。
「セルド?!」
その声は、ジャンの声だった。
「何だ・・・この人形は・・・・。」
セルドと呼ばれたエルヴァーンが、ジャンを人形と呼んだ。
セルド、それはジャンが無くした夫の名前だった。
最果ての地、ザルカバードに聳え立つズヴァール城、
そこに向かい、ある指令を達成させるミッションに出て、命を亡くしたはずだ。
「死んだはずじゃないのか・・・。」
私は、驚きを隠すことなど出来なかった。
死んだはずのジャンの夫であるセルドが、私の目の前に立っていたのだから。
「ほ、本当に君の夫なのか?ジャン!間違いじゃないんだな!?」
私がジャンに問いかけると、呆れた顔をしたセルドがジャンに近づいて行った。
そして、不意に手を額に触れると、ジャンの体が、まるで糸を切られた人形の様に崩れ落ちてしまった。
「何を・・・何をしたんだ!!」
私の叫びに、セルドは冷たい視線を返した。
まるで、私を見下すかの様な目だった。
「幻想だよ。全部お前の。なんで俺の名前を知ってるのか、なんで俺の嫁の名前を知っているのかは分からない・・・。
 だけどな、お前が見ているものは人形でしかないんだ。俺はただ、人形につながる魔力をシェルで反射しただけだ。」

67(・ω・):2004/07/20(火) 23:53 ID:z2RK/t1U
ウィンダス連邦で使われる大体の人形は自律的に動くものが主流である。
しかし、それは主人と人形をつなぐ何らかの因果が存在する。
それが魔力の線だ。
一本の、ただそれだけの魔力の線によって、人形と主人はつながれている。
ある特殊なシェルを使った場合、それを遮断することも研究されていたと聞いたことがある。
バストゥークの魔法研究局だとか、サンドリアの教会だとか、その噂は様々だった。
それは、ウィンダスの誇るガーディアン軍を無効化するためなのだろう。
つまり、私の魔力の線を遮断すれば、マネキンは動くことが出来なくなってしまうということだ。

「なんだ?その・・・マネキンは・・・。」
ミスラの形を模した人形が、そこに落ちていた。
「なんだ?その・・・マネキンは・・・。」
バカみたいに言葉を反復した。
理解を超えた現象が、いま私の身に降りかかっている。
私はいったい・・・・何を?
「全てが・・・幻想?私は、夢を見ていたのか?」
私を見つめるセルドとポチ。
「ポチ。お前は全部知っていたのか?なぜ・・・私を利用しようとしていたのか?」
「ヘルダガルダ・・・。」
私の名前を呼んだだけで、何も答えようとしなかった。
「ジャミは、私をセルドという名前で冒険者登録したじゃないか!そうだ!
 夢なんかじゃない!どこだ!ジャン!!どこだぁぁあ!」
「それは・・・自分で登録しただけだよ・・・ヘルダガルダ。
 ・・・・ジャンは、死んでいるんだ。」
ジャンは死んでいるんだ。
それは、私にとって唯一の希望を失ったことを意味する。
「封印は?・・・。」
「そんなの感じないな。とっくに破ったか、元々なかったかだろうな。
 どんな封印だろうと、そのギフトの証である赤鼻にかかりゃぁ破るなんて軽いだろうがな。」
すでに、赤鼻と呼ばれてもなんとも思わなくなっていた。
それが、私自身が作り上げてきた私への幻想にしかすぎないことを表しているのではないか。
私は・・・演じていたのか?信じられない。何もかも。
「覚えてるかな、ヘルダガルダ・・・。カザムの出来事・・・。あのときからだよ。
 そう・・・ジャンが死んだのも・・・目覚めてしまったんだね・・・ヘルダガルダ。」
何も覚えていない。私は、全てが偽りに感じていた。
全てが嘘なら・・・・

そうだ。

いっそ、

世界を滅ぼすとしよう。

つづけ

68(・ω・):2004/07/21(水) 00:55 ID:uRnOHx8k
続き諦めてた作品も、無事にUPされてて
たまに覗きに来るのもいいなと思った。

69歌う花 1/16:2004/07/24(土) 15:05 ID:YdbxuRZs
歌う花


どれほどの思いがあれば、君は笑ってくれるのだろうか。
願ったことは君の幸せ。
ただ、君が笑っていてくれればいい、そう思っていた。

けれど、僕にできることは、歌うことだけ。

目を閉じると浮かんでくる哀しげな君の姿。
どれだけの思いを積み重ねれば、君に届くのだろうか。



その話を一番初めに聞いたのは、ジュノ下層にある俗に詩人酒場と呼ばれる
場所でのことだった。
一緒に冒険に行くこともあれば、仕事の仲介をしてもらうこともあるシアは、
話好きらしく酒場で遭遇するとよく酒につきあわされる。
何度も酒につきあっているうちに、呑み友達のような間柄になっていた。
その日もいつものように酒場で遭遇し、半分絡まれるように酒の相手をして
いた。
「歌?」
「そう、歌。だーれもいないはずの場所から歌が聞こえてくるんだってさ」
それは、怪談というやつだろうか。
酒の入った頭でつらつらと考えて一つの可能性を思いつく。
「それは冒険者の詩人が呪歌をうたっているとかじゃないのか?」
冒険者ならはっきり言って、どこにいても不思議ではない。
どんなへんぴな場所だって、彼らは行くのだ。
それが仕事だろうと、そうでなかろうと。
「だって、誰もいないはずの場所なのよ?」
どうやら、俺の反応がお気に召さなかったらしい。
シアは、整った顔に怒ったような表情を浮かべ反論してくる。
「冒険者なら普通のやつがいかねぇようなところにも行くだろうが」
反論する相手に、反論で返す。
実のところ、相手も自分もかなり酒が入ってるので、訳のわからない理屈に
なっている部分はあるだろう。
「それはそうなんだけどさぁ」
納得できない部分があるらしい。

70歌う花 2/16:2004/07/24(土) 15:06 ID:YdbxuRZs
「ほかにも何かあるのか?」
実のところ興味深い話ではある。
歌と聞いて心がざわめくのは、やはり俺が詩人を生業としているからだろう。
「うん。
 実際聞いたって人に会ってみたんだけどね、あれは恋歌じゃないかって」
「恋歌?」
確かに、それは不思議な気がする。
「さっきからにたような反応ね。ま、いいけど」
酔っぱらいに、しゃれた反応を期待してどうする。
「とにかく、呪歌ならまだしも恋歌をだれも来ないような場所で歌う酔狂者
はいないでしょ?」
断言されると反論したくなるのが人の性というものだろう。
そのことを友人に話したら、それはおまえだけだと笑われたが。
「いるかもしれないじゃないか」
「んまー、ひねくれ者ね、かわいくない」
すねたように言う。これが、3国のみならずジュノでも名の知れた冒険者達
のギルド、"鷹の止まり木"のリーダーだと言うからたちが悪い。
実際、かなりの冒険者であることも、良いリーダーであることも知っている
のだが、呑み友達としては、かなりやっかい・・・というか手がかかるのも
事実だ。
「悪かったな」
「んじゃね、とっておきの情報よ!
 なんと、歌声を聞いて不審に思った人が駆けつけたら!
 人影なんていっさいなかったって言うのよ!」
人気がしたから逃げたっつーのも十分考えられる話だろうに。
「で?」
かなり冷めた反応だった自覚はある。
「おもしろくなーい。なんでそんなに反応冷めてるのさ」
一緒に騒いでもらえることを期待したと言うのだろうか。
長いつきあいだ。俺がそんな性格ではないってことは先刻承知だろうに。
「性格だろう。話がそれだけなら俺は行くぞ」
ずいぶんと呑んだ。
このまま最後までつきあうと、明日の仕事に差し障ってしまう。
そろそろ切り上げた方が良いだろうと判断した俺は、席を立つとその場を離
れた。

このときは、まだこの話に自分が関わる羽目になるとは思ってもいなかった。

71歌う花 3/16:2004/07/24(土) 15:06 ID:YdbxuRZs
翌日、その日の仕事を終え、やれやれと思いながらいつものように下層の
酒場を訪れた俺を待っていたのは、興奮気味のシアだった。
いつも騒いでいるように見えているが、以外と冷静なシアが、興奮気味なの
が、不思議で軽く首を傾げていると、狩人の乱れ撃ちのような凄まじさで、
彼女は言葉を紡いだ。
「レイル、良いところに!あなたこの後の仕事って、詰まってる?」
問われた意味がわからず、とりあえず鸚鵡返しに問い返す。
「仕事?」
「そう、明日・・・は今からじゃ準備が間に合わないから、明後日からに
なるかな」
何か依頼があるというのだろうか。
頭の中で、仕事のスケジュールを反芻する。
「しばらくふらふらするつもりだったから、今のところ特に仕事の予定は
ないが」
そう答えると、シアは満足げに頷き言葉を続けた。
「おっけー、仕事受けない?」
「ん?」
「アルテパ砂漠のオアシスまでの護衛。報酬は前金で30000、後金で30000、
 働き次第ではボーナスあり」
「おまえさんところで、受けられるだろう、そのぐらいの依頼」
わざわざ、俺に依頼するまでもないだろう。
彼女から回される仕事は、大抵の場合彼女のところだけでは手に負えない
・・・というか彼女のところだけでは、手が足りない場合に手伝いにかり
出されるというパターンがほとんどであり、そんなことは実は滅多になか
った。
「今うちの連中出払っちゃってていないのよ」
さっくりと答える。
確かに、彼女のところは人が多い。
だが、名の知れた・・・良い意味で名高い彼女のギルドにはご指名での仕事
も多かろう・・・とそこまで考えたところで、俺は顔見知りの連中が、酒場
の隅の机でできあがっているのを見つけた。
「あそこでくだまいてる奴らは何なんだ?」
指し示し、問う。
彼らは確か彼女のギルドのメンバー・・・それも主力と言ってかまわない位
腕の立つメンバーだった。
「あぁ、一番重要なこと言い忘れていたわね。護衛は何人でもかまわない。
ただし、必ず1人詩人を入れてほしいと」
なんなんだ、その条件は。
「で、うちの詩人連中はみんな出払っちゃってて、あいてるやつがいないの」

72歌う花 4/16:2004/07/24(土) 15:07 ID:YdbxuRZs
彼らの方を見やる。
確かに詩人はいないようだった。
詩人という職業を生業としている人間は、以外と数が少ない。
冒険者として腕が立つ。となればなおさらだ。
ましてや、"鷹の止まり木"のメンバーとなれば、あちこちから仕事の引きが
多くて当然だろう。
「で、俺か」
「私が知ってるフリーの詩人で、一番腕が立つのあなたなんだもの」
「受けるのはかまわないが・・・何だってそんな興奮してるんだおまえさん」
護衛の仕事は割とどこにでも転がっている。
かなり様々な仕事をこなしているシアにとって、興奮するような類の仕事
とも思えない。
「だってー。噂の真偽を確かめるチャンスなんて、滅多にないじゃない」
「はい?」
言葉の意味がわからない。
「だからぁ。アルテパ砂漠のオアシスなのよ!
 夕べはなした歌が聞こえる場所!」
だれもいないところから歌が聞こえるというあれか。
「オアシスには、隊商の連中やら冒険者の連中やらガードやらいると思うんだが」
人気は少ないかもしれないが、無いわけではない。
「だから少し離れた場所だけどね」
シアの物言いに、引っかかりを覚えたのも事実。
問いただそうと思ったのだが、受けるといった言葉を盾に話を進められ、
気がついたときには、その少女を護衛することに話が決まっていた。

翌々日。
待ち合わせ場所であるガイドストーンに向かうと、すでにシアはその場にいた。
隣にいる、内気そうな少女が依頼人だろう。
「待たせたな。シア、そちらが依頼人か?」
声をかけると、少女とシアが同時にこちらを見る。
「おはよう、レイル。そうよ、この方・・・ジェシカさんが依頼人。
 ジェシカさん、こちらが今回この仕事を受けてくれた詩人のレイル」
紹介され互いに軽く礼をする。
ほっそりとした体に、おろしたてであろう旅装。
何のためにアルテパに行くんだかさっぱりわからない。
と、そこで一つ重要な問題に気がつく。
アルテパ砂漠のあるクゾッツ地方へ向かうためには、コロロカの洞門を抜ける
か、アルテパ砂漠にあるルテのゲートクリスタルへテレポするしかなく、コロ
ロカを抜けることを許可されているのは冒険者のみ、ということである。

73歌う花 5/16:2004/07/24(土) 15:08 ID:YdbxuRZs
「アルテパまではどうやって?」
とりあえずルートについて尋ねる。
「まずはバスに飛空挺で移動して、そこからコロロカ越えね」
一般的といえば一般的な手段だろう。
そもそもゲートクリスタルは一度その場所に行った者でなければ入手する
ことができない。
と、なると使える手段はコロロカ越えのみになる。残る問題は・・・
「飛空挺パスと洞門を越える許可は?」
「それは私が手配済み。
後であんたに渡して置くから、ちゃきちゃき仕事してね」
抜かりは無い、ということか。
「了解。ジェシカさん、飛空挺乗り場の方に移動しておきましょう」

俺は少女を促すとバストゥーク行き飛空挺の乗り場へと向かった。

ジュノから3国に向かう場合、もっとも手っ取り早い移動手段は飛空挺だろう。
徒歩ならば数日、チョコボでも軽く半日・・・旅慣れた者でさえそのぐらい
かかる旅路を飛空挺は数時間で移動する。
飛空挺に乗るためにはパスが必要で、これを入手するためには何十万という
多額のギルか冒険者としてジュノの大公に認められる必要があった。
どちらも簡単な道ではない。
もっともどんなことにも抜け道というものはある。
半永久的に有効なパスを入手するのは難しくても、1回限りのパスならば、
割と簡単に入手することができた。
もちろん相応の身分保障とギルは必要となるのだが。
報酬にそこそこ多額のギルを出せるぐらいだ、パスのための身分保障もギル
もばっちりということなのだろう。

飛空挺乗り場の入り口にたつ係官に確認したら、次の船は1時間ほどでジュノ
に到着するという。
砂漠の旅の準備はきっちりすませてあるので、ジェシカの分も含めて出国
手続きをする。
ゲートをくぐり抜けたところで、不安げにジェシカが問いかけてきた。
「あの、レイルさん・・・」
「なんでしょう」
もぞもぞする言葉遣いだが、さすがに依頼人に対してぶっきらぼうな口調に
なるわけにも行かない。ほかに誰かいれば対応はそいつに任せてしまえるん
だが。
「2人で移動するのでしょうか?」
確かにうら若い女性が、初対面の男と長旅をするのは気が引ける行為だろう。
それに、護衛が一人では不安だということもあるのかもしれない。

74歌う花 6/16:2004/07/24(土) 15:08 ID:YdbxuRZs
「俺一人では不安ですか?」
「いえ・・・」
口ごもるジェシカ。
俺一人では不安なのか、二人きりが嫌なのか、いまいちよくわからない。
が、なにか不安に思っていることがあるのは確かなようだ。
「できれば、女性がもう一人ぐらいいる方がいいんでしょうが・・・
本当はシアがついてくるつもりだったらしいんですがね、断れない急な仕事
が入ったものだから、俺だけになってしまいました」
本来なら、シアが一緒に来るはずだったのだが、断れない筋から仕事が入っ
たせいで、これなくなってしまった。代理を出す。と言っていたが、かなり
人手が必要な仕事だったらしく、結局俺一人でこの仕事を受けることになった。
「そう・・・ですか」
「不安なら、もう一人ぐらい同行者を捜す伝手はありますが、どうしますか」
俺一人が不安なのにせよ、二人きりが嫌なのにせよ、後一人同行者がいれば、
気は楽になるだろう。
「いえ、大丈夫です。
ごめんなさい、あなたを信用していないような口振りになってしまいました」
"鷹の止まり木"のリーダーが仲介したとはいえ、俺自身はそのメンバーじゃ
ない。
さらに言えば、かなり軽いように見えるだろうし、あまり腕が立つように
も見えないだろう。
これでは、いまいち信用しきれないのも仕方がない。
「いえいえ、若い女性が男と二人きりになることに警戒心を抱くのは正しい
ことだと思いますよ」
「ごめんなさい」

飛空挺が到着したので、その話はそこまでになった。
結局護衛を追加することはせず、俺が一人で護衛をすることになった。

出発間際、気になったのは、ジェシカの瞳に宿る感情。
ずっと昔、同じ眼を見たことがある。

深い絶望に囚われた瞳・・・。

75歌う花 7/16:2004/07/24(土) 15:09 ID:YdbxuRZs
飛空挺の旅は気楽だ。
モンスターが襲ってくることもないし、自分の足を動かす必要もない。
ぼーっと乗っていれば、目的地へと着く。
この時間をぼーっとつぶすのももったいない。
「ジェシカさん、今のうちにコロロカを抜けた後のルートについて話をして
おきましょう」
ジェシカは一瞬何を言われたかわからなかったようだ。
「え?」
「アルテパのオアシスって、たぶん東アルテパのオアシスのことだと思うん
ですが」
「え、ええ。そうです」
砂漠にはオアシスが数カ所あるが、一番大きなのは西アルテパのラバオの
オアシス。次に大きなものは東アルテパの南東にあるオアシスだろう。
ラバオのオアシスには、交易者と冒険者が作り上げたちょっとした街がある。
「コロロカ抜けてそのまま向かってもかまいませんが、それではあなたの体
に負荷がかかりすぎると思います。だから、一度ラバオに向かおうかと」
「ラバオ?」
クゾッツに言ったこと無ければ知らなくて当然だろう。
「西アルテパにあるオアシスの街です。そこで一度休息を取ってから移動
した方が良いでしょう。砂漠はなれてない人間が旅をするには厳しすぎる
環境ですから」
「・・・わかりました。お任せします」

そんな話をしているうちにバストゥークへついた。

コロロカの洞門。
かつて、アンティカの大群に襲われたガルカ達は故郷を追われ、この洞門を
抜けてここバストゥークへとたどり着いたという。
100年以上閉鎖されていたが、最近は冒険者がよく行き来している。
人間ってのはなんだかんだでフロンティアに弱いのだ。

ツェールン鉱山を抜けて、洞門に入ると、それまでとはまるで別の風景が
そこには広がっていた。
「わぁ」
冒険者でもなければコロロカを通ることなど無いだろう。
ジェシカが、幻想的な風景に思わず感嘆の声を漏らす。
「少し待って、音消しの魔法を掛けます」
「音消し?」
「ここのモンスターは眼が退化してるのか耳が良いモンスターが多いんです。
音消し・・・スニークの魔法を掛けておけば、見つかりにくくなりますから」

76歌う花 8/16:2004/07/24(土) 15:09 ID:YdbxuRZs
「ありがとう」
「仕事ですからね。切れそうになったら教えてください。かけ直します」
護衛の仕事はたまにしか請け負わないから、ジェシカが依頼人としてどうか、
なんて言い切ることはできない。
それでも、妙に聞き分けが良すぎるような気はしていた。
本当はもっと早く注意しなければいけなかったのかもしれない。

体力を必要以上に消耗しないように、注意しながら進む。

所々で、呪歌・・・体力を回復するピーアンを歌っていたのだが、その様子
を見たジェシカがつらそうな顔をするのを俺は気がつかないフリをした。
聞いても詮無いことだと思ったから。
少し後になってから、このときジェシカに話を聞かなかったことを俺は後悔
することになる。

洞窟を抜けると、そこは熱砂の砂漠だった。
いつものことだが、砂がまぶしい。
日はまだ高い。もう少し日が傾くまで、移動は待った方が良さそうだ。

「ジェシカさん、少し休憩しましょう」
「え・・あ、はい」

荷物の中から、サンドリアティーを取り出し、ジェシカに渡す。
不思議に思ったらしい。首を傾げていたが、俺が飲み始めると納得したように
カップに口を付けた。

吹き渡る風は熱を含んでいる。
ザルクヘイムに横たわるバルクルム砂丘も砂だらけで、かなり暑い場所だが、
ここはそれ以上だ。

その風の中に紛れて声が聞こえた。
ぎょっとして、耳を澄ませる。
かすれるような声。けれど、確かに聞こえた。
ふと、ジェシカの方に目をやる。
何か考え込んでいるようだが、声には気がついてはいないようだった。

「まさかな・・・」
声には出さずに呟く。

甘いお茶と、少し休憩を取ったことで、ジェシカの体力も回復したようだ。
日もだいぶ傾いて、風に涼しいものが混ざり始めている。
そろそろ出発しても大丈夫だろう。

77歌う花 9/16:2004/07/24(土) 15:10 ID:YdbxuRZs
幸いなことに砂嵐に会うこともなく、熱波に襲われることもなく無事に
ラバオへとたどり着いた。
今夜一晩ここで過ごし、明日の明け方・・・暑くなる前にここを出発する。
本来ならば、夜間に旅をする方が、暑さ対策という意味ではずっと効果が
高い。
だが、この世界の夜はけして安息だけをもたらすものではない。
アンデッドと呼ばれる種族は夜を好む。
そして夜を好む種族は、たいていの場合質が悪い。
だから、夜に旅をするのはできるだけさけた方がいいのだ。
同行者に冒険者ではないものがいる場合は特に。

砂漠の真ん中、オアシスに作られた街であるラバオは、クゾッツ地方を探検
して回る人間の本拠地になっている。
ジェシカを休ませたいと思っていたのも確かな事実だが、実のところもう
一つの目的も重要だった。
それは情報の入手。
宿代わりの天幕を借りてジェシカを休ませると、顔見知りの情報屋を捕まえる。
「おや、レイルじゃねぇか。仕事か?なんかお宝あるか?」
故買屋兼情報屋という顔見知りのガルカは、おきまりのフレーズで挨拶を
してくる。
「情報がほしいんだ。東アルテパのオアシスについて。ここ2ヶ月前後で
変わったことがあれば全部くれ」
「また適当な、ご指定だな」
「ほっとけ」
にやにやと、俺とジェシカの休んでいる天幕を見比べる。
何を考えているか、だいたい予想がつくので、一応釘を指す。
「この人は依頼人だからな。変な噂を流したら絞めるぞ」
「こえーこえー。わかってるよ。シアの依頼だろ」
「ん?聞いたのか」
・・・そう言えば、こいつも"鷹の止まり木"に所属してたことがあったな。
今は抜けてしまったようだが、それでもシアとは豆に連絡を取っているら
しい。
「そんなところだ」
「そうか、じゃあわかるだろうが、目的地がオアシスなんだ。
 変わったことがあるなら把握しておきたい」
「ふむ。何かあったかな。今はウィンダス領だから、あそこにゃガードが
詰めてるし、大きな変事は無かったと思うが・・・」
そこで少し考え込む。
「っと、そうだそうだ。オアシスのあたりで1月ぐらい前に激しい戦闘が
あったらしい」

78歌う花 10/16:2004/07/24(土) 15:11 ID:YdbxuRZs
オアシスは良い拠点になる。
獣人との小競り合いは日常茶飯事だろう。それが、激しいといわれるならば
それは本当に激しい戦闘だったのだろう。
「ほう」
「何でも割と若手で構成されたパーティが戦ったらしいんだが・・・」
言いよどむ。それは、つまり・・・
「ダメだったのか」
「ああ、蘇生も間に合わなかったらしい。遺体はそのままオアシスのそばに
埋められたってはなしだ」
「気の毒なことだ」
冒険者などというやくざな稼業だ。
死というものへの覚悟はできているだろう。
それでも、気の毒なことは事実だ。
そして、全滅・・・というのは、いつだって冒険者にならばついて回る危険
なのだ。
・・・古い傷がじわりと痛むのを感じる。

「その、歌声の噂は、俺も初めて聞いたが・・・」
情報屋が首を傾げる。この噂事態、出所がいまいち不明だ。
俺はシアから聞いたわけだが。
「アルテパ、オアシス・・・ここまで符号がそろうってのも気にはなるな」
歌声の噂と、若手パーティの全滅・・・そしてジェシカの依頼。
つながっている、と考えるのは考えすぎだろうか。
「まあ、注意しな。あのあたりは"魂を失いし者"が出るしな」
魂を失いし者・・・かつて冒険者だったかもしれない者達。
「それは?」
「気にかかるんだよ。わざわざあのシアが、あの嬢ちゃんの依頼を受けたっ
てことがな」
確かに、噂の場所だから・・・ってだけではない気がしてきた。
「わかった。忠告感謝する」
「たいした情報が無くて悪かったな」
「いや・・・感謝する」

たぶん・・・いや、きっと。
確信していた。
全滅したパーティーの中におそらく、ジェシカの大切な誰かがいたんだろう。

ただ、それがどんな意味を持つか。
それはわからなかった。

今、俺にできることは、彼女の依頼を果たすことだけか。
そう思い、俺も体を休めることにした。

79歌う花 11/16:2004/07/24(土) 15:12 ID:YdbxuRZs
明け方。
荷物を手早くまとめ、出立する。
「ジェシカさん、チョコボには?」
チョコボに乗れれば、多少は早く目的につけるだろう。
だが、チョコボも乗るためにはそれなりに訓練がいる。
帰ってきた答えは予想通りだった。
「乗れません」
「では歩きで。暑いから、きついときはすぐに言ってください。
 無理は禁物です」
「ええ」

わぷっ。
思っていたよりも風は強かった。
やれやれと思いながら、前へと進む。
砂漠には道らしい道はないが、それでも基本的なルートというやつが存在
する。
その道を見失わないよう、慎重に足を進める。

目的地である東アルテパ砂漠のオアシスにたどり着く頃には、日は中天に
あり、俺とジェシカは砂まみれになっていた。

「到着です」

小さな湖と、ガードが詰めている宿営用の簡素な建物があるだけのオアシス。
ラバオと比べるとその小ささに、ジェシカは驚いたようだった。
「ここが?」
「そうです。目的地のオアシスですよ」
むだな努力と知りつつ服の砂を払い落とす。
「そうですか、ここが・・・」
そう呟くと黙って、湖を見つめるジェシカをみやる。
ジュノを出るときにはおろしたてだった旅装は、すでにぼろぼろだった。
「これから、どうします?」
「え?」
俺の質問が意外だったらしい、びっくりしたように聞き返す。
「いや、何か目的があるからここまで来たんでしょう?
 俺は帰りまで含めて護衛ですから、手伝えることがあれば手伝いますよ」
初めはきょとんとしていたジェシカは、やがておずおずと一つの願いを俺に
告げた。
「あの。一晩ここで過ごしたいんです。
そして・・・夜に鎮魂歌を歌ってもらえますか?」
鎮魂歌・・・やはり、と思うが顔には出さない。もちろん口にも。
「わかりました。では、少し宿営地で休憩させてもらいましょう」

80歌う花 12/16:2004/07/24(土) 15:12 ID:YdbxuRZs
いくら護衛がいるとは言え、戦闘もあり得るところに冒険者でもないお嬢
さんがと、ガードはぶちぶち言っていたが、なんだかんだで丁寧に面倒を
見てくれた。

緩やかに暮れていく、砂漠。
このまま何事も無く、歌って俺の仕事は終わりだと思っていた。

・・・甘かった。

ぽろん。ぽろん。
一番得意な楽器である、竪琴で鎮魂歌を爪弾く。
呪歌・・・ではなく、単純な鎮魂歌。ただ、魂の安寧を願い歌う。

「私の大事な人はあなたと同じ戦闘詩人でした」
旋律に紛れて、聞き落としそうな位小さな声で、ジェシカが告げた。
顔を上げて、そっと続きを促す。
手は止めない。鎮魂歌を望んだのは彼女だから、そして曲をやめることを
望んではいないように思えたから。
「帰ってくるって、言っていたのに・・・」
眼を伏せる。
「連絡が取れなくなった私に、届いたのは一通の手紙でした。
 それには・・・彼の所属するパーティーが・・・」
嗚咽が混じる。
気になって演奏の手を止めた俺に、彼女はそっと手を挙げて続けるように
示す。
「彼のパーティは、ここで全滅したそうです」
出発間際に気になった、瞳に宿る絶望はそのことだったんだろうか

ぽろん。ぽろん。

竪琴の音に、嗚咽の音が混じる。
・・・はっきり言って、こういう空気は苦手だ。
困り切って、竪琴に眼を落とし、鎮魂歌の演奏を続けた。

そのことに気がつけたのは、運が良かったのか、それとも「彼女の大事な人」
とやらのお導きだったのか。

嫌な予感がしてふと顔を上げると、ジェシカが短剣で自分の胸を突き刺そう
としているところが目に入った。
とっさに楽器を放り出し、その両手をつかむ。

81歌う花 13/16:2004/07/24(土) 15:14 ID:YdbxuRZs
「なにやってる!」
ぎりぎり間に合った。いくら俺が詩人・・・腕力も体力も半端だとはいえ、
さすがに冒険者でもないお嬢さんにひけは取らない。
両手をしっかりと押さえれば、それ以上彼女は腕を動かすことができない。
がっちり押さえられた両手から逃れようと、じたばたと暴れる。
「はなして、ほっといてください」
「この状況で、ほっとけるわけがないだろう!」
言葉遣いが素に・・・ぶっきらぼうと言われる口調に戻っていたが、気に
する余裕もない。
何でいきなり・・・。
「あなたに何がわかるって言うんですか!」
わかる・・・とは言わない、言えない。だが、放っておく訳にもいかない。
「置いて行かれたのに。私は置いて行かれたのに!」
だから、後追いするってか・・・冗談じゃねぇ。
「やっかましい!俺はあんたの護衛を請け負ったんだ。街に戻るまであんた
を守るのが俺の仕事だ。何で自分で自分のこと傷つけようとするんだ」
はっきり言って切れていた、と思う。少なくとも依頼人に取って良い態度じゃ
無かった。ただ、相手もそのことを気にする余裕は無かったようだ。
「何もできないならほっといてよ。私はあの人と一緒に行くんだから!」
この、行くってのは・・・やっぱそうだよなぁ。
早めに気をつけておくべきだった。・・・あんな思い詰めた眼をしていたのに。
気付かないフリをした、俺のミスだ。
「ったく、本当にそいつがそんなこと望んでるのか?」
それはない。絶対に違う。だから、声に力が入った。
「ちがうだろうが!」
「あなたに何がわかるのよ・・・」
泣き顔のジェシカ。わかる・・・とは言い切れない。状況は違う。
でも、大切な者を失いたった一人生き残ることのつらさはわかるつもりだ。
「大事な人失って自暴自棄になるのはわかる。でも、あんたの大事な人は
それを望んじゃいない・・・俺はそう思うぞ」
少なくとも。生き残った者がそう信じなくちゃあまりにも切ないではないか。

一陣の風。

運んできたのは、かすかな歌声。
はっとして動きを止める。同じように、ジェシカも固まっている。
その口からこぼれた言葉に、それが聞こえたのが自分だけではないと知る。
「うた?」
歌声だ。そして・・・
「・・・だな。呪歌・・・じゃないな」

82歌う花 14/16:2004/07/24(土) 15:14 ID:YdbxuRZs
毒気が抜かれたようにジェシカの手から短剣かこぼれ落ちる。
素早く受け止めると、俺はそれを自分の荷物の中にしまった。
武器がなければ早まることもできないだろう。とりあえずは。

そっとあたりを見回す。

ちょうどラバオで聞いたところ。
全滅してしまったパーティーの亡骸が埋められた場所。
そこに花が咲いていた。

風に揺れながら、風の音に合わせて聞こえる歌声。

信じ難いことだった。
けれど目の前で起きている事実を否定することはできない。
否定する必要もない。

「これ・・・」

歌っているのは花だった。
オアシスのはずれ、小さな水辺に咲き誇る、小さな花。
風に揺られ、嬲られながら、それでも花は必死に歌っていた。

命を言祝ぐ歌を。

圧倒される、命の歌。
こぼれていたのは、言葉にするとひどくつたない感想だった。
「この人はあんたに生きていてほしかったんだな」
きっと、生きていてほしかった。
自分が帰れないってなったら、彼女がこうなってしまうことに気がついて
いたのだろう。
「だから、たぶんこの歌を残した」
志半ばで散った生き物は、大抵の場合闇に捕らわれて、アンデッドとなって
しまう。
だが、彼はそうならなかった。
ただ、自分の思いを伝えるために、歌を遺した。この小さな花に。
そして、俺は一つ彼女に伝えなければいけない言葉があることを思い出した。
「何で俺にだけ聞こえたのかはわからん」
本当にわからん。
「だが、ずっと俺には聞こえてたよ」
砂漠に入ってからずっと聞こえていた言葉。それはオアシスに近づくにつれ、
どんどん強くなっていた。

83歌う花 15/16:2004/07/24(土) 15:15 ID:YdbxuRZs
その言葉を口に乗せる。
「かえりたい、君のところへかえりたい・・・ってな」
「うそ」
「こんなことで、うそ言って何になる」

少女の目に涙がたまる。
どうしたら良いかわからず、立ちすくむ。

その沈黙をうち破るように強く強く、風が吹く。
満開に咲き乱れる、その花が風に揺さぶられ、散ってゆく。

その風に紛れて聞こえた、柔らかな歌声。

それを表すべき言葉を、俺は知らない。

花が散った後には小さな種が残されていた。
そっとその種に手を伸ばす。
種からはささやくような、小さなハミングが聞こえていた。

「これは、あんたが持って帰るべきだろう。あんたに遺されたものだろうから」

拾った種を丁寧に布にくるみ、少女に手渡す。
小さな布の包みをぎゅっと抱きしめる彼女にかける言葉を見つけることは
できなかった。

そっと空を仰ぐ。

こんな時にかける言葉を見つけられない。
いくら冒険者として、名を上げても、俺は詩人としてはまだまだみたいですよ。
ルーウェンハートさん・・・。

包みを抱きしめたまま泣きじゃくる少女に目を戻す。
気が済むまで泣かせてあげよう。
俺にできることはそれだけだから。
そう思った。

行きの道を逆にたどり、少女を街に送り届ける。
気が済むまで泣いたからだろう、目は真っ赤にはれていた。
だが、出かける前のような深い絶望は、もうその瞳には宿っていなかった。

84歌う花 16/16:2004/07/24(土) 15:16 ID:YdbxuRZs
街に着いた俺は、残りの報酬を受け取ると、別れを告げて踵を返した。
その背中に、枯れかけた声で、ジェシカが声をかけてくる。
「まって・・・、
これ、あなたに差し上げます。私が持っていても役には立たないから」
渡されたのは呪歌が刻まれたスクロール。
おそらく少女の恋人であった詩人が持っていたものだろう。
「良いのか?」
「あなたのおかげで私は彼の思いを・・・最後の願いを知ることができました。
 そのお礼です。きっと彼もあなたに渡すのなら納得してくれる」
小さな声。ずっと考え込んでいたのだろうか。
「形見の品になるだろう?」
気持ちはありがたいが、受け取る訳にもいかない気がしてそう答える。
「彼の形見はもう持っています。あなたが見つけてくれました」
意外な答えを受け取った気がした。
そして、ほほえみながらどうぞと差し出してくるそれを見つめる。
これ以上断るのも失礼かもしれない。
「わかった。ありがとう」

改めて別れを告げる。
今後会うことがあるかはわからない。
けれど、そのときは、この歌を披露すべきだろうな。そんなことを思う。
そして、どうかそのときは笑っていますように、とも。

こんなことを思っているとシアに知られたら、笑われてしまうだろうか。

俺は、ことの顛末を報告するために下層の酒場に足を向けた。
この話を聞いたシアがどんな顔をするのか。
それを少し楽しみにしながら。



恋人を失ったという、その少女が大切に育てている花は、満月の晩だけ歌を歌う。
その歌は、優しく穏やかで、聞いているものに幸福を運ぶという。

それは、愛しき人を恋うる歌。

少し後、街でそんな噂を聞いた。
歌う花の噂を。

<fin>

85(・ω・):2004/07/24(土) 15:17 ID:YdbxuRZs
少し長めの短編です。
お楽しみいただけたらうれしいです。

86 (・ω・):2004/07/25(日) 09:45 ID:HAC3/vpc
>>69 イイ( ̄▽ ̄)b

丁寧な文章で読み終わった後、すっごく清々しくなりました。

レイルたんの他の冒険も読みたくなっちゃた('-'*)

87(・ω・):2004/07/25(日) 18:07 ID:zjrUC6SI
サイレントソング


「判決、右手を切断する。」
厳粛な裁判が幕を閉じた。
慌しく帰る陪審員と、傍聴人たち。
一人のヒュームの青年が、裁判長席を生気の宿っていない目で見つめていた。
対峙した、賢老のエルヴァーンは、冷たい目で青年を見下していた。

−声をなくした吟遊詩人−

昼下がりの午後、青年は何時も南サンドリアにあるレストランで歌を歌っている。
時には可憐な少女のように、時には畏怖する雷鳴のように、青年は愛を歌い、勇気を謳い、
そして、一つの物語を紡ぎ出してゆく。

「お疲れさん。」
最後の一曲が終わり喝采の拍手の中、舞台を降りてカウンターへ座った青年に、
その奥でグラスを磨いていた中年のエルヴァーンが、ヤグードドリンクの注がれたグラスを手渡す。
「いただきます。」
すこし微笑みグラスを受け取ると、少しだけ口に含み香りを楽しんでから飲み込んだ。
まだ歌の余韻が漂い、客の人たちは、あの歌はこうだ、どの歌はああだと、
一つ一つ自分たちの好きな歌について語り合っている様子。
「フォルカー君、君がうちで歌ってくれるようになってから、店も繁盛しっぱなしだ。
 どうかな、うちの専属の詩人になってくれないか?給与も今以上に上げられるんだが。」
詩人にとって、一つの店で専属として雇われることは、一つのステータスとなっている。
とくに大きな店に雇われる詩人は、その実力を認められた証拠でもあるのだった。
この『獅子の泉』亭はサンドリアでも最も大きなレストランであり、
その内部には巨大な舞台も設置されている。
好条件の中、断る理由も無いはずだったのだが、フォルカーと呼ばれた青年は困ったような表情を示している。
「・・・せっかくだけど遠慮させてください。」
フォルカーの答えに中年のエルヴァーンは、呆れた様な微笑みをフォルカーに返し、そしてまたグラスを磨き始めた。

88(・ω・):2004/07/25(日) 18:08 ID:zjrUC6SI
「なんで店長の誘いを断ったの?良い話じゃない。お給料も上がるんだし。」
フォルカーは、獅子の泉亭でウェイトレスをしている女性が仕事を終えるのを待ち、
一緒に居住区にある家までの道のりを歩いていた。
「クッシュ、僕は吟遊詩人でもあり冒険者でもあるんだ。またいつか流れる。」
クッシュと呼ばれた女性は、サンドリアでは珍しいヒュームだったため、同じ種族であり、
同じ職場で働くフォルカーに親しみを持っていた。
そのためだろう。二人は行動を共にすることが多くなっていたようだ。
二人とも休みが取れた日などは、よくラテーヌ高原までピクニックに出かけたりもしていた。
「そっか、旅に出ちゃうんだね。もう戻ってこないのね。」
「そんなことないよ。いつかまたサンドリアにも戻っていくる。でも、そろそろ木々の葉が萌える季節も終わる。
 一つの季節の間、一つの場所に留まるなんて初めてのことだよ。そろそろ旅立ちの時期かもしれない。」
昼間には肌を焦がすほどだった太陽の光も、夕暮れと共に優しい光へと変わっていった。
そして、その滑らかな波長の光は、木々から伸びる影の間に佇む二人を優しく包む。
クッシュの左手につけられた、フォルカーからプレゼントされた銀製のブレスレッドが仄かに光を反射させ、
赤く熱された様に輝いていた。
空を飛ぶ鳥たちは群を成し、今夜の泊まり木を捜して彷徨う。
「北から吹く風は、この季節でも寒いよ。さあ、家に帰ろう。」
手を取り合い、二人は歩き出す。
夏だと言うのに、サンドリアの地には山々から冷たい風が吹き降す。
その先には、呪われた北の大地が広がっているためだろうか。
大きく立派な屋敷の門の前に着くと、二人の手は自然に離る。
「それじゃ、僕はレンタルハウスに帰るよ。」
「うん・・・また明日・・・・。」
しばしの間、見つめあい、そしてフォルカーは振り向き、我が家へと歩き出した。
「・・・行かないでよ。」
フォルカーの背中越しに、その声が冷たい風にのって彼の耳に届く。
驚いて振り返ると、門の奥へと消えていく彼女の後ろ姿が見えた。

89(・ω・):2004/07/25(日) 18:08 ID:zjrUC6SI
次の日の昼まで寝ていたフォルカーは、日が丁度空の天辺になる頃に獅子の泉亭へと足を運ぶ。
12時から3時までの間、その舞台で歌うのが彼の仕事だった。
「あれ。クッシュは、まだ来てないんですか?」
フォルカーが獅子の泉亭の店長に尋ねた。
いつもなら、料理の下ごしらえを手伝うためにフォルカーよりも早く店に来ているはずのクッシュが、
今日に限ってまだ来ていない。
「ああ、彼女なら急用とかで休みたいと言って帰ってったよ。彼女は働き者だからね。居ないと仕事が三倍になっちまう。」
店長は、苦笑しながらフォルカーにそう告る。
クッシュの不在に一瞬の戸惑いを見せたフォルカーだが、歌の時間になり、客が彼の歌を聴くために店に雪崩れ込んでくると、
舞台に上がり、彼女への不安を忘れたかの様に、清らかに、時に猛々しく詩を歌い上げた。
詩の架橋を迎えると、観客たちは歓喜の声を上げ、時には悲しみの涙を流し、そして心を和ませてゆく。
フォルカーは、不器用ともいえるほどストレートに感情を詩に反映させて歌う。
それが、観客たちの心を振るわせる。
そしていくつかの冒険譚、喜劇、悲劇を歌い終えると、フォルカーは大きくお辞儀をし、拍手に包まれながら舞台を降りて行く。
「お疲れさん。」
いつもの様にカウンターに座ったフォルカーに、店長はヤグードドリンクの注がれたグラスを手渡す。
「・・・今日は、もう帰ります。」
「まあ、クッシュもいないし待つ必要もないか。」
出された酒に手をつけず、フォルカーは、まだ詩の余韻と多くの客を残した店を後にした。
空には、まだ暑い夏の日ざしが差し込る。
いつもは、忙しそうに接客をこなすクッシュを見て楽しそうに微笑んでいる時間のはずが、
フォルカーは思わぬ暇を持て余してしまった。
だからといって、何もすることの無いフォルカーの足は、街の喧騒に誘われ、無意識の内に足は競売の方を向いて行く。
賑わいを見せる城門前の競売前、することも無く冒険者たちの開くバザーを見て周り、暇をつぶしていたときだった。
「おい、また駆け出しの冒険者が死体で見つかったみたいだ。」
「・・・最近オークの行動も活発になってきたからな・・・おい、あの担架がそうか?」
気になり、フォルカーはちらりとその方向を向いてみた。
2人の王立騎士団が担架の両端を持って運んでいた。
上にあるはずの死体には、部分的に赤い染みののある大きな白い布が全身を隠す為にかけられていた。
ゆっくり揺れる担架から、静かに左手がこぼれた。
いつも握る左手。
銀製のブレスレットが全てを焼き尽くす様な日差しを浴びて輝く。
絶望は、彼から時を奪った。
誰も居ない真っ暗な城門の前に、ただ一人立ち尽くすフォルカーがいた。

その日から、フォルカーは歌い続けた。
サンドリアの空の下、誰もがクッシュを忘れないよう、彼女の詩を創り歌い続けた。
朝も昼も夜も、時を無くしたフォルカーには関係が無かった。
休むことを忘れ、ひたすら声を響かせる。
常に流す涙は、悲痛を訴え続けているかのようだ。
一週間がたった頃、フォルカーは声をなくした。
血を吐いて、南サンドリアにある噴水の前に倒れていたフォルカーは、診療所で目を覚ますと、
クッシュの存在を示すための声を失っっていた。

続く

90(・ω・):2004/07/25(日) 18:14 ID:zjrUC6SI
前編です。

当作品の主人公フォルカーは、ミスリル銃士のフォルカーとは全く関係ありません。

91Scrapper:2004/07/26(月) 10:36 ID:FfXeOsuE
毎度ありがとうございます.
今回ちょっと短いですが,続きをアップしました.
例によって,バスランク6になる時点までのネタバレが含まれています.
おまけに今回は結構直接的に書いてしまっていますので,ご注意を.
http://www.geocities.co.jp/Bookend-Ango/5451/

スカイリッパーのお話は,これで一応お終いと言う事になります.
力不足で独白が多くなってしまいましたが…orz

商業区でスタートした人なら最初に出会うNPCのガルカ冒険者.
私達PCはランク3の時点で彼に追いつき,そしてすぐに追い越していってしまうわけです.
(勿論,クエストやAF関連では関わってきますが)
もし彼がPCが直面した事実を知ったらならどう思うか,その思い付きがスカイリッパーのモデルとなりました.
私はそうではないのですが,ガルカをメインキャラとして選んだ人達はあのストーリーどう感じていたのでしょうか.

読みきりの新作も増えて嬉しい限りです.
書き手の方も読み手の方も頑張ってくださいね.

92(・ω・):2004/07/27(火) 13:48 ID:0Ruk5ho.
ビューティフルデイズいいな・・・遅レスだけど。

93風の通る道:2004/07/28(水) 18:54 ID:f41C2iwQ
「やめとけよ。君には殺せない」
暗闇の中で影が凍りついたように止まった。
その手には抜き身の剣。
振り返った影は、一足飛びで俺の目の前に移動し、得物を薙いだ!


〜第12話、光と影と〜


「何故、避けない!」
そう言った声は震えていた。
剣は俺の首から数ミリのところで止まっている。
「言っただろ?君には殺せない」

へなへなと影が力なく崩れる。
こんな騒ぎにも起きない3人は、恐らくスリプルで眠らされているのだろう。

----------------------------------------------------------------------

温かいサンドリアティーがのどをうるおす。
彼がいれてくれた飲み物を二口飲んだ頃、あたしは十分に落ち着きを取り戻していた。

「トリスタンとはどんな関係だ?」
突然の問いかけ。
まさかそんな質問が飛んでくるとは予想していなかったから、多分あたしの顔はすごく驚いていたと思う。
「何でもお見通しね。いつわかったの?」

「サンドリアである暗黒騎士に襲われた。この前のクゥダフのセルビナ襲撃、あれはやつが起こした事態だ」
手に持ったカップの中を見つめながら話を聞く。
「君は、砂丘にクゥダフが来るのを知っていただろ?クゥダフ来襲の報告より、それによって死者が出た事に驚いていたからな」
そう、その通り。やっぱり何でもお見通しなんだ・・・
「なぜ、私があの子達を殺せないと?」
「簡単さ。今まで殺さなかっただろ?」
目の奥からあふれてきた涙を止める事が、あたしには出来なかった。



「彼は、恋人よ」
「嘘だな」

間髪入れずに切り返された。
「失礼ね!・・・でもそのとおりよ」
「悪いが君の嘘はすぐに分かる」

まさかそんな事は無いだろうと思いつつ、結局いつかは分かる事実。
あたしは全てを正直に話す覚悟をした。

94風の通る道:2004/07/28(水) 18:57 ID:f41C2iwQ
ジュノにやっとの思いでたどり着き、無事を祝いつつ別れ、あたしは依頼主のところにアーリマンの涙を届けた後、競売に向かった。
冒険者は、よく目的もなく競売を覗く事があるんだけど、そのときも競売の前で彼の姿を見かけ、何の疑問もなく声をかけた。
酒場で一緒に食事をし、そこで初めて自己紹介。彼はトリスタンと名乗った。それ以外は何も話そうとはしなかったけど・・・
ただ、なんとなく悲しそうな真っ黒な瞳が、なんだか放っておけないような印象をあたしに与えた。

食事を終え、別れた後に彼は何故か宿屋の方へ歩こうとした。
呼び止めて、何故レンタルハウスへ行かないのか聞いてみたけど、「答えられない」の一点張り。
お金がかかるだろうから家に泊まりなさいよ。あたし酔ってたのかなぁ?
まあ、結局彼を無理やりハウスまで引っ張って泊めたんだけど・・・
あ、何も無かったわよ?ほんとに。

結局彼はあたしの家に居ついちゃった。
彼は紳士だったし、あたしも友達を泊めているような感覚で、別に抵抗とかはなかった。
冗談混じりに「夫婦みたいだね」って言ったこともあったけど、笑って誤魔化されたな・・・
漠然とそうなったら良いかななんて思ってて、あたしバカみたいってちょっと自嘲したんだけど。

何も言わずに2、3日家を空けて、突然帰ってくるような事もあったけど、最初はともかく、そのうち気にならないようになってきた。
ただ、突然暗黒騎士のアーティファクト・・・とちょっと違うんだけど、そんな鎧を着て帰ってきたときは流石に驚いた。
何も聞かなかったけど、今思えばあのときにちゃんと話し合っておけばよかったのかもしれない。

その頃から彼の様子が少しずつ変わっていった。
普段はいつもの彼だったんだけど、時々ゾッとするような冷たい目をしていた。

95風の通る道:2004/07/28(水) 18:58 ID:f41C2iwQ
ある日、なんだか気になって彼の経歴を調べに大使館へ行ってみた。
国籍も知らなかったから苦労すると思っていたんだけど、意外とあっさりと彼の過去は見つかった。
驚いたのはその輝かしいと呼べるほどの実績。あたしもそこそこ実力には自信があるんだけど、なんていうか、あたしなんかが親しくするような人じゃない、
そう、雲の上の存在と言えるほどの実力者。
ただ、
彼は戸籍上死んでいた・・・

何らかの理由で、死亡が誤報されていたのか、それとも偶然同名の人物を探し当てたのか、それは分からなかったけど、なんだか触れてはならないような気がして、彼に問うのはやめておいた。



ある日、突然彼が話を切り出した。
彼から話すことは今までなかったから、あたしも少し嬉しかったんだけど・・・
「俺はある男を殺す。今まで世話になった。君を巻き込みたくないから、俺には今後関わらないで欲しい」
なんだか今までの腑に落ちない点が繋がった気がした。
なにが?って言われると困るんだけど、漠然と、彼のあの冷たい目や、死亡と誤報告されても訂正しなかった事。
全てはこのためだったみたい・・・
「これからバルクルム砂丘である事件が起こる。それが起きるまでその周辺には近づかないで欲しい」

知っての通り、あたしはセルビナへ向かった。
なんだろ。彼がこれほどまでに恨む人物を見ておきたい、そして彼の手を汚すぐらいならあたしが・・・
バカだよね。でも本当にそう思った。

セルビナであの4人と再会したのは本当に偶然。
この熱波なら、ターゲットもまさか砂丘に出ないだろうと、今の一瞬を楽しむ事にした。
一連の事を済ませたら、監獄入りも覚悟してたから・・・
今度あの4人に会えたら渡そうと思っていたものを渡して、最後の晩餐・・・じゃないけれど、あたしはこの瞬間を楽しんだ。
ただ、心残りは彼に気持ちを伝えられなかったこと・・・

96風の通る道:2004/07/28(水) 18:59 ID:f41C2iwQ
突然それは起こった。
砂丘にクゥダフの来襲。
彼の仕業だ。一瞬でピンと来た。どうやったかは分からないけど・・・
そして、アルヴァがあの伝説の冒険者のひとり、「ゼファー」だと知ったときは、本当に驚いた。
なんか、ハゲとかヒゲを想像してたから・・・
そして、その瞬間、あたしは最悪の予想をしていた。いや、確信だった。
そう、彼のターゲットはこのアルヴァ。
多くの犠牲を払ってでも倒さなければならない相手・・・

でも、関係の無い人は助けたい。だからあたしも参戦した。
途中で混乱に乗じて彼にバイオをかけるも、彼は窮地を乗り越え、生き残った。
やっぱり天運っていうのも、その人の実力を計る上で重要な要素なんだろうか?
ただ、確かな事は、アルヴァが生き残って、あたしは心底嬉しいと思ったこと。

トリスタンとアルヴァ。どんな因縁があるかはわからない。
でも、両方とも死なずに、無事に事を解決する事はできないのだろうか?


あの事件のあと、彼からあたしに連絡が入った。
「何故あそこにいた!何故奴と一緒に居る!?関わるなと言ったはずだ!」
珍しく激昂している。仕方ない。言いつけを守らなかったのはあたしだ。
「あなたが恨む相手を見ておきたかったのよ。それに可能なら手伝いたい」
少し前まで思っていた事を口にする。今の気持ちは全く逆なのに・・・

「・・・わかった。君にも手伝ってもらおう」
すごく冷たい声だった。
「あいつと一緒に居る3人。そいつらを殺してくれ」

一瞬頭が真っ白になった。殺す?誰を?
「あいつら3人は今後脅威となる。頼んだぞ」
それっきり彼からの連絡は無い。

97(・ω・):2004/07/28(水) 19:00 ID:f41C2iwQ
突然アルヴァがサンドリアに帰ると言った。
近しい仲間の葬儀があるそうだ。
不幸に付け入るのは良心が痛むけど、これはチャンスだった。


・・・出来なかった。
バストゥークまでの道のりで1度野営したけど、あたしには出来なかった。
流石にバストゥーク内で事を起こすわけにもいかず、大丈夫、まだチャンスはあると自分に言い聞かせ、普段どおりに振舞った。
3人は無邪気だった。あたしは泣きそうになりながらも、何とか平静を装っていた。

バストゥークを出発し、もう一度コンシュタットに向けて同じ道を逆に歩く。
途中、一度のキャンプ。
あたしの見張りの番に、3人にスリプルをかける。これで多少の事では起きないはず。
でも、決心がつかない。
剣を持ってしゃがみこんでいると、突然クゥダフに襲われた。
とは言っても、この辺りのクゥダフでは練習相手にもならない。
一瞬で切り伏せたあと、あたしは激しい自己嫌悪と共にゲオルグさんを起こして、眠りについた。いや、寝たふりをした・・・


剣を抜いて早1時間以上テントの中で立っている。
この剣を振り下ろせばいい。ただそれだけなのに、あたしの体はまるで石になったように動かなかった。
目を瞑る。何故この子たちを殺さなければならないのだろう?
彼のため?
そう、彼の頼みだ。
でも、この子たちを殺して何が得られる?
あたしは彼に嫌われたくないだけじゃないのか?
そのために、ただの自己満足のために、罪の無い人を手にかけるのか・・・?
考えたくない。そう、何も考えずに剣を振り下ろせば良い。それだけ、たったそれだけなのに・・・!


「やめとけよ。君には殺せない」
聞き覚えのある声。見られた!
殺さなきゃ!何故かそう思った。
振り返り、一足飛びで彼の目の前に移動し、剣を薙ぐ!

「何故、避けない!」
そう言った声は震えていた。
まったく動く素振りを見せない彼の首から数ミリのところで、あたしの剣は止まった。
「言っただろ?君には殺せない」

ああ、あたしは止めて欲しかったんだ。
彼のためでも、あたしのためでも、あたしにはこの子たちは殺せない。
どれだけ自分に言い聞かせても、どれだけ強がっても曲げられない事実。
あたしにはこの子たちを殺すことはできないんだ・・・!
そう思った瞬間、体中から力が抜け、一気に涙があふれてきた。

98風の通る道:2004/07/28(水) 19:01 ID:f41C2iwQ
----------------------------------------------------------------------

泣きながらも、途切れ途切れになりながらも話した事に、嘘は無いだろう。
幸運なのは、彼女が悪人でなかったことだ。
アシュペルジュは、砂丘の件について調べると言っていた。
トリスタンは、力試しに殺したような事を言ったが、恐らくアシュペルジュは、クゥダフ来襲の首謀者に近づいたために殺されたのだろう。
あいつは不必要な事は極力しない主義だ。
だが、砂丘で多くの犠牲が出たのも事実。あれは必要なことだったのか?
俺は未だ泣くパーシヴァルに、更に鞭を打つ言葉を投げかけなければならなかった。

「俺はトリスタンを殺す」
彼女は静かに言葉を聞いていた。
「理由はどうあれ、あいつは多くの人を殺めた。それに、俺もまだ死ぬわけにはいかないからな。争わなくてすむ方法があれば良いが、そうも言えないだろう」
俺が全てを奪った。あいつはそう言った。もし、”あれ”がその事を指すなら、確かに俺は償いをしなければならない。
だが、闇に落ちたあいつを救えるのも俺だけ。そう、俺があいつを解放しなければならない。

「あたしに、あなたたちを止める事はできないのね・・・」
パーシヴァルが消え入りそうな声で呟く。
「あなたとトリスタン。二人の間に何があったの?それが知りたい」
「これは俺とあいつの問題だ。君には関係ない」
突き放すように言い放ったが、彼女には逆効果だったようだ。
「関係ない!?あたしは十分に関係者よ!あなたたちが戦う理由を知る権利があるわ!」
勝手に首を突っ込んだのは誰だと言いたかったが、どうも彼女の勢いに圧されてしまった。

「わかった。・・・が、長くなるぞ」


確かに彼女にも知る権利はあるだろう。
そう、イシェイルにその権利があったように。
俺は、パーシヴァルに、半年前のあの忌まわしい事件の全てを話すことにした。



つづく

99風の通る道:2004/07/28(水) 19:04 ID:f41C2iwQ
やっちゃったーーーー(つД`;)

また長いって怒られました。
不本意なところで切る羽目に・・・

タイトルに関しては、いろんな意味を含んでますので、各々お好きに想像してください。

それでは、また。

100(・ω・):2004/07/29(木) 23:40 ID:gA9IDbeY
行燈亭


夜空に星星が咲くころに、居住区の隅にある古びた小屋の提灯に火が灯される。
『行燈亭』
火の明かりが暗闇にこの文字を映し出す。
そして今日も、冒険から帰ってきた駆け出しで貧乏な冒険者達が、
火に群がる虫達の様に集まってきた。
今宵もよい夜が訪れますように。

−虚ろ神−

「へいらっしゃい。」
活気のある店の中へ入っていくと、店の主人の元気な挨拶が交わされた。
店の中にはカウンターがあり、その奥でガルカの主人が大急ぎで料理やらなにやらを作っている。
店のなかには、30人も入ればいっぱいになってしまうほどの広さしかなかったが、
それでもどんどんと人が集まり、今では40人ちかくが詰め込まれている。
「ほい、大将。これお土産。」
私はガルカの主人に、今日の船釣りの成果を手土産として渡した。
「いつもわりーな。すわってけよ。この魚料理くらいはご馳走してやる。」
最近ではこの店に来ることも少なくなっていた。
まだ駆け出しの頃は、よくこの店に集まって仲間たちと騒いだものだ。
仲間が一人死んだときは、ここの店で弔い酒を飲んで大泣きしたのを今でも覚えている。
しかし、今では一人前の冒険者。
活動の殆どはジュノで行なわれていた。
「ごっそーさん。ついでに焼酎も一本ね。っと言っても・・・・。」
私は辺りを見渡した。
若い冒険者がひしめき合って楽しそうに酒を喰らっている。
「さて、どうしたものか。」
私が尻尾をピョコピョコ動かして黄昏ていると、一人のヒュームの冒険者が私に話しかけてきた。
「おねーさん、そんなとこ突っ立ってないでこっちおいでよ。
 ここに来る奴ら、みんな色気なくて萎えてたんだ!」
そういえば、どこかへ冒険に行くつもりも無かったので、いつもの民族衣装で出歩いていた。
鎧でがちがちに着飾った駆け出しの冒険者の女の子に比べれば、これでも色気が出ているのだろう。
「わるいね坊主。もうすこし男前になったらおいで。」
ちぇっと言いながら座るヒュームを、隣にいたタルタルの女の子がひっぱたいていた。
「楽しそうだな・・・。」
つい口からこぼれた言葉が、大将に聞かれてしまったらしい。
ニヤニヤ笑いながら、大将が口を開いた。
「年取ったな。」
「まったくだ。そとに椅子があったろ。そこで夜風に当たってるよ。」
「ん。できたら持って行くよ。」

101(・ω・):2004/07/29(木) 23:41 ID:gA9IDbeY
月明かりが街を照らす。
「いい月だ。」
店の中からは、楽しげな喧騒が絶え間なく続いていく。
訪れる客は何人もいるのだが、出て行く客は殆ど居ない。
たぶん、中にはすでに50人は居るだろうか。
40人でもごった返していたというのに、この店は四次元空間とでも繋がっているとしか思えない。
夏の夜、涼しい風が川辺から吹く。
長いベンチのような椅子に腰掛け、料理が出来るまでのあいだ焼酎を啜る。
「いい夜だ。あいつも帰ってきそうだな。」
ふふふっと自嘲し、焼酎をくいっとあおる。
仄かに体も火照ってきた。夜風がとても気持ちがよい。
「相変わらずの飲んべぇだな。」
聞き覚えのある声。
私は闇の先を凝視してみた。
見覚えのある顔。
ついつい私の顔が綻ぶ。
「おかえり、帰ってきそうだと思っていたんだ。」
そこに居たのは、虚ろに浮かぶ思い出の顔。
私が弔った始めての友人だった。
「ただいま。この世界は、まだ楽しいままかい?」
ふと、私の顔が無表情に帰る。
それを察したのか、彼女はわざとらしく大笑いをして、そして言った。
「まあ、楽しかっただろうけど。それじゃ行こうか。」

102(・ω・):2004/07/29(木) 23:42 ID:gA9IDbeY
次の日、私の死体はウィンダスにある実家へと帰ってきた。

死ぬ日、私は船にのり、釣りを楽しんでい。
釣果もそこそこに上がり、上機嫌で船の上に注ぎ込まれる天から恵まれる光を浴ていた。
船がセルビナへと着き、、停泊した船の中で、この魚を土産に久々に行燈亭でも行って見るかと思っていた時、
何人かの手馴れた冒険者や一般客に混ざって、駆け出しの冒険者たちの集まりが、船へと乗り込んできた。
楽しげな笑い声。
砂に塗れた鎧。
やっと手になじんできただろう、自分たちの武器。
「楽しそうだな・・・。」
彼らをみて、私は自分の過去を思い出していた。
あの頃が一番楽しかった。
少しずつ気の合う仲間達が集まり、少しずつ強くなり、少しずつ・・・離れて行ったあの頃。
すれ違うだけで運命を感じ、初めてあった人たちと命を預けあったあの頃。
思い出に一人苦笑していると、船は汽笛を上げ、大海原へと滑り出して行った。
船が航路へと乗る頃、船底からの扉が開放され、デッキへと人が雪崩出て行く。
初めて船に乗ったのだろうか、駆け出しの冒険者たちも、意気揚々と青空の下へと駆け出す。
「船の上にも、危ないモンスターが出るから気をつけな。」
私は彼らに注意を促し、そして静かに釣り糸を水面へとたらし、釣りを楽しんだ。
しかし全然つれない。行きの大漁が嘘のように、魚が全く食いつかなかった。
竿を上げるごとに餌は消え、のこった釣り針を見つめため息だけが出てくる。
次の餌をつけようと、餌入れの中身を見てみると、全て使い切ってしまっていた。
仕方なく船の中に設置されている釣りギルドから大量の釣り餌を買い込んだ。
「つれるといいですね。」
まだ若いタルタルの少女が微笑みながら私に言った。
「ああ。ありがとう。」
行きの倍は釣ってやる。そう意気込んで青空の元へと戻ろうと扉を開いた瞬間、
「ああああああ!」
叫び声があがった。
「どうした!」
扉の先、私が見たのは最悪なモノだった。
シーホラーと、その触手に潰された一人の駆け出しの冒険者。
丁度、さっき釣りギルドで見たくらいの年の、タルタルの少女だ。
呆然と見つめる、彼女の仲間達。
私は大声で叫ぶ。
「ばかやろう!!さっさと船倉に逃げ込むんだ!鍵をわすれるな!!」
我に返ったように、泣きながら走っていった。
さて。
冒険に出ようと思っていなかったため、武器は護身用の小太刀。
装備も無く、来ているのは薄い布でできたミスラの民族衣装のみ。
それでも時間稼ぎくらいは、出来る。
「一人じゃ無理だ!」
誰かの声が聞こえた。
それなりに手馴れた感じを纏った騎士。
騎士様は正義心が強いようだが、その程度じゃ邪魔になるだけだった。
「船倉にいっててくれ。私の後に、守る者が必要だろ。」
「それでも!」
食い下がる騎士に私は耳に着けたピアスをとり、騎士へと投げる。
急いでいたため、耳たぶが少し切れてしまった。
シーホラーと呼ばれる海の主が私の方へとゆっくりと近づいてきていた。
「私はシルヴァ!ウィンダスにいる私の家族に渡して!たのんだからな!」
そういって走り出した。海の恐怖へと向かって。
ちらりと見えた騎士の顔には、悔しそうな表情が映し出されていた。
「卑怯じゃないか!」
そう怒鳴っていたようにも聞こえる。

103(・ω・):2004/07/29(木) 23:45 ID:gA9IDbeY
死は、思ったよりも安らかだった。
誰かのために、あがいて死ぬ。
死ねることを、誇りにできるんだ。
デッキの先へとシーホラーをおびき出し、出来るだけ彼らのいる船倉への入り口から離した。
「さあ来い!シーホラーの名も、今日でこの海から消してやる!」

ガラガラガラっと行燈亭の扉を開け、ガルカの大将が魚料理を大量に持って出てきた。
「ん?シルヴァ?どこだ???」
椅子の上には、片方だけの双子石のピアス。

今宵も行燈亭の光に魅せられ、様々な冒険者たちがこの店を訪れる。

終わり

104(・ω・):2004/07/29(木) 23:52 ID:gA9IDbeY
登場人物殺さないと物語が書けないようですね(((((´д`))))

105(・ω・):2004/07/30(金) 03:57 ID:8qD.a35c
Scrapperさんの書いた物語好きです

涙たちの物語が4の頃から読んで
一時FFを離れ実は記憶はおぼろげですが
フェムヨノノとリンツァイスが
幸せにまどろんでいるイメージが
今も記憶に残っています

次はなにかしら決着がついてしまうんでしょうか
寂しい予感を感じながらわくわくして待っています

106(・ω・):2004/07/30(金) 13:57 ID:IY4SYNwQ
映画みたいだ>行灯亭

まあ、登場人物を殺すのも物語を面白くする要因のひとつですよ。

107(・ω・):2004/07/31(土) 23:47 ID:5QxiBHVY
>>104
釣りかと思ったら本人ジャマイカ

いい話だったヨ。また書いておくれ。

108(・ω・):2004/08/01(日) 10:21 ID:BPmDemyE
サイレントソングの続きが楽しみ

109(・ω・):2004/08/01(日) 22:02 ID:p347OLfY
>>107
紛らわしくてごめんなさい。人が死なないの書けたらのせますので読んでください。

>>108
夏休み入ったので、そんなにかからず書き終わると思います。

110Scrapper:2004/08/05(木) 08:19 ID:NlUARV1o
毎度ありがとうございます.
続きをアップしました.
例によってバスランク6になるまでのネタバレが含まれています.ご注意を.
http://www.geocities.co.jp/Bookend-Ango/5451/

今回のタイトル,エピローグとなっていますが…あと一回分だけ続きます(一応予定通りです).
もう少しだけ,二人にお付き合いくださいませ.

それでは皆さん,頑張ってくださいね.

111(・ω・):2004/08/08(日) 11:53 ID:prLuBxQM
閑古鳥age

112(・ω・):2004/08/08(日) 18:52 ID:OA1Vrqyc
揚げ

113名無しの話の作者:2004/08/09(月) 09:32 ID:i8WJi83Q
「名無しの話」の23 −夏祭り− 前編

見上げれば、紅、青、緑、金に銀。
色とりどりの光の花が夜空に開く。
同時に聞こえる低い音、おなかに深く響くけど気持ちいい。

見回せば、たこ焼きイカ焼き焼きそば焼きイカ。
射的くじ引き、屋台三昧。
身を包む笛や太鼓に身体が揺れる。

今日は夏祭り。
とっても楽しい夏祭り。

「んー〜」
屋台で身構えてるのはガル戦。
いつもの鎧じゃなくて、濃紺の浴衣。
今年の流行、東の国のデザインの夏の服。
お尻からちゃんとシッポも出して、足元は素足に鉄下駄。
手には輪っか。
少し離れたヒナダンには、ずらりと並んだアイテムの数々。
「んー」
よっく狙いを定めて〜。
「んっ」
投げる!
ヒュウン
宙を飛んだ輪っかが
カラン
アイテムの一つに掛かる。
「んー、やったぁ」
拳を振り上げるガル戦。
けど。
「はい、ざんねんゴブ〜」
屋台のゴブはアイテムから輪っかを取り、ガル戦へと戻す。
「あと一回ゴブよ〜」
「んー、アイテムはぁ?」
ガル戦の問いに
「輪っかがキチンと入ってないとダメゴブ〜。今のは引っ掛かっただけゴブよ〜」
「んー…」
何となく納得したくないけど、せっかくのお祭りだから、納得して再挑戦。

114名無しの話の作者:2004/08/09(月) 09:35 ID:i8WJi83Q
「んーー」
よーく狙いを定めて〜。
「んっ」
投げる!
ヒュウルン
宙を飛んだ輪っかが
カラン
アイテムを、その輪の中に納める。
今度はしっかり全体を。
「んー、やったぁ」
拳を振り上げるガル戦。
けど。
「はい、ざんねんゴブ〜」
屋台のゴブはアイテムから輪っかを取り片付けてしまう。
「んー?」
「今のはチョット台がはみ出てたゴブよ〜。キチンと全部入ってないとダメゴブ〜」
「んー…」
何となく納得しづらい。
けど、せっかくのお祭りだから、追加料金支払い、再々挑戦。
「んーーー」
「はい、ざんねんゴブ〜」
納得しづらいけど、再々挑戦。
再再々挑戦。
再々再々挑戦。
再再々再々…。

ヒュルウン
宙を飛んだ輪っかが
カラン
アイテムを、その輪の中に納める。
けど。
やっぱり少し台が入ってない。
「はい、ざんねんゴブ〜」
うれしそうに輪っかを片づけるゴブ。
「…」
ガックリ肩を落とすガル戦。
財布を懐から取り出して、中身を数える。
あと何回できるだろ。
もうアレも買えない。
コレも買えなくなった。
でも、どうしてもあのアイテムは欲しい。
あの輪っかさえ、もう少し大きかったら…。
そう考えて、ふと気づく。
もう少し大きかったら?
アイテムの台座を見る。
積んである輪っかを見る。
見比べる。
「んー?」
ズイと近づく。
「な、なにするゴブ」
抗議するゴブを押しのけて、輪っかを取る。
それをヒナダンのアイテムへ。
「…」
輪っかは、少し小さかった。
ほんの少しだけど、絶対に台が入らないぐらいに。
「………」
ジロ〜リとゴブを見下ろすガル戦。
「あー…輪っかちぢんだゴブか?」
ニカッと笑い返すゴブ。
商人の鏡のような笑顔で。

115名無しの話の作者:2004/08/09(月) 09:39 ID:i8WJi83Q
「ウガアァァーーー!!」
咆哮。
ドガーン!!
吹っ飛ぶ屋台。
「コブゥーー」
泣きながら吹っ飛ぶゴブ。
「なにごとだー!」
「ガルカが暴れているぞー」
「取り押さえろー!」
ボガーン!!
吹っ飛ぶ見回り兵士。
阿鼻叫喚

「あれ?」
むこーの方で屋台が吹っ飛んだ。
高々と。
それ見て
「たまやー」
とタル黒。
ゴブも飛んだ。
もっと高く。
それ見て
「かぎやー」
と再度タル黒。
「?」
「あのねー、ひがしのくにはねー、はなびがあがったら、こういうのー」
と説明。
「そうなのー?」
とタル白。
言ってる間に、ドドーンと兵士が飛んでく。
とーっても高く。
「たまやー」
「かぎやー」
とタル白タル黒。
楽しそうな二人が着てるのは甚平。
浴衣と同じ、東の国のデザイン。
足元は小さな雪駄。
手には、
ふわふわ綿飴にカリシャリリンゴ飴
ひえひえかき氷にパリガリチョコバナナ
おいしいお祭りアイテムを、両手に持ってもまだ欲しい。
「…あれは花火じゃないにゃ…」
脇に立ってるミスラは、
水と金魚の柄の浴衣姿で足元は紅色の下駄。
おしりにシッポが出てるのはいつもの通り。
「そうなのー?」
「なのー?」
とミスラを見上げるタル白タル黒。
と、気づく。
その手の焼きイカに。
新鮮な焼きイカは熱々でやわやわで、かじり跡くっきり。
「ねこさんはイカだめなのー」
「しんじゃうのー」
二人して指さす。
「にゃっ!?ちがうにゃっ!」
とミスラ。
「いぬさんだったー?」
「タマネギだったー?」
首をかしげるタル白タル黒。
「どっちもちがうにゃー!!」
フーッとシッポの毛を逆立てるミスラ。
「やっぱりねこさんー」
「キャー」
タル白タル黒は大慌てで逃げ出した。

116名無しの話の作者:2004/08/09(月) 09:43 ID:i8WJi83Q
そのころ。
ヒュム戦はひっじょうに困っていた。
藍色の浴衣をピシッと着てるのだけど、うろうろうろと視線がさまよってる。
前を見れば、エル騎士の後姿。
白地に薄色の花を散らした柄。
帯にはうちわ。
足元は白い下駄。
カラコロとかわいらしい足音をたててる。
のだけど、その後姿がまともにみられない。
「?どうした?」
振り向かれれば、直視できない。
視線を他へ向けてしまう。
で、他へ向ければ、当然たくさんの浴衣姿の女性がいる。
さらに視線がウロウロと。
その様子は、なんだかとってもあやしい。
「…」
ジッと睨むエル騎士。
「あ、いや、その」
なにか言い訳を言おうとして、うろたえるヒュム戦。
「…」
ジーッと睨むエル騎士。
「その、あの…」
と、とこへ
「ミー」
「キャー」
テテテテテテー
悲鳴を上げて走り抜けてくタル白タル黒。
「にゃーーー」
追っかけてきたミスラが
「!」
ピタッと足を止める。
「なんか、あったにゃ?」
その瞳は、興味津々にまん丸。
「な、なんでもない。なんでもない」
慌てて首を振るけど、ミスラは思い当たったよう。
「あれにゃ?」
ニカッと笑う。
「ん?」
ジロリと視線を向けるエル騎士。
「にゃははは、さっきヒュムさんに教えてあげたのにゃ」
「?」
「わーわーわー」
大声で邪魔しようとするけど
「うるさい!」
ボクン!
どこから取り出したのか、エル騎士の盾角攻撃にダウンしてしまうヒュム戦。
「浴衣の下は裸って言うルールにゃ」
「!」
それは、浴衣と一緒にやってきた東の国の風習。
浴衣の下には何も着ないという。
「ほおぉ」
ヒュム戦へ怒りの視線を向けるエル騎士。
「それでキョロキョロしてたのか…」
「まて、勘違いしてる。ぜったい、勘違いしてる」
でも、エル騎士はヒュム戦の言葉を聞いてない。
ジャリリ
どこから現れたのか、剣が引き抜かれる。
「遺言は家族に伝えてやろう」
「ちがうのにー!」
泣きながら逃げ出すヒュム戦。
「まて!」
追うエル騎士。
カラカラカラカッカッカッ
エルヴァーンが剣と盾持って浴衣の裾ひるがえして下駄で走る。
それは滅多に見られない光景。
「にゃ…エルさん、あんまり走ると見えちゃうにゃ…」

−つづく−

117名無しの話の作者:2004/08/09(月) 09:55 ID:i8WJi83Q
ごめんなさい、ごめんなさいm(_ _)m
時事ものでつづくって…最低のような…(T_T)
余談ですけど、アンケートの結果
ウチでは下に着ない派は約二割
…どうなんでしょ…

118(・ω・):2004/08/09(月) 15:36 ID:wfkaDyBo
一人で浴衣着られるならいいけどねー。
人に着せてもらうんだと、下着ないと気まずいじゃんw

それはそうと名無しの話の作者さんキタ━(゚∀゚)━!!!!!
相変わらず登場人物皆可愛くて嬉しくなりました。続き楽しみー。

119(・ω・):2004/08/09(月) 21:32 ID:S6Lit/pc
いいなあ、話の通りいろんな浴衣があればよかったのにー!!
と切に思いました。

私は着物用の下着をつけましたのでおkです。

120(・ω・):2004/08/10(火) 10:09 ID:guVmbfEU
サイレントソング


左手で汚い字を書く。
何年も練習したため、何とか字は読める程度に上達した。
「あなた、お茶を持ってきたんだけど。」
冒険の途中、色々なことがあった。
彼女と出会ったのもその中の一つだ。
僕の座る机の上にサンドリアティーを置いて、彼女は僕の書いているものを覗き込む。
「ふふ、まだヘタクソね。」
これからたくさん書かなければならない。
私は、長い冒険者生活の果てに、作曲家という職を見つけた。
たくさん書こう。
クッシュの詩を、そして、妻の詩を。
字なんて、そのうちにきっと上達するはずだ。

−アナザーボイス−

「また来たのか・・・声の出ない詩人なんて、ウチには必要ないんだよ。消えろ。」
店の中を掃除していた店長が言った。
毎日12時になると、フォルカーは獅子の泉亭へとやってきた。
フォルカーにとって此処は、クッシュとの思い出の詰まった聖地だったからだ。
先日までは、あれほどフォルカーを優遇していた店長も、
なんの価値も無くなってしまった声を失った吟遊詩人に対し、
冷ややかな視線を送る。
まるで汚いゴミでも見ているかの様な目だった。
「もう新しい歌い手を雇ってあるんだ。邪魔だから消えてくれ。」
フォルカーの目は、クッシュを探して店内を泳いでいる。
見つけられない懐かしい影を求めて。
詩の始まる時間だったので、客達がどんどんと店内へと流れ込んでくる。
従業員達の元気な声が店内を活気に満たしていく。
席が満員になる頃、片隅で酒を飲んでいたミスラが立ち上がると、ステージの上へと登っていった。
店のざわめきも徐々に静かになり、みんながステージの上に立つミスラを見ていた。
ミスラは、腰に下げた楽器へと手を伸ばす。
湾曲した四角に近い木製の棒に、何本も糸が通されている。
それは、吟遊詩人の使うハープという楽器だった。
ゆっくりと手を添え、流れるように手を動かすと、そこからは美しい音が流れ出した。
美しい音色は、美しい声をより輝かせ、世界を変えていく。
フォルカーの時を、動かしてゆく。
「・・ハッ・・ハッ・・・。」
いつの間にか、ステージの上にたつ吟遊詩人に目を釘付けにされてしまったフォルカーは、
何かを喋ろうと口から空気を吐き出す。
しかし、声にならない虚無の音は、美しい音にかき消されていった。

立っていたのは、木工ギルドの販売所。
様々な家具や弓などの武器の一緒に、ハープや笛などの楽器も売られていた。
付けられている値札を見るが、持っていた金の殆どを、
クッシュの死を忘れたくて酒に使ってしまったフォルカーには、
とても手の出る値段ではなかった。
頭の中で、何度も流れるハープの歌声。
新しい声。もう一つの詩。
フォルカーは、一つのハープを手に取ると、それを抱いて走り出した。
後からは怒声が響く。
「まて!誰かつかまえて!泥棒だぁ!」
しかし、フォルカーは止まることなく、新しい声を抱いて走った。
子供の様に輝く目は、恐ろしく純粋に、恐ろしく澄んでいた。

121(・ω・):2004/08/10(火) 10:09 ID:guVmbfEU
頬に涙がつたった。
弦を指で弾くごとに、それは声を紡いだ。
すでに失っていたと思っていたもの。
それが今、フォルカーの手の中にある。
南サンドリアの東ロンフォールの森へと続くゲートの前で、
フォルカーは子供の様に無邪気にハープを奏でていた。
まだ指はぎこちなく、とても演奏とはいえないものだったが、
新しい声を手に入れたフォルカーは、それを夢中で奏でる。
また、クッシュの存在を歌うことを夢見て。
「フォルカーだな。一緒に来てもらう。」
何人かのエルヴァーンの騎士が、光を遮って立っていた。
影の中にいるフォルカーが上も見上げる。
「名が知れていたことが仇になったな。」
フォルカーの詩は、多くの者を虜にした。
だからこそ、フォルカーはサンドリアで姿を隠すことなんて出来ない。
盗みを働いても、居場所は誰かが見ているのだから。
暴れるフォルカーを押さえつけた騎士達が、夕暮れの近づく北サンドリアの城前の端を渡って行く。
見守る人々の群は、赤く、悲しく染まっていた。
無機質な世界。
フォルカーの声は、また失われた。

一夜明けると、牢獄に入れられていたフォルカーは、憲兵に腕を縛られて裁判所へと連れて行かれた。
声をなくし弁明も出来ず、そして変わりに弁護するものもいない裁判が始まろうとしていたのだ。
裁判長の座る席の目の前に、フォルカーは跪かされた。
その席には、サンドリア教会から派遣された厳格な裁判官が座ることになっている。
準備が整い、傍聴席にも人が満たされてきた頃、一人のエルヴァーンを先頭に、
裁判長と陪審員が入廷してきた。
裁判長席を見上げるフォルカー。
そこには、知っている顔があった。
クッシュの義父。
サンドリアとバストゥーク間で結ばれた友好協定の一環として、
策略的に結婚させられたクッシュの母親と義父。
そのため、クッシュと義父は血のつながりは無い。
しかし、二人の間には確かな親子の絆があった。
それを、フォルカーは知っていた。
「フォルカー・・・。」
静かに発せられた裁判長の声。
怒りと、悲しみに満ちた声。
「お前を追って・・・娘は・・・。」
そして、長い長い裁判が始まった。
令状が読まれ、罪名が上げられ、検証が行なわれた。
初日が過ぎ、一週間がたち、そして、一ヶ月が経とうとしていた。
季節は秋へと移行し始め、牢獄を厳しい寒さが襲い始めた。
そして、ついに審判が下ろうとしていた。
ざわめく傍聴席。
陪審員と裁判長が別室での検討を終わらせ、全員が席に着く。
「判決、右手を切断する。」

朝。
まだ日も昇らない薄く青い時間。
霧が死刑場を満たしている。
二人の憲兵に左右から抱えられ、フォルカーはその場所へと連れてこられた。
斬首台の上へと、手を乗せられる。
目隠しをされ、そして、一人の騎士が斬首用に清められた剣を持ち、フォルカーの前へと立った。
聖水でぬれた刃が霧を切り裂く。
高く、美しく振り上げられた剣。
そして、垂直に振り下ろされた。
絶望の朝。
立ち上がったフォルカーは、無表情のまま歩き出す。
一歩、二歩。
絶望に呼ばれるかのように歩く。
空はまだ薄暗く、そして青い。
空気まで青く満たされている様だった。
右手首から血が滴る。
手を失ったフォルカーは、その場へと崩れ落ち・・・絶望に振るえ涙を流す。

終わる

122(・ω・):2004/08/10(火) 10:18 ID:guVmbfEU
後編です。

楽しい名無しの話の後で恐縮ですが、出来上がったので乗せてしまいます。
クッシュが冒険者になった理由は、具体的には書いてませんが、その辺はご想像にお任せしたいという所存です。

123虹の向こうに見えるもの1:2004/08/10(火) 17:54 ID:4hp6MGTM
・・・。
かつてタルタル族の恐るべき力だった炎の魔法を、
今や、我々が煙草の火をつけるのに使うように、蛮族だと思っていた彼らも、
バストゥークの高度な冶金技術を密かに自分のものにしていたのだ。
計画を全部打ち明けると、彼らは意外にも感激して解放してくれ、率先して沼を案内さえしてくれた。
天晶763年 Gwynham Ironheart

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

手にしていた羊皮紙の束から目を離すと、右手で目頭を軽く揉んだ。
椅子を軋ませて大きく伸びをすると、モーグリーに声をかける。
「すまん。コーヒーくれ。」
だが、いつもなら無駄にクポクポいいながら返ってくる返事がない。
「おい、モグ・・・」
背もたれに肘をかけて上半身を捻り、もう1度モーグリーに声を懸けようとした男の視界に
ベッドの上で広げた分厚い本に突っ伏して眠る女の姿が映った。
「あぁ、そうだった。」ここは自分のレンタルハウスではなかった。

ふぅ、っとため息をつくとキッチンまで行き、ガサガサと戸棚を引っかきまわす。
男はコーヒーが飲みたかったのだが、生憎見つかったのはウィンダス茶葉だけだった。
トレイにお茶の葉とカップを載せ、部屋に戻ると鞄からクリスタルと幾つかの素材を取り出し、
サンドリアティーを合成した。
キッチンまで行ったのだから手で入れよう、という考えは浮かばないらしい。
サイドテーブルに入れたてのお茶セットを置いて、ベッドに腰掛ける。
レンタルハウスのベッドは大柄なガルカが使用することを考えて
頑丈に作られているのでヒュームの男が腰掛けたぐらいでは軋みもしなかった。

124虹の向こうに見えるもの2:2004/08/10(火) 17:55 ID:4hp6MGTM
「ラビィ、起きな。」
小さく丸まった体に手をかけて揺すると、ラヴィと呼ばれた女は右手を振って答えた。
「もう少し寝かせて・・・」
これはダメだと思い、モーグリーの声色を真似て彼女の耳元で囁いた。
「カリカリクポー!」
途端にガバッっとベッドの上に起き上がり、辺りをきょろきょろ見回す。
「何?!枯れてたの?!」
動揺したラヴィの様子をニヤニヤしながら眺める男の視線とぶつかる。
「グ・・・ラ・・ン・・・!!!!こんのぉ!」
グランは咄嗟に顔面と腹部をガードしたが、彼女が投げつけた本はその下を潜り抜けてヒットした。
「ぐぅっ」
大げさにうめいてベッドに突っ伏すが、ラヴィは知らん顔でサイドテーブルのカップに手を伸ばす。
「そんなに効いてる訳ないでしょ。いい加減にしなさい。」
両手でカップを抱え、ベッドの縁に腰掛けた彼女の足は床には届かない。
ラヴィはタルタルであった。
「むむむっ、バレテたか。」
ひょいと身体を起こし、ラヴィの横に腰掛ける。

紅茶を啜りながらラビィは不満げに鼻を鳴らした。
「これ合成で入れたでしょ。」
「モグがまだ帰ってないから仕方なく。」
合成とはいえ、ミルクたっぷり、メイプルシュガー抜き、スパイス多め、と
彼女好みの味に仕上げたつもりだったのだが。
「味や香りがね、微妙に違うよ。」
「ふぅん、オレには同じに思えるけどな。」
首を捻るグラン。
「グランと合成調理について語り合う気はないよ。」
そりゃそうだと一人頷き、自分の腹に当たって床に落ちた本を拾い上げた。
黒い皮で装丁された表紙には【ヴァナ・ディールの歴史】と金文字で綴られている。
「これウィンの魔法図書館から借りてきてるんだろ、投げていいのか?」
ごっくんっ、と紅茶を飲み下す彼女の喉が一際大きく鳴った。
「手近に何も無かったから、つい…あはははっ。」
困った時には笑って誤魔化すに限る、とばかりに彼女は乾いた笑い声を上げ、
グランから本を取り返した。
「で、そっちは?こっちのチェックは終わったよ。」
やれやれという風に肩をすくめるグラン。
ラヴィは分厚い本をあちこちひっくり返し破損していないことを確かめ終わると、
あるページを小さな手で押さえた。
「ここね、オルデール卿のとこ。」

125虹の向こうに見えるもの3:2004/08/10(火) 17:56 ID:4hp6MGTM
************************************

ヒュームの男グランは、生業を戦士とする冒険者である。
クリスタル大戦末期の混乱するバスに生まれた彼は、物心つく頃には剣を握っていた。
父親は従軍しており、母親を自分を守る為には仕方が無かったからだ。
やがて戦争は終わったが父親はとうとう戻らなかった。
11歳になったばかりだったが、武器屋に働き口を見つけた。
母親を助ける以外に武器屋を選んだのには理由があった。
主であるガルカは無愛想でお世辞にも商売上手とは言えないが、武器の扱いに長けていた。
働きながら腕も磨けたらいい、と考えたのだ。
始めはにべもなく断られたが、
「武器屋が武器を知らなければ話にならんな。」とあらゆる武器の扱い方を基本から叩き込んでくれた。
やがてバスでは少し名の知れた戦士へと成長していく。
18歳になる年、政府から国所属の冒険者としてコンクエスト政策に参加せよ、との命令書が届いた。

終戦から立ち直りつつあった3国は国外へと目を向け始めていた。
今人間同士でいがみ合うことになれば、ヴァナ・デールは復興不可能なほどに荒れ果ててしまう。
そこでゴロツキ同然に扱われていた冒険者を使って3国間のバランスを取る方法をジュノ大公が提案したと言う。
冒険者時代の幕開けだった。
政府のやり方は気に喰わんが国という後ろ盾を持っていれば何かと役に立つ事もあるだろう、
母親のことは心配するな、と武器屋の主は彼をジュノへと送り出した。
ジュノでの生活は特筆することもない。
バス出身者で小さな冒険者ギルドを作り、戦士としての腕を磨き、冒険者としての名声を上げていく日々。
剃るのが面倒だと伸ばし始めた髭がすっかり顔に馴染み、貫禄を感じさせる年齢になっていた。

126虹の向こうに見えるもの4:2004/08/10(火) 17:57 ID:4hp6MGTM
そんなある日、彼が下層の酒場でギルドの仲間と飲んでいたところへ
古参の白魔導士が青い髪をポニーテールに結い上げたタルタルの少女を連れてきた。
魔法の修行の為に引きこもっていたウィンで知り合ったと言う。
「冒険者に成り立てなんだけど実力はあるから、ひとつよろしく。」
というと、ずいっとグランの前に少女を押し出した。
「ラヴィです。よろしくお願いします。」
少女がぺこんと頭を下げると、青い髪もぺこんと揺れる。
「おいおい、俺が面倒みるのかよ?」
「暇だろ?」
「むっ。」
確かに昼間から酒場にいて、忙しいとは言えなかった。
「オレが出来るのは白魔導士としての戦い方を教えることだけで、守ってやることは出来ないから。」
少女は白魔導士らしい。
魔道士が着るローブを羽織り、耳と指には精神力を増幅する宝石が光っている。
「・・・子守り?」
白魔導士があっと叫んで少女を抑えようとした時には遅かった。
今までニコニコと笑っていた少女の表情が一変し、
腰のパウチから何かを取り出すとグラン目掛けて思いっきり投げつけた後だった。
「げふっ」無防備の腹にクリティカルヒットしたらしい。
目を白黒させて苦悶するグランを指さして少女が言い放つ。
「タルタルだからって馬鹿にしないで!」
「あ〜、悪い、言うのが遅れた。彼女はタルタルの女性にしては気性が激しいから・・・」
今度は白魔導士をキッと睨みつけ、脛を蹴り上げる。
「痛いよ、ラヴィ。」
少女の反応に慣れているのだろう、やんわりと諭すような口調で受け返す。
「ふんっ」
そっぽを向いたものの、内心は反省しているのであろう顔が赤くなっている。
今まで黙って成り行きを見ていたギルドの仲間達が突然喝采を挙げた。
「いいぞー!もっとやれー!」
「気に入ったぜ!」
「グランはお嬢さんのお付に決定!」
びっくりした顔で少女がみんなを見上げた。
「え?あの、私、初対面で失礼なことしてしまったのに・・・?」
赤魔導士が立ち上がって、彼女の手にひとつのパールを握らせた。
「ようこそ、我がギルドへ。」
「ありがとうございます!」
極上の笑顔を浮かべるラヴィ。
あの笑顔ならたいていの者が「可愛い」と落ちるだろうな、と白魔導士は苦笑した。
そして確かにその場に居た全員が少女に好意を持ったのだった、
腹を抱えて唸っているグランを除いて。

127(・ω・):2004/08/10(火) 18:02 ID:4hp6MGTM
ぎゃーーーーー!
3をsage忘れてる…orz



名無しの話が大好きで、勢い余ってパラレル書いたヤツでつ。
今回初めてオリジナルを投降。
お目汚しにならなければいいな・・・

128(・ω・):2004/08/10(火) 21:11 ID:RGUpbjVY
>>127
読みやすくて面白そうな予感ビシバシ!
続き楽しみにしてます!

129(・ω・):2004/08/11(水) 11:38 ID:HxvWyDCM
なんか久々にいっぱいキタ━━━━━━\(T▽T)/━━━━━━ !!!!!
もううれしくtrくぁwせdrftgひゅじこ

130(・ω・):2004/08/12(木) 14:46 ID:QpMf9VU2
世界の広さ、様々な伝承に残る謎
それらを知りたくて冒険者になった一人の者のお話
一人の吟遊詩人が詠い続ける・・・

月の雫 〜伝承をここに〜

第1話 旅立ち

昔から月をよく眺めていた
その光に過去を、そして未来を見つづけて

131セイブ・ザ・アワー・ワールド:2004/08/12(木) 15:48 ID:B9yc2Klo
 ネタバレの話をします。
 ジラミッションをあまり進めてない方はスルーでおねがいします。
 
 
 イブ・ノイル曰く、現在ヴァナディールで見られる人間は、生物としての完全さを
まったく失ってしまっているそうです。特にコミュニケーション機能に関する弊害は
深刻で、人間五種族はそれぞれ、高慢、怯懦、嫉妬、無知、憎悪といった悪い精
神面の特質を生まれながらに備えてしまっています。
 なんてこった!私達は生まれつき喧嘩するようにできているのです。あの戦争も、
この戦争も、もし私達がマトモであったなら起こらなかったに違いない!そんなこ
とのために多くの血が流れていったなんて!
 いやいや、私達はマトモでないかもしれないが、これは「生物として完全」な人類
の存在を示唆しているじゃないか!なんとかメルトブローの影響を抜き去ってしま
えば、私達は再び「完全な生物」となるだろう。ヴァナディールもいまより平和にな
るに違いない!
 ・・・以上を踏まえた上で、私達には大雑把に二つの選択肢があります。
 
1:僕達は不完全だけどそれを受け止めた上で生きていこう
2:より良くなる可能性があるなら、それを目指して努力しよう

 重いですね。■eやってくれますね。
 エルドナーシュが選んだ方法は、2番でした。自分さえ完全になればいいや的手
法とかいろいろ問題があって、最終的にはプレイヤー達の抵抗にあって失敗してし
まいますが。けれど、もし彼が本当にうまくやっていたとしたら、文字通り楽園が訪
れていたのです。たぶん。
 ミッション中、プレイヤーがこの選択を行う機会を得ることはできません。が、選択
を改めて吟味することはできる。それを小説にすることさえ出来る。エルドナーシュ
はダメでしたが、もっといい方法があるかもしれませんよ?どうします?
  
 ま、屁理屈ですが。それよりこちらをどうぞ
 ttp://kooh.hp.infoseek.co.jp/?page=セイブ・ザ・アワー・ワールド

>>130一時間たったので書いちゃいますが、割り込みだったらごめんなさい

132虹の向こうに見えるもの 1/5:2004/08/12(木) 16:03 ID:ShEgWKg2
次の朝、仏頂面のグランが集合時間に少し遅れて上層ゲート前に行くと
ラヴィはもちろん、ギルドの仲間達までが待っていた。
「おはようございます、グランさん。」
彼女はぶんぶんと手を振って挨拶してくる。
その仕草は陽気で人懐っこいタルタルらしいが、昨日の一撃からグランは用心を怠らなかった。
彼女から少し距離を取って立ち止まり、仲間達を睨みつける。
「なんでお前らまでいるんだよ。」
「ラヴィちゃんの顔を見に来たのさ。」
そう言えば昨日酒場に居なかった顔ぶれだ。
「可愛い子じゃないか。」
見た目はな、とグランは心の中で悪態をつく。
「手出しちゃだめだよ。」
誰が出すか!危うく口に出しそうになった言葉を飲み込む。
「あれ?何でカタールなの?」
シーフの青年が彼の腰に下がった格闘武器を見つめていた。
「こいつの実力に合わせたんだよ。」
「あ、なるほど。」

熟練の冒険者が実力差のある者を鍛えるのには2種類の方法がある。
1つは護衛方式で、実力以上の敵に挑ませ、危なくなったら助ける。
一見危険なようだが、実はリスクが少なく手っ取り早く力が付く。
しかし力に見合うだけの経験を得ていないため、後々致命的な欠陥として現れることが多い。
叩き上げの冒険者たちは『パワーレベリング』と呼び嫌っているが、
最近はこの方法で公認冒険者の資格を取る者も多い。
もう1つは、熟練者が下の者に合わせて実力を落としパーティを組む方法だ。
効率は良くないが、実力に見合った経験を得ることが出来る。
戦闘における状況判断能力は経験を積まなければ身につかないからこそ、
金では買えない冒険者の真の価値となる。
このオーソドックスではあるが、確実に少女の為になる方法をグランは選んだのだ。

133虹の向こうに見えるもの 2/5:2004/08/12(木) 16:03 ID:ShEgWKg2
「丁度いい。お前ら、暇なら付き合え!」
不機嫌な声で怒鳴るグランとは対照的に、仲間達は笑いながら頷くと
それぞれのレンタルハウスへ装備を整える為に戻って行った。
ゲート前に2人きり。
気まずいと思ったのはグランだけのようで、ラヴィはゲートを行き来する人々を興味深そうに眺めている。
手持ち無沙汰だったので、取り合えず一服しようと鞄からタバコを取り出す。
「このゲートはどこに出るんですか?」
タバコを咥えて火をつけようとしながら答える。
「ん?ああ、バタリア丘陵さ。あそこは・・・」
「バタリア丘陵。『二十余年前、アルタナ連合軍と獣人連合軍との会戦〔ジュノ攻防戦〕が戦われた古戦場。
到る所に築かれた土塁跡が、当時の激戦を今に伝えている。
北方には、アシャク山脈の切り立った崖がそびえたち、侵入者を防ぐと同時に冒険者を拒んでいる。
また、東方にはジュノへ到る巨大な橋『工房橋』がかかっている。』…か。」
今、自分の言葉を遮る様にガイドブック級の説明が聞こえたような?
口からタバコがポロリと落ちた。
「へ?あ〜私、今、変な事口走りました?」
こくこくと頷くグラン。熟練冒険者としての貫禄は微塵も無かった。
その仕草を見て彼女は得心した。やっぱりこの人、いい人だ、と。
「驚かせてごめんなさい。私ね、ヴァナの歴史が知りたくて冒険者になったんです。
本から得た知識だけでは物足りなくて、自分の足で歩いて調べてみようと思って。」
「ほぉ。」
政策に巻き込まれ否応なく冒険者になったグランには、
夢を追いかけて冒険者になったと語る姿が少し眩しく、羨ましく思えた。
言葉に詰まり、思わず少女の頭に手をかけてぐりぐりと撫でてしまう。
うわっ、また怒られる!と、やってしまった後に思ったが
意外にも彼女は目を細めて嬉しそうにニコニコとしたままだった。

「お待たせ。」
「あ!ラヴィちゃんの頭撫でてる!」
タイミング悪く帰って来た仲間達に指摘され、慌てて手を引っ込めると、バツの悪さを隠す為に怒鳴る。
「遅いぞ!」
「ごめん、ごめん。ところで、このおっさんに変なことされなかったかい?」
ビシッとグランを指差してエルヴァーンの赤魔導士が問い掛ける。
「してない!!!もういい、お前らなんか知らん!」
本気なんだか照れ隠しなんだか、彼はみんなを置いたままずんずん進むとゲートを潜って出て行ってしまった。
「ん〜、実にからかい甲斐のあるヤツだ。」
「ホントに。」
あははと実に楽しそうに笑うみんなを眺めながら、
この人たちとならきっと上手くやっていけるとラヴィは感じた。
そう思わせる優しい空気がそこにあった。
「さぁ行こうか。きっと橋を渡ったところで待ってるから。」
「はい!」結い上げた長い髪を揺らして少女は元気良く駆け出した。

134虹の向こうに見えるもの 3/5:2004/08/12(木) 16:05 ID:ShEgWKg2
仲間達が言った通り、グランは橋の欄干に背中を預け、腕組みをして待っていた。
「・・・どこで狩るのか決めてなかったからな。」
ぶすっとした顔で、取って付けたようなセリフを吐く。
「そうだったね。」
分かってる、と頷く仲間達。
「古墳の入口で虎なんかどうだい?小遣い稼ぎにもなるし。」
虎の牙は薬の材料として高値で取引されているのだ。
「虎か・・・。麻痺が痛いな。」
ちらりとみんながラヴィを見る。
「だからこそ、実力を見るのにはいいだろう。」

件の白魔導士・レギンが推すだけあって、ラヴィの実力は大したものだった。
敵の範囲攻撃は届かず、自身の魔法は味方に届くぎりぎりの位置取り。
始めて虎と戦う白魔導士は麻痺回復が追いつかずパニックを起こすものだが、
状態異常を回復する順番を読み、回復・強化魔法を織り交ぜながら敵を弱体させる魔法も詠唱している。
「ホントに冒険者になったばかりなの?」
ナイトが疑問に思うのも当然だった。
グランにはパーティ戦というより、集団戦に慣れている者の動きに見えた。
「そうですよ。」
屈託なく笑う少女。
「へぇ。天才ってヤツですかね?」
黒魔導士が呟く。
「まさか。レギンさんに教えてもらったようにするだけで必死です。」
「確かにあのおっさんはすご腕だからな。」
みんなは納得したようだが、グランには引っかかるものがあった。
おかしい、何かおかしい。
戦士としての勘、と言うより遠い記憶のようなものが囁く。
しかし、パーティを率いる者としての立場は忘れていなかった。
「次の獲物をやったらお昼にしようか。」
「そうですね。」
元気者のシーフが「わーいっ、お昼ご飯だ〜!」と叫びながら
古墳の入口をたまたま通りかかったらしい虎にブーメランを投げつけ戦闘開始。
「では早めに片付けましょう。」
「OK。連携行くよ。」
「了解!」
武器の特殊攻撃に付随する属性で繋いで大ダメージを与える連携技について
ラヴィにまだ教えてなかったとグランが気付いた瞬間、
「連携1番いきまーす!」
シーフのバイパーバイト発動。
「我が正義の剣を受けてみよ!」
ナイトのレッドロータス発動。
こうなったら止められない、さっさとケリをつけて後でゆっくり説明したらいいだろう。
グランのコンボ発動。
連携技・核熱が発動!
赤魔導士のファイアが発動→マジックバースト!
ラヴィのバニッシュガが発動→マジックバースト!
黒魔導士のファイガが発動→マジックバースト!
どうっと地響きを立てて虎が崩れ落ちた。

135虹の向こうに見えるもの 4/5:2004/08/12(木) 16:06 ID:ShEgWKg2
「!」
ようやくグランは思い出した、遠い記憶を。終戦末期に見たある戦いを。
「すっごい!今、マジックバーストしたよね、ラヴィさん。」
連携技の発動に合わせて魔法を重ねることで通常よりダメージを与えるマジックバーストは、
そのタイミングを会得するのにかなりの経験を要する。
「打ち合わせなしの連携にマジックバーストを入れるなんてなかなかできませんよ。」
「まぐれですよ。」と頭を掻いて照れるラヴィ。
「我々はいつもこんなもんだがな。」
「確かに。」
「行き当たりばったり過ぎるんだよ。」
わいわいと彼女を取り囲んで騒ぐ仲間の声に背を向けたまま、
グランは疑問を確信に変える為にラヴィに聞いた。
「お前、魔法をどこで学んだ?」
彼の声のトーンがあまりに真剣だったのにみんな驚き黙ってしまう。
「魔法学校です。」
「ウィン国立魔法学校だよな?」
「はい。」
ウィンに限らず魔法を習得するための教育機関が各地にある。
殆どが引退した冒険者が開いている塾のようなものだが、
耳の院に属する国立魔法学校はヴァナ・ディールの魔法教育最高機関であり、
卒業生はエリートとして各院に迎えられるのが普通だった。
「卒業後、どこに属してたんだ?」
何故そんなことを聞くのかと訝しむ仲間達。
困ったように黙り込む少女。
「言えないなら俺が言ってやろうか。口の院・戦闘魔戦団、しかも黒出身だよな?」
びくっとラヴィの身体が震えたのをグランは見逃さなかった。

「はぁ〜。」
気の抜けた、ため息を吐く。
「冒険者なんてのは、それぞれ色んな過去があるさ。だから誰も詮索しない。
けどなぁ、俺は戦士だから命賭けで戦うしか能がない。だからお前達白に命預けてるんだよ。
仲間に疑いを持ったままなんてのは、ちょっと勘弁して欲しかっただけさ。」
「・・・ごめんなさい・・・」
消え入りそうな声で謝り、青い瞳を潤ませて俯くラヴィ。
「いや、責めてる訳じゃないから、謝らなくていい。泣くな?な?」
女に泣かれたらどうしていいか分からなくなる、しかも相手はタルタル。
まるで子供を苛めてるみたいじゃないかとグランは焦った。
「しかし、よく気が付いたな。」
エルヴァーンの赤魔導士が感心する。
「大戦末期のバスに戦闘魔戦団がいたんだ。
俺はガキだったからどんな理由があったかなんてのは知らないが、
北グスタでクゥダフ軍を撃破するのを見たことがあるのさ。
ラヴィの動きがあの時の魔導士達と重なって見えただけのことだよ。」
彼女の前にしゃがみこみ、怒ってないからなっと小声で言い聞かせる。
「でも、なんで黒だと?」
マジックバーストできるという理由では黒魔導士だったと決める根拠に薄い。
「手だよ。重い剣を握ったことの無い手だ。」
「さすが武器のエキスパートだね!」
「ただの髭ではなかったな。」
「いや、髭は関係ないだろう?」
くすっ、と目の前の少女が笑った。
彼女の顔を覗き込むと、まだ涙目ではあったが表情は和らいでいた。
ほっとする胸を撫で下ろすグラン。
「後1つだけ聞いてもいいか?何で白になったんだ?」
これが1番重要なことなんだと彼が語っているようにラヴィには思えた。
真っ直ぐにグランの目を見つめ返し、一言一言をかみ締めるように答える。
「もう2度と目の前で人が死んで行くのを見たくないから。」
「それで十分だ。」
グランが優しく微笑んだ。

136虹の向こうに見えるもの 5/5:2004/08/12(木) 16:06 ID:ShEgWKg2
「さて、昼飯にするか。」
ここで待ってましたとばかりにはしゃぐはずのシーフが神妙な顔をしてラヴィの前に立った。
「あのね、僕も聞いていい?」
「はい何でしょうか?」
「何で冒険者になったの?」
「こら!人の過去を詮索しないってのが、俺達のルールだろ!」
「違う違う。僕が聞きたいのは、何で今なのかってこと。
ラヴィさんの実力なら魔法学校出て直ぐにでも公認冒険者になれたんじゃないかと思ったから・・・」
元気者のシーフはヒュームの男性にしてはとても小さくよく女性に間違われる。
小柄で身軽なことがシーフという職業を彼の天職としているのだが、
子供の頃に患った大病が原因で冒険者として自立できるまで人並みならぬ苦労をしてきた。
「あ・・・すまん。」
ラヴィ以外の仲間達はその事を知っている。
グランは彼を弟のように可愛がっていたから、彼の気持ちが痛いように分かった。
恵まれた環境、恵まれた才能。
それをどうして?僕には分からないとシーフの目が問いかけていた。
彼女もそれを察した。
「隠す事もないですから、お話しますよ。」

彼女の両親も魔戦士だったが、彼女が魔法学校に入学した年に実験中の事故で亡った。
後ろ盾を失い辞めるしかなくなった彼女に、事故の責任があるからと援助の手を差し伸べたのが口の院だった。
卒業後に口の院に所属するという条件付きではあったが。
「3年間居ましたが、どうしても冒険者になりたくて辞めたんです。」
「そんな状況で辞められるものなの?」
「普通は無理だと思います。」
だからある人に相談に行ったのだと、少女は話しを続ける。
その時初めて口の院を通して援助をしていたのがその人だと知った。
可愛い孫娘の頼みだから何とかしてあげようと請合ってくれた翌日、あっさり辞められたのだと。
「本当は親戚筋にあたる方で私の祖母ではないんですけどね。」
「へ〜、すごい人がいるもんだね。」
素直に感心するシーフと裏腹に難しい顔をして考え込む4人の大人。
口の院、現院長アジド・マルジドに圧力をかけられる人物?
気の強いラヴィと血縁関係がある?
ウィンには気性の激しさで有名なタルタルの女性がいたはず。
ヴァナ・ディール最強の黒魔導士にして、口の院・前院長。
その名は・・・
「言うな!」
グランが悲鳴に近い声をあげ、びっくりしてこちらに振り返るラヴィとシーフ。
だが3人は目で合図を送り呼吸を合わせ叫んだ。
「シャントット博士!!!」
「そうです、けどよく分かりましたね?」
やっぱり人の過去など詮索するものじゃない、とグランは激しく後悔していた

137(・ω・):2004/08/12(木) 16:12 ID:ShEgWKg2
世間の皆様はお盆休みでしょうか?
私は会社に居たりします・・・

SS書いてたら終わる仕事も終わらないという突っ込みはなしで!
だって切りのいい所まで書かないと気になって仕事が手につかな・・・(ry

138Scrapper:2004/08/13(金) 06:39 ID:ahZ2rolo
毎度ありがとうございます.
私も,これでやっと仕事に集中できそう.
応援していただいた皆様,呼んでくださった皆様,本当にありがとうございました.
あまりレスを付けられなくてごめんなさい.

というわけで,ラストです.
やっぱり,自分のこと棚に上げて偉そうに説教たれてるのがフェムだよな〜,と思っていたので,
最終話はこのような形になりました.
http://www.geocities.co.jp/Bookend-Ango/5451/

一話あたり一人という構成を目指していたのですが,後半はそれが出来ませんでしたね.
もうちょっとうまく話を作れれば….
力不足を痛感しました.

139Scrapper:2004/08/13(金) 07:08 ID:ahZ2rolo
こういう事を書くのはナルシストみたいであまり格好よくないですし,物語にとっても蛇足だとは思いますが,
自分でもなんか寂しいので,気分を閉めるために,ちょっとだけあとがきを.

描きたかったのは,NPCの冒険者の姿でした.
ストーリーの本筋には殆ど絡んできませんが,だけどヴァナ・ディールにはPC達以外の冒険者もたくさんいるはずなのです.
彼らは,私達がログアウトした後でも世界に居残り続けます.そして私達以上に世界に深く溶け込んでいます.
エアハルトはアレですけど…あの追跡ミッションが,ジラMの間に挟まれてたのだと解釈してください.

PCは「普通の」冒険者であるので,NPCの冒険者は「普通ではない」冒険者でなければなりません.
だから,PCは絶対になることが出来ない「普通じゃない冒険者」,をテーマにして書きました.

その普通ではない冒険者だからこそ,PC達には見えないストーリーの裏側を見ることが出来るんじゃないかな,というのが発想の元でした.
歴史ミステリもどきの無茶苦茶な解釈で,バスミッションを追ってみたのです.


それともう一つ,「絆」ですね.
第一部は一見温かい物語のようですけれども,その実,狂気に満ちた世界を書いたつもりでいます.
「絆」ゆえの狂気,それを克服していく二人,というのが主人公であるフェムとリンツのテーマでした.

この二つをうまく書ききれたかどうか,自分でも落ち込んでしまうのですが.


最後に,もう一度お礼を.
ここまで二人にお付き合い頂いた皆様,
そして,一つのお話を私に語ってくれた,私の憧れのフレンドに.

ありがとうございました.

140138:2004/08/13(金) 12:15 ID:2JDyBSSk
>Scrapperの作者様
完成おめでとう&おつかれさまでした!
更新をわくわくしたながら待っていた一人として嬉しくもあり寂しくもあり…
もっと2人を見ていたかったな、なんて思います。

そして私は今日も会社で仕事してます;;

141(・ω・):2004/08/13(金) 20:29 ID:RyPkcWd2
oioiwww
138だったら自作自演になってるぞwww
とにかく完成おめでとう&お疲れ様でした〜

142(・ω・):2004/08/13(金) 21:19 ID:a7XV5vgU
http://www.adult-live.tv
赤裸々ライブチャット

143(・ω・):2004/08/13(金) 21:39 ID:HEqhxNDw
>>137
今日からお盆休みです。お疲れ様です。

流れるような文章にすんなり世界に入っていけます。
仕事のキリがついたら続きをよろしく!

144137:2004/08/13(金) 22:23 ID:VICKK0kE
>141
Σ( ̄□ ̄;)!!
仕事でパニくってたらすぃ・・・orz

>143
グランとラヴィが頭の中を駆け回って、
早く書け!と言ってるので頑張ります。

145名無しの話の作者:2004/08/15(日) 23:21 ID:In1KMlZA
「名無しの話」の23 −夏祭り− 後編

「ミー」
「キャー」
ヒュム戦とエル騎士のところで引っかかり、ミスラは追っかけてないけれど、ミーミーキャーキャーと走り回ってるタル白タル黒。
人混みの足下を、とても上手にすり抜ける。
両手に持ったオヤツを全然触れさせない。
戦いの日々、ガル戦に追われて踏まれた結果の効果の成果の形。
と、
「あれ?」
気づくタル黒。
キュキュッと方向転換。
「どうしたのー?」
ついてくタル白。
タタタタター
並んだ屋台の隙間を走り抜け、裏へ回れば
「や」
と手を挙げる人影。
「あー、タルシーフちゃん」
額には、ねじり鉢巻。
緑のはっぴにはゴブ柄を背負い、白い半股引と白足袋。
今日はしっかりお祭りバージョンのタルシーフ。
「「「おはようございます」」」
挨拶しっかり良い子の証。
もう、こんばんはの時間なのだけど。
「あそびにきたのー?」
とタル白。
「今日はお仕事」
胸を張るタルシーフ。
「屋台出してるんだよ」
「なにー?」
とタル黒。
「タコ焼きと、イカ焼きと」
「タコなしイカぬきー?」
「金魚すくいと、くじ引きと…」
「キンギョいなくてアタリなしー?」
きつい事言うタル白タル黒。
「今日はまっとうな商売なの!」
ジタバタと手足を振るタルシーフ。
つまり、いつもはまっとうじゃない。
「あと、輪投げもあったんだけど…」
夜空を見上げるタルシーフ。
釣られて見上げるタル白タル黒。
「なくなっちゃった」
遠い目をして星を見るタルシーフ。
「でも、ま、いいけどね」
一瞬で表情をもどす。
「儲かってるし」
と、どこから取り出したのか、たくさんの財布。
「「!」」
ハッと自分の懐を押さえるタル白タル黒。
「「♪」」
よかった。ちゃんとある。
「心配しないで。白ちゃん黒ちゃんのは盗らないよ」
「…」
でもこの前は盗った。
と少々睨み目になるタル黒。
その視線に思い当たったらしい
「…」
チョト考えて
「じゃ、倍返し」
別な財布をひとつ取り出すタルシーフ。
「それ…」
顔を見合わせるタル白タル黒。
「大丈夫。これボクの財布だから」
とタルシーフ。
なら大丈夫だねと
「「ありがとうー」」
笑顔で受け取るタル白タル黒。
…中身の出所を考えると同じ事の様な気もするけど、気は心と言うから、ま、いいか。
もらった財布の中身を二人で分けて
ふと思いついたようなタル黒。
コショコショとタル白にささやく。
「うん」
笑顔でうなずくタル白。
「ねーねー」
「いっしょにいかないー?」
とタル白タル黒。
「?どこへ?」
「「あのねー」」
コショコショと、両側からタルシーフへささやく。
「うん、行くー!」
タルシーフは元気にうなずいた。

146名無しの話の作者:2004/08/15(日) 23:25 ID:In1KMlZA
鐘や太鼓の音。夏祭りの音。
空に開く花火。夏祭りの光。
夜闇の中、遙かに遠いそれを見てる。
大岩の上にチョコンと座った小さなタルタル。
モコモコ羊のタル獣。
崖の上にチョコンと座った小さなタルタル。
紫鎧が印象的なタル龍騎。
それぞれに、遠く離れた場所だけど、同じ音を聞き、光を見てる。

「にぎやかやなぁ」
隣に座ったトラの声が頭上から。
「うん」
うなずくタル獣。
「みゃあ」
隣に座った竜の声が頭上から。
「うん、きれいだね」
うなずくタル龍騎。

「…おまえ、行かんでもええんか?」
「うん」
うなずくタル獣の声にウソはない。
でも、トラはなんだか、悲しくなってくる。
自分のためだと思えるから。
自分といるからだと感じるから。
町に自分は入れない。
だから、この小さな優しい存在は、同胞たちの祭りへ加われない。

「みゃあ?」
行かなくていいのと聞けば
「うん」
うなずくタル龍騎の声にウソはない。
でも、竜はなんだか、悲しくなってくる。
ワタシのせいだと思えるから。
ワタシといるためだからと感じるから。
町にワタシは近づけない。
だから、この小さな愛しい存在は、同胞たちと祭りへ加われない。

「すまんなぁ…」
「みゃあぅ…」
あやまるトラ。
あやまる竜。
でも、返事は見上げてくる笑顔だった。
「ボクは、トラさんと一緒に見たいの。ココが特等席なの」
「ボクは、竜さんと一緒に見たかったから。ここが一番いいの」

そして、小さなタルタルは巨大な獣に身を寄せた。

147名無しの話の作者:2004/08/15(日) 23:29 ID:In1KMlZA
「ん?」
トラのヒゲが動く。
耳が動く。
「どうしたの?」
見上げるタル獣。
「ちょっと背中上がっとり」
キシ
爪が出る。
「一応や、一応」
「うん…」
言われるままに、トラの背に登るタル獣。
脚から背中、背中から首へ、そして頭へと登ればずっと遠くまで見える。
「?」
闇にかすかに見えたのは、走ってくる小さな影。
正体はすぐに判った。
「おーい」
走ってくるのはタル白、タル黒、タルシーフ。
「白ちゃーん、黒ちゃーん、シーフちゃーん」
手を振るタル獣。
「知り合いか」
「うん、友達なの」
「…あれもなんか?」
「?」
走ってくる三人の後ろにもう一つ。
目をこらせば、それはゴブ。
でも、タルちゃんたちを追っかけてるんじゃない。
屋台を四っつ引っ張ってる。
「あれはシーフちゃんのお友達」
クルッと向きを変え
スルスルスルー
トラの背中を滑り降りるタル獣。
「そうか」
爪をしまうトラ。
「「「タル獣ちゃーん」」」
四人で挨拶を交わす。
「どうしたの?」
とタル獣。
「あのねー」
「タル獣ちゃんこないからー」
「みんなで来たんだよ」
指さすのは、息も絶え絶えでたどり着いたゴブたちと屋台。
タコ焼き、イカ焼き、金魚すくいに、くじ引き。
それぞれの屋台には、山ほどの花火を乗せ足してる。
ついでに、包帯グルグルのゴブも乗ってたりする。
「「「一緒にお祭りしようねー」」」
「うん!」
大きくうなずくタル獣。
それを見下ろして
「友達か…」
トラは、とても嬉しそう。
でも、少しだけ、ほんの少しだけ、一瞬、ほんの一週、悲しそう。
「あしたはねー」
「タル龍騎ちゃんのトコいくのー」
楽しそうに話すタルちゃんたちには、トラの表情は見えなかった。

遠い空の小さな花が数を増し、そして消える。
少し待っても、もう光の花は現れない。
「みゃぅ」
「うん、終わり」
立ち上がるタル龍騎。
「でも、明日もあるから。一緒に見ようね」
「みゃー」
竜は嬉しそうにうなずいた。

148名無しの話の作者:2004/08/15(日) 23:31 ID:In1KMlZA
その頃…
チョットごたごたあったけど、念願のアイテムを手に入れた。
ゴブ職人謹製は、造りが良くて、抱き心地も抜群。
実物大というのが、とってもラブリー。
「目指せ!全フェイスコンプリート!」
ご機嫌で心に誓ったガル戦だった。
兵士を足元に踏んづけながら…。

−おわり−

149名無しの話の作者:2004/08/15(日) 23:48 ID:In1KMlZA
ごめんなさい、ごめんなさいm(_ _)m
ヒュム戦は追っかけられたまま、どっか行っちゃいました。
ホントはまじめな青年なのに、当分不幸は続きそうです。
誰の好みかはあえて、ひ・み・つ♪
じゃないと、首根っこ引っこ抜かれちゃうもんで…って、前にも言った様な…。

150(・ω・):2004/08/16(月) 02:25 ID:Vm69foEQ
癒されマスタ…(*´Д`*)じわっとくる名無しの話も
ぎくっとくる名無しの話も不幸なヒュム戦も日々の糧だ。アリガトウ。

151赤い証 N:2004/08/17(火) 20:10 ID:UIqDegJU

「もういやだ。俺はやめる」
赤い羽根帽子を床に叩きつけるように投げ捨て
エルヴァーンのディアスは叫んだ。
「……う」
猫白魔のチャムは泣きそうな大きな瞳でディアスを見あげた。
「ディアス。荒れてんじゃね―よ」
タル侍のクイルイはチャムを見あげ肩をすくめた。

ここはウガレピ寺院。
左回廊の奥。
もう三日、ここに3人は篭ってただ壷と戦っていた。
赤魔道士としてディアスが成長してゆくには、マートという謎のジジイに勝利しなければならなかった。
けれど、その勝負はけしてやさしいものではなかった。

「いいんだよ。どーせ俺は赤魔なんか向いてなかったんだ。
中途半端ジョブだし、才能だってねぇ。タルと違って魔法種族でもねぇし…
もう、しらねぇ。赤魔道士は呪われているんだよっ」
ディアスは遺跡の壁に寄りかかって叫んだ。
精神的にも肉体的にも疲労はピークに達していた。
俗に言う、最期の限界越え。
様々なジョブが己と戦う厳しさに直面し、個々の技術を問われる。
そして、とくにエルヴァーンの赤魔道士にはキツイ戦いだと言われていた。
ディアスはけして、他の赤魔道士として劣っているわけではなかった。
様々なミッションをこなし、パーティーをこなしてきた。
けれど、これだけは越えられなかった。
限界によいという装備をそろえ、そのために財産の半分を使った。
同じ赤魔連中のつてをたどり情報を手にした。
何日も何日も、壷と戦い…赤魔道士の挑戦者としての証を手にした。
毎日毎日…戦って戦って負けつづけて…
挫けるには十分な月日だった。

152(・ω・):2004/08/17(火) 20:12 ID:UIqDegJU

「ディアス…」
チャムは泣きそうな顔で細い手を伸ばし、ディアスの紅い羽根帽子を拾い上げた。
そして、それを抱きしめる。
その紅い帽子には、ディアスの思いがこもっていた。
赤魔道士の憧れの帽子。
その帽子を身につけ、どんな戦いにも共にあゆんだ。
なによりもディアスが大切にしていた…装備だった。
「ディアス。テメ疲れたんなら、そういえよ。ガキみたいに癇癪起こすな」
クイルイは呟いて天井を見上げた。
「誰が…疲れた?ああ、…確かに赤魔道士やってるのには疲れたかもなっ」
すさんだ瞳で、吐き捨てる言葉。
その言葉に痛そうにチャムは目を硬く閉じた。
「疲れたんなら、休んでろよ。オラ、座れ!」
クイルイが、刀の鞘でディアスの膝の裏を叩き、膝を折らせる。
「ちょ、おい!相変わらず侍はっ…いてっ」
無理やり座らされて…ディアスはその後立ち上がれなかった。
疲労は確かにディアスの体に染み付いていた。
「オラよ。秘蔵の族長山串だ」
クイルイがごそごそっと、バックから取り出して差し出す。
「………いらねぇよ。もう証とりやめんだから…」
ディアスの言葉にクイルイは肩をすくめ、無理やりディアスの手に串を持たせた。
「腹へってたら、ろくな考えにならねぇ。疲れてても、ダメだ。
 ヤバイ考えにおちいったら、腹いっぱいにして寝て、起きてから考えろよ。
 まぁ、冷めちまった山串じゃ、効果はたかがしれてっけどな」

153(・ω・):2004/08/17(火) 20:15 ID:UIqDegJU
「………」
ディアスは実に半日ぶりの肉に口をつけた。
一口食べて、腹が減ってた事をやっと思い出した。
がつがつと一串食べ終えると、クイルイはふふんっと笑った。
「ばぁか。腹減ってるのも忘れッほど、追い詰められてんじゃねーよ」
ディアスはクイルイを見る。
鎧を着込んだクイルイは明るい顔で笑っていた。
「がんばろ?ね?」
チャムが膝を石畳につけ、ディアスの膝に手を乗せて、首をかしげる。
チャムの顔にも、疲労は浮いていた。
なれない片手棍をふるいつづけた白魔の手の平は、まめができていた。
侍のクイルイだって、この戦いにはもう飽き飽きしているだろう。
ディアスは首を横に振った。
「も、いいよ。二人とも」
「え?」
「んだよ」
「も、いいっつったの」
「あ?」
クイルイはむっと怒った顔でディアスを見上げた。
ディアスは苦しげに眉を寄せた。
「二人とも、いー加減つかれたろ。
もう、証とりも飽きてんだろ。ほんとのところ。
時間ばっか使って限界なんかぜんっぜん越えられねーし。
も、10回以上証取りつき合わせちまって悪かったよ。時間の無駄だったな」
手を振って、ディアスは空笑いを浮かべる。

154(・ω・):2004/08/17(火) 20:18 ID:UIqDegJU
その瞬間、クイルイは叫んだ。
「明鏡止水っ!八之太刀・月光っ、七之太刀・雪風っ!」
ばきっがきっと容赦なく剣のみねがディアスに入った。
「な、ちょっ。おいっ!!クイルイっ、俺を殺すつもりかっ!!!」
「うぜっ。しんどいのはわかる。
が、こっちの気持ちまで勝手にテメーできめつけんじゃねぇよ。
チャム。たしかTPたまってたよな。ヘキサくれ。
黙想使ってディアスの息の根止める!」
「おいっ!何行ってんだ」
「黙想っ!!」
「クイルイっ。てめ、マジ殺すつもりかっ!!」
「チャム、ヘキサないなら、単発花車、行くぜぇ」
「クイルイ、だめぇ」
「おいやめえぇ!」
「ケアルウゥゥ」
チャムの詠唱。
「九之太刀・花車!」
花弁が中空に舞う。
キィンと綺麗な刃の音が、ウガレピに響いた。
「あ…くぁ」
無抵抗なディアスはその場で意識を失った。
ひゅんっと露を払い、クイルイは鞘に刀を収めた。
「クイルイ!酷すぎっ」
チャムはディアスを抱きしめクイルイを睨みつけた。
「こーでもしなきゃ、この馬鹿、いくとこまでいっちまうだろうが」
「でもなにも、怪我させなくてもっ」
「心配すんな。モグまで背負って帰ってやるから」
「クイルイじゃ、無理でしょ」
チャムは自分の身長より遥かに小さいクイルイを見下ろした。
「ばーか。タル侍なめんじゃねーぞ」
「でも」
クイルイは吐息をついた。
「しょーがねーだろ。プライドはイフリートの釜より高いこいつが
自分追い詰めて、テンパってんだ。
これ以上こいつに愚痴言わせるわけにもいかねーよ。
正気に戻ったら気まずい思いすんの奴だって」
「だからって…」

155(・ω・):2004/08/17(火) 20:20 ID:UIqDegJU
「赤魔の限界は、ちっとつらすぎるよなぁ」
クイルイはぼそりと呟いた。
チャムはコクンとうなずいた。
そして、そっとディアスの頭の上に帽子を載せ、眠りやすい体勢を作ってやる。
「実際しんどいのは限界だけじゃなく、この証取りだよな。
一人でずっとやってたらめいるし、仲間呼んだらやっぱり罪悪感でしんどい」
「……」
「一緒に来てやってるって事は、応援してるって気持ちのつもり、なんだけどな」
クイルイはぼそりと呟き、ディアスを見下ろした。
少しやつれた精悍な顔は、仲間といえど見ていて辛いものがあった。
「クイルイが、一番怖がってたもんね」
チャムは思い出したようにいった。
「俺が?怖い?何を?」
ガンを効かせるクイルイにチャムはさらっといった。
「ディアスが冒険止めちゃうの。一番怖がってたでしょ?」
「誰が?ばっかいってんな!」
「私だって、怖いもん。ディアスと一緒にいたいもんね。
一緒にいたいから。だから、諦めないでほしいし、戦って欲しい。
もちろんそれって私達の勝手なんだけど…ディアスには重かったの…かな…」
「しるかよ。お前の見方正しくねぇし」
クイルイは吐き捨てるように言った。
「…まだまだ、一緒にいたいから。
一緒にいられるなら何回でも証取り付き合うのに、ね」
「まぁ、なんだかんだいっても一番辛いの…本人だよな」
クイルイは呟いて顔を上げた。
「ん。がんばって、欲しい。ね」
「まー、こいつヘタレだから、あと20回は無理だろうけどな」
「私、それぐらいなら付き合うよ」
「気が合うな、俺もだ。その程度で終われば、こいつにゃ上出来だ。
こいつ自身が自分の限界越えできねぇって思ってるみてぇだけど
俺はこいつが、いつか越えられるって信じてるぜ?だから、手伝ってるんだし
ちっと時間は…かかるかもしれねぇけどな」
クイルイは吐息をついてチャムを見た。
「…そ、だね。うん。チャムも信じる!」
クイルイはくっと顔をあげ、回廊を見据える。
「うっし。やるか」
「だね。限界越えは変わってあげられないけど、こっちは手伝えるもんね」
「壷、釣るぜ」
「はぁい。ヘキサいっくよー」
壷が静かに階段に登ってくる。
それをチャムがサイレスで受け、ヘキサを決めた。

156(・ω・):2004/08/17(火) 20:22 ID:UIqDegJU



「ふぅ、やっとでたね」
「今日は最長記録の3日と19時間か?」
「だね。ぱーすっと」
「こっちもパス。こいつ荷物いっぱいじゃねぇだろうな」
赤の証を、ディアスの荷物に詰め込んだ。
「さて、帰るか」
「うにゃ。テレポでルテして、ラバオいって黒に着替えて戻ってくるね」
チャムの言葉にクイルイは笑う。
「最期はやっぱお前に甘えちまうな。ワリィ、チャム」
「いーんだよん。女は男を支えるのが本業だもん」
「いうな、チャム」
「そのかわり、ジュノの下層からモグまではクイルイよろしくね」
「ひきずってくさ」
クイルイは笑っていった。


その後。
限界を超えるために戦うディアスの姿がル・ルデであった。
そしてその数時間後、悔しげにたたずむディアスの姿があった。

背後に、クイルイとチャムがちかずいてくる。
「んじゃ、今度は…デルフクの塔にでも証取り、行くか」
クイルイの言葉に、ディアスは無理やり笑顔を作って振り返った。
「わりいな、下僕。よろしく」
「ばぁか。恩は10倍返しだぜ」
「れつごー」
チャムは二人に抱きつくように歩き出した。

諦めなければ、いつか。
いつかを信じて、苦悩を抱えた赤魔道士と仲間達は
それでも駆けてゆく。



                         END

157赤い証:2004/08/17(火) 20:26 ID:UIqDegJU
このような物語をかいていいものやら少し悩みましたが…
書きこませていただきました。

どちらかというと、物語というよりは、祈りですが。
すべての赤魔道士に光ある未来が訪れるように。
赤魔の限界越えは本気で辛い。と思います。
一人で越えるのは、多分無理。
だからこそ、赤魔道士の傍にいる方が、手を差し伸べてくれるよう
願ってやみません。
共に遊ぶ仲間に、くじけないでほしいという願いを込めて。

                      N

158(・ω・):(・ω・)
(・ω・)

159(・ω・):2004/08/18(水) 04:06 ID:DPcl73IM
うおおお!赤い証めちゃくちゃ面白かったです!
最後がいいな・・・ただ勝ってハッピーじゃなくて、
負けても支えてくれる仲間がいるとか・・・。
なんかFFやりたくなってきましたよ!!!

160短編:ミスラの狩人 1/5:2004/08/21(土) 06:35 ID:9xZ.lJ0w
ゴツゴツの左の掌に握られた
汗と血が滲み朱く染まった古い弓と弦は
今にも沈みそうなブブリムの夕陽と同じ色をしている。

「明日には一度ウィンダスへ戻るか」
ミスラの狩人は、素材の詰まった鞄をかかえ
寝床にできそうな安全な場所を探していた。
幼い日、冒険者で溢れていたこの土地に
少し寂しい思いを感じながら。
「海岸の坂あたりにするか、あの辺ならアイツもこないだろう…」
ずっと昔の苦い記憶。
それでも彼女には、いい思い出と感じられる位の時間が経っている。

「おや…」
当てにしていた場所には既に先客がいた。
クォン大陸ならばクゥダフかオークと見間違えるほどの
巨体のガルカの青年が一人。
「こんばんは、珍しいね」
「ひっ!?」
背中越しにかけた挨拶に驚くガルカ。
恐る恐る振り向いた彼の顔は、とても疲弊している。
「あ、すみません…戦闘の後だったもので…」
「いやいいんだ、こちらも急に声をかけてすまなかった」
ミスラは少し笑った。
彼の風貌を見るなり、すぐに状況が理解できたからだ。
「今から火をたいて簡単な食事を作るんだが
 一緒にどうだい?味は保証しないがね」
ガルカは戸惑った様子だったが
コクンと一度だけうなずいた。

1612/5:2004/08/21(土) 06:35 ID:9xZ.lJ0w
「アイツは強いだろう?」
焼けたダルメルの肉を噛むあごを止め
ガルカは少し驚いた様子だった。
「今時アンタみたいな奴がいるなんてねぇ…」
そう言って、ミスラの狩人はまた少し笑う。
「わかってたんですね。
 …セルビナでクエストを受けるべきでした。」
「ふふ、ドジだね」
「笑い事じゃありませんよ…はぁ…」
「ふふふ、アンタ、ウィンダス出身かい?」
「ええ、そうです」
「そうかい、まぁ今じゃ珍しくもないか。
 それにしても…なんだって一人で戦っているんだ?
 少ないとはいえ他にも冒険者はいるだろう」
ガルカは手を止めうつむく。
「サポートジョブの無い戦士じゃ手伝ってもらっても
 ただ見てるだけになりそうで、それが嫌で…」
焚き火の反対側、今度はミスラがうつむいた。
「はぁ…ドジなうえにバカだね、アンタ」
「…すみません」

少しの間、場が静かになる。
「立て」
食べかけの食事を置いて、ミスラは跳ねるように立ち上がった。
つられてガルカも立ち上がる。
「ど、どうしたんですか?」
「アンタみたいな奴に飯を分けるんじゃなかった」
「え?」
「せめて働いて一食分の恩、返してもらうよ。
 武器を持ってついて来い」
わけもわからず、とりあえず言う通りにする。
その間にミスラは海岸へ降りていってしまった。

1623/5:2004/08/21(土) 06:36 ID:9xZ.lJ0w
弦の張りを確認しながらミスラはガルカに言う。
「欲しい合成素材があるんだ。
 丁度いいからアンタに手伝ってもらう」
「え、なんですかそれは?」
「いいからほら、あそこだ」
「あ、あれは…」
「ほら!挑発!」
「いや、でも…」
「アンタ!ガルカのくせに義理を欠くの!?
 いいから行きなさい!」
ミスラの気迫に圧されたのか
しかたなしに両手斧を構え、飛び掛るように向かっていく。
「う、うあああー!!」
が、斧は空気を裂くだけで敵には届かない。
その間に否応なしに殴られる。
強靭なガルカといえど、目に見えて体力が落ちているのがわかった。
「ふふ、やればできるじゃない」
ミスラは集中し、弦を引いた。
もうダメだとガルカが思った瞬間
白く真っ直ぐ軌道を描いた矢が突き刺さり
あっけないくらい一瞬で敵は沈んでしまった。

「はぁ…はぁ…」
「お、あったあった。
 木綿布!欲しかったんだよねぇ。
 なんだかボロくて汚い服も出たけど
 そっちはアンタにあげるわ」
ガルカはまだ息が整わない。
「はっ…いっ…あのっ、ダメ…す…」
それでも必死でミスラに何か言おうとする。
「もし捨てたりしたら許さないよ。
 …落ち着いたら飯の続きをしよう」
またガルカを置いてスタスタと戻る。

1634/5:2004/08/21(土) 06:37 ID:9xZ.lJ0w
重い足を引きずってガルカは焚き火の前にドシンっと座り込む。
「なんで…こんなこと…」
ミスラは一瞬だけ目を向けてすぐに逸らす。
「…昔ね。
 アンタと同じドジでバカなミスラがいたのよ」
「え…?」
「そいつは子供の頃に見た、ブブリムの海岸で戦う
 たくさんの冒険者に憧れてたの。
 いつか自分もってね」
「でも…時代だね…。
 流行は廃れてしまって、そいつがまともに戦えるように
 なった頃には、もうここには誰もいなかった。
 くやしくてね…絶対一人でなんとかしてやろうって
 勝てるわけないのに挑んでは逃げてた」

「もう何度目の敗走かわからない。
 町まで逃げることすら面倒くさくて
 途中で倒れてしまおうと思っていた時
 アタシも助けてもらった。
 そう…多分、アンタよりも大きいガルカだった」

『木綿布が欲しかった、ありがとう』

「アタシの手にボロい服をギュっと握らせてニカッと笑ってた。
 いらない!邪魔するな!って言おうとしたら
 急に真剣な顔になって説教を始めたんだ」

『お前の冒険はまだ続くのだろう?
 悔しいなら先に進んで強くなればいい。
 私は何度でも手を貸すぞ。
 今は不可能なことを可能にする為に
 私達は同じ世界にいるのだから』

1645/5:2004/08/21(土) 06:39 ID:9xZ.lJ0w
既に元々の色が剥がれてしまった弓を手に取り
ミスラは真っ直ぐガルカと目を合わせた。
「戦士でも弓くらいあった方が格好つくよ」
そう言い、ミスラは新しい弓を合成した。
「その辺の素材集めて作った初心者が
 使うような弱い弓だけどね、アンタにやるわ」

ガルカに先ほどまでの疲れた様子は無い。
「あの、すみませんでした…。
 ほんとバカだった…」
「…それってアタシもバカだったってことになるんだけど?」
「あ!いえっ、すみません!」
「ふふふ…あ…」
雲が白んでいくのが見えた。
「朝になっちゃいましたね」
「…さ、アンタは町でクエスト終わらせちゃいな。
 アタシはウィンダスへ帰るよ」
残り火を消し、慣れた手付きで荷物をまとめると
ガルカの青年が立ち上がるより早く
ミスラの狩人は歩き出していた。

「あの!
 また会えますよね!?」
「多分ね」
振り返ったミスラの表情は朝日に照らされ
見えなかった。

「絶対、恩をお返ししますから!」

「その相手はアタシじゃなくていいって、わかってるよね?」
ガルカは高々と真新しい弓を左手に掲げる。

二人は背中を向け東と西に歩き出した。


ガルカの戦士は誇らしく。
ミスラの狩人は笑いながら。
おわり

165群雄の人:2004/08/22(日) 09:54 ID:tY9vwE2Y
どうも、お久し振りです。群雄の者でございます。
ちとリアルなお仕事が立て込んでおりまして、この二ヶ月ほど更新をさぼらせていただきました。
正直今後の予定もちと立たないのですが、
細々と更新続けていくつもりですので、どーぞ忘れた頃にご覧ください。きっと気がつけば更新されていたりします。
多分。

というわけでこたび連載を更新いたしましたので、
宜しければ皆様お誘いあわせの上ごらんくださいませ。
んではでは。

166(・ω・):2004/08/22(日) 10:45 ID:Zu/0flPY
群雄キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!

167白き〜作者:2004/08/23(月) 00:08 ID:daWXzQCY
あい、お久しぶりでした!

結構短編が増えてきましたな! 少し空いた時間でも読めるので、俺は大好きです。
面白い作品も多いし!

さて、白き〜も新作UPしました。お暇ならお越しくださいませ!
ttp://www.miracle-key.gr.jp/white/

168(・ω・):2004/08/23(月) 17:54 ID:4xleFs42
白きキターー
あと短編の狩人と戦死のはなしイイ!!

169(・ω・):2004/08/24(火) 08:41 ID:7kEpo9RI
>「そいつは子供の頃に見た、ブブリムの海岸で戦う
> たくさんの冒険者に憧れてたの。
> いつか自分もってね」
>「でも…時代だね…。
> 流行は廃れてしまって、そいつがまともに戦えるように
> なった頃には、もうここには誰もいなかった。

ホロリと来た (´Д⊂

170(・ω・):2004/08/24(火) 22:58 ID:9NKabkTQ
「ミスラの狩人」読んで、なんとなくブブリムの海岸に行っちゃったよ…
マジ人いないのね。ちょっと愕然とした。
絡まれる心配もない今、カニとたこ焼きと魚の戯れる波打ち際を歩いてて
寂寥とはこういうものなんだな、と実感した。
しばらくここにいようかなと思ってしまった。釣り竿取ってこよう。

171風の通る道:2004/08/25(水) 00:18 ID:IZp2S0R2
「わははは。さあ、飲めよ!」
ジュノ下層、通称「吟遊詩人の酒場」と呼ばれる場所は、いつも以上の喧騒で賑わっていた。
「それにしても、伝説どおりすごいお宝を隠し持ってたな!」
短い黒髪のヒュームの男性が酒を煽りながら喋る。
「ほんとに。兜に小手に剣2本だっけ?」
酒が回ったのだろうか。赤い顔をしたミスラが相槌を打つ。
「君も飲めよ。今晩は祝勝会だぞ?」
茶髪のヒュームの男性が、隣に座っているヒュームの女性にグラスを渡す。
「悪いけどそんな気分じゃないんだ」
短く切りそろえた美しい髪をかきあげ、ヒュームの女性は答えた。
「君はいつもそうだな。少しは楽しめよ」


〜第13話、過去の呪縛(前編)〜



「おい、アルヴァ!お前こそシラフ気取ってんじゃねぇよ!飲め飲め!」
「やめろトリスタン!俺が下戸だって知ってるだろ!」
「あははは。さしものゼファーも酒には勝てないのねぇ」
ヒューム同士のやり取りを横で眺めていたミスラが高らかに笑う。
「ちょっとミュイ、彼が飲んだらどうなるか知ってるでしょ?止めてあげてよ」
赤い髪を後ろで一つにくくったタルタルの女性が、ミュイと呼ばれたミスラに声をかけた。
「知るか〜。飲めないのが悪い!飲め〜〜〜」
「だめだわ。完全に酔ってるわね・・・」

傍らで繰り広げられる攻防を横目に見つつ、黙々と酒を煽るのは銀髪のエルヴァーンの青年、寡黙なガルカ、そしてその小さな体から大きな存在感を放つタルタルの3人の姿があった。
総勢30名以上。彼らは全員、熟練の冒険者で構成されたリンクシェルのメンバーである。
昨日、ボヤーダ樹の龍のねぐらと呼ばれる場所で、伝説の邪龍「ファヴニル」を激闘の末屠ったのだ。
その瞬間、名実共にこのヴァナ・ディールで最高の集団となった彼らだが、今は単純に死闘を制した喜びに浸っていた。


「う〜。すまないミーリリ。トリスタンは飲むといつもああだからな・・・」
やっとの思いで二人の絡み酒から開放してくれたタルタルに礼を言う。
そこに、先ほど彼の隣に座っていたヒュームの女性が酒場から出てきた。
「おい、リザ。どこ行くんだ?」
「もう帰るよ。またね」
「おいおい、飲まないからってそれは無いだろ?付き合いってものが・・・」
「悪いけど群れるのは性じゃないんだ」
さらりと言葉を発し、彼女はモグハウスへ向かってすたすたと歩いていってしまった。
「彼女いつもああね。もう少しみんなと仲良くすれば良いのに・・・」
「まったくだ。折角の美人が台無しだな」
「あら、ゼファー。あたしの事美人って呼んでくれたこと無いのに」
「う〜。悪いけどタルタルはパス。セクシーなのが好みだからな」
直後、腹を押さえてうずくまる男と、それを尻目に酒場に戻るタルタルの姿があった。

172風の通る道:2004/08/25(水) 00:20 ID:IZp2S0R2


「う〜。寒いな。何だってこんなところに・・・」
「そんな格好だと当たり前だろ?もうちょっと厚着してこいよ・・・」
戦士のアーティファクトに身を包んだトリスタンがこぼした愚痴をアルヴァがすかさず拾い上げる。
「さすがだな相棒。俺のボケに即座につっこめるのはお前ぐらいだ」
「今のボケだったのか・・・?」
「今のがボケだとしたら3点ぐらいだな」
赤魔導師のルーヴェルが容赦の無い採点をした。
くすくすと横で笑う白魔導師のミーリリと、表情一つ変えずに後ろを歩く暗黒騎士のリザ。
そして、このパーティのリーダーにしてリンクシェルのオーナーである騎士のアシュペルジュ。

彼らのシェルの中でも特に実力のある6人は、来る決戦に備え、このザルカバードを哨戒していた。
「こりゃ、確かにポルク爺が来たがらなかったのもわかるな。爺じゃすぐに凍え死にそうだ」
「別に死にはしないだろう。腰にこたえるって言ってただけだぞ?」

「まったく緊張感の無い。ほら、敵のお出ましだよ」
それまで全く口を開かなかったリザが戦闘開始を告げる。
一瞬前まで暢気に雑談していた3人は、すぐに戦士の目つきに変わった。


「こいつ、ただの目玉じゃないな!」
「リザ、立ち位置に気をつけろ!ミーリリも範囲魔法の射程外に待機!」
「サイレスは俺が入れる!ミーリリは回復に専念してくれ!」
各々の指示が飛ぶ。
全員が歴戦の勇士だけあり、戦闘は有利に進められていた・・・が

「ミーリリ!骨が来てる!」
激しい戦闘で消耗した体力に反応し、不死の骸骨が戦線に参加してきた。
彼らは弱った生命に過敏に反応し、自分と同じ境遇・・・即ち死を与えるために生あるものに襲い掛かる。
一度反応されると最後、思考の無い彼らは攻撃の手を緩めない。
だが、本能で一番最初に倒すべき敵は理解しているようだ。
骸骨は、あろう事か白魔導師であるミーリリに襲い掛かった。

「こっちに来な。骨野郎!このあたしが相手してやるよ!」
リザの挑発に反応し、骸骨は彼女めがけて走ってきた。
「バカ、君は盾向けじゃない!いくらなんでも・・・」
アルヴァ叫んだ瞬間、骸骨はまばゆい光に包まれ、跡形もなく消えた。
咄嗟の判断でミーリリが高位ケアルをかけたのだ。
死者である彼らにとって、本来回復魔法であるケアルは大きなダメージとなる。

「集中しろ!敵は弱っている!」
リーダーであるアシュペルジュの檄が飛ぶ。
「これで最後だ!レイジングラッシュ!!」
トリスタンの斧技で、闇の眷属であるアーリマンは地に転がった。

「一通り調査も終わった。戻るか」
「賛成。寒くて仕方ないや」
「まだ言ってるのかよ・・・」

173風の通る道:2004/08/25(水) 00:22 ID:IZp2S0R2

「決行日はいつ決めるって?」
「リーダーに一任してある。つまりはいつでもOKって事だけどな」
「サブリーダーのお前がそれじゃ、リーダーも大変だな」
「形だけだろ?サブリーダーなんて。それらしい事なんて何一つしてなぞ。俺は」

「ところで、それなんだ?」
トリスタンが、アルヴァの手にしているものを指して尋ねる。
「ああ、さっきの目玉が持ってたんだ。結構綺麗だろ?」
「また始まった。お前の宝石マニア・・・」
「何とでも言えよ。なんだか、久しぶりにいいのが作れそうな気がするんだ」
アルヴァの手にある宝石を見つめながら、ふーんとトリスタンが相槌を打つ。
こういうときのアルヴァは、大概少年のような目で宝石を眺めているものだ。
もっとも、童顔をコンプレックスにしている彼にこんな事を言えば、ナイフで刺されかねないが。

「よお、こんなところにいたのか」
酒場のドアを開け、ルーヴェルが入ってきた。
「なんだよ。またアルヴァの宝石マニアが始まったのか?」
「なんで揃いも揃ってそう言うかね・・・」
「宝石マニアって?」
ルーヴェルの後ろから澄んだ声がした。
トリスタンは何故か急に背筋を伸ばし、アルヴァは手にした宝石をポケットに仕舞いこんだ。
「よお、ミーリリに・・・リザ?珍しいな!」
トリスタンが声を上げる。
「いくらナンパなルーヴェル君でも女性二人同時は許しがたいぞ!俺も混ぜろ!」
「トリスタン。変な事言うなよ。いくらなんでも・・・」


「すまん。ミーリリ。後は任せた!」
もはやルーヴェルとトリスタンの飲み比べと化した席を逃げるように立ったアルヴァは、酒場のドアを勢いよくあけて外に飛び出した。
一見絡み酒の現場から逃亡したように見えたが、外に出た彼はすぐに辺りを見回し、何かを探し始めた。
目的のものを発見した彼は、ごく自然に彼女の隣へと移動した。

「今日も飲まないのか」
「あんたもね」
「俺は下戸だからな。酒を飲んで酔える人間の神経が分からない」
「あたしは大勢で群れる人間の神経が分からないんだけどね」

沈黙・・・
言葉を発しなければかなりの美人である彼女に近づく男が少ないのは、この性格故であろう。

「まったく、君はどうしていつもそうなのかね」
「こういう性分さね」
「まあ、とにかく今日は助かったよ。礼を言う」
「あんたに礼を言われる筋合いは無いと思うけど?」
「そんな事は無い。ミーリリを救ったのは君だ。彼女の存在は俺たち全員の命に関わるからな。ありがとう」
少し照れたのか、リザはそっぽを向いてしまった。

「だが、これも言わせてくれ。あれは危険だった。ミーリリと同じように君の存在も俺たちに無くてはならない。そこを忘れないでくれ」
「・・・結局説教なんだね。副リーダー様」
「君は性格を直さないとモテないぞ?」
「お、大きなお世話だ!」
そう叫ぶと、リザはモグハウスへ走っていってしまった。

174風の通る道:2004/08/25(水) 00:23 ID:IZp2S0R2


「あんた、お酒飲めないのにずっと酒場に居るんだね」
「君の方こそ酒を飲まないのに酒場に来るんだな」
次の日、また酒場でばったり会ったアルヴァとリザは、それぞれウィンダスティーとヤグードドリンクを注文して席に着いた。
「宝石なんか眺めてどうするんだい?」
「俺は趣味で彫金をやってるんだ。こうやって宝石を眺めて彫金のイメージを練る」
「そんなの、静かなモグハウスででもやったほうがいいんじゃない?」
「人それぞれだろうな。俺はこうやって、いろんな情報が入ってくる場所でイメージする方が良いんだ」
「そんなもんかね」

「君は宝石には興味ないのか?」
「そんなものに興味ないね。邪魔なだけだろ?」
「そうでもないぞ?宝石には不思議な力が宿ったものも数多くあるんだ。上手く使えば能力を大きく引き出せる」
「ふ〜ん。ま、あたしはそんなもの買うぐらいなら武器を買うけどね」
「ははは。君ならそう言うだろうなとは思った。そうだ。こいつが完成したら、君にあげるよ」
「は?あたしがそんなチャラチャラしたものを?冗談やめてよ!」
「きっと気に入るさ。君は綺麗だし、似合うと思うよ」
「か、帰る!」

がたん!と勢いよく立ち上がり、リザはふらふらと酒場を後にした。

「みーたーぞー、アルヴァ。リザには俺が先に目をつけたのに!」
「げ、トリスタンとルーヴェル・・・!」
「これでアルヴァも俺の事を”ナンパなルーヴェル”なんて呼べないな!」
ルーヴェルがニヤニヤと笑いながらからかう。
「まあ、相手がお前なら不足なしだ!負けねぇぞアルヴァ!」
「・・・なあ、トリスタンはもう飲んでるのか?」
「1杯だけな。でもあのゼファー様がうら若き女性に”君は美人だ”。落ちない女は居ないだろうな!」
「からかうなよルーヴェル」
「勝負だアルヴァ!」
「うわ、トリスタンもう潰れたのかよ!」

いつもの喧騒の、いつもどおりの展開の中、いつもと違ったのは、酒を飲めない青年が絡み酒から開放されなかったことだ。



つづく

175風の通る道:2004/08/25(水) 00:29 ID:IZp2S0R2
お久しぶりです。
気づけば前回の更新は1ヶ月前・・・
プロマシアまでには終えたいと思っていた当初の目標は達成できそうにありませんorz

今回は、アルヴァの更に過去。
3部構成になっています。
次は早くにアップできると思います。

176(・ω・):2004/08/25(水) 19:52 ID:R8hpcI3c
まってましたあああああああああああああああああああ
いやほんと待ってましたよ首が長くなるほどに
お疲れ様です!!
次回も楽しみにしておりますぜぇえええ

PSトリスタンって明るい人だったんでつね(´・ω・`)

177(・ω・):2004/08/26(木) 00:49 ID:141LI1I.
ネット環境復活による久々の書き込みテスツ

178(・ω・):2004/08/28(土) 18:31 ID:5g2q9fPY
保守age(´・ω・`)

179(・ω・):2004/09/03(金) 07:56 ID:zBBzEaAM
保守〜

180(・ω・):2004/09/05(日) 19:09 ID:xbUNp0WU
スレタイ通り終わってしまう悪寒・・・















;y=ー( ゚д゚)・∵ ターン

181(・ω・):2004/09/06(月) 02:07 ID:.UKCHtsM
最近はUP少な目ですね。
楽しみにしている作品、たくさんあるので、作者さん達がんばれ。


で、読み手さん達には暇つぶしに短編どぞー。
最近は、主に短編ばっかりUPしてる書き手の一人でした。

182Labyrinth Punishment 1/7:2004/09/06(月) 02:07 ID:.UKCHtsM
Labyrinth Punishment 〜〜迷宮落とし〜〜


一言で言えば、「運が無かった」
ただそれだけのことだったのだろう。

もし、自分がもう少しだけ我慢強かったなら……
もし、自分の逃げ足がほんの少しだけ早かったのならば……
もし、そのときその場にガードが居なければ……
もし、相手が門閥貴族のお坊ちゃまでなければ……

今とは違う結果を迎えていたのかもしれない。

けれど今更「もし……」なんてことを論じても始まらない。
既に事は為されてしまったのだから。

絡まれたから、撃退した。
冒険者同士ならよくある話。

問題だったのは、絡んできた相手が門閥貴族のお坊ちゃまで、騎士団の
お偉いさんにつながりが合ったこと、事なかれ主義のガードが相手の言
を鵜呑みにし、あっさり有罪判決を出してきたと言うこと。

冒険者として、それなりに名前が売れているとはいえ、国から見れば、
所詮は従士扱いから騎士扱いになったばかりの人間。
騎士団のお偉いさんと揉めるよりはその場で冒険者相手に結論を出して
しまった方がガードも楽だったのだろう。

罰金ぐらいは食らうかと覚悟はしていたが、正直意外な罰だった。
そして罰金よりも遙かにタチが悪い。

「何だって、こんな事になったんだろな」

口には出さずにため息をつく。

コルシュシュに存在する海底の迷宮・オンゾゾ。
その最奥に彼女を放置すると騎士団から派遣された執行官は、魔行符で
帰還していった。
国の籍を抜かれた。
さらに、冒険者の証は取り上げられているから、今の彼女は冒険者でも
ない。
生きて国に戻れば、籍を戻すし、冒険者の証も返却するというが、装備
もすべて取り上げられている。

183Labyrinth Punishment 2/7:2004/09/06(月) 02:08 ID:.UKCHtsM
迷宮落とし。
もう何十年も行われていないと言う、ほとんど伝説となった刑。

剣によって正義を証明する。というのは、剣の王国サンドリアではそう
珍しいことではない。
この刑は、それが少し発展したもので、要は「刑を受けたものが無実で
あれば、生きて迷宮を抜け、国に戻れるはず」ということらしい。
実際この刑を受けた場合、生きて国に戻れればそのまま無罪放免になる
そうだ。
もっとも、まともな装備一つ与えられず放り出されるのだ。
死罪とほとんど変わらないと考えるのは彼女だけでは無いと思う。

「ここまで、やられるほど悪いことした覚えはないんだけどな」

改めてため息をつく。
が、ため息ばかりついていてもしょうがない。
彼女はとりあえずできることから始めることにした。

道具袋の中を確認する。
案の定使えそうな道具……たとえば限りなく摩擦を減らすことにより
耳の良いモンスターから姿を隠す道具であるサイレント・オイルや光の
加減により目の良いモンスターから姿を隠すプリズム・パウダーなどは
いっさい残っていない。
それらがあれば、少しはましだったのだが。
袋をひっくり返し、一つ一つ点検する。

装備はもちろん道具袋の中身も遠慮呵責無く持ち去られていた。
これも生きて戻れれば全部戻してくれるんだろうな……そんなことを
思う。

どうしようもなく絶望的な状況であっても。それでも、生きて帰ること
を前提に考える自分は、良い言葉で表現するとすれば前向きということ
なのだろうが、結局のところただの馬鹿なんだろう。

道具袋の中身のうち、即物的に役に立ちそうなものは一切合切持ち去ら
れていた。
けれど、彼らはクリスタルを用いた合成には造詣が浅かったらしい。
サイレント・オイルが何で出来ているか。
きっと知らなかったのだろう。
袋の中には、蜂の巣のかけら、蒸留水、オリーブオイルそして炎と水の
クリスタルがそのままになっていた。

184Labyrinth Punishment 3/7:2004/09/06(月) 02:09 ID:.UKCHtsM

周りの様子を警戒して、モンスターの徘徊していない場所を慎重に探し
出すと、彼女はまず炎のクリスタルを取り出した。
蜂の巣のかけらと蒸留水を使ってまずは蜜蝋を作り出す。
さらにその蜜蝋とオリーブオイルを溶かし合わせ、サイレントオイルを
作る。
プリズム・パウダーは材料がないから作り出せなかった。
モンスターの視界に入らないよう、注意するしかないだろう。

このところ、探索に行くときには、インビジやスニークが使えるように
白魔法を使える状態にしていたし、魔法が使えない状況のために薬品を
用意していた。
けれど、冒険を始めた頃は魔法なんか使えなかったし、薬品を買う余裕
だって無かった。

見つからずに、動くこと。

昔やっていたことが、少し難しくなっただけだ。
それに……オイルが少しあるだけ、あのころよりはましだろう。

迷宮を抜けるには、壁のどちらかに手を当てて進めばいいと聞いた事が
ある。
動きはある程度制限されてしまう。
けれど、やれないことはないだろう。

すっと意識を引き締める。

今の彼女は、冒険者ではない。
大ダメージを受けて、仮死状態になってもホームポイントへ帰還する事
は出来ない。
試したくもないが、レイズによる蘇生も受け付けない可能性が高い。

つまり、失敗すればそこまで……ということだ。

周りの様子をうかがいながら、彼女は右手を壁に当て歩き始めた。


彼女のレベルからすると、まだ訪れるには早い場所。
昔からふらふらするのが好きだったから、いろいろな場所へ行っている。
そのためか、見たことの無い種族のモンスターは居らず、相手がこちら
をどうやって認識しているか、おおよそ予測出来るのが幸いと言えば、
幸いだった。

185Labyrinth Punishment 4/7:2004/09/06(月) 02:09 ID:.UKCHtsM
視覚によって、こちらを感知する敵から身を隠しながら、先へ進むのは、
意外と難しく、神経を使うものだった。
火打ち石で、定期的に壁に印を付けながら歩いて居た彼女は、モンスター
が周りに居ないことを確認すると、その場にへたり込む。

オンゾゾの迷宮に来たのは初めてではない。
だが、前に来たときは入り口の近くをうろうろし、コカトリスやあまり
強く無いクラスのゴブリン――といってもブブリム半島に生息している
者と比べればかなり強い部類に入るのだが――と戯れた位だった。
こんな奥まで来たことはないし、当然地図もない。
おまけに周りに居るモンスター達は、かなりの強者である。
たとえ装備が充実していたところで、今の自分ではとうてい太刀打ち出来
無い相手がうろうろとしている中を進むのは、かなり心臓に悪い。

せめてもの情けというように道具袋に残されたサルタオレンジに齧り付き
ながら、息を整える。
どのぐらいで外に出られるのか。
その予測がつかない段階で、疲れていては話にならない。

1,2,3,4……

心の中で数を数える。

ぱんっ。

両手で軽く頬をはたいて気合いを入れると、彼女は再び歩き出した。


幾つ目の印を付けたのだろう。
ずいぶん進んだ気がする。

オンゾゾは、そこそこに強いモンスターが多く、また貴重なアイテムを
ドロップするモンスターも多いため、割合冒険者が多い部類に入る場所
だ。
それなのに、まだ一度もすれ違ってすら居ない。
会ったところで、自分の身の上の説明なんてしようが無いから、意味は
無いのかもしれない。
けれど……。

こんなに暗闇が……孤独が人の心を蝕むだなんて彼女は知らなかった。

186Labyrinth Punishment 5/7:2004/09/06(月) 02:10 ID:.UKCHtsM
どれぐらい歩いたのか、自分でもわからなくなった頃。
彼女は、見覚えのある少し道が広くなった場所に出ていた。
ここまでくれば、外はもうすぐのはずだ。

その気のゆるみが、油断につながったのだろう。

ぱしゅっ。
ふと気がつくと、ゴブリンの弓使いがこちらをねらっていた。

――しまった。

幸い一発目は外れたようだ。
だが、じっとしていては死を招くだけだ。

一度来たことがある場所。
うまく走り抜ければ、迷宮を脱出し、ゴブリンを振り切ることも出来る
だろう。
問題なのは、他人を危険に巻き込む可能性が高いということでもある。
入り口に好戦的なモンスターを連れて行くのは、危険行為だ。

だが……彼女はまだ死にたくなかった。
やりたいこと、やらなきゃいけないことがまだたくさん残っている。

うまく外に出られれば、相手を振りきれる。
それは他人も同じ事。そして、インビジをしていればゴブリンからは、
身を隠せる。
彼女は意を決し、短く警告の言葉を発すると、出口を目指して走り出し
ていた。

必死になって、相手を振りきる。

もし、道を間違えていたら……。
そんな思いが頭を一瞬よぎる。
だが、そんな考えに身を任せている余裕はない。
今は、自分の記憶を信じて進むしかないのだから。

出口であるはずの方向を目指し、必死に足を動かす。
ぼんやりとした明かりが見えたときは、心底ほっとした。

それでも足をゆるめない。
外に出るまでは完全に安心する事なんて出来ないから。

187Labyrinth Punishment 6/7:2004/09/06(月) 02:10 ID:.UKCHtsM
ふわり。
閉鎖された空間では、感じることの出来ない柔らかな風。
ようやく外に出たのだ。
けれど、必死になっていた彼女は足を止めることが出来ず、そのまま先
へと進む。

洞窟の入り口間際まで静かに寄せる波。
しぶき上げる水を足下に感じて、やっと外に出たことを実感した彼女は
足をゆるめた。

ふと目を上げる。

陽の光を反射してゆらゆらと静かに揺れる水面。
静かに水の中から上りくる太陽。

どこにでもあるはずの光景。
それでも、そのときの彼女はその景色が世界で一番美しい物に思えた。

一番の難関である、迷宮は何とか抜けることが出来た。
後は、サンドリアに帰り、冒険者の証を返してもらわねばなるまい。

軽く目を瞑る。

1,2,3,4……

心の中で数を数える。

ぱんっ。

両手で軽く頬をはたいて気合いを入れる。
いつもの落ち着くための儀式。

サンドリアはマウラから船に乗ってクォン大陸にわたれば良いだろう。
道具袋をひっくり返し、出てきた物を売り払って何とか船賃を工面し、
マウラからの船に乗る。
船倉で泥のように眠っているうちに、船はセルビナについた。

冒険を初めて少したった頃の様にどきどきしながら、バルクルムの砂の
丘を走る。

なれた道をどきどきしながら辿って、彼女はサンドリアへと帰還した。

188Labyrinth Punishment 7/7:2004/09/06(月) 02:11 ID:.UKCHtsM
無事に帰還した彼女に、ガードも騎士団のお偉いさんも驚いたようだ。
無事に帰ってくるとはかけらも思っていなかったのだろう。
だが、帰還した以上、彼女を咎めることは出来ない。
質問しようとする相手の言葉を制し、没収されていた冒険者の証と装備
品を返してもらうと、彼女は自分のモグハウスへと向かった。

ばふっ。

ベッドに倒れ込む。
モーグリの「長期間出かけるときは一声欲しいくぽー」という言葉を
聞いた気もするが、よく覚えていない。
次に目が覚めたのは朝だった。

事件のことを知った仲間達に、冒険者をやめることを心配されたが、
彼女は冒険者をやめる気はさらさら無かった。
それどころか、さらなる冒険に乗り出すようになる。


世界中を巡り、様々な風景を見た。
それでも、あの朝、迷宮を抜けたときに見た、その風景。
それが、今までに見た中で一番美しい風景だ。
今でも彼女はそう思っている。


<fin>

189Labyrinth Punishment:2004/09/06(月) 02:12 ID:.UKCHtsM
蛇足

1.オンゾゾは迷路なので、正確には"Maze"ですが、あえて"Labyrinth"にしてます。
 (じゃぁ、そのものズバリなシャクラミにしておけば良いのかもしれませんが、
  あっちだとイメージが違うので……敵のlvの問題かもしれません)
2.冒険者の証を取り上げられると、死にデジョンが出来ないってのは勝手な設定
 です。
 死にデジョン出来るとこの話そもそも成り立たないので。
 ホームポイント設定が無効になってるので、デジョンIIも無効です。

190Scrapper:2004/09/06(月) 07:46 ID:tYAkKKBo
毎度ありがとうございます.
引き際も考えずに,新しいのをアップしてしまいました.
アップ少なめのようですので,181さんの援護させてもらいます.
うんざりしながらでも読んでもらえると嬉しいです.
http://www.geocities.co.jp/Bookend-Ango/5451/

実はScrapper終えた後も,毎晩ちょこちょこ書く癖がどうしても直らなかったのでした.
ああー,私は仕事しなきゃいけないんじゃなかったのかー?

Scrapperのアフターストーリーというかアナザーストーリーと言うか.
一部キャラが出てますけど,別のお話です.

それと,私のLSの方々の名前無断で使わせてもらってたり.
バストゥーク風の名前のストックが切れちゃったんですよね.
どっかから探してこないと….


> Labyrinth Punishment
すいません,言っていいですか?
こういうの好きなんです.すごく.


それでは読み手の方も書き手の方も,頑張ってくださいね.

191名無しの話の作者:2004/09/06(月) 08:19 ID:FJDZwKRk
「名無しの話」の24 −思い・悩み 1−

走ってる。
もこもこヒツジが走ってる。
まだ夜も明けきってない草原を、なんだか一生懸命走ってる。
それを離れたところから見てる瞳が二組。
茂みの中に潜んでる。
「あれ、ヒツジにゃ?」
「にゃ」
「狩るにゃ?」
「にゃー」
うなずき合うのは、まっさらの服と装備がいっちねんせ〜いな新人ミスラ狩と

ミスラ白。
キリキリキリ〜。
いっぱいに弓を引き〜
狙いをつけて〜
「にゃっ!」
射る!
ピュゥン
鋭く飛んだ矢が
ヒューーーー……‥‥プスっ
見事に命中。
「ふきゃっ」
パッタリ倒れるヒツジ。
「やったにゃ!」
「命中にゃ!」
飛び上がって喜ぶミスラs。
新人でもミスラはミスラ。
狩猟民族の血は伊達じゃない。
「獲物にゃ」
「皮にゃ、肉にゃ」
スキップしながら獲物へと駆けよるミスラs。
プッスリ突き刺さった矢がプルプルしてる。
「にゃ〜、ちょっと小さいにゃ?」
「でも丸々太ってるにゃ〜」
とどめをさそうとして
「に゛!?」
凍りつくミスラ狩。
「どしたにゃ?」
その手元をのぞき込み
「に゛!?」
ミスラ白も凍りつく。
ヒツジにしては短い手足。
ヒツジにしては大きな頭。
ヒツジにしては…。

192名無しの話の作者:2004/09/06(月) 08:21 ID:FJDZwKRk
「にゃー、ヒツジじゃないにゃ!」
「誰がヒツジって言ったのにゃ!」
「アタシ言ってないにゃ」
「オマエ言ったにゃ!」
「アレは問いかけにゃ、確認にゃ、?がついてるにゃ!」
「アタシは返事してないにゃ」
「にゃ、っていったにゃ」
「あれは独り言にゃ」
にゃーにゃーにゃーにゃーと言い合いするミスラs。
十分ほども続け、ふとミスラ白が気づく。
「!先にコレどうにかするにゃ。建設的意見が必要にゃ」
指さすのは、ピクピクしてるヒツジ…のようなもの。
「…建設的…家建てるにゃ?」
「そう言うボケはミスモンにまかせるにゃ。アタシたちはインテリにいくにゃ


「にゃ…イ…」
インテリって美味しいにゃ?というボケはやめにして、少し考えるミスラ狩。
脳みそフル回転。
ピキーン!
グッドアイデア♪
「埋めるにゃ!」
「!?」
「先生に教わったにゃ。間違いは誰にでもある。しかし、バレなきゃ間違いじ

ゃない。にゃ」
「…」
なんの先生だろう。
「証拠は隠滅するためにあるにゃ」
「それはそうにゃ」
うなずくミスラ白。
「インテリらしく民主主義的に多数決で決定するにゃ。賛成の人は手を挙げる

にゃ」
自分で手を挙げるミスラ狩。
手を挙げるミスラ白。
「にゃ、賛成多数で決定にゃ」
と、
「反対」
もう一人の声。
「にゃ、それでも二対一で決定にゃ」
「「にゃ?」」
なぜ三人?

193名無しの話の作者:2004/09/06(月) 08:30 ID:FJDZwKRk
振り向くと、黒毛に覆われたふと〜い脚。
見上げれば、はるか上から見下ろしてる凶眼。
「ワイは反対やなぁ」
長い牙がギラリと光る。
それは、新人にはとても手を出せないような相手。
「にゃ…」
ジリジリと後ずさるミスラs。
足元のヒツジ風と頭上の凶眼を見比べ、思い当たる。
これは、もしかして噂に聞いた…
「…こちらの関係者の方…にゃ?」
とミスラ白。
「まぁ、そんなもンやなぁ」
ニカッ
牙が全部見えるような凶悪な笑み。
(しまったにゃぁー)
とんでもない相手に手を出してしまった。
「にゃー!子供のケンカに親が出てくるのは良くないにゃ!それにPTA同伴のPLは反則にゃ!にゃーにゃーにゃーにゃー!」
混乱して微妙に間違ってる抗議の声を上げるミスラ狩。
ボクッ!
「…」
前脚の軽い一振りで静かになる。
「で、建設的意見は?」
「レイズするにゃ。すぐするにゃ」
大急ぎで呪を唱えるミスラ白。
キラキラと光に包まれて
「んゃ…」
むっくりと起きあがるタル獣。
「じゃ、アタシはこのへんて失礼するにゃ」
そそくさと帰ろうとするミスラ白。
カクン
その襟首を、トラの爪が引っかける。
「にゃー、ちゃんと治したにゃ。それに射たのはアタシじゃないにゃー」
「まあ、それはそれ、これはこれっちゅうやつやな」
ボクッ!

194名無しの話の作者:2004/09/06(月) 08:33 ID:FJDZwKRk
「…あれ、トラさん?」
「トラさんやないがな」
ポムポムとタル獣の頭を叩くトラ。
「油断しすぎやで。一人でどこ行こうとしとったんや?」
トラに睨まれて
「えーっとね…」
身を縮めながら、もじもじとタル獣。
「…お買い物しようと思ったの」
「?」
いつもなら、町への買い出しでも必ず言って行くのに。
「ちゃんと言うてから行かんとイカンやないか」
朝起きたら居なかったので大慌てで探した…というのはカケラも見せないトラ。
「ごめんなさい」
素直に謝るタル獣。
「あのね、ヒミツのお買い物したかったの。いまから行ってくるから、まっててくれる?」
「なに買うてくるんや?」
「だからね、ヒミツなの」
言ってしまったから、もう秘密じゃないような気もするけど。
「…」
少し考えるトラ。
「ええわ。気いつけて行くんやで」
「うん!」
大きくうなずくと、早速駆け出すタル獣。
りっくりっくと走ってく。
その姿がちぃ〜さくなってから、そろりと動き出すトラ。
待ってれば戻ってくるけど、なんだかとても気になったから。
トラにとって気配を殺して追跡するのは得意技だった。

−つづく−

195名無しの話の作者:2004/09/06(月) 08:49 ID:FJDZwKRk
ごめんなさい、ごめんなさいm(_ _)m
一部改行失敗しました。

で、なんだか、しばらくUP止まっててさみしいでしたけど、久々に作品増えてバンザイです。
どんどん皆さんの作品がUPされるよう、応援してます。
うちのモグにも応援頼んでみます。…って、どんなアイテム揃えたらいいのかなぁ…。
もちろん、私も続きがんばります。

196(・ω・):2004/09/06(月) 11:54 ID:5k9jRt.g
>>190
名前のストックが無いとのことですが
「怪しい人名辞典」でググってみて下さい

いろいろありますよ

197(・ω・):2004/09/06(月) 14:44 ID:zwgbeEUE
リアルさを追求するなら、死にデジョンって事自体がそもそも出来ないんじゃなかろうか。

あと物凄く個人的な事なんだが、
「サポジョブ」とかバストゥークの事を「バス」とかいう単語の出てくる物語は好きじゃあないなぁ。

と言ってみるてすと

198(・ω・):2004/09/06(月) 18:12 ID:3baZbFHQ
はいはい、そうですね。

199(・ω・):2004/09/06(月) 22:49 ID:ZeFRqwcI
うんまあ、死にデジョンとかサポジョブってのはゲームシステムを
思い出すので、ふっと世界から引き戻される錯覚を生み出すことが
あるんだよね。その点をどう料理するかが難しいとこですね。

200(・ω・):2004/09/06(月) 22:58 ID:2fE9uFG2
ちょっとだけ言い訳じみた事を.
「サポジョブ」って確かに奇妙ですよね.気になるのもわかります.

サポシステムをまじめに考えてみると,一種の暗示魔法みたいなモノなのではないかと.
つまり,過去の記憶を簡単に取り出せるようにする暗示を植え付けるわけです.
脳味噌のその記憶を保持している場所へのパスを張る…って感じで.
サポを付け変えるというのは,どの記憶を優先させるかという意識を変えるというか.

実際リアルに生きている私達でも,
ただぼーっとしているだけでは,自分の過去の経験を適切に取り出して現在の状況に対処する,ということが出来ませんよね.
設定しておいた過去の経験を,すぐさま現在の思考に反映できる能力.
頭の回転が悪くて仕事でいつも狼狽えている私も,現実にサポジョブみたいな暗示があったらなぁ,と思うことがしばしばです.
誰かそういう頭の回転をよくする催眠をかけてくれないかな,なんて.

「速読法」みたいな感じで,暗示のテクニックに「サポートジョブ」という名前がついてしまったと解釈すれば結構納得できます.
イザシオ爺さんの「教え」ですからね.

あとまぁ,国の略称ですけど.
私達も国の名前や地域の名前,しょっちゅう略してますよね?
そう思っておけば,読むのも気にならないんじゃないんじゃないかな.

以上,ちょっとスルーするのもなんだったので,私の解釈を書いてみました.
楽しく書いたり読んだりするヒントになれば.

201(・ω・):2004/09/06(月) 23:30 ID:2fE9uFG2
あああ,やっぱり頭の回転が悪いです.全然説明できてない.
「この方法はイザシオ博士が提唱した「サポートジョブ法」という記憶整理術の一種で,現在冒険者の間では「サポジョブ」と呼ばれ広く普及している」
という広告が新聞に折り込まれている…と思ってくださいお願いします.

書く側の能力不足を読んでくれている人達に転嫁してしまうような情けない意見ですがorz
はい,努力いたしますです.

202(・ω・):2004/09/07(火) 19:26 ID:iplJ.rnM
>>200>>201 の言うような感じだとメインよりもサポートが上にも成り得る訳で・・・
ましてや魔道師系のサポなら記憶として分かりますが、前衛系だと肉体的なものだから
戦20/忍10 = 忍10/戦20 になってしまう罠orz

批判の様になってしまったけど、私自身説明できないので
『ゲーム上面白くするため』で良いんじゃないですか?
死んだら終わりじゃあオンラインゲームとして成り立たないしねw

203(・ω・):2004/09/08(水) 10:37 ID:eb2K1jZ2
FFを基盤にしたらSS書いてるんだからイイジャナイ(・∀・)

204(・ω・):2004/09/08(水) 11:26 ID:/H21yo.k
呼び名なぞどうでも良いじゃないか
過去にサポ取りをやってた話もあったんだし。

205(・ω・):2004/09/08(水) 19:48 ID:Sma.lne2
名無しの話さんキテルー(・∀・)!!

206題名のない短い話 1/2:2004/09/10(金) 07:17 ID:rQS6x/UY

 東から昇った太陽が、その神々しいまでの輝きで彼を照らす。
 眩しすぎる日差しは、彼が身につける紫色の甲冑に、両手に持つ長大な槍の刃に反射する。
 そこでは彼が一時の英雄だった。
 彼にとっては、足場に伏す醜い獣など大した存在ではない。
 しかし、彼の額からは一滴の汗がつうっと頬を伝う。
 彼を覆う漆黒の影。大きな大きな獣の影。
 眼前に立つ巨大な“王”は、彼にとって大した存在か否か。答えは前者だ。
 だが、獣は彼に忠誠を誓おうとしている。
 強大なる力の持ち主が、たかが人間如きに跪こうというのだ。

“王”は語りかける。
 ――汝がために我が腕は振るわれよう。されど、汝の腕は二本で事足りる。

 彼は、すぐ隣の中空を漂う“王”に似た小さき獣を横目でみやる。
 空を舞う幼き獣は、彼の心中など知らずに愛らしい眼で視線を返すばかり。

“王”は語りかける。
 ――我が汝の左腕。汝が我の右腕。それ以外に用はなし。

 彼の全身が震え、奥歯がかちかちと勝手に鳴る。
 手を差し出せば、彼は強大な友を得る。代わりに、信頼に足る友を失う。

“王”は語りかける。
 ――時は止まらぬ。さぁ、選べ。力か、友か。

 鋭き“王”の眼は、彼の思いを容易く貫いて、怯えさせる。
 “王”の言葉に混ざった恐怖が、彼を絶望に塗りたてる。
 震える身体を必死に抑え、究極の選択を、彼は口にした――


 ――そんな、夢を見た。

207題名のない短い話 2/2:2004/09/10(金) 07:17 ID:rQS6x/UY

 御伽噺の中で見る獣の王。真龍の王といわれる獣が、自分の前に立って力を貸すと言ってきた。
 知り合いに話せば、また笑いの種ともなろう、そんな夢。

 ふと、腕の中へと視線を落とす。
 自分が抱くようにして、そこには小さな小さな友人がいる。
 これでも竜の癖に、ぐうぐう寝息をたてて。日増しに主人に似てきているのが、嬉しいやら悲しいやら。
 友人の頭を軽く撫で、今見た夢を口にしようとして、やめた。
 こいつを捨ててまで得たいものなど、そんな恐ろしい道など、あってはならない。
 我が子のように、少し力を強めて友人を抱く。
 これまでの苦労を分かち合ってきた思い出なんかに想いを馳せながら、ひとり勝手にうんうんと頷く。
 いわゆる、親馬鹿というやつなのだろうか。それでも、いい。

 突然、腕の中にいた友人がじたばたと暴れだす。
 どうやらきつく抱きすぎて、起こしてしまったようだ。
 すぐさま力を弱め、謝りながら友人を自由にしてやる。
 それでも、彼は俺の方へと視線をむけ、小首を傾げたりなどしている。
 ちろりと細い舌で頬をなめてきた。いつもの彼なりの挨拶が、今日はなぜか一段と嬉しい。そしてくすぐったい。
 戯れも程々に、陽が頭上にあるうちに俺は立ち上がった。
 樹の幹を背もたれにして寝ていたせいか、身体の節々が痛みを告げる。
 愛用の槍を手にとると、小さな友人は自慢の翼で簡単に空へと飛翔した。
 一声元気よく鳴くと、黙って俺の後をついてくる。
 いつもの光景。これからも続くはずのそれが、とても愛しくさえ思えた。

 例え、究極の選択とやらが俺の前に運良く転がってきても、俺の答えは決まっている。

 さぁ、翼ある友よ、今日はどこへいこうか。


 おわり

208(・ω・):2004/09/10(金) 10:27 ID:c9Dxb5dY
がんがれ、がんがれ竜騎士とみかんたん。

209(・ω・):2004/09/12(日) 10:20 ID:UsG8vZDg
レッドラム期待age(´・ω・`)

210Scrapper:2004/09/13(月) 08:03 ID:P2psR2HY
毎度ありがとうございます.
レッドラム期待で上がったところすいませんが,私が書かせてもらいます.
続きをアップしました.
http://www.geocities.co.jp/Bookend-Ango/5451/

今回の話,見かけからしてダークで猟奇的なのを目指していたんですけどねぇ.
どーしてこーなるんだろ?
話の内容自体は思いっきり真っ黒な方向に振ってあるのですが.

>196様
名前データベース,ありがとうございます.
ざっと読んでみて唸ってしまいました.
日本人にとって美しい響きの名前ってのは意外に少なくて.
ボブとか主人公につけたら,ヘナヘナですからねぇ…難しいです.

では皆さん,頑張ってくださいね.

211(⊃д⊂):2004/09/14(火) 00:10 ID:nSlTZ7z.
ダブルフェイス・レッドラム  第16話「倒錯」


「…もう、だからいったでしょう?水浴びした後はちゃんと体を乾かさないと。
 …ん…もうちょっと熱っぽいかな?」
氷水に浸した、ひんやりとした手が額に触れる。
「もうちょっとおとなしくしてなさいね」
水に濡らしたタオルが額を覆う。ひんやりとして心地よい。
「それじゃ、私は行くから。ゆっくりと休んでるのよ…いい?」
「いい子にしてるのよ…アズマ…」
「…待って!行かないで!…行っちゃやだ!姉さん!」
ベッドに横たわる彼の体は、何故か鉛を背負ったように重たくて。
必死に叫んでみるが、その声は全く届いていない。
…怖い。一人にされる不安。嫌だ!嫌だ!ダメだ!行っちゃダメなんだ!

「姉さん!」

がばっと、起き上がる。…そして、自分が夢を見ていたのだ、と認識する。
眠りながら泣いていたようだが、なんであんな夢を見たのかよくわからない。
そもそも自分に姉などいないはずだ。…とアズマは不思議に思った。
「っつ…いてぇ…」
全身は包帯でぐるぐる巻きにされており、後頭部を抑えると大きなタンコブもある。
(確か…海賊に襲われて…それからどうなっちまったんだ?)
部屋を見回すと、質素な木の小屋である事が分かる。
部屋にはベッドが二つ。窓から月の光が差し込んでいる。部屋の真ん中に置かれた
テーブルにはランプが置いてあり、部屋を薄暗く照らしている。
かたん、と後ろから物音がする。痛む上半身をゆっくりと動かして見ると、
ローブを纏ったミスラらしきシルエットが見える。
「…まだ無理よ…」
そう言うと、彼女はスープをアズマに差し出した。
「ここは?皆はどうなったんだ!?」
「…皆?」
「あぁ、すまねぇ。俺が乗ってた船が海賊に襲われて…なんで俺はここにいるんだ?
 あーいや、それで皆ってのは俺の仲間で…」
支離滅裂なアズマの発言ではあるが、ミスラはゆっくりと一つ一つ応えた。
「昨日…海賊に船が襲われたのは聞いてるわ。けど、あなたの仲間は知らない…
「…あなたは海岸に倒れていたのよ…運がよかったのね…」
「そ、そっか…それじゃ俺すぐ行かなきゃ!マウラは…つ…」
無理に起き上がろうとして、足に激痛が走った。
「まだ無理って言ったでしょ…これ…冷めちゃうから早く飲んで」
「…いただきます…」
とりあえず、アズマは素直にスープをご馳走になる事にした。それが賢明だと思ったからだ。
ふーふーと冷ましながらスープを飲む。こちらに背を向けたまま、ミスラは何やら縫い物をしている。
「それで…今更マウラに何をしに来たの?アズマ…彼、戻ってきたら多分…」
「へ?」
(なんで俺の名前を…?)
まず、最初に思ったのは、彼女が自分の名前を知っているという事実に対しての疑問。
そして次には…
「あなた、殺されるわよ…」
低く、決して冗談を言っている口調ではない、そして振り向いた彼女の美しいミスラ特有の細い
瞳孔が、より細く険しく彼を睨む。
「ちょ、ちょっと待ってくれよ、俺はあんたと初めて会ったんだぜ!?それに…」
ずしん、と頭を鉛で殴られたような感触。突如、まるで逆様にして蓋を開けた瓶の液体の如く、
映像が彼の脳裏の中で流れ落ち、暴れ始める。

212(⊃д⊂):2004/09/14(火) 00:12 ID:nSlTZ7z.

「…おぅ、お前…まさか本当にここまで来るとはな!大したもんだ!
 ああ、紹介すんぜ。俺の相棒だ。見ての通りミスラでな、ツォレっていうんだ。
 あ?お前何顔赤くしてるんだ?へっ、こんな色気の無い奴に…イテテテテ!」
                 ・
                 ・
                 ・
「いいか?アズマ。刀ってのはな、あくまで道具にしかすぎない。侍の本質はな、
 その刀を振るう侍そのものの魂。わかるか?その気になりゃよ、その辺に落ちてる
 枝一本ですら敵を壊す道具にだってなりえるんだぜ?……おいおい、真に受けるなよ?」
                 ・
                 ・
                 ・
「…どうしてもいくのか?…まっ、しゃーないわなぁ…だがよ、これだけは忘れるな?
 お前のその力、道を踏み外せばそれはただの武器となる。分かるか?
 武器ってのはな、ただ使われるだけ、意思のない破壊を繰り返す物ってことよ」



…アズマが再び意識を失ってから、既に2時間が経過した。脈は正常で、ただ眠っているだけのようだ。
うんうん、とうなされているようで、肌寒い夜なのだが多量の汗を流している。
ぎぃ…と、ドアが開いた。この家のもう一人の住人が帰ってきた。
「ヴァーリュス…」
「ふん…まさかとは思ったがよ…ったく、馬鹿野郎が…」
ヴァーリュスは部屋の片隅に立てかけてある刀を見た。そして、ふと呟いた。
「これは…封印だ…力と、記憶の…いや、封印というのは大げさかもな。だが…」
彼は眠るアズマをひょいと抱えて肩にかつぐと、ランプを手に取り玄関へと
引き返していった。
「…長くなる…?」
「あぁ…こいつがどういうわけでこーなったかは知らんがよ…まぁ、ほっとくわけにもいかんだろ
 …面倒くせーけどなぁ」

213(⊃д⊂):2004/09/14(火) 00:14 ID:nSlTZ7z.
― マウラ ―


ミズハ、アトト。それにテルセウスの三人は途方に暮れていた。
それもそのはず、旅の仲間であるヨルとアズマの姿がそこに無いからである。

海賊船の襲撃により、港には多くの怪我人で溢れていた。
みるからに新米冒険者である彼らは、足手まといだ、と熟練の冒険者の指示で船倉で非難していた為に
難を逃れたのである。

しかし、だ。彼らの頼りになるリーダーであるヨルと、正反対に頼りないが口だけはでかい
アズマの姿が港中、どこを探してもいないのである。
街中を探し回り、もしかしたら宿で治療を受けているのかも、と宿を除いてみたけれど何処にもいない。
「もしかして…まさか、海に落ちたりしたんじゃ…」
「え…」
自らの何気ない一言が、アトトを不安に抱かせてしまった事をミズハは後悔した。
テルセウスは先程から終始無言である。
(僕は…何をしていたんだろう…)
アズマは、きっと甲板で戦っていたのだ。彼自信、実力のある冒険者ではない。
だが、彼は戦った。それは無謀といえる行為だろう。事実、足でまといになるのかもしれない。
しかし…自分はどうだった?あの時、何を考えていた?
ただただ、怯えていたのではないか?仮にも騎士を目指す者が…
「テルセウスさん?…あの、どうしました?」
「あ…いや、なんでもない。なんでもない…」
ミズハは、アトトは…自分の事をどう思っているのだろうか?情けない男と思っているのだろうか?
「とりあえず…今日はもう宿に泊まる事にしませんか…二人を探すのは明日にしません?
 アトトも疲れているみたいですし」
ミズハの一言で、とりあえず三人は宿へと向かった。その足取りはひどく重い。



ここで、アズマ達はそれぞれ別の道を歩む事になる。彼らが再会を果たすのは、
少し後の話となる。そして、彼らが再び”仲間”として集う事ができるのは
さらに後の話になるのである。



                                        続く

214(⊃д⊂):2004/09/14(火) 00:16 ID:nSlTZ7z.
久々に続きかけた…(´・ω・`)…
ちゃんと最後までやりたいぽ(´・ω・`)

215(・ω・):2004/09/14(火) 02:10 ID:sMVs6B..
キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━━!!!

216(・ω・):2004/09/14(火) 10:59 ID:VwLuSyvk
キテターーーーー!!
引き続きヨロシク!

217気まぐれ:2004/09/14(火) 16:27 ID:g7F0d9Jg
世界の広さ、様々な伝承に残る謎
それらを知りたくて冒険者になった一人の者のお話
一人の吟遊詩人が詠い続ける・・・

月の雫 〜伝承をここに〜

第1話 

小さい頃から冒険者にあこがれて、様々な武器・魔法を練習していた
幸いにも、生まれた家には簡単な刃の無い武器等が揃っていて振り回す程度の練習ならできた
魔法は、近所に住む白魔道士「パシィ」に教わっていた
教わるといっても、魔法スクロールを使用するのではなく 魔法を使う上で必要になる魔力をコントロールする
方法を教わっていた

パシィは、エルヴァーンの女性で“冒険者”だ
彼女との出会いは、俺が本気で冒険者を目指すきっかけになる出来事だった
場所はロンフォールの森。その森の何処かに一つの石碑があるらしいというのを聞いて、興味本位で見に行こうと
街を出た時の事だ。
ロンフォールの森には、兎や羊といった動物が現存してはいるがほとんどの動物がなりふり構わず襲って来る訳では
ない。しかし、中には獰猛な動物も確かに存在している。
周りを良く確認しながら、石碑を探していた
ズシャ!
背後でいきなり音がなり、勢いで振り向くとそこには大型の動物、、、いや、オークがこちらを認めて迫ってきていた

「くそっ こい!」

小さな短剣と盾を持ってきてはいたが、とても歯が立つとはおもえない
オークの持つ斧が振り降ろされ、とっさに構えた盾が偶然にも斧を捕らえた
しかし、支えきれるわけも無く山肌に飛ばされる結果になってしまった

盾を構えた腕にはもう力が入らない。短剣を持つ手も、必死に立ち上がる足も恐怖で震えていた
短剣をただ、オークに向けて腕を上げることしか既にできない

『まだ、、何もしてないのにこんなところで死ぬのか・・・嫌だ・・』
叫んで助けを呼ぼうとしたが、恐怖で声がでない
ただ、ゆっくりとオークが迫ってくる。それは死を意味していた

オークが斧を振り上げ、振り下ろそうとしている
時間がゆっくり進んでいるように感じる。だが、抗うことすらできない

その瞬間・・・オークが光に包まれた
光の輪がオークに集まっていく、そして弾けた

何が起きたのか理解できなかった。ただ、倒れるオークから眼が離せなかった

続く・・・かな

218(・ω・):2004/09/14(火) 16:30 ID:wISLxV1k
イイヨ(・∀・)イイヨー

でも出来れば地名とかに半角カタカナ使うのは見づらいから止めて欲しい

219(・ω・):2004/09/16(木) 07:35 ID:cme3u6Ag
モイ

220セイブ・ザ・アワー・ワールド:2004/09/18(土) 16:19 ID:xdDFNN1Q
 FF11。発売は2002年5月16日。発売日組(そのくせ最近始めてレベルキャップというものを体験した)
であるところの私はかれこれ2年以上このゲームに時間を裂き続けているわけで・・・
 皆さんもある程度MMOをやっているなら、考えないわけではないでしょう。
 このゲーム、いつまでやってればいいんだ?
 ええ判っていますそれはもちろん自分が嫌になるまでやってればいいんです。やっと黒字が
出てきているらしいスクウェアは赤字が酷くなるまでこのゲーム続けるだろうし、外的な要因では
ここまで大きくなったMMOはまずとまらない。止まるとすれば、自分のほうです。例えば、貴方にも
覚えがあるはずの、引退していった彼や彼女のように。
 しかし、「勝手にすればいい」なんて結論で本当に綺麗に片付くのだとしたら、この感情はいったいなんだ?
寂しいというには重すぎ、胸を締め付けると言えば大仰すぎ、そう「『虚ろ』というのはこの感情の
ことだ!」とでも言われてしまえば、それで納得してしまいかねないパワーさえ持つこの気持ち。
 そう。「自分の勝手でこの世界が終ってしまう」それを認識することは、正解のようでいて実は間違っている。
あたかも「人間はいつかどうせ死ぬんだし」とか言ってしまう小学生のように間違っている。では
正解は?となると、「正解を求めて生きて行くことこそが正解である」なんてそれこそ子供だましのような
答えしか言うことはできないのですが、そこはそれ、そう言うものなんです人生なんてたぶん。
それはこのヴァナディールも同じことで、「いつまでこうしているか?こうしている意味があるのか?」
なんて、それこそゲームでもやりながら考えてればなんとなく判った気にもなるでしょう。
 
 だとすれば、ちょっとは考える手がかりぐらいあってもいいじゃないですか。
 このスレッドの終わりがそーいう手がかりが必要なくなった時、ってのは駄目でしょうか>>180さん。
 たとえリアルタイム性がそこから失われたとしてもね。
 
 結構判ったようなことを言いがちなこちらの作品もどうぞ。
 ttp://kooh.hp.infoseek.co.jp/?page=セイブ・ザ・アワー・ワールド

221セイブ・ザ・アワー・ワールド:2004/09/18(土) 16:24 ID:xdDFNN1Q
・・・ところで、僕がwikiに愚作をアップしてるのと、まったく同時に
このスレにアップされていた各種小説を保存しているひとがいました。
連休の土曜日とはいえ、すごい偶然ですね。
いえ、ちょっとうれしかったので。蛇足ですが。

222白き探求者:2004/09/20(月) 00:03 ID:LpAB4O2M
プロマシア発売っ! 謎は世界創生へ!? いやはや、楽しみです。アントリオン強すぎ。
ここのカキコが少ないのはみんな新エリア楽しんでいるからでしょうか?
先日のイベントで、あの世界地図がヴァナの全てではない発言ありました。
まだまだ世界は広いもんです。

>セイブ作者様
この気持ちが「虚ろ」なのか!と本気で思ったそんな雨の一時。
居なくなったフレを胸に抱きつつ、作品楽しませて頂いております!

さて、白き探求者も新作を追加してきました!お暇な方はどうかご覧になっていってくださいませ。
ttp://www.miracle-key.gr.jp/white/

沢山の作者さま、非常に作品心待ちにしております、頑張ってくださいませ!

223(・ω・):2004/09/20(月) 13:02 ID:8ywmpMLs
流れ引き裂きますhが
流行り神+FFXIで小説ってどんな感じになると思いますか
いやちょっと流行り神面白いんでうわなんだおまえやめr

224慟哭:2004/09/21(火) 04:46 ID:3.dxVEEs
>>1
慟哭

自分に取って"冒険"とは如何なる物か、
誰も踏み込んだ事のない地を踏破する事
人に害をなす獣人や怪物を退治する
珍しい宝物を手にする為ダンジョンを捜索する。

ただ一言"冒険"といってもそれは多種多様の意味を持つ。

〜ダングルフの涸れ谷〜

二人は今日も国から受けた指令を遂行していた。

「・・・・おい、いくら俺達が十人隊だっつってもこの指令はどうかと思わないか?」
ヒュームの若者は、ここ涸れ谷に沸く温泉に山の様な鳥の卵を沈めながらぼやいた。
「ぼやくな、金の為だろう。」
読書中のガルカがちらりと目をやって応える。

「いやそらそうだがよ、いくらなんでも温泉卵作って来いっつーのはなぁ・・・。」
若者が大げさに肩を落としてみせる。

「鉱山区の住人に分け与えるそうだ。」
「ほぉ・・そりゃ何で又?」
「イメージアップ戦略の一環だそうだ、鉱山区には貧しい上に癖の有る者が多いからな。」
「あぁ・・なるほどなぁ・・・物で釣る・・・かぁ。」

しばし無言の時間が流れる。

「・・・・・そういえばさ!この前すげぇ鎧着てる奴見たんだよ!」
「ほう。」
相変わらず読書を続けながらガルカがそう相槌を打つ。
「なんだよつまんねぇ奴だなぁ・・・・。」
どうやらこの男、じっとしていられない性分らしい。
「しっかしココは暑くてかなわねぇや・・ちょっと奥に行ってくるわ。」
「全部茹で上がったら呼ぶ、あまり奥まで行くなよ。」
「ホイホイ、ったく何時までもガキ扱いすんなよな・・・」
ぶつぶつ言いながらアルフは湯煙の奥に消えて行った。

私の名はラース、通り名はスチールフォレスト。
知り合いの殆どは私の事を通り名で呼ぶ、
"ラース"の方が短く呼びやすいと思うのだがまぁそんな事はどうでもいい。
戦士を生業とし、バストゥークの十人隊に所属している。

先ほど湯煙に消えた彼の名はアル、アルフレッド・ノーマン。
駆け出しの赤魔導士でやはり同じ隊に所属している。

バストゥークの資産家の息子でありながら従軍志願し今に至る。

我がバストゥークでは普通彼くらいの大きな家を持つ家柄であれば
困窮したガルカなどに報酬を出し兵役を代わって貰う物だが・・
まぁなんにせよ特殊な"人種"である事は間違いない。

本の区切りがよくなったので卵の火の通り具合でも見ようかと腰を上げたその時、
大声が聞こえた。

「来てくれェェ!!ラァァーーーーーーーーーーーースッ!!!!!」

やれやれ、お坊ちゃんがお呼びだ。

225慟哭:2004/09/21(火) 04:52 ID:3.dxVEEs
駆けつけると丁度アルが何かから逃げてきているところだった。
「逃げろラース!」(ならば何故呼んだのか・・・。)

湯煙が晴れ一瞬"何か"が見えた。
茶褐色の弾丸が追いかけてきている!

「おいおいあれはGazerLizerdか!?」

GazerLizerdはここグンダルフの涸れ谷に群生するトカゲ族の王である。
「いやぁ良い物持ってるらしくてさぁ、見かけたからついちょっかい出しちゃって・・・へへへ。」
にっこり笑うアル、これで悪意が無いのだから性質が悪い。

「お前は・・・コンシュタットの大羊の時も同じ事をして酷い目にあったじゃないか!」
「まぁそう言うなよぉ・・・なんとかしとめりゃ蒸気亭のツケも払えるだろ?」
「いやそれはそうだが・・・。」

全力でGazerLizerdから逃げているというのにこの男の余裕は何なのだろうか、
新米十人隊員の手に負える相手ではないだろうに・・・。

全くこの男は生まれ付いてのトラブルメイカーなのだろうか、
まだアルがほんの子供だった頃の事件についてもそうだ。

「こっちだぜデカ頭!」
アルはそういいながら走り続ける、昔から足だけはやたら速かった。
が・・・・

「おいアル!そっちは行き止まりだ!!」
必死の静止も聞かずアルは袋小路に向って走り続ける。
「いいんだよこっちで!お前もしゃべる暇があったら足動かせぇ!」
「俺はお前ほど足が速くないんだよ!!」
ゴツゴツ乱立する岩の間を縫って走るアルの様は正に風のようだった、
徐々に詰めて来ているGazerLizerdの気配を感じながらラースは走った。
もうほんの数メートルうしろに鼻息が聞こえる!という時

ドゴンッッ!!!

派手な音がして後ろを振り向くとGazerLizerdが岩にぶつかった音だった、
派手な音を立て土煙が舞う。

「ホレ見ろ!あいつ頭でっかちだから絶対どっかの岩にぶつかると踏んでたのさ!」
自信たっぷりに鼻の頭をこすっている。
「まったく・・・そんな偶発的なことを狙うなよ!一歩間違えば大怪我じゃすまないんだぞ!?」
それでもラースはこの若者が好きだった、どういうわけか数少ない"気の会う奴"だったから。
「まぁまぁそう怒りなさんな、これでツケ返して新しい装備買ってもお釣りが来るぜ?」
そういいながらアルは土煙の中心に向け歩き出す。

ガラガラガラ・・・・
「下がれアル!」
嫌な予感がしてとっさに声を上げたのはラースだった、アルは相変わらず飄々としている。

そして土煙を上げて出てきたのは・・・正にGazerLizerdだった。
「まったくどういう皮膚をしてんのかね?痛くねぇのかよ・・・。」

「・・・アル、お前はもう少し今自分が置かれている状況を把握した方がいいぞ?」
そう言って頭を抱える。

「そうか?」
アルは首をかしげた。

いつの間にか唯一の逃げ場だった道をリザードの群れが塞いでいた、
まるで王による愚か者の処刑を待つ観客のように。

「おいおいこりゃまた団体さんのお付きで・・・」

この男は本当に解っているのだろうか、
逃げ道が無いこの状況で俺達は明らかに格上の敵と対峙しているというのに。

226慟哭:2004/09/21(火) 04:54 ID:3.dxVEEs

最早逃げ場は無い状況だった。
こちらはまだリザード一式装備しか与えられない十人隊員、しかも新米だ。

対して敵はダングルフの涸れ谷にあって自分の力を過信した者をことごとく返り討ちにしてきた涸れ谷の王、
しかも逃げ場は眷属のトカゲが塞いでいる。

ラースは自分の背中を冷たいものが流れるのを感じた。
GazerLizerdが土を蹴る、気が付いた時には自分の目の前にその巨体が!

ドンッ!!

鈍い痛みと共にラースは吹き飛ばされ硬い岩に背中を打ち付けていた、
屈強なガルカ族とは言え突然与えられた衝撃に体が言う事を聞かない。

「ぐぅッ・・」
「ラースッ!」
アルが剣を抜きラースとGazerLizerdの間に割ってはいる。
「よせ・・・逃げろぉッ・・・」
「ヘイGazerLizerd!いつまでママのスカートに隠れているつもりだ!?」
GazerLizerdを挑発すると同時にアルは岩の間を駆け抜ける。

彼の俊足なら暫くは時間が稼げるかもしれない、だがそれだけだ。
逃げ場の無いこの状況では助けも呼べず、いずれ追いつかれてしまうだろう。

ラースは彼の無謀とも言える性格は嫌いではなかった、
自分が保守的な性格なので羨む気持ちもあるのかもしれない。

彼も共に仕事をしているのが自分だけでなければ格上の相手に手を出す事はしない。
ある意味でそれはとても迷惑で、ある意味でそれはとても嬉しい事だった。

かといってこのまま何時までも倒れているわけには行かない、
数少ない彼の友が踏ん張ってくれているのだ。

何とか岩に体重を預けながら立ち上がり、ラースはその腕で背負った両手斧を抜き構える。
「アル!」
この一言で彼はラースが何を狙っているか解したようだ。
一直線にGazerLizerdを引き連れたままラースの元に走ってくる、
ラースの両腕の筋肉が大きく盛り上がりミシミシと音を立てる・・
そしてラースとアルが交差した瞬間ラースの両手斧が振り降ろされた。

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉッッ!!」

最早目の前の敵しか目に入っていなかったGazerLizerdにカウンター気味に両手斧が襲い掛かる!
その皮を切り裂く事こそ出来なかったが鈍器としての意味合いは大きく、
豪腕によって放たれた一撃をもろに食らってしまったGazerLizerdはふらついている。

「よし!押し切るぞ!」
アルが高らかに叫ぶ・・・・が。
周りを見ると主の危機と見て、観客であった眷属たちもじりじりと間合いを詰めてきていた。

絶体絶命とはこういう事を言うのだろう、二人がトカゲの群れにたじろいでいる間に
GazerLizerdも落ち着きを取り戻し戦列に加わってきた。

その目にははっきりと憎悪が込められている。

「ぐっ・・」
アルが隙を付かれ吹き飛ばされた、当たり所が悪かったのか意識も朦朧としているようだ。
ラースは力の抜けた彼を肩に背負いじりじりと後退せざるを得ない。

頭を絶望が多い尽くそうとしていた時、聞きなれた声が響いた。

「何をしているッッ!!」

・・・・・・・隊長だ。
続く

227慟哭:2004/09/21(火) 04:57 ID:3.dxVEEs
カキコムンジャナカタヨママン_|ヽ○_

228(・ω・):2004/09/21(火) 08:25 ID:3Q5La4nA
OK続きはいつだ(*゚д゚)

229(・ω・):2004/09/21(火) 09:22 ID:Q8sdURX.
OK続きはいつだ(*゚д゚)

230(・ω・):2004/09/21(火) 12:22 ID:NGFvtr/A
OK続きはいつだ(*゚д゚)

231(・ω・):2004/09/21(火) 14:01 ID:2c21SvJI
GazerLizerdって何ョ・・Geyser Lizardでしょが。
\ 
 \_○ノ

しかも続くの場所間違っとります・・・

232慟哭:2004/09/21(火) 14:02 ID:2c21SvJI
十人隊長一人来ただけで形勢はあっという間に逆転している、
ここまで1隊員と隊長で戦闘能力に差があるものかと愕然とした。

初めは何かが光ったとしか感じなかった、
気付けば自分達を囲んでいたはずの十数匹のトカゲはその数を半数に減らしている。

我がバストゥークが誇る最新兵器の銃を手にした隊長はトカゲの眉間に確実に弾を撃ち込んでいく、
装填の速さ、身の動かし方、恐ろしいとさえ思った。

単純な戦闘力にここまで差が出るものかと。

これが『閃光』と称される男の実力なのだろう、数千にも上る十人隊員にして早くも
次期百人隊長、末は銃士隊長と噂される所以を見た気がした。

突然現れた一族の敵にGeyser Lizardは敵意を剥き出しにして襲い掛かる!

「ターン・・」

乾いた音がして静かにGeyser Lizardはその人生に幕を下ろした、
隊長の銃弾はその岩をも砕く皮を貫通し王の脳髄を砕いたのだ。

「危ないところでした、ありがとうござ・・」
いまだ意識の戻らない相棒を背負い隊長に駆け寄ったラースを迎えたのは
当然のごとく鉄拳制裁だった。

「説教は後だ、帰るぞ。」

そうつぶやくように吐き捨て帰路に着いた。
                        本当の続く。

233風の通る道:2004/09/24(金) 20:30 ID:no7B.3IY
「ん?俺が冒険者になった理由?」
「あー、そういや俺もまだ聞いてなかったな。俺が冒険者になった理由は話したけどなー」
「確かに興味あるな。アルヴァぐらいの彫金の腕があれば、それだけで食っていく事も出来るはずだしな」
「話したくない理由があるなら無理に聞いたりしないけどね。なんとなく気になったのさ」

ジュノ下層、吟遊詩人の酒場に4人の若者が集っている。
アルヴァ、トリスタン、ルーヴェル、そして今では彼らにすっかり馴染んだリザ(自身は否定しているが)。
いつもの光景の中、ふとリザがアルヴァに冒険者になった理由を尋ねた。



〜第14話、過去の呪縛(中編)〜



冒険者の中で、お互いの過去に立ち入らないというのは、暗黙の了解であった。
故に、軽い質問に答えられなくてもお互いに気にしない。
「場」の空気がそうさせていたのだが、意外にもアルヴァは自分の過去を語りだした。


「俺の家系は、代々商人でな。平たく言えば世界を見て回って見聞を広めるために冒険者になったってところだな」
「俺と初めて出会った頃、同じ駆け出しとは思えない実力を持ってたのは?金持ちの道楽って感じじゃなかったぞ?」
「親父は敵が多かったからな。俺は小さな頃から戦闘技術を叩き込まれたのさ」
トリスタンの質問にもサラリと答える。
どうやらアルヴァは自分の過去に対してあまり執着はないようだ。
「戦闘技術だけじゃない。あらゆる学問も修めさせられた。それから逃げる意味もあったんだろうな・・・」
「なるほど。道理で物知りなわけだな」
「ポルク爺程じゃないけどな。ところで、そういうリザは何故?」

234風の通る道:2004/09/24(金) 20:30 ID:no7B.3IY

突然自分に話が振られ、彼女は幾分困惑したようだ。
もちろんここで答えを拒否する事も出来るし、そうしたところで彼らはそれ以上追及しないだろう。


「あたしはタブナジアって国の生まれでね。冒険者ってのが、生きるのに一番の近道だったのさ。」
「タブナジアだって!?」
突然トリスタンが叫んだ。

「そういえばトリスタンもタブナジア出身だって言ってたな」
「ああ、俺もあの戦争で家族を失った」
「そうかい。あたしと一緒なんだね」
「リザも家族を・・・」
珍しく悲しそうな表情を見せるトリスタンを、長年の付き合いである二人は痛々しく思った。

「ああ、勘違いしないでよ。タブナジアが滅んだのは、あたしが4つの頃さ。家族の思い出なんてほとんどない」


一瞬、どこか遠い目をした彼女は、意を決したのか、自分の過去を語りだした。


「タブナジアが滅んだあと、数少ない生き残りの人間たちは、タブナジア近郊の洞穴や地下壕なんかで暮らしてたんだ。
 あたしもそのうちの一人でね。洞穴で5年過ごした」
5年。幼少期から少女期にかけての5年間、厳しいサバイバル生活を強いられたのだ。
それは、想像を絶するものだったに違いない。
3人は、言葉を発する事もなくリザの話に耳を傾けていた。

「一緒に住んでたのは、弟や妹。それにパパだった。全員血のつながりは無いけどね。
 ほとんど記憶のない血縁なんかより、彼らの方がよっぽど家族さ。
 パパはガルカでね。ガハガハ笑う豪快な人だったよ。あたしと、弟や妹もパパが助け出してきて育ててくれたんだ」

ヤグードドリンクを一口すすって息をつく。
普段あまりしゃべらない彼女の物語を、3人は取り憑かれたように聞いていた。

「あれはあれで幸せだった。8歳になった頃からパパがあたしに剣術を教えてくれたんだ。
 何でも昔は騎士だったらしくてね。自分の持っていた剣の名前の由来について話してくれた事もあった。
 ”姫の守護者”だって言ってたっけ。今思うと、あたしたちはパパにとって姫だったんだろうね」

「聞いた事がある・・・」
ルーヴェルが口を開く。
「ガルカにしてサンドリア王国騎士に任命された者がいたと。
 嫁いだばかりの王妃様から剣を授かるほどの勇士だったらしいが、当時の騎士団長が差別主義者で、左遷されたそうだ。」

「そのガルカがパパかなんて、今は分からないしどうでもいい。ただ、あたしたちの小さな幸せを壊したのは間違いなくあいつらなんだ・・・!」

リザの声色が低く、冷たく変化した。
彼らと初めて会った頃のような、あの声・・・

235風の通る道:2004/09/24(金) 20:31 ID:no7B.3IY
「9歳になったある日、水汲みから帰ったあたしが見たのは・・・兄弟とパパの死骸だった。
 あたしが離れてる隙に獣人に襲われたみたいで、パパは兄弟を護るようにして死んでいた。
 周りには沢山のオークの死体。どれだけの数が襲ってきたかなんて想像も出来ない・・・」

淡々と語る口調に激しい怒りが混じっている事に3人は気づいていた。そして一人は危機を覚えていた・・・

「それからは文字通り地獄さ。生きるためなら何でもやった。あたしはあいつら獣人を絶対に許さない!根絶やしにして死体のうえで踊ってやる!絶対に許さない!!」
「もういい、もうやめろ!」
アルヴァが立ち上がり、リザをなだめる。

「帰ろうリザ。ハウスまで送る」


半ば引っ張られるような形で酒場を出た彼女は、競売所前を通る頃にはすっかり落ち着きを取り戻していた。
「取り乱して済まなかったね」
「いや、いいんだ・・・」


「それじゃ、ここでいいよ。あとは一人で帰れる」
居住区前で別れを告げ、リザは背中を向けて歩き出した。

「リザ!」
突然の呼びかけ。立ち止まったリザにアルヴァが駆け寄る。

「リザ、君は戦うべきじゃない。もう冒険者を辞めて静かに暮らすんだ!」
振り返った彼女の顔は、表情こそ乏しいものの、明らかに怒りと取れる雰囲気をかもし出していた。
青年はかまわず続ける。
「君は・・・君のパパだって、こんなことは望んでなかったはずだ!幸せを、全てを捨てて、血で手を汚して、復讐に生きる君の姿を見て、君のパパが喜ぶと思うのか!?」
「だったらどうしろと!?あたしには何も無い!これがあたしの生きる道だ!それともあたしに死ねと言うのか!?」
「そうじゃない。そうじゃないんだ・・・」
悲しそうに青年が呟く。

互いに向かい合ったまま沈黙が続く。
それを破ったのはアルヴァだった。
「これを・・・渡そうと思っていた」
青年が懐から出したのは、目を見張るような美しい造形の首飾り。
美麗な金細工の中央には満月を思わせる石がはめ込まれている。
「・・・いらない」
「受け取ってくれ」
「いらないって言ってる!今日は機嫌が悪い。あたしの前から消え・・・」

突然、少女の体は青年の腕に包まれた。慣れない待遇に、彼女は明らかに狼狽していた。
「すまなかった。思い出したくない事を思い出させた。許してくれ」
「き、気にすること無いさ。あの事件はあたしの”力”だし、生きる意味だ」

「リザ、この戦いが終わったら・・・俺と一緒に暮らさないか?」
「え?」
「きっと幸せにする。復讐なんてもう十分だろ?君にだって幸せになる権利はあるはずだ」
「・・・考えとくよ。それより、そろそろ放してくれないか?少し苦しい」

236風の通る道:2004/09/24(金) 20:32 ID:no7B.3IY

「よお、戻ったか」
「ルーヴェルは?」
「帰ったよ。あんな話の後じゃ酒も飲めないよな」
「トリスタン。俺にも一杯くれ」

「なあ、アルヴァ。最近、リザは明るくなったと思わないか?
「ん?そうか?だとしたらいいことだな」
「明るくなったよ。少なくとも、お前の前ではあんな目はしなくなってたのに・・・」

アルヴァも、先ほどのリザの目を思い出す。
自分や相棒に、あの目を・・・傷を癒すことは出来るのだろうか?
青年が、悲痛な気持ちでそんなことを考えていると、突然トリスタンの口から予想もしなかった言葉が飛び出した。

「お前、リザとはうまく行きそうなのか?」
「な、なんだよ突然。お前、狙ってるって言ってなかったか?」

「・・・俺には妹が居たんだ。タブナジアが襲われたとき、妹はちょうど4歳」
トリスタンの意図するところを、アルヴァも感じ取ったようだ。

「お、おいおい。そんな偶然・・・」
「名前はリゼリア。舌足らずな幼児が発音したら、リザに聞こえたかもな」

「・・・彼女には?」
「言わない。今更・・・だしな」

「勘違いするなよ?俺は喜んでるんだぜ!俺の妹はあんなに美人で、義弟は凄腕の冒険者ゼファー。こんなに自慢できる事は無いぞ?」
「ずいぶん気が早いな・・・」
「お、否定しないな?」
「茶化すなよ」
「それより、お前さっきから一口も手つけてないじゃないか」
「ああ、いただくよ」


その日、ジュノ上層のモンブロー医師の下に一人の青年が運び込まれた。




つづく

237風の通る道:2004/09/24(金) 20:36 ID:no7B.3IY
お久しぶりです。
早くアップできるとか言っておいて、この有様・・・

タブナジアについては、自分が想像していたものであり、公式とは設定が違うかも知れませんが、ご容赦を。

それにしても、こういう台詞をサラリと言えるアルヴァ君は、それだけで大物の匂いがするなと我ながら思います。

238(・ω・):2004/09/24(金) 22:40 ID:eYwD1P/E
>>237
自画自賛。

239(・ω・):2004/09/25(土) 14:46 ID:oFq1mCgk
>>238
まぁまぁ

240(・ω・):2004/09/28(火) 00:01 ID:2CjVqR8Q
もうここも末期か・・・
寂しくなりますねage

241(・ω・):2004/09/29(水) 10:56 ID:/SmtkmPI
何度目の末期だろうなぁ

242(・ω・):2004/09/30(木) 00:17 ID:A4nLRLfA
ほーしゅ(゚д゚)

243流行り神inFF:2004/10/01(金) 02:40 ID:olmPLrr2
ねえしってる?
友達の友達から聞いた話なんだけど――――

   ・・・

「・・・ん?なんだこれ」
 いつもの冒険を終えてモグハウスへと帰ると、郵便ポストに覚えの無いものが入っていた。
「フレンド登録申請書?」
 それは、冒険者支援政策の一環として三国が共同で立ち上げた制度の一つで、要するに「こ
の冒険者と私は友達で仲間ですよ」ということを証明するための制度だ。フレンドとして認定
されれば、各地の受付でその仲間がいまどのあたりにいるか教えてもらえたり、またその仲間
への伝言を伝えてもらったりすることができる。要するに、仲間同士の合流や安否の確認を容
易にするための制度だ。別にそのような書類申請などなくてもそういう手続きを行うことは可
能なのだが、その場合少しだけ面倒な手続きを踏まなくてはならない。冒険者同士のいざこざ
や闇討ちめいた真似を防ぐための処置であるそうだ。
 それ自体は、別に珍しいことではない。問題は―――
「誰だ?これ送ってきたの?」
 書類の名前欄には見覚えのない名前がはいっている。サンドリア名だろうか?生粋のバスト
ゥーク育ちである自分には発音の仕方がよくわからない、長い名前がそこにあった。
 間違えて配達されたのかな、と思ったが、書類に書いてあるのは間違いなく自分の名前だ。
「おーい。モグー。」
 書類を持って、家に入る。
「クポ?おかえりクポ〜」
「おう、お前、これに心当たりない?」
 いつものように、冒険者を始めていらいの付き合いであるモーグリが出迎えてくれる。私は
挨拶もそこそこに、モーグリにそのフレンド登録用紙を見せた。
「クポ?ご主人様の友達じゃないクポ?」
「いやそれが全然心当たりがないんだよ。」
 そう言うと、モーグリはいかにも得心が言ったというようにウンウンと頷いていった。
「それなら知ってるクポ〜」
「なんだ、お前この書類の名前のやつ知ってるのか?」
「知らないクポ〜」
「知ってるのか知らないのかどっちだよ。」
「知らないなら知ってるクポ〜」
 何を言いたいのか、さっぱり要領を得ない。私は「どっちでもいいから話してみろよ」と先
を促した。

244流行り神inFF:2004/10/01(金) 02:41 ID:olmPLrr2
「最近流行っているのに、こんな噂があるクポ〜」

 ―――夜の、ちょうど二時二十二分に知らない名前のフレンド登録が届く――――
 ―――絶対にそのフレンド登録を承諾してはいけない―――    
 ―――そのフレンド登録は死の国から届いたものだからだ―――
 ―――承諾すると、死の国からそのフレンドが仲間を連れにやってくる―――
 
 モーグリは、その話をいかにもおどろおどろしく話してみせた。わざわざ部屋のランプを自
分の顔の下にまでもって来たりもしていたが、もとが愛嬌のある顔なのでさっぱり迫力が無い

「どこの噂だよ・・・それは・・・」
「モーグリの友達の伯父さんのご主人様の奥さんが聞いた話らしいクポ〜」
「それは本当に流行ってるのか?」
「因みに今は午前三時のちょっと前クポ〜。」
 モーグリがビシリと時計を指差すので、私もそちらに目を向ける。時計は丁度3時を指してい
るが、あいにくこの時計は10分ほど早くなっている。朝、遅刻しないようにわざとそうしてあ
るのだが・・・
「じゃ、その書類はつい三十分ほど前、二時二十二分に届いたってのか?」
「きっとそうクポ〜。モグはさっき1時過ぎにポストを覗いたから間違いないクポ〜。」
「アホらし・・・」
 私は嘆息し、ベットに横になった。改めて書類を手に取って眺めてみる。
「この名前・・・・なんて読むんだろ。サンドリア名だとは思うんだけど・・・タ・・・ツ?
『ツィオルナ』?『タリォリナ』?なんか、男の名前じゃないっぽいな・・・」
 私の中の、書類を出した主がイメージとして徐々に固まってきた。恐らくそれは、エルヴァ
ーン女性だ。この書類を使うからには冒険者なのだろうが、男勝りの戦士よりは、むしろ魔道
士かなにかを生業にしているのではないだろうか。素直に考えるなら、サンドリア人だから白
魔道士だろう。エルヴァーンは総じて長身だが、魔道士なのだから別に天を突くほどの大女で
はないはず、むしろたおやかな印象さえあるだろう。きっと彼女の髪は金色のシルクのように
かがやいたウェーブで、それを飾り気の少ない紐で緩く結わえるかなにかしているのだ。
「よしきめたぞ!俺はこのフレンド登録を承諾する!」
「ええっ!モグの話を聴いてなかったクポッ!?」
「ええい止めるな!麗しの令嬢が俺を呼んでいるのだ!」
「動機が不純クポ!」
「うるさいうるさい!とにかく俺は承諾すると決めた!間違いだったら間違いだったでお近づ
きになるチャンスだろうが!」
 必死にとめるモーグリをよそに、私は書類の「承諾する」という欄に力いっぱい丸を付け、
次いでその下に自分の名前を署名して再びポストに戻した。こうしておけば、朝になったら郵
便屋が回収していってくれるのだ。
「やめておいたほうがいいと思うクポ〜!絶対クポ〜!」
 全ての作業が終ってなお、モーグリはそんなことは言っていたが、まあいつものことだ。
 私はその日はランプを消して、遅めの眠りにつくことにした。

245流行り神inFF、もしくはセイブ・ザ・アワー・ワールド:2004/10/01(金) 02:45 ID:olmPLrr2
 こんなんでましたがどうでしょう>>223さん
 続きとかあんま考えてないですが、どうしましょうこれ。
 
 
 こっちはちゃんと続きも考えている・・と、思う。
 よかったらどうぞ
ttp://kooh.hp.infoseek.co.jp/?page=セイブ・ザ・アワ%A
1次Ε錙璽襯�

246流行り神inFF、もしくはセイブ・ザ・アワー・ワールド:2004/10/01(金) 02:47 ID:olmPLrr2
リンク変になってしまいましたが、ようするに例によって>>1のWikiです。
もう次から直リンク諦めてWikiとだけ書いとくことにしました。

247(・ω・):2004/10/02(土) 02:58 ID:zUx8YWkY
セイブの人いつもグッジョブ!
ただ、現人神(あらひとがみ)若しくはその音読みで(げんじんしん)なんじゃ?

248(・ω・):2004/10/03(日) 02:17 ID:PrmkDwjg
セイブさんGJです
漏れも先ほど流行り神でガクガクブルブルなってきたところなので期待大です
がんばってくださいノシ

249 (・A・) 駄作:2004/10/03(日) 15:56 ID:nnygW/Tg
プロローグ
ーーーー満月の夜のラテーヌ平原ーーーー

月明かりに照らされている草原の風景は神秘的な風景だった、
誰もが、その風景の美しさに目を奪われるだろう。

その中に、一人の少女が立っていた…。

瞳はどんよりと濁っており、服は血の色で黒紅に染まっている、
少女自身には、カスリ傷程度の傷害しか見えず、他人の返り血で服が染まったというのは、
誰が見ても明らかだった。
 
 「・・・・・・・」

少女は、手に持っていた"花の形をした髪飾り"を無言で見つめる。
本来の白色をしている髪飾りは、やはり大量の血を浴びたせいか黒紅になっていた。

 「・・・・・・・」

少女は無言だ…、じっと、どんよりした瞳で髪飾りを見つめている。
しばらくして…

 「・・・・・なきゃ…」

少女自身にも、聞こえるか聞こえないかわからないぐらいの声でつぶやいた。
さらに…

 「私は、生きなきゃいけないのよね…アイツラに…するために…」

少女はどんよりと濁っていた瞳が、赤い瞳に変わる。

 「そうよ!私は"復讐者"になるわ!この世の人間を滅ぼしてやる!」
 
さっきとは違い叫ぶようにして、彼女は言った。
その声は、少女が放つ言葉とは思えぬほど、世界を憎んでいる言の葉だ。
満月のラテーヌ平原、神秘的な雰囲気のその中で"復讐者"が誕生した瞬間だった。





ブラッディロード 第1話「リュートとリーフベル」

ーーーーーーウィンダス森の区ーーーーー

 「リーフベル!俺、旅に出る!」

その言葉は、森の区にある端っこの家の中から放たれた。
 「へっ?」
突然の発言に、金髪のショートカットの女性"リーフベル"は、おとボケた声を上げる。
発言内容が一瞬で理解ができなかったからだ。
 「リュート君、熱でもあるんですか?」
リーフベルは、黒髪短髪の青年、いや、こちらも少年の面影が強い"リュート"に心配そうに言った。
 「あっ、リーフベル特製の新風邪薬がありますよ、、えっと新風邪薬は…」
 「ち、ちょっとリーフベル!俺は別に熱なんてないって薬なんていらないよ!真面目な話なんだって!」
リュートは、慌てた様子で言った、慌てた理由は、別に話が通じなかったからというわけではない。
彼は、リーフベルが出す"風邪薬"が怖かったからだ。
前、彼が風邪をひいて、頭痛がひどかった時に、彼女特製の風邪薬をもらい服用した、
確かにその時は、頭痛はなくなった、しかし副作用として、ひどい腹痛に襲われたのだ。
彼女の調合ミスの副作用である、その時は彼女の師匠であるタルタル先生の薬で、
助かったのだが、それ以来、彼は彼女の薬に警戒心がある。
 「真面目な話ですか?というかリュート君、貴方は、"俺の師匠から一本取れたら、旅に出る"
  とかいってませんでしたっけ?一本取れたのですか?」
 「それなんだけどさぁ〜俺の師匠が…」
 
リュートは、今日起きた出来事について話だした。

続く

250(・A・) 駄作:2004/10/03(日) 15:57 ID:nnygW/Tg
んの三時間前の話である。
リュートは一応、冒険者扱いにされている、冒険者の証、ライセンスも持っている。
彼の冒険者登録情報を見ると、【名前リュート 職業モンク 国籍ウィンダス】と出るはずだ。
モンクとは己の拳と体術で戦う武道家であり、かなりの修練が必要である。
そんな職業についているリュートには師匠がいる、ミスラ族の"チービミミルンエ"という名前だ。
師匠の今の名前は偽名らしい、冒険者の現役だった頃は、通り名があった程、有名だったとかで、
本名を出すと、いろいろ大変なことになるみたいだ。
リュートは、師匠の本名を知りたくて、聞いた事があるのだが

「わたいから組み手で一本とれたら言うにゃー」

と言われ、必死になって組み手をしたが
今だに、カスリ傷すら師匠に作った事がない、いつもコテンパに倒される。
今日も相変わらず成果が上がらなかった。

 「どあぁぁああぁぁぁぁあ!!!!!」

リュートは勢いよく地面に叩きつけられた、素早く起き上がろうとしたが彼の顔の前に
寸止めの拳がある。
 「まだまだにゃ〜」
リュートの師匠チービミミルンエが、彼の顔の前に拳を出しながら言った。
 「くぅ、、、、今日こそは、師匠から一本取れると思ったのに!」
 「にゃにゃ〜そんなの10年早いにゃ」
 「師匠!もう一回勝負!」
 「まだ、やるかにゃー我が弟子ながら、諦めが悪いにゃー」
構えに入って、数分後には、地面に叩きつけられているリュートがいた。
砂の地面に転がりながら、リュートは半べそで
 「くそ〜、なんで攻撃が当たらないんだ!」
リュートは弱いわけではない、そこらの冒険者以上の実力は確実にあるのだが、
師匠のチービミミルンエの方が遥かに上の実力者なのである。
 「リュート、そんなに悔しいかにゃ?」
チービミミルンエは、自分の赤い髪を手入れしながら、転がって拗ねているリュートに話し掛けた。
 「男として、悔しい…」
 「そうかにゃ」
実力差はわかりきっているのだが、やはり男としては負けてばかりだと、悔しいものである。
チービミミルエンは、今度は、自慢の尻尾の手入れをしつつ、
 「リュ〜ト」
 「なんですか、師匠」
リュートはまだ砂の上に転がっている。
 「いつまで拗ねているにゃー」
 「拗ねてないです」
 「拗ねてるにゃ〜」
 「拗ねてない」
 「じゃ〜いつまでころがってるにゃー天気がいいから、日向ぼっこに変更したかにゃ?」
 「日向ぼっこなんてしてません」
 「じゃ〜拗ねているにきまったにゃ」
 「・・・・・・・」
リュートは、ムスッとしている、チービミミルンエはそんな彼の姿を見て、クスっと笑う。
 「リュート強くなりたいなら、旅にでるにゃ」
 「旅は、師匠に一本取ってから行くと決めてます」
 「わたいが君と同じぐらいの年齢には、もう冒険してたにゃ」
 「一本も取れないままだと、ずっと後悔しそうで」
 「それがにゃ〜リュート、わたいは、明日から冒険者にもどらなきゃいけないんだにゃ」
 「冒険者は引退したんじゃないんですか?」
リュートは、ガバッと起き上がり、チービミミルンエ方を向く。

続く

251(・A・) 駄作:2004/10/03(日) 15:59 ID:nnygW/Tg
彼女は、微笑みながらリュートに話し掛ける。
 「冒険者は、所詮、冒険者という事だにゃ」
 「ここには、もう戻ってこないんですか?」
リュートの問いに、チービミミルンエの軽く頷く。
 「リュート、お前はわたいの最初で最後の弟子だにゃ、旅に出れば
  もっともっと強くなれるにゃー」
 「師匠、俺も連れて行ってくださいよ!!」
リュートは、力んで師匠に言ったが、師匠は即答で
 「駄目だ、理由があるから私はここから出るんだ、リュートお前はお前の道をいきなさい」
普段、語尾に「にゃ」とつけて喋る師匠が、普通に話した。
それはリュート自身、初めて聞く口調であり、
普段とは違う話し方、それは真剣そのものだった。
リュートはしばらく、言葉が出せなかったが…
しばらくして…
 「師匠、俺も旅に出ます」
 「そうかにゃ」
口調は戻っていた。
 「そして、もし旅の途中で出会ったら、また勝負してください」
 「わかったにゃ、楽しみにしているにゃ」
 「俺が、勝ったら名前を教えてもらいますからね!」
 「わかったにゃ」
リュートは、その場で礼をして、家に走っていった。
チービミミルンエは、その姿をずっとずっと見つめていた。
それは自分の子を見つめているような表情だった。


 「というわけよ、リーフベル」
リュートは、リーフベルが出してきたお茶とお菓子のメロンパイミニチュア版を口に突っ込みながら
熱烈している。
 「ふーむ、なるほどね、つまり、チービミミルンエさんにストーカーするんですね」
 「ぶっ、ち、違うよ!だいたい、師匠のあとをつけても、どうせ撒かれるし、それに飛空挺に乗られたら
  どうしようもないからなぁ」
 「飛空挺乗るパスは、高いお金で買うか国の冒険者ランクを上げないといけないですからねぇ」
飛空挺という乗り物に乗れるのは、一部の成果を上げ、国に認められた冒険者か、
大金を払って、非空挺パスを買える人だけである。
リーフベルは、お茶飲みつつ彼をじっと見つめる、リュートはそれに気づき。
 「なんだよ」
 「いいえー私もいこうかなァと思いまして」
 「は?」
リュートは、リーフベルの発言にとぼけた声を出した、さっきとは逆の立場である。
 「リュート君だけだと、心配ですし〜それに私は、薬剤師になりたいのですよ、ここよりバストゥークに行った方が
  錬金術や医療に関しても、いろいろと成果上がるかと思いましてねぇ」
 「でも、リーフベルって冒険者ライセンスないだろ?」
冒険者ライセンスがあると、他の国いった時に、最低限の補助が受けられる。
ないのとあるのでは、だいぶ違うのだ。
リーフベルは、懐から何かを取りだすとそれをリュートに見せる。
リュートは、取り出されたそれをまじまじと見る、そして目を丸くした。
 「というわけで、準備したら明日の朝にでもさっそく行きましょう!私も師匠に話して来ますね」
彼女はそういうと、家から駆け足出て行った。
 「リーフベル…いつの間に…」
リーフベルが取り出したものは、それは冒険者の証、ライセンスだった。
ちなみに、冒険者ライセンスを手に入れるのには、それなりの試験がある。
リュートの場合は、師匠の推薦で免除されたのだが、彼女も自分の師匠に免除を貰ったのだろうか。
彼はそんな事を考えながら、
 「すごい冒険になりそうだ」
ボソリと言った。


続く

誤字脱字あったら、すみませんです。

252(・ω・):2004/10/03(日) 18:14 ID:U1685R9.
とりあえず自作に駄作とかつけるのはやめといたほうがいいよ。
面白いと思った人に失礼。

253(・ω・):2004/10/03(日) 19:07 ID:RKJijn3U
うん。天狗になるのは良くないが、卑下しすぎるのも良くない。

254(・A・):2004/10/03(日) 19:37 ID:cBGsB66k
(・A・) 駄作ってのは、作品に言ってるんじゃないんですよ。
むかーしから使ってる名前です〜
すみません、紛らわしい名前書いてしまって。

255(・ω・):2004/10/04(月) 09:09 ID:thwqmn7g
嫌な名前だな。
どっちにしろ改名したほうがいい。

256(・ω・):2004/10/04(月) 09:13 ID:thwqmn7g
雪の彼方の作者さんも最初卑下しすぎでみんな困ってたっけ。
ところで赤証のお話↑さん?
新作期待してます^^

257(・ω・):2004/10/04(月) 10:48 ID:MhqO82ZE
保守というか何か書いたから投下

258(・ω・):2004/10/04(月) 10:48 ID:MhqO82ZE
「汝は生あるものか?」

俺には記憶が無い。いつの頃からか、マウラの護衛兵をやっていた。
いや、護衛兵というのも…おかしい表現かもしれない。
ただ単にマウラに逃げてきた人を守りマウラを守る…それだけの事をやっていた。

マウラの人々や、俺が助けた人は口々に
「そんな棒切れで良く戦えるね。」
「冒険者やっていた方が良いんじゃないの?」
「ここに留まるのは、もったいない。」
―――等と言う。

俺の武器は棒切れじゃない。木刀という刀だ。
自作した物なので見栄えは悪いが…。
俺が記憶を失う前は侍という物だったのかもしれない。もしくは忍者なのかもしれない。
どちらにしても実物は見た事が無いので何とも言えないが…。
セルビナでは良く見かけるらしいな。いつか行きたいと思っているがマウラから
離れる訳にはいかない。時折来る、冒険者を守るために…そして村を守るために。

俺が、そうして過ごしていた数日間は一瞬の出来事で終わる。

259(・ω・):2004/10/04(月) 10:49 ID:MhqO82ZE
タルタルが助けを求め、こっちに向かってきていたんだ。
俺は即座に助けに入った。だが…相手の数が多すぎた…。
何処から吊れて着たのかゴブリンに兎にキリンにマンドラゴラに骨…。
とにかく俺が盾になるしかないと全てを相手にするために立ち向かっていったはいいが
残念ながら数が多すぎたんだ。かなり苦戦をしていた。もしかすると負けるかもしれない。

さっきのタルタルと一緒ならばある程度は…と思ったが、助けを求めてきた人に
助けを求める訳にはいかない。

だが――

タルタルは、俺を指差して腹を抱えて笑ったり楽しそうに踊っている。
――そう、これは罠だったのだ。自警団気取りの俺を殺すための…。
ここで引いてはマウラが…俺は最後の力を…。

そこで、気が付いたんだ。
俺の右胸にナイフらしき物が刺さっているのを…。
――もうダメだ…。俺は…。最後に、神よ…マウラを…。

神が現れた…俺にはそう見えた。
チョコボに乗った白装束のタルタルが…俺には神に見えていた。
神はチョコボから降りて魔法を唱える。これは…白魔法か?
「邪魔!!!バニシュガⅢ!」
一瞬で、モンスター達が崩れ落ちる。俺も巻きこまれている気がするが
気のせいだろう。

「あやや?誰か倒れてるよ?生きてるかな?死んでるかな?」
「死んでるでFA!」
神と悪魔(助けを求めてきたタルタル)が会話をしている。
俺には会話に混ざる気力というか、瀕死でヤバイ状態だった。
「生きてるっぽいから、ケアルⅢ!」
詠唱に入ったと同時に…。
「手がすべったぁぁぁ!」
悪魔の方が俺にブーメランを投げつけた。

260(・ω・):2004/10/04(月) 10:49 ID:MhqO82ZE

「生と死の狭間をさまよう者よ…未だ生に戻る気があるならば現世に戻りたまえ!レイズ!」
――ささやき いのり えいしょう ねんじろ

訳のわからない言葉と共に俺は意識を取り戻した。
一体何が!?
急に起き上がろうとした俺は急激な目眩により崩れ落ちた。
「まだ肉体が死んでいる状態だから、えっと…わかりやすく言うと衰弱してるから
 大人しくしといて!!」
良くわからんが、神が言うんだ。大人しくしていよう。
「どーでもいいじゃんそんなやつは・・・。折角の暇つぶしが暇つぶしじゃ無くなったよ・・・。」
悪魔の台詞も良くわからない。

しばらくして二人とも何処かへ行った。
俺の記憶には、二人の名前の左側に同じような色の玉が付いていた事だけだった。
果たして、どちらが神か悪魔か・・・。
今となっては、どっちでもいい事だ。

261(・ω・):2004/10/04(月) 10:50 ID:MhqO82ZE
以上で終わり。

262(・ω・):2004/10/04(月) 15:53 ID:izUzpUvM
omankoage

263群雄の人:2004/10/06(水) 00:21 ID:WeqzqBQk
どもども、一ヶ月のご無沙汰でした。群雄の者でございます。
このたび連載を更新しましたので、おひまな人おられましたらどぞ。
んではでは、簡単ではありますがこれにて失礼。

http://www.infosnow.ne.jp/~sugata/FF/top.htm

264(・ω・):2004/10/06(水) 14:20 ID:p6koc4ic
>>263
早速読ませていただきました。
更新乙です。

265(・ω・):2004/10/06(水) 21:49 ID:3JPbW2Do
支援短編いきまーす!!!

266(・ω・):2004/10/06(水) 21:50 ID:3JPbW2Do
デザイナーズ ハイ


裁縫職人ダムズヘッドと言えば、
クリスタル合成を嗜む者なら知らぬ者は居ないだろう。
ガルカでありながら、ウィンダスで裁縫を学び、
その才能で1年で師範にまで上り詰めた。
数多くの顧客を持つ、生粋の合成職人だ。
彼にあこがれて、僕は裁縫を始めた。
彼のように、夢を織る職人になりたかったんだ。

裁縫ギルドの門を叩いたあの日から、もう5年が過ぎてしまった。
やっとの思いで皆伝になる実力を身につけ、
独り立ちしてやっていける実力を手に入れた。
この5年間、僕は多くのものを捨ててきた。
其の中には、夢も含まれていた。
夢を織る職人。
僕は、それにはなれなかった様だ。
利益を得るために、無駄なものはどんどんと省いていった。
利益の出ない依頼は断り、
原価との差額が大きく、需要のある商品ばかりを作り、
競売へと納品する毎日が続いた。
それもこれも自分の腕を磨くために、しかたがないことなのだ。
自らの腕前を上げるためには、それなりの数の合成を行なわなければならない。
合成をするためには材料が必要だ。
それを買うためには、大金が必要なのだ。
だから僕は、ずっとずっと利益を求めてひた走っている。
たとえそれが、自分が目指した道とかけ離れていても・・・。

そんなある日のこと。
皆伝になり、時間にも資金にも余裕が出てきたので、
僕は久しぶりにジュノにまで買出しに行こうと思い立った。
世界の中心にある国で、そこには世界中のあらゆる物が集まってきた。
ジュノに無い物はどこを探しても見つからないと言われるほどだ。
金さえ出せば、ほしいものは何だって手に入る。
たとえそれが、非合法なものであっても。
・・・物騒なことを言ってしまったが、別にやましい物がほしいわけではない。
新しい土地を開拓していく冒険者達が、
また新しい素材でも発見でもいないかと思ったのだ。
僕は、タルタルには大きすぎる程、ゴブリンの職人に拡張してもらった
巨大なカバン目一杯にクリスタルを詰め込んで背負い、
森の区のチョコボ屋で、荷物が多すぎるためにタルタル用では無く
ヒューム用のチョコボにまたがってジュノへ向かった。
最近では高ランクの冒険者でも乗ることができる様になった飛空艇だが、
それでも一般人には敷居の高いものであり、
それなりに裕福な人しか乗ることができない。
材料費を減らさないため、僕はチョコボに跨ってジュノを目指すしかない。
半日で着くものが一日かかるくらいなら別にかまわないからいいんだけど、
冒険者ではない僕には、それは結構危険なことだった。

267(・ω・):2004/10/06(水) 21:51 ID:3JPbW2Do
出来るだけ道のある場所を通り、危険な地帯は避けながらチョコボを進ませ、
僕はジュノを訪れた。
ミンダルシア大陸から1本、クォン大陸から2本の橋がかけられ、
その中心に、海の上に立てられた巨大な山の様な街は、
喧騒さえも変わらないまま聳えている。
ソロムグにかけられたミンダルシア唯一のジュノへ続く橋を渡り、その橋の上に作られた
飛空艇が発着するジュノの港に着いた。
まだ日も出ていない程の早朝に出てきたにも係わらず、
僕がジュノへ着いたのは、月が太陽の代わりにヴァナデールを照らすほどの時刻だった。
「やっぱ飛空艇のパス買っといたほうがいいのかな・・・・。」
月明かりの下、まだ人通の多いジュノ港の路地で呟く。
とりあえず僕は冒険者の登録をしていたので、
ジュノでレンタルハウスを借りて眠りに着くことにした。
ゆっくりと休んで、明日からは新素材の発掘へとジュノを駆け回らなければならない。
ランク1の僕には、たまに警備や各院のお使いみたいな仕事しかこないから、
それだけで衣食住の住が手に入るならお安いものだ。
ジュノに来た場合でも、予約をしないと停まることの出来ない宿屋と違い、
レンタルハウスは何時でも冒険者の為に開いているのだから。
一日をチョコボの上で過ごした為、おもった以上に疲れがたまっていた様だ。
ベットに潜り、暖かい布団につつまれると、
僕は吸い込まれる様に眠りのなかに落ちて行った。

268(・ω・):2004/10/06(水) 21:53 ID:3JPbW2Do
まだ陽がそれほど上っていない時刻、
僕は目を覚まし急いで着替えて部屋を後にした。
いつもそう。
ジュノに来るたび、ワクワクしてくる。
活気や雰囲気やこの喧騒が、僕の気分を高揚させた。
とりあえずこういう時は、競売で裁縫関係の分別・鑑定を担当している友人を
訪ねるのが一番手っ取り早い。
今日も元気に仕事をこなしているはずの友人を求め、
上層にある競売所専属の倉庫へと足を運ぶ。
巨大な荷物の運搬用の扉の横にある、人が出入りするための小さな扉を開け、
僕は倉庫に足を踏み入れた。
「おおい!今日の昼間での分はどこだ!鉱石の鑑定おわってるのか!」
「下層で孔雀の護符が落札されたって連絡きたぞ!特管(特別管理品輸送班)!」
「ひぃぃ!呪い系の鑑定もうやだよおおお!」
阿鼻叫喚。
相変わらずの修羅場みたいだ。
比較的暇そうな(それでも書類を山積みに持って走っている)ヒュームの女性を捕まえて、
シャクロの居場所を聞いてみた。
「シャクロ?!あいつなら奥よ奥!!今忙しいから自分でさがして!!!」
そういうと、慌しく走っていってしまった。
とりあえず僕は、この地獄の様な倉庫の中を探索しないといけない様だ。
あっちでは崩れた本の山から白いガルカの手が突き出し、ピクピク動いていたり、
こっちでは無数に並べられた刃物を、職人たちが泣きながら一つずつ磨いたりしている。
まるでパニック系の喜劇でも見ている気分に浸れる・・・。
こんなところで働いていられるシャクロを、僕は大いに尊敬できる。
偶に魔法のスクロールが暴走たり、剣が目の前に落ちてきて床に刺さったりと、
多少命の危機を感じつつも奥へと進んで行った僕は、
倉庫の奥に、布が積み上げられた机の前に座っているシャクロの後姿を見つけた。
「おーい!シャクロ!久しぶり!!!」
周りの喧騒にまけじと、僕は出来る限り大声で叫んだが、シャクロは見向きもしない。
たぶん、仕事に集中していて僕の声が届いてないんだと思い、
僕は近づくと、シャクロの肩に手をおいてもう一度呼びかけた。
「おーい。シャク・・・・。」
ドスン。
シャクロの体は、見事に弧を描いて地面へと倒れこんでしまった!
「うわぁ!シャクロ!!シャクロオオ!」

269(・ω・):2004/10/06(水) 21:54 ID:3JPbW2Do

「いやあ、すまないすまない。」
上層にあるモンブロー先生の診察所のベットで上半身を起こし、
となりの椅子に座っている僕に、シャクロは笑いながら話しかけてきた。
「もう1ヶ月も寝て無くて・・・。仕事がたまりにたまってしまっててねぇ。」
「そ、そうなんだ。相変わらず忙しそうだね・・・。」
「まあ、コレでも私は楽しんでいるのだよぅワトスン君。」
「僕はヘンリィだよ・・・。仕事のしすぎで壊れちゃったの?」
僕が印可になった頃、ちょくちょくとジュノを訪れる様になっていた。
ウィンダスでは手に入らない材料が結構あるからだ。
かなりの手間になるのだが、それでも調理をしている職人に比べたら幾らもマシだと思う。
生ものを扱う彼らは、現地まで出向き、調理の修行をする必要があるからだ。
一つの場所で材料全てが手に入らない場合、
材料がそろったときには既に幾つか腐っていた何て話は、友達からよく愚痴として聞いたものだ。
とりあえず僕は、ジュノにさえくれば値段はともかくとして殆どの材料がそろうわけだが、
何度か出向いている内に、同じ業界で仕事をしているということと、
同じタルタル族ということで、シャクロと出合い意気投合していった。
「それよりジャック、私に何か用があるんじゃないのかなぁ?
 また新しい素材についての質問かい?」
シャクロが眼鏡を押し上げて聞いてきた。
「そうなんだ。なにか発見された?」
「う〜ん。」
腕組みをして考えるシャクロ。
「そうだなぁ。血糸なんてものがあるねぇ。
 なんでも呪われた大地に在る遺跡に生息するダニから取れるらしいよぅ。」
「ほおほお。冒険者も命しらずだね。そんなところにまで入っていくなんて。」
「それがあっての私達の仕事さぁ。」
僕がメモを取りながら呟くと、シャクロは笑って言い返した。
本当に冒険者ってやつらは最高だ。
彼らが居なければ、これほど裁縫技術は発達しなかっただろう。
コンクェフト政策によって冒険者という職業が認知されてから今日、
様々な面で様々な革命が起きていた。
それは工業であったり、または歴史学であったりする。
何はともあれ、彼らは立派に社会に貢献しているってことだろう。

270(・ω・):2004/10/06(水) 21:55 ID:3JPbW2Do
「そうそう。ヘンリィに一つ頼みがあるんだぁ。」
・・・・。
シャクロが僕の名前を間違わずに言う場合、
その頼みごとというのはろくな事じゃないという統計が出ている。
「へ、へぇ〜。そうなんだ・・・。」
ハッキリいって、嫌な予感がする。
「実は、僕の友達のことなんだけどねぇ。と・も・だ・ち。」
何故か友達だけ強調されている気がする。
「なんでもこの前、やっとノーブルチェニックの材料が揃ったから、
 誰か腕のいい職人を探しているらしいんだ。」
「僕に作れってこと?」
「まぁ。そういうことになるねぇ。」
「別にかまわないけど、合成料金は・・・・。」
「無い。」
僕の言葉を遮断するかの様に、シャクロは言い放った。
「・・・まあ、友人の頼みだからダタでも良いけど・・・。」
「もう一つ問題がある。」
「?」
何故か嫌な予感がした。
「絶・対・に・成・功・さ・せ・ろ!!」
「は、はぁぁあぁああ!?」
「もしも、合成に失敗して光布をロスト(消滅)させてみろ・・・。
 絶交だからなぁ!末代まで祟ってやるんだからな!!!!」
困惑した。
職人の腕によって、クリスタル合成の成功率はかなり変わってくる。
僕程度の腕前であれば、なんとか合成は出来るし、成功確率もかなり高いだろう。
しかし、絶対はない。
どれほど優れた合成職人であっても、たとえそれがダムズヘッドであっても、
時には失敗することがあるのだ。
「彼女は、この一年間、ノーブルチェニックの為に奮闘していたのだ。
 それこそ毎日情報収集に走り、ギルを貯め、身を削ってまで
 やっと光布を手にいれたんだ。ああ、あの時の笑顔・・・・輝いていた!
 ・・・もしも失敗などして、彼女の顔を曇らせでもしたら・・・・・・。」
殺意を感じた。
「・・・・・殺してくれる・・・・。」
本気の目だった。
どうやら、シャクロは彼女とかいう人物に恋心を抱いている様だ。
僕を、そのキューピットに仕立て上げたいらしい。
だけど・・・・そんなリスクは背負えない。
「わ、悪いけど・・・・。」
「断るのかい?」
「うん・・・・。」
「ふう・・・君と出会って間もないころ、君が言っていたことを今でも覚えているよ。
 『夢を織る職人になりたい。』・・・そういっていたじゃないか。」
「・・・。」
「彼女は・・・君のような人を必要としているんだ。」

271(・ω・):2004/10/06(水) 21:56 ID:3JPbW2Do
過去の事。
僕がまだ裁縫と出会う前のことだ。
「おいヘンリィ。タルタルの癖に変な名前だな!」
耳の院の魔道学校に入学した僕は、名前や格好のことでよく虐められていた。
僕の父親はガルカだった。
本当の父親は、僕が生まれる前にヤグードに襲われて他界していた。
そして、悲しみに暮れる母を励まし、
勇気づけてくれたのが冒険者をしていた今の父親だ。
タルタルの出産とは、母体が小さい為にとても危険なものである。
そのため、僕の母親も僕を生むと、そのまま息を引き取ってしまったのだ。
冒険者である父は、殆ど家に居ることも無く独りで生活しなければならなかった。
母親が死んでしまったために、僕は父親からヒューム式の名前がつけられた。
ガルカ式だと、差別されることがあるだろうという、父親の愛情だったようだが、
どうやらそれでもウィンダスでは異端だったのだろう。
そして衣類は、父親が冒険の先々で買ってきてくれる民族衣装などしかなかったため、
タルタル族の集まる学校では、異質でしかなかったのだ。
僕は自分の名前も、父親の買ってくる服も嫌いでなかった。
むしろ、誇りに思っていたのだ。

272(・ω・):2004/10/06(水) 21:57 ID:3JPbW2Do
だけどある日・・・・。
「まーた変な服きてる!たまには普通の服きてきなさいよ!」
「むりだよ!こいつのとうちゃん、ガルカなんだぜ!」
「あはは!へんなの!」
「・・・・。」
僕は、こみ上げる憤りを、うつむいてジッと耐えることしか出来なかった。
「なによ!黙ってないで何か言いなさいよ!」
「変な名前!変な服!」
「こんな服着てんなよ!」
そういうと、一人が僕の服の背中の裾を強く握って・・・・。
ビリリリリ。
大きく破いてしまった。
「変な服!」
そしてもう一人も、僕の着ている服を破きだした。
「やめて!やめてよ!!」
泣き叫ぶ僕を無視して、その行為は行なわれた。
暗くなる頃、僕は無きべそをかきながら、家への帰路を辿っていった。
また誰も居ない我が家の扉を開く。
しかし、いつもは真っ暗な部屋には、明かりが灯されていた。
「やぁヘンリィ、ただいま。」
「お父さん・・・。」
僕の格好を見て、父親は僕に駆け寄り、そして優しく肩を抱いてくれた。
「ヘンリィ・・・・その格好・・・どうしたんだい?」
「ごめんお父さん。お父さんの買ってきてくれた服、破かれちゃった・・・。
 みんなが、変な服だっていって・・・・。う・・・うぅ。」
悲しそうな、それでも優しい目で、父親は僕を見つめて呟いた。
「そうか、ごめんよヘンリィ。・・・そうだな、その場所に合った服の方がよかったよな。
 ちょっと待っていなさい。」
そして父親は立ち上がり、自分のカバンの中から、黄色い石と、布と糸を出して持ってきた。
「じっとしているんだよ。」
そういうと、僕に手を添えてゆっくりと目を閉じた。
父が手を軽くゆすると、僕は暖かい光に包む。
糸や布が宙を舞い、一つの形を精製していく。
まるで魔法の様な光景に、僕は目を丸くして驚いていた。
徐々に光が大きく、強くなり、一瞬、眩い光が僕を包んだ。
それは、とても目を開けていられないほどだ。
「さあ、目を開けてごらん。」
父親の声に、僕はゆっくりと瞼を開いてみた。
すると。
「うわぁあ!」
僕のぼろぼろだった服は、魔道士団が来ている様な黒いローブに変わっていた。
「すごい!!すごい!!!」
「これからは、もっと一杯作ってやるからな。」
よく考えてみれば、他国の民族衣装などにタルタルのサイズがあるわけが無い。
それは全て、父親が作ってくれたものだったのだ。
僕の父親は、夢を織る裁縫職人。
父親にあこがれて・・・学校を卒業すると同時に、僕は裁縫の道へと進んだ。

273(・ω・):2004/10/06(水) 21:58 ID:3JPbW2Do
ウィンダス森の区。
ここに在る裁縫ギルドの本拠地に、僕とシャクロと依頼者のエルヴァーンの女性は居た。
「あの、無理なことを言って申し訳ありません。」
依頼者のミルコルディさんが、僕に深々とお辞儀をして言う。
とても美しい女性だ。シャクロが惚れるのも分かる気がする。
「いやいや!とんでもない!ミルコさんのためなら、こいつは死んでも本望ですよぉ!」
何故かシャクロが答えていた。
「ええ、そのとおり・・・・。」
緊張の余り、僕はそう答えるのが限界だった。
結局僕は、この依頼を受けることにした。
親友の頼みでもあるし、それよりミルコさんが
どれほど必死になって光布を手に入れたのかがよく分かったからだ。
シャクロから聞かされたことは、誇張してあったとしても、それはそれは大変なものだった。
なんとか、彼女の為にノーブルチェニックを完成させたい。
彼女の夢を織りたい。そう思ったからだ。
ギルドの職員から合成イメージのサポートを受け、僕は黄色のクリスタルを手にとった。
「お願いします・・・。」
ミルコさんの切実な声が僕の耳へと届く。
今までに感じたことのないプレッシャー。
僕は、夢を織るんだ!
手をクリスタルに沿え、淡い光が当たりを包む。
美しく織られた光布をはじめ、材料が宙にういて形を成していく。
ゆっくりと手を動かし、その光に集中する。
周りで合成していたほかの職人たちも、その雰囲気を感じ、
手をとめて僕を見ている。
辺りは静まり返り、その静寂は、僕の集中力をより高める。
糸が舞い、布が形を成していき・・・そして・・・。
辺りを眩い光が覆った。
・・・パリーン・・・。
「・・・あぁぁ・・・。」
無常な音が響き、周りからは嘆きの様な声が漏れた。
「あ、あああ・・・・。」
僕は、絶望の中、目を開けて床をみる。
そこには、まるで金属の様な質感を持つ、美しい光布が落ちていた。
「おおお!」
「よかったなぁ!」
「頑張れ!まだ大丈夫!」
ギャラリーからの声援が起こった。
殆どの素材が失われること無く、砕けたクリスタルの上に落ちていた。
「・・・ヘンリィさん・・・。」
ミルコルディさんが、僕に縋る様な視線を送る。
「ヘンリィ、昨日はあんなこと言ったけど、リラックスしてやってくれよ。」
シャクロが、僕の肩に優しく手を添えた。
「うん・・・次は・・・絶対!」
新しいクリスタルをカバンから取り出す。
失敗は出来ない。ミルコルディさんの為、シャクロの為、
そして・・・僕の夢の為に。
クリスタルに手を添えると、辺りが静まり返る。
静寂の中、クリスタルは暖かい光を放つ。
そうだ、父さんの光だ。

274(・ω・):2004/10/06(水) 21:58 ID:3JPbW2Do
僕が選んだ道は、安全で確実な道だ。
その道を全力で走りぬけた。
息は切れ、全身を疲れが覆うその時、僕に訪れたデザイナーズハイ。
忘れていた夢、希望、そんな幻想が僕を呼んでいる。
ゴール寸前、僕は踵を返し逆走してゆく。
見つけるために、自分の道を。
迷いながら、僕はなくしてしまった自分の道を探して舞い戻る。
また全力で、またいつかデザイナーズハイを見るために。

275(・ω・):2004/10/06(水) 21:59 ID:3JPbW2Do
後日談。
「あのー・・・。」
僕はジュノ上層にある、競売所の専属倉庫を訪れた。
この前、シャクロの居場所を尋ねたヒュームの女性が、
コーヒーの入ったカップを何十段と重ねて走っていたので、また尋ねてみた。
「すいません、シャクロは・・・・。」
「あのね!!いま忙しいの!!!自分で探してください!!!!」
来るたびに芸のレパートリーが増えている気がする。
とりあえず僕は、またまたこの危険地帯を探索しなければならない様だ。
あっちでは爆発事故が起こり、そっちでは謎のモンスターが駆け巡る倉庫の中、
僕は命がけで奥へと進んでいく。
いつもの様に、隅にポツリと在る机に腰掛けるシャクロを見て、僕は何時もの様に声をかけた。
「おーいシャクロ。おーいおーい。」
そして手をシャクロの肩へ置くと、
ドスン。
「うわぁシャクロ!!シャクロオオ!」
と、あわてていると、後から声が掛かった。
「やあワトスン君。マネキン抱いて、なに泣いているのかなぁ?」
そう、それはよく見るとタルタル族のマネキンだった。
「・・・わざとだろう・・・。」
「ふふ、そろそろ来ると思ってね。」
ごほん。
僕は咳払いをしてから立ち上がり、彼に聞いた。
「そういえば、あれからミルコルディさんと上手くいってるの?
 ミルコルディさんて、白魔道士じゃなかったから、あれ着れるのか心配で。」
『アリストチェニック』は、女神の祝福を受けた高位の白魔道士しか着る事の出来ない。
確か、ミルコルディさんはジャーキンか何かを着ていた気がする・・・。
「あぁ・・・彼女ね・・・・。うん。上手くやってるよ・・・・。
 彼氏にプレゼントしたアリストチェニックのおかげで、今度結婚式をあげるらしいよ・・・・・。」
「・・・・ごめん・・・・。」
「・・・・謝らないでくれ給え・・・。み、惨めじゃないか・・・・。」
これから僕は、夢を織る職人を目指して全力疾走する。
父さんの様な・・・・そう、ダムズヘットの様な男になるために。

おわり

276(・ω・):2004/10/07(木) 22:02 ID:6rL/8NrE
性欲をもてあます

277(・ω・):2004/10/07(木) 23:55 ID:JiAzb.3.
デザイナーズハイ、面白かった!
競売所倉庫の描写も面白いね、なんかここを舞台にドラマが
いろいろありそう。続きあれば嬉しいです。

278(・ω・):2004/10/08(金) 11:39 ID:vCd5thHI
【えーっと】【名無しの話】【つづき】【どこですか?】

279(・ω・):(・ω・)
(・ω・)

280(’・ω・`):2004/10/09(土) 02:05 ID:NaQLp1dI
初投稿
題名ないっす

プロローグ

人の死体が2つ。まわりには大量のオークの死体。
そして人の死体のそばに立つ黒い影。
黒い影が死体に向かって言った。
「お前たちの体使わしてもらおう。我が王のために。」
言った後、黒い影は霧のように消えていった。
人の死体もまた黒い影と同様に消えていった。
残されたのは大量のオークの死体だけ・・・・・。

1話 双子の魔道士

――ウィンダス水の区――
「こらー待ちなさい!」
青い髪のポニーテールの少女が走りながら叫んでいる。
「待てっていわれて待つ奴はいねぇーって」
同じく青い髪の少年が叫び返す。
「いい加減にしないと怒るわよ!」
「もう怒ってんじゃん」
走りながら叫びあう奇妙な2人は、タルタルで双子の姉弟である。
少女の名前はペルル少年はアルロ。この2人の叫びあいは日常茶飯事である。
「もうどうなっても知らないから!」
そう叫んだ後にペルルは足を止め、ぶつぶつ言い始めた。
アルロはペルルの叫びが聞こえたから安堵し止まってペルルのほうを振り向いた。
振り向いた先にはじっとこちらを向いて何かを口ずさんでいるペルルと目が合った。ペルルがにやりと
笑うのがわかった。
アルロは慌てて踵を返した瞬間、ペルルの「バインド」という叫び声が聞こえた。
アルロは走ろうとするが足が地面から離れない。バインドは氷の力で足が地面から離れなくなってしまう魔法である。
魔法がかかったのを確認するとペルルはゆっくりとアルロのほうへ歩いてくる。満面の笑みを浮かべて。
アルロは必死になって足を動かそうとするが動かない。だんだん背中に感じる悪寒がひどくなってくる。
だけど振り向けない。怖いから。
「ア〜ル〜ロ〜く〜ん」
アルロが必死になってるところに後ろから怨念が詰まった声が聞こえてきた。
アルロがゆっくり後ろを向くと満面の笑みを浮かべ両手持ちようの杖を持ったペルルと目が合った。
ペルルは満面の笑みを浮かべたまま杖を振り上げ「ごめんなさいもうしません」などと言っているアルロに向かって振り下ろす。
――ドゴッ
鈍い音が水の区に響き渡った。

その後、魔法学校と言われる耳の院までペルルにひきづられるアルロが目撃された。

281(’・ω・`):2004/10/09(土) 02:11 ID:NaQLp1dI
上の続きでふ
2話 旅立ち

今日は魔法学校の卒業式。アルロとペルルも今日卒業した。そしてその帰り道。
「ペルル、ほんとに・・ぎゃ!」
――バコッ
アルロがすべてを言う前に叩かれていた。
「姉さんと呼びなさい」
杖でアルロの後頭部を叩いてから言った。
「叩く前に言ってよ!」
目尻に涙をため、後頭部を押さえて訴えた。
「何度も言ってるのに聞かないアルロが悪いんでしょう?」
「だって双子なんだからいいじゃん!」
そうアルロが言っても
「駄目よ。だって私の方が早く生まれたのよ。だから諦めなさい」
「そんな少し早く・・・」
反論しようとしてペルルの顔を見たアルロはその先を言えなかった。
ペルルは満面の笑みを浮かべていたのである。
アルロは諦めて言い直した。
「姉さんほんとに口の院に入るのか?」
「アルロあなた何言ってるの?」
ペルルが呆れたといった顔で答えた。
「姉さんはハイクラスだろ?普通はどこかに院に就職だろ?」
「馬鹿ね」
「何をー!!」
アルロは怒ってペルルに襲い掛かろうとするが
――ゴチッ
簡単に杖で撃沈された。
「私がハイクラスにいたのは自分の力を試したかっただけよ」
鼻を押さえて痛がっているアルロを無視して言った。
「えっじゃあ」
アルロが鼻を押さえたまま喜びの声を上げる。
「そうよ。父さんと母さんを探しに行くわ。なんで私達を8年間も放かってたのか理由を聞かなくちゃ!」
「「だから冒険者になる!!」」
2人が同時に叫ぶ。
「でもアルロわざとロークラスに留まるの大変だったでしょう?」
アルロは驚いてペルルの方を見て一言。
「なんだバレてたのか」
「当たり前でしょ」
当然のようにペルルは言い放った。
「今日は帰りましょ。明日、冒険者登録と準備をして明後日出発するわよ」
「はぁ?今すぐ登録して出発すればいいじゃん」
そう言うアルロに向かって「馬鹿ね」とペルルの一言。
「なんだとー!!」
またもペルルに襲い掛かろうとするアルロ・・・
――ドガッ
――ベキッ
綺麗な弧を描いてふっとぶアルロ・・・
――バッシャーン
川のなかに頭から着地した。
「さっさと帰るわよ」
アルロを川の中に置いてさっさと歩き出すペルル。
自分に回復魔法であるケアルをかけて後を追うアルロ。

――次の日――
2人は天の塔で冒険者登録をしてシグネットと呼ばれる宝石をもらい。
そしてアルロは白魔道士が好んで着るチュニックと呼ばれる防具と武器を買った。
ペルルは新しい杖とローブを買った。

――出発の日――
「さぁ行くぞー!」
アルロの声が元気に響き渡った。
ペルルはやれやれといったふうに首を横に振った。


ここから2人の魔道士の物語が始まった。

つづく

書いてみたが他の作者様の足元にも及ばない('Д`;)ゞ
題名無いので誰か考えてくださるとありがたい('Д`;)ゞ

282(・ω・):2004/10/09(土) 12:40 ID:rx/NvZbE
>>280
親を訪ねて三千里

・・だめか(´・ω・`)

283デザイナーズハイ書いた者です:2004/10/09(土) 14:28 ID:QuLZl0rU
>>277さん、ご意見どうもありがとうございます。
楽しんでいただけたようで、とても嬉いです!
続きも書いてみたいのですが、長編となるとそれなりの才能が必要の様で、
私めには、ちと荷の重い作業でありまして・・・・。
これからも短編をちょくちょく出していきたいと思いますので、
読んでいただけるとありがたいです。

284(・ω・):(・ω・)
(・ω・)

285(・ω・):2004/10/12(火) 03:02 ID:kdK6Y9NY
久々に短編でも。
最近すっかり短編屋です。それも月1ペース。
しがない書き手の一人にすぎませんが、みなさまの楽しみの一滴になれば幸いです。

286騎士の魂 1/10:2004/10/12(火) 03:03 ID:kdK6Y9NY
騎士の魂


それは、少しばかり昔の話。
ちょっと前というには、少し時間の経ちすぎた、
けれど、おとぎ話になるには、まだ早い。
その程度の昔の話。


アイツを見返してやりたい。
一人でダボイなどという、オークの本拠地につっこんだのは、それが・・・
それだけが理由だった。

周りの迷惑なんて見えてない、考えてない。
あまりにもガキな俺を助けてくれたのは、ただ気まぐれだったのだろう。

彼の職業は詩人だった。
俺は彼の名前さえ知らない。
それでも、俺にとって、彼は偉大な騎士――守る者、盾なる者であり、
いつか追いつきたいと思っている憧れでもある。


俺が彼とはじめてあったのは、ダボイの入り口からちょっと進んだあたり。
俺が一人で相手をするにはちーとばかり、しんどい相手がいる場所でのこと。

入り口のオークはそんなに強くない・・・というか、俺でも何とか捌ける位
だったから、油断していた。

がすっ。

気がついたら、後ろから一発殴られていた。
ここが獣人の・・・オークの本拠地だと言うことはわかっていたはずなのに、
警戒を怠った自分のミスだ。
だからと言って、今更目的を果たさずに帰る気はないが。
普段行動をともにする仲間達・・・といってもここ2〜3ヶ月程度のつきあい
だが・・・に同行を断られて半ばやけになっていたのかもしれない。
それでも、自分が冒険者になった目的の一つを果たすために、今更引けなか
った。

287騎士の魂 2/10:2004/10/12(火) 03:04 ID:kdK6Y9NY
非常用に、常にHP回復のための薬品は保持している。
問題は、薬品類がつきる前に相手を倒せるかどうかと言う点だろう。
特定の種族のモンスターは、仲間が戦っていると、手助けせんとしてか、
参戦してくる者が居る。
その代表格が獣人だ。
つまり長引けば長引くほど、そうやって参戦される危険性が高い。
1体でもいっぱいいっぱいの俺が、複数のオークを相手取って勝てるとは
思えない。

それでも、戦わなければ物言わぬ骸として地面に転がるのは、わかりきって
いたから、気合いを入れ直して相手と相対する。
いざとなったら、ジャグナーの入り口へ逃げればいい。
それがどんな結果をもたらすかなんて、考える余裕は無かった。

声を掛けられたのは、そんな状況だった。

「おーい、お前さん、一人か?」

のんきな声。
あまりにも場違いな声に、反論しようとした俺の目に入ってきたのは、相対
するオークに参戦しようとする、もう1体を剣で切り伏せる男の姿だった。
かなりの軽装。
身につけているそれが、ローブの一種であることは見て取れたが、どのくらい
のランクにある装備かまでは、わからなかった。
もっとじっくり見ればわかるだろうが、そんな余裕はない。
戦士じゃないだろう、おそらくナイトでもない。
それらの職業なら、鎧をまとうはずだから。
考えられるのは、素早さを身上とするシーフ、そうでなければ詩人か赤魔道士。
どちらにせよ、詩人だろうがシーフだろうが、赤魔道士だろうが、同じぐらい
の実力をもつ戦士やナイトに比べれば、剣技ではどうしても劣ってしまう。
それらの職業が弱いという訳ではない。ただ、得意とする分野が違うだけだ。
それが、あんなにあっさり相手を沈めているということは、技の速さと重さが
桁違いということだ。
要はそこに居る男が、俺より遙かに強い実力者だと言うこと。

目の前のオークとにらみ合いながら、一言だけ返す。
「ひ・・・一人だが、それが?」
訝しく思ったのが顔に出ていたのだろう。
「あ”−・・・とりあえず、パーティに誘うから、承諾してくれ」

288騎士の魂 3/10:2004/10/12(火) 03:05 ID:kdK6Y9NY
何かの呪縛なのか、よくわからない。
が、世の中には妙な『決まり事』が、有って、他の誰かが戦闘中の相手に途中
から手を出すことは、戦ってるやつと同じパーティやアライアンスにいるか、
戦ってるやつが救援を読んでいる場合にしか出来なかった。
『世界の理』ってやつなのかもしれないが、不便なことだ。

パーティに誘う。つまり、俺が相手をしてるやつを目の前の男も相手に出来る
ようになる。
たぶん、俺が相手をしているやつを一緒に倒してくれると言うことだろう。
「わかった」
短く答える前に、誘いがきたので、素早く承諾する。

さっきははっきりと、見た訳じゃないから実感は出来なかった。
けれど、今度は、同じ個体を相手にし、彼は目の前に居る。
その技の冴えは、今の俺ではとうてい及ばない域にあることだけは、よく
わかった。

謎の男が、ハープを取り出して、体力を回復する呪歌――ピーアンを歌った
事で、俺は相手が詩人で有ることを知った。
ただ、彼が何故俺を助けたのか。
それはさっぱりわからなかった。

「あの、ありがとう。あんたのおかげで助かった」
わからなかったが、助けられたのは事実だ。
礼を言わねば男が廃る。
「はいはい。気をつけろよっと・・・待て」
相手に礼を告げ、その場を立ち去ろうとする俺の襟首を捕まえて、詩人は、
不審そうに尋ねた。
「どこに行くんだ?」
心底不思議そうな問い。
この時、とっくに相手のペースに巻き込まれていたのだろう。
「・・・」
思わず不審そうに相手を見る。
「どこに行くかわからんが、お前冒険者だろ。それなりには経験を積んだ」
「・・・」
なんと答えて良いのかわからず、思わず口ごもる。
「黙りかよ。まぁ、良いや。お前なー。逃げれば良いって思ってたのかも
しれねーが、あれは無茶だぞ?」
黙りなら黙りでかまわないと思ったのか、突然説教を始める。

289騎士の魂 4/10:2004/10/12(火) 03:07 ID:kdK6Y9NY
「あの位置から、ジャグナーの方に逃げようと思ったら、相当な数のオークが
 襲ってくる。お前さんも無事逃げられるかはわからんし、なんも知らないで
 入ってくる他の冒険者もかなり危険」
・・・思い至らなかった。
自分の身が危険なだけだと思っていた。けれどよくよく考えてみればすぐに
わかる話だ。
獣人族は、この世のモンスターの中でおそらくもっともけんかっ早い・・・。
「オークの感知は視覚なんだ。世の中には便利な『姿隠し』の方法が有るだろ。
 インビジなりプリズムパウダーなり、使える物を使えよ」
確かに、使えれば良かったんだろう。だが。
「・・・・ない」
正直言ってかなり恥ずかしい話ではある。
「はっ?」
何を言っているんだ、コイツは。という表情になる詩人に、半ば吐き捨てるように告げる。
「パウダーは、買えなかった。俺は戦士だからインビジは使えない」
オークの感知は視覚だ。
つまり、『姿隠し』をすれば、相手に気取られずに行動出来る。
そして、この世に有る『姿隠し』の方法は、俺の知る限り二つ。
錬金術師の作る光を屈折させて姿を隠す粉・プリズムパウダーを自分の廻りに
振りまくか、白魔道士あるいは赤魔道士の使う『インビジ』の魔法だ。
さっき詩人に告げたように俺は白魔道士でも赤魔道士でも無いから、インビジ
は使えない。
プリズムパウダーはサンドリアの競売では手に入れられなかった。
ジュノに・・・手に入らない物はないと言われる彼の都に行けば、おそらく手
に入れられただろう。
けれど、その暇も惜しいと思っていた。

今、ここで準備不足を指摘されるまでは。

唇をかんでうつむく。

「ふむ・・・見所が無いではない・・・」
呟くような言葉は、よく聞き取れなかったが、そう聞こえた。
顔を上げると、からかうような空気を潜め、どこか真剣な表情でこちらを
見ている詩人と目があった。

「ナイト・・・騎士の試練か?」

どんぴしゃだった。
あまりにも、あっさりと目的を看破されたので無言で頷き、その推測が正しい
物であることを相手に伝える。

290騎士の魂 5/10:2004/10/12(火) 03:08 ID:kdK6Y9NY
ぴんと張りつめた空気。

「お前さん、金はもってるか?」
にやりと笑ってその空気を破ったのは、その空気を作り出した詩人当人だった。
何故そんな事を言いだしたのか、よくわからない。
が、答えなければならない様な雰囲気を醸し出されてしまったので、渋々と、
手持ちの金額を相手に告げた。
「よし、俺の手持ちのパウダーを譲ってやる。それを使って力試し、やってみな」
へっと思い相手の顔をまじまじと見つめる。
「そんなに見つめるな、照れるじゃないか」
止められると思っていた。
「いや、えーと」
なんと言って良いかわからない。
「俺もついていってやるよ。ただし、手助けはしない。課題は自分で解きな」
じっと相手を見つめる。
相手も目を逸らさずにこっちを見る。
この人は信用できる。
そう思った。
何故、見ず知らずの俺にここまでよくしてくれるのかはわからない。
その申し出に甘えて良いのかも、本当のところ、わからない。
けれどそれは本当にありがたい申し出で・・・結局甘えてしまった。
それは、結果的に俺に宝物のような思い出を残すことになる。
もちろん、この時の俺がそんなことを知るよしもないのだが。


詩人は本当に何も口を出さなかった。
相手もパウダーを使って姿を隠していたから表情はわからなかったけど、
確かにそばにいる。それだけはわかった。

そばに人がいる。
ただ、それだけのことがどれほどありがたいことなのか。
そのことを、知った。

ほとんど何も考えずにダボイにつっこんだ俺だけど、一応地図と課題の書を
にらめっこして、場所の当たりはつけていた。
それが見当違いの場所で無いことを祈るだけだ。

効果が切れそうになった、プリズムパウダーを振り直し、地図をこまめに
確認しながら目的の場所を目指す。

291騎士の魂 6/10:2004/10/12(火) 03:09 ID:kdK6Y9NY
そうやって、いくつかのパウダーを消費したところで、俺は目指す場所へと
たどり着いた。
謎掛け歌の様な、課題の言葉をひもといた先にある、騎士の魂の眠る場所。

それはとても古い井戸だった。

井戸の周りは殺風景だった。
もっと仰々しいモノを期待していた俺は、少々あっけにとられたのも事実だ。
詩人がそっと苦笑する気配を感じる。
もしかしたら、かつて彼も同じ思いをしたのかもしれない。

ついた。後少しで、試練を果たせる。
そう思ったことが油断を招いたのだろう。
周りを確認せずに、プリズムパウダーによってもたらされる『姿隠し』の
効果を切った俺は、オークの集団に、気取られてしまった。

しまった。と思ったがどうしようもない。
ここまで助けてくれた人間を巻き込む訳にはいかない。

逃げろ。

と告げようとした俺の目に入ったのは、竪琴を取り出して、かき鳴らす詩人
の姿だった。
おい・・・と叫びそうになる俺を素早く制し、詩人は古い井戸を指さした。
「足止めしておくから、さっさと行け」
言うが早いか、竪琴で、眠りを誘う歌――ララバイを歌い、次々とオークを
眠らせていく。
「でも」
好意から、何の関係もない人間の手助けを申し出るような相手が襲われるの
を黙って見ているわけには行かない。
「足手まといだ。下手に手を出すな」
きっぱりとした言葉。

確かに、俺と詩人では実力が違いすぎる。
俺など、よちよち歩きの幼子のようにしか見えていないのだろう。
それでも・・・
「けど」
言い募ろうとした俺を、片手で制し、ひらひらと手を振ってさらに詩人は
言葉を紡ぐ。

292騎士の魂 7/10:2004/10/12(火) 03:10 ID:kdK6Y9NY
「いいから、さっさと行け。俺もおまえも生き残る最善を俺はしているだけだ」
それ以上の反論は、相手に失礼だと思った俺は、ふとその言葉を口にしていた。
「ありがとう」
その言葉を聞いて、詩人の口がふわりと緩む。
「きちんと礼の言える子供は好きだよ」
彼我の実力差は理解しているつもりだが、子供扱いされるのは嫌いだ。
思わず言い返していた。
「子供じゃねぇ」
相手を背にして走っているのだから、表情は見えない。
でも、詩人がにやりと笑うのが見えた気がした。
「子供だろ」
そんな言い合いがひどく嬉しい。
おかしな話だ。

ひどく場違いなことを思いながら、目当ての場所に走り寄る。

古い古い井戸。
その縁に、古びた剣の柄があった。
きっと、これだ。

「あった。たぶん取れた」
「そうか」
そう言うと、詩人は俺の方に走り寄り、エスケプを詠唱し始めた。
詠唱が後わずかで完成するというそのとき、眠らせていたオークのうち1匹が
眼をさました。
怒りに燃えるオークが、詩人めがけて剣を振り下ろす。
とっさに詩人をかばおうとして、俺は詩人とオークの間に入った。

切られる。

そう思った、その間際。
ぎりぎりで完成した黒魔法の時空のゆがみが詩人と俺を包み、一瞬の後には
ダボイの入り口から少し離れたジャグナーの森へ移動していた。

いまいち現実感のないまま、荷物に加わった古びた柄を見つめながらぼんやり
とする。
詩人がやれやれと言わんばかりにのびをするのが目に入った。
何とも奇妙な空気が流れるが、自分から何か言い出すのも今更気恥ずかしく、
黙ったまま柄を見つめる。

293騎士の魂 8/10:2004/10/12(火) 03:11 ID:kdK6Y9NY
ふと、思いついたように相手が尋ねてきた事は、意外なほど心をえぐった。
「何のために騎士になりたいんだ?」
考えようにしていた。
ただ、ひたすらに、見返してやろうと思っていたから。
でも、よくよく考えれば、詩人の・・・何の関係もない、見ず知らずの人間
の手を借りなければ、俺は試練を突破する事すら出来なかったのだ。
「なんだよ、いきなり」
黙り込むのがいやだった俺は、思わず悪態をつく。
この性格、どうにかせねばとは思うのだが、すぐに直る様なもんでもない。
「いや、ちーと気になったんでな」
俺の悪態など気にもとめないという風情で詩人が返す。

かなわない。
この人は、今の俺じゃ太刀打ち出来ないほど『大人』だ。

「いいじゃねえか、あんたにゃ関係な・・・くも無いか。
 ここまで手伝ってもらってその言いぐさはねえよな」
悪態でごまかそうと、思った。
でも、出来なかった。
結局俺はガキだと言うことなんだろうか。
それでも、多分。誰かに聞いて欲しいと思っていたのも事実だ。
母親が居なくなってから、だれにも言うことが出来なかった本音を。
「いい子だ」
ぽんぽんと頭をはたかれる。
子供扱いは嫌いなはずだ。なのに、正直悪い気分じゃない。
それが、余計に気恥ずかしくて、思わず声を荒げて、反論する。
「だから、子供じゃねぇ!」
「で?」
どこ吹く風の詩人。・・・ムキになっている自分があほらしくなった。
「見返したかったんだよ・・・俺を・・・お袋を見捨てた父親を」
「父親?」
「サンドリアの騎士団のお偉いさんらしいんだが、お袋を捨てたんだ」
本当は違うのかもしれない、けれど俺はそう認識してる。
「お袋は苦労して俺を育ててくれた。
 お袋が病気になったとき俺は父親ってやつに会いに行った」
だれにもいえなかった。弱音なんて、言ってられかった。言いたくなかった。
「お袋を助けてほしかったんだ」
チガウ・・・ホントウハ・・・オレガ・・アッテミタカッタンダ。
「だけど、アイツは俺を汚物か何かを見るような目で見た」
オレハ・・・イラナイコドモ・・・ダッタ。

294騎士の魂 9/10:2004/10/12(火) 03:12 ID:kdK6Y9NY
詩人は黙って続きを促した。
俺のことを励ますことも、親父を非難することも、その逆もなかった。
そのことにひどくほっとしたのはなぜだろう。
「バイトもしたし、ちょっとばかり危ない仕事もした。
 ・・・俺の家族はお袋だけだったから。
 でも間に合わなかった」

「そうか」
うつむいた頭を、ぽんぽんとはたかれる。
「・・・ありがとな。あんたのおかげで俺はナイトに・・・騎士になれる」
ナイトという職業は、本音を言えばずっと憧れだった。
母親がうれしそうに語る父親との日々。
小さな俺にとって一番身近な英雄譚。
あこがれていたから。
だからこそ、あのときの父親だというやつの態度にむかついたのだろう。


「俺は騎士に一番必要なのは覚悟だと思っている」
俺の話を聞いた後、何かを考え込んでいる様に見えた詩人が次に発した言葉
は、それだった。
「覚悟?」
何の事かわからず思わず聞き返す。
「大切なものを守る覚悟・・・。お前さんなら大丈夫だとは思うがな」
何か遠い物を見るような目をして、言葉を続ける。
「なんのことだよ」
「エスケプの詠唱が完了する寸前、お前さん、俺のことかばおうとしただろ。
 目を覚ましたオークから」
何をとぼけたことを。
思わず、相手の言葉を遮ってしゃべっていた。
人の話を中断させるのは無礼なことだとはわかっていたけど。
「あたりまえじゃねぇか。手伝ってくれた人怪我させるわけにはいかねえし、
 いくらあんたの方が強いとはいえ、仲間を守るのが騎士の仕事だろう?」
ふわりと目を細めてこちらを見やる詩人。
なんだか居心地が悪くなる。
「大丈夫。その気持ちを――騎士たるこころを忘れなければ、立派な騎士に
 なれるだろうさ」
なにやら難しいことを言われてる気がする。
それでも、言葉に含まれる意味は、俺にとって嬉しいものだったので、確認
してみることにした。
「なんか、釈然としないけど、一応ほめられたんだよな?」

295騎士の魂 10/10:2004/10/12(火) 03:13 ID:kdK6Y9NY
「そうだぞ?」
何を言ってるんだという表情。

この人は詩人だ。
でも、何となく思った。
この人は、詩人だけど、守る人だ。

――盾なる者。俺のあこがれた・・・

「ありがと。俺がんばる」
気恥ずかしいから、口に出来たのは、そんな簡単な言葉だった。
そんな俺の、内心を見透かすように、詩人は笑って答えた。
「がんばれ」

それが別れの言葉になった。

俺はそのままサンドリアへと引き返し、詩人はまたダボイへと向かったから
そこで別れた。
名前を聞いていなかったことに気付いたのは、サンドリアにつく直前だった。
自分のぼけっぷりに愕然としたが、今更どうしようもない。
ジュノに行ったときに詩人酒場を張るしかないな、と心を定める。


騎士の魂・・・きしのこころ。

このときの彼の言葉の意味を、俺が真に理解するのは、だいぶ後の話になる。


<fin>

2961/3:2004/10/16(土) 01:04 ID:.WLbCCK6
[ OK ! まずは Run Run Run ! ]

風が気持ち良い。
草原を駆け抜ける風は、熱く、強い。

今、俺は風となり、この草原を駆け抜ける。

「Ha-!Ha-!Ha-!」
「なにが、おかしいのですか?」

「なんだよ?相棒、楽しくないのかい?」
「アナタはこの状況を、楽しめと言うのですか?」

「やれやれ。人生は楽しまなきゃ損、だぜ?」
「それは論点が違います。とにかく、
アナタは現状を正しく理解すべきです」

「現状ねぇ。そうだな。もう走るは疲れたぜ」
「それは原因を無視しています。
ワタシ達は走る必要性があります。お忘れですか?」

「忘れるワケないだろう?こっちは命懸けなんだぜ?」
「そもそもアナタの軽はずみな行動が、
命を賭ける様な状況を作り出しています。
もっと考えて行動することを希望します」

「そんなこと言うなよ。こんなことは滅多に体験できないぜ?」
「ワタシとしては、あまり体験したいことではありません」

「そうか?体験に勝る知識なし、だぜ?」
「君子、危うきに近寄らず。命あってのモノダネです」

「それも、そうだ!」
「少しは反省して下さい。自分の強さを過信して、
相手の強さも確かめず剣を振るうのは愚かです」

「確かにアイツの一撃は、ものすげぇイテぇな!」
「よく調べて下さい。計り知れない強さです」

「どうりで。そりゃ強いワケだ!」
「アナタの意外性に脱帽です」

「Ha-!Ha-!Ha-!」

俺は走る。
相棒も走る。
そして、暴走雄羊は止まらない。

2972/3:2004/10/16(土) 01:04 ID:.WLbCCK6
[ OK ! つぎは Sweet Memory ! ]

俺は生きている。
今日、俺は生きることの素晴らしさを知った。

この喜びを、是非ともキミに伝えたい。
今すぐキミに会いに行くよ。

「Ha-!Ha-!Ha-!」
「なにが、おかしいのですか?」

「なんだよ?相棒、生きている喜びを感じないのかい?」
「ワタシが感じているのは、
偶然通りかかった冒険者への感謝の思いです」

「そうだな。俺達はラッキーだ」
「アナタも、少しは感謝した方が良いと思います」

「そんなことより相棒、俺はちょっと出掛けてくる。
適当に暇を潰しててくれ」
「また、彼女の所ですね。わかりました」

「そうさ!俺の可愛い子猫ちゃん!待ってておくれ!」
「何度も言いましたが、彼女はアナタの所有物ではありません」

「ちっ!ちっ!ちっ!妬くなよ。みっともない」
「そうではありません。彼女はミスラの子供です。
アナタは、青少年保護条例に違反する恐れがあります。」

「まあ、聞けよ。俺と子猫ちゃんはラブラブなんだぜ?
そうさ、これは運命なのさ。この絆は、どんな障害にも負けないのさ。
ふぅ、やれやれ。しょうがねぇな。
それじゃあ、俺達の運命的な出会いのストーリィ、特別に教えてやるぜ」
「その話を聞くのは、これで18回目です」

「いいから黙って聞けよ!」

2983/3:2004/10/16(土) 01:05 ID:.WLbCCK6
…… 回想シーン 開始 ……

「その当時、俺は少し荒れていたんだ。
PT参加希望を出しても誘われない、そんな日々が続いてたからな」
「一昨日の事だと記憶しています。
それに待つだけでPTに誘われるという考えは、かなり甘いと思います」

「そんなとき、こんな俺に声をかけてくれたのが彼女なのさ。
彼女は明るく可愛い笑顔で、俺に声をかけてくれた。
『おにいちゃん、お花、いりませんかにゃ?』ってさ」
「それは営業スマイルと呼ばれるもので、
彼女はM&Pマートの臨時の売り子です」

「俺はその声を聞いて、全身に電気が走る思いだった。
甘く心地よい、鈴の音のような、心に響く声だ。
それに彼女のフェイス、スタイルもバッチグーだ。
幼さの中にも燐と光る瞳、近未来的な流線型。完璧だ。まさに美ーナス。
惚れたよ。イチコロでドゥキューン!俺のハートはぶち抜かれ。
そこで俺は、速攻、彼女に交際を申し込んだ。
『お花、ぜんぶ下さい』ってさ。
そしたら彼女はなんて答えたと思う?
『ありがとうございますにゃ!』
そう!彼女は俺の想いを受け止めてくれたのさ!」

「良いお医者様を、ご紹介しましょうか?」

…… 回想シーン 終了 ……

「と、いう訳なのさ」
「アナタの一人相撲だという事が、よくわかりました」

「Ha-!Ha-!Ha-!」

2991/3:2004/10/17(日) 00:31 ID:DYScvg6.
[ OK ! じつは Bad News ! ]

悪い冗談だ。
そんなのは信じたくない。
信じる、信じないのは、俺の勝手。

そう、わがままだ。

「Ha-!Ha-!Ha-!」
「なにが、おかしいのですか?」

「野暮だな、相棒。これから子猫ちゃんに会いにいくんだぜ。
笑みもこぼれるってものさ」
「アナタが一方的な感情を持つことについては不問とします。
ですが、アナタは彼女のことを何も知らない。
少しは彼女のことを考えてあげるべきです」

「なんだ?相棒?何が言いたい?彼女について何か知ってるのか?」
「ワタシの二つ名をお忘れですか?情報を制する者は世界を制する。
情報はワタシの武器の一つです。」

「なんだよ、相棒。もったいぶらずに教えろよ」
「ではアナタは、なぜ彼女が売り子をしているのかご存知ですか?」

「はぁ?そんなの決まってるだろう?俺と話をするための話題作りさ」
「違います。彼女には病気で入院している母親がいます。
彼女は母親の入院費を稼ぐために、売り子をしているのです」

「なんだって?」
「ですが、その売り子も、もうすぐお仕舞いです」

「なんだと?」
「彼女の母親の病気は、手術すれば完治するものなのですが、
とてもとても難しい手術なのです。
その手術を成功させられるは、黒衣の天才外科医だけで、
法外な手術費が必要となります。
そこで彼女は、天晶堂の紹介でバスに出稼ぎに行くことにしたのです。
バスならば金持ちも多く、ミスラの子供となれば貴重なので、
さぞ稼げることでしょう」

「マジか?」
「真実であることを、ワタシの二つ名に誓います」

「わかったぜ。耳長」
「早耳です」

「Ha-!Ha-!Ha-!」

3002/3:2004/10/17(日) 00:31 ID:DYScvg6.
[ OK ! ならば Let's Go ! ]

世の中に公平なんてありえない。
世の中は不公平であふれてる。

だけど愚痴を言う前に、出来ることがある筈だ。
だから俺は行動する。

それが、お節介だとわかっていても。

「Ha-!Ha-!Ha-!」
「なにが、おかしいのですか?」

「相棒、遊びは終わりだ」
「……なるほど。本気のアナタを見るのは、久しぶりです」

俺はチョコボを奔らせた。
目指すは砂丘。目的は一攫千金。

俺は砂丘のど真ん中でチョコボを降りる。
熱い。日差しで肌が焦げそうだ。
陽炎で視界が歪む。どうやら、熱波が来たようだ。

だが、そんなことは無視する。
そして、やるべきことに集中する。

俺は目を閉じて、脳内に砂丘の地図を描き上げると、
慎重に周囲の気配を探った。
敵の気配を感じてはトレース、チェックを繰り返す。
違う……。こいつも違う……。

何時間、過ぎたのだろう?
喉が渇いた。

どれくらい、待ったのだろう?
もう、汗も流れない。

だが、諦める訳にはいかない。

そして……ついに!

3013/3:2004/10/17(日) 00:31 ID:DYScvg6.
見付けた!奴だ!
すぐさまマーキング、脳内の地図とコンパスを頼りに奴へと近づく。
相棒も俺に従って奴へと近づく。

相棒に目で合図を送る。
戦闘開始だ!

「覚悟しろ、砂丘の皇帝!」

砂丘の皇帝は、唸りを上げて俺達を威嚇する。
強い、流石に強い。
皇帝の名は伊達じゃない。
一撃、一撃が重い。

だが、俺は負けられない。
ここで倒れる訳にはいかない。
俺は体力の続く限り、全力で皇帝を叩き続けた。

そして、会心の一撃!
皇帝にかなりのダメージを与えた。

皇帝の体が揺る。
俺は勝機を感じて、相棒に合図を送る。

「相棒!そろそろ、本気だせ!」
「了解!」

相棒が大地を蹴って、天へと高く駆け上がる。
そして宙で姿勢を反転すると、高角度から貫く一撃!
皇帝にとんでもないダメージを与えた。

相棒は皇帝を倒した。

俺はその場に尻餅を付いて座り込む。
もう立つ体力すらなかった。

だが、俺達の勝利だ。

相棒に声をかける。

「Good Job !」
「当然の結果です」

「Ha-!Ha-!Ha-!」

302白白白白白詩:2004/10/17(日) 02:33 ID:uEffVlds
詩人はその日、カザムを訪れていた。
辺境と呼ばれ深い森に覆われた未開の地。
未開の地だからこそ得られる大地の豊穣は、優秀なハンターであるミスラたちを満足させるに十分なものであったし
現に、このカザムは辺境と呼ばれながらも数多くのミスラが住み着き、冒険者の往来も激しかった。
冒険者の多くは、ユタンガ山の火口付近で高価な金属が採れると聞きつけて来たらしいが、
その噂の真偽はともかく、生還するものは僅かであった。
迷路のように入り組んだジャングル、危険な野生生物、疫病を媒介する吸血蟲、
乗り越えねばならない困難は幾重にも富を囲み、行く手を阻む。

貴人たちの放埓な恋愛や、宮廷の瑣末な笑い話を詠う彼のような詩人にとって、
数々の困難を前にしてもなお、歩みを止めない彼ら冒険者は、
理解しがたい存在であり、愚昧な群集のようにも思えた。
どのみち、彼がカザムを訪れた理由は冒険者相手に愉しませることではない。
毎年行なわれるカザムの収穫祭に顔を出すためなのだから。
収穫されたばかりの肉を喰らい、美酒に酔い、
肉感的なミスラたちを目で楽しみ、彼女らを己の美声で酔わせてやれば良い。
粗野で愚劣な冒険者などとは関わり合いを持たない、そう腹に決めていた。

はずなのだが・・・

詩人は頭をぽりぽりと小さくかく。
詩人は深い深い森の中、5人の冒険者と共に焚き火を囲んでいた。
冒険者と1ククリにするが、その実はもっと細分化できる。
前述のように、富を求める腕っ節自慢も確かにいるが、なかには行商やサーカスなどで生計を立てているものもいる。
今日、詩人が同じメシを食べた5人は、大別すれば冒険者ということになるのだろうが
実際には何処の教会からも庇護の得られぬ修道士の集まりらしい。
そんなわけだから、粗野とか愚劣などといった、詩人の独りよがりな冒険者像とは多少ずれていた。

修道士たちは自分たちの教会を立てるため、そして当然アルタナの教えを広めるため、
サンドリアからはるばるこの辺境の地を訪れたのだという。
詳しく聞けば、神聖な神の小屋も、随分と欲物的で生臭い慣習があるらしかったが、ここでは大きく割愛する。
歌にもならない汚物のような現実は、心の奥底にそっとしまっておくのが一番なのだ。

なんにせよ、行きがかり上とはいえ、5人の冒険者と共に行動するハメになってしまった詩人。
彼にとって最大の悲劇は、連れ合った5人が揃いも揃って、白魔法に精通した修道士であり、
実戦経験をほとんど持ち合わせていなかったということだった。
おのずと、野獣や獣人たちに対する矢面には、詩人が立つことになる。
護身用に買った短剣が、この日ほど刃こぼれした記憶が彼には露ぞ無かった。

303白白白白白詩:2004/10/17(日) 02:35 ID:uEffVlds


「すまぬな、詩人殿。」
修道士の中でも最も年長で、彼らのリーダー的な存在であったヒゲのエルヴァーンが言う。
大森林を分け入って進んでいるとき、たまたまかち合った旅装のゴブリンに受けた傷を癒すため、小休止を取っていたときのことだ。
「いいえ、当然のことをしたまでです」
詩人は答える。
だが、当然内心は穏やかではない。
彼は前線に出るタイプの人間ではないのだ。ゴブリンと切り結んだことも今日までほとんどなかった。
なにより、頑健なことで有名なエルヴァーンたちを守るため、彼らより華奢な自分が戦わなければいけない道理が分らぬ。
旅慣れした詩人という触れこみが、いけなかったのかもしれない。
詩人は自戒した。
「兄さん、ゴブリンが・・・」
男二人でぼそぼそと会話を交わす大森林の闇に、さぁっと光が差し込んだような錯覚を覚える。
銀髪で長身。紅顔で可憐な美少女。
詩人の歌の世界にしか住まわぬような、完全なる美の化身。
バストゥークのヒュームたちが「エルヴァーンの女性」と聞いて、まず思い描く最上級の容貌。
詩人がのこのこと付いて来たのも、ほとんどが彼女の存在のためと言っても過言ではない。
5人の修道士のなかで唯一の女性。
このジャングルに咲いた、如何なる花より鮮烈な存在。
その修道女が、二人の間に割って入ってきたのだ。
そして、その言葉尻に続いたのは意外なセリフであった。

鬱そうとした翠の闇。
ジャングルに訪れたスコールは、次に生命の光をもたらす。
だが、このとき、その光に照らし出されたのは、
決して生命に満ち溢れているとは言いがたい惨状のゴブリンの肢体だった。
「こりゃぁ、ヒドイ・・・さっきのゴブリンか・・・」
大森林の中で運悪く遭遇したヒトと獣人の間には友情など成立しない。
目が合えば、敵同士。
己の生命存在をかけて戦うのみである。
それが証拠に、このゴブリンの刃によって詩人は先ほど手傷を負った。
闘争心溢れる獣人たちの中には、刃に毒を塗る者も稀にだが、いる。
もし、この死にかけたゴブリンが毒を扱う獣人であったならば、詩人の命はこの辺境で尽きていたやも知れぬ。
そう考えるならば、このゴブリンが瀕死であることに同情の余地など皆無である。
「火傷・・・あのあと、我々を追い払うために爆弾を使おうとしたのだな?」
返答はない。
布製のマスクのむこうで、血走った目が朦朧と動き、ヒゲのエルヴァーンの問いかけを肯定したようにも見えた。
しかし、これは独りよがりな妄想であったのかも知れぬ。
「詩人殿・・・」
ゴブリンの傷を見ていたヒゲのエルヴァーンは、詩人を振り向くと神妙な面持ちでこう言った。
「我々は、このゴブリンを助けようと思う。」
あまりのキチガイじみた申し出に、詩人は目を丸くした。
無論抗議したが、すぐに彼らの決意が頑ななものである事を悟り、天を仰いだ。
同情の余地はない、と冷徹な視線で瀕死の獣人を見下ろしていた己の行為が、ひどく恥ずかしいものの様にすら思えてくる。
だが、このヴァナ・ディールでは詩人の行為こそが肯定されるべきものである。
この5人の白魔道士が、彼らこそが異常なのだ。
しかし、例の美しい修道女に懇願されると、詩人はしぶしぶその申し出を承諾するほかなかった。

304白白白白白詩:2004/10/17(日) 02:36 ID:uEffVlds

白魔道士。
彼らは、神学者であり、敬虔な信徒であり、医療と白魔法に精通した偉大な癒し手。
傷ついたものに対しては、種族の別を越え、厚い慈悲で救いの手を差し伸べる。
思い出してみれば、詩人も駆け出しのころ、見も知らぬ白魔道士の青年に、回復魔法や防御魔法をかけてもらい、
危ういところを助けてもらった覚えがあった。
なにより、

「がんばって^^」

と、彼らは、魔法の後に必ず詩人を応援してくれた。
そのことが、なぜか脳裏をよぎる。
よぎったあとでは、5人を止めることが詩人にはできなかった。

ぽりぽりと、詩人はまた頭を小さくかく。

ゴブリンは、5人の修道士により甲斐甲斐しく治療を受け、一命を取りとめた。
その様子を、詩人は焚き火に薪をくべながら見ていた。
「歌にしても受けは良くないだろうなぁ」と小さくこぼしながら。
歩ける程度に回復したゴブリンは、カバンの中から丸々と太ったワイルドオニオンを幾つか取り出し、
修道士たちに差し出すと、ヒョコヒョコと森の中に消えていった。
ひょっとしたら、また人間と出会い、あのゴブリンは人を殺めるかもしれない。
だが、そのことを今問いただしたとしても、詮無いことだろう。
今はただ、消えようとしていた命の炎を守りきった5人の修道士たちの、
美しい横顔を胸の奥に掘り留めておくのが、詩人としての仕事であるように思われた。

305白き〜作者:2004/10/17(日) 19:37 ID:dZoLvtZI
久しぶりに覗いてみると短編が多いですね!
笑える話から感動系まで様々。Wikiでのまとめ読みが楽しみな昨今です。
皆様、頑張ってくださいませ!

最近忙しくて入れなかったからヴァナも頑張ろうっと…。
では、追加した白き〜最新話、お暇な人はご覧くださいませ。
ttp://www.miracle-key.gr.jp/white/

3061/3:2004/10/17(日) 23:45 ID:BWbMCENk
[ OK ! そして Good Luck ! ]

ここは出会いの街。
そして別れの街。

さて、お節介な馬鹿野郎は、巣に帰るとしよう。

「よう。元気か?」
「にゃ!おにいちゃん、いらっしゃいなのにゃ」

「へへ。元気そうだな」
「はいにゃ。アタシはいつも元気ですにゃ」

「はは。そうだな」
「あにゃ?今日のおにいちゃん、なんだかボロボロなのにゃ?
どうかしたのにゃ?」

「ん、ああ。なんでもないさ。あ、それより、花、見せてくれよ」
「あ、はいにゃ。毎度、ありがとうございますにゃ。
えっとにゃ、今日はマーガレットがキレイなのにゃ」

「ほぉ。うん、キレイだ……」
「あ、マーガレットの花言葉は……」

「誠実」
「にゃ?」

「俺に隠してること、あるよな……」
「にゃ……。ごめんにゃ」

「あやまらなくて、いいさ」
「アタシ、今度、遠くに引っ越すのにゃ。
もう、おにいちゃんには会えなくなるのにゃ。
それとにゃ、このお店、今日で最後だったのにゃ。
だから、でも、今日はおにいちゃんに会えてうれしかったのにゃ。」

3072/3:2004/10/17(日) 23:45 ID:BWbMCENk
「そうなのか」
「そうなのにゃ」

「じゃあ、これ、選別だ」
「はにゃ?これ、なんなのにゃ?」

「虫の羽」
「ふにゃ?ち、違うにゃ!これ、虫の羽じゃないにゃ!」

「あん?そうなのか?でも、まあ、
キレイだから髪飾りにしたら似合うかもしれないな」
「そ、そうにゃ!これ、スゴイものなのにゃ。だ、だから貰えないにゃ」

「お母さん、病気なんだろ」
「にゃ!知ってたのにゃ……」

「いや、知らない」
「嘘ですにゃ。だったら、なんで……」

「わからない。でも、君にはこれが必要だ。だから手に入れた。貰ってくれ」
「そんにゃ……。でもにゃ……」

「ごめんな。こんな事しかできなくて」

俺は半ば無理矢理、彼女の手にソレを握らせて、その場を後にした。
彼女が俺を呼び止めようと必死に叫ぶ。

「ま、まってにゃ!まってにゃー!」

もう彼女には会えない。
俺は彼女の重荷にはなりたくない。
過度なお節介は身を滅ぼす。まったくだ。
男の美学?そんなの知るか!

「マーガレットの花言葉は『秘めた想い』ですにゃ!」

俺は彼女を泣かせてしまった。
彼女は何かを手に入れた。そして何かを失った。
彼女は嬉しくて泣いたのか?それとも悲しくて泣いたのか?
俺の行動は良かったのか?悪かったのか?
もう、ワカラナイ。

だが、できれば、彼女に幸あれ。

以上だ。

「Ha-!Ha-!Ha-!」

3083/3:2004/10/17(日) 23:46 ID:BWbMCENk
[ OK ! 蛇足だ Epilogue ! ]

「Ha-!Ha-!Ha-!」
「相変わらずですね」

「ん?ああ、もちろん、俺は絶好調だぜ」
「失恋のショックで少しはおとなしくなると予想していたのですが、
どうやら予想が外れたようです」

「まあ、あれだ。細かいことは気にするな」
「やれやれ。先が思いやられます」

「んじゃま、そろそろ次の冒険だ。準備はいいか?」
「いつでもどうぞ」

「いくぞ、キット!」
「OK、マイケル!」

「Ha-!Ha-!Ha-!」

3090/0:2004/10/17(日) 23:49 ID:BWbMCENk
OK ! これで END !



スミマセン。1行、入れ忘れました。orz

310(・ω・):2004/10/18(月) 00:03 ID:Z8S1CPfE
砂丘でトンボを撥ね飛ばす黒いトランザム・・・。

面白かったです。最初は成長したボブかマイクかと思ったw

311(・ω・):2004/10/18(月) 00:29 ID:Dcw6Pxnw
ナイトライダーかYO!ナツカ('∇')シイ!!
マイケルがボブっぽいのにカコヨくて惚れた。

312(・ω・):2004/10/18(月) 01:42 ID:zMToRqZk
親愛なる友への手紙

「そうだねw」
LS会話にタイピングする俺の頬には涙が伝っていた。
相手の声も表情も見えないネットゲームの中で、
自分の感情を偽るのはとても簡単なことなのでしょう。

リアルが忙しくログインする時間が殆どなくなってしまい、
丁度ウェブマネーでの課金が終わるから丁度良いと、
僕は引退を心に決めた。
フレンドやLSのメンバー達に告げるのは
なんだか恥ずかしく、僕はひっそりと辞めることにした。

最後くらいは・・・、と思い、用事は全てキャンセルし、
最後の日、僕はヴァナデールへとログインした。

いつもより愛しく感じる友人達とのLS会話。
ふとしたキッカケで涙が流れた。
たかがネットゲームだと思っていた。
だけど、ヴァーチャルの世界で出会った友人たちとは、
確かに絆を結んでいたのでしょう。
会話は事切れることなく続き、時間は渓流の流れのように、
留まることなく流れて行った。
いつの間にか夜も更け、ヴァナデールから去る時が訪れようとしていた。

僕は、落ちるならここだと決めていた場所へと向う。
荒野の広がるバストゥークから始めた僕は、北グスタベルグで始めてみた滝に感動し、
最後はここで終わろうと決めていた。
「ちょっとLS外すw」
そう言って僕はLSを外し、滝の前にかかる橋の上で静かに終焉を待つことにした。

僕はサーチ機能を使って、友人達が何処に居るのか見たり、
コメントを呼んだりしていた。
何故だか、また涙が流れ出しました。

―ねぇ。今日はどうしたの?やなことでもあった?―

ログに赤い文字が流れた。
それは、LSメンバーの一人からのtellだった。
「え?どうもしてないけどw」
実は少し戸惑っていた。
君は世界から去ろうという僕に、何故tellを送ったのでしょう。
何故、僕の違和感に気づくことが出来たのでしょう。
自分では演じているつもりだった。
殆どログインできないでいた僕が消えてしまっても、
少しずつみんなの中から存在が消え、居ないことが当たり前になることを望んでいた。
なのに。
―うん、なら良いんだけど。明日も来るよね?―
何か言わなければならないと思ったけど、手が動かなかった。
少しずつ時間が流れ、君が居る世界に留まれる時は、僅かずつ減っていく。
「ごめん。今日で引退。」
誰にも知られずに消えるつもりだったのに、君の一言が僕の決心を崩した。
―え?―
「最近殆どログインできなかったから、そろそろ潮時かなって。」
―そうなんだ。リアル忙しいっていってたもんね。―
「うん、来年で4年だから。」
―おつかれさま。もう会えないのかな。―
「どうだろうwそういえば覚えてる?俺が初めてLSつけた時のことw」
―うんwsayで打ってたんだよねw返事ないから変だとおもってたら、
 LS渡したリーダーが、sayで喋ってる^^;ってw―
「そうそうwそれで・・・・・」
そう、キーボードで文字を打ったところで、
ハードディスクから読み込む音がして・・・。
僕は現実へと引き戻された。

まだ君はその世界に居ますか。
まだその世界は楽しいままですか。
まだ、僕のことを覚えていてくれていますか。

引退したとき、思いのほか悲しみはありませんでした。
変な開放感と、空虚感。
僕は今、君の事を思い出してくすぐったい気持ちになっています。
またいつか、会える気がして。

313(・ω・):2004/10/18(月) 01:42 ID:zMToRqZk
PS、美化しまくってます。ごめんなさい。
まだFFやってるかどうかも解りませんが、もしもこの手紙を読んでもらえたら嬉しいです。
もし読んだとしても返事はいりませんよwはずかしいからw
あれから1年近くたちました。まだまだ忙しい毎日が続いています。
だけど、FFをしていた時期を後悔なんてしていません。
君に出会えたし、楽しかったし、むしろ辞めたことを後悔しているw
それでは、長くなりましたがこの辺で。
失礼いたしました。

314(・ω・):2004/10/18(月) 16:54 ID:NHwUbQXY
スレ違い

315(・ω・):2004/10/18(月) 17:02 ID:WgdZ0Yrg
勘弁してくれ・・・じんわりきて涙出てきたよ;;

316親愛なる友への手紙を書いた者です。:2004/10/18(月) 20:46 ID:zMToRqZk
>>314さん
hehehe PSまで含めて創作ですw
まだFFやりまくってますよw

>>315さん
ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!!でもちょっとうれしかったりw

317(・ω・):2004/10/19(火) 01:08 ID:aPCwOc0A
ダブルフェイス・レッドラム  第17話「過ぎ去りし日々」


「昔の…本当に楽しかったころ…う〜んと、楽しい事ばかりじゃないとは
 思うけど。あの頃に戻りたい、なんて戻った事、ないかなぁ?」
「時間はただ、過ぎていくだけだ」
「でも、でも…もし、だよ?ほんの一時でいいから、そう…
 冒険を始めた頃、何も持ってなくて何も知らなくて・・・そんな時ってあったでしょ?
 …私なら見せてあげること、できるかもしれないよ?昔の、まだ、楽しかった頃」
「勘弁してくれよ。今更あの頃に戻りたいなんて思うわけないじゃないか」
「そうかしら?…本当にそう思う?…あなたの今の姿は、あの頃のあなたが望んだ姿なの?」
「それは・・・」

― 南グスタベルグ・灯台 ―

…心地よい潮風が頬を撫でる。彼はゆっくりと目を開いた。
「あれ…?」
しばらくあたりをきょろきょろと見回して、はっとする。
(危ない危ない…寝ちゃったんだなぁ)
経験のある冒険者であれば、外の世界で、しかも魔物が彷徨う土地で、一人で眠りこける、
などといった失態はありえない。それは死に直結する可能性が十二分にあるからだ。
しかし冒険者として歩き始めたばかりの彼は、危機感が足りないのか、単に間が抜けているのか、
”あーよくねた”と背伸びをしている。ゴブリンに襲われなかったのは全く幸運だろう。
彼は手をかざし、太陽の位置を見る。

(そろそろ、焼けてるかな?)

彼は枕代わりにしていた荷物を背負うと、そのまま丘へと続く坂道を目指した。

彼がここで時間を潰していたのには理由がある。それは、とあるガルカの依頼により、
”ガルカンソーセージ”を手に入れる必要があったからだ。その調理方法を調べた彼は
一度丘に登り、その後、丘の上よりもマシ、と危険性の少ない灯台のふもとに腰を下ろしたのだ。

318(・ω・):2004/10/19(火) 01:08 ID:aPCwOc0A
ゴブリンに見つからないように、後ろをそーっと歩き、いざ見つかってしまった場合のみ戦闘。
(…いつになったら、ゴブリンなんて簡単に倒せるくらい強くなれるんだろう…)
彼は元々、部屋の中で本を読むのが好きな少年だった。だが、ある日のこと。
ふとした興味心から、ガードの目を盗んで門を抜け、外の世界へと飛び出した。
その時、初めて彼は獣人…ゴブリンと遭遇する。
獣人の存在は勿論知っていたが、それがどのような物か全く知らなかった彼は
ついつい遠くに見えたゴブリンへと興味本位で近づいてしまった。
ゴブリンも一概に人間に対して敵対心を持っているわけではないのだが、
それは彼の姿を見るや否や、襲い掛かってきたのである。
ゴブリンに追いかけられた彼は、幼心に死を覚悟した。しかし、偶然そこを
通りかかった、”侍”
美しい日本刀に赤い甲冑を身に着けた、エルヴァーンの男に助けられた。
その男との出会いが少年の運命を変えた。
あの時の、侍は彼の憧れとなり、ゆくゆくは自分も侍になってみたい。そう思うようになった。
侍になってどうする、などと考えた事は無い。それは純粋に憧れだった。



…冒険者になる、と言った時、彼の唯一の肉親である姉は猛反対した。
二人の両親は行商人だったが、二人が幼い頃、獣人に殺されたのだ。
生き残った商人の仲間から、ただ殺された、とだけ聞いた。遺留品があるわけでもなかった。
だが、幼い二人にとって真偽を確かめる術はなく、ただただ、泣きながらそれを認めるしかなかった。
”両親を探す”それが姉に対しての口実だった。そうでも言わなければ許してくれないだろう。
彼自身、もう既に両親の生存に関して、諦めているのである。
それにまだ幼かった彼は両親の記憶がほとんどない。ただ、いつも部下に怒鳴り散らしていた
父親の怖い顔だけが記憶の片隅に残るだけである。母親の温もりなど知る由もない。
気がかりなのは、姉を一人残して旅立つ事だったが、自分の母親代わりとなってくれた姉の事だ。
むしろこれからは姉のやりたいように生きて欲しい。
…それが彼の願いだった。

319(・ω・):2004/10/19(火) 01:09 ID:aPCwOc0A
― 南グスタベルグ・丘の焚き火 ―


びくびくしながら、時には見つかって戦いながら、彼はようやく頂上の焚き火に辿り着いた。
そして、彼が焚き火の元へと辿り着くと…そこに人影が見える。
(誰だろう…同じ冒険者の人かな?)
同い年くらいの、魔道士と思われる格好をしたヒュームの男がいる。
「あ、あの、こんにちは」
無言でいるのも気まずいので、とりあえず挨拶をしてみる。
「あ、こ、こんにちは…」
自分と同じく、気弱そうな魔道士の男は、焚き火の周りの大きな石に腰掛けて、本を読んでいた。
「ひょっとして…ソーセージですか?」
「あ、はい。そうなんですよ。なんだかすぐには出来ないみたいで、本を読んでたんです。
 ああ、ひょっとしてこれは君のなのかな?焦げそうだったから、火から遠ざけておいたんだけど」
彼が足元にあった紙袋から、ごそごそとガルカンソーセージを取りだした。
「うわ、ありがとう。もう少しで焦げるところだったんだ・・・」
ぎこちない会話を続ける二人だが、共に冒険者だという事が分かると自然に会話は進む。
「侍?…確か聞いたことはあるけど、すごいんですね」
「そんな、まだまだ戦士と言えるほどでもないし、それに魔法が使えるほうが凄いよ
 僕も昔頑張ったんだけど、才能なくって…」

それから、会話が弾み、気がつくと魔道士の男のソーセージもいい具合に焼け上がっていた。
「あ…それじゃ、もう行かないと」
「ですね…」
そのとき、二人はお互いに同じ事を思っていたのだろう。
「あの…」
同時に声をかけた。
「一緒に冒険をしない?」「僕の仲間になってもらえませんか?」

……二人は顔を見合わせて笑い出した。

「なーんだ、同じこと考えてたんだ」
「どうやらそのようですね」

二人はぎこちなく握手を交わした。

「僕の名前はアズマ、えっとその、よろしく」
「こちらこそ…僕の名前はヨルといいます。まだまだ未熟だけど、お願いします」

320(・ω・):2004/10/19(火) 01:10 ID:aPCwOc0A
― 聖地ジ・タ ―


「…どうした?また例の夢か?」
「あぁ…」
「どーやら、お前はやはり何かしら、記憶を封印されてるみてーだな」
「封印?俺の記憶が…?なぁ、どーいうことなんだ?俺はどーなっちまったんだ?」
「さぁな…お前がどーなったか、俺は知らん。ただな、今の不安定な状態じゃあよ、
 お前は危なすぎるんだよ。今のお前は心と体がチグハグだ。そんな奴に剣を持たせる
 わけにはいかん」
船の上で、レッドラムから渡された刀を手にした時…あの時から、自分の中の何かが
崩れだしたような気がする。それが何かとは具体的に説明できないのだが、
少なくとも、ここ数日見る昔のような、今のような夢…いや、夢ではないのかもしれないが、
それが自身の自我を崩しているのだ。
「なぁ、おっちゃん…教えてくれないか?俺は一体…今まで何をしていたのか…
 知ってるんだろう?おっちゃん」
ヴァーリュスは無言だった。その素振りから、彼は何かを知っているのだと思う。しかし…
それは知らない方がいい事なのだろうか。
「俺って…今まで何をしていたんだ?バストゥークからここまで・・・夢を見ていたのか?」

「いずれ分かる時が来るだろうよ。だがな、少なくとも、今の手前にゃ荷が重過ぎる。
 わかるだろう?お前は、もう一度戦わなけりゃいけないんだよ。
 それが何かってのはまだ知らなくていい。とにかくコイツをまともに扱えるようになれ」

ヴァーリュスは無銘の刀をアズマに差し出す。彼は無言でそれを受け取った。

いずれ分かる時が来る。それは彼が望もうとも望まなくとも、後に強烈な事実として
彼に立ちはだかるのだろう。
全ての鍵は、この刀にある…。なんとなく、アズマはそう思った。



                                          続く

321(・ω・):2004/10/19(火) 11:19 ID:I/wIAhK.
お待ちしておりました・・・。
再開感謝!

322(・ω・):2004/10/20(水) 01:56 ID:t3p87L4I
ラッシュキタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!!!
キット&マイケル(譚の人?)
友への手紙
パパさん
みんなGJ!

323Goodnight Melodies1/2:2004/10/21(木) 12:39 ID:tKvSRf6A
 私は歌う。
 声は風に乗り、奏でる旋律は緩やかに絡む。
 私は吟遊詩人、昔は白魔道士を生業にしていたこともある冒険者。
 指には”希望”と呼ばれる小さな宝石のついた指輪がひとつ。


 −プレリュード 吟遊詩人の酒場

「よう、こっちだ、待ってたぜ。」
 長い耳をぴんと立たせ、エルヴァーンの青年は入り口で席を見渡す私に手を振った。
「ちょっと早いと思ったが腹も減ったし、先に食事しようと思ってな。」
 そう言うと青年は自分の隣の椅子を、私が座りやすいように引いてくれる。私は小さく
礼を言うとその椅子に腰掛け、手にしていた鞄から分厚い羊皮紙の束を机に置いた。
「見て、出来たの。」
 青年の食事には目もくれず、正直私は少し興奮していた。
「おいおい、少しは落ち着けよ。まずは何か飲もう、な?」
「ごめんなさい、私興奮してたみたい。」
 青年にたしなめられ少し落ち着きを取り戻した私は、深呼吸をひとつ。
「でも聞いて欲しいの。」
 青年は頭を振った。こうなると手がつけられないのは相変わらずだとでもいいたげに。
「オーケー、聞こう。食事は後だ。」
 私は溢れ出る笑みを堪えきれず、机に置いた羊皮紙の束をもどかしげに紐解くいた
「もう少し歌詞を練らないとダメなのだけど、主旋律とストーリーは出来上がったから。」
 酒場の喧騒。冒険者達の笑い声や怒声。
 そんな中、私は小さく、だけどしっかりとひとつの詩を紡ぎ始めた。

 それは少し切なく、少し甘い、恋人達のラブストーリー。

−歌声は切なく震え、恋人を慕う男の心情が繊細な旋律で綴られていく…
 いつしか酒場の喧騒はやみ、みな彼女の歌声に聞き惚れていた
 感嘆のため息が漏れ、故郷に残した恋人を想い涙するものもいた−

324Goodnight Melodies2/2:2004/10/21(木) 12:39 ID:tKvSRf6A
 詩が終わったとき、酒場の中は拍手で覆われる。
 歌い終わった私はその様子に驚きながらも、賞賛されたことに対して素直に喜んだ。
「いいじゃねぇか、いい歌だな。」
 目の前で拍手を送る青年に照れ笑いを返し、私は周囲にお騒がせしてすみませんと
頭を下げた。
 拍手を割る突然の声。
「だめだな、薄っぺらい歌だ。」
 凛と酒場に響く声の主は、私の後ろに座っていた赤い羽根帽子を目深に被った男。
「なんだと?」
 思わず立ち上がって抗議の声をあげる青年をたしなめ、私アは男を振り返った。
「折角のいいストーリーが台無しもいいところだ。」
「今はためしに唄っただけだろうが!」
 なおも喧嘩腰の青年を無理矢理座らせ、私は羽根帽子の男に問い掛ける。
「どうしてそう思ったの?」
「分からないのは致命的だな。あんたはそんな恋をした事がないだろう?」
 決め付けられても困る。だけど、羽根帽子の男の言ったことは8割当たりだ。
「恋歌ってのは旋律を奏でればいいんじゃない。それにそのストーリーは男のものだ。
女のあんたには最初から向いてないと思う。」
 男は羽根帽子を脱ぐと席を立ち、私に恭しく一礼する。
「すまないね、だが素直な感想だ。だがストーリーはとてもよかった。」
 そう言うと羽根帽子の男は酒場を出て行った。
「なんなんだあいつは。」
 男が出て行った扉を見据え、なおも悪態をつく青年。私は呆然とその場に立ち尽くす
しかなかった。
「気にすんな、な?飯奢ってやるから。」


 それは衝撃的な言葉だった。
 確かに私はそんな恋をしたことが無い。
 いや正確にはそのストーリーに出てくるような燃えるような恋をしたことがない。
 私はただストーリーを紡いでいたに過ぎないのか。
 もしかすると私はあの人の思い出を傷つけてしまったのかもしれない。

 気が付くと私は幼い頃母に唄ってもらった子守唄を奏でていた。
 自然と指が弦の上をすべり、私は懐かしい母の顔を思い出す。
 観客はいない。
 私だけの私のための子守唄。

-続-

325(・ω・):2004/10/25(月) 14:25 ID:BUT9mSR2
友への手紙で泣いた
これはスレ違いなのか
漏れはリアルの事を手紙形式で書いたSSにも思えたが

まあ、作者さんの意見も聞いてみたいと言ってみる

326(・ω・):2004/10/25(月) 16:15 ID:Rl/Fk6/.
>>325
創作だってさ

327親愛なる友への手紙を書いた者です。:2004/10/25(月) 21:34 ID:60nwajKo
>>325さん
創作のつもりでしたが、他の作者様の作品と読み比べてみると、
確かにスレ違いな気がしてきました。
申し訳ございませんでした。
ところで、SSとはなんですか?無知でごめんなさいorz

328(・ω・):2004/10/25(月) 21:46 ID:F1emr/A6
>>327
ショートショートとか、ショートストーリーとかじゃないかなあ。
短い小説の意味じゃなかったかな。

329(・ω・):2004/10/26(火) 00:01 ID:9Rl95Ud6
「親愛なる友への手紙」って専用スレなかったっけ?
かなり前にどこかで見かけた気がする・・・。
なので>>314さんの言うこともわかる。私もスレ違いかなと思ったし。

でも創作というならこっちの領分なのかなぁ・・・?
まぁこれは「スレ違いじゃない!」と思う人が保存庫に格納すればよいかと。

330親愛なる友への手紙を書いた者です。:2004/10/26(火) 00:55 ID:PnDZ8cSk
>>328さん
わざわざありがとうございます!
なるほど、ショートストーリーでSSですか。
検索で調べたらシークレットサービスとか
サービスステーションとか出ましてw
本当にありがとうございます!

>>329さん
専用スレあったのですか!ほんとにすいませんでした。
ご指摘ありがとうございます。

331この板内の(多分)関連スレ:2004/10/26(火) 10:43 ID:LqfXGxe6
主に創作小説(このスレ)
涙たちの物語7 『旅の終わりは』
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/game/6493/1088379577/

お題にもとづいた創作小説のスレ
今はいないフレンドへの手紙
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/game/6493/1075100271/

ちょっと違うけどFF内で起こったちょっといい話のスレ
【おじいちゃんの】FF11ちょっといい話20【贈り物】
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/game/6493/1087178507/
【誤爆も使いよう】FF11ちょっといい話21【みすったああああ】
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/game/6493/1098528066/

こんなとこ?

3321/2:2004/10/27(水) 00:24 ID:3a60WRyw
にゅぅにゅぅ。
アタシはウインダス生まれのミスラ。
まだ小さいケド、冒険者なのにゃ。

にゅぅにゅぅ。
今年もやってきたのにゃ!
お祭りなのにゃ!ハロウィーンなのにゃ!
いっぱい、いっぱい、い〜っぱい、お菓子を貰うのにゃ!

「うにゃ〜。今年はみんな、気合、入ってるのにゃ〜!」
「うん、そうだね。今年はみんな、すごいコスプレしてるね」

にゅぅにゅぅ。
そうなのにゃ!
今年は、去年とチョット違うのにゃ。
なんとお化けの衣装をレンタルできるのにゃ。
にゃんだか、よく知らないケド、
カソカ?を防ぐために町内会の人が考えたらしいのにゃ。
アタシ、難しい事はわからにゃいケド、
ぐっどあいであだと思うのにゃ!

「うにゃ!あの人スゴイにゃ!本物ソックリなコスプレなのにゃ!」
「うわぁ!ほんとソックリ!あ、向こうの人もすごいよ!」

「はにゃ?にゃにゃにゃ〜!ビックリしたにゃ!
スゴイおっきい亀さんなのに、中身はタルさんなのにゃ!」
「うん。すごく大きいね、亀さん。どうやって動かしてるのかな?」

「ふにゃ〜!楽しそうなのにゃ!はやくアタシタたちも、
衣装をレンタルして、コスプレするのにゃ!」
「うん!」

とてとて!
てむてむ!

「にゃ?衣装、これがイイかにゃ?にゃ!これもイイのにゃ!
はにゃ〜。迷っちゃうのにゃ〜」
「うわぁ。そうだね、いっぱいあるから迷っちゃうね」

「にゃ!アタシ、これにするにゃ!」
「あ、うん。イイかも。可愛いし、似合うと思うよ。
ん〜。私は衣装、これにしようかな」

「にゃ。それも可愛いのにゃ。きっと似合うのにゃ。
それじゃ、お着替えするのにゃ」
「あ、うん。……あれ?なにかな?衣装のレンタルに関する注意事項?」

「にゃ?そんなのは、後でイイのにゃ。
それより、はやくお着替えしないと、お祭り終わっちゃうのにゃ」
「う〜ん。そうかも。でも、ちょっと読んでから着替えるね」

「じゃ、先に着替えちゃうのにゃ」
「うん……」

ぬぎぬぎ。ばっ。さっ。とお!
ぷちん。ぷちん。するり。はらり。ふさぁ。ぱん!

「着替え、終わったにゃ!」
「あ、私も……終わったよ!」

「準備おkにゃ?」
「おk!」

「それじゃ、街で、大アバレなのにゃ!」
「お〜!」

にゅぅにゅぅ。
準備万端、意気揚々、
街のみなさま、可愛いお化けにご用心ですにゃ!

「Trick or Treat !!」
「お菓子くれないと悪戯するにゃ!」

3332/2:2004/10/27(水) 00:25 ID:3a60WRyw
にゅぅにゅぅ。
お祭りなのにゃ!ハロウィーンなのにゃ!
すごく、すごく、す〜ごく、楽しいのにゃ!

「ふにゃ〜。街を一回りしちゃったのにゃ。流石にチョット疲れたのにゃ」
「ふ〜。そうだね。ちょっと疲れたかも」

「あにゃ……」
「ん?どうかした?」

「アタシ、ちょっと……おトイレ……なのにゃ」
「あ、うん。わかった。……あれ?」

「にゃ?どうかしたのにゃ?」
「ん、えっと、なんでもない。いってらっしゃい」

「にゃ〜?なんかヘンだけど、いってきますにゃ」
「うん。くすくす」

とてとて。

にゅぅにゅぅ。
おトイレに着いたのにゃ。
サッサと済ませて戻るのにゃ。
でも、さっきの態度、なんか気になるのにゃ……。

「はにゃ?」

「あにゃ!」

にゅぅにゅぅ。
なんでにゃ!どうしてにゃ!
おトイレのドア、開けられないのにゃ!

「どうしようにゃ?困るにゃ!困るにゃ!」

にゅぅにゅぅ。
今日はお祭りだから、ジュース、いっぱい飲んだのにゃ!
だから、あんまり我慢できないのにゃ!

「……にゃ!……にゃ!……にゃ!」

にゅぅにゅぅ。
ダメにゃ!もうダメにゃ!でも、ダメにゃ!
アタシはレディなのにゃ!レディは粗相なんかしないのにゃ!
でもにゃ!でもにゃ!もう……限界……なのにゃ!

「……にゃ!……にゃ!……にゃ!……にゃ!……にゃ!」
「くすくす。どうかした?」

「にゃ!な、ナイスタイミングなのにゃ!」
「うん。そろそろ限界かな〜と思ったから」

「にゃ?そ、そんなことより、助けてにゃ!
にゃんでかわからないケド、アタシ、おトイレのドアを開けられないのにゃ!」
「あ、そうなんだ」

「だから、お願いなのにゃ!代わりにドアを開けて欲しいのにゃ!」
「うん。あ、でも、私もドアを開けられないかも」

「にゃ?にゃんでにゃ?どうしてにゃ?」
「うん。あのね、コスプレ中はドアを開けられないんだって。
衣装のレンタルに関する注意事項に書いてあったよ」

「にゃー!」
「くす」

にゅぅにゅぅ。
脱ぐにゃ!今すぐ脱ぐにゃ!もう全部、脱ぎ捨てちゃうのにゃ!
でも、にゃ……。

「やっぱり注意事項って大事なんだね。うん」

にゅぅにゅぅ。
お祭りなのにゃ!ハロウィーンなのにゃ!
だから、きっと、たぶん、間に合って良かったというお話なのにゃ!

にゅぅ……。

334親愛なる友への手紙を書いた者です。:2004/10/27(水) 23:59 ID:VVIF4Rgo
>>331さん
ありがとうございます。今後参考にさせていただきます。

335Scrapper:2004/10/28(木) 02:28 ID:eARluXG.
毎度ありがとうございます.
ちょっと遅れましたが,更新しました.
http://www.geocities.co.jp/Bookend-Ango/5451/

さて,もうずいぶん前の話ですが,FFXI始めた当時の私が疑問に思ったこと.
「なぜパライズがソロロの代書屋で売ってないの?」
新規サーバで殆どの人が一から始めたばかりでしたから,
競売にも物資がなく,途方に暮れていました.

なぜ彼女の店ではパライズを売ってないのでしょう?
ひたすら亀を殺しながらグスタベルグを徘徊していた私が得た答えは,

パライズを求めた新米冒険者は亀を殺戮して回る
→グスタベルグの治安が良くなる
→政府が冒険者を有効活用するために販売を禁止してるんじゃないか?

というものでした.

Scrapperのページにおいてあるのは,そんな発想をしてしまった人間が書いてる話です.

では読者の皆様方も作者の方々も頑張ってくださいね.

336名無しの話の作者:2004/10/28(木) 06:00 ID:W8ynfEVk
「名無しの話」の25 −秋のヒュム戦−

ヒュム戦が座ってる。
夕暮れの砂浜にポツンと座ってる。

去年の海は楽しかった。
思い出してみると
……なんだかいやなことが浮かんできそうなのでやめた。
でも、楽しかった。
だから、今年もと思って準備した。
去年出来なかったことをと思って準備した。
ビーチボールにスイカにボート。
でも、なんだかとっても忙しかった。
なぜだかとっても忙しかった。

夏の初めにみんなに言った。
「いつ行こうかー」
「いついくのー?」
「のー?」
楽しかった。
でも忙しかった。

夏のさなかにみんなに言った。
「もういつでも大丈夫だねー」
「んー、まっさかりだぁ」
うれしかった。
でも、忙しかった。

夏の終わりにみんなに言った。
「まだまだ大丈夫だよねー」
「にゃ。まだ泳げるにゃ」
「大丈夫だろう」
期待してた。
でも、忙しかった。

そして…。
風は冷たい。
潮も冷たい。
ビーチボールは部屋で転がってる。
スイカは部屋で萎びてる。
ボートは部屋で縮んでる。

ヒュム戦が座ってる。
砂浜にポツンと座ってる。
「はぁ…」
なぜだかため息が出てしまう。

337名無しの話の作者:2004/10/28(木) 06:06 ID:W8ynfEVk
「にゃ〜。ヒュムさん、早く来ないと食べちゃうにゃ」
「んー、ほくほくぅ」
「にゃ、ガルさん、クリはちゃんと渋皮むかないと渋いにゃ」
「んー…むずかしぃ」
「はい、お芋焼けたにゃ」
「あつあつー」
「あついのー」
「にゃ、お芋は皮も食べるにゃ。栄養あるにゃ。芳ばしいにゃ」
「「はーい」」
「ヒュムさん、無くなるにゃー」
「これも入れようか」
「ん?…にゃー!エル姉、そのクリ生にゃ。切れ目入れてないにゃ!」
「よくないのか?」
「にゃー、入れちゃったにゃー。爆ぜるにゃ、弾けるにゃ、危険が危ないにゃ!」
パンッパパパンッ
「ふぎゃー」
パパンッパパパンッ
「うわっ」
「みー」
「きゃー」
「おーー」
パパンッパンッパンッパパパンッ



静かになった。
「?」
振り向けば、屍累々。
ゆらゆら揺れるたき火が鮮やか。

「はぁ…」
ヒュム戦が座ってる。
砂浜にポツンと座ってる。
来年の夏は…まだ遠い…。

「レイズ…呼ぶ?」

−おわり−

338名無しの話の作者:2004/10/28(木) 06:13 ID:W8ynfEVk
ごめんなさい、ごめんなさいm(_ _)m。
タル獣のお話じゃないです。
別な話を挟んじゃいました。
思いっきりの反則です。
待っていただいていた方、ごめんなさい。
そろそろゴブやヤグのたき火を乗っ取りたくなる季節になってきました。
ソーセージだけじゃなく色々焼いてパーティーしたいです。

339(・ω・):2004/10/28(木) 06:41 ID:ZlpWRfvc
何はともあれ名無しの話キタ━(゚∀゚*)━!!!!!

340(・ω・):2004/10/28(木) 11:49 ID:4cqO.lSc
焚き火乗っ取ってパーティーも楽しそうだな…。

341(・ω・):2004/11/01(月) 22:52 ID:8ei9Ewms
|ω・`)ダレモイナイ


|ω・`)カクナライマ


|彡


|・`)チョットダケネタバレアルヨ


|彡

342風の通る道:2004/11/01(月) 22:53 ID:8ei9Ewms
「ここは俺たちが引き受ける!第一部隊は進んでくれ!」
リンクシェルに怒号が響く。

「わかった、先に行ってる!無理はするなよ!」

「第一部隊、内郭へ突入した!一気に攻め込む!!」

「第三部隊より、退路は確保した!次の指示を待つ!」

この日、世界が動いた。



〜第15話、過去の呪縛(後編)〜



   −数日前−


「ついに突入か」
「斥候からの連絡によれば、事態はかなり切迫しているらしい」
「こっちの準備は既に万端だ。この時を待っていた!」

ジュノ最上層のル・ルデの庭、本来はそれぞれの国の代表が集まり、会談する部屋に、今日は冒険者があふれていた。
それぞれが屈強の戦士。
彼ら、違う国の者たちが課せられた共通のミッション。

「闇の王を討て」

最近、世界各地で起きた異変。
それは、そのほとんどが獣人が原因であると、冒険者たちの手によって明らかにされた。
そして、その影には、かつてクリスタル戦争において、獣人軍を率いた闇の王の影が見え隠れしていたのだ。

冒険者たちの間で、まことしやかにささやかれていた闇の王復活。
その噂が、実は事実であると知っている冒険者はほんの一握り。
ここに、その一握りの冒険者全てが揃っていた。

「我々は四中隊に編成し、それぞれを更に三小隊、計十二小隊にて、オズトロヤ城、ベドー、ダボイ村、そしてズヴァール城の同時奇襲を決行する」
彼らを取りまとめるエルヴァーンの騎士、アシュペルジュが静かに、しかし熱のこもった声で作戦を伝える。

「明朝にジュノを発ち、それぞれ拠点の前で待機。4000時、夜明けを待たずに突撃する」

周りの冒険者たちは、言葉こそ発しなかったが、部屋は異様な熱気に包まれてていた。

「これより編成を発表する。どの隊が突撃しても良いよう、バランスを重視した。が、それぞれ重要な役目だ。心してくれ」

343風の通る道:2004/11/01(月) 22:53 ID:8ei9Ewms
「ここが・・・王の間」
アルヴァが思わず息を飲む。

襲い来る闇の眷属を撃破しつつ、闇の王が居るとされる王の間まで最初にたどり着いたのは、
騎士アシュペルジュ、シーフのアルヴァ、暗黒騎士リザ、赤魔導師ルーヴェル、白魔導師ミーリリ、そして黒魔導師ポルクボルクの部隊であった。

しばし、その圧倒的な存在を放つ建造物に気圧される。
全員が無言で立ちすくしていると、突然ポルクボルクが言葉を発した。

「なんじゃ?緊張しとるのか?わしは早く帰ってユグホトの温泉に浸かりたいんだが・・・」

一瞬の沈黙の後、全員がぷーっと噴出した。

「まったくだ。この寒さは爺さんの腰にこたえるから、さっさと倒していこうぜ」
アルヴァが笑いながら言う。
「俺も早く帰って可愛い子とデートしたいなぁ。リザ、今日どうだい?」
ルーヴェルがにやりとしながらリザに話しかける。
「パス。このあと寄るところがあるからね」
軽く受け流すリザ。
「ルーヴェル、私には一言も声かけてくれないのに!」
ミーリリがぷぅっと頬を膨らませてすねた声を出す。
「あー、じゃあミーリリで良いか。その代わり華を探さないとなぁ」
一瞬後、ルーヴェルは腹を押さえて前かがみにのめった。

「さて、我々にもあまり時間は無い。そろそろ行くぞ」
アシュペルジュの言葉を受け、全員が力強い足取りで進んでいく。

「のぅ、アルヴァ」
「ん?何だ爺さん?」
「戦いの前に、預けておきたいものがあっての」
「ん?手紙?」

ポルクボルクが懐から出したのは、少し大きめの封筒だった。
「時が来たら、これをある人に渡して欲しいんじゃ」
「おいおい、えらくアバウトだな・・・。それに、自分で渡せよ」
「間違って温泉に落としたら大変なのでな。預かっててくれんか?」

老人の意図するところを、青年も読み取ったのだろう。
「分かった。ただし、温泉から帰ったら返すからな?」


「こちらベドー部隊!中隊にて金剛王を撃破!」

「こちらダボイ!もう少しで倒せそうだ!」

「オズトロヤも終わる!踏ん張れ!!」

リンクシェルからの報告を受け、パーティの士気も自然に高まる。

「このヴァナディールを獣人などに渡してなるものか!我々の世界は我々が護る!」
アシュペルジュの怒声を合図に、激しい戦闘が始まった。

344風の通る道:2004/11/01(月) 22:54 ID:8ei9Ewms

「リーダー、大丈夫!?」
素早いキャストでケアルを唱え、ミーリリが叫ぶ!
「まだまだ!」
体を張って、強烈な攻撃を受け止めるアシュペルジュ。
「くそ、攻撃が通らない!?」
「ちぃ!厄介だね!」
「魔法で削る!」

激しい戦闘は、人間の優勢に進んでいた。
いかに闇の王といえど、目覚めたばかり、そして、熟練の冒険者たちの力と連携に押されている。
勝機を見たアシュペルジュが指示を飛ばそうとした瞬間、パーティに異変が起こった。

「ぐあ!」
「ぐ!!」
「くっ!」
「うわ!」
「くぅ・・・!」
「きゃあ!」

突然強力な衝撃波が全員を襲い、全員が吹き飛ばされてしまった。
すぐに体勢を立て直し、戦闘に復帰するが、全員がかなりのダメージを受けたようだ。

突然ミーリリが前線に向かって走り出した。
ポロムボロムとルーヴェルは、その行動の意味をすぐに読み取り、そして制止したが、小さなタルタルの少女はパーティを救うべく、白魔導師の秘儀を発動させた!

「女神よ。私の大切な仲間に祝福を!」

柔らかな光が全員を包み、傷が見る見る回復していく。
同時に、闇の王の怒りの矛先がミーリリへと向いた。

「まずい!」
ルーヴェルが叫ぶ。
前衛の3人も、事態を理解したようだ。

「業火よ、我に仇なす敵を焼き払え!フレア!!」

小さな目標に向かい、その巨大な剣を振り下ろそうとする闇の王を、突然火柱が包み込んだ!
ポルクボルクの放った古代魔法である。
そして、今度は間髪入れずに別の古代魔法、フリーズの詠唱を始める。

「赤魔導師の奥義、見せてやるよ!」

ルーヴェルも信じられない速さのキャストで魔法を放つ。

「我が同胞に手は出させないぞ!インビンシブル!」


次々と切り札を出す冒険者たち。
・・だが


「まずい、またあれが来るぞ!」
アルヴァの放った言葉が終わる前に、先ほどよりも強烈な衝撃が彼らを襲った。
「ぐぉ!」
魔法を詠唱していたポルクボルクが吹き飛び、壁に体を強打した。
何とか踏ん張った他の5人は、敵のある異変に気づいた。

「奴は疲弊している!畳み掛けろ!」
アシュペルジュの言葉どおり、闇の王は明らかに弱っていた。
恐らく先ほどのような衝撃波はもう撃てないだろう。

345風の通る道:2004/11/01(月) 22:54 ID:8ei9Ewms
轟音と共に、闇の王は地面に伏した。
リンクシェルから歓声が上がる。
だが、打ち倒したパーティの面々は、一様に暗い表情をしていた。

「多分あの衝撃波で・・・」
ミーリリが、目に涙をあふれさせながら言う。
ポルクボルクは、闇の王が倒れる頃にはその生涯を終えていた。

ガシャン!
突然の音。
全員が振り返ると、リザが地面に倒れていた。

「まずい、ケアルを!」
アルヴァが叫ぶ。

「まってて、マナが足りない!」
「くそ、俺もだ・・・。しばらくコンバートも出来そうに無い」
アシュペルジュも黙って精神集中に入る。
倒れたリザにアルヴァが駆け寄った。

「しっかりしろ!すぐに回復してもらえる!」
「ふふふ。ざまぁないね・・・」
「しゃべるな。体力を消耗する!」
「いいんだ・・・。自分でわかる。あたしはもうだめだ・・・」

「前に、あたしが無くてはならない存在だって言ってくれたの、覚えてるかい?」
「ああ、覚えてる。だから死なないでくれ!」
「あたしにとって、あんたは光だった。闇に堕ちたあたしを救ってくれたのはあんただ。あたしにとってもあんたは無くてはならない存在なんだ・・・」
「しっかりしろ!あのときの返事、まだ聞かせてもらってないぞ!」

その瞬間、ミーリリのケアルがリザを包み込んだ。

「そんな!ケアルが効かない!?」

「返事・・・か。嬉しかったよ・・・。でも・・、あたしには、むりみたい・・・だ」
何度も降り注ぐケアルの光を浴びても、リザは弱る一方だった。

「でも、あんた・・・には幸せに・・・なってほしいんだ・・・」
ゴホゴホと咳き込みながらもつむぐ言葉を、青年は黙って聞いていた。

「あんたに・・・は、あたしの・・・代わ・・り・・・に、幸せに・・・なる・・義務があ・・・る」
パチン
鎧の止め具をはずす音が聞こえた。

「もう・・・・らくに・・・し・・て・・・」

パチン
アルヴァの行動の意味が分かったのであろう。
アシュペルジュはじっと目を伏せ、ルーヴェルは悲痛な目で二人を見、そしてミーリリは泣き出した。

パチン
胴鎧をはずした青年の目には、あの首飾りが飛び込んできた。
不意に涙があふれる。
腰から一振のナイフを取り出すと、誰にとも無く青年は呟いた。

「ミセリコルデ・・・慈悲の短剣か。慈悲なんて・・・!だったらリザを救ってくれ!!」
ミーリリが声を上げて泣き出した。
アシュペルジュとルーヴェルは、目を背けることなく彼らを見つめる。

「まだ、ちゃんと言って無かったよな。リザ、君を愛してる」

その言葉を最後に、青年は愛する女性の胸に短剣を突き立てた!

346風の通る道:2004/11/01(月) 22:56 ID:8ei9Ewms
「アルヴァ!!てめえええええ!!」
突然走ってきた影に、アルヴァは殴り飛ばされた。

「お前、お前だから任せたのに!!」
殴った後の体勢のまま、トリスタンが叫ぶ。
「やめろトリスタン!アルヴァのせいじゃない!」
ルーヴェルの声もトリスタンには聞こえていないようだ。

「この野郎!!」
トリスタンが突然、斧を構えた!
「あ、あれ!」
同時にミーリリが叫ぶ。
ミーリリが指差した先には、夥しい数のデーモンが怒涛のごとく押し寄せてきていた。

「ミーリリ、エスケプ・・・いや、テレポだ!」
アシュペルジュの指示が飛び、すぐに詠唱を開始するミーリリ。
そして
「この野郎、殺してやる!」
両手斧を振り上げたトリスタンが叫ぶ。
アルヴァは地面で上半身だけを起こし、放心状態になっていた。

「バカなことはやめろ!」
アシュペルジュがトリスタンを盾で強打した。
勢いで吹き飛ぶトリスタン。

「リーダー、あそこは魔法範囲外だ!トリスタンが置き去りになる!」
ミーリリの詠唱は、もう半分が完成していた。
「仕方ない、今詠唱を中断すると全滅する!」
「くそ、トリスタン!早くこっちに来い!!」
だが、トリスタンは倒れた体勢のまま動かず、テレポの詠唱は完成してしまった。


-----------------------------------------------------------------------------------------------


「後で聞いた話だが、トリスタンは一人部隊を離れて俺たちの所に向かっていたらしい。どんな目的だったのか知る由もないけどな・・・」
今でも手に残っている。
リザを貫いたあの感触・・・
「俺が知ってるのはここまでだ」

もう既にコンシュタットは明るくなり始めていた。

パーシヴァルはずっと黙ったまま話を聞いていた。
「ちょっと疲れたな。徹夜はきつい。一眠りしてくる」

眠れそうに無かったが、少しは休んでおく方が良いだろう。
何しろ、今日はあのパシュハウ沼へ入る予定なのだから。

「もしかすると、俺が寝てる間に仲間の一人が急に特別な用事を思い出して、居なくなってるかもしれないな」
「あの・・・」
パーシヴァルが何か言いかけたが、俺は続きを聞くことも無くテントに入り、眠りについた。



つづく

347(・ω・):2004/11/04(木) 11:08 ID:ARdFllYE
つづかなくていいので、他の作品待ちage

348(・ω・):2004/11/04(木) 15:04 ID:FRSMbygQ
>>347 【かえれ】

349(・ω・):2004/11/04(木) 22:21 ID:q9aad9hE
>>347
【ダボイ】【かえれ】

350(・ω・):2004/11/05(金) 01:15 ID:udQr5KoY
>>347
【347】【いりません】

351(・ω・):2004/11/06(土) 20:34 ID:U5eusq62
半年振りくらいにスレ読んだ
スクラッパー終わって新しいの始まってたのね
タイトルはそう読ませるのか、なかなか渋いなぁ

セイブァワワー、ヤグ萌え

群雄、ヤグ小竜萌え、でもだいぶたまってるからまだ読みきってない、疲れるし

352名無しの話の作者:2004/11/08(月) 01:30 ID:yTDAad1A
「名無しの話」の26 −思い・悩み 2−

町に入って、向かったのはパン屋さん。
まだ人通りの少ない通りをいくつか駆け抜けて、角をいくつか曲がり込む。
小さな看板が目印の、ちょっと古びた店構え。
「でもね、おいしいのー」
とタル黒推薦のお店。
まだ薄暗い夜明け前、それでも店は開いてた。
町は日が昇ると共に動き出すから、パン屋さんはもっと早くから開けるという。
「おはようございます」
店に入れば
「はい、いらっしゃい」
香ばしいパンの香りに包まれる。
ちゃんとタルタル用の踏み台が用意してあるカウンターの向こうには
壁いっぱいの棚。
棚いっぱいのパン。
そして、にこにこ笑顔のおばさん。
「くださいなー」
「なんにするね?」
小さなタルタルにもよく見えるように、少し横へよるおばさん。
踏み台の上で、精一杯に背伸びして、棚を見回すタル獣。
白パンに黒パン、バターパンに固パン。
わかりやすいように、棚に名前と値段が張ってあるけど、いっぱいありすぎてよくわからない。
「あのね、甘いのがいいのー」
「じゃあ、このへんかしらね」
おばさんが、棚から一つずつ取って、タル獣の前へ並べる。
ジャムパン、チョコパン、クリームパンは定番。
あんパン、蜂蜜パン、揚げパンは通好み。
「あとこれは、うちの特製」
ヒュームの拳より大きな丸いパンが、ふたつ。
「ほら」
おばさんがナイフで二つに割る。
「あー」
思わず声を上げるタル獣。
ひとつはリンゴ。
ひとつは梨。
パンの中に丸ごとはいってる。
「甘く煮てあるんだよ」
一口食べてみな、と差し出された小切りを口にして
「おいしいー」
再度声を上げるタル獣。
柔らかいけど、シャクシャク歯ごたえが残してある。
甘いけど、あっさりしてる。
「蜂蜜と砂糖の分量が秘訣でね」
少し自慢そうなおばさん。
「どれにする?」
聞かれて
「…」
少し考え
「ぜんぶー」
とタル獣。
「おやおや、そんなには食べられないだろう?」
あきれたようなおばさんへ
「ボクじゃないの。トラさんにあげるのー」
とタル獣。
「そうなの」
すこし納得するおばさん。
けど間違ってる。
獣使いだというのは服装で判っているけど、こんな小さなタルタルがトラを連れてるとは少しも思ってない。
しかも、あのトラを。
(トラって…変わった名前のヒュームだねぇ)
友達の名前だと思ってる。
まあ、当たり前のこと。
「あのね、これぜんぶ十個ずつちょうだい」
「え?」
「たくさんいるのー」
「ぜんぶ、その友達にあげるのかい?」
「うん」
「よく食べる友達だねぇ」
棚から取り出したパンを袋へ詰めながら
(…きっと大食らいのガルカだね…)
まだ間違ってる。

353名無しの話の作者:2004/11/08(月) 01:33 ID:yTDAad1A
「よいしょ、よいしょ」
自分と変わらないような大きさの袋。
いっぱいにパンの詰まったのを抱えてるタル獣。
前が見えてるような、見えてないような。
ほんとはもっと買いたかったけど、とても持てないからあきらめた。
「あとでよかったら、配達したげようか?」
見かねたおばさんが親切に言ってくれたけど、断った。
だって、トラさんのとこまではたのめないから。
(トラさん、よろこぶかなー)
町の外には、甘いものは少ない。
木の実は鳥が、草の実は獣が食べてしまうから。
美味しい実ほど競争率が高い。
たまにトラさんの頭に乗って木の実を取るけど、
小さなタルタルでも一口無いのを
「はんぶんこ」
トラにわけたら
「おまえが食べたらええわ。ワイは甘いのは…」
そう言って首を振った。
「トラさん、甘いのきらい?」
「あんまりなぁ」
その時は納得した。
けど、あの夏祭りの夜。
タル龍騎と一緒に、竜とトラにリンゴ飴をあげたとき。
山ほどのリンゴ飴を、竜は喜んで、しゃぐしゃぐほおばった。
トラもかじった。
タル獣をちらちらと見ながら。複雑な表情で。
タル獣はその時気づいた。
…トラさんも甘いの好きなんだ。
だから、買いに来た。
トラさんがおなかいっぱいになるように。

354名無しの話の作者:2004/11/08(月) 01:36 ID:yTDAad1A
来た道を戻り、もうすぐ門が見えそうな頃。
「けっこうです!」
と声。
「?」
振り返ると、早足に歩いてくるエルヴァーン白魔導師の女性。
「まてよ」
「いっしょにやろうぜ」
ヒュームが数人追いすがる。
「あなた達のように礼儀を知らない人とは組みません!」
エル白が立ち止まったのは、タル獣のすぐ脇。
「そういうなよ」
「儲けさせてやるから」
どうも、パーティーにムリヤリ誘ってるみたい。
「まかせとけって」
エル白の腕をつかんで強引に連れていこうとするヒュームたち。
「!、!」
ちょうどタル獣の頭の上でもめてるけど、どうもタル獣は目に入ってない。
というか、無視されてる。
「やめてください」
エル白がヒュム戦の手をふりほどいた弾みで
ゴン
膝がタル獣の頭に決まる。
「ふゃ」
転がるタル獣。
ばらばら
パンが散らばる。
「あ、ごめんなさい」
気づいたエル白が慌てて助け起こそうとするけど
「んなのほっとけよ」
ヒュームが再度腕をつかみ
「きゃ」
引っぱる。
「!」
それを見て
「仲良くしないといけないの!」
二人の間に立ちふさがるタル獣。
といっても、遙か下なので、ちょっと意味無いような気もするけど。
「なにぃ?」
と睨みおろすヒューム。
「なんだおまえ、邪魔するのか」
邪魔するなら踏みつぶすぞ、という勢いを、
「ちょ、ちょっとまて」
別なヒュームが止める。
「なんだよ?」
止められたヒュームは不満そう。
「えーっと、失礼ですけど…」
ずいぶんていねいな口調でしゃがむと、
「もしかして、”タル獣”さん?」
「うん」
元気にうなずくタル獣。
「あ、やっぱり?じゃないかなーって思ったんですよ。はははは」
スルスルスル〜っとあとずさるヒューム。
「なんだよ、おい」
タル獣を睨みつけてたヒュームは仲間の行為の意味がわからない。
タル獣と話したヒュームが
「ちょっと耳かせ」
「……」
仲間の耳へぼそぼそごにょごにょと囁く。
とたん。
「!」
驚きと恐怖の混ざった目でタル獣を見下ろすヒュームたち。
「こいつが?」
聞かれてうなずくヒューム。
「ほんとに?」
再度うなずくヒューム。
「トラの?」
もいちどうなずくヒューム。
「…き、今日はこれぐらいにしといてやらあ」
「次は気をつけろよ」
「どうも失礼しましたぁ〜」
よくわからないセリフと共に、クルリ背を向け、
スタスタスタスタスタ
不自然な早足で去っていく。

355名無しの話の作者:2004/11/08(月) 01:45 ID:yTDAad1A
ヒュームたちの後ろ姿を呆然と見送り
「…」
タル獣へと視線を向けるエル白。
「よかったねー」
と笑顔をエル白へ向けてから、
「!」
慌ててパンを拾い始めるタル獣。
「あ、手伝います」
しゃがむエル白。
転がったパンの土をていねいにはらって、袋へと戻す。
全部拾い終わってから
「ありがとうございました」
あらためて頭を下げるエル白。
「私は昨日この町へ着いたんです。今日は一日待ちを見て歩こうと思ってたのに、あの人たちに誘われて」
エル白の長い手が、あっという間にパンを拾い集める。
「しつこくて困ってたんです。おかげで助かりました」
「いいの。みんな仲良くしないといけないの」
と少し照れてるタル獣。
「もしかして、タル獣さんて、強いんですか?」
「?」
「あ、さっきの人たち、名前を聞いて逃げていったので…。ごめんなさい、なんだか失礼な質問ですね」
「…ぼくね、まだあんまり強くないの。でも、トラさん強いの」
「トラさんですか?」
「うん。ぼくの家族なの。とーっても強いの」
トラの強さをあらわそうとして、大きく両手を広げるタル獣。
「本当に強そうな名前ですね」
すこし、勘違いがある。
「うんっ」
にぱっと満面の笑みを浮かべるタル獣。
「あの…失礼ついでなんですけど…」
「?」
「私もご一緒させてもらってもいいですか?」
それは、タル獣にとって驚きの申し出。

−つづく−

356名無しの話の作者:2004/11/08(月) 01:52 ID:yTDAad1A
ごめんなさい、ごめんなさいm(_ _)m
また続いちゃいました。
というか、も少し続きます。

あと >全部拾い終わってから< ここ余分です(T_T)
ごめんなさい。

357(・ω・):2004/11/08(月) 02:06 ID:PCZEnDYw
(*´Д`*)

358(・ω・):2004/11/08(月) 02:13 ID:uG7Em9k.
(*´д`*)萌え

359(・ω・):2004/11/08(月) 15:11 ID:BV/MdFsU
このスットコドッコイなヒュム達は、ホワイトデーの時の人達だろうか(*´∀`)

360(・ω・):2004/11/09(火) 09:48 ID:wPbDF1U2
名無しの話の作者 の人は書き終わるたびになんで毎回謝ってるの?

361(・ω・):2004/11/09(火) 10:18 ID:ieuQ5XSk
遅レスだが、デザイナーズハイ面白かった!
他のもなかなか面白かったけど、合成してる自分としてはここ数ヶ月はこれが一番
面白かったなぁ。
名無しさんのも相変わらずいい雰囲気。
すでに自分のヴァナ空間作ってるね。
作者様達、面白い話いつもありがとー。

362(・ω・):2004/11/09(火) 10:34 ID:Hdrq6g4Y
>>360
その部分も作者の色だと思って楽しみましょ〜

363(・ω・):2004/11/09(火) 20:29 ID:d0x/n4OM
名無しの話さんキテル━━━━━(゚∀゚)━━━━━!!!

364デザイナーズハイを書いた者です。:2004/11/09(火) 23:33 ID:QaefMUkY
>>361さん
実は合成まったくやってないのに予想で書いてしまいまして、
しかもゲームシステムも色々無視もしていまして、
こういうの余り好きじゃないヒト多いんじゃないのか〜と心配していたのですが、
気に入っていただけた様でとても嬉しいです!
次の作品を書く余力を頂きました。ありがとうございました。

365(・ω・):2004/11/10(水) 15:19 ID:SuwC5POY
―フィー、この世界はね…

何時もこの台詞から始まる母さんの話を
僕は毎夜、子守唄にして此処まで育ってきた。
だからだろうか、人一倍、<世界>への興味があった。
―子供は危ないから
―冒険者でも危ない時があるんだから
お約束な言葉を受けながら世界への憧れを募らせていたある日
僕は魔法図書館で一つの本に出会う事になる。

『グィンハム・アイアンハートの軌跡』

寝る間も惜しみ貪り読んだ。
思えばあの本が僕の人生の重要な分れ道の一つだったのだろう

―あれから10年、今、僕は南グスタベルグの大地に立っている。

***
ついに書いてしまった…。
始めて書くので読むに堪えないかもしれませんが
しばらく書かせていただきます。 (´・ω・`)ヨロシク
フィー:タル/ウィンダス生まれ&所属/19歳

366(・ω・):2004/11/11(木) 03:24 ID:hx9XJ12w
うおお!面白そうな始まりですね!
期待して待っております。

367題名が思いつかないって愚痴。:2004/11/11(木) 14:22 ID:mgOkgTx2
"私は、40年以上船乗りとして生きてきたが、
未だ、この世界をおぼろげにしか理解していない。
町や村で生活している者は、なおさらだろう。
自分の身の周りのことだけに興味を持ち、
生きていくのは、多くの場合、安全だし幸福だ。
好奇心の強い者は、危険に陥りやすいからだ。
しかし、私は遭難の末に偶然拾った残りの人生を、
この費えぬ好奇心に使おうと思いたった。
大それたことだが、このヴァナ・ディール世界の
形を、知りたくなったのだ。
私はその記念すべき第一歩の足跡を、愛する故郷
バストゥークを一望できる丘に残すことにした。
いつの日か、多くの人々に役立つ筈、との使命感と
ゆるぎなき決意を胸に秘めつつ、ここに記す。

天晶748年 グィンハム・アイアンハート"

―ここがアイアンハートの旅立ちの地…。
石碑を前にして僕は息を飲んだ。
「此処から…此処から<世界>を見て周るんだよ、トット」
突然話しかけられ彼は少し驚きつつ僕を見上げ首を傾げた。
「ははっ、トットには解らないか」
僕がそう言って笑うと彼は少し怒った様に身体を揺らす。

そう、トットは人ではない、ヒュームでないという意味ですらない。
彼はクロウラーなのだ。
言い忘れていたけど僕の職業は獣使い。
9年前、サルタバルタで見つけた白くて綺麗な宝石の様な塊。
それがクロウラーの繭だったなんて思いもしなかったケド、
どうやら僕には獣使いの素質があったようで、すぐに僕らは親友になった。
そして今に至る。

「…じゃあ、行こっか。まずはコンシュタット平地かな…」

トットの柔らかい背中で揺られつつ僕は<世界>への一歩を踏み出した。

368(・ω・):2004/11/11(木) 22:12 ID:XpMhbd.c
おおおお新作キテターーーーー(゚∀゚)ーーーー

まだ始まったばかりなのでどういうストーりーなのかわからないけど
タイトルは「アイアンハートの足跡」なんてどうだろうか?

369(・ω・):2004/11/13(土) 01:10 ID:tGeE62wo
眠れる森


確立された木々が覆う。

大勢の人数が歩く音は、まるで波の様だ。
森に響く漣の音は、まるで濁った血脈の鼓動。
私は奇跡を願った。
奇跡など信じない。
私にあるのは・・・・ただひとつのしんじつ。
力とイコールで結ばれた物だ。

私は死など恐れてはいない。


−朽ち果て−


「全隊前進!号令で列幅をそろえろ!」

 「第一小隊!前へ進め!」
「第二小隊、前へ進め。」

    「剣を抜け!抜刀だ!」
おおぉぉぉぉぉぉ!!!

まだ朝日が昇らない程の時刻。
霧が全てを覆う森。
そう確立した世界に、私は存在していた。
ジャグナーの森に深くかかった霧を切りながら、私たちは勇敢にも進んでゆく。

鉱脈探査と称し、各地の調査を行う我が国の黄金銃士隊と、
オーク討伐の帰路についていたサンドリア王国の王立騎士団が、
深い闇の覆う森の中で出会ってしまった。
そして、互いの存在に驚き、戦闘が始まってしまったのだ。
王立騎士団が、ダボイ遠征で戦力を浪費していたために、
戦力的には圧倒的に不利だった黄金銃士隊も、なんとか耐えることが出来たようだ。
皮肉なことに、それがお互いの援軍要請の時間稼ぎになってしまった。
ミスリル銃士であり、職務上、獣人との戦闘経験が豊富な私は、上層部の命令を受け、
共和国軍を率いて戦場へと向かった。
平和協定が結ばれても、この様な小競り合いは幾度となく続いていた。
小競り合いでも人は死ぬ。嫌なものだ。

370(・ω・):2004/11/13(土) 01:11 ID:tGeE62wo
「隊長殿、全隊戦闘態勢をとりつつ前進しております。
 ・・・しかし、3個十人隊で、サンドリアの軍勢に勝てるのでしょうか。」
私の副官を務めるシャドウウォーカーが言った。
共和国軍は、民間人から兵役、徴集に寄って作られた軍であり、それこそ職業軍人は居ない。
しかし、共和国軍には兵期を肩代わりする制度がある。
金持ちのヒュームは、ガルカに金を払い、兵役を肩代わりさせることがある。
まさにシャドウウォーカーのことだ。
シャドウウォーカーは、ある意味では職業軍人といえるだろう。
彼は、戦地で叩き上げられた百人隊長だった。
本来は、私の代わりに指揮を取れたのだろうが、ガルカが隊長として作戦の指揮を取ることはない。
ヒュームは、兵士としてのガルカに軍事を乗っ取られることを恐れているのだ。
だから、戦闘に慣れたミスリル銃士である私が、今回指揮をまかされたのだろう。
「勝つか負けるか。それは問題じゃないな。死ななきゃいいんだ。」
私はウィンクを返して答えたが、彼の目は私を通り越して、闇がまだ広がる森の奥を見ていた。
「・・・・くる・・・。」
シャドウウォーカーの、その呟きを聞き、私は命令を発する。
「全隊止まれぇ!戦闘態勢!!」
 
 「第一小隊止まれ!戦闘態勢だ!!」
   「第二小隊、戦闘態勢!」

「第三小隊は後方展開、魔法詠唱を開始しろ!」

陣を取り、シンとした森。
私とシャドウウォーカーが先頭に立っていた。
10秒ほどしてからだろうか。
ザッザ、と、いう音が聞こえた。

ザッザ ザッザ

徐々に大きくなるその音は、軍隊の行進とは違う音だ。
「チョコボ・・・・。」
シャドウウォーカーが呟いた瞬間、霧の置くから十数体のチョコボ騎兵が姿を現した。
鉄同士が摩擦する音を鳴らして各々が剣を抜き身にし、私の横を通り抜けていく。

おおおぉぉぉぉぉぉぉ!

371(・ω・):2004/11/13(土) 01:13 ID:tGeE62wo
戦闘開始。
馬上の騎士が、剣を降り下げて次々と我が軍の兵たちを切り刻んでゆく。
血が舞う戦場が舞台を始めた。
開演の時を逃がした私は剣を抜き、その薄汚い舞台へと舞い上がった。
ザッザ・・・森の奥からチョコボの足音が聞こえた。
第二波がやってきたのだ。
3体の騎兵が剣を抜き、私に切りかかってきた。
剣で受け、そのまま刃を滑らせる。
そのまま後に回転し、チョコボの足を切り崩した。
チョコボから投げ出された騎士の頭へと、剣を突き刺す。
兜と頭蓋骨を貫き、剣が地面へと刺さった。
「騎士様もこの程度か!!」
叫びながら剣を抜くと、死者の頭から血が吹き出した。
残りの2体が私を囲んだ。私を挟み、対立した騎士がぐるぐると回る。
汗が額を伝った。
剣を握る手にも汗がにじむ。
滑らないように、何度か握りなおしてみる。
しっくりと感じた瞬間、私は横転しながら剣を投げはなった。
剣は空に直線を描き、片方の騎士の鎧を貫通し、心臓へと刺さった。
武器を失った私に、もう一人の騎士が襲い掛かる。
馬上からの一撃が私を襲おうとした。
しかし。

パン

間抜けな音が周囲に響いた。
私が、腰に備えていた銃を抜き、騎士の頭を狙撃した音だ。
崩れ落ちる騎士を無視して走り去るチョコボ。
私は、落ちていたサンドリアの剣を拾い、粉塵の舞う戦場へと足を向けた。

372(・ω・):2004/11/13(土) 01:14 ID:tGeE62wo
「一」
パン。狙撃。引き金を引いた。
「二」
パン。響くたびに騎士が命を散らした。
我が軍が優勢を保ち、騎兵の数が徐々に減り始めた頃だった。
急に、騎士たちが踵を返し、霧の中に消えて行く。
逃げたのか?そう思った私の頭に、もうひとつの考えが浮かんだ。
「・・・やばい。全隊防御!体のでかいガルカを盾にしろ!!」
私の指示と同時に、ヒュンヒュンという、弦がはじかれる音がし、数秒後に矢の雨が降り注いだ。

   うああああ!
ぐあああ!
  ぎゃああ!

 あああ!

四方で叫び声が上がっていた。
倒れたのは殆どがガルカで、彼らはヒュームを矢の雨から守っていた。
それは、できるだけ兵の数を確保するための犠牲・・・しかたのないことなのだ。
「全隊再展開だ!陣を取れ!」
しかし、矢の雨によって命令系統がいかれてしまった。
混乱が兵を襲っている。
そして、第三波。
騎兵30人が、体勢の整っていない私たちを襲った。
血しぶきと怒声。勝どき。悲鳴。
さまざまな感情が、この場に存在した。

立ち尽くす私の元に、矢を背に受けたシャドウウォーカーがやってきた。
「隊長殿、撤退の命令を・・・・全滅は恥ですよ。」
右手に剣、左手に銃を持つ私は、戦場のど真ん中で立ち尽くしていた。
「私は・・・・。」
口元には引きつった笑いが存在した。
「死など恐れていない・・・・。あとは好きにしろ。私は戦う。」
歩き出す私を見て、シャドウウォーカーは何を思ったのだろうか。
どう感じたのだろうか。
死を恐れない者などいないよ。

「全隊撤退!牽制しつつ後退だ!」

シャドウウォーカーの声が響いた。
土煙の上がる戦場のなか、血と、汗と、死のにおいを嗅ぎながら私は戦った。

気づいたとき、すでに軍は撤退し、チョコボから降りた10人の騎士が私を円状に囲んでいた。
全員が、私からの距離を均等に保っていた。
「投降しろ。」
騎士の、凛とした声が響いた。
私はそれを合図に回転した。
銃を乱射する。
騎士は致命傷を避けるために盾に隠れている。
ギィン、ギィンと、金属の衝突音が響いた。
「ぐぁ!」
 「ぎゃ!」
足を打たれた騎士が、何人か膝を突いた。
カチカチ・・・・しばらくすると、引き金を引くたびに乾いた音がした。
弾切れ。
回転の遠心力を使い、私は銃を放り投げた。
弾幕によって崩れた体勢の隙を突き、剣を構え、一人の騎士へと立ち向かう。
そして、騎士の剣筋を避け、首の鎧の隙間を狙った一撃を入れようとした時・・・・。
私の背中に激痛が響いた。
意識が遠のき、地面が目の前まで近づいてきた・・・・。
妻と娘の顔が脳裏に浮かぶ。

私は死など恐れてはいない・・・・。


朽ち果て

373(・ω・):2004/11/13(土) 01:17 ID:tGeE62wo
ネガティブマーチを書いてた頃に、息抜きに書いたものですが、
なんとなく投稿させていただきます。
お目汚しにならなければ幸いです。
このあと5話まで書いてあったのですが、
続きが気に入らないので一話完結ということで・・・。

374(・ω・):2004/11/14(日) 14:14 ID:neKqLFXE
何となくラストサムライの1シーン思い出してしまいましたよ(*´∀`)

375眠れる森:2004/11/14(日) 18:20 ID:z6CWqWho
>>373さん
分かりますか!その通りです。
トムクルーズが侍と戦って捕らえられたシーンをイメージして書きました。
伝わってよかった・・・。

376374:2004/11/15(月) 08:25 ID:bbC9N/AU
ああ、やはりか(*´Д`)
命令出して陣を敷く時とその後の静寂で少しイメージかぶって

>シャドウウォーカーが呟いた瞬間、霧の置くから十数体のチョコボ騎兵が姿を現した。
>鉄同士が摩擦する音を鳴らして各々が剣を抜き身にし、私の横を通り抜けていく。
もうこの瞬間で完全に脳内であのシーンの再生始まりますた
グッジョブ(´∀`)b

377眠れる森:2004/11/15(月) 22:30 ID:ir9wK5Mk
ああ!>>374さんでしたか!ごめんなさいor2

378<風の呼び声>:2004/11/16(火) 20:28 ID:a.2ldjLg
<風の呼び声>


俺はチラッと俯いて吐息をついた。
シュマルルの眼鏡がきらっと光を反射していた。
「大丈夫か?マシュルル」
俺の声にマシュルルは首を上げ見あげた。
「大丈夫だ。サク、行くぞ」
大丈夫っつわれても、息が上がってるんだけどねぇ。
突っ込みたい気持ちを押さえて、歩を進める。
さすがに、後悔したい気持ちになっていた。
召喚獣について調べたいと言う冒険者ギルドからの依頼は、一日ニ万ギル+必要経費という破格なものだった。
うまい話には裏がある。それは承知していたが、先日新しい忍者刀を手に入れ懐が寂しかった。
つい、契約をむすんでしまったのが、今回の過ちだった。
契約相手は、タルタル族の研究者。
長いローブを頭から膝までかぶって顔すらも上からでは見えない。
ただ、肩で息をし、もう歩くのもやっとだと言う事は十分見て取れた。
「少し休まないか?俺が疲れた」
しかたなく、俺は呟く。
俺はあと丸一日は歩きどうしで行けそうな体力具合だが、研究者様の体力はすでにレッドゾーンだ。
テリガンの熱い砂に顔面ダイブで火傷したくなければ、座った方がいい。
「…そうだな」
マシュルルは呟いた。
「こっちだよ。岩の間がゴブリン族に見つかりにくい。先にはパーティがコカ肉狩りしてるからゆっくり休める」
はぁ、はぁと息遣いが聞こえる。
意地っ張りというよりは、自分を知らない馬鹿としか俺にはいえない。
依頼人でイイと思える奴に会える方が少ないが…
旅護衛系は気遣いも主な仕事の一つだ。
マシュルルは倒れこむように座りうずくまった。
「たく、あちぃなぁ」
俺は座って水筒と取り出した。
「ん、飲めよ」
「いい。サクはほとんど飲んでないだろう。サクから先に飲め」
かすれた声に俺は肩をすくめ、水をあおるふりをした。
この馬鹿タルは今にも脱水症状で死にそうな顔をしているってのに、…自分の心配しろってんだ。
こちとら、冒険者。過酷な旅にはなれっこで、自分の体の限界も知っている。
まだまだ余力たっぷりだ。
水筒を、マシュルルに回す。
指先が震えているのを俺はしっかり見て取っていた。
相当まいっている様子にまずいなとおもう。
研究者様は野宿なんかした事も無いだろう。
2日前にラバオを出て、昨日クフタルで夜を明かしたがほとんど眠れなかたようだし、食事も咽喉を通っていない。
体力負けは確実だった。

379<風の呼び声>:2004/11/16(火) 20:32 ID:a.2ldjLg
水を少し飲んで、水筒を返す。
「もっと飲め」
俺の言葉にマシュルルは首をふるふるっと横に振った。
「大丈夫だ。水が大切な事くらいわかってる」
「馬鹿」
そう言って、俺は荷物の中からサルタオレンジを取り出し水クリで調理した。
「材料はもってきている。遠慮なくしっかり浴びるように飲め」
「えらそうに言うな!どっちが依頼主だと思っている」
「このテリガンでえらいのは依頼主様じゃなくて、俺様だ。
お前はここのことは知らない。
俺は知っている、従うのはどっちかその賢い頭で考えるんだな」
そういって、オレンジジュースをマシュルルの膝にほおり投げた。
生憎、冷えたオレンジジュースは調達できなくて申し訳ないが、
モノが食えないのならジュースでエネルギー補給しか方法は無い。
が、マシュルルは俯いたまま動かない。
仕方なくマシュルルの膝のジュースを取り上げ口を切って、顎をとり無理やり飲ませる。
「ん、く、んく、んくっ」
息つぎを注意させながら飲ませ終わると、マシュルルは俺の手を思い切り叩いた。
「乱暴者っ!これだからバス人はっ!!」
口の端からこぼれたジュースを袖で拭き、マシュルルは叫んだ。
まぁ、こんだけの空元気でも元気がありゃ、あと一日は何とかなるかな。
身体に水分が馴染むまでのわずかな時間、休んで立ち上がった。
「さて、行こう」
「ん」
熱砂を払って、立ち上がる。
マシュルルは俺にスニークとインビジをかけ、自分にもかけて歩き出す。
「魔法は、はじめだけでいい。あとは薬品を使う」
俺は繰り返し行った言葉を再度繰り返した。
マシュルルは無言だ。
マシュルルの気配を感じながら、召喚獣が眠るという巨大クリスタルを捜す。
熱い…まだ昼の14時だ。
もうしばらくは灼熱地獄が続くだろう。

380(・ω・):2004/11/16(火) 20:36 ID:a.2ldjLg
順調に地図を見ながらすすんでいた。
不意に、足音がした。
「ちっ」
マシュルルのスニークが切れたのだ。
魔法をかけかえ、が…見事に失敗し、ゴブリン族に気がつかれた。
「ぁ…っ」
マシュルルのまずいっというような小さな悲鳴。
俺は反射的にマシュルルの前にたった。
「かの者に自由を許さず、その足に束縛の鎖を。グラビデ。
 虚空なる我が分身よ。我を守れ。空蝉の術
 マシュルル、すみでインスニ入れてろ。いいか?ケアルなんざ打つなよ。
 ゴブリンに気取られず、とらずにおとなしくやり過ごせっ」
忍者刀を構え、一閃する。
マシュルルは震えながらも唇を噛み締め、小さく呟いた。
「…その炎の術より我らに守護と恵みを、バファイラ!」
「タゲられるなっつってるだろう。ぼけっ。
俺の言う事を聞かなきゃ、お前を守りきれねぇんだよ!!」
俺は荒っぽく叫んだ。
赤魔法を使う忍者は異端だ。だが…最強だと俺は自負している。
どちらの修行も怠った事は無い。
回復魔法は自分で使えるし、空蝉で身を守ることもできる。
刀をすいっと滑らせた瞬間振り返ると、
インビジをかけてないマシュルルが蒼白な顔色で俺を凝視しているのが見えた。
ゴブリンの短剣が俺のわき腹を滑った瞬間、
マシュルルの口から「っ」と小さく息を飲む声。
はじめて命のやり取りが目の前で行なわれていたら…
そして、自分の盾となるべき者が万一死んだら…マシュルルの命もない。
強いものが勝ち弱いものが死す。
自然の摂理だが…マシュルルにその覚悟があってここまで来たのかどうか微妙な所だった。
よせた眉と、恐怖に怯える表情が…固まって動けない体が…
冒険者との決定的な覚悟の違いを見せていた。

381(・ω・):2004/11/16(火) 20:39 ID:a.2ldjLg
「大丈夫、だ」
俺はわざと振り返って、余裕の笑みを見せる。
「落ち着けや、マシュルル。すぐ終わらせてやっから」
その瞬間、腕を短剣でかすられ、俺の血がはじけとんだ。
「っ!!!」
マシュルルは歯を喰い縛り震える声でケアルを詠唱する。
だーかーら。
目立つなっていったろうがっ!
ゴブリンは俺より回復役のマシュルルをやっつけた方がいいとおもったらしい。
ゴブリンの視線がマシュルルに向かう。
気の弱い研究者様を怯えさせんじゃねぇって、このゴブリンがっ!
背後の袋から忍術の媒介を取り出し、投げる。
捕縄の術、暗闇の術、呪縛の術…あとは怒りを込めて、刀を一閃する。
「天!」
ザクリ。生き物の繊維が断ち切られる手ごたえを感じた。
息をついて振り返ると、涙を大きな蒼い瞳から滲ませるマシュルルが小さく唇を開いて、息を詰まらせていた。
あーあ。やっちまった。
マシュルルの白い頬についた血飛沫は、俺の血か、ゴブリン族の血か。
…怖かっただろうなぁ。
「落ち着けって、大丈夫だから。ゆっくり深呼吸だ。息を詰まらすな」
肩を揺すってやり、グイっとマシュルルの頬の血を拭ってやる。
「ぁ…」
熱いのに冷や汗びっしょりかいて、まぁ。かわいそうに。
体温が高めなのはタルタル族ゆえか、熱射病か。
肉弾戦とは程遠いタルタル族が、目前かぶりつきライブの殺し合いはさすがにきつすぎたか。
俯いて震えているマシュルルに困ったなぁと眉を寄せる。
「ん?どした。ほら、水飲むか?」
「気持ち…悪」
脱水症状+極度の緊張+貧血+αってとこか?
だが、こんな敵のいる所にぐずぐずしてもいられない。
あえぐように俯いて肩で息をするマシュルルに俺は目を閉じた。
「マシュルル。噛むなよ」
そっと言って、マシュルルの首の後ろを掴んで逃げられないようにし、
あえぐ小さな口に指を突っ込んでやった。
「あ…けほっ、…か、は」
あーあ。飲ませた水分吐かせちまった。もったいねェ。
とは思うが、吐けない方が辛い。吐いちまえば楽になる。
指はチョイ湿らせた布でぬぐって、マシュルルは軽くうがいさせた。
「大丈夫か?」
こくん。マシュルルは気丈に頷き、蒼白の顔色で顔をあげた。
ちいちゃな丸眼鏡が太陽の光を反射している。
意地っ張りもここまでくれば、いっそ見事だ。
俺はちっと苦笑した。

382(・ω・):2004/11/16(火) 20:43 ID:a.2ldjLg
この旅はマシュルルの希望もあり日程ギリで行なっている。
きついのは俺より体力の無いタルタル族のマシュルルだ。
「行こう…神獣を捜そう…」
よろっと立ち上がり、マシュルルは歯を食いしばって足を踏み出そうとする。
が、三歩で顎が上がっている。
焼けつく太陽と熱い砂に焼かれ、膝が砕ける。
「意地っ張りもいいが…自分の体力は見定めた方がいいかもな」
俺はひざまずくマシュルルに苦笑し、背中を見せた。
おぶされ。の無言の姿勢。
「……だい、じょうぶだ」
「そう見えないから言ってるんだ。
また戦いになったとき、逃げられるか?走れるか?
足手まといにならないために、今は背負われとけよ。
お前のプライドより大事なものがあるだろう?」
「…プライドより大事なもの?」
「お前の命と、俺の命だ」
にっと笑ってやる。
マシュルルは吐息をついて、ぐったりと俺の背に倒れこむように寄りかかった。
ふあん。と暖かいものが二つ背にあたる。
ふあん?
―え?ええぇ???!!
ふ、ふあ??って柔らかいものが俺の背中に当たったってことは…
シュマルルは……女のコ?!!なのか?
どわああああああ。
冷や汗、ダクダク。ちょっと待て!!な感じだ。
俺はタルタル族の女のコに無理やりヒュム青年男子コースの強行軍の旅に連れ出してしまったってのか?
この炎天下の中…女のコだと知っていればもうちょっと日数をかけてゆるい旅にした。
長いローブとフードに髪まで隠されていて、わからなかった。
声もチョイ高いかなとは思ったが、タルタル族の声は男も女も違いがわからない。
「…すまない」
マシュルルの殊勝な言葉に俺は目を閉じた。
深呼吸して数を数えて…1・2・3。ほんとにこれで冷静になれるのか?
とりあえず、いつもの俺らしく軽口たたかねぇとな。
「軽すぎだ。この程度、楽勝」
立ち上がり歩く。本当に、背負っても小さな荷物程度の重さしかない。
これで俺と同じように歩けって方が無理だ。
水分も体力もストックは俺の半分も無いんじゃないのか?
まして冒険者でもない研究者様。俺は別の意味でくらくらした。

383(・ω・):2004/11/16(火) 20:47 ID:a.2ldjLg
つか。俺、女…のコ…苦手なんだよな。
キャンキャン吼えて、暴力は当然ふるえないし、言い合いでもしたら最悪。
俺の負けは決定。
男尊女卑といわれようとも、女のコが剣を握って前線に出るのも俺は怖い。
女に守られたくないとかじゃなく、ただ、女は安全な所にいて欲しい。
安らぎであって欲しいし、戦いなんか見るべきじゃない。
たとえモンスターであっても殺しあって欲しくない。
女性エルヴァーン冒険者にこれ言ったらおもっきりぶん殴られたけど。
って、うぁ、胸柔らかくて…意識しちまう。
苦しげにあえぐ息…苦しげ?
俺の頭は冷水ブッかけたみたいに冷えた。
そう、マシュルルは女のコで、俺が無茶させて、こんな脱水症状+熱射病+貧血+αな状態にしちまったのだ。
遁甲の術で身を消して、速歩。
ラプトルさえ気をつければ、スライムオイルはいらない。
まだ太陽はじりじり焼け付くようだ。
休める所を、探してやらないと。脱水は命に関わる。
熱も熱射病で出ているのかもしれない。冷してやらないと。
幸い氷系の術は得意だ。
こんな所で氷を出せるのは忍者と黒魔道士くらいだろう。
ゴブリンの徘徊する洞窟を抜け、マンティコア族コカトリス族のいる砂漠を徘徊する。
休める所を。早く見つけないと。
ちいちゃな手が震えてる。苦しいのだろう。
「大丈夫だ。すぐ休ませてやる」
俺の言葉の返事のかわりに、きゅ…と服を握り締める指が痛々しくて。
「ごめん…サク」
「謝るな。依頼主だろ。この程度は計算のうちだ」
俺は周囲が聴覚の弱いモンスターなのをいいことに、話し掛けた。
「あっち…洞窟がありそうだ。少し休もう」
「神獣…カラハバルハ様の御意志…」
「え?」
「6の…院の………、力」
うなされているのだろうか。まずいな。ほぞをかんで足を速めた。

384(・ω・):2004/11/16(火) 20:50 ID:a.2ldjLg
幸い洞窟の奥はひんやりとしていて、敵がいない。
洞窟の角を曲がり…足がとまった。
巨大な、緑に発光するクリスタル。
「あぁ…見つけたぜ。マシュルル。お前の欲しがってるもん」
そっとマシュルルを、砂地に横たえローブを脱がせる。
さらりとピュアゴールドの髪が、砂地にこぼれた。
小さい手足。薄着になればわかる、やわらかな胸。
この髪を見れば、一瞬で女のコとわかったのに。
ふと、自分の武骨な大きいひび割れた指を見た。
こんなキレイな子に触れる資格も無い指かもしれない。
モンスターを殺し、仲間と戦って…仲間の屍を乗りこてきた、指。
目の前で起こった戦闘にショックを起こしてしまうような魔法国家の研究者さまとは、立場が違う。
そう考えて、俺は慌てた。
惚れた?惚れたのか?俺は。
この無力そうなタルタルの女のコに。
たった2日しか一緒にいなくて、男のような言葉を使って、
意地を張って、俺を頼ろうとしないこの女のコに…
彼女に与えられたケアルの暖かさが体の芯に残っているような気がした。
不器用だとは思っていたけど、まさか自分がタルタル族の女のコが気にいるなんて
…ちょっと、どころじゃなく、衝撃的だった。
「嘘だろ…マジかよ……」
頼むからちょっと待ってくれ、俺…。
冷静になれ。
落ち着こうと視線を泳がせると、マシュルルの寝顔が目に入った。
小さな唇があえいでいる。
ぷつ…。どこかが途切れた。
もうしらね。俺の思考は、完全停止した。
俺はゴブリンから受けた自分のかすり傷を手当てする事にした。
なんかしていないと、思考がやばいほうに突っ走りそうだった。

385(・ω・):2004/11/16(火) 20:54 ID:a.2ldjLg


「…ン」
マシュルルはゆっくりと目覚め綺麗な空の蒼の瞳を開いた。
「あ…」
視線は緑のクリスタルに吸い込まれるように注がれている。
俺なんかみていないマシュルルに俺の頭はちょっと冷えた。
「見つけたよ。これだろ?」
緑の輝きながら、光の粉をこぼしているクリスタル。
マシュルルは起き上がり、ひかれるようにクリスタルに額をつけ、頬をよせた。
小さな身体で抱きしめる。
「冷たいのに、あったかい…」
「きいていいかな?マシュルル」
俺は脇の岩に腰を下ろし、マシュルルとクリスタルを見ながら言った。
「なに?」
マシュルルは緑の光を背にふり返る。
あぁ、きれいだ…とおもったら、負けなんだろうな。多分。
「何で男のふりをしてた?」
「………」
「女のコだってわかっていれば、それなりの準備と計画を立てた。契約違反だ」
「勘違い、されてるって思って…。ごめんなさい」
「答えになっていない」
「…旅は危険だから。特に、女性一人じゃ…」
「女の護衛を選ばなかった理由は?」
「私を連れて行ってくれる人が、いなくて…。皆に無理だって断られて。
はじめからサクをだますつもりじゃなかったけど…誤解していてくれたから…」
「馬鹿で悪かったな」
「…ごめんなさい」
まぁ、マシュルルは正しい。
俺のような善良な(?)冒険者ばかりじゃない。
モンスターと戦い護衛者を守りながらの二人旅で相手が若い女の子とあらば、
馬鹿な気起こす奴だって確かにいるさ。
俺もマシュルルにはそういう奴らと同類だって思われてたわけだ。
笑えねぇな。くそ。
「もう一つ。これを見つけて、どうするつもりだった?」
俺の言葉にマシュルルはピクンと固まった。
「言わなきゃ、ダメですか?」
「言わなくてもいいが、聴きたい」
マシュルルはしばらく悩んで、決意した瞳で俺を見た。
「私は…鼻の院研究者です。でも…本当は6の院の研究をしたいと望んでいます」
「6の…院?」
「今はもう失われた力。ヴァナディールの神獣との契約。神獣の力は絶大です。
契約を結ぶには…彼らに逢い、彼らと対話しそして自らの力を見せなくてはなりません。
その上で神獣に認めてもらえれば、彼らは心を許し傍らに立つ人の友ともなりうると
…カラハバルハ様は…でも、6の院は星の巫女様に…」

386(・ω・):2004/11/16(火) 20:56 ID:a.2ldjLg
「いいのか?ウィンダスの秘密を俺みたいな一介の冒険者に語っちまって」
「本当は、いけないのだと思います」
「じゃぁ、何故?」
「神獣のもとにたどり着く力がある方に、知っていてほしい。
サクはいい人、だから。神獣の存在を知っていて欲しかった。
知識は実行を伴って、より大きな力をうみます」
あぁ。俺ってピエロ。いい人…っていわれても、嬉しくねぇなぁ。
「逢うかい、神獣に。勝てる自信はねぇが」
気軽に俺は言った。
「逢えるのですかっ?!」
マシュルルの声に俺は肩をすくめた。
「ラバオの研究者に頼まれて、俺は風の息吹をもらっている。
このクリスタルから神獣にあう回廊が開く息吹だと聴いている」
マシュルルがたっと走ってきて、俺の膝に手を乗せ、きゅうっと服を掴む。
真摯でまっすぐな蒼い瞳は、『逢いたい』と言葉より雄弁に語っていた。
惚れた弱みだ。仕方ねぇ、か。
「今夜はよく寝て、明日な」
水を渡し、にっと笑う。
マシュルルは嬉しそうに笑い大きく頷いた。
瞳があざやかなブルーに輝く。
それだけで、いいやと思えた俺は、馬鹿だ。

387(・ω・):2004/11/16(火) 21:00 ID:a.2ldjLg



「行くぞ」
俺が風の息吹を、かざす。
マシュルルと共に地が揺れ足元が崩れ闇に落ちながらたどり着いた回廊。
「我が眠りを妨げるものは誰だ…」
腹の底に響く声。
「ガルーダ…」
マシュルルの声に俺は頷き、マシュルルの前にひざまずく。
「いいか、俺が戦うから、お前はここで見ていろ。
ヤバイとおもったらここから逃げるんだ。いいな」
「サクは?」
マシュルルの声に俺は笑う。
「俺の事は考えるな。ここを出て、デジョンで帰還だ。いいな」
「サク、それじゃ答えになっていない!」
マシュルルは俺の目をまっすぐに見て言う。
「空蝉と忍術使えばいい所まで行くとおもうぜ。
幸い赤魔法も使えるしな。最悪…微塵を使っても足止めはしてやる」
勝てるかわからないけど。惚れた女は守ってやるさ。命がけでも。な。
「微塵…て」
マシュルルは絶句する。それは、死を意味する技だからだ。
「気にするな。最悪だ、最悪…」
マシュルルは俺の服を掴んだまま俯いた。
「かえろう」
「おい、目の前にマシュルルの研究対象がいるってのに…
こんな機会二度とないかもしれないんだぞ。
ぶっ倒れるまでがんばって、やっとここにたどりついたんだろうが」

388(・ω・):2004/11/16(火) 21:03 ID:a.2ldjLg
マシュルルの声は冷えていた。
「いい、帰ります」
「うまくいく、うまくやる。だからお前は黙ってみてれば…」
「冒険者なら、依頼人の言う事を聞いてもらいます。今回はここまででいい」
「……えらそうに言うな」
「サクが命を賭ける必要はありません」
マシュルルの言葉に、俺は口の端をゆがめて笑った。
でも俺は、マシュルル、お前の喜ぶ顔がみたいんだよ。
「惚れた女のためじゃ、ダメか?」
軽口交じりに、本気の告白。
「冗談では誤魔化されません」
はい…。冗談でしたか。すんません。ちくしょー流すんじゃねぇよ。
俺の純情をどうしてくれるっ。
「また、きます。私は何度でも」
マシュルルははるか上方の神獣を見据え、呟いた。
真剣な、強い瞳はめちゃくちゃ綺麗で、きれいで。
死ぬ気はないけど、死んでもいいかなとちょっとおもった。
笑うなら笑え。これが俺の初恋だ。
「無理だよ。その体力じゃ。途中でまたぶっ倒れるのがおちだ。
忘れないでもらいたいが、今回は運がよかった」
天邪鬼な俺はつい憎まれ口を叩いてしまう。シャイな俺様。
でも実際のところ。
調理師範な腕のいい冒険者な俺様に当たった。
敵の襲撃は一回こっきりだった。
本当に運がよかったんだぜ。
「…体力はつけます。魔法も必要だから、修行もします」
「あれと戦うなら、仲間も作らないとな」
「仲…間」
「一人二人じゃ難しくても、もうチョイ人数多ければ成功率は上がるだろ?」
俺の言葉にマシュルルはコクンと頷いた。
「そ…う、ですね」
「さて、んじゃここから抜け出るか?」
俺の言葉にマシュルルはくんっと俺の服を引っ張った。
恥らうように俯いて呟く。
「次も…また依頼したら、受けてくれ…ますか?」
小首をかしげてのおねだりは…反則技、だろ?
「いいよ。仲間つれてきてやる。馬鹿強い奴らばっかりだ」
眼鏡の下に、ぱぁっと輝く笑顔。
「ありがとう」
そんなにまっすぐ言うなって。
俺をそんなに惚れさせて楽しいか…?
「どういたしまして。帰ろうか」
どうやってか、クリスタルに息吹をあわせると足元が崩れた。

389(・ω・):2004/11/16(火) 21:07 ID:a.2ldjLg


サルタバルタの地を風が渡る。
フードを落としたマシュルルは、俺を見上げた。
「ありがとう」
金の髪が揺れ、風に流れる。
「お疲れさん。
体本調子じゃねぇんだから、二・三日はゆっくり休んで旅の疲れを、取れよ」
「一緒に行った冒険者がサクで、良かった。感謝しています」
感謝よりもっと別のものが欲しいけど、それはいえない。
街に住む者と冒険者は…相容れない。
俺はマシュルルがウィンダスに入ってゆくのをじっと見ていた。
マシュルルは一度振り返った。
「また、私は必ず行きます。神獣はガルーダだけじゃない。
流砂洞のタイタンもイフリートの釜もイフリートもフェ・インのシヴァも
…サクが嫌でなければ…一緒に!」
その危険さを知ってか知らずか…マシュルルは真摯な蒼の中の蒼の瞳で言う。
…―たどり着くだけでどんだけヤバイか、しらねぇんだろうな…。
「つきあうよ。息吹、準備しとくわ」
俺って…馬鹿。
まぁ、次のデートの約束は、お付き合いの基本。
しかしデート場にしちゃ物騒だが…再会はお付き合いを深めるきっかけだからな。
「ありがとう!」
おもいっきりのマシュルルの笑顔に、俺は負け。
完全に敗北いたしました。

俺は自分の忍術魔法装備食事以外の目的で、
はじめてジュノの競売のお姉さんに声をかける。
「女の子へのプレゼントでいいものあるかな?
宝石なんか喜ぶかな。指輪は重いかな?花…とか」
しどろもどろの俺にお姉さんはにっこり笑顔。
「リラコサージュはいかがですか?」
「…かわいいな」
財布と相談しないと…。
「ほかにも、色々ございますが…」
会話は尽きない。
次はプレゼントを持ってゴー。
とおもっていたら仲間から突っ込まれた。
「女の子へのプレゼント。競売で買うな、ぼけっ。
冒険者なら自分で調達しろよっ。彫金スキルいくつだよお前」
ナイスな突っ込みありがとう。
すんません。慣れていなくて。
何あげていいのか、わからなかったんだ。
でも、次のデートの準備は完了。
そして、冒険者ギルドから次のデートの依頼が届いた。
次のデートは怨念洞。ムードはたっぷりかもしれない。
おやつはウィンダスティにパンプキンパイ、
サーモンサンドも持っていかないと。

次のデートで一歩進展、する予定。

                  <つづ…かないため END>

390(・ω・):2004/11/16(火) 21:19 ID:a.2ldjLg
レス・次作をとお言葉くださった方、ありがとうございます。
はげみになりました。長い話を読んでくださりありがとうございました。

いまきがつきましたが、過去に同じタイトルがあるかチェック未です。
おなじものがあったらすみません。
もうひとつのすみませんは、ミッションクエの話はNGでは?というものです。
どこまでがNGでどこまでがOKか線引きが…いまひとつ理解できていません

今回は一人称で軽い話を狙いました。
わずかなりとお楽しみいただければ幸いです。
そして 書き手の皆様に頑張ってくださいませ。
いつも楽しく拝見させていただいています。
                                 N

391(・ω・):2004/11/17(水) 20:08 ID:guZdOOX.
続いて欲しいなと思った。
読みやすくてよかったよ。マシュルル萌えw

グッジョブ(´∀`)b

392(・ω・):2004/11/18(木) 00:13 ID:Kqz/t226
いやいや、あえてここで終わっているのがいいんですよw
未完の方が、より洗練されている場合もあるとですよ

なにはともあれグッジョブ(´∀`)b

ライトな文が心地良くて最高でした
作者さま、【ありがとう!】

393(・ω・):2004/11/18(木) 13:16 ID:nBseXo/2
>>390
保存庫に入れる際、名前ミスと思われる物があったので訂正しておきました。
ところでコレはミッションいくつの物語なんでしょうか?
タイトルの横にでもミッション名(?)を書いておけばネタバレ嫌いな人のためにいいかなと。

ミッション1−1クリアしたばかりの私にはとんとわかりませぬ。
でも楽しませていただきましたー!
マシュルルかわいー♪

394390:2004/11/19(金) 20:07 ID:JGoDcKSk
>>391>>392
お楽しみいただいたというお言葉、嬉しく拝見いたしました。

>>393
これはミッションではなく召喚獣のクエストの話になります。
クエストなど共通の楽しみを書く際未プレイの方に配慮ができているか不安ですが、
今後も考えながらゆきたいと思います。
保存庫入れと訂正ありがとうございました。

395サーバーダウン中:2004/11/20(土) 18:29 ID:HYlI6H1Y

それは・・・ささやかな願い。
誰もが・・・一度は夢見る
世界への思い・・・

プロローグ

「え?!なんで受理されてないんですか?!」
静かな雰囲気の中、
バン!っと、机を叩く音と突然の叫びは、周囲に居た人たちの視線を集め
声の主は恥ずかしそうに身を縮めた。
が、それも一瞬で、すぐに気を取り直すと目の前の係員に声を潜めながらも
再度問いただす。
「もう一度確認してください!・・間違いなく提出してるんです」
ついつい大きくなりそうな声を抑えながら必死に食い下がるその姿は
まだまだ子供の様に見えた。

机を挟んで椅子に座っている、こちらも子供に見える人物は
迷惑そうに眉をひそめて、
「ですから、さっき言ったように、あなたのは出ていないのです。
出したと言われても、もう一度書類を出していただくしか・・・、
すいませんが、こっちも忙しいのですよ。」
お役所仕事と言ってしまえば、それまでかもしれない。
ちらりと視線を飛ばすと、確かにその背後に積まれた書類の山を見れば
忙しいと言うのは本当の事だと納得するしかなかった。

仕方なしに、とぼとぼと去ろうとする背中に越しに
「・・・冒険者になるのは良いですけど、
だいたい、タルタルがモンクなんて・・・と思いますけどね・・・」
そんな呟きが聞こえて、
思わず キッ!と睨むような視線を飛ばしてしまう。

そこは、天の塔と呼ばれる建物の中、
ここ、ウィンダス連邦の政治を司る施設である。
・・・世界の名をヴァナディール・・・    
剣と魔法と冒険の世界
女神アルタナの涙より生まれたと謂われる五種の人間族と
女神の慈悲に怒りし男神プロマシアが生み出したと謂われる獣人種の
争いの絶えぬ世界。

男神プロマシアの掛けたと言われる呪いは人間種と獣人種のみでなく、
人間種同士の諍いも生み出していると伝えられる・・・。
何の為に争い傷つけあい憎しみあうのか?
生きていく上で、助け合うことも愛し合う事も理解していながら
抜けられない迷路のような争いを繰り返していく。
いつからか、人はそれを

プ ロ マ シ ア の 呪 縛 

と呼ぶようになった。

396サーバーダウン中:2004/11/20(土) 18:34 ID:HYlI6H1Y
エピソード1

もう一度冒険者登録に必要な書類をもらい、家路を急ぐ自分の目の前を
颯爽と駆け抜けていく人々が嫌でも目に付いた。
勇ましく甲冑を着込み剣と盾を背負って走っていくまだ顔に幼さを残したヒューム種、
頭まですっぽりとローブに覆われ何とも言えぬ杖を持ち、歩いて行く長身のエルバーン種
軽やかそうな服装に尻尾を揺らしながら仲間と思われる者と話しているミスラ種
自分の身長の倍はありそうな大きな剣を背負い、じっと佇んでいる巨体のガルカ種
そして、自分と同じ小柄なタルタル種

以前はここウィンダスで、タルタルとミスラ以外の種族は、まず見ることも無かった。
しかし、世界は大きく変わってきた。
世界の見識者達は言う、

時代は今、 冒険者の時代だ・・と。

キョロキョロと周りを見渡していたヒュームが、
ぴょんぴょん飛び跳ねているタルタルに気付き、
軽く片手を上げて近づいていく。
旅の仲間と思われるその二人の姿を、いつか来る自分の姿に重ねながら

過ぎた事は仕方がない、駄目だったのならもう一度、
それでも駄目なら出来るまでっ!と、
元来が楽天的な者の多いタルタルらしい考えで
頬を夕日に赤く染めながら、少しだけ早足になる。

そう、世界を見て回ることは完全に閉ざされたことでは無くなった。
幼かった頃、近所に住んでいた人と交わした会話を思い出す。
「・・・・ほら、世界が創られたお話があるよね?
女神の涙からボクらが生まれ、獣人達は男神が創造したって、話。
それってさぁ、真実なのかな?
・・伝言遊技があるよね、たったの数人なのに、
あんなに面白可笑しくなっちゃうじゃない?
それと違わないって、みんな思わないのかな?」

「・・・前見た本に鎖で体の自由を奪われている男神の像があったんだ、
それって自分自身を戒めていると考えたら?
男神と女神が、表裏一体だとしたら?
もしかしたら、自分と一緒に何かを封じているとか、さ、
色々考えてみるのも面白そうだと・・・・」

そんな話をしてくれたあの人は、
思えば相当な変わり者だったと、今更ながらに感じる。
まだ幼かった自分に、世間一般の“常識”と言われるものから
ほど遠い考えを話していたのだから。

397サーバーダウン中:2004/11/20(土) 18:37 ID:HYlI6H1Y
クリスタル戦争と呼ばれた大規模な獣人との戦いが終わって約二十年、

そして・・・数年前・・・・
まだまだ危険を残す世界に飛び出して行ったあの人は、
どこで、どんな空を見ているのだろう?
今、自分を照らしているモノと同じ夕日を浴びているのだろうか?

りっくりっくと足を進めながらも考えは続いていた。
あの人が旅に出てから、いつも頭の隅っこにあった、
大人になったら、どうやって生きていくのか。
どんな職業に就くのか、ずっと考えていた。

小さな頃から、好奇心はかなりあったと思う。
それを満たしてくれる本。思えばたくさんの本を読んだ。
当たり前ながら、色んな事が書いてあった。
自分が行けない世界のこともそうだ。
本好きが高じて、図書館への内定も取れそうだった。
書物に埋もれ、管理しながら、暇な時にはちょっと読む。
そう、安定した生活。

でも、
いつからか、
本の中の挿し絵や描写では
満足出来なくなっている自分を感じていた。

398(・ω・):2004/11/20(土) 18:40 ID:HYlI6H1Y
なんとなく書き出してしまったのですが、
文章的に クドイような気がしてきました○rz

399(・ω・):2004/11/26(金) 11:35 ID:KCxq7VjY
書き込みが無くなってはや1週間・・・

400395:2004/11/26(金) 13:32 ID:.0LVjQ5s
すいません、稚作ですが続きです。

401(・ω・):2004/11/26(金) 13:34 ID:.0LVjQ5s
冒険者への道を選んだのは自分だけではなかった。
今の世界は少しだけ冒険者に優しい。もちろん理由があった。
国を挙げて戦争を起こすよりは、余程“まし”だとの考えから生まれたのかは
自分には余りよく判らない。
が、この世界の主立った国は領土を侵略する戦争の代わりに、
最低限の衣食住の保証をした自国に所属する冒険者を使って
コンクエストと呼ばれるモノをやるようになっていた。

次々と冒険者の認定をもらっていく友達や、知らない人達。
皆、最初は支給品の武器や防具に身を包み、簡単な教えを受ける。

と、言っても誰もかもが、冒険者になれるとも限らない。
当たり前ながら、国も全くの無料で面倒をみるわけにはいかないのだ。
そんな事をすれば、無職無能の集団を作ってしまう。
そのための申請と審査だった。
ちょっとした壁は最初の審査。
ミッションと呼ばれる国からの依頼をこなせそうな人柄かはもちろん、
“冒険者としてやっていけるかの素質”を見せること。
某かにある一定以上の“ちから”を持っているとも言っていいだろう。
それを示さないといけない。
もしくは、“女神からの愛”を十分に受けているか?の審査とも言える。

ある意味、女神は平等だった。
それは獣人の一種族にもかかわらず、
人間と友好な関係を築いているモーグリと呼ばれる一族に伝わる“秘技”

魔法とも催眠術とも判らないその技を受けると、
一定以上の素質さえあれば、すんなりと
ある力量まで潜在能力が開花されてしまう。
そこからは、自分自身でどこまで上手く使い方を覚えるかにはなるのだが・・。
そう最低の力量だけが保証され、冒険の初心者は、ほぼ横並びになるのだ。
その秘技には制限もあったが、各国の首脳陣にとっては
得るモノの方が大きすぎるため、気にしないでいられるに十分なものだった。

そして、自分はその審査にも受かった“はず”だった。

402(・ω・):2004/11/26(金) 13:35 ID:.0LVjQ5s
「まぁ・・・、仕方ないっか、冒険に試練は付きものだしね」
自分でもよくわからない事をつぶやいてる、と思う。

冒険者に認定された後には、自分のモグハウスを借りられるはずで、
そこで“冒険者”としての自分の世話をしてくれるモーグリに会えると、
この日を楽しみにしていたのだが、それも、後の日の楽しみになってしまった。
家路への途中で、その日おなかを膨らまして心地よく寝るために、
十分な量の食べ物を買い、扉をくぐる。
「た〜だいまっと・・・」


数刻後、いつもよりちょっとだけ早くベッドに潜り込む準備を終え
明日からの行動をつらつらと考えていると、
静かな時間は突然の扉を叩く音に破られてしまった。
「ねー、居るの?居たら開けてよ」
聞こえてきたのは、幼馴染の声だった。
「ゎ、・・ちょっと待って!!」
上着をはおり、慌てて扉に駆け寄り、開けると
開口一番
「レディを待たせるなんて、男として失格よ!」
っと、何故か左手は腰に当て、
右手でこちらを指差し憤然としている姿が目に飛び込んで

一瞬反応が止まると、にこっと微笑まれ
「冗談冗談・・、でも・・なんでお家に居るの?
今日はモグハウスって所に泊まってくるんじゃなかったの?」
と、小首をかしげながら大きな瞳でこちらを覗いてきたのだった。

403(・ω・):2004/11/26(金) 13:40 ID:.0LVjQ5s
脳内設定だらけですいません。
そして大好きな このスレが止まってしまっている事が
とても寂しいです・・。
他の作者さまの足元にも及ばないで出来で見苦しいとは思いますが
ご容赦ください。m(_ _)m

404(・ω・):2004/11/26(金) 21:40 ID:F0MUJHRI
続き期待sage

405(・ω・):2004/11/29(月) 12:44 ID:r8iAUBI6
>>403
ほんわかしてて面白い。
つづきを〜!

406(・ω・):2004/11/30(火) 13:07 ID:WCPk4.f.
>>395
タイトルプリーズ!
なかなかいいかんじなので、タイトルわかり次第保存作業したいです!
いや、させてください、おねがいします〜!

407白き〜作者:2004/12/01(水) 08:21 ID:dW600smY
おはやうございます、って書き込み減ってきてる!
ドラクエ!? ドラクエ出たからか!!

年の瀬ですからみんな忙しいのでしょうなぁ。
ヴァナの次回VerUPは12月9日らしいですよ。次はどんなになるんでしょうなぁ。
あ、あとヴァナの世界感の本がクリスマス辺りにeb!から出るらしいですぞ。
楽しみ楽しみ。

白き探求者、最新話UPしました。お暇ならご覧くださいませ。
ttp://www.miracle-key.gr.jp/white/

書かれた物語はwikiでまとめて読んでおりますよ!続きキボーン(´・ω・`)ノ

408(・ω・):2004/12/01(水) 22:13 ID:9tUDS9FI
おお、探求者来ましたか!

409(・ω・):2004/12/02(木) 11:16 ID:lIVYRcoA
ぽつぽつとヴァナ話を書いていたらなんかものすごく基本的なことで
躓きました。
イルムとポンズってメートル法換算でどれくらいの大きさで、それって
インチ>フィートみたいに単位が変わるのか、キロとかメガとかあるって
事は×1000はキロイルム?
でもググったらイルム=インチ、ポンズ=ポンドと書いてある釣りサイトとか
あるんだけど、そうすると12進法?

わーかーらーなーいー。

尺貫法みたいに種族毎の単位はあるんだろうなーとかも思うんですけどね。
(□eは設定してなさげだけど)
どこかそういうのがわかる資料集ご存知の方いらっしゃりませんでしょうか…?

410白き〜作者:2004/12/02(木) 12:33 ID:0BUc/84s
はい、イルム(距離・長さ)に関しては答えられそうです!

えー、ヴァナの世界ではイルムの他にヤルムやマルムがありまして、イルム=インチ、ヤルム=ヤード、マルム=マイルに相当しているそうですよ。
ちなみにポンズの他の単位は聞いた事ないので不明でぃす。
実際に何㌢!?というのはググってみたほうが早いかと。
では!

411(・ω・):2004/12/02(木) 13:13 ID:lIVYRcoA
>>410
うあー、すばやいお答えありがとうございます!ヴァナって12進法だったのかあ!ちょとびっくり。
もし出典などありましたらご教授いただけると幸いです。

換算してメモメモ。
1マルム=1760ヤルム=63360イルム=1マイル=1.609㎞
1ヤルム=36ヤルム=1ヤード=91.44cm
1イルム=1インチ=2.54㎝

タルのモデルがホビットだとすると、タルの身長が10ヤルムでヒュムが20ヤルム↑位かなあ…。

412虹の向こうに見えるもの1/2:2004/12/02(木) 18:26 ID:Afx20hZo
こんばんわ・・・
ご無沙汰してまつ
まだ続き書く気はあるよーーーー!って意思表明にきました。
短いですが、こそ〜り置いていきます。
さ〜て、もう少し仕事がんばるかな;;

**********************************

地面に両手と両膝をついてがっくり項垂れる戦士を
きょとんとした顔で見つめるラヴィとシーフの青年ジルベールに
黒魔導士が笑いを堪えながら切り出した。
「グランはね、博士にへっぽこくんと呼ばれているのですよ。」
「うわぁぁぁぁーーーーー!カミュ言うなぁ!!」
憐れな戦士は両手で耳を塞ぎ、首をぶんぶん左右に振っている。
まるでそう呼ばれるに至った過去を振り払おうとするかのように。
「すっかりトラウマになってるな。」
「まぁ仕方が無いだろう。」
ヒュームのナイトは右脇をエルヴァーンの赤魔導士は左脇を抱え上げると
聞きたくない、聞きたくない、と呟く塊をずるずると引きずって古墳の外へと放り出した。
「レオンハルトさん?エトヴァルトさん?何を・・・!」
慌てて駆け寄ろうとするラヴィをレオンハルトと呼ばれたナイトが抱え上げる。
「あれでも百戦錬磨の戦士なんだよ。殺気を感じれば直ぐに正気に戻るから。」
自分の顔の前に少女を持ち上げ真正面から見据えて言う。
「そうそう。寝かせてもいいんだけど、そうすると目が覚めた時にまた落ち込むしね。」
ぽんぽんとラヴィの頭を軽く叩きながらにっこり笑う赤魔導士。
つまりそれが一番グランのためになることなのだと。
彼らの目がそう言っていた。

413虹の向こうに見えるもの2/2:2004/12/02(木) 18:27 ID:Afx20hZo
「では、昼食の用意をしますね。」
狩場の食事は通常簡素である。
休憩を取る余裕もない場合もあるため戦闘の合間にさっと食べられるような携帯食を持ってくる。
その場で調理する者も結構多い。
合成調理なので凝った料理を簡単に作る事は出来るのだが、
味わって食べるということとは無縁なので結果的に携帯食になる。
しかしカミーユが用意していたのは埃っぽい石室の中では勿体ないほど立派なピクニックセット。
携帯用コンロに掛かったケトルが湯気を上げ、
床に敷かれたシートの上にはさっき狩ったトラの毛皮が敷き詰めてあり快適そのもの。
てきぱきと並べられる料理からはいい匂いがしてきて、お腹が今にも鳴り出しそうだ。
ナイトにぶら〜んと抱えられたままラヴィは目を丸くした。
「いつまでラヴィちゃんをぶら下げている気だ?」
そう言うが早いか、赤魔導士がナイトの手から少女を奪い去りそっと毛皮の上に降ろす。
「ナイトの風上にもおけぬ無礼、お許しくださいレディ。」
優雅に一礼する。
「あ・・・っ、はぃ」
タルタル族の中だけで育った彼女はこんな風に扱われた事がないので真っ赤になる。
「無粋なことをいたしましたレディ。」
がちゃがちゃと鎧の音を響かせてナイトも一礼する。
「さすがにどっちもお貴族様、筋金入りのキザだね。」
やれやれという風に肩をすくめるジルベールの言葉にすかさず反応する。
「僕は所詮ヒュームだからね、エトヴァルトお坊ちゃまには適いませんよ。」
「何を仰るやら、格式で家は負けてますからレオンハルトお坊ちゃま。」
むむむーーーーーっと睨みあう二人の鼻先にぐいっと突き出される2つのカップ。
「はい、お茶入りましたよ。」
入れたてのいい香りのするサンドリアティーにあっさり白旗を揚げたのは、腹の虫。
ぐぅぅぅうううぅうう
石室に響き渡る空腹を訴える音。
「温かい内にいただきましょう。」
こうして奇妙な雰囲気の中、思いがけずきちんとした昼食を摂ることになったのだった。

続く

414(・ω・):2004/12/03(金) 12:14 ID:Bh3RnLtM
404-406様 ありがとうございます。励みになります。
題名・・・、考えても居ませんでした(汗
とてとて短いです。御容赦を・・。

415395:2004/12/03(金) 12:16 ID:Bh3RnLtM
ちょっと熱めのウィンダスティーを
二人で座って、ふぅふぅしながら飲みつつ、
今日の出来事を簡単に説明していた。
「ええ〜?!そんなことってあるんだー?」
そう言いながら、そっと両手で持った器を口に持っていく。
「あるんだろうねー」
いささかのん気な返事を返しつつ自分も
喉を潤していた。

「天の塔の受付の人も大変そうだったし・・ね・・。
色々大変なんだと思うよー。」
コトっと器を置きながら
「そっか・・・でも、今日もお話出来て良かった〜。
急に冒険者になるなんて言うから、びっくりしたんだよ?」
との一言に、他意の無い言葉でも
自分を心配してくれる人が居ることは嬉しいな・・・
と、ちょっと気持ちが良くなってしまう。
 
「申請ってすぐに終わるんだっけ?」
「多分、そんなにかからないと思うよ。」
「じゃぁ、冒険者になっての一番初めの仕事は
私に依頼させてくれないかな?」

冒険者になってもいない自分への依頼にちょっと照れつつも
「うん、判った」
にっこり微笑んで請け負った。

「もう遅いから送るよ」
「うん・・、ありがと」

二人で並んで歩く
「星がきれいだね」
「うん」
その間にも冒険者と思しき人影がちらっとみえ
「あはは、冒険者はどこにでも行くってほんとね」
と、笑顔をみせる。
少しだけ冷たくなった風を身体に受けながらも
心は暖かくなるのを感じていた。

416(・ω・):2004/12/03(金) 12:22 ID:Bh3RnLtM
短すぎOrz

417忘れられた合成:2004/12/03(金) 12:24 ID:U82F7ibw
短編です。

・・・男は追われていた。
出来るだけ足音を消しながら走り
隠れられる場所を探していた。

体力で優る獣人から走って逃げ切るのはむずかしい。

(しまったな・・・・)
その日の狩りを終え、気が緩んでいたのだろう
普段なら生き物の気配に気が付くはずなのだが
今日に限って気が付かなかったらしい。

(チッ・・、さっきの足止めに使った矢が最後とは、困ったね・・。)
狩りを終えて、ただでさえ少なくなっていた矢は
物陰からの一撃を避けた際にほとんど落としてしまっていた。
致命的な一撃を避けられただけでも幸運だったか・・と
開き直りつつ手元に残ったモノを探る。

(・・・クリスタルに・・っと・・、
後はいつも使ってる火打ち石くらい・・か)

追っ手の気配が余裕を持って自分を捜しているのを感じつつ 
(矢が無いのを気付かれてるか・・、さてさてどうしますかね・・・)

木の陰に隠れつつ息を整え、めまぐるしく頭を回転させる。
(・・よし・・、これでいくか・・)

周囲に気を配りつつ、見落とさぬよう目的の物を探し
(・・まだ、見放されてないみたいだな)

出来るだけ物音を立てぬよう見つけた物を取りに走る。
(そういや姐さんが言ってたよな〜)


自分に弓の技を教えてくれた人の言葉を思い出す。

418(・ω・):2004/12/03(金) 12:27 ID:U82F7ibw
(・・・いいかい?頭が働いて体が動けばまだまだ大丈夫さ。
自然にある物を有効に使うんだよ。
いざとなれば自然の中で一人でも生きていける。
それが狩人ってものさ・・・
こいつをお守りにとっときな・・、風を感じるんだよ・・)

そっと頭に手をのばし、帽子に差した羽を触る。
(お守り、使わせてもらうよ。)

息を整え、手元にクリスタルを取り出す。
ゴウン・・ゴウン・・と独特な音が響き
一秒が一分にも感じられる瞬間が過ぎ・・

視界の隅に追っ手の陰が写る・・
(もう少し・・)

こちらを見つけニヤリと笑ったように感じたそいつは
「ゲハっ・・モウナニモボッテナイ」
恐怖を煽るつもりか、わざわざこちらに声を掛けて

「オッガゲゴッコハ、オワリダァ!」と
耳障りな共通語を吐き武器を振り上げ向かってきた。

そして・・・
目前に迫った敵が死を告げようと近づくとき
パシーン!っと音が響き・・・
(!!!)
作り上げたそれを手に掴みつつ
頭上に振り下ろされる凶器を横っ飛びに転がってかわす。


「ハッ・・、イヅマデァアソンデグデル」
笑みを浮かべ地面に振り下ろした凶器を引き抜き、
もう一度振り上げようとする追跡者の眼に写ったモノは・・

自分に狙いをつけた、狩るだけの玩具と思っていた相手の姿だった

「ナ!?」
「そうだな、俺も飽きた」
淡々としたその一言と共に放たれた一撃は
正確に右目を射抜いていた。

419忘れられた合成:2004/12/03(金) 12:37 ID:F0LjUtvM
終わりです。
連続投稿すいませんでした。

420(・ω・):2004/12/03(金) 18:42 ID:1MQTI6Pg
>>417
すごい表現力!読んでて手に汗握りました。

421礎の守護者:2004/12/03(金) 20:29 ID:xP0x7DpQ
「ええと。マシュルル、少し良いかしら。」
眠そうな声でケルトト博士はゆったりといった。
「はい。ケルトト博士」
「オズトロイヤ城にお仕事があるの。
んん、オズトロイヤ城はヤクードの城、様々な危険が存在しているわね。
もちろんオズトロイヤのヤクードブリースト氏には十二分に話を通してあるけど…
危険が訪れるかもしれない。
危険が伴う任務なので無理にとはいわないけど
…是非向かってくれると助かります。
各院はいつも人手不足に悩まされているから…」
ゆったり話すケルトト博士にマシュルルは小さく頷いた。
「はい。向かわせていただきます」
「それは助かります。で。
オズオロイヤ城の地下に向かいヤクードブリースト氏に逢って、
香油を譲り受けてもらってきてほしいの。
それはヤクード族が精製する香油で星の大樹の栄養剤に向いているのではないかと
ひそかに目をつけていたのです。
今回やっと交渉が成立して無事譲り受けてもらえる事になったの。
代わりにといっては何だけれど、こちらからは供物を持ってゆく手はずが整っています。
マシュルル一人で、護衛につけるものも…冒険者への代金も最近かさみぎみで…けほっこほっ、
と、とにかく、手の院よりガーディアンを3体かりれます」

ケルトト博士はよろしく頼みますねと眠そうにいった。

422礎の守護者:2004/12/03(金) 20:34 ID:xP0x7DpQ


旅立ちの時に渡された荷物にはキノコのパイやヤクードドリンク、
プリズムパウダーやサイレントオイル、呪符に供物だった。
マシュルルはローブを着込み、手の院の受付に向かった。
きぃっと扉を開くと訓練の真っ最中だった。
「あの…」
ふり返る愛らしい女性研究者は手の院院長のアプルル博士だった。
「あ、マシュルルさん。こんにちは。
うちの子達をよろしくお願いしますね。
右からガーディアン=ファイブ・オブ・ハーツ シックス・オブ・ハーツ
 セブン・オブ・ハーツです」
「アプルル博士、よろしくお願いいたします」
ぺこり、マシュルルは優雅に頭を下げた。
「良くしつけてある子達です。
ウィンダスにつくまであなたを守ることを至上命令としていますので、
安心して行ってらしてくださいね」
アプルル博士の笑みに、マシュルルは大きく頷いた。


タロンギ渓谷の巨大な白い遺跡の元で火をたく。
マシュルルの金の髪が肩に落としたフードの上で揺れる。
「ふぁ、ちょっと疲れたかな」
タルタル族のマシュルルはガーディアンに話し掛けた。
「オヤスミ★クダサイ」
「オマモリ★イタシマス」
カラカラと歩を進める人形にマシュルルは深い笑みを浮べた。
「一人だったら、きっと怖くて眠れなかったと思うの。ありがとう」
「ソレガ★オシゴト★デス★カラ」
マシュルルは目を細める。
「皆は休まなくて平気なの?」
「平気デス」
「キュウヨウ ハ★ヒツヨウ アリ★マセン」
「そう…。何かあったら起こしてくださいね」
マシュルルは軟らかな蒼い瞳でガーディアンを見上げた。
「ハイ★オヤスミ ナサイマセ」
マシュルルは風が吹くタロンギの大地に身体を横たえた。

423礎の守護者:2004/12/03(金) 20:36 ID:xP0x7DpQ
目を閉じる。
眠らなければ、体がもたない。
ここはまだ、旅のはじめ…そんなに危険なモンスターはいない。
はず、なのに…。
目を閉じても眠れない。
目を開けば風の向うに、星。
乾いた大地は、夜の冷たさを秘めている。
「眠れなくても目を閉じて身体を横にしていろ。それだけで違う」
冒険者に教わった言葉をマシュルルは自分の口のなかで呟いた。
けれど月が頂点に来ても眠りは一向に訪れなかった。
「ネム★レマセンカ」
「ええと…セブン?」
「ハイ」
「眠ろうとは思っているんだけど…」
「オツカレ デショウ★ヤスマナイト★タイリョクガ★モチマセン」
「ふふ。心配してくれるのね。ありがとう」
「シン パイ★ワカラナイ★コトバデス」
ガーディアンの言葉にマシュルルは小さな指を桜貝色の唇にあてた。
「心配は難しいかしら?んと…そう。私のことを気にかけてもらう?」
「気ニ★カケル★デスカ?」
首をかしげるガーディアンにマシュルルも小首をかしげた。
「まだ難しいのね…。気遣いってあなたたちにわかるかしら」
「ワカリマ★セン★マナビ★タイデス」
マシュルルは言葉を一生懸命捜した。
「ああっと…。ん…守ってもらえて、嬉しい。これはわかる?」
「マモ ル★ワカリマス★シメイ★テキ イマシタデショウカ?」
「敵から守る。じゃなくて…。
私が元気でいられるように、あなたたちは身体も心も守ってくれてる。
今のは心、のほう」
「ココロ★デスカ」
「そう。ここにある」
ガーディアンの張子の腕をとり、マシュルルは自分の胸にカカシの手を重ねた。

424礎の守護者:2004/12/03(金) 20:38 ID:xP0x7DpQ
「ソコ★ニアルノ ハ★ハイ ト シンゾウ デハ?」
「形のないものも、あるの」
「カタチガ ナイ★ノニ★ア ル?」
「そう。心は、いろんなことを感じるところ。
気持ちいいも悲しいも嬉しいも…全部感じられる」
「ココロ★ワタシタチニモ★アル ノデショウカ」
マシュルルは一瞬言葉を詰まらせた。
「わからない。帰ったらアプルル博士に聞いてみるといいかもしれない」
「ホシイ デス★ココロ★ウレシイ★シリ タイ」
「心は見せられないものだから…在るとか無いとかって決めるのは難しいのかも…」
ふぁ。マシュルルが小さなあくびをした。
「ウタ★ホシノウタ」
「星の歌?」
「ネムル★シル ウタ★ガーディアン ノ ウタ」
ガーディアンが杖を手に星空の下で小さく歌う。
小さな声が、低く高く風に乗る。
マシュルルには言葉の意味はわからないけれど、
風や大地になじみ身体に染みる不思議に心地よい歌だった。
マシュルルに穏やかな眠りが訪れた。



茶色の砂が舞うメリファト山地奥にそびえるヤクードの城。
オズトロイヤ城。
その巨大さにマシュルルは見上げ息を飲んだ。
「すごい…」
タルタル族には余計に大きく感じられる。
警備に当たるヤクードにマシュルルは優雅に礼をした。
「ケルトト博士よりお話が伝わっているかと思いますが…
香油を受け取りにまいりました」

425礎の守護者:2004/12/03(金) 20:41 ID:xP0x7DpQ
門番のヤクードは笑う。
「ギギギ…」
「通していただけますか?」
「死ンでも良いノなら…通レ」
ヤクードのどこまでも鋭い瞳がマシュルルを刺す。
マシュルルはコクンと小さく頷いた。
「オマモリ シマ★ス」
前後をガーディアンに守られ、
マシュルルはゆっくりと巨大な土の城に足を踏み入れた。
「中庭二出て、右下、地下ダ」
ヤクードの言葉にマシュルルは顔を上げた。
「ありがとうございます」
怯えたそぶりが見えないように…。
マシュルルは精一杯の勇気を動員する必要があった。
淡い色の唇が笑みを刻む。
広く静かな通路にはそこかしこにヤクード族がいた。

「人だ…タルタル、族、カ」

「喰おう…柔ラカくて、うまそうだ」

「魔法を、奪い二キタ、ノカ?」

低く囁かれる言葉にマシュルルは足がすくんだ。
「マシュルル★サマ ドウ★イタシマシタ」
「ユキマ★ショウ」
ガーディアンの言葉にマシュルルは頷く。
敵地…。
マシュルルにはこのヤクードの城で身を守る術もない。
すがれるものといえば話が通っているというケルトト博士の言葉と
ガーディアンだけだ。
このヤクード達の城の中で事が起これば…生きて帰るのは難しいだろう。
「オマモリ★シマス」
セブンの言葉にマシュルルは深く頷き慎重に足を踏み出した。
モンスターとの友好関係は、難しい。
智恵あるヤクード族とは、同じヴァナディールに住む生き物として
築けるなら友好関係を結ぶべきだとマシュルルは思うが…。

人はヤクード族を殺しすぎた。
ヤクード族は人を殺しすぎた。

互いに憎しみしかない歴史の中で…
はたして敵と思っていた相手を本当に信頼できるのだろうか。
猜疑は疑心に変わり、心をゆらす。

426礎の守護者:2004/12/03(金) 20:43 ID:xP0x7DpQ
マシュルルの頬にバサリと黒い羽が触れた。
「…っ」
びくっとすくめる小さな身体。
「ギギギギ。怖いカ…。私タチ、ガ」
冷たい漆黒の瞳が嘲笑う。
手のかぎ爪がマシュルルの柔らかい頬に触れた。
「過去ヲ清算、できたト思ウな」
爪がマシュルルの首に食い込む。
柔肌にナイフのような爪が突き刺さり皮膚を破った。
強大な力。
マシュルルは目を固く閉じ死を覚悟した。
カラカラとヤクードとマシュルルの間にはいったのはガーディアンだった。
「オヤメ クダサイ★ヤクード サマ」
ヤクードは嘲笑う。
「人形ガ、意見スルのカ?」
「オヤメ クダサイ★マシュルルサマ ガ★傷ツキ★マス」
ガーディアンの言葉にヤクードはマシュルルを地に叩きつけた。
「仲間ヲ、コロサレタ事、ワレラハ忘レぬ」
ガーディアンがマシュルルを抱き起こす。
「ダイジョウブ★デス カ」
「ええ…ありがとう。ゆきましょう」
マシュルルはふるえる足を、前に踏み出した。


中庭はかっと太陽が照りつけ一瞬逆にくらりと目をくらませた。
挑発のような、侮蔑のような、あざけりのようなヤクードの言葉は
通路のそこかしこで聞こえた。
わざと聞こえるようにいっているのだろう。
マシュルルは歯を食いしばって耐えた。
恐怖に折れそうな心を、使命感で支えた。
周囲に立ちマシュルルを守るように動くガーディアンが、
マシュルルの心を落ち着かせた。

427礎の守護者:2004/12/03(金) 20:45 ID:xP0x7DpQ
長い回廊をいくつも折れ、小さな部屋にたどり着いた。
「よく、キタな」
低く聞き取りにくい声は、ヤクードの僧侶。
マシュルルはひざまずいて礼をした。
「はじめてお目にかかります」
「香油ダ」
差し出された小さなつぼの中には液体がたぷんと揺れた。
油紙と縄でこぼれぬように蓋を縛られている。
「ありがとうございます。こちらをお納めください」
供物を差し出すとヤクードはかすかに笑ったようだった。
「しかし、ヨクここマでキタな」
マシュルルは血の気のうせた頬でやっと微笑んだ。
「大事なお使いなので…」
「怖ろしくワ ナカッタノカ?」
「………」
「我ラガ、約束ヲ守るトオモッテイタカ?女ヨ」
「はい」
マシュルルは頷いた。
「ギャギャ」
ヤクードは目を細めて笑う。
「人、トハ、オロカダ。シンジルコトがオロカダ」
「え?」
「約束ハココマデ ダ」
「……」
「無事カエレルト、ヨイナ。女ヨ」
マシュルルは香油を握り締めて振り返った。
ヤクード達のいくつもの瞳がマシュルルを見つめる。

こくん。

マシュルルは生唾を飲み込んだ。
死の恐怖が背筋を流れ落ちる。
マシュルルは無意識にガーディアンの張子の手を握り締めた。
「オマモリ★イタシ マス★マシュルル サマ★カエリ★マショウ」
ガーディアンの言葉にマシュルルは頷いた。

428礎の守護者:2004/12/03(金) 20:49 ID:xP0x7DpQ
その部屋を一歩出るとヤクード達はマシュルルを取り囲む輪を狭めた。

「ギュギュ、ドウヤッテ、喰ラウ?」
「喰ラウマエニ、イタブロウ」
「鈎爪ヲ、柔肌ニ撫デタラドウナル?」
「ソノ腹ヲ…サイテヤロウ」

マシュルルの足は、すくんでしまった。
もう、一歩も前に進めそうに無い…。
ふわ。
一瞬風を感じたとおもったら、ふっくらしたマシュルルの頬に爪の血痕がひかれた。
ヤクード達の嘲笑が広がる。
「あ…」
こんな時は、どうする?
冷静になって、落ち着いて逃げ道を捜す。
マシュルルは振り返り、逃げ道がないことを確認した。
そのあとは?
どうすれば生き延びられる?
「マシュルルサマ」
「マシュルルサマ」
「マシュルルサマ」
ガーディアンが同時にマシュルルに声をかけた。
「なぁ…に?」
マシュルルは爪を白くなるほど握り締め、恐怖に耐えながら聞いた。
「ダッシュツ★ヲ」
「リダツ★ヲ」
「キカン★ヲ」
ガーディアンのひそやかな声にマシュルルは歯を食いしばった。
「どうやって…」
言いかけて気がついた。
持たされた呪符デジョンの札の意味に、背筋が凍った。
でも…。
「だって…あなたたちは…?」
「マシュルルサマ ヲオマモリ★スルコトガ★シジョウノ★メイレイデス」
「だめ。アプルル博士が待っているわ。一緒に帰らないと…」
いいながら、マシュルルの声が震えた。
この状況で一体どうやって抜け出せるというのか。
「マシュルルサマ ヲ★オマモリ シマス★キズ ツケナイ」
ガーディアンに表情は、ない。
ないけれど…決意と言う言葉がマシュルルの頭に浮んだ。
長い棍を手にガーディアンが戦闘態勢を取る。
意思をもつ人形。
過去の大戦で、魔道士は多くのガーディアンをあやつり戦いに向かった。
ウィンダスの戦力の強さは…ガーディアンの存在が大きい。
戦闘人形。

429礎の守護者:2004/12/03(金) 20:52 ID:xP0x7DpQ
「ハヤク★マシュルルサマ」
「ニゲテ クダ サイ★マシュルルサマ」
「ジュフ ヲ★マシュルルサマ」
「……だって、あなたたちが!」
呪符を使えばマシュルルはこの場から逃げられる。
でも、ガーディアン達は?
ガーディアンは人ではない。
けれど言葉を交わした者、
隣に立ち夜を明かした仲間に対する情がマシュルルの行動を止めた。
「ガーディアン★セブン」
ガーディアンファイブオブハーツに呼ばれたガーディアンセブンオブハーツは
マシュルルの荷物から呪符をとりだし、マシュルルに握らせる。
「だって、あなたは心が欲しいっていっていたじゃない…。
死んじゃダメ、きっとなにか方法がっ」
マシュルルの声は涙声だった。
ヤクードが輪を狭める。
「マシュルル★マモ ル★シメイ★ウレシイ」
「駄目よ!駄目…っ!」
「ワレラノナカニハ★ホシノカケラ★ガ ハイッテイマス★
ホシノカケラ★ガ★イツカウィンダスニ カエレバ★
ワレラハウマレカワル」
「そんなこと、いわないで…まるで死んじゃうみたいなこと…」
マシュルルは涙を浮かべた。
子守唄を歌ってくれたやさしいガーディアン。
守るといって、棍を持ち身体で盾になってくれる者たち。
「ナカナイデ★クダサイ★マシュルルサマ★
ワレラハ★シメイ ヲタッスル ソレハ★ヨロコビ」
「ウレシイ★ハ ココロ★ガアルコト」
ガーディアンセブンは笑った…ような…気がした。
ハート…こころの名を持つ者達。
ガーディアンセブンオブハーツにシグネットをこすりつけられ、
呪符は発動し…マシュルルをウィンダスに運ぶ。
「いやああぁぁ」
黒い波が襲う。
マシュルルを逃がさないために。
けれど、わずかな発動時間を
ガーディアン達はその身を散らせてマシュルルを守った。
飛び散る張子の木板。
マシュルルの懐に飛び込んだ小さな木の実。



「ああっ…」
しゃがみこむマシュルル。
風景はのどかなウィンダス水の区のホームポイントだった。

430礎の守護者:2004/12/03(金) 20:55 ID:xP0x7DpQ
「お嬢さん。どうしたのかい?無事かい?」
見知らぬヒュムに話し掛けられ、マシュルルは答えられなかった。
ヒュムを見あげ、ぽろぽろとこぼれ落ちる涙に俯く。
「あぁ、そんなに泣かないで…」
小さな背中をやさしくさすられる。
言葉にならない思いが、あふれて…あふれて。
涙に汚れた頬を、ごしっとこする。
頬に流れる血が…
ヤクードのかぎ爪につけられた傷がつい先ほどの戦いをリアルに伝える。
呼吸が、乱れる。
ひっく…くん、ひぃっく。
マシュルルの止まらない涙にヒュムは仕方なく、人を呼びに走っていった。

「落ち着きましたか?マシュルル」
ゆったりとしたケルトト博士の言葉にマシュルルは頷いた。
マグカップの暖かいウインダスティの湯気を頬で受ける。
ここは鼻の院。
「はい。取り乱してすみませんでした」
「いいえ。良くぞ使命を達してくれました。
それでこそあたしの鼻の院の研究者…
あたしも本当に鼻が高いです」
「でも…」
ガーディアン達は戻らない。
ケルトト博士はマシュルルにやさしく語りかけた。
「危険では在りました。でも、おかげで星の大樹の栄養剤が研究できます」
「でも…っ」
そのせいでガーディアン達は…。
「ヤクードはね。…あたしたちは確かに敵視しすぎました。
お互いに殺しあいすぎた。
でも…憎みあうだけでははじまらないと、あたしはおもっているのですよ。
今回は危険な任務につかせて本当に悪かったとおもいます。
マシュルルが無事でよかった。
しばらくゆっくり休んでくださ…」
ケルトト博士の言葉が終わる前に小さな扉がバタンと開いて
アプルル博士が飛び込んできた。
「マシュルルさんは無事ですの?!」
アプルル博士がマシュルルの姿を見て、ホッと息をついた。

431礎の守護者:2004/12/03(金) 20:58 ID:xP0x7DpQ
マシュルルはマグを小さな机の上において立ち上がった。
「アプルル博士、すみませんでした…」
マシュルルの蒼い瞳に再び深い悲しみが浮んだ。
頭を下げるマシュルルの手をアプルル博士はそっと握り締めた。
「あなたが無事で…本当によかった。
あの子達は頑張ったのですね」
「はい…でも、私の変わりに…私を守るために…」
マシュルルの瞳からこぼれ落ちる涙を、アプルル博士はそっとぬぐった。
「あの子達は使命をまっとうしたのね。私の自慢の子達は…」
「…はい」
「あなたが無事で本当に良かった」
アプルル博士は悲しげに微笑んだ。
それ以上の言葉を、許さないかのように。
マシュルルは無言で頷いた。
ウィンダスの手の院はこうやって、何十何百体のガーディアンを生み出し、
そして失ってきた。
「あの…アプルル博士」
最期の戦いで飛び散った破片。
握り締めるとほんのり暖かい星の木の実。
アプルル博士はそれを見た瞬間、泣きそうに顔をゆがめた。
「セブンオブハーツ…ね。お帰りなさい。ご苦労様」
大切に受け取り、小さな手で包み込む。
「ありがとう。マシュルルさん。この子を運んでくれて」
マシュルルはふるるっと首を横に振った。
金の髪が揺れる。
「心配しないで。またこの子は生まれ変わるわ。そしていっしょに働くの。
強い子だったから…今度は警備隊になるかもしれないわ」
アプルルの言葉にマシュルルは深く頷いた。
「はい」
「ウィンダスの使命、ご苦労様でした。マシュルルさん」
頬に触れられるやさしい手に、マシュルルは再び泣けてしまった。
やわらかな頬に涙がいくすじも伝い落ち…とまらなかった。


数日後
マシュルルはカカシを見て挨拶をした。
「こんにちは。警備ご苦労様です」
首をかしげると金の髪がこぼれおちた。
「マシュルル★オシゴト デスカ★イッテラッシャイマセ」
「ええ、いってきます」
マシュルルはあざやかに微笑む。
星の大樹の栄養剤は新たに鼻の院で開発され、
大樹が少し元気になったという朗報を聴いた。
ウィンダスの歴史の礎になったたくさんの者達の記憶を、
ウィンダスの風はやさしく包む。
空はどこまでも高く清んでいる。
「がんばろう」
マシュルルは小さく呟いて鼻の院に駆けていった。

                  END

432礎の守護者:2004/12/03(金) 21:06 ID:xP0x7DpQ

読んでくださった方ありがとうございました。
前回のお話でごめんなさいを一つ。
息吹ではなく音叉でした。
フレンドに突っ込んでいただくまで素で気がつきませんでした。

多分皆様には予想外の続編だったとおもいます。
テイストもだいぶ違います。すみませんでした。
ウィンダスではこんな事件が何度も在ったのではないかと
おもいます。

高レベルのキャラのお話が読んでみたいと思う今日この頃
作り手の皆様 頑張ってくださいませ。応援しております。
読み手の皆様お風邪などに気をつけてくださいませ。

                          N

433(・ω・):2004/12/04(土) 11:13 ID:lnscGfkg
泣きました、朝(というには遅いか)から号泣いたしました。
カーディアンクエ進めてくるよ!!!1!!111!!

4341/3:2004/12/05(日) 00:38 ID:6xI.6IqY
[ エリーにおまかせ! モーグリを探せ 事件編 ]

僕はワトソン。
この薔薇十字探偵所の探偵助手だ。

「ふむ。こんなものかな。お〜い、エリー!」
「なにかしら、ワトソン?」

「はいよ。紅茶ですよ。あと茶菓子ね」
「あら、ありがとう」

「イエイエ。どういたしまして。で、お味はどうですか?」
「うん。相変わらず、美味しくないわ」

「……」
「……」

「じゃあ、飲むなよ。食うなよ」
「食べ物を粗末にするのは良くないわ」

彼女はエリー。
この薔薇十字探偵所の探偵だ。
見た目は可愛いミスラの少女なのだが、
その知識と食い意地には、目を見張るものがある。

悲しいことだが、この世界には人と人との争いがある。
その争いが事件を、謎を、生み出している。
そんな事件を解決し、謎を解くことが、僕達の使命だ。

ドンドン!

不意に探偵所の扉が叩かれた。

「おっと、誰だろう?」
「そうね。依頼人かしら?ワトソン、お願いするわ」

「ハイハイ。えーと、どちらさまですか?」

4352/3:2004/12/05(日) 00:39 ID:6xI.6IqY
探偵所の扉を開けると、そこにはミスラの女性が立っていた。
ひどく落ち着かない様子で、目線が定まっていない。

「何か、御用ですか?」
「あ、はいにゃ!えっと、その、モーグリが居なくなったですにゃ!」

「はい?えーと、詳しいお話は中で伺いますので、どうぞ」
「にゃ?」

僕はそう言って、彼女を探偵所内に導くと、
応接間まで案内して、ソファに座るよう促した。

「初めまして、お嬢さん。僕はワトソン。
この探偵所で、探偵の助手をしています。
まずは、アナタのお名前を教えて頂けますか?」
「あ、ごめんですにゃ。アタシ、ミスクレオパト・ラ子ですにゃ。
冒険者、やってますにゃ」

「なるほど。それではラ子さん、どのような用件でしょうか?」
「はいにゃ。モーグリを探して欲しいですにゃ」

「モーグリを探す?どうしてですか?」
「あのですにゃ。
モグハウスに居るはずのモーグリが、居なくなったですにゃ」

「モーグリが居なくなった?それは、いつからですか?」
「今日からですにゃ。昨日までは居たですにゃ。」

「なるほど。昨日、モーグリは何か言ってましたか?
もしくは、モーグリに変わった様子はありませんでしたか?」
「えっと……にゃ。何も言ってなかったですにゃ。
あと、変な様子もなかったですにゃ。
いつもと同じく、プカプカ、クルクルしてましたにゃ」

「ふむふむ」
「それで、アタシ、困ってますにゃ。」

「ふむ?それは、どうしてですか?」
「アタシ、いつもモーグリに着替えを手伝ってもらってますにゃ。
だから、モーグリがいないと、
ドコにお洋服があるのかも、わからないですにゃ。
それと、趣味の盆栽もカリカリになっちゃいますにゃ」

「なるほど。それは、お困りですね。
では、僕が着替えをお手伝いしましょう」
「ヤですにゃ」

「……」
「……」

「冗談です」
「笑えないですにゃ」

4363/3:2004/12/05(日) 00:39 ID:6xI.6IqY
「ゴホン。それでは、モーグリの捜索依頼、確かに承りました」

僕がそう言おうとした時、エリーが応接間に現れた。
エリーは依頼人に対して、スカートを軽くつまみ、
可愛らしく挨拶をすると、次のように質問した。

「ラ子さんは、昨日、どちらにいらっしゃったのですか?」
「にゃ?アタシ、昨日までミッションで三国を廻ってたのにゃ。
だから、昨日はバスの大使館でお仕事してたのにゃ。
色々あったから夜遅くなって、バタンキューだったのにゃ。
それで、やっと今日になって、
ミッションの結果報告にウインへ戻って来たのにゃ。
でも、それがどうかしたのにゃ?」

「そう。良かった。それでしたら、
モーグリを探す必要はありませんわ」
「にゃ?どういう事にゃ?」

エリーはそう言って、僕達に微笑んだ。

僕は混乱している。
モーグリが居なくなったのに、探す必要はない?
誘拐・失踪などの事件ではないのか?

そんな僕の動揺を感じて、エリーは言葉を続けた。

「モーグリはスグに帰ってきますわ。
ちょっとコツが要りますケド。くすくす」

437(・ω・):2004/12/05(日) 12:07 ID:9ATl.gkk
おお、エリーたんとワトソンだ!
お帰りなさいー!

そういや…うちのクポも良くいなくなる…w

438(・ω・):2004/12/05(日) 14:33 ID:F0F24bcY
>礎の守護者
話はGJ!
ただヤクード、ブリースト、オズトロイヤ、ガーディアンと随所に誤字の連打には折角の
盛り上がりが興醒めしちゃうよ…

439(・ω・):2004/12/05(日) 18:14 ID:UBYEIbQI
漏れはバス人だけど他所からモグハウス直行して
モーグリが表示されるの1分くらい待ってた事あるなw

440(・ω・):2004/12/05(日) 20:44 ID:MLe9MsaA
レンタルハウス帰し忘れでファイナルアンサー?

441(・ω・):2004/12/05(日) 21:39 ID:Fo8QFYkE
>>438
ナチュラルに脳内変換してた。
うちのLS内だとモバルプルスとかワットアとかいう地名が
飛びかっとるからな…w

4421/2:2004/12/06(月) 04:32 ID:bMb.aeqQ
[ エリーにおまかせ! モーグリを探せ 解決編 ]

僕はワトソン。
この薔薇十字探偵所の探偵助手だ。

彼女はエリー。
この薔薇十字探偵所の探偵だ。

そして今回の依頼人、ミスクレオパト・ラ子。
彼女からの依頼は、突然居なくなってしまったというモーグリの捜索。

しかし、エリーはモーグリを探す必要はないと断言した。
それは何故か?

エリーの助言を受けて、ラ子はウインダスの街を駆けた。
そして居住区に辿り着くと、
モグハウスの入り口に立つガードに話しかけた。

「あ、あのですにゃ。そ、そのですにゃ」
「うにゃ?モグハウスをご利用ですかにゃ?
はにゃ?アナタは他国でレンタルハウスを借りてるのにゃ。
他国のレンタルハウスから、自国にお引越しの手続きするにゃ?」

はい
いいえ

「はいにゃ!お願いしますにゃ!」
「わかったにゃー!ちょっと待ってにゃ。
ほんだららった、へんだららった、どんがらがった、ふん♪ふん♪
手続き完了にゃ。これでモグハウス、使えるにゃ」

「ありがとにゃ!」
「きにすんにゃ!」

ラ子はモグハウスへと駆け込んだ。
そして、そこにはいつものように、モーグリがプカプカと浮かんでいた。

「おかえりクポ〜」
「たたいまにゃ!」

ラ子は他国でレンタルハウスを借りていた。
このときモーグリが家財道具一式を持って、
レンタルハウスへと引っ越していたので、
自国のモグハウスにモーグリが居なかったのだ。

以上である。

4432/2:2004/12/06(月) 04:33 ID:bMb.aeqQ
「そうだったのか。でも、エリー、どうしてわかった?」
「簡単な推理よ。
モーグリがモグハウスに居ないケースなんて、そんなにないわ。
モーグリが里帰りするとか、モーグリがレンタルハウスにいるとかね。
そして、モーグリは義理堅く、用意周到だから、
里帰りのときは教えてくれるし、着替えも用意しておいてくれるわ。
だから、里帰りの線は消えるの。
そして、残るのはレンタルハウスの線。
この場合、レンタルハウスを返せば、
モーグリはスグにモグハウスに戻ってくるわ。
だから、モーグリを探す必要はないの。
それと補足するなら、レンタルハウスを借りた状態でも、
自国のモグハウスには入れちゃう事が、混乱の原因かしら。
以上で証明終了よ」

「な、なるほど」
「借りたら返す。それが世界のルールよ」

「ふむふむ。あ、そうだ!エリー、昨日立て替えたケーキ代、返せ!」
「また今度ね」

どんな事件も見事に解決!
エリーにおまかせ!

4440/0:2004/12/06(月) 04:33 ID:bMb.aeqQ
>437 >440 that's right
>439 me too

445(・ω・):2004/12/06(月) 11:30 ID:A9gMcV1k
皆さんは本当にヤリまくれる出会い系サイトに出会った事はありますか。
サクラ(サイトが雇って文章打ち込んでるヤツラ)に
振り回されるのはもうたくさんですよね。
出会い系サイトも1つのサイトに男女が集中しつつあります。
ココはその代表格なんですが、無料でヤれてしかも参加者の4割が女性です。
フリーメールで登録できる = 匿名での参加ができるので周囲の人間に
ばれる心配は全く無いです。完全な無料なので試しに遊んでみて下さい。

出会い系サイトに対する価値観は間違いなく変わります。

http://www.cyber-ad01.com/sharanra/?ip=0004&amp;id=B959

446(・ω・):2004/12/06(月) 13:21 ID:XXQGd/H6
>>438
話しがいいんだし、その辺は”/ja 自動脳内変換機能”を発動汁!

作者の方、マシュルルの次回を楽しみにお待ちしてます!

447Scrapper:2004/12/07(火) 01:41 ID:T434MHm2
毎度ありがとうございます.
また遅れてしまいましたが,更新しました.
http://www.geocities.co.jp/Bookend-Ango/5451/

自分自身はまだ先のことだと思っていますけど,
私達はヴァナ・ディールから消える時,自分がサーバに居たという確かな証拠をを残していけるのでしょうか?
FFXIの場合,システム的に物を残していくということが出来ません.
(銘入りの合成品の場合はどうなんでしょ?)

財産整理をして親しい仲間にお金を残す,という選択肢もありますけれども,
長くやっていると,なにかもっと強力な証みたいなものが欲しいな,と感じてしまいます.

久しぶりにやっとログイン出来たと思ったら,私がただ一つ所属しているLSのリーダーがその前日に引退した事を聞かされたという出来事がありました.
リーダーがこのサーバに居たという証拠って私達自身なのかもなぁ,とそんなことを考えて暮らしています.

それでは読者の方々も作者の方々も頑張ってくださいね.

448(・ω・):2004/12/07(火) 09:29 ID:19y0B05A
自分達がこの世界(サーバ)に居たという確かな証拠はきっと残りますよ
親しい仲間や、何気なくパーティを組んだメンバーの記憶の中に・・・

ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/game/6493/1098528066/

449(・ω・):2004/12/08(水) 05:20 ID:bO.nHMqw
>>447
フライングの後編タイトルが前編になっとる!!!
続きが気になって何度クリックしても前編、ムホーヽ(`Д´)ノ

450Scrapper:2004/12/09(木) 01:21 ID:Zv99TWqI
>>449さまと皆さま
ひゃぁあああ!
ごめんなさいごめんなさいごめんなさい.
後編に直しましたー.

>>448さま
だといいなぁと,私も思っています.
最近,古参で引退する人が多いもので…ちょっと気にしていたのでした.

451(・ω・):2004/12/11(土) 12:44 ID:h59effNs
/│ω・`)
壁│ )
/│
ここって、書いた事が無い新参者でも投稿していいのかな…?
ヘタレな文なんだけどね…

452(・ω・):2004/12/11(土) 12:55 ID:f7yUZ9HE
>>451
どんとこーい!

453451:2004/12/11(土) 13:13 ID:h59effNs
/│ω・`)
壁│ )
/│
結構長い作り話な予感なんだけど、投稿していいのかな…?

454某スレよりコピペして改編:2004/12/11(土) 13:39 ID:fSDU63DA
おい>>451、さっきからうるせえぞ。「投稿してもいいですか?」「投稿してもいいですか?」ってよォ〜〜。
どういうつもりだてめー、
そういう言葉は、オレたちの世界にはねーんだぜ…
そんな、弱虫の使う言葉はな……。

「投稿してもいいですか?」…そんな言葉は使う必要がねーんだ。
なぜなら、オレや、オレたちの仲間は、
その言葉を頭の中に思い浮かべた時には!
実際に投稿しちまって、もうすでに読者が「GJ」と言える状態だからだッ!
だから使った事がねェーッ。

「投稿しました」なら使ってもいいッ!

455(・ω・):2004/12/11(土) 17:36 ID:NJFka7/g
今ネ実にも小説スレ立ってるね。
こっちにも来てくれないかな〜。

>>451
長い話は望むところだ!
かもーん!

456Scrapper:2004/12/13(月) 03:21 ID:GHmksSFs
毎度ありがとうございます.
新しい作者さん期待のところ割り込んで申し訳ないですが,更新しました.
http://www.geocities.co.jp/Bookend-Ango/5451/

前回今回と,Scrapperの裏話というか補足というか,そういう風になっちゃってるんですよね….
ひとつの話として独立させられない実力の無さが悲しいです.
おまけに,私はどうやら泣かせる話も,手に汗握る戦闘も,ドキドキの冒険も書けないようです.
そんなのでよければ,どうぞお読みください.
まぁ,自分で書けないからこそ,他の作者さんを楽しみにしているわけですが.

>>451さま
割り込んですいませんでした.いっちゃってください.
期待してます.

それでは,読者の皆様も作者の皆様も頑張ってくださいね.

457とりあえず無題(1/3):2004/12/13(月) 23:07 ID:XXjk5Pjs
『天晶暦862年、○月△日……くもり。
 昨日の分と纏めて書く事にします。
 昨日の訓練量も、入った頃と比べれば数倍もの詰め込み様でした。
 野外で雷属種の詠唱練習を強制され、詠唱者が感電する事故もありました。
 こんな日々がいつまで続くのだろう……皆疲労と不安で限界が来ています。
 私もいつも通り、頭がクラクラするまで練習して、フラフラと帰っていく毎日。
 そんな日が何日か続いて倒れてしまった日でした。あの人とであった昨日は…――』


・・

・・・

彼はその日も、おぼつかない足取りで帰路についていた。
酷い疲れからか、雨が強く降りつけているのも気にも留めていない。
傍から見れば、今にも倒れてしまいそうな動きで自らの家に向かって歩きつづける。
彼の家は居住区の中でも港に近い所にある為、帰宅の距離は短い。
しかし、その帰り道さえも果てしなく、長く感じる程、彼は疲れきっていた。


――ウィンダス連邦。緑と夜空に煌く星々と月に祝福された、豊穣な大地の上に築かれた国。
神の生まれ変わりであると云われる『星の巫女』を頂点に据え、
それを賢者とも呼ばれる博士達が支え、彼等の合議を基に国を五つの院が治める。
その五つの院が一つに。『口の院』。
魔法学校で優秀な成績を収めた大半の者が編入する先であり、
格式高く、ウィンダス軍の主力を担う人材を多数輩出する機関である。
『エリートの集まり』と称して過言では無いその機関で、彼は日々、魔法術の訓練に明け暮れていた。

名をシルク-エルク。一昨年、魔法学校を次席で卒業した口の院の訓練生である。

彼は体力に自信があった。他の種族から見ればそれは微々たるものでしか無いのかも知れない。
だが、彼の種族――タルタルの中では、それは間違いなく秀でた力であった。それは、口の院の上司・先輩と言った上の者からでさえも評価される程であった。
それと期待もあってだろうか、彼は俗人から見れば過酷な程に訓練を重ねていた。
シルク自身も、その持ち前の体力があってか、辛いとは感じていなかった。

しかし、次第にそれは移り変わっていった。それは彼自身だけでなく、他の訓練生も含めて。
――――『戦争』が始まった為だ。

人類と相見えるは、『獣人』と呼ばれる者達。
そして、ウィンダス連邦と相見えるは、獣人『ヤグード』。
宗教国家を持つ彼等の統率された軍事力に、ウィンダス軍は次第に押されていっていた。

戦争は、激化する程に人材を要する。
その為、一日も早く一人前の魔導士が誕生する様にと、軍事力の一角を担う口の院も躍起になっていた。

過酷に過酷を加味した訓練は、それは凄まじいものだった。
訓練生達は確かに実力をつけていった。
しかし、一方で各々の身体は蝕まれていった。
多くの者が、病気や怪我で一時的に脱落したりする中、シルクはひたすら耐えていた。

458とりあえず無題(2/3):2004/12/13(月) 23:09 ID:XXjk5Pjs
しかし、やがては彼の体にも限界が訪れた。
身体に蓄積された疲労も限界に達し、重ねて帰り道に激しい雨が降りつける。
傘を持ち合わせておらず、身体から徐々に体温が奪われていく。
ゆっくりと薄れゆく意識。動かなくなっていく体。
いつのまにか彼は、道端に伏してしまっていた―――


「………?」
気が付いた時には、彼は屋内で横になっていた。
見知らぬ部屋だ。
ウィンダスでは珍しく、室内に暖炉が設けられている。
(……誰の家……?)
シルクは重たい上半身を起こして、辺りを見回した。
…誰も居ない。焚かれた暖炉の木がパチパチと音を立てているだけである。
(家具を見る限りは……ミスラ……?)
タルタルから見ると大きな家具――といっても殺風景な部屋で、数点しか無い――を見ていると、玄関口の方で物音がした。
戸を開けると共に、頭を振るいながら一人の女性が姿を現す。
沈む夕日を思い出させる様な、真紅の髪。そして、利発そうにその頭の間から生える凛とした耳。
身体の後ろで不規則に揺らめく尻尾。
それは『ミスラ』と呼ばれる種族に他ならなかった。
彼女は、戸の傍にあった布で髪と耳を拭いている最中に、シルクの視線に気付く。

「気が付いたのだな」
発せられたのは、よく通って、それでいてハスキーな声だった。
「行き倒れかと思ったが……体の方は、大丈夫かな?」
近付いて、彼の顔色を窺う。
彼女の瞳をシルクは綺麗だな、と思った。
髪と同じ、紅色の瞳。その澄んだ瞳は、紅いながらもシルクに海を思わせた。
「ん…?私の顔に何か付いているかな?」
自分が見入っていた事に気付いて、シルクは慌てて目を逸らす。
ふと、ひんやりとした手が彼の額に当たった。
「ふむ……熱は随分と下がった様だな…丈夫な体だ。
 眠くなるが、この薬を飲んでおくと良い…それで、明日には殆ど治っている筈だ」
そう言って彼女はシルクの小さな手に、掌程の丸薬を持たせた。
「貴君の所在は、一応鞄の中から調べさせて頂いた…雨が止んだ後に、送っておこう」
ぼんやりとしながら、彼はただ殆ど頷いているだけだった。
手にしている丸薬を口に放り込む。その苦味に少しだけ意識がハッキリした。
「あの…僕は……」
どうしてたんですか?と欠落した記憶の部分を尋ねようとすると、その意図を察してか彼女は
「過度の疲労で倒れしまった様だな…港の道端に倒れていた」
と言った。
「そうですか…すいません……」
自分の限界を知ってしまった。そんな気がしてシルクは憂鬱になった
「国の為、誰かの為に努力をする事は確かに素晴らしい…が、それ以前に大事なものもある…無理はせぬ様にな…」
少し、寂しげな目をしてそう呟く。
何故そんな目をするのか、彼は気になったが、
「今は眠ると良い…その体には、睡眠が必要だ」
そう彼女に促されるままに、上半身を再び横にして瞳を閉じると、薬の効き目もあってか、
シルクは睡魔に誘われていった……――

459とりあえず無題(3/3):2004/12/13(月) 23:11 ID:XXjk5Pjs
――穏やかな目覚めだった。天井の造りが違う。
慌てて飛び起きて、周囲を見渡した。意識を失う前とまた部屋が変わった様だった。
…それは自分の部屋だった。
体の下には、自らが愛用している布団が敷いてある。
「あ…そういえば送ってくって……」
虚ろな意識で聞いた言葉を思い出す。
そこで更に、自分の体の変化に気付いた。
先日までの溜まった、鈍重な疲れが、シルクにはまるで感じられなかった。
(あの薬の効果だろうか?)
夢だった,とさえ考えられる状況に多少困惑していると、彼の部屋の扉にノックが掛かる。
入ってきたのは、彼の母親だった。
「あら、おはよう」
まだ寝ていると思っていたのだろうか、意外そうに朝の声を掛ける。
「母さん……あのミスラさん……」
夢だったのか現実だったのか、わからないが為に、母に尋ねる。
「あぁ、あの人なら貴方を届けてすぐに帰ったわよ。
 それにしても驚いたわ、気絶していたなんて……」
現実であった。なんと素晴らしい人であろうか。
縁の無い親切に、シルクが感動していると彼の母の口から、彼が思っても居ない言葉が出た。
「大丈夫…?本当に何もされなかった……?」
「…え…?」
母が口にしたのは、明らかにミスラの行動に対する感謝の言葉では無く、懐疑の言葉であった。
「どういう事?」
「知らないの?あの人、流れ者なんですって。
 だから、ミスラ達の間でも爪弾き者らしいのよ…」
誰にも、故郷を、仲間を愛する気持ちはある。
そしてその逆に、他所者に排他的な気持ちを持つ事もある。
シルクの母は、その後者の面が強く、彼もそれは疎ましく感じていた。
そんな事はさておき、シルクは大事な事を尋ねようとする。
「母さん、名前知ってるの?」
「え?えぇ…確か……クルゥ?だったかしら……ホント、ミスラの名前は覚えにくいわ」
ブツブツと何かを言っている母親を横目に、彼は頭にその名前を刻み付ける。
(クルゥ……クルゥさん、か………)
今度会えたら、何かお礼しよう。
そう心の奥に、彼は健康的になった身体で、過酷な訓練の毎日に戻っていった――。


・・・

・・



『天昌暦881年、△月×日……快晴。
 妻に、随分と久しい昔話を促された。どうやら、以前話した事が気になっていたらしい。
 その話をする度に、私はあの大戦下の日々を思い出す。
 「クリスタル大戦」――多くの友が、仲間が、愛する人々が死んでいったあの戦争。
 多くの負の感情に苛まれ、捲し立てられ、ただ感情のままに戦った事もあった事。
 ――祖国で共に戦った、彼女の事。
 数時間にも渡った昔話を聞いた妻は、とても満足した様だった。
 話を終えた後も、私は大戦下の日々を暫く思い返していた――』

―――to be next

460451:2004/12/13(月) 23:16 ID:XXjk5Pjs
/│ω・`)
壁│ )
/│
バイト頑張ってたら、見れなかったよママン…

>>454
ごめんなさい('・ω・`)
皆巧いから、俺だけしくじったら空気悪くするかなー…っと、渋ってた方が悪かったかorz

とりあえず、使っていいらしい…
『投稿しました!』、と。

ここで質問があるのですが、
文中で、タルタルの韻を踏んだ後ろの名前書いてないんだけど、これって省略しない方が良いのかな?

今更見直すと、すげぇ長くなりそうな予感……orz
とりあえず、今日は寝ます('・ω・`)ノシ

461(・ω・):2004/12/14(火) 03:20 ID:bT.lZSC.
Civilian

○月×日(晴れ時々フレア)

バイトを始めてみようと思います。
サンドリアに住み着いてから、
早三年が過ぎようとしている今日この頃、
そろそろ叔母さんのお世話になるのもどうかと思う。
そこでデッカイ競売所があるせいで
人が群がる南サンドリアへと足を運んでみた。
情報収集の基本は、人が集まるところと太古の昔から決まっている。
「えーっと、求人広告ってこの辺に張ってあったような・・・。」
人垣が出来ている競売所の購入口の壁を、
背伸びして見ようと思ったが、
ここはさすがサンドリア。
平均ヒューム女性より少し、ほんのすこーーーーーーしだけ
小さい私には、倍以上の背丈があるエルヴァーンたちの壁は高すぎる。
しかも隙間無く敷き詰められた人、人、人。
列に見えるものも無く、ただ、途方にくれるしかなかった。
人々が入り混じる人垣の前、
私と、やはり人垣に阻まれた冒険者らしきタルタルが、
並んで立ちつくしている。
やはり私と同じようにイラついている様だった。
それはそうだろう。
列の作らず、次から次へと来ては去り、去っては訪れては
私の行く手を遮る。
これは、私にバイトをするなという天からのお告げ・・・など考えていると、
隣のタルタルがささやき声で独り言を始めた。
おやおや坊や、そんな声じゃ聞こえないわ。
私が代わりに言ってあげましょうか。
すーっと息を吸い、いざ声を上げんと手を口にメガホンの様に当てる。
「お・・。」
どかーん!!!
私の声をかき消すほどの爆発音。
目の前の人垣が吹き飛んだ。
「テロだ!獣人襲来だ!」
「誰かー!腕が!私のうでがぁ!」
人々の叫びが溢れ出した。
手を腰にあて、「ふふん」と、勝ち誇ってみる。
そんな気分だった。
まるで人がゴミの様。
「だれだ!フレアぶっぱなした馬鹿は!」
フレア?確かこの前読んだ漫画に載っていた魔法だ。
古代より伝わる伝説の魔法で、冒険者の中でも使える人は限られているらしい。
へー。こんな真直に見れるなんてラッキー。
それにしても誰が・・・。
と、見渡し、行き着いた場所は隣で独り言を言っていたタルタルだった。
両手をピンと真横に伸ばし当に今打ちましたよと言わんばかりだ。
「やるね、少年。」

つづく

462(・ω・):2004/12/16(木) 13:12 ID:iZvkfr.Q
ペースまったりめですが、新作も増えてうれしい今日このごろ。

ところで・・・このスレは移転依頼どうしましょう?

関連スレ:★:(・ω・) ★から利用者の皆さんへ
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/game/6493/1102002663/l100

移転に関するメッセは
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/game/6493/1102002663/99

移転依頼テンプレは
> ■移転の申請は下記の5項目を明記してください
> (1)移転希望の場所
> (2)スレタイ
> (3)URL
> (4)スレ固有の名無しさん
> (5)sage固定の有無
> ※ 移転後ここの板のスレはスレストします

(上記スレ101参照)

また、上記のスレ117で報告が上がっていたのですが、スレ容量が512kを越えると
IEとかでは表示出来なくなるそうです。
今はいないフレンドへの手紙が、アウトくらったのであたらしく立てたみたいです。

最近ペース遅いけど、年内めどで移転しちゃうみたいなので、どうするかを相談
した方が良いように思えますが、如何でしょうか?

463(・ω・):2004/12/20(月) 03:33 ID:At773luE
みなさんどんどん移転してますね。
お任せしますというのは、無責任でしょうか。

464名無しの話の作者:2004/12/20(月) 03:39 ID:At773luE
「名無しの話」の24 −思い・悩み 3−

タルタルとエルヴァーンの身長差は大きい。
目線を合わせようとすると、タルタルはずっと上を見上げないといけない。
ほとんど真上を向くぐらい。
それでもタル獣は
「あのねー」
うれしそうに、話しかけてる。
エル白も、半身をかがめるようにして、聞いてる。
その手に、タル獣の荷物を抱えて。
町の門へ向かいながら、二人の足はほとんど進んでない。
タル獣の話題の中身はずっとトラの事。
こんなに大きくて、こんなに強くてと、短い両手を振り回し、小さな身体で一生懸命身振り手振りで話しする。
けど、そのなかに、トラが「虎」だという言葉はない。
説明しなきゃいけないとは、思わなかったから。
だって、タル獣にとってトラが「虎」なのはあたりまえ。

そして、また。
ほんの少しの勘違い。

トラという名のタル獣の相棒。
「ぼくのね、家族なの」
家族という言葉を、エル白は「家族のように親しい人」と受け取った。
一叩きで敵がダウンすると聞いて、思い浮かぶのは、隆々とした筋肉の塊のような腕。
一吼えで敵が動けなくなると聞いて、思い浮かぶのは、地を震わせるような蛮声。
一振りで敵が吹っ飛ぶと聞いて、思い浮かぶのは、丸太のような太い尾。
それがタルタルのはずがない。
もちろん、ミスラでもない。
そして、エル白の想像の中で出来上がったのは、屈強なガルカモンクの巨体。
でも、
(こんなにタル獣さんがうれしそうに話すんだから)
きっと優しい人に違いない。
そうエル白は思った。
いかつい表情よりも笑顔の似合う。
大きな身体いっぱいに優しさの詰まった。
そんなガルモン。
小さいタル獣と、大きいガルモン。
凸凹コンビというのが、そのまま当てはまるような二人を想像する。
「いつもはどこで狩りをしてるんですか?」
聞いてみると
「えとね……とか……とか……」
だいたいの方向を指さしながら、いくつかの地名を上げるタル獣。
「ずいぶん広いんですね」
と感心するエル白へ
「うん。トラさんにのせてもらうから早いの」
笑むタル獣。
「…肩へですか?」
エル白が思い浮かべたのは、のっしのっしと歩くガルモンクの肩に、チョコンと座ったタル獣。
「あのね、ゆっくりのときは肩で、早いときは背中なの」
トラが歩いてる時は、首に掴まって肩に乗る。
速く走る時は後ろによって背中に掴まる。
激しく動く肩では、はね飛ばされてしまうから。
「背中…」
エル白が思い浮かべたのは、地響きたててつっ走るガルモンの背中にヒッシとつかまったタル獣。
「エル白さんものる?」
見上げるタル獣の瞳は期待に満ちてる。
緑の野、青い空の下、そよ風に吹かれて、ガルモンの両肩に乗るタル獣と自分。
それは、ちょっと少女っぽい想像。
だけどなんだか、とても楽しそうで気持ちよさそう。
「…トラさんが、よろしいのでしたら」
エル白の返事に
「うん!」
タル獣はとてもうれしそうにうなずいた。

465名無しの話の作者:2004/12/20(月) 03:49 ID:At773luE
もう日が登り始めた。
町の門を出入りする人影が少しずつ増えてくる。
町からだいぶ離れた窪地。
トラの巨体が伏せてる。
ひそやかに、気配を殺して。
太い骨と筋肉の塊だけど、トラの身体はとても柔らかい。
窪地にぺたりと伏せれば、ちょっと見には気づかれない。
そこは街道からも離れてるから、なおさら。
まれに、道を外れてやってくる者もいるけど、トラには気づかずに通り過ぎてしまう。
まだタル獣と出会ってない頃。
仲間が冒険者に襲われると、よくトラはこうして、町の近くで犯人を待ち伏せした。
で、後ろから肩を叩いて、
「虎ァ相手にするンなら、それなりの覚悟しとるンやろな…」
と囁く。
たいていの冒険者はそれで、泣いてゴメンナサイした。
もちろん、
「冒険者が虎殺って、なにが悪い!」
と戦いになる事も珍しくなかったけど。
もちろん、負けた事はない。
トラは、町の門を見てる。
朝焼けに照らされて町を出入りする人の姿は、アリより小さく見えるけど、トラの視力には、十分に見分けがつく。
タル獣はまだ出てこない。
ふと、思う。
タル獣が町から出てきたとして、どうしよう。
ほんとは、先に戻った方がいい。
迎えに行けば、多分、タル獣は怒るだろう。
「ひとりでこんなトコまで来ちゃだめ」と。
虎を狙う冒険者は多い。
タル獣と一緒にいるトラにも襲ってくる冒険者がいるくらい。
強大な体躯に似合った巨大な牙と毛皮は、それなりの価値があるから。
タル獣は、それをとても心配する。
けど、先に戻るのは、トラの方が心配になる。
さっきの様な事もあるし…。
でも、ほんの少し考えれば、答えは簡単。
途中まで後をつけて帰り、適当なところで先回りすればいい。
あとは、ずっと待ってたふりして
「おかえり」
でいい。
答えが見つかったところで、
「!」
タイミングを合わせたように、まちかねた姿。
門から出てくる人影の中の、ひときわ小さな影。
どんなに小さくても、見まちがえる事のない姿。
タル獣に間違いない。
タル獣は街道を外れ、まっすぐこちらへと歩いてくる。
隣には、共に歩く人影がある。
はるかに長身の姿。
エルヴァーンの女性。白魔導師。
まわりにいた人々はみんな街道を行く。
けど、エル白は、ずっとタル獣と一緒に歩いてくる。
二人は楽しそうに言葉を交わしてる。
(新しい友達なんか…)
そして、思い出す。
トラの記憶の中で、タル獣の友達たちに悪い印象はない。
みんな、元気で、明るくて、楽しい。
タル白、タル黒、タルシーフ、タル龍騎。
だれもトラを恐がらなかった。
タルシーフなんか、挨拶を交わすまもなく、トラの背に這い上がろうとしたぐらい。
タル龍騎は
「ボクの竜さんの方がすごいの」
とがんばってたけど、他のタルタルたちはタル獣をうらやましがってた。
こんなすごい虎さんと一緒なんだと。
ちょっと得意げなタル獣の顔が浮かぶ。
「…ちょっと、挨拶しとこか…」
トラはちょっとばかり予定を変更した。
ムクリ
起きあがり、トラ獣たちの方へと脚を向ける。

466名無しの話の作者:2004/12/20(月) 03:58 ID:At773luE
「…わたしもいただいてよろしいのですか?」
「うん!」
大きくうなずくタル獣。
「みんなで食べた方がおいしいの」
「ありがとうございます」
タル獣とエル白は、ぽくぽくと歩いてる。
話しながら、歩く。
歩きながら、話す。
新しい仲間、新しい友達が出来るのは、とてもうれしい。
トラさんと、仲良くしてくれたらいいな、とタル獣は思う。
心配いらないね、とも思う。
だって、トラさんは優しいから。
エル白さんも優しいから。
優しい人同士だから、きっと仲良くなってくれる。
タル獣には、チョッピリ自信があった。
と、
「?」
気づくタル獣。
遠く、かすかに、よく知った気配。
あれ?と脇を見る。
エル白も、つられて同じ方向を見る。
遠くに影。
こちらへ近づいてくる影。
だんだんと大きく。
「あー」
声を上げる。
それは、見まちがえる事のない姿。
「トラさーん」
大きく手を振るタル獣。
迎えに来てくれたんだ、と、うれしくて
こんなトコまで来ちゃって、と、少し怒って。
「あれがね、トラさんなの!」
ぼくのトラさんなのと、笑顔でエル白を見上げる。
けど
「!」
笑みが、こわばる。
見上げた先。
エル白の表情。
見た事ある。
トラさんと出会った冒険者のほとんどが、浮かべる表情。
驚き、怯え、恐れ。

「トラさーん」
タル獣が自分を見つけた。
手を振ってる。
つい、足が速くなる。

美しい毛並みは、狩人の矢を弾き
鋭い爪は、騎士の鎧を引き裂き
巨大な牙は、戦士の剣を噛み砕く。
虎。
死の獣。
それが、いる。
近付いてくる。
逃げて、とタル獣に叫ぼうとした時
「トラさーん」
とタル獣が呼んだ。
うれしそうな、声で。
(!?)
そう、獣使いだもの。虎を連れててもあたりまえ。
瞬間に理解する。
あの虎が…トラさん…。
タル獣の、優しいトラさん…。
逃げようとした自分を落ち着かせる。
踏みとどまる。
けど。
幼い子供が犬を怖がるように。
たとえ親に「大丈夫だよ」と言われても
たとえ噛まれはしないと判っていても
本能に近いところで怖がるように。
エル白はわき上がる恐怖を押さえる事が出来ない。
怖い、怖い、怖い!
身体の奥底から聞こえる叫び。
筋肉をしならせ、ゆるやかな流れのような静かなトラの歩み。
その一歩と共に、恐怖が近付く。
見えない何かが、エル白の身体を押し包んでいく。
ノドが乾く。
膝が震える。
「だいじょうぶなの。怖くないの」
足下から、心配そうなタル獣の声が聞こえる
けど、わからない。
なにを言ってるのか、判らない。
虎が近づいてくる。
目の前に、近づいてくる。
瞳が、黄金色の瞳が、自分を見下ろす。
そして、心が、悲鳴を上げた。

467名無しの話の作者:2004/12/20(月) 04:05 ID:At773luE
「トラさんといっしょにね、パンたべよー」
「甘くておいしいのー」
いくら話しかけても、エル白はタル獣を見てくれない。
青白い顔で、トラを見つめてる。
「エル白さ…」
伸ばした手が、服の裾に触れた瞬間。
「!」
エル白が、跳ね飛ぶように向きを変えた。
バサリ
袋が、落ちる。
パンが、転がる。
「あっ」
タル獣の、小さな、悲鳴のような声。
けど、エル白は振り向かない。
必死という言葉そのままに、
脱兎という表現そのものに、
町へと向かって走り去る。
止める隙も、声をかける隙もあたえずに。

立ちつくす、タル獣とトラ。
自分が失敗したのだと、トラは感じた。
誰もがタルタルたちと同じでは無いと、思い出した。
自分は獣なのだと、思い出した。
見下ろせば、小さな小さなタル獣。
「…」
なんと声を掛けようかと迷っていると、
クリン
振り向き、見上げてくるタル獣。
「おいしいパン買ってきたのー」
と、その顔には、満面の笑み。
「かえっていっしょに食べよーね」
散らばってしまったパンを拾い集めるタル獣。
「…」
困惑するトラ。
その背中へ
ヨイショヨイショ
と登るタル獣。
「かえろ、トラさん」
背中からタル獣の声。
「ええんか…」
問いに、返事はない。
脚を寝床の方へと向けるトラ。
はじめはゆっくりと。
徐々に歩速を上げる。
「トラさん」
「ん?」
「ぼくトラさん大好きだから。トラさんといるの好きだから…だから…」
タル獣の言葉は、だんだんと小さくなる。
「…ずっといてね…」

背中が温かい。
小さなタル獣の温かさが、黒毛を通して温かい。
背中が冷たい。
小さなタル獣の頬をつたうしずくが、黒毛に染みて冷たい。
「…」
だからトラは何も言えなかった。

−つづく−

468名無しの話の作者:2004/12/20(月) 04:12 ID:At773luE
ごめんなさい、ごめんなさいm(_ _)m
24じゃないです。27です。
なんでまちがうのか…。
しかも、前にもやってしまった事あるような…。
あと、も一回だけ続きます。
たぶん、おそらく、そのはず…。
未熟者でごめんなさい。

469(・ω・):2004/12/20(月) 05:01 ID:P71Et4YE
はぁ(つД`)
いつもロムってましたが、今日は書き込みしちゃいます。

もう名無しさんの作品大好きです(*´∇`*)
そして、今回のはためいきが出るほど切ないですね。
沢山のタルちゃんの中で一番タル獣が好きです。可愛すぎっ!
続きをまったりと待ちます。
いつも心がふんわりと暖まる作品をありがとうなのです(*^-^*)
頑張ってください!!

470(・ω・):2004/12/20(月) 05:02 ID:P71Et4YE
ageちゃいました。ごめんなさい・゚・(ノД`)・゚・

471(・ω・):2004/12/20(月) 09:03 ID:QAlGNQNQ
このスレッド初めて見たのですが,物語の切なさにため息・・・.
とてもとても続きが気になります.

472(・ω・):2004/12/22(水) 11:37 ID:igskgTTc
名無しの作者さん以外反応ないっぽいので、壺に移転依頼を出してきますね。
一応sage固定とかは無しで。


以下、貼る予定の文章
---ここから

(1)FF11の板(壷) http://yy10.kakiko.com/ff11/
(2)涙たちの物語7 『旅の終わりは』
(3)http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/game/6493/1088379577
(4)デフォルトでお願いします
(5)sage固定なし

容量が512kをoverする可能性があります。
その場合は、新規にスレッドを作成するので過去ログとしての移転をお願い致します。

---ここまで

では、行って来ます。

473(・ω・):2004/12/22(水) 14:09 ID:LOHmxjxg
ここに新たなる旅の始まりを予言するものがいた。
その名を472

彼の残した足跡に続く者たちが
また新たなる冒険の物語を紡ぐのだろう。

旅はまだまだ終わらない

472さん ありがとうですm(__)m

474名無しの話の作者:2004/12/25(土) 09:05 ID:XuyPGJik
「名無しの話」の28 −思い・悩み 4−

どうして逃げてしまったの…。
時間がたって落ち着けば、わき上がる後悔。
タル獣さんは、あんなに優しかったのに。
あんなに嬉しそうだったのに。
怖かった。
虎が怖かった。
けれど。
タル獣さんは、言ってた。
トラは強いと。
トラは優しいと。
トラは家族だと。
…。
謝ろう。
タル獣さんに謝ろう。
許してもらえないかもしれないけれど…。
そして、エル白は町を出た。
タル獣を追って。

見つからない。
見つからない。
あのとき、寝床の場所は聞いてなかった。
けれど、狩り場は聞いた。
エル白は、そこを探して回った。
幾日も、幾日も。
白魔導師一人では、とても危ない所もあったけど、それでも探して回った。
でも、見つからない。
出会った冒険者に聞けば、
さっきいた
あそこにいた
と言うのに。
探せばやはりいない。
避けられてるようにさえ思えてしまう。。
それでもエル白は探す。
一生懸命に。

何日かして。
もう、どこを探せばいいのか判らなくなったエル白に
「ねーねー、あなた、タル獣探してる?」
声をかけてきたのは、初めて見るエルヴァーンの二人組。
見たことのない茶の服。赤らんだ鼻はカゼでもひいてるのだろうか。
「みつからないんだろ?」
「…はい」
うなずくエル白。
「だったらね、……を探すといいよ」
「そこに絶対にいるから」
「見つけてあげてねー」
言うだけ言って、さっさと行ってしまうエルヴァーン二人。
それは、ずっと北の地名。
雪に閉ざされた険しい土地。

475名無しの話の作者:2004/12/25(土) 09:09 ID:XuyPGJik
一面の銀世界。
急斜面。
「がんばれ、もうすぐだぞ!」
「止まるな、休むな、寝たら死ぬぞ!」
「がんばれー」
腰まで雪に沈んで、それでも声を掛け合って進むパーティーがいる。
あと数百メートルで斜面が終わる。
頂の向こうに、彼らの目指す場所がある。
と、聞こえてくる、かすかな声。
何人もの若い女性の声。
楽しそうな子供の声。
「「「「「「!!」」」」」」
顔を見合わせる一同。
「がんはれー!!」
一気に元気になる。
ドザザザザザー
ものすごい勢いで雪をかき分けていく。
空気の雰囲気が変わる。
温度が変わる。
匂いが変わる。
もう少し!と思った瞬間。
頂の向こうから、ヌウッと影。
「げっ」
凍りつく六人。
「な、なぜ虎がこんな所に…」
それは、白銀の世界にあまりに不似合いな巨大な獣。
「すまんな、今日は貸し切りや」
なんだか、どこかの用心棒みたいにすごむトラ。
「ふざけるな!俺たちがここに来るまで、どれだけ苦労したと思う!」
「そうだ!」
「臆するな!たかが獣ごときに我々の崇高な意志を妨げる事は出来ない!」
「殺っちまえ」
次々に剣を抜く。
しゃーないな、とトラが一歩踏み出そうとしたとき。
「みゃ?」
とトラの背後からのぞく。
「げ」
再度凍りつく六人。
邪竜の血瞳が、パーティーを見下ろす。
「みゃう?」
焼く?ときかれて
「やったり」
あっさりうなずくトラ。
直後
グオオオオオーー
業炎がパーティーを包む。
「あちゃちゃちゃー」
「ぢゃー」
あっという間に焦げ焦げの六人。
さらに。
ゴゴゴゴ…。
炎でゆるんだ雪が滑り始める。
いわゆる、な・だ・れ。
「どわーー」
「ちくしょーー」
巻き込まれて流されてく六人。
たぶん、麓までとまらない。

目指す場所はまだ遠い。
手が冷たい。
足が冷たい。
もう身体に感覚がない。
腰まである雪は、永遠に続く壁のよう。
それでも、エル白はあきらめない。
麓で聞いたから。
トラの背に乗って山を登っていくタル獣を見たと、聞いたから。
足を踏み出す。
会って謝る。
雪に踏み出す。
タル獣に謝る。
一歩を踏み出す。
トラに謝る。
その思いで、重い一歩を踏み出す。
冷たい一歩を踏みしめる。
冷え霞む瞳で頂を見上げる。
と、変化。
はるか先、銀の斜面がぼやける。
なに?
そして、音。
違和感。
直後、エル白は白い奔流に飲まれていた。

476名無しの話の作者:2004/12/25(土) 09:13 ID:XuyPGJik
「えーっと…」
少し困ったような声。
「どうしようか…」
赤鼻のエルヴァーン二人の見下ろす先には、麓まで流れて落ち着き始めた雪崩。
いろんな物を巻き込んでる。
樹の枝葉にまじって、何人かの手足も見えてる。
「いくらなんでも、これは…」
「ねえ…」
うなずきあう二人。
雪面にしゃがみ、素手で掘り始める。
けど、手足が見えてるのとは、全然違うところ。
バサバサバサ
ものすごい勢いで雪を掻き分けて、現れたのはグッタリしたエル白。
それを引っ張り出そうとして、
クシュッ
くしゃみするエルヴァーン。
瞬間。
ポンッ
小さな音と共に、エルヴァーンが消える。
かわりに現れたのは巨大な角をもつ四つ足の獣。
「あれ?」
ブルブルっと身体を振る獣。
ポンッ
再びエルヴァーンに戻る。
「なにやってんの」
「ごめんごめん」
頭をかきながら、エル白を助け出す。

分厚く積もった一面の雪の中、一カ所だけ雪がない。
かわりに、岩の地肌に湯気を上げる液体が溜まってる。
その、独特の匂いの中に、身をひたした人影。
「どうにゃ、気持ちいいにゃ?」
と耳をヘンニャリさせたミスラ。
「あたたかいのー」
「きもちいいー」
とタル白タル黒。
「にゃ〜、星芒祭は温泉にかぎるにゃ〜」
意味がよくわからない。
「いい湯だが、よくこんな所に温泉が湧いてると知っていたな」
肩までしっかりとつかってるエル騎士。
「にゃ〜、ここは秘湯中の秘湯にゃ。知ってるのは温泉マニアぐらいにゃ」
「ミスラさん、温泉マニアなの?」
深い方へ行って、立ち泳ぎしてるタル獣。
「違うにゃ。マニアから情報仕入れたにゃ」
「へへー、仲介したんだよー」
プカプカ平泳ぎなんかしてるタルシーフ。
ぷりぷりお尻が揺れていく。
縁の方は浅いのだけど、中の方はタルタルにはチョト深い。
だから、ついつい泳いじゃう。
「ゆっくりつかって疲れを落としたら、次は御馳走にゃ」
ミスラが示す先には、飲み物や食べ物がたっぷりと用意されてる。
「あとで、プレゼントタイムもあるにゃ」
「え…プレゼント?…あぶぶく…」
慌てて溺れそうになるタル龍騎。
「大丈夫か」
タル龍騎の脚をつかんで引っ張り上げるエル騎士。
「アタシが用意したにゃ。スポンサーもいるにゃ」
チラリと隅で湯につかってる獣人を見るミスラ。
えへへ…と、そっと照れ笑いする獣人五人。
と、
「そこっ!」
突然声を上げるミスラ。
「「!」」
ビクッと身を縮めるタル白タル黒。
「湯にタオルはつけちゃダメにゃ!マナー違反にゃ!!」
湯の中で、泡を作って遊んでたタオルを慌てて持ち上げる。
「…あれはー?」
タルシーフが指さす先には、ゆ〜ったりと湯に横たわるトラと竜。
「毛皮と鱗は別にゃ」
判るような判らないような。
「にゃ、トラさん、さっきのどうなったにゃ?」
「ああ、雪崩と一緒に下って行ったわ。もうこんやろ」
「みゃあ」
うんうんとうなずく竜。
「じゃ、安心にゃ」
ミスラは満足そう。
「あの…ね」
控えめに声がかけられる。
「にゃ?」
クリンとそちらを向くミスラ。
温泉の隅の方にいるヒュム戦。

477名無しの話の作者:2004/12/25(土) 09:17 ID:XuyPGJik
「もちょっとそっち行ってもいいかな…」
あんまり隅だと、浅すぎて寒い。
「却下にゃ。こっちは男子禁制にゃ」
言い切るミスラ。
「でも…」
と視線を向けるヒュム戦。
「トラさんは、虎にゃ。男じゃないにゃ」
「じゃあ…」
「あっちは獣人にゃ。男じゃないにゃ」
「む…」
「タルちゃんズはタルタルにゃ。男じゃないにゃ」
「…」
何となく納得しづらいものがある。
「んー、オレはぁ?」
ヒュム戦と一緒に隅にやられてるガル戦。
ある意味、ガル戦も男じゃないような。
「ついでにゃ」
ドボッと湯に倒れ込むガル戦。
「……」
チロッとエル騎士へ視線を向けるヒュム戦。
けど、エル騎士はいい気分で湯につかってる。
ヒュム戦の方を見もしない。
「はぁ…」
ため息ついて、空を見るヒュム戦。
と、
なんかある。
空に。
タルタルたちのぱしゃぱしゃに混じって、なんか聞こえる。
シャンシャンシャン…
鈴の音?
そして。
ヒュルルル…
落ちてくる。
なんか、落ちてくる。
ザッパーン!!
温泉の真ん中に、派手な水柱…いや、湯柱。
「きゃー」
「みー」
「うわー」
「な、なんにゃ!?」
ザザザー
雨のようにお湯が降り注ぐ。
呆然とみんなが見つめる。
落ち着いたあとに現れたのは、
「あーエル白さんー?」
グルグル目を回したエル白。
「知り合いか?」
裸なのに、どこから取り出したのか、盾で湯を避けてるエル騎士。
「うん。どうしたのー?」
ばしゃばしゃとエル白に泳ぎよるタル獣。
「あ…え…」
自身、何がなんだか判ってないみたいなエル白。
けど、目の前のタル獣に気づく。
「タル獣さん、タル獣さん!」
「んきゃっ」
ギューッと抱きしめる。
「ごめんなさい。ごめんなさい!」
「んゃ…」
ギュギュー
「わたし、あやまりたくて、どうしてもあやまりたくて…」
「ゃ゛…」
ギュギュギュー
「エル白さん、エル白さん、タル獣ちゃんつぶれるにゃ」
「あ、ご、ごめんなさい」
ミスラに言われて、慌てて手を離すエル白。
意外と情熱家みたい。
「だいじょうぶー」
とタル獣。
「私、タル獣さんにあやまりたくて。トラさんにもあやまりたくて」
「?」
「逃げたりして、ごめんなさい。いくらあやまっても許してくれないかも知れませんけど、タル獣さんとも、トラさんとも、仲良くなりたいんです」
真剣な表情でタル獣を見つめるエル白。
「いいの」
プルプルと首を振るタル獣。
「エル白さん会いに来てくれたから、とてもうれしいのー」
にっこりと笑む。
「ありがとうございます!」
再びギュューーっとエル白。
「トラさんもいるにゃ」
と虎の方を示すミスラ。
「あ、はい」
そちらを見て
「え…」
固まるエル白。
確かに、トラがいる。
温泉につかってトラがいる…のだけど。
お湯に濡れた毛が、ピッタリペッタリと肌に張り付き、隆々とした筋肉が浮かび上がった巨体は迫力倍増。
けど、もう失敗はしない。

478名無しの話の作者:2004/12/25(土) 09:19 ID:XuyPGJik
「トラさん…」
意を決して、近寄る。
「…ごめんなさい…。ゆるしていただけますか…」
「タル獣がええんなら、ワイはかまへん」
「それじゃあ…」
「タル獣が泣かんかったら、それでええ」
言葉はちょっとそっけない。
けど、黄金の瞳の光は優しい。
「ありがとうございます」
近くで見れば、お湯に濡れた毛が、ピッタリペッタリと肌に張り付き、髭の様に垂れ下がった顔は、迫力半減。
「普段のトラからは絶対に想像できない姿だろ」
とエル騎士。
「こんなトラさんだったら、怖くないにゃ」
うなずいていいのか、迷うエル白。
「でも、どっちも同じトラさんにゃ。でも、気づかない人は多いにゃ」
「…」
「にゃ、真面目顔はおいといて、新しいお友達いらっしゃ〜いにゃ」
と笑顔を向けるミスラ。
「にゃ〜。エル白さんも服脱ぐにゃ。みんなで星芒祭温泉パーティーにゃ」
「は?」
「脱ぐにゃ、剥ぐにゃ、とっぱらうにゃ〜」
「ええ〜?」
ばしゃばしゃとにぎやかな水音。
「えーっと…手伝おうか?」
ドガーン
余計なことを言ってしまったヒュム戦の顔面にエル騎士の盾がめり込む。

シャンシャンシャンシャン…‥
ソリが滑る。
雪も氷も無い場所を。
遙かな空を。
今宵は聖夜。
すべての人々に良い刻を。

「…で、俺たちは誰が助けてくれるわけ?」
「…さあ…」

−おわり−

479名無しの話の作者:2004/12/25(土) 09:27 ID:XuyPGJik
ごめんなさい、ごめんなさいm(_ _)m
イブには間に合いませんでした。
日が変わっちゃいました。
あと、相変わらずヒュム戦が不遇です。
来年は幸せになれるかなぁ…。

480(・ω・):2004/12/25(土) 09:33 ID:I3PRuEks
名無しキタ━━━━━━!!!!
乙です!面白かったyo-!

481(・ω・):2004/12/28(火) 09:05 ID:r4eYR11.
;;

482★テレポツヴォ★:2004/12/28(火) 14:42 ID:WHMInAFo
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|・ω・)ノ
| :|  i| +
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