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涙たちの物語7 『旅の終わりは』

465名無しの話の作者:2004/12/20(月) 03:49 ID:At773luE
もう日が登り始めた。
町の門を出入りする人影が少しずつ増えてくる。
町からだいぶ離れた窪地。
トラの巨体が伏せてる。
ひそやかに、気配を殺して。
太い骨と筋肉の塊だけど、トラの身体はとても柔らかい。
窪地にぺたりと伏せれば、ちょっと見には気づかれない。
そこは街道からも離れてるから、なおさら。
まれに、道を外れてやってくる者もいるけど、トラには気づかずに通り過ぎてしまう。
まだタル獣と出会ってない頃。
仲間が冒険者に襲われると、よくトラはこうして、町の近くで犯人を待ち伏せした。
で、後ろから肩を叩いて、
「虎ァ相手にするンなら、それなりの覚悟しとるンやろな…」
と囁く。
たいていの冒険者はそれで、泣いてゴメンナサイした。
もちろん、
「冒険者が虎殺って、なにが悪い!」
と戦いになる事も珍しくなかったけど。
もちろん、負けた事はない。
トラは、町の門を見てる。
朝焼けに照らされて町を出入りする人の姿は、アリより小さく見えるけど、トラの視力には、十分に見分けがつく。
タル獣はまだ出てこない。
ふと、思う。
タル獣が町から出てきたとして、どうしよう。
ほんとは、先に戻った方がいい。
迎えに行けば、多分、タル獣は怒るだろう。
「ひとりでこんなトコまで来ちゃだめ」と。
虎を狙う冒険者は多い。
タル獣と一緒にいるトラにも襲ってくる冒険者がいるくらい。
強大な体躯に似合った巨大な牙と毛皮は、それなりの価値があるから。
タル獣は、それをとても心配する。
けど、先に戻るのは、トラの方が心配になる。
さっきの様な事もあるし…。
でも、ほんの少し考えれば、答えは簡単。
途中まで後をつけて帰り、適当なところで先回りすればいい。
あとは、ずっと待ってたふりして
「おかえり」
でいい。
答えが見つかったところで、
「!」
タイミングを合わせたように、まちかねた姿。
門から出てくる人影の中の、ひときわ小さな影。
どんなに小さくても、見まちがえる事のない姿。
タル獣に間違いない。
タル獣は街道を外れ、まっすぐこちらへと歩いてくる。
隣には、共に歩く人影がある。
はるかに長身の姿。
エルヴァーンの女性。白魔導師。
まわりにいた人々はみんな街道を行く。
けど、エル白は、ずっとタル獣と一緒に歩いてくる。
二人は楽しそうに言葉を交わしてる。
(新しい友達なんか…)
そして、思い出す。
トラの記憶の中で、タル獣の友達たちに悪い印象はない。
みんな、元気で、明るくて、楽しい。
タル白、タル黒、タルシーフ、タル龍騎。
だれもトラを恐がらなかった。
タルシーフなんか、挨拶を交わすまもなく、トラの背に這い上がろうとしたぐらい。
タル龍騎は
「ボクの竜さんの方がすごいの」
とがんばってたけど、他のタルタルたちはタル獣をうらやましがってた。
こんなすごい虎さんと一緒なんだと。
ちょっと得意げなタル獣の顔が浮かぶ。
「…ちょっと、挨拶しとこか…」
トラはちょっとばかり予定を変更した。
ムクリ
起きあがり、トラ獣たちの方へと脚を向ける。


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