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涙たちの物語7 『旅の終わりは』

1(・ω・):2004/06/28(月) 08:39 ID:GRnlniQk
【したらば@FF(仮)板】
涙たちの物語6 『旅の途中で』
前スレ:
http://jbbs.shitaraba.com/bbs/read.cgi/game/6493/1077148674/
【したらば@マターリ板】
涙たちの物語5『旅が続いて』
http://jbbs.shitaraba.com/game/bbs/read.cgi?BBS=6493&KEY=1069286910
涙たちの物語4 『旅は道連れ』
http://hyakuyen.nce.buttobi.net/FF11log2/1064882510.html
涙たちの物語3 『旅の流れ』
http://hyakuyen.nce.buttobi.net/FF11log2/1058854769.html
涙たちの物語2 『旅の続き』
http://hyakuyen.nce.buttobi.net/FF11log/1054164056.html
涙たちの物語 『旅は終わらない』(避難先)
http://hyakuyen.nce.buttobi.net/FF11log/1048778787.html
(※↑ログ消滅のため【過去ログ図書館】にリンク)

【xrea】
初代 涙たちの物語 『旅は終わらない』
http://mst.s1.xrea.com/test/read.cgi?bbs=ff11&key=042463790
(※↑見れるときと見れないときがあるらしい)

倉庫等
(Wiki)http://kooh.hp.infoseek.co.jp/
(新)http://f12.aaacafe.ne.jp/~apururu/
(旧)http://www.geocities.co.jp/Bookend-Soseki/4886/index.html

ここも姉妹スレ?
今はいないフレンドへの手紙
http://jbbs.shitaraba.com/bbs/read.cgi/game/6493/1075100271/

2(・ω・):2004/06/28(月) 08:40 ID:0NiYfqho
2ゲッツ!

3sage:2004/06/28(月) 08:53 ID:u9E6FDVA
さん?

4(・ω・):2004/06/28(月) 09:11 ID:KJtx1lJM
前スレも900超えたくらいだってのに先走りした挙句に重複スレかよ!
どっちか削除依頼出しとけ!こっちが2分遅れだな

よん?

5(・ω・):2004/06/28(月) 09:30 ID:GRnlniQk
削除依頼出したよ馬鹿

6(・ω・):2004/06/28(月) 10:47 ID:RVnQLxCk
前スレで立てる報告も無しにイキナリかよ・・・
すごい先走りだな(;´Д`)

7(・ω・):2004/06/28(月) 11:16 ID:tTcqW4JI
予告も無しにいきなり中出しした人の様ですなw

一昨日の俺な訳だが

8(・ω・):2004/06/29(火) 01:21 ID:6KKFHkaU
パパ復活きぼんぬ

レッドラムまだー?(AA略

9(・ω・):2004/06/29(火) 01:32 ID:nPWY9dVM
タイトルはこっちの方が好きな訳だが

10(・ω・):2004/06/29(火) 05:36 ID:gx3u2UQw
>>9
このスレで終わってしまいそうなタイトルですよ?

11(・ω・):2004/07/01(木) 00:20 ID:cIlpBiA6
ファッキンエレファン


〜DEATH TIME in DA MIDNIGHT〜


きれーなフックが顎をゲット。
地面に叩き付けられて、跳ね上がってるガルカの目に涙がうかんでる。
「すっげ!まじ?!」
興奮している野次馬の声。
私もその一人なんだな。

ただ美しい空。
晴れた日。それだけが救いだった日。
私はその下で楽しく生きていた。
遠い場所では、剣呑をよそに争いが日々続いているらしい。
獣人も人間もバカよね。
草を一本抜いて、咥えてピコピコ動かす。
その先が空中に描いているのは何だろうね。
さっき見たケンカを思い出すと、なんだか興奮してきた。

「ままー。おなかすいたよぅ。」
5歳くらいの女の子が、壁に向かって何か話している。
手には赤いリンクパール。
たぶん家族が連絡用につかってるんだろうな。
私は、おしりにあるポケットをまさぐってみた。
割れた赤いリンクパール。
女の子のもっている色にそっくりだから思い出したんだと想う。
いつもお守りとして持ってた。
効力は絶大なんだから。
「お腹すいてるなら、これ上げるよ。」
私は、アップルパイを出店で買って、女の子に差し出した。
女の子は、それを受け取りもせずに、きょとんとした顔をしてどこかへ走り去ってしまった。
「おいしいのに、むしゃむしゃ。・・・ん?」
私は、赤い飴玉を拾い上げた。
それは、さっきの女の子が持っていたリンクパールだった。
耳を当ててみるけど、何も聞こえない。
「もしもーし、このパール落ちてたんですが?」
返事はない。
「?」
「ミッシェル。探しまくったんだけど・・・・。」
不意に後から声がかかった。

12(・ω・):2004/07/01(木) 00:21 ID:cIlpBiA6

「あージャミの居ない内に私と浮気ですか?」
ジャックに誘われて、私は下層にあるカフェのテラスに腰掛けていた。
「ばっか!オカマに興味なんてねぇよ!俺はジャミール一筋なんだ!
 ・・・・だけど、お前ほんと綺麗だよな。男にゃ見えない。」
「ははっ。ありがと。」
運ばれてきたジュースのストローを、わざとエロチカルに咥えてみる。
あきれた様に苦笑したジャック。
本当は、私がジャックの家に行くはずでした。
なんか頼みがあった見たいなんだけど、私はそれを忘れて散歩をしていた。
今の私には、大切なことなんて何も無い。
ただ、美しい空があるだけで十分だった。
「じつはさ、ジャミールのことなんだけど、どう想う?」
ジャミールはジャックの彼女の名前。
割れたリンクシェルつながり。
なにげに、ジャックを紹介したのも私だった。
あつあつらしく、いつも惚気話を聞かされている。
「指輪でも渡して結婚しちゃえ。」
「やっぱりなぁ。」
私の冗談に、なんだか本人も満更でもない様。
なんか納得したように、ウンウンとか頷いちゃったりしている。
「やっぱり女にゃアストラルリングっすよ。」
私は、中指を立てたポーズをして見せた。
「・・・・意味わかってやってんのか?っつってもさー。アストラルリングって高いんだぜ?」
もちろんしってるし、そんなに買えない値段でも無いと思う。
それは私の考えで、ジャックには十数万もだして、女の子にプレゼントを贈る甲斐性は無いようだ。
「男なら、直接とりにいけー。」
バシッ。
「あいた。」
身を乗り出していたジャックの頭を平手で叩いてやった。
気合だー。
みたいなノリのつもり。
「ど、どこに?」
私は立ち上がり、おもむろに腰に手を当てる。
ニヤリとジャックに笑いかける。
「オズトロヤ城じゃ。」
ごくり・・・。
ジャックのつばを飲み込む音が聞こえた。
「じゃ、がんばって。」
私はクルリと振り返り、そのまま歩いて行った。
「お、おい!手伝ってくれないのかよ?」
「仕事があるの。」
立ち止まって振り向いてみると、ジャックがつまらなそうな顔をしている。
「そこの酒場で歌ってるんだっけ・・・。こんど飲みに行くよ。」
私は、冒険者という職業を辞めて歌歌いに生きることを決めた。
もともと詩人じゃない私の歌はヘタクソ。
だからジャックには聞かせたくなかった。
「くるな甲斐性なし。」
へらへら笑って別れた。
私は最後の歌を歌い、家へと戻った。
銃に弾を込める。
「エレファント・・・ペス・・・いま行く。」
情けない震えた声が漏れる。引き金を引いた。

世界が終わる時。晴れた日。それだけが救いだった日。
美しい空。
それだけで十分だった。

続く。

13(・ω・):2004/07/01(木) 00:23 ID:cIlpBiA6
作品一番乗り(☆∀☆)ノ

14セイブ・ザ・アワー・ワールド:2004/07/01(木) 05:17 ID:cCcswDPk
最近読んだ本から、引用を一つ。
「なんだってそうだけれど別に最低でさえなければ、いつも最高である必要なんてないのだ。」
 引用元では、最高の仕事が出来るか不安な主人公が自分に言い聞かすだけのセリフですが、普段ヴァナデ
ィールでPTを組む私達にとってはかなりの実感を感じうる言葉ではないでしょうか。
 貴方のメインジョブはなんですか?レベルを問うようなことはしません。特定のメインが無いという方は、複数
のジョブをあげてもよいでしょう。あなたはそのジョブを扱う者として、最高の働きをしている自信がありますか?
本当に最高である人とただの自信家以外の人は「ない」と答える筈です。では、そのことによって何か不都合が
ありますか?
 貴方は貴方自信に厳しすぎるのではないでしょうか?
 不幸にもレイズが必要になった時でさえ、仲間に対しては「ごめんなさい;;」自分が死んだときは「大丈夫です
よ^^」と言うでしょう。だから悪いなんて思わないでください。最高を目指すその過程自体を、楽しめばよいのです。
楽しければ、最高を目指さなくてもよいのです。
 とはいうものの、このスレの皆さんには釈迦に説法かもしれませんね。失敬。


 最高を目指してそれに失敗し続ける、そんな作品もよろしければ、どうぞ。
 ttp://kooh.hp.infoseek.co.jp/?page=セイブ・ザ・アワー・ワールド

・・・・という内容を某名スレに誤爆してきました

15(・ω・):2004/07/03(土) 18:11 ID:vhLEWFBA
>>14
おおいい台詞だ
おれも最低よりチョット上を目指してがんばろう(・∀・)

16(・ω・):2004/07/04(日) 01:57 ID:YzbQxiIU
ファッキンエレファン


〜1800°の世界〜

問1 幸せ?
うん。
問2 本当に?
うん。
問3 本当に?
うん?
問4うそつき
ん?

「うそつきは、舌を抜かれてしまいます。」
一匹の猫が、僕の目の前に立っていた。
それは、予告の無い映画みたいに素直に受け入れられるもの。
たぶん、それは今日の吉報のおかげだ。
僕の頭の中には、幸せについて、と言う題名のついたファイルが出来上がっていたのかも。
「僕は、嘘なんてついてないから平気だよ。僕の舌は誰にも渡さないさ。」
幸せなんだ。
本当に。
「だって、娘も出来たし。」
本当の娘じゃない。
僕のお嫁さんは、アーナという名前のエルヴァーンだった。
「娘?娘には罪はないけど・・・。」
タルタルな僕との間には、子どもは授かれなかった。
信仰深い僕の奥さんが、サンドリアの教会から孤児を一人授かってきた。
それがヒナピッピ。
僕とアーナの大切な一人娘。
立派なタルタル式の名前だけど、立派なヒュームの女の子なのだ。
「罪?」
「うん。」
「どんな?」
「う〜ん。」
そして猫は言った。
「あなた、償える?」
たぶん無理。

今朝はずいぶんと気分がよかった。
昨日、仕事が決まったから。
冒険者をやめて、ずいぶん長い間、仕事が見つからないで苦労したけど、
なんとか飛空艇公社で働くことが出来ることになった。
アーナとヒナピッピにも、結構苦労をかけちゃったから、これから幸せにしてあげなくては。
本当に、今は幸せ。
「ぱぱー。お仕事がんばってね?」
「うん?うん。まかせて。それより、昨日買って上げたパールはちゃんと持ってる?
 大事なものだから、無くしちゃだめだよ?」
「だいじょうぶ。パパはだいじょうぶ?」
「うん?」
ポケットをまさぐると、赤いリンクシェルと、同じ色の割れたパールがちゃんとあった。
「だいじょうぶ。」
昔、所属していたパールが割れた。
冒険者を辞めた理由もそこにある。
同じ色のパールをまた作ったのには、僕が過去から歩き出せていないという意味が含まれてる。
つまり、足かせが付いた僕は、まだ過去につながれたまま。
「だいじょうぶ。たぶん。」
それから、僕は古い知人と会うことになっていた。
仕事に行く前に、約束の場所までこの銃を届けなくちゃいけない。
ちゃんと届けられるように、昨日のうちにメモをドアに張っておいた。
張っておいてよかった。
ドアを開けようとして気づいた。
「あ。わすれもの。」
「パパ、だいじょうぶ?」
たぶん。

17(・ω・):2004/07/04(日) 01:58 ID:YzbQxiIU
「おしさしぶり。元気かね?」
「元気だよ。それよりこれ。」
ミッシェルは、僕の手から銃を取った。
「なつかしー。これって、結構高価よね?」
「売っちゃいなよ。」
ミッシェルは、ちょっと悲しい顔をしていた。
「うん。そうできれば幸せなんだけどね。」
自殺幇助。立派な犯罪だよね。
血の匂いがかすかにした気がする。
昨日の夜、家への帰り道に会った変なミスラからも、この匂いは漂っていた。
脳に直接届くような匂い。
体が直に受け取る。だから咽ることも出来ない匂い。
これは、鼻から入ってきたものじゃない。
たぶん、もっと深い場所に漂ってた。
「ペス、死んじゃったね。自殺なんだって。」
「君が同じ事をする必要はないよ。」
「ほんとに?」
「本当に。」
「・・・うそ。」
これは昨日も聞いた気がする。
たぶん気のせいかな?
「嘘じゃないから安心して。」
雨でもふらないかな。そう思った。
雨さえふれば、なんだか全てを洗い流してくれるきがした。
垢とか、そんなものを。
「嘘じゃないから。」
まるで、自分に確認するかのように、僕はそれを繰り返して言った。

初日の仕事は、まずまずの出来だった。
驚いたのは、一日に捕まる冒険者数。
貿易禁止品を密輸しようとする冒険者が、今日だけで10人も捕まってた。
僕も運んだことがあるだけに、ちょっと他人事じゃなかった。
それでも、なんとか上手く事は進み。日を跨ぐ頃には家路に着くことができた。
その帰り、また彼女とあった。
変なミスラは、僕の奥さんと家の前でしゃべっていた。
「あら〜そうなの?あなたも大変ね。」
「うん、それでね、ジャミがね・・・。ん?」
僕に気が付いたミスラが、にっこりと僕に微笑んだ。
そして、おもむろに剣を鞘から抜き、アーナの胸につきさした。
分からなかった。
なんで?
そんな、あたま、真っ白に。
「罪は償え。これ、常識だから。」
剣を抜くと、アーナにあいた風穴から血がほとばしった。
僕はなぜか、それにみとれた様に動けなくなった。
動こうと思わなかった。思えなかった。
「問1 幸せ?」
ミスラは一歩近づいた。
「・・・・あ・・あぁぁ。」
「問2 本当に?」
ミスラはもう一歩近づいた。
「なんで、こんなことするんだ・・・・。」
「問3 本当に?」
僕の目の前に、ミスラが立っている。
「なんで・・・なんで・・・。」
「問4 ・・・ちゃんとこたえろ糞が。」
ミスラの剣が、僕を切り裂いた。
どんな感じかと言うと、まず右手が宙に舞い、次に胸を切られた。
そのあと、右目をえぐられて、返した刃で首が飛んだ。
まるで、棒の先で地面に絵でも描いてるみたいな動きだったと思う。
血があたりを染めた。

僕は、たぶん死んだ。

真っ白な頭に、ただ一つだけ浮かんだこと。
願わくば、娘を助けて。神様。

続く

18(・ω・):2004/07/06(火) 05:07 ID:pdS4hpGM
ファッキンエレファン時間軸遡りタイプか、面白いね。
サブタイトルは、次の話(物語内部で一個遡った話)の予告?てことは次の話は
「1800°の世界」……5回転か?まあ、次の話でこのタイトルの意味が解るん
だろう。楽しみにしてます。面白いです、この作品。応援してます。がんばれ〜(^_-)b

19風の通る道:2004/07/08(木) 01:46 ID:z0jZmvus
私の家は、サンドリアの中流貴族の家系です。
生まれたときから、男子は騎士、女子は修道士になることがしきたりでした。
ただ、私の両親、父は私が生まれる前、そして母は私を生むと同時に亡くなっており、唯一の肉親は兄ただ一人でした。
歳の離れた兄は強く、やさしく、私の憧れでした。
いつしか私も騎士になり、人を護る事を夢見て、白魔導師としての修行を一通り終えた後、すぐに騎士になりました。

騎士として少しは成長した頃、国からのミッションで、バストゥークへ派遣され、そして、使いもしない鉱山の調査の依頼を受けました。
ヒュームと言うのはずる賢く、お金のためなら何でもすると幼い頃から教育され、私のヒュームに対する印象はもともとよくありませんでした。



〜第10話、幸せの権利〜



そこで、彼との出会い。第一印象は・・・最悪でした。
鉱山調査のパーティの最後の一人が見つからず、メンバー探しも兼ねて、私はバストゥークを散歩していました。
彼らの技術に感心させられ、大統領府と呼ばれる建物を見上げながら歩いていると、突然の衝撃。

「いて!一体どこ見て歩いて・・・」
開口一番がこの台詞!誇り高いサンドリアの騎士として、ヒュームに対しても出来るだけ敬意を込めて接していたはずです。
私にも非がある事は認めますが、突然の無礼な態度は私の逆鱗を逆撫でしました。
何より許せなかったのが、ぶつかった相手が私の顔を見るなり言葉を切った事。
私を女性と見て言葉を切った。そのときの私はそう判断しました。
女性騎士というのは、それだけで周囲から卑下と好奇の目で見られる。私自身そんな経験が幾度とあり、その事も少なからず影響していたでしょう。
それでも、売り言葉に買い言葉。兄には昔からお転婆と言われていましたが、彼ともここでしばらく口論になってしまいました。


少ししてから合流したパーティに「彼」が居ました。
白魔導師であるアイリスさんのお墨付きでしたが、私には納得できませんでした。
しかし、団体行動であるため、渋々行動を共にしました。

パルブロ鉱山での調査が一通り終わった頃、彼一人だけはぐれている事に気づきました。
誰かの提案で、もう少し奥も調査しないかと言う話になり、私たちは彼を放ったまま奥へ向かいました。
アイリスさんだけが心配そうでしたが、私はあんな男一人ぐらい居てもいなくても同じだと思っていました。

実際に5人居れば、クゥダフは恐るるに足らない存在でした。
しかし、一匹のクゥダフと対峙したとき、私は自分の油断、そして軽率な判断を呪いました。
明らかに私たちの上を行く技量。そう、ノートリアスモンスターと呼ばれるクゥダフと戦闘になってしまったのです。
恐らく私たちでは勝てないでしょう。全員で無事に逃げるのも至難の業。
一瞬迷いましたが、仲間を死なせて自分だけ生き残ったとなれば、それこそ騎士として一生の恥!
私は、一人でクゥダフを引き連れ、奥へと走りました。

20風の通る道:2004/07/08(木) 01:47 ID:z0jZmvus

周りには多くのクゥダフ。
私は武器を奪われ、鎧を脱がされ、下着のみと言うあられもない格好で格子状の柵に縛り付けられていました。
クゥダフは、何故か私の鎧を興味深く観察しています。
先ほどのノートリアスモンスターが私に何か話しかけていますが、私にはクゥダフの言葉はわかりません。
理解できたとしても、何も話す事はありません。
ただ、ただ睨み返すしかありませんでした。

突然、ノートリアスモンスターが怒り狂い、私を鞭で叩きました。
左肩から右脇腹にかけて衝撃が走りました。下着が破れ、左の胸があらわになります。
誰にも見せた事が無いのに・・・!痛みと恐怖と羞恥と悔しさの涙が浮かんできました。

ノートリアスモンスターが剣を手に取りました。
ああ、殺される。そう直感しました。
私は仲間を守れたでしょうか?誇りを守れたでしょうか?
静かに目を閉じます。覚悟は決めました。

一瞬後、悲鳴が聞こえました。
恐る恐る目を開けると、剣を振りかざした体勢から崩れ落ちるノートリアスモンスター。
何が起きたのかわかりませんでした。
ただ、そのクゥダフの背後には、ガンビスンとレッドキャップを着て、そしてナイフを手に持ったあの男が立っていました。
周りにいた4,5匹のクゥダフが、一斉に彼に襲い掛かりました。
あぶない!そう声を出そうと思った瞬間には彼は目の前から消えて・・・そして、すぐに全てのクゥダフが地に伏しました。


彼が私を縛り付けていた縄をナイフで切ります。
ああ、助かったんだ。そう思った瞬間、情けない話ですが、涙が浮かんできました。
声を出して泣く私を彼は抱きしめ、「大丈夫。もう大丈夫だ」そう繰り返しました。
泣きながら、私は生まれて初めて、「この人になら守られたい」そう思いました。


パルブロ鉱山の事件の後、私と彼は行動を共にする事が多くなりました。
とはいっても、私がミッションやクエストの手伝いを彼にお願いする形でしたが・・・

21風の通る道:2004/07/08(木) 01:48 ID:z0jZmvus

あるとき、ミッションでフェ・インの調査の為に北の地に向かいました。
難航が予想されたミッション。彼の相棒であるルーヴェルさんも手伝いに来てくれました。
アイリスが終始ルーヴェルさんの傍に居たのが彼には気に入らないようでした。
私は・・・複雑な心境でした。

私は断言できます。彼を愛しています。この時点で、私の心は彼に支配されていました。
彼は、私の事をどう思っているのだろう・・・?
考え事をしていた私は、うっかりロストソウルと呼ばれる骸骨に襲われてしまいました。
すぐに戦闘が始まります。
私もアイリスさんも力をつけたつもりでしたが、彼とルーヴェルさんの足元にも及ばない事をつくづく実感させられました。
次々と襲い掛かってくる骸骨。その最後の一匹の鎌を余裕で避わし、そして袈裟懸けに切り込む彼。
一瞬、その華麗な動きに見とれてしまいましたが・・・


「うわあああああ!やめろ、こいつを殺さないでくれ!!!」
突然彼が叫びました。
みんな呆気に取られてます。唯一ルーヴェルさんが冷静でした。
「アイリス、逃げるぞ!どこでも良いからテレポを!」
骸骨にパライズの詠唱を終え、ルーヴェルさんが指示を出します。

いつも冷静な彼が突然取り乱し、挙句の果てには敵を殺さないでくれ・・・
しかも、相手は一度死んだはずのアンデッド。私には全く理解が出来ませんでした。

目の前にある風景は、突然泣き出し、両膝をついてしまった彼。
わけもわからない様子でテレポを唱えるアイリスさん。
何故か悲しげな表情で彼を見つめるルーヴェルさん。

アイリスさんのテレポの詠唱が完成する直前、彼の視線の先に光るものを見つけ、とっさに私はそれを拾いました。

22風の通る道:2004/07/08(木) 01:48 ID:z0jZmvus

結局ミッションは失敗に終わりました。
彼は帰るなり、モグハウスに閉じこもってしまい、私は声をかける事も出来ませんでした。
ルーヴェルさんは何故彼がああなってしまったのか知ってるかもしれない。そう思い、私はルーヴェルさんに話を聞きにいきました。


知らなければよかった!
私は愚かな女です。
人の過去に土足で踏み入り、興味本位からそれを知り、そして知った事を後悔している!
ですが、私に出来る事は、彼の過去を知り、嘆く事だけでしょうか・・・?
私の足は、自然と彼のモグハウスに向かっていました。


「済まないな。いきなり取り乱して」
意外にあっさりと彼は私を部屋に招き入れました。
「もう大分落ち着いた。俺のせいで迷惑をかけた」
彼は頭を下げます。どうすれば良いのか私にはわかりませんでした。
ただ、次に私の口から出た言葉は、私自身予想だにしないもので・・・

「私ではだめでしょうか?」
「え?」
「代わりでも良いんです!あなたのそばにいたい!私ではだめでしょうか!?」
悲鳴のような声が出ます。私自身、私を抑える事が出来ませんでした。
「あなたの過去を知りました・・・」
一瞬の沈黙。
「そうか」とだけ彼が言葉を発しました。
「あなたは私を救ってくれました。私もあなたを救いたい。どんな形でもいい、あなたと一緒に居たい、あなたを救う努力をしたいのです」
支離滅裂な私の言葉を彼は無言で聞いています。涙があふれてきました。
「私の我が侭である事は承知しています。でも、それでも・・・!」

突然の抱擁。
「ありがとう」
彼の言葉が、私の心の最後の砦を破りました。


「俺は、幸せにならなければならない。その意味がやっとわかったよ」
「私に、あなたを幸せにする権利がありますか?」




隣に居る彼を感じます。
きっと彼は起きているでしょう。
私も寝たふりを続けます。兄が亡くなった不幸はありますが、それ以上の幸福がこの先にあるでしょう。
彼と一緒なら、どんな困難も乗り越えていける。そういう確信があります。
でも、少しだけ不安になる事があります。
彼は、まだ過去を断ち切れないでいる。だからこそ、私はあの首飾りを彼に渡しました。
そして、あの時の答えをもう一度確認するために、心の中で問いかけます。


「私に、あなたを幸せにする権利がありますか?」



つづく

23風の通る道:2004/07/08(木) 01:56 ID:z0jZmvus
前回から間が空きました・・・。
予告どおり甘々です。
次回はもう少し退屈させない展開になると思います。

作品に関して批判的なレスも、作品に目を通さないとできないわけで、そういう意味では私の作品に対するレス全てに感謝しております。
初期の頃のご意見、ご感想も勉強になりましたし、スレッドが荒れない範囲でもっと沢山のレスをいただけると幸いです。

ところで、今回文字制限にひっかかり、まんなかを二つに分けたのですが、よろしければ1レス何文字までか教えていただけませんでしょうか?

24(・ω・):2004/07/08(木) 21:04 ID:kJQvP4NA
えっと質問しちゃだめかな?wwww
だめだったらスルーおねがしますwww
主人公(?)は有名LSのシーフ(かってな想像)
が3人ひきつれて冒険している話なんだとおもいますが
10話の話は昔話彼と主人公は同一人物ですよね?
3人ほっといて何してんだおいさじあじおsじゃおいjさいおjそいあじょいあs

25ファッキンな作者:2004/07/08(木) 21:24 ID:DBPPcy9k
>>18さん、楽しみにしていますって言葉が、なによりうれしいです。
今、どうしても上手くかけないで悩んでいたんです。
だけど、なんとなくその言葉で吹っ切れました。
プロット通りにかかなければならない様な、強迫観念にとらわれていたのですが、
それが文章自体を束縛していたんだと思います。
今まで貯めといたものを、一旦全部捨てて、もう一度はじめから書いてみます!
ちょっとアップするまで時間かかると思いますが、どうか楽しみにお待ちください。
ありがとうございました!

26風の通る道:2004/07/11(日) 02:05 ID:6YSneWFw
>>24
そのとおり。同一人物です。
「回想」と言う形でアルヴァ(主人公)とイシェイル(主人公の恋人)の出会いを表現するにあたり、
どうしてもわかりにくい部分が出てしまって申し訳ないです。
一部、わざとわかりにくい表現にしたりしていますが、その意味は今後明らかにしていくので現時点ではご容赦を。

まだ続きアップできる状況じゃないです(つД`;)
水曜までには何とか・・・

これだけでは何なので、キャラクターのイメージを・・・

アルヴァ:H♂F4A
ポロムボロム:T♂F2A
アン:M♀F7B
ゲオルグ:G♂F6A
パーシヴァル:H♀F8B
イシェイル:E♀F1A
ルーヴェル:E♂F6A
アシュペルジュ:E♂F1B
アイリス:H♀F4B

ヴァンス:H♂F1A
エイミ:H♀F1B
イルル:T♀F4A

多分、今出ているキャラクターはこれで全部・・・

27名無しの話の作者:2004/07/12(月) 07:03 ID:zRfa8gbo
「名無しの話」の22 −愛しい人−

見上げたら、黒い布に砂金をふりまいたような夜空がキレイ。
今夜はタナバタ。
離れて暮らすオリヒメとヒコボシが、年に一度会えるっていう、東の国の伝説の日。
二人はとっても愛し合ってる恋人同士。
くわしくは知らないけど、いろいろあって、天の川の両岸にムリヤリ引き離されてるの。
そして、今日だけ会うことがゆるされるんだって。
今夜、一夜だけ。
一年に、一夜だけ。

考えちゃう。
もしワタシが…。
もしワタシが愛する人と遠く離れて暮らすことになったとしたら。
年に一度しか会えないとしたら。
どんなに恋しくても、どんなに寂しくても会えないとしたら。

耐えられるかな
恋しさに。
耐えられるかな
寂しさに。
耐えられるかな
一人でいることに。

愛する人の姿が見えない。
肌に触れられない。
声さえ聞こえない。
そんな日々に耐えられるかな。
……

ガルちゃん、泣いちゃうかもしれない。
クスン

28名無しの話の作者:2004/07/12(月) 07:05 ID:zRfa8gbo
「って、おまえかあぁぁーー!!」
ゲシゲシゲシ!
剣でガル戦をひっぱたくヒュム戦。
「ん〜、気分は愛の詩人だぁ」
ポッと頬など染めて夜空を見上げてるガル戦。
二・三度ターンなどしてみせる。
優雅なつもりでも、ブンブンと音。
「すなー!」
叫ぶヒュム戦。
「おとなしく座って、お茶飲んで、お団子食べる!」
びしっと敷物を指さす。
星明かりの下、草地に広げられた敷物には、タル白タル黒、エル騎士にミスラが座ってる。
涼やかな香茶に、甘めの白団子。
ミスラの手作りおやつをつまみながら、星空を眺める。
狩りと戦い。
争いの日常を忘れた緩やかなひととき。
といっても、普段も緩んでるような気もするけど。
……気のせい、気のせい。

ンクンク もぎゅもぎゅ
お茶飲んで、お団子食べて。
ふのふのうなうな、お話しして。
ンクンク もぎゅもぎゅ
お茶飲んで、お団子食べて。
ふのふのうなうな、お話しして。
その合間に夜空見上げて、星を見て…。

29名無しの話の作者:2004/07/12(月) 07:08 ID:zRfa8gbo
と、
「んー?」
夜空を見上げてたガル戦が、何か見つけたみたい。
「「「「「?」」」」」
つられてみんなも見上げる。
けど、何も見えない。
「なにー?」
「とんでるのー?」
立ち上がり、背伸びするタル白タル黒。
小さな身体を一生懸命背伸ばすけど、星しか見えない。
けど、ヒュム戦は知っていた。
こーいうときにガル戦が見つけたものは、ろくなモンじゃない。
タル白タル黒をソッと抱き寄せるヒュム戦。
そろ〜りと座をずらす。
代わりという訳じゃないけど、
「なにがあるにゃ?」
同じように一生懸命見てるミスラのシッポを、そ〜っと押しやる。
「んー、あそこだぁ」
見上げたまま、隣を探るガルカ。
手が、ミスラのシッポに触れる。
ギュッ
つかむ。
「にゃっ!?」
そのままグッ立ち上がり
「うにやにゃにゃにゃー」
「んー、ミスランハンマアァァァァーーー」
ブンブンブン
両手でつかんで振り回す。
頭の上で振り回す。
「にゃー、伸びるにゃ、抜けるにゃ、ちぎれるにゃー」
ブンブンブンブン
さらに速度が上がり
「はっしゃーーーーっっ!!」
投げる。
ほとんど真上へ向けて。
伝説のハンマー投げ。
ギューーーーン
「にゃーーー……‥‥・・」
グリングリン回りながら、
キラーン
星空へと消えるミスラ。
「あらら…」
とヒュム戦。
しばらくして。
ゴヅッ
はるか上空で、何かに当たった鈍い音。
けど。
「んー?」
首をひねるガル戦。
いつもの落下音がない。
「はずれたー?」
「しっぱいー?」
とタル白タル黒。
今回は自分たちじゃないのでお気楽。
でもしっかりとヒュム戦の後ろに隠れてる。
「ガルさん、なに狙ったの」
とヒュム戦。
「んー」
やっぱり首をひねってるガル戦。
「…あれは…」
ミスラの飛んでった夜空を指さすエル騎士。
「天の川だな…」

30名無しの話の作者:2004/07/12(月) 07:13 ID:zRfa8gbo
「ちょっと、なによこの女は!」
ユサユサユサ
男の胸ぐらをつかんで揺する女。
「私たちの年に一度の場所になんで女が来るのよ!」
ユサユサカガクガク
男を揺する力がどんどん強くなる。
「誰なの、何なの!浮気じゃないでしょうね!」
ガクガクガク
返事のない男をさらに揺する。
「こんなのがあなたの趣味なの!?耳がいいの?尻尾が欲しいの?ねえ、なんとか言いなさいよ!!」
問いつめても、ゆすっても
「返事もしたくないの!?」
頭に大きなコブを作った男はグッタリとして反応しない。
「キーー!!うらぎりものー!!」
地団駄を踏む女の足元に転がるのは、
「にゃぁ…‥」
やっぱり大きなコブを作って目を回した異形の娘だった。

「んー…まだ墜ちてこないなぁ…ガルちゃん、ちょっぴり・ふ・ま・ん」
「すなっちゅーとろーがー!」

−おわり−

31名無しの話の作者:2004/07/12(月) 07:24 ID:zRfa8gbo
ごめんなさい、ごめんなさいm(_ _)m
タイムラグありすぎです。
でも時間ないです。
あと、カーネーションごめんなさい。
「ねー、カーネーションってあったっけ」
「なにに使うの?」
「ちょっとネタに」
「んーないよね」
「見てないよ」
「ないんじゃない?」
…裏切り者ばっかり…(-_-)

32Scrapper:2004/07/12(月) 08:09 ID:nfMMuV5c
えーと,もうこちらに書いちゃっていいのでしょうかね?

毎度ありがとうございます.続きをアップしました.
書き忘れていたことがあって,ラストスパートに入れませんでした.
虚偽の次回予告って最悪ですね…orz
http://www.geocities.co.jp/Bookend-Ango/5451/


ちょこっと前スレへのレスです.

そこまで過激な応援を頂くと,
私の方も ぽっ('-'*) ってなってしまったりするのですが.

誤字,とくに名前の入れ違いについては,本当に申し訳ないです.
私は毎晩ちょっとづつ書くスタイルで,その度に読み直すのですが…どうして発見できないのか.

それでは皆様,頑張ってくださいね.

33(・ω・):2004/07/13(火) 00:14 ID:4i1qCn0o
ダブルフェイス・レッドラム  第15話「死者の呼び声」


「痛い…いやだ…死にたくない…や、やめてくれ…!」
「なんで…なんで?…信じてたのに…」
「おかぁさん…おとぅさん…おきてよぅ…おきてよぅ…」

…あれ?こいつぁなんだ?…声…が聞こえる。空耳…じゃ、ねぇな…
「だからあれ程言ったろうに!道を踏み外すなと!」
…なんだ?なんだこれ?…あー…。まっいっか…
「そんなに殺して…満足?」
………
「地獄ね、あなたの行く先は」
……あれ、俺…なんだ?胸が苦しい…いや、痛いくらいだ…
でも、それだけじゃない。わかんねぇ…でも、気持ち…いい?


― 甲板 ―

アルジャダは、ふわっと、まるで重力を感じさせない、一切の無駄の無い動きで
飛び上がり、操舵室の屋根の上に飛び乗った。

そこから見渡す景色は中々の見物である。沢山の骨と、それを迎え撃つ冒険者達。
一進一退の攻防…といいたいところだが、迎え撃つ冒険者達に逃げ場は無い。

「ふむ…」

冒険者達の中に、例の金髪の姿を見た。相も変わらず不得意な両手剣を力まかせに
振り回しているのが微笑ましい。だが、彼の獲物はそれではない。
そう、彼が探しているのは…
「ふふん…待ちかねたぞ」
甲板を軽やかな身のこなしで跳ね回るその姿。…レッドラムである。
「いいタイミング…まさにいいタイミングだ」
この海賊襲撃のどさくさに紛れ、始末できればいう事無しだ。
死体は海にでも捨てて蛸の餌にでもすればいい。
ジックラックが後で五月蝿そうだが、手加減が出来ない相手だ。
殺すつもりはなかった、とでも言っておけば黙るだろう。

34(・ω・):2004/07/13(火) 00:15 ID:4i1qCn0o
弾を込める。そして、片手で銃を構え、狙いを定める。
両手で構えて射撃した方が命中精度が良いかもしれないが、方手持ちは彼の主義である。
…次に足を止めた瞬間がいいタイミングだ。

「…まちなよ…」
首筋に、鈍く、冷たい感覚。
「あ、動かない方がいいよ?ちょっとでも動いたらあんたの首、跳んじゃうよ?」
「やれやれ…お転婆なお嬢さんだ」
「…喋らないで。銃を捨てて、それから両手をあげて」
彼の背後から忍び寄ったのはクリームだった。
「クレイの相棒というのは、お前のことか」
「ちっさいからって舐めないでよね。これでも修羅場を何度もくぐってきたんだから」
なるほど、確かにこの気配は素人の物ではない。一切の隙がないのだ。
「…で、俺をどうするつもりだ?まさか、海賊退治に加わっていた一介の冒険者を
 捕まえるつもりか?」
「さぁてね…それはクレイが決める事だよ。あたいには関係の無い話だし、さ」
「ふふん…関係無い、だと?」

彼は不気味に笑い出した。

「静かにしろ!」
クリームは牙を剥き出し、威嚇する。対するアルジャダは余裕の表情である。
「はは…いや、これは失礼。まさかお前が知らないとはな…クレイというのは本当に
 お前の事を大切に思っているんだろう」
「な、なんだっていうのさ!?」
「そうだな…お前の母親。確かミムといったか。…例えば、そいつを殺したのは俺だ、と
 言ったら…さぁ、どうする?」
「!?」
クリームの全身の毛がぞわっと逆立った。
「あまいっ!」
アジャルダはその隙を見て、腰のナイフを手に取り、クリームを斬りつける。
「くっ…!」
不意を突かれたが、軽やかな身のこなしでナイフの軌道を読み、クリームは攻撃をかわす。
しかし、アジャルダはばっと跳ねると、胸元から一枚の札を取り出す。
札からは魔力が発せられており、しまった、と思った瞬間には、
彼は黒い渦に包まれて姿を消してしまった。
残されたクリームは、ただただ呆然としていた。

35(・ω・):2004/07/13(火) 00:16 ID:4i1qCn0o
…僕は何をやっているんだろうか?
…頭が痛い…よくわからない。ただ、分かっているのは戦っているということ。
手には少し古ぼけた一振りの刀。目の前には大勢の骨や人。
「うぅ…うぅう…」
頭が痛い、しかし次々と骨が襲い掛かってくる。何故か自分は刀の扱いに慣れているようで、
いとも簡単に、まるで刀が勝手に動いているかのようにそれを叩き砕いている。
(僕は…なんでこんな事を…)
「アズマ!…アズマ!?」
(赤い…なんだ?赤い服の女…?)
「もういいから!早く刀を捨てなさい!」
(…こいつは…僕は…こいつを…!)
どすっ と手に鈍い感触。骨とは違う、肉を貫く手ごたえ。
突き刺した刀がゆっくりと、赤い服の女の腹部にめりこむ。
「あ…あぁ…」
嗚咽を上げる女の口から血が沸き出る。
「ね…?…ほら…怖くないから…もう、誰もあなたを…ね…?あなたはいい子…」
ずっ、と一気に刀を引き抜いた。刀身を見る。…血だ!真っ赤な血だ!
女は、地面に膝を突き、その場にうずくまりながら、こちらを見ている。
足元から血溜まりが広がって行く。
「…アズマ…大丈夫だから。…私が守ってあげるから…」
「…僕は…僕は…なんなんだ!?…なんでだ!お前は…なんなんだよぉっ!
 何を奪った!…僕から何を取ったんだ!お前は!…畜生!畜生!」
「まって、アズマ!…そっちはダメ!」
(…あれ!?)

36(・ω・):2004/07/13(火) 00:16 ID:4i1qCn0o
どうした事だろう?数歩後ろに下がったところで、そこに在るべきはずの地面が無くなっていた。
ふわっと、軽い浮遊感があった次の瞬間、強烈な激痛が背中に走り、次には
大量の水が口や鼻から入ってくる。
(なんだ…しょっぱい…海か…あぁ…冷たいな…)
目を開けるとそこはいつまでも続く深い闇。不思議と恐怖感は無い。
…手足を誰かが掴んでいる。そして、その誰かは耳元で囁いた。
”やぁ…君もここに来たんだね?”
「誰だ…?君は…?」
”忘れたのかい?…ほら、みてごらん?僕だけじゃないよ?”
暗闇を見回す。するとどうだろう。無数の赤く光る目がこちらを睨んでいる。
”皆待っているのさ。君が来るのを…早くおいでよ…ほら…こっちへ…”
「嫌だ!…嫌だ!やめろ!僕が何をしたっていうんだ!やめてくれ…!」



…彼の意識と体は一切の光の届かぬ闇の中へと沈んで行く。
まるで最初から何も無かったかのように、彼の意識は無へと還る。



                                    続く

37(・ω・):2004/07/13(火) 00:18 ID:4i1qCn0o
久々なのでミスってあげちゃったスマソ_| ̄|○

38(・ω・):2004/07/13(火) 00:38 ID:o7gP6.Ec
<trackback url=kita>キターーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!

39(・ω・):2004/07/13(火) 22:42 ID:DzO9j8Pc
久々に続き読みたいのきたー

40(・ω・):2004/07/14(水) 00:43 ID:2mcb/NdI
レッド・ラムキタ━━━━━(゚∀゚)━━━━━!!!!
先が気になって妄想ワールド広げまくり〜(´∀`*)

41(・ω・):2004/07/15(木) 00:49 ID:SDkDoPXQ
風の通る道楽しみage

42風の通る道:2004/07/16(金) 02:06 ID:KYvYtaPM
「誇り高き騎士、アシュペルジュの御霊よ、安らかに楽園へと旅立ちたまえ」

棺に土がかぶせられる。
まわりをぐるりと取り囲むように立つ人、人、人・・・
物言わぬ体となった彼が纏め上げていたリンクシェルのメンバーは全員そこにいた。
驚いたのは彼の名声を聞きつけたのか、多くの冒険者、そして、なんとトリオン王子までが参列していたことだ。
悲しみの音が流れる中、アシュペルジュの葬儀は幕を下ろした。



〜第11話、形成す闇〜



「とりあえずこれで落ち着いたわ」
アシュペルジュの妻であるエスメラルダが抑揚の無い声で言った。
俺がかける言葉を選んでいると、彼女は誰にでもなく、いや、自分自身にであろう、言葉を発した。
「彼が冒険者である事、騎士である事。・・・結婚した当時から覚悟は決めていました」

一般的に、冒険者に墓は無い。
近年急激に数を増やした冒険者は、毎日、世界各地で命を落としている。
戦闘で倒れた者は、普通その場に土葬と言う形で埋葬される。
激しい戦闘によって、個人の判別が不可能な場合も少なくは無いため、国も死後の面倒までは見きれないのであろう。
葬儀も本人なしで共同で行うことが多いが、彼の場合は、確かに彼が生きていたと言う証が刻まれていた。

”偉大なる騎士にして名誉ある冒険者、アシュペルジュここに眠る”

43風の通る道:2004/07/16(金) 02:07 ID:KYvYtaPM

「このシェル、どうなるんだろうな」
ルーヴェルが口を開く。
葬儀の後始末が終わったあと、俺とルーヴェルは二人で酒場に来ていた。
「リーダーがいなくなったんだ。離散するのが自然だろうな」
抜けたとは言え、自分が所属していたところが消えるのは、やはりいたたまれないものがある。

「なあ、アルヴァ。前にも言ったが戻ってこいよ?お前がリーダーの代わりをするなら、誰も文句言わないさ」
「やめてくれよ。半年も顔を出さなかった人間が出来るわけ無いだろう?それに、もう戦いは沢山なんだ・・・」
「言ってみただけだ。悪かったよ」

どこまで本気なのかわかったのものじゃないが・・・

「ところで、おまえアイリスとはまだ続いてるのか?」
ぶっ!とルーヴェルが酒を噴出す。
「な、なんだよ。仕返しか!?」
「悪かったよ。でもあのナンパなお前がねぇ・・」
「勘弁してくれよ」



「おかえりなさい。お家には?」
「母さんにはこっちに居るって伝えてきた」
「そう。今度はいつ発つの?」
「明後日にでもテレポでデムまで送ってもらうさ。多分それぐらいのタイミングで合流できるはずだし」

「なんだか、慌しすぎてわけがわからなかったわ・・・」
ティーカップを片手にイシェイルがつぶやく。
「突然だったからな。当然といえば当然だけど・・・。とりあえず終わってホッとしてるよ」
言った瞬間、自分の無神経さに嫌気がさしたが、彼女は特に気にする事もなかったようだ。
「でも、なんだか心にぽっかり穴が空いたかんじ。大切な人を失うってこういう事なのね・・・」
「エスメラルダも同じだろう。彼女を支えてやってくれ」

「ねえ、あなたは死なないわよね・・・?」
一番されたくない質問だった。
冒険者として、多くの人の死を見てきたが、その全てが、突然やってきて、そして呆気なくおわる。
そう、俺にだって死なない保障はどこにも無いんだ・・・
「大丈夫。俺は死なないさ」

44風の通る道:2004/07/16(金) 02:08 ID:KYvYtaPM

夜中に目が覚めた。
まだ涼しいのに、背中に嫌な汗をかいている。
横を見る。彼女は眠っている。
もぞもぞと起きだし、暗い部屋を見渡す。
なんだ?嫌な予感がする・・・!

バルコニーに出る。
・・・何かいる!
そう思った瞬間、ヒュッ!という音と共に何かが飛んできた。
反射的に身をかがめた瞬間、さっきまで自分の額があった位置をクロスボウの矢が飛んでいった。

「ククク、流石だな!」
「誰だ!」
「誰、だと?そうか、俺はお前の記憶から抹消されたのか」
「何だと!?」

闇から、闇が・・・姿を現した。
禍々しい鎧に巨大な両手鎌を持った暗黒騎士。
顔は深くかぶった兜によりよく見えない。
「まあいい。お前を殺せば俺は救われる」

言うが早いか、両手鎌を振り下ろす。
咄嗟に身を避わし、距離をとる。奴の両手鎌が床を貫通した。
一撃でわかった。こいつ恐ろしく強い!
「ほう?避けるか。だが、そうでなければ面白くない!」
次々と繰り出される凶刃をなんとか避ける。
だがギリギリだ。せめて武器があれば・・・!
鎌の一撃を避けた直後に蹴り飛ばされ、壁に背をぶつけてしまった。

「敵に回すとここまで面倒だとはな」
何だ?こいつは何を言っている?
昔の仲間!?
だが、暗黒騎士の仲間は一人しか知らない。それにそいつは・・・

「まだわからないのか。相変わらず鋭いのか鈍いのかよくわからない奴だな。まあいい。冥土の土産に教えてやるさ」
そう言うと、やつは兜を脱いだ。
短めに切りそろえた漆黒の髪、髪と同じ色の目・・・
そんな、死んだはずでは・・・!

「トリスタン!何故お前が!?」
「半年前に死んだはずではなかったか、か?」
そう、それに俺の知ってるトリスタンは戦士だったはずだ。
「いいぜ。答えてやるよ。まず、俺は死んではいない。現にここに居るしな」
兜をもういちどかぶる。
「そして、この”力”はお前を殺すために手に入れた」

「砂丘で亀をけしかけたが、お前は生き残ったしな。やはり俺自らがお前を殺しに来たってわけだ」
「アシュペルジュを殺したものお前か!」
「俺が知る上で冒険者最強の男だ。奴を殺せたらお前も殺せると思ってな」
「何故俺を殺す!?」
「何故、だと!?」
目に見えて怒っているのがわかる。
「お前は俺から大切なものを奪った!その復讐だ!」

「そんな事をしてあいつが、リザが喜ぶとでも思ってるのか!」
「お前が軽々しくその名前を口にするな!!」
邪気がトリスタンを取り囲み、吸収されていく。
自分の血と引き換えに驚異的な破壊力を生み出す「暗黒」と呼ばれる技!こいつ本気で・・・!

45風の通る道:2004/07/16(金) 02:08 ID:KYvYtaPM

「使って!」
暗闇から剣が飛んできて、俺の頭の真横の壁に刺さった。
危ない・・・が感謝する!
剣を引き抜き、構える。
トリスタンがイシェイルの方をちらりと見、そして笑い出した。
「ハハハハ、これは傑作だ!俺から全て奪った男が、女と幸せに暮らしてましたとさ!」
「貴様、彼女に手を出したら許さないぞ!」
「ククク、ここでお前に背中を向けたらどうなるかぐらい分かってるさ。長い付き合いだろう?」

「引けトリスタン!お前と殺しあうつもりは無い!」
「お前に無くても俺にはあるんだよ!」
瞬速!壁を背にした俺には避ける手段が・・・!
トリスタンの鎌が俺の胴体を真横になぎ払った!
「いや!いやああああ!!」
イシェイルの叫び声が聞こえる。トリスタンの満足そうな顔。だが・・・

「何!?幻影だと!?」
「お前とは争いたくない・・・が、降りかかる火の粉は払い落とさなければならない・・・!」
剣を薙ぎ払う。が、トリスタンの鎌の柄によりその一撃は阻止された。
「そうだ、そうでなければ面白くない!」
再び鎌を振り上げるトリスタン。

暗闇に飛び散る火花と響き渡る金属音。
トリスタンは人間とは思えない腕力で鎌を振るう。応戦するが明らかに押されている。
このままでは勝てない!そう思い、策を思案していると、
「遅くなって申し訳ありませぬ。大丈夫ですか、お嬢様、アルヴァ様!」
「爺!」
彼女の家の執事であるロードラントが駆けつけた。
イシェイルはともかく、ロードラントの剣は相当の戦力になる!

「ふん。応援か。流石に分が悪そうだ」
言うが早いか、トリスタンは魔法の詠唱を始める。
「待て!トリスタン!」
一瞬後、トリスタンは次元の渦と共に闇の中に消えていった・・・




つづく

46(・ω・):2004/07/16(金) 09:14 ID:8bz2rtkQ
キタアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア

47(・ω・):2004/07/16(金) 10:55 ID:04wnE.SM
風の通り道キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!

けど、初心者3人はどうなったの?

48(・ω・):2004/07/16(金) 20:55 ID:ILmh0Roo
>>47
上の>>26に作者さんから説明があるよ。
9話から回想シーンらしい。

まとめサイトのほうに簡単な時系列書いてみたけど
あれで合ってるのかなぁ・・・?

49(・ω・):2004/07/16(金) 21:36 ID:Dz4NXzec
初心者3人は、葬式中はバスで待機じゃなかったでしたっけ?
9、10話の過去回想のあと、11話は現在で葬式っぽいですね。
新キャラ トリスタン、ライバル登場('-'*)

50君の明日に祝福を。:2004/07/17(土) 00:23 ID:QCZzNGQE
…あぁ、もう!!ついてないッ!!

狭く暗い坑道を若いヒュームの女性が走っている。
思い起こせばつい三時間ほど前の事。
パルブロ鉱山の何処かにに『ブレイブハート』と言う名剣があるらしい。
という噂を酒場で耳にすると詳細も聞かず飛び出してきた結果がこれだ。
件の剣はすぐ其処にある。但し、かの悪名高い骨喰いのジ・ギの手の中に。

「誰かいないの!?誰か――?助けて――――!!!!」

必死に叫んでも何の反応も無い。既に身体は殴られた後と疲労でボロボロだ。
何時もは鉱石掘りで一発当てようと夢見る冒険者達が大勢いるハズなのに…!
あぁ…私、死ぬのかなぁ。サンドリアに居るお母さんお父さん…。
死ぬ前におなかいっぱい母さん特製コカの煮込み食べたかったなぁ…。

ジ・ギが振り上げた大剣を振り下ろすのが見え、
頭に鈍い衝撃が走るの理解するかしないかの内にイヴの意識は闇に沈んでいった。

***
初投稿してみました。
でも、やっぱ他の作者さんのクリオティには程遠いなぁ。
精進します(´・ω・`) 続く。

51(・ω・):2004/07/17(土) 14:23 ID:520KNgYU
新作歓迎!
どうぞ精進してください。どうぞがんばってください。
もう、楽しみに待ってますから!

52(・ω・):2004/07/18(日) 08:39 ID:3BBRKZ4A
前スレが1000到達したけど、まだ倉庫格納依頼が出ていないみたいなので、倉庫格納依頼に行ってきます。

53君の明日に祝福を。:2004/07/19(月) 01:55 ID:QS9boHKU
夢を見た。
私がまだ子供の頃、何時も一緒に居てくれた彼の夢を。
私はバス生まれのヒュームだけど、父の仕事の都合でサンドリアに移住していて、
学校では何時も『ヒューム』だからと馬鹿にされていた。
そんな時ただ一人、私の事を馬鹿にせず何時も一緒に居てくれたヴィユヴェールという男の子。
私と一緒に居るせいで周りの子達から疎外されてもいつも笑顔だった。
あの頃は彼が居なかったら堪えられなかったと思う。
しかし、彼は突然居なくなってしまった。
彼が10歳の誕生日を迎えた夜に行方不明になり、それきり戻って来なかった。
彼が居なくなって何日も泣いている私。忘れかけていた思い出。
―そんな夢を見た。

54君の明日に祝福を。:2004/07/19(月) 02:18 ID:QS9boHKU
「ん…」
目を覚ますとベッドの上だった。
パルブロ鉱山に向かい、骨喰いのジ・ギに襲われて・・・。
「イヴァリス!イヴァリス!?良かった…目、覚めたのね…」
「お母さん…?」
身を起こし辺りを見回すと確かに自分の部屋で、
傍らに母が目を腫らしてこっちを見ている。
「夜中にヴィルさんが、ぐったりとした貴方を連れて来たときは
心配で心配で…。本当に目を覚まして良かったわ…。」
「ヴィルさん?」
「つい最近隣に越して来たエルヴァーンの男の人よ。
昼間外に出てるのは見かけないけど…。兎に角、お礼だけはしておきなさいよ?」
そう言うと母は涙を拭くと立ち上がって自分の部屋に戻っていった。
「…ヴィル…?」
口に出して呟いてみる。
夢に見た子供の頃の思い出。
私の秘密の友人の名前はヴィユヴェール。
私が彼の名前を呼ぶときはそう、ヴィルと呼んでいた。

***
ぐぅ…。納得いかないけど投稿 orz 文才欲しい…。
まだ面白いとは思ってもらえなさげだけど頑張って盛り上げますです…。
取り合えず現在の人物紹介。
・イヴァリス:愛称イヴ。バス生まれサンド育ちのヒュム♀F1。
・ヴィル:何処かから越してきたエルのお隣さん。F7。
     イヴの子供の頃の友人と愛称が一緒。

55君の明日に祝福を。:2004/07/19(月) 02:20 ID:QS9boHKU
色々辻褄合わない所ありますが後ほどちゃんと纏めます。(´・ω・`)

56(・ω・):2004/07/19(月) 06:18 ID:.4f.lGg.
がんばれええええええ応援してるぞおおおおおおおおおおお
サンドリアァ

57(・ω・):2004/07/19(月) 10:30 ID:13btmevo
>>55
そうなの? あんまり違和感とか感じないのだけど
わしが鈍いだけなのかな(-_-;)

58(・ω・):2004/07/19(月) 14:39 ID:DDskfKuc
>>52
ご苦労様です。
>>57
私も辻褄合わないところ見つけられませんでした。
気になって眠れない・・・だれか助けて・・・。

59君の明日に祝福を。:2004/07/19(月) 23:45 ID:QS9boHKU
トントン。トントン。
目を覚ました次の日のお昼頃、私は隣家の扉の前に立っていた。
トントン。トントン。
屋根の上の煙突からは暖炉に火がついている証の煙がもうもうと青空へ昇っている。
留守、という訳ではないだろう。
コンコン。コンコン。チリリン。チリリン。
呼び鈴を鳴らしてみる。 …反応は無い。
…ガンガン!ガガン!チリーン。チャリチャリチャリチャリ。
「ヴィルさん!!ヴィルさ――――ん!?居るなら出てき…!!」
扉に拳を叩きつけ、叫びかけたところで扉が開く。
もう午後になるというのにカーテンが締め切られた薄暗い部屋の中に
クロークを着、そのフードを目深に被った男がいた。
「…なんだい?人が気持ちよく寝てたというのに・・・。」
そう言われ、ふと、自分の本来の目的を思い出し顔が赤くなる。
命の恩人にお礼を言いに来たのに逆に起こしてしまうなんて…。
「あ、あの…。パルブロで助けて頂いたそうで!!あ、ありがとうございますッ!」
しかし彼は微かに笑うと
「僕は君を運んできただけさ。驚いたよ?彼の有名なジ・ギが
 血塗れで君の隣に倒れていたんだ。ほら、コレ。預かっておいた。君の物だ」
そういって手渡されたのは布に包まれた一振りの大剣、ブレイブハートだった。
しかし…ジ・ギが血塗れで倒れていた?誰が倒したのだろうか…?
倒したなら何故この剣を持っていかなかったのか…。

60君の明日に祝福を。:2004/07/20(火) 00:00 ID:bLlzMP3E
「どうしたんだい?難しい顔をして。…まぁ、無事で何よりだった。
 じゃあ僕はまた寝るから。お休み…。」
「あ…。本当にすいませんでした…。…!?」
慌てて顔を上げると、振り向きざまに揺れるフードの奥に彼の素顔が見えた。
まるで燃え盛る炎の様な、まるで深紅の血の様な。
そんな瞳を抜かせば ―幼き頃の友人、ヴィユヴェール。 
今となっては全てが懐かしく、全てが鮮明に思い浮かべられる。
あの真っ赤で綺麗な髪。
あの眠たげで優しそうな瞳。
あの頃は少しだけ私の方が背が高かったけどあれから9年。
19歳になったらコレ位の背の高さでも不思議じゃない。
確信する。この人は“あの”ヴィルだと。
「ちょっと待って!」
思い切り、叫ぶ。
「ヴィル…?ヴィユヴェール?
 私よ、イヴァリス。イヴよ?覚えているでしょう?
 貴方が行方不明になって…。今まで何処に居たの?心配したのよ?」
―が、
「…確かに僕の名前はヴィユヴェールだ。だけど僕は君を初めて見る。
 なにより僕には此処に越す少し前以前の事をを覚えていないんだ…。
 行方不明?君は何か知っているのか?僕の…僕の失われた記憶の事を」

その言葉を聴いて私はただ…ただ呆然と立ちすくむ事しか出来なかった。

***
辻褄合わないっつーかなんで隣人さんが鉱山来てるんだyp!!
とかツッコミこないかドキドキしてたり。
あとは微妙に表現おかしかったり?
(´・ω・`)続く。
:忘れてた設定:
※イヴ:暗黒
 ヴィル:黒

61白き〜作者:2004/07/20(火) 00:11 ID:w.wDi7vE
お久しぶりですよ!

レッドラムキテタあああ! クリーム萌えなオイラは最近特に待ち遠しいと思います。
パパさん、忙しい中でしょうが執筆頑張ってください、応援しております!

最近ぼちぼち新しい作家さんも増えてますな!
上の『君の明日に祝福を。』も続きが気になりますじゃー!
他の作品もWikiでまとめ読みしてます。
面白い作品多いですじゃ。
セイブ・ファッキンエレファン・名無しの話はいつものように続きを待っております!

さて、おいらも新作UPしてきまちた。お暇な方はお越しください!

ttp://www.miracle-key.gr.jp/white/

62君の明日に祝福を。:2004/07/20(火) 02:27 ID:bLlzMP3E
白探キタ―――――(*´・ω・`*)―――――!!!!!
いやぁ、待ったかいがありましたよ。
最高ですね。
文才もある上に押絵まで描けるから凄いよなぁ…。

63(・ω・):2004/07/20(火) 08:20 ID:smtH5.wI
・・・突っ込まないのがやさしさだろうか (・ω・)

×押絵(おしえ)
○挿絵(さしえ)

64君の(ry:2004/07/20(火) 08:22 ID:bLlzMP3E
えぇ、起きて気づいてきたらやっぱ間違ってた orz
×押絵
○挿絵

65(・ω・):2004/07/20(火) 19:23 ID:8NT8lyS6
すいません。ごめんなさい。出来心です。アフォです。
どんな感じかなといじってたらなんか書いちゃいました。
消えない・・のね(汗)

66(・ω・):2004/07/20(火) 23:52 ID:z2RK/t1U
レッド 第8話「心因性幻想曲」


「目覚めさせる気?!!」
今にも飛び掛らんばかりの威勢で、ポチが目の前に立つエルヴァーンに吼えた。
そのエルヴァーンは、まるで何事かの様に、手を上げて困っている様だ。
果たして、この瞬間、私はどのような行動をとれば良かったのだろうか。
まるで見当がつかない。
それは、答えの無い問題の様な・・・。
「俺は、ギフトの匂いにつられてきただけだぜ?」
紅の目をしたエルヴァーンが答えた。
一歩二歩と、私に近づく様に歩くたびに、静寂に足音が木霊した。
「ギフトとは何だ?なぜカーバンクルがそれほど恐れている。
 お前は何者だ?」
私の問いに、紅のエルヴァーンは立ち止まり、疑問に満ちた表情をしていた。
ポチさえ、私の味方である筈のカーバンクルさえ目を伏せていた。
言いようの無い不安が、私に纏わり着く。
無音の時間が長く続いた。永遠に続くのではないかとさえ思えたほどの長さだった。
「お前・・・・。」
紅の瞳が、私に話しかけてきた瞬間、エルヴァーンの後から声が聞こえた。
「セルド?!」
その声は、ジャンの声だった。
「何だ・・・この人形は・・・・。」
セルドと呼ばれたエルヴァーンが、ジャンを人形と呼んだ。
セルド、それはジャンが無くした夫の名前だった。
最果ての地、ザルカバードに聳え立つズヴァール城、
そこに向かい、ある指令を達成させるミッションに出て、命を亡くしたはずだ。
「死んだはずじゃないのか・・・。」
私は、驚きを隠すことなど出来なかった。
死んだはずのジャンの夫であるセルドが、私の目の前に立っていたのだから。
「ほ、本当に君の夫なのか?ジャン!間違いじゃないんだな!?」
私がジャンに問いかけると、呆れた顔をしたセルドがジャンに近づいて行った。
そして、不意に手を額に触れると、ジャンの体が、まるで糸を切られた人形の様に崩れ落ちてしまった。
「何を・・・何をしたんだ!!」
私の叫びに、セルドは冷たい視線を返した。
まるで、私を見下すかの様な目だった。
「幻想だよ。全部お前の。なんで俺の名前を知ってるのか、なんで俺の嫁の名前を知っているのかは分からない・・・。
 だけどな、お前が見ているものは人形でしかないんだ。俺はただ、人形につながる魔力をシェルで反射しただけだ。」

67(・ω・):2004/07/20(火) 23:53 ID:z2RK/t1U
ウィンダス連邦で使われる大体の人形は自律的に動くものが主流である。
しかし、それは主人と人形をつなぐ何らかの因果が存在する。
それが魔力の線だ。
一本の、ただそれだけの魔力の線によって、人形と主人はつながれている。
ある特殊なシェルを使った場合、それを遮断することも研究されていたと聞いたことがある。
バストゥークの魔法研究局だとか、サンドリアの教会だとか、その噂は様々だった。
それは、ウィンダスの誇るガーディアン軍を無効化するためなのだろう。
つまり、私の魔力の線を遮断すれば、マネキンは動くことが出来なくなってしまうということだ。

「なんだ?その・・・マネキンは・・・。」
ミスラの形を模した人形が、そこに落ちていた。
「なんだ?その・・・マネキンは・・・。」
バカみたいに言葉を反復した。
理解を超えた現象が、いま私の身に降りかかっている。
私はいったい・・・・何を?
「全てが・・・幻想?私は、夢を見ていたのか?」
私を見つめるセルドとポチ。
「ポチ。お前は全部知っていたのか?なぜ・・・私を利用しようとしていたのか?」
「ヘルダガルダ・・・。」
私の名前を呼んだだけで、何も答えようとしなかった。
「ジャミは、私をセルドという名前で冒険者登録したじゃないか!そうだ!
 夢なんかじゃない!どこだ!ジャン!!どこだぁぁあ!」
「それは・・・自分で登録しただけだよ・・・ヘルダガルダ。
 ・・・・ジャンは、死んでいるんだ。」
ジャンは死んでいるんだ。
それは、私にとって唯一の希望を失ったことを意味する。
「封印は?・・・。」
「そんなの感じないな。とっくに破ったか、元々なかったかだろうな。
 どんな封印だろうと、そのギフトの証である赤鼻にかかりゃぁ破るなんて軽いだろうがな。」
すでに、赤鼻と呼ばれてもなんとも思わなくなっていた。
それが、私自身が作り上げてきた私への幻想にしかすぎないことを表しているのではないか。
私は・・・演じていたのか?信じられない。何もかも。
「覚えてるかな、ヘルダガルダ・・・。カザムの出来事・・・。あのときからだよ。
 そう・・・ジャンが死んだのも・・・目覚めてしまったんだね・・・ヘルダガルダ。」
何も覚えていない。私は、全てが偽りに感じていた。
全てが嘘なら・・・・

そうだ。

いっそ、

世界を滅ぼすとしよう。

つづけ

68(・ω・):2004/07/21(水) 00:55 ID:uRnOHx8k
続き諦めてた作品も、無事にUPされてて
たまに覗きに来るのもいいなと思った。

69歌う花 1/16:2004/07/24(土) 15:05 ID:YdbxuRZs
歌う花


どれほどの思いがあれば、君は笑ってくれるのだろうか。
願ったことは君の幸せ。
ただ、君が笑っていてくれればいい、そう思っていた。

けれど、僕にできることは、歌うことだけ。

目を閉じると浮かんでくる哀しげな君の姿。
どれだけの思いを積み重ねれば、君に届くのだろうか。



その話を一番初めに聞いたのは、ジュノ下層にある俗に詩人酒場と呼ばれる
場所でのことだった。
一緒に冒険に行くこともあれば、仕事の仲介をしてもらうこともあるシアは、
話好きらしく酒場で遭遇するとよく酒につきあわされる。
何度も酒につきあっているうちに、呑み友達のような間柄になっていた。
その日もいつものように酒場で遭遇し、半分絡まれるように酒の相手をして
いた。
「歌?」
「そう、歌。だーれもいないはずの場所から歌が聞こえてくるんだってさ」
それは、怪談というやつだろうか。
酒の入った頭でつらつらと考えて一つの可能性を思いつく。
「それは冒険者の詩人が呪歌をうたっているとかじゃないのか?」
冒険者ならはっきり言って、どこにいても不思議ではない。
どんなへんぴな場所だって、彼らは行くのだ。
それが仕事だろうと、そうでなかろうと。
「だって、誰もいないはずの場所なのよ?」
どうやら、俺の反応がお気に召さなかったらしい。
シアは、整った顔に怒ったような表情を浮かべ反論してくる。
「冒険者なら普通のやつがいかねぇようなところにも行くだろうが」
反論する相手に、反論で返す。
実のところ、相手も自分もかなり酒が入ってるので、訳のわからない理屈に
なっている部分はあるだろう。
「それはそうなんだけどさぁ」
納得できない部分があるらしい。

70歌う花 2/16:2004/07/24(土) 15:06 ID:YdbxuRZs
「ほかにも何かあるのか?」
実のところ興味深い話ではある。
歌と聞いて心がざわめくのは、やはり俺が詩人を生業としているからだろう。
「うん。
 実際聞いたって人に会ってみたんだけどね、あれは恋歌じゃないかって」
「恋歌?」
確かに、それは不思議な気がする。
「さっきからにたような反応ね。ま、いいけど」
酔っぱらいに、しゃれた反応を期待してどうする。
「とにかく、呪歌ならまだしも恋歌をだれも来ないような場所で歌う酔狂者
はいないでしょ?」
断言されると反論したくなるのが人の性というものだろう。
そのことを友人に話したら、それはおまえだけだと笑われたが。
「いるかもしれないじゃないか」
「んまー、ひねくれ者ね、かわいくない」
すねたように言う。これが、3国のみならずジュノでも名の知れた冒険者達
のギルド、"鷹の止まり木"のリーダーだと言うからたちが悪い。
実際、かなりの冒険者であることも、良いリーダーであることも知っている
のだが、呑み友達としては、かなりやっかい・・・というか手がかかるのも
事実だ。
「悪かったな」
「んじゃね、とっておきの情報よ!
 なんと、歌声を聞いて不審に思った人が駆けつけたら!
 人影なんていっさいなかったって言うのよ!」
人気がしたから逃げたっつーのも十分考えられる話だろうに。
「で?」
かなり冷めた反応だった自覚はある。
「おもしろくなーい。なんでそんなに反応冷めてるのさ」
一緒に騒いでもらえることを期待したと言うのだろうか。
長いつきあいだ。俺がそんな性格ではないってことは先刻承知だろうに。
「性格だろう。話がそれだけなら俺は行くぞ」
ずいぶんと呑んだ。
このまま最後までつきあうと、明日の仕事に差し障ってしまう。
そろそろ切り上げた方が良いだろうと判断した俺は、席を立つとその場を離
れた。

このときは、まだこの話に自分が関わる羽目になるとは思ってもいなかった。

71歌う花 3/16:2004/07/24(土) 15:06 ID:YdbxuRZs
翌日、その日の仕事を終え、やれやれと思いながらいつものように下層の
酒場を訪れた俺を待っていたのは、興奮気味のシアだった。
いつも騒いでいるように見えているが、以外と冷静なシアが、興奮気味なの
が、不思議で軽く首を傾げていると、狩人の乱れ撃ちのような凄まじさで、
彼女は言葉を紡いだ。
「レイル、良いところに!あなたこの後の仕事って、詰まってる?」
問われた意味がわからず、とりあえず鸚鵡返しに問い返す。
「仕事?」
「そう、明日・・・は今からじゃ準備が間に合わないから、明後日からに
なるかな」
何か依頼があるというのだろうか。
頭の中で、仕事のスケジュールを反芻する。
「しばらくふらふらするつもりだったから、今のところ特に仕事の予定は
ないが」
そう答えると、シアは満足げに頷き言葉を続けた。
「おっけー、仕事受けない?」
「ん?」
「アルテパ砂漠のオアシスまでの護衛。報酬は前金で30000、後金で30000、
 働き次第ではボーナスあり」
「おまえさんところで、受けられるだろう、そのぐらいの依頼」
わざわざ、俺に依頼するまでもないだろう。
彼女から回される仕事は、大抵の場合彼女のところだけでは手に負えない
・・・というか彼女のところだけでは、手が足りない場合に手伝いにかり
出されるというパターンがほとんどであり、そんなことは実は滅多になか
った。
「今うちの連中出払っちゃってていないのよ」
さっくりと答える。
確かに、彼女のところは人が多い。
だが、名の知れた・・・良い意味で名高い彼女のギルドにはご指名での仕事
も多かろう・・・とそこまで考えたところで、俺は顔見知りの連中が、酒場
の隅の机でできあがっているのを見つけた。
「あそこでくだまいてる奴らは何なんだ?」
指し示し、問う。
彼らは確か彼女のギルドのメンバー・・・それも主力と言ってかまわない位
腕の立つメンバーだった。
「あぁ、一番重要なこと言い忘れていたわね。護衛は何人でもかまわない。
ただし、必ず1人詩人を入れてほしいと」
なんなんだ、その条件は。
「で、うちの詩人連中はみんな出払っちゃってて、あいてるやつがいないの」

72歌う花 4/16:2004/07/24(土) 15:07 ID:YdbxuRZs
彼らの方を見やる。
確かに詩人はいないようだった。
詩人という職業を生業としている人間は、以外と数が少ない。
冒険者として腕が立つ。となればなおさらだ。
ましてや、"鷹の止まり木"のメンバーとなれば、あちこちから仕事の引きが
多くて当然だろう。
「で、俺か」
「私が知ってるフリーの詩人で、一番腕が立つのあなたなんだもの」
「受けるのはかまわないが・・・何だってそんな興奮してるんだおまえさん」
護衛の仕事は割とどこにでも転がっている。
かなり様々な仕事をこなしているシアにとって、興奮するような類の仕事
とも思えない。
「だってー。噂の真偽を確かめるチャンスなんて、滅多にないじゃない」
「はい?」
言葉の意味がわからない。
「だからぁ。アルテパ砂漠のオアシスなのよ!
 夕べはなした歌が聞こえる場所!」
だれもいないところから歌が聞こえるというあれか。
「オアシスには、隊商の連中やら冒険者の連中やらガードやらいると思うんだが」
人気は少ないかもしれないが、無いわけではない。
「だから少し離れた場所だけどね」
シアの物言いに、引っかかりを覚えたのも事実。
問いただそうと思ったのだが、受けるといった言葉を盾に話を進められ、
気がついたときには、その少女を護衛することに話が決まっていた。

翌々日。
待ち合わせ場所であるガイドストーンに向かうと、すでにシアはその場にいた。
隣にいる、内気そうな少女が依頼人だろう。
「待たせたな。シア、そちらが依頼人か?」
声をかけると、少女とシアが同時にこちらを見る。
「おはよう、レイル。そうよ、この方・・・ジェシカさんが依頼人。
 ジェシカさん、こちらが今回この仕事を受けてくれた詩人のレイル」
紹介され互いに軽く礼をする。
ほっそりとした体に、おろしたてであろう旅装。
何のためにアルテパに行くんだかさっぱりわからない。
と、そこで一つ重要な問題に気がつく。
アルテパ砂漠のあるクゾッツ地方へ向かうためには、コロロカの洞門を抜ける
か、アルテパ砂漠にあるルテのゲートクリスタルへテレポするしかなく、コロ
ロカを抜けることを許可されているのは冒険者のみ、ということである。

73歌う花 5/16:2004/07/24(土) 15:08 ID:YdbxuRZs
「アルテパまではどうやって?」
とりあえずルートについて尋ねる。
「まずはバスに飛空挺で移動して、そこからコロロカ越えね」
一般的といえば一般的な手段だろう。
そもそもゲートクリスタルは一度その場所に行った者でなければ入手する
ことができない。
と、なると使える手段はコロロカ越えのみになる。残る問題は・・・
「飛空挺パスと洞門を越える許可は?」
「それは私が手配済み。
後であんたに渡して置くから、ちゃきちゃき仕事してね」
抜かりは無い、ということか。
「了解。ジェシカさん、飛空挺乗り場の方に移動しておきましょう」

俺は少女を促すとバストゥーク行き飛空挺の乗り場へと向かった。

ジュノから3国に向かう場合、もっとも手っ取り早い移動手段は飛空挺だろう。
徒歩ならば数日、チョコボでも軽く半日・・・旅慣れた者でさえそのぐらい
かかる旅路を飛空挺は数時間で移動する。
飛空挺に乗るためにはパスが必要で、これを入手するためには何十万という
多額のギルか冒険者としてジュノの大公に認められる必要があった。
どちらも簡単な道ではない。
もっともどんなことにも抜け道というものはある。
半永久的に有効なパスを入手するのは難しくても、1回限りのパスならば、
割と簡単に入手することができた。
もちろん相応の身分保障とギルは必要となるのだが。
報酬にそこそこ多額のギルを出せるぐらいだ、パスのための身分保障もギル
もばっちりということなのだろう。

飛空挺乗り場の入り口にたつ係官に確認したら、次の船は1時間ほどでジュノ
に到着するという。
砂漠の旅の準備はきっちりすませてあるので、ジェシカの分も含めて出国
手続きをする。
ゲートをくぐり抜けたところで、不安げにジェシカが問いかけてきた。
「あの、レイルさん・・・」
「なんでしょう」
もぞもぞする言葉遣いだが、さすがに依頼人に対してぶっきらぼうな口調に
なるわけにも行かない。ほかに誰かいれば対応はそいつに任せてしまえるん
だが。
「2人で移動するのでしょうか?」
確かにうら若い女性が、初対面の男と長旅をするのは気が引ける行為だろう。
それに、護衛が一人では不安だということもあるのかもしれない。

74歌う花 6/16:2004/07/24(土) 15:08 ID:YdbxuRZs
「俺一人では不安ですか?」
「いえ・・・」
口ごもるジェシカ。
俺一人では不安なのか、二人きりが嫌なのか、いまいちよくわからない。
が、なにか不安に思っていることがあるのは確かなようだ。
「できれば、女性がもう一人ぐらいいる方がいいんでしょうが・・・
本当はシアがついてくるつもりだったらしいんですがね、断れない急な仕事
が入ったものだから、俺だけになってしまいました」
本来なら、シアが一緒に来るはずだったのだが、断れない筋から仕事が入っ
たせいで、これなくなってしまった。代理を出す。と言っていたが、かなり
人手が必要な仕事だったらしく、結局俺一人でこの仕事を受けることになった。
「そう・・・ですか」
「不安なら、もう一人ぐらい同行者を捜す伝手はありますが、どうしますか」
俺一人が不安なのにせよ、二人きりが嫌なのにせよ、後一人同行者がいれば、
気は楽になるだろう。
「いえ、大丈夫です。
ごめんなさい、あなたを信用していないような口振りになってしまいました」
"鷹の止まり木"のリーダーが仲介したとはいえ、俺自身はそのメンバーじゃ
ない。
さらに言えば、かなり軽いように見えるだろうし、あまり腕が立つように
も見えないだろう。
これでは、いまいち信用しきれないのも仕方がない。
「いえいえ、若い女性が男と二人きりになることに警戒心を抱くのは正しい
ことだと思いますよ」
「ごめんなさい」

飛空挺が到着したので、その話はそこまでになった。
結局護衛を追加することはせず、俺が一人で護衛をすることになった。

出発間際、気になったのは、ジェシカの瞳に宿る感情。
ずっと昔、同じ眼を見たことがある。

深い絶望に囚われた瞳・・・。

75歌う花 7/16:2004/07/24(土) 15:09 ID:YdbxuRZs
飛空挺の旅は気楽だ。
モンスターが襲ってくることもないし、自分の足を動かす必要もない。
ぼーっと乗っていれば、目的地へと着く。
この時間をぼーっとつぶすのももったいない。
「ジェシカさん、今のうちにコロロカを抜けた後のルートについて話をして
おきましょう」
ジェシカは一瞬何を言われたかわからなかったようだ。
「え?」
「アルテパのオアシスって、たぶん東アルテパのオアシスのことだと思うん
ですが」
「え、ええ。そうです」
砂漠にはオアシスが数カ所あるが、一番大きなのは西アルテパのラバオの
オアシス。次に大きなものは東アルテパの南東にあるオアシスだろう。
ラバオのオアシスには、交易者と冒険者が作り上げたちょっとした街がある。
「コロロカ抜けてそのまま向かってもかまいませんが、それではあなたの体
に負荷がかかりすぎると思います。だから、一度ラバオに向かおうかと」
「ラバオ?」
クゾッツに言ったこと無ければ知らなくて当然だろう。
「西アルテパにあるオアシスの街です。そこで一度休息を取ってから移動
した方が良いでしょう。砂漠はなれてない人間が旅をするには厳しすぎる
環境ですから」
「・・・わかりました。お任せします」

そんな話をしているうちにバストゥークへついた。

コロロカの洞門。
かつて、アンティカの大群に襲われたガルカ達は故郷を追われ、この洞門を
抜けてここバストゥークへとたどり着いたという。
100年以上閉鎖されていたが、最近は冒険者がよく行き来している。
人間ってのはなんだかんだでフロンティアに弱いのだ。

ツェールン鉱山を抜けて、洞門に入ると、それまでとはまるで別の風景が
そこには広がっていた。
「わぁ」
冒険者でもなければコロロカを通ることなど無いだろう。
ジェシカが、幻想的な風景に思わず感嘆の声を漏らす。
「少し待って、音消しの魔法を掛けます」
「音消し?」
「ここのモンスターは眼が退化してるのか耳が良いモンスターが多いんです。
音消し・・・スニークの魔法を掛けておけば、見つかりにくくなりますから」

76歌う花 8/16:2004/07/24(土) 15:09 ID:YdbxuRZs
「ありがとう」
「仕事ですからね。切れそうになったら教えてください。かけ直します」
護衛の仕事はたまにしか請け負わないから、ジェシカが依頼人としてどうか、
なんて言い切ることはできない。
それでも、妙に聞き分けが良すぎるような気はしていた。
本当はもっと早く注意しなければいけなかったのかもしれない。

体力を必要以上に消耗しないように、注意しながら進む。

所々で、呪歌・・・体力を回復するピーアンを歌っていたのだが、その様子
を見たジェシカがつらそうな顔をするのを俺は気がつかないフリをした。
聞いても詮無いことだと思ったから。
少し後になってから、このときジェシカに話を聞かなかったことを俺は後悔
することになる。

洞窟を抜けると、そこは熱砂の砂漠だった。
いつものことだが、砂がまぶしい。
日はまだ高い。もう少し日が傾くまで、移動は待った方が良さそうだ。

「ジェシカさん、少し休憩しましょう」
「え・・あ、はい」

荷物の中から、サンドリアティーを取り出し、ジェシカに渡す。
不思議に思ったらしい。首を傾げていたが、俺が飲み始めると納得したように
カップに口を付けた。

吹き渡る風は熱を含んでいる。
ザルクヘイムに横たわるバルクルム砂丘も砂だらけで、かなり暑い場所だが、
ここはそれ以上だ。

その風の中に紛れて声が聞こえた。
ぎょっとして、耳を澄ませる。
かすれるような声。けれど、確かに聞こえた。
ふと、ジェシカの方に目をやる。
何か考え込んでいるようだが、声には気がついてはいないようだった。

「まさかな・・・」
声には出さずに呟く。

甘いお茶と、少し休憩を取ったことで、ジェシカの体力も回復したようだ。
日もだいぶ傾いて、風に涼しいものが混ざり始めている。
そろそろ出発しても大丈夫だろう。

77歌う花 9/16:2004/07/24(土) 15:10 ID:YdbxuRZs
幸いなことに砂嵐に会うこともなく、熱波に襲われることもなく無事に
ラバオへとたどり着いた。
今夜一晩ここで過ごし、明日の明け方・・・暑くなる前にここを出発する。
本来ならば、夜間に旅をする方が、暑さ対策という意味ではずっと効果が
高い。
だが、この世界の夜はけして安息だけをもたらすものではない。
アンデッドと呼ばれる種族は夜を好む。
そして夜を好む種族は、たいていの場合質が悪い。
だから、夜に旅をするのはできるだけさけた方がいいのだ。
同行者に冒険者ではないものがいる場合は特に。

砂漠の真ん中、オアシスに作られた街であるラバオは、クゾッツ地方を探検
して回る人間の本拠地になっている。
ジェシカを休ませたいと思っていたのも確かな事実だが、実のところもう
一つの目的も重要だった。
それは情報の入手。
宿代わりの天幕を借りてジェシカを休ませると、顔見知りの情報屋を捕まえる。
「おや、レイルじゃねぇか。仕事か?なんかお宝あるか?」
故買屋兼情報屋という顔見知りのガルカは、おきまりのフレーズで挨拶を
してくる。
「情報がほしいんだ。東アルテパのオアシスについて。ここ2ヶ月前後で
変わったことがあれば全部くれ」
「また適当な、ご指定だな」
「ほっとけ」
にやにやと、俺とジェシカの休んでいる天幕を見比べる。
何を考えているか、だいたい予想がつくので、一応釘を指す。
「この人は依頼人だからな。変な噂を流したら絞めるぞ」
「こえーこえー。わかってるよ。シアの依頼だろ」
「ん?聞いたのか」
・・・そう言えば、こいつも"鷹の止まり木"に所属してたことがあったな。
今は抜けてしまったようだが、それでもシアとは豆に連絡を取っているら
しい。
「そんなところだ」
「そうか、じゃあわかるだろうが、目的地がオアシスなんだ。
 変わったことがあるなら把握しておきたい」
「ふむ。何かあったかな。今はウィンダス領だから、あそこにゃガードが
詰めてるし、大きな変事は無かったと思うが・・・」
そこで少し考え込む。
「っと、そうだそうだ。オアシスのあたりで1月ぐらい前に激しい戦闘が
あったらしい」

78歌う花 10/16:2004/07/24(土) 15:11 ID:YdbxuRZs
オアシスは良い拠点になる。
獣人との小競り合いは日常茶飯事だろう。それが、激しいといわれるならば
それは本当に激しい戦闘だったのだろう。
「ほう」
「何でも割と若手で構成されたパーティが戦ったらしいんだが・・・」
言いよどむ。それは、つまり・・・
「ダメだったのか」
「ああ、蘇生も間に合わなかったらしい。遺体はそのままオアシスのそばに
埋められたってはなしだ」
「気の毒なことだ」
冒険者などというやくざな稼業だ。
死というものへの覚悟はできているだろう。
それでも、気の毒なことは事実だ。
そして、全滅・・・というのは、いつだって冒険者にならばついて回る危険
なのだ。
・・・古い傷がじわりと痛むのを感じる。

「その、歌声の噂は、俺も初めて聞いたが・・・」
情報屋が首を傾げる。この噂事態、出所がいまいち不明だ。
俺はシアから聞いたわけだが。
「アルテパ、オアシス・・・ここまで符号がそろうってのも気にはなるな」
歌声の噂と、若手パーティの全滅・・・そしてジェシカの依頼。
つながっている、と考えるのは考えすぎだろうか。
「まあ、注意しな。あのあたりは"魂を失いし者"が出るしな」
魂を失いし者・・・かつて冒険者だったかもしれない者達。
「それは?」
「気にかかるんだよ。わざわざあのシアが、あの嬢ちゃんの依頼を受けたっ
てことがな」
確かに、噂の場所だから・・・ってだけではない気がしてきた。
「わかった。忠告感謝する」
「たいした情報が無くて悪かったな」
「いや・・・感謝する」

たぶん・・・いや、きっと。
確信していた。
全滅したパーティーの中におそらく、ジェシカの大切な誰かがいたんだろう。

ただ、それがどんな意味を持つか。
それはわからなかった。

今、俺にできることは、彼女の依頼を果たすことだけか。
そう思い、俺も体を休めることにした。

79歌う花 11/16:2004/07/24(土) 15:12 ID:YdbxuRZs
明け方。
荷物を手早くまとめ、出立する。
「ジェシカさん、チョコボには?」
チョコボに乗れれば、多少は早く目的につけるだろう。
だが、チョコボも乗るためにはそれなりに訓練がいる。
帰ってきた答えは予想通りだった。
「乗れません」
「では歩きで。暑いから、きついときはすぐに言ってください。
 無理は禁物です」
「ええ」

わぷっ。
思っていたよりも風は強かった。
やれやれと思いながら、前へと進む。
砂漠には道らしい道はないが、それでも基本的なルートというやつが存在
する。
その道を見失わないよう、慎重に足を進める。

目的地である東アルテパ砂漠のオアシスにたどり着く頃には、日は中天に
あり、俺とジェシカは砂まみれになっていた。

「到着です」

小さな湖と、ガードが詰めている宿営用の簡素な建物があるだけのオアシス。
ラバオと比べるとその小ささに、ジェシカは驚いたようだった。
「ここが?」
「そうです。目的地のオアシスですよ」
むだな努力と知りつつ服の砂を払い落とす。
「そうですか、ここが・・・」
そう呟くと黙って、湖を見つめるジェシカをみやる。
ジュノを出るときにはおろしたてだった旅装は、すでにぼろぼろだった。
「これから、どうします?」
「え?」
俺の質問が意外だったらしい、びっくりしたように聞き返す。
「いや、何か目的があるからここまで来たんでしょう?
 俺は帰りまで含めて護衛ですから、手伝えることがあれば手伝いますよ」
初めはきょとんとしていたジェシカは、やがておずおずと一つの願いを俺に
告げた。
「あの。一晩ここで過ごしたいんです。
そして・・・夜に鎮魂歌を歌ってもらえますか?」
鎮魂歌・・・やはり、と思うが顔には出さない。もちろん口にも。
「わかりました。では、少し宿営地で休憩させてもらいましょう」

80歌う花 12/16:2004/07/24(土) 15:12 ID:YdbxuRZs
いくら護衛がいるとは言え、戦闘もあり得るところに冒険者でもないお嬢
さんがと、ガードはぶちぶち言っていたが、なんだかんだで丁寧に面倒を
見てくれた。

緩やかに暮れていく、砂漠。
このまま何事も無く、歌って俺の仕事は終わりだと思っていた。

・・・甘かった。

ぽろん。ぽろん。
一番得意な楽器である、竪琴で鎮魂歌を爪弾く。
呪歌・・・ではなく、単純な鎮魂歌。ただ、魂の安寧を願い歌う。

「私の大事な人はあなたと同じ戦闘詩人でした」
旋律に紛れて、聞き落としそうな位小さな声で、ジェシカが告げた。
顔を上げて、そっと続きを促す。
手は止めない。鎮魂歌を望んだのは彼女だから、そして曲をやめることを
望んではいないように思えたから。
「帰ってくるって、言っていたのに・・・」
眼を伏せる。
「連絡が取れなくなった私に、届いたのは一通の手紙でした。
 それには・・・彼の所属するパーティーが・・・」
嗚咽が混じる。
気になって演奏の手を止めた俺に、彼女はそっと手を挙げて続けるように
示す。
「彼のパーティは、ここで全滅したそうです」
出発間際に気になった、瞳に宿る絶望はそのことだったんだろうか

ぽろん。ぽろん。

竪琴の音に、嗚咽の音が混じる。
・・・はっきり言って、こういう空気は苦手だ。
困り切って、竪琴に眼を落とし、鎮魂歌の演奏を続けた。

そのことに気がつけたのは、運が良かったのか、それとも「彼女の大事な人」
とやらのお導きだったのか。

嫌な予感がしてふと顔を上げると、ジェシカが短剣で自分の胸を突き刺そう
としているところが目に入った。
とっさに楽器を放り出し、その両手をつかむ。

81歌う花 13/16:2004/07/24(土) 15:14 ID:YdbxuRZs
「なにやってる!」
ぎりぎり間に合った。いくら俺が詩人・・・腕力も体力も半端だとはいえ、
さすがに冒険者でもないお嬢さんにひけは取らない。
両手をしっかりと押さえれば、それ以上彼女は腕を動かすことができない。
がっちり押さえられた両手から逃れようと、じたばたと暴れる。
「はなして、ほっといてください」
「この状況で、ほっとけるわけがないだろう!」
言葉遣いが素に・・・ぶっきらぼうと言われる口調に戻っていたが、気に
する余裕もない。
何でいきなり・・・。
「あなたに何がわかるって言うんですか!」
わかる・・・とは言わない、言えない。だが、放っておく訳にもいかない。
「置いて行かれたのに。私は置いて行かれたのに!」
だから、後追いするってか・・・冗談じゃねぇ。
「やっかましい!俺はあんたの護衛を請け負ったんだ。街に戻るまであんた
を守るのが俺の仕事だ。何で自分で自分のこと傷つけようとするんだ」
はっきり言って切れていた、と思う。少なくとも依頼人に取って良い態度じゃ
無かった。ただ、相手もそのことを気にする余裕は無かったようだ。
「何もできないならほっといてよ。私はあの人と一緒に行くんだから!」
この、行くってのは・・・やっぱそうだよなぁ。
早めに気をつけておくべきだった。・・・あんな思い詰めた眼をしていたのに。
気付かないフリをした、俺のミスだ。
「ったく、本当にそいつがそんなこと望んでるのか?」
それはない。絶対に違う。だから、声に力が入った。
「ちがうだろうが!」
「あなたに何がわかるのよ・・・」
泣き顔のジェシカ。わかる・・・とは言い切れない。状況は違う。
でも、大切な者を失いたった一人生き残ることのつらさはわかるつもりだ。
「大事な人失って自暴自棄になるのはわかる。でも、あんたの大事な人は
それを望んじゃいない・・・俺はそう思うぞ」
少なくとも。生き残った者がそう信じなくちゃあまりにも切ないではないか。

一陣の風。

運んできたのは、かすかな歌声。
はっとして動きを止める。同じように、ジェシカも固まっている。
その口からこぼれた言葉に、それが聞こえたのが自分だけではないと知る。
「うた?」
歌声だ。そして・・・
「・・・だな。呪歌・・・じゃないな」

82歌う花 14/16:2004/07/24(土) 15:14 ID:YdbxuRZs
毒気が抜かれたようにジェシカの手から短剣かこぼれ落ちる。
素早く受け止めると、俺はそれを自分の荷物の中にしまった。
武器がなければ早まることもできないだろう。とりあえずは。

そっとあたりを見回す。

ちょうどラバオで聞いたところ。
全滅してしまったパーティーの亡骸が埋められた場所。
そこに花が咲いていた。

風に揺れながら、風の音に合わせて聞こえる歌声。

信じ難いことだった。
けれど目の前で起きている事実を否定することはできない。
否定する必要もない。

「これ・・・」

歌っているのは花だった。
オアシスのはずれ、小さな水辺に咲き誇る、小さな花。
風に揺られ、嬲られながら、それでも花は必死に歌っていた。

命を言祝ぐ歌を。

圧倒される、命の歌。
こぼれていたのは、言葉にするとひどくつたない感想だった。
「この人はあんたに生きていてほしかったんだな」
きっと、生きていてほしかった。
自分が帰れないってなったら、彼女がこうなってしまうことに気がついて
いたのだろう。
「だから、たぶんこの歌を残した」
志半ばで散った生き物は、大抵の場合闇に捕らわれて、アンデッドとなって
しまう。
だが、彼はそうならなかった。
ただ、自分の思いを伝えるために、歌を遺した。この小さな花に。
そして、俺は一つ彼女に伝えなければいけない言葉があることを思い出した。
「何で俺にだけ聞こえたのかはわからん」
本当にわからん。
「だが、ずっと俺には聞こえてたよ」
砂漠に入ってからずっと聞こえていた言葉。それはオアシスに近づくにつれ、
どんどん強くなっていた。

83歌う花 15/16:2004/07/24(土) 15:15 ID:YdbxuRZs
その言葉を口に乗せる。
「かえりたい、君のところへかえりたい・・・ってな」
「うそ」
「こんなことで、うそ言って何になる」

少女の目に涙がたまる。
どうしたら良いかわからず、立ちすくむ。

その沈黙をうち破るように強く強く、風が吹く。
満開に咲き乱れる、その花が風に揺さぶられ、散ってゆく。

その風に紛れて聞こえた、柔らかな歌声。

それを表すべき言葉を、俺は知らない。

花が散った後には小さな種が残されていた。
そっとその種に手を伸ばす。
種からはささやくような、小さなハミングが聞こえていた。

「これは、あんたが持って帰るべきだろう。あんたに遺されたものだろうから」

拾った種を丁寧に布にくるみ、少女に手渡す。
小さな布の包みをぎゅっと抱きしめる彼女にかける言葉を見つけることは
できなかった。

そっと空を仰ぐ。

こんな時にかける言葉を見つけられない。
いくら冒険者として、名を上げても、俺は詩人としてはまだまだみたいですよ。
ルーウェンハートさん・・・。

包みを抱きしめたまま泣きじゃくる少女に目を戻す。
気が済むまで泣かせてあげよう。
俺にできることはそれだけだから。
そう思った。

行きの道を逆にたどり、少女を街に送り届ける。
気が済むまで泣いたからだろう、目は真っ赤にはれていた。
だが、出かける前のような深い絶望は、もうその瞳には宿っていなかった。

84歌う花 16/16:2004/07/24(土) 15:16 ID:YdbxuRZs
街に着いた俺は、残りの報酬を受け取ると、別れを告げて踵を返した。
その背中に、枯れかけた声で、ジェシカが声をかけてくる。
「まって・・・、
これ、あなたに差し上げます。私が持っていても役には立たないから」
渡されたのは呪歌が刻まれたスクロール。
おそらく少女の恋人であった詩人が持っていたものだろう。
「良いのか?」
「あなたのおかげで私は彼の思いを・・・最後の願いを知ることができました。
 そのお礼です。きっと彼もあなたに渡すのなら納得してくれる」
小さな声。ずっと考え込んでいたのだろうか。
「形見の品になるだろう?」
気持ちはありがたいが、受け取る訳にもいかない気がしてそう答える。
「彼の形見はもう持っています。あなたが見つけてくれました」
意外な答えを受け取った気がした。
そして、ほほえみながらどうぞと差し出してくるそれを見つめる。
これ以上断るのも失礼かもしれない。
「わかった。ありがとう」

改めて別れを告げる。
今後会うことがあるかはわからない。
けれど、そのときは、この歌を披露すべきだろうな。そんなことを思う。
そして、どうかそのときは笑っていますように、とも。

こんなことを思っているとシアに知られたら、笑われてしまうだろうか。

俺は、ことの顛末を報告するために下層の酒場に足を向けた。
この話を聞いたシアがどんな顔をするのか。
それを少し楽しみにしながら。



恋人を失ったという、その少女が大切に育てている花は、満月の晩だけ歌を歌う。
その歌は、優しく穏やかで、聞いているものに幸福を運ぶという。

それは、愛しき人を恋うる歌。

少し後、街でそんな噂を聞いた。
歌う花の噂を。

<fin>

85(・ω・):2004/07/24(土) 15:17 ID:YdbxuRZs
少し長めの短編です。
お楽しみいただけたらうれしいです。

86 (・ω・):2004/07/25(日) 09:45 ID:HAC3/vpc
>>69 イイ( ̄▽ ̄)b

丁寧な文章で読み終わった後、すっごく清々しくなりました。

レイルたんの他の冒険も読みたくなっちゃた('-'*)

87(・ω・):2004/07/25(日) 18:07 ID:zjrUC6SI
サイレントソング


「判決、右手を切断する。」
厳粛な裁判が幕を閉じた。
慌しく帰る陪審員と、傍聴人たち。
一人のヒュームの青年が、裁判長席を生気の宿っていない目で見つめていた。
対峙した、賢老のエルヴァーンは、冷たい目で青年を見下していた。

−声をなくした吟遊詩人−

昼下がりの午後、青年は何時も南サンドリアにあるレストランで歌を歌っている。
時には可憐な少女のように、時には畏怖する雷鳴のように、青年は愛を歌い、勇気を謳い、
そして、一つの物語を紡ぎ出してゆく。

「お疲れさん。」
最後の一曲が終わり喝采の拍手の中、舞台を降りてカウンターへ座った青年に、
その奥でグラスを磨いていた中年のエルヴァーンが、ヤグードドリンクの注がれたグラスを手渡す。
「いただきます。」
すこし微笑みグラスを受け取ると、少しだけ口に含み香りを楽しんでから飲み込んだ。
まだ歌の余韻が漂い、客の人たちは、あの歌はこうだ、どの歌はああだと、
一つ一つ自分たちの好きな歌について語り合っている様子。
「フォルカー君、君がうちで歌ってくれるようになってから、店も繁盛しっぱなしだ。
 どうかな、うちの専属の詩人になってくれないか?給与も今以上に上げられるんだが。」
詩人にとって、一つの店で専属として雇われることは、一つのステータスとなっている。
とくに大きな店に雇われる詩人は、その実力を認められた証拠でもあるのだった。
この『獅子の泉』亭はサンドリアでも最も大きなレストランであり、
その内部には巨大な舞台も設置されている。
好条件の中、断る理由も無いはずだったのだが、フォルカーと呼ばれた青年は困ったような表情を示している。
「・・・せっかくだけど遠慮させてください。」
フォルカーの答えに中年のエルヴァーンは、呆れた様な微笑みをフォルカーに返し、そしてまたグラスを磨き始めた。

88(・ω・):2004/07/25(日) 18:08 ID:zjrUC6SI
「なんで店長の誘いを断ったの?良い話じゃない。お給料も上がるんだし。」
フォルカーは、獅子の泉亭でウェイトレスをしている女性が仕事を終えるのを待ち、
一緒に居住区にある家までの道のりを歩いていた。
「クッシュ、僕は吟遊詩人でもあり冒険者でもあるんだ。またいつか流れる。」
クッシュと呼ばれた女性は、サンドリアでは珍しいヒュームだったため、同じ種族であり、
同じ職場で働くフォルカーに親しみを持っていた。
そのためだろう。二人は行動を共にすることが多くなっていたようだ。
二人とも休みが取れた日などは、よくラテーヌ高原までピクニックに出かけたりもしていた。
「そっか、旅に出ちゃうんだね。もう戻ってこないのね。」
「そんなことないよ。いつかまたサンドリアにも戻っていくる。でも、そろそろ木々の葉が萌える季節も終わる。
 一つの季節の間、一つの場所に留まるなんて初めてのことだよ。そろそろ旅立ちの時期かもしれない。」
昼間には肌を焦がすほどだった太陽の光も、夕暮れと共に優しい光へと変わっていった。
そして、その滑らかな波長の光は、木々から伸びる影の間に佇む二人を優しく包む。
クッシュの左手につけられた、フォルカーからプレゼントされた銀製のブレスレッドが仄かに光を反射させ、
赤く熱された様に輝いていた。
空を飛ぶ鳥たちは群を成し、今夜の泊まり木を捜して彷徨う。
「北から吹く風は、この季節でも寒いよ。さあ、家に帰ろう。」
手を取り合い、二人は歩き出す。
夏だと言うのに、サンドリアの地には山々から冷たい風が吹き降す。
その先には、呪われた北の大地が広がっているためだろうか。
大きく立派な屋敷の門の前に着くと、二人の手は自然に離る。
「それじゃ、僕はレンタルハウスに帰るよ。」
「うん・・・また明日・・・・。」
しばしの間、見つめあい、そしてフォルカーは振り向き、我が家へと歩き出した。
「・・・行かないでよ。」
フォルカーの背中越しに、その声が冷たい風にのって彼の耳に届く。
驚いて振り返ると、門の奥へと消えていく彼女の後ろ姿が見えた。

89(・ω・):2004/07/25(日) 18:08 ID:zjrUC6SI
次の日の昼まで寝ていたフォルカーは、日が丁度空の天辺になる頃に獅子の泉亭へと足を運ぶ。
12時から3時までの間、その舞台で歌うのが彼の仕事だった。
「あれ。クッシュは、まだ来てないんですか?」
フォルカーが獅子の泉亭の店長に尋ねた。
いつもなら、料理の下ごしらえを手伝うためにフォルカーよりも早く店に来ているはずのクッシュが、
今日に限ってまだ来ていない。
「ああ、彼女なら急用とかで休みたいと言って帰ってったよ。彼女は働き者だからね。居ないと仕事が三倍になっちまう。」
店長は、苦笑しながらフォルカーにそう告る。
クッシュの不在に一瞬の戸惑いを見せたフォルカーだが、歌の時間になり、客が彼の歌を聴くために店に雪崩れ込んでくると、
舞台に上がり、彼女への不安を忘れたかの様に、清らかに、時に猛々しく詩を歌い上げた。
詩の架橋を迎えると、観客たちは歓喜の声を上げ、時には悲しみの涙を流し、そして心を和ませてゆく。
フォルカーは、不器用ともいえるほどストレートに感情を詩に反映させて歌う。
それが、観客たちの心を振るわせる。
そしていくつかの冒険譚、喜劇、悲劇を歌い終えると、フォルカーは大きくお辞儀をし、拍手に包まれながら舞台を降りて行く。
「お疲れさん。」
いつもの様にカウンターに座ったフォルカーに、店長はヤグードドリンクの注がれたグラスを手渡す。
「・・・今日は、もう帰ります。」
「まあ、クッシュもいないし待つ必要もないか。」
出された酒に手をつけず、フォルカーは、まだ詩の余韻と多くの客を残した店を後にした。
空には、まだ暑い夏の日ざしが差し込る。
いつもは、忙しそうに接客をこなすクッシュを見て楽しそうに微笑んでいる時間のはずが、
フォルカーは思わぬ暇を持て余してしまった。
だからといって、何もすることの無いフォルカーの足は、街の喧騒に誘われ、無意識の内に足は競売の方を向いて行く。
賑わいを見せる城門前の競売前、することも無く冒険者たちの開くバザーを見て周り、暇をつぶしていたときだった。
「おい、また駆け出しの冒険者が死体で見つかったみたいだ。」
「・・・最近オークの行動も活発になってきたからな・・・おい、あの担架がそうか?」
気になり、フォルカーはちらりとその方向を向いてみた。
2人の王立騎士団が担架の両端を持って運んでいた。
上にあるはずの死体には、部分的に赤い染みののある大きな白い布が全身を隠す為にかけられていた。
ゆっくり揺れる担架から、静かに左手がこぼれた。
いつも握る左手。
銀製のブレスレットが全てを焼き尽くす様な日差しを浴びて輝く。
絶望は、彼から時を奪った。
誰も居ない真っ暗な城門の前に、ただ一人立ち尽くすフォルカーがいた。

その日から、フォルカーは歌い続けた。
サンドリアの空の下、誰もがクッシュを忘れないよう、彼女の詩を創り歌い続けた。
朝も昼も夜も、時を無くしたフォルカーには関係が無かった。
休むことを忘れ、ひたすら声を響かせる。
常に流す涙は、悲痛を訴え続けているかのようだ。
一週間がたった頃、フォルカーは声をなくした。
血を吐いて、南サンドリアにある噴水の前に倒れていたフォルカーは、診療所で目を覚ますと、
クッシュの存在を示すための声を失っっていた。

続く

90(・ω・):2004/07/25(日) 18:14 ID:zjrUC6SI
前編です。

当作品の主人公フォルカーは、ミスリル銃士のフォルカーとは全く関係ありません。

91Scrapper:2004/07/26(月) 10:36 ID:FfXeOsuE
毎度ありがとうございます.
今回ちょっと短いですが,続きをアップしました.
例によって,バスランク6になる時点までのネタバレが含まれています.
おまけに今回は結構直接的に書いてしまっていますので,ご注意を.
http://www.geocities.co.jp/Bookend-Ango/5451/

スカイリッパーのお話は,これで一応お終いと言う事になります.
力不足で独白が多くなってしまいましたが…orz

商業区でスタートした人なら最初に出会うNPCのガルカ冒険者.
私達PCはランク3の時点で彼に追いつき,そしてすぐに追い越していってしまうわけです.
(勿論,クエストやAF関連では関わってきますが)
もし彼がPCが直面した事実を知ったらならどう思うか,その思い付きがスカイリッパーのモデルとなりました.
私はそうではないのですが,ガルカをメインキャラとして選んだ人達はあのストーリーどう感じていたのでしょうか.

読みきりの新作も増えて嬉しい限りです.
書き手の方も読み手の方も頑張ってくださいね.

92(・ω・):2004/07/27(火) 13:48 ID:0Ruk5ho.
ビューティフルデイズいいな・・・遅レスだけど。

93風の通る道:2004/07/28(水) 18:54 ID:f41C2iwQ
「やめとけよ。君には殺せない」
暗闇の中で影が凍りついたように止まった。
その手には抜き身の剣。
振り返った影は、一足飛びで俺の目の前に移動し、得物を薙いだ!


〜第12話、光と影と〜


「何故、避けない!」
そう言った声は震えていた。
剣は俺の首から数ミリのところで止まっている。
「言っただろ?君には殺せない」

へなへなと影が力なく崩れる。
こんな騒ぎにも起きない3人は、恐らくスリプルで眠らされているのだろう。

----------------------------------------------------------------------

温かいサンドリアティーがのどをうるおす。
彼がいれてくれた飲み物を二口飲んだ頃、あたしは十分に落ち着きを取り戻していた。

「トリスタンとはどんな関係だ?」
突然の問いかけ。
まさかそんな質問が飛んでくるとは予想していなかったから、多分あたしの顔はすごく驚いていたと思う。
「何でもお見通しね。いつわかったの?」

「サンドリアである暗黒騎士に襲われた。この前のクゥダフのセルビナ襲撃、あれはやつが起こした事態だ」
手に持ったカップの中を見つめながら話を聞く。
「君は、砂丘にクゥダフが来るのを知っていただろ?クゥダフ来襲の報告より、それによって死者が出た事に驚いていたからな」
そう、その通り。やっぱり何でもお見通しなんだ・・・
「なぜ、私があの子達を殺せないと?」
「簡単さ。今まで殺さなかっただろ?」
目の奥からあふれてきた涙を止める事が、あたしには出来なかった。



「彼は、恋人よ」
「嘘だな」

間髪入れずに切り返された。
「失礼ね!・・・でもそのとおりよ」
「悪いが君の嘘はすぐに分かる」

まさかそんな事は無いだろうと思いつつ、結局いつかは分かる事実。
あたしは全てを正直に話す覚悟をした。

94風の通る道:2004/07/28(水) 18:57 ID:f41C2iwQ
ジュノにやっとの思いでたどり着き、無事を祝いつつ別れ、あたしは依頼主のところにアーリマンの涙を届けた後、競売に向かった。
冒険者は、よく目的もなく競売を覗く事があるんだけど、そのときも競売の前で彼の姿を見かけ、何の疑問もなく声をかけた。
酒場で一緒に食事をし、そこで初めて自己紹介。彼はトリスタンと名乗った。それ以外は何も話そうとはしなかったけど・・・
ただ、なんとなく悲しそうな真っ黒な瞳が、なんだか放っておけないような印象をあたしに与えた。

食事を終え、別れた後に彼は何故か宿屋の方へ歩こうとした。
呼び止めて、何故レンタルハウスへ行かないのか聞いてみたけど、「答えられない」の一点張り。
お金がかかるだろうから家に泊まりなさいよ。あたし酔ってたのかなぁ?
まあ、結局彼を無理やりハウスまで引っ張って泊めたんだけど・・・
あ、何も無かったわよ?ほんとに。

結局彼はあたしの家に居ついちゃった。
彼は紳士だったし、あたしも友達を泊めているような感覚で、別に抵抗とかはなかった。
冗談混じりに「夫婦みたいだね」って言ったこともあったけど、笑って誤魔化されたな・・・
漠然とそうなったら良いかななんて思ってて、あたしバカみたいってちょっと自嘲したんだけど。

何も言わずに2、3日家を空けて、突然帰ってくるような事もあったけど、最初はともかく、そのうち気にならないようになってきた。
ただ、突然暗黒騎士のアーティファクト・・・とちょっと違うんだけど、そんな鎧を着て帰ってきたときは流石に驚いた。
何も聞かなかったけど、今思えばあのときにちゃんと話し合っておけばよかったのかもしれない。

その頃から彼の様子が少しずつ変わっていった。
普段はいつもの彼だったんだけど、時々ゾッとするような冷たい目をしていた。

95風の通る道:2004/07/28(水) 18:58 ID:f41C2iwQ
ある日、なんだか気になって彼の経歴を調べに大使館へ行ってみた。
国籍も知らなかったから苦労すると思っていたんだけど、意外とあっさりと彼の過去は見つかった。
驚いたのはその輝かしいと呼べるほどの実績。あたしもそこそこ実力には自信があるんだけど、なんていうか、あたしなんかが親しくするような人じゃない、
そう、雲の上の存在と言えるほどの実力者。
ただ、
彼は戸籍上死んでいた・・・

何らかの理由で、死亡が誤報されていたのか、それとも偶然同名の人物を探し当てたのか、それは分からなかったけど、なんだか触れてはならないような気がして、彼に問うのはやめておいた。



ある日、突然彼が話を切り出した。
彼から話すことは今までなかったから、あたしも少し嬉しかったんだけど・・・
「俺はある男を殺す。今まで世話になった。君を巻き込みたくないから、俺には今後関わらないで欲しい」
なんだか今までの腑に落ちない点が繋がった気がした。
なにが?って言われると困るんだけど、漠然と、彼のあの冷たい目や、死亡と誤報告されても訂正しなかった事。
全てはこのためだったみたい・・・
「これからバルクルム砂丘である事件が起こる。それが起きるまでその周辺には近づかないで欲しい」

知っての通り、あたしはセルビナへ向かった。
なんだろ。彼がこれほどまでに恨む人物を見ておきたい、そして彼の手を汚すぐらいならあたしが・・・
バカだよね。でも本当にそう思った。

セルビナであの4人と再会したのは本当に偶然。
この熱波なら、ターゲットもまさか砂丘に出ないだろうと、今の一瞬を楽しむ事にした。
一連の事を済ませたら、監獄入りも覚悟してたから・・・
今度あの4人に会えたら渡そうと思っていたものを渡して、最後の晩餐・・・じゃないけれど、あたしはこの瞬間を楽しんだ。
ただ、心残りは彼に気持ちを伝えられなかったこと・・・

96風の通る道:2004/07/28(水) 18:59 ID:f41C2iwQ
突然それは起こった。
砂丘にクゥダフの来襲。
彼の仕業だ。一瞬でピンと来た。どうやったかは分からないけど・・・
そして、アルヴァがあの伝説の冒険者のひとり、「ゼファー」だと知ったときは、本当に驚いた。
なんか、ハゲとかヒゲを想像してたから・・・
そして、その瞬間、あたしは最悪の予想をしていた。いや、確信だった。
そう、彼のターゲットはこのアルヴァ。
多くの犠牲を払ってでも倒さなければならない相手・・・

でも、関係の無い人は助けたい。だからあたしも参戦した。
途中で混乱に乗じて彼にバイオをかけるも、彼は窮地を乗り越え、生き残った。
やっぱり天運っていうのも、その人の実力を計る上で重要な要素なんだろうか?
ただ、確かな事は、アルヴァが生き残って、あたしは心底嬉しいと思ったこと。

トリスタンとアルヴァ。どんな因縁があるかはわからない。
でも、両方とも死なずに、無事に事を解決する事はできないのだろうか?


あの事件のあと、彼からあたしに連絡が入った。
「何故あそこにいた!何故奴と一緒に居る!?関わるなと言ったはずだ!」
珍しく激昂している。仕方ない。言いつけを守らなかったのはあたしだ。
「あなたが恨む相手を見ておきたかったのよ。それに可能なら手伝いたい」
少し前まで思っていた事を口にする。今の気持ちは全く逆なのに・・・

「・・・わかった。君にも手伝ってもらおう」
すごく冷たい声だった。
「あいつと一緒に居る3人。そいつらを殺してくれ」

一瞬頭が真っ白になった。殺す?誰を?
「あいつら3人は今後脅威となる。頼んだぞ」
それっきり彼からの連絡は無い。

97(・ω・):2004/07/28(水) 19:00 ID:f41C2iwQ
突然アルヴァがサンドリアに帰ると言った。
近しい仲間の葬儀があるそうだ。
不幸に付け入るのは良心が痛むけど、これはチャンスだった。


・・・出来なかった。
バストゥークまでの道のりで1度野営したけど、あたしには出来なかった。
流石にバストゥーク内で事を起こすわけにもいかず、大丈夫、まだチャンスはあると自分に言い聞かせ、普段どおりに振舞った。
3人は無邪気だった。あたしは泣きそうになりながらも、何とか平静を装っていた。

バストゥークを出発し、もう一度コンシュタットに向けて同じ道を逆に歩く。
途中、一度のキャンプ。
あたしの見張りの番に、3人にスリプルをかける。これで多少の事では起きないはず。
でも、決心がつかない。
剣を持ってしゃがみこんでいると、突然クゥダフに襲われた。
とは言っても、この辺りのクゥダフでは練習相手にもならない。
一瞬で切り伏せたあと、あたしは激しい自己嫌悪と共にゲオルグさんを起こして、眠りについた。いや、寝たふりをした・・・


剣を抜いて早1時間以上テントの中で立っている。
この剣を振り下ろせばいい。ただそれだけなのに、あたしの体はまるで石になったように動かなかった。
目を瞑る。何故この子たちを殺さなければならないのだろう?
彼のため?
そう、彼の頼みだ。
でも、この子たちを殺して何が得られる?
あたしは彼に嫌われたくないだけじゃないのか?
そのために、ただの自己満足のために、罪の無い人を手にかけるのか・・・?
考えたくない。そう、何も考えずに剣を振り下ろせば良い。それだけ、たったそれだけなのに・・・!


「やめとけよ。君には殺せない」
聞き覚えのある声。見られた!
殺さなきゃ!何故かそう思った。
振り返り、一足飛びで彼の目の前に移動し、剣を薙ぐ!

「何故、避けない!」
そう言った声は震えていた。
まったく動く素振りを見せない彼の首から数ミリのところで、あたしの剣は止まった。
「言っただろ?君には殺せない」

ああ、あたしは止めて欲しかったんだ。
彼のためでも、あたしのためでも、あたしにはこの子たちは殺せない。
どれだけ自分に言い聞かせても、どれだけ強がっても曲げられない事実。
あたしにはこの子たちを殺すことはできないんだ・・・!
そう思った瞬間、体中から力が抜け、一気に涙があふれてきた。

98風の通る道:2004/07/28(水) 19:01 ID:f41C2iwQ
----------------------------------------------------------------------

泣きながらも、途切れ途切れになりながらも話した事に、嘘は無いだろう。
幸運なのは、彼女が悪人でなかったことだ。
アシュペルジュは、砂丘の件について調べると言っていた。
トリスタンは、力試しに殺したような事を言ったが、恐らくアシュペルジュは、クゥダフ来襲の首謀者に近づいたために殺されたのだろう。
あいつは不必要な事は極力しない主義だ。
だが、砂丘で多くの犠牲が出たのも事実。あれは必要なことだったのか?
俺は未だ泣くパーシヴァルに、更に鞭を打つ言葉を投げかけなければならなかった。

「俺はトリスタンを殺す」
彼女は静かに言葉を聞いていた。
「理由はどうあれ、あいつは多くの人を殺めた。それに、俺もまだ死ぬわけにはいかないからな。争わなくてすむ方法があれば良いが、そうも言えないだろう」
俺が全てを奪った。あいつはそう言った。もし、”あれ”がその事を指すなら、確かに俺は償いをしなければならない。
だが、闇に落ちたあいつを救えるのも俺だけ。そう、俺があいつを解放しなければならない。

「あたしに、あなたたちを止める事はできないのね・・・」
パーシヴァルが消え入りそうな声で呟く。
「あなたとトリスタン。二人の間に何があったの?それが知りたい」
「これは俺とあいつの問題だ。君には関係ない」
突き放すように言い放ったが、彼女には逆効果だったようだ。
「関係ない!?あたしは十分に関係者よ!あなたたちが戦う理由を知る権利があるわ!」
勝手に首を突っ込んだのは誰だと言いたかったが、どうも彼女の勢いに圧されてしまった。

「わかった。・・・が、長くなるぞ」


確かに彼女にも知る権利はあるだろう。
そう、イシェイルにその権利があったように。
俺は、パーシヴァルに、半年前のあの忌まわしい事件の全てを話すことにした。



つづく

99風の通る道:2004/07/28(水) 19:04 ID:f41C2iwQ
やっちゃったーーーー(つД`;)

また長いって怒られました。
不本意なところで切る羽目に・・・

タイトルに関しては、いろんな意味を含んでますので、各々お好きに想像してください。

それでは、また。

100(・ω・):2004/07/29(木) 23:40 ID:gA9IDbeY
行燈亭


夜空に星星が咲くころに、居住区の隅にある古びた小屋の提灯に火が灯される。
『行燈亭』
火の明かりが暗闇にこの文字を映し出す。
そして今日も、冒険から帰ってきた駆け出しで貧乏な冒険者達が、
火に群がる虫達の様に集まってきた。
今宵もよい夜が訪れますように。

−虚ろ神−

「へいらっしゃい。」
活気のある店の中へ入っていくと、店の主人の元気な挨拶が交わされた。
店の中にはカウンターがあり、その奥でガルカの主人が大急ぎで料理やらなにやらを作っている。
店のなかには、30人も入ればいっぱいになってしまうほどの広さしかなかったが、
それでもどんどんと人が集まり、今では40人ちかくが詰め込まれている。
「ほい、大将。これお土産。」
私はガルカの主人に、今日の船釣りの成果を手土産として渡した。
「いつもわりーな。すわってけよ。この魚料理くらいはご馳走してやる。」
最近ではこの店に来ることも少なくなっていた。
まだ駆け出しの頃は、よくこの店に集まって仲間たちと騒いだものだ。
仲間が一人死んだときは、ここの店で弔い酒を飲んで大泣きしたのを今でも覚えている。
しかし、今では一人前の冒険者。
活動の殆どはジュノで行なわれていた。
「ごっそーさん。ついでに焼酎も一本ね。っと言っても・・・・。」
私は辺りを見渡した。
若い冒険者がひしめき合って楽しそうに酒を喰らっている。
「さて、どうしたものか。」
私が尻尾をピョコピョコ動かして黄昏ていると、一人のヒュームの冒険者が私に話しかけてきた。
「おねーさん、そんなとこ突っ立ってないでこっちおいでよ。
 ここに来る奴ら、みんな色気なくて萎えてたんだ!」
そういえば、どこかへ冒険に行くつもりも無かったので、いつもの民族衣装で出歩いていた。
鎧でがちがちに着飾った駆け出しの冒険者の女の子に比べれば、これでも色気が出ているのだろう。
「わるいね坊主。もうすこし男前になったらおいで。」
ちぇっと言いながら座るヒュームを、隣にいたタルタルの女の子がひっぱたいていた。
「楽しそうだな・・・。」
つい口からこぼれた言葉が、大将に聞かれてしまったらしい。
ニヤニヤ笑いながら、大将が口を開いた。
「年取ったな。」
「まったくだ。そとに椅子があったろ。そこで夜風に当たってるよ。」
「ん。できたら持って行くよ。」


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