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涙たちの物語7 『旅の終わりは』

467名無しの話の作者:2004/12/20(月) 04:05 ID:At773luE
「トラさんといっしょにね、パンたべよー」
「甘くておいしいのー」
いくら話しかけても、エル白はタル獣を見てくれない。
青白い顔で、トラを見つめてる。
「エル白さ…」
伸ばした手が、服の裾に触れた瞬間。
「!」
エル白が、跳ね飛ぶように向きを変えた。
バサリ
袋が、落ちる。
パンが、転がる。
「あっ」
タル獣の、小さな、悲鳴のような声。
けど、エル白は振り向かない。
必死という言葉そのままに、
脱兎という表現そのものに、
町へと向かって走り去る。
止める隙も、声をかける隙もあたえずに。

立ちつくす、タル獣とトラ。
自分が失敗したのだと、トラは感じた。
誰もがタルタルたちと同じでは無いと、思い出した。
自分は獣なのだと、思い出した。
見下ろせば、小さな小さなタル獣。
「…」
なんと声を掛けようかと迷っていると、
クリン
振り向き、見上げてくるタル獣。
「おいしいパン買ってきたのー」
と、その顔には、満面の笑み。
「かえっていっしょに食べよーね」
散らばってしまったパンを拾い集めるタル獣。
「…」
困惑するトラ。
その背中へ
ヨイショヨイショ
と登るタル獣。
「かえろ、トラさん」
背中からタル獣の声。
「ええんか…」
問いに、返事はない。
脚を寝床の方へと向けるトラ。
はじめはゆっくりと。
徐々に歩速を上げる。
「トラさん」
「ん?」
「ぼくトラさん大好きだから。トラさんといるの好きだから…だから…」
タル獣の言葉は、だんだんと小さくなる。
「…ずっといてね…」

背中が温かい。
小さなタル獣の温かさが、黒毛を通して温かい。
背中が冷たい。
小さなタル獣の頬をつたうしずくが、黒毛に染みて冷たい。
「…」
だからトラは何も言えなかった。

−つづく−


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