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タブンネ刑務所14

1名無しさん:2017/05/06(土) 00:36:57 ID:v4JFFnrY0
ここはタブンネさんをいじめたり殺したりするスレです
ルールを守って楽しくタブンネをいじめましょう。

307カンムリ雪原のタブンネ 三つまたヶ原編:2020/12/20(日) 03:30:27 ID:T3kMW8xE0
「ミイイイィィィィィ!!!!!!ミヤアアアァァァァァ!!!!!」─ 嫌だぁ!!死にたくない!!死にたくないよぉ!! ─

先ほどのタブンネの姿を見ていた麻痺タブンネは半狂乱になりながら叫んでいた。
フーディンはそんなタブンネをサイコキネシスで宙に浮かせ、両手足を大の字に広げた状態で固定する。
首や手足を動かしなんとかサイコパワーの束縛から抜け出そうとするタブンネ。そんなタブンネの前後にフーディンは二枚のリフレクターを展開した。
リフレクターはタブンネの首から下、胴体部分を挟み込み徐々にプレスしていく。
ミシミシと骨が軋む音が聞こえ、苦しそうにもがくタブンネ。まだ多少自由の利く両腕でバンバンとリフレクターを叩くが割れる気配は無い。
やがて肺が圧迫され、呼吸が浅くなり始める。そしてバキッという音が鳴った後タブンネが口から血を吐き出した。
折れた肋骨が肺に刺さったのだ。まだ喉奥には血が溜まっている状態で、それでも酸素が必要なため血液ごと酸素を取り込もうとするタブンネ。

「ガハッ……ミ……ァ……」─ 助……け…… ─

死にゆくタブンネは光が失われつつある虚ろな目でリフレクターの操縦者であるフーディンに命を乞う。
その言葉を聞いたフーディンはタブンネを見つめフッと笑い、リフレクターでタブンネの胴体を圧砕した。
バン!というリフレクター同士が重なり合う音が鳴り、タブンネの体が肉の一片までぐちゃぐちゃに粉砕される。
タブンネの頭部は肉体から解放され、リフレクターからはみ出た血肉と共に地面へと落下した。
三匹いたタブンネの内二匹はトレーナーが従えるポケモン達の経験値となった。あとは残りの一匹からタブンネの多さについて調べるだけ。
しかしここはあられが降り注ぐ平原の真っただ中である。トレーナー自身の体温低下もそうだがポケモン達へ降り注ぐあられのダメージも心配だ。
トレーナーはひとまず生け捕りにしたタブンネを担ぎ、ジヘッド達と共に先ほどの遺跡へと引き返した。

308カンムリ雪原のタブンネ 三つまたヶ原編:2020/12/20(日) 03:31:14 ID:T3kMW8xE0
再び遺跡へとたどり着いたトレーナーはジヘッドとフーディンに傷薬を使いダメージを癒す。
その背後で生け捕りにしていたタブンネが意識を持ち直し始めた。
目覚めたら見知らぬ場所、目の前には恐ろしい人間とポケモン、自分は縛られて身動きが取れない。
微睡んでいた意識はすぐさま現実へと引き戻された。あまりに絶望的な状況を理解したタブンネは恐怖で身を竦ませ「ミッ…」と短い悲鳴を上げる。
その悲鳴でタブンネが目覚めたことに気付いたトレーナーはタブンネの方へと向き直り、フーディンと一緒にタブンネの元へ近づく。
カンムリ雪原に生息するタブンネ達は皆イッシュ地方でトレーナー達に虐げられてきたタブンネの子孫だ。
脈々と受け継がれる血筋と同時に口伝としてトレーナーの恐ろしさが語り継がれてきた。
初めて出会う恐ろしき伝承の存在。これから自分が味わう事象を想像すると恐怖で震えが止まらない。
タブンネがガチガチと歯を震わせながらトレーナー達を見上げていると、後ろで控えていたフーディンが前に出てきた。
フーディンは両手に持ったスプーンをかざし、さいみんじゅつをタブンネに向けて放つ。
一瞬強張ったタブンネだったが次第に意識が遠退いていき、寝息を立てて眠り始めた。

「タブンネは眠ったか……じゃあフーディン、ゆめくいでこいつの過去を遡って見てくれ」

トレーナーの指示を聞いたフーディンはタブンネへゆめくいを行い、タブンネの過去へとダイブしていった。

309カンムリ雪原のタブンネ 三つまたヶ原編:2020/12/20(日) 03:31:55 ID:T3kMW8xE0
タブンネという種族は頑丈な歯や武器を持たず、生存競争に置いては常に被捕食者としての立場を強制させられていた。
どこに居ても大型の肉食ポケモンの恐怖に晒され続ける日々。
そんな中、捕獲されたタブンネは海鳴りの洞窟に生息するバンギラスの群れと共に生活していた。
何故タブンネとバンギラスが共生しているのか、理由は三つある。
一つ目は回復要員として使用するため。
絶えず縄張り争いを繰り広げるバンギラス達はその分怪我をすることも多々あった。強敵との闘いで勝った後、手負いのままのバンギラスを放っておくポケモンは決して少なくない。
故に回復要員としてのタブンネを数匹確保しておこうと判断したのである。
二つ目はミストフィールドの展開要員として。
近隣の三つまたヶ原にはドラパルトやクリムガンといったドラゴンポケモンが生息している。
縄張り争いになった際それらを優位に撃退するために手元に控えているのである。
そして三つ目の理由は───

海鳴りの洞窟の一角で一匹の母タブンネが赤ちゃんタブンネへ授乳をしている。
母タブンネの周りには子供のタブンネが八匹存在していた。この八匹のタブンネ達は捕獲されたタブンネにとって妹や弟にあたり、彼女は長女ということになる。
母タブンネの近くで長女タブンネが弟の子タブンネをあやしていると、母タブンネの乳に突然痛みが走った。
「ミッ!」と声を上げた母タブンネは授乳をやめ赤ちゃんタブンネの口の中を確認する。口の中には数本の歯が生え始めていた。
赤ちゃんタブンネが母タブンネの乳を噛んでしまったのが痛みの原因だったのだ。
本来であれば喜ばしいはずの赤ちゃんタブンネの成長。しかしそれを見た母タブンネはさめざめとすすり泣き始めた。
長女タブンネはあやしていた赤ちゃんを置いて母タブンネに声をかける。

 ─ ママどうしたの?お腹痛いの? ─
 ─ 何でもないのよ、ごめんね急に泣き出して ─

母親は優しい長女タブンネを抱きしめ、頭を撫でた。
何でもない、そう口にする母タブンネだが触れている触覚からは悲しい気持ちが止めどなく流れ込んでくる。
母タブンネの悲しい気持ちに触れた長女タブンネも泣きそうになるが、それに気づいた母タブンネは長女タブンネを離した。

 ─ ママ、ちょっと行くところがあるからこの子と一緒に大人しくお留守番しててね ─

母タブンネは長女タブンネの頭を撫でながらそう告げると、抱えていた赤ちゃんタブンネを長女タブンネに預ける。
そして周囲にいた八匹の子タブンネを連れてその場を離れた。
きっと母タブンネの行く先に悲しみの原因があるはず。そう思った長女タブンネは赤ちゃんタブンネをその場に置いて母タブンネの後をこっそり付いていった。

310カンムリ雪原のタブンネ 三つまたヶ原編:2020/12/20(日) 03:32:33 ID:T3kMW8xE0
母タブンネが向かった先は海鳴りの洞窟にある小さな洞だった。
その中には母タブンネの他にも複数の子供を連れたタブンネが三匹ほど存在していた。その面持ちは皆一様に暗い。
洞の中で母タブンネ達が子供をあやしているとその場に緑色の巨大なポケモン、バンギラスが現れた。
岩陰に隠れて状況を見ていた長女タブンネは初めて見た恐ろしいポケモンに思わず悲鳴を上げそうになる。
しかし長女タブンネはすんでの所で悲鳴を飲み込む事に成功し、そのまま岩陰から状況を見守った。
バンギラスが現れた途端母タブンネ達はかしこまり、洞の中に居る子タブンネ達へこの場所に留まる様言い聞かせながら洞から出て行った。
子タブンネ達は母タブンネ達を不安そうな目で見つめる。そんな不安そうな子供達を他所にバンギラスは洞の中にいる子タブンネの数を数え始めた。
バンギラスの後ろで待機している母タブンネ達は顔面蒼白で今にも倒れてしまいそうだ。

 ─ 今回は全部で二十匹か……まぁ問題ねぇ。木の実はいつもの場所に置いてあるから持っていけ ─

バンギラスは子タブンネ達の数を数え終わると後ろの母タブンネ達にそう告げると、洞の近くに置いてあった岩を押して閉じようとする。
子タブンネ達は母の姿が見えなくなっていくことに不安を感じピィピィと鳴き始めた。
洞が閉じられようとしたその瞬間、出入口に近くに居た子タブンネが走りだし洞の外へと飛び出してきた。
先ほど長女タブンネがあやしていた弟タブンネだ。弟タブンネは泣きながら母の元へ向かう。
するとバンギラスは弟タブンネの耳をガッと掴み持ち上げた。タブンネにとって敏感な部分である耳を乱暴に掴まれた子タブンネは痛みで泣きながら暴れ狂う。

 ─ ちょうどいい、さっそく今日の分を頂くとするか ─

そう言うとバンギラスは大きな口を開けて子タブンネを飲み込んだ。
ざらざらとした舌の上に転がされたのも束の間、弟タブンネはバンギラスの歯で小さな足をすりつぶされてしまった。
バンギラスの口の中から「ピァァァァァァ!!!!!」という甲高い弟タブンネの断末魔が聞こえる。
母タブンネはついにたまらず耳を抑えその場に蹲ってしまった。隣にいたタブンネ達が母タブンネの背を摩り介抱する。
口の中で弟タブンネがたくさん苦しむ様に念入りに咀嚼するバンギラス。やがて弟タブンネの声が聞こえなくなるとペースト状になったそれをごくんと飲み込んだ。

これがタブンネ達と共生する三つ目の理由、食用である。
木の実さえ与え続ければその繁殖力で次々と数を増やしていく。バンギラスはその繁殖力に目を付けたのだ。
タブンネ達を子飼いにすることで食糧難を解決する。いわばポケモンによるポケモンの養殖である。

311カンムリ雪原のタブンネ 三つまたヶ原編:2020/12/20(日) 03:33:06 ID:T3kMW8xE0
先ほどの様子を見ていた長女タブンネは岩陰で声を押し殺し涙を流していた。
先ほどまで可愛がっていた大事な弟があの恐ろしい化け物に喰われてしまった。
恐ろしさ、くやしさ、悲しさ。様々な感情が長女タブンネの心を押し潰し、涙となって溢れ出る。
だけどこのままで終わらせてはいけない。弟タブンネの仇を討って他の弟妹達を解放しなければならない。
長女タブンネは岩陰から飛び出しその場を離れようとしているバンギラスの元へ駆け寄った。
母タブンネは留守番しているはずの長女タブンネが現れた事に驚愕する。バンギラスも突然の来訪者に対し振り向き対応する。
いざ近づいてみると恐ろしい程の巨大さだ。長女タブンネは折れそうになる心を奮い立たせ、精いっぱいの大声でバンギラスへ叫んだ。

 ─ 弟を……弟を返せぇ!!! ─

バンギラスは長女タブンネを見下ろした後、竦んでいた母タブンネの方へ目を向け「こいつはお前の娘か?」と問いただす。
母タブンネが震えながらこくりと頷くとバンギラスは大きく足音を立て、長女タブンネへ一歩踏みよった。
圧倒的なプレッシャーに長女タブンネは身じろぎ一つ取れず硬直する。
喉が渇き目じりにじわりと涙が浮かぶ。先ほど奮い立たせた心はバンギラスの圧倒的な圧によっていとも簡単に消し飛ばされてしまった。
長女タブンネの心を恐怖が覆っていく。怖い、怖い、怖い───
バンギラスが長女タブンネへと手を伸ばした瞬間、長女タブンネを庇う様に母タブンネが抱き着いた。

 ─ こ、この子は次の母体です! きちんと言い聞かせますのでどうかお見逃しください! ─

そう強く叫びながら母タブンネはきつく長女タブンネを抱きしめる。
震える母タブンネの胸部に当たった長女タブンネの触覚からは焦りや恐怖と言った感情が読み取れた。
母から流れ込んでくる感情の大きさ、それに気づいた長女タブンネは「ごめんなさい」と口にした。
その言葉が母か、バンギラスか、それとも救えなかった弟に対してなのかはわからないが少なくともこの場は収めることができたようだ。

 ─ きつく言い聞かせておけ ─

バンギラスは母タブンネにそう告げると足音を立てその場から去っていった。
九死に一生を得た母タブンネと長女タブンネはその場で抱き合いながら涙を流した。

312カンムリ雪原のタブンネ 三つまたヶ原編:2020/12/20(日) 03:33:46 ID:T3kMW8xE0
巣に戻った長女タブンネは母から事の経緯を聞いた。
海鳴りの洞窟に生息している全てのタブンネはバンギラスの管理下にある事。
一週間に一度子タブンネを食用として謙譲することで身の安全と生きていくために必要な糧を供給してもらえる事。
そして母タブンネの次に子タブンネを産む母体の役割を継ぐのは長女タブンネである事。
全てを聞いた時、長女タブンネの心には反抗心のようなものが芽生えていた。
母タブンネに対してではない。バンギラスの庇護下で食用として飼いならされ続けるシステム、それそのものに対する反抗心だ。
長女タブンネは母タブンネにその思いを告げる。きっと外にはタブンネだけでも安全に過ごせる場所があるはずだ、と。
その発言を聞いた母タブンネは観念したような顔をし、長女タブンネを巣とは別の場所へ案内した。

案内された先は海鳴りの洞窟と三つまたヶ原の境にある小さな洞窟だった。
その洞窟の奥へと進んでいる途中で開けた場所にでた。
そこには火を囲むような形で複数のタブンネ達が暖を取っており、突如現れた長女タブンネ達をじっと見つめている。
突如見知らぬタブンネ達に視線を向けられぎょっとして後ずさる長女タブンネ。
母タブンネはそんな長女タブンネに彼らがどういったタブンネ達なのか説明をし始めた。
長女タブンネと同じように、安全に過ごせる場所を求めるタブンネ達は他にもたくさんいた。
そう思ったタブンネ達はバンギラスから配給される木の実を配分し直し、通常よりも多く繁殖していたのだ。
通常よりも多く繁殖した後はそれぞれの役割の再編成だ。バンギラスの元で繁殖をする班と海鳴りの洞窟から遠征し安全な住処を探す班に分かれる。
ここにいるタブンネ達はその役割の後者。安寧を求めて探検を進めるタブンネ達なのだ。

 ─ 私達もね、ずっとバンギラスに飼いならされたままなのは嫌なのよ ─

一通り語り終えた母タブンネは長女タブンネにこう告げる。
長女タブンネはその話を聞いて気分が高揚していくのを感じた。
同じ思いを持つタブンネは他にも居たのだと。平和を求めて闘っていうタブンネ達が居たのだと。
長女タブンネは母タブンネに彼らと共に自分も外に出たいと告げる。母タブンネは少し悲しそうな顔をしたが、それを受け入れた。

313カンムリ雪原のタブンネ 三つまたヶ原編:2020/12/20(日) 03:34:19 ID:T3kMW8xE0
長女タブンネが遠征班へ加わった後、班をまとめているリーダータブンネから遠征に関する一通りの話を聞いた。
大型の肉食ポケモンから逃れられる可能性を少しでも上げるため視界の悪い吹雪の日に行動していること。
このカンムリ雪原では見た事はないが、人間を見かけたら直ちに撤退すること。
遠征を行う事で多くのタブンネ達が亡くなっており、常に死と隣り合わせで活動をしていること。
教育と戦闘訓練を受けた長女タブンネ。数か月後、成体となった長女タブンネにはしっかりと戦闘能力が備わっていた。

そしてついに吹雪の日がやってきた。長女タブンネにとって初めての遠征である。
同じく遠征が初めてのタブンネと、自分たちの教育係を務めてくれたベテランタブンネ。初めての遠征はこの3匹で執り行われる事となった。

 ─ 緊張してるか? ─

ベテランタブンネは長女タブンネともう一匹のタブンネに声をかける。
長女タブンネは「ミッ!」と元気よく返事をしたのに対し、もう一匹のタブンネは震え声で返事をする。
やる気はある。だが臆病な性格なため脅えが隠せず体が少し震えているのがわかった。
長女タブンネは臆病タブンネの背中をやさしく撫で、「一緒に頑張ろう」と鼓舞する。
その姿に少しだけ、臆病タブンネも勇気づけられたようだ。体の震えはいつの間にか止まっていた。
勿論、長女タブンネにも恐怖心がある。肉食ポケモンに捕食されたり極寒の海で溺れ死んだり、目を逸らせない真実の話をベテランタブンネから聞いていた。
だけど、それでも自分は外に出たい。外の世界で、誰に縛られることもなく安全に暮らしたい。
二度と自分の弟を見殺しになんてしたくない。
長女タブンネには恐怖心よりも大きな決意を希望が宿っていた。

 ─ 吹雪が強まってきた。そろそろ出発するぞ! ─

ベテランタブンネの号令が響き渡る。
視界は吹雪覆われ、一寸先の景色すら見えない。それでも遠征班たちはまるで恐れを知らないかの様に皆吹雪の中へと飛び出していった。
意思無き者が足を踏み入れれば瞬く間に白い闇に飲まれてしまいそうなその土地へと、長女タブンネは大きな決意を抱き一歩足を踏み出す。
その先に待つ絶望も知らずに───

314カンムリ雪原のタブンネ 三つまたヶ原編:2020/12/20(日) 03:35:24 ID:T3kMW8xE0
長女タブンネの記憶を読み終えたフーディンは、テレパシーを使って内容の一部始終をトレーナーへと伝えた。
ポケモンによるポケモンの養殖。トレーナーはバンギラスというポケモンに対し非常に大きな尊敬の念と感心を抱いた。
そしてもう一方の存在、タブンネにもトレーナーは感心を抱いていた。
タブンネを倒せばその分早く強くなれる。これは自分以外のトレーナー達も知っている話だ。
当初は与太話の類かと思っていたがそうではないというのは先ほどの戦闘で既に実証されている。
トレーナーは思案する。吹雪の日に活動するそのタブンネ達を一斉に倒せばジヘッドは、俺のポケモン達はもっと強くなれるのではないか、と。
ここにきて、トレーナーは伝説のポケモンよりも価値のある事実へとたどり着いたのだ。

一方、微睡みの中にいた長女タブンネは再び目を覚ます。
嫌な夢を見た、過去に自身の弟が目の前で捕食される夢だ。
ふと景色を見渡すとやはりそこは見知らぬ建造物の中。徐々に覚醒していく意識の中でふと長女タブンネは疑問を覚えた。
先ほど見たのは夢だったのか。
夢にしては嫌に実感の籠った、それこそ過去を追体験したかのような夢だ。
嫌な考えがよぎりじわりじわりと不安が心を蝕んでいく。
かつて母から聞いたことがあった。エスパータイプの中には寝ているポケモンの夢を食べる技を覚えるポケモンがいると。
自分たちの祖先にはエスパータイプのポケモンに虐待されていた過去を夢に見せられ、精神を破壊されてしまった事があると。
長女タブンネが顔を上げるとそこには不思議な力でスプーンをくるくると回すフーディンの姿がある。
フーディンはフッと笑みを浮かべると長女タブンネの脳内へと直接語り掛けた。

 ─ お前たちタブンネの遠征班は我々が有効活用させて貰う事にするよ、ご苦労だったな ─

先ほど見たのは夢ではなかった。夢を通して過去を、自分たちの知られてはいけない秘密を知られてしまったのだ。
長女タブンネは顔を青くさせる。止めなければ行けない。あの場所にだけは行かせてはいけない。
勢いよく立ち上がろうとしたが両腕を縄で縛られそのままうつ伏せに倒れ込んでしまう。
長女タブンネは顔を強打し鼻から血が出る。痛みを堪え顔を上げるとそこには紫色の不定形生物、メタモンがいた。
トレーナーはフーディンから長女タブンネの過去を見せてもらった後、携帯ボックスからメタモンを引き出していたのだ。
ゴマ粒のような瞳で長女タブンネを見つめるメタモン。数秒見つめ合った後メタモンはぐにゃぐにゃとその姿を変形させていった。
メタモンが変身したのは長女タブンネだった。メタモン特有の細部の変身が苦手な癖を克服し、傷や顔の特徴まで完全に一致させている。
自身と全く同じ姿をした存在。それが表す意味を長女タブンネは完全に理解してしまった。
あの洞窟にはもちろん面識のあるタブンネ達も残っている。同じ姿で、同じ声で、安全な場所があったと伝えられてしまったら───

315カンムリ雪原のタブンネ 三つまたヶ原編:2020/12/20(日) 03:36:20 ID:T3kMW8xE0

 「ミィ!!ミィィィ!!!」─ ダメ!!それだけは絶対にダメ!!! ─

何とか縄から抜けようともがく長女タブンネをよそ目にメタモンは軽い足取りで遺跡の外へと出て行った。
長女タブンネの目から涙が零れ落ちる。自分の不祥事とどう足掻いても変えられない事実に対し、罪悪感が胸を押し潰す。
だがもしここで諦めてしまったら、同胞たちの多くはあの残虐なトレーナー達の餌食になってしまうのだ。
折れそうな心を奮い立たせ、ゆっくりと這って行く長女タブンネ。
力では敵わないのなら話を聞いてもらおう。
私達タブンネはただ平和を望んでいるだけなのだと。敵対する意思はないのだと。
そうすればきっと見逃してくれるはず。心にわずかだが希望の火が灯る。そんな長女タブンネの行く手を黒い影が遮った。
ジヘッドだ。ジヘッドは這って動く長女タブンネを見下ろしニヤニヤと悪意の籠った笑みを浮かべている。
その背後からトレーナーがジヘッドに対して声をかけた。

「そいつももう用済みだから好きにしていいぞ」

希望は一瞬にして消し飛ばされた。長女タブンネの顔から表情が消える。
長女タブンネは知る由もないが、彼らは明確にタブンネに対して敵意を持ってここにやってきたのではない。
強くなるためにこの三つまたヶ原へ訪れたのだ。そこに現れたタブンネに対して掛ける情など元々ないのである。
トレーナーからの指示を聞いたジヘッドは、まず長女タブンネを拘束していた縄を喰い破り自由にした。
長女タブンネにはもはやジヘッドの行動理由を考えてる余裕などなかった。ただ逃げなければ行けないと必死だった。
恐怖により腰が抜けてしまいうまく立ち上がる事ができない。
それでも逃げるために四つん這いになり真っ直ぐに出口へと向かう。
突然長女タブンネの尻尾の付け根に激痛が走り、「ミィィッ!!!」と悲鳴を上げてしまう。
ジヘッドが尻尾へと喰らい付いていたのだ。ジヘッドは尻尾を起点に長女タブンネを遺跡の奥へとフルスイングした。
遺跡の最奥部にある伝説のポケモンをかたどった石造へ叩きつけられる長女タブンネ。
全身を強打し、辛うじて繋がっている尻尾の付け根からはどくどくと血が流れ出ている。
長女タブンネの体にはもはや痛みが無い場所など存在せず、心も体も既に限界へと達していた。

316カンムリ雪原のタブンネ 三つまたヶ原編:2020/12/20(日) 03:36:58 ID:T3kMW8xE0

 「ミィ……ミゥ……」─ 早く……逃げなきゃ…… ─

仰向けの状態でそう呟くが体が言うことを聞かない。
息をすることすら辛い状況でもはや長女タブンネに残された道はただ一つだけだった。
にじり寄ってきたジヘッドに対して長女タブンネはこう告げる。

 ─ お願いします……助けてください…… ─

長女タブンネが行ったのは命乞いだった。
死にたくない、その一心だった。
その言葉を聞いたジヘッドは、長女タブンネが想定していたのとは全く異なる反応を示した。
右側の頭部は心底愉快そうにゲラゲラと声を上げて大笑いし、左側の頭部は悔しそうに歯をむき出しにしながら怒りを露わにしている。
事情が読めていない長女タブンネに右側の頭部が語り始める。

 ─ 賭けをしてたのさァ。アンタが命乞いをするかしないか ─

進化した後の人格の主導権を右と左、どちらが担うかを賭けて長女タブンネでギャンブルをしていたとの事だ。
右側の人格は命乞いをする。左側の人格は命乞いをしないを選択しており、右側の人格が勝利する結果となったのだ、と。
目の前の存在は自分の命なんてなんとも思っていなかった。それだけではなく自身の命をベットにしギャンブルへと興じていたのだ。
長女タブンネはいよいよ生きる意志さえ手放してしまった。膝をつき項垂れ、涙が溢れこぼれ落ちる。
するとジヘッドの左側の頭部が長女タブンネの鼠径部へと喰らい付いた。
鋭いキバは皮膚を破り、肉を裂きその中にある内臓、子宮へと到達する。
左側の人格は非常に獰猛な性格だった。自身が賭けに負けてしまったうっ憤を長女タブンネで晴らそうとしているのだ。
とてつもない痛みに思わず長女タブンネは大声をあげてしまう。その声がさらに傷へ響き痛みを強くする。
右側の人格は残虐な性格をしており、今回は左側のフォローへと徹する。
左側を立てているわけではない。そのほうがより長く長女タブンネを苦しめられるからだ。
今回は気道をつぶさないよう気を使いながら喉元へと喰らい付く。
長女タブンネはわずかに首が閉まる感覚はしたが発声も呼吸も正常通り行う事ができていた。
左側の噛みつく力は留まる事を知らず、むしろ増していく一方だった。
気を失ってしまいそうになるほどの激痛が長女タブンネを襲う。
高い生命力を保持するタブンネという種族は少しの事では死に至る事はない。今回はそれが裏目に出てしまった形になる。
やがて左側の頭部は鼠径部をそのまま喰い破り、内臓を露わにする。
鋭いキバで引き裂かれた子宮と、それを維持している骨盤が露わになる。
長女タブンネはもはや叫ぶことすらできなかった。ただただ早くこの痛みの地獄から解放されたかった。
こうなってくるとジヘッド達はもはや興奮に任せ、ひたすら長女タブンネの体を貪るのみとなる。
長女タブンネは薄れゆく意識の中、なぜこうなってしまったのか、ただひたすら後悔していた。
外の世界の恐ろしさは十分に伝え聞いていたはずだった。バンギラスの元で飼われているタブンネの様に、穏やかに死ねるわけではないと。
それでもどこか、もう少し綺麗な死に方をできるのではないかと思っていたのも事実だった。
だが実際はそんな綺麗な死に方とは全く無縁だった。
尊厳を弄ばれ、心の中まで蹂躙され、さんざん痛めつけられた後に捕食され死んでいく。
こんな死に方をするだなんて想像もして居なかった。
長女タブンネの目から一筋の涙がこぼれる。痛みと後悔に苛まれながら長女タブンネの意識は闇に飲まれていった。

317カンムリ雪原のタブンネ 三つまたヶ原編:2020/12/20(日) 03:39:19 ID:T3kMW8xE0
後編の虐殺編は……年末ごろ作れたらいいなぁ……
あと直接は関係ないけどキャラゲー板の方に投稿したカンムリ雪原のタブンネの設定を一部引き継いでるからもしよかったら見てほしい。
ttps://medaka.5ch.net/test/read.cgi/pokechara/1342010998/430-444

318名無しさん:2020/12/22(火) 21:58:56 ID:jUkEXOaU0
乙でした!
どこまで行ってもタブンネには安息の地などなく、あるのは絶望だけ。
捕食の描写がなかなかリアルでGoodです。
後編を楽しみにお待ちしておりますよ。

319名無しさん:2020/12/26(土) 01:23:51 ID:NzhRixf20
乙でした。設定がリアルで面白かったです。目が合うと逃げ出す雪原のタブンネちゃん虐めがいありすぎる。続編期待してます!

320名無しさん:2020/12/29(火) 18:23:02 ID:r2p8Ckzo0
ガラル地方でも、タブンネ養殖が流行ると良いな。
同族が調理される所を是非見て欲しいw

321名無しさん:2021/01/04(月) 19:08:03 ID:RSvv7y2g0
>>320
ガラルと言えばやっぱカレーだよね
ヤドンのしっぽや肉や魚の缶詰(多分ポケモン)があるんだし
てか肉缶詰の中身がそれの可能性もある

322ガラルタブンネ牧場:2021/01/09(土) 17:43:08 ID:ZAjoONAk0

 ここはガラル地方南部に位置するカンムリ雪原と呼ばれる広大な大地の一画、巨人の寝床と呼ばれるエリア。
 末が見えぬ程の範囲まで高さ2メートル程の頑丈な金網のフェンスに仕切られた巨大な敷地に300匹以上は居るであろうか、ピンクの体毛をしたポケモン、タブンネ達がミィミィ チィチィ無邪気な鳴き声を至る所で弾ませながら、思い思いにのんびりと暮らしている。

 2メートル四方、深さ50センチ程の穴に干し草が敷き詰められ、その上に真っ白なシーツが敷かれ、更には各穴に2、3枚毛布が与えられた場所が一家族単位の巣として充てがわれ、各巣の前に打ちつけられた質素な杭に「1」「2」・・・とナンバリング管理され、その数現在「38」にまで昇り、世界有数の規模であろう牧場としてガラルの新たな一大産業として定着しつつある。

 タブンネ達は完全に安全な環境に野生味をすっかり失っている。
 広場で追いかけっこをするチビンネ達。
 周りを全く気にする様子も無く交尾に勤しむ夫婦ンネ。
 数カ所作られた人工の小川に顔を突っ込みゴクゴクと水を飲むタブンネ。
 牧場の飼育員から何やらタブレットの様な
画面を見せられては目を細め、ミィミィとしあわせそうな声を上げる夫婦ンネとその子タブ3匹。
 巣の中で横になり、5匹居るベビ達におっぱいを飲ませるママンネ。・・・etc.


 その牧場の片端(氷点雪原と呼ばれるエリア側)には大きな建物がある。ここは牧場従業員の宿舎、タブンネ販売の受付所、且つ体調の優れないタブンネの為の診療所、また定期的に行われるトリミングを行うブース等としての役割などを併せ持つ複合施設である。
 その建物から更に氷点雪原側にはこれまた大規模な木の実牧場が広がっていて、そこにもまたちらほらタブンネが居て、木の下で人間から木の実を受け取ってはミィミィと笑顔で籠に詰めていく。
 ここに住み着いた(あるいはここで産まれた)タブンネ達は人間を完全に信用しており、野生産の者は匿って貰い快適で安全な住処を与えてくれた恩義から、そうで無い者も手厚く世話をしてくれ、愛情を注いでくれる事への忠誠から、タブの出来たタブンネ程こうして自ら進んで人間の手伝いをするのである。毎日定時に充分な量の餌を与えられているため、摘み食いの心配も無い。あちこちからミィミィ賑やかな鳴き声が聴こえてくる。

323ガラルタブンネ牧場:2021/01/09(土) 17:52:24 ID:ZAjoONAk0

 午前10時頃であろうか、一台のアーマーガアタクシーが建物前にやって来て、一人の青年が降り立つ。どうやら本日最初の顧客である。受付に入ると
「いらっしゃいませ、あ、お客さんいらっしゃい。今日も生き餌用チビで宜しいですか?」
「こんにちは。はい、また50センチ未満位のを2匹お願いしたいんですが。」
「かしこまりました。ではお手数ですがこちらに記帳をお願いします」
「はい。えーっとブラッシータウンの・・・」

そのやり取りの傍ら、1人の事務員がカタカタとパソコンの前でデータを確認する。
「何番?」
奥から現れた作業着を着た男性飼育員が尋ねる。
「えーっと20番のツガイの子ですね。一番上のメスが3ヶ月2週、その次が2ヵ月3週のオスです」答える事務員。
「20番だな、巣に揃ってればラクなんだが…」
そう言うと飼育員は牧場側の扉から出て行き、その出口付近に止まっていた大きな自転車(前方後方に一つずつ、成タブ一匹乗れるくらいの座椅子が付いている、ママチャリを少し豪華にしたような作り)に跨り、一気に駆け出して行く。何せ敷地が広く、移動には自転車が必須なのだ。
道中飼育員を見かけては、至る所に散らばるチビ達がミィチィ嬉しそうな声を上げながらその自転車に駆け寄って来る。木の実をくれるか遊んでくれるか思っているのだろう。とにかくここのタブンネ達は人間が大好きだ。
「こらこら寄って来るんじゃねえ。今はエサの時間じゃねえぞ。後で遊んでやるからな!」
チビ達を轢かないように注意を払いつつ、建物から200メートル程進んだであろうか、20番の巣の前に辿り着き自転車を止める。

「ミィ?」自分達の巣の前に降り立った飼育員に気付いたパパンネが声を上げる。ニンゲンさんがやって来て嬉しい反面、少し寂しそうな表情を浮かべる。中々に賢い個体のようで、この大きな自転車に乗って来た事の意味をわかっているようだ。
「ミッ!」少し遅れてママンネもその存在に気付く。巣の真ん中に寝そべり、4匹のベビ達におっぱいを与えている最中だった。
ミッミッと優しく声をかけながら、乳首に張り付くベビ達を引き剥がして行くと、少し雑だが折り畳み重ねられた毛布の上に1匹ずつ寝かせて行く。ヂーヂー泣き喚くベビ達だったが
「ごめんミィね。おっぱいはまた後でたっぷりあげるから、ニンゲンさんが遊びに来てくれたミィよ!」
ママが優しく声を掛け、一匹ずつ頭を撫でると、飼育員の存在に気づき皆チィチィ嬉しそうに鳴きだした。偶然だがこの飼育員はこのベビ達の孵化に立ち合い、産湯につけてくれた人物なのだ。まだ目は見えていなかっただろうが、匂いで本能的に憶えており、このベビ達は皆パパママ同様に慕っている。

「よう!皆んな元気か?」優しく声を掛け巣の周りを一瞥していく。
パパママ、先のベビ4匹に離乳が済んだばかりの30センチ丁度位のチビが3匹。更に巣穴の奥、少し厚めに積まれた干し草の上に4つの卵が置かれている。
(結構大所帯になったもんだなあ。えーっと目当ての子は...)

飼育員が気付くより僅か先
「ミッミッ!」
(お姉ちゃんお兄ちゃん、こっちに来るミィ!)
パパンネが声を掛けると、巣の数メートル先、玩具のポケボールを引っ張り合っていた姉弟(姉が40センチ丁度位、弟はそれより若干小さいくらい)がその手を止め、ミィミィ嬉しそうにトテトテと掛けてくる。パパンネは先程と違い、何か吹っ切れた様な笑顔を浮かべている。目尻を薄っすら光らせながら。
「おう居たか!突然なんだがお前達、お別れの時間が来たんだよ」
飼育員もまた少し寂しそうな笑みを浮かべ、姉弟の頭を優しく撫でる。
「ミィ?」最初不思議そうな顔をする姉弟だったが、「おわかれ」という言葉の意味と、嘗て自分達の上に居た姉を連れて行った自転車の存在を確認すると 「ミィ・・・」2匹とも複雑な表情を浮かべる。弟は今にも泣き出しそうである。
 パパンネは姉弟の頭にそっと両手を乗せると「2人とも今日でお別れミィ。パパもとっても寂しいミィけど、大きいお姉ちゃんみたく新しい家族と一緒にしあわせになるミィよ」
少し遅れて事態を呑み込んだママンネも姉弟の元へ歩み寄ると、パパ同様少し悲しい笑みを浮かべ、涙を流しながらそれぞれを抱擁する。

324ガラルタブンネ牧場:2021/01/09(土) 18:09:58 ID:ZAjoONAk0

 程なくして建物へ帰ってきた飼育員。

「お客さんお待たせしました!こちらの子になります。」
弟ンネは飼育員の左腕に抱かれ、姉ンネは右手をちょこんと掴み、2匹とも新しい家族、飼い主となる青年を一心に見つめている。

 青年は既に会計を済ませ、受付の椅子に座って待っていた。ちなみにだがここのタブンネの値段は成タブ一匹で10,000円、80〜60センチ個体で8,000円、50センチ以下のチビで5,000円、離乳の済んでいないベビが3,000円。家族セットや兄弟セット、又は傷モノ等で割引となり、今回の売買も8,000円での買い上げとなる。またここでは詳述しないが、餌用ではなくペットとして購入し、ある条件を満たすと全額、もしくはそれ以上の返礼金がある。生き餌以外の目的で買われる事はかなり稀なのだが...

「ありがとうございます。元気そうな子達ですね!」
「大きい子がお姉ちゃん、少し小さい子が弟です。そら、お前達、新しい飼い主さんだぞ。向こうのポケモンさん達にもよろしくな!」
飼育員に背中を押され促され、2匹はやや恐る恐るという足取りではあるが、チョコチョコとトレーナーの元へと歩み寄る。無意識のうちに触覚から読み取った彼から流れ出る感情が優しさだったことから、幾ばくか緊張もほぐれた様だ。決して自分達に向けられた優しさではないのだが。


 職員一同に見送られ、青年と共にアーマーガアタクシーに乗り込み、カンムリ雪原駅まで着くとそこからブラッシータウン駅行きの列車に乗り、程なくして目的地の駅へとたどり着いた。
 その道中、上空から見た自分達の生まれ育った広大な牧場、その先に見えるどこまでも広い大地とその先に見えた巨大な木、大きな山とその頂上に聳え立つ荘厳な神殿、列車の車窓から見たどこまでも続く深い森・・・。産まれてから今まで牧場の外に出た事のない姉弟には見るもの全てが新鮮で、道中ミィミィ感嘆の声を上げっぱなしであった。

「2人共着いたぞ!ここから少し歩くからね。」
初めて見る人間の街。目に映るもの全てが新鮮で、家族と別れた悲しみなど完全に消え失せ、緊張も無くなったのかその道中(ものの5分ほど)姉弟はトレーナーの左右の手をそれぞれちょこんと握り、時折ミィミッ♪と間の抜けた鼻唄の様な声を上げながら、すっかり新しい生活への期待と希望に胸一杯といった様子である。

のどかな街の少し外れ、広い庭と大きな家屋の前で青年が足を止める。
「さあ着いた。ここがボクのおウチだよ!」洒落た作りの門を開けると、青年は玄関ではなく庭の方にタブンネを促す。
「ちょっとここで待っててね。すぐボクのポケモン達を紹介するよ!」

姉弟は綺麗に整備された庭、その中のあちこちに咲く見た事のない色とりどりの花、レンガ造りのお洒落な建物、高く伸びる煙突、目に見える範囲のあらゆる物を見回しては幼心に感動が芽生える。
「お姉ちゃん、新しいおウチとってもキレイで大きいミィ!」
「そうミィね!きっと大きいお姉ちゃんが言ってたみたく木の実よりもおいしいお菓子もこれから一杯食べられるミィよ!弟ンネは新しい家族のポケモンさん達と仲良くできるミィかな?」

325ガラルタブンネ牧場:2021/01/09(土) 18:27:49 ID:ZAjoONAk0
 度々会話に出てくる大きいお姉ちゃんとはこの姉弟の両親がまだ野生で、雪中渓谷と呼ばれるエリアに巣を構えていた頃、夫婦にとって最初の出産だった3つの卵のうちの唯一の生き残りで、姉弟より8ヶ月程先駆けてこの世に生を受ける。

 卵のうち1つは夫婦の巣穴がユキノオーに荒らされた際、庇いきれずに踏み潰された。夫婦懸命の思いで孵した2つの卵のうち、片割れの男の子はママの栄養失調の影響か体が弱く、離乳が済み自分の足で歩ける時期に差し掛かっても、双子の妹の半分くらいの速さでしか走れなかった。

 ある日、餌不足と度重なる襲撃に意を決し、家族総出で新しい居住を探して旅出った際、またしても栄養不足による体力低下が祟ってか、自分達のことを嗅ぎつけ、後方から追いかけるクリムガンの存在に気付くのが遅れ、あっさりと足手纏いの息子を見捨て、その隙に親子3匹その窮地を命からがら脱する。
 双子の妹もとい、大きいお姉ちゃん(これより長女ンネと呼称)は後方で響く血を分け合った兄の断末魔に大きなトラウマを心に残し、両親の非情な判断を非難したが、それは厳しい野生を生き抜いて来た夫婦ならではの極めて的確且つ結果的に正しい判断。タブンネは家族愛のポケ1倍深い種族で、無論夫婦も心に深い痛みを残す。
 生育状態も野生にしては悪くなく、そこそこにだが賢くもあった長女ンネも、そんな両親の心情を慮ってか非難する気持ちも次第に無くなる。一家は巨人の寝床に新たな巣を設け、それから程なくして先の牧場に辿り着き、苦労が報われてか安住の生活を始める。

 安全な住処を得てすっかり牧場の暮らしにも慣れ始め、新たな2つの命も設け家族一緒に幸せに過ごしていた時、長女ンネにペット用として貰い手がついて、お別れの時を迎えることになる。
 初めての人為的なお別れ、また最初の子供達の唯一の生き残りで、共に厳しい野生を過ごし、愛してやまなかった娘との決別に最初は難色を示す夫婦であったが、この時長女ンネは既に成タブ近い体格で、野生のままであったらそろそろ独立を考える時期。
 また長女ンネも、過酷な経験からか無駄に自信を持っており、新しい生活にも適応できる確信を持っていて、大した抵抗もせずにあっさりと人間の手に身を委ねたことから、夫婦も次第に納得し、長女ンネは新たな家族との生活を始める。

 それから僅か2週間後、新しい家族となった女性と共に長女ンネは家族の元を訪れる。面会したのは小一時間ほど、その間長女ンネはチビ姉弟や両親に新しい暮らしの様子をやや自慢げに話し聞かせる。
 カレーと言う不思議だが凄く美味しいニンゲンの食べ物を食べさせて貰ったこと。きのみよりも甘いポフィンやヒウンアイスと言ったお菓子のこと、あったかいお風呂に入れられいい匂いの泡でカラダを綺麗にして貰ったこと、等々。チビ姉弟にとっては未来への期待を焚き付けるには充分、また両親も、こうして娘を連れてきてくれる人間の優しさに心底安心し、不安や寂しさを取り除く充実の凱旋であった。女性が長女ンネを連れて来たのには親切心よりも大きな理由があるのだが。

 新たに長女ンネの飼い主となったこの女性。興味本位で最近噂のタブンネを買うことを決め、最初こそその可愛らしい容姿と行儀もよく綺麗好きでもあった手の罹らない長女ンネを直ぐに気に入り可愛がって居たのだが、段々と持て余し気味になって来る。元は野生産で様々タブ生経験も積んできた為か、無駄に賢く一定の警戒心も持ち合わせ、彼女の元々のペットポケであるイーブイやチラーミィと全く反りが合わないのである。
 長女ンネの牧場凱旋から僅か1週間後のこと、完全に情が移る前に、また今なら金銭的に損失はおろか利益になり得るとのことで、長女ンネが嬉しそうにご飯を食べる様子、フカフカのベッドで気持ち良く眠る様子、ポカポカのお風呂にご満悦の様子など、手短にスマホロトムで動画撮影し、その翌日、事もなげに知り合いのエリートトレーナー♂に引き渡す。
 唐突に飼い主の元を離れ、見知らぬ男性に手を引かれ人里離れた草むらまで連れて来られ、不思議な顔でキョロキョロと辺りを見回す長女ンネ。直後トレーナーの持つボールから繰り出されたサザンドラに悲鳴を上げる間もない程あっさりと喰われ、一年にも満たぬそのタブ生に終わりを告げる。この話の冒頭から2週間程前の出来事である。

326名無しさん:2021/01/11(月) 09:47:26 ID:raqF4FSo0
性悪ではないがどこか鼻につくタブンネ・・・まあ処分対象ですよねw
一年にも満たないタブ生でも良い思いした後、即死だったし幸せな方だ。

327ガラルタブンネ牧場:2021/01/11(月) 20:27:28 ID:AO.5I2e20
ところ戻って青年トレーナー宅の庭。
「おまたせ!ふたりとも大人しく待ってたな。偉い偉い。」
姉弟もミッ!とその声に笑顔で応え、新しい家族との対面を楽しみにしているようだ。

「ルカリオ、出てこい!」
トレーナーが勢いよくボールを投げると、姉弟、トレーナーのいる位置から5メートル程先、青く強そうな見た目をしたポケモンが現れる。

「ミィ・・・。」
 見た事のないポケモンの登場に感嘆の声を上げる姉弟。弟ンネの方はちょっぴり怖い様で、トレーナーのズボンをちょこんと掴んで立ちすくむ。
 そんな弟をよそに、先に動きだしたのは姉ンネ。ミッミッ♪という鳴き声と共に、可愛らしく尻尾を振りながら新しい家族の元へ歩み寄る。

「はじめましてミィ!ミィ達はタブンネミィ!あなたは・・・」

 ガッ!「ミ゛ィ!?」
姉ンネの可愛らしい自己紹介を遮るように、待ちきれないと言わんばかりの表情を浮かべたルカリオがその首元を描き掴む。

「ミィ?」
弟ンネは口をポカンと開き呆けた表情を浮かべその様を見つめる。

 ボンッ!  ビチャッ

「ミ゛ッ!?ゴフッ!ミボルルルッ...!」

 ルカリオの波動弾が姉ンネの下腹部を貫通し、肉も尾も臓器も跡形も無く消し飛ぶ。辛うじて原型を留めた大腸の一部が僅かな肉片毛皮片と共に姉ンネの後方5メートル程先の芝生の上に転がり、生まれたてのヤクデの如く微かに蠕動している。

「おいおい、ルカリオ。そんな派手にやったら喰うとこ無くなっちゃうぞ!」
 優しい笑顔を浮かべ青年が言う。

「ミゴッ!ミヒィン...ゴブルルルル」
 血の泡と共に漏れる姉ンネの声はもう言葉として意味を為していないだろう。眼からは力なく涙が流れ、無惨に千切れた下腹部からドバドバと血が流れる。股まで完全に割かれており、両脚は脇腹から続く肉に何とか繋がっている状態である。
 ルカリオは追撃するでも食べ始めるでも無く、暫し絶望に満ちた姉ンネの瞳をしげしげと見つめている。
 
 
 ここガラル地方ではまだミィアドレナリンの存在は殆ど知られておらず、この青年トレーナーもその例に漏れないのだが、ルカリオが生き餌として子タブンネを与えられるのはこれで4度目。即死させず、心臓や肺を避けながらじわじわ食した方が旨味が増すことを理解しつつあるようだ。
 因みにだが下腹部を躊躇なく破壊したのは過去に食してきた経験から、腸に残っている場合の多い糞の味がこのルカリオの口には酷く合わなかった為である。

「ミ⁉︎・・・ミ、ミ゛ィーーーーーー!!ミビィーーーーーーーーー!」

 あまりの惨劇に一瞬硬直した弟ンネだったが、姉ンネの凄まじい悲鳴と見るに耐えない身体、更にはみるみる弱っていく心音に現実を理解し、尻餅をつき大量にお漏らしし、街中に響き渡らんばかりの絶叫を上げる。
 
ただこの弟ンネ、少しは♂らしい意気地があるようでいつまでもヘタり込んでは居ない。流石にルカリオに向かって行くことはしないが、立ち上がるとトレーナーのズボンに必死にしがみつき
「お姉ちゃんが死んじゃうミ゛ィーー!早く、早くやめざぜでびぃーーーー!」
 全身全霊の懇願にトレーナーは見向きもせず、穏やかにルカリオを見つめるだけ。この場に居る誰も知らないことだが、こういった人間の無反応、平常心はミィアドレナリン分泌に大役を買っている。

 頃合いと見たのかルカリオは両脚両腕、次いで両耳及び両触覚と綺麗に食い千切っては、その未熟な骨ごと美味そうに咀嚼していく。
その度姉ンネの身体はビクッと大きく痙攣し、
「ミッ、ヒッ」と僅かに声とも息ともつかぬ叫びが小さな口から漏れていたが、ルカリオがチロチロと出入りしていた可愛らしい舌を根っこから引っ掴み、思いきり引っこ抜くと
「グゲッ」という僅かな音が姉ンネ今生最期の言葉となった。

 両眼から生気が感じられなくなった事を確認すると、ルカリオは残った胴体、顔までをペロリと平らげ、姉ンネだったものは最初に飛び散った僅かな腸とルカリオの足元にある巨大な血溜まりを残して全てこの世から消え去ってしまった。

328ガラルタブンネ牧場:2021/01/11(月) 20:37:25 ID:AO.5I2e20
必死の懇願も全く聞き入れられず、状況に絶望していた弟ンネはその場に蹲っては両耳を押さえ、顔を俯き目を固く閉じ、大量の涙、尿を撒き散らしガタガタと大きく震えるだけであった。

 大好きなお姉ちゃんとの永遠の別れから来る悲しみ、信じられないほどの惨劇を目の前で見せられた恐怖。様々な感情が渦巻いている中、一番強く思うことは奇しくも姉ンネが意識を失う刹那感じた事と同じ
(何でニンゲンさんは助けてくれないミィ?タブンネがこんなに苦しんでるのに平気で居られるのミィ?)
といった事だった。

「バウッ!」   「ミヒィ⁉︎」

 いつまでも感傷に浸っている場合ではない。姉ンネを平らげたルカリオはマスターの足下でうずくまる新たな獲物に目を向けると一目散に駆けてくる。

「ミ゛ッ⁉︎ミビャーーーん!」
「戻れ!ルカリオ!」
弟ンネにルカリオの手が届くすんでの所で、トレーナーがルカリオをボールに戻す。
ミフウッ!感情が落ち着いた訳ではないがひとまず目の前に迫った危機を脱し、弟ンネは尻餅と共にひと息つく。

「ごめんなルカリオ。お前はまた今度な。」
「出てこい!オノノクス!」

「グルルルルッ!」
先程姉ンネが作った血の海の真ん中に新たなポケモンが繰り出されると、ボールの中で自分の番を今か今かと待ち侘びていたのだろう。美味しそうなエサを一心不乱に見つめている。

「ヒャッ!」
恐怖の余りまともに叫ぶ事すら出来ない。この弟ンネ、その生い立ちからか野生的危機意識にはだいぶ欠けているようだが、姉が目の前で喰われ、次いで新たにいかにも獰猛なポケモンが繰り出されたことの意味が理解できる程には賢いようである。

「ミ゛ッ!ミィーーーーーー!ブヒェーーーーーン!」
(おねがい!あのポケモンさんをすぐにしまって!ボクをたべさせないで!)
ここまでで一番の剣幕と声量で、トレーナーのズボンを引っ張り喚き散らす弟ンネ。

「お前ちょっとうるさいぞ。そこに居たらオノノクスが食べづらいだろ。」

ポフッ!  「ミビッ」

人間とポケモンによる見事な会話のキャッチボールが成立した後、これまた見事なインサイドキックでトレーナーが可愛いタブッ腹に蹴りを入れると、オノノクスの脚にポヨンとぶつかりその前に転がる。

「ーーーーーーッ」
弟ンネが声にならない叫びを上げるや否や、もう充分に旨味が凝縮されているのであろう、その間僅か10秒に満たないであろうか、オノノクスは左手で弟ンネの頭を引っ掴むと
「グチッ」
首から下の胴体を一気に噛みちぎりほぼ丸呑みすると
「ミ゛・・・ビ・・・。」
断末魔と呼ぶにはあまりにも弱々しい叫びの余韻に浸る間もなく、綺麗なブルーをした両眼と一瞬見つめ合った後、残った頭も丸呑みする。その喉元を通る際、「ミィ--!」と最後の叫びが聞こえたが、オノノクスもトレーナーも全く意に介していない。

 満足そうなオノノクスをボールを戻すと、伸ばしたホースから水を流し、淡々と血溜まりを掃除していくトレーナー。
 この様な凄惨な場面もすっかりここガラルでも日常的光景として定着しつつある。この日もあらゆる街々、道路やワイルドエリアと至る所で、老若男女沢山のタブンネ達が高価な栄養源として、その命の役割を終えていく。

 このガラルの新産業、(実質)生き餌用タブンネ牧場が興るに至るまでの紆余曲折を少し紹介する。

329名無しさん:2021/01/14(木) 02:30:03 ID:PH6MKxI60
タブっ腹という表現すき

330ガラルタブンネ牧場:2021/01/15(金) 15:16:27 ID:bbOL8jOs0

 事の発端は遡ること1年半ほど前。ガラル政府、フリーズ村始動によるカンムリ雪原開発政策プロジェクトが立ち上がる。
 歯止めの掛からぬ過疎化、少子高齢化に悩むフリーズ村議会と、広大な領土がありながらそこに根を下ろす企業も無ければこれといった産業もない僻地に、開発計画が持ち上がっては頓挫していたガラル政府の思惑が合致し、この土地に大規模な木の実農場を構えて多くの雇用と利益を産み出そうというものであった。

 ガラルの農業分野では最大手である「ゆめ牧場」からの有志社員10数名と、政府公募で募った20名程の就職希望者から始まり、フリーズ村からほど近く、雪原にあって降雪量の比較的少ない巨人の寝床エリアに白羽の矢を立て、大規模な農地開発を終え、そこに100を越える実のなる木を植え、種類も様々な木の実が順調に育ち、いよいよ収穫第一陣も迫り、農地拡充の計画が進み始めた頃である。

 ガシャーン!
 害ポケ対策用に設置された金網のフェンスがけたたましい音を立てた(高さ2メートル程のもので、事前の簡易調査からニドラン系統、ブーバー系統、ニューラ系統などを意識して作られたもの。かなり頑丈な耐熱性。またこのエリアに木の実を啄む様な鳥ポケモンは生息しないとの調査結果から、農場内の空は全面開けている)。ニドキングでも突進したかと数名の農員が駆けつけると、誰も見たことのない、傷だらけで燻んだピンク色のポケモンが金網にしがみつき、ミッ!ミッ!と弱々しく泣きながら木の実を見つめ、涎を流している。
 始め戸惑う農員達だったが、酷く憔悴し目に見えて弱っているその様子と、薄汚くはあるが可愛いくなくもないその姿に同情してか、金網越しに手頃なオレンを一つ与えてやると一心不乱に貪り食い、幾ばくか元気を取り戻したのか、お礼のつもりなのか片手を上げ、笑顔でミッ!と声を上げると、草むらを掻き分けトテトテとその場を走り去っていった。この出来事は取るに足らないこととして会社として全体に共有される事はなかったのだが、この後似たような場面に遭遇し同じように木の実を与えてしまった社員は他にも複数名居て、中にはご親切に傷の簡単な手当てをしてやった者までいた。この餌付けがいけなかった。

331ガラルタブンネ牧場:2021/01/15(金) 15:20:20 ID:bbOL8jOs0

 このカンムリ雪原に現存するタブンネ達は100%野生産で、元飼いポケの個体は一匹も居ない。野生の知恵というのは偉大なもので、殆どのタブンネは群れを成さず、つがいや核家族単位、或いは単体で巣を作り、外敵を警戒しながら自生する僅かな木の実を採ったり(大体獲得競争に負ける)、運良く見つけたユキハミの死骸などを食しては、細々と暮らしている。
 大勢の群れを成せば、そこをマニューラやツンベアー、その他ドラゴンポケモンなどの捕食種に運悪く嗅ぎつけられた場合、全滅かそれに近い状況に陥ることを、各タブそれぞれの経験や種族保存本能から理解しているのである。
 それでも生来タブンネは家族愛や慈愛がポケ1倍強い種族。群れこそ形成せずとも独立した元家族、又は偶然知り合った同族などと時折コンタクトを取ることも多々あり、近すぎずも遠からずといったコミュニティが各エリアで形成されていた。


 ある朝のことであった。木の実も第一陣の収穫を終え、いくつかのコンテナが農場に積まれ、中にはぎっしりと瑞々しい木の実が詰め込まれている。
 農員達が次なる収穫作業の為宿舎から出て来て農園を見渡すと、その光景にギョッとする。
 農園周り一面のフェンスに、あの燻んだピンクのポケモンがぎっしりと群がり、金網にしがみついてはミィミィ弱々しく声を上げている。中には血豆の出来た手でギシギシと網を引っ掻く者、今にも倒れそうな程衰弱していて目から生気を感じられない者、また辛うじて息をしているような状態の体長15センチくらいの赤子を抱え、涙を流している者、親子と見られる集団はこの他にも多数見受けられる。この時農員達は知る由は無いが、どの個体も共通して皆酷く痩せていた。

絶句するしかない農員一同。ざっと見てもその数50はいるだろうか。以前の様に木の実を与えてやる訳にもいかない。これだけの数、しかも癖になってしまえば当然利益に影響が出る。追い払っても逃げる体力も無さそうな様子だ。
 黙っていても始まらない、まずはその素性を明かす為、何枚かの写真に収め、政府の害ポケ対策課に転送し調査を依頼する。

332ガラルタブンネ牧場:2021/01/15(金) 15:24:28 ID:bbOL8jOs0

 調査によるとこのポケモン達はその名をタブンネと言い、イッシュ地方を主な生息域とし、極めて発達した聴覚を有し、野生は木の実やドングリなどを食す種族である。好戦的な種族ではなく同地域ではナースとして採用されるなど優しいポケモンとして知られるが、その弱さ故か野生は飢えが深刻化すれば農地を荒らす等の被害報告も出るということ。また繁殖力が強くそこそこ環境適応力もあるのかイッシュでは全域に生息するが、生態系では底辺に属する為、爆発的に増える事は稀で一定数以下に収まるポケモンである。との内容が報告された。

 とりあえずはこの場を鎮めるため政府備蓄のポケモンフーズを輸送してもらい、各個体に与えると皆食べてはくれたのだが、また予想外の事態に陥る。木の実を与えた時と違い去って行かず、この場に留まり続けているのだ。
 

 カンムリ雪原に生息するポケモンの種類を考えればタブンネの生活が地獄そのものである事は想像に難くない。どの個体も目の前で親や兄弟、または子供が食べられたり、ご近所ンネや生家を訪ねてみるとそこがグチャグチャに荒らされ僅かな血痕を残すのみになっていたり、もしくは自身が捕食種に襲われ、運良く逃げきっては何とかその命を繋ぎ止めたり....
 そんな絶望的日常の中、数匹の個体が人為的なこの農場に偶然辿り着き、そこで施しを受けたことを巣に帰った後、家族や仲間達に伝える。少しずつだが噂話のようにその情報が広がり、このままいつ襲われて死ぬか餓死するかの生活を続けるよりはと一縷の望みにかけ、噂のきのみ畑に足を運んだ個体が集まりこうした状況を生み出すに至ったのである。
 

 とにかくこのまま此処に居られ続けても困る。最悪は駆除という選択しかないのだが、どうもみんな乗り気ではない。餌付けをした者を中心に、その容姿やおとなしい様子から、皆一様に情が湧き出しているのである。
 となると産業利用を模索するしか方法は無く、イッシュ地方に官民広域更なる調査を進めると、思いも寄らぬ利用価値が浮かび上がる。ポケモン用の食肉利用である。

333ガラルタブンネ牧場:2021/01/15(金) 15:43:04 ID:bbOL8jOs0

 調査をまとめた結果はこうだ。

 イッシュでは各地にタブンネ牧場やそれを取り巻く加工場が点在し、繁殖力の強さから安定供給が見込めるが、子どもや乳飲児、或いは卵を人間の手により回収し続けると、そのうち不信感からかあるいは精神的疲弊からか、産卵のペースが著しく落ちるかもしくは全く産まなくなる。廃タブとなった親個体はフーズ加工され、同族の餌となるのがオーソドックスな処理方法。
 またにわかには信じられない報告であったが、対ポケモンではなく対人間用の食肉として加工される場合も多くあり、それには何らかの方法で強い精神的苦痛を与えるという特殊技術を要するとのこと...。


 調査を進めるうちにも農場は取り留めのつかない状況になっていた。更にタブンネ達が集まりはじめ、既に100体近い、大集団に成り果てていたのである。自慢の聴覚で同族の集団の存在を嗅ぎつけたのか、先にやって来たタブ達同様きのみ畑の噂に望みをかけたのか。

 こうまでなってしまえばもう仕方がない。駆除という方法を採用しない以上は産業利用、すなわち生き餌用としてここで飼育し繁殖させる方向へ事業転換する事に仮決定し、元は木の実農場を拡充する予定だった土地にタブンネ達を住まわせ、一日数回木の実を与え育て始めると、ものの1週間程で骨の浮きだす程痩せていたお腹は皆ぷっくりと膨れ、毛艶も随分と良くなったようである。中には元気になった為か早速子作りを始め、ここで産卵するつがいまで現れ始めた。

334ガラルタブンネ牧場:2021/01/15(金) 15:49:46 ID:bbOL8jOs0

 タブンネ達の栄養状態も良くなって来たところで、いよいよ生き餌としての商品価値を試す実証実験が行われる。
 
 
 ここガラルではポケジョブと呼ばれるトレーナーが自分のポケモンを様々な企業に貸し出すシステムがあるなど、ポケモンは人間の産業発展に寄与する貴重なパートナーとしての一面もあり、世界随一人間とポケモンの共生が進んでいる地域柄、トレーナーもペットとして飼う者も、木の実やフーズなどで育てるのが主で生き餌という慣習が存在しない。自身のポケモンに他のポケモンを食べさせるという行為に抵抗があるのだ。


 先ずは手始め、政府主導で一部の有力トレーナー、今期のトーナメント出場権保有者を中心に協力者を募り、10名弱の同意が得られ、早速5家族計20数匹のタブが各人に充てがわれ、政府役人立会いの下捕食実験が行われる。
 そのうちの一人、ケンギュウという名のトレーナーの現場を紹介する。彼が用意したポケモンはその相棒のうちの、ウオノラゴン、オノノクス、オンバーンの3体である。ここにはある家族のうちのパパンネ、50センチ弱の子タブ、30センチ丁度くらいのベビ上がりのチビンネ、計3匹が配布された。
 
 ケンギュウ氏の自宅近くの草むらで向かい合う両組、同氏のポケモン達はイマイチ状況が呑み込めず、皆キョトンとした表情を浮かべ、目の前のピンクの一行と主人の顔を交互に見やる。タブ親子の方はパパンネは明らかに警戒した様子で、2匹の子を自分の背後に隠すように手配せし、ややではあるが対面する3匹を威嚇するような顔つきを見せる。大きい方の子は完全に怯え切った様子で、パパの背後でガタガタ震え、足元を薄っすらと湿らせている。
 膠着する状況に痺れを切らし、氏がポケモン達を促そうとした時だった。周りの景色を眺め楽しんでいる様子だった小さい方の子タブが動き出す。ヨチヨチと無防備な笑顔で歩き出し、ウオノラゴンの前でその脚を止める。このチビンネは野生産まれだが、つい先日までは授乳期、分別着き始めた頃には既に牧場に居た為か、野生的危機意識に乏しいようである。またタブンネ生来の他者と仲良くしたい感情もパパや上の子と違い失われていないようだ。
「ミィッ!ミィー!」
(チビお兄ちゃん!戻っておいで!)
パパの必死の呼びかけ虚しく、挨拶のつもりなのだろうか、
「ミッミッ♪」片手を上げ、天使のお耳をパタパタと上下させるチビンネ。

335名無しさん:2021/01/16(土) 00:52:27 ID:j1TgKGzk0
乙ンネ。その可愛い天使のお耳がもうすぐ血に染まるかと思うとワクワク。

336名無しさん:2021/01/17(日) 10:49:50 ID:/J1kYPRY0
>>330
続き待ってましたー
このチビがどうなるか楽しみです♪

ところで、どなたかクワガノンがタブンネを虐待する話を書いていただけないでしょうか?
ダイマックスタブンネにやられて悔しいのでお願いします。

337ガラルタブンネ牧場:2021/01/17(日) 20:17:42 ID:zo7uE3Y60

 目の前で健気に鳴く声、その仕草に体臭。古代の本能を呼び覚ますに充分だったのだろう。
「ウオーン!!」
ウオノラゴンがその大顎をしゃくり上げ、一気に振り翳すと
ブチッ!
 大きく何かが千切れる嫌な音と共に、空中に頭部だけとなったチビの身体が高らかに舞い上がる。
ボトッ。という音と共に狼狽える親子の目の前に落下したそれは、見知らぬ大きなポケモンさんにご挨拶した時の表情そのまま、驚く間すらなかったのだろう、幼く屈託の無い笑顔を親子に向けたまま絶命している。ウオノラゴンは嬉しそうにその胴体を咀嚼する。暫し顔だけとなった我が子、かわいい弟と向き合い硬直する親子。しかし悪い予感が的中してしまったこととこの後起こるであろう未来を理解したのであろう

「ミッ…...、ミィーーーーー!!」
大きな絶叫と共に残った子の手を引き180°方向を向き直すと、全速力駆け出すパパンネ(人間の大人がやや早歩きするようなスピード)、残ったチビも全力、目からは大量に涙が流れるが震える脚を何とか動かし、パパに追随してドラゴン一行からの距離を広げる。
 数秒間、目の前の光景に理解が追いつかぬ様子だった氏のポケモン達だったが先に動き出したのはオノノクス。隣で嘗て見たことも無いほどの満足感を醸しながら食事をする同胞のウオノラゴンと、自身からほんの少しずつ遠ざかる2つのピンクの塊を交互に見やると徐に駆け出し、あっという間に追いつくとチビンネの尾を掴む。その小さな手は親の手を離れ、ビタンとその場にズッコケる。次の瞬間にはその逃走手段を断ち切るように、グシャッ!という音と共に、その右脚を踏み潰された。

338ガラルタブンネ牧場:2021/01/17(日) 20:21:15 ID:zo7uE3Y60


「ミ゛ガーーー!ミビバァ゛ーーーーー...!」
(パバーーーー!いたいミ゛ィこわいミィーー!ミィの、ミィのあんよがァーーー)
 突如手が離れた感覚と息子の絶叫に、一瞬振り返るパパンネだったが瞬時に踵を返すと、目に涙を浮かべながらそのまま逃げ続ける。非情極まりないこの行動も、くどい様だが決して珍しいことではない。雪原の野生を生き抜いたタブンネであれば全滅を避け、1匹でも多く生き残るという有事の判断は常に備えるものである。より愛情深い母親なら違う行動を見せたかもしれないが、今回の場合はどの道結果に変わりはないだろう。
(ごめんミィ、ごめんミィお兄ちゃん...。パパは、パパだけはきっと逃げ切って生きるミィ。お兄ちゃんやチビちゃんを絶対忘れないミィから...)
 パパの一世一代の懺悔の念もどうやら杞憂のようで、息子ンネの絶叫から時間にして僅か7秒後、足下から舞い上がった暴力的風の渦に飲み込まれ、その身体は先のチビンネ顔負けの高さまで浮き上がり、やがて虫の息で落下する。オノノクスに少し遅れてオンバーンも動き出したのだ。その後オノノクスにほんの一瞬で平らげられた息子に後悔を向ける暇があったら、寧ろ自分の心配をした方がよかったかもしれない。
 オンバットの頃から飼い慣らされ主人に忠実だったオンバーンだが、野生の同種は残忍な性格として知られ、その本性を垣間見るような狩が始まる。
「ミ゛...ミ゛ッ.......」
 先のぼうふう攻撃をまともに喰らい、仰向けに横たわり微かに震えながら意識も遠のき始めるパパンネだったが、その捕食者は気絶すら許さない

339ガラルタブンネ牧場:2021/01/17(日) 20:23:39 ID:zo7uE3Y60


ザクッ!ザシュッ!

「ミ゛ミ゛ィー!?ミギャーー!」
 無数の真空の刃がパパンネに襲い掛かり、肉の裂ける音と共に大量の血飛沫を撒き散らす。やがてパパの絶叫は聞こえなくなる。身体中に走る激痛から意識ははっきりとし、また主要器官は無事な為死ぬことも許されないのだが、声帯が完全にやられ叫ぶことも出来なくなったようだ。
 オンバーンは攻撃の手を止めると、血だるまと化した獲物を少しずつ啄み食べ始める。
脚に下腹部、腕、耳や触角、、ミンチさながらの状態となった各部位は、口先が少し触れるだけで脆くも崩れ落ちるほどの容態で、自身の身体が喰われていく度
「ァィ-。ヒィ゛--。ァ゛---...ミァ゛----。」
嗄れ過ぎて声にもならぬ音を発するパパだったがやがて絶命し、その全身は完全にオンバーンの胃の中に収まった。


 この世の物とは思えぬほどの凄惨な光景に、暫し言葉を失うケンギュウ氏と立会人の政府役人であったが、自身の相棒達の心底嬉しそうな様子に、同氏は段々と満足感を得たようだ。
 2度と見たくないとは思いつつも、役人もこれを実験成功として本部に報告、逐一詳述はしないが、他の各所でも今件と同様の実験結果の報告を受け、木の実農場もといタブンネ産業はその成功を少し形作り始める...

340ガラルタブンネ牧場:2021/01/17(日) 20:26:03 ID:zo7uE3Y60
 少し日が進むと更に朗報が舞い込む。経験値タンクの名は決してダテではないようで、実際にタブンネを食したポケモン達はその後体調も頗る良く、バトルでも皆大活躍をした様で、実験参加者は皆こぞってタブンネ購入を熱望し、またその話を聞いた他のトレーナーにもタブンネ購入希望者が日増しに現れ始める。

 農場では作業が進み、タブンネ達の仮住まいだった空き地を整備し巣を充てがい個体管理を始め、バリケードも設置し完全に外部から囲い、いよいよ牧場の輪郭ができ始めていたのだが、ここで新たな懸念が生まれる。
 先の実験ンネ達と懇意だったタブ達を中心に、人間の前では餌を食べない、人間が近づくと巣に潜り込み、近づくと威嚇するなどの行動がチラホラ見え始めたのだ。おそらく人間が連れ去った複数の家族がいつまでも帰って来ないことに、少しずつ不信感が芽生え始めたのだろう。

 ここで思い出されるのが先だって行われた種族調査。もしこのまま不信感からの産卵不足や拒否が起これば、商品の安定供給が見込めない。廃タブと化す個体が増えれば再利用するための工場も加工技術も持ち合わせない以上、完全に予算割れである。
 そこで持ち上がったのが、生き餌としての販売と並行してのペット用販売で、連れ去ったその後の生活を伝え、タブンネからの不信を拭おうという方法であった。

341ガラルタブンネ牧場:2021/01/17(日) 20:36:22 ID:zo7uE3Y60

 先ずは無料で、フリーズ村の有志中心に、また本土からも希望者を募り健康状態も良く、比較的人当たりも良い子タブンネ達を選んでは配布し、可能ならば時折農場に遊びに連れて来ること、無理であればペットとして暮らす様子を動画や画像で撮影し、それを牧場まで送信して貰うことをお願いして、連れ去った子タブのその後を親タブに見せる、会わせるという取り組みを始める。
 
 事業従事者の大半はその効果に疑問を持っていた。一般にポケモンとはそこまで低脳ではない。そんな子供騙しみたいな方法で欺ける筈は無いというのが大方の意見であった。
 しかしそんな懸念に対しこの取り組みは大成功。タブンネ特有の本当は皆んなと仲良くしたい性質。また野生での苦労辛々たどり着いたこの場所が、真の意味で安住の地であると信じたい心情が相まって、人間不信の個体は徐々に減り、やがてゼロになる。当初子を奪われることに抵抗する個体も居たが、自分達とは違う何処かで幸せに暮らしていること、また外敵や飢餓に怯える心配も無いことから次々産卵できる為か、今では目立った抵抗も見られなくなり、いよいよ牧場はタブンネ量産体制に入る。

 尚このタブンネペット販売は今でも継続され、牧場に連れて来れば買上額と同額、画像、動画送付でその半額が返礼され、1個体につき計3回までその恩赦を受け取る事ができる(その制度によってか3度以上牧場に連れて来る飼い主はこれまで一度も居ない)。

342カンムリ雪原のタブンネ 三つまたヶ原編:2021/01/18(月) 18:37:28 ID:nYTuWa.60
カンムリ雪原の投稿遅れてゴメンネ
今月末には投稿できそう
一つ相談なんだけどサザンドラの鳴き声って文字にしたらどんな感じになるんだろう

>>341
乙ンネ
やっぱり追い立てられて食べられるタブンネさんはいいね
タブンネさんの悲鳴からしか摂取できない特別な栄養素ってあると思う

343名無しさん:2021/01/18(月) 19:11:50 ID:YAKJbo020
>>342

後編期待してますぞ。

正直
「サッザーンドラー」以外の音に聞こえた事ないです

344ガラルタブンネ牧場:2021/01/20(水) 15:56:39 ID:ueEbvqjc0

 そんな経緯を経て、このカンムリ雪原に根を下ろしたガラルタブンネ牧場。今では飼育員、(完全にタブンネの餌用と化した)木の実栽培の担当者、常駐される医師やトリマー、事務員などを含め、従業員200以上、事業発足当初の予定を大幅に上回る官民連携の一大産業として、今日もまた沢山のタブンネが産まれては連れ去られ、この僻地に利益がもたらされていく。

 現在の牧場の様子を少し覗いてみる。屋舎から少し距離を隔てたその敷地は拡充を重ね、今や10haにまで届くだろうか。
 ある広場では人間の投げたポケボールを嬉しそうに追いかけるチビンネ兄弟。
 広場に設置された人間の子供も遊べそうなほど立派な遊具で戯れる子タブンネ達。その末端の滑り台をチィチィ楽しそうに滑り降りるチビ。その先で待ち構えた人間が乱れた毛並みをブラシで整えてやり、傍らで見つめるママンネも幸せそうな笑顔。
 別の広場ではではサッカーのミニゴールの様な物が設置されたコートに人タブ入り乱れ、小さなゴムボールを蹴った子タブのシュートがころころと転がりゴールに吸い込まれると、ミィー!と嬉しそうな雄叫びと共に万歳の様な姿勢を見せ、人間や親タブらしき個体が笑顔でその子の頭を撫でている。
 随所に植えられた木の一つに凭れては、
ミヒー...。チビィー...。気持ちよさそうに寝息を立てる親子ンネ。野生時だったら日向ぼっこすら頃合いを見計らい、親は常に耳をそば立る命懸けの行為だっただろう。巣から離れ無防備に昼寝をする姿は平和の象徴そのものだ。
 ある巣では人間がチビンネを3匹回収している。親も子も目に涙を浮かべるが、我が子や自身の幸せな未来を想像しているのであろう、その顔は寂しそうながら屈託のない笑顔だ。
 朝昼晩には人間の運んで来る新鮮で美味しい木の実をおなか一杯に食べ、おやつの時間にはほっぺたが落ちそうな程甘いきのみジュースを味わう。夜になれば各巣で家族身を寄せ合って幸せな眠りにつく・・・

345ガラルタブンネ牧場:2021/01/20(水) 16:01:03 ID:ueEbvqjc0

 優しい飼育員やタブンネ達の笑顔や笑い声の絶えない牧場。しかし細かくその姿を観察すると、親個体を中心に野生での、辛い過去が随所に垣間見える。
 あるタブは原型こそ留めているが片目の焦点があっておらず、完全に光を失っている。或いは隻腕の者、歴戦の古豪の如く背中一面に痛々しい切り傷を負う者、またあるタブは脚の骨が完全に変形し、真っ直ぐ歩くことができない者...。

 ある巣穴に甲斐甲斐しく2つの卵を暖めているつがいが居る。旦那の方は片耳が完全に切れており、もう片耳は半分だけ残り、そこから伸びる触角は干からびたミミズのように巻かずに垂れていて、もう感覚器官として機能していないだろう。半ダルマンネの様な姿だ。雌の方はホイップクリームの尻尾が完全に落ち去り、臀部は火傷跡の様に爛れ変色した地肌を晒している。
 いずれも野生時に捕食種に襲われた際負った傷で、重要な異性へのアピールポイントを失ったショックから半ば結婚も諦め、それぞれ単体で巣食って過ごしていたのだが、ある日偶然にこの場を見つけ辿り着き、ここで出会った2匹は互いの良く似た心と身体の傷跡からすぐに意気投合し、やがて寝床を共にし待望の産卵を迎えたのだ。
「ママ、卵の様子はどうミィ?もうすぐベビちゃんと会えるミィ?」
 最低限の音しか聞けなくなった雄の方が最愛の妻に尋ねる。
「慌てないでミィ。まだ産まれて2日目なんだミィから。命の音はしっかり聞こえて来るミィ。産まれてくるベビちゃん達には私達みたいな苦労はさせたくないミィ。愛情たっぷり育てるミィよ!パパ!」
タブ1倍の苦労も一入、我が子と向き合うときの喜びやきっと想像以上だろう。

346ガラルタブンネ牧場:2021/01/20(水) 16:03:56 ID:ueEbvqjc0

 「ミィーー!ミッミッ!」
 ところ変わってあるバリケード付近、敷地の外をさしながら、必死に何かを人間に訴えるタブンネ親子が居る。

ガシャガシャ... 「ミィ...、ミビィ...。」
敷地の外側から、酷く汚れて痩せ細った1匹のタブンネが金網にしがみつき、弱った鳴き声をあげている。

「大変だ!凄く弱ってるじゃないか!」
 すぐに飼育員数名が現場に駆けつけ、タブンネを保護すると医務室へと運び、治療を施し一通り回復すると、農場を案内してやる。      
逃げ出すような態度を示すならば解放してやるのだが、今までそのような素振りを見せた個体は1匹も居ない。この保護ンネも第一発見タブとなった親子を見つけると、ミィミィ嬉しそうに語りかけ、すっかり打ち解けたようである。
 早速また新たな巣穴をセッティングし新たな商品候補、または商品増産器候補が牧場の仲間入りする。
 
 今回同様に野生のマニューラやタチフサグマがここを見つけ、中に居る獲物を威嚇したり脅かしたりすることもあるのだが、相当頑丈な金網に参っては踵を返していく。賢い個体ほど無駄な再来も無い。
 ここに来て間もないタブ程そういった襲来を騒ぎ立てるが、古参タブになってくると段々意に介さなくなる。自分達を守るバリケードの優秀さを理解し出すのだ。

347ガラルタブンネ牧場:2021/01/20(水) 16:07:22 ID:ueEbvqjc0

 新参タブンネの馴染んだ様子に胸を撫で下ろす飼育員達。ここの従業員は皆打算的な意思でタブンネを見ていない。黎明期より働く者達は当初「生き餌用」という飼育に抵抗があったが、今では割り切って、より愛情深くその仕事にあたっている。元は駆除の可能性もあったここのタブンネ達。ただ人間都合で殺処分されるより、命の役目があるだけ幾分かマシである。せめてここに暮す間だけでも幸せに、というのが大方の思いのようだ。


 今この時を生きる全てのポケモン達は、トレーナー飼いの者は皆日々激しいバトルに繰り出されるかその鍛錬に明け暮れ、そうでなくともポケジョブと称し人間の仕事に貢献する。また野生の者は常に生きるか死ぬかの過酷な環境を過ごしている。
 対してここのタブンネ達は食糧も住処も安泰、果ては糞尿の始末すら人間に任せっきりの状態で、何ら生産性も無い、側から見れば怠惰そのものに写るかもしれない。
 しかし彼らもまた元は野生の底辺で泥水を啜り続け、やっと手にした安住の生活。しかも地方が変われば彼らの同族は経験値狩りと称される理不尽な暴力に見舞われ、または謂れの無い虐待の限りを尽くされ非情な最期を迎える個体も多く存在するのだ。
 

 ここでも生き餌として連れ去られ、予想もしない死を迎える個体も多く居る反面、歴史が進めば最後まで売れ残っては、ここで家族や沢山の仲間、優しい人間達に見送られながら、幸せにタブ生の最期を迎える個体も今後多く現れるだろう。
 世界にたった一カ所でも、そんなタブンネ達の理想郷が存在したってきっと神もお許しになるだろう・・・

 
 はずは無いのだ...!

348名無しさん:2021/01/20(水) 23:55:59 ID:IrG1Djr.0
神「もちろん許さぬ!」

ですよねーw

349名無しさん:2021/01/22(金) 08:09:30 ID:gUVh/xWU0
発見タブとかタブ一倍って表現、良いですね。
最後の手のひら返しも最高!売れ残りのタブたちはどんな目に遭うのかな〜

350ガラルタブンネ牧場_殱滅編:2021/01/22(金) 19:11:35 ID:Trqk4oRs0

 破滅は唐突に訪れる。

 ある日の夕方、農場では木の実栽培の作業も終わり、そのお手伝いをしていた数匹のタブンネ達も自分の住処へと戻っていた。また牧場内でタブンネの世話をしていた飼育員達も徐々に屋舎へと戻って行き、退勤の準備を始め夜勤の者に引き継ぎの準備をしていた頃であった。

〜♪♪♪
受付の電話が鳴る。
「はい、こちら雪原タブンネ牧j....」
「こちらマックスダイ巣穴研究所です!緊急事態なんです!施設内で時空乱入が起きて何かでっかいの...!とにかく、とにかく避難して下さい!未確認の巨大生物が出てきて、森を焼きながらそちらに向かってます!にげて」ブツッ

 電話が一方的に切られると、事務員は血の気の引いた顔をする。明らかにパニックを起こし要領を得ない電話だったが、その様子からイタズラ電話の類いではないこと、何か不吉を孕む危機が迫っていることを伝えるに十分な電話だった。

 「どうしたの?イタ電?」横に座る事務員が小声で話し掛けると、電話を受けた者は受話器を投げ出し、ガバッと立ち上がると、
「マックスダイ巣穴研究所から緊急連絡です!みんなここから出ないで!窓もドアも閉めれるだけ閉めて!ヤバい生き物がここに向かってるみたいです!」

「ヤバい生き物?」
「なんちゃら研究所って?」
「あの駅の近くの洞穴で科学者みたいな連中が何か怪しげな研究してたとこじゃない?」

 困惑する周りの従業員達だったが、その剣幕や顔つきから、ひとまず指示に従い各戸締りを確認していくと、外の異変に気付いた者からその危機に顔を青ざめる。氷点雪原の各所の木々が燃え山火事を起こし、その上空に高さ10メートルはあるだろうか、巨大な生き物が両腕から火を吐き出し、こちらに近づいてくる。

 後にうちあげポケモンと分類されることになる、テッカグヤである。

351ガラルタブンネ牧場_殱滅編:2021/01/22(金) 19:26:37 ID:Trqk4oRs0

 まだ3〜4名程の飼育員が牧場に残っていた筈だし、しかもそこには沢山のタブンネ達も居る。すぐさま緊急無線が流される。

「緊急連絡です!危険な未確認生物が現れこちらへ向かっています。牧場内に居る作業員は直ちに屋舎内に避難して下さい。急いでください!」

 牧場内に居た幾名の飼育員もその放送を聞き、北の方から焦げ臭い風が流れてくること、またまだ離れてはいるが上空に見たことのない飛行物体が浮かんでいることを確認すると、
「おーいみんな建物まで逃げろ!急げ!早く!」
 周りに散らばるタブンネ達を大声で捲し立てながら、自身も全速力で避難をする。
 約1分半後、一番遠方に居た飼育員も屋舎に辿り着き、全員の避難終了にひとまず安堵する人間一同。幸いこの屋舎は厳しい気候災害、または大型の野生ポケモンの群に総攻撃を受けようが無事な程の頑丈な設計で、ここに居れば大きな被害を受けるとはそう考えにくい。   
 しかし外に居た飼育員はここで大きな誤算に気付く。振り返ると、タブンネがただの一匹もここに辿りつかない、どころか殆どこちらへ向かってすらいないのだ。

352ガラルタブンネ牧場_殱滅編:2021/01/22(金) 19:39:38 ID:WnymyG7k0

 牧場に取り残されたタブンネ達、特にここで産まれたチビ達の危機意識の低さは顕著であった。
 緊急無線を流したいくつかのスピーカー、以前よりその存在を視認していたが、始めて音声を発したことに驚いたあるチビ兄妹は、それを括り付ける鉄柱をペシペシ叩きながら
「このボッコもオモチャだったのチィ?」
「でも一回しゃべっただけでまただまっちゃったミィ」
 またある広場では笑顔でかけっこをするチビ。サッカーに興じるチビ。健やかな顔をして巣穴で毛布に包まり、寝息を立てるチビ....。皆人間の様子や突如鳴り響いた電子的な音声に一瞬反応はしたが、またそれぞれの遊びや昼寝に戻り、呑気に過ごしている。

 しかし一部の親ンネ達は
「何だか焦げくさいミィ?」
「あっち見てミィ!森がいっぱい燃えてるミィ!」
「何か飛んでるミィ!アイツが森を燃やしたミィ?」
 ようやく危機を察し、徐々に焦り始めるピンクの仲間たち。
 ただ多くの個体が野生を離れて久しいこと、ニンゲンさんの様子が変なことは察したが「にげろ」「ひなん」とか「いそげ」といった初めて聞く言葉の細かい意味を理解し得なかった事などが、致命的な避難の遅れを生む。

 屋舎側に住むタブ達を中心に、建物から必死の形相で手招きする人間達に気付き、そこへ逃げ始めようとするが中々足が進まない。安全な環境で調子に乗って作りまくった子供達が足枷となったのだ。
 急いで散らばる子供達を巣に集め、比較的育っている子達にベビや卵を抱かせ、避難の段取りを進める家族。また野生時のような危機意識を取り戻したのか、卵やベビに見切りをつけ、夫婦と自力で走れる子たちだけで逃げ出そうとする家族...。

 活発に動き出したタブンネ達だったが、その数分の遅れを悪魔は見逃してくれなかった。

353ガラルタブンネ牧場_殱滅編:2021/01/24(日) 20:12:51 ID:cF5n9EJc0

 人間の避難が完了してしばらく、それぞれが家族で纏まり、ゾロゾロと動き始めたピンクの軍団。その先頭を行くのは先に紹介した、あの半ダルマンネと尾無しンネ夫婦。
 彼等は屋舎からはさほど近くない位置の巣に住んでいるが、呑気なタブ達の中でもいち早く人間の様子から危機を察し、また大所帯でもないため直ぐに人間の建物を目指し始め、その距離をあと30メートル、20メートルと縮めた時、その上空に巨大な影が迫る。

 産後間もなく、少し体力的に厳しい尾無しの妻が先に居て、それを1,2メートル後ろから、必死に励ましながら片耳の夫が追随している。
「ママ、あと少しだミィ!ニンゲンさんの建物でバケモノからベビちゃん達を守るミィ!」
「ブミィ...。足が重いミィ。あと少し...!ベビちゃ......」
 それぞれはその両腕で一つずつ、中から命の鼓動が伝わる、綺麗な卵を力強く抱えている。他の一部のタブとは違い、この2つの命を守る絶対的な意思がある。おそらく彼等は、この雪原のつがいの中でも一番と言っていい、自身の子供への、揺るぎない強固な愛情を持っている。

 しかし夫の視点、目の前の最愛の妻の身体が突然暗い影に飲み込まれると次の瞬間

 ブチャッ! バリッ!
絶対に聞こえてはならない音と共に、視界が光沢を帯びた緑で埋め尽くされる。

354ガラルタブンネ牧場_殱滅編:2021/01/24(日) 20:17:12 ID:cF5n9EJc0

 決して戦闘に秀でる訳ではないタブンネを思って堅牢な檻で囲われたその牧場。しかし空が一面開けていた事がここへ来て仇となった。

 丁度屋舎の人間からタブンネ達の姿を遮るように着地したテッカグヤ。
 片耳の夫はその圧倒的風圧に後のめりに転倒し、見上げたその先、その巨躯の割に小さな顔の口元はやや笑みを浮かべている。見た事も聞いた事もないバケモノが徐にその巨体を持ち上げると、夫ンネはハッと我に帰る。

(ママは!?ベビちゃんは...!?)

 恐る恐るその巨体の下を見ると、粉々になった卵が血塗られた芝生の上に散らばり、その手前にペシャンコになったピンクに赤黒さが混じった肉塊。その付近には無造作に飛び散った心臓なのか腎臓なのかもはやわからない物体がピクピクと蠢いている。
 不運にも、誰よりも愛情深かった尾無しの妻は、突如襲来した悪魔の下敷きになってしまった....
 いや、違う。テッカグヤはおそらく狙ってこれをやっている。今のはバトルで言うところの、ヘビーボンバーという技であった。

「ミッ・・・、ミッ・・・。」

 最愛の妻と愛しい我が子の残骸を見つめる夫ンネ。口を僅かに開けてブルーの瞳を大きく見開いては、静かに鳴き声をあげる。
 今、彼の心を支配するのは恐怖でも悲しみでもない、完全なる「無」である。目の前の現実を受け入れる事を脳が拒否しているのだ。

355ガラルタブンネ牧場_殱滅編:2021/01/24(日) 20:21:05 ID:cF5n9EJc0

 思った程の動きを見せないことに、少し口元を歪めたテッカグヤ。しかし目の前で硬直するピンクダルマの姿を見やると、再び口元に冷笑を浮かべる。現実を受け入れずとも最後までしっかりと抱えていた卵の存在に気づいたのだ。
 巨大な両腕を少し持ち上げると、無数の真空の刃がそれに命中する。

 バリッ!  「チィ-....」
 ぶち撒けられた生暖かい粘液と共に、小さな身体が胴体をまっぷたつにしながら夫ンネの目の前に現れ落下する。あまりにも小さな音で、今生最後の言葉となる愛しい産声を、聴覚の大半を失ったパパが認知できなかった事は幸か不幸か。

「ミ....ミヒャヒャヒャヒャ!ミバアーッヒャッヒャッ....!」
 仰向けに寝転び、両手両脚を大きくバタつかせ、全身を激しくくねらせる夫ンネ。精神の限界を超えるに充分な攻撃だったようだ。完全に狂ってしまった。
 想像を超えるリアクションに大満足のテッカグヤ。ここへ降り立って初めて、不気味で甲高い声を上げる。

「ミッ...、ミィーーー!」
「ミ゛ミ゛ーーッ!」
「ギャミーーー!」・・・

 足が竦み、一部始終を黙って見ていた周りンネ達の恐怖を煽るに効果抜群の雄叫びだったようだ。屋舎を目指し固まっていた大行列は一目散に散らばり、大声で喚き散らしながらドタドタと短い脚で四方八方逃げ出していく。

 この愉快な光景は、テッカグヤの嗜虐心を大いに煽っていく。

356カンムリ雪原のタブンネ 三つまたヶ原編:2021/01/24(日) 22:02:19 ID:.pjsQMZQ0
長女タブンネから完全に反応が消えた事を確認したジヘッドはトレーナーの元へと駆け寄る。
トレーナーが「満足したか?」と優しく尋ねると、ジヘッドは満足気な表情で「ガウッ」と吠え返事をした。
すると突然ジヘッドの体が輝き始め、その姿に変化が生じ始めた。先ほどの戦闘で成長したジヘッドが進化しようとしているのだ。
緩やかにフォルムを変えていくジヘッド、光が消えるとそこには三つ首の妖龍、サザンドラが存在していた。
サザンドラはふわりと空中を一回転してからトレーナーの元へと駆け寄る。
二人にとって念願だったサザンドラへの進化。トレーナーとサザンドラは互いに抱き合い喜びを分かち合った。

ジヘッドがサザンドラに進化したことにより当初の目的は達成することができた。
だがタブンネを入れ食いすることができるこの奇跡的な状況を逃すという手はトレーナーにはなかった。
トレーナーはサザンドラと目を見合わせ「進化祝いだ、タブンネと一緒に派手にパーティをしようか」と発言する。
サザンドラも思いは同じで、悪い笑みを浮かべながらこくりとうなずいた。

357カンムリ雪原のタブンネ 三つまたヶ原編:2021/01/24(日) 22:03:03 ID:.pjsQMZQ0
一方、ここは海鳴りの洞窟と三つまたヶ原の境にある小さな洞窟。
長女タブンネ扮するメタモンは野生ポケモンの目を掻い潜りこの場所へとたどり着いた。
あたかも命からがら逃げだしてきたかのような演技をし、洞窟の中へと入っていくメタモン。
洞窟内部には少数のタブンネ達が火を囲んで暖を取り、待機していた。
突如入ってきた傷だらけのタブンネに周囲は戸惑いの反応を見せる。
すると一番奥で鎮座していたリーダー格と思わしきタブンネとその傍らで控えていた番いのタブンネがメタモンの元に駆け寄ってきた。
怪我を見た番いタブンネはいやしのはどうを放ち、メタモンの傷を治していく。

 ─ 大丈夫か、何があった? ─

リーダータブンネはメタモンに肩を貸してゆっくりと火の近くまで運びながら訪ねる。
火の近くで少しだけ温まり、落ち着いたように振舞ったメタモンはゆっくりと語り始めた。

 ─ 見つけたんです……タブンネ達が暮らせる安全な場所を!! ─

その発言を聞いた瞬間、その場にいたタブンネ達は皆一様に期待に胸を膨らませるような反応をした。
メタモンは続けてタブンネ達に説明を続ける。
野生のポケモンに襲われている途中、扉が開いている遺跡がありその中に避難した事。
野生ポケモンはその遺跡に入った段階で踵を返し、追ってこなくなった事。
遺跡の中を少し調べたが他のポケモンの気配は感じられなかった事。
メタモンの虚実を織り交ぜた報告に、タブンネ達は皆真剣な面持ちで耳を傾けた。
報告が一通り終わり、あたりはしんと静まり返る。
反応が薄いのは恐らく自分たちが救われることに対する実感が湧かないからだろう。

358カンムリ雪原のタブンネ 三つまたヶ原編:2021/01/24(日) 22:04:16 ID:.pjsQMZQ0

 ─ これでやっと……やっとバンギラスから解放されるのね…… ─

一匹のタブンネはすすり泣きながらそう発言する。
その言葉を聞いたタブンネ達は徐々に歓声を上げ始めた。そうだ。自分たちはこの地獄から解放されるのだ。
浮足立つタブンネ達にリーダータブンネが「静かに」と声をかける。するとあたりは再び静寂を取り戻した。

 ─ 安全な場所を見つけられたことは喜ばしいことだがまだ確証は持てない。
   これから私を含めた数匹で対象の遺跡へ向かい、現地調査を行う事にする! ─

リーダータブンネの号令を聞いたタブンネ達は皆同様に畏まり、「ミッ!」と勢いよく返事をする。
このリーダータブンネが組織のブレイン、中核なのだろう。タブンネの癖に存外しっかりしていて少し面倒だ。
メタモンは心の中でそうぼやきながら事の成り行きを見守った。

リーダータブンネは洞窟の中にいたタブンネ達の中からさらに少数を斥候班として分配し直す。
自身と番いタブンネを含めた成体のタブンネが六匹、幼体の子タブンネが二匹。
それにメタモンを加えた計九匹で斥候へ向かうことにする。
リーダータブンネは洞窟内に残るベテランのタブンネに次の業務を引き継ぐ。

 ─ 後の事は任せたぞ ─
 ─ まぁ、どうせすぐに必要なくなりますよ。そっちでオボンでも食べながら待っててください ─

引き継ぎを受けたタブンネはリーダータブンネの言葉に軽口で返す。
二匹は互いに笑みを浮かべ固い握手をした。

 ─ それでは、行くぞ皆! ─

リーダータブンネの声掛けと共に斥候班たちは三つまたヶ原へと足を踏み入れた。

359カンムリ雪原のタブンネ 三つまたヶ原編:2021/01/24(日) 22:04:50 ID:.pjsQMZQ0
メタモンのスカウトもあり、斥候班のタブンネ達は全員遺跡の前へとたどり着いた。
リーダータブンネはメタモンを含む成タブンネ六匹を二人一組の三組に分けて周囲の哨戒を行うよう命令する。
なぜ直ぐに遺跡の中に入らないのか。それは外敵と遺跡の構造の確認のためである。
この遺跡に出入口が一つしか無い場合、階段へ踏み込んだ後に野生のポケモンから後を追われれば袋小路へ誘い込まれてしまう。
そうなった場合群れの全滅は免れないだろう
故に遺跡に入るその前に、外観からわかる範囲での構造の把握と、野生のポケモンへの警戒が必要なのである。

 ─ こっちにおいで、一緒に体を温め合おう ─

一方で周囲の哨戒に加わらなかった子タブンネ達は軒先で身を寄せ合い体を温めあっていた。
体格が大きい方の子タブンネがそういうと小さい子タブンネはその子タブンネの懐へもぐり体を預ける。

 ─ お兄ちゃん、あったかい…… ─

一番小さい子タブンネは大きい子タブンネの胸に頭をこすりつけ甘えている。
この子タブンネは大きい子タブンネの妹のようだ。
兄と呼ばれたタブンネは妹が寒い思いをしないようできるだけ全身を包み込むように抱きかかえる。
本来であればこの二匹はこの探索に加わる予定はなかった。
しかしこのタブンネ兄妹は他のタブンネが覚えない特殊なわざを覚えていたため、いざというときのキラーカードとしてリーダータブンネが同伴を許可したのである。

一寸先で吹き荒ぶ猛吹雪を見ながら兄タブンネは考える。
もしこの遺跡がタブンネにとっての安住の地になるのであれば、今まで行われてきた凄惨な営みから解放される。
そうすれば妹も、望まぬまま子を産まされることも無くなるんだ、と。
兄タブンネは先ほどの長女タブンネ同様、目の前で喰われていく兄弟たちを目にしたことがある。
あの時、兄弟たちを救えなかった屈辱から、末の妹タブンネだけは何としてでも守ってやりたいと決心したのである。
例え自分の身が犠牲になろうとも───

360カンムリ雪原のタブンネ 三つまたヶ原編:2021/01/24(日) 22:05:58 ID:.pjsQMZQ0
哨戒を終えたタブンネ達が戻ってきた。外敵の存在は確認できなった旨、出入口も一つしか見当たらなかった旨を報告する。
出入口が一つしか無い事に少しためらいを感じたリーダータブンネだが、意を決して遺跡へ入り込んだ。
一歩一歩、常に周囲を警戒しながら歩みを進めるリーダータブンネ。ふと階段を上っている途中で遺跡の中から異音を耳に捉える。
手をかざし「ミッ!」と全体に静止するように命じる。耳を澄ませると微かに聞こえる、自分たちとは異なるポケモンの息遣い。

 ─ 遺跡の中から異なるポケモンの気配を感じる! ─

リーダータブンネがそういうと周りのタブンネは一斉にどよめき始めた。
このまま引き返すか、それとも進むか。リーダータブンネは思索する。すると傍らからメタモンが語り掛けてきた。

 ─ リーダー、いったん私が先行して内部を確認してきましょうか? ─

このリーダータブンネは警戒心が強い、それ故に生き残れたという背景はあるのだろうが、自分たちとしてはこの警戒心はなかなか厄介だ。
先に内部を確認し安全であることを確認し手引きする。そうすることで警戒心を和らげる。
可能性としては五分だがリーダータブンネの答えは───

 ─ 分かった。君に託そう。危険を感じたらすぐに帰ってくるんだぞ ─

かかった! メタモンは心の中でガッツポーズを取る。
メタモンは「ミィッ!」と返事をすると階段を上がり遺跡の中央部へと向かった。
遺跡の内部はパッと見た限りではトレーナー達と共に見た時と同じ装いだった。
石造前へ向かい床を見てみるとわずかだが血痕が残っていた。これがあの厄介者に見つかってしまえば計画は破綻してしまうだろう。
軽く足でパッパッと払い、小石や砂で目立たなくする。
他に何かないか、周囲を見渡しているとふと射貫くような視線と殺気を感じる。
間違いない、ジヘッドのものだ。
どこから見ているか分からないがここで声を出すわけにも行かない。
メタモンはとりあえず自分は敵ではないことを示すため音を立てないよう細心の注意を払いながら片手だけメタモンへと戻し周囲へアピールする。
すると室内に漂っていた殺気は一気に緩和し霧散していった。
ふぅ、と一息つくと片手をタブンネに戻し、周囲の調査へと戻った。
トレーナー達が居た痕跡は目に見える範囲にはない。後はただ主賓の活動までタブンネ達がのんびりしてくれているだけでいい。
メタモンは階段中腹で待機しているタブンネ達に異常がなかったことを告げた。

361カンムリ雪原のタブンネ 三つまたヶ原編:2021/01/24(日) 22:07:11 ID:.pjsQMZQ0
リーダータブンネを先頭にタブンネ達が恐る恐る遺跡内部へと足を踏み入れる。
周囲に敵の姿が見えない事にリーダータブンネ以外のタブンネは緊張を緩める。
だがリーダータブンネは違った。そこには確かに外敵の姿は見当たらなかったが、未だポケモンの息遣いだけは聞こえていたのだ。
こいつだけは早々に何とかしないといけない。そう考えたメタモンは一芝居うつことにした。
遺跡の最奥部にそびえ立つポケモンの石造、その裏手を確認し「ここを見てください!」とリーダータブンネを呼び出したのだ。
リーダータブンネはメタモンに誘導されるまま石造の裏手を確認する。だが当然そこには何もなかった。

 ─ 何も見当たらないな。いったいここに何があるんだ? ─

リーダータブンネは怪訝そうな顔をしメタモンへと尋ねる。

 ─ いえ、ここには何もありませんよ ─

メタモンはにこやかな表情でリーダータブンネにそう返す。
すると突然遺跡の中央部に上から何かが落下してきた。バキバキと何かが砕ける音がする。
リーダータブンネが勢いよく振り返るとそこには無残にも食い荒らされた同胞の亡骸があった。
その亡骸の顔を注視する。この顔を自分は知っている。
この顔は───!!

リーダータブンネが声を出そうとした瞬間上空から何かが勢いよく降下し、タブンネを一匹掴んで階段の前へと立ちふさがった。
トレーナーのサザンドラだ。サザンドラは左頭でタブンネを捉えている。
捕まったタブンネは逃れようと必死もがいて暴れるがそのたびにサザンドラの牙が柔らかな腹肉へ食い込んでいく。
ギザギザの歯で腹肉を裂かれる痛みにか細く「ミッ、ヒッ」とうめき声をあげるがそれでも暴れる事はやめなかった。

362カンムリ雪原のタブンネ 三つまたヶ原編:2021/01/24(日) 22:08:05 ID:.pjsQMZQ0
やはり遺跡内部にはタブンネ以外のポケモンが居たのだ。
リーダータブンネはメタモンの方へ振り返る。こんな状況なのにメタモンは表情一つ崩していなかった。

 ─ お前は一体何者だ!? ─

リーダータブンネがそう吠えた傍らで、メタモンは涼しい顔をして遺跡の中央にある長女タブンネの亡骸の元へ歩いていく。
長女タブンネの頭部を持ち上げ死に顔がよく見えるようお腹のあたりまで持ってくる。
かたや苦悶に満ちた死に顔、かたや不気味な笑顔。表情こそ違うが確かにそこには同じタブンネの顔が二つ並んでいた。

 ─ さぁ? 私は誰でしょうね。 ─

リーダータブンネにそう言い放つとメタモンは持っていた長女タブンネの頭部をぽいと放り投げサザンドラの方へ駆け寄っていった。
メタモンとサザンドラは互いに見合う。するとメタモンは楽しそうに笑いながらサザンドラへ左手をあげた。

 「ミィッ♪ミィッ♪」─ 進化できたんだ! 立派になったねー、すごいじゃん! ─

メタモンのその言葉で気をよくしたサザンドラは空いている方の右頭をメタモンの左手に軽くぶつけ、ハイタッチをする。
周囲のタブンネ達は状況を飲み込めていなかった。
中央にあるタブンネの遺体は間違いなくあのサザンドラに手によるものだろう。
そして実際に自分たちの仲間の一人がそのサザンドラに捕捉され、今も苦しんでいる。
そんなサザンドラとあのタブンネはなぜ仲良く会話をしているのだろう。あのタブンネは一体何なのだ。
メタモンはタブンネ達の方へ向き直り、タブンネ特有の左手を振るポーズをとる。

 「ミッミッ!」─ それでは皆さん、ごきげんよう ─

メタモンはそれだけ言い残すと軽い足取りで階段を駆け下りていった。
それと同時にサザンドラがドラゴン族特有の腹の底まで響くような咆哮を上げる。

 「ミィ……ミイイイイィィィィィ!!!」─ ハメられた……俺たちはハメられたんだ!!! ─

リーダータブンネは自分たちが貶められたことに気付き叫ぶ。しかしそれに気づいた所で既に手遅れである。
既にこの遺跡はイッシュ地方きっての捕食者、サザンドラのコロニーだ。

363カンムリ雪原のタブンネ 三つまたヶ原編:2021/01/24(日) 22:09:10 ID:.pjsQMZQ0

 「ミィッ!ミィィィ!!!」─ 助けてぇ!誰か助けてぇ! ─

サザンドラに捕まっていたタブンネはついにたまらず周囲に助けを求める。
中央にあるタブンネの死体を見ればこのままだと自分がどういった運命を辿るのか、一目瞭然だった。
するとサザンドラはタブンネを眼前へと持ってくる。サザンドラと目が合うタブンネ、ついにタブンネは緊張感に耐えきれず泣きながら小便を漏らし始めた。
あまりにも情けない姿にサザンドラはたまらず吹き出してしまう。
そしてタブンネもそれに合わせて引きつりながら笑いだす。ともに笑い合えば見逃してもらえるかもしれない。その可能性に賭けたのだ。
しかし現実はそうはならなかった。
サザンドラはタブンネの頭部を右頭で掴み、一切の抵抗など出来ないほどの強力な力で首を回し始めた。
「ヴ……ギィ゙ィ゙」と声を上げるタブンネ。やがで首が180度ほど回転し、遺跡内部にいる他のタブンネ達と目が合った。
この時点でまだタブンネには意識があった。首がねじれる痛みで涙を流し、口をあけ舌を出し「ヒィ……ヒィ……」と掠れる声で悲鳴を上げながら周りに助けを求める。
周囲のタブンネは異様な光景に恐怖してしまい、動く事ができなかった。
やがてタブンネの首が360度、一回転する。首がぶちぶちとなりついには頭部と胴体が分割されてしまった。
サザンドラはタブンネの頭部を放り投げ、胴体から勢いよく溢れ出てくる血流をまるでシャンパンの様にあたりへぶちまける。

 ─ パーティの始まりだァ!!!! ─

サザンドラはそう吠えるとタブンネの体を放り投げリーダータブンネの方へと勢いよく向かっていく。
高速で向かってくるサザンドラに対し回避することもかなわず、リーダータブンネは掴まれてしまい空高く持ち上げられてしまった。
生まれて初めて見る高所からの光景にリーダータブンネは恐怖する。

 ─ 良い眺めだろォ…? お前ら地面を這いつくばるタブンネ達じゃ一生見れない景色だ ─

自分と同じくらい大きかったタブンネ達が遠く、小さく見える。ここから落とされたら自分はただでは済まないだろう。
いや、違う。自分は既に殺されてしまったのだ。この恐るべきポケモンに。
いまこの場において考える事は助かる事ではない、一匹でも多く同胞たちをここから逃がす事だ。

364カンムリ雪原のタブンネ 三つまたヶ原編:2021/01/24(日) 22:09:56 ID:.pjsQMZQ0

 「ミイイイィィィィ!!!」─ 皆今すぐこの場から逃げるんだ!!! ─

リーダータブンネは自分の生存を諦め仲間たちを逃がすためそう叫ぶ。

 ─ へぇ、自分の事は諦めんのかい。潔いねェ ─

他のタブンネが逃げているにも関わらずサザンドラは余裕そうな表情を浮かべている。

 ─ それじゃお望み通り……ぶち殺してやるよォ! ─

サザンドラはそういうとリーダータブンネを下方向へ勢いよく投げつけた。
重力に従いリーダータブンネは顔から落下していき硬質な床面に叩き付けられる。
顔の骨や首、肩に強い衝撃が走り骨が砕け割れる。だがリーダータブンネへの攻撃はそれだけでは終わらなかった。
空中から降下してきたサザンドラはリーダータブンネの上で一回転し、加速を乗せたしっぽをリーダータブンネに叩き付ける。
アクロバットという飛行タイプの技だ。
ミシミシという音が全身から鳴り響き、全身の骨や内臓にまでダメージを食らってしまう。
もうすでに虫の息であるリーダータブンネをサザンドラはしっぽで壁面まで叩き飛ばした。
首や四肢があらぬ方向へ折れ曲がり、目の焦点はあっていない。

 「ミィィィ!」─ あなた! ─

「アァ……ウー……」とうめき声をあげているリーダータブンネに番いであるタブンネが駆け寄る。
まだ息はある。治せるかは分からないが番いタブンネはリーダータブンネへいやしのはどうを行い始めた。
するとそこにサザンドラが現れる。サザンドラは心底楽しそうな笑顔を浮かべながら二匹のタブンネを見下ろす。
リーダータブンネはサザンドラに向かって折れ曲がった手を伸ばす。差し詰め「妻へは手を出すな」といったところだろう。
サザンドラはそれを見てニヤリと笑い去っていった。

365カンムリ雪原のタブンネ 三つまたヶ原編:2021/01/24(日) 22:11:04 ID:.pjsQMZQ0
続いての標的は階段に向かったタブンネ達だ。二匹のタブンネ階段を駆け下りている。
外の景色が見えた、もう少しで脱出できる。
先頭のタブンネが外に出ようとすると目に見えない何かに防がれ、勢いよく尻もちをつく。
何故出られないのか。何が起こったか分からないタブンネ達は一度外へ向かって駆け出すがやはり目に見えない壁のような何かに阻害されて出る事は敵わなかった。
出口にはフーディンによりリフレクターが張られていたのだ。
タブンネ達は顔を青ざめさせながらリフレクターをバンバンを叩く。

 「ミィィィィ!!ミィィィィィィィ!!!!」─ 出して! ここから出してぇ!! ─

サザンドラはそんなタブンネ達を階段上部から見下ろしている。
二匹の内後方にいた一匹がサザンドラがこちらを見ていることに気付き「ミィィ!!」と悲鳴を上げる。
先頭にいたタブンネもそれに気づきより強くリフレクターを叩き始めた。
そんなタブンネ達を見下ろしながらサザンドラは大きく息を吸い始め、巨大な火球を吐き出した
火球は空中で大の文字に変化し、階段を下りタブンネ達の方へ向かっていく。
だいもんじという炎タイプの技だ。
燃え盛る炎はじりじりとタブンネ達へとにじり寄っていく。
後方にいたタブンネは恐怖のあまりしゃがみ込む。その上をだいもんじが通過するが背面に火が移り尻尾と背中が燃え上がる。
先頭にいたタブンネはよけきる事が出来ずだいもんじが直撃し、炎に飲まれてしまった。
だいもんじが直撃したタブンネは火だるまになりながらその場に倒れ込んでしまう。
倒れた事により炎が気道へ入り込み、喉の奥を焼き尽くす。その苦しさは想像を絶するだろう。

 「ミ……ギァ……ァ……」 ─ 熱……い……苦しい…… ─

タブンネは苦しさのあまり喉を掻いてしまう。
しかし焼けただれケロイド状になった皮膚がぐちゅりと破れしまい、その中からさらに炎が入り込んでしまった。
これではもはや声を出す事すらできない。
激痛に苛まれ朦朧とする意識のなかで、タブンネは仲間が居る方へ手を伸ばした。
だがその手は誰に取られることもなく、ただ空しく空を掻く。
苦しいと叫ぶことや涙を流す事さえできない。地獄のような業火に飲まれるこの時間はタブンネにとっては永遠の様に感じられた。
やがてタブンネは体中が焼かれていく激痛と全身の水分が枯れていくのを感じながらこの世を去った。

366カンムリ雪原のタブンネ 三つまたヶ原編:2021/01/24(日) 22:11:55 ID:.pjsQMZQ0

 「ミッ!ミッ!ミィィィィィ!!!」─ 熱いぃ!誰か助けてぇ!! ─

背中に炎がついたタブンネは急いで階段を駆け上がりゴロゴロと地面を転がり消火を試みる。
必死の消火活動の甲斐あってか炎を消す事は出来たが、背中の毛は全て焼き尽くされ焼け爛れた皮膚が丸出しになっていた。
タブンネはうつ伏せになり、ぜぇぜぇと息を切らしながら痛みに必死で耐えている。
ふと、目線の先にはリーダータブンネにいやしのはどうを放っている番いタブンネの姿が見えた。
彼女に治してもらおう。そう思った火傷タブンネは這いつくばりながら番いタブンネの方へ向かっていく。
痛む体に苛まれながらタブンネは「なぜ自分はこんな苦痛を味わっているのだろう」と考える。
本当であれば今頃は安全な土地でオボンの実を食べながら仲間たちと共に笑っていたはずなのに。
火傷タブンネはかつて夢見ていた未来と現実を比較し、現実の惨めさ、苦痛さに耐えかね歯を食いしばり涙を流し始める。
それでも生き残りたい一心で進んでいると突然頭上から声をかけられた。

 ─ ちんたら這いつくばってんじゃねぇよ、すぐ追いついちまうぞ ─

声の主はサザンドラだった。サザンドラはニヤニヤと笑みを浮かべながらタブンネをからかう様に周囲を飛び回る。
火傷タブンネは恐怖で体が竦んでしまった。歯をガチガチと鳴らし体を震えさせている。

 「ミゥ……ミゥミゥ……」─ い、嫌だ……死にたくない……見逃して…… ─

恐怖に耐えかねた火傷タブンネは頭を抱え丸くなりながら、サザンドラに命乞いをする。
その姿はあまりにもみすぼらしく、みっともない。酷く滑稽でついついサザンドラは吹き出し、笑ってしまう。
自身が馬鹿にされていることは当然火傷タブンネにも分かる。だがそれ以上に自分が何もできないことも理解していた。
ただただこの場がこれで終わり、サザンドラがどこかへ行ってくれることを願う。
しかしそんな火傷タブンネの願いは脆くも崩れ去った。
「見逃すわけねェだろ」と言い放つとサザンドラは火傷タブンネの背中に両頭で思いっきり噛みついた。
神経がむき出しになった皮膚にギザギザの鋭い歯が刺さり激痛が走る。火傷タブンネは目をチカチカとさせ声にならない悲鳴を上げる。
サザンドラはそのまま脆くなったタブンネの背中を喰い破り始めた。
ぶちぶちと背中の皮膚が喰い破られる痛みで「ミギァァァァァァァァァ!!!!」と遺跡全体に響き渡る叫び声をあげるタブンネ。
気絶できればよかったのだがタブンネ特有の頑丈さがそれを許さなかった。
サザンドラも勿論それを理解していた。皮膚を喰い破る時は臓器を傷つけないよう注意を払いながら行っていた。
火傷タブンネは自身の血液でできた血だまりの中央で背中の皮膚を失い臓器をさらけ出した状態になっていた。
胸椎とあばら骨の間から弱弱しく心臓と肺が動いているのが分かる。
だが当のタブンネ自身はすでに虫の息だ。舌をだらりと垂らしながら消え入りそうな呼吸を繰り返している。

 「ミ……ミゥゥ……」─ なんで……僕たちが……こんな目に…… ─

火傷タブンネは自身の境遇を嘆きながら事切れた。

367カンムリ雪原のタブンネ 三つまたヶ原編:2021/01/24(日) 22:12:47 ID:.pjsQMZQ0
サザンドラが次の獲物を物色していると一匹、逃げ遅れたタブンネと目が合った。
恐怖で体が竦んで動けなかったのだろう。部屋の隅で胸に両手を当てながら涙目でこちらをじっと見ている。
次はあいつにしよう。思い立ったサザンドラはそのタブンネへと近寄る。
返り血にまみれたサザンドラに対し「ミヒィッ!」と悲鳴を上げへたり込むタブンネ。
目の前の存在がただただ恐ろしかった。この恐ろしいドラゴンから一刻も早く解放されたい。
タブンネはなんとかしてサザンドラから逃げられないかを考える。
サザンドラはもちろんタブンネが何か考えて行動しようとしているのを理解している。
理解しているからこそ今はまだ何もしない。タブンネ達が行うささやかな抵抗、それを踏みにじるのが楽しいから。
恐怖で追い詰められたタブンネはふと、自身のしっぽにオボンの実を隠し持っている事を思い出した。
少し前の遠征で見つけたのを有事に備えてしっぽの中に隠していたのだ。
オボンの実はタブンネ達にとっては貴重品だ。きっと目の前のサザンドラもオボンの実を欲しがるに違いない。
しかしこのオボンの実を投げたところでサザンドラからは逃げきれない。
だったら、このオボンの実を使ってサザンドラと仲良くなろう。
そうすればきっと、きっとみんな生きてここを出られるはず───
そう考えたタブンネはしっぽからオボンの実を取り出しサザンドラへ差し出した。

 「ミゥミゥ……ミゥゥ……」─ オボンの実を上げるので私達を見逃してもらえませんか…? ─

サザンドラはこのタブンネのあまりにも局面と違う行動に面食らってしまう。
こちらの顔色を伺うようなヘラヘラとした顔で変色したオボンの実を差し出すタブンネ。
そもそもこういった交渉事はリターンが釣り合っていない限り受け入れられることはない。
タブンネ達にとっては貴重品であるオボンの実も、サザンドラからすれば毎日好きなだけ食べれるようなものだ。
このタブンネは知ってか知らずか、タブンネから得られる経験値をそんなオボンの実一つで諦めろと言ってきたのだ。
あまりにもリターンが釣り合っていない交渉、当然サザンドラもそんな交渉を受け入れるつもりはない。
だがここで普通に断ったところでパフォーマンス的に面白くはない。
目の前の存在の生殺与奪の権を握っているのは自分だ。であればもっと面白さや楽しさを意識したい。
そう思ったサザンドラその交渉を受け入れるそぶりを見せた。

368カンムリ雪原のタブンネ 三つまたヶ原編:2021/01/24(日) 22:13:21 ID:.pjsQMZQ0

 ─ あぁ、いいぜ。それじゃ遠慮なく貰うとするかねェ… ─

その言葉を聞いたタブンネは先ほどとは打って変わりパァっと明るい表情になる。
目じりに涙をため満面の笑みでオボンの実を差し出すタブンネ。
サザンドラはゆっくりと近づきタブンネの差し出しているオボンの実に腕ごと喰らい付いた。
タブンネの笑顔が突然苦痛の表情に歪み、「ミギィッ」という悲鳴を上げる。
サザンドラは首をぶんぶんと振りタブンネを痛めつける。牙が肉を裂き、骨へと到達する。
あまりの激痛に目をつむりボロボロと大粒の涙を流しながらタブンネは振り回され続ける。
やがて骨が砕け割れブチリという音が聞こえるとタブンネは遠心力に任せ遠方へ放り投げられた。
背中から地面に叩き付けられるタブンネ、リーダータブンネ達と違いぶつけようとして投げられた訳ではないので背中へのダメージは軽い。
約束を破られた悲しみを感じつつ早く立ち上がって逃げなければと思い立つタブンネ。腕に力を入れて立ち上がろうとするがうまく立ち上がる事はできない。
それもそのはず。タブンネの両腕はサザンドラに食いちぎられ喪失していたのだ。
自分の両腕の肘から先が無くなっているのを見て絶句するタブンネ。すると今まで感じていなかった痛みが急に襲い掛かってきた。

 「ミ…ミィ……ミァァァァァァ!!!!!」─ なんで…私の腕……私の腕がぁ!!! ─

自分の腕が無くなったショックと激痛で半狂乱になるタブンネ。
すると目の前にその両腕を奪った張本人であるサザンドラが現れた。

 「ミゥ……ミッミッ……」─ どうして……見逃してくれるって言ったのに…… ─
 ─ なァに寝ぼけたこと言ってんだよ。てめぇらとの約束なんざ守るわけねェだろ ─

タブンネの問いにサザンドラがそう回答する。

 「ミ、ミゥ……」─ そ、そんな…… ─

そう呟くとタブンネはその場に倒れ込んだ。両腕があった場所からはどくどくと止めどなく血が流れ出ている。
もはやこの傷では生き残ることも無理だろう。
ぼうっと天井を見上げながらタブンネは思う。ポケモンの神様が居るならどうか、どうか教えて欲しい。
なぜタブンネばかりがこのような目に合わなければいけないのか!
私達はただ幸せを願っているだけなのに!
何かに脅える事もなく日々を暮らしたいだけなのに!
素朴な幸せを願ったタブンネの心の叫びは誰に届くこともなく、彼女の意識と共に闇へ飲まれていった。

369カンムリ雪原のタブンネ 三つまたヶ原編:2021/01/24(日) 22:14:01 ID:.pjsQMZQ0
番いタブンネの見える範囲にはリーダータブンネ、火傷タブンネ、両腕を無くしたタブンネの三匹が存在していた。
そのうち後者の二人は既に死亡、リーダータブンネも"まだ死んでいない"という状態でしかない。
次は自分の番だ、そう考えると背筋におぞけが走る。
心臓の鼓動が強く、早くなっていくのがわかる。焦りが放っているいやしのはどうに揺らぎを生じさせる。
これではいけない、精神を落ち着かせなくては。
きっと大丈夫だ。いやしのはどうでリーダータブンネを治し、二人でこの窮地を脱する事ができれば。
そう考えていると突然、ぷつりといやしのはどうが途切れて出なくなってしまった。
番いタブンネははたと出なくなってしまったいやしのはどうに驚き「ミッ!?」と声を上げてしまう。
このままではいけない、早く彼を治さないといけない。そう思ってもいやしのはどうが出てくることは無かった。
PPが尽きてしまったのだ。番いタブンネは自身の両手を見て顔を青ざめさせる。
いやしのはどうを打ち続けたリーダータブンネは、やはり完治には至らず辛うじて意識だけは保てている状態だった。
もはや希望などない、番いタブンネは打ちひしがれた。

 ─ よーうお嬢さん、そっちのタブンネの調子はどうだい? ─

サザンドラはリーダータブンネの状態が絶望的であることを知りながら番いタブンネに明るく語り掛ける。
どこまでも底抜けに明るいサザンドラの声。このポケモンは私達の命や尊厳を弄ぶ事を心の底から楽しんでいるのだ。
何故私達がこんな目に合わなければいけないのか。悔しくて涙が出てくる。溢れ出てくる気持ちを抑える事ができない。
会話になるとは思わないがどうしても問わずには居られなかった番いタブンネは、零れ落ちる涙を拭うこともなくキッとサザンドラを睨みつけながら叫んだ。

 「ミィ……ミィィィィィィ!!!!!」─ どうして……どうして貴方はそんなにも楽しそうに私達の命を奪えるのですか……!
  私達は貴方に対して恨まれる事なんて何もしていないはずです!! ─

興奮したようにミフーミフーと息を荒立てながらサザンドラを睨みつける番いタブンネ。
別段怖くもないし、ともすれば答える必要もない問いに、サザンドラは気まぐれで回答した。

 ─ てめェらを殺す理由なんて簡単な話さ。"倒せばより多くの経験値が入る"それだけだよ ─

370カンムリ雪原のタブンネ 三つまたヶ原編:2021/01/24(日) 22:15:10 ID:.pjsQMZQ0
サザンドラからの回答を聞いた番いタブンネは己の耳を疑った。
自分たちの命が、自分たちの意思が、そんな理由で奪われていたなんて。
因縁や確執があったなら、この殺戮にも何か意味はあったと思えたのかもしれない。
到底納得などできないが、それでも、それでも心のよすがくらいには出来たのかもしれない。
だが現実は非常だった。この殺戮には何の意味もなかったのだ。
この目の前のサザンドラも、自分たちを飼育していたバンギラスも、タブンネを一つの命としてカウントしていない。
いや、もしかしたらそれはサザンドラとバンギラスに限らず、この世界にある全ての生物たちもそうなのかもしれない。
恐ろしい考えが頭を巡る。頭を抱え体が震えだす。認めたくない、こんな現実認めたくない。
世界の残酷さを悟り、震えている番いタブンネの首をサザンドラが左頭で咥え、上へ浮遊する。
番いタブンネは苦しそうにサザンドラの腕を掴みながら足をばたつかせる。

 ─ 大体てめェらが誰かから恨まれるようなタマかよ ─

サザンドラは追い打ちをかけるように番いタブンネへ語り掛け、右頭のキバで番いタブンネの腹を裂く。
血があふれるよりも早く右頭を体内に侵入させ、臓器を絡ませるように腕をくねらせながら胸の方へと深く潜り込ませていく。
自分の体内に異物が入り込んでくる不快感で番いタブンネはより一層強く暴れだすが、サザンドラの力の前では何の意味もなさない。

 ─ 恨まれるヤツってェのはなァ……オレサマみたいに強くて ─

サザンドラが腕を潜り込ませているうちに内臓が傷ついたのだろう、番いタブンネは血を吐き出す。
あまりの痛みで叫ぶことが出来ず、か細く「ミィ……」と鳴き目線で命乞いをする。
もちろんサザンドラはそんなものに応じるつもりはない。

 ─ オレサマみたいにカッコよくて ─

右頭はやがて番いタブンネの心臓部分に到達する。
腹部から腕を突っ込まれ、内臓をぐちゃぐちゃにかき乱されてなお心臓は脈動している。
傷つけないように優しく、しかし力強く右頭の口が心臓を咥え込む。
番いタブンネは自分の心臓が何かに掴まれる感覚を感じる。
その先の結果を悟った番いタブンネは口元から血を流し目じりに涙をためながら首を左右に振りイヤイヤをする。

 ─ オレサマみたいに残虐なヤツのことを言うんだよ ─

ニィと笑いそう言い放つとサザンドラは内臓と共に番いタブンネの心臓を引きずり出した。
ぶちぶちと音を立て番いタブンネの"生命活動を維持していたもの"が大量の血液と共に対外へ排出される。
番いタブンネは体を弓なりにしならせる。目を大きく見開き口をパクパクとさせたあと、力なく項垂れた。
サザンドラは右頭に絡まった内臓を払い落した後、軽くなった番いタブンネの死体をリーダータブンネの前へ放り投げた。

371カンムリ雪原のタブンネ 三つまたヶ原編:2021/01/24(日) 22:16:15 ID:.pjsQMZQ0
一部始終を見ていたリーダータブンネは目前に落下してきた番いタブンネと目が合った。
美しかったサファイア色の澄んだ瞳はどこまでも深い暗黒のような色に変色しており、彼女の死を何よりも如実に物語っている。
リーダータブンネは「ァー…ゥー…」と喃語のような声を上げながら折れた両手をサザンドラに向かって伸ばす。
この凄惨な営みを見せつけられて初めて抱いた感想は"美しい"だった。
あまりにも圧倒的すぎるサザンドラの力量、上空で自身の愛する妻を惨殺したポケモンは、自分が持っていないものを全て持っていた。
心の内に芽生えた感情がなんなのか気付いたリーダータブンネは、直ちに思いなおそうとする。奴は仲間を殺し尽くした忌むべき存在だ、と。
同胞を殺し尽くした憎き邪龍への怨嗟。
ふわりふわりと空中を自由自在に空を舞うその妖艶さ。
もはや正常通り生きる事すら敵わなくされた事に対する憎悪。
タブンネとは天と地ほどの差もある生物としての格。
異なる二つの感情に苛まれたリーダータブンネは、ついに涙を流しながら射精をするという不可解な現象を起こしてしまった。
もはや生殖になど使う事のできない、不能になった男性器からトクトクとこぼれる様に精液が流れ出ている。
理性としての感情は涙として溢れ出て、本能としての感情は射精という形で表れてしまった。

その姿を見たサザンドラはあまりにも情けなさ過ぎてまたもや吹き出してしまった。
そもそも自分は雄だ。雄相手に射精する雄なんていうのはあまりに滑稽でみっともない。
思えばこの場所でパーティを始めてから、サザンドラは終始笑いっぱなしだった。
タブンネが燃え盛り死んでいく姿を見ては笑い、あまりにも無様な命乞いを晒しては笑い、的外れな非難を受けては笑い。
あまつさえ、まさか同性相手に射精をするほど情けない姿を見せてもらえるとは。
サザンドラの心にあまりにも大きな余裕と慢心が生まれる。
命を賭して、尊厳を捧げて自分に娯楽を提供してくれた彼らに対するお礼をしたいとすら思うほどに。
サザンドラはお礼も兼ねて、リーダータブンネに見せつけるように空中を飛び回る。
まだ乾ききっていない番いタブンネの返り血を飛び散らし、自身の優雅さを演出する。
その姿にリーダータブンネの目はくぎ付けになってしまった。
美しい、なぜ自分はああはなれない。あの目の前のドラゴンポケモンのように強く、美しくなりたい。
もはやリーダータブンネは理性で己の本能を律することなど出来なくなっていた。
ただただ目の前の存在を渇望することしかできなくなっていた。

だが、やがてそのサザンドラのパフォーマンスも終わりを迎える。刺し貫くような殺気を感じ取ったのだ。
殺気を放つその主は、彼らと共に入ってきた兄タブンネだった。
兄タブンネは妹タブンネを庇う様に仁王立ちし、鋭い視線を向けている。
今までのタブンネ達は皆戦う事してこなかった。以下にしてこの窮地から脱するかを念頭に置いていたのだ。
だがあの兄タブンネは違う。確実に自分を殺すつもりだ。
面白い、そう思ったサザンドラはやはりいつものように口角を上げて笑いながら兄タブンネへ語り掛けた。

 ─ 先手は譲ってやるよ。早く来い、ボウズ ─

372カンムリ雪原のタブンネ 三つまたヶ原編:2021/01/24(日) 22:18:14 ID:.pjsQMZQ0
あと3、4レスくらいで終わりそうなんだけど月末までにまとまりそうに無かったから投下しちゃった
あともう少しだけお付き合いください


>>355
乙ンネ
これからテッカグヤさんがどんな手を尽くしてタブンネさんたちを蹂躙するか楽しみ

373名無しさん:2021/01/25(月) 11:00:45 ID:.bgrawJs0
リーダータブンネがいちいちウザかった

捕食者を見てイクって顛末良いっすねw

374名無しさん:2021/01/25(月) 18:56:31 ID:vCayd4QI0
>>372
乙ンネです! 読み応えのあるお話でありました
サザンドラはやっぱり悪タイプなだけあって、ヒール役が板についてますね! 
スパイ役のメタモンとの掛け合いもかっこいい

375ガラルタブンネ牧場_殱滅編:2021/01/26(火) 16:43:02 ID:.T4VtOPE0

 テッカグヤが辺りを見回すと、バラバラに逃げ出したように思えたそのオモチャたちは、どうやら一定の集団を保っていた。
 
 家族単位で固まるタブンネが一定数。または片親、もしくは成タブ近いお兄ちゃんお姉ちゃんの周りを複数のチビが群がる集団。大タブンネは手に卵やベビを抱える者、両手でヨチヨチ歩きのチビンネの手を引く者、その様相は様々だ。
 10匹以上で固まるような集団が見受けられないのはタブ知恵から来る習性か。

 おあつらえ向きに用意された愉快なオモチャたちに逃げ切られても癪だ。
 先ずは目の前、五月蠅く抱腹絶倒している耳無しの個体の胴体を目がけ思い切り体重を乗せると

ブチャッ!

「ミバーッヒャッヒャッ!ミヒーミヒーッ...」
 ペチャンコの胴体から離脱し顔だけになって尚、涙を流し爆笑していた狂いンネだったが、約10秒後その表情のまま絶命した。

・・・彼は充分に楽しませてくれた

 テッカグヤは視線を上げると、両腕に白銀を帯びた光線を纏う。近場を逃げ惑う、ベビを抱いたママンネ、30〜50センチくらいのチビ3匹の集団に目標を定めると

ボッ!
 強力なラスターカノンが集団に命中。チビ1匹が身体の右半分を失った状態で前方10メートルくらい吹き飛んでいき、ママンネは胴体の下半分がグチャグチャになっていて、ドサリと転倒する。手に抱いていたベビは身体の輪郭は無事のようだが、舌を垂らし絶命している。残りのチビ2匹は素粒子レベルまで粉砕されたようだ。

「ミ゛・・・、ミィッ...。」
ママの発する音は助けを求める声でも、我が子の死を悲しむ声でもない。当たりどころが悪く、自身の最期を悟ったのだろう。
「ミゴブハァッ!」
壮大に吐血した後、目から光が無くなった。複数内臓が破裂していたようだ。

376ガラルタブンネ牧場_殱滅編:2021/01/26(火) 16:45:35 ID:.T4VtOPE0

 あっさりとまた一組の集団が殺され、さらに慌てふためくタブンネ達。

 テッカグヤはその場で4,5メートルほど上昇する。この敷地の全容を確認しているようだが、おそらくテッカグヤからも果てまでは把握できないだろう。
 しかしおびただしい数のオモチャが存在していること、また殆どの集団がどこかを目指している訳ではなく、唯々走り回っている事を何となく理解すると、三たび口元に不気味な笑みを浮かべ、次なる標的の目星をつけてその巨体を移動させていく。
 
 今殺したママの死体から20メートル程先の広場で、1匹のパパンネが両手に30センチ弱くらいのチビ2匹の手を掴んで走り回っている。その後方には両手チビより一回り大きいチビンネが4匹、必死にパパの背中を追いかける。
 テッカグヤ視点、自身からの距離を広げる訳ではなく、ただ円を描いて半径2〜3メートルくらいをドタドタ周回しているだけである。さぞかし滑稽に映るだろう...。
 
「パパー!!おウチのベビちゃんたちとタマゴはどうするチィ⁉︎こわいバケモノにこわされちゃうチィ」
「ベビちゃんや卵は助からないミィ!いいからチビお兄ちゃんはパパと一緒・・・、ギャミーー⁉︎チビちゃ....」

 卵やベビに見切りをつける判断力があるのなら、こわいバケモノが近づいて来ることに気づいて欲しかったものである。
 小さな弟妹を心配していた健気なチビは突如パパの右手を離れ、ピクピク動きながら後方に転倒している。
 気づけばすぐそこに大きなバケモノが居る。倒れチビは両脚が千切れ、付け根の部分からドバドバ血を流している。
 他チビは硬直し口をあんぐり開けているだけだが、パパは大量失禁している。やがてキッとした顔をすると、空いた右手で別チビ1匹の手を掴むと、今度はテッカグヤから逃げるように、またトテトテと駆け出した。
 残された3匹のチビは、痙攣する弟、ニヤニヤするバケモノ、離れていくパパを交互に見やるが、「チビィ!」と倒れた弟に声を掛けると、皆チョコチョコとパパを追いかけ始めた。つい最近までベビだった齢、動かない弟も心配だが、親から離れることが一番恐ろしいことのようだ。

 
 このオモチャたちが予想より遥かに脆いことに気づいたテッカグヤ。ジワジワと蹂躙していくつもりのようだ。
 小さいモノだけを先ずは集中して狙い、甲高い声を発し旋回しながら、適当な集団に目星をつけては、エアスラッシュを放っていく。ただでさえ短いタブ脚の、しかも幼子のそれに確実に命中させていくその技は、見事としか言いようがない。

377ガラルタブンネ牧場_殱滅編:2021/01/26(火) 16:48:47 ID:.T4VtOPE0

「ヂィーッ!いだいチィ、たてないチィー!」
「...ミチィ...」  「チ...チビィ...」
「チィのあんよが・・・あんよ・・・。」
「・・・・・・・・・・・・」
「チビェーーン!おね゛えぢゃーーん!おいてかないでビィーー!」
「じにだぐな゛いヂィー!だれかたすげチィー‼︎」
・・・・

 次々と出来上がってゆく、テッカグヤの脚なしチビンネコレクション。その数30、いや、40に登るだろうか。この牧場で一番の売れ筋は離乳後〜50センチ未満個体なのだが、改めてタブンネの繁殖力の強さが窺える。

 先のパパンネ同様、引率タブたちは手を引いていたチビが倒れても直ぐに見限ってまた別のチビの手を引き、追随チビが倒れても見向きもしない有り様。ベビや卵を度外視しても、甘え盛りでまだまだ手の掛かるチビンネはこの牧場内に五万と居るのだ。

 ありとあらゆる場所に散らばる、握り拳ほどの大きさのタブ脚。そこから覗かせるハートの肉球が実に可愛らしい。
 
 何匹かのチビンネは既に失血死してるかショック死している。微かな鳴き声を上げるチビンネも見受けられるが、じきに死ぬだろう。比較的傷が浅いか、もしくは体力に優れるチビンネが必死に叫び声を上げるが、やがて死ぬだろう。つまりみんな死ぬだろう。

378あらびきヴルスト製造工場(プロローグ):2021/01/27(水) 11:07:06 ID:AVp3Wh460

 ここは穏やかな田園風景や、近代都市、雄大な大地に険しい雪山と、様々な顔を持ち合わせる、ガラル地方。

 その中の代表的な産業都市、ナックルシティの一角に、大きな工場がある。そびえ立つ煙突から流れ出す煙は、食欲をそそるような良い匂いを含ませている。

 ガラル地方では今とあるブームがある。
「カレーライス」という料理で、今日も至る所でポケモントレーナーが自身の相棒達と共に、その料理に舌鼓を打っている。
 そんなカレーライスの具材のど定番。
「あらびきヴルスト」という食材がある。
その正式名称は
「タブンネの腸詰め」というのだが、そう読んでしまうとトレーナーが引いてしまうので、その呼び方を知っている人はあまり居ない。

 このお話ではそんなあらびきヴルストの製造過程を紹介する。

379あらびきヴルスト製造工場:2021/01/27(水) 11:08:10 ID:AVp3Wh460

 舞台をナックルシティの工場へと戻す。

 一台の大きなトラックがその敷地へと入っていく。その大きな車体の側面には、タブンネがおいしそうにあらびきヴルストを頬張るかわいい絵がプリントされている。

 そんなかわいい絵とは裏腹、コンテナの中は地獄である。
 真っ暗な中にギュウギュウに詰め込まれたタブンネ達。
 彼等の生息地であるカンムリ雪原で、突如現れた人間達に乱暴に捕まえられては無造作にコンテナに詰め込まれ、そこからはかなり長い道のり、トラックが大きく揺れる度に悲鳴が上がる。
 誰かがバランスを崩す度に、端に位置するタブンネは圧迫され、運の悪いタブンネは工場に着く前に死んでしまう。
 
 狭いコンテナの中で皆んなが悲鳴を上げるとその声は大きく反響し、ポケモンの中でも一番耳の良いタブンネには拷問に近い状態になる。それでも喧嘩になったりしないのは、タブンネが優しいポケモンだからであろうか。そもそもみんなで悲鳴を上げるのを我慢すれば拷問から解放されるのだが、誰も気づいてないのはご愛嬌。

 耳の痛さと酸欠と仲間達のブクブク太ったお腹の圧迫、更には誰かが漏らしてしまった糞尿の激臭という生き地獄に耐えながら、タブンネ達はその牢獄からの解放を待つ。

380あらびきヴルスト製造工場:2021/01/27(水) 11:08:58 ID:AVp3Wh460

 舞台をナックルシティの工場へと戻す。

 一台の大きなトラックがその敷地へと入っていく。その大きな車体の側面には、タブンネがおいしそうにあらびきヴルストを頬張るかわいい絵がプリントされている。

 そんなかわいい絵とは裏腹、コンテナの中は地獄である。
 真っ暗な中にギュウギュウに詰め込まれたタブンネ達。
 彼等の生息地であるカンムリ雪原で、突如現れた人間達に乱暴に捕まえられては無造作にコンテナに詰め込まれ、そこからはかなり長い道のり、トラックが大きく揺れる度に悲鳴が上がる。
 誰かがバランスを崩す度に、端に位置するタブンネは圧迫され、運の悪いタブンネは工場に着く前に死んでしまう。
 
 狭いコンテナの中で皆んなが悲鳴を上げるとその声は大きく反響し、ポケモンの中でも一番耳の良いタブンネには拷問に近い状態になる。それでも喧嘩になったりしないのは、タブンネが優しいポケモンだからであろうか。そもそもみんなで悲鳴を上げるのを我慢すれば拷問から解放されるのだが、誰も気づいてないのはご愛嬌。

 耳の痛さと酸欠と仲間達のブクブク太ったお腹の圧迫、更には誰かが漏らしてしまった糞尿の激臭という生き地獄に耐えながら、タブンネ達はその牢獄からの解放を待つ。

381あらびきヴルスト製造工場:2021/01/27(水) 11:10:45 ID:AVp3Wh460

 トラックは工場の中庭のような場所に停まると、ドシャドシャと乱暴にコンテナ内のタブンネ達をぶち撒けていく。

 今回やってきたタブンネは全部で54匹。
 内2匹のタブンネは死んでいた。一匹は脇腹が破れそこから何やら臓器がはみ出している。もう一匹は身体は無事だが、白眼を剥いてだらしなく舌を垂らしている。死体は乱雑に古びたカートに積まれ、施設内の焼却所で燃やされる。

 中庭は所々錆びた古い鉄製の柵で仕切られ、タブンネ達が居るのはその片側。皆んな四つん這いになって、肩で大きく息をしている。よっぽど息苦しかったのだろう。
 大体のタブンネは大人だがその中に4匹、大人の半分くらいの大きさのタブンネが混じっている。

 やがてどこからともなく、1匹のローブシンが現れ、小さいタブンネの頭を引っ掴んでは、ポイポイと柵の反対側へと投げ込んでいく。
 その度に何匹かのタブンネがミィミィ叫び出し、ローブシンに捨て身タックルを仕掛けるが、ローブシンはへいきな顔をしている。

 小さいタブンネが投げ込まれた側にはカイリキーとドリュウズが居る。カイリキーが1匹ずつ、小さいタブンネの手足を掴んで固定すると、ドリュウズがつのドリルで丁寧に心臓を破壊していく。
 柵を掴んで何匹かのタブンネが必死に抗議の声をあげている。さっきまで捨て身タックルしていたタブンネ達のようだ。きっとこの子達の親だったのだろう。
 この工場では子供タブンネは使わないので、死んだ子供タブンネ4匹は先程の死体同様、カートに積まれて後で燃やされる。

 抗議していたタブンネは涙を流し、他のタブンネ達は子供の断末魔を聞かないように、みんな耳を押さえている。
 子供が混じった場合はこうして親の前で殺すのがこの工場のルールだ。

 今回は48匹のタブンネが、無事にあらびきヴルストになる事ができる。

 よかったね!

382あらびきヴルスト製造工場:2021/01/27(水) 11:11:58 ID:AVp3Wh460

 やがてローブシンの側にカイリキーとドリュウズも加わり、可動式の大きな鉄檻にドカドカとタブンネを投げ込んでいく。
 
 中庭から工場内に移動したタブンネ。今度は「洗浄室」という沢山のシャワーのついた小さな部屋に入れられ、その不潔な身体に高圧で塩素洗浄液を浴びせ続けられ、その後水洗いされる。塩素水が目に入ってしまったタブンネは失明する。

 適当に送風機を当てられ大雑把に身体を乾かしてもらったタブンネ達。
 1匹づつ耳に穴を開けられ番号のついたタグをつけられる。神経の集中した耳を傷つけられるのは相当痛いようで、皆ミギャーミギャー大暴れするが、ナゲツケサルやヒヒダルマといった屈強なポケモン達がしっかりと押さえつけるので、作業は滞りなく終了する。
 
 ナンバリングが済むと、今度は「保管室」という一面を真っ白な壁で覆われた無機質な部屋へとブチ込まれ、ここで1週間過ごす。
 水飲み場が設置され水は自由に飲めるが、大好きな木の実はもちろん、フーズなども一切与えられない。かわりに一日一回高栄養剤の注射を無理矢理打ち込まれる。腸内を空にし、この後の工程を楽にするためだ。
 1週間、身体は弱らないが常に付き纏う空腹感と、何の刺激もない環境に辟易するタブンネ達。ここを出る時は鳴く元気もなく、皆黙って人間に手を引かれるとそのまま身を任せる。

383あらびきヴルスト製造工場:2021/01/27(水) 11:13:49 ID:AVp3Wh460

 保管室から連れ出されたタブンネ。次に連れて来られたのは「毛刈り室」。抵抗する間もなく、鉄製の拘束器具で手足をしっかり固定される。
 人間が手に持ったバリカンで丁寧にその体毛を刈っていくと、やがて地肌が剥き出しのハゲダルマのような姿になる。
 またこの部屋は側面全体が鏡張りになっている。食品となるタブンネに自身の醜い姿を見せつける為だ。
 段々と禿げ上がっていく自身の姿を見てはミィミィと弱々しく鳴き、目に涙を浮かべるタブンネ。最後の工程で尻尾を切断され、大きな耳の接合部を半分くらい切られると大きな叫び声を上げ、やがてしゅんとして再び押し黙る。
 なるべくこの過程でタブンネが死なないよう、簡単にマルヤクデやウィンディが火炎放射で炙って止血してやると。拘束されたまま次のラインへ運ばれる。


 次なる工程では人間が鋭利な刺身包丁でタブンネの下腹部を一部切り裂いていく。腸の端が完全に露出したら完成だ。
 勿論麻酔なんかかけられず、自分の身体が斬られる激痛にヂーヂー喚き声を上げるタブンネだが、体力も気力もなく、激しく暴れたりはしない。その綺麗なサファイアアイはもはや生気を失い、さっさと殺してくれと言わんばかりの表情を浮かべている。

384あらびきヴルスト製造工場:2021/01/27(水) 11:15:18 ID:AVp3Wh460

 死んだ魚のような目をして、禿げ上がった身体を固定されたまま次の作業場に運ばれてきたタブンネ達。
 ここへ来ると皆一斉に生気を取り戻す。この作業場には沢山のタブンネが居る。
 禿げ上がった自分達とは違い、皆綺麗な毛並みをしていて、中にはかわいいリボンをつけたタブンネもいる。

 これまで登場してきたポケモン達はみんなポケジョブで集められた、いわゆる飼いポケだ。ガラルでは人間の仕事をポケモンに手伝って貰う伝統がある。
 ここに居る綺麗なタブンネ達も飼いポケで、この工場では一部の工程をこうして同胞のタブンネにやらせるのだ。

 禿げ上がった方のタブンネ達はみんなでミィミィ大合唱。
 さっきまでは早く死にたいくらいに思っていたのに、こうして綺麗な同胞達を見つけると生気が蘇る。助けてくれると期待しているのだろうか。自分達の醜い姿を恥ずかしがる余裕もない。

 しかし綺麗な方のタブンネ達は皆、禿げ上がった仲間たちの顔をなるべく見ないようにし、助けを求める声も無視して、顔を俯き落涙している。

 やがて工場員の人間が促すと、破れたお腹から腸の末端を引っ掴み、一心不乱に引き抜いていく。
 この作業をする時みんな目を固く瞑り、手はガタガタと震え大量に涙を流す。

ーごめんなさいミィ、ごめんなさいミィ

 タブンネによって引き出されたタブンネの腸は、やがて人間達が籠を持ってきて回収し、別の場所で綺麗に洗われる。

 禿げ上がった方のタブンネ達は皆
「どうして!?」という顔をして、悲しそうな目で小綺麗な同胞を見つめる。
 この状態になってもまだ生きているのが、タブンネちゃんの素晴らしい所だ。

385あらびきヴルスト製造工場:2021/01/27(水) 11:16:53 ID:AVp3Wh460

 大きな希望を与えられた後再び深い絶望に落とされた禿げタブンネ達。
 次の部屋へ運ばれると、そこにもまた1匹のタブンネが居た。

 このタブンネは今回始めてこの工場のお手伝いに駆り出されたようだ。
 四肢を固定され、滑車でガラガラと運ばれて来た生き物を見てギョッとした顔をする。
 ハゲダルマのような見てくれで、お腹が破れ骨盤が丸見えになってはいても、この生き物が自分と同じタブンネであると気づいたようだ。


 このタブンネも勿論飼いポケ。ガラル地方でタブンネが生息するのはカンムリ雪原だけであるから、ハゲダルマ達とは同郷の同胞ということになる。
 ガラルのポケモントレーナーにタブンネを持つ人が増えたのは、割と最近のことだ。
 深い雪地帯であるカンムリ雪原まで電車が延伸されると、多くのトレーナーがこぞってそこを訪れるようになった。
 カンムリ雪原にはそこにしか生息しないポケモンが数種類居て、ガブリアスやメタグロス、ニドキングにボーマンダといったポケモンを見つけてはみんな次々と捕まえていった。そんな流れでタブンネもまたトレーナーに捕まえられる。
 
 雪原から本土に還り、ジム巡りに舞い戻るとタブンネは段々とボックスの肥やしと化していく。他のポケモン達と違いバトルで使い物にならないからだ。

 そうなると皆今度はポケジョブにタブンネを送り出すようになる。その流れである日、一人のトレーナーがこの工場の依頼にタブンネを向かわせた。
 工場の人達は最初大困惑。何せここはタブンネを食品加工する工場なのだから。
 仕方なく途中の工程をタブンネに手伝わせる。するとどうだろう、タブンネが手伝った商品は今までとはまるで別物、絶品の美味しいあらびきヴルストが出来上がったのだ。

 それ以後、工場長は喜んでタブンネの依頼を募集する。
 ガラル地方ではポケモンが人間のお手伝いをするのは当たり前のことだから、普通ポケジョブの報酬はわずかばかりの金銭か、気持ち程度のアイテムが貰えるくらいである。
 しかしこの工場に、仮に一匹だけのタブンネを四時間だけ送り出しても、¥10,000もの報酬を貰うことができ、多くのトレーナーは嫌がるタブンネを何度もこの工場へ送り出しては、ニチャニチャ顔で私福を肥やしていく。

386あらびきヴルスト製造工場:2021/01/27(水) 11:18:45 ID:AVp3Wh460

 舞台を現在の工場へと戻そう。

 タブンネと同じ部屋にいる監視員がハゲダルマの千切れかかった耳を指差して
「さあ、タブンネちゃん。このお耳を思いっきり引っ張って引き千切ってね。」

 タブンネは涙を流しながら、首をブンブン横に振ってイヤイヤしている。

すると監視員
「手伝ってくれないのかなタブンネちゃん。だったら飼い主さんに言いつけてキツく叱って貰うことにするけど。」

 その言葉を聞くとタブンネはビクッと背筋を伸ばし、顔を強張らせる。
 このタブンネはつい最近まで雪原で野生として過ごし、トレーナーに捕まえられたばかりで、勿論虐待なんて受けたことはないのだが、何故かこの類の言葉は効果的面である。
 
 雪原に住むタブンネ達は何故か皆人間を極端に恐れている。
 タブンネだってポケモンなのだから、素手の人間と一対一で本気で戦えば勝てるような気もするのだが、タブンネというポケモンは何故だか人間を怖がるように、DNAレベルで刷り込まれているようだ。
 ご先祖さまになんか悲しい過去でもあったのかな?

 タブンネは重い足取りでハゲダルマに近づくと、意を決した顔をして震える手でその耳を掴む。
 ハゲダルマの方も何をされるか察したようで、ミ゛ーミ゛ー喚いて懇願の目を耳元の同胞へと向ける。希望と絶望を何度繰り返しても、耳を千切られるのだけは物凄くイヤなようだ。さすがはヒヤリングポケモン。

 タブンネは目を固く瞑り、ミィー!と気合を入れると、思いっきり仲間の大切なお耳を引き千切る。

387あらびきヴルスト製造工場:2021/01/27(水) 11:21:20 ID:AVp3Wh460

 その後次々と運ばれてくる同胞達の耳をひたすら千切り続け、ようやくお手伝いを終えたタブンネ。
 監視員はそのかわいい頭を笑顔でナデナデしているが、タブンネはヘタり込んで肩で息をし、大量のお漏らしで床を汚して涙をながしている。
 タブンネちゃんは本当に優しいポケモンさんなんだね!

 
 その後の作業は簡単。耳無し毛無し尾無しのタブンネは両手だけ拘束を解かれ、今度は逆さ吊りにされるとキリキザンが器用に頸動脈を切り刻み、血抜きをされると三十分くらいで絶命する。

 死んだら大きな機械に投げ込まれる。粗めのミンチにされ、更に別の機械でフィラのみやザロクのみといった香辛料と塗されていき、しっかりと加熱処理される。
 出来上がったミンチをゴム手袋をした人間たちが丁寧に先程の腸に詰めていくと、後はパッキングされて美味しいあらびきヴルストの出来上がり!

388あらびきヴルスト製造工場(エピローグ):2021/01/27(水) 11:22:33 ID:AVp3Wh460

 ここは長閑な田園風景が広がる街、ターフタウン。

 その外れにある4番道路という場所に、テントが張られている。
 一人の女の子トレーナーとその相棒達、エースバーン、アーマーガア、ワタシラガにシャワーズが嬉しそうに遊んでいる。彼女の自慢の相棒達だ。

 おや、よく見るとテントのそばに、一匹だけ元気が無さそうに座り込んでいるポケモンがいる。ピンクのチョッキ模様をしたヒヤリングポケモン、タブンネだ。
 シャワーズがタブンネの元に歩み寄り、一緒に遊ぼうと誘うがタブンネは静かに首を振り、その誘いを断った。

 このタブンネ、1ヶ月程前にこの女の子に捕まえられ、飼いポケとなったまではよかったものの、ここ2週間くらいは毎日のようにポケジョブと称し人間の仕事場へ駆り出され、あろう事か同胞を痛めつける仕事をさせられ、とても遊ぶ気分になんかなれないようだ。

 しかし数分後、タブンネは小さい鼻をヒクつかせると顔をあげる。
 どうやら飼い主さんがポケモン達の為に、カレーを作ってくれてるようだ。
 そういえばここ何日かなにも食べていない。カレーの美味しそうな匂いを嗅ぐと、タブンネもお腹を鳴らして飼い主さんの元へと歩き出す。

「ごめんねタブンネちゃん。ここ最近働かせてばかりで。タブンネちゃんの分を一番最初によそってあげるから、いっぱい食べてね!」

 優しい飼い主さんの気持ちに触れ、タブンネも少し元気を取り戻したようだ。他のポケモン達も、そんなタブンネの様子を優しい笑顔で見つめている。タブンネは少し照れ臭そうにはにかむと、女の子からお皿を受け取る。

「今日は辛口ヴルストのせカレーだよ!」

「ミ゛ィヤァーーーーーー!!!」

   (おしまい)

389あらびきヴルスト作者:2021/01/27(水) 11:34:58 ID:AVp3Wh460
本編1ページ目二重投稿ゴメンネ。

長編SSの更新、楽しみに待っておりやす!

390名無しさん:2021/01/27(水) 19:35:08 ID:fQe6QE5o0
>>389

やっぱりヴルストと言ったらタブンネちゃんを思い出すよね

391ガラルタブンネ牧場_殱滅編:2021/01/28(木) 16:00:28 ID:vhC4ms0g0

 テッカグヤが遊んでいる界隈、脚無しのチビを抱えながら走り回る成タブの姿がチラホラと見られるようになってきた。
 愛情から来る行動でもあるだろうが、守るべきチビが他に居なくなったことが最たる理由だろう。

「チィ...チィ...」
「チビお姉ちゃん、しっかりするミィ!必ず後でニンゲンさんがあんよ治してくれるミィ!」

「おにいちゃ、、キモチわるいチィ...」
「ごめんミィ!今はバケモノから逃げないと...!ちょっと揺れるの我慢してミ!」

「マ、マ..なにもみえな・・・」
「ミ゛ミッ⁉︎頑張るミィ、チビちゃん!今ママがいやしのはd・・」

ボンッ!    「...マ...?」    

 最後の生き残りチビを抱えていた一匹のママンネが、立ったまま絶命してしまう。背中一面が爛れ、口から僅かに白煙を吐いている。
 ひとしきりチビを虐めた悪魔は、今度は保護者の破壊を始めたようだ。

ドッ!ドッ!ドッ! ・・・・

 テッカグヤは次々と手に光の弾を作っては、手負いのチビを抱き、ただでさえ遅い脚が更に遅くなったタブンネ達に次々命中させていく。テッカグヤからすれば大分威力を落としているのだが、命中したタブンネ達は皆即死するか致命的な重傷を負っていく。

392ガラルタブンネ牧場_殱滅編:2021/01/28(木) 16:03:02 ID:vhC4ms0g0

「...ミ゛..」「ミボハァッ!」「・・・」
「チビちゃ...にげ...ミィ...」
「いだミィ...だれか、だれがたすげて...」
「ミブルルルッ」「・・・」

 盛大に吐血するタブ、息絶えたタブ、背中一面の皮膚が破れ骨や臓器が露出するタブ、横腹が千切れタブ....。様々なバリエーションで横たわるタブンネ達。

「チィ!チッ、チビッ...」
「チィ?...チィ...」   ・・・・
 介抱されていた立場一転、地面に投げ出され、すぐそばに横たわるパパママ、お兄ちゃんお姉ちゃんを虚な目で眺めるチビンネ達。牧場産まれ、お花畑思考の弱タブといえど、聴覚は優秀。いつも聴こえていたはずの心音が著しく弱っていることと凄惨な傷を見ては、本能的に両親兄姉の状態を悟ったようだ。皆さめざめと涙を流している。
 実にいじらしい光景だが、きっと大丈夫。自身の重い傷を治してくれる存在がいなくなったということは、じきに同じ所へ行き、再会できるだろう。


 広大な牧場のまだほんの一画ではあるが、一通り遊び終えたテッカグヤ。次は無防備に放り出された、一定間隔で並んでいる簡素な巣穴に目をつけたようで、不気味な笑みを浮かべながら大きな巨体を移動させていく。

393ガラルタブンネ牧場_殱滅編:2021/01/28(木) 16:06:53 ID:vhC4ms0g0

 幾多も並ぶ小さな巣穴。
 少し乱れたシーツや毛布を残すのみとなった場所。乳飲児のベビンネ達、数個の卵が放置されている場所。その数半々くらいであろうか。

ヂィッ!ヂィ--!...
 まだ産まれて間もないくらいのベビ達は、皆オシッコや軟便を垂れ流し、シーツや下腹部一帯を茶色く汚している。まだタブ語にもなっていない鳴き声で訴えるのは下腹部の不快感か、糞尿の悪臭が嫌なのか、それともおっぱいをせがんでいるのか。

「ママ、どこにいるチィ?」
「おっきなおと、コワイよ、ママ」
「おっぱいのみたいチィ、おなかすいたチィ」
 人間や両親の手を借りて歩く練習を始めた齢のベビ達は、チィチィ鳴いてはママや人間を求めて必死にハイハイして移動しようとしているが、干し草の上にシーツや毛布という不安定な足場、うまく進むことができず皆その場でモゴモゴと蠢いているだけである。

 
 テッカグヤがそこへ近づいてくる。目が見えているベビは勿論、そうでないベビも耳や触角はある程度発達しているようで、みな声を潜めてはガタガタと震え出し、小さな手で毛布やシーツを掴んだり、兄弟ベビと固く抱き合ったりしては、メソメソと涙を流し出す。

394ガラルタブンネ牧場_殱滅編:2021/01/28(木) 16:10:08 ID:vhC4ms0g0

 テッカグヤは一通り巣穴を見渡すと、生命体の存在が見受けられない箇所はスルーし、小さなオモチャが蠢く場所に大きな両手を向け、火炎放射とも呼べないような、火の粉くらいの炎を吐き出す。

 ボッ!   ・・・
バチバチバチ ゴォーーーー!
 衛生的でよく乾燥した干し草、シーツ。火を放たれると瞬く間に引火しては轟音と共にけたたましい火柱を上げる。
 テッカグヤは次々とベビ、卵の居る巣に向け火を放っていく。

パーン!パーン!...ヂィッ!ヂィ--!..
「ママ゛ァー!アツイチィ!」「た...だすけ...」「ギャヂィーー!けしチィー!」
「ニンゲンさ、、おみず...み..ッ」
 業火に飲まれ卵は次々と破裂していき、小さな身体のどこにそんなパワーがあるのか、ベビ達は大声で断末魔や助けを求める悲鳴を上げる。
 次々と火柱が増えていくが、各巣穴一定の距離を隔てていることが功を奏し、幸い牧場全体が大火事になるような惨事には至らない。

 四方八方散らばっていた残存タブ達の中に足を止め、目に大粒の涙を浮かべながら火柱を見つめる集団が現れ始める。最後の叫びを上げたベビ達の親、兄姉達のようで、耳が良いことがここでは災いし、その悲鳴を拾い聴いてしまったようだ。
 緊急事態で致し方なしの判断だったとはいえ、いざ我が子の悲鳴を聞くと強烈な罪悪感が込み上げてきたのだろう。タブンネなりの懺悔なのか、皆両手を胸の前で合わせたり、チビンネは地面にひれ伏すような体勢をとっている。皆フルフルと身体を震わせ、ミィチィ悲しい鳴き声があちこちで木霊する。

395ガラルタブンネ牧場_殱滅編:2021/01/28(木) 16:14:39 ID:vhC4ms0g0

 テッカグヤが放火遊びを始め、徐々に屋舎からの距離を広げていく間、その巨体の右後方、遊具や木々がやや密集している箇所に、2,3組のタブ集団が集まってきて、何やら企んでいるようだ。


 言葉を重ねるがこの牧場は頑丈な金網のフェンスで囲われ、それは果てまで続く。
 屋舎側の一面も同様だが、その丁度中央、幅1.5メートルくらいのゲートがあり、人間やタブンネにとって、つまりそのゲートが唯一牧場と外部の出入りを可能にする場所となる。
 普段ここは開放超厳禁。野生の捕食種が侵入すればどうなるかは目に見えているからだ。しかし今、ゲートは開いている。自分達人間が避難した後、続々とタブンネ達もついてくる未来を想像していた最後の避難飼育員が開け放してくれたからだ。
 ゲートを出て10メートル程進めば、人間の居る屋舎の扉の一つがある。そういう地理を、殆どのタブンネが理解している。


 集結タブ集団。そこにベビを抱いた1匹の成タブ、必死に走ってそれについて来た50センチくらいのチビ2匹がやって来て輪の中に加わった。
 すると別の成タブ1匹が「ミィッ!」と気合の入った掛け声を上げ、大集団で屋舎へ向けトテトテと駆け出した。

 どうやらこの集団、大所帯の一家族のようだ。パパママ、遠目から見ればわからないが、親よりほんの少し背の低い長兄長女、50センチチビが3匹、30センチ強のチビが4匹。パパママ、長女は手にベビを抱き、長兄は卵を抱いている。

 一旦はバラけた家族であったが成タブ4匹を中心とした4グループで行動し、大きなバケモノの隙を見計らい、一家この場所に再集結し、屋舎へ逃げる算段を立てていたようだ。
 中々統率の取れた家族だし、出口が一ヶ所しかない以上、テッカグヤの隙を窺いそこを目指す方法はかなりベタであると言える。
 しかし最後の過程でわざわざ一家集結するのはどう考えても悪手である。自力で走れタブだけで数えても11匹。遅い脚にピンクの体毛、目立たないワケがない。

396名無しさん:2021/01/28(木) 19:08:28 ID:9YnwpJFM0
残された赤ちゃんタブンネ達まで丁寧に描写して頂いて乙です

料理系SSだと生まれたばかりを揚げたり焼いたりは鉄板のベビンネならではですね

397ガラルタブンネ牧場_殱滅編:2021/01/29(金) 17:57:39 ID:edEWkb1g0

 家族が集結した地点からゲートまでは直線距離でおよそ40メートル。身重のタブンネやチビンネからすれば結構な距離である。
 成タブ4匹が先頭、50センチチビが少し遅れだし、30センチチビがさらに遅れだす。成タブは皆真剣な表情。チビ達は恐怖や疲労からか目が潤み、涙する者もいる。

 家族が動き出して間もなく、テッカグヤは愉快な火遊びの手を止め、家族の方へ今日一番の速度で向かい出す。視界の隅に捉えたのか、足音や荒い呼吸に気づいたのか。
 ピンクの集団を追いながら、その大きな右腕は僅かに紅潮し、ややではあるが湯気をあげている。

 テッカグヤはそれ程スピードがある訳では無いが、身重タブのそれに比べれば充分速い。やがて先頭集団に追いつくと力を溜めていた右腕を思い切り振り回す。

ゴッ!  トテトテトテ....バタッ 「ヂッ!」

 渾身のばかぢからがパパンネの顔面を吹き飛ばし、目や耳、歯茎、顔のあらゆる部位が細切れで辺りに飛び散る。
 顔なしとなったパパはその姿のままヨタヨタと数十歩前進したが、前のめりに倒れ、腕に抱いていたベビを下敷きにし殺めてしまった。

 ママ、長兄長女は足を止めず、表情も崩さない。しかしパパの亡骸に追いついたチビのうち、4匹が足を止め、チィチィ泣きだした。
 ママは顔半分だけチビの方へ振り返ると、走る速度を少し緩め(本人はそのつもり。そもそもの最高速度がおっそいので、そのスピードの変化に気づくタブンネ以外の生き物はたぶんこの世に存在しない)
「パパとベビちゃんは助からないミィィ‼︎いいからチビたちはママについて....ミミィー⁉︎ベビちゃん⁉︎」
 スピードを緩めたのはともかく、前方不注意というのはとっても良くない。エアスラッシュがママの腕ごとベビに襲いかかり、乳飲児には致命的な傷を負った。

「チヒィ...チヒィ...」
 ママは慌ててベビを芝生の上に寝かせ、両手を翳し、いやしのはどうの姿勢をとる。自身の両腕からも血飛沫が噴き出すが、お構い無しという様子だ。
 今自分がチビ達に言わんとした事と矛盾しているし、強烈な悪意と対峙している現状況を考えれば悠長な行動だ。ただ自身の腕の中で赤児が命の危機に瀕していて、母親が咄嗟に取る行動としては、正しいことのような気もする。

398ガラルタブンネ牧場_殱滅編:2021/01/29(金) 18:01:08 ID:edEWkb1g0


「ママ!!」
 一喝の叫びを上げたのは長兄ンネ。足を止め、後方に振り返る。やがてそこまで追いついた50センチチビのうちの1匹に自身の抱いていた卵を託すと、ズンズンとテッカグヤの元へ歩み出す。

 ママはキッとした顔つきに戻ると、寝かせた瀕死ベビを再び抱え、ゲートに向け走り出す。ベビはタブンネのいやしのはどうでどうにかなる容態ではない、人間の医師による本格的な治療が要る。今自分が取るべき行動は屋舎を目指し、全力で走ることだ。
 一足先、長女ンネは相変わらず足を止めず、真剣な表情を崩していないがその両眼からはボロボロと涙を流している。同じ時期に産まれ、野生生活と牧場生活、苦楽を共にしてきた片割れの兄の意図を読み取ったのだろう。何としても自分自身と胸に抱く小さな弟で逃げ切る意思を固める。

 長兄ンネはテッカグヤの正面に立った。その可愛い右腕を巨大な悪魔に向けると

「聞くミィ!バケモノ!ここはタブンネとニンゲンさんの、平和なおウチだミィ!おまえは立ち去れぇっ!ミィッ!これ以上ミィの大切な家族や仲間たちをイジメるのなら、ミィをたおs..

ドコン!

 未婚のメスタブが聞いていたとしたら惚れてまうこと確実なセリフは、最後まで聞けなかった。
 
 テッカグヤが片腕で地面を叩くような素振りをすると、鋭利な岩刃が地面から突き出し、長兄ンネのタブ肛門とタブチンチンの間からその身体を突き破り、貫通こそしなかったが先端は脳天にまで達し、串刺しになった身体は地上3メートル位の高さまで持ち上がる。
 尾を激しく左右に振り、両耳に両腕、両脚を前後にバタバタと動かし、白目を剥き、小さな鼻や口から赤やピンク、黄濁の混じった半固形の液体を激しく噴き出し、やがてそのままストーンエッジの頂点で息絶えた。

399ガラルタブンネ牧場_殱滅編:2021/01/29(金) 18:03:59 ID:edEWkb1g0

 瞬く間にやられてしまった勇敢な長兄。しかしながら彼の命を賭した戦いは決して無駄ではなかった。
かもしれない

 兄の戦いには目耳を向けず、必死に歩みを進めた残り家族ンネ達。
 ベビを抱いた長女が先頭、先程よりも距離を詰めたチビ達がその背中を追い、一悶着あって遅れを取った、瀕死のベビを抱いたママンネが最後尾につくタブフォーメーション。
 屋舎の牧場側の各窓に張りつく従業員達、また扉を半開きにし、必死にタブンネを励ましながら手招きする飼育員。

 その声援は長女の耳にも届いている。ゲートまであと2メートル、1メートルと距離を縮め、腕に抱いたベビがそこへ差し掛からんとした時、安堵なのか気合いなのか、「ミッ!」と長女が雄叫びをあげ、いよいよ第一生還タブ誕生かという刹那

ガラガラガラガラガラ・・・

 直径7,80センチはあるだろう大きな岩が大量に空中に現れ落下し、長女と追随チビ7匹全員をその下敷きにする。まるでこのタイミングを見計らったかのようだ。
 ブチャッ!ブチャッ!と肉を潰す音を響かせた後、一瞬「ミ」という短い悲鳴が聞こえた。
「ーーーーーーッ」
 落石から唯一逃れたママ。発する言葉も無く、芝生の上に短いタブヒザをつく。無意識的に触覚で確認する心音。確かにそこにあった筈のチビベビのそれは感じられず、長女のそれはみるみる弱っていく。数秒後死ぬことがママにも理解できるほどに。

ポッポッポッ ザシュ!ザシュッ!ザクッ

 ママの傍までフワフワとやって来たテッカグヤ。やどりぎの種を植え付け身動きを封じた後、完全に立つ意思を失った両脚を綺麗に切断。ワザと浅く、頚動脈へもエアスラッシュを放つ。

「ヂッ....ヂッ...」「......ミィ......」
暖かいママの胸を離れ、地面に投げ出されたベビンネ。まだ目も開いてない齢、それでも重篤な身体に鞭打って必死にママに向け何かを訴え鳴くが、ママはそれには応えない。完全に生きる意欲を失ったようだ。失血が先か宿木が先か、ママもベビもきっと後で家族と同じ所へ行けるだろう。

400ガラルタブンネ牧場_殱滅編:2021/01/31(日) 02:37:33 ID:8pzBNc/I0
 絶句するしかない屋舎の人間たち。
 人間は人間でただ黙って殺戮を見ていた訳ではなく、テッカグヤの位置を見計らって、せめてゲート付近へ来た子供だけでも救出に向かおうと機を窺っていたのだが、テッカグヤの行動範囲から、中々タブンネ達が屋舎側へ寄れなかったのだ。ゲートが大量の岩で埋められた今、もうそんなチャンスすらやって来ない。

ミギィーー! ミィャーー! ・・・・

 ゲートが塞がれたことに絶望するのは人間だけではない。実はタブンネの中にも、逃げ惑いつつも出口へ向かう機を窺っていた者は結構いたのだ。先の大家族とはゲートを挟んで逆サイド、2,30匹のタブンネがいつのまにか集まっていた。
 しかし一部始終の殺戮と塞がれた出口を見てパニックを起こし、大声で喚き散らしながらまたドタドタ走り回る。
 元々出口のことなんか頭に無く、最初からパニクってたバカンネ達はパニックの2乗といった様相で、静まり返った人間と違い牧場は非常に賑やかだ。


 集まっていたタブンネ達の大声に気づき、そちらを見やるテッカグヤ。これだけ広い敷地でありながら、偏った分布、先程の集団の行動....。
 どうやらテッカグヤ、ここの出入り口がさっき岩雪崩で塞いだあの小さな隙間一ヶ所であることを察したようだ。
 薄気味悪く、表情を歪ませる。一瞬だが意表を突かれ、せっかく遊んでやってるのに、コソコソと脱出を企てられたことに些か機嫌を損ねたようだ。

 鉄蹄光線か破壊光線かわからないが、両手に怒気を孕んだ巨大な光を集める。今までの攻撃とは比にならないすさまじいエネルギーだ。バチバチと音を立てて、周囲の芝生が落雷に撃たれたごとく真っ黒に変色している。パワーが熟したところで、ポテポテと駆け出しバラけ始めた集団に両腕を向けると

ドーーーーーーーーーーーン!!

401ガラルタブンネ牧場_殱滅編:2021/01/31(日) 02:39:37 ID:8pzBNc/I0
 轟音と共に直径4,50メートルの光がタブンネの集まっていた辺りやその周囲広域を包む。
 
 やがて光は消え去るも、濃い白煙や土埃が舞い上がり、なかなか現場を確認できない。

 さっきまでミギャーミギャー騒いでいた残りの生存ンネ達も皆押し黙り、固唾を飲んでそちらを見る。自然現象ではあり得ない程の爆音と衝撃。彼らの感情は恐怖というよりも、興味というそれに近いのかもしれない。

 徐々に煙が晴れる。辺り一面の芝生は一切捲り上がり土色を見せ、その中にちらほら、尾や耳、腕に脚、かつてタブンネだったモノの一部が散らばっている。
 
 直接光線を受けなかった者も爆風で吹き飛ばされフェンスにぶつかったのだろう。フェンス前にはコウベを垂れ、僅かに舌を出し絶命しているタブが数匹転がる。敷地の外まで吹き飛んだタブも2,3匹居るようだ。どれも毛皮の一部や身体の一部が完全に捲れるか消え去るかしている。
 それら残骸を含めても数が合わない。どうやら40匹以上のタブンネが跡形も無く消し飛んだようだ。


フゥーーー!フゥーーーーー!

 静寂に包まれた牧場の沈黙を破ったのはテッカグヤ。今日一番のボリュームで薄気味悪い雄叫びを上げ、またも不敵に笑みを浮かべる。全力の攻撃と殺戮で幾ばくか鬱憤も晴れたようだ。

「ミ、ミミ゛ィーーーーーーッ!!」
「ミヒャーー!」「ミバギャーー!!」

 静観と発狂を繰り返すのはここ数十分で何度目だろうか。圧倒的な攻撃と凄惨な残骸を見て、また喚きながらドタバタと走り散らかすタブンネ達。

 野生時の他種からの襲撃でもあり得ないような惨状。無理もないかもしれないが、今までよりも大きな混乱。ベビや卵を抱いていた親ンネはそれらを放り出し両手をバタつかせ、親子で固まっていた集団も完全にバラけ、大タブ小タブみんな涙に尿、糞を撒き散らしながらあちこちを走り回り、まさにカオスといった様相だ。

402ガラルタブンネ牧場_殱滅編:2021/01/31(日) 02:43:03 ID:8pzBNc/I0
 そんな中、何匹かのタブンネが金網のフェンスの一ヶ所に集まって来て、ガシガシとそこにしがみつき、「ここから出して!」と言わんばかりに泣き喚いている。
 今まで何度も自分達を守ってくれた金網。マニューラのしつこい辻斬りやユキノオーの本気のウッドハンマーでも傷一つ付かない代物だ。タブンネの力でどうにかなるワケないのだが、みんなここを破らんとばかりに引っ掻いている。
 やがて「ミィもミィも!」みたいなノリで他のタブ達も集まって来て、10数匹のタブが固まってガチャガチャ大きな音を立てる。

 今の状況で冷静になれというのはタブンネじゃなくても難しいだろうが、この金網にしがみつくという行為が良くなかった。

 手当たり次第、色んな技を駆使してタブ殺しを楽しんでいたテッカグヤ。この哀れな金網タブ達に気がつくと、不気味な笑い顔でそこに両腕を向け、火炎放射を撃ち放つ。

 成タブの体力を考えればテッカグヤの火炎放射自体は即死や即致命傷になるような威力ではない。
 しかしこの網、クイタランやブーバー系統を意識して作られた耐熱性。科学の力って凄いもので、摂氏2000℃の炎を数分間浴びせ続けても溶け出さない代物だ。
 集中的に火炎放射を浴び続けるとその温度はある点を境に加速度的に上昇し、手に体重を乗せていたタブンネはそこから順に身体があっという間に溶けて無くなり、断末魔を上げる間もなくこの世から消え去った。

 テッカグヤが火の手を止めると、そこには魔界の炎で焼かれたかの如く黒い影だけが残る。金網に黒い模様がつくその様はまるで何かのアート作品のようだが、よく見るとカタチがタブンネなので、悲惨なのに笑えてしまうのが非常に気の毒だ。

403ガラルタブンネ牧場_殱滅編:2021/01/31(日) 02:45:34 ID:8pzBNc/I0

 その後もあらゆる手段を尽くし、ピンクのオモチャ達を蹂躙していったテッカグヤ。

 テッカグヤ襲来時点、タブンネ達に充てがわれた巣の数は「51」に登り、居住タブはおよそ400近い数字であった。
 現在おそらく40番の巣あたりまでのタブが死亡。テッカグヤにも若干だが疲労の色が見え始める。


 時折触れて来たが、この牧場内には随所、木が植えられている。野ざらしの敷地の為、強い日照時を考えタブンネに日陰を用意してやることと景観保持が主な目的だ。
 牧場内には2ヶ所、横一列に木々が密集する箇所がある。要は防風林の役割で、20番と21番の巣穴の間と、40番と41番の間にあり、つまり牧場は上空から見ると、屋舎側・中央・いにしえの墓地側3ブロックに分かれることになる。

 これまでテッカグヤとタブンネが遊んでいた場所は全て屋舎側のブロック。避難が遅れながらも殆どのタブンネが屋舎近くまで進んでいて、強敵襲来後、引き返す事を試みタブも居たが遅い足が災いするなど、何やかんやで殺されて今に至る。


 屋舎ブロックに居たタブンネ全員と戯れ終えたテッカグヤ。中央ブロックに差し掛かる数メートル手前で、一度立ち止まった。
 20-21間の防風林から、何やらチィチィ木霊する声が聞こえてくる。木々をよく見ると、各所の木陰に身体を隠し、顔だけ出してテッカグヤを覗き込む10数匹のチビンネが居る。
 
 このチビ達は21-40、皆中央ブロックに住む家族の子供だ。
 異変に気づき、大声で帰ってくるよう促すパパママのタブボイスに耳を貸さず、いつまでも遊びに没頭していたチビ達で、痺れを切らした家族に置いていかれ、気がつくと林の向こう側で大きな音や悲鳴が鳴り響き、おウチに帰っても誰も居ない、言わば急造みなし子チビンネといった個体である。

404ガラルタブンネ牧場_殱滅編:2021/02/01(月) 15:56:36 ID:vyLKK.qA0
「チィ〜」「チィ、チビィ?」「チミィ...」
 皆小さな身体を木陰に隠しては居るがキョトンとした表情で、初めて見る大きい生き物を見つめている。怖くはあるんだけどついつい心霊番組を見てしまう人間の子供の感覚に似ているだろうか。
 タブ好きの人が見れば悶絶モノの光景なのだろうが、この状況では完全なアホである。やはり過保護というのは良くない。おそらく自分のパパママがとっくに御霊タブとなっている事もまだわかっていないだろう。

・・・まあ暇つぶしにはなるか

 テッカグヤは両腕を上げると、真空の刃を放ち端から順に木を切り倒していく。
ズシーン!ズーン!...
 大きな音を立て順に倒れて行く木々。やがて一番端側に居るチビンネの隣の木が倒れると

「チィーーッ!」   トテトテ...
 一つ内隣の木まで移動し、また身体を隠し、顔だけちょこんと出してテッカグヤを見つめるチビンネ。かくれんぼでもしている感覚なのだろうか。
 テッカグヤは逆側も同じように、端から少しずつ木を倒していった。
 やがて防風林としての機能は無くなり、中央に5本の木が残り、その陰に2,3匹ずつチビンネが隠れている、よくわからない状況が出来上がった。木に隠れることに拘る意味があるのだろうか。子供は健気である。
 チビの内訳を見ると小さいのは25センチくらい、大きいので40センチ弱、計12匹居る。巣が近いことから顔見知り、普段からの遊びタブ仲間のようだ。

・・・なんかバカらしくなってきた

 テッカグヤは右腕で地面を叩くような素振りをする。

ガタン!ガタガタガタ...

 周辺の地面が大きく揺れ、地盤がぐらぐらする。テッカグヤは何度も右手を上げ下げし、しつこくじならしを繰り返す。

405ガラルタブンネ牧場_殱滅編:2021/02/01(月) 15:58:51 ID:vyLKK.qA0
 繰り返される激しい縦横の振動にチビンネ‘sはみんなズッコケて、可愛いお腹やお尻をポヨンポヨン弾ませながら地面にバウンドする。
 やがて足場を崩した残りの木が全て倒れたところで、テッカグヤは手を止める。

「チビャー!」「チビィー!」

 大事な隠れ蓑を失ったところで、チビ達は叫びながらトコトコ駆け出し、大きな生き物から少し距離を置いた所にみんなで固まり、澄んだ瞳でその生き物を見つめる。
 うっすら涙を浮かべるチビも居るが、恐怖から来るものでは無く身体の痛みからであろう、ぶつけてしまった顔やお尻に手を当てている。なんだか楽しそうな気配を醸し出す子さえいる。とても平和な光景だ。

 テッカグヤは再び腕を振り下ろす。ガラガラと音を立てて大きな岩がチビの周りを取り囲む。
 直径3メートルくらいの空間に閉じ込められたチビ達。チィチィ叫びながらペシペシと硬い岩を叩いている。
 テッカグヤが徐にその上に現れる。大きな腕を健気なチビ達に向ける

 シュッシュッシュ...

「チヴァァーー!」「ヂミ゛ィッ!」....
 エアスラッシュという技は実に便利である。
 真空の刃がチビの両腕、両脚、両耳を次々ちぎっていき、大量の鮮血を撒き散らす。半数、6匹が芋虫の様な姿になったところで撃ち方やめ、テッカグヤは不気味な笑みを浮かべてその場に佇む。たいへん器用なテッカグヤだ。

ピィー...ピィー... ...ヂ...ヂ...
....チビッ.... ヒュー...チヒュー... .....

 芋虫チビ達は自分の身体を傷つけられて初めて、動物的危機感を感じ始めたようだ。しかし呼吸をするのもやっとの状態になってきた。
 耳を押さえ、ガタガタと震えながらへたり込んでいた無傷チビ達であったが、攻撃が止んだことに気がつき顔を上げると
「チィッ!」「チィチィ!」みな近くで横たわるお友達や兄弟を見て、傍に座り込んで両手をかざす。ママの使ういやしのはどうを真似してるようだ。
 もちろん手から波動なんて出ないのだが皆真剣な表情、「ボクが治してあげるからね!」と言わんばかりである。
 
思いやりの強いポケモンだ。

406ガラルタブンネ牧場_殱滅編:2021/02/01(月) 16:01:27 ID:vyLKK.qA0

 必死に看病するチビ。瀕死の重傷を負いながらも辛うじて呼吸をし、なんとか生命を維持するチビ。それを傍らで見守る心優しいテッカグヤ。

 しかし段々飽きてもきたし、体力も回復して来た。テッカグヤはその巨大な両腕の先端の触手で1匹ずつ看病チビを摘み上げる。
 残った4匹の無傷チビ達は両手を伸ばし、かえしてかえして!とでも言うようにチィチィ鳴きながら、その場でピョンピョン跳ねている。
 テッカグヤは猛スピードで、そのまま上空へと飛び上がった。グングンと高度を上昇していき、1,000ftくらいの高さで止まる。地上から見れば豆粒くらいの大きさだ。
 両手チビはこのサイズでも10kgくらいはあるだろう。仮にこの高さから自由落下すれば地上に達する時の速度は...

・・・各々で計算してみてほしい

 チィッ!チィチィ! 両腕のチビンネ、触手の中でバタバタと暴れている。急激な高度変化に気絶しなかったとは大したものだ。はなしてはなして!と訴えるように鳴き声を上げる。ならば放してやるのが道理。テッカグヤはパッと触手の力を緩める。

「ヂィーーーーーーッ......ッ..........」
「チヒィーーーーーーー.................」

・・・・・・

ズドーーーーーーーーーン!×2

 地上チビ達の岩場の左右数10メートル先、何処までも深い穴が2つ出来上がった。きっと身体中の骨が粉々、速やかに土に還れることだろう。
 テッカグヤ、実は岩場の中に落とすことを狙っていたのでちょっぴり残念そうだが、ゆっくりと残りのお友達の待つ地上へと戻っていく。




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