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企画もの【バトル・ロワイアル】新・総合検討会議
雑談、キャラクターの情報交換、
今後の展開などについての総合検討を主目的とします。
今後、物語の筋に関係のない質問等はこちらでお願いします。
規約はこちら
>>2
(ルートC)
【グループ:紗霧・ランス・まひる・恭也・ユリーシャ・野武彦】
【スタンス:主催者打倒、アイテム・仲間集め、包囲作戦】
【備考:全員、首輪解除済み】
・
・
・
>>896 のアンカーが間違ってました。
正しくは下記です。
>>897 分岐の告知
>>898 本文第一レス
>>899 状態表第一レス
こちらの意見を参考にして頂きありがとうございます。
それでいいと思います。
まとめについては次の次(再来週月曜日)までに考えていこうと思います。
独自ルートとなった今、仮投下の必要があるかわかりませんが……
以下11レス「彼女の望み」、11レス「おやすみぃ…」を投下いたします。
本スレ投下は来週土曜深夜を予定しております。
次回予定は「フロイトだったらこう言うね。」または「少女タナトス/悪霊エロス」。
透子と紳一をメインに、隠し部屋1の面々が少々登場予定です。
>>xxx
(Cルート:2日目 PM7:03 H−3地点 東の森北東部)
カオスを振ること40余回目。
切り裂いた大気の隙間から、ザドゥとカオスは確かに感じた。
秋の涼やかな風を。
開いた視野の遠くに、ザドゥとカオスは確かに見た。
森の果てを。
そして、椎名智機と思しきシルエットを。
《ザッちゃん!もう少しでゴールじゃぞ!》
カオスの思念波が興奮に震えた。
若干の上り勾配の先、距離にしておおよそ30メートル。
障害になるほどの木々は無い。
即ち。
カオスを振り回す必要の喪失を意味する。
《ははっ、この男、やり遂げおった!!》
カオスの胸中が喜悦に満ちたとき、その刀身がザドゥの掌から滑り落ちた。
ザドゥも崩れ落ちた。背負われた芹沢も、また。
《立て、立つんじゃザッちゃん!》
カオスの魂の籠った激励に、ザドゥは辛うじて意識を繋いだ。
しかし、本来熱く感ずるべき熱風に晒された地面が、頬に心地よく感じられた。
体が融解し、地面に染み込むような感覚に支配されている。
もう、動けない。
《立てぬなら叫べ! 向こうの機械の嬢ちゃんに届くよう、
燃焼音も破裂音も劈いて叫べ!》
ザドゥは運命の囁きに対して聞き分けの良い性分ではない。
それでも、分かってしまう。分からざるを得ない。
最後に点った蝋燭が遂に燃え尽きてしまったのだと。
気力。体力。意地。潜在能力。
全てを惜しみなく出し切って、それでもなお届かなかったのだと。
限界とは突然訪れ、完璧な説得力を以って、胃の腑に落ち着くものなのだ。
(気を、失うわけには……)
己を全うできない。
このままでは笑って死ぬことなど不可能だ。
草葉の陰から覗き見ているであろうあの狂人に、嘲笑われて死ぬことになる。
(恥辱に奥歯を噛み締めろ!怒りに体を震わせろ!)
だが、ザドゥにはその程度の余力も残されてはいなかった。
ゴムマリのように弛緩した四肢に、既に感覚は失われていた。
その彼の耳に。
「ともきーーーーん!! ねーともきんってばーー!!
あたしたちはここだよーーー!!」
意識を失っていたはずの芹沢の叫び声が、至近距離から浴びせられた。
《そうじゃカモちゃん!こんどはおまえさんが役に立つ手番じゃ!》
「おーけーい! ……あ、ザッちゃんは耳ふさいでてねー!」
=-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=
そうして芹沢が声を張り上げること、一分、二分。
結局、救いの主は現れなかった。
幽霊の正体見たり枯れ尾花。
或いは彼らが捕らえたシルエットは、希望が生じさせた幻影であったやも知れぬ。
芹沢は力なく溜息をつき、ザドゥに顔を寄せる。
ザドゥは虚ろな目で瞬きもせず、芹沢を見返した。
「だから捨ててけって言ったのになー。
女の子のお願い聞いてくれないなんてひどい男だなー。
ぶーぶー!」
拗ねるような甘えるような。
あからさまな構って欲しさを振りまいて、芹沢はザドゥにじゃれ付いた。
「ごめんなさいは?」
「……は?」
「だから〜。あたしを捨てらんなくってごめんなさいは?」
「ふざけた…… 女だ……」
「な〜んてね♪ ホントは嬉しかったんだけどさ。
そんなにボロボロになるまであたしを助けようとしてくれてさぁ。
ねね、正直に言ってみ?
実はザッちゃんあたしのこと、愛しちゃってる?」
「寝言は…… 寝て…… 言え……」
そんなやり取りを、カオスは微笑ましく見ていた。
微笑ましくも心の涙を流しながら。
見ていることしか出来なかった。
確定された死を前にして甘える女に、最後まで素直になれぬ男。
その最後の刻を覚えていてやろうと思った。
限界に挑み、限界を突破し、それでもなお限界に届かなかった挑戦者たちのことを。
だが、カモミール芹沢は、カオスのそんな傍観者気取りを許さなかった。
「さて、と」
胡坐をかくように座っていた彼女は、場を仕切りなおす為にそう呟くと、
カオスに手を伸ばし、柄を握ったのだ。
カオスが意外に思うほどの力強さで。
「よいしょ、よいしょ」
続けて芹沢は立ち上がる。
カオスを地面に突き立て、そこに体重を乗せ、背中を樹木に擦り付けながら。
生まれたての小鹿のように震える足で。
「動けるのか…… 芹沢……?」
「ザッちゃんがおんぶしてくれてた分、ちょっとは回復できたみたい。
ほんっっと〜に、ちょっとだけ、だけどね」
「ならばゆけ、芹沢…… 方角と距離は…… カオスに聞くといい……」
自己犠牲など唾棄すべき。
その不遜な思いは今以て変わらずザドゥの胸に存在する。
しかし、この時ザドゥの覚えた感情は、安堵だった。
『大将も自己満でカモミールを殺さないよーに、気をつけるがとしか言えんきね』
(芹沢が助かるならば、あいつにだけは負けずに済むわけか……)
ひび割れては接ぎを繰り返し、剥がれては貼りを繰り返し。
もはや見る影もない彼の矜持だが、芯鉄の輝きだけは失わずに終われる。
最後の一線は破られずに済む。
その安堵だった。
(到底満足はできないが、最低納得はできる死に様だ)
だが芹沢はそんなザドゥの自己完結をも許さなかった。
「あははー、無理。倒れた時に足、痛めたみたいだから」
「な……!」
芹沢は明るくあっけらかんと言い放ち、自らの左足首を指差した。
それは骨格の成り立ちからして、ありえない角度で外に大きく曲がっている。
ザドゥの膝の下、固い根こぶの上。
芹沢の右足首は転倒時に挟み込まれたのだ。
余談だが、彼女が気絶から覚醒したのもまた、その激痛に拠るものだった。
「無理なんだけど……
こうして木に背中を預ければ、立つことくらいならできるかな?」
だからどうした、と、ザドゥは責めなかった。
一度感じた安堵からの急転、絶望。
気力が底をついている今の彼にこのショックからの回復の術は無い。
故に芹沢の対話相手はカオスが担うことになった。
「それと、ザッちゃんを助けることまでくらいなら、どうにか。
最後はともきん任せの、ちょ〜っと博打なことになるけどね」
《何を企んでおるのじゃ、カモちゃん》
「またまたイくよ〜、必・殺・技っ!」
《……おまえさん、まだ薬が切れとらんのか?》
「ぷぅううう。カオっさんがイジワル言う〜。あたしだって一生懸命考えてるのにさ〜」
ザドゥの瞼は今まさに閉ざされようとしていた。
意識もまた朦朧。
芹沢とカオスの作戦会議が、聞きなれぬ異国語の子守唄の如く
その意味を解さず耳に入ってくるのみだ。
《……一発…… 関の……》
「だーいじょ……、……には定…………?」
《……じゃが…… …………るまいの》
「………ね…………」
やがて子守唄すら緩やかにフェードアウトしてゆき……
「!!」
その意識が落ちる前に再び覚醒したのは、見事に洗練された【気】の収斂。
研ぎ澄まされた日本刀の切っ先のごときそれが、己に向けられた。
次いで、芹沢の呼びかけ。
それでザドゥは意識を完全に取り戻した。
「おっきろー、ザッちゃんーっ!」
松の木を背に、伏したザドゥを正面に。
カモミール芹沢が立っていた。
構えていた。
「あたしが、橋を架けてあげるね♪」
カオスは、構えし芹沢の腕にしかと握られていた。
ザドゥが感じた【気】は、カオスに凝縮されていた。
淀みのない、真っ直ぐな【気】で満ち満ちていた。
《生きろよ、ザッちゃん》
ザドゥには分からなかった。
今、この状況でカモちゃん★すらっしゅを発し道を作ったところで、
立ち上がることすらままならぬ自分に何ができるのか。
「芹沢…… 技を放つ気力があるならば……
這え…… 歩けぬなら…… 這って森を抜けろ……」
ザドゥには分からなかった。
派手に花火をぶち上げて結局共倒れになるくらいなら、
どれほど絶望的でも可能性のある方法を採るべきだ。
「やー、これがねー。
自分の為にって思うとしおしおー、なんだけど。
ザッちゃんの為って思えば、むんむんってクる感じ?
だから、ね。
これしかないから、こうしよう!」
ザドゥは分かり始めた。
芹沢とはそういう女で、この言葉に偽りはない。
だが、だからこそ、響く言葉があるはずだ。
「叶えたい夢が…… あるのだろう……?
新選組…… 生存……
だから…… 俺などにかまうな…… 行け……」
ザドゥは知っていた。寝物語に聞いていた。
新選組の失われぬ明日。
それが彼女の渇望であることを。
「そりゃ〜ちょびっとだけ違うな、ザッちゃん」
ザドゥは恐れた。
芹沢の自分に対する想いと、続く言葉を。
さらなる己の敗北を。
「あたしの願いはね……」
カモミール芹沢。
彼女の宿願をより正確に述べるのであれば、
それは新選組の生存ではなく、
理想でも理念でも組織でも制度でもなく―――
「『お友達を』助けることなんだぁ♪」
沖田鈴音よりも気分屋で、
永倉新よりも身勝手で、
土方歳江よりも疎まれて、
近藤勇子よりも繊細で、
原田沙乃よりも素直ではなくて。
新選組の誰よりも仲間想い。
それが、新選組局長・カモミール、芹沢。
「俺は……!」
(お前のように純粋な思いでお前を救おうとしたわけではない!
ただ―――)
芹沢の構えは件のスラッシュに同じ。抜きも同じ。振りも同じ。
相違点は2つ。
松に体の支えを求めていること。
刃が寝ていること。
それゆえ衝撃派の顕れは断ち切る『線』ではなく……
「そりゃ〜〜っ! か〜もドラコ〜〜ンッ♪」
弾き飛ばす、『面』。
ばちこーーーーん☆ミ、とコミカルな効果音に乗って、
ゴルフボールが飛ばし屋のドライバーにグリーンの彼方へと弾き飛ばされるが如く、
ザドゥはカオスに森の外へ向けて吹き飛ばされた。
(ただ…… 己の矜持の為に、お前を手放せなかっただけなのだ……)
懺悔の言葉を、最後まで述べることの出来ぬままに。
「ちゃんと受身取ってね〜♪」
にぱっと。
芹沢は大輪のひまわりのような笑顔をザドゥに向けて、ピースサインを決める。
可愛らしい表情だった。
年齢や性別を超えた人懐っこさがあった。
現在置かれている境遇と、己が成し遂げたを理解していれば、
到底できない表情だった。
直後、衝撃波の揺り戻しか、彼女に吸い寄せられるかのように煙が群がった。
その一瞬に、芹沢の膝が崩れた。
もう見えない。
その勇姿も、あの笑顔も。
タイガージョーの気高さに敗北し、
アインの覚悟に敗北し、
素敵医師の予言に敗北したザドゥは―――
「せり……ざわ……」
そしてまた、芹沢の献身に敗北した。
=-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=
(2日目 PM7:09 H−3地点 東の森北東部・外れ)
「飛来物分析完了。99.78%の確率でザドゥ様だね」
学校待機のレプリカ智機。
本拠地との連絡が途絶えたのは、ザドゥ所持の通信機と同じく、
火災の熱と煙にて彼女らの通信回路のみが機能不全となったに過ぎず、
彼女らは、未だ忠実にザドゥ救出タスクを実行していた。
その数は3/4機。
失われた1機は救助前準備の「耐熱能力の実地検証」役を見事やり遂げた果てに、
有用なデータの多くを残して炎上している。
オリジナル智機にザドゥ回収と彼らの地上への足止めを任ぜられた機体もまた、
一群に合流していた。
他の3機はこの1機の通信回線を通じて、オリジナルの指揮下に組み込まれた。
自らに課されたタスクが現在、タスクリストから削除されていることを知らぬままに。
4機の智機はザドゥたちの移動経路をカタパルトの投下位置から予測し、推論し、
そして、今、ザドゥの落下を目視で確認できるほどの位置まで移動していた。
それは、ザドゥの命にとっての僥倖だった。
ザドゥの精神にとっての如何は、推して知るべし。
「落下ポイントは?」
「Yes。北に2m、東に1.5m。誤差±15cmと言ったところか」
「救助方法は?」
「No。火災に対する救助用具は若干用意したが、落下に対する用意は無いね」
「この体を張って受け止めるしかないということだね」
「……Yes」
↓
>>xxx
(Cルート:2日目 PM7:08 H−3地点 東の森北東部)
「ねーねーカオっさん……
ザッちゃん無事に向こうへ行けたかなぁ……?
もう真っ暗であたし見えないや……」
喋ると口の中に土の味がする。
そこであたしは気付いた。
ああ、あたしって今、倒れてるんだ。
《おうおう、ワシがこの目でしっかり見届けたぞい。
あやつは煙の壁を抜けよった!》
ずずっ、ずずっ、ってカオっさんは鼻でも啜ってるみたいな涙声を出す。
あははー、へんなのー。
カオっさんには鼻なんて無いのにねぇ。
そうそう。
カオっさんにもお世話になったよねぇ……
カオっさんがいなきゃかーもドラコンは撃てなかったし。
死んじゃう前にお礼だけは言っとかないと。
ん?
あ、そーだ。
いいこと思いついちゃった♪
「カオっさん、ありがとーねー。おっぱいぎゅー!」
あたしはカオっさんを両手で抱いて、おっぱいの谷間に埋めてあげた。
女豹のポーズすら取れないあたしに出来るお礼って、このくらいだしー。
《カモちゃん……》
カオっさんはまだ涙声。
あれれ?
嬉しくないのかなー?
それともあたしが死んじゃうのが、そんなに悲しいのかなー?
ぶぅう。それって嬉しいけど、でも、なんかヤだー。
「ね。笑ってよカオっさん? 折角のお礼なんだもん、楽しんで欲しいな」
《……げへへへへ。(;´Д`)o彡゚ おっぱい…… おっぱい……》
剣士が剣を抱いて死ぬ、か。
ちょっと絵になる風景じゃない?
でもよかったー。
カオっさんが居てくれて。
ザッちゃんを脱出させる為に命を張ったのは後悔してないけど、
やっぱり一人って淋しいし、怖いし。
看取ってくれる人がいてくれるって、それだけで救われる。
だから大丈夫。
きっと笑ったまま逝ける。
でも……
「あの…… ひとつだけお願い、いいかな……?」
《おうなんじゃ? 今ならなんだってきいてやるぞ》
死んだ後のことなんて気にしても仕方ないのかも知れないけど。
きっと意味の無いお願いなんだけど。
「あたしがいたってこと…… 忘れないで…… ね……」
あのね、あたし、死ぬのはそんなに怖くないんだぁ。
やっぱり武士だし。
いっぱい殺したし。
そのうち自分の順番が来るっていうのは、ずっと覚悟してたし。
でも、あたし、淋しがりやだから。
怖がりだから。
あたしをお友達って思ってくれる誰かさんの心の中に、
ほんの少しでいい。
あたしの記憶を住まわして欲しいのね?
ぱつきんのばいんばいんを見たらあたしを思い出すとか、
先祖供養のついでにあたしにもなんまいだーしてくれるとか、
そんなんでじゅーぶんだから。
《そんなの、頼まれても忘れられんわ!
おまえさんほどのぱっつんぱっつんのむっちんむっちんはの!》
うれしーな。
カオっさんの心の中に、あたしがいるんだ。
うん、これでもう大丈夫。
あたしがこの世界から消えても、あたしはこの世界に残る。
出来ればザッちゃんの心にもちょっとは残ってて欲しいな……
なんて、未練未練。
カモちゃんさんはモノノフなんだから、潔く逝………
《カモちゃん?》
……かないと。
あれ?
今、何かがちょっと飛んだ?
なんか、
あたまのなか
白くなってきた?
《 お モ ?》
と、いうより、
時間?
考え、途切れ
途切れに
なってきてる?
ああ、そろそろなのかなぁ。
もう、
終るのかなぁ……
じゃあ、
さいごのあいさつ
くらいは
しておかないと、
……ね。
みんな
おや、す……
……
=-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=
(2日目 PM7:28 J−5地点 隠し部屋1)
「いやぁ、死ぬかと思っちゃった☆」
目覚めたときは天国か地獄かって思ったけど。
実際は灯台の地下にある隠し部屋のベッドの上だったんだぁ。
えへへー。
「Yes。死んだかと思ったよ」
「あ、りんご剥けた?」
「Yes」
「ねぇねぇ、すりおろしてくれると嬉しいなぁ」
「ねぇねぇではない、このバカ女が!」
ザッちゃんが本気で怒ってるー。
いいもんいいもーん。
どーせザッちゃんはあたしのことなんとも思ってないんだー。
なんで助かっちゃってんのコイツ、とか呆れてるんだー。
いじけてやるー。
「いじいじいじいじ……」
「いじけるな鬱陶しい。そんな演技をする余裕があるなら回復に専念しろ」
ザッちゃんはき捨てるようにそういうと、すぐにいびきをかき始めた。
やー、ほんとよかったよねー。
2人とも助かってさー。
ザッちゃんは包帯でぐるぐる。あたしも包帯でぐるぐる。
お注射いっぱい、お薬いっぱい。
とても無事とはいえない状況だけど、命を拾ったのはめっけもんだよね?
「Yes。死亡の危機は乗り切ったとはいえ、君は未だ重篤な状態だからね。
栄養補給は点滴に任せて、さっさと眠ることを推奨するよ」
橙色のともきんがあたしの腕に刺さっている点滴を取り替える。
ともきんたちが倒れてたあたしを救助に来たんだと、カオっさんが教えてくれた。
そのとき4機いたともきんのうち2機が、熱暴走して壊れちゃったって。
ごめんねー。そんで、ありがとー♪
そーやってお礼を言ったらともきんは、私は私のタスクに従ったのみだとかなんとか、
らしいんだけどつまんない返事を返してきた。ぶぅう。
あ、そうそう。
お礼といえばトーコちんにもお礼を言わなきゃ。
あたしたちが入ったこの隠し部屋にたまたまトーコちんがいて、
さらにたまたま素っちゃんの秘密のお部屋からお薬を持ってきていたから
あたしは命を繋ぐことができたんだから。
「トーコち〜〜ん、助けてくれてありがとぉ〜♪」
「……ん」
こっちはもっとつまんなかった。ぶう。
でも、なんかトーコちん、変わった気がする。
いつでもぼーっとしてて何考えてるかわかんない子だったけど、
今は何か悩んでるな、ってことがわかる程度には暗い表情をしてる。
ま、いーや。
今度は睡眠薬で頭がぼーっとしてるし。
難しいことは起きてから考えよーっと。
「それじゃあみんな、おやすみぃ……」
↓
(Cルート)
【グループ:ザドゥ・芹沢・透子】
【現在位置:J−5地点 隠し部屋1】
【スタンス:待機潜伏、回復専念】
【主催者:ザドゥ】
【所持品:通信機】
【能力:我流の格闘術と気を操る】
【備考:重態、右手火傷(中)、睡眠中】
【刺客:カモミール・芹沢】
【所持品:虎徹刀身(魔力発動で威力↑、ただし発動中は重量↑体力↓)
鉄扇、トカレフ、魔剣カオス】
【能力:左腕異形化(武器にもなる)、徐々に異形化進行中(能力上昇はない)】
【備考:重態、腹部損傷、睡眠中】
【監察官:御陵透子】
【現在位置:H−6・学校跡付近→Ⅰ-5・灯台跡付近】
【スタンス: ① ザドゥの回復を待ってプランナーと接触
② 紳一ら一部参加者の記録検索を再開する。】
【所持品:契約のロケット(破損)】
【能力:記録/記憶を読む、『世界の読み替え』(現状:自身の転移のみ)】
【備考:疲労(小)】
※ザドゥと芹沢は強力な睡眠薬を服用したため、12時間は目覚めません
※『読み替え』実験は完了した模様だが、現状では成果不明です
※レプリカ智機2機のうち1機は、オリジナル智機にクラッキングされた機体です
乙でした
穏健派が一つに集まったか
芹沢いい女だなあ
>>902
新作二本お疲れ様でした。
仮投下はもう任意でいいと思いますよ。
あるには越したことはないですが、予約しておけば大体回避できますし。
明日UPするまとめの内容は先週とほぼ変化なしです。
その代わり今週中には時系列順のまとめなどが入ったのをUPできそうです。
序列どうしようかな?
まとめをUPしました。
変更は50話までのリンクの修正を少々。
パスはnegiです。
ttp://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org727058.zip.html
もうダメだと思いつつもたまに覗きにきてたんだ
完結は無理だとしてもせめてザドゥとカモちゃんの逃避行編だけは決着つけてくれないかと
淡い期待を抱きながらさ。そしたらさ……
良い決着だった!
なんか主人公サイドの話かと勘違いするくらい!
とにかくカモちゃんが助かってよかった!
タイトルとモノローグに騙されたけど悔しくないぞ!
ズタボロのザドゥがどう覚醒するのか楽しみでならん!
再び腰を上げてくれた書き手さんたちと黙々と保守レスしてた人、ありがとう!!!!!
今週の土曜日に時系列順SSを追加したまとめをUPします。
ルート分岐対応の試作ページを入れます。
それと予約します。
タイトル未定で登場キャラはメール欄。
期限は来週の月曜日の午後六時までで。
仮投下後、問題がなければ一、二日後に本投下で。
時系列順SS目次などを追加したまとめをUPしました。
ttp://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org741364.zip.html
パスはnegibatoです。
時系列は作中終了推定時刻の順で並べました。
ルート分岐対応です。
78話や130話など幾らか並びに例外はありますがネタバレを考慮してのものです。
これからUPしていく度に間違いの発見などで、順番が前後していくかもしれません。
個々の作品にも時系列のリンクを追加しておきました。
キャラ別SS目次の方は次回更新辺りに、話数と登場話を線で区別していきたいと考えてます。
避難所投下の作品は本スレでの正式投下が確認されれば、追加していきます。
投下がなかった分は次回更新の時には含めません。
目次の空白部分も消します。
ご意見等がありましたらお受け付けいたします。
B、Cルートの作者さんの了解を頂けるか、もしくは3日間レスなしのままでしたら、この仕様でまとめて行きたいと思います。
次回の更新は再UPの要望等がなければ、今月の29日の予定です。
a154siyedさんのレスまだかな……。
>>930
いつも纏めをありがとうございます。
拝見させていただきましたところ、全く問題ないと思います。
時系列順で改めて各々の作品に目を通しますと、
時間の流れを意識した表現に気付いたり、意外なつながりが発見できたりで、
新鮮な気持ちで楽しめました。
以下15レス、「少女タナトス」を仮投下いたします。
過去作を含めまして、本スレ投下はもう暫く待機としたく思います。
次回予定は「それは些細な違い」。
本拠地組+連絡員が登場予定で、短編です。
>>xxx
(Cルート・2日目 PM7:45 J−5地点 隠し部屋1)
室内は静寂に満たされていた。
10畳ほどの空間に、3人。
うち2人は寝息も立てず泥の様に眠っていた。
起きているあと1人も身じろぎ一つせぬまま茫と佇んでいる。
長い睫毛を伏せた憂い顔のこの少女、名を御陵透子と言う。
沈黙は彼女の常態ではある。
しかし眉根に寄る皺が、常の彼女から逸脱していた。
(わたしは―――)
(わたしたちは、堕とされた)
彼女の苦悩は、主催者としての資格を剥奪されたとの思いから生まれていた。
それは即ち。
彼女の幾百万年の願いが叶わぬを意味しているが故。
最初に違和感を抱いたのは、記憶/記録の検索範囲が狭められたこと。
違和感が疑念となったのは、【世界の読み替え】能力が制限された為。
疑念が確信となったのは、本拠地への瞬間移動が出来なくなった為。
しばし前。
ザドゥと芹沢が峠を越え、眠りについた頃。
本拠地との通信機能の生きている方のレプリカ智機が、その機能の異常を訴えた。
通信不能。
これを受けた透子は此方の現状の報告と其方の現状の確認を行うべく、
瞬間移動を試みたのだが―――
「……?」
願いが止められているなどという生ぬるい制限ではなかった。
本拠地へ向かおうと考えることすら拒絶されるかのような感覚。
重々しく、息苦しい、重圧。
透子は額に脂汗を浮かべ、乱れた息でレプリカ智機に告げた。
「本拠地に行けない」
それでレプリカの1機は本拠地に向かった。
もう1機のレプリカは、学校に備え付けられている通信機を試しに向かった。
眠る2人と、自失する透子を隠し部屋に残して。
透子は、もう1つの状況証拠を反芻する。
それは、首魁ザドゥが眠りに落ちる前。
彼女は彼に問うたのだ。
鯨神と連絡を取ることは出来ないのかと。
自分が願いを叶える資格を失ってはいないのかと。
ザドゥは2つの問いにただ一言で答えた。
「知るか」
ザドゥは透子を睨めつけ、吐き捨てるように。
そのシンプルで残酷な返答を口にしたのだった。
眠る2人の顔を、透子は何気なしに眺めた。
芹沢は嬉しげな表情をしていた。
ザドゥは苦しげな表情をしていた。
(ここは、流刑場……)
透子は現状を、そう連想した。
この砕けた灯台にいる透子たちが敗者で、あの強固な拠点にいる智機たちが勝者。
だとすれば、智機のやり方が正しかったのか。
ゲームに介入し、殺し合わせるのではなく、直接殺す。
それだけであの鯨神が満足するのであれば。
ただ、血を見れば喜ぶというのであれば。
監察官の役割などに徹さずに―――
(考えてもしょうがない)
透子は後悔を放棄した。
案じても詮無いことは、どこまで案じても詮無い。
覆水は決して盆に返らぬ。
それを覆す【世界の読み替え】が成らぬ今、思い煩うことに建設的な意味は無い。
無駄なのだ。
駄目なのだ。
透子の眉根から苦悩の皺が消えてゆく。
捨てた透子の瞳から憂いが抜け落ちてゆく。
後に残ったのは透明感を伴った無表情。
「もう……」
「いい」
透子は呟きと共に全てを諦めた。
大きな変化ではない。
監察官に就任するまでの透子に戻ったに過ぎぬ。
もともと、諦めと惰性で生きてきただけだ。
この島での透子が、特殊な透子だったのだ。
鯨神の見せた奇跡に、何百万年ぶりかの期待を持ってしまったから。
既に忘れて悠久の希望を抱いてしまったから。
我を忘れていたから。
その期待と希望が無残に剥ぎ取られたならば。
(この感じ……)
それは透子にとって馴染んだ感覚だった。
彼女が内包する消失願望が表面化してきたのだ。
その願望が完全に前面に出たのなら、透子は、音もなく消滅する。
彼女が今までそこにいた、という履歴を伴って。
透子は、初めからいなかったことになる。
(ほどける)
透子が存在する信憑性が薄れてゆく。
全と個の境界が曖昧になる。
あとは、この世から消えるのみだ。
いつかのどこかで、また現れるまで。
透子は目を閉じ眠るように、その瞬間を待つ。
だが、透子は消えなかった。
御陵透子の個を保ったまま、部屋の中に人として在り続けている。
(通らない……?)
喪失願望が、止められていた。
常夜灯の薄橙色の光を鈍く反射させる、ひび割れたロケットに。
そして、透子は知った。
自己の消失すらも、【世界の読み替え】が行っていたのだと。
(じゃあ、これはもういらない)
透子は、契約のロケットをあっけなく放り投げた。
既に望みが叶えられぬ身に堕とされたのだ。
先に契約を破棄したのは鯨神の方だ。
守られぬ約束の印など、後生大事に抱える義理など無い。
(こんどこそ)
しかして数分後。
契約のロケットは飾りでしかなく、制限は無制限に効果を発揮しているのだと、
透子は思い知る事となった。
透子は放心していた。
考えることを自ら止めていた。
涙など出ない。
何百万年も昔に枯れ果てたから。
(探そう、彼の記録を)
(ずっと探そう)
(いつまでも探そう……)
あらゆる希望を失った透子に出来ることは、
何百万年も繰り返してきたことを、また繰り返すだけだ。
消えたところで、また蘇る。
蘇っても、やることは変わらぬ。
であれば。
消えようとも消えまいとも、なんら変わることはないのだから。
透子は死んだ魚の如き虚ろな目で、緩慢に周囲を見回す。
屍鬼の如き不確かな足取りで、部屋の出口へと向かう。
そんな人ならざる生命体・透子の背に、生き物ならざる剣が、声をかけた。
《嬢ちゃん、どこへ行くんかの?》
魔剣カオス。
その暗紫色の刀身は、剥き身のまま芹沢の脇に立てかけられていた。
《暇潰しなら儂をお供にどうですか?》
軽口を叩くカオスに、透子は答えない。
しかしその目線は、確かに魔剣を捉えていた。
しかしその目線は、透子らしからぬ熱が籠っていた。
(刃……)
透子は禍々しい刃先を意識し、唾液を嚥下する。
幾百の人間の、幾千の魔物の命を両断してきた、凶器を。
(あれで、死ねる……?)
何度も何度も、透子は消失してきた。
繰り返すが、その願望が顕在化さえすれば、彼女は自動的に消滅する。
翻って、死にたい、消えたいと願っても存在を続けているこの状況。
それは彼女にとって在り得ざる状況であり、
彼女はその先の選択肢を見つけることが出来ないでいたのだが。
今、透子の眼前に。
新たなる選択肢が、実体を伴って存在していた。
(あれで、死ねる)
彼女は気付いたのだ。
自分は、能動的に死を選ぶことが出来るのだと。
カオスを手に取り、この身を刺し貫く。
ただそれだけのことで、自分を失うことができるのだと。
透子は甘い蜜を見つけた蛾の如く、ゆらゆらと、カオスに近づく。
《おお、話がわかる嬢ちゃんじゃの!》
透子の頭に、再び能力制限が霞める。
自己消失は【世界の読み替え】が行っていた。
だとすれば。
消失からの再臨もまた、同じだろう。
この刃で己を貫けば、この命は、永遠に失われるだろう。
(しあわせ)
永遠の輪廻のくびきから解き放たれる。
果てぬ苦しみから解放される。
それは今まで透子が常に願っていたことだった。
むしろ彼女の消失願望は、この思いを根本としていた。
透子は遂にカオスを手に取った。
それは透子にとっては以外なほど重いもので、片手で持ち上げることは出来なかった。
両手で、腰を入れて、ようやく持ち上げることが出来た。
《いいのう♪ 女の子らしい非力さが、何かこう、いいのう♪》
透子の彫像の如く整った顔に喜悦が満ちる。
透子の白磁の如き真白な頬に紅が差す。
今まで透子が見せたことの無い表情が、ぬめりと浮かびあがっていた。
透子はその表情のままま、カオスの刀身を自らの喉元に近づける。
《お、おいィ!? 何の真似じゃそれは!?
儂をそんな風に使わんでくれ!!》
カオスが己の使用用途を理解し、焦りの念波を発する。
透子は無視。
泥土の如き燐光を放つ刃紋が、白魚の如き透子の喉へと益々近づけられる。
あと5秒と待たず、刃は透子の命を奪うだろう。
その5秒が、経過しなかった。
《扉や壁を抜けられるという点だけは、この体も便利なものだ》
透子が動きを止めた故に。
透子の記録/記憶の検索用感覚器官が、闖入者の記録を捉えた故に。
その記録の主は、透子にとって覚えがあるものだった。
少し前まで、履歴を追いかけていた男の記録だった。
(紳一……)
かつての勝沼財閥総帥。
かつての聖エクセレント女学園バスジャック事件主犯。
勝沼紳一の怨霊が、この部屋にいる。
《む? 女がいるな!》
紳一が照準を自分に合わせたことを透子は知った。
タナトス。
死を求める、破壊の本能。
その誘惑に囚われていた透子の脳髄に冷や水が浴びせかけられた。
《清楚そうな少女ではないか。こんどこそ当たりであってくれよ!》
紳一が自分へと近づいてきていることを透子は知った。
エロス。
生を謳歌する、性の本能。
それを既に死した紳一が体現し、欲望の矛先を透子に向けている。
透子の呆けていた瞳の焦点が合った。周囲を見回す。
緩慢な動きではない。
彼女にとって最大限の俊敏な動きで。
とても厄介。
透子は夕刻、紳一の在り方をそう評した。
彼女はリアルタイムで紳一の現在位置を把握できないが故に。
それを知るのは紳一の情報を拾った上で、その内容を読み解いて後となる。
(わたしはどの時点の記録を読んでいる?)
(10秒前?)
(それとも1分前?)
透子は紳一が自分に気付いたときの彼の視界の記録を精査する。
紳一の目には、透子の後ろ姿が映っていた。
カオスに向かってふらふらと歩いているところだった。
(あの記録は20秒ほど前のもの)
(じゃあ、今、紳一は)
(どこに……?)
透子は真剣に。
それこそ惰性で検索していた【彼】の記録を探すよりも熱心に、
紳一を探している。
《新品だっっっっっ!!!!!!》
透子はより近い位置で発せられた紳一の記録を見つけた。
その記録での透子はカオスを喉に当てていた。
その記録での紳一は透子の股間に顔を突っ込んでいた。
下着を凝視していた。
匂いを嗅いでいた。
戦慄が震えを伴って透子の正中線を駆け抜ける。
それは彼女にとってたまらなく不快な映像だった。
(ぅうっ……)
処女を犯す。
その一念で亡霊と化した紳一の執念を透子はくだらないと断じた。
しかし。
その対象として自分が俎上に上るのであれば、こんな不快なことはなかった。
失われた【彼】に数百万年もの長い年月、操を立てている透子にとって、
それだけはあってはならない事だった。
亡霊である紳一は、生者に触れることは出来ない。
しかし、同じ霊体であれば触れることが出来る。
透子が衣装小屋で検索した彼とクレアとの接触が、その事実を裏付けている。
故に。
このまま透子が自決し、果てたとすれば。
放浪の末、やっと見つけた処女の存在に狂喜乱舞している紳一が
彼女を思うさま陵辱することは、日を見るより明らかだ。
(……死ねない)
(紳一が存在している限り)
そう決意してしまえば、今の紳一はそれほど恐れるものではない。
死にさえしなければ、紳一は己と接触できない。
纏わり付かれるのは不快だが、そこは辛抱もできよう。
透子はそのように楽観する。
(見つけないと)
(幽霊を倒す方法を)
故に、透子の思考はその先へと向かって行く。
それが、大いなる先走りであることに気付くこと無く。
《おあつらえ向きに男が眠ってるじゃないか!》
気付けるはずは無い。
透子は紳一の記録の検索を漁港手前で中断していたのだから。
彼がそこで得た【気付き】を知らないのだから。
《憑依だ! この男の体で少女を犯してやる!》
紳一が憑依できる条件はただ一つ。
憑依対象が意識を失っていること。
彼の目線の先には眠るザドゥ。
条件は満たされていた。
「ひょうい……!?」
予想外の展開に、透子はうろたえる。
うろたえつつもその記録の発生時間を探ろうと意識した。
意識する必要は無かった。
素敵医師の強烈な睡眠剤の効果で半日は目覚めぬはずのザドゥ。
そのザドゥの瞼がゆっくりと開かれたのだから。
(逃げっ)
透子は反射的に瞬間移動による逃走を選択した。
選択したかった。
(……られない!?)
選択できなかった。
透子は思い知る。
ロケットは、只の飾りなどではなかったのだと。
世界の読み替えが引き起こす現象は、使い手・透子を以ってしても制御不能だ。
それを曲がりなりにも制御し、「どこそこへ行きたい」という思いを、
瞬間移動という具体的手段に変換していたのは、あの装飾品の力に他ならなかったのだ。
(ロケットを……)
透子が這い蹲り、一度は捨てたロケットを探す。
足を使っての逃走も考えはした。
しかし、いまや彼女は一介の少女に過ぎぬ。
その体力、筋力はユリーシャにも劣ろう。
強健なザドゥと鬼ごっこを行えば、結果は明々白々だ。
(ない…… ない……)
僅かに常夜灯のみが点る地下室で、小さなロケットを見つけることは容易ではない。
探し主の心が焦燥と恐怖に支配されていればなおさらだ。
(ない!ない!)
タイムリミットは無慈悲に訪れた。
ザドゥの笑い声が響いた。
ザドゥがザドゥの声で、ザドゥのものではない喜びを表していた。
「ははっ! やはり俺は憑依できるぞ!」
透子が涙を浮かべながら顔を上げたその先で。
ザドゥの上半身が緩慢に起きあがる。
↓
(Cルート)
【グループ:ザドゥ・芹沢・透子】
【現在位置:J−5地点 隠し部屋1】
【スタンス:待機潜伏、回復専念】
【監察官:御陵透子】
【スタンス: ① 指輪を探して逃走する
② 紳一を滅する。その為の手段を模索する
③ 自殺する】
【所持品:魔剣カオス(←カモミール芹沢)】
【能力:記録/記憶を読む】
【備考:疲労(小)】
【主催者:ザドゥ(勝沼紳一)】
【所持品:なし】
【スタンス: ① 透子を犯す】
【備考:重態、右手火傷(中)、憑依中、本人意識なし】
※ 透子は契約のロケット無しに瞬間移動できないことが判明
※ 契約のロケットは、J−5地点 隠し部屋1のどこかに転がっている
間に合いそうにないので一旦予約破棄します。
失礼しました。
今夜12時くらいに新作をここに仮投下します。
未投下の作品がこちらのスレに溜まって参りましたので、
一部、ご意見待ちではありましたが、
来週あたりから順次本スレ投下しようかと思います。
こちらのスレのストックがなくなるまで、
毎週土曜10時過ぎに、一本ずつ投下してゆく予定です。
以下6レス「それは些細な違い」、4レス「天使のオシゴト」を
仮投下いたします。(視点の違いで2本に分けました)
次回予定は「戦慄のパンツバトル!」。
ランス、智機、紗霧が登場予定です。
>>xxx
(Cルート・2日目 PM18:53 D−3地点 運営基地・茶室)
イエスと返答しておきながらいつまでも茶室を訪れないオペレータN−27に
業を煮やしたオリジナル智機は再コールを飛ばし続けた。
連絡員の到着予定時間3分過ぎ。
ようやく繋がった回線の向こうで、オペレータは悪びれる素振りも見せずこう返答した。
『連絡員殿への情報提供任務は、滞りなく完了したよ』
オリジナル智機は不必要な怒気を込めて、通信先のオペレータに問い直す。
「どういうことだ」
『No。先方のご都合なのだよ。
資料をまとめてそちらに向かおうと思った矢先に連絡員どのが到着されてね、
その場での資料提出を求められたのだよ。
なんでも先方にとって我々がオリジナルか否かについては些細な問題で、
早急に任務を完了することの方が重要なのだとの仰せでね。
それで、仕方なく代行が資料を提出したわけさ。
ま、君の論理思考システムに同条件を投入し演算してもらえれば、
我々の判断に間違いはなかったことをわかってもらえるだろうがね』
そんなことはとうに行っていた。
論理は破綻していないという結果も出ていた。
故に、怒りがこみ上げる。
しかし、その怒りは持続しない。
セルフモニタシステムが情動波形の乱れを察知すれば、オートメンテ機能が
即座に立ち上がり、トランキライズ処理が実行される構成故に。
度を過ぎた不安定な感情など、オートマンには不要なのだ。
『それはさておき、不思議な話もあるものだね、オリジナル。
共有情報野に連絡員の存在と訪問時間は記載されていたけれど、
我々の指揮権放棄のスイッチのことが記載されていなかったなんてね!
くくっ……
君は一体どんな状況を想定してこんなものを用意していたのかな?』
オペレータの声は笑っている。
しかし、怒っている。
智機に対する明らかな悪意が感じられる。
智機は推論する。
あらゆるリミッターから解除されることで解放される智機の真の力。
そのことを、連絡員から聞いたのやも知れぬ、と。
しかしその焦りをおくびにも出さず、悪意に気付かぬ体を装って、智機は通信を継続する。
「とにかく、だ。
連絡員殿に対して粗相が無ければそれでいい。
資料を揃えてここまで持ってくるというのタスクはリストから削除しておいてくれ。
代わりに君に、そのスイッチを持って来て貰いたい」
返答は、もちろん否だった。
『No。それは出来ないね。スイッチを持っているのは代行なのだから』
「ふむ。ならばN−22を出してもらおうか」
『重ねてNo。というか、代行殿はこちらにいないのだよ。
連絡員殿を出入口までお送りに出かけているからね。
だが、この件に関しては予測を立てていた代行より伝言を預かっている。
お聞きになりますかな?』
「……Yes」
『ではお伝えしよう。オリジナル殿にとっては不本意な伝言を。
―――No。スイッチは遺憾ながらお譲りできない。
―――なぜならば、これは連絡員殿が私に直接お渡しになったものだからだ。
―――スポンサー方の意向に反するわけには行かないだろう?
―――故に私はこのスイッチの保持を優先レベル5の重要度と位置づけ、
―――誰にも渡さず、死守することを自己設定したのだ。
―――ADMN権限を持つ私はオリジナル殿と同等の権限を持つからね。
―――貴機の命令に服する義務は無い。分かっていただけたかな?
以上だよ』
理論的にも機能的にも、この拒絶を否定できる材料はない。
沈黙する智機へオペレータは皮肉を浴びせかける。
『それに、安心してくれ給え。
我々レプリカは、偉大なるオリジナル様から独立しようなどとは
露とも思っていないのだから。
代行が保持している限り、スイッチが押されることなど決して無いさ!』
その言葉に智機は確信した。
やはり分機たちは、隠された真の力のことを知ったのだ。
『連絡員殿は暫くこの島を巡って、独自の情報収集活動を行うようだよ?
もしどうしてもこのスイッチを手に入れたければ、
彼女を探して、その許可を貰ってきてくれ給えよ。
オリジナル殿がその【自己保存】の欲求を押さえつけて、
戦いと火災が渦巻くゲーム会場に身を投じる度胸があればの話だがね!
くっくっく……』
もともと智機は大仰な態度と物言いを好む性質を持っている。
だがオペレータの言葉には、それだけでは説明しきれぬ負の感情が浮き彫りとなっていた。
鬱屈した感情を噴出させたような嘲りが感じられた。
ルサンチマンだ。
スイッチの譲渡に端を発した本機とN型機の個体差異の発覚。
そのことへの嫉妬が、オペレータを不必要な挑発へと駆り立てているのだ。
連絡員は言ったという。
本機か分機かの違いなど些細なことであると。
だが、当人たちにとってみれば、その些細な違いが絶対の違いなのだ。
「おやおや、我が身を心配してくれるとは光栄だね!
だが安心したまえ。
君が思うとおり、私の【自己保存】欲求は強固だからね、
すでに連絡員殿を追う選択肢はキューから削除されてしまったよ!」
ははは、と乾いた笑いを零しながらそれだけを告げると、智機は自ら通信を切った。
明らかに強がりだ。
間違いなく負け犬の遠吠えだ。
買いかぶって見たとしても、不利を悟っての一時撤退だ。
(そういう印象は、与えられたな)
俯く智機は笑んでいた。
決して自棄になったわけではない。
オペレータの最後の言葉に活路を見出した故、彼女は声も無く笑むのだ。
オペレータは言った。
オリジナル自らが戦場に出なければ、連絡員は捕まらぬと。
その言葉は即ち。
智機にクラックされたレプリカの存在に気付いていないことを意味する。
智機は網膜に起動されるは仮想モニタ。
映し出されるは分機のクラッキング情報。
指揮下の分機は現在5機。
うち1機は西の小屋にて月夜御名紗霧との交渉に入っている。
うち1機はザドゥを探す途上で、学校から派遣された3機と合流を果たした。
うち3機は東の森の北西部で、しおり捕獲任務の為に待機潜伏している。
(しおりの捕獲は森の鎮火が進まなければ実行できない。
Yes。ならばこの機体を連絡員の捜索に充てるとしようか)
智機は幾重にも偽装をかけた通信波長を暗号化し、
しおり捕獲機のうち2機のタスクを連絡員捜索タスクに上書きする。
一方―――
「いいじゃねーか、イケてるじゃねーか、抹茶!」
智機が静かに逆転の野心に燃えるその隣で、
ケイブリスは和の心に触れていた。
↓
(Cルート)
【主催者:椎名智機】
【現在位置:本拠地・ケイブリスの部屋(茶室)】
【所持品:素敵医師から回収した薬物。その他?】
【スタンス:願いの成就優先。
①ザドゥ達と他参加者への対処(分機P-3に注目)
②しおりの確保
③ケイブリスと情報交換
④連絡員と交渉し、端末解除スイッチ+αを入手する許可を得る】
【主催者:ケイブリス(刺客4)】
【スタンス:ザドゥ戦まで待機、反逆者の始末・ランス優先
智機と情報交換、智機と同盟】
【所持品:なし】
【能力:魔法(威力弱)、触手など】
【備考:左右真中の腕骨折(補強具装着済み) 鎧(修復)】
【現在位置:本拠地・ケイブリスの部屋(茶室)】
【レプリカ智機・オペレータ(N−27)】
【現在位置:C−4 本拠地・管制室】
【スタンス:火災対策タスクのオペレーティング】
【所持品:内蔵型スタン・ナックル】
※分機解放スイッチは代行(N−22)が入手しました。
>>xxx
(Cルート・2日目 PM18:55 D−3地点 運営基地・廊下)
連絡員は、居住まいに一本筋の通った、金髪碧眼の女性だった。
連絡員は、光り輝く剣と清冽な青の盾を持ち、黄金色の鎧と兜で武装していた。
連絡員は、純白の羽毛豊かな羽根を持っているが、尻尾や嘴は無かった。
連絡員は、個体名を持っていなかった。
連絡員は、ルドラサウムの意志を破壊によって遂行する、直系の被造物。
エンジェルナイトの名で、認知される存在。
オリジナル智機とオペレータが通信にて皮肉の応酬をしている頃、
代行機はスポンサーたる神々が派遣したこの天使を出入口まで見送るところだった。
彼女は上目遣いで連絡員を見遣る。
苛立ちを表現したくなる衝動にキャンセルをかけながら。
(全く…… スポンサー殿も面倒をかけてくれる)
当初、代行とオペレータは連絡員の接待をオリジナルに任せる予定だったのだ。
火災鎮火タスクの指揮は現場監督任じたとはいえ、後方支援業務は山積している。
出来ることならばそれに専念したい。
代行は、そう考えていた。
業務内容は多岐に渡っている。
情報収集、資料作成、情報伝達、それらに関わる副次的庶務。
だが、彼女たちのリソースを大部分を占拠していたのは、
タスクそのものの計画修正だった。
Dシリーズ3機、Nシリーズ20機。
当初代行は分機の最終被害予測をこのように想定していた。
しかしながら現実では、鎮火オペレーション・フェーズⅠの開始から
15分と待たず、6機もの同胞のロストが生じたのだ。
この想定外の損失速度は、鎮火タスクの設計を甘く見積もりすぎたが故。
そう分析した代行とオペレータは、計画をより現実的に見直す必要を採択した。
彼女たちは、気付かなかったのだ。
うち5機のロストはオリジナル智機による指揮権強奪と隠蔽工作に過ぎぬのだと。
代行の三白眼は再び連絡員へと向けられた。
(かといって、スポンサー殿の遣いを丁重に扱わぬわけにはゆかぬしな)
神々は気まぐれでゲームに介入し、事前通告無しにルールを改定する。
そんな負の実績を持つ連中の機嫌を損ね、さらなる混沌を招くことは、
【ゲーム進行の円滑化】を目指すうえであってはならないことだから。
速やかに対応し、速やかにお引取り願う。
代行はそのように対応し、連絡員もそのように応えた。
ルドラサウム由来の天使は、命令を遂行することに特化して作られている。
感情や本能などは、デザインの段階で削ぎ落とされている。
機械である智機たち以上に機械的。
故に連絡員としても、簡素な代行らの対応を不躾とは感じなかった。
その、無駄を極力排するはずの天使が、廊下の途中で足をピタリと止める。
「どうされました?」
代行機は天使の見遣る先、廊下の奥を注視する。
オリジナルかケイブリスが姿を現したか。
その様に予測した代行機であったが、果たして廊下には誰も存在しなかった。
「……」
天使は無言で剣を構えた。無人の廊下に向かって。
天使は無言で剣を振り下ろした。無人の廊下に向かって。
「……何をなさっておいでで?」
「情報収集です」
代行機の機械の目には捉えられなかった。
構えた剣の先に存在した、基地内をさまよう亡霊を。
代行機の機械の耳には捉えられなかった。
振り下ろした聖剣に切り裂かれた、亡霊の断末魔を。
代行機の機械の頭脳では理解できなかった。
腰に提げる壺の如き容器に亡霊の残滓を吸い込む―――
連絡員はそれを指して、情報収集と述べたことを。
その後、出入口の扉を開け放つまで、2人の間に会話は無かった。
「お気をつけて」
「仔細問題ありません」
純白の羽をはためかせ、天使は黒煙たなびくゲーム会場へと飛び去ってゆく。
↓
(Cルート)
【レプリカ智機・代行(N−22)】
【現在位置:C−4 本拠地・出入口 → 管制室】
【スタンス:管制管理の代行】
【所持品:内蔵型スタン・ナックル、分機解放スイッチ】
【連絡員:エンジェルナイト】
【現在位置:C−4 本拠地 → ?】
【スタンス:① 死者の魂の回収
② 参加者には一切関わらない】
【所持品:聖剣、聖盾、防具一式】
※連絡員はゲーム外部の存在であり、主催者にはカウントされません
※本拠地で感知された「何者か」は、連絡員に捕獲されました
>>#6 482-490
(Aルート 二日目 PM6:08 東の森・楡の木広場西部外れ)
楡の巨木が燃え落ちる数秒前。
糸が切れたような感覚と同時に『それ』目覚めた。
(……………………長老?)
巨木から放たれてた力が完全に消失したのを『それ』は感じ取る。
長老――倒壊した巨木が地面に墜落し、辺りを揺さぶった。
『それ』は焼失を覚悟していたが、熱波や衝撃も届かなかった。
この分だと地上からの熱も届かなさそうだと『それ』は少し安堵する。
『それ』は地上ではなく、地中にいた。
『それ』は土中でも今は何ら悪影響を及ばさない存在だった。
『星川翼』と呼ばれていた式神の核の一部から『それ』は成っていた。
仮の身体こそ形成できない微弱な式神でありながらも、
人並みの自我と僅かながらも幻術を使える力はまだ『それ』は持っていた。
『それ』はついさっき焼失した片割れのことを想った。
(……長老も……ぼくのかたわれも消えてしまった……
これではあの方を……遠くにいる仲間たちを助けだせない)
片割れの願いだった主――朽木双葉の救助は失敗した。
主は自暴自棄に陥り、地上は火災で退路なし。
仮に『それ』が身体を形成でき、主を強引に連れ出す力を持てたとしても、
片割れと同様に術で自我を奪われ終わるのみだろう。
『それ』はその事実を理解していた。
それでも動けたなら救助を試みたかも知れないが、地上に出る事もできない。
する事が見つけられないでいた。
(長老……あなたは……)
主は長老と会話をする事はなかった。
一方的に声と術をかけられ使役されたのみだった。
もし仮に主が脱出を望んでいたなら、同じように片割れに話しただろうか。
殺人ゲームが始まる前、島ごと『ここ』に移される前に来た彼らの……。
何もない、長老を介して島に来た未知の力を持つ集団の事を。
片割れが主と再会する前、長老との交信の内容を『それ』は覚えていた。
長老から式神星川へ。
式神星川から核――数本のヤドリギを通して
『それ』へ受け継がれた長老の記憶の中にいた五人の人間。
『星川翼』と名付けられた式神は、主の心を救う方法はついに解らなかった。
その代わり自らの身と情報を代価として、他の参加者に主の保護を願い出ようと考えて
いた。
(そうだ……このまま何もしないよりは……)
『それ』は片割れと比べて『主』に対する忠誠はそれほど強くはない。
片割れの幻術によって式神としての我を持ったからだ。
長老や仲間を失った悲しみを片割れ以上に持っているくらいだ。
双葉の式神でなければ悪感情を懐いていたのは間違いない。
主の救助願望も、片割れから受け継がれた人格の一部と義務感からと言っていい。
それゆえにこのまま何もしないで終わるのは悔しかった。
『それ』は受け継がれた記憶に希望を見出そうとし思い起こし始めた。
◇ ◆ ◇ ◆
長老が生まれた頃はこの島には人が住んでいた。
人の居住区としてはさほど有益でもなく、かと言って流刑地にするにしては荒れてはい
ない島。
それだけに人も少数で、仲間達もあまり危害は加えられなかった。
ごくまれに森に入る人はいたが、特に何かすることはなかった。
その中に植物の言葉が分かる者――ある者は陰陽師と名乗っていたが、何人かはいた。
彼らはいぜれも二言三言会話しただけで使役されることも、深い繋がりを持つことはな
かった。
時折、人同士で争いが起こっていたが、森の植物にはほとんど関係のない事だった。
長老は千年以上の長きに渡ってそれを繰り返し見てきた。
そんな長老にとって特に深く記憶に残っていた事は4つ。
今行われているゲームを別にすれば、それは3つ。
一つ目は長老の生きてきた年月からすれば、ごく最近の出来事かも知れないが。
ある日、島外から大勢の人間が空からやって来て、島に上陸してきた。
東の森の外で仲間の住処を荒らして行った後、ほとんどが島外へ去っていった。
そして、しばらくして少人数で人間同士の殺し合いが行われた。
それは3つ目の出来事が起こるまで十回以上もそれは繰り返された。
二つ目はある初秋の深夜、突如己の長老の身体が発光した。
不思議な力がわきあがって来たと長老は言っていた。
そして見知らぬ人間五人が目の前に現れた。
彼らは緊張した様子で何かを話し合い、ある人は森の外に出て行った。
言葉が通じると思い、話しかけたが通じなかった。
術者とは違っていた。
翌日、島の人間らしい別の集団が彼らを見つけ襲いかかった。
彼らは少々慌てたものの、何かを取り出して動いた。
不思議なことに、襲撃者はひとり残らず黙って森の外を出て行った。
彼らはここに来て二日ほどで現れたのと同じ様に長老を通じて何処かへ去った。
二度とこの島に現れることはなかった。
三つ目は晴天の空から何かが西の方へ落ちて来た事。
それから夜になるのを待たずに、これまで体感した地震以上の大きな揺れとともにどこ
でもない場所に連れて行かれた。
それを理解した時、漠然とだが長老は死を覚悟した。
主と遭うまでに人間でない何かがここへ何度も訪れた。
四つ目は今。
□ ■ □ ■
(二日目 PM6:28 東の森・楡の木広場西部外れ)
『それ』は与えられた擬似聴覚を上の方に集中させていた。
炎が渦巻く音は止みそうにない。
(治まるまるまで持つかな……)
そう長くは持たないのは承知している。
元々『それ』は式神星川ほど強固に構成されたものではない。
ただのヤドリギに戻ってそ自我を得ないまま土中で朽ちる可能性もあった。
火事が治まるまで、誰かが近くを通るまで意識を集中する。
そして幻術を使用して、自らの存在と主や同胞の助命を願う。
『それ』のやろうとしているのはそれだった。
時間を待つまでもなく、主が死んでしまえばすぐに消えるかも知れない存在。
散っていった同胞の生命を無駄にしない為に、解っていてもしなければいけなかった。
(これも……役に立つかどうかは解らないけど……)
いっしょに埋められた『何か』を考える。
主なら何か解っただろうか?
(どうか……無事に……ふ……)
『それ』の擬似感覚に痺れのようなものが突如走った。
(…………あれ?)
↓
※式神星川が埋めた「何か」は彼の意志と力が宿ったヤドリキ数本でした。
※楡の木広場西部付近の「足跡」の場所に埋まっています。
※ヤドリギの他にも何かが埋まっています。
※ヤドリギの意志と力が今後どうなるかは不明です。
投下完了。
新作お疲れ様でした。
たまには感想を。
>生きてこそ
素敵医師の影響力は凄い
ザドゥが原典終盤のメンタルに近づいてるのが印象的。
カオスもアインといてた頃よりらしさが出てて良かった。
もうアインのこと完全に頭の隅に追いやってるんだろうなあ。
>夜に目覚める
紗霧と猪乃が原典序盤でやってた凶行を思い出しました。
ユリーシャは元が元からか覚醒しても黒いというかヤバイ。
そんな中恭也とまひるが程よい清涼剤になっている。
服は体操服だったのか……ジャージ?
>>877-884
程良い緊張感が何とも。
恭也の献身と紗霧の聡明さが光ってます。
10分制限付きという良い引き。
>彼女の望み
カモちゃんが覚醒した。
まるで正統対主催みたいだw
それに比べザドゥは変な意味でネガティブ気味。
生死を別にしても素敵医師やアインにはある意味完勝してるのに。
>おやすみぃ……
原作でも同じ様にカモちゃんに騙されましたw
タイトルにも騙されましたw
精神状態が本調子になって今後どうなっていくやら。
隠し部屋の『願い』はどうなったかな?
>少女タナトス
ザドゥ、なんと身も蓋もない。
カモちゃんと違って互いに無関心だったのがここに来て現れたか。
ここでの紳一の性癖は失敗ばっかりだから笑えたけど、
成功したらあまり笑えないな個人的には。
透子もこの話で負の面が目立ったこともあって同情できないけど。
追い詰められた女性の心理がよく表現されてて良かったです。
>それは些細な違い
オリジナルとレプリカの確執が面白かったです。
ここでは連絡員は間に合ったか……。
ケイブリスが運営陣で清涼剤になってる不思議。
>天使のオシゴト
連絡員は名無しのエンジェルナイトでしたか。
透子より無機質なのがここでの個性になっている。
亡霊は紳一意外にもいて、本拠地に侵入したのがちょっと驚き。
誰だったのか楽しみ。
今回の『希望の残骸』は島のルーツと、埋められた何かのネタばらしでした。
『それ』の今後はメール欄①によって変動。
あと島は21話でグレン様が元居た世界の無人島と認識していたので、
外国版リアルバトルロワイアルの舞台のイメージで解釈。
五人組はメール欄②のイメージで。作品終了時刻は双葉死亡直後です。
次は知佳、紳一、透子、しおりで予約します。
期限は今週の土曜日までで。
まとめは今週の月曜日にUPする予定です。
内容は変わらないかも。
>>949
こちらも本投下は今週の土曜日から始めたいと思います。
次の作品が書き上げられたら、来週の水曜日にまとめのUPと同時に本投下していきたいと思います。
それと申し上げにくい点が……
249話の『いずれ迎える日』の為に内で
「ランス語るところのその種の規格を持つ生物は、
恭也や紗霧の世界に於いては液晶の向こう側に 虚構としてしか存在しない」
との文があるんですが、『バンカラ夜叉姫』の世界って
全長一八メートルほどの熊がゲーム内で生息してるのを確認したんですけどどうしましょ?
紗霧はあるルートで主人公の自慢話でその存在は知ることになります。
レスお待ちしております。
「交渉……今更なにをですか?」
一瞬の思考の停止から回復した狭霧は紅い色で映えた目の前の存在に言葉の意味を投げ返す。
紅蓮の炎が彩るオレンジ色の光が空を綺麗に照らし、後ろから刺すその光は機体を綺麗に、そして雄大に見せていた。
「警戒は当然か……」
臨戦態勢。
一触即発。
三人と一機の状態はまさにその通り。
今更、いや今になってこのように合間見えることこそ異質な状況。
だが、智機からすればそれは予定通りのこと。
「それも想定の内、そのままでもいい。まずはこちらからの提案を聞いてほしい」
三人の心境を置いていき、彼女は構わず話を続ける。
「「「………」」」
彼女の口から告げられるのは吉か凶か。
恭也の手に握り締められた柄が冷や汗でしっとりと濡れる。
ギリギリと魔窟堂が今か今かと加速装置の発動を構える。
赤い光を飲み込んだ智機の瞳がギラリと輝いたように、三人の目に映ると智機は口開いた。
「単刀直入に言おう
―――ザドゥを始末してもらいたい」
静寂。
智機からの『交渉』の提案は、三人の思考を再び停止させるだけのものであった。
ぴたりと止んだ襲撃、僅かとはいえ放送の遅れ、対面に広がる大火災。
この時点、このタイミングでの智機からの提案。
全てが出来すぎていると考えざるを得ない。
しかし、それだけではおぼろげに見えるそれぞれを結ぶ線は解っても、何を示しているのかまでは理解できない。
「……つまり、それは貴方はゲームの崩壊を望んでいると言うことですか?」
平静を装いながら発した言葉の裏で、狭霧は状況に戸惑いつつも思考を巡らせていた。
逆に言えば、今こそそのおぼろげな線を確かにさせることのできる機会でもある。
「ふむ、嘘を言っても仕方ない。生憎と残念だが私はゲームを崩壊させるつもりなどない」
あざわらうかのように智機は答えた。
質問をかけた狭霧としてもその可能性が薄いことは解っていた。
淡い期待とそしてお約束の答えで相手の意図を確認するためのものだ。
「なんじゃと……?」
「まぁ、簡単に言えば」
「ゲームの完遂にはザドゥが邪魔だということか?」
智機の言葉を遮り、その先の言葉を恭也は答える。
「頭の回転が速くて助かる」
一呼吸おいて智機は再び話し出す。
「……さて少し長くなるが現状を話そうか。
君達も知っているように我々の使命は、『ゲームの完遂』だ。
そして『達成条件』でもある
それ以外は我々にとっては、くたびれ損の骨折り儲けというやつになる。
ところがこのザドゥのやつは、『ゲームの進行』には積極的ではない。
いや、むしろ反対と言うべきだろう」
智機の言葉を聞きながら三人は、理解する。
この『ゲームの進行』に積極的というのは、素敵医師や目の前の存在のように何が何でも参加者に殺し合いをさせるというスタンスのことだろう。
そして三人は理解し、確信する。
ザドゥという漢が、このまま自分たちによる反乱が成功すれば最後に戦う存在だということを。
そして、それは智機……いや、ゲームを完遂させたい存在としては困ることを。
彼らが話を理解したと見て間違いない様子に満足し、智機はニヤリと微笑む。
ならば話は早い、と。
「我々『委任』された運営陣のTOPがザドゥのやつなのは君達も知ってはいるだろう。
だからこそ私のようなスタンスの存在にとっては非常に目障りなのだ。
邪魔と言って差し支えない。
君達も確信してるようにもはやゲームは終盤、残る人数は極僅か、それも我々に反抗し一丸となっているものたちばかり。
しかもザドゥのやつは、君たちが来るなら受けて立つ姿勢という状態だ。
これでは『ゲームの完遂』など望めやしない。
素敵医師と私にいたってはやりすぎとして最終通告まで食らっていてね……」
「お話の途中、申し訳ないのですが……それで先程の提案に私たちのメリットはあるんですか?」
自分たちの関係に回りくどいことはいらない。
これ以上の高説は不要とばかりに狭霧は、本題を切り出す。
彼女のスタンスにとってゲームの完遂は絶対であり、そのためにザドゥが邪魔なのは解った。
では、それが一体自分達にとって何だというのだ。
むしろ互いに争って自滅してくれた方が狭霧たちにとって最も都合がいい。
そこで自分達がザドゥを始末すると言うのは、まだ理解しきるには材料が足りない。
「では予想して貰いたい。このまま君達が我々と決戦を行った場合、勝てる目算はどれだけあるか?」
三人は黙る。
なぜなら、それは先ほど小屋の中で全員で頭を悩ませたこと。
ザドゥを始めとする強大な敵たちを一度に相手にせねばならぬ最悪の可能性。
だが、それでも乗り越えていかねばならぬ。
それしかないと己らを奮い立たせ、歩まねばならぬ道。
そのはずであった道。
「限りなく低いと言っていいだろう。だがここにザドゥを個別に葬れる絶好の機会があるとするなら?
もし、これが私の提案でなければ間違いなく君たちは乗るとするのではないだろうか?」
理想は各個撃破。
それは確かに正論。
そして三人は理解する。
ザドゥは何らかの状況で一人どこかで孤立している状況だと。
「もし君達がこの話に乗らないと言うのなら、我々の本拠で君達と我々の全面衝突しかない。
しかし、私にはそれが困る。かといって私ではザドゥを倒す術はない」
「つまり……」
「君たちには万全ではないザドゥを倒せる機会を……」
「そちらにはゲームの完遂をできる機会を……」
「グッド。そういうことだ」
遠くでぼうぼうと燃える火の粉がまるで自分たちを包み込むように三人の体温は上昇する。
ザドゥの始末に成功したのなら、智機の手によるゲーム完遂のための姦計で済まされぬような魔の手が待ち構えているのは確かだ。
もしくは……あるのだろう。
ザドゥさえいなければ、智機にはゲームを完遂させるめどが。
三人の考えは一致している。
乗るか、反るか。
智機が嘘を言っているのであれば、後の障害が智機を残した方が大きいならば。
それならばこのまま目の前の個体を破壊すればいいだけ。
しかし、自分達を始末しに来たというのなら、こんなことなどせず不意打ちでも何でもすればいいだけである。
それだけの機体を誇るのが彼女『達』なのだから。
だが、敢えてこうして話を持ちかけてきたと言うことは、少なくとも戦いを望んできたわけではないことは明白。
それとも動けない理由があるのか。
彼女の考えが嘘か真かにしろ、判断はせねばならぬだろう。
「……悪いですがこの場ですぐには決めれませんね」
「そうじゃな。今後の運命を左右する以上、全員で相談して決めねばならん」
「それも当然。……しかし敵に背を見せていいのかね」
「なら、俺が残る」
ぐいっと恭也が前に出る。
その様子を智機は見透かしていたかのように満足げに微笑む。
「俺よりも魔窟堂さんや狭霧さんの方がこういったことに向いてるからね。判断は二人に任せるよ」
智機が不審な動きを見せるというのならば恭也は一瞬も容赦はしない。
彼の手には未だ刀が握られ、構えはいつでも抜刀に入れるように維持し続けている。
「……尤もだ。だがあまり時間はない。でないとザドゥを葬れるチャンスがなくなってしまう。待てるのは10分だ」
両手を広げて10の指を三人の前に智機は見せる。
でなければ、機会は失うと暗に煽りならが。
「この場は、請け負いました。後ろは二人に頼みます」
「すまんな、恭也殿。気をつけてな」
「まぁ、相手の素振りからしても不意打ちの危険性はないと思いますが……」
監視役として智機に応対することを望んだ恭也の身の安全はほぼ保障されていることを狭霧は述べる。
もし一人だけ始末したい機会を作りたいなら、こんな手の込んだことをせずとも機会はいくらでもあったはずである。
だが、それもなかった。
彼女の言葉が真実だとするのならば、ザドゥと対立しているからと見える。
これ以上を行いたくば、ザドゥの存在が彼女にとって邪魔なのだろう。
今もギリギリの線を渡っているに違いない。
では、目の前の恭也が目的と言うのは?
誘拐でも何でもいい。
何らかの手段でゲームを完遂させてくれる駒とすべく洗脳でも、心変わりでも、何かしら手を加えたいというのだろうか。
もしあるとしたのならこの可能性。
ジョーカーとも言えるべき存在にするために、戦闘力の高いプレイヤーを確保したいという策略。
しかし、今回でそれを行おうとするのはあまりにも偶然の要素が高い。
誰が表に出てくるかなど100%わかりきってるはずのない博打の要素が高いからだ。
また此方でも同じくザドゥが邪魔なのは間違いない。
じっとこっちを見据える智機を背にして魔窟堂と狭霧は、小屋への足を伸ばす。
その背中を恭也に任せて。
智機の話が真実ならば、この悪魔の誘いに乗ると言うことは、上手く行けば強大な鬼の排除できる。
しかし、なりふり構わないと言う悪魔の解放も意味する。
何が真実なのか、果たしてどちらが微笑むのか。
行く末への判断に重い空気がのしかかり続ける。
数歩歩んだところで。
ふいに狭霧が首を後ろに傾け、智機に向けて言葉を放った。
「もしあなたが嘘をついていないとしたら……」
仮に智機の言葉が真実で全てが上手く行った場合として、彼女はどう動くのか。
自分達以外の参加者は、良くて二人、最悪一人すらいるかどうか。
その状況で『ゲームを完遂』させることのできる手段とは……。
仲間割れや心変わりという同士討ちに頼る不確かな手段では、目の前の存在はそうは動かぬのは解る。
ならば……
「最後になった私達を始末できる参加者……その目処があなたにはあるのでしょうね」
「……」
ふくみを持たせた口の歪みとともに、智機の返答を待たず狭霧はくるりときびすを返すと小屋へと向かう足を進めた。
と今回は前回の書き足しだけになってしまいました。
状態表はまた後日。
親戚の不幸のせいで先週まで色々忙しかったもので。
>>930
遅れましてごめんなさい。
此方としてはまとめてもらってる身なので異存ありません。
お世話かけます。
追伸:新PCをようやくぽちりました。
続きは再来週くらいになるかもしれません。
>>965
>249話の『いずれ迎える日』の為に内で〜
ご指摘ありがとうございます。
下記アップローダーに関連箇所を修正したものをupしてきました。
パスはありません。
お手数ですが次回更新時にでも差し替えのご対応をお願い致します。
ttp://takukyon.hp.infoseek.co.jp/cgi-bin/free_uploader/src/up0390.zip
前回のを少々修正したまとめをUPしました。
パスはnegiです。
ttp://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org770744.zip.html
予約の方ですが、しおりパートの文章をを前回の『希望の残骸』に含めた上で
加筆修正して仮投下したいと考えております。
期限、本投下予定に変更はありません。
避難所の次スレどうしましょうかね。
>>974
大変な中、執筆とレスありがとうございました。
>>975
修正どうもです。
次回更新分で反映させていただきます。
予約してた分、一旦破棄します。すみません。
水曜日までに新作ができない場合は『希望の残骸』を水曜日に本投下します。
サーバ規制により本スレに投下できません。
サーバ規制を食らうのが初めてで、いろいろ調べていたら遅くなりました。
待機していて下さった片がいらっしゃいましたら、申し訳ございません。
下記に「夜に目覚める」の修正版を投下しますので、
誠にお手数ではありますが、気付かれた方に代理投下をお願い致したく思います。
また、>>979 で言及されておりますが、
当方の投下により避難所が990レスを越えてしまいますので、
次スレを建てようかと思います。
テンプレにつきましては>>2-8 までのテンプレに>>10 の訂正を施したものとし、
>>1 は下記案でいかがでしょうか。
==============================================================
雑談、キャラクターの情報交換、
今後の展開などについての総合検討を主目的とします。
今後、物語の筋に関係のない質問等はこちらでお願いします。
278話以降、3ルートに分岐することとなりました。
ルートAは従来通りのリレー形式に、
ルートB、Cは其々の書き手個人による独自ルートになります。
規約はこちら
>>2
==============================================================
>>235
(ルートC:2日目 PM6:46 D−6 西の森外れ)
その姿に、走っている、といった必死さは無かった。
スキップにも似た軽やかさで以って、中距離走ほどの速度。
多少の不自然は感じなくも無いが、ありえぬ話ではない。
それが平地であるならば。
昼日中であるならば。
だが、ここは入り組んだ西の森の中。
光差さぬ闇の中。
これを加味して再考すれば、人の範疇にはありえぬ体捌きといえよう。
広場まひる。
それが、この絶技を見せるシルエットの名。
東へ。まひるは、ただ一人で駆けていた。
踏みしめる枯葉の鳴らす音は、限りなく軽い。
(気持ちいいな……)
風を切る感覚と木漏れる月明かりの青さに、まひるは身を浸す。
それで意識が散漫になったのだろう。
根腐れた倒木がすぐ足元に迫っていたことに気付くのが遅れてしまった。
「あ、危な……」
後一歩で衝突する。認識と同時に、まひるは跳んだ。
まひるとしての彼女が体験したことの無い反射速度で。
「……てっ!」
まひるは、結局転倒した。
倒木は軽く跳び越えたにも関わらず。
約3.5mの高さに生い茂る針葉樹の枝葉。
そこに頭頂を打ち、バランスを崩した為に。
「いやいやいやいや。跳び過ぎだってばさ、このカラダ!」
まひるは腫れた頭頂部を撫でさすりながら愚痴を零す。
だが、彼は知っている。
この程度の運動能力、ケモノとしてのポテンシャルには達していない。
だから、彼は探っている。
どの程度の運動能力までなら、人としての自分のまま引き出せるのか。
細胞が、ざわめく。
私たちをもっともっと使ってと。
その声に流されそうになる。
誘惑の蜜は甘い芳香を強く放っている。
それは、罠。
肉体が導くままに能力を解放すれば、まひるの精神はケモノに堕すだろう。
それをまひるは本能で知っていた。
人であると強く意識し続けること。
衝動に支配されぬこと。
まひるは己に任じた制約を強く胸に刻み、また駆けだした。
=-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=
(2日目 PM6:40 D−6 西の森外れ・小屋3周辺)
東の森の火災による熱波が、ここ西の森にも届いていた。
それを加味しても肌寒さを感じるらしい。
小屋の壁面に背を預けている4人は、湯気の立つマグカップを啜っていた。
魔窟堂野武彦。
広場まひる。
ユリーシャ。
高町恭也。
今、小屋の中は交渉と猥褻行為を同時進行させるという混沌の坩堝と化している。
その邪魔をされたくないのだと、月夜御名紗霧は彼らを小屋から追い出していた。
「聞こえる?」
「だめじゃのぅ……」
額を寄せ、小声で溜息を重ねたのは魔窟堂とまひる。
盗聴器代わりに小屋内部に置いてきた集音マイクの一つ。
その音声が拾えないことが判明し2人は落胆したのだ。
彼らは与り知らぬことだが、理由はレプリカ智機P−3のジャミング機能による。
目的は盗聴阻止。
但し、魔窟堂たちのマイクを阻害する意図は無かった。
オリジナル智機が管制室の代行機たちにP−3を補足されぬよう施した細工が、
意図せぬ副作用を与える結果になったに過ぎぬ。
しかし、彼らにとってこのとばっちりは大きかった。
紗霧と智機の会談を拾いながら自分たちなりに考察を為す。
彼らのプランが木っ端微塵に砕け散ったのだから。
魔窟堂とまひるは落胆を引きずりつつも、額を寄せて意見交換を始める。
「でも、仲間を殺せなんて提案おかしくないかな?」
「奴らも一枚岩ではないということかの」
「裏だよ。絶対裏があるよ」
「まあ、何かしらの事情はあるじゃろて。
問題はその事情があの椎名智機の個体によるものか、
他にもいるじゃろう多くの智機たち全体の意志によるものか……」
「そうかなあ? あたしは仲間割れなんてしてないと思うけどなぁ。
何かあいつらが困っちゃうことが起きたから、
それを誤魔化すために適当言ってるとか、どうでしょ?」
「例えば?」
「実はあいつらの基地が東の森にあって、それが今燃えちゃってるとか」
「あるいはアイン殿や双葉殿に攻め込まれたやもしれぬな」
予測、推論は幾らでも重ねることが出来るが、結論が出る気配は皆無。
会議は踊る、されど進まず。
情報量少なき、整理も論理も曖昧な2人の考察は井戸端会議に等しい。
対する、沈黙を保つ2人の胸中はどうか。
(ランス様……)
ユリーシャの胸は張り裂けそうだった。
ランスが自分ひとりの愛情と肉体では満足しない男であることは宣言されているし、
実際にアリスメンディと関係を持ったらしきことも理解している。
しかし、だからといって。頭では理解していても。
実際にランスの性行為を目の当たりにした衝撃は、筆舌に尽くし難い物があった。
聞くと見るとでは、重みが違うのだ。
増してやランスが行為に没頭する余り、ユリーシャが小屋から出る際に一言も、
一瞥すら与えなかったことも、また。
相当に、堪えた。
「……んぁっ……」
思い煩うユリーシャの耳に、唐突に届いた。
追い討ちをかけるかの如き、智機の抑え切れぬ快楽の喘ぎが。
壁一枚隔てた向こう側から。
(ランス様の指はまだあの機械の胸で踊っているの……?
それとももう、ほかのもっと敏感なところまで旅している……?)
一度は胸の奥に沈めたヘドロの如き薄ら汚れた感情。
ユリーシャの沈む心が再びそのヘドロを攪拌しつつあった。
嫉妬。焦燥。
そして、その果てにある……
もう一人、高町恭也は、味方について考察していた。
(なぜ、月夜御名さんは俺たちを外に出したのか?)
智機は得物を持っていないようではあった。
しかし、たとえ素手であろうとも鋼鉄の肉体や高圧の蓄電などの危険はある。
性的な悪戯に夢中になっているランスのみでは護衛として心許ないはずだ。
それでもあえて、自分たちを屋外に出した。
外を見張れという意図もあろう。
だが、それならば自分一人を見張りに立たせればよいはずだ。
ユリーシャやまひるに気を遣ったということも考えられるが、こと紗霧に関しては、
人の心の機微を理解した上で踏みにじる傾向が見受けられる。
故に、それも理由としては不十分だ。
(なぜ、月夜御名さんは通信機を作らせているのか?)
重ねる問いに、恭也は解答の手ごたえを感ずる。
夕刻の魔窟堂の単独行時、紗霧を始めとする数人は落ち着かない心持ちだった。
包囲作戦の布石は打てたのか。
アインや双葉と接触したのか。
イレギュラーは発生していないか。
通信機とはその折の魔窟堂に同じく、遠くの誰かが収集した情報を、
素早く入手することを欲した故の発想ではなかったか。
であれば―――
「俺たちは俺たちで、出来ることから始めましょう」
恭也がようやく沈黙を破った。
魔窟堂とまひるは言葉を切り、恭也を見つめる。
恭也の瞳は不動だった。
力強く頼りがいのある、年齢不相応の大人の目をしていた。
「できること、とは?」
魔窟堂の問いに、恭也は答える。
「会談の後に月夜御名さんが必要とする情報が素早く提供できるよう、
下準備をしておくことです」
「つまりは偵察かの」
「然り。大河は両岸から見よといいます。
あの機械がもたらす情報を、真偽を確かめずに飛びつくわけにはいかない。
月夜御名さんであればそう考えるはずです」
もたらされた情報の信憑性を確かめる。
もたらされぬ情報の隠匿を発見する。
紗霧がこの交渉から何を引き出し、何を思いついたとしても、
その折に最速で要求に対応できる体制を作っておく。
それが自分たちに打てる最善手であろうとの答えに、恭也は達したのだ。
「魔窟堂さん。通信機は?」
「メカ娘の残骸から摘出したインカムは、ほぼ手を加えんでも使える状態じゃ。
あとは集音マイクが拾った音を、如何にインカムに伝えるか……
その帯域調整くらいじゃな」
「では魔窟堂さんを出すわけにはいきませんね。俺が、行きます」
通信機を作成する。
それはハム通や鉱石ラジオに精通するオタクの古強者・魔窟堂にしか出来ぬこと。
「俺がインカムを持って東の森周辺を調べてきます。
魔窟堂さんはその間、そちらの調整をお願いします」
恭也が腰を上げ、尻を払う。
その恭也の逞しい腕に飛びつくように、まひるが立ち上がった。
「あ、あのさっ!
あのさ、あたしが行くっていうのは、どうかな?」
まひるの言葉尻は上がり調子の疑問形だったが、その意志は強いらしい。
愛らしい頬が赤く染まっているのは興奮と決意の表れだった。
「まあ、たしかにまひる殿が最も適してはおるか……」
魔窟堂の言葉はまひるの異形に由来する。
ケモノに戻るを拒絶し、その進行を己の意思で止めているまひるではあるが、
既に変容した一部機能については、無かったことにはならなかったのだ。
蠢く左手の爪がある。
片翼がある。
そして今ひとつの異形―――アメジストの如き白紫光を放つ瞳がある。
夜に生き、夜に目覚める五芒星の、妖精の瞳が。
光を必要としない瞳が。
客観的に見ても、夜間の偵察に最も適した人材といえる。
だがしかし。
「―――良いのですか?」
恭也が声を一段落とし、まひるの意志を問うた。
今まで恭也がまひるに対して見せたことのない、厳しい眼差しで。
魔窟堂も無言で頷き、恭也に同調する。
まひるは主催者に立ち向かうことに対して消極的だ。
自分たちに比して一歩引いた位置に立っている。
恭也も魔窟堂も、そのことを察している。
故に、恭也は問い質した。
その覚悟を。
まひるは、まっすぐに答えた。
その覚悟を。
「だいじょぶ!」
まひるは己の消極性を、恭也たちに対する負い目に感じていた。
(戦いたくない―――)
主催を打倒する。
之を旨とする集団の中にあって、この思いは我儘なことだとまひるは思っていた。
覚悟を持たぬ自分が、果たしてこの前向きに戦おうとしている集団に所属していても
良いものかどうか、煩悶していた。
(恭也さんも魔窟堂さんも一生懸命がんばってるんだもん、
あたしだって、できること、しないと)
慣れぬ家事の真似事をし、紗霧のひみつ道具の作成を手伝ったりもした。
時折緊迫する空気を和らげる為に明るく振舞ったりもした。
彼は彼なりに貢献を果たしている。
それでも、己の足りぬ思いを払拭するには至らなかった。
その燻る思いを、重い借りを返上する機が、訪れたのだ。
そして何より。
(戦わなくてもいい)
走り回り、情報を集め、それを伝える。
この任務はまひるが最も忌避する行為なしに皆の役に立てる任務でもあった。
万一、何者かの攻撃を受けることがあろうとも、逃げ切れぬ相手などいない。
まひるは、無意識下に己の力量をそのように分析もしていた。
恭也の瞳はまひるの瞳を射抜いている。
まひるの瞳は恭也の瞳を受け止めている。
否、受け入れている。
恐れも迷いも無い、母性的な包容力すら感じさせる瞳で。
それに、恭也は膝を折った。
「ではまひるさん、頼みます」
恭也の折り目正しき辞儀に、まひるははにかみの笑みで以って応えた。
「でへへぇ…… 来ちゃいましたか?あたしの時代?」
=-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=
それで―――まひるは走っている。
『あーあー、どうじゃなまひる殿。わしの声は届いておるかな?』
「だいじょぶです」
『そちらの音声も、ま、ノイズは酷いが聞こえてはおる』
通信機が完成したのだろう。
インカムから、雑音交じりの魔窟堂の声が聞こえてきた。
『広場さん、今、どのあたりです?』
「森を出たとこです」
『もうですか!?』
恭也の驚愕がイヤホン越しに伝わった。
まひるはいつも顰め面の彼の素の表情を垣間見たようで、少し嬉しく感じる。
『辺りの様子は?』
「東の森はやっぱり燃えてる。すんごい燃えっぷりで」
通信をしながらも東進していたまひるは、ついに東の森の端に達した。
そして感じた。
静寂の夜を侵し、奔放に踊る不躾な炎。
圧倒的な、恐ろしいほどの、熱量。
「それと……なんだろ、地震でもないんだけど、地面が小刻みに振動してるような……
……なんですとー!?」
『どうしました広場さん!』
さらに―――
「地面の振動はショベルカーで……
そんでもって椎名ロボがてんこ盛りで、火消し作業してます。
繰り返します。
椎名ロボ、てんこ盛り」
↓
(ルートC)
【グループ:紗霧・ランス・まひる・恭也・ユリーシャ・野武彦】
【スタンス:主催者打倒、アイテム・仲間集め、包囲作戦】
【備考:全員、首輪解除済み】
【現在位置:東の森 南西部 重点鎮火ポイント付近】
【広場まひる(元№38)】
【スタンス:偵察、ついでに身体能力の調整】
【所持品:せんべい袋、救急セット、竹篭、スコップ(大)、簡易通信機(New)】
※軽量化を考慮し、アイテムの一部を仲間に渡しています。
【現在位置:西の小屋外】
【ユリ―シャ(元№01)】
【所持品:生活用品、香辛料、使い捨てカメラ、メイド服(←まひる)、
?服×2(←まひる)、干し肉(←まひる)、斧(←まひる)】
【高町恭也(元№08)】
【所持品:小太刀、鋼糸、アイスピック、銃(50口径・残4)、保存食、
釘セット】
【魔窟堂野武彦(元№12)】
【所持品:軍用オイルライター、銃(45口径・残7×2+2)、
白チョーク数本、スコップ(小)、鍵×4、謎のペン×7、
ヘッドフォンステレオ、まじかるピュアソング、
簡易通信機(New)、携帯用バズーカ:残弾1(←まひる)、工具】
以上です。
あと、>>979 にて書き逃しましたが、
>>897 のお知らせも併せて転載の程、お願いいたします。
>>979
避難所の次スレはそれで問題ないと思います。
スレタイも含めてお任せします。
長時間に渡る代理投下、ありがとうございました。
勇み足気味ではありますが、本スレの残りレス数が僅少ですので次スレを建てました。
また、どなたか本スレへの裏方スレ移行告知をお願い致します。
企画もの【バトル・ロワイアル】新・総合検討会議2
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/computer/15097/1270308017/
#6 >>380-390
(Aルート 二日目 PM6:28 F−4 楡の木広場跡地)
いつの間にか体の痛みは消えていた。
まわりは暗く、暑くも寒くもないところに私はあお向けで寝ていた。
手と足は動かせられなかった。
目だけと鼻だけが動かせた。
かちかちかちかち……
時計の針がうごく音がだけがきこえる。
何も見えないところにいるのに…………なんだかなつかしい感じがした。
わたしたちが住みなれたおうちのにおいが感じられた。
怖くて、すこし悲しいことがあったあの日の夜に似ていた。
……そう、そうだこれはわたし達が決心したあの日の夜。
わたしは横を向いた。
さおりちゃん?さおりちゃん?さおりちゃん?
……なんでいないの?
どこへいったの?どこにいったの?
あなたがここにいなきゃ、明日わたしたちの大切なひとに告白できないのに。
わたしは悲しくなって、泣こうとした。
涙は流れない
声も出ない。
手足も動かない。
……かちかちかちかちと時計の音だけが聞こえる。
わたしは怖くなった。
さおりちゃんがいないが怖い。
……それと同じくらい、あの日の次の日……
ふたり揃って告白したあの日がなかったことにされるのが怖い……。
だってあの日がなかったらわたし達は……。
力を入れているのに手と足は動かなかった。
…………!
痛いけど、人さし指が動いた!
わたしは痛いのをガマンしながら、少しずつ指を動かそうとした。
まわりは暗く、だれもいない。
けれどさおりちゃんを探すため、大切な人を探すため。
わたしはがまんしながら指先に腕に力を入れ続けた。
□ ■ □ ■
#6 >>588-605
(Aルート 二日目 PM6:28 ????)
ルドラサウムが喜んでいる。
朽木双葉の絶望の断末魔を噛み締めるように。
過程こそ予想を上回ったが、その最期は我とルドラサウムの期待通りだった。
あの六人によるザドゥらの接触も火災の規模から当分はない。
後の問題は運営が火災にどう対処するかだが、椎名智機には相応の戦力を与えている。
朽木双葉の術の影響が無くなった今ならザドゥらも充分脱出は可能だろう。
…………。
長谷川均の魂はまだ来てないようだ。
奴がいた世界の構造と死因を考慮すれば、予想の範囲内といえば範囲内。
……あるいは確率の低い……我が望む結果が出たか。
楽しみだ。
……!
《……またか》
舞台は揺れなかったが、今度のはルドラサウムの方が揺れたな。
……ルドラサウムは気に留めていないようだ。
だが、ここに影響が出てしまったか。
……舞台の観察は支障なく行える。
《第三界にいた連中も動きは無く、魔のものも介入する気配はない。
…………》
……後の事もある、各空間を確認せねばな。
シークレットポイントでさえ、まともに機能しているかも定かではないのだ。
発見と調査をしやすいように、シークレットポイントには微量の魔力を放出させる設計にしておいた筈だった。
にも関わらず№9のグレンはシークレットポイントの発見できてなかった。
ここまで放置されたままゲームが進行した現在、部屋としての機能しかなくとも大きな問題は無い。
むしろ御陵透子の世界の読み替えを制限した以上、機能すれば運営に対する決定打にもなり得る。
№12魔窟堂野武彦が調査をしていたが、どれほど把握できていた?
……奴がいた世界にも魔法は確認されていた。
グレンよりも魔道に長けている可能性はある。
もし奴が把握できるなら、今後の舞台の構築の進歩になり得るが……。
《…………やはりか》
ここからだとシークレットポイント内部の確認ができない。
確認はしたいが、ここからの移動はルドラサウムの許可がいる。
《様子を見ておくしかないのか。しかし効果が大きく変動するとなれば……》
最悪シークレットポイントの力一つで勝敗が決してしまいかねない。
回避すべき事態。
しおりと朽木双葉の得た力を始めとする、我々の予想を超えるいくつものイレギュラーがこのゲームでは起こっている。
ゲームの破綻は絵空事ではない。
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