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『劇場版プリキュア』を楽しもう!

1運営:2013/02/17(日) 18:03:31
プリキュアシリーズの映画及び、オールスターシリーズの映画について語り合うためのスレッドです。
ネタバレな話題もOKです。また、これらの映画に関するSSと感想もこちらにてお願いします。
掲示板のローカルルール及び、保管庫【オールスタープリキュア!ガールズSSサイト】(ttp://www51.atwiki.jp/apgirlsss/pages/1.html)のQ&Aを読んで下さい。
※映画の視聴が未だといった方は、閲覧されないようにご注意お願いします。

115makiray:2017/08/09(水) 19:46:19
Quartet Branche (Epilogue)
----------------------

「嫌んなっちゃうなぁ…」
 烏天狗は狛犬に体をもませていた。ときおり、あ痛たたた、とうめいては、もっと優しくやれ、と狛犬を小突いていた。
「もう、白いものなんかいらない。こっちで願い下げだ」
 ゴロン、と仰向けになる。狛犬は枕にされてしまった。
「もっと可愛いものがいいな。
 白はもう嫌だから、ピンク色。
 あぁ、金魚なんかいいな」
 烏天狗は、懲りる様子もなく、次のコレクションについて検討をし始めた。

116makiray:2017/08/09(水) 19:47:09
「プリキュア ドリームスターズ Ver.0.9 -Quartet Branche-」、終了です。
 16 スレのつもりでしたが、15 でした。
 長々と失礼しました。

117名無しさん:2017/08/09(水) 21:03:12
>>116
この四人の取り合わせってなかなか新鮮でした。
パートナーに黙っててね、という三人が可愛かったですw
本編の後、みんなでお花見したのかな。賑やかで楽しそうですね。

118Mitchell & Carroll:2017/08/21(月) 01:14:08
もしアウトでしたら、削除していただいて構いません。
投下させていただきます。
『びーえる!』18禁、BL注意。
あとはよろしくお願いします。

119Mitchell & Carroll:2017/08/21(月) 01:15:41
「――ダメだ、ナ○ツ。もう我慢できないよ」
 艶っぽい低音で囁きながら、コ○はナ○ツの乳首をきゅっと抓る。
「だ、だめっ……だ、もし誰かに見られたらっ……!」
「仕方ないんだよ、もうこんなに滾ってるんだから」
 コ○の色白の体に見合わない、黒く逞しいそれ。
「なあ、ナ○ツも本当は欲しくて堪らないんだろ?」
 耳殻に舌を這わせながら、ゆっくりとそれを擦りつける。
「ぁっ……」
 感じる箇所をふと通り過ぎ、思わずナ○ツは声を出してしまう。
「恥ずかしがらずにホラ、『挿れて下さい』って言えよ。『コ○の逞しい●●●で、俺の中をいっぱい掻き乱して下さい』って。ナ○ツのおねだりする声が聞きたいなぁ」
「そ、そんなっ……」
「ふーん、欲しくないのか?じゃあ、やめようかな」
 耳元に感じていたコ○の吐息が、ゆっくりと離れていく。
「そんなことっ……言ってな……い」
 今すぐ欲しい。欲しくて堪らない。
 逞しいそれで思いきり貫いて、激しく突き上げて、自分の滾ったものも強く握り締めて、扱きあげてほしい!
「じゃあ言えるな?ナ○ツ」
 じわじわ責められて、極限まで高められたナ○ツの身体は、もう拒む事はできなかった。
「コ○ので……いっぱい、掻き乱してくれ……」
「僕の、何で?」
「分かってて……訊かないでくれっ……」
 真っ赤に染め上がったナ○ツの頬に、コ○はチュッと口付ける。
「分からないから訊いてるんだよ」
「う、嘘だっ」
「嘘じゃないって。焦らさないで、早く言えよ」
「焦らしてるのは……そっち……ぁっ……」
 腰が無意識にいやらしくくねってしまう。早く欲しい。これ以上、我慢できそうもない。
「コ○の……逞しい●●●を、俺の中に……っ」
 そう言うと、手首を掴まれ、後ろ手に彼に股間に導かれた、
「お前が欲しいのは……これか」
「そ、そう……はやく……っ」
 これ以上焦らされたら、どうにかなってしまう。ナ○ツは我慢できずに自分から彼の滾ったそれを、自らの潤んだ窄まりにあてがった。
「アッ――!」
 ぬぷりっ、と先端を受け容れた瞬間、まるで全身の血が沸騰するかのような、そんな快感に包まれる。
「んぅぅっ……」
 何もかも埋め尽くすコ○の昂ぶり。ぐいぐいと押し広げられながら、どこまでも高められていく。呼吸はすっかり乱れ、ただただ彼を受け容れるので精一杯だった。
「食いしん坊だなぁ、ナ○ツは!」
「コ○……お、奥まで……来てくれ……っ」
 壊れてもいい。滅茶苦茶に突き上げて欲しい。
「急かすなよ、ナ○ツ。せっかくのお前の体なんだから、じっくり味わわせてくれ」
 焦らすように腰を引かれ、もどかしくて狂いそうになる。
「あぁっ、イヤだ、もっと……」



あゆみ「――ど、どうかな?初めて書いたから、何がなんだか分からなくて……」
やよい「いい!スゴくいいよ、あゆみちゃん!」
あゆみ「そ、そう?これ、こまちさんにも見せたほうがいいかな?」
やよい「うん。こーいうのもイケるクチかもね!」
あゆみ「オールスターで繋がるBLの輪、だね」
やよい「さて、この前の続きだけど……」
あゆみ「うん。ベタ塗りと消しゴム掛けだよね」
やよい「それと、今日はトーンもやってもらおうかなって」
あゆみ「えぇっ!?私なんかがそんな大役を!?」
やよい「いや〜、実は昨日、気合入れてカッター握ってたら指ケガしちゃって……ちょっと刃物とは距離を置こうかなって」
あゆみ「そうなんだ……。で、どこをやればいいの?」
やよい「この男性キャラの乳首のところと、あとお尻の――」



120運営:2017/08/21(月) 22:09:03
運営です。Mitchell & Carroll様、いつも楽しい作品をありがとうございます。
で、さすがにこれは問題あり……なんですが、内容はとても面白く、削除も惜しい(運営の一人が強く推しました)ので、特例で保管させていただくことにします。
ちょっと無理やりではあるんですが、保管庫Q&Aの3を適用します。まずヒロインと男性キャラとの絡みではないこと。及び、妄想オチであること。シリアスではないこと。ヒロイン同士のお話で終わっていること。でギリギリOKとします。
投下ありがとうございました!

121Mitchell & Carroll:2017/08/21(月) 23:25:01
>>120
どうもありがとうございました。

122makiray:2017/11/02(木) 21:31:06
 一応、プリアラの映画がベースなのですが、映画を見てなくても OK ですし、ネタバレにもなっていません。
 3スレ、お借りします。

123makiray:2017/11/02(木) 21:32:21
きらら星またたく (1/3)
----------------------
 パリ7区のシャン・ド・マルス公園に店を構えたキラキラパティスリー。
 そのドアがバタンと開く。次には、カツカツカツ、とヒールの高い音が響いた。
「あの、今日の営業はもう…」
「Des bonbons ou un sort」
「え?」
 その少女が言ったフランス語を宇佐美いちかたちは理解できなかった。
 なにせ世界パティシエコンテストへの参加は急に決まったもので、フランス語を勉強する時間などほとんどなかった。“Bonjour”と“Merci”、あとは自分たちが提供するスイーツの名前くらいがせいぜいである。
「Des bonbons ou un sort!」
「Pardon...」
 有栖川ひまりがやっと思い出した言葉で、もう一度、と言う。年は彼女たちと同じくらいだろうが、姿勢もスタイルもよいその少女は、その外見に似つかわしくもなく、小さく舌打ちをしたように聞こえた。
「ったく。
 じゃ、Trick or Treat!」
「あ、それはわかる」
 立神あおいが言った。だが、別にハロウィンのフェアはやっていない。顔を見合わせているばかりだが、琴爪ゆかりが、あ、と口を開いた。何か思い出したらしい。
「シエルは? いるんでしょ?」
「シエルのお友達かな」
「パリに来て、このあたしをおもてなししないで済むと思ってるの? 大人しく出さないと、いたずらしちゃうわよ?!」
 悪い人には見えないのだが、言っていることが物騒である。なんとかして帰ったもらった方がいいだろうか、と思っていると、キッチンからキラ星シエルが顔を出した。
「いた!」
「あ…」
 ふたりは、お互いを認めると笑顔になった。
「シエル!」
「きらら!」
「きらら、って…あっ!」
 いちかたちもそれが誰であるかを思い出した。五人一斉に指をさす。
 少女は、からかうように笑った。
「ごきげんよう」

「そうか。
 シエルが MON TRESOR にいたころ、きららちゃんと会ってたんだ」
 その少女は、天ノ川きららだった。
「そ。駆け出し同士、傷をなめ合っていたわけ」
「わたしはちゃんと一人前のパティシエになってたわよ」
「えー、オーナーにダメ出しされてしょげちゃってたのは見間違いかなぁ」
「記憶にないわ」
「それは失礼」
 きららは、にひ、と笑った。
「ところで」
 剣城あきらが言う。視線は、きららといちかから、ひまり、あおい、ゆかり、と移動する。
「なに?」
 シエルがそれぞれの顔を見た。どれも、困っている表情。このふたりは、お互いのことをどこまで知っているのだろう。
「どうしたの?」
「あ、きららちゃん」
 いちかが立ち上がった。
「改めて紹介するね。
 こちらは、キラ星シエル」
「知ってる」
「またの名を、キュアパルフェ」
「ふうん、どっかで聞いたような――え?」
 シエルがいちかに駆け寄った。
「ちょっと、いちか、そんなこと、一般の人に」
「大丈夫。きららちゃんは――」
 シエルはきららを見た。きららの唇が震えている。それはつまり、「キュアパルフェ」という名前が何を意味するかを知っている、ということだ。シエルの視線は、きららから、あきら、ゆかり、あおい、ひまり、いちか、と移動した。
「…」
「…」
「シエルがプリキュア?!」
「きららがプリキュア?!」

124makiray:2017/11/02(木) 21:34:00
きらら星またたく (2/3)
----------------------
 さらに、シエルが実はキラリンという妖精である、という事実もきららに伝えられる。きららはしばらく頭を抱えていた。
「ていうか、いちかちゃんたちが言ってたキラキラルってそういうパワーも持ってるんだ」
「えぇ、まぁ」
「了解」
「わかったの?」
「理屈考えてもしょうがないからね。あたしたちだって似たようなもんだし」
「つまり、きららとは、駆け出し仲間であると同時に、プリキュア仲間でもあるわけね」
「さっきは違うって言ってなかったっけ」
「認めてあげたのよ」
「って言うか、違うよ」
 きっぱりとした言い方に、一瞬、皆の表情が曇る。
「あたし、もう駆け出しじゃないし」
「…」
「シエルは知らないけどね」
 また、にし、と笑う。またからかわれたのだ。シエルの顔が赤くなる。
「私の店の『スイーツのセーヌ川』は何度も見たでしょ?
 また私のスイーツを食べられなかった、ってがっかりしてたじゃない」
「うーん、そしたら別の店にいけばいいだけだし」
「なんですって?」
「ここは花のパリ。おいしいお店はいくらでも」
「きららちゃん」
 ヒートアップしそうな言い合いを いちかの言葉が止めた。
「ん?」
「きららちゃんって、そんな言い方する人だった…っけ」
 きららの目がわずかに開いた。
「私、きららちゃんとシエルがどんな関係だったかは知らない。
 きららちゃんだって、今年の春に会ったっきりだし。
 でも、きららちゃんがそんな意地悪を言う人だなんて…思ってなかった」
 一度落ちた視線を上げるきらら。どうやら、ひまりたちも同じことを考えているようだ。
「…。
 ごめん」
 きららは小さく頭を下げた。
「スイーツだけじゃない。モデルも一緒でさ。
 スタイルが良くて、クールなウォーキングができるモデルなんて、パリにはいくらでもいるんだ。認めてもらって抜け出すんだ、ってみんな言ってるけど、そもそも見てもらう機会が少ない。
 だから、ことあるごとに、『あたしの方がきれい』『あたしの方が上手い』ってアピールしていかないといけないんだよね。
 あたし、もともと根性悪いけど、それが強くなってる、って日本のモデル友達にも言われた」
「根性悪くなんかないよ」
「いや、それは」
「根性悪い人が、プリキュアになれるはずないもん」
「…」
 またきららの視線が落ちる。シエルは、次の言葉が出ないきららを見ていた。
「そんなときは、スイーツね」
 シエルが立ち上がった。
「何か食べたいものある? 簡単なものなら作るよ」
「…。
 ミルフィーユ」
 シエルは、簡単なものって言ったのに、と笑いながらキッチンに向かった。

125makiray:2017/11/02(木) 21:34:47
きらら星またたく (3/3)
----------------------
「そんなすぐ帰っちゃうの?」
「学校、そんなに長く休めないし」
「そっか」
 きららは笑っていたが、瞳の奥に寂しさが見えた。
「冬休みにでもまた――」
「ノーブル学園の近くに店、出せるかな」
「出せると思う…けど」
「はるはるとみなみんにさっきのミルフィーユ、食べさせてあげてよ」
「きらら」
「あたしがいなくなってすっごい寂しいらしいからさぁ。ちょっとはまぎれるんじゃないの?」
「…。
 それは保証するわ」
「よろしく」
 寂しいのは自分も同じだろうに、自分の事より、友達の方が先。
 同じなのだな。
 シエルは、自分を支えてくれる いちかたちのことを思った。
 隠し事も一つなくなり、シエルときららの間もさらに近くなった。駆け出し仲間であり、プリキュア仲間であり。
「ね、日持ちのするスイーツなら日本から――」
「あぁ、久しぶりにマーブルドーナツ食べたいなぁ。シエル、日本から送ってくれない?」
「絶対にいや」
 きららは、まぁまぁ、とシエルの肩をたたいて笑った。
「しばらくは、パリの No.2 のスイーツで我慢するよ」
「今頃おだてたって」
「どこが No.1 かなんて言ってないよ」
「…!」
 そのやりとりを見ていた あおいが肩をすくめた。
「どこで入ったらいいかわかんないよ、あのふたり」
「でも素敵だよね」
「いい関係だと思います」
 いちかの言葉に言葉にひまりが頷いた。
「こっちにも似た感じの人がいるけど」
「誰のことかしら」
 あきらが苦笑する。
「ね、写真撮ろう。
 ミルフィーユと一緒に、はるかちゃんたちに届けよう!」
 いちかがカメラを取り出した。
 きららが、写真は事務所通してほしいなぁ、と言ったが、もう誰も戸惑わない。気にしなくていい関係がまた一つ出来上がった。

126名無しさん:2017/11/03(金) 08:07:57
>>125
おー、早々と劇場版設定!
パリと言えばやっぱりこの人ですね。
翻弄されるいちかたちが、らしくてニヤけましたw

127名無しさん:2018/06/24(日) 21:43:01
今年はオールスターズ復活なのね!
55人声付きって凄いな。どうやってお話作るんだろう!
とにかく楽しみ。

128makiray:2018/09/22(土) 23:01:05
 毎年恒例――だけど半年も経っている!――春映画にキュアエコーを登場させるお話、「プリキュア スーパースターズ Ver.1.1」をお届けします。
 12 スレ、お借りします。

129makiray:2018/09/22(土) 23:04:05
Soliste Echo(01/12)
-------------------
「…」
 一瞬、口を尖らせかけた あゆみに、エンエンが首を傾げた。
「どうした」
 グレルがあゆみの勉強机から見上げながら言う。
「ほのかちゃんも出ない」
「なーにやってんだ、あいつら」
 腕を組んだグレルが小さな指をパタパタさせている。どこでそういうポーズを覚えたのだ、とあゆみは思った。
 春が近い。恒例の、プリキュア花見大会の計画も始まっているはずだ。学校の友人から穴場を教えてもらったので、そこを提案してみようと思って美墨なぎさに電話をかけてみたが通じない。最初にかけたときは夕方だったから、夜を待ってもう一度かけてみたが同じだった。そして、雪城ほのかも出ない。ラクロス部は練習が夜にかかることもあるかもしれないが、科学部はそんなことなさそうな気がする。九条ひかりは就寝が早い、と聞いたことがあるので、おそるおそるかけてみたが、やはり出なかった。
「みんな、忙しいのかな」
「お花見より大事な用事なんかないだろ!」
 エンエンの言うことが気になる。たまたま三人とも忙しかった…。学年末で、試験もあるだろうし――それはあゆみも同じだが――暇を持て余している、ということはないだろうが、それは電話に出る暇も、コールバックする余裕もない、というほどのものだろうか。
「あゆみ、どうすんだ」
「明日、もう一回、電話してみる。もうこんな時間だし」
「早く決めてもらわないと困るぞ。俺だって忙しいんだ」
「何に?」
 あゆみとエンエンの声が揃うと、グレルは悔しそうな顔でそっぽを向いた。あゆみとエンエンが顔を見合わせて笑う。
「明日まで待っててくれる?」
「しょうがねぇな。俺はもう寝るぞ」
「うん。おやすみなさい」

 あゆみはスマートホンを置いた。
「あゆみ…」
 さすがのグレルも大きな声を出さない。いや、出せない。エンエンは不安そうにあゆみを見上げている。
 翌日、学校から帰ったあゆみは、なぎさとほのかが相変わらず電話に出ないことを確認すると、日向 咲、夢原のぞみ、桃園ラブ、花咲つぼみ、とかける相手を変えていった。最後が朝日奈みらい。誰も出ない。さらに、出なかった人と生活のリズムが違う仲間――例えば、高校生の月影ゆり、小学生の調辺アコや円亜久里、仕事で学校に行っていない可能性のある剣崎真琴――にもかけたがやはり同じだった。
(どういうこと)
 最初のうちこそ、「あゆみに何かサプライズを用意していて、それで電話に出ないようにしているのではないか」などとからかっていたグレルとエンエンだが、あゆみがいくら相手を変えても一人も出ない、ということがわかると、笑いが消えて行った。
(何が考えられるだろう)
 いや、「大丈夫だ」と思える答えは出てこない。
「ケータイじゃなくてうちにかけてみたらどうだ」
「それは…よくないかもしれない、って気がする」
 想像の通りだとすれば家族はかなり心配しているだろう。そこに電話をすることはためらわれる。そして、もっと悪い想像として、家族も同じような目にあっていたり、ということはないか。
 ふたたびスマートホンを手に取るあゆみ。ここは、あとで「心配し過ぎ」と笑われるのを覚悟のうえで、全員に連絡を取ってみるべきだった。
 しかし。
 あゆみは、名前を書きだしたノートを見ていた。何度コールしても出ないのが数人、「電源が切られているか電波の届かないところに」となったのが大半。
 結論は出た。「プリキュアに何かあった」のだ。
「でも、そうだとしたら、どうして」
 なぜ、あゆみ、キュアエコーが無事なのか。
 それはわからない。単に順番の問題で、たまたま最後に一人残っているだけなのかも――
 あゆみの背中を悪寒が走った。
(私が、最後のプリキュア?)
 体がぶるっと震えた。
「あゆみちゃん」
「あゆみ!」
 グレルとエンエンが机から見上げている。その温かい視線にあゆみは我に返った。
(しっかりしなきゃ)
 あゆみは自分に言い聞かせた。電話が通じないだけだ、と。湧き上がってくる不安と恐怖を押しつぶすように胸の中で何度も繰り返した。
 だが、それは気休めのための努力でしかない。
 おそらく、このまま待っていれば、敵が姿を現すはずだ。それが何者なのかはわからないが、プリキュア全員を手にかけたのだとしたら目的があるはずで、黙っているはずがない。
 だが、それを待っているわけにもいかない。何かが起こっているのだ。じっとしているのは間違いだ。どうすればいい? たった一人で――
 あゆみの顔が上がる。グレルとエンエンはそれを追うように見上げた。
 まだ、連絡を取っていないところがある。あゆみは力を込めなおすように手を握って開いた。

130makiray:2018/09/23(日) 23:02:14
Soliste Echo(02/12)
-------------------
 スマートホンを手に取り、検索用の入力欄をタップする。思い出せ。名前はなんだった。まだ会ったことがないので、個人の番号は知らない。手がかりは店の名前だけだ。確か。
「あった、キラキラパティスリー」
 あゆみは通話ボタンを押した。
 呼び出し音が、一度、二度。
(出て。お願い)
 三、四。
(お願い、誰か!)
 五――
《お待たせしました、キラキラパティスリーです》
 女の子の声。
「いた」
《もしもし?》
「あの、私、坂上あゆみって言います」
《はじめまして。宇佐美と言います》
「宇佐美いちかさん?」
《は…はい、そうですけど》
「あの、宇佐美さんの名前は、みらいちゃんとリコちゃんから聞いて」
《みらいちゃんとリコちゃん…あぁ。はい、えっと、それで》
「私も、プリキュアなんです」
《…》
「あの、もしもし?」
《なんですとーっ?!》

 あゆみは駅を出ると走り出したが、坂の途中で足を止めた。
「すごい坂だね」
「これは…」
 トートバックの中のグレルも、この長い坂を見て、早く行け、とは言わなかった。
 あゆみは、いちかには異変の話をしていない。いちかが、みらいやリコから名前を聞いただけのプリキュアから電話がかかってきたことに興奮していたせいもあるし、翌日は出張販売の予定で忙しそうだったこともある。その出張販売の場所は横浜から行ける距離だったので、そこで会って話そうと考えた。花見のことは、いちかの方から、「はるかちゃんがそのうち連絡する、って言ったけど、どうなったかなぁ」と言ってきたので、ほかの誰かに聞いてみる、とかわした。
「上り切った…」
「あゆみちゃん、大丈夫?」
「うん。あとは下りだしね」
「どんなやつらなんだろうな」
「『やつら』とか言っちゃダメ」
 あゆみはトートバックの上からグレルをこづいた。
 この不安な状況にあっても、そこは楽しみである。
〈フーちゃんも楽しみ〉
 今はキュアデコルに姿を変えたフーちゃんも楽しそうな声で言った。
「着いた…けど」
 上りが長かったのだから、下りも相当に長い。その、下りきったところに広場があった。移動式の遊戯設備がいくつか並んでいる。どうやら何かのイベントをやっているらしい。奥に「キラキラパティスリー」の看板も見えた。
「賑わってるみたいだね」
「うん、いいにおい」
「あ、あゆみ!」
 グレルが突然、大きな声を出す。
「どうしたの?」
「太陽マンだ!」
「たい…え?」
 トートバックから身を乗り出して指さしている。キラキラパティスリーの建物とは反対の方向に小さなステージがあり、「太陽マン ヒーローショー」と書いてある。
「グレル、今はそれより」
「行ってみようか」
「でも、あゆみちゃん」
「今は、忙しくて難しい話を出来る感じじゃなさそう。それに、宇佐美いちかさんがいないみたい」
 長いツインテールだと聞いた。そろいの制服を着た女の子は五人いるが、それに当てはまる人がいない。
「わたしも一休みしたいし」
「だろ。だろ?!」
「いいけど、興奮してバッグから飛び出したりしないでね」
 あゆみは、笑顔を振りまいてスイーツを売っている立神あおいたちの横を通り過ぎて、ヒーローショーの会場に向かった。

131名無しさん:2018/09/24(月) 07:30:49
>>130
待ってました!
しかも他のプリキュアの描写も出て来るとは。続き楽しみにしてます!

132makiray:2018/09/24(月) 23:18:51
Soliste Echo(03/12)
-------------------
 異変が起こったのは、しばらく後である。
「なに?」
 立ち上がる あゆみ。
 空に巨大な扉が現れたかと思うと、そこから黒い巨人がこちらに乗り込んできた。手と足、それに顔らしいものがあるから「巨人」と言ってもいいだろうが、それを「人」というのはためらわれる。あゆみは直感した。プリキュアたちに何かが起こったとすれば、あれと関係がある。
「あゆみ!」
「うん!」
 一瞬、襟元のキュアデコルが熱を持った。
〈いやな感じがする〉
 フーちゃんも同じことを感じている。
 海に向かって走る。見たことのないプリキュアが戦っていた。
「あれが、いちかちゃんたち」
「すげぇぞ!」
 軽やかに飛び回り、色のきれいなリボンを打ち出しては巨人を翻弄し、拘束している。
 その姿が少しずつ大きく見えてくる。だが、護岸の向こうにプリキュアの姿が消えたかと思うと、巨人は扉の向こうに行ってしまった。
「どうしたんだろう」
〈プリキュアの光が消えた〉
 フーちゃんがつぶやく。あゆみは浜に降りる階段に飛びついた。そこに、ふたりの少女が上がってくる。
「ごめんなさい」
 赤ん坊を抱えた少女と、長いツインテールの少女が、ぶつかりそうになった謝罪もそこそこに走っていこうとする。
「待って!」
 うるさいな、と言いたげな険しい表情で振り返る少女たち。
「宇佐美いちかさん、じゃないですか?」
「…そうですけど」
「何があったんだ!」
 グレルがバッグから飛び出した。エンエンも続く。
「妖精…?!
 じゃ、あなたは、坂上あゆみちゃん!」
「どうしたんですか?
 プリキュアのみなさんは?」
「みんなは――
 みんなは…」
 いちかの視線が落ちる。野乃はなは、それを心配そうに見やったあと、あゆみに視線を戻した。
「ウソバーッカ…さっきの化け物に捕まってしまいました」
「捕まった…」
「いちかちゃんの仲間も、私の仲間も…」
「せや、えらいこっちゃ」
「ネズミがしゃべった!」
「俺はハリハム・ハリー様や!」
 赤ん坊のハグたんは、ふたりの曇った表情をよそに、グレルとエンエンに向かってハギュハギュと手を伸ばしていた。だが、今はそれに頬を緩める者はいない。
「つまり、二組のプリキュアが捕まってしまった、ということなんですね」
 いちかと はなが頷く。
「変身して助けに行こうよ」
 エンエンが言ったが、いちかと はなは弱々しく首を振った。
 ポケットから何かを取り出す。石ころに見えたそれは、どうやら変身アイテムのようだった。
「変身できないってことか」
 だまって頷くふたり。
「坂上さん、ほかのプリキュアの皆さんは」
 いちかがやっと声を出した。
「え、いちかちゃんたちのほかにもプリキュアがいるの?!」
 はなは驚いてそう叫んだが、この坂上あゆみという少女が最初に「プリキュア」という言葉を使っていたことを思い出した。
「それが…」
〈あゆみ…さっき、ウソバーッカがいなくなったらプリキュアの光も消えた〉
「だから、それは――え」
「プリキュアがみんなウソバーッカに捕まってる、ってことか!」

133makiray:2018/09/25(火) 21:05:51
Soliste Echo(04/12)
-------------------
「プリキュアがみんなウソバーッカに捕まってる、ってことか!」
 グレルが叫ぶ。
「ひょっとして、それを伝えに、わたしのところに」
 今度は、あゆみが頷いた。
 それきり彼女たちは黙った。ハグたんも、不安げに はなたちの顔を見ている。
「せや、それで、どこ行くつもりやったんや、いちかはん」
「そうだ。
 桜が原に行こうと思ってたの」
「桜が原…?」

 三人は苺坂に向かった。そこにある神社の境内。
 いちかはポーチから「スイーツ」のマークが描かれたカードを取り出した。
「桜が原は、この世界の町じゃないんだけど、サクラっていうコは、世界を渡っていく力を持ってるんだ」
 その後、そのカードを通じて何度かコンタクトを取ったことがあるという。
「スマホみたいに使えるの?」
「っていうか、このカードを持って、サクラとお話ししたい、って思うと――」
 いちかはそのカードを強く握って目を閉じた。
 時が移る。いちかの眉間が険しくなり、汗が流れ、やがて歯を食いしばったが、やがて、はぁっと息を吐き出した。
「だめだ、サクラの声が聞こえない」
「いつもはすぐに聞こえるの?」
「そういうわけじゃないけど…今は、なんか、届いてる、って感じがしないんだ。呼び出し音も鳴ってない、っていうか」
「ちょっといいですか」
 あゆみは、いちかのカードに手を重ねた。
「…」
 確かに。なにかとつながる力を持っているもののような感じがする。言えば、キュアエコーの光の力と共通点がある、ような気がした。
「そのサクラっていうコに手伝ってもらう、っていうことですね?」
「うん。
 ウソバーッカは、マホウ界に行く、って言ってた。でも、私たちはみらいちゃんやリコちゃんと一緒でないとカタツムリニアは乗れないから」
「わかりました」
「なにが…わかったんですか?」
 はなとハグたんが一緒に首をかしげる。それを可愛いと感じている余裕は今はない。
「フーちゃん、グレル、エンエン。
 お願い」
〈うん〉
「よしきた!」
「思いを届けるプリキュアの登場だね」
 あゆみは、グレル、エンエンと手をつないだ。
 胸元のキュアデコルが瞬き、三人のトライアングルが光を帯びる。
「思いよ届け、キュアエコー」
「…」
「キュアエコー…」
「すごい!」
「きれい!」
「かわいい!!」
 いちかと はなはもちろん、ハグたんも、小さな体のままのハリーも飛び跳ねて喜んでいる。
「うけてるな…」
 グレルがつぶやいた。かすかにほほを染めるキュアエコー。
「あの…カードを貸してください」
「よろしくおねがいします!!」
 お辞儀をするようにカードを差し出すいちか。はなも覗き込む。
 カードの縁が光っていた。キュアエコーがゆっくりと息を吐く。
 はなはそれを、何か困っているのだ、と思ったらしい。突然、大きな声を出した。
「フレ、フレ、あゆみちゃん!
 フレ、フレ、エコー!」
「あの…」
 キュアエコーが苦笑気味に言う。
「ちょっと集中したいので…」
 ハリーがはなの足をコンと叩く。はなは体を小さくして恐縮した。

134makiray:2018/09/26(水) 21:37:59
Soliste Echo(05/12)
-------------------
 キュアエコーが手のひらを上に向けると、カードは浮き上がり、零れ落ちた光の粒が、キュアエコーの周りを舞った。やがて光の粒が空に吸い込まれていく。
「サクラさん…聞こえますか?」
〈誰?〉
「サクラの声だ!」
〈誰なんですか?!〉
 キュアエコーの目がかすかに動く。
「私は坂上あゆみ、キュアエコーです」
〈プリキュアなの?! いちかのお友達?〉
「サクラ、私だよ。いちかだよ!」
 やはり、サクラには、今のいちかの声が聞こえていないようだ。
 キュアエコーはいちかに向かって手を伸ばした。わけがわからないまま、いちかはその手を握った。
「えっと…」
〈いちか!〉
 サクラの声が明るさを取り戻した。
「どういうこと…?」
 はながキュアエコーの顔を覗き込む。
「思いを届ける、それがキュアエコーの光の力なんだよ」
 かわりにエンエンが答えた。
「だから、いちかちゃんはサクラってコとお話ができるようになったの?」
「そういうこと」
 なぜかグレルがキュアエコーの代わりに威張っている。
 その間にいちかはサクラへ事情を説明していた。
〈でも、あたし、そっちに行けないんだ〉
「どういうこと?」
〈ずっと試してたの。でも、この扉が開かない〉
〈うちも手伝ぅとるんやけど、びくともせんの〉
「シズク」
 いちかは知っているようだったが、キュアエコーも はなもそれが誰だかはわからない。ひとまずは、サクラの仲間だろう、と理解した。
〈あ、扉が少し軽なったような気もする〉
「ひょっとしたら、キュアエコーの力のおかげかな」
 それはありうる。声だけとはいえ、こちらの世界と桜が原との間がつながったせいかもしれない。
「ちょっといいですか」
 キュアエコーはいちかの手を放すと、自分の両手を結んだ。それをカードの下に向けて伸ばし、すうっと息を吐いて手を開いた。
〈扉が動くよ!〉
 できる。
「いちかさん、はなさん。
 たぶん、桜が原への扉を開くことができると思います」
「キュアエコーの力で?」
「いえ、正確には、私とサクラさんの間の――」
「ありがとう!!」
 いちかとはなが感謝に満ちた顔を寄せてくる。キュアエコーはまたほほを染めてのけぞった。
「あの、ちょっと離れてもらえますか?」
「はは、ごめんなさい」
 ふたりが下がる。キュアエコーは、手で、もう少し、と示した。
 2m ほどの距離になると、キュアエコーは正面にあったカードを下から跳ね上げた。カードは光の粒を残して、宙に舞い上がった。
「プリキュア ハートフル・エコー!」
 キュアエコーの指から発せられた光が、カードに吸い込まれていく。ふっと光の脈動が収まると、まるでケーキにナイフを入れたように、目の前の空間が割れた。
「サクラ!」
「いちか!」
 割れた空間は扉になり、中からかわいらしいピンク色のドレスを着た少女が飛び出してきた。おっとっと、とバランスを崩しそうになり、いちかに抱きとめられる。向こうで体ごと扉に力を込めていたのだろう。
 キュアエコーは、よかった、と息をついた。
「サクラ、すぐで悪いけど、私たちをマホウ界に連れて行って」
「うん!」
 サクラに続いて、いちか、はな、ハリーが扉の向こうに飛び込んだ。
「エコー、あなたも来て」
「いえ、私は残ります」

135makiray:2018/09/27(木) 22:45:10
Soliste Echo(06/12)
-------------------
「私は残ります」
「どうして?
 みんなを助けるの手伝ってほしいんだ」
 キュアエコーは首を振った。
 グレルとエンエンも、どうした、と不思議そうに見上げている。
「残ります。
 この世界にプリキュアはいないから」
「!」
 そうだった。
 プリキュアアラモードの五人も、HUG っとプリキュアのふたりも、そして先輩たちも皆、ウソバーッカの中に捕らわれている。みらいたちはまだ無事かもしれないが、それはマホウ界のこと。この世界、ナシマホウ界にいるプリキュアはたった一人、キュアエコーだけ。
 昨夜の心配は現実になったのである。
「エコー…」
「心配するな。俺たちにドンと任せておけ!」
「大丈夫だよ」
 グレルが胸をたたき、エンエンが微笑む。ポシェットから漏れた光は、フーちゃんも同じ気持ちだということだ。
「あんた…」
 顔を上げる。扉の向こうに、きれいな青のキツネがいた。
「あなたは…」
「わたしの名前はシズク。サクラの友達。
 あんたに、カードを一枚、預けましょ」
 キュアエコーの前にカードが浮かび上がった。さっき、いちかが持っていたのと同じもの。ただし、中央のマークは「扉」だった。
「あんたにはなんや、うちらと近いものを感じる。きっと、このカードが役に立つ思う」
 それがどういう意味かはわからない。だが、これからの一人きりの戦いの役に立つのであれば、それが何であっても欲しい、というのが偽らざるところだった。キュアエコーはカードを手に取った。
「すぐに戻ってくる」
 いちかが表情を引き締めて言った。
「うん」
「ありがとう、キュアエコー」
 走り出すいちかたち。その背中を隠すように扉が閉まる。切れ目はすぐに消え、あたりはなんの変哲もない神社に戻った。
「さて、俺たちの力の見せ所だぞ」
 無言でうなづくキュアエコー。
 いちかたちの言うとおりであれば、ウソバーッカはマホウ界だ。だが、いつ戻ってくるかわからない。それは、マホウ界で苦しめられてこちらに戻ってくるのかもしれないし、それはそれとしてこのナシマホウ界で悪事を働くのかもしれない。あるいは、狙い通りにみらいたちをも捕らえ、最後のプリキュアを始末しにやってくるのかもしれない。
〈あゆみ…〉
 フーちゃんが小さな声を上げた。キュアエコーは手を必要以上に固く握っていた。
 不安? ある。あるに決まっている。
 だが、この世界にプリキュアは一人しかいないのだ。であれば、道も一つしかなかった。

 マホウ界では、リコとことはがウソバーッカの中に飛び込んだ。魔法で中からみなを脱出させることができるだろう、と考えたからだったが、そうはならず苦戦していた。
 はな、いちか、みらいの三人は辛うじて脱出に成功した。そこで、あのウソバーッカが、かつて はなが不思議な空間で出会ったクローバーという少年に「闇の鬼火」がとりついたものであることがわかる。はなは、クローバーを傷つけたことを謝り、闇の鬼火につけいらせないようにするため、六角塔の「時の扉」を目指す。
 六角塔は見つかり、闇の鬼火にクローバーを利用させないようにすることはできた。だが、闇の鬼火は、中にプリキュアたちを抱え込んだまま巨大化してしまう。
 はな、いちか、みらいは走った。まだアスパワワもキラキラルも魔法の力も戻ってこない。ハグたんを抱え、クローバーと一緒に走るしかなかった。
 だが、巨大化した闇の鬼火は今にも追いつきそうだ。
 もう足も心臓も限界だ。だが、止まるわけにはいかない。足をもつれさせただけでも捕まってしまうかもしれない。そう、頭に思い浮かべてしまったのがよくなかったのか、はながつまづいた。
「はなちゃん!」
 みらいが戻ろうとする。
「立って!」
 いちかが悲鳴を上げた。
 ウソバーッカの大きな手が上から覆いかぶさってくる。はなは、はぐたんを腕の中に抱え込んだ。
「!
 …」
 ショックが来ない。はなは恐る恐る顔を上げた。
 はぐたんを抱えたはなの体をかばっているのは。
「エコー。
 エコー!」
 ハートフル・エコーの光に怯えたウソバーッカは、熱いものにふれてしまった子供のように手を引っ込めていた。

136makiray:2018/09/28(金) 22:02:16
Soliste Echo(07/12)
-------------------
「ありがとう!」
 キュアエコーは答えなかった。肩を大きく上下させて、荒い息をしている。
 遅れてきたグレルとエンエンはその場へ大の字になって倒れこんだ。
「大丈夫?!」
 いちかとみらいが走ってくる。キュアエコーはその場に崩れ落ちた。
「エコー!」
「――夫です」
 それも声になっていない。
「遅くなってごめん」
 みらいがその手を取った。エコーは、かぶりを振った。
 ウソバーッカは、マホウ界でみらいたちを取り逃がした後、何度かナシマホウ界に侵入しようとした。キュアエコーにできることは、そのたびに扉を閉じるくらいだったが、「思いを届ける」プリキュアであるキュアエコーの力を逆に作用させることでしのいできた。つまり、この世界に入り込みたい、というウソバーッカの「思い」を妨害する、という方法だったが、それにはシズクがくれたくれた「扉」のカードが手助けとなった。
 だが、それにも限度はある。五度目でついに突破され、侵入を許してしまった。それを追ってきたが、被害にあった人々を見なかったことにもできず、それを全部やろうとしたキュアエコーは文字通り、疲労困憊であった。まだ光の技を使うことはできるが、声を出す気力は残っていなかった。
 震える足で立ち上がる。グレルとエンエンもお互いに助け合いながら立った。
「エコー…」
 キュアエコーの胸の宝石はもう光を失いかけている。立っているのがやっとのはずだった。
 クローバーと目が合う。彼は、その緑色の瞳でキュアエコーを見つめた。
 今、彼が何者なのかをエコーに、あるいは、クローバーにキュアエコーについて説明できる余裕がある者はいない。だが、クローバーは今の様子から、キュアエコーが はなの友人であり、ウソバーッカと戦って弱っているのだ、ということを理解した。
「あの…」
 クローバーは両手を差し伸べた。握手だろうか、とキュアエコーも手を伸ばした。
「…。
 あ」
 クローバーの手から淡い緑色の光がにじみ出した。それは暖かく力強い。疲れきったキュアエコーの体にしみていく。しかし。
「待って!」
 キュアエコーはその手を振り払った。詳しいことはわからないながら、クローバーが何かキュアエコーのためにしてくれているのだ、ということを察していた はなたちも驚いた。
「どうしたの、エコー」
「その力は、ひょっとして、あなたの…」
 クローバーの、いくらか傷ついたような表情が緩んだ。わかったのか、という顔だった。
「それは」
「いいんです」
 クローバーは振り向いた。その足元に円陣が現れたかと思うと、クローバーは光になった。
「何をするつもりなの?!」
 緑色の光は「芽」を出した。それはあっという間に双葉から本葉へと成長し、キュアエコーや はなたちの足元から茎を伸ばし、朝顔の蔓のように巻き付いてくる。
 不快感はなかった。むしろ、その暖かさが安心をくれる。強張った体が緩み、しおれた心がほぐれていく。
 一方、鬼火には逆の効果があるようだった。身もだえて苦しんでいる。
 それだけではない。
(あれは…)
 鬼火が腹部を押さえている。その指の間から緑色の光が漏れている。クローバーの光だ。それが突然、はじける。
「出れた!」
 ずっと上の方、緑の光がはじけたあたりから声が聞こえた。
「リコ! はーちゃん!」
「あおちゃん! ひまりん! ゆかりさん! あきらさん! シエル!」
「さあや! ほまれ!」
「プリキュアが…」
 脱出してきたのだ。
 同じようにクローバーの光で力を得て、そうして得た力を合わせて。
 再会の喜びもそこそこに全員が一斉に変身した。あたりが昼の光で埋まる。
 これで――
「エコー、おかしいぞ」
(いない)
 飛び出してきたのは9人。はなや いちか、みらいの仲間たちだけだ。
 どういうことだ。プリキュアは全員、捕まっているのだと思ったのだが。

137makiray:2018/09/29(土) 22:00:40
Soliste Echo(08/12)
-------------------
「マジカル!」
 キュアエコーは駆け出した。自分の体が軽くなっていることに気づく余裕はなかった。
「エコー!
 エコーも一緒だったんですね。ありがとうございま――」
「ウソバーッカの中で、ほかのプリキュアを見なかった?」
 キュアエコーは、彼女には珍しく、キュアマジカルの言葉を遮るように言った。
「ほかの…」
「ブラックやホワイトがいた筈なの」
「見てません…」
 キュアマジカルの肩からキュアエコーの手が落ちる。
(思い違い…?)
 その可能性はあるだろうか。
 キュアエコーは顔を上げた。まだ腹を押さえている鬼火をにらみつけるように。
(誰か。
 私の声が聞こえますか?!)
 キュアエコーの思いが飛ぶ。
(…誰…?)
 それは弱い。だが、戻ってきた声に全員が顔を上げた。
「今の声…」
「まだ、誰かが捕まってるの?」
「でも、みんないるよね…」
 キュアエールやキュアホイップたちがお互いの顔を見る。
「まさか、フローラたちがこの中にいるっていうこと?」
 キュアミラクルが叫んだ。頷くキュアエコー。
 花見の計画があったことを知っているキュアホイップたちは、「全員と連絡が取れない」ということを聞いて、さすがに偶然とは考えられない、と思った。
「それに」
 キュアエコーは視線をさらに上げた。プリキュアたちが変身したときの光はもう消え、ウソバーッカの大きな体の背後も、自分たちの後ろも、空全体が闇に閉ざされている。多くの人がその下で怯えているはずだ。
「この状態で、ブラックやホワイト、ハッピーやサニー…40人もいるプリキュアが一人も活動していないなんて。
 ありえない」
 以前のキュアエコー、あるいは坂上あゆみを知るものなら、その断言口調に驚いたかもしれない。
 そして、再会と、もう解決も同然と喜んでいるキュアエールたちとは正反対の、頬が強張り、緊張をたたえたその目に。
「エコー…」
 キュアホイップが小さな声で言った。
 そうか、まだ一人なんだ。
 キュアエコーは気づいた。
 事態が好転してなどいないこと。そして、弱っているように見えるウソバーッカだが、まだプリキュアを内部にとらえていられるだけの力は持っていることに気づいていたのは、キュアエコー一人だった。
(まだだ)
「グレル、エンエン、行くよ」
「うん」
「おぉっ!」
「エコー、どうするの?」
 キュアエコーが振り向く。
「みんなを助けに行きます」
「ウソバーッカの中に?」
「無茶だよ。
 あの中は!」
「みなさんが出られたんですから、大丈夫です」
「だけど」
 それに、限界が近い。クローバーの光で一時的に力は戻ったが、そう長くは持たないような気がする。今のうちに、みんなを助け出さなければ。そして、キュアミラクルたちにバトンタッチするのだ。
 キュアエコーは、シズクからもらった「扉」のカードを取り出した。何度も使ったせいで縁が欠けている。
 このカードを使えるのは、「思いを届けるプリキュア」、キュアエコーだけだ。役目を果たさなければ。
 キュアエコーはそのカードをウソバーッカに向けて投げた。闇の中を白い線が伸びていく。
 カードから溺れ落ちた光は小川のせせらぎのように揺れた。地面を蹴るキュアエコー。
「エコー!」
「こちらはお願いします!」
 信じていないのではない。任せていく。シズクがあのカードを預けてくれたように。
「みなさん、もうすぐ行きます!」

138makiray:2018/09/30(日) 23:13:57
Soliste Echo(09/12)
-------------------
「咲…」
「うん…」
「咲、しっかりして!」
 咲は球体の中に座り込んで頷くだけだった。舞が、自分が閉じ込められている球体をたたく。だが、相変わらずそこから出ることはできない。ふたりとも、膝まで石になってしまっている。舞は自分の勢いでバランスを崩し、やはり球体の中に座り込んだ。
「まずいわね…」
 水無月かれんが辺りを見回す。鬼火の体内はサイケデリックな配色のまま。その中に閉じ込められている彼女たちも、ほとんどが膝まで石になっている。そこから先、腿がどうか、あるいは腕はどうなのか、というのは人によって違うようだった。
 次に座り込んだのはラブだった。蒼野美希が球体越しに名前を呼んだが、ラブは手を上げて返事をしただけだった。
 ひかりが深い息をつく。自分を落ち着かせるため、そして、実際に苦しい。
 ゆりと菱川六花が視線を交わす。
 この疲労感はしばらく前から強くなっている。外で何が起こっているのかはわからないが、はっきりと「力が抜けていく」という感触があった。
 プリキュアの力が吸収されている。そしておそらく、その力は鬼火の力となっている。
「そんな。これは、闇の力なんでしょう?!」
「確かに。ウソバーッカにとってはプリキュアの光の力はマイナスでしょうね。でも、そのマイナスをプラスに転じることができれば」
 40 人ものプリキュアの力を手にすることができる。
「だって」
「私、ウソバーッカの形が気になってる」
 ゆりが言った。
「形?」
「ルビンの壺にそっくり」
「壺…?」
 ウソバーッカの体そのものに目を向ければそれは壺だ。だが、そのアウトラインに目を向ければ、それは向かい合った人間の顔となる。
「ウソバーッカは二面性を体現しているんじゃないかしら。
 光と影。
 プラスとマイナス。
 嘘と真実」
「早く出ないと」
 真琴が力のない声で行った。
 手がかりのない球体に手を押し付け、なぎさがやっとの思いで立ち上がる。
「プリキュアの力が、悪いことに使われるなんて冗談じゃない」
「なぎさ…」
「でも、どうすんの」
「全員、一度に脱出するのが理想ですが」
 青木れいかが言った。賛同は得られたものの、その方法がない。
「出る元気がある人だけでも」
「みんなを残していくなんて」
「だけど」
「来る」
 星空みゆきが言った。
「なんて」
「キュアエコーは絶対に来てくれるよ」
 坂上あゆみがいないのにはみな気付いていた。
「あゆみちゃんは、絶対にこの異変に気が付く」
「そして、気付いたら、黙っているはずがありません」
 最初に出会った「スマイルプリキュア」の全員が断言した。
「悔しいけど、エコーが来てくれるのを待つしかないんだね」
 北条響は顔色の悪い南野奏を心配そうに見ながら、早いといいけど、とつぶやいた。
「来ましたわ」
「え?」
「私にはわかります。あゆみちゃんのあふれるような愛が――」
「亜久里ちゃん!」
 アコの声が一条の光でかき消される。気を失いかけた亜久里もそのまぶしさに目を開けた。
「エコー!」
 気味の悪い色がうねる中、真っ白い光を渡ってくるのはキュアエコーだった。
「みなさん、ご無事ですか?!」

139makiray:2018/10/01(月) 20:57:03
Soliste Echo(10/12)
-------------------
「ありがとう!!」
 球体がキュアエコーの周りに集まってくる。キュアエコーはそれに押しつぶされそうになった。
「あの、ちょ、ちょっと待ってください」
「あ」
「みなさん、お揃いですよね」
「点呼!」
 来海えりかが号令をかけると、それぞれのグループ毎に確認が始まる。全員いるようだった。
「では、早速――」
「その前に外の状況を教えて」
 ゆりが言う。
「え、はい。あの」
 さっきまで捕まっていたメンバーも含め、三組のプリキュアが変身していること、ウソバーッカだったものはクローバーと分離して今は「闇の鬼火」単体であることを伝える。
「野乃はな…誰か知ってる?」
 手が上がらない。
「また新しいプリキュアが生まれたってことだね」
 知らない名前。だが、それは朗報だ。みな、勇気づけられたように頷く。
「では――」
「どうするつもりなのですか?」
 れいかが尋ねる。
「えと、外からここまでのルートはああいう風に見えているので」
 キュアエコーが指さす。キュアエコーはシズクからもらったカードに導かれてこの奥に来たが、その痕跡が光の粒の流れとして残っていた。
「私の力で皆さんをそちらの方向に押し出します」
「エコーの力だけで?」
「大丈夫かな」
「それは…」
「いいんじゃないかな。あたしたちの力はまだ残ってるだろうし。力を合わせれば」
「はい。
 それでは」
「あのさ――」
「お前ら、エコーの話を聞けーっ!」
 ついにグレルが怒鳴った。一瞬、皆が口をつぐんだが、雰囲気は緩んだ。
「ごめんごめん」
 なぎさがごまかすように笑う。
 ほのかはキュアエコーの胸元のエンブレムが光を失いかけていることに気づいていた。
 当然だ。「プリンセスプリキュア」までのプリキュアはここにいるのだし、「魔法使いプリキュア」よりも後輩たちはその手前に捕らわれていたことがわかった。みらいたちは外にいたが変身できない状態、つまり、ウソバーッカの外にいたのはキュアエコーだけだったのだ。
 それは奥に捕らわれていた彼女たちの希望ではあったが、その結果が、この真っ白いドレスに傷をつけリボンの色もくすんだ、今のキュアエコーだった。助けてもらう必要はあるが、一刻も早く、キュアエコーを解放しなければ。
「お願い」
「はい」
 キュアエコーが、今度は真剣な顔で頷いた。
 球体は自然にキュアエコーの周りに集まった。
 キュアエコーは「扉」のカードを見た。終わったらシズクに返すつもりだったが、最後まで原形をとどめていてくれるかどうか不安になる。
「グレル」
「おう」
「エンエン」
「うん」
「フーちゃん」
〈うん〉
 キュアエコーはカードを投げた。自分が来たルートを反対になぞる。
「プリキュア」
 全員の呼吸が一つになる。
「ハートフル・エコー!」

140makiray:2018/10/02(火) 21:36:13
Soliste Echo(11/12)
-------------------
 キュアエコーが手を高々と掲げる。その指先から伸びる光は、上空からシャワーのように降り注ぎ、やがて光の川となって、プリキュアたちを閉じ込めた球体を運んで行く。全員の球体が動き出したのを確認するとキュアエコーもその後に続いた。何人かが球体の中で振り向く。キュアエコーは頷き返した。
 みんなを闇の鬼火の中から助け出すことが私の役目だから。
 ハートフル・エコーの光と、プリキュアたちの中の光は呼応しているようだった。球体はどんどん加速していく。
(早く)
(急がないと)
(助けるんだ)
(新しい仲間のプリキュアを)
(まだ会ったことのない友達を)
(みんなを助けるんだ)
(みんなを!)
(みんなを!!)
「行くよっ!」
 出口が見えた。
 40個の球体はその勢いのまま、鬼火の体から飛び出した。その瞬間に球体も割れる。
「出た!!」
 着地。
「みんな、変身できる?!」
 なぎさが叫ぶ。
 彼女たちはいっせいに自分たちの変身用アクセサリを確認したが、まだ石のままだった。
「だめか」
「すいませ――」
 言いかけたキュアエコーの足から力が抜ける。
「エコー」
 わずかな光が飛び散り、キュアエコーは坂上あゆみの姿に戻ってしまった。
「あゆみちゃん!」
「大…丈夫…です」
 限界だった。フーちゃんのキュアデコルも輝きを失っている。
「グレル! エンエン!」
 ふたりとも みゆきの手の中でぐったりしている。
「みんな、お願い!!」
 たまらず はるかが叫んだ。
 キュアミラクル、キュアマジカル、キュアフェリーチェが頷き返す。
 魔法使いプリキュア、プリキュアアラモード、HUGっとプリキュアが円を形作る。
「プリキュア スーパースターズ!!」
 鬼火が浄化されていく。
 それがわかったのか、あゆみの体から緊張が抜けて行った。その手の間から、扉のカードが零れ落ちたが、すでに模様の判別も難しくなっていたそれは、淡い光を放ったと思うと風に消えて行った。

 はなの提案で、そのままハグたんのお花畑デビューに参加することになった。色とりどりの花が咲き誇り、視界のすべてがまぶしかった。
「あゆみちゃん」
 いちかがかけよってきた。
「ありがとう」
「え?」
「私たちが変身できない間、世界を守ってくれて」
「いえ、そんな」
 ふたりの足元ではハリィがグレルを肘で突いていた、
「お前、なかなかやるやないかい」
「ふふん。あったりまえだ」
 グレルが胸を張る。エンエンが苦笑した。

「あゆみちゃん」
 振り向くとリコの顔はそこになかった。彼女と みらいは深々と頭を下げていた。
「どうしたの?」
「お礼と…あと、ごめんなさい」
「え、なにが?」
「あゆみちゃんは、先輩たちを探してたのに、私、何の役にも立てなくて」
「そんな!」

141makiray:2018/10/02(火) 21:38:10
Soliste Echo(12/12)
-------------------
「お前が気にすることないだろう」
 足元からグレルが言う。リコは、横柄な口調と裏腹に小さな体を目をパチクリさせて見ていた。
「僕たちはみんなを探してたんだから、リコちゃんたちが無事なら、何も悪いことなんかないんだよ」
 エンエンが微笑んだ。
「そうだよ。
 それより、私、ちょっと言い方がきつかったかも。ごめんなさい」
「そんな!」
 さっきのあゆみと同じことを叫ぶリコとみらい。
「それに、ウソバーッカの中はとても苦しかったんでしょ? 私はずっとこっちだったから楽だったかも―――」
 勢いをなして反論しようとしたふたりに、のぞみの声がかぶさった。
「ほんっとうに、あの中、つらかったよね。体が重くなってさー!」
「ダイエットさぼってるからじゃないの?」
 夏木りんが憎まれ口をたたく。
「ウソバーッカのせいだもん!」
「体はつらかったけど、気持ちはそうでもなかったな」
「そうなんですか?」
 ゆりの言葉に、みなが振り向いた。何人か、既に先回りをして頷いている。
「希望があったから」
「希望」
「そう。
 あゆみが必ず助けに来てくれる、って」
「私――」
「ウソバーッカは、プリキュアを『一組ずつ』始末すると言って、それを実行に移した。
 だとすれば、どのグループに属しているわけでもないキュアエコーはその網から漏れる」
 あゆみは言葉がないようだった。
「あゆみさんが仲間外れだって言ってるんじゃないのよ」
 秋元こまちが助け舟を出すように言う。
 そして、愛乃めぐみの明るい声が続いた。
「あゆみちゃんは、みんなのプリキュアだからね!」
 みなが頷いた。
「え…」
「あたしとひめが喧嘩したら仲裁してくれるし、いおなと ひめがもめてたら取り持ってくれるし」
「あんたんとこ、けんかばっかりかいな」
「しかも、あたしばっかり!」
 大森ゆうこが、まぁまぁ、と 白雪ひめをなだめる。
「みんなの、なんて、そんな」
 あゆみの頬が染まった。グレルがニヤニヤと笑っている。エンエンもうれしそうだ。襟のエコーデコルが瞬いているのは、フーちゃんが喜んでいるからだろう。
「坂上さん、わたしたちのこともよろしくお願いしますね」
 さあやと ほまれが手を伸ばす。あゆみは、おずおずと二人と握手をした。
「私とも、お友達になって!」
 はなとも握手を交わすと、もっと小さな手が伸びてきた。
「はぐたんも、あゆみちゃんとお友達になりたいって」
 あゆみは、今度は、おそるおそるという様子ではぐたんの手を握った。その小さな手は、想像よりも強い力で握り返してきた。
「はぎゅ、はぎゅー」
「ふふふ」
 ふーちゃんも同じように笑う。はぐたんの目があゆみの襟元で揺れるキュアデコルを追っていた。
「よっしゃ、はぐたんのお花畑デビュー、続けよか!」
 ハリーが突然、人間の姿になって言う。あゆみが怯えて三歩下がった。
「あの、どちらさまですか?!」
「え、言うてなかったか。俺や、俺――」
「お前、ネズミじゃなかったのか!」
 グレルが叫ぶ。
「お、れ、は、ハリハム・ハリー様やぁっ!」
 なんぼ言うたらわかんねーん、という悲鳴が花畑に響き渡ったが、それは少女たちの笑い声にかき消されていった。

142makiray:2018/10/02(火) 21:40:41
 以上です。長々と失礼しました。

143名無しさん:2018/10/03(水) 06:53:37
>>142
面白かった! キュアエコー愛がびんびん伝わるお話でした。あゆみちゃん、成長したなぁ! 歴代キャラの登場も嬉しかった。ハピプリメンバーの掛け合いに、ニヤニヤでしたw

144名無しさん:2018/10/07(日) 06:16:18
>>142
始まり方が完璧! 12話とあったので長いかと思ったけどそんなことなかった。引き込まれて一気に読みました!!
キャラクターも全員魅力的でした。「あんたんとこ、ケンカばっかりかいな」とか、えりかの「点呼!」とか映像が目に浮かびますw
欲を言えばもっと戦闘シーンの描写を見たかったんですけど、読みやすい長さを考えられたのでしょうね。
映画もう一度見たくなったのでレンタルして来ます! めちゃ楽しい作品をありがとう!

145makiray:2018/12/19(水) 22:00:32
 毎年恒例…いや、秋映画がオールスターズなのは今回が初めてか。
 で、オールスターズと聞いたら黙っていられず、それにキュアエコーを登場させるお話、「オールスターズメモリーズ Ver.1.1 〜origin〜」をお届けします。
 7スレ、お借りします。

146makiray:2018/12/19(水) 22:02:52
origin (1/7)
------------

「!」
「戻れた」
 ミデンに記憶を奪われ、子どもになってしまっていたプリキュアたちだが、はぐたんとメモリーズライトの力で元に戻ることができた。
「なんでキュアエールだけいないの?!」
 キュアエールはミデンの心の中にとどまっていた。ミデンを独りぼっちにできなかったのだ。
「エールらしい」
 キュアエトワールが笑うと雰囲気が緩んだ。
「あれ…」
 キュアマジカルが辺りを見回した。
「どうしたの?」
「エコーは?」
 プリキュア全員が同じように自分たちの顔を見る。確かに、キュアエコーがいなかった。
「そもそも、中にいたっけ?」
 キュアハッピーが首をひねる。やはり同じように誰もが首をひねった。記憶を奪われて子どもになっていた時のことを覚えていないのだ。
「最初からいなかった可能性の方が高いんじゃないかしら。ウソバーッカのときもそうだったわ」
 キュアアクアが言った。
 春の戦いで、ウソバーッカはプリキュアたちをチーム単位で狙ったため、キュアエコーが網から漏れた。そのことが逆転する上で意味を持ったのだが、今回も同じではないだろうか。
「だといいんですけど…」
 キュアマジカルはまだ心配そうである。
「ミデンがあのときのことを知っているとは思えないし、そうだとすればエコーを特別扱いして別のところに閉じ込めたりする理由もないと思うわ」
 キュアミントの指摘はもっともだった。
「エールのところに向かいましょう。ほかのプリキュアが囚われていないか注意しながら」
 キュアムーンライトの提案に皆が頷く。

 キュアエールの言葉はミデンに届いた。
「ありがとう…」
 ミデンの体が光の粒になって天に昇っていく。
「…」
 キュアダイヤモンドが眉をひそめた。光の粒の下に何かが見える。
「…。
 そうか!」
 キュアホワイトが叫んだ。その声に何人かの視線が動いたが、多くのプリキュアは動けないでいた。
 知っている。見たことがある。一度や二度ではない。
 やがて光は消え、ミデンの姿はなくなった。そこに現れる、栗色のツインテールの少女の姿。
「あゆみちゃん!」
 キュアマジカルが飛び出す。体を起こしていいのかどうかわからず、手を泳がせていた。あゆみは、何かを握りしめている。
「ホワイト、どういうこと?」
「…」
「さっき、『そうか』って言ったよね」
 キュアホワイトは黙っている。
「ホワイト!」
「…。
 まず、地上に戻りましょう」

147makiray:2018/12/20(木) 22:19:06
origin (2/7)
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「ほのか、話して」
 野乃はなたちがピクニックをしていた原っぱに戻る。あゆみはレジャーシートの上に体を横たえていたがまだ目覚めなかった。
「ほのか」
 美墨なぎさに問い詰められる形で雪城ほのかは口を開いた。
「たぶん、ミデンに最初に捕まったのがあゆみさんなんだと思う」
「あゆみちゃんが?」
「わたしたちがミデンに襲われたの、横浜だったでしょう」
「あ」
「でも、あゆみちゃんはミデンの中から出てきたように見えたよ」
 日向咲が言う。
「行動を起こすには実体が必要だった、ということじゃないかしら。だから最初だけは、記憶を奪うだけじゃなくて、体ごと乗っ取ったんだと思う」
 彼女たちが、あゆみ、またはキュアエコーが中にいなかった、と断言できないのはそのせいだった。ミデンがプリキュアの力を使うとき、その体はそれぞれの色に染まったが、その時、彼女たちはあゆみと「一心同体」になっていたのである。その感触のせいで、「いなかった」と言い切れないでいたのだ。
「ミデンが白かったのは…」
 頷くほのか。あれは、キュアエコーの白だったのだ。
「あゆみちゃん!」
 リコが叫んだ。あゆみが目を開いた。
「え、リコちゃん…どうして、ここに」
「大丈夫? 怪我はない?」
「え…!」
 あゆみは突然、ジャージの襟に手をやった。
「え…え?」
 何かを探している。リコがキュアデコルを差し出す。
「探しているのはこれ?」
「フーちゃん!」
 あゆみはそれを両手で受け取った。
「フーちゃん…」
〈あゆみ…フーちゃんは大丈夫〉
「よかった」
 あゆみの目じりがにじむ。
〈あゆみ…ごめん〉
「フーちゃんは悪くない」
〈ごめんなさい。
 フーちゃんは、ちょっと疲れた。休んでもいいか?〉
「うん…」
 あゆみはキュアデコルを胸に抱くと、聞こえるか聞こえないか、という声で「ごめんね」と言った。
 みなは顔を見合わせていたが、剣城あきらが膝をついた。
「あゆみちゃん…何があったのか教えてくれるかな」

148名無しさん:2018/12/20(木) 22:26:25
秋映画でもmakirayさんのキュアエコーSSが読めるとは!
続き楽しみにしてます。

149makiray:2018/12/21(金) 22:24:38
origin (3/7)
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「あ、軍手忘れた」
 あゆみは、友人たちに「先に戻ってて」と声をかけると校舎の裏手に戻った。後ろで「軍手くらいいいじゃん」「相変わらず真面目だなぁ」という声が聞こえた。
 あゆみたちの学校では秋に廃品回収をする。近隣の住宅から不用品を集めて売り払い、文化祭の運営費用に充てる、というのが毎年のイベントだった。
 廃品を置いてある空き区画に戻る。目印として甲側にピンクの縫い取りをした軍手がブルーシートの上に置いてあった。こんなところで役に立つとは、とあゆみは小さなため息をついた。
「?」
 足元、ブルーシートの下から段ボールの箱が零れ落ちた
「なに…カメラだ」
“MIDEN”と書いてある。戻そうと拾い上げたが、箱はしっかりしているようだった。開けてみると、確かにカメラで、箱のデザインから考えて古いものだと思われるのだが、中はきれいだった。パーツ類はビニールの袋に入っており、ひょっとしたら未使用なのかもしれない。
「これだったら、ちゃんとしたカメラ屋さんに持って行った方がいいんじゃないかな…え?」
 首筋に熱を感じる。
 いつも一緒にいられるよう、ペンダントにしてあるフーちゃんのキュアデコルだった。
〈ミデン…〉
「たぶん、そう読むんだろうね。
 フーちゃん、カメラに興味あるの?」
 キュアデコルが熱を持ち始める。
「フーちゃん…?」
〈同じ…フーちゃんと…同じ〉
 カシャ、と音がした。こちらを向いたレンズの奥、なにかがうごめいたようだったが、何も見えない。吸い込まれそうだ。それは「闇」、いや「無」と言った方がいいような気がした。
 次の瞬間、あゆみは今度はまぶしさに目を細めた。キュアデコルが光り始めている。
〈ミデン、フーちゃんと友達になるか?〉
〈…こい〉
〈友達になるか?〉
〈来い〉
 それは命令だった。であれば「友達」ではない。
「フーちゃん、だめ!」
 背筋に寒気を感じたあゆみはカメラの箱を投げ捨てると、右手でジャージごとキュアデコルを握り、左手をその上に重ねた。
〈なら、お前も来い〉
 カメラの奥から声が聞こえたような気がした。次の瞬間、あゆみの姿が消える。
 白い軍手が音もなく落ちた。

「ミデンはフーちゃんの力を使おうとしたんだ」
 ミデンが欲しかったのは、貪欲に力を求めるフュージョンの能力だった。
 逆に言えば、ミデン自身はほとんど力を持っていなかった、ということになる。まさに廃棄処分される直前、記憶が欲しい、空っぽの自分は嫌だ、その思いが強くなったときに、フュージョンのかけらであるフーちゃんと出会ったのだ。プリキュアというものの存在を知ったのは、フーちゃんとあゆみを取り込んだ結果にすぎない。
「そして、フーちゃんを守ろうとしたあゆみちゃんも一緒に吸収してしまった、ってことか」
「同じってどういうことなんだろう」
 春野はるかが首をかしげる。
「フーちゃんは…独りぼっちだったんです」
「え、あゆみちゃんは?」
「グレルとエンエンだっているじゃない」
「でも、フーちゃんと同じ存在はいません」
 まだ腑に落ちない者が何人かいるようだった。
「私は、みなさんと会うのが楽しいし。
 グレルやエンエンは、ミップルやメップルと会うのが楽しい。
 フーちゃんにはそういう相手がいません」
「…」
「あゆみちゃんやグレルやエンエンじゃ埋められないところがある、っていうことか」
 56人が黙る。花咲つぼみが口を開いた。
「フーちゃんは、疲れた、って言ってたみたいですけど」
「ミデンの中に取り込まれてすぐ、ミデンが友達を欲しがってたわけじゃない、ということに気づきました」

150makiray:2018/12/22(土) 22:06:37
origin (4/7)
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 ふたりは、フージョンの力を要求するミデンに抵抗した。
 だが、それはフーちゃん、あるいはフュージョンの「本質」である。宝石や現金のように、それを渡せばおしまい、というものではない。絶対に渡さない、という強い意志で抵抗し続けるしかなかった。
〈う…う…〉
〈フーちゃん!〉
〈あゆみ…苦しい〉
〈がんばって、フーちゃん!〉
 学校だったのがまずかった。グレルとエンエンは、ぬいぐるみのふりをしてあゆみの家にいる。一緒であれば、キュアエコーに変身してなんらかの手を講じることができたかもしれない。
 だが、あゆみの中にはプリキュアの光がある。それがフーちゃんの力によって引き出されて、あゆみはキュアエコーに変身するのだ。ふたりなら切り抜けられるはずだ。
〈がんばる。フーちゃん、がんばる〉
〈ミデン、あなたにフーちゃんは渡さない!〉
〈よ・こ・せ!〉

「あ、ミデンが最初、『よこせ』ってしか言ってなかったのは、フュージョンの口癖?」
 あゆみは答えなかった。そのとき、あゆみとフーちゃんはミデンの中にいたので、ミデンがなぎさとほのかを襲った時に何を言ったのかは知らない。
「あの、私、何をしたんですか?」
「いや、あゆみちゃんが何かしたわけじゃ」
「みなさん、どんな目にあったんですか?!」
 琴爪ゆかりが、頭のいい子ね、とつぶやいた。
「教えてください」
 立ち上がる。
 あゆみが諦めることはないだろう。誰が言う? 誰が説明するのがいいだろう、と顔を見合わせる少女たち。
「あのね」
 はなが進み出る。輝木ほまれが止めようとし、薬師寺さあやが心配そうに見ていたが、はなはそのまま説明を始めた。
「…。
 わかりました」
「あゆみちゃん」
 説明が終わった。あゆみは何も言わない。フーちゃんのペンダントを首にかけなおすと、頭を下げた。
「迷惑をかけてごめんなさい」
「あゆみちゃんは悪くない!」
 何人かの声が重なる。
「でも」
「だって」
「わたしがちゃんとフーちゃんを守れればこんなことにはならなかったかもしれない」
「いいえ」
 海藤みなみが反論する。
「ミデンの思いは強かった。早晩、なんらかの力を得ていたと思う。
 キュアエコー以外のプリキュアに出会って、その力を使っていたかもしれない」
「だったら、最初になっちゃった人は、やっぱり同じように謝ると思います」
「それは…」
 当然だ。どの道、ミデンは暴れるんだから最初の一人だとしても自分は悪くない、などと考える者はここにはいない。
「すべてわたしのせいだ、とは言いません。ミデンの寂しさが起こしたことだから。ミデンの持ち主だった人たちにも、もっと大事にしてあげてほしかったとも思います。
 でも、私は防げたかもしれないんです。
 私は、プリキュアだから。
 私は、防がなきゃいけなかったんです」
「それは違うと思います!」

151makiray:2018/12/23(日) 22:22:55
origin (5/7)
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「それは違うと思います!」
 さあやの声は意外に大きかった。本人が驚いている。
「すいません。
 違うというわけではなくて…あの」
「聞かせて」
 あきらが促す。
「わたし、不思議だったんです。ミデンがどうして、何もしなかったのか」
「何もって」
「わたしたちの記憶を集めただけですよね」
「だけっていうか…」
「うん、はなは大変だったと思う。迷惑をかけてごめんなさい。
 でも、それ以外は何もしなかった」
 さあやはみなを見渡した。
「だって、プリキュアの力を手に入れたんですよ。
 それを悪用すればこの世界を征服することだってできたかもしれない」
「ミデンは『思い出』が欲しかっただけなんでしょ?」
 ほまれが口をはさんだ。
「それも事実。
 でも、力を手にしたら人が変わってしまう、というのもよくあることでしょう。
 それを止めていたのが、あゆみさんとフーちゃんじゃないのかな」
「そうだ。
 あゆみちゃんとフーちゃんは十分にその役割を果たしていた、ってことだよ」
 はなの言葉に、そうか、という空気。何人かがあゆみを見たが、あゆみは目を伏せた。
 北条響が、珍しく難しい顔をしていた。
「確かにあたしたちも一度はフュージョンにやられそうになっちゃったからね。
 あの勢いで来られたら大変なことになったかも」
「でも、ミデンはそんなことしなかった」
「自分の『思い出』が欲しい、それだけを…貫いたわけだよね」
「暴走を食い止めた…というか、あれをミデンの純粋な思いにとどめたのが、あゆみさんが持っているプリキュアの光。無理がある推測だとは思いません」
 あゆみは目を伏せたままである。
「あゆみさんは、なぜそんなにつらそうな顔をなさっているのです?」
 愛崎えみるだった。
「…」
「あゆみさんは、プリキュアとして立派に戦ったのです。
 そして、友達であるフーちゃんさんのことも守ったのです!
 これは、とっても素晴らしいことなのです!!」
「そんなこと」

152makiray:2018/12/24(月) 22:11:41
origin (6/7)
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「変身するだけがプリキュアではないのです!」
 ほまれが、え、とつぶやく。はなとさあやの肩が震えた。
「何を笑っているのですか!
 私は今、大事な話をしているのです!!」
 苦しそうな呼吸の下から、ごめん、という声が聞こえる。
「あなたは、昔の私に似ています」
 ルールー・アムールがえみるの隣に立った。
「計算だけで判断していた頃の私のようです。
 ですが、あなたは人間。アンドロイドの私とは違って、柔軟な心を持っているはず。
 その柔軟さを発揮できない局面があるようですね。想像ですが、ご自分のことになったときに」
「…」
「確かに、あゆみちゃんにはそういうところがあります」
 リコがあゆみの手を取った。
「顔を上げて、真ん中にきて。
 あゆみちゃんは、私たち『みんなのプリキュア』なんだから」
「私は、そんな立派なものじゃない!」
 あゆみがリコの腕を払う。だが、リコはもう一度、その手を取った。
「もしあゆみちゃんじゃなかったら、って思ったら、私は足が震えてくる」
 何を言い出すのだ、という視線にも構わず、リコは続けた。
「ヨクバールにドンヨクバール、私たちは色々な種類の敵と戦ってきました。
 もし、ミデンが取りこんだのがフーちゃんとあゆみちゃんじゃなくて、そういう存在だったとしたら」
「負けてたかもしれない」
 宇佐美いちかが言った。
「ラッキーだったわね。そのラッキーを呼び込んだのはあなたよ」
 ゆかりが笑みを浮かべる。あゆみはやはり答えなかった。
「本当に面倒なコねぇ」
 ゆかりの言葉に、立神あおいが、どの口が、とつぶやいた。
「ね、誰かあゆみを元気づけるパーティを企画してくれない?」
 はいはいはい、と手が上がった。

153makiray:2018/12/25(火) 22:24:44
origin (7/7)
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「じゃ、行くよー」
 はなが、あゆみ、ほのか、美翔舞、南野奏の笑顔をファインダーに収めて、MIDEN F Mark-II のシャッターを押す。草原に笑顔の花が咲いた。
「みんな、いい顔!」
「楽しいから。
 ね、あゆみさん」
「はい、絶好調です」
 舞が笑う。
「次は、私たちとですわ」
 調辺アコと円亜久里が隣に並ぶ。
 あゆみは引っ張りだこであった。
 本人はまだ納得していないが、今回の事件があの規模で済んだのはあゆみとフーちゃんのおかげだ、ということでまとまり、「みんなのプリキュア」という評価がまた強まった。
「私たちも一緒に撮るのです」
「あの、ちょっと待って」
「前のルールーに似ているということは、私との相性もいいはずなのです!」
 何度か、ちょっと待って、と言った後、あゆみは頬をマッサージした。撮影のたびに笑顔を作っているので強張り始めている。
「大変だな…」
 グレルが珍しく、意地の悪いことを言わずに本心から同情している。エンエンも心配そうだった。
「そこまで頑張って笑わなくてもいいんじゃないかな…」
「ミデンを笑顔でいっぱいにしてあげたいから」
 それはそうだけど、とエンエンが口ごもる。
「みんなのリクエストだし。
 ここで断ったら女がすたるもん」
 グレルとエンエンが顔を見合わせた。
「じゃ、最後に全員で撮るよー!」
 三脚を据え終わった はなが叫んだ。みなが集まってくる。
「じゃ、あゆみちゃん、掛け声お願い!」
「え、わたし?
 なんて言えばいいの?」
「笑顔にするにはイ段の言葉だよね。『チーズ』とか『1たす1は2』とか」
「イ段…あ、はい」
「決まった?
 じゃ、押すよ」
 セルフタイマーを仕掛けて はなが走る。滑り込むようにしてみんなの中に納まった。
「せーの。
 ウルトラハッピー!!」
 カシャ。
 なぜか拍手が巻き起こる。みな、改めて笑顔になった。
「あゆみ、あゆみ」
 グレルがあゆみの足をつついた。
「なに?」
「大丈夫か?」
「…。
 なにが?」
 グレルとエンエンはまた顔を見合わせた。
「今日のあゆみちゃん、言うことがいつもと違うよ」
 言われていることがわからず、あゆみは首を傾げた。
「絶好調とか。
 女がすたる、とか」
「『ウルトラハッピー』はみゆきちゃんの口癖だよね」
「わたし…そんなこと言ってた?」
 言ってる言ってる、と夢原のぞみ。
「ひょっとして、ミデンの中で、あたしたちの口癖もうつっちゃった?!」
「ねぇねぇ、『ありえなーい』って言ってみてよ」
「そんな…」
「『ワクワクもんだぁ』も言ってほしい!」
 大騒ぎである。
「どうしたの?」
 東せつなは小さな顎に手を当てて何か考えているようだった。桃園ラブが覗き込む。
「せつなも、何かあゆみちゃんに言ってほしいの? 『精一杯頑張るわ』とか」
「あゆみちゃんは自分の力でプリキュアになった人で、キュアエコーは私たちの意思の疎通を助ける『思いを届けるプリキュア』で、誰とも協力できて頼りになる『みんなのプリキュア』なのよね」
「うん」
「あゆみちゃんが、私たち全員の力を身につけたんだとしたら…最強よね」
 草原に風が渡る。
 ゆりの、「そうね」という同意がきっかけとなり、あゆみはもみくちゃにされた。
「私は、ちょっとみなさんの口癖がうつっただけで、そんな…お願い、助けて!」
 その間にも「『やるっしゅ』って言って」「『計算通りだし』は?」「それ、口癖じゃないし!」「『嫌いじゃないわ』もいいわよ」とリクエストが飛ぶ。
「グレル! エンエンー!」
 さすがのグレルにも、55人のプリキュアの中に割って入る勇気はない。エンエンと一緒に、はらはらしながら見ているしかなかった。

154makiray:2018/12/25(火) 22:25:57
 以上です。
 いつもこれくらいコンパクトなサイズにしたいと思っているのですが…。

155名無しさん:2018/12/26(水) 07:31:22
>>154
面白かった!
ミデンの事件が自分のせいなんじゃないかと悩むあゆみも、全力で励ます55人も、最後のもみくちゃにされるあゆみも最高でした。素敵なクリスマスプレゼントをありがとうございます!

156makiray:2019/07/29(月) 22:14:12
毎年恒例、春映画にキュアエコーを絡ませるお話です。
12 スレ、お借りします。大体、一日一スレで行く予定です。

157makiray:2019/07/29(月) 22:16:54
はだしのプリキュア (01/12)
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「うわ…」
 坂上あゆみはおもわず口に出してしまった。50 人ものプリキュアが続々集まってくる様子は壮観だった。もちろん、みな変身前の普段の姿ではあるが、知ってしまうと、プリキュアとしての姿を重ねてしまうのは当然だった。
 春が近づいてやっと暖かくなりかけたある日、四葉邸に集まれ、と星空みゆきから連絡があった。みゆきも何か慌てているようだったが、今日の午後、という急な話にあゆみは驚いた。いつものお花見というわけではなさそうだった。
 それは今の雰囲気でもわかる。これだけの人数がいるというのにおしゃべりに花が咲くこともない。あったとしても、隣と小声で、というのがせいぜいだった。グレルもエンエンも、トートバッグから顔を出しはしたが、あたりを見回して察したのか、何も言わなかった。
(授業みたいだな…)
 ここは会議室のようだった。あるいは、テーブルを並べ替えて飾ればパーティ会場にできるのかもしれないが、今は、正面に演壇があり、机はそれに向かって整然と並べられていた。
 あゆみは、誰かに聞いたりもしなかった。そういう空気でないのも事実だが、昨日あたりから体調がよくない、ということもあった。何をするにも億劫で体が重く感じる。今日だって、単なるお花見だったら断ったかもしれない、という気がする。
「お待たせしました」
 四葉ありすが入ってきた。皆の視線がそれに注がれるのは当然だったが、空気が冷たくなったような気がした。セバスチャンが、今入ってきたドアを静かに閉めた。
 ありすは演壇に立つと全員の顔を見渡した。視線があゆみに来たときに一瞬、動きが止まったような気がしたが、勘違いかもしれない。
「現状からご報告します。
 四葉の科学チームが解析を続けておりますが、まだ仮説を得るにも至っておりません。
 情報取集の段階で足踏みしています」
 何人かが頷く。あゆみはその様子を見ていた。やはりだ。自分が知らないことがあるようだ。億劫さが消えたわけではないが、友人たち、プリキュアたちが真剣な顔をしているのが、何かが起こっているせいだとしたら、このままではよくないような気がした。
「あの」
 手を上げる。やはり何人かが振り向く。咎める視線はなかった。むしろ、何か知っているのか、という期待だった。
「今日の目的は何なんでしょうか」
 眉を顰める人がいる。
「わたし、何か知らないことがあるみたいで――」
 さすがに声が途切れる。ありすは あゆみを見ていたが、わずかに首を傾げた。
「なんか、ごめんな――」
「昨日、あゆみさん、あるいは、キュアエコーと一緒だった方はいらっしゃいますか?」
 声はない。首を横に振った者はいた。昨日、とは。
「あゆみさんかキュアエコーを見た、という方は?」
 同じだった。手を上げる人もいない。
「やはりそうでしたわね。さっき、あゆみさんと目が合ったときにそんな感じがしたのです。
 では、状況の整理を兼ねて、私からご説明いたします」
 それは想像したよりも短く終わった。
 昨夜、ほぼすべてのプリキュアが突然、異次元空間に引きずり込まれたのだという。
「おそらくあれは、『ワームホール』あるいはそれに類するものだと思います。
 その先では、プリキュア・アラモードの六人、HUGっとプリキュアの五人、名称不詳のプリキュアが四人、戦っていましたが、わたしたちがそれに加わる前にワームホールは閉じ、わたしたちはそれぞれ元の世界に戻されたのです」
「…」
「すでに戦っていたプリキュア、それに後から呼ばれた形のプリキュアがいたのに加え、あゆみさんのように、ワームホールに引きずり込まれなかったプリキュアもいたわけですね。その違いが何によるものなのか、ということも解明しなければなりませんわ」
 そういうことか。
 複数のプリキュアが一緒に戦う大きな事件はこれまでに何度も起こっているが、今回は性質が異なるらしい。
「…。
 え」
 あゆみは突然、立ち上がった。
「リコちゃん?!」
 が、すぐに座り込んだ。いや、倒れたのだった。
「あゆみちゃん!」

158名無しさん:2019/07/30(火) 11:37:20
待ってました!!

159makiray:2019/07/30(火) 21:31:05
はだしのプリキュア (02/12)
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 あゆみが気づいたのは広い寝室だった。客用だろうか。
「そうだ、わたし」
 プリキュアたちが集まった会議室で、急に目の前が真っ暗になり、意識を失ったのだ。
「グレル! エンエン!」
 枕の横に小さな布団があり、グレルとエンエンもそこで眠っていた。エンエンが目を覚ます。
「あ、あゆみちゃん、大丈夫?」
「うん。エンエンは?」
「ちょっと眠い…」
 グレルは大の字になって、いびきが響いてこないのが不思議、という様子で寝ていた。
(ふたりも疲れてるの?)
 あゆみは、襟のキュアデコルに手をやった。
「フーちゃん?」
〈あゆみ…大丈夫か?〉
「うん。心配かけてごめんね?」
〈フーちゃんは大丈夫〉
「お目覚めでしたのね」
 短いノックの後、ありすが顔をのぞかせた。
「あの、わたし、どれくらい」
「15 分も経っていませんわ」
「会議は…」
「わからないことが多すぎて決めるもなにもありませんでした。
 まずは調査です」
 そうだ。なぜ自分が倒れたか思い出した。急に立ち上がったからだった。
「さっき、リコちゃんがいたような気がするんだけど」
 ありすは、いつもの笑みをキープしたまま頷いた。
「さきほど、ワームホールが発生した、と申しましたが、つまり、時空そのものが歪んでいるのです。
 本来なら行き来できるはずのない世界にいるリコさんと期せずして再会、ということになったのはそのためだと思います」
 そういうことだったのか。
「さっき、名前のわからないプリキュアがいる、というお話をしましたわね。
 実は、彼女たちが観星町に住んでいる、ということはわかっているのです」
「観星町」
「これからそこに向かいます」
「わたしも行きます」
 あゆみは、ありすの言葉を遮るように言った。
「でも、お体が」
「もう大丈夫です。
 それに、あんなところで倒れてしまって、みんなに迷惑をかけたから、少しでも役に立ちたいと思って」
 ありすはしばらくあゆみを見ていたが、やがて頷いた。
「わかりましたわ。セバスチャンを向かわせることになっていますので、ご同行をお願いします。
 あとは…そうですね、れいかさんにもお願いしましょう」
 それはおそらく、体調が万全でないあゆみのためだろう、と思ったが、あゆみは何も言わなかった。あの仲間たちの力になれるのならなんでもよかった。

160makiray:2019/07/31(水) 21:46:44
はだしのプリキュア (03/12)
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 車が停まる。
「天文台…でしょうか」
 れいかが言った。
 セバスチャンは、あゆみとれいかを残し、中に入る許可を得るため建物に向かっていった。
 あゆみはちらりと後ろを見た。大きめのワゴンが静かに待っている。四葉家の科学捜査チームが中に乗っているらしい。いつもなら、四葉家はいつも大げさだなぁ、と笑うところだが、今回はそういうわけにはいかなかった。改めて今日の参加者の顔を見たら、リコやことはだけではなく、トワもいた。彼女たち自身も、どうやってこの世界に来たのかわからないのだという。みらいは、誰かが「プリキュアを集めたい」とか願いをかけたんじゃないかな、と言ったが笑ったのは数人だけだった。
「返事がありません。やむをえませんな」
 セバスチャンが戻ってきた。やむをえないとどうするのだろう、と思ったが、後ろのワゴンから人が下りてきた。彼らは背中に大きなリュック――ではないのだろうが、ほかに何と言えばいいのか――を背負うと建物に向かっていった。
「おふたりも参りましょう」
 れいかが、どこに行くのですか、と聞くと、建物の裏側でございます、という答えが返ってきた。
「裏側?」
 ふたりの疑問をそのままに、セバスチャンと捜査チームは建物の脇を抜けて裏手に進んでいった。つまり、やむを得ないので許可を得ずに中に入る、というわけだった。
 思ったより広い。顔を上げると星がよく見える。
「しばらくここでお待ちください」
 捜査チームが、色々な器具を背中のリュックから取り出した。早速、調査が始まっているようだ。
「望遠鏡…でしょうか」
 れいかが指さす。確かに、星空の観察に適した晴天ではあるが、一基は倒れていた。あゆみが、何かあったのかな、とつぶやくと れいかが頷いた。
「お待たせしました。
 坂上様、当家のものと一緒に、その望遠鏡の確認をお願いできますか。
 青木様は、こちらの方へ」
「あ、でも」
 れいかがあゆみを見る。心配してくれているのだろう。
「ありがとう。大丈夫だよ」
「わかりました。
 無理はなさらないでくださいね」
 うん、と頷き、捜査チームの後ろをついていく。一人は立ったままの望遠鏡を、あゆみともう一人は倒れた方に近づいた。起こすのを手伝う。
 そんなに、というくらい慎重だった。その望遠鏡で何を見ていたのかを確認したいのだと言う。
「倒れた時に動いたりしてませんか?」
 なんでも、三脚の状態から想像して場所はずれていない可能性が高いという。台の上の望遠鏡自体は動いたかもしれないが、重さや固定の状況を調べれば、少なくともここからここまでのどこか、という範囲は見当がつくらしい。捜査チームのメンバーは、蹴とばしたりしていれば別ですが、と付け加えながら望遠鏡に機器を接続した。装置の数字を見ながら細かな作業をしてファインダーをのぞく。
 何が見えるのか目元だけでなく口元まで一緒に動かしているのがおかしい。あゆみの頬が緩みそうになったが、そういう場合ではない、と思って我慢する。やがて彼は顔を離した。
「何が見えたんですか?」
 特に何も、と言う。うっすらと銀河が見えるだけだったらしい。わたしものぞいていいですか、と言うと彼は場所を譲った。望遠鏡を動かさないようにそっと顔を寄せる。
「…。
 きれい」
 確か「連星」というのだったか。青や緑、黄色のカラフルな星が五つほど並んでいる。
「あれ、なんていう星だかわかりますか?」
 捜査チームのメンバーは、多すぎて「あれ」と言われても、と苦笑した。銀河を形成する星には違いないが、と言う。
「いえ、そういうのじゃなくて。あの五つの星です」
 場所を替わる。彼はやはり、そんな目立つ星はない、と言う。
 自分はまだ疲れていてありもしないものを見えたと思ってしまっているのか、と思っていると れいかとセバスチャンがこちらに来るところだった。
「もうあちらの調査は終わったんだそうです」
「え、もう?」
 こちらは望遠鏡を起こし終わったばかりだというのに。れいかの方の望遠鏡は倒れたりしていないのですぐ終わったのであるらしい。
「あゆみさん、少し顔色が戻りましたね。よかった」
 気づかなかった。あゆみは自分の頬に手を当てた。確かに、さっきよりは暖かくなっているような気がする。いや、それより。あゆみは、れいかにファインダーをのぞかせた。
「あ…」
 れいかも、あゆみと同じように、その星の美しさに笑みを浮かべた。逆に、捜査チームのメンバーたちには困惑が浮かんだ。
「どう?」
「素敵です。心が温かくなるような、勇気づけられるような、そんな光です」
「わたしにも見せていただけますか」
 あゆみと れいかが下がり、セバスチャンがファインダーをのぞき込んだ。
「…」
 あゆみと れいかが下がり、セバスチャンがファインダーをのぞき込んだ。
「…」
「セバスチャンさん…」

161makiray:2019/08/01(木) 21:15:26
はだしのプリキュア (04/12)
--------------------------

 セバスチャンは、顔を上げると、メンバーに何事かの指示を出した。
「重要な手がかりが得られたようです」
「どういうことですか」
「わたしにはいつもの天の川しか見えません。ほかのメンバーも同じです」
「え」
「ここにいる中では、それを見ることができるのは、坂上様と青木様だけのようでございます」
「わたしと、れいかちゃんだけ…。
 !」
 声にならない声を上げる。ふたりは顔を見合わせた。
 あの星はプリキュアにしか見えないのか。
「実は、この望遠鏡が向いている方向が、昨日、ワームホールで皆さんが向かった方向なのです。
 必要なデータは取得したしました。急ぎ戻り、詳細な分析を加えたく思います」
 れいかが、急ぎましょう、という。あゆみも遅れて頷いた。

 四葉家の会議室。50 人のプリキュアが待っているところに、セバスチャンともう一人、科学捜査チームの技官がやってきた。ひとまず報告できることは二つだけだという。ありすは、よくない方を先に、と言った。
「例の『連星』ですが、みなさんが『ワームホール』状の環境で連れ出された方向と一致することは確認できました。
 ただ、距離が一致しません」
「距離…」
「お嬢様含めプリキュアの皆さんは、『ワームホール』状の環境から脱出する直前までいらしたわけですが、特異な状況とはいえ、おおよその位置はわかっています。それと、あの『連星』が存在する場所とが一致しません」
「偶然ということですか?」
 あゆみの表情が曇る。
「それが…。
 実はあの『連星』の正確な位置がまだ把握できていないのです」
「それは、みなさんに見えないからですか?」
「いえ」
 調べようにもあの星は科学捜査チームには見えない。雪城ほのかと菱川六花がラボに出向き、方向などを指示している。チームは言われた方向から来ている光を解析しているに過ぎない。確かに既知の星とは異なる何かがあることは確認できたが、それは、目隠しをしてやる「スイカ割り」を科学的に再現しているようなものだった。
「計算のたびに異なる数値になっていまして」
「…。
 妨害されている、とか」
「いえ。妨害電磁波の類は確認されていません」
「どういうことでしょう」
 ありすが首をひねる。セバスチャンが技官を促した。
「?」
「こちらが二つ目の報告です。
 あの『連星』のスペクトル パターンを確認したところ」
 誰かが――というには多かったが――「スペクトル パターンってなに?」と言う。光の性質でございます、とセバスチャンが答えた。
「既存の星のどれとも一致しません。類似する星も発見できませんでした。
 ただ、よく似た光のデータが見つかっています」
「何の光ですか」
「ミラクルライトです」
 講堂内にざわめきが広がる。「ミラクルライト?」と何人もがつぶやいた。
 れいかが挙手した。
「あゆみさんの顔色が戻ったのはそれが理由ではありませんか?」
 あ、とあゆみ自身もつぶやいた。
 プリキュアに力を与えてきたミラクルライトの光。
 体調を崩していたあゆみにその光が力を与えたのかもしれない。
「つまり、通常の光ではない、ということですね」
「あの連星の位置が確定できないのはそれが理由かもしれません」
 技官がありすの言葉を補足した。プリキュアの光、ミラクルライトの光は通常の物理法則の埒外にある。通常の物理法則を前提とする現在の地球の計測機器と処理技術で正確な値が出ないのはそれが理由かもしれない、ということだ。
「…」
 ありすは正面のモニタに映し出されている五つの星を見上げた。何人か、ミラクルライトと聞いて喜んでいるものはいたが、それは果たして本当に吉報なのだろうか。
「あゆみさん」
 ありすがあゆみを見る。
「ご気分はいかがですか? 星の光が見えていると思いますけど」
 あゆみは、同じようにモニタを見た。芳しくないようだった。
「モニタごしでは違うのかもしれませんね」
 ありすは、あゆみをはじめ、全員を休ませることにした。

162makiray:2019/08/02(金) 21:02:46
はだしのプリキュア (05/12)
--------------------------

「脱出できる確率は 0% です」
 ルールー・アムールが言った。
 ここは星系「ミラクル」。
 星奈ひかるたちが出会ったのは、ピトン。ミラクルライト製造の見習い職人である。
 ここは星系全体がミラクルライトの工場なのだ。
 しかし、事故が起こった。製造中のミラクルライトが黒い光を発するようになってしまったのである。ピトンはその犯人として追われていたが、ひかるたちもその仲間と誤解されてしまった。そして今は、スタートウィンクルプリキュア、HUGっとプリキュア、プリキュアアラモードの全員が檻の中である
「まぁ、それくらいあれば十分でしょ」
 立神あおいが、琴爪ゆかりを見ながら言った。
「どうして?」
「またまた。ゆかりさんならいつも」
「さっきの大統領の話、聞いてた?」
「?」
「『この宇宙から思いが消える』ってやつ?」
 ゆかりが頷く。
「大変だよ!
 絶対に防がなきゃ!」
 野乃はなが興奮したように言う。
 それはそうなんだけど、とゆかり。
「どうしたんですか?」
 ひかるが話に加わる。
「この状況、ピンチよね」
「はい」
「誰かが助けてくれるといいな、って思わない?」
「思います」
「それにはどうしたらいいかしら」
「うーん。
 携帯は通じませんよね、きっと」
「そうね」
「無線機」
「持ってるの?」
「うーん、のろし」
「持ってるの?」
「伝書鳩」
「持ってるの?」
「テレパシー!
 これも持ってませんけど」
 ひかるが笑うと、宇佐美いちかが自分の手を鳴らした。
「あゆみちゃん。
 キュアエコー!」
「そうか」
 薬師寺さあやが明るい声を上げた。
「キュアエコーは《思いを届けるプリキュア》だから――」
「ちょっと待って」
 輝木ほまれが止める。同時に彼女たちは、ゆかりが心配していることを理解した。
「宇宙から『思い』が消えてしまったら、多分、あゆみはキュアエコーに変身できなくなる。
 というか、キュアエコーが存在する根拠がなくなる、と考えた方がいいのかもしれない」
「そんな…」
 愛崎えみるが唇を震わせた。
「星はどんどん闇に侵食されている。残ったミラクルライトの光も地球には届かないだろうし。『思いの力』も弱まっていると考えないと」
 剣城あきらが言った。
「つまり、キュアエコーが、わたしたちと地球に残っているプリキュアの橋渡しをしてくれることは期待できない、っていうことね」
 キラ星シエルが厳しい顔になったが、逆に有栖川ひまりは気丈に頷いた。
「わたしたちは、独力でこの危機をのりきらなければいけないんですね」
 ひかるたちスタートウィンクルプリキュアは「キュアエコー」というのが何かをまだ知らない。だが、ひまりの言葉の意味だけは理解した。
「できれば、キュアエコーが消えてしまう前にね」
 ゆかりがつぶやいた。

163makiray:2019/08/03(土) 22:00:50
はだしのプリキュア (06/12)
--------------------------

 あゆみは、科学捜査チームのラボに呼ばれた。そこではすでに、ほのか、水無月かれん、六花がチームのメンバーと協力していた。グレルが、「お前たち、白衣、似合いすぎだろう」と言った。
 ありすは、テーブルに置いてあったミラクルライトを一本、取り上げた。
「あゆみさん、ちょっとこれを持ってみていただけますか」
 言われるままにそれを受け取る。何か期待されているような気がするが、どうすればいいのかわからない。両手で握ってみたりした。ありすに言われて、何本か持ち替える。何が起こるわけでもなかった。
「ありがとうございます」
 横にあったモニタに今の様子が映し出された。画面が映画のような雰囲気なのは何か加工をしているからだろうか。
「さきほどの動画をもう一度見ましょうか」
 画面が二つに区切られる。左側に今の様子、右側には別の動画が映し出された。
「以前、あゆみさんにミラクルライトの回収を手伝っていただいたことがありましたわね」
 あぁ、とあゆみ。
 前に ありす――というより四葉家――の手伝いをしたことがあった。戦いが終わって、人々が放置したミラクルライトを集めて回ったのだった。
「確かに光ってるのよね…」
 ほのかがつぶやいた。
 どちらの動画も画像処理をしてあるようなのだが、以前の動画では、あゆみが手にしているミラクルライトがうっすらと光っているように見えた。
「しかも、ほら」
 かれんが指さす。
 ミラクルライトは、あゆみが手にした瞬間に光り始めるのである。そして、四葉家の担当者に渡すと消える。
「あゆみちゃんに反応しているとしか思えない。
 でも」
 六花が、左側の動画から、あゆみに視線を移した。あゆみは自分が持っているミラクルライトを見た。光ってはいない。
「もちろん、目で見て分かるようなものではないのですわ。
 この処理済み画像も、たまたま見つけたものですし」
「どういうこと…なんですか?」
 エンエンが心配そうに見上げる。
「わたしたちの仮説…っていうか、勝手な想像なんだけど」
 ほのかが控えめに言う。
「あゆみさんは、フーちゃんを説得するために自分の意思でプリキュアになった」
 黙ってうなずくあゆみ。
「その時に作用したミラクルライトの力は、ひょっとしたら想像以上に強かったかもしれない、と思って」
「なんだよ、強いって」
 グレルがややいら立っている。かれんは、グレルとエンエンをきちんと見ながら続けた。
「あゆみ、というか、キュアエコーは、ミラクルライトに対して、ほかのプリキュアよりも敏感なんじゃないかな、って考えてるの」
「わたしが、あの星を見ただけで顔色がよくなったことですか?」
「そう。れいかちゃんは確かに、きれいだとか、勇気づけられる、とかそういう感じはしたって言うんだけど、それでれいかちゃんの体調に影響が出たわけじゃないの」
「キュアエコーは、《思いを届けるプリキュア》であると同時に、《ミラクルライトのプリキュア》なのではないか、ということですわね」
「ミラクルライトのプリキュア…」
「グレル、エンエン、ふたりはどうなの?」
 六花が視線を向けてくる。グレルが視線をそらし、エンエンはうつむいた。
「ひょっとして、あゆみちゃんと同じ?」
 ゆっくりうなづくエンエン。
「あの星を見た時は確かに、体調が戻ったような気がしたんです。
 でも今は、前より悪くなっているような」
 悪いっていうほどではないんですけど、とあゆみは小さな声で付け加えた。
「あの連星の光が弱くなっているような気がするのよ。関係あるのかもしれない」
「観測できればいいのですけどね…」
 連星は「プリキュアである者の目」にしか見えない。弱くなったような気がする、と言ったものは多かったが、「気がする」の域を出ない。一方で、あゆみの体調が相変わらずよくなさそうであることもわかる。手詰まりなのかもしれない、と誰もが思っていたが口にはしなかった。
 チャイムが鳴った。みらいたちが来たらしい。お手伝いすることがないかと思って、と言う。ありすは、残念ながら、と首を振った。
「わからないことばかりなのですわ」
「フーちゃんは?」
 ことはがのぞき込む。以前から、「はーちゃん」と「フーちゃん」で仲がいい。
《フーちゃんは元気だ》
 同じことを繰り返す。納得しているのかどうか、ことはは「よかった」と言った。

164makiray:2019/08/04(日) 22:34:42
はだしのプリキュア (07/12)
--------------------------

「一旦、休憩にしましょう。
 リコさん、あゆみさんをお部屋まで」
「大丈夫だよ」
 子どもでもあるまいし、とあゆみは笑ったが、リコは笑わなかった。じゃ一緒に、とつないだ手に力強さが感じられなかった。

 異変はすぐに起こった。
 空に「ヘビ」が現れたのである。
 節々に原色の輪をまとう、嫌悪感を引き起こさずにはいられない不気味さだった。
「ありす」
 会議室に集まる少女たち。最初に口を開いたのは美墨なぎさだった。
「あの星のこと、何かわかった?」
「いいえ」
 あの「ヘビ」の発生源はあの連星ではあるようだったが、彼女たちの目視によるものだった。確信はあるが、証拠はない。
「あたしたち、ここに集まってる意味ないんじゃない?」
 何人かが なぎさを振り向き、何人かが頷いた。
「ごめん、ありすとか四葉とかを責めてるんじゃないよ。
 ただ、町のみんなが心配なんだ」
 頷く顔が増える。
 小泉学園、夕凪町…それぞれが産まれ、育ち、暮らしてきた町。その人たちも、同じようにあの「ヘビ」に怯えているはずだった。
「そうですわね」
 ありすは、マナが頷くのを見ると決断した。みなが立ち上がる。
「当家の警備部隊に送らせます。急がせますので、少々お待ちください」
 セバスチャンが会議室を出て行った。
「ありすちゃん、ミラクルライトを貸してくれない?」
 はるかが言った。さすがに、みなみも驚いている。
「いちかちゃんたちがきっと突破口を開いてくれるから」
「そうだ。そのとき、あたしたちも力になれる」
「プリキュアの光の力を送れるかもしれません」
 ありすは頷くと、ラボのミラクルライトを持ってくるよう指示を出した。
 やがてそれは全員に行き渡り、護衛となる警備部隊の準備が整ったところから出発していく。それを、「事態が悪化すれば変身できなくなる可能性がある。早めにプリキュアに変身しておいた方がいい」という月影ゆりの意見が追いかけた。
「あゆみさんは、当家にお残りください」
「でも」
「わかってる。
 あゆみちゃんもフーちゃんも横浜の町が大好きだっていうことはわかってるよ」
 マナがあゆみの肩を握る。
「でも、戦える状態じゃないでしょ」
「一人では危険ですわ」
 真琴からも亜久里からも心配があふれている。
 でも、とあゆみは言いかけたが、途中でやめた。「ヘビ」が現れてからの疲労感ははっきりしていた。自分だけでなく、グレルもエンエンも元気がない。
「わたしたちと一緒にいよう」
 六花がのぞき込む。
 その心配はうれしい。とてもうれしいが、自分が「半人前」であることがまた突きつけられているのも事実だった。
(わたしは、いつまで…)
 しかし、それを跳ね返すだけの根拠もない。グレルとエンエンの様子に、それでも変身する、とも言えない。
 わかりました、と答えるしかなかった。

「プリキュア ラブリンク!」
 ゆりのアドバイスの通り、空から星が消え始めるころにマナたちは変身した。四葉タワーに移動する。
 何が起こっているわけではない。だが、地上から光が失われていく。空には、「ヘビ」の毒々しく鮮やかな節だけが見える。人々は絶望し生きる意志を失い始めていた。

165makiray:2019/08/05(月) 21:22:56
はだしのプリキュア (08/12)
--------------------------

 あゆみには、連星の状況を監視しろ、という役割が与えられていた。ありすがキュアロゼッタとなった今では、四葉のラボで連星の位置を示すことができるのは一人しかいない。
「数値を確認させてください」
 あゆみは技官のディスプレイをのぞき込んだ。さっきと同じ。
(うん)
 変わるはずがない。連星は移動するわけではないし、観測できないのだから、そもそも満足な数値が得られない。あゆみには、その光が暗くなっていく一方だということはわかるが、ここに張り付く必然性はなかった。
「わたし、ちょっと」
 あゆみは、小さな声で言うと、グレルとエンエンをトートバッグに入れ、ラボを出た。
「坂上様、どちらへ」
 セバスチャンがいた。いや、立ちはだかっている。
「ありすお嬢様より、坂上様はきっとそのようになさるので、気を付けるよう申しつかっておりました。
 危険でございます。ラボにお戻りください」
 あゆみは、しっかりと首を振った。
「坂上様」
「黙っているなんてできません」
「ですが」
「わたしもプリキュアなんです!」
「しかし、今は」
「変身できなくてもプリキュアなんです!!」
 言葉に詰まるセバスチャン。
 グレルはあゆみのトートバッグから飛び出すと剣を抜いた。
「どけ!
 俺たちだってプリキュアだ! 邪魔するな!!」
「セバスチャンさん、お願い!!」
 エンエンも身を乗り出して叫ぶ。
「行かせてください。
 ありすちゃんには後でわたしから話します。
 それに」
 あゆみはきっと顔を上げた。
「きっとわかってくれると思います」
「プリキュアだから…でございますか」
 頷くあゆみ。
 セバスチャンは、三人の目を順番に見つめた。
 わかる。わかりすぎるほど。
「承知しました」
「セバスチャンさん!」
「二人ほどおつけします」
「いえ、それは」
「四葉も大変なんだろ?」
「それがわたしどもの役割でございますので」
 実際のところ、それぞれの町にプリキュアたちを送り届けたメンバーはここに戻ってきている。人が足りないわけではない。なにより、この三人は絶対に守らなければならない三人だった。
「どちらにいらっしゃる予定ですか」
「四葉タワーに」
 セバスチャンの目が細められる。
「…。
 理由をうかがってもよろしいですか?」
 キュアロゼッタをはじめ、ドキドキ!プリキュアの五人がそこにいる。それに合流しようというのか。
「わたしが今行けるところで、一番、あの星に近いところだから」
「プリキュアの光を届けに行くんだね」
 エンエンの言葉にあゆみが頷いた。
 今、光を失ったも同然の あゆみには、届けられるものは何もない。だが、二手に別れ、意思の疎通もできない状態になっているとはいえ、50 人ものプリキュアがそれぞれに活動している。そのおかげで事態が改善されたとき、できる限り、あの星に近いところにいたい。
「承知しました。
 メンバーをこちらに呼びますので少々お待ちください」
「ありがとうございます。
 あ、ありすちゃんにはわたしが」
 あゆみがスマートホンを取り出すのをセバスチャンが止めた。
「わたしがいたします」
「でも」
「いえ、それがわたしの役目でございますので」

166makiray:2019/08/06(火) 22:38:22
はだしのプリキュア (09/12)
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 四葉タワーの最上階。
 キュアハートたちは、すでにラブハートアローを手にして真っ黒な空にとぐろを巻く蛇をにらんでいた。みな避難していて動くはずのないエレベータのドアが開き、警備部隊のメンバーに続いてあゆみが姿を現すと、キュアソードは驚いた顔をし、キュアエースは駆け寄ってきて「大丈夫なのですか」と尋ねた。
「ありがとう。
 わたしのことは心配しないで」
「そうは参りません。
 みなさん、わたしはあゆみさんとご一緒します」
 キュアハートが、わかった、と手を振る。キュアロゼッタが笑顔を見せる。「やはりいらっしゃいましたね」と言われているような気がした。
 顔を上げる。連星の場所はすぐにわかった。蛇のとぐろの中心にある。味方だとは到底思えない蛇の中心にミラクルライトの光がある、というのがどういうことかはわからないが、一つだけわかっていることがある。
(あそこにプリキュアがいる)
 HUGっとプリキュアとプリキュアアラモード、そして、まだ会ったことのないプリキュアがそこで戦っているはずだ。
 何ができるかわからない。何もできないかもしれない。だが、もし、チャンスがあるなら力になりたい。力にならなければ。
(わたしだってプリキュアなんだから)
 その声が聞こえたのか、グレルとエンエンがバッグから這い出してきた。その時のため、小さな手にミラクルライトを持っている。
 あゆみは襟のエコーキュアデコルに手を当ててみた。フーちゃんの「呼吸」がわかる。フーちゃんも気を張り詰めている。
 深呼吸。
 わずかな兆しも見逃してはならない。

 キュアスターは、仲間たちの助けを得て、ピトンを最後のミラクルライトがある部屋に送り届けたが、ほかのプリキュア同様、闇に捕らわれてしまった。
 ピトンは、やっと見つけたミラクルライトに最後の仕上げをしようとしたが、ミラクルライトはくすんだ色に染まってしまった。
 大統領も、言葉を絞り出してピトンをなぐさめたが、それが無力であることはわかっていた。
 キュアスターは体が動かない状態のまま、思いを巡らせていた。これまでの戦いで疲労していたため混乱していた思いは、やがてクリアになり始める。
(みんなの思いをつなげたい)

「?」
 あゆみは、エンエンに言われて肩を上下させてリラックスしようとしていたが動きを停めた。
「あゆみさん?」
 キュアエースが声をかけたが、返事をしない。目元が険しくなっている。ふいにあゆみは展望台のガラスに駆け寄った。
「あゆみさん、危険です!」
 ガラスに顔をつけるようにして何かを探している。
「あゆ――」
「ちょっと待って」
 あゆみには珍しい強い口調。キュアエースは、わずかに後ろに引いて様子を見守ることにした。それに気づいたキュアダイヤモンドとキュアソードが静かに近づいてきた。キュアハートも続きそうになったが、警戒が手薄になることを気にしたキュアロゼッタに手振りで止められていた。
 あゆみの厳しい目つきに変わりはない。追いついたグレルとエンエンが、どうしたんだ、とあゆみの顔と外を見比べていたが、それにも返事をしなかった。
〈…の思いを〉
 あゆみが息をのむ。
〈わたしの手でしっかりつかむんだ〉
「聞こえる」

167makiray:2019/08/07(水) 22:38:00
はだしのプリキュア (10/12)
--------------------------

「え?」
「割って」
「あゆみちゃん」
「このガラスを割って。
 邪魔なの!」
「危険よ」
「誰かの声が聞こえた!
 あの星にいる誰かの声が聞こえたの!!」
 我慢できなくなったキュアハートが駆け寄ってくる。
「あゆみちゃん、聞こえたの?」
「聞こえた。
 まだ途切れてない。
 お願い、このガラスを割って!!」
 背後でキュアロゼッタが警備メンバーに指示を出していた。警備メンバーは車のシートベルトよりさらに頑丈そうなベルトを持ってくると、それを接続したベストをあゆみに着せた。あゆみは、体を動かされ、視界が遮られることにはっきりと不快感を見せたが、キュアロゼッタは譲らなかった。
「失礼しました。これで大丈夫です。
 キュアハート」
 キュアロゼッタの言葉に、キュアハートはラブハートアローを構えた。キュアソードが足元を固めると、キュアダイヤモンドとキュアエースはあゆみの後ろに立ち、いつでもサポートできるように構えた。
「行くよ」
 あゆみが頷くとキュアハートは引き金を引いた。
 まばゆい光線が分厚いガラスに向かって延びる。だが、それをガラスを貫いただけで割れはしなかった。え、とキュアハート。
「早く!!」
 あゆみが叫んだ。
「プリキュア ホーリー・ソード!!」
 キュアソードの手から無数の剣が放たれる。
「これでどう?!」
 今度こそ、その一角のガラスが外に飛び散った。代わりに、地上1000mの強風が飛び込んでくる。
 あゆみはさらに前に進み出た。背後の壁に固定されたベルトのせいで前進を阻まれると、視線を動かさず、後ろ手にそれを引っ張ったが、ベルトはピクリともしなかった。
〈…に思いが詰まっている!〉
 あゆみはミラクルライトを突き出した。まっすぐ伸びた右手に左手を添える。ミラクルライトはわずかずつゆっくりと方向を変えた。後ろで、キュアロゼッタがまた合図をする。警備メンバーは、あゆみの後ろで何かの装置を作動させた。
「あ」
「ミラクルライトが」
 あゆみの手のミラクルライトがうっすらと光った。このタワーの最上階で光を失った空を見守り続けて闇に慣れた目でないと気が付かないほどの明るさ――あるいは、暗さ――だったかもしれない。だが、ミラクルライトは間違いなく光っていた。
 キュアロゼッタが後ろに下がり、無線でセバスチャンを呼びだした。
「あゆみさんが光をとらえました。方向のデータを送らせます」
《承知しました》
 警備メンバーが測定データを送信する。

168makiray:2019/08/08(木) 22:24:48
はだしのプリキュア (11/12)
--------------------------

「わたしたちはここにいる!」
 あゆみが叫んだ。
「あなたが誰だかはわからない。でも、同じ光を持っている。同じ強さの思いを持っている!
 わたしたちはあなたの仲間。あなたの友達!」
 キュアエースがミラクルライトを掲げた。あゆみを見ながら方角を微調整する。それはやがて弱々しくはあるが光を取り戻した。それを見たキュアダイヤモンドがつづき、キュアハート、キュアソードも同じくミラクルライトを持った手を伸ばした。
《方角のデータをプリキュアの皆様に転送いたしました》
「あなたもミラクルライトをそちらに向けてください、セバスチャン」
《わたしがでございますか》
「えぇ、あなたもプリキュアなのですから」
《…承知いたしました》
 キュアロゼッタは小さく笑うと自分もミラクルライトを手に持った。
 蛇がうねった。目のない顔が展望室をのぞき込む。キュアハートはミラクルライトを持っていない方の手でラブハートアローを持ち替えようとしたが、何が見えたのか、蛇は慌てたように後ろに下がった。
「ミラクルライトに怯えてる」
 キュアダイヤモンドがつぶやいた。この弱々しい光に。
「効いてる!」
「何でも言って!」
 あゆみの言葉は続く。
「わたしはひよっこのプリキュアだけど、わたしも一緒に戦いたいの!」
「わたしたちもいます!」
 キュアエースが言った。キュアロゼッタが続く。
「こちらには十分な戦力があります!」
「道さえ開けば、わたしたちもすぐそこに行く!」
「ホイップ! エール!」
「一緒だよ!!」
〈ありがとう〉
「つながった…」
 あゆみが言い終わらないうちに、ミラクルライトの光が増した。
〈みんなの想い、しっかり届いたよ!!〉
「やった!!」
 遠くで光が散った。キュアダイヤモンドが目を細める。プリキュアの誰かがあの蛇に攻撃を仕掛けたのだ。
「ミラクルライトをむけるようお願いしましたのに」
 キュアロゼッタが困った顔をする。が、キュアダイヤモンドが否定した。
「光の力を使えるようになったってことだよ」
「うん。わたしも力が湧いてきた」
「不思議です。ミラクルライトを持っているわたし自身が力を得られるとは」
 キュアソードが力強く言うが、キュアエースは困惑しているようだった。
「当然だよ」
 キュアハートは全く動じていない。
「だってここには、〈ミラクルライトのプリキュア〉がいるんだからね!」
 聞こえているのかいないのか、あゆみもグレルもエンエンも、ミラクルライトを持った手をまっすぐ伸ばしている。三人のミラクルライトは、キュアハートたちのものより明るく、もう「輝いている」と言っても大げさではないほどになっていた。そして、あゆみの襟もとにあるフーちゃんのエコーキュアデコルも同じ色の光を発している。
 その光に導かれるようにして、キュアハートたちのミラクルライトが光を増した。
 それがレーザーポインターとなる。
 やがて世界を満たしたミラクルライトの光は、惑星ミラクルに向かってまっすぐに伸びて行った。

169makiray:2019/08/08(木) 22:29:34
はだしのプリキュア (12/12)
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「そうと決まればお花見だ!!」
 なぎさの一声で全員集合のお花見が決まった。
 参加者は 50 人を超える。だが、作業をする人もそれだけいる、ということであり、準備は意外にスムーズに進んだ。
 問題は当日。自己紹介の時間が長い、ということだった。特に、プリキュアになったばかりの星奈ひかるたちは、一度に 50 人を覚えなければならず、見るからに混乱していた。例外は羽衣ララで、「記録は AI に任せればいいルン」と涼しい顔である。
「星奈ひかるです」
「坂上あゆみです」
「…」
 ひかるは、あゆみを顔をしばらくのぞき込むように見ていた。
「あの」
「その声!」
「え?」
「ミラクルライトの人だよね!!」
「…え?」
 驚くあゆみをよそに、ひかるは自分の仲間を呼んだ。
「ララ! えれなさん! まどかさん!
 ミラクルライトの人、ここにいたよ!!」
 その三人が驚いた顔で集まって来る。
「あの」
「聞こえてた!」
「聞こえてました!」
「聞こえてたルン!」
「な…に…が…ですか?」
「わたしたちはここにいる!」
 ひかるが叫ぶと、ほかのプリキュアたちも集まってきた。
「わたしたちはあなたの仲間!」
「あなたの友達!」
「すごくうれしかったルン!!」
「え…」
 困惑するあゆみと、目をキラキラさせているひかるたち。ゆかりが後ろに立った。
「つまり、思いがつながったのよね。
 キュアエコーと」
「えっ?!」
「坂上さんがキュアエコーだったんだ!
 きらヤバ〜!!」
 ひかるの声はさらに大きくなる。
「そうですけ――」
「ありがとう!!」
 ひかるはあゆみの手を両手で握った。ありがとう、と言いながら、何度も振る。
「あの」
「だって、ゆかりさんが、キュアエコーが助けてくれないとどうにもならないって」
「すごく不安だったルン」
「そんな言い方はしてないわよ」
「ほんとうにありがとう!!」
 みなが笑う。マナがありすの腕をつついた。
「ありす、あゆみちゃん、取られちゃうよ」
「あゆみさんはいつも人気者ですから」
「はやくツバつけておかないと。四葉にスカウトするんでしょ?」
「え…えぇっ?!」
 あゆみの悲鳴が上がる。
「セバスチャンがあゆみさんをとても高く買っているのです。
 おふたりで新しいプリキュアチームを結成する、というのはどうですか?」
 それぞれがキュアエコーとキュアセバスチャンの組み合わせを想像した。何人かが吹き出したが、黄瀬やよいが難しい顔をしている。腕を組んで考え始めた。
「あ、やよいちゃんの創作スイッチが入った」
「あかんて。今日は花見やんか…」
 同じく難しい顔をしていたグレルが、プルンスの体を剣でつつく。
「何するでプルンスか!」
「お前、タコじゃないのか」
「プルンスは宇宙妖精でプルンス!」
 フワはエンエンの額の模様が気に入ったようで、手で撫でたり唇で触れたりしていた。
「フワ…フワ…フワ!」
「くすぐったいよ…」
 そのかわいらしい様子に皆の笑顔がこぼれる。
 ひかるたちに何度も感謝されているあゆみだけが困っていた。

170makiray:2019/08/08(木) 22:31:18
以上です。
お騒がせしました。

171名無しさん:2019/08/10(土) 00:31:50
>>170
毎回楽しみにしています。
実にあゆみらしい、エコーらしい戦い方!
楽しませて頂きました。

172名無しさん:2019/08/11(日) 22:18:32
>>157>>170
AYUMI SAKAGAMIへの愛が感じられました。
あとなんかグレルとエンエンのぬいぐるみ的なもの欲しくなってきた

173makiray:2020/12/22(火) 21:58:32
ご無沙汰しております、オールスター映画にキュアエコーが登場するお話です。
タイトルは“Messenger of Light.”
12 スレお借りします。

174makiray:2020/12/22(火) 22:02:06
Messenger of Light (1/12)
-----------------------
「さて、昼飯の前に一頑張りすっか」
 久しぶりに晴れた土曜日の朝。
 休日出勤している母の代わりに掃除や洗濯を終えて坂上あゆみが部屋に戻ってくると、グレルは「れんしゅうちょう」を広げた。エンエンが、「僕もやる」と続く。
「あんまり頑張りすぎないでね」
「いや、一日も早く人間の言葉の読み書きをマスターして、あゆみを導いてやらなきゃいけないからな」
「あ…お手数をおかけします」
「あゆみちゃんからのメモくらいは読めるようにならないとね」
 ふたりは一週間ほど前からひらがなの練習をしている。子ども用の練習帳を買ってやると熱心に取り組み始めた。続くだろうか、途中で飽きるのではないだろうか、と思っていたが、何せ勉強の材料はいくらでも目に入ってくる。飽きたり音を上げたりする様子はなかった。
「あれ」
「なんだよ」
「もう 8p 目なの?」
「そうだよ。せっかくガクシューイヨクが一杯なんだから邪魔すんなよな」
「昨日は 6p 目だったでしょ。だめだよ飛ばしちゃ」
「もうできちゃったんだよ」
「グレル」
「本当だよ。ほら」
 グレルは不服そうに 7p 目を開いて見せた。確かにもう書き込んである。さっき始めたばかりではなかったのか。あるいは昨日のうちに 7p 目まで進んでしまったのか。詰め込み過ぎるとよくないと思って一日一ページと約束したのに。
「俺にかかればチョロいもんだよ。
 ほら、上手いだろう?」
 自慢げに練習帳をトントンと叩く。
「…?」
 あゆみは練習帳を手に取った。確かにきれいだ。昨日今日初めて書いたとは思えない。
「エンエンは?」
 言われるとエンエンは 8p 目を両手で隠した。エンエンもそこまで進んでいるのか。お願い、ちょっと見せて、と取り上げる。同じ。7p 目の字は、小学生と言っても通るくらいきれいだった。その前のページとははっきり違う。ひらがなの書き方に慣れた、ということなのだろうか。
 あるいは、ここからの上達は早いかもしれない。グレルもエンエンも妖精だから体は小さいが、子どもというわけでもないのだし、そう遠くないうちに漢字の練習に進んでもいいのかもしれなかった。
「ありがとう。
 でも、やっぱり一日一ページでね。その一ページをゆっくりしっかりやった方が身につくよ」
 子どもの頃に言われて、ちょっと気を悪くしたことのある台詞を自分が言うことになるとは。
「あゆみもしっかりやるんだぞ」
「…。
 はい」
 グレルとエンエンがひらがなの練習を始めるのと同時に、ふたりからあゆみにも課題が与えられた。プリキュア教科書の文字を読めるようになれ、というものだった。しょうがない。一緒に勉強することにしようか。あゆみは栞を目印にプリキュア教科書のページを開いた。
「…」
 妙に読みやすい。ここは前にやったページではないだろうか。栞を間違って挟んだのか。あゆみは前のページに戻ってみたが、その表情が次第に険しくなる。
 このページだけ、今日初めて読んだはずのこの 7p 目だけが、異常に読みやすい。暗唱できたりするわけではない。内容も覚えてはいない。「読みやすい」のだった。
 不思議そうに見ていたグレルとエンエンと目が合う。なんでもない、と取り繕うこともできない。逆に、背筋を悪寒が駆け上がった。
 同じではないのか。
 グレルとエンエンのひらがなが、練習帳の 7p 目でやけにきれいに書けていることと、プリキュア教科書の 7p 目がやけに読みやすいこととは、同じ現象なのではないのか。
「あゆみちゃん…?」
「どうした?」
〈――み。
 ――ゆみ〉
「フーちゃん?」
 三人の頭の中にフーちゃんの声が響いた。あゆみは襟元からペンダントを取り出した。フーちゃんのエコーキュアデコルが、見たことのない早さで明滅している。
〈あゆみ〉
「どうしたの」
 その声に切迫感がある。グレルとエンエンは、あゆみの手の上のエコーキュアデコルを心配そうに覗き込んだ。
〈あゆみ!〉
「フーちゃん、どうしたの」
〈キュアエコーになって!

175makiray:2020/12/23(水) 20:59:27
Messenger of Light (2/12)
-----------------------
「フーちゃん、どうしたの」
〈キュアエコーになって!
 空を見て!!〉
「フーちゃん!?」
〈お願い。キュアエコーになって!!〉
「落ち着いて――」
〈早く!!〉
 エコーキュアデコルを見つめて困惑しているあゆみの手をグレルが引っ張った。
「変身するぞ」
「でも」
「フーちゃんがこんな言い方するなんて普通じゃないよ」
 エンエンも真剣な顔で言う。
「何か理由があるんだ。
 急ぐぞ」
「…。
 うん」
 あゆみはその場で立ち上がり、左手をグレル、右手をエンエンとつないだ。エコーキュアデコルから滲み出した光が、その三角形を縁取る。光の渦はあゆみの周りを舞った後、あゆみの身体に吸い込まれていった。
「屋上に行こう」
 キュアエコーはあゆみの部屋の窓を開けると、手すりを足掛かりに一気にマンションの屋上に飛んだ。

 カツ、とキャエコーのヒールが音を立てた。
 風のない好天。確か、晴れるのは三日ぶり、とかニュースで言っていた。足元から街の喧騒が聞こえる。
「フーちゃん、外に出たよ」
〈今、何時?〉
「もうすぐお昼じゃないかな。それがどうしたの――」
 どこかから鐘の音が聞こえる。正午だろう。
〈エコー、空を見て!〉
 フーちゃんの声は悲鳴に近かった。キュアエコーは理由を問うのをやめ、周囲を見渡した。自分の町、繁華街、駅、学校のある方角、さらに遠く、緑にかすんだ山の――
「エコー、あれ」
 気づいていた。山の向こうで小さな光が揺れている。三つ。
「…」
「ミラクルライトの…光?」
 そう言っているうちに光は見えなくなった。
「フーちゃん、どういうこと?」
〈あれは――〉

176makiray:2020/12/24(木) 21:27:02
Messenger of Light (3/12)
-----------------------
 あゆみは体を起こすと大きな息をついた。
(変な夢。
 尻切れトンボだし)
 夢に整合性を求めるのは間違っているのかもしれないが。
 今日は母が休日出勤をしている。掃除に洗濯と、やることはたくさんあった。寝坊してもいられない。グレルとエンエンはここのところ、ひらがなの練習に熱中しているから、その間に片づけてしまおう。
 ベッドから降りようとして手をつく。かすかな痛み。
 右手を上げてみて驚いた。エコーキュアデコルを握っていた。こわばった手を広げてみると、掌にデコルの跡がついている。
 いつもは枕元に置いておくのに、なぜ今日に限って握りしめているのだ。
「あゆみちゃん…それ…」
 起きてきたエンエンがそれを指さして何か言いかけた。だが、言葉が続かない。
「どうしたの?」
 また、「それ…」と言ったまま、エンエンは首を傾げた。そのまま、ぼんやりした声で「おはよう」と言う。グレルも起きたようだった。
「まだ眠いぜ。変な夢見るし」
「どんな夢?」
「フーちゃんが…」
「うん」
「フーちゃんが…あれ?」
「忘れちゃったの?」
「もういいよ、夢なんか」
 よくはない、あゆみがそう感じたのと同時に、エコーキュアデコルが熱を持った。
「フーちゃん?」
〈あゆみ…〉
「どうしたの?」
 フーちゃんの声に切迫感がある。
〈あゆみ!
 あゆみ!!〉
「フーちゃん!?」
 様子がおかしい。フーちゃんの声はやがて鳴き声になった。もう止まらなかった。あゆみはエコーキュアデコルを両手に包み胸元に抱いた。

〈またひとりぼっちになったと思った〉
 フーちゃんの言葉に、あゆみたちが驚いた。あゆみたちがフーちゃんをひとりきりにするはずがない。
〈でも、あゆみたちは…フーちゃんのことを忘れてた〉
「そんなことない」
「絶対にないぞ!」
「昨日だって一緒に遊んだじゃない」
〈違う…違う〉
「フーちゃん、お願い。どういうことなのか教えて。
 私が悪いんだったら一杯あやまるから」
〈あゆみは悪くない!〉
「じゃ、俺か?」
「僕なのかな」
〈悪いのは〉
 三人が言葉を待つ。何がフーちゃんをこんなに苦しめているのか。
〈リフレイン…〉

177makiray:2020/12/24(木) 21:29:07
Messenger of Light (4/12)
-----------------------
「時間の妖精…?」
 机の上にエコーキュアデコルを置く。その上に小さなフーちゃんの姿が映し出された。
 フーちゃんによれば、時間の妖精は二人いて、過去を司るリフレインと、未来を司るミラクルンと言うらしい。
 リフレインは自分が宿っている時計塔が解体されるのを防ぐため、「土曜日の正午」が来るたびに時間を巻き戻しているのだという。
〈あゆみたちは、そのたびにみんな忘れて、元に戻る。
 フーちゃんのことも〉
 またフーちゃんの声が小さくなる。あゆみは手を握りしめた。自分が、フーちゃんのことを忘れたらしい、という事実に怯えながら。
「でも、フーちゃんは、違うの?」
 エンエンがおずおずと言った。
 誰も答えなかったが、もともとはフュージョンの一部であるフーちゃんは不自然な時間の流れの影響を受けない、ということなのだろうか。
「フーちゃんは、私たちに何度もそのことを教えてくれたのね?」
〈何回も…何回も…〉
「ごめんなさい」
「ごめんな」
「ごめんね」
〈あゆみも、グレルも、エンエンも悪くない!〉
 また泣き出す。エンエンはもちろんだが、驚いたことにグレルもベソをかいていた。
 そうやってゆっくりとフーちゃんから話を聞いていく。
 どうやらフーちゃんは「毎日」あゆみに事情を伝えたらしい。あゆみたちはそのたびにどうにかしようとアクションを起こすのだが、すぐに時間切れになってしまう、ということを繰り返していた、ということのようだった。
 そして、不自然ではあっても時間はそのように流れて――あるいは、戻って――おり、フーちゃんだけがそれに逆らっている、という状態はフーちゃんの身体にかなりの負担を与えたらしく、まもなくフーちゃんはあゆみにコンタクトをとることができなくなった。疲労困憊の状態から立ち直ったのが「数日前」で、「昨日」になってやっとあゆみをキュアエコーにするところまでこぎつけたのだった。
「フーちゃんのおかげだよ」
〈…〉
 エンエンが言ったが、フーちゃんは答えなかった。
「グッジョブだぜ、フーちゃん」
〈フーちゃんは何もしてない…〉
 どうやら照れている。あゆみはほっとした。
 おそらく「何カ月も」フーちゃんをひとりきりにした。しかも、何度も「フーちゃんのことを忘れた」のだ。それがリフレインという妖精の企みのせいで、正確には「忘れた」のではなく、土曜日の午前中をなかったことにされた、ということなのだとしても、だったらしょうがないよね、と言えるようなことではなかった。
(ごめんね…フーちゃん)
 プリキュアになれたこと、グレルやエンエンと会えたこと、そもそも、この町で最初の友達になってくれたこと――フーちゃんには感謝してもしきれないほどのものをもらっている。そのお返しが、「何カ月ものおきざり」だとしたら、とても許されることではなかった。あゆみは、胸の中で「ごめんね」を繰り返した。
〈あゆみ…?〉
 何かに気づいたらしい。フーちゃんが心配そうな声になった。
「それで、あゆみ。どうするんだ」
「え…?」
「え、じゃないだろう。そのリフレインってやつのせいで、この世界がおかしくなっちまってるんだ」
「プリキュアの出番だよね」
「あ、うん」
 あゆみは最低限の身支度を終えると、トートバッグを肩にかけた。グレルとエンエンが飛び込む。
 すこやか市に向かう。そのリフレインとミラクルンに会わなければ。
 腕時計を見る。9時半。間に合うだろうか。
 いや、考えている間に行動だ。あゆみはバタンと音をさせて家のドアを閉じた。

178名無しさん:2020/12/25(金) 00:00:10
>>177
待ってました、makirayさんのキュアエコーSS!
続き楽しみにお待ちしてます!!

179makiray:2020/12/25(金) 22:24:28
Messenger of Light (5/12)
-----------------------
「なんで発車しないんだろう」
 走りながらスマホで経路案内のアプリを起動し、駅に着いたところで調べた。11 時半前にはすこやか駅に着けそうだ。何度か乗り換える。どの列車も定刻通りに進んだ――と思っていたが、あと駅三つ、というところで電車は長い停車をした。
 もう一度、アプリで確認する。待ち合わせがあるダイヤではなかった。
「もう 11 時半だ…」
 確かに、すぐ発車すれば 12 時前にすこやか駅にはつく。だが、それからその時計塔のところまで行かなければならない。あゆみはつかまっていた手すりを握りしめた。
《ご迷惑をおかけしております》
 車内アナウンス。イライラしていたほかの乗客も顔を上げた。
《運行中に異音を検知、臨時の点検をしておりましたが、本車両の運行を見合わせることといたしました》
「え?」
 エンエンもバッグの中で声を上げた。
《お忙しいところ申し訳ありませんが、ホームで次の列車をお待ちください。
 なお、後続の列車は 10 分ほどで到着いたしますが、本車両を移動してからの入線となります。発車には更に 10 分ほどを見込んでおります》
「合わせて 20 分」
 これからの行程がどれだけスムーズに進んでも、正午までにすこやか駅には着かない。
 あゆみは列車を飛び出した。
「どうするんだよ、あゆみ!」
「ここからタクシーで行く」
 間に合うかどうかはわからない。だが、すこやか駅から時計塔に行くのではなく、ここから直行すればすこしは時間を稼げるのではないか。
 あゆみはホームの階段を駆け上がった。

 タクシーのドアに手をかける――
 あゆみは、自分が息を切らせていることに気づいた。
 随分と気持ちが焦っている。リアルな夢だった。
「…。
 違う。
 フーちゃん!」
 グレルとエンエンも飛び起きた。慌てた顔。多分、自分も似たような表情をしているのだろう。
〈あゆみ!!〉
 フーちゃんは、今度は泣かなかった。
 よかった。覚えている。
 あゆみはジャージのままリビングに走った。テレビをつける。朝のニュース番組の隅に表示されている日付は、昨日と同じだった。天気予報も「三日ぶりの晴天」と同じことを繰り返している。
 一昨日はキュアエコーになって、ミラクルライトらしい光を目撃した。
 昨日は、フーちゃんから説明を聞いて、すこやか市に向かった。
 どちらも時間切れにはなったが、今日は初めから、世界はループしているが自分たちだけがそれを知っている、という状態。事態はいい方向に向かっている。今日こそ。それには、昨日とは違うアプローチが必要だ。
 スマートホンを取り上げる。
「まず、みんなに知らせよう」
「ジョーホーキョーユーってやつだな」
‘P’の文字が光で縁取られたアイコンをタップする。四葉ありすがグループ会社に作らせた、プリキュア同士の連絡アプリだ。最初は既存の SNS を使っていたが、利用不能になるというアクシデントが2回起こったところで、一般のシステムではいざという時に役に立たない、ということになった。
 あゆみは、「リフレインという妖精が時間を操っている」というメッセージを最初に流した。中には数カ月ぶりの人もいる。まず全員に、これが時候のあいさつやお花見のお誘いなどではなく、異常事態発生のアラートであることを認識してもらうためだ。詳細の情報を後から付け加える。
「これでよし」
「大騒ぎになるぞ」
「出かける準備をしておこう」
 フーちゃんのエコーキュアデコルを改めて首にかけた。
 どこに向かえばいいのかはまだわからないが、残り時間は少ない。あと2時間半、正午までになんとかしなければ、また同じ一日が繰り返される。

180makiray:2020/12/26(土) 21:54:14
Messenger of Light (6/12)
-----------------------
 だが。
「もう9時半…」
 昨日も一昨日も、8時過ぎに起きて休日出勤をしている母親の代わりに家事をした。今日はなぜ一時間半も遅れているのだ。
「時間の流れに逆らったからかな…」
 エンエンが言った。
 フーちゃんは、リフレインが繰り返した不自然な時間の流れのせいで力を失いかけた。妖精ではなく、人間に過ぎないあゆみは、たった数日で疲弊してしまうのかもしれなかった。
「急がないと」
 どうしても今日中に解決しなければ。
「誰か返事をしてください!」
 あゆみは、スマートホンを叩くようにメッセージを入力した。
《ちょっと待ってね。整理してるから》
 最初に反応したのは水無月かれんだった。
《誰か異常に気づいた人はいますか?》
 これは雪城ほのか。
《ちょっとレスポンスが悪いわね。朝早いし》
 と蒼乃美希。
「でも」
 つい声に出してしまうあゆみ。
《起こしますわね》
 四葉ありすが言ったかと思うと、あゆみの手の中のスマートホンが震え、大きな音が鳴った。こういうときのために、機器の設定を無視して大きな音を出す機能を用意しておいたのだという。
「びっくりしちゃったよ」
「無茶すんなー、あいつ」
《おはよ…》
《ちょっと、どういうこと?!》
《あゆみちゃん!!》
  星空みゆきに続いて、美墨なぎさ、日向咲と次々に入ってくる。挨拶もそこそこに驚きのレスポンスが続いた。
「ごめんなさい、すぐには信じられないと思うんですけど」
《あゆみがそんな嘘で私たちを叩き起こすとは思わない》
《フーちゃんなんでしょ。納得だよ》
《気になるのは、あゆみが見たっていう光ね》
《方角は?》
「西の方…です」
《もうちょっと絞れない? 建物とか目印にして》
「屋上に上がればわかるかも」
《あまり意味はないと思います。ほんの少しの差でも、遠ければ遠いほどずれが大きくなりますから。四葉のチームが伺って精密に測定できればまだしも》
《今からでも迎えない? まだ2時間以上あるわ》
《四葉を出すことには躊躇せざるを得ません》
《なんで?》
《正午になると時間が巻き戻されるのですよね。そのとき、精密機器や大型機械の動作も正常に巻き戻されるのでしょうか》
《だって、今まで何度も起こってるんでしょ》
《例えばのお話ですが。
 ミサイルが着弾する瞬間に時間が戻されたら、そのミサイルは間違いなく爆発せずに発射した基地に戻るのでしょうか》
 またレスポンスが途切れる。
《その電車の故障というのが気になります。ひょっとしたら、完全に戻るわけではないのでは》
《点検なしにずっと走らせ続けた、ってことかもしれないんだね》
《じゃ、急がないと!!》
《一般的な精度の機器を持って陸路で移動、なら可能かと思いますが、装備と車両の再点検をしてからだと》
《明日に持ち越しになる可能性があるわね》
「それはだめです!」
 あゆみはボタンを連打してしまった。“!”がいくつも並ぶ。
《あゆみちゃん?》
 もう、フーちゃんに、忘れられるかも、という思いをさせたくない。それは絶対にだめだった。今日中に解決しなければ。あと2時間で。

181makiray:2020/12/26(土) 21:55:43
Messenger of Light (7/12)
-----------------------
《よろしいですか》
 香久矢まどかだった。星空ひかるたちからメッセージが来ないのはなぜだろうと思っていたのだが。
《今、私たちの前で同じことをおっしゃってる人がいます》
《!》
《平光ひなたさんという方をご存知の方はいらっしゃいますか?》
 またレスポンスが止まる。知らない名前だ。
《沢泉ちゆさんについての情報を求めます》
 ルールー。そう言えば、野乃はなたちからも連絡がなかったのだった。
《プリキュアだとおっしゃっています》
《マジ?!》
《今、どちらですか》
《すこやか市です》
《え、ルールーたちも?》
《揃ってるの?》
《はい。今日はすこやか市の温泉巡りをする予定でした。トラブルがいくつかあって実現可能性は3.8%にまで下がっていたのですが、さらに下がっているようです》
《私たちはキャンプです》
《いいなぁ》
《それどころじゃないでしょ!》
《その方は本物のプリキュアの可能性が高いと思います。
 実は以前から、すこやか市周辺でプリキュアのものと思しき光を観測していたのです。なかなか確証を掴めなかったのですが、実在したのですね》
「じゃぁ、その人たちも、時間が巻き戻されていることを知っているんですね?!」
《なんで気づく人と気づかない人がいるんだろう》
《パートナー妖精が、フーちゃんみたいな力を持っているとか》
《ミラクルンライトのおかげだと言っています》
《ミラクルライトじゃなくて?》
《見せていただきました。よく似た形状です。ミラクルライトの一種とみなして差し支えないと思われます》
《だからあゆみちゃんなんだ》
《ミラクルライトのプリキュアだから!!》
《フーちゃんとあゆみちゃん、最強!!》
 夢原のぞみが、グレルが聞いたら拗ねそうな書き込みをした。
「これからすこやか市に行きます」
 昨日よりスタートが遅い。また車両故障があれば間に合わないかもしれない。だが、昨日までと決定的な違いがある。
 すこやか市にはプリキュアがいるのだ。正午までに合流できれば、必ず事態を変えられる。
《私たちがあゆみちゃんを乗せていく》
「リコちゃん」
《魔法の箒ならもっと早いから》
《フーちゃんと一緒! はー!》
《行ける人だけでも行きましょう。私も坂本の車で向かいます》
《かれんさん、あたしたちを拾ってくれませんか》
《みんな、ミラクルライトを用意して。
 そうすれば、その不自然な時間の流れに巻き込まれずに済む》
 月影ゆりの指示が飛ぶ。
 あゆみは、グレルとエンエンが飛び込んだトートバッグを肩にかけた。

182makiray:2020/12/27(日) 23:01:54
Messenger of Light (8/12)
-----------------------
 あゆみは腕時計を見た。11 時半を過ぎた。間に合うだろうか。
「ごめんね。急いではいるんだけど」
 つかまっている腕の力が緩んだのでそう気づいたのだろう、十六夜リコが前を見たまま言った。
「ううん。ありがとう」
 箒で飛ぶこと自体は魔法の力によるものだが、ワープするわけではない。確かに、街の景色は足元を高速で流れていき、それは列車などよりは早いのだが、飛行機には遠く及ばない。
(お願い。間に合って)
 もう二度とフーちゃんのことを忘れるわけにはいかない。それは、絶対に、だめだ。
「なんか嫌な感じがする」
 花海ことはが険しい表情で言った。朝日奈みらいやリコは感じなかったが、すこやか市が近づくにつれて、ことはの不快感は強くなっていく。
「ひょっとしたらもうプリキュアたちが戦ってるのかも」
 みらいの箒を握る手に力がこもった。変身してから来ればよかった。変身するにはみらいとリコがモフルンを介して手をつなぐ必要がある。飛んでいる間は無理だ。
「見て!」
 あゆみが指さした。グレルとエンエンも肩のバッグから顔を出す。
 すこやか市と思われる場所から、光が伸びていく。
「はー!
 ミラクルライトの光だ!」
「あそこにプリキュアがいるのね」
 つまり戦いは始まっている。
(あの光の下にプリキュアが)
 知らず、リコに掴まっているあゆみの手に力がこもった。
(キュアスターや、キュアエールや…。
 私たちがまだ会ったことのないプリキュアが)
 そしておそらく、ミラクルライトによる応援が必要になるほど、プリキュアは苦戦しているのだ。
「グレル、エンエン」
「うん」
「行くか!」
「待って、あゆみちゃん、ここじゃ」
「今すぐミラクルライトが必要なの!」
 みらいの箒が隣に寄ってきた。
「はーちゃん、前をお願い」
「はー!」
 ことはが先頭を切る。そうしてできた空気の流れの中を、みらいとリコの箒が進む。これでいくらか安定するはずだった。
「リコ」
 みらいの手が伸びてきた。リコは片手を離すとそれを握った。
 呼吸を合わせる。ふたりの箒は、何度か前後したが、やがてぴったりと並んだ。
「あゆみちゃん、今だよ」
「フーちゃん、お願い!」
 グレルとエンエンはバッグを飛び出し、あゆみの肩に乗った。胸元のエコーキュアデコルが輝き、純白の光が三人を包んだ。
「想いよ届け、キュアエコー!」
 キュアエコーは、みらいとリコの箒の上に立った。キュアエコーの手の中のミラクルライト、グレルとエンエンのミラクルライト、エコーキュアデコルの光が強さを増す。
「みんなの光を預けて!」

183makiray:2020/12/28(月) 22:57:23
Messenger of Light (9/12)
-------------------------
「お邪魔します!!」
 雪城ほのかと九条ひかりは、美墨なぎさの部屋に飛び込んだ。彼女たちが今行けるところで一番、高いのがそこだった。
「誰もいないから。早く!」
 サッシを全開にする。
「すこやか市ってどっち?」
 地図で照らし合わせて、ほのかが指さした。
 そちらに向けてミラクルライトを振る。
「あゆみ、頼んだよ!」

「天文台、開けてもらったから」
「え、いいの?」
「急ごう」
 舞は珍しく父に無理な頼みごとをした。理由は、なぎさたちと同じ。彼女たちがすぐに行ける場所で遮る物がないところがそこだった。
 霧生薫・満とともに、すこやか市の方角に向けてミラクルライトを振る。
「お願い、あたしたちの光を届けて!」

「間に合わないわね」
 水無月かれんは何度も時計を見た。
 週末の幹線道路は混雑していた。渋滞とまではいかないが、正午までにすこやか市に着くのは無理なようだった。坂本が、申し訳ありません、と言う。
「気にしないで」
 秋元こまちはミラクルライトを握りしめた。
 春日野うららがミラクルライトを握って目を閉じる。夏木りんが続いて祈る。美々野くるみは、せめてもと車の窓を開けた。
 見知らぬプリキュアに呼びかける。私たちは、あなたの味方、友人なのだ、と。
 のぞみの手の中のミラクルライトの光が強まった。

「学校の屋上に行こう!」
 桃園ラブからの提案を受けると、蒼乃美希は鳥越学園、山吹祈里は白詰草女子学院へと走った。待ち合わせしている余裕はなかった。
 ラブと東せつなは屋上に飛び出すと、さらに管理施設の上へ登る。
「精一杯、頑張りましょう!」
「受け取って、あたしたちの光!」

「中からぁ?」
 来海えりかが、ゆりの提案に大声を上げた。
「この植物園の窓全てをミラクルライトの光で満たすのよ」
「そうか、ミラクルライトだけの光より大きくなる」
 明堂院いつきが力強くうなづいた。
「おばあちゃんもお願いします!」
 花咲つぼみがミラクルライトを掲げた。
「私たちの心の花は絶対に枯れません!」

「揃ったけど…」
 北条響が事情を把握できない様子で言った。
 ミラクルライトの光を届けたい、と相談してみると、調辺音吉は四人を「調べの館」に集めた。館の中に流れている水路が使えると言う。
「心配するな、水と光は相性がいい。
 おぬしらの友達にも水のプリキュアがおるじゃろう」
「すこやか市は海辺の町だって聞いたわ」
 南野奏が言う。調辺アコはうなづくと自分のミラクルライトを水路にかざした。黒川エレンのライトの光がそれに重なる。
「あたしたちのハーモニー、響かせよう!」

「プリキュア スマイル・チャージ!」
 みゆきたちはふしぎ図書館に集まると変身した。ここなら人目を気にする必要はない。プリキュアになれば光の力を最大限に発揮できるはずだ。
「あゆみちゃんならきっとやってくれるよ」
「うちらはうちらのできることをやる」
「私たちだってヒーローなんだから」
「直球勝負だよ!」
「これが私たちの道です!」

184makiray:2020/12/28(月) 22:59:00
Messenger of Light (10/12)
--------------------------

 剣崎真琴はカメラの前に立っている相田マナたちにサインを送った。今だ。
 配信ライブのクライマックス。マナたちは見学の予定だったが、戦っているプリキュアたちの応援に向かった方がいいのではないか、と結論が出かけたとき、菱川六花が「いい考えがある」と言った。
 真琴のサインを合図に、タイミングを揃えてマナたちがミラクルライトを振る。急いで集めたおそろいのコスチューム、四人の姿がシルエットでカメラに映る。五つのライトの光が全世界に配信されていった。
「ともに上のステージにまいりましょう!」

「プリキュア くるりんミラーチェンジ!」
 キュアラブリーたちはブルーに導かれてクロスミラールームに入った。
 真琴のライブで配信されるミラクルライトの光は、世界中に届きはするが、一般の通信回線を通るので決して強くはない。クロスミラールームを通じて世界中のプリキュアと連携、彼女たちのミラクルライトの光と、配信を映し出しているモニタから発せられるマナたちのミラクルライトを共鳴させる、という作戦だった。
「プリンセス、ヨーロッパをお願い」
「ラジャー!」
 キュアハニーがアメリカ、キュアフォーチュンがアフリカとオセアニア、キュアラブリーがアジアを担当する。
「今こそ、あたしたちの愛とラブとラブリーを!!」

 できれば高いところがよかったが、いかに海藤みなみが信頼篤い生徒会長でも、普段は施錠されているノーブル学園の時計塔の開錠許可を、理由の説明なく緊急に得るのは難しかった。
「そうだ、海は?」
 天ノ川きららが叫んだ。
「さすがです、きらら」
「だてに何度も海を越えてません」
 紅城トワの言葉に、きららは「にひ」と笑った。
 みなみが駆け出す。春野はるかも続いた。
 理屈は響たちと同じ。海は世界中につながっている。学園の前の海をミラクルライトの光で満たすことができれば、それは当然、すこやか市にも届くはずだった。
「咲き誇れ、あたしたちの光!」

 宇佐美いちかがいちご坂を駆け上がる。剣城あきらが追い越していった。彼女には珍しく、いちかを見向きもせず走っていく。今は、誰が一番かは重要ではない。とにかく一秒でも早く光を届けなければ。有栖川ひまりも必死の表情だった。
 いちご山の頂上。あきらがミラクルライトをかざした。次にたどり着いた立神あおいが荒い息のまま続く。
 妖精たちが、何事かと顔をのぞかせた。
「あなたたちも祈って!」
 琴爪ゆかりが叫んだ。
 キラ星シエルがライトを点灯させる。
「これでパルフェよ!」

 その光はすべてそれぞれの頭上へ延びて行き、世界を覆っていく。濃淡を持って揺れる光の波は、まるで太陽の表面で踊るプラズマのようだった。
 キュアエコーが高々とミラクルライトを掲げる。グレルとエンエンも続いた。
 ミラクルライトが熱を持っている。世界中の光に呼応しているのだ。あとは、その光をすこやか市に導くだけだ。
「世界に響け、みんなの想い!
 プリキュア ハートフル・エコー!!」
 ミラクルライトを持った手を前に伸ばす。
 世界を覆った光が、一斉にすこやか市へと向きを変えた。

185makiray:2020/12/29(火) 22:14:37
Messenger of Light (11/12)
--------------------------

「あ、あゆみちゃん」
「みらいちゃんもお花見ルン?」
「ここで会えるなんて、キラやばー!」
 すこやか市の学校跡。
「あの…解決した?」
 みらいは、天宮えれなに耳打ちした。
 ひかるたちは桜の木の下にシートを広げて花見の真っ最中だったのである。
「あ、うん。おかげさまで」
「のぞみ先輩なのです」
 学校前の道に、水無月家の大きな車は入れなかった。のぞみたちは途中から徒歩でやってきた。
「やっぱり間に合わなかったわね」
「間に合ったんじゃないですかね。お花見には」
 かれんが悔しそうに言うと、りんが混ぜ返した。
 その様子を、花寺のどかは、友だちの多い人たちだなぁ、と思いながら見ていた。
「あ、のどかちゃん、紹介するね」
 お互いの自己紹介の後、はなが付け加えた。
「さっきの光は、あゆみちゃんの光なんだよ」
「え?」
「あゆみさんがキュアエコーなんです」
 薬師寺さあやが、微笑みながら言った。
「あ――」
 さっき説明を受けた。世界中のプリキュアがミラクルライトを使って光を生み出した。それをキュアエコーが誘導したのだ、と。
 この栗色のツインテールの少女がキュアエコー。
「ありがとうございます!」
「やめて、やめて」
 あゆみは笑いながらものどかの体を起こした。沢泉ちゆがやはり会釈をしていて、平光ひなたが手を振っていた。照れくささを感じながらも、あゆみも会釈を返した。
(私は、自分の役割を果たしただけ――)
 いや、それは違う。おそらく今回は、プリキュアの力を利用した、と言う方が正しい。
〈あ…。
 ミラクルンと…リフレイン〉
「え?」
 あゆみはフーちゃんの声に声を上げた。時計台の上に影が二つ。大きな方がリフレイン、小さな方がミラクルン。あゆみはとっさにフーちゃんのエコーキュアデコルを両手でかばった。
「どうしたの、あゆみちゃん」
「リフレインが時計台の上に」
「見えるの?!」
「だって――」
 あゆみはのどかと時計台を何度も見た。のどかたちには見えていないのか。
「もう大丈夫」
 のどかが言った。
「坂上さんが届けてくれた光でリフレインのお手当ては終わったから。もう、時間を勝手に巻き戻したりはしないと思う」
「…」
 そういうことなのだろうか。確かに二人の姿はぼやけ始めている。
〈フーちゃんには見える。でも、本当はあゆみたちには見えないはず〉
 リフレインとミラクルンの姿の向こうに学校の古い屋根が透けて見えるようになった。リフレインは静かな表情でこちらを見ていた。ミラクルンが小さな手を振る。
 そうか。時間の妖精の本来の姿は、人間には見えないものなのか。
 だとすれば今見えているのは、フーちゃんの力を借りているからか、それともミラクルンライトを生み出した妖精と「ミラクルライトのプリキュア」との間になんらかの共通点があるからなのか。
 あゆみは小さく手を振った。ミラクルンが笑ったような気がした。やがてどちらの姿も見えなくなった。

186makiray:2020/12/29(火) 22:21:21
Messenger of Light (12/12)
--------------------------

〈あゆみ〉
「なに?」
〈フーちゃんは怒ってない〉
「…」
 グレルとエンエンが辺りをうかがいながらバッグの縁に登ってきた。
「怒ってもいいんだぞ」
「僕たちのためにフーちゃんが――」
〈怒ってない〉
「うん」
 ありがとう。そして、ごめんなさい。
 私は忘れない。フーちゃんに悲しくて悔しい思いをさせてしまったこと。
 独りぼっちがどれだけ辛いかを知っている自分が、大好きな友だちを独りぼっちにしてしまったことを。
(絶対に忘れないから)
〈怒ってない〉
「うん…」
 グレルとエンエンも困ったように顔を見合わせた。
〈それよりフーちゃんもみんなに紹介してほしい。
 みんなと友だちになりたい〉
「わかった。
 妖精さんたちにも紹介してもらおうね」
 さっきからユニが呼んでいる。しびれを切らしたのか、輝木ほまれが迎えに来た。
 ほまれに手を引かれ、あゆみは仲間たちのもとへ急いだ。

187makiray:2020/12/29(火) 22:23:45
以上です。
お騒がせしました。

188名無しさん:2020/12/30(水) 09:34:20
>>187
楽しませて頂きました!
キュアエコーが、プリキュアみんなの輪の中に普通に居るってだけで凄く嬉しい。
今回のフーちゃんは何だかいじらしいです。

189ゾンリー:2021/05/29(土) 21:20:50
こんばんは、ゾンリーです。
「映画 ヒーリングっど❤プリキュア ゆめのまちでキュン!っとGoGo!大変身!!」のSSです。
ネタバレありですので、DVD含めこれから映画を観る方はご注意下さい。
2レス使わせて頂きます。

190ゾンリー:2021/05/29(土) 21:22:43
 柔らかい毛布のぬくもりを感じながら、私は目を覚ました。腕を枕にして突っ伏していたからか、麻痺してるのかどうにも腕の感覚が薄い。大きく伸びをして感覚を取り戻していると、とある人物と目が合った。
「あら、お姫様のお目覚めね」
「おはようございます……ふあぁ」
 静かに食器を片付けるこの人こそ、のどかちゃんのお母さん――花寺やすこさんだ。
「……早起きなんですね」
「慣れているだけよ。まだみんな起きるまで時間あるでしょうし、寝ててもいいのよ?」
「ううん、手伝います」
 やくそく通り開かれた私のお誕生日会。楽しい楽しいパーティーは夜遅くまで続き、私もお母さんものどかちゃんたち皆も、いつの間にか眠っていたらしい。
 ……その反動で、部屋はひどい有様なんだけどね。
「じゃあ、こっちのゴミを纏めてもらえるかしら」
 手渡されたコンビニエンスストアのレジ袋に、次々とお菓子の空き袋やらを入れていく。
「手際がいいわね。お家でもよくお手伝いしてたの?」
「お母さん、研究に夢中になるとすぐ散らかしちゃうから」
 そう言って苦笑しながら、セレブ堂シュークリームの空き箱を畳む。「箱は潰してから捨てる」お片付けの常識だ。
 散らかったゴミを纏めれば、随分と部屋がすっきりした。
「……このくらいだったら、みんなが起きてからでも大丈夫そうね。そうだ、ちょっとお散歩にでも付き合ってくれないかしら? 朝ごはんも買いに行かないといけないし」
 優しく微笑みかけるおばさま。私はお母さんがまだ熟睡しているのを確認して、大きく頷いた。時刻はまだ午前六時半前。設えられたメモ紙を置手紙にして、私たちはホテルの一室を後にした。

 高く、まだ日が昇りきらない白んだ空。海沿いの公園を私たちは歩く。吹きすさぶ、強いくらいの潮風が寝ぼけ頭に心地よい刺激になっていた。
「この時間でも、やっぱり人はそこそこいるのね」
 公園には散歩に来た人くらいしか見当たらないけど、少し遠くに目をやれば、スーツ姿のサラリーマンが何人も歩いているのが確認できた。
「うん、そろそろ通勤ラッシュ……私も学校に行くときぎゅうぎゅうに押されて、もう大変で」
「あら、すこやか市にくればそんなこと無くなるわよ?」
「ホント? 行ってみたいなぁ……!」
「大歓迎。いつでもいらっしゃい」
 未だ見ぬのどかな風景に想いを馳せながら、それでも愛しいこの街を港越しに眺める。ゆめアールの大規模実験が終了して一日。街はいつもの風景を取り戻していた。
「……この前は、大変だったわね」
 手すりに体重を預け、おばさまが静かに問いかける。おばさまは、私が夢の力の精霊――人間じゃないことを知らない。それなのに心配してくれたのが嬉しくて、でもお母さんの想いが伝わって無いっぽいのが悔しくて、私は息を漏らした。
「うん、ちょっとだけ。でも、私はお母さんの研究を応援する。これからも、ずっと」
 欄干に佇んでいたカモメが一羽、群れを見つけて羽ばたいていく。目で追った先にある太陽が眩しくて、染みた。
「そう……よね」
「だから、また東京に遊びに来てください! その時はもっとすごいゆめアールを見せますから!」
 これはお誘いと、自分への決意。研究を絶対に成功させて、お母さんのイメージアップを実現する。名付けて「お母さんキラキラ大作戦」! ……ちょっとダサいかな? まあいっか。
 私の熱量に押されたのか、おばさまの表情に笑顔が戻る。私は朝の空気を目いっぱい吸い込むと、それに負けじと大きく口角を上げた。
「そろそろ戻りましょうか。のどかたちもそろそろ起きるんじゃないかしら」
「朝ごはんも買わないと、ですね!」
 少し短くなったシェルピンクの髪を揺らしながら、市街地を歩く。港沿いの公園から数分、私行きつけのパン屋さんにたどり着いた。
「ここのサンドイッチ、すごく美味しいんですっ」
 ショーケースに並んだ、色とりどりの断面。まだ目が覚めて間もないのに、どんどん食欲がわいてくる。
「確かに、すごく美味しそう! カグヤちゃんはどれが好き?」
「えーっと、たまごも好きだし……あ、この海老カツもプリプリで美味しいんですよ! のどかちゃん好きそう……ひなたちゃんはこの照り焼きチキンとか?」
 そんな調子で夢中でショーケースを覗いていると、店内で流れるラジオが七時を告げると同時に、私のお腹が盛大に鳴った。
「……ぅ」
「うふふ。それじゃあさっきのやつと……これとこれ、あとこれもお願いします」
「あいよっ!」

191ゾンリー:2021/05/29(土) 21:23:16
 袋いっぱいに入ったサンドイッチを受け取って、再びホテルへと向かう。
「あらほんと、急に人が増えてきたわね」
 行き交うスーツ姿の人、人、人。駅の近くを通るときには、まったり横並びでーなんて言ってられないくらいに混んでいて。
「私のクジラさんで行きます?」
「あら、そんなことしたら目立っちゃうわよ?」
「あ……そっか」
 この人混みの中を空飛ぶクジラで一飛び。きっとすごく盛り上がるんだろうけど、それで騒ぎになったらもっと混み合っちゃうもんね。
「さ、そろそろうちの眠り姫達はお目覚めかしら」
 自動販売機であったかいカフェオレを七本(!)買ってから、エレベーターで上がっていく。数十分ぶりにホテルの部屋へ戻ると、ちょうどのどかちゃん達が目を覚ましたところだった。
「んぁれ? カグヤちゃん起きてたんだ……ふわぁ」
「おはよっ、のどかちゃん」
「んー……おあよーみんなーおやすみー」
「ほら、ひなた二度寝しないの。おはようございますカグヤちゃん、おばさま」
「二人とも、随分と早起きされたんですね」
 ひなたちゃん、ちゆちゃん、ひなたちゃん、アスミちゃんも、続けて起き上がる。
「あとは……」
 黒いポロシャツ姿でコクンコクンと船を漕ぐ、私のお母さん。
「おかーさんっ、みんな起きてるよ!」
「ん? あ、ああもちろん起きてるぞ……はうあっ!」
 目覚まし代わりに、熱々の缶をおでこにピタリ。その様子がおかしくって、みんな一斉に笑い出す。
「カグヤぁ……」
「えへへ、目が覚めたでしょ?」
「覚めたには覚めたが……むぅ」
 どこか不満そうなお母さんの手を引っ張って、大量のサンドイッチが並ぶテーブルへ。
「さあ、好きなものを取って頂戴」
「あったしこれー! 照り焼きチキン!」
「お、カグヤちゃんの予想通り」
「うそマジ? エスパーじゃん!」
「じゃあカグヤはこれか? 人参たっぷりサラダ」
「た、食べれるもん!」
 強がってみたけど、やっぱり別のにしておけばよかったと一口で後悔。お母さんめ、仕返しのつもりだ。

 そういえば、と置きっぱなしの置手紙を手に取る私。大きな窓からはさっきまで散歩していた公園が遠くに見えた。流れる水は変わることなく煌めいていて、空木に小さな撫子色の花が咲いている。

(うん、生きてるって感じ!)

 いつの間にか横にいたおばさまと笑い合う。
 私の心には、今日もすこやかな風がそよいでいた。

192ゾンリー:2021/05/29(土) 21:24:09
以上です。どうもありがとうございました!
(ネタバレありですので、ご注意を!)

193ゾンリー:2021/05/29(土) 21:26:42
書き忘れた💦
タイトルは「空木に撫子色浮かべて」です。

194名無しさん:2021/05/31(月) 22:41:04
>>190
>>191
匂いや彩り、光が漂ってくる、良い作品でR

195ゾンリー:2021/11/23(火) 22:23:03
こんばんは、ゾンリーです。
引き続き「映画 ヒーリングっど❤プリキュア ゆめのまちでキュン!っとGoGo!大変身!!」のSSです。
長くなったので前後編に分けました。
まずは前編、投稿します。5、6レス使います。

196ゾンリー:2021/11/23(火) 22:25:12
「空と春(前編)」


 爽やかな風が髪を揺らす。ガタンと小さく車が揺れた衝撃で、私──我修院カグヤは目を覚ました。
視界いっぱいに広がる緑と青。その清々しさは、寝ぼけた私の意識を覚醒させるのに十分すぎる程で。
「わぁ……!」
「ようやくお目覚めか。もう入ったぞ、ここがすこやか市だ」
 車のルームミラー越しに笑いかけるのは、私のお母さん──我修院サレナ。
 私たち二人とたくさんの荷物(現に私が座っている後部座席の八割も、段ボールに浸食されている)を乗せた軽自動車は、軽快に……とは言えない乗り心地で前進していく。
(のどかちゃんたち、驚くかな?)

 時は一ヶ月ほど前に遡る。
「こうすれば何とか……しかしそれだとカグヤの学校が……」
 仄暗い部屋でひとりパソコンとにらめっこするお母さん。何かに行き詰まると、それなりの声量で独り言を言うのはいつもの癖。もう、前と違って隣に人が住んでるっていうのに。
 ゆめアールの一件以降、私達は住んでいた家を引き取って、都内のマンションで暮らしている。お母さんは「窮屈な思いをさせるな」って謝ってたけど、私にとってはこのくらいが丁度いい……というか元々が広すぎたんだよね。
「どーしたの? お母さん」
 さて、私関係なら無視するわけにいかない。部屋の明かりを点けてから、私はお母さんに話しかけた。
「ん? あぁ、いや、実は精霊……エレメントに関する現地調査の目途がようやく立ったんだが、時期がな……」
「時期?」
「現地調査は三週間。本来ならカグヤの夏休みに合わせておきたかったんだが、一か月後しかスケジュールが合わせられそうにないのだ」
 パソコンに表示された予定びっしりのカレンダー。一か月後というと、三学期の終わりごろと春休みの始めが重なるあたり。
「うーん……」
 私がここで「三週間くらい一人でも大丈夫だよ」なんて言えたらカッコいいんだろうけど、恥ずかしながら料理も洗濯もまだまだ一人じゃ満足にできないのが現状。
「でもさお母さん、春休みも重なるし、二週間くらいなら……学校休んでもいいんじゃない? なんて」
「……」
 あれ? 冗談のつもりだったのに、真面目に考え込み始めたお母さん。そしてまた漏れる独り言。
「確かに、撮影の仕事と言い張ればなんとかなるか……? いやしかし成績に影響が……となると学校へ行くのは必須。待てよ? 別段今通っている学校である必要は無いのだ。よし、カグヤ、転校だ!」
「えええええ?」
 あまりにも話が飛躍しすぎて理解が追い付かないけど、要するに「現地調査の間だけ近くの中学校に転校する」ってことでいいのかな。
「よし、こうしては居れん、早速必要書類をまとめなくては。カグヤも荷物を纏めておいてくれ」
「う、うん」
 ドタバタといろんな所に連絡を入れ始めたお母さんを邪魔したくなくて、部屋に戻ろうとする私。でも一つだけどうしても気になっちゃって、お母さんの方に振り向いた。
「現地調査って……どこなの?」
 お母さんの手が止まる。刹那、待ってましたと言わんばかりに眼鏡が鋭く光った……気がした。
「ふっふっふ、よくぞ聞いてくれたな。現地調査の場所、それは……」

「すこやか市、着いた〜!」
 車から降りると、私は全力で身体を伸ばす。全身で感じる優しい風は、まるで私たちを歓迎してくれているようだった。
「数時間揺られっぱなしだったもんな。疲れただろう」
「ううん、お母さんこそ運転お疲れ様」
「……あの子たちに会いに行くか?」
 途端、お母さんの目が優しくなる。現地調査だなんて言ってたけど、半分くらいは、私をのどかちゃん達と会わせるのが目的なのかもしれない。けれど、私は静かに首を振った。
「今日は日曜日だし、どこか出かけてるかも。それにね、折角なら……とびきりビックリさせたいじゃない?」
 お母さんに向かって得意の目元ピース! そして小さいポーチから一枚の紙を取り出す。そこには「お客様控え」の文字と「すこやか制服店」のロゴが。
「私、取りに行ってくるね!」
「一人で大丈夫か?」
「だいじょーぶ。地図アプリだってあるし、お母さんと違って方向音痴じゃないもん!」
「流石だな。何かあったら連絡するんだぞ」
 スマートフォンとお財布、制服注文の控えをショルダーバッグに入れて、私は駆け出した。
 知らない景色、どこか懐かしい風。まだ太陽は沈む素振りを見せたばかり。
 ここから三週間、どんなに楽しいことが待っているんだろうか。それを考えただけで胸の奥からワクワクがどんどん湧き上がってくる。
 スマートフォンに表示されたマップはまるで宝の地図。私は時折身体をくるくるさせて向きを確認しつつ、探索ついでに進んでいく。のどかな自然公園に、東京とはまた違う賑わいを見せる商店街。

197ゾンリー:2021/11/23(火) 22:25:44
「すごいすごい、生きてるって感じ!」
 すっかり伝染ってしまった口癖を零しながら、商店街を一つ一つ見て回る。すっかり地図アプリはスリープ状態に入っており、私の目の前にはおいしそうに蒸しあがった饅頭の湯気が広がっていた。
「お、ここらじゃ見ない顔だね。お一つどうだい? すこやか市名物、すこやか饅頭」
「じゃあ……一つと言わず二つ下さい!」
「ぬおっ? そんな顔で言われちゃあ断れねえ。ほれ持っていきな! ただし、美味しかったらお友達にも宣伝してくれよ?」
 コンビニエンスストアの肉まんよろしく、紙に包まれたすこやか饅頭が二つビニール袋に入って手渡される。
「もっちろんです! ありがとうございますっ!」
 受け取った饅頭をカイロ代わりにして再び歩き出しす私。そこから数分ほど歩いただろうか。ついに目的の制服店へとたどり着くことができた。
「我修院さんね。用意できてますよ」
「よし、これで私も……!」
 店員のおばさんから受け取ったのは、ビニールに包まれたすこやか中の制服。ピーコックグリーン──クジャクの羽のような緑色を基調にしていて正に「健やか」って感じだ。
「来年度から中学生? 頑張ってね」
 う、密かにコンプレックスにしてることを突かれた……「もう中学二年生です!」って反論したかったけど、おばさんの慈愛に満ちた笑顔に押されてなにも言えなかった。
「ありがとうございましたあ」
 制服店を出ると、空は真っ赤に染まっていて。
「そろそろ帰らないとだよね。お土産いっぱいになっちゃった」
 制服店のおばさんから持たされたジュースやお菓子でバッグが重い。両手で制服を大事に抱えて、私は来た道を戻っていく。
(のどかちゃん、どういう反応するかな……? ふふっ、思わず「えー?」って叫んじゃったりとか! あ、でもそれはひなたちゃんかも。ちゆちゃんは……)

 太陽が海岸線の彼方に沈んで、薄明の空に細い月が浮かぶ。

 この月が沈めば、また新しい一日が始まるんだ。

 私は太陽に「またね」と月に「こんばんは」を語り掛けて、もう一度彼女の口癖を真似てみた。




「生きてる……って感じ」


 翌日。目覚ましよりも二十分早く起きた私は、起きるや否やベッドを飛び出し、冷え込んだ部屋のカーテンを勢いよく開いた。寒過ぎて太陽の暖かさはまだ感じられないけど、すこやか市に来て初めて迎える朝は明るくて、眩しくて。
 壁にかけられた制服を背伸びして取って、早速腕を通してみる。長袖のブラウスにある袖のボタンをとめて、ジャンパースカートの構造にちょっとだけ悪戦苦闘。
(あれ? ここのボタンがここで……うぅ、こんなことならもったいぶらずに昨日着ておけばよかった)
 なんとか着替えを終えて、寝癖たっぷりの髪の毛をセットし終えたところで、止め忘れていた目覚ましがジリリリと鳴った。
「……よし!」
 すっかり上った太陽に照らされる部屋を後にして、通学カバンを持ってリビングへ。併せて設われたキッチンでは、お母さんが慣れない手つきで卵焼きを焼いている最中だった。
「おはよう、お母さん」
「おはよう。ふふ、よく似合っているぞ」
「えへへー」
  ・
「忘れ物は無いか?」
「何回も確認したよ。お母さんこそ大丈夫? 何か忘れてても私届けに行けないよ?」
「あぁ。カグヤを見習って私も確認したからな」
 東京から持ってきた、使い慣れたローファーに履き替えて、お母さんと二人外に出る。
 お互いに「行ってきます」を言って、私は中学校の方へと歩き始めた。海岸線から少しずつ山の方へ近づくにつれ、同じ制服を着た人が増えていく。
(あ)
 角を曲がって、ひらけた視界のその先に、私は見慣れた人かげを見つけた。見つからないよう細心の注意を払って、その三人組に近づく。
「のどかっちー! ちゆちー! 大ニュース大ニュース??」
「おはよーひなたちゃん」
「どうしたの? 藪から棒に」
 ハイテンションのひなたちゃんがのどかちゃんとちゆちゃんの元へ駆け寄る。
「ウッソ、私そんなに感情無い??」
(?)
「ひなた、それを言うなら『ぶっきらぼう』。藪から棒って言うのは『いきなり』とかそういう意味」
「おぉ?なるほど! さっすがちゆちー!」
「それでひなたちゃん、大ニュースって?」
 心当たりがあり過ぎて、立てている聞き耳がピクンと動く。

198ゾンリー:2021/11/23(火) 22:26:19
「そうそう大ニュース! なんと、今日うちのクラスに転校生が来るんだって!」
(! さっすがひなたちゃん、情報早いなー)
「ふわぁ?! 一体どんな子なんだろうね」
 後ろ後ろ、ここに居ますよー……って言いたいのをグッと我慢して、歩いていると、いつの間にか校門がすぐそこまで迫っていた。
 私は少しずつのどかちゃん達と歩調をずらし、気づかれないように校門をくぐった。
「……またね」

八時三十五分、朝のHRを告げるチャイムが鳴る。私は円山先生に連れられて教室の少し手前まで歩いてきた。
「それじゃあ、しばらくしたら先生が合図するから」
 そう言い残して先生は教室の中へ。一人取り残された私は、自分の鼓動が急速に早まっていることに気づいた。
(ワクワクしてる……それとも緊張? ふふっ、どっちもかな)
「はい席についてくださーい」
「せんせー! 転校生が来るってほんとですかー??」
 教室の外からも聞こえるひなたちゃんの声。それは私に「早く教室に入りたい」とより強く思わせるには十分で。
「平光……ちゃんと紹介するから、まずは席について」
 否定しなかった先生の言葉に、もっとざわつく教室。それも一瞬で収まって、すこやか中学校のHRは順調に進んでいく。
「……えー、それじゃあ、平光の言う通り転校生を紹介します。親御さんの都合で今日から修了式までの丁度二週間ですが、皆さんと一緒に勉強するお友達です。それじゃあ入って」
 ガラガラガラと木製の引き戸が開かれて、みんなの姿が目に入る。手を当てた心臓のバクバクが最高潮に達して、自然と口角が上がった。
「おはようございます!」
 クラスの生徒全員から集まる視線。モデルのお仕事で慣れっこなはずなのに、妙にソワソワしてしまう。
 教室前方から見て右奥にのどかちゃん達を見つけて、少しだけ肩の力が抜ける。……代わりに彼女達がすごく驚いてるようだけど。
「それじゃあ、自己紹介を」
「我修院カグヤです。東京から来ました。えっと……短い間ですけど、よろしくお願いします!」
 拍手もそこそこに、教室内が再びざわつき始める。「カグヤちゃんってあのゆめプリの?」「うっそ、サイン貰わなきゃ」えとせとらえとせとら……。
「それじゃあ席は花寺の後ろで。あ、でも教科書がないのか」
「先生、それじゃあ今日だけ私の隣でもいいですか?」
 のどかちゃんがそう発言して、後ろにある机を動かす。私とちゆちゃんとのどかちゃん、三人横並びのような感じだ。
「ふわぁ、ビックリしたよぉ」
「こっちに来るなら連絡してくれればよかったのに」
「えへへ」
「カグヤちゃんと一緒とかメッチャ嬉しい!」
 暖かみのある木製の机に荷物を下ろして、椅子に座る。東京の学校で座っていた椅子とは全然座り心地が違ったけど、ずっと立ちっぱなしだった体には丁度よくて、私は悟られないように四肢の力を抜いた。
「なんだ、知り合いだったのか。それなら、昼休みにでも学校の案内をお願いできるかな?」
「「「はい!」」」
 四人で笑いあって、再びHRが進んでいく。ワクワクは未だ衰えることのなく私の中から溢れ出してきて、東京の学校とは変わらないチャイムでさえも、愛おしく感じた。

「それじゃあ号令をお願いします」
「きりーつ、礼」
「「ありがとうございましたー」」
「んーーー四時間目終わったぁ!」
「カグヤちゃん、内容分かった?」
「うん、向こうでもうやった内容だったから」
 他愛もない話をしながら、教科書やノートを片付ける。四時間目が終わったということは、みんな大好きお昼休みの時間!
「ねぇ、のどかちゃん達はいつもどこでご飯食べてるの?」
「天気がいい日はお外のベンチかなぁ」
「カグヤちゃんも一緒に来るよね!」
 いの一番にお弁当を取り出したひなたちゃんが振り返る。
「もっちろん!」
「学校の案内もしないといけないし、丁度いいわね」
 四人で教室を出ようとすると、扉の外に大きな人だかりが。のどかちゃんと二人「何だろう?」と首をかしげながら近づくと、何故か視線はこちら側。
「ちょっちょっちょ、のどかっちカグヤちゃんストーップ!」
「「?」」
「あの人だかり絶対カグヤちゃん目当てだって!」
 確かに、目線はのどかちゃんというより私向き。中にはペンとノートを掲げてる人まで。
 のどかちゃんもそれに気づいたようで、少し顔を引きつらせて「どうしようっか」って尋ねてきた。

「うーん、じゃあ全部対応しちゃおう!」

199ゾンリー:2021/11/23(火) 22:27:21

「「「「いただきまーす……」」」」
 結局、私達が解放されたのはお昼休みが終わる十分前。三人とも突発的なサイン&握手会の手伝いをしてくれて、何とかお弁当までありつけた。
「ふわぁ、大変だったね……」
「アハハ……ごめんね、手伝ってもらっちゃって」
「全然かまわないわよ。放課後まで人だかりができるほうが大変だし」
「そうそう、ちゆちーの言う通り! ……てゆーか、ベンチめっちゃ狭くない?」
 裏庭のベンチ一脚に、ぎゅうぎゅうに座る私達四人。ひなたちゃんのツッコミにごもっともと思いつつ、久々に触れる彼女たちの体温が懐かしくて温かくて。私は楽しみにしていた玉子焼きを大きく頬張った。
 木枯らしが凪いで、木漏れ日が笑い合う私達を優しく包む。ずっとこんな時間が続けばいいな……って思ったけど、お昼休みはもう残り僅か。急いでお弁当を食べ終わったところで、終了を告げるチャイムが鳴り響いた。
「そうだ、今日から掃除場所変わったんだった。私……どこだっけ?」
「私とひなたは体育館でしょ。ということだから、また教室で」
「うん、またね」
 二人が体育館の方に歩いて行って、私とのどかちゃん、二人きり。まだ掃除当番は知らさせてないけど、のどかちゃんの提案で、彼女と同じ教室掃除をすることに。
「ここって、お昼休みの後に掃除なんだね」
「カグヤちゃんのところは違うの?」
 児童玄関で靴を履き替えて、再び教室へ向かう。
「うん、こっちは六時間目終わってからなんだ。お仕事が入ると途中で抜け出すことが多かったから、先に授業やってくれてありがたかったなぁ」
「へぇー、ん? そういえばモデルのお仕事は? ここから東京に行くのってすごく大変なんじゃ……」
「うん。だからここにいる間のお仕事は全部終わらせてきた! 結構大変だったんだよ?」
 二階へ続く階段を上って、少し歩く。窓から見えた教室内ではもう既に机を後ろへ運んでいる最中で、私達は少し急いで掃除用具入れから箒を手に取った。

 あっという間に五時間目と六時間目が終わって、放課後。ちゆちゃんは部活、のどかちゃんは委員会のお仕事があって、学校案内はひなたちゃんと二人で行くことに。
「んでー、ここが家庭科室! 昨日調理実習でシフォンケーキ作ってさ、それがメッチャ美味しかったの!」
「いいなぁ、私も食べてみたかったー」
「え、じゃあさじゃあさ、作ったの家に余ってるから食べに来ない?」
「いいの?」
「もち! のどかっちもちゆちーも誘ってさ、そんなに遅くまで居れないかもだけど……プチパーティしようよ!」
「パーティ?」
 パーティ。その言葉を聞いただけで、胸が高鳴る。
「いよーっしそれじゃあ張り切って次行こー!」
「おー!」
 家庭科室を後にして、歩く廊下が木の板からコンクリートに変わった。

「「「「かんぱーい!」」」」
 部活と委員会を終えた二人と合流して、向かったのはひなたちゃんのお姉さん――平光めいさんがやっているカフェワゴン。テーブルの上に出されたのは、昨日三人が作ったというシフォンケーキと、このカフェの名物、グミ入りというワンダフルなジュース。
「カグヤちゃんどう? この町は」
「とっっっっっても素敵! みんな凄く生き生きしてて、見てるだけでこっちまで元気いっぱいになっちゃう」
「よかったぁ」
「ふふ、のどかもすっかりすこやか市民ね」
 そっか、のどかちゃんもすこやか市には引っ越して来たんだっけ。ふざけて「のどか先輩」なんて言ってみたら、途端に顔を紅潮させて、かわいかった。
「あー、アスミンやニャトランたちにも会わせてあげたいなー」
 そう言って、ジュースを飲み干すひなたちゃん。器用にストローでグミを口に頬張った。
「仕方ないわよ。そう簡単に何度もヒーリングガーデンには行けないし……」
「向こうにはエゴエゴとクジラさんが行ってるよ。ちゃんと仲良くできてるかな……?」
「「「あー……」」」
 あはは、だよねー。でも、エゴエゴもお母さんの協力に意欲的だし、クジラさんも居るからきっと大丈夫。
「でも三週間だけかー……もっと長かったらいいのに」
「私もそうしたいんだけどね。でもさ、また絶対来るよ! あ、でも皆にもまた東京に来てほしいな」
「行く行く絶対行く!」
「私も!」
「私も」
 よかった。あの一件以来、東京に行きたく無いって思われてたらどうしようって思ってたけど、どうやら杞憂だったみたい。小さな肩の荷が一つ降りて、胸のあたりがスッと軽くなった。
「お嬢さん方?、宴もたけなわですけど、そろそろ閉店の時間ですよー」
 その後も他愛のない話に花を咲かせていると、めいさんに声をかけられてはっと時間を確認する。五時四十五分、もう帰らないと「学校で色々あって」とは言い訳し難くなる時間だ。

200ゾンリー:2021/11/23(火) 22:27:51
「わ、本当。それじゃあ、また明日ね!」
 お土産にと持たされた大量のシフォンケーキ(一体どれだけ作ったんだろう……)を手にして帰路につく私達。「また明日」の言葉がなんだか嬉しくって、砂利道を進む感覚を噛み締めながら、私は明日も訪れる学校生活に思いを馳せた。

「ただいまー……って、お母さん今日遅いんだっけ」
 電灯に照らされたテーブルの上には置き手紙とお金。プロジェクトの決起集会で食べて来るって言ってたこと、すっかり忘れちゃってた。
「うーん、どうしよう?」
 地図アプリを起動して、飲食店で検索。惣菜店はギリギリ閉まってて、他のお店は料亭だったり居酒屋だったり、中学生一人で行くのには結構ハードルが高い。

 外食は諦めてお弁当にしようとスーパーで再検索をかけようとしたその指を、呼び鈴の音が遮った。
「はーい」
(宅急便、お母さん頼んでたかな?)
「ごめんくださーい」
 ドア越しに聞こえたのは、予想外な子供の声。驚きつつもドアを開けると、そこには小学生くらいの女の子。愛くるしい二つ結びで、手にはお鍋が握られていた。
「あれ? あなた確か……」
「あ、えっとえっと、私、隣に住んでる……」
 そのキーワードでビビっときた。
「りりちゃん!」
「!」
 私とお母さんが越してきたのは、こじんまりとした小さなレンガ造りのアパート。そのお隣さんとして昨日ご挨拶に行ったのが、このりりちゃんが住んでいる部屋。
「どうしたの? こんな時間に」
「その……シチュー作りすぎちゃったんで、お裾分けに……」
 そう言って、顔を赤らめるりりちゃん。お鍋からは濃厚な甘い匂いが漂っていた。
「ホント? 丁度晩御飯どうしようって思ってたんだ! ありがとう」
「……? 我修院さんも一人なんですか?」
 あれ、我修院さん「も」? その含みのある言い方に追及すると、どうやらりりちゃんもお母さんの帰りが遅いらしい。それも、今日だけとかじゃなくて、結構頻繁に。
「じゃあさ、一緒に食べようよ!」
「えっ、いいんですか?」
「もっちろん! それと、カグヤでいいよ」
「……!」
 りりちゃんはもっと顔を赤らめて「カグヤおねえちゃん」とはにかむ。私はその天使のような笑顔に悶絶しながら、りりちゃんを家へ招き入れた。
「おじゃましまーす……ふふっ」
「どうしたの?」
「部屋の形はうちと一緒なのに、ここまで違うんだなーって」
 そう言われて、挨拶に行ったりりちゃんの部屋を思い出す。言われてみれば、家具の配置は一緒なのにカーテンの色とか食器の置き方で、まるで別の部屋みたいに見える(実際別の部屋なんだけど)。
 私はシンクの下にある棚からパックご飯を二つ取り出しレンジで温めて、同時進行でりりちゃんから受け取ったシチューをコンロで温めなおす。あとはそれをお皿に盛り付ければ、シチューライスの完成。グラスに注いだ麦茶をりりちゃんに運んでもらえば、すべての準備が整った。
「「いただきまーす!」」
 大きく掬ったシチューライスを口に運ぶ。バターのコクと甘みがゴロゴロと入った具材と混ざり合い、更にご飯と絡んで口の中を駆け巡る。
「おいしい! これ本当にりりちゃんが作ったの?」
「えへへ、初めて作ったわりには上手にできたかな」
「初めて? 凄いね」
 発見したサツマイモとシチューの相性の良さにも驚きながら、会話が弾む。
「そうだりりちゃん、よかったら一人の時はこうやって食べに来ない?」
「いいの?」
「うん、お母さんもきっと良いって言ってくれるよ。まあ、三週間だけなんだけど……」
 りりちゃんが、伏し目がちになる。でもすぐに納得したように笑顔になってくれた。
「気にしないで! ジョセフィーヌのおかげで寂しくなんかないもーん」
「ジョセフィーヌ?」
「あ、えっとね、私が前に拾ったペンギンさんでね。お別れしちゃったんだけど、勇気をもらったんだ」
 りりちゃん、強い子だなぁ。
「そっか。ねぇねぇ、シフォンケーキもあるんだけど……?」
「? 食べたい!」
 夜が更けていく。ふんわりとした甘さが口と心に広がって、なんだか温かい。
 二人っきりの女子会は、りりちゃんがコクンコクンと船を漕ぐまで続いた。

201ゾンリー:2021/11/23(火) 22:28:22
続いて後編、お願いします!
やはり5、6レス使わせて頂きます。

202ゾンリー:2021/11/23(火) 22:28:57

「おはよう!」
「おっはよーカグヤちゃん」
「おはよー、カグヤちゃん」
「おはよう。カグヤちゃん」
 三者三様の「おはよう」を受けながら三人の輪の中へ。転校初日から三日。少しずつこの町の生活にも慣れてきた私は、学校生活を満喫していた。
「そういえば今日理科の小テストじゃなかった?」
「ひなたちゃん、この前補習受けてたよね……」
「ふっふっふ、今回はちゃーんと復習してきたから完璧! なんなら勝負してもいいよ〜?」
 にやり顔のひなたちゃんに、心の底から驚いたような表情ののどかちゃんとちゆちゃん。
「そう言うってことは、随分と自信があるようね」
「ふわぁ、負けないよ!」
「私も私も! 理科は得意なんだ」
 四人で笑いあってると、校門はすぐそこに。けれど歩調を遅らせる必要なんてどこにもない。
「えーじゃあさ、一番点数低かった人が一番高い人のお願い一個聞く罰ゲームってのは?」
「自分の首絞めることになっても知らないわよ……?」
「ふふっ、面白そう!」

 そして。
「どおぉぉぉぉしてぇぇぇぇぇぇぇ……!」
 ひなたちゃんが九十二点、のどかちゃんとちゆちゃんが横並びで九十六点。そしてなんと、私が全問正解の百点! ということで……。
「ほらひなた、言わんこっちゃない」
 崩れ落ちるひなたちゃんを苦笑交じりのちゆちゃんがなだめる。
「カグヤちゃん、お願いはどうする?」
「うーん、そうだなぁ……」
 几帳面に間違った箇所の修正を終えたのどかちゃんに言われて、迷う。
「うぅどうか神様カグヤ様優しいの、優しいので願いしますぅ」
「アハハ……あ、こういうのはどう? 『カグヤっち』呼び……なんて……」
 言ってて自分で恥ずかしくなっちゃった。まるでステージの上で眩いライトに照らされているかのように、顔が熱くなる。
 
 直後、テスト用紙を放り投げたひなたちゃんに抱きつかれた。

「もちろんだよ! 『カグヤっち』」
「じゃあ……私も、カグヤ」
「?」
 ちゆちゃんにも呼び捨てにされて、思わず目を見開く。やっと、みんなと一緒の目線に立てた気がして、目が潤んだ。
「わーごめんカグヤっち、痛かった?」
「ううん、なんだか嬉しくって……」
「じゃあ私も呼び方変えてみようかな? カ、カグ……んー、カグヤん?」
 珍しくおどけるのどかちゃん。三人同時に吹き出して、腹を抱える。しかものどかちゃんはいたって真面目だから、余計に面白くって。
「ちょっとのどかっち! なにカグヤんって?!」
「もぅのどか笑わせないでよー」
「えー、いいと思ったんだけどなぁー」
「アハハハ、カグヤんなんて初めて呼ばれたよ」

203ゾンリー:2021/11/23(火) 22:29:30
 その後も、私の呼び方についてはしゃいでると、教室の人気がなくなってることに気づいた。
「あれ、次移動教室じゃなかったっけ?」
「あわっ、いつの間に」
「よしじゃあ行こ、カグヤん」
「それ採用なの??」
「いやぁ冗談冗談」
  ・
 こっちに来てからもうすぐ一週間をむかえる、金曜日。お母さんの調査の方も順調みたいで、「追加調査だー」って夜遅くまで帰ってこないこともしばしば。
 今日も学校から帰るとスマホにお母さんからのメッセージ。
『すまない、今日も遅くなりそうだ』
 寂しい……って思わないわけじゃ無いけど、私とお母さんの夢のためだもん。そのためなら、この位我慢できる。
「とは言うものの……今日はりりちゃん、お母さんとお出かけだって言ってたよね」
 独り言が狭い部屋に物悲しく響く。気丈に振る舞ってはいても、胸の下あたりが沈んだように重くなった。
『?♪』
 不意の着信音にはっと視線を戻す。リズム良く震えるスマホの画面に表示されていた名前は、ちゆちゃん。
「もしもし」
『あ、カグヤ? ちょっといいかしら』――

 着信から十数分後。夕暮れに染まるアスファルトを駆け抜けて、上がった息が白く寒空に溶けていく。
「ちゆちゃん!」
「カグヤ!」
 出迎えてくれたちゆちゃん。私は、旅館沢泉に来ていた。
「今日はよろしくお願いしますっ」

『ご迷惑じゃなければなんだけど……今からウチに来ない?』
「えっいいの?」
『じつはお客様にお出しする予定の料理が余ってしまって。せっかくだし、温泉も紹介したかったし……どうかしら?』
「行きたい行きたい? 丁度ね、今日お母さん夜遅くなるっていうから困ってたの」
 足をブラブラさせながら、耳にあてたスマホに神経を集中させる。

『それなら……泊まりに来ない?』



 ついさっきの通話を反芻しながら、旅館の裏口を通ってちゆちゃんの部屋に。取り急ぎまとめた着替えを入れたショルダーバッグを一旦置いたところで、お盆を持ったちゆちゃんが戻ってきた。
「ありがとう、助かっちゃった」
「こちらこそ。それに、一度は泊ってほしかったし。まあ……客室じゃないのだけれど」
「ぜんっぜん! わぁ畳懐かしい〜!」
 井草の感覚を味わいながら、住んでいた家の寝室を思い出す。暖房で温められた畳はぽかぽかで、夜なのに日向ぼっこしてるみたい。
「お腹空いたでしょ? ついでにいろいろ貰ってきたから、あったかいうちに食べましょ」
 お盆にかけられた布巾を外すと、まるで旅館で出てきそうな料理の数々。実際旅館なんだけどね。
「おいしそう……!」
「カグヤはいつもどうしてるの? 遅くなるってことは我修院博士お忙しいんでしょう?」
 並ぶ料理はどれもお客さんに出す予定だったものだからか、見てるだけで美味しさが伝わってくるようだった。
「うん。だからいつも隣に住んでる子と一緒に食べてるんだ。その子も親の帰りが遅くてね、りりちゃんっていうんだけ」
「りりちゃん?」
 食い気味に身を乗り出してきたちゆちゃん。その珍しく驚いた表情に圧倒されながらも、「知ってるの?」と聞き返す。興奮したように話そうとする彼女を、空気を読まない私のお腹の音が遮った。
「わーごめんごめん、続けて?」
 顔を真っ赤にして話の続きを催促する私。それにツボったちゆちゃんは、ひとしきり爆笑した後、お櫃からホカホカのご飯をお茶碗に盛り付けてくれた。
「うぅーありがと……いただきます」
 一番気になっていたお刺身を一口。さっくりとした脂身と、ねっとりとした甘みのある赤身がコクのある醤油と最高にマッチして、無意識にご飯へ手か伸びる。続いて、茄子の天ぷら! サクッと小気味い音を立てた途端に感じるみずみずしさ。岩塩が優しいお茄子の甘さを引き立てて、これまた最高。
「すごい……こんなにおいしいの初めて!」
「ふふっ、よかった」
「そうだ、話のつづき! ちゆちゃんってりりちゃんと知り合いだったの?」
 一旦お箸を止めて続きを催促。ちゆちゃんは温かい緑茶を啜ると、「少し前の出来事なんだけどね」と前置きしてことの顛末を話してくれた。

「そんなことがあったんだね……」
「ヒーリングガーデンに帰る前までは、私もペギタンを連れて時々行ってたんだけど……最近行けていなかったから」
「うん、ちゃんと学校のことも話してくれるし、今日だって、お母さんとお出かけするんだ?って楽しそうだったから、大丈夫だと思うよ」
 安堵したような表情のちゆちゃん。私は最後のお味噌汁を飲み干して、「ごちそうさまでした」と手を合わせた。


204ゾンリー:2021/11/23(火) 22:30:03
「おぉ〜広い!」
 温泉特有の蒸気にあてられながら、裸足で平たい石畳の上を歩く。夜風が洗った後の身体に直撃して、私たちは足早に岩で囲まれた湯船に向かった。
「「あったか〜い」」
 トロトロのお湯に四肢を揺蕩わせて、力を抜く。家のお風呂とは違う非日常感も、このリラクゼーション効果の前ではまるで無力で、私は岩に背中を預け、大きく息を吐いた。
「気持ちいぃ……毎日こんなお風呂入ってるの?」
「流石に家のお風呂と旅館の温泉は別よ。使ってるお湯は一緒だけどね」
 髪を下ろしたちゆちゃんと肩を触れ合わせながら、話題は東京の温泉施設について。
「向こうは、あんまり温泉旅館って無いわよね?」
「うん。温泉はあるけど、ホテルとか旅館になってるところはあんまり無いかな……スーパー銭湯とかって聞いたことない?」
「確かに! 旅館よりはそっちのイメージが大きいわね」
「でしょ! あーあ、近所にもこんな旅館できればいいのに」
 掬い上げたお湯を満点の星空に透かしてみる。手から零れ落ちる光が優しくて、私はもう一度お湯を顔に流した。

「それじゃあ、電気消すわね」
「うん」
 ちゆちゃんが紐を引っ張るタイプの電気を消して、目を開けてるのに視界が真っ暗に染まる。それも暫くすると慣れてきて、ちゆちゃんのシルエットくらいなら判別できるようになった。
「……ありがと。今日は誘ってくれて」
「どうしたの? そんな改まって」
 寝返りをうつ私。お日様の匂いに包まれたお布団が、小さく擦れる音を立てた。
「私、こっちに来てから何かしてもらってばかりだなーって」
「そんなこと無いわよ」
「ううん。そして、私は何もお返しできてない……」
 小さな自嘲にも似たため息が、音もなく漏れ出す。
「……私は、カグヤが嬉しそうだったら、楽しそうだったらそれで十分なんだけどな」
「ちゆちゃん……」
「さ、もう寝ましょ? 朝は六時に起きてランニングの予定なんだけど……」
 ちゆちゃんからの提案。私はその小さな無力感のせいなのか、勢いで「私も行きたい!」と即答した。
「それじゃ決まりね。おやすみ」
「うん、おやすみ」
 その朝、ランニングで悲鳴を上げたのは言うまでもない……かな。
 それから数日後の放課後、土曜日じゃないけど、今日は午前授業(半ドン)の日。
「ひーなたちゃん」
「お、カグヤっちー」
 平光アニマルクリニック前に集まった二人。ちゆちゃんものどかちゃんも日直の仕事が残ってて、後から合流。
「いっよーしそれじゃあ〜、ゆめぽーとに出発!」
「おーっ!」
 ひなたちゃんが教えてくれた「裏道」を進んでいけば、目的地まで十数分ほどらしい。かわいい花が咲き乱れるその道を進みながら、私は前を行くひなたちゃんに声をかけた。
「ねぇ」
「んー?」
「ひなたちゃんはさ、何かしてほしいこととか……ない?」
 ちょっとストレート過ぎたかな? と思いつつ、ひなたちゃんの返事を待つ。彼女は少し悩んだ後「特に無いかなー」って両手を伸ばした。
「って、急にどしたの?」
「あー、えっと」
 このままはぐらかしてしまいたい欲求をぐっと抑え、駆け寄って手をつなぐ。
「んーん、なんか、皆にお返ししたいなーって」
「何それめっちゃ偉いじゃん! よし、私も手伝う……てか手伝わせて!」
「もー、それじゃお返しの意味ないよ。でも、ありがと! ひなたちゃんが手伝ってくれるなら百人力! といっても、何すればいいか全く思いつかないんだけど……」
 二人して口を尖らせ、考える、考える、考える……。結局何も思いつかないままゆめぽーとに到着したところで、私たちはひとまず目の前のショッピングを楽しむことにした。
「いよーし、まずはこの店! カグヤっちはさ、どのブランドで買ったりする?」
「私、撮影でもらった物だったり、マネキンそのままだったりするから……実はあんまり詳しくないんだ、あはは」
「うっそマジー?」
「マジマジ。前に東京で買ってもらった服、すっごく可愛くて、ついそればっかり。アレンジとかできるのほんと凄いと思う!」
 そんな話をしながらも、既にひなたちゃんの腕には大量の洋服が。
「ほうほうほう、嬉しいことを言ってくれるねぇ。それじゃあ一皮むけますか!」
 それを言うなら「一肌脱ぐ」じゃないかな……なんてツッコミは手渡された洋服に塞がれて。私は言われるがままに試着室へと向かった。

205ゾンリー:2021/11/23(火) 22:30:35
「おまたせ!」
 勢いよく試着室のドアを開けて、くるっと一回転。まだまだ練習中のポージングを決めて、ひなたちゃんの反応を伺ってみた。
「いい! やっぱカグヤっち最高だよ!」
「ひなたちゃんのファッションセンス、流石だよ。デニムのフレアパンツで大人っぽさと脚を細長く見せていて、フリルの襟付きブラウスで可愛さも表現してる!」
「コメント百点! ……ってこれだああああああああああ! カグヤっちこれだよ!」
「え、どれどれ?」
「これだよこれ、ファッション! モデルやってるんだからファッションショーで決まりっしょ!」
 次々におしゃれな服を私にあてがいながらハイテンションのひなたちゃん。
(ファッションショー……かぁ)
 ずっとお仕事でやってきたけど、思えば誰かのために自分からなんてやったこと無かったな。私の中に、小さな好奇心が生まれた。
「それ、賛成、大賛成!」
「でしょ? じゃあいろいろ買わないとじゃない〜?」
「これは買うしかないねぇ〜」
 うわぁ、私もひなたちゃんもカメラに映せないような、悪の組織みたいな表情しちゃってるよきっと。

「おーい、ひなたちゃーん、カグヤちゃーん」
「おまたせー」


「お〜っ、これはいいタイミングに来ましたなぁ? カグヤ殿」
「そうですなぁひなた殿」

「ど、どうしたの……?」
「この二人、意外と危険だったのかも……」
「「ふふふふふ……」」
 のどかちゃんとちゆちゃんも巻き込んで、一世一代の大ショッピング。言葉の通り端から端まで行ったり来たり、時折あまーいスイーツで休憩をはさみながらも、空が真っ赤に染まるまで私たちは洋服を私の体にあてがっていた。

 もう残された時間は多くない。ファッションショーの準備は急ピッチで進んでいく。……まあ、今日は小テストの勉強会も兼ねてるんだけど。
「じゃあ次の問題、『ありきたりなさまを表す言葉。明治中期まで続いた句合が語源』」
「はい!」
「カグヤちゃん」
「月……月……並み?」
「せいかーい」
「やった!」
「ふふ、今日はこのくらいにしとこっか」
 国語の教科書を勢いよく閉じて、代わりに一冊のルーズリーフを開く。そこにはファッションショー兼お別れパーティの計画がびっしり。
「カグヤちゃん、お料理のほうはどう?」
「うーなんとか! りりちゃん先生様様だよ」
 そう、今回の料理はぜーんぶ私が作るんだ。りりちゃんに頼み込んで、絶賛修行中。
「あ、お母さんとお父さんに許可取れたよ〜。家使ってもいいって」
「ありがと! じゃあ会場はのどかちゃん家で」
「そうだ、お客様からもらった花火あるんだけど、よかったらやらない?」
「いいね、やろうやろう!」――

 準備と学校生活であっという間に時間は過ぎていき、とうとう修了式。
「えー、皆さんご存じの通り、我衆院さんは今日で東京に戻ります。それじゃあ……我衆院から一言お願いします」
「はい」
 これで最後だと木で出来た机をそっと撫でて、席を立つ。でも来週のパーティーがあるから、お別れって感じはあんまりしなくて。
「この中学校で過ごした二週間、絶対に忘れません! これから受験とか大変だと思うけど、体調に気を付けて頑張ってください! 私もまた遊びに来ますっ」
 湧き上がる拍手。円山先生も涙ぐんでるけど……だめだめ、まだ泣くような時じゃない。
「カグヤちゃん、また来週ね〜」
「バイバーイ」
「うん、またね!」
 そう、本番は来週。でも今だけは、この学校との別れを惜しんでもいいよね。

「カグヤっち、こっちは準備OKだよ、どうぞ」
 トランシーバー代わりのスマホ通話越しにざわめきが伝わってくる。
「うん、こっちも大丈夫。どうぞ」
「よしじゃあカグヤっちのタイミングで行っちゃって!」
 通話終了のSEが耳元で鳴って、大きく深呼吸を一つ。みんなと隔てられた扉を開けて、私は勢いよく飛び出した。
「みんなー! 今日は……そして今日まで本当にありがとう! ひなたちゃんプロデュースの特別なファッションショー名付けて『すこやかコレクション』、いっくよー!」
 仲間内の歓声が妙に心地よくて、すぐにモデルの感覚を取り戻していく私。

206ゾンリー:2021/11/23(火) 22:31:36
「まずはこれ、ピンク色のギンガムチェックスカートに白いジャケット。これだけだと結構纏まりがないんだけど、中に着た深緑のシャツが一つにまとめているんだ!」
 控室で早着替えをしている裏で、私がつくったお料理が運ばれる。運んでくれるのは、私のお師匠りりちゃん先生。
「続いて〜、桃色を基調としたお花柄のワンピース! ちょっと子供っぽいかなーとも思ったけど、流石ひなたちゃん、ハットを被れば意外にピッタリでしょ?」
 みんなのお父さんやお母さん、円山先生も思い思いのお酒を手にもって「おぉ〜」と良いリアクション。
「どんどんいくよ、これは前開きの黄色いパーカーにボーダーシャツとデニム生地のショートパンツ。シュシュを使って元気はつらつなポニーテール風!」
「厚底サンダルとシースルースカートの組み合わせ! あえてシンプルなアクセサリーが透明感を引き立ててるんだよね〜」
 その後もくるりくるりとカグヤ七変化。その度にみんなの驚く顔と瞳が私の目の前できらきらと輝きを放っていく。

「さあさあ、パーティはこれからだよ、楽しんでいってね!」

 お酒で顔を赤らめたお母さんの慈しむ表情に、私はとびっきりの笑顔ではにかんでみせた。

「いたいた」
 一人ベランダで黄昏ていると、のどかちゃんが乳酸菌飲料の注がれたグラスを両手に持ってこちらの方に。私は差し出された片方のグラスを受け取って、カチンと小さく打ち鳴らした。料理でお腹いっぱいのはずなのに、後を引かない爽やかな甘味が自然と喉の奥へ流れ込んでいく。
「……カグヤちゃん、今日はありがとう」
「ううん、私だけじゃないよ。ちゆちゃんにりりちゃん、ひなたちゃん、そしてのどかちゃん。みんなが居たから、今日のパーティーは成功した」
「でも、その中心になって動いてくれたのは……カグヤちゃん、貴女なんだよ」
 のどかちゃんの優しく包み込むような笑顔が夕日に照らされて、私の胸の中がじんわりと温かくなる。肩の力を抜いた私は、「ありがと」とのどかちゃんの方へ肩を寄せた。
「大人の皆さんは、すっかり出来上がっちゃったみたいだよ」
「ふふっ、お母さん久々のお酒で二日酔いにならないといいけど」
「うちも。でも、そういう機会じゃないと飲まないから」
「「ねー」」
 親ラブな私たちの思いを知ってか知らでか、お母さんとのどかちゃんの両親の楽しそうな会話が遠くで聞こえる。
「……私、みんなに恩返しできたかな?」
 オレンジ色に染まった芝生が、風に吹かれてサワサワとそよぐ。直後、真下からりりちゃんの大きな笑い声が聞こえてきて、私達は顔を見合わせて微笑んだ。
「ふふっ、聞くまでも無いんじゃない?」
「……うんっ」
 いつの間にかグラスの中身は二人とも空になっていて、ベランダからまっすぐ見える海岸線が、ゆっくりと淡い紫色に染まっていく。
「あ、一番星」
「えーどこどこ? あ、あった!」
 
 明るく浮かぶ光の粒。それは今日という特別な一日を祝福してるようで、同時にその終わりを告げているようで。
「いよいよ明日、かぁ……なーんか全然、そんな気しないんだよね」
「私もだよ。でも、同じ空の下で繋がってるから……なんて」
 照れたようにはにかむのどかちゃん。気づけば空は随分と暗さを増していき、部屋から洩れる明かりでようやく、彼女の表情が伺えるくらいの明るさになっていた。
「……なんて、ベタすぎたかな?」
「あ、のどかちゃん、ベタじゃなくて……」
「「月並み!」」
 キレイにハモって、同時に吹き出す。
「アッハハハ! ううん、でもその通りだよね。東京じゃ、こんなきれいな星は見えないかもだけど、同じ空の下にいる。それに、もう二度と会えないわけじゃないし」
「うん! また絶対、東京に行くね。やくそく」
 真っ暗な手元で数回指をぶつけながら、小指で指切りげんまん。
「そうだ、せっかくなら皆で色んな所に旅行行きたいな」
「ふわぁ〜それもいいね! カグヤちゃんだったらどこに行きたい?」
「三重かなぁ? 実はね、シュークリームの生産量が日本一なんだって! のどかちゃんは?」
「えーとじゃあとびっきり飛んで……北海道とか沖縄とか! 一度飛行機乗ってみたいんだぁ」
 まだまだ冷えるベランダで肩を寄せ合いながらそんな話をしていると、階段をトントントントンと上ってくる音が。
「あー二人ともこんなところにいたー!」
「風邪ひいちゃうわよ?」
 音の主は、心配して私たちを捜しに来てくれたちゆちゃんとひなたちゃん。その手には、季節外れの花火セットが握られていた。
「わ、花火だ!」

207ゾンリー:2021/11/23(火) 22:32:06
「ふふ、今ね、みんなで旅行行きたいねーって話してたんだぁ。ちゆちゃんとひなたちゃんは何処に行きたい?」
 一階へと戻りながら、話を広げるのどかちゃん。意外なことに、二人とも即決だったみたいで。
「私は兵庫。温泉の有名どころは抑えておきたいもの」
「はいはいはいはい! 私はねー福岡! だって美味しいものいっぱいあるんでしょ〜、行ってみたいよねぇ」

 旅行の話は尽きないけど、玄関ではみんなが蝋燭と水入りのバケツを用意してお待ちかね。
「カグヤお姉ちゃーん」
「はーい! みんな行こ」
「よっしゃ花火だー!」
 各々好きな色の花火を手に取って、火をつける。鮮やかな閃光とともに、火薬の匂いが鼻孔をくすぐった。
「ねぇ、次はこれやってみない?」
 私が取り出したのは花火の代表格、線香花火。カラフルな「こより」といった風体のそれを、私は三人に手渡した。
「じゃあ誰が一番長く残せるか勝負だ!」
「またー? 二連敗しても知らないわよ?」――

 あの後、案の定二連敗を記したひなたちゃん。楽しい時間ほどあっという間に過ぎて行って、心地よい疲労感とともに迎えた、引っ越し当日。
「カグヤお姉ちゃん……ほんとに行っちゃうんだね」
「うん……ごめんね」
 通いなれたアパートの階段。その裏側で、りりちゃんの頭をそっと撫でる。
「ううん、大丈夫だもん!」
(本当に、強い子だなぁ)
 りりちゃんの目じりに浮かんだ水滴(なみだ)。私はそれを小指で拭って、ポケットから取り出した花のヘアピンを、そっと彼女の前髪に付けた。
「……!」
「よく似合ってるよ」
 スマホの内カメラでりりちゃんを映す。「なんだか自分じゃないみたい」とはしゃぐ姿に、一安心。
「それじゃ、行くね」

「待って!」

 そんな私を呼び止めたのは、りりちゃんでも、りりちゃんのお母さんでもなく……
「のどかちゃん! ちゆちゃんにひなたちゃんも!」
「よかったぁ間に合って」
 三人とも息が荒く、ここまで急いできたことが伺える。
「もー、ひなたが遅刻するから……」
「ほんっとゴメン! 作ってたら夢中になっちゃってさ」
「作る?」
 不思議そうに首を傾げる私に、ひなたちゃんは一冊のノートを差し出した。
「これ、私流のファッションアレンジまとめてみたんだ! 開けてみて」
 ページを開くと、昨日のファッションショーで着たコーディネートの解説が。蛍光ペンでアンダーバーが引かれてて、とってもわかりやすい。
「次は私。これ、よかったら車の中で食べて」
 ちゆちゃんから受け取ったのは、風呂敷に包まれたお弁当箱。中身を聞いたら「開けてからのお楽しみ」ってはぐらかされちゃった。
「私、ちゆちゃんみたいにお料理上手じゃないし、ひなたちゃんみたいにファッションセンスもないから……これ」
 のどかちゃんからは、淡い桃色のお花があしらわれたフォトフレーム。その中を見ると、写真の代わりに手紙が入っていた。
「は、恥ずかしいから車の中で読んでほしいな……」
「……うん。ありがとう」
 感情が高ぶって、うまく言葉が出てこない。本当はもっと、素敵なこと言えたらよかったのに。
「ねぇ、フォトフレームなんだから、みんなで写真撮らない?」
 そう提案した私は、お母さんにカメラを起動したスマホを渡して、皆のもとへ駆け寄る。
「ほら、もっと寄って寄って!」
 おしくらまんじゅう状態に固まった私たち。
 お母さんがスマホを構えると、全員でおそろいの横ピース! 図らずも全員っ被ったそのポーズにひとしきり大笑いして、ようやく踏ん切りがついた私は、大きなリュックを背負い車へと歩き出した。
 
 
 
 
「みんな……またね!」

208ゾンリー:2021/11/23(火) 22:32:39
 来た時よりも多くなった荷物に後部座席を占領されながら、自動車が緩やかな坂を上っていく。ずっと手を振ってくれていた皆もすぐに見えなくなって、カーオーディオから流れ出す懐メロがなんだかやけに胸に響いた。
 ちゆちゃんからもらったお弁当(豪華な天むすだった!)を二人で平らげて、きちんとお手拭きで手を拭いてからフォトフレームの手紙を取り出す。
『カグヤちゃんへ
 一緒に過ごしたこの三週間、良い思い出が多すぎて、いきなり何を書こうか迷っています。
 東京でカグヤちゃんに出会って、色んなことがあって。こうしてまた会えたことが何よりも嬉しかったです。ぎゅうぎゅうのベンチで一緒にお弁当食べたり、めいさんのカフェでプチパーティしたり、小テストの点数で勝負したり、ファッションショー開いてもらったり、ってほんとにキリがないくらい。だから、カグヤちゃんとのお別れは少し……ううん、とても寂しい。
 
 そうだ、このフォトフレーム、自分で作ってみたんだ。ダイヤモンドリリーっていうお花なんだけど、カグヤちゃんの髪の色とそっくりなんだ。花言葉は……自分で調べてみて!
 
 最後になっちゃったけど、体に気を付けて、元気で過ごしてね。カグヤちゃんの行く先が、希望と夢にあふれていますように。
花寺のどかより』


 彼女の声で再生されるその手紙に見つけた、三粒ほどの小さな水シミ。それを優しくなでていると、私の頬をツーっと何かがつたっていく感覚。それが涙だと分かった途端、目頭が熱くなった。
 
(おかしいな? ちゃんと笑顔でお別れできたのに。ちゃんと……またねって言えたのに)
 せっかくもらった手紙に、一つ、二つと新しいシミが増えていく。だんだんと潤んでいく視界に、太陽の光がやけに眩しく突き刺さって。

「……コンビニで、写真プリントアウトしていくとするか」
「うんっ……!」


 三週間ぶりの懐かしい制服に袖を通して、これまた懐かしい通学かばんを手に取る。
「お母さーん、私先行くね〜」
 棚の上に置かれた、「また会う日を楽しみに」の花言葉を冠した花のフォトフレームに入れられた三週間前の写真。私はあの時の感覚を思い出しながら、使い古したローファーに履き替えた。
「行ってきまーす!」
 ドアを開けた途端に、歓迎するような陽光。それを体いっぱいに浴びながら、階段を下っていく。

 高く、どこまでも続く青空と、これからまた始まる青春。それらに想いを馳せながら、私は精一杯の握りこぶしを突き上げて、走り出した。

「生きてる……って感じー!」

 (終)

209ゾンリー:2021/11/23(火) 22:33:18
以上です。ありがとうございました!

210名無しさん:2021/11/30(火) 01:36:19
読んだー!
丁寧な描写でカラフルな世界が広がる、って感じです。
最初から最後まで、一本筋が通っているのが凄いと思いました。
次回作も楽しみにしています!

211makiray:2023/01/10(火) 20:29:03
ご無沙汰しています。
年も改まり、デパプリがラストに向けて盛り上がっている中、昨秋の映画『夢みるお子さまランチ』でキュアエコーを活躍させるお話をお届けします。
タイトルは“Juvenile”
11 スレ、お借りします。

212makiray:2023/01/10(火) 20:31:16
Juvenile (01/11)
----------------
〈コドモイガイハ ハイレマセン〉
「え…?」
「どういうことですか?」
 坂上あゆみはその声に振り向いた。
 ドリーミア。
 子どもたちのための、おいしい料理とエンターテイメントの楽園。おいしーなタウンの近くにオープンした夢の遊園地に、学校の友人とともにやってきたが、その入園ゲートで、聞き覚えのある声を耳にした。
〈コドモイガイハ ハイレマセン〉
「私は小学生です。入れないとはどういうことですか!」
「亜久里ちゃん」
 声を上げているのは円亜久里だった。隣で困惑しているのは、友人の森本エル。
 ちょっと待ってて、と仲間から離れる。あゆみは亜久里に駆け寄った。
「どうしたの」
「あゆみ…」
 一瞬、笑顔になりかけたが、亜久里は視線を入園ゲートのアテンダント ロボットに戻した。
「私を小学生だと認識してくれないのです」
 ロボットを見る。目が合うと、そのロボットは〈ヨウコソ、ドリーミアへ〉と言った。あゆみは「子ども」に分類されたようだった。
「お友達は?」
「エルちゃんは大丈夫でした」
 小さくうなずくエル。
「さぁ、もう一度、確認なさい。最後のチャンスですわ」
 その意味を理解したのか、ロボットはやや時間をかけて亜久里をスキャンした。
〈コドモイガイハ ハイレマセン〉
「もう結構! 世紀の発明家・ケットシーの技術力も大したことありませんわね。
 あゆみ、エルちゃんをお願いします」
「亜久里ちゃん!」
「私は入れませんが、エルちゃんはドリーミアに来るのを楽しみにしていたので」
 あゆみはエルを見た。エルはあゆみを見てはいなかった。
「私は嫌だよ」
「でも」
「亜久里ちゃんと一緒に来たかったんだもん!」
 はっきり言う様子に、あゆみはいくらかのうらやましさを感じた。
「エルちゃん…」
 ふたりは、かすかに目元を潤ませながら、お互いを見ている。あゆみは静かにそこを離れ、友人たちのところに戻った。
「どうしたの?」
「私の友達なんだけど…ロボットが子どもじゃないって言い張ってて、入れないんだって」
「えぇー」
「しっかりしろよ、ケットシー」
「私、心配だから送ってく」
「え、帰っちゃうの?」
「うん…ちょっとほっとけない」
 振り向くあゆみ。亜久里がエルの涙をぬぐっていた。
「…だね」
「ごめんね。また誘って」
「おう。それが大人の務めってもんだな」
「ありがとう。
 あ、それから」
 あゆみは友人たちを見つめた。
「みんなも気をつけて」
「何に?」
 想像もしなかったからか、三人が同じことを言った。
 自分でもなぜそんなことを言ったのかわからない。しかし、かすかな胸騒ぎがした。
「え、っと…いよいよ食べるぞー、っていう時に、やっぱり中学生は大人だ、とか言い出すかもしれないし」
「あー、そうだねー」
「デジタルは信用できんなー」
「じゃ」
 戻る。お互いに涙を拭き終わった亜久里とエルはもう歩き始めていた。
「あゆみ、あなたは別に」
「うん。また来ることにした」

213名無しさん:2023/01/11(水) 00:50:24
>>212
おお、makirayさんのキュアエコーが活躍する映画SS、キター!
これは続きが楽しみです。
「亜久里ならなぁ……」
と思わず頷いてしまうヒドい大人がここに……

214makiray:2023/01/11(水) 20:02:18
Juvenile (02/11)
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 ここはおいしーなタウンだし、何か食べていこう、と言ってみたが、エルはすっかり意気消沈していた。亜久里が拒絶されたことが相当にショックだったらしい。そのまま帰りの電車に乗った。あゆみは何度か、エルの気を紛らわそうと話しかけてみたが、元気のない返事が返ってくるだけだった。亜久里とエルは、黙って手をつないでいた。
 大貝町のエルの自宅まで送り届ける。早すぎる帰宅に母親は驚いていたが、あゆみが「システムエラーで入れなかった」と説明すると、「まったくデジタルはねぇ」と、友人と同じことを言った。
 次は、亜久里を送り届けて、と思っていると、亜久里が口を開いた。
「あゆみ、グレルとエンエンはどうしていますか?」
「家で留守番しているけど」
 友人たちと遊びに出かけるときは連れて行くわけにはいかない。それはいつもの約束ではあるのだが、今回は説得に手間がかかった。ふたりとも「お子様ランチ」には大いに興味があるようだった。
「一緒にドリーミアへ行きませんか?」
「え?」
「確認したいことがあるのです」
 グレルとエンエンのことを聞いたのはなぜか。プリキュアの力が必要になるかもしれない、と考えているからだ。何が、と言われれば困るが、自分も胸騒ぎを感じたのは事実だった。
「実は今日、クローバータワーでイベントがあって、みんなそちらに行っているのです。私はエルちゃんとの約束があって行けなかったのですが」
「ひょっとしてアイちゃんも…」
「はい」
 亜久里の表情が厳しい。つまり、亜久里は今、キュアエースになれない。
「お願いできますか」
「うん」

 母親は仕事で家にいないので、どうしたの、と聞かれることもなかった。あゆみは、グレルとエンエンが飛び込んだトートバッグを肩にかけてすぐに家を出た。
「久しぶりですわね、グレル、エンエン」
「元気だったか?」
「おかげさまで。フーちゃんもそこにいますわね」
〈フーちゃんはいつもあゆみと一緒〉
 あゆみの襟のエコーキュアデコルが輝いた。
「何があったの?」
 グレルは、どうやらお子様ランチが食べられるわけではなさそうだ、ということに気づいてがっかりしていたが、エンエンは心配そうな声だった。
 電車の中、ほかの客から離れたシートに座ると、亜久里は小さな声で言った。
「実は、ありすが以前から、おいしーなタウンが気になる、と言っていたのです」
「ありすちゃんが?」
「新しい仲間がいる可能性を指摘していました」
「仲間――って」
 その単語を声に出して言うわけにいかず、あゆみは口だけで「プリキュア?」と言った。
「ドリーミアの開園はいいチャンスでした。私はその偵察もかねて向かったのですが…的確過ぎました」
「何が?」
「私が子どもではない、という判定をしたことです」
 もう一度、亜久里を見る。
 円亜久里は、トランプ王国の王女、アンの魂だ。この世界の人間ではない、そして、一度は大人だったことがある。
「レントゲンを撮ったところで、それがわかるわけではありません。
 ですが、この世界のものではない技術、あるいは魔法、魔術のようなものがドリーミアを成立させているとしたら、私という異質な存在を検知――」
 あゆみは亜久里の手を握った。強く。
「ありがとうございます。心配してくれたのですね」
「だって」
「あゆみは大人ですね」
「そんなことない」
「いえ。せっかく友達と一緒に遊びに来たのに、私やエルちゃんのことを心配して一緒にいてくれる。立派なレディです」
「…」
「あなたが友達についてどういう経験をしたかは私も聞いています。その約束をくつがえすのが大変なことだ、ということもわかります」
「私は」
「俺たちもついてるだろ」
「ちょっと、グレル」
 バッグからぬいぐるみがこぼれた、というふりをしてグレルとエンエンが亜久里の膝に乗った。あゆみは慌てて周囲を見回したが、誰かが気付いた様子はなかった。走っている電車の中のことで、ぬいぐるみがしゃべっているところを聞かれてもいないようだった。
「元気出してよ、亜久里ちゃん」
〈フーちゃんも亜久里の友達〉
「ありがとうございます」
「アイちゃんがいなくて寂しいだろうけど、今日は俺が相手してやるからよ」
 いい加減にしなさい、とあゆみはグレルをコツンとやった。亜久里が笑った。


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