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【TRPG】ブレイブ&モンスターズ!第三章

1 ◆POYO/UwNZg:2019/01/29(火) 21:46:59
――「ブレイブ&モンスターズ!」とは?


遡ること二年前、某大手ゲーム会社からリリースされたスマートフォン向けソーシャルゲーム。
リリース直後から国内外で絶大な支持を集め、その人気は社会現象にまで発展した。

ゲーム内容は、位置情報によって現れる様々なモンスターを捕まえ、育成し、広大な世界を冒険する本格RPGの体を成しながら、
対人戦の要素も取り入れており、その駆け引きの奥深さなどは、まるで戦略ゲームのようだとも言われている。
プレイヤーは「スペルカード」や「ユニットカード」から構成される、20枚のデッキを互いに用意。
それらを自在に駆使して、パートナーモンスターをサポートしながら、熱いアクティブタイムバトルを制するのだ!

世界中に存在する、数多のライバル達と出会い、闘い、進化する――
それこそが、ブレイブ&モンスターズ! 通称「ブレモン」なのである!!


そして、あの日――それは虚構(ゲーム)から、真実(リアル)へと姿を変えた。


========================

ジャンル:スマホゲーム×異世界ファンタジー
コンセプト:スマホゲームの世界に転移して大冒険!
期間(目安):特になし
GM:なし
決定リール:マナーを守った上で可
○日ルール:一週間
版権・越境:なし
敵役参加:あり
避難所の有無:なし

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214崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2019/02/08(金) 12:16:21
真一とグラドを攻撃する間も、ミハエルはライフエイクの始末を忘れない。
ゆっくりと歩いてくるライフエイクへ向け、無情に『落日の閃光(フォーリン・レイ)』を放つ。
グラドがライフエイクの前方に位置取りし、身を挺して閃光を浴びるが、それさえすべてを防ぎ切れるわけではない。
何発かの閃光はライフエイクを直撃し、その肉を、命を、確実に削り取ってゆく。
縫いつけられた魔物たちの欠片が悲鳴を上げる。右腕が肩から弾け飛び、どちゃり……と地面に落ちる。

「ぅ、ぐ……は……」

しかし、それでもライフエイクは歩みを止めない。まるで歩くことが使命だ、とでも言うように。
ミハエルは美しい顔貌の眉をひきつらせた。

「見苦しいんだよ……継ぎ接ぎの化け物が! いつまでも僕の支配するゲームの卓に居座っているんじゃない!
 マリーディアはとっくに死んだ! 君が殺したんだよ……ライフエイク!
 恋人が死んだなら――君もその後を追ってさっさと死ぬのが、美しい物語の終焉ってものじゃないのかな!?」

堕天使が光を放つ。ライフエイクの肉体がさらに欠損してゆく。
ライフエイクはボロボロだ。いかに『縫合者(スーチャー)』といえど、とっくに死んでいてもおかしくない。
が、それでも斃れない。血塗れになり、腕を失い、胴体に無数の穴を開けられても尚――ライフエイクは歩く。

「チッ!」

どんっ!

「が、ぁ……!」

閃光が右の太股を貫く。骨をも砕く光線の一撃に、さすがにライフエイクも膝をついた。
グラドと真一も今までライフエイクの代わりに攻撃を受け続けていただけに、満身創痍だ。
このまま追い打ちの集中砲火を受け、ライフエイクはすべての命を喪うまで嬲り者になるしかないのか――と、思ったが。

「――違う!」

なゆたが叫ぶ。
ミハエルは怒りに燃える瞳でなゆたを睨みつけた。

「確かに、ライフエイクは王女さまを裏切った。王女さまは絶望を感じて死んだかもしれない。
 でも……それですべてがおしまいなんて、そんなこと絶対にない!」

「……何ィ……?」

「アンタの操る、ミドガルズオルムがその証拠でしょ。継続的な想いの力がなければ、ミドガルズオルムは現界し続けられない。
 王女さまの、マリーディアの想いはそこにある……まだ、寂しいって。悲しいって叫び続けてる!
 そして、その想いの大元は――『ライフエイクのことが愛しい』って! 純粋な愛情以外の何物でもない!」

「何をバカな。純粋な愛情だって? そんな陳腐な文言でこの化け物の物語を美化するのはやめてくれないかな?
 我欲のために恋人を裏切り、死に至らしめたライフエイク。
 愛に狂って自らの国民を犠牲にし、王国まで擲った挙句ライフエイクに裏切られ、死を選んだマリーディア!
 僕に言わせればふたりとも屑だ。愛だの恋だの、弱者の傷の舐め合いににうつつを抜かすからこうなる。
 自業自得の破滅を迎えたバカどもに、情状酌量の余地なんてものは寸毫ほどもないと思うけれどね!」

「……確かに、ふたりの恋のためにたくさんの人が不幸になったかもしれない。
 けれど、それでも……わたしは応援してあげたいんだ。もう一度、手を繋ぎ合わせてあげたいんだ。
 離ればなれになってしまう寂しさを。想いが届かない悲しさを。気持ちのすれ違う虚しさを知っているから。
 ――ふたたび手を繋ぐ幸せを、知っているから――!!」

真っ向からミハエルと対峙し、なゆたは叫ぶ。

「誰が何と言おうと、わたしはふたりの恋を応援する、後押しする! 色んな問題はあるけれど、全部後回しにして肯定する!
 恋すること、愛し合うこと――それを屑だの、バカげたことだのって否定することしかできないのなら!」

びっ、となゆたは細剣の切っ先でミハエルを指した。





「――アンタは。バカ以上の大バカよ! 金獅子なんて呼ばれて浮かれてる、ちっぽけなお山の大将さん!!」

215崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2019/02/08(金) 12:16:47
「うるさいんだよ、大した実力もないくせに!」

苛立ち交じりに、ミハエルがなゆたへと『落日の閃光(フォーリン・レイ)』を放つ。
その閃光をポヨリンが受けとめる。ダメージは受けるが、瞬殺されるほどではない。
バフォメットと戦う際にポヨリンにかけた『限界突破(オーバードライブ)』はまだ有効である。

「そうね。世界大会で何度も優勝してるアンタから見たら、わたしなんて名もないプレイヤーでしょう。
 でも――だからって、アンタに対して手も足も出ないってワケじゃない。
 ほんの一瞬、アンタの度肝を抜くことなら……わたしにだって充分できる!」

なゆたはスマホの液晶画面をタップすると、高らかに告げた。

「みんな、おいで! 『民族大移動(エクソダス)』……プレイ!」

途端、なゆたの周囲――否、辺り一面に無数のスライムたちが出現する。
フィールドに百体以上ものスライムを出現させるユニットカード、『民族大移動(エクソダス)』。
もちろん、召喚した無数のスライムたちはなゆたが精魂込めて鍛え上げたポヨリンには遠く及ばない最弱のザコ敵だ。
しかし、なゆたはスライムの群れを戦力として当て込んでいるわけではない。
その狙いは、もちろん――

「ははッ、何をしようとしているのかな? 知っているよ……君の手口は。
 極限までバフをかけた上での融合……G.O.D.スライム召喚! けれど、その成立には多くの手順を踏まなければならない」

ミハエルが笑う。
なゆたたち『異邦の魔物使い(ブレイブ)』の手口などすっかり把握している、という様子だ。

「君はトーナメントで主要なスペルカードのほとんどを使ってしまっている。
 そして、スペルカードのリキャストには少なくともあと半日以上かかる。G.O.D.スライム召喚コンボは使えない!
 どう足掻いたって、僕に勝てるわけがないんだよ!」
 
「一山いくらの名もないプレイヤー相手に、よく調べてるじゃないのチャンピオン。
 下調べの必要に駆られるくらい、わたしたちのことが気になった? 調査しないと勝てない! って思っちゃったのかしら?」

「調子に乗るなよ……君たちは僕のゲームの駒だ。
 駒を把握するのはゲームマスターの当然の義務だ。違うかい?」

「どれだけ緻密に計算した気になっても、把握したつもりでも――ゲームマスターの思惑なんて案外簡単に覆されちゃうものよ。
 とりわけ、わたしたちみたいにGMを出し抜くことばっかり考えてるプレイヤー相手ならなおさらね!
 卓ごとひっくり返してあげる――泣いて歯軋りする準備はいいかしら?」

「黙れ!」

堕天使が六枚の翼を羽搏かせる。突風が巻き起こり、闇の魔力を含んだ風がスライムたちを襲う。
スライムたちがぴいぴいと悲鳴を上げる。まともな抵抗力を持たないスライムたちは呆気なく全滅してしまうだろう。

「『女のもとへ赴こうとするならば鞭を忘れるな』――! 僕との力の差を思い知らせてあげるよ、そこまで言うのなら!
 女プレイヤー風情が、この僕と張り合おうとする……それがどんなに愚かなことなのか体感するといい!」

「やらせるかよ! グラド、行くぞ――『ドラゴンインパルス』!!
 ローウェルの指環よ、力を……貸せえええええええええッ!!!」

真一の命令により、真っ赤に輝く炎の塊と化したグラドが堕天使へと突進する。
自らの肉体を炎の魔力に変換するグラド最大の必殺技『ドラゴンインパルス』。
持ち得るすべての魔力の消費と反動ダメージという莫大なリスクを背負って放つ、伸るか反るかの大博打だ。

しかし。

「困るんだよ……シンイチ君! 僕をレアル=オリジン風情と一緒にされてはね!
 『悪とはなにか……弱さから生ずるすべてのものである』! 堕天使(ゲファレナー・エンゲル)、受けとめろ!」

グラドの渾身の一撃を、堕天使はその両手を大きく開いて真っ向から凌ぎ切ろうとする。

「おおおおおおおおおおおおおおお! ブッ千切れ、グラドォ――――――ッ!!!」

「させるものか……! 堕天使(ゲファレナー・エンゲル)――――――!!!」

ぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃっ!!!

流星と化したグラドと闇の障壁を展開した堕天使の力がせめぎ合う。激突した場所から火花が散り、炎が荒れ狂う。
両者の力比べが空気をどよもし、衝撃がビリビリと大気を震わせる。

そして――熾烈な力比べの果て。

真祖レアル=オリジンをも葬ったグラドの必殺技は、堕天使の両腕にしっかりと受けとめられていた。

216崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2019/02/08(金) 12:17:16
「アハハハハハ……アーッハッハッハッハッハッ!
 韻竜ごときが! 僕が極限まで育成した堕天使(ゲファレナー・エンゲル)に勝てるとでも?
 ああ、期待外れだ! ローウェルの指環を使ってもこの程度とはね! シンイチ君――!」

グラド最大の攻撃を防ぎ切り、ミハエルは哄笑した。
この『ドラゴンインパルス』が通用しないとなると、もはや真一とグラドに堕天使を倒す方法はない。
だが。
もはや対抗する手段が何もないにも拘らず、真一の表情には焦燥も悲壮もなかった。
それどころか笑っている。スマホを握りしめたまま、真一は右の口角を歪めて笑みを零した。

「……何がおかしい……!?」

「世界チャンピオンなんて言ってる割に、お前、意外と抜けてるんだな。
 確かにドラゴンインパルスは防がれた。でもな――そんなのは『最初から織り込み済み』なんだよ!」

「負け惜しみを……。指環の力を使ってなお、僕との戦力差は揺らぐことはなかった!
 潔く敗北を認めたらどうだい? 見苦しいんだよ、弱者の遠吠えはね!」

「何言ってる、思い出してみろよ……確かに俺はローウェルの指環に力を貸せ、と言った。
 だが――『俺に力を貸せ』とは言ってないぜ!」

真一がちらりと視線を外し、なゆたの方を見遣る。
つられるようにして、ミハエルもまたなゆたの方を向いた。
そして。

「な……!?」

そのまま瞠目する。
なゆたの周りに『民族大移動(エクソダス)』によって召喚された無数のスライムが集まってきている。
そして、その他に――『限界突破(オーバードライブ)』の輝く闘気を纏った、明らかに他のスライムとは異なるスライムが32匹。

「どういう……ことだ……? いや、――まさか!」

ミハエルが叫ぶ。
輝く32匹のスライム。それはスペルカード『分裂(ディヴィジョン・セル)』によってその数を増やしたポヨリンに他ならない。
なゆたはデュエラーズ・ヘヴン・トーナメントのポラーレ戦で半分以上のスペルカードを消費してしまった。
頼みの綱のG.O.D.スライム召喚コンボは明日にならなければ使用できないはずなのだ。
だが――
それを可能とする方法が、ひとつだけあった。

「……君……、その女に指環を……!」

「指環はパーティーの共有財産だ。俺だけの持ち物じゃない。
 みんなで使わなきゃ、そうだろ?」

『ローウェルの指環』の効力は、膨大な魔力の貯蔵と放出。
普段はその紅玉の中に魔力を蓄積し、有事の際にはそれを所有者に対して放出する。
その恩恵は使用済みのスペルカードを瞬く間にリキャストさせ、また他のアイテムとは比較にならないバフを授ける。
ゲームの世界ならば確実にチート級と言っても差支えない超絶レアアイテムが、なゆたの指に嵌っている。
ミハエルとの本格的な戦闘に突入する直前、真一となゆたは互いにハイタッチした。
その際、真一はなゆたへローウェルの指環を渡していたのだ。

「真ちゃんとグラちゃんの渾身の時間稼ぎ、無駄にはしないわ!
 さあ、卓をひっくり返すわよ! 『融合(フュージョン)』――プレイ! 
 ウルティメイト召喚……光纏い、降臨せよ! 天上に唯一なるスライムの神――」

なゆたは右腕を高く掲げ、空へ向かって叫んだ。
 
「G.O.D.スライム!!!!」

217崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2019/02/08(金) 12:18:18
「ぽぉぉぉぉぉぉ〜〜〜〜〜〜よぉぉぉぉぉぉぉ〜〜〜〜〜〜!!!!」

黄金に輝く体躯。眩く輝く光背。
巨大な三対の翼に、輝く王冠と神を顕すリング。
スライム系統樹最強のモンスター二体のうちの一体。身長18メートルの超巨大なスライム。
G.O.D.スライム――通称ゴッドポヨリンが降臨し、雄叫び(?)をあげる。

「う……うおおおおおおおお!!!??」

さしものミハエルも驚愕に目を見開いた。
堕天使(フォーリンエンジェル)の所有者は、ブレモン全プレイヤーの中でも10人に満たないと言われている。
何故なら、堕天使はゲーム内に敵として出てこないのだ。よって、獲得するにはガチャを回すしかない。
『出会ったモンスターは例えレイド級でも捕獲できる』が売りのブレモンとしては異例の扱いである。
そんな宝くじ級のレア度を誇る堕天使は、当然のように最高位のステータスの高さを有している。
とはいえ、さしもの堕天使もG.O.D.スライムと一騎打ちすれば只では済まないだろう。
G.O.D.スライムはブレモン全モンスターの中でもトップクラスのHPとATKを誇る。
斃すにしても一筋縄ではいくまい。

……しかし。

「(待て……。何かがおかしいぞ……)」

現出したスライムの神を前に、ミハエルは小さな違和感を覚えた。
真一がいつの間にかなゆたにローウェルの指環を渡していた、それは分かる。
なゆたの為の時間を稼ぐのに、真一が闇雲な特攻をかけてきたのも理解できる。
だが――『なゆたがローウェルの指環を使ってスペルカードをリキャストした』というのは、どう考えてもおかしい。

「(ローウェルの指環の効果は、貯蔵した魔力の譲渡――しかし、それは一度しか使えないはず……!)」

ミハエルは世界チャンピオンだ。一般プレイヤーの知らないローウェルの指環の効果も知っている。
そう。ローウェルの指環がいくら優れたアイテムだと言っても、万能チートアイテムという訳ではない。
ひとたび効果を発動させてしまえば、指環自身のリキャストに時間がかかる。何度も無尽蔵に使えたりはしないのだ。
そして、真一は先程指環の力で自らの消費したスペルカードをリキャストさせていた。
本来なら、なゆたに渡したところでなゆたのスペルカードがリキャストされるはずがないのだ。
指環はなゆたになんの恩恵も齎さない。
だというのに、なゆたはG.O.D.スライムを召喚した。その意味するところはひとつ――

「……アッハ……、アハハハハハハッ!
 よく考えたじゃないか、危うく騙されるところだったよ! ローウェルの指環は発動していない!
 舐められたものだ……まさか、僕にレアル=オリジンに使った手と同じ手を使うなんてね!
 でも、トリックは見破った――このG.O.D.スライムは!
 『陽炎(ヒートヘイズ)』で作られた幻だろう! 甘いんだよ――!」

勝ち誇った笑いを響かせると、ミハエルはスマホを繰って堕天使に指示を送った。
途端、堕天使が六枚の翼を一打ちし、一直線にゴッドポヨリンへ向けて飛翔する。
真一が先刻トーナメントでレアル=オリジンに使った奇策。
『陽炎(ヒートヘイズ)』であたかも自分が巨大化したように見せかけ、落雷を攻撃に使うための目晦ましとする――という作戦。
今回も真一となゆたはゴッドポヨリンを召喚したように見せかけ、本命の攻撃のカモフラージュにしようとしているのだ。

「この後どんな攻撃をしようとしているのかは知らないが、タネさえ割れてしまえば対処するのは造作もない!
 ハッタリが得意な君らしいな、シンイチ君――だが、これで終わりだ!
 見ているがいい、このくだらないスライムの幻影を瞬く間に打ち破って――……」

ゴウッ! と颶風を撒き、堕天使が一直線にゴッドポヨリンへと突っ込んでゆく。
堕天使の音速にも近い速度の体当たりによって、ゴッドポヨリンの幻影は瞬く間に霧散する――

かと、思ったが。


ばくんっ!!!


ゴッドポヨリンが大きく大きく、その身体の表面の半分ほども大きく口を開く。
さすがの堕天使も音速での突進中に急な制動はかけられない。呆気なくゴッドポヨリンに呑み込まれた。


「……あ?」


ミハエルは顔を引きつらせた。

218崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2019/02/08(金) 12:20:26
「……な……、ぁ……?」

幻影のはずのゴッドポヨリンが、堕天使を呑み込んでしまった。
実体はないはず。虚構のはず。ハッタリのはず。そう頭から思い込んでいたミハエルには、俄かに理解が追いつかない。
そう。ローウェルの指環は効果を発揮しない。G.O.D.スライムは喚べない。
『こんなことが起こりうるはずがない』のに――。

「……そうよ。アンタの読み通り。
 ローウェルの指環は真ちゃんのカードのリキャストで使用済み。わたしが持ったところでなんの意味もないわ」

ゴッドポヨリンがもごもごと、まるで飴でも舐めているかのように口を動かしている。
そんな光景を見上げながら、なゆたが言葉を紡ぐ。

「リキャストした真ちゃんの『陽炎(ヒートヘイズ)』で、ゴッドポヨリンの幻を作ったのも正解。
 でも――大事なことを忘れてるわよ、チャンピオン。
 わたしが『民族大移動(エクソダス)』で召喚したスライムたちは、いったいどこへ行ったと思う……?」

「……は!?」

なゆたの指摘にミハエルは周囲を素早く見回す。
いつの間にか、周囲にあれだけいたスライムたちは一匹もいなくなっていた。

「アンタはタネが割れたとか何とか言っていたけれど。わたしたちは、最初からアンタに何も隠し事なんてしてない。
 アンタが勝手に見落としただけよ、チャンピオン!
 そのポヨリンは幻影なんかじゃない、ゴッドポヨリンはニセモノだけれど、『融合(フュージョン)』は紛れもない本物!」

真一の『陽炎(ヒートヘイズ)』の効果が切れ、真実が露になる。
ゴッドポヨリンの身体の黄金の輝きや三対の翼、頭の王冠やリングが消滅する。
G.O.D.スライムの幻の中から現れたのは、ポヨリンをそのままゴッドポヨリンのサイズに大きくしたような巨大スライムだった。
『限界突破(オーバードライブ)』等のバフをかけず、ただスライムたちを融合させるだけで召喚できるスライム。
ヒュージスライム、それがなゆたの使った策だった。

ミハエルは世界最強のプレイヤー。単純なぶつかり合いでは勝ち目はないし、半端な奇策など瞬く間に見破られてしまう。
また、ミハエルはこちらがアルフヘイムで使ってきたカードや戦術も熟知している。二度同じ手は使えない。
しかし。だからこそ。
なゆたと真一はこの手段を使ったのだった。
さもローウェルの指環でカードをリキャストしたように見せかけ、G.O.D.スライムを召喚したように見せかけ。
レアル=オリジンを撃破したときと同じ作戦を用いたように見せかけ――
それを突破したミハエルが『格下の浅知恵をすべて見破ってやった』と驕り、増長するように仕向けたのだ。
堕天使がトドメとばかりに、無警戒で突進してくるように。
むろんヒュージスライムはG.O.D.スライムとは比較にならないほど弱い。ただ大きいだけのスライムである。
しかし、この際強さは関係なかった。こちらはただ『堕天使に触れられさえすればいい』のだから。

もごもごっと口を動かしていたヒュージスライムが、ぺっ! と何かを吐き出す。
それは粘液でべとべとになった堕天使だった。

「く……、ぉ……! この……雑魚プレイヤーごときがぁ……!
 立て!堕天使(ゲファレナー・エンゲル)! 立ってこいつらを皆殺しにしろ――!!」

怒りに声を荒らげ、ミハエルは堕天使に命じた。
だが、堕天使は立ち上がれない。なんとか起き上がって片膝立ちにまではなるものの、ガクリと身体が傾く。

「無駄よ。ビッグポヨリンを召喚するとき、スペルカード『麻痺毒(バイオトキシック)』も混ぜといたから。
 堕天使はレイド相当のモンスターだけど、純粋なレイドじゃない。つまり『状態異常が効く』ってこと!
 ポヨリンの麻痺毒まみれの口の中でモグモグされたんだから、当分動けないわ!」

「ぉ……の、れぇ……!!」

ミハエルは奥歯を砕けそうなほど強く噛みしめた。
幾重にも張り巡らせたなゆたと真一の策は実を結び、堕天使は地に墜ちた。

「さあ――今よ、明神さん!」

なゆたは明神の方を振り仰ぎ、そう鋭く告げた。


【堕天使墜落。バトンを明神へ】

219カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2019/02/08(金) 22:00:36
突然背中に人一人が落下してきたような衝撃を感じ、一時高度が落ちる。
気付けば姉さんの後ろに当然のごとく少女が乗っていて、2人乗りになっていた。

>「は、はぁ〜い。突然お邪魔してごめんえ〜
ミドガルズオルムを抑えに来たんやけど、うち空飛べへんし便乗させてらもいに来たんよ
うちは五穀みのり、異邦の魔物使い(ブレイブ)よ」

そして少女はブレイブを名乗るが、トーナメントに出ていたのとはまた別の少女だ。
おおかたあの少年や少女の連れなのだろう。
そして種族はやはり人間――おそらく地球での姿のままこちらに来たのだろう。
私達のようにこちらに転移してきた時に別の種族になるのは変わり種なのだろうか。
姉さんは腕に取り付けた魔法の板を見せながら答える。

「ブレイブ……!? 良かった、トーナメントに出てた子の仲間だよね!?
ボクもブレイブっぽいんだけど君達に合流しろって言われてて!
こっちに来た時に種族が変わったんだけどそういうのはやっぱり珍しいのかな?」

>「シルヴェストルとユニサスのコンビって絵になってええよねえ、お姉さん好きよ〜」

それについてはマジで同意。
私達をこの世界に送り込んだ何者かがいるとしたら、そこは素直に感謝したい。
世の中に疲れたオッサンニートとオバサ……お姉さまヲタがそのまんま
夢と希望に満ち溢れる10代の少年少女達のジュヴナイルのような冒険ファンタジーの世界に放り出された絵面を想像したらいたたまれない。

>「あ、攻撃来るから避けてね」

事も無げに言うみのりと名乗る少女。
随分と簡単に言ってくれるものだが、ユニサスは元々人一人は軽く乗せて飛べる仕様だそうで、重さ的には問題は無い。
二人乗ってるじゃないかって?
姉さんが転生したシルヴェストルは、風の魔力が濃く集まる場から生まれる精霊系種族らしく、
その体は風の魔力で出来ているそうで、空気のように軽い。
姿は大抵少年や少女やイケメンや美女。たまに例外もいたりする。
自らがこれが自分だとイメージする姿を取っているという仕組みだそうだ。
だから、姉さんが少年型になったことには特に違和感は感じなかった。
というと誤解が生じそうだが、ガチで精神的には男だったとかでは全然無くただの草食系というか絶食系女子だ。
恋愛トークに花を咲かせるゆるふわキャピルン女子の一団を少し離れた場所から眺めつつ
“ああ、自分はあれとは違うな”って思ってる系の生物学上女って世の中に割と普通に存在すると思う。
その中の一人だったというだけの話だ。
閑話休題――引き続き水のブレスを避けまくっている間に、みのりから、結界を張り外部から遮断した旨を告げられる。
街に被害を出さないためということか。
待て、その内側に一緒に閉じ込められた私達はどーなる!? もはや引くに引けない状態となった。
暫し逃げ回っていると、みのりの連れてきた仲間らしき者達が眼前に現れた。

220カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2019/02/08(金) 22:01:28
>「残念だが……」

>「ここまでは想定通りという顔をしておるが、ここからどうするのじゃ?」

>「ほうやねえ、3ターンは持たせると云ってもうたし
ポラーレはん、エカテリーナはんの深紅の宝玉を蝶のように舞う(バタフライ・エフェクト)で守ったってくださいな
結界は抑えの要ですよってなぁ」

>「わかった、が……何か策があるのかな」

>「そらもう……力づくですわっ!!!」

事の成り行きを見守っていると、みのりからヤバいオーラが溢れ出るのを感じた。
なんというか好戦的な戦闘民族のような。
馬は乗っている者の心がなんとなく分かる、等という説があるが本当らしい。
おそらく狂暴な表情をしているのだろうが、前に座っている姉さんにはそれは見えない。
が、今はそれでいいのだ。危ないところを助けに来てくれたのは事実だし、この状況を何とかするのが先決だ。
みのりのパートナーモンスターなのだろう、案山子のような姿のモンスター 
――スケアクロウから、凄まじい魔力があふれ出し、結界内を満たす大砂嵐と化す。
もし結界が無かったら街に被害が及んでいるかもしれない、それぐらいの規模だ。
尚、深紅の宝玉を抱いたポラーレは、この砂嵐を『蝶のように舞う(バタフライ・エフェクト)』で回避しているようだ。
いくらあらゆる攻撃を回避できるスキルだとしてもこの全方位の砂嵐を回避するのは
常識的に考えて無理だと思うが、この世界は仕様上そうと決まっていればそうなるものらしい。

「す、すごい……!」

姉さんはあわよくばテンプレ驚き役に徹しようとしているが、そうはいかない。
凄まじい砂嵐の中で、ゆらりと大蛇の影が動くのが見えた。抑えきれていない……!

《姉さん、まだだ……!》

>「イシュタルの周りは台風の目みたいなもんで安全やから安心してえな
それでな、あんた風の妖精やろ?
うちの砂嵐に風を上乗せしてくれたら助かるんやけど?」

「お安い御用さ!」

かといって、場を風属性に変えるエアリアルフィールドは、スケアクロウは地属性なので微妙。
行き着くのは無難なところでウィンドストームの重ね掛けかと思いきや、違った。
姉さんは左腕を掲げ、高らかに呪文を唱える。

「――〈烈風の加護(エアリアルエンチャント)〉!」

221カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2019/02/08(金) 22:02:54
選んだのは、武器にかけたら攻撃力強化、防具にかけたら防御力強化が出来る、攻防両用の付与魔法――
それを技を発動中のスケアクロウ自体に、武器にかけた時の仕様でかけた。
ちなみに音声認識システムをフル活用しているためスマホをタップする動作はなく、一見するとどう見ても風の魔法使いだ。
スケアクロウに風の魔力が付与され、砂嵐の威力が何倍にも膨れ上がる。
とはいえ、倒すのはおろか、短時間抑えるのが精一杯だ。
先程の会話で“3ターンは持たせる”という言葉があったことだし、別動隊がこいつを操っている者をどうにかしようとしているのだろう。
そちらが首尾よくやってくれることを祈るしかない。
暫しの膠着状態が訪れ、ミドガルズオルムの動向を息を呑んで見守る。
この世界の1ターンがどれ位の時間なのかはよく分からないが、もう2ターンぐらいは経過しただろうか。
このまま終わってくれと願うばかりだったが、そうは問屋が卸さなかった。
怒り狂ったミドガルズオルムが再び動き始めたのだ。
狙いはもちろん私達――ではなく。私達を無視して結界の壁に強烈な体当たりを始めた。

「アイツ、結界をぶち壊すつもりだ……!」

見る見るうちに結界にひびが入り始めた。
コイツ、どうしても街を海の底に沈めないと気が済まないのか――!

「3ターン持ち堪えたら君の仲間がどうにかしてくれるんだよね!? ……なら!
――〈風精王の被造物(エアリアルウェポン)〉!」

姉さんはみのりにあと少し持ち堪えるだけでいいことを念押しし、呪文を唱える。
それは、風の魔力で出来た任意の部防具を作り出すスペル。
作り出されたのは、巨大なランス――と言っていいのか迷うほど巨大な、
見た目上だけはミドガルズオルムと戦うのに釣り合うほどの全長数十メートルのランスだった。
任意の部防具(特に大きさに制限無し)とはいえ、滅茶苦茶である。
姉さんはそれを頭上に掲げて平気で持っている。
風の魔力で出来ており重さは殆どないので、こういう事が出来てしまうのだ。

「えいやっ!」

姉さんはそれを適当な掛け声と共に適当にぶん回す。
この砂嵐の中でも聞こえるほどの風切り音が響き、ランスの刃にあたる部分がミドガルズオルムをかすめた。
例によって見た目が派手なだけでダメージは殆ど無いが、イラついたミドガルズオルムが再びこちらを向く。
気を引くことに成功した――この世界風に言うなら、ヘイトを取ったのだ。

「もう一段階〈俊足(ヘイスト)〉! さあ頑張って避けまくってね!」

ド派手なモーションで挑発しながら〈俊足(ヘイスト)〉の二重掛けで逃げ切る作戦らしい。
砂嵐の中なので最初よりは相手の動きがいくぶん遅くなっているのが救いか。
私が攻撃を避け、姉さんが巨大な槍を振るう。
傍から見ると一心同体の息ピッタリのパートナーに見えることだろう。
そっちは適当に槍ぶん回すだけでいいけど避けるのはこっちなんだから勘弁してほしい、
なんて馬が内心思っているとは誰も思うまい。
マジで頼むよ別動隊!

【付与魔法付きの砂嵐でミドガルズオルムを2ターン(?)抑えるも再び動き出し結界を破壊しにかかる。
命がけでミドガルズオルムの気を引きつつミハエル戦組に希望を託す!】

222embers ◆5WH73DXszU:2019/02/14(木) 06:05:09
『とにかくなゆたちゃんから離れろや!お前死んでから鏡で自分のツラ見たことねーのか?』

――こんな風になりたくなければ逃げるべきだって言ってるんだ。
脳裏に浮かんだ反論――しかしそれは言葉にならない。

『その荷物、別に誰かに預けんでもインベントリにしまっときゃ良いだろ。
 スマホないの?"元"ブレイブっつったが、スマホぶっ壊しでもしたのか』

何故か――切迫した状況/生来の素質/生前の体験。
つまり――【口論】スキルのレベル不足。

『あんたが何者なのかすげえ気になるけどよ、ぶっちゃけ今は新キャラ登場でワイキャイやってる場合じゃねえんだ――』

更に打ち込まれるロジックによる殴打。
洗練されたコンボルートの如く連なる正論。
未成年への誘拐未遂が疑われる不審者/人ならざる焼死体への効果は――当然、抜群。

『逃げろじゃねえんだよ。おめーが逃げんだよ!』

「……分かった。分かったよ。何を言っても無駄なんだな」

諦めたように呟く焼死体。
次に取る行動――両手を挙げる/半歩後ろへ。
引き下がった訳ではない。
両手を挙げる――つまり手を振り上げて/半歩後ろへ――踏み込む準備。
説得は不可能/ならば取るべきは実力行使――それが焼死体の下した判断。

「なら――」

『しめじちゃん、撤収ついでの避難誘導にこいつも連れてってくれねえか』

「――ちょっと待て、なんでそうなる?」

――俺を散々不審者扱いした後で、こんな少女を俺に……いや、少女に俺を預ける?正気か?
焼死体は呆気に取られ硬直――強硬手段を取るタイミングを失う。

『そうね。わたしもそれがいいと思う。しめちゃん、お願い』

――止めるどころか、同意した?一体どうなってる……いや、まさか。

困惑する焼死体の脳裏に、不意に訪れる閃き。
どう考えても撤退すべきこの状況/どう見ても不審者である焼死体。
しかし頑なに逃げようとしない異邦の魔物使い――そして己に委ねられた少女。

それらの要素から導き出される推理。
――あの子が無事に逃げる時間を稼ぐ為に、危険を承知で足止めをする気か……!
命をも顧みない献身――彼らを見誤ったかと、焼死体は己の不明を深く恥じた。

223embers ◆5WH73DXszU:2019/02/14(木) 06:05:40
『ね、『燃え残り(エンバース)』さん。あなたのお話はあとで聞くから……だから生き残って』
 
「――ああ、よく分かった。任せてくれ。必ず君達の期待に答えてみせる」

『ん? もう死んでるから生き残れっていうのはおかしいのかな……と、ともかく無事で!』

「いい、みなまで言わなくても大丈夫だ。全て理解してる」
 
『そしたら、いくらでも話を聞くから! またあとで会いましょ!』

「ああ――するべき事を終えたら、すぐに戻ってくる。また後で会おう」

そして焼死体は守るべき少女へと右手を差し出し――

『元の世界に帰る方法を探せ、って言ったわよね。物語に深く踏み込めば戻れなくなるって。でも――』

「……その話なら、後でちゃんとするよ。だから今は――」

『元の世界に帰る方法なら、もう知ってる。
 あの怪物を乗り越えた果てに……きっと。ううん必ず! 元の世界に続く道があるんだ!!』

「――ああ!そうだな!」

一つ誓いを立てた。
あの少女を速やかに安全な場所へ運び、事態が収束するまで決して戻ってくるまい。
無根拠な希望/それを信じ切った眼差し。
――彼女達と一緒にいては、この子は命が幾つあっても足りない。

224embers ◆5WH73DXszU:2019/02/14(木) 06:07:14
少女に先導され、焼死体は表通りへと出る。
逃げ惑う住民/ブレスに縦断された街並み――リバティウムは混沌に包まれていた。

「しかし……ええと、しめじちゃん、だったな。
 避難誘導と言ってもどうするつもりなんだ?そもそも、する必要があるのか?」

焼死体の問い――しめじ嬢は無言/返答代わりにタップされる液晶画面。
水面のように揺らぐ石畳/這い出してくる無数の骸骨。
生ける屍達は本能的に生命の気配を探り出す――人命救助、もとい追い込み漁には最適。

「……なるほど。手際が良くて何よりだ」

納得/呆然――入り混じった焼死体の声。

「じゃあ、俺達も逃げるとしよう」

当然そうなるべきと言った語調/焼死体がしめじ嬢の前へ回り込み/向き合う形で屈む。
そのまま右手で瞬時にスマホを没収/左腕で腹を巻き込むようにして担ぎ上げる。
そして戦線を離脱すべく走り出した。
当然のように抗議するしめじ嬢/焼死体は聞く耳持たない。

「悪いが、絶対に戻る訳にはいかない。君がこの街で出来る事は何もない」

更に激しさを増す抗議の声/焦土のような背中を容赦なく叩く少女の拳。
だが職業【引きこもりJC】のSTR補正では『燃え残り』のDEF値を上回れない。

「……なら、俺が実は君達の敵だったとしたら?もうおしまいだ。そうだろう?
 君達がしてる事は、それくらい危なっかしい、綱渡りなんだ」

奪取したスマホをちらつかせ/諭す焼死体。
しめじ嬢は暫し沈黙――しかし再び、両手に力を込める。

焼死体の背中を叩く為ではない。
ボロ布同然のローブを縋るように握り締める小さな手。
紡がれるのは、抗議ではなく、懇願の――震えた声。
【引きこもりJC】の腕力は焼死体の肉体を害する事は出来なかった。
だがその声は――燃え落ちた体の奥へ/心へ、容易く突き刺さる。

225embers ◆5WH73DXszU:2019/02/14(木) 06:08:42
「……彼らと一緒にいれば、いつか君は死ぬかもしれない。それでもいいのか?」

少女は即答――その程度の事は、とっくの昔に乗り越えてきた。

「……分かったよ」

対して焼死体の決断は――長い逡巡の末に、下された。

「なら、俺が君達のゲームに乗ろう。体を張って命をかけるのは、君じゃなくていい」

しめじ嬢を下ろす/膝を突いて目線を合わせる。
同時に、ぴしりと響く音――焼死体の双眸、枯れた眼球が、ひび割れていた。
その奥に燻っていた火が、空気に触れる事で、再び燃え上がる。

「勝利条件とユニットデータを、他にも留意すべき情報があるなら教えてくれ」

焼死体の声色が変わる。
迷いに塗れた臆病者の声から――力強く/強硬/まるで歴戦の兵士のように。
戸惑いながらも問いに答えるしめじ嬢/続く幾つかの質疑応答。

「分かった、もう十分だ」

不意に立ち上がる焼死体――スマホを返却/しめじ嬢に背を向け/語り出す。

「追ってきても構わない。だが恐らく無駄になると忠告はしておこう。
 よほどドギツい後出しジャンケンがない限り、この戦い、恐らく1ターンキルで終わる事になる」

そしてそう言い残して――走り出した。

226embers ◆5WH73DXszU:2019/02/14(木) 06:10:25
石畳を蹴る/手頃な窓を蹴り破り/窓枠を足場に更に跳躍/屋根の縁に指をかけ――よじ登る。
格段に開けた視界――その奥に降り注ぐ閃光/流星の如き炎。
極めつけ――突如現れる巨大スライム。

その間も走り続けた焼死体――程なく戦火の中心へ到達/屋根から飛び立つ。
滞空中に眼下を確認――見えたのは姫騎士装備のヤバい少女/その推定彼氏。  
そして二人と相対する金髪の美青年――この[騒動/ゲーム]のメインターゲット。

『ぉ……の、れぇ……!!』

――なんだか知らないが、随分と打ちひしがれてる様子だ。ベストタイミングで駆けつけたな。だが――

「油断するなよ!まだヤツのバトルフェイズは終了してないぜ!」

焼死体が着地/ローブの懐へ潜る右手――掴み/取り出す――半ばまで溶け落ちた直剣。
そのまま驚異的な脚力を以って[美青年/ミハエル]へ肉薄。
振り翳される白刃――だがミハエルは驚く素振りすら見せない。

新手の乱入を瞬時に察知/タブレットを操作/インベントリから漆黒の短槍を取り出し――右腕一本でカウンターを見舞う。

現代人とは思えぬ鋭い五感/身のこなし。
驚愕する焼死体――右腕を振り上げた事でがら空きの胴体/そこに突き刺さる迎撃の槍。

『は……ははは!これが君達の策か?だとしたら……最後の最後でお粗末だったな!ええ!?』

ほくそ笑むミハエル/残る敵共に対する残心を成すべく槍を引き――だが抜けない。
弧を描く、焼死体の黒焦げた唇――ぱらぱらと剥がれ落ちる、炭の欠片。

「どうしたチャンプ。知恵の輪遊びは苦手か?」

しめじ嬢より情報提供されたミハエルの手札。
防御障壁/堕天使――そして縫合者(スーチャー)をも殺める槍の腕前。
その内、堕天使――既に無力化済み。
防御障壁――アロハ男が特に言及しなかった事から策があると思われる。

であれば焼死体が奪い取るべき手札は、最後の一枚。
思いがけない幸運――ミハエルの得物が槍であった事。
生身の人間ではない焼死体にとって、それは極めて都合が良かった。

槍が突き刺す武器である関係上、生理機能が既に損なわれた体ならば『敢えて受ける』事が出来る。

入射角を上手い事調節すれば、穂先を肋骨で挟み、囚える事も。
つまりこれは、死せざる者のみが実行可能な真剣白刃取り。
データを収集/対策を練る――そして導き出された攻略法。
実行し/結果は上々――喜色を増す焼死体の笑み。

『さあ――今よ、明神さん!』

今なお双眸に宿る灯火の奥に、[勝利/ゲームクリア]の幻想が揺れた。
他には何も、焼死体の眼に映らない/思考に浮かばない。
守らなければ/逃がさなければ――そう思っていたはずの、[命/ユニット]さえも。

227明神 ◆9EasXbvg42:2019/02/21(木) 08:00:30
焼死体と空飛ぶ馬の介入はともかくとして、それぞれの持場と役割は決まった。
石油王は俺達に例の藁人形を配り終えると、エカテリーナに運ばれて姿を消す。

>「はぁ〜せわしないけどしゃあないねえ
  真ちゃん、なゆちゃん、しめじちゃん明神のお兄さん、お気ばりやすえ〜
  ほならエカテリーナはん、ポラーレはん、あんじょうよろしゅうに」

不確定要素はあるにはあるが、ミドやんサイドについては任せちまって良いだろう。
あの女、石油王は、やるっつったからには不足なく仕事をこなす。
確信めいた信頼の根拠は、お姉ちゃんとエカテリーナがついてるからってわけじゃない。

真ちゃんやなゆたちゃんの戦闘能力を俺が疑わないのと同様に。
つまりは――そろそろ俺たちも、短い付き合いじゃねえってことだ。

馬(+α)と合流を果たした石油王達。
エカテリーナが虚構結界を展開し、ミドガルズオルムを丸ごと迷宮の中へと引きずり込む。

これでこっちからは何も観測できなくなった。
あの結界が解けたとき、石油王達が生きているかどうかは、もう神様だって知りゃしねえだろう。
それが石油王の配慮だったのかは分からねぇが……おかげで俺たちは、ミハエルと堕天使に集中できる。

>「ふん。諸君ら『異邦の魔物使い(ブレイブ)』の思惑はどうあれ――ならば遠慮なく利用させて頂こう。
 せいぜい、最後まで私のために踊ってくれたまえ」
>「上等! わたしたちのダンスが激しすぎて、ついていけませんなんて泣き言言うんじゃないわよ!」

つい数分前まで敵対してた連中の翻意におもくそ戸惑ってるライフエイク。
なゆたちゃんがそのケツをけたぐり回し、いびつな共同戦線は完成する。
俺もぼさっと観戦してる場合じゃねえ。とっとと配置につくとするか。

「安心しろよライフエイク。お前の想像してるような深慮遠謀なんざどこにもねえよ。
 他人の恋バナっつーのは、俺たちの世界じゃ娯楽の一大ジャンルなんだ。
 せいぜい傍から眺めて楽しませてもらうぜ。お前が告って玉砕するサマをよぉ」

無駄に勘繰ろうとするライフエイクに俺はそう言い捨てて踵を返した。
拗れに拗れ切って、一度は悲恋に終わったラブコメを、俺たちはテコ入れしようとしている。
じゃあ何だ、俺たちは恋のキューピッドで、ミハエル君はマリーディアを手篭めにしてる恋敵ってか。

……わりと間違ってねーのがなんとも腹立たしいところだな。
ほんじゃキューピッドはキューピッドらしく、弓矢でも射ちにいこうかね。
射抜くのはヒロインのハートじゃなくてクソガキのゲーム機だけどな。

俺は路地を駆け抜け、予め目星をつけておいた建物へと向かう。
ミハエルまで一直線に射線が通っていて、仮に奴が移動しても捉えやすい位置。
住民が避難して無人となった民家、このあたりがベストだ。

こっちの動きはミハエルにも筒抜けだろう。
敵の位置を捕捉する『導きの指鎖』は、中級以上のプレイヤーなら誰でも入手出来る。
タブレットを狙撃するという目論見も、ミハエルは想定済と考えて良い。

狙われていると知っていてなお奴がその場を動かないのは、
ミハエル自身ミドやんを制御するために距離をとるわけにはいかないからだ。

あとは、狙撃を防ぐ絶対的な自信もあるんだろう。
奴が展開してる防御障壁は、遠距離攻撃や魔法に対して無類の耐性を誇るスペル『神盾の加護(シルト・デア・イージス)』。
海外で先行実装されて以来、まだ国内では情報もロクに出回っちゃいない。
廃人どもが必死に実装国のパッチノートを翻訳して、ようやくそのバランスブレイカーな仕様が明らかになった。

仮にベルゼブブが『闇の波動』を叩き込んだところで、障壁にわずかなヒビも入るまい。
ステータスの差がどうとかじゃなくて、『遠隔・魔法攻撃を100%カットする』という仕様の最上級スペルなのだ。
国内で実装された日にゃ、環境メタが総代わりするくらいのぶっ壊れスペルである。

228明神 ◆9EasXbvg42:2019/02/21(木) 08:01:06
不落の障壁で遠距離攻撃を無効化し、近接戦闘は障壁越しに槍のリーチを活かして立ち回る。
近接特化の相手なら、爆撃可能な堕天使で容易く抑え込める。

実にシンプルな教科書通りの戦術だ。そしてシンプルゆえに、隙がない。
地力が最強なミハエルが使えば、無敵と言っても過言じゃなくなるだろう。

正攻法じゃどうやったって、ミハエルの障壁は破れない。
……好都合だ。俺は始めっから、正攻法なんざ使う気ねえからよ。

堕天使とライフエイク告らせ隊の戦闘は佳境に入ろうとしていた。
藁人形越しに連中のやり取りがこっちまで聞こえてくる。

やっぱすげーわなゆたちゃん。チャンピオン相手に一切引かずに激論ぶち撒けてら。
プレイヤーとしてだけじゃなくレスバトラーとしても一線級だ。
そんなとこまでモンデンキントの野郎に似なくて良いのよ……?

>「真ちゃんとグラちゃんの渾身の時間稼ぎ、無駄にはしないわ!
 さあ、卓をひっくり返すわよ! 『融合(フュージョン)』――プレイ! 
 ウルティメイト召喚……光纏い、降臨せよ! 天上に唯一なるスライムの神――」

真ちゃんとレッドラが堕天使を押さえ込み、その隙になゆたちゃんがスペルを手繰る。
喚び出されるのは、津波の如き大量のスライム。
積み重なり、結合して、俺たちのよく知る守護神の姿へと変貌していく!

>「G.O.D.スライム!!!!」

……んん?あれ???
コンボパーツがリキャ待ちだからゴッドポヨリンさん使えないんじゃなかったの!?
まさかこの期に及んで仲間内で腹芸かましてたなんてことはあるまい。
そもそも虚偽の申告をする合理性がないし――あいつはそういうことしないと、俺は知っている。

なら、考えうる可能性は二つの一つ。
土壇場で強引にコンボを成立させる手段を手に入れたか、あるいは。

>「でも、トリックは見破った――このG.O.D.スライムは!
 『陽炎(ヒートヘイズ)』で作られた幻だろう! 甘いんだよ――!」

ゴッドポヨリンそのものが、ブラフ。
ミハエルも同じ推論に行き当たったのか、幻影を晴らすべく堕天使を吶喊させる。
如何に指輪で強化した幻影だろうと、堕天使のステで殴れば容易く霧散するだろう。
そうなれば、あとに残ってるのは無防備なスライム一匹だけだ。

……だけどなぁ。甘いのはお前だぜ、チャンピオン。
お前と対峙するその女は。巨大スライムを駆るそのプレイヤーは。
ゴッドポヨリンとかいうインチキレイド級ありきの戦術なんざ、初めから当て込んじゃいねえよ。

突っ込んでいく堕天使を迎えるように、巨大ポヨリンさんがあぎとを開く。
そして――まるで獲物を捉えた食虫植物だ。堕天使はスライムの波濤に飲み込まれた。
流石のミハエル君も何が起きたのか把握できてないんだろう。
口半開きのマヌケ面でことの成り行きを見守ることしかできない。

あの巨大スライムは、ゴッドポヨリンさんじゃあない。
真ちゃんのスペルで見た目だけ粉飾した、単なる『巨大なスライム』だ。
無論、戦闘力においてはレイド級と比べるべくもない。ふっつーのスライムの一種よ。
堕天使のパワーなら内側からだって容易くぶち破って脱出できるだろう。
……まともに動けたら、の話だけどな。

>「く……、ぉ……! この……雑魚プレイヤーごときがぁ……!
 立て!堕天使(ゲファレナー・エンゲル)! 立ってこいつらを皆殺しにしろ――!!」

229明神 ◆9EasXbvg42:2019/02/21(木) 08:01:50
ミハエルは歯軋りでも聞こえてきそうな表情で堕天使に指示を飛ばす。
堕天使に反応はない。なゆたちゃんが抜け目なく仕込んでた、麻痺毒にやられているからだ。

……こいつだきゃあ敵に回したくねえな。マジでよ。
信じられる?ミハエルがブラフを看破するとこまで完璧に読み切ってカタにはめやがったよあいつ。
どんだけ細い綱渡りだよ。顔色一つ変えずに渡り切ってやがる。
しめじちゃんもびっくりのギャンブラーだわ。

そして、ベットした対価の重さは、そのままリターンのでかさとなって返ってくる。
堕天使は、最強無敵の空の覇者は、今や地面に這いつくばる咎人だ。

自慢の六枚羽もべっとりと身体に張り付いて飛べそうにもない。
麻痺が切れるまでの数ターンの間――この空の支配者は俺たちだ。

>「油断するなよ!まだヤツのバトルフェイズは終了してないぜ!」

その時、どこから降ってきたのか例の"燃え残り"がミハエルのすぐそばに着地。
懐から半分溶けた剣を抜き放って背後からミハエルに襲いかかる。

「あいつ……!戻ってきやがったのかよ!」

路地裏で遭遇した元ブレイブ・現アンデッドは、しめじちゃんの引率で避難していたはずだ。
それがなんでここに居る?しめじちゃんはどうなった?
瞬間的に疑問が脳裏を駆け抜けていくが、流動する戦況は予断を許ちゃくれない。

ミハエルの障壁に阻まれない、純粋な白兵攻撃。
燃え残りが着地したのはライフエイクを貫いたあの長槍の間合いの内側だ。
槍のリーチを逆手に取った、100点満点をあげたい完璧な不意打ちだった。

だが……浅い。
指鎖で事前に接近を察知していたらしきミハエルは既に迎撃に動いていた。
タブレットから新たな武器、間合いを補完する短槍が吐き出される。

単なるゲームオタクとは一線を画す無駄のない動きで、燃え残りの攻撃の出鼻を挫いた。
ガラ空きの胴体に、短槍が突き立てられる――。

>『は……ははは!これが君達の策か?だとしたら……最後の最後でお粗末だったな!ええ!?』

突如現れた焼けゾンビを華麗に退治して、ミハエル君超ドヤ顔してる。
こいつめっちゃイイ顔するなぁ。そりゃ動画映えするわ。クソイケメンが、死に晒せ!
そのドヤ顔が、固まった。突き立った槍が全然抜けねーからだ。

>「どうしたチャンプ。知恵の輪遊びは苦手か?」

そして燃え残りもドヤり返した。
人体に刃物を突き立てると肉が締まって抜けなくなるとか聞いたことがある。
それって死体にも有効なの?とか思うところもあるけれど、理屈はどうあれ結果は同じだ。
――今、ミハエルは完全に足を止めている。

>「さあ――今よ、明神さん!」

なゆたちゃんがこちらを振り仰ぎ、水を向ける。
俺の方も、狙撃準備は既に完了していた。

「GJ。……やれ、ヤマシタ!」

狙撃位置でサモンしたヤマシタが、キリキリ悲鳴を上げる弓を解き放った。
矢羽が風を切る甲高い音を置き去りに、命中バフの加護を受けた矢が飛翔する。
地に伏せる堕天使の頭上を横切り、未だ未練がましく短槍を手にするミハエルへ直撃した。

230明神 ◆9EasXbvg42:2019/02/21(木) 08:02:37
「noobがっ!どれだけバフを盛ろうがイージスは抜けやしないんだよ!
 タイラントの主砲だって跳ね返せるのは実証済だ!
 ローウェルの加護も、超レイド級も、ゲームのルールだけは絶対に覆すことはできない!」

ずいぶんメッキも剥がれちゃいるが、ミハエルの言葉は正しかった。
『神盾の加護』は仕様通りに効果を発揮し、ヤマシタの矢は儚く砕け散る。

「ずいぶん余裕が失せてきたじゃねぇかチャンピオン。よってたかってボコられんのは初めてか?
 だけどお前の言う通りだぜ。クソみてぇなアプデでもかまさねぇ限り、スペルの仕様は絶対だ」

気まぐれな開発が思いつきで修正を入れないうちは、仕様が覆ることはない。
俺たちプレイヤーにとって仕様は絶対の法であり――だからこそ、穴を突くうまみがある。

ミハエルにぶつけたのは、たった今弾け飛んだ矢……だけじゃない。
支えを失ってふわりと自由落下し、ミハエルの足元に転がった、俺のスマホ。
矢にくくりつけて、スマホごとヤマシタに撃たせたのだ。

「――――ッ!!」

持ち前の洞察力で素早く意図を察したのか、ミハエルは煽ることすら忘れてスマホを蹴り飛ばそうとする。
もう遅い。俺の隣から姿を消し、スマホから再出現したヤマシタが、その足を掴んで止めた。
至近距離。『神盾の加護』が働かない、近接戦闘の間合いだ。

『人のスマホ蹴るんじゃねぇよクソガキ。ドイツの教育は遅れてんなぁ。
 ふつー学校で習うだろうが、スマホと人の頭は蹴っちゃダメってよ』

ヤマシタの持つ藁人形越しに煽りをぶちかませば、ミハエルのイケメン面がビキっと引きつる。
ああー気持ちええんじゃぁー。クソガキを煽り倒したいだけの人生だった!!!!!

――最上位防御スペル『神盾の加護(シルト・デア・イージス)』は、術者を対象にする射撃や投擲、魔法を完全に防ぐ究極の障壁だ。
物理的な壁を作り出すのではなく、まさにイージスシステムみたくあらゆる飛び道具を迎撃する。
ミハエル本人の言う通り、たとえ超レイド級の必殺技であっても、飛び道具である限り貫くことはできないだろう。

仕様でそうなってる以上、例外はない。
そしてそれは、術者への攻撃以外なら『例外なく通す』ということでもある。
『神盾』は、通すものと通さないものを明確に区別しているのだ。
でなきゃ空気とか光とか、あるいは自分の使う魔法まで問答無用に遮断しちまうからな。

薄く、軽く、スペルを起動しているわけでもないただのスマホは、『攻撃』とは認識されない。
攻撃力がないからだ。術者を害するもの以外は、神盾の迎撃判定を通過できる。
矢は弾かれても、スマホだけはミハエルの足元へと辿り着いた。

スマホが地面に転がると同時、周回用マクロが自動でコマンドを選択してアンサモンとサモンを実行。
そうしてヤマシタがミハエルの至近距離に召喚されたっつーカラクリだ。

『そら、捕まえたぜチャンピオン。女子高生ばっか構ってないでそろそろ俺とも遊んでくれよ』

白兵戦なら、神盾に排除されることはない。
ヤマシタは剣を抜いてミハエルへ斬りかかる。

革鎧はモンスターとしては貧弱極まるが、それでも人間よりは遥かに強い。
長槍の間合いの内側で、短槍は燃え残りに突き刺さったまま。ミハエルはほぼほぼ無防備だ。
どっからどう見ても窮地の状況に、世界チャンピオンは犬歯を見せて笑った。

「想像力が足りないなぁ、新参者!パートナーが落ちたらプレイヤーは無力だとでも?
 ライフエイクを、あのレイドボスを一撃で葬ったのは堕天使じゃない。――この僕だ!」

ミハエルが短槍から手を離し、空いた手でタブレットを手繰る。
攻撃スペルでヤマシタも燃え残りも全部消し飛ばすつもりだ。

231明神 ◆9EasXbvg42:2019/02/21(木) 08:03:43
――ミハエルは強い。間違いなく世界最強の実力者だ。
奴の最大の武器は強力な課金モンスターや、まして白兵戦の強さなんかじゃない。
どんな状況からでも常に最適なカードを選び取れる、判断の素早さと正確さ。
ミハエルはその卓越した洞察力と思考力で、ほとんど脊髄反射的に最適解を選ぶ。

想像以上に追い込まれ、余裕を失った今でも、手だけは機械みたいに的確に操作を行っている。
肉薄され、武器を制限された今の状況。加えて奴は俺の手札も見透かしている。
防御もスペル阻害も持ってないヤマシタや燃え残り相手なら、攻撃スペルでの迎撃が最も効果的だろう。

……俺たち邪悪なる者にとって、こんなにもカタに嵌めやすい相手はいねぇよ。
常に最適解を選ぶってことは、選択する手段が完全に決まってるってことだからな。

つまり――俺にはミハエルが何をしてくるか、大体予想できた。
予想できたから、それに対抗する手も事前に打っておけた。

「勉強しとけよ優等生!こいつが邪悪な大人のやり口だ」

地面のスマホの中で、秒数指定したマクロが再びスペルを起動する。
『黎明の剣(トワイライトエッジ)』。武器やアイテムに光をまとわせ、攻撃力を上昇させるバフスペルだ。

とはいえ、元から貧弱なヤマシタにバフを盛ったところで、ミハエルは倒し得ないだろう。
それだけの圧倒的な実力差が、俺とチャンピオンの間にはある。
だから、バフの対象はヤマシタじゃない。

ミハエルのすぐ傍にスマホがある、今なら自バフの短い射程距離でも十分だ。
――奴が手の中に抱えている、タブレット。
攻撃力上昇の光が、タブレットをまばゆく染め上げた。

「なっ――」

ミハエルが息を飲むより先に、その手からタブレットが離れた。
見えないハンマーで殴り飛ばされたように、手から弾かれたタブレットは宙を舞う。

「『黎明の剣』のバフは加算方式だ。たとえ攻撃力が0のアイテムでも、バフを受ければ攻撃力を得る。
 たった今、てめーのタブレットは武器になったんだよ。この俺の、投擲武器にな」

『黎明の剣』は武器だけじゃなく、近くにある適当なアイテムを対象にすることもできる。
例えばその辺の石ころにバフをかければ、そこそこの攻撃力をもった投擲武器になるわけだ。

ミハエルのタブレットは、バフが効いている間だけは仕様上、『俺の作り出した投擲武器』という扱いになる。
投げればフリスビーみたくよく飛ぶし、ぶつかりゃダメージを食らう、硬い板――

「てめーの防御スペルは"敵の飛び道具"を自動迎撃し、排除する。……そういう仕様だ」

「そんな屁理屈が――」

「こんな屁理屈でも声に出してゴネまくれば――通ることもあるんだぜ」

「良い歳した大人の発言かそれが!?」

全うとは口が裂けても言えまい。だがこれが、俺たちクソコテの戦い方だ。
弾かれた速度そのままに地面を穿ちながら滑るタブレットを、俺は足で受け止めた。
フレンドリーファイアが無効になってなけりゃ攻撃力で受け止めた足が折れでもしてただろう。
そのへんもやっぱり、仕様に感謝だな。

ミハエルは俺がタブレットを拾い上げたのを認めると、ヤマシタをねじ伏せて息を大きく吸う。
奴のこった、万が一タブレットが手元を離れたときの為の次善策くらいは用意してるだろう。

……たとえば、音声認識で移動や攻撃のスペルを起動出来るようにしておくとかな。
そいつも予想済だ。俺は耳を塞ぐ。

232明神 ◆9EasXbvg42:2019/02/21(木) 08:04:41
マクロに仕込んでおいた最後のスペル、『終末の軋み(アポカリプスノイズ)』が発動する。
耳をつんざくようなバカでかい音を立てる、ただそれだけの嫌がらせスペルだ。
だがその音はプレイヤーとパートナーの意思疎通を阻害し、集中力を奪う。

音響攻撃は当然ミハエル本人には『神盾』に防がれて届きゃしないが――タブレットのマイクを潰すには十分だった。
ミハエルが何か叫んだが、それはタブレットにも俺の耳にも入ることなく雑音に塗りつぶされた。

「く、そ……返せ……!」

「はいはい、あとでね」

ミハエルの怒号を聞き流しつつタブレットに指を走らせる。
奴が操作するまさにその瞬間に奪う必要があったのは、画面ロックをさせないためだ。
パスワードも指紋認証もすぐには解除出来ないからな。

タブレットで起動してるブレモンアプリは当然の如く海外版だ。
表示されてる文字もドイツ語っぽかった。インターフェイスは日本版と同じだが、書かれてる文字は読めない。

そういや当たり前のようにミハエルと会話してっけど、あいつ日本語喋ってんの?
なんかこう、異世界モノあるあるで、うまいこと翻訳されてんのかね。

まぁいいや、めんどくせぇからタスクマネージャ開いてアプリを強制終了だ。
最初に降り立った荒野で、ヒマ過ぎてスマホを弄り倒してた俺は、アプリ落とすとどうなるかも実証済だった。

そろそろ麻痺も解けそうな堕天使の輪郭にノイズが走り、溶けるように消えていく。
同様にミハエルがインベントリから出した二本の槍も霧散した。
ディスコネクションエラー。魔力の供給が途絶えて、存在を維持できなくなったのだ。

パートナーも武器も、完全に消滅。
身にまとう黒のローブが消えてないのは、ゲーム内アイテムじゃなくてこの世界でしつらえたものだからか。
とまれかくまれ、再びアプリを起動して再召喚するまで、ミハエルはただのゲームが得意なクソガキに過ぎない。

つまり……今この場でものを言うのはリアル暴力だ。
そして暴力において俺たちが負ける要素は一つもねぇ。
誇り高きマイルドヤンキーの真ちゃん先生がいらっしゃいますからな!!

例え俺がミハエルとの殴り合いに負けても、後ろには真ちゃんが控えている。
死にかけのライフエイクだって、生身のミハエルくらい三秒でノせるだろう。
すぐ傍に燃え残りも居るしな。

俺が肩をいからせながら一歩踏み出すと、ミハエルは切れ長の目でぎょろりとこちらを睨めつけた。
自分が無力に成り下がったことを理解しているのか、抵抗する様子はない。
優位にあるのは俺なのに、気を抜けば圧倒されそうなくらい、ミハエルの気迫は衰えない。

233明神 ◆9EasXbvg42:2019/02/21(木) 08:05:35
「……良いのか?のこのこと近づいてきて。僕がまだ武器を隠し持ってるとは思わないのか?
 『神盾』はもう消えている。殺すなら遠距離からスペルや弓で撃てば良い」

「んな大人げねぇこと出来っかよ。クソガキ黙らすだけならゲンコツ一発で十分だ」

俺の言葉に、ミハエルは笑った。
何が面白かったってわけでもねえんだろう。奴の眼には、赫々と燃える怒りがあった。

「そりゃ面白い。やってみなよ!君のようにくだらない暴力に走る大人を、僕は何人も黙らせてきた!
 元の世界でも、この世界でもだ!何も変わりはしない!呪われてあれ、アルフヘイム!
 僕がここで果てようとも、ミドガルズオルムは止まらない。"戦争"は既に動き出している!」

「いーや、止まってもらうね」

「どうやって?あれはもう僕の手を完全に離れている。
 もっとも、僕の支配下に置いたところで、おとなしく眠らせるつもりなんてない。
 残念だったなぁ。君たちは、アルフヘイムは既に、詰んでいたというわけだ」

俺は握った拳を振り上げる。
ミハエルはピクリと身を硬直させるが、眼を瞑るでもなくまっすぐ俺を見据え続けていた。

この拳を振り下ろし、溜飲を下すのは簡単だ。
でもその前に、俺にはやるべきことが残っている。

「どうもこうもねぇよ。バトルフェイズはもう終わった」

拳をほどいて、ミハエルのローブに突っ込んだ。
想定してなかった行動にイケメンが変な声を出すのを無視して、奴のポケットを漁る。

……あった。
小宇宙を詰め込んだような深い輝きに満たされた、小さな瓶。
悲劇の女王マリーディアがその身を変えた、報われざる恋の雫。
ローウェルが俺たちに回収を指示したイベントアイテム――『人魚の泪』。

「ここから先は、ラブコメの時間だ」

俺は踵を返し、ライフエイクの治療にあたるなゆたちゃん目掛けて小瓶を放り投げた。
お前も見てけよミハエル君。御年数百歳の爺婆が繰り広げるキッツいキッツい惚れた腫れたをさ。

背後で、ローブが衣擦れする音が聞こえた。
ミハエルが何かしようと身じろぎしてるんだろうが、俺はもう振り返らない。

子供を黙らすにはゲンコツ一発で十分だ。
そしてそのゲンコツは……俺のものでなくたって良い。


【障壁の仕様を悪用してタブレットを奪取。アプリを強制終了して無力化
 人魚の泪を奪い、なゆたちゃんに放り渡す。ミハエルが背後でなんかやってる】

234五穀 みのり ◆2zOJYh/vk6:2019/02/25(月) 20:18:10
ブレモン正式稼働1周年記念イベント【六芒星の魔神の饗宴】
それは4週間にわたって繰り広げられた同時多発レイドイベント
世界がアルフヘイムと二ヴルヘイムに分かれる際にに封印されたといわれる六柱の魔神
それぞれ頭・右腕・左腕・胴体・右足・左足・尻尾・翼にバラバラにされていたが、アルフヘイム・ニブヘイムの二重世界を破綻させ新世界を作ろうと目論む秘密結社によって復活させられようとしていた
第一週は両腕、第二週は両足、そして第三週は尻尾と翼
復活したパーツ単体でも強力なうえ、6体*2部位12か所とプレイヤー側は戦力の分散を強いられる
各週のレイドの成否によって最終週に復活する魔神の強さが左右される

完全体で復活すればプレイヤーに勝ち目はない、といわれるほどの超レイド級モンスター
第六天魔王、クロウクルワッハ、ケッツァコアトル、アジダカーハ、マーラそしてパズズ

この六体のモンスターは特殊捕獲方式であり、各週の前哨戦レイドで討伐成功した時、累積最大ダメージを与えた者に捕獲される
最終週レイドでは、合体した部位数に応じて与ダメージ上位者に捕獲される
捕獲されたモンスターはバラバラな状態では機能せず、また捕獲方からして一人で集めるのは不可能
単体ではモンスターとして機能せず、8部位中、頭部を含めた5部位以上揃ってようやく活動たりえる。
実質記念品扱いであったが、みのりは前哨戦で右腕を、そして本戦で頭部を獲得していた

大手レイドチームがクロウクロワッハを揃えたと話題になったが、その所有権をめぐりチームが崩壊という大変後味の悪い事件が起こり、それ以降は揃えようという者はいなくなる
時折レア画像として出てくる程度で、実際に揃えられたという話は噂以上に登ることはなかった

**********************************

みのりのプレイスタイルはイシュタルの耐久力を回復スペルで支える事によりダメージを累積させ反射するバインドデッキ
レイドにおける役割としてはタンクであり、その構成はアタッカーありきの特化構成になっている
廃課金の資金力で高性能を誇るタンクとくればレイドチームからの誘いは多かったのだが、みのりはどのレイドチームにも参加しなかった
いや、参加できなかった
仕事が時間的に不安定過ぎて、チームに所属することが大きな負担になってしまうからだ

チームに所属しない以上、即興でチームを組む野良レイドがメインとなるのだが、恒常的にレイドを巡るチームに比べその頻度も質も何よりも練度が明らかに落ちる
にもかかわらずみのりのプレイングは熟達し百戦錬磨の様相を呈していた理由は、左手に隠し持っている二台目のスマホにあった
そう、みのりは二台のスマホを持ち2アカウントで一人レイドを繰り返していたのだ

イシュタルの腹部には左腕と右足の欠けた小さな青銅の像が召喚されており、それこそが今二台目のスマホにパートナーモンスターとして現在登録されているのが六芒の魔神が一柱、熱風と砂塵の王パズズである
今までみのりがどの場面でも余裕の態度を崩さずにいられたのは、【自分一人でならあらゆるちゃぶ台をひっくり返し生き残れる】という自信があったからだ




猛烈な砂嵐の中、ガリガリという音が響き渡る
ミドガルズオルムの固い鱗や外皮に暴風に乗った砂が叩きつけられているのだ
結界のおかげで海に潜って逃げる事もできず、ダメージを与えられないまでも砂嵐の牢獄に囚われたままの状態
超レイド級を不完全な超レイド級の力で抑え込めているのはカズハの風の力の上乗せというあり上出来と言えるだろう


だが、みのりの表情はその状態とは裏腹に、先ほどまでの凶暴さは鳴りを潜め徐々に青ざめてきている
その理由はみのりの視線が注がれる二台目のスマホのクリスタル数表示にあった

現在アルフエイムではクリスタルの減少現象が起こっている
ローウェルの指輪のクエストのおかげで一行のクリスタル問題は解決してはいるが、根本原因は未解決のまま
元々カンストするまでクリスタルを保有していたため、半減してもまだ膨大なクリスタルを所有していた
が……パズズ召喚でごっそりとクリスタルを消費し、そして召喚状態を維持するのにもクリスタルは消費され続けていた

更にスケアクロウの内部に召喚したことにより、スケアクロウの武器判定になったからであろうか?
烈風の加護(エアリアルエンチャント)を受け砂嵐の威力が何倍にも膨れ上がったのと同じくしてクリスタルの消費ペースも何倍にも上がる

クロウクロワッハを揃えた大手レイドチームがめったに使用しなかった理由の一つでもある
そのことはモンスターインフォを見てわかっていたが、その消費ペースはインフォに記されていたペースをはるかに上回る
これもアルフヘイムを覆うクリスタル減少現象の影響であろうか?

既にパズズを再召喚できるラインを越え、更に召喚を維持できないラインに達するのは時間の問題であった


みのりの強みは【莫大な資産】と【不完全とはいえ超レイド級のモンスターを個人所有している】という事だった
しかし今、その両方の強みを失おうとしているのだ

235五穀 みのり ◆2zOJYh/vk6:2019/02/25(月) 20:24:41
「ふ、ふふふ……冷静なつもりやったけど、やっぱテンション上がってたのねぇ」
しめじの死と蘇生、世界チャンピオン金獅子の登場、超レイド級ミドガルズオルムの出現に高揚し己の切り札を使い果たしてしまったのだから


予感はあった。
パズズは所有しているだけで十分な抑止力になるが、この世界で生きていく以上、いつか使わざるえない
しかしその相手はアルフヘイムの王とおそらくは真一となゆた、ともすれば明神やしめじも含めた者たちになるだろうと

共に旅をする仲ではあるが、ゲーム設定に殉じアルフヘイムに従い、そしていつか現実世界に戻ろうとする彼らと自分とではいつか決定的に袂を分かつ時がくる
みのりはこの世界に住むつもりであるし、それができるのであればアルフヘイムもニヴルヘイルムもどちらでもいい
寧ろアルフヘイムを盲信的に良しとするつもりなどなく、説明もなくいいように振り回す態度に不信感を越え不快感まで持っているのだから

その時、自分の最大の敵となりうるのはこの世界の住人ではなく共に旅した彼らになるであろうと
そういった予感もあり、みのりは彼らを仲間とは思っておらず、藁人形を使い常に動きと情報を把握していた
二台目のスマホの事もパズズの事も明かしてこなかったのだ
そしてこれからも、【その時】が来るまで明かすことはない、と思っていた

のだが……現実問題、今この場でパズズを呼び出しもはや再召喚どころか、クリスタルを使いきる勢いで足止めをしてしまっている
蘇ったとはいえ、しめじの死がこうまで自分に影響を与えるとは
気を許していないつもりであっても、いつの間にか仲間として認めていたという事なのだろうから


「……うちって自分で思っているより弱い女やったんねぇ」
自嘲気味に呟くと、顔を上げる
その表情は先ほどまでの青ざめた顔ではなく、振り切れたように晴れ晴れとしていた

砂嵐の吹き荒れる結界内を縦横無尽に駆け回りミドガルズオルムをけん制し続けている
繰り出される水砲は躱せてもそのまま消えるわけではない
砂嵐によって減退されてはいても結界に打撃を与えている
とはいえこちらからの決定打が打てるわけでもなく、なんとか時間稼ぎができている、という状態である

「時間稼ぎもそろそろ限界やし、どうせなら最後に一発かましてみまひょ」

カザハの後ろから、その巨大なランスを持つ手にそっと手を添えるみのりの手は藁に覆われていた
手だけでなく、スケアクロウをボディスーツのようにして自身を覆っている

そしてカケルの背の上、カザハの前には獅子の頭と腕、人の体、鷲の脚、四対の翼、蠍の尻尾……左腕と右足が欠損している青銅の小さな像が浮いていた
それこそが六芒の魔神の一柱熱風と砂塵の王パズズである
存在するだけで形成される力場が透明な防壁となり、二人と一頭を包む
パズズの低い呻き声を上げるとともに、砂嵐が風精王の被造物(エアリアルウェポン)によって作られた巨大なランスに収束していく
凄まじい熱風と砂塵の凝縮に周囲の空間が歪む

「さっきブレイブとか言うてたけど、後でゆっくり聞かせてえや?生き残れたらの話やけど」
自分だけちゃっかり防護服を着て熱風から身を守り、巨大なランスを構えさせ囁くと

「ハブ―ブランス!」

身の丈を遥かに超える径となったランスの外周部から熱風が噴き出し凄まじい推進力となる
噴き出した熱風は背後に回り、みのりの背を推し更なる推進力となる
カケルのお尻もかなり熱そうだけど、頑張れ!
ジェットのように噴き出す熱風は、そして追い風となり押すそれは否が応でもカケルの進路を強制し、ヘイスト二重かけの効果もあって暴風が如き速さの杭となりミドガルズオルムの口へと突き進む

砂嵐が収まり身動きがとれるようになったミドガルズオルムが怒りの咆哮と共に万物を押し流すが如き波濤を繰り出した


両者の激突はすさまじい衝撃を生み、エカテリーナが形成していた結界は崩壊
水飛沫が上がり、その中に仰け反り口から血を流したミドガルズオルムがその巨体を浮かび上がらせる
多少のダメージは与えたようだが、打撃というにはほど遠い
寧ろ怒りに満ち満ちた目で本格的に暴れだそうとするその先に捉えるものが……吹き飛ばされたカザハとカケル、そしてみのりであった

大きくヒビの入ったパズズは色を失い消えていく、と共に三人を覆っていた半透明の球体も消えてしまった
超レイド級モンスターパズズが出現する事で形成されていた力場が防御壁となって三人を衝撃から守っていたのだが、それもここまで
みのりの左手のスマホに表示されるクリスタル残量は7となっており、パズズを現出を維持できる限界を超えてしまったのだ

ここに、みのりは膨大なクリスタルと強大な力を失ったのだった
だが悔いはない
それは眼下に見える真一やなゆた、そして明神たちがそれぞれの役割を果たしたのであろうから

「ちょうどええ所に吹き飛ばされたわ、あれがうちの【仲間】のブレイブやよ
多分もう終わるところやと思うわ」

堕天使の姿はすでになく、金獅子も跪いている
そしてボロボロになりながらもライフエイクの姿も見える
その状況を見れば明らかだが、それ以上に仲間を信じていたから

「頃合いやし、あそこに降りたってえな。
あんたさんもブレイブやって紹介するし、色々聞きたい事もあるよってな」

エンバースとカザハ(&カケル)、共にモンスターの身でブレイブを名乗るこの二人
そしてニヴルヘイムについていたであろう金獅子
新たに三人のブレイブに聞きたい事は山ほどある。のだが、まずはこの騒動の決着をつけてからだ

みのりの手には今、収穫祭の鎌(サクリファイスハーベスト)によって召喚された大鎌が握られていた

236崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2019/02/25(月) 20:46:39
堕天使は地に墜ち、その神々しい姿を無様に床に這い蹲らせている。
自分の仕事はこなした。なゆたはすかさず明神に合図を送ろうとした、が――

>「油断するなよ!まだヤツのバトルフェイズは終了してないぜ!」

不意に、頭上で声が聞こえた。と思えば、空から何者かがミハエルの至近に降ってくる。
それは、つい今しがたメルトと一緒に戦闘フィールドから離脱したはずのエンバース。
なんと、エンバースは明神と自分が逃げろと言ったにも拘らず、メルトから離れてこちらに戻ってきてしまったらしい。

「なんで戻ってきてるの――――――――――っ!!!??」

がびーん! となゆたはショックを受けた。
おまけに、ミハエルに奇襲をしようとしてあべこべに返り討ちに遭っている。彼の本来の長さを失った剣では、ミハエルは斬れない。
反対にミハエルはなゆたにとってもまったくの想定外だったこの奇襲さえ予見していたという風に凌ぎ切り、槍を叩き込んでいた。
普通ならば致命の一撃。――しかし、そこにエンバースの仕掛けた陥穽が。ミハエルをさらに縛り付ける罠があった。

>「どうしたチャンプ。知恵の輪遊びは苦手か?」

槍が、抜けない。
もしミハエルの得物が槍でなく剣や斧であったなら、こうは行かなかった。袈裟斬りに両断されてジ・エンドだ。
ミハエルの得物の特性を見切り、エンバースが瞬時にこの戦法を選んだとするなら、恐るべき判断力だ。
機転の利かないNPCのAIではこうはいかない。やはり、彼は自身の言う通り元『異邦の魔物使い(ブレイブ)』なのだろう。
自分が穿ち、エンバースがさらにこじ開けた、唯一無二の機会。
あとは、それを明神へと託すだけだ。

「さあ――今よ、明神さん!」

なゆたが叫ぶと同時、鋭い風切り音と共に一本の矢がミハエルへと放たれるのが見えた。

>noobがっ!どれだけバフを盛ろうがイージスは抜けやしないんだよ!

ニーチェの言葉を引用する余裕さえかなぐり捨て、ミハエルが怒声を上げる。
スペルカード『神盾の加護(シルト・デア・イージス)』――
最近になって欧米で実装された、文字通り『ぶっ壊れ』な性能を持ったスペルだ。
実装された海外では既に遠距離攻撃系スペルが根こそぎ産廃と化し、プレイヤーはデッキの再構築を余儀なくされている。
高度な攻撃魔法も、優秀な投擲武器も、神の力を得た弓や投槍をも悉く跳ね返すこのスペルの登場で、遠距離戦は無意味になった。
今、海外のPvPは『自分にバフかけて接敵してぶん殴る』が最適解という、空前の近接戦闘時代に突入していた。
日本のフォーラムでは『原始時代』とか呼ばれている。運営の速やかな対応が望まれているところだ。

ミハエルが『神盾の加護(シルト・デア・イージス)』を展開している限り、こちらの遠距離攻撃は意味を成さない。
が、それを知っているはずの明神は矢を放った。
矢は当然のように無敵の盾に阻まれて砕け、跡形もなく消えてしまった。

「…………」

なゆたは息を呑んで、明神の策を見守った。
事前の打ち合わせなんてしていない。したのはただ『堕天使を何とかしてくれ』ということだけ。
それから先の展開を、なゆたは何も知らない。
けれど、心配はしていなかった。なぜなら、彼は。――明神は必ず成し遂げると信じていたから。
そうだ。彼は今までも成し遂げてきた。ガンダラの時だって、そしてこのリバティウムにおいても。
彼はきっちりと、遺漏なく、完璧に。自分に課せられた役目を、仕事を遂行してきたのだ。
そんな彼が、何となく矢を射てみた――などということをするはずがない。その行為には、必ず意味がある。
なゆたはそう信じ――そして、その信頼は誤りではなかった。

237崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2019/02/25(月) 20:47:13
カタン……という音を立てて、ミハエルの足元に何かが転がる。
それは明神が矢に括りつけていた、彼自身のスマホだった。

>「――――ッ!!」

ミハエルの顔色が変わる。彼は咄嗟にスマホを蹴り飛ばそうとしたが、その蹴り足を召喚されたヤマシタが掴んで止めた。

>『人のスマホ蹴るんじゃねぇよクソガキ。ドイツの教育は遅れてんなぁ。
 ふつー学校で習うだろうが、スマホと人の頭は蹴っちゃダメってよ』

すかさず明神が煽る。
なゆたは絶句した。スマホはこのアルフヘイムを逍遥する自分たち『異邦の魔物使い(ブレイブ)』の生命線だ。
もしもこれを失ってしまったら、自分たちはこの世界から現実世界に帰還する方法をも失ってしまうことだろう。
何より今まで蓄積してきたデータやアイテム、かけがえのないパートナーのポヨリンまで失ってしまう。
それだけは何があってもできない。なゆたはそれを警戒し、眠るときも入浴の際も肌身離さずスマホを携帯している。
そんな、ある意味命と同等に大切ともいえるスマホを、矢に括りつけて飛ばすなんて――。

>『そら、捕まえたぜチャンピオン。女子高生ばっか構ってないでそろそろ俺とも遊んでくれよ』

奇想天外と言うしかない明神の策に目を見開くなゆたの視界の先で、盾の内側に召喚されたヤマシタがミハエルへと襲い掛かる。
だが、敵もさるもの。流れるような動きでタブレットをタップし、攻撃スペルの用意を始めた。
ミハエルのことだ、きっと攻撃スペルもイージスクラスのぶっ壊れを用意していることだろう。
となれば、至近距離のヤマシタやエンバースだけではない。ライフエイクも、そして自分も巻き込まれて死ぬかもしれない。

『ぽよっ!』

役目を果たし終えてヒュージスライムから元に戻ったポヨリンが、なゆたを守るようにその前に立つ。
とはいえ、もしミハエルが攻撃スペルを発動させてしまえば、ポヨリンも諸共にやられてしまうだろう。
なゆたはポヨリンを抱き上げ、両腕でぎゅっと胸に抱きしめた。
しかし。
明神は、そんなミハエルの行動さえ読み切っていたらしい。

>「勉強しとけよ優等生!こいつが邪悪な大人のやり口だ」

ヤマシタを召喚し、お役御免となったかに見えた明神のスマホ。
その液晶画面に、スペル発動の文字が表示される。
発動したスペルは『黎明の剣(トワイライトエッジ)』――しかし、それはヤマシタを対象にしたものではなかった。
明神がバフをかけたのは、ミハエルの持つタブレットだった。

>「なっ――」

「……あ!!」

途端、バフを受けたタブレットが猛烈な勢いでミハエルの手から弾かれ、イージスの盾の外側へと飛んで行く。
その光景を見て、やっとなゆたは得心がいった。
明神は初めから、狙撃によってタブレットを破壊しようとも、ヤマシタを使ってタブレットを奪おうとも思っていなかった。
明神は『彼の手から自然とタブレットが離れるように仕向けた』のだ。
なゆたが考えもつかない、仕様の穴を突いて。

>「こんな屁理屈でも声に出してゴネまくれば――通ることもあるんだぜ」

>「良い歳した大人の発言かそれが!?」

明神の煽りに、ミハエルが負け惜しみとしか取れない科白を吐く。
確かに屁理屈だ。少なくとも現実世界のゲーム内では、こんな屁理屈が通るわけがない。
けれど、ここはゲームの中ではない。まぎれもない一つの世界、もうひとつの現実――。
だとしたら、屁理屈も理屈のうちであろう。第一、明神の狙いは実を結び、厳然たる事実としてそこに在るのだから。

238崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2019/02/25(月) 20:48:15
その後、明神はミハエルの音声入力というもしもの保険さえも完封してみせた。
タブレットを奪い取った明神が、素早くアプリを遮断する。
あのインチキのような性能を誇る堕天使も。無敵の盾も。いまだエンバースに刺さったままの槍も、何もかもが消える。
それは、自他共に認める世界チャンピオン、ブレモンの最強プレイヤーが無力化したことを意味していた。
……だが、ミドガルズオルムは消えていない。堕天使や盾と違い、ミドガルズオルムはミハエルの支配下にない。
よって、ミドガルズオルムをどうにかするには他の手立てを考えるしかないのだ。

>残念だったなぁ。君たちは、アルフヘイムは既に、詰んでいたというわけだ

ミハエルが笑う。
攻撃手段を失い、ただの子供になり下がっても、チャンピオンの矜持は手放さないということらしい。
敵ながら見上げた根性だが、もうミハエルに用はない。これから、もっと重要なイベントが控えている。

>「ここから先は、ラブコメの時間だ」

そう言って、明神がこちらへ小瓶を放ってくる。
なゆたは唇を引き結んだ決然たる表情で大きく右の手のひらを開き、それを確かに受け取った。
メロウの王女マリーディアの哀しみの涙で作られたアイテム、人魚の泪。
最初、トーナメントに優勝して勝ち取ろうとしたもの。
次に、ライフエイクを打倒して手に入れようとしたもの。
紆余曲折の末ミハエルに奪われ、破壊と滅亡のために利用されたそれが――今、手の中に在る。
深い群青色に無数の輝きを宿す、海の力を封じ込めた小瓶。
その蓋を、なゆたは躊躇いもなく開けた。

「―――――――――――――」

封印から解き放たれた泪が小瓶から解放され、ライフエイクの目の前に広がってゆく。
群青色のそれが、徐々に人の姿を取ってゆく。
海のように波打つ青い髪と、真珠のように整った美貌――それは先程自分たちが見た、マリーディアの姿に他ならない。
ただしその色合いは薄く、輪郭は儚い。あくまで、もうマリーディアは死者ということなのだろう。
けれど――死んでいるとか、生きているとか。そんなことは些末な問題でしかない。
どのような状態であれ、彼らは。マリーディアとライフエイクは、もう一度会うことが出来たのだから。
数千年の別離の、その果てに。

「……マリー……ディア……」

降臨した愛しい恋人の姿を見て、ライフエイクが呟く。
ライフエイクは満身創痍だ。堕天使の攻撃はレイドモンスターのライフを根こそぎ削り取るだけの破壊力を有していた。
なゆたはライフエイクに『再生(リジェネレーション)』のスペルを使っていたが、焼け石に水であろう。
千切れた腕や穿たれた脚、抉られた肉体が元に戻ることはない。ライフエイクはもうすぐ死ぬだろう。
……けれど。

「………………」

なゆたはやっと再会を果たしたふたりを、息をすることさえ忘れて見守った。
マリーディアは何も言わない。ただ、血まみれで死にかけているライフエイクを見詰めている。
恨みも、愛も、言いたいことならいくらだってあるはずなのに。

「マリーディア……、私は……私、は……」

ライフエイクが唇をわななかせ、震える声で言う。残り少ない命の全てを燃焼させて、永年の願いを叶えようとしている。
――がんばれ。
メルトを一度は殺めた相手なのに。あれだけ憎い相手だったのに。絶対に一度はぶん殴ってやろうと思っていた敵なのに。
気付けば、なゆたはライフエイクを応援していた。心から、その恋の成就に期待した。

239崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2019/02/25(月) 20:49:44
しかし。

「……ぐ、は……ッ!」

ライフエイクが血を吐く。びしゃり、と大量の赤黒い血液が地面を染める。
多数の命を継ぎ接ぎし、偽りの命を得て延命を果たしてきた『縫合者(スーチャー)』であっても、死の宿命からは逃れられない。
ここへきて力尽きたように、ライフエイクはぐらりと身体を前に傾がせると、地面へ倒れ込もうとした。
が、それをマリーディアがふわりと両腕を伸ばして抱きとめる。
マリーディアは血にまみれ、半壊したライフエイクの身体を優しく抱擁すると、ライフエイクの顔を見詰め――

そして、幽かに微笑んだ。
ほんの僅かではあったけれど、確かに。マリーディアはライフエイクに対して笑ったのだ。

「……マ……リ、ィ……」

ライフエイクは最後の力を振り絞り、残った左手を伸ばしてマリーディアの頬に触れた。
多数の命を、人々を食い物にし、カジノで搾取し、裏社会で権勢を誇った冷酷な男の目に涙が浮かび、ぽろぽろと零れ落ちる。
マリーディアは慈愛に満ちた眼差しで、ライフエイクを見守っている。

「………………すまない………………」

最後にそう、囁くように告げると、ライフエイクは目を閉じた。
マリーディアがライフエイクを抱きしめる。その瞬間、まばゆい輝きが周囲を――否、リバティウム全体を包み込む。

「ッ! マリーディア……、ライフエイク……!」

強烈な閃光に一瞬怯む。
だが、それは破壊をもたらす類のものではない。もっと温かく、安らぎに溢れたものだ。
マリーディアとライフエイクが光に変わってゆく。膨大な量の光の粒子がリバティウムに降り注ぐ。
それは、マリーディアが数千年の哀しみから解き放たれた証拠だった。

オオオオオォォォォォォォォォォォォ―――――――――――――ン……

エカテリーナの結界の中でミドガルズオルムがひと啼きし、空にその頭を向ける。
マリーディアが哀しみから解放されたことで、その無尽蔵とも思える魔力供給も切れたことだろう。
光の粒子が降り注ぐことで、みのりやカザハたちにも戦いが終結したことがわかるはず。
しばしの時が過ぎ、リバティウムに満ち満ちていた光が消えたとき。
なゆたの目の前に、きらきらと輝く小瓶がひとつ舞い降りてくる。なゆたはそれを受け取った。
それは『人魚の泪』に他ならなかった。

――最後に、ウソがウソでなくなったわね。ライフエイク。

手のひらの中の人魚の泪を握りしめ、なゆたは目を閉じて微笑んだ。
今となっては、どうしてかつてのライフエイクがマリーディアを裏切り、メロウの王国を攻めたのかはわからない。
本当に王女を騙していたのかもしれないし、何か不幸な行き違いや誤解があったのかもしれない。
御伽噺の時代にまで遡らなければならないその真実を知る術は、もうどこにもない。――けれど。
それは些末な問題だった。大事なのはマリーディアとライフエイクのふたりが幸せな結末を迎えられたのか、どうか。
そして、その結論に関して、なゆたはもう議論する口を持たない。
なぜなら――この『人魚の泪』が、ふたりの想いを何よりも雄弁に物語っている。
手の中にある『人魚の泪』。それはしかし、先程までのようなマリーディアの哀しみの涙によって精製されたものではない。
哀しみ二種類があるように、涙にも種類がある。これは、嬉し涙で作られたもの。
『ライ フェイク』――嘘と偽りを歩んできたライフエイクの生は、最後の最後に本物になったのだ。
嗚呼、きっと。いいや必ず――彼らは幸せになっただろう。
例え、このメロウの御伽噺の真の結末がアップデートでゲーム内のフレーバーテキストに書き加えられなかったとしても。

なゆたはそれを知っている。

240崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2019/02/25(月) 20:51:03
「……そ……、そんなバカな……!」

一連の奇跡を沈黙して見ていたミハエルが、ぶるぶると戦慄く。

「ライフエイクとマリーディアの愛? そんな陳腐な、くだらないお涙頂戴の茶番劇で! この僕の策が崩れ去るだって?
 認めないぞ……認めない! こんなバカげた話があるものか!」

自らの完璧だったはずの策がまったく想定外の方法によって阻止されたことが受け容れられないらしく、ミハエルは叫んだ。

「僕は王者だ、誰も僕には勝てない! 僕は勝ち続ける定めに生まれた、選ばれた人間なんだよ!
 おまえたち格下はみんな、僕の引き立て役に過ぎないんだ! なのに――!」

「負けたことがないっていうのは、ある意味で不幸よね。
 それは、負けることで得られる教訓とか。経験とか。悔しさとか……そういうものを何も知らないってことなんだから」

「負けることで得られるものなんてない! 負ければ全部失う、それだけだ!
 この僕を! ミュンヘンの貴公子を、おまえたち名もない雑魚と一緒にするんじゃない!」

「ハイハイ、貴公子貴公子。でも、そんな名もない雑魚にたった今負けちゃったのよ? あなた。
 いや〜そっかぁ〜。わたしたち、世界チャンピオンに勝っちゃったかぁ〜! ひょっとして世界大会でも優勝いけちゃう?
 ね、真ちゃん。現実世界に戻ったら、試しに世界大会にエントリーしてみちゃおっか?
 ミュンヘンの貴公子サマがこの程度なら、わたしたちもワンチャンあるよ絶対!」

「ぐ、ぁ、が……!!!」

ここぞとばかりに煽る。なゆたが右手を口許に当ててぷぷー、と笑うと、ミハエルはその端麗な面貌を滑稽なくらい歪めた。

「ふ、ざ、けろ、よ……屑ども……!」

わなわなと拳を震わせながら、ミハエルは怒りに燃える眼差しで『異邦の魔物使い(ブレイブ)』たちを睨みつけた。
そして、ローブの中から何かを取り出す。
それはスマホだった。どうやらミハエルはメインのタブレットの他にもうひとつ、予備を持っていたらしい。
ただし、いかにも最新モデルという感じだったタブレットと違い、そのスマホは一目でわかるほど古かった。
ブレモンを立ち上げるだけでも一苦労だろう。本当に窮地に陥ったときのための備え、という様子だった。

「ハハハ――、僕を本気で怒らせたな! もう遅い……何もかも手遅れだ!
 勝負は僕の勝ちさ、依然変わりなく! なぜなら――」

ミハエルがそこまで言ったところで、そのやや後方の空間に巨大な黒い穴が現れる。
『形成位階・門(イェツィラー・トーア)』。遠方と此方とを繋ぐ、次元の門。
どうやら、ミハエルは予備のスマホを使って転移の門を作成したらしい。
明神の後ろで何かしていたのは、この動作だったという訳だ。
そして、何もない空間にぽっかりと穿たれたその穴から――やがて、何者かがゆっくりと姿を現してきた。

「僕は! あいつを! 呼んだんだからな!!」

「……あ……」

なゆたは目を瞠った。
三メートル以上ある筋肉質の巨大な肉体に、禍々しいデザインの漆黒の甲冑。肩に羽織った闇色のマント。
背には今は折りたたまれた二対の蝙蝠の翼が生え、腰の後ろからは頑丈そうな甲殻に守られた長い尻尾が生えている。
精悍な面貌は強膜(白目部分)が黒く、瞳孔が紅い。肌の色は青紫色で、側頭部から長く湾曲した太い角が一対伸びていた。
額には幾何学模様の魔紋に彩られた第三の目。どこからどう見ても人間ではない。
そう――男はまぎれもないモンスター。それも、ブレモンプレイヤーなら知らない者はいないほど有名な魔物だった。
 
「失態だな、ミハエル・シュヴァルツァー。帰りが遅いと思っていたが、まさか負けるとは思わなかったぞ」

「負けてない! 僕が負けるものか!
 万が一、億が一そうだったとしても……ここでおまえがこいつらを皆殺しにすれば済むことだ!
 さあ……こいつらを殺せ! おまえなら造作もないことだろう――イブリース!!」

イブリースと呼ばれた魔物の落ち着いた声音に対して、ミハエルが全力で否定する。なゆたたちの抹殺を命じる。
なゆたは身を強張らせた。

241崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2019/02/25(月) 20:52:22
イブリース。
ブレモンプレイヤーにとっては『兇魔将軍イブリース』という二つ名込みの名称が有名であろう。
ブレイブ&モンスターズのストーリーモードの中で、プレイヤーが敵対する――元『十二階梯の継承者』のひとり、魔王バロール。
その三人の腹心である魔族の頂点『三魔将』の一角にしてリーダー格、それがこの兇魔将軍イブリースである。
ザ・武人といった性格のイブリースはストーリーの中盤から登場し、何度もプレイヤーと激突しては因縁を深めてゆく。
決着がつくのはラスボスである魔王の二戦前という、ストーリーでも最重要キャラのひとりだ。
もちろん、鬼のように強い。マルチでハイエンドコンテンツに幾度も足を運ぶような上級者にとっては脅威にはなり得ないが、
それでも大半のブレモンプレイヤーは一度はイブリースに全滅させられた記憶があるはずである。
なお、イブリース戦の専用BGM『闇の淵より来たる者』は名曲と評価が高く、テレビ番組でもたびたび使われていたりする。
そんな魔族の大幹部、ニヴルヘイム側の大物がこの場にいる。

「……なんてこと……」

なゆたは絶望的な面持ちで呟いた。
ミハエルを煽るために余裕で勝てた的なことを言いはしたものの、実際のところは真逆の薄氷を踏むような勝利だった。
スペルカードは使い果たし、もはやこちらのパーティーにイブリースと戦うだけの余力は残されていない。
このままでは全滅は明らかだ。せっかくマリーディアとライフエイクを救い、ミドガルズオルムを退散させたというのに。
ここでイブリースに殺されてしまっては、すべてが水の泡だ。
が、イブリースは動かない。ただ悠然と腕組みしてなゆたたち『異邦の魔物使い(ブレイブ)』を眺めている。
一向に動こうとしないイブリースに対して、ミハエルが痺れを切らしたように怒鳴る。

「どうした!? イブリース! さっさとやれ! 魔法でも、武器でも、なんでもいい! 
 『闇の波動(ドゥンケル・ヴェーレ)』を使え! 『業魔の剣(トイフェル・シュヴェルト)』はどうした!?
 僕をイラつかせるんじゃない……イブリース!!」

ミハエルの怒声に対して、イブリースは軽く世界チャンピオンの方を見ると、

「勘違いするな、ミハエル・シュヴァルツァー。オレはおまえのモンスターではない。
 オレの行動は、オレ自身とあの御方だけが決める」

「…………!!」

すげなく拒絶され、ミハエルは唇を噛みしめて俯いた。
沈黙したミハエルに代わり、イブリースがガシャリ……と鎧を鳴らして一歩前に出る。

「自己紹介が遅れたな、『異邦の魔物使い(ブレイブ)』ども。オレの名はイブリース――兇魔将軍イブリース。
 と言っても、貴様らはオレのことなどよく知っているのだろう。ならば……こう言った方がいいか?
 『ゲームの中のオレが世話になっている』と――」

イブリースはそう言うと、ニヤリと口角を歪めて嗤った。

「世界最強のプレイヤーだというので召喚したが、少し目を離した隙にまさか敗北しているとはな。
 ミハエル・シュヴァルツァーに隙があったのか、それとも貴様らが王者に勝る使い手だったのか、それは分からんが……」

「違う! 僕は――」
 
「黙れ」

イブリースの額の、縦に裂けた第三の眼がミハエルを睨みつける。
ミハエルはまた黙った。

「フン。強さは申し分ないと思うのだが、プライドが高すぎるのが困りものだ。
 王者の傲慢か……他山の石とせねばならんな。さておき――」

イブリースが籠手に包んだ右手を明神へと伸ばす。
その途端、明神の手の中のタブレットがふわりと浮き上がり、イブリースの手の中へと飛んで行く。

「これは我々のものだ、返してもらうぞ。『異邦の魔物使い(ブレイブ)』の生命線――
 こんな小さな板切れで無敵の力を発揮するというのだから、まったく貴様らの世界の技術は恐ろしい。
 しかし……しかし、だ。この小さな板切れの中に、オレたちの希望がある」

明神からタブレットを奪い取ったイブリースは、それを持ち主のミハエルに手渡す。
一旦は手を離れた大切なタブレット。ミハエルはそれをイブリースから引っ手繰ると、両腕で胸に抱きしめた。

242崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2019/02/25(月) 20:54:09
タブレットを取り返すと、イブリースは再び『異邦の魔物使い(ブレイブ)』を見た。

「いずれにせよ決着はついた、それは認めねばなるまい。ガンダラとリバティウム、これで我らは二連敗という訳だ。
 だが――貴様らの戦力についてはよくわかった。手札についてもな……次は本気で潰させてもらう」

リバティウムのミドガルズオルムのみならず、ガンダラのタイラントも自分たちの仕業であった、と暴露する。
やはり、今まで『異邦の魔物使い(ブレイブ)』たちの進路に立ち塞がった敵はニヴルヘイムの手の者だったということらしい。
そしてイブリースの言動から、今までは様子見の小手調べ。これからが本番だという。

「貴様らの好きにはさせんよ。せっかく、もう一度チャンスが巡ってきたのだ。
 今度こそこちらが勝つ。そして、あの御方の願いを叶えよう。まずは目障りな『王』の刺客である貴様らを葬り去ってな。
 次を楽しみにしているがいい」

そう告げると、イブリースは踵を返して『形成位階・門(イェツィラー・トーア)』の黒穴へと歩いてゆく。

「ゆくぞ、ミハエル・シュヴァルツァー」

「屑ども……今回は命拾いしたな……! でも、次はこうはいかない。全力だ!
 君たち下級ランカー相手に、大人げないとは思うが……一切の手加減なしに潰してやる!
 せいぜい震えていることさ、どうあっても破滅しかない自分たちの運命に!
 『物乞いは一掃すべきである。けだし何か恵むのも癪に障るし、何もやらないのも癪に障るから』!
 アッハハハハハッ……アハハハハハハハッ!」

ニーチェの言葉を引用し、哄笑を響かせながら、まずミハエルが門をくぐって姿を消す。
次いでイブリースが門に一歩を踏み出す。――しかし。

「待って!」

なゆたが制止の声を上げた。
その声に反応し、イブリースが束の間動きを止める。

「あなたたちは……いったい何をしようとしているの!? ガンダラもリバティウムも、一歩間違えれば壊滅してた!
 そんなことをしてまで、いったい……どんな願いを叶えようとしているの……!?」

そんな問いに、敵であるイブリースが馬鹿正直に答えをくれるとは最初から考えてもいない。
しかし、なゆたはそれを問わずにはいられなかった。

「…………」

イブリースはほんの僅かに考えるそぶりを見せると、

「生きることに、理由がいるのか?」

そう言って、黒い門をくぐった。
イブリースの姿が消えると同時に、門も消滅する。ミハエルたちの気配は完全になくなった。
カジノ『失楽園(パラダイス・ロスト)』の一大イベント、デュエラーズ・ヘヴン・トーナメント。
それから一転してのメルトの死亡と蘇生、ミハエルの急襲。ライフエイクとマリーディアの愛、ミドガルズオルムの覚醒――
あたかもジェットコースターのように幾多のイベントを経て、今回も『異邦の魔物使い(ブレイブ)』は生き残った。
新たに現れた、多くの謎を残して。
徐々に晴れてゆくリバティウムの空を見上げながら、なゆたは人魚の泪をぎゅっと握った。

――生きることに……理由がいるのか……。

去り際にイブリースが告げた言葉が、胸の中で棘のように突き刺さっている。
だが、どれだけ考えたところで答えは出ない。答えを出そうと望むなら、それはもう先に進むしかないのだ。

「……頑張らなくちゃ」

なゆたは改めて決意する。どんな困難に見舞われても、きっとこのメンバーで現実世界に帰還してみせる。
それこそが、何にも代え難いなゆたの願いなのだから。
……だが、その願いが『仲間たちの総意ではない』という事実を、なゆたはまだ知らない。


【マリーディアとライフエイク散華。人魚の泪ゲット。
 リバティウムは被害甚大ながらも奇跡的に死者はなし。
 ミハエル撤退。兇魔将軍イブリースが顔見せ登場、謎めいたことを宣って撤収。
 こちらは戦闘終了。】

243カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2019/02/26(火) 00:09:20
狂暴といえるほどの自信に満ち溢れていたはずのみのりだが、今やそれは跡形も無くなっている。
代わりに伝わってくるのは不安。

>「ふ、ふふふ……冷静なつもりやったけど、やっぱテンション上がってたのねぇ」
>「……うちって自分で思っているより弱い女やったんねぇ」

「そんなことないよ! 超レイド級をあれだけ抑えられるなんてすごいよ!」

自信満々で大技を繰り出したものの、思ったよりクリスタルの消費が多すぎてジリ貧になった、というところだろうか。
それだけではなくもっと深い意味があるのだろうか。
ついさっきまで不安がっていたかと思えば、今度は振り切れたように妙に爽やかな様子。
そして姉さんに一発大技をぶちかまそうと提案する。

>「時間稼ぎもそろそろ限界やし、どうせなら最後に一発かましてみまひょ」

「最後に一発……!?」

みのりの第一印象はなんとなく危険人物ではないかと思ったものだが、少なくとも今はそれは感じられない。
現時点ではキャラが掴み切れないというのが正直なところだが、今は信じていいような気がした。
いつの間にか目の前には、小さな青銅の像が浮かんでいる。
良く見ると、獅子の頭と腕、人の体、鷲の脚、四対の翼、蠍の尻尾――
待てよ? あれ、超すごいレイド級モンスターだったような気がする。
攻略本を流し読みしたうろ覚えの記憶だけど。
そしてモンスターを二つ同時に使っている、ということは2アカウント使い且つスマホ2台持ちということか?
しかし今はそんなことを考えている場合ではない。
みのりは、後ろから姉さんのランスを持つ手にそっと手を添える。

>「さっきブレイブとか言うてたけど、後でゆっくり聞かせてえや?生き残れたらの話やけど」

「うん――必ず生き残ろう!」

二人で何かいい感じのシーンを展開し始めたけど――ちょっと待て。
“生き残れたらの話やけど”って何!? 何やろうとしてんの!?
しかし、青銅の像のモンスターによって展開された透明な防壁が周囲を包んでいる。
生存の勝算はあるということだろう。

>「ハブ―ブランス!」

みのりが技名らしきものを叫ぶと、ランスの外周部から熱風が噴き出し、後ろから押す推進力となる。
と言えば聞こえはいいが、比喩的な意味でも文字通りの意味でも尻に火が付いた、というやつである。
熱風に後押しされて飛ぶというよりも半ば吹き飛ばされるようなジェットコースター状態で、否応なしに突撃することとなった。
その進路は――ミドガルズオルムの口ど真ん中!?
そこから放たれるた怒涛の波濤が、熱風を纏う槍と激突する。巻き起こるのは、凄まじい衝撃波。
結界は崩壊し数十メートルか吹っ飛ばされ、傷を負ったミドガルズオルムがこちらを睨みつけている。
その上青銅の像のモンスター(パズズだったか?)はひび割れて消え、半透明の球体の障壁も消えてしまった。

244カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2019/02/26(火) 00:10:46
「あれ? なんかヤバくない……!?」

今更ながら焦り始める姉さんだったが、みのりは落ち着いている。
ミドガルズオルムは間もなく消えると確信しているようだ。

>「ちょうどええ所に吹き飛ばされたわ、あれがうちの【仲間】のブレイブやよ
多分もう終わるところやと思うわ」

そう言われて下を見ると、何人かの人影が見えた。言われてみれば、もう戦闘は収束しているようにも見える。
気のせいかもしれないが、心なしか”仲間”という言葉が強調されているような気がした。

「そっか、やっぱりトーナメントに出てたあの子達の仲間だったんだね!」

>「頃合いやし、あそこに降りたってえな。
あんたさんもブレイブやって紹介するし、色々聞きたい事もあるよってな」

「カケル、お願い!」

《りょーかい》

そう応えて、地上へ向かい始めた時だった。
一瞬だけ眩い閃光に目が眩んだかと思うと、光の粒子が街全体に降り注ぎ始める。

>オオオオオォォォォォォォォォォォォ―――――――――――――ン……

ミドガルズオルムは空に向かって一鳴きすると、やはり光の粒子となって消えて行った。
その消え方は通常のアンサモンやダメージを受けての戦闘不能といった感じではなく、
どこか永劫の苦痛から解放されたような、そんな消え方だった。

「綺麗……」

姉さんの言う通り、綺麗な光景だった。
詳しい事情は分からないが、きっとこれは悪い結末ではないのだろう。
少なくとも、リバティウム崩壊の脅威は去ったのだ。
指定された場所に降り立ってみると、負かされた側らしき少年が往生際悪く負け惜しみを言っているところだった。
というかもしや失踪した世界チャンピオンさんじゃありません!?
まさか敵勢力に身を置いていたとは。
そして複数人掛かりとはいえ無名プレイヤーの身で世界チャンピオンに勝ってしまったこの人達は一体……。
ここまでの経緯も良く分からないのでとりあえず事の成り行きを見守っていると、
黒い穴が現れてなんか強いらしいモンスター(イブリースだっけ?)が出てきて最終的にチャンピオンを引きずって帰っていく。
哀しいかな、こちとらブレモンを起動した瞬間にトラックにひかれてしまったド素人なので
『ゲームの中のオレが世話になっている』と言われても反応できません。
……もっと攻略本(何故か一緒に転移してきて姉さんが持っている)ちゃんと読んどこう。

>「貴様らの好きにはさせんよ。せっかく、もう一度チャンスが巡ってきたのだ。
 今度こそこちらが勝つ。そして、あの御方の願いを叶えよう。まずは目障りな『王』の刺客である貴様らを葬り去ってな。
 次を楽しみにしているがいい」
>「ゆくぞ、ミハエル・シュヴァルツァー」

>「屑ども……今回は命拾いしたな……! でも、次はこうはいかない。全力だ!
 君たち下級ランカー相手に、大人げないとは思うが……一切の手加減なしに潰してやる!
 せいぜい震えていることさ、どうあっても破滅しかない自分たちの運命に!
 『物乞いは一掃すべきである。けだし何か恵むのも癪に障るし、何もやらないのも癪に障るから』!
 アッハハハハハッ……アハハハハハハハッ!」

245カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2019/02/26(火) 00:15:20
よく分からないが、とりあえず世界チャンピオンは姉さんとは別の方向性に厨二病をこじらせている事は分かった。
厨二病にも闇属性と光属性があるのだ、これ豆知識。
そんなことを脳内で思っていると、去っていこうとする敵達に向かって少女が叫んだ。

>「待って!」
>「あなたたちは……いったい何をしようとしているの!? ガンダラもリバティウムも、一歩間違えれば壊滅してた!
 そんなことをしてまで、いったい……どんな願いを叶えようとしているの……!?」

無駄な問いだ、敵にそんなことを聞いたところで答えるわけがない。
聞き出したところでどうせ世界征服したいとかそんな理由に決まっている。
しかしその予測を裏切り、答えは返ってきた。それも、恐ろしく意味深な。

>「生きることに、理由がいるのか?」

「いらないっしょ。そもそも生まれたことに意味なんて無いんだからさ。
たまたま生まれたからなんとなく生きてるだけ。
……って君達は大量破壊活動しなきゃ生きられないのか!? ひっそり平和に生きりゃいいじゃん!」

ミドガルズオルムと対峙していた時の(ある意味)勇者感はどこへやら。
ギャルやヤンキーに支配された現代日本生活で培われた無気力系陰キャラ価値観を炸裂させつつノリツッコミする姉さん。
今度こそ相手の答えは返ってこなかった。
本当に、向こう側の人々は、こちら側の大勢の人の命を奪い街を破壊しなければ生きられない事情があるのだろうか――
ともあれ敵は去り、この件は一件落着ということになるのだろう。頃合いを見計らって、姉さんが口を開く。

「君達がミドガルズオルムを消えさせてくれたんだよね、本当助かったよ!
カザハ、こっちはカケル。良かった〜、会えて。
メロちゃんに君達に合流するように言われて……丸投げでどっか行っちゃうんだから。
ホント無責任だよね!
あとトーナメント見てた! マジで恰好よかったよ!」

姉さんは少女達にそう言った後、こころなしか離れた場所に立っているボロ布同然のローブをまとった人物に目を止め、たたたっと駆け寄る。

「他にもいたんだ……こっちに来た時に異種族になっちゃった系異邦の魔物使い《ブレイブ》!
ボクだけだったらどうしようかと思った。いや、まあ、こっちの姿の方が気に入ってるんだけどさ!」

ぶっちゃけ相手はどう見ても不審者だが、別に気にしてないらしい。
それよりもお仲間がいたことの喜びの方が勝っているようだ。
同じ異種族系ブレイブでもそうなった経緯は少し(かなり?)違う事や、向こうは正確には元ブレイブであることや、
でも向こうの世界にはもう戻れないかもしれない点はやっぱり共通していることを知るのは、少し後の事である――

246embers ◆5WH73DXszU:2019/03/03(日) 06:22:05
『noobがっ!どれだけバフを盛ろうがイージスは抜けやしないんだよ!
 タイラントの主砲だって跳ね返せるのは実証済だ!
 ローウェルの加護も、超レイド級も、ゲームのルールだけは絶対に覆すことはできない!』

「なんだ、今じゃそんなスペルが実装されてるのか?……相変わらずの神ゲーだな」

返答はない/興醒めたように浮かぶ苦笑――しかし笑みの持続は刹那。
刃の眼光でミハエルを刺す、炎の双眼――ゲームはまだ、終わっていない。
己の視た勝利の幻想が、現実へと焼き付けられていく様を、見届けていない。

『ずいぶん余裕が失せてきたじゃねぇかチャンピオン。よってたかってボコられんのは初めてか?
 だけどお前の言う通りだぜ。クソみてぇなアプデでもかまさねぇ限り、スペルの仕様は絶対だ』

「状況を多角的に見る限り、むしろそのスペルこそクソアプデのように思えるのは俺だけか?
 だが……ソイツの言う通りだ。察するにそのイージスとやらは――」

>『人のスマホ蹴るんじゃねぇよクソガキ。ドイツの教育は遅れてんなぁ。
 ふつー学校で習うだろうが、スマホと人の頭は蹴っちゃダメってよ』

「――近づいて殴ればそれで済む代物じゃないか。つまらないな」

投射された[アロハ男/明神]のスマホ/その液晶から這い出す空洞の革鎧。
これでミハエルを見詰める不死者は二体。

パニック・ホラーの撮影には役者不足――だが戦術的にはこれで十分。
[革鎧/ヤマシタ]が腰の剣を抜き/焼死体が己を貫く短槍を掴んだ。
状況――詰み/どう転んでもバッドエンドでしかない二者択一。
ヤマシタを放置――五体のどこを斬られても致命傷。
焼死体を解放――短槍を奪われ/殴り倒される。

>『そら、捕まえたぜチャンピオン。女子高生ばっか構ってないでそろそろ俺とも遊んでくれよ』

ミハエルの選択――焼死体を解放/だが焼死体は手出ししない。
生前はよく訓練されたゲーマー/キル・スティールの趣味はない。

『勉強しとけよ優等生!こいつが邪悪な大人のやり口だ』

地面に転がるスマホ/液晶から溢れる燐光。
蛍火のようなスペルの魔力は宙を揺蕩い/集う――ミハエルの手元へ。
刹那、神の盾がその加護を発動――主の手からタブレットを払い除ける。

これでゲームクリア。
油断した焼死体の聴覚を刺す、世界がひび割れるかのごとき騒音。
その音はプレイヤーとパートナーの意思疎通を阻害し、『集中力を奪う』。
焼死体がよろめき/頭を抱えた――そして掻き消える双眸の炎。

247embers ◆5WH73DXszU:2019/03/03(日) 06:22:37
『く、そ……返せ……!』
『はいはい、あとでね』

「……あぁ、ソイツを返すのは後でいい。だが俺に対しては今すぐ言うべき事があると思うんだ。
 俺とアンタは仲間でも友達でもないけど、だからこそ、な?何かあるだろ?」

抗議の声――兵士のごとき頑強さは鳴りを潜め/迷いに塗れた臆病者の声。
対する明神――応答なし/タブレットの操作中――消失する、焼死体を貫く短槍。
――目覚まし代わりにはなったと、泣き寝入りする他なさそうだ。
嘆息を零し、溶け落ちた直剣を懐に仕舞う。

『……良いのか?のこのこと近づいてきて。僕がまだ武器を隠し持ってるとは思わないのか?
 『神盾』はもう消えている。殺すなら遠距離からスペルや弓で撃てば良い』
『んな大人げねぇこと出来っかよ。クソガキ黙らすだけならゲンコツ一発で十分だ』

「妙な考えはしない方がいい。それを助長させるような言動もだ」

ローブの内に潜った右手をそのままに警告。

『そりゃ面白い。やってみなよ!君のようにくだらない暴力に走る大人を、僕は何人も黙らせてきた!
 元の世界でも、この世界でもだ!何も変わりはしない!呪われてあれ、アルフヘイム!
 僕がここで果てようとも、ミドガルズオルムは止まらない。"戦争"は既に動き出している!』

「……揚げ足を取るようだが、面白い暴力なんてものがこの世に存在するのか?
 石打ちの刑吏が務まるほど、君だって純粋無垢って訳じゃないんだろ」

『いーや、止まってもらうね』
『どうやって?あれはもう僕の手を完全に離れている。
 もっとも、僕の支配下に置いたところで、おとなしく眠らせるつもりなんてない。
 残念だったなぁ。君たちは、アルフヘイムは既に、詰んでいたというわけだ』

「いいや、アレは確かに一見すると負け確イベント。
 だが実は死ぬ気で殴れば倒せる類のヤツと見た。俺は知能指数が高いから分かる……」

『どうもこうもねぇよ。バトルフェイズはもう終わった』

明神がミハエルの懐に手を潜らせる/誰得な呻き声。

『ここから先は、ラブコメの時間だ』

「……なんだって?」

思わず上がる悲鳴じみた疑問の声。

「お、おい、ラブコメってまさかそういう事か?いや、アンタの趣味を否定するつもりはない。
 ないんだが……今は不味いだろ。それとも――見せつけるのも含めての趣味って事か?」

明神――やはり無反応。
――既に二人だけの世界に入っている……?だとすればこれ以上は……野暮ってヤツか……。
趣味嗜好は人それぞれ/だが分かっていても直視に耐えない――苦渋の表情で顔を背ける焼死体。

248embers ◆5WH73DXszU:2019/03/03(日) 06:22:59
『……マリー……ディア……』

そして逸らした視線の先――瀕死の男/生気伴わぬ幻肢の美女。
一つの命を追って、一つの命が終焉へと足を踏み入れる。
それはつまり、『結末』だった。

「……待て。そこで何してる」

何が起きているかは分からない/だが何をしようとしているのかは分かる。

「違うだろ。もっと何か……あるだろ。やめろ、それだけは」

『………………すまない………………』

「駄目だ!死んだら、何もかもおしまいなんだぞ!
 全部この世界から消えちまうんだ!お前の何もかもが!その愛だって!」

悲痛な叫び――だが数千年越しの逢瀬を破るには余りに薄弱。
痺れを切らす焼死体/二人へと一歩踏み出す――だが、今更出来る事などない。
[運命/ルート]は既に決まっている――ロール・バックはもう出来ない。
爆ぜる閃光/白く染め上げられた視界の中――なゆたの許へ舞い降りる、輝きを秘めた小瓶。

「……なのになんで、そんな安らかな顔で逝けるんだよ……どいつも、こいつも……!」

繰糸の切れた人形のように、崩れ落ちる焼死体。
ライフエイク/マリーディアとの間に縁などない。名前すら知らなかった。
それでも、眼の前で命が失われる――そんな光景は二度と、目にしたくなかった。
かつての旅路で幾度となく目にしてきた命の喪失。
それを再び目にした時、焼死体は願わずにはいられなかった。



――また誰かが死んで、俺が生き残った。これで何度目だ?どうしてこうなる?……次も、こうなるのか?



解放されたい――と。
未実装エリア/未知のレイドボス/国一つ焼き尽くす邪法の炎。
幾多の危難を経て/物語を終え――なおも死に損なう、呪いにも等しい己の宿命から。

249embers ◆5WH73DXszU:2019/03/03(日) 06:23:29
失意/後悔――煮え切った脳髄に未だ焼き付く死のフラッシュ・バック。
項垂れ/微動だにしない四肢――まさしく生ける屍。

『失態だな、ミハエル・シュヴァルツァー。帰りが遅いと思っていたが、まさか負けるとは思わなかったぞ』

不意に耳に届く声――厳しく/遠い過去に聞き覚えがある――顔を上げた。
目に映る、漆黒の甲冑――ただの防具ではない/恐ろしく重厚/凶器そのもの。
闇色のマント――夜の帳を切り抜いたかのよう/色合いではない/織り込められた魔力が。
猛毒色の竜尾――巨大/自由自在/筋肉の塊。
黒き赫眼/それらを飾る魔紋/巨大な捻れ角――その容貌に、焼死体は見覚えがあった。

「……なるほど。あれだけの余裕は、後詰がいたからこそか」

『負けてない! 僕が負けるものか!
 万が一、億が一そうだったとしても……ここでおまえがこいつらを皆殺しにすれば済むことだ!
 さあ……こいつらを殺せ! おまえなら造作もないことだろう――イブリース!!』

『……なんてこと……』

「……望みは果たしたな。なら逃げろ。果たしてなくても逃げろ。ここは俺が時間を稼ぐ」

仲間の形見を鞄ごと投げ渡し/直剣を抜く。
左手を前に/敵の先手を捌き――右手は引き絞る/突き刺す構え。
流れるような所作――望まずとも体に染み付いた初動。

「ああ、そうだ。折角の機会だ。これを言っとかないとな。
 ……別に、あれを倒してしまっても構わんのだろう?」

スマホは壊れ/得物は半ばまで溶け落ちた直剣。
勝ち目などない――だがそれで良かった。
――ここで彼らを守って死ねるのなら、『結末』としては悪くない。

『どうした!? イブリース! さっさとやれ! 魔法でも、武器でも、なんでもいい!』
『勘違いするな、ミハエル・シュヴァルツァー。オレはおまえのモンスターではない。
 オレの行動は、オレ自身とあの御方だけが決める』

しかし脳裏に描いた敗北の幻想は、現実にはならなかった。
仲間割れ――ではない。
――元から利害の一致以上の関係性がなかったと見るべきか。

『自己紹介が遅れたな、『異邦の魔物使い(ブレイブ)』ども。オレの名はイブリース――兇魔将軍イブリース。
 と言っても、貴様らはオレのことなどよく知っているのだろう。ならば……こう言った方がいいか?
 『ゲームの中のオレが世話になっている』と――』

「……なるほどな。お前達も、その事を知っているのか……。
 なら、ソイツを呼んだ理由もそういう事なんだろうな」

『世界最強のプレイヤーだというので召喚したが、少し目を離した隙にまさか敗北しているとはな』

「……ちょっと待て。『世界最強のプレイヤーだから召喚した』だと?
 お前達は、向こうから誰を召喚するのか選べるのか?
 いや、それだけじゃない……『向こうの世界が見えている』のか?」

問いの答えは――ない。

250embers ◆5WH73DXszU:2019/03/03(日) 06:25:29
『フン。強さは申し分ないと思うのだが、プライドが高すぎるのが困りものだ。
 王者の傲慢か……他山の石とせねばならんな。さておき――』

不意に明神へと手をかざす[兇魔将軍/イブリース]。
咄嗟にその間へと割り込む焼死体/溶け落ちた直剣を担ぐように構えて。
“燃え残り”のDEF/VITでは闇の波動は耐え切れない。
しかしそれは明神を庇わない理由には、ならない。
死を厭わぬ献身は――しかしまたも不発する。

『これは我々のものだ、返してもらうぞ。『異邦の魔物使い(ブレイブ)』の生命線――』

イブリースはタブレットを取り戻しただけ。
あくまでも、この場で決着をつけるつもりはない様子。
構えを解くに解けぬまま、焼死体は困惑した。

『ゆくぞ、ミハエル・シュヴァルツァー』

『屑ども……今回は命拾いしたな……! でも、次はこうはいかない。全力だ!』
 
「……待てよ。さっき言ってたよな。この世界も、元の世界も変わらないって」

『君たち下級ランカー相手に、大人げないとは思うが……一切の手加減なしに潰してやる!』

「聞けよ!お前の言う通りだ。つまらない人間なんて何処にだっている!
 そんな奴らを見かける度に、お前は世界を呪って、滅ぼすのか?」

『せいぜい震えていることさ、どうあっても破滅しかない自分たちの運命に!
 『物乞いは一掃すべきである。けだし何か恵むのも癪に障るし、何もやらないのも癪に障るから』!
 アッハハハハハッ……アハハハハハハハッ!』

「それじゃ最後には、何処にも、誰もいなくなるだけだ!
 それがお前の言う、面白い暴力か!?俺には……理解出来ない……!」

焼死体の叫び――返答はない。
ただミハエルは僅か一瞬振り返る/哄笑と不釣り合いな憎悪の眼光と共に。

「一体どうしたら、そんな目が出来るんだよ……」

『待って!』
『あなたたちは……いったい何をしようとしているの!? ガンダラもリバティウムも、一歩間違えれば壊滅してた!
 そんなことをしてまで、いったい……どんな願いを叶えようとしているの……!?』

「……そうだ。俺には理解出来ない。確かに見た目はかなり違うさ。
 だけど同じモノを考えて、生きてる、命だろう。
 なんで、そんな簡単に奪おうと思えるんだ……」

『生きることに、理由がいるのか?』

「っ、お前らはいつもそうだ!何かにつけて秘密を作って、無駄に人を死なせて!
 それの何が楽しいんだよ!もっと簡単で、もっといい結末があるはずだろ!」

激昂/咆哮――イブリースは気にも留めない。
身を翻し、門を潜る。

「クソ……待てッ!逃げるな!お前なんか……俺が今ここで……!」

直剣を振り上げ――力なく腕を下ろす。
一つの物語が結末を迎え――空洞の胸には、無力感だけが残った。

251embers ◆5WH73DXszU:2019/03/03(日) 06:25:53
『他にもいたんだ……こっちに来た時に異種族になっちゃった系異邦の魔物使い《ブレイブ》!』

「……こっちに来た時?いや、俺は……」

『ボクだけだったらどうしようかと思った。いや、まあ、こっちの姿の方が気に入ってるんだけどさ!』

「……俺は、一回死んだんだよ。そしてこうなった」

告げる声――意図して感情が払拭された無機質な響き。
――この世界に過度な憧れを持ち込むのは、危険だ。

「……君達に任された通り、しめじちゃんは安全な場所まで逃しておいた。
 もっとも、柱に縛り付ける訳にもいかなかったからさ。
 そろそろ……あぁ。噂をすれば、追いついてきたな」

そして焼死体は再びなゆたへと歩み寄る。
彼女を見下ろす、赤火を秘めた両眼。
宿るのは――憂いと、慈しみ。

「俺は何度でも言うよ。君達は、物語に関わるべきじゃない……君だって分かってるはずだ。
 今回死なずに済んだのは、たまたまだ。運が良かっただけ……次はどうなるか分からない」

――そんな睨むなよ、しめじちゃん。君達全員を担いで逃げるのは、俺には無理だ。
見殺しには出来ない。だが力尽くで従わせる事も困難――ならば残る選択肢は一つ。

「だけど……奴らの方から、君達を狙ってくるなら仕方がない。
 大丈夫だ。君達は、俺が守ってみせる……捨てゲーはしない主義なんだ」

252明神 ◆9EasXbvg42:2019/03/10(日) 19:24:09
きらめく尾を引く放物線を描きながら、宙を舞う『人魚の泪』。
それは吸い込まれるように、なゆたちゃんの手へと収まった。

同時、港の方で光が弾ける。
エカテリーナの虚構結界が砕け散り、隔離されていたミドやん達が再び姿を現した。
そして――空中で対峙する石油王とお馬さんの姿も、確かにそこにあった。

おいおいおい、死ななかったわアイツ。
あの女、マジで超レイド級相手に3ターン凌ぎきりやがった。
結界内で如何なる激戦が繰り広げられていたのか、俺に知る術はない。

だが結果として、仰け反ったミドガルズオルムと、五体満足の石油王達がいる。
動かしようのない現実が何よりの証明だ。

とはいえ、石油王も余裕のよっちゃんってわけじゃあなかったんだろう。
奴の顔面に張り付いていた超然とした笑みは消え失せている。
どこか晴れやかなその表情は、もしかしたら俺たちが初めて見る、あいつの素顔なのかもしれない。

>「―――――――――――――」

人魚の泪を受け取ったなゆたちゃんは、すぐさま小瓶を開封した。
死にかけのライフエイクの眼前に出現したのは、既に死んだ人魚姫の亡霊。
かつて二人を分け隔てた死も、今この瞬間だけは、障害になり得ない。

>「マリーディア……、私は……私、は……」

……まさかこの俺がこんなこと思うなんて考えもしなかった。
気張れよ、ライフエイク。ここがてめえの最後の正念場だ。
一世一代の、数百年越しの、悲恋伝説を上書きするような告白をしてみやがれ。
降って湧いたお前の余生は、幾ばくかの残された時間は、そのためだけにあるんだ。

>「……マ……リ、ィ……」

積もる話は、そりゃあ山程あったんだろう。
若かりし頃のこいつらに何があったのか、俺たちは人づてにしか知らない。
誤解や、すれ違いや、あるいは誰かの悪意がライフエイクとマリーディアを引き裂いたとして。
それを本質的に理解出来るのは二人だけだ。

饒舌なライフエイクのことだ、またぞろ長ったらしい弁明でもするんだろうと俺は思ってた。
マリーディアの哀しみを拭い去るために、百万の言葉を並べ立てるんだろうと、そう思ってた。
……だが。

>「………………すまない………………」

詭弁と欺瞞を我が物とし、詐術を身上としてきた男が。
数百年もの間求め続け、そしてようやく相まみえた女へかけた言葉は。
――ただの、一言だけだった。

そして、それが全てだ。
リバティウムの暗部を支配し続けてきたライフエイクの人生は、このたった一言を告げるためにあった。
隔絶されていた二つの魂が解き放たれ、寄り添いながら天へと昇っていく。
一度は悲恋の結末を迎えた物語が、今ようやく、本当の意味で終わりを迎えたのだ。

「何やら満足して逝きやがって……」

野暮だと分かっていても、俺はボヤかずには居られなかった。
不思議と悪くない気分だ。邪悪なる俺にはそれが歯がゆい。
この俺が、稀代のクソコテうんちぶりぶり大明神が、男女の惚れた腫れたを手助けしちまうなんてよ。

もっとリア充爆発しろ!とか言いたかったぜ。
でも今リア充って言葉とんと見かけなくなったよな。もしかしてもう死語なん?
怖っ……。知らねえうちに世間から置いてきぼり食らってたわ。
歳とるってやだなぁ。

>「……なのになんで、そんな安らかな顔で逝けるんだよ……どいつも、こいつも……!」

俺の隣で燃え残りが悔しそうに喚く。
お前はどういういう立ち位置なんだよ。
ライフエイクもマリーディアも、死に方としちゃあこの上なく最高だったろ。
死ぬべき連中かどうかって観点で言えば、間違いなく死ななきゃならねえ奴だったしな。

「そう言ってやるなよ燃え残り。死に方を選べるだけでもなかなかのアガリだろ」

こいつはどういう死に方したんだろう。
アンデッドとして蘇ったってことは、きっと奴には未練がある。
元ブレイブって部分も大いに気になるし、一回腹割って話してみるか。

253明神 ◆9EasXbvg42:2019/03/10(日) 19:24:39
>「ライフエイクとマリーディアの愛? そんな陳腐な、くだらないお涙頂戴の茶番劇で! 
 この僕の策が崩れ去るだって?認めないぞ……認めない! こんなバカげた話があるものか!」

ラブコメをぼけっと棒立ちで眺めていたミハエルが思い出したように突っ込んだ。
んーまぁ同感かなぁ……。俺だってこんなん見せつけられたら文句の一つも言いたくなる。
でも忘れんなよチャンピオン、マリーディアの哀しみを利用したのはお前だぜ。
感情をパワーソースにするなら、女心ってやつもちゃんと考慮に入れとくべきだったな。

>「ふ、ざ、けろ、よ……屑ども……!」

異議を申し立てるミハエルに、なゆたちゃんはここぞとばかりに煽りをぶちかます。
もうやめたげてよぉ!聞いてるこっちがもの哀しくなってきたわ。
ほらミハエル君顔真っ赤にして震えてんじゃん。ざまぁ。
もう一発くらい追撃くれてやりたいけど、勝ち確のレスバトルに途中参加すんのもなぁ。

しかしミハエルも伊達に金獅子()とか呼ばれてるわけじゃない。
怒りとは裏腹に、同時進行で何かやってやがった。
ローブから取り出したのは、俺たちが手繰るのと同じ……スマホ。

「あっこいつ!複窓は規約違反だろーが!!」

同一アカウントを複数デバイスやPCのタスクウィンドゥで同時に運用するテクニック『複窓』。
ATBゲージ1本分の時間で二つのスペルを行使できることで一時期猛威を奮った違反行為だ。
とっくに運営が対策済のはずだが、二つのデバイスを『同時に』運用しなければ規約には抵触しない。
ついでに言えば、アカウントのデータはスマホ本体ではなくサーバーに保存される。
つまり、俺に奪われたタブレットを捨て、スマホでログインし直せば――

>「ハハハ――、僕を本気で怒らせたな! もう遅い……何もかも手遅れだ!
 勝負は僕の勝ちさ、依然変わりなく! なぜなら――」

――奴はこれまでと変わらず、自分のアカウントでブレモンをプレイできる。
スペルを行使できるのだ。

>「僕は! あいつを! 呼んだんだからな!!」

生み出された『門』は、転移の高位スペルによるもの。
闇深きトンネルの向こうから、何かがのっそりと這い出てきた。

「おいおいおい、おいおい……」

俺はもう何も言葉が出てこなかった。
むくつけき巨躯に、闇を溶かし込んだような漆黒の甲冑。
いかにもATK高そうなゴッツい二本角と、ひと目で人外とわかる三つ目。

――兇魔将軍イブリース。
ブレモン本編では現行パッチのラスボスとも言える『魔王バロール』の腹心だ。
戦闘力もラスボスクラス……超レイド級に限りなく近いレイド級。

>「失態だな、ミハエル・シュヴァルツァー。帰りが遅いと思っていたが、まさか負けるとは思わなかったぞ」

「ちょ、ちょっと待てよ!?聞いてねえ、聞いてねえぞマジで!」

大抵のことは「まぁそんなもんじゃね」で流してきた俺も流石にこれは承服しかねた。
イブリースの登場は、魔王バロールが本編のラスボスとしてシナリオに出てくるようになってからだ。

つまり……『十三階梯の継承者』が、『十二階梯』と呼び直されるようになった契機。
第一階梯『創世のバロール』がアルフヘイムを裏切り、ニブルヘイムで魔王に君臨した事件。
そのイベントを経て初めて、兇魔将軍の存在が明らかになる、そういうフラグ管理だったはずだ。

254明神 ◆9EasXbvg42:2019/03/10(日) 19:25:36
エカテリーナの口ぶりからするに、『継承者』はまだ十三人から欠けちゃいない。
バロールの野郎は何をやってる?イブリースはあいつが育てたモンスターじゃねえのかよ!

俺がこれまで世界なんざ余裕で救えると思ってたのは、本編シナリオを一通りクリアした経験のほかに、
ニブルヘイムの戦力がまだ整い切ってないっていう予想があったからだ。
バロールが裏切った原因、つまりローウェルの死さえ食い止められれば。
ニブルヘイムの最大戦力である魔王と三魔将を生み出さずに済むと考えてたからだ。

だが、現実問題としてイブリースは目の前に居る。
戦力で言えばゴッドポヨリンさんだってタイマンで打ち勝つのは不可能だろう。
レイド級を揃えたプレイヤーを何人も集めて、ようやくいい勝負ができるパワーバランスだ。

どうなってやがる。
ゲームのブレモンと『この世界』に乖離があるのは分かってた。
それでも、大本のシステムに変わりはないって保証があればこそ、俺たちはこれまで戦ってこれたんだ。
その前提が根底から覆されれば、俺にはもうどうしようもねぇ。

これが対人戦なら、俺はまだどうとでもやれる。
それこそミハエルからタブレットを奪ったように、ブラフと仕様の悪用で無理やり勝ちをもぎ取れるだろう。
だけどPVEはダメだ。アルゴリズムで動く相手に、絡め手はあまりに頼りない。
イブリースが指先一本でも震えば、俺の全身は容易くバラバラになるだろう。

>「勘違いするな、ミハエル・シュヴァルツァー。オレはおまえのモンスターではない。
 オレの行動は、オレ自身とあの御方だけが決める」

果たして、降って湧いた絶望は現実のものにはならなかった。
情けなく報復を求めるミハエルを、イブリースは白い目(比喩)で眺めて却下した。

>「自己紹介が遅れたな、『異邦の魔物使い(ブレイブ)』ども。オレの名はイブリース――兇魔将軍イブリース。
 と言っても、貴様らはオレのことなどよく知っているのだろう。ならば……こう言った方がいいか?
 『ゲームの中のオレが世話になっている』と――」

「なんっ……だと……!?」

流暢に喋るモンスターは実際そんなに珍しくはない。
レイド級ならなおのこと、お姉ちゃんしかり、縫合者しかり、高度な知性を持っててもおかしくはない。
だが今、こいつはなんて言った?『ゲームの中のオレ』?

まさかこいつ……認識してるのか。
自分たちや、この世界と瓜二つの存在が蔓延る、ブレイブ&モンスターズってゲームを。
入れ知恵したのは誰だ。『あの御方』ってのは俺たちと同じプレイヤーなのか。

>「これは我々のものだ、返してもらうぞ。『異邦の魔物使い(ブレイブ)』の生命線――
 こんな小さな板切れで無敵の力を発揮するというのだから、まったく貴様らの世界の技術は恐ろしい。
 しかし……しかし、だ。この小さな板切れの中に、オレたちの希望がある」

「あっ、クソ!」

俺の手の中にあったタブレットがひとりでに浮き上がり、イブリースの元に飛んでいく。
しまった。こんなことならアカウントのパスワード書き換えときゃ良かった。
だがふわりと飛翔するタブレットを取り返すような度胸は俺にはなかった。
離れた場所にあるタブレットに干渉したってことは、俺の身体にも同じことができるってことだからな。

>「貴様らの好きにはさせんよ。せっかく、もう一度チャンスが巡ってきたのだ。
 今度こそこちらが勝つ。そして、あの御方の願いを叶えよう。まずは目障りな『王』の刺客である貴様らを葬り去ってな。
 次を楽しみにしているがいい」

……『もう一度』。『今度こそ』。イブリースは確かにそう言った。
どういうこった、俺たちとは別に、既にニブルヘイムを攻略した連中がいたってのか?
クソ、情報が少なすぎる。何もわからねぇまま、話だけがどんどん前に進んで行きやがる。

>「……ちょっと待て。『世界最強のプレイヤーだから召喚した』だと?
 お前達は、向こうから誰を召喚するのか選べるのか?
 いや、それだけじゃない……『向こうの世界が見えている』のか?」

燃え残りもまた、俺と同じ結論に至ったらしい。
ミハエルがあっちに召喚されたのも、世界チャンピオンの実績に目を付けられたからなのか。
ゲームのキャラが、現実世界のプレイヤーに干渉だ?
こいつはとんだメタネタだぜ。第四の壁を気軽に突破してんじゃねえよ。

255明神 ◆9EasXbvg42:2019/03/10(日) 19:26:17
>「屑ども……今回は命拾いしたな……! でも、次はこうはいかない。全力だ!
 君たち下級ランカー相手に、大人げないとは思うが……一切の手加減なしに潰してやる!

「待てよチャンピオン!」

なゆたちゃんがイブリースに叫ぶ隣で、俺もまたミハエルの後ろ姿に声をかけた。
『門』をくぐろうとしていたイケメンは一度だけ振り返り、怒りに満ちた視線で睥睨する。

>「聞けよ!お前の言う通りだ。つまらない人間なんて何処にだっている!
 そんな奴らを見かける度に、お前は世界を呪って、滅ぼすのか?」

俺と燃え残りは、ほとんど同時に叫んだ。

「お前、この先もずっとそうやって、目につくもの全部ぶっ壊してぶっ殺すつもりかよ。
 そんな、わけのわからん化物共と一緒に!そいつらの手先に成り下がって!
 お前の大好きなニーチェ先生も言ってるだろ、『怪物と戦う奴も実際怪物』ってよ」

「雑な略し方をするな!!」

ミハエルはいきなりキレた。大意は一緒よ、大意は。
まぁフリードリヒ・ニーチェでもニーチェ=サンでもこの際どうだって良い。
ミハエルは正直いけ好かねえクソガキだ。語録使い過ぎなのも癪に触る。
なによりイケメンだしな。俺はこの世で美少年が最も嫌いだ。反吐が出らぁ。

>「それじゃ最後には、何処にも、誰もいなくなるだけだ!
 それがお前の言う、面白い暴力か!?俺には……理解出来ない……!」

……だけど。
ブレモンプレイヤーとして、1000万人の頂点に立ったあいつに俺は敬意を払う。
それは俺が一度は目指して、力及ばず膝を屈した、伏魔殿の最奥。
そこに立ち続ける苦悩も重責も、理解はできてるつもりだ。

なんだかんだ言って、俺はこのクソゲーが嫌いじゃない。
だから、ミハエルが努力の果てに勝ち取ったものを、こんな形で歪められたくない。
安易な悦楽で簡単に捨て去っちまえるほど、チャンピオンの座は安くねえだろ。

「覚悟しとけよミハエル・シュヴァルツァー。てめぇの墜ちたそこは俺の実家だ。
 この世に邪悪は二人と要らねえ。俺が、てめぇを、深淵の外に叩き出してやる」

ミハエルは踵を返し、再び振り返ることはなかった。
俺の言葉を聞いてか聞かずか、高笑いしながら門の向こうに消えていく。

>「あなたたちは……いったい何をしようとしているの!? ガンダラもリバティウムも、一歩間違えれば壊滅してた!
 そんなことをしてまで、いったい……どんな願いを叶えようとしているの……!?」

一方で、なゆたちゃんの問にイブリースは足を止めた。
奴は一瞥もくれることなく、だけど確かに、こう答えた。

>「生きることに、理由がいるのか?」

――それは、この世界にひしめく怪物達(モンスターズ)の存在証明。
同時に、怪物を駆る者達(ブレイブ)が戦う理由でもあった。

>「いらないっしょ。そもそも生まれたことに意味なんて無いんだからさ。
  たまたま生まれたからなんとなく生きてるだけ。
  ……って君達は大量破壊活動しなきゃ生きられないのか!? ひっそり平和に生きりゃいいじゃん!」

港の方からすっとんできた馬とそのオプションパーツが声高に反論する。
あのすいません、ちょっと今シリアスパートなんで出番もうちょい後にしてもらっていいすか。
というか燃え残りもだけど、お前らあっちのチームじゃないの?

たった一つの答えを残したイブリースは、ミハエル同様門をくぐって姿を消す。
役目を終えた門もまた、大気に溶けるように消滅した。

「……俺たちにとって、この世界は『ブレイブ&モンスターズ』だけどよ。
 もしかすっとそいつは、随分と傲慢で身勝手な、人間本位の名付け方なのかもな。
 あいつらにとっちゃ、この世界は『モンスターズ&ブレイブ』なんだ」

ミハエルとイブリースが消え、ライフエイクとマリーディアも天に召された。
俺たち以外動くもののなくなった空間で、俺はひとりごちた。
まぁだからって譲ってやるつもりもねえよ。モンブレとか略しづれーしな。

256明神 ◆9EasXbvg42:2019/03/10(日) 19:26:48
なゆたちゃんはイブリースの言葉を何度も咀嚼し、その意味を掴み取らんとしていた。
奴らの真意は俺にだって分かりゃしねぇし、情状を酌量しようとも思わん。
結局のところ、俺たちにできることは一つっきりしかない。

>「……頑張らなくちゃ」

「……そうだな。頑張ろう」

頑張る。努力する。必死に足掻く。
右も左も分からないままこの世界に放り出された俺たちにとって、選択肢はあまりに少ない。

だけど、『頑張る』『頑張らない』の二つから選べるのなら、俺は迷わず前者を取ろう。
雛鳥みてえに口開けて待ってたって、棚からぼた餅は降ってきやしないのだから。

>「君達がミドガルズオルムを消えさせてくれたんだよね、本当助かったよ!
 カザハ、こっちはカケル。良かった〜、会えて。
 メロちゃんに君達に合流するように言われて……丸投げでどっか行っちゃうんだから。
 ホント無責任だよね!あとトーナメント見てた! マジで恰好よかったよ!」

なんかいい感じに話が終わったあたりで、空気を読んだのかお馬さんと妖精さんがシュバババっと駆けてきた。
そしてめっちゃ早口でまくし立てる。
メロちゃん?ああなんかいましたねそんな感じのチョイキャラ。
あいつどこ行ったの。ベルゼブブ戦あたりから顔見てねーぞ。

>「他にもいたんだ……こっちに来た時に異種族になっちゃった系異邦の魔物使い《ブレイブ》!
 ボクだけだったらどうしようかと思った。いや、まあ、こっちの姿の方が気に入ってるんだけどさ!」

「あっ?他にもって、お前もブレイブなの?何だよ今日はマジでブレイブの大安売りだな。
 モンスターになってんのも意味わかんねーし、俺の知らない間に新パッチでも当たったのかよ」

ほんでこいつら馬と妖精どっちが本体よ?主に喋ってんのは妖精だけど。
なんかこう、INT値高そうなのは馬の方だよな……見るからに妖精はIQ低そう。
ワっと言葉の洪水を浴びせかけられた燃え残りは、いかにも陰キャっぽい反応を見せる。

>「……俺は、一回死んだんだよ。そしてこうなった」

「……元ブレイブ、ってのはそういうことか。
 するってえとお前はアレか、俺たちより前にこの世界で活動してたブレイブなのか?
 ほんでどっかでおっ死んで、燃え残りとして蘇ったと。
 アンデッドなら、しめじちゃんと同じやり方で蘇生できるんじゃ――そうだ、しめじちゃん!」

やべえ、色々ありすぎて完全に思考の外だった。
そもそもこいつしめじちゃん放ったらかして何やってんだよ!
俺は燃え残りの炭化した両肩を掴んで揺さぶった。

>「……君達に任された通り、しめじちゃんは安全な場所まで逃しておいた。
 もっとも、柱に縛り付ける訳にもいかなかったからさ。
 そろそろ……あぁ。噂をすれば、追いついてきたな」

焼死体の白濁した目がぐるりと動き、視線の先を示す。
しめじちゃんが街の方から駆け寄ってくる姿を見つけて、俺は腰が砕けそうになるくらい安堵した。
というか砕けた。みっともなく地面に尻を付ける俺を横目に、燃え残りはなゆたちゃんに歩み寄る。
女子高生大好きマンかよこいつ。

>「俺は何度でも言うよ。君達は、物語に関わるべきじゃない……君だって分かってるはずだ。
 今回死なずに済んだのは、たまたまだ。運が良かっただけ……次はどうなるか分からない」

燃え残りの言葉は……正論だった。
今日俺たちは、何度死んだっておかしくなかった。
しめじちゃんに至っては実際に一回死んですらいる。
正直言って、もうこんな思いはゴメンだ。死にたくねぇし、死なせたくもない。

>「だけど……奴らの方から、君達を狙ってくるなら仕方がない。
 大丈夫だ。君達は、俺が守ってみせる……捨てゲーはしない主義なんだ」

「へっ、一回死んでる奴が吹かすじゃねえか。喋って動くだけの焼死体に何が出来るんだ?
 紙防御の肉壁にでもなろうってのかよ」

燃え残りの宣誓に、俺は憎まれ口を叩いた。
実際こいつどうするつもりなの。元ブレイブってこたぁゲーム知識はあるんだろうが、それだけだ。
ミハエルとの戦いでもこいつがやったのは槍を身体で受け止めるくらい。
今のこいつはスペルも使えなきゃ、サモンもできない、単なるモンスターでしかない。

「俺は認めねえぞ。こんなよく分からん、自分の名前も思い出せねえような死体の世話になるなんざ。
 旅についてくるのは勝手だけどよ、足引っ張ったらその時はウジ虫の餌にしてやるぜ。げひゃひゃ」

『グフォフォフォフォフォ……!』

俺の肩の上でマゴットが悪っぽい笑い声を上げた。
この子生まれたばっかの頃は純真だったのに最近なんか凶悪じゃない?
やあねえ。誰に似たのかしら。

かくして、リバティウム全土を巻き込んだ一夜限りの大騒乱は幕を下ろす。
両手一杯の謎と、一握りの暖かなものを残して。

257明神 ◆9EasXbvg42:2019/03/10(日) 19:27:28
 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 

前代未聞の大災害に見舞われ、死者こそ出なかったものの甚大な被害を負ったリバティウム。
ようやく復興が始まった街の中を、俺はしめじちゃんと連れ立って歩いていた。

「交易所も半壊かぁ。また遊べるようになるまでしばらくかかりそうだな」

ひび割れた石畳を張り替える石工たちが、移動屋台を呼び止めて昼餉を購入する。
俺たちもその行列に並んで、ワイルドボアの串揚げを買った。

「やっぱ脂の味しかしねぇなこれ。ちゃんとしたトンカツが食いてぇよぉ」

世界を救ったあと、俺はアルフヘイムに永住するつもりだ。
現実世界で仕事に追われながら細々と暮らすより、きっとこっちの方が面白おかしく生きられる。
だけど一つだけ悩みがある。俺は現実世界の、飯だけは好きだった。
なゆたちゃん達と別れたら、もう和食を食う機会はなくなると思うと、哀しみが心を覆い尽くした。

「さて、腹ごしらえも済んだことだし……そろそろ行こうぜしめじちゃん」

なゆたちゃん謹製の昼食を一食分断ってまで俺たちが街に出たのは、何も復興状況を眺めるためじゃない。
乗り心地の最悪な馬車を乗り継いで向かった先は、カジノ『失楽園』跡地。
その近くにある、路地裏だ。

そこには、しめじちゃんの背丈くらいある大剣が石畳に突き刺さっていた。
大剣の柄には、傭兵ギルドが構成員に支給する鎖付きのタグが引っ掛けてある。
タグは身分証と本人確認の役割を兼ねたものだ。例え死体が原型を留めていなくても、誰の死体か分かるように。
つまりこの剣は、傭兵の墓標だ。

――バルゴス。
カジノへ潜入する際に俺が懐柔し、そのまま行方知れずになったライフエイク子飼いの傭兵。
あれから傭兵ギルドがカジノの瓦礫の中から、血まみれの大剣と鎧、それからバルゴスのタグを掘り出した。

傭兵の姿が消えて、装備とタグだけがその場に残されている。
小学生だってその因果関係は簡単に結び付けられるだろう。
バルゴスは、バフォメットに食い殺されたのだ。

食ったのが二匹いるバフォメットのうちどっちだったかは、今はもう知ることはできない。
いずれにせよ、エカテリーナと真ちゃんたちが既に仇を討っている。
だから、俺たちが今からするのは弔い合戦でもなんでもなく……ただの墓参りだ。

墓には先客がいた。
名前は知らずとも顔は覚えてる。バルゴスと一緒に俺たちを尾行してたゴロツキ共だ。
ゴロツキは俺たちの姿を認めて一瞬身をこわばらせたが、すぐに緊張を解いた。

「薄情な連中だよ。この路地裏をシメてたのはバルゴスなのに、誰も手を合わせに来やがらねぇ」

ゴロツキは墓を見下ろして、寂しそうに呟いた。

「あいつ嫌われてそうだったもんな」

「ちげぇねえ」

俺は持参したワインを放る。ライフエイクのオフィスからくすねた高級品だ。
ゴロツキは苦笑しながらそれを受け取ると、栓を切ってバルゴスの墓に注いだ。

258明神 ◆9EasXbvg42:2019/03/10(日) 19:28:09
「ロクな奴じゃなかったよ。ガサツで、傲慢ちきで、気に入らないことがあるとすぐ殴る。
 おれはあいつの腰巾着だったから、バルゴスを見る路地裏の奴らの目をよく知ってる。
 用心棒なんて気取っちゃいたがよ、おれたちゃ鼻つまみ者だったのさ」

注いだワインの残りを、ゴロツキは自分で呷った。

「だけど……それでも、俺たちの仲間だった。
 喧嘩にめっぽう強いあいつのおかげで、おれたちは他のチンピラに虐げられずに済んだ。
 曲りなりにもこの街を守ってた奴の最後にしちゃ、あんまりだよ」

バルゴスを喰い殺したのはバフォメットであり、それを使役するライフエイクだ。
だけど、奴がバフォメットと対峙する理由を作ったのは、俺だった。
俺があいつをこの件に巻き込まなけりゃ、バルゴスは死なずに済んだだろう。
言い訳のしようもなく、バルゴスが死んだのは俺のせいでもあった。

「……俺を恨んでるか?」

益体もない問いだ。ゴロツキが俺を恨んだところで、俺にはどうすることもできない。
しめじちゃんのようにアンデッド化すれば蘇生のメもあったが、バルゴスはそうじゃない。
あいつの死体は多分、バフォメットと一緒に消滅してる。
ゴロツキは、俺の目を見ることなく答えた。

「恨んでねえって言ったらあんたは心晴れやかにこの街を出ていけるのか?
 だったらはっきり言ってやるよ。――恨んでねえわけねえだろ。
 俺にとっちゃライフエイクもあんたも、同じだ。あんたらがバルゴスを死なせた」

「……そうだな」

悪い奴をやっつければ全部解決なんてのは、それこそゲームの中だけの話だ。
悪い奴が殺した人間は生き返らないし、壊した街は長い時間をかけて直さなきゃならない。
現実は、描写を省略してなどくれない。失った哀しみも痛みも、間違いなくそこにある。

吐き気がする。
誰かの死を間近で見たのも、それが自分の責任になるのも初めてだ。
どこかで俺は、『殺したのはライフエイクだから俺は悪くない』っていう、言質が欲しかったのかもしれない。

何の保証にもならない、吹けば飛ぶような"気の持ちよう"。
二度と会うこともない路地裏のゴロツキ共に、俺は何を押し付けようとしてんだ。
我ながら反吐の出る自己保身だ。

「気に食わねえな。何しおらしくしてんだ?」

ゴロツキは振り向いて、ワインの残りを俺に差し出した。

「おれたちは傭兵だ。金をもらって殺し合う、そういう仕事だ。
 バルゴスはあんたに雇われて、戦って、死んだ。珍しくもねえことだろうが。
 くだらねぇ哀れみを持ち込んで、これ以上バルゴスの誇りを穢すんじゃねえ」

「だったら!」

俺はたまらず反駁した。

「だったらどうすりゃいい。人を死なせるのは初めてなんだ。
 俺は前に進みたい。でも、バルゴスのことを忘れたくはない。
 あいつの死を忘れて、また誰かを死なせるのは、二度と御免だ」

ゴロツキは鼻で笑う。

「はっ、結局は自分が気持ちよく過ごす為かよ。良い人ぶってんじゃねえぞ。
 傭兵に弔いの作法なんてねぇよ。今てめえがそうしたように、酒でも供えて手を合わせりゃ良い。
 それで終いだ。済んだらとっとと回れ右して二度とそのツラ見せんな」

ゴロツキはそれだけ言うと、近くの木箱にどかりを腰を下ろした。
ここから先へ立ち入るなと、そう言外に示すのは……路地裏の門番だったバルゴスの遺志なのかもしれない。

259明神 ◆9EasXbvg42:2019/03/10(日) 19:28:43
俺は墓標代わりの大剣の前で、両手を合わせて祈った。

バルゴス。悪かった。死なせるつもりはなかったんだ。
そして、お前がバフォメットと対峙してたおかげで、俺たちは致命的な挟み撃ちを受けずに済んだ。
ありがとう。……って言っちまったら、またお前は怒るかな?
俺がこの先死ぬことがあったら、あの世でもっかい詫びるよ。どうせ行くところは同じだ。

隣でしめじちゃんも手を合わせている。彼女は何を祈ってるんだろうか。
一通り心の中でつぶやき終えた俺は、ゴロツキの指示通りに回れ右した。

「待ちな」

いつの間にか墓標まで歩いてきていたゴロツキが、俺の背後から声をかけた。
振り向くと、鞘に収められた大剣が放物線を描いて迫る。
反射的に掴めば、ずしりと筋を痛めそうなくらいの重さを感じた。

「墓標代わりもこれでお役御免だ。他に弔いに来る奴なんかいねえし、デカくて正直邪魔だったんだ。
 傭兵の形見はタグで十分、その剣はあんたが持ってけよ」

「良いのかよ。ちゃんと手入れされてるし、結構な値打ちモンじゃねえのかこれ」

「言ったろ、バルゴスは嫌われ者だった。この路地裏に置いといたら、遠からずブチ折られちまうだろうよ。
 そいつはバルゴスが、担げる奴が居なくなった"重み"だ。
 あいつのこと、忘れたくないんだろ。ならあんたが背負って前に進め」

「……分かった」

大剣を身体に括り付けるように背負って、俺は路地裏を出る。
足がガクガクするほど重たいけど、それでもカジノで背負ったしめじちゃんよか軽い。
いやでもマジで重いな……バルゴスの怨霊でも憑いてるんじゃねえのこれ!

俺は大剣をインベントリにしまおうとして……やめた。
これくらい担げなきゃ世界なんか救えねえよな。

だから背負って行こう。――少なくとも、なゆたちゃんの家に帰るまでは。


【リバティウム編終了。エンバースにウザ絡みする】

260五穀 みのり ◆2zOJYh/vk6:2019/03/17(日) 13:34:23
既に結末はわかっていた
3ターン稼ぎ、腹いせ紛れの一撃を食らわせた時点でこうなる事はわかっていた
この時間稼ぎのために力と財力を使い果たしたが、仲間たちはそれに見合う結果を出す事は

仰け反るミドガルズオルムに背を向け降下を開始したみのりの目に映るのはマリーディアとライフエイクの邂逅……そして散華
縫合者は強力な複数の魔物を繋ぎ合わせるため、被験者は拒否反応により耐え難い苦痛に苛まされ続ける事になる
事実ゲームで登場した縫合者は正気を失い狂える存在となっていた

そんな苦痛に数千年の時を耐え続けたライフエイク
マリーディアと再会した時点で結末は決まっている
個人的にはこのような邂逅など認められるものではないが、事ここに至っては仕方がないと納得するしかないだろう
今更マリーディアの首を刎ねようにももはや間に合わないし、何よりこの邂逅を良しとし奮戦した仲間たちの意思を尊重しようと思えたからだ

では何ゆえにイシュタルを装甲のように身にまとい、収穫祭の鎌(サクリファイスハーベスト)によって召喚された大鎌を携えるのか
それはみのりの中ではまだ戦いが終わっていないからだった


ライフエイクとミドガルズオルム
この二つは主敵であり当座の対処案件であったが、それですべてが終わったわけではない

明らかな敵意と行動を持って現れた金獅子ミハエル
そして突如として現れたブレイブを自称する二人と一頭
この三人の処遇についても放っておくわけにはいかないのだから

地上に降りだったところで動いたのは金獅子ミハエルだった
ローブから取り出したスマホを操作し、次元の門を出現させる
そこから現れたのは……『兇魔将軍イブリース』

その姿を見たみのりの反応は……絶句!
それは他のメンバーも同じようで、なゆたも明神も言葉が出てこない
エンバースがその危険性を察したように身を挺そうと立ちはだかり逃げるように促す

カザハとカケルは自体がわかっていないようだが、みのりは知っている
イブリースの力を、この状態で戦いが始まれば全滅は免れない、と

身に纏わせていたイシュタルを分離させ、前に出して自身は二歩下がる
イシュタルをボディスーツにしてもイブリースを前には効果がない、諸共両断されると理解していたからだ
収穫祭の鎌(サクリファイスハーベスト)はダメージを攻撃力に換算するものである
今回受けたダメージはブーストとして背中に受けた熱風と、ミドガルズオルムとの衝突の衝撃
人の身であるミハエルや、焼死体のエンバース、それに風の精霊シルヴェストルならば十分なダメージを与えられるだろうが、イブリースが相手となると話にならない

261五穀 みのり ◆2zOJYh/vk6:2019/03/17(日) 13:34:58
今までいついかなる時でも余裕を持ち思考を巡らせられていたのは、自分は安全である
それだけの力(パズズ)を有しているから、という揺ぎ無い精神的な支柱があったからだ
それをなくした今、目の前に立ちはだかる絶対的な力に成す術を見出すことができないでいた

しかし、ミハエルの言葉とは裏腹に、イブリースに戦う意思はなかった
言葉を交わしミハエルを伴い門に消えて行ったのを見送り、みのりは文字通り崩れ落ちる

「はぁ〜〜〜因果な話やねえ……
王の刺客とか言われてもうたけど、何となく色々と合点がいったわ
うちらがガチャ回してパートナーモンスターを引くように
ニヴルヘイムは確定ガチャ一回で金獅子はんを召喚
アルフヘイムは十連ガチャで不特定を召喚
いう感じなのカモやねえ」

なぜに自分たちが召喚され、いいように戦わされているのか?
常に疑問であったし、不信感を越え不快感を持っていた
だがイブリースの言葉にブレモンをプレイしていた自分を置き換える事で納得できる部分ができてしまったのだ
勿論ゲームでありパートナーモンスターに説明云々など機能としてありはしないし、必要ない
しかしもし自分がモンスターとしてガチャで引かれたら?
それがまさにこの状況に当てはまるのだから

「それにしても……」

よろよろっと立ち上がり、言葉を続ける

「相手の目的は【生きること】とは困ったものやねえ
アルフヘイムを壊さないと自動的にニヴルヘイムが崩壊してまうとか、そういうのっぴきならない制限でもあるんやろか?
なんにしても和解や回避は不能っぽいやぁねえ」

>しかし……しかし、だ。この小さな板切れの中に、オレたちの希望がある」
イブリースの言葉を思い出しながらため息をついた
あれほどの力を持つモンスターがタブレットに、ひいてはブレイブに【希望】を見出し縋っているのだ
どうにもならない危機があちら側に迫っているのだろう

「まあ、落ち着いたところで、一応紹介しておくわー
なんやもう馴染んでる感じになってるけど、シルヴェストル(風の妖精族)とそのパートナーユニサスなんやけど、うちらと同じブレイブやって云うてはるんやわ
ミドガルズオルムを抑えるのに高機動でずいぶん助けてもらったけど……人やないし、あっちのエンバースもやけど、どういう事なんやろねえ?
まあ、後でゆっくりお互い自己紹介しよか」

本来ならばエンバースともども詰問し、場合によっては大鎌で一太刀するつもりであったが、イブリースの登場と様々な情報で毒気が抜かれてしまった
既にイシュタルも鎌もスマホに戻している
今までのように溢れるほどのクリスタルを背景にイシュタルや藁人形を常時出現させているわけにはいかなくなってしまったのだから

>「……頑張らなくちゃ」

そんな決意を固めるなゆたをみのりは眩しく見ていた
エンバースの言葉ではっきりと【もう、自分は戦えない】と自覚している自分とはあまりにも対照的だったから

262五穀 みのり ◆2zOJYh/vk6:2019/03/17(日) 13:41:37
【五穀みのり追加情報】

みのりはスマホ2台複数アカウント持ち
ブレモン世界への転移において周囲を信用せず自身の切り札として隠し持っていた
またデッキ情報を開示してから秘かにデッキ構成を変更するなど、共に旅する仲間も騙していた

最大の切り札は超レイド級複合モンスターパズズであったが、召喚するだけでクリスタル4桁、召喚維持のために秒単位でクリスタル二桁単位で消費してしまうため、現在のクリスタル残量7
膨大なクリスタルと超レイド級戦力の喪失により、大きな心境の変化が訪れている?

パートナーモンスターは従来一人レイドしていた時のパートナーモンスターに変更済

【パートナーモンスター】

ニックネーム:ノートル
モンスター名:カリヨンシェル
特技・能力:10メートル超の巨大な巻貝、ただし貝殻の部分が鐘楼となっている
濃い霧と共に出現し、フィールドを水属性にする環境型モンスター

その動きは重鈍で回避能力はないに等しく防御力も高いとは言えない
しかし火力だけは範囲、威力共に高く、レイドでは固定砲台として扱われる
安全が確保された状態ではその能力を発揮するのだが、中途半端な状態だと真っ先に潰されてしまう
一撃は大きいのだが、DPSを考えればそこまで突出しているわけではないのでパートナーとしてる率は低い

みのりはイシュタルに攻撃をすべて受けさせ、ノートルにより強力な攻撃を行うというオーソドックスなスタイルで一人レイドを繰り返していた

『除夜(ヒャクハチ)』……広範囲音波攻撃。対象の体内で反響しダメージを与え続ける。詠唱妨害効果あり
『祇園精舎(ショギョウムジョウ)』……最大音波攻撃。強い衝撃波を放出
『聖域(アンチン)』……音の障壁を張り1ターンのみ完全防御ができるが、その間行動不能

簡単なキャラ解説:
暴風竜の住まう海域の海底に生息する巨大貝
水中では音は空気中より早く効果的に伝わり、体から発する濃霧は陸上にあっても海中と同じ効果をもたらし、また大敵である乾燥から身を守る


【使用デッキ】

・スペルカード
〇〇「蜘蛛の糸(カンタダスリング)」×2 ……建物・ダンジョンから脱出できる(一人用)
○〇「円錐増幅器(メガホン)」×2 ……音響攻撃を増幅させる
〇〇「浄化(ピュリフィケーション)」×2 ……対象の状態異常を治す。
●〇○「高回復(ハイヒーリング)」×3 ……対象の傷を中程度癒やす。高回復に回復量は劣るが素早い使用が可能
〇「万華鏡(ミラージュプリズム)」×1 ……対象の分身を3つ出現させる。分身は対象の半分のステータスで自律行動可能
〇〇「取り換えっ子の呪法(チェンジリング)」×2 ……ダメージを味方に肩代わりさせる
●「品種改良(エボリューションブリード)」×1 ……土属性モンスターのステータスを3倍にする
●「土壌改良(ファームリノベネーション)」×1……フィールドを土属性に変え、土属性スペルの効果は2倍となる

・ユニットカード
〇〇「音叉結界(ユニゾンプレイ)」×2 ……対象を中心に音叉を配置し、フィールド内での音波攻撃を反響増幅させることでDOTダメージを発生させる
〇「雨乞いの儀式(ライテイライライ)」×2 ……雨を降らせてフィールドを水属性に変化させる
〇「無間の沼地(ヌマヨドガハラ)」×1……周囲一帯を底なし沼にして機動力を落とす
○「収穫祭の鎌(サクリファイスハーベスト)」×1 ……攻撃力0の鎌。累積ダメージがそのまま攻撃力になる

263第三章「人魚の泪」ダイジェスト:2020/01/24(金) 20:34:09
人魚の泪を手に入れるためにリバティウムに訪れた一行。
その街は様々な重要な施設を擁しており、その中でもアルフヘイムではリバティウムにしか無いというカジノへ情報収集へ向かう。
みのりは莫大な財力を駆使し派手な勝負を繰り広げることで注目を集め、
支配人の気を引いてVIPルームに通され支配人と直接接触することに成功。
なゆたがライフエイクと名乗る支配人に人魚の泪について尋ねると、あっさりとある事を認めた。
そして、1週間後に行われるトーナメント戦である『デュエラーズ・ヘヴン・トーナメント』の優勝者に副賞として与えるとのこと。
なゆたは、パーティーを2つに分け、片方がトーナメントに出場して人目を引き付けている間にもう片方がライフエイクの真の目的を暴く作戦を提案。
なゆた・真一・みのりが出場組、明神・ウィズリィ・メルトが潜入組となった。
真一はレアル・オリジンと対決、なゆたは煌めく月光の麗人(イクリップスビューティー)と対決し、それぞれ勝利。
戦い終えた真一は謎の少年(ミハエル)に話しかけられる。
彼はリバティウムに伝える人魚の伝承を語り、ライフエイクの目的が世界蛇ヨルムンガンド(ミドガルズオルム)を呼び起こすことだとほのめかすのだった。
真一はなゆたとみのりを伴い、明神達を追ってカジノの方へ向かう。
一方の明神達はライフエイクの息がかかっていると思われるバルゴスの襲撃を受けるも、制圧して邪魔をしないことを約束させる。
しかしバフォメット2体に襲われてしめじが死亡。
ピンチに陥ったところに13階梯の継承者の一人虚構のエカテリーナが助けに現れる。
そこに真一達も到着し、真一となゆたがバフォメットを倒す。
そんな中、しめじが死亡する直前にスペルによって自らをゾンビ化してしたことに気付く一同。
明神とみのりは、しめじをいったん捕獲してから回復スペルを使う事で蘇生させた。
先にライフエイクとの戦闘に突入していた真一・なゆた・エカテリーナに、明神・みのり・メルトが合流する。
ライフエイクが合成魔獣“縫合者(スーチャー)としての正体を現し、本格的に戦闘が始まるかと思われた矢先、
ライフエイクは突如現れたミハエルによって心臓を貫かれる。
ミハエルは古の時代の人魚の王女マリーディアを召喚。
マリーディアはかつての恋人ライフエイクの亡骸を見て慟哭し、それを引き金に、ミドガルズオルムが復活し、街を破壊しはじめる。
マリーディアは”人魚の泪”と化し、ミハエルに回収された。
ライフエイクはミドガルズオルム復活のためにミハエルによって利用されていたのだった。
なゆたは、ライフエイクとマリーディアを再会させることによってミドガルズオルムを鎮める作戦を提示。
ライフエイクに回復スペルをかけて再起させ、ミハエルの手の中の人魚の泪の元に辿り着くように鼓舞する。
一方の海岸では、ユニサスに乗ったシルヴェストル(カザハ)が、ミドガルズオルムの気を引いて街の蹂躙を阻止しようとしていた。
そこにみのりが煌めく月光の麗人とエカテリーナを引き連れて参戦。
パートナーの堕天使(ゲファレナー・エンゲル)を駆使しライフエイクを堕としにかかるミハエル。
なゆたと真一は連携して堕天使を撃破。
そこに突如現れた謎の焼死体(エンバース)が乱入し、ミハエルの槍の攻撃を受け動きを封じる。
明神はミハエルのスマホを奪い、アプリを強制終了して無力化に成功。人魚の泪を奪取し、なゆたに投げ渡す。
なゆたが小瓶型の人魚の泪の蓋を開けるとをマリーディアが現れ、マリーディアとライフエイクは再会を果たして消えていく。
同時に、ミドガルズオルムも鎮まり消えていくのだった。人魚の泪はなゆたが持っておくことになった。
一行に敗れたミハエルは、イブリースに連れて帰られた。
街を守り切ったみのり達も合流しなゆたハウスに撤収する一同だが、ウィズリィは騒乱の中でいつの間にか姿を消していた。
真一は一人で修行の旅に出る・しめじはリバティウムに残りアルフヘイム移住の基盤を作るという理由でパーティーを抜け、
入れ替わりでエンバースとカザハが加入した。
こうして大幅なメンバー入れ替わりがありつつも、ついに一行は王都へと向かう。


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