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【TRPG】ブレイブ&モンスターズ!第三章

239崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2019/02/25(月) 20:49:44
しかし。

「……ぐ、は……ッ!」

ライフエイクが血を吐く。びしゃり、と大量の赤黒い血液が地面を染める。
多数の命を継ぎ接ぎし、偽りの命を得て延命を果たしてきた『縫合者(スーチャー)』であっても、死の宿命からは逃れられない。
ここへきて力尽きたように、ライフエイクはぐらりと身体を前に傾がせると、地面へ倒れ込もうとした。
が、それをマリーディアがふわりと両腕を伸ばして抱きとめる。
マリーディアは血にまみれ、半壊したライフエイクの身体を優しく抱擁すると、ライフエイクの顔を見詰め――

そして、幽かに微笑んだ。
ほんの僅かではあったけれど、確かに。マリーディアはライフエイクに対して笑ったのだ。

「……マ……リ、ィ……」

ライフエイクは最後の力を振り絞り、残った左手を伸ばしてマリーディアの頬に触れた。
多数の命を、人々を食い物にし、カジノで搾取し、裏社会で権勢を誇った冷酷な男の目に涙が浮かび、ぽろぽろと零れ落ちる。
マリーディアは慈愛に満ちた眼差しで、ライフエイクを見守っている。

「………………すまない………………」

最後にそう、囁くように告げると、ライフエイクは目を閉じた。
マリーディアがライフエイクを抱きしめる。その瞬間、まばゆい輝きが周囲を――否、リバティウム全体を包み込む。

「ッ! マリーディア……、ライフエイク……!」

強烈な閃光に一瞬怯む。
だが、それは破壊をもたらす類のものではない。もっと温かく、安らぎに溢れたものだ。
マリーディアとライフエイクが光に変わってゆく。膨大な量の光の粒子がリバティウムに降り注ぐ。
それは、マリーディアが数千年の哀しみから解き放たれた証拠だった。

オオオオオォォォォォォォォォォォォ―――――――――――――ン……

エカテリーナの結界の中でミドガルズオルムがひと啼きし、空にその頭を向ける。
マリーディアが哀しみから解放されたことで、その無尽蔵とも思える魔力供給も切れたことだろう。
光の粒子が降り注ぐことで、みのりやカザハたちにも戦いが終結したことがわかるはず。
しばしの時が過ぎ、リバティウムに満ち満ちていた光が消えたとき。
なゆたの目の前に、きらきらと輝く小瓶がひとつ舞い降りてくる。なゆたはそれを受け取った。
それは『人魚の泪』に他ならなかった。

――最後に、ウソがウソでなくなったわね。ライフエイク。

手のひらの中の人魚の泪を握りしめ、なゆたは目を閉じて微笑んだ。
今となっては、どうしてかつてのライフエイクがマリーディアを裏切り、メロウの王国を攻めたのかはわからない。
本当に王女を騙していたのかもしれないし、何か不幸な行き違いや誤解があったのかもしれない。
御伽噺の時代にまで遡らなければならないその真実を知る術は、もうどこにもない。――けれど。
それは些末な問題だった。大事なのはマリーディアとライフエイクのふたりが幸せな結末を迎えられたのか、どうか。
そして、その結論に関して、なゆたはもう議論する口を持たない。
なぜなら――この『人魚の泪』が、ふたりの想いを何よりも雄弁に物語っている。
手の中にある『人魚の泪』。それはしかし、先程までのようなマリーディアの哀しみの涙によって精製されたものではない。
哀しみ二種類があるように、涙にも種類がある。これは、嬉し涙で作られたもの。
『ライ フェイク』――嘘と偽りを歩んできたライフエイクの生は、最後の最後に本物になったのだ。
嗚呼、きっと。いいや必ず――彼らは幸せになっただろう。
例え、このメロウの御伽噺の真の結末がアップデートでゲーム内のフレーバーテキストに書き加えられなかったとしても。

なゆたはそれを知っている。


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