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YOU、恥ずかしがってないで小説投下しちゃいなYO!2

1名無しさん:2010/02/13(土) 18:55:28 ID:UhsYlmek
前スレ
YOU、恥ずかしがってないで小説投下しちゃいなYO!
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/study/7864/1157295929/l100

206こっぺぱん:2011/07/02(土) 02:19:09 ID:UY0I91M.
−−−迷う指先の辿る軌跡−−− ⅩⅩⅡ :新しい性別4:


 飲み物を持ってリビングに行き、どう説明しようか困り果てたミノリが結局率直に皆に説明すると、案の定みんなポカーンとしていた。
「でまぁ、コースケは両性具有になった、と……」
 一番度肝を抜かれたのはおそらくワタルだろう。なんせ小学生の頃からつるんでいた親友だったのだから。
「声帯がイマイチ安定してなくて、かすれ声しかでないから説明もあんまり上手くできないんだって」
「前例はあるの?」
 ケイコの質問はミノリも気になっていたことだった。
 女性化に関しては掃いて捨てるほど前例があるので、多少の個人差はあれど、どれくらいの期間でどういう変化が起こるかは膨大なデータを元に予測できる。
 だがコースケの様な例を、皆は見たことも聞いたコトもなかった。
「ある」
 カスれた声でコースケがそう答える。
「すまん、声がこんなんでうまく説明できない。これを読んでくれ」
 そう言ってコースケはある冊子をミノリに渡した。その表紙にはこう書かれていた。

『新生半陰陽』

 コースケの様な存在を、新生半陰陽とカテゴライズするらしい。
「男性と女性、両方の性的特徴を持ちながら睾丸、子宮は存在せず、子孫を残すことは不可能……また、変化は男性の女性化よりも緩やかで、苦痛を伴う場合もある」
 ミノリはページをめくった。
「加えて、変化の過程で臓器ないし変化が著しい部位に欠損が生じる場合もある。時間をかけてのリハビリや、場合によっては手術などの処置も必要となる……」
 ミノリがコースケの方を見ると、彼……というか彼女というか、コースケは苦笑した。
「声はちょっと形成が遅れてるだけで失うことはないってさ。手術もしてないけど、成長痛のかなり強いのみたいのが不定期に来るから学校には行けなかった」
「ねぇ、原因っていうか、そのなんだっけ、新生半陰陽ってやつになる要因ってのはあったの?」
 サナエの質問にコースケは困った顔をして答えなかった。
 答えられないのか、答えたくないのか、それは誰にもわからなかったが。
「まぁいろいろ聞くならとにかく体が落ち着いてからの方がいいよね」
 ミノリはそう言って冊子を閉じ、コースケに返した。コースケは、すまん、と言ってそれを受け取った。


「………オレ、どう接したらいいんだろう」
 帰り道、ワタルがそう呟いた。
 そう思うのも無理はない。ミノリのときとはまた事情が違うのだ。サナエもいつになくおとなしく、複雑な表情をしている。
「今まで通りに接っすればいいと思うけどね、あたしは」
 ケイコはそう言いながらミノリの方を見た。意見を求めているようだ。
「今決めなくていいと思う。私がミノルからミノリになっても変わらない部分があるように、コースケも変わらない部分はあるハズ」
 つまるところ、悩めということだ。
 ここで悩めない程度なら、その程度の友情ということだろう。
「ただまぁ、なんか困ったら頼るのが友達だからね、私らはコースケもサポートするけど、ワタルもサポートするよ」
 ミノリはそう言って、その日を締めくくった。


 −続く−

207こっぺぱん:2011/07/02(土) 02:20:41 ID:UY0I91M.
あ、3と4間違えちゃった_| ̄|○
なので3を今載っけます_| ̄|○

−−−迷う指先の辿る軌跡−−− ⅩⅩⅠ :新しい性別3:

 結局その後、コースケは登校することなく終業式を迎えてしまい、皆は宿題と共に夏休みに入った。
 なので、宿題を届けついでにコースケの家にいつものメンツで行くコトにした。
「もしかして、コースケも女性化したとか?」
「あー……確かに15歳にはなってたけどなぁ」
 そんなことを話しながらアスファルトの上を歩いていく。
 今日は薄い雲が太陽をうっすら隠していて、風もあるので涼しい過ごしやすい日だった。
 程なくして、四人はコースケの家の前に着いた。住宅街の中のこじんまりした一戸建ちの家である。
 そして、少し緊張しながらワタルがインターホンのボタンを押す。
「あ、そういやコースケんち両親共働きだ」
 押してからワタルがそんなことを言い出した。
「おいおいおい、それじゃコースケが退院でもしてない限りウチら無駄足やんけ」
 サナエがバシッとワタルを叩きながらそうツッコミをいれる。
 が、そんなことをしているとおもむろにドアが開いた。
 そこには、少し痩せたように見えるコースケが立っていた。
「コースケ!!!」
 皆の驚きの声よりも、コースケは皆が来たことに驚いていたようだった。
「長いこと学校休みやがって、寂しかったぞおい!」
 ワタルが嬉しそうにそう言いながらコースケの肩を叩こうとしたとき、妙な違和感を感じた。
 コースケもいつもと様子が違うし、一言も喋っていない。
「コースケ、夏休みの宿題持って来たんだ。ここで渡すだけでもいいけど、よかったらしばらく休んでた事情とか教えてくれない? みんな心配してたんだよ」
 コースケは、彼らしからずしばし逡巡してから頷くと、家の方へ親指を向け、皆に家へ入るよう促した。


「おじゃましま〜す」
 家にはコースケ以外誰もいないようだった。
 ケイコとミノリは最後に玄関へ向かい、目配せをしてからコースケの方を見る。
 そして、目で何事か訴えてくるコースケの視線に頷き返し、ケイコとミノリはもう一度目配せをして頷いた。
「リビングあたりに勝手に陣取っちゃってもいい?」
 ケイコがコースケにそう言うと、コースケは頷いた。
「じゃぁ私はコースケと飲み物の用意でもしてくるよ」
(だからあの二人よろしく)
 と、後半はケイコにだけ聞こえる声でミノリが言った。


 そしてミノリはカバンをケイコに預けると、コースケと共にキッチンへ向かった。
「喋れない、元気そうだけど学校は来れない、皆へまとめて事情を説明するのが難しい、ってことから大体予測はついてるけど……」
 ミノリはそう言うと、容赦なくコースケの胸に手を置いた。
「ふむ、なるほど。私より大きい」
 チッと舌打ちしてそう言うミノリ。そこで悔しがるあたり彼女の成長が伺える。
「なぁミノリ」
 か細い声でコースケがそう言った。それは本当にか細くかすれていて、まるで声帯が機能していないかのような声だった。
 ミノリは不思議に思った。自分が女性化したときは、最初はそこまで大きく声変わりはせず、数日かけて少しずつ声が高くなっていったので、コースケが女性化したのなら、一ヶ月も経っているのに声が出ないのはおかしいのだ。
「オレが女性化したと思ってるだろ?」
「うん」
「ちょっと、違うんだ」
 コースケは手招きしてミノリを近くへ寄せ、ミノリの右手をとると、それを自分の股間へもっていった。
「…………え?」
「すまない、ミノリ以外にこうして証明するのは難しくて、損な役をやらせてしまって申し訳ない」
 ミノリはきょとんとしたまま少しの間呆然とした。
 コースケの下着の中で自分の手に触れたのは、二つの性器だったのだ。


 −続く−

208名無しさん:2011/07/03(日) 23:31:39 ID:oumDzyJM
うぉ、気になる展開!
続きに期待

209名無しさん:2011/07/04(月) 21:55:22 ID:???
ISネタは大好きです
難しい題材ですけど頑張って下さい

210こっぺぱん:2011/07/09(土) 01:16:02 ID:384xU/e2
ここでの肉体変化ルールは、あくまでも私の中での設定です(・ω・)

−−−迷う指先の辿る軌跡−−− ⅩⅩⅢ :新しい性別5:

 夏休みが始まって一週間経った。今日はミノリの家にケイコとサナエが来る予定だ。
「やほ〜宿題写しに来たよ〜!」
 サナエが元気よく堂々と宿題やらねぇ宣言してから入ってきた。
「はい、ジュース買ってきたよ」
 ケイコがスーパーの袋をミノリに渡す。
「ありがと。とりあえず私の部屋行ってて」
 ケイコは何度も来ているが、サナエはミノリの家に来るのは初めてだった。
「へぇ〜……なんか、男っぽくも女っぽくもない部屋ね」
 サナエの感想はそうだった。
 キチンと片付けられた整然とした部屋には、ポスターが貼られていることもなく、ぬいぐるみが置いてあることもなく、なんだかこざっぱりしすぎているように感じた。
「元からこんな感じだったけどね」
「ミノリってあんまり男らしくもないし女らしくもないから、納得といえば納得かな〜」
 ミノリがミノルだった頃も、特段男らしい面はなく、どちらかといえばおとなしい方だった。
 そして女性化した後も、決して女らしくもないが男っぽいわけでもなかった。
 彼女が今現在も、両方の性別の友達に恵まれている由縁はそのあたりにありそうだった。
「おまたせ〜」
 ミノリが飲み物を持って部屋に入ってきた。
「さて、それじゃまずは」
「宿題写す!」
「………嫌だと言ったら?」
「ふふふ……キミの弱点が首だということは発覚しているのだよ」
「ケイコ、彼女のピンチだよ、助けて」
「う〜ん、この場合あたしはサナエと一緒にミノリを喘がせてもいいんだけどねぇ」
「げ、外道が二人もいる……!」


 というわけで宿題写しは恙なく成功し、三人は今日集まった本題に入った。
 ちなみに夏期講習に行ってないのは、彼女らの学校が中高一貫で、ミノリもケイコも割と成績優秀な方だからである。
「あのあとちょいと調べてみたのよ」
 サナエがカバンからファイルを取り出すと、テーブルの上にネット上のページを印刷したものを並べた。
「以前ミノリに言ったと思うけど、あたしの先輩が女性化して女性と付き合ってたってのを知ったときに、いろいろ、調べてみたのよ」
 サナエは並べた紙の中から一枚を指さした。
「ちらっと見かけたことがあるだけでうろ覚えだったからこないだ思い出そうと必死だったんだけど、ページ辿っていったらこんな情報を見かけてね」
 それは誰かのブログの様だった。
 そのページに書かれていたことはこうだ。

『僕が新生半陰陽になった原因、いや、要因を考えてみる。原因と書くとなんだか印象が悪い。僕は新生半陰陽のこの体を気に入っているのだから』
『先生は教えてくれなかったけど、おそらく女性化との関わりも深いだろう。というか、女性化の別パターンと捉える方が正しいかもしれない』
『女性化が、遺伝子に組み込まれた作用だとするなら、女性との性的交わりで女性化を防ぐというのは、その行為によって【体が変化する遺伝子】に変化が起こるから、と考えられる』
『つまり、あらかじめ【女性化する遺伝子】と【女性化する遺伝子を変化させる遺伝子】が男性には備わっているのだ』
『それが、女性との交わりという行為によって、選択されるのだろう。それが何故かは、今は置いておくことにする』
 そう読み進めていった先、サナエが青いペンでマーキングしてある箇所をミノリとケイコが読んだとき、二人は驚きを隠せなかった。


『新生半陰陽の要因は、【女性化】と【女性化しない】という選択がされる前に、男性と交わることだと考えられる』


 −続く−

211名無しさん:2011/07/10(日) 22:58:19 ID:???
引きが上手い!続きwktk

212こっぺぱん:2011/07/24(日) 00:02:28 ID:6EC2RiH.
だいぶ時間がかかりました。流れけっこう変わります。

−−−迷う指先の辿る軌跡−−− ⅩⅩⅣ :新しい性別6:

 ミノリとケイコは固まった。
「………サナエ、これってマジ?」
「マジ。少なくとも、女性化が遺伝子による云々ってのは、正式に公開されてるよ」
 この文書の内容を信じるならば、コースケはすでに誰か、男とSEXをしていた、ということになる。
 すなわちそれは、コースケがホモセクシュアルかバイセクシュアルであることを意味していた。
「驚いた……」
 ミノリがそう呟く。
「コースケのやつ…………そんな大胆なことしてたのか」
 ずるっ、とサナエとケイコがこけた。
「驚くのそこかい!?」
「え? 二人とも違うの?」
「男とSEXしてたってことに驚くでしょ普通!」
 サナエが珍しくツッコミ側にまわった。
「いや、だって、私とケイコだって、ねぇ」
「あー、言われてみると確かに」
「ノロケか、ノロケかこのビッチ共!」
「ビッチとはなんだ失礼な! 女としかヤってないわ!」
「くぁぁぁぁムカツクぅぅぅぅ!!!」
 張り詰めた空気はあっという間にどこかへ行ってしまったようだ。


「あーあー、こんにちは、あーあー」
 コースケはようやく普通に喋れるくらいにまで調子を取り戻した声帯で発声練習をしていた。
 病院の先生に聞きたいことも山ほどあるし、なにより友達に伝えたいこと……いや、伝えなければならないことがあった。
 だがそれはとても億劫で、かなりの勇気を要求されるコト。
 拒絶や奇異の視線に晒される覚悟が、必要なコト。
 自分が、男性を性的対象としていたことの、カミングアウト。
「………」
 今までに築いてきた友人との絆が揺らぎ、あるいは切れてしまうかもしれない。
 それでも、今更嘘をついたり、取り繕ったりするよりはマシだ、と心を決めた。
 あとは機会と勇気。だがそれが一番困難な要素とも言える。
 期待はしない。でも自分を偽ることがないように、コースケは自分に言い聞かせながら発声練習を続けた。


「まぁとりあえずそういうわけだから、コースケはゲイもしくはバイなわけ」
 サナエはひとしきりミノリとケイコをいびってからそう、やや無理矢理まとめた。
「ってことはあいつ、彼氏いるのか」
「ねぇねぇ、これって受けと攻めどっちだと新生半陰陽になるの?」
「たぶん攻めじゃない? 女性化との関連性が云々って書いてあるみたいだし」
「っていうか、新生半陰陽って長いよね」
「もしかしてあれ? みんなが夢見るあの言葉?」
『ふたなり!』
 この三人には、コースケの変化はそんなに重い問題ではないようだった。


 −続く−

213名無しさん:2011/07/24(日) 00:14:40 ID:???
続き楽しみにしてました!

214こっぺぱん:2013/02/07(木) 00:43:39 ID:atvxkEY6
一年半もたってしまいましたが、続きを書いてみました。
見てくれる人がいなかったとしても思いつく限りは書いていきますね〜

−−−迷う指先の辿る軌跡−−− ⅩⅩⅤ :新しい性別7:

 そして新学期が始まった。
 まだ全然暑い九月の初日は、決まって防災訓練がある。
 ケイコ達は今までと何ら変わりなく登校し、ミノリはやはりどうしても短いスカートが慣れないらしく、できる限り丈を長くして登校している。
 去年の夏までは、周りにいる男子生徒と同じように、白いYシャツをだらしなくズボンの外に出しながら机に座ってくだらないことを話していたのだが……
 今年は、自分が話題の的になっている。
 中学三年生ともなると、夏休み中にいろいろアレなコトが周りのメンツに置きたんじゃないかと妄想したりするものだ。
 こと今の時代においては、この女体化現象を防ぐためにこれくらいの年頃でのSEXも珍しくなくなってもいたので、余計気になるようだった。
「おはよー」
「あちーよー」
 先に教室にいたサナエにミノリが挨拶すると、サナエはまたもブラウスの胸元を大きく開けてうちわでパタパタしていた。
「あんたねぇ……」
「あぁ、いいのいいの、あたしのBカップなんて見て喜ぶ男子はいないから」
 Bカップと聞いて男子達がざわついた。Bカップの乳ってどれくらいの大きさなんだ?と思ったようだ。
「変に男子煽るんじゃないよサナエは」
 ケイコがため息をつきながらそう言った。コースケの姿はまだ無い。
 そうこうしているうちにギリギリでワタルが教室へ入ってきて、すぐにホームルームが始まった。
「よーし、夏休みは終わったぞー現実を受け止めろー」
 竹本先生がそう言ってから出席を取り始めた。そのとき、コースケの名前は呼ばなかった。
 そして始業式のため、皆は体育館へ移動し始め、そのときミノリはケイコに言った。
「もしかして、コースケ転校とか?」
「ありえない話じゃないね……女体化とは違うから、ミノリみたいな対応で済むわけじゃないもんね……」
 同じコトを思ったのか、ワタルも複雑な表情をしていた。いつもの明るくてお調子者な様子は影を潜めている。
 始業式は始まったが、行われることは毎度同じで聞く必要もない話ばかりだったので、ミノリはコースケのコトを考えていた。
 自分は女性になってしまったが、それは前例の多い割と当たり前な出来事だった。変化になかなかついていけないこともみんな知っていて、サポートしてもらえた。
 だがコースケの場合は、その身に起こったことそのものが、周囲には未知の出来事と扱われるだろう。
 それに加えて、同性……男性だったころに、男性を性的対象としていたことも発覚してしまう。
 いつだって多数派は少数派を駆逐しようとする。今のように性別に関する事柄が以前より柔軟に受け入れられるようになったとはいえ、簡単に受け入れられるとは思えない。
 もし転校しないにしても、自分達のクラスですら受け入れてもらえるかわからない。そもそも、男女どっちとして扱うかを周りがどう決めるかも、わからない。
 そんな風にコースケのコトを思うと胸が痛んだ。


 始業式が終わり、ミノリ達は教室へ向かっていた。
「コースケ、どうなるんだろうね」
「単にまだ体が安定してなくて来れないってだけかもしれないよ」
 ケイコはそう言うが、サナエが見つけてきた情報によれば、変化は長くても二ヶ月前後で安定し始めるとのことだった。
 やはり、このままこの学校に通うのは無理なのかもしれない、そう思った。
「あれ? あなた教室間違えてない?」
 最初に教室のドアを開けた女子が、教室の中を見てそう言った。怪訝に思って皆もそれに追随し、もう片方のドアも開けられた。
 確かに見覚えのない生徒が教室の中にいる。制服は女子のモノだ。肩上くらいで髪を切りそろえた、長身で痩身の女子。
「間違えてないよ」
 皆が教室へ入ってその女子のところへ集まる。そして、よく顔が見れるところまできた男子が気づいた。
「もしかして………コースケ?!」
 ざわっと教室が騒がしくなりかけたが、そのときちょうど竹本先生がきて、とりあえず皆を静かにして席につかせた。


 −続く−

215名無しさん:2013/02/07(木) 23:51:14 ID:???
GJ!
続きとても嬉しいです

216こっぺぱん:2013/02/08(金) 23:57:33 ID:bNtL74f2
長いってerror出ちゃったんで二つにわけます。


−−−迷う指先の辿る軌跡−−− ⅩⅩⅥ :新しい性別8:

「えー、というわけで、新入生の紹介をする」
 竹本先生は皆を席につかせると咳払いをしてそう言い、コースケの席に座っている女生徒に自己紹介を促した。
「コウ、です。みんな知ってるとおり、元コースケです」
 真っ黒なストレートヘアーを肩できっちりと切りそろえ、コースケのときよりは低いが女子の中ではダントツに高い身長のその少女は、緊張した面持ちでそう言った。手足は非常に細く、女性らしさをそんなに感じさせない容姿だった。
「ワケあってコウは男性用の更衣室と男性用のトイレを使ってもらう」
 竹本先生がそう言うと、皆は訝しむような顔をした。それはそうだろう、女子生徒の制服を着ている者が男子トイレを使うのは不自然だと思うのが当たり前である。どうして? という声が上がるの無理はない。
 元々コースケはあまりおちゃらけた感じがなく、クラスでも物静かな方だったので、皆もどう対処したらいいかわからなかった。
 と、ミノリが立ち上がってこう言った。
「コウはさ、ぶっちゃけ男と女のどっちが好きなの?」
 皆の視線がミノリに集まった。そう、皆が聞きたかったのはそういう部類のコトなのである。
 ミノリとて注目を浴びたくはなかったし、これは一種の賭けでもあった。が、今こんなことを言えて、この空気をどうにかすることができるのは自分しかいないと思った末の発言だった。
「………私は………男が好きです」
 クラスはざわつかなかった。なんというか、一人称がオレの男っぽい女子が男を好きだと言っているビジュアルは、そんなに不自然ではなかったからだ。
 が、少しずつそのコトの意味を理解してきた者が出てきた。
「ちなみにそれって、いつから?」
 ミノリの質問に、コウはミノリの方へ向き直って答えた。
「ずっと前から」
 コウは手をぎゅっと握りしめ、顔をこわばらせてそう言った。近くの座っていた者は、コウの体が震えているのに気づいた。

217こっぺぱん:2013/02/08(金) 23:58:43 ID:bNtL74f2
新生半陰陽編はこれで終わりです〜


−−−迷う指先の辿る軌跡−−− ⅩⅩⅥ :新しい性別8:下

「先生、コウの扱いが男子の理由を説明してください」
 ミノリは、自分はわかっていたがあえてそう言った。先生も、それを承知の上で続けた。ちなみにミノリは後から先生に、助け船ありがとうと感謝された。
「あー、まぁなんというかな、コウのケースはちょっと希でな、男性器も女性器もあるんだ。だからまぁ、一応男性器のある者を女子のグループにいれるわけにはいかんのだ」
 これにはさすがにクラスがざわめき始めた。が、次に言ったミノリの言葉で、クラスは別に意味で騒がしくなった。
「ちょっと……それって………夢のふたなりじゃん!」
 ミノリが大げさにそう言って驚いたことで、クラスの中の張り詰めた空気が崩れた。
「すげぇ! ふたなりとかマジすげー! 羨ましすぎるじゃねぇか!」
 そう言ったのは、ワタルだった。
 その言葉を皮切りに、男子達の間で「たしかに……」「男の夢じゃねーか……」などと言う言葉がちらほら聞こえ始めた。それを見てミノリはホッと息を吐き、ワタルを見た。ワタルは複雑そうな笑顔を浮かべていたが、どこか吹っ切れたような印象もあった。

 こうして見事に、コースケはゲイだったという事実のインパクトを、コースケはふたなりになったという事実の方のインパクトで上書きしたのである。

 そして放課後、詳しい話を聞こうと集まってきたクラスのメンバーの間にサナエが入ってきて言った。
「ねぇねぇ、コーちゃん顔色よくないけど、まだ調子悪いんじゃないの?」
 質問責めにされているコウに助け船を出したのである。
「うん、ちょっとまだ本調子じゃないみたい」
 コウは苦笑いしながらそう言った。確かに顔色はあまりよくない。
「体が変わるときにすごい負担がかかる場合もあるんだってね、コーちゃんはそうだったんでしょ?」
「たぶん、ね。おかげですごい痩せちゃって」
 確かにコウの体は健康と言えないくらいには痩せていた。
「お話はまた今度聞かせてもらおうよ、ね、みんな」
 サナエがそう言うと、皆はコウの体を心配しながらそれぞれに散っていった。
 そしていつも通りのメンバーで、いつも通りの道を歩く。ついに男子生徒の制服が一人になってしまった。
「いやしかし、ナイスだったね今日のワタルは」
 まだ暑いアスファルトの上を歩きながらミノリがそう言った。
「っていうか、マジでミノリすげーな。オレはのっかっただけで、おまえがすげーよ。神かと思ったぜ」
「いやいや、生まれたときから神なんで」
「謙遜しねーのかよ!」
 ミノリとワタルのこんなやりとりを見て、コウは本当に本当に良い友達を持ったと思った。そう思っていたら、自然に涙が流れていた。
「二人とも、ありがとう。本当に感謝してる。二人が困ったときは私が全力で助けるから」
 涙を流しながら笑顔でそういうコウの顔は、とても魅力的な中性の美しさで彩られていた。


 −続く−

218名無しさん:2013/02/09(土) 00:50:14 ID:???
続きwktk

219こっぺぱん:2013/02/12(火) 02:19:39 ID:A9w.I97I
新章入りました〜

−−−迷う指先の辿る軌跡−−− ⅩⅩⅦ :曖昧な境界線1:

「秋だねぇ」
 五限目が始まる前の昼休み中に、ミノリは外を眺めてそう言った。木々に少しずつだが黄色や赤の色彩が混じってきている。今はもう10月だ。
「なんかさぁ、ウチのクラスあんまり女性化しないね」
 ミノリが教室に向き直ってそう言った。
「まぁねぇ、みんなけっこう対策とってるんじゃない?」
 ケイコがそう言う。
「ビッチがいるのか非処女が少ないだけなのか、どっちなんだろう」
「ミノリって未だに女視点と男視点が混じってるよね。今みたいなこと女子が言ったら酷い目に遭うよ」
 サナエがミノリに後ろから抱きつきながらそう言った。女性化して以来、サナエのスキンシップ率が異常に上がっている。ケイコより多いし、サナエも女同士だからかスキンシップまでは遠慮しなかった。それより先は遠慮していたが。
「そういえばさ、ワタルは女性化しないのかね」
 話題は三人の視線の先でコウと話しているワタルにうつっていった。ちなみのこの二人はなんだかんだで今でも仲が良い。最初は少し接し方に戸惑っていたが、今時は性的嗜好や性別変化で友情が壊れるなんてことの方が希だ。
 コウはその後顕著に肉体が変化することもなく、医者が言うには安定期に入った、とのことだった。傾向としては安定するのが早い方だったらしく、体の負担も少なくて済んだ。
 一説によると、心的ストレスが安定期を遠ざけるという話もある。安定期が早くきたということはそれだけ精神的に安定していた、ということなのかもしれない。
「本人曰く、もう童貞じゃないらしいよ」
 ミノリは以前ワタルがそう言っていたのを思いだして言った。あのときはまだコウはコースケだったなぁなどと思いながら。
「ぶっちゃけ見栄張ってるんだと思ってたけど、もしかしたらホントかもね。あ、私がそう思ってたって言わないでよ」
「言わないよ〜男ってそういうの気にするもんね。でも相手が誰かは気になるな〜」
 サナエがそう言ったところでチャイムが鳴り、皆席に戻っていった。

 そんなことを話していた翌週、体育祭の最中にミノリはワタルが見覚えのない女性と話しているのを見かけた。しかもかなり嬉しそうに話していた。
 あまり近くに行くのもどうかと思ったので、印象でしかわからないが女性はけっこうな美人だった。背中まである茶色い髪と170㎝近くはありそうな身長、細身でバランスの良い体はモデルと言っても通用しそうだったが、服装はラフで、女性的とも男性的とも言えなかった。
 おぼろげにしか見えなかったが、ワタルを見る表情は男を見る目というよりは弟を見る目の様だった気がする。が、ワタルに姉がいるという話は聞いたことがない。
「と、いうことがあったのだけど」
 そのことをミノリは体育祭が終わった後、着替えながらケイコとサナエに言った。
「体育祭に来てたってことはここのOBかなぁ? ワタルの彼女でワタルに会いに来たっていう可能性は?」
 こういった類の話はサナエが好むところである。
「う〜ん、彼女かどうかはわかんないなぁ。OBかどうかはもっとわかんない」
「やっば、すごい気になってきた」
「これは私も気になるわ」
 ミノリとサナエがなにやら盛り上がっているのを見ながら、ケイコは自分はあまり興味がないなぁと思っていた。少しひっかかるような気持ちがどこかにはあったが。
 そして帰り道でいつものメンバーになると、ミノリが間接的にその話題に触れた。
「ワタルってさ、彼女いるの?」
「なんだよいきなり!」
 予想通りの反応である。
「いや、ほら、女性化しないなーって」
 ワタルはすでに15歳になっている。童貞であればいつ女性化してもおかしくはない。
「オレは童貞じゃねーから女性化はしねぇって」
「ふむ、で、彼女は?」
「いないよ、残念ながらな」
 そう言うワタルの顔は本当に残念そうだった。


 −続く−

220こっぺぱん:2013/02/17(日) 00:42:10 ID:5DqYo.Us
−−−迷う指先の辿る軌跡−−− ⅩⅩⅧ :曖昧な境界線2:

 二年前の秋、当時中学一年生だった橋本ワタルは、剣道部で毎日稽古に明け暮れていた。
 近隣の中学の中では比較的強い方だったこの学校の剣道部は人数も多く、男子はもとより女子もかなりの人数がいて、少なくとも一年生は全員の名前など知るわけもなく、人の入れ替わりがあっても気付かないくらいには賑わっていた。
 ワタルは運動神経がよく、剣道の経験は無かったがコツを掴むのは経験の無い他の部員の中で一番早かった。さすがに試合に出るほどの強さはなかったが、部内の模擬戦ではなかなかの戦績を誇っており、ワタルはそれが自分の自信になっているのを感じていた。
 そんなとき、夏休みが終わって部活に行ってみると、見慣れない女子部員が誰よりも早く来て素振りをしているに遭遇した。
 ワタル自身もかなり熱心だったが、彼女の横顔は必死で、どことなく焦りのようなものをたたえているように見えた。
「おはようございます、ずいぶん熱心なんですね」
 素通りするわけにもいかないので、ワタルはそう挨拶した。すると女子部員は素振りの手を止めることなく、竹刀を振るリズムに合わせて区切りながら言った。
「人より、練習、しないと、強く、なれない、からね」
 愛想笑いを浮かべることもなく、そもそもワタルのコトを見ることもなく女子部員はそう言った。ワタルはなんとなく彼女がそれ以上のやりとりを望んでいないと感じたので、軽くお辞儀をすると剣道着に着替えに行った。

 その日の部活は模擬戦だったのだが、ワタルはイマイチ調子が出ず、久しぶりに勝ち数より負け数が多くなった。模擬戦は経験者とも戦うので、あまり勝敗の数にこだわりはもっていなかったが、この日は他人の戦績が気になった。
 そう、あの女子部員である。
 彼女は三年生で、同じ女子部員の中では群を抜いて強かった。まだまだ駆け出しのワタルの目から見ても、明らかに強かったのだ。
 だが一番強いというわけではなかった。
 彼女が勝てない女子が三人いた。
 ワタルはこの日の部活が終わった後、友達の部員に話を聞き、その女子が負けた相手のうち二人は女性化した元男子だということを知った。
 その女子の名前が、「マキ」というコトも知った。
 ワタルはマキの、一心不乱に竹刀を振る姿と、焦燥感のにじむ試合の光景がどうにも忘れられなかった。

 それからしばらくの間、ワタルは早めに部活へ行く様にし、行くと必ず竹刀を振っているマキに挨拶をした。会話をすることはなかったが、なんとなくお互いに顔を合わせるのが当たり前になっていった。
 そしてある日、ワタルが部活に行くと珍しくマキが胴着ではなく制服で剣道場の中に佇んでいた。
「おはようございます」
 少し不思議に思ったが、ワタルは普段通り挨拶をした。
「おはよう、いつも早いね、キミ」
 振り向いたマキの表情は、ワタルが初めて見る表情だった。笑顔でもなく、泣いているわけでもなく、ただ、眉をしかめてない顔を見るのは初めてだった。その表情が逆にワタルの気持ちをざわつかせた。
「先輩、今日は稽古しないんですか?」
 剣道場の入り口から、剣道場の中央にいるマキに話かける。この距離が、なんともいえない二人の薄くて細いつながりを表しているかのようだった。
「うん、しない。もうしないんだ」
 そう言うんじゃないかとワタルは内心思っていたので、あまり驚かなかった。
「キミ、一年生?」
「はい」
「そっか。ねぇ、二個質問してもいい?」
 ワタルが少し返事に戸惑っていると、答えを待たずにマキは質問をした。
「剣道好き?」
「はい、好きです。オレはここに来てから始めましたけど、強くもないですけど、好きです」
 ワタルはキッパリとそう言った。実際剣道は好きだった。勝ち負けが明確にわかる、自分の練習が如実に実力に反映される、そういった己を研磨するような部分が気に入っていた。
「そっかー。私も好き」
 ワタルはこのとき初めて女性の笑顔を真正面から見た。よく花のような笑顔と表現されるが、ワタルはその通りだと思った。華美ではなく、素朴で、道端に自生しているような、誰も名前を知らないような、そんな小さな花が浮かんできた。
「も一個質問ね。キミ、童貞?」
 あまりにも予想外すぎる質問に、ワタルは「へ?」と間抜けな声を出してしまった。


 −続く−

221名無しさん:2013/02/17(日) 22:29:06 ID:???
GJ!

222こっぺぱん:2013/02/21(木) 23:23:27 ID:dPd8MSv2
−−−迷う指先の辿る軌跡−−− ⅩⅩⅨ :曖昧な境界線3:

「あー、やっぱ童貞だよね。一年生だもんね」
 ワタルの反応を見て、マキはそう言った。
「そ、それってどういう……」
 ワタルがそう言いかけたところで、他の部員達が剣道場に入ってきた。
「あ、おはようございます」
「おはよう」
 マキは挨拶してくる部員達にそう短い挨拶だけ返して部室を後にした。ワタルはその後ろ姿を見ることができなかった。

 その後もワタルは誰よりも早く部活に来たが、あれ以来マキの姿を見ることはなかった。
 部員達がマキについて、受験のために引退したのではないか、と言っていたが、ワタルにはそうは思えなかった。もしそうなら、事前に言ってもいいはずだ、何も後ろめたいことなど無い。何も言わないのは何か言いにくい理由があるからではないか、とワタルは思っていた。
 このときはまだ、何故こんなにもマキのコトが気になるのかなどというコトに意識が向く余裕はなかった。
 そして年内最後の大会で、ワタルは二軍の先鋒だったが試合に出場することができた。
 チーム自体は負けてしまったが、ワタルは相手チームの先鋒と次鋒に勝ち、他の部員達から賞賛の言葉を浴びた。これは本当に嬉しかった。
 ただ一つ気がかりなのは、試合中一瞬だけ遠くにマキの姿を見たような気がしたことだった。試合後にそちらを確認したが、マキの姿は無かった。
「なぁ、今日マキ先輩来てたりしないか?」
 ワタルが帰りに同じチームの男子生徒にそう聞いた。
「オレは見かけてないけど……おまえやたらマキ先輩気にするな、惚れた?」
「いや、試合中見た気がしたんだよ」
「あー、そりゃ惚れてるなー」
「なんでそうなるんだよ」
 ワタルは少しムキになってそう言った。それを見て周りのメンバー達は、ほらなと言って笑った。
「なんだよおまえら、オレはそんなんじゃねーって。尊敬はしてるけどな」
 それには皆同意の様だった。
「まぁ確かに強かったよなー。オレ一回試合したけど、3秒で負けたよ」
「オレは7秒もったぜ!」
「大差ねーじゃんか」
 そんなことをみんなで話ながら帰路についた。結局マキは誰も見かけていないとのことで、マキの話題もすぐに出なくなった。

 その日の夜、ワタルの携帯電話に見知らぬアドレスからのメールが一通届いていた。
『初出場、初勝利おめでとう』
 それだけ書いてあり、差出人はわからなかった。
 が、ワタルはそれが、マキからのメールではないかと思った。わざわざチームメンバーがそんなことを送ってくるハズはないし、選手に選ばれなかった生徒がそんなことを言うとも思えない。ワタルは一年なので、憧れてくれる後輩がいるわけでもない。名前も知らない先輩がわざわざそんなことを言ってくるとも思えない。
 そうなると、マキしか思い当たらなかった。クラスの友達は試合に来ていないし、誰かがわざわざワタルの試合結果を話すとも思えなかった。
 ワタルは深夜になるまで返事を考え、こう返事をした。

『ありがとうございます。今度稽古をつけてもらえませんか?』

 そのメールを送ってから、ワタルは自分の中にある不思議な、焦燥感にも似た感情があることに気がついた。


 −続く−

223名無しさん:2013/02/24(日) 22:44:34 ID:???
続きwktk

224こっぺぱん:2013/03/01(金) 23:33:20 ID:Il0J.YuY
−−−迷う指先の辿る軌跡−−− ⅩⅩⅩ :曖昧な境界線4:

 新年最初の部活は、寒稽古という慣習に沿った稽古となった。
 学校に集まった部員達は、全員胴衣に着替えると、素足に草履で外へ出て、震えながら竹刀を振るう。
 が、元々剣道場は寒い。素足など剣士にとっては当たり前のことで、この寒さも200回程度竹刀を振るえば感じなくなる。もちろんその中にワタルもいた。
 三年生は引退してしまったが、物好きな数人がこれに参加している。稽古する側ではなく、サポートする側で。
「がんばれ〜終わったらおしるこだよ〜」
 三年生女子部員の一人がジャージ姿で後輩達にそう声をかける。
「おしるこより先輩が食べたいです」
「ダメ、諦めて女性化しろ」
 後輩のさりげなくないアプローチを同じくさりげなくない形で却下したのは、女子の中で一番強かったアユミという女子だった。
「先輩そこは可愛い後輩の前途のために純潔を捧げるとか……」
「いやないから。ないから」
「二回も言うなんてそんなに大事なコトですかそれ」
「大事大事。それにもうあたし純潔じゃないし」
「えー!!!」
 アユミの周りでおしるこを食べていた男子部員達がそう声を上げた。そこまで驚いたわけではない、どちらかといえば落胆した、が近いだろう。
 このご時世、中学時代に経験してしまう女子は少なくない。だからこそ逆に、純潔に希少価値があるとも言える。まぁ、処女幻想といったところだろう。
「そんな……オレ先輩のこと好きだったのに……」
「いやいやいや、処女じゃないからってなんで好きじゃなくなるのよ」
 アユミは男子部員のそんな冗談(好きなのは本当かもだが)に笑顔で答えた。言われて嬉しくなくはない。
「でも先輩、女性化したら剣道も厳しいんでしょう? けっこうそれで辞めた人いるじゃないスか」
「あーまぁね、男子の時みたいにはいかないよね。そのギャップに耐えられない人がいても不思議じゃないし、仕方ないと思うよ」
 部内最強の女子だからこそ、言えることだった。サボったり怪我をしたりではなく、いきなり自分が今まで勝ててた相手にまったく勝てなくなったら、それは精神的にかなりきついだろうということが、アユミだから言えた。彼女とて最初から強かったわけではないのだ。
「でも女性化してもやってる人いるよ? 剣道って試合の勝ち負けより自分を研磨することが大事だからね。マキも頑張ってたじゃん」
 少し離れておしるこを食べていたワタルの手が止まった。

 マキ先輩は、元男?

 そう思ったワタルは、その可能性を否定できなかった。
 マキを見かけ始めたのは突然で、それが目立たない男子部員が女性化したのだと考えれば納得がいく。必死に練習していたのも、どうにか元の状態に追いつこうと思った結果で、急に辞めると言い出したのも、限界を感じたから、と思うと、マキが女性化した元男である可能性の方が遙かに高いと思えてしまった。
「あの、アユミ先輩……」
「ん? 何? 純潔はあげないよ? もう無いし」
「いえ、あの、マキ先輩のコトなんですが……」
「あー、マキは純潔じゃない? 何、マキが気になるの?」
 そういうことを聞きたかったわけではないのだが、それを聞いたワタルは何故か顔が赤くなるような感覚を覚えた。マキが純潔であるというのを喜んでいる自分を気付かされた。
「マキはどうかなーちょっと頑なな子だからねー、まぁがんばんな!」
 あっけらかんとそう言うアユミに曖昧な笑顔で応じ、ワタルは元の場所に戻った。
 その後部員数人と一緒に片付けをし、ワタルは戸締まりを任されておしるこを作った鍋などを学校に返すと、カバンを取りに剣道場へ戻った。

 そこに、マキがいた。


 −続く−

225名無しさん:2013/03/01(金) 23:59:22 ID:???
wktk

226こっぺぱん:2013/03/06(水) 00:18:41 ID:U8akVWMg
−−−迷う指先の辿る軌跡−−− ⅩⅩⅩⅠ :曖昧な境界線5:

「おつかれ、おしるこおいしかった?」
 マキはワタルに背を向けたままそう言った。
「はい、おいしかったです」
 ワタルは平静を装いながらそう言った。まさかマキがいるとは思わなかった。
「稽古、つけてほしいんでしょ?」
 マキは振り返ってそう言い、ワタルに竹刀を渡した。ワタルは少しためらってから、竹刀を受け取った。
「でも先輩、防具つけないと」
「いいよ、本気だけど本気で打たない稽古だと思ってさ」
「いえ、でも女の子の肌に傷ついたら……」
 ワタルが言い終わる前にマキが打ち込んできた。ダンッ!と踏み込みの音が稽古場に響く。ワタルは咄嗟に竹刀を掲げてそれを受け止めた。互いにすぐさま間合いを取る。よく見ると、マキが打ち込んできた一撃は片手によるものだった。その一撃の重さにワタルは驚き、歯噛みした。悔しいと思った。
「やるね、不意を突いたんだけど」
 マキが右手を竹刀に添える。ワタルも竹刀を握り直し、足下を整えて構える。二人が完全に静止し、互いの目線が交錯する。
 時が止まったかのような静寂の後、先に動いたのはワタルだった。ワタルの竹刀の切っ先がほんの少し下がったのを見たマキは、素早く踏み込みながら最小限の軌道で竹刀を振り下ろした。後の先を狙ったワタルの誘いを見越して、それでは対応できないくらいの速さで動いたのだった。
 ワタルは咄嗟に竹刀を振り上げるが、マキの方がわずかに早かった。マキの竹刀が一瞬先にワタルの頭を捉え、竹刀の切っ先はワタルの肩に命中した。
「キミ、優しいね」
 マキは竹刀を引くと、ワタルにそう言った。ワタルは痛みに耐えながら、ぎこちない笑顔を返す。
「やっぱ、これじゃ稽古にならないか。でもキミは上手いね」
 マキはワタルを褒めたが、強いとは言わず上手いと言った。
「さすがに、防具着けてない女の子に本気出せませんよ」
 ワタルはそう言いながらマキの竹刀を受け取り、防具部屋に歩いて行った。マキから顔が見えなくなった途端に表情は痛みで歪んだ。マキの一撃は重く、やせ我慢もこれが限界だった。
「キミ、何も知らないの?」
 竹刀を置いて振り向いたワタルに向かってマキがそう言った。防具部屋のスライドドアに手を置いて、ワタルの方を見ずに、そう言った。
「知ってますよ」
 ワタルもマキの方を見ずにそう言った。
「そっか、それでも本気は出せなかったか」
 マキは少し笑った。ワタルからは逆光でシルエットしか見えなかったが、それはどこか自虐的な笑顔だった。
「先輩、本気にこだわりますね」
「そりゃね、だから剣道やめたんだもん」
 マキはドアに背中を預けて、右手を前に突き出した。
「手、握ってみ」
 ワタルは言われたとおり、おそるおそるマキの手を握った。そのコトでワタルがどきっとする前に、ワタルの手がぐっと力を込めて握られた。握力測定をするような感じだった。
「先輩、痛いですよ」
「ね? 振りほどくほど痛くないでしょ? これ私の本気なんだよ。前はみんな、痛がってすぐに振りほどいた」
 ワタルは言葉が出てこなかった。なんと言えばいいかわからなかった。
「ごめんね、ただの八つ当たり。キミが将来有望そうだったからつい、ね」
 マキはパッと手を離すとそう言って笑った。悲しそうな、しかし女性的で魅力的な笑顔だった。
「先輩、処女なんですか?」
「へ?」
 不意にワタルの口から出てきた言葉はそんな言葉だった。
 そしてお互い、今の光景を以前どこかで見たことがある、と思った。


 −続く−

227こっぺぱん:2013/03/07(木) 23:12:06 ID:3CGnJzBA
−−−迷う指先の辿る軌跡−−− ⅩⅩⅩⅡ :曖昧な境界線6:

「あ、えーと……なんて言ったの?」
「いや……すいません、なんでもないです」
 予想外の質問に狼狽えるマキと、気まずそうに顔を背けるワタル。稽古場に差し込む夕日は徐々にその色を濃くしていき、まだ冬休み中の学校はとても静かだった。
 沈黙はわずかな時間だったのだが、二人にとってはとてつもなく長い時間に感じた。次にどんな言葉を発したらいいか、二人とも必死に考えていた。相手も必死だということに気付かずに。
「処女だったら………どうするの?」
 おずおずとそう口を開いたのはマキだった。日の傾きは徐々に夜へと向かいつつある。
「いや……その……以前オレが童貞なのは知られちゃいましたし、オレも先輩のコト知っててもいいかなって……」
 マキは、そのワタルの発言が本当に言いたいことではないということがわかっていた。自分がワタルの立場だったら、と思うと何を言いたいかは想像がついたし、ワタルの立場になって考えるコトはマキにとって難しいコトではなかった。
 ワタルなりに、この質問ができるだけ不自然じゃないようにしようと必死に考えた末の理由付けだったのだろう。マキはその姿を、いじらしいとかかわいらしいとか、そういう風に感じた。それはマキにとってとても不思議なコトだった。
 マキの足下を見つめてそれ以降何も言い出せないワタルに、マキは少し安心感を覚えた。
「私は処女だよ。でもって、童貞だよ」
 マキは自嘲気味にそう言った。それは女性としては少し恥ずかしいカミングアウトであり、元男性としての重大なカミングアウトでもあった。
「私のコトは誰かにもう聞いてるんでしょ?」
「はい、さっき」
「さっき!? ずっと知らなかったの!?」
 マキは大分前からワタルは自分が元男であることを知っていると思っていた。
「私がそんなに自然に女をやれてたのかなぁ……それともキミが女慣れしてないのかなぁ」
「どっちもじゃないですかね」
「ま、そうだよね、女っ気ありそうには見えないし、童貞だしね」
「なんか、先輩の容姿から童貞って言葉が出てくると変な感じしますね」
「私も、自分のコト言ってるみたいで変な感じするわ」
 そう言って二人は笑い合った。
 そしてマキは、そっとワタルに歩み寄った。
「キミ、私のコト欲しいでしょ」
 ワタルはその質問には答えず、少しの間逡巡してから、不器用にマキの腰を抱き寄せた。マキはワタルがそうするのをあえて待った。自分だったらそうする、と思ったから。
「いいよ、しよっか」
 マキは、何を、とは言わなかった。言う必要は無かったし、それを言葉にするのはなんとなく、自分もワタルも抵抗がある、と感じていた。これからすることはあえてうやむやで、曖昧なままにしておきたかった。
 ワタルは今度は小さく「はい」と言い、両手でマキの体を抱きしめた。
 不器用で未経験の二人はそこからどうしていいかわからず、ワタルはマキの頬にキスをし、首元にキスをし、胸に手を置いた。その膨らみは小さく、ほとんどがブラジャーのパッドで作られている膨らみだったのだが、ワタルはマキの胸に触れているという事実にとても興奮した。
 興奮していることに少し罪悪感を感じながら。ワタルはマキの制服の裾から手を入れてブラジャーの中に手を滑り込ませた。
「うわっ!」
 すると、マキが素っ頓狂な声を上げた。そういう行為をしているときに出る様な声ではなかった。そのコトで二人はまた笑い合い、抱き合ったままそこにしゃがみ込んだ。
「なんか、くすぐったい」
 マキにはまだ胸を触られて気持ちいいという感覚がわからなかったが、嫌だとは感じなかった。
「先輩、寒くないですか」
「寒いけど、大丈夫。でもドアは閉めてね、明るいのは嫌」
 ワタルは防具部屋の中にある、綺麗なタオルを何枚かつかんで床に敷き、ドアをほんの少しの隙間だけ残して閉めた。完全に閉めてしまうと真っ暗になってしまうので、少し開けておいた。
「息、荒いね」
「すいません」
「いいよ、うん、ありがと」
 ワタルはこのとき、マキが言ったこの『ありがと』の意味がわからなかった。それがわかるのはもっとずっと先のことだった。


 −続く−

228名無しさん:2013/03/10(日) 21:43:13 ID:???
続きが楽しみすぎる
GJ!

229こっぺぱん:2013/03/11(月) 00:58:08 ID:J91NApNU
−−−迷う指先の辿る軌跡−−− ⅩⅩⅩⅢ :曖昧な境界線7:

 ワタルはそっとマキのスカートに手をかけたが、ファスナーの位置がわからなくて戸惑っていた。
「ふふ、男の子はこれわからないよね。ここだよ」
 マキは少しおもしろそうに笑いながら、そう言ってワタルの手を誘導した。ワタルは照れたような、バツが悪そうな表情でマキのファスナーに手をかけると、壊さないよう丁寧に下ろした。
 そして、あまり色気のない下着の上から、陰部に手を這わす。
「う……」
 マキは複雑な声を出した。苦しいのか痛いのか驚いているのか、ワタルにはわからなかった。マキとしては、自分の股間を男子に触られているという想像もしていなかった感覚が、脳にまだ馴染んでいない、という感じだった。
 が、その声もやがて艶っぽいモノに変わっていった。自分からそんな声が出るのかとマキは驚いていたが、ワタルはまったく余裕がない様子だった。それを見てマキは逆に安心した。彼も自分と同じなのだ、と。
「先輩、下着脱がしますよ」
 ワタルはそう言うとマキのスカートを脱がしてから下着を脱がし、マキの下半身を露わにさせた。暗くてよくはわからなかったが、ワタルを興奮させるには十分すぎる状況だった。
 上半身は制服姿で、下半身は紺のソックスだけという姿は、ひどく蠱惑的だった。
 ワタルは落ち着くよう必死に自分に言い聞かせながら、マキの陰部に指を這わせた。二人とも床に座っている状態だったので、マキは恥ずかしさに耐えられずワタルに抱きついた。声も必死に抑えていた。
 すでにマキの陰部は潤っていたが、ワタルは指一本から慣らして、時間をかけてゆっくりと、初めて相手を受け入れるマキの秘所をほぐしていった。指二本がどうにか入るようになったころには、ワタルの自制も限界だった。
「先輩……オレもう辛くて……」
「ん……そうだよね、いいよ、おいで」
 マキは少し震える声でそう言った。恐ろしさというモノがここにきて出てきてしまったようだ。が、ワタルはそれを感じてもやめることはできなかった。逆にここでやめても失礼だろう。
 ワタルはタオルを敷いた床の上にマキを寝かせ、自身も服を脱いだ。ジャージで来ていたワタルは、シャツ一枚の姿になってマキに覆い被さる。二人の肌が触れ合う。部屋は寒いのに、二人とも汗ばんでいた。
「先輩……いれますよ」
「うん……手、握ってくれる? ちょっと、怖い」


 −続く−

230こっぺぱん:2013/03/11(月) 23:41:12 ID:J91NApNU
−−−迷う指先の辿る軌跡−−− ⅩⅩⅩⅣ :曖昧な境界線8:

 ワタルははやる心を抑えながら、マキの手を握り、首元に何度もキスをしながら陰部同士を触れさせた。そして、更にはやる心をそれはもう必死に抑えつつ、ゆっくりとマキの中に入っていった。
「う……」
 マキが苦しそうな声を上げた。痛みはまだないが、圧迫感が強く、その感じたことのない感触に頭がおいついていなかった。余裕がないのはマキも同じだった。
 ワタルはゆっくりと浅いところで出し入れを繰り返しながらマキの反応に全神経を集中し、苦しそうな声の中に艶っぽい声が混じりだしたところで、少し深くマキの中に入った。そこで、抵抗感を感じた。ワタルの先端が処女膜に触れたのである。
「先輩……」
「うん、わかってる。いいよ」
 ワタルも苦しそうにそう言うと、マキは笑顔を見せてそう言い、ワタルを抱きしめた。ワタルも体をマキに預け、マキの体を抱きしめた。
 そして、ぐっと力をいれてマキの中に入った。
「んうっ……!」
 お互いにマキの破瓜を感じた。マキがなんともいえない、苦しさや痛みをかみ殺した声をあげる。
 ワタルはマキの様子に注意しながら、ゆっくりと出し入れを繰り返す。自分の快感よりも、マキのことばかりが気になってしまうのは、ワタルの優しさと自制心の強さから来ているのかもしれない。
 が、マキはそんなワタルの気持ちをわかっていた。
「ねぇ、いいよ、もっと動いても。キミも辛いでしょ?」
「でも先輩、痛いでしょう?」
「痛いくらいどうってことないよ、私は女剣士だよ?」
 動きを止め、心配そうにマキを見つめるワタルに、マキは笑顔を見せてそう言った。汗ばんだ額にかかる黒い髪がなんともいえず艶っぽかった。
 その後のことを、ワタルもマキもよく覚えていなかった。二人とも必死で、二人とも恥ずかしくて、二人ともわけがわからなかった。お互いにそうだ、ということ以外はよく覚えていなかった。
「先輩……!」
「中は、だめだよ、お腹の上に……」
 その言葉がワタルをより興奮させ、ワタルを絶頂に導いた。マキは制服の上着をたくし上げ、ワタルは寸前で自身をマキの中から引き抜くと、マキを抱きしめたまま達した。マキの白くて痩せたお腹の上に、濃い白のどろっとした液体がはき出される。
 二人とも、しばらく荒い息をするだけで、言葉も交わせなかった。
 こうして、マキは女になり、ワタルは二つの意味で男になった。


 −続く−

231こっぺぱん:2013/03/15(金) 23:28:53 ID:73eRlD3A
−−−迷う指先の辿る軌跡−−− ⅩⅩⅩⅤ :曖昧な境界線9:

 その後、顔を合わせることは何回かあったが、二人の関係はそれ以上のものにはならなかった。
 挨拶以上の言葉を交わすこともなく、もちろん触れ合うこともなかった。
 なんとなく、この距離に落ち着いたのだ。ワタルはあのメールがマキからのものかを確認することはなかったし、マキもワタルに連絡はしなかった。
 そして卒業式の日、ワタルは壇上で卒業証書を受け取るマキを見て、もう会えなくなると思ったとき、胸の辺りが痛くなるのを感じた。それはとても切ない痛みだった。
「卒業、おめでとうございます」
 卒業生と在校生でごった返す玄関口で、ワタルは必死にマキを探し、見つけ出すと駆け寄ってそう言った。
「ありがとう。もう会えなくなるね」
 その言葉が再びワタルの胸をツキンと刺す。もう会えない、そう思ったらためらってなどいられなかった。
「先輩、あの……あの、ですね……」
 マキはワタルが何を言うのかわかっていた。わかっていたからワタルが言い出すのを待っていたし、返事も決まっていたからその表情は苦笑いだった。
「えっと、あのですね、その……オレの、彼女になってもらえませんか?」
 周りにいた何人かはワタルのその言葉に反応したが、卒業式のこの日ならそこまで珍しい風景というわけでもなかった。騒がしかったのもあってか、二人のやりとりはそこまで目立たなかった。
「ありがとう、気持ちはいただいておくね。でも、ごめんなさい」
 ワタルは複雑な笑顔を浮かべてその言葉を受け取った。意外というわけではなかったが、一縷の望みは抱いていたので、少なからずショックではあった。
「わかりました。先輩のこと忘れません。あの日のことも忘れません」
「あれは、秘密ね。ごめんね、期待させるようなコトして」
「いえ、嬉しかったです。オレ、先輩のこと好きです」
「ありがとう。私はキミのこと……わかんないな、わかんないから、まだ受け入れることができない」
 まだ、という言葉に少しだけワタルは救われた気がした。いつか受け入れてもらえるかもしれない、と思った。
「曖昧だったね、私らはずっと。私がずっと、か」
 マキは一歩ワタルに近づいた。あのときより伸びた髪がふんわり揺れて、シャンプーの匂いをワタルまで届ける。
「ありがとね、あと、ごめんね」
「いえ、こちらこそ。また、会えたら嬉しいです」
「そうだね、縁がつながってればきっとまた会うことになるよ。今はまだ、なんとも言えないかな」
「それで十分です。ちなみに、年末の試合後にオレにメールしてくれたの先輩ですよね?」
「うん、そうだよ」
「アドレス変えないでくださいね」
「変えたら教えてくださいね、じゃないんだ」
「あ、いや、変えたら教えてください!」
 慌ててワタルがそう言い直すと、マキはたんぽぽの綿毛のように柔らかい笑顔を見せた。そして、ワタルの胸にそっと右手を置くと、くるっときびすを返して手を振りながら去っていった。またねとか、さよならとか、そういう言葉をあえて言わない、言わせない、そんな意図があるようにワタルは感じて、ただ手を振り返すだけに止めた。追いかけたい気持ちは必死に抑えた。

「先輩、オレこないだの地区大会大将で出たんですよ!優勝もしました!」
「お、さすがだね。私が男にしてやっただけのことはある」
「あのとき約束したじゃないですか、先輩の分もオレががんばるって」
「そうだね、よくがんばりました!」
 ワタルの中学時代最後の体育祭を見に来たマキは、当時よりぐっとたくましくなったワタルを見て、なんだか育て親の様な気持ちになった。彼の無垢な笑顔に、マキはまだ明確な形で返事を返せないままだったが、ワタルが未だに自分へ好意を持ってくれてることは確認できたし、それを嬉しいと思った。
 ただそこにあるワタルとマキの境界線は、曖昧なまま今でも二人を繋いでいるのだった。


 −続く− 〜曖昧な境界線 完〜

232名無しさん:2013/03/17(日) 22:57:47 ID:???
素晴らしかったです
GJ!


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