?発想を逆転し、「まず一般の住まいを提供する」ことを試みたのは、米国の精神科医・Sam Tsemberis氏だ。1992年、Tsemberis氏はニューヨーク市内でホームレス状態にある重度精神障害者や、同じくホームレス状態にある依存症患者に対し、シェルターではなく通常の住まいを提供した。「住まいがあればホームレス状態は終わる。簡単なことだよ」とTsemberis氏は語ったという(「Pathways to Housing」サイト内、「Pathways National History」による)。
Amanda J. Harrisさんは、ワシントンDCで「ハウジングファースト」に取り組む「Pathways to Housing DC」の最高責任者だ。ソーシャルワークと公共政策の2つの修士号を持つHarrisさんは、「ハウジングファースト」の特色を、
「『ハウジングファースト』では、生活困窮者に対して最初に恒久的な住居、シェルターのような一時的な住居ではない住居を提供するわけですが、その際、条件を設けません。(アルコール依存症者が)断酒を誓ったりしなくていいんです」
Harrisさんによれば、Pathways to Housingの活動のきっかけは、創設者である精神科医・Tsemberis氏が、刑期を終了して出所する人々や、精神科病院に入院している長期入院者に「何をしてほしい?」と尋ねたことであるそうだ。答えは、「アパートに住みたい」だった。Tsemberis氏は、その希望を叶えた。すると良好な結果につながり、コストも削減できることが判明したわけである。
「道義的に正しいだけではなく、安く上がるんです。病院・シェルター・刑務所にお金使うのは賢くないと社会が学習しました。2010年ごろからは、ブッシュ大統領が大きく後押ししてくれるようになりました。ハウジングファーストを取り入れていないプログラムには『費用対効果が悪いから』と資金が出なくなるほどの変化が起こりました」(Harrisさん)
貧困撲滅を掲げるオックスファムは、「世界経済フォーラム(WEF)」年次総会(ダボス会議)がスイス・ダボス(Davos)で開幕するのを前に、報告書「最も豊かな1%のための経済(An Economy for the 1% )」を発表。「悪化の一途をたどる不平等は、62人が所有する富と、世界人口のうち所得の低い半数の人々が有する富とが等しい世界をつくり出した」と述べた。