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VaMPiRe
199
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2012/09/22(土) 01:26:40 HOST:p8152-ipbfp4204osakakita.osaka.ocn.ne.jp
「白波が行方不明!?」
言われたとおり屋上へとやって来た霧澤達は、朧月の発言に思わず大声で叫んでしまった。幸い屋上には他に誰もいなかったので、このことを聞かれていはいないと思う。
彼の話によると、昨晩に出てきた悪魔を退治しに行ったっきりらしい。白波がそこら辺の弱い悪魔に負けるような『ヴァンパイア』ではないことは誰もが知っている。
だからこそ、行方不明の原因が分かっていないのだ。
「……白波の奴、どうしたんだ?」
「相手が本気で心配するような冗談や嘘は言わないし……」
霧澤達も白波が姿を消した理由を考え出す。が、しかしやっぱり思いつかない。
そこで、皆で昨日白波を見たのはいつが最後か、という話を聴くことにした。
いの一番に口を開いたのは霧澤だ。
「俺は昨日、白波が赤宮と一緒に買い物に行くって行って、赤宮を連れて行った後から見てないぜ」
その光景に居合わせていた真冬もこくこくと頷いている。
次に口を開いた茜空は、
「僕は彼女のことよく知らないんで。廊下ですれ違ったかもですが、帰りは会ってないかと。僕は薫さんとすぐさま帰ってゲームしてたんで」
早速かよ、と霧澤がツッコみそうになったが、そこはぐっと堪えた。
朧月は白波と買い物に行った真冬に意見を求めた。
「私は涙ちゃんと買い物に行って、荷物を持っててあげたりしてたから家までついて行ったよ。涙ちゃんが家に入っていくのも見たし」
「ああ。確かに涙は家には戻ってきていた」
朧月は真冬に賛同するように言った。
そして悪魔が現れたのは夜の一時ごろ。その辺りまで話を遡らせていた。
「俺は赤宮と妹の梨王とでゲームしてた。『いつまでやってんの!』と母さんに怒られたからそれでやめて、俺の部屋で二時くらいまでトランプやって寝たぜ」
真冬も頷いている。
ちなみに、朧月が真冬に何で悪魔退治に行かなかったか、と問うと『これから出た悪魔はしばらく私に任せな。暴れたくってウズウズしてんのよ!』と買い物中に言われたかららしい。なんというか、白波らしいといえばらしい。
その時間は、と考え出す奏崎だったが、隣にいた茜空が答えを言ってしまう。
「その時間は『今日は見たいのがありませんなぁ』と言って薫さんが寝たのはいいんですが、僕を抱き枕のように扱い悪魔退治にも行けませんでした。つまり、僕も薫さんも家にいました」
やられていることは悲惨だが、とりあえず状況は分かった。
当然といえば当然だが、最後まで白波と一緒にいたのは朧月だ。家から出て行方不明。普段そういうことをしそうにないだけあって、余計に心配である。
「とりあえず、放課後全員で探してみようぜ。何かあったらいけないから、『ヴァンパイア』と契血者(バディー)が組んで」
霧澤の提案に全員が納得する。
納得してはいたのだが、奏崎が思い出したように異を唱える。
「でもさ、私達五人じゃん? 誰か一人余っちゃうんじゃ?」
あ、と霧澤が声をもらす。
再び彼が考え出すと、今日の自分は冴えている! といった表情で携帯電話を取り出した。
「いるじゃねぇか。頼りになりそうかつ暇そうな奴が!」
かなり失礼な言い方だが、許してくれそうな人物だった。
そう、霧澤夏樹の言葉であれば、彼女は何でも許しそうだ。
彼が電話をかけた相手は他の誰でもない、
―――朱鷺綾芽だ。
200
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2012/09/22(土) 21:31:02 HOST:p8152-ipbfp4204osakakita.osaka.ocn.ne.jp
学校が終わり、霧澤達は駅前で待ち合わせていた朱鷺綾芽と合流する。
彼女はいつもどおり扇子で口元を隠しており、霧澤を見つけるやいなや彼に思い切り抱きついた。
「キャー、夏樹さーん! お会いしたかったですわ! 電話をなされた時はわたくしと契りを交わすお覚悟を決めたのかと思いましたけど……」
頬を染めながらそんなことを言う朱鷺の頭部を、すぱーんという効果音が似合いそうな叩き方で、真冬がはたく。
突然はたかれた朱鷺は大して痛くない頭部を押さえ、口を尖らせながら真冬に文句を言う。
「んもー、何ですの? 話すくらいいいじゃありませんの。貴女はいつも一緒にいるんですし」
「そーいう問題じゃなくて。とにかく離れたら? 暑苦しいでしょ?」
女二人の醜い言い争いが始まる。
男の霧澤と朧月は若干引いており、同じ性別である奏崎と茜空でさえも軽く引いている。周りの注目もかなり集めている二人だがヒートアップしてきた二人はそんなことを気にする余裕などない。むしろ注目されているからこそヒートアップしているようにも見える。
朝の霧澤と茜空の言い合いのような『論点がずれる』論争ではなく、二人の言い合いは『論点は変わっていないが、この世で一番醜い』論争である。
二人の論争を原因となった霧澤が間に入り、場は一時収束した。落ち着いたところで、今回朱鷺を呼び出した理由を、朧月が話す。
「ほほう。白波さんが行方不明ですか。マモンの件が終わり連絡を取っていなかったので、そんなことになっていたとは思いもしませんでしたわ。単なる家出というわけでもないようですわね」
朧月は朱鷺の解釈に頷
霧澤の提案により二人一組で手分けして探そう、という話になると朱鷺の眼がキラリと輝く。そう、眩しいほどに。
「ではわたくし、夏樹さんと組みますわ! 早い者勝ちですわよね!?」
がっしりと霧澤の腕にしがみつく朱鷺。だが、それを許さないのが彼の契血者(バディー)の赤宮真冬と、最強幼馴染の奏崎薫である。
二人は勝手なルールを決める朱鷺に反論を開始する。
「ちょ、ちょっと待ってよ! そんなルール無効だよ! ここは契血者(バディー)の私が!!」
「いやいや、ここは公平を期してくじで決めましょう! 私、こんなこともあろうかとくじを持ってきてるのよ!?」
霧澤と組もうと必死になる奏崎に反応したのが、奏崎至上主義の茜空九羅々である。
「ちょっと待ったですよ! くじなんて不要! 薫さんのペアは僕です!!」
止めてくれないんかい、と心の中でツッコむ霧澤。そんなやり取りを少し離れた場所から朧月が呆れながら見つめている。
そんな中絶体絶命少年の霧澤夏樹が朧月に助けを求めようと彼と視線を合わせるが、
ふい、と視線を逸らされてしまった。
絶望の淵に陥れられた霧澤。
彼が知らないところで結局ペアはくじで決めることになり、やっぱり『ヴァンパイア』と一緒の方が色々な危険から身を守れるので、契血者(バディー)と『ヴァンパイア』で同じ番号を引いた者同士がペアになることが決定した。
この時点で霧澤とのペアが実現可能な真冬と朱鷺はめらめらと闘志が燃え盛っていたが、実現不可能になってしまった奏崎は表には出さないかなりのショックを受けていた。
201
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2012/09/28(金) 23:12:00 HOST:p8152-ipbfp4204osakakita.osaka.ocn.ne.jp
どうしたもんか。
霧澤夏樹は夕方に差し掛かる前の人通りが割りと多い街で茫然と考える。
彼が『どうするか』迷っているのは白波を捜索するための手立てではなく、彼がくじで一緒に行動することになった朱鷺綾芽のことだ。彼女は霧澤と遺書になったことで、幸せそうな表情を浮かべ完全に舞い上がっている。霧澤からしてみれば舞い上がっている理由は不明で、相談どころではない。
(これだったら話し辛いけど、茜空の方がマシだったな……)
絡みやすさよりもまだ会話になりそうな相手を選ぶ始末だ。それだったら一番都合が良いのは真冬か奏崎であるのだがあくまで、朱鷺綾芽と茜空九羅々という『そこまで親しくない人物』を比べた時の話である。
彼の苦悩を知る由もない朱鷺も、ただ舞い上がっているだけではない。
彼女は幸せそうな笑みの裏には、想像しがたいほど深いところまで考えていた。
(……さて、どうしましょうかね)
彼女は街行く人々の会話に聞き耳を立てていた。
まずは『耳』からの情報収集だ。
(当然ながら『白髪の娘が攫われた』、という噂はないようですわね。消えたのは深夜。会社勤めの方々もとっくに帰宅しているでしょう)
次は己の『眼』を頼りにする。
知っていそうな、そんな人物を見つけようとするのだが……。
(当然ですわね。見当たりませんわ。まず噂がないのですし……知らない方がほとんどでしょう)
知られても厄介ですけど、と彼女は軽く思いながら自分の思考を展開する。
(白波さんと朧月さんの仲からして家出ではない。となると、誘拐? まさかですわね……。彼女がそんな安い手に引っかかるでしょうか? 不意打ち? 考えられる可能性はいくつもありますけど、現実的なのは……)
「朱鷺!」
突然、自分を呼ぶ霧澤の声で朱鷺はふと我に帰る。
「あ、はい?」
彼女にしては珍しく慌てたような声。それに違和感を感じないほど鈍い霧澤ではなかった。時として彼は勘が鋭い。人の感情や気持ちに対する時には異常なほど敏感になる。
霧澤は距離が空いてしまった朱鷺の元へと駆け寄りながら、
「一人で勝手に行くんじゃねーよ。見失ったらどうすんだ」
「……あ、すいません。少し考え事を……」
霧澤の言葉に朱鷺は苦笑いを浮かべながらそう返す。
霧澤は溜息をついて、
「お前な、一人で悩むんじゃねーよ。今回はお前だけの問題じゃなく、俺や真冬も協力してるんだ。皆を頼っていいんだぜ? ってか、一番近くに俺がいるんだから、俺をまず頼れよ」
霧澤の言葉に朱鷺は頬を赤く染める。
自分の好きな人が『俺を頼れ』と言ってくれた。
彼女は嬉しさで爆発しそうな自分の感情を制御して、扇子の裏側でうっすらと笑うと、
(……だから、ダメなんですよ……)
彼女は思う。
再確認した自分の気持ちをしっかりと抱いて。
(……だから、そんな貴方だからこそ、わたくしは貴方を真冬さんから奪って独り占めしたくなりますのよ……)
朱鷺は霧澤の手を軽く握り、小走りをしながら、
「さあ、行きましょう!」
「お、おい!? 行くってどこに!?」
彼女は微笑みながら、
「ゆっくり話せる場所ですわ。二人で相談しましょう!」
付け加えるように、心の中でそっと思う。
(……二人の将来のことを……。……なんちゃって)
202
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2012/10/05(金) 22:40:36 HOST:p8152-ipbfp4204osakakita.osaka.ocn.ne.jp
実のところ、朧月昴はこの上なく困っていた。
理由は傍らにいる茜空九羅々であるのだが、別に彼は子どもが嫌いというわけではない(背が低いだけで同い年かもしれない)。ただ、彼女がさっきからこちらには見向きもせずに辺りをきょろきょろしている。こちらとコミュニケーションをとる、という考えは彼女の頭に無いようだ。
朧月自身もそんなに喋る方ではないが、話を振られれば普通に答えるし、会話を続ける努力はしているつもりだ。しかし、ここまで何も話してくれないと気分的に重い。
『どうやって涙を探そうか』とか『何で姿を消したと思う?』と聞いても『ハン、話かけないでもらえません? 今考え事してるんで』とか鼻で笑いながら一蹴されそうだ。
しかし、沈黙が続いても嫌なので、朧月は思い切って茜空に問いかける。
「……、どうやって涙を探す?」
「ハン、話しかけないでもらえません? 今考え事してるんで」
予想通りの言葉で鼻で笑いがら一蹴された。
彼女は相変わらず朧月を見ずに、辺りをきょろきょろしている。
どうやら本当に彼と仲良くする気はないようだ。
「……お前な、少しは話そうとはせんのか」
「無駄ですもん。それに僕、貴方のことよく知らないんで。得体も知れない人間と話したくありません」
霧澤は違ったのか、と問いたくなったが、そう問うと無言で睨まれそうな気がしたからやめた。
恐らく奏崎が信頼している人物だから大丈夫と確信したんだろう。奏崎、俺も信頼してくれと今すぐに言いたい。
「……まあ、あれです。闇雲に探したって見つかるわけねーだろうが、馬鹿アホ間抜けってとこですかね」
「……お前、俺に対して極端に口悪くね?」
そういうもんです、と茜空が返すが朧月は納得していない。納得できない。
朧月は思い出したように、再び茜空に話しかける。
「そういや、お前奏崎と契血者(バディー)になる前から、アイツの声を聞いてたんだってな」
ぴたり、とすごく自然な仕草で茜空の一切の動作が止まった。
彼女は眼帯をつけていない左目で朧月を見ると、
「誰から聞きました?」
今までとは明らかに違う、真剣さを感じさせる口調で聞き返す。
「霧澤から」
「なるほど」
朧月の答えに茜空は驚きもしなかった。
彼には話したのだし、身近な人間には話しているだろうな、と思ったのだろう。茜空はくるり回り身体の向きを朧月に向ける。
付け加えるように、彼女は口を開く。
「―――聞いていた、といえるほど手軽なものじゃありませんでしたけどね。決まって聞こえたのは僕が眠りに落ちた時。夢の中で、何度も何度も僕を読んでいたんです。……で、いきなり何ですか。そんな事を聞いて」
茜空がふと思った疑問を口にした。
会話の糸口だろうか、と彼女は考えたが、どうやら朧月はそんな事を考えて話してなかったようだ。
「涙が言ってたんだけどさ、『多分それ、二人が契血者(バディー)になる予兆だったんじゃないの?』ってさ」
それを聞いた茜空は信じられないというような表情で、
「……奇想天外過ぎます。それに、僕が薫さんの声を聞いてたのって気付いたらだし、物心ついた時から声を聞いてました。出会う前から聞いていたなんて―――」
「だからさ、」
朧月が彼女の言葉を遮るように言う。
「そういうのが、運命って言うんじゃないの?」
ズドン!! と金属で殴られたような痛みが朧月の横腹を直撃し、彼の身体がくの字に折れ曲がる。
彼は膝をついて激痛が走った横腹を押さえる。隣にいる茜空が手で拳を作っていたので、彼女の仕業であることには間違いないのだが、金棒を使っていなかったということにびっくりする。
「……てめぇ、何しやがる……!」
「いや、まさか貴方の口から『運命』とか言われると思ってなかったので。鳥肌肌が立って気持ち悪かっただけです」
確信した。
茜空九羅々は朧月昴のことが大嫌いだ、と。
「ほら、とっとと立ってください」
彼女は膝をつく朧月に言う。
ただ言ったのではなく、彼に手を差し伸べながら、だ。
「―――白波さん。早く見つけましょう」
―――こういう些細な気遣いが、彼女の良いところなのかもしれない。
203
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2012/10/06(土) 10:17:50 HOST:p8152-ipbfp4204osakakita.osaka.ocn.ne.jp
予想はしてはいたが、やはり見つからなかった。
待ち合わせ時刻になってしまい、真冬と奏崎は時間が近くなってきたのに気付き、いち早く引き返していたのだが、
「ありゃ、ちょっと早かったね」
着いたのは七分前。
霧澤・朱鷺ペア、朧月・茜空ペアが近づいてくる気配も無く、二人は時間までここでゆっくり待つことにした。
しかし、二人の間には会話が無い。白波を探している時も、必要な言葉だけを交わしていた。
だがそれは決して仲が悪いから、とかではなく、
((……話しかけづらいなぁ……))
もしも、奏崎が『ヴァンパイア』のことや真冬の正体を知っていなければ、話しづらくなることはないだろう。それまでは普通に話していたのだから。だが、今二人が話しづらくなっている理由は似通っている。
真冬は『契約のため霧澤とキスしていることを、奏崎は知っている』で奏崎は『真冬に内緒で霧澤とキスしちゃった』ので、お互いに気まずくなっているのだ。それに付け加え、奏崎は一足先に霧澤に告白も済ませてしまっている。余計に気まずい。
しかしここは気遣いの出来る赤宮真冬。
彼女は意を決して奏崎に話しかける。
「……ね、ねぇ薫ちゃん」
「ふぁいっ!?」
いきなり声をかけられ変な返事をしてしまう奏崎。
何一つ悪いことしてないのに僅かな罪悪感に、真冬は苛まれてしまう。
奏崎は驚きで乱れた呼吸を胸に手を当て整える。落ち着いた様子で、彼女は真冬を見つめ『どうしたの?』と問い返す。
「……あ、うん。あのさ、夏樹くんって昔はどんな人だったの? 今と同じで、人のために頑張れる人だった?」
「ああ、夏樹ね……。人のために頑張れる、というよりは……何事にも一生懸命ってイメージかな」
「何事にも?」
真冬が聞き返し奏崎はこくりと頷く。
奏崎は夕方の赤く染まり始めた空を見上げながら言葉を続ける。
「私はアイツを小さい時から知ってるから。でも実際物心ついたのはそれよりずっと後だから、記憶にあるのは小学校の頃ぐらいから。親が離れてる私を楽しませてくれて、知らないことを教えてくれて、困ってる時には助けてくれて、泣いてる時には励ましてくれた。その頃からじゃないかな」
奏崎は一度言葉を区切って、
「私が夏樹を好きになったのは」
真冬は自分が霧澤を好きになった理由を思い出す。
彼と知り合ったのはつい最近のことだ。『四星殺戮者(アサシン)』の件では、眠ってしまった霧澤に泣き叫んだ。彼が無事だと分かって安心して、それで好きになったのは間違いないが、
自分は日は浅いけど、奏崎には及ばないかもしれないけど、
思い出だけはたくさんある。
強力な悪魔のフルーレティと戦ったり、朱鷺綾芽と霧澤を取り合ったり、茜空と一緒に奏崎を守るためにマモンと戦ったり。そして、これからもそんな思い出を―――
「薫ちゃん」
真冬は奏崎は呼ぶ。
彼女はきょとんとした表情で振り返り、真冬と目を合わせる。
きりっとした、一つの大きなことを決意したような赤い瞳を持った真冬と見つめ合う。
「私、負けないよ!」
奏崎には何のことか分かったようだ。
彼女は楽しそうな表情をして、息を吐いた。
「望むところだよ」
ちょうど皆が帰ってきた。
二人は決意を固めて、それぞれの家へと戻っていくのだった。
204
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2012/10/08(月) 17:28:08 HOST:p8152-ipbfp4204osakakita.osaka.ocn.ne.jp
翌日。
再び白波を探すことにした霧澤達は、今の六人では見つからないだろうと思った霧澤の提案により、もう二人追加することにした。
だが、いくら人手がいるといっても『ヴァンパイア』とは無関係な滝本美々を巻き込むわけにはいかないので、霧澤はこういう時に手を貸してくれそうな二人に声をかけていたのだ。
捜索組六人は駅で、その二人と待ち合わせをしていた。
場所に着くといたのは腰くらいの金髪を持った美女、汐王寺百合と彼女の契血者(バディー)である茨瑠璃の二人だ。
「って、汐王寺さん!? ってことは、あの人も『ヴァンパイア』と関係あるの? もしかして側にいるちっちゃい子? いつからなの!?」
一番びっくりしたのは奏崎だ。
無理もない。彼女は汐王寺とは顔見知りなわけなのだから、余計に驚いたのだろう。
「驚いたぜ。まさか奏崎も関わっていたとはな。しかも、契約の相手は夏樹と真冬ちゃんが注意しろって言ってた『ヴァンパイア』か。ま、これで以前ほどの脅威もねーだろ。で、昨日夏樹から電話で聞いてはいたが、もう一回詳しく聞かせてくれ。今回の事件を」
説明をしたのは白波の契血者(バディー)である朧月だ。
彼は子供の茨にも分かるように丁寧に説明した。茨も黙ってこくこくと頷いていた。
説明が終わると汐王字は腕を組み、
「まあ任せとけ! お前らにはブルーレディの時に世話になったし、協力してやるよ!」
フルーレティな、と霧澤はやんわりとツッコミを入れる。
そこで昨日と同じように再びペアを決めることになった。奏崎が例のくじを用意すると、すっと茜空が手を挙げた。
何か言うのか、と思い全員が茜空に視線を向ける。
「……薫さん、今回。僕が夏樹さんとペアで良いですか?」
「へ?」
奏崎は間の抜けた声を出していた。
彼女が返事をする間もなく茜空はすたすたと霧澤に近づいていき、彼の腕を掴む。
「ちょっと、話したいことがあるんで」
朱鷺ほどの脅威も秘めていないのが分かっているのか、真冬もそこは文句を言わずに了承した。
奏崎はぽかんとした様子で黙っていたが、彼女の次の一言で戦争が始まる。
「じゃ、じゃあ……今回はなりたい人とにする?」
瞬間、汐王寺百合と茨瑠璃の目が光った。
汐王寺は真冬の肩に手を置き、茨は奏崎に抱きつきだす。
「じゃあ俺は真冬ちゃんと組む! 色々話したいこともあるしな!」
「じゃあ私はこのお姉ちゃんがいい! お兄ちゃんのこといっぱい聞きたい!」
「「えぇっ!? 私!?」」
真冬と奏崎は同様の反応をして、自分を選んだパートナーにぐいぐい引っ張られていく。
茜空も霧澤に行くように促し、結局その場に残った朧月と朱鷺が必然的にペアを組むことになった。
「勝手な奴らだ」
「勝手な方々と関わる貴方も勝手、わたくしも勝手ですわよ。皆様に遅れを取りたくはありませんので、行きますわよ」
結局のところ、朧月も朱鷺に促される形で捜索を開始する。
今回、選ばれた人達は、選んだ人達にぐいぐいと引っ張られていく羽目になった。
205
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2012/10/13(土) 13:37:13 HOST:p8152-ipbfp4204osakakita.osaka.ocn.ne.jp
霧澤は正直、茜空九羅々が苦手だ。
あまり話したことがなく、何を話せばいいか分からないのも理由の一つだが、彼女とは性格ややり方などが、基本的に自分と一致していないと思う。正直なところ、誰かから一〇個質問されれば、茜空は霧澤と違う答えを言うだろう。それほど仲が良くない、と思える滝元であっても二、三個一致するだろうと霧澤は思っている。
つまり、自分と何一つ一致しない茜空が、霧澤にとっては意外な天敵である。
しかも自分から指名しておいて、白波捜索から十分程経過しているにも関わらず、未だに言葉を交わそうとしてくれていない。自分のこと嫌いなんじゃないだろうか、と勘違いしてしまうが、無口なのが彼女にとってデフォルトなのだろう。
いよいよ気まずくなってきた霧澤は、こちらから話をかけるという手段を取った。
「……なあ、茜空。そろそろ話してくれてもいいんじゃねーの? 何で俺と一緒になったんだよ」
茜空は視線をこちらに向ける。
常に無表情だからか、やけに不自然そうに見える。というか視線が怖い。
彼女は視線を逸らし、溜息をついた後口を開いた。
「では、単刀直入に聞きますけど、貴方は実際どう思ってるんです?」
唐突だった。
聞きたいことしか聞いていないような質問。だが、白波を捜索している今を考えると、質問の内容も推測できる。恐らく、白波が突然消えた理由をどう思う? と聞いているのだろう。
霧澤は考えるような仕草をした後、
「どうなんだろうな。家出でないとすると、誘拐とか? でも、アイツは簡単に攫われるような……」
「それは、人が相手だった場合です」
茜空は遮るように、霧澤の言葉に自分の言葉を重ねる。
彼女は続けて、
「確かにそこらの下級悪魔じゃ、攫うなんて知恵も回らないだろうし、たとえ五〇体集まろうが彼女を倒すことも、ましてや殺すことも出来ないでしょう。ですが、相手が二人以上の上級悪魔―――、もしくは僕と同じ『ヴァンパイア』だったなら、話は別でしょう?」
霧澤はハッとした。
いるはずだ、否、いたはずだ。白波を敵視している『ヴァンパイア』が二人以上。霧澤は記憶に鮮明に残っている。その人物の顔を思い浮かべると、直ったはずの身体の傷が疼きだしたような気がした。
茜空は腕を組みながら、
「僕も詳しくは聞いてません。ですが、昨日捜索途中に誘拐という線を考え出した僕は、朧月さんに聞いておいたんですよ。白波さんに因縁を持っている『ヴァンパイア』はいるか、と。ドンピシャでした。彼らとの戦いには、貴方も、貴方の契血者(バディー)も参加していたようですが?」
そうだ。
自分が思い当たっている人物が、茜空の言う『白波に敵意を持っている相手』なら、恐らくこいつしかいないだろう。それに、自分の直ったはずの傷が疼きだす理由もなんとなく分かる気がする。
「僕が今回、貴方と一緒に行動したいと言った理由は、貴方の意見を第一に聞きたいからですよ」
霧澤は、自分が今思い浮かべている人物を口にした。
「―――、紫々、死暗―――」
そう、と茜空は霧澤に同意する。
彼女は彼ら『四星殺戮者(アサシン)』が、白波を攫ったのではないかと考えていた。
「あくまで、僕の推測でしかありませんが……彼らが犯人という確率は高いです」
206
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2012/11/02(金) 23:46:53 HOST:p8152-ipbfp4204osakakita.osaka.ocn.ne.jp
茜空から真犯人という可能性が最も高い人物、紫々死暗の名を聞かされた霧澤は、急遽真冬や奏崎に集合場所に戻るように連絡をした。案の定全員が僅かに慌てたような表情をしている。
それもそうだ。
いきなり『今すぐ戻ってきてくれ』なんて言われたら緊急事態なのかと焦ってしまう。そんな事を言われて喜んで飛んでくるのはこの中では朱鷺綾芽ただ一人だ。
霧澤は戻ってきた皆に茜空から聞いたことの全てを話した。前に紫々死暗に身体を斬られた、と話したら奏崎と汐王寺、茨、更には朱鷺までも表情を凍らせ、言葉を失っていたが説明を続けた。
一通り説明が終わると、珍しく真冬が口を切った。
「夏樹くんやクララちゃんの言うとおり、彼らが関わっている可能性は高いと思う。仮にも『四星殺戮者(アサシン)』と思い切り関わった私から言わせてもらえば、だけど」
真冬にしては妙にはっきりとした口調で告げた。
『四星殺戮者(アサシン)』の名前を出すと、朱鷺が思い出したように挙手して発言しだす。
「そういえば、近頃魔界で紫々兄弟の行方が分かってないとか。魔界のレーダーは人間界ではうまく作動しないので、恐らく……」
「つーかそれ、恐らくじゃねーだろ」
朱鷺の言葉を遮るように朧月が口を挟んだ。
彼の言葉に霧澤と真冬が頷き、次いで奏崎、茜空、汐王寺、茨もこくりと頷いていく。
満場一致の結果に朱鷺は溜息をつき、咳払いの後に言葉を変えて、
「確実に、彼らは関わっているでしょうね」
「―――遅すぎだろォがよ」
ぞっとする聞き覚えのある声に、霧澤、真冬、朧月の三人は一斉に声の方向に振り返る。
街頭の上。しゃがみこむような体勢でこちらを見下ろしている一人の人物。霧澤を毒で犯し、真冬との戦いで敗れた『四星殺戮者(アサシン)』のリーダーがそこにいた。
紫々死暗だ。
彼は右腕に装着した鉤爪のような武器をがちがちと鳴らしながら、
「遅ッせェよな、遅ッせェよ!! 俺らをだすだけでどんだけ時間食ってやがんだ、このポンコツどもが! まあ、時間はテメェらがどれだけ浪費しようが知ったこっちゃねぇけどさ、結論とかはもったいぶらずさっさと言った方が懸命だぜ?」
紫々の言葉に、全員が眉をひそめる。
全員の疑問を、朧月が代弁して言う。
「どういうことだ?」
「そのままの意味だよ。さっきお前らは、俺らが何の犯人だって気付いたんだっつの」
そこで真冬ははっとする。
「涙ちゃんに何かしたの!?」
真冬にしては珍しく力強くも相手を威嚇するような大声。しかし、そんな真冬の声でも紫々は表情を変えない。むしろ、今まで以上に楽しそうな笑みを刻んでいる。
鉤爪をがちがちと鳴らしながら、
「さァな。俺はぶっちゃけあの女はどーでもいいんだよ。だが、『あの人』はモノを大事に扱わねぇ。早くしないと、壊しちまうぜ?」
「……ッ!!」
紫々は小さな紙切れを、真冬の元へと落とす。
真冬はそれをやや不機嫌そうに受け取る。
「そこに書いてあるのは潜伏場所だ。白波涙を返してほしけりゃそこへ来るんだな」
紫々はそう言うとその場から飛び去っていった。
彼が消えた後、真冬は折りたたまれてある紙切れをゆっくりと開いていく。彼女の周りに霧澤達が寄り、紙切れに記されている場所を確認する。
途端に全員が戦慄した。
「―――こ、ここって」
207
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2012/11/03(土) 22:18:40 HOST:p8152-ipbfp4204osakakita.osaka.ocn.ne.jp
白波涙は目が覚めた。
といってもはっきりと意識があるわけではない。意識は朦朧としているし、瞳は虚ろなまま薄っすらとただ開いているだけと同じだ。そんな彼女は本能的に辺りを見回してみる。目を開けて数秒後、両腕を後ろで戒められていることに気付き、さらに数秒後にどこか分からない廃屋のようなところにいると判断できた。
彼女は薄暗い部屋の全体を見ようと頭を動かそうとしたところで、後頭部に激痛が走る。
「……ッ!?」
その痛みでようやく彼女は全て思い出した。
深夜に悪魔を退治しに行った事。髪の長さを気にしていたら突然背後から襲われたこと。犯人を見ようとしたがその前に意識が途切れてしまったこと。
ここまで来てようやく自分は拉致されたのだと理解した。
「……ここは、一体……?」
彼女がそう呟いたと同時、右手に鉤爪を装着した男が近づいてくる。
彼は不気味な笑みを浮かべたまま白波に近寄った。
「よォ、お目覚めかよ」
「……紫々、死暗……? 私をここへ拉致ったのはアンタってこと? それとも『四星殺戮者(アサシン)』が関係しているの?」
「キヒヒ、やっぱお前はそう考えるんだな。あらゆる可能性を考えて、その上で打開策を練る。弟みたいでイラつくぜ」
紫々はそんなことを、鉤爪をがちがちと鳴らしながら言った。
「兄さん、僕を小賢しいみたいに言わないでよ。頭が足りてないのは兄さんの方なんだから」
部屋の隅から聞こえる声。
夜目にも慣れてきたせいかそこに誰がいたのか分かった。いや、言葉を聴いただけで誰かは明白だろう。紫々死暗を『兄』と呼ぶ時点で、答えは決まっている。
そこにいるのは紫々伊暗だ。
彼がいるのは部屋の隅だが、壁際の白波とかなりの距離がある。それだけでここはかなり広いんだと予測が出来た。
「それと白波涙だっけ? 君の予測は大ハズレだよ」
伊暗は立ち上がりながらそう言った。
彼はポケットに手を突っ込んで、壁に背を預けながら続きを口にする。
「今回の件に『四星殺戮者(アサシン)』は無関係さ。そもそも、誰が壊滅させたと思ってんの? 君らにやられてから日が浅いわけじゃないんだけど」
「……じゃあ、一体誰が……」
「キハハハハ!! やっぱり、魔界でのことを大体把握しているテメェでも知らなかったかァ!! 俺らが、実は『三兄弟』だったなんてなァ!!」
白波は言葉を失う。
紫々死暗の弟に伊暗がいることは知っていた。死暗が『四星殺戮者(アサシン)』を実質的に動かし、その作戦を綿密に立てるのが伊暗というのがスタイルだった。
彼らの上にさらにいたということは初めて知った。
「紹介しよう! アイツこそが、俺ら紫々兄弟の長男ぐふぅっ!?」
左手で白波から見て右側を指し、もったいぶる紫々の顔に警棒が直撃する。そのため、紫々の言葉が不自然に途切れ、彼は地面に倒れこんでしまった。
右側から不機嫌そうな溜息が聞こえ、紫々兄弟のトップは口を開く。
「だーれが長男よ。人を勝手に男にすんなっての。えーと、シロナミ? シラナミ? まあどっちでもいっか」
かつこつとブーツの音を鳴らしながら、紫々兄弟、改め紫々姉弟の長女が白波の目の前まで歩み寄ってくる。
腰近くまで伸びた紫の髪に、髪と同色の鋭い瞳。ニーハイブーツを着用したスタイルの良いその女性は、転がっている警棒を拾い上げ。腰のベルトに挿し込むと、
「初めまして、だけは言っておこうか?」
腕を組んで自分の名を告げた。
「どーもー。紫々三姉弟の長女、紫々浪暗(しし ろあん)でぃーす♪」
208
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2012/11/09(金) 23:22:23 HOST:p8152-ipbfp4204osakakita.osaka.ocn.ne.jp
「―――紫々、浪暗―――?」
どんな敵が攻めてきてもいいように、魔界からかなりの情報を集めていた白波でも紫々兄弟に姉がいるなど初耳だった。
兄の紫々死暗は暗殺部隊『四星殺戮者(アサシン)』のリーダーであるから、有名なのは分かる。それを裏で仕切っているのが弟の紫々伊暗だ。この話も結構有名になってしまっている。
それに比べ、姉は表舞台に顔を見せていない。そのためか、認知度が低いのかもしれない。
彼女はニコッと笑みを浮かべ、きょとんとする白波に、
ゴッ!! と拾った警棒のようなステッキで白波の顔面を殴りつける。
「……ッ!?」
何が起こったのか分からない白波。
彼女は大きく目を見開いていた。殴られたと気付くのに数秒の時間を有した。
浪暗は片手で器用に警棒のようなステッキを回しながら、
「あー、愉しいわ。やっぱ何度やっても飽きないわよねー。こうやって、」
さらにもう一度。
浪暗は抵抗が出来ない白波の頭部を強く叩きつける。抵抗も出来ず、かわすこともままならない白波は、ただただ殴られるしかなかった。
一方で、理不尽な攻撃を加える浪暗は楽しそうな表情を浮かべている。
「無抵抗な人間をなぶるのってさァ」
浪暗は僅かな呻きをあげる白波の顎を、警棒のようなステッキの先でくいっと上げる。視線をこちらに向けるように。
彼女と目を合わせれば浪暗はつまらなそうな顔をして、
「そういえばさぁー、何で私がアンタを攫うように命令したか分かる?」
白波は質問に答えようと思考を働かせるが答えが出ない。
殴られたダメージで考えるどころではないのだ。元々疲弊していたのもあって、今の彼女にとっては殴られるのでさえ大きなダメージだ。
白波は朦朧とする意識の中、必死に言葉を紡いだ。
「……仇、討ち……?」
「はい残念ー♪」
ガッ!! とさらに彼女の顔を浪暗の理不尽な攻撃が襲う。
浪暗はくるくると手で警棒のようなステッキを回しながら、
「そんなこと私が考えるわけないでしょー? 勝手に行って勝手にやられてきた弟達を哀れむかっての。私はただ個人的に赤宮真冬達が気に入らないだけよ」
「……?」
言われても白波は納得できていない。
今の状態で思考を働かせるのに無理がある。本人でもそれは感じていた。
浪暗は笑みを浮かべたまま、
「ただっ、アイツらがっ、気に入らないだけよっ! だからっ、アンタを餌にしてっ、助けに来たアイツらを、ここで根絶やしにするっ!! そういうわけ」
ガッ、ゴッ、ドンッ!! と白波を殴る音が連続する。
散々殴られた白波はそのままぐったりと気を失ってしまった。無理も無い。疲弊しきっている上に何度も殴られたのでは、彼女じゃなくとも気を失うのはおかしいことではない。
浪暗は壊れてしまった道具を見るような目で白波を見つめ、やがて重たい溜息をついた。
「なんだぁー、もう終わっちゃったのかー。つまんないなぁー」
「姉さん。あんなにボコったら当然だよ」
「んもー、伊暗ってば。そんな素っ気無い返事返さなくてもいいじゃーん」
ぶー、と頬を膨らませて最大限の可愛さアピールをする浪暗だが、伊暗にばっさり『可愛くないから』と言われてしまう。
浪暗は警棒のようなステッキをベルトの間に挿し込み呟く。
「ま、いいか。いい加減自分達が弱いって気付かせてあげるよ。強いと勘違いしてる赤い吸血鬼さん♪」
209
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2012/11/24(土) 22:46:59 HOST:p8152-ipbfp4204osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第23話「狂気粉砕へ」
白波を攫った犯人が紫々死暗だと判明した日の深夜。真冬はこっそり霧澤の部屋から出て、家からも出る。別に家出というわけではない。彼女は携帯電話で呼び出されていたのだ。場所は朧月病院の屋上。呼び出したのはこの病院の院長の息子である朧月昴だ。
真冬が屋上へと行くとそこには朧月の他に朱鷺綾芽、茜空九羅々、茨瑠璃の姿があった。茜空と茨は真冬と同じように契血者(バディー)の奏崎を連れて来ていない。
着いた真冬はとりあえず、契血者(バディー)を連れて来ないように、と念を押した理由を聞いた。
「白波が何処にいるか、それはもう全員分かってる。だが、場所を知った霧澤は動くかも知れねぇ。まずは作戦を立てる。赤宮、お前には奴を制止してほしいんだ」
え、と朧月の言葉に微かに驚いたような反応を見せる真冬。
しかしながら、扇子で口元を上品に覆っている朱鷺は、真冬に視線を向けながら反論じみた言葉を放つ。
「別に貴方が危惧しなくても夏樹さんは大丈夫だと思うのですが。夏樹さんもそこまで馬鹿じゃありませんわ。むしろ、こういう時こそ彼はよく考えて行動するんじゃ―――」
「だと良いですけどね」
朱鷺の言葉を茜空が遮る。
彼女は屋上のフェンスに体重を預け、腕を組みながら立っている。妙にその体勢が格好よく映っている。この体勢が似合うのはこの中では、茜空と朧月だけだろう。だが、朧月は壁に寄りかかったりはしていない。
茜空のオレンジ色の左目が、僅かに光って見える。
「敵や囚われている人間にもよるでしょう。少なくとも、僕の時は状況が状況で考えてる余裕もありませんでしたがね。敵はかつての大敵。囚われているのは白波さん。まー、後先考えず行動しそうですよね。しかも、紫々が言った『早くしないと壊す』という宣告。この発言をどこまで信じるかは自由ですが、少なくとも僕は危機感を感じています。本当にやりかねないなっていう、危機感をね」
発言に、朱鷺は反論する材料が無いのか黙り込んでしまう。
「過去のこともあって、煽られちゃ、お兄ちゃんも焦っちゃうと思う。今回は、ちょっと冷静さを欠いちゃうかも」
茨の発言に、更に朱鷺は気まずくなり扇子で顔を隠してしまう。
その光景を珍しく思いながら真冬は、朧月に問いかける。
「だとしたら、乗り込むのはいつになるの? 私もクララちゃんと同じで紫々は本気だと思う。私達が遅れれば遅れるほど涙ちゃんの命の危険性は上がるよ」
「まあ待て。最近お前霧澤に似てきたな。まずは情報収集だ。つーわけで朱鷺、お前一回魔界に戻って調べて来い」
指名された朱鷺は、顔を隠していた扇子を払い、『はあ!?』という抗議の声を漏らす。
彼女の甲高い声が夜空に大きく反響した。
「ええー? まーたわたくし裏方ですの? 久しぶりに暴れられると思ったのに」
「契血者(バディー)がいなくて自由に動けるのがお前しかいないんだよ。いいから従え」
「命令口調が腹立ちますわ!」
口を尖らせて抗議体勢の朱鷺に、朧月は額に手を当てて溜息をついた。『この手を使うか』と朧月は用意していた切り札を使うような台詞を吐き、朱鷺にこう宣言した。
「任務を全うした暁には霧澤と一晩過ごせる券」
「乗りましたわ!!」
「ちょっと待ってよ昴くん!?」
朧月の発言に朱鷺が快く(目は血走っていたが)了承し、朧月のとんでもない提案に真冬が半ギレする。
その光景に茜空が溜息をついている。ぶっちゃけ霧澤と誰がベッドインしようが彼女には興味が無いし、その過程で霧澤との間に誰との子供が出来ようとも彼女には関係ない。そんな深いところまで考えているが、ぶっちゃけるとどーでもいい。いつの間にか三人の話し合いに『私も頑張るから今度お兄ちゃんと遊びたいー』などと茨も混ざった。こりゃ長く続きそうだと考えた茜空は馬鹿馬鹿しくなって一人だけ先に帰ることにした。
結果的には朱鷺が任務を全うしてくるので、真冬は霧澤を全力で守ることになった。茨の提案にいたっては、好きにすれば良いという結論にいたった。
210
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2012/11/25(日) 21:21:42 HOST:p8152-ipbfp4204osakakita.osaka.ocn.ne.jp
馬鹿どもの激しい論争が白熱する中、茜空九羅々は一人でさっさと帰っていた。
理由は馬鹿どもに付き合いきれないと思ったからである。あのままあそこにいては、自分も何らかの流れからあのどうでもいい話に巻き込まれそうな気がした。多分朱鷺あたりが『自分には関係ないと思っていたら大間違いですわよ!』などと言ってきそうな気がした。
ぶっちゃけると、彼女は霧澤夏樹に対して特別な感情は抱いていない。友達といえばそれまでである。本来ならば嫌ってしまいそうな人格だが、奏崎の友人(片思い中の相手)なら無下に嫌うことも出来ない。だから無理矢理といえば無理矢理、彼に対して好意的に接している。しかし、それも表面的な話であって、彼と二人になれば彼へ敵意を少々向けてしまうし、嫌悪感を少なからず放出する。
彼女があの場から去った理由はもう一つある。それは奏崎が気になったわけではない。ただ単に一人で考え事をしたかったからだ。
彼女は暗い夜道をとぼとぼ、という効果音が似合いそうな足取りで進んでいく。時折道の端に立っている街頭の光の眩さに僅かに目を細めたりしながら彼女は家路へと向かう。
「……なんつーか、かなり悠長ですよね、あの人達」
溜息でもつきそうな口調で茜空がぽつりと呟く。
オレンジ色の瞳で空を見上げる。眼帯によって隻眼となっている彼女のオレンジ色の瞳には、暗い夜空に浮かぶ星々を映し出していた。きれいだ、と思う。ただ素直に、率直な感想を彼女は抱いた。
「どっちにしろ、遅かれ早かれ紫々は行動に出る。それもこっちが看過できないような。それから動くか、その前に動くか。どっちにしろ今の状態では前者の方になりそうですね」
彼女は退屈そうに自分の髪をいじりながら言う。
街頭の下に彼女がいれば、その銀色の髪は自ら輝きを放っているかのように光りだす。
その美しい輝きを誰の瞳に映すこともなく、彼女は一人で呟き続ける。
「こっちの戦闘要員は僕を含めて三人。朱鷺さんを入れて四人。ちょいとキツイような気もしますね。やっぱ白波さんが抜けた穴はデカイですね」
でも、と茜空は続けながら右手を夜空に向けて伸ばす。当然だが何も掴めはしない。
「その大事な彼女を助け出すために僕らが尽力しないと、ですよね」
分かってます、分かってますよと言いながら彼女は家路へと向かう足を急がせた。
211
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2012/11/27(火) 16:42:05 HOST:p8152-ipbfp4204osakakita.osaka.ocn.ne.jp
今は何時だろう?
目が覚めてから白波が思ったことはそれだった。
薄暗い廃屋の中。カーテンで閉め切られている窓の光も何も無いこんなところでは時計があっても時刻を確かめることもままならない。しかし、白波は気になっていた。監禁されているとはいえ。人質になっているとはいえ。せめて今が何時なのか、それだけは把握しておきたかった。
すると薄暗いこの部屋に一人の人物が入ってきた。
紫々姉弟の長女、紫々浪暗だ。
長男の紫々死暗曰く、彼女はサディスティックな性格で、身動きが取れない相手を嬲(なぶ)ることが大好きらしい。しかし、意外と乙女的な一面もあるらしく、たまにだが恥ずかしがったり照れたりすることもあるようだ。しかし、会って早々散々殴られた白波にとってはそんな一面はどうでも良かった。あってもなくても、自分への接し方は変わらないのだから。
真っ直ぐ白波に近づいてきた浪暗は、警棒のようなステッキで自身の肩を軽く叩きながら、
「ただいま午前八時でございまーす。良い子の皆は元気に登校してる頃かな?」
白波の心を見透かすように時刻を言った。
あらかじめ時計か何かを見ていたのだろう、若干のズレはあるだろうが大体の時間が把握できれば問題ない。そんなに細かく分や秒を知ったってどうにもならない。
浪暗は溜息をつきながら、
「しかしここって不便よねー。時計もないし。っていうかアンタトイレとか大丈夫なの?」
僅かに視線を上げた白波は、睨みつけるような眼差しで浪暗に言う。
「……どうせ、行きたいって言っても行かせてくれないでしょ……?」
「馬鹿ね、行かせるわよ。女の子の失禁なんて誰が見て得すんのさ。どうせアンタの契血者(バディー)くらいしか興奮しないでしょ」
手は鎖で繋いだまま行かせるけどさ、と付け加えるように笑顔で言った。
すると白波のお腹が、きゅぅ、と可愛らしい音を鳴らした。
その音を聞いた浪暗はすかさずポケットの中を探り、
「食べないよりはマシでしょ。はい、口を開けなさい」
一つの飴玉を取り出した。
何か変な物でも入っているんじゃないかと疑う白波だったが、やがて素直に口を開くと飴玉を口の中に放り込まれた。何てことはない、普通のみかん味の飴玉だ。
その飴玉を口の中で転がしながら、白波は頭にクエスチョンマークを浮かべていた。
何故、この女は自分にここまでしてくれるんだろう?
時刻を伝えたり、トイレに行かせると言ったり、飴玉を差し出したり。
どう考えても監禁してる相手にする行為ではない。たとえ自分をここに連れて来た理由が、真冬達をここに誘うためでもここまでするだろうか?
白波は彼女の真意を測りかねていた。
浪暗は思い出したように、『あ』と呟くと、
「ちょっくら出かけてくるわね。あの馬鹿な弟どもももう少しで帰ってくるだろうけど、ちゃーんと大人しく待ってるのよ、涙ちゃん♪」
白波の頭を優しく撫でながら微かな笑みを浮かべて部屋から退室していった。
「……やっぱり、わかんない……」
勘繰れば余計に。
彼女といれば余計に。
紫々浪暗という人物像が掴めなくなってしまう。
212
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2012/11/30(金) 21:13:19 HOST:p8152-ipbfp4204osakakita.osaka.ocn.ne.jp
中々連絡が来ない。
朱鷺が魔界へと情報を収集に出かけて二日経つが、未だに霧澤にも朧月にも何の情報ももたらされなかった。霧澤達は昼休みに屋上に集まることが習慣だとでもいうように、自然に足が運ばれていった。
四角形になるように座った後、不安が募ってきた真冬が口を開く。
「……涙ちゃんがいなくなって五日くらい経つけど……、何の進展もないね」
真冬の言葉に返事は無い。
全員がどう言えばいいか分からないからだ。何て返せば正解なんだろうか。どう対応すればいいのか。励ました方がいいのか。正解の言葉も、対応の仕方も、励ます方法も思いつかない。いや、正解なんてないし、対応なんてできっこないし、方法なんてあらかじめ用意されてないのかもしれない。
霧澤は何気なく携帯電話を開くと珍しく汐王寺からメールが届いていた。
彼女とはフルーレティの一件以降連絡を取り合えるようにしており、メールは常に霧澤からだった。彼女とのメールの回数こそそこまで多くない。だが、今回ばかりは頻繁にするようになっており、大抵自分からメールしない汐王字からメールするなど、彼女も相当不安になっているようだ。
内容は『進展はあったか?』という女子のメールとしては、可愛らしさが足りない味気の無い内容だ。
『いいや』とこちらも短く返信すると『そうか。何かあったら連絡頼む』と男子とメールしているような内容のメールが届く。
「……白波さん、大丈夫だよね……?」
奏崎が口を開く。
大丈夫、というのは『死んでないよね』というニュアンスの言葉だろう。
死んだ、という内容を紫々が伝えに来る可能性は極めて低い。自分達が突入したら既に死んでいた、というパターンも考えられなくない。
そんな奏崎の肩にぽん、と茜空が優しく手を置く。
「大丈夫ですよ。感知されにくい場所にいるか、もしくはそういう結界を張っているせいか分かりませんが、僅かに白波さんの魔力を感じます。まだ生きてますよ」
茜空の言葉に奏崎はこくりと頷く。
だがそれもいつまで続くか問題だ。いつまでもこのままというわけにもいかないだろう。
そんな時、霧澤の携帯電話が着信音を鳴らす。
これはメールの受信ではなく電話だ。表示された名前は朱鷺綾芽。
霧澤は急いで携帯電話を開くと、微妙に荒くなった声で『もしもし!?』と返す。
その様子に驚いた様子で、朱鷺が話し始める。
『……どうかなさったんですか……? びっくりしましたわ。まあいいでしょう、それでは今からわたくしが手に入れた情報をお伝えしますわ』
霧澤は息を殺して朱鷺の言葉を待つ。
彼女は資料を見ながら電話しているのか、紙をめくったりした時に聞こえる音が微かに霧澤の耳に届く。
朱鷺は落ち着いた口調で、
『恐らく首謀者は三人ですわ。皆さんご存知の紫々死暗と紫々伊暗。そして、彼女達の姉―――紫々浪暗が今回の犯人ですわ』
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