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1竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/09/16(金) 19:50:23 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
三作目……でいいのでしょうか、竜野翔太でございます。
いや、ホント色々な面でダメで、削除依頼に出したのが二作…今更新してるものは完結まで持っていこうと思います。
このタイトルは『ヴァンパイア』と読みます。
恋愛系も入りますが、アクション主体になります。
あと、グロ表現もなるべく入れないようにはしますが、もしかしたら入ってしまうかもしれません。
あと、荒らしやチェンメはやめてくださいね。

それでは、次スレから始めます。
アドバイスやコメントなどもあれば書き込んでくださいね。

2竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/09/16(金) 20:36:03 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第1話「夢で会った女」

 何がどうなっているか分からなかった。
 気付いたら自分は仰向けに倒れていて、その上に誰かが馬乗りになって自分の首を掴んでいる。
 馬乗りになっているのは女の人だった。長い赤色の髪に、鋭い目つき。その目は冷たいどろこではなく、『冷徹』や『冷酷』などの方が合っているだろう。
 少年に馬乗りになっている女は、言い聞かせるように言葉を口にする。
「……、悪く思うなよ。少しばかり……お前の血を、もらうぞ」
 唐突に少年に女の首を掴んでいないほうの手が襲い掛かる。
 そこで、

「うわあああああああああっ!?」

 目が覚めた。
 何だ夢か、と荒く息を吐きながらちょっとだけ安心する。
「……にしても、何か無駄にリアルな夢だったな……。まだ首を掴まれていた感触が……」
 その感触を確かめながら、彼は目覚まし時計に目をやる。
 だが、秒針がピクリとも動いていない。
 どうりで目覚ましの音が聞こえなかったわけだ。彼はとりあえず携帯電話に手を伸ばして、画面を開く。
 時刻、八時二十分。朝のホームルームまであと十五分。
「遅刻だー!!」
 今日の彼の朝はいつもと違う、慌(あわただ)しいものだった。
 この日、少年・霧澤夏樹(きりさわ なつき)の生活は一変する。

「あーはっはっはっ!!」
 学校へ着くなり、机に突っ伏す霧澤の前の席の少女は大爆笑していた。
 彼女は幼馴染の奏崎薫(かなでざき かおる)。黒髪をツインテールにしている中々の美少女だ。が、中身は意外と残念で、彼女の部屋はピンク一色。しかも棚には数百本単位のゲーム(主にギャルゲー)が敷き詰められている。
「女に首を締められる夢……ねぇ。何の前ぶれかしら。アンタに女難の相なんて運が良すぎよ」
「俺だってそう思ってるっつーの。俺の周りにはお前みたいな変な女しかいないってことくらいな!」
 失礼ね、とむくれる奏崎だが、こっちも随分失礼なことを言われた気がする。
 ちなみに、二人は学校内では意外と仲が良く、一部では『付き合っている』という噂が浮上している。
 断言できる。そんなことは決してない。
「そーいや、今日転校生が来るんだってさ。覗いてきたけど、結構な美少女っすよ?」
「……それで、俺にどうしろと?」
「その子は赤い髪」
 ビックゥ!!と霧澤の身体が揺れる。
 その反応を見て、奏崎はくすくすと笑っている。
「大丈夫だよ。長さは肩くらいだったからさー」
「お前な……ッ!」
 遊ばれたことに気付いた霧澤は怒りを見せるが、チャイムが鳴り、先生が入ってくる。
 担任の教師は、日本史担当の三十代前半の女性教師で、未婚らしい。ちなみに一部の男子生徒からは人気が高い。
「よーし、今日は転校生が来てるぞ。女子の。喜べ、男子ども!」
 教室内の男子(霧澤除く)が盛り上がる。
 霧澤は頬杖をつきながら、転入生が入ってくるのを待っていた。
「よし、入ってきて良いぞ」
 教室をほどよい緊張感が包み、教室の扉が開かれ、転入生の少女が入ってくる。

 赤い髪だ。長さは肩くらいで、目は大きめ。体型は小柄だが、スタイルは良い方だ。
 少女は僅かに頬を染めて、くるっと向きを変えて、チョークを手にし、黒板に縦書きで名前を書く。
「……えっと、赤宮真冬(あかみや まふゆ)、です……。その、よろしくお願いします!」
 真冬はペコッと可愛らしいお辞儀をした後、先生の指示で自分の席へと歩いていく。
 霧澤の左隣。
 目が合った霧澤は、どうしていいか分からなかったが、彼女は優しく微笑んでくれた。
「よーし、んじゃ一時限は私の楽しい日本史の授業だー」
 霧澤はこういう女の子らしい子への耐性はないため、心臓がドキドキしている。

3:2011/09/17(土) 08:55:35 HOST:zaq7a66c196.zaq.ne.jp
さっそく読みました!!!

何か吸血鬼の話は興味あったんでww

読みます!!!

なので頑張ってください!!!!

4ライナー:2011/09/17(土) 13:49:38 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
このスレでは初めてのコメントになります。ライナーです^^
冒頭のインパクトがいつもながら上手いですね。恐れ入ります。
光のロザリオ、止めてしまうんですか!!何かもったいないような気もしますが、作者の自由ですよね^^;
これで、2作も更新しない作品が出来てしまったようなので、小説の基本中の基本をお教えしましょう。
それは、物語の作り方です。
一瞬、え?そんなの思いつきでいいじゃん!と、思うかも知れませんが、竜野さんの場合更新できない作品が増えてしまっています。
作品を書き込む前に大切なのは以降の10の決まりです。
1、セールスポイント(作品の何が売りなのか)
2、いつ
3、どこで
4、誰が
5、何故(行動する具体的な理由)
6、何をする
7、障害物(主人公の行動を邪魔する敵など)
8、冒頭
9、最終的にはどうなるか(物語のラストシーン)
10、題名

以上です。小説を書く前にこの10の項目を考えておくとやりやすいですよ!
さらに、その物語で使いたいと思う具体的な物語の流れをメモしておくと良いでしょう。
最後に物語を手放さないようにするには、メインキャラクターの一覧表をメモしておくと良いでしょう。そうすることでキャラクターの個性が引き出しやすく、また愛着もわくので良い作品になります。
作品は本来、1〜2作までが目安ですが、竜野さんは3作あるので、あまり増やさない方が良いと思います。

ではでは、長い文章になりましたが、参考までにwww

5竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/09/17(土) 14:15:42 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 真冬は教科書がないため、隣の席の霧澤は彼女と机をくっつけて、二人で教科書使うことになった。
 それだけなのだが、霧澤の重点は机の中心辺りから結構横にずれている。
(……何故だ?薫といる時は、こんなんじゃないのに……。こーゆー子への耐性がないからすっげードキドキしてるのか、俺!?)
 そんなことを考えて、身体が熱くなっていくのを霧澤は感じる。
 その熱を冷まさせてくれたのが、担任のチョークで黒板を突付く音だ。
「おい、誰かこの漢字。読める奴いないか?教科書で確認しようとしても無駄だぞー。ふりがな振られてないからなー」
 教師が突付いているところに書かれている文字は『八色の姓』。
 生徒は誰も答えようとせず、全員が首を捻る。教師もはぁ、と諦め気味に溜息をつくと、
「『やくさのかばね』だろ」
 唐突に霧澤は、思わずと言った感じで呟いた。
「ほぉ……」
 はっとする霧澤だったが、もう遅かった。
 その後、ことあるごとに霧澤は当て続けられ、その問題を答えていく。極め付けには次のテストで九十点以上を取らないと強制的に補習を受けさせる、というとんでもない約束までとりつけられた。チャイムが鳴ると同時、霧澤は机に突っ伏して、ぐったりとする。
 その光景を見て、苦笑している真冬は、
「……勉強できるんだね」
 ポツリと霧澤に呟く。
 その言葉に気付き、霧澤はグロッキー状態から立ち直ると、
「まあな、つっても、日本史だけだぞ。歴史は大好きだからさ。それしか取柄ねーし」
 霧澤は立ち上がって、
「次は理科だ。実験室でやるみたいだから、一緒に行こうぜ。行き方、わかんねーだろ」
 うん、と真冬は頷いて、霧澤と一緒に教室を出る。

 霧澤達一年の教室は四回にあり、実験室は二階に位置する。そのため、階段を降りるのは霧澤としてはかなり面倒だ。
 真冬は霧澤を見つめながら、言葉を紡ぎだす。
「……ねぇ、名前何なの?」
「……俺のか?霧澤、だけど?」
 日本史で当てられまくったのだから、知ってるだろうと思いきや聞き取れなかったのか?と思い霧澤は答えるが、
「ううん。そっちじゃなくて、下の名前」
 霧澤はえ、と表情を引きつらせる。
 彼としては下の名前は名乗りたくない。自分の名前はとても女々しく思っており、あまり好きではないからだ。
「……女みてーな名前だから嫌なんだけど……夏樹だよ」
 夏樹君、と真冬は復唱して、少し考える。
「全然いいと思うよ。私はカッコいいと思うし、好きだな」
 真冬はニコッと微笑んで霧澤を見つめる。
 何だか微笑が眩しい、と霧澤は滅多に会うことのないとてつもない女の子オーラに気圧されそうになる。
 真冬は少しモジモジしだして、小さな声で呟くように霧澤に問いかける。
「……ね、ねぇ……。夏樹君って……呼んでいいかな?」
 彼女は俯きながらそう問う。
 表情は霧澤の目線からは見えないが、耳が赤くなっているのは何となく確認できた。
 霧澤は軽く息を吐いて、
「ああ、いいぜ。『なっちー』とかより女々しいあだ名で呼ばれるよりはいいし」
 ありがと、と真冬は呟く。
「じゃ、じゃあさ……その、夏樹君……も……私の事……」
 真冬の言葉はいきなり途切れ途切れになる。
 よく見れば身体が左右にふらふらと揺れている。
 霧澤にはそれが何を意味するかよく分からなかったが、普通ではないことは分かった。
「……真冬って……呼ん……あれ……?」
 ふらぁ、と真冬の身体が横に大きく揺らいでそのまま廊下に倒れてしまう。
 霧澤はすぐに言葉が出なかったが、身体が反応して、しゃがみ込む、気がつくと彼女の身体を揺すって起きるのを促していた。
「……お、オイ!?赤宮!おい、どうしたんだよ!?赤宮!!」
 彼女は堅く目を閉じていて、呼吸が乱れていた。

6竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/09/17(土) 14:22:15 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
燐さん>

コメントありがとうございます^^

はい、吸血鬼ですね。
今回はちょっと洋風ですが……、上手く表現できるか自信がないです……orz

読んで下さるのは嬉しいです。
お互いに頑張りましょうね!

ライナーさん>

コメントありがとうございます^^

実は冒頭は普通に始めるか。今回のようにするか迷いました。
でもこっちの方が明らかにインパクトあったので、こっちを採用しましたけどね。

物語の流れは大体は掴んでいるのですが、話が飛び飛びになったり…でも、キャラのメモは結構あるんですよ。
何か思いつきで、みたいな感じのものが多いので……10の項目。参考にさせていただきますね^^

毎回貴重なアドバイスありがとうございます。
はい、これ以上新しいの作ったら頭が爆発しそうなので……とりあえず、今やっている三つを完結させたいと思います。
こっちの話はまだ製作中なので、他の二つより更新が遅くなるかもしれませんが……。
これからもお互い頑張りましょうね^^

7:2011/09/17(土) 15:29:05 HOST:zaq7a66c196.zaq.ne.jp
翔太s>>イエイエww

でも、文章力がハンパないですね!!!

それって少し憧れます・・\(^o^)/

洋風ですか。私は以外に和風の方が好きです←スルーしてくださいw

大丈夫ですよ!!!

翔太sなら出来ます!!!

私より倍上手いじゃないですか!!!!

8竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/09/17(土) 17:10:06 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
燐さん>

そう言ってもらえるとありがたいです^^
自分的にはまだまだだと思っていたので…少し元気が出ました!←

でも『吸血鬼』や『ヴァンパイア』について詳しくは知らないので、僕の空想上のものになってしまいますけどねw

はい、ありがとうございます!
いえいえ、僕は全然上手くなんかないですよ…。

9竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/09/17(土) 17:31:38 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp

「……、」
 真冬はそっと目を開ける。
 目に映るのは白い景色。しかし、その白い景色に蛍光灯が映っているのを確認すれば、天井だと理解する。
 確か、自分は実験室に向かっている途中で…そこからの記憶がない。
 何でこんなところにいるのだろう?そもそもここはどこなんだろう?そう思っていると、不意に横から声がかかった。
「目、覚めたか」
 聞こえてきた声は、聞き覚えのある声。
 真冬は身体を起こして、声がした方向を見る。そこにいたのは、やっぱり霧澤夏樹だった。
「大丈夫なのか?」
「……うん、ただの貧血だと思う……」
 真冬は心配する霧澤にそう返す。
 まだくらくらするのか、頭を押さえている。浮かべられる笑みも『微笑み』から『苦笑』に変わっていた。
「……ここって、保健室?」
「ああ。結構綺麗だろ。うちの学校、保健室は無駄に綺麗だからなー」
 辺りを見回す真冬は時計を発見する。
 そのまま見過ごそうと思ったが、何時か見ようと時計に焦点を合わせると、時間は二時限目の授業をやっているであろう時間だ。
「……夏樹君!その……授業は!?」
 予想以上の真冬の大きな声に面食らったような表情をしたが、
「ああ、適当に言って抜けてきた。ほら、お前まだ校舎内よく分かんねーだろ。一人で置いとくのも気が引けるし」
 ごめん、と真冬は真冬は俯いて謝る。
 対して、霧澤は気にしてないように笑みを浮かべると、
「そう落ち込むなって。実験内容なんて、後で薫に訊けばいいしさ」
 ところでさ、と霧澤は話題を変えようとして、
「倒れる前に何か言いかけてたけど……あれって何を言おうとしたんだ?」
 へ!?と真冬は大きく肩を揺らす。
 そして、みるみる顔を赤くして、頭から煙が出そうなほど真っ赤になる。
「えと、その、んと……」
 真冬は言い淀む。
 ?と首をかしげる霧澤。
 妙な緊張感が保健室を支配していたが、ある人物の介入でその緊張感は解かれる。

「やあやあ!元気かね!!」
 
 保健室の扉を開けて入ってきたのは、霧澤の幼馴染である奏崎薫だ。
 彼女は、てこてこと二人に歩み寄る。
 そして、じっと真冬を眺めてから、
「大丈夫だった?夏樹に襲われたりしてない?」
「誰が襲うかっ!!」
 その言葉にいち早く反応したのは霧澤の方だ。
 悪い意味ではなく、そんな真似をするわけがない、という意味で言ったのだが、相手を傷つけてないだろうか、と霧澤は不安になる。
 奏崎はふふん、と笑みを浮かべて、夏樹を見つめると、
「そーよね。アンタにそんな意地ないもんね。なっちー♪」
 ぶっ!?と夏樹は噴き出して、
「お、お前!そのあだ名で呼ぶなって言ってんだろ!!結構トラウマなんだからなぁ!!」
 半分声を裏返しながら叫ぶ。
 くすくる、と奏崎は可愛らしい笑みを浮かべて、真冬を見る。
「私、奏崎薫。『薫ちゃん』でもいいし『かおりん』でもいいよ。勿論呼び捨てもおっけー」
 じゃあ薫ちゃんで、と真冬は返事をする。
 すると、二時限目の終わりを告げるチャイムが鳴る。
 それに奏崎は反応して、
「お、鳴った。じゃー、私は先に戻るから。夏樹も真冬ちゃんも!遅刻しちゃダメだよー!」
 そう言って奏崎は保健室を出て行った。
 ふー、と息を吐いて霧澤は真冬へと視線を戻す。
「……悪いな、騒がしい奴で」
「ううん。……何か、一緒にいたら面白そう」
 結構大変だけどな、と霧澤は苦笑いを浮かべる。
 それから、思い出したように、
「で、何を言おうとしたんだ?」
 ふわっ!?と甲高い声を上げて、真冬は反応する。
 顔を真っ赤にして、中々上手く言葉が出ない真冬は、
「…………なんでも、ない…………」
 俯きながら答える。
 結局真相が聞けなかった霧澤の頭は分からないままだ。

10:2011/09/17(土) 20:48:30 HOST:zaq7a66c196.zaq.ne.jp
翔太s>>空想上でも構いませんよw

寧ろそっちの方が楽しめますし・・(^。^)y-.。o○

イエイエw

私に比べれば上手いです!!!

名人級ですww

11竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/09/17(土) 20:52:44 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp

「……ったく、薫のヤツ、自分は新聞部の活動だからって俺に掃除当番押し付けやがって……!」
 霧澤は帰り道、一人で愚痴を呟いていた。
 今日の掃除当番は自分と奏崎のはずなのだが、彼女は新聞部の部員で今日はその活動が忙しいらしく、掃除なんてしてられないとかで早々に出て行った。
 真冬は終わるまで待っていてくれたようだが、自分のせいで家に帰るのが遅れたら罪悪感に苛(さいな)まれてしまうため、自分のことはいいから早く帰ってもらった。
「今度は絶対にアイツに押し付けてやるっ!」
 でも俺部活入ってないしな、と半分諦めムードに入る。
 溜息をついて、家を目指してると、自分の上に巨大な黒い影が覆いかぶさる。雲ではない。
 霧澤は、恐る恐る振り返ると、四足歩行の巨大な黒い何かが佇んでいた。
「………なっ!?」
 頭で反応するよりも早く、霧澤は走り出していた。
 本能的に、黒い何かから逃げるために。
(……な、何なんだアイツ……!?化け物?くそ、抽象的な表現しか思いつかねぇじゃねぇか!!)
 霧澤はひたすら走る。
 でかい図体のためか、黒い何かのスピードは遅い。
(っしゃ!後は上手くやり過ごせば……!)
 そこで霧澤の思考は止まる。
 
 ここで自分が逃げ切った後、こいつが街に行ったらどうなるんだ?
 
 そんな疑問がふと頭に浮かんだ。
 大勢の人がパニックに陥るだろう。もしかしたら教われて怪我を負う人も出るかもしれない。運が悪ければ死者も出かねない。
 一瞬で、この黒い何かが街に行ったらと想像するだけで、いくもの嫌な想像が浮かんだ。
 気がつくと、霧澤の足は止まっていて、今まさに自分の前上から黒い何かの足が振り下ろされようとしていた。
「う、うわあああああああっ!?」
「こっち!!」
 ぐい、と自分の腕を引っ張られ、相手の攻撃を何とか回避できた。
 しかも、叫んだ声は聞き覚えがあった。
 自分の腕を引っ張った相手を見ると、腕を引っ張って助けてくれた人物は赤宮真冬だった。
「あ、赤宮!?」
「……なんで。何で夏樹君に……?」
 真冬の言葉は何か知っているようだった。
 少なくとも、あの黒い何かを初めて見たような感想ではなかった。
「……赤宮、お前。何か知っているのか!?」
 真冬は僅かに困ったような表情で、霧澤の顔を見つめる。
「夏樹君、お願いがあります!私と……き、キスしてくださいっ!!」
 はい!?と霧澤は顔を赤くして、戸惑う。
「ちょっと待て!今はそんなことしてる場合じゃねぇだろ!」
「そうだけど……死ぬかもしれないじゃない!だったらキスぐらいしたいじゃないですか!!」
 真冬も顔を真っ赤にしてお願いしていた。
 何とも変な光景だ。
 死ぬかもしれない局面で、超可愛い女の子が自分にキスを求めている。
「私……夏樹君となら……!」
「ああ、もう!好きにしやがれ!!」

 瞬間、真冬の唇が霧澤の唇と重なる。

 二人に襲い掛かる、黒い何か。
 その化け物は突如として、放たれた真っ赤な炎によって焼き尽くされる。
 霧澤は目を開ける。すると、そこには信じられない光景があった。
「……ふ、今朝ぶりだな」
 真っ赤な火の中に、一人の女が立っている。
 赤い髪をなびかせ、鋭い目つきの女性だ。
「……お、お前は……!!」
「夢で会って以来だな、夏樹」
 目の前に立っていたのは、夢で霧澤を襲っていた、謎の女だった。

12竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/09/17(土) 20:54:47 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
燐さん>

空想というか、完全にオリジナルみたいな感じですかね。
吸血鬼とか調べたわけじゃないんで…。

そう言ってもらえれば嬉しいです^^
名人にはまだまだ程遠いですよ^^;

13:2011/09/17(土) 20:58:44 HOST:zaq7a66c196.zaq.ne.jp
翔太s>>!!!!?

そうなんですか!!?\(゜ロ\)(/ロ゜)/

凄いじゃまいですか!!←

では、翔太sの邪魔になったら駄目なんで

御暇しますw

14竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/09/17(土) 22:56:09 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
燐さん>

いやいや、そんなことないですよ。
大体こんな感じかな〜。で書いてるんでw

そんな邪魔だなんて……応援してくださってとても励みになりました^^

15ライナー:2011/09/18(日) 09:07:43 HOST:222-151-086-019.jp.fiberbit.net
ども、昨日に引き続きコメント失礼します。
ちょっと読んでいて気になるところがあったので、伝えておきます。
完全オリジナルですか、これはいけませんね。
何も資料がないと、この人ちゃんと資料使ってないなと完全にばれます。
竜野さんの事なので、恐らく大丈夫かと思いますが、ヴァンパイアという物に意味を持たせるから面白くなるわけで、完全に吸血鬼、ヴァンパイアから離れた設定でそれらを書くのだったらオリジナルを書いた方が無難です。
ヴァンパイアではありませんが、失敗した人の例としてこんな物があります。

 小夜の手にした刀は「村雨」。
 人の生き血を啜り、魂を咀嚼して持ち主の霊力に変換する妖刀である。 
 その刃で切られた者は、どんな治療法でも傷を治すことができず、
 激痛にのたうちながら死ぬ運命となる。
 いにしえの時代より恐れられてきた最凶の刀だった。

一見、もっともらしい説明をしていますが、
村雨の由来を知っている人には顔をしかめられるでしょう。

「村雨」とは江戸時代後期の人気小説「南総里見八犬伝」に登場する刀です。
創作上の剣であり、実在しません。
また、「村雨」は邪悪な妖刀ではなく、善玉である八犬士の1人・犬塚信乃が使った霊刀です。
しかし二次創作物では、妖刀として有名な「村正」と混同され、妖刀扱いされることが多いのです。

このように、物を調べて使わなければとんでもないことになります。
まあ、でもこのくらいなら竜野さんは大丈夫だと思ったので、自慢話と思って下さい(笑)
ではではwww

16:2011/09/18(日) 09:44:26 HOST:zaq7a66c196.zaq.ne.jp
翔太s>>じゃ、1日1回はコメしますw←

では頑張ってください(@^^)/~~~

17ライナー:2011/09/18(日) 09:55:49 HOST:222-151-086-019.jp.fiberbit.net
済みません、本日二回目失礼します。
燐さん≫
竜野さんの替わりに言っておきます。と言うか前も言ったのですが、もう一度言わせてください。
一日一回コメントは小説に支障が出ますので、控えたほうが良いかと思います。
この小説を読む側としても、見づらくなりますし、あなたの場合一行レスがあるときや、お互いに許し合っているようですが小説に関係ないコメントが多いと思います。
もし、一年書き続けるとしたら、365レス失うことになります。
ですので、そこら辺の礼儀は弁えた方がよいかと……

18竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/09/18(日) 10:05:20 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
ライナーさん>

あ、オリジナルでも何か題材があれば墓穴を掘ることになるんですか…
なるほど、気をつけます。

それと、毎回思うんですけど詳しいですね^^
『村雨』ってよく聞くけど、八犬伝に出てた創作上の刀とか…

はい、コメント&アドバイスありがとうございます^^

燐さん>

僕は週末ぐらいしか更新しないので、毎回言葉を返せるわけじゃないんですよね^^:

はい、頑張ります^^

19紫苑 ◆.jb4KDjwCU:2011/09/18(日) 11:16:27 HOST:pv02proxy08.ezweb.ne.jp
始めまして。紫苑と申す者です。
久し振りにこのスレに足を運んでみたらタイトルに惹かれ読ませて頂きました。
冒頭からインパクトがある文章、面白い書き方で興味をそそられました、人物もみんな素敵で、個人的には特に薫ちゃんに愛着がもてます。w
これからも一人の読者として応援しています。

20竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/09/18(日) 11:32:49 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
紫苑さん>

コメントありがとうございます^^

薫に愛着が…まあ典型的な元気少女をモチーフにしましたw
そういうところも自分の好みがちょこっと入ってたりするんですけどねw

応援ありがとうございます。
一生懸命頑張りますね^^

21竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/09/18(日) 12:40:22 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第2話「赤宮真冬」

「おわあああああっ!?」
 霧澤はベッドから勢いよく身体を起こす。
 激しく呼吸が乱れており、何故か全身汗だくだ。
 おそらくは夢に出てきた女と再会したからだろう。だが、今まで寝てた、ということは夢で出会った女と夢で再会したのか。
 そこら辺はあまり疑問を持たない霧澤であった。
 霧澤は俯きながら、ホッとしたように目を閉じる。
「はぁ……夢オチかよ。ビビらせやがって……。夢で二回も変なヤツに会うとは―――」
 ふと顔を上げ、横を見ると赤宮真冬がちょこんと正座をしていた。
「!!!???」
 霧澤は自分の目を疑う。
 試しに目をこすって、もう一回見てみる。やはり座っている。
 頬をつねって夢から覚めてみる。痛い。現実だ。
 相手の肩に触れてみる。触れる。本物だ。
 霧澤は数回頷いて、すーっと息を吸って、

「何でお前がうちにいるんだよッ!?」
 
 大きな声で真冬に怒鳴る。
 真冬は耳がキーンとしたのか、目を回して耳をふさいでいる。
「可笑しいだろ!つーことは、アレは夢じゃなかったのか!とりあえず、お前がここにいる理由を説明しろ!」
「す、すす……すいません!その、私も……よく、分からないんです……」
 何?と霧澤は聞き返す。
 真冬は頬を赤くして、
「……その、私も気がついたらって感じで……」
 霧澤は一度深呼吸をして落ち着く。
「一つずつ解いていこう。俺の夢に現れた、長い赤髪…下校中に現れた黒い化け物を倒した赤髪……あれは、お前で間違いないのか」
「……はい」
 真冬は俯いたまま答える。
 それから彼女は続けて、
「……私はこの世界の人間ではなく『魔界(まかい)』からやって来た、ヴゃンパイア…つまり吸血鬼なんです」
 は?と霧澤は目を丸くする。
「ヴァンパイアって言っても、映画のような人を噛むと相手もヴァンパイアにする、じゃなくて、私達の力になるだけです。もちろん、戦えば消費しますけど……」
 霧澤は黙って聞いている。
 理解できないからかもしれないが、質問は彼女の話しの後だ。
「……私は血を吸うと、戦う状態になると性格や姿が豹変して……夏樹君の言う『長い赤髪の女』は多分私が戦うときの姿です」
 多分?と霧澤は眉をひそめる。
 この局面で『多分』はありえるのだろうか。自分のことなのに。
「……戦うときの記憶はこっちの私にはあまり残ってないんです。戦うときを覚醒状態、と例えると今の私の記憶は覚醒状態には95%くらい共有されるけど、覚醒状態の記憶は10%くらいしか今の私に引き継がれないんです」
「そうなのか」
 はい、と真冬は俯いたまま答える。
「ごめんなさい……!騙すつもりはなかったんです…でも、私の正体を知ったら、夏樹君も……遠ざかっていきそうな気がして……」
「謝る必要なんてねーだろが」
 泣きながら話す真冬に、霧澤は真冬を見つめたまま、そう言う。
「騙すつもりはなかったんだろ?だったらお前は悪くねーし、それにお前がいなきゃ今頃俺は死んでる。だから謝るな。むしろ『感謝しなさい』って威張ってもいいくらいだ」
 真冬は涙を流しながら霧澤を見つめる。
「……夏樹、君……」
 そして、真冬は霧澤に抱きついて、
「うわああああああああん!!」
 思い切り泣き出す。
 幸い今日は土曜日で、母は仕事、妹は友達と外出中、父は出張と家に誰もいないので大声で泣かれても困ることはない。
 霧澤は優しく真冬の頭を撫でて、
「そーいや、俺っていつ家に帰ったんだ?」
 すると、霧澤は自分の服装を見る。
 制服のままだ。
 首をかしげていると、昨日、覚醒赤宮(霧澤命名)と出会った後のことを思い出した。

22竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/09/19(月) 10:34:52 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 霧澤は辺りが火に囲まれ、そこに立っている覚醒赤宮を見つめていた。
 覚醒赤宮は視線に振り返ると、霧澤の肩をガシッと掴む。
「大丈夫か、夏樹」
 通常の真冬とは違う呼び方で、覚醒赤宮は霧澤を呼ぶ。
 霧澤は今でもまだ納得してはいない。
「ちょっと待てよ!お前は一体誰なんだ!赤宮と同一人物なのか!さっきの化け物は何なんだ!何で俺の名前を知ってる!」
 覚醒赤宮は溜息をついて、
「おいおい、いきなりそんなに質問されたら答えられるものも答えられなくなるだろ。まずは落ち着いてもらおうか」
「これが落ち着いていられるか!!こんなんじゃ、気になって眠れやしねぇよ!!」
「私は説明が下手なんだ。説明はお前のよく知る真冬に任せるとしよう」
 それでも霧澤は引かない。
「いいから今説明しろ!」
「……困った奴だ」
 覚醒赤宮は額に手を当てて、溜息をつく。
 それから霧澤の腹を撫でる様に服の上から手の平を這わせる。
「そういえば、さっき『気になって眠れない』と言ったな。ならば眠らせてやる」
「はぁ?どうやって―――」

 ズドン!!と霧澤の腹に覚醒赤宮のボディブローが叩き込まれる。

「説明は後だと言ったろう。安心しろ。お前のよく知る真冬は説明が上手い」
 覚醒赤宮は霧澤を担いで、彼を家に運んだというわけだ。
 どうやって家に侵入したかは分からないが、窓の鍵が掛かっていなかったのだろう。

「すいませんっ!!」
 真冬は土下座気味に謝りだす。
「うわぁ、落ち着けって!女の子に土下座なんざ、本格的に俺最低じゃねぇか!!」
 霧澤は真冬を落ち着かせようと説得する。
 だが、真冬の説明で昨日覚醒赤宮に問い質したことが、判明してきた。
 赤宮真冬は『ヴァンパイア』で、彼女は血を吸うと戦う姿になり、覚醒状態は本体の記憶の95%を共有できるから霧澤の名前も知っていた。
「じゃあ、あの化け物は一体?」
「あれは、『魔界』住む悪魔です。私達は人間界にもぐりこむ悪魔を倒すため、ヴァンパイアの選抜としてこちらに派遣されたんです。派遣期間は三年ですけど」
 つまり、これから彼女と関わっていく以上、あの悪魔とも嫌々関わらなければいけないということか。
 霧澤はふと、自分の右手に視線を落とす。
 すると、中指に見慣れない指輪がはめられている。
「……あれ、こんな指輪してたっけ?」
 見ると赤宮の指にも同じ物がはめられていた。
「これは私と貴方が契約した証。私達は血を吸う契約をした証としてこの指輪が現れるんです。契約した人を『契血者(バディー)』と呼ぶのです」
 契約?と霧澤は眉をひそめる。
「んなもん、いつしたって……」
 霧澤の言葉は途中で止まった。
 一つだけ思い当たることがあった。
 化け物に襲われてる時、真冬を覚醒させるために行ったキスが。
「……もしかして、アレか?」
「………」
 真冬は顔を赤くして、無言のまま頷く。
「で、でも……血を吸うのは別にどこでも良くて……契約のためにキスする必要があっただけで……ペアを組むなら夏樹君じゃなきゃ嫌だなーって……」
 徐々に声が小さくなっていることに真冬は気付いているのだろうか。
 霧澤は溜息をつく。
「つまり、これからは俺はお前に協力しなきゃいけないのか」
「……はい」
「じゃあこっちにも条件がある」
 条件?と真冬は首をかしげる。
「俺がお前に協力する代わりに、お前はありとあらゆる悪魔から俺を守ってくれ!男として情けないけど……お前に頼るしかないんだ。『契血者(バディー)』だしな」
 そんな簡単なことだ。
 真冬は顔を綻ばせて、
「はいっ!!」
 元気よく頷く。

23竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/09/19(月) 16:23:39 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp

「で、悪魔は下級、中級、上級、人型と強さがランク分けされてるんです。強くなっていくにつれ形は人に近くなり、人型悪魔は普通の人間とほとんど変わりがないので見分けにくいんです」
 街中を歩きながら、真冬は隣にいる霧澤に説明している。
 霧澤は缶ジュースを飲みながら、
「するってーと、魔界には悪魔とヴァンパイアしかいねーのか?」
「いや、そういうわけでもなく、どっちにも属さない人に一番近い種族もいるんです」
 へぇー、と霧澤は相槌を打つ。
 二人は現在街中を歩いている。何でも『赤宮はこっちに来たばっかりみたいだから街を案内しよう』という霧澤の提案だ。
 真冬もかなり乗り気について来てくれたし、こんなとこをクラスメートに見られたら大変そうだ、と頭を抱える。
 奏崎に見つかったらもっと大変だ。学校に掲示されている、桜乱高校(さくらんこうこう)の学園新聞に掲載されるに決まっている。
 そのため、妙にソワソワしだす霧澤の耳に、
「あれー?夏樹と真冬ちゃん?」
 聞き覚えのある女子の声が聞こえてきた。
 間違いない。新聞部のじゃじゃ馬女だ。
 声がした方向に振り返ると、案の定そこには奏崎薫が私服姿で立っていた。
 白いワンピースにジーンズ生地のジャケットを着ている彼女は、駆け足で駆け寄ってくる。
「いやー、こんなところで会うとは奇遇!二人ってそんな仲良かったの?遠くから見たらカップルみたいだったし、最初は気付かなかったよ!」
「何でお前がここにいるんだ!」
 奏崎に霧澤はそう問い質す。
 よく考えれば、奏崎もこの街の住人なので、いても可笑しくはない。むしろ、可笑しいのは住んでる街をうろついているのに、『何でいるんだ』と訊いた霧澤の方だろう。
「んにゃー、ちょいと買い物にね。っていっても買う物もそんななかったんだけど…二人はどうしたの?」
 霧澤は真冬と顔を合わせる。
 『ヴァンパイア談義』などと言えるはずもなく、
「赤宮に街を案内してやってるんだ。あまり知らないらしいからな」
 なるほど、と奏崎は納得してくれた。
 それに、よく考えれば『ヴァンパイア談義』の方がついでで、街案内が本来の目的だろう。
「あ、そーだ!二人とも暇でしょ?私の家に来ない?」
「お前のっ!?」
 霧澤は顔を青くする。
 真冬は首をかしげて、霧澤を見つめている。
「何よ、嫌?」
「……別にいいが、赤宮にアレはやらせるなよ?」
「分かってるって」
 アレ、が何かよく分からず真冬は首をかしげたままだ。
「ほら、真冬ちゃんも行こう!」
「え、あ。はい」
 霧澤と真冬の二人は奏崎に先導され、彼女の家へと向かった。

24竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/09/19(月) 17:31:27 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 奏崎に連れられ、霧澤と真冬は彼女の家の玄関前に立っている。
 彼女の家は二階建てで、見た目だけでも結構広そうだった。奏崎が先導して、二人は家に入る。
 奏崎はスリッパを二人分用意して、家に上がらせる。家の中も広めで、自分の家の自信がなくなってしまいそうだ、と霧澤は思う。
 そこで、霧澤は玄関にある自分を含めて三人分しかない靴を見て、
「……なあ、薫。おじさん達は……」
「言わないで!!」
 珍しく語調を強くして、奏崎は霧澤の言葉を止める。
 ハッとして、奏崎は目を泳がせると、
「え、えーと……二階の自分の部屋片付けてくるね!確か散らかってたし……」
 奏崎はばたばたと上に上がっていく。
 真冬は状況を見計らって、霧澤に訊く。
「……薫ちゃん、何かあったんですか?」
「まあな。アイツの親は二人とも仕事が上手くいっててな。アイツが小さいときからあちこちに出張ばっか行ってんだ。だから中学くらいまでは、俺はアイツと一緒に住んでた。だからアイツは自分の親のことが嫌いで仕方ないんだよ」
 真冬は言葉を失ってしまう。
 悩みも少なそうで、いつも元気で明るい奏崎にそんなことがあったのかと。
 真冬は、彼女の心の強さに憧れてしまう。
 やがて、上から『いいよー』と声がかかり、二人は階段を上がって彼女の部屋のドアを開ける。
 その光景に霧澤と真冬は絶句した。

 ピンク一色だった。

 カーペットも、机の椅子も、ベッドの布団も、壁にかけてある時計の縁も。まるで花畑にでも放り込まれたみたいだ。
「じゃー、真冬ちゃん。ベッドに腰かけていいよ。あ、夏樹はカーペットの上に」
 明らかに待遇が違いすぎるが、そこは気にしない。
 何を始めるのかと思っていると、奏崎は口を開く。
「ギャルゲーやろっか」
「やらん!!」
 対して霧澤の返答は早かった。
 しかし、それで下がるほど奏崎薫という女は甘くなかった。
「いや、やってもらうわよ!ほら、真冬ちゃんも!」
 相変わらず奏崎の奔放さには呆れる。
 今日は彼女の家に泊まることになった。
 久しぶりに友達が家に来たこともあり、寂しさを忘れたい、という気持ちもあるのだろう。
 霧澤と真冬も首を横に振らなかった。
「夏樹、お風呂沸いたから、先に入っていいわよ」
「おう、分かった」
 霧澤はギャルゲーを断念し、真冬とオセロをしていた。
 白を使っていたのは霧澤だが、黒と比べて明らかに量が少ない。
「さて、と。アイツも風呂に行ったことだし。真冬ちゃんと二人で話したいことがあるの」
 え?と真冬はきょとんとする。
 もしかしたら、昨日の騒動を奏崎に見られたのかもしれない。
 真冬は息を呑んで、奏崎の言葉を待つ。
「面倒な前置きは省くわよ。単刀直入に訊きたいから」
 彼女の口調はいつもの明るく元気なものではなく、冷静で真剣な調子だった。
 奏崎は真冬の顔を真っ直ぐに見つめてこう質問する。
「……真冬ちゃんはさ、アイツのこと……ううん、夏樹のこと、どう想ってる?」

25竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/09/23(金) 19:50:43 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第3話「女同士の約束」

「…………え?」
 真冬は思わず言葉を漏らしていた。
 その言葉がどういう意味で発したものかも、自分では考えもつかない。
 不意の、そして意図が分からない質問に真冬の言葉は詰まる。
「友達とかじゃなくて、恋愛対象としてって意味で、アイツのこと、好き?」
「え、えーと……」
 真冬は言い淀む。俯いて、今の自分の気持ちを整理してみる。
 彼のことは好きだ。でも恋愛対象としてはどうだろうか。恋愛対象としてみてない相手にキスなんてするだろうか。
 考えれば考えるだけ頭が混乱する。 
 その様子を見て、質問した奏崎は軽く息を吐いて、
「……答えられないならいいよ。そうだよね。会ったばかりだもん、好きかなんて、まだ分からないよね」
 奏崎はどこか割り切ったように呟く。
 それでも真冬は、俯いたまま考えをまとめる。
 そして、顔を上げて奏崎を真っ直ぐに見る。
「ううん、答えるよ」
「……真冬ちゃん…?」
 真冬の言葉に、奏崎はきょとんとする。

「正直、私もよく分かってないんです……。夏樹君のことは好きですけど、薫ちゃんが言うような、恋愛対象としてっていうのは……まだちょっと」
「そっか」
 真冬の回答に奏崎は微笑む。
 それから、真冬の頭をぽんぽんと撫でて、
「私は、ずっとアイツの事好きなの。だから、二人に声をかけるのも迷ったんだ。私さ二人の事『カップルみたい』って言ったでしょ?」
 彼女がこんな質問をした意味を真冬は納得した。
 気になる人が異性と仲が良さそうにいたら、気にするのは当然だ。きっと自分もそうだろうと真冬は心の中で思う。
 奏崎は真冬の肩を掴んで、
「でも、真冬ちゃんは今は夏樹の事、好きじゃないのね?」
 真冬はこくり、と頷いて奏崎に言う。
「いつか、好きになるかもしれませんけど……」
「それはそれでいいのよ」
 奏崎は小指を立てて、前に差し出す。
 意味が分からず首をかしげている真冬に奏崎は、
「約束。もし、真冬ちゃんが夏樹の事好きになったら、その時は正々堂々勝負よ!もちろん、好きになったら私に伝えてね」
「……はい!」
 真冬も奏崎がするように小指を立てて、お互いの小指で繋ぎ合う。
 約束の証の『指切りげんまん』だ。

 翌日の朝、十時。
 霧澤と真冬は奏崎の家から自宅へと帰ることになった。
 もう母も妹もいることだろう。そう思いながら霧澤が歩いていると、
「ん、そういや、お前ってどこに住んでるんだ?」
「決まってるじゃないですか。夏樹君の家に住むんです」

 ………………………………………。

「はい?」
「だから、契血者(バディー)の家に住むんです。掟ですよ?」
 ですよ?といわれても霧澤には知らんことだ。
 しかし、そうなると母と妹の説得に骨が折れそう(本格的に)だなと霧澤は頭を抱える。
 霧澤は重い溜息をついて、
「……まったく、魔界もなんつー掟作りやがる……」
 霧澤はそんな面倒くさい掟を作った魔界の人間の顔を見てみたくなった。
 しかし、それも束の間、家はもう目と鼻の先だ。

26竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/09/23(金) 21:38:02 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 霧澤家の台所のテーブルはとてつもない空気を放っていた。
 椅子は四つあり、片方に霧澤と真冬、向かい合うように霧澤夏樹の妹の霧澤梨王(きりさわ りおう)と母である吉美(よしみ)がいる。
 霧澤と真冬の顔からは尋常じゃないほどの汗が出ており、梨王は口に手を当てて驚いている。吉美は腕を組んで、目を閉じたまま、何度も頷いている。
「つまり、その子は住むところから追い出されて、食べていけるお金も無いと?」
 吉美の言葉に霧澤は頷く。
 どういうわけか、真冬ではなく霧澤が説明させられる羽目になった。
 納得できないが、やるしかない。ちなみに、当然だが『ヴァンパイア』や『魔界』『悪魔』などお言葉は出していない。
 吉美は、息を吐き、ニッコリと笑って、
「自分の家にいるつもりでいなさい、真冬ちゃん」
 つに緊張の糸が切れて、何か言いたそうだった梨王が口を開く。
「お母さん!お兄ちゃんの彼女だよ!」
「違う!俺と赤宮はそういう関係じゃない!」
 梨王は早速真冬に抱きついて、
「一緒に暮らすのに苗字呼びはどーかと思うよ?」
「夏樹は照れてるのよ」
 そういうんじゃない、と二人のツッコミに霧澤は精一杯だ。
 霧澤は息を吐いて、
「とりあえず、騒がしいけど我慢してくれ」
「はい」
 真冬は霧澤の言葉に頷く。
 梨王は真冬に割きついたまま、
「こんなお姉ちゃんほしかったんだぁー!妹みたいに思ってくれていいよ!」
「ちょい待て。何でお前上から目線なんだ」
 梨王の言葉へのお兄ちゃんの反応は早かった。
 吉美は真冬に、
「これでうちの一員だから。家事の手伝いはしてもらうわよ」
「はい!私、料理とかは結構得意なんですよ!」
 そこへ、梨王の質問の声が飛んでくる。
「ところでさー、真冬姉の部屋どーすんの?空いてるお父さんの家は鍵かかってて鍵持ってるのお父さんだけだし」
「そーねぇ、あ、だったらあの部屋にしましょう」
 吉美の言葉で真冬の部屋が決まった。

「で、何で俺の部屋なんだよ」
 真冬の部屋は霧澤の部屋だ。
 吉美曰く『自分が連れて来た女なら、自分の部屋にいさせてあげなさい』らしい。
「……ごめんなさい」
「いや、いいよ。俺が協力する代わりに、お前には俺を守ってもらうんだし」
 真冬は僅かに頬を赤くしている。
 どうやら男女二人のシチュエーションに慣れてないらしい。
「なあ、質問なんだけどさ。……血を吸うときって、毎回キスしなきゃいけねぇの?」
 真冬は一気に顔を赤くして、
「ち、ちち違います!違います!」
 と手をぶんぶんと振って否定する。
 それでも俯いて、呟くように、
「……キスするのは契約の時だけ……。血を吸うのは腕からでも首筋からでもいけますけど……、いっぱい吸えるのがキスってだけで……。強敵が出た時は……」
「そうか」
 と霧澤も僅かに顔を赤くしている。
 二人は無言になってしまうが、霧澤が話題を変える。
「……そういや、薫は何の反応も示さなかったけど、この指輪。つけていって大丈夫なのか?学校とか」
「それなら大丈夫です」
 さっきとは打って変わって真冬の明るい言葉が返ってくる。
「これはヴァンパイアか、契血者(バディー)にしか見えません。そうじゃなくても、魔界の住人やヴァンパイアの存在を知っている人には見えますけど、学校で没収はないと思います」
「そうか。なら良かったけどな……」
 霧澤はスッと手を前に出す。
 首をかしげている真冬に霧澤は、
「改めて宜しくな、赤宮。握手だ」
「…はい、夏樹君!」
 真冬は笑みを浮かべて、霧澤と握手をかわす。

27竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/09/24(土) 13:16:31 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第3話「白き吸血鬼」

 霧澤と真冬は現在学校である。
 昼休み中なのだが、ご飯を食べ終わり自販機を探しに行った真冬が帰ってこないので、霧澤が彼女を探している途中に、一人の少女とすれ違う。
「おい」
 霧澤は学校の廊下ですれ違いざまに女子に声をかける。
 その女子は肩より長めの白銀の髪に、水色の瞳をした、真冬と同じくらい小柄な少女だ。
 霧澤は彼女に近づいて、
「ハンカチ落としたぞ」
「ん、ありがとー!」
 少女はハンカチを受け取ると、にっこりと笑って元気よくお礼を言った。
 何というか、真冬とはまた違った、強いて言うなら薫と同じような性格の子だろう。
 少女はじー、と霧澤を見て、
「もしかして、隣のクラスだったりする?」
 は?と霧澤は目を丸くする。
 しかし、よく見てみればこの女の子を霧澤はどこかで見たことがあるような気がする。
 確か六組の、
「……白波(しらなみ)だっけか?」
「そーそー!君は五組の霧澤夏樹君だよね?」
 五組と六組は合同で授業をすることが多く、彼女の顔は何度か見たことがあった。
 白波は、くるっと向きを変えて、どこかへ走り去りながら、
「んじゃ、またどこかで会おうね!」
 走り去っていく白波を霧澤は目で追いかけながら、
「…………明日の一時間目が合同なんだけどなぁ……」

 赤宮真冬は自販機に行く途中に上級生二人に絡まれていた。
「君が、一年に転入してきた子?噂どおり可愛いね。携帯の連絡先とか教えてくれる?」
「あ、ずりぃぞ!先に声かけたのは俺だ!!」
 ぎゃあぎゃあと言い争う上級生。
 真冬の噂は学校中に知れ渡っていた。しかも『超可愛いモデル級の美少女』という無駄に長い肩書きでだ。
 言い迫る二人に混乱と困惑で頭を回す真冬の耳に声が届く。
「名前も知らないような奴に越えかけられても迷惑だろ」
 不意に一人の男が近寄ってくる。
 ツンツンの黒髪に僅かに鋭い目つきをした少年だ。
 上級生は真冬から少年に視線を移して、
「誰だお前!」
「邪魔すんじゃねーよ!」
「邪魔、ねェ」
 フッと少年は僅かに笑みを零して、
「じゃあ聞くが、俺が割って入らなかったとして、お前らはその子から連絡先を聞けたのか。どっちにしろ聞けねェんだから、引き際が早まった程度で喚いてんじゃねェよ。見苦しい」
 上級生の怒りはマックスだ。
 二人は少年に殴りかかるが、少年は避けようともしない。
 ただ言い放つだけだ。
「……殴ってもいいが、学校じゃあ殴った方が悪くなる。停学になりたかったら好きなだけ殴れよ、先輩方」
 二人の腕が止まる。
 じょうきゅうせいの二人は歯を食いしばってその場から走り去っていく。
 真冬は上級生に同情の眼差しを向けてから、少年に声をかける。
「ありがとうございます。私じゃ、どうも出来なかったから助かりました」
「別に。俺だってアンタに用があっただけだ。連絡先じゃねェけどな」
 少年は自販機と向かい合って、お金を入れてからコーヒーを買う。
 それから、真冬に視線を向けてから、
「アンタに頼みがある」
「……頼み、ですか?」
 少年の言葉に真冬は首をかしげる。
 そこへ、
「あ、いたいた!おーい!すーばるー!!」
 一人の少女がこちらへ近づきながら手を振っている。
 『すばる』というのは少年の方の名前だろう。
「……何しにきたんだ、お前」
 やってきたのは、霧澤にハンカチを拾ってもらった白波だ。
 白波は口を尖らせて、
「だってー、すぐ済むって言うから期待して教室戻ったのにいないんだもんー!」
 真冬は白波の顔を見てから、驚いたように、
「……、涙(るい)ちゃん!?」
「おや、真冬じゃん」
 すばるが軽く息を吐いてから、もう一人、その場に合流する。
「お、赤宮。お前こんな所に……」
 やってきた霧澤は真冬と一緒にいる人物に驚く。
「白波、と……朧月(おぼろづき)!?」
 朧月はすばるの苗字だ。
「久しぶりだな、霧澤」 
 朧月は霧澤にそう言う。
 霧澤は朧月と白波の知り合いで、真冬は白波と知り合いで、朧月は霧澤と知り合いで、白波は霧澤と真冬と知り合いで。
 霧澤と真冬はこの奇妙な事態に童謡を隠せずにいた。
 二人はまだ気付いていない。
 朧月と白波の右手の中指に、自分達がつけているものと同じ指輪があることを。

28竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/09/24(土) 16:18:18 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
訂正です。
>>27は『第3話』ではなく『第4話』です

29竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/09/25(日) 11:44:54 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp

「さて、四人揃ったところで、お前らに話したいことがあるんだ」
 朧月はそう言う。
 それに首を傾げている霧澤と真冬だったが、朧月は白波に話すように促す。
 白波はこくりと頷くと、口を開く。
「真冬は知ってるだろうケド、私も同じヴァンパイアなの。で、その契血者(バディー)が昴(すばる)ってこと」
 霧澤は驚く。
 何故なら、白波は真冬と違って、入学式の時からいたからだ。
 一方で、真冬はついこの間転校(という形で)やって来たばかり。白波をヴァンパイアなんだと思ったことなどなかった。
 でも、よく見てみれば彼らの右手の中指には自分達のつけている指輪と同じ者がある。
「真冬とやって来た時期が違うのは、私が魔界にいる時からどの学校に編入するか早々に決めてたから。その子が私より遅かったのは、彼女が編入先をぐだぐだと決めきれてなかったからよ」
 霧澤はそれを聞いてもまだどこか納得しきれてなかった。
 今まで普通の同級生として見てきた白波が、いきなりヴァンパイアなどと言われても信じれない。だが、真冬に対してもそんな感じだった。ならば白波も血を吸うと変わるのか、と少々不安に駆られる。
 続いて真冬は、
「…あの、さっき昴君が、私に『話がある』って言ってたんですけど…これだけじゃないですよね」
「ああ。結構勘が良いな」
 真冬は相手に了承を取られなくても下の名前で呼ぶようだ。
 じゃあ何故自分の時は確認を取ったんだ?霧澤は何だか複雑な気持ちになる。
「話っていうのは、お前らの協力を仰ぐためのモンだ。俺らは魔界にある組織に狙われてる。だから涙が信頼する赤宮真冬とその契血者(バディー)に力を貸してもらいたい」
「ッ!?」
 魔界にある組織。
 ヴァンパイアの敵は悪魔だけじゃなかったのか、と霧澤は焦りだす。
 その様子に気付いているのか、朧月は続ける。
「その組織ってのはある暗殺集団なんだが、赤宮。お前なら知ってるんじゃないか?」
 真冬は僅かに考えて、
「……もしかして『四星殺戮者(アサシン)』?でも何で涙ちゃん達を狙うの?」
「この前、倒した悪魔がアイツらの仲間だったらしくてね。私と、そしてアンタも。アイツらに狙われてるのよ」
 私も?と真冬は聞き返す。
 白波は頷いて、説明を続ける。
「五日前から奴らは悪魔と手を結んで、何故か人間界に派遣されたヴァンパイアを狙っている。目的はいつものようにただの殺害だろうけど。んで、その仲間の悪魔が殺されちゃったー!とかで私らに白羽の矢が立ったってワケ」
「でも、ヴァンパイアが悪魔と手を結ぶなんて禁忌だよ?」
「アイツらは殺すためなら手段を選ばない。目的の人物を殺すためなら、正面から突入して目的の奴以外も殺すって知ってるでしょ?」
 真冬は口を塞ぐ。
 それが、『四星殺戮者(アサシン)』のやり方。
 目的のためなら手段を選ばず、禁忌とされている悪魔との締結も平気でやるので。
「まあ協力するかしないかは、アンタ達の自由よ。やるって言うなら、私達は全力でアシストする。でも、しないって言うならこっちからの協力は一切無し。さあ、どっち?」
 真冬は決めてもらおうと霧澤を見るが、彼女が彼の方を向いた時には、霧澤は既に真冬の方を見ていた。
 お前が決めろ。そう言外に語っていたのだ。
 真冬は僅かに言い淀むが、
「……やるよ」
 宣言する。
 真っ直ぐに、朧月と白波の二人を見つめて。
「私、やる!だから、涙ちゃん。昴君。お願い。力を貸して!」
 白波は軽く息を吐いて、
「アンタならそう言うと思った。夏樹君も依存は無し?」
「ああ。元々赤宮の判断に任せてたし、俺もこう言うと思ってた」
 白波はニッと笑って、
「んじゃ、今から作戦会議を手短に済ませるよ」

30竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/09/30(金) 20:54:50 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp

「つっても、作戦会議って何やるんだよ?アイツらが俺らを狙ってるのは分かるけどさ…いつ来るか、とか分かってんの?」
 ふとした霧澤の言葉に、白波は動きを止める。
 どうやら分かってないようだ。
 すると、場を見計らったように、一枚の紙が霧澤達の所へと振ってくる。
「……何ですか、この紙?」
「手紙か何かか」
 朧月はその紙を拾って、書いてある言葉を読む。
 が、
「…………『我等は夜中の一時に貴様らの首を狩りに来る。それまで精々大人しく待っているがいい』だとさ。『四星殺戮者(アサシン)』だな、コリャ」
 白波はニッと笑って霧澤を見ると、
「一時だよ!」
「聞こえてたよ!つーかお前知らないんじゃねぇか!思い切り向こうから宣戦布告されてんじゃん!!」
 ぎゃあぎゃあと言い争う霧澤と白波を無視して、朧月と真冬は手紙を読んでいる。
「……一時。何でこんな中途半端な時間なんでしょう?」
「さあな。夜がアイツらに都合良いんじゃないか?お前の方が詳しそうだが」
 真冬は、僅かに考え込んで、
「私でもそんなに分かりません。恐らく、それは涙ちゃんも同じだと思う。だからこそ、気を抜けない」
「そうか」
 朧月は改めて霧澤と白波を見る。
 さすがにもう馬鹿はやってないだろうと思っていたが、今だ論争中である。
 しかも『相手の来る時間が分かってなかった』から『だからお前はモテないんだ』的な話へと軸がかなりズレてきている。
 その様子にお互いの契血者(バディー)である朧月と真冬は、重い溜息をつく。
「……おい、涙。手短に作戦会議をするんじゃなかったのか?」
 はっとして白波はコホンと咳払いをする。
 ここで一旦霧澤と白波の論争は中断だ。
「えっとね……とりあえず今はまだ相手の調べもついてないからどうとも言えない!」
 ガクッと全員の気が抜ける。
 あのな、と霧澤が何か言いかけようとしたが、白波が待ったサインを霧澤の目の前でする。
「とりあえず、集合時間はメールで送る。手紙が来たってことは、奴等が聞き耳立ててるかもしれないしね」
 霧澤は辺りを見回したが、それらしい姿は見えない。
 相手は暗殺のプロだ。
 隠れるのも、見つからないようにするのもお手の物だろう。
 とりあえず、霧澤達は放課後、朧月達と帰ることもなく、いつもと同じように帰って行った。

 夜十一時四十五分。
 白波が指定した時間は、十二時に近所にある公園。
 この時間に行けば、丁度指定時間くらいには着ける。
 出かける用意をしながら、真冬は霧澤に問いかける。
「……お母様達、心配しませんかね?」
「さあ、どうだろうな。俺がこんな夜中に出るなんざ、向こうからしたら考えられないだろうけど…ま、何とかなるんじゃね?」
 真冬は不安を隠しきれずにいた。
 しかし、今はそんなことを気にしていてもどうにもならない。
 霧澤は、靴紐をしっかり結ぶと、立ち上がって、
「行くぜ。時間に遅れたら特に白波がキレそうだからな」
 真冬はコクリと頷いて、霧澤とともに公園へと向かう。

31竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/10/01(土) 21:48:39 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp

「遅い、遅いよー!」
 霧澤と真冬は公園へ到着すると、不機嫌そうな顔になっている白波にそう文句を言われた。
 ちなみに、待ち合わせ時間より、二分程度早く着いたのだが、何故文句を言われてるかは分からない。
 朧月はベンチに座りながらくつろいでいたが、霧澤と真冬が来たのを確認すると、立ち上がって白波の隣に立つ。
「……遅いって……まだ二分前だぞ?」
「それがどーした!私達は二時間前からいたんだからー!!」
 知るか、と霧澤は即座に返す。
「それは、ただ単にお前が落ち着きないだけだろ!待ったのは俺のせいでも赤宮のせいでもねーじゃん!」
 昼休みと同じく、霧澤と白波は低レベルな言い争いを繰り広げる。
 そして、これまた同じく真冬と朧月は、そんな二人を呆れ半分に黙って見ている。
 朧月は軽く息を吐いて、
「おい、涙。こいつらにアレ。見せなくていいのか」
「お、そうだった」
 白波は霧澤と言い争いをやめて、ポケットから紙を取り出す。
 その紙を広げ、霧澤と真冬に見せ付けるように、白波はスッと前に差し出す。
 紙に載っているのは、四人の人物の顔と名前が載ってあった。
 これが何を意味してるのか、今から始まることを考えると、簡単に推測できた。
「……これって『四星殺戮者(アサシン)』のメンバーか?」
「まあね。構成員って奴よ」
 白波は、左から二番目の濃い紫色の髪に、目つきが鋭く、口には暗殺者のように黒い布をつけている男を指す。
「こいつがリーダーの紫々死暗(しし しあん)。私達は学校から帰ってから、こいつらのこと調べたんだけど、噂通りよ」
 白波は一度区切って、
「リーダーの紫々は私達と同じくヴァンパイア。間違いなく、四人の中で一番苦戦する相手よ」
 霧澤と真冬が息を呑む。
 白波は他の三人は、指をささずに、
「荒垣凶美(あらがき きょうみ)、数藤刃(すどう じん)、三又流浪(さまた るろう)。この三人はヴァンパイアじゃないらしいけど、一応殺し屋だからね。私と真冬だけじゃ対処しきれないの。その時は、二人にも戦ってもらうから、そのつもりで」
 白波は霧澤と朧月を見て言う。
 二人は合わせて、コクリと頷いた。
「んじゃ、こいつらの戦い方についてだけど…」

 ひゅん、という風切り音が鳴り、全くの無防備だった真冬に細い紐が巻きつく。
 拘束されている形になった真冬は、身動きが取れず、肌に食い込む細い紐の痛みに、僅かに表情を歪ませる。

「いつ私達が来るかも分からないのに、呑気なものよねぇ。作戦会議だなんてぇ」
 声のする方を振り返ると、公園に立っている時計の上に紙に載っていた荒垣凶美がいた。
 彼女の握っている紐を辿ると、丁度真冬を拘束している物になる。
「なっ……!予定より早すぎるわ!」
「今はそれより、赤宮をどうにかした方がいいんじゃねぇか?」
 真冬は振り絞るような声を出して、
「……私は大丈夫……!こいつの相手は、私がする…!」
 真冬は霧澤を見つめて、
「夏樹君!腕、出して!」
「おお!」
 霧澤は袖をまくって、腕を出す。
 真冬はそれに噛み付く。白波達は、その場から立ち去って行き、公園にいるのは真冬と荒垣だけだ。
「薄情ねぇ。仲間を置いて逃げるだなんてぇ」
「違うな」
 真冬は相手に反論するように、そう呟き、みしみしと音を立てて、紐を引きちぎり、拘束から解放される。
 紐を引きちぎられた荒垣は僅かに驚いているようだが、それよりも、真冬の変貌に驚いていた。
「奴らは私を信じて、ここに置いたのだ。まぁ、心配されるまでもないがな」
 そこに立っていた真冬は、血を吸い、性格が真逆となった、覚醒赤宮だ。
「来い、三下。喧嘩を売った相手を間違ったな。手加減してやらないから、お前も本気で来い」
 真冬の言葉には、余裕どころか、相手に対する恐怖などもなかった。

32竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/10/02(日) 15:17:39 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第5話「VS四星殺戮者(アサシン)」

 覚醒した真冬は、首や指を鳴らしながら身体の調子を整えている。
 霧澤達の学校に転入した初日から、全く覚醒していんかたっため、身体が鈍(なま)っているようだ。『うーむ』と僅かに考えるような声を漏らしながら、やがてこくりと頷く。
「…まあ、いいか。ちょっと動きにくいが……これぐらいの相手ならちょうどいいハンデだな」
 真冬は余裕を持って荒垣に告げる。
 漆黒の髪に、胸元、ヘソを露出させる服。ジーンズにブーツを履き、その上から黒いコートを羽織っている荒垣は、眉間にしわを寄せ、不快な感情に染まる。
「……随分と舐めてくるじゃないのぉ……。どんだけ自分の力に酔いしれてるんだかぁ」
「酔いしれてるわけじゃない。だってその通りだろう?お前と私では、天と地ほどの力の差があることは」
 その言葉に反応した荒垣は複数の紐を真冬に向かって這わす。 
 しかも、ただの紐ではない。
 先は針のように尖っており、突き刺されればそのまま細い紐は身体の中を巡って貫いてしまうだろう。
「私特製の『針紐(はりびも)』は、一度刺されれば、貴女の身体を貫くまでその動きを止めないわよぉ!」
「……そうか。だが…」
 真冬が真っ赤な炎を右手に纏い、それを軽く横へ振るう。
 すると、真っ赤な炎の塊が、針紐(はりびも)を残らず焼き尽くし、尖った部分が焼失した紐は力なく地面に落ちていく。
「なぁ……!?」
「…だが、それがなんだ。というだけだ」
 真冬はニッと笑って、荒垣を見つめている。
 ただ、見つめているだけだが、荒垣には恐怖しか芽生えない。
「おのれぇ!」
 荒垣は続けて、銀色の紐を這わせ、真冬の身体を拘束する。
 胴体と腕をまとめて拘束され、真冬は動くことが出来ない。だが、これは最初の時と同じ拘束だ。真冬が力を入れると、
 ぎしぎしと締め付けられ、紐を引きちぎることが出来ない。
「……?」
 真冬が眉をひそめていると、
「あはははははぁ!それは鋼鉄を紐のように加工して作ったかなり硬質な紐なのよぉ。いくら貴女でも、その紐を引きちぎることは不可能だわぁ」
「……なるほど、鋼鉄か。都合が良い」
 は?と荒垣が聞き返す前に、答えが出される。
 真冬は身に真っ赤な炎を纏い、鋼鉄の紐を焼き溶かしていく。
 拘束から逃れた真冬は、足に力を込めて、時計の上に居る荒垣の懐へ飛び込む。
「……馬鹿なぁ……。身に炎を纏うなどぉ……」
「残念だったな」
 真冬は右の手で拳を作り、振りかぶる。
 荒垣の顔が絶対的危機状況に陥ったことで、歪んでいく。
「生憎と、私には優秀な友がいてな。かなり難しいとされる『一身炎(いっしんえん)』も使えるんだ」

 真冬の力を込めた拳が荒垣の腹に入り、彼女は時計の上から、仰向けに地面に落ちる。
 彼女は腹と背中に受けた衝撃で、気を失い、大の字になってそのまま動かない。
 彼女の代わりに時計の上に立った真冬は、
「……しかし、予定より来るのが早かったな。予定より一時間早い……確か紫々死暗は高見の見物を好む……」
 真冬は低く舌打ちをして、
「悪趣味なことこの上ない」
 時計の上から降りて、霧澤達が走っていった方向へ走り出す。

33竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/10/07(金) 21:14:49 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 霧澤と朧月の二人は白波の後について、走っていた。
 公園から出て、一日中人があまり来ない場所へ移っていた。
 霧澤は走りながら、朧月に問いかける。
「なあ、俺達って何処に向かって走ってるんだ?」
「そりゃ……何処だろ」
 答えようとした朧月は途中で答えが出ない。
 三人の中でたった一人のヴァンパイアである白波は、
「他の奴らのところよ!っていうか、向こうがこっちに来てるからなるべく被害が最小限で済みそうなところに移動してるだけだけど……ここら辺なら人通りも少ないし、廃ビルだらけでしょ?」
「ってことは、『四星殺戮者(アサシン)』がもう来てるのか!?」
 白波の言葉に霧澤は間髪入れずに質問をする。
 白波は軽く息を吐いて、
「その通りよ!紫々死暗はまだみたいだけどね。さっき言った荒垣と数藤と三又はもう来てるわ。二人とも、こっちに向かってるし」
 ヴァンパイアだと気配とかで分かるのかな、と霧澤は思う。
 さっきの真冬が襲撃された時は誰も気付いてなかったことからして、相手も気配を消すのは上手いんだと推測が出来る。やはり、そこは暗殺者なのだ。
 そして、霧澤はふと、
「なあ、さっきみたいなことにならないようにさっさと朧月の血を吸った方がいいんじゃないか?」
「それなら心配いらないわ」
 白波は視線を向けずに、声だけは楽しそうに答えた。
「だってだって!家を出る前にチューしてきたもん!」
「ばっ……それは言うな!!」
 朧月は柄にも無く顔を赤くして、叫ぶ。
 こんな顔するのか、と霧澤は朧月の顔を見ながらそう思う。
「でも、ヴァンパイアって皆赤宮みてーに姿変わるんじゃねーの?」
「まあ、あの娘は覚醒型(かくせいがた)っていって、通常の姿が戦い向きじゃないから血を吸った時に変化するの。私みたいに、血を吸っても姿が変わらないのは通常が戦い向きの姿だからよ」
 そんなことを言われても霧澤にはよく分からない。
 女の子の『戦い向き』の姿がよく分からない。霧澤からすれば、女の子が戦い向きなのは漫画だけの話である。
 そして、白波が唐突に足を止めると、近くの廃ビルの頂上へと目を向ける。
「来たわね。二人目の刺客」
 そこには眼鏡をかけ、スーツを着ている見ただけで頭が良いと分かりそうな知的な男だ。
 彼は腰の後ろで手を組んで真っ直ぐこちらを見下ろしている。
「あいつが数藤刃。四人の中で、一番戦闘向きじゃない男よ。アイツは頭を使うらしいからね」
 それを聞いた霧澤と朧月は、
「だったら、見込みがあるのコイツじゃねーの?」
「そうだな。あるとすれば、の話だが」
 一歩ずつ前へ出る。
 白波はその二人に、
「ちょ、待ちなさいよ!戦う気?」
「お前言ったじゃねーか。コイツは戦闘向きじゃないって。だったら、ちょっとでも勝てる見込みがある方がいい!」
「だな。涙、お前はもう一人のところへ行け」
 白波は行く事を渋っていたが、二人の背中を見て、
「分かったわ!数藤の相手は任せる。私も、さっさと三又を倒すから!」
 そう言って、もう一人の方へと走って行った。
 霧澤は指を鳴らしながら、朧月に問いかける。
「腕は鈍ってねーよなぁ!ヘマすんじゃねぇぞ、昴!」
「お前こそな。女と一緒にいて浮かれてんじゃねぇぞ、夏樹!」

34竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/10/08(土) 13:01:58 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp

「……聞き捨てなりませんな」
 スーツの男、数藤刃はそう呟きながら、ビルの上から降りてくる。運動神経がそんなによくないように見える割に、着地は意外と綺麗だった。
 数藤は眼鏡を軽く指で上げて、
「『私が一番弱い』と言ってるように聞こえますが?」
 ギロッと、一瞬で目つきを鋭くして、霧澤と朧月を睨みつける数藤。
 それに対して、二人は一瞬たりとも、身じろぎも。怯えも。表情を変えることもしなかった。
「だったら何だよ」
 霧澤の言葉に、数藤は返す。
「見くびらないでいただけますかな。私も誇るべき『四星殺戮者(アサシン)』の一員であるので。貴方が思うほど、感嘆にはいきませぬぞ」
「そーでなくっちゃな」
 その言葉に反応したのは朧月だ。
 彼は首を鳴らしながら、口の端に僅かに笑みを浮かべたまま続ける。
「なんたって、二年ぶりだからな。ちょっとは昔を思い出すのに協力しろよ」
「……何のことかサッパリですが」
 男は深呼吸をして、
「どっちにしろ勝たせはしませぬよ」
 一瞬、数藤の姿が霧澤と朧月の前から消える。
 二人は本能か、背中合わせになって辺りを見回す。
「……消えた……」
「涙の話じゃ、アイツはヴァンパイアじゃねぇ。化け物じみたモンは持ってないらしいな。だたtら、消えたんじゃなく、何処かに移動したんだ」
 二人がいくら見回しても、相手の姿は見えない。
 今は深夜で人が一人もいない。何処かで人影が見えれば迷うことなく数藤だと分かる。
「……夏樹、覚えてるか。二年前」
「……こんな時になんだよ!」
「忘れてるなら思い出せ。覚えてるならその通りに動け。中学時代を一緒に過ごしただろ。なっちー」
 霧澤は小さく舌打ちをして、
「お前のせいでそのニックネームトラウマなんだよ。ばるっち」
 僅かな、かなり小さい地面を踏む音が二人の研ぎ澄まされた聴覚が捕らえる。
 二人が一斉にそちらへ視線を向けるが、そこには何もない。
 そして、霧澤の背中に、重い衝撃が走り前のめりに倒れそうになってしまう。
 朧月は霧澤の背後へ視線を向け、数藤を捕らえる。だが、彼の姿は何処かへ消えてしまう。
「大丈夫か、夏樹」
「……ああ……まあな」
 背中の痛みを耐えて、霧澤は返事を返す。
 相手の姿が見えなくなれば、どうする事も出来ない。だが、暗殺者という特性上、真正面や横に来ることは無いだろう。
 そう仮定した朧月は、
「……霧澤、これを使え。俺は奴を探しに行く」
 二人は短い作戦会議を行い、朧月は数藤を探しに立ち去ってしまう。
 一人になった霧澤の背後に、数藤が現れ、足を振りかぶる。
(……今度はこめかみを狙わせてもらいます)
 彼の足が霧澤のこめかみを捉えた瞬間、
「やっぱ背後か!」
 霧澤は身体と左腕の隙間から懐中電灯の光を数藤に向けて放つ。
 光に目がくらんだ数藤は蹴りを放つことが出来ず、後ろから現れた朧月に羽交い絞めにされる。
「―――、まさか、作戦!?」
「ああ。さて、と掴んでりゃ、もう逃げられねぇだろ。あ、歯を食いしばっとけよ」
 悔しさと恐怖で歯を食いしばって霧澤を睨みつける数藤。
 霧澤は右の拳を固く握り締め、
「まあ、歯を食いしばらなくても、殴ってやるけどな」
 
 ゴッ!!と数藤の頬に霧澤の拳が鋭く突き刺さる。

35竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/10/08(土) 17:42:15 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 白波も三人目の刺客、三又流浪を倒していた。
 彼女は銃を片手に、相手の胸倉を掴んで、
「ねぇ、アンタらのリーダーさんは何処にいるのかなぁ?教えてくれると、涙ちゃんとーっても嬉しいんだけど?」
 笑みを浮かべて問いかけるが、その笑みには相手を怖がらせる要素しかないようだ。
 相手はがたがたと震えて、ただ首を横に振るだけだった。
(……ダメか)
 相手の胸倉から手を離し、白波は頭を悩ませる。
「涙」
 そこへ、荒垣の引きずっている覚醒赤宮と、数藤を担いでいる朧月が駆けつける。
 白波は軽く息を吐いて、
「あー、全員倒せたのね。後で助けようかとも思ったけど……まあいいわ」
「ところで、白波。こいつらどうすんだよ」
 倒した三人を見て、霧澤は問う。
 白波は心配ない、というような口調で、
「大丈夫よ。後で魔界の警察みたいなのが捕まえてくれるから」
 そっか、と何となく霧澤は安心する。
 だが、まだ紫々死暗が残っている。未だに姿を見せすに、相手は何処にいるのだろうか。
 そんな霧澤達の耳に、

「ンだァ?全員やられやがった。情けねぇなぁ!!」
 
 空から、謎の男が降りてきた。
 その男は白波の資料で見せてもらった通りのリーダー、紫々死暗だった。右腕には巨大な爪が五本ついた手甲をはめている。
 真冬と白波は構えて、互いの契血者(バディー)を守る体制を取る。
「キヒヒッ。つーことはアレか、数藤の馬鹿はただのガキにやられたってか?キハハハハッ!!ウケるぜ!こりゃ今年一番笑えらぁ!」
 仲間の敗北に悔しがる様子がまったくない。
 それどころか、不快な声で笑うだけだ。
 霧澤と朧月は僅かな寒気さえ感じていた。
「夏樹、私から離れるな。アイツは本当に危険なんだ」
「アイツの右腕の爪。アレは猛毒が塗られてるから」
 紫々は不気味な笑みを浮かべながら、爪と爪をこすり合わせている。
 真冬はニィ、と 笑みを浮かべて、
「奴は私一人でやる。奴が夏樹と昴を襲った時に、二人とも前にいては守れんからな。頼んだぞ、涙」
 オーケー、と白波は軽く返事を返す。
 それと同時に、真冬は炎を纏った拳を構え、紫々に突っ込む。
 炎のおかげで平気なのか、相手の爪の効力は効いてないようだ。真冬の拳と紫々の爪がぶつかり合う。
 だが、この戦いは、明らかに真冬がピンチだ。
 拳と爪で、妙な鍔迫り合いになっている状態で、紫々は口を開く。
「キヒヒ。お前、凶美との戦いで『一身炎(いっしんえん)』使ったろ。もォそろそろ炎が尽きるはずだ。違うか?」
「……うるさい……!」
 相手の爪を押し返そうとするが、今の真冬にそんな体力は残っていない。
 真冬は逆に相手に吹っ飛ばされ、ビルの壁へと激突した。
 真冬の口から息が一気に漏れ、うつ伏せに倒れる。そして、

 普通の赤宮真冬に戻ってしまった。

「ッ!?」
「キヒヒヒ。時間切れかァ?人間どもはそこで見てろ。何も出来ずに、目の前で人が殺される瞬間をなァァ!!」
 紫々の爪が振り下ろされる。白波は叫び、朧月は目を大きく見開いて、何も出来なかった。
 だが、霧澤だけは、無意識に走り出す。

 ゾン!!と何かを切り裂く音。

 切り裂かれたのは真冬の身体ではない。
 真冬と紫々の間に割って入った、霧澤の身体だ。
「な……つき、くん……?」
 真冬の目から涙が零れる。
 霧澤は痛みを堪え、無理矢理に笑みを浮かべて、伝える。
「……誰が、何も出来ない人間だって……?力が無くともなぁ……、盾にはなれんだよ……ッ!!」
 そのまま、霧澤はうつ伏せに倒れてしまう。
「……なつきくん……」
 真冬の声が震える。
 涙を流しながら、震える声で、叫ぶ。
「夏樹君ッ!!」
 霧澤の目は、開かない。

36竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/10/09(日) 21:54:04 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第6話「再戦」

 現在、真冬達がいるのは街の中にある大きめの病院の『朧月病院』だ。
 名前で分かるとおり、朧月の父親が院長の病院で、霧澤はそこへ運ばれたのだ。
 朧月は、院長室の壁にもたれながら、机に向かってカルテを見ている父親の話を聞いていた。
 話を聞き終わると、院長室から出て、霧澤の病室へと向かう。
 病院の廊下の壁に腕を組みながらもたれている白波を、朧月は発見する。
 霧澤の病室の扉は、目一つ分くらいの隙間が開いている。
 白波は朧月が来ると、難しそうな顔を緩めて、
「お父さん、何だって?」
「魔界の毒のことなんて知るか。原料が分かったところで都合よく解毒剤なんてあるわけない。ってよ」
 そう、と白波の表情が曇る。
 朧月の両親は、白波が何者かを知っているし、息子が白波の契血者(バディー)だということも分かっている。厳格な父とは違って、母は『将来は涙ちゃんがお嫁さんになったらいいわね』などと言っている。
 朧月は、一瞬病室に視線を向けて、白波に戻す。
「こっちはどうなんだ?霧澤のお姫様は?」
「見て分かるでしょ?絶賛ハートブレイク中よ」
 人が横歩きで入れるくらい病室の扉を開けて、朧月は傷心中の真冬を見る。
 霧澤はベッドで寝ていて、その横に椅子に座った真冬が背を向けている。朧月からは見えないが、真冬はずっと霧澤の手を優しく握っていた。
「………夏樹君………夏樹君………」
 震える声で呟く真冬の声は、扉の前にいる朧月と白波にも届いている。
 朧月は息を吐いて、
「こりゃ重傷だな。心の方が」
 真冬も傷を負っているため、ガーゼなどが貼られているが、今の状況ではそのガーゼが真冬の痛々しさを表していた。
「まったく……」
 白波は苛立った様に、真冬に近づく。
「いつまでうじうじしてんのよ!夏樹君の名前を呟けば、夏樹君は返事してくれるの?手を握っていれば、夏樹君の毒は消えるの?違うでしょ。今、アンタがやる事は、名前を呟き続けることでも、手を握ることでもない!」
 真冬は返事をしない。
 白波は低く舌打ちをして、真冬を睨みつける。
「紫々死暗は二時間後に来る。アンタは奴の再来に備えるべきなのよ。奴の毒に特効性はない。ただ、五時間以内に解毒が必要なだけ。それが分かれば充分でしょ」
 白波は、柄にも無く、真冬の胸倉を掴み上げ、怒鳴りつける。
「アンタが今やる事は何だ!ここでジッとすることなんかじゃないだろ!本当に助けたいなら、本当に目を覚ましてほしいなら!立ち上がれ!今は、それがアンタの真っ先にうやるべきことだろ!違うか、赤宮真冬!!」
 白波は通常では想像できない声量で叫んでいた。
 病院では静かに、と言っても今の白波はとても止められそうにない。
 白波は突き放すように真冬から手を離し、真冬は床に尻餅をつく。
「……奴が再び現れる午前三時。さっきと同じ公園で待ってる。覚悟があるなら来なさい。もし、少しでも腑抜けた様子があったら、撃つ」
 白波はそれ以上何も言わずに病室から出て行く。朧月も白波について行くように、その場から去っていった。
 真冬は一人だけの空間で、色々と考えていた。
 ―――助かってほしいに、決まってる。
 ―――目を覚ましてほしいに、決まってる。
 ―――覚悟はあるに、決まってる。
 そうじゃない。
 『助かってほしい』じゃなく『助ける』。
 『目を覚ましてほしい』じゃなく『目を覚まさせる』。
 『覚悟はある』じゃなく『とっくに腹はくくっている』。
 真冬は、目を覚ましたように、ばっちりと目を開けると、すくっと立ち上がる。
 それから目を閉じている霧澤に視線を向けて、一言呟く。
「―――ごめんね、夏樹君。守るって言ったのに、こんな目に合わせて。でも、大丈夫。私が、きっときっと助けてあげるから」
 真冬は眠っている霧澤へ、助ける覚悟と誓いを乗せて、唇を重ねる。
 
 紫々死暗を、倒すために。

37竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/10/10(月) 13:31:30 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 夜の公園で、眉間にしわを寄せて、完全に不機嫌な顔の白波は腕時計をジッと見ながらイライラしていた。
 現在の時刻は三時十分。
 既に紫々死暗が来ていても可笑しくはないのだが、攻撃してくる様子が無いのを見ると、相手は持久戦に持ち込むようだ。
 徐々に不機嫌さが増していく白波を見て、朧月は溜息をつく。
「……もう十分過ぎたぞ。あの精神状態で赤宮が来るわけないだろ」
「あと五分!もう五分だけ待って!」
 この『あと五分待って』を聞くのは三回目だ。
 白波は真冬を待っている。
 あの状態で来れるかは分からない。だが、白波は自分では紫々死暗を倒せないことを承知している。そして、勝てる可能性があるのが真冬だというのも理解している。
 三時十四分。あと一分の内に来なければ、真冬抜きで、紫々死暗と戦わなければならない。
「もう来ない。とっとと紫々死暗を探すぞ」
 朧月も白波も諦め、相手の捜索を開始する。 
 そこへ、
「待って!私も戦う!」
 後ろから聞き覚えのある声が届く。
 通常状態の赤宮真冬だ。
 朧月は驚いたような表情をしている。対して白波は目を鋭くして、真冬に近づいて行く。
「来たんだ。ってか来れたんだ」
 白波は太股にしまってある銃を抜き、真冬の眉間に銃口を当てる。
「覚悟はあるの?無ければ、ここで撃つよ?」
 真冬の目は全く揺るがない。
 白波の表情を全く変わらない。
「……」
「……ちょっと、何か言いなさいよ!」
 白波がそう叫んだ瞬間に、真冬が銃を真上へと弾き、白波の目の前で炎を纏った拳を止める。俗に言う寸止めだ。
 白波は言葉が上手く出ずに、硬直していた。
 赤く長い髪をなびかせた真冬は、彼女の横を通り過ぎていき、距離を取ったところで、立ち止まり告げる。
「……覚悟なんか、既に出来ている。逐一お前に確かめられる私ではない」
 白波は僅かに悔しそうな表情で振り返り、覚醒赤宮の言葉を聞いている。
「私は夏樹を絶対に死なせない。絶対に助けてみせる!そのためにここに来た!」
 真冬の髪が元の短さへと戻っていき、真冬が視線を白波へと向ける。
 覚醒時の鋭い目ではなく、真逆の丸い可愛らしさが溢れるような優しい目を。
「覚悟なんて最初からある。……最初から。契血者(バディー)になった時からずっと!!」
 白波はその言葉を聞いて、納得したように息を吐く。
「まったく、復活が遅いわよ」
 白波は、真冬の横に近づいていき、真っ直ぐに前を見詰める。
「真冬。昴。さっさと紫々死暗を見つけ出して。夏樹君の解毒剤を手に入れるわよ!!」
 『四星殺戮者(アサシン)』との、再戦が幕を開けた。

38月峰 夜凪 ◆XkPVI3useA:2011/10/11(火) 16:22:47 HOST:softbank221085012009.bbtec.net
こんにちは、ここでは初めてコメントですね。

ぐんぐん話に引き込まれて、気が付いたら一気に読んでいました!
戦闘シーンがかっこよく、まず、文章力が凄いです! 自分も見習わないと←
最初は主人公の性格良いなー、とか思っていたのですが、涙ちゃん…いえ、涙様の熱い言葉に惚れてしまいました!((殴
あと、男二人のあだ名が可愛いですw←

これからも更新を心待ちにしているので、頑張ってください^^

39竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/10/19(水) 16:30:51 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
月峰夜凪様>

コメントありがとうございます!

一気に読んでいただいて、嬉しいです!
お褒めの言葉もありがたく頂戴いたします!文章力においては、こちらも月峰様に見習わせてもらうものがあります。
いきなりの涙に様付けも、何だか嬉しいです!そこまでキャラを好いてくれてるとは…。
『なっちー』と『ばるっち』ですねw多分このワードはこれからもちょこっと出るかも知れませんw

はい、ありがとうございます。こちらも更新待ってますので、お互いに頑張りましょう^^

40竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/10/21(金) 20:05:36 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 ある廃墟ビルの屋上。
 そこには百人程度の同じ黒装束を着た男達と、彼らより前に立つ一人の男がいた。
 百人程度の男達は誰もはみ出していない、つまり正方形状に綺麗に並んでおり、全員後ろで両手を組んでいる。
 彼らを背に、前に立っている男、紫々死暗は唇を動かす。
「さあ、タイムリミットだ」
 彼は右手に装着している爪をぎちぎち、と鳴らしながら、
「殺りそこねたヴァンパイアと契血者(バディー)の四人を殺す。今日で終わりにしてやる」
 彼の言葉が号令だったように、後ろの百人程度の暗殺者達は一斉に武器を手に取る。
 剣、槍、鎌、銃、斧、杖、矛などと形は様々だ。
 武器が発する独特な金属音を耳で聞き取った紫々は、
「赤宮真冬も、白波涙も、そしてあの契血者(バディー)も!!全員、この夜で血祭りに上げてやる!いけ、お前ら!!」
 紫々の力強い号令の後に、信じられない出来事が起こった。
 全員が一斉に消えたわけでも、武器が全て砕けたわけでも、ましてや全員が紫々に反旗を翻したわけでもない。
 ただ、

 紫々の後ろで何かを強く叩きつけるような轟音が鳴り、後ろの百人前後の暗殺者達が一気に吹き飛ばされたのだ。

「ッ!?」
 音に驚き勢いよく紫々は振り返る。
 土煙で何も見えなかったが、煙の中から女の声が響く。
「随分と面白いことをしているものだな、お前は。私達の駆除を部下どもに任せ、お前は高見の見物か?」
 やがて、土煙がはれ、襲撃者の正体が明かされる。
 赤く長い髪に、冷たいよりは冷酷や冷徹の方が合っているような気がする鋭い瞳、そして、彼女の右手には真っ赤な炎が燃え盛っている。
 そう、このタイミングで彼らに攻撃を加える人物など、考えるまでもなかった。
 そう、一人しかいないのだから。
 赤宮真冬、ただ一人しか。
「さて、今の光景を解説してやると、お前らの部下はたった今私が全員吹き飛ばした。着地と同時にな」
 紫々が後ろに下がると、後頭部に鉄独特の冷たい感触が伝わる。
 後ろには銃口を後頭部へ押し付けている白波涙と朧月昴が立っている。
 まさに、前門の虎、後門の狼である。
「さーて、私達がこんなトコにいる理由。わっかるかなぁー?はい、紫々死暗クン?当たってるよ?」
 白波は嘲るような口調で告げた。
 答えは決まっているに決まっている。
 真冬はゆっくりと近づきながら、言葉を発する。
「理由は二つだ。一つ目は、お前が恐らく所持しているであろう毒爪の解毒剤を手に入れること。もう一つは」
 真冬は言葉を一度区切って力強く答える。
「お前をここで倒し、全てを終わらせることだ!紫々死暗!!」
 さあ、と真冬は紫々を睨みつけて、
「ここで、決着をつけようか」

41竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/10/22(土) 18:59:40 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 紫々死暗の前には赤き炎を手に宿した、覚醒赤宮が。後方には銃口を頭に突きつけている白波涙が。
 完全に紫々死暗の包囲網が築かれていた。
 白波は全く何も言おうとしない紫々死暗を追い詰めようと、言葉で追い討ちをかける。
「さぁ?さっきまでの威勢はどうしたの?部下が居なくなったら何も出来ないワケ?」
 その言葉に対して、紫々死暗は笑みを浮かべるだけだった。
 眉をひそめる真冬と白波に紫々死暗は唇を動かす。
「キヒ。お前らこそ、たった二人で勝てるとでも思ってんのか」
 すると、白波の耳に横から鎖が発する独特な音を捉える。
 急いで横を振り向くが、かわすことが出来ず白波が持っていた銃を、横から伸びた鎖が弾き飛ばす。
「ッ!?」
 紫々死暗はその隙に屋上から、電柱の上に飛び移る。
 真冬と白波は鎖が伸びている方向へと目を向ける。
 そこに立っていたのは、服は紫々死暗と一緒だが、顔つきは幼い、十五歳程度の顔つきをした少年が立っていた。
 片目が隠れるほど長い金髪に、細身の少年は紫々死暗へと視線を移して、
「ったく、出来が悪いんだからあんまウロチョロすんなよ。死暗兄さん」
「だぁっとけ」
 少年の言葉に真冬は眉をひそめ、言葉を復唱する。
「兄さんだと?」
「……アイツ、紫々死暗の弟の紫々伊暗(しし いあん)よ。かなり頭がキレるっていう噂。今回、私達の襲撃を画策したのも、アイツの仕業ってワケ」
 真冬は伊暗を睨みつける。
 伊暗は目を合わせない。
 合わせる価値でもないかのように、ずっと兄の方を見ている。
「伊暗。お前はこの二人を引き付けとけ。俺ァもう一人の契血者(バディー)にトドメを刺してくる」
「夏樹か!?」
 死暗は不気味な笑いを残してその場から去っていく。
 真冬は追おうとするが、ここには紫々伊暗がいる。
 行こうか行かないか、悩んでいる真冬に白波が、
「行きなさい!アンタは自分の契血者(バディー)を守るの!あと三時間程度しか残ってないわ!ここで逃げられたら水の泡よ!」
「涙……」
 白波は太股にしまっておいた、もう一丁の銃を引き抜き、伊暗に銃口を向けて言う。
「覚悟は、助ける覚悟は出来てるんでしょ?」
 真冬はコクリと頷くと、脚に思い切り力を込めて、電柱を飛び移っていく死暗を追う。
 その姿をずっと眺めていた朧月は、白波に視線を移し、
「……いけるのか?」
「やーね、昴。アンタも信じてないワケ?」
 白波は左側の髪を耳にかけ、楽しそうな笑みを浮かべると、弾かれた銃を拾い、二丁の銃を構える。
 それから、意気込んだ声で告げる。
「楽しくってしゃーないわよ!久しぶりに、本気で闘(や)れそうなんだから!!」
「……」
 伊暗はその言葉に低く舌打ちをして、不機嫌な表情を浮かべる。
「……そーいうの、マジイラつく」

42竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/10/23(日) 13:10:33 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第7話「紫色を突き抜けて」

 白波は銃を構えながら、相手の出方を窺っている。
 一方の伊暗も攻撃を仕掛けてくる様子は微塵も見せず、ただ両手で鎖を持っているだけだ。まるで、獲物を捕まえる時の冷静な目つきで白波を見つめている。
 そんな伊暗の様子を全て見た上で、白波は告げる。
「来ないの?だったら、こっちから撃つけど?」
 白波の余裕を表す言葉に伊暗は呆れた表情で溜息をつく。
「いちいち告げる必要あんの?んな事確認せずバンバン撃ちゃいーじゃん、この馬鹿白髪」
 伊暗の言葉に白波はこめかみに青筋をピキリ、と立て、両方の銃から弾丸を一発ずつ放つ。
 挑発するのは得意でも、挑発されるのはあまり慣れていないらしい。
 伊暗は構えもせず、ただ迫り来る弾丸を待っているように見える。
 その中で、ゆっくりと、口を開く。
「ただ、お前ごときの弾丸は当たらないけど」
 伊暗の前に突如として、紫色の炎が紙に水をぶちまけた様に、不規則に広がる。
 紫色の炎は白波の放った弾丸を焼き、伊暗の身体を守る。
(……何にも付加させずに炎を単体で出した!?)
 紫色の炎の後ろから、伊暗の鎖が飛び出る。
 伸びた鎖には、紫色の炎が纏っており、白波の左腕に鎖が絡まる。
 だが、それだけではなかった。
 巻きついた鎖の紫の炎が白波の腕を焼き付ける。
「ぐあああああああああああああっ!?」
 徐々に焼き傷がつき、白波の顔が苦痛に歪む。
 鎖を解こうにも、右腕を使えば左腕だけでなく右手もダメージを負ってしまう。腕が使えなければ、銃を持つことも、弾丸を撃つことも出来なくなってしまう。
 伊暗は苦しむ白波を見て、不適な笑みを浮かべている。
「痛いですかー?焼印押されたーみたいな感覚?ま、焼印押されたことなさそうだし、分からないよね」
 伊暗の視線は自身の契血者(バディー)が傷ついているにも関わらず、全く手を出そうともしない朧月に向けた。
 人間なのだから、手を出したところでどうこう出来るわけではないが、せめて言葉を発するものだと伊暗は思っていた。
 どうせなら、人間とヴァンパイア二人の慌てふためく顔が見たかったのだが、少々面白さが半減してしまった気分だ。
 伊暗は白波の腕を鎖から解放させると、
「契血者(バディー)さーん。アンタは手出さないの?このままじゃ、アンタの契血者(バディー)さん死ぬぜ?つーか殺していい?この馬鹿白髪」
「……出すワケねぇだろ」
 朧月は目を閉じてそう答える。
 それから、左腕を押さえて息を切らしている白波を見て、告げる。
「俺は確かに、お前の言う馬鹿白髪の契血者(バディー)だ。だから、そいつを信じてるんだ。絶対に勝てるって。お前のその綺麗ぶった顔面にドギツイ蹴りでもかましてやるってな」
 痛みに俯いていた、白波の表情に笑みが零れる。
 ニッコリとした、微笑ましいものではなく、二ィ、とニヤけるような、ちょっと怪しさを含んだ笑みだ。
 白波は顔を上げて、改めて銃を構え直す。
「……弾丸は通らないし、左腕は使用不能……。まさに、ここで逆転できたら私カッコよくね?」
 伊暗は呆れた表情で、
「逆転なんか無理だって。アンタの身体を焼き傷だらけにしてやるから、ちょっと立ったまま待ってろ」
「あー、それ無理」
 白波は銃口を伊暗に向けて、引き金に指を添える。
 白い炎を纏わせた弾丸を、放とうと構えた状態でただ告げた。
「私、もう勝つ方法思いついたから!」

43竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/10/29(土) 10:12:47 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 一方、覚醒状態にある赤宮真冬は自分に背を向けて逃走を続ける紫々死暗を追跡していた。相手も自分が追っていることには気付いているらしく、時折振り返って自分との距離を確認している。
 二人はほとんど同じ距離を保ちながら逃走と追跡を繰り返している。
 真冬が追いつくことも、紫々死暗が逃げ切ることもない。
 その中で、焦っているのは契血者(バディー)が死にかけている赤宮真冬ではなく、何故か紫々死暗の方だった。
(くそっくそっ!何なんだよ、アイツ!一向に距離が縮まらないのが救いだが、こんなんタチの悪すぎる持久戦だ。そんなんじゃ……)
 紫々死暗は万が一の時のため持っている自分の爪の解毒剤が入っているポケットを確認する。
 それから、あることを思いついてしまう。
(……そうだ。キヒヒ、その手があるじゃねぇか)
 ニヤリ、と不気味な笑みが黒いマスクの下で刻まれる。

「倒す方法?」
 白波の自信と共に告げられた言葉に伊暗は訝しげな、というより明らかに不機嫌な表情をする。
 彼は鎖で空気を裂く音を鳴らしながら、鎖を回している。
「そ、案外簡単なのよねー。いやー。思いついた私って天才!?」
 わははー、と声を上げながら白波は笑っている。
 それに苛立ちを隠しきれない伊暗は、鎖で叩きつけるように攻撃を開始する。
 だが、白波はそれを横方向へ飛んでかわす。
 それから銃口を相手に向け、白い炎を纏った弾丸を相手に放つ。
「……学習しないな。やっぱり馬鹿か」
 伊暗は同じように自身の前に紫の炎の形が定まっていない盾を出し、弾丸を防ぐ。
 それから、これもさっきと同じやり口で炎の中から鎖を伸ばし、炎を纏わせた鎖で相手に攻撃をする。
 そして、白波は鎖の前に自分の火傷の傷痕が残る左腕を差し出す。
「ッ!?」
 伊暗は一瞬躊躇ったが、構わず白波の左腕に鎖を巻きつかせ、既に火傷のある左腕に更にダメージを重ねてやる。
 白波の表情から痛みが窺える。
「……やっぱりな、さっきのはハッタリか。僕を油断させようという作戦だったらしいけど……」
「はぁ?」
 俯いている白波の表情から笑みを零れる。
 白波は顔を上げて、
「誰がハッタリだって?私は、言った事は実現する……」
 白波は腕に巻きついている鎖を左手でがっしりと掴み、そのまま鎖を操っている伊暗をこちらへと引き寄せるように引っ張る。
「!」
 伊暗が当然のようにこちらへと鎖に引っ張られ引き寄せられる。
「……お前、自分の腕を犠牲にして……!?」
「私は、言った事は実現するチョーカッコイイし、可愛い女なのよッ!!」
 ゴッ!!と伊暗の顔面に白波の膝蹴りが突き刺さり、伊暗は仰向けになって倒れる。
 白波は炎を失った鎖を右手を使って外し、鎖を朧月に差し出す。
「武器、持っときなさい。何の役に立つかは分かんないけど、無いよりはきっとマシよ」
「ああ、そうだな」
 朧月はその鎖を白波から受け取り、円状にまとめるとベルトに挟む。
 白波は真冬と紫々死暗が向かった方へ視線を向けると、
「行くわよ。早く行って加勢でもしないとね」
 そう行って、白波を先頭に朧月は走り出す。

 紫々死暗は電柱の上で立ち止まる。
 真冬はその一個前の電柱の上で足を止めている。
「何だ、遂に観念したか?」
「キヒヒッ。まさか」
 紫々死暗はポケットから、小さい瓶を取り出して真冬に見せ付ける。
「これは、俺の爪の解毒剤だ。お前はコレが欲しいんだろ?」
「分かっているなら話が早いな」
 紫々死暗は持っている手、つまりは右腕を振りかぶる。
 真冬に渡すつもりならば振りかぶらないだろうし、何をするつもりか、真冬にも分からなかった。
 紫々死暗が思いついたこととは、
「……じゃあ、契血者(バディー)もろとも死ね」
 下の、アスファルトの地面目掛けて紫々死暗が解毒剤を投げつける。
「ッ!?」
 思いのほかスピードが早く今から降りては真冬も追いつかない。
 だが、彼女は瓶を掴もうと下へと急降下する。
「キハハハハハッ!!これで、お前の契血者(バディー)は一生助からずに死ぬ!!ザマァ見やがれ!!」

 その時、落ちていく瓶に地面すれすれのところで、何かが巻きついた。

44竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/10/30(日) 12:55:11 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 紫々死暗が電柱の上から叩きつけるように解毒剤の入った瓶を落とす。
 真冬は一気に下まで降りるが、瓶の落ちる速度が速く、彼女が手を伸ばしても届かない。
(くっ……このままじゃ、夏樹は……!)
 真冬が諦めかけた瞬間、瓶に鎖のようなものが巻きつく。
「ッ!?」
 その鎖に真冬と紫々死暗は見覚えがあった。
 真冬は何となくだったが、紫々死暗からすれば、見間違うことなく誰の鎖か答えることが出来るだろう。
 真冬にしてもこの局面で鎖を使う人物など一人しかいない。
 紫々死暗の弟の紫々伊暗だ。
 と思ったが、現実は違っていた。
 瓶に巻きついた鎖が引っ張られ、瓶が鎖の持ち主の方へと引き寄せられる。瓶を掴んだ人物は真冬の敵ではなく、信頼できる仲間だった。
「……諦めてんじゃねーよ。まだ霧澤を助けてねーだろ」
 鎖を使っているのは朧月昴。
 その傍らに白波の姿もある。
「……お前ら……」
 真冬の表情が緩む。
 安心か、安堵か、色々な感情があるだろうが、今は敵を退けて来たことに表情が綻ぶ。
「オイ、アイツは……伊暗の野郎はどうした!?」
「ん?」
 白波は悪戯っ子のような可愛らしい笑みを浮かべて答える。
「あー、あの小奇麗な顔に蹴りをぶちかましてノックアウトさせてきたけど?この鎖は戦利品」
 紫々死暗の表情が驚愕に変わる。
 白波はふふ、と笑って、
「昴。アンタは先に病院に行って夏樹君にそれを使ってあげなさい」
 朧月は小さく頷くと、病院へ向かって走り去る。
 解毒剤も手に入った。仲間も無事だった。『四星殺戮者(アサシン)』は全員倒した。
 最早、真冬の中に一つの不安要素も無い。
 真冬は地面を力強く蹴り、紫々死暗の前に現れる。
「ッ!?」
「さーて、後はどうなるか……説明するまでもないよな?」
 真冬は紫々死暗の胸倉を掴み、一気に下降していく。
「は、離しやがれ!!」
 掴まれている腕を爪で切り裂けばいいのだが、危機的状況に陥った紫々死暗はそこまで頭が回らない。
 どんどん地面が近づいていき、紫々死暗の思考が爆発する。
「これがお前と私の差だ。暗殺者如きが、図に乗るな!!」
 ガゴォッ!!という轟音が響き、紫々死暗の顔が地面にめり込む。
 容赦ないなー、と呆れ気味に見ている白波が溜息をつく。
 紫々死暗は気を失い、ぴくぴくと動くしかしなかった。
 戦いは、ここに終結した。

 病院。
 真冬と白波は院内であるにも関わらず息を切らして走っていた。
 真冬はある病室の扉を勢い良く開け放つ。
「夏樹!!」
 扉を開けると、状態を起こして何でもなかったかのように朧月と話している霧澤夏樹の姿があった。
 真冬は目に涙を溜めて、表情を綻ばせながら霧澤に抱きつく。
「おい、ちょ……赤宮?」
「……馬鹿が……!無茶をするな……!心配したぞ、泣きそうになったぞ、悲しかったぞ……、でも」
 真冬は霧澤の胸の辺りに顔を埋(うず)めながら呟く。
「……無事でよかった、夏樹」
 霧澤は溜息をついて、真冬の頭に手を置く。
「……ああ、ごめん」

 奏崎薫は目が覚めた。
 時計の針は午前七時三十分を指していた。通常なら、もう昼食用のお弁当を作っている時間だ。
 寝過ごしたなー、などと思いながら彼女は携帯電話を開く。
 すると、メールが届いていた。
(……メール……?誰から……)
 奏崎はメールのフォルダを開いて、確認する。
 赤宮真冬からだった。気になる内容を見て、奏崎は思わず笑みを浮かべる。
『夜分遅く、申し訳ありません。報告したい事があって、メールさせていただきます。私、やっぱり夏樹君のことが好きみたいです。だから、これからは友達としてライバルとして。お願いします!』
 というのが内容だった。
 奏崎は携帯電話を閉じて、呟く。
「……もう、分かってたって」

45竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/10/30(日) 13:24:21 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
〜あとがき〜

『VaMPiRe』第一章ついに完結であります。
銘を打つなら『四星殺戮者(アサシン)編』でしょうか。
さてさて、それではここでちょっとキャラを纏めておきたいので、紹介させてもらいます。

霧澤夏樹(きりさわ なつき)
本作の主人公。
自分のクラスに転校してきた真冬と知り合い、ある事がきっかけで彼女が『ヴァンパイア』だと知る。
『自分が彼女を助け、彼女が自分を助ける』という約束をし、彼女の契血者(バディー)となった。
勉強はいまいちだが、歴史系は得意。
体育の成績の中の上くらいで、中学の頃は朧月と一緒に喧嘩ばかりしていたらしい。
奏崎薫とは幼馴染。名前が女っぽいことを気にしている。

赤宮真冬(あかみや まふゆ)
本作のヒロインの一人で、魔界に住む『ヴァンパイア』。
人間界で立派な『ヴァンパイア』となるために派遣され、霧澤と契血者(バディー)となる。
成績優秀ではあるが、運動系はあまり得意ではない。
血を吸うと覚醒状態となり、髪が伸び、目つきが変わり、喋り方も豹変する。
赤色の炎を使用する。
霧澤に好意を抱き始めた。

奏崎薫(かなでざき かおる)
霧澤と同じクラスの女子で、新聞部の部長を務める。
幼馴染の霧澤をからかうことがあり、『なっちー』というあだ名は彼女が付けた。
噂ごとやネタになりそうな情報をすぐに嗅ぎつける。
霧澤には小さい頃から好意を寄せている。
真冬の正体や、霧澤と真冬の関係には気付いていないが、真冬の事は恋敵兼ライバルと認識している。

朧月昴(おぼろづき すばる)
霧澤達と同じ学校に通う同級生。
病院の院長の息子だが、医者になる気はないらしく、勉強は中の下くらい。
白波の事は親にも話しており、了承を得ている。
白波の契血者(バディー)である。
『四星殺戮者(アサシン)』の件で霧澤達と進行を深めるが、霧澤とは既に知り合いだった様子。
紫々伊暗撃破後、彼の鎖を戦利品として自分が扱っている。

白波涙(しらなみ るい)
本作のヒロインの一人。魔界の『ヴァンパイア』。
真冬と同じく人間界に派遣されてきた一人で朧月の契約者(バディー)。
魔界の情報を手に入れるのが早く、霧澤達に魔界の情報を伝える中継役にもなっている。
銃を武器に戦うが、肉弾戦も出来る。
白い炎を使い、それを銃弾に纏わせて放つ。

さて、一応主要キャラだけ載せておきました。
気付いているかもしれませんが『ヴァンパイア』にはある法則があります。
それはあえて伏せておきますが。
さて、次の章は新キャラが出ます!
しかも、女同士の契血者(バディー)なのです!
霧澤達も、どたばたな毎日を送りそうです。

それでは、次回の更新をお待ちください!

46竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/11/05(土) 10:24:57 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第8話「少女の憂鬱」

 午前六時。
 あるアパートの一室で、一人の少女が目を覚ます。
 腰くらいの綺麗な色の金髪に、きりっとした瞳、そして、同年代の女子に比べれば、背が高めの少女だ。
 五月下旬の朝日は眩しく、窓から差し込んだ日差しが電気を消している暗い室内を良い感じに照らしている。
「―――、眩しい」
 少女は眠い目を擦りながら、時計で時間を確認する。
 彼女がいつも目を覚ますまで一時間あるため、もう一度布団をかぶって寝ようとすると、
 家のインターホンが元気良く鳴らされる。
 少女が溜息をついて、玄関の方へと向かい、ドアを開ける。
 ドアを開けると、立っていたのは二人のかなりごつい体格にいかつい顔をした二人の学生だ。
 どうやら、少女を迎えに来たような体勢でいる。
「……んだよ」
 少女はその二人にそう尋ねる。
 二人は、声を揃えて、
「おはようございます、姐さん!迎えに来ました!」
 そう、告げられた。
 少女は深い溜息を吐いて、
「……るせーな、お前らが来なくても学校には行くっていつも言ってるだろが……余計なことすんじゃねーよ……」
 それでも、少女はせっかく迎えに来てくれたわけだし、髪をくしゃくしゃとかいて、
「わーったよ。今すぐ用意すっから待ってろ」
 少女がドアを閉めようとする時に、一人の男がこう告げた。
「姐さん!パジャマ可愛いっすね!」
 バゴン!!という音ともに男の顎に少女の鋭い蹴りが炸裂し、ドアが閉められる。
 少女は部屋に戻って、自身の制服へと着替えていく。
 何故か、男子用の制服だ。
 パジャマを脱ぎ、制服のズボンに脚を通し、シャツを着て、学ランの袖に腕を通す。そして、左側の髪を左耳の上にかけて、鏡で確認する。
 すると、一緒の部屋で寝ていた一人の少女がのそっと起き上がって、
「ゆりー……」
 非常に眠たそうな声を上げて、少女の名を呼ぶ。
「……瑠璃(るり)……ごめん、起こした?」
 彼女は、起き上がった少女に合わせるように身を屈め、そう訊ねる。
 少女は首を横に振ると、寂しそうな顔で、
「……ねぇ、百合(ゆり)。今日も、学校なの……?」
 制服も着てるし、そう思われたのだろう。
 百合と呼ばれた少女は、コクリと頷いて、
「うん。でも安心して、なるべく早く帰るようにはするから。それまで大人しく待ってるのよ?」
 百合は瑠璃と呼んだ少女の頭を撫でて、優しい言葉でそう告げる。
 『早く帰れるようにする』という言葉に瑠璃は表情を綻ばせて、満面の笑みを浮かべると、
「うん!」
 と元気良く頷く。
 百合はフッと笑みを浮かべて、
「じゃ、行ってくる」
 百合は鞄を肩に担ぐように持ち、玄関に立て掛けてあった木刀をベルトに挟み、ドアを開け、鍵を閉める。
 それから待っていた男二人を引き連れ、
「行くぜ」
 そう告げて、歩き出す。
 二人の男も彼女の後ろを歩く。
 彼女、汐王寺百合(しのうじ ゆり)の右手の中指にはめている『何か』がきらっと輝く。

47竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/11/05(土) 13:42:46 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 午前七時半、霧澤家。
「夏樹くーん!起きてー!」
「ぶほっ!?」
 布団の中で気持ちよく寝ていた霧澤の腹に、真冬のタックル、もとい抱き付きが炸裂し、霧澤は僅かに嗚咽を漏らして目を覚ます。
 霧澤は腹を押さえながら、ベッドから落ちて悶絶している。
「……な、なな……何しやがるテメェ……!」
 霧澤は腹を押さえながら、ちゃっかりと制服に着替えている真冬に問いかける。
 問いに対し、赤髪美少女の赤宮真冬は、
「何って……もう七時半回ってるよ?早く学校に行かないと……」
「……今日は創立記念日だって……昨日の終礼での先生の話聞いてねぇのかよ……!」

 真冬の表情が固まった。

「……え?」
 目を点にして首をかしげる真冬に、腹の痛みが治まってきた霧澤は、
「だから、今日は創立記念日で休校。冷蔵庫に貼ってある日程表に書いてるだろ」
 霧澤がそう言った瞬間、真冬は冷蔵庫の日程表を確認せず、携帯電話を掴む。
 電話をしようというのか、掛けた相手は奏崎薫だ。
 三回コール音が鳴ると、いつも通りの元気な声で、奏崎は電話に出た。
『ハーイ!私も、君も、皆大好き薫ちゃんでぃーす!』
 ふざけた言葉が返ってくるなり、真冬は単刀直入に聞き出す。
「今日って創立記念日なの!?」
 半ば叫ぶように訊ねられたせいか、奏崎は驚いたような声を漏らした。
 それから何食わぬ顔で、
『そーだよ?つーか、昨日先生言ってなかった?』
 どうやら本当らしい。
 真冬は電話を切って、冷蔵庫に貼ってある学校の日程表を見ると、確かに今日の日付は休校だ。
「まさか本当だったなんてぇー!!」
「どんだけ俺を信用してねぇんだよっ!!」
 真冬が頭を抱えてうずくまるが、霧澤は自分を信用してもらえて無い悲しさからか叫んでしまう。
 とりあえず、今日はせっかくの休みなので、霧澤と真冬は出かけることにした。
 奏崎は学校の新聞に載せる記事の取材、朧月と白波も出かける予定があるらしく、霧澤と真冬は二人で遊びに出かけたのだ。
 買い物に行こう、ということで街に出た二人は適当に店を見ながら歩いている。
「……街を歩くのも、結構久しぶりですね!」
「ああ、お前が学校に転校した翌日以来か。まあその後に『四星殺戮者(アサシン』の件があったからなー」
 二人は何気なしに街を歩いている。
 しかし、何故か真冬が周りをキョロキョロしだす。
 その行動を不審に思った霧澤は、
「……赤宮?どうした?」
「いえ……」
 真冬は霧澤に聞かれても、辺りをキョロキョロと見回しながら、
「何だか視線が気になって……」
 霧澤も見ると、確かに道行く人々がこちらへと視線を向けている。
 というか、自分達に、というよりは真冬に視線が集中しているような気がする。
 真冬は、普通に見た目が可愛いので、周りの人が視線を奪われるのも納得できない霧澤ではない。実際に、彼も真冬は可愛いと思っている一人だ。
 だが、
(……こいつが『ヴァンパイア』だって知ってから、何となくそこら辺の軸が緩んでるんだよな……。忘れてたけど、こいつ。結構見た目は可愛いんだった……)
 久しぶりの外出のせいか、それなりにオシャレな服を着ている真冬はどこかのモデルと間違われてもおかしくない。
 それと一緒に歩いている自分がどう見られてるか、考えるだけでも背筋がぞっとする霧澤。
 街を歩いているだけなのに、妙に楽しそうにしている真冬を見て、霧澤は問いかける。
「なあ、赤宮。お前って、遊園地とか動物園とか……そういうところに行きたくないのか?」
「え?」
 不意の質問のせいか、真冬はきょとんとした顔を霧澤へ向ける。
「いや……俺の金銭的問題を気遣ってくれるのは嬉しいけど……気にしなくていいんだぞ?俺だって、出来ればお前と一緒に楽しみたいし……」
「そうじゃないんです」
 真冬は霧澤の言葉を遮ってしまうような形でそう呟いた。
 真冬は僅かに頬を赤く染めて、
「……私は、ただ夏樹君と一緒にいれるだけで、幸せだなって……感じてるし……。あまり、高望みはしません……」
 だから、と真冬は一度言葉を区切って、
「今は、夏樹君と一緒にいれるだけで、私は嬉しいよ!」
 真冬はにっこりと、見る者全てに安らぎを与えるような笑顔を霧澤に向ける。
 その笑顔に僅かに顔を赤くした霧澤は、顔を逸らして『そうか?』と曖昧な回答を返す。
 彼は、心の中ではこう思っていた。
(……ちくしょう……!久しぶりに可愛くなりやがって……!)

48竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/11/12(土) 10:12:43 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp

(どーしてこーなった!?)
 学校に向かう途中、平凡な女子高生だったはずの汐王寺百合は心の奥底でそう叫ぶ。
 彼女は普通の高校に合格して、普通の高校生ライフを送るつもりだったのだが、彼女の悪夢は高校生活三週間目に起こった。
 家に迎えに来た男二人。
 彼らはよく校内で喧嘩をしており、先生も怖がって止めようとしないため汐王寺が仕方なく止めたりしていた。勿論周りの人からは心配されていた。
 その次の日も次の日も次の日も。喧嘩を続ける彼らに、汐王寺は注意を続けた。
 その結果、その二人に汐王寺は『姐さん』と敬愛され、学校にいた少々素行の悪い生徒達が彼女の下に集まってきた。
 学校には『汐王寺百合の結成した不良軍団』と女子達で結成された『百合様を愛する会』の二つが出来上がってしまった、というわけだ。
 『百合様を愛する会』の人達はただの女子高生で、不良とは何の縁も無い。ただ、彼女達は汐王寺をカッコイイ、と思ったのかそういう会を立てたのだ。毎日毎日、会員の女子が一人ずつ弁当を届けに来てくれる。汐王寺からすれば、嬉しいのだが。
 だから、高校二年生の汐王寺は最近学校に行っても憂鬱な時が流れるだけだ。
(……はぁ、ったく。何で私がこんな事を……。不良達を纏め上げるまでは普通の喋り方だったのを改めて、不良っぽい話し方にして……ってか、意味あるのかな)
 汐王寺が学校の門をくぐると、女子達がワーキャー叫んでいる。
 彼女は基本的に恥ずかしがり屋なため、こういうのに慣れていない。といっても、一年生の後半から行われたため、二年生の今となって慣れていないは可笑しいだろう。
 汐王寺は女子の声を半ば無視して校舎内に入る。
「……いいか、お前ら。授業はちゃんと受けろよ。次のテストで赤点取ったら承知しねぇからな」
 はい!!と言って不良軍団はそれぞれの教室へと入っていく。
 学校の成績では、彼女は常に上位をキープしているのだ。
 汐王寺は教室に入って、自分の席。窓側の一番後ろの席に座り、窓から見える景色を眺める。
(……普通に……。……普通に戻りたい……!)

「へー、この契約の指輪って周りからは見えないのか」
「『ヴァンパイア』の事を知っている人なら見えるけど。一般人には見えないかな。だから、昴君の両親には見えてたはずだよ」
 霧澤と真冬は街中でそんな会話をしていた。
 契約の指輪は、霧澤と真冬が契血者(バディー)となった時に右手の中指に現れた、鉄製の細い輪の真ん中に、赤色の小さい玉が埋められただけのシンプルな物だ。
「どーりで。同じモンつけてるのに薫が何も言わないわけだ。バレたら学校に記事にされそうだしな」
「視覚防壁があって良かったね」
 真冬は笑みを浮かべながら霧澤にそう言う。
 霧澤は気付いていないが、真冬が手を繋ごうと必死にもがいている。
 しかし、いきなり握ってもびっくりされるかな、と握ろうとしては諦め、握ろうとしては諦めを繰り返している。
「つーことはアレか。こういう指輪つけてたら大抵は『ヴァンパイア』か契血者(バディー)になるってことか」
「う、うん、多分」
 真冬は僅かにびっくりしたような口調で返す。
 すると、前方にキョロキョロしている女の子を見つける。
 明らかに不審に思った霧澤と真冬は顔を見合わせて、その少女に近づいて行く。
 綺麗な桃色の髪を肩くらいまで伸ばし、頭頂部から二本の髪の毛が触覚のように下に垂れている。明らかに幼い顔立ちで、身長も霧澤の腹位までの少女。
 二人が近づくと、真冬が優しい声で問いかける。
「……どーしたの?お母さんとはぐれた?」
「うにゅ?」
 少女は振り返る。
 真冬は首を傾げて、少女の返答を待っていると、意外な言葉が帰って来た。
「迷った」
 は?と目を点にする霧澤と真冬。
 真冬はもう一度少女に尋ねると。
「にゅー、迷った!」
 久しぶりの休日を満喫したい二人だが、困った人を放っておける程人見知りでは無い霧澤と真冬は少女の家を探すために歩き出す。

49竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/11/13(日) 10:56:39 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 一つの影が電柱の上に降り立った。
 上からではなく、何処かの上から電柱に乗り移ったような降り立ち方だった。故に、それが人だと気付くのには時間が必要だった。
 その人物は身長より大きい鎌を持っており、黒を基調としたブレザーの女子制服を着用している。髪も黒く、腰の辺りまで伸ばしている。かなり美人の類だろうが、目の鋭さが美しさを半減させてしまっているような印象がある。
 その女は小さく息を吐いて、独り言を呟く。
「まったく、人間界は動きにくいぞ。魔界では考えられなかったが、本当にこの世界は空気中に魔力がないんだな」
 誰かが聞いていたら、耳を疑うような内容だが、人に聞かれていたらと彼女は思う事など無い。
 この世界において『自身がヴァンパイアである』など、人に話したところでどうにもならない。
 それに、隠すなら鎌を見せないようにするし、電柱の上に飛び乗ったりしない。
「ふむふむ。しかし、こんな所まで来た甲斐はあったぞ?この魔力は、あのクソガキか」
 ニヤリ、と女は口元を歪ませる。
「立派な『ヴァンパイア』など知るものか。私はヤツを倒せればいい。契血者(バディー)もいらん」
 目の前に斬るべき対象もいないのに、女は鎌を上に振り上げる。
「待ってろよ。宿敵」

「うーんとね、家を出てー。来た道を戻ってったら道が分かんなくなっちゃったの」
 小さい女の子の家を探すために霧澤と真冬は女の子の話を聞いていた。
 つまりは、家を探す上で何の手掛かりも無い。
 一から探さなければならないのか。
「はぁ。まさか最初から探さなきゃいけないなんて……」
「仕方ないよ。覚えてないんだもん」
 霧澤の疲れたような声に真冬はそう返す。
 一方で家を探してもらっている少女は、真冬と手を繋いで楽しそうに歩いている。危機感はゼロだ。
「っつか本当に親はどうしたんだ?」
「親はこっちにいないよ」
 は?と霧澤は目を丸くする。
「私は百合と一緒に住んでるの」
 親戚か誰かか、と霧澤は自己解決する。
「家の特徴とか分かる?」
 家を探していた真冬がそう訊ねる。
 少女はうーんと唸って、
「にゃ、いっぱいドアがある!」
「ドア?」
「アパートのことか?」
 ドアがいっぱいある家など、外見上でアパートかマンションぐらいしかない。
 アパートなら、この近くにあったような気がする。
「むむ!」
 少女が声を上げる。
 霧澤と真冬が首を傾げると、
「この道見たことある!百合と買い物行った時によく通る!」
 少女は周りをキョロキョロ見て確かめる。
 うんうん、と頷いたところを見るとどうやら見覚えのあるところに出たらしい。
「ありがと、おにーちゃん。おねーちゃん。こっからはもう大丈夫だよ!」
 ここまで来ればアパートはもう目と鼻の先だ。
 霧澤と真冬ももう大丈夫だろうと思って、肩の力を抜く。
 少女は走っていき、大きく手を振るとそれからは振り返らずアパートへ向けて走り去っていった。
 とりあえず一難去った二人は大きく息を吐く。
 今から買い物、という気分でもない。
「帰るか」
「うん」
 二人は意見を一致させて、自分の家へと戻っていく。

50竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/11/20(日) 13:07:39 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第9話「一人の契血者(バディー)」

 ぐったりとした調子で、(不良と思われている)女子高生の汐王寺百合は家路に着く。
 ドアの前で鍵を挿し込み、開けようと鍵を回すと。
 随分と軽い手ごたえだった。
 少なくとも、鍵が開いたような手ごたえではなかった。
 まさか、と嫌な予感が頭をよぎり汐王寺は勢い良くドアを開け放ち、
「瑠璃!?」
 と思わず叫んでしまう。
 そこへ、
「あ、おかえりー」
 やたらと軽い声で、茨瑠璃(いばら るり)は言葉を返してきた。
 自分の想像と、現実の温度差に汐王寺は玄関でずっこけてしまった。
「にゅ、百合だいじょーぶ?」
 茨が心配した表情で駆け寄ってくるが、無事で良かったと汐王寺は肩の力を抜く。
 それから、茨と向き合うような形で座り込んで、
「あのね、鍵を掛けなさいっていつも言ってるでしょ。何で出来ないのよ」
「……」
 口調こそは優しいものだったが、目は真剣に怒っていた。
 茨は完全に萎縮してしまい、俯いて黙り込んでしまう。
 汐王寺は息を吐いて、
「……黙ってないで何か言いなさい」
「……ごめんなさい……」
 俯いた状態なので、表情は分からないが茨は泣きそうな声で小さく呟いた。
 汐王寺も分かってくれた、と思って茨の頭を撫でる。
「分かればいいの。にしても、鍵を掛けてないってことは外出したの?」
「……うん」
 茨は顔を上げて小さく頷く。
 案の定目には涙が溜まっていた。汐王寺はポケットからハンカチを取り出して、茨の涙を拭ってやる。
「何処まで行ったの?」
「……よく、わかんないけど……いっぱいお店があるとこ……。途中で迷って……おにーちゃんとおねーちゃんがここまで連れて来てくれて……」
 偶然誰かに助けてもらったのか、と汐王寺は納得する。
 しかし、迷うわ鍵は掛け忘れるわ。汐王寺ママはまだ若干怒っている。
「今度からは道が分からなくなるところまで行かない。それと、ちゃんと鍵は掛けること。いいわね?」
「……うん」
 よし、と汐王寺は言って、立ち上がる。
「じゃあ晩ご飯の材料買いに行くから、ついて来る?」
「うん!」
 汐王寺は茨の小さな手を握って、部屋を出て行く。

「あー、何か疲れたなー」
 街の中で、朧月昴は呟く。
 両手に買い物袋を大量に持たされ、前のめりの状態になってぐったりしている。
 彼の前方には、やたら楽しげな表情の白波涙。
 彼女は真冬と同じく『ヴァンパイア』で、朧月は白波の契血者(バディー)である。
 彼らは『四星殺戮者(アサシン)』打倒の件で、霧澤、真冬ペアと知り合い学校でも少し会話を交わしたりしている。
 それ以前よりも、朧月は霧澤と、白波は真冬と知り合っていたのだが。
「何ボーっとしてんのよ、昴!ほら、駆け足!」
「……無茶言うな。腕も足取りも重くて走れるかっての。つーか何で俺が荷物持ちなんだよ」
 朧月の愚痴に白波はごく当然のように答える。
「男だから」
 余計に朧月はぐったりしてしまった。
 その場で止まって、頭を抱えていた白波が視界の端に二人の人物を捉える。
 汐王寺百合と茨瑠璃だ。
 一見姉妹のように手を繋いで歩いているだけだが、二人の右手の中指にある『物』を白波は見逃さなかった。
 それは、自分と朧月、霧澤と真冬がつけているものと、酷似した指輪だ。
(―――もしかして)
「……どうしたんだ、涙。さっさと戻ろうぜ……」
「ん、ああ。そうね」
 それに気付かない朧月は、涙に帰宅を促す。
 白波もこれ以上持たせたら本気で朧月が心配なので、今日は帰ることにした。
 
 偶然見かけた、契血者(バディー)のことを秘密にしながら。

51竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/12/03(土) 12:53:55 HOST:p6105-ipbfp4104osakakita.osaka.ocn.ne.jp

「あっれー?」
 お風呂上りの霧澤夏樹の妹、梨王は冷蔵庫を開けて声を上げる。
 後姿からでも分かる。彼女は冷蔵庫の中をキョロキョロと見回している。
「……どーうしたんだよ、梨王。つーか開けたらすぐ閉める」
 霧澤家にはいくつかルールがある。
 その内の一つが『冷蔵庫を開けたらすぐ閉める』ことだ。
 その他にも『風呂は母、梨王、夏樹の順で入る(後に夏樹の前に真冬追加)』だとか、『家事は分担すること』など母親が決めたルールが存在する。
 ルールを守れ、と言わんばかりに冷蔵庫に『すぐ閉めろ』という紙が貼ってある。
 梨王は冷蔵庫を閉めて、
「ねー、お兄ちゃん。牛乳買ってきてー」
「何でだよ!」
 霧澤は思わず叫ぶ。
 梨王は毎日風呂上りにコップ一杯の牛乳を飲むのが習慣となっている。なんでも『飲まないとお風呂から上がった気がしない』らしい。
 毎日、切れる前に買ってあるのだが、今日は母親も忘れていたらしい。
「だって無いんだもん」
「自分で買ってくればいいだろ。いちいち人に頼るなっての」
「湯冷めしちゃうー!」
 梨王は霧澤の服の裾をきゅっと握って、ねだるような視線と言葉を送る。
 それでも、動かないのが霧澤夏樹という男だった。
 それを見て、真冬は立ち上がり、
「じゃあ私行ってきます」
「わーい!ありがとー!真冬お姉ちゃん大好きー!どっかのケチな兄貴とは違うー!」
「ケチで悪かったな。ってか赤宮も別に行かなくていいぞ?」
 真冬は苦笑いして、霧澤の言葉に答える。
「だって梨王ちゃん可哀想だし……本当に湯冷めしたら風引くし……」
 何だかんだで真冬は牛乳を買いに家を出た。
 風呂の順番が真冬であるため、霧澤は彼女が帰ってくるまで入れない。
「だから行かなくていいって言ったのに……」
 霧澤は、溜息をついた。

 真冬は近くのコンビニへと向かっていた。
 時刻は夜の九時前。会社や仕事から帰ってくるサラリーマンらしき人がちらほら見えるが、人通りはかなり少ない。
 あるいは、周りが暗いため、スーツ姿の人が見えにくいだけだろうか。
「……そういえば、今日会ったあの娘。何処かで見たことあるような気がするんだけど……」
 瞬間。
 まさに一瞬で真冬の背後に鎌を持った人物が降り立つ。
「ッ!!」
 降り立った女は横薙ぎに鎌を振るうが、真冬が身を後方へ逸らし、攻撃をかわす。
 後ろへ二歩、三歩下がると真冬は目つきを僅かに鋭くさせて問う。
「……誰?どうせ『ヴァンパイア』だろうけど……」
 女はニィ、と笑みを浮かべる。
 身長より長い鎌を持ち、黒を基調としたブレザーの制服、腰まである黒髪に鋭い目つき。その目つきが美しさを半減させてしまっているような、残念な印象の女は、
「そうだぞ?私も『ヴァンパイア』だ。お前と同じな。何故気付いたか、教えてほしいか?」
 真冬は答えない。
 武器を常に持っていそうだし、彼女は契血者(バディー)から血をもらわなくてもある程度戦える、白波と同タイプだ。
 つまり、今の真冬に戦う術はほとんどない。
(……少しの間なら覚醒できるけど……それで、この人を倒せるとは思わないし……)
 それに、と心の中で真冬は一度言葉を区切る。
(この人、かなり強い……!)
 真冬があれこれ頭で考える。
 だが、そんな事を知らない相手は、真冬に斬りかかる。

52月峰 夜凪 ◆XkPVI3useA:2011/12/04(日) 17:42:39 HOST:softbank221085012009.bbtec.net
久しぶりにコメントさせて頂きますノ

お風呂上りに牛乳ですか〜、ちなみに月峰はコーヒー牛乳派でs((
それはさておき、まさかの真冬ちゃん強敵に遭遇!
でも、真冬ちゃん強いから大丈夫かな、とか思っている自分もいたり←
そしてここで涙様が来たら一気に俺得となってしまいまs((黙
続きが物凄く気になります! 頑張ってください^^

あと、話が少し逸れますが、「剣―TURUGI―」読ませていただいてます^^ノ
ここで言ってもいいのか迷ったのですが、やっぱり向こうでは全部読んでからコメントしたいと思ったので;
かなり読むペースはゆっくりですが、読み終わり次第コメントさせて頂こうと思います!

53竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/12/04(日) 17:53:22 HOST:p6105-ipbfp4104osakakita.osaka.ocn.ne.jp

「―――!」
 家にいる霧澤は何かに気づいたように、辺りをきょろきょろと見回す。
 それを不審に思ったのは、彼と向かい合うように座り、ヨーグルトを食べている梨王だ。
「……どーしたの?お兄ちゃん」
 梨王はかなりじとっとした目でこちらを見ている。
 どうやら『この兄貴は何をしているんだか。マジでコレが兄とか嫌だわー』とか思っているに違いない。
 真冬の身に何か起きた、という予感がしたのだがそれを言うと本気で梨王に引かれそうなので、
「何でもねーよ。つーか、夜にばくばく物食ってたら一気に太るぞ」
「ぶっ!?ふ、ふふ……太りませんん!!だ、だってこれヨーグルトだもん!カルシウム摂ってるだけだもん!身長伸ばすためだもん!」
「背伸ばしたいなら運動とかやれっての。部活でもいいし」
 梨王は顔を赤くして頬を膨らませながら、ヨーグルトを食べ進める。
 一方で、誤魔化した霧澤はまだ不安から逃れていない。
(……何もないと、いいんだけど……)

 真冬は浅く斬りつけられた頬から血を一筋垂らしながら、目の前の女と対峙していた。
 鎌を持った女は、悠長に肩に担ぎながら真冬の出方を疑っている。
「……ああ、もしかして覚醒型だった?それならごめーん。戦う術、ないよねぇ?」
 真冬は眉間にしわを寄せ、相手を睨みつける。
 怖くないよ、と暗に告げるように、相手は笑みを浮かべる。
 確かに、今の真冬ではどうすることも出来ない。側に霧澤がいれば別だったろうが、今は違う。家に戻ったとしても、相手が追ってきて他の家族を危険に晒したくない。それ以前に、自分がまだ『ヴァンパイア』だと知られていないのだ。
「あー、そういや名前を名乗ってなかったぞ。黒曜闇夜(こくよう やみよ)だぞ」
「―――私は」
「あー、言わなくていいぞ」
 名前を名乗ろうとした真冬の言葉を黒曜は遮る。
「どーせすぐ殺すし。殺す相手の名前をいちいち覚える気なんてないぞ?」
「……」
「さて、んじゃとっとと終わらせるぞ」
 黒曜の鎌に黒い炎が纏う。
 闇のように、真っ黒な漆黒の炎だ。
「……ッ」
「燃え散れ」
 ガォン!!という轟音が響き、真冬の場に黒い炎を纏った鎌が振り下ろされる。
 巻き上げられた土煙で辺りは見えなくなる。
 だが、黒曜に確信があった。
 相手は倒せていない、という確信が。
 土煙の中で、赤い何かがきらめくのを見る。
 ボォ!!と赤い炎が渦巻き、周りの土煙を払いのける。
 そこには、赤く長い髪をなびかせた、鋭い目つきの女が炎を纏った手で鎌を止めている。
(……馬鹿な……ッ!)
「……ふん、大人しくしていれば……いい気になるな!!」
 赤い髪の女は鎌を押し返し、黒曜を睨みつける。
 赤い髪の女は、覚醒した赤宮真冬だ。
 『ヴァンパイア』として覚醒した少女が、黒曜闇夜を冷たい瞳で睨む。

54竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/12/04(日) 18:01:52 HOST:p6105-ipbfp4104osakakita.osaka.ocn.ne.jp
月峰 夜凪様>

コメントありがとうございます!

梨王はたぶんカルシウム摂れれば何でもいいと思います。
牛乳というのは特に深い意味がないのd((
真冬も霧澤がいないとただの人間ですしねー。
まあ、たぶん大丈夫かと僕も思いまs((←
今回の話では涙は出番が少ないかも……。
はい、引き続き頑張らせて頂きます^^

あ、本当ですか!?
それは嬉しいです。かなり進んでいる上にレス数のわりにスローテンポ((
gdgdですが、読んでもらって嬉しいです。
ゆっくりでいいですよ!
僕からしたら、読んでくださってるというだけでもとても励みになるので^^

55竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/12/09(金) 21:38:30 HOST:p6105-ipbfp4104osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 黒曜闇夜は目の前の光景に言葉を失っていた。
 光景―――、じゃない。彼女の瞳が移すものは、目の前の人物の方だ。
 まるで、何故いるのか分からないような。偶然学生時代の恩師に出会ったような。そんな表情で真冬を見ている。
 覚醒した、『ヴァンパイア』としての赤宮真冬を。
「……ふぅ」
 真冬は小さく息を吐く。
 呆れたような冷たい瞳は、しっかりと黒曜を捉えている。
「黒曜闇夜……だったな。初めて聞く名前だが……ん?待てよ」
 真冬が言葉を中断して、顎に手を添え考え出す。
「……何処かで聞いたことがあるな。さて、何だっけ?」
「……ま……」
 考えている真冬の耳に、黒曜の小さな呟きが届く。
 真冬は眉をひそめ、黒曜の言葉を待っている。
「真冬お姉さまー!!」
 黒曜の放った言葉は真冬にとって強力な威力を持っていた。
 黒曜は今までの冷徹な、まるで獲物を見つけた獅子のような表情から一転、やわらかい表情に変わり真冬に抱きつく。
「??」
 いきなり抱きつかれた真冬は頭にクエスチョンマークを浮かべている。
 そもそも姉妹でもないのに『お姉さま』と呼ばれたとはどういうことだろうか。
 理解していない真冬に黒曜は言葉を続けた。
「真冬お姉さまじゃございませんか!お久しぶりです!覚えてますか?私です。黒曜闇夜です!」
 真冬の顔は『誰だっけコイツ』の状態だ。
 それに気づかずに黒曜は自分の都合で話を進めていく。
「ここでお姉さまに出会えるとは何たる偶然でしょう!しっかし、さっきの小生意気な女は何処に……」
 どうやら相手は今の真冬が、先ほどまでの真冬とは別人だと思っているようだ。
 まあ同一人物だと知ったら、黒曜は攻撃してしまった念で自分を痛めつけそうな気がする。
 黒曜は真冬の両手をぎゅっと握って、
「お姉さま!私と一緒に行動いたしましょう!私とお姉さまが組めば敵ナシです!お姉さまも契血者(バディー)を見つけていらっしゃらないでしょう?」
「いや、私は……」
 真冬の否定の言葉は途中で切られる。
 何故なら、乾いた銃声が響き二人の顔の間を白い炎を僅かに纏った弾が、通り抜けていったからだ。
「誰だっ!!」 
 黒曜は真冬には決して向けない鋭い眼光で弾が飛んできた方向を睨みつけている。
 そこにいたのは一人の人影。
 その人物の持っている銃の銃口から、白い煙がゆらゆらと舞っている。
 肩より長めの白い髪に、水色の瞳を持った、小柄な少女、
 白波涙だ。
 睨まれた白波は口の端に笑みを刻み、言葉を返す。
「さあ、誰でしょーか?つか、アンタこそ誰よ」
「あぁ?」
 白波は呆れたように溜息をつく。
 それから相手を見下すような視線で、告げた。
「赤いののトモダチだけど?黒いのにはご退場願いまーす!」
 悪戯っ子の笑みで、白波はそう告げた。

56竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/12/11(日) 18:55:28 HOST:p6105-ipbfp4104osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 白波は銃口を黒曜に向けながら、相手を見つめている。
 そんな彼女を黒曜は鋭い眼光で、真冬は少々驚いた様子で見ていた。
 白波は軽く息を吐いて、銃を下へと下げた。
「真冬。何でアンタそんな怪我負ってんのよ。アンタなら余裕で倒せたでしょ?」
「……あのな」
 白波の言葉に真冬は僅かに眉を寄せた。
 文句を言うような、そんな表情を見せながら、真冬は白波に言葉を返す。
「私は覚醒型なんだ。お前と一緒にしないでくれ」
「あらー、ごめんなさい」
 わざとらしく笑みを浮かべて、意地悪をした時に謝るような声のトーンで白波は言う。
 彼女の視線は、真冬から一旦離れ、自分をずっと睨み続けている黒曜に移る。
「で、そこの目つきキツイ奴は誰?」
 真冬も自分の目の前の黒曜に視線を移した。
 実際のところ、真冬も彼女自身をあまり知らず(忘れているだけかもしれないが)、説明出来る状況じゃない。
 だが、真冬が口を開くより早く黒曜が口を切った。
「ふん、それはこっちの台詞だぞ。真冬お姉さまのトモダチ?そんなハッタリに私が騙されると思ったのか!」
 思い切り勘違いした台詞を吐いていた。
 真冬からすれば黒曜は『いきなり襲ってきた』『お姉さまと呼んでくる』『白波が友達だと信じない』という結構自分勝手な奴だ。
 今何を言っても無駄だろう、と真冬が溜息をつく。
 白波はそんな真冬を見て、
「お姉さま、ねぇ。そう呼んであげるなら、相手の交友関係くらいは知っておくべきよ?今みたいな勘違いも起きるしさぁ」
「……私はお前のような、お姉さまにただ近づきたいだけの輩を何度も見てきたぞ」
 そんな奴、魔界にいたっけ?と首を傾げる真冬。
 いや、いなかった。
「お姉さまとちょっとだけ話したい、という下心丸出しの奴も見た」
 そんな奴いたか?と再び首を傾げる真冬。
 そして、いなかった。
「私はそんな奴を、何人も叩き伏せてきた」
 黒曜が嘘で塗り固めた言葉を放ち、黒い炎を纏った鎌で白波に襲い掛かる。
 力強く地面を蹴って、白波との距離を詰める。
「そう、夢の中で!!」
 現実じゃないんかい!と思わず叫んでしまう真冬。
 白波は銃口を前へ向けて白い炎を纏った弾を撃つ。
 しかし、黒曜は避けようとしない。むしろ、そのまま前へ突っ込み弾を弾いていく。
「ッ!!」
 白波の表情が驚きに変わる。
 すると、一気に距離を詰められ、黒曜の鎌が白波の頭上を捉えた。
「終わりだ!」
 しかし、白波にその鎌が振り下ろされることはなかった。
 真冬が黒曜の鎌を赤い炎を纏った手で防ぎ、白波の銃を手で下に向けさせたからだ。
 真冬は二人の間に入って、二人の戦いをやめさせたのだ。
「―――止まれ、二人とも」
 真冬の言葉で、二人は武器を下ろす。
「な、何でですかお姉さま……何故……」
「今は争うべきじゃない。それに、お前は勘違いしている」
 うな垂れる黒曜に真冬は説得するような言葉をかける。
「すまないが、私はお前を覚えていない。それに私はお前のお姉さまじゃない。私には契血者(バディー)がいる。お前と組むことは不可能だ」
「な―――!」
 黒曜の表情が一気に凍りつく。
 それから、彼女は歯を食いしばり、
「……変わってしまったのですね、お姉さま。魔界にいた頃は、誰にも頼ろうとしてなかったのに……!」
 黒曜は高く飛び上がり、電柱から家の屋根へと、どんどん飛び移り、去っていった。
 彼女が去った後に、真冬は白波へと視線を戻した。
「で、お前は何の用だ?偶然通りかかったようには見えないんだが」
「ん、ああ。それね。ただの忠告なんだけど……」
 忠告?と真冬が眉をひそめる。
 白波は偶然見かけた契血者(バディー)の話を持ち出した。
「危ない感じは、一応用心はしなさい。どっちが『ヴァンパイア』か分かりはしなかったけど、ちっこい子と金髪の女。注意はしておいて損はないでしょ」

57竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/12/25(日) 15:49:10 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 創立記念日の翌日の学校の放課後。
 真冬は白波から『用がある』とかで強引に連れて行かれていった。なので、普段真冬と下校している霧澤は今日は一人か、などと思っていると、偶然にも奏崎が『今日私部活ないから一緒に帰ろ!』と言ってきたので、一緒に帰っている途中だ。
「アンタさぁ、最近何か隠し事してない?」
 奏崎の不意の言葉に、霧澤は肩をビクッ!!と大きく震わせる。
 その様子を見逃さなかった奏崎が追い討ちを畳み掛けてくる。
「あ!やっぱ何かあるんでしょ!何よ、言いなさいよ!幼馴染に言えない様な隠し事って何!?」
「な、何でもねぇよ!ただお前がいきなり話し出すからびっくりしただけだっつの!」
 霧澤は執拗に追い詰めてくる奏崎にそう返す。
 幼馴染にも言えない隠し事。
 いきなり『赤宮はヴァンパイアだ』とか『俺は赤宮に協力する契血者(バディー)なのです』とか『朧月と白波も実はそうなんだぜー』とか言えるわけがない。
 まさか、その隠し事がここで追及されるとは。
 いつかは『アンタと真冬ちゃんってどういう関係?』とか聞かれても可笑しくない、と思っていたのだが、まさか隠し事から聞いてくるとは。
(昨日真冬に、この街に契血者(バディー)いるから気をつけて、って言われてるし……。白波に呼び出されたのも、それに関係してんのか?) 
 すると、前方にしゃがんでいる人影が見える。
 金髪の少女だ。年は霧澤や奏崎と同じくらいで、何やらダンボールの中を心配そうに眺めている。
 霧澤と奏崎の二人はその少女に見覚えがあった。
 髪の長さは長くなっているが、顔を見間違えることはない。
「汐王寺?お前何してんだよ」
「うわぁっ!?」
 いきなり声をかけられた汐王寺は、普段出すことはないであろう高い声を上げる。
 彼女が驚いた表情で、霧澤と奏崎の方へと振り返る。
「おまっ……、霧澤と奏崎か!カップルで仲良く下校かよ!」
「なっ?」
 汐王寺の言葉に、霧澤は僅かに顔を赤くする。
「俺と薫はそんな関係じゃねぇよ!大体、お前はここで何をして……」
 霧澤は叫びながら、ふとダンボールへと視線を落とす。
 そこには可愛らしい子猫が『みゃー』と鳴いている。
 捨て猫か、と霧澤は叫ぶのをやめた。
「……理不尽だな……。捨てられて可哀想に……。この子は、きっと自分が捨てられたってことにも気付いてないんだろうな」
 汐王寺の表情が切ないものに変わる。
 奏崎はしゃがんで、子猫の頭を撫でる。
 汐王寺は立ち上がって、木刀を腰から引き抜く。
「……まあ、それはそれとして。霧澤、ここで会ったが百年目。今日こそ決着つけようぜ」
 霧澤は溜息をついた。
 彼と汐王寺が知り合ったのは、二年前。霧澤と朧月が喧嘩仲間として仲良くやっていた頃で、その当時の二人は『なっちーアンドばるっち』と呼ばれ恐れられていた。
 汐王寺も二人と喧嘩したことがあるのだが、『女は殴らない』と二人に言われ、それ以来何かと突っかかってくるようになっていた。
「あのな、俺はもう二年前の俺じゃねぇんだよ。喧嘩なんかするかっつの」
「いいから構えろ!俺とやり合うか、俺にやられるか。選べ!」
「第三の選択肢発動。どっちも嫌だ。俺は帰ってドラマの再放送見る、という使命があるんだよ」
「んな使命はいいから戦えっての!」
 霧澤が奏崎と一緒にその場を去っていく。
 汐王寺は歯を食いしばって悔しさを滲み出していた。

「身元が分かった!?」
 真冬はそう声を上げる。
 現在、真冬がいるのは学校の屋上だ。
 放課後は誰もいないため、秘密の話をするには最適の場所。彼女と一緒にいるのは、白波と朧月の二人だ。
「うん。近辺の人に聞き込みしたらね。契血者(バディー)の方は汐王寺百合。二年前、夏樹君と昴の喧嘩相手だったらしいんだけど……、今はほとんど会ってないって」
 それでもう一人が、と白波が続ける。
「茨瑠璃。写真見せた方がいーわね。こっちは『ヴァンパイア』なんだし」
 白波が鞄から書類のような紙を取り出す。
 そこに写っている写真を見て、真冬は目を大きく見開く。
「……!う、嘘でしょ……?」
 そこに写っていた少女、茨瑠璃は昨日、迷ったと行っていた、霧澤と真冬が家を探すのに協力した少女だった。

58竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/01/06(金) 21:55:15 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第10話「The contractor of captivity」

 創立記念日から二日後、登校中に霧澤は真冬から、白波の手に入れた情報を聞いていた。
 やはり、昨日会った茨瑠璃。
 彼女が『ヴァンパイア』だとは驚いたようで、霧澤もしばらく黙り込んでいた。
 彼にはもう一つ衝撃的な事がある。
 それは、中学の頃、毎日のように突っかかってきた汐王寺百合も、茨瑠璃の『契血者(バディー)』ということだ。
「……驚い、た?」
 話してから一言も発さない霧澤を見て、真冬は恐る恐る訊ねた。
 霧澤は真冬の方を見ずに、ただ小さく『ああ』と返し、
「……見た目以上にはな」
 そう返しただけだった。
 昨日の下校中に、汐王寺に会った自分は、何で気付かなかったのだろう。一番分かりやすい目印、契約の証の指輪があるじゃないか。ただ指輪をしているだけだったから、気付かなかっただけなのか。霧澤は溜息をついた。
「なーんか……落ち着かないよな。お前が『ヴァンパイア』で、朧月が俺と同じ『契血者(バディー)』で、白波がお前と同じで、迷子が『ヴァンパイア』で、汐王寺が俺と同じ……。大体予想はしてたけど、お前が来てから、色々と生き方変わったよなー」
「……ごめん」
 霧澤の言葉に、巻き込んでしまった罪悪感を感じたのか、真冬は俯き謝る。
 突然謝られた霧澤は、言い直すように再び口を開く。
「お前のせいじゃねーだろ。それに、俺らが力を貸し合うように提案したのは俺だし。……だから、何だその、謝んな」
 霧澤は困ったように、真冬にそう言う。
 彼は別に、女の涙に弱い、とか女の子の気持ちが沈んでると心が傷む、とか。そんな特異体質ではない。
 だが、何故だか真冬にだけは悲しい顔をしてもらいたくない、と。純粋にそう思った。
 これが恋心なのか?と霧澤は自問自答するが、自分でも答えが分からないので、当然のごとく答えは返ってこない。
「朝から熱いねぇー。ヤケドしちゃうー。ひゅーひゅー!」
 と、二人の後ろから聞こえてくる冷やかしの言葉。
 霧澤はいつもの人物を思い浮かべた。
 部屋中ピンク一色の、ギャルげー大好き新聞部の幼馴染。
 そう、奏崎薫しかいないのだ。

 だが、振り返るといたのは白波涙と朧月昴だった。

「……」
 無意識に、予想が外れてしまった霧澤の表情はがっかりしていた。
 それを不快に思ったのか、白波はキッと目つきを鋭くして、
「何よ。何かご不満でも?」
「いや。……今の言い方は古いなーって―――」
 ズコッ!!と霧澤の口内に白波の銃口が押し込まれる。
「白波スーパーブレッド発射まで五秒前ー」
「わー!!ごべんばさい!僕が悪がっだでず白波サマー!!」
 口に銃を押し込まれてるからか、言葉が可笑しくなる霧澤。
 命乞いをする相手を見て、白波は満足そうによろしい、と言って銃を引き抜いた。
 その光景を見ていた朧月は、白波のことを『ドS』と確信し、真冬は霧澤の事を『ドM?』と疑問系になっていた。
 銃を太ももに収納した白波は、腕を組んで真冬の方を見る。
「ところでさ、真冬も夏樹君も。放課後空いてる?」
 霧澤と真冬は顔を見合わせる。
 二人は部活にも入っていないし、特に帰ってから用事も無いので、放課後は空いていた。
 白波は、二人の答えを聞かずに言う。
「空いてるんならさ、ちょっと付き合ってくんない?汐王寺百合と茨瑠璃に突撃インタビュー!やられる前にやれってね!」
 白波は可愛らしくウインクをしたが、言葉の最後の方がその可愛らしさを見事なまでにかき消していた。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

今回のタイトル。
日本語訳は『囚われの契約者』です。
さあ、誰が囚われになるのか((

59竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/01/07(土) 14:16:43 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp

「くそっ!」
 ある薄暗い廃屋で、苛立った調子で黒曜闇夜が柱を叩く。
 そこにいるのは、黒曜以外にもう一人いた。
 鉄板を積み重ねただけの、椅子とも言えない様な物に腰を掛け、腰より眺めの銀髪の髪を持っている。
 その男は苛立っている黒曜を見て、溜息をついた。
「まーまー。落ち着きんしゃい。憧れの赤宮真冬に偶然会ったと言ってからその調子じゃの。頭ば冷やせ」
 男の言葉は黒曜をなだめる様な言葉だったが、喋り方そのものは黒曜をあざ笑うかのように、真剣さに欠けていた。
 黒曜は相手の言葉で更に苛立ったのか、壁に立てかけてある鎌を掴み取り、相手に突きつけた。
「うるさいぞ。私は今虫の居所が酷く悪い。気安く話かけるな」
「それを俺にぶつけるのだけは勘弁じゃき」
 男は両手を上に挙げて、そう言う。
 関わるのも馬鹿馬鹿しくなったのか、黒曜は鎌を引っ込めた。
「……真冬お姉様は変わってしまっていた……!魔界にいた頃は、他人に頼らず、自分の力で何でもこなしていた……!なのに、今や契血者(バディー)がいないと何も出来なくなるほど弱くなってしまわれたなんて……!」
 黒曜の言葉に、男は呟くように返す。
「覚醒型じゃからのう。嫌でも頼らにゃいかんじゃろう。ま、覚醒型は少ないそうじゃが」
「……契血者(バディー)なんかいなくたって……私がお姉様をお守りする!一人の強さを、お姉様に再認識させてみせる!」
 黒曜の力の篭った言葉に、男は口を開いた。
「……それがたとえ、赤宮真冬と戦う事になってもか?」
 黒曜は口に笑みを浮かべ、返す。
 愉しげな、狂気に満ちた不気味な笑みを浮かべて。
「勿論だ。一人の私と、契血者(バディー)が必要なお姉様。私が勝てば、お姉様だって一人の方がいいと考え直してくださるはず」
 黒曜の笑みを見た男はわざと、怖がっているように震えてみせた。
「おー怖い怖い。女とはまこと恐ろしいもんじゃ」
 黒曜は暗がりに目をやる。
 僅かなシルエットだけが分かるのは、そこに手足を拘束した気を失っている人物がいることだけだ。
「……本当にこいつを使えばお姉様が釣られるのか?」
 問われた男は、簡潔に答える。
「勿論じゃ。どころか、お前と赤宮真冬の接触を邪魔した白髪の女も来るぞ。それと、両方の契血者(バディー)もな。その為に攫ったんじゃ」
 くく、と黒曜は含み笑いをする。
 それから、綺麗な氷のような瞳で、男を見る。
「感謝するぞ。地獄の副将、フルーレティ」
「……愉しみじゃのう。悪魔と『ヴァンパイア』の共同戦線じゃ」

 アパートの一室で、茨瑠璃は目を覚ます。
 時計の針は九時三十分を指していた。
 この時間では学校も始まっているし、同居している汐王寺百合がいないのも当然なのだが。
 何かが違う。
 茨は自分でも良く分からない違和感に落ち着かなかった。
 学ランがハンガーにかけてあるままだ。
 彼女は女生徒でありながらも、学校へ行く時は学ランを着ていっているはずだ。さらに、玄関にもいつもは護身用にと腰に挿して登校する木刀も、立て掛けてあるままだ。そして、茨はテーブルの上に手紙のようなメモ書きがあるのを見つけた。
 漢字も漢検二級程度まで読める茨は、その手紙を読む。
 それから、その手紙の文章に絶望した。
「……そ、そんな……!」

60竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/01/07(土) 21:35:20 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp

「つまりさ、つまりさー!」
 一時間目の休み時間、いつものようにと言えばいつものように。霧澤は奏崎と話していた。
 しかし、話していた、という割には喋っているのは奏崎だけで、霧澤は話を聞かされているようなスタンスだ。
 奏崎の話に、霧澤の元気が削がれていく。
「ギャルゲーなのに過激なシーンを織り込んだりすると、作品の魅力が失われるのよ。ギャルゲーとエロゲーの区切りはつけてほしいっていうか?まー、でもヒロインの愛美(まなみ)ちゃんは可愛かったなー。赤髪ツインテール萌えー。今度はクール系の沙耶架(さやか)ちゃんを攻略しようと思うんだけど、そこら辺夏樹はどう思―――」
「非常にどうでもいい!」
 奏崎の言葉を遮るように、霧澤がそう言い放つ。
 言葉を途中で切られた奏崎は頬を膨らませる。
「つーか、お前。朝っぱらからマシンガントークすんなっての。俺が入る隙が全くねーじゃねーか」
 奏崎はきょとんとした表情になる。
 すると、当然のようにこう言い放った。
「当たり前でしょ。入れないようにしてるもん」
「……!」
 奏崎の言葉に、青筋を立てる霧澤。
 そこは落ち着こうと深呼吸をして、落ち着きを取り戻す。
 奏崎は教室に真冬がいない事に気が付くと、
「ねー、夏樹。真冬ちゃん何処行ったの?」
「あー。隣のクラス。白波んトコ行った」
 白波さん?と奏崎は首を傾げる。
 会った事がないわけじゃないから、何となく顔は出てくる。
「真冬ちゃんと白波さんって仲良いの?性格とか正反対のような気がするんだけど」
「色々あるんだろ。俺とお前だって性格違うと思うぞ」
 奏崎はその言葉に納得したように頷く。
「そーだもんねー。私はいつも元気でニコニコだけど、夏樹は根暗な男の子だもんね」
 根暗で悪かったな、と霧澤は悪態をつく。
 それを慰めるように、奏崎は霧澤の頭を撫でる。
 すると、奏崎は思い出したように、
「そーだ!夏樹、アンタこないだヒロインが可愛いって言ってたゲームあるでしょ?」
「……あったけ?」
 そんな事を霧澤は言ったが、奏崎は聞いていない。
 むしろ、鞄の中を漁っていて言葉が聞こえていない、の方が正しいのだろう。
 奏崎は一枚のチラシを取り出した。
「これこれ!『ぷちみっくす!』っていうゲーム!これの続編が発売するんだけど、時期はまだ未定なの!だから、発売日一緒に買いに行こ!」
 明らかに嫌そうな顔をする霧澤。
 ヒロインが可愛い、と言ったかもしれないが今は覚えてないし、キャラが気に入っただけで何故買い物に付き合わなければならないのだろう。奏崎がゲームショップなどに寄った時の時間はかなり長い。
 それを知っている霧澤は嫌に決まっている。
「……嫌だよ。ゲームくらい一人で買いに行けっつの。小学生かお前は」
 その言葉に気分を悪くした奏崎は頬を膨らませた。
「いいのかなー?私が買ってもやらせてあげないよ?」
「結構です」
 ふと窓の方へと視線を向けた霧澤は校門で数名の人がいるのを視界に捉える。
 遠目なので、本当にそうかは分からないが、見たところ勝手に入ってきた人を教師が取り押さえている、といった感じだ。
「……何だ?校門の方騒がしいな」
「何、夏樹。もしかして下痢気味?」
「そっちの肛門じゃねーよ」
 そこで、夏樹は教師に取り押さえられている人を見る。
 知っている人物だ。忘れるはずがない。
 肩くらいの桃色の髪に、頭頂部から触覚のように飛び出た二本のアホ毛が、下に垂れている。そして、小学生のような幼い顔立ち。
 朝方に『ヴァンパイア』だと聞かされ、今日一日は忘れるはずがないであろう人物。
 茨瑠璃だ。
 霧澤は教室を勢いよく飛び出していく。
「あ、ちょっと!夏樹?」
 相手がいきなり飛び出して行った事に驚く奏崎だが、
「ま、いっか」
 あんまり考えないようにして、携帯ゲーム機の電源を入れる。
 言うまでもないが、彼女がプレイしてるのはギャルゲーだ。

61竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/01/08(日) 17:37:33 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 階段を下りながら、校門へ向かう途中に、窓から同じ光景を見たのか真冬と白波と朧月が後を追うように下りてきた。
 霧澤は三人と合流して、校門へと向かう。
「お前らも茨だって分かったのか?」
 霧澤の言葉に、白波がすぐさま返す。
「分かるわよ。顔は分からなくってもあんな特徴的な髪の色と髪型されちゃ気付かないワケないでしょ」
 それもそうだ、と霧澤は思う。
 実のところ、霧澤もあれが茨だと気付いたのは、顔じゃなく髪の色でだ。そもそも教室から遠い校門を見て、顔で判断するのは難しい。霧澤の目はそれほど良くはない。
 朧月は階段を下りながら、思わずと言った感じで呟いた。
「……にしても、何でアイツ俺らの学校に来たんだ……?」
 四人は靴を履き替えずに、そのまま校門へと走っていった。
 すると、結構距離があるにも関わらず、何を言っているかまでは分からないが、茨の声が聞こえてきた。
 どんだけでかい声で叫んでんだよ、と思うが、とりあえず茨の所まで走っていく。
「だーかーらー!ここにお兄ちゃんとお姉ちゃんがいるのー!」
 教師に抱えられている茨は手足をじたばた暴れさせながら、叫んでいる。
「だから、何回も言っているだろう。うちの学校に『茨』なんて物珍しい苗字の生徒はいないって」
「いるもん!絶対にいるもん!」
 茨はまったく引こうとはしない。
 止めに来た教師も呆れた表情で、溜息をついている。
 そこへ、ようやく霧澤達が到着した。
「すいません、先生!その子、うちの親戚なんですよ。何故かここまで追ってきちゃったみたいで……」
 霧澤と真冬を見るなり、茨は抱えていた教師の腕を振り解き、霧澤に抱きつきだす。
 それを見た教師が溜息をついて、
「分かったから、さっさと帰らせなさい」
 そう言って、止めに来た教師四人組は校舎へと戻っていった。
 とりあえず校門は目立つので、人気が無い校舎裏まで茨を連れて行く。
 どうして霧澤達の学校に来たのかは分からないが、ここに来た理由を訊ねると、大変なことが起きたらしい。
 それを聞こうと、真冬が口を切る。
「……で、どうしてここに来たの?」
 茨はこくりと頷いて、くしゃくしゃのメモ書きのような紙を、ポケットから取り出す。
 今にも泣き出しそうな声で、それを霧澤に渡すと、涙声で話し出す。
「……あのね、今日起きたら……百合がいなくて……。……制服、掛けたままだし……学校じゃないって、分かって……テーブルの上にそれが置いてあったの……百合の筆跡じゃないってすぐに分かった……」
 霧澤は紙を開いて、書かれていることを読む。
 それを真冬達も黙って聞いていた。
「『お前の契血者(バディー)は預かった。返して欲しければ藤ノ山(ふじのやま)学園に午前十二時に、赤宮真冬と白波涙とその契血者(バディー)を連れて来い。 Obsidian』……?」
 手紙を読み終わると全員が口を閉ざす。
 藤ノ山学園は汐王寺百合が通っている学校だ。奏崎が受けようとしていたが、霧澤と同じ学校を受けるために諦めた、と聞いているため霧澤には聞き覚えがあった。
 すると、白波が口を開いた。
「……要するに脅迫状ね。犯人は私達も狙っている。んで、最後の英単語。『Obsidian』ってどういう意味だっけ?」
「確か、黒曜石だ。石の時点を見ていると、そう書いてあった」
 黒曜石、という名前に真冬が反応する。
「……黒曜闇夜……」
 その名前に、全員は確信した。
 彼女が犯人だと。
「それって、この前アンタと一緒にいた鎌女?だったら、アンタと私を狙うのも頷けるわ」
 白波はそう言って、霧澤に視線を移す。
「真冬を追い込んでたから、強敵ってのは間違いないけど。どうする?やっぱ夏樹君は、こーゆー時止まれないカナ?」
 ああ、と霧澤は頷く。
 右拳を強く握り締めて、誓うように豪語する。
「行くぜ。茨の契血者(バディー)助けるぞ!!」

62竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/01/08(日) 19:15:22 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 午前十二時十分。
 相手の指定場所の藤ノ山学園の校庭前で、白波は腕時計を眺めながら苛立ったような声で唸っていた。
 それを見ている朧月は溜息をつき、ふと横へと視線を移した。
 すると、こっちに向かってくる二つの人影が目に入る。
「来たみたいだぞ」
 朧月の言葉に、白波は苛立った表情で朧月の視線の先を睨みつける。
 やってきたのは、やはり霧澤と真冬だ。
「遅い!アンタ達また遅刻よ!」
「仕方ねーだろ。こっちの方なんかあんま通らないし」
 怒鳴る白波に霧澤はそう言う。
 確か『四星殺戮者(アサシン)』を撃退した時も、遅いと怒られたような気がする。
 もっとも、その時は待ち合わせより早くついていたのだが。
 辺りをきょろきょろと見回し、真冬は白波に問いかける。
「涙ちゃん、瑠璃ちゃんは?」
「同じような名前を続けないでくれる?」
 言われてみれば、涙と瑠璃は確かに語感が似ている。
 それもそのはず。涙と瑠璃は一文字だけが違うのだから。
 聞かれた白波は、親指で校庭の方を指差す。
「茨瑠璃ならあそこ。あーそーこ」
 指差した方向を見れば、校庭の真ん中辺りに茨瑠璃が佇んでいる。
 小さい身体なのに、その後姿は動こうとする気配も無く、仁王像のように思えた。
「どうやら、茨瑠璃と黒曜闇夜は魔界で戦い合っている因縁があってね。まあ、黒曜が茨瑠璃を追いかけまわしてるだけだったらしいけど」
 白波は、付け足すような感じでそう言った。
 自分の契血者(バディー)を攫ったのが知っている人物だったことで、闘争心が燃えているのだろうか。
「私達も行きましょ」
 白波に促され、霧澤達も、茨の隣へと歩み寄る。
 すると、放送室でも使っているのか、音声が校庭にまで響いた。
『よく来たな。指定時間より遅いが、まあ大目にみてやろう』
 声に反して、黒い影が屋上の方から飛んできた。
 その影は霧澤達の前で止まり、姿を見せ付けるように黒く長い髪をなびかせた。
「……久しぶりだな、瑠璃」
 黒曜は茨を冷たい瞳で見下ろし、そう声を掛ける。
 彼女は鎌を担ぎながら、不適な笑みを浮かべている。
 対して、瑠璃からの返事は無い。ただ相手を睨んでいるだけだ。
「百合は何処?」
 茨は通常出さないであろう力の篭った声で、黒曜に訊ねる。
 黒曜は溜息をついて、後ろの校舎を鎌で差した。
「校舎の何処かにいる。傷つけてはいないし、助けたくば見つけ出すことだぞ」
 茨は拳に力を込める。
 しかし、と黒曜は一度言葉を区切って、
「アンタはここで私と戦うんだぞ。探しに行くのは、私を倒してから」
 茨は奥歯をかみ締める。
 悔しさではない。倒すべき相手に向けての威嚇だ。
「―――アンタと私の戦績って覚えてる?九十九勝九十九敗。だから、記念すべき百回目で、今回で決着つけよう」
「上等!!」
 茨は前に出て、黒曜と向き合おうとするが、茨の前をスッと腕が遮る。
 その方向に目をやると、腕を出したのは真冬だった。
「……お姉ちゃん?」
「真冬お姉様?」
 茨と黒曜の二人は驚いたような声を上げた。
 真冬はキッと黒曜を睨みながら、こう告げる。
「……瑠璃ちゃんは、先に百合さんを探しに行って。涙ちゃんと昴君も。黒曜闇夜は、私が倒す!」

63竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/01/09(月) 17:13:42 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 黒曜闇夜と茨瑠璃。
 この二人の戦いを止めるかのように、赤宮真冬は二人の間に立つ。
 予想外の出来事が起こり、黒曜は顔をしかめる。
「……どいてください、お姉様。今貴女に用はありません」
 真冬は黒曜の言葉を聞いてもなお、表情を変えることは無い。
 真冬はいつもとは違う、鋭い目つきで黒曜を睨みつけながら、黒曜に告げる。
「どかない。貴女の相手は、私がする」
 真冬の目には闘志が燃え盛っていた。
 今は誰に何を言われても、真冬は決して引かないだろう。そう思わせるような目だ。
「……お姉様に用はありません。だから、お姉様はすっこんでいてください」
 真冬は、否定の言葉を繰り返した。
「嫌だ!」
 黒曜は不快と焦りの二つによって、表情をしかめていく。
 真冬は手紙の内容を思い出させるように、口を開いた。
「手紙には、私と涙ちゃんにも来るように書いてあった。つまり、貴女は私にも用があるってことだよね。ここで戦わないと、出番ないしね」
 そこで、黒曜は当初の目的を思い出す。
 赤宮真冬を倒して、一人の方が強いと再認識させること。
 黒曜は魔界にいた頃に、一人で圧倒的な強さを持った真冬に憧れていた。
 それは理想でだった。誇り高き孤高の姿だった。一人でも目眩がするほど美しく輝いていた。
 そんな赤宮真冬に戻ってほしい。その為の手紙であり、赤宮真冬に対する挑戦状でもあったのだ。
「……そうだ、私は……あの時のお姉様に戻ってほしいんだ……」
 小さい声で呟く黒曜に、その場にいる全員が恐怖を覚える。
 何の前触れもなしに、黒曜の鎌の刃を覆うくらい巨大な黒い炎の塊が、鎌に纏う。
 その炎は全てを燃やし尽くし、灰に帰すような恐ろしさを秘めていた。
「一人の方が強いんだ!護る必要も、足を引っ張られることも、馴れ合う必要も無い、ただ一人の方が戦いには有利だ!」
「確かに、一人はいいかもしれない。でも、仲間がいれば、助け合える。力を合わせられる。喜びや楽しみを共有できる」
 真冬は覚醒状態でないにも関わらず、その場から炎を放出するような勢いで言った。
「貴女はただの子供の我侭に過ぎない!そんな甘ったれた考えは、私が叩き直す!」
 真冬の宣言に白波は軽く息を吐いた。
 いつもの真冬だ、と思わせるような感じで。
「これなら任せても大丈夫そうね。私達は校舎に行って汐王寺百合を探しましょう」
 白波に言われ、彼女に続くように、朧月と茨が校舎へと向かっていく。
「お姉ちゃん、頑張ってねー!」
 茨の声が、暗い一面に小さく反響した。
 場には、赤宮真冬と黒曜闇夜以外にもう一人いた。
 真冬の契血者(バディー)である、霧澤夏樹。
「……、どうしたの。夏樹君もいきなよ」
 真冬は背中を向けたまま告げる。
 しかし、霧澤の足は一向に動こうとしない。
「俺はここにいるぜ。戦い終わった後一人じゃ、さすがに寂しいだろ?」
「…………、巻き込まない自信、ないよ?」
「おいおい、俺を護ってくれるんじゃなかったのか?」
 真冬は僅かに眉間にしわを寄せて、霧澤の方を振り返る。
「大丈夫だって。俺はここにいる。何が出来るかは分からないけど、とりあえずいさせてくれ。俺だって契血者(バディー)だ。俺だって、お前と一緒に戦える」
 霧澤は自分の胸を拳で軽く叩く。
 真冬はその言葉に笑みを見せて、再び黒曜の方を向いた。
「じゃあ、夏樹君はそこにいて。そこにいるだけでいい。いてくれるだけで、私の力になる」
 真冬の髪が伸びていき、目は赤く、目つきは鋭く変化していった。
 赤宮真冬が『ヴァンパイア』の姿に覚醒したという事を言外に言っていた。
「前と同じように行くと思うなよ、黒曜闇夜。今の私は、自分でも恥ずかしいくらい最強だと思っている」
「いいですね、その響き。でも、最強だと思うのは一人の時だけでいいんですよ」

64竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/01/09(月) 20:23:40 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第11話「赤炎VS黒炎」

 校舎に入り込んだ白波、朧月、茨の三人は階段の前で立ち止まっている。
 白波は顎に手を添え、何かを考えている。
「ねぇ、昴。この校舎何階建てか見てた?」
 聞かれた昴は当然のような口調で答える。
「四階だろ。大抵の学校はそうだと思うぜ」
 朧月の言葉に、白波は小さく返事を返した。
 それから指揮官のように、朧月と茨にどう探すか指令を下した。
「手分けして探しましょう。瑠璃ちゃんは二階、私は三階、昴は四階。探し終わったら一階で合流」
 白波の言葉に、朧月はぎょっとする。
「ちょっと待て!何で俺が最上階なんだよ!」
 そう叫ぶ朧月に、白波は胸倉を掴んで耳を自分に引き寄せ、小さい声で耳打ちする。
「(……男でしょ。私達女に負担かけんじゃないわよ)」
「(……そういうもんか?)」
 白波は、朧月の胸倉から手を離す。
「とりあえず、二人とも頼んだわよ!」
 その言葉を合図とするかのように、三人は階段を駆け上がり、自分の担当する階を走っていく。
 三階の白波は、ふと窓の外を見ると、空中で何かがぶつかりあっているのを目撃する。
 その何かは、赤い影と黒い影。
 一見して何か分からないような光景だが、白波はその二つの影の正体をすぐに見破った。
(……最初からトバしすぎでしょ。後でバテなきゃいいけど……)
 白波は窓の外を見ている目を前方に戻す。
(しかし、あの黒曜闇夜って奴……。真冬と互角なんて、只者じゃないわね)

 赤宮真冬と黒曜闇夜は空中で激しくぶつかり合っていた。
 二人の表情には薄っすらと笑みが浮かんでおり、楽しんでいるようにも見えた。
 二人の激突を地上から見ている霧澤は、思わずといった感じで呟く。
「……すげーな。バケモンみたいだ……」
 真冬と黒曜の二人は、同時に地面に着地した。
 あれだけ激しく戦っていたにも関わらずに、二人はかすり傷の一つも負っていない。
 今までのはウォーミングアップだと言うように、二人の表情からは余裕が読み取れた。
「……中々やるようだな」
「これで驚いてもらっちゃこまります。まだ実力の二割も出してませんし」
 そうこなくてはな、と真冬の表情にいっそう強く笑みが刻まれる。
「しかし、今回のはさすがにお前でも無策すぎたな」
 真冬の言葉に黒曜は眉をひそめる。
 真冬は髪を手で梳かし、言葉を続ける。
「もし、お前がここで茨と戦ったとしても私達は四人で校舎に行けた。まさかお前は一人で、私達五人全員を倒すつもりか?」
 まさか、と黒曜は笑うように言う。
「私の今回の目的はあくまで、瑠璃と貴女です。白波涙はただのついでに過ぎません」
「じゃあ、お前はそのついでの涙を何故呼んだ?」
 黒曜の表情に、不気味な笑みが刻まれる。
 黒曜は鎌を構え直し、宣言する。
「どーせならここで全部潰そうと思ったんです。その方が楽ですしね」
「……楽、だと?」
 真冬は黒曜の言葉に眉をひそめる。
「どういう事だ。まさか、他に協力者がいるのか?」
 真冬の言葉に、黒曜は頷く。
 校舎の方に視線を移して、協力者の説明を始めた。
「彼には校舎にいる汐王寺百合の見張りについてもらってます。私が戦ってる間に掻っ攫われちゃ困りますしね」
 ほう、と真冬は少しだけ笑みを浮かべる。
「興味深いな。お前に協力する奴なんていたのか。一体誰だ?その女を見る目が全く無い愚かな男は」
 ニィ、と黒曜は笑みを浮かべる。
 まるで、この質問を待っていたかのような。そんな笑みを浮かべ、黒曜闇夜は答える。
「……お姉様なら、肩書きでも分かっちゃうかもですね 」
 ?と真冬は首を傾げている。
 そして黒曜は、真冬でも、いや。『ヴァンパイア』なら全員知っているような肩書きを口にした。
「……地獄の副将」
「ッ!!」
 その名を聞いた瞬間に、真冬の表情が一気に変わる。
 まるで信じられないようなことを聞いたときのように。
 一方で、『ヴァンパイア』ではない霧澤は『おぞましい肩書きだな』くらいにしか思っていない。
「……地獄の副将……フルーレティか……ッ!?」
 真冬が表情を変えた理由。それは明確に一つしかなかった。
 何故なら、黒曜が口にした肩書きを持つ人物は、『ヴァンパイア』の敵である……

 ―――悪魔だったからだ。

65竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/01/14(土) 23:40:30 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 黒曜闇夜が告げた名前に、真冬は戸惑いを隠せずに身体を小刻みに震わせていた。
 地獄の副将・フルーレティ。
 黒曜と共謀して今回の事件を引き起こしたのが、フルーレティならば真冬だけじゃなく、白波も茨も自分の耳を疑っただろう。
 今は敵対してるとはいえ、黒曜闇夜もれっきとした『ヴァンパイア』である。悪魔と手を結ぶなど、もってのほかの筈だ。
 だがしかし、黒曜の口調はまるで当然かのように。悪魔と『ヴァンパイア』が協力するのが世の摂理であるとでもいうように、実に軽々しく言ってみせたのだ。
 しかも『役に立つであろう駒』としての言い方なら、人物としては最悪だが、信用しきっていないと告げているこっちがマシだが、黒曜の言い方は『信用しきっている』言い方なのだ。
 戸惑いを隠せず、ただ右の拳に力を入れ、ただ佇んでいるだけの、隙だらけの真冬を黒曜は見逃さなかった。
 脚に力を込めて、思い切り地面を蹴り、一気に真冬の懐へと飛び込む。
「……、赤宮!」
「ッ!?」
 霧澤の叫びで、何とか反応する真冬だが、防御までの態勢が整えられない。
 黒曜の鎌の柄の先端が、真冬の腹に鋭く突き刺さる。
「……ッ!」
 声にならない呻きが、真冬の口から漏れ、真冬の身体はそのまま後方へと勢いよく飛ばされる。
 それにさらに畳み掛けるように、黒曜が地面を蹴って、真冬に接近していく。
「……、なめるなよ」
 真冬は飛ばされながらも、体勢を立て直し、足を地面で滑らせて、飛んでいく身体にブレーキをかける。
 すると突っ込んできていた黒曜の表情が、ハッとしたような表情に変わる。
 真冬は突っ込んでくる向こうを待ち受けるかのように、炎を纏った拳を振りかぶる。
(……まずい!速度を殺せない!)
 黒曜はそのまま突っ込んでしまう形となり、真冬の拳を直に受ける。
 何とか鎌の柄で凌いだ黒曜だが、力に圧され彼女の身体は、足で地面を滑り、五メートルほど飛ばされる。
 黒曜は軽く息を吐いて、鎌を再び構え直す。
 しかし、真冬は今はたとても戦いに集中できるような状態じゃない。
「……貴様、悪魔と手を結ぶなど……それでも『ヴァンパイア』か!貴様に『ヴァンパイア』としての誇りはないのか!黒曜闇夜!!」
 呼ばれた黒曜の返事はすぐには帰ってこなかった。
 どころか、彼女は僅かに沈黙をした後、予想もしない言葉を口にしたのだ。
「……なら、逆に訊ねますけど……悪魔と手を結んじゃいけないって、誰が決めたんですか?」
 真冬は思わず小さく声を上げる。
「学校でも、習いませんよ。確かに、私達の仕事は悪魔を討滅することです。その討滅すべき対象と仲良くしちゃいけないって、誰が言ったんですか?」
「それはただの子供の屁理屈だ!そんな器の小さい言葉が、通用すると思っているのか!」
「屁理屈ですよ?子供と呼ばれても構いません。勝てばいいんですよ。たとえ、どれほど醜く劣悪な手を使ってでも、勝たなきゃ意味なんてないんですよ。戦いにおいての大事な事なんて、勝つか負けるか。それだけなんですから」
 真冬は奥歯をギリっと噛み締める。
 相手の言動に腹が立ったからではない。
 相手の次元の狭い思考を、自分の言葉で説き伏せられない無力さに悔しがっているのだ。
「貴様は、一体どれだけ甘えているんだ……!」
「いいじゃないですか。まだまだ甘えたい年頃なんですよ」
 黒曜の鎌に大きな黒い炎が纏う。
 最初に出したようなものではなく、繊細さと鋭さを兼ねた、焼き切るような炎だ。
「だから、今はとことん甘えさせてもらいます!真冬お姉様も、頭をちょっとは柔らかくしたらどうですか!?」
 黒曜は鎌に纏った炎を真冬に向けて放つ。
 しかし、真冬は眉一つ動かさずその炎の刃を軽々とかわした。
「……どうした。まさか、この程度で私を倒せるとでも思ったか?」
「……言ったでしょ?甘えるって。貴女にじゃなく、後ろの契血者(バディー)の軟弱さにね!」
 そう。
 黒曜の狙いは真冬ではなく、彼女の後ろにいた霧澤だったのだ。
 黒曜の頭では、真冬が攻撃をかわすことなどお見通しだった。だからこそ、真冬はその自身の思考に漬け込まれたのだ。
「くっ……!」
 霧澤は足を上手く動かせず、その場で立ち尽くしている。真冬は地面を思い切り蹴って霧澤を守ろうと後ろへ引き返す。
 程なくして、霧澤の場所に黒い炎が直撃し、土煙が舞い上がる。

66月峰 夜凪 ◆XkPVI3useA:2012/01/16(月) 17:25:51 HOST:softbank221085012009.bbtec.net
コメント失礼しますノ

フルーレティって名前可愛i……ごほん((
そして読みながら思ったのですが、黒曜さんの「悪魔と手を結んじゃいけないって、〜」辺りのセリフが何気に深い気がしましたw真冬ちゃんには一蹴されていましたが←

そして夏樹くん、前!前!!((黙
でも、きっと我らが真冬ちゃん(Σ)なら何とかしてくれる!と期待していたり←

あと、もしかしたら何ですが、>>45にあるヴァンパイアのある法則って、もしかしたら名前(または名字)に色がある事かなぁ、とか考えていたりしてますwでも、はっきり言って自信は無いです←

それでは、続きも頑張ってください!

67竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/01/20(金) 20:16:21 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
月峰夜凪さん>

コメントありがとうございます^^

可愛いですか?言われてみれば確かにそうかも……。
ちなみに、フルーレティという名前の悪魔は本当に存在(されるといわれているだけかもしれない)悪魔です。
この編から本格的な悪魔さんが動き出します。

志村、後ろ後ろ!じゃなくてね((
僕も何とかさせてみようと頑張っておりますw

おお、よく分かりましたね!というか結構分かりやすかったり……((
赤宮真冬=赤色 白波涙=白色 紫々死暗・伊暗=紫色 茨瑠璃=瑠璃色 黒曜闇夜=黒色
出来れば黒と白はライバルにしたかったn((

はい、頑張らせていただきます!
お互いに頑張りましょう^^ノ

68竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/01/20(金) 21:53:18 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 黒曜闇夜は土煙が立ち上る一点を見つめていた。
 先程まで、その場所には霧澤夏樹がいたのだが、今は煙で人影すらも見当たらない。
 そもそも『ヴァンパイア』の攻撃を喰らって、平気なわけが無い。もし息があったとしても死ぬ寸前か、もしくは意識があっても動けない状態のどちらかに絞られるだろう。
 そう思ったせいか、黒曜は軽く息を吐いて、戦いが終わったかのような、構えも全くしない自然で、力を抜いた態勢をを取った。
 ずっと煙の中心を見つめている黒曜の目に、一つの人影が映る。
 あれを喰らって平気なのか、と身体を強張らせた黒曜だったが、その心配は杞憂に終わった。
 煙がはれると、姿を現したのは背中を向け、契血者(バディー)の霧澤を庇っている、背中に大きな火傷を負った赤宮真冬だ。
 黒曜は、僅かな笑みを浮かべて、勝ちを確信したように、言葉を発する。
「あらあら。無能で無力な契血者(バディー)を庇って……随分と痛そうな怪我をなされましたね、お姉様?」
 真冬は背を向けたまま、視線だけを動かして黒曜を睨みつける。
 だが、勝ちを確信した黒曜の余裕は、今の真冬では失わせることが出来なかった。
「……ッ」
 真冬は、ついに肩膝をついて、呼吸を乱す。
 その様子に、霧澤は心配そうな表情で、真冬に駆け寄った。
「……赤宮!お前、何で俺を……」
 真冬は、霧澤のその言葉に僅かに笑みを浮かべた。
「……何て顔をしている……情けないこと、この上ないな……」
 こんないつも通りの台詞でさえも、今は無理をしていることが霧澤でも分かった。
 真冬の笑みが無理をしていることなんて、一緒にすれば何となく分かってくることだ。
「……それに、私はお前を護る義務があるのでな……お前は、私を信じてこんな、危ない場所に残ってくれた……」
 言ったはずだ、と真冬は言葉を紡いでいく。
「……お前は、私が護ると……」
 しかし、そんな言葉も不可能だと示すような事態が真冬を襲う。
 腰まで伸びる真冬の赤い髪が、徐々に短くなってきたのだ。
「ッ!?」
 真冬自身も、何が起こっているのか分からずに、ただ目を見開いていたが、状況を理解すれば低く舌打ちをした。
「赤宮!まさか……」
「……ああ。さっきの攻撃を防ぐために炎を使いすぎたか……」
 真冬の髪は、肩くらいまでの長さまでに短くなり、目も、覚醒した時の鋭さなどは微塵も残っていなかった。
 これが示す状態は一つだけ。

 ―――赤宮真冬の、戦闘の時間切れ(タイムリミット)だ。

「―――そろそろ、か」
 暗い学校の教室の片隅で、地獄の副将・フルーレティはそう呟いた。
 彼がいるということは、恐らくこの教室の何処かに囚われの汐王寺百合もいるはずだ。だが、あまりにも中が暗く、窓から入る光もたかが知れているため、何処にいるのかは分からない。
 そんな、ほとんど真っ暗といっても良いほどの暗闇で、フルーレティは呟くように話し続けた。
「……そろそろ、終わる頃合じゃ。赤宮真冬と黒曜闇夜。一見似とる二人だが、その違いの差異は大きなものじゃ」
 フルーレティは両手の人差し指を立てて、その二本の指を真冬と黒曜に見立てたのだろう。二つの指を交差させる。
「他人を信じなかった者が変わり、信じるようになった。他人を信じなかった者が変わらず、ずっと一人で戦ってきた―――。要は、変わったか変わってないかじゃの。これだけで、大きな差があるもんじゃ」
 フルーレティは手を戻して、天井を仰ぎ見る。
 真っ暗で、何処を見渡しても黒にしか見えない教室の、天井を。
「成長した者か、成長せんかった者か。どっちが勝つかなんて……結果は明らかじゃろうにな」

69竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/01/21(土) 13:20:43 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 覚醒状態が解け、元の姿に戻ってしまった真冬は、ダメージのせいか気を失い、地面に倒れこもうとする。
 そんな真冬の身体を、霧澤は腕でしっかりと受け止めた。
 真冬は気を失い、とても戦える状況じゃないことは霧澤にだって分かる。自分じゃ相手に太刀打ちできないこともだ。かと言って、無力な二人を見逃すほど、黒曜闇夜が甘い人格を持っているとも思えない。
 黒曜闇夜は、そんな無力な二人に言葉をかけながら、ゆっくりと近づいていく。
「―――だから、言ったんですよ。お姉様」
 黒曜は真冬を抱えて、しゃがみこんでいる霧澤を冷たい目で見下ろしながら、ただ真冬だけに告げた。
「一人の方が強いって。護る必要も、足を引っ張られる心配も、馴れ合って弱体化する恐れも無い、一人の方が!」
 黒曜は真冬を抱きかかえている霧澤に、鎌を向けて、一言だけ相手に告げる。
「どけ」
 真冬と話す時とは全くの別人のような言葉、調子に霧澤は顔をしかめるが、どく気は一切無かった。
 むしろ、霧澤は真冬を護ろうとしているのか、真冬を抱きかかえている腕に、僅かに力が入る。その力は、真冬を抱きしめるような、優しい感じだ。
「……聞こえないか?どけ、と私は言ったんだぞ?お前じゃ、お姉様を護ることは不可能だぞ」
「……護れなかったら……」
 霧澤は、奥歯を強くかみ締め、黒曜に噛み付くように告げる。
「護れなかったら、護っちゃいけないのかよ……!」
 ―――ヒュッ。
 風を裂くような音の後に、霧澤は頬に僅かな痛みを感じると同時に、頬を伝う熱い液体に気がついた。
 痛みを感じる頬に触れ、確かめると、頬が浅く切りつけられていた。
 何をしたのか、されたのか分からない。ただ、誰がやったのかだけは分かる。目の前にいる黒曜闇夜以外は考えられない。
 黒曜は鎌の刃を、すぐに首を刎ねることが出来るように、霧澤の首につきつける。
「どけ、と言ってるんだ。お前の意志など聞いていないし、尊重する気もないぞ?いいからどけ」
 それでも霧澤が引くことは無い。
 痺れを切らした黒曜が鎌を振り上げようとした瞬間、気を失っていた真冬の手が、抱きかかえていた霧澤の腕に、優しく触れる。
「……赤宮?」
「……大丈夫だよ……ありがとう……」
 真冬は傷だらけの身体を必死に動かして、立ち上がる。
 覚醒状態の真冬は、体力や身体能力も通常の真冬より高い。つまり、覚醒状態で平然と立っていられた傷でも、元の真冬にとっては少々辛いかもしれない。しかも今回は、覚醒状態の真冬でも膝をついてしまうほどのダメージだ。今の真冬が立っているのが不思議に思える。
 それでも、真冬は息を切らしながらも立ち上がった。
「……まさか、まだ立てるとは思いませんでした……。そんな状態で勝てると?」
「……勝てる、勝てないじゃないよ……。……勝たなきゃ、ダメなんだ……」
 僅かに顔を俯かせている真冬に分からないように、黒曜は鎌を上に振り上げる。
 言葉を紡いでいる真冬も、それに気付かない。
「……私は勝つよ……。勝って、皆を護る……!」
「じゃあ、それを出来なくしてあげますよ」
 黒曜が、鎌を思い切り振り下ろす。
 黒曜も、霧澤も、この状況では誰もが、黒曜の鎌が真冬の身体を引き裂くかと思ったが、真冬は鎌に目を向けずに、片手で鎌の刃を掴む。
「っ!?」
 黒曜はその光景に、大きく目を開いた。
 真冬は、黒曜の鎌を掴んだまま告げる。
「……ごめんね、負けられないの……。一人の方が強いっていうのは、確かに一理あるよ……。でもね、誰かがいるだけで強くなれることもある……そう」
 真冬が一度言葉を区切り、ざわ、と真冬の雰囲気が揺らぐ感じがした。
 真冬の髪が腰まで伸びていき、目に鋭さが宿る。
「……今の私のようにな」
 血を吸ってもいないのに、真冬が覚醒状態へと変化した。
(―――馬鹿な!)
 ただ覚醒状態に戻っただけではない。
 さっきまでのより、感じる強さも雰囲気も段違いに高かった。
 黒曜は想定外の事態に顔をしかめ、真冬を睨みつける。
「お前が孤独を強さに変えるというなら、私は信頼を力に変える。それが、私の戦いだ!」
 真冬は、力の篭った声で黒曜に告げる。

70竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/01/21(土) 15:57:57 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp

(……馬鹿な……。……有り得ない……!)
 黒曜闇夜は目の前の現象に、ただただ目を大きく見開くだけだった。
 何故なら、徹底的に追い詰め、相手を覚醒状態から元の姿に戻したというのに、血を吸った様子も無い状態から、いきなり覚醒状態へと赤宮真冬が変化したからだ。
 覚醒型の『ヴァンパイア』は、血を吸い、その吸った血を炎へと変える。白波涙や、黒曜闇夜のような常時戦闘型とは違い、覚醒型は時間制限というデメリットの分、常時戦闘型より戦闘能力が高い。
 真冬は、驚いている黒曜を見つめ、ただ一言呟くように言う。
「―――行くぞ」
 瞬間、真冬は黒曜の懐へと一気に距離を詰める。
「ッ!?」
 真冬の迫る拳を黒曜は拳を、鎌で受け止め、押し返すように拳を弾き返す。
 真冬は僅かに体勢を崩しかけるが、すぐに立て直し、鋭い蹴りを黒曜の腹に叩き込む。
「ぐっ……?」
 黒曜はそのまま後方に三メートル程飛ばされ、後者にぶつかって動きを止める。
 そこへ、上空に飛び上がった真冬の拳が再び襲い掛かる。
 ガッ!!という音が鳴り、真冬の拳と黒曜の鎌がぶつかり合う。
 黒曜が押し返すように真冬を後方へと飛ばす。飛ばされた真冬は地面に着地するとすぐに、地面を蹴り黒曜へと攻撃をしかける。
 黒曜は鎌を上に振り上げ、真冬が迫るのを見計らい振り下ろす。
 が、真冬は鎌を蹴り上げて、黒曜の身体に大きな隙を作る。
(しまった……!)
 そして、黒曜のがら空きの腹に真冬の鋭い拳が突き刺さる。
 さらに真冬は畳み掛けるように、黒曜の顎を拳で強く打ち上げる。
 黒曜の身体が宙で舞い、仰向けになって地面に落ちる。
 黒曜もまだ戦えるようで、必死に身体を起こそうと腕に力を込めている。
「……すげぇ」
 二人の戦いを見ていた霧澤は、ただ一言だけを漏らした。
 そこで霧澤は、ふと真冬の違和感に気がついた。
 再び覚醒状態に戻ってから、真冬は一度も炎を纏っていない。
(……おかしい。赤宮は今まで戦う時は炎を纏っていたはず……なのに、何で今は纏っていないんだ……?)
「……零化(ぜろか)……」
 立ち上がった黒曜は、口の端から垂れる血を手の甲で拭いながら呟く。
 まるで、霧澤の心の疑問を答えるように。
「……零化は吸った血を空にして初めて、使える技だぞ……」
 黒曜は息を切らしながら、言葉を紡ぐ。
「……吸った血を空にし、覚醒状態を強制的に引き出す……」
 だが、と黒曜は一度言葉を区切る。
「零化の覚醒状態は、覚醒した時の爆発的な戦闘能力を得る代わりに、炎は使用できないんだぞ。つまり、覚醒型は常時戦闘型より戦闘能力が高いが、炎が使えなければほぼ互角」
 それを何を意味しているか。
 覚醒状態で炎が使えるのならば、真冬が優勢に立てるが、炎が使えなければ真冬と黒曜の戦闘能力はほぼ同等となってしまい、大きなダメージを受けている真冬が劣勢だということだ。
 それに、炎を纏った攻撃がくれば、生身の真冬が受けるのはあまりにも危険すぎる。
「お姉様。この勝負、私の勝ちですよ」

71竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/01/21(土) 17:10:32 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
訂正発見

>>70の14行目の『後者』は『校舎』です;

72竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/01/21(土) 17:28:58 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 圧倒的有利な状況だ。
 黒曜闇夜は、現在の戦況をそう見ていた。
 赤宮真冬が『零化』で再び覚醒状態に戻ったのは計算外だったが、『零化』の唯一の欠点、『ヴァンパイア』の武器である炎が使えないことはこの上ない致命傷だ。それに加え、真冬のダメージは黒曜よりも大きい。体力的にも、まだ余裕がある黒曜にとっては、とても有利な状況なのだ。
 だが、黒曜闇夜は心のどこかで、『圧倒的有利』の中に僅かに潜む不安を拭えないでいた。
 相手は炎が使えない。ほぼ満身創痍状態。ありとあらゆる自分にとって有利な状況を並べても、この不安はどうも拭えない。
 まだ心のどこかで赤宮真冬への憧れを捨て切れていないのか。自分はまだ彼女を超えられないと思っているのか。
 理由も不安の正体も分からないが、赤宮真冬という自分にとって強大で超えなければならない壁を越えたら、この不安は拭い去れるのだろうか。
(……いいや……)
 黒曜は心の中で、不安を否定する。
 肯定の言葉の一片も見せずに、ただただこの不安を何処かへ追いやろうと否定する。
(……今のお姉様は……赤宮真冬はただの敵だ。超えるべき壁。倒すべき強敵。今の奴に、恐れる要素は何一つ無い!)
 強い意志を見せるためか、それとも単なる自己暗示か。
 赤宮真冬への憧れを一切断ち切り、無駄な雑念は身体から外へと放り投げる。
 黒曜闇夜は黒い炎を纏った鎌を構え直し、赤宮真冬という憧れとの決着に臨む。
「……悪いが、私はお前に勝ちを譲る気など、毛頭ないぞ。そもそも、『零化』で炎が使えなくなることは私だって理解している。なのに、何故立ち上がったと思う?」
 黒曜闇夜は眉をひそめる。
 彼女にとってはどうでもいいことだが、どれだけ馬鹿らしい言葉をほざくのかが気になった。
 真冬は風でなびく長い髪を軽く梳かして言う。
「炎なんて使わなくても勝てるからだ。私とお前の力の差は、それほど大きく開いている」
「―――ッ!」
 その言葉が黒曜闇夜の不安の正体だった。
 黒曜でも分かる通り、赤宮真冬は馬鹿な女ではない。ましてや、力量を省みずに強敵に挑むなど、そんな事はしないと黒曜は思っていた。
 どこかで、『炎なんて使わなくても、赤宮真冬なら自分を倒してしまうんじゃないか?』と思ってしまっていた。
 それが。その心の弱さが、黒曜闇夜の抱く、心の隅にある不安の正体だったのだ。
 黒曜は、歯が砕けてしまいそうな程に、強く歯を食いしばる。
「……負けるわけがない……!炎の使えない奴に……、私が負けるわけがない……!」
 強気な言葉を並べるも、不安の正体に気付いた黒曜の心から『圧倒的有利』が消え失せる。
 黒曜の頭は混乱し、ほぼ自暴自棄気味に真冬へと突っ込む。
「うああああああああああああああッ!!」
「……そういえば、お前は私に憧れていた、と言っていたな。なら、私から一言お前へアドバイスがある」
 真冬は強く右の拳を握り締める。
 それから迫ってくる黒曜に、相手が聞いていようが聞いていなかろうが、構わないように言葉を発する。
「自分自身を見失ってしまったら、その時点で敗北だ」
 黒曜の頬に、真冬の拳が突き刺さる。
 黒曜の足が地面から離れ、そのまま後方へと一メートル程飛んでいく。彼女の手から鎌が離れ、鎌は校庭へと無造作に転がった。黒曜の身体も、地面を滑り、動きを止め、黒曜は仰向けのまま動かなくなった。
「……私ではなく夏樹を狙った時点で、お前は既に敗北していたがな」
 真冬は髪をなびかせるように振り返り、霧澤の傍まで歩いていく。霧澤の前に着いたと同時に、髪が元の長さに戻り、霧澤の身体に倒れこむように、バランスを崩す。
 霧澤は何とか真冬の身体を支える。
「……大丈夫か……?随分ダメージ受けただろ?」
「……うん、でも休んでられない……。すぐに、汐王寺さんを探しに行かないと……」
 そう言って、真冬は校舎を見つめていたが、霧澤が『あのさ』と話を切り出す。
「校舎に行く前に、行っておきたいところがあるんだけど……いいか?」
 真冬はそれが何処なのか分からず、きょとんとしていたが、こくりと頷いて、霧澤についていく。

73竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/01/22(日) 00:47:19 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第12話「信頼と結束」

 赤宮真冬と黒曜闇夜の戦いが終わる頃、茨瑠璃は囚われた自分の契血者(バディー)を見つけようと、校舎の二階を走り回っていた。
 教室の一つ一つの中に入ってくまなく探し、また違う教室へと入っていく。
 茨瑠璃は一番端っこの教室の前で立っていた。
 ここにいなければ、二階に汐王寺百合はいないということになる。後は、一階に戻って白波と朧月の二人と合流するだけだ。
 茨は教室の扉を勢いよく開ける。
 どの教室の中もそうだったが、やはりこの教室も暗い。外からの光もたかが知れている。差し込む光を見ても、決して明るいとは言えない。
 茨は教室の中に入って、辺りをきょろきょろと見回す。
 暗くてよく分からないため、壁を伝って電気のスイッチを探っている。
 すると、茨の指が何か冷たいものに触れる。
「ッ!?」
 思わず茨は手を引っ込める。
 反射的にだったが、一体自分が何に触れたのかは分からない。もう一度、さっきの場所に手を伸ばすと、
「運が悪いのう。お前さん一人か」
 茨が振り返ろうとしたところで、彼女の意識が後ろから声をかけた男の手刀で途切れてしまう。
 茨はそのまま、うつ伏せに床に倒れこむ。

 一方、朧月は四回の捜索が終わり、一階へ降りていた。
 階段を下りると、見知った白髪の少女が手を振りながらこちらへと駆け寄ってきた。
「あら、昴。瑠璃ちゃんより早かったわね」
 どうやら三階を調べていた白波は、朧月より早く降りてきていたようだ。
 朧月は周りを見渡し、茨がまだいないことを確認する。
「……茨はまだみたいだな。二階に行って様子でも見るか」
「そうね。もしかしたら、何かあったのかもしれない」
 二人は意見を一致させて、二階へと足を運ぶ。
 二階に着いた二人は、左右を交互に見て、ある違和感に感づいた。
「……おかしいわね……」
「ああ。茨がいるなら人の気配や、歩く足音が聞こえてもいいんだが……それが全くねぇ。行き違いか?」
 そこでよく目を凝らしていた白波が、廊下の端っこで教室から光が漏れているのを発見する。
「昴!あそこ、教室から光が出てる!あそこに瑠璃ちゃんがいるかもしれない!」
 白波と朧月の二人は、その教室まで走っていき、躊躇いもせず教室の中へと入っていく。
 中の光景に、二人は目を疑った。
 教室の中全てではないが、隅や壁の一部が凍っていた。そして、床に手足を縄で縛られて動けなくなったまま寝かされている汐王寺百合と、磔になって手足が凍らされている茨瑠璃の姿があった。
「な、何よこれ……」
「ようこそ。俺の舞台へ」
 白波と朧月は声の下方向へと視線を向ける。
 そこにいたのは、腰より長めの銀髪を持った男が机に腰を掛けていた。
 その人物を見て、白波の表情が変わる。
「……な、何でこんなとこにいるのよ……」
「おお、やっぱりお前は知っておったか」
 状況をよく飲み込めていない朧月は、知り合いか?と白波に訊ねるが、彼女は首を横に振った。
「……知り合いじゃないわ……。私は知ってるけど、向こうは知らないだろうから」
 白波の言葉に、朧月は首を傾げる。
 白波は両方の太ももに収納していた銃を二丁取り出し、銃口を銀髪の男に向ける。
「アイツは悪魔。それも、地獄の副将っていう異名を持つ。フルーレティという悪魔よ」
「中々の知識を持っておる。じゃが、俺への対策を練っとらん限りは勝てんよ」
 
 ヴァンパイア対悪魔の、戦いがここに始まった。

74竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/01/22(日) 13:11:50 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp

「楽しみにしとったよ……『ヴァンパイア』と戦うこの時を……」
 フルーレティは刀をゆっくりと引き抜きながらそんな言葉を口にする。
 まるで、何十年、何百年と待ちわびたような台詞を、白波はただただ相手の動きに警戒しながら聞いていた。
 フルーレティが刀を引き抜き、鞘を横合いに投げ捨てる。白波は、投げ捨てられた鞘に、一瞬たりとも目を向けない。
 フルーレティが刀の切っ先を上に向け、小さい円を描くように何度も切っ先だけを動かすように、くるくると回す。
 すると、切っ先でなぞった円から大小さまざまな形の氷のつぶてが表れる。
「せめて、楽しませてくれよ。俺は弱い奴には、興味なんてないからのう」
 フルーレティが切っ先を白波に向けると同時に、氷のつぶてが白波に向けて、一斉に襲い掛かる。
 白波は相手のその攻撃に、銃を構える。
「昴!アンタは下がって、汐王寺さんと瑠璃ちゃんを助けて!」
 白波のその言葉に朧月は、汐王寺の手足を縛っている縄を解く。
 白波は氷のつぶてが朧月や汐王寺、茨に飛んでいかないために、白い炎を纏った銃弾で氷のつぶてを打ち落としていく。
 打ち損ねたつぶてが白波の肩、足、頬を少しずつ掠めていく。
「……ッ!」
「銃二つで何とかしようと思ったらいかんぜよ。それと、俺を倒さねば茨瑠璃を助けることは不可能じゃ」
 フルーレティの言葉に、白波と朧月が反応する。
 その反応を読み取ったのか、フルーレティは答えを提示するように言葉を続けた。
「茨瑠璃の手足をよく見てみい。凍っとるじゃろ。アレが誰の仕業かは言わんでも分かるじゃろうが、俺じゃ」
 氷のつぶてがようやく止み、白波は僅かに息を乱しながら、フルーレティの言葉を聞く。
「アレは俺の『呪氷(じゅひょう)』じゃ。今は手足だけじゃが……時間が経てばあの女は全身が凍って命も尽きてしまう」
「……時間……?」
 フルーレティの言葉を、白波は呟くように聞き返す。
 フルーレティは口元に怪しげな笑みを浮かべて、
「リミットは一時間。それを過ぎれば、茨瑠璃は生きた氷の彫刻と化す」
「……一時間!?」
 フルーレティの告げた言葉に、白波はぎょっとする。
 決して短くはない時間だが、戦うとなればそれは別だ。戦闘での一時間などすぐに過ぎてしまう。
「磔にしてからお前らはすぐに来たから、残りは五十五分程度じゃ。早うせんと、死んでしまうぞ」
 白波は再び銃口をフルーレティに向けて、力強く宣言する。
「分かってるわよ!アンタなんか、私がすぐにぶっ飛ばしてあげる」
 白波は一つの銃に、力を集中させる。
 右手で持っている銃の銃口に、巨大な白い炎の塊が徐々に大きさを増しながら膨れ上がっていく。
 その光景に、フルーレティは表情を一つも変えずに、ただ笑みを浮かべていた。
「ほほう。炎のエネルギーを一点に集中させたか。中々面白い戦いをするのう」
「……喰らって、燃えて、焦げて……消え失せろぉ!!」
 白波は巨大な白い炎の塊をフルーレティに向けて放つ。
 しかし、それにフルーレティはかわすための動きに移ろうともしない。
 だが、代わりに彼は床に刀を突き刺した。
「『処罰の氷牙(ジャッジ・アイス)』」
 その言葉とともに、床から巨大な氷の氷柱が生え、巨大な白い炎の塊を貫き、技を打ち消した。
 自分の技がいとも簡単に防がれ、驚愕する白波だったが、彼女は次の攻撃のために、再び銃を前方に構える。
 だが、フルーレティは彼女に攻撃をさせるために隙を、一切与えない。
「『呪氷の拘束(アイス・ロック)』」
 言葉とともに、フルーレティは刀を横に振るう。
 すると、白波の両腕が後ろに回され、頑丈そうに見える氷の手錠で、手首を凍らされる。
「なっ……!?」
 イレギュラーな事態に、白波は持っていた銃を離してしまい、バランスを崩し、床に尻餅をついてしまう。
(……まずい!これじゃ戦えない……)
「さて、これからどう遊んでやろうかの」

75竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/01/27(金) 20:41:32 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp

「……お前は……百数十年前に起こった、『ヴァンパイア』と悪魔の戦争を知っとるか?」
 フルーレティはゆっくりと白波に近づきながら、そんなことを口にした。
 未だに両腕が上手く使えず立ち上がれない白波は、相手に十分な警戒をしながら、睨みつけるような目で対応する。
「……知ってるわよ。そんなの、魔界の住人なら知らない奴なんていないでしょ。……それがどうしたのよ」
 白波はそう返答する。
 彼女の返答に、フルーレティは口の端に笑みを刻んだ。
「俺も参加してたんだよ。その戦争」
「ッ!?」
 相手の言葉に、白波は目を大きく見開き驚愕する。
 だが、それは決して可笑しいことではない。
 『ヴァンパイア』は元は人間と対して差異はない。ただ、血を吸えるか吸えないかくらいの違いしかないのだ。だが、悪魔は違う。彼らは基本的に不老である。そのため、フルーレティのように、見た目が二十代後半に見えても、実年齢では百歳を軽々と超えるなんてこともあるのだ。
 だから、フルーレティが百数十年前の戦争に参加していても、何も可笑しいことはないのだ。
 フルーレティは、続けるように、そして遠く懐かしい記憶を思い出すように、感慨深く言葉を発する。
「……俺はそこで一人の『ヴァンパイア』と一対一で戦った……。強かったのう。お前のように、二丁の拳銃を使い、そして―――」
 フルーレティは、白波へと眼球を動かす。
「お前のように白い髪をしていた。名前は……ええと……」
「白波刃玖(しらなみ はく)。……でしょ?」
 僅かに言い淀んだフルーレティの言葉を補足したのは、白波だった。
「……何故、知っとる?」
「知ってるに決まってるわ。ひいおばあ様の名前くらい。おばあ様から何度も聞かされたわ」
 白波は挑発すような口調で、
「アンタを倒したって。案外口ほどにもないらしいじゃない」
 勿論、その言葉に表情を変えないフルーレティではない。
 むしろ、少しだけ表情を変化させたのが不気味なくらいだった。
 彼は、動けずにずっと尻餅をついたままの、白波の前に立つ。
「確かに、口ほどにもないかも知れんな。だが……」
 フルーレティは刀を真っ直ぐに上に挙げる。
「アイツはこんな風に尻を地面につけるような、無様な姿はせんかったぞ」
「……ッ!」
 武器も握れず、かわすこともできない。今の白波の状況を、簡単にたった四文字で表現できる。
 絶体絶命。
「終わりじゃ。白き『ヴァンパイア』よ」
 朧月がそちらへ駆け寄ろうとするが、それも間に合わない。
 フルーレティの刀が白波を切り裂く瞬間に、
 窓が急に割れ、黒い影が白波とフルーレティの間に割り込み、振り下ろされた彼の刀を弾いたのだ。
 その割って入った人物は、一人の少年を抱えながら、赤い髪をなびかせていた。
「……まったく、いいところ持っていきやがって……」
 白波は、登場した人物にそう告げた。
 赤い髪をなびかせた彼女は、こう告げる。
「ふん。一丁前に悪態か。そんな大口を叩くなら、その重い尻を床から話して言うんだな」
 
 赤宮真冬が、そこに立っていた。

76竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/01/27(金) 22:37:39 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 自分は倒れているんだ。
 朦朧とする意識の中、汐王寺百合は何となくそれを理解した。
 若干かすんでいるものの、自分の瞳に映る景色は教室のようだ。
 窓が割れるような音で目覚めた気がする。彼女はあまり上手く動かせない身体の状態を起こしながら、辺りを見回した。
 いるのは赤い髪の女と、白い髪の女と、彼女達と対峙するように立っている、銀髪の男。更に、見知った顔が二つある。
 すると、彼女の近くにいた朧月が声を掛けた。
「よぉ、もう大丈夫なのか?」
「……お前……朧月、か……?つか、ここは……」
 そこで、汐王寺は見てはいけないものを見てしまった。
 磔になっている茨瑠璃だ。
 汐王寺は血相を変えて、既に左半身が凍っている茨に駆け寄る。
「おい!瑠璃!?これは一体……」
「無駄だ」
 困惑する汐王寺の耳に、朧月の言葉が飛んでくる。
「その氷を解くにはアイツ、フルーレティを倒さないといけないぜ」
 朧月は前方にいるフルーレティを指差した。
 フルーレティと対峙する、赤い髪の女と一人の少年。
 汐王寺には、少年の方に見覚えがあった。
「……霧澤……か?」
 名前を呟かれた霧澤は、顔だけを汐王寺に向けて短く返答する。
「お互い厄介なことに巻き込まれたみたいだな。だが安心しろ。傍観者になるつもりも、お前を傍観者にするつもりもねぇからよ」
 そう言いながら、霧澤は汐王寺にある物を投げる。
 汐王寺はそれが何か分からないまま、反射で受け取ってしまった。
 彼女が受け取ったのは、自分の家にあるはずの木刀だ。
「おまっ……!これ俺の木刀じゃねぇか!何勝手に人の家に上がりこんでんだ!!」
「仕方ねーだろ、不可抗力だ!それがなきゃ、茨も救えねぇぜ」
 その言葉で、汐王寺の瞳に闘志が燃え盛る。
 それを合図とするかのように、朧月も指を鳴らしながら霧澤の横に立ち、真冬は白波の手首を拘束していた氷を砕き、白波を戦線に復帰させる。
 霧澤夏樹、赤宮真冬、朧月昴、白波涙、汐王寺百合。
 この五人による、茨瑠璃の救出作戦が始まった。
 しかし、先に動き出したのはフルーレティだ。
 彼はものすごい速さで、真冬へと突っ込み、刀を振るう。
 真冬も、炎を纏った手で、フルーレティの攻撃を防ぐ。が、悪魔の腕力に勝てず、押し返されて腕を後ろに回されてしまう。
 フルーレティの刀が真冬を斬るより早く、汐王寺の木刀が、フルーレティの刀を防ぐ。
「ッ!?」
 思わぬ人物の横槍により、フルーレティの気が僅かに緩む。
 その隙を逃さず、朧月は鎖を伸ばして、フルーレティを拘束した。
 そして、今度は霧澤がフルーレティの懐に潜り込み、彼の顎を強く殴り、上へと打ち上げる。
「白波!」
「分かってる!」
 霧澤の言葉とともに、白波が二丁の銃を構え、上空で身動きが取れないフルーレティへと、白い炎を纏った弾丸を間断なく打ち込んでいく。
 白煙が上がり、フルーレティはは軽傷を負いながらも、何とか着地できた。
 彼は目に映る五人の人物に、顔をしかめながら思う。
(……この五人……)
 彼は気を引き締めて、臨むことを決意した。
(強いのう。個々の弱点をよく補い合っちょる……こりゃあ、気を引き締めにゃならんわなぁ)
 そう。
 たとえ、相手を殺してしまうような強大な力を使うことになっても。

77竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/02/04(土) 13:34:51 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 フルーレティは、寝起きのようにゆっくりと立ち上がった。
 自分の瞳に映る、五人の人物。地獄の副将と恐れられた自分が相手でも、臆することなく立ち向かう勇気を持った人間と『ヴァンパイア』。フルーレティは、確信を持ってこう告げることが出来る。
 ―――久々に楽しめる相手だ、と。
 立ち上がったフルーレティに対して、霧澤達も構えを固くする。
「まあ、先程ので倒せるとは思ってないしな。だが、かなり手強い」
「なーに言ってんのよ。そんな事を思うなんて今更もいいトコよ」
 真冬の言葉に、白波がそう返す。
 最近あまり戦わず、弱い下級の悪魔ばかり相手にしていたせいで、本気で戦う事が無く、一種の不満が積もっていたのだ。
 だが、それも今回は違う。
 本気で戦っても、そうそう壊れることは無い敵。それが、白波の求めていた敵だ。
 いつの間にか戦闘狂のような台詞をこぼしてしまうようになってしまった白波を見て、真冬は思い溜息をついた。
 こいつは何処で間違ったんだ、と思っていたが、相手の返答が長くなりそうなので、口にはしない。
「……今回はお前に任せてもいい、ということか?涙」
「まーねー。この最強美少女涙ちゃんに任せなさい」
 だが、白波のそんな自信に満ち溢れた台詞も、フルーレティの前では脆くも崩れ去ってしまう。
 直後に、真冬と白波は勿論のこと、契血者(バディー)であること以外は、普通の人間である霧澤、朧月、汐王寺の三人でさえも、異変に気付く。
 フルーレティから、肌がぴりぴりするようなオーラを感じる。
「……何をしようとしてんだよ……」
「さあな。……悪魔のすることは俺らには理解不能だ」
 汐王寺の言葉に、朧月がそう答える。
 彼はそのまま言葉を続けて、
「だが、化け物にしか出来ねーことってのは、何となく理解できるぜ」
「……白波、一つだけいいか?」
 霧澤が白波の方へ視線を向けて、質問を投げかける。
「……お前、一人でいけるのかよ?」
「……うーん……ねぇ、真冬」
「嫌だ」
 白波の質問が何となく分かったのか、質問する前に、真冬はそう言った。
 五人の緊張感が高まり、あれこれ思案している間に、フルーレティの身体は冷気に包まれてゆく。
「オイッ!冷気に包まれたぞ?」
 汐王寺が叫ぶように言う。
 フルーレティの周りの冷気がはれ、さっきまでとは違う姿が、霧澤達の目の前に現れた。
 全身に氷を纏い、氷の羽を生やした、まさしく鎧を纏った悪魔のような姿だ。
 その姿に、全員が言葉をなくし、息を呑んだ。
「……」
 フルーレティはこの姿に馴染んだかを確かめ、五人を見つめる。
「久しぶりじゃな。この姿になるのも……白波刃玖との戦い以来じゃ」
 フルーレティは、腰に挿してあった刀を鞘から引き抜く。
 その刀の切っ先を五人に向ける。
「さて、再開じゃ」
 フルーレティの真の姿に、白波は言葉を失っていた。
 それから、遠慮気味に口を開く。
「……真冬。手を貸して」
「やっぱりか。お前やっぱり馬鹿だろ」

78竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/02/04(土) 22:01:47 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 氷の鎧を纏った悪魔と化したフルーレティを相手に、真冬と白波の二人は緊張感を高めていた。
 最初の方は一人でやる気満々だった白波も、真の姿になったフルーレティが相手では、真冬の手を借りざるを得なくなった。
 目の前の氷の悪魔を前に、真冬は契血者(バディー)という以外は普通の人間である霧澤達に、下がるように促す。
「お前達は手を出すな。ここは、『ヴァンパイア』である私達が引き受ける」
 一瞬だけ、真冬は磔にされている茨へと視線を向ける。
 左半身だけだった氷が、既に下半身を覆ってしまっている。残りは三十分も無い。長くて二十分前後といったところだろう。
(―――時間もない、か。すぐに済ませるしかないな)
 真冬は、白波の方へと視線を向ける。
 彼女が何を言いたいのか分かったらしく、白波は薄っすらとした笑みを浮かべながら視線も合わさずに頷く。
「さーって!涙ちゃんの本気、見せたらぁー!!」
 白波は、いつもと同じ攻撃方法を繰り出す。
 だが、今回は白い炎を纏った弾丸ではなく、白い炎の塊そのものだ。
 その炎の塊に、氷の悪魔は避けようとする動作に移ろうともしない。彼は腕を払い、炎の塊を打ち消した。
「な……っ!?」
「この程度じゃ俺は倒せんよ。なめられたものじゃな」
 だが、本命はこの攻撃ではない。
 炎の塊の攻撃に気を引き付けられ、隙が出来たフルーレティを真正面から襲う真冬の攻撃だ。
「ッ!?」
「さすがにすぐに防御も回避も出来んだろう?」
 真冬の炎を纏った拳がフルーレティの腹を狙う。
 だがその拳は届くことは無く、五センチほど前で止まってしまう。
 地面から生えた巨大な数本もの氷柱が、真冬を斬りつけたからだ。真冬の拳が届く直前に、地面から氷柱が突き出てきた。さすがにそこまで距離を縮めていれば回避することも出来ない。
「残念じゃったな、赤き『ヴァンパイア』よ」
「この……ッ!」
 銃を構える白波だったが、フルーレティが一瞬で目の前まで接近してくる。
 そして、そのまま彼に頭を掴まれ、地面に叩きつけられる。
 真冬はうつ伏せに倒れ、白波はうつ伏せに倒れている。二人とも意識はあるものの、立ち上がることはおろか、動くことも出来なかった。
 そして、フルーレティの攻撃の矛先は、霧澤達に向けられる。
「次はお前たちじゃ。無能な契血者(バディー)ども」
 その瞳は冷たかった。
 ただ冷酷に、冷静に、冷徹に。
 何も出来ない霧澤達をあざ笑うように、ただただ残酷なまでに冷たかった。

79竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/02/10(金) 21:03:15 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 霧澤達は一瞬、と呼べるほどの速さで、真冬と白波を倒してしまったフルーレティに恐怖を覚える。
 霧澤や朧月としては、こういう感覚は初めてではない。前に『四星殺戮者(アサシン)』が襲来してきた時には、幹部の一人と戦ったが、その時にはほとんどと言っていいほど恐怖は感じなかった。
 だが、今目の前に立っているフルーレティは違う。
 悪魔だからか。この世のものとは思えない姿をしているからか。それとも単に本能がそうさせているのか。
 ただ純粋に、心の底から怖いと思った。
 それを感じたのは霧澤と朧月だけではない。汐王寺も同じだ。
 あまり表情には出さないようにしている霧澤と朧月に反して、汐王寺は身体を震わせていた。木刀を携えているといっても、今の怖がっている状態じゃ何も出来ないだろう。
 そんな三人に、フルーレティは思い切り隙を作る。
「……来ないのか?つまらんのう。俺はこれだけ隙があるぞ?殴りかかってこんか」
「(動くな!)」
 朧月は心の中でそう叫ぶ。
 それは分かっているのか、霧澤も汐王寺も相手に攻撃しようとはしない。本能が足を動かすのを邪魔しているだけかもしれないが。
(……赤宮も涙もやられた。俺達だけで何とか出来る相手じゃねぇぞ!……どうすれば―――)
 朧月の思考にストップをかけたのが、ちょっとした物音だ。
 
 その音の正体は、満身創痍の身体を必死に立ち上がらせている、赤宮真冬だった。

「……赤宮」
 霧澤は思わず呟いていた。
 真冬は切り傷が走る身体を必死に起こし、霧澤の言葉に対応してみせた。
「……呼んだか、夏樹」
 真冬の表情には薄っすらと笑みが浮かんでいた。
「……心配するな……。私はここにいるぞ。まだ、戦える。負けるわけにはいかないんでな。それなりの理由が、私の後ろにあるものだから」
 真冬の後ろ。
 それは霧澤達契血者(バディー)と、磔状態にされ、既に身体の四分の三が凍っている茨瑠璃だ。
 彼女の負けられない理由は、護るべきものを護るためだ。
「……かかってこい、地獄の副将。お前程度、私一人で十分だ」
「……ったく、一人でカッコつけてんじゃねー……よっ!」
 言葉を言い終わると同時、白波は無理矢理に素早く身体を起こした。
 真冬は黒曜との戦いで既に疲労はピーク。だが、白波はあまりダメージは受けていないから、彼女はすぐに起き上がれたのだろうか。
「何だ、涙。いつもより起きるのが早いんじゃないか?このまま朝まで寝てればいいのに」
「うっさいわね。アンタだってあのままへばってりゃいいのよ。おいしいトコは私が掻っ攫っていくから」
 ふー、と二人は目を覚ますなり、素直になれないお互いの性格に溜息をつく。
 だが、心は。思っていることも思いも一緒だ。
「……このハイエナが」 
 真冬はそう呟く。
 二人はフルーレティを見据え、自信とともに告げた。

「「アイツを討滅するのは私だ!!」」

80竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/02/12(日) 00:21:17 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 立ち上がった二人の瞳からは、勝つという意志が消えていなかった。
 むしろ、勝つからこそ立ち上がったのだといわんばかりの、自信に満ち溢れた表情さえしている。
 そんな二人を睨みつけるような鋭い目つきで、フルーレティは二人を睨む。
「……解せんな、解せんよ」
 フルーレティはそんな事を呟いた。
 真冬と白波の二人も、フルーレティの言葉に眉をひそめる。
「何故立ち上がれるのじゃ。まさかとは思うが、力量の差が分かってないわけではあるまい?」
 真冬は大きく息を吐く。
 答えるのさえ面倒だ、と暗に示しているかのような、そんな溜息だ。
「言ったろう。戦う理由がある、と。私は私の護りたいもののために戦う。ただそれだけだ!」
「それは……私も同じだよッ!」
 真冬の言葉に賛同した白波は、銃口から白い炎の塊をフルーレティに向けて放つ。
 フルーレティはやはり、それを避けようともせず、ただ片手で打ち消した。だが、白い炎の塊が消えると、炎を拳に纏わせた真冬が、フルーレティ目掛けて突っ込んできていた。
 この作戦は、真の姿となったフルーレティと戦った時に、使った戦法だ。
 フルーレティも、やれやれといった溜息をつく。
「同じ手が通用すると思うな!」
 再び真冬を貫こうと、地面から数本の氷柱が飛び出す。
 だが、その氷柱が真冬を貫く前に、音を立てて砕けていった。
 何故なら、真冬が自身の身体に、赤い炎を纏っていたからだ。
 『四星殺戮者(アサシン)』の荒垣戦で見せた、『ヴァンパイア』の高等技術である『一身炎(いっしんえん)』だ。
 さすがに真冬も、同じ作戦を行う上で、対策は練ってあったのだ。
 その予想外の事に、防御をすることさえも忘れてしまうフルーレティ。
 そんな彼の顔に、真冬の炎を纏った拳が、真っ直ぐに突き刺さり、フルーレティの身体はそのまま後方へと、勢いよく飛ばされた。
 フルーレティはすぐさま上へと上がり、氷のつぶてを降らす準備を整える。
「まさか、自分の身体に炎を纏うとはのう。予想外じゃ。じゃが、それで倒れる俺では―――」
「いいのか。私だけに集中して」
 遮って放たれた真冬の言葉に、フルーレティは氷のつぶてを降らす準備を、思わず止めてしまった。
 そして、彼の視線は銃口をこちらに向けている白波へと移される。
 彼女の銃口には、相変わらずの巨大な白い炎の塊がある。
「弾けろ!涙ちゃんブラストォーッ!!」
 ふざけたネーミングの技名とともに、白い炎の塊はフルーレティへと放たれる。
 フルーレティは防御できずにその白い炎の塊、涙ちゃんブラストを正面から喰らってしまい、そのまま地面へと倒れるように落ちる。
「……すげぇ……」
 霧澤は思わず呟いていた。
 壮絶な戦いに、朧月と汐王寺も言葉を失っていた。
「これが……。これが、赤宮と白波の本気―――」
 二人の『ヴァンパイア』は、自身の力を惜しみなく発揮していた。
 自分にとってかけがえの無い、大切なものを護るために。

 黒曜闇夜は学校の屋上に立ち、夜空を眺めていた。
 彼女は頬に手を当て、未だ残る痛みに、怪訝な表情を浮かべる。
(―――胸が、ザワつく。この気持ちは何だ)
 理解できない気持ちに、黒曜は、僅かな苛立ちさえも覚え始める。
(―――私のしている事が、間違いなのか。だからこそ、お姉様の言葉がああも響いたのか。だからこそ、こんなにも胸が、締め付けられるように痛むのか)
 黒曜は胸に手を押し当て、再び夜空を見上げる。
(―――答えがあるなら―――今やっていることが間違いなら、私は―――)
 黒曜は、鎌を握る。
 怪しく、その刃を光らせて。

81館脇 燎 ◆SgMmRiSMrY:2012/02/12(日) 13:15:47 HOST:222-151-086-018.jp.fiberbit.net
初めまして、館脇と申します。
早速ですが小説拝見させていただきました!

バトルシーンが迫力があって、とても読みやすかったです。
キャラクターの心情も繊細に書かれていて、作品の良さが伝わってきました。

それでは、続きを楽しみにしております。

82竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/02/12(日) 13:16:49 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp

「……おのれ……」
 フルーレティは、自身の身に纏う氷の鎧の、目を凝らさないと見えないほど小さな傷を気にしながら立ち上がる。
 それほどまでにこの鎧に自信があったようだが、白波の特大な炎を喰らってもほんの少しの傷しかないところを見ると、やはり相当硬いようだ。
 フルーレティは、手の平の上に青白い光の球体を作り出す。
 それが何かは理解できないが、特別な技を出すという事は理解できた。その青白い光は、徐々に大きくなっていく。
「……何あれ?真冬、ちょっとヤバいんじゃない?」
「みたいだな」
 白波の言葉に、真冬は素っ気無く返事をする。
 その返事に、白波はつまらないといったように頬を膨らませる。
「冷静にも程があるでしょうが!もっと面白いリアクションしなさいよ」
「……そんな時間は無い。瑠璃の凍結まで五分もかからないだろう。ここで一気に勝負を決めるぞ」
 茨の身体は完全に凍りつき、残りは顔だけが凍っていない状態だ。確かに完全に凍りつくまで五分もかからないと思う。
 真冬は白波に、小さな声で自分の思いついた作戦を耳打ちする。
 それを聞いた白波は、ぎょっとして、
「大丈夫なの?アンタ、血の量そんなに多くないでしょ?」
「後先考えてられるか。それに、時間がないと言ったはずだ。これよりいい作戦が思いついているなら別だが、違うのだろう?私に任せろ。これは、お前の力無しでは成功しない。お前の力が必要だ」
 珍しく、自分を頼ってくれている真冬に、白波は一種の恐怖を覚えた。
 だが、時間も無いのは確かだ。白波は銃口をフルーレティに向ける。
「どうなっても知らないわよ。責任は一切取らないからね!」
「無論だ」
 かくして、フルーレティは青白い光を光線のように放ち、白波はまた白い炎の塊を放つ。
 二つの技がぶつかり合い、強烈な衝撃波が周りを襲う。
 霧澤達も立つことが出来なくなったのか、膝をついて、顔の前に手をかざしながら状況を見ている。
 白波は歯を食いしばって、技をぶつけているが、相手の強力な攻撃に徐々に圧され始めている。
「ぐ……っ!?」
「終わりじゃ。諦めろ、白き『ヴァンパイア』!!」
 白波は歯を食いしばっている状態から、ニッと笑みを浮かべる。
 そして、真冬の声とともに呟いた。

「「お前が終わりだ」」

 それと同時に、真冬自身の身に炎を纏いながら白波の攻撃を後ろから押している。
 それも押している状態から、白波の白い炎を、自身の赤い炎とともに纏うような状態へと変わっていった。
「二つの炎を纏うじゃと?」
 真冬は二つの炎を纏い、持てる限りの力を振り絞って、フルーレティへと最後の攻撃を仕掛ける。
 フルーレティも負けじと、技の威力を上げていくが、氷の鎧に変化が現れる。
 最高の強度を誇る氷の鎧に走る小さな亀裂が、徐々に大きくなっていき、鎧が崩れ始める。
「な、何じゃ!?」
「さっきの涙ちゃんブラスト……」
 白波は説明するかのように口を開いた。
「アレは僅かなスキマから私の白い炎の欠片を埋め込んだ。どうなるか教えてアゲル。アンタの氷の鎧は、内から粉々に砕けていくわよ」
 白波が指を鳴らす。
 それと同時に、フルーレティの身に纏う白い炎は音を立てて壊れていった。
「……馬鹿な……!」
 技の威力も弱まり、二色の炎を纏った真冬がフルーレティに接近し、真冬の拳がついに、何も纏わぬフルーレティを捉えた。

 ―――悪魔とヴァンパイアの戦いは今、決着が着いた。

83竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/02/12(日) 13:35:30 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
館脇 燎さん>

初めまして。作品を読んでくださってありがとうございます。

書いている途中では自分でも『この言い回しで伝わるかな?』などと不安なので、そう言っていただければ嬉しいです^^
特に真冬の心情には力を入れて書いておりますw
夏樹←→真冬、となるかもしれませんねw

はい、頑張らせていただきます。お互い頑張りましょう^^

84竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/02/12(日) 14:06:49 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 赤色と白い色が交わった炎を身の纏った真冬は、氷の鎧が砕け、防御が間に合わないフルーレティへと拳を突き出した。
 通常の拳とは違い、身に纏う炎をそのまま射出するように、炎をそのままぶつけるような形だ。
 教室の窓が割れ、窓から炎が飛び出る。恐らくその炎とともにフルーレティは外へと吹っ飛ばされただろう。
 フルーレティに勝った、ということを証明するかのように、茨瑠璃を覆っていた氷が一気に砕け、茨が開放される。
「瑠璃!」
 汐王寺は気を失っている茨を抱きかかえ、寝息を立てている茨に、目に僅かな涙を溜め、安堵の息を漏らす。
「……よかった……!」
 汐王寺は茨を優しく抱きしめる。
 力を使いすぎた真冬は、その光景に安心したのか、覚醒状態から戻りながら地面へと倒れこむ形で、力を抜く。
 倒れそうになる真冬を、霧澤は抱きとめる。
「……夏樹、君……?」
 いつもの内気な真冬に戻り、朦朧とする意識の中、彼女は霧澤の名を呟いた。
 霧澤は、真冬の呼びかけに小さく頷く。
「……よく頑張ったな。大丈夫か?」
「……うん……。でも、ちょっと眠たい……」
 そう呟くと、真冬は目を閉じて、小さな寝息を立てる。
 そんな真冬に霧澤は小さく息を吐くと、彼女を背負う。
 朧月と白波も、今のこの状態に息を吐いて、改めて辺りを見回す。そこで、白波はとんでもないことに気付いてしまった。
「……ねぇ、雰囲気ぶち壊して悪いんだけどさ……」
 全員が白波へと視線を向ける。
 彼女は、その視線に応えるように、言葉を続けた。
「……この教室とグラウンド……滅茶苦茶になっちゃったけど、どうすんの?」
 答える者は、誰もいなかった。

「ぐ……!!」
 傷を負ったフルーレティは呼吸を乱しながら、学校の屋上へと逃げていた。
 戦いに負けはしたが、自分はまだ生きている。討滅されていなければ、まだ相手を潰すチャンスは残っている。
「……侮っておったわ……。よもや、あそこまで強いとなぁ……」
 フルーレティは息を乱しながら、これからの作戦を考える。
「とりあえずは、戻って傷を癒すか……。そしてこの事をあの方に―――」
「何処へ行く気だ?フルーレティ」
 後ろから声をかけられ、フルーレティは急いで振り返る。
 そこに立っていたのは黒曜闇夜。彼女もフルーレティと同じように、傷を負っていたが、体力は回復しているだろう。
「……黒曜か……。驚かせるな。お前もやられてしもうたみたいじゃが、チャンスはまだあるぞ。俺と一緒に次の手を……」
「残念だが。私はもう自分の道を踏み外したくはないんでな」
 黒曜はゆっくしと、フルーレティの首へと鎌の刃を向ける。
 驚愕するフルーレティに、黒曜は静かに告げる。
「地獄の副将、フルーレティ。貴様を討滅させてもらうぞ」
「な……っ!?」
 フルーレティは驚きの色を隠せない。
「ま、待て……!一体どうしたと言うのじゃ!お前が俺を裏切るなど……!」
「私は、ずっとお姉様が正しいと思い込んでいた。お姉様の強さが、逞しさが、美しさが。全て正しいのだと」
 黒曜はフルーレティに言い聞かせるように話す。
「私が一人に拘っていたのは、お姉様がそうやっていたからだ。だが……何故気付かなかったんだろうなあ。お姉様が契血者(バディー)とともに戦うというのなら、私もそうすればいいだけじゃないか」
 黒曜の瞳に、揺るぎない意志が宿る。
 昔の真冬を追い、すがる黒曜ではなく、今の真冬と同じ場所に立とうとする黒曜が今そこにいた。
「これで、お姉様への無礼が償えるとは思っていない。だからこれは私自身へのケジメだ」
 黒曜の鎌がフルーレティを斬り裂き、黒い炎で跡形もなく焼き尽くしていく。
「すまなかったな、フルーレティ。我侭な女で」
 黒曜はその場から立ち去っていく。
 自分の新たな生き方を見つけた、一人の黒き『ヴァンパイア』は、自分の名前のごとく、深き闇が包む夜へと消えていった。

85竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/02/12(日) 19:49:20 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 フルーレティとの戦いが終結した翌日、霧澤は学校へと向かっていた。
 いつもなら同居している真冬と一緒に登校しているのだが、黒曜戦の後に、フルーレティと戦ったせいで、今日は一応休むらしい。怪我の事は、家族には階段から落ちた、と言って誤魔化している。
 すると、一人の霧澤の前に、見慣れた金髪美女が立っている。
 汐王寺百合だ。
 彼女を見て、霧澤はちょっとした違和感を覚える。
 彼女の象徴たる学ランと、木刀がない。
「……どうした、汐王寺。今日はサボりか」
「違ぇよ!」
 間の抜けた霧澤の言葉に汐王寺はそう返す。
 恐らく、昨日のあの戦いで、グラウンドと教室一つを滅茶苦茶にしてしまったため、登校を止められたのだろう。
 汐王寺は腕を組んで、霧澤から視線を逸らす。彼女の頬が僅かに赤くなっているように見えた。
「……その……ありがとな……。助けてくれて……」
 小さめの声で、礼を告げる汐王寺。
 対して、霧澤は僅かに笑みを浮かべて、息を吐く。
「なーんだ、そんな事か。別に気にしなくていいのに」
「そ、そんな事か、じゃねぇだろ!」
 霧澤の言葉に、汐王寺は慌てたようにそう叫ぶ。
「元はと言えば、俺があの氷の化け物に攫われたのが悪かったんだ!そのせいで、瑠璃にも、朧月にも、お前にも迷惑をかけちまうし……それに、しまいには瑠璃だって危険にさらされたんだ!何でお前はこんな大惨事を『そんな事』なんて言葉で片付けられるんだよ!?」
「……何でって……決まってんだろ」
 霧澤は、さも当然だ、というような口調で告げた。
「お前のせいじゃねーだろ。攫われたのも、俺達が危ない目に遭ったのも。だから、お前は何も気負う必要なんかねーんだぜ。いつも通り俺を見て『ここで会ったが百年目!今日こそ決着つけようぜ!』って突っかかって来てくれる方がまだやりやすいよ」
 汐王寺は、霧澤の意外すぎる言葉に、きょとんとしていた。
 だが、これが霧澤夏樹という男の答えなのだ。
 汐王寺は、フッと笑みを浮かべた。
「……結局、お前は何も変わってないんだな。中学の頃もそんなんだった。誰かのせいにはしたりしない、ただの優しい奴だったな」
 汐王寺は霧澤の前に立って、自身の拳を霧澤の胸に押し当てる。
「お前の契血者(バディー)の子、大丈夫か?」
「ああ。二日くらい経てば動けるようになる、だってよ」
 そうか、と汐王寺は返す。
 それから彼女は、決意の篭った言葉を口にする。
「これからは、俺も手伝ってやるぜ。昨日みたいな化け物が出た時に、俺も瑠璃も手を貸す。瑠璃はお前らのこと結構気に入ってるみてーだし、俺自身借りを作りっぱなしってのも気分が悪い」
「助かるぜ、汐王寺」
 汐王寺はくるりと背を向けて歩き出す。
 それを伝えにここで霧澤を待っていたのだろう。言いたい事を全部言い終え、彼女は帰るために背中を向けた。
「じゃあな。次に会う時は、しばらくは仲間だ。それまでよろしく頼むぜ、夏樹」
 汐王寺は、霧澤という人物を認めた。
 それがたとえ、下の名前で呼ぶ、という分かりやすいものだったとしても、ここで新たな絆が生まれたのだ。
 霧澤は、去っていく汐王寺に手を振って、言葉を返す。
「おう。またなー!」
 霧澤も、その足を学校へと向かわせる。
 いつもよりいい気分で、彼は学校へと向かった。

 当面の危機は去った。
 だが、それは表面だけの話だ。『危機』という曖昧な表現が、実際に目の前に現れてくる。
 霧澤も、真冬も、そして恐らく誰も知る由も無いだろう。
 ―――地獄の副将、フルーレティの討滅により、『ヴァンパイア』と悪魔の戦いが激化することに―――。
 まだ、誰も知らないことだった。

86竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/02/12(日) 19:57:23 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
〜あとがき〜

つに第二章完結です。第一章と比べ、かなり時間がかかったような……。
まあそれは置いといて、今回では新たな契血者(バディー)と、『ヴァンパイア』が出てきました。
彼女達の活躍は、後ほどの話でご期待ください。

さてさて、今回の話から物語の本筋に入っていきます。
まだまだ完結まではいってないんですが、この話から本格的な名前を持った悪魔さんが登場してきます。
どんな悪魔が登場するのか、それは後のお楽しみです。

次回の第三章では、真冬のライバルというか、恋敵てなキャラが出てきまして。
そして、魔界でもフルーレティさんがやられたのは、それなりの驚きがあるようです。

第二章『氷魔(ひょうま』編 完結。

第三章『朱赤(しゅしゃく)』編 お楽しみに。


ちなみに、黒曜闇夜さんは作者が地味に好きだったりします……

87竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/02/17(金) 18:56:25 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第13話「朱色(あけいろ)の邂逅」

 ある日の夜、真冬は机に向かい必死にノートを写していた。
 フルーレティ戦の後に学校をやすんでしまい、その分のノートを霧澤のを見て写しているのだ。霧澤はノートはちゃんと取ってはいるものの、真冬のまでやろうとは思わなかったらしい。
 当の霧澤本人はベッドの上で漫画を読んでいる。
「……夏樹君」
 真冬がかなりのスピードで進ませているペンを止め、霧澤を呼ぶ。
 名前を呼ばれた霧澤は漫画から目を離し、真冬の方へと視線を向けた。
「……ここ、読めないんですけど……」
 真冬の言葉に、霧澤は首を傾げる。
 霧澤はノートの字は意外と綺麗にしているつもりだった。
 何故なら、テスト前には確実に奏崎から『ノート見せてーん』などと言われ、彼女に貸し出したりするからだ。奏崎のことだ。どうせ汚い、や見にくい、などの文句が即座に返ってくるだろう。だから、ノートの字は気を付けているつもりだったが、どこか適当に書いちまったか、と思いその部分に目を通す。
「……………………あ」
 霧澤は言葉を漏らす。
 今真冬が写しているのは日本史のノートで、日本史大好き少年の霧澤からしたら読めない漢字はないと思っていたのだが、日本史平均的少女の真冬には読めなかったらしい。
 だが、今の問題点はそんな小さな事ではない。
 重要なのは、霧澤も『こんなもん読めるぜ』と侮っていたために、読み方を忘れてしまったことだ。
「……何でふりがなふらないの?」
「……悪い……。あ、そうだ!薫に聞けば……」
「薫ちゃんノート取ってないんだよね?」
 携帯電話に手を伸ばした霧澤の手が、真冬の言葉でピタッと止まった。
 肝心な時に役に立たない。それが奏崎薫という夏樹の幼馴染の親友であった。
 霧澤は教科書などを見ながら、読み方を調べている時に、真冬の耳に、低い叫び声が届いた。
「ッ!?」
 真冬は勢いよく辺りを見回す。
 耳に届いた低い声は霧澤の耳にも届いたらしく、彼も窓の外を見たりしている。
「……赤宮、今の声って……」
「悪魔だ。多分下級だと思う」
 真冬は椅子から立ち上がって、窓から出る準備を整える。
「……血、吸ってくか?」
 霧澤は腕まくりをして、真冬に問いかける。
 そんな霧澤に対し真冬は、僅かに苦笑いを浮かべて、
「大丈夫だよ。この前の分が残ってるし、この程度の悪魔なら十分だよ」
 真冬は現在残ってる血で、覚醒状態へと変化し、窓から飛び出て行く。
「……俺の事なら、気にしなくていいのに」
 そう思いながらも、実際に吸われたら顔を赤くしてしまうだろう、と霧澤は自覚する。
 
 その頃、現れた悪魔の近くに一人の『ヴァンパイア』が降り立つ。
 赤色でも、白色でも、黒色でも、瑠璃色でもない、だが赤とよく似た……
 ―――朱色(あけいろ)だ。

88竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/02/17(金) 23:12:13 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 真冬が家の屋根から屋根へ、時に電柱へと飛び移ったりして、悪魔が現れた地点へと急いでいる。
 すると、覚醒赤宮の前に、身体だけ巨大な悪魔が姿を現した。
 真冬の接近に気が付いた悪魔は、その巨大な腕で真冬を叩き潰そうと腕を振り下ろす。が、
 真冬は、その巨体な悪魔の腕を、片手で受け止めた。
 フルーレティ戦から全く覚醒していなかった真冬は、自身の身体の調子を確かめるように、悪魔の腕を片手で押さえながら、もう片方の手を開いたり閉じたりして、調子を確かめている。
「……ふむ。調子は悪くは無いようだが……良いとも言えんな。まあ、この程度の悪魔が相手ならば、そんなに気にすることでもないことだが」
 真冬は、腕を押し返し、高く飛び上がって、悪魔の目の前まで一気に飛び上がる。
「ッ!?」
「まったく、準備運動にもならん奴だな、お前は」
 炎を纏った拳を、悪魔の顔面に叩き込む。
 悪魔はそこで消滅し、跡形も無く消えていった。
 真冬が小さく息を吐き、暗い夜空を見上げる。
(……フルーレティの戦いから、数日が経った……。あれからまともな悪魔が来ていない。私の他にも涙や瑠璃が悪魔を討滅しているが……さすがに、地獄の副将をやられただけあって、魔界の悪魔どもも、慎重になっているかも知れんな)
 真冬の思ったとおり、フルーレティとの戦い以降、全くといって良いほど強い悪魔が出現していない。
 全てが下級どまりで、一番強い奴でも中級よりの下級悪魔だ。
 弱い奴しか来ない方がいいのだが、それを平和だと思える茨と違い、力を持て余している真冬や、白波からしたらやはり物足りないのだろうか。
 強い悪魔が来ればいいのに、などと呟くと霧澤がぎょっとしそうだな、と真冬は僅かに笑みを浮かべて思う。
「さて、と。あんまり遅くなっても夏樹が心配するだろうしな。早く帰って、書けなかった分のノートを写さねば―――」

「お仕事が遅いのですね。意外ですわ」

 上品な言葉遣いの女性の声が真冬の耳に飛んでくる。
 その声の持ち主は、電柱の上に立っていた。地上にいる真冬は自然と見上げる形になってしまう。
 朱色の綺麗な髪を持ち、前髪はちゃんと切り揃えられて、首のうなじの辺りで、長い髪を二つに分けて結ってある。服装は今風の若い女性の格好だが、口元に寄せられた扇子が、『今風』という言葉を上手くかき消していた。
 真冬はその女性に、怪訝な表情を浮かべる。
「……誰だ。少なくとも、普通の人間……ではないよな?」
 それもそうだ。
 普通の人間で、電柱の上に立っている人間などいるものか。
 それに、先ほどこの女性が言った『お仕事』とは恐らく、悪魔の討滅のことだろう。それ以外のお仕事が見当たらない。少なくとも、写せなかったノートを写す、ではないだろうし。
 扇子を持った女性は、くすっと笑みを浮かべる。
「わたくしですか?名乗るほどの者ではございませんよ?ただ、一つだけ確かめたいことがありまして……」
「確かめたいことだと?」
 女性の言葉に、真冬は眉をひそめる。
 頷くと、彼女は扇子を広げたまま上に向けた。
「貴女の実力がいかほどのものか、見せていただきたいのです」
 瞬間、彼女の扇子が巨大化し、巨大な風を巻き起こし、真冬へ向けて放たれる。
 真冬は全身に炎を纏い、何とか風を防ぐが、更なる追い討ちが真冬を襲う。
 女性の扇に巨大な朱色の炎の玉が生み出されていた。
「……今度はそれを投げる気か?」
「ええ。風のオマケつきですっ!」
 女性が扇を振るう。
 それと同時に、炎の玉が風とともに放たれる。
 真冬も、炎を拳に纏い、炎の玉に拳をぶつける。
「ぐぅ……!」
 真冬は歯を食いしばる。
 思った以上に、風を纏った炎の玉の威力が大きかったようだ。
「うおおおおおおおおあああああああああッ!!」
 真冬が雄叫びを上げ、相手の炎の玉を打ち消す。
 その様子を見て、女性は再び笑みを浮かべる。
「やりますね。ますます興味が湧きましたよ」
「……そうか。それは何よりの不幸だな」
 そう言ったのには、簡単な理由がある。
(―――マズイな)
 単に炎の量や、実力の差だけではない。
(コイツ、普通に強い……!)
 真冬の残りの炎じゃ、とても倒せそうに無い相手だった。

89月峰 夜凪 ◆XkPVI3useA:2012/02/18(土) 10:55:21 HOST:softbank221085012009.bbtec.net
コメント失礼しますノ

ではまず始めに、随分遅くなってしまいましたが、第二章完結おめでとうございます!そしてお疲れ様でした^^
涙様もバッチリ活躍していて、とにかくもうがっつり楽しませて貰っている月峰でs((

さて、新章スタートという事ですが、新いキャラも登場ですね!
悪魔なのか、または真冬ちゃんと同じ吸血鬼なのか……とにかく楽しみです!

ちなみに私も闇夜ちゃん好きなので、また活躍する事を密かに待っていまs((

それでは、続きも頑張ってください^^

90竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/02/18(土) 11:27:22 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 余裕を見せつけながら、真冬を電柱から見下ろしている女性は、楽しそうな表情を浮かべていた。
 一方で真冬は、先程の炎の玉を打ち消したことにより、炎を消費したせいか、僅かに息を切らしている。
 血の残量が少なくなったことによって、真冬は自分でしか感じ取る事が出来ない、自分の身体の異変に気付く。
(……もう、か……)
 見ていなくても分かる。
 徐々に髪の長さが短くなっていることに。
 真冬は覚醒状態になったら、肩くらいの長さの髪が、腰の辺りまでに伸びてしまう。それが、一番分かりやすい二人の真冬の相違点だ。
 覚醒状態が解けかかってると認識すると、真冬は相手を睨みつけて考える。
 ―――もし、覚醒状態が解けて元の姿に戻ったら、相手は見逃してくれるだろうか。
 相手の正体が未だ分からない以上、見逃してくれるという希望は薄い。自分としても、相手に背を向けて逃げるのは嫌だが、覚醒状態ではない自分ならそうしてしまうだろう、と真冬は思う。
 相手が悪魔ならフルーレティの消滅により、自分を始末するかもしれない。違うなら、そもそも自分を狙う理由が分からない。
 あれこれ考えていると、女性が口を開いた。
「……どうしました?全く動きませんが、もしかして今の攻撃で立ってるのがやっとの状態ですか?ふふ、見た目によらず可愛らしいんですね」
「……黙っていろ……。今からどうやってお前を倒すか考えていただけだ……!」
 虚勢だ。
 真冬の息の荒さからして、そんな事は誰でも分かるだろう。虚勢だと分からなくても、相手がかなり疲労しているという事は、素人でも一目で分かる。
「で、考えはまとまりましたか?」
「ああ、ついさっき決まった」
 真冬は拳を強く握り締め、その拳に赤い炎を纏わせる。
 思い切り地面を強く蹴って、電柱の上にいる扇を持つ女性に殴りかかる。
(―――渾身の力を込めた一撃を、ぶつける!)
 そこへ、男の声が飛んできた。
「赤宮!」
 その声は真冬のよく知る人物の声。
 霧澤夏樹の声だ。
 彼はこちらに走ってきている。
「……夏樹……ッ!」
「隙出来てますよ」
 真冬が気づいた時にはもう遅かった。
 相手の巨大な扇が、真冬の横腹に叩き込まれ、真冬はそのまま霧澤の方へと飛ばされてしまう。いきなりの出来事に霧澤も対応できず、真冬にぶつかられ、そのまま地面へと倒れ込んでしまった。
「成る程。貴女は覚醒型だったのですね。彼が、契血者(バディー)ですか」
「……それが、どうした……」
 真冬は先程の攻撃で、口の端から一筋の血を垂らしている。身体を起こしながら、それを手の甲で拭い取り、再び女性を睨みつける。
 女性は余裕の笑みを浮かべ、くるっと背中を向けた。
「今日はこの辺りで帰りますね。また会いましょう、赤き『ヴァンパイア』さん。それと、真面目な契血者(バディー)さん」
 彼女はそう言って、家の屋根から屋根へと飛び移ってその場から去っていく。
 真冬は横腹を押さえて、立ち上がる。その表情は少しだけ苦痛に歪んでいた。
「……赤宮、アイツが悪魔か?下級だって言ってたけど……」
「いいや、アイツは悪魔じゃない。私の推測だがアイツは―――」
 真冬は少しだけ呼吸を置いて、

「私と同じ、『ヴァンパイア』だ。しかも、覚醒型のな」

91竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/02/18(土) 11:35:30 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
月峰夜凪さん>

コメントありがとうございます^^

ありがとうございます。おかげ様で本作も第二章を終えることが出来ました!もう二作は、一つが第四章、もう一つが第二章とどれもスローテンポでございます。本作は二つの丁度中間ですねw
まだ出てきてませんが、作者の好きなキャラの上位に、涙もちゃんといますw
『涙ちゃんブラスト』は友達に技名を公開したところ笑われましt((

新キャラの朱色の扇子お姉さん。
実は夏樹や真冬達と同じ年齢だったりしますw大人びて見えるだけなんですねw
今回はバトルが最初の方と最後の方しかありませんw 一章や二章は間にもそれなりにはいってましたが。
にしても新キャラ動かしにくいなぁ((

闇夜は後ほどで活躍しますよ!
一応は、準主要キャラの一人なのでw 勿論瑠璃と百合さんもねw

はい、頑張らせていただきます。 お互い頑張りましょー^^ノ

92竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/02/18(土) 13:20:45 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp

「赤宮、お前大丈夫か?」
 翌日、霧澤と真冬は学校へと向かっていた。
 昨日の夜で、何とかノートを全て写しきり、今日からは万全の状態で授業を受けれる。
 だが、霧澤が心配してるのはそこではなく、昨日の夜に遭遇した『ヴァンパイア』との戦いで、横腹を強く叩かれたことだ。
 真冬は横腹に優しく手を当てて、笑みを浮かべる。
「……まだちょっと痛むけど……大丈夫だよ。今日は体育ないし、大人しくしてれば平気だと思う」
「そっか。……ならいいんだけど」
 安堵する霧澤のポケットに入った携帯電話が、電話の着信音を鳴らす。
 霧澤は特に好きなアーティストも歌もないので、着信音は普通のコール音だ。
 そんな全く飾っていない携帯電話をポケットから取り出し、霧澤は電話をかけてきた相手を見る。
「……誰?」
「薫だ。珍しいな、一体何の用だ?」
 携帯電話を開いて、霧澤は耳に当てる。
 すると聞こえてきた声は、いつもの元気な奏崎の声ではなく、心なしか元気が無いように思えた。
『あー……もしもし、夏樹?』
 そんな違和感に、霧澤は鋭く感づく。
「……どうした?今日お前元気ねーな」
『うーん、それがね……ちょっと風邪引いちゃって……熱も三十九度あるの……』
「マジか?お前ほとんど風邪引かねーのに?」
 奏崎はいたって健康な女子だ。
 花粉症でもなく、インフルエンザにもかかったことがない彼女にとって、風邪を引くのはかなり珍しいことだった。
『そんなわけで今日学校休むから……。先生にも伝えといてね……ごほっごほっ!』
「あー、分かった分かった。分かったから今日は大人しく休んでろよ。ゲームとかすんじゃねーぞ」
 霧澤はそう言って携帯電話を閉じる。
 心配そうにこちらを見ている真冬に、霧澤は連絡の内容を告げた。
「薫今日休むってよ。帰りに見舞いでも行くか」
「……うん。大丈夫かな、薫ちゃん」
「風邪でやられるような奴じゃねーよ。とりあえず、早いトコ学校に行こうぜ」

 一方で、こちらは魔界。
 悪魔達が多く住むエリアで、一つの巨大な塔が立っている。恐らくここに悪魔のボスがいるだろう。
 塔の最上階で、豪奢な椅子に腰を掛けた長く白い長髪を持ち、鎌を椅子に立て掛けている女が口を開く。
「……フルーレティがやられた?」
 彼女の前にいるのは、人型だが、あまり強そうには見えない。人型の下っ端といったところだろうか。
「ザマァないわね。地獄の副将って呼ばれてるからって、調子に乗るから早々に死ぬのよ」
「自業自得と、言いたいのですか?」
 女の言葉に、銀色の長い髪を持った男が優しく問いかける。
 女は笑うことなく、ただ当然のように告げた。
「当たり前でしょ。私アイツ嫌いだし。殺してくれてありがとー、私嬉しいわー、ってトコよ」
「で、どうすんだよ。俺らの中の誰かが、現世の『ヴァンパイア』を攻めるか?」
 女の傍らにいた黒髪の男がそう訊ねる。
 そうね、と女は顎に手を添えて考え出す。
「私が行きましょうか?」
 考えている女に、赤い髪をツンツンにした、狐目の男が名乗り出る。その男の表情には笑みが浮かんでいた。
 女は静かに男へと視線を向ける。
「……いけるの?アンタ」
「勿論です。準備には時間がかかりますが、成し遂げてみせましょう。要は、赤宮真冬を消せばいいんですよね?」
「その通りよ」
 その言葉を聞くと、男は背を向けて歩き出した。
「お任せください。貴女の期待に沿ってみせますから」
「……頼んだわよ」
 女は去っていく男の名前を小さく呟いた。
 その名は聞いた者を震撼させる、『七つの大罪』の悪魔の一人―――。
「『色欲』のレヴィアタン」
「私の事は、リヴァイアサンとお呼びください」
 男は笑みを浮かべたまま、その部屋から退室していった。

93館脇 燎 ◆SgMmRiSMrY:2012/02/18(土) 14:32:21 HOST:222-151-086-004.jp.fiberbit.net
コメント失礼いたします。

ついに新章始まりましたね、と言っても僕は見始めたばかりですが。
『朱赤(しゅしゃく)』編と名付けられていると言うことは、髪の朱色な人が一番関係しているのでしょうか? 扇を使うところも何だか興味が湧きます。
奏崎さんが風邪になったのも何か原因があるのでしょうか、楽しみです^^

それと、アドバイス……というか気になった点があるのですが。
魔界の場面で魔界の人たちが色々と出ていますよね。魔界に人を登場させるのは良いと思うのですが、新登場が多くそれぞれの特徴を捉えづらいような気がします。
僕の小説の教科書では、登場人物が一気に登場するのは読者が特徴を掴みづらいと書いてあったので……
初心者がゴタゴタ言って済みません。スルーして貰っても構いません。

コメント失礼いたしました。

94竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/02/18(土) 14:50:36 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
館脇燎さん>

はい、第三章になりますね。やっと話の本筋の序章ですw
朱色の人と赤色の人が主に活躍しますw メインヒロインは勿論赤色の人ですが、この章のヒロインは多分朱色の人ですw
ちなみに、薫が風邪になったのは、特に関係はありませんw 薫が腹を出して寝ていたせいでs((

今回はレヴィアタン以外は適当に台詞だけで流そーかなー、と考えていたので……。確かに登場人物が多いと分かり辛いですね。
実際最後の場面は『七つの大罪』の悪魔七体を喋らせようと思ったのですが……七体出してたら、えらい混雑してましたねw
いえいえ、貴重なアドバイスありがとうございます。参考にさせていただきますね^^

コメントありがとうございました。

95竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/02/18(土) 15:54:08 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第14話「女の日常」

 朧月と白波が在籍する一年六組は、一時間目が体育だった。
 六組での特定した友達がおらず、話しかけてきたら返事を返す程度の付き合いしかしていない白波は、体育の授業の更衣の時は一人である。
 授業が終わり、白波はシャツのボタンを留める手をふと止めて、周りの女子を見渡す。
(……うーむ……)
 白波は視線を自分の胸に落とした。
 白波は背が低めなため、胸が小さいこともそれなりのコンプレックスである。勿論、この事実を知っている者はおらず、朧月には言えるわけもない。
(……小さいの、かな……?)
 白波はこんな事で悩んでいるのが恥ずかしくなったのか、首を大きく左右にぶんぶんと振り、考えを断ち切る。
 今まで考えたことも気にしたことも無かったのだが、一度思ってしまえば、中々思考が離れない。
 その思考を消し去ってくれるかのように、後ろから声がかかった。
「ねえ、白波さん」
「は、はいぃ!?」
 急に声を掛けられて驚いたのか、白波は自分でも予想外な大きな声を出した。その声量に、声を掛けた女子も肩をビクッと震わせる。
 白波は一度落ち着いて、深呼吸をする。
「……な、何でしょうか?」
「あ、あの……白波さんって、朧月君と仲良いよね?」
 意外な質問だった。
 確かに教室の中でも普通に朧月と話している。
 やはりそれだけで仲が良いと思われてしまうのか、別段嫌なことでもないが、改めて仲が良いか聞かれると、頷きかねる。
 しかし、ここで『ううん』と言うのもなんだし、教室でも普通に下の名前で呼んでるので、仲が悪いわけではない。
 白波は、右手を腰に当てて訊ねる。
「……良いっちゃ良いけど……どうかしたの?」
「……うん……あのね……」
 中々言い出さない女子に、白波は首を傾げる。
 相手は若干頬を染めてるし、自分から視線も逸らしている。横にいる友達に助けを求めては、友達が応援しているような感じにも見える。
 もしかして、と白波は女の勘を発動した。
「……朧月君って……彼女さんとか……っていうか、白波さんって朧月君の彼女さんだったり、する……?」
 やっぱりきたかその質問、と白波は溜息をつく。
 見た目が見た目だし、勉強もスポーツもそれなりにこなす朧月は、女子ウケは良く、結構モテるのだ。はっきり言って、霧澤とは全くの対極に位置する人間である。
「違うし、アイツ彼女いないし。それがどうかしたの?」
「……そっか……」
 その女子は僅かに良かった、と言葉を漏らすと、ポケットの中から手紙を取り出す。
 恐らく、この女子は朧月が好きで、口で伝えるのは恥ずかしいから、手紙で何とかしようと考えたのだろう。
 ちなみに、白波は手紙なんて回りくどいやり方はせず、はっきりと口で伝える派だ。
「……これ、彼に渡してほしいんだけど……」
 女子は顔を真っ赤にして手紙を差し出した。
 白波も相手の気持ちを汲み取ってか、無駄な事は何一つ言わずに手紙を受け取る。
「この涙ちゃんに任せなさい」
 白波は教室に戻って、朧月に受け取った手紙を渡す。
 渡された当の本人は首を傾げて、白波を見ている。
「……私じゃないわよ。同じクラスの娘から受け取ったの。ちゃんと返事は返してあげなさいよ」
「……ああ、分かってる」
 朧月は手紙を開いて文に目を通す。
 それから息を小さく吐いて、手紙を筆箱の中にしまった。
「……もう読んだの……?」
「ああ。嫌なモンだな。こういうのをもらうのに慣れるって」
 白波は溜息をつく。
「それ、全世界の男子を敵に回すわよ?」
 朧月の台詞に、白波はそういうツッコミを入れた。

96竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/02/18(土) 19:07:07 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 暇だ。
 ただ漠然と奏崎薫はそう思った。
 家には誰もおらず、話し相手もいない。霧澤か真冬かとメールでもしようと思うのだが、彼らは今学校である。メールでやり取りできるのも十分程度だけだ。
 普段なら暇すぎてゲームでもしたい気分なのだが、霧澤からはゲームはしないようにと注意されている。一応は彼の言う事を聞くらしい。
(……ぶー……暇だなぁ……。こんな時に暇つぶしになるものないかなぁ……)
 奏崎はベッドの中で思う。
 眠気もそんなにないし、食欲だってない。
 テレビを見ようにも二階から一階に下りなければ見れないし、一階まで降りる力が無い。
(……)
 ぼーっと天井を眺めながら、奏崎はふと霧澤の事を思い浮かべる。
 たったそれだけの事なのに、心臓の鼓動が早まるのを感じるし、身体が先程よりも熱くなっているのも分かる。
 彼女は胸に手を当てて、心臓の早い鼓動を確かめる。
(……夏樹……)
 彼女は頬を僅かに赤らめて、誰もいない部屋でポツリと呟く。
「……会いたいなぁ……」
 奏崎はハッとして、自分は何を言っているんだ、と余計に顔を赤くした。
 首を左右に大きく振り、自室にあるパソコンの電源を点ける。ゲームは禁じられたが、パソコンは禁じられていないので、大丈夫なはず。と半分屁理屈のような理由で、パソコンを始めた。
 すると、一件のメールが届いていることに気付く。
「むむ?『ゲクイ様、初めまして。 現在僕は先週発売されたゲームの『バスケLOVE!』という作品をプレイ中なのですが、攻略が中々上手くいきません。ゲクイ様のお力を、お借り願えないでしょうか』か……」
 奏崎のパソコンには、毎日と言っていいほど面識の無い人間からのメールが届く。
 彼女は一部のゲーマーから『ゲームクイーン』と呼ばれ、ゲームの攻略法を事あるごとに頼まれるのだ。『ゲクイ』というのは『ゲームクイーン』の略である。
 こういうメールが来たときの奏崎はとても楽しそうな顔をする。
 奏崎は本当に風邪を引いたのか疑ってしまうような表情を浮かべ、
「いやーん、今日も迷える子羊が私を頼りにしてるのね!風邪を引いても、私に休暇はないってわけか。んもー、ドS−!」
 奏崎は恐るべきスピードでキーボードを打ち、メールの返信をする。
 ちなみに、皆が奏崎を頼る理由は、彼女のゲームクリアの速度が第一要因だ。
 先程例に上がった『バスケLOVE!』という新作。中学生の女子バスケ部の女の子達を育てていくという、育成ゲームのジャンルに入るものだ。奏崎にとって、そういうゲームは三日もあればクリアできる。
「うーん……あ!私の大好きな声優さんの新曲が出てるじゃないかー!」
 奏崎はイヤホンをパソコンに挿して、イヤホンを耳に突っ込む。
 今の彼女は、自分が風邪で学校を休んでいるという自覚が、全くなかった。
 奏崎は音楽を聴きながらウェブを開き、あれこれと調べ物をしている。
「おー!来週に私の大好きな『シスファミ』シリーズの新作が出るじゃないかー!!」
 『シスファミ』とは、正式名称『シスターファミリー』という、一人暮らしの大学生の元に四人の妹達がいきなりやってきた、これまた育成ゲームである。
 奏崎の好きなジャンルは、ギャルゲーからRPG、謎解きなど幅広いが、中でも一番好きなものは育成ゲームである。
「これは杏奈(あんな)ちゃんが可愛かったんだよなぁー。でも、詩織(しおり)ちゃんも萌えたしー、佐奈(さな)ちゃんのツンデレ具合も最高だったしー!岬(みさき)ちゃんの、む、胸がぁぁぁ、え、エロスッ!!」
 彼女は時折咳き込みながら、一人で喋り続けていた。
 こんな事をしていては熱は上がる一方。そんな事は分かっていても、今の彼女を止められる者は誰もいない。

97竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/02/19(日) 19:51:18 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 一時間目、二時間目が終わり、真冬は席に座りながら、気持ち良さそうに伸びをする。
 真面目な真冬は、休み時間の間に次の授業の教科書やノートを、机の上に用意する。ちなみに、霧澤も奏崎も授業開始のチャイムが鳴らなければ用意することはない。
 次の授業は数学だ。
 真冬が教科書を出して、授業の準備を万全にしていると、一人の女子が真冬に声を掛けてきた。
「ねぇ、赤宮さん」
 声を掛けてきた女子は、ポニーテールが良く似合う黒髪の女子だ。体育の時などで、真冬とよく話すらしいのだが、実際に話しているところを見るのは、少し新鮮だ。
 その少女は、遠慮気味に真冬に問いかける。
「あのさ、数学の宿題……やってきた?」
「え、うん。やってきたけど……」
 少女の質問に真冬は答えた。
 すると、その少女は自分の顔の前で、両手を合わせる。お願いするような仕草で、少女は真冬に言った。
「お願い!宿題見せてほしいんだけど……ダメ?」
「ううん、いいよ。授業が始まるまでにはちゃんと返してね」
 そう言って、真冬は宿題に出されていたプリントを渡す。
 少女はお礼を言って、プリントを受け取り、自分の席に戻って勢い良くペンを走らせる。
 相手を見て、僅かに嬉しそうな表情を浮かべる真冬に、後ろから声が掛けられた。
「相変わらず優しいな、お前は」
 声を掛けたのは霧澤だ。
 真冬は大して驚いたような表情もせず、身体ごと霧澤へと向ける。彼らは席が隣同士なのだ。
「そんな事ないよ。『宿題見せて』って言われたら普通に見せちゃうでしょ?断るのも何か後味悪いしさ」
 真冬は苦笑いして、そんな事を言った。
 そういう気遣いが、真冬の『優しさ』なんだ、と霧澤は思う。
「それに、夏樹君だって私にノート写させてくれたじゃない」
「あれはお前が休んでたからだろ。仕方ねーっつーか……」
 あれこれ理由を考えているが、上手く言う事が出来ない。
 真冬はそんな霧澤を見て、笑みを浮かべて、口元に手を添えて小さく笑い出す。
 そこへ、先程のポニーテール少女が写し終わったプリントを持って、またもや真冬に声を掛けた。
「ありがと、赤宮さん!助かったよ!」
 少女は笑顔で言いながら、真冬にプリントを返却する。
 写すの早いな、と思いながら、真冬は返されたプリントを受け取る。
 ポニーテール少女は、そのまますぐには帰らず楽しそうに話している霧澤と真冬を見ている。数秒見た後に、彼女は楽しそうな表情を浮かべた。
「そういえばさ、赤宮さんって、女子といるのはよく見るけど、男子と一緒にいるのは霧澤君しか見ないね」
 へ?と真冬はきょとんとする。
 確かに、クラスの中でも話す男子といえば霧澤以外にはいないし、隣のクラスの朧月としても、話せない事はないが、そこまで仲が良いとは言えないし、そもそも、校内では白波とも話す事はほとんどない。
 そこで、ポニーテール少女の滝本美々(たきもと みみ)は、とんでもない事を言い出した。
「霧澤君と赤宮さんってさ、付き合ったりしてるの?」
「ッ!!!???」
 その発言に、霧澤と真冬は顔を赤くして硬直し、クラスの男子は霧澤を鋭い眼光で睨みつけ、一部の女子は『えー!』という驚きの声を漏らしている。
 霧澤は、ぶんぶんと首を横に振って、
「ち、違う!確かに仲は良いが、そういう関係じゃねぇって!」
「そ、そうだよ!いきなり何を言い出すの、滝本さん!」
 そんなこんなで、三時間目開始のチャイムが鳴り響く。
 この時、霧澤達の生徒のほとんどは、妙な気持ちで授業に臨む事になった。
 
 今この場に奏崎がいたら、大爆笑されたことだろう。今日休みで本当に良かった、と霧澤と真冬は思う。

98竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/03/02(金) 20:50:05 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp

「えー。今日奏崎さん休みなの?」
 学校が終わり、霧澤と真冬が出てくるのを教室の前で待っていた朧月(早く帰りたそうな顔をしている)と白波だったが、奏崎が休み、と聞くと白波は驚きの声を漏らした。
 朧月から聞いていたのか、彼女とほとんど話したことのない白波だったが、奏崎が休む、というのが予想外だったらしい。
 ちなみに、彼女が霧澤と真冬を待っていた理由は、買い物に付き合ってもらい、その荷物を霧澤と朧月に持たせようとしていたのである。面倒な仕事が頓挫しそうなので、朧月は心の中で力強くガッツポーズをする。
「うん、ごめんね。私達、これから薫ちゃんの家に行って、プリントとか届けに行きたいから」
 真冬の友達思いな発言に、白波は納得したように息を吐く。
「いいわよ。友達のために動こうとしてるのを、止めちゃ悪いしね。今日のところは昴と二人で行くわ」
 白波の言葉に、朧月は言葉では説明できないような、ショックを受けた表情をしていた。荷物持ちが相当嫌だったらしい。
 真冬は『また誘ってね』と言って、朧月・白波ペアと別れる。
 学校の帰り道、霧澤と真冬は奏崎の自宅へ向かいながら、会話を交わす。
「……薫ちゃん、大丈夫かな」
 真冬はふと呟く。
 その台詞を聞いた霧澤は、顔を真冬に向ける事もせずに、当然というような口調で答えた。
「まあ、アイツなら大丈夫だろ。『殺しても死なない不死身女』ってのがアイツのコンセプトらしいし」
 そのコンセプトに真冬は小さく笑う。
 勿論、『殺しても死なない不死身女』というのは、霧澤が考えたもので、これが奏崎本人にバレてしまったところ『カッコいいから許す!』と言われた、本人公認である。
「きっと今頃自分の好きな声優の歌でも聴いて、悶絶してるだろうよ」
 そんな事を話しているうちに、家に着いた。
 霧澤はインターホンを押すが、出てくる様子がない。それから二度三度鳴らしたが、依然として出てくる様子がない。
 二人は顔を見合わせて、試しにドアノブを回すと、
 普通にドアが開いてしまった。
「……入っても、いいのか?」
「……いんじゃない……?」
 二人は曖昧なまま、部屋へと足を踏み入れる。
 それから色んな部屋を見回っていくが、肝心の奏崎の姿が全く見えない。霧澤は、奏崎の部屋の前で立ち止まっている。
 やがて、一階から真冬が階段を使って上がってくる。
「トイレにもお風呂場にもいなかったよ。ってことは、やっぱりここかな?」
 真冬も、霧澤と同じく奏崎の部屋の前に立つ。
 霧澤は僅かに逡巡し、ドアノブに手をかける。
「……開いてなかったら、全力でドライバー探してこじ開けるぞ。ここしかもう残ってねぇ」
 霧澤は勢い良くドアノブを回し、ドアを開け放つ。
 幸いな事に、汗水垂らしてドライバーを探す手間は要らなかったようだ。ドアの鍵は閉まっていなかった。
 だが、霧澤と真冬が見た奏崎の格好は奇妙なものだった。
 椅子に座ったまま仰向けに倒れ、何故か知らんが鼻血を流し、息を荒げながら幸せそうな顔をしている。
「薫!?お前、どうした!?」
 霧澤と真冬は急いで奏崎に駆け寄る。
 彼女は、振り絞るような声でこう言った。
「……ハァ……ハァ……、麻衣花(まいか)ちゃんの声、メチャカワユス……」

 心配して損した。

 というのが、霧澤と真冬の心境だった。

99竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/03/02(金) 23:18:25 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 奇妙な状態で悶絶していた奏崎が、霧澤と真冬に発見されたのとほぼ同じ時間帯。白波は朧月と一緒に大型店舗が立ち並ぶ街へと来ていた。
 だが、彼女は特に買い物などはしていない。現に今彼女が持っているのはボールペンが二本程度入った文房具屋の袋だけである。
 二人がいるのは喫茶店で、荷物持ち地獄から開放された朧月は内心ホッとしている。
 すると、窓からずっと外を眺めていた白波が、何も話していなかったので、唐突と呼ぶ他ないタイミングで口を開いた。
「ねぇ、昴」
 朧月はコーヒーをゆっくりとすすりながら、視線を白波に向ける。
 一方の声を掛けた下波の視線は、以前窓の向こうだ。その先に何かあるのか、と思い視線の先に目をやるが、特に変わったものは無い。
 白波は退屈そうに、指で軽くテーブルを叩きながら聞いた。
「……最近、変だと思わない?」
「……」
 白波の言葉に、僅かに黙る朧月。
 そこで、彼はハッとして、答えとなる言葉を紡いだ。
「ああ、確かに。英語の中林(なかばやし)のカツラ、最近バレバレになって―――」
「そんな些細な事じゃないわよ!つかどうでもいいレベルだし!」
 白波はバン、と机を叩いて思わず怒鳴ってしまう。
 一気に店の中の人の視線が自分に集中し恥ずかしかったのか、彼女は軽く咳払いをして深呼吸をする。
 それから、頬杖をつきながら話を元に戻していく。
「そうじゃなくて。悪魔よ、悪魔。フルーレティ討滅からよわっちい下級悪魔しか来てないのよね」
 白波の口調は、もの足りないような感じだった。
 どうせ戦うなら強い奴と、ではなく初めから、強い奴と戦うのを望んでいるようなニュアンスだ。
 それを聞いた朧月は、首を傾げながら、
「……それっていいことなんじゃねぇの?」
「逆に不気味よ。今まで中級や上級……かなり稀ではあったけど人型まで来た事だってあるのよ?」
 稀である人型の来襲。
 最近で言えば、フルーレティが記憶に新しいだろう。
 途中で変貌したとはいえ、彼も人型の悪魔だ。彼が討滅されてから、人型はおろか、中級や上級の悪魔まで来なくなっている。
「でも考えようによっては、昴の言うとおりいい事なのよね。その方が仕事減るし、街の人に危害が及ぶ事もなくていいんだけど……」
 白波は一度言葉を区切る。
 けど?と朧月は白波に言葉の続きを促した。
 白波はコーヒー(砂糖たっぷり)を一口含んでから、言葉を続けた。
「こう来なくなった時期を考えると、どうも怖いっていうか不気味っていうか」
 朧月は腕を組んで、黙り込む。
 確かに、不気味ではある。
 言ってみれば、今までちょっかいをかけてきた同級生が、急に何もしてこなくなった、みたいな感じだ。不気味か怖いか可笑しいか。とりあえず不思議な気持ちになるだろう。
 白波はコーヒーを飲み干して、一息つく。
「ま、私が深く考えすぎってだけだと良いんだけどねー。ここんとこ戦い続きだったから、どうしてもそういう考えになっちゃうのかな?」
 朧月は溜息をついて、窓の外に視線をやる。
 それから、白波に聞かせるように、自分に言い聞かせるように、あるいは誰のためにでもないように、ただ呟いた。
「……平和って言葉が……随分と遠くに感じるよ……」

100竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/03/03(土) 02:31:00 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
訂正発見です。

>>99の『一方の声を掛けた〜』から始まる行の『白波』が『下波』になってる・・・…。新たなヴァンパイアを生み出してしまうとこだったぜ((


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