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ミセ*゚ー゚)リ奏者Мのレクイエムのようです
1
:
ブーン系の名無しさん
:2014/03/16(日) 23:37:56 ID:3TTuD58w
音楽と魔法の力が大きく世界に残っていた時代。
この街に住む人間の演奏する音楽には、不思議な力があった。
まだ小さかった頃、私は楽団員の兄に連れられ、大聖堂で音楽団の演奏を聴いた。
大聖堂の荘厳な空気なんて私には分からなかったけれど、あの時の音は今でも覚えている。
名前も知らない楽器のハーモニーが私を包んでいく不思議な感覚。
先生が教える火を出す魔法より、空を飛ぶ魔法より、私の目には輝いて見えた。
いつも私に笑顔をくれる兄はステージの上。黒い制服に身を包み、真剣で、しかし穏やかな表情で楽器を吹いていた。
そんな兄と、兄のいる『ソーサク音楽団』は、取り柄のない私の数少ない誇りの一つだった。
いつか私も――――。
「………」
「おい、ミセリ=ミレクイア」
2
:
ブーン系の名無しさん
:2014/03/16(日) 23:38:30 ID:3TTuD58w
ミセ;゚ー゚)リ「は、はいっ!」
(‘_L’)「そこはお前が目立つところではないと言った、もっと感情を抑えろ」
ミセ;゚−゚)リ「……申し訳ありません」
聖堂に響く冷ややかなその声に、私は落ち込んだ声で返事をした。
「またか」と、演奏を止められた不満の溜息が、他の楽団員から漏れ出すのが聞こえた。
(‘_L’)「……お前の演奏する音は悪く目立つと、散々注意をしたはずだが」
ミセ;゚−゚)リ「……はい」
(‘_L’)「………」
(‘_L’)「………今切ったところの二小節前から始める」
私から視線を離した指揮者の言葉を合図に、私を含めた全員が楽器を構え直した。
あの日から十二年。
あの時の兄と同じ楽器を手にした私が、『ソーサク音楽団』の一員として立っていた。
家の貧しさも厳しくなり、楽団を辞めて遠くに働きに出た兄は、この街に残る私に自分の楽器と楽団の制服を託した。
前から吹き方を教えてもらっていた私はその記憶と、同じく兄が残していった楽譜を頼りに練習を重ねた。
兄の吹いていた管楽器はどうやら特殊なものだったようで、この街には兄以外に吹ける人がいなかった。
だから私は兄の知り合いの助けを借りながら、ずっと手探りで練習を続けた。
その成果で何とか楽団には入団できたが、正直なところ、今では付いていくのが精いっぱいだった。
3
:
ブーン系の名無しさん
:2014/03/16(日) 23:39:18 ID:3TTuD58w
その辛さが知らぬ間に音に影響したのだろうか。
私は先月、指揮者の先生に呼び出された。
(‘_L’)「ミセリ=ミレクイア、お前の奏でる音には……」
(‘_L’)「“冷”の音色がかなりの強さで現れている」
ミセ;゚−゚)リ「え……」
目の前が真っ暗になりそうだった。
この街の人間が奏でる音には、不思議な力が宿る。
多くの人間は“暖”という人の温かさを象徴する音を強く演奏でき、気持ちを程よく込めるほどその音色は質の良いものになる。
私の兄は、特に質の高い“暖”の音色を持った奏者だった。
“冷”はその真逆。
数少ない人間しか演奏できないが、別に重宝されることはない。
それどころか“暖”の音色で創られた空間を壊しかねない、欠陥の音色とも言われていた。
それでも。
私は兄が残したこの楽器を手に、この楽団を去るわけにはいかなかった。
何とか気持ちを抑えた演奏をするということで頼み込み、演奏を続けた。
「あー、今日の練習も長かったなぁ」
「……だってホラ、魔笛さんがいるからねー」
「やめなよー、聞こえちゃうじゃん」
ミセ*゚−゚)リ(…………)
練習が終わり、楽団員は演奏とは別の音を鳴らし始める。
私は先程音色を抑えたように気持ちを抑え、無表情のまま片付けを進めた。
4
:
ブーン系の名無しさん
:2014/03/16(日) 23:42:01 ID:3TTuD58w
『魔笛』。
黒い制服に身を包み、黒い管楽器を演奏する私の仇名だ。
『その音が響くとき、練習の時間が延びる』と、専らの評判だ。
現在、『ソーサク音楽団』の制服は白を基調としたデザインになっているが、私だけは兄のお下がりを頑なに着続けている。
兄に残してもらったモノだというのもあるが、新しい制服を買い取るお金がないのが大きな要因だ。
本番の演奏の時だけは貸してもらうという形で、どうにか出て並んでいるのが今の私の状況だ。
ヽiリ,,゚ー゚ノi「……つぅかさ、いい加減意地張らずに新しい制服買いなよ、ホント暑苦しいよ」
黙々と片付けを進めていると、私と同じ年の金管楽器のパートの子が近寄ってきた。
彼女の白い制服が眩しくて思わず、自分が裾を上げたり胴を詰めて履いている兄のズボンに目を落とした。
ミセ*゚−゚)リ「……私、制服買うお金ないんだ」
もう他人に何度この話をしただろうか。
相手に覚える気がないから、この回答にもどうせ意味はないのだが。
ヽiリ,,゚ヮ゚ノi「へぇ〜、あ、その旧制服売れば、多少の足しにはなるんじゃないの?」
軽い口調で、そして強く皮肉を込めた言葉を彼女は吐いた。
5
:
ブーン系の名無しさん
:2014/03/16(日) 23:42:58 ID:3TTuD58w
この服を売る?
それが私の今までの全てを否定される行動であるような気がして、
思わず両手で着ている制服の襟を掴み、抱きしめるように強く引き寄せた。
ヽiリ,,゚ヮ゚ノi「まぁ、そんな古着買ってくれるもの好きがいればだけどねぇ〜」
ひらひらと掌を振りながら笑う彼女。
「……ふふっ」
しかしその意地の悪い笑みは、他の人の笑みによって中断された。
私と彼女の向けた視線の先には、金の巻き髪が綺麗な私の数少ない友人、ツンが立っていた。
ツンは私の練習に付き合ってくれた兄の知り合いの演奏者の妹でもある。
ヽiリ,,゚ー゚ノi「……あら、何よツン」
ξ゚ー゚)ξ「いえ、もしミセリの着てる旧制服売りに出したら、アンタのいつも持ってる安っぽいバックがいくつ買えるだろうか数えて笑ってたのよ」
ξ゚⊿゚)ξ「ねぇ、そうでしょブーン?」
彼女が同意を求めるように問う声に応じるように、大柄な青年が向こうの扉から顔を出した。
彼もまた、私の数少ない友人の一人で、ツンの恋人だ。
6
:
ブーン系の名無しさん
:2014/03/16(日) 23:43:55 ID:3TTuD58w
( ^ω^)「おっおっ、もし売ってもらえるならの話だおね……?」
ブーン君が、トランペットのケースを片手に、もう片方の手を顎に当てながら考える素振りを見せる。
その一連の動作の間も変わらない温厚な表情が、いかにも彼の優しい性格を表していた。
ξ゚⊿゚)ξ「当り前よ、ミセリだってアンタみたいなデブに大事な服売りたくないわよ」
( ´ω`)「デブって酷いお……ミセリちゃんはブーン君体格が良いねって言ってくれるのに……」
ブーン君のわざとらしい落胆の仕草に、私とツンは思わず笑った。
ヽiリ#,,‐,‐ノi「……ふん、暑苦しさも頂点ね、帰るわ」
金管楽器の彼女は私が笑うのを見て、つまらなさそうに自分の楽器ケースを抱えて去った。
彼女は扉のところで一度ケースをぶつけ大きな音を鳴らしたあと、私の方をもう一度睨み帰っていった。
(;^ω^)「……アレ、僕のせいかお?」
・ ・
ξ‐⊿‐)ξ「ええ、そうよ、だから詫びとして私達にワッフルをおごりなさい」
(;^ω^)「えぇ〜何で……」
ξ゚⊿゚)ξ「……良いから」
( ´ω`)「ハイ……」
とぼとぼと二人分の楽器を運びながらツンのあとを付いていく彼の後に、私はさっきより幾分か明るい気持ちで続いた。
7
:
ブーン系の名無しさん
:2014/03/16(日) 23:46:00 ID:3TTuD58w
ミセ*゚−゚)リ「………ごめんね」
公園で買ったばかりのワッフルを舌鼓を打つ二人に、さっきまで言おうとしていた言葉を零した。
ξ゚⊿゚)ξ「……何言ってんのよ、そんなワッフル一個ぐらいで」
( ^ω^)「そうだお、ちなみに買ったのは僕でツンはワッフル食べてるだけだお」
ξ゚⊿゚)ξ「何よ、私だって女の武器を駆使して値切りを成功させたじゃない」
( ^ω^)「あの鬼の形相は女の武器なのかお……」
ξ#‐⊿‐)ξ「何ですって?」
ミセ;゚ー゚)リ「いや……うん、ワッフルもそうなんだけど」
手の中でまだ温かいワッフルは、彼が私に半分おごってくれたものだ。
私はいつも遠慮しているのだが、結局どういうわけかツンに押し切られて半分出してもらっている。
ξ‐⊿‐)ξ「ブーン、私たちワッフル以外に何かミセリに感謝されるようなことしたかしら?」
( ^ω^)「してないお。あとツンはワッフルのときも別に何もしてないお」
ξ゚⊿゚)ξ「……しつこいわねアンタ」
( ^ω^)「食い物の恨みは怖いんだお」
ξ゚⊿゚)ξ「……じゃあ、今度私が手作りのワッフル持ってきてあげる」
( ^ω^)
( ^ω^)「……ブーンはこれからも喜んで二人にワッフルをおごるお」
ξ#゚⊿゚)ξ「どういう意味よ!!」
ミセ*^ー^)リ「……ふふっ」
いつもこうだ。
私の友達は私に謝らせてくれたことがない。
8
:
ブーン系の名無しさん
:2014/03/16(日) 23:47:22 ID:3TTuD58w
< ^ω^)「あ、そうだお」
ツンに頬を抓られていたブーン君が、思い出したように声を上げた。
( ^ω^)「今日もするんだおね、夜中に練習」
ミセ;゚ー゚)リ「……うん、お願いできるかな」
( ^ω^)「お安い御用だお!」
練習。
皆に付いていくのがやっとな私は、普段の練習時間だけでは足りない。
家では叔母さんが疲れて寝ているため、夜中の練習は出来ない。
そういったことを二人に相談したら、
( ^ω^)「おっおっ、ブーンなら遮音の魔法が使えるお!」
ξ゚⊿゚)ξ「アンタそれしかできないもんね」
(;^ω^)「ぐっ……でも、持続性と防音性はこの街でもピカイチだお!!」
ξ゚⊿゚)ξ「なら大聖堂の演奏用の小ホールを使いなさい、私が練習用に鍵預かってるから」
ξ*‐⊿‐)ξ「楽団弦楽器のエースであるこのツン=アレグロードに感謝することね!」
ということで、二人の協力によって私は夜中の練習をすることが出来ている。
音を小さくする魔法が辛うじて使える程度の私は、色んな所で二人の魔法と人柄に助けられている。
ξ゚⊿゚)ξ「……とにかく、あんまり根を詰めちゃダメなんだからね?」
( ^ω^)「いつでも僕らを頼ってほしいお!」
ミセ*^ー^)リ「うん……二人とも、いつも、ホントにありがとう」
いつかこの感謝を二人に返せるだろうか。
そんなことを考えながら、私はその日の帰り道を歩いた。
9
:
ブーン系の名無しさん
:2014/03/16(日) 23:49:12 ID:3TTuD58w
月が白く輝きを見せる頃。
私はいつもの通り、大聖堂の小ホールに来ていた。
ミセ*‐ ‐)リ「……ふぅ」
ブーン君の遮音の魔法が解ける三時間の間、このホールで何をしようと、外に音は漏れない。
その安心感もあって、私は練習を始める前に、こうして落ち着きを取り戻していた。
ミセ*゚−゚)リ「……明日のところ、練習しておかないと」
ケースから自分の楽器を取り出し、楽譜を捲る。
ミセ*゚−゚)リ「あ……」
今日練習した場所のページが目に入る。
注意された言葉が頭を過ぎり、私は暗い気持ちになった。
気持ちを切り替えようと頭を振り、吹き口に唇を当てた。
しかし、音を出す前に来訪者に気付いた私は、吹くのを止めてその姿が現れるのを待った。
10
:
ブーン系の名無しさん
:2014/03/16(日) 23:49:45 ID:3TTuD58w
(-@∀@)「……おやおやぁ、今日も練習ですね?結構結構」
ミセ*゚ー゚)リ「アサピーさん、こんばんわ」
隙間風のような、ぴぃという音とともに現れたのは、銀縁の眼鏡を掛けたアサピーという男性だった。
青白く、半透明の上半身だけが浮く姿には最初は驚いたが、今では普通に話をする関係である。
アサピーさんはこの小ホールの地縛霊であるらしく、私の“冷”の音色に引き寄せられて出会ったのが始まりだった。
(-@∀@)「いやぁ、それにしても熱心ですねぇ、毎日遅くまで練習だなんて」
半透明で足のない体のアサピーさんが、ふわふわ浮きながら言う。
ミセ*゚ー゚)リ「……そうじゃないと、皆に付いていけませんから」
(-@∀@)「そうなんですか?私には、とても魅力的な音に聞こえますがねぇ」
アサピーさんは幽霊だ。
だから、私の“冷”の音色が心地よく聞こえるのだろう。
それが分かっていても、褒められると嬉しいし、それが分かっているから、虚しくもなった。
11
:
ブーン系の名無しさん
:2014/03/16(日) 23:50:30 ID:3TTuD58w
(-@∀@)「いやいや、だって私がいくら幽霊でも、音を外して聞いたりはしてませんし」
アサピーさんは、その嬉しさのあとで虚しくなっている私の表情を見かねてか、
耳に手を当てて、少しおどけた仕草でフォローを加えた。
ミセ*゚ー゚)リ「ありがとうございます」
(-@∀@)「いーえいえ、どういたしまして」
アサピーさんとのふわふわした会話を終え、尚も小ホールを足のない体で闊歩する彼を横目に、
私はいつものように練習を始めた。
小ホールの中に、私の管楽器の音色が響く。
それに合わせて、アサピーさんは踊るような動きをとったり、鼻歌を歌ったりしていた。
練習は欠かしていない。
体調管理もしっかりしているつもりだ。
一度だけ、体調不良になれば“冷”の音が弱まるかと思い無理をした時もあったが、
風邪をひいて叔母さんに迷惑をかけるだけで、私の音色に変わりもなかったので、もうしていない。
「聞けば聞くほど上手いもんです」
「うちのディにも聞かせてあげたいくらいです」
次々に褒め言葉を並べるアサピーさんに、私は少し複雑な気持ちになりながら、
その夜も、彼という観客一人に聞かせるような演奏を続けた。
12
:
ブーン系の名無しさん
:2014/03/16(日) 23:52:05 ID:3TTuD58w
―――――――
「………」
強調された沈黙と下ろされた指揮棒。
また私は強く“冷”の音を鳴らしてしまったようだった。
いつも私に向けられる、先生の言葉を皆が黙って待っていた。
しかし、先生は視線を私に向けず、小さく開いた口から、
(‘_L’)
(‐_L‐)「………お前の兄は優秀な奏者だった」
とだけ言った。
私は返事が出来なかった。
ξ;゚⊿゚)ξ「フィレンクト先生、彼女は……!」
(‘_L’)「続ける。二小節前から」
ツンが何か訴えようとした声を、先生は遮るように指示を出し、下ろしていた指揮棒を上げた。
ミセ* ‐ )リ
私は吹き口に唇を当てたが、吹くことが出来なかった。
先生はそれに気が付いて私の方を一瞥したが、練習の終わりまで一度も何も言わなかった。
13
:
ブーン系の名無しさん
:2014/03/16(日) 23:52:41 ID:3TTuD58w
ξ;゚⊿゚)ξ「待ってよ、ミセリ!」
練習後。
足早に聖堂を去り、一人で逃げるように帰る私をツンは楽器も持たず追いかけてきた。
ミセ*゚−゚)リ「ツン……」
ξ゚⊿゚)ξ「……一緒に帰りましょ」
ミセ*゚−゚)リ「……ブーン君、置いて来ちゃって良いの?」
ξ‐⊿‐)ξ「大丈夫よ、あのデブが何年私に付いてきてると思ってるのよ」
ミセ*゚−゚)リ「……そっか」
ツンは私に逃げられないためか、歩き始めてからも私の前に立って話をした。
私もツンも先生の言葉の内容には触れず、しばらくくだらない話をして笑った。
ミセ*゚−゚)リ「……私さ、楽団辞めた方がいいのかな」
昨日ワッフルを食べた公園の前に差し掛かったとき、私は自分から話を切り出した。
そのあからさまにツンの優しさを期待した言葉に、私は少し自分が嫌になった。
ξ゚⊿゚)ξ「……ミセリは楽団辞めたいの?」
ミセ*゚−゚)リ「ううん、ずっと私の憧れだったもん」
ξ゚⊿゚)ξ「じゃあ、辞めるのは誰の為なのよ?」
ミセ*゚−゚)リ「……」
ξ‐⊿‐)ξ「……言っとくけど、私の為にはならないわよ」
ツンは真面目で優しい。
直接的な言葉はなくとも、私のことを引き留めてくれている。
14
:
ブーン系の名無しさん
:2014/03/16(日) 23:53:14 ID:3TTuD58w
( ^ω^)「僕の為にもならないお」
声に振り向くと、追いついたブーン君が両手に楽器ケースを持って立っていた。
ξ゚⊿゚)ξ「あら、ご苦労様。……ほら、これで汗拭きなさい」
(;^ω^)「おっおっ、ありがとうだお」
今更ながら、私を追いかけるためにツンは自分の楽器をブーン君に任せ、
それを二つ返事でブーン君は承諾し、汗かきながら二人分の楽器を運んできたのだ。
そんな息の合った二人の行動に、いつもながら顔が綻ぶ。
ミセ*゚−゚)リ「……お兄ちゃんが今までこの楽器で頑張ってきたこと」
ミセ*‐ ‐)リ「私が全部台無しにしているような気がして……」
兄に憧れて入った楽団。
兄に託してもらった制服と管楽器。
全て私の“冷”の音色が傷をつけているだけのようで。
本当は、“冷”の音色なんか関係ないのかもしれない。
たとえ私が“暖”の音色が奏でられていたとしても―――――。
ξ゚⊿゚)ξ「……ねぇ、本当に楽団を台無しにするような人間、フィレンクト先生がいつまでも置いておくと思う?」
( ^ω^)「そうだお、ミセリちゃんの音色が綺麗なの、僕もツンも知ってるお」
ミセ*゚−゚)リ「……でも」
ξ゚⊿゚)ξ「……ちょっとブーン、ロマネスクさんにあの堅物指揮者の弱点聞いて来なさいよ」
(;^ω^)「無理言わないでくれお。ロマ伯父さんはツンのお姉さんたちと海の向こうで演奏会だお」
15
:
ブーン系の名無しさん
:2014/03/16(日) 23:54:05 ID:3TTuD58w
ξ‐⊿‐)ξ「まぁ、私はミセリが楽団辞めたいって言うなら止めないわよ」
( ^ω^)「僕は止めるお」
ξ#゚⊿゚)ξ「ちょっと、そこは合わせなさいよ!」
(;^ω^)「だって嘘ついても仕方ないお……」
ミセ*゚ー゚)リ「……ありがとう、辞めないよ」
そこでやっと私は二人に笑顔を返した。
ξ゚⊿゚)ξ「……いつかお兄さんに、聞いてもらうんでしょ?」
ミセ*゚ー゚)リ「……うん」
( ^ω^)「あ、そういや、今日は海外郵便の日だお」
ξ゚⊿゚)ξ「あら、本当ね」
海外郵便。
遠くに働きに行った兄から月に一度のの手紙が届く日だ。
ξ゚⊿゚)ξ「せっかくだし、今日は練習休んだら?」
ミセ*゚ー゚)リ「……ううん、それこそ今日は頑張って練習できるような気がするから」
ミセ*゚ー゚)リ「二人のおかげで……ね」
( ^ω^)「おっおっ、それなら今日も遮音の魔法は任せてくれお」
ξ゚⊿゚)ξ「ホント、無理しちゃだめよ」
ミセ*^ー^)リ「うん、ありがと」
その日は幾分か笑顔で帰り道を歩くことが出来た気がした。
16
:
ブーン系の名無しさん
:2014/03/16(日) 23:55:34 ID:3TTuD58w
(-@∀@)「今日はご機嫌ですねぇ」
その夜。
私が一通り吹き終わった頃合いを見て、アサピーさんはいつものように拍手をくれた。
ミセ*゚ー゚)リ「今日は嫌なことと、良いことがあったんです」
(-@∀@)「……それはそれは、良い青春だと思いますよぉ」
ミセ*゚ー゚)リ「それと、今日は兄から手紙が来るんです」
(-@∀@)「……良かったじゃないですかぁ〜」
アサピーさんは眼鏡の曇りをを拭きながら、私の話に相槌を打った。
彼は一瞬静かになったかと思うと、手をぱんと叩いた。
(-@∀@)「あぁ、そうだ。あの話、考えておいてくれましたか?」
ミセ;゚ー゚)リ「え……なんですか?」
(-@∀@)「“我亡き日に捧ぐレクイエム”」
(-@∀@)「いつか大聖堂の大ホールで演奏でもらいたい、って話です」
17
:
ブーン系の名無しさん
:2014/03/16(日) 23:56:06 ID:3TTuD58w
“我亡き日に捧ぐレクイエム”。
この街の有名な作曲家が、自身の死期が近いことを悟って書いた鎮魂歌。
最後の一楽章は、死後に幽霊となった自分自身で書き上げたといわれている。
この楽団でもよく演奏されている曲の一つで、私も練習しているので吹くことが出来る。
彼は私の練習を聞くようになってから、よくこの話を持ち出すようになった。
何やら思い出の曲らしいのだが、本番でしか使ったことのない大ホールでこっそり楽器を吹く度胸は私にはなかったので、
やんわりといつも断っていた。
ミセ;゚ー゚)リ「その曲なら定期の演奏会でもよく……」
(-@∀@)「私はあなたの奏でたものが聞きたいんですよ」
アサピーさんが私の手を両手で握る。
半透明な彼の手は、私を見えない力でしっかり掴んでいた。
ミセ*゚ー゚)リ「いつか、ですね」
(-@∀@)「はい、待ってます」
彼はそういうと、にっこり笑って私の手を離した。
18
:
ブーン系の名無しさん
:2014/03/16(日) 23:56:55 ID:3TTuD58w
私の奏でる音色が、“冷”の音色である理由は一通り考えてみた。
両親は私が物心つくころには病気で亡くなっていて、彼らの音色を聴いたことはない。
ただ、私の兄は質の高い“暖”の音を奏でていたと聞いているので、両親のどちらかもきっとそうだったのだろう。
ミセ*‐ ‐)リ「………」
歌に感情が籠るように、その人の感情は大きく音色を左右する。
兄が私の為に楽団を辞め、遠くに働きに出てから、私はあまり笑わなくなった。
それでも音楽が嫌いになったわけではないし、いっそう音楽への思いは強まったというのに。
(-@∀@)「………♪」
ミセ*‐ ‐)リ 〜♪
きっと周りのせいじゃない。
私が悪いんだ。
私がもっとちゃんと練習して、この音色を克服しなければならないんだ。
ミセ*‐ ‐)リ 〜♪
(-@∀@)「………お見事です」
ミセ*゚ー゚)リ「………」
一通り吹き終わると、いつものようにアサピーさんが手を叩いてくれる。
しかし今日はその音が一つ多い気がした。
[・-・]「素晴らしい」
振り向くとホールの椅子の陰から、四角い頭の小さなからくり人形が顔を出していた。
19
:
ブーン系の名無しさん
:2014/03/16(日) 23:58:04 ID:3TTuD58w
私とアサピーさんがただ呆然としていると、からくり人形は私の前までテトテトやってきて、
[・-・]「貴女の演奏に感動しました、ただただ、感動しました」
と何やら閉じた口、というより頭部に描かれただけの顔のまま話をした。
からくり人形は、私の身長の半分より少し低いかぐらいの大きさで、簡素な造りをしていたが、
胸のあたりにはめ込まれている緑色の宝石が、それが魔法で動くものだということを証明していた。
(-@∀@)「えっと……どちらさまですか?」
[・-・]「おっと、これはこれは感動のあまり申し遅れました」
(-@∀@)「いえいえあまりお気になさらず。私は幽霊のアサピーです」
[・-・]「わたくし、ジョバイロと申します」
私よりも先にアサピーさんが尋ねると、彼のことは見えているようで、からくり人形は本当に簡単な自己紹介だけを済ませた。
彼の言うことには、少し前にこの小ホールの中に持ち込まれて置き去りにされていたが、私の演奏を聴いていて目が覚めたという。
[・-・]「貴女の演奏はとても温かい、本当に心が温かくなる」
ミセ;゚ー゚)リ「……私の演奏がですか?」
[・-・]「ええ」
彼が放った言葉の一つに、私はあまりに自信がなく、俯いてしまった。
[・-・]「なぜ彼女は俯いているのでしょう?」
(-@∀@)「彼女の音色は“冷”の音色なんですよ」
ジョバイロの問いにアサピーさんが静かに答える。
その答えには納得がいかなかったようで、彼は四角い頭を軽く傾げた。
20
:
ブーン系の名無しさん
:2014/03/16(日) 23:58:38 ID:3TTuD58w
[・-・]「私には、彼女の音色は確かに温かく聴こえたのですが」
そんなはずがない。
私に温かく音色を奏でることが出来ているなら、私はこんな夜中にこそこそ練習なんかしていない。
ミセ*゚−゚)リ「……冗談はやめてください」
(;-@∀@)「そうですよ。彼女の音色が“冷”であることは、はっきりしてるんですよ?」
アサピーさんは私の音色がいかに“冷”の音色であるかをジョバイロに語った。
[・-・]
しかしその言葉に彼はずっと首を傾げたままだった。
[・-・]「……では分かりました、こうしましょう」
黙って話を聞いていたジョバイロだったが、ついに痺れを切らしたのか、声を上げた。
[・-・]「今から私が歌を歌うので、それに合わせて伴奏を吹いてください」
ミセ;゚ー゚)リ「え、そんな急に言われても……」
[・-・]「大丈夫。貴女もきっと知っている曲ですから」
そう言うと、ジョバイロはその場にあった椅子によじ登り、お辞儀をした。
言ってしまえば無機質な人形であることを感じさせない、その一連の動作に私は驚いてしまった。
21
:
ブーン系の名無しさん
:2014/03/16(日) 23:59:19 ID:3TTuD58w
[・-・] 〜♪
それから彼が歌い始めてから少しの間、私はただ圧巻されていた。
決して声量があるわけではないのに、心に響く歌声。
多少金属質ではあるものの、優しさを感じるメロディー。
私が小さい頃から兄と練習をしていた曲だと気付いて、楽器に口を当てるまでに少し時間がかかったほどだった。
ミセ*‐ ‐)リ 〜♪
[・-・] 〜♪
(-@∀@)「………これは………!」
アサピーさんが驚いたように声を上げた。
ミセ*‐ ‐)リ
温かい。
なぜだろう、こんな気持ちで弾いたことなんて、今までなかったのに。
ジョバイロは歌を続けたまま、こちらを向いた。
その仕草は私に笑いかけたかのように見えた。
[・-・]「…… どうですか、アサピーさん」
(;-@∀@)「ええ、ええ、これは確かに“暖”の音色ですが……」
アサピーさんは動揺を隠せないのか、いつもより激しくゆらゆらと揺れていた。
22
:
ブーン系の名無しさん
:2014/03/17(月) 00:00:32 ID:sfmQ9U7Y
ミセ;゚ー゚)リ「どうして、いきなり“暖”の音色が……」
[・-・]「さぁ、私には最初からそう聴こえていましたが」
ジョバイロは、さっきと同じように首を傾げて言った。
[・-・]「“冷”の音色が何か私にはよくわかりませんが、貴女の音色は素敵ですよ」
ミセ;‐ ‐)リ「……」
[・-・]「自分に自信を持ってください。あと、今日はもう帰って休んだほうが良い」
椅子から降りたジョバイロは、そう言って微笑むように頭を揺らした。
ミセ;゚ー゚)リ「……あの」
[・-・]「はい、どうしました?」
ミセ;゚ー゚)リ「もう一曲、別の曲を練習させてくれませんか」
彼に言われたように帰り支度を進めていたが、ふと明日の練習が心配になってお願いをした。
[・-・]「……」
(-@∀@)「あ……私からもお願いします。あなたの歌、もう一度聞きたいです」
[・-・]
[・-・]「……分かりました、では、楽譜を貸して下さいますか?」
少し長く首を傾げた後、ジョバイロはそう言って再び椅子の上に乗った。
23
:
ブーン系の名無しさん
:2014/03/17(月) 00:03:08 ID:sfmQ9U7Y
[・-・] 〜♪
ミセ*^ー^)リ 〜♪
その夜の演奏はきっと、私が今まで奏でた、どの音色より温かった。
その嬉しさに、私は途中から知らず知らずの内に笑顔で楽器を吹いていた。
,
24
:
ブーン系の名無しさん
:2014/03/17(月) 00:03:59 ID:sfmQ9U7Y
そしてその夜、兄からの手紙は来なかった。
、 つづく
25
:
ブーン系の名無しさん
:2014/03/17(月) 00:05:38 ID:sfmQ9U7Y
セーフセーフ多分ギリギリセーフ
……許してください
26
:
ブーン系の名無しさん
:2014/03/17(月) 00:12:49 ID:/rXBtieE
乙
続きが気になる
27
:
ブーン系の名無しさん
:2014/03/17(月) 00:55:36 ID:???
まさかの続くとは焦らしプレイじゃないか。
乙乙。期待待機。
28
:
ブーン系の名無しさん
:2014/03/21(金) 16:04:37 ID:???
面白いぞ
29
:
ブーン系の名無しさん
:2014/03/22(土) 03:32:08 ID:???
つづけー
30
:
sage
:2014/03/23(日) 00:12:39 ID:zwh.XI/U
わくわく
31
:
ブーン系の名無しさん
:2014/03/23(日) 17:06:19 ID:???
諸々ありまして期間中の後編投下が難しくなってしまいました
現時点ではまだラノベとしての参加が出来ていない状態なので不参加でも構いません
ただ遅刻組として期間後での後編の投下を許可していただけると嬉しいです
ご迷惑をおかけして本当に申し訳ありません
32
:
ブーン系の名無しさん
:2014/03/29(土) 09:00:43 ID:???
楽しみにしてるよよ
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