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オリロワアース

33名無しさん:2015/05/07(木) 19:57:17 ID:hu6HOXj60
>パスタの恩は、パスタで返す――それが俺の流儀さ。
なんかもう逆に大物だなパスタ大好きおじさん
そしてこのパスタの流れにも動じない家康もすごい…w投下乙!
そして光秀まできたか、需要は歴史にありだったのか…?

34名無しさん:2015/05/07(木) 23:42:47 ID:bd7FoUPo0
投下乙!
え、なにこの娘かわいいんだけど
でも中身はおっさんなんだよな…うぐぐぐぐ…

35名無しさん:2015/05/08(金) 01:15:41 ID:I3YtTWrE0
代理投下します

36柳生有情剣 ◇/MTtOoYAfo:2015/05/08(金) 01:16:13 ID:I3YtTWrE0

「この音声は削除されました…」
「…おいおい、何だこりゃあどうなってる」

困ったことになっちまった。
今の俺の一言で述べてみるとそう言える。今日は久々の剣客商売、しかもおエライさんからの依頼だってのに。こんなことしてる場合じゃないだろうよ。
俺、柳生十兵衛(やぎゅう じゅうべえ)は頭を掻きむしりながらボソっと呟いた。
あの露出少女かつ俺の居候先の主人こと不死原霧人(ふじわら みすと)が、「偉い人に会うんだから身なりをしゃんとするのよサムライ!」だとかなんとかで着慣れない「すーつ」を着までしたっていうのによぉ。あーあ散々だねえ。
俺はどうもこの服が嫌いだ。なんでわざわざ体にぴったりとした服を着る必要がある。んな格好しちまってたら、いざっていう時剣を鞘から抜きにくい。単純に慣れてないだかもしれねぇがね。

(…まあいいさ。チャッチャッとあの訳わからんこと言ってる奴らを切り伏せちまおうかね)

そうだ。親父殿までとはいかんが、剣術であればそんじょそこらのモンには負けねえ自信がある。
腐ってもこちとら、柳生一派の新陰流(しんかげりゅう)の後継者なんでね。次の仕事のためにあの意味分からんヤツの居場所見つけて切り捨てるとすっか。
俺はそう思い鞘に手をかけようとした。

「…あれ?」

…かけようとしたんだ。柄の部分に手をかけようとしたんだが、その俺の手は空を切ることになった。

そこで気づいた。俺の三池典太(みいけてんた)が無い。俺の愛刀が。脇に差していた俺の刀が。

(うっわー…)

やっちまった。何処で落とした?忘れてきたか?霧人の家か?
いや、それは絶対ない。侍の魂とも言える刀だ。俺の愛刀だ。
しかも刀だけじゃない。常に持ち合わせてる鉄扇も無くなってる。衣服にいつも忍ばせてるはずのモノがだ。

…と、なると。俺の三池典太取ったのが誰か居るって訳か?
ただこんな場において、モノ取りでもされたとはどーも考えにくい。俺の刀と、ましてや懐の鉄扇を気づかれずに取る力があれば、ついでに殺すはずだ。
だとしたら…

「あのあかねってヤツが、取ったってことか」

まったく殺し合いさせる気があるならなーんで俺から武器を奪うかねえ。
…まあそりゃあさあ。正直霧人ん所に来てから俺も緩くなっちまったとは思う。けどな、流石に柳生家の一員として教えられた命とも言える、そして侍の魂とも言える刀を取りやがるってのはどういうこった。
一人知らない世界に来た俺という存在を繋ぎとめる唯一のモノが、無くなっちまった。

37柳生有情剣 ◇/MTtOoYAfo:2015/05/08(金) 01:16:37 ID:I3YtTWrE0
「かーっ、流石にオイタが過ぎるんじゃないか」

そりゃあこっちは徳川イエミツをぶん殴ったせいで親父殿から絞られた身だから、キレるのはよくねーのは知ってるさ。
ただ流石に、流石にこれはちょーっと見過ごせないだろう。

俺の魂を、侍としての魂を取り返さなくては。元の世界に帰るに帰れない。

(ぬるま湯につかりきってたみたいだが、どうもここじゃそうは行かないみたいだ)

定期的に現れる敵達を、ただ仕事と称して切り伏せる日々。
希望に満ちた学生たちに模範的な剣道を教える日々。
そんな定期的な生活慣習では生き残れないし、剣も取り返すことができない。
そんな当たり前はもう通用しない。
覚悟を決めなきゃならないみたいだ。刀を取り返して、これを開いた阿呆共を斬り捨てる。
反逆するなとかなんとか言ってるがどうでもいい。刀を返してもらった瞬間に斬ってしまえば殺される心配もねえだろうよ。
実践形式は久々だが、待ってろよ観測しすてむなんちゃら。

「と、なったらどうすっかねぇ。どっか建物の中でも入って貰ったモンの確認でも…ん?」

そうやって俺は一息つくと目の前、大体三十歩くらい先の方で少女が走っていってるのが見えた。
表情からは焦りが見えた。口は下がり、目からは涙が出ているようにも見える。
年齢は霧人よりわずかばかし年下か?しかも女子(おなご)と来た。

「はぁー、あんな子すらここに呼ぶとはねぇ。悪趣味なこった」

霧人が「せっと」した髪の毛をぐしゃぐしゃ、とまたかき回して、俺はその子の元へと向かっていったのだった。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆>◆

「…はあっ、はあっ、はあっ」

怖い。
黒髪でセーラー服の少女、花巻咲(はなまき さく)の頭の中はそれ一色であった。いつも通り部活を終えて、友達たちと帰りにクレープを食べて。
明日の宿題を怒られないようにせっせとやって、いつも通り布団に入ったはずなのに。
なんだこの首輪は。なんだあの音声は。そしてどこだここは。そして、なんで自分がいるんだ。

(なんで、なんで、わたしなの?わたし、なんか悪いことした?)

自問するが、答えは帰ってこない。真夜中で一人。その状況は孤独と不安感を更に倍増させる。
更にディパックの中に入っていて、今は右手に握られた鉄パイプの冷たい感触が、非日常感を尚更強くさせているようにも感じた。
焦りからか、恐怖からか、咲の足取りはいつの間にか早くなっていた。
そして段々と、そしてまたこれもいつの間にか、咲は走っていた。
行き場も無く、打開するという訳でもなく、人を殺すという訳ではなく。ただひたすらに走っていた。
理由はない。ただ、単純に怖いのだ。『殺し合い』をさせられるということが、あまりにも非現実すぎて。

38柳生有情剣 ◇/MTtOoYAfo:2015/05/08(金) 01:17:01 ID:I3YtTWrE0
(助けて、助けて幸太せんぱい。助けて花子ちゃん。わたしもうやだよ意味わかんないよ)

つい最近付き合ったばかりの彼氏、山村幸太と、自分の友人である片桐花子の姿が頭に浮かんだ。幸太は笑顔が爽やかで、イケメンで、でも何処か抜けているのがたまにキズの男の子。
でも何より自分のことよりも咲を一番に考えて優しく接してくれる人だ。
片桐花子は、自分がジャック・ザ・リッパーの生まれ変わりだとかなんとか不思議なところはあるけれど、よく一緒に買い食いをしたりする、仲が良い友達だった。
その山村幸太も片桐花子も、今この場所に居ない。自分を守ってくれる彼は、今いるはずがないのに。
早く、安心感が欲しかった。助けが欲しかった。死にたくない、こんなところで───






「おい、そこのお前さん!ちょっと止まってくれねぇか!」





唐突に男の声が、咲を呼び止めた。後ろの方からだ。
咲は振り返るのも怖かった。自分を殺そうとしてるかもしれない。
しかし咲はその気持ちを押し殺して、走りながらゆっくりと後ろを振り返った。
もしかしたら、もしかしたら誰か助けに来てくれたのかもしれない。だから呼び止めているのだろうと。
その一抹の期待がそうさせたのか、咲は少し、頭を後ろにやった。自分をこの悪夢から目覚めさせてくれるような、ヒーローがそこにいるのを信じて。




「くそっ、待たねえかこの野郎っ!!!」





しかしそこには、ピンチを助けてくれそうなヒーローではなく、まるで獲物を狩る野獣のような眼光で、今にも自分を殺そうとするような形相のスーツで長身の男が自分を追ってきていたのだった。

「いやあああああああああああっ!!!」

咲は大声を挙げた。自分でもこんなに大声が出るのかと不思議に思うくらいに。
後ろの男はその声を聞いて驚いたのか、走るのを止めた。
そして咲も、大声を出した事で咲のさらに荒くなり、その歩みを必然的に止めることになった。
荒い息を制しながら、目の前の男に目をやる。自分と同じようにこの殺し合いに巻き込まれた証拠である鉄製の首輪を巻いている。
目を凝らす。喉元の所に書いてあるアルファベットは、『H』。
自分の文字は、最初の音声放送後確認した。『R』。つまり、この男は自分の敵だ。

「ちょ、ちょっといいか?お前さん誰かに追われてんのか?」
「やだっ!やだっ!私は帰る!こんなところから早く逃げて、帰るんだっ!花子ちゃんやせんぱいが待つ、普通の世界に帰るんだ!」
「…おいっ!落ち着け、大丈夫だ、俺は何も危害は───」

男が言い切る前に、咲は自分の持っていた鉄パイプを構えた。
咲は武道の心得はない。ましてや暴力沙汰なんて一番嫌いだ。本が友達だったような自分にとってそういったことはまったく無縁だった。
だからこそ腰は引けていて、両手でただしっかりと握り直しただけだ。
しかし、咲にはそういったことはどうでもよかった。必要なのは、元の世界に帰るために、元の平和で当たり前が続く日常に帰るために、殺られる前に殺らなきゃならなかった。
そのことに躊躇はない。自分の恐怖心よりも、使命感だとか、そういったものに近い感情が彼女を揺れ動かしていた。

「おい!お前さんやめろっ!降ろせ!」

男が静止する言葉を振り切るように、咲は男のもとに走り出した。別に狙いはない。ただこの鉄パイプを大きく振りかぶるだけ。その文章が咲の頭を支配していた。

「あああああああああっっっ!!」

自分を奮い立たせるように声を振り絞る。
優しくて大好きなせんぱいが待つあの日常に。ちょっと変だけどかわいい花子のいるあの日常に。家で待つ親や兄弟たちが待つあの日常に。
咲は大きく、大きく鉄パイプを男の頭上に振りかぶった。
その愛する日常に帰るために。

(ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい)

そう、最後に罪の意識を感じながら、大きく、頭上に振りおろした。

39柳生有情剣 ◇/MTtOoYAfo:2015/05/08(金) 01:17:23 ID:I3YtTWrE0

ぐさっ。




しかし、振りかぶった後に男の姿はなかった。目の前には土に刺さったままの鉄パイプがある。

(なんで、なんで?ちゃんと振りおろしたはずなのに)

咲は目の前のことが理解できず、この状況を理解しようとする。
後ろに避けたか?鉄パイプから前に視線を向けるが、男は居ない。ならばどこへ───


「ガキが…そんなもん振り回すんじゃねえよっ!!!」

その声がした瞬間、黒い『何か』が咲の右脇に写った。そして、動く黒いそれが、先程鉄パイプを振りおろしたその男と気づくまで、多くの時間はいらなかった。

そして、右脇腹に走ったのは衝撃と聞いたことない鈍い音。
そのあと襲いかかったのは、信じられない程の激痛だった。

「かっ……はっ……」

今まで人生で体験した事無い痛み。その痛みに、ただの平凡な女子高生である咲が耐えれるはずもなく、その場に崩れ落ちた。
徐々に意識が遠くなっていく。瞼が重くなってきている。痛みは続いているが、おそらくこのあと自分は殺されるのだろう。
怖い。怖いが、その恐怖を感じずに死ねるというのなら───それはそれでいいのかもしれない。

(…幸太せんぱい、花子ちゃん、お母さん、お父さん、ごめんなさい…)

咲は諦めに近い気持ちを胸に抱きながら、闇の中へと意識を飛び込ませたのだった。

=============

「…やっちまった」

拝啓親父殿へ。またあなたの息子はやっちまいました。人生初女子の脇腹に一発殴打を加えちまいました。
いや、避けるまではよかったんだけどなあ。つい授業の体術の授業の癖でやってしまった。いけねえいけねえ。
俺がいる世界でこういう一般の子に危害を与えちまうのは、確か重罪だったかなんとかだと、霧人が授業で習ったと言っていた。
つまり、このままだと俺は元の世界に帰ったところで有罪になっちまうということになる。

…いやいやいや!それはダメじゃないか?それを防がなくては。なんとかしてこれが正当防衛と許してもらえるためにはどうすればいいんだ。

「…この子に誤解を解いてもらうしかねぇよなぁ。殺し合いに乗っちまってた場合は口封じるために殺すしかねえだろうけど…それも気が引けるしなあ…」

俺は目の前に倒れた少女を肩に担ぐと、彼女が持っていた鉄パイプを握り、辺りを見回す。
ここでこの子が目覚めるのを待つのは危険だ。何処か建物の中にでも入って、身支度を整えるついでにでも、覚めるのを待てばいい。

(ん?なんだあのはいからな建物。南蛮風?ってやつか…)

東の方角を向いた時に見つけたのが、大きな南蛮風の館だった。
ああいうところはどーも苦手だが、屋根もあって突然の雨は防げるだろうし、何より夜をこのまま迎えるのも危険だ。仕方ねえか。
ちょっくらあそこまで行ってみてこの子と話をしてみますかね。


俺はまた大きなため息を吐いた。さっさと終わらせて、元の場所に帰らないといけねえ。あと三池典太も取り返さないといけねえ。
あー。色々大変そうだなー。ちーむたとか色々あるけど頑張れ俺。

(あ、今日メシ作る当番俺だったか…こんな事してる場合じゃねえぞほんと。帰ったら何作ろうかなあ。霧人が好きな卵料理でも作ってやっかなあ)

40柳生有情剣 ◇/MTtOoYAfo:2015/05/08(金) 01:17:46 ID:I3YtTWrE0
【G-4とH-4の境/森/1日目/黎明】

【柳生十兵衛@アースH】
[状態]:罪悪感、焦り
[服装]:スーツ
[装備]:鉄パイプ@アースR
[道具]:花巻咲のディパック、支給品一式、不明支給品1~3
[思考]
基本:刀返してもらってすぐに主催者を切り伏せる
1:この子を館に連れて行ってとりあえず話を聞く
2:基本挑む奴には容赦はしない。
3:今日の献立を考える
[備考]
※ディパックの中身を見ていません。

【花巻咲@アースR】
[状態]:気絶
[服装]:学生服
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]
基本:帰りたい…
1:…
[備考]
※気絶中です。

41柳生有情剣 ◇/MTtOoYAfo:2015/05/08(金) 01:18:03 ID:I3YtTWrE0
代理投下終了です

42 ◆/MTtOoYAfo:2015/05/08(金) 01:22:59 ID:7hU66ku.0
投下&代理乙です!
咲ちゃん…相手が悪すぎる…

柳生さんつええて思ったけど
>3:今日の献立を考える
これで吹いた

43名無しさん:2015/05/08(金) 01:24:39 ID:7hU66ku.0
あ、これ俺の作品でしたすみません。いかんいかん徹夜がたたったすみません

44名無しさん:2015/05/08(金) 06:20:57 ID:xDtAuSd20
徹夜するとそういうこともあるさ
投下乙です、十兵衛さん武器没収はAKANEちゃんの外道ぶりが光る
つい手を出してしまった十兵衛さんだが良好な関係と今夜の食事を作ることはできるのか
にしてもフツーにフツーの恋する女学生花巻ちゃんの怖さと焦りが伝わってくるSSだー

45 ◆5Nom8feq1g:2015/05/09(土) 16:18:32 ID:1LvoUPDM0
皆さん投下乙です、投下します

46死線上のアリア ◆5Nom8feq1g:2015/05/09(土) 16:19:18 ID:1LvoUPDM0
 

 月の綺麗な夜の森、

「けっ……気にくわねぇな」

 と紫ツインテールの少女が言った。 
 『ではみなさま、また数時間後の放送でお会いできることがあれば――』と。
 簡素な連絡事項を流し終えたICプレイヤーを見つめて、吐き捨てた少女の名は松永久秀という。

「誰の策謀だか知らねぇが……俺様にこんな世迷事を強制させるとは、全く気に食わねぇ」

 パチパチと“たき火”の燃える森の中の開けた場所で、蜘蛛の巣柄の浴衣を火にあてつつ、
 切り株に座りICプレイヤーを聞いた松永久秀は、自分がふざけた策謀に巻き込まれてしまったことを理解した。
 理解すると同時に少女の心中に湧いてきたのは怒りである。
 殺し合いをするような状況に対しての怒りではない。殺し合いを「させられる」ことに対しての怒りだ。

 松永久秀はかつて男であり、そして武将であった。
 織田とか豊臣とか徳川とかがいる、あの戦国時代の武将であった。
 色んな濃いキャラがいる戦国時代の武将の中で松永久秀がどんなキャラだったかというと、
 長らく仕えていた織田信長からこんな言われようをするようなキャラだった。

『――松永? あいつマジでヤバいよね。普通の奴なら一生かけてやるヤバい悪事、三つもやってるからね。
 しかもワシ、二回も裏切られてっからね。一回許したのにもう一回裏切ったのって、アイツくらいのもんじゃないの?』

 策謀が得意で、茶道や礼儀にも長け、めちゃくちゃ頭が良いにも関わらず、
 自分勝手で強欲で、上を目指すためなら裏切りや虐殺などヒール行動にためらいのない超現実主義者(リアリスト)。
 それが松永久秀という武将であり――そんな久秀は、誰かの思い通りに踊らされるのを何より嫌いとする。

「1人残るかチームで残るかするまで、ただただひたすらに殺し合い。
 ひゃっはは、理由も意味も告げずにただそれだけを強制する豪胆さは嫌いじゃねぇがなァ……。
 俺様が、死にたくないなら茶器譲れって言われて茶器と一緒に自爆して死んだくらい捻くれてるってこと、
 “アカネ”とかいう女はちゃんと調べたのかァ? 調べた上でやったんなら――それこそムカつくぜ」

 そんな松永久秀に首輪を付け、殺し合いを強制すると言うことは。
 久秀からしてみれば、大々的な宣戦布告に等しかった。
 つまるところ「松永久秀は“首輪を付けて飼える取るに足らない存在である”」というアピールをしてきたということなのだから。
 怒ってもいいですよ、下手に刃向かえばもう一度「爆死」ですけどねという、挑発に相違ないのである。

「ああ、苛つく苛つく。そもそもだな、俺様が蘇らされたのも、
 安倍晴明のやつのドジかなにかだって話だったしな……いやあの陰陽師も俺様ほどじゃねーが策謀家だ、
 こういうときに俺様をここに送り込むために、わざわざ悪人であるはずの俺様を蘇らせておいた、と考えることもできるか。
 だとしたら俺様は“アカネ”とかいう女だけじゃなくて、あの陰陽師にも踊らされてるってことになるなァ、おい」

 久秀は、一度死んだ。
 織田信長に謀反をとがめられ、許すから茶器を渡せと言われたのを拒否って茶器と共に爆死して、逝った。
 自分勝手に気ままにやりたいことをやりきって死んだ。
 だが、蘇らされた。

 彼女が蘇った世界、「E」は江戸時代が終わらずずっと続いた日本。
 江戸時代までは基本「R」と同じだが、そこからひどい分岐の結果、妖怪なんかも現れるいびつな歪みが発生していた。

 そこへ安倍晴明というどえらい陰陽師が蘇って来ていて(幼女の姿で)、その陰陽師は妖怪に対抗するためか知らないが、
 日本の歴史上の偉人を手当たり次第に蘇らせる術を使っていたのである(なぜかみんな少女で)。
 松永久秀もその流れで蘇らされ、少女になった歴史人物の一人なのだ。 
 当然ながら安倍晴明の下にはつかず、久秀はアースEの現代でも少女の姿すら利用して悪の限りを尽くしていたが……。
 
「気に食わねぇ、気に食わねぇな。
 俺様、こんな紫の流れるくらい美しいツインテールによぉ、ぱっちりした目につやつや肌の小顔、
 少女じみたつんつるてん体型に驚きながらも、蜘蛛の浴衣一丁羽織りつつ、第二の人生エンジョイしてたのにさァ。
 こんな催し、踊らされるままに殺されるのも、踊らされるままに乗るのも気にくわねぇよなァ……よし決めた」

47死線上のアリア ◆5Nom8feq1g:2015/05/09(土) 16:20:57 ID:1LvoUPDM0
 
 うんうん頷きながら、腕を組んで、どうやらこれからの方針を決めたようだった。
 久秀はにこりと笑って、
 近くで燃えている“たき火”のほうに目を向けて、“たき火”に向かって間の抜けたような声を掛けた。

「悪いけど俺様、しばらく殺し合うの辞めるわァ」

 “たき火”は、久秀を憎悪のまなざしで見つめ返しながら、その言葉に言葉を返そうと試みた。
 しかしその首には強靭な紫の糸が深く食い込んでいて喉を締め上げており、“たき火”は発言することを許されなかった。
 ただ喉の底から絞り出すかのようなうめき声を漏らすのみだった。

「……アアァ、ア……」
「だからお前も別に殺さなくても良くなったんだけど、
 ま、そんな状態で生き延びても辛いだけだろうしそろそろトドメ刺してやるよ。ひゃはは、俺様、優しいよなァ!」

 久秀は糸に吊るした着物が乾いたかどうかを確認しながら、上機嫌に高笑いする。
 ――それもこれも開始直後、水を操る妖術使い? 魔法少女と名乗っていただろうか?
 ともかく怪しげな術を使う蒼髪の女に「アナタの心から邪気を感じる」とかなんとか因縁つけられて絡まれたのが始まりだった。
 否定する理由もなかったので殺し合うことになったが、水の術で服は濡れるわ、ICプレイヤーを聞く暇もないわ、
 いろいろ散々な目にあった。久秀はまずそこで非常にムカついたのだった。

「……アァ、アグ……」

 でもまあ蘇ってこっち、久秀は当然ながら安倍晴明を裏切って彼女が戦っていた妖怪側に付いたため、
 妖術にも通じるようになっており、今では不老不死じみた再生能力に加え、色んな糸を吐く蜘蛛を操ることが出来るようになっている。
 蜘蛛の糸で拘束してしまえば、水の妖術使いもただの“たき火”だ。
 “たき火”は女の四肢を糸によって縛り付けて、その上からこれまた質の違う糸で作られた布を巻いて作った。
 この布に使われている糸はよく燃える糸、四肢を拘束しているのは燃えにくい糸だ。
 久秀は被せた布――蓑とでも呼ぶべきか、それに支給されたマッチで火を点けて“たき火”を作ったのだった。

「普通なら余裕で死んでるだろうに、可哀想だなあ、対抗する術があるってのはさァ。
 お前はもはや水の力を自分の体表面に使って、火を中和し続けることしかできないんだもんな。
 でもまあ、楽しませてもらったぜェ、ひゃはは……あ、最後になんか言うことあるかァ? 喉ゆるめてやるから言うなら言えよ」
「ガ……あ……うあ、あぁぁああッ! こ、殺す!」

 すでに30分近く火だるまで踊り続けた女だが、
 水の妖術で身体を護ったためか、髪がショートになったのと全身に軽度の火傷が始まってるくらいで元気なものだった。
 
「殺す……殺してあげる……あなたは私が……私たちが必ず殺す」
「物騒なこと言うなよなァ、殺し合いに反抗? するって意味じゃ俺様とお前、志は同じなんだぜ?」
「あなたのような邪悪な存在が……善良になんてなるわけない、わ……! 何をたくらんでいるの……!!」
「いや別に企んでもねぇよ。普通に乗るのも癪だから、ちょっと様子見ようかなって思っただけ。
 チーム戦ってのも気になるしなァー。他のメンバーが嫌な名前の奴らばっかりだったらそいつらのために殺すのもバカらしいだろ?
 なにより主催に今は一番ムカついてっからな……そいつ倒すって息巻いてるやつらには協力してもいいかもとすら思ってる」
「ふざ……け……」
「ふざけてねぇふざけてねぇ。俺様はいつだって真面目に俺様の欲望に忠実に生きてきたからな。
 ただ、虐殺するのが俺の一番の欲望じゃないってだけだ。俺様の一番の欲望は、俺様より上の存在を全員俺様の下に置くこと」

 一番になるためなら何だってする。
 その序列には主催だって入ってる、それだけのことだ。と久秀は言った。

「下剋上も裏切りも略奪も虐殺も! 俺様が上だってことを教えてやるための行動だ!
 俺様のスタンスは一つだって変わっちゃいねぇ! “俺様を下に見る奴に……どちらが上かを分からせる”!」

 デイパックを開けて、久秀はもう一つ支給品を取り出す。
 それは日本刀。
 かの剣聖・柳生十兵衛も好んで使っていた刀匠、三池典太光世が作りし「天下五剣」の一つ――大典太光世であった。
 かつて松永久秀が殺した足利将軍家に伝わるこの秘刀の特徴はその切れ味にある。
 その切れ味たるや、積み重ねた死体2体の胴体を切断し、3体目の死体の背骨でようやく止まるほどだという……。

「お喋りは終わりだァ、女! お前の最期の仕事は――この名刀の試し切り要因よ!」
「……化けて、出てあげる……必ず! あなたの前に!」

48死線上のアリア ◆5Nom8feq1g:2015/05/09(土) 16:23:02 ID:1LvoUPDM0
 
 横薙ぎ一閃。
 最後まで恨み節を貫いた魔法少女・久澄アリアの首は一直線に斬れ、宙を舞った。
 これにて大典太光世の切れ味は、確かに証明されたのだった。


【久澄アリア@アースMG 死亡】


 そしてこれだけでは終わらない。

「さて」 
 
 もちろん久秀は予測済であったが、久澄アリアの「水を操る術」は自らの血すらも操る。
 死してなおその首から噴きだす血は幾本もの血槍に“化け”、呪いじみて久秀へと襲い掛かった。
 火だるまになりながら、水で火を中和しつつも、久澄アリアはこの一瞬のために魔力を練っていたのである。

「もう少しこれと遊んで……その後はどこに行こうかァ? あの城でも行ってみるか? ひゃはは!」

 飛来する血の槍が、蜘蛛柄の着物を脱いで裸体となっている松永久秀の身体をえぐるように突き刺さる。
 一本、そして二本!
 三本目は周りに展開し始めた蜘蛛が糸で止める、
 そして槍の刺さった久秀の裸体からはどくどく赤紫の血が流れる!
 それでも久秀は狂ったように笑みを止めず、飛来する四〜六本目の槍を刀で叩き折る。

「ひゃっはははははははは!!」

 蜘蛛と血の槍と名刀が織りなす赤と紫のダンスは、死した魔法少女の身体から魔力が尽きるまで行われるだろう。
 しかし久秀は槍に貫かれながらも、自分が死ぬということは計算には入れていない。
 実際に、死なない。このような恨みに任せた場当たり的な攻撃では、すでに“妖怪化”している久秀を殺すことは不可能なのだ。

 近くに城が見える月夜の森。
 赤と紫の血にまみれる松永久秀を月が無慈悲に照らす。
 かつて「乱世の梟雄」と呼ばれた強かなる悪人は、久方ぶりの血の味をしばし楽しむ。

 ――楽しんでいたので、一つだけ、彼女は気付いていなかった。
 最初に水の妖術使いから「いちゃもん」をつけられたとき、 
 女のそばに浮かんでいた“水球に入った透明な動物”が、その場から居なくなっていることには。

 
【E-4/森/1日目/深夜】

【松永久秀@アースE(エド)】
[状態]:重症(再生中)
[服装]:全裸 着物は生乾き
[装備]:天下五剣「大典太光世」@アースE
[道具]:基本支給品一式、マッチ@アースR、ランダム支給品0〜3(久澄アリアの分)
[思考]
基本:俺様を下に見る奴に……どちらが上かを分からせる!
1:しばらく血の槍と遊んでその後は様子見。
2:近くの城に行ってみようかァ?


=============

 【魔法少女の掟】

 魔法少女とマスコットは一心同体。魔法少女が死ねばマスコットは死に、マスコットが死ねば魔法少女は死ぬ。
 一度契約した魔法少女は、契約を解除することは通常許されず、使命を果たし続ける必要がある。
 ただし継続して3年戦い抜いた魔法少女は、契約を解除してもよい。その場合、マスコットは消滅する。
 また、継続して10年戦い抜いた魔法少女に限り、“他者への契約の譲渡”が可能となる。
 契約を譲渡された魔法少女は――通常、戦い続けるごとに強くなる魔力を、最初から高い状態で獲得する――。

=============

49死線上のアリア ◆5Nom8feq1g:2015/05/09(土) 16:24:31 ID:1LvoUPDM0
 

 松永久秀が見据えた地図中央の城から、少々南下した位置にある住宅地。
 地区にしてD-5エリアとなるその現代風の街並みの道を、一人の少女がふらふらと歩いていた。

「やっぱり、見えない……ひなのおともだち、みんな、見えなくなっちゃった……」

 彼女の名前は雨宮ひな、首輪に描かれた文字は「R」。
 しかしその精神はどちらかといえば、自分のいる世界ではなく、他の世界にあることが多かった。
 ――世界座標における基本世界であるアースRからは他の世界を感じることが出来る。
 空想や寓話や創作物という形で、特に感受性の高い者に対し、他の世界は影響を与え続けている。
 そして、そこにおいてこの雨宮ひなの感受性と空想力は特筆すべきものがあった。
 彼女はその高い空想力を持ってして、他の世界の様子を実際にその目で見るようなことさえ出来ていた。

「かえるさん……うさぎさん……ぶたさんも……見えない……ひなが、「きんし」されたから……?」

 しかし今は彼女がいつも見ていたかえるさんやうさぎさんやぶたさん、
 あるいは他のたくさんのおともだちの世界は見えなくなっている。
 それは、ここがアースRでなくアースBRであると共に、主催によって他の世界への干渉が断たれているからだ。
 不幸中の幸いはひな自身がそれに理由を付けられることであろうか。彼女はここに飛ばされてくる前、
 あまりの空想っぷりに業を煮やした両親や担任の先生によって、「空想禁止令」を出されていたのだから。

「ころしあい……こわい……ひな、どうすればいいの……」
 
 まだ小学四年生のひなは空想に逃げることさえ許されず街を歩く。目指すのはこの地区にある図書館だ。
 自発的な空想トリップが出来なくなっても、物語を読んでその世界を感じることくらいなら出来るかもしれないと言う発想だ。
 発想力。想像力。空想が奪われても、ひなにはまだ人よりすぐれたそれがある。
 そしてその「創造力」は――魔法少女にとって、とても大切な要素でもある。

「……え?」

 ふらふらと、歩きながら。
 雨宮ひなは、クリオネを見つけた。
 クリオネもまた、雨宮ひなを、見つける。
 空中に浮かぶ水球の中――苦しそうにもがきながら、それはひなの脳内に話しかけてきた。

(アリアは……死にました。通常なら私も消える所ですが、十年働いていた彼女は“契約譲渡”が使えた)

(だからアリアは私を逃がした。悪を討ち、この殺し合いを打破するため、アリアの力を――譲渡するため)

(よろしければ、“契約”を)

(魔法少女の――契約、を……!)

 そしてひなは、理解した。
 空想は、見えなくなったのではない。自分は、空想の中に来てしまったのだと。

 
【D-5/住宅街/1日目/深夜】

【雨宮ひな@アースR(リアル)】
[状態]:普通
[服装]:かわいい
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜3
[思考]
基本:ひな、どうすればいいの?
1:魔法少女って?
2:図書館で本を読んで心を落ち着けたい。

50 ◆5Nom8feq1g:2015/05/09(土) 16:26:55 ID:1LvoUPDM0
投下終了です。
書くにあたって松永久秀ちょっとだけ調べたんだけどこの人すっごいね

51 ◆pNmyKGcnVU:2015/05/09(土) 19:03:35 ID:4ps9Im/Y0
作品が完成しましたので、投下します。

52秘密を持つ二人 ◆pNmyKGcnVU:2015/05/09(土) 19:04:53 ID:4ps9Im/Y0
「どういう事だよ、これ・・・」
東光一は、その手に持ったICレコーダーから再生された音声内容を聞いて絶句した。


人類の常識を遥かに逸脱した巨大特殊生物「怪獣」が存在する世界・アースM。
そんな世界で生まれ育った東光一は、「怪獣の撃退」並びに「人命及び財産の保護」を主目的として
発足された国際機関・・・「地球防衛軍」に所属している。
入隊以来、目覚ましい勢いで頭角を現していった光一は、今では防衛軍内の精鋭部隊・「MHC」
(モンスター・ハンティング・クルー)のメンバーとして、怪獣と最前線で戦っている。
しかし、彼には誰にも言えない秘密があったのだ。

(なぁコメット、お前はどう考える?)
光一は頭の中にいる『同居人』に問いかけた。
(・・・私にそんな重大な質問をして良いのか?)
『同居人』はやや訝しげに答えた。


ある日の対怪獣戦・・・光一は瀕死の重傷を負ってしまった。
しかし、謎の光が光一の身体に溶け込むかのように入り込んだおかげで、光一は命を取り留めた。
後日、謎の光は光一の頭の中に直接語りかけてきた。
曰く、「自分は惑星アルカディアから地球人を怪獣から救う為にやって来たのだが、肉体を持たない
精神だけの存在である為に地球上では能力を十全に発揮できない。なので、地球人には手におえないような
状況になった時だけで良いから、君の肉体を貸してほしい」
とのことだった。
以来光一は、MHCだけでは事態の鎮静化が不可能な状況に陥ると、その惑星アルカディアからの平和の使者
から渡された「コスモスティック」というアイテムを使って、オレンジ色の巨人・「コスモギャラクシアン」
に変身し、怪獣と戦うようになったのだ。

そして今、光一が頭の中で話しかけた相手こそ、惑星アルカディアからやって来た件の精神体・「コメット」である。
「コメット」というのはもちろん本名ではない。
本人曰く「私の名前は地球人には発音はおろか、認識もできないが・・・あえて地球の言語に翻訳すれば・・・
『彗星』という意味になる」
という事らしいので、そこから光一が付けた便宜上の名前である。

普段、光一とコメットの人格は別々に存在しており、このように光一から話しかけたり、コメットが助言をすることもできるのだ。
以上、閑話休題。

53秘密を持つ二人 ◆pNmyKGcnVU:2015/05/09(土) 19:05:58 ID:4ps9Im/Y0
(君はどうなのだ光一?指示された通りに、自分や自分のチームのメンバー以外の参加者を殺害するのか?)
(・・・そりゃあ・・・俺だって死にたくはないけど・・・)
一度言葉を区切ると、光一は断言した。
(・・・俺はMHC隊員、人を守るのが仕事だ。だから、俺は絶対に人殺しなんかやらない。俺みたいに
巻き込まれた参加者を全員助ける。それが、ここでの俺の任務だよ)
そう語る光一の目は、晴天の空のように澄み切っていた。
怪獣を初めとする脅威から人々を守る。それが光一の根っこからの信念なのだから。
(それは良いが、どうやってだ?今君は、コスモスティックを持っていないんだぞ)
「う・・・」
コメットに指摘されて、光一はたじろぐ。
そう、先程の音声を聞く前に、光一は自身の持ち物の確認を行ったのだ。
いつものように隊員服を着ているが、腰にあるはずのMHCガンは無く、
懐に隠し持っているはずのコスモスティックも無い。
武器一つ持っていないような状況で、何をどうしろというのか・・・。
そこで光一に天啓が閃いた。
「そ、そうだ!確か、支給品があるって言ってたぞ!」
口に出して叫ぶと、光一は早速デイバッグを開けて支給品の確認を始めた。





「と、とりあえず・・・武器はあったな」
光一は使える支給品があって、ひとまず安心した。
デイバッグからは食料や地図の他に、
拳銃とその弾丸一セット、特撮ヒーローのDVDが一つ、単一電池のような物が2個入っていた。
DVDや電池はともかく、拳銃なら普段から実戦で使っているから何とか使えると思い、それは所持しておくことにした。
(それにしても・・・)
光一は改めて自分に支給された拳銃を見た。それは昔、学生時代に歴史の教科書で見かけたことがある物だったからだ。
十四年式拳銃。太平洋戦争の頃に旧日本軍で使用されていた自動拳銃。
光一にはそれが引っ掛かった。
(何でこんな骨董品なんか・・・?)
骨董品。
そう、十四年式拳銃が使われていたのは太平洋戦争の頃・・・今から70年近くも昔の話だ。
その当時は最新式だったかもしれないが、今では博物館で展示されていても可笑しくないような代物である。
むしろ、これよりもっと後代にできた性能の良い銃を支給した方が、殺し合いがスムーズに進むような気がするし、
コストもさほどかからないだろう。なのにどうして・・・?
光一の頭の中で、疑問符が渦を巻いたが・・・
(おい光一)
それはコメットの一言で遮られた。
(なんだよ。こっちは今考え事して・・・)
(君の背後の茂みに誰かいるぞ)
「・・・えっ?」
光一は後ろを振り返った。
同時に、小枝の折れるパキッ!という音が鳴った。
「誰かいるのか?」
光一が茂みの中を覗くと・・・
「あ・・・」
栗色の髪と翡翠色の瞳、狐のような耳と尻尾が印象的な小さな少女が尻餅をついていた。

54秘密を持つ二人 ◆pNmyKGcnVU:2015/05/09(土) 19:07:26 ID:4ps9Im/Y0

「どういう事・・・?」
高村和花はICレコーダーからの音声を聞くと、頭の中を疑問符で満杯にした。

超常の力を揮い、悩みを抱えた人々を救う少女達「魔法少女」が存在する世界・アースMG。
そんな世界で生まれた高村和花は、そんな困った人々を助ける事を使命とする正義の魔法少女の一人だ。
同じく魔法少女だった母・高村このはから受け継いだ力を使って、悩みを持つ人々に手を差し伸べてきた。
しかし、彼女には他人に知られたくない秘密を持っていた。

「パパ・・・ママ・・・」
和花は、自分が人助けで息詰まった時にいつも助け舟を出してくれる大好きな両親の事を思った。


和花の父親は人間ではない。
和花の母・このはを魔法少女にしたキツネ型マスコット・レイン・サクライト。それが和花の父親だ。
魔法少女とマスコットという、云わば主従関係とも言える両者にあって、二人は互いに強く惹かれあい、
その末に生まれたのが和花だった。
母からは魔法少女の力を、父からはマスコットの力を受け継いだ和花は、世界でただ一人だけの
「魔法少女とマスコットの混血児」として生まれ落ちた。

「何で・・・どうして私ばっかり・・・」
同時に和花は、今まで受けてきた自分の不運を嘆いた。

魔法少女とマスコット・・・二つの力を合わせ、母のように人々を助けるようになったの彼女だが
・・・以外な強敵がいた。
他の魔法少女達である。
もちろん年の近い夢野セレナやベテランの久澄アリアのように、友好的な魔法少女もいる。
だが、一部の・・・「マスコットは魔法少女より下位の存在」だと考える魔法少女達は違う。
和花の父=レインを「淫獣」と蔑み、その血を引く和花を「淫獣の娘」と呼ぶ彼女達は、
事あるごとに和花に嫌がらせを行ってきた。
やれ「淫獣の娘」、やれ「穢れた魔法少女」、やれ「生まれてはいけない存在」・・・
和花はたった8歳の子供にはあまりにも辛い仕打ちを受けてきたのだ・・・。

「どうしよう・・・」
そんな中でも、和花は見知らぬ誰かを助けたいという気持ちを失わなかった。
だからこそ、和花は殺し合いに即座に是ということができなかった。
ともかく、ここから移動しようとした時、またしゃがみこんだ。

すぐそばに人がいたのだ。
黒い繋ぎのような服を着た男の人。
デイバッグを漁りながらぶつぶつ言っている。

このような状況でいきなり他の参加者と遭遇するとは・・・。
和花はどうしたら良いのか判らなかった。
とりあえず、こちらに気づく前に逃げた方が良い。
そう判断し、そっと立ち上がろうとした時・・・
「・・・えっ?」
相手はいきなりこちらの方に振り向き、その拍子に小枝を踏んで音を立ててしまった。
「!」
驚いた和花は尻餅を付き、同時に普段は隠してある父譲りのキツネ耳と尻尾が飛び出てしまった。
「誰かいるのか?」
相手は茂みの中を覗き込んだ・・・
「あ・・・」

55秘密を持つ二人 ◆pNmyKGcnVU:2015/05/09(土) 19:08:15 ID:4ps9Im/Y0
そして、時間は元に戻る。



光一は隠れていたのが好戦的な相手では無かったことに安心したが、
同時に燃えるように怒りが湧いてきた。
こんな小さな女の子まで、こんなふざけた催しに参加させるなんて・・・
このゲームを企画した奴をぶん殴りたいと、心の底から思ったのだ。


(見つかっちゃった、見つかっちゃった、見つかっちゃった・・・)
一方の和花の心は、恐怖で満杯になっていた。
まだ相手が善人なのか悪人なのかわからないのに顔を合わせた・・・いや、
例え相手が善人だったとしても、キツネ耳と尻尾を見られた時点で和花にとって詰んでいたのだ。
キツネ型マスコットである父から譲り受けた耳と尻尾。両親は「チャームポイント」、
一部の学校の友達は「かわいい」と言っているが・・・他の大人は違う。
和花が驚いた拍子に耳と尻尾が飛び出るのを見た大人たちは口々に言う。
「何だこれは」、「気持ち悪い」、「バケモノかよ」・・・。
先程まで優しく接してくれていた担任の先生ですら、和花の尻尾を見ると、まるでパンダやイリオモテヤマネコ
などの珍獣を見るような目をする。
挙句、人身売買組織に誘拐され、危うく外国に売り飛ばされそうになったこともあった(危機一髪で両親に助けられたが)。
だからこそ、知らない人に耳と尻尾を見られるのは和花にとって最大の恐怖だったのだ。
溢れかえるように恐怖が湧き出て、和花の身体を支配していく。
逃げ出そうにも手足が動かない。まるで金縛りにあったかのようだ。

光一は和花に向けて手を伸ばす。
(いや・・・!パパ!ママ!)
和花は思わず目をつむった。そして・・・


ぽふっ


光一の手は和花の頭に置かれ、ワシワシと和花の頭を撫でた。
「え・・・?」
和花が恐る恐る目を開けると・・・
「怖かっただろ?もう大丈夫だからね」
光一は優しげな眼差しで和花の事を見つめていた。

「・・・どうして・・・?」
「えっ?」
和花には光一が何故自分に優しくするのか解らなかった。
「き・・・気持ち悪くないの?わ、私・・・尻尾が・・・」
「あぁ・・・そのこと?」
光一はバツが悪そうに頬を掻きながら、
「何ていうか・・・そういうの見慣れてるし、それに・・・」
光一ははっきりと告げた。
「泣きそうな女の子を慰めるのは、当たり前の事だろ?」
それは、嘘偽りのない光一の心からの言葉だった。


「う・・・うわぁぁぁぁぁぁぁぁん!」
「おわっ!?」
生まれて初めて両親以外の大人から優しくされた和花は、
心のタガが外れ、光一に抱き着いて赤ん坊のように泣きだした。
それに光一は少し驚いたが、すぐに平静を取り戻して、優しく和花の頭を撫で始めた。
その姿はまるで・・・



(・・・誘拐犯とその被害者のようだな)
ひと言多いぞコメット。

56秘密を持つ二人 ◆pNmyKGcnVU:2015/05/09(土) 19:09:21 ID:4ps9Im/Y0
【C-1/森/1日目/深夜】



【東 光一@アースM】
[状態]:健康、少し困惑
[服装]:MHC隊員服
[装備]:十四年式拳銃(残り残弾数35/35)@アースA
[道具]:基本支給品一式、超刃セイバーZDVD一巻@アースR、
ディメンションセイバー予備エネルギータンク2個@アースセントラル
[思考]
基本:巻き込まれた参加者を助ける
1:目の前の女の子を慰める
2:コメットぉ・・・
3:何で十四年式拳銃なんか・・・?
[備考]
※コスモギャラクシアンへの変身に必要なコスモスティックを没収されています。
他の参加者に支給されているかもしれないし、会場内のどこかにあるかもしれません。
※十四年式拳銃のような古い銃が支給されていることに疑問を感じています。


【高村 和花@アースMG】
[状態]:嬉し泣き、キツネ耳と尻尾が出てる
[服装]:普段着
[装備]:無
[道具]:基本支給品一式、ランダムアイテム0〜3
[思考]
基本:どうしたら良いの・・・ママ?
1:うわぁぁぁぁぁぁん!
2:パパとママに会いたい・・・
[備考]
※夢野セレナや久澄アリアと面識があります。
※キツネ耳と尻尾は出し入れ自由です。出しっ放しか隠すかは後の書き手さんに任せます。

57 ◆pNmyKGcnVU:2015/05/09(土) 19:10:25 ID:4ps9Im/Y0
以上、投下終了です。

58名無しさん:2015/05/09(土) 21:50:56 ID:IevutqyA0
おつです。
>死線上のアリア
1人目の退場者出ましたね……。
ひなちゃんはこれからどうなってしまうのか
>秘密を持つふたり
コメさんwwいいキャラしてますね

59名無しさん:2015/05/09(土) 22:33:05 ID:vRxdm5K.0
乙です!!!
>死線上のアリア
最初の退場者はセレナさんか影響でかそうだ
そして久秀すげえなあこいつマジでやばいやつだからな大仏かなんか燃やして足利義輝っていうめっちゃ強い将軍殺したりしてるし
ひなちゃんは魔法少女になるのかな。そして他の世界軸との交流をしていたとなるとまたどうなるか分からんなあー
>秘密を持つふたり
く…これが彼女持ちで世界を救う者の強みか。和花ちゃんよかったなあ。。。
そして※さんほんとにいい人そうで草生えた。何気に変身できないのもでかいな

60名無しさん:2015/05/10(日) 00:19:43 ID:1otjGXi60
aa

61 ◆aKPs1fzI9A:2015/05/10(日) 00:20:27 ID:1otjGXi60
おっと書き込めた
投下しまーす

62 ◆aKPs1fzI9A:2015/05/10(日) 00:22:23 ID:1otjGXi60
夜の月の光が冷たく冷えきった地面を照らしている。
普段の街の光の中では味わえない風景。
そういったのを少なくとも現代の我々は───どこか自分が異世界に迷い込んだかのように錯覚し、その情景に酔いしれる。
そういった情景にひゅぅと吹く冷たい風や季節を感じさせる虫の声があると、なおさら良い。我々が普段の生活で忌々しいと思うものでさえも、ここでは「風流」になる。
かつての文化人たちはこういった自然の産物を度々詩に綴っていた。今も昔もこういったのを好む気持ちは変わらない。今これを読んでいる読者諸氏や、著者でさえも、そんなこと分かっていることなのである。






だが、この状況下において情景に目をやる者など、いるはずもない。ある男は、この状況下で眼に炎を宿していた。
それでこそ月の光のように優しさを持ち合わせたような明るさではなく、激情的でかつすぐ燃え尽きてしまいそうなそんな明るさ。

埃一つすらついていない、真っ黒のスーツに蝶ネクタイ。綺麗にセットした髪、眼鏡の老人───この殺し合いという場においてはまったくもって不釣り合いといっても過言ではなかった。
そして何より彼の異質さを目立たせているのは、大きな車椅子である。黒を基調としたデザインで、材質は素人目からしても良い物だと分かる。車輪はまた大きく、回してこぐことはよほどの力がない限り不可能である。
わたし達が思い描くような車椅子ではなくあたかもそれは、小型戦車のようだった。
男は炎を消さないことは無い。
月に負けじとするかのように光を出すために炎を燃やし続ける。
彼のただ一つの目的のために。


================

63 ◆aKPs1fzI9A:2015/05/10(日) 00:24:50 ID:1otjGXi60
「ほらこーた着いてきなさいっ!兄さんに言いつけるわよ!」

甲高い声が辺り一面に響いた。
A-2の森をとてとてと歩く小さな少女。髪は自分の母親にセットしてもらえたのであろう、綺麗な金髪を一本に結んでいる。服は黒を基調としたゴシック調。
そして、その瞳にはどこかしら余裕が見えた。

この少女、麻生嘘子はこの殺し合いに巻き込まれた参加者の一人である。
各参加者に渡された自分の身長の半分はあろうかというディパックを背負い、慣れない夜道を進んでいる。
そんな殺し合いの場に不釣り合いとも言えるような存在、嘘子は目の前の「こーた」に向かい苛立ちの視線を向ける。

「ははは、呼び捨てだなんてひどいなあ嘘子ちゃん…」
「うっさいわねえ!あんたは犬みたいなもんよ。犬の言葉はワンだけでしょっ!」「わんわん。これでいい?」

嘘子の目の前の「犬」───高校生山村幸太は苦笑いを浮かべながらも嘘子に優しく言った。
普通の高校生男子、それでこそ幸太程の年齢であれば知り合って間もない、年の離れた幼女にそう言われると黙ってはいない。もちろん彼の言う通り、幸太は犬ではない。何処にでも居そうなちょっとイケメンのサッカー部員である。

これも若い子のワガママだろう、と嘘子の頓珍漢な発言にため息を吐きながら幸太は背筋を伸ばす。

(このくらいの子はじゃじゃ馬って言うけどさ、じゃじゃ馬すぎるよ…)

幸太は学生服のネクタイを解き、上のボタンを一つ、二つ空けた。

(…なんか大変な事になったなあ…)

====================

64 ◆aKPs1fzI9A:2015/05/10(日) 00:28:31 ID:1otjGXi60
彼女との出会いは数十分ほど前。
目を覚まし、ICレコーダーから流れた音声に呆然とし一人歩いていた幸太の目の前にいたのは、自分より幼い幼い子供であった。
幸太はそれを見て愕然とした。こんな幼い子どもまで参加させるなんて。この殺し合いは狂っている、と。

彼女を見捨ててはおけない。チーム戦だとは言っていたものの、放っておくワケにも行かず(合流した後、同じチームだと気づいたのだが)彼女を保護し、人が居そうな町に向かおうとしているのだが…どうも幸太には嘘子の対応はやりづらい。
どうやら麻生嘘子曰く。
彼女はあの鬼をも殺した伝説の男、麻生叫の妹だという。


あの麻生叫の姿とはまったく似つかない可愛らしい姿からは想像できない。だが、事実だと彼女は言い張る。
その姿は嘘とも言えないし、よもや嘘をつくメリットもないだろうと思い、幸太は信じることにした。

更に嘘子はもしかしたら自分の兄である叫がこの殺し合いに参加してるかもしれない、と幸太に告げた。確かに、その可能性はゼロではないだろうし。『あの』麻生叫を参加させない訳が無いはずである。
それを聞いた幸太は恐怖心を覚えた。恋人の咲によると自分の通う高校の空手部が活動停止になったのは麻生叫が『声がうるさかったから』壊滅させたからという事件が最近あったというからだ。普通ならばそんなこと嘘だと思うかもしれないが、麻生叫であるならばそれが平然とありえてしまう。


『長生きしたければ麻生叫とだけは関わるな』。それは幸太の通う学校の全学年の生徒、教師陣の常識であった。
幸太はそんな化け物が居る中で中で生き残れるのか不安にもなったし、尚且つもう一つの不安要素が出来た。

嘘子が自分のディパックの中に入っていたと述べながら叫の存在を示すために突き出してきた「参加者候補リスト」には、中村敦信や金本優、東雲駆に藤江桃子。以前同じクラスだった中野あざみといった自分の同じクラスの級友たちが名を連ねていたからだ。
ただそれも不安要素であったものの、そのリストの中で幸太が目を引いたのは自分の恋人花巻咲の名前があったことだった。
もしこれが同姓同名の別人ではなく、本物の咲であったら………泣いてしまってるかもしれない。殺されてしまったら?その時は自分が発狂してしまうかもしれない。いや、してしまうだろう。
そうなる前に彼女を救わなくては。

───でもどうやって?自分に人を救う力なんて、無いとは知っているのに。そうやって悩む幸太を察したかの様に、嘘子は幸太に対してニヤリと口角を釣り上げて口を開く。


───兄さんはチームとか関係なく、参加者全員を素手で殺そうとするだろうし、それが出来る強さを持ってる。見たところ、あんたの大事な人もいるみたいなんでしょ?あたしを連れていったらいいよ。兄さんには『感情』はほぼないけど、あたしの話だけは聞いてくれるの。
ね、兄さんを止めることができることはあたしだけなんだよ?兄さんだって、妹を殺しはしないはずでしょ?見つけたら真っ先にあなたの彼女を守らせるから。だから───

「あたしをその間守ってよね!こーた!」

============

で、今に至ると。

65 ◆aKPs1fzI9A:2015/05/10(日) 00:33:09 ID:1otjGXi60
嘘子の足取りは先程と比べてさらに軽くなっていた。

それは幸太に荷物を持たせたからである。幸太は仕方なく、はいはいと思いながらも嘘子の重かったディパックを持ち、歩みを進める。


「…兄さん…」

軽い歩調で足を進めていた嘘子が歩みを止めて、ぽつりと小さな声で呟いた。
幸太は先程までの嘘子の声の調子と違うのを疑問に思い、嘘子にその疑問を投げかけることにした。

「お兄ちゃんが、心配?」
「なっ…!!!!」

嘘子はその幸太の発言を聞いた瞬間、目を大きく見開いて、顔を真っ赤にしながら必死に否定する素振りを見せる。

「だっ、大丈夫に決まってるでしょ!あの兄さんよ?素手で熊をも倒す兄さんよ?色々犬が言うんじゃないわよ!」


───心配なんだろうなあ。年頃で素直になれないだけの子。
普通に生活していればきっと、幸せなはずだったろうに。

(…やっぱり間違ってるよな。こんなこと。なんとかしなくちゃ)

幸太はゆっくりと上を向く。空に輝く星が、不釣り合いな程に光っていた。
その不釣り合いさが、なおさら不気味に思えたけれど、きっと大丈夫なはずだ。
まさか本当に殺し合う人なんて、いないはずだと信じたい。

幸太は心の奥底で、そう考えていた。






その時である。





「HELLO,ボーイ&ガール。いきなりの質問ですまないが…君たちはChinese(中国人)かね?Korean(韓国人)かね?それとも…Japanese(日本人)かね?」

低い、しゃがれた声がした。二人の右斜め後ろの方面からであった。
二人が振り返ると、そこには老人がいた。
頭をしっかりとセットしていて、素人目に見ても高級だと分かるスーツに蝶ネクタイ。おおよそその格好はこの殺し合いには不釣り合いとも言えた。
そんな謎の老人は顔を下に向けながら二人に問いかける。その声色はまるで朝食のメニューを妻に尋ねるように軽い様子だった。

(…何を質問しているんだこの人は)

幸太は質問の意味がどうもわからなかった。いわゆる人種差別者なのか、ただ単なる疑問か。殺し合いにおいて必要な質問だとは感じなかった。
そもそも殺し合う気であれば遭遇した人物全員に殺意を向ける方がいいだろうからだ。
殺し合うつもりなどなく、ただ単純な疑問なのだろうか。よく見ればこの老人も鉄製の首輪をつけているから参加者なのは分かるが一体なんなのだろうか、と。

何より気になったのはその下半身だ。黒く光る車椅子に乗っている。
それだけでこの殺し合いに相応しいとは言えないだろう。それで人を殺すことなど、出来るはずもない。

66 ◆aKPs1fzI9A:2015/05/10(日) 00:38:01 ID:1otjGXi60
「はーん!見て分かんないのかしらね!あたし達はじゃぱにーずよ!日本人!」
「そうかねそうかね。それはなんと《運がいい》」
目の前の老人に、嘘子が当然のようにやや小馬鹿にしたような表情で言い放つ。
それを聞いた老人は、安堵した様な声色で、しかしどこか怒気を含めたように、二人に返した。
その雰囲気は、平凡な世界であるアースRでは、感じることが出来ないモノ。

「嘘子ちゃん逃げよう」
「え?」
「逃げようっ!!!!」

幸太が叫ぶ。自分の第六感が体内に赤信号を知らせているからだ。
嘘子に対して先程までの優しい調子とは変わって強い口調で言い放つ。
だがそんな幸太に対し嘘子は驚き、その場に立ち尽くしてしまっている。
その二人を横目にしながら、目の前の老人はゆっくりと顔を上げた。

「私はフランクリン・デラノ・ルーズベルト。君たちの奴隷の国の大統領だよ」

その表情に憎しみと楽しみを灯らせながら。
アメリカ合衆国第32代大統領、フランクリン・ルーズベルトは二人の前にその顔を見せた。
そして車椅子の手すりの部分からゆっくりと、白銀に光る刃を出しながら、また軽い調子で二人に言った。

「ok.やっぱり最初は彼に限るね」

ルーズベルトはそれを右手に持つと、左手の方で膝のところにあったボタンを押した。
するとルーズベルトの車椅子からエンジン音がなり出す。
まるで原付のそれのような音である。

そして車椅子の速度とは思えない速さで、二人に迫った。

「くそっ!」
幸太はそれを確認すると嘘子を抱き抱え、横方向へと飛びよけた。
嘘子はまだなんのことか理解できないような顔をしている。先程と違ってはっきりと不安や焦りすら、伺えた。
ルーズベルトは避けられたことに舌打ちをするも、また二人の方を向き、口を上に歪ませながらも、またゆっくりと言い放った。

「yellow monkeys(エテ公ども)、逃げないでくれないか?どうもコイツの調子が今日は悪いみたいでね。気分が悪いんだ。早めに終わらせたい」

やばいやばいやばいやばいやばい。どうする。どうすればいい。体内のアドレナリンの大量放出によって、自分の鼓動が早くなり、汗がにじみ始めた。
そもそも、フランクリンルーズベルト?あのニューディール政策とかした?世界史の資料集にも居る、あの―――?
いやそれは置いておくとして、まさか、本当に殺し合う人間がいたなんて。内心多少嘘だと思ってたのに。夢だと思っていたのに。幸太の脳内がぐるぐるぐるぐると回り出す。

「こ、このクソジジイっ!兄さんに頼んだらあんたのその腹立つ顔を【自主規制】してやるんだからね!!!」

嘘子は伏していた地面から立ち上がると、震えながら捨て台詞の様にルーズベルトに言った。
完全に虚勢だと分かる。ただ嘘子も、この殺し合いに巻き込まれてしまったことへの戸惑いと、そして本当に乗る人物がいた事への不思議さ。なにより自分を殺そうとしたことに対しての怒りが、彼女を突き動かした。

「HAHAHA…元気がある事はいい事だよガール。ただ、年長者に使う言葉ではないね」

嘘子の言葉を受けてルーズベルトは剣を改めて持ち直し、左の手すりの下のレバーを引くと、二つの大きな車輪の軸からチェーンソーらしきものが出た。
金属音を上げながらチェーンソーが動き出す。ここまで来たらもはや車椅子とは言えなかった。
ルーズベルトはそれが出たのを確認すると年齢からは想像できない様な声色で、はっきりとした殺意を二人に向けながら叫ぶ。

「Remember pearl harbor!Remember Midway!(真珠湾を忘れるな!ミッドウェーを忘れるな!)」、と。

67私は貝になれない ◆aKPs1fzI9A:2015/05/10(日) 00:41:13 ID:1otjGXi60

ルーズベルトが先程よりも更に速い速度で真っ直ぐ二人に迫る。
鬼のような形相で、何かにとりつかれたように間違いなく二人の命を奪うために。

「嘘子ちゃん!!」

体がいつの間にか動いていた。幸太はすぐに立ち上がり嘘子を突き飛ばす。
抱きかかえる時間もなかった。彼女を守るために、こうするしかなかった。それにもし抱きかかえていたら、あのチェーンソーの餌食になっていたかもしれない。
そう思いながら。

「suck my dick,Jap!(くたばれ!糞日本人!)」

さらに叫んだルーズベルトは持っていた剣を剣道の突きのように構えて、やがてその剣を前に突き出した。
狙うは、目の前の男の、この『日本人』の急所───心臓。






「…こーた?」

突き飛ばされて地面に伏しながら、顔を上げる。
その嘘子の目の前に飛び込んだのは、胸を貫かれている、山村幸太の姿。
ルーズベルトの剣から真っ赤な鮮血が垂れている、その姿だった。

「日本人とは本当に頭がpussy(かわいそう)だ。流石我々白人と比べて頭蓋骨が二千年遅れてるほどはある」

ルーズベルトはその剣を更に深く、深く幸太の胸に突き刺していく。
幸太の顔は苦痛に歪み、口からは血がこぼれ出した。
学生服は黒く染まっていき、顔は青白くなっている。
その姿はまさしく、死ぬ寸前の人間の姿であった。

「こーたあっ!」
嘘子が叫ぶ。幸太を心配して。助からないとは分かっているが、それでも叫ばずにはいられなかった。
幸太はそれを見ると、人生で体験したことのないような痛みを必死に堪えながら、振り絞るように嘘子に口を開いた。

「…逃げろ…僕は、もう、ダメみたいだから…君の兄さんに…麻生叫に…花巻咲を、守って、って…言ってくれ」
「でも…でも」
「…行け…早く行けえええええっっっ!!!!」
幸太の声にならないような声を聞き、嘘子は何かを感じ取ったのかその場から走り去った。
恐怖に怯えながら、これは嘘ではなかったと知りながら、嘘子は闇の中に消えていった。
自分の兄にさえ会えれば、自分の兄にさえ会えればきっと大丈夫なはず。
それだけを信じながら、嘘子は走るのであった。

(…咲、ごめんな。こんな彼氏で。守ってやれなくて…ごめんな)
そんな嘘子の姿を確認した幸太はゆっくりとその瞳を閉じた。
自分の愛する、心優しくて自分が誇りに思う大切な彼女に懺悔しながら。

そしてその優しさを兼ね備えた瞳が開かれる事はもうなかった。
【山村幸太@アースR 死亡確認】

=======================

68私は貝になれない ◆aKPs1fzI9A:2015/05/10(日) 00:49:32 ID:1otjGXi60
「エンジンの調子が悪いな…追いつける距離だがまずはスコア1だね」

胸を貫いた目の前の男が息絶えたのを確認してから、ルーズベルトは手に持っていた刀を男の胸から引き抜いた。
男が糸の切れた人形のように崩れ落ちたのを見ず、ルーズベルトは視線を走っていった少女の方へやった。
あの走り去った少女を殺すのは容易かったが、車椅子の調子がどうも今日は悪い。
本当は対戦車ミサイルでも打ってさっさと殺したかったが、何故か押しても発射されなかった。
それにもっとこの車椅子の加速速度は早いはずであるし、まだまだ色々ある筈なのに、それが壊れたかのように使えなくなっている。
おそらくこの主催に「規制」されてしまったのだろう。

ルーズベルトの車椅子は冒頭で述べたかのような戦車、いや戦艦のような機能が多く搭載されている。それらをすべてそのままにしてしまうと、他の参加者と勝負にならないと考えたのだろう。
だがそれは許容範囲だ。それよりもルーズベルトには、一つの確固たる目的が存在していた。

「Axis Powers(枢軸国)に…Japに鉄槌を与えねばならんのだ」

アースAの世界軸における「第二次世界大戦」は、アースRの歴史で教わるような「第二次世界大戦」とは、大きく異なる。
アースRにおけるフランクリン・ルーズベルトは第二次世界大戦中のアメリカの大統領でアメリカを勝利に導き、おそらく読者諸氏も中学の歴史などで習った「ニューディール政策」を行ったりした、今もアメリカの誇る名大統領の一人として扱われる人物である。
しかし、アースAでのルーズベルトの境遇は違った。

勝利が確実と思われた日本とのミッドウェー海戦において、それまで劣勢であった日本が突如現れたロシアの援軍により息を吹き返し、アメリカ海軍は壊滅的被害を受けたのだ。
それをきっかけにしてアメリカの各地の諸拠点は奪われ、やがて日本軍の攻撃は本土にも迫ることになった。
日本軍が本土に上陸するようになり、アメリカ各地は戦場となった。
多くの国民が死んだ。
多くの罪なき国民が死んだのだ。
愛していた土地は奪われ、かつてアメリカンスピリットを持ち開拓をしていった誇り高きアメリカ人は奴隷のような生活を送ることになっていた。

ルーズベルトは、それをどうしようもできず、まるで植民地化を受け容れるような講和条件を飲み、責任を取るために大統領を辞任した。
しかし、ルーズベルトはまだ諦めていなかった。元から強かった日本への嫌悪感は更に増し、それはいつからか彼の性格を更に歪めていくようになっていった。


まずこの状況を打開するためにフリーメイソンなる秘密結社に協力を求め、車椅子の改造とそれに耐えれるような体に手術を受けた。
将来ルーズベルトが目指すのはアメリカ全土の国民の身体能力の向上化、国民皆兵である。
その身体能力強化のための手術を、身を持って体験したのだった。


手術は難航し、何日にも及んだ。
なんとか最終的には手術には成功したが、その後数週間もの間体内をムカデが蠢き続けるような激痛に襲われた。
しかしルーズベルトはそれに耐えた。
日本を、ロシアを、イタリアを、ドイツを。あの憎き枢軸国を倒すために、という執念だけで耐えきった。
老体に鞭を打っているようなものだとは分かる。だが、それでもやらねばならなかった。

彼はあのミッドウェーの敗戦を聞いたあの日から。
あんな下劣な講和条件を受け入れた日から。
ただ枢軸国、特にあの日本を倒し、アメリカの独立を果たすということだけを目標に生きてきているのだ。

「チーム戦なぞ知らん。私の味方は連合国だけなのでね」

ただでさえ老齢であったのに手術で改造された自分の命は長くないだろう。
だがこの命尽きるまで、戦い続け、そしてアメリカに帰らなくてはならない。

「私は貝になるために生まれてきたのではないのだ。それを分からせてやらねばなるまい」

貝のように引きこもったままでは何も変わらない。
人間は殻を破り、自分から行動する動物なのだ。
それは地獄を見てきたルーズベルトにとっての、一種のポリシーに近い物であった。

そしてアメリカを始めとする連合国の人間と協力し、この殺し合いを撃破することが、ルーズベルトの目的。
日本人、ロシア人、ドイツ人、イタリア人は皆殺しで、自分の理想とするメンバーだけでこの主催に打倒するのだ。

「…しばらく待っていたまえ1システム。アメリカの底力とやらを君にお見せしよう…!」

決意を決めた大統領は、手すりに手をかけて赤色のボタンを押し、逆方向へ大きく旋回すると、そのままゆっくりと進み始めるのだった。

69私は貝になれない ◆aKPs1fzI9A:2015/05/10(日) 00:52:23 ID:1otjGXi60
【A-2/森/一日目/深夜】【フランクリン・ルーズベルト@アースA】
[状態]:いたって健康、高揚
[服装]:スーツ、ネクタイなどなど
[装備]:フランクリン・ルーズベルトの車椅子@アースA
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜1
[思考]
基本:連合国の人間と協力し、この殺し合いを終わらせる
1:枢軸国は皆殺し。容赦はしない
[備考]
※名簿を見ていません。
※ルーズベルトの車椅子には制御がかけられています。まだ何が使えて何が使えないか確認していません。
※一応ルーズベルトの車椅子は支給品扱いです。
※「貝になるために生まれてきたのではない」と「日本人の頭蓋骨は二千年遅れてる」は実際のルーズベルトの台詞と言われています。
参考サイトht tp://meigennooukoku.net/b log-entry-853.html(規制避けのためにスペース入れました)

【麻生嘘子@アースR】
[状態]:恐怖
[服装]:ゴシック調の服
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜3
[思考]
基本:他人の力を借りて生き残りたい。兄と合流したい。
1:兄さんに会いたい。
2:ひながいることに驚き
3:こーた…
[備考]※支給品は確認してます。

※A-2の森に山村幸太の死体が放置されています。ディパックもそのままです。

70名無しさん:2015/05/10(日) 00:53:39 ID:1otjGXi60
以上です。
タイトル元ネタは映画「私は貝になりたい」とルーズベルトの名言から。

71名無しさん:2015/05/10(日) 00:57:40 ID:paHJBNgg0
おつです。
幸太あああああああ!

72名無しさん:2015/05/10(日) 01:15:20 ID:.cojFDpk0
乙おつ
麻生妹かわええなあ…そして麻生兄の風評被害ほんと笑うww
とか言ってたら幸太くんー!さっそくカップルに悲劇が!
ルーズベルト、すごい車いすでネタキャラかと思ってたらすごい車いすがものすごくすごい車いすで
しかも本人は超真面目に枢軸国を恨んでてめっちゃかっこよくて凄味があった…!
アースAの日本が勝利した世界ってとこが上手く効いてて面白いキャラだー

73 ◆laf9FMw4wE:2015/05/10(日) 04:11:44 ID:JEzzVfpY0
投下します

74 ◆laf9FMw4wE:2015/05/10(日) 04:12:58 ID:JEzzVfpY0
御園生優芽はアイドルだ。
幼い頃からただひたすらにアイドルを夢見て突き進んできて――そうしてやっと最近になって夢を掴んだ。
ヤクザの組長というアイドルから程遠い地位にも就いてしまったが、それでも彼女は日々を楽しんでいた。
歌って踊って、人々を笑顔にする。そんなアイドルという職業を誇りに思い、全力で取り組んでいた。

だがしかし――――素晴らしき日々は最悪な形で崩れ去る。

『唐突で申し訳ないのですが───皆さまには本日から三日間の間、お互いに殺し合いをしていただきます』
「うぇ!? な、なんだってー!? ――て、のわ!?」

唐突に殺し合いを宣言された優芽は、大袈裟に驚き、石に躓いた。顔面から転んで涙目になるアイドル。
仕返しとばかりに石を蹴り飛ばすと彼女はICプレイヤーの言葉に耳を貸した。

『───再生が終了しました』

ICプレイヤーから流れ出る現実離れした数々の言葉。それらの説明はヤクザの世界を知っている彼女でも、信じられないと思うものだった。
それでも自分に嵌められた首輪やデイパックはあるわけで。どう考えていいか解らずに困り果てる。

「あっそうだ。試しにこの首輪でも外してみるか!」

とりあえず爆破が事実なら怖いので強引に首輪を引っ張てみるが――外れない。
当然だ。ちょっと体力に自信がある程度のアイドルが簡単に外せる首輪など、何の抑止力にならない。
今度は殴って強引に壊そうとするが――なんというか自分の理想とするアイドルと正反対だし、絵面的に酷いので寸止め。

「ぐぬぬ……。あたしの力じゃ外せねえか。ま――まあヤクザの世界に身をおいてる優芽様は、こんな首輪なんて怖くないけどよ。
 この震えだって立派な武者震いなんだ。もうこれから先を考えるだけでワクワクすっぞ!」

嘘だ。実際は争い事が苦手で、殺し合いなんて言葉は聞くだけでも吐き気がする。ICプレイヤーの言葉を聞いて、強い嫌悪を示したのも事実。
されど彼女は、アイドルという仕事を誇りに思っている少女だ。だからここで逃げ出せばアイドルの恥だ――そうやって自分に言い聞かせる。
こんな場所は怖い、出来れば今すぐ逃げ出したい――そんな気持ちを抑え込むように虚勢を張ったのだ。

(それにこれってドッキリ……だよな?
 さ――さすがに殺し合いを開いたり、首輪を爆発させたり出来る超人なんているわけないよな!?)

彼女が想像したものは、バラエティ番組でよくあるドッキリ企画。
これまで一度も受けたことがない仕事で、詳しい事情は不明だが、あまりにも現実離れした一連の出来事はそれ以外に有り得ないと決め付ける。
ICプレイヤーは首輪を遠隔操作で爆発させることも可能だと語っていたが、この平和な世の中にそんな物騒なものが存在してたまるか。殺し合いなんて自分の知る限りではヤクザでも開催していないのに、堅気らしき女が開けるハズがない。
だからこれは、間違いなくドッキリ企画だ。いきなり連れ去られて動揺はしているが、それだけは理解している。

「――――うつけがっ!」
「お――おう!?」

交差する少女たちの声。
振り向いてみれば――そこには奇抜な制服を着用した、凛とした雰囲気の漂う美少女が優芽を見下すように眺めていた。

「な、なんだよお前!? あたしに何か用があるのかぁ!?」
「そう喚くな、ホトトギス。あまり騒ぐと敵襲がくるぞ」
「はあ? もしかしてお前、今流行りの電波とかいうやつか? 電波女なのか?」
「ふん、聞いて驚くなよ? 余の名は第六天魔王――――織田信長なり」

ドヤァアアアアアアアアア!
自信に満ちた表情で名乗る美少女を見て、優芽はそんな幻聴が聞こえたとか、聞こえなかったとか。
そしてあまりにも意味不明なことが積み重なり、優芽のアホ毛は立派なクエッションマークを作り上げている。

「……」
「……何か言わぬか、莫迦者」

沈黙が恥ずかしいのか、ちょっとだけ顔が赤くなる美少女。
優芽は少しだけ考えて――――ピコーンとアホ毛が直立した。

「信長? はぁん、なるほど。お前は信長キャラのアイドルなんだな!
 つーかよォ、番組の撮影にこんなコト言う資格はねえけど、こんな場所でドッキリされても困るよなあ?
 そりゃあたしはアイドルが夢だったし、こうして仕事出来ることは嬉しいけどさ。事前に連絡してくれてもいいんじゃあ――っておい、何ピクピクしてンだ?」

75スマイル全開で明日を目指そうよ ◆laf9FMw4wE:2015/05/10(日) 04:14:11 ID:JEzzVfpY0

信長を名乗る少女の容姿は、そこらの芸能人が霞んで見えるくらいに美しい。
凛と輝く金色の瞳は、この世で見たことがない程に自信に満ちていて。一目見ただけで、彼女が胸に秘めた意思の強さを感じさせられる。
ゆえに優芽は少女を見た瞬間に直感した。彼女は間違いなく、芸能人――というかアイドルだろう、と。
今まで一度も見たことのない少女ではあるが、それはきっとまだ彼女は駆け出しアイドルだからに違いない。彼女の着用している奇抜でありながら、凛とした雰囲気を一層引き立たせているあの衣装も、アイドル服だと思えば納得がいく。
そう思って、アイドル仲間として接したというのに――どうして信長はこんなにも見をプルプルと震わせているのだろうか?

「ちがぁぁぁあああううう!
 戦国†恋姫、桜花センゴク、三極姫、戦国コレクション、のぶながっ!、織田信奈の野望――現代の娯楽を見渡せば、どいつもこいつも余を勝手に女にしおって!
 余が男ってそれ一番言われているだろっ。小学生並の常識だろっ! 貴様ら余の許可も得ず、勝手に女にするでないわぁぁぁあああ!」

(へえ。すげェなこいつ、この状況でも揺らぐことなく信長系を貫いて撮影に望んでやがる。
 まったくこの優芽様ですら、柄にもなく驚いちまったっつーのに……肝が座ってるにも程があるだろ)

「余を見てニヤニヤするな、このうつけがっ!」
「あ――悪ィな、別に悪気はなかったんだ。単になんつーか――あんたをアイドルとしてちょっぴりだけ尊敬しちまった。そんだけさ」
「ほう? 余はアイドルではないが、敬うという行為自体は間違ってない。貴様、ホトトギスの分際で、なかなか見る目があるな」
「あたしはホトトギス系アイドルじゃねェよ! つーか信長系キャラをいいことにあたしに上から目線のてんこもりだなァ、おい!」
「信長系キャラではない、余は信長じゃ! なんていうかその、世の中に出回っている二次創作的な言い方はやめい!」
「はいはい。仰る通り、お前がナンバーワン信長だよ。そんで、お前はどんな曲を歌ってるんだ?」
「何度も言わせるな。余はアイドルではないっ!」

「いやアイドルや芸能人じゃなきゃドッキリなんて有り得ねェだろ。ま、お前が否定するなら別にそれでもいいけどさ。
 そんなことより、あたしの歌を聞いてくれよ。これでも歌と踊りにゃ自信あるんだぜ」
「歌、か。どこぞのキンカンも歌が大好きで――――はっきり言って、余はあまり好きじゃない。
 クラスメイトのスライムちゃんだけは別格だが、彼女の歌唱力は一線を画している。貴様のようなホトトギスとはワケがちふぁ――ふぁ、ふぁにをひゅる!?」

信長の云うキンカンとは過去に最も信頼しており、今では最も嫌う人物――明智光秀のことだ。
彼が謀反を起こした理由は今でも解明されていないし、信長にもその理由は解らない。彼の知っていることは、自分は信頼していたハズなのに――光秀は容赦なく裏切ったという事実だけなのだ。
そして光秀は和歌を愛していたゆえに、信長は歌を聞いてしまうと、つい光秀を思い浮かべてしまい、無性にイライラしてしまう。
しかしそんな彼にも例外は存在する。同じクラスに在籍するスライムちゃんの歌だけは、素晴らしい歌唱力。聞いている者を癒やす効果がある、と絶賛していた。

もっともこれは信長の事情で、そんなことを初対面の少女が知るはずもなくて。
優芽は信長をからかうように頬を引っ張ると、いつになく真剣な眼差しで彼女の瞳を見据えた。

「あんたの過去なんて知らねェけど、あたしは本気で。自分に出来る限りの全力で、歌に取り組んでるつもりだぜ?
 そりゃあプロに比べたら劣るだろうし、お前の言うキンカンやらスライムちゃんのことも知らねェけどさ――文句はあたしの曲を聞いてから言ってほしいんだ。
 なあ頼む! 同じアイドルとして。アイドル仲間としてあたしの曲を聴いてくれっ! 下手なら文句でもクレームでもなんでも聞くからさ、あたしはあんたに聴いてほしいと思ったんだ!」

「余はアイドルじゃないのに、理解力のないうつけだ。……仕方ない、一度だけじゃ。一度だけ、聞いてやってもいい。わ――わかったら早く鳴いてみせぬか、ホトトギス!」
「それじゃ、遠慮なく――」

76スマイル全開で明日を目指そうよ ◆laf9FMw4wE:2015/05/10(日) 04:14:43 ID:JEzzVfpY0

そして少女は歌い始める。
どこまでも前向きで、笑ってしまうほどポジティブ精神に満ちた曲を唄った。
状況を理解出来ていないアイドルが奏でる音楽は、あまりにも殺し合いに不向きのもので――けれども、先の真剣な眼差しや精一杯に唱っている彼女の姿から迸る熱意は、紛れもなく本物。

(……なんだ、意外と良い曲ではないか)

ゆえに信長も内心では素直に優芽を賞賛する。彼女は態度こそ無礼極まりなくて、自分の置かれている立場すら理解出来ていない阿呆だが――それでもアイドルという職業に対する情熱だけは本物なのだろう。
スライムちゃんの曲が癒やしだとするならば、優芽の曲は希望や情熱――そんなものが込められているようだ、と信長は感じた。決して口にするつもりはないが、このうつけの曲を聴いて救われる者も存在するかもしれない。

「――とまァ、こんなもんだ。あたしの曲は、どうだった?」
「スライムちゃん程ではないが――まあ、悪くはない」
「え……? ほ――本当かっ!? 本気って書いてマジなのか!?」
「無論だ。こんなつまらぬコトで余が嘘をついて何のメリットがある? その程度も理解出来ぬのか、うつけが」
「実はこの曲、ガキの頃にあたしが考えたやつでさ。昔からずっと練習してたけど……ちょいと恥ずかしくて、誰かに聴かせるのはお前が初めてだったんだ。ありがとよ」
「べ――別に貴様の為に評価をしたワケではない! 聴け聴けとうるさいから聴いてやっただけに過ぎぬことを知れ、無礼者がっ!」
「いやどこが無礼者なんだよ。まだ知り合ったばかりだけど、お前って本当に素直じゃねェなァ」

そうして優芽は信長の反応を見て苦笑した後に――。

「と――自己紹介が遅れちまったな。あたしは御園生優芽だ。
 これがどんなドッキリ企画なのか知らねェけど――二人で一緒に撮影がんばろうぜ、信長。
 ほらよ。アイドル仲間として。そしてライバルとしての、握手だ!」

満面の笑みで手を差し伸べた。
未だにドッキリ企画だと勘違いしている点は――訂正しても、どうせ理解しないだろう。
あまりにも場違いなアイドルの態度に呆れつつ、信長も手を伸ばす。

「どうせ貴様は、莫迦でうつけのホトトギスだが、曲だけは認めてやらんでもない。そんな阿呆が状況も理解出来ぬまま無駄に命を散らせることは僅かに惜しいものだ。
 それに余は、あのうつけを斬るつもりはあっても、チーム戦の殺し合いなぞを興じるつもりは一切ないからな。――貴様の同行を許可する」
「何が言いたいのかよくわからねェけど……しゃーなしだな、ドッキリが終わるまでは部下にでも何にでもなってやるよ。断るとまた怒りそうだもんな」
「ふん。余はそんなことで怒らぬわ、うつけがっ!」
「あっ、また怒った!」

【F-7/平野/1日目/深夜】

【織田信長@アースE】
[状態]:健康
[服装]:ファンクラブに作らせた格好良い女子制服(一般人が見れば奇抜な格好)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ランダムアイテム1〜3
[思考]
基本:殺し合いを開いたうつけを斬る!
1:御園生優芽と同行。出来れば現状を理解してほしい

【御園生優芽@アースR】
[状態]:健康
[服装]:アイドル服
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜3
[思考]
基本:信長と一緒に撮影をがんばるぜ!
1:ドッキリが終わるまでは信長の部下になってやるか
[備考]
※殺し合いをドッキリ企画だと誤解しています。
※織田信長を信長系アイドルだと誤解しています。

77 ◆laf9FMw4wE:2015/05/10(日) 04:16:29 ID:JEzzVfpY0
投下終了です
御園生優芽の男勝りな口調については彼女はヤクザの組長も兼任しているからということで

78名無しさん:2015/05/10(日) 14:18:07 ID:dUmU6vqQ0
乙です
優芽ちゃんのパッション系アイドルっぷりがたくましい
(ドッキリと勘違いしたままだけど)細けえことはいいんだよな感じが好きだぜ
信長はそりゃ女にされるのに不満あるわな…wメタ的にはこの企画でも女にされちゃったわけだし…
でも優芽ちゃんの歌を認めるあたりの度量はさすが信長だぜ今後も楽しみだ

79名無しさん:2015/05/10(日) 14:25:24 ID:ZTxfUc/Y0
のぶのぶ本当にかわいそうw
どっかではロボにも猫にもモンスターにもされてるしなあ…

優芽ちゃんたくましい。男勝りな感じもかわいいぜ

80名無しさん:2015/05/10(日) 14:35:12 ID:ZTxfUc/Y0
あと暫定参加者一覧です。
【アースR】4/5
●山村幸太/○花巻咲/○雨宮ひな/○麻生嘘子/○御園生優芽
【アースP】1/1
○明智光秀
【アースH】1/1
○柳生十兵衛
【アースE】2/2
○徳川家康/○松永久秀
【アースA】2/2
○ベニート・ムッソリーニ/○フランクリン・ルーズベルト
【アースMG】1/2
●久澄アリア/○高村和花
【アースM】1/1
○東光一
【アースC】1/1
○織田信長
13/15

あと35人!

81 ◆r.0t.MH/uw:2015/05/10(日) 17:14:26 ID:SJogUHa20
投下します

82鏡面の憎悪  ◆r.0t.MH/uw:2015/05/10(日) 17:15:40 ID:SJogUHa20
現状をふと考える。

一体何がいけなかったのか。

気まぐれに学校に行こうと思い、いつも通り教師の説教を聞き流す。
放課後、最近頻繁に出てくる邪魔者がいないか確認。
帰り道、言葉にするのもおぞましい通りすがりの『 』を見つけて……。

そこで記憶が途切れている。

次の記憶はあの部屋だ。
殺し合いがどうとか言っていたが正直言ってどうでもいい。
いつも通り『 』であれば殺す、それだけだ。
もしも『 』がいなければ……まあそれはその時に考えればいいだろう。

そして気になることを思い出す。

最近殺しの最中に興奮の絶頂で記憶が飛ぶことがよくある。
はたしてあのときの『 』は殺せていたのだろうか。

殺せていたたのならそれでいい。
しかし、もしそうでないのなら……。

考えた瞬間全身の血液が煮え立つ感触を覚える。

帰らなければ。帰って…「あの、すみません?」

思考が、中断される。

「……何?」

邪魔をされた恨みと、あとついでにありったけの憎悪を込めて声の主をにらみつける。

「あー、えっと?少し話だけでも聞いてくれたら、っと……」
「そもそも誰よ、あなたは?」

返事を返しながら相手を観察する。
動きは戦闘慣れした者のそれではなく、『 』の気配も今のところはしない。
白髪交じりなのか髪色は灰色、目には赤と青のカラコン、耳はどこかの映画で見た妖精のようにとがっている。
ずいぶんとおかしな格好だ、噂に聞くこすぷれいや?とか言う輩なのだろうか。

83鏡面の憎悪  ◆r.0t.MH/uw:2015/05/10(日) 17:16:33 ID:SJogUHa20

「あぁ、申し遅れました。私はアーゴイル、武器屋のアーゴイルといえばお分かりで……」

白か。
それならもうこの男に用は無い、そうそうに立ち去ろうと、

「あ、待ってください!」
「……」

振り返る、今度は殺意を込めてみる。

「せっかくの縁ですし名前教えてもらえませんか?」
「肩斬華…子、もういい?」

なんとなくこいつに本名そのままを名乗るのは嫌だったので適当に付け加える。

先ほどからさほどもしゃべっていないはずなのにこの男を相手にすると無性に苛々する
ここはさっさと離れた方が精神衛生のためにもいいのだろう。

「ついてきたりなんかしたら、殺すわよ」

なおも口を開こうとする男をようやくその場を離れることができた。
早く帰らなければならない、早く……。

【肩斬華@アースP(パラレル)】
[状態]:健康
[服装]:
[装備]:
[道具]:支給品一式、不明支給品1~3
[思考]
基本:元世界へ帰る
1:この場を離れる
2:『 』は見かけ次第殺す
3:『 』でなくても自分の邪魔をすれば殺す、かも
[備考]

84鏡面の憎悪  ◆r.0t.MH/uw:2015/05/10(日) 17:17:19 ID:SJogUHa20

「ふむ、振られてしまった……か」

去っていく少女の後姿を見送りながら男、ヘイス・アーゴイルはつぶやく。
さすがに殺すとまで言われてはついていくわけにもいかない。
周到に準備をしている普段ならともかく、今の彼は非戦闘員の半人半魔にすぎない。
服の中に仕込んでいた小さな魔道具まで没収している主催者の芸の細かさには感嘆の念を禁じ得ない。

「殺し合いか、本当に下らんことをやってくれるな、あの男は」

支給された参加者候補リストには人間側の有力者の名もちらほらと載っていた。
現行で殺し合いが始まっているのを見るに、何人かはすでにこの場にいるのだろう。
本来ならばそんなことは伝説の錬金術師であるあの男、サン・ジェルミが見逃すはずがない。
しかし殺し合いは行われている、つまりこの殺し合いにおいてサン・ジェルミは主催者、もしくはその関係者であるという図式が成り立つ。
そしてサン・ジェルミが主催者側にいるということで殺し合いの大まかな目的も察することができる。
あの男のすることだ、今回の目的も人類の繁栄につながるものなのだろう。

だから、潰す。

そもそもこの殺し合いで主催者の思惑通りに動いたところで彼自身が生き残る目は少ない。
例えチーム戦であろうとも、先の戦争の成果で警戒される程度には知名度が上がっていることは自覚している。
それになにより彼自身があの連中とともに戦うことを考えられない。
彼の根本も先ほどの少女と同じ、憎悪なのだから。

「カタギリハナコか」

見るからに憎悪に囚われた彼女に話しかけたのは単純に同類としての興味からであり、
事実彼女の憎しみは凄まじく、向けられた瞬間危うく普段から演じている店主としての仮面をはがされかけるところであった。

だが、予想外の収穫も得ることができた。
彼が経営している武器屋、アーガイル商店は先の戦争で大規模な利益と名を上げた。
気になるのはおそらく戦闘技能持ちであろうハナコがその名にノーリアクションだったこと。

「これは……ひょっとすると」

その概念の知識はあるが今まで眉唾ものだと思っていた。
だが、それを考えるとチーム戦の殺し合いという中途半端な形式にも納得がいく。
受け入れるべきかもしれない『異世界』という概念を。

【ヘイス・アーゴイル@アースF(ファンタジー)】
[状態]:健康
[服装]:
[装備]:
[道具]:支給品一式、不明支給品1~3
[思考]
基本:殺し合いをつぶす
1:『異世界』の存在を確認する
2:協力するなら『異世界』の住人と
3:自分のチームの優勝は断固として阻止する
[備考]
※サン・ジェルミ伯爵が主催者側にいる可能性が高いと考えています
※異世界が存在し、チームは世界ごとに分けられている可能性があると考えています

85 ◆r.0t.MH/uw:2015/05/10(日) 17:18:01 ID:SJogUHa20
投下終了です

86 ◆r.0t.MH/uw:2015/05/10(日) 17:40:10 ID:SJogUHa20
見直したら現在位置を入れ忘れていました
両者とも【F-5/平野/1日目/深夜】です

87名無しさん:2015/05/11(月) 00:47:45 ID:21lfYPvA0
投下乙です!
あっ…(察し)花子ちゃんに風評被害ががが
『 』ってなんだったんだろう。気になるなあ

んでアーゴイルさん鋭い。登場にしてまさかここまで見抜くとは。
恐ろしい男だ

88 ◆laf9FMw4wE:2015/05/11(月) 04:31:55 ID:f9zQQzk20
投下します

89私が戦士になった理由 ◆laf9FMw4wE:2015/05/11(月) 04:32:43 ID:f9zQQzk20
かつて夫婦仲の良い家庭に生まれた、恵まれた少女がいた。
名前はラモサ。永久の幸福を祈って名付けられた彼女は、その名の通り笑顔が絶えない元気な少女である。
この時代は決して平和とは言い難い。常人の手に負えない者が悪行の少なくない世の中であり、毎日のように凶悪犯罪が起こっている。

されどこの世界には、もう一つの勢力――ヒーローと呼ばれる者たちが存在する。
正義の代行者たる彼らは、どんな悪行も許さない。市民を護る為にも血肉を撒き散らし、悪党に対抗している。

だから、無駄な心配は必要ない。ラモサはヒーローを信じて、この素晴らしき日々が永劫に続くと思って暮らしていた――――。

                        ❀

学校の帰り道。
何の変哲もない幸せな日々を壊すように、ラモサの家から見知らぬ少年が突き飛ばされていた。
喧嘩でもしたのだろうか? 彼は酷い重傷を負っていて、立ち上がるのもやっとだという様子である。

「諦めの悪いガキだ。ヒーローに私情を挟むな」

玄関から歩き出た灰色の男が、見下すように少年を眺めた。
生気を失い濁り果てた瞳は、まるで死人のようで、見ているだけで彼が只者ではないと知らされる。
対する少年が瞳に宿しているものは――希望だ。絶体絶命の窮地であるにも拘らず、彼は一向に諦める気配がない。

「うるせェ! 政府直属のヒーローだかなんだから知らねえが――その人たちは、人間だッ!」
「それがどうした? 元が人間であろうが、今や彼らは怪物同然。殺すべき悪だと政府から連絡も入っている」
「理解も納得も出来ねェな。俺の知ってるヒーローは――――師匠は、罪のない人を殺したりしない!
 そしてそれは俺も同じだ。まだ人間の心が残ってるなら――俺はこの人達を全力で守ってやる!」

この二人は何を言っているのだろうか?
突如の事態に、頭が追いついていかない。状況を理解することが出来ない。
辛うじて解ることは、少年が対峙している男は政府直属のヒーロー、早乙女灰色だということだけだ。
だから普通に考えればヒーローが悪人を追い詰めているようにも見えるが――少年の言葉の内容から察するに彼が悪人ではないのだろう。
考えれば考えるほど、わけがわからない。そもそも少年は何を守ろうとしているのか。

「それが俺の――ヒーローの王道だぁっ!」

気合いを振り絞り、立ち上がった少年が拳を固く握り締める。
真っ直ぐな瞳が灰色を見据える。/生気の宿らぬ死人がヒーローを見据える。
実際は灰色がヒーローで少年は素性すら知らないのだが、今のラモサにはそんな風に見えた。

互いの視線が交わった刹那に――少年が疾走り、灰色が身を構える。
助走をつけて振り抜かれた正拳突きが、灰色に迫り――――数瞬後のラモサが見たものは、全身全霊で放った一撃を躱され、態勢を崩す少年だった。

「ガキが」

――――無慈悲な銃声が響き渡る。
結城陽太は政府に悪と認定されていない少年だ。命を奪う必要はないが、彼は仕事の邪魔をした。
ゆえに灰色は容赦をしない。足を撃ち抜き、少年の自由を一時的に奪うとラモサの家へ再び戻ろうとして――。

「お前も止めてみるか?」

陽太に駆け寄るラモサを一瞥した。
意味不明だ。何らかの事件に巻き込まれたことは間違いないが、どうして灰色はラモサに声を掛けたのか。

「……もしかしてラモサちゃん、か?」
「え――どうして私の名前を?」
「あの人たちが呼んでたんだ。家族3人で笑っている写真に、何度も何度も……。
 それで俺は確信した。二人はまだ意識がある。姿形は変わっても、ラモサちゃんの両親は怪物なんかじゃねェハズだっ!」

90私が戦士になった理由 ◆laf9FMw4wE:2015/05/11(月) 04:33:28 ID:f9zQQzk20

「え? それってどういう――」
「――――何も難しい問題ではない。政府に悪と認定されたから殺す、それだけのことだ」

再びラモサたちの目の前へ立ち塞がる灰色。2つの異形を手にした彼は、それらを悪と断じて殺すと宣言した。
未練がましく家族写真を抱えて涙を流す怪物たち。肉体の至る所からギロチンの突き出した形状はとても人間だとは思えないが、彼らの一挙一動はどこまでも人間臭くて――。

「お母さん? お父さん?」

血に塗れても守り抜いた家族写真が、ラモサに状況を理解させた。

「お前の両親は数時間前、Mr.イヴィルの手で怪人に成り果てた。今や政府が害と認めた、立派な怪人だ」

何一つ表情を変えることもなく、灰色は真実を告げた。
つまりそれは、ラモサの両親が理不尽に怪人にされた挙句、政府直属のヒーロー手で殺されてしまうということで。
未だ人としての意思がある生物の命を強引に奪い去ろうとしているということで。
政府は。ヒーローは、姿形が怪物になってしまえば、罪なき人々を見捨てる悪ばかりの集団なのだろう。

「……ラモサちゃんの両親を殺させるわけにはいかないッ!
 ここで負けたら――いのりみたいな子がまた増える……! だから――この戦いは絶対に引けるかぁっ!」

負傷した箇所から血を撒き散らし――それでも立ち上がるヒーローが、そこには居た。
彼は政府直属でもなければ、変身すら出来ない未熟者であるが、如何なる巨悪にも立ち向かうその姿は、正しく正義の味方。
その雄姿にラモサは感動を覚えて――――。

「やっと来たか。――――エンマ」

気が付けば一人の幼女が現れて。

「ラモ――サ?」

ラモサが瞬きをしている間に、両親の片方は呆気無く崩れ落ちていた。
母親か、父親か。もはやそれすらも解らぬ歪な風貌であるが――――最期に聞いたその呼び掛けは、よく覚えている。

「ど――してこ――なこと――に」

次いでもう片方の異形も、真紅に染められていた。
人間とは程遠い存在になっても――――やはり彼らの気持ちは不変で。それを証明するかのように告げられた遺言は、深く胸に刻み込まれている。

                            †

そして現在――――。
悪しきヒーローに人生を狂わされた少女は、自らが正義の執行者となることで悪を滅することになる。
突如として自らの内に宿った変幻自在の幻創武具――――常闇照らせし正義の柱(ボア・ドゥ・ジュスティス)が無力な少女に力を与えたのだ。

「チーム戦の殺し合い、か。悪趣味で吐き気を催す最低最悪の行事だね」

それがICプレイヤーで話を聞いた後の率直な感想だった。
ラモサは己が命を切り捨てることに躊躇のない性格である。彼女の想像する早乙女灰色や早乙女エンマと違い、正義の為に力を振るう少女だ。
この危機的ともいえる状況に怯えたりすることはないが、単純に殺し合いという行為自体が気に入らない。

「終了条件が最後の一人になるか、参加者様方が一チームのみになること?
 早乙女灰色や早乙女エンマは嬉々として他人を見捨てたり、他のチームを襲ったりだろうけど――私は無駄に被害者を増やすことなんて御免かな。あいつらと同じになるくらいなら、死んだほうがマシだ。
 だから私はAKANEや悪を断罪して、皆を救ってみせるよ。
 そして――早乙女灰色と早乙女エンマを見つけたら今度こそ裁いてやる。あの二人がいる限り、皆が笑顔で暮らせる時代は絶対に訪れないから」

「このお母さんとお父さんに託された――――常闇照らせし正義の柱(ボア・ドゥ・ジュスティス)で」

ラモサの呼び掛けに応じて右掌に顕現する正義の柱。
深淵の闇をも照らす白銀の刃は、悪の用意したICプレイヤーを斬首した後、再びラモサの体内へ戻り。

「さあ――征こうか、常闇照らせし正義の柱」

己が正義を貫く為に、戦士は征く。

【F-3/平野/1日目/深夜】

【ラモサ@アースH】
[状態]:健康
[服装]:
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ランダムアイテム1〜3
[思考]
基本:AKANEや悪を断罪する
1:早乙女灰色、早乙女エンマを見つけたら処刑する

91 ◆laf9FMw4wE:2015/05/11(月) 04:37:33 ID:f9zQQzk20
投下終了です。
回想というかたちで未登場キャラが登場しましたが、登場した際に口調や性格が違いましたらそれに合わせて修正します
前半の回想が大部分を占める話ですので、未登場キャラを出す手法がまずければ破棄します

92名無しさん:2015/05/11(月) 06:25:15 ID:0o6axBSM0
参加者まとめと投下乙です
>鏡面の憎悪
おおー短くまとまりつつも、肩斬さんの憎悪の謎とアーゴイルさんの切れ者っぷりがいい具合に提示されとる
彼女が殺す『』とは一体なんなのか、これから明かされるのが楽しみだ、それにしてもピンポイントな偽名をw

>私が戦士になった理由
回想から入る構成もありだなーいいと思いますラモサちゃん応援したくなった
H世界はこれ
悪の組織といのりちゃん関連と早乙女父子が繋がった形になって因縁だらけだーw

93 ◆8I7heVl7bs:2015/05/11(月) 22:25:09 ID:jsfdyFM20
ジル・ド・レェ、早乙女エンマ、柊麗華 投下します

94 ◆8I7heVl7bs:2015/05/11(月) 22:25:52 ID:jsfdyFM20
夜の街を駆ける少女がいる。
短い手足を必死に振り、顔を恐怖で引き攣らせながら、しかし大人顔負けの速さで走る少女がいる。名を、柊麗華。
なぜ、少女は逃げるのか。それは、『恐怖』に追われているから。

「ふふふふ……待ちなさい、可愛い娘……」

地獄の底から聞こえてくるような声が、少女を追いかける。

「お姉さんが、優しく、優しく、や、さ、し、く、遊んであげますからねえ」

淫靡で、上品で、それでいて狂気を感じるその声は、正に追う者、ジル・ド・レェの性質を現していた。

麗華は走る。生き残るために。生物の本能に従い、彼女は慣れない街を必死で駆ける。
追うジルも走っている。が、その走り方、距離の取り方は追いかけるというより甚振るといった方が正しいかもしれない。
すでに、ジルの遊びは始まっているのだ。少女に恐怖を与えながら、一定のペースで追いかけ、疲れ切って動けなくなったところで、第二フェイズ(拷問)へ移る。生前もそうやって自分の城で彼女は追い駆けっこを楽しんだ。
それが彼女の死因、火炙りに繋がったのは皮肉だが。そして第二の生を与えられた彼女が生前と同じようにこの行為を繰り返すのは、彼女が狂っているためか。

5分ほど続いたこの逃走劇は、少女が逃亡に成功、あるいは少女がジルの思惑道理に力尽きて捕獲される、はたまたジルが気を変えて殺害される、の三つの結末しかないはずだった。
だが、第三者が現れることで、状況は大きく変わりだす。

「ねえ」

追いかけっこを続ける二人に、上から声が降りかかった。
麗華は希望に縋り付くように上を見上げ、ジルは声の性質から予想した新たな獲物の登場に思わず舌なめずりをする。追いかけっこは一旦中断された。

「師匠、知らない?」
そう言って、少女は二人が走る舗装道路へ気軽に降り立つ。
彼女はつい先刻まで一軒家の屋根の上に立っていたのだ。

赤い髪を腰まで垂らした少女は、二人をちらちらと見据える。

「師匠?……ごめんね、あなたの師匠はどんな方なの?」
そう聞いたのは意外にもジルだった。まるで大人が迷子の子供に話しかけるように、優しく、しかしどこか嘲りを含めて。
「私の師匠は、全身灰色で、声がけっこう渋い声。あとね、でっかい」
「なるほど、残念ですが私は知らない。あなたはどうです?」
突然ジルにそう声をかけられ、麗華はびくっと肩を震わせた。
「わ……わかりません」

なんとかそう言った麗華に少女はそっか、と小さく呟いた。

「私は早乙女エンマ。師匠の一番弟子。ていっても私以外弟子いないんだけどさ」
そして、エンマは無機質な視線を二人の首元に投げかける。

「二人とも、私と違うグループだね」
ぞくりと麗華の背中を冷たいものが流れた。
ジルの不気味さ、不吉さから逃走を続けていた彼女は今更ながらここが殺し合いの場だと理解しだしたのだ。こんな自分と同じくらいの少女でも、自分を殺しに来る可能性がある。

しかし恐怖に怯える麗華を気にも止めず、エンマは興味をなくしたように二人から目を離した。

アースHのヒーロー、早乙女父子はプライベートで戦うことはめったにない。仕事の時でなければ早乙女灰色はただの無機質な男で、エンマはただの無機質な幼女なのだ。

「じゃあね」
そう言って彼女は二人に背を向ける。今はただ、師匠を探して今後の方針を聞くのみ。

「あら、そんなつまらないこと言わないでくださいな。私はあなたと遊びたいのよ、エンマちゃん」

離脱しようとしたエンマをしかしジルは呼び止めた。エンマに用がなくても、ジルはエンマに用がある。正確にはエンマが出す声や絶望に歪んだ顔、流れる血液に。

95 ◆8I7heVl7bs:2015/05/11(月) 22:27:33 ID:jsfdyFM20
「私の名前ははジル・ド・レェ。うふふ、あなたたちみたいな可愛い子を何人も、何十人も、何百人も殺して、死刑になった女。エンマちゃん、あなたは私にどんな悲鳴を聞かせてくれるの?」

恐怖を与えるために、ジルは分かりやすく、自分の異常性を、自分の危険性を伝えた。
そしてこの飄々とした少女がどんな反応をするのか楽しむためにエンマを嘗めつける。

怖がるのか、泣き叫ぶのか、逃げ惑うのか。
嘘に決まってると強気な笑みを浮かべるのか、狂人の妄言だと一笑に付すのか。
どの反応でも、それは後の拷問のスパイスになる。

そして、ジルの期待通り、エンマは立ち去ろうとした足を止め、ゆっくりとジルのほうへ向きなおる。

そこにあるのはただ明確な敵意。

エンマは知っている。善悪の判断ができないエンマでも、知っていることがある。死刑になるのは悪い奴だ。数々の『死刑』を実行してきたエンマはそう確信している。
そうじゃなければおかしいのだ。政府が『悪』だと認定した者を『死刑』にしてきたエンマからすれば、『死刑』になった者は『悪』のはずなのだから。

「悪い奴だな、お前」

早乙女エンマはジルを敵だと判断した。そして彼女の敵意と呼応するように、麗華の声が響き渡った。

「協力するよ!私、あなたの師匠探しに協力する!だから……」

少女は高らかに叫ぶ。ヒーロー番組に出てくる子役のように、彼女はただ助けを求める。

「助けて!あの女をやっつけて!」

麗華は賭けた。この場でもっとも力を持たない少女は、自分と年が近い少女にベットした。
賭けに勝てば、彼女は生きてこの場を切り抜けれる。負ければ待っているのは残酷な死。
そして彼女は神に祈る。エンマがジルを倒してくれるようにと。どうか、どうか。



ジルはバックから黄色と黒の縞々で彩られたのカプセルを取り出した。

「ふふふ……」

そしてそれを空中へ投げる。エンマは無造作にそれを目で追い、麗華は何が起きるのかと不安げに見つめる。

カプセルが強烈な光を放つ。そして光が去った後、そこには圧倒的な絶望が鎮座していた。

「あ、ああ……」

麗華の口から洩れた音は絶望ゆえ。

怪物が、そこに鎮座していた。
虎だ。ただの虎ではない。5メートル以上はある巨大虎だ。


「ふむふむ、人食い虎に怪獣ウイルスを打ち込んでできた怪獣のなりかけ、ですか。完全に怪獣化すれば50メートルを超えますが、手がつけられなくなるのでその前に処分してください、まあ、なんて無責任なんでしょう。」
カプセルについていた説明書をジルは楽しそうに読み上げ、麗華はインターネットで見つけたある一文を思い出していた。

人は、猛獣に勝てない。
刀を持った成人男性で小型犬と同等。
どれだけ鍛えた格闘家でもシマウマにさえ劣る。

まして今目の前に現れたこれは何だ?
見るからに獰猛そうな肉食獣、しかも普通の虎よりでかいし、牙とか爪とか長いし、めっちゃ鋭い。

96 ◆8I7heVl7bs:2015/05/11(月) 22:29:12 ID:jsfdyFM20
こんなの、もうどうしようもない。
大の大人が武装していても勝てそうにない怪物に、少女二人で挑むなど自殺行為だ。

麗華は逃げようとした。しかし足が縺れ、無様に転がる。
完全に腰が抜けていた。それでも生き残るために、彼女は可愛らしい服を汚しながら這って逃げようとする。

「ふっ」

その音は、麗華の耳に確かに聞こえた。
信じられない者を見るように麗華は阿呆な少女を見た。

怪獣トラと正面から相対するこの少女は、早乙女灰色の一番弟子、早乙女エンマは、
今確かに鼻で笑ったのだ。

まさか、とジルは思う。
二人を恐怖させるためにオーバーキルのような形で出した怪物だが、この反応はさすがに予想外だ。
エンマは恐怖を感じる頭脳もないのか、それとも……。
今、彼女の頭の中で一つのの可能性が浮かび上がっていた。

「怪獣トラ……名前は後でつけましょう。目の前の少女を痛みつけなさい。決して殺してはだめよ」
ぐるる……と怪獣トラは唸った。ただの唸り声なのに、まるで遠雷のようだと麗華は思う。

そして、ぐおおおおおおおおお!という叫び声と共に、怪獣トラは早乙女エンマへと躍りかかる。

筋肉を躍動させ飛び上がったその姿は正に野生の顕現。ぬめりと唾液で光る牙は少女の体など容易くバラバラにしそうである。

エンマは悠然と待ち構えた。そしてトラの動きに合わせて拳を作る。

5メートルを超すトラの跳躍は二人の距離を一瞬でゼロにする。
トラの牙がエンマを貫くことが先か、エンマの拳がトラに当たる方が先か。

大型猛獣の牙と少女の拳、同じ土俵に立てるなど正気の沙汰ではない。

ここで、一つの奇跡が起こった。トラの爪より先にエンマの拳がトラの右頬に当たったのだ。
いや、こう書くと語弊がある。

エンマの拳はトラの右頬を撃ち抜いた。

怪物トラは弾丸のような速さで住宅街へ突っ込み、建物を破壊しながらその巨体を地に晒す。

そして怪物トラが弱弱しくも立ち上がろうとする前に、エンマは怪物トラの元へと接近し、その大きな頭を両手でがっちりと掴み、強引に引き千切った。

トラの首元から溢れる血流がエンマの私服を血で汚すが、彼女はこれっぽちも気にしない。



「……え?」
麗華の声が、静かになった空間に空しく響いた。わけがわからない、今目の前で何が起きた?

逆にジルはああ、そういうことと呟く。

「その人間離れした力……あなた、魔族だったのね」

戦い、否一方的な屠殺を目の当たりにしたジルは、目にいくばくかの理性――魔族と戦争をしていた頃に宿していた眼光――を取り戻しながら、ゆっくりと言葉を紡ぐ。

人間は獣に勝てない。
それが通用するのは数ある世界でも一つか二つくらいだろう。
だが、大型猛獣を身体スペックだけでここまで圧倒できる存在など、そう多くない。
ジルの知ってる限りだと魔族。それも100年以上生きた上級の。

「魔族?私はエンマだよ」
「ふふ、どちらにしてもあなたで遊ぶのは骨が折れそうだわ」

97 ◆8I7heVl7bs:2015/05/11(月) 22:30:29 ID:jsfdyFM20


車道を爆走するものがいる。早乙女エンマだ。
でたらめで力任せなフォームで、しかしバイク並の速さで走った彼女はやがてマラソンを終えたランナーのように道路に倒れこんだ。
仰向けで倒れることで柊麗華に無駄なダメージを与えなかったことは、彼女の希薄な人間性から考えれば十分及第点をもらえる配慮だろう。

事実、柊麗華に外傷はなく、窮地を脱したことで安心したような表情で、エンマの胸の中から脱出する。

「あの、助けてくれて本当にありがとう!」
「その代り……師匠探すの手伝ってね」
「うん、もちろん。これでも私、学校の成績はいいんだよ」

灰色の教育方針により学校に行かせてもらえないエンマはその言葉を聞いて不機嫌な顔つきになる。
麗華もそれを察して、そういえばと話題を変えた。

「さっきなんで逃げたの?あんなでっかい虎に勝てるんだったら、あの細っこい女のひとにも勝てるんじゃ……」
「むり」

ばっさり、とエンマは切り捨てた。依然として顔は不機嫌なままだ。

麗華はなぜ無理なのか彼女なりに考えた。

「電池切れ?」
「違う」
「実は重症?」
「馬鹿にするな」
「フェミニスト?」
「なにそれ」
「電気が弱点?」
「……」

恥ずかしそうに目線を逸らしたエンマを見て、麗華はキスしたくなるくらい可愛いなと思う。

「とりあえず、なんかいつもより疲れたから、私寝るね。またあいつが来たら起こして」

そう言って、エンマは動物のように体を丸めて静かに寝息をたてはじめた。戦闘自体は短時間で終わったが、その後の全力逃走は思った以上にエンマの体力を削った。

麗華はとてもトラを素手で屠殺したとは思えない寝顔を眺めながら思う。



(いい駒、ゲットしたな♪)
なんのことはない、あの場に善良な者は誰ひとりいなかったのだ。


【B-6/町/1日目/深夜】

【柊麗華@アースP(パラレル)】
[状態]:健康
[服装]:多少汚れた可愛い服
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜3
[思考]
基本:生き残る
1:早乙女エンマを利用する。
※吸血鬼としての弱点、能力については後続の書き手さんにお任せします

【早乙女エンマ@アースH(ヒーロー)】
[状態]:疲労(中)、回復中
[服装]:血で汚れている
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜3
[思考]
基本:師匠と合流して、指示を仰ぐ
1:zzz
2:麗華(名前は聞いていない)と一緒に師匠を探す


【C-6/町/1日目/深夜】

【ジル・ド・レェ@アースF(ファンタジー)】
[状態]:健康
[服装]:ファンタジーっぽい服装
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0〜2,
[思考]
基本:不明
1:子供で遊ぶ
※明確な行動方針は後続の書き手さんにお任せします

98 ◆8I7heVl7bs:2015/05/11(月) 22:32:24 ID:jsfdyFM20
投下を終了します
タイトルは「殺人鬼×少女×少女」で、お願いします

99 ◆8I7heVl7bs:2015/05/11(月) 23:27:12 ID:jsfdyFM20
申し訳ありません
 >>96>>97の間にこの一文を入れるのを忘れていました

ジルの心から嗜虐心が、そして油断が消えていく。
彼女は全盛期と比べると細く痩せ衰えた腕を後ろに引き、小声で力ある言葉を紡ぐ。
マナが動いたことを麗華は感じ取った。いや、マナの概念を理解していない麗華は、しかし何か目に見えない力がジルの両腕に集まっているのを感じる。

そしてジルの両掌からばちり、ばちりと音が響くようになり、やがてそれは小さな雷となって、視覚化された。

「まったく、戦うのは本当に久しぶり。いついらい、かしら、ね……」
「……」

もう取り戻せない何かを懐かしむようにジルは微笑するが、エンマは無言で後ずさった。

あの身体能力に加え、遠距離攻撃まで備えているのか。ジルは脳裏に魔族と、あるいは愚かな人間との魔法対決を思い浮かべる。

エンマはジルと距離をとりながら、やがて座り込む麗華の傍まで辿り着いた。

そして、片手で麗華を抱きかかえる。

まさか、とジルは思った瞬間、早乙女エンマは悪に背を向け、全力で逃走していた。

「くっ……」

慌ててジルは電撃を飛ばす。雷が二人の少女を焼き尽くさんと襲い掛かるが、ジグザグとゴキブリのように蛇行するエンマに当たらない。

そうこうしてるうちに彼女の背中はどんどん小さくなり、やがてジルの視界から完全に消えてしまった。

恨みがましい表情でジルはエンマの消えた方向を眺めていたが、やがて疲れたようにふぅと息をついた。

こうして、柊麗華、早乙女エンマの両少女は殺人鬼、ジル・ド・レェからの逃亡に成功した。

100名無しさん:2015/05/12(火) 20:29:53 ID:qdZ03oBI0
投下乙です
終始弱者のフリをする柊のヤツに乾いた笑いが出る…こいつ腹ん中真っ黒だw
ただエンマちゃんとジルドレというチート勢の前には実際このムーブで正解だから困る
虎怪獣を一撃でのすエンマちゃん無邪気強いしそのエンマちゃんを退かせるジルドレの底知れなさが伝わってきた

101名無しさん:2015/05/12(火) 23:30:11 ID:23DB/iEQ0
最初は「あれ?ヒイラギこんな感じなのね」と思ったけどなるほどそういうことか
能力は奪われてる設定らしいからやっぱ多少は弱まってるのかしら

ジルドレみたいな無差別に近いマーダーはこれが初か?これからに期待。

>恥ずかしそうに目線を逸らしたエンマを見て、麗華はキスしたくなるくらい可愛いなと思う。
俺もそう思ったが柊中身30ヒキニートだから合法だけど事案なんだよなあ

102名無しさん:2015/05/14(木) 00:27:00 ID:eADlMe7E0
代理投下します

103探偵は警察署にいる ◇nQH5zEbNKA氏 代理:2015/05/14(木) 00:28:52 ID:eADlMe7E0


A-4、警察署の一室にて。
作ったインスタントコーヒーを口に運び、口に付ける。安物なのか、苦味にしか感じられなかった。
探偵黒田翔琉は、一室の窓際にある来客用のソファに座りながらその苦味のあるコーヒーをややしかめっ面になりながらも一口、一口と飲んでいく。

「…困ったな。まだ『旗』のことすら解決しちゃいないのに」

肩をすくめながら、彼はこの殺し合いに巻き込まれる前の世界情勢について思い出していた。
突如として人々の頭上に旗が見えるようになってしまったという事件が世界各地で発生していた、というものである。
彼は相棒(と言われるのは癪に障るが)である西崎詩織に細かい調査を任せ、やがて集まってきた資料から犯人、もしくは原因を探しあてようとしたというのに、その事を始めようと事務所の机に座ったら、ここにいたのだ。

「関係性が無いわけじゃ無さそうだな」

不可解な事件を調べたということで、自分もいわば巨大な闇の組織に消されてしまうのか、とも黒田は考えたが、そんなことはどうでもよかった。
ただ「旗事件」と今回のこの殺し合いに何処か関連性が見えてきそうな気が彼にはしていた。
自分の目にも旗が見えていたのに、ここにきた瞬間見えなくなったというのもまたおかしな話である。
黒田はまたコーヒーに口をつける。相変わらず苦い。

(…となると、あの旗事件を引き起こした誰かがこの殺し合いに関わってることになるな)

見えていた旗を消せる方法を世界中において見つけた人物は居ない。
よほどの馬鹿でない限り、その『旗』を消せる方法を分かっている上で『旗』を作り出すことだろう。

いま自分の頭上に旗はない。つまり、作った張本人によって消されたということが、さきほど述べた事の可能性が高いと言える。しかし、なぜ消す必要があったのか。

(危険数値を知らせるようなものだったからか…?)

調査の結果、『旗』には三色種類があることを黒田は知っていた。
まず青。この間は旗が立っている人間に大きな怪我はなく、あっても擦り傷程度である。
次に黄。自分の身の回りに危険が迫っていることを示す。
最後に赤。自分に対して命の危機が迫っているということを示す。

こういった『旗』は殺し合うこの場においては予知能力のようなものになりうる。
旗を見てから行動を決めることができるという点から、殺し合いの円滑化は難しいものだろう。

「ならば、なぜわざわざ世界中に『旗』を見えさせるようにしたんだ?」

後に存在が消されるものをなぜわざわざ世界中にばらまいたのだろうか。
または、作り上げた人物が故意に参加者を集めた訳ではなく、そうしなくてはならない理由があったのだろうか。

104探偵は警察署にいる ◇nQH5zEbNKA氏 代理:2015/05/14(木) 00:29:38 ID:eADlMe7E0
(…だめだ。情報が少なすぎる)

黒田は大きなため息をついた。
元々情報収集は西崎詩織の役目であって、黒田は集められた資料から正解を探る半分安楽椅子探偵のような存在だ。
彼が真実にたどり着くためには、資料が足り無さすぎる。

「まだ夜だからな…外を出歩くのは危険だ。明るくなってから行動を開始して、情報を集めるとしようか」

大きなあくびをすると黒田はソファから立ち上がり、『シャワー室』と書かれた部屋へと向かうのであった。
彼の頭脳が動き出すのは、もう少しあとのことである。

【A-4/警察署/1日目/深夜】

【黒田翔琉@アースD】
[状態]:健康、やや眠気
[服装]:トレンチコート
[装備]:
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1~3
[思考]
基本:この殺し合いと『旗』の関係性を探る
1:とりあえずシャワーを浴びて眠気を覚ます
2:早朝まではここに待機
[備考]

105名無しさん:2015/05/14(木) 00:30:08 ID:eADlMe7E0
以上です。

106 ◆/MTtOoYAfo:2015/05/14(木) 00:42:36 ID:eADlMe7E0
では私も作品投下させていただきます。
夢野綺羅星
石原莞爾
です

107瞳に炎を宿せ ◆/MTtOoYAfo:2015/05/14(木) 00:44:49 ID:eADlMe7E0
正義とは、なんなのか。


人を助けることか。
それとも悪を裁くことなのか。
または自分が正義と思えば正義になるのか。

ある少女はそのことを今日ほど感じることはなかった。
夢野綺羅星(ゆめの きらぼし)は正義感溢れる少女である。
学園の生徒会長として日々高校の為に自分ができることならなんでもしてきた。
予算案の作成だって、部活の助っ人だって、それが学園の為であるというのならなんでもやってきたのだ。
困ってる人を見捨ててはおけない、と。そんな彼女の信念に基づいて彼女は常に行動をしてきた。
そんな彼女はまず殺し合いに巻き込まれたと自分が知って強い憤りを感じていた。
いきなり集められて殺し合いをしろ?馬鹿げている、と。
そして彼女の憤りを更に倍増させたのは、ディパックの中に入っていた参加者リストらしきものに自分の妹を初めとする彼女の友人や自分の先輩たちの名前がそこにあったからだ。

高村和花。
たまに狐のコスプレをして現れるほわほわとした雰囲気を醸し出した、可愛らしい少女。
立花道雪。
常にリスのペットを連れ回している、敬語を使う礼儀正しい女の子。
久澄アリア。
自分の高校の先輩で、生徒会でお世話になった、頼れる女性。彼女もまた、クリオネのような得体の生き物を連れ回している。
そして、自分の妹である夢野セレナ。

四人とも、『綺羅星にとっては』自分と同じ戦うことなどを知らない一般人である。




そう。『綺羅星にとっては』なのである。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

108瞳に炎を宿せ ◆/MTtOoYAfo:2015/05/14(木) 00:45:36 ID:eADlMe7E0

夢野綺羅星は和花、道雪、アリアの3人はおろか自分の妹であるセレナが日夜平和を守るため戦う正義の魔法少女であることを知らない。
魔法少女が増えてきている中、お昼のニュースの話題を独占してしまうようなアースMGにおいて、彼女という存在はアースRの平沢茜よろしく、イレギュラーな存在なのである。

魔法少女の世界において、『夢野綺羅星』という名前はあたかも魔法少女ものの主役に相応しい名前である。
しかし彼女は物語の中で変身は出来ないし、主人公格を助ける役目を担うわけでもなく。
ただの『重要人物の一人夢野セレナの姉』としか見られていなかった。
いや、当初は名前すらなかったのだ。「夢野セレナの姉」としか見られていなかった。

彼女の名前をつけたのは、ネット上のその作品のファンたちであった。
『なんか4話でちょっと出てきた美人のセレナ姉の名前が見た目とあってないキラキラネームだったらクソ笑えるよなwwwwww』
『じゃあこの子キラキラネームみたいな名前にしようぜ』
『キラキラネームなら、綺羅星とかで行こうぜ』
『うはwwwwwwクソワロタwwwwww』

やがて姉の名前は「キラボシちゃん」となり、彼女の二次創作が多く作られるようになった。
そしてそれを受けた制作スタッフが、話題に乗るためにその名前を採用としたということである。
親からつけられた名前でもない「夢野綺羅星」は、やがて非公式から現実となった。
そしてそれが更に話題を呼び多くのファンに彼女の存在が熟知されるようになったのだ。

綺羅星の『設定』は更に付け加えられていった。
学園の生徒会長である、とか。
正義感ある女性、だとか。
基本なんでもできる女の子で、だけれども家にあるクマのぬいぐるみを大事にしてる。だとか。

やがて、それらは『公式設定』となり、『夢野綺羅星』は物語の本質には関わらない、『設定』だけで成り立っているキャラとなったのだ。


だから、大事にしているはずのセレナが魔法少女なのを知らないのは当然なのである。アースRの世界におけるアースMGのような魔法少女ものの作品において、綺羅星が『セレナやその友人たちが魔法少女であることを知っている』という描写が無かったから。
何故なら、彼女にそのような描写が施される事はなく、あくまでも敵側の精神描写に徹したために夢野綺羅星はそういった設定に陥ってしまったという訳なのである。

さらにネット上では彼女が『自分の名前』が嫌いなのは、『自分の親』がつけた名前ではないからという設定も付け加えられた。
『自分の親』は前述の通り、彼女たちを作り出した制作スタッフたちのことを暗喩しているのではないかという考察に溢れた。
勿論綺羅星がそのことを知っているはずがないが、そういった経緯がやがてアースMGに住む綺羅星に影響を与え。
成績優秀で完璧である、ヤマトナデシコの女性なのに名前が『綺羅星』で、そんな自分の名前が『嫌い』で、『家』が嫌いだということになってしまったということだ。
どこか彼女のプロフィールがちぐはぐなのは、『公式設定』が付け足されていったからであり、彼女のせいではないのである。



では夢野綺羅星のことについての話を終えた事で先ほどの状況に視点を戻すことにする。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

109瞳に炎を宿せ ◆/MTtOoYAfo:2015/05/14(木) 00:46:50 ID:eADlMe7E0

そうやって怒りを感じていた綺羅星の手にやがて握られていたのは、両刃が波打ったようなフォルムが特徴の片手剣、フランベルジェであった。
その波打った両刃が相手の止血を防ぐというドイツに実在した剣であり、剣道をやっていた綺羅星にはありがたいというのが相応しい武器。

これがあの音声が言っていた『支給品』か、と綺羅星は感じた。他の支給品らしきものは古びて錆びてしまっている『南京錠』と、『BR映画館上映作品一覧表』と書かれたパンフレット。おそらく使いどころは無いだろうからディパックの中に戻すことにした。

ふと剣を見る。
竹刀を持つことはあってもこういった真剣を握ることは人生で初めてである。
竹刀のように、面を取られても死なずに、一本を取られる訳ではないのだ。
面を取られる=頭をかち割られて死ぬ。
そのことをひしひしと剣が反射して映る自分が示しているかのようだった。

「…誰だ」

突然綺羅星が「歴史書」と書いてある本棚の方に声を投げかけた。
剣に反射している自分の後ろに、男らしき陰が映ったからだ。
勿論殺し合いの場においてそういった行動は死に直結することすらありうる。
しかし綺羅星はそれを承知で行動に移した。このまま見ているままで奇襲されるよりかは、面と向かって闘う方が割に合っていると考えたからだった。

その声のあとの数秒後。
綺羅星に呼応するかのように、一人の男が本棚の影からのそっ、と出てきた。
頭は丸めていて、目は垂れ目だが、瞳は死んではいない。部屋着であろう甚兵衛を着ており、おおよそ戦闘をする者には思えない。
手には「ナポレオン・ボナパルト」と書かれた漫画本の伝記を手にとっており、綺羅星からいきなり呼ばれたのにも関わらず、驚きもせず、ただ毅然とそこに立っていた。

「テメーこそ誰だ。先に名乗るってのが礼儀だろうが」

現れた甚兵衛の男は、綺羅星に不機嫌そうに言い放つ。
甚兵衛の男は、背中をボリボリとかきながら近くにあった勉強用の机の所の椅子に座り込むと、腕を組んだ。
その姿はまったくもってこの異常な状況にふさわしくないほど堂々としていた。
そのことが、『魔法少女でない』綺羅星にはどうも不気味に見えた。
目を凝らす。男の首輪には『A』の文字。自分の首輪の文字は先程確認した。『MG』───つまり、彼は敵である。
綺羅星は支給されたフランベルジェを持ち直すと、男に言った。

「…貴方のチームはA。私を殺す気か。その時は容赦はしない。私には守らなければならない人たちが居る」

目の前の男に対抗するように、厳しい口調で言い放つ。
勿論、殺すことはないと思うが、剣道をやっていた事もあるし腕には自信がある。また脅されたと勘違いして逃げてくれれば幸いなのだが。と綺羅星は考えていた。
だがその綺羅星の予想を大きく男は裏切ることになる。

「はぁ?何言ってんだテメー、馬鹿だな」

伺える風であったよりも今度ははっきりと不機嫌を表して男は綺羅星に言い放つ。
綺羅星の存在を無視するかのように段々とページを勧めていく手が早くなっているようにも見えた。
突如言われた暴言に対し、綺羅星は彼の態度に怯まぬように、声をやや張って口を開く。

「言っている意味が分からない」
「この殺し合いに素直に乗るやつ、だよ。テメーだよ馬鹿は」
「私は殺し合いに乗ってない!」

綺羅星のフランベルジェを握る力が、自然と強くなる。
あの子たちを守らなくては。あの子たちよりも年上である自分がなんとかしなければ、と。
だから殺し合いなんて馬鹿な事には乗らず、元の生活に戻りたい、と。
そういった決意からだった。
同時になのになぜこの男は唐突に現れるや否や私のことを決めつけるのだろうと疑問に思えてきた。だがその疑問を言葉にすることが少しはばかられたのか、綺羅星は俯く。

110瞳に炎を宿せ ◆/MTtOoYAfo:2015/05/14(木) 00:48:16 ID:eADlMe7E0

男は綺羅星のそういった様子を見て、今度は大きく息をついた。
そして持っていたナポレオンの伝記本を相変わらず読み進めながら、今度は先ほどとは打って変わって諭すように、口を発した。

「じゃあ仮にだ。俺がテメーの言う大事なものを捕まえてこれ以上近寄ったらこいつを殺す、と言ったとする。
テメーの手には自動小銃が握られている。弾は六発だ。テメーはそれを撃たないで話し合いだけで大事なもん助けようとすんのか?」
「それは…」

俯いていた綺羅星の顔に動揺が映る。
確かにそういった状況が無いとは言えない。おそらく自分は話し合いに応じなかったら相手を攻撃するだろう。
ただ、それは『殺し合いに乗った』という見方もできてしまう、それならば先ほどの自分の「殺し合いに乗ってない」という言葉が、嘘になってしまうこともありうる。
綺羅星が動揺する中、男は待ってましたというように本を読みながら立ち上がり、綺羅星の方を向かず、黙々と漫画を読みながら呟いていく。

「甘いなぁ。テメー人殺したことねーだろ?生憎だが俺はあるんだ。何万という人を殺してきたと言ってもいい」
「…」
「嘘じゃねえよ、本当さ。いわゆる軍人さんってやつ『だった』んだぜ、こないだまで」

男がパタンと本を閉じて、綺羅星の方をはっきりと向いた。
やがてまた背筋を伸ばしてから立ち上がると、本をディパックの中に入れた。
綺羅星は男の言葉のふしふしに疑問を感じたものの、そのことはどうでもいいと考える対象から外した。
綺羅星の様子を見てから、男は話を続ける。

「…話を戻すぞ。さっきの状況になって撃たねえ奴はいない。扱ったことない素人でも一か八かで
撃ってみるはずだ。そんな状況で撃つ方を選んだ段階でテメーは殺し合いに乗ったことになる。明確な殺意を人に向けるんだからな。
…どうだ。それでもお前は、こんな状況が作り出されるかもしれないと分かった上でも、『自分は殺し合いに乗らん』とほざくのか」

男の目に光が宿る。その瞳は完全に綺羅星への挑戦とも言えるような瞳である。
確かに、綺羅星のように自分の知人全員を誰も殺さずに、自分が汚れないように───殺す手段を用いずに助け出すのはというのはほぼ不可能に厳しいことだ。
しかし、綺羅星は守る必要があった。まだ幼いあの子達を、自分の信頼する先輩を、自分の最大限の力を使って守るという使命が。

「───私には…妹がいるんだ。まだ幼くて、ドジなところもあるが、心が優しい子だ。その子がこの殺し合いに巻き込まれてるかもしれない。いや、その子だけじゃない。妹の知り合いの子や、私の信頼していた先輩もいる。私は確かに貴方の言う通り甘いかもしれない。私はただの人だから。けれど…
私は負けない。こんな意味のわからない、幼い子の未来を奪うような奴らに負けるわけには行かないんだ」

答えにはなっていない、唐突な言葉だった。
男の質問の問いを無視するような内容。しかし、考えるよりも先に言葉が出ていた。
綺羅星も、自分で情けない、みっともなくて子供じみた言葉だとは感じていた。
しかし、それでも、一抹の希望を見出さないと逆に自分が潰れそうになりそうになっていた。
だからこそ、そういう言葉を言ったのだと思われる。自分の弱さを隠すために、そして本当にそうなることを願うために。

111瞳に炎を宿せ ◆/MTtOoYAfo:2015/05/14(木) 00:49:40 ID:eADlMe7E0

(………なんだ、コイツの目は。東條のヤローの、濁りきった目とは違う、現実を知らないくせに変な使命感を感じている瞳は)

男は前述の通り軍人であった。
若い時の自身が見てきたまっさきに死ぬ兵士たちこそ、目の前の女のような目をしていた。
「自分が国を守るんだ」と、言って勇敢に戦い、死んでいった者達。
男は軍人の仕事が嫌だった。そういう若者たちを、戦友を多くみてきたからだ。

しかし、男は徐々に階級が上がるにつれて、そういった瞳を持つ人物を見ることは立場上無くなっていきやがて男は兵士を駒として、戦力としてしか見れなくなっていった。

そして『軍略の天才』と呼ばれた男が権力を得た時に、日本とアメリカが戦争を始めた。
結果は日本がロシアの援軍で息を吹き返しての大勝利。国中が歓喜に湧いた。
だがこの男はそれが信じられなかった。ロシアが日本に協力する理由などまるでなかった。まるで『自分たちを駒と扱っている神々が、戦局を変えてしまったから』とも言えるようにも思えた。
男は一人、歓喜の輪から外れ、ひっそりと歴史から姿を消した。自分を戒めるために。自分の狂ってしまった目を、もう使わないようにするために。

男は綺羅星の目をもう一度見た。
透き通った瞳だ。日本人には珍しい黄色の瞳が、その透明度を更に強くしていた。
やがて男は綺羅星から図書館の天井にある窓の向こうに広がる星空を眺めながら、ずかずか、と綺羅星の元に歩き出した。

(…最初はひっそりと死のうと思ってたが…面白そうじゃねえか)

やがて、綺羅星の真正面に来て、口を開いた。

「───気が変わった。名前教えろ…ぼさっとしてんじゃねえ。教えろっつてんだ」
「…夢野綺羅星。神王寺学園3年2組出席番号27番」
「おしキラキラ。テメーに協力してやる」

呆気にとられる綺羅星。当然である。
さっきまでの敵対心のようなものを見せていた男が、突然協力すると言い出したのだから。
更に自分の事を『キラキラ女』と呼んでいる事には少しムッとするがそれを気にしている場合ではなかった。

「何をいきなりそんなことを…」
「気が変わったんだよ、別に好きに殺しあえばと思ってたが面白そうだ。こいつが開かれた理由とやらも知りたいしな」

にんまりとして笑い出す男。綺羅星はこの男を信頼していいか迷ったものの、とりあえずその本題に入る前に、男に聞いておくことがあった。

「…名前を。名前を教えていただきたい。なんと呼べばいいか、私も分からない」
「キラキラ。テメーは『俺の事を知らない』、珍しい奴だから前の役職で、わかりやすーく教えてやる」

そういうと男は、綺羅星の目の前で足を揃えて立ち、右手の手のひらを水平にして、右耳のこめかみあたりにやった。
そして、これまでのだるけが感じられた声から一転し、顔に精悍さを取り戻しながら、仰々しく綺羅星に言うのであった。

112瞳に炎を宿せ ◆/MTtOoYAfo:2015/05/14(木) 00:51:14 ID:eADlMe7E0
元大日本帝国陸軍中将。そして元関東軍作戦参謀。石原莞爾(いしわら かんじ)だ。テメー珍しい見た目だが日本人だろ?俺の事知らないとは言わせないぜ」
「…え?」

綺羅星の顔から緊張が解けて、驚きの表情を見せた。
何故ならば石原莞爾という男の名前は綺羅星は知っていたのだ。
彼女が勉強した日本史の板書ノートの中に書き込まれていた『重要語句』の一つとして。
あの満州事変を起こした関東軍の参謀として。
『設定』で作られた彼女は『事実』として知っていたのだった。


【エリア/図書館/1日目/深夜】

【夢野綺羅星@アースMG】
[状態]:健康
[服装]:神王寺学園制服
[装備]:フランベルジェ@アースF
[道具]:基本支給品、BR映画館上映映画一覧@アースBR、南京錠@?
[思考]
基本:知人たちを助け、この殺し合いを終わらせる。
1:…この人は何を言ってるんだろう。
2:セレナ…
3:石原のことを信頼していいのか…?
[備考]

【石原莞爾@アースA】
[状態]:健康
[服装]:甚兵衛
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ナポレオン・ボナパルトの伝記@アースR、不明支給品1~3
[思考]
基本;とりあえずは主催に対抗してみるか
1:キラキラ(綺羅星)に付き合う
2:東條のヤローはいんのか?
[備考]
※名簿を見ていません。

113名無しさん:2015/05/14(木) 00:53:46 ID:eADlMe7E0

投下終了です。
綺羅星の設定を膨らましすぎた感あるので修正点あれば直させていただきます。
あと歴史詳しい人石原こんな感じでいいんですかね。
一応ナポレオン好きだったらしいので伝記読んでたってことで。


感想
「探偵は警察署にいる」
初のアースD参加者クロダ。
うーんやっぱり「旗」との関係性を探しますかあ。乙です!

114名無しさん:2015/05/14(木) 00:56:00 ID:eADlMe7E0
あ、すみません状態表修正。
【D-5/図書館「歴史・文化」エリア/1日目/深夜】

115名無しさん:2015/05/14(木) 20:01:51 ID:sXvY6VQs0
お二方投下乙ですー

>探偵は警察署にいる
探偵黒田翔琉きた!そりゃまずは旗事件から疑ってかかるよね……w
さて詩織ちゃんはいないかもだしいても出会えるとは限らぬ、いい相棒が見つかると良いが

>瞳に炎を宿せ
おお、アースRから見た他の世界が創作物だってネタを生かしてて上手い!
モブに設定盛ってたら公式が取り上げる事例って最近だとわりとあるし、魔法少女の輪から外れてたのも設定ならより頷ける
石原莞爾の現実見据えてる感も好きだなあ

116 ◆5Nom8feq1g:2015/05/14(木) 20:50:29 ID:sXvY6VQs0
投下します

117谷山京子の差異難 ◆5Nom8feq1g:2015/05/14(木) 20:51:07 ID:sXvY6VQs0
 

 え。
 なにこれ?
 ちょっとまって。ちょっとまってよ。
 待って、待って待って待って待って待って待って待って待って。

  『『───これより、音声プログラムを再生致します。
   よく聞き取れなかったり音声の不具合を感じられた方は───』』

「えっ」
「……エ?」

 いやこれはない。これはないって。本当に待って。
 十秒でいいから、いやあと五秒で良かったからホント、待って欲しかった。
 それだけあればこんなことにはならなかった。

「あの……どちらサマ、デス?」
「えっ何、なにこれ、ちょっと、え、誰? え、ええ? 君だれ、えっ」
「ワタシはスライムちゃんですケド……」
「えっスライム、確かに透けてる、てか君かわいいね、じゃなくて、、、、あ?」

 近くから二重に聞こえる無機質アナウンス音の中、ボク、谷山京子は混乱を極める。
 いやその、ええと百歩、――いや千歩譲って殺し合いに連れてくるのはいいよ、分かったよ。
 それだって後から聞く話な上に、
 ちょっと急な話すぎるしボクの人権どこいったのって感じではあるけど一応分かったよ。

「あ、待って、でる」

 でもさ。さすがに連れてくるタイミングっていうか。プライベートくらい、守られるべきだと思うわけだ。
 だって普通連れてこないでしょ。“オナニー中の女子高生”、そのまま連れてくるとかありえないでしょ?
 しかも、転送場所、“他の参加者の目の前”って、それ、ありえないでしょ?
 ありえないでしょ。どう考えても、イレギュラーでしょ。

「デ?」
「で、でる、ちょ、ああっ、よ、避けてぇ!!」

   『『再生の準備が整いましたらSTARTボタンを――』』

 無機質なガイドの中――自分の部屋のベッドの上で、パジャマはだけて片手で×××いじってたボクは、
 もう片方の手を×××にやって、気持ちいいとこいじって気持ちよくなってて、
 妄想も、もう佳境でさ、階段登りきる一歩手前ってとこで、つまりもうちょっとで×××ってところで、
 そこからいきなり辺りの景色が草原になって、目の前にスライム、
 透けてるけど女の子のカタチしててすごくかわいいスライムちゃん、そんなの目の前に居たらボク、
 ムリじゃん。
 急に動かしてる手を止めるとかまずムリだし、出そうな生理現象止めるのもムリだし、
 一回×××されようとしてる×××、無理やり戻すとか、そんなマンガみたいなこと……。

「あっ」

 ムリでした。

「? ……!?」
「ああ〜っ! あっ! あ……うあ! ……うあああ! あああ、あ……!」

 結局、ボクはやってしまった。
 エロゲなら「どびゅる!…どびゅる!」とか効果音出る感じでやってしまった。
 どびゅるどびゅると。
 ×××が、×××から×××され、スライムちゃんのぷるぷるの身体に掛かっていって。
 スライムちゃんは何が何だか分からないといった様子で、きょとんとしながらただそれを受け止めた。
 うわあすごい純真そうな子だ、きっといい子なんだろうなあ。とボクは思った。

 ところでそんな無垢っぽい子をものすごい勢いで汚してしまったボクとは一体なんなのか。
 女子高生なのに描写と一人称が明らか男子っぽいボクとは一体どういう存在なのか。
 その辺はええと、これからたぶん説明が入ると思うんだけど、その前にちょっと気絶させてね。
 自己防衛っていうか現実逃避なんだけど、さすがにそれくらい許してね。

118谷山京子の差異難 ◆5Nom8feq1g:2015/05/14(木) 20:52:46 ID:sXvY6VQs0
 
 谷山京子・16歳、
 今の気分は、マジ死にたい。

 ばたんきゅー。


♂ ♀ ♂ ♀ ♂ ♀ ♂ ♀


 ――「小文字のi」を考えてみて欲しい。
 大文字ではなく、小文字の「i」だ。
 ここで「iの下の棒」の方を、裂け目、または穴であるとしよう。
 すると「iの上の点」は何になるかというと、豆になる。限りなく簡易的に表すと、これが一般の女性だ。

 しかし、谷山京子の場合は、「iの上の点」が豆ではなく、棒なのである。
 一般的には男子にしかついていないはずのアノ棒になっているのだ。
 それでいて裂け目のほうもちゃんと残っている。つまり、両方「ある」ということだ。

 谷山京子はふたなりなのだ。
 彼女は今宵、くちゅくちゅのほうではなくしこしこの方をしていたというわけなのだ。
 ちなみに、バリエーションとしては玉まで付いているものも存在するが、
 彼女の場合は棒だけだということは念のため、ここに追記しておく。それでは説明を終了する。

 <性転換などに詳しい学者 B・T 様からのコメント>


♂ ♀ ♂ ♀ ♂ ♀ ♂ ♀


「ところで玉が無いパターンのときって、×××ってどこから出てるんだろうね……」
「あ、気が付きまシタ?」
「ははは、できれば一生目覚めたくなかったけど目覚めちゃった。ええと、ボクは谷山京子です」
「ワタシはスライムちゃんデス、よろしくデス」

 起きると二人、いやどちらかといえば一人と一匹、でもやっぱ二人かな?
 まあどっちでもいいか。ともかくボクとスライムちゃんは改めて、互いに自己紹介をした。
 スライムちゃんはやっぱりいい子だったようで、気絶したボクをひざまくらしてくれていた。
 ぷにぷに感のある冷やっとした太ももが火照った身体に心地いい。
 スライムなんてファンタジー世界の生き物だと思ってたけど、本当に居たんだなあ。

「じゃなくて」
「?」
「ちょっと待って! 説明を求めます!」

 まてまておかしいぞ。スライムが居るわけないじゃん。
 草原にスライムがいるのはおかしくはないけど人型とかレアすぎるしボクはRPGには縁がないはずだし。
 だいたい、スライムなのにボクよりおっぱい大きいの、どういうことなんだ。
 自在に盛れるからってこんな、ボクの顔に当たりそうじゃないか。舐めるなよ!
 めっちゃ気持ちよさそうだしなんなら舐めたりだってしたいけど、とにかく舐めるなよ!?

 そもそもボクがどうしてこんな身体になったかってなあ。
 ボクがこの、感度だけ良くなって一向に大きく成らない果実に耐えかねて変な薬を飲んだせいであってだな!
 つまり! ……全部おっぱいのせいなんだよ!
 巨乳は……死すべしなんだよ! あ、でも巨乳モノはいいよね。

「――というわけで、どうやら殺し合いに巻き込まれてしまったようデスね」
「なるほど」
「そしてキョーコさんの話からすると、ワタシはまた世界を飛ばされたみたいデス……多分キョーコさんも」
「世界っていっぱいあったんだなあ……(驚愕)」

 本題に戻ろう。
 さて、スライムちゃんはやっぱりいい子だったので、
 混乱しているボクにICプレイヤー(最初のアナウンスはこれから出ていたらしい)を聞かせたあと、
 丁寧に現在の状況を説明してくれた。
 巨乳への怒りで話の詳細は右から左に行きかけてたけど、かいつまむとこういうことらしい。

119谷山京子の差異難 ◆5Nom8feq1g:2015/05/14(木) 20:54:13 ID:sXvY6VQs0
 
 ・世界はいっぱい並行して存在しているらしい。
 ・スライムちゃんは前にも違う世界に飛ばされた経験があって、今回の感覚はそのときと同じだったとか。
 ・違う世界に居たボクたちは、不思議な力で同じ世界に拉致されて、殺し合いをさせられている。
 ・スライムちゃんは、殺し合いには反対だそうだ。ボクも反対。というか許せん。主催まぢ殺す。
 ・ちなみにボクがパジャマで拉致られたのは偶然だし、辱めに対する埋め合わせも多分ないだろうと。
 ・まあね。そりゃね。

「携帯電話で質問できるらしいですケド、してみマス?」
「“恥ずかしい姿を見られたんですが何か埋め合わせありますか?”って聞くの、羞恥プレイすぎると思うなあ」
「いちおう掛けてみまショウ、いまいち殺し合わされる理由もわかりまセンし……」

 ピポパと馴れた手つきで携帯電話を操作するスライムちゃんであった。
 現代っ子すぎて逆に違和感すらある。
 すぐさま主催に連絡を取りに行く勇気をボクはとても評価したのだけれど、でも結果は芳しくなかった。

「――ただ今、回線が込み合っているらしいデス」
「うーん塩対応……もしかして人手足りないんじゃないの?」

 いや、でもこんな理不尽なイベントのカスタマーサポートが充実してたら逆に引くか。
 とか勝手に納得したりなんかして。
 ともかくこれで、ボクたちが今打てる手は無くなった。

 正確に言えば支給品の確認はあるけど、銃とか入っててもボク扱えないしなあ。
 言っちゃなんだけど、ボクはちょっと胸が大きく……なくて、ちょっと人より性器の数が多くて、
 その副作用で、ちょっとばかし腕力(と性力)に自信ネキなだけの一般人だし……。 



「……というか、その、ごめんねスライムちゃん、さっき」

 と、ここで今さらながら――しかも膝枕してもらいながらという状況ではあるものの、
 ボクはスライムちゃんの透けてる胸越しに彼女の透明(物理)な目を見ながら、先ほどの謝罪を入れた。
 むしろ謝罪が遅すぎたくらいで、ボクは申し分けない気持ちでいっぱいだった。

「その……ひどい痴態を見せた上に、よ、汚してしまって……拭くの大変だったでしょ」
「? 何がデスか?」
「いやその、アレだよアレ……白い……」
「ああ、アノ! 確かにいきなりだったノデ、驚きまシタ。ワタシ、初めて見まシタよ」
「うううう! やっぱ初めてだったんだ、何と言うか、なおさらごめn……」
「はい、始めてでシタ、“あんなに濃いマナの素がヒトから出てくる”のは。いやはやキョーコさん、すごかったデス!」

 そう、本当に申し訳ない気持ちでいっぱいなのに介抱まで……。

「って、え?」
「?」
「え、その……はい?」

 今、なんて?
 マナ? マナって何?

「? あ、もしかしてキョーコさん、マナの存在を知らないのデスか。
 でも、とても良いマナの素でシタよ? ちゃんとワタシ、吸収させていただきまシタから」

 キュウシュウ? 九州?
 おいおいスライムちゃん、九州は動詞じゃないよ。
 ははは、知能があると言ってもやっぱりモンスター、完璧じゃない部分もあるんだなあ。
 いくらなんでも九州を動詞として使ってしまうなんて、そんなさあ、そんな、

120谷山京子の差異難 ◆5Nom8feq1g:2015/05/14(木) 20:55:35 ID:sXvY6VQs0
 
「えっ吸収しちゃったの?」
「え、ハイ」
「じゃあボクの体液が今、スライムちゃんの身体を構成する成分の中に混じっちゃったってこと?」
「まあ、考え方としてはそうもなりマスね」
「どうしてそんな……もう責任とって結婚するしかないじゃないか……」

 でもスライムちゃんが嫁ってのはアリかもしれないなあ、なんてボクは思った。
 気立て良さそうだし、声とかもすごくキレイだしね。

「ところでスライムちゃんその、マナについて詳しい説明を求めたいんですが――」
『その質問、承ったよぉ』

 と、いい加減真顔に戻ろうとボクがした質問に答えてきたのは、スライムちゃんが持ってた携帯電話だった。
 え、……説明してくれるの、まさかのそっちなの?
 あの、ボクのスキルじゃもう、突っ込む暇、ないんですけど……。
 
 
♂ ♀ ♂ ♀ ♂ ♀ ♂ ♀


 はい、というわけで。そこのスライムちゃんが元いた世界のえらーい知識人のご登場さぁね。
 それにしても知性を持ったスライムってのはびっくりだねぇ、
 おまけに観測できてない世界からやってくるとは、ずいぶんイレギュラーだ。
 ま、ぼくはイレギュラーは大好きだから、せいぜい頑張って生き延びて欲しいところだねぇ。うん。

 んじゃまぁ、マナについて説明しようか。
 といっても君も、創作物か何かで言葉のおぼろげな所は聞いたことがあるのではないかね?
 大体はそんなところの理解でいい。
 空気中や人間の体内に存在していて、魔力を媒介する見えない要素。それがマナだよぉ。
 火とか水とか風とか雷とか、まあ色々属性もあったりするねぇ。

 ただし、空気中に存在するそのマナ、普通の人間は“半分”しか使えない。
 マナにはたーくさんある属性の他に、“極性”……「陰」と「陽」もあるから、だ。

 男性は「陰」の極性をその内に宿し、女性は「陽」の極性をその内に宿している。

 魔法――取り込んだマナを体内で励起させて行使するプロセスの中で、
 だから基本的に、男性は「陰」のマナ、女性は「陽」のマナしか行使することができない。

 1つのマナという存在を仮に球体状のものだとするなら、
 それを二つに割った半分しか使わず、他は捨ててるってことになる。もったいない話だねぇ。
 でも“普通”、性別を両方持つ人間なんていないから、ぼくらの間じゃこれは仕方ないこととされてきた。

 さて、ここまで説明すればサルでも分かるねぇ? つまりこう。
 両方の性別を持つ君の内には。人の2倍の濃さを持つマナが、流れているというわけさぁ。
 

♂ ♀ ♂ ♀ ♂ ♀ ♂ ♀


 ちなみに主催の説明ターンは放送ごとに1回だから、いまので使い切ったからねぇ。
 と最後に新事実を言い捨てて、ねっとりした声のおじさんは電話を切った。
 え、ボクもしかして貴重な1回をすごく無駄なことに使ってしまったのではないかボク。

「無駄ではないデスよ。つまり、キョーコさんが希望だってことデス」

 スライムちゃんがボクの頭(いつもはポニテなんだけど、
 寝る前だったから結んでない)をスライムの手で撫でながら妙にはしゃいでいた。

「2倍の濃さのマナが使えレバ、魔法の威力は単純に2倍ってことデス! 強いデス!」
「でもボク、魔法なんて使えないし使ったこともないよ?」
「でもワタシは使えます。
 低級の“氷”と“癒し”の魔法ですが、キョーコさんのマナを使えばきっと上級魔法にも負けまセン」

 スライムちゃんは、ボクのアレによっていつになく力が湧いてきているのを感じているらしい。
 張り切ってるのか嬉しいのか、体をゆさゆさしている。
 おっぱいも揺れる。
 ボクは僭越ながら、また興奮してくる。……このバカ×××! モンむす適性もあったのかよ!

121谷山京子の差異難 ◆5Nom8feq1g:2015/05/14(木) 20:56:38 ID:sXvY6VQs0
 
「キョーコさん、マナの素はまだ出マスか!」
「出ます!! 出ますがみじめになるので出したくないです!」
「いいえ出してもらいます! そしてワタシと共に、主催へと反抗しまショウ!」

 もはやスライムちゃんは止まらなかった。
 ガバッ! と勢いよく、
 ボクのパジャマのズボンは脱がされ、パンツも脱がされていく。

「ぎゃあああああ(泣)」
「ここを。先ほどキョーコさんは刺激していまシタよね……確かこう……」

 まじまじと見られてるし、しかも手がそこへと伸びようとしている。
 だめ、だめだめ、だめだよスライムちゃん。
 ボク女子が上げちゃいけないトーンの声上げてまで泣いてるじゃん、これに免じてやめてよ、
 もしスライムのぷにつるな手でお×××を×××されて×××してしまった日にはもうボク、
 お嫁に行けなくなりそうな上に自分でやってもイケなくなりそうで怖いんですけど!
 だって絶対気持ちいいじゃん!

「大丈夫です! ワタシ、向こうではアイドルをやってましたから、みなさんの嫁デス!
 それにマッサージも得意なんデス! 決して痛いことにはなりまセンよ!」
「じゃあ余計ダメってことじゃんかああああああああああ!!!!」

 2重3重に重ねられていく禁忌感、
 奪われかけているボクの中にある女子としての何か、
 そういうものをどうにかするためにボクは全力で叫んだけど、スライムちゃんは止まりそうになかった。

 あ。これ止まらないな。
 じゃあもう……もういっか。

 ひとつネジが外れたのか、叫んで清々しい気分になったあと、ボクは無の境地に達した。
 もうしごかれちゃおう。いっそビシバシしごいてもらおう。
 それでボクの魂がどうしようもない位置まで落ちてしまったとしても、命さえあればなんとかなるさ。
 スライムちゃんの手がボクの×××へと触れる直前まで来たとき、ボクはついに、抵抗を放棄した。

 そして。

「……えっ」

 その時、ボクとスライムちゃんの前に、新たな女の子が現れた。

「え」
「あ」
「……あ、あなたたち……な、なにして……え……」


 2秒、全員が硬直したあと。 
 
 
「――――そ、その……お、お邪魔しましたッ!!!! どうぞごゆっくり!!」
 

 女の子は、逃げた。
 膝枕されつつおっぱいを顔に当てられつつ×××に手を当てられているボクと、
 ボクを一生懸命×××させようとわくわく顔でその体勢になっているスライムちゃんと、
 二人の間に実は流れてないんだけど、もうその場見たらそうとしか考えられないよね? な空気を読んで、
 それでも女の子は怒るでもなく、呆れるでもなく、恥ずかしがりながら、非常に優等生な選択を取った。

 うん、正解。
 すごく正解だと思う。
 良い子なら誰だってそうするし、ボクだって多分そうした。
 でもさあ。
 でも……なんでこのタイミング?

122谷山京子の差異難 ◆5Nom8feq1g:2015/05/14(木) 20:58:00 ID:sXvY6VQs0
 

 なんでよりにもよって、“華ちゃん”??


「あの、キョーコさん、すいまセン……何というかかワタシ、キョーコさんの意思を無視して……」
「いいんだ。いいんだよスライムちゃん」
「……でもキョーコさん、まるで初恋が敗れたかのような泣き顔になってマス」
「いいんだ。いいんだよ。いいんだ。……ただちょっと、今だけ泣かせてね。今だけでいいからね。あは。あはは」

 ボクは泣いた。身に振りかかる災難の連続に、一時的に涙腺が壊れたようだった。
 ……ただ、もしかしたらこれは罰なのかもしれないと、思い始めていた。
 ボクには罰が当たったのだろう。
 いつぞや“これ”が生えてから、女子にも興奮してしまうようになったボクは。
 連れてこられる直前、あろうことかクラスメイトの女子をオカズにしていた。

 たまに学校にやって来てつっけんどんな態度で授業を受けるあの子。
 そんな彼女からはたまに普段嗅いだ事のないニオイがしていて、それがボクはなんだか気になって。
 気になったら、思い浮かんで。思い浮かんだら、意識して。いつからだろう、どきどきして。
 つい出来心で、つい先ほどの夜。パジャマを脱いで、ベッドの上で――だからきっと、罰が当たったんだ。

「あう……うわああああああん! もうやだーッ!!!」

 こうしてボクの初恋は終わりを告げた。
 あとにはただ露出された×××のみが残った。


【D-2/草原/1日目/黎明】

【谷山京子@アースP(パラレル)】
[状態]:悲哀
[服装]:パジャマ
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜3
[思考]
基本:主催絶対許さない絶対にだ
1:なんなんだよもう(泣)
※肩斬華のことを意識していましたが…。

【スライムちゃん@アースC(カオス)】
[状態]:マナチャージ(1)
[服装]:とくになし
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜3
[思考]
基本:主催を倒しまショウ
1:キョーコさん……ごめんなさい……
2:さっきのヒト、追いかけたほうがいいのデハ?
※氷と癒しの魔法(低級)が使えるらしいです。


【D-2/草原/1日目/黎明】

【片桐花子@アースR(リアル)】
[状態]:健康
[服装]:学生服
[装備]:???
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜3
[思考]
基本:???
1:さっきの……何!?
※明確な行動方針は後続の書き手さんにお任せします

123 ◆5Nom8feq1g:2015/05/14(木) 20:59:24 ID:sXvY6VQs0
投下終了です。

124 ◆laf9FMw4wE:2015/05/14(木) 22:21:00 ID:ePr0auf20
投下乙です
ふたなりはこういう場所で魅力を引き出すことが難しい性癖だと思うのですが、そのふたなり設定を上手に使っていることに感涙しました
スライムちゃんもかわいくて、このコンビは見ているだけで癒やされますね。ナニな場面に遭遇してしまった花子ちゃんの今後にも期待

それでは投下します

125灰色の楽園を壊したくて ◆laf9FMw4wE:2015/05/14(木) 22:22:06 ID:ePr0auf20
「殺し合い――だと?」

ICプレイヤーから流れる音声を聞き取り、信じられないとばかりに青年は目を見開いた。
殺し合い――その単語だけで過去に一度だけ強制的に参加させられたことがある、史上最悪の催しを思い出す。

気が狂った友人が、生き残る為に他者を殺害する道を歩んだ。
自分に優しくしてくれた人が、過酷な環境に耐え切れず、自殺して楽になる道を選んだ。
普段ならば頼りになるはずの警察官が、己が命の為に無差別殺人を嬉々として行っていた。
幼馴染の少女が、自分を助ける為に身を挺して不意討ちから守ってくれた。
主催者――平沢茜は安全地帯で待機して、参加者が必死に殺し合う姿を嗤いながら眺めていたらしい。
彼女にとって参加者は道化以外のなにものでもなく。ゆえに最後まで生き抜いた自分を見る目つきや態度も、まるで道化に対するソレであった。

「たしか世界観測管理システムAKANE――と名乗っていたな。やはり、平沢茜の仕業か」

平沢茜――かつて殺し合いを開催した魔女の姿が思い浮かぶ。
優勝した報酬として殺し合いを二度と開催させないことを望んだが、それは却下された。彼女曰く、あの舞台こそが楽園らしい。
だからせめて、自分や身内を二度と巻き込まないことを誓わせたが――強引に無関係の人々を巻き込んだ彼女は、そんな約束を律儀に守る性格だろうか?
彼女からしてみれば駆は道化であり、舞台役者だ。更に優勝者という称号まで有しているのだから、これまで再参加せずに済んだことは奇跡的だとも考えられる。

「優、幸太、あざみ、桃子――――それに会長や副会長まで候補、か。……これはあくまで候補だが、平沢茜のことだ。最低でもここから数人は選ばれているに違いない」

以前の殺し合いもそうだった。
候補者リストではなく、名簿という形で紙切れ一枚に自分の幼馴染や友人、知り合いの名前が並べられていたことは衝撃的で、よく覚えている。
それに自分以外の参加者も大小の違いはあれど、必ず一人は関係者が存在していたらしい。中には愛人を優勝させる為に他者を殺している者までいた。
きっと効率的に殺し合いを促進させる手法はこれが一番なのだろう。更にいえば、平沢茜は親しい者同士を争わせるという行為自体が好きそうだ。

「……しかし一つ疑問が残るな。どうして平沢茜本人まで候補リストに名前が載っているんだ」

自分の知っている平沢茜は、高みの見物をしているだけの主催者だ。
気まぐれで本人が参加している可能性もあるが、あの女が死亡する可能性を孕んでいる危険地帯に自ら赴くだろうか?

「いや――考えるだけ無駄か。相手が何者でも俺には関係ない」

疑問は尽きないが、今は考えるだけ無駄だと切り捨てる。
次いで取り出したものは――見たこともない特殊な武器であった。
ご丁寧に付属された説明書には、持ち主の意思でナイフにも銃にも変形する便利武器だと書いてある。
更に銃も様々な形状に変化するもので、狙撃や近距離射撃のどちらも使える上に、弾切れという概念のない優れものだという。

「ほう」

武器を手に取り、ナイフや銃の形態に変化させる。
成る程。説明書に記されている内容は本当らしい。生まれて初めて見るタイプの武器であるが、なかなかの当たりだ。
ナイフや銃には幼い頃から触れている。性能が良くても慣れない武器を支給されるよりも、自分が得意とする武器に複数変化してくれるものを支給されたことは有り難い。

「それにしても、チーム戦か。生き残りが一人に限られない分、以前よりも厄介なことになりそうだ」

己が首輪の記号を確認して、うんざりとため息を吐いた。
優勝者が一人しか発生しない前回の殺し合いでも、死に怯えて生き残る為に他人を殺す者がいたのだ。
チーム戦で自分以外にも味方が多数いるとなれば、自分が勝ち残る為に他チームを殺す者は以前よりも多いだろう。
なにせ他のチームを全滅させるだけで殺し合いが終わるのだ。一人だけで全滅させる必要があった前回よりも個人の負担が少なく、自チームが勝ち残る可能性も大いに有り得る。

しかも生き残りが一人でないということは、同チームに親しい者がいれば一緒に帰ることが出来る可能性まで存在するのだ。
他人のみならず、自分を犠牲にしてでも特定の者だけを生き残らせると決意することは難しいが、他者を殺すだけで親しい者と一緒に生き残ることが出来るのなら――それを実行する者は意外と多いかもしれない。

126灰色の楽園を壊したくて ◆laf9FMw4wE:2015/05/14(木) 22:23:14 ID:ePr0auf20

「俺のチームはRか。一定法則に分けられているということは、同じ高校の生徒も全員Rだろう。
 カップルの幸太か花巻咲が他の参加者を無差別的に襲わなければ良いが――可能性がないとは、言い切れない。困ったものだ」

山村幸太と花巻咲。
同じ高校に通うこの二人は、非常に仲の良いカップルである。
もしも自分の予想する通り二人が同チームだとすれば、どちらかが――最悪どちらもが、他者を襲う可能性が高い。
冷静に考えれば他の突破口を探すという選択肢もあるのだが、殺し合いという環境は精神を狂わせてしまう。冷静に判断出来ない者も、多いだろう。

「あまりネガティブなことを考えても仕方ないか。俺は今度こそ多くの人々が生き残れる道――主催者を殺す為に行動するだけだ」

あの時は殺人狂の襲撃で自分以外は殺されてしまったが――今回こそは自分以外も生き残ってみせる。

「その為にも、まずはこの首輪を外す必要があるな。前回は偶然にもその手の分野に詳しい参加者がいたが――今回も見つかるだろうか?
 とりあえず首輪の解除に利用出来そうな道具を見つけたら、回収しておくか」

主催者に反逆するには首輪解除が必須だ。これは前回と共通しており、その為に何らかの手段で首輪解除を行える仲間と道具を探す必要がある。

「それに加えて、出来る限り早く知り合い合流する必要があるな。身体能力が優れている会長と幸太は兎も角、他の女子――優はあの膨大な見せ筋で乗り越えられるとしても、やはり放っておくのは危険だ。無論、女子同然のあざみと副会長もここに含めている」

物事には優先順位がある。
あまり優先順位を決めるべきではないと理解しているが、やはり最も心配であるのは自分の知人だ。
戦力として数えられる者は自分の知る限りだと、サッカー部で運動神経が良い山村幸太と様々な伝説を残す会長、大空蓮のみ。
副会長の愛島ツバキも射的の腕が抜群だと聞くし、金本優は男顔負けの膨大な筋肉量を誇る。この二人も戦力として数えて良いかもしれないが――男性陣と違い、どうしても不安が残る。ツバキは接近戦が出来るタイプに見えないし、優は筋肉が凄くとも運動神経が特別良いわけではないのだ。

「麻生叫はあの噂が本当ならば戦力として数えるべきだが――十中八九、ただのガセとしか思えない内容だ。
 ――というより、あれが事実であるならば、俺と殺り合うことになるのがオチか」

口を裂いたケガは地元のヤクザとケンカしたときについたもの程度の噂ならば信じるが――口から出る言葉で人を狂わせるが故の口縫いだとか、喧しいからと空手部を壊滅させただとか、酷いものだと気まぐれで電車をぶっ飛ばしたなんてものまである。
流石に自分と同じ高校にそんな化物が潜んでいるとは思えないが――考えてみれば、不本意とはいえ幼い頃から戦闘訓練を施され、一度殺し合いで優勝を果たしている駆自身も一般的な高校生ではない。
ゆえに微粒子レベル程度には噂が実話だという可能性も存在するが、もしもそうなら厄介極まりない存在である。
何せ噂で聞く麻生叫はこれ以上なく凶悪であり、嬉々として殺し合いを楽しむであろう危険人物だ。殺し合いを打破する突破口を探し、主催の打倒を狙う駆と対立することは、避けられない。

「考えれば考える程、問題は山積みだ。せめて麻生叫の噂がガセであることを信じるか」

ある程度自分の置かれている状況を把握した後、バトルロワイヤル優勝者――東雲駆は動き始めた。
平沢茜が作り出した――――死と絶望で満ち溢れる、灰色の楽園を壊す為に。

【C-3/森/1日目/深夜】
【東雲駆@アースR】
[状態]:健康
[服装]:制服
[装備]:変幻自在@アースD
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜2
[思考]
基本:平沢茜が作り出した灰色の楽園を壊す
1:首輪を解除出来る参加者を探す
2:出来る限り早く知人と合流したい
3:山村幸太、花巻咲、麻生叫を警戒
[備考]
※世界観測管理システムAKANEと平沢茜を同一人物だと思っています。

【変幻自在@アースD】
怪盗乱麻の祖父が作り出した怪盗アイテム。
持ち主の意思で様々な銃やナイフに変形する武器で、弾切れという概念がない。
盗みというよりは戦闘を前提に作られた道具なので怪盗乱麻は使用していない。

127 ◆laf9FMw4wE:2015/05/14(木) 22:23:36 ID:ePr0auf20
投下終了です

128名無しさん:2015/05/15(金) 07:26:23 ID:RFB96dIU0
投下乙です
「探偵は警察署にいる」
ついにアースDから参戦
イントロからあった「旗」についての考察は、これからどんなふうに展開していくか楽しみ

「瞳に炎を宿せ」
こういうおっさんと少女の組み合わせ大好き
莞爾かっこいいなあ、頼りになりそう感がやばい
「設定」についての説明は他キャラでも活用できそうで面白い

「谷山京子の差異難」
ふたなりは陰陽両方使える……なるほど、ロワだと生かしづらい特徴をこう持っていくか
個人的にはスライムちゃんがドストライク、もん娘いいよね

「灰色の楽園を壊したくて」
リピーター登場
アースR出身だけど、やっぱ貫禄を感じるなあ
今回の主催者はAKANEで、茜じゃない(たぶん)ことに気づけるのか

129 ◆pNmyKGcnVU:2015/05/16(土) 18:19:14 ID:XwCt6pEs0
皆さん投下乙です。
では僕も投下させていただきます

130 ◆pNmyKGcnVU:2015/05/16(土) 18:20:24 ID:XwCt6pEs0
燃え盛る真紅の炎。高く高く、暗い夜空を月よりも明るく照らし、
星まで届きそうな程大きな煙が上がる。
建物は崩れ落ち、ガラスも、コンクリートも鉄筋も、乾いた泥のように粉々に
散らばっていた。

ここはF-7飛行場。
いや、「元」F-7飛行場だ。
つい数時間前まで、そこに新品同然の飛行機が並び、眠りにつくかのように
静寂に包まれていたと、誰が想像できようか。


飛行場は完膚なきまでに破壊されていた。
飛行機は一機残らず『踏み潰』され、管制塔を初めとする建築物は粉砕され、
真っ平らだった滑走路には巨大な『足跡』が出来ていた・・・。


そして、飛行場のほぼど真ん中に・・・その「生き物」はいた。

凸凹とした黒い肌、丸太のように太く大きな足とそれとは対照的に細い腕、
50メートル程の大きさで、ほぼ同じ長さの尻尾を持ち、背中には骨がむき出しに
なったかの如き背鰭が存在し、それが尻尾まで伸びている・・・。
その頭部は古代に栄えた肉食恐竜か、伝説に伝わるドラゴンを思わせ、
後頭部にはヤギのような角が生えており、その目は虎や鷲のような全てを射抜く
眼差しをしていた。
その「生き物」は夜空を見上げると、
「グガアァァァァァァァァァァァァァ!!!!」
勝ち誇るかのように雄叫びをあげたのだった。

131 ◆pNmyKGcnVU:2015/05/16(土) 18:21:12 ID:XwCt6pEs0
ティアマト。
アースMで生まれ育った者で、この名を知らない者は、発展途上国に住んでいる人か、
学校に通えないストリートチルドレンぐらいだろう。
1950年代、突如として日本に出現し、破壊の限りを尽くした
史上初の大型怪獣・・・それが「ティアマト」だ。

もちろん、ティアマト以前からアースMには怪獣が出現していた。
戦前の1930年代には、アメリカのニューヨークに巨大なオランウータンが現れたし、
4世紀の朝鮮半島には「プルガサリ」という怪獣が現れたという記録が残っている。
だがそれらは、どんなに大きくても精々身長10mが関の山で、近代兵器による攻撃で
十分ダメージを与えることが可能な存在だった。
だが、ティアマトは・・・そしてティアマト以降に出現しだした怪獣は違った。
平均的な大きさはおよそ50m。最大で100mを超える個体もいる。
体重1万トンは当たり前、20万トンにもなるギガトン怪獣も存在する。
口から火炎や熱線を吐く等の特殊能力を持ち、その皮膚は近代兵器による攻撃を受け付けない・・・。
一般的な生物の常識からかけ離れた、超常的な存在へと変わったのだ。

1954年、太平洋の海底で静かに眠りについていたティアマトは、
アメリカの行った原水爆実験によって覚醒し、日本に上陸。
東京を火の海に変え、死者・行方不明者1万人を超える被害を生んだ。
しかし、最終的に『平沢明助』という科学者が開発した特殊薬物によってティアマトは撃退され、
以後、出現しだしたティアマトと同サイズの怪獣たちに対抗するために各国は対立関係を捨てて
一致団結し、『地球防衛軍』を結成した・・・。
アースMの歴史の教科書にはこう記されている・・・。


「グルルルル・・・」
飛行場を廃墟へと変えたティアマトは、唸り声を挙げてクルリと回れ右すると移動を開始した。
一歩踏み出すごとに大地が大きく凹み、ズン、ズンという地響きが周囲に響く。
その瞳には、赤い炎が燃えていた。
静かに眠っていた自身を叩き起こしておきながら、その自身を敵として攻撃し、
あまつさえ毒を持って殺そうしただけに飽きたらず、このような場に無理やり連れてきた
『小さい者』・・・『人間』への怒りの炎が。
その炎は静かに、しかし強く、燃え続けていたのだ。


【F-7/飛行場から移動中/1日目/深夜】


【ティアマト@アースM】
[状態]:無傷、怒り心頭
[服装]:裸
[装備]:無
[道具]:無
[思考]
基本:人間が憎い
1:邪魔な物は壊す
2:攻撃する奴は潰す
[備考]
※飛行場を廃墟に変えました。どこに移動するかは後の書き手さんに任せます。

132 ◆pNmyKGcnVU:2015/05/16(土) 18:22:50 ID:XwCt6pEs0
そして、そこから少し離れた位置にある平原で・・・
「ヌフッ、ヌフッ・・・ヌフフフフフフゥ〜♪」
白衣を着た男性が双眼鏡でティアマトの姿を眺めながら、不気味な笑いを挙げていた。
「フッフッフッフッフッ・・・いきなり殺し合えなんて言われた時は戸惑ったが・・・
まさかあんな大物に御目にかかれるとは・・・不幸中の幸いとはこの事だ・・・フッフッフッフッ」
その男性―鬼小路 君彦は口の端から垂れたヨダレを拭い、まるで動物園のパンダを
見た子供のような笑みを浮かべていた。
「のぉのぉ君彦ぉ〜、妾にも見せておくれ〜」
そこにピンク色の髪に巫女服という出で立ちの少女が、鬼小路の服の袖を引っ張った。
「あぁ良いとも。はい」
鬼小路はその少女―卑弥呼に双眼鏡を手渡した。卑弥呼は先程の鬼小路と同じように
双眼鏡を覗いてティアマトの姿を眺め始めた。
「おぉ〜♪妾も今まで色んなものを見てきたが、本物の怪獣が見られるとは驚きじゃのぉ〜」
卑弥呼は少女らしくない古風な口調で喋っていたが、その言葉には子供らしい好奇心が満ちていた。
「どうじゃ‘ないとおうる’、お主も見ぬかや?」
卑弥呼は自分の横で棒立ち状態になっている仮面とタキシードとマントを身に着けた男性に声をかけた。
「いや・・・遠慮しておきます」
仮面の男性―怪盗ナイトオウルは卑弥呼からの誘いをやんわりと断ると、頭を掻きながら、
「まさかあんな生き物が実在するなんて・・・自分の目が信じられませんねぇ」
タメ息混じりにしみじみと呟いた。
「チッチッチッチッチッ・・・」
ナイトオウルの呟きを耳にした鬼小路は舌打ちをしながら、人差し指を横に振った。
「いかんよぉナイトオウル君・・・卑弥呼君もそうだが、怪獣の存在をフィクションと勘違い
していたとは・・・ちゃんと新聞やニュースに目を通しておきたまえ」
「い・・・一応、新聞は毎日見てるんですが・・・」
「妾はどちらかと言えば、ネットのニュースサイト派じゃからのぉ・・・」
鬼小路の言葉に少々困惑してしまった二人だった。





『Dr.モンスター』の異名を持つ稀代の怪獣マニア・鬼小路 君彦、
秘術によって現代によって現代に蘇った邪馬台国の女王・卑弥呼、
『世界三大怪盗』の一人に数えられる怪盗・ナイトオウル・・・

この三人が出会ったのは、まったくの偶然だった。
たまたま同じエリアに転送された三人は、飛行場からの爆発音に導かれて平原へと移動し、
こうして顔を合わせたのだ。

飛行場の方を向けば、映画に出てくるような巨大怪獣が破壊の限りを尽くしていた。
アースM出身の鬼小路からすれば、地震や台風と同じくらい見慣れた光景だったが、
アースP出身の卑弥呼やアースD出身のナイトオウルからすれば、自分の目が信じられないような光景だった。
怪獣なんて、特撮映画かドラマの中だけの存在だと思っていた。
それが目の前で、自分の眼前で、巨大な体を動かして建物を破壊していた。
鉄筋コンクリートの頑丈そうな建築物が、発泡スチロールか何かの様に、軽々と破壊されていたのだ。
正に映画のような光景だったのだ。

133 ◆pNmyKGcnVU:2015/05/16(土) 18:23:36 ID:XwCt6pEs0
そうこうしている内に飛行場を破壊しつくしたティアマトは移動を開始した。
「おっ!どうやら移動するらしいな・・・こうしちゃいれない!」
ティアマトの移動に気づいた鬼小路は、近くに停車しておいた自分の支給品のジープに駆け寄った。
車体横に白く『MHC』と書かれた黒い車体・・・怪獣が踏んでも壊れない程頑丈といわれる
MHC専用ジープだ。
「二人とも急げ!追いかけるぞ!」
「お、追いかけるって・・・まさか・・・」
「そのまさかさ!アイツを追いかけるのさ!このジープなら余裕で追いつけるぞ!」
「おぉ!面白そうじゃのぉ!」
鬼小路の言葉を聞いた卑弥呼はジープの後部座席に飛び乗った。
続いて鬼小路は助手席に座った。
「ナイトオウル君、運転任せた!」
「えっ?何で私が!?」
「生憎俺は無免許だ!」
「答えになってないんですけど!?」
いきなりの無茶ブリにナイトオウルは困惑した。
「ほれ‘ないとおうる’、速くせんか。逃げられてしまうぞ」
「いや、あの・・・」
卑弥呼にまで急かされ、ナイトオウルは自分に拒否権が無いことを悟った。
(おじいちゃん・・・僕は今スッゴク不幸です)
心の中で今は亡き祖父に呟くと、ジープの運転席に座り、ジープを発進させた。
「お〜し!イケイケぇ!」
「行くのじゃぁ!」
ノリノリな鬼小路と卑弥呼と対照的に・・・
「・・・・・・」
ナイトオウルは唇を噛みしめて涙をこらえたのだった・・・。



【F-6/ジープで平原を疾走/1日目/深夜】

【鬼小路 君彦@アースM】
[状態]:健康、興奮
[服装]:白衣
[装備]:双眼鏡@アースR
[道具]:基本支給品一式、ランダムアイテム0〜1
[思考]
基本:あの怪獣(ティアマト)を追いかける
1:かぁ〜いじゅううううううう!!
2:イケイケぇ!
[備考]
※卑弥呼とナイトオウルをただの「世間知らず」だと思っています。
ジープの行き先は後の書き手さんに任せます。

【卑弥呼@アースP】
[状態]:健康、興奮
[服装]:巫女服
[装備]:無
[道具]:基本支給品一式、ランダムアイテム0〜3
[思考]
基本:怪獣(ティアマト)を追いかける
1:アハハハハ!行け行けぇ!!
[備考]
※怪獣が実在することを知りました。
ジープの行き先は後の書き手さんに任せます。

【怪盗ナイトオウル@アースD】
[状態]:健康、少し悲哀、ジープを運転中
[服装]:仮面、タキシード、マント
[装備]:MHC専用ジープ@アースM
[道具]:基本支給品一式、ランダムアイテム0〜3
[思考]
基本:鬼小路さんと卑弥呼ちゃんと怪獣を(嫌々ながらも)追いかける
1:何故私が運転を・・・
2:トホホ・・・
[備考]
※怪獣が実在することを知りました。
ジープの行き先は後の書き手さんに任せます。

134 ◆pNmyKGcnVU:2015/05/16(土) 18:27:02 ID:XwCt6pEs0
以上、投下終了です。
タイトルは「ティアマトの逆襲、または如何にして私は淫乱ピンクと怪盗と共に怪獣を追っかけることになったか」
です。
元ネタは「ゴジラの逆襲」と「博士の異常な愛情」です。

135名無しさん:2015/05/16(土) 19:53:29 ID:huy5S.Ng0
ティアマトがチート過ぎます
このロワそのものを潰す気ですか?

136名無しさん:2015/05/16(土) 20:02:41 ID:F4Bwbrcs0
投下乙です
ひ、飛行場がー!w AKANEさんあんた、何ガチの怪獣呼んでるんですかーッ!?
体長50mは初代ゴジラから続く巨大怪獣のスタンダードだし、最初の怪獣にはふさわしいスペックですな
まあ色んなアースがある以上、怪獣とて強くあれるとも限らないけど…とりあえずはこの怪獣が強さヒエラルキーの頂点かな…w
鬼小路さん以下3名は…物見遊山してたら死ぬんじゃないかな? ナイトオウル君、君だけでも逃げた方がいいと思うぞ

あ、地図見たら飛行場はF-7ではなくA-7のようですので、ナイトオウル君たちも合わせてA-7とA-6ってことにしておきますね

137 ◆pNmyKGcnVU:2015/05/16(土) 20:36:00 ID:XwCt6pEs0
>>135
ご指摘ありがとうございます。
ティアマトの状態表を以下の内容に修正します。

【ティアマト@アースM】
[状態]:無傷、怒り心頭
[服装]:裸
[装備]:無
[道具]:無
[思考]
基本:人間が憎い
1:邪魔な物は壊す
2:攻撃する奴は潰す
[備考]
※飛行場を廃墟に変えました。どこに移動するかは後の書き手さんに任せます。
皮膚の強度が低下しており、手榴弾でダメージを受けます。

>>136
ご感想ありがとうございます。
ウィキにまとめる際に、修正をお願いします。

138名無しさん:2015/05/16(土) 22:32:09 ID:EJUHo92A0
投下乙です。
ちょっ、怪獣をまさか参戦させるとは…
これ光一じゃないと倒せないんじゃ。逆にどう倒そうか燃えるふしはあるんですが。





一応なんですが、・・・ではなく…の方が見る人にとって読みやすいと思いますよー

139名無しさん:2015/05/17(日) 00:01:24 ID:7xQOJrTA0
投下乙です
うわあ、なんかとんでもないのが出てきちゃったぞ
まあアースMがある以上こういう怪獣は一匹くらいならいてもいいんじゃないでしょうか

強さの上限として機能しそうですし、というかこいつを単体で殺せるようなキャラがいたらそれこそロワになりませんし
まあ目立ちすぎてキルスコアは上げづらそうですが

140名無しさん:2015/05/17(日) 15:33:59 ID:9KHd/oj.0
みなさん投下乙です、

代理投下します

141my world is not yours(◇aKPs1fzI9A氏:代理):2015/05/17(日) 15:35:44 ID:9KHd/oj.0
 
───都内、喫茶店 パーフェクトにて───

───あ、居た!やっほー!おひさ!元気してた?…いえーい!はいたっち!
やっぱりウチらの最初のコンタクトっていったらこれだよねー!…忘れてないよ!ホントだよ?もー!
いきなり連絡来て驚いたわー!確か今県外で働いてるんだっけ?偉いなあー。あたしなんて今年就活だよー。だりーなぁ。雇ってくれない…か。無理だよね…はは…。

『いらっしゃいませ喫茶パーフェクトへようこそ。こちら、メニューになります。ご注文お決まりでしたらお手元のベルでお呼び下さいませ。では、ごゆるりと』

あ!ありがとうございます…。
…ね、あれ、ここのマスター?変じゃない?黒い顔が見えないマスクに探偵みたいな帽子で全身黒のロングコートって。あきらかに不審人物っしょ。
え?それがあの人のフツー?そうなのかなあ…ま、いっか。なんか頼むね。

ん?『パーフェクトブレンドコーヒー』?そんなメニューがあるの?自分からハードル上げすぎじゃない?
…そんな美味しいの?…はー。分かった!旧友のよしみだ!飲んであげよう!
じゃあ、さっきの人呼ぶね。ベルベル…あ、これか。

『イエス!アイムパーフェクト』

…これベルの音?あのマスターの声じゃない?
え?これが当たり前?…あ、そうなの。

『ご注文お決まりでしょうか?』

この、「パーフェクトブレンドコーヒー」を。

『ありがとうございます。完璧に作り上げてまいります。では、ごゆるりと』

…うーん。やっぱり何回見ても不審人物にしか見えないなあー。
ま、それは置いておくとして、どしたの?話って。世間話でも全然ウチはおっけーだよ?
いきなり連絡来たからさ、びっくりしたよ。なになに?

…は?平沢悠?誰だっけそれ?…え?高校の時の同級生?
ああ、いたねーそんなやつ。1年の最初の頃しか来てなかったいかにもオタクーって感じの奴でしょ?
キモかったよねー、近寄ると汗臭いし一人でブツブツ言ってるしいつも変な絵書いてるし。先生たちも迷惑してたよね。友だち居たのかなー…居ないよね!あはははは!

で、そいつがどうかしたの?…は?今女になったそいつがあちこちでテロ起こしてる魔法少女の正体ぃ?
いや、いやいやいや。信憑性なさすぎっしょ。性転換なんてそんなのありえるわけないし。ここ漫画の世界じゃあるまいし。
魔法少女がありふれてるからってそれはないっしょー!もーアサミ冗談やめてよね!

…なに、そんな真剣な顔して…え、あぁ。リュウト君のこと?可哀想だよね。通り魔でしょ。死んじゃったて聞いた時驚いたもん。恨み買うようなコトしてなかったし。
ていうかリュウト君にミユキちゃんにミブ先生といいさ、なんか最近身の回りの人が怪我すること多くない?リュウト君は死んじゃったしミユキちゃんは複雑骨折。ミブ先生は片目を失明したって聞いたよ。全部事故だって。怖いよね。
もしかしたら、その平沢って奴の呪いだったりして!
…ちょっと、冗談だって。嘘、やめてよ。アサミ。怖いよ。


…ホントなの?


あは、あはは。やめてよもうー!怖いじゃん。暗い話はあとあと。コーヒーまだかなー。
え?その三人の共通点?なに、まだ続けるの?いいじゃんもう平沢のことは。
…リュウト君?優しかったじゃん。頼りがいがあったし身体能力すごいしイケメンだったし。実は狙ってたんだ!…ま、今更だけど。そんなリュウト君がどしたの?

…は?リュウト君、平沢いじめてたの?マジ?
…まさかミユキちゃんも、ミブ先生も、それに加担してたってこと?


嘘でしょ。ねえ、アサミ。嘘でしょ。やめてよ。怖いってホント。
…アサミ?ねえ。まさか、『アサミも』なの?
やっぱり、平沢いじめてたの?ミユキちゃんよりも、ひどいことしたの?


…トイレに閉じ込めて水かけたり、筆箱捨てたり?人間サンドバッグにもしたりした?…うわ。

…初耳なんだけど、それ。

142my world is not yours(◇aKPs1fzI9A氏:代理):2015/05/17(日) 15:36:14 ID:9KHd/oj.0
 

じゃ、もし平沢が復讐してたとしたら、次はアサミなの?
…信じれないよ。リュウト君武道の達人だし、あの運動オンチの平沢がどうやって闘うっていうの。

───リュウト君倒すのは魔法少女化したなら、ありえる?

ちょっと、あの話嘘じゃないの?ねえ、アサミおかしいって。大丈夫だって、偶然だよ!言ってること滅茶苦茶だし、落ち着こう?
あと、警察に言った?…言ったけど、多分平沢は捕まらないって?何を根拠にそんなこと…!?
アサミ、震えてるよ!アサミ!しっかりして!

ちょっと!アサミどこ行くの!アサミ!待って!…もう!

『お待たせしました、パーフェクトブレンド…あれ、お客様のお連れ様は?』

…帰りました。お勘定は、私がしときます。

『承知致しました。では、ごゆるりと』

…魔法少女化?
じゃあ平沢は、あの魔法少女たちみたいな可愛い服着てるの?それとも、まさか性別まで変わったってこと?
ありえなさすぎるでしょ。いくらなんでも。信じないよ、わたし。
気になるけど…平沢いじめてない私にもいずれアイツが来るってこと?
…怖っ。

はあ…やめよ。このこと考えるの。
ま、まぁ。なんだかんだでアサミも、大丈夫でしょ。あーなってるけど。あの子ヒスってる部分あったし。
あとで心配してるってライン送っとこうっと。あとツケとくぞってのも送らなきゃ。

そういや来てた、これが、パーフェクトブレンドコーヒー。
…飲んでみよう…あ、おいしい。






それから、数日後。本当にアサミは死んでしまった。全身にたくさんの貫通した穴を作って。
やっぱり、平沢悠の恨みなのだろうか。それとも、本当にただの偶然なんだろうか。
ウチは偶然だと信じたい。信じないと、自分もその餌食になるかもしれないし、その恐怖に怯えるのはいやだ。
だからウチは、認めない。

『魔法少女犯罪ファイルNo.5689 B子氏の証言』より
========

143my world is not yours(◇aKPs1fzI9A氏:代理):2015/05/17(日) 15:36:45 ID:9KHd/oj.0
 
「い、いいい加減にしろよおおおお!!!ぼ、僕が、僕がなな何をしたって言うんだっ!」

深夜のB-7の廃工場の一角。
金髪で碧眼の美少女、平沢悠は声をどもらせながら叫んだ。顔からは必死さが伺えており、何かから逃げている様子であった。
その何かとはまた平沢と歳は大して変わらないこれまた少女である。
瞳は紫色で、髪の毛は綺麗にセットされたボブ。赤色のシャツに黒いマントを翻して平沢を追いかける。
両手には刃渡り8センチほどのナイフがそれぞれ握られている。顔つきは獲物を狙うように、かつ無表情であった。
まるで自分の身の回りの家事をするかのように、当たり前の仕事をするかのような顔つき。
そんな少女、雨谷いのりは平沢を間違いなく、殺そうとしていた。

「あなたからは、悪人の『空気』がする。だから殺す。文句は言わないでほしい」

追いかけるこの少女、雨谷いのりの仕事は『ヒーロー』である。
彼女にとっての悪は『排除対象』なのだ。その両手に握られたナイフがそれを証明している。
この殺し合いの場に巻き込まれたからと言って、やることは変わらない。いつも通り、『仕事』をこなすだけ。

「だからやめ────うわぁっ!!」

逃げていた平沢が、足をもつれさせて仰向けになって転んだ。
立ち上がろうとするが、体が追いつかずに尻餅をついたような姿勢になって、いのりの方を見る。
やがて平沢は頭髪を掻き毟りながら、両手を駄々をこねる子どものようにバタバタとして、更に視線を定まらせずに先程よりも強い語気で口を開いた。

「くそっ!くそくそくそくそっ!!そ、そうやって!!僕をい、いつも!いつもきき決めつけるんだ!あ、あいつらみたいに!あのガキどもや学校のあいつらみたいに!!い、いつも、いつも悪いのは僕だっ!!」

平沢は叫ぶ。いのりに対して、くまができたその目を大きく見開きながら。
いのりはそんな平沢を道端で死んでいる野良犬を見るかのように、視線をやる。
慈しみもない、そのような目である。

「…これで最後。死ね」

いのりはそう呟くと持っていた右手の方のナイフを、平沢に向けて走り出す。
狙うはその喉元。血管が集中している人間の急所である。

「や、ややめろ!やめろやめろやめろやめろやめろやめろっっ!!!!!」

平沢は恐怖に震えながら、しかし立ち上がることもできないまま一人叫び続ける。
いのりはだからといって情けを見せるわけもなく、平沢の命を狙う。
平沢は目を瞑る。
しかし、それは諦めたからではなかった。

「ふ、ふふふざけんな…ふ、ふふふふふざけんじゃねえええええぞおおおおおおおお!!!」

恐怖に震えていた少女の姿はそこになく、その表情は目を大きく見開き息も荒く、目の前の女を狩る表情であった。

そう平沢が表情を変えた瞬間、彼女の背中から唐突に巨大な真っ黒な腕のようなものが生えていた。
やがてその手は拳を握るようにすると、向かってくるいのりの方へとその拳を向けた。

「…!」

いのりは長年の戦闘経験から防御の構えを取る。
だが、いのりはここでミスを犯した。
正面から来ると思われたその拳は急に右に方向転換をするといのりの右側の上半身を強く殴りつけたのだ。

鈍い音。

その後にいのりは人形のように殴り飛ばされる。
やがて数秒間宙に浮いたあと、廃工場の積み上げられていた荷物を横からすべて潰すように、それがブレーキのようなものになりやっと止まった。
いのりは動く様子はない。

「ハァ…ハァ…見たか、み、見たかっ!!僕を馬鹿にしたからだぞっ!ば、馬鹿にしたら皆、みんなこうする!に、〈人間〉は信じないぞっ!ど、どんな〈人間〉もだ!」

144my world is not yours(◇aKPs1fzI9A氏:代理):2015/05/17(日) 15:38:14 ID:9KHd/oj.0
 

平沢は荒い息を押さえながらも、いのりが動かないのを見ると腕を背中の中に引っ込めて廃工場から飛び出した。
追い討ちしてもよかったが、平沢にはあの相手は少々分が悪い。戦うならもっと自分の丈にあった人物の方がいいだろうと考えていた。

『いいじゃないか平沢、調子抜群だな』

そう低音で唸るような声を言って平沢の服の背中の方から全長だいたい20センチほどの黒いハイエナが顔を出した。
金の瞳が、黒の毛皮ゆえによく目立っている。
ハイエナは平沢の左肩の上に狛犬のようなポーズで座ると、ふわぁ、とあくびをしている。

「な、なんだよアスタ!た、助けるなら、は、早く助けてくれよ!」

平沢は驚いた様子でハイエナに言う。
この黒いハイエナは、平沢悠が魔法少女でいれる証拠の『悪のマスコット』。そして彼女、いやもともと男だった平沢悠の唯一の『話し相手』は、皮肉にも彼を利用して生きているこの悪のマスコットアスタロッテ(平沢からはアスタと呼ばれている)だけである。
平沢の憎悪のエネルギーを元にして精製される魔力。それを使ってアスタは本来居るべきでない人間界に存在することができた。
正義の心を持ったマスコットたちは、マスコット界、いわば魔法がある世界においての政府と呼ばれる存在から支援を受けるので魔法少女候補を探す間ゆっくりと吟味することができるのだが、『悪の家系』に生まれたアスタは、それを受けることができなかった。
なので、人間界に来た時すぐにアスタはただ魔力が強い少女ではなく、憎悪の力が強い、心に闇を背負った人物をすぐに見つけなくてはならなかった。
そこで、平沢と出会った。ビルの上で目にくまを作り世の中に絶望をしきった顔の太った男。
アスタにとって、最高の獲物であった。である。
アスタがいるから、平沢はいのりを撃退することができた。アスタの闇の力によって、先ほどの真っ黒の腕を作り出すことに成功したのだ。

『何を言う。手前の魔力エネルギーが足りなかった。もう少し憎悪を増してもらえればやりやすかったんだがな』

平沢悠には生まれつき魔力がない。
その代わり彼には生まれつき憎悪が人間の何倍もあった。
憎悪といってもそれが向けられる先はわからない。ただ単純に自分を陥れてきた人たちか、この世界に対してか。
なんにせよ矛先は知らずともその憎悪は強大であった。

その憎悪のきっかけは彼の人生にある。

平沢悠のこれまでの人生は散々な物だった。
歩けば容姿をバカにされた。それを気にして人前にはなるべく現れないようにした。
近寄れば臭いと言われた。それを気にして必死に体を洗った。タワシを使って、全身が真っ赤になるほど擦った。
話せばなんて言っているか分からないと言われた。それを気にしてゆっくり喋ろうとしても、言いたいことが出てこなかった。
学校の先生たちは自分の事を忌み嫌っていた。問題を解決しようとせず、1人嫌われ者がいればクラス経営は上手くいくはずだと知っていたからだ。
やがて、平沢悠は居場所をなくしていき、自分の家族からも忌み嫌われるようになっていた。
平沢の存在は彼の家族にとってあってはならない存在であった。まるで外界との接触を断つかのように、彼を狭い六畳間の部屋に閉じ込めるようにして、引きこもらせた。
平沢はそれに対抗せず、受け入れた。もう傷つきたくはなかったからだ。
やがて、平沢は高校に行かなくなった。

引きこもってからある日、彼は自殺しようとした。理由は簡単。この世界に飽きたから。
唐突にそう決意した彼は親の財布を握り締め、外へ飛び出した。
不健康な生活と運動不足から作り上げられたぜい肉で出来た体では酷すぎたか、手に握りしめた金で、自分の住む街より遠い都市部へと向かった。
子供の頃憧れていた都市部。どうせ死ぬなら、いい思い出がある場所でと考えたのだ。

適当なビルを見つけ、その非常階段を登っていった。
息が何度も切れて止まって座り込んだが、なんとか長い時間をかけビルの屋上に登った。
きらきらと高層ビルの部屋の明かりが美しく見えた。
なおさらその美しさが自分の汚さを露呈させているようで辛かった。

遺書はない。自分が死んでも誰も気にしないだろうと考えたからだ。
やがて、彼は未練を残さないように、屋上から飛び立った。はず、だった。

自分が空中に浮いている。一度、幽体離脱でもしたかと考えたが、自分より下に写る裏路地に自分の死体はない。
なんでだろうと焦る中、アスタが現れた。
彼は平沢にこう言った。

───世界を小生と壊そう。お前のための世界にしよう。
と。

「…あー、ぼ、ぼくは、僕は間違ってない、よね?アスタ」

145my world is not yours(◇aKPs1fzI9A氏:代理):2015/05/17(日) 15:38:59 ID:9KHd/oj.0
 

平沢が恐る恐る、聞く。
臆病で世の中すべてが敵だと思っていた平沢にとってはそう質問せざるをえなかった。
この殺し合いの場においても、自分らしさを保ってていいのかという疑問だ。

『あぁ。そうだ。それでいい。お前の味方は手前だけだ平沢』

アスタはそんな平沢を見るとくすり、と笑いながら口を開いた。
その顔は優しかった。
平沢はそうアスタに言われるとまた吃りながら視線をあちこちにやりながらアスタに言った。

「あ、アスタ。君が、君が来てくれたから、ぼ、僕は強くなった。人生が広がった。だ、だかだから僕は君と帰るんだ、あの好き放題できる、ぼ僕の為の世界に」

『僕の世界』。
少しでも腹が立つことがあれば、すべて壊すことができる『僕の世界』。
かつていじめてきたあいつらに復讐できる『僕の世界』。
こんな訳のわからない世界に平沢はとどまる必要はないのだ。
平沢は世界が嫌だった。だが、アスタと出会ったあの日、『平沢悠という男』は死んだのだ。
生まれたのは『平沢悠という女』だ。それが彼、いや彼女にとっての事実だった。

『平沢、あの小娘どもはどうする。見つけ次第殺るか?』

『小娘』とは平沢に歯向かう『正義の魔法少女』たちである。
平沢は人のために自分の命とも言える魔力を削る、綺麗事を抜かす彼女たちが嫌いだ。
平沢が破壊行動をしていた時にもよく止められてしまっていた。

平沢が弱いというわけではないが、魔法少女は束になって自分を殺しに来る。
ゆえにいつも平沢ではなく他の魔法少女達に軍配が上がっていた。

「あ、あああ当たり前だろ!ぼ、僕の邪魔をするウザったい奴らだぞ!いい、いつもの仕返しだ。皆、皆ぶ、ぶっ殺すんだ!」
『どういう風に?』
「そ、そりゃあもうむ、無残にさ!跡形も、な、ないくらいさ!ふひっ、ふひひひひひっ」
『…ふふ、相変わらずのボキャブラリーだな、平沢』

その美少女っぷりからはまた不釣り合いに不気味に笑う平沢を見てアスタは自分の子供を見守るような顔で、そして声色で平沢に返事をした。
一方の平沢はムキになるようにして、アスタに言葉を返した。

「な、なんだと!マスコットのくせに!アスタは、ぼ、僕がいないと生きていけないくせに!」
『あぁ、そうだ。小生は平沢、お前が居ないと生きていけない。だが、お前もだろう?』

アスタは平沢と契約を結んでいる。
マスコットにとって、契約を結んだ相手が死ぬこととは、自分の死を意味する。
憎悪をエネルギーにした魔力によって生きているアスタ。彼にとっても平沢の存在は必要不可欠なのだ。
無論平沢もアスタを必要としているわけで。

「…」
『正論言われて、反抗できんか。ふふ。カワイイやつめ。皮肉のつもりだったのか?』
「う、うるさいっ!いくぞ!つ、着いてこい!」

顔を真っ赤にして、バツの悪そうな顔をした平沢はアスタを肩に乗せてその歩みを進み始める。
自分を否定する者達を、殺すために。

(…平沢。無理はするなよ)

そばに、『優しさ』を覚えた『悪役』をひきつれて。
魔法少女は歩き出す。

===========

146my world is not yours(◇aKPs1fzI9A氏:代理):2015/05/17(日) 15:39:38 ID:9KHd/oj.0
 

「…迂闊だった」

平沢が廃工場から立ち去って数分後。
いのりは荷物の中から立ち上がった。頭からは血を流し、口からも出血している。
先ほどの攻撃によってあばらが数本逝ってしまったようにも伺える。脇腹が痛む。
「致命傷には至ってないけど…やばい、かも」

このままでは戦うことも逃げることもできない。先程確認した地図によると病院があるようだがここからではちょっと距離がある。
どこか屋根のある建物の中で体を休める必要があるだろう。

「裏切りのクレア…いる。だからワタシは…死ねない。アイツを殺すまで。師匠の仇を、取らなきゃならないんだ」

名簿を見たら自分が『敵』とみなす様々な人物たちの名前があった。
その中でもいのりの目を引かせたのが『裏切りのクレア』だった。
彼女はかつて、自分の師匠を殺した人物だ。そして、雨谷いのりの正義感を多く変えてしまった人物だ。
いずれ殺すはずだったが、呼ばれているのなら好都合だ。

「人殺しは、悪だ。人を殺すことはいいことにならない。ワタシみたいなのを産む」

自分の正義の心が歪んでしまったのは分かっている。
しかし、いのりはそれを受け入れている。『誰も守れない正義』なんて、いらない。
『自分の手を汚さない正義』なんて、いらない。
そう、決意したから。

「───だから、ワタシが殺す。ワタシももう悪だから。悪を殺せるのは、悪しかいないんだ」

この主催者含め、『人を殺す者達』を、『悪』を倒すために。
いのりはその体を引きずりながら、闇に消えていった。

【B-7/廃工場/1日目/深夜】

【平沢悠@アースMG】
[状態]:高揚
[服装]:スウェット
[装備]:
[道具]:基本支給品、不明支給品1~3
[思考]
基本:元の世界に帰る
1:他の魔法少女達は皆殺し。歯向かう奴らも!

【雨谷いのり@アースH】
[状態]あばら骨骨折
[装備]:ナイフ×2@アース??
[道具]:基本支給品、不明支給品1~2
[思考]
基本:『悪』を倒す。特にクレア
1:どこかで休む

147名無しさん:2015/05/17(日) 15:50:32 ID:9KHd/oj.0
代理投下終了です
で感想
>喫茶店 パーフェクト
パーフェクトなあの人…MG世界では元気でやってるようでなにより…w
他にもこのパート登場人物の名前にはニヤリとさせられるとこがありましたね、並行世界設定ならではのちょい救済は
こんな風に本編を邪魔しない範囲ならアリかも
>本編パート
人間嫌いの平沢くん。背中から異形の腕を生やす魔法、今まで殴りたくても殴れなかった相手を
殴るための魔法って感じで好きだなー。アスタがそっと見守ってる、ひそかな絆もなんかいいよね
理想の世界に戻りたいと言う理由も世界設定にかかってて上手い
アースHの中心人物のひとり雨谷ちゃんはいきなり大苦戦だったがさてどうなるか…

148名無しさん:2015/05/17(日) 21:48:19 ID:7xQOJrTA0
投下乙です
いのりvs平沢はとりあえず平沢に軍配が上がりましたね
それにしても平沢とアスタの絆いいなあ、こういう関係すき

149 ◆/MTtOoYAfo:2015/05/18(月) 02:50:30 ID:MnKKOztk0
皆さん乙です。
投下します。

150天才と馬鹿はなんちゃらかんちゃら。 ◆/MTtOoYAfo:2015/05/18(月) 02:53:43 ID:MnKKOztk0
「…つまり、いま世界で多発している性転換の原因は、医学でもなんでもなく時空間を飛び越える際の微分化された物体が積分化して元の世界に帰還する際に起きてしまったものなのです、これらから私は研究にて…」

───待ちたまえブルックリンくん!

「なんでしょう、ジョーンズ教授?」

───その理論は、まったくもって狂っている!生命倫理の冒涜だ!

「私の理論に医学的な視点は存在しないと発表の初めに述べましたが」

───あれはただの奇病だ!機械工学を持ち出して考えるな!
───まったくだこのクレイジーマッドサイエンティスト!アリゾナ州立大の名を汚す気か!
───SF小説を書くならアイザックアシモフにでも弟子入りするんだな!

HAHAHAHA!!!

「…け、研究の自由は、当大学は保障されていたはずですが」

───理論がメチャクチャだ!こんな内容を世に出したら我々がどうなるか…
───いい加減にしろ!機械工学は調査したデータを集めてそこから考察するだけではない!統計学がやりたいなら経済学部へ転入しろ!
───そうだそうだ!!
───せやでせやで!

「…あ、あのー。私の発表にはまだ付け加えがあるんですが『オッサン』方、き、聞いていただきませんかねぇ…?」

───巷では『美人研究員』として話題になっているようだが、彼女を世に出したのは誰だ?こいつとFU〇Kした三流記者か?
───世も末だな!そもそも微分積分の定義というものから間違っている!微分というものはまずαの世界を仮定すると…
───待てマグワイヤー教授。その理論はおかしい。微分積分というのはだな…
───まさかまだ君たちは微分積分で工学を考えるのか?数学の時代は終わったのだ!
───何を言うかこの三流科学者!!貴様のゼミ生が嘆いてたぞ「あの教授が唯一理論的なのは午後のコーヒーの作り方だけだ」とな!
───糞野郎!許さん!
───こら君たち、やめたまえ!!
───せやで!喧嘩はあきまへん!

ぎゃーぎゃーぎゃーぎゃー。

「…そろそろやめていただきませんかね、皆さま」

ぎゃーぎゃーぎゃーぎゃーぎゃーぎゃーぎゃーぎゃー。

「…やめろや」

ぎゃーぎゃーぎゃーぎゃーぎゃーぎゃーぎゃーぎゃーぎゃーぎゃーぎゃーぎゃーぎゃーぎゃーぎゃーぎゃーぎゃーぎゃーぎゃーぎゃー。

「やめろっつてんだろおがこのpinche(役立たず)どもがあ!!!」

『アカネの音声』

「大体あんたらみたいなエロオヤジどものために!私はわざわざ大ッ嫌いな論文書いてきてやったのよ!それをやれあーだこーだうっさいわ!普段は私のことエロいきったない視線で見るくせにこういう場になったらけなす!ほんっとにもう、なんなのよ!私を評価してくれるのはキャベンディッシュ先生だけなんだからああっ!ぜー…ぜー…あ?」

『』

「Chinga su madre(黙れやクズ)!」

ばき。

「ていうかそもそもあんたらこそ理論が…あれ?ここ、どこ?」

♂ ♀ ♂ ♀ ♂ ♀

151天才と馬鹿はなんちゃらかんちゃら。 ◆/MTtOoYAfo:2015/05/18(月) 02:55:10 ID:MnKKOztk0

H-1の『映画館前』と書かれた無人駅のプラットフォーム。
そこに、一人の少女が立っていた。
黒を基調としたメイド服に白色のフリルにエプロンから、ひと目でメイド服だと分かる。シルク製からか素材は柔らかく、少し動くだけでも服の流動が繊細に読み取れるほどで、彼女がそこらのメイド喫茶で働くアルバイターではない、本物のメイドだと誰が見ても分かった。
茶髪のショートヘアは前髪も毛先も全て綺麗に揃えられており、赤のヒールに真っ白な手袋。真っ白な雪のような肌にぱっちりとした碧眼。さらにその行動一挙一挙から彼女の育ちの良さがうかがえる。
しかし顔立ち全体やその背丈を考えると、まだ幼さを感じさせる。

彼女、サラ・エドワーズはいわずと知れたメイドである。そして同時に、彼女は『探偵』でもある。
かといって彼女が自分から『探偵』と名乗るような痛いことをしているわけではなく、成り行きでそう呼ばれるようになったのだ。

ある冬の日のことである。
主人の屋敷で誕生日パーティーが行なわれた。
その日の夜、招待されていた主人の旧友が死体となって発見されたのだ。

死体は首を絞められたことによる絞殺。彼が宿泊していた部屋の唯一の窓は大きく開けられていた。
さらに被害者の持ち合わせていた金品がすべて盗まれていたこともあり調査が進められた結果、死因は調査に当たったレイ・ジョーンズ警部らの判断による『強盗殺人』となった。

そんな中、サラにはひとつの疑問が浮かんでいた。被害者の一人息子の表情や言葉が、とても親が殺されたとは思えないように思えたからだ。
サラは息子と接する中でその疑問を解消するために様々なことを聞いてみることにした。そしてそれを主人の息子の子守の間に考えをまとめ、ある日ほかのメイド仲間たちとのトランプゲーム中に冗談混じりで喋ってみた。

すると、である。
ほかのメイド仲間たちも、息子のことについては疑問に感じていたというのだ。
やがてサラは仕事の中で息子のことを仕事の中でメイドやさらには主人の協力もあって調べていくようになった。

警部であるレイ・ジョーンズとはたびたび衝突しながらも、日本からの観光客だというクロダとニシザキという人々の力を借りながら、サラは真相にたどり着くのであった。

…というのがベストセラーシリーズの第一巻『メイドは見た!~あるじ様、殺人事件でございます。~サラ・エドワーズの事件簿』の大まかな内容である。
大型ネットワークショッピングサイト「konozama」参照。

「困ってしまいました。まだあるじ様のご夕食を作っていた最中だったのに…」

サラは顎に手を当てて不安そうに考える。
彼女は幼い頃から主人に仕えていた。主人の準備をすることが自分の生活のルーティンのひとつとなっていた。
ICレコーダーの、「アカネ」と名乗る機械音声から告げられた殺し合いをさせられるという事実。
真っ先に彼女は自分の主人が巻き込まれていないか心配になり、与えられたディパックの中にあった『参加者候補リスト』と書いてあった名簿を見たがそこには『主人の名前』はなかった。
よかった、と一息つくとともに彼女は不思議な経験をしていた。

この名簿の中には『自分の主人』は居ないというのは分かるのだが『自分の主人の名前』が何なのかどうも思い出せないのだ。
これは大失態である。主人に失礼であるしあの小うるさいメイド長にバレればどうなることか。

「…あるじ様に帰ったら真っ先に謝らないといけませんね…」

152天才と馬鹿はなんちゃらかんちゃら。 ◆/MTtOoYAfo:2015/05/18(月) 02:56:20 ID:MnKKOztk0

ため息ひとつ。
自分の主人はおおらかで優しい、主人というよりもメイド達の父のような存在である。
身寄りのない孤児院の子どもたち、特に親たちが子に向かい入れないような野蛮な子供たちを受け入れ、ストリートチルドレン同様の孤児であった彼女たちに教育や武道、礼儀作法などを一から教え住む場所を与えたのだ。
サラも同様に、身寄りのない孤児であった。
元々サラの家は裕福とはいえないものの仲睦まじく、父と母と祖父母、弟と妹に囲まれて幸せな日々をすごしていた。
だがある日、サラが七歳の時にアイコレクターという殺人鬼が彼女の家を襲った。
本来サラも家に居る予定であったがスクールバスに乗り遅れたために、唯一一人だけ生還したのだ。

その後サラはしばらく親戚にたらい回しにされたあと孤児院へと送られた。
だが凄惨な事件で突如幸せな日常を奪われたサラはその日からまるで死んだも同然に一日を何もせず、外を眺めているだけであった。

その時に、今の主人が自分を引き取った。
最初は反抗をして、モノを壊したり脱走したり、多くの迷惑をかけてしまった。
だが主人やほかのメイド仲間たち、主人を尋ねる仕事仲間たちとの交流を通し、彼女は徐々に人間らしさを取り戻していった。

だからこそ、自分の主人には頭が上がらない。自分に「人と接する」ことを思い出させてくれた主人。
だからこそ名前を忘れるなんて。そんな失礼なことあってはならないのに、とサラは頭を抱え込む。

「…ま、まあ最悪謝るのはあとでいいでしょうけども…あるじ様が巻き込まれてなかったのはよかったです…」

安堵と不安が混じったため息をついたサラの右手に握られていたのは、S&W M29。
アメリカのスミス&ウェッソン社が開発した回転式拳銃(リボルバー)。装弾数は6発だ。
どうやらこれが、例の自分に与えられた支給品というものらしい。
一応、サラも幼い頃にメイド長から主人をいざという時に守れるよう使い方は教わったが…使ったことはない。
弾数も少ないしいざという時に使おう、とロングスカートの右ポケットの中にしまう。
ちなみにもう一つは使いどころが分からない、アイドルグループのライブの時に使われていそうな棒であったのでディパックの中にしまっておく。

「…ところでこれ全員の方が参加者じゃないとしても…ちょっと知り合いが多すぎるような…」

先ほど述べたリストの中には、サラの知人が多くいた。
最初に解決した事件の時に協力してくれたクロダ氏とニシザキ氏。
何故か事件先でいつも一緒になるレイ・ジョーンズ刑事。何故か二人分あるがミスだろうか。
それ以外にも屋敷を訪れた人々の名前が多くある。

「知り合いを殺すなんてことはできないですし…うーん…」

主人が居るならば、彼を守るために行動するのが従者としての役目。
それが例え自分の手を汚すことになろうとも、彼の命令が彼女のすべてだからそれに従えばいいのだが、その本人がいない。
ゆえに彼女はどうすればいいか迷っていた。

「…かといえどもあの女性が行っていた通り強い方もいるようですし…」

先ほどの音声案内で言っていたことを思い出す。
腕利きたちが多くいるということは、ただのメイドである自分が生き残るのは難しい。
だからといえども、この首輪がある限り反抗しようとなると爆破されて死んでしまう。
誰か強力な力を持っていれば対抗できるだろうが、そんな仲間は居ないだろうし。
一体どうすれば───

153天才と馬鹿はなんちゃらかんちゃら。 ◆/MTtOoYAfo:2015/05/18(月) 02:56:51 ID:MnKKOztk0

「どこよここ!!!ちょっとあんた!そこのメイド!これ一体どういうこと!?誘拐でもしたつもり!?」

その時、唐突にプラットフォームへ登る階段をずかずかと褐色の女性が上がってきた。
黒髪でウェーブがかかっていて、胸元を大胆に開けた赤いシャツに青のジーパン。黒のスニーカーを履いている褐色肌の美人。上からは白衣を着ているが、背も高く、足も長い。顔も小さく、しかし表情には精悍さも感じられる凛とした雰囲気。それゆえに白衣もまるで衣装のように思えた。
おそらく道を歩くと通りすがった男性たちは皆その視線を奪われるほど、立ち姿は映えていた。
しかし、その褐色美人はその美貌にそぐわないようにサラに血走った表情で近寄ると両肩を強く掴み、大声を上げた。

「いきなりこんなクソ田舎の駅に飛ばされるし!私はまだ研究結果の発表なのよは・っ・ぴ・ょ・う!今からあのオヤジ共を論破するのよ私はぁ!」
「あ、あのすみません落ち着いてください!」
「落ち着いてられっかボケぇ!私の身になってみろってんだーーー!!!」

ぶんぶんぶんとサラを強く振り回す褐色の女性。
サラは為すすべもなく、その女性に振り回されるのであった。

♂ ♀ ♂ ♀ ♂ ♀

「なーんだ!サラも私と同じように呼ばれたって訳ね!ごめんごめん!」

振り回されて五分後、昼に食べた紅茶とケーキを戻しかけたサラを見て褐色の女性は、ようやくその腕を止めた。
サラはその隙を見逃さず真っ先に自分の招待とこれが殺し合いの場であること。そして自分も巻き込まれた方の人間である事を告げた。
目の前のこの女性はブルックリン・トゥルージロと名乗った。アリゾナ州立大の院に通う院生であり、今巷を賑わす科学者の一人、らしい(本人談)。
勿論世界軸が違うサラが知るよしもないのだが、サラが知らないことを伝えるとブルックリンは大きく落ち込んでいた素振りを見せた。
しかしすぐに立ち直りプラットフォームの白線の上をしばらく歩きながらサラと会話していると、唐突にサラの首輪を見てまた近寄りながら、怪訝な表情で口を開いた。

「ところでさーサラ。あんたの主人って趣味悪いねー何その首輪ダッサ!」
「え?」
「ほら文字まで書いてあるじゃん。『P』て。しかも鉄製だし。やるならもっとこうゴシック調の方が私はメイド服にあってるかなーって」
「…あの、ブルックリンさん。あの音声案内は…?」

ブルックリンはそう言われてすぐに「知らないけど」とサラに返す。

「あの、来た時に手に握られていたのICレコーダーから流れていた音声です。ルールとか色々言ってました。多分皆さん聞いてるかと…」
「え?あれそんな大事なもんなの。私壊しちゃったんだけど」
「壊したぁ!?」
「うん。私すっごくいらついてて何かゴニョゴニョ耳障りだったから」

…この方は馬鹿なのかもしれない。
サラはブルックリンの言動からそう伺えた。最近の大学生というのは遊び呆けているからなのだろうか、学力低下がひどいと主人が自分に教えてくれた。
服装も品がないし、どうして彼女のような人が呼ばれたのだろうか。サラはまた頭を抱える。
一方のブルックリンはサラの事を気にせずにプラットフォームのベンチに座る。髪の毛の先をいじり出している。
殺し合いに居るという自覚はまったくないように見えた。
…協力できる人としては他をあたることにしよう。

154天才と馬鹿はなんちゃらかんちゃら。 ◆/MTtOoYAfo:2015/05/18(月) 02:57:54 ID:MnKKOztk0

「…はぁ。分かりました。私はもう行きます。生き残るように頑張ってください…」

そう告げるとサラはブルックリンが登ってきた階段からプラットフォームを降りようとしてその階段の入口へと歩みを進める。
もっと協力できる人を探そう。
大きく息を吐くと、その階段を降りようと、足を踏み出した。

「あ、待って」
「なんですか」
「そのICレコーダー、貸して。調べるから」

その時、ブルックリンから突然呼び止められた。
『調べる』?不思議に思ったが一応サラはディパックの中にしまっていたレコーダーを取り出し、ブルックリンに渡した。
壊されないか心配であったが、ブルックリンはそれを数秒様々な角度から見るとやがて一言。

「うわ、なにこれ小学生が作ったの?誰でも作れるわこんなもん」
「…え?」
「これ最近のやつね。モーターとギアがなくて容量はたぶん18GBはあるわ。で、遠隔通信によるデータ転送が可能になっている、よくあるレコーダーね。耐久性はあると思う。多分その、殺し合い?の場だからかな。まあいっか。残骸は一応持ってきたし、あとで工具見つけたら直そっかなー。あ、サラ。これ改良していい?どうも音声記録ディバイスと受信ディバイスを繋げている因子が調子悪いみたいね。ノイズから分かるわーだからさ…どうしたの?」

先ほどの馬鹿さとは違う、ペラペラと喋り出したブルックリン。
サラは工学の知識はない。彼女の言動はまるで先ほどの馬鹿大学生とは違う、鋭いものである。
サラはブルックリンに対して、単純な疑問として投げかけた。

「…機械、詳しいんですか?」
「うん」
「…どのくらい?」
「んー。最近は女体化の研究で忙しいしなー。でも、ま、一言だけ言えるのはね」

ブルックリンはサラから貰ったICレコーダーを両手でいじくりながら、また当然のようにサラに質問の答えを返した。

「その悪趣味な首輪を外せるくらいかなー。それ金属製でしょ?で、多分中は色んな回路が複雑に入ってると思う。ま、見たら接続部分溶接されてるしすぐには取れないけど。サラ、あとでどっか溶接取れる場所にでも行って取ってあげよっか?そうだなー工場とか実験室とかあればいいんだけどね」

ブルックリン・トゥルージロは、天才だ。
サラは見誤っていた。
メイドという職業柄、人間観察は得意な筈なのに。
これは天啓かもしれない。
サラは階段前から足を翻すとブルックリンの方を向き直す。

「ブルックリンさん。お願いがあります」
「なに?サインなら受けつけないけど───」
「この首輪を取って、殺し合いを止めてくださいませんか」

そう言われると、深く、サラは頭を下げた。
最大限の敬意を込めて、希望を見つけ出すかのようにして。
それを見て数分後、ブルックリンはレコーダーをベンチに置くと、サラに尋ね返した。

「…ねえサラあんたコーヒー入れるの得意?」

質問の答えになっていないブルックリンの返答。
サラは呆気に取られたような、腑抜けた表情をしてしまうが、すぐにいけないと思い正す。
ブルックリンはベンチからゆっくりと立ち上がると、サラに向かって笑顔を見せながら、こう言葉を続ける。

「私、スターバックスコーヒー好きなんだけどさぁ、最近飽きてきたのよね。だからさ、あんたの煎れたコーヒー飲んでみたくなった。あんた、いいとこのメイドみたいだし?できる?」
「…?…はい」
「chinga(やった)!じゃあお願いね!それが報酬よ。飛びっきりのをお願いね」

ガッツポーズをブルックリンは決めると、サラの手を取って嬉しそうな顔を見せる。
つまり、これは、この言葉は。

「助けてくれるんですか?」
「当たり前よ!私もここに呼ばれてイライラしてたしね!よろしくぅー、サラ!」

ブルックリンはそう明るく言うと右手を高く上げ、手をパーに開いた。
サラはそれを見ると、そのブルックリンの大きな手目がけて、ハイタッチをするのであった。



「…て、はぁ!?なんで私もついてんのこのダッサいの!」
「と、とりあえずルールを一からまた説明しますから…」

サラは相変わらず、大変なのに限りはなさそうではあるのだが。

155天才と馬鹿はなんちゃらかんちゃら。 ◆/MTtOoYAfo:2015/05/18(月) 03:06:49 ID:MnKKOztk0

【H-1/「映画館前」プラットフォーム/一日目/深夜】

【サラ・エドワーズ@アースD】
[状態]:健康
[服装]:メイド服
[装備]:S&W M29(6/6)
[道具]:基本支給品、コスモスティック@アースM
[思考]
基本:首輪を取って、あるじ様の元へ帰る
1:ブルックリンと協力
2:いざというときは応戦しなきゃ…
[備考]
※作中の三人以外にもあったことがある人物、または平行世界の同参加者がいるかもしれません。
少なくともブルックリンのことは知らなかったようです。

【ブルックリン・トゥルージロ@アースP】
[状態]:怒り
[服装]:白衣
[装備]:サラのICレコーダー
[道具]:基本支給品、不明支給品1〜3
[思考]
基本:首輪取って、サラの煎れたコーヒーを飲む
1:研究対象(TS、両性具有など)は保護したい
2:サラと協力
[備考]
※名簿を見てません。

156名無しさん:2015/05/18(月) 03:07:21 ID:MnKKOztk0
以上です
何か指摘ございましたらぜh。

157名無しさん:2015/05/18(月) 08:28:59 ID:M4l/Yzqw0
サラの首輪の文字を間違ってますPじゃなくてDです

158名無しさん:2015/05/18(月) 09:48:54 ID:q6FGQbag0
投下乙です
ブルックリン濃いキャラしてるなww
サラも頼りになりそうだし、この二人のこれからに期待

個人的にブルックリンの大学の教授もキャラ濃そうなのが気に入った

159名無しさん:2015/05/18(月) 16:12:07 ID:.9gbuneY0
>>157
ありがとうございます。
wiki収録のときに直しておきます。
うわ、しかも序盤のアカネの音声がメモのままだ…

色々不具合あってすみません。気をつけます。

160名無しさん:2015/05/18(月) 21:54:12 ID:6qHPz.0s0
投下乙です、ブルックリンさんすげえキレッキレだww
驚いたけど機械工学しつつ性転換研究もするくらいぶっとんでるのはステータスからだもんな
しかし、何気に首輪解除を攻めれるキャラは居なかったのでこの人に頼るしか…ないのかも…w
そんな中メイド探偵サラちゃんの常識人っぷりに安堵する。強く生きて。

161 ◆5Nom8feq1g:2015/05/18(月) 21:58:04 ID:zHUdCjkE0
投下します

162彼らは幾ら叫べども、灰色世界に抗えない ◆5Nom8feq1g:2015/05/18(月) 21:58:49 ID:zHUdCjkE0
 

「ふん、怪獣か」
「……」
 
 空の頂点から無機質な声が発された。
 B-7、灰色に錆びた廃工場の頂点に、二人の男が並んで座っていた。
 もう煙を噴き上げることもない、ただ巨大さだけが残った煙突機構の頂上足場に座るのは、
 灰色の男――早乙女灰色と、口縫いの少年――麻生叫だった。

 彼らはお互いに何をするでもなく、ただ高層の風に髪を揺らしながら、正面を見据えていた。
 二人の正面遠方に広がるのは地図上では飛行場となっている場所であったが、
 今はその場所はただの火の海と施設の残骸となっていた。
 その中心には50m級の巨大怪獣が現れており、なにかの八つ当たりのように火の海を作りながら暴れている。

「見たこと、あるのか?」
「オレの世界にはあんなデカいのは流石にいなかった。だが、ああいう怪物はよく作られる。
 元は動物だったり人間だったりだ。たまに天然ものもどっかから発掘されてくるがな。
 ――だいたいは本人の意思を無視して化けさせられた上、暴れ“させられてる”哀れな生き物だ。
 あいつもそのクチだろうな。その上こんな世界に連れてこられて、可哀想なことだ」
「……あんた、誰かを可哀想だとか、思うのか。驚きだ」
「よく勘違いされるが、オレは感情を消したわけじゃない。
 むしろ、感情的な方だよ、プライベートでは。スポーツ・ゲームの勝敗に一喜一憂したりもする」

 怪獣を前にしつつも、全くトーンを替えずにクレバーに。
 灰色は隣に座る少年に顔を向けて無表情で言った。

「ただ、安全とか、現金とか、地位だとか。そういったものを守るためには、非情になるってだけだ」
「そうか。……無理してるんだな」
「生きたくもない世界で生き続けるには、そのくらいしないとダメなんだよ。……お前もそのクチだろ」
「……」
「見た瞬間に分かったぞ。お前はオレと同じだ、麻生叫。
 生きる意思がないのに、義務感と惰性で生き続けてる。オレと同じ、“灰色の生き物”なんだろう」
「……そう、かもな」
「せっかくだから、酒でも交わそうか」

 灰色が取り出したのは支給品のワインだった。
 グリ・ワイン。白ワインと赤ワインの中間にあるロゼワインよりさらに白ワインに寄った通称:灰色のワインは、
 色の無くなった世界で生き続けていた二人にはお似合いのワインだった。
   
「……俺、まだ未成年……」
「そんな法律なんかないだろ、この世界には」
「……なら、頂く」

 グラスのようなものはないので、コルクごと瓶の口を灰色が手刀で切断したあと、回し飲みする形になる。
 口が切れるかも知れないから注意しろと灰色がどやした、麻生叫は「もう切れてる」と返した。
 二人は無言でワインを飲んだ。
 リアル怪獣映画のワンシーンのような光景を見ながら、空に取り残された場所で呑むワインは、破滅的な味がした。

「……大切な奴がいたんだ」
「そうか。オレもだ」

 そして、どちらともなくぼろぼろと、煙突の中にこぼすようにして。
 鮮やかな世界を灰色へと替えてしまったその理由を、懺悔のトーンで話しはじめる。
 まずは、麻生叫から。


 【麻生叫の場合】


 “――俺の口がこうなったのは、五年前のことだ。五年前、俺はバトルロワイアルに巻き込まれた。
  平和だった俺の世界は、悪魔によって地獄に変えられた。
  林間学校に向かうはずのバスが付いたのは、安全が約束された森の中の体験施設なんかじゃなく、
  廃村を改造して作られた、バトルロワイアルをするための世界だった。”

163彼らは幾ら叫べども、灰色世界に抗えない ◆5Nom8feq1g:2015/05/18(月) 21:59:46 ID:zHUdCjkE0
 
「五年前というと、お前、まだガキだろう」

 “ああ、小学5年だった。――引率の先生が殺されて、バスガイドが悪魔の本性を現した。
  ガスで眠らされて、起きてみれば俺はひとりきりで、首には首輪が嵌ってて。
  お菓子と宿泊道具と夢が詰まってたはずのバッグは、銃とナイフが詰まった殺戮道具に変わってた。
  俺は、殺すことにした。俺には、生き残って欲しい人がいたから。”

「恋人でもいたのか? ガキのくせに?」

 “そんなんじゃない。ただの幼なじみだ。でも、聡明で大人びてて、すごいやつだった。
  ピアノが上手くて、コンクールでも賞を貰えるくらいだった。
  林間学校の後、ちょうどその年のコンクールがある予定で。あいつはそれに向けて頑張ってた。
  俺も死にたくなかったけど……生き残るならあいつだ、と俺は即座に思って、行動に移した。”

「殺したんだな、クラスメイトを」

 “ああ。
  仲良く休み時間に遊んでたやつも、特に親しくなかった女子も、平等に殺した。
  小学生の殺し合いに、本人のスペックでの絶対優位なんて存在しない。
  誰だって誰でも殺せる。
  強いて言えば俺は他の奴らより体格が少し良かったし、陸上クラブでスタミナもあった。あといい武器も貰ってた。
  素人だらけの殺し合いなら、当たらない銃より一撃で致命傷を与えられる手斧の方が絶対強いだろ。”

「まあ、そうだな。――それで、お前はなんで生き残ったんだ?
 お前が生き残らせたかったその幼なじみが、知らんところで殺されてたか?」

 “そうじゃない。幼なじみも――あいつも、俺が殺したんだ。”

「何?」

 “あいつと俺が出会った時、
  あいつは気が狂ったクラスメイトに、めちゃくちゃに犯された後だった。”

「……。なるほどな。
 極限状態なら、そして小学校だろうと高学年なら――そういう展開も、在りうるか」

 “俺は気の狂ったクラスメイトのほうに、とりあえず襲いかかった。口を大きく切られたけど、どうにか殺せた。
  そのあとあいつに、手を差し伸べようとした。あいつは首を振った。
  あいつは俺の手を握り返せなかったんだ。
  犯すときに反抗されないように、両腕を、復元できないくらいぐちゃぐちゃにされていたから。”

「……」

 “それでも。あいつは俺の知る、聡明なあいつのままでいてくれた。俺に向かって、あいつは言った。
  【私はもういい。殺してくれ、そして生き延びてくれ。嘘子ちゃんを守ってやれ――】って。”

「嘘子?」

 “妹だ。……だから俺は、あいつを殺した。
  それがあいつの望みなら、叶えなきゃいけないと思ったからだ。
  最終的にクラスの30人のうち16人殺して、俺はその殺し合いを生き残った。
  そして言われた通り、妹のために生きることにした。”

 “……急に転校せざるを得なくなったから、妹には嫌われた。 
  いまも嫌われてるし、利用すらされてる。俺もそんな妹のことはあまり好きじゃない。
  でも、それでいい。たくさんの大事なものを殺した俺が、妹に感謝されるなんて、おかしいから。
  だからこれでいいんだ。……あんまり俺に設定を盛りすぎられるのは、困るけどな。
  もし過去を調べられたりしたら、普通に生きるのが難しくなる。”

「ともかく――それで、灰色のまま生きることになった、か」
「……」
「好きでもない妹のためにでも、生きるしかない人生か……ふん、考えるだけで寒気がするな」

 だが羨ましいな、と灰色は言った。
 そしてぐび、とワインをあおった。

「だが、お前は。大切な人を自分の手で殺せたんだろう。オレは、お前が羨ましい」
「……それは、どういう意味だ?」
「言葉通りの意味だ」

164彼らは幾ら叫べども、灰色世界に抗えない ◆5Nom8feq1g:2015/05/18(月) 22:00:42 ID:zHUdCjkE0
 
 灰色は空になったワインの瓶を煙突の中に捨てた。
 
「オレはそれができなかったし、それをしてもらうことも出来なくなった。だから惰性で生きている」

 そして早乙女灰色は、
 彼がこの世に縛られることになった事件について、話しはじめた。


 【早乙女灰色の場合】
 
  
 “オレの姉さんは、早乙女鉛麻という。ヒーロー、だった。 
  日常的に悪がはびこるオレの世界にあって、いたって真っ当なヒーロー、だった。
  姉さんを尊敬していたオレが、姉さんの後を追ってヒーロー養成学校に入ったのも、自然な流れだ。
  強くて綺麗で真っ直ぐで……姉さんはオレの理想の人。だった。”

「……だった、ってことは……」

 “ああ。そうだ。姉さんは、もう死んでいる。十七年前の、雨が降る夜だった。
  ヒーロー養成学校の研修として、ヒーローのサイドキック――姉さんのお供になっていたオレは、
  姉さんと一緒にヴィランと戦っていた。”

 “強い敵ではなかったが、妙にしつこいヴィランだった。
  それに何故か、姉さんを狙うそぶりを見せていた。
  怪しいと思ったオレはそいつをふんじばろうとしたが、ミスをして、そいつを姉さんの方に逃がしてしまった。
  姉さんのほうにももう一人ヴィランが押してきていて、いくら姉さんでも限界だったのに。”

 “……オレが辿り着いたときにはもう、姉さんは瀕死だった。
  今にも死にそうな姉さんは、オレを見て悲しそうに言った。
  【ああ、残念だ――殺されるならお前に殺されたかったのに】とな。”

「……?」

 “その言葉の真意を測ることは、その当時のオレにはできなかったが、
  姉を失った悲しみが、オレを自暴自棄にした。
  オレだって、殺されるなら姉さんに殺されたいと思うくらいには、姉さんを愛していたんだ。
  オレは失意のままに、それでも成績だけは優秀に、
  アカデミーを卒業し……給料が良いという理由だけで、日本政府直属のヒーローになった。”

 “いや、まだこのころは。姉さんと同じ職業を選んだという時点では。
  まだオレの世界には、僅かな色が残っていたのかもしれないが……。
  オレはここで、姉さんの言葉の真意を知ってしまった。”

「どういう……?」

 “簡単な話だ。ちょっと考えれば分かることだ。最初に言った通り、
  オレの世界には周期的に、そして恒常的に悪が現れている。
  だがこれは普通に考えたらおかしい。お前もおかしいとは思うだろう?”

「……まぁ」

 “悪は滅びぬ、何度でも蘇る。
  もはやオレの世界の常識であり、
  ヒーロー志望も一般人も、誰も疑問を持たない、無論オレも疑問を持っていなかった事柄だが、
  普通に考えてそんなことが何十年も続くはずがない。”

 “これにはからくりが存在していたんだ。
  簡単に言ってしまえば、すべては日本政府のマッチポンプだ。”

 “オレの世界の日本政府は、ヒーローを擁して悪を討つ裏で、
  ――政府にとって都合の悪い存在を、悪に仕立て上げていたのさ。”

165彼らは幾ら叫べども、灰色世界に抗えない ◆5Nom8feq1g:2015/05/18(月) 22:02:11 ID:zHUdCjkE0
 
 “もちろん政府と関係のない悪の組織や、単発のヴィランも多くある。
  だが、いくつかの悪の組織は、政府の子会社のようなものだ。
  貧民が沢山いる町を扇動して悪の組織化させ、その町ごと潰すこともあれば、
  開発計画の立ち退き命令を拒否する家の両親を怪人化させたりなんかも、日常茶飯事だった。”
  
「……!」 

 “悪は民衆の意思が作るものだ。そしてその民衆を従える政府は、悪を作ることが出来る。
  さらに人体改造や怪人化、洗脳の技術もある以上、やりたい放題ってわけだ。 
  本人の意思を無視して化けさせられた上、暴れさせられてる哀れな生き物。
  オレがこれを可哀想だと感じる意味も、少しは分かっただろう。”

「……ああ。でもそうなると、あんたの姉さんは……」

 “十中八九、オレと同じようにこのからくりに気付いていただろうな。
  そして姉さんは、気付いたことを感づかれて、消された。
  あの夜のヴィランの不可解なそぶりと合わせて、こうとしか考えられない。”

 “姉さんの言葉の意味も、ここまで知れば簡単だ。
  オレが姉さんに憧れてヒーローを目指したから。姉さんがオレをヒーローにしたから。
  ヒーローの裏を知ってしまった姉さんは、罪悪感を感じていて。殺されるならオレにと言ったんだ。”

「……それなら」

 “復讐しないのか、だろ?”

「……」

 “無理だな。
  一人で国に刃向かうことなど出来はしない。
  それに、日本政府をぶち壊したところで、政府に関わりのない悪の組織が国を支配するだけだ。
  どのみちオレの世界には、悪が生まれる土壌が整ってしまっている。
  もっというなら、ヒーローに希望を抱き、悪を憎むことで、世界が上手く回ってしまっている。”

 “その風潮こそが悪だとオレには思えたが――もはやどうしようもない。
  オレ一人の復讐心だけでそれを全て白紙にして、それで何になるのか――何にもならない。
  オレは政府に屈することにした。知ったことを明かした上で、歯車になることを申し出た。”
 
「そして……灰色に」
 
 “ああ。自分で死のうかとも思ったこともあったがが、
  姉を殺してあげられなかったオレに、自分で死ぬような資格はない。
  それに政府に関係のない多数の悪の組織がこのサイクルを壊さぬよう、政府のヒーローは必要だ。
  オレはヒーローをただの仕事として、やることにした。灰色の生活の始まりというわけだ。”

「……」
「ハッ、話してみればこんなものだ。オレもお前も。死者と世界に呪われて今を生きてる。
 自分より大きなものに刃向かうことができずに、クソみたいな結果と理由だけを胸に、歩き続けてるんだ。
 いやそれも、もう過去形か。オレもお前も、この世界に呼ばれちまったんだからな……」
「……」
「それよりほら、見ろよ。お前が言ったとおり、
 あの怪獣もこの世界に“馴染まされて”きてるみたいだぞ」
「……あー……すごいな。ああなるのか」

 話を終えた灰色が、こちらへゆっくりと歩いてきている怪獣を指差して、自嘲気味に笑った。
 麻生叫と早乙女灰色が、
 怪獣の姿を確認しながらもその場から逃げずに会話や酒盛りを続けた理由がそこにはあった。
 
 50mはある怪獣の身体は、こちらへ進んできてるにも関わらずその見かけの大きさが変わっていない。
 つまり怪獣の身体は、縮んできていた。
 それと同時に怪獣の身体は、怪獣とはかけ離れたものへと変わってきていた。


 さらに言うならば――“ヒト化”してきていた。

166彼らは幾ら叫べども、灰色世界に抗えない ◆5Nom8feq1g:2015/05/18(月) 22:03:03 ID:zHUdCjkE0
 

 【ティアマトの場合】


 平沢茜という悪魔は、バトルロワイアルが好きだ。
 怪獣映画でもパニックホラーでもない、バトルロワイアルが好きなのだ。
 バトルロワイアルを構成するにあたって大事なのは、
 知人がいることと、極限状態であることと、そして何より誰が勝つのか読めないということ。
 そして前提条件として、“人間”が争わなければ何の意味もない。

 だから、バトルロワイアルのために造られたこの世界では、怪獣は“人間の枠”へと押し込められる。
 人間が勝てるレベルへと。首輪の力によって、強制的に姿を“替えられる”。

 麻生叫にはそれが分かっていた。
 彼は優勝者として、平沢茜のことをよく知っていたし、
 どうやらこの殺し合いが平沢茜よりさらに力をもった“平沢茜ではない平沢茜”
 によって開かれたであろうことも、当の本人から聞いていたからだ。

 怒りとヒトへの憎しみに囚われたティアマトの身体が、首輪の力で変化していく。
 原初の怪獣としてティアマトが首輪の力に抗えたのも、最初の一時間が限度だった。
 ティアマトはその50mの身体を徐々に縮めはじめ――それとともに外見も、
 ティアマトが最も憎むそれへと、変化させられていく。

 後頭部のヤギ角はそのままに、
 血の赤と本来の体色である黒が混じった長髪が頭部からバサバサと生える。
 身体を覆う体皮装甲は……胸部と股部そして腕・足の先の爪部のみを残して後退し、
 その他は褐色の人間の肌へと変わった。
 唯一立派な尻尾だけが、アースBRへの最適化前とほぼ同じ状態で残る。

 縮尺は10分の1。怪獣はいまや体長5mの“怪人”へと変貌した。
 ――無論脅威であることに変わりはないだろう。
 50mだったときのパワーがおそらくそのまま、あの小さな体に凝縮されたのだから。

 それでも、差し当たってすぐ逃げるというほどの話ではなくなった。
 突然縮小した身体に怪獣は気付くことなく、今までと同じペースで地面を踏みしめながら歩いている。
 あれではこの廃工場エリアにたどり着くのでさえ、もう数十分はかかってしまうだろう。

「さてどうする、少年。オレと一緒に、あいつを討伐するヒーローごっこでもしてみるか」
「……そもそも自分ですらする気がないものに、俺を誘わないでくれ」
「ハッ、ジョークだよジョーク」

 二人はティアマトが小さくされたのを確認し、ひとまず満足した。
 ゆるやかに立ち上がると、怪獣に背を向けて歩き出した。
 煙突を下りるための鉄製の階段を、カンカンと小気味よく降りていく。

「にしても……やれやれだ。まったくやれやれだ。
 エンマはまだ教育が完全ではない。本来ならもっと悪を断罪するだけの存在へと昇華させたのち、
 オレが悪と認められることで、オレを殺してもらうつもりだったんだが……計画を早めなければいけないとはな」
「首尾よくいけば……その辺は俺が説得する」
「ああ、頼んだぞ、少年。お互い乗った者同士、恨みっこなしで頑張ろうか」

 そもそも。
 見晴らしがよい場所から全体を俯瞰する、と言う目的でこの煙突の上で出会った二人は、
 すぐにお互いが“殺しに乗った者”であると見抜き、意気投合して雑談と呑みを交わしていたのだった。

 かたや、妹を死ぬまで守ると言う、自らに課した呪いを実行するために。
 かたや、姉の名を冠した弟子に殺されるまで死なないという、自らに課した呪いを実行するために。

 麻生叫は妹のために殺すことをすでに決意しており。
 早乙女灰色は弟子に悪と判断されるだけの所業を行うことを決意していた。
 幸いにもこの場合最後に生き残るのは麻生妹一人だけでいいため、同盟を組むに問題は無かったのだ。

 参加者名簿はあくまで候補のようだが、仮に彼らの求める二人がこの場に居なかったとしても関係はない。
 どのみち麻生叫は妹を守るために他全員を殺さなければいけないし、
 早乙女灰色もまたエンマに殺されるために他全員に殺されない――つまり他全員を殺すしかない。
 せいぜい二人が最後に殺し合わなければいけなくなるくらいだ。そして参加者が不明瞭な限りそれはあり得ない。

167彼らは幾ら叫べども、灰色世界に抗えない ◆5Nom8feq1g:2015/05/18(月) 22:04:34 ID:zHUdCjkE0
 
「……俺は北に行くよ。
 エンマちゃんって子に会ったら上手く誘導しておく。妹に会ったら、頼む」
「ならオレは東だ。
 お前の妹の特徴は聞いたし、おそらく保護は出来るだろう。もしエンマを見つけたら、“使って”いいぞ」

 別々の方向に行くことも、示し合わせたわけでもないのに確定していた。
 あの怪獣はともかくとして――麻生叫も灰色も、おそらくこの殺し合いに呼ばれた中ではそう強い方ではない。
 ならば無駄に固まるより、手分けして強者である早乙女エンマや保護目的である麻生妹を探した方が、
 双方の目的にとって有益だということが試算できたからだ。

 なにより、もとより自らの死すら試算に入れた二人である。
 一か所に固まって強者に襲撃されて全滅という流れよりは、別れたほうがなにかと都合がいい。

「それじゃあな。互いに目的が叶うといいな」
「……ああ」

 こうして灰色の男たちは、自らの呪いを終わらせるための殺し合いを開始した。
 彼らは世界に抗わない。あくまで世界の枠内で、自らのためだけに動く。
 そう、それは、世界に抗うだけの意思を、この世界に来る前から捨てていたがゆえに。


【B-7/廃工場/1日目/黎明】

【麻生叫@アースR(リアル)】
[状態]:ほろ酔い
[服装]:学生服
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜3
[思考]
基本:妹を守るために殺す
1:早乙女エンマに会ったら“利用”した上で、早乙女灰色を殺させるよう仕向ける
2:死んだらそれはそのときだ。
3:廃工場から「北」へ。

【早乙女灰色@アースH(ヒーロー)】
[状態]:灰色
[服装]:ヒーロースーツ
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜2
[思考]
基本:エンマに殺されるため、悪を行う
1:麻生嘘子だけは保護しておく
2:死んだらそれはそのときだ。
3:廃工場から「東」へ。

168彼らは幾ら叫べども、灰色世界に抗えない ◆5Nom8feq1g:2015/05/18(月) 22:05:08 ID:zHUdCjkE0
 


 夜の草原を空に向かって叫びながら。
 怪人と化した怪獣は、未だその事実を知らぬことなく、怒りに任せて歩き続ける。
 もし仮に自らが憎むヒトになってしまったことに気付くときがあったとすれば、怪獣はより怒るであろう。

 ただ、ヒト化したことによってひとつ、明らかになったことがあった。
 ――胸部装甲、そして長い髪。
 なによりヒト化した際のシルエットは、どちらかといえばそれを外から見れば、巨大な“女性”に見える。
 そう、ティアマトは、メスだったのである。
 そもそもティアマトは女神の名前だし、メスのほうが違和感はない。
 しかしこうなると、彼女がアメリカの原水爆実験によって、
 静かに眠っていた自身を叩き起こされたことで怒っているという説に、新たな仮説を加えることが出来よう。

「グルウル……グルウル……!!」

 彼女は深海で、果たして“一人”だったのだろうか?
 彼女が怒っているのは、果たして自らに対する仕打ちだけに対する怒りなのだろうか?
 ……怪獣の言葉を理解できぬ我々に、この疑問を解決するだけの技術はまだない。
 しかしもしかしたら、彼女もまた灰色の二人と同様に。
 大切なものを世界に奪われた、犠牲者なのかもしれないことだけは、ここに記しておこう。


【A-7/草原/1日目/黎明】

【ティアマト@アースM】
[状態]:無傷、怒り心頭
[服装]:裸
[装備]:無
[道具]:無
[思考]
基本:人間が憎い
1:邪魔な物は壊す
2:攻撃する奴は潰す
3:廃工場の方へ向かって破壊する
[備考]
※メスでした。
※首輪の制限によってヒトに近い姿になりました。
 身長およそ5m、ただしパワーと防御力は本来のものが凝縮された可能性があります。


※AKANE謹製首輪には、彼女の望むバトルロワイアルを成立させるための制限力が付加されています。
 人間が自らの意思で殺し合うのが見たいという平沢茜の嗜好の影響が強いようです。
 といってもよほどヒトから逸脱しない限りは発動しないし、もちろん精神に干渉することもありません。

169 ◆5Nom8feq1g:2015/05/18(月) 22:10:02 ID:zHUdCjkE0
投下終了です。
ちなみに私はヒグマロワみたいな怪物大合戦もそれはそれで好きです。
次はもう少しさくっと書いてさくっと読める感じにしたいなー

170名無しさん:2015/05/18(月) 22:33:28 ID:q6FGQbag0
投下乙です!
灰色も麻生アニも哀愁漂ってるなあ
ティアマトはでかさは消えたけど、戦闘力は変わってないのかな、まだまだ脅威だ

171名無しさん:2015/05/19(火) 01:33:35 ID:mYC4iSDQ0
うおおお!なんだこれすげえ…乙です!
この二人が殺しあい乗るってのが意外だ。乗る理由も二人ならではで雰囲気もすごくて…!
二人どうなるのかなあ…


そしてティアマト女だったのか
これはスライムちゃんに続くもんむす枠かな?(歓喜)

172 ◆8I7heVl7bs:2015/05/19(火) 19:46:07 ID:ZWnU06LA0
裏切りのクレア 真白 投下します

173裏切り同盟 ◆8I7heVl7bs:2015/05/19(火) 19:49:34 ID:ZWnU06LA0
「僥倖です。まさか『真白ソード』をこんなに早くゲットできるとは」
刀身に映る自分の顔を見ながら私はそう言いました。その顔は、口角が上がってるし、目もいつもより輝いています。
どうも野盗や暴徒の間で私は無表情な奴として認識されているみたいですが、私だって感情はありますし、表情も豊かなほうだと思っています。
ただ、笑う機会など滅多にないだけです。笑うという行為は精神が緩んだ際に発生するものですが、そんな自殺行為はしようとは思えません。精神を緩ませるなんて、何もメリットがないこと。
ん?ということは私は今、精神が緩んでいるんでしょうか。いえいえ、真白ソードを手に入れたのですから、多少安心することは仕方のないことでしょう。
刀身に映る顔も徐々に仏頂面に戻ります。

「なんだ、嬉しそうな顔もできるじゃないか」

そう言って興味深そうにクレアさんがこっちを見ています。外見だけなら気さくなおばさん、いえお姉さんといった感じですが、この人の場合、名前の前に『裏切りの』が入るらしいので、信用してはいけません。
何でも元ヒーローだそうです。ヒーローという言葉を私は初めて耳にしましたが、弱者を助け、悪を挫き、皆の笑顔のために戦う存在だそうです。頭おかしいですね。

クレアさんは元ヒーロー。今はヴィラン、悪党をしているそうです。ええ、こっちなら理解できます。しかしわざわざ悪党を名乗るとは、クレアさんは変わった人です。私は人間ですと言ってるようなものじゃないですか、それ。

とまあなんだかクレアさんを馬鹿にしたような説明になりましたが、私だって10年以上生きてる身。彼我の戦力差は理解しています。はい、クレアさんやばいです。おそらく真白ソードを使った私でも勝てないです。まあ最強を名乗るわけでもないので、そこは対して気になりませんが。別に無敵になりたいわけじゃないですし、ただ無敗でいればいいんです。

クレアさんがやばいなと思うのはどちらかというとその思想でしょうか。
私の世界では文明がほとんど滅び、人々は残された資源を求めて、あるいは刹那の快楽を求めて、日々殺し合いをしています。
私の家には色んな本、それこそ人類が衰退する前の本がたくさん置いてありましたから、私は他の人間より過去について知っています。そして、どうやらクレアさんはその過去、人類衰退前の人間だそうです。
私は正直にクレアさんに話しました。あなたの世界はいつか滅びると。何故滅びるかは私にもわかりませんが、とにかく滅びると伝えました。

最初、クレアさんは驚いたように目を見開きました。無理もありません、豊かな(きっと私の想像以上に豊かなんでしょう)生活をしている者にそういえば、誰だって驚きます。
しかし、クレアさんは目を閉じ、穏やかな顔つきになりました。
そして。

「ああ、安心した」

そう言ったのです。
意味が分かりません。過去の人間は私とは価値観が違うのでしょうか。

174裏切り同盟 ◆8I7heVl7bs:2015/05/19(火) 19:50:20 ID:ZWnU06LA0
私は何故安心したのか理由を尋ね、クレアさんは正直に話してくれました。

何でも、彼女の目標は人類を滅亡させることだそうです。

まったく意味がわかりません。クレアさんは悪党といっていましたが、なるほど、確かにこの意味不明さは悪党です。

私はもう一度、滅亡させる理由を尋ねました。クレアさんはひらひらと手を振りながら笑顔で、

「人間が嫌いなんだ、私は」

こう言いました。なんで人間が嫌いなのかは聞きませんでした。クレアさんが私とは価値観がまったく異なる生物であると分かったからです。

私の時代と比べると比較するのも馬鹿らしくなるくらい資源に恵まれ、餓死する者など滅多にいない、おじいちゃんが言っていた天国のような世界で、クレアさんは人類を滅亡させようと悪党に協力をしています。私の理解を超えた考えです。ですからもう考えません、そういうものだと受け入れましょう。

え?なぜそんな奴と一緒に話したり、行動を共にしているか、ですか?決まってます、一人より二人のほうが優勝しやすいからです。

不運にも首輪は別チームでしたが、ならばEZチームとHチーム以外のチームを皆殺した後で、2チームで決着をつければいいのです。チームが違うからといって組まない理由にはなりません、今はまだ。

ええ、私は他人を信用しません。しかし彼女は裏切りのクレア。最初から裏切ると分かっているのならば、組むことに何も躊躇いはありません。むしろ彼女が誠実のクレアだったり、潔白のクレアだったりしたら、絶対に組んでいないと重いますが。

脱出?AKANE打倒?無理です。私は私なりに一生懸命生き抜いてきましたが、気づかぬ間に拉致されて首輪を嵌められたのは初めてです。この時点でAKANEを倒すのは絶望的だと分かります。今の段階では、優勝を狙う方が生存率が高いです。
脱出できるのでしたら脱出しますが。たぶん無理でしょう。

ちなみに真白ソードはクレアさんに支給されていました。うん、何か作為めいたものを感じますが、今はあえてそれに乗りましょう。別に誰の掌の上だろうが、関係ない。生き残ればいいのですから。

というわけでクレアさんと私は今採掘場を調査しています。とりあえず別チームは見敵必殺でいくとのこと。特に異論はありません。優秀そうなら仲間にするのもありかもしませんが、二人の方が動きやすいですし、よっぽどのことがなければ殺します。

ではバトル・ロワイヤルを始めますか。スタートはずいぶんと恵まれていたので。このまま簡単に優勝できるといのですが。まあ、そうは簡単にいかないでしょう。



【A-1/採掘場/1日目/深夜】


【真白@アースEZ】
[状態]:健康
[服装]: 私服、汚れているが、それがそこはかとなくえろい
[装備]:真白ソード
[道具]:基本支給品一式、ランダムアイテム1〜3
[思考]
基本:優勝する
1:裏切りのクレアと同行。アースEZとアースH以外のチームを皆殺し
2:採掘場を調べる、基本的に見敵必殺

【裏切りのクレア@アースH】
[状態]:健康
[服装]:スーツ
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜3
[思考]
基本:優勝する
1:真白と行動。 アースEZとアースH以外のチームを皆殺し。
 2:採掘場を調べる、基本的に見敵必殺
[備考]
※詳細な行動動機は他の書き手さんにお任せします

【真白ソード】
真白の祖父、真銀がかつての文明の残骸から作った真白専用武器。これを使うことで真白の戦闘力は飛躍的に上昇するらしい。具体的な効果は未だ不明。

175 ◆8I7heVl7bs:2015/05/19(火) 19:57:58 ID:ZWnU06LA0
短いですが、投下を終了します
予約時とトリが変わっていますが、代理投下ではありません
恥ずかしい話ですが、予約時のトリップを忘れてしまって……

176: ◆nQH5zEbNKA:2015/05/20(水) 00:22:14 ID:HJdquDQE0
皆様投下乙です。
では私も

177現実の壁は破れない ◆nQH5zEbNKA:2015/05/20(水) 00:24:06 ID:HJdquDQE0

ひやりとした風が吹く深夜の住宅街。
そこに一人の少女が、手に握られたICレコーダーに耳を傾けていた。
頭に被ったカウボーイハットから飛び出るようにして真っ黒な髪が外側にはねており、耳には金色のピアスが開けてある。
首にはスカーフが巻かれていてノースリーブのレザーの革ジャンの下は黒いビキニ一枚という姿が、彼女の露出度を大きく上げていた。
スカートは膝上10cm近く短い、これもまたレザーで出来たもので、靴はやはりレザーのブーツ。
腰のところにはホルスターがつけられており、これだけで彼女はまるでカウガールのように思われた。

「いいじゃないいいじゃないこういうのっ!アタシが待ち望んでたことじゃない!」

そんなカウガール少女、不死原霧人はICレコーダーの音声を聞き終わると喜びを隠せないような素振りを見せ、その場で飛び跳ねた。
彼女はあの有名ヒーローの登竜門である国立ヒーロー養成所の2年生首席である。
そんな優等生である彼女にとって、もはや養成所の座学や実践練習は予習をせずとも簡単な物であった。
先ほど見た参加者候補の名簿の中には自分の家の居候、柳生十兵衛を除くと雨谷いのりや裏切りのクレア、更には早乙女親子(本人はグレービッチと呼んでいる)らが名を連ねている。
いつか捕まえてみたいと思っていた危険人物だ。普段の鍛錬の成果を今こそ見せるときであろう、と彼女は強く決意をしていた。
自分が普段よく使っている二丁のリボルバーが無くなってはいるものの、運良く捕縛に使えるロープは入っていた。これさえあれば、並大抵の敵ならば捕まえることができるだろう。

「んふふ、お姉さま。ご機嫌のようですわね」

そんな機嫌をよくしていた霧人の前に、いつの間にか一人の少女が立っていた。
黒のボンテージに白のマント。髪の毛はピンク色で、唇もラメを含んだ口紅で明るく見える。
顔立ちは幼いが、雰囲気からはそれを一切感じれず、むしろ見た目とは反した淫らな雰囲気を醸し出しており、そのギャップがなおさらその雰囲気を強くさせた。

「ん?誰よアンタ」
「私(わたくし)は闇ツ葉はららと申します。お姉さまは?」

エロティックな少女、はららは会釈をすると、霧人に大して聞き返す。
霧人は手に握ったロープをぶんぶんと振り回しながら、その答えを返す。

「アタシは不死原霧人。早速だけどアンタ、アタシとチーム別じゃん。殺る気?」

霧人が指していたのは、お互いにつけられた首輪の文字のことであった。
霧人の文字は先程確認していて《H》、だが目の前のはららの首輪には《MG》と書いてある。おらくあの音声案内に従うとなるとはららと霧人は敵どうしということになりうる。

霧人はそれを危惧しており、実際に闘うという場合であるならば、やられるだけではいられない。
きちんと応戦する必要があるのだ。
霧人はそれを言い終わると腰を据えて、一旦はららと距離を置く。養成所で習った臨戦態勢の実践だ。

「んふふふふ…♪殺しはしませんわ、ただ───あなたのような気の強いお姉さまを跪かせるのが、私の趣味なのですわっ!」

はららは言い終わる前に、自分の両手の掌からそれぞれ五本はあるだろうと思われる触手を出し、霧人へと向けた。
霧人は距離を置いて、回避行動が可能であったためかそれを横への緊急回避で避ける。
当たらなかったのを確認するように触手がはららの元へと、また戻っていく。

それを見ていた霧人は、余裕の表情ではららに向けて言い放つ。

「へー!いいわねえーそれ!やっぱヴィランの攻撃手段としては映えるわね触手って」
「ヴィラン…?んふ、巷では私のことをそう呼ぶのですわね…」
「そーよ、アンタらはヴィラン、そして私がヒーローなの!」

そして霧人ははららの距離を縮めながら持っていたロープを輪っかにして、それをまるで投げ輪のようにしてはららに投げる。
その速度は早く、はららもよけず、その輪の中に入ってしまう。

そしてそこから霧人が手に残っていたロープを引っ張るとはららは自身の腰のあたりから手の上を通って強く縛りつけられた。

178現実の壁は破れない ◆nQH5zEbNKA:2015/05/20(水) 00:25:00 ID:HJdquDQE0

「観念なさいヴィラン闇ツ葉はらら!この殺し合い終わらせたらアンタを刑務所にぶち込んでやるから!」

霧人は自分が憧れたヒーローのように、声高らかに声を挙げる。
これでやっと、自分も幼い頃から憧れていたヒーローに近づける。
《闇ツ葉はらら》というヴィランは有名ではないが、別にいい。実戦経験0の霧人にとってはこの結果は最高の物だろう。

そう、彼女は思った。いや、思ってしまった。

「お姉さま、油断大敵ですことよ」

はららがニヤリと笑うと縛られていた右手から五本の触手をまとめ合わせたような、太い触手が飛び出した。
霧人は手を封じなかったのはしまった、と考えたものの避けることができる速度だ。先程のような緊急回避もいらない。横に飛ぶように避ければいい。
そう思い、行動に移そうとした。だが───

(動かない!?)

正確に言うと、動かないのではない。
本来霧人の反射神経があるならば簡単によける事ができた。
判断も間に合っているはず。しかし、足が動かない。

はららの方に目をやる。片眼が紫色になり彼女から禍々しい気が発せられている。
おそらく魔術か何かを使われたのだろう。霧人はそう判断する。

そして霧人がそう判断した瞬間に、今度ははららの触手が霧人へと襲いかかる。
触手は霧人の手足を縛りつけると、キリストが磔にされたような格好にして、宙ぶらりんにした。

「さぁ、形勢逆転ですわよ、お姉さま?」

はららが縛られていたロープを触手に切らせると、ニコニコと笑って霧人を眺める。
その表情は間違いなく加虐を企もうとするものである。
霧人は失態を犯したと感じていながらも、触手をなんとか離そうともがくが、自分ひとりの力では離すことができない。それほどまでの強い力であった。

「何を…!こんなもんで私を押さえつけたつもり?舐めんじゃないわよ!」
「んふ、いつまで耐えきれるか見ものですわね♪」

霧人が絞り出すように言った言葉を待ってましたというように、はららは残っていた左手の触手を霧人へと向けた。
しかし、その行き先は霧人の首や腹といった急所ではなく、その薄着で大きく主張された、豊満な乳房であった。

「な、やめ───んあっ…!」
「んふふ、薄着で助かりましたわ、破く必要もないんですもの」

179現実の壁は破れない ◆nQH5zEbNKA:2015/05/20(水) 00:25:34 ID:HJdquDQE0

触手は霧人の乳房を縛るように、かつ揉みしだくように絡みつく。
前述の通り霧人はレザージャケットの下は黒いビキニ一枚だ。剥ぎ取らずとも、触手による《攻撃》によって快感を与えることははららにとって簡単である。
ここで、快楽を倍増させる魔法を触手にかけた。触手の表面に滑り(ぬめり)ができて、尚更その《攻撃》は加速していく。

「ん、んんんんっ!!あっ…!あっあああっ!!」
「快楽には、人間は逆らえないのですわ。男だろうと女だろうと。赤ん坊でも老人でも。誰だろうと逆らえないのですわ」

くすり、と笑うはらら。
やがてそのまま触手が胸だけでなく霧人の体の様々なところを《攻撃》していると、2、3回ほど霧人は跳ねて、やがて全身の気が抜けたようになっていた。
全身からは汗が吹き出ており、目も虚ろになっていた。

「…ふぅーん。早いのですわね♪」
「…はぁ、はぁ…くっ…」

荒い息を押さえながら、霧人を楽しそうに眺めるはららを、霧人は睨みつける。
はららはそれを見て興奮しているのか更に息を荒らげながら、その触手の力を強くする。
やがて触手の一本が霧人の口の中へと入れられる。
霧人は抗う事も出来ずそれを受け容れる。やがて触手が自らの先端部分を霧人の口内で上下させる。
霧人は喉奥まで入れられて何度も吐きそうになるものの耐える。

やがて、口から触手が引き抜かれたのを確認すると、霧人は咳き込みながらも、はららに言い放つ。

「…げほっ!げほっ…はぁ、はぁ…はぁ…アタシは…負けない!アンタなんかに…負けない!」

息苦しさからか、恐怖からか霧人の目には涙が貯まる。
しかしなんとかしてそれを流すまいと彼女は変わらずに霧人は睨みつける。
はららからすれば、ここまで快楽を倍増させる触手に《攻撃》されて耐えきれる人物はろくに居ないというのに、よくぞ耐えているという印象。
だが、はららとしては早く彼女を自分の方へと堕ちてほしい。それにはまず、彼女の尊厳を、自尊心を更に打ち砕く必要がある。

「んふふ…♪震えてるわよお姉さま♪ただいつまで言ってられるかしら?」

はららの言うとおり、霧人は震えていた。
霧人に実戦経験はない。ゆえに、いつもヴィラン達を倒す事前提で勝負を仮定していた。
しかし、今自分は体の自由を奪われ、こうやって凌辱を受けている。

しかし、誇り高き不死原一族の代表として、ヒーロー養成所首席としてここで屈してはいけない、と。
襲い来る快感と、恐怖に耐えながらも、最後にわずかながら残っていた《勇気》から、霧人はなんとか屈せずに済んだ。

だが、はららはここで容赦をするようなこともしない。はららが舌なめずりをした瞬間、霧人の口内で《攻撃》していた触手の一本が、霧人の股関節へと這い寄った。
ゆっくりと、太ももを伝っていき触手特有の滑りで霧人へ更なる快楽を与えながら、やがて触手が迫ったのは、霧人の短いスカートの下に履かれていた真っ黒の紐下着。

「!?やめっ、そこはっ!」
「あらあ〜?男性経験無いのですわねぇ。そんな格好にしては意外ですわぁ」

霧人が今度こそ我慢が出来なくなり、両目から涙を流しながら、必死に触手の侵入を防ごうと足を組もうとする。
だがが、はららは嬉しそうに触手に命令を出すと、それを防ぐように体を磔の状態から大の字にする。
やがて、触手は霧人の下着の薄い布をどけるように、彼女の《ナカ》に侵入していこうと、徐々に迫っていく。
霧人は声にならない声を出しながら、必死に体をじたばたさせて、少しでも挿入を防ごうとするが、押さえつけられている触手が強くてピクリとも動かない。
そして、ついに霧人の《入り口》近くに、触手の先端が触れた。

「やめ、やめて!やめ…やめてえええええええっっ!」





───パンっ
唐突な銃声だった。その音がした方を見ると、一人のリクルートスーツを着た短髪の女性が高級そうな車の運転席の窓から体を出して、こちらに拳銃を構えていた。
恐らく向けられたのははららだったのだろう。縛りつけていた右手の触手の一本が狙撃されたことに驚き、すべての触手の力が緩む。
それを女性は見逃さない。霧人の近くへと車を走らせると、窓から叫ぶ。

「早く乗って!いいから早く!」

霧人は落ちていた自分のディパックを持ち、後方座席に飛び乗った。
それを確認するやいなや、車は大きな音を立てて走り出すのであった。

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180現実の壁は破れない ◆nQH5zEbNKA:2015/05/20(水) 00:26:05 ID:HJdquDQE0

「あらぁ、逃がしちゃったぁ」

一人、残されたはららは自分の加虐を邪魔されたに関わらず、妙にご機嫌であった。
彼女の持つ力は大きく分けて三つ。
一つは触手を操ること。もう一つは相手の身体能力を下げる魔法。そしてもう一つは死者の怨念や恨みを元にしてアクのマスコットを作り上げることである。
それをするには彼女の唾を死者に飲ませること、つまりキスをすることが必要になる。

能力の点で、はららはひとつ疑問があった。
夢野セレナや高村和花。久澄アリアに立花道雪といった正義の魔法少女たちの闘いではもっと多くの触手を出せていたはずであるし、なにより身体能力を下げる魔法も、かけてしまえば無力化させれるほどの効果があるはずだが、先程の霧人の行動を見ると永続していない。
更に普段はない体力の消耗も感じられる。
この様子だとあの主催に制限でもされてしまったのだろう。マスコットを作る際にも何か制限があるかもしれない。

「んふ、まあいいですわぁ。楽しみですわこのイベント。殺し合う気はさらさら無いけれど、私は私の好きなようにやらせてもらうこと致しましょう♪」

しかし、彼女はそんなこと気にはしない。快楽と堕落を愛する彼女が求めるのは多くの人間が快楽に溺れ、堕ちていく姿。
強く正義の心を持った人々が自分のところへ堕ちていく姿をただ見たいだけだ。
あの魔法少女たちも多く参加しているようであるし、先程の霧人のようにまだ見ない《加虐対象》がいるはずだ。

「んふ、んふふふふ♪んふふふふふっ♪………はぁぁぁんっ♪♪♪」

悪の魔法少女は、高らかに、淫らに夜にて笑う。


---------------------------------------------------

打って変わって先程の車内。
スーツを着た巨乳の女性、西崎詩織は慣れない左ハンドルに苦戦しながらも夜道を駆け抜ける。
まさか自分に支給されたのが自動小銃と車だとは思わず驚いたが、先程の状況を考えて大当たりであったなと考えていた。

ルームミラーを見て、後部座席の少女に目をやる。
右端に小さく縮こまるようにして、虚ろな瞳で一点を見つめている。

(無理もないか…あんなことされてたんだものね…)

見たところ触手?のようなもので色々淫らなことをされていたようであったし、まだ年端もない若い女の子があんな目にあえばそうなるに決まっている。
警察という職業柄、そういう場面は多く見てきてはいるが、そのたびに同じ女性として怒りを感じている。
ただまずはその怒りをぶつけるよりも、この女の子の精神的ケアが必要だ。

(どこか休める場所を探さないと…)

181現実の壁は破れない ◆nQH5zEbNKA:2015/05/20(水) 00:26:43 ID:HJdquDQE0

助手席に置いてある地図を見る。すぐ近くには運良く病院がある。
ここに出向いて薬や包帯などの医療品を回収するがてら、この少女の話を聞くのが今の段階ではいいだろう。
車の走らせている方向も会っているし、丁度いい。

「…ほんとにどうなってんのよ…旗も消えてるし…何が起きてるの?」

自分のいた日常に突如発生した《旗》。あの胡散臭い探偵黒田翔琉に頼まれ情報をネットで集めていたところを、呼び寄せられた。
迷惑な話であるが、いま自分にできることはこれを開いた主催を捕まえること。そして、《旗》との関連性を探ることだ。
もし、この場所に黒田翔琉が呼ばれているならば、彼も同じように《旗》との関連性を調べるはず。
普段は迷惑ごとばかり押しつけてくる男だが、こういう窮地では頼りになる、はずの男だ。
夜道の運転は慣れないが、今ばかりは仕方ない。あの男と合流を目指そう。

「…助けて、助けてサムライ…」

一方の霧人は初めての《支配される恐怖》に怯えながら、絞り出されるように、居候の柳生十兵衛の呼び名を呼んだ。
名簿の中に乗っていた、彼女にとって唯一実際の面識がある人物。
普段は喧嘩してばかりで面倒事を押し付けて、それでよく叱られて面倒くさい存在と思っていた。が、恐怖心を植えつけられた霧人にとって、今は無性に、彼に会いたかった。

───おい霧人!お前さんまたてぃっしゅをポケットに入れたまま洗濯しただろ!
───うるさいわね!アンタこそ着物何着持ってんのよスーツとか着なさいよ!

いつも通り喧嘩して。

───今日はお前さんの好きな《おむらいす》だぞっと…おい!先に手洗ってきやがれ!
───いいじゃない早く食べるわよ。つかアンタこれ誰に習ったの?

いつも通りアイツの作ったご飯を食べて。

───まーた灰色女(グレービッチ)!イライラするわアイツら!でしょ!サムライ!
───あー、そうたなぁー。それよりイライラするのは分かるが俺を殴るのはやめてくんねぇかな?

いつも通り有名なヒーローの悪口を聞いてもらえれば。
少しでもこの恐怖心を薄めてもらえるはずだ、と信じたくて。

「…早く、助けて…!」

そんな小さな霧人の言葉に気づいたものの、詩織は何も触れずにアクセルを踏み直す。
やがて夜の道を、一台の真っ黒な車が走り抜けていった。
【F-2/町/1日目/深夜】

【闇ツ葉はらら@アースMG】
[状態]:快感、疲労(極少)
[服装]:ボンテージとマント
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品1~3
[思考]
基本:《強い存在》を快楽や様々な方法を使い堕落させる
1:霧人お姉さまはまた次の機会ですわね♪
2:魔法少女達を狙う
3:
[備考]
※魔法の効果が大きくダウンしており、使用には体力をやや消耗します。
また触手の数は右手左手それぞれ五本ずつまでです。

【不死原霧人@アースH】
[状態]:ショック、恐怖
[服装]:カウガール、やや乱れ
[装備]:ロープ@アースR
[道具]:基本支給品、不明支給品1~2
[思考]
基本:この殺し合いを終わらせる
1:サムライ(柳生十兵衛)に会いたい
2:闇ツ葉はららへの恐怖
[備考]
※名簿は確認しています。

【西崎詩織@アースD】
[状態]:やや動揺
[服装]:リクルートスーツ
[装備]:ジェリコ941(16 /16)@アースR、ジェリコ941の弾《32/32》スパイダー・コルサ@アースA
[道具]:基本支給品
[思考]
基本:困ってる人を助ける
1:黒田翔琉との合流を目指す
2:病院へ行く
[備考]



【スパイダー・コルサ】
イタリアの車会社、アルファロメオ社のスパイダーコルサ。
ムッソリーニの愛車。
【ジェリコ941】
イタリアのタンフォリオ社の技術を供与されたイスラエルのIMI社が開発した自動拳銃。警察機関の装備として有名。デザートイーグルに似てるので《ベビーイーグル》と呼ばれてる。
【ロープ】
ただのロープ。

182 ◆nQH5zEbNKA:2015/05/20(水) 00:29:06 ID:HJdquDQE0
以上です
なるべく直接的な表現は避けたつもりです。あと遅れてすみませんでした。

感想
>>175
うわあ、なんか強い二人が組んじゃった。
近くにいるのは光秀とルーズベルト…これはバトルになりそう。
ていうか、あれ嘘子ちゃんこれやばくね?

トリのことはお気になさらずー

183名無しさん:2015/05/20(水) 08:34:42 ID:JHe5XPkE0
投下乙です!
……ふぅ
詩織ナイスプレー、なんとか乙女の純潔は守れました

やっぱり触手責めできる女の子は大事ですね、女の子が多いこのロワだからこそ、夢が広がります
気に入ったシーンは触手責めの描写と、気が強かった霧人ちゃんがすっかり弱気になっているところですね
まあ、序盤のノリだと強マーダーにやられそうな感じなので、今のほうが生き残りやすくなったのかな?

184名無しさん:2015/05/21(木) 21:45:58 ID:SjBLuJM.0
乙です
>裏切り同盟
真白ちゃんかわええ。かわええ
汚れているが、それがそこはかとなくえろい私服もいいよね
裏切りのクレアもなかなかぶっ飛んだ思想だけど潔くてアリだな…!

>現実の壁は破れない
し、深夜アニメどころかエロアニメの世界からやってきただろこの魔法少女っ…!?
……たいへん楽しませて頂きました。やったぜ。やはり触手は正義
ミストちゃんを颯爽と助け出す詩織ちゃんかっけえ

185 ◆8w1Dkva65Y:2015/05/22(金) 00:23:52 ID:W.Ry2hDY0
投下します

186世界の座標軸からみえるのは ◆8w1Dkva65Y:2015/05/22(金) 00:24:29 ID:W.Ry2hDY0

(…なんだこれは)

『参加者候補リスト』を眺めてから俺、レイ・ジョーンズはそう考えた。
最後の記憶は誰もいない廃屋で1人寝たところまでで途切れている。おそらくそのあとに連れてこられたのだろう。
まったくただでさえ少ない人類で殺し合うだなんて馬鹿げている。それより俺以外に人類が生き残っていたことにも驚きではあるが、どうもこのリストはおかしい。
ルーズベルト大統領にムッソリーニ、ヒトラーという偉人たちが名を連ねている。おそらく追い込まれた状況でよく現れるサイコパスだろうが、それよりも気になるのが一人、いた。

(マグワイヤー巡査…?彼は俺が殺したハズじゃ…)

心優しかった小太りの警官、マグワイヤーさん。彼の勇気にはたびたび救ってもらえたし、彼がいたからこそ俺は生きている。
だが、彼は死んだはずだ。自分の娘を俺に託し、アンデッドと化して、死んだはず。

「…まさか2回目のアンデッド化か?」

マグワイヤーさんが死んだあと、彼はパーフェクトウイルスというウイルスをある製薬会社に打ち込まれ、モンスターと化した。
彼の力は強大なもので、化物に相応しかった。だが優しい心は消えてはいなかった。
「わたしを、ころせ、じょーんず、くん」
そう聞こえた。いや幻聴かもしれないがそう聞こえたんだ。
俺は一発だけあったRPG-7をマグワイヤーさんに撃って、彼だったモノは、死んでいった。はずだ。

「…クレイジーだ」

マグワイヤーさんを2回生き返らせて何になる。彼はもう苦しんだはずだ。もういいじゃないか。
もしこの名簿が事実であるならば俺は、あのAKANEを許さない。いや、許せない。
運悪く俺に与えられた武器はスペツナズナイフ。まあ当たりか。もう一つは小説と…仮死薬。使えるかもしれないが、とりあえずは奥にしまおう。

あぁそれとマグワイヤーさん以外にも知り合いが多くいた。中でも気をつけるべきは「マシロ」という少女だ。
実際に会ってないがマグワイヤーさん曰く最高にヤバイ奴らしく、生きるためならば人を殺すのも躊躇しないというサイコパス野郎だ。
もしこいつが居たらヤバそうだ。参加してないことを祈る。

話を戻す。
俺が居るのは地図によるとG-7。坂道だ。
普通の人間ならへばるだろうが、あのアウトブレイクを今日まで生き残った俺からしたらランニング程度で登れる。
やがて登ると、目の前に女が立っていた。東洋人のようだ。チャイニーズかジャパニーズかコリアンか?またはヴァイタミンか?まったくあのへんの顔は見分けがつかないぜ。

「hold!」

俺は大きく、ゆっくりとスペツナズナイフを構えながら女に言った。
もし逃げられてもスペツナズナイフていうのは優秀で、刃の部分を噴出できるようになっているから、それで足止めをすればいいだけの話だ。
アンデッドどもには足止めも糞もなかったが、人間相手なら好都合。

187世界の座標軸からみえるのは ◆8w1Dkva65Y:2015/05/22(金) 00:24:54 ID:W.Ry2hDY0

「手を挙げてくれ。君に敵意がないかどうかを確認させてほしい」

一般人ならこんなこと申し訳ないから、敵意がないことを伝えておく。
通過儀式のようなものである、ということを付け足しておいた。
だがどうも目の前の女は俺を見ても何も思わない。普通は状況が状況だし、アウトブレイク発生当初の不良たちのように反撃でもするものかと思っていたが違うようだ。

「きゃー。初対面の人にナイフ向けるなんてこわーい」

向けられるとは思わないような声色。ケラケラと笑いながら女は俺から視線をそらす。
こういうのに慣れているのだろうか、いや慣れるはずだろうが普通は慌てる。俺でも逆の立場なら慌てる。
なぜ彼女は慌てないのだろう。いや、ここはそれを置いておこう。

「すまない、だが君もあんな地獄を見てきたなら分かるだろうが…俺も約一年ぶりに会った人間だ。もしかしたらアンデッドかもしれない」
「アンデッド?…あぁ。あなた『私と違う』のか」
「殺し合う気がないというならこっちに来るんだ。あの主催は俺が倒す。君は何処か安全な場所に案内をしよう」

地図によると、この近くには…道場?というところがある。そこにでも向かい他の対抗する者たちに彼女を保護してもらおう。
そして仲間を集め、主催を倒す。そういったシナリオは出来ている。大丈夫だ。計画通り行くはずだ。

「一応聞くけどさ、あなた名前は?」
「レイ・ジョーンズだ。SWAT隊員なんだがなんせSWATは壊滅してしまってね。元、と言った方がいいかもしれないな」
「ふーん。私は平沢茜。よろしくねー。ジョーンズさん。あなたに色々聞きたいことがあるんだけど、いい?」
「…まあこういう場だしな、大丈夫だ」

女、いや茜は小柄な体の背伸びを伸ばしながら、まるで普通のように、息抜きをするように俺に疑問を投げかける。

「私日本人なんだけどさ、なんで言葉通じるの?」
「…!?そ、そういえば…」

…だった。彼女は日本人、らしいのだがそれは、どうでもいい。
なんで、茜と俺は喋れてるんだ?日本が学校で英語を習っているというとは知っているが、俺の西海岸訛りの英語を聞き取れて、簡単にすらすらと会話できる日本人なんてなかなかいないぞ。

「おかしいと思ったのよねー。私、大学生だけど日本の英語教育はスピーキングとリスニングに力入れてないから外人来た時焦ったけど流暢な日本語話し始めるから驚いちゃった」

…共用語はお互い違うし、日本人とも行動を共にしたが言語が通じず苦労した思い出がある。
いったいどうなっている?茜は考える俺を差し置いて言葉を続けていく。

「私の予想なんだけどさ、多分変換機みたいなのが勝手に作動されてるかなんなのかなと」
「だ、だがそれならばまず君と会話した時に気づくだろう?」
「誰も気づくわけないよ。皆そう思わないようになってるから」

…なっている?
茜はあたかも分かりきっているかのように口を開いた。この短時間でそこまで考察をしたのか?いやそれは無理だ。情報が足りていないようであるし、茜もおそらく最初にあった人間は俺のはずだ。
茜の口は止まる兆しがない。次にゆっくりと、俺の首を指さした。

188世界の座標軸からみえるのは ◆8w1Dkva65Y:2015/05/22(金) 00:25:25 ID:W.Ry2hDY0

…なっている?
茜はあたかも分かりきっているかのように口を開いた。この短時間でそこまで考察をしたのか?いやそれは無理だ。情報が足りていないようであるし、茜もおそらく最初にあった人間は俺のはずだ。
茜の口は止まる兆しがない。次にゆっくりと、俺の首を指さした。

放送でも言っていた『首輪』。これがあるから自由を奪われてしまっていて、更にいくつかのチームに分けられている。という。
悪趣味なもんだが、これがどうしたのだろう。俺は茜の言葉に耳を傾ける。

「首輪。なんでジョーンズさんの爆発しないの?」
「…!」
「反抗したら殺すって言ってたしねー」

思い出した。俺は「主催を倒す」と口走ったはずだ。
もしあの音声通りであるなら俺は主催に反抗され首輪を爆発されたはず。一体、どうやって俺たちが反抗すると見破るのだろう。首輪に盗聴機能かなにかがついてるのかもしれないが、それならば殺されているはず。

「…じゃあ、なぜ俺は死なない」
「主催の見落としか気まぐれかまたは───私達じゃ勝てない戦力を持っているか」
「娯楽目的か?」
「さぁね。もしかしたらそういう一面もあるだろうけど、どうもそれだけじゃないみたいねー」

…不思議な子だ。
まるで体験したかのように、主催者側のようにスラスラと答えている。
そういえばあの音声のアカネと茜は名前が同じだ。
何か関係があるのか?主催者側から送り込まれた存在か?ならばこうやって質問に答えず俺を殺しにかかるだろう。
更に茜の肉体は貧弱で、腕も足も細い。俺を殺すほどの力はないだろう。
そんな細い体の茜は顔に苛立ちを見せながら、崖の向こうの海を振り向いて見ながら、言葉をもらした。

「…完全に私のやり方じゃないの」

何処かちらりと写った表情からは苦虫を噛み潰したような顔に思われた。
そんな茜の言葉も気になるが、今はそれよりも。茜に聞きたいことか多すぎる。
まとめる暇もない。思った事を頭の中の検閲を通さず聞きまくる。

「私の…?あのアカネと君に何か関係が?名前も一緒だ。君はこの殺し合いの真意を知っているのか?」
「すとーっぷ。いきなりたくさん聞かれても困るなぁ。おねーさん困っちゃう」

…君よりも俺のが年上なんだが。
と言いかけるが堪える。茜はまた最初のようにケラケラと笑い、俺へと思い出したような素振りを見せた。
読めないが、この少女の話を聞く必要がある。彼女は非力であるかもしれないが、『弱者』ではなさそうだ。

「大丈夫、何もないから。あ、質問の答えだけど。私は乗る気なんてないから」
「…話をもっと聞きたい。俺に着いてきてくれないか」

茜は俺の言葉に対し、また唐突に黙りこむ。
やがて数秒の間。俺はどこか変な間が気になり、茜を尋ねた。

「…どうした?」
「なんでもない。じゃ、行こうよー」

そう茜は言うと、今度は俺を置いていくかのように俺の右隣を通りすぎていく。
イマイチついていけてない俺を差し置いて。彼女は歩みを進めていく。怖いものなど何もないように。

「…彼女が真相を掴む鍵かもしれないな」

俺は後ろから、歩みをすたすたとはやめる彼女に追いつくために、駆け出すのだった。
─────────────

「やっぱりそういうことするか、『私』」

…私だって腹が立つことはある。
よりにもよって選ばれたのが私だなんて。存在は認識していた『もうひとりの私』。こんなことまでするとは思ってなかたなあー。
予想はなんとなくついていた。なんでって?分かってよ。
私は『悪魔(イレギュラー)』。本来あんな平凡な世界に居る人じゃないんだって。

189世界の座標軸からみえるのは ◆8w1Dkva65Y:2015/05/22(金) 00:26:03 ID:W.Ry2hDY0
だからさあ、なんとなくだけど分かる。他の世界軸の存在が。こういうと、他の同級生たちはドン引きするだろうから言わないんだけど。

「私を殺すのは私。人を見下すのも私。『私じゃない私』は黙ってろって話」

名簿には駆君と叫君がいた。あと叫君の妹も。まあ、叫君呼ぶなら呼ぶよね。その方が楽しそうだし。ほんとはそういうことしたかったけどさ。叫君の頼みもあるし出来なかった。
まるでそういう、私の本質も見破ってるかのような参加者候補。

…舐めてる。

「…私は、あなたの椅子に座ってみせる。どんな殺し合いの場でも頂点は私だ。そこんところ分かっておいてよ───AKANE」

【H-7/崖/一日目/深夜】

【平沢茜@アースR】
[状態]:強気
[服装]:普通の服
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品1〜3
[思考]
基本:主催を倒し、自らがこの殺し合いの主催になる
1:AKANEの元へ行く
2:ジョーンズには守ってもらいたい
3:叫、駆、嘘子の動向が気になる
[備考]※名簿は見てます

【レイ・ジョーンズ@アースEZ】
[状態]:困惑
[服装]:ボロボロのスワット隊員服
[装備]:スペツナズナイフ×4@アースEZ、小説『黒田翔流は動かない』@アースR、仮死薬@アースR
[道具]:基本支給品
[思考]
基本:主催を倒す
1:一般人は保護
2:茜の話を尋ねる
3:マシロ、マグワイヤーが気になる
[備考]

以上です。遅れて申し訳ありません。

190名無しさん:2015/05/22(金) 09:44:22 ID:o2QOZ58o0
投下乙です

レイと茜が合流しましたか
レイさん殺し合いに巻き込まれる前から苦労してるなあ……
でも序盤から真白を危険人物と認識できてるのは利点ですね

茜を『悪魔(イレギュラー)』と定義したのは上手いなあと思います
確かに彼女の存在アースRで異彩を放ってますしね

191 ◆laf9FMw4wE:2015/05/22(金) 20:25:12 ID:K0GQ/Tn60
投下します

192日輪纏いしヒーローと二人の元いじめられっ子 ◆laf9FMw4wE:2015/05/22(金) 20:25:50 ID:K0GQ/Tn60
「――――なんつーか、現実味のないリストだな」

学校の生徒会室。
優美な黒髪を腰まで伸ばし、女子制服を着た男の娘――愛島ツバキはデイパックから取り出した参加者候補リストを手にして苦笑する。
自分の幼馴染である大空蓮をはじめとする同じ学校の生徒は、ICプレイヤーから説明を受けた際、リストに載っているだろうと予想していた。
これはチーム戦だ。何らかの関連性がある者がいても可笑しくない――というよりも一定の法則に従ってチームを振り分けているのなら、最低一人は知り合いが居て当然だと思う。

問題は他の参加者である。

「この偉人の数々――歴史の教科書か何かかよっ」

戦国時代の織田信長、徳川家康、豊臣秀吉からナチスのアドルフ・ヒトラーやラインハルト・ハイドリヒまで。
リストには様々な偉人の名前が書き連ねられているのだから、これはもう苦笑するしかない。
しかもフランクリン・ルーズベルトに至っては元大統領である。武将やナチスはギリギリ理解出来るとして、大統領まで巻き込もうとしている意味が解らない。

「それにどうして、架空の存在――ヒーローやその関係者が載ってるんだよ。俺様、可笑しすぎて笑っちまうぜ」

リストに載っている名前があまりにも可笑しくて、くははっ!と大袈裟に笑う。
超刃セイバーZなど有名キャラからビリー・ザ・キッド、ツタンカーメンなどマニアックなものから、更には打ち切り作品の主人公、結城陽太まで。
主催者は余程の特撮好きなのか、それとも偶然にも同姓同名の人物が多かったのか。
いや――冷静に考えて後者は有り得ないだろう。色々とおかしいリスト内でも一際目立つ、超刃セイバーZ(城島リョウ)の字がそれを示している。
城島リョウだけなら兎も角として、超刃セイバーZ(城島リョウ)なんてご丁寧に書いている時点で同姓同名の別人という線は消えるハズだ。

「まあでも――俺様的には、なかなか面白いリストだと思うよん。こんな状況じゃなけりゃ、今すぐ会って握手でもしてやりたいモンだが――」

本当にヒーローたちが実在して、会うことが出来るのならその手の番組が大好きなツバキにとっては楽園である。
歴史上の人物やヒーローの名前を大袈裟に笑い飛ばして――大空蓮の名前を再度確認。

「――やっぱりお前が一番気になっちまう辺り、俺様もまだまだってか。なあ蓮、お前ならこんな時、どんな風に動くよ」

果たして彼は本当に参加しているのだろうか?
もしも彼が参加しているなら、どのように行動しているのだろうか?
なんて一瞬だけ疑問が思い浮かんだが――。

「いや――そんなこと考える必要もなかったな。あいつは現代のヒーローだ。たとえ誰が反対しても、嘲笑ってもっ! ―――少なくとも俺様はそう信じてる。
 だから、ま――学校の生徒や俺様の為に、ヒーローらしく世界観測管理システムAKANEと戦うことを選ぶんだろうな」

どうしようもなくバカで、学校でも体育以外の成績が悪くて、だけど誰よりも頼れる幼馴染。
虐められていたツバキを助けて、様々な楽しみを教えてくれた大切な友人。
そしてどんな相手にも果敢に挑み、被害者生徒に手を伸ばす優しい生徒会長。

ツバキが好意を寄せる男、大空蓮はそんな人物だ。

「てことで、俺様が蓮の心配をする必要なんてなっしんっ!
 あいつはあいつのやり方で、俺様は俺様のやり方で――これまでもそうやって、トラブル解決してきたんだ。だから俺はいつも通りお前を信じてやるよ、蓮。
 そんなこんなでツバキちゃんは方針やら覚悟やらなんやら決めたワケなんだけどよ――――そこでコソコソしてるあんたはどうなんだ?」

左手の指を銃のように折り曲げて、大きめの植木鉢へ向ける。
それは一見、何の牽制にもならないただのお遊びのようだが、同時に相手の存在を察知したと伝えるジェスチャーでもあった。
背後から感じる気配については、この部屋についた頃から気付いている。相手から勝手に出てくると踏んでいつでもデイパックの銃を早撃ち出来る準備はしていたのだが――それでも出てこないのだから、こうして合図を送るしかない。
無論、こうしている今も右手はいつでも銃を取り出せるように万全の準備はしてある。これでも警戒心は強い方だ。

「あ――すまねえ、悪気はなかったんだ。ただ何かキミの言ってることが気になって……って、そんなに驚いた顔してどうしたんだ?」
「気配がしたから誰かと思ってみれば――まさかあの結城陽太がお出ましだなんてな。俺様驚いちまって軽くちびりそうだぜ、うひゃひゃっ」
「へ? 俺ってもしかして有名人?」
「序章で打ち切られた伝説の特撮として有名だぜっ、打ち切りマン!」
「ん? 序章で打ち切られたって、なんのことだ?」
「サンライト」

193日輪纏いしヒーローと二人の元いじめられっ子 ◆laf9FMw4wE:2015/05/22(金) 20:26:15 ID:K0GQ/Tn60
「それは俺が師匠から貰った名前だ。今はまだ変身出来ないけど、いつか変身出来た時はそう名乗れとか――ってそれはいいや。
 そんなことより、いったいなにがどうなってんだ? 伝説の特撮なんて言われても――あっ、一つ心当たりがあったな」
「心当たり?」
「実は俺、一度だけ世界を移動してんだ。いや、本当は移動というか勝手に連れ去られたんだけど――その時に、似たようなことを言ってる人がいたんだ。
 言われた自分でもよくわかんねェけど、俺はヒーロー番組の主役で一部から人気だから是非アイドルになってくれって――たしか名刺にプロデュース仮面とか書いてあったな」
「ハッ、よりによってあの不審者かよっ!
 あいつは何を考えてあんな変態丸出しのカッコしてるのか理解不能だけど、よく不審者だとか変人としてネットに目撃情報のってるよん」

プロデュース仮面――ヒーローとはまた違う、如何にも怪しげな仮面を被ったスーツ姿の男は、ツバキの世界でもある意味では有名人だ。
神出鬼没でその素性すら知られていないが、第一線で活躍している人気アイドルは実は彼がプロデュースしているだとか、彼にプロデュースされたアイドルは必ず成功するだとか――様々な噂が飛び交う謎の人物である。
何故かある日を境に全く姿を見掛けなくなり、一種のネットアイドルと化していた彼を多くの者が捜索しているが――それでも未だに見つかっていない謎の多い存在である。

(陽太はいつの間にか別の世界に連れ去られて、何故かそこにはプロデュース仮面が存在した。
 そしてプロデュース仮面がいた世界――つまり俺様の世界でサンライトが放送していても、陽太が居た世界ではそんな番組は存在しなかった――ねえ)

俄には信じ難い事象だが、こうして自分もいつの間にか見知らぬ場所に連れ去られているのだから、有り得ないと断定することは出来ない。
試しにじっくりと陽太の瞳を覗きこむが――成る程、彼に嘘を吐いている様子ではない。何せ目の前に佇む陽太の瞳は、ツバキの信ずるヒーロー達と何ら変わらないのだ。これはもう、納得するしかないだろう。

「それで世界を移動? 連れ去られた? まーそんな言い方なんてどーでもいいけど、その世界はどうなってた?」
「見たこともねェ施設や建物の中に、俺の知ってる場所が移されたみたいな感じだった。
 いや自分でも何を言ってるのかわかんねェけど、兎に角本当にそういう場所だとしか言い様がねェんだっ!」

「はぁん。そりゃ流石の俺様でもお手上げだぜ。とりあえず病院行ってこいビョーイン」
「なにおう」
「ま――でも参考にはなったよん。なあ、その世界に住んでいたお前の知り合いとかリストに載ってるか?」
「風祭はやて、織田信長、スライムちゃん、プロデュース仮面――ってはやてと信長はともかくスライムちゃんやプロデュース仮面まで巻き込まれてる可能性があるのか!?」
「今更初めてリスト見たのかよっ! 俺様がくる前はナニしてたんだっ!?」
「スタート地点がこの植木鉢だったんだ、仕方ねェだろっ!」
「完全にナメられてんな、打ち切りくん」
「なにおう!」
「はい、本日二回目のなにおういただきましたー。ぱちぱちぱちぱち、はい拍手〜」

ぱちぱちぱち――大袈裟に盛大な拍手で陽太を罵倒する。
学校では猫を被ることもあったが、実際のツバキはそこまで優等生タイプというワケでもない。
というよりも蓮や少年漫画、その他諸々の影響。そしていつまでも蓮に頼りっぱなしになりたくはない、蓮の力になりたいという精神が、元いじめられっ子の彼をこんな性格にしてしまったのだ。

「それで、どうする? 俺様はAKANEとかいうビッチをぶっ潰して帰るけど、なんならここで俺様と殺り合ってもいいんだぜ」

こんこん――Rの文字が刻まれた首輪を叩いてツバキは挑発する。
もっとも答えは解りきっているのだが、ツバキ的にこういう場面は雰囲気が大切なのである。
何よりこの手の挑発は相手の覚悟を試す最高の手段に成り得る。ここで自分の提示したAKANEを斃すという案に乗らないのなら、それまでだ。

194日輪纏いしヒーローと二人の元いじめられっ子 ◆laf9FMw4wE:2015/05/22(金) 20:26:49 ID:K0GQ/Tn60

「俺も戦う。リストにはいのりやラモサちゃんの名前も載ってたし――何より、他の誰かを殺して自分のチームだけ生き残るなんて、俺の師匠が許さねェ!
 これまでずっと皆を護る為に鍛えてきたんだ。師匠は俺を信じて、弟子にしてくれたんだっ!
 だから俺も、AKANEと戦う。――――無関係の人々を巻き込んで好き勝手しやがって、こんな殺し合い許せねェってんだよ!」

グッと拳を固く握り締めるその姿。
それは正しくヒーローのソレであり、ゆえにツバキは陽太を笑ってやった。

「――――上等だ。くははっ、やっぱりお前は俺様の知ってる陽太だぜ。
 ちなみに俺様の名前は愛島ツバキ。未来のヒーローの嫁候補だけど、ま――気軽にツバキ様やツバキちゃんって呼んでもいいよん」
「ツバキか。俺のコトは――もう知ってるんだよな。一方的に知られてるなんて、何か複雑な気分だぜ」
「おいおい。学園で大人気の男の娘に知られてるんだから、胸を張ってもいいんだぜ?」
「男の娘?」
「おう。俺様はおとこのむすめって書いて男の娘だぜ、おにーさん?」
「そっか。はやてといい自称元男の信長といい、何か俺の周りはそういうのばっかり集まるなぁ。俺はもう慣れてるし、性別とか気にしないから別にいいけどさ」

陽太と同じく異世界に連れ去られた風祭はやてと織田信長。
前者は魔法少女タイプの男の娘で、後者は紛れも無い美少女でありながら織田信長――つまり元は男だったと主張している変わった子だ。
ツバキは舌を出してドヤ顔で男の娘宣言したが、陽太にとって男の娘やTSとは身近な存在であり、然程驚くようなことでもないのである。

「はぁん。ま――とりあえずAKANEをぶっ潰す準備しながら、平行世界について調べるとするか。
 もし本当に平行世界なんてモンが存在して、俺様とお前が違う世界だとするなら――そこに鍵があるのがテンプレってな」
「平行世界について調べるって、どうやって?」
「参加者に聞き回るだとか、施設を見学するだとか――色々あるだろ、頭回せよ打ち切りくん。
 それに道具一つでも、案外そういうヒントは隠れてるかもしれないぜ? だって俺様、こんな銃見たことないモンな。くははっ」

ひゅんひゅんひゅん――器用に人差し指で回している銃を一瞥する。
きっとこれはツバキの住んでいる世界に存在しない銃だろう。説明書に対ヴィラン・怪人用なんて書いてあるようなブツが存在するような世界ではない――ハズだ。

「てことでまずは学校探索でもするか。打ち切りくんも俺様と同じ学生だろ?
 もしかしたらこの学校――俺様かお前の学校の可能性もあるぜ、くははっ」

【D-7/学校/1日目/深夜】

【愛島ツバキ@アースR】
[状態]:健康
[服装]:女子制服
[装備]:日輪照らせし蒼穹の銃(日光の充電50%)@アースH
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜2
[思考]
基本:AKANEをぶっ潰す。
1:陽太と一緒に学校を探索する。
2:平行世界について調べる。

【結城陽太@アースC】
[状態]:健康
[服装]:制服
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ランダムアイテム1〜3
[思考]
基本:AKANEと戦う。
1:ツバキと一緒に学校を探索する。

【日輪照らせし蒼穹の銃(フィルマメント・ゲヴェーア・ゾンネ)@アースH】
アースHのヒーロー、大空仮面が所持していた対怪人・ヴィラン用の特製銃。
風を弾丸として発射出来る他、太陽の光を充電することでソレを撃ち出すことも可能。
初期の日光充電は50%程度。出力は自分で操作することが出来るが、高出力だとそれに応じて発射までの時間を要する。


                           †

バキリ――何かが壊れる音が響く。
右掌に残ったICプレイヤーの破片を投げ捨て、金髪碧眼の少女が吼えた。

「人間風情がこのライリー様を捕まえて殺し合いしろだなんて、いい度胸じゃねえかクソッタレがッ!」

その瞳に宿されているものは――愛と憎しみ。
相反する二つの感情を有する少女――されど彼女は元♂のオーク最後の生き残りであり。
今では女勇者の肉体を乗っ取ることで、強大な力を得たが――昔は人間に虐げられるだけの弱者であった。
処刑と称して様々な手法で殺されてきた同族の姿も、嫌というほど見てきた。

195日輪纏いしヒーローと二人の元いじめられっ子 ◆laf9FMw4wE:2015/05/22(金) 20:27:08 ID:K0GQ/Tn60

されど昔の彼は逆らえなかった。
自分が弱いから。弱者だから、逆らえば死んでしまうと理解していた。
そうしているうちに肉親も、友人も、親戚も――――自分以外のオークは総て討伐という名目で聖十字教会を始めとする人間共に惨殺され、自分だけが残ってしまった。

「聖十字教会のビッチ共を参加者候補にしたことだけは評価してやる。
 けどな――アリシアとボーンマンを巻き込んだ時点で、お前もあいつらと同等の屑だ。覚悟は出来てるんだろうなァ、アカネ!」

かつて孤独だった彼は、仲間意識が強い。
どれほど醜い容姿の骨でも、可憐で弱そうなエルフでも――己が理想の為に共に戦う仲間である。
時には酒を飲み交わし、くだらないことで笑い合い――かけがえのない時間を過ごしている、親友である。

「アリシア、ボーンマン――お前らは必ず、俺様が救ってみせる。だからそれまで、ライリー様を待ってやがれ。
 ……二人が弱いなんて言うつもりはねえけど、絶対に無理だけはするんじゃねェぞ。この俺様が護ってやるから、俺様を――ライリー様を信じろ」

この世は弱肉強食で、弱者が虐げられてしまう理不尽な世界だけれど。
それでもアリシアやボーンマンの存在が、ライリーを力強く支えてくれた。
ライリーは強者となり、人間に復讐をすること力を得た。無力な弱者を救う為に、手を差し伸べることが可能になった。

しかし――取り零してきた命も、両手では数え切れない程に多くて。
強者となったのに、それでも処刑を止められなかった時――ライリーは哀しみに耐え切れず、つい涙を流してしまった。
抵抗することもなく死んでいった弱者の死骸を眺めて、醜い顔を歪ませて嘲笑う人間共――それが堪らなく憎かった。

「はっはっは! やはりバケモノには串刺しが似合う」

人間は嘲笑う。
死体は笑わない。一度死んでしまったものは、もう二度と笑えねえ――。
そして俺様も――――笑えねえよ。あまりにもバカバカしくて、呆れて目から変な汁が出ちまう。

「このバケモノが!」

処刑を止めることには間に合わなかったが――それでも仇を取ることは出来る。
バケモノと罵りながらも逃げ惑う人間共。弱者を散々に虐め抜いて、自分は安全圏で助かるとでも思ってたのかよ――気に入らねえ。
こんな奴らのせいで――何も罪のない命が何百、何千、何万も殺されてるっていうのかよ。
ハッ、やっぱこの世界、どうかしてるぜ――!

「ああそうだ。俺様は――――ライリー様はテメェらの勝手で生み出された化け物だッ!
 バケモノだって罵るなら勝手にしやがれ。でもなァ――俺様にとってはお前ら人間こそがバケモノだぜ。
 こいつは難病で苦しんでる奴らの為に、薬草を届けにきたってのに――それを勝手にバケモノ呼ばわりして処刑だなんて、全く笑えねえ話だよなァ!」

だから俺様は、この醜い劣等共を真っ二つに斬り裂いた。
こいつらみたく悪趣味な処刑をしてもいいが――そんなモンは俺様の魂を穢すだけで、何の得にもなりゃしねえ。
俺様にはアリシアやボーンマンがいるんだ。こいつらのような劣等に成り下がってたまるかっ!
血に塗れた俺様に石ころを投げるクソガキやバケモノだとか、狂人って喚き散らす奴らもいるけど――勝手にしろ。やれやれ、別に無差別的に襲ってるワケじゃねえのに、自分勝手な奴らだぜ。

それにしても、俺様が直々に処刑されたヤツの仇をとってやったってのに――。

「どうしてまだ流れてやがるんだよ、クソが」

一度流れ出した雨は、最悪なことに止む気配がない。
ああ――鬱陶しい。俺様は人間共を殺してスカッとするべき場面だってのに、どうして洪水なんだよ、おかしいだろっ!

「ありがとう、ライリー様」

俺を迎えに来たアリシアが、帰り道でいきなり頭を下げやがった。

「ハッ、何もありがたくないだろうがよ。結局のところ、俺様はあいつを……!」
「あの子は死んじゃったけど――でも、心は救われたと思うんだ。だって、自分が死んだ時に誰も涙を流してくれなかったら、すごく悲しいでしょ?」

涙を流す――だと?

「いやいや! 俺様は泣いてなんてねえから、勘違いスンナ!」
「おやおや、私が死んだ時に号泣して下さったライリー様が怒ってますね。
 あれだけ骨がバラバラになっても平気といったのに、あんなに大泣きしてるライリー様を見て、私は――」「うわバカ、いきなり変なコト言うのやめろバカ!」

ボーンマンのヤツ、あれは内緒って言ったのに……!

196日輪纏いしヒーローと二人の元いじめられっ子 ◆laf9FMw4wE:2015/05/22(金) 20:27:31 ID:K0GQ/Tn60

「ライリー様。涙を流すことって、そんなに悪いことじゃないよ。
 ボクはボーンマンみたいに死ぬ死ぬ詐欺が出来ないけど――やっぱり死ぬ時は、ライリー様に泣いてほしいもん。――って、ちょっとわがままか……にゃ?」

びよーん、びよーん。
相変わらずアリシアの頬はよく伸びやがる。

「ハッ、くだらねぇ……」
「ふぇ!? ライリー様、ボクが死んでも泣いてくれ――」
「お前たちはこのライリー様が生きてる限り、死なせてやるかよ。だから俺様を泣かせたいなら、もっと違う方法で泣かせてみやがれっ!」
「う――うん! ボク、ライリー様の為ならなんでもするから、絶対にがんばるよ!」
「あーあ、またアリシアが惚れ直しちまったか? まったく俺様って罪な美少女だぜっ」
「ほ――掘れてなんてないよ!? ほんとだよ!?」


――俺様はあの時、たしかに言ったよな、アリシア。ボーンマン。
だから今は――あの時の言葉を思い出して、俺様を信じてくれ。
弱者だった頃は親族も友人も全員殺されちまったけど――今度こそ絶対に護ってみせる。あいつらだけは、失ってたまるかよッ!

【H-2/森/1日目/深夜】

【ライリー@アースF】
[状態]:健康
[服装]:勇者服
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜3
[思考]
基本:アリシアとボーンマンを探し、護る
1:AKANEと聖十字教会を殺す
2:上記以外であれば自分から襲うつもりはないが、襲ってくるなら容赦しない


そうして同時刻、二人の元いじめられっ子は行動を開始した。
一人は幼馴染は生き残ると信じ、殺し合いを打破する為に。
一人は今度こそ奪われるだけの弱者ではなく、他者に手を伸ばせる強者として仲間を護り抜く為に――。

197 ◆laf9FMw4wE:2015/05/22(金) 20:28:12 ID:K0GQ/Tn60
投下終了です
投下が遅れてしまい誠に申し訳ございません

198名無しさん:2015/05/22(金) 22:16:45 ID:tSSzEIIM0
投下乙です。
お、ガチ男の娘きた。性転換多いけど男の娘はツバキが初だな。
君の相方の蓮は不参加なんだと伝えてあげたい。
そして結城くん。他のアースH面子とのかかわりがきになるなあ

ライリーは意外だったなあー。
対主催にカテゴリ分布していいのか迷うなあー


あとあと。
仮投下スレでもありましたが、予約スレに面子変えたときは一報を入れた方がいいですよー

199名無しさん:2015/05/23(土) 21:06:56 ID:US4FZGcU0
投下乙です

>世界の座標軸からみえるのは
主催系女子〜!茜おねーさんはかわいいなあ。何気に言語変換に言及してくれたのも適役って感じで嬉しい配慮
自分を参戦させる自分には、そりゃあキレるよね…!
いっぱいいたレイ・ジョーンズはEZジョーンズが参戦。元SWAT隊員はこのロワだと強キャラの部類かも?
ある意味世界をよく知る二人が組んでどう物語を動かすか

>日輪纏いしヒーローと二人の元いじめられっ子
俺様系男の娘、いいよね…!にしても性別が迷子なキャラが多いぜ!
アースC出身の陽太くんがもはやそのへんに慣れちゃってるというのは確かにそうなんだけど吹いた
世界移動したことでアースRだと打ち切りになったってのも面白い。熱いコンビなので頑張ってほしいね
変わってライリーも予想外に正義っぽい過去をお持ちだった。こりゃあ仲間も集まるわ

200 ◆5Nom8feq1g:2015/05/23(土) 21:22:38 ID:US4FZGcU0
投下します

201安土シンデレラ城現る ◆5Nom8feq1g:2015/05/23(土) 21:23:57 ID:US4FZGcU0
   

 そこにあったのは獣の肉塊だった。

 破壊されたコンクリートの中央に、黄色と黒の毛皮が付いた肉塊が打ち捨てられていた。
 もともとその肉塊に付いていたらしき首は、肉塊のすぐそばに転がっている。
 虎――にしては巨大だが――虎型の獣であっただろうそれは、
 徳川家康とムッソリーニの二人が現場に着いたときにはすでに動かぬ肉塊と化していた。

「すごい音がしたから参じてみたが、想像以上じゃのう……」
「おいおい、これも参加者か?」
「首輪は無い……が、首を取られている以上なんともいえんの。
 まあ、これを“この有様”に出来るだけの力を持った何かが近辺にいる、というのが今分かる情報じゃな……」

 当たりに散らばるガレキを見ては、徳川家康が目を細める。

「とてつもない有様じゃ」

 巨大虎は顎を砕かれていた。おそらくは戦闘がここであり、
 この巨大虎は何者かに鈍器か何かで“殴られ”、道からこの場所まで飛ばされて家を破壊したのだ。
 家康の常識にはそのような力を出せる兵器などない。
 奇特な発明力を持つ平賀源内であっても、この大きさの獣を殴り飛ばす馬力を持つカラクリを作れるかは怪しい。
 在りうるとすれば、アースE(エド)の闇にはびこると言われる妖魔の類であろうが――妖気はこの場には感じられぬ。

「おそらくは、別の“ちいむ”じゃろう。……危険な奴らも居たものじゃ」

 ムッソリーニと共にパスタを食すため南にある学校を目指す途中で、家康は彼との情報交換を一通り終えた。
 分かったのは、どうやらムッソリーニと家康はまったく違う時代、そしておそらく違う世界から来たということである。
 第二次大戦で日本側が勝利した世界と、そもそも第二次大戦以前に江戸が終わらなかった世界。
 戦国時代に天下統一を果たした武将とイタリア共和国首相。
 二人が歩んできた歴史や常識を照らし合わせて、噛みあわぬ点が多かったのが動かぬ証拠。

 とすれば不可思議なことに慣れている家康には、チーム分けの条件、そこから得られる推測も可能だった。
 別の常識、別の世界ごとにされたチーム分け。
 さらには――別の世界には家康の知り得ぬ力を持った者達がいるということ。
 一度死んで少女として蘇るという奇なる歴史を辿ってきた彼女としては、受け入れられないわけではない概念だ。

「むっそりーによ。ここは危険じゃし、一度……なにをしとる?」

 ともかくこの場は危険。一刻も早く動くべきだ。
 と思考し、隣にいるムッソリーニに声をかけようとした家康は、彼が隣から消えていることに気付く。
 見ればムッソリーニは虎のそばに座って何かをしていた。
 近寄ると、支給されたらしい大ぶりの鉈を使って、彼は肉塊から肉を斬り分けようとしている所だった。

「お、お主……まさか」
「うむ、イエヤスよ。ちょうどよかったではないか。パスタの具が見つかったのだからな!」
「食べるつもりか! 出自も分からぬ獣じゃぞ……衛生的にもどうだか」
「まだほんのり暖かい。新鮮な肉であることは確かだし、火を通せば食べられんことはないだろう。
 食糧の調達は戦時にはとても重要! ここは尊い命に感謝して頂こうじゃないか」

 家康は見開いた目をぱちくりさせた。
 その間にムッソリーニは慣れた調子で虎肉の脂の乗った部分をブロック状に切り取った。
 破壊された家の中からタオルのような布を引っ張ってくると、肉を包んで縛る。

「完了!」

 無駄のない手際だった。しかもしっかり終わった後に、死骸に向かってムッソリーニは敬礼さえした。
 食事への感謝を怠らぬ真面目な軍人の顔に、家康は呆れ、ため息を吐く。

202安土シンデレラ城現る ◆5Nom8feq1g:2015/05/23(土) 21:26:37 ID:US4FZGcU0
 
「はあ……命に感謝と言われては、反論のしようもないのう。
 分かった、その肉はワシも頂こう。じゃが代わりに一つ提案がある」
「ん? なんだ?」
「むっそりーによ。お主には悪いが、……学校へ行くのはよそう」
「……なぁ〜〜〜〜にぃ〜〜〜〜!?!?」

 家康の言葉にムッソリーニは急激に真面目顔を崩して変顔状態になった。
 
「何を言っている何を言っている何を言っているイエヤス・ス・ス・ス!!!
 俺たちはパスタ! パスタを! まだ! 食べてないのに学校に行くの止めないだろ普通!」
「落ちつけい。パスタを早く食べたい気持ちは分かるが、状況を考えよ。
 その獣の身体もまだ温かいということは、“それをやった者”は近くにまだおるということ。
 今はおらんが、こちらに戻ってこないとも限らんし。学校へ行く途中で見つかる可能性もある」
「……」
「そうなったとき、この地形は非常にやりづらいとは思わんか。
 建物に囲まれて、逃げる方向は限定されておる。狙撃もされほうだいじゃ。
 メリットとしては、建物に隠れてやりすごせる可能性じゃが――この下手人が建物を壊せる以上意味がない」

 これならばまだ最初に居た草原のほうが視界が効くだけマシじゃ、と家康は述べた。

「む……むむむむむ……地の利まで持ちだされては、俺としても何も言えんな。
 軍人でもあるが、どっちかと言えば俺は政治屋だしな……ここはそちらに従おう。
 だが草原に戻るとしてパスタはどうする! パスタは茹でなければ食べれんのだぞ!!」
「誰も草原に戻るとは言っておらんじゃろ。あそこじゃよ、あそこ」

 憤慨するムッソリーニをなだめつつ、家康は空を指差す。
 そこには、地図で言えば中央に鎮座している、「城」と呼ばれる巨大な施設の頂上付近が見えていた。
 目立つ施設である。
 なにせその「城」は……言及するのがためらわれるほど、いびつなかたちをしていた。

「目立ちすぎるがゆえに。初手から乗り込むのは控えようかとも思ったがの。
 斯様に恐るべき力を持った個がおるならば、取るべき策は“有利を取って迎え撃つ”じゃ。
 そうなればむしろ――早めに城を抑えて、敵に対し構えておくべきではないかのう?」
「あそこにも厨房はあるのか?」
「あるに決まっておろう。少なくとも“半分”は、ワシの知っておる城じゃからな。
 カテイカ・シツとやらと違い、食材はあるかどうか判然とせんが、蔵があればもうけものじゃ」
「なんだそうなのか! ならば一つも問題はない!」

 眉間にしわを寄せて口をとがらせていたムッソリーニは、
 パスタを食べられる可能性が潰えていないと分かったとたんにけろりと表情をにこやかに変えた。

「パスタ! パスタパスタパ〜スタをあの城のてっぺんで食べると言うのも乙かもしれん!
 いいぞイエヤス、目標変更だ! 城へ往こうではないか!!!! ふふふ、るんるん♪」
「……お、おう……」

 るんるん言い始めたムッソリーニに家康は乾いた笑いで応えた。
 ……まったく、此度の同行者にはいろんな顔があるものだ。

 虎から肉を頂くときの真面目な軍人の表情。
 パスタが食べられぬと知った時のパスタ大好きおじさんの表情。
 さらに、パスタが食べられると分かった瞬間の子供じみた愛嬌のある表情。

 ここまでころころと表情を替えられては、面白すぎて退屈しない。
 いい同行者を手に入れたものだと家康は思う。

203安土シンデレラ城現る ◆5Nom8feq1g:2015/05/23(土) 21:28:56 ID:US4FZGcU0
 
(ま、それだけではないがの)

 また、家康はしかりと同行者の分析もしていた。

(往々にして、このような色んな顔を持つものほど、実戦では“強い”ものじゃ。
 先ほど一瞬見せた軍人とやらの顔、あれは何事にも一切妥協せぬ男の顔だった。
 むっそりーに殿は一国の主であったとも聞く。きっと、パスタにも為政にも、妥協せず取り組んだのじゃろう)

 ムッソリーニがパスタ大好きおじさんの裏に秘める、為政者としての“顔”とその強さ。
 パスタに左右される精神性に危うい所を感じもするが……あるいは。
 この同行者となら、あるいは主催の打倒も可能かもしれぬと、家康はそう思うのだった。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 かくして二人は行路を替える。向かう先は中央の「城」。

 それは西から見れば、家康の知る日本式の城に近い姿をしていた。

 だが東から見れば、ファンタジー世界にあるような古城に近い姿をしている。

 世界の中央にそびえたつそれは、見れば一目でこの世界がただの世界ではないと分かる施設。

 その名を「安土シンデレラ城」。

 まるで雌雄を合わせてしまったかのように、

 ちょうど半分が安土城で、もう半分がシンデレラ城になっている不思議な城である。



【C-6/住宅街/1日目/黎明】

【徳川家康@アースE(エド)】
[状態]:健康
[服装]:ふりふりの着物、頭にリボン
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ランダムアイテム0〜2
[思考]
基本:この下らぬ遊戯を終わらせる
1:むっそりーにと共に安土シンデレラ城へ向かってぱすたや甘味を食す
2:むっそりーに殿には“妥協せぬ強さ”があるのう……

【ベニート・ムッソリーニ@アースA(アクシス)】
[状態]:健康
[服装]:
[装備]:大きな鉈@アースEZ
[道具]:基本支給品一式、ランダムアイテム1〜2、パスタの麺、怪獣虎の肉
[思考]
基本:パスタを侮辱したクソビッチを処刑する
1:イエヤスと共に安土シンデレラ城へ向かってパスタを調理する

※マップ中央の「城」は安土シンデレラ城でした。
 西から見ると安土城、東から見るとシンデレラ城に見えます。


【大きな鉈@アースEZ】
ゾンビものとかでよく恐い敵が持ってる系のやつ。血錆びに年季を感じる。

204 ◆5Nom8feq1g:2015/05/23(土) 21:31:47 ID:US4FZGcU0
投下終了です。
城って和風と西洋風どっちかな〜と悩んだ結果、どっちもあることにしてみました。
何かありましたらご意見お願いします

205名無しさん:2015/05/24(日) 08:21:58 ID:nXyvuV020
投下乙です
相変わらずパスタ大好きおじさん面白すぎるww
家康は家康で安定してるなあ、頼もしい

206名無しさん:2015/05/24(日) 15:31:31 ID:0QQGFMNc0
乙です!
そうだったおじさん首相だった(震え声)
まあ一党独裁形態作ったぐらいの人だからすごいのは確かだわな
そして家康冷静だ。天下人さすが。

この二人楽しみだー

207 ◆hRdS/lFjKw:2015/05/24(日) 20:50:29 ID:ZF4EErmw0
投下します。

208変身VS変心 ◆hRdS/lFjKw:2015/05/24(日) 20:50:52 ID:ZF4EErmw0
―人間としての君は既に死んだ。今の君は人の皮を被ったただの兵器だ。兵器を強くすることの何が悪い?

―機械的な改造だけではない。ナノマシン投与に強化細胞の移植、動物の遺伝子の組み込み、挙句の果てに得体のしれない霊石の埋め込み…もはや改造技術に対する耐久実験だ。一人の人間にここまでの改造を行う必要がどこにあったというのだ…。
筋肉や臓器は愚か、脳細胞の一部までが変化してしまっている。…残念だが、君の身体の中に人間と呼べる部分はもう…。

―すっげ…あれが改造人間って奴の威力なのかよ…!

―あれはバケモノだ。狂ってるから人間ではなく同じバケモノを襲う。

―三度もメス入れられたんでしょ?案外一回ぐらい脳改造成功してるかもよ?え?三度どころじゃない?

―宇宙人だ!僕以外にも宇宙人はいたんだ!

―我々の組織に入って一度頭を割るだけで良い。三つの組織に身体を弄られた貴様がそれだけで悩み苦しみから解放されるんだ。随分得な話ではないかな?







僕は…







僕は人間だ…!






―姿形は中々恰好いいじゃない。せっかくだからヒーローっぽい名前の一つ二つあった方が通りがいいんじゃない?
そうね、空を飛ぶ時の姿は――――――――――――――――――――――



209変身VS変心 ◆hRdS/lFjKw:2015/05/24(日) 20:51:15 ID:ZF4EErmw0
H-3、泉の畔にて。
平常時であれば静かなる憩いの場になったであろうこの場所に、似つかわしくない爆音が轟いていた。

「死ぃねやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!」

逆立った髪にボロボロの学生服の出立で叫んだ男の名は道神朱雀。彼は何かに向かって手にしたものを投げつけていた。

「オイオイ、火の玉を投げつけてくる挨拶なんてMr.イヴィルの改造人間にだってされた事無いぞ!」

投げつけられている側の鳥を模したが如き姿の赤い怪人は巴竜人。またの名を、空の改造人間スカイザルバーという。
彼はこの場所に送られてすぐに朱雀の攻撃を受け、咄嗟に変身してこれを回避していた。

「はっはっは!避けるか!テレビに出てる奴は違うようだな!ただのコスプレ野郎ならガッカリしてたところだぜ!」
「テレビ?俺も随分と有名になったもん…だな!」

いつの間にか自分の戦う姿は報道陣のカメラに収められていたのか。だとしたら我が国の報道機関も馬鹿にしたものじゃないな。
そんなどうでもいい事を頭から振り払い、スカイザルバーは飛来する火球の回避に専念する。

(コイツ…改造人間には見えないな。だとすればミュータントの類か?)

眼前の男が放つ火球は掌から直接発生していた。無論普通の人間にそんな事が出来ようはずがない。
だが、彼の元いた世界アースHではそうした事が可能な人間はそこまで珍しいわけではない。
超能力を用いて悪事を働くヴィランも、同じく超能力を駆使して悪事を防ぐヒーロー達も一定数存在するのだ。
この男もそうした類の人種なのだろうと竜人は判断した。

「凄い力だな。どうせならターゲットは俺達にこんな馬鹿げた事をさせようとする主催者に変えてくれよ。鬱憤晴らしのつもりなら俺にやるよりもそっちの方が気が晴れるぜ?」
「馬鹿げてる?それは俺には理解出来ん考え方だなぁ。この有り余る力を振るえる戦場こそが我が居場所。バトルロワイアル大いに結構!!貴様が記念すべき第一ターゲットだ!!!」
「殺し合いに乗る気か…だったら、こっちだって容赦は出来ないぞ!」
「望む所だヒーローさんよぉ!」

この男に説得は無意味か。さして期待はしていなかったが。だが、殺し合いに乗るつもりだと言うのならヒーローとしては見逃すわけにはいかない。
そう判断したザルバーは大地を蹴って跳躍。連続で飛んでくる火球を飛び越えると朱雀に膝を叩き込んだ。

「この!ちぇりゃぁ!」

が、朱雀もこれを蹴りで受け、顔面目掛け拳を見舞う。
腕でガードしたザルバーだったが、朱雀は待ってましたとばかりにほくそ笑んだ。

「焼き鳥になりやがれ!でぇりゃあぁぁあぁぁ!!!」
「何!?」

拳から直接炎が撃ちこまれ、ザルバーの身体には炎が燃え移った。
更に追い打ちをかけるように朱雀は両の腕から連続で火球を見舞う。
数刻の後、硝煙が晴れた後には何も残ってはいなかった。

「ざまぁねぇや!跡形も無く燃え尽きやがった!灰すら残ってねえ!」
「そりゃあ凄い。廃品回収の仕事に就いたら大歓迎されるんじゃないか?」
「何だと!?うおっ!?」

声の主に振り向く前に、背後からの強い衝撃で朱雀は弾き飛ばされた。
立ち上って見てみれば、そこにいたのは獅子を模したイエローカラーの怪人。

210変身VS変心 ◆hRdS/lFjKw:2015/05/24(日) 20:51:36 ID:ZF4EErmw0
「もう一体いたのか!?」
「テレビ見てたんなら分からない?俺だよ、俺」

その姿こそ改造人間・巴竜人のもう一つの姿、陸の戦闘形態・ガイアライナーと呼ばれるものだった。

「マシーンいらずのガイアのスピードを見せてやるよ!」

再度飛来した火球が到達するより早く、黄色の怪人は朱雀の視界から消えた。
背後からの攻撃を予測し後方へ振り返る彼だったが―。

「がわぁ!?」
「読みは正確だ。けど、速さならこちらに分があるみたいだな」

ライナーの拳は迎撃の炎よりも早かった。竜人の変身形態の中で最もスピードに長けたのがこのガイアライナーなのだ。

「この…どこ行っtべぇあ!?チョロチョロと逃げ回りやがっtなわぁ!クッソ…当たれぇぇーっ!!!」

再び姿を消し、攻撃。反撃が来る前に移動、攻撃。この繰り返しのヒット&アウェイ戦法で朱雀の体力は削られていった。
だが、朱雀とて黙ってやられているわけではない。どれだけ速く動き回ろうとも移動から攻撃に転じるまでにはタイムラグが生じる。

(その一瞬さえ付ければ奴の動きは止められる。そして俺は奴の動きを見切りつつある!)

「ライナァァァァァッ!パァンチッ!!」
「見切ったぁっ!!」

果たしてその言葉通り、振り下ろされたライナーの腕は朱雀の両手に捕まれていた。

(さっきはご自慢のスピードで炎もかき消したようだが今度こそ逃さん!消し炭になりやがれ!)

そのまま両手から炎を流し込み、目の前の怪人は火に包まれる。両の手で掴んでいる以上もう奴に逃げ場はない。
…その筈だった。

「のわああああ!?」

ガイアライナーの右腕内部は杭打ち機のような構造になっており、生体火薬を内部爆発させる事で肘上をスライドさせ敵に叩き付ける事が出来る。
今しがた炸裂させたパンチはそうした仕組みで敵のガードを破る、ライナーの内部武装の一つであった。

「さっきの仕返しだ。割と熱かったんだぞ」

伸びた右腕を左で戻しながら皮肉を言うライナーに対し、朱雀の方は怒り心頭であった。

「クソ…………ッ!?血?血を吐いたのか…?吐かされたのか!?この俺がか!!?」

口元の血を拭いながら朱雀は肩を震わせる。
それは内蔵を傷つけられたなどという大層なものではなく、口元を切った為に吐き出されたレベルの物であったが、それでも傲慢な性格の彼の自尊心を傷つけるには充分すぎる物であった。



「この………ビックリドッキリ野郎がァァァァァァァッ!!!!!」




沸き立つ怒りがそのまま言葉となって口から飛び出したように朱雀は叫んだ。

211変身VS変心 ◆hRdS/lFjKw:2015/05/24(日) 20:52:29 ID:ZF4EErmw0
「いくらなんでもその呼び方は勘弁願いたいね…それに、自分から仕掛けた喧嘩でキレてちゃ世話無いぜ?」
「一々減らず口を叩かんと気が済まんのか!どこまでもどこまでもこの俺を馬鹿にしくさる野郎だぜ!」
「あんたみたいなの相手にするの、そうでもしてなきゃ気が滅入るんだ。察してくれよ」
「お互い様だな。俺は貴様の相手をしている内に更に更に殺意が沸いてきたぞ!…だが、一つだけ良い事があった。貴様にも教えてやろう。」

突然落ち着いた調子で話し始めた朱雀に対して竜人はなにか嫌な予感がした。そして、その予感は的中する事になる。

「俺の炎の源は怒りの感情だ!!!!貴様の今までの一挙一動全てが俺の火力を強くした!!!!!燃えてなくなれバケモノ!!!!!!!」

その言葉通り、朱雀の両の腕から放たれた炎は今までの火球などとは比べ物にならないものであった。
泉の周りに生えた植物達を枯らし、波高を増しながら迫りくるそれはさながら炎の波。左右の動きで到底躱しきれるものではない。

(ザルバーで飛んでもこの波の高さでは間に合わないか…なら!)

回避は不可能と判断したライナーは反転して駆け出し、泉の中へと飛び込んだ。

「はーはっはっは!愚策だな!逃げ足が取り柄の貴様がそんな狭いところに逃げ込んでどうする!?言っておくが泉の水如き俺の炎の前ではあっという間に干上がるぞ!」

その言葉の通り、泉は数秒後には炎の波に飲みこまれ、中にいたライナーも蒸し殺されるか焼き殺されるか…どちらにしても生存不能な状況下に追い込まれるのは目に見えていた。
だが―――

「ふおお!?」

朱雀には一瞬何が起きたか理解できなかった。
炎の壁を何かが突き破り、彼自身もその何かに飲み込まれていった。
水だ。水が渦潮となって襲ってきたのだ。

(す、すごい圧力だ!まるで身動きがとれん!奴め、一体何をしやがった!?)

朱雀の身体の自由は水の竜巻によって完全に奪われていた。やがて竜巻は朱雀を上方へと押し上げる方向へと向きを変えていく。
極限状態の思考回路をフル回転させ、彼は一つの結論に達する。

(あいつ泉の水を巻き上げて竜巻を作りやがったのか!どこまでインチキ野郎なんだ!)

そのインチキ野郎がいるはずの方角へと朱雀は唯一動かすことができる瞳を向ける。
だが既にそこに奴の姿はない。即ち、いるとするなら―

(後ろか!うおっ!?)

瞬間、朱雀の視界は上下反転した。彼は青を貴重とした体色の怪人によって飯綱落としの体勢に捉えられていた。
自身で発生させた渦潮を、まるで滝登りの如く上ってきたのは巴竜人第三の戦闘形態、水中戦に長けたドラゴンの改造人間・アクアガイナーだ。
朱雀が考えた通り、泉の水を巻き上げ渦潮竜巻を作り上げたのもこの形態の内部武装だったのだ。

(悪いが、手から火を吹きます殺し合いには乗ります、なんて危険人物を見逃せるほどヒーローとして甘くは育てられてこなかったんでね。このまま沈んでもらうぜ)
(やられるのか!?よりにもよって青い龍を相手に、この神の力を持った『青竜』様が負けるというのか!?)

竜巻の中を足裏に据え付けられたスクリューで逆流し、水底へと激突させる。
それで勝負は決まり、ヒーローが悪を討つ。アースHの世界では幾度となく見られた光景が再現される筈だった。

212変身VS変心 ◆hRdS/lFjKw:2015/05/24(日) 20:53:11 ID:ZF4EErmw0
だが、この世界はアースHではない。まして道神朱雀がいたアースGでも、彼が本来住んでいたアースRでもない。
AKANEが用意した殺し合いの為のこの世界では、常に勝利をつかみ続ける絶対的な正義も、またいつかは必ず滅び去る悪も存在しえない。
ただ殺す側と殺される側が存在するだけだ。そこに元いた世界による貴賤や善悪は関係しない。
場合によっては、元の世界での強さすら関係が無い。故に、この世界の理を崩しかねない力には枷が嵌められる。

(!?体が変わっていく…勝手に!)

異変は起きた。竜人の身体は頭はガイナーのままに、体はライナー、脚部はザルバーとライナーが混じり合った多脚という偉業の姿へと変貌していた。

(こんな時に不調…いや、あまりにも早すぎる!身体の制御が効かない!)


巴竜人は不完全な改造人間である。
彼の身体に赤い血は流れていない。脈打つ心臓の音も人とは違う。脳までもが移植された強化細胞に侵され変質しているという。
しかし、ある一点だけは人間のままであった。
洗脳処置――戦闘兵器となるべく人格を消す最終調整が行われる直前に、彼はあるヒーロー―今はヴィランだが―によって助け出された。
いかなる方法で洗脳するつもりだったのかは竜人本人すら知らない。だが、ともあれ戦闘兵器になる事は回避した。
ならば…未だ目には見えない、非常に曖昧な定義をされる物ではあるが…「心」は人のままなのではないか。

(水圧に耐えられるガイナーの装甲ならばともかく、ライナーでは身動きが…!?)

だが、人は完全な兵器にはなれない。技術体系が異なる改造を幾重にも施された体を完全に制御する為には、最終調整こそが必要不可欠とされるものであった。
最後に残った人間としての心が人ならざる体との間にノイズを生み出していき、いずれは身体に不調を…端的に言えば、バグる。
これは彼がこちらの世界に送られてくる前から抱いていた弱点だったがここまで酷くはなかったはずだ。
圧倒的な無敵の超人が望まれないこの世界ではこの弱点は強められるようだ。しかも、制御できなくなるのは変身機能だけではない。
アクアガイナーの頭に生えた角へと体内の電力が急速に集められていった。無論、竜人の意思とは無関係に。

(不味い…今こんな状態でサンダーホーンを撃ったら諸共吹っ飛んでしまう!止まれ!止まれーっ!)

サンダーホーン…アクアガイナーに内蔵された武装の一つ、角から放つ電撃砲だ。この武器でアースHでは組織に属する幾多の改造人間を屠ってきた。
だが、今はその必殺兵器が竜人自身に牙を向こうとしている。水中で、しかも至近距離で、ましてや今はホーンの反動にも耐えるべく作られたガイナーの身体ではないのだ。
放たれた電撃は自身にも跳ね返り、確実に命を奪う。

(止まってくれぇーーーーーーっ!!!!!)

発射停止命令…何度も出した。それで止まるなら不調とは言わない。
ガイナーへの再変身…それも無理だ。さっきから試し続けているが下半身の脚が生えたり減ったり奇妙な変形を繰り返すだけだ。正確に指令が全身に届くころにはもう発射されている。
今捕まえている男を手放して浮上…自分で発生させた水圧に阻まれ動けない。
変身解除して無理矢理止めるか?…どちらにせよ変身命令だ。発射までに間に合わない。仮に成功したとしても変身前で水底に衝突すればお陀仏。
首を振って別方向に撃つ…何の意味がある。ここは水中だ。
全ての可能性は潰えた。

(自滅か…いや、違うな。俺は俺自身に…戦闘兵器巴竜人に殺されるんだ。人間巴竜人はここで死ぬんだ!ならばせめてヒーローらしくこいつだけは道連れにしてやる!)

そして、目の前が真っ白になった―――。




213変身VS変心 ◆hRdS/lFjKw:2015/05/24(日) 20:53:54 ID:ZF4EErmw0
「つまり…多重人格?」
「ええ、僕と青竜以外にもあと二人。白虎と玄武が僕の心の中にはいるんです」
「一応聞いてみるけど、君はこのゲームに乗るつもりかい?」
「まさか」

竜人の目の前にいるのは道神朱雀―――つい先ほどまで拳を交えていた男だった。

電撃が放たれようとしたまさにあの瞬間、突然目に映る景色は荒れ狂った水の中ではなく、焼けた木々の生えた泉の畔へと変わった。
訳が分からないまま竜人は体勢を崩し、電撃はあらぬ方角へと飛んでいった。
なんとか変身を解除し、人間の姿へ戻った竜人に声をかけてきたのは他ならぬ朱雀であった。
再びやる気かと身構えたが、どうも様子がおかしい。話を聞いてみれば彼の身体には三体の『神獣』が宿っており、竜人を襲ったのは『青竜』に人格を支配された時の彼だったというのだ。
突拍子もない話だったが、竜人は不思議と信じられる気がした。人を超えた改造人間がいる世界に生まれ、先ほどまさに自身を制御できなかった自分には近しい話だと。

「…本当に申し訳ない事をしました。以前から傲慢な奴だとは思ってたけど、まさか殺し合いに乗るなんて…」
「君が謝る事無いよ。悪いのはその青竜って奴なんだろ?それに俺だって危うく君まで殺しかけたんだ。謝るならこっちさ」

目の前の青年は嘘を言っているようにも、演技で自分を騙そうとしているようにも見えなかった。
というか、火を投げつけて来た時とは完全に別人なのだ。口をきくだけでもハッキリと分かるレベルで表情から話し方から違う。
その後、2人は互いの持つ情報を交換した。ここに来るまでの事。自身の能力について。知人の事を。

「知り合いはいるのか?」

参加者候補リストを手に竜人は言うが、

「いえ、いないみたいですね」
「そうか」

ばっさりと、斬られてしまった。

「あ!でもこの九十九光一って人なら知ってますよ!」
「どういう人なんだ?」
「いえ、名前だけ…」
「そ、そうか」

これまたあっさりと。



214変身VS変心 ◆hRdS/lFjKw:2015/05/24(日) 20:54:13 ID:ZF4EErmw0
(…そうだ、俺は、危うく彼まで殺してしまうところだったんだな…)

朱雀の話によれば、電撃が放たれる一瞬前に彼は青竜から人格の主導権を奪い返し、白虎の力を使って渦の中から外へと自身と竜人を瞬間的に移動させたのだという。
だとすれば、自分の命も彼によって助けられたことになるのだな、と竜人は思った。

(体の制御を失って死にかけただけじゃなく、善人の道神君は殺しかけ、挙句その殺そうとした相手に助けられるか。…なんて無様なんだ)

元いた世界で彼は幾多の改造人間やヴィランを討ってきた。無論、彼らには彼らなりの人生があっただろう。
それでも彼らは人としての道理を外れていた。幾多の人々の人生を奪ってきた。それらを討つのならヒーローの役目だ。
だが、そのヒーローの力が無関係の者に振るわれ殺めてしまったら?その時自分は本当に戦闘兵器になってしまうのではないか。
今まで討ってきた者達と何ら変わりない存在になってしまうんじゃないか。

(『先生』が今の僕を見たら笑うかな、いや、今は…)

竜人は一人の女性の姿を思い出す。彼女がいなければ今の自分はまるで違っていただろう。
それこそあの青竜のように戦いだけに生きる戦闘兵器になっていたかもしれない。
だが、彼にとって恩人であり、師でもあるあの人は――――――裏切りのクレアは今や討たれるべき側に回った。

それを聞いたとき、ヒーローとして生きてきた今までの自分を否定されたような気になった。だから、そんな思いを拭い去るべく彼は悪を討ち続けてきた。
しかし今彼が立っているのは明確な善と悪との境が無い、狂った殺し合いの舞台なのだ。
果たして自分はヒーローのままいられるのだろうか?竜人の頭にはそんな考えがこびりついて離れないのだ。





「巴さん。お願いがあります。もし青竜が―――青竜だけじゃない、もし白虎や玄武が僕の身体を乗っ取って誰かを傷つけるようなことがあれば――――――その手で、僕を止めて下さい」

その言葉に竜人は首を縦に振ると、こう返した。

代わりに自分が暴走するようなことがあったら、君が止めてくれ。と。

【H-3/泉/1日目/深夜】

【巴竜人@アースH】
[状態]:健康
[服装]:グレーのジャケット
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜3
[思考]
基本:殺し合いを破綻させ、主催者を倒す。
1:朱雀とともに付近を捜索する。
2:自身の身体の異変をなんとかしたい。
3:クレアに出会った場合には―
[備考]
※首輪の制限により、長時間変身すると体が制御不能になります。

【道神朱雀@アースG】
[状態]:健康、朱雀の人格
[服装]:学生服
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜3
[思考]
基本:殺し合いを止めさせる。
1:竜人とともに付近を捜索する。
2:他人格に警戒、特に青竜。
(青竜)
基本:自分以外を皆殺しにし、殺し合いに優勝する
[備考]
※人格が入れ替わるタイミング、他能力については後続の書き手さんにお任せします。

215 ◆hRdS/lFjKw:2015/05/24(日) 20:54:42 ID:ZF4EErmw0
投下終了です。

216名無しさん:2015/05/24(日) 20:59:12 ID:WZPWKb6A0
おお投下乙!
しょっぱなからバトルらしいバトルしたのは彼らが唯一か?
と思ったら悠といのりが居たか。失敬

朱雀君強いけど人格変わったらめんどくさそうだ
人格によってスタンスが変わとか、場合によって一番の地雷じゃあ…
竜人も強いけどなるほどそういう制限がかかるのかあ
設定じゃ強すぎたしいい制限かと



あと全員揃いましたねえー!乙でした!

217名無しさん:2015/05/25(月) 06:33:32 ID:lB16bP5s0
投下乙です
序盤から熱いバトルですね、戦闘描写が分かりやすくて読みやすいです

朱雀くんこれ地雷だよね……青竜消えたわけじゃないし、強いしで、同行する巴は大変そうだ
でも巴くんの安心感はすごい、ようやくまともなヒーローが出てきた感がある

218 ◆aKPs1fzI9A:2015/05/28(木) 23:21:23 ID:XnpPc7Rg0
出来た…投下します

219 ◆aKPs1fzI9A:2015/05/28(木) 23:23:44 ID:XnpPc7Rg0
図書館1階の『読書コーナー』と書かれたスペース。
そこに私たちふたりは座っていた。
大きな机の上に私たちの支給されたと思われるものを広げて、それを挟む形で私と石原が座っている。
だが石原は支給されていたものには目をくれず、真っ先に『参加者候補リスト』に目を向けた。そしてリストを一瞥。やがて安堵に近いため息をついたあとに呟いた。

「東條のヤローはいねーのか」
「…東條英機のこと?

」石原莞爾の居た時代、1930年代において『東條』となると『東條英機』以外ありえない。
日本史の教師が言っていたことを思い出す。
東條英機と石原莞爾は犬猿の仲で、その喧嘩に負けて軍部を辞めるはめになったとかなんとか、私はノートにメモを取った記憶がある。

「腹立つヤローでな。俺はアイツのいけすかない感じが大嫌えなんだよ」

石原は右足を貧乏ゆすりしながら、眉間に皺を寄せる。
どうやらあの教師の話は本当だったらしい。
『喧嘩するほど仲がいい』ともいうが、石原の様子から鑑みるに本気で嫌っているようだ。石原のことを考えると東條英機が呼ばれていなくてよかったとも考えるが…ここで一度、しっかりと確認しておきたいことがあった。

「単刀直入に言う。石原莞爾、あなたはあの、本物の石原莞爾なのか?」
「本物もクソもねーだろ俺は俺だ」

石原は見ていたリストを机に戻し、支給されたと思われる日本刀を持ち、色々な角度から眺めながら私に返答した。
当たり前のように私に言葉を返した石原。
だが、その当たり前が私には疑問に感じた。なぜ過去の人間が私の目の前に居る?それが不思議だった。
そして、何故過去の人間を呼んで殺し合わせる必要があるのかも分からない。
…なんにせよ今必要なのは、私の考えていた『歴史』を、この男に言うのが必要だ。

「…落ち着いて聞いてほしい」

私は自分の授業の中で石原莞爾という人物を習ったこと、そしてそこから考えられることとして、私が石原にとって未来の人間だということを石原に伝えた。
ゆっくりと、私の拙い知識であるものだったが、思っていた疑問をひとつずつ、ゆっくりと伝えていった。

=================

220現実という怪物と戦う者たち ◆aKPs1fzI9A:2015/05/28(木) 23:26:56 ID:XnpPc7Rg0
「はー、なるほどキラキラ。てめーの考えはそーゆことか」

私がそのことを伝え終わったあとの石原の返事は思ったよりも普通だった。
私は、「驚かないのか?」と逆に驚かされたように石原に言う。
石原は配られていた名簿を私に見せつけるようにして、一つため息をついて、またその口を開く。

「ま、こんなことに驚いてたらキリがねーだろ。この名簿にはジャンヌ・ダルクだの松永久秀だの織田信長だのツタンカーメンだの居るじゃねえか。テメーが言う俺が歴史上の偉人になってたなら、こいつらも本物の偉人が来てる可能性がある」
「…ルーズベルト、ムッソリーニ、ヒトラーのことはどう説明する?貴方と同じ時代の人間だ」

それは私も疑問に思ったことであった。やれ織田信長だの徳川家康だの豊臣秀吉だの偉人たちが名を連ねていたからだ。
しかし私は単なる同姓同名かなにかだと考えていた。なにせ身近な存在として戦国武将と同姓同名の道雪ちゃんもいる。
さらに過去の偉人を蘇らせて殺し合いさせる必要性が感じられない。だが現に、石原莞爾が目の前にいる。
と、なると。
名簿の中にいるルーズベルト、ムッソリーニ、ヒトラーの三人は石原莞爾が本物だというのならおそらく、彼らも本物が連れてこられているはずだ。
だが彼らのことを私は知識として知っていても実際の姿は知らない。
故に石原に聞いておく必要があった。
石原はまた名簿を眺めるように見回しながら私の質問に言葉をかえした。

「ムッソリーニの奴はパスタしか食ってないらしいが、ヒトラーは気をつけた方がいいな。あいつは筋金入りの独裁者だ。この場でも何企んでるか分からん。あと、ルーズベルトも」
「その、ルーズベルトは敵国の人間だから、という理由か?」
「まあな、敵国『だった』んだが。未来だと、あいつはどうなったんだ?」
「…えーと…確か世界恐慌後に日本と戦争をして…そして『日本の敗戦』が決定的になったあとに」
「待ちやがれキラキラ。今なんて言った?」

石原が目を名簿から私の方に向ける。何かおそらく言いたいことがあるのだろうか。
ただ習った事として細かいところは違えども、大きな間違いはないはず…。疑問に思いながらも私は復唱をした。

「だから、『日本の敗戦』が決定的になったあと、ソ連やイギリスとヤルタ会談とかをして…」
「テメー、それは記憶間違いじゃないよな?」

「…まあ、大まかな流れに違いはないはずだ」と石原に私は返すと、石原は椅子から立ち上がって大きなため息をつきながら、私の方を向き教授するように口を開き始めた。

「いいか、はっきり言うぞ。日本は戦争に勝った。アメリカを倒して、今は枢軸国の時代になってるはずだ。テメーの学んだ『日本史』にはそういうことは書いてねえのか?」

221現実という怪物と戦う者たち ◆aKPs1fzI9A:2015/05/28(木) 23:27:30 ID:XnpPc7Rg0

まさか。
日本が戦争に勝った?そんなはずはない。
日本は天皇によって魔法少女の戦争使用は禁止されていたためにか他の国の魔法兵器などに対応が出来ずに敗戦したというのが常識のはず。
石原が戦時下の時からタイムスリップしたとしてもこう自信満々に返すことはない。
それに様子から見ても石原が来た時の日本はどうやら終戦後のようだ。これは一体?


「まさか、歴史が改変されたとか?」
「それはねえだろ。たかが数十年の歴史の改変は不可能だ。写真の媒体もあるし、経験ある奴もまだくたばっちゃいねえ」

…まあ確かにそうだ。
教科書というのは国によって好きなように作り替えられるものである。私はその可能性を示唆してみたが、確かに写真媒体もあるし当時の戦争を生き残った人も居て、敗戦のことを聞いている。
それに日本国内のことならまだしも世界を巻き込んだ大戦争。それを改変されたというのは言い難い。

「これは…どういうことだ?石原、あなたは───」
「…待てキラキラ。誰か来たぜ」

石原が何かに気づいたように、入口の方角を見た。
ここからは入口の様子を見ることは本棚があって見ることができないが、どうやって察したのだろう。
戦場に長い間いたから、そういう危機察知能力?に長けているのだろうか。
なんにせよ、信憑性は分からないが見に行く必要はあるだろう。

「行ってくる。待ってろ」

石原はそう言うと入口の方面へと歩みを進める。
右手には支給されたと思われる日本刀を持っているが、一人だと不安な面もある。
私も戦えないということはない。はずだ。
私は石原の「待て」と言う言葉を聞かないようにして、後ろから着いていこうとした。

「バカヤロー。テメー死ぬつもりか?」

石原からの冷たい言葉。
だが、彼なりの気配りなんだろう、とは思う。現に石原と私とは明らかな経験の差がある。
だけど、このまま待つのは単純に不安だというのもあるけど、この状況に指をくわえて見ているのも嫌だった。

「…頼む」

頭を下げる。深く深く。
足手まといになるかもしれないのは私が一番分かっている。だけど、行動に移したかった。
やがて、数秒後、石原は軽く息を吐くと、私にこう言った。

「…勝手にしろ、ただ迷惑はかけんじゃねーぞ」

=======================

「けいやく?けいやくってなに?くりおねさん」

ところ変わって同エリア。
雨宮ひなは困り、困惑していた。目の前に現れたもがき苦しむようにプカプカと浮いているクリオネが自分に話しかけてきたからだ。
ただ、ひなの年齢から考えて、クリオネの言葉は難しすぎた。
ひなとしても目の前のクリオネを助けてあげたいのはやまやまだが、そのクリオネの言う「契約」だの「魔法少女」だの、その意味がわからない。

『説明している暇はありません…!早く…早く!』
「ごめんねくりおねさん、たすけたいけど、ひなね、けいやく?のしかたがわかんない…ひな、おべんきょうできないから」

あたふたと、しかし泣きそうになりながらし、助けたいことをなんとか絞り出す。
ひなのお友だちにはクリオネは居なかったが、このクリオネのように浮かびながら難しい言葉使う動物たちは多くいた。
友だちの友だちは自分の友だち。
なんとかして救ってあげたい。
雨宮ひなはそういう少女だった。

222現実という怪物と戦う者たち ◆aKPs1fzI9A:2015/05/28(木) 23:27:58 ID:XnpPc7Rg0

『言葉に出せばいいのです!簡易的な契約になりますが、魔法少女になる、ということを口に出してください!』
「まほう…しょうじょ?くりおねさんはそれでたすかるの?」
『はい!…どうか!』

クリオネはもがきながらも、ひなの方を向きながら、途絶えそうになっている声色でなんとかして伝えようとした。
ひなはそれを聞くと不安そうな顔はそのままだが、少し希望を見出したような表情を見せて、クリオネをみつめた。
もはや時間はない。ひなに残されたものは、その「まほうしょうじょ」になり、クリオネを助けること。それしかなかった。

「くりおねさん…ひな、まほうしょうじょになるよ!」

一瞬の閃光。
やがてひなの体が青くキラキラと光り出す。それを見たクリオネがひなの胸元から体内に入っていき、しばらくするとひなの体は一、二回ほどびくん、と跳ねた。

やがてまた一瞬の閃光が起きた。
しかし、その閃光のあとに居たのは、普段通りの雨宮ひな。だが、先程と違うことがただ一つ。
ひなの周囲をくるくると、先ほどのクリオネが飛び回っていたことだ。

『…ありがとうございます。おかげで助かりました…
私は水を司るクリオネ型マスコットウンディーネと申します。以後よろしくお願いします』

クリオネ、いやウンディーネはひなの目の前に浮かびながら、先ほどの苦しんでいた様子とは打って変わって冷静な声色でひなに話しかけた。
一方のひなは突然落ち着きを取り戻したウンディーネに対し安堵しながらも、どこか不安げに首をかしげながらウンディーネに対し言った。

「うん、でぃー、ね?…わかんない。くりおねさんでいい?」
『はい。あなたのお名前は?』
「あまみやひな。よねんせい!」

ひなは目の前に来たウンディーネに対して右手を4の形にして突き出した。
ウンディーネは「ひな、ですか」と確認するように言葉を発するとひなの眼前へと姿を見せると、優しく、ひなの年齢でも分かるように、ゆっくりと話し始める。

『ひな、色々説明したいことはあるのですが、とりあえずここは危険です。早く離れた方がいい』
「あぶないの?」
『はい』
「…うん。わかった…あのね。くりおねさん、ひなね、としょかんに行きたい。えほんがよみたいの」

雨宮ひなに人間の友だちと言えるような友だちは居なかった。
彼女の事を同年代の子どもたちは揃いも揃って彼女の事を忌み嫌っていた。
彼女にとっての友だちは、空想の中に現れる動物たちだけ。
ゆえにこの場でもそういった動物たちに似ていたウンディーネのことを信用するのがいい、とひなは考えていた。

『確か図書館はあの女の反対方向でしたね…分かりました。急ぎましょう』

ウンディーネはそう言ったひなのことを確認すると、図書館の方へと向く。
向いた先には、大きな黒い建物がそびえ立っていた。おそらくあれが図書館であろう。
こうやって見るとなかなか殺風景なところにあるものだと考えてしまうが、ここでは気にしない。
運良く先ほどの松永久秀のいる方向とは別だ。あそこでひなを守れるような協力者を見つけるのも得策だ。

そう考えると、ウンディーネはひなを案内するようにして図書館へ向かい始めた。

=================

223現実という怪物と戦う者たち ◆aKPs1fzI9A:2015/05/28(木) 23:28:27 ID:XnpPc7Rg0
『ひな、気をつけてください。誰かが接近しています』

図書館の入口前まで来たひなとウンディーネ。
その時、ウンディーネがひなに向かって注意を促した。
ひなは突如言われた言葉にあたふたしながら、また不安そうに「わるいひと?」とウンディーネに訪ねた。

『分かりません。ですがいざという時は───私に従ってもらえませんか?』
「したがう?…おねがいのこと?」
『はい。お願いです』
「…わかった。くりおねさんに任せるね」

ウンディーネはそのひなの言葉を聞くとひなの背中からひなの体内へと消えていった。
魔法少女として闘う際に、マスコットは魔法少女本人と同体になる必要がある。
戦闘経験がないひなを闘わせてしまうかもしれないというのは酷であるが、いざという時なら逃げるほどのハッタリをかませるほどの魔力がひなにはどうやらあるようだ。

(…これは…アリアと同様、いやそれ以上かも…)

ウンディーネはそのことに疑問を覚えていた。
彼女、ひなの持ち合わせていた魔力は他の魔法少女たちと成分が違っていたからだ。
通常アースMGにおける魔法少女たちの成分というのは純粋に生まれ持った魔力から成り立っている。
故に全員が全員魔法少女になれるとは限らない。魔力が一定量ないと魔法少女の契約を交わしても実際のところ魔法少女らしい活躍はできないと言える。
平沢悠を初めとした生まれつき魔力が足りないような魔法少女たちはマスコットたちによって魔力の代わりとなるような感情などを代用としている場合もあるが、特例中の特例だ。

ウンディーネはひなの魔力をもう一度確認してみる。
魔力にしてはどこか不安定。しかしはっきりとした魔力の成分は感じられた。
こういった魔力の成分は、学校で習ったもので見たことがないもの。

(…成り行きでこうなってしまいましたが、これは…)

───もしかしたら彼女なら───
そう思えてしまうほどの強力さをウンディーネは感じていた。

その感情をひなが感じ取るわけもなく、ひなは図書館へとゆっくりと入っていく。
自動ドアの前に立つと、ゆっくりと自動ドアが空いた。受付のおばさんや地域のおじいさん。自分よりもちいさなこどもや受験生で賑わう図書館の姿はなく、ただ本が規則的に並べられているだけの空間。
不安になった。まさか自分一人になってしまったのではないか、と。
受付の壁にあっあ図書館の見取り図を確認する。
「絵本コーナー」はあるようだ。だが自分で行くには少し難しい。
どうやっていこうか。ひなは考えていた。
近寄る姿のことを、忘れるまで考えてしまった。

224現実という怪物と戦う者たち ◆aKPs1fzI9A:2015/05/28(木) 23:28:56 ID:XnpPc7Rg0

「おいおいマジか」

受付を眺めていたひなを見た瞬間石原はそう呆れるように、かつ驚きながらそう呟いた。
目の前に居たのは自分の娘よりも若い子どもだったからだ。いや、綺羅星も石原からしたら赤子のようなものであるが、まさか綺羅星よりも年下の参加者がいるとはとは思わなんだ。
石原の存在に気づいただろうひなが、受付から目を石原、そして後ろにいた綺羅星へと向ける。
あどけない顔。しかし油断はしない、するつもりもない。
石原は持っていた日本刀に手をかけながら、注意深く冷たい口調でひなへと言い放つ。

「とりあえず聞くぞ。テメーは俺らとチームが違うが、殺し合いに乗ってんのか餓鬼?」
「石原!この子は子どもだぞ!こんなに小さい子どもがそんな…」
「キラキラ、こいつよりも幼い餓鬼が満州では襲ってきた。幼いからって信用すんなよ」

綺羅星の静止を押さえつけるように、石原は口を開いた。
石原莞爾が居た満州国において反日感情を持ち合わせてた現地の住民が多く彼らの襲撃を受けた部下たちを多く知っていた。
その襲撃には老若男女関係がなく、皆が皆明確な殺意を持ち合わせ、殺しにかかっていた。
石原はそのことを知っている。ましてやこの場所に連れてこられたとなるとどんな力を持っているかは分からない。

油断は少しもできない。「しかし…」と呟く綺羅星を差し置いて、石原は少しもその表情を変わらせることはなかった。
一方のひなは、突如として向けられた『殺意』を察したのか、逃げ出そうになっている。

「石原…!この子はやはり───」
『夢野綺羅星…!あなた夢野綺羅星ではないですか?』

綺羅星が石原に何か言いかけた時、ひなの背後から、クリオネ型マスコットのウンディーネがふわふわと石原と綺羅星の前に現れた。
突如として現れた謎の生物。
石原は何のことか分からず、疑問そうな顔を向けるが、綺羅星はそのウンディーネのことを知っていた。
大きく目を見開き、驚きながら綺羅星はウンディーネに対し口を開いた。

「君は先輩の…!先輩は!アリア先輩はどうなった!?」

夢野綺羅星の高校の時のよくしてもらった先輩の久澄アリアの不思議なペット。
アリア曰くここまで不思議でありながら魔法少女のマスコットたちとは違うというから驚きだった。

(なお、アリアの言葉の意味は『他の魔法少女のマスコットたちとは格が違う』という意味だったのだが言葉足らずのために綺羅星に伝わることはなかったのだが)

そばをくるくると飛び回るクリオネ、ウンディーネというこの子はアリアと常に仲良くそばにいる存在。
何故、ここに───?

その時アリアが笑いながら言っていたことが頭をよぎった。

「私とウンディーネは一心同体なんだ。片方が居なくなっちゃったら死んじゃうかもね」

…まさか。
綺羅星の頭に一つの最悪のシナリオが浮かんだ。
離れることができない二人が、何故今離れている?
離れているということは、まさか。

「…アリアは、死にました」
「え………」
『守りきれなかった…アリアを守るのが、私の役目だったのに…!』

ウンディーネは悔しそうな声色で、そう言い放った。
自分が長年一緒に居た相棒を助けるどころか力にもなれず、命を賭して助けてくれた。
その恩と、力になれなかった悔しさがウンディーネを襲っていた。

「先輩が…?あの先輩だぞ…!私よりも強くて!優しくて…頼りがいのある人だ!
なぜあの人が死ななきゃ…まだ殺し合いが始まって数時間しか経ってないじゃないか。
…なのに。なのにこんなに、こんなに早く死ぬなんて…そんなの、そんなのってないだろっっ!!!」

綺羅星は叫ぶ。現実を受け入れれずに。
自分を幾度となく助けてくれた先輩が死んだという事実に負けそうになっていた。
やがていつの間にか綺羅星は崩れ落ちるように地べたに座り込み、下をうつむいてしまったまま動かなかった。

しばらくの沈黙のあと、石原が綺羅星のことを一瞥したあとに、頭を掻きながら、ゆっくりとひなのウンディーネに近寄っていた。
綺羅星の事は、今は触れない方がいいはずだ、と考えていたからだった。

「…おい待ちやがれ。なんだソイツ?なんだそのフヨフヨして浮いてるのは?」
『…あぁ紹介が遅れました。私はクリオネ型マスコットのウンディーネと言います。あなたは…』
「待ちやがれっつてんだ。テメーの名前よりも、なんだ。どういう仕組みだそれ?」

225現実という怪物と戦う者たち ◆aKPs1fzI9A:2015/05/28(木) 23:30:22 ID:XnpPc7Rg0

ウンディーネに向けて指を指しながら、疑問そうに石原は尋ねる。
ウンディーネはふわりふわりと浮きながらも驚きを伺わせるような声色で石原にその疑問の答えを返した。

『珍しい方ですね、今の御時世で魔法少女のマスコットを知らないのは』

石原の単純な質問に対し帰ってきたその答え。
驚いていたのは石原と綺羅星の二人だった。
石原は単純に聞いたことがない『魔法少女のマスコット』という存在と、またその事をあたかも当たり前のように言う目の前の非科学的なクリオネに対して。
綺羅星はあのアリアが魔法少女だったという事実と、魔法少女であるなら闘えたはずのアリアを倒せる程の強い人間がこの殺し合いに居るということに対して。

「…!クリオネちゃん!君は魔法少女のマスコットだったのか!」
『アリアから…伝えられてないのですか?』
「おい、おい待て。そのことはすまないが後にしてくれねえか。なんだその魔法少女ってのは」
「石原、貴方の時代にも居たはずだ。『魔法少女』という存在が。確か国際条約で魔法少女の戦争の使用は禁止されていたと私は習ったが…」
「国際条約?…そんなもん結ばれてねーぞ」

二人は驚きと矛盾と疑問を解決しようとウンディーネに詰め寄った。
二人と一匹はお互いの意見の答えを探しながら、質問しては答えるの繰り返しを続けていた。
三分ほどだろうか。
進展的な意見は出ないままであったが、残されたように見つめていたもう一人が、ゆっくりと口を開いた。

「おじさん、おねえさん。ふたりは、わるいひと?ひなのこと、どうするきなの?」

それを聞き言葉を止める一同。
敵意がないことを伝えるのを忘れていた。それに、ウンディーネと綺羅星は知人であるしこんな議論をしているならばひなも殺し合うことはないだろう。
それに殺し合いに乗ってるならばすでに攻撃をしてくるはずだ、と。

ゆっくりと、綺羅星がひなの元へ向かった。顔を見る。セレナと同い年くらいだろうか。まだ幼い。
こんな子を殺し合いに巻き込ませるなんて、と綺羅星は怒りを覚えたがそれを露にはせず、まずは穏やかな顔つきと口調で、ひなの視線に自らの視線をかがんで合わせながら言った。

「…えっと、ひなちゃん?でいいかな。君のお友だちのクリオネさんと私は知り合いなんだ。それに私たち二人はひなちゃんを傷つけることはしないよ」
「ほんと?くりおねさん、そうなの?」
『はい。少なくともその方は私の知り合いです。奥の男性は…』
「…石原莞爾だ。少なくともこの殺し合いには乗ってない…」

それを聞いたひなはほっと一息をついて胸を撫で下ろす。
そして受付の地図を指さしながら、綺羅星に尋ねた。

「…ひな、えほんよみたい。おねえちゃん、えほんコーナーってどういけばいい?」
俯くひな。
綺羅星は自らの妹の姿を重ねていた。こうやって落ち込んでいる時はいつも優しく励ましていたものだ。
困ったことがあるとすぐに助けを求めてきた妹。もしこの殺し合いに巻き込まれていたら…。
頼りになる先輩も死んでしまった今、本当に自分が妹を始めとする知人たちから助けを求められても助けることができるのか。
不安だった。
正直泣き出したい程だ。
だが、ここで泣くわけにはいかない。守る者がいる者として。
目の前のこの子を守らなければ。

226現実という怪物と戦う者たち ◆aKPs1fzI9A:2015/05/28(木) 23:31:46 ID:XnpPc7Rg0

「…分かった!お姉ちゃんが案内してあげよう!ほう…こっちみたいだな!おいで!」

綺羅星はにっこりと笑いながら、ひなのてを引いた。強引にではなく、ゆっくりと。優しく導くようにだった。
妹を引き連れる姉のように、ゆっくりとだった。

「ほんと?ありがとう!お姉ちゃん、おなまえなんていうの?」
「夢野綺羅星だ!ひなちゃんは絵本好き?」
「うん!だいすきだよ!」
「そうか!朝になるまで、お姉ちゃんがたくさん読んであげるぞ!」

まるで本当の姉妹のように、手を繋ぎながら『えほんコーナー』に向かう二人を、石原とウンディーネは見つめていた。
まだ聞きたいことはあったのだが、ひなと綺羅星が居なくなっては仕方ない。

二人が向かい始めて少ししてからウンディーネが呟くように石原に言った。

『…強い方ですね。綺羅星は。
自分の先輩が…殺されたというのに。自分の家族が巻き込まれているかもしれないのに』

悔しそうに、無念そうなウンディーネ。
ある意味同情の念にも近かったし、自分の親友のようだったアリアを守れなかった申し訳なさも、それに含まれていた。
それを聞くと、石原は一息深く息を吐きながら、受付の方へと向かった。
やがて受付の裏のところにあった『当図書館の配置図』と書いてある紙を見つけ出すと、ほかにも何かないか探し出していた。

「勘違いすんなよフヨフヨ。
あいつは強くなんかない。ただ現実を受け入れたら壊れそうになってるだけだ。
だからあの餓鬼に向けた笑顔も、どこかひきつってるふうに見えたね俺は」


フヨフヨとは、おそらくウンディーネのことだろうか。
石原は受付から頭だけだして、ウンディーネに言い放った。
この石原という男はおそらくただものじゃないだろうということだけは、ウンディーネは考えていた。
こうして受付をずかずかと調べる大胆さと先ほどの殺気のような冷たさ、冷静さを持ち合わせている。
この男のことについても聞いておく必要がある。
そのことがどうも気になるが、今は雨宮と綺羅星の元へ向かうのが先決だろう。

『…石原さん、でいいですか?
私のいた世界と貴方がいた世界とでは違いがあるようです。いえ、それだけではありません。ひなも私の事をマスコットだと知りませんでした。何かしら裏があると思いますが、ひなから離れるのは怖いのでまた後でお話しましょう』
「…あぁ、それでいい。今は考える時間よこせ。頭の整理がついてねえ」

227現実という名の怪物と戦う者たち ◆aKPs1fzI9A:2015/05/28(木) 23:33:33 ID:XnpPc7Rg0

それを聞くとウンディーネはふわふわと浮かびながら、綺羅星とひなが向かった先へと進んでいった。
それを確認すると、石原は受付にこれ以上必要なものがないと見切りをつけ、立ち上がり受付から出る。
相変わらずこの図書館は不思議だ。
こんな多くの電子機器がある図書館を石原は知らなかった。
おそらく綺羅星の言うとおり、自分は彼女から見たら過去の人間だろう。
だが、「魔法少女」?そんな存在は過去に存在していない。
条約がどうこうした記憶もない。となるとこれは単なるタイムスリップではない可能性も頭に入れる必要があるかもしれない。

そのことはまた落ち着いてから他の参加者と情報交換する中で考えるとして、今はこの面子でどう殺し合いを乗り越えるべきか、それが先決だ。

(魔法少女…ねぇ…あの雨宮って餓鬼見たところ戦闘経験もなさそうだし戦力に加えていいのか…)
ウンディーネが魔法少女のマスコットであるというなら、あのひなという少女が魔法少女である可能性が高い。
ならば彼女は一般人なのか戦闘員なのかどちらにカウントすべきなのか。
いや、彼女を抜きにしても中年でろくに戦場の前線に居ないオヤジと武道をかじった程度の女学生。
これは戦力に不安がある。
魔法少女だとか、知らない敵が出てきてくるかもしれない。
敵の情報があればそれに似合った作戦を考えれるのだが。臨機応変に対応するしかなさそうだ。

(ま、それをどうにかするのが参謀だろ)

昔を思い出す。

「石原ァァァァァァ!!オヤジの仇、取らせてもらうッッ!!!」

張学良。
一度死んだものの改造手術を受けて、自分の親の敵討ちといって戦争を仕掛けてきた男。
同じように改造された兵士20万を連れて、挑んできた。誰もが絶望した。
関東軍には1万とわずかの平凡な兵士のみ。皆撤退を叫んだ。
そこで開戦し、張学良を打ち破ったのは誰だったか。
いわずとしれた、石原莞爾本人の策略だった。

(戦争は量じゃねえよ、力でもねえ。どう使うかが大切なんだよ。いかにこっちの被害を少なくして強敵を打ち破る。それが楽しいとこだ…!)

石原は口角を吊り上げる。
なぜかはわからなかった。楽しんでるわけでもないのだが、なぜかそうしたのだ。
頭の中で様々な策略が思い浮かぶ。
活動停止していた脳細胞が久々に動き出しているのが分かった。

「帝国陸軍の異端児」。そう呼ばれた男石原莞爾は、二人と一匹の後ろを追いかけるように歩み出すのであった。
まだ見ぬ敵を倒す策を思い巡らしながら。

228現実という名の怪物と戦う者たち ◆aKPs1fzI9A:2015/05/28(木) 23:38:48 ID:XnpPc7Rg0
【D-5/図書館 入り口前 受付/1日目/黎明】

【夢野綺羅星@アースMG】
[状態]:精神的不安、落胆
[服装]:神王寺学園制服
[装備]:フランベルジェ@アースF
[道具]:基本支給品、BR映画館上映映画一覧@アースBR、南京錠@?
[思考]
基本:知人たちを助け、この殺し合いを終わらせる。
1:…先輩
2:セレナが不安
3:ひなを守る
[備考]

【石原莞爾@アースA】
[状態]:健康
[服装]:甚兵衛
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ナポレオン・ボナパルトの伝記@アースR、図書館の見取り図@現地調達、三日月宗近@アースE
[思考]
基本;とりあえずは主催に対抗してみるか
1:キラキラ(綺羅星)に付き合う
2:東條のヤローはいねえのか。クソが。
[備考]
※名簿を見ました。

【雨宮ひな@アースR(リアル)】
[状態]:普通
[服装]:かわいい、オーラまとっている
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜3
[思考]
基本:ひな、どうすればいいの?
1:魔法少女って?
2:図書館で本を読んで心を落ち着けたい。
3:きらぼしおねえちゃんに本を読んでもらう

229現実という名の怪物と戦う者たち ◆aKPs1fzI9A:2015/05/28(木) 23:40:04 ID:XnpPc7Rg0
投下終了です
タイトルは「現実という怪物と戦う者たち」です。高橋優の楽曲が元ネタです。
張学良は、まあいいよね。ルーズベルトいるし。うん。

なにか指摘あれば。

230名無しさん:2015/05/28(木) 23:46:50 ID:iMFUjdhA0
投下乙!
ひなちゃんは殺伐としたロワの癒しだなぁ
4年生のわりには言動が幼すぎる気がするけど。

231名無しさん:2015/05/28(木) 23:49:13 ID:kL1HypvM0
投下乙です。
キラキラにフワフワww
石原さんのネーミングセンスがいちいち楽しいです

232 ◆aKPs1fzI9A:2015/05/28(木) 23:54:24 ID:XnpPc7Rg0
>>230
ご指摘ありがとうございます。
うーん…四年生とは難しいうぐぐ…

WIKI収録時に幼すぎる言動修正できるところはしておきます。

233名無しさん:2015/05/29(金) 07:06:12 ID:S/ScKqMI0
ひなchangは空想少女しすぎてて精神幼いままな可能性も微レ存かも?
投下乙です
>変身vs変心
意外とここまでなかったガチバトル!見応えあったし
巴くんなんかはチュートリアルも兼ねてて力量が分かるいい戦闘だった
すわどちらか死ぬかと思ったが上手いことコンビ結成、でも互いに暴走フラグも抱えてて…どうなるどうなる

>現実という名の怪物と戦う者たち
魔法少女の戦争利用禁止…そうきたか。言われてみればこの世界、古くからずっと魔法少女が活躍してて
でも表向きは普通に日本だから戦争もちゃんとあったんだった。すり合わせ上手いなー
アリアの死に動揺しつつも守るべきものの為に動ける綺羅星ちゃんにじんとくる
ひなちゃんという不安定な戦力を手に入れた石原莞爾だがどう運用してくか楽しみだ

234 ◆5Nom8feq1g:2015/06/01(月) 02:01:45 ID:idBCvvpg0
投下します

235その信愛は盲目 ◆5Nom8feq1g:2015/06/01(月) 02:03:32 ID:idBCvvpg0
 

 とにかく遠くへと逃げたくて、麻生嘘子がたどり着いたのは駅だった。


 だが≪公園前≫の駅名が見えたところで気が抜けたのか、動かし続けていた足がもつれてしまって、
 麻生嘘子は走り幅跳びを失敗した時のような勢いで、思い切り前のめりに倒れ込んでしまった。
 膝。肘。おでこ。
 三点同時着地からの、がりがりと肌が削れるスライディングの音を全身で彼女は感じた。

「痛っ……いた……い……」

 起き上がってふらふらと駅構内に入った時には、
 ゴシック調の服に守られていなかった膝に、赤いバーコードができてしまっていた。
 おでこや肘は幸い皮がむけた程度で済んだが、こちらもひりひりと痛い。
 早めの処置が必要だが嘘子はやり方を知らなかった。ケガの処置は常にお母さんか兄さんにやってもらっていたからだ。

「う……うう……嘘……こんなの、嘘よっ……!」

 出来ないことは後回しにして、傷についてはとりあえず服に入ってたハンカチで拭きながら、
 歩いて時刻表の所まで来たのだが、それがまた嘘子に絶望を刻んだ。

 出発時刻
 0:00
 4:00
 8:00
 ・
 ・
 ・
 ・

 思わずデイパックを取り落す。
 がしゃん! と大きな音がする。

 備え付けの時計が指すのは2時過ぎという時刻。
 時刻表は、この駅からすでに電車が出てしまっていることと、
 次の電車が二時間後であることを無慈悲に示していた。

 麻生嘘子は逃げられない。
 いまにあの車いすのこわいおじさんがやって来て麻生嘘子の身体に白銀の剣を突き刺す。
 山村幸太のように。あっけなく殺されてしまう。
 あっけなく。

 嘘でなく。

 あまりに簡単に。
 最低最悪の真実が、麻生嘘子を貫き殺す。

「どうしてよ……い、いつもはこうじゃないじゃない……助けに……来てくれるじゃない……」

 痛み、恐怖、黎明時間の肌寒さに、足が身体が震えだす。
 いつもはこんなことはない。
 こんな時間には嘘子は布団でぬくぬくと眠っているし、隣には兄さんがいる。

 ケガをしたら嘘子の兄さんはすぐに飛んできてマキロンを塗ってくれるし、
 例えばいじめっこにケンカを売ったとするならば、
 そのいじめっこは兄さんの手によって次の日には完膚なきまでに成敗されているため、
 嘘子は今までの人生でケガを負わされることさえほとんど無かった。

 盲目的に麻生嘘子を何故か守り続ける兄さんのことを、麻生嘘子は盲目的に信頼していた。
 だから目を開くことができなかった。現実に目を向けることをしなかった。
 また兄さんがなんとかしてくれると思っていた。
 自分に振りかかる恐怖も災厄も痛みも全部兄さんが肩代わりしてくれると信じていた。
 いたのに。

 なのに兄さんは、
 麻生叫は未だ、嘘子の前に現れない。
 嘘子がケガをしたというのに、現れる気配もないのだった。

236その信愛は盲目 ◆5Nom8feq1g:2015/06/01(月) 02:04:56 ID:idBCvvpg0
 

「……兄さん……生きてる、よね……っ……あたしを守って……くれるよ、ねぇっ…………?」


 ――がしゃん。


「えひっ!?」


 がしゃん、がしゃん。がしゃんがしゃんがしゃん!!!! 「ひゅあ!!??」

 がしゃん、がしゃん、がしゃんがしゃんがしゃんがしゃん!!!! 「や、あっ!?」

 がしゃんがしゃんがしゃんがしゃんがしゃんがしゃんがしゃしゃん!!!! 「な、」


「な、な、な何ッ!!??」 
 
 そのときだった。
 突然嘘子の近くから、がしゃんという金属がこすれ合う音が聞こえたかと思えば、
 鎧が近づいてくるような、あるいは金属の箱を爪で引っ掻いて暴れているかのような、甲高い異音の連鎖が始まったのだ。

 駅の待合室という狭い空間に音が反響する。
 嘘子の他には誰も居ないのに、音が部屋を埋め尽くす。
 なにこれこわい。すでに竦んでいた足が突然の異音に逆に冷静になる、
 コントロールを取り戻して動く、何だかわからないけど逃げ、
 なきゃ、と思った麻生嘘子はそこで、不可思議な音が出ている場所に気付いた。


「……デイパック?」


 ――デイパックが動いていた。


 灯台下暗しと言うべきか。
 つい先ほど取り落したデイパックが、そのはずみで口を少しだけ空けていて。
 その中でなにかが、がしゃがしゃと動いているのが見えた。

 どうしてだろう、嘘子はすでにデイパックを確認したが、こんなものは入っていなかったはずだ。
 いや、そういえば嘘子は。
 “荷物を山村幸太にすべて持たせていた”。
 そして襲撃されて逃げる時には、幸太が刺されたときに落としたデイパックを持って――。

 あのとき取り違えたのだとすれば、つじつまが合う。

「こーた……」

 まるで幸太からのプレゼントのようなそのデイパックを、嘘子は開ける。
 中に入っていたのは横円筒式のポストに似た無機質な銀色のペット用籠であった。
 取り落とすまではこの籠の中で寝ていたため、暴れなかったし幸太も気づかなかったのだろう。

「……」

 鬼が出るか蛇が出るか、意を決して嘘子は籠の鍵を、開けた。






「たのもーーーーーーーーーーッ!!!!!」


 同時に、待合室の扉も開いた。

 待合室に入ってきたのは白の長髪の先をリボンで結び、フリフリの服を着て、
 ただし美しい顔を修羅みたいな形相にした、
 チェーンソーを持った少女、明智光秀であった。

237その信愛は盲目 ◆5Nom8feq1g:2015/06/01(月) 02:06:33 ID:idBCvvpg0
 

「わうわうー」


 そしてペット用籠から出てきたのは、
 鬼でも蛇でもなく、なんとなく眉毛が太く見える、犬であった。


「    」


 一気に場の空気が変わりすぎて脳の処理に遅延が発生した麻生嘘子は、
 ただ驚いた表情のまま、しばらくその場で固まった。

「……の……のぶのぶ?」

 また、待合室に乗り込んできた明智光秀も、
 チェーンソーを稼働させたままその場で止まった。

 主君である織田信長のために他のチームの参加者を殲滅すると決めた彼女は、
 今しがた駅へ辿り着き、人の声がした部屋に討ち入りしたのだったが、
 まさかそこに探していたペットがいるとは思っていなかったのだ。

 互いにフリーズした少女二人。
 そういうわけでチェーンソーのぎゅいぎゅい音が鳴り響く中、
 最初に動いたのは、犬だった。

「わう」

 太眉の犬は、すりすりと。
 麻生嘘子の方へと歩くと、膝に顔を擦りつけたのである。



♂ ♀ ♂ ♀



「きゃあ!?」
「……のぶ、のぶ……?? のぶのぶなのか……?」
「わうー」
「ちょ、やめ! ……舐め……くすぐった」
「あの眉……のぶのぶ!?」
「わうぺろー」
「くすぐったいわよ、やめなさいってば、やめ」
「莫迦な……のぶのぶが私以外の人間にああもすり寄るなど……??」
「わうわう」

 殺し合いの場、刃音が鳴り響く緊迫事態において、
 犬と少女がきゃっきゃと触れ合うという異常な光景が駅の待合室で発生していた。

「どうなっているんだ……」

 この光景に何より驚いたのは明智光秀だった。

 なぜなら彼の愛犬のぶのぶは、とても気難しく、その上主人にしか懐かなかった犬なのである。
 同じくアイドル活動をしていた柳生宗矩にすら良く吠えて、身体を預けることはなかった。
 それが光秀の知らぬ金髪ポニテロリ少女の足を、恭順の姿勢で舐めているのだから、驚く以外に無い。

「のぶのぶ! のぶのぶ! こっちに! 私のほうへ来るのだ!」
「わうー」
「や、やめっ……ひゃう、そこ敏感になってるのっ、舐め、ないでよっ、バカ犬っ」
「聞いているのかのぶのぶ〜ッ!! 私の言葉が聞こえないのか!
 この明智光秀の方に!! こちらへ戻ってくるんだ!!!!」
「わーん……わうー」

 ぷいっ。
 ――ぺろぺろ。

「ひゃん、や、あ! 
 っ、ぞくって来た、なにこの犬、舐めるの、上手すぎっ、よぉ……!」
「な……のぶのぶ……」

238その信愛は盲目 ◆5Nom8feq1g:2015/06/01(月) 02:09:36 ID:idBCvvpg0
 
 光秀が呼びかけると、のぶのぶらしき犬は一度舐めるのをやめて光秀の方を見た。
 しかし、すぐに少女の方へ向き直ると、彼女の膝の傷を舐めはじめる。
 それはまるで、光秀よりも少女のほうが重要であると言っているかのような動き。
 仕えるべき主君はこちらであると言ったかのような、そっけない態度……。

 いや、むしろ、光秀よりも金髪少女のほうが、“立場が上”だと暗に言っているかのような……。
 光秀より、立場が上……。

「莫迦な……いや、しかしそんな……!」 

 ここで光秀に天啓が降りた。
 慌てて目の前の少女の首輪を見やる。「R」だ。光秀の「P」とは違う。
 そうだありえない、
 いやしかし、
 “知り合いが同じチームだ”というのは光秀が一人で考えた推論であり証拠などはない。




「まさか……“信長様”……????」




 目の前の少女は金髪で、ゴスロリで、美少女である。
 生前の信長様は金髪でもゴスロリでも美少女でもなかったが、
 そもそも光秀もアルビノじゃなかったし、アイドルでもなかったし、美少女でもなかった。

 容姿が違うからと言ってそれが信長様で無いという保障はどこにもないのだ。

 そう、光秀は信長様がどこかで生きているか、同じように蘇ったのだと信じていたが、
 もし仮にどこかで信長様もまた蘇ったのだとすれば、
 それが“光秀と同じように少女である可能性”を考慮すべきではなかったか。

(わ、私は……冷静さを欠いていた!
 危うく……信長様の可能性がある人間を殺すところだった!)

 光秀は反省した。
 そして、光秀に冷静になる機会を与えてくれたのぶのぶに感謝した。
 うるさいのでチェーンソーのスイッチをオフにする。
 唾を呑み、意を決し、大きく息を吸って部屋中に響く声で明智光秀は問うた。

「そこな少女!!」

「……?」

「お前は――いや、あなた様は……まさかその……の、信長様なのでしょ、うか……?
 み、光秀です……私は明智光秀……! 信長様の、忠臣……犬に御座います……ッ!」

 精いっぱい武士らしく声を張り上げようとした光秀だったが、
 最後の方は尻すぼみになってしまった。
 明智光秀は信長様を全力で信頼し、前世レベルの盲目的な恋をしている。
 もしかしたら目の前に愛する人がいるかもしれないという考えが言葉を発しながら肥大化し、
 光秀は恋する乙女のような顔になって、もじもじとしてしまったのだった。
  


♂ ♀ ♂ ♀



(あたしが信長……? この人何言ってるの……ばかなの?)

239その信愛は盲目 ◆5Nom8feq1g:2015/06/01(月) 02:10:45 ID:idBCvvpg0
 
 一方、その問いを聞いた麻生嘘子は、光秀の突然の質問にドン引きしていた。
 当たり前だ。
 明智光秀……は確か武将で、織田信長を裏切った?
 ことくらいしか知らないが、小学四年生の嘘子でも織田信長についてはよく知っている。

 嘘子の知っている織田信長は男だし、ヒゲとか生えてるし、ちょんまげだし、そもそも死んでる。
 間違っても嘘子とは似通っていない。

(殺し合いで気が狂ってしまったのかしら……かわいそうな人だわ……)

 パラレルな世界では偉人が美少女になって甦っていることなど嘘子が知る由もない。
 嘘子から見たら、明智光秀は、なぜか武将の名を名乗り、
 そのうえいるわけもない信長を崇拝し、さらには信長と嘘子を間違えている狂人であった。
 だが。

(でも、この人、チェーンソー持ってるし……慎重に答える必要がありそう……よね。
 「あたしが信長なわけないじゃない! ばかねえ」
 って……、ちょっと前のあたしなら言ったんだろうけど)

 いまだに膝をぺろついてくる犬にこそばゆさを感じつつも、嘘子は思考する。
 思考しなければならない。
 嘘子は先ほど、ルーズベルト(この名前もどこかで聞いたような気はするが、どこだろう)に対して、
 考えなしに正直な返答をした結果ひどい目に合わされたばかり。

 相手のふざけた質問にも、必ず意図が存在することを嘘子は学んだ。
 だから思考しなければならない。
 この場で辿り着くべき真実を。やらなければいけないことを。

 想像力を、はたらかせて。
 そうしなければ、嘘子に待ち受ける運命はチェーンソーによるまっぷたつ死だ。

(ああもう……こういうのは、ひなの奴の得意分野だってのに……)
 
 想像力といえば。
 嘘子は『参加者候補リスト』に載っていたもう一人の知り合い、クラスメイトの雨宮ひなのことを思い出す。
 いつもいつも自分の妄想の世界に入り込んでまともに授業も聞いてない、メルヘン少女。
 むかつく奴だったが、その存在は嘘子にとって一つのヒントになった。

 雨宮ひなはよく、物語の登場人物に自分を重ねることがあった。
 普段は居もしない空想上の友達と話している彼女だったが、
 例えば嘘子が朝読書で図書室から借りてきていた『ハイルドラン・クエスト』を読ませてみたときは、
 主人公である銀色大剣の少女に感情移入しすぎて、その少女になりきっていた。

 言動も普段のふわふわっぷりから考えられないくらいきちんとしたかと思えば、
 三角定規を彼女のメイン武器である『生体魔剣』に見立てて先生に切りかかるような真似までした。
 あのときの雨宮ひなは完全に物語の主人公と同化していて、雨宮ひなではなくなっていたように思う。

(この人が、ひなと同等かそれ以上の、“なりきり病”だとしたら……)

 殺し合いによる現実逃避か、あるいは本当にキチガイなのかはともかく、
 目の前の白髪赤目のフリフリ服の女の人もまた、自分を“明智光秀”、
 それも信長に忠誠を誓っていたころの光秀だと思いこんでいるのだとすれば。

(あたしに向かって、信長かどうか聞いてきたのは……“信長役が欲しい”ってことかしら……?
 どうやらこの犬はこの女の人の犬みたいだし。犬が懐いてくれたから、
 あたしはそんなに悪い人じゃないと判断されて、……あたしを妄想に巻き込もうとしてる……??)

 精いっぱいつじつまを合わせようとすると、そういう解釈になる。
 つまり、明智光秀のロールをするには信長が必要不可欠だから、善良そうな人に信長役をやらせようとしている、という解釈。
 オレ勇者やるからお前モンスターな! と男子がよくやっている感じのアレだ。
 なまじ明智光秀になりきりしている関係上、その旨を説明して興醒めになりたくないということだろう。

(ということは、あたしが答えるべきは……!)

 そこまでたどり着くと、嘘子の脳細胞は活性化した。
 どちらにせよ間違えたら死ぬかもしれないのだ。失敗するかもしれないが、やってみる価値はある。


 麻生嘘子は――嘘をつくことに決めた。

240その信愛は盲目 ◆5Nom8feq1g:2015/06/01(月) 02:14:00 ID:idBCvvpg0
 

「――いかにも」


 TVでやってる時代物っぽい口調を真似し、嘘子は“信長”を、演じる。


「よく見抜いたのう……さすが余の忠臣じゃ。
 まさにその通り。余こそは織田信長よ。くく、光秀よ……再び余の下で働いてくれるな?」

「……は、ふぁ、……ふぁいいっ!! 一生御供させていただきましゅ!!」


 そして光秀は神を見るかのような崇拝表情になりながら膝まづき、
 犬と同じ目線から、信長様の足へと口づけしたのだった。


 麻生嘘子は思った。


(え、口づけとかするんだ……)



♂ ♀ ♂ ♀



「信長様と私を別チームにするとは言語道断にもほどがありますが、もはや取るべき手は決まっております。
 全員殺すのみです。信長様と私以外を全員鏖殺し、最後に私を信長様が屠って頂く、それ以外にありますまい」

 待合室にて電車を待ちながら、
 椅子に座る信長(嘘)とその膝で寝ているのぶのぶ(犬)を前に、光秀(女)は決断的に講釈した。
 ちなみに信長様がカワイイ女の子になったという事実を遅ればせながら噛みしめた光秀は鼻血を吹いてしまい、
 今は支給されていたティッシュを持って鼻に詰め物をしている。

「そんな……もうちょっと平和的な解決はないわけ? じゃなくて、えーと、ないのか?」
「????(゜Д゜)????」
「ひっなにその急に怖い顔」
「平和ボケしているのですか信長様?
 かつてのあなた様なら、こんなところで足踏みすらせずに嬉々として殺しに行っていましたよ」
「ほ、ほう、そうか……な、なにせ余も“蘇って”からは平和な生活を送っていたからな、
 確かに言われてみれば余も殺したい気分になってきおったわ、さすがだ光秀!」
「……の、信長様が私を褒めてくれた……ありがとうございますぅ……」

 うっとりとした表情で頬に手を当てる光秀。
 嘘子(信長ロール中)が上手いこと聞き出したところによると、どうやら彼女の中では、
 彼女は卑弥呼によって少女として蘇った戦国時代の武将明智光秀で、
 信長もまた本能寺で一度死に、現代には少女として蘇ったという設定らしい。

 なんだそれ……。

 小学生の妄想でももうちょっとマシなの考えるわよ、とツッコみたくなった嘘子だったが、
 あまりにも真剣に話された上、ちょっとでも彼女の考える信長から外れた言動をすると
 奈落の底から出てきた鬼のような恐ろしい表情で睨まれるのでツッコめないのだった。

「で、でも……いやしかし、余とおぬしの二人でどれだけ殺せる? そもそも何人おるかも分からぬのだぞ?」
「桶狭間を忘れたのですか。寡兵であろうと方法次第で勝利できると示したのは信長様、あなたではありませんか!」
「あ……そ、そうじゃったな……しかしもう少し仲間が欲しいのではないか?
 余には少し心当たりがあるのだが……」
「いりませぬな」

241その信愛は盲目 ◆5Nom8feq1g:2015/06/01(月) 02:17:01 ID:idBCvvpg0
  
 そっと兄である麻生叫の名を出して仲間に入れることを提案しようとした嘘子だったが、
 光秀はばっさりと、仲間を増やすこと自体を切り捨ててきた。

「仲間を増やせば、裏切られます。私はあの反逆の本能寺を忘れておりませぬ」
「むう……(いや本能寺で裏切ったのあんたじゃなかったっけ……?)」
「私が十人、二十人分働けば、凡夫二百人までなら殺し得ます。
 それにそこの犬、のぶのぶもただの犬ではありませぬ。戦闘訓練を受けさせております故、
 実質的に飢えた狼のようなものであるとお考えください」
「……まじか……」

 ぺろぺろと嘘子の手を舐めてぽけーっとしてる犬すら光秀は戦力として扱っているらしい。
 というか、考えてみれば嘘子は信長なのだから信長も戦力。
 三人分なら確かに、そこまで悪くはないと考えられるだろう。

 実際のところ嘘子は嘘子だし、
 犬もただの犬にしか見えないし、
 光秀も鬼気迫るものを持ってるとはいえ少女にしか見えないが。


「信長様」


 光秀は完全に信長しか見えていないような目で嘘子に向き直った。


「私ものぶのぶも同じです。私たちは信長様の犬。
 信長様の為に生き、信長様の為に死ぬためだけに、爪と牙を研いで参りました。
 ですから、不安もありましょうが――しかと前を向いて。
 自信を持って天下を進んだあのお顔を持って。我々をどうか、傲慢なままに使ってください」


 それが私の望みです、と言う光秀。
 嘘子から見てもちょっとかっこいい口上ではあったが、嘘子の脳内は不安でいっぱいだった。

(どうしよう、兄さん……もしこの嘘がばれたら……これあたし、殺される)
(ううん、それだけじゃないわ、もし……)
(もしこのまま兄さんに会ってしまったら――兄さんがこの人に、殺されちゃう……!!
 でもそれを止めたら、あたしが疑われて……あたしが今度は、殺される……!!)

 光秀が自らの布を裂いて作った簡易包帯に巻かれた膝はまだ、じんじんと痛む。
 しかしそれ以上に嘘子にとってそれは、頭が痛くなるような話だった。
 本来ならば考えなくてもいいはずだった問いかけ。

 兄さんを殺さなければ、自分が生き残れなくなったとき。
 麻生嘘子は、どうすればいいのか……?



 ――かくして、信愛なる嘘にまみれた盲目的な戦は続く。



【B-2/駅・待合室/1日目/黎明】


【麻生嘘子@アースR】
[状態]:不安、膝にけが
[服装]:ゴシック調の服
[装備]:のぶのぶ@アースP
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜2
[思考]
基本:他人の力を借りて生き残りたい。兄と合流したい。
1:兄さんに会いたい。でも今のままだと…
2:この人なんなの…とりあえず信長のフリしなきゃ
3:ひながいることに驚き
4:こーた…犬とかいってごめんなさい…なんかもっと犬な人が来た…
[備考]
※明智光秀を「変な設定の明智光秀を演じてる狂った人」だと思っています。
※支給品は山村幸太のものと入れ替わっていました。

242その信愛は盲目 ◆5Nom8feq1g:2015/06/01(月) 02:19:19 ID:idBCvvpg0
 
【明智光秀@アースP(パラレル)】
[状態]:健康
[服装]:アイドル衣装
[装備]:マキタのチェーンソー@アースF
[道具]:基本支給品一式、ポケットティッシュ、ランダムアイテム0〜1
[思考]
基本:信長様の軍を勝利へ導く
1:信長様の牙として信長様に仕える
2:信長様とチームが違うなんて考えもしていなかった
3:信長様はしかしどうやら平和ボケしておられるようだ
4:信長様を励ましながら他の参加者を殺戮する
5:信長様と私だけになったところで信長様に殺してもらう
6:そうして信長様を生かすしかもはや道はないというのに…
7:ああでも信長様めっちゃ可愛いなあ金髪ロリとかさあ
8:正直いって超タイプだし愛し合いたいラブしたい
9:でもまずは戦、戦だぞ光秀
10:戦でいいところを見せて、信長様に明智光秀が必要だと思われないと!
[備考]
※麻生嘘子のことを織田信長だと思いこんでいます


【のぶのぶ@アースP】
アースPの明智光秀が飼っていた犬。基本的に光秀にのみ懐く
光秀の手によって戦闘訓練がされ、戦えるように仕込まれているらしい

【マキタのチェーンソー@アースF】
闇の武器商人マキタの手によって造られた闇のチェーンソー
アーゴイルの店に置いてあり、その攻撃力と貴重な闇属性のマナ印加により
連日仕入れ中の人気商品であった

243 ◆5Nom8feq1g:2015/06/01(月) 02:20:54 ID:idBCvvpg0
投下終了です
タイトルはWIXOSSアニメのサブタイの形式っぽい感じで
なにか問題あれば指摘を

244名無しさん:2015/06/01(月) 05:16:27 ID:lovhkzoo0
投下乙です
嘘子ちゃん、なんとかピンチを切り抜けた……?
嘘で切り抜けるのが彼女らしいww
そして光秀めんどくせえwwこれ本物の信長に出会っても素直に組めない気がするなあ……

245名無しさん:2015/06/01(月) 08:52:42 ID:4PD4r.8s0
投下乙!
光秀の思考がヤンデレの其れなんですが・・・

246 ◆aKPs1fzI9A:2015/06/03(水) 20:32:05 ID:4rYqNk2U0
皆様乙です
投下します。

247くろださん@うごかない ◆aKPs1fzI9A:2015/06/03(水) 20:32:36 ID:4rYqNk2U0
警察署内の『シャワールーム』と書いてある個室に、探偵黒田翔琉は居た。
彼が活動を開始する時に真っ先にする事がシャワーを浴びることだ。
温度は34℃のぬるめで、水圧は強すぎず弱すぎず浴びること。それが彼にとって最高のシャワーであった。
長く黒いトレンチコートを脱ぎ、ネクタイをほどく。フランスのブランド物だ。仕事するときはいつもこのネクタイを締めることにしている。
やがて下に着ていた白シャツをおもむろに脱ぎ捨てると、そのまま丈が長いズボンもベルトを外し、脱いだ。
次に黒色の靴下を脱ぐ。するり、と脱いで、また脱ぎ捨てたシャツの上に投げた。
最後。藍色のボクサーパンツ。彼は生まれ持ってからのボクサーパンツ派だ。ブリーフ、トランクスを履くような男は───男じゃない。
彼の持論であった。

風呂場への入口は引き戸であった。
ゆっくりと開くと、そこには本当に簡易的なシャワールームの個室があった。
温度調節は、悔しいが細かいところまでは出来はしなさそうだ。
しかしこの際浴びれるだけでもありがたい。

赤の蛇口を捻る。
シャワーから出るお湯の温度を手で確かめながら、そして青の蛇口も徐々に捻りながら───彼が納得できる温度にまで調節をする。
ミリ単位で動かしていく精神のすり減る作業だったが、彼にとっては必要なことだ。
そう。すべては彼の頭脳のためであった。

数分後、納得ができる温度になった。
水圧調整はこの際捨てて、温度に専念をした。その点については反省すべきであるがとりあえずいいだろう。
まず、彼は右肩から左脇腹にかけるかのようにシャワーを当てた。
次に左肩から右脇腹まで。最後は頭から全身に行き渡るように、丁寧にゆっくりと。
仕事はじめの時のシャワーは、黒田にとって入浴ではない。ゆえに頭や体を洗うことはしない。
あくまでも、自分の頭を覚まさせるためのこと。そのためだけに必要なこと以外はしない。

5分後。

蛇口を赤、次に青とひねり、シャワーを止めた。
5分の間、黒田は何か思考することはなかった。
シャワーを浴びる間に一旦頭の中をリセットし、完全にリセットしたあとに残された情報から真相を探るためだ。

外側に引き戸を押して、脱衣所へ入る。
脱ぎ捨てた服を手に取りながら、黒田は思考を再開することにした。
今回の事件───いや事件と言っていいかは疑問だが、不可解な点が多すぎる。
まず、参加者候補リストという与えられたディパックに入っていたリスト。
自分の名前がそこにあったのは勿論だし、西崎や、その西崎と旅行(黒田が懸賞でイギリス旅行を当て、行く相手が居らずに西崎を誘った)した先に出会ったサラというメイドの名前に留まらず、アイコレクターや自分が捕まえた御母衣朱音。さらには世を騒がす怪盗ナイトオウルと著名の犯罪者たちがおそらく『候補』となっているらしい。

248くろださん@うごかない ◆aKPs1fzI9A:2015/06/03(水) 20:44:12 ID:4rYqNk2U0
いや、既に捕まった犯罪者がこの場に参加させられるのはまだ分かるとするが、彼には大きな疑問が生じていた。

(剣崎渡月、だと)

1800年代、日本のN県の小さな農村、「矢津間村」で起こした事件をきっかけに当時のの探偵や警察を騒がせた伝説的な殺人鬼で、殺した死体を持っていた鉈で残虐的に切り刻み村民45人を殺した事からついたあだ名は「矢津間45人殺し」。本名剣崎渡月。
歴史から名を葬りされ、今では矢津間村においてすら一部の人間しか知らない人物の名前。
その名前がそこにあった。

黒田は単なる同姓同名を疑った。
織田信長だの豊臣秀吉などもいたが、彼らの名前を借りた同姓同名の人物は多く存在する。
それに死体を生き返らせるなんて、非常識だ。ありえない。と。
ただ、もしそういった場合でないことを考えると一つ、黒田には考えがあった。

(…となると摸倣犯か)

殺人鬼に憧れて殺人鬼になる人間は多い。単なる摸倣犯であるとする可能性が高い。
しかし少なくともそんな摸倣犯は聞いたことない。
もし、自分の情報不足であることを考慮してもこの人物が摸倣犯という訳と断定するには早いだろう。
まさか本物の剣崎が連れてこられたという訳でもあるまい。

(なんにせよ、剣崎という人物には注意だな。こういった場所だ。ただの一般人を連れてくる筈がない)

旗のことに辿り着くにはまだ情報が足りない。黒田には目の前に現れた疑問について思慮するしかなかった。
それが今出来る最大限のことだ。
少し不甲斐ないとも思うが受け容れるしかない。
黒田は少し首の骨を鳴らすと、最後にトレンチコートを羽織った。
やがてシャワールームから出て行きドアをあけた。

最後になるが。
シャワーに入る前に見ておいた、主催から渡されたと思われる『武器』。
これも黒田にとっては不可解なことであった。
いや名簿以上にむしろ不可解なことであったかもしれない。
自分に渡されたのは、『御園生優芽』という少女のグラビアが載った漫画雑誌と、新型と思われるタブレット。
ここまではよかった。戦闘に使えるものではないが、タブレットとなるともしかしたらネット回線などを見つければ情報を得るカギにでもなるかもしれないと。そう黒田は好意的に考えた。
だが、最後の支給された『武器』。それは鉄製の缶の中に入ってあった───

「かけるくん!遅かったね!僕待ちぼうけしちゃったよー!」

来客用と思われるソファの上で跳ね回る、喋るピンクのカエルであった。

私立探偵黒田翔琉。
魔法少女のマスコットとの、はじめての出会いだった。

「…待たせた。話を聞かせてくれ、キュウジ」

黒田翔琉の頭脳は、ゆっくりと動き出す。

【A-4/警察署/1日目/黎明】

【黒田翔琉@アースD】
[状態]:健康
[服装]:トレンチコート
[装備]:キュウジ@アースMG
[道具]:基本支給品、週刊少年チャンプ@アースR、タブレット@アース???
[思考]
基本:この殺し合いと『旗』の関係性を探る
1:眠気は覚めた
2:早朝まではここに待機
3:剣崎渡月に注意
4:目の前のカエルの話を聞く
[備考]
※名簿見ました。

【キュウジ@アースMG】
魔法少女のマスコットの一匹。魔法少女マスコット学校では優秀な成績を修めたがなにせ見た目がピンクのカエルというキモさから誰も契約しようとしなかった。

【週間少年チャンプ@アースR】
御園生優芽のグラビアつき。人気雑誌。

【タブレット@アース?】
普通のタブレット端末。

249 ◆aKPs1fzI9A:2015/06/03(水) 20:47:13 ID:4rYqNk2U0
以上です。
えーとですね剣崎さんの元ネタは都井睦男です。あだ名も彼が起こした事件のもじり。
剣崎さんごめんね。

タイトル元ネタは日日日原作のライトノベル「ささみさん@がんばらない」です。

何かあればぜひ。

250名無しさん:2015/06/03(水) 22:27:24 ID:28FSmBrM0
投下乙です。
探偵はシャワーシーンでも何だかハードボイルドだ
名簿の気になる名前は剣崎さんか、いろいろ妄想できるな
ピンクカエル登場で猿の登場可能性もちょっと出てきた気がするwこの一人と一匹何を話すんだろ…w

251名無しさん:2015/06/03(水) 22:36:35 ID:zLJqPaes0
あのエテ公はエド組に支給したいねww

252名無しさん:2015/06/03(水) 23:32:03 ID:hX9xXdmc0
投下乙!
黒田と西崎一緒にイギリス旅行行ったのかよw普通に仲良いじゃん。

253 ◆5Nom8feq1g:2015/06/07(日) 10:45:40 ID:yVteYQAM0
投下します。

254星に届け ◆5Nom8feq1g:2015/06/07(日) 10:46:13 ID:yVteYQAM0
 

 月が欲しいと思っていた。
 夜空に燦然と輝く、完全な月が欲しいと思っていた。

 だが、シルクのスーツの裏に編みこまれた、彼の世界の今のアメリカの国旗。
 その国旗にかつて48個刻まれていた星は、20程度まで減っている。 
 他は全て奪われてしまった。
 敗けて取られて奪われてしまった。
 彼がまず最初にしなければならないことは、奪われた星を取り返すことだった。





 車輪は回り、黒衣の老人は世界の淵に辿り着いた。
 からからという車椅子独特の音が廻る中で、ルーズベルトの耳は静かな波音を聞く。

 深い森を抜けた先。

 世界の淵には何もなく、ただ海が広がっていた。

 水平線はかすかに青紫に光っていたが、海は底も見えぬ黒で、まるで淀んだ闇が重さを持って地を這い回っているかのようだった。
 闇は嫌いだから、ルーズベルトは上を見る。
 夜も明けぬ漆黒の空、一人殺して初めて、ルーズベルトは月を見る。
 星に囲まれながら輝くそれは、波めいて栄光と衰退を繰り返す影の周期の終点であり始点、
 ルーズベルトと彼の国が永遠にその姿で留めておきたかった望みの姿――完全なる光の円を描いていた。
 フルムーン。
 きれいだと、思った。
 あれが欲しいと、取り戻したいと、今でも願っている。


 嗚呼――

 だが見惚れるにはまだ早い。

 ――――取りに行くには、さらに遠い。
 

 老人は目線を現実に向き直し、海の向こうを注意深く眺め回した。
 ルーズベルトが麻生嘘子を追いかけず、逆方向に駆けてこの世界の淵、海辺まで来たのは、
 決して完全な月を望みながらその情景に酔いしれたかったからではない。
 望みに酔わなければ保てないような弱い心はとうの昔に捨ててきた。
 たった一人殺した程度、たった一つ星を捧げた程度では、月には届かない。
 ルーズベルトがやっておきたかったのはまず一つ、この島じみた世界の周囲に何があるかの確認だった。

 思い描く理想のビジョンは、
 忌まわしき枢軸国の参加者を皆殺しにした上での主催の打倒、そして束縛からの解放と勝利だ。
 そのビジョンを手に入れるためには、場当たり的な行動だけではいけないというのが大統領の論だった。
 すなわち、島の周囲の把握、例えば他の島が見えるか、などの情報の把握。

 システムによれば脱出は首輪の爆破対象とのことだが――首輪を仮に外せたとして、
 脱出する先の当てがなければそもそも島から脱出する意味がない。
 だからこそルーズベルトは、今いる島の近くに他の島、あるいは大陸がある可能性を考えていた。
 それを発見できれば首輪を外した後の航路も取れる。仲間を勇気づける材料にもなろう。
 足は不自由だが代わりに夜目は効く方だった。
 水平線目視5kmの先に僅かにしか見えぬ陸だろうとルーズベルトは発見できるつもりだった。

 つもりだったが。

 A-2から見える範囲の海に、遠く陸が見えるということはなかった。



 落胆ということはない。
 まだ西側だけだし、西側の海少なくとも5kmに“なにもない”という情報も、それはそれで大事な情報である。
 地図に港が存在することを考えれば、島が絶海の孤島である可能性も充分に考えられた。
 ルーズベルトは切り替えて、海に来た理由の二つ目を遂行する。

255星に届け ◆5Nom8feq1g:2015/06/07(日) 10:47:37 ID:yVteYQAM0
 
 漆黒に塗られた大型車いすの背面下部にあるカバーを開ける。
 すると自動的にそこから蛇腹のホースが降りてきて、浜辺の砂地に着地、そのまま海へと進んでいく。
 着水し、海水を吸い取って、後部タンクへ貯蔵するためである。

 ちゃぽん。
 と音を立てて、ホースが海へと着水。
 水がゆっくりと吸われていく。
 およそ10分ほどの給水時間。

 フリーメイソンの技術の粋を詰め込まれたルーズベルトの車椅子であるが、
 その動力は意外にも水だった。
 開始時点でメーターの0近くまで減らされていたタンク内の水を補充するため、というのが、
 ルーズベルトが海に来たもう一つの理由だった。

 水を電気分解してエネルギーを取り出しているのか、はたまた水素の核融合か何かでエネルギーを
 取り出しているのか――細かいことまではルーズベルトは知らない。
 製された不純のない水がもっとも効率よくエネルギーになるということは教えられたが、
 海水でも、多少効率は落ちるものの問題なく車椅子を動かすことができると技術者は言っていた。

 海水をタンクいっぱいに詰めて、動かせるのは四半日(6時間)といったところ。
 支給された飲み水を動力へ回すのはあまり頭のよい方法とは言えないため、
 およそ一日に四度はどこかで水を補充する必要がある。
 それもできれば塩っ気や不純物のない、綺麗な水が望ましい。

 ルーズベルトとしてはその他、島の東側から見える海も確認しておきたい。
 その点を踏まえ、地図を眺める――行く先を選定すると。

「まずは温泉。そして、泉、だね」

 北にある温泉では、地下から沸く純粋な水が手に入る可能性がある。
 まずはそこで、より車椅子にとって優しい水を手に入れ、
 出来うるならば半日で泉へと到達したいところだ。

 なに、仮に計画に変更をきたさなければならなくなったとしても、水道の通っているであろう
 公園・町・駅などに寄れば、一応水は補充できる(水道を探すと言う手間は発生するが)。
 燃料問題については、今後さして気にする必要はないだろう。

 そうこう考えているうちに10分が経った。
 試しに赤いボタンを押し、車いすを旋回させて前進してみる。
 制限によって元々の回転速が落とされているのか、やはり速度は劣るが、エンジンの暴発はない。
 メーターも回復している。さしあたり、補充は完了だ。

 あるいはこの島にメカニックが居るならば、この車椅子に掛けられた枷も外せるかもしれない。
 Axis Powers(枢軸国)やJapを星へ還すと共に、その線で人探しも行ってみるべきかもしれないとルーズベルトは思う。
 ともかくこれで――燃料の懸念は無くなった。

 ここからしばらくは、エンストを気にせずに“フルスペックで行動できる”。

 ルーズベルトは車椅子を走らせながら、青いボタンを押した。


 ――車椅子の底面からジェット機構が顔を覗かせる。
 ――ジェットから青白い熱光が発されて、車椅子が宙へと浮いた。


 同時に車輪はプロペラに、チェーンソーの刃部分はスライド可変して機体安定用の翼へと変形。
 これにて、車椅子の空路移動用モードの完成である。
 少しでも夜空に近づくために、ルーズベルトの車椅子は空を泳ぐ。
 月を取る為。
 それが叶わずとも、まずは奪われた“星”に手を届かせるために。

256星に届け ◆5Nom8feq1g:2015/06/07(日) 10:49:17 ID:yVteYQAM0
 

「さあ諸君、奪われたものを取り返す――戦争の始まりだ」


 彼の国の旗を胸に。
 大統領フランクリン・ルーズベルトは、出陣した。

 
 
【A-2/森/一日目/黎明】

【フランクリン・ルーズベルト@アースA】
[状態]:いたって健康、高揚、飛行中
[服装]:スーツ、ネクタイなどなど
[装備]:フランクリン・ルーズベルトの車椅子@アースA
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜1
[思考]
基本:連合国の人間と協力し、この殺し合いを終わらせる
1:枢軸国は皆殺し。容赦はしない
2:車椅子を治せるメカニックを探す
3:よりエンジンに優しい水を求め、温泉や泉へ向かう
[備考]
※まだ名簿を見ていません。
※ルーズベルトの車椅子には制御がかけられています。まだ何が使えて何が使えないか確認していません。
※一応ルーズベルトの車椅子は支給品扱いです。

257 ◆5Nom8feq1g:2015/06/07(日) 10:52:39 ID:yVteYQAM0
投下終了です。水で燃料をまかなうとかいう夢の技術
何かあったら指摘お願いします
タイトル元ネタはルーズベルト名言×「君に届け」です

258名無しさん:2015/06/08(月) 02:59:41 ID:oPqSK.QQ0
投下乙!
ルーズベルトは連合国側の人とは協力する気があるんだな

259名無しさん:2015/06/09(火) 20:50:37 ID:H0602iBQ0
投下乙です!
ルーズベルトまじでどうなってんだその車椅子!
フリーメイソンすごい(小並感)

雑談スレでも出てたけど連合国の人間結構少ないんだよな
味方は見つかるのか

260 ◆/MTtOoYAfo:2015/06/11(木) 00:07:43 ID:2qbc99qQ0
投下します。
遅れてすみません。

261楽しさと狂気と ◆/MTtOoYAfo:2015/06/11(木) 00:23:50 ID:2qbc99qQ0
「な、なんだ!あれは…!!」

ティアマトを追いかけているためにダンプカーを走らせていた鬼小路君彦は目の前の光景を信じることができなかった。
目の前にいた全世界のモンスターマニアにとって伝説の存在ティアマトが50m級の大きさから小さくなり、人間のような見るに堪えない姿に変わっていってしまったからだ。
これでは怪獣ではなく怪人である。鬼小路にとってもはやあれはティアマトではない。ただの出来損ないのレプリカのようなものであった。

「はぁ〜…凄いのお!なあ君彦!あれはどういう仕組みなんじゃ?」

世界が違う故か怪獣を見たことない卑弥呼は、その変化も目の前の怪獣が行ったことではないかと考えていた。当然のことだ。
卑弥呼がかつで女王であった邪馬台国でも、呪術の類で猛獣を作り出した事はあったが、あのサイズの物は見たことなかったし、ましてや更に小さくなり人型になるような技術は存在していなかった。
なので単純な疑問として君彦に返したのだが、双眼鏡を覗く君彦はワナワナと震えていて、言葉を返すことはない。

「…ふざけるな」
「…君彦さん?」

ナイトオウルがダンプカーを一旦停めて、君彦を運転席から不思議そうに見た。
わなわなと震えているその表情は、自分の玩具を無理やり取られた子供のようにも見え、涙すら見えた。
そしてゆっくり大きな声で、彼は大きく目を見開き、空に向かって叫ぶ。

「ふざけるなぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!なんだ!なんだあの姿は!あれは俺の求めていたティアマトではない!あんな小さくない!あんなに人間のようではない!もっとティアマトってのは!美しい物だ!素晴らしいものなんだ!!!!ふざけるな…!ふざけるなぁ!」

君彦はダンプカーから飛び降りると、着地もうまくできずにその場に崩れる。
だがそれを気にもとめず立ち上がるとティアマトの方へと大きくて足を振りかぶり、無様にも思える姿で全速力で走っていった。
ナイトオウルは突如とした君彦の奇行に困惑していた。
先程までの子どもらしい一面は既に消えていた。彼のあの憎悪にも近い表情は、ナイトオウルを怯ませるのに充分だった。

実はナイトオウルは、2代目だ。
偉大な祖父の名を受け継いだのはつい最近のこと。
祖父が死んでから2年後、死亡説が囁かされていたナイトオウルを復活させたのが自分であった。
祖父は西崎という新人女警部の事をいたく気に入っていたようで、彼女をおちょくっていたとも聞く。
それほどまで余裕があった祖父とは違い、彼はまだまだ未熟者(一応西崎のことを言及するものの本心ではない)。
困惑するのも無理はなかった。

「追え、ないとおうる」

あたふたしているナイトオウルに、冷たく、また先ほどの無邪気な声色とは異なる声色で卑弥呼が言い放った。
口角は高く釣り上がり、目はティアマトを見た時のようにキラキラと輝いているが、どこか濁っているようにも思える。
そしてにやりと、口角を歪ませながら卑弥呼は含み笑いをしながら言い放った。

「面白いものが見れそうじゃ」

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

262楽しさと狂気と ◆/MTtOoYAfo:2015/06/11(木) 00:25:12 ID:2qbc99qQ0


「ティアマトおお!!!!何があったんだ!君の姿はそんなに醜いものじゃないはずだ!まるで漆のように美しい鱗!すべて切り裂く鋭い爪!世の中を恨むような眼光!すべて…すべて無くなってるじゃないかあああ!ふざけるな!!」

ティアマト『だったもの』に君彦はぜえぜえと息切れをしながらたどり着くと、まず真っ先にそう咆哮した。
殺し合いの場において大声を挙げるなんて愚策ともいえるが、今の彼にはそんなことは関係ない。
ただ素晴らしき存在の、あのティアマトが何故こんな姿になってしまったのか。彼はそれが許せなかったのだ。

「ぜえ…ぜえ…こ、これもすべてあの女!AKANEという奴のせいだろう!ぬ、ヌッフフフフフ…大丈夫だぞ…俺が、俺がなんとかしてやる!なぜなら俺は、どくた───」

君彦がそう言い終わる前、一瞬であった。
ティアマトがその右手を大きく横に振りかざした瞬間、鬼小路君彦の上半身と下半身は分離し、君彦の上半身が原形をとどめないような形になって吹き飛ばされたからだ。
上半身を失った下半身はその場で崩れ落ちる。ティアマトはそれを見て近寄るとその下半身を───おもむろに食べ始めた。

ティアマトにとってディパックの中の食料なんて人間においての豆一粒と変わらないようなものだ。 ゆえに、ティアマトは食べれるうちに食べてしまおうと考えたのだった。
着ている化学繊維から成り立つ邪魔な布はすべて破り捨て、人間という食材ありのままの姿にする。
それをティアマトは大きな両手で掴むとそのまま貪るように食べ始めた。
骨もそのまま噛み砕く。今必要なのは食べれるものだ。
やがて、そこにあった人間だったものは跡形もなく綺麗に無くなっていた。
ふと腹が満たされたティアマトは吹き飛ばした上半身の方を見た。
あれはもう、食べるのは難しいだろう。
服の繊維が絡まっている。勿体ないが諦めよう。

「…ぐるるる…タベタ…カッタ…」

ぽつりと呟くように、唸るような鳴き声の中から声が聞こえた。
気のせいかもしれない。だが、それらしき音、怪獣だった頃の鳴き声からは考えられない高い声。

ティアマトは、『知性』を得始めている。もちろん幼児にも満たない知性ではあるものの、かつてのティアマトであれば服の繊維云々で食べないことはなかった。
そもそも───『繊維』という物質の存在も知らなかったはずだ。

「ぐるる…ニンゲン、コロス…!ミナ、コロス…!」

ティアマトはそうまた呟くと目の前の食料をその場に放置して、またゆっくりと歩みを進める。
人間を憎む怪獣は皮肉にも、最も憎むべき『人間』に徐々に近づいているのであった。
【A-7/草原/1日目/黎明】

【ティアマト@アースM】
[状態]:無傷、怒り心頭
[服装]:裸
[装備]:無
[道具]:無
[思考]
基本:人間が憎い
1:邪魔な物は壊す
2:攻撃する奴は潰す
3:廃工場の方へ向かって破壊する
[備考]
※メスでした。
※首輪の制限によってヒトに近い姿になりました。
 身長およそ5m、ただしパワーと防御力は本来のものが凝縮された可能性があります。
※どうやら知性が生まれ始めました。あくまでも断片的。

263楽しさと狂気と ◆/MTtOoYAfo:2015/06/11(木) 00:26:00 ID:2qbc99qQ0

◇◆◇◆◇◆◇

「…そんな…」

双眼鏡を握ったまま君彦は走っていった為に、先程よりも必要以上にジープをティアマトに近づかせる必要があったナイトオウルは、目の前の光景を信じることが出来なかった。
ジープを停まらせて、遠い物陰に隠れてながら見ているとはいえ、これは少し衝撃的すぎる。
経験の少ないナイトオウルには、あのグロテスクな光景を耐えることはできなかった。

「うっ…うええ…ごほっ、ごほっ、おええ…」

数秒間吐いたあとに、ディパックの中にあったペットボトルの水を口に含み、ゆすいだ。
喉の中が焼けるような感覚。
間違いない。この場は異常だ。
振り回されていて忘れていたが、この場は殺し合い。ああいった怪物を、下手すれば殺さなくてはならない。
しかし、それが出来るのか?ナイトオウルはとてつもない絶望感と恐怖感に襲われていた。

「いや〜ないとおうる見たか?〈楽しい〉のお〜!」

だが、そんなナイトオウルの事など露知らず、卑弥呼は相変わらず楽しそうな表情を見せていた。
ナイトオウルは恐怖を覚えた。一体なぜ、この年端も行かない少女はけたけたと笑っていられるのか。

「…楽しいって…人が!人が死んだんですよ!なのになんで───」
「ないとおうるよ、妾は『楽しいこと』が見たいのじゃ。あれは実によかったのではないか」

震えながらのナイトオウルの声に対して、素っ頓狂に、当たり前のように卑弥呼は返した。
卑弥呼の目的はただ一つ。主催者に打倒するわけでもない、ただ楽しいものを見たいだけ。
それを見るのを邪魔する者が居るならば、殺すしかない。
彼女が生きていた時代も、それが当たり前と言えるものであり、彼女はただ『楽しいこと』を求めていただけ。
ゆえに戦争を起こし、魏の皇帝を洗脳したりと、散々なことをやり遂げることができた。
現代においては上手くいかず失敗することもあるがそれもまた一興。ムカムカするが結果的には楽しくなってしまうのだ。

「…もう嫌です!私はここから離れます!卑弥呼ちゃん!君は狂ってる!皆!皆どうかしてる!」

ナイトオウルはゆっくりと立ち上がると停めていたジープへと向かい始める。
足がふらつきながら、表情には軽蔑に近いものを伺わせてゆっくりと向かっていた。

「どうかしておるのはお主じゃ。ないとおうる。この場に呼ばれた段階で、そして君彦が殺されている間黙って見ていただけで───妾と大差ない」

それを見た卑弥呼は、また冷たく、ナイトオウルに言う。
ナイトオウルは気にもとめない。運転席に座ると、シルクハットを脱ぎ捨てて髪の毛をぐしゃぐしゃにした。
シートベルトを閉め、エンジンをかける。大きな音を立てて、ジープのエンジンが温まっていく。

「もううんざりだ…こんな場所」

そう言って、ナイトオウルはハンドルを握った、その時だ。
卑弥呼が手に持っていた鎖のような剣、『蛇腹剣』を取り出してブツブツと呪文を唱えると───ナイトオウルの首の右側を貫いた。
ナイトオウルは目を見開き、口を何回も酸素が足りなくなった魚のようにパクパクさせながら、卑弥呼の方を見つめた。

「…悪いのお、ないとおうる。お主を逃がしたら妾の悪評が広まってしまいそうじゃ」

やがて何かナイトオウルは言葉らしき音を発したが、口の中に広がる血が貯まり、ろくに喋れずに。そのまま糸が切れたようにその場に崩れた。
蛇腹剣を引き抜くと、卑弥呼は巫女服の中に仕舞い込む。

264楽しさと狂気と ◆/MTtOoYAfo:2015/06/11(木) 00:27:22 ID:2qbc99qQ0

(…妖力で動く剣、か…妾の知らないことがあるものじゃな)

彼女に支給された武器の1つは、ヘイス・アーゴイル特性の、魔力や妖力を原動力とする蛇腹剣であった。
魔力や妖力が無いものが使うとただの剣だが、あるものが使うと剣の部分がまるで鎖のように伸びていき、相手の急所を貫くことができる、というアーゴイル商店自慢の一品だ。

ナイトオウルは殺さずとも口封じのために拷問してもよかったかもしれないが、とちって殺してしまった。その点は反省すべきである。
ジープを運転する人間が居なくなってしまったが、この際仕方ないので自分で運転してみるとしよう。
ナイトオウルを運転席のドアを開けて外に蹴飛ばすと、卑弥呼は運転席に座った。

ぴこん。ぴこん。ぴこん。
高い金属音が鳴る。卑弥呼の巫女服の上着の中に閉まってあったレーダーだった。
近づいている参加者の首輪を探知するというものらしい。詳しいことは知らないが…なんにせよこの近くに二人、参加者が居るようだ。
方角、距離的にもB-6だろうか。

「折角じゃし行ってみるとするかのお…てぃあまとはつまらぬ外見になったし、他の参加者のところで楽しむのもいいじゃろう」

そう言うとエンジンがかかったままのジープをギアチェンジして、ゆっくりとアクセルを踏み込む。
鈍い音が鳴る。
向かう先は『楽しさ』を求めれる場所。
そのためならば殺すことも厭わないし、弱者のフリをするのもいいだろう。


「はははー!ゆけいゆけい!妾を止められる者はおらんわー!」

ジープが一台、闇を切って走り抜けた。

【鬼小路君彦@アースM 死亡】
【ナイトオウル@アースD 死亡】

265楽しさと狂気と ◆/MTtOoYAfo:2015/06/11(木) 00:32:59 ID:2qbc99qQ0
【F-6/ジープで平原を疾走/1日目/黎明】
【卑弥呼@アースP】
[状態]:健康、興奮
[服装]:巫女服
[装備]:無
[道具]:基本支給品一式、蛇腹剣@アースF、生体反応機
[思考]
基本:「楽しさ」を求める
1:アハハハハ!行け行けぇ!!
2:このままB-6を目指す
[備考]
※怪獣が実在することを知りました。

【生体反応機@アースEZ】
周囲二キロにわたって参加者の首輪を探知してレーダーに映す。
誰なのかまでは分からない。



「あー…かわいいなぁ。キスしたいくらいだよ…ほんと」

すやすやと眠るエンマを見ながら、柊麗香はうっとりとしながら呟いた。
先ほどの強さとは一転、疲れて眠っているエンマを見ると、悪戯をしたくなる。
ただそれは、子供の悪戯ではなく、もっと汚れたものではあるが。

柊麗香は男である。
吸血鬼の力を手に入れていた頃、通りすがりの可愛い女学生を捕まえ、『楽しんだ』あとに皮を剥ぎ取り、自分のものとした。
今は力を封じられて出来ないが───もし力が戻れば麗香は真っ先にエンマを狙うだろう。
勿論エンマの強さは知っている。おそらく上手くは行かないだろうが、麗香はそう願った。

「…駒にするには、勿体ないくらい。ほんとにそう思う」

髪もつやつやと艶があるし、流れるように美しい。肌は雪のように白い。
体には幼さが残るが、麗香としてはそれがまたそそる。
それにほどよい筋肉が彫像のような肉体を作り上げていた。

これが『自分』に出来れば、なんとよいことか。

「…ま、今は我慢ね。楽しみはあとに取っておかなくちゃ」

麗香は空を見上げた。
この殺し合いが始まってもう数時間だ。
吸血鬼の力を封じられてしまった自分が生き残れる自信はあまり無いが、エンマを使えばなんとかなるはずだ。

「楽しみは最後。今は生き残ることを優先しなくちゃね」


二人の楽しさを望む女が出会うのは、あと少し。
【B-6/町/1日目/黎明】

【柊麗香@アースP(パラレル)】
[状態]:健康
[服装]:多少汚れた可愛い服
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜3
[思考]
基本:生き残る
1:早乙女エンマを利用する。
2:エンマちゃんかわいいよペロペロしてくんかk(以下略
※吸血鬼としての弱点、能力については後続の書き手さんにお任せします

【早乙女エンマ@アースH(ヒーロー)】
[状態]:疲労(中)、まだ回復中
[服装]:血で汚れている
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜3
[思考]
基本:師匠と合流して、指示を仰ぐ
1:zzz
2:麗香(名前は聞いていない)と一緒に師匠を探す

266楽しさと狂気と ◆/MTtOoYAfo:2015/06/11(木) 00:33:50 ID:2qbc99qQ0
以上です。
うーん。ちょっと無理やり感あるかも。
卑弥呼の行動方針とかその他もろもろ意見ある方はぜひ。

267楽しさと狂気と ◆/MTtOoYAfo:2015/06/11(木) 00:38:00 ID:2qbc99qQ0
だった。追記。
※鬼小路、ナイトオウルの支給品はそれぞれ二人の死体のそばにあります

268名無しさん:2015/06/11(木) 01:14:36 ID:2H9xHFcE0
投下乙!
自分の不利益だからとあっさりと人を殺す卑弥呼が怖いよぉ〜

269名無しさん:2015/06/13(土) 12:38:27 ID:C63eX0Hs0
おお投下乙です
怪獣としてのティアマトを愛していた君彦の無惨な死…
凶暴性の取り除かれた怪獣といつも暮らして愛玩化していた彼は、怪獣の本心を分かってあげられていなかったのかもしれないな
人間に近づいていくティアマトも悲しいが愉悦に生きて命の弄び方がひどい卑弥呼や人を皮としか思ってない麗香も怖い奴らだ

270 ◆5Nom8feq1g:2015/06/14(日) 06:00:19 ID:q2MF8e5o0
投下します

271彼女は貫く胸の華 ◆5Nom8feq1g:2015/06/14(日) 06:03:22 ID:q2MF8e5o0
 

 灰色の駐車場に、スパイダー・コルサのブレーキ音が甲高く響く。
 ドアを開いて白の建物を見上げると、上には赤の十字マークが見えた。
 ――間違いない、ここが病院だ。

 西崎詩織は、わずかに緊張を解いて、胸をなでおろす。
 やっと目的地に着いた――ただその一挙動も急ぎ目だ。
 ……救護物資や安全な休憩場所の確保。『旗』についての情報集め。
 この殺し合いや、先ほど見た触手のようなものを手から発する奇怪な少女に関する推理。
 まだやることはいろいろある。

 慌ててはならないが、怠けてもいけない。難しい話だがやるしかなかった。
 それにもちろん刑事として、そして大人として、同行者をいたわることも彼女は忘れない。
 車のエンジンを止め終えると詩織は、先ほど後部座席に保護した少女に優しい口調で語りかける。

「ごめんなさい、荒い運転だったかもしれないけど、病院に付いたわ。
 とりあえずここで休みましょう……いろいろ聞きたいこともあるけれど、心をまずは癒さないと……」
「……うぅ……」
「……!」

 ――ここでひとつの誤算が発生する。
 それは触手に襲われ衰弱したカウガール少女、不死原霧人が、
 病院に来るまでに意識を眠りに落としてしまっていたことだった。
 これはいけない。西崎詩織は奥歯をぎりと噛んだ。

 柔道で鍛えた詩織には体力はあるが、肉付きも体格もある少女を運ぶのは骨が折れる。
 時間がかかるし、移動の間は完全に無防備になってしまう。
 もし先ほどの触手少女がこちらを追ってきていたら。
 あるいは他の、乗っている参加者がこの場に来たら――。

「まずいわね……あなた、ちょっと、悪いけど起きて……?」
「……やだぁ……やだよ、サムライ……」

 身体を揺さぶって起こそうと試みるも反応は悪い。引っ張ってみても動かない。
 顔色は少し良くなっているものの、知り合いらしき人の名前を呼び、
 いじらしげに眉根を寄せて、苦しそうな息を吐くのみ。
 そういえば少女には名前すら聞いていなかった。これも誤算といえば誤算だが、

(どうする……? 西崎詩織。考えろ……!)

 状況をいい方向に向かわせるために、頭を回すのが先だ。

(この子をベッドまで安全に運ぶ方法――病院には傷病者を運ぶための担架はあるはずよね。
 ――いえ、一人じゃ担架を持っても意味がないわ。焦るな私、他になにか……。
 そうね、車椅子――車椅子に載せれば運べるし、それだけなら取ってくるにも時間はかからない。
 まずは車椅子を取ってきて、この子を載せて――待って。――そもそも、病院は安全なの?)

 聳え立つ無機質な病院を見上げて、詩織は思い至る。
 病院は目立つ施設だ。
 傷病者が多くなると予想される殺し合い状況下では、尚更その需要は高い。
 詩織が保護したい弱者も来るだろうが、それ以上にありうるのは、多少人が集まっていても関係なく、
 殺しを進められると自負している強者――乗っている者の襲撃ではないか。
 だとすれば病院は安全とは言い切れない。
 
(むしろ――誰かがすでに潜んでいる可能性も否定できない。クリアリングの必要性。
 でもそうなると、この大きな施設を1人で――? 現実的じゃないし、その間この子はどうするの?
 それに、もし乗っている者が――さっきの触手の子みたいな危険人物が来たとき、
 私に昏睡中のこの子を守れるだけの力が果たしてあるかと言うと――)

 ごくりと唾を呑む。汗で前髪が額に張り付く。
 未だ薄暗い空を覆うような高さの病院、という建造物が、だんだん詩織の心を威圧していく。
 泥沼に嵌る思考の中で、詩織はいったい何が正しいのか分からなくなっていく。
 こんなとき――黒田翔琉がいれば。
 あの、マイペースで豪放磊落で、けれど常に正しい道を進んでいく憎らしい探偵がいれば。
 あるいは今の詩織に、正解を示してくれるのだろうか?

(――なんて、探偵を頼ってるようじゃ私もまだまだね)

272彼女は貫く胸の華 ◆5Nom8feq1g:2015/06/14(日) 06:04:30 ID:q2MF8e5o0
 
 頭をぶんぶんと振って悪い考えを振り払う。
 もっとシンプルに考えるべきだ。尊敬している父も言っていた。
 「迷うな。自分が正しいと思うことをしろ――正しさなんてものはいつも、自分の中にしかないのだから」、と。
 いま詩織が考える正しさは、憔悴した少女を安全な場所へと保護すること。
 幸い少女は襲われてはいたものの、外傷はなく手当ての必要はない。
 病院に安全要素と共に危険要素も感じ取ったのならば、病院にこだわる必要は、ない。

 地図を見る。 
 病院から一番近い施設は映画館、そして映画館前の駅。
 こんな状況で映画館に行こうという人間はあまりいないだろう。つまり逆に穴場ではある。
 しかし、駅――島に唯一用意されている交通網の近くというのは気になるところ。
 できればもっと、人気(ひとけ)がなさそうな場所。
 人が立ち寄る必要性を感じさせない場所のほうが都合がいい。
 
「……よし」

 もうちょっと、待っててね。
 詩織は後部座席に横たわって呻く不死原霧人に声をかけると、もう一度運転席に乗り込んだ。
 走らせ、病院の入り口付近で一旦止める。
 入り口付近には急患用の医療室があり、そこには一通りの医療道具が揃っていることを詩織は知っていた。
 ごめんなさい、と謝りながら鍵を自動小銃で破壊し、侵入して、医療道具をデイパックに詰める。
 それをトランクに詰め終えるまで五分とかからなかった。
 
(器物損壊、不法侵入、強盗行為か。緊急時じゃなかったら始末書じゃ済まないわね)

 なんて。呑気に考える余裕がまだあることに少しだけ驚きつつ、
 再び慣れない左ハンドルで、詩織と少女は病院を後にする。
 向かう先は――島の外周――森の先にぽつりと存在する、“屋敷”。

(救える命を救うこと。それがこの場で今、私がやるべきこと――そうよね? お父さん)

 胸ポケットに手を当てながら、気持ちを落ち着かせるための長い息を吐く。
 そこに収められている警察手帳には、桜の代紋が刻まれている。

 西崎詩織はそれを貫く。


******  
  

 ぐらぐらゆれる。そとのせかいをわずかにかんじる。
 でも、げんじつから、めをそむけたかった。
 あたしはゆめのなかにいた。

「やだぁ……やだよ、サムライ……」

 はじめてのヴィランとのたたかいで、アタシはまけてしまった。
 あいてはしょくしゅをつかっておんなのこをはずかしめてくる、ヴィラン。
 みためがつよくなさそうだったから、たいしたことないとゆだんした。
 とらえられて、ころされるとおもった。
 だけどあいてのもくてきは、アタシをころすことじゃなくて。ころされるよりおそろしいことをされた。
 こわかった。
 なのに、それいじょうに――――――アタシは。

「あつい、よ……あついぃ……」

 ――じわじわと。
 ヴィランにきざまれた“きず”が、ゆめのなかで“ねつ”をおびてくる。
 それはからだの“きず”ではない。
 アタシにきざまれたのは、こころの“きず”。

 はいぼくのきず。
 かいらくのきず。
 
 げんじつから目をそむけさせる、堕落への、いざない。

273彼女は貫く胸の華 ◆5Nom8feq1g:2015/06/14(日) 06:07:02 ID:q2MF8e5o0
 
『んふふ、こんにちわ、お姉さま♪』

「……!」

 “それ”はアタシのすがたをとって、アタシのゆめのなかにあらわれた。

『あらぁ、驚かないでくださいまし。
 私(わたくし)にあなたの夢の中に入れるような力はありません。
 この私はあなたが見ている幻ですわ。私に刻まれた恐怖と――現実から逃げた後ろめたさが生んだ幻』

「なによ……アタシは、アタシは逃げないって……」

『逃げているじゃあ、ありませんか。
 眠るほど憔悴しているわけでもないのに、さっきあなたは、“起きるのを、拒否した”んですよね?
 まったく、助けてくれた人を困らせて。
 ちょっと怖い目にあったからって、わがまま言っていいと思ってますの? わるい子ですわ、わるい子ですわぁ♪』

「う……うるさい」

『あなたはいつも自分勝手なわるい子。正義に酔って、周りを顧みない子。
 手柄ばかり求めるその姿は、周りから見ればただのヒーローごっこ。成績は優秀でも――ヒーローの素質はあるのかしら?』

「うるさい、あんたにアタシの何が――」

『あら。私はあなたをよく知っていますわ。だって私はアタシですもの♪』

 闇ツ葉はららのことばづかいで、
 アタシのすがたをとった“それ”が、アタシをぎゅっと、だきしめる。
 いきなりのことにたいしょできない。
 アタシにだきしめられたアタシ。おどろくくらいの、あたたかさ。やわらかさ。
 こわがっていたこころが、どろどろにとかされていくみたいな。

『大丈夫。全部わかってますわ。
 あなたの苦しみも、悲しみも、ほんとうは誰よりもこわがりだってことも、アタシはぜんぶ分かってる。
 だから、――無理しなくてもいいんですわ。助けを求めても、いい。わがまま言って、良いんですのよ。
 だってあなたは今、“被害者”なんですから――あなたを咎めるひとなんていませんわ!』

 ぎゅーっと、だきしめられながら。
 みみもとでささやかれるあまいことば、うれしくて。
 アタシはからだのちからをぬいて、ぐずぐずにとろけていってしまう。

『いい子、いい子ですわ。わるい子でいても、いい子なんですわ』

 それはとてもきもちいいこと。
 なにもかんがえずに、
 じぶんだけにしたがってしまうのは、とてもとても、きもちいいこと。

『快楽には、人間は逆らえない。だから逆らわなくていい。さ、お姉さま――きもちよく、なりましょう?』

 アタシが心に咲かせていた、 
 勇気、の花が、じわじわと、堕落の熱につらぬかれて。
 意識が、どんどん――ゆめに“お”ちていく。
 

******


 屋敷は南蛮風のハイカラな外見をしていた。
 好事家が町のはずれに立てたのだろうか? プールなども完備されていて、豪華なつくりだった。
 中は一部屋一部屋が広い単純なつくりで、クリアリングも手早く済ませることができた。
 それでも一人でやったならもう少し時間はかかってしまっただろうが、
 幸いなことに詩織が屋敷に着いたとき、そこには正しい心を持った先客がいたのだった。

274彼女は貫く胸の華 ◆5Nom8feq1g:2015/06/14(日) 06:09:38 ID:q2MF8e5o0
 
「――頼もしい人と合流出来て助かりました。感謝します、十兵衛さん」
「いいってことよ。霧人も連れてきてくれたことだしな。……して、嬢ちゃんたちはどうだ?」
「どちらもまだ、起きないわ。それにしてもこっちの子、脇腹にあざができてるわね。
 傷害罪。一体誰がこんなことを……犯人を見つけたら捕まえなきゃいけないわ」
「お、おう、そうだなぁ……」

 いま、西崎詩織は柳生十兵衛と共に屋敷の寝室に不死原霧人と花巻咲を寝かせ、一息ついたところだ。
 最初にこのスーツの男――柳生十兵衛に出会ったときは、少し疑いもした。
 気絶した少女を扉のそばの壁に寄り掛かるようにして座らせて屋敷の扉に手を掛けようとしていた、鋭い眼をしたサムライのような顔の男。

 すわ少女を手に掛けんとする犯罪者かとも疑いかけ、
 思わず銃と警察手帳を手に飛び出してしまったが、早とちりだとすぐに気づかされた。
 男はすぐに両手を挙げて潔白をアピールしたあと、後部座席の少女を見て驚いて駆け寄ると。
 娘の無事を確認した父のような、あるいは妹の無事を確認した兄のような表情で、嬉しそうに破顔したのだ。

 そう、伝説の剣豪と同じ名前を持つこの柳生十兵衛という男こそが、
 詩織が助けた少女、不死原霧人が言った“サムライ”だったのである。
 彼によれば肩に抱えていた少女は何者かに殴打されて森の中で倒れていたという。

「まったく、幼気(いたいけ)な女の子に危害を加えるなんて、これをやった奴は最低ですね、十兵衛さん」
「おう、本当にな……まったくそうとしか言いようがない」
「……どうかされました?」
「!? い、いやぁ何でもねぇよ。ちょっと俺も疲れがなほら、運んできたから」
「ああ、そうでしたか。そしたらそちらの茶菓子でも食べながら、少し休憩しましょう」

 詩織は十兵衛に支給されていた箱詰め和菓子を指して言う。
 4人分の支給品はもう確認したが、さしあたり有用そうなものが発見されることは無かった。
 武器は十兵衛が助けた少女、花巻咲――学生証がポケットの中から見つかった――が持っていた鉄パイプ。
 霧人が使っていたロープ。詩織に支給されたジェリコのみ。
 
 数でいえば6つあった不明支給品は、それぞれテーブルに載せられている。
 箱詰めクッキー、推理小説、扇子、青のペンライト、魔よけのお札、そして宝箱。
 宝箱については鍵で開けなければいけないタイプで今は手が付けられない状態だ。

「お、このクッキー美味えな。どこのブランドだ?」
「箱には徳川家の家紋が入ってますね。うーん、こんなブランドあったかしら。でも美味しい」
「にしても鉄扇かと一瞬思ったが、似たデザインでもただの扇子じゃあなあ……」
「魔よけのお札も、本当に効果があるのかどうかいまいち分からないところですね」
「あ、西崎さん――だっけっか? 俺に別に敬語使わなくていいぜ、俺ぁそんな偉ぇやつじゃねえ」
「そう? じゃあ、そうさせてもらうわ、十兵衛さん」
「おうおう。そっちのほうが俺としても話しやすい。さて――」

 十兵衛は天蓋つきの二つの大きなベッドの方を見る。
 苦しそうな息を吐いていた霧人も、頭に濡れタオルを載せると少し良くなった。
 花巻咲のほうも今の所ぐっすりと眠っている。
 踏み込んだ話をするなら、今だ。

 テーブルに座る詩織と十兵衛。十兵衛が、推理小説に手を伸ばす。

「これ――覚えあるかい? 西崎さん」
「ないわね。かといって勝手に書かれたにしては、詳細まで詰められすぎている」
「ってえこたぁ、そういうことってわけだ。あんたは“他の世界”じゃ、小説の登場人物になってるんだな」

 タイトルは『メイドは見た!~あるじ様、殺人事件でございます。~サラ・エドワーズの事件簿』。
 その推理小説に書かれていたのは、
 詩織があの黒田翔琉とイギリス旅行へ行く羽目になって、
 しかも事件に巻き込まれることになった時の話をそのまま小説にしたようなものだった。

 詩織はイギリス旅行の話を誰かに大っぴらに話したことはない。
 事件を解決したのはメイドだったし、
 黒田と一緒に旅行に言ったと周りに知れたら自分の探偵嫌いキャラに影響が出るからだ。
 にもかかわらずその話がこうして小説になっている。自分と黒田しか知らないような場面まで含めて。

275彼女は貫く胸の華 ◆5Nom8feq1g:2015/06/14(日) 06:12:28 ID:q2MF8e5o0
 
 黒田が誰かに事件の話を聞かせ、その誰かが小説にしたという可能性は残るが、
 詩織の知る黒田の知り合いに小説家は居ないし、黒田がそういうことをする男だとはあまり思えなかった。
 あの男は基本的に解いた事件には興味を無くす。
 とすればこれは誰が書いたのか。
  
「他の世界……ねえ」

 この謎を解決する方法が、柳生十兵衛が示した異世界論だ。
 曰く、――世界はひとつじゃない。
 様々な世界が存在していて、自分たちはそのいずれかから集められたのだと。

「俺ぁ実際、世界渡航を経験したこともあってな。人よりは察しが早かった。
 首輪の“あるふぁべっと”が、その世界を表してるんだとすりゃあ辻褄も合う」
「霧人ちゃんとあなたが『H』、私が『D』、咲ちゃんが『R』……確かにね。
 そちらの世界はヒーローとヴィランが跳梁跋扈する世界。に対してこっちは、探偵と怪盗の世界、か……」
「ちなみに俺が元いたのは江戸がずうっと続いてる世界だった。
 あんたが俺の名前に憶えがあるのも、そっちの世界の俺が居たってことだろうなあ」
「じゃああなたは他の世界の、私が知っているのとは違うけど同じ、
 剣豪の十兵衛そのものってことになるわけね――ややこしいわね!」
「そうだややこしい。
 そんで、あの“あかね”とか言う奴がどうしてこんなややこしいことをしたのかも、謎だ」

 詩織は口をつぐんだ。
 そうだ。一番考えなければいけないのはそこだ。
 様々な世界から人を集めて殺し合わせたのが仮に真実だとして、
 どうしてそんなことを主催はしたのか。
 ――分からない。はっきりいって、手掛かりが少なすぎる。ただ、

「世界、といえば、『旗』のこともあったわ」
「『旗』?」
「私がここに来る前、私の世界中の人が目の前に『旗』の幻覚を見ていたの。
 危険が迫っているのか、旗はほぼ全員が赤い色で――たまに青や黄色の人もいた」
「俺のほうじゃ、そういうことはなかったなぁ。だが」
「だが?」
「主催の奴がいろんな世界に手を出したってんなら……その『旗』も奴らの仕業かもな」
「……!」

 十兵衛の意見に詩織は目を見開く。

「あの赤旗が――主催からのメッセージだった? ここに連れてくるっていう?」
「かもな、ってだけだ。なんで西崎さんの世界だけにその『旗』が現れたのかも分からんし、
 それに世界の全員が『旗』を見たってんなら、それはそれで矛盾もある」

 そう言って十兵衛が取り出したのは、参加者全員に配られていた“参加者候補”のリストだ。
 詩織も確認済だが、そこには詩織の知る名前は十名に満たない数しか書かれていない。
 世界中に現れた『旗』の数に対しては、その候補者数は少なすぎる。

 殺し合いに連れてくるという行為に対して『旗』で知らせたのだとすれば、
 リストにはもっと多くの名が書かれていなければおかしい。
 ――結局、これについても不明点ばかりが挙げられ、答えには辿り着けそうになかった。

「実のある話ではあったけど、根本的な所は煙に包まれたままね」
「まだこんなもんだろうな。もしかしたらそこの宝箱からとんでもない情報が出てくるやもしれんし、
 焦らず気長にいくとしましょうや。それで――ものは一つ、相談なんだがな」
「何?」
「実は俺、ちょいとした焦りから、お前さんに一つ吐いちまってる嘘があってだな――」

 と。
 推理パートも一息ついて、
 十兵衛が改めて自分の罪を詩織に告白しようとしたときだった。


 ぴんぽーん。


 と、屋敷のチャイムが鳴らされた。

276彼女は貫く胸の華 ◆5Nom8feq1g:2015/06/14(日) 06:14:38 ID:q2MF8e5o0
 
「……来客?」
「にしては――おかしくねぇか。チャイムを鳴らすってのは、“中に人が居るかも”って分かってるってことだろ」
「車は屋敷正面に停めたままだから、それ自体はあまりおかしくないんじゃ?」
「ここに最初から車があったとも考えられるだろ。……まあ、そうなるとチャイムを鳴らすこと自体は変じゃないが……」
「いいえ、待って。十兵衛さん、扉に鍵はかけた?」

 詩織ははっとした表情で十兵衛に問いかける。

「いーや、掛けてない」
「じゃあやっぱりおかしいわ。この状況で、入ってこれるのにわざわざチャイムを鳴らしたってのは――」

 バタン!!
 続いて聞こえたのは、少しいらついたような――扉が閉じる大きな音。

「どちらかというと、迎えに出てきた人を襲うための策よね」

 敵襲――そうと決まれば二人の行動は早い。
 跳ね上がるように椅子を蹴り、十兵衛が霧人の前へ。詩織は先の前へと動いた。
 広い寝室、窓を背に、守りの体勢。
 十兵衛は鉄パイプ、詩織はジェリコを握って、扉を見つめ呼吸を整える。

「安全な場所だと思ってここに来たのに、なかなかそんな場所ってのも無いものね……」
「そうやって軽口叩けんなら上等。神経研ぎ澄ませろよい、来るなら一瞬だ」
 
 十秒……変化なし。
 二十秒……変わらず。
 三十秒……誰も来ない。



「死ね――――化け物ッ!!!!」



 四十秒。
 少女は、窓を破って部屋に入ってくる。
 正面扉を閉めた大きな音は陽動だった。少女は正面から中に入ったと見せかけ、
 実際には屋敷の周囲を回って人の居場所を突き止めていたのである。

「な、」

 詩織が振り向いた時にはもう、小さな殺人鬼は獲物にドスを突き刺そうとしていた。
 学生服の少女が狙っていたのは――眠っている不死原霧人。
 の心臓で、

 キィン!

「おいおい、部屋はノックしてドアから入れってぇ、教わらんかったかね、嬢ちゃん!!」

 一直線に向けられたその殺意は、鉄パイプによって弾かれる。
 柳生十兵衛。
 不測の事態にも反射で動けるのが剣豪だ。
 弾いてそのまま、鉄パイプを剣に見立てて少女の脳天めがけ振り下ろす。容赦している場合ではない。
 だが、少女のほうは柳生の剣を幾度か体験済みであった。
 一般人なら避けられない速度のその大上段を、ひらりと蝶のようにかわす。
 柳生はさらに踏み込む。
 襲撃少女はドスで受け流すも、絶対的な筋肉量の差がそこにはある。打ち合いは不利。

「ぐぅ――邪魔……邪魔しないで!! 殺させて、あたしにその化け物を!」
「人違いじゃねぇのか! こいつはれっきとした人間だぞ!」
「違うわ! そいつはね、人の皮を被れるの!」

 だから姿なんて何の指標にもなりはしないのだと吐き捨てて。
 少女は咲く。
 アクロバティックに空中で回転すると、窓枠を蹴って天井へ。
 天井を蹴って、ベッドの天蓋を貫きながら、憎悪を殺意に乗せて叫ぶ!


「その纏ってる“淫気”! 間違いない、そいつが――朔(さく)を殺した『化け物』だ!!」
 
 
「だから! 何言ってんのかさっぱりなんだってぇの!!」


 しかし天蓋を目くらましにしての刺突さえ十兵衛には通じなかった。
 ラメ入りビーズで彩られたドスは、大きなベッドのマット部に思い切り突き刺さるのみで手ごたえ無し。
 十兵衛はその前にとっさに霧人の身体を抱きあげて、テーブルの方まで飛び離れたのだ。

277彼女は貫く胸の華 ◆5Nom8feq1g:2015/06/14(日) 06:16:40 ID:q2MF8e5o0
 
「はぁ……はぁ……あんたの太刀筋……見覚えあるわよ……柳生ね?」
「……いかにも。俺ぁ柳生の十兵衛よ」
「いつもいつも……邪魔をしてくれるわね……分からないの? そいつが纏ってるおぞましい淫気を!」
「淫気だぁ……?」
「じ、十兵衛さん! 霧人ちゃん! だ、大丈夫!?」
「おうよ、何とかな! だがこいつぁ骨だぜ……!」

 西崎詩織はここでようやく状況を把握した。
 あまりに詩織の常識から離れた戦闘光景に、眼と脳が追いつかなかった。
 気づけばベッドは一つ大破していて、その上に膝を突く少女がマットからドスを抜き、立ち上がるところ。
 襲撃者のその少女は――見目麗しい色白小柄で、服から察せるにまだ学生。
 首輪の文字は『P』。
 またも詩織とは別の世界の住人か。
 整っているはずのかんばせも殺意に歪みきって、全身から黒い炎が吹き上がっているかのよう。
 そして――淫気、というワードをしきりに叫んでいる。
 詩織はそれに心当たりがあった。

「あなた! そっちの子が纏ってる淫気ってのは、さっき襲われたときに……」
「外野は黙ってて! これはあたしの復讐だ! 邪魔するならあんたも殺す!」

 襲撃者の少女が殺そうとしている不死原霧人が、先ほど襲撃された案件――あの触手の少女。
 今にして思えばあれもまた、別の世界の住人なのだろうが、
 あれに襲われた名残は、まだシャワーも浴びれていない霧人に色濃く残ってしまっている。
 もしかしなくても、襲撃少女はその残り香を自分の復讐相手と勘違いしているのではないか。
 そう推理して伝えようとするも、襲撃少女に言葉は届かない。

「西崎さん、こいつは俺が相手する! サキちゃんのほうは頼む!」

 十兵衛は霧人を広いテーブル上に寝かせると、再び鉄パイプを構え襲撃少女に対峙する。
 詩織は言われたとおり、銃を襲撃少女に向けつつ花巻咲をより守るような位置へと動く。
 先の戦闘シークエンスだけでも、この場で自分が戦いに加わっても何も手助けはできないということは理解済だ。
 それに、襲撃少女もあり得ない動きをしているが、
 おそらく全力でぶつかれば十兵衛のほうが一枚上手だということも、詩織には把握できていた。
 人を見る目はある方だ。
 この場は、十兵衛さんに任せておくのが最もリスクの少ない場面――。



「あつい」




「あついよぉ、サムライ……っ」
 
 
 
 だが、戦況は変わった。
 騒々しさにいよいよ起き上がった不死原霧人が――惚けた口調でサムライを呼んだかと思えば。
 彼女は目をとろんとさせたまま、後ろから、柳生十兵衛に抱きついたのである。

「なっばっ――み、霧人!?」
「サムライー……サムライの、におい……あんしん、する……」
「馬鹿やめろい! どうしちまったんだおめぇ、」
「あつい……あついの、あつくて、こわいの、ねぇサムライ……なぐ、さめて……?」
「……な――」

 媚を売る姿はまるで娼婦のように。
 夢心地、上目使いに訴えかけるそれは今まで見たこともないような同居人の蕩け顔。
 さしもの柳生十兵衛であってもこれには意識を乱さざるを得ない。
 カランと鉄パイプを取り落とし。
 大きな空白時間を脳内に生んだ。
 その隙だらけの心では。

278彼女は貫く胸の華 ◆5Nom8feq1g:2015/06/14(日) 06:18:50 ID:q2MF8e5o0
 

「……ほら、やっぱりそいつが化け物だ!!」
「!!」


 十兵衛は壁を天井を咲いて迫り来る襲撃者に対して、反応することが出来なくて。


「――やめなさいッ!!」


 だから西崎詩織は、引き金を引いた。


******
 
 
 フラウ・ザ・リッパー肩斬華の誕生は数年前に遡る。

 彼女には親友がいた。
 名前は、鼻木朔(はなき・さく)。
 アースRにおける片桐花子の親友、花巻咲(はなまき・さく)に値する人物である。

 むかしは内向的だった花巻咲の対になるように、鼻木朔は行動的な人物で、
 当時は普通の少女だった華も彼女に引き摺られるようにして色々なところへ出かけた。
 どんなときでもよく笑い、快活なエネルギーにあふれている朔のことを華は信頼していた。
 だから6月、肝試しの時期に危険な路地裏に行ってみようとの誘いも、
 止めもしなかったし断りもしなかった。

「だ、大丈夫なのかな……」
「鬼が出て取って喰うなんてことがない限り大丈夫でしょ!」
 
 結果として、鼻木朔は闇から出てきた吸血鬼に取って食われ、
 その存在を皮だけにされて、何者かも分からなくされて、死んだ。

 華は親友が食べられ、中身を吸われて皮だけにされ、
 その皮を着られる過程を、隠れさせられたゴミバケツの隙間から全て見ていた。
 あまりの出来事に覚えることが出来たのは、
 その光景と、化け物が漂わせていた性のにおい――淫気だけだった。

 ゴミバケツの中で固まっていた華は警察に保護された数日後、図書館に籠って調べた。
 どうやら少女の失踪事件はここ最近になって急増しているらしい。

 ――あいつだ。
 ――あいつが少女を食べているんだ。
 ――少女を食べて、少女に成り代わっているんだ!
 
 華だけがそれを知ることが出来た。
 だから華だけが、そいつを退治することができる。
 華は決意した。――あたしがあいつを、必ず殺す。

 フラウ・ザ・リッパーの誕生である。

 化け物はどいつに化けているのか見当もつかないから、
 華は淫気を身体に染みつかせた少女や女性を手当たり次第に殺すほかなかった。
 それはほとんどが外れで、娼婦や援助交際後の学生だった。
 殺人を犯したあとはきちんと“中身”を引きずり出し、
 あのおぞましい化け物かどうかを確認したから間違いなく言える。
 まだあの化け物はどこかで少女の皮を被って生きながらえていると。


 この殺し合いに呼ばれたときもだから彼女は元の世界に帰ることしか考えていなかった。
 柳生宗矩に「戯れ」と揶揄された彼女の復讐を完遂させることだけが彼女の生きている理由であり、
 こんなふざけた殺し合いに関わっている暇などなかったからだ。

 男という時点でありえないと思ったが、最初に出会った長耳の男からは淫気は感じなかった。
 やはりこの島には仇敵はいないのだろう。そう思って海の方へとあてどなく歩いて、
 屋敷の近くにまで来たところで、華は急に驚くほどの淫気を感じた。
 そう、闇ツ葉はららが不死原霧人になすりつけた触手粘液――その淫気である。
 感度を倍増させる魔力が込められたその粘液から発される淫気たるや並みのものではない。

 間違いなく、屋敷に“奴”がいる。

279彼女は貫く胸の華 ◆5Nom8feq1g:2015/06/14(日) 06:20:45 ID:q2MF8e5o0
 
 実際のところ、彼女の仇敵である柊麗香は今や魂吸血能力を封じられてしまっており、
 身体に纏う淫気もそう強いものではないのだが……。
 あくまで淫気だけを頼りに彼女(彼)を探している華がそう勘違いしてしまうのも、無理はないといえよう。
  
 ともかくそれが、肩斬華が不死原霧人を狙うこととなった理由であり。

 それを邪魔した西崎詩織が、殺された理由でもある。


「あたし言ったよね――? 邪魔するならあなたも殺すって」

「……警察はね……人を助けるのが仕事なの……命が奪われるところを、黙って見てるなんて、出来ないわよ……」


 詩織の胸にはドスが突き立てられている。
 ジェリコから放たれた銃弾を躱したフラウ・ザ・リッパーが返す刀で投擲したものだ。
 それは寸分違わぬ正確さで、詩織の警察手帳を貫いた。
 彼女の胸の華を。
 心臓まで。
 ――その一撃で、詩織の死は確定した。

「はーっ……ねえ、せっかくこっちを向いてくれたんだし……私の推理、聞きましょうよ」
「どうして初対面の人の話をわざわざ聞かなきゃいけないのか、教えてくれるならいいけど」
「あなたは、大切な人のために殺しをしてる」
「……へぇ」
「いっぱい犯罪者は見てきたからね……見れば、なんとなく分かるわよ……どう?」
「そうね。正解よ。でもだから何なの? 復讐しても誰も喜ばないとか、そういうきれいごとを言うつもりなら」

 そんな葛藤はもう通り抜けたよ――と華は言う。
 がばっと制服をずらし、ブラをずらし、見せるのはいつも鏡で確認する彼女の花。
 入墨されたそれはシロツメクサ。
 花言葉は、「幸福」「約束」「私を思って」「私のものになって」、そして、「復讐」。

「あたしはあたしの胸に咲いた、この花を貫くって決めたんだ。迷いなんて、遠い昔に捨ててきた」
「……そうね……そこまで決意してるんだってのは、伝わってきたわよ。
 でもね……あなた、多分、考えられてないわ……“復讐を終えたのこと”をね」
「何……?」
「復讐の先には――何もないわよ」

 それは彼女の口から発されたとは思えないほど、重いトーンの言葉だった。
 たくさんの事件を、たくさんの復讐とその果てを見てきた詩織だからこそ言える言葉。

「達成感も……喜びも……嬉しさすらも、そこにはないの……。
 ただ、結局大切な人は帰ってこないって言う、虚しさだけが残るだけ……。
 仮に復讐を遂げたとしたら……あなたはその先、何の目標もない世界で生きる苦しみを、味わうことになるわ。
 それってきっとね……なによりも、かなしいこと……」
「……」
「あは……もう、げんかい、みたいね……。
 ……あなたのことも、すくい、たかったのに……悔しいな……」

 どしゃり。
 肩斬華が言葉を言い返す前に、西崎詩織は床に崩れ落ちた。
 そしてすぐに、動かなくなった。
 心臓を刺されて生きている人間はいない。当たり前だ。


【西崎詩織@アースD 死亡確認】


「……何よ。言うだけ言って死んじゃってさ。そっちこそ自己満じゃん」

 ようやく返せた言葉もなんだか負け惜しみみたいになって、肩斬華はいらいらした。
 いらいらしていたから、ドスを抜いて再度手にしようと詩織の方へ一歩向いたところで、
 自分に向かって投擲されていたロープに気付くことが出来なかった。

280彼女は貫く胸の華 ◆5Nom8feq1g:2015/06/14(日) 06:22:34 ID:q2MF8e5o0
 
「なっ」

 ぐるりと巻かれるロープ。
 速度と瞬発力に定評のあるフラウ・ザ・リッパーでも、その縛りから抜け出ることはできなかった。

「やって……みるもんだな、他人の武器を使うってのもよぉ……」

 ロープの先に目を向けると。
 鬼のような形相をした男が、射殺すような目線を華に向けていた。
 傍らには腹部を抑えてのたうちまわる不死原霧人の姿。
 柳生十兵衛はまとわりついてくる霧人に、花巻咲にしたように無慈悲な鉄拳を叩きこみ、
 その腰につけていたロープを奪い取ると肩斬華を捕縛したのだ。

「なんで……いたい、いたいよ、サムライ……」
「何でもくそもあるかぁッ! 色に惑わされおって、お前さんは後で説教だ!
 ……ああくそっ、情けねえ! 弱さに堕ちた霧人も、そんなこいつに一瞬でも乱された俺も!
 霧人を助けてくれた恩人を、目の前で殺されて――武士(もののふ)失格じゃねえか!
 腹ァでも斬りてぇ気分だが……、その前にお前さんにゃあ、これ以上の狼藉を許さねぇぞ……!」
「……ぐ、あ、あああッ!」

 ぎりぎりと食い込んでいくロープ。
 未熟な霧人のそれと違って手首をしっかりと固定する捕縛の仕方であり、抵抗できる隙は皆無である。
 
「主催の思惑に乗るのは癪だが、お前さんを生かしておくのは危険すぎる。殺させて、貰う!」
「かはっ……!」

 十兵衛がロープを捌くと、肩斬華の首にそれは巻きついた。
 奇しくも元の世界で、柳生を名乗るアイドルにされたのと同じ――首締めという方法で。
 今度はフラウ・ザ・リッパーの命の灯が脅かされる番となる。

「ああああ……ア……」
「……何やら言いてえこともあるみてぇだが、俺は聞かねえ……地獄で閻魔にでも愚痴るんだな!!」
「が……」

 口上までもなぞらえて同じような展開。
 前回は男の娘スレイヤーが現れて肩斬華は幸運にも救われたが。
 まぐれは、二度はない。
 今度こそ肩斬華の喉は潰され、骨は折れて、彼女は地獄へと向かうだろう。
 普通であればそうなる。
 だがしかし――殺し合いという状況。
 そして異世界から集められた様々な因果が、普通の展開を歪ませて。

 胸に咲いたクローバーの化身は、彼女にまたも、偶然の幸運を呼び込む。



「は――花子ちゃんに、なにしてるの!!」



 その幸運とは、その場にいた誰もが意識を外していた、もうひとり。
 花巻咲であった。
 彼女が震える手で握るのは、先ほどまでは西崎詩織が握っていた自動小銃。
 そしてそれを向ける先は、彼女にとっての友達の姿をした少女を殺めようとしている、柳生十兵衛。

「わ、私の友達を、殺さないでっ!」
「な……」
「いますぐその縄、緩めてよ、じゃないと――う、撃つわよ!? というか、う、撃つ!!」
「おま、落ち着け――」

 落ち着けるわけもない。引き金を引くなら一瞬だ。
 ドン、という発砲音。
 咲が持つジェリコの銃口から発射された銃弾は――これまた幸運にも。
 あるいは不運にも、なのか。柳生十兵衛の腹部へと着弾した。

281彼女は貫く胸の華 ◆5Nom8feq1g:2015/06/14(日) 06:24:07 ID:q2MF8e5o0
 
「ぐ……あ……っ」
「に、逃げよう花子ちゃん!! この人から逃げるの!」
「ま、待って、あそこに朔の敵が――ってえ? ええええ? さ、朔(さく)??」
「そうだよ咲(さく)だよ花子ちゃん! ね、早く!」
「うそ……うそだ……でも、淫気は感じない……何で……?」
「ああもうじれったいんだってば、行くよ!」

 腹部を抑え膝をつく十兵衛を後目に、混乱する華を引っ張るようにして咲は
 サッカー部マネージャーで鍛えたのだろうバイタリティで窓を踏み越えると、華に手を差し伸べる。
 ロープが緩み、抜け出せるようになった華は、
 何が何だか分からないままにその手を取り、窓から逃げ出した。
 
 二人の姿が窓の外から見えなくなるまで、二分とかからなかった。


【H-4/森/1日目/黎明】

【花巻咲@アースR】
[状態]:軽傷(腹部)
[服装]:学生服
[装備]:ジェリコ941(13 /16)@アースR
[道具]:なし
[思考]
基本:帰りたい
1:花子ちゃんと合流できた、やった
2:十兵衛許せない
[備考]
※肩斬華を片桐花子と間違えました。
 
【肩斬華@アースP(パラレル)】
[状態]:健康、疲労(小)
[服装]:学生服
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、不明支給品1~2
[思考]
基本:元世界へ帰る
1:『化け物』に復讐する
2:え……朔???
3:不死原霧人=『化け物』のはず
4:『淫気を発してる女』は見かけ次第殺す
5:『淫気を発してる女』でなくても自分の邪魔をすれば殺す、かも
6:復讐の先には何もない、か……。
[備考]
※花巻咲に対しかつて殺された親友、鼻木朔の面影を見ています
  

******


 ――不死原霧人が正気を取り戻したのはそれから数分後のことだった。
 部屋に充満し始めた血の匂いが、快楽と堕落の負の引力から霧人の精神を引き上げた。

「え……さ、サムライ……」

 まず目に入ったのは、倒れている十兵衛。その腹部から広がる血だまり。
 苦しそうに息を吐きながら、時折ぴくり、と動いている。
 まだ生きている、けれど声もない。……非情に危ない状況だ。
 そしてベッドの近くにも女の人が倒れている。
 こちらは胸のあたりに、ラメ入りビーズでデコられたドスが刺さっている。
 ――駆け寄って手を取ってみると、死んでいた。
 どうして。どうしてこんなことに。どうしていったいこんなことになっているの。

「あ、アタシ、な、何を――何をしてたの――?」

 ちかちかという頭痛と、腹部の痛みと共に思い出す。
 先ほどの先頭で自分が犯した罪をありありと思い出してしまう。
 弱さから甘い言葉の夢に堕ち、痴女じみた言葉を遣い、十兵衛に抱きついて――。
 そのせいで、女の人が――アタシを助けて、くれた人が――死んでいる。
 アタシが――アタシのせいで。
 あのときちゃんと起きていれば――夢の中に、逃げ込まなければ……。

「あ……あああ、う、う……ああああああ!!!」

 頭を抱えて霧人は叫ぶ。
 その叫び声に触発されたのか、辛うじて十兵衛が言葉を紡ぎだす。

282彼女は貫く胸の華 ◆5Nom8feq1g:2015/06/14(日) 06:27:03 ID:q2MF8e5o0
 
「み、霧人……起きたか」
「さ、サムライ、どうしよう、どうしよう、アタシ――」
「いいか――西崎、さんが、医療道具をデイパックに詰めてる。使え。医療マニュアルの授業、覚えてるかい」

 十兵衛は、出血で体力を奪われながらも冷静に霧人に指示する。
 霧人も理解力は低くない。パニックを一旦遠くへ置いておいて、いま自分がやるべきことを見つけ出す。

「う、うん、覚えてる……覚えてるよ、だから……た、助けるから! しなないで、サムライ!」
「おう、まだ死なねぇよ……ああ、しかしちくしょう……」

 慌ただしく西崎詩織のデイパックを取りに行く霧人の姿を最後に視界に収め、
 ヒーロー世界のサムライは、静かにその意識を手放そうとしていた。
 最後に――悔恨の思いを込めて、一つだけ呟く。

「あの子の名前……咲(さき)じゃなくて、咲(さく)だった、か……」

 ――学生証には漢字の読み方まで書いてねえもんなあ。
 ――いやいやホント、やっちまったやっちまった。

 ――あ、まだ死なねえよ死なねえ。
 ――こんな失態ばっかで死んじまったら、親父殿に笑われっちまうってえの。


【H-4/屋敷/1日目/黎明】

【柳生十兵衛@アースH】
[状態]:重傷(腹部に銃創)、気絶
[服装]:スーツ
[装備]:ロープ@アースR
[道具]:支給品一式、鉄パイプ@アースR
[思考]
基本:刀返してもらってすぐに主催者を切り伏せる
1:ちくしょう…こりゃぁ武士失格レベルの失態
2:基本挑む奴には容赦はしない。
3:今日の献立を考える
4:霧人にはあとで説教だ
[備考]
※アースDの情報を共有しました。

【不死原霧人@アースH】
[状態]:軽傷(腹部)
[服装]:カウガール
[装備]:医療道具
[道具]:基本支給品、ジェリコ941の弾《32/32》
[思考]
基本:この殺し合いを終わらせる
1:サムライ(柳生十兵衛)を助ける
2:闇ツ葉はららへの恐怖
3:アタシは一体何を……ヒーロー失格じゃん……。
[備考]
※名簿は確認しています。


※スパイダー・コルサ@アースAがH-4屋敷前に停まっています。
※西崎詩織の胸にデコ・ドス@アースRが刺さっています。
※H-4屋敷の寝室テーブル上に以下の支給品があります。
 箱詰めクッキー@アースE、推理小説@アースR、扇子@アースR、
 青のペンライト@アースC、魔よけのお札@アースG、宝箱@アースF

283彼女は貫く胸の華 ◆5Nom8feq1g:2015/06/14(日) 06:29:48 ID:q2MF8e5o0
投下終了です。以下、支給品


【箱詰めクッキー@アースE】
 徳川家康の甘味処でお土産用に売っているもの。匠の味。

【推理小説@アースR】
 『メイドは見た!~あるじ様、殺人事件でございます。~サラ・エドワーズの事件簿』。
 サラ・エドワーズ最初の事件が収録されている。

【扇子@アースR】
 修学旅行で京都で買う感じの扇子。柳生十兵衛の鉄扇とデザインだけ似ていた。

【青のペンライト@アースC】
 スライムちゃんのライブ会場で売られているペンライト。中身は回復薬。

【魔よけのお札@アースG】
 アースGの神々がありがたい力を籠めて作ったお札。聖なる力で邪を払う。

【宝箱@アースF】
 アースFに点在する「ダンジョン」に存在する過去の遺物。開けるには銀の鍵が必要。

【デコ・ドス@アースR】
 御園生優芽が愛用しているドス。ラメ入りビーズでデコられている。

284名無しさん:2015/06/14(日) 09:04:46 ID:NcWmU5g.0
投下乙です!
西崎の死、フラウと柊の因縁、アース設定の活用
様々な要素が含まれた良作でした!

個人的に好きなシーンはフラウと咲が出くわすシーンですね
この二人がこれからどうなるのか気になります

285名無しさん:2015/06/15(月) 01:53:53 ID:zeZY/ChA0
投下乙!
宝箱の中身が気になるなぁアースF産だからマジックアイテムかな?

286名無しさん:2015/06/16(火) 12:17:46 ID:F.zpVZIs0
投下乙!
うわあ…これはなんてこった…すごいことに…
こういうのあるから並行世界設定はおもろいところがあるね。


そしてやはり触手プレイの障害はでかかったか…
そりゃ霧人ちゃんがメスの顔になったら柳生も困るわ

あと詩織ちゃんが死んだのでかいな黒田さんがどうなるか…

逃げ出した咲と華はどうなるんだろう…

色々先が気になる話でした。

287こんどの敵は、デカスゴだ。 ◆hRdS/lFjKw:2015/06/18(木) 23:30:22 ID:Ovh/MFRM0
投下します。遅れて申し訳ありません。

288こんどの敵は、デカスゴだ。 ◆hRdS/lFjKw:2015/06/18(木) 23:30:47 ID:Ovh/MFRM0
「なんなのあのでっかいモノ…」

片桐花子は酷く混乱していた。
目が覚めたら見知らぬ場所に連れてこられ、首輪を嵌められて殺しあえと言われた―。
これだけでも十二分に現実離れした突拍子もない出来事ではある。しかして、その現実離れした舞台で花子が最初に見た物は吐き気を催す凄惨な殺戮の現場―――

などではなく、×××の生えた同い歳の女の子が女性の形をした不定形のスライム…スライムか?本当に?とにかくそういったものに×××を×××されて×××しそうになっている光景であった。
意味が分からない。
まるで意味が分からない。
何故、殺し合いの場に連れてこられて盛り合いを見せられるのか。何故、女の子に×××が生えているのか。何故、×××を×××するのか。
全てが片桐花子の今までの人生で培われてきた理解の範疇を大幅に超えていた。
例えば、だ。この事を彼女の友人・花巻咲に伝えてみたとしよう。

=================================

「咲!私ふたなりがスライムにシゴかれてアヘってるとこ見ちゃった!」
「花子ちゃん、明日から学校で話しかけないでくれる?」

=================================

なんと想像に難くない光景なのだろう。例え立場が逆だったとしても自分も同じ対応をするだろう。
うん、アウトだこれ。常日頃からフラウ・ザ・リッパーを自称して周りから冷笑を買っている自分でも自覚できるレベルでアウト。

そして彼女は逃げ出した。
だが、離れない。
頭にこびりついて離れない。
あの雄々しく聳え立ったビッグナイフが頭から離れない。
男の象徴が、自身にはない物が、命の源が忘れられない。
















そう!チンk












「そこの君!止まって!」

だからだろう。男の声が聞こえた瞬間、自分でもびっくりする程間抜けな声を挙げてしまったのは。
文にすれば「ひへふぇあ!?」とか。そんな感じ。



289こんどの敵は、デカスゴだ。 ◆hRdS/lFjKw:2015/06/18(木) 23:31:53 ID:Ovh/MFRM0
東雲駆にはその少女が酷く怯えているように見えた。無理もあるまい。
今まで普通の生活を送ってきた人間が、突然殺し合いの場に放り込まれれば混乱するのも無理はないだろう。
しかも、彼女は何かから逃げてきたように見えた。考えたくはなかったが、やはりこの催しに乗った人間がいたという事なのだろうか。

「落ち着いてくれ、俺は東雲駆。この殺し合いには乗ってない」

見れば自分の通う学校指定の制服を着ている。面識はないが同じ学校に通う女子生徒という事か。
ひとまず混乱状態の彼女を冷静にさせることが先決だと、以前の殺し合いの経験から駆は判断した。

「話してくれないか。何かから逃げてきたように見えるけど、向こうで一体何があったんだ?」
「えっ…な、ナニって…」

何があったって、そりゃあナニである。ナニをナニしてた、としか言い表しようがない。
しかし花子とて花も恥じらう16歳である。そうした事を口に出す事に対する羞恥の念から思わず言い淀んでしまい、顔を背けてしまう。

(口に出すのも憚られるって事か…余程酷い物を見たんだな)

だが、その対応は少し拙かった。駆の眼にその反応は恐怖から来るものとして映る。
以前の殺し合いでもこんな反応は見た。駆は己の経験を信じる。

「お…女の子が…」
「うん」
「お、おっきい…を…」
(大きい?凶器か?いや、大きい「人」か?)

無論、ナニである。だが、そんな発想は駆にはない。

「その…刃渡りで言えば30cmサイズというかランボーナイフというか…」
(30cm!やはり凶器だったか。平沢茜め、そんな物まで用意しやがったか。まさか刀嫌いの俺に対する当てつけなのか?)

無論、例えである。だが、そんな発想は駆にはない。

「ぶよぶよしたスライムみたいなのの上で寝転がってて…」
(ぶよぶよした…まさか臓物か!?いや、この殺し合いではそう珍しくもないか…!)

無論、スライムちゃんの事である。だが、そんな発想は駆にはない。

「お、お、お…」
「お?」
「お…っぱいを顔に乗せてて!」
「なに?」

ここで駆も流石に違和感を覚える。「おっぱい」…無論その単語そのものの意味が分からない駆ではない。彼自身そうしたものに興味が無いと言えば嘘になる。
しかしここはバトルロワイアル、狂った倫理が支配するこの世の地獄だ。そこでこのような単語を耳にする、というのは何かがおかしい。
もしかすると自分は何か思い違いをしているのではないだろうか。それとも目の前のこの子こそが何かを間違えている?
ここで間違えてはいけない、誤解は悲劇を生む。以前の殺し合いで自分はそれを学んだはずだ。そう考えた時の駆は少し焦っていたのかもしれない。

「本当に何があったんだ!?話してくれ、頼む!」

やや強引だったかもしれないが、駆は花子の肩を掴んで言った。この時の行動こそが自身の明暗を分ける…根拠はない、だが自身の第六感がそう告げている。
ここで彼女の話を聞き逃すのは恐らく得策ではない。もしかすると危険なマーダーがすぐ近くにいるのかもしれないのだ。







残念ながら片桐花子にはその真意が伝わる事は無かったのだが。

290こんどの敵は、デカスゴだ。 ◆hRdS/lFjKw:2015/06/18(木) 23:32:27 ID:Ovh/MFRM0



(ちょちょちょっと待ってよ!何でこの人おっぱいの話した途端こんな喰いついてくるのぉ!?
 変態なの!?この人変態なの!?あるいは常識がずれちゃった変態の世界ではまともな人なの!?リッパー様案件なタイプなの!?ああ立派ー様ってそういう)

今の彼女の頭の中は先ほど目撃した×××が強烈に焼きついており、絶賛脳内ピンク色状態であった。
まさに大混乱。そんな状態の彼女に正常な判断などできようか。もう構うものか、言ってしまえ。私は言ってやるぞ!そう思った時には彼女はもう言ってしまっていた。

「だから!女の人の形したスライムにおっぱい顔に押し付けられて×××掴まれてイキそうになってる女の子がいたのぉ!!!」

嗚呼、言ってしまった。なんという意味不明。なんという支離滅裂。
日頃から周りから浮いた存在であることは自覚していたがとうとうドロップアウトか。さらば青春、花子はお嫁に行けませぬ。
そう自暴自棄になる花子と対照的な反応を駆はしていた。




「な、何だって…!!」


まさに戦慄。まさに驚愕!
殺し合いの場における思考に則って…灰色の楽園を壊そうと考えている駆には、花子の言葉はまるで違った意味に聞こえていたのだ。

(刃渡り30cmのナイフで人を肉塊に変え、乳房や陰茎を切り取って絶頂する女だと!?)

狂っている。以前の殺し合いですらそんな狂った奴はいなかった。
平沢茜が既に殺し合いを経験し優勝した――つまりはアドバンテージを持った自分を再びこの場に送った事にはいささかの疑問を覚えていたが、初めから狂いきったサイコパスも投入する事でバランスを取る、という事か。

(ゆ、許さん…許さんぞ平沢茜!!!)

平沢茜は今度こそ殺しに来ている。自分や知人たち、それだけではない。後輩にあたる目の前の少女や顔も知らない人々…それら皆が狂人たちによって弄ばれ、壊され、狂い、そして死んでいくのをあの女は笑いながら見ているのだ。




…灰色の楽園を壊そうと足掻く少年には、桃色の楽園がすぐそばにあったなど、とてもではないが想像できなかった。



291こんどの敵は、デカスゴだ。 ◆hRdS/lFjKw:2015/06/18(木) 23:33:18 ID:Ovh/MFRM0
「ありがとう。よく話してくれた。それにしてもよく逃げ切ってこられたな」
「え?は、はい」

てっきりドン引きされるか、それとも物凄く食らいついてくるか。そのどちらかの反応を予期していた花子にとってそんな答えは予想外だった。
フラウ・ザ・リッパー・肩斬華のキャラ付けも忘れて素で返してしまう。

「その女の子について何か分かる事はある?外見とか、付けてるものとか…」
「た、確か『キョーコ』って言ってたような…」
「『キョーコ』…」

それを聞くや否や駆は参加者候補リストを広げ、『キョーコ』という名の参加者を探す。

(恭子…杏子…いた!こいつか!『谷山京子』!)

いずれ対決すべきサイコパスの名を見つけた駆は思わず候補者リストを強く握った。これが自分が対峙しなければならないサイコパスの名か。そう考えると身が震える。

「まだ名前を聞いてなかったな。俺と同じ高校の生徒だろ?」
「わ…私はフラウ・ザ・リッパー!肩斬…」

そこまで言いかけて、花子は自分を真剣に見つめる駆の視線に対して何故か怯んでしまった。

「花子…です」

なんだか、酷く疲れた気がする。考えてみたらなんで切り裂きジャックの子孫がおっぱいだの×××だの言って恥ずかしがるんだ。

(帰りたい…)

【D-3/草原/1日目/黎明】
【東雲駆@アースR】
[状態]:健康
[服装]:制服
[装備]:変幻自在@アースD
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜2
[思考]
基本:平沢茜が作り出した灰色の楽園を壊す
1:首輪を解除出来る参加者を探す
2:出来る限り早く知人と合流したい
3:山村幸太、花巻咲、麻生叫を警戒
4:谷山京子は特に警戒。見つけ次第殺す
5:片桐花子と共に行動する。
[備考]
※世界観測管理システムAKANEと平沢茜を同一人物だと思っています。
※谷山京子を危険人物だと認識しました。

【片桐花子@アースR(リアル)】
[状態]:健康
[服装]:学生服
[装備]:???
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜3
[思考]
基本:帰りたい…
1:なんか…疲れた…

292 ◆hRdS/lFjKw:2015/06/18(木) 23:35:54 ID:Ovh/MFRM0
投下終了です。
タイトルの元ネタは映画「ウルトラマンティガ&ウルトラマンダイナ 光の星の戦士たち」のキャッチコピーより
結構無理のある展開だと自分でも思うのでご指摘があれば

293名無しさん:2015/06/19(金) 00:55:24 ID:/7cI6Trk0
投下乙。
花子、かわいいなww

294名無しさん:2015/06/19(金) 06:39:03 ID:DiMRLiQM0
投下乙です!
前話との温度差ww駆くん空まわってるなあww
そして花子ちゃんかわいい

295 ◆hRdS/lFjKw:2015/06/20(土) 00:26:02 ID:v8zaLTZk0
訂正
×いずれ対決すべきサイコパスの名を見つけた駆は思わず候補者リストを強く握った。これが自分が対峙しなければならないサイコパスの名か。そう考えると身が震える。
○そのサイコパスの名を見つけた駆は思わず候補者リストを強く握った。これに自分はいずれは対峙しなければならないのか。そう考えると身が震える。

なんで同じこと二回言っとんねん…

296名無しさん:2015/06/20(土) 00:37:40 ID:3zHAAuYk0
投下乙です
誤解すんな駆www前回との話との落差が面白いね
花子はなんとか味方は出来たけど結構包囲網できつつあるからなあ

297名無しさん:2015/06/21(日) 03:06:30 ID:evkIctJo0
投下乙です
駆くんギャグ時空に取り込まれるの巻
コントめいた掛け合いとどんどんこじれてく話が面白すぎて爆笑したw
殺し合いの場にスライムがいてふたなりといたしてるなんて理解できんわなそりゃあ
灰色の楽園に対する桃色の楽園のネーミングも上手い。京子ちゃんどうなっちゃうんだ…w

298 ◆5Nom8feq1g:2015/06/21(日) 03:07:51 ID:evkIctJo0
投下します

299泣け ◆5Nom8feq1g:2015/06/21(日) 03:11:08 ID:evkIctJo0
 
 早乙女エンマと柊麗香を取りのがしたジル・ド・レェは、
 彼女らを追いかけることはせず、反対側――もともと居た方向へと帰った。
 いまはD-6の町の、一件の民家の前にいる。

 少女を追いかけ、恐怖を与えたのち拷問することを至上の喜びとする彼女が、
 どうして目の前の少女を諦めて反対方向へ進んだのか。
 答えは簡単な話である。
 ジル・ド・レェは柊麗香を追いかけるより前にすでに一人、拷問対象を捕まえていたのだ。

「まあ! 嬉しい。まだ気絶もしていないのね!」
「……ジル……ドレ……」

 民家の扉を開けると、玄関先で彼女を迎えたのは、
 可愛い少女めいた容姿のエルフの苦悶顔と、かすれた声だった。
 おもわずジルは顔をほころばせる。
 クリーム色の髪を振り乱し、蜂蜜色の目を憎悪に染めたそれは、ゆっくり呼吸をしながらジルの笑顔を睨む。
 睨める程度にはまだまだ元気があるということだ。
 これは楽しめそうだと、ジルは小さく舌なめずりをした。

「放置しちゃってごめんなさいね。ちょっと外の空気を吸いに行くだけだったのだけれど、
 可愛い女の子を見つけてしまったから、追いかけっこをしていたの。
 ――ああ、あなたが可愛くないというわけではないわよ? すごくかわいいわ、あなた」
「……」
「いっぱい汗を流して……オンナノコみたいな、あまぁい匂いさせて。
 苦しいのにまだ反抗できる隙をさがしてるその目。いい、いいわぁ。お姉さん欲情しちゃう」

 いま、捕らわれた哀れなエルフは、
 背中に回した両手首を頑丈な物干し用ロープで縛られ、天井から吊られている。
 足は床に着くぎりぎりの高さ。
 必然と身体をくの字に折れ曲がらせてつま先までぴんと伸ばした状態になる。
 これだけでも非常に苦しい体勢――だがジルはここにさらにひとつスパイスを加えた。
 エルフの足首を太めの尖った木の枝で貫き、それを床に刺しておいたのだ。

 こうすると、エルフは身体バランスを取るために足を動かすたび、苦痛を上げる羽目になる。
 事実上、何度も何度も傷口ををささくれだった木の棒で貫かれるようなもの。
 足には痛みだけが残って、だんだんとつま先を立てるのも難しくなっていくが、
 つま先に入れた力を緩めれば、今度は後ろ手の手首に全体重がかかり、肩までを痛みが貫く。
 辛くても足に力を入れ続け、感覚を味わい続ける必要があるのだ。
 痛みや苦しみに慣れるということを許さない、ジルの狡猾で残忍な拷問であった。 

「器具がなかったから簡素なもので悪かったのだけれど、心地はどうかしら?」

 ジルはエルフに気分を問う。
 放置される前に大きな声で叫べないよう喉を破壊されたエルフはざらついた声で返す。
 
「さい……あく……だよ。
 こんな簡単に、捕まっちゃってさ……。ライリー、さまに、申し訳がたたないよ」
「そういうことを聞いてるんじゃないんだけれど?」

 ぐり。

「あ、う゛えうぅ……ッ!!」

 ジルがエルフの足を躊躇なく踏みつける。
 じゅぐ、と腐った果実が汁をにじませるようにして足首の傷口から赤血が漏れる。
 足首の痛みは、脳へ届くまでに身体を貫くように通り抜けていく。
 痛みを全身に染み込ませるような感覚を味あわせられるので、ジルはこれが大好きだった。

「そういうことを聞いているんじゃないのよ」
「……は、ぁう」
「痛いかな、苦しいかな、辛いかなって聞いてるの。言わなきゃ分からない?」
「そ、そう……ざ、残念だったね。
 あいにくボクはね、ずっと虐げられてきた、んだよ。この程度じゃ、辛いとは、ふふ、感じないな」
「まあ!」

 エルフは挑発的な眼でジルに反抗の意思を訴える。
 するとジルは、嬉しそうに弾んだ声を出すと手を叩いた。

「やっぱりね。あなた、“蜜色の眼のアリシア”でしょう」
「……」
「人間に虐げられたエルフの中でさえ虐げられた、はぐれもののエルフ。
 クリーム色の長髪に蜂蜜色の眼。小柄ながら魔力は高く、回復魔法や防御魔法が得意。
 少女みたいな可憐な容姿で、魔勇者パーティーを名乗る暴徒集団の花の一つに見えるけど――」

300泣け ◆5Nom8feq1g:2015/06/21(日) 03:14:27 ID:evkIctJo0
 
 ジルは足を踏んでいた足を上げ、大股開きになっているエルフの股間に膝を近づけていく。
 膝にはすでにビリ、ビリと電気がまとわりついていて、

「性別は、男♪」

 刺すような痛みを伴う鋸糸状の雷による容赦ない攻撃が、
 可憐なエルフの少年の陰部へと加えられた。

「あ゛――――あぁあああああああッ!!」
「どうしてそんな細かい情報まで知ってるかって?
 一応、領地内で起きた事件の首謀者グループについて調べさせるくらいはしてたのよ、私。
 ……本音を言うと、目に付く可愛い子の情報を片っ端から集めてただけとも言うけどね」
「あ゛、があぁああああああ、あゃあああッ!!」
「別に私、領地の民に愛情とかなかったからあなたたちがやってることはどうでもよかったけど、
 首領のライリーって子とあなたは可愛いからいつか捕まえて楽しみたいと思ってたのよ。
 なかなか捕まらなかったから残念だったし、
 先に私のほうが処刑されちゃって本当に残念だったんだけど、
 どういうわけか私は生き返っちゃった上に、狙ってた子とこうして遊べているのよね。
 生前の行いがよかったのかしら?」

 心にもないことを言いながらも、陰部の小さなふくらみに当てた膝をぐりぐりと押し込むようにする。
 膝の雷撃は今だ継続されており、
 アリシアは自分のそれが断続的に5mm直径の針串で貫かれるのと同等の激痛を感じ続けている。
 
「やめ、やめへっ、あ゛があああああああ!!」
「うふふ、どんな気分? 延々と×××をハンマーで叩かれ続けている感じじゃない?
 さすがにこんな拷問をされたことはないんじゃないかしら。新感覚でしょう?」
「あ゛あああああああ!!」
「ねえ、泣いて?」

 電気の威力を一瞬“弱”にしてジルは微笑みかけた。

「惨めに無様に涙を流して、やめてって私に懇願してごらんなさい。
 そしたら一旦許してあげる。ふふふ、そうねえ、縄を外してあげてもいいわ」
「あ……あ゛あああ」
「ほら早く」
「……」
「泣いて」
「……」
「泣きなさい」
「……」
「ねえ早く」
「……」
「泣け」
「――泣かない」

 エルフは楽しそうに攻めるジルに対して、唾を吐いた。

「泣かないよ。ボクは、もう弱虫のアリシアじゃない」
「……」
「ボクは、勇者だ。勇者が泣いていいのは……仲間を、守るものを失ったときだけだ」
「……あら、そう」

 するとジル・ド・レェは、一気に不機嫌そうな顔になると、
 アリシアの側面へ周り、雷撃の手刀で天井から伸びるロープを勢いよく焼き切った。
 後ろ手に縛られたまま支えを失ったアリシアは前へと倒れ込む。
 手を付かなければ――だが先に記述した通り手は縛られたままなので、
 当然顔から床へ突っ込むことになる。
 耳にしただけで嫌な気分になるごすっ、という音と、エルフの濁った悲鳴がハーモニーを奏でた。

 ジルはお尻を突きだすような形で倒れ込んだエルフの顔を見ることもせず、
 手のひらに強電気を蓄えさせながら冷酷に宣言した。

「勇者だから泣かないだなんて。そういう生意気を言ってるようじゃ、まだまだ勇者失格よ」

 ワンピース風の服をめくりあげ、アリシアのつるつるした生尻が露出された。
 そこへジルは雷掌打を叩き付けるつもりなのだ。
 何度も何度も叩き付けるつもりなのだ。
 泣くまで叩き付ける。

301泣け ◆5Nom8feq1g:2015/06/21(日) 03:14:56 ID:evkIctJo0
 
「おしおき。――今からあなたの魂に、敗北を刻んであげる」

 ――ばちん。

 なんて、可愛い音じゃ済まされない、肉をえぐるような一撃が。
 くりかえし、くりかえし。
 叩き付けられる。


♪♪♪♪♪♪♪


 あら、いい歌声ね。いいわ、もっと鳴きなさい。


♪♪♪♪♪♪♪
 

 そう。その調子。どんどん行くわよ、鳴いて哭いて泣き叫んでね。


♪♪♪♪♪♪♪


 かわいい。


♪♪♪♪♪♪♪


 本当にかわいい。


♪♪♪♪♪♪♪


 弱くて幼くて――なんにも分かってないからこうなるって、分かるかな。
 分からないかな? いえ、エルフは寿命が長いから、これでも150年は生きてるんだっけ?
 それでも全然、わかってないのね。勇者を名乗るなんて、本当に。


♪♪♪♪♪♪♪

 
 分かってない。
 

♪♪♪♪♪♪♪


 勇者って言うのはね、名乗るものじゃないのよ。
 他人にできないことを、自分のために好き勝手やってるやつを、周りが勝手にそう呼んでるだけなの。


♪♪♪♪♪♪♪
 
  
 私とか、泣き叫ぶ子供(魔族なら合法)が見たいってだけの理由で聖十字協会に加わってたんだけど、
 周りに聖女だなんて祭り上げられちゃったときは本当に面白かったわ。
 実際戦ってる姿なんて、血と泥にまみれてとても聖なるモノなんかじゃじゃないのにね。
 ジャンヌだってそうだったのよ? あの子の行動理由は、百パーセント憎悪からだもの。


♪♪♪♪
 
 
 ほら、元気なくなってきてるじゃない。もっと頑張れ♪


♪♪♪♪♪♪♪


 ジャンヌはね、すっごかったわ。魔族への恨みと神への盲信だけで生きてるような人だった。
 女っ気も笑顔も情もぜんぶ捨てて、敵を殺したり痛めつけることしか考えてないの。
 私がプチデビルの女の子を拷問して楽しんでた時ね、
 ジャンヌは私も思いつかないような悲惨なやり方を顔色一つ変えずに提案してくれてね。
 その時の凍った炎みたいな瞳が私、忘れられないのよね。

 はじめてだったわ、子供以外のひとをすきになったのは。


♪♪♪♪♪♪♪

302泣け ◆5Nom8feq1g:2015/06/21(日) 03:15:21 ID:evkIctJo0
  

 世間じゃ、私はジャンヌが死んでから気が狂ったとか思われてたみたいだけど……。
 はじめっから私はこういう人間で、
 だからこそ唯一ジャンヌに付いていけてたってのが正解なのよね。
 オルレアンの時なんか、普通に正義気取ってる奴がいたら吐いてたんじゃないかしら?
 私はとっても楽しかったけどね。
 血と臓物にまみれながらジャンヌが天を仰いで神様に感謝を述べる姿も、すっごい美しかったし。


♪♪♪♪♪♪♪
 

 そうなのよね。あれだけのことをしながら、ジャンヌ、自分が正しいって信じて疑ってなかったのよ。
 私もすごく勇気づけられたわ。やりたいことやっても別にいいんだって。
 それで正しいんだって――ふふ、仲間を勇気づけられるんだから、彼女は正しく勇者よね。
 結局異端認定されて殺されちゃったけど、最期まできっと、自分は正しかったって思い続けたんじゃないかなあ。
 神様に殺されたわけでもないし。彼女をやったのは、あくまでも人間だもの。


♪ ♪♪


 あ、もう限界?


♪♪


 そう。根性が足りないわね。





 結局ね。あなたもその程度のことだったのよ。
 勇者になったつもりで、正義を気取ったつもりでも――仲間がいなけりゃ弱いんじゃ二流。
 仲間が全員殺されようと、守るべきものなんて何もなくなっても、それでも敵を斬って前に進めるのが本物よ。
 優しければ優しいほど務まらない職業よ。
 えい。


(ひめいは 止まった)


 反応鈍いなあ。
 ねえ、アリシアちゃん――あなたのご主人さまは、どうかな?
 私が崇拝するジャンヌと同じくらい、苛烈で、まっすぐで、後ろを振り返らない子?
 例え何を犠牲にしてでも、目的を遂げようとできる“勇者”?


(アリシア は ちいさく くびをふった)


 ――そう。なら、その子も、勇者失格ね。


(アリシア は うごかなく なった)


 もちろん、“死”に逃げたあなたも、できそこないの落第点よ。



【アリシア@アースF 死亡確認】



「そういえば、アリシアちゃん、同じチームだったのね。
 ま、どうでもいっか。殺し合いとか興味ないわ。お姉さんはやりたいことをやるだけ」

 数分後、民家の中には、
 見るも無残な状態になっているアリシアの死体と持ち物を検分しているジル・ド・レェの姿があった。
 たいしたものは持っていなかった。
 武器などもあるにはあったが、
 ジルは魔法がメインだから最悪武器は物干しざおでも構わず、有用性は低い。
 強いて言うならどこを開けるのに使うかもわからない銀色の鍵には少し興味をそそられたけれど、
 それよりも気になったのは見ていなかった“参加者候補名簿”だ。

303泣け ◆5Nom8feq1g:2015/06/21(日) 03:18:02 ID:evkIctJo0
 
「ジャンヌ・ダルク……名前、あるわね……」

 自分も何故か生き返って参加していることだし、
 もしかしたら愛しのジャンヌも生き返って、また魔族狩りに精を出してるのかもしれない。

「もし参加してるなら、また一緒に楽しく戦って……拷問したいわあ。あら?」

 とてもそんなことを考えている風には見えないのんきな顔で狂気めいた発言をしながら。
 ずっと床に叩き付けられていたままのアリシアの顔を引き上げてみたジルは、
 奇妙な違和感を覚えた。

「あら、あら?」

 違和感の正体はすぐに分かった。

 アリシアは、泣いていなかったのだ。

 お尻がお尻じゃなくなるくらいの激しい拷問を受けながらも――死の瞬間まで。
 涙を流して許しを請うことを、結局アリシアは行わなかった。
 最期の最期まで、エルフの少年は勇者であり続けようとしたのだった。

「……んー。ちょっとだけ、前言撤回かしらね。
 あなたはジャンヌほどではないけれど……ほんの少しだけ、勇者だったわ」

 この小さくてか弱い子にここまで決意させるライリーって子は、もう少し凄いのかなあ、と。
 そう思わされてしまうジル・ド・レェであった。


【D-6/町/1日目/黎明】


【ジル・ド・レェ@アースF(ファンタジー)】
[状態]:健康
[服装]:ファンタジーっぽい服装
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0〜2(武器アリ),宝箱の鍵@アースF
[思考]
基本:子供で遊ぶ。チーム戦?なにそれ
1:ジャンヌがいたら会いたい
2:さっきの子(エンマ、麗香)たちまだいるかしら近くに
3:“魔勇者”ライリーに興味アリ


【宝箱の鍵@アースF】
宝箱の鍵。

【物干しロープ@アースR】
物干し竿のロープ版。ジル・ド・レェの支給品。
焼き切って使い物にならない短さになったのでもう捨てた。

304 ◆5Nom8feq1g:2015/06/21(日) 03:22:07 ID:evkIctJo0
投下終了です。
アリシアちゃんの死因は衰弱死とかそのへんで

305名無しさん:2015/06/21(日) 11:08:46 ID:gu7GsQAM0
投下乙です
ジルドレの相変わらずな狂人っぷり…
ジルの心情やジャンヌとの関係性も分かりやすく描写されていて面白かったです。アリシア…黙祷。

306名無しさん:2015/06/21(日) 14:55:35 ID:.mAAdT1g0
投下乙です
アリシアちゃん南無、下半身凄いことになってそう
アースF勢は参加者的にチーム戦出来ないのよね…

307 ◆aKPs1fzI9A:2015/06/23(火) 01:33:05 ID:A5y6WteM0
投下乙です。
ありしあああああ!かわいそうに…
下半身やばいことになってたんだろうなあ…
ナ無産。

よし
私も投下します

308旅客列車でGO!会場の電車は日本式 ◆aKPs1fzI9A:2015/06/23(火) 01:34:17 ID:A5y6WteM0
「はぁ!?殺し合い!?なんでまた私が!」

先ほどハイタッチを決めたブルックリンはサラからこのバトルロワイアルの説明を一通り聞いたあと大袈裟に驚いた。
あらかじめ配られたICレコーダーに入っていたあの音声をまた再生することは不可能である。ゆえに大まかなモノになってしまったのは確かだが───ブルックリンの頭脳で理解するのには不自由はなかった。
説明していたサラとしては、理解してくれてよかったと安堵すると同時に、ブルックリンがアリゾナ州立大の院生であることを知り、驚きと同時に彼女と協力することの意義を見出していた。
ブルックリンの科学力は確かだ。説明をする中で詳しくブルックリンのことを聞いていると、一般教養として様々なことを身につけたサラでは理解できない用語が出るわ出るわで大慌て。彼女が居てよかったと同時に、ブルックリンが物事に対して感情的になりすぎないようにセーブをかけなくては、ともサラは考えていた。
すべては元の世界に帰るため。それにはブルックリンの力が必要だ。

そんな思考を巡らせていたサラを差し置き、ブルックリンは相変わらず不機嫌そうに不満をぶつくさ言い放つ。

「それにさ、何これ。私の研究対象ちゃん達がたくさん居るじゃないのふざけてんの!」

サラが改めて見せた参加者候補と思われる人々にはブルックリンの研究対象としている人々が多く存在していた。
三ヶ月前、アジア圏で初の両性具有となった日本人、キョウコ・タニヤマに緊張で性別が変わるという特異体質を持つフタバ・タジミ。ブルックリンの研究において真っ先に調査を行ってきた人物たちだ。
彼女(?)らを失うのは研究において痛い。見つけたら保護する必要があるだろうとブルックリンは考えていた。

それと、彼女の旧友であるリカルド・オーライリーも保護対象とすべきだろう。
心優しい青年で、大学のサークル仲間だった彼女と結婚寸前まで言っていたらしいが、『ハッピージャンキー』であるマリナ・エンドルフィンに彼女を誘拐され廃人にされた挙句性転換の実験体として体の至る所に男の面影と女の面影を持つクリーチャーにされてしまったという。
リカルドは心を痛めていたようだし、もしかしたら精神を病んで殺し合いに乗っているかもしれない。注意をしておくべきだろう。

「えーと…知り合いの方が居らっしゃるんですか?」
「そーよ。それに、私の敵たちもたーくさん。薬物で違法な性転換者を増やしてる『ハッピージャンキー』、マリナ・エンドルフィンに、『オトコノコスレイヤー』のケンイチ・フジキ。そんぐらいかなー。まーあと、個人的に嫌いな頭のかったい馬鹿親父のレイ・ジョーンズ!しかも2人!マジかよって話よね…」
「ジョーンズ警部の知り合いなんですか!」

サラが食いつく。
よもやここであのジョーンズ警部の名前を聞くとは思ってはいなかった。確かに二人も居るのには疑問に思ったが、共通の知人がいるかもというところに驚きを隠せなかった。

309旅客列車でGO!会場の電車は日本式 ◆aKPs1fzI9A:2015/06/23(火) 01:34:57 ID:A5y6WteM0

「警部?うちのジョーンズは大学教授よ!バリバリの。生命倫理を研究しててね、『人間はゾンビになってしまっている!』…って意味わかんないことやってる馬鹿よ」
「あ…そうでしたか」

勘違いしてしまった、とサラは少し恥ずかしそうにブルックリンから目を逸らした。
確かにレイ・ジョーンズ警部は通称『ゾンビ・ポリスマン』と呼ばれているほど不死身で何処にでも現れる男だが、大学教授ではない。
おそらく二人とも同姓同名の別人であろう。
サラもまさかこんな早とちりをするとは、と少し悔やんだあとこほん、と一息ついて会話を続ける。

「あと私の知人は…MrクロダとMrsニシザキですね。それに先ほど申したジョーンズ警部。あとは以前あるじさまをご来訪なさった方々がちらほら…皆さま悪い方では無いかと…」
「ほうほうなるほどね。まーそこんとこ覚えとくわ」

そう言うとブルックリンはサラの方から目を逸らして線路の方へと向かい始めた。
南北に渡り伸びている線路───だが、その線路はずっと続いているという訳ではなく、数百mほど先のトンネルの中で途切れてしまっている。
疑問に思っていたが、これはどういう事だろうかとブルックリンは考える。
この駅はあくまでもただのオブジェなのだろうか。だとしたらただの道楽目的で自分たちは連れてこられてしまったのだろうか、と。

「ブルックリンさん危ないですよ!電車が来たら、白線に入らないと…」
「細かいことは抜き抜き」
「でも…」
「chinga!(あーもう!)『こういう場所』でしょ?今更ルールなんて通用しないっての」

…順応早すぎやしないか?とサラは考えていたが今頃思っても仕方ない。
ブルックリンはサラの言葉に耳を貸すこともなく周りを見渡し続ける。
何をしているのだろう。またブルックリンが気になる電子機器でも見つけたのだろうか。
サラは素人目線からそう考察していたが、しばらくしたあとにサラを呼び出した。

「…はぁ。なんですか?」
「いや、これジャパンの駅よね?形式的に」
「んーまぁ少なくとも私の母国ではこんな駅ではありませんね」
「え、サラ生まれどこ?」
「イギリス生まれです」
「なるほどっ。どーりで言葉遣いが丁寧な訳か」
「英国人が皆様美しい英語を話すのは固定概念ですよ…」

せいぜいあんな丁寧な英語を喋るのは皇族たちだけ、と付け加えようとしたが、確かにこの駅の姿はサラの知っている駅ではなかった。
でかでかとプラットフォームのベンチの近くに設置されている『時刻表』には、すべてにおいて出発時刻の隣に『特急』と書かれている。
イギリスにおいて『普通』、『快速』、『特急』列車は存在していない。黒田と西崎が屋敷にきた際に、イギリスで戸惑った事として鉄道の駅の事について述べていたが、その知識が今役に立つとは。
心の中であの二人組に感謝をしながら、サラは頭の中を巡らせる。

310旅客列車でGO!会場の電車は日本式 ◆aKPs1fzI9A:2015/06/23(火) 01:36:00 ID:A5y6WteM0
やはり日本式の駅、ということになるとこの会場(地図を見る限り島なのかもしれないが)は日本ということになるのだろうか。と、なるとこれだけ大勢の人数を呼び寄せるために誘拐したのならば、優秀な探偵か誰かが場所を引き当ててくれるのではないか、とも考えられる。
しかし、まだ助けが来ない、来る気配がないということは単純に誰も気づいていないのか、この場所は特定されないような位置に存在している島なのか。
では、一体なぜそんな目的で自分たちを集めたのだろうか…?

「!サラ!いま何時?」

唐突な声。ブルックリンの声だった。
腕に巻かれていた、自分の主が誕生日に買ってくれた銀でできた腕時計を見る。深夜2時59分。夜中ではあるが、駅のライトが明るいためか、周囲はよく見えた。
先程の時刻表を見直す。この『前』に電車が止まるのは一番近い時で深夜3時。それ以降は4時間おきに来るようだ。
つまりのところこの時刻表が正しければ、電車が来る筈である。

「3時です。電車、来るんでしょうか」

短針が『3』を指す。
もし時間通り、この駅がレプリカでなかったらトンネルの向こうから電車が来るはずだが───

「どうだろうねー…あ!来た!」

プァーンという音を立てながら、トンネルの闇の中から電車が突如として現れた。
トンネルの先は見えないので、まるでワープでもしてきたようにも見えたが、そんなことはありえないとサラは少し考えた。
一方のブルックリンは止まった列車をベタベタ触りながら子供のようにはしゃぎながらサラに話しかけた。

「OH!結構キレイじゃない!」
「旅客列車キングトレーサー…ですか。まさか旅客列車が来るとは…」

『旅客列車キングトレーサー』。二人の前に来たドアの上の方にそう書いてあった。
奇しくもサラの知人の黒田が以前知人を訪ねに乗った旅客列車であり、二人の犠牲者を出すことになった事件、そして黒田翔琉のシリーズの6巻『殺しの汽笛が鳴る』の舞台にもなった旅客列車である。
勿論そこまで黒田のことには詳しくないサラは気づくことはなかったのだが。

「んじゃとりあえず乗ってみるわよ!」

ブルックリンがそう言うとドアの取っ手を引いて、中に入ろうとする。
電車では珍しい引き手のドア。あっさりと入ろうとするブルックリンにサラは一瞬あっけに取られながら、用心のために止めようとする。

「ブルックリンさん、もしかしたら中に何かあるかもしれないです。用心して進みましょう」
「大丈夫大丈夫!女は度胸、なんでも試してみるもんだって、ジャパンのことわざにもあるわよ!ほら!」
「ちょ、ちょっと!」

ずかずかと入っていくブルックリンに、サラははぁ、と一つため息をついた。
この自由人を止めようとするのは難しい。だが、彼女は間違いなく脱出の鍵となる人物になりうるのは違いないはず。

(あるじ様…サラは、サラはうまくやれてますでしょうか…)

自分の主人の顔を思いだしながらちょっと恋しくなったが、一度決めた道だ。仕方が無い。ブルックリンの名前を呼びながら、サラもその列車の中に肩を落としながら入っていくのであった。

311旅客列車でGO!会場の電車は日本式 ◆aKPs1fzI9A:2015/06/23(火) 01:37:08 ID:A5y6WteM0
【H-1/旅客列車キングトレーサー車内/一日目/黎明】

【サラ・エドワーズ@アースD】
[状態]:健康
[服装]:メイド服
[装備]:S&W M29(6/6)
[道具]:基本支給品、コスモスティック@アースM
[思考]
基本:首輪を取って、あるじ様の元へ帰る
1:ブルックリンと協力
2:いざというときは応戦しなきゃ…
3:この殺し合いの目的は?
[備考]
※作中の三人以外にもあったことがある人物、または平行世界の同参加者がいるかもしれません。
少なくともブルックリンのことは知らなかったようです。

【ブルックリン・トゥルージロ@アースP】
[状態]:怒り
[服装]:白衣
[装備]:サラのICレコーダー
[道具]:基本支給品、不明支給品1〜3
[思考]
基本:首輪をさっさと取って、サラの煎れたコーヒーを飲む
1:研究対象(TS、両性具有など)は保護したい
2:サラと協力
3:マリナとフジキドには要注意ね
[備考]
※名簿を見ました。


※列車は駅のトンネルとトンネルをワープしてきます。なのでバトルロワイアルの会場に線路は無く、乗ってる間の列車内はずっと真っ黒で、長いトンネルに居るような視覚です。
次の行き先がどこなのかは次の書き手様にお任せします。


以上です。

312 ◆aKPs1fzI9A:2015/06/23(火) 01:38:50 ID:A5y6WteM0
タイトル元ネタは「バブルへGO!タイムマシンはドラム式」っていう映画です。
意外と面白い作品なのでぜひ。
それと仮投下スレで指摘してくださった方に感謝感激雨あられ。

313名無しさん:2015/06/23(火) 21:15:44 ID:ZK6sh0ro0
改めて投下乙です!
ついに利用者が現れた電車、ワープ式なのも含めてこれからどう生かされるか楽しみ
と言いつつMAP的にはいきなり光秀組とぶつかる可能性もあるのか。女子まみれのバトルの予感?
破天荒なブルックリンと慎重派のサラさんのコンビはなんだかノリがしっくりきてて好きだな

314名無しさん:2015/06/23(火) 23:10:06 ID:vzmIETt.0
投下乙です
成程、列車はそういう形になったか
これは移動以外にも応用できそうな予感が
しかしジョーンズさん何人いるんだwww

315 ◆5Nom8feq1g:2015/06/28(日) 20:08:37 ID:gi9e4lFU0
投下します

316ダブルクロス ◆5Nom8feq1g:2015/06/28(日) 20:09:22 ID:gi9e4lFU0
 

 ざく、ざく。ざくっ、ざくり。
 あ、どうも、真白です。ざく、ざく。ざくっ、ざくり。
 今私は、こんな用途に使うものじゃあないんだけれどな、と思いながら真白ソードを振り下ろしています。
 ――ざく、ざく。ざくっ、ざくり。
 振り下ろす、対象は柔らかめの石の壁です。壁にソードをピッケルのように叩き付けて掘り進めているわけですね。
 なぜかってそれは。もう言わずとも分かって欲しいところです。
 ここは、採掘場ですから。ざく、ざく。ざくっ、ざくり。
 私は真白ソードを片手に地下洞窟に潜って、採掘作業をしているのでした。

「がんばれ♪がんばれ♪」
「励ましてないで貴女も手伝ってください、クレアさん」
「だが裏切る」
「あのもう止めていいですか?」

 ざっく。――がら。

「おっ」
「え?」

 がらがらがらがら。
 何かレアなアイテムが見つかるかもよ、と期待させておいて、
 私にばかりじめじめした薄暗い岩場を掘らせては高みの見物をしていたクレアさんに
 私の堪忍袋の尾がいいかげん切れてきたところで、不意に壁が大きくがらがらと崩れました。
 がらがらら。
 崩れた先には少し開けた空間。
 透き通るような淡い青色の光を放つ水晶みたいな結晶に囲まれた、光り輝く宝石(ジュエル)がありました。
 荒廃した私の世界では見たことのないくらい綺麗な物体です。

「ああ、やっぱり。もしかしなくとも、真白ちゃんは“ツイてる”のかもしれないね」

 神様が流した涙みたいな形の宝石を、さも自分が掘り当てたかのように拾い上げて眺めつつ、
 くすくすと笑いながら裏切りのクレアさんはずいぶん面白いことを言いました。
 私は面白すぎて笑ってしまいそうになります。
 いや、だって面白いですよね? 確かにこの場に来てから私は、
 仲間も現れて武器も手に入り、ましてや宝石まで掘り当ててしまって絶好調ではありますが――、

 この私が、“ツイてる”だなんて。
 そもそもこんなところで殺し合いさせられてる時点で、気休めにもならない励まされ方ですし。
 そもそもあんな世界に生まれてしまった時点で、励ましにもならない戯言でしょう。

「で、クレアさん。私が二時間汗水たらして掘ったことで手に入れたその宝石は、
 さすがにただの宝石じゃないということで宜しいんでしょうか?」
「ああ。そりゃあもう君が“ツイてる”からね。この“アイテム鑑定機”によると……うんうん、こりゃあすごい」

 クレアさんはソードの他に支給されていたという、
 アイテム鑑定機――“アイテムの細かい使い方とレア度が分かる機械”を宝石に当てると、

「あはは。いい意味で裏切ってくれたなあ、これは」

 と、心底楽しそうにスマイルしました。
 私としては怖気を禁じ得ません。
 世界を滅ぼしたがるクレアさんにとっていい意味を持つアイテムということは、
 おそらく私にとっても、これから出会う参加者にとっても、ろくなモノではないのでしょうから。
 ともかく――不幸の御守りのような宝石も手に入れたことですし、
 そろそろ他のみなさんに、私とクレアさんで不幸を振りまきに行きたいと、思います。

 裏切り劇場の、幕を上げましょう。


+*+*+*+*+*+*

317ダブルクロス ◆5Nom8feq1g:2015/06/28(日) 20:11:52 ID:gi9e4lFU0
 

 むかしむかしあるところに、魔法少女とマスコットの合いの子の少女がいました。
 人間と動物の愛の結晶である少女は、両親の愛を受けてすくすくと育ち、
 お母さんやお父さんのように、魔法少女として人々を助けたいと願うようになりました。
 しかし、人間でも動物でもない少女に向けられる目線は、優しいものばかりではありませんでした。
 好奇、嫌悪、畏怖、侮蔑、さまざまな視線の槍に貫かれて。

「その……ご、ごめんなさいっ……急に泣きついたりして……」

 いつしか少女は、ごめんなさいが口癖になっていました。

「いや、構わないよ。いきなりこんな所に連れてこられたらパニックにもなるさ」
「で、……でも……わ、私、魔法少女なのに、助けるのが仕事なのに、助けて頂いてしまって……」
「魔法少女? 魔法少女って?」
「え……? し、知らない、んですか……?」
「ちょっと詳しく話を聞きたいな」

 ――泣きじゃくる少女を落ち着かせるために、近くの公園でベンチに座って休んだ後。
 地球防衛組織隊員の東光一は、保護した少女から詳しい話を聞くことにした。
 たどたどしく話す少女からその全容を理解するにはけっこうな時間を要したが、
 焦らせても良くないので、途中で休憩を挟みながらも情報収集に時間を費やしていた。

 少女は高村和花という名前で、魔法少女とマスコットの合いの子であるという。
 その特異性から微妙な立ち位置にあり、差別もされていたという少女のことを、光一は不憫に思った。
 魔法少女についても情報を手に入れた。
 どうやら自分とは違う星かなにかの防衛システムのようだ。

((魔法少女なんて始めて聞いたな。コメット、お前が見てきた星に魔法少女はいたか?))
((……ふむ、そうだな、まず人間と同等の知的生命体が居る星が少数派だからな……少なくとも私は知らない))

 光一は脳内に住む共生体である、宇宙人コメットに聞いてみるも、彼も知らぬシステムらしい。
 よほど辺境か――あるいは遠い遠い宇宙にある星なのか。宇宙は広大だし、珍しいことではないが。
 とりあえず魔法少女については、光一はまあそういう星もあるのだろうと納得した。
 納得はするものの、あまり賛同はできなかった。

「年頃の少女に世界を守らせるのか……それってどうなのかなあ。
 不安定だし、子供には荷の重いシステムじゃないかな。みんなそれで納得してるの?」
「ま、魔法少女のことはそんなに悪く言わないでください……子供たちの憧れでもあるので。
 いちおう、パパが言うには、子供の純粋な想像力が力になるっていう理由らしいですけど……」
「魔法、っていうのも、少し聞いたことない概念だな……ちょっと使ってみてくれないかい?」
「え、あ」

 ちょっと恥ずかしそうにうつむく和花。

「……じゃあすいません、十秒でいいので目を瞑っていてくれませんか?」
「なんで?」
「変身中のバンクタイム(魔法少女用語)に、服が無くなってしまう瞬間があるので……」
「それはまたすごいな」

 そういうことならということで光一は目を瞑る。脳内でコメットが茶化してくるが無視する。
 ぱあっと光が輝いたのが瞼越しに伝わってくる。
 目を開けると、フリフリした桃色と緑色の服に身を包み、髪色も若干鮮やかになった和花がいた。
 花の魔法少女、マイルドフラワー。
 先代のマイルドリーフから力を引き継いだ高村和花の魔法少女形態である。

「おお、すごいな。しかもかわいいし」
「こ、光一さん……お世辞はいいです……というか、あんまり驚かないんですね」
「変身する奴はけっこう見慣れてるんだ」
「光一さんの星? も普通の星じゃないんですか?」
「まあね。俺も実をいうと、今は無理だけど変身できたりするし……」
「?」
「ああ気にしないで。魔法を使ってみてくれるかな」
「あっはい」

318ダブルクロス ◆5Nom8feq1g:2015/06/28(日) 20:13:34 ID:gi9e4lFU0
 
 光一に促されるままに和花は右手に顕現したステッキを振るい、空に向かって詠唱した。

「≪サクラライト≫!」

 桃色の一筋の光線が、明けはじめた空へと放たれ、消えていく。

「……おお……」
「ご、ごめんなさい、今のがサクラライトと言って、お母さんから受け継いだ魔法で……。
 私は、小さな人助けを主にやってたので、攻撃魔法はいまのだけなんです……」
「いやいや、全然いいよ。なるほどなあ、不思議な力だ……」((どう見るコメット?))
((うむ。防衛軍のビームや私の光線と同様のエネルギー波だが、大気中のエネルギーは消費されていないな。
  どこからかエネルギーを作り出して――取り出して? そのまま撃っている。確かに面白い))
((エネルギーの質も面白いな。ビームなのに質量がある。当たると弾き飛ばされそうだ))

 謝る和花をなだめつつ、魔法少女の魔法についてコメットと少し検討する。
 クセはあるものの、なかなかの威力を持っていそうだ、という見解で一致した。
 少女に無理をさせるわけにはいかないから後方支援での形にするとして、心強いサポートをしてくれそうだ。
 防衛隊員の目線から見ても、和花の魔法には一考の価値があった。

「ありがとう和花ちゃん、無理言ってごめんね」
「い、いえ……」
((コメット、とりあえずまずは和花ちゃんに強力してもらって、コスモスティックを探す方向で行こう))
((そうだな。だが光一、先ほどの魔法光に誰かが気づいたようだ))
((何?))
((十時の方角、気配が二つ。距離は少し離れているが、両方ともこちらに向かってきている))
 
 コメットの気配察知能力は高い。光一は眉をしかめ、和花に声を掛ける。

「和花ちゃん、注意して。誰か来る」
「え……」

 新たな来訪者の存在を知ると、和花はコンプレックスでもある獣耳と獣しっぽを身体の中に隠した。
 器用なことをするな、と光一は思ったが、そちらに意識を向けている余裕はあまりない。
 ベンチから立ちあがって公園の入り口をじっと見つめる。

 コメットは察知力は高いが、その気配が悪しき気配かどうかの判別まではさすがにつかない。
 どういう者が来るかは天のみぞ知る状況と言える。
 もしものときを考え、光一は和花を守るような姿勢をとり――そして、現れたのは。


「た……たす、けてください……」
   

 ぼろぼろの服を着て、何も持たず息を切らし、半泣きで助けを求める少女だった。


+*+*+*+*+*+*

319ダブルクロス ◆5Nom8feq1g:2015/06/28(日) 20:14:50 ID:gi9e4lFU0
 

 そ、その女の子が現れてからの光一さんの行動は、とても速かったです。
 腰に下げていた拳銃を抜きながら、……女の子の方へ駆け寄っていく光一さん。
 私は知らないことでしたが、もうこのときすでに光一さんにはこの場にもう一人が来ることを察知できていて、
 その「もう一人」から女の子を守るところまでを頭の中に描いての行動だったそうです。

 急に拳銃までとりだして走り出した光一さんに、私はびっくりしかできなくて、固まってしまいました。
 ご、ごめんなさい、だって命をやりとりするくらいの緊迫した状況に出会ったこと、あんまりなくて……。
 それじゃダメだって分かりながらも、また私はパニック状態になっちゃいました。

 次いで、ボロボロの女の子の奥から、
 金色の髪を肩上で短く切りそろえた、黒スーツの女の人が現れました。
 ……悪い人の雰囲気を、ここで私も感じます。
 女の人は邪悪に笑むと、持っていた日本刀より少し幅広の、ソードとでも呼ぶべきそれを、
 迷いなく女の子に向かって投擲しました――目で追うのがやっとの、恐ろしい速さで……!!

「危ない!!」

 光一さんがその恐ろしい速さのソードから女の子を守ろうと、身体を滑らせるようにして割って入ります。
 危ない――そう私も感じて、どうにか体を動かそうとしました、けど、
 けど、まるで足が、棒になってしまったみたいに、動かない――!!

 魔法少女の多くは――マスコットに励まされながら仕事をこなすんだって、ママが言ってたことがあります。
 光一さんに指摘されたとおり、魔法少女の多くは精神の未熟な小さな女の子、
 だから隣に一心同体のマスコットがいてくれることが、魔法少女にとってなによりの安心になるのだ――と。
 
 でも私には、高村和花には、マスコットと魔法少女の合いの子には、マスコットはいない。
 私自身がマスコットでもあるから。
 マスコットを介さず、私だけは自分自身と契約して魔法少女になったから――マスコットに、励ましてもらうことができない。
 自分で自分を励ますしかなくて。それができるほど、私は強くなくて。

 突然だった。

 女の子が。

 ソードの襲撃からカバーに入った光一さんを、突き飛ばす。

 守ろうとしていたはずの女の子のいきなりの動作(モーション)に、光一さんも私も再度驚きました。
 そのまま光一さんを突き飛ばした女の子は、投げられてきたソードを“掴んで”。
 超高速で投げられたはずのその柄を、あまりにも正確に掴んで。
 掴むと同時に、回転のひねりを加えながら――。

「まずは一人、ですね」


 よろけて無防備の光一さんの腹部に、その剣を突き立てました。


「え……」
「なっ……があ、ッ!?!?」
「残念でしたね。私のことを守るべき弱き少女だと勘違いしたのがあなたの運のツキです。
 いえ、これは私の演技が上手かったということかもしれません。
 “騙されて頂き、ありがとうございました”。報酬として、死をあげましょう」
「こ――――光一、さんッ!!」

 私はあまりに遅きに失しながらも、ステッキをようやく振ることができました。

「ぐ、≪グラスリング≫!!」

 緑色の、葉っぱ状のエネルギーが渦を巻きながら、光一さんを襲った女の子へ向かいます。
 拘束魔法≪グラスリング≫。私の魔法少女としてのもう一つの主力魔法。

320ダブルクロス ◆5Nom8feq1g:2015/06/28(日) 20:16:16 ID:gi9e4lFU0
 
「おっと、重ねて残念だけど、そいつは……通らないなあ」
「え……」

 でも――ぼろぼろ服の女の子に向けて放ったその魔法は、
 目に見えない速度で間に入ってきた金髪の女の人に――弾かれました。
 女の人がすごい速度で拳を振るうのだけが見えました、
 そしてその結果出た衝撃波が、私の魔法を消し飛ばしたのです。
 た、たしかに、私の魔法エネルギーには質量があるけれど――だからこそ拘束もできるのだけれど、
 だからって……だからって、む、無茶苦茶です。


 ただの拳に。
 魔法が、破られるなんて!


「少し距離を置こうか」

 ふ、と。
 金色の女の人の足が地面を蹴ったかと思えば、そのしなやかな肢体は私の眼前に迫っていました。
 防御を――!! とっさの判断で私は≪グラスリング≫を自分の周りに展開し、防御を行います。
 女の人はその豊満な胸の隙間から、綺麗な宝石を取り出します。
 宝石を≪グラスリング≫に当てると――不思議な光が私と女の人を包みました。

 次の瞬間。
 私と、金髪の女の人は、見知らぬ森の中に居ました。

「……っ!!?」
「うん。いいね。“表破りのクレア”と呼ばれていたころの正面突破戦法も嫌いではないが、
 やはり私には“裏切り”の――絡め手のほうが似合う。
 説明してあげると、この宝石の力さ。蓄えたエネルギーを消費することで周囲のモノをワープさせる宝石。
 君のそのエネルギーを、利用させてもらったということになる」
「わ……ワープ……!?」 
「理解はしたかな? さあ、裏切りを始めようか」

 急に変わった景色にもはや動揺の極みにある私とは対照的に、
 落ち着き払った言葉のトーン。両手を広げて“裏切りのクレア”は、私に宣言します。

「私は今から君を殺す。
 いまの30%の力より少し出力を上げて、60%で君を殺しにかかる。
 きっと君は何もできない。ただただ私になぶられて死ぬだけで終わる。
 そして君は同行者の前から急に消え、そのまま彼が死ぬまで戻ってこなかった“裏切り者”として、
 天国へ旅立つだろう彼の胸に、永遠に刻まれることになる。
 でもひとつだけ。ひとつだけ……その現実を覆す方法を君に授けよう」
 
 絶望的な、宣言を。
 私を――私の“魔法少女”を破壊する、宣言を。

「私は裏切りが大好きだ。人が人を裏切るその瞬間が大好きだ。
 だからここでひとつ、提示しよう――君は彼を本当に“裏切って”、私の仲間になりなさい。
 私と共に、殺し合いを進める手伝いをすると約束しなさい」
「えっ……」
「そして真白ちゃんを――あのボロボロの服の少女を、君自身の手で殺せ。
 ふふ、そうすれば君と、生きていれば彼も、命だけは助けてあげよう。
 さあ、どうするかな? 殺す? 殺さない?
 裏切る? 裏切らない? “選ばなければ”――君はすべてを失うだろう」

 圧倒的な強者のオーラを漂わせながら、“裏切り”のクレアは私に選択を迫りました。
 あああ……光一さん。
 私を助けてくれたあの人を、私は確かに助けたい。
 でもそのために私がとれる選択は……あまりにも非情だ。
 わ、私は……。
 パパ、ママ、私は、魔法少女として――どんな選択を、すればいいの……!?

321ダブルクロス ◆5Nom8feq1g:2015/06/28(日) 20:18:21 ID:gi9e4lFU0
 

【C-3/森/1日目/黎明】


【高村 和花@アースMG】
[状態]:変身中、耳と尻尾はしまった状態
[服装]:桃色と緑色の魔法少女服
[装備]:ステッキ
[道具]:基本支給品一式、ランダムアイテム0〜3
[思考]
基本:魔法少女は助けるのが仕事
1:光一さんを助けに……
2:裏切れなんて、そんな……!
[備考]
※夢野セレナや久澄アリアと面識があります。
※キツネ耳と尻尾は出し入れ自由です。

【裏切りのクレア@アースH】
[状態]:健康、出力30%
[服装]:スーツ
[装備]:転晶石@アースF
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜2、アイテム鑑定機@アースセントラル
[思考]
基本:優勝する
1:真白ちゃんを裏切らないとは言ってないよ(笑)
2:目の前の魔法少女を“壊す”。
[備考]
※詳細な行動動機は他の書き手さんにお任せします

  
  
+*+*+*+*+*+*



 少女が選択を迫られているそのころ。
 ――公園では、不思議な光景が発生していた。

「……どういうことです? あなた、まさかゾンビか何かなんでしょうか?」

 真白が狼狽する。狼狽もしようものだ。
 腹部にソードを、深々と突き立てたはずだ。
 だからもう勝負は決まったはずだ。あとはもう、殺すだけでよかったはず、なのに。

「わ、悪いけど……俺は少々、鍛えてるんでね……」

 お腹の傷が、すでに、消えている。
 真白の目の前で――東光一は完全に復活している。 

((やれやれ光一よ、あまり私の手を煩わせないでもらえるか。
  この私とて有限だ。精神を消耗しつくしたら、私が消えてしまうじゃないか))
((すまなかった……油断したよ。でもこの子、強い……拳銃も当たるかどうか……。
  どこかへ連れ去られた和花ちゃんも心配だし、正直、まずい状況だな……))

 すべては東光一の共生者である宇宙人、コメットの力である。
 コメットはかつて瀕死の状況になっていた光一の体内に入り、光一を生き延びさせた実績がある。
 それと同様のことを今回も行っただけだ。
 コメットは自身の存在力とでも言うべき精神エネルギーを消費することで、
 共生している光一の傷を強制的に癒すことができるのである。

「鍛えただけで傷が治る方法があるなら私が教えて欲しいくらいですね。
 しかし……クレアさんは転晶石を使いましたか。もしかして私、ダシにされたのでしょうか。
 参りましたね。さすがにまだ裏切らないと思ってましたが、目算が甘すぎましたか……?」
「なんのこと、かな?」
「こちらの話で、今から死ぬあなたには関係のないことですよ」

322ダブルクロス ◆5Nom8feq1g:2015/06/28(日) 20:21:16 ID:gi9e4lFU0
 
 ソードの大振り。
 高い身体能力から繰り出されるそれを、光一はなんとか交わす。
 さすがに真正面からでは、MHC隊員として訓練を積んできた光一には届かない。
 といっても、ぎりぎりだ――真白と光一、2人の身体能力的なレベルは拮抗状態にあると言えた。
 とあれば、有利なのはどちらか?
 持ち慣れた武器を持っている真白か。一撃当たればデカい銃を有する光一か。
 殺意を煌めかせる真白か。正義に準じている光一か。

((全く光一よ……“あまりに醜態を晒すようなら、私も君を、見捨てるぞ”。
  別にお前以外に憑依し直しても、私は私の任務を果たすことはできるのだから……))
((……分かってる。お前の手はもう、煩わせない)))

 あるいは。光一をコメットが見捨てるのが、早いか。
 死と生。
 その分水嶺を分けるものは、あまりにも沢山ありすぎる。

「さて――クレアさんに何かされる前に、ゾンビ退治をしてしまいましょうか」
「さて。正直きっついけど……君を無力化して、和花ちゃんを助けに行かなきゃな……!」

 真白がソードを構え。
 光一は軍人空手の型を取った。
 両者ともに、他者にその命を左右される状況にありながら。
 真白と光一は互いの信念のために、戦闘行為を継続してゆく。


【C-2/公園/1日目/黎明】


【真白@アースEZ】
[状態]:健康
[服装]:私服、汚れているが、それがそこはかとなくえろい
[装備]:真白ソード
[道具]:基本支給品一式、ランダムアイテム1〜3
[思考]
基本:優勝する
1:アースEZとアースH以外のチームを皆殺し。
2:目の前の男を殺す。
3:クレアさん、まさかもう裏切ったんですか?
※真白ソードによって戦闘力が上がっています。ソードには他にも効果があるかも
 
【東 光一@アースM】
[状態]:健康、少し困惑
[服装]:MHC隊員服
[装備]:十四年式拳銃(残り残弾数35/35)@アースA
[道具]:基本支給品一式、超刃セイバーZDVD一巻@アースR、
ディメンションセイバー予備エネルギータンク2個@アースセントラル
[思考]
基本:巻き込まれた参加者を助ける
1:和花ちゃんが心配。目の前の少女を無力化
2:コメット・・・
3:何で十四年式拳銃なんか・・・?
[備考]
※コスモギャラクシアンへの変身に必要なコスモスティックを没収されています。
他の参加者に支給されているかもしれないし、会場内のどこかにあるかもしれません。
※十四年式拳銃のような古い銃が支給されていることに疑問を感じています。


【転晶石@アースF】
サン・ジェルミ伯爵が錬金術で作成した、転移魔法が付加された宝石。
クオンタム鉱石という希少性の高い素材を使用するためレア度が高い。
魔力を充填することで繰り返し利用が可能。最高で1kmほど移動できる。

【アイテム鑑定機@アースセントラル】
優れた科学力と主催知識で道具の使い方などを表示する機械。

323 ◆5Nom8feq1g:2015/06/28(日) 20:23:38 ID:gi9e4lFU0
投下終了です。
元ネタは裏切りを意味する言葉と聞きました(やったことはない

324名無しさん:2015/06/28(日) 21:24:47 ID:N1K3PJWE0
投下乙!
光一君大ピーンチ!相棒には見捨てられそうだし、知らぬ所で命を秤に載せられてるし、不幸の星の下に生まれちゃったな。
和花ちゃんも光一君を助ける為に殺人に手を染めてしまうのかそれとも・・・

追記
コスモスティックは確かサラに支給されたよ。あと転晶石みたいな便利な物簡単に会場で拾えて大丈夫か?

325 ◆aKPs1fzI9A:2015/06/30(火) 01:25:43 ID:z8fpe01U0
投下乙です!
うわあ…やはり大惨事に…周囲もやばい奴ばかり。果たして二人に未来はあるのか

投下します!

326やつがれ、ヤクザの武器になります。 ◆aKPs1fzI9A:2015/06/30(火) 01:30:38 ID:z8fpe01U0
「舐められたものだ…奴らは余に殺し合いをさせる気があるのか。本と手斧と人形。火縄銃来たら一発じゃな」

信長は胡座をかいて座り込んだ自分の目の前に広がる『支給品』たちを見ながら、少し怪訝な表情をした。
先ほど遭遇してから二時間は経っただろうか。彼女ら(厳密にいえば彼と彼女だが)はの道場で休憩をとっていた。
そこで折角だということで身支度を整える事にしたのだが。信長に与えられた支給品らはおそらくハズレという部類に入るだろう。
『鉄砲』の強さは信長は何より知っている。長篠の戦いで武田勝頼率いる騎馬隊を殲滅させたその強さ、戦力はただしれない。

故に銃が入っていれば多少は違ったのだろうが───女子でも持てるような軽い手斧だけではそういった銃、いや弓でも相手取って戦うことは難しいかもしれない。
手斧を持ち直すと、どこか血なまぐさい臭いがした。

思い返す、戦場の血の臭いだ。おそらくこれを使ってた物は獣か魚か、あるいは───人間かなんかを殺していたのだろう。

人間五十年。
慣れ親しんだ敦盛の歌通り終えた人生だった。
だがもう一度、手に血を染めることになるかもしれないとは不思議なこともあるものだ。

信長は自分の状況を少し不思議に思い直すとフィギュアに手を取った。本は後で読むとして、これが中々クオリティは高い。かの狩野派を彷彿とさせるような豪快な着物の色は美しさを感じさせる。ゆえに、曲線美的な女性の肢体が映えて見える。
未来のフィギュアも、技術は中々。
信長は感心してしまい、それを様々な角度から見回していた。

「お!信長そのキャラ知らねーのか?人気なんだぜ」
「キャラというのは、いわば作品の登場人物か。何と言うのだ、この女は」
「あたしもその手は見ないから詳しくないけど確か『へし切長谷部』ちゃん?だったかな」
「なにぃ!?」

『へし切長谷部』といえば、余の刀ではないか!とまで言いかけてその言葉を飲み込んだ。
アースCにおいては他の世界軸の存在を他の世界軸の人物の介入という形で垣間見ることができる。
自分の親衛隊の一人が言っていた『織田信長が女体化する作品』も最初聞いた時は怒りのあまり学校を焼き討ちしかけたが、なるほどそういったジャンルのものの一つだと考えると今ならば納得できる。

327やつがれ、ヤクザの武器になります。 ◆aKPs1fzI9A:2015/06/30(火) 01:33:08 ID:z8fpe01U0

もう一度見つめる。
この女に長谷部要素、あるか?とも考えたが(逆に長谷部要素ってなんだよとも同時に考えた)、自分の外見もかつて男だった時とはかけ離れているからそれと似たものなのだろう。まあ、自分の場合は安倍晴明によってこんな姿にされた上に、そのまま他の世界に飛ばされてしまったので長谷部のパターンと一致、とは言えないかもだが。

「…長谷部…その、なんだ。すまんのこんな姿にしてしまって」
「おいおい信長、カメラが回ってたらどうすんだよ!信長キャラならもっと堂々とした方がいいんじゃね?」
「うつけが!余はキャラじゃないと言ってるじゃろう!」

言い張る信長をスルーして、優芽は自分のディパックを持つとそのファスナーを全開にして、ひっくり返す。
一斉に様々なものが出てくる。どうやら食料や水も入っているようだ。おそらく3日間ほどは生きれるだろうという量。

その他コンパスや地図などサバイバルに必要な物があったが、優芽はまず真っ先に『参加者候補者リスト』というリストに手を伸ばし、それを開く。

「信長。どうやらこの番組一般人参加型でもあるみたいだぜ。アイドルか芸能人だけが参加してるもんだと思ったけどさ。ほら、見てみ?」

相変わらずどすっ、と胡座をかいたままの信長にリストを突きつける。
信長はそれを手に取り、優芽と同じようにリストを開いた。
おおよそ100人超はいると思われる候補。自分も与えられたが、どうせ知らない者ばかりであろうと無視していた。
しかし、おそらくこれを優芽が突きつけてきたとしたら、彼女の知人か、信長の知人がこの中にいるのか。

一番上の『花巻咲』の名前を見たあとに、見るのを一旦やめて優芽にふと聞いてみる 。

「知り合いがおるのか」
「ん、まぁーね。行きつけの上山先生に小野寺館長。いつもボディーガードしてくれるイエスマンさん…ま特撮ヒーローだの探偵だの魔法少女だの色々気になることはあるけどさ…。
まーそのへんほっといて一番気になるのは…コイツ。平沢茜」

優芽が寄ってきて、リストの前半に名を連ねていた『平沢茜』へと指を指した。
近くに来た時に、柑橘系の優しい匂いがした。おそらく彼女のシャンプーの匂いだろうか。
活発でややガサツなところもあるが、彼女もやはり年頃の少女なのだ、と再確認。

「うちのシャバを滅茶苦茶にしててさ。夜地下で殺し合いの闘技場開いたり小学生に殺し合いさせたり───悪趣味なヤツだよ」

平沢茜の名はアースRにおける裏社会においてももはや有名であった。
名が割れているというのに、被害を出しているのに。人を殺しているというのに何故か捕まらない謎の女。
ほかの世界においては通常である異常が目立つアースRにおいても、平沢茜の異常さは、他の世界においても異常とカテゴリされるはず。
そう言えるほど、彼女は生まれ持っての『悪』であった。

「いっぺんシメとかないかなって思ったけど丁度いいよな…!あ!今の発言はカットで!頼むぜー。一応清純派活発系アイドルとして売ってんだからさ!」

あたふた、と怒気のこもった声から明るい口調に変え、にこやかにアピールする優芽。
隠しカメラでもあるのだろう、と自分のイメージを崩されないようにしておくために先程のことは彼女的にはよくない。
信長にも聞こえるように笑いながら、どこか申し訳なさそうに優芽はしていたが、信長はその話を聞いたあと、少し時間を置いてリストを床に置くと呟いた。

「…余は、これを見て正直戸惑っておる。竹千代殿にエロクソザルハゲネズミ、そしてあの憎き、憎き光秀。さらにはあの平蜘蛛ボンバーマンこと久秀。そういったたわけどもらが名前を連ねておるのだ」

信長は最初からアースCにいたのではなく、安倍晴明によって復活され女体化された直後にアースCへと迷い込んだ。
ゆえに彼は他の戦国武将たちも、おそらく晴明により復活されてしまったのだろう。特に光秀と久秀はマズイ。間違いなく危険とも言える。多くの者たちに裏切られてきた信長にとっても、彼らは厄介者。
二人とも連れてこられていたら、と思うと少し悪寒が走るくらいだ。

「スライムちゃんもおるし、保護したいところであるが…奴らも余と同じようにこの世にまた蘇った者だとすると、どうもこの殺し合いにはそういった『術』の使い手が関わっているかもしれんな」

328やつがれ、ヤクザの武器になります。 ◆aKPs1fzI9A:2015/06/30(火) 01:35:14 ID:z8fpe01U0

彼を復活させた安倍晴明もまた黄泉の国から復活した人物だ。
ゆえに陰陽師とはいえ明らかにその陰陽道を逸脱したような術を使うことが出来ていた。らしい。

名簿の中には彼の知り合いの1人、スライムちゃんが居ることも不安ではあるが…。信長にとっては何よりそれが心配すべき点だった。
黄泉がえりを行えるのはおそらく安倍晴明ほどの陰陽師でなくてはならない、
それをこの場で可能としたのであれば、間違いなく陰陽師の一族か、呪術を使えるものなのだろうと考え、優芽を見つめた───

「え?何?術?ごめんよくわかんね☆」
「昔の余なら怒りのあまり焼き討ちするレベルじゃぞその対応!!」

つい昔延暦寺を焼き討ちしたというある意味黒歴史に近いようなブラックジョークを持ち出して信長は盛大にずっこけた。
昔の信長ならばマジで首跳ね飛ばすくらいのことはしただろうが、それをせずに突っ込んだだけというのはある意味カオスな人々がいるものの比較的平和な世界で過ごしてきて丸くなった証拠か何かか。

「あたしの武器はっと…手帳?なになに。お!巴竜人ってあの人気俳優谷内剛(たにうち ごう)が演じてるヒーローじゃんっ!すげーなぁ特撮ファンはここまで詳しく…うわ!刀だ」

詳しく特撮ヒーローのことについて書いてあった手帳をすぐにポケットの中に入れると、優芽は置いてあった刀へと手を伸ばそうとした。
信長はそれを見て、すぐに気づく。その刀には、どこか禍々しい妖気を感じる、と。

晴明に復活させられた日から、信長には妖気が見えるようになった。
禍々しいような、黒いその気を刀は纏っている。

「…まて!それに触るのは───!」

優芽を止めようと、信長が優芽の伸ばす腕を掴もうとするが、その伸ばす速度は早く、優芽はがっちりと鞘の部分を握り締めた。
すると、その時、纏われていた妖気が刀を包み込み、数秒すると優芽の手には鞘ではなくて刀の柄が握られていた。
そして二人の目の前には、漆を彷彿とさせる艶のある黒に、真っ白な、雪のような肌。黒色の瞳は鋭い。一人の背の高い少女が立っていた。
少女は優芽の握っていた妖刀の前にふわり、と降り立つと、少しお辞儀をすると二人に対して口を開いた。

『…奴(やっこ)は…初めましてだね。やつがれは妖刀、小烏丸の鞘。名を黒羽という者だ』

妖刀「小烏丸」の鞘、黒羽。
アースEにおける陰陽師の一人で、妖刀「小烏丸」の鞘となることで小烏丸を使い、敵を倒してきた人物である。
突然現れた美少女に、二人はぽかんとしている。無理もない。突如として目の前に人が現れただけでも驚くのにそれが信長に並ぶような美少女なのだから。ある意味アースRでは味わえないような、初めて見る美しさが感じられたほどだった。
そんな二人をほっとく様にふぅ、と一息つくと黒羽は口を開いた。

329やつがれ、ヤクザの武器になります。 ◆aKPs1fzI9A:2015/06/30(火) 01:36:11 ID:z8fpe01U0
『…さて。自己紹介はこの辺にして、と。奴。やつがれの小烏丸を返してくれないか。小烏丸はやつがれ自身だ。それを同化させないとやつがれも困る』
「…え、はい、どうぞ」
『ややや。すまないね。やつがれもこれが壊れると困るんだ。すまないけど返してもらう──!?』

黒羽が優芽に差し出された刀に手を触れようとした瞬間に、黒羽の手が弾かれた。
黒羽は唖然に取られながら、もう一度手を伸ばす。
ばちん。
見えない壁に守られてるかのように、黒羽は小烏丸に触れることができない。

『やや?ややや??触れない…小烏丸とやつがれは一心同体なのに…』
「え?あたし触れるぞ、ほら」
『こ、こらやめたまえそんなところ…ひゃんっ!…こら!やつがれと小烏丸は一体化してるんだ。あまりいじるなよ小娘え!…ぴっ!』
「お前も小娘だろーがいっ!見たところアンタもアイドルかなんか?」
「なぁーんだとぉ!」
(…これさっきの余と優芽じゃね?)

デジャブに近い光景を見ながら、しかし信長は黒羽がただのアイドルではないことを見破っていた。
あの類の能力は、陰陽道の使い手が持ち合わせるもの。いわばあの安倍晴明が持っていた妖気とよく似ている。
陰陽師とは、単なる妖気の強さではない。本人の才能、身体能力も大きく関わる。
信長も完全には妖気を感じられないが、あの黒羽の妖気は始めてみた物であり、おそらく彼女も腕は立つのだろう。
信長は立ち上がると、黒羽と同じ視線にあわせて口を開く。

330やつがれ、ヤクザの武器になります。 ◆aKPs1fzI9A:2015/06/30(火) 01:36:51 ID:z8fpe01U0

「見たところ、貴様も中々の手練のようだ。余も女になったとはいえ腕が鈍ったワケではない。貴様が何者かは知らんが───おそらくあのうつけども、主催者どもが貴様が反抗しないように仕向けている可能性があるかもな」
『ややや…つまり奴の刀にならないとやつがれは帰れないということかい?』
「まぁ、つまりはそういうことだろう」

黒羽はそれを聞くと顎に手を当てふむ、と考えるようなそぶりをみせ、ゆっくりと目を瞑る。
やがて小さな声で念仏のようなモノを唱え出して数秒後に、目を開いた。

『…ふむ。本来ならば、やつがれが小烏丸を扱うんだが…逆にやつがれが拠り所を小烏丸に変えればいいだけの話だ。つまりのところ、やつがれが小烏丸となって奴の武器になることは出来るかもしれない。小烏丸との妖気を伝達してみたところ、そういった趣旨のことを言っている』
「え!?喋るのソイツ!?」
『まあ、やつがれしか分からないけどね…よし。行くよ、小烏丸』

黒羽がそう言った瞬間に、全身が禍々しい妖気になり、液体から気体に蒸発したように、ふわりふわりと漂う。
やがてそれが小烏丸の周りに向かうと───真っ黒な、優芽が握る前の鞘に入れられた小烏丸がそこにはあった。

『…その、今ばかりは協力してあげよう…なんか、色々ついて行けてないのでね。少し休ませてくれ。それと、金髪美少女信長ちゃんがなぜここにいるのかも気になるところだしね』

声だけが響く。おそらく鞘の状態のままで話しているからこういった不思議な形にでもなるのだろう。
驚く優芽に、感心すら覚えてしまう信長。
それと同時に、自分の事を信長だと分かっているということはやはり安倍晴明のグルだろう。
安倍晴明が関わりを持っていると断定はしたくないが少なくとも陰陽道がなんらかの形で関わっていることは確かかもしれない。
あの黒羽という少女が何故小烏丸を持つことができず、ただの刀へと制限をかけれたのたか。
それもまた安倍晴明と同等、または以上の妖力を持ち合わせてる者が成し遂げれる技であろう。

(…ならば、余らが復活したのも───このためだとしたら、この殺し合い、もしや…)
「ひえー。すげー今の技術。ホログラム?ってやつだよなぁ!…信長?」

顔を上げる。疑問そうな優芽が信長を見つめていた。
あそこまで不可思議なものを見たのに平然としているのが不思議なものであるが、まあ今に始まったことではない。
優芽にとってはかなり強い武器になるかもしれない。なんとか彼女にここを『本当』の戦場だと分からさせなければいけない。
そうしないと『暴走』しかねない。下手な正義や断罪は『蛮勇』となり、後にそれは終わりを迎えることになる。
それだけは避けなければ。あのうつけ、主催者を斬るためにはこの少女が必要になるのかもしれないのだ。
だが、どうやって彼女を戦闘に参加させる。ただの非戦闘員である彼女に。刀一本で何ができる───

「…やめるか。今はどうやって主催の元にたどり着くかだ。それを第一に考えよう。…だめだ、やはり最重要要件はあのうつけをなんとかすることではないか…」

信長は考える。深く深く。優芽を『勘違い』から救うために。

331やつがれ、ヤクザの武器になります。 ◆aKPs1fzI9A:2015/06/30(火) 01:43:03 ID:z8fpe01U0

【F-6/道場/1日目/黎明】

【織田信長@アースC】
[状態]:健康
[服装]:ファンクラブに作らせた格好良い女子制服(一般人が見れば奇抜な格好)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、世界最終戦争@アースA、手斧@アースR、刀剣これくしょん『へし切長谷部』フィギュア@アースR
[思考]
基本:殺し合いを開いたうつけを斬る!
1:御園生優芽と同行。出来れば現状を理解してほしい
2:この殺し合いには陰陽道の使い手か、それに近い力を持つものが関わっている?

【御園生優芽@アースR】
[状態]:健康
[服装]:アイドル服
[装備]:妖刀『小烏丸』(黒羽)@アース E、木下麻帆の追っかけメモ@アースH
[道具]:基本支給品
[思考]
基本:信長と一緒に撮影をがんばるぜ!
1:ドッキリが終わるまでは信長の部下になってやるか
2;すげー!現代の技術すげー!
[備考]
※殺し合いをドッキリ企画だと誤解しています。
※織田信長を信長系アイドルだと誤解しています。
※黒羽もアイドルと勘違いしています。どういう系かは本人に聞いてください。

以上です。細かい台詞の修正はまたあとで。
黒羽の支給は限りなくアウトに近いかもしれないですかねえ…てか意思持ち支給品出しすぎだろ!

支給品説明は次レスに

332 ◆aKPs1fzI9A:2015/06/30(火) 01:51:11 ID:z8fpe01U0
【妖刀『小烏丸』(黒羽)@アースE】
陰陽師黒羽。しかし本人は刀を握ることが出来ず、その刀に最初に触れたものしか刀には触れられない。
また半径3メートルより先に最初に触った所有者から離れることは出来ない。刀のダメージ=黒羽のダメージで、刀、鞘、どちらかが折れてしまえば双方とも消滅する。

【木下麻帆の追っかけメモ@アースH】
アイドル追っかけの主婦、木下麻帆のメモ。
若手一押しヒーローのあれやこれやが書いてある。

【世界最終戦争@アースA】
石原莞爾の著書。基本アースRのものと同じ。

【手斧@アースR】
麻生叫が以前の殺し合いで使っていたもの。AKANEの超技術でそのまま持ってこられた。
血塗られており、ところどころ肉片も見れるほど。

【刀剣これくしょん『へし切長谷部』フィギュア@アースR】
人気ブラウザゲーム刀剣これくしょんの人気キャラ「へし切り長谷部」のフィギュア。
クオリティ高め。

333名無しさん:2015/06/30(火) 04:49:39 ID:wqSM4mBw0
投下乙です!へし切り長谷部てしん○んの方のあれか…w
黒羽ちゃん、黒羽ちゃんじゃないか!支給品で出てくるとは…時代めいた喋りが可愛い
そしてこれでも撮影だと思ったままの優芽ちゃんに危機感を覚える信長である。戦国勢は順応が早くいろいろ頼りになるな

334 ◆5Nom8feq1g:2015/06/30(火) 04:52:47 ID:wqSM4mBw0
ついでに報告、拙作で出したアイテムの説明をダウングレード修正いたします

【転晶石@アースF】
サン・ジェルミ伯爵が錬金術で作成した、転移魔法が付加された宝石。
クオンタム鉱石という希少性の高い素材を使用するためレア度が高い。
魔力を充填しなければ使えず、3回ほどで壊れる。最大転移距離は1km。

335 ◆aKPs1fzI9A:2015/06/30(火) 15:12:59 ID:N/oJfOMU0
しん○んてなんのことやらと思ったらなるほどそういうゲームがあったとは…
自分は普通に刀剣乱舞+艦これで考えてましたw

パロロワまとめwikiに追加しときました。
修正があればお願いします。

336名無しさん:2015/07/02(木) 00:45:36 ID:mwpMDn4k0
新しいオリロワできていたんだね。期待

337 ◆5Nom8feq1g:2015/07/05(日) 12:53:12 ID:DI5rAcGg0
まとめwikiへの追加乙です、やったぜ
短いですが投下します

338それはそれとしてハンバーグが美味い ◆5Nom8feq1g:2015/07/05(日) 12:53:54 ID:DI5rAcGg0
 
 ヘイス・アーゴイルは武器を売った。自作の武器を売って売って売った。
 人間に売った、魔族に売った、勇者に旅人に、町人に武人に、
 光の者にも闇の者にも、分け隔てなく売った。
 安く売った。

 最初は自分の武器によって争いを起こすためだった。
 高村和花という魔法少女とマスコットの合いの子がどこかの世界でされていたように、
 人間と魔族の合いの子であるヘイス・アーゴイルはどちらの種族にも属せず、差別されたからだ。

 こんな世界は滅んでしまえと思った。
 だから作って、売った。命を奪うための剣を槍をメイスを鞭を爆弾を、売った。
 父は鍛冶屋で、母は商人だった。
 魔王軍のいわれなき殺戮でどちらも喪ったが、
 おかげでヘイス・アーゴイルは武器と防具の開発は得意分野であったから、良い武器はすぐ作れた。

 安く売った武器によって殺し合いが起こった報を聞くことが、彼の百年物の趣味だった。

 悪魔王は討たれたが、ヘイスの世界では今も争いが続いている。
 下等獣人による民族自決のテロ。悪魔王により抑制されていた魔族による人間への本格的な復讐。
 巨悪との一対一の戦争だった時代に比べると、散発的な戦闘しか起こらない今の環境は
 少しやり辛い側面もあるが、ヘイスのスタンスとしてはあまり変わらない。
 いつも通り戦闘のあるところに安く武器を送り届け、戦闘を誘発させるだけである。

 だがサン・ジェルミ伯爵――あの男についに感づかれたということだろうか。
 いつも殺し合いの引き金を引く手伝いをしていただけのヘイスは、
 ついに殺し合いの真っ只中に放り込まれることになったのだった――。


「それはそれとして、ハンバーグが美味い……」


 デパートの最上階、レストラン街の一角にあるハンバーグ専門店。
 カタギリハナコという少女と出会い、別れたヘイス・アーゴイルは、現在ここでハンバーグを食していた。
 その表情は喜色満面、どこからどうみても、のほほんとハンバーグを楽しむ気のいいおっさんにしか見えない。
 というか……実際ヘイスはしみじみとハンバーグの美味しさに酔いしれているのだった。

 いやだってしょうがないでしょう、美味しいんだもの。

「肉をミンチにし、卵などで繋いでナツメグを加え、鉄板で焼く……こんな簡単な料理だというのに……。
 火の通し方ひとつで虹色の味の変わり具合も魅せてくれるし、最高ではないか……。
 これが『異世界の料理』というやつか、素晴らしいな。いや本当に素晴らしい……5皿も食べてしまった」

 アースFでは肉料理といえばローストしたチキンか丸焼き、
 あるいはステーキ、たまに煮込みなどがほとんどで、
 わざわざ肉をミンチにしてからそれをこねて焼くという発想はなかった。
 ハンバーグという名の料理は、ヘイスにとっては初めての体験だったのである。

 幸いハンバーグ専門店のキッチンにあったレシピ表は見ることが出来たし、
 道具作りに適性のあるヘイスに異界の料理道具を扱うことは非常に容易かった。
 方針を考える前にまずは腹ごしらえから、と考え付いて直行したレストラン街だったが、
 予想以上、ある意味予想外にハンバーグの魅惑の味に嵌ってしまったヘイス・アーゴイル。

「とりあえず隣のうどん屋とやらにも行ってみよう」

 隣のうどん屋に行ってみようとするのを止められる者はいなかった。



食食食食食食食食食食食食食食

339それはそれとしてハンバーグが美味い ◆5Nom8feq1g:2015/07/05(日) 12:55:38 ID:DI5rAcGg0
 


「――――しまった、食べ過ぎて動けない」

 ヘイス・アーゴイルはデパート最上階の休憩ゾーンで、
 大きくなったお腹をさすりながら添えつけのふわふわソファーに寝転がって天井を仰いだ。
 もうお腹いっぱいである。
 お腹いっぱいすぎてはち切れそうなくらい食べてしまった。
 思えばここ数年、武器屋の仕事で忙しく、まともな料理を食べられていなかった。

 アースFでの料理の水準はそう高くない。
 城にはお抱えの料理人がおり、アースRで言うならイタリアやフランスで出てくるような洒落た料理、
 あるいは中世ファンタジーでよく見るような料理が出てくるところもあるが、
 下等民の食事は芋のスープや森の獣、低級モンスターの可食部を調理して食べるのがほとんど。
 レトルト食や保存食の概念も存在しないため、
 十年も貧民街で暮らせば食事の楽しさなどと言う概念とはお別れするのが当たり前の世界だ。

 そんな胃袋ににアースR式の、
 マニュアル化され一定の味が保障された様々な料理群を叩きこめばどうなるか。

「幸せすぎる……どこの『異世界』だか知らないが、この世界は滅ぶべきではない……」

 こうなるのである。
 ヘイス・アーゴイルは自らの世界を憎んではいるが他の世界まで憎んでいるわけではない。
 長く生きている自分が知らぬ料理があったことから『異世界』の存在を自分の中で確かなものにしたアーゴイルは、
 ハンバーグが食べれる世界は滅ぶべきではないと強く思ったのだった。

 でもそうなるとますますサン・ジェルミが憎いな。

「こんな素晴らしい世界の民を殺し合いに巻き込んで、一体何を企んで……おえっぷ。
 ああ、でもとりあえずそれを考えるのは、もう少し休んでから、この建物を全部回ってからにするかな……」

 デパートの階数表示を見ながらヘイスは顔をほころばせる。
 そこにはまだまだヘイスの知らない色んな店があるようで、楽しみが止まらなかった。
 殺し合い<素晴らしき異文化交流。
 憎しみに染まっているはずの心はあっさりと楽しそうなほうに流されてしまっていた。

 しかしそれも詮無きことかな。
 本人も自覚してはいないが、時の流れというものは人の憎しみをも容易く流し、小さくしていく。
 世界を滅ぼすのを目標に武器を作って売り続けていたこの男の憎しみも、客に感謝されたり、
 売り上げの上下に悲喜したり、隣の店の看板娘と交流したりするうちに、実際少しずつ丸くなっていたのだから。

「これも情報収集……情報収集だから仕方ない……」

 親父腹をさすりつつ幸せそうな顔で脱力するヘイス・アーゴイル。
 彼が本気を出すのは、もう少し後のことになりそうであった。


【E-5/デパート6F/1日目/早朝】

【ヘイス・アーゴイル@アースF(ファンタジー)】
[状態]:健康、満腹
[服装]:店主服
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、不明支給品1~3
[思考]
基本:殺し合いをつぶす
1:『ハンバーグが食べれる世界』は滅ぶべきではないな
2:デパートを探索
3:ほかの『異世界』も確認しなければ
4:協力するなら『異世界』の住人と
5:自分のチームの優勝は断固として阻止する
[備考]
※サン・ジェルミ伯爵が主催者側にいる可能性が高いと考えています
※異世界が存在し、チームは世界ごとに分けられている可能性があると考えています

340 ◆5Nom8feq1g:2015/07/05(日) 12:57:13 ID:DI5rAcGg0
投下終了です。
そろそろ早朝に入っていきますかねー

341名無しさん:2015/07/05(日) 22:13:53 ID:hACVzg.U0
おつです。
なんだかハンバーグが食べたくなりましたww

342 ◆aKPs1fzI9A:2015/07/07(火) 01:25:50 ID:jvBgi.Gg0
美食家アーゴイルが思った以上にかわいすぎて驚愕してる…
やはりこのロワの男キャラは萌えキャラなのか…!

私もかなり短いですが投下します。

343もんだいとこたえ ◆aKPs1fzI9A:2015/07/07(火) 01:30:24 ID:jvBgi.Gg0
夜が開けかかっていた。海沿いの向こうには少し陽が見える。陽の光を、一人の男と女を照らしていた。片方はSWAT、と胸に書かれた、少しところどころがほつれているような隊員服を着ている男、レイジョーンズ。片方は小柄なその辺にいそうなただの平凡な女子大生、平沢茜。茜が先行しながら、それにジョーンズがついていくかのように歩みを進めていた。向かう先は、港。理由はない。ただ、ずっと外だと雨が降ったときなどに支障が出てしまう。たったそれだけの理由だった。「…ジョーンズさーん!この辺で休もーよ疲れちゃった」茜は突然振り返ると、ジョーンズに向かって口を開いた。振り返った時にウェーブのかかった茶髪が、ふわり、と揺れた。こう見れば単なる典型的な日本の女子大生。だが、彼女は今の主催を倒すために動くジョーンズにとって、必要不可欠な存在なのだ。ジョーンズは、歩みを止めると、肩にからっていたディパックを持ち直すと、ファスナーをゆっくりと開けていく。
「…歩き始めて…大体30分くらいか」「え?分かるの?」「ま、体内時計みたいなものさ。俺が居た状況が状況だしな」ジョーンズはそう言うとその場に座り込み、ディパックの中から水を取り出すとごくり、と喉音を立てながら一口つけ、元に戻す。あの世界よりかは状況がマシだ。探さなくても最初から水と食料がある。だが油断をしてはいけない。この物資が尽きることはありうる…。そう肝に命じながら、地べたではなく、ジョーンズの近くにあったやや大きな石に茜はそっ、と座った。すると髪の毛をくるくるといじりながら、そこから朝日の見える、海の方角をぼんやりと眺めていた。「…茜。君は一体、どうしてこの殺し合いのシステムを知っているんだ」突然、数分の沈黙のあと、ジョーンズが言った。茜は振り向くこともなく、ただ眺めながら、ぼんやりと、友だちに話すように、呟く。

344もんだいとこたえ ◆aKPs1fzI9A:2015/07/07(火) 01:32:17 ID:jvBgi.Gg0
あり?すみません間違い
夜が開けかかっていた。
海沿いの向こうには少し陽が見える。
薄い陽の光が、一人の男と女を照らしていた。
片方はSWAT、と胸に書かれた、少しところどころがほつれているような隊員服を着ている男、レイジョーンズ。
片方は小柄なその辺にいそうなただの平凡な女子大生、平沢茜。茜が先行しながら、それにジョーンズがついていくかのように歩みを進めていた。
向かう先は、港。理由はない。ただ、ずっと外だと雨が降ったときなどに支障が出てしまう。たったそれだけの理由だった。

「…ジョーンズさーん!この辺で休もーよ疲れちゃった」

茜は突然振り返ると、ジョーンズに向かって口を開いた。振り返った時にウェーブのかかった茶髪が、ふわり、と揺れた。こう見れば単なる典型的な日本の女子大生。
だが、彼女は今の主催を倒すために動くジョーンズにとって、必要不可欠な存在なのだ。

ジョーンズは、歩みを止めると、肩にからっていたディパックを持ち直し、ファスナーをゆっくりと開けていく。

「…歩き始めて…大体30分くらいか」
「え?分かるの?」
「ま、体内時計みたいなものさ。俺が居た状況が状況だしな」

ジョーンズはそう言うとその場に座り込み、ディパックの中から水を取り出すとごくり、と喉音を立てながら一口つけ、元に戻す。
あの世界よりかは状況がマシだ。探さなくても最初から水と食料がある。
だが油断をしてはいけない。この物資が尽きることはありうる…。

そう肝に命じながら、地べたではなく、ジョーンズの近くにあったやや大きな石に茜はそっ、と座った。
すると髪の毛をくるくるといじりながら、そこから朝日の見える、海の方角をぼんやりと眺めていた。

「…茜。君は一体、どうしてこの殺し合いのシステムを知っているんだ」

突然、数分の沈黙のあと、ジョーンズが言った。茜は振り向くこともなく、ただ眺めながら、ぼんやりと、友だちに話すように、呟く。

345もんだいとこたえ ◆aKPs1fzI9A:2015/07/07(火) 01:33:47 ID:jvBgi.Gg0
「…ま、色々あったんだよね。といっても黙ってても無駄か。叫君や駆君がいたらいずれバレるし」

茜がそう言ったあとも、その見る方向を変えないままで。
茜は、自分の事を語る前に、一言付け足す事にした。
相変わらず、友達に話すような、軽い調子で。


「ドン引きしないでね?」

少し、茜の頬がつり上がったような気がした。
彼女は、ゆっくりと口を開く。

作り上げてきた「灰色の世界」のことを、終焉の世界の住人に。

────────────────────

この世界は平凡すぎる。
少なくとも、私にとってはね。

人の臓器を取り出す殺人鬼も頻繁にはいない。
そんな殺人鬼を見事に捕まえる探偵もいない。
または倒してくれるヒーローも、魔法少女も、軍隊も武士もいない。
ぜーんぶ、誰かの作った絵空事。
気づくのがちょっと遅かったなあー。

毎日平和に生きて平和に死んでいってさ。
事故とかで死ぬことはあるだろうけど少なくとも今の私のいる世の中は自分の命を危機を常に抱いている訳じゃない。
それがなーんか腹立ってきて。

私は人間が嫌い。そういう風に自分の命を軽く見ているから。
だからちょっと分からせてあげようって、中学の頃に考えた。



ある日、お父さんに頼んでそこらへんに歩いていた男女のカップルを連れてこさせた。
狭い部屋に二人を閉じ込めて、それぞれにのこぎり一本ずつ渡して、こう命令したの。

『今からこれで殺し合って、生き残った方はここから出してあげる。ただし、3時間以内に二人とも死ななかった場合には二人の首についている首輪が爆発して死ぬ。頑張ってね』

そしたら、二人は最初はお互いにくっさいセリフを吐いて、命よりも君を愛する気持ちはだのなんだの色々言ってた。
でも、これじゃ埒があかないなって思って私は色々デマカセを言ってみることにした。お父さんの情報力に感謝だね。
女の方が友達に彼氏の愚痴を言っていたこと。彼氏が彼女の事を尻軽だと考えていたこと。嘘七割真実三割でお話してあげた。

そしたら二人口喧嘩始めちゃった。馬鹿だよね。さっきまで愛を囁きあってた奴らがさ。ほんとに馬鹿げてる。

で、あとはもう分かるでしょ?先に手を出したのは女の方だった。意外にもね。
持っていたノコギリ男の首に振りかぶるとそこから上下させて男の首を切り落としちゃったの。
私そーゆーの初めて見たけど、びっくりした。女の人でもやれば人間一人切り落とせるんだーって。
そして、やっぱり最終的には愛よりも命が大切なんだなーって思いました。以上!

…え?その女の人?
出してあげたよ!約束だったからね。でもそうとう精神参っちゃったみたいだったから私の知り合いのお医者さんとこに送還してあとは知らない。
命の重さを分かった上で元気にしてるんじゃないかなーっては思うよー!

それから先はまぁー好き放題やったね。
次は倒産寸前の会社の人たちを集めて今回のチーム戦みたいに社員を部署ごとに分けて殺し合い、させたりしてみた。
生き残った部署を雇ってあげるっていう名目で。見せしめ誰だったっけ、社長だったわそういや。
もちろん、徒党を組んで挑む人だっていたよ?ジョーンズさんと私みたいにね。
だけど無駄だった。どうせそれも上手くいかない。糸が僅かなほつれから解けていくように───それは崩壊していって。
結局残ったのは営業部の二人。そのうちの一人は、まーだ私の定期的に開いてる地下闘技場に参加してるけど。剣崎っていう地味な人だったんだけどあれ以来人殺しにはまっちゃったとかなんとか。

その次は一つの小学校のクラスを誘拐して殺し合わせた。小学生は理解が早かったから案外会社員たちよりも早く終わったね。だけど、それは私のロリコン兄貴が開こうって言い出したヤツで、私はあんまり関わってないんだよね実は。まあいいけどさっ。
で、最近やったのがこの無差別に集めて殺し合いさせるやつ。今回の殺し合いみたいなね。
メンツは色々テキトーに選んだんだ。これも面白かったなぁー。またやりたいとも思ってるんだ実は。
っていうこと考えてたら私が巻き込まれちゃったのは、笑い話だけど───


…うん。まあ、そうだよね。そういう反応が普通だよジョーンズさん。
喉元にナイフ突きつけられるだなんて、まさか一日で2回経験するなんて私くらいじゃないのかな?ふふふ。
─────────────

346もんだいとこたえ ◆aKPs1fzI9A:2015/07/07(火) 01:35:41 ID:jvBgi.Gg0

「君がもし妄言を言っているサイコパス野郎だとしても、実際にそうであっても───君をここで生かしておくことは出来ない」

ジョーンズは、石に座っていた茜の元へ急な速度で、大きな歩幅で近づくと、今度は脅しではなくしっかりと茜の喉元スレスレのところに刃を向けた。
茜は何か悟ったような顔をして、ジョーンズの方を相変わらず見ていない。

「…そ。じゃあ何?私を殺すの?」

ジョーンズの返答はない。

「ふーん。そっか」

茜はそんなジョーンズのことを見向きもせず、興味も示さず、ただ少しばかり哀れみの表情すら浮かべているように、まるで独り言のように口を開いた。

「平行世界、って信じる?」
「…何だいきなり」

相変わらず声は警戒しているままだ。

茜はそんなジョーンズをあざ笑うかのように、かつどこか諭すように、けらけらと笑いを挟んだあと、言った。


「いいじゃーん。遺言だと思って聞いてよ。
ジョーンズさん。あなたのこと、私知ってたんだ。実は。マグワイヤー巡査だっけ。仲間の人。小太りでヒゲはやした」

強ばっていたジョーンズの顔に、やや動揺が伺えた。
この茜とは初対面のはず。ましてやなぜマグワイヤー巡査のことまで知っているのか。
つくづく不思議な少女だとも思いながらも、そのナイフは喉元に向けられている。

「なんでそれを知っている…君と俺は初対面だぞ」
「…私のいる世界では、あなたはメディアミックスの代表格ってことでいろんな媒体に出演してる人なんだ。私の世界のテレビに出てきたゾンビに備えるびっくり人間レイ・ジョーンズ。彼の特異性をモデルにしてアニメだの特撮だの漫画だの小説だの───いろんな作品にあなたは登場するようになった」

ジョーンズには、完全に茜が何を言っているのか分からなかった。
自分は自分である。世界?茜と自分がいる世界が違う?ましてや自分という存在が自分以外に存在する?それも、多く?
茜はそんな疑問に感じていたジョーンズをほっておくような姿勢を見せ、相変わらずジョーンズの方には見向きもしない。

「あなたは、終焉の世界のレイ・ジョーンズ…ってとこかな?かっこつけて言うと。『SWAT!!』ってアメリカのドラマ。私も数回しか見たことないけど…ストーリー言えるよ?」
「…じゃあ。質問だ。俺がアンデット化したマグワイヤーさんを殺した武器は」
「RPG-7?だっけ」
「俺がこのSWATの下に着ているアンダーウェアのブランドは」
「ユニクロ。その黒と赤のモデルの服、実際に売られてたよ。ダサくて買わなかったけど」
「…Jesus、その通りだよ。知る限り誰にも言ったことはないのに」

SWATの厚い防護服のわずかな隙間から、シャツの黒色の部分をジョーンズは見せる。

このブランドがユニクロ?なのかは知らないが同行していた日本人の持っていた服を拝借しているので、おそらく日本のブランドなのだろう。

「私は平行世界を知ってる。ほんの少し。あなたが作られた存在だってことも」

彼女の話が本当かどうかは、にわかには信じがたい。

ただ単に、自分のことをあらかじめ知っていただけかもしれない。

だが、やはり彼女をここで殺してしまうと、いかんせん目的が雲隠れしてしまうかもしれない。
彼女の言った話も妄想なのかもしれない。もし事実ならば、彼女は大悪人だ。サイコパスと化した暴徒ととも戦い、「人」を殺したこともあるジョーンズには、殺すことは大差ない。だが―――


「君を殺すのは…やはりよしておくとするよ。信じられない事ばかりで、疑ってはいるが否定することもできないからね」

ゆっくりと、ナイフを降ろした。
話の内容も、彼女自身も信用はしていないが、おそらく彼女はすべて話したわけではない。
もっと本質の目的を知っているはず。ここで殺してしまうとそれが聞けないのではないか。

347もんだいとこたえ ◆aKPs1fzI9A:2015/07/07(火) 01:37:08 ID:jvBgi.Gg0
単なる娯楽目的ではない、何か大きな目的が。

「俺もその…平行世界?か何か知らないが。つまりのところ、それが実在していたのならば、俺のいた平行世界にも君は居たということか」
「さぁね。居たかもしれないね。ジョーンズさんとは会ってないだけで」
「と、なるとだ。あのAKANEと名乗ったプログラムも平行世界の君であるかもしれないのか」
「…それも、肯定はできないかなぁー。ただ断言はできないけど、もしかしたらそうかもね」

突然話をうやむやにしだす茜。
彼女がそのことを話すのはまだ先だろう。
それまではゆっくりと見ていかなくてはならない。
ジョーンズは質問したい気持ちを抑え、「そうか」と返し、先ほどの荷物を置いた場所に戻り、座り込む。


「あー!話しすぎて疲れちゃった!あかねちゃんシリアスモードおしまいっ!次話すのは気が向いた時ね〜」

それを見た茜は、先ほどのような暗い、冷たい口調ではない、あざ笑うかのような声で、ジョーンズに聞こえるような声の大きさで言い放つ。
返事がないのを察すると、茜はまた登り行く太陽へと、目を向けた。


「…君は、殺させないよ茜」

ジョーンズが呟くように、かつ、しっかりとした口調で、茜の方は向かず、ディパックの中にあった地図を広げながら口を開いた。

「君が何者か、何故そういったことを言うのか、それが憶測ではなく事実かどうか分かるまでは、死んでもらうわけにはいかないね」
「正義のヒーローみたいじゃん。ジョーンズさん。ファンになろっかな」
「そうかい。ファンクラブ会員第一号の座でも譲ろうか?」
「いらなーい」
「ま、そうだな…少し休んだらまた出発しよう」

かすかな陽が二人を照らしている。

行く先も知らない、不安定な二人を、包み込むかのように。

348もんだいとこたえ ◆aKPs1fzI9A:2015/07/07(火) 01:39:22 ID:jvBgi.Gg0

【H-6/坂/一日目/黎明】

【平沢茜@アースR】
[状態]:強気
[服装]:普通の服
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品1〜3
[思考]
基本:主催を倒し、自らがこの殺し合いの主催になる
1:AKANEの元へ行く
2:ジョーンズには守ってもらいたい
3:叫、駆、嘘子の動向が気になる
[備考]※名簿は見てます

【レイ・ジョーンズ@アースEZ】
[状態]:困惑
[服装]:ボロボロのスワット隊員服
[装備]:スペツナズナイフ×4@アースEZ、小説『黒田翔流は動かない』@アースR、仮死薬@アースR
[道具]:基本支給品
[思考]
基本:主催を倒す
1:一般人は保護
2:茜の話をもっと聞く。そのために今は茜を保護するのが先決か
3:マシロ、マグワイヤーが気になる
4:俺が作られた存在?
[備考]

349もんだいとこたえ ◆aKPs1fzI9A:2015/07/07(火) 01:42:06 ID:jvBgi.Gg0
以上でございます。
元ネタは南波志帆の楽曲、「もんだいとこたえ」です。すごいポップな曲です。少なくとも今回の話にはびた一文合っていません。

茜ちゃんがこれ他世界の存在知りすぎじゃね?とか思われた方などご指摘あれば嬉しいです。
早朝へと向かいますかねえw

350名無しさん:2015/07/07(火) 22:41:12 ID:8mhwy8mU0
投下乙おつです
ロワ成分のキーパーソン茜ちゃんと、平行世界成分のキーパーソンレイ・ジョーンズ…
思えばこの組はかなり重要な設定持ちだなあ、それでいて駆け引きできる地の頭もあるからな
茜ちゃんのイレギュラーの断片も語られてどきどきしたし、一気に毒が抜けたみたいにシリアスモードから抜けてしまえる茜ちゃんが可愛い恐ろしいぜ
ジョーンズさんもやはりここで殺しておくべきだった…にならないように頑張ってほしいところだw

351 ◆5Nom8feq1g:2015/07/14(火) 22:33:57 ID:.9B/MZ/g0
投下します

352憎しみと共起 ◆5Nom8feq1g:2015/07/14(火) 22:37:57 ID:.9B/MZ/g0
 

 歩く、歩く、歩く。けれど歩けど歩けど先は闇だった。
 軋む体を動かしても廃工場というものはどこまでも同じ風景で、進んでいるという実感がない。
 “黒腕の魔法少女”との交戦後、足を引きずり廃工場を進む雨谷いのりだったが、
 想像以上に広い施設の出口は、負傷体では辿り着くのも一苦労。意識も徐々に薄らいできた。

(思ったより、広い……? 北の方に行けば、よかったのかも……)

 屋根のある施設で休もう、と漠然と考えたいのりは、廃工場を出て東の「学校」へ向かうルートを選択した。
 地図としては北の「タワー」のほうが近くはあったが、学校ならば保健室がある。
 保健室であれば治療道具もしくは、痛み止めの入手ができるかもしれない。賭けだった。
 着くまでに意識が消えなければ、いのりはこの賭けに勝てるのだが。

(勝てる……かな……ううん、いけない。勝つんだ。ワタシはいつだって、勝ち続けなきゃいけない)

 弱くなりかけた意思を心中で叱咤し、足に力を込めた。
 弱さは敵だ。
 弱くては何も守れない。 
 弱くては何も殺せない。自分も、他人も、たいせつなものも、全部。

 ――昔は出来ると思っていた。
 “誰かを守ると言う意思”に気持ちのリソースを割いたままでも強くなれると思っていた。
 いや、じっくりと修行すればもしかしたらなれたのかもしれない。そういうヒーローに。
 師匠のようなヒーローに。

 でもいのりはその境地に達することはなかった。
 今でも弱いままだ。他事に割いていた意思を一つに固めたから、多少強くなったふりが出来ているだけだ。
 師匠が殺されたあと、師匠を殺した奴を殺すために、
 そうするしかてっとり早く強くなる方法がなかったから、そうすることを雨谷いのりは選んだというだけ。
 それだけだし、きっとそこまでだ。この道を、この『正義』を選んだ以上、雨谷いのりはもう“本物”にはなれない。
 “本物よりは強くなれない”。
 それでもいい。許せない悪を殺せれば。そうしなければ前を向けないのだから。それでいい――。


 ふと、遠い背後でガラス瓶が割れる音がした。


(……新、手?)

 ここに来るまでに、人の気配はなかったが。
 そういえば廃工場には高い煙突があった。まさか、いたのだろうか。煙突の上に、人が。
 真偽を確かめる――の前にいのりの思考には「逃げる」の三文字が踊る。
 このコンディションでの偵察行動(パトロール)にはリスクしかない。一般人なら逃げるべきだ。
 だがもし、もし仮に、音の先に『悪』が居て、誰かが『悪』に襲われているとすれば?

 ヒーローならば確かめにいくだろうし、救いに行くだろう。
 
(……ごめん、なさい)

 そして雨谷いのりは走った。
 音とは逆方向に。

(いまは、……いまのワタシじゃ誰も助けられないから。だから、ごめんなさい……!)

 心中で泣きながら、体を傷つけない限界速で、いのりは工場を駆けて逃げた。
 誰かが襲われている可能性よりも自分の身をかばう。
 それは雨谷いのりが『市民の味方であるヒーロー』ではなく、『ヴィランの敵であるヒーロー』として正義を振るうがゆえの行動だった。

353憎しみと共起 ◆5Nom8feq1g:2015/07/14(火) 22:38:54 ID:.9B/MZ/g0
 
 彼女は彼女の正義(目的)のためには、時に憎むべき悪事からも、自分の良心からも、目を背けなければならない。
 切り捨てなければならない。
 その苦しすぎる生き方は、いつか少女が夢見ていただろうヒーローよりも、
 たった今彼女を追うように煙突から降りてくる、『悪を裁く装置のヒーロー』のほうに――むしろ似てしまっている。

 より多くを助けるため、より多くの悪を倒すため。
 少女はヒーローとして無様に生き延びる。

 かくして雨谷いのりは廃工場を出て学校へと向かう。


【C-7/平原/1日目/黎明】

【雨谷いのり@アースH】
[状態]あばら骨骨折
[装備]:ナイフ×2@アース??
[道具]:基本支給品、不明支給品1〜2
[思考]
基本:『悪』を倒す。特にクレア
1:学校で保健室を探し、休む
2:ガラス瓶を落とした「誰か」が近くにいるかも?
※「彼らは〜灰色世界に抗えない」で早乙女灰色が捨てたワイン瓶が床で割れる音を聞きました。



+*+*+*+*+*+*+*+



 そう、世界は思い通りに動くとは限らない。むしろ思い通りになんて行かないことのほうが多い。
 理想を追い求めるには必ず何かしらの対価が必要になるし、
 その対価というのはほとんどが、捨てられないほど大切なものだ。
 では人生で最も大切であるはずの自分の命をあっさりと対価に捧げたかの魔法少女は世界を思い通りに動かせるのか?

「な、なあ、アスタ……」
『……ああ』
「こい、こいつ……」


「ギイイイイイイイイアアアアアアアアアアアウル!!!」


「こいつ……僕たちと……同じだ……」

 学士たる鬼小路君彦は狂喜した。
 邪悪なる卑弥呼は興味した。
 純真たるナイトオウルは恐怖した。

 魔法少女の平沢悠は、目の前の存在に共感した。

 がん、がん、がん、がん、がん、がん、がん、がん、がん、がん、がん、がん、
 がん、がん、がん、がん、がん、がん、がん、がん、がん、がん、がん、がん、
 がん、がん、がん、がん、がん、がん、がん、がん、がん、がん、がん、がん、
 がん、がん、がん、がん、がん、がん、がん、がん、がん、がん、がん、がん、
 がん、がん、がん、がん、がん、がん、がん、がん、がん、がん、がん、がん、

 廃工場入口の守衛室の窓に拳を叩き付け続けている、赤黒の悪魔のような人型存在に、平沢悠は出会った。
 よく見ずとも大柄、頭部から突き出た角に臀部から伸び往くたくましい尻尾、
 野獣じみた牙そして黒い肌と、どこから見ても人間離れしている。
 なのになぜか平沢悠は、そのバケモノの姿が、自分と非常によく似ている気がした。
 肩に乗っていた彼女のマスコットが静かに口を開く。

354憎しみと共起 ◆5Nom8feq1g:2015/07/14(火) 22:39:47 ID:.9B/MZ/g0
 
『“人化の魔法”が掛けられているが、アレはもともとは獣……だな。
 そして平沢、どうやらあの獣、ガラスに映る自分の姿を殴り続けているようだ。
 あのパワーからして初撃で粉々に砕けたろうに。砕けた破片に移る小さな自らの姿すら、殺意を持って殴っている』
「つ、つまり……」
『自分の姿に憎悪している』
「……じゃあ」
『ああ。お前と同じ“人間嫌い”だ。呪いか何かで、人間にされていると見ていい』

 そのワードに、

「だよ、なぁ……ふ、あはっ、あははは」

 平沢悠が笑いだす。アスタはあくまでじっと見据える。
 道理であれば。目の前の存在は平沢悠がのん気に見つめていられるような存在ではない。
 どういう魔法力、強制力があればああ出来るかは分からないが、アスタの感知では目の前の5mは本来は50mだ。
 それを濃縮しただけのパワーとエネルギー、そして深海の底から湧き出るような底知れぬ“憎悪”、
 憎悪を食べて生きる悪のマスコットであるはずのアスタが、毛並みを逆立てて最大警戒するほどのイレギュラー存在である。

 今すぐここから逃げるべきだと、アスタは進言したくなる。
 だが。

「じゃあさ、あ、アスタ」

 珍しく平沢悠が希望を持った顔をしていたので、アスタは進言するのを留まらざるを得なかった。

「ぼ、僕と“あいつ”も……アスタと、僕みたいに。
 ――と、“友達”に、な、なれるんじゃないのかな?」 
『……』

 友達。
 恐らくは平沢悠が、生涯で最も、欲しかったもの。

『試してみよう。お前がそう言うなら』

 アスタの身体から黒い澱が噴き出て、平沢悠を包む。
 アスタは思う。
 思っている。
 もっと救われるべきだと。
 憎悪でしか生きられないものたちだって、もっと救われるべきなのだと。
 

+*+*+*+*+*+*+*+
 
 
 ティアマトは見た。
 黒翼を背中から、黒い牙を口から生やした少女が、空からティアマトの方へと降りてくるのを。

 ――ニンゲンか。そう思うも、判断がつかなかった。
 形はニンゲンだがニンゲンの匂いはしなかったし、なにより目がニンゲンとは違ったからだ。

 ニンゲンを、世界を憎んでいる目だ。
 ティアマトが知る限り。ニンゲンであるならばあんな目はしない。
 守衛室の窓に映る自分の姿を見て、
 小さくされ、人に近い姿にさせられていると気付いてからずっと憎しみに染まっていたティアマトの意識が、クリアになる。
 
「……ダレ、ダ」
「僕は、魔法少女だ」

 少女は綺麗な声で言う。

「……」
「魔法少女は、人間じゃないんだ」 
「……グルゥ?」
「だから、僕と君は。友達になれると、思う。な、名前を、教えてくれないかな?」
 
 魔法少女という言葉の意味が理解できず立ち尽くすティアマトに、少女は手を差し伸べてくる。
 その声は、その手は。ティアマトが今まで聞いた中で初めて――ティアマト個人をいたわる様な声だった。
 悪意に晒され続けるうちに悪意に敏感になったティアマトが、初めて悪意を感じ取れない声だった。

 獣は直感する。
 敵しかいなかった彼女の世界に、
 憎悪と怒りを叫び続けるしかなかった『彼女の世界』に。
 獣の姿を奪われた代わりに、何かが舞い降りたのかもしれないと。

 名前くらいは教えてやってもいいと、芽生え始めの知性は思うが、
 なにぶん“ティアマト”は通称であるため、彼女には自分で名乗る名前が無かった。

355憎しみと共起 ◆5Nom8feq1g:2015/07/14(火) 22:40:52 ID:.9B/MZ/g0
 
「……ナイ」
「な、名前、ないの? な、なら、××××ってのは、どう?」
『おい平沢、それはお前の初恋の人の名前ではなかったか』
「いいだろ気にするなよアスタ!」
「……オイ」

 名前はまあどうでもいいが、漫才を始めかけた少女とその従者らしき小動物にティアマトは問いかける。
 シンプルな問い。

「ナニヲスル?」
「そりゃあ――世界を壊す、さ」


 返答もまた、シンプルだった。


「僕と君で、このクソみたいな世界、クソみたいなニンゲン全員、ぶっころして――僕は僕の世界に、還るんだ」

 君はチームは違うようだけど、やりたいことは同じだろ? だから一緒にやろう。
 そう言って笑いかけてくる少女の声からは、またも悪意が感じられなかった。
 嘘は言っていない。自分を陥れようともしていない。純粋に人間を憎み、故に手を組もうと。
 ――面白い。


 ティアマトは、笑った。面白くて笑うのは、地上に出てきてから、初めてだった。


 片方は背中から生やした大きな黒腕で。
 もう片方は小さくされてしまっても今だ大きな黒腕で。

 かつて人間扱いされなかった魔法少女。
 かつて人間から化け物扱いされた怪獣。

 人間嫌いの化け物二つはもう友達。獣じみた哄笑をしながら握手を交わす。
 
 

【B-7/廃工場/1日目/深夜】


【平沢悠@アースMG】
[状態]:高揚
[服装]:スウェット
[装備]:
[道具]:基本支給品、不明支給品1〜3
[思考]
基本:元の世界に帰る
1:友達以外は皆殺し。歯向かう奴らは全殺しだ!


【ティアマト@アースM】
[状態]:手に軽傷、哄笑
[服装]:裸
[装備]:無
[道具]:無
[思考]
基本:人間が憎い
1:邪魔な物は壊す
2:攻撃する奴は潰す
3:魔法少女(平沢)は面白い奴
[備考]
※メスでした。
※首輪の制限によってヒトに近い姿になりました。
 身長およそ5m、ただしパワーと防御力は本来のものが凝縮された可能性があります。
※どうやら知性が生まれ始めました。だんだん言葉も喋れてくる?

356 ◆5Nom8feq1g:2015/07/14(火) 22:43:47 ID:.9B/MZ/g0
アスタ的には心中複雑かもしれない展開ですが投下終了です。
っと、修正。悠とティアマトは深夜ではなく黎明で。

357名無しさん:2015/07/14(火) 23:50:09 ID:X6/2MIYs0
投下乙です。
ティアマトと悠が組んじゃっていいよ南西部が危険地帯になりつつありますね。
いのりはこのまま学校行ければ陽太にも会えそうだが果たして

358 ◆aKPs1fzI9A:2015/07/15(水) 22:30:57 ID:0GWUC8sk0
投下します。

359 ◆aKPs1fzI9A:2015/07/15(水) 22:32:16 ID:0GWUC8sk0
夜。
少女が目を覚ましたのは薄暗い森の中であった。
ゆっくりと立ち上がると、妙に風が心地よかった。

足がおぼつかない。自分の体にしては、やけに重い。頭も痛い。
ぐらぐらと頭の中が揺さぶられているようだった。視界もどこかぼんやりとしている。

辺りを見回す。彼女の仲間たちが見当たらない。
心優しい賢者も。
勝気な剣士も。
知的な魔法使いも。
どこに行ってしまったのだろうか。はっきりとしない脳内の中で、思い出そうとする。

(…そうだ、確か、ライリーを、あの化物を討伐しようとしたら、突然光に包まれて…)

辺境の村からの依頼で、ライリーと名乗るオークを討伐に行った。
そこまでは覚えているのだが、それ以降がはっきりしない。

心配だ。だがまだ意識も、視界もぼんやりとしている。

南の方角を見ると、光が見えた。
町だ。
真っ赤なレンガでできた大きな時計台が、光に照らされていた。

(これは僥倖…!あの依頼してきた村だ。一度あそこでお世話になるとしよう…)

仲間たちが不安だが、まずは体勢を立て直し、そこから行動を始めなくてはならない。
それに仲間たちもあの村に戻っているかもしれないし、何があったか知っている住民もいるかもしれない。
一抹の希望を胸に、ゆっくりと歩き出す。

体が重い。やけに遠くの景色まで見えるが、なぜだろう。
だが、そういった疑問は後回しだ。ますは進むことが最優先だった。

一刻後。
彼女は村の入り口である大きな門の前に立っていた。
度々侵略されていたこの村を心配した賢者が作らせた門。建設の最中で村人たちとも交流を深め、とてもお世話になった。
補給線において問題が起きたり、この建設のためだったりと、長期で滞在することになったために、その交流は深く。
剣士は村人たちに自衛のためと剣術を教え、魔法使いはこの地の武器職人と結婚をすることになっていた。

村人たちは暖かく迎え入れ、送り出してくれたために、こんな無様な状態で帰ってくるのは申し訳なかったが、今はその恥を受け入れよう。

ぼんやりとした意識で、周囲を囲んだ城壁の中において唯一の門に取付けた「呼び出し鈴」を引いた。
魔法技術で、誰が来たかを映像として夜営をする者に伝えられるようになっている仕組みだ。これならば敵か味方かを、姿を見て確認できる。
魔法使いと共同して作り上げたものであった。

360 ◆aKPs1fzI9A:2015/07/15(水) 22:34:27 ID:0GWUC8sk0


やがて、数分後、扉が開き始めた。
その目の前には、見慣れた村と、時計台、そして、見慣れた村人たちがいるはずだった。

「…自分から死にに来たか、化物が」

自分たちを息子、娘のように可愛がってくれた村長が、憎悪の目をこちらに向けて。
住民たちが賢者が作り上げた武器を持って。
魔法使いの恋人であった職人は、その魔法使いと共同で作り上げた魔術砲を向けて。
剣士の一番弟子であった若い少年は、剣をこちらに向けて。
そして、それ以外の住民たちも、各々なにか武器を持って。
こちらを向いていた。

やがて、門が完全に開くと、彼らは一斉に、勇者に罵詈雑言を飛ばした。

「どの面下げてここまで来たんだ!」
「死ね!貴様の顔など見たくない!」
「お前には血も涙もねーのか!!」

突然のその言葉に、村人たちの行動に、後ずさりをしてしまった。
自分が気絶していた時に何かあったのだろうか。自分が原因のきっかけになってしまったのだろうか。
それは違う、と少女は叫ぶことにした。彼女を英雄として送り出した村人たちに対して。
なぜ、矢を向けるのか。
なぜ、剣を、槍を向けるのか。
なぜ、殺意を向けるのか。
その意義を問うために。

「すまないみんな!私が気絶している間になに…が…」

その時発せられた声に、違和感を覚えた。
自分は、こんなしゃがれた、低い声だったか?
この声に、どこか聞き覚えがある。この薄汚いような、汚らわしい声。

いや、まさか。
まさか、そんなはずはない。ありえない。ありえるはずがない。
ゆっくりと、手を見る。緑色の大きな手。大きな爪。
人間ではなく、モンスターの手。

「…私は…勇者、勇者では…」
「何を言うか化物!貴様は勇者様御一行を残虐に殺したあの憎きオーク、ライリーだろう!」
「……え?」

頭を触る。母にも褒められた長い金髪はそこには無く、坊主頭の、いぼがある地肌。
顔を触る。ぎょろぎょろとした目。牙。
腕を触る。丸太のように太い腕。
まさか───入れ替わってしまった?あのライリーの杖から発した光の影響か。

いや、それはいい。入れ替わってしまっても、仲間たちに聞けば、きっと大丈夫なはずだ。

361欝くしき人々のうた ◆aKPs1fzI9A:2015/07/15(水) 22:35:43 ID:0GWUC8sk0

「賢者は!魔法使いは!剣士たちはどこだ!!」
「貴様の悪趣味さには反吐が出る!結婚を控えていた魔法使い様も、この村を改築してくれた賢者様も!子供たちに剣術を教えていた剣士様も!そして、我々のような卑しい身分の者でも優しく受け入れた勇者様も、皆、皆貴様が殺したのだろうが!!」
「………嘘だ…」
「嘘ではない!!貴様が殺したのだ!!この化物!!!」

膝から崩れ落ちるオーク姿の勇者。
それを見た村長はゆっくりと手を挙げ、やがてそれを振りおろした。
村長の合図とともに、人々が武器を構える。すべて、自分たちが教えたものだ。

あの鍬は、効率的になるように工夫がされたもの。
あの剣は、振り下ろすとともに爆発魔法によって相手を一撃で葬ることができるもの。
あの弓は、同時に三本発射できるもの。
すべて、自分たちが教えたもの。

「容赦はするな!四肢をバラバラにして、勇者様達の墓前に供えるのだ!!」
「よくも亡骸を俺の元に届けてきたな!貴様!俺の…魔法使いを返せっっっ!!」
「勇者様をどこにやった!!美しく優しい、勇者様を!」
「剣士のお兄ちゃんの仇だ!化物!くたばれ!」
「村を守ってくれた賢者様への弔いとなればいいんだがなっ!!」

(あ、ああ…、みんな、みんなしんだのか…みんな…)

迫りながら、恨み節を聞きながら。
勇者は思う。仲間たちを殺され、自分たちがもっともお世話になったこの村の人々に殺される。
夢半ばで、自分の職務を果たせない。それどころか、自分は結局誰一人とも救えていないではないか。
何が勇者だ。何が勇者だ。何が勇者だ。
何が勇者だ何が勇者だ何が勇者だ何が勇者だ何が勇者だ何が勇者だ何が勇者だ何が勇者だ何が勇者だ何が勇者だ何が勇者だ何が勇者だ何が勇者だ何が勇者だ何が勇者だ何が勇者だ何が勇者だ何が勇者だ。



じぶんは、なんのためにうまれてきたのだろう。
ぱん、となにかがあたまのなかではじけた。



「あはは、あははははははははははははははははははははははははは、あはははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!」
「ついに狂ったか!関係ない、やれーっ!」

村民たちは、その手中の中の武器で、勇者たちがさずけた知識によって作られた武器を真っ赤に染めていく。
かれらが考えられる残忍な方法で、これまでの恨みを晴らすかのように。
夜は更けていく。絶望の淵に、意識を放り投げていく勇者の気持ちを置いていくように。

夜は更けていく。
-FIN-

──────────────

362欝くしき人々のうた ◆aKPs1fzI9A:2015/07/15(水) 22:36:05 ID:0GWUC8sk0
「ざまぁみろ勇者っ!お前は俺様の仲間を殺した!たくさん、たくさんだ!俺様の体が殺される姿を見るのは気持ちいいもんじゃねえが───しょーじきせいぜいしたぜ」

映画館の『上映室』と書かれた部屋でライリーは先ほどの『映画』を見終わって椅子にもたれかかりながら言葉を吐き捨てた。
まさかここであの女勇者のあの後の様子を見ることになるとは、とも考えていたが。やはり人間たちは残虐な生き物だ。
普通はまず相手の話を聞くというのに、すぐに殺害をしようとする。

実際、女勇者だけ魔法使いによってワープさせられた為に、疑問に感じてはいたが。よもやここまで惨殺されていたとは。しかし、ライリー一族一番の知恵者に遺体の処理を任せたが、送り届けるとはまさか誰も思いつかない。相変わらず自分は仲間に恵まれている。 ライリーは再確認した。

しかしよもや自分が殺される映像をこんな大画面で見るとは、どういった魔法を使っているのだろうか。記憶投射かと思ったが、周囲から魔力を感じることはない。
なんにせよ不思議に思うが、今は置いておくとして。

「…うん。やっぱり俺様の味方は『人間以外』だ。人間は信用できない。まあ俺様も優しいから雑魚は見逃してやるけどさ!」

人間というのは残忍な生き物だ。
相手話に耳を貸さず、ただ恨みだけで行動する。
行動方針を決めておらず、漠然と主催を殺そうとしたが、それだけではダメだ。

どうやら見る前に閲覧した候補者リストとやらにも、人間らしい名前の者がいた。
無駄な戦闘は避けたいが、基本的には人間と手を組むことはしないようにしたいものだ。

「よし。この『えいがかん』ってのももう用はねーな。さっさとアリシアやボーンマンと合流しねえと!」

ディパックを担いで、椅子から立ち上がり、出口へと歩みを進める。
映像には、異国の文字と思われる文字列がしたから上へ流れ始めている。
呪文か何かだろうか。となるとこの映像はやはり他国の技術か。

(…やっぱこういうことできるやつだからな。少なくとも俺様の知ってる国の人間じゃなさそーだな…待ってろよ!アリシア!ボーンマン!みんな!今俺様が助けてやる。)

ライリーは仲間思いだ。
それでこそ、味方には優しいが、敵には、人間たちには容赦はない。

だが、『恨み』で行動をするという点では、人間たちも彼も、同じなのかもしれないが。

363欝くしき人々のうた ◆aKPs1fzI9A:2015/07/15(水) 22:37:49 ID:0GWUC8sk0
【G-1/映画館/1日目/早朝】

【ライリー@アースF】
[状態]:健康
[服装]:勇者服
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜3
[思考]
基本:アリシアとボーンマンを探し、護る
1:AKANEと聖十字教会を殺す
2:上記以外であれば自分から襲うつもりはないが、襲ってくるなら容赦しない
3:人間は仲間にしない。信用ならない

364欝くしき人々のうた ◆aKPs1fzI9A:2015/07/15(水) 22:39:43 ID:0GWUC8sk0
以上です。
元ネタはマキシマムザホルモンの楽曲「欝くしき人々のうた」です。
ライリーってプロファイリング見たら勇者の仲間全員殺したらしいのでその点からこんな話になりました。
遅れて申し訳ありませんでした。なにかあれば。

365名無しさん:2015/07/16(木) 22:27:12 ID:0pm07VFg0
投下乙です
うわあ女勇者さん悲惨…これは人間と魔族和解するのは無理かも分からんね
ライリーからすれば人間は許せないけど、人間から見てもライリー許されない存在だよなあ

366 ◆/MTtOoYAfo:2015/07/17(金) 21:17:02 ID:Chz1T0yg0
投下します

367弱さ=強さ ◆/MTtOoYAfo:2015/07/17(金) 21:17:35 ID:Chz1T0yg0
「クソッ…!クソッ…!なんだよ、なんだよあれ!意味分かんねェ!くっそ、ふざけ…ふざけんじゃねェぞ…!」

夜の道を、一人、ふらふらと歩く姿があった。
細身の体に、赤縁のメガネ。金髪で眉毛は細い───いわば、「チンピラあがり」。
アースPにおけるガソリンスタンド店員、名前は谷口豪。
現在はバイト先を転々としながら、狭いアパートでタバコをふかしている日々を暮らしてきていた、ある意味最も狂った世界とも言われるアースPからは遠い存在の男だ。

「ンだよアレ…!炎出して!女が、ガキに、女が…焼かれて…首斬られてよォ…!三流の映画でもあんなん見たことねェよ…」

彼が目を覚ました場所は、森の茂みの中だった。
彼はレコーダーから流れてきた音声を聞き終わるとすぐに、支給されていたと思われるボウガンを手に持ち、震えながらも、生き残ろうと散策をしていた。
その時に、紫の着物を着た炎を扱う少女と、青色髪をした水を扱う女が闘っている場面に遭遇した。

一時期俳優を目指していたからそういったCGの映画の知識もあるが、どうもこれはにわかには信じ難いものだ。そもそも目の前でCGのような戦闘をされるとは思わなかった。
ボウガンをディパックにしまいこんでから、二人を見てみた。当初はなんらかの撮影かとも考えた。自分はエキストラで、彼女らは女優なのかと。だが、やがて紫の少女は青色の髪の女をどこからか出したかわからない糸で縛り上げると、彼女に火をつけた。

苦しみだす少女。
なるほど、あれも演技だと思うと中々のものだ。台詞回しも二人ともうまいし、女優とは流石なものだとも考えていた。

紫の着物の少女が、青色の髪の女の首を切り落とすまでは。


ころころころと擬音がつくようにサッカーボール大の大きさほどの女の頭が、豪の近くに転がってきた。
苦痛に歪んだ、しかし絶望すら、復讐心すらも感じられるような瞳と目が合った。

「─────っっ!!!」

口を両手で抑える。
あいにく、少女の方は全裸でなにか真っ赤な槍と闘っている。
逃げ出すなら、今しかない。

豪はその場から、口を抑えたまま逃げ出した。全力で。あの、フラウザリッパーから逃げた時と同じように、その異常さを受け入れないようにだ。


そして、今に至る。ふらふらと行くあてもなく歩くその姿は放浪しているかのようだった。
豪は大きくため息をつく。なぜ、なぜ自分がこんなところに連れてこられなくてはならないのか、そもそも最近運が悪すぎやしないか?とも考えていた。

変わらずにふらふらと森を行く豪。やがて、数十分後ほどだろうか。
目の前には、街が広がっていた。いや、集落と言う方がいいか。
まるで西洋の国を彷彿とさせるその集落はまるで映画のセットのようであり、ますますこの場が一体なんなのであるか疑問を持たずには居られなかった。

368弱さ=強さ ◆/MTtOoYAfo:2015/07/17(金) 21:18:27 ID:Chz1T0yg0

「クソ…頭いてェ…昨日ビール飲んだからか…」

一旦、頭を落ち着かせなくてはならない。
適当な民家で一休みしよう。そこで頭の整理をつけて、それからこの殺し合いを生き残る方法を考えよう。
ふらり、ふらりと、適当な、レンガでてきた簡素な家の前のドアを開けた。

だが、彼が一度見た非日常は終わりを告げなかったようで。

「…あらぁ?お兄様、だぁれ?」

目の前には、ピンクのワンピースに身を纏った茶髪の少女と、側には黄色の毒々しさを感じさせるような蛇が一匹。
机の上に紅茶を広げ、優雅に、きちんとした姿勢で座っていた。蛇も何故か向かい側の椅子の上にちょん、と乗っている。
つくづく、殺し合いとは無縁そうな存在。豪は一度困惑をしたが、目の前の少女に尋ねることにした。

「お、おい!餓鬼!ここは、ここはどこだァ!殺し合いって、なんだァ!」
『はぁ、やになるわぁマナーのない男は。ねっ、はららちゃん!』
「そうですわね。ゴルゴンゾーラ。私(わたくし)もそういったお兄様は嫌いですわぁ」
『もぉ!ちゃんとゾーラちゃんって呼んで!そんな強そうな名前ウチいやだぁ!』
「聞いてんのかァてめーらァ!」

豪は叫ぶ。
しかし、はららとゾーラはお構いなしに話をすすめる。

『にしても、さっきのミストちゃん?だったっけ!よかったわねぇ…すんごいよかった!ほんとに魔力マックス!って感じだった!』
「それはどうも、ですわぁ。お姉さまはまた次の機会が楽しみですわ…んふふ…」
『ね!ね!はららちゃん!次はどんな子を堕落させるの?』
「そうですわねぇ…もっと強い子がいいですわぁ…自分の強さを過信してるような、そんな子が…んふふ♪」
『…クソがッ!クソがッ!なんなんだよテメーらァ!言えって言ってんだよォ!』

豪の手に握られていたのは彼が支給された唯一の武器、ボウガン。
ボウガンの矢先は、はららへと向けられる。

はららに対しての殺意、というよりも、なぜこの少女はこんな異常事態に平然としているのか、そもそもなんで蛇が話しているのか。
という疑問と、威圧のためにボウガンを向けた。
それに気づいたはららは椅子に座ったまま、くすりと子供に向けるように笑うと、豪に口を開いた。

「…んふ、お兄様、人に殺意を向けたこと、ありますか?」
『どういう意味だァ!?』
「足、手、いや、全身が震えていますわ。かわいそうに…強がる必要はないですわぁ♪」
『!?』

豪はボウガンを持つ手に目を向けた。
小刻みに震えている。
足に目を向ける。
こちらも、震えている。

369弱さ=強さ ◆/MTtOoYAfo:2015/07/17(金) 21:19:07 ID:Chz1T0yg0

それに気がついた瞬間、息が荒くなり始める。
両手には汗が滲み、少女への焦点が合わなくなりはじめる。

『舐めんなよォ…!俺だって、俺だってやるんだ!やれるんだ…ッ!やれるんだぁァァァァッ!』

ボウガンを、少女へと向けた。
臆病な彼だが、向けざるを得なかった。
威嚇ではなく、完全に目の前の少女に豪は殺意を向けた。

すぐに引き金を引いた。
豪も思ったより以上に固かったその引き金に少し驚いていたが、いまさらそんなことはどうでもよかった。

『はららちゃん!』

だが、その弓は少女のそばに居た蛇が口から吐き出すようにして作り出した壁のような何かに阻まれ、弓は地面にぽとりと落ちた。
それを見た少女はゆっくりと立ち上がると───蛇ににこりと笑いかける。

「流石ですわゾーラ。防壁まで作り出すとは驚きですわぁ♪」
『はららちゃん!今ははららちゃんの【淫力】がMAXに近いから出来たんだからね!もうしないよ!』
「んふふ…♪お兄様、教えてあげますわ。私は強い方が大好きですわ。自分が強いと思っておられる方、自分が世界で頂点だと思っている方…私はそういった方々をたくさん見て、たくさん堕としてきましたの…ゾーラ、行きますわよ」
『モチ!』

やがて、紫色の煙が辺りから吹き始め───少女はその煙に包まれていった。

「クソッ!弓入らねェ!説明書、説明書は…ッ!」

豪は目の前で起きた、非日常的なことについていけず、弓を引こうとするが彼は使い方をまだ見ていなかった。
説明書を探そうとディパックを見る。あったはずだが、どこだ、どこだ、と焦るあまりに見つからずにただ時間を浪費していく。

豪をさしおいて、少女はその煙から姿を現す。
真っ黒なボンテージに真っ白なマント。ピンクの髪の毛の魔法少女、闇ツ葉はららか立っていた。
彼女は、にっこり、と子供に対して慈愛を見せるかのような微笑みを豪に一瞬見せたあとに、右手から一本の触手を出す。
それを豪の胸部へと、目掛けた。ボウガンに夢中で、ただの一般人である豪が避ける事もできずに、その攻撃を受け入れた。

豪に攻撃を加え、豪が叫び声をあげながら地面で転がるのを見ながら、はららはまた穏やかな顔で
豪に言い放つ。

「強がっているだけの臆病者はお引き取りをお願いしますわぁ♪無垢で、純粋で、汚れを知らないような方しか、私は基本相手にしませんのよ。その方が退屈ではないですもの♪
確かに誰とでも一夜を過ごしてきましたけど、それは私の軍団のため。かわいい我が子(部下)のために体を売るのならば気にはしないですわ」

闇ツ葉はららは、悪の魔法少女グループの最大勢力の一つ『堕華(ついか)』のトップであり、目的のためなら誰とでも寝れる少女であった。
だが、彼女はそこにおいても、夜においても決して他人に主導権は握らせない。自分を傘下に置こうとした大人たちを鍛え抜かれた指技とテクニックと、そして堕落させることでこちらの傘下にし続けた。
それも、自分を慕ってくれる我が子達のため。と思えば気にはしないのだが。

「ただ…この場では楽しみたいのですわぁ。もっと、もっと世間知らずの子を快楽へと落としたいのですわぁ…んふふふっ♪」

今宵のはららには『選択権』がある。
味方の為ではなく、自分の為に動くことができる。ああ、なんといいことか。
最も堕落させたい『自分は強い』と思っている者たちを快楽へと堕落させることができるのだから。

ならば、楽しむしかないだろう。自分の欲望の赴くままに。

370弱さ=強さ ◆/MTtOoYAfo:2015/07/17(金) 21:19:28 ID:Chz1T0yg0

「お兄様、あなた弱すぎますわ…あぁ、霧人お姉さまが恋しいですわぁ…♪」

豪の死体を飛び越えるように、はららは民家から出る。
夜が開けかかっていた。月の光を直に感じたのは久しぶりだった。

「…んふふ♪んふふふふ♪」

相変わらずはららは、淫らに笑う。高らかに。かつ冷静に。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「…!大丈夫!?」

はららが立ち去って数分後。
ラモサが見たのは、血だまりができた床にうつぶせで崩れ落ちている谷口豪の姿であった。
彼女自身も、なにか役に立つものは無いだろうかと町の家屋を調べていた最中であったが、扉が唯一開きっぱなしになっている家を見て、不思議に思い近寄ってきたのであった。

「待って!今なんとかしてあげ…っ!」

ラモサが豪の傷跡と思われる腹部の部分を見る。
だが、そこには数十センチほどの穴が貫通しており、おそらく専門知識もあまりないどころか、医療用具もないラモサにとって、この場における治療はほぼ不可能であった。

だが、彼女の目の前ではもう人は殺させない。
もしかしたら周囲に誰か医療に知識がある人がいるかもしれない。
淡い期待を抱きながら、外に出ようとした。

「ガキ、待てェ」

後ろからの声に、ラモサは足を止めた。
なぜ話せるのだろうか、普通は死ぬ直前というのは震え上がるものだが、なぜこの男はやけに馬鹿冷静なのだろうか。そう思って振り返った瞬間。
彼はわずかながら手足が震えていた。おそらく、彼は死ぬことに怯えている。
しかし、それでも声を抑え、自分を呼び止めた。

「分かんだろッ…俺、もうダメだわァ…クソッ…タレ」

彼の言葉は途切れてしまいそうに細い。気を抜いてしまえば、動悸に紛れてしまいそうだ。
普通、怖いのならば、震えるはず。なのにそこまでして彼が伝えたい言葉とはなんなのだろうか、とラモサは彼の言葉に耳を傾けた。

「…気をつけろよォ、この辺には、蛇を連れた女が、いる…強いからァ、会ったら逃げなァ…あと…『フラウザリッパー』は、神山学園の、制服の女だ…チビの、餓鬼だァ…気ィ…つけろや…」

あの時。目の前で殺された風俗嬢。
彼女は夢破れ地元に帰ってきた豪と同じように女優になろうとしたが騙され、風俗嬢になったという『花立 園未(はなたち そのみ)』であった。
ある日風俗に先輩に連れられ行った先で出会い、互いの境遇を慰めあうような仲であった。あの夜も、バイト先の店長がくれたシュークリームを持って会いに行こうとした時に、リッパーと出会った。
殺されていたのは、園未本人。しかし、豪は逃げ出した。自分を受け入れてくれた人物を助けることができず、一目散に逃げ出した。
フラウのことを警察に言えば自分はおそらく復讐されて死んでしまうだろう。しかし、園未のことを思うとそれでいいのかと考えてしまった。

おそらく自分は死ぬだろう。ならばせめて、あの犯人のことでも、目の前の少女に伝えなくては。
手足が震える。呼吸数も減っていく。
死ぬのは怖いが、言えてよかった。少しでも、臆病な自分を捨てれただろうか、と。

(…最後の敵討ちも、人頼みかァ…すまねぇな…園魅(そのみ)。オレ、やっぱあの餓鬼の通り、弱い奴だァ…)

谷口豪はゆっくりと目を瞑る。眠るように、死ぬ恐怖をどこかで感じながら、同時に謝罪心を持ちながら彼の意識は闇へと消えていくのであった。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

371弱さ=強さ ◆/MTtOoYAfo:2015/07/17(金) 21:21:42 ID:Chz1T0yg0

「普通、こんなことされたら痛みのあまり喋れないはずなのに…」

豪が言い終わり、事切れたあと、ラモサは豪を家のベッドに運び、横にさせると彼の顔を見ながらそう呟いた。
表情は悔しさと虚しさと恐怖が入り交じり、大きく歪んでいた。彼がここまてして伝えたかった先程の言葉は、きっとどうしても伝えたかったことなのだろう。
『触手』を使う者と、『フラウザリッパー』。
聞いたことはないが、ヴィランだろう。彼のようなおそらく肉体からして普通の一般人である者を殺すとは、なんという悪。
許すわけにはいかない。殺される人の無念さや悔しさは、よく知っている。そして残された人達の苦しみや悲しみも、よく知っているのだから。

「…強い人だな。この人。名前分からないけど、確かに受け取ったよ。言いたいことは…!」

ラモサは豪のディパックを、一度頭を下げてから持つと、家屋から出た。
ベッドの上には、死の恐怖と非日常と闘った、谷口豪が眠るように、体を横にしていた。

【F-2/町/1日目/黎明】

【闇ツ葉はらら@アースMG】
[状態]:快感、疲労(極少)
[服装]:ボンテージとマント
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品1〜3
[思考]
基本:《強い存在》を快楽や様々な方法を使い堕落させる
1:霧人お姉さまはまた次の機会ですわね♪
2:魔法少女達を狙う
3:
[備考]
※魔法の効果が大きくダウンしており、使用には体力をやや消耗します。
また触手の数は右手左手それぞれ五本ずつまでです。

372弱さ=強さ ◆/MTtOoYAfo:2015/07/17(金) 21:22:57 ID:Chz1T0yg0
【ラモサ@アースH】
[状態]:健康
[服装]:
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ランダムアイテム1〜3、ボウガン@アースF
[思考]
基本:AKANEや悪を断罪する
1:早乙女灰色、早乙女エンマを見つけたら処刑する
2:フラウザリッパー、触手使いに注意

以上です。何かあれば。

373名無しさん:2015/07/18(土) 15:38:16 ID:.a//sLI20
投下乙です!

>欝くしき人々のうた
ライリーと入れ替わった女勇者さんの末路…悲惨の一語だー!
モンスターとの対話が為されないF世界の闇を垣間見た
狂ってしまうのも致し方なし。しっかし、こういうのが映画館で上映されるとなるといろんなキャラに映画館に行ってほしくなるなあw
最後に仲間の事をおもうライリーだがアリシアちゃんの話を知ってる側としては放送が楽しみです

>弱さ=強さ
谷口〜!また陰惨な現場に出くわし、またもや逃げ、逃げた先にも今度はさらなる災厄が。
なかなかに不幸の連続、安らかにな…そしてまさかの風俗嬢の名前判明とは
はららちゃんとゾーラのコンビもいいなあ、無邪気&妖艶で掛け合いを見たくなる組み合わせ
死に際にラモサちゃんへまた情報が。花子ちゃん包囲網が留まるところをしらないぜ…

374 ◆laf9FMw4wE:2015/07/19(日) 16:17:23 ID:7FzzBVeg0
投下します

375偏愛の輪舞曲 ◆laf9FMw4wE:2015/07/19(日) 16:20:40 ID:7FzzBVeg0
私は孤独だった。
学校へ通えば、即座に殴られ、罵倒され、差別され――ありとあらゆる虐めを受けてきた。
だからといって、家に居場所があるわけでもない。
両親は私を出来損ないだと云った。お前は劣等だから、他人よりも劣っているから差別されて当然だと嘲笑った。
「死ねばいいのに」――――それが親の口癖で、家でも学校でも、私は様々な人間に虐げられる。
誰も手を差し伸べる者などいない。当然だ。私を助ければ次はその人が虐めの対象になるのだから。
それにその頃の私の心は、かなり廃れきっていて。偽善者共が有り得ぬ夢物語を語る特撮番組は大嫌いだった。
だってこの世にヒーローなんていないのだから。もしもヒーローがいるのなら、とっくに私を救っているハズだ。
それでも特撮番組を見ていたのは、知らず知らずのうちに救いを求めていたからだろうか。
特に好きなヒーローは、結城陽太。現実とは大いに逸脱した、ネットでは偽善者と叩かれることすらある打ち切り作品の主人公。
けれども彼の心に宿る熱い太陽はたしかに私の心に僅かな光を与えてくれて――こんな絶望的な世界もいつしか照らしてくれることを、願っていた。
だけどもそれは所詮、テレビ番組だけの夢物語で。度重なるいじめに遂に心が擦り切れた私は自殺を決意した。
首吊りは辛そうだし、電車はあの巨体にぶつかるのを想像するだけでも恐ろしい。実践を試みても足がぴくりとも動かない。
そこで思い浮かんだのが飛び降り自殺。電車と違って大きな音や巨大な物体が迫るわけでもないし、ただ落ちるだけで済むから楽に違いない。
そうして建物の階段を駆け上がる。どんな名前かすら覚えてないほど必死に走って、解放を望んだ。

「よっ、人生の敗北者ちゃん。自殺して絶頂の公開自慰ってか」

背後から声をかけられて、しかも何故か知らないけどいきなり殴られた。
その人は身長の高い美人な少女だと思ったら実は男で、事情も話さないままとりあえずお前うちのガッコこいとか言われて。

「いじめられるなら強くなりゃいい。俺様も昔はアレだったし――とにかく何でもいいから特技でも身につけて他の奴ら見返せばいいんだよっ。
 といってもま、前の環境じゃ居心地悪いわな。てことでうちに転校確定、はいパチパチパチパチ〜」

とまあ喜ばしいことに転入することになった。
その男の娘――副会長曰く、転校させる為に色々と工作してくれたらしい。
それからは自分の強さを磨く為に筋トレに励んで、性格も一新することに。結果的に新しいクラスからは受けが良くて、沢山の友達に恵まれることで些細な幸せを手に入れた。
だから私は副会長を一種の英雄(ヒーロー)だと思っている。会長もなかなかすごい人だけれど、一番のヒーローは間違いなく副会長だと断言出来る。

                    ♂


殺し合い。
それは強者が弱者を虐げ、儚き命が無意味に散らされてしまう、最悪の行事。
いつの間にやら配布された機械からは吐き気を催す邪悪が囁き、他者の殺害を強要している。
生きたくば、殺せ。反抗するならば、即座に殺す。たったそれだけの、実に単純な内容であった。
ゆえに我は――――存分に膨れ上がった筋肉を用いて、手中に収まる其れを破壊。平然と被害者を出そうとするAKANEとやらに対する挑発行為であり、そして叛逆の意思を示す宣戦布告である。
次いでデイパックを投げ捨てたい衝動に襲われるが、虐げられている人々を助ける為にも武器は必要。いじめっ子の用意した道具を利用するのは癪であるが、所詮我は一介の女子であり、生憎と素手のみで誰かを護り切る自信はない。

「ほう」

デイパックを開けた結果、なかなかの当たり。
武道の心得があるわけではないが、筋肉に自信のある我だからこそ使いこなせると確信出来る道具が、そこにはあった。
されど同時に問題点も発覚した。それこの参加者候補リストである。

クラスメイトの山村幸太、東雲駆、中野あざみ、中村敦信、藤江桃子。下級生であり、様々な噂の飛び交っている麻生叫。
我が学園の会長である、大空蓮。そして我の――私の人生を変えてくれた副会長、愛島ツバキ。
なんと此度の悪質極まりないこの現場には、我の知り合いも多数巻き込まれている可能性があるというのだ。
俄には信じられぬ――というよりも信じたくもないが、嘘ではないだろう。参加者候補であることから全員が参加している可能性は低いが、それでもこの人数だ。最低でも一人は参加していると認める他ない。

376偏愛の輪舞曲 ◆laf9FMw4wE:2015/07/19(日) 16:21:18 ID:7FzzBVeg0

「呑気にしている場合ではない。何の取り柄もなく、唯の落ちこぼれであった我に優しく接してくれたクラスの皆を、失って堪るものか――!」

だから走れ。
たとえ見せかけであれど――――クラスの皆や副会長が褒めてくれた我が筋肉の総てを総動員して、疾走せよ。
彼らだけは死なせてはならぬ。我に出来ることなど限られているであろうが、それでも全力で護りたいと願う。
その過程で虐げられている者や他者を虐げている者がいるのならば、我がこの筋肉で成敗してみせよう。
他者に虐げられて傷付く者など、我だけで良いのだ。罪のない人々が苦しむ必要は、微塵もない。

そうして脳内に幾重にも思考を積み重ねている内に――もしかしたら軽いパニック状態になっていたのかもしれない――気が付けば駅に辿り着いていた。

                             †

麻生嘘子は考える。
明智光秀を自称する謎の少女――――彼女は果たして、何者なのだろうか。
勝手に信長だと思い込まれたことで保護されたまでは良いが、彼女の素性が解らなければ騙し続けることは困難である。
何故か本能寺の変について間違えて覚えているようだし、なにより彼女のことを知っておかなければ信長として振る舞うことに支障が出るだろう。
とはいえ、彼女はあまり自分語りをしてくれない。口を開けば信長様、信長様ばかりで――だからといって下手に詮索をしてしまえば自分の嘘が発覚する可能性もある。

(それに普通にしていればいい人っぽいのよね……)

まだ知り合ってそれほど経っていないが、嘘子には彼女があまり悪い人には見えなかった。
お腹が減ったと独り言を漏らした直後に笑顔で食料調達を申し出てくれたし、それ以外でも何かやたらと気遣ってくれるし――――。
何より信長について嬉しそうに語る時の彼女が悪人だとは思えない。最初に出会った殺戮者――フランクリン・ルーズベルトとは全く違う雰囲気だし、やはり殺し合いで変な気を起こしているだけで、元はいい人なのだろう。
だから自分が信長だと嘘を貫き通した上で、彼女を説得することさえ出来れば――――改心して元の善良な少女に戻ってくれるのではないだろうか。
麻生嘘子は嘘が得意だと自負している。事実、自ら吐いた嘘で兄を怪物染みた人物だと周囲に思い込ませることに成功しているではないか。
兄と自分が共に生き残る道はそれしかないのだから、迷う意味もない。そう嘘子が決意をしたと同時に。

「信長様、食料をお持ち致しました! どうぞ存分にお食べください」

元気な声と共に満面の笑みで食料調達を済ませた光秀とのぶのぶが帰還した。
おにぎりやカップラーメンから、ポッキーなどのお菓子まで――様々な食料がデイパックから取り出される。
その中から適当に何か食べようとして――数個だけ市販のものとは思えない、ラップに包まれたおにぎりを見つけた。

「……これはなんじゃ?」
「そ、それはその……」

嘘子がおにぎりを手に取り問い掛けると同時に急にもじもじとする光秀。
なんだこれ。おにぎりを食べようとしただけでどうして恥ずかしそうにしてるんだ、この人。

「食料調達へ行った際、米があったので……の、信長様の為にと思って作ってみたのですが……。
 よ、翌々考えてみれば、そんなものを信長様にお渡しするなんて無礼にも程がありましたっ。だからその……ししし、失礼しましたぁあああ! 私はとんだうつけですぅぅうう!」

手作りおにぎりについて追求されたことで気分を害したのだと勘違いしたのか、光秀は土下座で必死に謝り始めた。
ただそれだけならば信長ロールで手厳しく返すのが無難なのかもしれないが、よく見れば涙目になっている。
史実の明智光秀であればこの程度で泣かないだろう――と思うがロールプレイを忘れて泣き出してしまうほど、本気でおにぎりを作ったのだろう。
おにぎり自体は特に不味そうには見えないし、形も悪くない。他の食料と違い、ほかほかと温かいソレには寧ろ食欲がそそる程だ。
光秀が理想とする信長を演じる為。そしてなんというか、ずっと泣かせっぱなしも悪いからと嘘子はそのまま手作りおにぎりを食す。

「……おいしい!」

それは偽りなどでなく、信長と演技すらも忘れて素でおいしいと思った。
普通のおにぎりの中に梅干しが入っているだけなのに、何故か解らないが異様に美味しい。
普段ならば梅干しなんて大嫌いな食べ物なのに、一つ食べ終わるとすぐに次へ取り掛かってしまう。

「そ――それは何よりです!
 ほ、他にも目玉焼きなど作ってありますので良ければ存分にお食べください!」

377偏愛の輪舞曲 ◆laf9FMw4wE:2015/07/19(日) 16:22:28 ID:7FzzBVeg0

光秀は褒められたことが余程嬉しかったのか、ぱあっと明るい表情で目玉焼きを差し出した。
姿形はどこにでもある目玉焼きだというのに――やはり此れも、かなり美味しい。料理人だと云っても通じる味だろう。
おにぎりと目玉焼きという質素な組み合わせであるのに、どこか高級レストランで食事しているように錯覚してしまう程だ。

「流石は我が忠臣。最高の料理で腹もふくれ、余は満足じゃ」
「ふぁいぃいい! 信長様が私にそのような勿体無いお言葉を……この光秀、感激の至りですぅうう!」

うんまあ、やはり予想通りの反応というか。
うっとりとした表情をした光秀の頭を撫でてやると、すぐさま彼女の頬が真っ赤に染まってゆく。
犬を自称するだけあって、なでなでされるのが好きらしい。こーたに対して犬みたいなもんだなんて言ったが、光秀を自称する少女はそれ以上に犬っぽくて、流石の嘘子も苦笑い。
でも彼女の料理が美味しいということは本当だし、あまり悪い気はしない。
ルーズベルトの襲撃、こーたの死、光秀を自称する謎の少女と遭遇――衝撃のイベントが立て続き起こったことで精神が疲労していたが、こうして平和な時間を過ごしている間は少し安心できる。
嘘で繋がれた偽りの関係ではあるし、問題は山積みだが――それでも今この時ばかりは光秀に出会えたことが幸運だとすら思えた。
こういう些細なことから互いの信頼を積み重ねれば、意外とあっさり光秀も正気を取り戻してくれるのではないか? そう考えずにはいられない。

「現代に蘇った後、信長様の生還を信じてはなよ――料理修行をした甲斐がありました! こうして信長様に褒められることが、何よりの幸せですぅ……!」
(えっ今この人、花嫁修業って言いかけなかったかしら)

いくらなんでももうとうの昔に死んでいる人物を相手に花嫁修業って――まあそういう設定なのだろう。散々と兄の設定を盛ってきた嘘子には、やたらととんでも設定を語る光秀の気持ちがわからないでもない。
もしも出会っていたのがこんな場でなければ、意外と仲の良い友達になれたのかもしれない。皆殺しだとか、そういう物騒なことさえ言わなければ基本的に好感のもてる人物だ。美味しい料理を作ってくれるし。

「わう」
「ちょ、そんないきなり舐めっ」
「コラ、のぶのぶ! 信長様のく、くくく……口を舐めるなんてうらやま――けしからぬ!」

流石に口を舐める行為に苛立ちを隠せないのか、のぶのぶを抱えて強引に引き離す光秀。
のぶのぶは少しだけしょんぼりした顔をしたと思えば、今度は己が入っていたデイパックをとん、とんと叩き始める。
何事かと首を傾げる嘘子だが、何か心当たりがあったのか水が入った瓶を取り出す。ユメミルクスリ――まるで麻薬の様な名前の道具だ。
平凡的日常生活を送っていた嘘子が使うには程遠い代物だ。こんなものを使ってはいけないという常識は、小学生の嘘子でも知っている。
ゆえにそのままデイパックへ戻そうとするが、興味深く瓶を観察している光秀が目に入り、少し苦笑い。

「……飲んでみるか?」

じーっと眺めている光秀にユメミルクスリを投げ渡すと、彼女は喜んで口に入れた。
嘘子としてはこんなもの絶対に口にしたくないし、あまり観察されても落ち着かない。
その結果がどうなろうと知ったことではないが、所詮はただの水か麻薬染みたものだろう。説明書が色々と怪しいが、こんなものは嘘に決まっている。

                     ♂♀

ユメミルクスリは、狂人の願いを元に能力を与える魔法の薬だ。
一見便利にみえる薬だが、その実かなり扱いづらい。狂おしいほどに心の底から渇望していなければ能力は生まれないし、与えれる能力も特別優れているわけではない。
一芸に特化しているゆえに並の魔術程度かそれよりそれを少し上回る程度の能力は得られるが、所詮はそれだけ。
様々な魔術を多彩に操る魔術師と比較して明らかに劣っているし、同じ一芸特化で比較しても魔力を有し鍛錬を積んだ魔術師の方が強くなりやすい。

明智光秀は、本能寺の変を悔いている。
今度こそ織田信長の命をお護りしたいと、彼の為に戦いたいと狂おしいほどに恋している。
生前は焰で焼き払われてしまったが――ならば今度は、その焰を意地でも食い止めてみせるだけ。
さて。ここで本来なら水の能力を与えるのが当然であるが、ユメミルクスリは捻くれている。
故に彼が与えた能力は――――。

378偏愛の輪舞曲 ◆laf9FMw4wE:2015/07/19(日) 16:25:21 ID:7FzzBVeg0
                     ♂♀

扉を開けた刹那――先ず目に入ったモノは、騒がしい電子音と共にチェーンソーを振るう少女だった。
何の対策もない状態であれば直ぐにあの世へ送られてしまう厄介な代物であるが――されど、今の我には問題ない。
チェーンソーに恐れることなく、丸太の様に極限まで膨れ上がった左腕を盾に用いて、右手に拳骨を。
受け止められた刃が幾重にも回転、夥しい量の血肉が撒き散らされるが――この程度の痛みは、苦痛ですらない。

「ふんッ!」

全身全霊の気合いと共に右手の拳を振りぬき、少女の腹を捉える。
吹き飛ばされる少女。手加減をしたつもりではあるが、これで数時間は起きないだろう。
その間に我に対して怯えている金髪の少女に事情を――――とはいかないようだ。
なんと我の拳をまともに受けた少女は、平然とした状態で立ち上がっていた。それもあろうことか、傷一つすら負っていない状態で――何がどうなっている!?

「使い慣れぬ武器とはいえ、私の一太刀を受け止めるとは――――貴様、何者だ」
「金本優。見ての通り、どこにでもいる一介の女子高生だ。尤も現在はドーピングで身体能力が上昇している状態ではあるが、な」
「信じられぬ。普通の女子高生が、この明智光秀の攻撃を防ぐなど有り得ないっ!」

再度、チェーンソーによる猛攻。
一撃で仕留めることを諦めたのか、豪雨のように次々と連撃が降り掛かる。
どうにか全て受け切ることが出来れば良いが、喧嘩の経験が乏しい者が、これらを一つ一つ受け止めるのは難儀だ。
だからといって躱すなど論外。我は所詮筋肉しか取り柄がない存在であり、速さや技術は圧倒的に向こうが上だろう。この鈍重な肉体で躱せるとは到底思えない。
故に防御部位を、急所たる首から上のみに集中。無防備な身体を何度も何度も刃で斬りつけられるが、ここへ来る直前に施したドーピングで膨れ上がった筋肉は、この程度で千切れない。
そして放つは、右廻し蹴り。円を描く様に大袈裟に足を振るうことで、敵対者を強引に払いのける。
華麗に宙へ舞い、距離をはかる少女。明智光秀を自称しただけあり、その動作には無駄がない。
されど、どの様なプロでも隙というものは存在する。少女の着地と同時に拳を振るう為に両手で拳骨を作り、突進。命まで奪うつもりはないが、気絶程度はしてもらう――ッ!

「その蛮勇は賞賛に値するが――甘い」

それは――――信じられない現実(ゆめ)だった。
いや――これは果たして、夢なのだろうか? 現実なのだろうか? 空を蹴り、猛突進する少女が、現実に存在するというのだろうか?
あまりにも現実離れした光景に脳の処理が追いつかず――――気付けば左肩にチェーンソーが突き立てられ、その大部分が抉り取られていた。
咄嗟にがら空きの銅へ右の拳を振るうが、躱される。蹴りを見舞うが、躱される。
次いで両拳でラッシュ。躱される、避けられる、防がれる。

「苦し紛れの連撃か――哀れなものだ」

ラッシュを躱す際、身を屈めていた光秀がチェーンソーを切り上げる。
連撃ではなく、一撃を意識した斬撃。襲撃者に対する咄嗟の行動ではなく、最善のタイミングで描かれる一閃。
それは攻めに意識を集中していた優の左腕が砕け散り、尋常ではない量の血飛沫が円を描く。

「ぐ――――ッ!」

めまぐるし状況の変化。全身を支配する鋭い痛み。光秀を名乗る少女の非現実的な猛攻。彼我の圧倒的な戦力差。
生存本能が、逃げろと警告を訴えている。足が震え、全身が小刻みに震え上がり――――。

「―――――喝!」

されど負けじと気合い、注入。
ここで逃げてどうするのだ。英雄(ヒーロー)はここで逃げては、ならぬだろう。
それに、この出血だ。どうせ逃げても死ぬのならば、せめて最期に己が生き様を刻み付けてやろうではないか。
後悔はない。一度は自殺を図り、会長と副会長に救われた身だ。学園の皆が、1人の人間として蘇らせてくれたのだ。

「〜〜〜〜〜ッ!」

言葉にもならぬ少女の絶叫が、聞こえた気がした。
この地獄に耐え切れなかったのだろうか。見れば涙を流して、震えている金髪の少女がいるではないか。
優は彼女を一瞥すると、この絶望的な戦況に屈することなく前を見据えて、ポケットに隠し持っていたドーピングを更に注入する。

379偏愛の輪舞曲 ◆laf9FMw4wE:2015/07/19(日) 16:26:15 ID:7FzzBVeg0

「……信長様?」

信長だと思い込んでいる者の奇行に、光秀が疑問符を浮かべる。
彼女の知る織田信長であれば、この程度で泣いたりはしない。寧ろ、喜ぶ筈である。
では何故、この少女は泣いているのか。嬉し涙には見えないが――果たして何を考えなさっているのか?
理解不能である。そもそも、信長だという確証はないのだが――本当に彼女は、光秀が恋心を寄せている信長様なのだろうか?

「どうして、泣いているのでしょうか? 私の知る信長様はもっと凛々しく――――」
「―――――それがどうした」

少女の我儘を遮り、前へ踏み出す。
ドーピングによって再構築された細胞が新たな拳を創り出し、今度こそ光秀を殴り飛ばした。
豪快にふっ飛ばしたが――直ぐに立ち直ったことから、ダメージは少ないだろう。外傷もなく、矢張り先と同じく全く通用していない。
だがしかし、得たものはある。拳を打ち据える寸前――氷の膜を盾のように展開しているのが、確かに見えた。
これでチェーンソーを叩き付けられ、腕が不自然に砕け散ったことにも納得がいく。つまり彼女は、氷使いの能力者。

「総てを凍てつくす者、か。ヒーローが戦う敵としては、なかなかに面白い。そしてあまりにも、哀しい能力だ」
「勝手なことを。――――これは信長様の最期を悔い、私が望んだ能力だ。哀しくなどあるものかっ!」
「信長様、信長様と云っているが――織田信長はとうの昔に死んでいるハズだ。お前は何を言っている」
「死しても蘇生する術が、現代には存在する。明智光秀たる私がこうして生きていることが、何よりの証拠だ。そして信長様も、そこにおられるっ!」

そうですよね、信長様っ!と確認する光秀に、嘘子はぎこちない動作で頷く。
彼女は光秀のことを“なりきり病”の人、狂気に満ちた殺し合いが原因で危険な方針を掲げているだけだと思っていたが――まさかここまで強く、あっさりと人を斬る危険人物だとは思っていなかった。
何もない空を蹴るとか、氷の能力だとか――まるで漫画やアニメの世界ではないか。平然と人の腕を切り落とす少女が存在するだなんて、考えたこともない。
こんな狂人を説得するなんて不可能だ。それに少しでも逆らう素振りを見せたら、その瞬間に自分の首が刎ねられるだろう。
だから嘘子は、頷くしかない。それ以外の動作は許されない。自らが吐いた嘘の否定は赦されず、偽りの関係を貫くしか生きる道が残されていない。
その為に筋骨隆々の参加者が犠牲になったとしても、それは仕方のないことで。

「そ……そうじゃ。その無礼者を討ち取れ、光秀ぇ!」

精一杯に偽りの言葉を叫ぶ。
本心では殺したくないが、そうするしか生きる方法がないのだから。

「はい。必ずやこの無礼者めを討ち取ってみせましょう。 ……それでこそ私の愛する信長様ですっ」
「偽りの愛か」
「――――何?」

皮肉を吐き出す優を、鋭い眼光で睨む。
光秀にとって信長は愛しい存在であり、ゆえにこれは偽りではない純愛である。
それを何も知らない筋肉女に偽りだなどと一蹴されて――気分を害さないわけがない。

「我は恋愛経験がない生粋の処女であるが、これだけは断言しよう。――――貴様の愛は、間違っている」

チェーンソーを受け止めて――――軽く触れられた腕に氷が纏わり付き、流れるような動作で繰り出された蹴りに叩き割られる。
されど優は一歩も退くことなく、即座に再生。

「……ほう。では、どこが間違っているのか、訊かせてもらおうか」

優の再生力は驚嘆に値するが、それ以上に愛を否定されたことに腹が立つ。
ゆえに光秀は、己が純愛の何処が間違っているのか問うた。

「残念ながら、それは我にも解らん。先程も言ったが、生憎と恋愛経験が皆無の処女だ」
「ふざけているのか?」
「そうだな。我はただ、己が英雄(ヒーロー)の信じる愛を至高の形だと信じているに過ぎない。他人から見れば、巫山戯ていると思われても仕方のないことだ」

それは自分の主義主張ではないけれど。
絶望の淵に沈んだ優に手を差し伸べ、人生を変えてくれた副会長(ヒーロー)の語る愛は夢と希望に満ち溢れて、これぞ正しく真実の愛だと応援したくなったから。
だから――――他者へ一方的に押し付ける、まるで虐めの様な行為を愛だと云うのならば、己が拳で打ち砕くのみ。
自分勝手だといえば、そうだろう。愛の形は色々とあるだろうし、光秀の愛も間違ってはいないのかもしれない。
されど優は、ツバキの語る愛を信じたいが故に。一方が苦しむ愛など、そんなものなどあってはならないと思うが故に。

380偏愛の輪舞曲 ◆laf9FMw4wE:2015/07/19(日) 16:26:48 ID:7FzzBVeg0

「そうか。ならば死ね、我が愛(ゆめ)の邪魔をする外道めがっ!」

拳とチェーンソーが真正面から激突する。
ドーピング効果で飛躍的に身体能力が上昇、膨大な筋肉はチェーンソーの刃に対抗し得る武器と化すが、それでも何度も切り裂かれる。
そのたびに再生と再構築が目にも留まらぬ速度で発動、観客たる嘘子にはまるで均衡しているようにすら見えた。
しかしその鍔迫り合いも一瞬の出来事。次の瞬間には優が空いた左拳を、無防備な銅へ叩き込もうとするが――光秀の足元に即席で作られた氷柱が現れ、躱される。
天高く伸びた柱から飛び降り、唐竹割り。優は咄嗟に迎撃態勢として両拳を構え、腰を据える。
再度、ぶつかり合う拳と刃。骨と金属が奏でる不協和音が戦場へ鳴り響き、地獄に耐え兼ねた嘘子が耳を塞ぐ。

「謂われなくとも、我は死ぬ。―――いや、とうの昔に私という人間は死んでいたハズだった」

あの日、自殺を止められていなければ――間違いなく自分は、この場に居ないだろう。
虐げられた心は絶望に塗れ、人間を嫌悪した。この世を憎み、いっそ死んでしまえば楽だと思った。
けれども――――。

「……何を嗤っている?」
「いや――特に意味は無い。ただ単純に、正義の為に我が命を燃やし尽くせることが、嬉しいと思った」
「信長様の覇道を邪魔する輩が正義だと――――嘲笑わせるっ!」

貴様のしていることは、ただの自己満足に過ぎない。
信長様こそが正義であり、信長様を勝利させる行為こそ我が愛の証明。
故に消え去れ、邪魔者め。正義を自称するのならば、真の正義と愛の為に、此処で死に晒すが良い――――!

「ああ。奇遇にも、我とお前は少しだけ類似点がある様だ。我もまた、英雄(ヒーロー)に憧れ、彼の語る価値観を正義だと信じている。
 それに――――恋愛や友情は互いに尊重するものだ。他者に強制して虐げるなど言語道断」
「何を言っている。私はただ信長様の為に――」
「そこにいる娘は、織田信長ではないだろう。彼女はどう見ても、怯えている」

此度の鍔迫り合いも一瞬。
光秀はどこか哀れな者を眺めるような瞳を向ける敵対者を蹴り、距離をはかる。
そして彼女が敬愛する信長様を一瞥して――――驚愕した。
のぶのぶの背後に隠れる様にして耳を塞ぎ、愕然とした表情で身体を震え上がらせている少女は、光秀の知る織田信長とは程遠い存在であり。
その姿はまるでただの臆病者。天下統一を目論んでいた頃のあの凛々しさは微塵も感じられず、無様を晒しているだけの腑抜け。

381偏愛の輪舞曲 ◆laf9FMw4wE:2015/07/19(日) 16:28:52 ID:7FzzBVeg0

「莫迦な……」

信じられない光景を目撃して、瞬時に嘘子へ近付く光秀。
咄嗟に優も走りだすが、追い付けない。たとえ筋力が上がり、細胞が活性化しても脚力は未だ光秀が上回る。

「あ――」

嘘子が呆然と口を開いた。
織田信長を演じることに失敗した。そう気付くまでに、あまり時間は掛からなくて。
だからといって出鱈目な言い訳を垂れ流しても、状況が悪化するだけだろう。
ゆえに嘘子は何も語らず、塞いでいた耳から手を離して光秀の言葉を待つ。

「信長、様? いったいこれは……何をなさっているのですか?」

思いの外、声が小さい。
されどその瞳に宿る信愛なる愛は僅かに揺らぎ、代わりに疑問が満ちている。
光秀自身は気付いていない、無意識的な行動ではあるが――嘘子を値踏みする様な。本当に信長なのか、観察する様な鋭い視線。
彼女は盲目的に嘘子を信長だと思い込んでいたが、此度の行動はあまりにも自分の知る信長様とかけ離れすぎていた。
溢れ出るばかりの勇ましさ、凛々しさが感じられず、代わりに厭というほど臆病さが伝わる。
再開した際に提案した平和的な解決法――これはまあ、心境の変化だと理解することも出来なくはない。事実、光秀もアイドルとして平和な生活――それでも日々の鍛錬は欠かさなかったが――を送っていたのだから、信長も似たようなものだったと考られる。
だがしかし、こうして戦に怯えるこの態度は、あまりにも信長らしくない。たとえ平和ボケしていたとしても、かつて天下統一を目論んでいた至高の益荒男が、こんな醜態を晒すハズがない。

「それは……」

解らない。
どんな嘘を吐けばいいのか、思い付かない。
いや思い付かないというよりも――――この状況で平然と嘘を吐くことが難しい。
一歩間違えれば殺される。変な解答をした瞬間、嘘子の首は銅から切り離されているだろう。
平素の振る舞いこそ恋する少女の様であるが、光秀とて立派な武士。女子小学生如きが容易に手綱を握られる筈もなく、目前へ迫る死に怯え、思考が乱れる。

「答えられないのなら――」

愛しい信長様ではないと判断して、殺す。
そう脅し文句を言い掛けた刹那――丸太が飛来していることに気付いた。
本来の光秀では有り得ない失態。咄嗟に払い除けようとするが、剛力で投げられた丸太は既に目前まで迫っており。
着弾と同時に光秀は、驚いた。何故ならそれは丸太などではなく――――太く逞しい、優の腕だったのだから。

「狂っている……ッ!」

引き千切れた再生中の左腕を一瞥して、光秀は吐き捨てた。
いくら再生能力があるからといって、迷い無く自らの腕を引き千切り、それを投擲するなど狂気の沙汰だ。たとえ再生するとはいえ、その痛みは想像を絶するものだろう。
戦乱の世を駆け抜けた光秀ですら、ここまでイカれた狂人は見たことがない。何の力もない小学生を助けるという行為自体は英雄的だが、手段はまるで怪人のソレだ。

「――――おおおおおおおッ!」

――――だがそれでも構わない。他者に虐げられ、裏切られ、利用され――――そんな人々を救うことが出来るのなら、怪人だと罵られても構わない。
着弾と同時に追い付いた優が、疾風怒濤の勢いで光秀へ拳の散弾を叩き込む。
それはまるで乱射。喧嘩慣れしていない経験不足の射撃手であるがゆえに狙いが定まらず、されどその気迫は本物。
しかし光秀は恐れることなく、余裕を保った態度で冷静に躱し、度々命中する拳は氷の防壁で痛みを和らげる。
両者の戦力差は絶望的であり。百戦錬磨の武士を相手にこれまで戦と無縁であった女子高生が互角の勝負を演じられるほど、戦場は甘くない。
拳を振るうたびに、激痛が奔る。視界が次第にぼんやりとしたものへ変化してゆく。ドーピングの副作用が如実に現れ始めた証拠だろうか。
されど諦めることなかれ。“英雄(ヒーロー)が諦めない限り、そこに必ず希望は存在する”――――陽太の師匠が番組で語っていた言葉を脳裏に思い浮かべて、戦闘続行。

「のぶのぶっ!」
「わんっ!」

主人の言葉に応じたのぶのぶが、優の左脛を噛み千切る。
片足に大打撃を与えられたことで途端に態勢が崩れる少女。瞬時に氷の刃を形成した光秀が、容赦なく優の手足を斬る。
彼女の能力は本能寺の変に起因された“護る為の能力”であり、応用性は高くとも攻撃にはあまり向いていない。空に膜を張ることで通常では有り得ない動作を行う、単純に防壁として用いるなど、戦闘補助として扱うのが本来の使い方ともいえる。
ゆえに武器の形状を保つことが出来る時間はほんの僅か。敵対者を斬り裂き、役目を果たした刃は溶けて消え去った。

382偏愛の輪舞曲 ◆laf9FMw4wE:2015/07/19(日) 16:32:19 ID:7FzzBVeg0
のぶのぶと光秀、二人のコンビネーションが可能とした流れる様に見舞われる連撃。人体へのダメージも甚大であるが、それ以上に常人であれば耐え切れぬ程の痛みが襲うに違いない。
もっとも此度の相手は常軌を逸した狂人であり。彼女が往生際悪く再生――――再び立ち上がろうとすることもまた、光秀が想定していた通りの展開。

「な――」

だから。
それを計算していたからこそ、敢えて氷の刃で斬ったのだ。
不屈の根性は認めよう。不退転の決意は、過去に刃を交えてきた武士達のソレとよく似ている。実力こそ圧倒的に劣る相手だが、その精神だけは立派な狂人(ヒーロー)である。
己が真愛を否定する点は気に食わないが――――誇らしき挟持を示した戦士を甚振るつもりは毛頭ない。ゆえに多少なりとも楽に逝かせてやるのが、せめてもの手向け。
のぶのぶに噛み千切られた左脚以外再生しない事実に驚愕する優を確認して、刃物状の氷を生成。嘘子に手渡す。
氷の刃による斬撃で凍結した細胞は、暫く再生しないだろう。この状態で信長に危害を加える事は不可能だと判断しての行動だ。

「――――もしもあなた様が信長様だと云うのなら、この氷で敵対者を殺して下さい」

つまりそれは――――殺人者になれということで。
こーたを殺したルーズベルトと同類に成り下がれという命令で。
真剣な面立ちの光秀に告げられる言葉の意味を理解して、手足が更に震える。
嘘子は明智光秀という少女を侮りすぎていた。普段通りの要領で嘘を吐いたコトを後悔しても、もう遅い。
他者を殺害して生きるか、拒否して諸共殺されるか――――選択肢はその二つしか残されていない。
それも殺す対象は、嘘子を救う為に果敢に強敵へ立ち向かった勇気ある英雄であり。特別親しいワケではないが――――彼女を殺すコトは、言うなればこーたを殺す様なものである。
優しい者から死にゆく理不尽な世界に嫌気が差すが、それでも麻生嘘子は生きたくて。だから、殆ど達磨と同等の存在に成り果てた英雄へ駆け寄った。

「こーた……」

処刑対象の少女が処刑者、嘘子へ向けた瞳はやっぱり優しくて、どうしてもこーたの最期を思い出してしまう。
知り合ったばかりの嘘子を護る為に命を投げ出した彼もまた、優しい人間だった。

「幸太? それはもしや――山村幸太か」
「え!? そ……そうだけど」

何故、この少女がこーたの名前を知っている?
嘘子は疑問を浮かべるが、仰向けに倒れたまま穏やかな表情で空を見上げる少女は、何かを悟っている様だった。

「既に殺されていた――か? もしもそうならば、彼はどんな最期を迎えた」
「それは……」

言葉に詰まる。
よく見れば少女は兄やこーたが通う学校の女子制服で、きっと知り合いなのだろう。
自分を庇って死んだ――などと言えば怨まれるかもしれない。相手の状態からして嘘子が殺されることはまず有り得ないが、恨み言を吐かれるに違いない。
そして自らの知り合いを犠牲に生き延びた少女を助けようとした行為に苛立つのだろう。彼女は最悪の最期を迎えるのだろう。

「い――生きてるわ。こーたはあたしの犬みたいなもんなのよ、生きてるに決まってるじゃない!」

ゆえに麻生嘘子は嘘を吐く。
まともに拳を振るうことも出来ないであろう参加者が呪詛を撒き散らしたところで何かあるわけではないが、自分を助け様とした優しい人が絶望に塗れて死ぬのは気分が悪い。
無論、この程度の嘘で救えるとは思っていないし救うことは不可能だ。生きるには殺さねばならないし、この少女が死を恐れないとは限らない。所詮は嘘子のエゴだと云われれば、そうだろう。
されど嘘を聞いた優は僅かに一笑して。

「そうか。それは、よかった」

ナイフを手にした少女の言葉は話し方からして簡単に見破れるものだが、優しい嘘だと思った。
一瞬言葉に詰まった時点で既に山村幸太の死は察せられる。どんな最期を迎えたのか不明であるが、きっとこの少女に多少なりとも好かれていたのだろう。
彼の死亡が恋人の花巻咲に良からぬ影響を与えなければ良いのだが――果たしてどうなるのか。もしも道を踏み外してしまったのならばどうにかして戻してやりたいが、金本優の死は揺らがない。
既に道を踏み外しているであろう明智光秀を名乗る少女を、正しい道へ引っ張り戻してやりたかったが、この状況ではもう厳しいだろう。
ゆえに託す。会長に、副会長に、駆に、あざみに、敦信に、桃子に――――信じられる者たちだからこそ彼らに託せば安心だと心から思える。

だから優は、立ち上がった。いや立ち上がったというよりも、一瞬だけ起き上がった。
その動きはゾンビのようで、嘘子は恐怖に震えるが――――体勢を維持できない優は必然的に少女へ凭れ掛かる様に斃れる。

383偏愛の輪舞曲 ◆laf9FMw4wE:2015/07/19(日) 16:33:56 ID:7FzzBVeg0

「え……」

ぬるりとした生暖かい感触に愕然と自らの手元を見つめる嘘子。
恐怖から咄嗟に突き出した刃物が優の心臓を貫き、止め処なく鮮血が溢れ出していた。
これは嘘子にとって想像もしていない事故の様なもので、彼女に非はない。優の自分勝手な行動が原因であり、嘘子は反応することも出来ずに呆然と立ち尽くしていただけである。
だのに罪悪感が止まらない。どれだけ嘘を吐こうとしても、不本意であっても。他者を殺したという重罪を犯した事実に変わりはない。
そもそも嘘子は優を殺す為に近付いたのだし、不本意ということは言い訳にならない。罪を犯すことが厭ならば、生きる為に殺そうと近寄ったこと自体が間違いなのだ。

「……済まない。だがこれ以外の解決策が、我には思い浮かばなかった」

光秀に聞こえない様に小さな声で優が囁き、謝罪する。
生き永らえさせる為とはいえ、殺人の少女に罪を背負わせてしまった。これで英雄を気取っていたなど、お笑いだ。
きっと会長や副会長、クラスの友人たちや憧れのヒーロー達ならばもっと賢い方法を選択していただろうが、優はそこまで賢くない。
長年の虐め経験で他者に嫌われ、憎まれることには慣れている。無論それは多大なる苦痛を齎し、ゆえに彼女は自殺一歩手前まで追い詰められたのだが――――今回は不思議と、苦痛を伴わぬ決断だった。
彼女はあまりにも、優しすぎたのだ。かつて友人の為に自らが怪人となった英雄も居たと云うが、皮肉にも彼女の行動は正しくその英雄像に合致している。
尤も優の場合は嘘子と出会ったばかり、それもまともに会話していないので英雄というよりは狂人。過去に虐げられたことが起因して英雄に焦がれたいじめられっ子の末路であり、無力な一般人を命懸けで救った英雄の最期。
最期まで運命に翻弄された哀れな存在ともいえるが、されどそんな滑稽なる道化を嘲笑う者は誰もいない。彼女は己が蛮勇を胸に無謀なる戦へ出陣した立派な戦士。それを嗤うことは武士道に反する。

「――――明智光秀。お前が間違った覇道を突き進む限り……ヒーローは、屈さない!
 悪しき野望(ゆめ)を砕き、必ずお前を正しき光へ、導いて、みせ、る」

僅かに残された命を振り絞り、少女はこの期に及んで夢物語を語る。
そこにはテレビで放送されているヒーローに限らず、会長や副会長も含んでいて。
確固たる信念もなく生きてきた自分と違い、彼らなら光秀を止められると信ずるからこそ、断言出来る。

「そこまで云うのなら、問おう。貴様が信ずる至高の愛を語る英雄の名を」
「我が高校の副会長……愛島ツバキ。我は恋愛に疎いが、彼ならその歪んだ愛を……本物の、愛、に……」

己が最も信じる英雄の名を残して――――少女は絶命した。
その表情は苦痛に歪むこともなく、然と希望を見据えたままに。

「敵ながら、天晴。狂ってはいるが、その蛮勇と忠誠心は実に素晴らしいものであった。
 ゆえにその誇らしい最期を尊重し、貴様の信ずる愛島ツバキと果たし合い、どちらの愛が本物であるか決着をつけよう」

自分の愛こそが至高であり、偽りではないと信じているが、この少女が憧れていた人物には興味がある。
それに二つの異なる意見があるのならば、戦で互いの愛をぶつけ合えば良い。一切の手加減をしないゆえ、その至高の愛とやらを存分に魅せてみろ。

「――少々、疲れたな。まさかここまで、疲労するとは」

此度の戦は盾の生成を数度、超人的な動作を可能とする為に薄い氷の足止め場を作り、刀とナイフの生産を各一度ずつ。
あまり大した使い方をしていないのに、それに見合わぬ想定外の疲労。これは魔力の代わりに体力を消費していることが原因であるが、本人は何も知らない。
だが自分に与えられた能力が諸刃の剣だということは理解出来た。特に刀の生産以降に疲れが一気に増したことから、あれは特に使い所を見極める必要がある。

384偏愛の輪舞曲 ◆laf9FMw4wE:2015/07/19(日) 16:35:06 ID:7FzzBVeg0


「……」

二人の戦士が言葉を交わす傍らで、真紅に染まった氷も溶けて、無手になった嘘子は呆然とやり取りを眺めていた。
たった今死んだ優しい少女の言ったことなんて、所詮はひなと同等の夢物語だ。
この世にテレビ番組で活躍している様なヒーローなんて存在しない。兄の様に噂を広めることで超人然とした人物像に仕立て上げることは出来るが、実際はただの人間である。
それにたとえ愛島ツバキがどれほど凄い人物でも、この明智光秀気取りの少女に勝つことは不可能だろう。一見激戦にみえた先の戦闘も、終わってから彼女の姿を眺めてみれば全く傷が残っていない。
絶望的な戦力差。素人が超人的な身体能力を得ても覆すことが出来ない、圧倒的な技術。一般人や剣道で優秀な成績を収めた程度の人物が束にろうと、彼女に勝つことは到底無理だ。
明智光秀を語っている辺り剣術に自信があるのだろうが、剣もなしでこの実力なのだから恐ろしい。

それに。もしもヒーローなんて存在と遭遇してしまったら、嘘子は殺されてしまうかもしれない。
万が一に光秀に勝利したとしても、正義の味方は罪を犯した殺人者を容赦なく成敗することだろう。
光秀より実力の劣る相手だったとしても、まずは殺人に手を染めた弱者の自分から狙って殺される可能性もある。
何よりも殺人を犯したという罪悪感。ヒーローが訪れてハッピーエンドをプレゼントしてくれても、この罪悪感は永劫消えることはないだろう。
果たして嘘子はそれに耐え切れるだろうか? 心臓を刺した際の感触は、今でも然と覚えている。思い出したくもないが、忘れられない。
だから。そんな未来を否定する為にも、光秀と共に悪人として開き直るという道もある。
一度虐殺を肯定してしまえば、後は楽かもしれない。どうせ生き残るには、自分と光秀以外の全参加者を殺さなければならないのだ。
何の罪もない人を殺してしまった以上、今更何をしても平和な日常には戻れないのだ。ならば悪に染まるのも、有りではないだろうか。
麻生嘘子は、迷い続ける――――。

【金本優 死亡】


【B-2/駅・待合室/1日目/黎明】


【麻生嘘子@アースR】
[状態]:不安、罪悪感、迷い、膝にけが、精神的疲労(極大)
[服装]:ゴシック調の服
[装備]:のぶのぶ@アースP
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜1
[思考]
基本:他人の力を借りて生き残りたい。兄と合流したい。
1:兄さんに会いたい。でも今のままだと…
2:この人なんなの…とりあえず信長のフリしなきゃ
3:ひながいることに驚き
4:こーた…犬とかいってごめんなさい…なんかもっと犬な人が来た…
5:開き直って悪に染まるのもありかもしれない
[備考]
※明智光秀を「変な設定の明智光秀を演じてる狂った人」だと思っています。
※支給品は山村幸太のものと入れ替わっていました。

【明智光秀@アースP(パラレル)】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(極小)
[服装]:アイドル衣装
[装備]:マキタのチェーンソー@アースF
[道具]:基本支給品一式、ポケットティッシュ、ランダムアイテム0〜1
[思考]
基本:信長様の軍を勝利へ導く
1:信長様の牙として信長様に仕える
2:信長様とチームが違うなんて考えもしていなかった
3:信長様はしかしどうやら平和ボケしておられるようだ
4:信長様を励ましながら他の参加者を殺戮する
5:信長様と私だけになったところで信長様に殺してもらう
6:そうして信長様を生かすしかもはや道はないというのに…
7:ああでも信長様めっちゃ可愛いなあ金髪ロリとかさあ
8:正直いって超タイプだし愛し合いたいラブしたい
9:でもまずは戦、戦だぞ光秀
10:戦でいいところを見せて、信長様に明智光秀が必要だと思われないと!
11:愛島ツバキと果たし合い、どちらの愛こそが至高であるか決着をつける
12:疲労が激しい武器の生成は出来る限り使用を控えたい。その他、能力は慎重に扱う。
[備考]
※麻生嘘子のことを織田信長だと思いこんでいます
※氷を操る能力を習得しました。体内に存在しない魔力の代わりに体力を消費します
・ただし彼女の渇望=織田信長を護ることに起因している能力である為、氷柱を射出するなど能力自体で直接的に相手を傷付ける、攻撃性を伴う使い道は使用できません。当たった瞬間に氷が砕け散ります
・能力を応用して武器を生成することも可能ですが、刀程度の大きさともなればあまり維持出来ない上に体力の消耗が激しいです。

385偏愛の輪舞曲 ◆laf9FMw4wE:2015/07/19(日) 16:35:22 ID:7FzzBVeg0

【ドーピング剤@アースF】
筋肉を飛躍的に増大させるドーピング剤。副作用として慢性的な痛みに襲われる。
短時間に複数使用することで細胞が活性化、再生まで行える程になるが副作用が強くなる。

【ユメミルクスリ@アースF】
使用者の根底に眠る願望に起因した能力を与える薬。
ただし病的なまでに渇望している必要があり、これを使用して効果がある者は狂人に限ると言われている。

386 ◆laf9FMw4wE:2015/07/19(日) 16:36:30 ID:7FzzBVeg0
投下終了です

387名無しさん:2015/07/25(土) 23:23:30 ID:VjPT499E0
投下乙
嘘子ちゃん大☆ピ☆ン☆チ

388名無しさん:2015/07/26(日) 17:28:44 ID:VC3CRv.M0
遅ればせながら投下乙です
金本ちゃんのキャラがすごいww武士系ガチムチ女子ww
このキャラの濃さはまごうことなきズガン枠だけどもうちょっと見てみたくもあったなあw
嘘子ちゃんさっそく自分がやばい嘘をついてしまったと知る、でももう戻れない…このシチュが見たかった!
裏目に出た嘘にどんどん深みにはまっていってほしい
そんな嘘子ちゃんを守るために自ら氷の刃を指す金本ネキ、漢だったぜ

389 ◆5Nom8feq1g:2015/08/02(日) 12:17:23 ID:z1sNcr8Y0
投下します。

390ドミノ†(始点) ◆5Nom8feq1g:2015/08/02(日) 12:18:40 ID:z1sNcr8Y0
 

 人は、とても簡単に死ぬ。
 今これを読んでいるあなたの隣でも、毎秒数人の命が失われている。
 おとぎ話。絵本。アニメ。漫画。小説。ドラマ。特撮。架空戦記。
 誰かがどこかで描いたその空想がもし、他の世界での真実なのだとすれば、
 あなたが絶対に知ることのできない場所で生きている沢山の命もまた、一秒でいくらでも死んでいる。

 ひとつの世界でN人死んだら、億個の世界ではN億人死ぬ。
 広げれば、広げれば、広げれば。一秒ごとに世界単位で命は死んでいるともいえるだろう。
 これから描かれるのは、そんな世界を因り合わせて作られた世界での、死のおはなし。
 ドミノ倒しみたいに、あっけなく死んでしまう人間たちの物語だ。


////////|病院|


「ただいまー」
「おかえりなさいです」
「おかえり……ど、どうだった?」
「あー、緊急救護室が荒らされてた。やっぱりさっきのは人だったんだねェ。
 相当焦ってたんだろう、銃で扉を無理やり壊すなんてサ。救急箱も無くなってたし、こりゃあ大ごとだ」
「でしたら……」
「ここも安全じゃないかもねェ」

 救急箱だけ取って逃げるなんて、追われてなきゃやらない動作だしねェ――と。
 見回りをしてきた鰺坂ひとみ(アースMG、元魔法少女のOL)は、コールセンターの入口扉を閉めて同行者に状況を伝えた。
 同行者、ラクシュミー・バーイー(アースE、インド料理店経営)と
 ジェナス=イヴァリン(アースF、魔女見習い)は、伝えられた情報にごくりと唾を呑む。
 起きている。
 自分たちがのんびりしている間にも、殺し合いが起きていると、改めて知る。

「……隠れているのも、限界……?」
 
 彼女たちが……いや、この“世界”に連れ去られてきた全ての参加者が、
 イヤホンの説明によってバトルロワイアルを始めさせられてから、四時間が経とうとしていた。
 そんな中でこの三人の女たちは、幸運なほうだったと言えるだろう。
 表だって戦闘する気のない者たちで集まることも、協力関係を組むことも出来ていたし、
 なによりここまで暴威にも脅威にも狂気にも晒されることがなかったのだから。

「ん。そゆことサ。ラクシュミーちゃんのナンカレーを食べるのももう限界だ。移動すんのが得策さね」
「悲しいです……」
「また安全なとこに移動できたら頼むよ。おいしかったし」

 ナースコールセンター控室の机の上にはカレー皿とナンの切れ端が置かれている。
 ラクシュミー・バーイーがありあわせで作ったもので、これを囲みながら和んだ時間もあった。
 辛すぎて火を噴く鰺坂ひとみ、もう無理辛すぎると泣き喚くジェナス、
 だんだんクセになってきた鰺坂ひとみ、無理無理言いながらも手が止まらないジェナス、
 にっこり笑いながらそれを見るラクシュミーなどの光景が、確かに一時間前くらいまでは存在していた。

 だがそれももう終わりだ。病院だからといって安全とは限らない。
 いま鰺坂ひとみは一人で病院内を見回ってきたが、一人で広い施設を見回るなど気休めでしかない。
 最初のほうに見回った場所に、最後のほうになって偶然殺人者がやって来ていたとしても、
 それを検知できないということなのだから――悪ければすぐ、悪いことは起こりうる。

 例えばナースコールセンターのドアが、突然がちゃりと音を立てたりもする。

「!」
「……!」
「ゼビー」『はいな』

 扉外にはあからさまな人の気配。
 三人は構える。

391ドミノ†(始点) ◆5Nom8feq1g:2015/08/02(日) 12:19:49 ID:z1sNcr8Y0
 
「はー……魔法少女なんてもうやだったんだけどねェ」

 元魔法少女の現OLでありながら、未だ蝿型マスコット・ベルゼビューアとの契約を切っていなかった
 鰺坂ひとみは、襟裏に隠していた彼に声を掛け、さび付いた魔法変身回路に魔力を流す。

「でもその衣装はカワイイと思いますです、ひとみさん」

 転生したインドのジャンヌダルク、ラクシュミー・バーイーは、
 生前に培って今でもキッチンで振るっている包丁(剣)の腕を存分に発揮する蝶の型を取る。

「わ、わたしも……」
 
 病院のトイレに引きこもっていたところを発見されたほどのヒッキー魔女、ジェナスもまた、
 コミュ症の自分を安心させてくれた二人を守るために脳内で呪文を詠唱し始めた。

「嬉しいこと言ってくれるじゃん。……と、来るよ」

 そして扉がゆっくりと開かれる。
 黒い影、比較的大柄、おそらく男――持っているのは剣?
 一番最初にその陰を認めのは扉の一番近くにいた鰺坂ひとみだった。
 十二年前は“最小のマスコットと最大の戦果の魔法少女”と呼ばれていた彼女は冷静に思考する。

 扉の大きさから言って入ってくるのは一人。
 こちらにはひとみとジェナス、2人の遠距離攻撃手がいるし、近距離に持ち込まれても剣術に長けたラクシュミーがいる。
 有利は取れている、はずだ。相手がどんな規格外であろうと、フクロにすれば問題は無い――

「――ひとみさん!!!」

 突然掛けられた声に気付かされる。

 
 自分が見ていた黒い影が、ただの残像にすぎなかったことに気付かされる。


 視界の端に、“侵入者”はいつのまにかもうひとみの隣にいて、
 すでに魔法少女の腹部に向けて一太刀目を浴びせようとしているところだった。
 おいおいちょっと早すぎんだろう。
 せめて考える時間くらいはくれてもいいものを、躊躇もなしか。

「クソが……ァ」

 蝿でもたかるくらいにクソな展開だ、
 そう思いながらも鰺坂ひとみは自分の腹部が両断されていく感覚を味わっていた。
 魔法少女であっても腹部を両断されれば死ぬ。
 これは無理だ、自分はすぐに死んでしまうだろうと、ひとみは逆に冷静に痛みを受け入れた。
 しかしそこは歴戦の魔法少女、
 斬られながらも魔法≪蝿の目≫を展開し、せめてこんな屈辱を浴びせてくれた奴の顔を見てやろうとする。
 だが、それは叶わなかった。

「――ああン?」
「――◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆」
 
 その男の頭部は、仮面に覆われていたのだから。 


 
_///////|ビル街|



「アイドルをやらないか?」
「あは。面白いジョークですね」

392ドミノ†(始点) ◆5Nom8feq1g:2015/08/02(日) 12:20:45 ID:z1sNcr8Y0
 
 三階から四階建てほどのビルの立ち並ぶ北東の街の中心部。
 本来ならば車が行き交うために造られたのだろう広い通りを歩く黒髪の乙女の前に、
 すたすたと歩み寄っていきなり名刺を差し出したのはプロデュース仮面(アースC、プロデュース仮面)だった。

「ジョークではない、本気だ。
 様々な世界を渡り歩いて何人ものアイドルをプロデュースしてきた私だからこそ分かるが、
 君には天性の強運と人を引き付けるカリスマというものがある。きっと最高のアイドルになれる。
 私の仮面の裏には君が武道館で一万人のファンを救済している姿がすでに見えているぞ」
「ここが殺し合いの場だってこと、分かっていますか?」

 謎の仮面を被りつつ、深く礼をして頭を下げ、まるで首を自分から差し出すかのような格好の男。
 これに対し黒髪乙女はデイパックから業物を取り出して、舌をちろりと舐めてくすくすと笑った。
 委員長じみた口調の彼女は女学生にして殺人鬼、剣崎渡月(アースR、人殺し)である。
 彼女はアイドルとしてちやほやされるのなんかより、人を斬ってほかほかの血を浴びる方が好きだった。
 獲物を探して街を歩いていたところに思わぬ形でのナンパを受けたが、
 日常的に殺し合いゲームに参加していた彼女にとって、ここでやることは変わらない。

「スカウトは嬉しいですが、返事はノーです。首を斬らせていただきますね」
「待て、剣戟もできるのか? 時代劇アイドル――そういう方向性もあったか、やはり逸材!!」

 手に入れた業物「三日月宗近」を振るい、
 いまだ状況が分かってないらしいプロデュース仮面のいけすかない仮面を叩き割ろうとする剣崎渡月は、

「ん?」

 そこで空気を切り裂くように身近に迫っている“なにか”の音を聞き、肌を粟立たせる。
 まずい。
 即座にバックステップ。
 ワンテンポ遅れて飛来した銃弾は、プロデュース仮面の肩を上から貫き、鮮血をまき散らした。

「む……!!?? なんだこれは……胸のドキドキが急に高鳴ったと思ったら止まった……!?」
「それは多分、スナイパーに心臓を打ちぬかれたんだと思いますよ」
「おお……スナイパーか。スナイパーアイドルも……いいな……」

 最期までアイドルのことを考えながらばたりと倒れて動かなくなったプロデュース仮面を後目に、
 渡月はさらにジグザグにバックステップを取りながら目線を上げて銃口を探す。
 そう、スナイパーだ。
 スナイパーがこちらを狙っている。おそらくは消音付きのライフルで。
 これまで平沢茜という悪魔の下、様々な殺し合いゲームに参加した渡月ではあるが、

「スナイパーはさすがに……二度目くらいですかね? ――っと!!」

 前方視界の右端がキラリと光ったと共に、肩を打ちぬかれていた。
 距離50、四階建てのビルの上から。どうやらかなりの腕とみた。

「あは、惜しかったですね。スナイパーさんの位置は今ので割れてしまいました。
 位置が割られたスナイパーは、狩る側から狩られる側に回る、というのがこの世の中の摂理です」

 ぐいと引き気味だった体を前へ起こして女学生はスナイパーの元へダッシュする。
 彼女は逃げ惑うエサではない。むしろ獰猛なライオンだ。
 殺した数は34。まだ若いからもっと殺せる。
 目指すはいつだったか朝読書の時間に読んだ、自分に似た殺人鬼のスコアである45。

「では、殺人をさせていただきますね」

393ドミノ†(始点) ◆5Nom8feq1g:2015/08/02(日) 12:21:56 ID:z1sNcr8Y0
 
 東雲駆や麻生叫といった人物たちにはそれでも悲しい過去があったが、彼女には全くない。
 職業学生兼人殺し。
 剣崎渡月という少女は殺すために生まれ殺すために生きている、天性のシリアルキラーである。



__//////|ビル屋上|



(うっそやろ……あかんでしょう。
 俺のスナイプ避けて、しかも位置押さえて、速攻潰しに来るて? 血の気しかないやんけ)

 同時刻、ビルの屋上では近畿純一
 (アースM、エセ関西弁の防衛狙撃手)が頭に手を当てて顔をしかめていた。
 完全に仕留めてあげるつもりで撃ったアサルトライフルは女学生の肩口をかすめただけだった。
 あの女学生、スナイパーからの避け方を知っている。
 銃口を光らせた瞬間に反応速を上げてきたのが証拠だ。間違いなくカタギの人間ではない。
 裏組織のエージェントか、雇われの傭兵か……
 ただの女学生にしては目が据わっているとは感じていたが、厄介なものに手を出してしまった。

「んー、こりゃ辿り着かれんのも時間の問題やな。あー、欲ばるもんやなかったなぁ……」

 むしろのん気に両手を挙げて欠伸すらしてしまうほどに残念な展開だ。
 ああ、幸いにも使い慣れたものに似たライフル銃が支給されて調子に乗ってしまったか。
 あるいは最近知り合いの恋人と遊んだバチでも当たったか。
 こんな早くにピンチに追い込まれるとはなあ、と整髪料で逆立てた頭を掻く。

 近畿純一は欲望のままに生きるタイプで、その点では殺人鬼・剣崎渡月に似ていた。
 肉が食べたいと思えば肉を喰う。銃が撃ちたいと思えば撃てる職に就く。
 眠りたいと思えば任務最中でも寝てしまうし、女を抱きたいと思えば抱く。
 もちろん友人の彼女には手を出さないくらいの義理は持ち合わせているが、それも時と場合だ。
 
 そういう男だから殺し合いに乗るのも躊躇しなかった。
 候補名簿には光一やみゆきの名もあったが、同じチームでなければ殺すと決めた。
 純一なら殺せる。目の良さとスナイプの腕には自信があった。
 どんな敵だろうと遠目からチームを判断し、
 別チームであれば即座に頭を吹っ飛ばしてあげることで、生き残るくらいはできるはずだった。
 それがまさかこんなに早くスナイプに失敗して追われる側になろうとは。

「ま、計算が甘すぎたわな……しゃーない、返り血のひとつでも浴びますか」

 やってしまったものは仕方がないので切り替えることにする。
 純一はビル裏で拾っておいた鉄パイプと、支給された大ぶりのクナイをデイパックから取り出して、
 これから屋上へ上って後ろのドアを開けてくるだろう女学生との戦いに備えて構えを取ろうと後ろを向いた。

「……あ?」

 その首元に突き付けられたのは、変わった刃形状の剣である。
 一般にフランベルジュと呼ばれるその剣波状の刃は、美麗な見た目に反し削り取られるような傷を人体に与える、
 決闘よりは拷問道具に向いている武器であった。

「あー……どちらさま?」

 屋上の扉はすでに開いていた。
 スナイパーへの訪問客はひとりではなかった。
 金毛の野獣が仁王立って、理性に研ぎ澄まされた瞳で純一を見下ろしていた。

394ドミノ†(始点) ◆5Nom8feq1g:2015/08/02(日) 12:23:05 ID:z1sNcr8Y0
 
「ラインハルト・ハイドリヒ。――地獄でこの名を復唱しろ、殺人者」

 男はゆっくりと名乗った。それは無慈悲な宣告だった。口答えの時間は、近畿純一には残されていなかった。



___/////|もういちど、病院|



 ラクシュミー・バーイーは動かなくなった鰺坂ひとみの口にナンの欠片を入れてあげた。
 もう一度食べたいと言っていたからだ。
 ただ、追加で作ることは出来そうになかった。ラクシュミー・バーイーもまた、片腕を失っていたからだ。
 ついでに言えば片脚も喪っていたし、先ほどから頭の左後ろのほうの感覚もなかったが、
 料理人のラクシュミーとしてはとにかく腕が片方なくなってしまったのがショックで、店じまいすら考えた。

 扉が開く。

「オイオイ、この匂い成分は……」
「血……死体、ですね……」

 二人の青年が中に入ってきたのを確認すると、ラクシュミーは力なく笑いかけた。

「あの……ラクシュミー・カレーハウス、にいらしゃい、ませ。
 何も出せませんが、ごゆっくり……ど……ぞ……」
「!!」
「だ、大丈夫で――あ、頭が――!!」

 泉で一戦交えたあと病院にたどり着いた青年二名、
 巴竜人(アースH、三乗改造人間)と道神朱雀(アースG、四重人格神見習い)は、
 営業スマイルをしてくれた褐色店員さんの後頭部が鋭利な刃物によって斬り削られ、
 そこから薄血の桃色脳漿が漏れ出しているのを確認すると驚きに打ち震えた。
 見れば、彼女が残ったほうの片膝でひざまくらをしているOLじみた風貌の女性も、半身しか存在していない。
 もう半身は壁に叩き付けられてしまっている。部屋中に血が飛び散っていた。
 部屋中には戦闘痕もあった。
 ナースコールセンターは血の嵐が吹き荒れた戦場ヶ原へと変貌してしまっていた。

「誰がやった!!」

 うつろな瞳で息をする褐色店員に駆け寄ると肩を揺さぶり、竜人が叫ぶ。
 強く話しかけることで意識を保たせようとする。もうすぐ死んでしまうのは明らかだったからだ。
 褐色店員のほうもそれに応えようと口を動かす。
 か細い声で――紡がれたのはしかし、巴竜人の脳をさらに動揺させる言葉であった。

「ひーろー、でした」
「――なっ!?」

 後ろで朱雀も目を見開く。
 ヒーロー?
 それは、巴竜人の職業にも通ずるはずの――。
 
「“仮面のヒーロー”と、“悪魔の剣”……ジェナスちゃんが……危ないです……」

 そこまで絞り出すと褐色の少女、ラクシュミー・バーイーは不自然に前傾し、そのまま崩れ落ちた。
 背中にも深い切り傷があり、そこから大量の血が流れ出ていたのが分かる。
 素人でも分かる。これは剣の傷だ。それもとても大きな。

「竜人さん……」
「悪魔の剣――ヒーロー……? どういう……」
「りゅ、竜人さん、あれを!」

 唯一残った脳をフル回転させて思考をする竜人だったが、それは朱雀の発見に遮られる。
 朱雀が指差していたのはテーブルだった。そこには三人分のカレー皿が残ったままになっていた。
 すぐに竜人も察する。
 ここに今つくられた死体は二つ。
 襲撃者が去ったのだとしても、三つの皿が存在する以上、襲撃前には“三人”いたと考えるのが自然だ。
 加えて最期にラクシュミーが喋った言葉――「ジェナスちゃんが危ない」。

395ドミノ†(始点) ◆5Nom8feq1g:2015/08/02(日) 12:24:16 ID:z1sNcr8Y0
 
「もう1人……居た? 逃げてるってのか?」
「た、――助けにいかない……とッ!?」
「ああ! ん……朱雀、どうした?」

 ヒーローとして意気よくナースコールセンターを後にし、救助者の下へ向かおうとよした巴竜人は、 
 朱雀の様子が急におかしくなったのに気付く。
 胸を抑え、苦しそうな表情。
 ……まさか。

「ごめん、竜人――また人格が変わるみたいだ――!」
 
 
 
____////|ビル屋上|



「あは、先客がいたんですね。でも良かった。おじさま、刃ごたえのありそうなオーラが出てますね」

 薄紫の空の下、女学生が日本刀を構える。

「――なぜ殺す?」

 広い空を背に金毛の尋問官は無感情に問う。対峙する女学生はクールに返す。

「殺したいからです」
「……」
「一番が好きでした、昔から。勉強も運動も、誰かに負けるのが嫌で嫌で。
 人より上でありたい・人より下でありたくない・人を下していたい。人間の本質的な競争欲ですけれど。
 私はそれを抑えなかった。抑えようとしなかった。でも、あるとき気付いてしまいました。
 人を殺すということは、自分がその人より永遠に上であると示す行為であると言うことに」

 仮に人生がリレーだとするならば。
 殺した人からはもう抜かし返されることは絶対にありませんから。
 淡々と女学生はそんなことを言った。

「なので――あなたも殺して、永遠の上位を手に入れるんですよ」
「そうか」

 ラインハルトもまた淡々と頷き、再確認したとでもいう風に呟いて、フランベルジュを振るった。

「やはり、人間は無価値だ」

 剣と刀の合わさる甲高い金属音は殺し合いの合図だった。



____////|数分後のビル下|
 
 
 
 黒いドレスの少女が走っている。かと思えば消える。
 一瞬後、3mほど先に現れ、また走る。
 ジェナス=イヴァリンは魔法に関してはかなりの才能を持っていた。
 人付き合いの才能と反比例するくらいそれは強い才能で、彼女は齢16にして特級魔法までマスターしていた。
 ファンタジー世界でもなかなかお目にかかれない、ショートワープの魔法が使えるのも才能あってこそだ。

「……ッ! ……ぅぅううッ!!」

 しかしジェナスの表情からは才能ある者特有の優雅な雰囲気など一ミリも感じられない。
 なりふり構わず走るその顔は涙と汗と鼻水と涎で汚れていて、生きること以外のすべてを後回しにしている。
 それほどに追いつめられていた。 
 追われていた。命を狙われていた。殺されかけていた。

「ぅ……え!?」

396ドミノ†(始点) ◆5Nom8feq1g:2015/08/02(日) 12:25:43 ID:z1sNcr8Y0
 
 そんなジェナスの目の前に現れたのは死体である。
 頭がトマトめいて潰れた落下死体。
 顔が原型をとどめておらず、細身の男だということくらいしか分からなくなっているそれが、
 奇跡的に地面に刺さったかのように逆直立した状態でぷらぷらと手足を揺らしながらジェナスを出迎えた。
 ショックを受けざるを得ない光景に足がブレーキを勝手に掛ける、


「――◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆」


 その瞬間、背後に近づいていた“ヒーロー”が、言語無き鋭角な叫びを伴いながら黒の魔少女に襲いかかった。



「邪魔だ!」「邪魔です!」

 そこへ、流星が落ちてくる。
 ジェナスがショートワープの術式を辛うじて脳内詠唱し、発動し終えたその瞬間、
 それを間に合わせず彼女の首を跳ね飛ばす予定だった刃の上に男性の皮靴裏がストンピングされる。
 次いで金属音、金属音、剣戟による火花音、火花音、火花音!
 高速戦舞を踊りながら、はためかせたスカートを抑えつつ、
 黒髪ロングの女がその手に携えた銀の日本刀の柄で“ヒーロー”の胸板を蹴った。
 完全に虚を突かれた“ヒーロー”がバランスを崩した空隙を逃さず、金毛の尋問官が追いの拳を叩きこむ。

「――◆◆◆◆◆◆!!!」

 たまらず吹き飛ばされる“ヒーロー”。
 ようやく着地した二名の剣士が、本当に偶然だがジェナスを守るような位置で“ヒーロー”の方を向く。
 ここでジェナス=イヴァリンが遅れて状況を把握した。
 金髪と黒髪の、この二人……どこかのビルの屋上から、“落ちながら戦っていた”のだ!

「おい、誰だこの野蛮人は! 君の知り合いか?」
「こんな変なコスチュームで変な剣を持った変な人は知ら……いえ、どこかで見たような……?」

 ともかく強い人たちであることには間違いなさそうなので、ジェナスは声を掛ける。

「……あ、あの! あ、あなたたち……!」
「む?」
「あは、もう1人いらしたんですね。可愛いお顔ですね、お名前は? どこ住み? LINEやってる? どうしてここに?」 
「ジェナス=イヴァリンです……お、追われて……!
 一緒に居た人、みんな殺されて……逃げろって言われて……えぐっ」
「泣くな小娘、そんな暇があるなら戦え」
「おじさま、レディーの扱いがなってないと思いますよ。そう、殺されたの。じゃああの人が殺したの?」
「う、うん……っ」
「そうなの。それは僥倖ね。
 ああ、私は剣崎渡月。こっちのおじさまはLINEアプリさん、でしたっけ?」
「ラインハルト・ハイドリヒ(アースA、ドイツ国家保安部長官)だ、覚えろ」
「覚えました」

 剣崎渡月はにこりと笑った。
 ぎぎぎ、と音を立てて、剣を杖のようにして立ち上がろうとする“ヒーロー”を見ながら、楽しそうに笑った。

397ドミノ†(始点) ◆5Nom8feq1g:2015/08/02(日) 12:26:45 ID:z1sNcr8Y0
 
「それと、少し思い出しました。彼は私の住んでいる町のとなり町にある学校の生徒会長です。
 有名人なんですよ彼。どうしてああなってしまっているかは――たぶんあの剣のせいでしょうか」
「セイトカイチョウ?」
「生徒会長とは何だ?」
「知らないんですか? ……ふうん、面白いですね」

 世界観の違いからくる常識の祖語に三人は首を傾げる。
 しかしその祖語についてを論じている暇はない。
 “ヒーロー”が、立ち上がったからだ。



「◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆……」

 その“ヒーロー”は異形の仮面と白のマントを身に着けている。
 仮面は今時の特撮ドラマに出てくる、昆虫にも似たフォルムの巨大な両目が印象的なヒーローのものだ。
 ただ仮面と言っても丈夫さは皆無だ。夏祭りの屋台で売られているタイプのゴム耳止め紙マスクでしかない。
 服装は白のマントに大部分が覆われているものの、見える部分は学生服のようだ。
 ただこれも、マントには返り血がおびただしくこびりついているため、潔白さは失われてしまっている。
 どこまでも作り物で、さらに汚れてしまっているヒーロー衣装。
 物悲しくすらある。

 最後に、何よりも目を惹くのが――彼が握っている、いや、“握らされている”獲物だ。

「あは……美しい剣、ですね」

 それは美しい銀色の幅広剣であった。
 魔の存在であることを示す蝙蝠翼の意匠があしらわれた鍔をはじめとし、
 柄までが漆じみて艶のある深黒に染まっているが、それが剣身の銀色をむしろ引き立てている。
 刃の中心線――樋が深く掘られた剣身はまるで血を吸いたいという意思が込められたかのように仄暗く輝いていて、
 殺しに精通するものが思わず共感を覚えてしまうほどの殺戮力を備えていることが分かる。

 その支給品は、実際に意思を持つ。
 細かく見れば分かることだが、出来そこないのヒーロー衣装の少年の握り手が、
 剣のグリップから伸び出た黒色の根のようなものに浸食されているのがその証拠だ。
 
 生体魔剣セルク(アースF)。
 落ち延びた魔族の皇子の魂が封じられた呪いの剣。
 “ヒーロー”はその剣に、寄生されている。
 
「……あの剣……魔力……闇の魔力を感じるの。
 つ、強い……間違いなく、普通じゃない力。しかも、二種類……」
「二種類?」
「うん……剣に本来宿っていた魔力と、それをブーストしてる魔力……。
 頭がおかしくなりそうなの……魔法学校の先生にも、あんな化け物じみた魔力を扱ってる人、いなかった……!
 とくにブーストしてる魔力、おかしい……ふざけてる……絶対、勝てないよっ……に、逃げないと……!!」
「――その魔力というのは、己には見えん」

 ジェナスが引っ張った袖を振り切って、ラインハルトが前に進み出る。

「ただ、“お前が嘘をついていない”ということは己には分かる。
 長年の勘でな。嘘をついている人間の目はだいたい見分けられる。全く煩わしいことだがな。
 ……なるほど目の前の彼は化け物だ。およそ人間では培えない、魔力とやらも持っているのであろう。
 だがだからといって敵前逃亡の選択肢を取るのは、少し早いと己は思う。
 見たところ彼は狂っている。剣がどれだけ強かろうと――使う頭がなければ無用の長物だ」
「それにこちらは3人ですしね、おじさま」
「お前は先まで己と殺し合ってたのを忘れたのか……仕方ない。今だけ共闘の許可を出す。
 他人、しかも犯罪者と共闘など虫唾が走るが、責務遂行のためには時には信念を折ることも必要だ」

 しかめ面のラインハルトの横にうきうきとした表情で渡月が並び立つ。
 軍官の横に黒髪ロングのブレザー女学生が並び立つさまはまことに滑稽だ。
 ついでに言えばその後ろには黒ドレスの魔少女すら控えているし、
 対峙するのは凶刃に囚われた“ヒーロー”だと言うのだから混沌とした取り合わせに限りがない。

398ドミノ†(始点) ◆5Nom8feq1g:2015/08/02(日) 12:28:40 ID:z1sNcr8Y0
 
「◆◆◆◆◆◆◆◆!!」

 それでも――キャストがいかな色物だろうと舞台は止まらず、参加者たちは踊らされ続ける。

「全く……アカネとやらは己たちに何をさせようとしているのだろうな!」
「殺し合いでしょう?」
「……もうやだぁ……」

 魔剣と日本刀とフランベルジュの輪舞曲の開始だ!


 
____////|ビル街を飛びゆく影二つ|



「悪ぃねぇ、巴(とも)やん。主人格である朱雀くんならうちらの能力、わりと自由に使えるんやけど」

 同時刻――ビルとビルの壁を垂直に蹴って、
 空の改造人間スカイザルバーとなった巴竜人に追いすがる機動を見せる朱雀少年の姿があった。
 その瞳は少々細められ、纏う雰囲気は知的で落ち着いたものになっている。
 神様見習い、道神朱雀の中に入っている四つの人格――そのひとつ、玄武の人格だ。

「青竜の『炎』、白虎の『加速』に比べると、
 うちの『重力操作』は使い勝手も悪いし、こんな時に出てきてしもうてホント申し訳ありまへんわあ。
 あとほら四聖獣ものでも玄武ってかませなことが多いやん?
 うち、ホンマは戦いたくないんやけどねえ……どうして出てくる羽目になったのやら。ああ、怖いこと、怖いこと」
「……とりあえず、朱雀の容姿で女言葉で話されるとこう、驚くよな」
「まあ。でも以外と女装似合うんよ? この子。次の戦場を無事に切り抜けられたら見せてあげましょか?」
「いや、別に見たかねぇよ……」

 確かに四つの人格が全部男であるとは言われていなかったが、
 玄武が思い切り関西方面の言葉遣いのおなごであったので巴竜人は複雑な気分になっている。
 それにこの知的でミステリアスな感じは、彼の師匠である女性にどことなく似ていたのだ。

(そういえば……『先生』も、相手によって態度と口調がわりと変わる、多重人格みたいな人ではあったな……)

 回想に入ろうとして、しかしその思考を振り切る。
 今は昔の思い出に浸る時ではない。現実問題として一人の命が危機なのだ、ヒーローとして助けにいかなくては。
 朱雀の人格が変わってしまったときにはヒヤリとしたが、幸い戦火を交えた凶暴な青竜ではなかったので良かった。
 間にあえば、巴竜人はヒーローを全うできる。間に合えば。

(いんや、たらればじゃねえ。間に合わせる――!)

 ……ヒーローと言っていた。魔剣を振るい病院を血に染めたそいつは、ヒーローだったと。
 ヒーローとして生きている竜人にとっては、ヒーローを貶めるような行為を取るそいつは許せなかった。
 しかし、可能性は低いが、自分や朱雀のように“暴走”しているだけだったり、
 操られてしまっているという場合も竜人は想定している。
 その場合はかの襲撃者に追われているジェナスという子だけではなく――襲撃者自身も救う必要がある。

 自身の状態にも嫌なフラグを抱えながら。
 だれより多くの悲劇をくぐりぬけ、それでも人間で在り続けるヒーロー巴竜人は、悲劇の回避を切に願う。
 聴覚を強化された彼の改造耳にはすでにただならぬ剣戟の音がかすかだが響いていた。
 そう遠くない。

(頼む、待っててくれ……! 俺が、全員救う――!!)

 ヒーローはスカイザルバーの翼により力を籠め、玄武と共に現場へ急行する。
 そんなヒーローを横目に、玄武はぽつりとつぶやいた。

「……ヒーロー、なあ。その思想は、崇高やけど……使命に呑まれんように、ほどほどにするんやで、巴やん」

 神見習いの亀の言葉が何を案じているのか、神ならばあるいは、知っているのだろうか。


.

399ドミノ†( ◆5Nom8feq1g:2015/08/02(日) 12:30:04 ID:z1sNcr8Y0
____////|はじまり|



 大空蓮(アースR、生徒会長)は、遊びに全力な、頼りになる兄ちゃんという言葉が似合う少年である。

 過去に親友がいじめられていたのを諌めた経験から、彼は自分をヒーローの役に置くことを決めていた。
 荒事が起きれば自作の仮面とベルトを装着して現場に向かい、
 虐げられている者を救い、虐げていたものに制裁を加える。
 体力テストで全て最高点を取れる持ち前の運動神経と身体能力は、彼の学園の平和のために存分に使われていた。

 だからこの殺し合いに呼ばれたとき、彼は主催者に尋常ならざる怒りを覚えたし、
 その次に考えたことはといえば、親しいものや弱きものがこの場でいたぶられ、殺されるのを止めることだった。
 支給品は三つ。
 身を軽くする魔法のマント(アースH)、屋台のヒーロー仮面(いつも使ってるのと同じもの)、
 まさかの仮面の本人支給に嬉しがりながらまず二つを装着すると、本当に自分がヒーローになった気分になった。

(よし、沢山の人を救おう。きっとツバキも応援してくれる) 

 かけがえのない親友である愛島ツバキのことを思いながら、
 大空蓮は最後の一つの支給品である、黒い柄をした銀色の剣に手を伸ばした。
 どんなわるいやつでもやっつけるつもりで。
 主催者が用意した中でも有数のハズレ支給品かつ最悪の支給品であるそれを、握って、しまったのだ。



____////|おわり|



「◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆!!!!!」

 ――加速。

「◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆!!!!!!」

 ――加速。

「◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆!!!!!!!」

 ――加速、加速、加速、加速。

 呪いを鍋で煮詰めたかのようなおぞましい叫び声と共に戦場の速度は上がり続けていた。
 剣が振るわれる速度が、刃が鳴り火花を散らす速度が、
 地面を足で蹴る速度が汗を流す速度が傷を負う速度が思考速度が限界を超えてなお上がり続けていた。

 速度。

 それは意思なき呪いのみで動く魔剣が、思考することができる人間に勝利するための知恵。
 シンプルな浅知恵にして、効果的な戦略。
 ラインハルトも渡月も、気づいたときには遅かった。
 魔剣のがむしゃらで隙だらけの太刀筋も、人の思考速度を無視して振るい、
 その隙を突く暇を与えずに重ねて重ねて重ね続けることでガードを破り、肉を裂き、骨を割る。
 一撃の重さもかなりある。速度の乗ったそれは、いずれ命すら穿つ。

「やりますね……!」
「殺人鬼が防戦一方とは、面白い光景だな」
「尋問官さまにだけは言われたくありませんけど!」
「全く、君は早く死んでくれないかね!」

400ドミノ†(終点) ◆5Nom8feq1g:2015/08/02(日) 12:30:50 ID:z1sNcr8Y0
 
 こうなってしまえば人間は、人間である以上後手に回らざるを得ない。
 幸運は接近戦に長けた者がこの場に二人おり、相手の手数を事実上半分ずつ引き受けられることだろうか。
 早々に鰺坂ひとみを失ったラクシュミーもこの二人に劣らぬ剣術の心得はあったが、
 ラクシュミーが五分と持たなかったのに対し、
 ラインハルトと渡月がある程度魔剣の攻撃を捌けているのは、つまりは単純な手数の違いだった。
 そしてそんな数の不利をあざ笑うかのように魔剣の速度はさらに上がっていく。

「あ、あんなの……宿主の身体が持たなくなるんじゃ……」

 後方から時折闇属性の攻撃でサポートするジェナスがおどつきながら懸念するもその懸念はハズレだ。
 ある程度の動体視力があれば見えることだが、
 大空蓮に絡みつく魔剣の枝触手は、戦闘開始から今までその数と面積を増やし続けている。

 生体魔剣セルクは宿主の戦闘欲や加虐欲に働きかけ、
 それを増大させると共に、より自らとのシンクロ率を高める“浸蝕”も同時に行っている。
 じきに人から魔剣へと、彼の身体の構成物は置き換わってしまうのだ。
 そうなればもう最悪、魔剣は魔剣のまま人の身体を手に入れ、魔王へと昇華される。

 さらにひどいことに、本来ならば年端のいかぬ少女でも抑えられるはずのその呪いじみた浸蝕力は、
 主催側に居る老齢にして醜悪な錬金術師の魔術により、ブーストされてしまっている。

 
「◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆!!!」


 泣き声にも似た叫び声は、浸蝕の痛みによってあえぐ大空蓮自身の声なのかもしれなかった。
 “大空蓮”は消滅し、その身体が魔王セルクへと変貌するまでどれほどなのか。
 少なくとももう、腕を通り越して肩まで、黒の枝は到達しようとしている。

 一秒に六回繰り出される剣戟を捌きながら、ラインハルトがため息を吐くのも致し方ないことだった。

「……協力など、何十年ぶりか」
「?」
「後ろの黒の小娘。落ちながら己は見ていたぞ。お前は、瞬間移動じみた技を使えるだろう」
「え……は、はい……」
「今から口頭で作戦を伝える。全て覚えてその通りに動け。敵を無力化する」
「……は、はいっ」
「それと舌悪な殺人鬼」
「丁寧語を使っているのに舌悪って言われたのは初めてですよおじさま」

 渡月は頬を膨らませる。
 その仕草には年頃の少女のような可愛げがあったが、ラインハルトは無視して続けた。

「今から、己は最も得意とする剣術スタイルに戦闘方式を変える。
 ゆえに〆はお前が担当しろ。お前は人間のクズどころの騒ぎではない汚物存在だが、その剣の腕だけは本物だ」
「その言い方で人が素直に言うことを聞くと思っているなら、なかなかあなたもクレイジーですね」
「せいぜい良い働きを見せろ」
「無視は悲しいですよ」

 ラインハルトは構えを変えた。
 腰を低く落とし、足を前後に開く。剣は地面に平衡に、突きの構えを取る。

 金毛の尋問官が最も愛している剣術は――フェンシングだ。


「――Prêts?(準備はいいか?)」


 作戦の説明は手短に済ませ、
 ラインハルトはドイツ人らしからぬ流暢な仏語にて開始の合図を化け物に問うた。
 化け物は意味のない叫びで返すのみだった。
 ラインハルトは思う。
 人間は無価値な憎むべき生き物だが……思考することすらできぬ化け物は、ただただ哀れだと。
 ただただ、哀れでしかないと。そう思った。


「Allez!(始めるぞ!)」

401ドミノ†(終点) ◆5Nom8feq1g:2015/08/02(日) 12:33:23 ID:z1sNcr8Y0
 
 
 合図と共に動く。
 まず剣崎渡月が一旦魔剣から離れ、側部へ、そして後方へと移動を試みる。
 魔剣は剣であるがゆえに、視覚情報などを人間部分に頼っている可能性があった。
 挟み撃ちを強いることで人間部分の対応力を越えることができれば、さらなる隙へと繋げることが可能かもしれない。

「◆◆◆◆!!」
「お前の相手は、己だ」

 魔剣は追って渡月へと斬りかかろうとしたが――そこへラインハルト。
 空気を切り裂く鞭のような音。
 踏み込むと同時に飛び離れるような高速の剣さばき、突きと返しの閃き、フェンシング。
 ラインハルトはフェンシング仕込みの鋭い突きでヒット・アンド・アウェイを繰り返す。
 ヒット時は極限まで迫っているのに、離れればそれはもう生体魔剣の間合いの外。おそるべき脚力だ。

 つまり手数が何だ、当たらなければどうということはない、ということである。
 牽制のフェンシングで与えられる傷はかすり傷にすぎないが、じわじわと削る上に、
 いざとなれば心臓を突くことも可能なフランベルジュという武器選択。無視はできないいやらしい攻撃。
 そしてラインハルトのほうにばかり気を取られれば、後ろに回った渡月の格好の的……。

「――――◆◆◆◆◆、◆◆◆◆◆……!」

 魔剣は自分の今までのやり方に“対策”されたことを感じ取ったらしい。
 動揺した……というよりは、ルーチンを組み直しているかのような、若干の挙動硬直がみられた。
 シークエンス・プログラムされた機械のように、無感情にこちらの対応に対応を返そうとしている。
 そしてこの隙はおそらく、剣で踏み込むべきではない。
 機械的であるがゆえに人間の対応力よりはるかに早い切り替えの後に首を跳ね飛ばされるのがオチだ。

 しかし銃弾ならば一手早い。

「やれ!」
「……当ったれぇえええええええええええッ!!!!!」

 ビルの屋上から黒き小さな魔女の、喉全開の叫びが轟く。
 彼女の魔法、3mのショートワープは横方向よりもむしろ縦方向でその真価を発揮する。
 ラインハルトが近畿純一を殺し切るくらいの時間がかかってしまうはずのビル屋上への移動を圧倒的速度で成し遂げ、
 ジェナス=イヴァリンはアースFにはあまりない狙撃手の忘れ形見を、即興の知識で仲間の仇へと撃ち放った。

 彼女には実際、ラインハルトと渡月に割り込まれ命を拾った瞬間に逃げるという選択肢もあった、
 でも引きこもりの彼女と少しの時間だったけれど一緒に過ごしてくれた仲間二人の仇を、取りたいというエゴくらいは持っていた。
 瞬間的な思考硬直の隙を突いた完全な一撃。
 銃弾は反射神経などでは避けられぬ速度で、魔剣の化け物へと迫る!


「◆◆◆、◆!!!」

 
 魔剣は辛うじて、大剣の剣身を盾とし、その銃弾を弾くことに成功した。
 それが詰めへの最終手順になっていると気付いていながらも、そうせざるを得ない。
 完全に無防備になった背面へと迫るは日本刀、殺人鬼、剣崎渡月。
 女学生は慣れた手付きで大空蓮の身体を切断しにかかった――その右腕を!!

「――――――◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆!!!!!」
「ああ……久しぶりの、感触です♪」

 赤い靴を踊らされ続けた少女がその足を斬られてしまったように。
 銀の剣で斬らされ続けた少年はその腕を斬られることで、正気に戻すことができる。


 黒の右腕が宙を舞う。


 魔剣と魔剣に浸蝕されていた腕はしばらくはびたびたと跳ねていたが、
 エネルギー不足か、すぐに動かなくなった。

402ドミノ†(終点) ◆5Nom8feq1g:2015/08/02(日) 12:34:59 ID:z1sNcr8Y0
 
「これで終わり、ですね」

 腕だけを斬るこの作戦に違和感を感じる人もいるかもしれない。
 人間嫌いのラインハルトが、人間を魔剣から助けたという形になったこの結末――。
 ただ感情論で言えばこれは慈悲にもなるが、実際はラインハルトの冷酷な判断によるものだ。

 おそらくここで、完全な無防備の形からなら渡月には少年の殺害も可能だった。
 それをしなかったのは、寄生されている以上宿主が死んでも動く可能性を考慮する必要があったからだ。
 確実な“無力化”ならば必然的に腕を跳ね飛ばすのが一番合理的という結論になる。
 それだけの、ことである。

「あ……」

 だからラインハルトは、正気を取り戻して、
 ヒーローの仮面を取り落した少年の、嬉しそうで、でもいまにも泣き出しそうな表情を見ても何も思わない。
 何も感じない。
 ただただ、職務をまっとうするためにフランベルジュを持って歩み寄るのみ。
 ジェナスの様子を見ていれば分かる、魔剣に寄生されていたとはいえ、少年は殺人を犯した。
 ラインハルト・ハイドリヒの倫理では――人を殺した者は、殺されなければならない。

「ありが、とう……ござい、ます……」
「感謝を述べるな、反吐が出る」

 その感謝が嘘ではないことが分かってしまうラインハルトにとって、
 少年の胸に突き立てようと振りかざすフランベルジュは、珍しく重みを感じるものだった。




「そうそう、ありがとうだなんて言わない方がいいですよ」

 だからだろう。
 ラインハルトは、少し遅れてしまった。
 少年を一撃で逝かせる攻撃を執行したのは、ラインハルトではなく剣崎渡月であった。
 少年の首が、跳んだ。

「だって私もそこの人も、“ヒーロー”なんかじゃない。自分のエゴを貫いただけですから」

 ねぇ、そうでしょう、おじさま?
 変わりない笑顔を向ける剣崎渡月は、大空蓮の首を刎ねたというのに顔色一つ変えていない。
 驚くべきことかどうなのか、彼女は三日月宗近はもう持っていない。
 剣崎渡月がその手に携えている業物は、先ほど自らが斬り飛ばした、生体魔剣セルクへと変わっていた。
 生体魔剣は、殺人鬼の手に。

「え……あ、あの……何を、して……?」
「……やはりな」

 スナイプの役割を果たしてラインハルトたちの元へと帰還したジェナスが口をあんぐりと空けて固まる。
 一方でラインハルトは、この状況を予見していたようで、目を細めつつため息。

403ドミノ†(終点) ◆5Nom8feq1g:2015/08/02(日) 12:36:21 ID:z1sNcr8Y0
 
「最初からその魔剣狙いだったんだろう、殺人鬼。
 先ほどまで殺し合っていた己に協力を持ちかけたのも、そこの小娘に優しく話しかけたのすら。
 お前自身がその剣を手にし、己を殺すための布石。――知っていたのか? その剣のことを」
「ええ。私はこう見えても、大衆向け・マニア向けを気にしない乱読家ですので。
 『ハイルドラン・クエスト』、けっこう面白いんですよ。地獄に売ってるかは分かりませんが、見かけたら読んでみてください。
 ちなみに私の推しは城門飛ばしのアステル・ウォランス青年です、イケメンなんですよ彼」
「う、嘘……さ、さっきまで、仲間だったじゃ……」
「黒の小娘。邪魔だ、失せろ」

 ラインハルトがうろたえるジェナスに厳しく言葉を刺した。

「結局、当初のこの殺人鬼との殺し合いが再開するだけの話だ。
 所詮人間など、このような下賤な生き物であると……それだけの、話だ。
 巻き込まれて死にたくはないだろう。自慢の逃げ技(ワープ)で逃げろ、この女もそのくらいは待つ」
「あは、信頼して頂けているみたいで」
「お前は一方的より拮抗した殺し合いを望むのだろう。見抜くまでもない」
「分かって頂けてるみたいで嬉しいです♪」
「……あ……え……」
「いいから、行け」

 ふらふらとラインハルトの近くまで歩み寄って来ていたジェナスは、
 そこでラインハルトの皮靴により、蹴り飛ばされる。

「任務ご苦労だった――――お前はもう必要ない」
「あ……う……うわあああああああん!!」

 走り、ワープし、ジェナスはその場から去る。
 改めてその場には、血に濡れた空気と二人の殺人者だけが残った。

「さて、空気が戻ったな」
「どうして私が正気を保っているか聞かないんですか?」
「大方、その剣の殺戮衝動と同調できる者なら意識を奪われないといった所だろう。聞くまでもない」
「あ、正解です。じゃあ始めましょう」

 と、唐突に。
 雑談を途中で切って、二人の刃が交わる音が再開する。
 かと思いきや、ラインハルト・ハイドリヒと剣崎渡月は交戦しながら雑談を始めた。
 達人レベルの剣の嵐の中で、言葉と言葉もまた交錯する。

「あは、楽しいですね、おじさま!」
「そうか」
「おじさまが楽しくなさそうなのが少し残念ですけどね。どうしてそんなしかめ面なんですかね?
 人生、もっと楽しんだほうが得だと思うのですが、何に悩んでいるんですか?」
「そうだな、何だろうな」
「はぐらかさないでくださいよ、斬りますよ?」
「斬れるものならやってみろ」
「そう簡単にはいきませんね。まだまだ私は人間ですので」

 剣崎渡月は魔剣の浸蝕を抑えることに成功している。
 剣の寄生を拒むと言うことは人間の反応速度に収まるということで、
 生体魔剣セルクというチート武器を手にした剣崎渡月ではあるが、危険度も練度もそう上昇したわけではなかった。
 ではなぜ彼女が魔剣入手にこだわっていたかというと、これは単純に、エゴである。

「いい挑発ですね、乗りたくなってしまいます。でも本当、生きたいように生きればいいと思いますよ?
 私なんてほら、ちょっとこの剣で人を斬ったら楽しそうだなー、
 って思いつきだけでさっきの流れまで演じたんですし? いや本当に、美しい剣ですよね」
「……生きたいように生きる、か」
「あは、大人だからできないとかですか?」
「そうじゃない。そういう部分では悩んでさえいない」

404ドミノ†(終点) ◆5Nom8feq1g:2015/08/02(日) 12:37:47 ID:z1sNcr8Y0
 
 ラインハルトの袈裟切りが首をこてりと傾けてカワイイポーズをとっていた渡月の服をかすめる。
 服二枚を貫通して柔肌に赤い線。
 意に介さず、渡月は魔剣を振るい、ラインハルトの胸先から憲章のようなバッジを弾き飛ばす。
 雑談をしながらもその剣舞はメリーゴーランドではなくジェットコースターだった。

「己は」

 ラインハルトがフェイントを交えた剣を繰り出しながら叫ぶ。

「己もまた、自らが憎む人間であり、殺人者であることに自己矛盾を抱えているだけにすぎない」

 それは普段から冷酷無比鉄面皮の尋問官からは想像できない、感情の吐露だ。

「人間を無価値だとしか思えない己こそが無価値な人間なのではないのか?」

 斬りかかる。

「本当に尋問され、死に至らしめられるべきは己ではないのか?」

 斬りかかる。

「人の嘘が、心が分かってしまうようになってから、
 醜さを把握できるようになってから、ずっとそう思っていたのだ」

 斬りかかり、受けられる。
 渡月の反応速が上がった。
 生体魔剣セルクと殺人鬼との協力的な調和が、徐々に深まりつつある。

「お前は思わぬのか。自分の信念が抱える脆弱性を。
 例えばそうだな、誰すらも越えて一番になりたいという話だったが、
 自分より優れている部分がある者を越えぬうちに殺してしまったらどうなる。
 越えていないのに殺してしまったら、もうその部分は越えられないのではないのかね」
「それは――」

 問いかけは、相手と魔剣の調和を崩す意味でも放った言葉。
 しかし返ってきたのは、ラインハルトのフランベルジュにひびが入る音だった。
 セキュリティホールの穴を付くかのような、
 動揺していてはとても不可能な、精密な攻撃。
 手が痺れる。辛うじて取り落さずに持ち続ける。渡月はあっけらかんと言う。

「それはもちろん。死んだ方が悪いんですよ♪
 私に殺された人は、どんなスキルとかどんな強さとか、
 どんなカリスマとかどんな優しさとかどんな複雑な立場とかを持ってても、殺された時点で私より下で、決定なんです。
 私に殺されてしまう時点で、私より劣っているんですよ、その人は」

 剣崎渡月は、止まらない。
 ラインハルトのいかなる言葉でも、彼女を揺らがせることはできない。
 ラインハルトが嘘を見抜けてしまうがゆえに。
 この少女は一点の曇りも負い目もないただの殺人鬼であるということがラインハルトには分かってしまう。
 悩むことを忘れた殺人鬼。
 ある意味ではそれは、ラインハルトにはまぶしく思えた。

405ドミノ†(終点) ◆5Nom8feq1g:2015/08/02(日) 12:39:03 ID:z1sNcr8Y0
 
「おじさまは、私に殺されたいんですよね?」

 渡月もまた、ラインハルトの深くまで斬り込む。

「おじさまがその長い人生で終ぞ会えていなかった、
 “人間なんて無価値である”と認めた上で好きなように生きている私が、
 枯れかけのおじさんからすると少し羨ましいとかそんな感じですかね?」
「……何を」
「じゃなきゃ、不利になると分かっていながら私にやすやすと魔剣を渡さないのではないですか?
 あは、……人間に絶望しながら人間として生きるのは、さぞお辛いでしょう。
 安心してください、私の腕なら一瞬ですよ。抵抗せずに首でも差し出してくれれば、一瞬です」

 さあ!
 踏み込み、ヒビをさらに深めるように打ちあった渡月は、すべてを見透かしたかのような笑顔を見せた。
 だがラインハルトは冷酷な無表情のままだった。
 無感動の、ままだった。

「……生憎むざむざと死ぬつもりはないし、死にたいなどと言うのもお前の誤解だ」
「強がり?」
「強がりではない。己は本当に、強いからな」

 理解、協調、速度の上昇――魔剣とのシンクロが深まるほどに精緻さと手数を増す剣崎渡月の斬撃は、
 しかしラインハルトを決定的に傷つけることができない。
 魔剣に操られるのではなく、渡月が操っているが故の弱体化?
 それもあるが、先ほどの戦闘とは違い一対一だし、ラインハルトは事実上二倍の手数を捌かなければならないのに。
 上がるギアに、上げるピッチに、ラインハルトはついてくる。
 冷や汗かかずについてくる。

「……あは?」

 剣崎渡月もさすがに口の端を釣り上げて苦笑だ。

 馴れて、きている。

 機械めいたシークエンスに人間が勝利する方法のもう一つ。それは学習。
 慣れること。慣れてしまうこと。ラインハルト・ハイドリヒは、魔剣の速度に、慣れてきていた。
 それだけではない。剣崎渡月の剣のクセも、すでにラインハルトの頭の中だ。

「残念だが殺人鬼……お前は己とダンスを踊りすぎた」
「……嘘ですよね? わ、私を泳がせたのが……単純にあとからでも、私に対応できるからだなんて……!」
「嘘かどうか、見抜ける目を持っていれば分かったろうにな」

 斬りかかる。
 その一撃で完全にガードを外し、
 不可避の二の太刀を袈裟に叩き込む。
 それはあまりにも綺麗な流れで。思わず渡月も、笑ってしまった。

「お前の論理に則れば。お前を殺す己は、お前より永遠に上と言うことだが、気分はどうだ」
「あは……あはははは……っ♪」
「悩むことのない、眩しいほどに阿呆な太刀だった。本能のみでお気楽に生きるのはさぞ楽だったろうが。
 己が唾棄する“人”からすら外れてしまったお前は獣――ただ哀れみの対象でしかなかったよ、最初からな」
「あははっ、う、ううううふふふあはは……!」

 涎を垂らしながら命の危機に興奮する渡月は、結局は狂ったシリアルキラーだった。

「ラインハルト・ハイドリヒ。――地獄でこの名を復唱し続けろ、殺人鬼」
「あは……あはははは……た、楽しかったです……!!」

406ドミノ†(終点) ◆5Nom8feq1g:2015/08/02(日) 12:40:30 ID:z1sNcr8Y0
 
 フランベルジュが致命的に肉を裂く。
 飛散する鮮血。
 ぐるんと白目を向いた女学生が、その意識をこの世から手放した。
 死んだ。
 同時にフランベルジュは折れて役割を失った。

 生体魔剣セルクが、死体を動かしてでも挑んでくるか、ラインハルトは残心しておいたが……それもなかった。
 この魔剣はあくまで持ち手の生の感情に付け込んで悪魔にする剣のようだった。
 誰かに使われないように自分で持とうかとも考えたが、やめた。

 懐から支給品のマッチを取り出す。火をつけ、渡月に放り投げた。
 助燃物はなかったが、どうもこのマッチはよく燃えるらしく、すぐに一人と一振りは炎に包まれた。
 そう、魔剣ごと燃やして消してしまうのが、ここでは最もマシな解決策だろう。

 燃え盛る殺人鬼に背を向けて、
 尋問官はもう一本マッチを取り出すと、胸ポケットに入れておいた煙草に火を点けた。

「まだまだ」

 紫煙くゆらせながら、目的なき断罪官は歩む。

「まだまだ――まだまだだ……己の死に場所は、ここじゃない……」






 そしてアサルトライフルの乾いた発砲音が響き、人間嫌いの断罪官のこめかみを貫いた。





_______/|エピローグ|


 

「みんな、死んじゃった。ヒーローマスクの変な人も、殺人鬼のお姉さんも、金髪のおじさんも」

 街は燃えていた。
 ヒーローと神様がその街にたどり着いた時には、その区画は燃えていた。
 ビル十棟ほどが並ぶ大通り、いったい何がどうなってここまで延焼したのか、
 まるで殺戮が起きた場所の全てを覆い隠して炎上するかのように、そこにはもう誰も入れない。
 救いの手さえオコトワリだ。

「おじさんは、私が……必要と、してくれなかったから、殺しちゃった」

 炎のすぐそばで壊れたように笑っていた黒の少女を、
 その場から引き離そうと駆け寄った巴竜人は、淡々とした少女の独白を聞く。
 殺してしまったと言う。
 汚れてしまったと言う。
 その声は後悔に血塗られて、確かに濁っていた。
 だが波長を解析すれば、もともとは小さくも澄んだ声だったと言うのが、竜人にはありありと分かった。

407ドミノ†(終点) ◆5Nom8feq1g:2015/08/02(日) 12:41:55 ID:z1sNcr8Y0
 
「助けてくれた人なのに……突き放されたのが、辛すぎて……へへ、えへへへ、や、やっちゃった」
「お、おい待て! 落ち着け! 待て!」
「もういいの」

 ジェナス=イヴァリンは歩き出す。
 竜人はそれを助けたい。

「わたしを助けないで、ヒーローさん」

 炎に向かって、歩き出す。
 竜人はそれを、止めたかった。

「わたし、もう……汚れちゃったから。生きてるの、つらいから。
 多分わたしなんかより……ずっとあなたに助けてもらいたいって思ってる人が、いると思うから」
「待てよ馬鹿野郎! 早まるな!
 汚れた? んなもん洗えばいいんだ!
 どれだけ汚れようが、人間はやりなおせるんだよ! 俺はなあ……俺だって!!」
「……馬鹿だって……わたしも、思うけど。
 助けられといて、こんなのって、怒られると、思うけどさ……もう、無理だ……」

 道神の玄武が見守る中で。
 黒の少女を、巴竜人は無理にでも引き戻そうと、
 即座にスピードに優れたガイアライナーに変形し、その機動力で追いすがる。
 服の裾を、掴もうとした。
 でもそれは、叶わなかった。

 ジェナス=イヴァリンはショートワープを使い、巴竜人から3m遠ざかった。

「ごめんなさい」
「……」
「ありがとう、ヒーローさん。――さようなら」

 力なく笑って、殺人者は炎の中へと消えた。
 一度倒れてしまったドミノは全て倒れ終えるまで止まらない。
 強く固く、死ぬと決めてしまった少女を、

 ヒーローが救うことは、できない。



「……ちくしょう……」

 ここには大きい水源もない。
 いずれ鎮火はするだろうが、アクアガイナーで消火をするには火の手は強すぎた。
 燃える町を悔しそうに見つめ、竜人は地面に拳を殴りつけようとする。

「ちく、しょ……う!?」

 しかし玄武が重力を操って、竜人の拳をふわりと浮かした。

「ダメやで、それは」

 驚いて振り返る。物悲しそうな顔で玄武は竜人を見て、首を振った。
 辛い感情を地面に叩き付けるのはダメだ。それでは、逃げになってしまう。
 ヒーローは。ヒーローだからこそ。
 救えなかった者の思いも全て、背負わなければならない。

 ……巴竜人は三回深呼吸をして、立ち上がった。

408ドミノ†(終点) ◆5Nom8feq1g:2015/08/02(日) 12:43:03 ID:z1sNcr8Y0
 
「玄武さん」
「……なんだい、少年」
「俺たちがもっと早く着いていれば――誰か一人くらいは、救えたんじゃないか?
 間違えちまってたかもしれねえ“ヒーロー”も、間違えちまった今の女の子も、病院で死んじまったやつらも。
 こんなあっけなく死ぬべきやつらじゃなかっただろ。もっと、生きて、よかったはずだろ」
「……そうやもしれんね」
「過ぎたことをとやかく言うつもりはない……俺たちの行動に問題があったとも思えない。
 ただただ、タイミングだけが遅すぎて。それで死んじまうのかよ。それで、最悪な方向に、転んじまうのかよ。
 こういうことが、今までにも無かった訳じゃねえけど……そのたびに思うぜ」
「……」
「こんな機械の身体になっても、俺たちは無力なときは無力だってな」

 どれだけ個の力があろうと。
 幾度の改造を受け、あるいは幾柱もの神がその中に入っていようと。
 彼らは、ヒーローは、救えるものしか救えない。
 救えない者は救えない。

「巴やん」
「でも俺はさ……死ぬのが救いになるだなんて、
 “自分を無くす”のが救いだなんて、信じたくねえんだ。こんな身体だからかもしれねーけどさ。
 まあ、誰もが強くはあれねえし、逃げたい気持ちもそりゃあ分かるし、俺自身だって何度も何度も悩んだ。
 俺の“ヒーロー”は悪への反抗でしかなくて、俺は正義なんかじゃないのかも、とか、色々さ」
「……」
「でも……悩んだからって、立ち止まっちゃ、いけねえんだよな」

 それでも巴竜人はヒーローで在り続ける。
 危うく消えてしまう所だった自分と言う存在の意味を、証明し続けるため。
 あるいは自分を救ってくれた、最高のヒーローの存在を、肯定し続けるために。
 悪の改造を施された身体を、正義のために使い続ける。

「次の現場を探そう。俺たちが、俺たちで、救える命を探そう」

 涙を流す機能は、機械の身体にはついていなかったけれど。
 巴竜人は手で眼を拭って歩き出した。

 どれだけの命をその手から取りこぼしてしまおうとも、
 どれだけその身の内に、危険を抱えていようとも。
 ヒーローは、止まらない。
 ヒーローは、続かなければならない。
 ヒーローという名のドミノ倒しは、永遠に倒れ終わっては、いけないのだ。



【鰺坂ひとみ@アースMG 死亡確認】
【プロデュース仮面@アースC 死亡確認】
【近畿純一@アースM 死亡確認】
【ラクシュミー・バーイー@アースE 死亡確認】
【大空蓮@アースR 死亡確認】
【剣崎渡月@アースR 死亡確認】
【ラインハルト・ハイドリヒ@アースA 死亡確認】
【ジェナス=イヴァリン@アースF 死亡確認】


________|end|

409ドミノ†(終点) ◆5Nom8feq1g:2015/08/02(日) 12:45:19 ID:z1sNcr8Y0
 

【F-1/ビル街/1日目/早朝】

【巴竜人@アースH】
[状態]:健康
[服装]:グレーのジャケット
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜3
[思考]
基本:殺し合いを破綻させ、主催者を倒す。
1:次の現場を探す。
2:自身の身体の異変をなんとかしたい。
3:クレアに出会った場合には―
[備考]
※首輪の制限により、長時間変身すると体が制御不能になります。

【道神朱雀@アースG】
[状態]:健康、朱雀の人格
[服装]:学生服
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜3
[思考]
基本:殺し合いを止めさせる。
1:竜人とともに付近を捜索する。
2:他人格に警戒、特に青竜。
(青竜)
基本:自分以外を皆殺しにし、殺し合いに優勝する
(玄武)
基本:若者の行く末を見守る
[備考]
※人格が入れ替わるタイミング、他能力については後続の書き手さんにお任せします。


※F-1の大通り付近のビル街で火事が発生しました。
 辺りの死体や支給品などを焼きつくし、放送後には鎮火します。
※でも魔剣は消えないかもしれません。


【生体魔剣セルク@アースF】
参加者候補の一人リロゥ・ツツガに寄生している魔剣。製作にはヘイス・アーゴイルも関わった。
悪魔との戦争で瀕死で落ち延びた魔王の息子、セルクの無念と憎しみと怒りを込めた魂が宿っている。
正しい者が持てばその中に潜む闘争心を引き出して乗っ取り、暴れさせる。
正しくない者、特に戦闘する意思がある者と利害が一致した場合は、乗っ取らずに持ち手にある程度は任せる。
ロワに持ってこられるにあたりサン・ジェルミ伯爵の手によって強化されている。戦闘スタイルは単純で、手数で押し切るタイプ。

410ドミノ†(終点) ◆5Nom8feq1g:2015/08/02(日) 12:50:23 ID:z1sNcr8Y0
投下終了です。ズガン枠をふんだんに使ったボーナスステージ的なお話ということで。

>>390-398 が前編 「ドミノ†(始点)」、
>>399-409 が後編 「ドミノ†(終点)」となります。何かあればどうぞ。

411名無しさん:2015/08/02(日) 12:55:43 ID:RC/jdhCg0
投下乙です。
どんなキャラでも呆気なく死ぬのがパロロワだけど、皆皆、花火のように散っていったなぁ。
竜人・道神組の明日はどっちだ?

412名無しさん:2015/08/02(日) 16:19:10 ID:jbEM2G.o0
投下乙です。
皆呆気なく死んでしまってなんという無常感。ただ、プロデュース仮面だけはちょっと笑ってしまいました。
ちょっと気になる点、竜人と朱雀の互いの呼び方は前話では「道神君」「巴さん」だったのにいきなり下の名呼びになってるのに違和感が
あと、竜人の読み方は「たつと」です

413 ◆5Nom8feq1g:2015/08/02(日) 16:50:08 ID:VIM7PRjU0
>>412
おおう、呼称確認足りなかったですね…
夜にwiki収録と同時に修正致します、申し訳ありません…!

414名無しさん:2015/08/02(日) 18:27:59 ID:jbEM2G.o0
状態が朱雀の人格になってますけど、玄武の間違いでは?

415名無しさん:2015/08/02(日) 21:37:51 ID:RC/jdhCg0
あの、近畿純一の描写で、
>整髪料で逆立てた髪
って有りますが、キャラクタープロファイリングだと、純一の髪は肩まで伸ばしてあるんですが・・・

416 ◆5Nom8feq1g:2015/08/02(日) 21:51:58 ID:08ti5vSY0
>>414-415
うわああ申し訳ないです…んー色々な所に見落としが発生してたみたいですね。
とりあえず上げて頂いた分はwikiで修正しておきました。
他にも探しときますが、あればどんどんどうぞです
長くなると見落としも多くなるようなので仮投下を使うなど今後はします…

417 ◆7yHhbHvsLY:2015/08/10(月) 04:56:11 ID:kGznglRM0
投下します。

418438年ぶり2回目 ◆7yHhbHvsLY:2015/08/10(月) 04:58:33 ID:kGznglRM0
ぎゃりぎゃりぎゃりぎゃり



暗闇に久澄アリアの血から生まれた血槍が飛ぶ。
「ひゃっはははははははは!!」
松永久秀はそれを蜘蛛糸で絡め取ると、次いで出現した血槍も天下五剣「大典太光世」で全て斬り落とした。


「どうしたァ? まさかこれっぽちで終わりじゃァねえよなァ?」
久秀の声に応えるように再び血槍が飛ぶ。
「ひゃはははは!そう来なくっちゃなァ!」
松永久秀は再びそれを蜘蛛糸で絡め取ると、次いで出現した血槍も天下五剣「大典太光世」で全て斬り落とした。


「ほら来いよ妖術使い――じゃなくて何とかジョ……水洗便女だったか? ひゃはははは!」
久秀の声に応えるように再び血槍が飛ぶ。
「折角この松永弾正久秀が直々に相手してやってんだァ。喜べよォ便所女」
松永久秀は再びそれを蜘蛛糸で絡め取ると、次いで出現した血槍も天下五剣「大典太光世」で全て斬り落とした。


「てめェの怨みってのはこの程度かァ? 公衆便所さんよォ」
久秀の声に応えるように再び血槍が飛ぶ。
「俺より上だと思い込んでるクソどもをぶっ殺す……その肩慣らしに丁度いいわァ……」
松永久秀は再びそれを蜘蛛糸で絡め取ると、次いで出現した血槍も天下五剣「大典太光世」で全て斬り落とした。


「オラオラ攻撃遅ェぞ!」
久秀の声に応えるように再び血槍が飛ぶ。
「いいねェ憎悪や怨念ってヤツは。何度向けられても飽きねェ」
松永久秀は再びそれを蜘蛛糸で絡め取ると、次いで出現した血槍も天下五剣「大典太光世」で全て斬り落とした。


「オラどうした、こんなんじゃ長慶も殺せねェぞ!」
久秀の声に応えるように再び血槍が飛ぶ。
「遅ェんだよォ鈍ェんだよォ弱ェんだよォ!」
松永久秀は再びそれを蜘蛛糸で絡め取ると、次いで出現した血槍も天下五剣「大典太光世」で全て斬り落とした。


「てめェのチンケな術で三悪様が殺せるかよォ――!ひゃはははははは!!」
久秀の声に応えるように再び血槍が飛ぶ。
「ひゃっははははははははははははははは―――――――!!!!!!」
松永久秀は再びそれを蜘蛛糸で絡め取ると、次いで出現した血槍も天下五剣「大典太光世」で全て斬り落とした。


「ひゃははは――ハァ」
久秀の声に応えるように再び血槍が飛ぶ。
「まだ続くのか」
松永久秀は再びそれを蜘蛛糸で絡め取ると、次いで出現した血槍も天下五剣「大典太光世」で全て斬り落とした。


「おい」
久秀の声に応えるように再び血槍が飛ぶ。
「おいコラ、クソ便所」
松永久秀は再びそれを蜘蛛糸で絡め取ると、次いで出現した血槍も天下五剣「大典太光世」で全て斬り落とした。


「ちょっと」
久秀の声に応えるように再び血槍が飛ぶ。
「ちょ待てよ」
松永久秀は再びそれを蜘蛛糸で絡め取ると、次いで出現した血槍も天下五剣「大典太光世」で全て斬り落とした。


「ちょっと待てって」
久秀の声に応えるように再び血槍が飛ぶ。
「待てっつってんだろ」
松永久秀は再びそれを蜘蛛糸で絡め取ると、次いで出現した血槍も天下五剣「大典太光世」で全て斬り落とした。


「待――」
久秀の声に応えるように再び血槍が飛ぶ。
久秀の声に応えるように再び血槍が飛ぶ。
久秀の声に応えるように再び血槍が飛ぶ。
久秀の声に応えるように再び血槍が飛ぶ。
久秀の声に応えるように再び血槍が飛ぶ。久秀の声に応えるように再び血槍が飛ぶ。血槍が飛ぶ。血槍が飛ぶ。血槍が飛ぶ。血槍が
血槍が飛ぶ。血槍が飛ぶ。血槍が飛ぶ。血槍が血槍が血槍が血槍が血槍が血槍がぎゃり血槍が血槍が血槍が血槍が血槍がぎゃり血槍が血槍が血槍が血槍が血槍が血槍が

419438年ぶり2回目 ◆7yHhbHvsLY:2015/08/10(月) 04:59:53 ID:kGznglRM0
「待てっつってんだろうがァァァ――!!こンの腐れ便器女がァァァ――!!」

久秀は絶叫しつつ、再び血槍を蜘蛛糸で絡め取ると、次いで出現した血槍も天下五剣「大典太光世」で全て斬り落とす。
しかし糸に絡まった血槍や切り落とされた血槍はドロリと溶けてその姿を失くすと、再び血槍の形となって久秀に襲いかかってくる。


「しつけェぞテメ――!!」

少し遊ぶつもりで戦い始めたはずが、気づけば周りが明るくなりかけている。
松永久秀と彼女が殺した魔法少女アリアの血液が化けた血槍は、かれこれ数時間も戦い続けていた。


「いつまでも現世にへばりついてんじゃねェェ――!」

久澄アリアの死体から魔力が枯渇するまで血槍の攻撃は続く……それは久秀にも分かっていたが、まさかこんなに長続きするとは計算外だった。
もともとアースMGでも有数の実力者であるアリアの魔力貯蔵量は、普通の魔法少女に比べてもケタ違いに多い。
だがこれほどの魔力があるのなら、何故彼女は生前にそれを使わず、久秀に一方的に嬲り殺されたのか。


「さっさと地獄に流れやがれェェ――!!このクサレ便所がァァ――!!」

アリアのいたアースMGにおける魔力とは、希望や勇気や想像力などのポジティブな精神力を変換して作られるものである。
しかしそれとは別に、怒りや憎悪や絶望といったネガティブな感情を破壊の魔力に変換する外法も存在しているのだ。
魔法少女の仕事には、そうした外法を使う悪の魔法少女との戦いも含まれている。
然らば、百戦錬磨の魔法少女であるアリアが己が使うかは別としてその外法の術を知っていたとしても何ら不思議はない。
ぎゃりぎゃりぎゃり

「てめェみたいなクソガキが俺の邪魔をしようなんざァ五百年早ェんだよォ――!!」   ぎゃりぎゃり

長時間に渡る拷問の中で蓄積された憤怒・憎悪・屈辱・絶望は、意図してか、それとも無意識の本能的にかアリアの中で膨大な魔力に変換され
それでもアリアの生前は彼女の肉体と精神――無意識下の善意や倫理といったものがブレーキとなり、内に留められていた。
しかし彼女が殺され枷が外された瞬間、魔力は外界へと溢れ出し、アリアの最後の意志の命ずるがまま憎き久秀に襲いかかったのだった。


「小便垂らしの雑魚淫売が調子に乗りやがってよォォォ〜〜〜!!」

キリがないのなら久秀はさっさと逃げればいいのだが、現実は中々そうはいかない。
普通なら恨みに任せた場当たり的な攻撃では妖怪化している彼女を殺すことは不可能だ。     ぎゃり
だが場当たり的でもこう数が多いと、何かの間違いで久秀のウィークポイントである平蜘蛛に中るかもしれない。
久秀の胎内某所に隠された平蜘蛛は、妖怪と化した彼女にとって唯一にして最大の弱点だ。一撃されたら即死亡の部位を庇いつつ離脱することを、血槍の群は許してくれない。


「便所にこびりついたクソの分際で俺様の手を煩わせるんじゃねェェェ!!!」

刀も蜘蛛も血槍を捌くので手一杯だった。
妖怪ゆえに戦い続けても疲労はしないが、こう無駄な戦闘をしている間に貴重な時間は飛ぶように過ぎ去っていく。
このままでは戦場で後れをとる――その考えが久秀を焦らせていた。


「がァ!!クソッ!クソッタレ!!」

ついに業を煮やした久秀は決断する。     ぎゃりぎゃり
血槍を操る魔力の源である久澄アリアの死体を破壊することを。

死体を破壊する――といっても、刀も蜘蛛も槍を相手しているので使えない。
だが久秀はそれらに代わる飛び道具を、すでに久澄アリア自身の支給品の中から見つけていた。

420438年ぶり2回目 ◆7yHhbHvsLY:2015/08/10(月) 05:01:10 ID:kGznglRM0


ぎゃりぎゃりぎゃりぎゃり
「畜生――畜生がァァァァァ……!!」

しかし、そのような支給品があるのなら久秀は何故もっと早く使わなかったのか。
そう――もしも支給品が他の物品であったなら、久秀は躊躇うことなくそれを使い、さっさと戦いを切り上げていただろう。


「クソ……クソ……ッ!!」

刀と蜘蛛糸の限界を越えた酷使で作られたほんの僅かな隙に、久秀は『それ』を取り出してアリアの死体へと放り投げる。
『それ』は一個の茶碗だった。しかしただの茶碗ではない。

戦国の梟雄であり凶悪無惨の戦闘者である一方で、松永久秀は戦国随一の文化人、数寄者でもあった。
そんな彼女の磨きぬかれた感覚は、一目見てその茶碗が天下の逸品であることを見抜いていた。

流石に彼女の命である平蜘蛛には及ばないが、それでも国の十や二十に匹敵する名品であることは間違いない。
なぜこんな殺し合いの場にこのような素晴らしい茶器が紛れ込んだのか、久秀は疑問に思いつつも
この茶碗に巡り会えたこと、価値の分からぬ便所女の手から救い出せたことを喜び、この戦いが終わったら自分の茶器コレクションに加えようと大事にしまっておいた。


「クソッタレがァ――――!!」

だが背に腹は代えられない。
戦場において初動の遅れは即ち敗北に繋がる。
そして松永久秀はもう遅れ放題遅れていた。
このままでは主催者にどっちが上か教えるどころの話ではない。


「点火!」

茶器を爆弾にする能力。
彼女が妖怪化するに際し、再生能力、蜘蛛の使役とともに備わった特殊能力である。


                               ヽ`
                              ´
                               ´.
                           __,,:::========:::,,__
                        ...‐''゙ .  ` ´ ´、 ゝ   ''‐...
                      ..‐´      ゙          `‐..
                    /                    \
        .................;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;::´                       ヽ.:;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;.................
   .......;;;;;;;;;;゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙       .'                             ヽ      ゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙;;;;;;;;;;......
  ;;;;;;゙゙゙゙゙            /                           ゙:                ゙゙゙゙゙;;;;;;
  ゙゙゙゙゙;;;;;;;;............        ;゙                              ゙;       .............;;;;;;;;゙゙゙゙゙
      ゙゙゙゙゙゙゙゙゙;;;;;;;;;;;;;;;;;.......;.............................              ................................;.......;;;;;;;;;;;;;;;;;゙゙゙゙゙゙゙゙゙
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              ノi|lli; i . .;, 、    .,,            ` ; 、  .; ´ ;,il||iγ
                 /゙||lii|li||,;,.il|i;, ; . ., ,li   ' ;   .` .;    il,.;;.:||i .i| :;il|l||;(゙
                `;;i|l|li||lll|||il;i:ii,..,.i||l´i,,.;,.. .il `,  ,i|;.,l;;:`ii||iil||il||il||l||i|lii゙ゝ
                 ゙゙´`´゙-;il||||il|||li||i||iiii;ilii;lili;||i;;;,,|i;,:,i|liil||ill|||ilill|||ii||lli゙/`゙
                    ´゙`゙⌒ゞ;iill|||lli|llii:;゙|lii|||||l||ilil||i|llii;|;_゙ι´゚゙´`゙
                         ´゙゙´`゙``´゙`゙´``´゙`゙゙´´


投げられた茶碗がアリアの首無し死体に命中すると同時に、目を潰す閃光と轟音が大地を震わせる。
そして朦々した土煙が消え去った後には――久澄アリアも、茶碗も、大きく抉られた地面の他には何も残されてはいなかった。

421438年ぶり2回目 ◆7yHhbHvsLY:2015/08/10(月) 05:02:12 ID:kGznglRM0



ぎゃりぎゃりぎゃりぎゃり
「クソがァ…………」

アリアの死体消滅と同時に、血槍も形を失ってただの血糊に還る。
戦いを制した久秀の顔にはしかし、喜びの色はない。
仕掛けられた血の槍地獄から抜け出すのに払った代償は、彼女にとってあまりに高すぎた。


ぎゃりぎゃりぎゃりぎゃり
「チッ……」
ぎゃりぎゃりぎゃりぎゃり
「ん?」

さっさとその場を離れようとして――久秀は気付く。
自分のすぐ背後から聞こえる、ぎゃりぎゃりという奇音に。
そして首筋に伝わる、僅かな震えに。


ぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃり
ぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃり
ぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃり
ぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃり


「キャオラッッッ!!」

久秀は地を蹴って飛鳥の様に中空で回ると、一瞬前まで自分がいた空間に大典太光世の切っ先を向ける。

だがそこには誰一人、何一つとして存在していなかった。

「何ィ……!?」

逃げる暇はなかったはずだ――だがそこには、音の原因も、震えの源になるものも無い。


ぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃり
「!?」
ぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃり

再び背後に音と震えを感じ、久秀は躊躇うことなく斬りかかる。
しかし名刀の刃は空しく宙を切るだけだった。


ぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃり
「これは…………」
ぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃり

常人ならこの不可思議に混乱する所だが、久秀は早くも喝破した。
この音と震えが、自分にぴったりと憑いていることに。


「……!!」
久澄アリアの支給品から奪った手鏡で、久秀は背後の音の源――自分の首筋を見る。

「――ンだ、こりゃァ……?」

ソレは彼女の首の後ろ、首輪の表面に存在していた。
大きさは人差し指ほどの血の塊だった。形は錐形をして、先程戦った血槍の槍先に似ている。

ソレは槍先の先端にあたる鋭い切っ先のみで久秀の首輪に接し、猛烈な勢いで回転していた。
もし彼がアースRの出身ならば、その形状と動きを見てドリルを連想したことだろう。

ぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃり
「チッ!このッ!!」
ぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃり

久秀は大きく首を振るが、その血槍先は首輪の一点から離れず回転したまま憑いてくる。

ぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃり
「てめェ――!」
ぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃり

手で払いのけようとしたその時、

ちゅるん

という音を残して、その血槍は消えた。



後には、首輪の表面に錐で突いたような小さな穴一つが残されていた。

422438年ぶり2回目 ◆7yHhbHvsLY:2015/08/10(月) 05:04:12 ID:kGznglRM0


「こ、これは……!!」

残された首輪の穴を確認した久秀の手から手鏡が落ち、砕けた。
今や全てがはっきりしていた。あの小さな血槍の目的は久秀の首輪に穴を空けることにあった。
そして今、穿たれた小さな小さな穴を通じて、元の血液へと戻った血槍は首輪の内部へと侵入したのだ。

松永久秀の首輪の中に。


「がッ…………!!」

その目的は久秀にも容易に想像できた。
魔力爆破――アリアたち魔法少女は魔力、久秀たち妖怪は妖力と種類は違えど
心霊的エネルギーを破壊エネルギーに転化するのは、慣れた術者にとってはそう難しいことではない。

無論本来であれば、妖怪である久秀にとって魔力爆破などカンシャク玉ほどにもダメージを与えない。
ましてや爆発するものが人差し指の先程の量の血液で、しかも穴を掘って魔力を使い果たした残りカスの爆発など、文字通り屁でもない。

しかし、もしその爆発がこの妖怪でもなんでも爆死させる首輪の誘爆を引き起こすとするなら――――


「クソッ!クソッ!」

久秀は慌てて穿たれた穴を下にして首輪をトントンと叩くが、血は出てこない。


「スベタがッ……!!最初からこれが狙いで……!!」

緊縛され拷問を受けている間に、久秀が通常の攻撃では死ぬことのない魔人だということをアリアも悟ったに違いない。
そして一縷の望みをかけて、久秀の首輪を狙ったのだ。
久秀を襲った無数の血槍は、首輪を削る際にどうしても発生する震動と掘削音を誤魔化し、久秀の意識をそちらに向けさせないための囮だった。
本命である血の小型ドリルは、おそらく戦闘の最初期に切り捨てられた血槍に紛れて密かに久秀の背後に回ったのだろう。
そして削り始めた――妖怪である久秀にとって致命傷になりえない頚動脈でも頭蓋でもなく、その首に嵌められた首輪の表面を。
こんな奇跡的超絶技が可能だったのは、術者である久澄アリアがアースMG世界屈指の魔法少女――それも水を操る魔法を最も得意とする――であったからに他ならない。

無論分の悪い……極めて悪い賭けだったことは間違いない。
もし戦闘の最中でも久秀が僅かな違和感に気付いていたら、もし久秀に平蜘蛛というウィークポイントが存在せず早々に場を切り上げていたら
もしもっと早く久秀が茶器爆破を決断していたら、もしもっと掘削困難な素材で首輪が作られていたら――――
アリアの遺した作戦は失敗に終わっていただろう。
だがアリアにとっては幸運な、そして久秀にとっては不運なことに、そうはならなかった。
久秀は最初は圧倒的強者としての驕りから、途中からは苛立ちから、気をとられて首輪の異変に気がつかなかった。
もし戦国時代の松永久秀なら、戦場の僅かな違和感を逃すことなど有り得なかっただろう。
しかし彼が甦ったアースEは小規模な戦闘や暗闘があるとはいえ太平の世、そこでの暮らしと、人間を捨て妖怪化した事による己が力への過信――それが戦国の梟雄を鈍らせていた。

423438年ぶり2回目 ◆7yHhbHvsLY:2015/08/10(月) 05:04:55 ID:kGznglRM0


「だが……だが何故だァ!? 売女の死骸はもう無いはず……!!」

魔力の源であるアリアの死体はたしかに消滅した……ならば何故血ドリルは動き続け、今も首輪の中で動いているのか。

首輪から血を出そうと地面を転がり七転八倒する久秀の目は、偶然にもその答えを捉えた。



切断された久澄アリアの生首。
焼けただれ、血と泥に塗れた苦悶の形相の首は、久秀には嘲笑っているように見えた。


「このッ――――!!便j」

最後の司令塔を砕き潰そうと久秀は急いで駆け寄る。

だがアリアの生首に手が届く瞬間、彼女の首輪の中でアリアの最後の魔力が爆発した。
それは小さな爆発だったが、内部から首輪の誘爆をさそう目的は辛うじて果たすことができた。


          ,,-'  _,,-''"      "''- ,,_   ̄"''-,,__  ''--,,__
           ,,-''"  ,, --''"ニ_―- _  ''-,,_    ゞ    "-
          て   / ,,-",-''i|   ̄|i''-、  ヾ   {
         ("  ./   i {;;;;;;;i|    .|i;;;;;;) ,ノ    ii
     ,,       (    l, `'-i|    |i;;-'     ,,-'"   _,,-"
     "'-,,     `-,,,,-'--''::: ̄:::::::''ニ;;-==,_____ '"  _,,--''"
         ̄"''-- _-'':::::" ̄::::::::::::::::;;;;----;;;;;;;;::::`::"''::---,,_  __,,-''"
        ._,,-'ニ-''ニ--''" ̄.i| ̄   |i-----,, ̄`"''-;;::''-`-,,
      ,,-''::::二-''"     .--i|     .|i          "- ;;:::`、
    ._,-"::::/    ̄"''---  i|     |i            ヽ::::i
    .(:::::{:(i(____         i|     .|i          _,,-':/:::}
     `''-,_ヽ:::::''- ,,__,,,, _______i|      .|i--__,,----..--'''":::::ノ,,-'
       "--;;;;;;;;;;;;;;;;;""''--;;i|      .|i二;;;;;::---;;;;;;;::--''"~
               ̄ ̄"..i|       .|i
                 .i|        |i
                 i|        |i
                 .i|          .|i
                .i|           |i
               .i|      ,,-、 、  |i
               i|      ノ::::i:::トiヽ、_.|i
           _,,  i|/"ヽ/:iヽ!::::::::ノ:::::Λ::::ヽ|i__n、ト、
     ,,/^ヽ,-''":::i/::::::::/:::::|i/;;;;;;/::::;;;;ノ⌒ヽノ::::::::::::ヽ,_Λ
     ;;;;;;:::::;;;;;;;;;;:::::;;;;;;;;:::/;;;;;;:::::::::;;;;;;/;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;:::::::::::;;:;;;;:::ヽ


早朝の森の清冽な空気を震わせて、諸行無常の理をあらわすかのような汚い花火が上がった。


【E-4/森/1日目/早朝】

【松永久秀@アースE(エド) 死亡】

※E-4/森に天下五剣「大典太光世」@アースE、マッチ@アースR、松永久秀の蜘蛛柄の着物、基本支給品二人分が放置されています。


支給品説明

【平沢家家宝の茶碗@アースR】
平沢茜の実家である平沢家に門外不出の家宝として代々秘伝されてきた茶道用の茶碗。
お宝鑑定団が卒倒するレベルの国宝級超逸品である。

【手鏡@アースR】
なんの変哲もない普通の手鏡。

424 ◆7yHhbHvsLY:2015/08/10(月) 05:06:48 ID:kGznglRM0
投下終了です
やばいと思ったが爆発欲を抑えきれなかった

425名無しさん:2015/08/10(月) 09:14:23 ID:Dw/HGv8E0
投下乙です
汚ねえ花火だ。小さい爆発というには大爆発に見えるAAですね

426名無しさん:2015/08/10(月) 14:06:17 ID:F5Dw3N9Y0
あまりにもふざけすぎています
カオスロワでやった方がいいのでは?

427名無しさん:2015/08/10(月) 18:46:03 ID:5.fc8rdQ0
うーん

428名無しさん:2015/08/10(月) 22:37:12 ID:3jz7eBk20
投下乙
やはりロワとは地獄だな(ニッコリ)

私的にはAA無しだったら大丈夫かと…

429 ◆7yHhbHvsLY:2015/08/10(月) 23:55:46 ID:kGznglRM0
皆さん感想ありがとうございます。
指摘された>>420>>423の二ヶ所の爆発AA部分は削除します。

430 ◆9KJ.d2Jgbs:2015/08/20(木) 13:11:38 ID:cjK35EqA0
早乙女灰色 雨谷いのり 投下します

431似たもの同士が相性がいいとは限らない ◆9KJ.d2Jgbs:2015/08/20(木) 13:12:46 ID:cjK35EqA0
何かを志し、それに向かって努力し、そしてついにそれを成し遂げる。
古今東西あらゆるアースどこにでもありふれるこういう成功物語は、しかし、具体的な例となると極端に少なく、大抵の人間は、妥協し、享受し、静観して、挫折する。
が、この挫折者、転落者は記録や歴史に滅多に残らず、多くは塵となって消えてゆく。
今回は、同じ世界から呼ばれた二人の落伍者の遭遇を紹介しよう。
一人は正義の味方を志し、しかし姉の死をきっかけに堕落し、灰色の生き物になり。
一人は正義の味方を志し、しかし師匠の死をきっかけに転落し、真の正義/悪を殺す悪になり。
出発点は近く、身近な死をきっかけに変質し、そして二人は歪んだ道を歩き出す。
その道は、C―7、平原で交わることとなった。


歩みは依然、重い。
移動を開始して数分、歪んだ魔法少女、平沢悠との戦いによるダメージは今もなお、いのりの体を蝕んでいた。
それでもいのりが遅くながらも歩みをとめないのが、彼女のプライドとは別に、此処が広い平原だからというのもあるだろう。
ところどころに木陰が出来ているが、ほとんどは足首ほどしかない短い草ばかり。
これでは、すぐに危険な参加者に見つかってしまう。

(なんとか……学校まで……)

そう思い、足に力を込め、一歩ずつ歩く。
あばらが折れ、内臓に傷がついてもここまで動けるのは、彼女がその短い人生のほとんどを修行に費やしたからか。あるいは、性格を豹変させるまでに至った負の心が為すものか。
とにかく、彼女は学校へ向かい、緩慢と前進していた。
が、呼吸をするたびに頭に霞がかかる。それを振り払うようにいのりは首を振る。
負傷はいのりの予想以上に集中力を奪っていた。
――そう、接近する人間に気付かぬほどに。

「ふん、こんなところでお前に会うとはな」

その声に、いのりは慌てて振り向く。灰色の大男。政府直属ヒーロー、早乙女灰色がそこにはいた。

いのりは灰色に向かってナイフを構えた。頭の靄も瞬時に晴れ、全身の倦怠感も一時は忘れる。
敵に遭遇した際の即座の戦闘態勢。これも、いのりの師匠が遺した、死なないための技術だった。

「そう構えるな。首輪の色を見ろ。オレ達は同じ陣営だ」

「確かに同じ陣営。でも、お前は信用できない」

お互い、面識はなかった。ただ、どちらもその活躍や噂は聞いている。
いのりは、早乙女灰色という男が好きではなかった。
娘と一緒に活動し、ヒーロー協会ではなく、日本政府の依頼を受けて戦うヒーロー。
そして、この男は日本政府の命令で罪なき人間も殺しているという黒い噂が絶えない。
もしその噂が本当なら、灰色はいのりの敵だ。

「お前は罪のない人間を殺す。そんな奴を誰が信用できるか」
「ふん、嫌われたものだな。まあいい、オレもお前に好かれようとは思わん」

ただ、と灰色は続ける。

「情報くらいは交換しないか。何も一緒に行動しようというつもりはない。が、同じ陣営の相手とそう何度も会えるとは限らんのでな。お前も危険な人物の情報は知りたいだろう」

もっともな提案だった。いのりも頷き、言う。

「わかった。まずお前から話せ」

432似たもの同士が相性がいいとは限らない ◆9KJ.d2Jgbs:2015/08/20(木) 13:14:15 ID:cjK35EqA0
冷淡なないのりの態度にしかし灰色は何も言わず素直に口を開いた。

「まず、危険な怪物をが空港で暴れていた。今は怪人のようなものになっているが、それでも俺やお前が適う相手ではないだろう。発見したら逃げろ」

「怪物が……怪人……?」

「鱗のようなものがある、女性型の怪人だ。まあ、見ればわかる。どうやら理性はほとんどないようだから、逃げること自体は容易いだろう。他に出会った者は麻生叫という口縫いの高校生だ。外見は異形だが、無口なだけでさしたる害はない。会ったら保護してやれ」

その言い草にいのりは眉を顰める。

「なぜお前は保護していない。ヒーロー協会には属していないとはいえ、お前もヒーローだろう」

「生憎オレは足手まといを保護する気はない。それにあいつは妹を探すといったからな。それに付き合わされるのは面倒だ」

ヒーローとしてはあまりにも身勝手な灰色の言葉は、いのりの心に重い不快感を漂わせる。
思わず糾弾しようと口を開きそうになるが、すぐに自分も似たようなものだと気が付き、睨み付けるだけに留まった。

「とにかくオレが出会った参加者はこの2人だ。一人と一匹と言ってもいいのかもしれんがな。さあ、次はお前の番だ。……といっても、その有様を見れば、危険な参加者に出会ったことはわかるが」

「黒い大きな腕を使う、少女に出会った。悪人の空気を纏っている」

「悪人の空気とはまた曖昧だな」

と言いながらも灰色はその空気がどういったものかは容易に想像できた。
何度も悪と対峙と次第に分かってくるのだ。
一目見て、悪だと感じ取る。油断が死に繋がるヒーロー業界において、この力を持っているかいないかは、そのまま生死を分ける分水峰になることもある。
もっとも、このセンスを完全に信じ切り、それだけで悪人だと判断して襲い掛かるような者は、ヒーロー業界では狂人と扱われるが。

「ワタシが会ったのはそいつだけ」

「そうか。貴重な情報に感謝する。……ふむ、他に話すようなことも無い。別れるとするか」

「私は廃校へ向かっている。お前はどうする」

「ならばオレは北上しよう。これ以上お前と一緒に行動して刺されるのは御免だ」

そう言って、灰色はいのりに背を向け、どこまでも広がっていそうな平原を歩き出した。
背を向けてはいるが、いのりが後ろから襲い掛かってもすぐに対応できるように、常に気は張っている。
いのりは灰色の後ろ姿に興味は示さず、そのままさっきまでと同じように、廃校に向かって、足を進めだした。
灰色と出会った緊張、それに伴い分泌された脳内麻薬が切れる前に、彼女は少しでも距離を稼ぎたかった。

ヒーロー協会からのはみ出し者二人の情報交換は、こうして何事もなく終わった。



(次は殺すか)

いのりと別れて数分も経たないうちに灰色はそう考えていた。
彼の目的は、この殺し合いで悪を為し、自分の弟子に殺されることだ。
そして、その目標を達成するためには、雨谷いのりを殺すのが普通の考え方だろう。
しかし、灰色はそうしなかった。
いのりが負傷していても、敗ける可能性があったから。
それも確かにある。
が、灰色がいのりを襲わなかったのには、もっと明確な理由があった。
裏切りのクレア。
エンマに匹敵する身体能力と大人の狡猾さを備え、灰色の姉とは違い直接ヒーロー協会に反旗を翻した怪物。
そして、雨谷いのりの復讐対象。

433似たもの同士が相性がいいとは限らない ◆9KJ.d2Jgbs:2015/08/20(木) 13:15:03 ID:cjK35EqA0
クレアと遭遇することを灰色はそれ程恐れていない。
彼女はある程度は、それこそ怪人パーフェトのような狂人とは違い、話が分かる狂人だ。
情報や支給品の提供で見逃してもらえることも夢物語ではない。
それに、殺されるならばそれはそれで構わない。
頭を撃ち抜いたり、飛び降りる気は無いし、死なない努力はする。が、殺されることにそれほど恐怖感は無かった。

だが、エンマとクレアを会わせることは何としても避けたい。
幼いぶん思考が単純なエンマにとって、クレアは猛毒だ。
殺されるだけならいいが、変な思想を植え付けられたら最悪。
灰色は幻視する。
早乙女エンマがクレアの力で悪に堕とされ、自分の前に立ちはだかる未来を。
それはきっと、死より不快なことだ。
それはエンマ、灰色だけでなく、彼の姉、早乙女鉛麻も侮辱する行為だ。
彼女は絶望こそしていたが、決してヒーローであることはやめなかったのだから。
そして、裏切りのクレアはそれを容易く行いそうな不気味さがある。
が、灰色は積極的にクレアを討伐しようとする気はなかった。
それは自分ではクレアに勝つことは難しいという客観的事実や、たかが一参加者に構ってはいられないという冷静な判断によるものだ。
だから、雨谷いのりを襲わなかった。いや、殺さなかった。
クレアを憎み、復讐を誓う彼女は、あわよくばクレアに辿り着き、殺すまではいかないにしても腕の一本や二本は道連れにしてくれるかもしれない。
灰色はそれを期待し、雨谷いのりを見逃した。

だが、同時に灰色はいのりに失望をしていた。
この短時間で、あそこまで傷を負うことになった彼女は、灰色が思っている以上に、直情的で、不器用な生き方をしているらしい。
いのりの境遇が知っている。思う所がないわけではない。
が、いのりは灰色の生き物ではない。彼女は復讐者だ。
ならば踏み込んで語るつもりはない。彼は自分の同類にしか内面を明かさないし、過去を語らない男なのだ。
次に会った時、復讐を達成できていなければ、あるいは幸運にも達成していれば、その時は容赦せず殺そう。

灰色の男は、その時の殺害方法を考えながら、いつのまにか町へと入っていた。

【C-6/町/1日目/早朝】


【早乙女灰色@アースH(ヒーロー)】
[状態]:灰色
[服装]:ヒーロースーツ
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜2
[思考]
基本:エンマに殺されるため、悪を行う
1:麻生嘘子だけは保護しておく
2:死んだらそれはそのときだ。
3:平原から北上。
4:雨谷いのりに今度出会ったら殺す



「次は殺す」
ワタシはそう口にした。
決意を口に出すと、さらに強固になる。
これは師匠がワタシに教えてくれた考え。
師匠が死ぬ前は、独り言は恥ずかしいと嫌がっていたワタシだけど、今はそれが自然に実行できる。
きっと今のワタシの有様を見たら師匠は怒ると思うけど。
でも、悪は悪でしか殺せない。
ワタシは間違っているけど、でも、弱い私にはこれしか方法がないのだ。

早乙女灰色。あいつからも悪人の気配がした。
きっと噂通りの奴なんだろう。
自分の地位や金のために罪のない人間を殺すような、そんな最低の悪党なんだろう。

でも、ワタシはそんな悪党を殺せなかった。
自信がなかったから。
今のコンディションで早乙女灰色を殺せるとは思えなかった。

裏切る直前までヒーロー協会に属していた裏切りのクレアは、その戦闘方法が記録されているし、彼女の戦っている姿を見た者も多い。
けど、早乙女灰色は表立った戦闘のほとんどを娘に任せている。その戦闘能力の詳細を、ワタシはほとんど知らない。
今まで、然したる興味も無かったから、というのもあると思うけれど。

「ぐっ……」

あいつの姿が見えなくなった辺りで、ワタシのあばらは再び痛みだした。
緊張がとぎれてきたんだろう。

とにかく今は学校に行って休息と治療を。
それまでは、それこそクレア本人にでも出会わない限り、戦闘は避けるべきだ。

けど、もし、体力がある程度回復して、また灰色に会ったら、今度は悪としてあいつを殺す。
次は、殺す。

【C-7/平原/1日目/早朝】


【雨谷いのり@アースH】
[状態]あばら骨骨折  それに伴う疲労(小)
[装備]:ナイフ×2@アース??
[道具]:基本支給品、不明支給品1〜2
[思考]
基本:『悪』を倒す。特にクレア
1:学校で保健室を探し、休む
2:灰色は今度出会ったら殺す

434 ◆9KJ.d2Jgbs:2015/08/20(木) 13:16:30 ID:cjK35EqA0
短いですが、投下を終了します

435 ◆5Nom8feq1g:2015/08/22(土) 23:11:55 ID:/5XIYF.A0
>438年ぶり2回目
アリアさんの怨念ー!めっちゃ大健闘してる!これはアリアさんが正義の魔法少女の意地を見せた形ですね…
久秀はもっと暴れてから無様に爆散してほしいと思ってたんですが、爆発させたくなっちゃったならしかたない
本文に勢いがあってこれはこれでけっこう好きな感じでした。またなんかやりたくなったらやっちゃえばいいのさ!

>似たもの同士が相性がいいとは限らない
灰色のヒーローと対悪のヒーローの邂逅……渋い!
情報交換を穏便に終えつつも互いに相手を殺すことしか考えてなかったっていう関係がすごいツボです
灰色がいのりちゃんを見逃す理由が、裏切りのクレアによるエンマ洗脳を想定してるってのもいろいろ考えられている

遅れましたが予約分投下します

436D-MODE ◆5Nom8feq1g:2015/08/22(土) 23:13:51 ID:/5XIYF.A0
 

「だいたい分かった」

 警察署の『応接室』と書いてある個室の中心に黒田翔琉が立っていた。
 その近くにはホワイトボードが運び込まれており、黒のマジックで様々な情報や推測が描かれていた。
 ホワイトボードは狭すぎて、すぐに埋め尽くしてしまったので、壁にも書いてある。壁でも足りなかったので、床にも書かれていた。
 天井は届かなかったので書かれていない。

 旗についての情報。
 黒田の知っている自分の世界についての情報。
 そして、鉄缶に入っていたマスコット――ピンクのカエル「キュウジ」から聞いた、“魔法の国”の情報。
 あまりに書きまくられてしまったため、部屋はまるで呪いの言葉がびっしりと書かれているかのようにさえ見える。

「だいたいわかったって……」
「理解した、ということだ。事件の全容の理解は解決への第一歩、すべての探偵が行うべき初期項目。
 現状で分かっているなにもかもを洗い出して、未知のピースを推測で埋める、地道だが必要な作業だ、それが今終わった」
「……だ、だからってここまで書き込むことないじゃないか、かけるくん!
 床も! 机も! この缶まで! 文字だらけになっちゃって……」
「紙を取りに行くのは面倒だったからだな。俺は基本的に安楽椅子派なんだ」
「ものぐさなのかアクティブなのかはっきりしようよ……」

 テーブルの上、缶の中に入っているキュウジは呆れかえる。
 その缶にも情報が書き込まれている。
 「キュウジ オス 魔法少女のマスコット ショッキングピンク 羽虫が好き 猛禽類が嫌い 特技は大ジャンプ 趣味は歌……」
 テーブルにも情報が書き込まれている。
 「仮称:魔法の国 の魔法少女と呼ばれる存在を契約によって造り出す、マスコットと呼ばれる存在で……」
 もはやキュウジのプライベートな部分は年齢以外すべて洗い出されてしまった。年齢だけは死守した。
 そこはやっぱり現実的なところなので夢を与えるマスコットであるキュウジとしても教えては商売あがったりなのだ。

「というかかけるくん、こんなに情報ばっかり書いて、どうしようっていうのさ!」
「情報の大切さが分からないか? では試しにひとつ整理してみようか。
 まず――前提条件。俺が見ているこのピンクのカエルが幻覚でないのなら、”世界は複数ある”ということだ。
 時代考証も、なにより環境考証までてんでチグハグ、そもそも俺の世界観には喋るカエルも魔法少女も居なかった。
 同様にキュウジの世界では、探偵稼業は魔法少女の仕事の範疇で、
 探偵は居なくもないが、探偵だらけになるような土壌はない世界観だ。つまり、俺たちは別々の世界から来た」
「うん……そこは間違いないと思うよ……?」
「なら確定条件としよう」

 言いながら黒田はまだ文字の書かれていなかったソファーをひっくり返し、
 背に「1・世界は複数ある」と書いた。
 やっぱりアクション派じゃないのかとキュウジは思う。格闘が苦手な頭脳派とはちょっと思えない。

「そしてこの確定条件を”分かるところまで”詰めていく」

 書いた文字から線を伸ばし、項目を分けていく。
 ――どういう世界があるか?
 ――いくつ世界があるか?
 ――なぜ世界が複数あるのか?
 ――完全に別個の世界なのか? それともどこか一つから分岐した並行世界か?

「少し思いつくだけでもこれだけの条件が出せるわけだが、さてどれが“分かる”?」
「どれもわからないと思うなあ……」
「分からないのは情報が足りないからだ。他から情報を手に入れれば、確定したり推測できるものもある。
 例えばこの“参加者候補名簿”は大きな情報だな。
 俺もキュウジも知らない名前が載っている。というところ。そして、俺とキュウジが知っている名前の数も大事だ」

 黒田翔琉は“参加者候補名簿”をびらりと見せる。
 すでに警察署で調達したマーカーによって、
 黒田が知っている名前とキュウジが知っている名前には線が引かれている。
 全体で載っている名前の数は150弱。
 そして、黒田とキュウジがそれぞれ知っていた名前と、共通して知っていた名前を合わせて、30程度となっていた。
 ちなみに共通して知っていた名前とはすなわち偉人勢の名前のことだ。

437D-MODE ◆5Nom8feq1g:2015/08/22(土) 23:15:21 ID:/5XIYF.A0
 
「偉人勢はとりあえず除く。本当に呼ばれているならそれは別の世界からの可能性が高いからな。
 二人がそれぞれ埋められた名前だけ数えると、20弱だった。
 一人につき10人程度の知り合いがいることになる。
 ということは単純計算なら、この殺し合いに呼ばれた世界は15個あるということになる。
 ……ただ、考慮すべきは、“同じ世界だけど知らない人”の存在だ。
 俺の世界からも俺が知っている著名人以外に呼ばれていたりするかもしれない。実際に、一般人に見える名前もあるしな。
 そう考えるともう少し減るわけだ。10個前後、あるいはもっと少ないか。
 さらに殺し合いに呼ばれなかった世界の存在も考慮しておこう」

 黒田はソファーに文字を追加する。
 世界は複数ある――いくつ世界があるか?
 ⇒少なくともこの場には10前後。呼ばれなかった世界を含めればもっとあるはず。

「なるほど……そういう流れだったんだ。すごいやかけるくん。やっぱり探偵だったんだね」
「探偵だぞ。そしてこの程度で驚いてもらっては困る。
 こうして推測した情報が他の謎の手掛かりや、新たな謎となるということもあるわけだ」

 黒田はさらに分岐を増やしていく。
 もはや問答もなしに、謎を増やしては推測し、答えを出していく作業。
 恐ろしいスピードでマジックを書き連ねていくその姿はまるで魔法陣を書く魔術師のようだ。

 ――10前後の世界はそれぞれどういう世界か?
 ◆探偵の世界と魔法少女の世界。ほかにも職業や概念に特化した世界があるか?
 ◆参加者名簿は日本語で書かれていた。全員が日本語を理解できるとみるべきか
   あるいは他の参加者にはその世界の言語で渡されているのか?
 ◆キュウジも日本語は理解可能。最初に流れたスピーカーからのアナウンスも日本語だった。
 ◆日本があるという点ではこちらの世界とキュウジの世界は共通している
  ⇒並行世界説の補強?
 ――そもそも世界が沢山あるとすれば――なぜその10前後の世界から呼ばれたのか?
 ◆キュウジは「旗」を見ていない 旗は関係ない?
 ――誰が集めたのか?
 ⇒たくさんの世界を集めるならばその世界について知っている存在が必要
  また、自分の世界以外の世界に干渉できる存在も必要となる
  この島のような世界に連れてこられているが、こんな島はキュウジも俺もしらない
  世界を移動させる力を持っている存在もまた必要
 ◆また、

「ちょ、ちょっとかけるくん!」

 あまりに終わりそうにないのでキュウジは思わずストップを掛ける。
 黒田翔琉もそこでようやくキュウジの存在を思い出したかのようにマジックを書きなぐる手を止めた。

「おっとすまんな。ついつい探偵モードに入ってしまっていた」
「ほんとうにやめてよ……その辺のおはなしをこれまでして、もう分かることは全部分かったんでしょ?
 いまのはおさらいなんだから、そんなに根をつめないでよ。僕らはその先の話をすべきだと思うな」
「同感だ」

 そう、今の推理過程はここまでの情報交換の合間にずっとなされてきていたことで、
 だから壁にも床にもびっしりと文字が這わされているし、黒田はもう推理の果ての「答え」まで出している。
 確認作業に時間をかけるほど今日の探偵に余裕はない。
 ぱんぱんと服についたホコリを払ってから、ごきごきごきりと黒田は肩を回した。

「重要な“成果”だけを確認しよう。

 分かったこと。
 ひとつ。 世界が複数あると分かったこと。
 ひとつ。 主催は複数の世界から人を集めて殺し合いをさせていること。
 ひとつ。 主催には複数の世界に干渉できるだけの強大な力があること。

 推測できたこと。
 ひとつ。 「チーム」は世界ごとに分けられている可能性があること。
 ひとつ。 「旗」は主催が俺の世界に干渉したことを表していた可能性があること。
 ひとつ。 この島もまた、主催によって造られたものである可能性があること。

 まあ他にもいろいろと考えはしたが、まだ推測の域を出んな。閉じこもっていては情報も足りないか」

 根拠や論理は割愛するとして、
 この一時間程度のグリーティングで黒田翔琉が「理解」したのは以上の成果だ。
 かねてからの懸念だった「旗」事件についての推理が出来たのは非常に大きなことだった。
 さらに、自分が置かれている状況についてもある程度の把握を得た。

438D-MODE ◆5Nom8feq1g:2015/08/22(土) 23:17:17 ID:/5XIYF.A0
 
 複数世界から人を集めての殺し合い。
 理由はまだ不明だが、おそらくは世界ごとにチーム分けをし、
 どういうわけかどのチーム――どの世界が生き残るかを決めようとしている。
 その力はあまりにも強大で、黒田翔琉に太刀打ちできるものかはかなり怪しい。
 ――ここまで、分かった。 

「さて、そして最後の問題」

 そしてそれでもひとつ問題は残った。
 その問題は――ここが机上ではなく現場だということだ。

「俺はこの場で何をすべきか、だが――」

 事件が起こった後ではない。今まさに起こっている真っ最中だということだ。
 こんなとき、探偵はどうすべきか。


 ――黒田翔琉は探偵として、何をすべきか。


 ぎょろりと黒田の黒目がキュウジに向いた。
 キュウジはぎょっとした。先ほどまでの探偵の鋭い目とは違う。
 その目にはこの理不尽への怒りが、正義に燃える男の怒りが、炎として灯っていた。

「何をすべきか、だが。そんなものは決まっている。
 ……俺にもかつては師匠が居た。
 探偵の師匠だ。その人は探偵になろうと目を輝かせていた俺に、いきなりこんなことを言うような人だった。
 “いいかカケル、探偵は事件を解決している時点で負けだと思え。出番があった時点で敗けだと思え。
  探偵の仕事なんてのは火事の消火だ。延焼しないようにする後始末だ。燃えたものは結局、戻らねえ”」
「かけるくんの……師匠……」
「事件が起こってしまっているという事態そのものを、重く見るような人だった。
 確かにそうだと、俺も思う。解決するのは楽しいし好きだが、解決するような事件が無くなるのが一番だ。
 まあ理想論だ、事件が無くならないから俺たちみたいのがいるわけだしな。それでも、探偵(おれたち)だって思ってるんだよ」

 黒田翔琉は言った。

「人を悲しい目に合わせるクソ野郎は許せねえって、探偵(おれたち)だって思ってるんだ」

 力強く、宣言した。

「俺は――この事件(殺し合い)を止めるぞ、キュウジ」
「かけるくん……!」
「そしてそれに際して一つ、質問がある」
「え?」
「キュウジ。魔法少女のマスコット。マスコット学園では主席だったが、未だ契約者はおらず。
 マスコットは、契約者を自らと一蓮托生とする魔法少女に変えることができる。そうだな?」
「え……うん……」
「ならば」


 そして力強く、質問した。


「ならばお前は、俺を――魔法少女にできるか?」



【A-4/警察署/1日目/早朝】

【黒田翔琉@アースD】
[状態]:健康
[服装]:トレンチコート
[装備]:キュウジ@アースMG
[道具]:基本支給品、週刊少年チャンプ@アースR、タブレット@アース???
[思考]
基本:この事件(殺し合い)を止める
1:眠気は覚めた
2:そろそろ動き出す
3:剣崎渡月に注意
4:詩織やナイトオウルたち知り合いも気になるが…
[備考]
※「旗」は主催によるものと推理しました。
※複数世界の存在と、主催に世界干渉能力があることを推理しました。
※チーム=アースや言語変換、偉人勢の世界があることなどについては推測程度。

439 ◆5Nom8feq1g:2015/08/22(土) 23:19:54 ID:/5XIYF.A0
できるんでしょうか。投下終了です。

440名無しさん:2015/08/23(日) 01:29:02 ID:YHBwkX920
投下来てた!お二方乙です!

「似たもの同士が相性がいいとは限らない」
この二人は確かに似ているところはありますね。
師匠ポジの人を殺されてるところとか、達観してるところとか。
一旦はなんとかなったもののまた会ったときが怖いなあ…

「D-MODE」
探偵黒田の本気。さすがだ…キュウジもいい奴そうでなによりだ。
そしてやはり魔法少女黒田が誕生してしまうのか…!?楽しみだけど、おっさんの魔法少女だなんて見たいような見たくないような…。

441名無しさん:2015/08/23(日) 09:07:37 ID:ydq1Z7tQ0
投下乙です!
「D-MODE」
第一放送前にほとんど論理だけでここまで考察を進めた黒田はさすが探偵といったところ
キュウジもいい相方してるなあ
もし魔法少女になれたら戦闘面での不安も解消できるが、どうなんだろう?
まほいくのように少女になるのか、これゾンのような女装野郎になるのか、あれ、どっちでもおいしい……?

442名無しさん:2015/08/23(日) 12:06:33 ID:K9WKxhTc0
投下来てるじゃないか!

「似たもの同士が相性がいいとは限らない」
あいかわらず澱んだヒーローたちはサツバツとしてますね…コワイ!

「D-MODE」
魔法少女で探偵なオッサン、略してマタオの誕生か?

443CORE PRIDE ◇aKPs1fzI9A:2015/10/25(日) 01:18:34 ID:yU85qQho0
代理投下します

444CORE PRIDE ◇aKPs1fzI9A:2015/10/25(日) 01:19:04 ID:yU85qQho0
くははっ!やっぱり俺様の考えた通りだったなぁ、俺様の勘はやっぱ他のやつらとはちげぇんだな」

学校の三階職員室。
愛島ツバキは窓際の教員用作業デスクを眺めながら口許を緩ませた。
そしてツバキは普段なら座れない『教頭』というカード立てが置かれているデスクの椅子に腰かけゆったりとしている。

探索を始め、一時間ほどだろうか。
ツバキと陽太が一通りこの学校を回ったが、ツバキにとってこの学校は見覚えがあった。
何故ならばツバキが普段通う高校のそのものなのであるからだ。
ツバキと蓮がいつも居た生徒会室も、学食も、理科室も、教室もそのままの姿でこの殺し合いの会場に姿を現していた。

「…ツバキ、やっぱりこの学校は君の居た学校なのか」
「さぁねっ。AKANEが俺様の世界の学校引っこ抜いてここにドシーンって置いた『学校そのまま』なのか、俺様の世界の学校をそのままコピーして作り上げた『見せかけの学校』なのかまでは分かんねえよ。俺様のはや様エスパーじゃないしさ」

部屋の片隅で資料に目をやりながら、陽太は確認するかのようにツバキに聞いた。
ツバキも返答のようにはっきりとした確証は持てなかったが、そう予想するのは容易かった。

「どっちにしろとんでもない技術と手間がかかってるのに違いはないか」
「んまぁね♪」
「…なんでAKANEたちはここまでしたんだろうな。やる事は単純なのに」

壁に目をやると、おそらく年季からだろう。黒ずんだシミが見受けられる。
職員の机を見ても、職員の家族の写真や、部活動のスケジュール。添削課題までそのままの姿で置かれてある。
まるである学園のその一瞬を、人間だけ取り除いて切り取ったかのように。

陽太としては疑問だった。
殺し合いをたださせるなら、ここまで本格的に用意する必要はないのではないかと。
ただの道楽目的ではない、何か裏があるのではないかと。
深読みかもしれないが、そう思わざるをえないほどこの学校は不自然だった。

445CORE PRIDE ◇aKPs1fzI9A:2015/10/25(日) 01:19:32 ID:yU85qQho0

「さぁね〜。俺様わかんなぁーい。名探偵でも連れてこいよってなっ」

そんな陽太の疑問を差し置いて、ツバキはへらへらと笑いながらバックから双眼鏡やら、薬品やらなんやらを並べていく。
先程寄った理科室で回収してきたものだろうか。陽太は周囲の敵の有無ばかり気を使っていたのでこういった物は忘れていた。
ツバキは双眼鏡を手に取り、椅子から立ち上がると西の窓際へと行き、そこからの風景を覗いた。

「生物の田邊の机の中にあったんだぜ!教師に対するボートク?ってやつか…おっ。こりゃおもしれえ」
「どうした!」

誰か見つけたのか、と思い陽太はツバキへと駆け寄る。
ツバキはわざとらしそうに、「ほへー」と言いながら、望遠鏡を覗き続ける。

「ヘロヘロの女の子が歩いてきてるぜ、しかも…こっちに!くははっ!よく見れば『戦姫たちの夜に』の雨谷いのりじゃん!コスプレかよっ」
「…!いのり!?」

雨谷いのり。結城陽太の弟子仲間の一人で、ともに修行していた仲間だ。
世界渡航に巻き込まれてからは行方も知れなかったが、まさかこの殺し合いに巻き込まれていたとは。

驚くツバキから半ば強引に双眼鏡を取り、覗く。
確かにいのりだった。しかし怪我でもしたのだろう。数箇所の出血と、脇腹を抑えながら苦痛の表情で歩くその姿は、間違いなく危険な状態だった。


「あれ?知り合い?作者どころか媒体も違くね?あんたら 」
「知り合いも何も…俺の弟子仲間の一人だ!なんであんな姿に…っ!」

いのりは強かった。
それでこそ師匠からも毎日のように褒められていたし、彼女としてもヒーローに対して誇りがあった。
そのいのりがあそこまでぼろぼろになったのにはきっと訳があるはずだ。
陽太も知らぬ、敵が。
双眼鏡をツバキに突き返し、陽太はおもむろに出入り口のドアへと走り、その引手に手をかけようとした。


「どこ行くんだよ」

ツバキが、先程までのふざけた様な喋り方ではなく、冷静に、しかしどこか調子が抜けたように尋ねた。
もちろんツバキも、陽太の行き先など知っている。
しかし、この《打ち切りくん》の物語を知っていた。だからこそ、ここで一応、止めておく必要があった。

物語の中で結城陽太は正義感が強い熱血漢だった。
だからこそ、仲間や無実の人々が痛い目にあったり傷つけられたりすれば頭に血が上ったようになり、「彼らを助けるため」の行動をする。
しかしひっくり返せば「正義感が彼の理性を抑圧してしまう」ことになり得る。
故に「サンライズ」の話の中ではその正義感が彼を単独的な行動へと度々追いやったためかファンからの批判に晒されてしまい、打ち切りの原因の一つとなったのだった。

446CORE PRIDE ◇aKPs1fzI9A:2015/10/25(日) 01:19:53 ID:yU85qQho0
もし、結城陽太がその「サンライズ」の中の本物であるならば、おそらくツバキの話など聞かずに立ち去るだろう。しかし、ツバキとしても何も言及せずに元気に陽太にたいして
「いてらぁーー」と言うわけにもいかない。

ツバキは窓際から陽太へとゆっくりと近寄りながら口を開く。

「…あれが本当にお前の知人の『雨谷いのり』とやらって確証はあるのかよってハナシ。俺様から見たらアニメキャラのコスプレにしか見えないぜぇー?」

ドアの方を向いていた陽太は少し、肩を動かした。
確かにそうだ。世界渡航を経験した自分なら分かる。
ツバキの言う通り、あのいのりは《自分の知っている雨谷いのり》でない可能性だって十二分にある。
それどころか、凶悪的なヴィランであったらどうすればよいのか。
自分がここでやられてしまったら、それでこそツバキも、いのりも、この殺し合いに巻き込まれた人々を助けられないのではないか。

…しかし、それでも陽太は行かねばならなかった。
目の前の困っている人が居るならば、彼は駆けつけなければならなかった。
それが、師匠の教え。
《時が英雄にとっての最大の敵》。
まっすぐに、自分の正義感を信じて、行くしかなかった。

陽太は一旦大きく息を吐いてから、ツバキの方をはっきりと向いた。

「それでも俺は行く!『ヒーロー』だから!助けを求める人が居れば、どんな人でも助けてみせる!」

陽太はそう言うとドアを開け、職員室を走り出ていった。
正義感を胸に抱き、走り抜けていった。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

447CORE PRIDE ◇aKPs1fzI9A:2015/10/25(日) 01:20:34 ID:yU85qQho0
一人残されたツバキはやれやれと頭を掻きながら、陽太がいつの間にやら降ろしていたディバックも持ち、右手に日輪照らせし蒼穹の銃があるのを確認してゆっくりと職員室を出た。
陽太が走っていって数分後だった。

陽太を最初は追いかけるつもりはなかったが、このままもし死んでしまえば間が悪いし、何よりツバキ自身のせいになりうるのが、なんとなくバツが悪かった。

「…そんなんだから打ち切りくらうんだぜ。『サンライズ』君。
ま、たまにはヒーローの道楽に付き合ってやりますか。くははっ」

ツバキはそう呟くとのらりくらり、ゆっくりと陽太の足跡を追っていった。

【D-7/学校/1日目/早朝】

【愛島ツバキ@アースR】
[状態]:健康
[服装]:女子制服
[装備]:日輪照らせし蒼穹の銃(日光の充電50%)@アースH
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜2、陽太の基本支給品&ランダム支給品0〜3
[思考]
基本:AKANEをぶっ潰す。
1:陽太と一緒に学校を探索したかったんだけどなぁ…まぁいっかだいたい見れたし。
2:平行世界について調べる。
3:陽太を追う

【結城陽太@アースC】
[状態]:健康
[服装]:制服
[装備]:なし
[道具]: なし
[思考]
基本:AKANEと戦う。
1:いのりの元へ行く。

448名無しさん:2015/10/25(日) 01:21:17 ID:yU85qQho0
代理投下終了です

449名無しさん:2015/11/18(水) 01:21:03 ID:vYhxpiSA0
いつのまにやら投下来てた!?
乙です!果たしてどうなるのやら…

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452 ◆F3DFf2vBkU:2016/01/28(木) 00:15:59 ID:zWR9sifI0
テスト

453 ◆F3DFf2vBkU:2016/01/28(木) 00:17:06 ID:zWR9sifI0
短いですが
平沢茜
レイジョーンズ
投下します

454 ◆F3DFf2vBkU:2016/01/28(木) 00:17:53 ID:zWR9sifI0
レイ・ジョーンズは人間の闇を知っている。
「世界崩壊」前の彼は、犯罪者を相手取る仕事をしていた。新人だったが、それでも何度か場数は潜った。だから知っている。良心や倫理観などないかのように振る舞う悪党を知っている。
「世界崩壊」後も彼は極限状態に置かれた人間の醜さを何度も見てきた。それはゾンビとはまた違う醜悪さ。所詮人間も獣に過ぎないと訴えるような、残酷で、冷酷で、恥知らず。

だが、他の世界と比べても遜色なく、あるいはそれ以上に人間の【悪】に触れてきたレイ・ジョーンズでも、彼女、平沢茜は未知だった。

犯罪者、狂人、残虐。

そんな月並みな形容詞では表せないほどの【悪】。
そもそも動機からしてレイには理解ができなかった。

――世界が平凡だったから。

なんだそれは、とレイは思う。
そんなティーンエイジャーが家出をするような理由で、彼女は何人もの人間を殺して、いや、殺し合わせてきた。

その所業、まさしく悪魔(イレギュラー)。

だが、あまりにも理解ができないからこそ、レイはそれ以上、理解することを止めた。
レイの目的は生還である。ならば、ある意味ベテランである茜は重要な要素だ。
生かしておく。それに、外見は妙齢の日本人女性であり、実際に殺人を犯す、または誰かに危害をくわえるところを見たわけではない。

こと、適応力に関しては、レイの右に出る参加者は少ない。レイは心の中から生じる不快感、生理的嫌悪に蓋をして、あくまで善良なアメリカ市民、タフな元SWATとして振る舞うことに決めた。

レイと並んで歩く茜はすっかり登りきった太陽に照らされた海を見ている。
まるで、映画のワンシーンのように、海沿いを歩くレイと茜は、映えていた。

455 ◆F3DFf2vBkU:2016/01/28(木) 00:18:32 ID:zWR9sifI0


レイ・ジョーンズにとって平沢茜は未知である。
が、彼は未知に慣れている。次々に襲い来る不条理に耐性がある。

ならば、平沢茜はどうなのか。
自分のペースを崩さない彼女は、このバトルロワイアルも既知なのか。

結論から言えば、彼女の心中は決して穏やかではなかった。
まず、彼女の感情を占めるものは怒りだ。

観測者、と茜は自分を評価している。
あるいは読者、もしくは視聴者。

彼女は殺し合いを見ることが好きだ。
もし古代ローマに生まれていれば、コロッセオの常連、あるいは運営者に成っているだろうと確信する程度には、好きである。

そう、彼女は殺しあいを見ることが好きなのであって、殺しが好きなわけではない。
何度か見せしめと称して人間を銃殺、あるいは爆殺したことはあるため殺人処女でこそないが、それでもどこぞの狂人のように、殺人そのものには快楽を見出さない。

だからこそ、彼女は自分を殺しあいに招いた『もう一人の私』、AKANEに敵意や憎悪を抱いていた。AKANEも、茜の性質は知っているはずだ。知っていて、それでもなお、彼女を殺しあいに放り込んだのだ。ご丁寧に彼女に殺意を抱いているであろう参加者と一緒に。

ああ、果たしてこれほどの屈辱があろうか。
観客は、コロッセオへと引っ張り込まれ、今度は自分が主催者を喜ばせる劇の一部として扱われている。
家柄を誇らず、友人からも謙虚でいい子という評価を貰っている彼女だが、その本性は自分以外の全てを自分の欲を満たすためにあると思っている悪魔だ。だからこそ、自分がもう一人の自分の肴にされることに我慢できない。
引きずりおろす、と茜は改めて決意を固める。

彼女の心を占めるものは怒りだ。
が、それだけではない。
怒りに次いで大きな感情。それは矛盾のように思うかもしれないが、愉悦だ。

殺し合いに放り込まれたことこそ業腹だが、この趣向は悪くない。
主催者の地位を奪えれば、様々な世界の者たちをロワに参加させることができるのだ。

そのことを考えるだけで、彼女のテンションは上昇する。
ヒーローや探偵、魔法少女や偉人が同じフィールドで殺し合う様を見たら、ここ最近のマンネリも吹き飛ぶだろう。
いや、それだけではない。異世界にまで干渉できる力があれば、妄想だけで終えていたこんな趣向やあんな趣向も……と考え出したら際限が無くなる。
そういう意味では、彼女は今まさに、明日への希望を見つけたといってもいいのかもしれない。

最後に彼女の中で最も小さな、されど確かにある感情。
それは、恐怖だ。
死にたくない、と彼女は思う。
観測者である彼女にとって世界の中心は自分である。彼女は全ての価値を自分に置いている。
だからこそ、人並みに、人並み以上に、彼女は死を恐れている。

平沢茜は聡明である。元々の悪魔じみた閃きと英才教育によって、彼女の思考力は水準を超えている。が、それは殺し合いを生き抜く武器としてはいささか弱い。
何より、彼女は腕っぷしが強くない。元々運動が好きではないのだ。おそらく単純な身体能力なら参加者でもワーストクラス。アースRの参加者だけを比較しても、平均以下であることは確実。

はっきりいって、もし彼女が最初に出会った参加者が、殺意を胸に秘めていたら、平沢茜はとっくに脱落している。
それは彼女自身も重々承知している。

大物ぶるのも、余裕の笑みを見せるのも、全ては経験則だ。
この極限状況でそのように振る舞う者がいれば、他の参加者は警戒、または頼もしく思うだろう。
いずれにしても、生存率は上がる。

彼女が見てきたいくつのも殺し合いでも、マイペースを貫いた参加者は必ず終盤まで残っていた。

経験則に関しては平沢茜はトップだ。
終盤まで生き残る参加者の行動や傾向を分析し、その中で自分でも行える行動を選択。
今まで見てきた何十何百の死と同じにならないように、茜は頭を働かせる。

456 ◆F3DFf2vBkU:2016/01/28(木) 00:19:11 ID:zWR9sifI0


ざあざあと波が揺れている。
港にはいくつか漁船が泊まっていた。
レイが調べたところ、エンジンは問題なく使える。
が、当然沖合に出れば首輪がボン、だ。
レイも茜をそれを理解しているからこそ、今のところこの漁船群にたいした価値を置いていなかった。
「この後どうする、茜」
レイは支給された食料――味気ない乾パンだ――を口に入れながら、横でコーヒー牛乳を飲む茜に問う。
「……そうねー、このまま放送が始まるまで、港に待機ってのはどう?」
ちらりと、レイは腕時計を見た。
もう1時間もしないうちに放送が始まる。
「俺も同じ考えさ。今慌ててここを移動するメリットがない」
「そ。それに茜ちゃんはもー疲れちゃったよおー」
そう言って、ごろんと茜はベンチに体を横にした。
無防備にレイにその肢体を、晒す。
「ジョーンズさーん、マッサージおねがーい」
そう言って、童女のようにあどけなく、笑う。
こういった相手を、レイ・ジョーンズは殺せないと脳内で冷たく計算しながら。
「はは、おやすいごようさ」
そう言ってレイは彼女の踝に手を当てる。
「いやーん、何か手つきがやらしー」
「おいおい、君から頼んだんじゃないか」
そう言って、レイは手慣れた手つきで、彼女の足をほぐしていく。
(あ、思ったよりも上手い、この人)
と、彼女が若干緩んだ脳でそんなことを考えた時。
「ところでさ、せっかく時間があるんだ。さっきの話しの続きをしたいんだけど、いいかい」
(やっぱり、来たか)
平沢茜は考える。
今話すべきこと。まだ話すべきではないこと。それを冷静に吟味しなければならない。


もし第三者が今の二人を見れば、年の離れたカップルだと思うかもしれない。

が、二人の間に絆が芽生える可能性は――今のところ、零である。





【H-5/港/一日目/早朝】


【平沢茜@アースR】
[状態]:健康、精神的疲労(小)、肉体的疲労(中)
[服装]:普通の服
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品1〜3
[思考]
基本:主催を倒し、自らがこの殺し合いの主催になる
1:AKANEの元へ行く
2:ジョーンズには守ってもらいたい
3:叫、駆、嘘子の動向が気になる
4:放送があるまで港で待機
[備考]※名簿は見てます


【レイ・ジョーンズ@アースEZ】
[状態]:健康 
[服装]:ボロボロのスワット隊員服
[装備]:スペツナズナイフ×4@アースEZ、小説『黒田翔流は動かない』@アースR、仮死薬@アースR
[道具]:基本支給品
[思考]
基本:主催を倒す
1:一般人は保護
2:茜の話をもっと聞く。そのために今は茜を保護するのが先決か
3:マシロ、マグワイヤーが気になる
4:俺が作られた存在?
5:放送があるまで港で待機
[備考]※平沢茜に生理的嫌悪感を抱いています

457 ◆F3DFf2vBkU:2016/01/28(木) 00:20:30 ID:zWR9sifI0
投下を終了します
タイトルは「悪魔の中身」です

458 ◆F3DFf2vBkU:2016/01/30(土) 00:11:59 ID:ptTP.aTw0
今回も短いですが
卑弥呼
柊麗華
早乙女エンマ
投下します

459みつどもえ ◆F3DFf2vBkU:2016/01/30(土) 00:13:12 ID:ptTP.aTw0
全身に揺さぶりを感じて、目を覚ます。
すでに日は昇っていた。
視界に入る少女は確か――柊麗華。
そして、どぎついピンク――ピンク?

「そう睨むな、睨むな。妾の名は卑弥呼。お主……えんま、じゃったか?お主の師匠探しを妾も手伝ってやるぞ」

そう言って、ピンク色の髪の少女は微笑んだ。

「安心せえ。妾はお主らのような可愛い女の子の味方じゃ」

えへへ、と麗華は照れたように頭を掻いた。
エンマはそんな二人を無表情に見つめる。

「協力してくれるの?」
「うむ。妾にどーんと任せい」

薄い胸をどんと叩く。
エンマはこの卑弥呼と名乗る少女をチームにいれたメリット、そしてデメリットを考える。
が、今まで損得についても深く考えなかった少女にとって、これは中々難しい仕事だった。
数秒ほど、眉を歪めて額に手を当てた後、エンマは卑弥呼に結論を言った。

「二人かついで逃げると、両手使えなくて困るから」
そこで一度、言葉を切る。
卑弥呼の目を見つめ、続ける。
「もしもの時は、お前は、追いて逃げるから」

卑弥呼は可笑しそうに笑った。
「かまわんよ、妾はジープを持っとる」

こうして、チームは三人になった。

460みつどもえ ◆F3DFf2vBkU:2016/01/30(土) 00:14:08 ID:ptTP.aTw0


時は数分ほど遡る。
未だ早乙女エンマが眠りについている時。
吸血鬼、柊麗華は昇る太陽の光を体に浴びながら、エンマの寝顔を見つめていた。
(可愛いなあ)
それは肉体の強度的な意味でも、顔かたちのことでも、両方の意味でである。
柊麗華は自分の外見を気に入っている。
気に入ったからこそ、彼は「柊麗華」を皮にして、彼女になったのだ。
しかし、気に入っているといっても、毎日見ていればさすがに飽きる。
この体で小学校に通っている彼女にとって同年代の女子は珍しいものではないが、それでも早乙女エンマは十分に上玉だった。

そして、ジルに追いかけられた恐怖やエンマの持つ暴力に対する畏怖も、数時間経ったことで、収まっている。
(ちょっとならイタズラしても、バレないよね)

思えば、こういう油断や甘さが彼を一度人生からドロップアウトさせた要因なのだが、残念ながらこれは人外になっても治らなかった。

頬に手を触れる。ぷにぷにとして柔らかい。
髪に手を伸ばす。砂で多少汚れているが、それでも口にいれたいほどきめ細かい。

未だエンマが目覚める気配はない。
そっと、麗華は自分の顔をエンマに近づける。

(さすがに唇同士はまずいよね)
でも頬を舐めるくらいなら大丈夫、とエンマは心の中で呟く。

「おお、何と何と!ロリっ子同士の百合じゃと!いいのう、いいのう。妾はそういうのも大好物じゃ!」

突如聞こえた邪悪な声に、麗華ははっと顔を上げた。
自分の目の前にいるのは、一匹の烏。

まさか烏も参加者なのか、と麗華はこの殺し合いの底知れなさを感じ恐怖した。

「うむ、どうしたのじゃ。妾のことは気にするな、邪魔はせんぞ。ただこの式神で記録して動画サイトに上げるだけじゃ」
烏はそんな迷惑なことを言いながら、こちらをじっと見つめる。

(式神……)
と麗華は脳内で検索する。
高位の吸血鬼は使い魔として、蝙蝠などを使役できる。
この烏も似たようなものか、と麗華は推理した。
とりあえず、エンマを起こそうとその矮躯に手を伸ばす。

「しっかし世の中何が起きるかわからんもんじゃのう。怪獣の次は『人外同士』の百合とは!いいのう、いいのう、AKANEもわかっとるのう!」

手が止まった。
(見抜かれてる……!?)

それは柊麗華がエンマに明かしていない真実。
それを、正体不明の式神使いに見抜かれたのだ。
「ん、どうした?起こさんのか?もしやお主、自分が人間じゃないことをその赤いロリに隠しとるのか?ううむ、お主も大変じゃのう」

「あ……」

そして、そのことさえも見抜かれる。
完全に役者が違う、と麗華は痛感する。
後はまだ、この式神使いの良心にかけるだけだが。

「そうじゃのう、お主。妾に協力してきれたら、このことをそこの赤いロリに黙っておいてやるぞ」
「な、何をすればいいんですか?」

哀れな殺人鬼は、邪馬台国を治める女王に縋る。

「うむ、妾はこの殺し合いをもっと面白くする!お主は、その手伝いをしてくれ!」

――――邪悪。

ある意味、ジルやAKANEよりタチが悪い卑弥呼の言葉に、麗華は空を仰いだ。

461みつどもえ ◆F3DFf2vBkU:2016/01/30(土) 00:14:44 ID:ptTP.aTw0


「怪獣ティアマト」
エンマは静かに呟く。
「うむ、妾も二人、同行者をそやつに殺された。今でこそ縮んで怪人と呼べるほどの大きさになっておるが、それでも参加者にとっては十分な脅威じゃな」
「そ、そんなのまでいるんだ……」
と、怯えた声を出して麗華はエンマを見た。
「でも、エンマちゃんなら、勝てるんじゃない。さっきもあんなでっかい虎を簡単に倒しちゃったし」
「ほう、虎をか。そいつはすごいのう。三国志でも虎に勝てそうな奴はそういないというのに」
「……怪獣はわかんないけど、それくらいの大きさの怪人なら、師匠と一緒に倒したことある。だから、たぶん勝てる」
「ならば、討伐に向かうか。妾も微力ながら協力するぞ。かたき討ちじゃ」
じろり、とエンマは卑弥呼を睨んだ。
「まずは、師匠を探したい。方針は、その後考える」

「うむ、ロリは父親と一緒にいるのが一番じゃ。背徳的なロリも好きじゃが、無邪気に父親と戯れるロリも好きじゃよ、妾は」
「じゃあ、とりあえず北上しませんか。人を探すんでしたら、端より中央のほうがいいと思いますし」
「しかしティアマトに出会ったらどうする?」
「なんとかジープで逃げ切りましょう。卑弥呼さんもさっきそれで逃げ切れたんですし、私達が二人増えても問題ないはずです」
なるほど、と卑弥呼は腕を組んだ。
「それでいいよね、エンマちゃん」
と麗華はエンマを見て、あれっと首を傾げた。
どうにも機嫌が悪そうな表情だった。
「別に、出会って、襲い掛かられたら、倒すけど」
どうやら、麗華の言葉でエンマはヒーローとしてのプライドを傷つけられたようだ。
ごめんごめん、と麗華は大仰に頭を下げる。
そういう顔も可愛いいのう、と卑弥呼はよだれを垂らす。
殺し合いの最中とは思えない、どこかふわふわとした空気が流れた。



エンマは考える。
新しい同行者、卑弥呼。
正直口調は麗華より不愉快だし、髪の色も不自然で好きになれないし、で印象は良くは無い。
しかし、使える。
先程、式神と称してどこからともなく、烏を取り出して見せた。
この烏は卑弥呼と感覚を共有し、索敵に非常に向いている。
制限と、卑弥呼の運動不足からの体力の無さから、一度に2〜3羽しか使えないらしいが、それでも師匠探しには便利な能力だ。
(師匠、今何してるんだろう)
赤い少女は、灰色の男へ思いを馳せる。


面白い奴らじゃのう、と卑弥呼は心中で呟いた。
柊麗華。外見は可愛らしい少女だが、その中身は。
(小物じゃな)
と卑弥呼は断じた。
邪馬台国、そして敵国のクナ国には、こういう輩が大勢いた。
ここまで可愛らしい外見をした者はそういなかったが。

(そして、早乙女エンマか)
もう一人の少女は、レアだ。
二度目の人生で、似たような存在を見たような気がするが、中々思い出せない。
麗華の話しを聞く限りでは、身体能力に優れているらしい。
そして強い躰に見合わぬ、未熟な心。

(ああは言っておったが、ティアマトには勝てんじゃろうな。戦士としての格が違う)

だが、卑弥呼はそこは重要視していなかった。
今、彼女が注目するべきところは外見よりももう2〜3歳遅れているその精神性。
おそらく、「師匠」とエンマが読んでいる男は、中々歪んだ感情を彼女にぶつけていたようだ。

(妾色に染めてから師匠に遭遇というのも面白そうじゃのう。NTRものも妾も好きじゃ)

まあ、とにかく、面白く、面白く。

古き女王は、その邪悪さを胸に秘め、少女達に笑いかける。

462みつどもえ ◆F3DFf2vBkU:2016/01/30(土) 00:15:14 ID:ptTP.aTw0


柊麗華は高位の吸血鬼ではない。
エクソシストや退魔師、陰陽師と戦闘になれば、なすすべなく退治されてしまう存在である。
柊麗華は天才ではない。
人間であったころは典型的なダメ人間だった。吸血鬼になってからも抵抗の少ない女子供ばかりを襲った(性癖の関係もあったが)

では、柊麗華は同行者二人、二人の少女に対して、何のアドバンテージもないのか。

否、麗華には、二人に対抗する一つの武器があった。

それは。
(限界を知ること)

柊麗華は知っている。
ヒーローや怪人が入り混じるアースHを生きる早乙女エンマよりも。
同じアース出身で、しかし化物としての格で圧倒的に負けている卑弥呼よりも。

彼女は、自分の強さの限界を知っている。
そして、自分より強い者の存在を知っている。

(確かに二人と直接やりあったら勝てない。でも、状況を見極める力なら、この中で私が、いや、『俺』が一番だ)

柊麗華は知っている。
自分を吸血鬼にした真祖の吸血鬼、そのでたらめぶりを知っている。
自分が格下の人外であることを知っている。

だから強者に助けを求める。
だから無力な少女のフリをする。
だから強者の服従を誓う。

だから彼女は、今も生き続けている。

(今に見てなよ、最後に笑うのはこの『柊麗華』だ!)


「ところで、ジープは誰が運転するのじゃ」
「さっきまでは卑弥呼さんが運転してたんですよね」
「じゃが妾も疲れたしのう、麗華、任せる」
「え、あの、私、免許持ってないんですけど」
「妾もじゃ」
「私もだ」
こうして、少女が三人乗ったジープが町を走ることとなった。

【B-6/町をジープで安全運転/1日目/早朝】
【卑弥呼@アースP】
[状態]:健康、興奮
[服装]:巫女服
[装備]:無
[道具]:基本支給品一式、蛇腹剣@アースF、生体反応機
[思考]
基本:「楽しさ」を求める
1:ロリはいいのう!
2:このまま北上
 3:早乙女エンマを染める?
[備考]
※怪獣が実在することを知りました。
※麗華やエンマが人間ではないことを知りました
※エンマの能力をある程度把握しました
※式神(黒い烏)を召喚できます。詳細な能力や制限は他の書き手さんにお任せします


【柊麗香@アースP(パラレル)】
[状態]:健康 精神的疲労(小)ジープ運転中
[服装]:多少汚れた可愛い服
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜3
[思考]
基本:生き残る
1:早乙女エンマと卑弥呼を利用する。
2:このまま北上する
3:早くジープの運転に慣れる
※吸血鬼としての弱点、能力については後続の書き手さんにお任せします


【早乙女エンマ@アースH(ヒーロー)】
[状態]:健康
[服装]:血で汚れている
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜3
[思考]
基本:師匠と合流して、指示を仰ぐ
1:このまま北上する
2:自分から戦うつもりはないが、襲われたら容赦はしない
3:このまま北上
※卑弥呼からティアマトの情報(多少の嘘が混じった)を聞きました。情報がどれだけ正確に伝わったかは他の書き手さんにお任せします
※柊麗華、卑弥呼の名前を知りました

463 ◆F3DFf2vBkU:2016/01/30(土) 00:15:59 ID:ptTP.aTw0
投下を終了します

464 ◆F3DFf2vBkU:2016/02/06(土) 15:43:42 ID:LjUNzr.g0
裏切りのクレア、高村和花、投下します

465桜の意図 ◆F3DFf2vBkU:2016/02/06(土) 15:45:27 ID:LjUNzr.g0
魔法少女とヒーロー、どちらが強いかだって?

そりゃあお前、キャラによるだろ。
最弱の魔法少女と最強のヒーロが戦えばヒーローが勝つ。
最強の魔法少女と最弱のヒーローが戦えば魔法少女が勝つ。
最強の魔法少女と最強のヒーローが戦えば……。

ああ、だめだ。どのキャラが最強かだなんて、ファンそれぞれで違うからなあ。
やっぱあれだ、キャラクターで判断しようぜ。

じゃあとりあえず。異端対決ということで。

元ヒーロー、裏切りのクレア。混血の魔法少女、マイルドフラワー。

強いのは、どっち?



服従か、死か。
裏切りか、死か。
8歳の少女に突きつけられた厳しい選択。

マイルドフラワー、高村和花の瞳は絶望で揺らめいた。

「どうした、さっさと選ぶんだ。私はあまり気が長いほうじゃないよ」

両手を広げ、口を三日月に歪めるその女、裏切りのクレアはマイルドフラワーには悪魔にしか見えなかった。
正義の魔法少女はそこに、確かに悪が在ることを認識する。
だから。

「私は、裏ぎ――らない!」

その宣言と共に右手にステッキが現れる。
とほぼ同時にその先端から桃色の極太レーザーが悪へと襲い掛かった。



『サクライト』
それはマイルドフラワーが唯一覚えている攻撃魔法にして、日本の魔法少女が放つ呪文の中でも、トップ10に入る火力を誇る魔法である。

高村和花は正義の魔法少女である。
アースMGにおいて、魔法少女は平和を守る守護者としての役割を備えている。
彼女たちは迷子の保護、町内のゴミ拾い、企業のイメージガール、だけでなく。
凶悪な犯罪者の制圧、『魔』の討伐、悪の魔法少女との激闘。
これらも正義の魔法少女、それもベテランならば一通り経験していることである。
それでも魔法少女の死亡率はアースHにおけるヒーローのそれよりずっと少ない。
それはヒーローよりも魔法少女は助け合いに重きをおくこと。
世間が魔法少女に非常に好意的なこと。
この2点が大きい。

ならば、魔法少女から、そして心無い世間の大人達から。
嘲られ、苛められ、排除されたマイルドフラワーがそれでも今まで正義の魔法少女として活動できたのは、この呪文のおかげといっても過言ではないだろう。



突如目の前に広がった桜色の世界に、裏切りのクレアは驚愕で目を見開いた。
裏切りのクレアは、それこそ和花くらいの歳の頃から戦ってきたベテランである。
ゆえに、今、自分に迫りくるものがどれほどのものなのか、瞬時に悟る。

「これは、裏切られたな……!」

そう言って、クレアは腰を落とし、両腕を交差して、胸の前で構える。
避けるには、範囲が広すぎる。
マイルドフラワーが放ったサクライトは、東光一に見せたそれより数倍の火力、範囲だった。
故にクレアはかつて『表破り』と言われた時代のように、正面から迎え撃つ。

「しかし、たいした威力だ。ヒーローの放つ必殺技に勝るとも劣らない。だからこそ、私も正々堂々、油断せず。――6割で相手をしよう」

次の瞬間、質量を持ったレーザーがクレアを呑みこんだ。
例えるならそれは巨大なブルドーザー。
あるいは津波。
この呪文を放たれた者は、文字通り吹き飛ばされ、ノックアウト。
それがマイルドフラワーの経験則だったが。

「嘘……」

驚愕と絶望が混じった声が、その喉から洩れた。
裏切りのクレアは、動かない。
身長170、体重50といくつのその体は、しかしマイルドフラワーには大岩のように思えた。
こんなことは未だかつてなかった。マイルドフラワーが敵に本気でこの呪文をぶつけ、それが当たった時。それはマイルドフラワーの勝利とイコールしていた。
魔法が封じない状況に持ってかれた時はあった。
俊敏な相手に避けられたこともあった。
しかし、直撃してもなお拮抗するのは、本当にありえない。

「もしかして君は、私がこの魔法と拮抗していると、思っていないかい?」

クレアのその声は決して大きくはないが、確かにマイルドフラワーの耳に入った。

「ならば、その言葉。裏切らせてもらおう」

90%、とクレアは呟いた。
そして、彼女は左腕を前に出し、掌をマイルドフラワーへと向ける。
そして右腕は静かに後ろに引いた。
桜色の暴虐を、左手だけで防ぎながら、彼女は笑う。

「『表破り』、見せてあげよう」

引いた右腕で拳を固く握りしめ、捻りながら前へ打つ。
――正拳突き。
クレアは『サクライト』にひとつ、突きを放った。

466桜の意図 ◆F3DFf2vBkU:2016/02/06(土) 15:45:57 ID:LjUNzr.g0


「いやはや、たいしたものだよ」

ぱちぱち、とクレアは大仰に手を叩きながら、敗者、マイルドフラワーへと歩みよる。

「その歳で、その矮躯で、そのファンシーな格好で。まさか私に9割出させるとは」

マイルドフラワーは動かない。うつ伏せに倒れこみ、魔法少女としての変身も解除された高村和花は、すでに意識は無かった。

クレアは彼女の首根っこを掴むと片腕で持ち上げ、その胸に耳を当てる。

「ふむ、まだ息はある」

そう言って、クレアは和花を背負った。

「どうやら、思った以上に面白い子みたいだな、君は」

あの時。

クレアの正拳突きが『サクライト』を消し飛ばし、和花を蹂躙した時。
彼女は、恐怖と絶望に顔を歪ませながら。
それでも、確かに。

「笑っていた。安心したように君は笑ったんだ」

あの笑みの理由は何なのか。
クレアはその答えを知っている。

「君は悪に屈しなかった。決して挫けず、自分の最高の攻撃をぶつけ、それでも――届かなかった。だが、誰が君を責められよう。これ以上、君に何を望もう。ここまで頑張ったんだ、けどどうしようもなかったんだ」

高村和花は心のどこかで、負けることを望んでいた。

「だから、私は悪くない。だから、悪に屈しても。裏切ってもしょうがない。……ククク、安心するだろう。自分の非道に、悪行に、裏切りに、大義名分が生まれた時というのは。ああ、わかるぞ。私がそうだった。私も初めはそうだったんだ」

最初から、クレアは和花を殺すつもりだった。
抗うなら、殺し。
裏切るならば真白と光一の前に連れて行き、経緯を歪曲して伝えた後、二人の目の前で和花を殺す。

しかし、彼女は考えを変えた。
この少女に自分と近い何かを感じたのだ。

「ふむ、真白ちゃんがパートナーだとすれば、この子はさしずめ、私の弟子というところか。……そういえば、名簿にはあの馬鹿弟子がいたな」

彼女の脳裏に浮かぶのは、正義感に溢れ、弱きを助け、強きを挫く、そんなヒーローの理想のような青年。
かつてクレアが育て、クレアが裏切った、彼女に最も近付いた男。

クレアは自分の服装をまじまじと見つめた。
戦闘の余波ですでに黒スーツはずたぼろに破れている。

「この恰好であいつに出会うのは、ちょっと嫌だなあ」

【C-3/森/1日目/黎明】



【高村 和花@アースMG】
[状態]:変身解除、疲労(極大)
[服装]:桃色と緑色の魔法少女服
[装備]:ステッキ
[道具]:基本支給品一式、ランダムアイテム0〜3
[思考]
基本:魔法少女は助けるのが仕事
1:???
[備考]
※夢野セレナや久澄アリアと面識があります。
※キツネ耳と尻尾は出し入れ自由です。


【裏切りのクレア@アースH】
[状態]:健康
[服装]:ボロボロのスーツ
[装備]:転晶石@アースF
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜2、アイテム鑑定機@アースセントラル
[思考]
基本:優勝する
1:真白ちゃんを裏切らないとは言ってないよ(笑)
2:目の前の魔法少女を“育てる”?
3:服を探す
4:真白のところへ戻る
[備考]
※詳細な行動動機は他の書き手さんにお任せします
※高村和花と自分が似ていると考えました。彼女の推測が正しいかどうかは他の書き手さんにお任せします

467 ◆F3DFf2vBkU:2016/02/06(土) 15:46:55 ID:LjUNzr.g0
投下を終了します

468名無しさん:2016/02/07(日) 00:55:30 ID:K3weBxjA0
久々に見てみたら投下来てた
投下乙です。素手でビーム消し飛ばせるとかヤバい(確信)

469 ◆aFyiCU5AH6:2017/05/28(日) 03:00:31 ID:MLe/DFvQ0
巴竜人
道神朱雀
ライリー
投下します

470 ◆aFyiCU5AH6:2017/05/28(日) 03:00:53 ID:MLe/DFvQ0
巴竜人と道神朱雀は他の参加者の捜索を続けていた。
朱雀の他人格を警戒しつつも、先のような惨劇は避けねばならない。

「やっぱりこの首輪がネックになるか…」

竜人は自身の能力を発揮するにおいての枷に対する苛立ちを漏らす。

「すまんね、巴やん。私の知識でもこれの構造は分からへんわ。せめてサンプルでもあればちゃうんやけど…」
「サンプル、か…」

生きている自分達の首輪が外せない以上、それはすなわち死体から得たものを指すという事になる。
考えたくはないが、そうした事をする必要もあるかもしれない、と竜人は考える。
だがそもそも、首輪を解析しようとする行為自体が主催に対する反逆行為とみなされる可能性もある。
首輪を得ようとしたら自分の首輪が爆破されるなんて笑い話にもならない。
ともかく今は不確定要素が多すぎるので、首輪に関しては今は保留にしようと二人は決めた。



471 ◆aFyiCU5AH6:2017/05/28(日) 03:01:35 ID:MLe/DFvQ0
「そう警戒しないでくれよ竜人クン、僕は別に君と事を構えるつもりはないんだ」
「悪いがアンタに対していい話は聞いていないんだ。…青竜の事もあるしな」
「あの馬鹿と一緒くたにされちゃうのは心外だなぁ、戦ったってなんにもならない事くらい分かってるつもりだよ」

そう言って朱雀は…正確には朱雀の別人格の一人、"白虎"は竜人に見せるようにして首輪の「G」の文字の部分をトントンと叩いた。

「だってこれ、チーム戦でしょ?青竜は理解してなかっただろうけど、別に僕一人で勝つ必要なんてないさ」

それを聞き、竜人の目つきは険しくなる。
  、、、
「冗談だよ、そういうのを止めたいってのが君の願いだろ。敵に回せばどんな痛い目にあうかって分かってるさ、危うく朱雀君も死にかけたしね。おっと、青竜だったか」

と、皮肉っぽく言う白虎に対し、竜人はバツの悪い表情を浮かべた。

「それにこの体質はどうしようもないしね、そういう動きをするには不利すぎるよ。いつ入れ替わるかは僕にだって分からない。朱雀君や玄武は止めるだろうし、青竜は何しでかすか分かったもんじゃない」
「まあな。分かってても慣れないな、その人格変化」
「精々気をつけてくれよ、僕が死ぬって事は朱雀君や玄武まで死ぬって事なんだからさ。そりゃ君だって避けたいだろ?…っと、誰か来たみたいだね」

二人の視界に入ったのは、金色の長髪が目を惹く少女の姿であった。



472 ◆aFyiCU5AH6:2017/05/28(日) 03:02:23 ID:MLe/DFvQ0
「待ってくれ、俺たちは殺し合いには乗っていない」

竜人と白虎を前にし、明らかに警戒した様子の少女に諭すように竜人は声をかけた。
だが、少女はまるで一切の接触を拒絶するかのような強い口調で叫んだ。

「人間を信用など出来るか!帰れ!!!」
「…人間?」

その、自分は人間ではない、とでも断定するような口調に白虎はいささかの違和感を覚えた。

「さっさと帰れ!醜い人間と話す舌なんて無い!」
「話を聞いてくれ!俺は巴竜人。こっちは道神朱雀、…今は白虎か。話すと長くなるんだが…」
「ちょっと待って竜人君、うん、これはもしかして…」

竜人の発言を遮って白虎は前にズイと出る。そして少女に対しこう尋ねた。

「君の言う人間っていうのはさ…所謂他人を指す代名詞的な意味での"人間"かい?それとも種族そのものを指すって意味かい?」
「はぁ?何言ってんだ、人間は人間だろうが!」
「ふむ、やっぱりか…」

白虎は一人納得した様子で頷き、そしてこう言う。

   、、、、、、、、、
「君…中身は人間じゃないだろう?」


それを聞いて少女―――ライリーは狼狽えた。

「なんでそれを…そんな事どうだっていいだろ!」      、、、、、、、、、
「いやいやどうでもよくない。何故なら僕も…僕達もこう見えて中身は人間じゃないからね」
「達?」
「分かっちゃうんだよね、やっぱり似た者同士、これだ!っていうものを感じるというか」

白虎は続けて自分の中には三体の神獣が宿っており、自分もその神獣の一体である、という事を説明した。
ライリーはにわかには信じられぬ、といった様子であったが―

(確かにこいつの身体からは人間とは違った魔力…いやそれに近い別の力の波動を感じる。あながち嘘じゃないのか…?)

「次にこちらの巴竜人君は人智を超越した能力を持った改造人間なのさ…これが証拠!」

言うや否や、白虎は右の掌を"加速"の能力を用いて超高速で振動させ、竜人の胸元へと突き立てた。
が、竜人はその一撃を一瞬でガイアライナーへと変身を完了し腕を掴んで止めた。

「おい白虎!!」
「ごめんごめん、でも寸止めにするつもりではあったよ?それに止められるって信じてたからね」

事の一部始終を見届けたライリーはポカンと口を開けていた。

「人間が魔物に…変化した?」
「これで分かったろ、僕らが人間じゃないって、じゃあ次は君について教えてもらおうかな

「…なぁ、お前ら本当に人間じゃないのか?」
「君だって似たようなものだろ?見た目だけならどこからどう見たって人間だよ」
「そりゃあ、そうだが…」

渋々、といったていではあるが一応の納得はしたライリーは自分も殺し合いには乗ってはいない事、自分は女勇者と入れ替わったオークである事、アリシアとボーンマンという参加者を探している事を二人へと告げた。

「…俺は一応、まだ人間のつもりなんだけどな。それに何だか騙してるみたいじゃないか」
「しょうがないじゃないか、こうでもしないと彼女は…いや、彼なのかな?どっちでもいいや、とにかくあの子はまともに話してくれなかったよ?」
「まあ、それについては礼を言う」
「どういたしまして」

竜人は礼を述べながらも警戒心は緩めずにいた。そしてそれは白虎だけでなくライリーに対してでもある。

(あの少女の口ぶりの節々に強い憎悪の念を感じる…なにかとても恐ろしい物が潜んでいるかのような…)

一方で白虎はライリーからもたらされた情報を整理していた。

(オークってだけあって頭の出来はそこまで良くはなさそうだな。だが、入れ替わりか…興味深いね。もしかして上手く利用すればこの体質を…)

そして、警戒心持つのは二人だけではなく、ライリーもまたそうであった。

(こいつら…本当の本当に人間じゃない?それとも…)



それぞれの思惑を他所に、時刻は早朝6時―まもなく第一回放送を迎えようとしていた。

473 ◆aFyiCU5AH6:2017/05/28(日) 03:02:42 ID:MLe/DFvQ0
【F-1/町/1日目/朝】

【巴竜人@アースH】
[状態]:健康
[服装]:グレーのジャケット
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜3
[思考]
基本:殺し合いを破綻させ、主催者を倒す。
1:次の現場を探す。
2:自身の身体の異変をなんとかしたい。
3:クレアに出会った場合には―
4:青龍、白虎、ライリーに警戒
[備考]
※首輪の制限により、長時間変身すると体が制御不能になります。

【道神朱雀@アースG】
[状態]:健康、白虎の人格
[服装]:学生服
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜3
[思考]
基本:殺し合いを止めさせる。
1:竜人とともに付近を捜索する。
2:他人格に警戒、特に青竜。
(青竜)
基本:自分以外を皆殺しにし、殺し合いに優勝する
(玄武)
基本:若者の行く末を見守る
(白虎)
基本:一応、殺し合いには乗らない。今は
1:多人格体質をなんとかしたい
2:入れ替わりか…
[備考]
※人格が入れ替わるタイミング、他能力については後続の書き手さんにお任せします。

【ライリー@アースF】
[状態]:健康
[服装]:勇者服
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜3
[思考]
基本:アリシアとボーンマンを探し、護る
1:AKANEと聖十字教会を殺す
2:上記以外であれば自分から襲うつもりはないが、襲ってくるなら容赦しない
3:人間は仲間にしない。信用ならない
4:竜人と白虎は人間…?それとも…?
[備考]
※竜人と白虎を完全には信用していないため、上記以外の事は話していません。

474 ◆aFyiCU5AH6:2017/05/28(日) 03:03:01 ID:MLe/DFvQ0
投下終了します

475 ◆aFyiCU5AH6:2017/05/28(日) 11:45:33 ID:MLe/DFvQ0
タイトルは「人でなし達の宴」で

476名無しさん:2017/05/28(日) 14:20:38 ID:TRjQxWJg0
まさか投下がくるとは

477名無しさん:2017/05/30(火) 01:26:40 ID:an5ZT6JY0
投下乙です
ライリー思ったより扱いやすい……のか?
青竜という爆弾抱えてるし、ライリーとも一瞬即発だし、巴は今後も大変そうですねえ

478名無しさん:2017/06/03(土) 11:46:30 ID:QFVzEDBM0
投下乙

479 ◆MYPVpX9yeE:2019/07/10(水) 15:46:35 ID:mPts0UwU0
真白
東光一
投下します

480同盟破棄 ◆MYPVpX9yeE:2019/07/10(水) 15:47:52 ID:mPts0UwU0
「銃を使う気は、なさそうですね」

光一の一挙一動を観察していた真白は、彼が殺し合いの場に向かない人物であることを瞬時に悟った。
軍人空手の型を取りながら、「君を無力化する」と言いのけた光一。それは殺意がないという何よりの証拠だ。
対して自分は生き残る為ならば容赦なく目の前の男を斬り伏せる覚悟がある。これは圧倒的なアドバンテージだと言っても差し支えないだろう。
一つ懸念があるとするならば、先程見せ付けられた不思議な力だ。クレアが連れ去った少女といい、超常的な能力を有する参加者が多いということになる。
しかし真白自体はアースEZの世界でこれまで生き延びてきた実力者とはいえ、ただの無能力者。まともにやり合うにはあまりにも分が悪い。

(ゾンビ能力以外にも何か隠している可能性も考慮するべきでしょうか……?)

再び真白ソードを大振り。
またしても光一はなんとか躱した。とはいえそれが精一杯なのか、それとも本当に無力化しようとしているのか、反撃はしてこない。
本来ならば実力行使で無力化するのが当然であるが、相手は幼い少女。それが原因で光一もイマイチ攻勢に出ることを躊躇して、防戦一方になっている。

2回の攻撃で光一のそういう心情を読み取った真白は、彼のことを甘いと思った。同時に、格好の獲物だとも。
ある程度の実力者なら避けられる前提の動作―――大振りの一筋を光一は見事に躱してのけた。しかしただそれだけ。
どれほどの実力があろうと、その心に他人を殺す覚悟が、殺意がなければ殺し合いでは何の意味もなさない。実力者が自分より弱く、されど殺意が充満している者に呆気なく殺されるなんて、よくあることだ。

「俺の目的は、君を殺すことじゃないからね」
「……甘いですね。ゾンビだからって慢心しているのでしょうか」

再度真白ソードの大振り。
いい加減慣れてきたのか、光一の動作が先までよりもスムーズになっている。

「無理しなくてい―――ぐはっ!?」

光一が言葉を言い終えるより先に、鳩尾に鋭い蹴りが放たれた。
真白はソードがなければ本領発揮出来ないが、だからといって真白ソードに完全依存した戦法は行わない。
時にはこうして肉体を使った攻撃も織り交ぜるし、泥臭い戦い方にも嫌悪感は一切ない。全ては、生き延びるために。

481同盟破棄 ◆MYPVpX9yeE:2019/07/10(水) 15:49:04 ID:mPts0UwU0

あまりもの激痛に体勢を崩した光一の上空へ華奢な身体が舞ったかと思えば、直後に彼の頭を鷲掴みにして地面へ叩きつける。
それと同時に真白ソードを振り下ろせば、それは寸分の狂いもなく彼の心臓を射止める―――予定ではあるが、あえてそこは外す。左肩を刺し、引き抜く。華麗に地面へ着地。

(ここですぐに殺しても良かったのですが……やっぱりクレアさんのことが懸念ですね)

今回ダシにされただけなら、それでも良い。
だが相手は裏切りのクレア。警戒しておくに越したことはないし、何より自分が「クレアは裏切ったのではないか?」と疑問を感じた。そして真白の直感は割とよく当たる。
この幼い身で、裏切りや騙し討ちが当然の世界を生きてきたのだ。そういう本能には人一倍優れているという自負はある。

(今の私ではあの人に勝てません。きっとひとたまりもなく、殺されてしまうことでしょう)

彼我の戦力差は理解している。だからこそ今は頭を絞り、対抗策を練らなければならない。
予想以上に早い裏切りではあると思うが、それでも想定していなかったわけではない。いずれ裏切られるのは確実だとすら考えていた。

「そこで相談……いえ、交渉です。私と組みませんか?」
「こ、これだけの仕打ちをしてどういうことかな……」
「説明を求めるのはもっともですね。ただ私としてはあなたに殺し合いを実感してほしかったです」
「殺し合いを……?」

真白の言葉に驚愕を隠せない光一だが、彼女の瞳を見る限りそれが嘘だとも思えない。

「ここであなたを殺してすぐに逃げ出すことも考えました。ですが、万が一クレアさんと対峙する場面があった時、きっと私単独で対処することは出来ないじゃないですか。
 残念なことに私にはあなたのような特別な力はありません。そしてクレアさんに勝てないことは、本能で察していました」
「なるほど。でも俺は殺し合いには賛同できない」
「それでも構いませんよ。ただし私を襲ってきた相手は容赦なく殺してくださいね、それが条件です」
「……呑めないな。さっきも言った通り、俺は君を無力化するつもりだった」

そこまで聞いても。真白の無表情は変わらない。普通何らかのリアクションをするべきなのだろうが、想定内の返答すぎて特にリアクションを取る必要性が感じられない。

「でもそうしなければ、私は殺されますよ。見た感じあなたは稀にいる正義感の強い方のようですが、それでもいいのでしょうか?幼い命が戦場で散らされることを、良しとするのでしょうか?」
「それは……っ!」

言葉に詰まる。
何か反論してやりたいところでもあるが、真白の言っていることは、この殺し合いにおいてはあまりにも筋が通っていた。
自分達を襲ってきた者を殺さなければ、逆に自分達が犠牲になる。当たり前の理論だ。

((光一よ、この少女の言う通りだ。怪獣から一人でも多くの人々を守るために、私達は生き延びなければならない))
((でも……っ!))
((その葛藤は私にも理解出来る。だがこうしている間にも、私達の世界は怪獣の危機に脅かされていることを忘れないことだ))

「……わかった。でも優勝狙いだけはさせないよ。それだけは認めるわけにはいかない」
「優勝狙いが一番合理的な脱出方法ですが……わかりました。あなたが生きている限り、優勝は狙いません」

真白としては、要は生きて脱出することが出来れば良いだけのことだ。
それにこの男はきっと長生きできない。殺し合いの場ではあまりにも脆すぎるタイプだ。……とはいえゾンビ能力がある以上、そうとも言い切れないかもしれないが。どちらにせよ、ラストまで生き残ったとしてもこの性格ならば自らの手で殺すのは容易いだろう。クレアと一騎打ちするよりはだいぶ気が楽である。
最終的に優勝して脱出するという方針は変えないが、今はひとまずこの男と同行してクレアから逃げるのが最も安全な策だと真白は踏んだ。
しかしこれだけではやはり心許ない。出来ればもっと戦力を増やしたい。そうしなければ、きっとクレアには勝てないし、生き残るのも困難だろうから。

ただし足手まといになるようならば容赦なく見捨てる。自分までこの光一のような正義に染まるつもりは、毛頭ない。

482同盟破棄 ◆MYPVpX9yeE:2019/07/10(水) 15:50:27 ID:mPts0UwU0

「私の名前は真白です。あなたはなんて呼べば良いのでしょうか」
「東光一。光一でいいよ」

よろしく――とは言いづらかった。
何故なら先程まで自分を殺しに掛かってきた相手だ。流石の光一もそう簡単に心を許せない。
しかし少女がこんな性格になってしまったのも、何らかの原因があるはずだ。性格を正す為にも、同行するのは悪くないかもしれない。

「わかりました。では今すぐここから逃げましょう、光一さん。きっともうすぐ、クレアさんが戻ってくるはずです」
「和花は……」
「多分もう殺されているか、最悪―――『裏切り』の犠牲になっています」
「裏切りの犠牲?どういうこ――――うぉ!?」

光一が疑問を口にし終える前に、そんなことを無視して真白は彼の裾を掴みながら強引に連れ去った。
裏切りの犠牲とは、ただの勘のようなものだが……裏切りのクレアなんて名乗る相手が、そう簡単に殺して終わり、とも考えづらい。
恐らく何らかの手を仕込んでいる。それが何かはわからないが、拷問とかならば良いが……例えば自分の支配下にならないか、だとか。アースEZにもその手の輩はよくいた。
だから今は潔く逃げる。同盟を破棄して、一目散に逃げる。あの魔法少女と組まれたら、自分達ではとてもではないが太刀打ちできないのだから。

【C-2/公園/1日目/早朝】

【真白@アースEZ】
[状態]:健康
[服装]:私服、汚れているが、それがそこはかとなくえろい
[装備]:真白ソード
[道具]:基本支給品一式、ランダムアイテム1〜3
[思考]
基本:最終的には優勝する
1:クレアが戻ってくる前に逃げる
2:ひとまずは光一と組み、彼が死ぬまで優勝狙いはやめる。出来れば他にも戦力がほしい
3:ただし最終的にはやっぱり優勝狙い。もし他の脱出法が見つかれば……?
4:光一が足手まといになるようならば切り捨てる
5:クレアさんとは会いたくないですね……
※真白ソードによって戦闘力が上がっています。ソードには他にも効果があるかも
 
【東 光一@アースM】
[状態]:ダメージ(中)、左肩に刺し傷
[服装]:MHC隊員服
[装備]:十四年式拳銃(残り残弾数35/35)@アースA
[道具]:基本支給品一式、超刃セイバーZDVD一巻@アースR、
ディメンションセイバー予備エネルギータンク2個@アースセントラル
[思考]
基本:巻き込まれた参加者を助ける
1:和花ちゃんが心配。
2:真白と組む。出来れば更生してやりたい
3:何で十四年式拳銃なんか・・・?
[備考]
※コスモギャラクシアンへの変身に必要なコスモスティックを没収されています。
他の参加者に支給されているかもしれないし、会場内のどこかにあるかもしれません。
※十四年式拳銃のような古い銃が支給されていることに疑問を感じています。

483 ◆MYPVpX9yeE:2019/07/10(水) 15:51:17 ID:mPts0UwU0
投下終了です

484名無しさん:2019/08/12(月) 20:43:11 ID:fuCt1l7c0
約2年ぶりの投下…!乙です
何気に裏切るより先に裏切られたクレア不憫

485名無しさん:2019/08/25(日) 18:53:46 ID:B0Mrd/rY0
投下乙です

真白ちゃんも中々策士。一筋縄じゃいきませんね。
奇しくもチームシャッフルの形となりましたが、これは吉と出るか、凶と出るか。
また光一は真白とどう接していくのか。
今後の展開が楽しみです

486 ◆MYPVpX9yeE:2019/10/21(月) 13:24:02 ID:ydEk7mzA0
谷山京子
スライムちゃん
東雲駆
片桐花子
投下します

487片桐花子の災難 ◆MYPVpX9yeE:2019/10/21(月) 13:24:46 ID:ydEk7mzA0
「はぁ……はぁ……。ちょっと疲れてきたね……」

みなさんどうもこんにちは?こんばんわ?おはようございます?どの挨拶が正解なのかわからないけど、谷山京子です!
ボクは今、さっき立ち去った華ちゃんをスライムちゃんと一緒に追いかけてます!
と言ってもあの子意外と早くて、なかなか追いつけないけどね……。そもそもボクが傷心してちょっと遅かったのもあるけどあまりそこは責めないで(泣)

そりゃボクは男性器が付いてるけど、乙女心くらいあるから……あんなところを見られてどう声を掛けたらいいのかわからないというのが本音です。
でもスライムちゃんは持ち前のポジティブさで「とりあえず追いかけまショウ!」とボクの手を引っ張って走らせました。
だから今こうして華ちゃんを追いかけてるんだけど……本当にどうやって謝ればいいんだろうね!もう絶望しかない気がするんですけど!

「キョーコさんはさっきの人と知り合いなんデスカ?」

一方のスライムちゃんはさすがモンむすなだけあって、全く息切れもせずにそう質問してきた。
知り合いっていうか初恋の人なんですけどー!なんて言えないよね、うん。スライムちゃん罪悪感を覚えちゃうだろうし。
よし、ここは冷静に落ち着こう。華ちゃんにドン引きされたのはすっごく、すっごく!悲しいけどスライムちゃんは何も悪くないからね!

「うん、クラスメイトの子だよ」
「そうなんデスね。でもどうして逃げたんでショウ?」

うーん……。スライムちゃんってすごく純粋みたいで、さっきのボク達の行為が世間的にアレだっていうことを理解してないみたい。
たぶんあの行為もマナを補充して主催に反逆したいっていう純粋な気持ちからなんだろうなぁ……っていうのがわかるからほんとに責めらんない!
つい出来心で華ちゃんで――しちゃったからきっと罰が当たっただけなんだ。スライムちゃんは何も悪くないんだ。

それにしても今後もマナの補充でナニを刺激されるのは困るなぁ。
少しくらいそこらへんの常識を教えたほうがいいのかな? でもボク女子だからそういう話するのちょっと恥ずかしいっ!
いやそりゃ性欲が強いことは認めるよ? でもボクだって女子だからね? 性欲強い女子も普通にいるからね、男子諸君!

……うん、それにしてもこんなところで恥じらってる場合じゃないんだけど。
だってこれから似たようなことがあったらすごく困るからね。そりゃマナが補充されるのは頼もしいけど、ボク達が不審者扱いされて狙われるとかありそうで嫌だ。
というか何より恥ずかしいよね。普通にやってること露出プレイだもん、そりゃ逃げるよね、うん。

「スライムちゃん、ボクのナニを刺激するのは一般的には恥ずかしいことなんだよ」
「? ナニってなンデスか?」
「な、ナニはナニだよ!? なんだろうね!?」

あああっ、もう自分でも何を言ってるのかわからなくなってきた! ナニがなんだかわからないよぅ!
ナニは×××だよ、なんて言えることないじゃん! そんなのスライムちゃんに対するセクハラじゃん!

「? キョーコさん? どうシマしたか?」

スライムちゃんがボクの顔色を見ながらキョトンと首を傾げてる。
ていうか走りながら余裕で首を傾げれるってすごいねスライムちゃん!さすがモンむす!

ってそんなツッコミしてる場合じゃない、どうしようこの状況!
ナニはナニだよ、ボクの股間から生えてる×××だよなんて言えないし!スライムちゃんの純粋な心を汚したくない!

そもそも普通の女の子には生えてないのになんでスライムちゃんは何も疑問に思わなかったんだろうね?不思議なことだらけだなぁ!
もしかしてスライムちゃんも生えてる? モンむすだから生えてるの?
いやでもさっきの解説で“普通”、性別を両方持つ人間なんていないって言ってたから違うのか! いやでもスライムちゃんはモンむすだから人間じゃない=生えてる可能性もありえる?
え? ていうか何気にこれよく考えたら、ボクが普通の人間じゃないって言われてない? ちょっとナニが生えてるだけで普通扱いじゃないなんて酷いなぁ(泣)

「と、とりあえず走ろう!スライムちゃん!」
「わかりまシタ!」

あああっ、もうナニだとか×××だとかそういう説明をするのはやめた!
とりあえず走ろう、走ろう!走って気分爽快!ナニもかも忘れよう!HAHAHA!悲しいなぁ!

488片桐花子の災難 ◆MYPVpX9yeE:2019/10/21(月) 13:25:44 ID:ydEk7mzA0


♂ ♀ ♂ ♀ ♂ ♀ ♂ ♀


「フラウ・ザ・リッパー……? ああ。あの片桐花子か……」

片桐花子は学校でちょっとした有名人だ。
フラウ・ザ・リッパーという謎の二つ名を自称する痛々しい高校生は、学校でも少し浮いた存在である。
もっとも彼女が何も特異性がないことは、駆も理解しておりあまり警戒する必要はない。

そもそも本当にジャック・ザ・リッパーの子孫であるならもっとこう、オーラのようなものがあっていいはずだ。
何より持ってるナイフが金属製ではなくプラスチックのものだというのだから、彼女は厨二病を脱しきれなかったアレな人としか言いようがない。

「知ってるんですか?」

普段ならフラウ・ザ・リッパーとして年上にもタメ口を聞くことがある花子だが、どういうわけか駆には敬語になってしまう。
一度素で返事をしてしまったというのが大きいのだろうか?

「もちろんだ。意外とキミは有名だよ。……普段とキャラが違うようだが、殺し合いに対する疲れからか?」
「そうですね……。殺し合いっていう実感はないですけどある意味疲れました……」

「ん?」

殺し合いという実感はない?
死体や殺戮現場を見たであろう人物が言うには、程遠い言葉だ。

「……どういうことだ? サイコパスの谷山京子が誰かを殺戮した現場を、見たわけじゃないのか……!?」
「ち、違います!」

駆がこれまで考えていた誤解を、花子は明確に否定した。
彼女が見たのは謎のスライムが女の子のナニを刺激していた現場であり、別に殺戮現場だなんて大袈裟なものではない。
いやまあ乙女心は殺戮されたようなものだが、それはともかく物理的に誰かが殺されたわけじゃないのである。

「……なるほど。俺の誤解か」

そして駆はようやく自分の誤解に気が付いた。
しかし自分の考えが誤解だとするなら、花子は何を伝えたかったのだろうか?
スライムみたいなもの、だとか特に意味不明である。戦場でないなら、武器である可能性も低い。

(そういえば……)

参加者候補リストを広げ、そこに記載されている名前を一通り見てみる。
その中に一際目立つ謎の名前があった。その名も、スライムちゃん。
まるで芸名のような意味不明な名前だが、もしも花子の言っていたスライムのようなものの正体がこのスライムちゃんであるとしたら……。

「……その現場に案内してくれないか?」
「えっ。で、でも……」
「確認したいことがあるんだ、頼む!」
「そ、そんなこと言われても……」
「花子。君の安全は俺が保証する。だから、頼む」
「は、はい……」

そんなに真剣な視線を向けられると、なんだか恥ずかしくなってくる……と思いながらも花子は駆の希望も承認した。


♂ ♀ ♂ ♀ ♂ ♀ ♂ ♀

ボクとスライムちゃんが走って暫くすると、向こうに人影が見えてきた。
小柄で色白なあの子は、間違いなく華ちゃんだ!やったー!と思う反面、どうしよう!感もすごい!
とにかく誤解をとかなきゃなんだけど、ナニをしていたことは事実だし……あれこれもしかして何も誤解じゃない?
いやでもボクから進んでやったわけじゃないし、スライムちゃんもマナの補充っていうちゃんとした目的もあったからやっぱりただのアレと違って誤解だよね!
うん、そうだ!そういうことにしよう!ていうか普通に誤解でいいよね!?

向こうからやってくる華ちゃんは、よく見たら少し身長の高い男の人と一緒にいる。
きっとボクとスライムちゃんから逃げ出した後に遭遇して、そのまま同行してるんだと思うけど……ボクやスライムちゃんの変な噂が伝わってないといいなぁ。
そりゃ噂が広まっても仕方ないことはしたよ? でもこれは事故であって、意図的なものじゃないから! 意図的なものじゃなければセーフにならないかなぁ!?

そんなことを考えてるうちに、距離は縮まっていって……気づけばもうすぐそこに二人は来ていた。
華ちゃん、ボクに近づくやいなやすぐに男の人の後ろに隠れちゃったけど……めちゃくちゃ気まずいよ、これ!

「あのー……華ちゃん、さっきはごめんね? スライムちゃんのマナを補充してただけなんだ……」
「ま、マナの補充でナニをナニしないでしょ!適当言わないで!それに華ちゃんって何?」

うわあああん、怒涛のナニなに攻撃だ!
でもがんばれボク、なんとか誤解をとかなきゃ……。

「ほら、華ちゃんの名前って肩斬華でしょ? だからそう呼んでたんだけど……」

アレ? よく考えたらこれってキモい?
勝手にあだ名つけてましたってよく考えたらドン引き案件かなこれ!?

「ふ、ふは……」

華ちゃんの様子がおかしい。どうしたんだろう?

「ふはははは!よくぞ言ってくれた!そう、私の名前はフラウ・ザ・リッパー!肩斬華!」
「え――――?」

今、華ちゃんはなんて言った?フラウ・ザ・リッパー?
え?え?嘘だよね?
ボクの聞き間違いだよね?

489片桐花子の災難 ◆MYPVpX9yeE:2019/10/21(月) 13:27:21 ID:ydEk7mzA0

え?まさか華ちゃんがフラウ・ザ・リッパーだなんて、そんなわけないよね?

「……この子の悪い癖だ、気にしないでくれ」
「かっこいい名前デスね」

男の人とスライムちゃんは焦るボクとは対照的に呑気にしてる。
ああ、そうか。違う世界から来たなら、フラウ・ザ・リッパーのことを知らないんだ……!

「みんな、逃げて!」

スライムちゃんと男の人の手を取って、急いで走り出す。
でも男の人は予想外に力があって、なかなか引っ張れない。このままだと殺されるのに、どうして……!?

「フラウ・ザ・リッパーは殺人鬼の名前です!ボク達と一緒に逃げましょう!」
「……何?」

男の人がフラウ・ザ・リッパーをちらりと見た。
対するフラウ・ザ・リッパー「え?え?」と戸惑ってるように見えるけど、何かの演技?
それとも華ちゃんがフラウ・ザ・リッパーというのはただの冗談? でも殺し合いの場でそんな不謹慎な冗談を言うかな?
というよりもこの華ちゃん、ボクが知ってる華ちゃんとは何か違うように感じられる。ただのそっくりさん?
いやでもさっき肩斬華って名乗ってたし……うーん、よくわかんないけど逃げないと。それともデイパックから何かを出して戦う?銃もまともに使えないのに?

「ワタシが戦いマス、キョーコさん!」
「……待ってくれ、そもそも彼女の名前は片桐花子だ。肩斬華じゃない」

「え?」

どういうことなの?
やっぱりそっくりさん?
そういえば本当にフラウ・ザ・リッパーならこうやって揉めてるうちに攻撃したらいいのに、なかなかしてこないのもおかしいよね。
男の人やスライムちゃんはわからないけど、何も能力や技術を持ってないボクなら簡単に殺せるはずなのに。

「フラウ・ザ・リッパーは彼女が自称してるだけの名前だ。殺人鬼の名前として聞いたことは、一度もない」

え?どういうこと?

「信長さんと同じみたいデスね。たぶん花子さんは別の世界のフラウ・ザ・リッパーだと思いマス」
「「「別の世界?」」」

ボクと男の人と花子ちゃんの声が重なる。
確かに世界が複数あるとは聞いたけど、そういうことってあるのかなぁ。

「はい。たとえば織田信長さんは他の世界では男性って色々な人に聞きましたケド、ワタシの世界では女の子デス」
「うーん、世界毎にそっくりさんがいるっていうこと?」
「かもしれないデス。少なくともキョーコさんと男の人でフラウ・ザ・リッパーに対する印象が全然違ってマス」
「それもそうだねぇ……」

確かにスライムちゃんの言う通りかもしれない。
スライムちゃんが色々と情報を持っていてよかった、このままじゃ誤解したまま逃げ出すところだった……。

「なるほど。確かに参加者候補リストには花子とは別に肩斬華の名前があったな。
 ところで他の世界、という言葉について詳しく聞きたいんだけど……」

「世界はいっぱいあるんデス。ワタシも一度他の世界に飛ばされたから、わかりマス」
「……信じ難いが、スライムの君が喋ったり動いてる時点で常識は超えてる。信じるしかないか」
「ありがとうございマス。確かに他の世界ではスライムが動くのはおかしいみたいデスね」

男の人は飲み込みが早いみたいで、あっさりと理解した。
花子ちゃんは疑問符を頭にいっぱい浮かべてるけど、これが普通だよねうん。というかこのリアクション的に殺人鬼には見えないかなぁ、やっぱり。

「俺は東雲駆。よろしく」
「ワタシはスライムちゃんです、よろしくお願いしマス」
「あ、ボクは谷山京子です。ちょっとナニが付いてるだけの女の子です、よろしく」

スライムちゃんが受け容れられるなら、ボクのナニも受け容れてもらえるよね、うん。
というかこういうことは事前に説明しておいたほうがいいような気もする。急にビックリさせるのもアレだし。

「花子ちゃん、さっきはごめんね。本当にアレはスライムちゃんのマナを補充してただけだから……」
「それより先に謝ることがあるんじゃないか?」

駆さんに言われて、ハッと気付く。
そういえばボク、花子ちゃんを殺人鬼だと誤解してたんだよね。まずはそっちを謝らなきゃじゃん!

「殺人鬼だって誤解してごめんなさい」
「……いいよ」

小さい声だけど、ポツリと呟いた言葉は確かにボクの耳に届いた。許してもらえて良かった……!けどこれからは世界の違いについてもよく考えなきゃね!

490片桐花子の災難 ◆MYPVpX9yeE:2019/10/21(月) 13:28:16 ID:ydEk7mzA0

「花子。これでわかったと思うが、フラウ・ザ・リッパーごっこはもうやめた方がいいかな。ここでは余計な誤解を生むだけだよ」
「はい……」

少し寂しそうな花子ちゃんの声。
フラウ・ザ・リッパーごっこをしていた時の花子ちゃんは、すごく楽しそうだった。きっとそういうのが好きなんだろうなぁ……。
でもフラウ・ザ・リッパーはボク達の世界だと殺人鬼だから、気軽に名乗っていたら絶対に誤解される。だからそれを禁じるのは、仕方ないことなんだけど……ちょっと可哀想かなぁ。

「それにしてもフラウ・ザ・リッパーか……警戒する相手が増えたな」
「そうデスね。ワタシも注意しマス」

駆さんとスライムちゃんが気を引き締める。
スライムちゃんが戦えるのはわかるけど、駆さんも戦えるのかな? なんだかボクや花子ちゃんみたいな、ただの一般人とは違うような気がする。

「さて……それじゃあ情報交換をしてもいいかな。この殺し合い、色々と変則的すぎて出来る限り情報の共有はしておいた方が良さそうだ」
「ワタシはいいデスよ」
「ボクも賛成。このまま一緒に行動してもいいんじゃないかな? 花子ちゃんは?」
「私もいいよ……」

こうしてボク達の情報交換は、始まろうとしていた。

【D-3/草原/1日目/早朝】
【谷山京子@アースP(パラレル)】
[状態]:健康
[服装]:パジャマ
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜3
[思考]
基本:主催絶対許さない絶対にだ
1:東雲駆、片桐花子と情報交換をする
2:東雲駆、片桐花子と一緒に行動する?
※肩斬華のことを意識していましたが…。

【スライムちゃん@アースC(カオス)】
[状態]:マナチャージ(1)
[服装]:とくになし
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜3
[思考]
基本:主催を倒しまショウ
1:東雲駆、片桐花子と情報交換をする
2:東雲駆、片桐花子と一緒に行動する?
※氷と癒しの魔法(低級)が使えるらしいです。

【東雲駆@アースR】
[状態]:健康
[服装]:制服
[装備]:変幻自在@アースD
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜2
[思考]
基本:平沢茜が作り出した灰色の楽園を壊す
1:首輪を解除出来る参加者を探す
2:出来る限り早く知人と合流したい
3:山村幸太、花巻咲、麻生叫、フラウ・ザ・リッパーを警戒
4:谷山京子、スライムちゃんと情報交換をする
5:片桐花子と共に行動する。
[備考]
※世界観測管理システムAKANEと平沢茜を同一人物だと思っています。

【片桐花子@アースR(リアル)】
[状態]:健康
[服装]:学生服
[装備]:???
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜3
[思考]
基本:帰りたい…
1:谷山京子、スライムちゃんと情報交換をする
2:フラウ・ザ・リッパーが本物の殺人鬼……?

491 ◆MYPVpX9yeE:2019/10/21(月) 13:28:42 ID:ydEk7mzA0
投下終了です

492名無しさん:2019/11/13(水) 23:07:50 ID:/8uk.7oA0
おお、久しぶりに投下来てた。
乙です。
誤解も解けて割と大所帯になったけどどうなるかな。


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