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オリロワアース

352憎しみと共起 ◆5Nom8feq1g:2015/07/14(火) 22:37:57 ID:.9B/MZ/g0
 

 歩く、歩く、歩く。けれど歩けど歩けど先は闇だった。
 軋む体を動かしても廃工場というものはどこまでも同じ風景で、進んでいるという実感がない。
 “黒腕の魔法少女”との交戦後、足を引きずり廃工場を進む雨谷いのりだったが、
 想像以上に広い施設の出口は、負傷体では辿り着くのも一苦労。意識も徐々に薄らいできた。

(思ったより、広い……? 北の方に行けば、よかったのかも……)

 屋根のある施設で休もう、と漠然と考えたいのりは、廃工場を出て東の「学校」へ向かうルートを選択した。
 地図としては北の「タワー」のほうが近くはあったが、学校ならば保健室がある。
 保健室であれば治療道具もしくは、痛み止めの入手ができるかもしれない。賭けだった。
 着くまでに意識が消えなければ、いのりはこの賭けに勝てるのだが。

(勝てる……かな……ううん、いけない。勝つんだ。ワタシはいつだって、勝ち続けなきゃいけない)

 弱くなりかけた意思を心中で叱咤し、足に力を込めた。
 弱さは敵だ。
 弱くては何も守れない。 
 弱くては何も殺せない。自分も、他人も、たいせつなものも、全部。

 ――昔は出来ると思っていた。
 “誰かを守ると言う意思”に気持ちのリソースを割いたままでも強くなれると思っていた。
 いや、じっくりと修行すればもしかしたらなれたのかもしれない。そういうヒーローに。
 師匠のようなヒーローに。

 でもいのりはその境地に達することはなかった。
 今でも弱いままだ。他事に割いていた意思を一つに固めたから、多少強くなったふりが出来ているだけだ。
 師匠が殺されたあと、師匠を殺した奴を殺すために、
 そうするしかてっとり早く強くなる方法がなかったから、そうすることを雨谷いのりは選んだというだけ。
 それだけだし、きっとそこまでだ。この道を、この『正義』を選んだ以上、雨谷いのりはもう“本物”にはなれない。
 “本物よりは強くなれない”。
 それでもいい。許せない悪を殺せれば。そうしなければ前を向けないのだから。それでいい――。


 ふと、遠い背後でガラス瓶が割れる音がした。


(……新、手?)

 ここに来るまでに、人の気配はなかったが。
 そういえば廃工場には高い煙突があった。まさか、いたのだろうか。煙突の上に、人が。
 真偽を確かめる――の前にいのりの思考には「逃げる」の三文字が踊る。
 このコンディションでの偵察行動(パトロール)にはリスクしかない。一般人なら逃げるべきだ。
 だがもし、もし仮に、音の先に『悪』が居て、誰かが『悪』に襲われているとすれば?

 ヒーローならば確かめにいくだろうし、救いに行くだろう。
 
(……ごめん、なさい)

 そして雨谷いのりは走った。
 音とは逆方向に。

(いまは、……いまのワタシじゃ誰も助けられないから。だから、ごめんなさい……!)

 心中で泣きながら、体を傷つけない限界速で、いのりは工場を駆けて逃げた。
 誰かが襲われている可能性よりも自分の身をかばう。
 それは雨谷いのりが『市民の味方であるヒーロー』ではなく、『ヴィランの敵であるヒーロー』として正義を振るうがゆえの行動だった。


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