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オリロワアース

1名無しさん:2015/05/06(水) 16:45:35 ID:pYFZnHTQ0
ここは、パロロワテスト板にてキャラメイクが行われた、
様々な世界(アース)から集められたオリジナルキャラクターによるバトルロワイアル企画です。
キャラの死亡、流血等人によっては嫌悪を抱かれる内容を含みます。閲覧の際はご注意ください。

まとめwiki
ttp://www9.atwiki.jp/origin2015/

したらば
ttp://jbbs.shitaraba.net/otaku/17154/

前スレ(企画スレ)
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/13744/1428238404/

・参加者
参加者はキャラメイクされた150名近い候補キャラクターの中から
書き手枠によって選ばれた50名となります。

また、候補キャラクターの詳細については以下のページでご確認ください。

オリロワアースwiki-キャラクタープロファイリング
ttp://www9.atwiki.jp/origin2015/pages/12.html

企画スレよりキャラメイク部分抜粋
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/13744/1428238404/109-294



地図
ttp://www9.atwiki.jp/origin2015/pages/67.html

2名無しさん:2015/05/06(水) 16:46:41 ID:pYFZnHTQ0
【基本ルール】
全員で殺し合いをしてもらい、最後まで生き残った一人、もしくは最後まで残ったチームが勝者となる
ゲームに参加する参加者間でのやりとりに反則はない
ゲーム開始時、参加者は各世界からテレポートさせられMAP上にバラバラに配置される
参加者全員が死亡した場合、ゲームオーバー(勝者なし)となる

【スタート時の持ち物】
参加者があらかじめ所有していた武器、装備品、所持品は全て没収
(義手など体と一体化している武器、魔法少女のマスコットや変身に必要な装置はその限りではない)
参加者は主催側から以下の物を支給される。
「デイパック」「地図」「コンパス」「照明器具」「筆記用具」「水と食料」「時計」「携帯電話」「ICプレイヤー」「ランダムアイテム(個数は1〜3)」
「デイパック」支給品一式を収納しているデイパック。容量を無視して収納が可能。ただし余りにも大きすぎる物体は入らない。
「地図」大まかな地形の記された地図。禁止エリアを判別するための境界線と座標が引かれている
「コンパス」安っぽい普通のコンパス。東西南北がわかる
「照明器具」懐中電灯。替えの電池は付属していない
「筆記用具」普通の鉛筆とノート一冊
「水と食料」通常の飲料と食料。量は通常の成人男性で二〜三日分
「時計」普通の時計。時刻が解る。参加者側が指定する時刻はこの時計で確認する
「携帯電話」主催者との連絡に使われる。
「ICプレイヤー」主催側からの通達や放送に使われるプレイヤー。
「ランダムアイテム」何かのアイテムが入っている。内容はランダム
          参加者に縁のあるアイテムが支給されることも

【「首輪」について】
ゲーム開始前から参加者は全員「首輪」を填められている。
首輪が爆発するとその参加者は死ぬ(不老不死の参加者であろうと例外なく死亡する)。
主催者側はいつでも自由に首輪を爆発させることが可能。
首輪には自動で爆破する機能も付いている。
自動爆破の条件は「一定時間死者が出なかった場合(参加者一人の首輪がランダムで爆破、最初は6時間がタイムリミット)」
及び「地図のエリア外か指定された禁止エリアに一定時間侵入していた場合」。

【放送について】
6時間ごとに会場全体で放送が行われる。
過去6時間に死亡した参加者(死亡順)、新たな禁止エリア、残りの参加者数が発表される。
指定されたエリアは放送による発表から2時間で禁止エリア化する。

【作中での時間表記】(深夜0時スタート)
 深夜:0〜2
 黎明:2〜4
 早朝:4〜6
  朝:6〜8
 午前:8〜10
  昼:10〜12
 日中:12〜14
 午後:14〜16
 夕方:16〜18
  夜:18〜20
 夜中:20〜22
 真夜中:22〜24

【予約について】
予約期間は5日。
一回以上作品が通っている書き手のみ2日間の延長が可能。

3名無しさん:2015/05/06(水) 16:48:59 ID:pYFZnHTQ0
テンプレートの投下は以上です。
続いて世界観説明も兼ねた、OPへと続く導入回と、本編のオープニングを続けて代理投下いたします。

4イントロダクション( 作者:◇5Nom8feq1g氏):2015/05/06(水) 16:50:51 ID:pYFZnHTQ0
 
 世界はひとつじゃない。
 今これを読んでいるあなたの「見えない隣」には、確かに他の世界がある。
 おとぎ話。絵本。アニメ。漫画。小説。ドラマ。特撮。架空戦記。
 誰かがどこかで描いたその空想は、他の世界での真実だ。
 あなたが絶対に知ることのできない場所で生きている、沢山の命、沢山の物語の一かけらだ。

 世界はあなたに直接は見えないけれど……確かに相互に、影響し合っている。
 例えばそれはちゃんとした形にすらなっていない、思春期の妄想であっても――――。


【世界座標(0,0,0)――アースR(リアル)】


「だからさ。世界史を覚えるには好きな偉人を見つけるのが早いんだって!」

 くる、くる、色白小柄のショートヘアの女子高生が、プラスチックナイフを遊ばせながら自慢げに言った。

「好きな人が何をしてるかって、妄想するでしょ? で、
 その人が生きてた時代を頭の中で完璧に妄想するためには嫌でもその時代を調べて覚えなきゃでしょ?
 そしたらもう、気付いたら覚えてるってわけ! だから咲もさ、まずは見つけるところからだよ!」
「ええー……偉人って言っても、もう死んでる人だよ? わたし、死んだ人は好きにはなれないよ」

 小説は読むけどジャンル的には歴史ものじゃないし、と、対面の少女は口をとがらせた。
 教室の机を囲んで勉強している少女たちの前には世界史の教科書が広がっている。
 明日は世界史のテストなので、友人同士で放課後の自主勉強に励んでいるのだ。
 ……といっても、高校一年生のテストに受験勉強勢ほどの危機感を持つ二人ではない。
 勉強というのはほぼ建前で、テスト期間直前の息抜きに雑談をするのがメインの目的だった。

「好きになるならやっぱり近くに生きてる人がいいと思うの。
 “フラウちゃん”は先祖様以外に好きな男の子、いないの?」
「いないよ? だってリッパー様より魅力的なヒトなんてこの世界にいないもん」
「うわあ、即答だ」
「リッパー様がどれだけ魅力的な方かを語るにはこの放課後は短すぎるから語らないけど、
 魅力的じゃなかったらいくら子孫だからって先祖の名なんか継ごうとしないでしょ?
 あたしは、リッパー様を真面目に尊敬してるし、大好きだし、ジャック・ザ・リッパーの子孫であることに誇りを持ってるの!
 誰にも有無は言わせないわ。そっちこそ、彼氏の一人でも作ってからそういうこと言いなよね!」
「え、いるよ?」
「え」
「サッカー部の先輩なんだけど、えへへ、らぶらぶなの」
「……!?」
「ちなみにもう付き合って一か月だよ」

 “リッパー様”への想いをまくしたてていた少女は対面の少女の何気ない一言に喉を刺される気分を味わった。

「ちょ、ちょっと待って。あたし達友達だよね。だったらそう言うことはこう、共有とか」
「友達だからって何でもすぐ教えないといけないワケでもなくない?」
「そういえば一か月くらい随分早くマネしに行ってるなと思ってたけど! か、彼氏とか!」
「あれ、けっこう噂になってると思ってたんだけど……知らなかったんだ。
 うーん……“フラウちゃん”の課題は、もっと現実に目を向けることだと思うなー」

 ――わたしたちが生きてるのは、現実(リアル)なんだからさ。
 世界史の本を閉じながら、恋人とらぶらぶな少女、花巻咲(さく)は言った。

「じゃあわたし、幸太さんと一緒に帰るから、行くね。明日のテスト頑張ろうね、花子ちゃん」
「えっあっうん……じゃなくてじゃなくて! あた、あたしは花子じゃなくて“フラウ・ザ・リッパー、肩斬華”――!!」

 ジャック・ザ・リッパーの子孫を謳う少女、片桐花子が慌てながら訂正する間に、
 花巻咲は教室のドアを開けてばいばいのポーズで彼氏の下へ向かっていってしまった。
 あとには数人の自主勉強勢と、片桐花子が中学校から作り続けているキャラクター、“フラウ・ザ・リッパー”だけが残された。
 現実に取り残された、妄想だった。

5イントロダクション( 作者:◇5Nom8feq1g氏):2015/05/06(水) 16:51:32 ID:pYFZnHTQ0
 
「……でも、それでもあたしは、“フラウ”なんだもん……」

 胸がきゅっと締め付けられるような寂しさを感じながらも、フラウは脳内ではっきりと妄想する。
 フラウ・ザ・リッパー。肩斬華。
 自分と瓜二つの姿をした少女が、確かに今もどこか別の場所で殺人をしている、そんな妄想を。
 妄想でしかないのは分かっている。
 それでも時折り、それがまるで自分が行っている、現実の事であるかのように思えるのだ。
 
 血色にまみれて路地裏に立ちすくむ“フラウ・ザ・リッパー”は、今日も血の付いたナイフを舐める。
 その姿がなんだかさみしそうで、切なそうで、でも美しくて綺麗で、かっこよくて。
 誰にも言えやしないけれど、正確には片桐花子が尊敬しているのは、自分の妄想の中の彼女だったりして。

「でも、……妄想、なのよね」

 やるせなさで机に突っ伏すと、
 花子の後ろの席に座って勉強している少年が広げている、数学の教科書が目に入った。
 表紙のグラフと二次曲線が数学が苦手な彼女の頭を痛くする。
 でもそうだ。例えるならば、あんな感じだ。
 グラフで言う(0,0)と(0,1)。ほんの少しだけずれてて、でも近くて、
 それでも絶対に同じ存在ではない二つの点――“あたし”と”フラウ・ザ・リッパー”。

「……ねえ、あんたは思うことってない?」

 花子は顔だけを上げて、後ろの席の男子に話しかけた。

「ほんの少しだけずれた、ここじゃない世界には……あたし達の理想の自分がいるんじゃないか、とか。
 普通じゃない世界がどこかにあったら、そこでのあたし達は何をしてるんだろう、とかさ。
 考えたことない? それとも、あたしが妄想しすぎなだけなのかな? 変なのは、あたしだけなのかな?」

 話しかけるけれど答えは求めていなかった。
 片桐花子の後ろの席に座っているのは、口を何かの事故で数針縫ったらしい麻生叫という少年であり、
 風貌からクラスで恐れられている彼は食事の時以外、その口を開くことはないからだ。
 
「……さぁな」
「そうよね、分かんないわよね……ってえ? あんた喋れたの?」
「喋れないと言ったことは……ない」

 苦い顔をしながら麻生叫はぼそぼそと喋った。

「口が痛むのと……ひとりが好きなだけだ」
「あ、そうなんだ。でもちょっと残念かも、麻生くんってあたし寄りのファンタジーな人間だと思ってたから。
 せっかくだから聞いちゃうけど、その傷ってなんで付いたの? 噂通りヤクザとケンカしたわけじゃないんでしょ」
「……さぁな」

 おもむろに、麻生叫は立ち上がってカバンを肩にかけた。
 
「俺は……知らない。……もし違う世界が存在するんなら。……そこに違う俺もいるんなら……、
 お前とは逆で……もっとマシな俺が居て欲しいと、願うくらいだ」
「傷の質問には答えてくれないの」
「ただ」

 小さな声で聞き取り辛いのにドアへと向かっていくのでさらに聞き取り辛くなる。
 だから片桐花子は、彼が気まぐれか何かで喋ったそこから続く言葉を、聞き取ることはできなかった。

「ただ。“この傷の原因になったやつら”みたいな、
 普通じゃないやつもこの世界にはいるってことは、覚えておいた方がいいかもな」
「……はぁ? ちょっと、聞き取れなかったんだけどもっかい……」

 ピシャリと扉が閉められた。麻生叫も家に帰ってしまった。
 今日はあたしの話を聞いてくれないやつらばっかりだな、と、片桐花子は頬を膨らませた。

6イントロダクション( 作者:◇5Nom8feq1g氏):2015/05/06(水) 16:52:25 ID:pYFZnHTQ0
 
 ――多少の“裏”はあれど。アースRは基本的に普通の人間しかいない。
 ヒーローも怪人も怪獣も妖怪も何もいない、超常の力なんて存在しない、
 あくまで普通のスペックを持つ人たちによる、いたって普通の、基本の世界である。
 
 
【世界座標(1,0,0)――アースP(パラレル)】


 同時刻。

「ひっ――ひ、ひぃいいいい!!!!?? 人殺し!? ニゲローッ!!」
「あ。ま、いっか」

 路地裏の血まみれの惨劇を眼にしたガソリンスタンド店員、谷口豪は、声をすくみ上らせその場から逃げた。
 風俗嬢だった死体から臓物を引きずり出し終えてナイフに付いた血を舐めていた殺人者、
 フラウ・ザ・リッパーはその叫び声に気を一瞬向けるも、放っておくことにした。
 彼女は目的以外の無駄な殺しを進んでしたくはないし、

「おぬしが最近世間を騒がせている“フラウ・ザ・リッパー”だな。その淀んだ魂、叩き切らせてもらう」
「誰?」
「柳生宗徳と申す」
「女の子って感じの名前じゃないけど」
「己も不本意なのだ、この姿は。だが、魂と武は常に磨いておる。今もライブ後よ」

 黒髪ポニーテールにアイドル衣装を着た剣客が、
 フラウ・ザ・リッパー肩斬華を成敗するためにその場に参上したからには、そちらに気を向けなければならなかった。

「おぬしの噂は聞いておった。娼婦を憎み、殺してまわる人斬りが居るとな。
 だがちと不可解だな。殺したことを隠そうともせぬとは。おぬし、どういう腹積もりだ?
 そんな惨憺とした死体を創り上げて、なにを示そうとしている?」
「……それ、あんたに言わなきゃいけないこと?」

 肩斬華は仕事着である黒のツナギの懐から新たなサバイバルナイフを取り出しつつ、挑発した。

「悪いけどあたし、あたしの邪魔するひとには容赦しないよ」
「小太刀使いか」
「あんたなんか模造刀じゃん。銃刀法違反恐れすぎじゃない?」
「おぬしのような弱愚者(おろかもの)には真剣を使う価値も無し」
「あっそう」

 駆け出す。柳生が来たのはつい先ほど。肩斬華の殺し方は見られていない。
 把握される前に先手で仕留めれば終わらせられる、はずだ。

「じゃ、死んで」

 狭い路地裏で少女が跳ねる。壁を蹴る、蹴る、蹴り上がる。そのまま加速し、ピンボールじみて壁を跳ねまわる。
 赤の斑が染みついた白肌が、暗い路地裏の至る所に咲く。
 常人ではその花の軌跡をとらえきれない――そして華は、おもむろに首を狙って、

「遅い」
「えっ」

 フラウ・ザ・リッパーは、ナイフを持っていた方の腕を掴まれる。
 柳生宗徳が、正面を見たまま、背後に手を回して見えるはずのない位置に咲いた花の棘を的確に掴んでいた。
 いや、違う。
 柳生とほぼ同じ視点に立った肩斬華はそこで初めて自らのウカツに気付く。
 模造刀だ。人を斬るような切れ味のないそれを柳生は横向きに立て、鏡として用いて背後を見たのだ。

7イントロダクション( 作者:◇5Nom8feq1g氏):2015/05/06(水) 16:53:14 ID:pYFZnHTQ0
 
「……!!」
「小童が、正面からすら向かって来ぬとはな。戯れに殺された者たちも浮かばれぬ」
「い、いぎ、っ痛……ああ、ンアアアアアーッ!!」
「だが、少々お主は殺しすぎた」

 そのまま捻りあげられる。カランとナイフは地に落ち、少女の悲鳴がこだました。
 地面に落ちかけた身体が引きずりあげられる。
 今度は喉をわしりと掴まれながら、そこだけで持ち上げられる形。

「ち、ちくしょ……」
「このまま喉を折ってやろう。おぬしが殺した者どもとは違い、楽な死に方になるのは癪だが」
「ざ、っけん、な……たしは……あたしはぁ!!」
「申し開きは聞かぬ。地獄で閻魔にでも答弁を垂れるがよい――舌を抜かれぬうちにな」
「が……」

 重力と腕力で締め付けられる喉、酸素が送られず意識が遠のく中で、
 フラウ・ザ・リッパーはなおももがき続けた。
 答弁だと? 必要ない。
 華は華なりの美意識を持って殺しをしている。地獄に行っても仕方ないと思っている。
 でもそれは今ではない。まだ足りない。まだ憎しみは消えきっていないのだ。

「……がァああ……ッ」

 殺すな。
 あたしを殺すな。
 あたしの胸の花を――摘むな!!

「イヤーッ!!」


「グワーッ!?」
 
 その時であった。突如として路地裏へと新たな闖入者が現れた。
 その者は柳生宗徳の脳天を貫かんとする正確無比なスパイラル・ストンピングを繰り出し、
 柳生はすんでの所で回避に成功するも、
 回転落下から次いで放たれた投げナイフをもろに肩に喰らい女子からぬ声を出す。

「かはっ……な、」

 理解できぬままにフラウ・ザ・リッパーは息を吸う。目の前にはガッシリした体格の覆面男がいた。
 柳生宗徳に向かってただならぬ殺意を向けつつ、慎重にカラテを構えている。

「ヌゥ……何奴!」
「ドーモ。男の娘スレイヤーです」

 覆面男はオジギをした。決闘前のアイサツと判断し、柳生宗徳も返答する。

「ドーモ、柳生宗徳です。男の娘スレイヤーだと……!?」
「貴様は歪んでいる。その歪んだ魂を天へ返す」
「なっ……そこの殺人鬼の方が明らかに歪んどるじゃろうが!? 狂人め……!!」
「男の娘殺すべし、慈悲はない。イヤーッ!!」「ヌゥーッ!」「イヤーッ!」「ヌゥーッ!」「イヤーッ

 あ、今のうちに逃げよう。とフラウ・ザ・リッパーは思った。
 おそるおそる路地裏からすり足で逃げ出すと、平和な夕暮れの街が広がっていた。

 ――そう、アースPは表向きはアースRと何ら変わりない。 
 ただ“裏”を覗けば、例えば殺しの技術一つとっても、そのレベルは通常の人間の範囲を逸脱しつつあったし、
 フラウが知っている限りでも、超能力に超身体能力、異形の姿を持つ存在が跋扈している。
 そしてその影響は少なからず、“表”にも浸食している。

8イントロダクション( 作者:◇5Nom8feq1g氏):2015/05/06(水) 16:53:50 ID:pYFZnHTQ0
 
 フラウ・ザ・リッパーは家に帰る。誰も居ない一人暮らしの家だ。
 点きっぱなしのTVではアメリカの学者という肩書の褐色の女性が、最近世界で起こっている事件についてコメントをしていた。

『性別の歪み、なんですよね。私もまだまだ研究を始めたばかりですが、明らかに増加しています。
 少しホルモンバランスが崩れただけで起こるふたなり化やシーメール化……あるいはTS(トランスセクシャル)。
 意識レベルで、いえ細胞レベルで……はたまた世界レベルで――何かの外力ではないかと考えていま

 電源を切る。
 シャワーを浴びに、脱衣所に行く。血まみれのツナギを脱ぎ捨てる。
 肩斬華は浴場の鏡を見る。

「……戯れだって? 違うよ。あたしのこれは……」

 アースP(パラレル)は、通常に最も近く、そして最も、歪んだ世界だ。
 
 
【世界座標(14,-32,2)――アースH(ヒーロー)】


「ねーねー師匠。こいつはなんで悪だったの?」

 ヴィランとヒーローが戦う世界、アースH。
 この世界には毎年のようにヴィランや悪の組織が現れ、
 それに対してヒーローが戦うというサイクルが繰り返されている。
 今からカメラが合う光景もその一つだ。

 荒野に巨大なクレーター。その中央に、五体投地にて力尽きているヴィランがいて、
 そのそばで死体を木の棒で突っついている赤毛の幼女がいて、
 そしてその幼女のそばで灰色の男が、幼女がヴィランをいじいじする光景を灰色の目で見ていた。

「ぜんぜん歯ごたえなかったけどさ。うちね、ちょっと気になったんだー」
「誘拐、監禁、洗脳、殺害……罪状だけならいろいろある。
 “パーフェクト”の名前は協会と政府の手配書にも刻まれている。つまり、悪だな」
「師匠ー、そういうことじゃなくて。どうしてこいつは、悪になったのかなーって話だよー」
「知らんな。オレたちは正義を振りかざし、ただ悪を倒すだけだ。
 悪が悪になった理由には興味を抱く必要はない。そういうのは別の奴に任せておけ」
「えー」
「どうした。悪に興味があるのか」

 赤毛の少女――早乙女エンマは、
 ヒーローとしての師匠である早乙女灰色のその問いに、こくこくと頷く。

「うん」
「悪になりたいのか」
「違うよ師匠―。たださー、“どうして無くなんないのかな”って、思わない?」
「……何?」

 灰色はエンマの言葉に眉をひそめる。

「どういうことだ」
「だってさー、無くならないんでしょう、ヴィランって。いや怪人でも悪の組織でもいいけどさ。
 ヒーローがどれだけ集まって、倒しても、また生まれるなんて、へんだなーって思うのさ。
 どーして悪になるのかな。どーして悪は、生まれるのかな?
 それがわかれば、なにかできるんじゃないかって……そういう意味での、興味だよー」
「それは、お前の仕事じゃない」

 エンマの純粋な疑問から開きかけていた何かを、早乙女灰色はぴしゃりと言葉で閉じた。

9イントロダクション( 作者:◇5Nom8feq1g氏):2015/05/06(水) 16:54:39 ID:pYFZnHTQ0
 
「むう」
「ひとつ言っておくが……悪というのは、成るものじゃない。認められるものだ。
 自らが悪ぶってもそれがただのイタズラであれば、ヒーローは動かない。
 逆にどれだけ良いことをしているつもりでも、それが他の大勢に悪だと認定されれば、そいつは悪になる。
 だから“誰かを悪だと認定するものが居るかぎり”悪は無くならない。
 そしてオレたちの仕事は、悪と認定された者を倒すことだ――けして誰かを悪と認めることではない」

 灰色はエンマにやってもらいたい仕事をひとつ、抱えている。
 そのためにはエンマに、彼のようなヒーローになってもらう必要があった。
 巷にはびこる、自らが悪と信じるものを倒すような出来そこないではなく、
 命じられたことをこなす、正義の刃に。

「お前は悪を断ずるだけでいい、エンマ。その理由を問う必要はない。
 倒すべきものが悪かどうかは、お前が決めることじゃない。ヒーローに私情を挟むな」
「うー……分かったよー、師匠」

 まだ幼く、全否定の言葉に対しては不満もあるものの、
 とりあえずは灰色に従順なエンマは、
 木の棒でつついていたヴィランの心臓をそのまま、木の棒で貫き殺した。



「あの灰色女(グレー・ビッチ)、また功績あげてるわね」
「おいおい霧人(ミスト)さんよお、お前さん、他人にビッチなんてえ言える服装かい」

 昼にヴィランが討伐されれば、夕方には特集が組まれるのがアースHの常識である。
 “完全狂”パーフェクト討伐のニュースは、夕刻のヒーローニュースで大々的に取り上げられた。
 ヒーロー養成学校の優等生、不死原霧人もまた、
 居候の侍と共にそのニュースを視聴し、そして毒を吐いていた。
 政府の犬として淡々と悪を裁く早乙女父子(便宜上こうなっているが、彼らは全く似ていない)はヒーローからの評判は悪く、
 不死原霧人もまたこの二人のことは良く思っていなかった。特にヴィランを殺してしまうあたりが気に食わない。

「うるさい! カウガールにケチ付けるなっていつも言ってるでしょ。
 サムライ、アンタは黙ってて。あーそれにしても全く、悔しいわね!
 アタシも早くヒーロー資格取って、裏切りのクレアとか、雨宮いのりとかの危険人物を捕縛したい!」
「おい! 家ン中で縄あ振り回すんじゃねえよ!」
「立ち止まってられないわ! ちょっと鍛錬してくる! 皿洗い任せたわよサムライ!」
「あ、おい待て! 今日の当番はおまえさん……」

 侍が止めるのも聞かず、不死原霧人は鍛錬場へと向かってしまった。
 ヒーローの世界には似つかない着流しの侍、柳生十兵衛は、
 居候させてもらっているとはいえ家の主人のいつも通りの奇行に大きなため息をつく。

 しょうがない、と皿洗いに取りかかろうとしたところで、
 ヒーローニュースが新たなニュースを発表する。

『新たなニュースです。先ほど、切り裂きジャックを名乗る男ヴィランが町はずれの郵便局に現れ……』
「ああ、また新顔かい。懲りないねえ」

 柳生十兵衛はもはや物珍しさを失ったそれらの報道を、耳で軽く聞き流した。
 彼はこの世界の住人ではない。もともとは別の世界に居た、剣客である。
 旅をしていたある日、水を切らして探した山中に現れた泉に飛び込むと、この世界に居た。
 
 それから数年、こちらで不死原の家に居候しながら剣客稼業と、
 ヒーロー養成所の剣道部外部コーチをしているが……どうにもこの世界には慣れることが出来ないでいた。

「今回もまた、一年だ。一定周期でヒーローと悪が、示し合わせたように代替わり。
 まるで何か、運命づけられてるみてえなんだよなあ。明らか気味が悪いのに、誰も気にしねぇしよ」

10イントロダクション( 作者:◇5Nom8feq1g氏):2015/05/06(水) 16:55:11 ID:pYFZnHTQ0
 
 今日もアースHは、筋書きをなぞるように回り続ける。
 だが、その筋書きはいつか、破滅へと向かう筋書きだ。
 すべての世界は……EZへと向かう。


【世界座標(0,0,1000000000)――アースEZ(エンズ)】


 アースEZは荒廃している。
 アースEZには死しかない。
 ここは終点、未来はない。ここから先には何もない。
 
 世界はピラミッド状の檻に包まれている。
 二次元平面上に広がる無数の世界は、Z軸の上、未来へと必ず進む。
 そしていずれ檻に触れ、歪みながら進路を変え、
 すべての世界はX=0、Y=0、つまりはアースRの延長線上に収束する。

 たった一つの結果へとたどり着く。崩壊。破滅。行き止まり。
 ピラミッドを壊す方法は、今だ見つかっていない――――――。


【世界座標(-78,-134,2378)――アースF(ファンタジー)】

  
「なるほどねぇ」

 もはやR世界とはかけ離れ、日本の面影すらない世界。
 ドラゴンや精霊、モンスターが生活し、魔法と錬金術にて魔王と戦う世界。
 Rからみればそれはおとぎ話、ファンタジー世界の出来事である……ここはアースF。
 そんなアースFに存在する一つの街、聖十字協会の総本山『聖アルビオン』の一角にて、
 とある錬金術師が探究心の果てに、「理」に辿り着いた。

「どうにもキナくさいと思っちゃあいたけれどねぇ。
 魔王は斃れたってのに、世界は平和になるどころか、帝国やら魔勇者やらテロリストやら、
 むしろどんどこ破滅に進んでってるのは何故かと思えば。なるほど、こういう仕組みだったわけだねぇ」
『これは……つまりは、この四角錐が、世界を縛る檻ということか……?』
「そういうことだねぇ、ドエナール卿。あ、周囲気を付けてよぉ。見られたらやばいからねぇ」

 魔王率いる悪魔軍の元幹部、ドエナール卿に空間接続窓を飛ばし、
 アースF最高の錬金術師……サン・ジェルミ伯爵は、
 アースFでも有数の魔術師と協力して世界の成り立ちについての研究を進めてきた。
 その結果が、この世界の檻の発見である。

「世界は空気に浮いて上昇する泡のようなもの、なんだねぇ。
 ふわふわ浮いて――檻に集められて頭打ちになる。そうなるようになっている」
『この檻を壊さぬ限り、我らの破滅は避けられぬのか。伯爵よ、どうやって壊す』
「さっぱり分からないねぇ。なにせ泡の外側の話だ。
 あくまで泡の内側にしか居ない僕たちじゃ、どうしようもないかもしれないねぇ……おや」
『どうした、伯爵?』

 ドエナールが伯爵の目線が変わったことに反応した。
 伯爵はどうやら、何かを発見したらしかった。

「いやさ……見なよ、ドエナール卿。ここ。
 どうやら僕たちは、ずっとずっと“見られていた”みたいだねぇ……」
『なん……だと?』

 伯爵が指差した世界散布図の一角。
 座標にして、四角錐の中心(セントラル)に近い場所にある一点……。
 そこに、世界が、“留まって”いた。

11イントロダクション( 作者:◇5Nom8feq1g氏):2015/05/06(水) 16:55:58 ID:pYFZnHTQ0
 
「この世界だけ、一切その場から動いていない。
 それだけじゃなく、魔力に似た波動線で、すべての並行世界を観測しているねぇ」
『……時間を止めているのか』
「おそらくは。もしかしたら、こちらや他の世界に干渉してる可能性もある」
『中心(セントラル)の世界、か……それが“檻”の製作者である可能性は?』
「どうだろうねぇ。檻を作ったのがこれなら、自ら檻の中には入らないんじゃないかねぇ……」

 多分だけれども、と伯爵は前置きし、考えを語った。
 おそらくこの中心の世界は――アースFよりも早く世界の構造に気付いて、
 他の世界が“割れない”ように観測し、管理しているのではないか、と。

「僕が見る限りじゃ、安定してる世界は中央線を進んでいる世界だけさねぇ。
 他の世界は今にも割れそうだ。何かイレギュラーが起こったら、檻に触れる前に崩壊するくらいにねぇ。
 これはおそらく、それを避ける役を買って出ているんだろうねぇ……正義感の強いこと!」
『敵か味方かで分ければ、味方、と言うことか……』
「それもまだ分からない、ねぇ。だけども、コンタクトは取りたいところだね」

 世界の破滅を防ぐアイデアはもうあるんだし、と伯爵は続けた。

『なにっ?』
「僕を舐めちゃあいけないよドエナール卿。きっと試していないだけで、向こうも思いついてはいるはずさねぇ。
 それをやってみないか、と働きかけてみたいのさ。まあ犠牲は大きいし、リスクも高いけれど」
『……詳しく、話を聞きたいものだな』
「簡単な話だよ、足し算さ足し算――」

 伯爵はいつもと口調を替えず、表情も笑顔を崩さないままに。
 ドエナールに向かって、この世の底から冷え込むような声で発案を投げかけた。

「一個の世界では檻を貫けないなら、““複数の世界を束ねればいい””」



【世界座標(0,0,500000000)――アースセントラル】



      ――なあそうだろう? 観測者さん?



             ――ああそうだ。ならば、始めよう。



【世界座標(0,0,0)――アースR(リアル)】



「ふんふんふふーん。あ、麻生くんだ。帰り道?」

 世界は戻って、アースR。リッパーに憧れる少女と無口の男の一幕から二時間後。
 時刻にして、夜に差し掛かったころだった。
 帰路を歩く麻生叫の目の前に、少女が現れた。
 いや、彼女は少女ではない。5年前から姿が変わらない、少女めいた悪魔。
 このR世界に存在してはいけないはずのイレギュラーにして麻生叫の“敵”である。

12イントロダクション( 作者:◇5Nom8feq1g氏):2015/05/06(水) 16:56:34 ID:pYFZnHTQ0
 
「……」
「スルーはウケるけどおねーさんは気落ちしちゃうな。
 せっかく色々知ってる生き残りの一人なんだから、もっとおねーさんと会話しましょーよー」
「……俺は普通の学生だ」
「近所では人を狂わせる言葉を吐きヤクザをも倒せる暴力を持ち
 脳内で常に人を虐げることを考えている都市伝説めいた化け物人間って噂なのに?」
「それは妹の吹いた法螺だ……迷惑しているんだ。
 普通に暮らすのは……できないとしても。せめて平穏に……暮らさせてくれ」
「ふーんふんふん、カケル君のほうとはホント、真逆だよねえー。
 同じ学校に二人いるのも面白いけど、
 ま、君は元々普通で、それで普通のまま、殺して殺して優勝したパターンだもんねー」
「……」
「あ、大丈夫大丈夫、君の暮らしにはおねーさんはもう手を出さないよ。妹さんにもね。
 今日会ったのもけっこう偶然、おねーさんはスーパーの帰りなんだ。ただ……たださあ」

 スーパーの買い物袋を持った悪魔はそこまで言うと、麻生叫に向かって、ちょっと複雑な表情をした。

「予感、なんだけどね。
 もしかしたら“私じゃない私”とその周りのやつらが、近々何か起こすかもしれなくて」
「……?」
「あたしが君を巻き込まないと決めてる以上、君が巻き込まれることはないのかもしれないけどさ。
 もしなにかの間違いで、巻き込まれちゃったらごめんね、なんて。おねーさんは言っておこうかなとは思ったんだよね」
「何の……話だ」
「“世界座標”の話だよ」

 この現代に在りながら、金にものを言わせて人を拉致り集め、
 地下で人を殺し合わせる悪魔(イレギュラー)――平沢茜は、
 麻生叫が今までの人生で一度も聞いたことのない言葉を使った。

「座標で決まっているはずの世界が、動こうとしてる。世界が束ねられようとしている。
 “私じゃない私”が、それを見て、笑ってるのが見えたんだよね。
 ……ま、面白いことを起こすってんなら、おねーさん的には、ばっちこいなんだけどさ――」

 それをするのが“この私”じゃないってのは、ちょっと許せないかもね、と。
 結局意味の分からない話を妙に大仰な風に言いのけて、平沢茜は麻生叫の前から消えた。


【世界座標(-1,14,0)――アースD(ディレクティブ)】


 その日の夜、羽田神達生は『赤旗』を見た。

「うわ、まただ……嘘だろ、まじか……ッ」

 探偵と犯罪者が人口の4割を占め、日々事件が起こり続ける日本、アースD。
 そんな世界に生まれた羽田神達生が『赤旗』を見るのは今回が初めての事ではない。
 各地の洞窟や遺跡を巡る高校の探検部で、とある洞窟に向かったときに初めて『旗』が見えたあの日から、
 彼の前に『旗』が現れることは自らの命の危機と事件の始まりを意味していた。

 小太りな身体をベッドの上で震わせる。家で『旗』を見たのは初めてだ。
 それも『赤旗』。三色ある旗のなかで最上級の事件を示す旗の色だ。
 『旗』が現れた場所からは、逃げる必要がある。そうしなければ彼は“犯人”と出くわしてしまう。

13イントロダクション( 作者:◇5Nom8feq1g氏):2015/05/06(水) 16:57:14 ID:pYFZnHTQ0
 
 震えている場合じゃない。
 達生は部屋から転がるように飛び出ると、一階へと降りる。家から出てどこかへ。
 いやそうだ、母がいた。母も一緒に連れて出なければ――

「あらタツオちゃん、そんなに急いで……あら? タツオちゃん“も”?」
「……え?」
「ほら、その胸の前の。さっきからずっと見えてるのよねえ、変よねえ、どういうことかしら」
「え」

 母のいるリビングを見た達生が見たのは、『赤旗』だった。
 達生だけでは、なかった。
 達生の母にも、『赤旗』が立っていて。達生の母もまた、『赤旗』を見ていた。

「嘘だろ」
「?」
「旗はぼくにしか、ぼくだけにしか現れないし、ぼくしか見えないはずなのに」

 ピコン!
 驚く達生のポケットからLINEの新着通知が届いた。
 かと思えばぽこぽこと通知の雨が降り注ぐ。なんだ。何があったんだ。
 スマートフォンのロックを解除して、達生はトーク画面を眺めた。

 「旗が見える」「なにこの赤旗」「旗恐くね?」「そういえばお前、前旗がどうとか言ってなかった?」 
 「どこ行っても付いてくるんだけどホント何」「地震でも来るのかな」「コワーイ」「やばいでしょ」

 探検部の面々、その他の知り合い、特に関わりもないようなクラスメイトまで……。
 全員がほぼ同時に『赤旗』を見ており、しかもそれから逃げられていない。
 達生は気が違いそうになった。画面をスクロールする指が震え、表情が真顔になり、息が止まる。

「なんだよ……これ……なん、なんだよ……!!」



「つー訳でだ、俺の把握してる限りじゃ世界中の全員が『旗』を見てる。西崎お前、これをどう見るよ」
「集団幻覚……と言って収めたいわよ、警察としてはね。でもさすがに言いくるめられないわ。
 こちらの意見としては、事件なんてレベルじゃない、危機だと思うわよ。何が起こるかはわからないけれど」

 それから一時間もするころには、『旗』がアースDの住人全てに見えていることを警察が把握した。
 警察が把握したと言うことは、この世界では探偵に知れ渡ったと言うことでもある。
 私立探偵・黒田翔琉と、探偵嫌いの刑事・西崎詩織もまた、普段の犬猿さを忘れて真剣にこの問題に向き合っていた。

「ともかく何でもいい、そっちは仮犯人をでっち上げろ。このままじゃ不安で二次災害が起こる」
「どうやって」
「サイバーテロにしとけよ、スマホやテレビに幻覚ウイルスだ」
「無理あるわよ……でもとりあえずは、それしかないかしらね……そっちは何を」
「決まってんだろう。犯人を捜す」

 西崎は電話口の向こうの男のトーンが一段上がったのを感じ取った。
 思わず呆れる。

「あなたねえ」
「こちらの意見を言ってなかったな。俺としちゃこれもいつもと同じだ。事件だよ。
 自然災害がわざわざ『旗』なんて立てて俺らに知らせてくれるか? ありえねぇ、絶対誰かの意思が絡んでる。
 事件なら解決できる。クソ迷惑な犯人野郎の居場所も目的も動機も暴いて、天日干しにしてやるよ」
「……はあ。これだから嫌いだわ、探偵って」
「なんとでも言え、犬。俺たちはこういう生き物なのさ」
「ばーか」

14イントロダクション( 作者:◇5Nom8feq1g氏):2015/05/06(水) 16:58:37 ID:pYFZnHTQ0
 
 捨て台詞を吐いて西崎が受話器を切った。
 いつも通りの光景。いつも通りの流れ。
 
「――いつも通りに解決して、いつも通りに戻らなきゃなぁ」

 私立探偵は首をゴキリと鳴らし、肩を回転させて、腕をまくった。
 だがどうやって解決すると言うのだろう。『旗』を出している犯人は、この世界にはいないと言うのに。
 

【世界座標(0,0,500000000)――アースセントラル】


『こちら世界観測管理システムAKANEです。
 世界座標(0,0,300) アースBR(ブレイク)への世界統合試験を行います。
 統合対象の主な世界は
 アースR
 アースP
 アースH
 アースMG
 アースF
 アースM
 アースD
 アースA
 アースE
 アースSR
 アースSF
 アースEZ 以上の12世界です。
 その他、小さなアースや観測不可能なアースの混入可能性も数%存在します。』

『統合準備には一週間ほどの期間と莫大なエネルギーを使用します。
 さらに、統合が完了した場合、アース内にはもとあったアースの内1つのアースしか残りません、
 他のアースは世界の構成エネルギーとなって霧散します。
 よってAKANEからの提案ですが、
 統合準備の間、各アースからランダムにメンバーを選出し、
 統合後に残るアースがどれなのかを決めるというのはどうでしょうか?』

『了解いたしました。
 では各アースからランダムにメンバーを選出し、決定試験を開始いたします。
 なおこれに際し、アースDではフラグの大量発生が確認されますが、よろしいでしょうか?
 ……はい。では行います。
 方法は――アースRでのわたくしの意向に準拠し――アースの名称を一時的に変更――』



『殺し合いによる、選出といたします』



【世界座標(0,0,300)――アースBR(バトルロワイアル)】



 かくして、殺し合いのために造られた世界にて。
 選ばれた命たちによる、殺し合いが開始される。



※殺し合いは、アースセントラルにサン・ジェルミ伯爵が働きかけたことにより開始された世界統合実験です。
※OPおよび登場話で出てこなかったアースは遡って修正されます。

15そして世界が生まれゆく( 作者:◇aKPs1fzI9A氏):2015/05/06(水) 17:00:51 ID:pYFZnHTQ0
 


―――当再生ディバイスの電源オンを確認しました。所持者参加者番号121、承認中です………承認しました。
───世界座標確認。x=0,y=0,z=300。アースBR、確認チェック、完了。―――了解、当参加者の参加を許可します。

───これより、音声プログラムを再生致します。よく聞き取れなかったり音声の不具合を感じられた方はHELPボタンを押してください。───また、この音声プログラムは一時停止、巻き戻し、早送りが出来なくなっており、一度しか再生されません。よくお聞きくださいませ。───ピー、という発信音の後に再生を開始します。再生の準備が整いましたらSTARTボタンを押してください。───再生を受け付けました。音声プログラムを開始いたします。───ピー。





皆さま、如何お過ごしでしょうか。私は今回の進行役を務めさせていただきます『世界観測管理システムAKANE』と申します。以後お見知りおきの方をよろしくお願いします。皆さまの貴重なお時間をいただきながら皆さまの眼前に現れずこうやって外部音声のみで説明を終わらせることをどうかお許しくださいませ。さて早速本題に入らせていただきます。

唐突で申し訳ないのですが───皆さまには本日から三日間の間、お互いに殺し合いをしていただきます。突然のこちらからの提案に皆さま思う所があると思います。ですが話を進めさせていただきます。批判の方は受け付けません。

16そして世界が生まれゆく( 作者:◇aKPs1fzI9A氏):2015/05/06(水) 17:01:36 ID:pYFZnHTQ0
 
続けます。皆さまには、一人一つずつディパックを配らせていただきました。そちらの方には最低限の食料と水、この会場の地図、当プログラムの参加者候補リスト、その他役に立ちそうな物を入れさせていただきました。武器なども入っておりますので、当音声プログラム再生後、ご確認くださいませ。


次に皆さま、御自分の首の方をご確認ください。鉄製の首輪がついてらっしゃるかどうかの確認をおねがいします。もしついていない場合、当方の方までディパックの中にある携帯電話でご連絡をお願い致します。そちらの首輪は、例えばこの会場から脱出しようとした。または一定時間毎にこのディバイスに送られる音声フォルダで呼びかける禁止エリアに五分間居た。という際に爆発するようになっております。
皆さまの中には腕に覚えがある方大勢おられると思いますが、どうか私たちに反抗しようとするのはおやめください。そういった場合でもこちらから首輪を遠隔操作に爆発させますので、どうぞお気をつけくださいませ。

最後に大切な事を言わせていただきます。先ほど述べました首輪の、皆さまの喉元の近くの部分にアルファベットが一文字か二文字、書かれていると思います。そちらの方が、こちらが《一定法則》に沿って分けさせていただいた『チーム』になっております。最後の一人になるか、参加者様方が一チームのみになるか。この二つをこのゲームの終了条件とさせていただきます。
またいくつのチームに分かれるか、各チームがそれぞれ何人いるかは当システムも把握しきれておりません。申し訳ありません。把握しだい皆様になんらかの形で連絡いたします。
それと、チームに人数差や戦力差に大きな違いがある、と判断していただいたとしてその件を私達に言ってもこちらの方で調整はできない仕様となっております。予めご了承願います。

以上が今回のルールとなっております。何かご質問等ございましたら先ほど述べました携帯でご連絡をお願いいたします。なお、ルール以外のご質問は受け付けておりません。ご了承下さい。

では皆さま、また数時間後の放送でお会いできることがあれば。








───再生が終了しました。当音声プログラムファイル名「Re;Start」の方を自動消去いたします…消去しました。以後この音声プログラムを再生することは出来ません。───この音声プログラムは自動的に消去されました。この音声プログラムは自動的に消去されました───


====================================

17そして世界が生まれゆく( 作者:◇aKPs1fzI9A氏):2015/05/06(水) 17:02:23 ID:pYFZnHTQ0
 
「また随分ガサツで荒い説明じゃないかAKANE。こんな時代遅れな物まで持たせて」

暗い部屋の中であった。部屋を照らす明かりはどこも点いておらず、何百という液晶からの発光が液晶の周囲のみを照らしている。
天然パーマの眼鏡をかけた一見うだつのあがらない男、研究員名「オブザーバΔ」は多くの液晶のうちの一つにそう言い放った。
右手にはICプレイヤーのような物が握られている。彼はそのプレイヤーの「START」を押すと、そこから無機質な女性と思われる機械音が流れ始めた。

『そちらの方が、こちらが《一定法則》に沿って分けさせていただいた『チーム』になっております。最後の一人になるか、参加者様方が一チームのみになるか。この二つをこのゲームの終了条件とさせていただきます…』
「…チーム戦とはなんだ。そんな必要はない。単純に人間が殺しあう姿が見たい者だっている。それを求めた彼らがいたから【コレ】が開けたというのに」
「ではΔ(デルタ)、あなたは彼らのためにこのプログラムを開催するのですか」

オブザーバΔの言葉に返したのはその液晶の中に映るプログラムであった。
世界観測管理システム『AKANE』。アースセントラルを中心とした各世界線を総括、オート管理しているプログラム。
彼女(AKANEには正式な性別はないのだが、ここではそう呼ぶことにする)の存在を示すように、液晶に映る波長が大きく動いている。

18そして世界が生まれゆく( 作者:◇aKPs1fzI9A氏):2015/05/06(水) 17:03:07 ID:pYFZnHTQ0
 
「Δ、当プログラム中の基本的管理は私に一任したと昨日の記録音声に入っております。従いまして介入するとなるとその記録音声を一度デリートし、そこから―――」
「…分かった分かった。基本的なところはお前に任せる」

オブザーバΔは髪を掻き毟りながら、彼女の長い説明を遮るようにしてAKANEに返答した。
Δの目的である「各世界の統合化」を果たすためには、彼女の存在は不可欠なのである。故に、彼女に参加者の選択、細部のルール、まったく新しい世界軸の設計…さまざまな仕事を一任し、自分の目的を達成することができた。
だからこそここでAKANEに居なくなっては困るとΔは考える。彼女に自分の意識が無いというのは分かっているが、変に彼女の作り上げたプログラムに口出すことはこのアースBRの崩壊にも繋がりかねない。
「彼ら」、サンジェルミ伯爵やデュルド・ドエナール達の要望に逆らうようでやや気が引けるが、茶菓子でも出せばあの貴族かぶれたちは許してくれるだろう。
何より、自分のやりたいことが出来るというだけで充分である。ひとまず、それだけでもいい。

「AKANE、1stと2ndといった他オブサーバーの介入は阻止しているか」
「その点に関しては心配ありません。このアースBRは他の世界軸から観測されることはないです」
「では他の3rd研究員たちはどうした」
「三日前の発言を基にして、存在をアースセントラルから消滅させました」

Δは、自らの味方であると分かっていても時たまAKANEの計画には驚愕することがある。
確かに3rdの他の研究員たちの存在は特に邪魔であった。そのことを述べたのは事実だが、存在まで消してしまうとは知らなかったし、何よりそのような大幅な介入を起こしても、アースセントラルへの影響が皆無だということも末恐ろしい。
―――こちら側に引き入れて成功だった。
そうΔは心の底で思うと同時にAKANEに対して口を開く。

19そして世界が生まれゆく( 作者:◇aKPs1fzI9A氏):2015/05/06(水) 17:03:58 ID:pYFZnHTQ0
 
「…相変わらず恐ろしい《女》だなAKANE」
「発言の意図が読めません。私は1管理プログラムです。人間のような性別はありません」
「あぁそうだな、君はプログラムだ。だからこそ―――私の計画に必要だ」
「感謝いたします。では当音声プログラム【Re;Start】を各参加者に配布します。よろしいですか?」

無機質な音声が鳴り響く。液晶にはYESかNOかだけ映る。
音声プログラムを配布するということは、このゲームの開始を意味する。
Δの目には、迷いはなかった。

「―――じゃあ始めようAKANE。すべては世界軸の統合のためだ」

Δはそう言うと、そっとYESの方をタッチした。
液晶に文字の海が出来上がる。やがてその液晶を基点とするように部屋中の液晶にも、文字の海は広がっていく。
やがてすべての液晶に広がりきった後―――それを確認したかのように。

『管理者による承認を確認しました。これより当プログラムを開始致します』

一言、無機質な音声が部屋の中に響いた。


※主催者は
オブザーバΔ@アースセントラル
世界観測管理システムAKANE@アースセントラル
サンジェルミ伯爵@アースF
デュルド・ドエナール@アースF
の四人です。ここからAKANEが更に人を呼ぶこともあるかもしれません。
※参加者は右手に音声が入ったICプレイヤーが握られた状態で、各エリアに飛ばされます。プログラム開始と同時に送られた音声を再生する導入の案内が流れるシステムです。アースFやアースEといった世界軸の機械知らない人々対策に。
※ICプレイヤーの見た目はセンター試験の英語リスニングのときに配られる音声機器をイメージしていただいたら嬉しいです。イヤホンはついておらず、直接音が出る仕組みとなっています。
※AKANEやサンジェルミ、ドエナールたちがなんらかの形でプログラムに介入することもあるかもしれません。

20名無しさん:2015/05/06(水) 17:05:59 ID:pYFZnHTQ0
 
パロロワテスト板より転載終了です。
なお全書き手枠の関係上、今転載した前日譚の登場キャラクターでも
本編に出てこないという可能性が普通にありえますのでご了承ください。

予約解禁は本日5/6(水)の21:00から、場所はしたらばの予約スレです
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/17154/1430840201/l50

経験問わず書き手の皆様の作品をお待ちしています。

21名無しさん:2015/05/06(水) 17:17:41 ID:PrZ2tPrE0
状態表テンプレートを転載しておきます



【エリア/場所/経過日数/時間】

【キャラクター名@出身世界】
[状態]:
[服装]:
[装備]:
[道具]:
[思考]
基本:
1:
2:
3:
[備考]

22名無しさん:2015/05/06(水) 20:10:09 ID:M0S2jPRA0
スレ立て乙

23 ◆laf9FMw4wE:2015/05/07(木) 01:19:12 ID:Bm0dl3U60
投下します

24我魂為麺 ◆laf9FMw4wE:2015/05/07(木) 01:19:51 ID:Bm0dl3U60
「――――オーマイガッ! 我がパスタがどこにもないッ!」

ムッソリーニがここに訪れて最初に発した言葉がそれだった。
彼が最初にした行動はルールの確認でもなく、自分の作っていたパスタを探ること。
微粒子レベルでもデイパックにパスタが入っている可能性はあるのだ。それを確認しないムッソリーニではない。

だが現実はそう甘くない。
彼にとって命にも等しき存在はもう彼の手元に存在せず。己の総てを奪われたような喪失感と、愛人を奪われたが如き怒りがムッソリーニの全身を駆け巡る。

「パスタ――パスタパスタパスタパスタパスタパスタパスタパスタ」

愛しき名を幾度と無く呼ぶが、返事はない。
これまで情熱を捧げてきたパスタがないという残酷な現実。たったそれだけで、イタリア共和国首相はこうも不安定になってしまう。
もしも彼にパスタの麺や材料でも支給されていれば、パスタおじさんは獅子奮迅の活躍をしたことだろう。しかしそれは所詮、もしもの話で。

「ファッキンジャップ! 俺からパスタを奪うとは、あのクソビッチ断じて許せん」

だからこうして、主催者に怒りをぶつける。
自分が殺し合いに巻き込まれること自体はどうでもいいが、パスタを奪われたことが許せない。
パスタは人生だ。トイレでも、お風呂でも、寝る時も――いつも傍にはパスタがついていた。

「―――取り戻さねば」

パスタを。
燃え盛る魂を。
我が情熱を捧げてきた愛しき存在を。

「クソビッチ、貴様だけは殺す」

愛すべきパスタの為に。
再び祖国へ戻り、パスタを振る舞う為に。

「ゆえにパスタの仇を――尊厳を取り戻す戦争を始めよう」

何も知らない者が聞けば、なんとも馬鹿げている巫山戯た理由だ。されど、その覚悟に一点の偽りもなし。
彼にとってパスタは己が魂と同等の価値を見出していた存在であり。それを取り戻す為に命を懸けることは、男として至極当然。
誰に嘲笑われようが構わない。パスタ大好きおじさんと指をさすのならば、それでも良い。
しかし我が魂を――――パスタを奪うことだけは決して許さぬ。それだけは絶対に譲れない、ムッソリーニの誇りなのだから。

25我魂為麺 ◆laf9FMw4wE:2015/05/07(木) 01:20:24 ID:Bm0dl3U60

♂ ♀ ♂ ♀

パスタ大好きおじさんがパスタに情熱を燃やす一方で、甘味処の看板娘はのんびりとしていた。
この場に似つかわしくない、ふりふりの着物と頭頂部にリボンをつけた愛らしい少女――徳川家康は、だが男だ。
自分が復活した際に少女となったことや、平賀源内の意味不明な発明を始めとして摩訶不思議なことには慣れっこだし、殺し合いも元戦国武将にとっては既に経験済みのことであり。

「困ったのう。ただ看板娘として人生を謳歌していただけなのに、よもや殺し合いに巻き込まれるとは……」

それほど動揺することもなく、自分の失態に苦笑していた。
もしも平賀源内の存在を認知していなければもう少しは驚いたかもしれないが、彼女がそれなりの頻度で引き起こすハプニングの数々を聞いていれば、今回の騒動を現実だと受け入れることも難しくない。
それに最近の江戸はよくわからない異変が多いのだ。異国の者が唐突に出現するわ、柳生十兵衛がいきなりどこかへ消えるわで意味不明である。
ゆえに自分が異国へ転移する可能性や、自分が何らかの形で巻き込まれる可能性は少なからず考えていた。まさか殺し合いなどという形で実現するとは、思ってもいなかったが。

「それにしても、ちーむ制の殺し合いか。まるで戦国時代を再現しているようじゃな」

戦国時代。
それぞれの武将やその部下が己が命と誇りを懸けて戦った、群雄割拠の時代。
戦乱の世を生き抜き、天下統一を果たした家康はその時代の勝者といえるが――彼女は決して驕っていない。
様々な武将の生き様や武勇を知る彼女は、彼らを猛者と認めている。
そんな家康だからこそ――――彼女はニヤリと微笑した。

「だがしかし、それを再現しようと思っているのならば無理じゃ。
 此度の戦には夢がない。希望がない。多くの武士が求めていた浪漫がない」

そうだ。彼女の知る武士は、いつだって浪漫を追い求めていた。
各々の手段こそ違えど、天下統一という夢に向かって必死に突っ走っていたのだ。
女が見れば阿呆と思える行動であるかもしれぬが――――男が命を懸ける理由はそれだけで良い。

「命に背けば首輪を爆破する? その程度の脅しに屈するならば、誰も天下統一など夢見ておらんぞ」

天下統一を夢見て、血反吐をぶち撒けてきた男たちに下らぬ脅しは通用しない。
戦国時代は死が隣り合わせの世界だ。彼らはいつだって、自分の死を覚悟した上で戦ってきた。
それは家康とて変わらない。性別や姿形は変われど、戦国武将としての精神は魂に刻み込まれている。

「それにワシには待っている客がいる。彼らに甘味を振る舞う為にも、ここで足止めされるワケにはいかんのじゃ。
 だがだからといって、あの声の命令に従うつもりも毛頭ない。一度死んだワシが、まだ将来のある生者を無差別的に殺すというのも心苦しいからのぅ」

これでも彼女は天下統一を果たした猛者、徳川家康だ。
その気になればチームを率いて殺し合いを制することも難しくないだろう。
そんな可能性を認めた上で、敢えて彼女は別の道を選んだ。果てしなく険しい道だと理解して、それでも彼女は決めたのだ。

「ということで此度の戦は辞退しようかのぅ。
 ワシの目的はただひとつ――――お主を成敗して、この下らぬ遊戯を終わらせることじゃからな」

ゆえに彼女は、自信に満ちた表情で堂々たる宣言をする。
敵が未知の技術を有する謎の組織であっても、それに怯えるほど天下人の肝は小さくない。
そして家康は、敵陣へ征く為に一歩を踏み出し――――。

「ファッキンジャップ! 俺からパスタを奪うとは、あのクソビッチ断じて許せん」

パスタおじさんの怒声を聞きましたとさ。

「ふぁっきんじゃっぷ? ぱすた? ……もしかして、これのことじゃろうか?」

支給品を確認した際にデイパックに入っていた袋を再度確認する。
見たこともない未知の言語が複数並び、その中にご丁寧に日本語で“ぱすた”と書いてあった。

「うーむ。これは届けてやらねば、面倒なことになりそうじゃ」

これほどの大声を張り上げるということは、男にとってはこのパスタとやらが余程と大切なのだろう。
もしも届けぬまま行動して見つかれば、パスタを盗んだとかそんなことを言われて、無益な争いに発展する可能性も有り得る。ゆえにここは男に接触して自主的にこのパスタを渡すのが最善だと家康は考えた。

26我魂為麺 ◆laf9FMw4wE:2015/05/07(木) 01:21:06 ID:Bm0dl3U60

♂ ♀ ♂ ♀

「第一次パスタ戦争の幕開けだッ! チーム戦など関係ない、俺の狙いは貴様だけだクソビッチ!」

大声で戦争の開幕を宣言するパスタおじさんを見て、苦笑する家康。
一方のパスタおじさんは、流石とも言うべきか。少女の存在に気付くこともなく、ただひたすらにパスタのことや女を捕えて処刑する手段を考えている。

「さっきから何度か呼びかけておるのだが……聞こえておらぬか。
 ええい――このぱすたが目に入らぬか!」

某時代劇のように掲げられる紙袋のパスタ。
厳密に言えば麺しかない状態で、これだけでは使い道のないものだが――。

「ん? 今パスタって言ったな? パスタがどうした? パスタがパスタがパスタがパスタが、パパパパパ――――パスタだと!?」

言うまでもなく、パスタおじさんには効果抜群である。
頬を叩いて夢でないと確認した後、少年のように目をキラキラと輝かせてパスタを眺めるムッソリーニおじさん(48)。

「うむ。やはりお主が探していたのはこれであったか。
 ワシには価値がわからぬし、どうやらお主の持ち物らしいから……ほら、受け取るのじゃ」
「有り難い。……先程は無礼な態度をとってしまい、済まなかった。謝罪しよう」
「なに、ワシは何も気にしておらんから大丈夫じゃ。それより、そのぱすたについて教えてくれぬか?」

「ほう! 知りたいか、パスタについて!」
「あー、乗り気なようで悪いのじゃが、出来るだけ簡単に――」
「遠慮する必要はない。パスタについて隅から隅まで教えてやる」

――そしておじさんはパスタについて熱く語り始めた。
信長であればブチ切れるレベルの至極どうでもいい話を聞かされても、しっかりと相槌を打つ家康は流石の貫禄である。

「――つまりパスタは人生だ」
「成る程。お主のぱすたに注ぐ情熱とぱすたの素晴らしさは理解した。
 ……理解したのじゃが、こうも聞かされると食べたくなるのが人間というものじゃ。ここで調理することは出来ぬのか?」
「言われなくとも調理するつもりだ。パスタの恩は、パスタで返す――それが俺の流儀さ。
 幸いにもここには学校が存在する。家庭科室まで行けば、調理器具や食材もあるだろう」
「うむ。ならばまずは、そこを目指そうかの。この遊戯を終わらせるのが目的じゃが、焦る必要はない。食材があるのなら、甘味やぱふぇを料理することも出来るし、一石二鳥じゃ」
「同感だ。俺もパスタを侮辱したビッチは許せんが――それ以上に今はこのパスタを調理したい」

「ぱすたを侮辱したびっち? 誰のことじゃ?」
「このICプレイヤーに録音された声の女だ。パスタを侮辱した罪、断じて許さん」
「ふむ、やはりお主も逆らうのじゃな。この女に」
「俺のチームはAで君はEだ。逆らうつもりじゃなければ殺しているさ」
「そうじゃのう。殺しているかどうかは兎も角、ワシを襲っていたはずじゃ。
 ……長い付き合いになりそうじゃから、名乗っておくかの。ワシの名は徳川家康じゃ」
「ベニート・ムッソリーニだ」
「うむ。これからよろしく頼むのじゃ、むっそりーに」
「ああ。共にパスタの素晴らしさを伝えよう、イエヤス」

戦国時代に天下統一を果たした武将とイタリア共和国首相。
二人の偉人は互いの素性を知らないまま、硬く握手を交わした。

【C-5/平野/1日目/深夜】

【徳川家康@アースE(エド)】
[状態]:健康
[服装]:
[装備]:
[道具]:基本支給品一式、ランダムアイテム0〜2
[思考]
基本:この下らぬ遊戯を終わらせる
1:むっそりーにと共に学校へ向かってぱすたや甘味を食す

【ベニート・ムッソリーニ@アースA(アクシス)】
[状態]:健康
[服装]:
[装備]:
[道具]:基本支給品一式、ランダムアイテム1〜3、パスタの麺
[思考]
基本:パスタを侮辱したクソビッチを処刑する
1:イエヤスと共に学校へ向かってパスタを調理する

27 ◆laf9FMw4wE:2015/05/07(木) 01:21:58 ID:Bm0dl3U60
投下終了です

28名無しさん:2015/05/07(木) 16:34:53 ID:vvLKMBEk0
投下乙!日本のトップとイタリアのトップがまさかこんな形で出会うとは。
パスタ大好きおじさんに期待しかない…wwww

29 ◆laf9FMw4wE:2015/05/07(木) 19:21:46 ID:Bm0dl3U60
投下します

30信長様の為に ◆laf9FMw4wE:2015/05/07(木) 19:22:21 ID:Bm0dl3U60
明智光秀は織田信長を慕っていた。織田信長は明智光秀をこれ以上ない程に信頼していた。
固い絆で結ばれた二人に適う敵は存在しない。織田軍は破竹の勢いで覇道を突き進み、遂に天下統一を目前とした刹那――。
本能寺にて豊臣秀吉の策略に嵌められ、織田信長は命を落とすことになる。

だがそれでも――忠臣、明智光秀は諦めなかった。彼は執念だけで敵軍の首を刎ね飛ばし、秀吉をあと一歩のところまで追い詰めた。
されど奇跡は永く続かない。自らの命惜しさに裏切った織田軍の兵が、光秀の心の臓を穿ったのだ。
そうして息絶え絶えになり、己が人生の幕引きを感じ取った光秀は、焼け焦げた信長の死骸に寄り添い共に死を選んだ――。

それがアースPで語り継がれている、明智光秀の歴史。
アースEなど様々な世界で信長を裏切ってきた光秀と違い、アースPの光秀は最期まで忠を貫き、果てた。
理由は単純。信長を誰よりも信じていたから。彼にならば、命を差し出しても構わないと思っているから。
だからこそ最期の瞬間まで信長の為に戦える。秀吉を恨むことはあれど、自らの最期に悔いはない。

その想いは今でもずっと変わっていない。
過去から現在まで、信長のことを忘れた日など一度もない。
たとえ性別が変わり、その情が別のものになりつつあったとしても――――。

♂ ♀ ♂ ♀

「……ここは?」
『───これより、音声プログラムを再生致します』
「この音声は、ICプレイヤーから? いつの間にこんなものを……」

右手に何か妙な感覚があると思えば、何故かICプレイヤーを握っていた。そこから流れる無機質な女性の音声は、不気味としか言い様がない。
アイドルとして活動していた光秀にラブレターや悪戯で音声を録音して送り付けてくる輩もいたが、今回の音声は完全に異質。恐らく自分を連れ去った者はこの女なのだろうと、直感する。

『───再生が終了しました』

耳を傾けてみれば、女の話している内容は滅茶苦茶なものだった。
批判は受け付けないが互いに殺し合え。反抗したら首輪爆破で殺す。チーム戦で、最後の一人になるか、一チームのみになれば終了。
はっきり言って頭の痛くなる内容であるが、金属のひやりとした感触が、音声の言葉は偽りではないと証明している。
もちろん首輪を爆破することなど、ただの脅し文句である可能性も有り得るが――だから反抗しようと決めるほど、光秀は思い切りがよくない。
先程の音声を何度も、何度も思い出して光秀は慎重に今後の方針を考える。

(一定法則に沿って分けられたチーム――ということは、もしや信長様もいるのでは?
 そして信長様は間違いなく、私と同じチームにいるハズ。完全ランダムなら兎も角、法則性があるのならそれ以外は有り得ない)

《一定法則》に沿って分けられたチーム。あの女はたしかに、そう言っていた。
他にも様々な言葉が流れていたが、光秀が何よりも注目した点はそこだ。

(特に根拠はないが――私があの女なら、親しい者や知人を同じチームにする。
 そうすることで他者を殺害する者も出てくるだろうし、積極的に他チームと争わせるにはそれが最も手っ取り早い。
 それに私と信長様は、深い信頼で結ばれているのだから、チームが違うということはまず有り得ないっ!)

光秀は自分と信長が同じチームだと確信した上で考える。
どのような法則で分けられているか説明されていないが、織田信長と明智光秀の二人はよくセットで紹介されている人物だ。
歴史の教科書から小説、はたまた偉人を女体化したライトノベルやゲームにも――明智光秀は織田軍の忠臣として登場する頻度が高い。
光秀が予想した親しい者や知人を同じチームに配属させる説が合っていれば、信長も同じチームでなければおかしい。

(しかし信長様が今の変わり果てた私を見て、どう思うのだろうか?
 アイドル活動している時はファンからも人気があって、容姿もよく褒められるけど……信長様の好みかなぁ?)

光秀は卑弥呼に蘇生された際に美少女へ変わった。
アイドルにスカウトされる程に優れた容姿は、男ならば誰しもが目を引くと言っても過言ではないだろう。
それは光秀自身も自覚しているし、ナンパをされた数だって数え切れないほどにある。ファンだって大量に存在する。
だけども――それでも、信長に気に入られなければ、光秀にとっては意味がないのだ。

たとえ信長以外の世界中に住まう人間が光秀のファンになったとしても、信長が褒めてくれなければ光秀は悲しむだろう。
今の彼女は忠臣であり――――そして恋する乙女でもあるのだから。

31信長様の為に ◆laf9FMw4wE:2015/05/07(木) 19:22:53 ID:Bm0dl3U60


恋心に気付いたのはつい最近で。
昔はそんなことなかったのに、少女になってからは信長の心を考えるだけで胸がドキドキとする。
卑弥呼に尋ねたところ、それは不治の病――――恋だと聞かされた。

(それ以上に。わ――私などがこ――こここここ、恋する資格はあるのでしょうか、信長様?)

そう思うだけで、思わず頬が赤くなってしまう。
何を考えているのだ。自分は織田信長の忠臣、明智光秀だというのに、どうして恋などと――――。
この場にアイドル仲間の宗矩がいれば、動揺するこの心を鎮めてくれたかもしれないが――不幸にも彼女の姿はどこにもない。まあ彼女に恋をバレるのも恥ずかしいので、幸運なのかもしれないが。

(ひ――久々に信長様に会えそうだからといって、こうも取り乱してしまうとは……我ながら情けない。
 本来ならばもっと気合を入れなければならないのに、どうしてこうも胸が高鳴ってしまう……。空気を読め、私の胸!)

一生懸命に胸の高鳴りを抑え込もうとする光秀。
アースPの信長は当然ながら故人であり、卑弥呼から蘇生もされていないのだが、それでも光秀は信長がどこかで生きているか、自分のように復活していると信じている。
だからこそ今回は彼女にとって、信長と再会する絶好の機会でもあるのだ。多少は舞い上がってしまうのも仕方ない。

「――――私のうつけがぁぁあああ!」

ぱちーん、と頬を叩く音。光秀は理性を取り戻す為に自らの頬を叩いたのだ。

「……私は信長様の忠臣なのに。信長様の為に働く必要があるのに、こうも浮かれていてどうする!
 せっかくのチーム戦で、信長様と勝利することも出来るというのに……私はどうしようもない莫迦者です、信長様!
 しかし――信長様を想う気持ちだけは誰にも負けておりません。それだけは、胸を張って云えます。
 だから信長様――――私が他のチームを殲滅して信長様を勝利へ近付けてみせますので、その時はその……お褒め下さると嬉しいです」

そして再び、今度は気合いを入れるように頬を叩いて――。

「期待してお待ち下さい、信長様。この光秀が信長様の軍を勝利へ導いてみせます!」

その表情に、もう迷いはない。
何故なら彼女は織田信長の忠臣であり、恋姫なのだから。

「……あ、そういえば私の連れていたのぶのぶもいない!? のぶのぶも探さなければぁぁあああ!」

【A-3/森/1日目/深夜】

【明智光秀@アースP(パラレル)】
[状態]:健康
[服装]:
[装備]:
[道具]:基本支給品一式、ランダムアイテム1〜3
[思考]
基本:信長様の軍を勝利へ導く
1:愛犬のぶのぶを探す
[備考]
※織田信長と同じチームだと思い込んでいます

32 ◆laf9FMw4wE:2015/05/07(木) 19:23:20 ID:Bm0dl3U60
短いですが投下終了です


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