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オリロワアース

397ドミノ†(始点) ◆5Nom8feq1g:2015/08/02(日) 12:26:45 ID:z1sNcr8Y0
 
「それと、少し思い出しました。彼は私の住んでいる町のとなり町にある学校の生徒会長です。
 有名人なんですよ彼。どうしてああなってしまっているかは――たぶんあの剣のせいでしょうか」
「セイトカイチョウ?」
「生徒会長とは何だ?」
「知らないんですか? ……ふうん、面白いですね」

 世界観の違いからくる常識の祖語に三人は首を傾げる。
 しかしその祖語についてを論じている暇はない。
 “ヒーロー”が、立ち上がったからだ。



「◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆……」

 その“ヒーロー”は異形の仮面と白のマントを身に着けている。
 仮面は今時の特撮ドラマに出てくる、昆虫にも似たフォルムの巨大な両目が印象的なヒーローのものだ。
 ただ仮面と言っても丈夫さは皆無だ。夏祭りの屋台で売られているタイプのゴム耳止め紙マスクでしかない。
 服装は白のマントに大部分が覆われているものの、見える部分は学生服のようだ。
 ただこれも、マントには返り血がおびただしくこびりついているため、潔白さは失われてしまっている。
 どこまでも作り物で、さらに汚れてしまっているヒーロー衣装。
 物悲しくすらある。

 最後に、何よりも目を惹くのが――彼が握っている、いや、“握らされている”獲物だ。

「あは……美しい剣、ですね」

 それは美しい銀色の幅広剣であった。
 魔の存在であることを示す蝙蝠翼の意匠があしらわれた鍔をはじめとし、
 柄までが漆じみて艶のある深黒に染まっているが、それが剣身の銀色をむしろ引き立てている。
 刃の中心線――樋が深く掘られた剣身はまるで血を吸いたいという意思が込められたかのように仄暗く輝いていて、
 殺しに精通するものが思わず共感を覚えてしまうほどの殺戮力を備えていることが分かる。

 その支給品は、実際に意思を持つ。
 細かく見れば分かることだが、出来そこないのヒーロー衣装の少年の握り手が、
 剣のグリップから伸び出た黒色の根のようなものに浸食されているのがその証拠だ。
 
 生体魔剣セルク(アースF)。
 落ち延びた魔族の皇子の魂が封じられた呪いの剣。
 “ヒーロー”はその剣に、寄生されている。
 
「……あの剣……魔力……闇の魔力を感じるの。
 つ、強い……間違いなく、普通じゃない力。しかも、二種類……」
「二種類?」
「うん……剣に本来宿っていた魔力と、それをブーストしてる魔力……。
 頭がおかしくなりそうなの……魔法学校の先生にも、あんな化け物じみた魔力を扱ってる人、いなかった……!
 とくにブーストしてる魔力、おかしい……ふざけてる……絶対、勝てないよっ……に、逃げないと……!!」
「――その魔力というのは、己には見えん」

 ジェナスが引っ張った袖を振り切って、ラインハルトが前に進み出る。

「ただ、“お前が嘘をついていない”ということは己には分かる。
 長年の勘でな。嘘をついている人間の目はだいたい見分けられる。全く煩わしいことだがな。
 ……なるほど目の前の彼は化け物だ。およそ人間では培えない、魔力とやらも持っているのであろう。
 だがだからといって敵前逃亡の選択肢を取るのは、少し早いと己は思う。
 見たところ彼は狂っている。剣がどれだけ強かろうと――使う頭がなければ無用の長物だ」
「それにこちらは3人ですしね、おじさま」
「お前は先まで己と殺し合ってたのを忘れたのか……仕方ない。今だけ共闘の許可を出す。
 他人、しかも犯罪者と共闘など虫唾が走るが、責務遂行のためには時には信念を折ることも必要だ」

 しかめ面のラインハルトの横にうきうきとした表情で渡月が並び立つ。
 軍官の横に黒髪ロングのブレザー女学生が並び立つさまはまことに滑稽だ。
 ついでに言えばその後ろには黒ドレスの魔少女すら控えているし、
 対峙するのは凶刃に囚われた“ヒーロー”だと言うのだから混沌とした取り合わせに限りがない。


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