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【アク禁】スレに作品を上げられない人の依頼スレ【巻き添え】part5

725名無しリゾナント:2015/03/05(木) 18:41:39
>>724
行ってきました

726名無しリゾナント:2015/03/06(金) 01:40:47
■ ティンカンドラム -石田亜佑美X石川梨華- ■

「別の【獣】を出してきたときは、ちょっとびっくりしちゃったけども…」

鎧が、軋む。

「結局、それも見かけ倒し…」

見えざる巨人の、見えざる鎧が、聞こえぬ音を立てて軋み、歪み、悲鳴を上げる。
成長している。進化している。
新垣の知る頃とは、比較にならぬ、その破壊力。

もはや、これまでか。

『カムバック!バルク!』

鎧がひしゃげるのと、号令が発せられるのとがほぼ同時。

【空間跳躍】

その身を上空に転じた石田を、見えざる触手が追う。

【跳躍】

捕えられぬ。
触手は石田を捕えられぬ。
次々と【跳躍】し触手を翻弄していく。

再び【跳躍】
距離を取り、石川と対峙する。

727名無しリゾナント:2015/03/06(金) 01:41:22
「おどろいた、今度は【テレポート】?まるで高橋もどきじゃん。」
「まだ、高橋さんには及びません。【読心術】も、ウチには無い、でも」

ざんと一歩前へ。

「ウチにはあなたの【獣】が見える。あなたのきもちわるい触手、一本一本はっきりと!」
「ハァ?いま、なんつったぁ?」
「ウチにはあなたの攻撃は通用しない。そういったんですよ!」
「アタシの…【獣】が、なんつったぁ?」

先端部ですら人の脚ほどの巨大な触手が群れをなして石田に襲い掛かる。
その尋常ならざる圧力を、軽やかにいなし、かわし、翻弄していく。

「無駄です、石川さん。私はまだ『もどき』かもしれない。
でも、あなたに対してならウチは高橋さんと一緒、あなたはウチらには勝てません。」

「へぇ?凄い自信だこと。」
うごめく触手その中央、石川が静かにこちらを睨む。

「そのわりにはアナタ、さっきから逃げ回ってばかりじゃなくて?」

「…」

「それってさぁ、直接アタシに触れる距離に【テレポート】してこれないってことじゃないの?」

「…」

「アタシの【獣】が見えるならわかるもんねぇ…、
アタシの周囲には、誰かが入れる隙間なんかないことが、ねぇ?
この子たちに守られている限り、アンタにはアタシを倒すだけの攻撃手段が、ないんじゃないのぉ?」

728名無しリゾナント:2015/03/06(金) 01:42:13
沈黙が指摘の正しさを裏付ける。
かつて、高橋は田中の【共鳴増幅】により、研ぎ澄まされた【読心術】で、
見えない【念動力】の動きを読み切り、【瞬間移動】によって、石川の周囲に一瞬生まれた隙間を捉え、これを打倒した。
だが、今の石川に、その隙はない。
石川の周囲には、もはや他者が存在できるスペースが、無い。
巨大な触手の群れ、その根元、石川は、その中心にいた。

「だったらさぁ、これって我慢比べってことよねぇ?
アタシって、これでも結構執念深いの。
どうぞ、いつまででも、逃げ回ったらいいんじゃない?
アタシは、いつまででも、追いかけ続けるだけだからさ、ねぇ?」

『結構』執念深い?いやいや、見たまんま執念深そうだっちゃ…
でも、そんなの何にも怖いことないね!

「逃げ回る?とんでもない、そんなお手間は取らせません、石川さん。」

腰に手を当て、仁王立ち。

「攻撃手段なら!あります!」

「へぇあるんだ?だったらさぁ、さっさと、みせてもらおうかなぁ!」

再び、おぞましい圧力がうねり、石田に向かって殺到した。

729名無しリゾナント:2015/03/06(金) 01:42:51
■ ティンカンドラム -石田亜佑美X石川梨華- ■
でした。

730名無しリゾナント:2015/03/07(土) 00:57:27
□ ノーアイヴィー -石田亜佑美X石川梨華- □

【IB】、すなわち・・・

石田の目に映るもの。
今、目の前に居る、その凶事。

石川梨華

その女の、その胸囲。

おぞましく、美しく。
うぞめき、のたうち。
うねり、反り返る。

『乳房』

カントリー娘。で育ち、ROMANSで磨かれ、美勇伝で開花した。
それが、石川梨華の、真の、【能力】。

すなわち、

731名無しリゾナント:2015/03/07(土) 00:58:07
【幻想の乳(イリュージョナリーバスト;illusionary bust)】!

732名無しリゾナント:2015/03/07(土) 01:00:11
ぶつかり合う、乳と乳。
しかし圧倒的な質量差からか、石田の見えざる乳は空中に四散し、消滅した。

「あーあー、あっけなかったわね? 
ヘソは出てるのに乳はへこんでるって、どうなの?」

「…ウチからしたらそれだけの巨乳を操るほうが、よっぽど、おかしいんですけど」

「はぁ…まあ、いいわ…まだやる?もっと大きく『出せる』んでしょ?」

「…」

「え?うそでしょ?私なんかあんたくらいの年にはもうC〜Dはあったわよ?」

「出来ないとか、言ってないし。
ウチだって、杜の都の巨峰とか、正宗公が生んだスイカップとか、言われたことはあります。何回かは」

「今時そんな見え透いた嘘、たぐっちでもつかないわよ? 
…で?どうするの? …まだやるの?降参するなら、許してあげるわよ? 
そうね…『愛すクリームとmy プリン』のジャケ写の、恥ずかしいバニー服を着る程度で」

「やれるもんならやってみろ、こんちくしょう!!」

石田が吠える。
すると、地平線の彼方から駆けて来る、一匹の獅子。
その逞しい牙に咥えられた、パック状の物体は…

733名無しリゾナント:2015/03/07(土) 01:01:25
(ナレーション)あなた、最近乳揺らしてますか?

出生率の低下… 少子化問題… 無い袖も無い乳も触れない…

今、日本の女性が危ない…

しかし、そんな洗濯板な女性に救世主が!!

それが今回ご紹介する豆乳飲料、その名も…


「巨乳王」!!!!


日本に残された最後の秘湯と名高いあの「凡奇湯」の源泉で育てた黒大豆のみで作られた豆乳、そのイ
ソフラボン含有率は何と2981(フクパイ)ミリグラム!!

ここで実際にお使いいただいたお客様の声をお聞き下さい。

734名無しリゾナント:2015/03/07(土) 01:03:02
「いやー、最初は半信半疑だったんだけどね。飲んだ翌日からもー、バストがきつくてきつくて、バイ
ンバイン。最近は舞台でも巨乳の役ばっかなのよぉ。ありがたいねー。いくt…じゃなかった、後輩の
Ⅰ田にも勧めて、効果も出てるみたい」(神奈川県:眉毛ビームさん26歳)

「れいな通販の事は大体知っとうけん。こんなんインチキやろ、って。やけん、これもただの豆乳っち
ゃろって飲んでみたら、もうまりんの目つきが昨日と違いよる。これでライブでもお乳ぷるんぷるん揺
らせるっちゃんね。あ、おかまりにはあげんとよ?」(福岡県:ボーボーたい!さん25歳)

735名無しリゾナント:2015/03/07(土) 01:04:50
ともかく、その「巨乳王」を荒獅子から受け取ると、一気に飲み干す。これで石田の乏しい胸も…

「って、ぜんぜん大きくなってないじゃん」

「こ、効果には個人差があるんだから!!」

そう。こういうものは、毎日飲むことではじめて効果が出るのだ。
ローマの道も一歩から、万里は一日にしてならず、しゅごキャラエッグのアミュレットハートはぺったんこ。

しかし石田の攻撃はここで終わりではない。
突然、石田の幻想の乳が天を衝くほど上向き、そしてグランドキャニオンのような峡谷を作る。そこには、
鉄巨人の限界まで寄せて上げる努力と技術が。

「なによ!そんな見せ掛けの技には騙されないんだから!!」

あまりにもお粗末な仕掛けに啖呵を切った石川。
たがその次の瞬間、石川はとんでもないものを目にすることとなる。

「な…なんですってえ!?」

ふわふわと、石田の目の前に降り立った、中空の藁人形。
無数の管が、石田の乳に陰影をつけ、膨らんでいるように手を加える。フォトショップもびっくりの画像
加工に、石川も空いた口が塞がらない。

「どやっ!これがウチの…『Dシステム』だ!!」

736名無しリゾナント:2015/03/07(土) 01:05:29
【IB】たちの活躍によって、貧しい石田の乳は、あたかもグラビアアイドルのそれであるかのように偽装される。

すなわち、

(石田の乳を)D(カップに偽装する)システム

現代科学の粋を集めた技術が今、石川に襲い掛かろうとしていた。

737名無しリゾナント:2015/03/07(土) 01:07:28
      WORNING


この物語のキャラクター設定は、■シリーズにおけるオリジナルの設定とは著しく
異なっております。
作品のイメージは一端捨てて、新たな気持ちでお楽しみ下さい。

738名無しリゾナント:2015/03/07(土) 01:09:33
>>730-737
□ ノーアイヴィー -石田亜佑美X石川梨華- □  でした
…苦情は受け付けます

739名無しリゾナント:2015/03/07(土) 10:02:28
■ ストロウドオル -石田亜佑美X石川梨華- ■

『カムオン!スカークロウ!』

石田の眼前、空気が渦巻く。
ゆっくりと立ち上がる、物言わぬ、大きな案山子。
無数のストローの束が、そのまま人の形を成したかのような、異形。

「へぇ?そのぐにゃぐにゃしたのが『攻撃手段』?
触手には触手ってことかしら?でも全然甘いんじゃない?」

石川梨華は、真っ赤なマニキュアの光る、
その長い指をくるくると回し、石田の案山子を値踏みする。

「その藁人形の手と足、それと、頭も伸びるのかしら?
全部合わせても、たった5本だけじゃない?
それっぽっちで『攻撃』?それ以前の問題よね?
それっぽっちで、どうやって防ぐのかしら?アタシの【獣】をサ!」

石川の正面、触手の群れが立ち上がる。
巨圧がうねり、うち二本の触手が石田めがけて振り下ろされる。

『スカークロウ!アタックモード!』

主の号令に案山子は応える。
その両の腕を、ゆっくりと、上げる。

束ねたストローを、ざっくりと輪切りにしたような断面。
それが案山子の手のひらなのか?
襲いくる触手に、その指なき手のひらを向ける。

740名無しリゾナント:2015/03/07(土) 10:03:22
遅い。

とても間に合わない。

とても、防ぎきれない。


ずぼり。


その時、その断面に、指が、生えた。

指?ちがう。
黒光りする金属質な筒を、深い飴色の、木製品を連想する質感が包む。

これは、銃だ。

片手に5丁、合計10丁の、フリントロック。
かつて大西洋で暴れまわった、海賊たちが手にしていたかのような、単発銃。

『エイミーング!』

銃口が、バラリと向きを変える。
迫りくるその触手、左右からの一本一本へと。

『ファイヤ!』

轟音

741名無しリゾナント:2015/03/07(土) 10:03:59
触手が爆ぜる。
先端が千切れ飛び、一回転して、虚空に消える。
迫りくる脅威は、一瞬で消滅した。

『リロード!』

藁の断面から次々と抜け落ちる単発銃。
地面に跳ね、同じく虚空へと消えていく。

そして、新たな銃が断面に生え変わる。

スカークロウ、姿なき案山子の暗殺者、無言の、銃撃手。

742名無しリゾナント:2015/03/07(土) 10:05:07
■ ストロウドオル -石田亜佑美X石川梨華- ■
でした。

743名無しリゾナント:2015/03/07(土) 23:48:29
「だいじょーぶ? 朱音が〝なおして〟あげるー!」

「いたいのいたいのとんでけー!」

「ほら、もういたくないでしょ? おにごっこのつづきしよ!」

──

「なんで? なんで朱音とあそんでくれないの?」

「こっせつってなに? けがは朱音が〝なおした〟でしょ?」

「おれてるのにあそんだからわるくなった?」

「いたくなかったんでしょ? なおったんでしょ?」

「こわいってなによ!」

「朱音は〝なおして〟あげたのに!」

「ひどい!」

「もうあそんであげない!」

──

「朱音が力を使っても、みんなの傷は消せない」

「朱音は、なんで生まれたんだろう──」


なんという保全作だ

744名無しリゾナント:2015/03/08(日) 16:51:13
■ ヘッジホッグ -石田亜佑美X石川梨華- ■

「おどろいた。銃が撃てる【獣】?
アナタすごいの持ってるのねえ。」

石川梨華が芝居がかった態度で大げさに驚いて見せる。

「でも、いまのは、たった2本。
アナタのその豆鉄砲みたいなのは?ああ10丁だけだったわね。
10丁あって、こっちの2本に精一杯って感じじゃない?
じゃあ次、こっちも10本に増やしちゃおうかしら…」

石川の周囲にうねる触手。
立ち上がり、反り返り、その先端を奔らせるべく、力をためる。

『スカークロウ!フォワード!』
案山子は石田を背に、迫る触手を阻まんと一歩前へ。

「さぁ!おてなみぃ!はいけええええええん!」

殺到。

10の触手がうなりをあげ、石田と案山子に殺到する。

完全不利な状況。
だが、ドヤ顔は、崩れない。

『スカークロウ!フルバースト!』

号令に案山子が応える。
無言の了解を、その身に示す。

745名無しリゾナント:2015/03/08(日) 16:51:51
それは正に、針鼠のごとく、
全身から、無数に生え連なる―――

―――フリントロック、フリントロック、フリントロック!

火力を、数で、補う。

『エイミーング!ファイヤ!』

大轟音

10の触手の、その先端が。
爆ぜ、爆ぜ、爆ぜ、四散する、霧散する。
飛び散り、舞い散り、消滅する。

『リロード!』

無数の銃が滝のごとく抜け落ち、瞬時に新たな銃へと生え変わる。

『エイミーング!』

針鼠の、その針が。
無数の、銃口が。
先端を失った、その触手の根元、石川梨華へと。

『ファイヤ!』

746名無しリゾナント:2015/03/08(日) 16:53:10
■ ヘッジホッグ -石田亜佑美X石川梨華- ■
でした。

747名無しリゾナント:2015/03/14(土) 07:44:56
■ グレイトブレイド -石田亜佑美X石川梨華- ■

一斉掃射。
その無数の弾丸が、止まる。
虚空に、停止する。
被弾はしている。
いくつかの触手、その先端を、吹き飛ばしは、した。
だが、それでも、届かない。
それは、あまりにも、質量が、違いすぎた。

「うっさ…。音ばっかでかいけどさぁ…で、何が変わるわけ?」

案山子の打ち出す真円の弾丸、最終的に、その全てが阻まれた。

「もう、アナタもわかってるわよね?
そんなちっぽけな火力じゃ、せいぜい触手の先端を吹っ飛ばすことしかできない。」

根元に行くほど太くなる。
直径にしておよそ1m、巨木を思わせるその触手。
その巨塊に、阻まれる。

748名無しリゾナント:2015/03/14(土) 07:45:42
だが、石田の自信は、揺るがない。

「でしょうね。でも、石川さんの触手も素早く動かせるのは先端だけ。
その太い根元は動かせない、ちがいますか?」

ぴくり、石川が眉をしかめる。

「これは我慢比べなんでしょ?
スカークロウの弾が尽きるのが先か、石川さんの触手の再生が追い付かなくなるのが先か、
やってみましょうよ」

ざん、ふたたび仁王立ち、ドヤ顔。

「くくくく…」

石川が、嗤う。

「ばっかねぇアンタ…ねえ?アンタ、アタシがアンタごときにそんな時間使うと思うの?」

圧力、異様な圧力が石川の周囲に充満する。

「我慢比べぇ?やーめ!そんなのやめやめ!」

触手が石川の周囲に引き寄せられる。
殺意、質量をもった殺意が凝縮する。

「根本は動かないぃ?アンタさ、アタシがどうやってアンタらを追いかけてきたか、もう忘れたの?」

ドォオオオオン!

749名無しリゾナント:2015/03/14(土) 07:46:26
地響きとともに跳躍する、殺意の巨塊。

「まどろっこしいこたオシマイ!直接押し潰してやるよぉ!」

襲い来る、その巨塊に。

『ファイヤ!』

無数の銃口が火を噴く。
だが無駄だ。その巨塊は止まらない。
その火力では、阻めない。

一瞬で潰れ、のみこまれ、引きちぎられる、哀れな案山子。
触手が伸びる。
案山子の後ろ、もはや守る者のない、か弱く孤独な少女へと。

750名無しリゾナント:2015/03/14(土) 07:47:04
いやまだだ、少女にはまだ【空間跳躍】がある。
まだ逃げ切れる、そのはずだ。
さあ、はやく逃げろ。
いますぐ【跳】べ!

【跳】べ!



 いやだね!



少女は逃げない。
仁王立ち。
ドヤ顔は、崩れない。

獅子、鎧、案山子、全て阻まれた。
もはや、逃げ回るしか手は残されていない。
それでも、逃げない。
少女の自信は、揺るがない。
勝利への確信は、揺るぐはずがない。

なぜなら、少女は。
石田亜佑美は、一人ではない!

バツン!

破裂音。
広げた濡れタオルをしならせて空気を叩いた時のような。
その音が何倍もの音量で、周囲に鳴り響く。

751名無しリゾナント:2015/03/14(土) 07:47:36
内圧のかかった肉塊が、一気に切断されるときの音。
だがその音を耳にすることができたのは、『その場の3人のうちの2人』だけ。

「おそくなってごめん!亜佑美ちゃん!ウチも、やっと『捉えた』よ。」

直径にして1m、巨木を思わせるその触手、その根元から。

「なっ!なにさこれぇ!」

一刀両断

突然、上空から飛来したそれは、
きらきらと輝く水の太刀。
だが、それは『かたな』と呼んでもいいものなのか?

巨塊を両断した水の刃と、それを駆る小さな少女は、その勢いのままに地面に激突する。
衝撃音はない。
受け身。
音もなく地を転がる。
常人ならざるその技量。
立ち上がったその少女は、鞘師里保、そして…

ズシャン

その落下音の響き。
小柄な鞘師の肩に担がれた、その水の太刀、その切っ先は、はるか後方の地面にめり込んでいた。
人の腕ほどの身幅、人の指ほどの厚み…その刃渡り、ゆうに2mを超える。
巨大で長大な『水の化け物』。

そう、これは『太刀』なのだ。

752名無しリゾナント:2015/03/14(土) 07:48:20
かの時代の大太刀、人の身に余る長さ、人の身に余る重さ。
だが、もし振るうこと叶うなら、それはあらゆる【獣】を両断できよう。

今、まさに、『そうした』ように!

「石川さん、亜佑美ちゃんが、すべてを引き出してくれた。
ウチが、あなたの【獣】を『捉える』ために。
見えなくても、聞こえなくても、その、殺意は『観える』。
あなたの【獣】が、あなたの殺意が、ウチにはもう、はっきりと『観える』。」

「ぐぅ…くっ!」

「もう、あなたに、勝ち目は、無い。」

753名無しリゾナント:2015/03/14(土) 07:48:50
■ グレイトブレイド -石田亜佑美X石川梨華- ■
でした。

大事を取り.scのほうへ投稿させていただきます。

754名無しリゾナント:2015/03/14(土) 19:23:41
本スレにて
本スレへの転載を提案してくださる方がコメントを残してくれているようです
書き込めるのに書き込まないというのはさすがに悪いかなと思ったのですが
もし転載していただけるならご厚意に甘えたいと思います

755名無しリゾナント:2015/03/14(土) 20:00:49
転載行ってきます

756名無しリゾナント:2015/03/14(土) 23:43:39
■ バスタアブレイド -鞘師里保・石田亜佑美X石川梨華- ■

『カムオン!リオン!』

再び現れる。
空気が渦巻き、見えざる獅子が、聞こえぬ咆哮を。
だが、鞘師には『観える』。

『リオン!ライディングモード!』

獅子の背に並ぶ鋭利な鬣が前後に分かれ、フラットな背が形成される。
【空間跳躍】、石田がその背に。

この日のために、そう、『あり得る可能性』、この日のために準備をしてきた。

見えざる【獣】を、『観る』ために。
見えざる【獣】を、『駆る』ために。

「鞘師さん!」
「うん!」

鞘師里保は、迷うことなく飛翔する。
巨大な水の太刀担ぎ、石田の後ろ、何もない、その空間へ。

両膝で、石田の背を挟みこむ。
ただそれだけを支えに、何もないその空間、その『気配』の上へと佇立する。

「行こう!亜佑美ちゃん!」
「はいっ!」

757名無しリゾナント:2015/03/14(土) 23:44:21
大太刀は、歩兵の武器である。
腕力では振るえぬその太刀は、脚によって、移動によって、振るわれる。
その身を晒し、その身を切らせる、だが、寸前でかわす、ながす、切らせない。
回避が、そのまま攻撃となる。
刀も、剣も、盾も、槍も、あらゆる得物を、人馬を、薙ぎ払う。

だが、それ以上に

『GO!』

かの太刀は

「おおおおおおおっ!」

馬上において、騎乗時において、絶大なる―――

もはや、そこに会話は無い。
石田は、ただ、突撃する。
左右から襲い来る触手を、『左右には』、かわさない。
ぶつかっても構わない。
だが、その突撃は、必要最小限、斜め前へ、斜め前へ、ゆるやかな弧を描いていく。
触手は触れない。
石田にも獅子にも寸毫とも、触れられない。

758名無しリゾナント:2015/03/14(土) 23:45:25
すべてが、断ち斬られる。
斬り、斬り、斬り伏せられる。
裂かれ、割られ、打ち倒される。

逆らわない。
鞘師の振るう、その太刀に。
石田と獅子、斬撃の度にかかる、その慣性に、逆らわない。
乗る、乗る、どんどん乗る。

鞘師の生む、その『計算されつくした慣性』に、すべてをゆだねる。
ただ、前へ!前へ!前へ!

「くっ!…くっそ!くっそ…」
石川梨華は、狼狽する。
怯えている。
恐怖を知らぬ、己が【獣】が、聞こえぬ悲鳴を上げている。

違う。
さっきまでとは、違う。
迫りくるその獅子は『違う』!

もう、逃げられない。
もう、遮れない。
獅子は!太刀は!もう!眼前に!

「くっそがああああああああ!!!」

759名無しリゾナント:2015/03/14(土) 23:47:03
>>756-758

■ バスタアブレイド -鞘師里保・石田亜佑美X石川梨華- ■
でした。


以上
代理投稿願います。

760名無しリゾナント:2015/03/15(日) 00:09:45
代理投稿行ってきます

761名無しリゾナント:2015/03/16(月) 22:52:03
■ ワンサイド -石田亜佑美X石川梨華- ■

71

それが激闘の、いや、一方的な暴力の、繰り返された回数。

断ち斬られ、再生し、また断ち斬られ…
追い立てられ、押し込まれ、攻め立てられ…
やがて、再生も滞り、『現象化』を維持することすら、出来なくなるまで、の…

想定内。
全てが、想定内。

荒い息。
黒のエナメル、べっとりと血に染まる。
肩が、ない。
いや、わずかに繋がり、ぶら下がっている。
消えかかる最後の触手は、両断されながらも主を守り、その斬撃を右肩までに、食い留めた。

ごふっ…

吐血。
泥のような血痰が、とめどなくあふれる。
もはや、立ち上がることも、できない。

だが、まだだ。
その眼は、光を失わない。
憎しみの、執念の、その光を。

762名無しリゾナント:2015/03/16(月) 22:52:47
石田亜佑美は、視線を、真っ向から受け止める。

「石川さん、私、嘘をつくのが下手な人間なんです。」

既に言葉も発せぬ、その凶敵に、語り掛ける。

「私たちは本当に、だれも高橋さんの行方を知りません。
でもきっと、あなたは信じない。
いえ、言葉は信じても、それでもきっと、あきらめない。
何が何でも、私たちから情報を引き出そうとする…
…力づくで…」

「……」

「戦ってみてよくわかりました。
あなたはそういう人だ。
一回負けたぐらいのことでは、あなたは決してあきらめない。
死ぬまで…死んでも…あきらめない。
何度でも、私たちを襲う。」

鞘師は、石田に乞われ、二人の会話が聞こえない距離を、取った。
危険は承知、油断ではない。

「ウチ…私は、かつて高橋さんと戦い、負けました。
…完敗でした。
だから、私はもっと強くなって…いつか…
そのつもりで高橋さんの申し出を受けました。
でも正直…もうそれ、どうでもいいんです、私。」

凶敵から、目を離す。
天を見上げる。

763名無しリゾナント:2015/03/16(月) 22:53:39
「みんなのことを守るのは、いつか、高橋さんに勝つためだった。
でも、そんなの、一瞬で忘れちゃった。
だってみんな、みんな大好きだから。」


 石川さん、あなたでは、絶対に、高橋さんには、勝てません。


「それでもあなたはあきらめないでしょうね…
だから、私は、迷うことなく『みんな』をとります。」

石田は懐に手を入れる、小さな『なにか』を…。

「私は高橋さんの行方を知らない。
でも、約束してくれました。」

 いつか再び会ってくれると
 いつか私が強くなって…

「高橋さんは、いずれ自分は共鳴を失うとおっしゃっていました。
それでも会ってくださるとおっしゃった。
これは、そのときに…」

ぽとりと石川の前に落とす。
血濡れのエナメル、その胸元に。

「私は何もしゃべりません。
ただ、大事な頂き物を、どこかで落としてしまっただけ…
それを、誰が拾おうが、どう調べようが、その人の自由。」

764名無しリゾナント:2015/03/16(月) 22:54:37
もはや、再び見ることは無い。
その凶事を。その凶敵を。
踵を返す、背を向ける。

「石川さん、高橋さんに会ったら…いえ、なんでもありません。」

そうだ、謝る必要などない。
何も、伝えることなどない。
飲みこんだ言葉の代わり、白い紙片が、はらりと。
単語帳?
落ちる紙片を目で追いながら、歩み去る。



石田は元気です
石田は、リゾネイターのみんなが、大好きです

765名無しリゾナント:2015/03/16(月) 22:55:47
>>761-764
■ ワンサイド -石田亜佑美X石川梨華- ■
でした。

以上
代理投稿願います

766名無しリゾナント:2015/03/17(火) 01:24:39
代理行ってきました

767名無しリゾナント:2015/03/17(火) 19:26:38
>>678-688 の続きです



ダークネスの幹部「煙鏡」が流したアナウンスは、もちろん工事区画内の里保にも届いていた。
それ以前に、激しく舞い上がる炎の柱が鉄板の壁の向こうにはっきりと見ることができる。

「…厄介なことになった」

そう言いつつ、ちっとも困っている様子のない女。
寧ろ、元から困っているような表情をしているので判別が難しい。

「…あなた、リヒトラウムの管理者って言うなら。この状況はまずくないですか」
「確かにね。どうしよう」

里保の心は、「煙鏡」の悪意に満ちた声を聴いた時からすっかり落ち着いていた。
とてもではないが、こんな場所で遊んでいる時間はない。そう言った意味の落ち着きではあるが。

不意に、メロディーが流れる。
女が面倒臭そうに、自分のポケットから携帯を取り出した。

「もしもし…はい。はい…ああ、そうですか。了解」

実に、素っ気ない対応だった。
一体どんなやり取りがあったのか。今日は燃えるごみの日なんで、ごみは分けて出してください。
そんなことを言われていても、おかしくないような態度。

768名無しリゾナント:2015/03/17(火) 19:28:05
「私は、これで帰るから。あとはよろしく」
「えっ…ええーっ!?」
「なんか、『先生』と今放送流してた子との間で話がついてたみたい。堀内のおじさんは、顔真っ赤
にして怒るだろうけど」

呆気に取られる里保を他所に、女は背を向け空を見上げる。
すると、程なくして慌しく風を切る音とともに、一機のヘリコプターが姿を現した。

「そんな!管理者の人がこんな状況で帰るなんて!!」

ゆっくりと高度を下げてゆく、黒い装甲の機体。
落とされた縄梯子に手をかけようとする女に、里保は非難の声をあげた。
しかし、返って来た言葉は。

「所詮、契約に過ぎないから。契約が終われば、何の義理もない。そもそもうちらは、基本的に『外』
の人間。あんたたちの抗争には…関わらない」
「外…? それってどういう」
「そうそう。さっきの話だけど。『本当の実力』、こんなところで出さなくてよかったね。あいつらは多分、
強い」

プロペラが巻き起こす強い風に目を細めながら、そんなことを言う女。
里保の脳裏に甦る、赤い瞳。制御しようのない、狂気。それを振り払うように、慌てて首を振った。

「それじゃ。楽しかったよ」

ちっとも楽しそうな顔ではないが。
それだけ言い残すと、女は左手と左足を梯子に掛けたまま、空に舞い上がった。

769名無しリゾナント:2015/03/17(火) 19:29:40
去り行くものを見送る余裕などない。
それを教えてくれるかのように、遠くの火柱がごうごうと唸りつつもその勢いを増してゆくのが見えた。

…急がないと!!

仲間たちのこともあるが、今のこの状況で最も懸念すべき事態。
リヒトラウムの利用客の安否。
まずはここから出て状況を確認しなければならない。
区画を隔離している鉄板の壁まで走り、扉を開けた里保の前に飛び込んできたものは。

半狂乱になった人たちの、逃げ惑う姿だった。

半径数メートル、天を突く高さの炎の柱。それがいくつも、立ち上っていた。
それがアトラクションの建物を焼き尽くすような光景を見て、正気を保てるような普通の人間はいな
い。それが、如実に現れていた。

我先に、と走り、逃げる人々。
それが、幾重にも連なり、波が押し寄せるように続く。
何だ。何なんだ、これは。しばし思考停止に陥っていた里保の視線は、波に呑まれ、躓き転んでしま
った小さな少女へと向けられた。

「あぶないっ!!!!!」

下手をすると、後続の人間に踏み潰されてしまう。
危険を察知し少女の下へ駆けつけようとする里保。しかし、目の前を横切ろうとした男と衝突し弾き
飛ばしてしまう。

770名無しリゾナント:2015/03/17(火) 19:34:31
「あっ、すいま」
「何やってんだよてめえ、ぶっ殺すぞ!!!!」

謝ろうとした里保に投げつけられる、罵声。
立ち上がった男は、怒りもそのままに振り返ることすらせず再び走り出す。
転んでいたはずの少女は、姿を消していた。彼女もまた、この異常な状況の中で立ち上がり逃げる道を
選んだのだろう。

まるで戦場の真っ只中にいるような、そんな感覚すら覚える。
炎を、消さなければ。
そう思い、炎の燃え盛る場所へと向かった里保は思いがけない事実を知ることになる。

ある一点から、噴水のように吹き続ける炎。
しかしそれを目の前で見た里保は、大きな違和感を覚えた。
よく見ると、その炎は燃え広がるだけで建物をまったく損傷させていなかった。試しに手を翳すと、よ
くわかる。

一種の、攻性幻術。

範囲内の相手に、攻撃性のある幻を見せる。
燃え盛る炎はもちろんのこと、火の爆ぜる音、そして高熱。
そのすべてがまるで現実であるかのように相手に襲い掛かる厄介なものだ。
訓練を受けていない人間がこれを見破ることはほぼ、不可能だろう。

炎の発生点には、チョコレートの箱くらいの大きさの機械が据えつけられていた。
この機械から燃え盛る幻の炎を生み出ているのだろう。
何かを合図に、予め施設各所に仕掛けられていた機械を作動させれば、これだけの広大なテーマパーク
を「あたかも火の海に包まれたように」見せかけるのも容易。

771名無しリゾナント:2015/03/17(火) 19:36:11
ただ、その目的が解せない。
中の客を追い出すのが目的なら、もっと別の簡単な方法があるはず。
放送機器を乗っ取っているのなら、偽の情報を出して退出させればいい。
人々をパニックに陥れるだけの愉快犯なのか。
とにかく、この騒動を引き起こしている人物と対峙しないことには、何もわからない。
かすかに聞こえる心の声は、一箇所に集まっている。そこで、おそらく。

その場で待ち受けている未来を、里保はまだ、知らない。

772名無しリゾナント:2015/03/17(火) 19:38:26
>>767-771
『リゾナンター爻(シャオ)』更新終了

773名無しリゾナント:2015/03/18(水) 01:15:58
■ アンチマテリアル -鈴木香音・飯窪春奈・佐藤優樹・工藤遥X石川梨華- ■

「目標、ロスト…ふぅ…石川さん、引き上げたよ。」
塩辛い、工藤遥の声が白い狼の胸腔あたりから聞こえてくる。

「いや、なんにせよ、良かったよ。
こんなところで…『そいつ』をぶっ放さなくて済んで、さ。」

鈴木香音は、足元に目をやる。
空調の室外機と室外機の間、巨大な白い狼が伏している。
その隣には、佐藤優樹。
同じ姿勢のまま、静かに伏している。

静かに…
…静かすぎる。

一言も発しない、身じろぎ一つしない。
あの、佐藤優樹が、『沈黙して』いる。

眠っているのか?
いや、反対だ。
彼女は、覚醒している。
この場のだれよりも、集中している。

沈黙の原因は、彼女に与えられた役割に。
与えられた、その『武器』に。

 『PRCS-MG99RT』対物狙撃銃

装甲車すら貫通する大口径徹甲弾を、2000m先の目標にすら到達させる、死神の鎌。

774名無しリゾナント:2015/03/18(水) 01:16:29
「まーちゃん、終わりだよ。
よく頑張ったね、もう、大丈夫だから。」
飯窪が佐藤のふくらはぎに、ポンポンと軽く触れる。

「……スゥ…ふーーーーーーっ…」
大きく息を吐く。

「ピヒャー!ちょーきんちょうしたー!」
けらけらと笑う。
そのまま、驚くほどの手際、弾倉を外し、照準器を外し…
あっという間、巨大な死神を解体していく。

「くどぅーもスポッター、お疲れ、もう【変身】解いていいんじゃない?」
観測手の役を終えた白狼にも声をかける。
「ああ、そうすっかな。」
のそりと起き上がる。

「いや、それにしても…この距離で、よく細かい位置関係まで把握できるもんだね。」
鈴木香音は額に手をかざし、河川の先、はるか遠方に目を凝らす。

「アタシにゃぜんぜんわかんないけど。」

「ま、ハルも最初はビビったもんすよ。」

冷気が立ち込め、白い霧の中から、びしょ濡れの工藤が現れる。

775名無しリゾナント:2015/03/18(水) 01:18:12
「いちおう、スコープも測距儀も用意してあったんすけどね、裸眼のほうがよくわかるっつう…
ただなんか色の感じ方がいつもと違うのが、ん裸眼?いや『狼』の頭だから…」
「あは、そこどっちでもいいわ」
「まとにかく、『狼』の頭で見るときは、すげー遠くまで、はっきり見えるんす。」
「ほー、犬科ってあんま視力いいイメージないけど、『狼』だからかね?」
「さぁハルも知らないっす。」
「すっごいね!せんびきがんだね!」
「千匹?千里眼でしょ?それ。」
「そう!せんびきがん!」
「いやだから千里…ま、いっか…」

すべては想定されていた。

逃走中の会話、『トラック』という単語。
都内いたるところ、彼女たちは移動可能な『武器庫』を用意していた。
それぞれ、明確な意図をもって厳選され、整備された装備。

「石川さんの【念動力】にも、限界はあるのよ。」

新垣の教え。
石川梨華に通常の小火器は通用しない。
だが、例えばどうだ、重機関銃のような、大口径弾なら。
もっと強力な、徹甲弾なら。

鞘師と石田の連携、大太刀による、白兵。
佐藤と工藤の連携、徹甲弾による、狙撃。

そう、最初から勝敗は決していた。
石川梨華には、万に一つも、勝ち目は無かったのだ。

776名無しリゾナント:2015/03/18(水) 01:19:07
――――

「あーあーあー、ズタボロだったね…」
「あ?ああ…」

「で、どうすんの?」
「なにが?」

「やる?」
「別にいいっしょ。」

「そだね、いいね別に。」
「めんどくせー。」

「オバさんには?」
「知らねー。」

「怒ると思う?」
「…さあね…まあ…出したくて出した命令ってわけじゃねーだろうよ…」

「くくく…優しいんだー。」
「…ばかじゃねーの…」

「ねぇデザートは?」
「あん?」

「けっこう食べ応えありそうだったよ、あの二人。」
「あーパス…めんどくせー…どうせ邪魔が入る。」

777名無しリゾナント:2015/03/18(水) 01:20:32
「あっちの奴ら?じゃああっちから先に?」
「遠いだろ、めんどくせー。」

「そか、じゃあ、やめとく?」
「ああ、引き揚げだ」



―――でも、あたしはチョット、興味、あるかも?

778名無しリゾナント:2015/03/18(水) 01:22:59
>>755>>760>>766
ありがとうございます


>>773-777
■ アンチマテリアル -鈴木香音・飯窪春奈・佐藤優樹・工藤遥X石川梨華- ■
でした。

以上代理投稿願います

779名無しリゾナント:2015/03/18(水) 11:03:52
完了
最後に石川さんと話していたのは(■■においては)新キャラなのか
気になりますね

780名無しリゾナント:2015/03/18(水) 20:14:22
■ ダスヴィーダニィーヤ -石川梨華・吉澤ひとみ- ■

アタシたちは最強

【念動力(サイコキネシス;psycho kinesis)】

アタシたちの能力。
能力の中で最も戦闘に適した、万能の力…
すべてを遮り、すべてを跳ね除け、
ねじ伏せ、叩き伏せ、引き千切り、噛み砕く!

そう、アタシたちは知っている。
互いの本当の姿を。

【幻想の獣(イリュージョナリービースト;illusionary beast)】

美しいわ。
二対の腕と二対の脚、背中から不規則に乱立する長く鋭い棘。
そしてもちろん、その大きなお口も…。
―――アタシだけが知っている、あなたの本当の力。

美しいでしょう。
どこまでも伸びる、アバラの浮き出た無数の触手。
規則的に並んだ吸盤、その中に潜む鉤爪も…。
―――あなただけが知っている、アタシの本当の力。

781名無しリゾナント:2015/03/18(水) 20:15:23
アタシたちは最強
二人なら、怖いものなんてない
アタシたち、二人が最強

ああ…それなのに…なぜ?
アタシたちは最強…なのに、なぜ?
なぜ、高橋に…
高橋なんかに…
なぜ、アタシを残して…
いえ、いいわ、それは、もういいわ…

ええ、必ずアナタを追いつめる。
見つけだして、殺してあげる。
必ず、必ず、殺してあげる。
せいぜいお逃げなさいな、アナタの【テレポート】で。
でも、一瞬でも逃げ遅れれば、アタシの【獣】がアナタを捕らえる。
アナタををねじ伏せる、アナタを引き千切る、ぐちゃぐちゃに…
ぐちゃぐちゃに…ぐちゃぐちゃに…ぐちゃぐちゃに!!!

782名無しリゾナント:2015/03/18(水) 20:16:55
■ リゼントメントアンドリゼントメント -石川梨華・吉澤ひとみ- ■

そうか…そうだったんだ…ごめんね高橋…
アタシ、ずっと、あなたを逆恨みしてた…

逢いに来てくれて、ありがとう…

そう…吉は「一抜け」したのね…

それが"D"を"人類"を、"A"から"人類"から…、そう信じて…

でも…それでも…ごめんね…ごめんね高橋…
アタシは…それでも…あなたを…あんたを…アンタを…





…許せない…





許せない…許せない…許せない…許せない!

…ぁぁぁぁぁああああああああああああ!!!

ゆるぜるわげねええええだろおおおおおがああああ!!!
あああああごのぉおおおメスザルがあああああああ!!!

783名無しリゾナント:2015/03/18(水) 20:18:02
ぐちゃぐちゃに!
ぐちゃぐちゃに!

ぐっちゃああああぐっちゃああああにぃいいいいい!!!

だあああああがああああああはじいいいいいいいいいっ!!!

784名無しリゾナント:2015/03/18(水) 20:20:09
>>780-781
■ ダスヴィーダニィーヤ -石川梨華・吉澤ひとみ- ■
>>782-783
■ リゼントメントアンドリゼントメント -石川梨華・吉澤ひとみ- ■

でした。


以上代理投稿願います

>>779
ありがとうございます
会話に石川さんは含まれていません

785名無しリゾナント:2015/03/19(木) 00:55:07
いってきましたよー

786名無しリゾナント:2015/03/19(木) 11:56:34
>>767-771 の続きです



「いったい…どういうことなんだ!!!!!!」

会長室から聞こえてくる怒鳴り声。
部屋の主の直属の部下たちが、思わず顔を見合わせる。

ベーヤンホールディングスの総帥にして、関連会社数百社を束ねる会長。
ふてぶてしいまでの貫録を常に崩さない彼が、取り乱しているということは。
社員たちが抱く一抹の不安、それはすでに現実のものとなっていた。

「…もういい!貴様、明日もその椅子に座っていられると思うなよ!?」

不明瞭な相手の返事を遮り、受話器を机に思い切り叩きつけた。
それでも、部屋の主・堀内の怒りは収まりそうに無い。

「何が契約の終了だ…一方的に終了できる契約などあってたまるか!」

堀内の電話の相手は、リヒトラウムの警備部長。
彼の話によると、リヒトラウムの「有事」に備えていたはずの「能力者」が、自らが所属する組織の長の意
向により契約を終了する旨を伝えて立ち去ったのだと言う。それだけならまだいい。
問題は、リヒトラウムに複数の能力者が留まっているにも関わらず、という点だ。

警備部長の話によると、その集団は何らかの目的で敷地内に侵入し、あまつさえ施設の放送設備をジャ
ックしているのだという。まさか「あれ」の存在に気づくことは万に一つもないだろう。それでも、不安の芽
はたとえ小さなものでも摘んでおかなければならないはずだ。

787名無しリゾナント:2015/03/19(木) 11:58:00
何のために大金を叩いて契約したと思ってる?!
全て、大型テーマパークという上物で隠した「あれ」に対する万全の警備のためじゃないか!
それを、こちらの事情などお構いなしに一方的に契約終了だと?冗談じゃない!!

抗議の言葉を募らせながら、堀内と「先生」を繋いでいたエージェントの携帯に繋げようとするも。
オカケニナッタデンワバンゴウハ、ゲンザイツカワレテオリマセン…

最早怒りを通り越して、笑えてくる。
彼らはもう、堀内と話すつもりはないということを、彼は瞬時に理解していた。

「ふ…ふふ…まあよいわ」

気を取り直し、もう一度受話器を取りボタンを押す。
あちらが駄目なら、こちらに頼るまで。
この国を支える「五本の指」の一指を無碍にしたこと、必ず後悔させてくれる。
巧みに言葉を操り、両陣営の抗争を誘うのもいいかもしれない。
逸る嗜虐心を抑え、相手の声を待った。

「…何か、御用でしょうか?」

相変わらずの愛想のない声。
堀内は舌打ちしたい気持ちを我慢し、話を切り出す。

「しばらくぶりだな。私だ。堀内だ」
「ああ、ご無沙汰しております」
「早速だが面倒なことになった。リヒトラウムに、得体の知れない能力者が複数、侵入したらしいんだ。何
とかできないか」

相手の返答は無い。
堀内ははじめ、想定外の出来事で言葉が出ないのだと思っていた。
ところが。

788名無しリゾナント:2015/03/19(木) 11:59:32
「『金鴉』さんと『煙鏡』さんのことですか。それは大変ですね」
「な…」

二の句が継げないのは堀内のほうだった。
まず、電話の相手がリヒトラウムの、いや堀内をはじめとした政財界の大物たちが隠していた「あれ」の危
機に対して何の感慨も抱いていないと言うこと。次に、侵入した能力者が堀内たちが名前すら聞きたくない
二人の札付きだということ。そして何よりも、その事実を相手が既に把握しているということ。
結果、瞬時に堀内の顔が憤怒に歪んでゆく。

「な、な、何を言っている!!」
「どうもすみませんね。彼女たちが少し前からそこのテーマパークに興味を抱いていたのは知ってたんですが」
「しかもよりによって『金鴉』に『煙鏡』だと!?早く何とかしろ!今すぐにだ!お前のところの能力者を
総動員してでも、あいつらを排除するんだ、いいな!?」

喉が裂けんばかりに怒鳴り散らす、堀内。
彼の脳味噌が噴きこぼれるのも無理はない。
彼には、いや、自らをブラザーズ5と称する面々には。過去に、ダークネス、それも「金鴉」と「煙鏡」に
煮え湯を飲まされた過去があったからだ。

789名無しリゾナント:2015/03/19(木) 12:00:50


まだ、二人の能力者が「首領」により謹慎処分を受ける前の話。
堀内たちブラザーズ5はとある大きな案件を抱えていた。紛争により血で血を洗う泥沼状況の、某東欧の小
国。保守派と革命派はともに物資に乏しく、あらゆる武装兵器が飛ぶように売れる有様だった。その保守派
への兵器輸入を、ブラザーズ5の息のかかった総合商社が一手に引き受けることになったのだ。

最後の交渉を、海外の高級リゾート地で行うことになり、その会場の警護ということで例の二人組が派遣さ
れることになった。当時まだ準幹部としての地位しかなかった彼女たちが抜擢されたのは、彼女たちの可能
性、そして何よりも当時は組織に粛清の嵐が吹き荒れていてそれどころではなかったというのが理由だった
のだが。

ところがと言うか、やはりと言うか。
任務は失敗に終わる。革命派の襲撃があったのだ。
二人は、よく戦った。襲撃者は一人残らず、無残な死体となって転がった。
ただ、一つだけ問題があったとすれば。その山のような屍の中に、なぜか保守派の幹部のものが一体、あっ
たということ。
当事者たちはわざとではないと嘯いたが、後に、

「だって自慢するんだもん」
「あのおっさん、口臭いねん」

と漏らしたことから故意に戦闘に巻き込み殺害したことが判明する。

当然堀内たちは激怒した。
儲け話がふいになるどころか、下手をすれば国際問題に発展する可能性すらあった。
結果として彼らの東奔西走ぶりとダークネスのフォローが利いてか、取引が流れることはなかったものの。
「金鴉」「煙鏡」という名前は彼らの中に一種トラウマ的な響きを持つようになった。

790名無しリゾナント:2015/03/19(木) 12:02:01


で、今回の件である。
堀内が猛り狂うのも当然と言ったところなのだが。
それに対する電話越しの彼女の反応は。冷ややかな、ため息。

「申し訳ないのですが、こちらもそれどころではないので。そうだ。あなたたちが我々に内緒で雇っていた
『先生』のところの能力者にでもお願いしたらどうですか?」
「き、貴様!よくもそんなことを!!」
「もしかして、断られたのですか? まあ…彼女たちも多忙でしょうしねえ」
「は、はははははは!!!!!!!!!!」

人間、あまりにも理不尽な怒りに包まれると笑いすらこみ上げてくるという。
堀内の今の状況も、まさにそれだった。

「話にならんな!!!!貴様じゃ埒が開かん、『首領』を出せ!!!!!!」
「生憎、席を外しておりまして。まあ、この件であなたとお話になることはまず、ないでしょうけど」
「なら貴様の発言!『首領』も含めた組織の総意と思っていいんだな!?」
「…構いませんよ」
「そうか!そうか!!貴様らは表面では我々にへこへこしておきながら、裏ではしっかり舌を出してたわけ
だな!!!!いいだろう、我々を甘く見ていると…」
「ご用件はそれだけですか。じゃあ、長話はこれで。私も、そこまで暇ではないので」

まるで次に堀内が何を言うかを予想していたかのように。
絶妙な、堀内からすれば最悪のタイミングで電話は切られてしまった。

791名無しリゾナント:2015/03/19(木) 12:03:58
「…くっ、そがぁ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

ぶつけるはずだった怒りのやり場も見つからないまま、獣のように吠える堀内。
しかし。気を取り直す。気持ちを、切り替える。

あいつは。我々が切り札、「あれ」を使わないと思っている。いや、使えないと思っている。

だからこそ、あのような舐めた口を利けるのだ。
確かに、「あれ」は先程まで話していた女が開発し、そして秘密裏に堀内たち5人の権力者に引き渡された
ものだ。
そこには開発者としての性能の把握、つまりおいそれとは使えないだろうという「常識」が思考の根底にあ
るに違いない。

悪童たちが何を目的にリヒトラウムに乗り込んだのかはわからない。
ただ、たとえ目的があれの掌握だとしても。案ずることはない。あのような連中に、使いこなせるはずがな
いのだから。
むしろ、奴らが妙な真似をする前に、こちらが使ってやる。

ノートPCを起動させ、ボタンを押す。
モニターに現れる、四人の同志たち。

「どうした」
「…使うぞ。『ALICE』を」

堀内が発した言葉に、しばし言葉を失う四人。
しかしその顔は、絶望など微塵もない希望。躊躇のない、好奇心。
そういったものに、溢れていた。

792名無しリゾナント:2015/03/19(木) 12:07:28
「そうか。いよいよか」
「リヒトラウムに緊急事態が発生した。最早一刻の猶予もない」
「まあ、使う時が少しだけ早くなっただけだ」
「幸い、ダークネスの有力者たちは本拠地に固まってる。一掃のチャンスだな」

彼らは、むしろ今が好機だとばかりに、口々にそんなことを言う。
体よく能力者を使っていた彼らの、傲慢のさらに向こう側にある根本的な感情。

恐怖。

自分たちとは、まったく異なる存在。
その異質さに、彼らは恐怖していたのだ。
だからこそ、決断する。やつらを完全に飼い慣らす必要があると。

「…ただ使うだけじゃない。あいつらに最大限の屈辱を与えてから、使ってやるさ」

能力者などというバケモノどもに、教えてやる。この地上に君臨するのは…我々だ。

堀内の暗い情念は既に、闇の底で蠢きはじめていた。

793名無しリゾナント:2015/03/19(木) 12:08:13
>>786-792
『リゾナンター爻(シャオ)』更新終了

794名無しリゾナント:2015/03/23(月) 14:05:09
>>786-792 の続きです



施設各所から吹き上げる炎の柱は、光の国の居城前からもはっきりと見ることができた。
炎の根元がどういう状況になっているかは、想像しなくても理解できる。

「どうしよう、このままじゃ遊びに来た人たちが!!」
「とにかく、助けなきゃ!!」
「その必要はないね」

リゾナンターたちの言葉を遮るように、一人の少女が目の前に降り立つ。
へそ出しショートパンツという軽装の、ポニーテール。
その顔には、見覚えがあった。

「こいつ…この前の譜久村さんに擬態してた!」

亜佑美が、思い出す。
確かに少女の顔はあの時の襲撃者のそれによく似ていた。が。

「ざけんな。あんな出来損ないと一緒にすんなって。まいいや、”のん”が面白い場所に、連れてってあげる」

それだけ言うと、右手をリゾナンターの面々に翳す。
何かの攻撃か。身構えた一同だったが、次の瞬間には少女は姿を消していた。

795名無しリゾナント:2015/03/23(月) 14:05:45
「何やったと、今のは…」

衣梨奈がそう言ってしまうほどに。
思わせぶりな登場の仕方にしては、拍子抜けな結末。
姿を消して不意打ちでも食わす、というわけでもなさそうだ。
しかし、傍らにいた優樹は気づいていた。重大なことに。

「生田さん…」
「何、優樹ちゃん」
「みんなが、いなくなっちゃいました」
「え!?」

優樹の言うとおりだった。
姿が、ない。
香音。春菜。遥。さくら。
四人の姿が、一緒に消えていたのだ。

796名無しリゾナント:2015/03/23(月) 14:06:21


視界が、歪んだと思ったら次の瞬間に。
香音は、目と鼻の先に自分によく似た人物が間抜けな顔をして突っ立っていることに気づく。

「ひゃあっ!?」

普段は滅多に出さない、女の子らしい声。
驚き後ろに飛び退くと、正面の相手も同じような格好で後ろへと飛んだ。

「もしかして…鏡?」

言いながら、右手を上げてみる。
やはり同じように、左手を上げるぽっちゃり娘。
間違いない。上げた手を正面につくと、ひんやりとした感触が伝わった。

「みんなは?」

辺りを見回す。
しかし目に映るのは、たくさんの戸惑っている香音だけ。
上下左右、あらゆるところが鏡張りになっているようだ。

― 鈴木さん、大丈夫ですか? ―

心の声が、訴えかけてくる。
この声は。

797名無しリゾナント:2015/03/23(月) 14:07:26
― 小田ちゃん? ―
― はい。今、どこにいますか? ―
― 何だか鏡だらけの場所にいるみたいで ―
― 私もです。どうやらミラーハウスみたいな場所に転送されたみたいで ―

「ちっ、四人しか転送できなかったか。しょぼい能力だししょうがないか」

そこへ割り込んでくる、少女の声。
先ほど香音たちの目の前に現れたあの少女のものだ。

「こんな場所に連れて来たのは、あんただね!」
「そうだよ。お前らが知ってるとおり、のんの能力は『擬態』。お前らの姿になら、いつでも化けられる。
鏡だらけのミラーハウスでそんな力を使われたら、どうなると思う?」

― 鈴木さん! 飯窪です! その人はきっと、私たちに擬態して混乱させるつもりです! ―

横から聞こえる、甲高い心の声。
さくらの他に、春菜も連れて来られたのか。敵の少女は確か四人連れて来たと言っていた。となるともう
一人、ミラーハウスにいるはず。

「鈴木さん!みんな!!ハルのところに合流してくださいっ!!」

鏡の向こうから、大声で叫ぶハスキーボイス。
最後の一人は遥だったか。擬態を得意とする相手、しかし春菜と遥がいればもしかしたら。

798名無しリゾナント:2015/03/23(月) 14:08:24
「わかった!こんな鏡なんてすり抜けて…」

香音の持つ「物質透過」があれば、鏡の障害などものの数ではない。
勢いよく鏡に向かって突っ込んでいった結果。

殴られた。

走りこんだ香音と同じようにこちら側に向かっていく彼女の鏡像は。
途中で動きを止め、それから「鏡」の世界の外側の香音に向かって、綺麗な右ストレートを決めたのだ。ひ
っくり返り倒れる香音。
香音が鏡だと思っていたのは、少女が香音に「擬態」した結果のもの。

「けけけ、騙されてんじゃねーよ。ばーか」

明らかに香音を馬鹿にした言葉を残し、少女は足早に走り去ってしまった。

鏡像と、「擬態」。この組み合わせは。
早く他の三人と合流しないと、まずいことになってしまう。
殴られたダメージはそれほどではない。おそらく途中で「物質透過」を使ったせいだろう。気を取り直し、
立ち上がる。聞こえてくる心の声を頼りに、香音はすぐ側のの鏡を通り抜けていった。

799名無しリゾナント:2015/03/23(月) 14:08:59
>>794-798
『リゾナンター爻(シャオ)』更新終了

800名無しリゾナント:2015/03/24(火) 12:36:40
リゾナン史を編むということは砂漠でオアシスを探す行為に似ていると私は思う。
何千何万と残された膨大なリゾナン文書の中からたった一つの真実を見つけたと思った次の瞬間、他の研究者によって新説をぶつけられた経験が何度もある。
その時の私は乾ききった大地の中でようやく見つけた桃源郷が蜃気楼だと知らされた探検家の境地に立っていたことだろう。
だがしかしそれで研究を諦めようと思ったことは不思議と無い。
私にとって人生とは旅のようなもので、終着駅に辿り着くことは最優先される目的ではなく、旅の過程を楽しむことこそ目的だというのが私のモットーだからか。

これから私が紹介するのは、リゾナンターの一人が書き残した手記である。
新垣里沙、共鳴の原点を知る者にしてCカップのボンキュッボンなボディで世の男性を悩殺したと伝えられる女性。
以下の手記がかの新垣里沙の真筆であるかどうか、いまだ確定していない。
真筆だったとしても、手記の内容が新垣里沙の真意であるかどうかも定かでない。
あるいは私がこれからやろうとしている行為は輝かしきリゾナンターの足跡に泥を塗ることかもしれない。
幾千幾万と存在するリゾナン史研究家を蜃気楼で惑わせる行為なのかもしれない。
それがわかっていながら私がこのほど発掘された手記を皆様に公開するのは一重にリゾナン史を編むという行為を楽しみたいからに他ならないことを前もって記しておく。

リゾナン史研究家   エリソン・P・カーメイ

801名無しリゾナント:2015/03/24(火) 12:37:29

2007/5/13

最悪だ
まったくもって最悪だ
最悪なのには慣れっこだけどこんなに最悪なのはあの日以来
天使が翼を失ったあの日あの時以来のことだ  ------------------(注1)

白い家と呼ばれるこの研究施設の外で仕事をしたことは何度かある
慣れ親しんだ自分の部屋のベッドでないと眠れないほどのお子ちゃまってわけでもない
でも今現在この白い家の最深部にはあの人がいる。
傷ついて翼を失ってしまったあの人がいる
この世界にいつまで留まっていられるのかわからない私だけの天使
安倍なつみを残して外に出ていけるはずがない

これがこれまでと同じような仕事
強制的に組織の為に働かせた外部の人間の記憶を改竄したり、正義感から組織を司直に摘発しようとした人間の記憶を書き換えたり
そんな薄汚い洗脳屋の仕事ならどの程度で仕事を終わらせられるかの目途も立つ
何日で戻ってこれるか計算できるが今回仰せつかった仕事は取りとめが無さすぎる

何年も昔に組織から連れ去られた人工能力者製造実験の被検体の捜索なんか私向きの仕事とは思えない
どう考えたって今回の件には何か裏がある

誰かが安倍さんに不埒なことを仕出かさないか
傍らで目を光らせている私のことを遠ざけようとしているとか

802名無しリゾナント:2015/03/24(火) 12:38:03

一縷の望みは下命の場に統括管理官と一緒に居合わせた女帝こと中澤さんが個別に話す席を設けてくれたこと
私から見れば組織の高みにいる人だけれどそれでも中澤さんは私と同じ能力者だ
そんな中澤さんに訴えれば雲を掴むような人探しの仕事からは逃れられるかもしれない
だけど結局説き伏せられたとしたらどうしよう
私みたいな下っ端なんかに拒否権なんか無い
無期限での被検体捜索の仕事の為に安倍さんの傍から離れなければならないとしたらどうしよう
確かに今あの人にはこの白い家の高度な医療機器や能力者の生態に通じた科学者が必要なのは事実だ
だが一番必要なのはあの人のことを何よりも、自分の命よりも大切に思っている人間の筈だ
この私みたいに

とにかく明日だ
明日の中澤さんとの面談に望みをかけよう



2007/5/14

力が欲しい
精神干渉
他人の精神に土足で踏み込む薄汚い力なんかじゃない
あの人を守れる力
あの人に危害を加えようとする全ての者を打ち砕くことができる強い力が欲しい

803名無しリゾナント:2015/03/24(火) 12:38:35

2007/5/16

能力者狩りに駆り出されることが結局決まってしまった
中澤さんに言いくるめられてしまった感があるのは否めない
ただ今あの人をこの世界に繋ぎとめておくには組織が有する科学力や蓄積された知識が必要なのは事実
しかしそれらのものをあの人に無条件で注入する程この組織が甘いものでないことも真実
中澤さんはともかくとして5人の老いぼれども

日本という国を影から動かしていると戯言を吐く五老星とも5ブラザースとも呼ばれる男たちは結果を求めている  ------------------(注2)
奴らにとって今の安倍さんは天使ではない
奴らの濁った眼には傷つき斃れ力を失った能力者のなれの果てにしか映っていないんだろう
かつての力を失てしまった安倍さんに奴らが手を出さないのは安倍さんが力を取り戻すかもしれない可能性を捨てきれないでいるからだ
しかしそんな状況でも奴らは安倍さんの身体を調べ、DNAのサンプルを採取し、何らかの施術によって強制的に力を回復できないか
実験したくてうずうずしている
そんな奴らの関心から安倍さんを逸らすには、奴らの気に入りそうな玩具を差し出してやるしかない。

それがi914
膨大な失敗の果てに生み出された唯一の成功例
能力が本格的に発現する以前にその生理学上の母親によって連れ出された幼児  ------------------(注3)

そんな彼女の生存が確認されたという
組織で人工能力者の製造プロジェクトに関わっていた研究員が成長した彼女と思われる女性を都内の某デパートで目撃したという
同じ能力者を犠牲にすることには気が咎める
しかし安倍さんを助けるためなら仕方がない
私は何としてもi914を見つけ出す

804名無しリゾナント:2015/03/24(火) 12:39:36

2007/5/23
疲れた
足が棒になったみたいだ
首都圏だけで三千万を越える人間の中からたった一人を見つけるのは簡単なことじゃない
でもそんなことは最初からわかっていた
あきらめるわけにはいかない



2007/5/28

報告の為に一度白い家に戻ったら中澤さんの計らいで安倍さんとの対面を許された
今日は調子が良いみたいだった
まるで銀翼の天使と呼ばれていたあの頃と全然変わらない感じ
この状態が続いてくれたらいいのに
位相が違うと中澤さんは言っていた
安倍さんは天使だから私たちと同じ位相には長く留まっていられないと
中澤さんが言っていることは難しすぎて理解できなかったが、状態の悪い時の安倍さんのバイタルの数値は生きていることが不思議なぐらい悪いのは私にでもわかる
そんな安倍さんを守るためなら私は何でもする

805名無しリゾナント:2015/03/24(火) 12:40:12

2007/5/31
こんなに一人の人間の画像を見つめたのは安倍さんのを除けば初めてだ
i914
幼い頃の彼女の画像に彼女の生物学上の母親のデータを加えて20歳の女に修正した画像
先日彼女を目撃した研究員の証言も加えた画像はもう確認する必要が無いぐらい頭の中に焼き付いてしまった
彼女は今何を思っているのだろう
もし彼女が自分の立場を理解しているのなら人目に触れる場所には出向かないだろう
離島とか山村とかに隠れ住むのか
しかしそういった場所は一旦追求の目が入れば逃れにくいという欠点がある
都会で住めば人目に付く危険は多いが、人に紛れやすいという利点もある
明日は研究員が彼女を目撃したというデパートに行ってみようか
そこで彼女が見つかるなんて甘いことはないだろう
しかし彼女が何を思いどう行動しているのか
捜索の手がかりぐらいは掴めるかもしれない



2007/6/1
見つけた  -----------------(注4)
神様ありがとう
あの人のことを救ってくれなかったあんたのことを呪ったこともあるけど今日だけは感謝する
これが全ての問題の解決に繋がるとは思ってもいない
でも安倍さんの為にいくらかの時間は稼げた筈だ
あの女、高橋愛と名乗ったi914には悪いけど安倍さんの為に犠牲になってもらうしかない

806名無しリゾナント:2015/03/24(火) 12:40:49

(注1) 安倍なつみの立ち位置にはいくつかの説がある。 組織の幹部として前面に出て戦っていたという説や、組織の方針に反し幽閉されていたという説。
     今回の手記の中で述べられている安倍なつみは負傷により能力を失ってしまったようであるが、その経緯が触れられているリゾ文書としては(22)432 『堕ちた天使』が挙げられよう

(注2) リゾナンターと敵対した組織、ここではもっとも通りが良いダークネスと称させていただくが、その組織の構造にも諸説がある。
     ダークネスという男を首領に抱くという説。
     中澤裕子こそが絶対無二のボスであったという説。
     中澤など紺野あさ美や飯田佳織一派の傀儡に過ぎないという説も一時期有力であった。
     比較的新しい時代のリゾ文書が集められた『爻(シャオ)』においては、日本の政財界の有力者もダークネスに発言権を有していたという記述が見受けられる
     彼ら有力者とダークネスの力関係については未だ確定していないが、今回の手記によって『爻(シャオ)』の信憑性が高まる可能性がある

(注3) この辺りの記述-高橋愛が幼児期にその母親の手によって組織から連れ出され - はリゾ文書(08)893 『葉を隠すなら森へ、愛を隠すなら名へ』と合致する。
(注4) 新垣里沙が高橋愛をデパートで見つけたという記述はリゾ文書 (03)649 『A Summer Day』で触れられている事象とかなりの部分で合致する。
     とはいえ一部矛盾する事柄もあるため、両者の整合性を検証するに当たりより洗練された翻訳者の協力及び文書の書かれた時期を確定するための最新の技術による炭素測定の実施が必要であろう

807名無しリゾナント:2015/03/24(火) 12:41:43
>>800-806
『新垣里沙の手記・其の一』

808名無しリゾナント:2015/03/24(火) 22:12:18
>>794-798 の続きです



一方、同じミラーハウスの別の場所に転送されていた春菜は。
「擬態」能力の持ち主がこの場所を戦場に選んだ目的を早くも理解していた。
しかし、春菜は心の余裕を保つ事ができる。なぜなら。

「おーい、はるなん!!」

すぐに、遥のものだとわかる塩辛い声。
彼女の「千里眼」と自分の「五感強化」があれば、相手がいかに自分達のうちの誰かに擬態しようとも
見破る事ができるはず。

遥の声のするほうへ駆け寄ると、相手もまた春菜を探していたようで、出会い頭でばったりと出くわした。

「なんだ、こんな近くにいたのかよ。いるんだったら返事くらいしろって」
「えっ、あ、ごめん。ちょっと考え事してて」

相変わらずの年上を敬わない態度、けれど今はそれが頼もしく映る。
能力者の少女の攻略に、遥の能力は不可欠だからだ。

809名無しリゾナント:2015/03/24(火) 22:13:39
「ねえくどぅー、『千里眼』で相手がどこにいるか、視える?」
「さっきからやってる。こっから斜め右方向でちょこまか動いてら」

忌々しげに遥が言うのを聞いたか聞いてないか、ミラーハウスの館内から大きな声が聞こえてくる。例
の少女のものだ。

「改めて自己紹介ね。のんは、『金鴉』。金のカラスって書いて、きんあ。”メインディッシュ”が来
る前にお前らと遊んでやるよ」
「くそ!とっとと出てこいよ!!」
「そうそう。のん、ダークネスの『幹部』って奴だから」

ダークネスの「幹部」。
この二つの言葉は、即座に緊張を齎す。
つまり、7人がかりで挑み、まるで歯が立たなかった赤い死神のことを、どうしても思い出させてしま
うのだ。

「そんな!まさか、あの子道重さんが言ってた…」
「幹部にしちゃ随分しょぼい能力使ってくるじゃん。『擬態』なんてせこい力、見破っちゃえばわけな
いって」

怖気づきかけた春菜の心を、遥の頼もしい言葉が支える。
確かにそうだ。彼女は自分のことを「オリジナル」と称していた。つまり喫茶店に現れたのは彼女のク
ローンなのだろう。しかし、使う能力が変わらず「擬態」ならば。

そこへ、鏡を通り抜けてきた香音が飛び出してくる。
ほぼ、同時に鏡の回廊を潜り抜けてきたさくらもやって来た。
「金鴉」と名乗った少女が連れ出したと思しき全員が、ここに揃ったわけだ。

810名無しリゾナント:2015/03/24(火) 22:14:48
「これで全員っすか?」
「多分…周りに他の子たちの気配もないし」

遥の問いに、香音が頷く。
香音。春菜。遥。そしてさくら。前線でも戦えるさくらを除き、見事に後方支援のメンバーが狙い撃ち
された格好だ。

「これはヤバいですね…」
「でも、逆に言えばチャンスかもしれない。私の『嗅覚強化』とくどぅーの『千里眼』があればね」

春菜の考えはこうだ。
いくら相手が「擬態」して自分達に化けようが、個人特有の匂いだけは誤魔化せないだろう。また、相
手の位置は常に遥の「千里眼」によってマークされている。

「それと、あの時道重さんに教えてもらった…」
「うん。これだね」

さくらと香音が、自らの右手の甲を見せる。
それを見て、他の二人も。甲には大きく「×」の文字が書かれてあった。

擬態能力者の襲撃があった日。
自分達に姿を変えて再襲撃してくるであろう刺客対策として、さゆみから教えてもらった策。

「ははは、あいつ、得意げに何か言ってたけど、うちらがこれだけ対策してるのなんて知らないだろうね」

そんなことを言いながら笑う香音。
しかし、その背後からナイフをかざした遥が。

811名無しリゾナント:2015/03/24(火) 22:16:20
「あぶないっ!!」

その瞬間を目撃したさくらが、時間停止を仕掛ける。
さくらが止められる時間など、瞬きするかしないかくらいの僅かな時間しかない。が、不意を衝いた襲
撃を防ぐには十分だった。

「いって!!」

さくらに突き飛ばされた遥が、後ろの鏡にぶつかり尻餅をつく。
止められた時間の中にいた香音と春菜は一瞬何が起こったのかわからないようだったが、すぐに事の重
大さに気づく。

「え?くどぅー!?」
「どうして!!」
「はるの千里眼舐めんな!お前、鈴木さんに擬態した偽者だろっ!!」

戸惑う三人を他所に、遥は大きくそう叫んだ。

「そんな!だってみんなの手の甲には×印が…」
「あいつの姿がどこにも見当たらないんだよ!!どこに消えたか探したら、見えたんだ!こいつの中に、
『金鴉』とかいうやつの姿があるのを…」
「かのは偽者じゃない!だってさっき、偽者に会ったばかりだし!ほら!『能力』だって使えるから本
物だって!!」

遥に疑われ、近くの鏡に自らの手を出し入れしながら、必死に香音は自分が本物である事を弁明する。
確かに、擬態能力の持ち主ならばそのような芸当はできないはずだが。

812名無しリゾナント:2015/03/24(火) 22:17:27
「いや…でもまさか…もし、『能力』すら擬態できる奴だったら」
「ええっ!そんなことできるんですか!?」
「わかんねえけど、もしそうなら『鈴木さん』のアリバイはあてになんないよ!!」
「そんなこと言ったらどぅーだって!!」
「はるはあいつの声が館内に響いてる時に、はるなんといたし!!」

疑念が疑念を呼び、収拾がつかなくなりつつあるが。
もしも相手が「能力」さえ擬態できるとしたら、四人のうちの全員が怪しいということになってしまう。

「確かにくどぅーの言うとおり、私は『金鴉』が大声で話してる時、一緒にいました」
「だよな。鈴木さんは? 小田ちゃんはどうなんだよ」
「それは…」

彼女たちには自分の身の潔白を証明してくれる人間がいないのは明らかだった。
となると、疑いはいよいよ二人のうちの一人に絞られてくる。

「か、かのはあいつの、『金鴉』の姿を見てるんだから…だとしたら」
「え、わ、わたしですか!?」
「・・・だったら『小田ちゃん』しかいないな。諦めて姿現せよ」

矛先を向けられたその瞬間。
さくらの姿が掻き消えた。

「やっぱりだ!あいつ、正体がばれたから逃げたんだよ!!」

そう。
この瞬間に、擬態していた真犯人は明らかにされた。
そのことを知らないのは、真犯人だけではあったが。

813名無しリゾナント:2015/03/24(火) 22:18:36
>>808-812
『リゾナンター爻(シャオ)』更新終了

814名無しリゾナント:2015/03/26(木) 12:09:19
【但し書き】

・↓の話は〜 コールドブラッド〜の二次創作的な何かです
・設定の一部を使わせて頂いてますが完全に踏襲しているわけでもないです
・〜コールドブラッド〜を好きな方は不快に思われるかもしれません
 前もってお断りしておきます
・〜コールドブラッド〜なにそれ?食べたことないけどおいしそうという方は回避されることを一応推奨しておきます


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いたい……くるしいよ
いたい……だれかたすけて

…わたしに手を差し伸べてくれる「人間」なんかこの世界にいやしない
そんなことはわかってる
それがわかったからこんなことをしたんだ

でも…みじめだよ
苦しいよ
だれにも望まれずこの世界に生まれてきた
自分では望んでいない「力」の所為で振り回されて生きてきた
そして最後はこんな暗闇で一人苦しみながら死んでゆくなんて

ねえサブリーダーさん
あなたが自分の命を賭けてまで倒そうとした「吸血鬼」はまだくたばってませんよ
お堅いリーダーさん
どんな任務も完璧に果たしてきたあなたらしくないじゃないですか
「人類」の敵を殲滅するのがあなたのご立派な使命なんでしょう
さあ憎むべき「吸血鬼」にとどめを刺してくださいよ

815名無しリゾナント:2015/03/26(木) 12:09:50


声も出ないや
そうだよね
わかってる
あの二人がミスってわたしが生きているのを見落とすはずがない
情けをかけて見逃してくれたわけでもない
わたしはもう助からない
そんなことわかり過ぎるくらいにわかってるんだ


わたしは「吸血鬼」だ
ノーマルの人間では有り得ない身体能力と超感覚を持っている
物理的なダメージにも強い
ちょっとぐらいの傷なら超速再生していくしほんと
どこの破面(アランカル)だってぐらいのものよ
我が名は第6エスパーダ、コハルーノ・クスミリエなりってなぐらいのものよ

わたしは「吸血鬼」だ
普通の人間では私の肉体は壊せない

でも痛いんだ
この痛みは肉体が感じている痛みなのかそれとも心が感じている痛みなのか

わたしは「不死者」だけど「最強」ってわけでもないし「無敵」の存在なんかでもない
闘争に負けることもあるし、その結果徹底的なダメージを与えられたら死ぬこともあり得る
その相手が脆弱な「人間」などでなく同じ「吸血鬼」だったら

あの人はわたしを斃すために「人間」としての生を捨てた
そして手にした「吸血鬼」の力で抉られた心臓を再生するのはさすがのノーライフキングでも無理みたいだ

816名無しリゾナント:2015/03/26(木) 12:10:24


わたしが意識を保てているのは復活する兆しじゃない
「吸血鬼」の生命力があまりにも強靭すぎるから
即死している筈の傷を負っても惨めったらしく魂だけがこの世界にしがみついてるんだ
身体のそこここに残っている命の絞りかすがわたしに最後の夢を見させてるんだ
最低最悪の悪夢ってやつを


…ふん
それとも
もしかしてこれは仲間を裏切って殺めたわたしへ神さまが与えた罰?
いつ終わるとも知れない痛みの煉獄で苦しめとでも?
もしそうなら神さま
あんたはとことん間違っているよ

確かにわたしは「リゾナンター」のみんなを裏切ったかもしれない
でも、でも、でも、でも最初に裏切られたのはわたしのほうなんだ
わたしは「吸血鬼」として「人間」を狩っていくつもりなんてなかった
「人間」の「血」を欲する本能を抑えて「リゾナンター」として生きていくつもりだった
普通の「人間」に紛れて生きていくことは困難でも「リゾナンター」の「仲間」となら生きていけると思ってた
でもそれは間違っていた

結局、誰かが他の誰かと完全にわかり合えることなんてありえない
それはサイコフォース「リゾナンター」として戦ってきた日々が教えてくれた
「リゾナンター」の目的は普通の「人間」では扱い難い犯罪者を摘発検挙粛清することだった
その対象は普通の「人間」とは異なる能力者であったり、人知を超えた化け物であったわけだけどそれらですべてってわけじゃなかった

817名無しリゾナント:2015/03/26(木) 12:10:59


偏執的な妄想に捉われたシリアルキラー
原理的な教義に殉じたカルト
「リゾナンター」の任務の対象は実のところ、生物学的には普通の「人間」の方が多かった
でも「人間」である彼らに「人間」の言葉は届かなかった
自分の中に築かれた価値観ですべてを判断し、他者の価値観など一瞥だにしない。

同じ「人間」同志であってもそうだった
だから「人間」とは異なる種族の「吸血鬼」のことなんて最初からわかろうともしない
「吸血鬼」が何者を愛し、何者を憎み、何を欲し、何に怯えるのか
そんな考えが頭を過ることもなく平気で駆逐していく

わたしの身体に「吸血鬼」の血が流れていると知ったらあの人たちは平気でわたしのことを駆除しただろう
わたしが笑っていたって怒りを見せたって涙を流したってその意味をわかろうともせず

だからそうなる前にわたしの方から仕掛けたんだ
自分の「生」を全うするために
与えられた「吸血鬼」としての生命を最後の最期まで生き抜くためにわたしは動いたんだ

これまでに「人間」はどれだけの種類の生命を根絶やしにしてきたんだろう
百?千?万?
だったらいいじゃん
万物は流転するんだよ
今度はあんたら「人間」が泣く番だよ
だからわたしは悪くない
悪くないわたしがこんなに苦しむなんて間違ってるよ

818名無しリゾナント:2015/03/26(木) 12:11:42


痛っ

あ痛っ

あー痛っ

あー痛いっ

あ、痛たたたたたたた

誰か助けて! ヘルプミー!!

ホントまじ痛い

指先一本動かないのに痛みだけ増していくって感じ
これはやっぱ助からないかな
痛みで覚めた時は結構期待したんだけどな
一度は諦めたワンピースの最終回を読めるかなと思ったんだけどな
まあどうせこれまでの冒険で出会った仲間たち、経験の全てが一つながりの財宝だ(ドン!!
みたいなオチだとは思うけど
やっぱ想像するのと自分の目で確かめるのとは違うし

痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛っ

ちくしょうっ



ほんとうは居場所が欲しいだけだった
誰かにこんなあたしでも生きていていいって声をかけて欲しかった

819名無しリゾナント:2015/03/26(木) 12:12:15


もっと違うやり方があったんじゃないかな
あの人たちの前から姿を消して
あの人たちの目の届かない場所で生きていくって選択だってあった

でも私は確かめたかった
「吸血鬼」に堕ちた仲間を救う道をあの人たちが選ばないか
もしも選べなくても仲間だった「吸血鬼」の粛清を一瞬でも躊躇わないかってこと

結局わたしの身勝手でみんな死んじゃったんだね
わたしが「人間」を否定するのも「人間」がわたしを否定するのもおんなじだ
わかってたはずなのに

取り返しのつかない過ちを犯してしまった
あやまったって許してもらえるはずもないけど

ご…め・んな…

へぇあなたは生き延びたんですか
どう考えたってろくでもない未来しか待ち受けてるように思えないですけど

・・・一人になったね

820名無しリゾナント:2015/03/26(木) 12:13:11
>>-
『Regret d'agonie』
【但し書き】

・↑の話は〜 コールドブラッド〜の二次創作的な何かの一部です
・設定の一部を使わせて頂いてますが完全に踏襲しているわけでもないです
・〜コールドブラッド〜を好きな方は不快に思われるかもしれません
 前もってお断りしておきます
・〜コールドブラッド〜なにそれ?未読だけど何か面白そうという方は回避されることを一応推奨しておきます

821名無しリゾナント:2015/03/27(金) 18:18:28

リゾナンターは実在したのか。
リゾナン史に興味を持たれている方にとっては愚かな問いかけに聞こえるだろう。
しかしリゾナン史の編纂に関わった初期の研究者の多くはその命題に頭を悩ませたのだ。
たとえば彼女たちの名称として使われる「リゾナンター」「リゾナンダー」「共鳴者」「リゾネイター」
彼女たちの果たすべき使命、「正義の味方として悪の組織ダークネスの野望を阻む」「巨大怪獣による地球の破壊を防ぐ」「日常を侵食する闇から生まれいずる人外の物を駆除する」「毎日を生き延びる」
リゾナン文書に綴られた多様なリゾナンター像に惑わされリゾナンターの実在を疑った者がいた。
他の能力者集団をリゾナンターと誤認しているのではないか懐疑的な考えを抱いた研究者もいた。

連想ゲームをしよう。
次の三つの言葉からあなたは何を思い浮かべるだろう。
動物、灰色、細長い身体器官。

同じ問いかけを私が教える学生達にしてみた結果、実にその九割までが鼠を連想した。
しかしながら私の思い描いた正解は……象である。
ある事象をいくつかの特徴をもって誰かに伝えるとき、特徴の一つ一つを正しく伝えたとしても、その事象そのものを正確に伝えられるとは限らない。
いくつものリゾナンター像という記述のぶれの原因は実のところこんなことではないかと私は考えている。
以下に紹介する「新垣里沙の手記」に綴られているリゾナンターをあなたたちはどう捉えるだろうか。

亀井絵里愛好家 エリソン・P・カーメイ

822名無しリゾナント:2015/03/27(金) 18:19:41


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2007/6/5

上の人間の考えていることがわからない
せっかくi914を見つけたのに何故回収作業を行わないんだ
i914
確かに彼女は高レベルの能力者だ
私が確認したのはテレパシーだけだが本人によればテレポートも保有しているらしい
だがしかし私の目から見たあの女は躾の行き届いていない猿だ
回収担当の工作員の手を煩わせるまでもなく私一人でも蒼女を檻に閉じ込めることはできるのに、上の人間は何を考えているんだ
デパートで出会ったその日から、私の携帯にはあの女からの着信が絶え間ない  ------------------(注1)
よっぽど人との繋がりに飢えていたと見える
とりあず現在の住所は抑えてあるし姿を消す心配もないが一度顔を見せてご機嫌を取っておこう


2007/6/6
猿女と会った
今は喫茶店を開業する準備をしているらしい  -----------------(注2)
少し前から喫茶店を開きたいという願望あったらしいが私との出会いが背中を押したとか
ちょ何で勝手に私をあんたのプランに組み込むわけ
共同店主として運営に参加して欲しいとか冗談じゃない
あんな下品な山猿と肩を並べて仕事するなんてまっぴらごめんだ
そもそもあんな女が喫茶店を開いたって繁盛するとも思えない
いやパッと見だけはいいから顔や体目当てのエロおやじどもには人気が出るのかもしれないけど  ------------------(注3)
まあいい
ストレートに断ってご機嫌を損ねるのもマズい
今は別のところで働いてるとでも言っておくか
あの女と話すとイラついて血圧が上がりそうだ
メールを送っておこう

823名無しリゾナント:2015/03/27(金) 18:20:34


2007/6/9
ヤバい展開だ
しばらくあの女を泳がせておくとか
周辺を観察しておくとか
私がその監視役とか冗談じゃない
監視のための拠点作りとかふざけてんのか
ピン=チャボ―なんてブティックこの世に存在しないんだよ  ------------------(注4)
あの女に断りのメールを送る時になんとなくそんな名前を思いついただけなんだよ
実在しないんだったら既存の店の関係者の記憶を弄って会社名を変えさせろとかどれだけ腰を据えて観察するつもりなんだ
つうかどれだけピン=チャボ―が好きなんだよ
中澤さんに直訴しようにもこのところ連絡が取れなくなったし
もしかして避けられてるのか
安倍さんの状態も芳しくないし
ああ、ユウウツ

824名無しリゾナント:2015/03/27(金) 18:21:07


2007/6/11
あの女はバカだ
喫茶店のスタッフに加わってくれという頼みはなんとか断った
つうか一度や二度会っただけの人間を誘うかよ普通
私が働いているピン=チャボ―を見てみたいと言い出したのには困った
こんなこともあろうかと現在改装工事中のデパートで開業予定のアパレルを見つけてはいる
経営者の精神に干渉すればブティック、ピン=チャボ―の誕生だが正直そこまではしたくない
話を逸らすためになぜ喫茶店を開きたいのか尋ねてみたら興味深い話が聞けた
あの女が猿山から東京に出て来た時、一時期喫茶店に身を寄せていたらしい  -----------------(注5)
女性のマスターと先輩の女性
三人で暮らしていく中でいろんなことを学んだらしい
そして救われたとも言っていた
今度は自分が他の誰かを救いたいとも
猿女は今度開く喫茶店を自分のような能力者の為のシェルターにしたいような口ぶりだった
能力を持って生まれた故に苦しんだ者を救う為の城にしたいとも
私は感心した口ぶりで褒めておいた
まあその店が開店することはあっても繁盛することは無い
安倍さんを救う為にあの女には犠牲になってもらう
このことだけは確定しているんだから

825名無しリゾナント:2015/03/27(金) 18:21:45


2007/6/18
許せないあの猿女
安倍さんと一つ屋根の下で暮らしていただなんて
そればかりか手に手を取って色んなことを教わったとか
いや、それは全部夢
夢の中での出来事だ
安倍さんがそんな喫茶店のマスターをしていただなんてありえないし
ただあの女が東京に出て来た時期と安倍さんのキャリアの空白の時期とが微妙に重なるようなのが気にかかる
もういいあの女潰してやる
あの女の所為でここのところ私のペースは狂いっぱなしだ
あの女がいなければ私は白い家を拠点に洗脳屋の仕事をしながら安倍さんのお世話も出来たのに
あの無警戒な女を潰すのは簡単だが、私がやったことを上の連中に知られるのはやはりマズイ
藤本美貴
氷の魔女として恐れられている狂犬をあの女にぶつけてやろう
猿と犬が仲悪くケンカすればいいんだ

826名無しリゾナント:2015/03/27(金) 18:22:22


(注1) リゾ文書『(03)459 名無し募集中。。。 (メール三文字)』などで、高橋愛は仲間との連絡に関しては非常に素っ気ないことが知られている。
     そうした事実と高橋愛からの着信が多いという記述は矛盾すると考えられる方もいるだろう。
     そうした方にはこの時期の高橋愛と『〜(メール三文字)』の頃の高橋愛では周囲を取り巻く環状が違うということを考慮していただきたい。

(注2) この時点では喫茶リゾナントは営業していなかったという事実を証明する記述であろう。

(注3) そんなエロおやじ共の中で名前が明らかになっている数少ない人物が間賀時夫氏であろう。
     リゾ文書『暁の戦隊』(3rdシーズン-第16話「HEY!未来」)において間賀氏は女性の太腿の画像データを7GB近く保有していたとされている。
     同じ時代に生まれ酒を酌み交わしたかったとつくづく思う。

(注4) 新垣里沙が服飾関係の会社に籍を置いていたことはいくつものリゾ文書で証明されている。
     しかしながらその会社名が明記されているリゾ文書は(18)117 『じゃじゃ馬パラダイス☆激闘編』程度しか発見されておらず、その信憑性が疑われることもあった。
     今回の手記は「ピンチャボ―」という店が実在したという説の信頼性を高める材料になったのではないだろうか。

(注5) マスターやウェイトレスの描写も併せれば、(13)304 『常夜を引き裂く照空灯』で描かれている喫茶店でないかと推定される。
     高橋高橋愛が祖母の元で暮らした時期と喫茶リゾナントのマスターとして仲間に囲まれていた日々を繋ぐミッシングリンクとなるのか。
     今後の検証を待ちたいと思う。

827名無しリゾナント:2015/03/27(金) 18:23:29

以上ここまで
『新垣里沙の手記・其の二』

828名無しリゾナント:2015/03/30(月) 21:15:25
「・・・」
彼女は歩き続ける
「まってくださいよ〜」
それを追うように歩く少女
「ちょっと、えりぽん、新垣さんも疲れているんだからやめたほうがいいよ」
そんな二人を追う少女

奇妙な奇妙な追いかけっこ

「だって、みずき、新垣さんと次会えるかわからんっちゃよ?
 もっともっと教えてもらわんといかんことあるとよ」
「だからって、新垣さんも疲れているんだよ!同じ糸使いのえりぽんならわかるでしょ?
あんなにたくさんの糸を一度に操ったんだよ。疲れないはずないでしょ」
足早に歩く二人を追いかけてきたためか、はたまた元来のものか頬が紅く色を帯びている
「え〜新垣さんなら、あれくらい大丈夫っちゃよ
 そりゃ、えりは一本で限界っちゃけど、新垣さんは最強っちゃもん
 ですよね〜新垣さん」
へらへら笑いながら生田は足を止めない、歩き続ける

「・・・」
新垣は何も話さず、歩き続ける

「だからってえりぽん、すべて新垣さんに任せるわけにもいかないでしょ?
 高橋さんがおっしゃってたように、聖達もどうしたらいいのか考えたほうが」
「え〜えり、そういうの苦手やけん。できることからすると。
そのためにはまず、えりはえりのできることをすると。そういうのはみずきに任せると」
「え〜えりぽん何言ってるのよ!聖だって頭良くないから、得意じゃないんだよ」
顔を真っ赤にしながら譜久村は生田を追いかける
「頭の良さと戦略に長けるって別っちゃろ?道重さんだって常識に弱いところあるけど、策士やろ?
 えりは自分でもわかっとうもん、周りをみれんってことは」
あっけらかんと自分の弱点を宣言する生田をここまで来ると逆に気持ちいいと譜久村は感じていた

829名無しリゾナント:2015/03/30(月) 21:16:00
新垣は無言だ

「えりは勉強や一般常識ならみずきには勝てる自信あると、みずきお嬢様やん。
 でも、戦略家としては才能ゼロやし、それならしっかりと指示通りに役割果たせるようになるとよ」
「戦略家って聖には無理だもん、聖、そういうのじゃないもん・・・」

新垣は次の角を曲がった

「あ、新垣さん、待ってください」
生田も次の角を曲がった

「あ、えりぽん、新垣さんもお疲れなんだよ!」
譜久村も次のry)

曲がった先の一本道を進むと川辺にたどり着いた
「あ、あれ?新垣さん、どこいったかいな?」
どうやら見失ったようで、眼をこらしてきょろきょろと辺りを見渡す
ようやく息を整え終えた譜久村もベンチに腰を下ろし、ハンカチで流れた汗を拭いてゆく
「まだまだ教えてほしいことたっくさんあるとよ、鉄は熱いうちに打てっいうやろ!」
「えりぽんは熱すぎるよ、聖、つかれたもん」

そこにカコン、と何かを打つ音、次いで、ぽちゃん、と水に何かが落ちる音が響いた
それも一つではなく、何回も続いた
「!!」
全力で駆け出す生田
「え〜?また、はしるの?」
(新垣さん!!)
音のする方へ、する方へ、次の角を曲がった
数十個の空き缶が一列になって川端のフェンスに並べられていた

830名無しリゾナント:2015/03/30(月) 21:16:35
しかし、新垣の姿はない
「あ。あれ?新垣さんはどこいったかいな?」
ゆっくりとフェンスに近づく生田の後ろに、足音が近づいてくる
その主は・・・
「なんだ、聖か」
「なんだってなんですか!!えりぽん、また勝手に走り出すから、なんか、今日走ってばっかりだよ」
生田の暴走に振り回されてばかりに譜久村は半分泣き顔だ

「それで新垣さんはおられましたか?」
「ううん、おらんと、せやけど、こんなんあったと」
フェンスに手をついて聖に示した
「空き缶がたくさん並んでいるね。さっきの音はこれかな?」
「多分そうっちゃろ。新垣さんがワイヤーで狙い撃ちしたっちゃろ」
「なんでわかるの?」
「ンフフ・・・えりの勘っちゃ」
過剰な笑顔を浮かべながら、生田は袖の安全装置を外した

「そして、これが新垣さんの訓練ならえりもやってみたいと
 たぶん・・・この辺かな?うん、このくらいっちゃろ」
フェンスから少し離れ距離をとり、生田は構えた
黙り込み、リズムを刻むように踵をコツコツとならす
頭の中ではワイヤーを右から左に薙ぎ払うように伸ばし、見える全ての空き缶の中心を打つ
打ち払った空き缶達は全て川の中に順序よく、水音とともに沈んでいく

イメージが完成した時点で、生田は右腕に仕込んだワイヤーをフェンス向かい伸ばしていく
始めの数個は完璧であった。鞭で払うかのように、しなやかな軌跡をたどってワイヤーは伸びていく
(よしっ)

831名無しリゾナント:2015/03/30(月) 21:17:08
しかし、そこからワイヤーの軌道は上へ下へ微妙にずれていく
全て川に飛ばすつもりであったが、そうはならずただ上にとぶだけのものも出てきた
そして最後の空き缶に辿りつく前にワイヤーはフェンスに当たってしまった
結果的にすべての空き缶を払うことには成功したが、イメージしたものとは全然違った

そんなことを露ともしらず、譜久村は「スゴイスゴイ」と手を叩いて喜ぶ
跳ねながら飛んでくる譜久村は生田の不満げな顔を見て驚く
「え?どうしたの?全部倒したのに、何か上手くいかなかったの?」
「・・・」
「すごかったよ、えりぽん、あんなにきれいにカカカカカカーンって」
「・・・すごくなんかないとよ」
「え?え?」
戸惑う譜久村の後ろから、アルトボイスの声
「そう、フクちゃん、全然すごくないよ」
「・・・新垣さん。どこにおられたんですか」

新垣は落ち込む生田に気づかないふりをしながら、空き缶を拾い上げた
「あのベンチから見てた。生田のことだから、ああしていれば『えりもやる!』っていうだろうと思ってね。
 正直、今の生田の技術をしっかり見ないといけない、そう思ってたからね」
「それは今日の戦いをみて、ですか?」
「う〜ん、それもあるけど、前から思ってたところもあったからね
 生田が私のことを慕ってくれるのは嬉しいんだけどね、言わなきゃいけないこともあるからね」
新垣自身も言い出すまいか迷っていることがその口調から譜久村は勘ぐった
「・・・あまりいいことではないみたいですね」
「ま、そういう部類に入るかな。ほら、生田」
拾い上げた空き缶を生田めがけて投げつけた
生田は下を向いていたにもかかわらず、空き缶をみることなくキャッチした
「うん、反射神経は相変わらずいいね」
ようやく新垣は笑顔をみせた

しかし、生田の表情は暗く、譜久村の表情はどうしていいものかわからず不安げだ

832名無しリゾナント:2015/03/30(月) 21:17:44
「新垣さん、えり・・・」
もう一本新垣が無言で缶を投げつけた
同じようにつかんだ生田は中身がはいっているとは思わず、つかんでその熱にやられた
「ほら、それでも飲んで落ち着きな」
新垣は自身のコートのポケットからあと2本取り出し、一本を自分に、もう一本を譜久村に投げてよこした
「あ、ありがとうございます」
「いいって、ほら、立ち話もなんだから座って話そうか」
空き缶のタブを開ける音と喉をごくごく言わせて一口新垣がのどを潤す
「・・・あ〜ビールがうまいっ
 ふぅ、二人とも今日は大変だったね」

二人の労をねぎらう新垣
だが、二人の顔は浮かない
「ん?どうした?なに暗い顔してるの?」
「・・・だって今日は新垣さんの作戦も上手くいかなかったですし、亀井さんを逃してしまいましたし
 いいことなんてないんですから、それに作戦も決まっていないから明るい顔なんてできませんよ」
譜久村の弱気をききながら新垣は缶の半分を一気に飲み干す
「そりゃー私だって、反省してるよ、今日はだめだって。
 でも、うまくいかないことのほうが多いんだからさっ、あんまり気にしないのさ」
あまりにあっけらかんとしている新垣を見て譜久村は驚いた
あれほど黙っていた理由をてっきり、今日の反省をしているものだと考えていたのだから

「でも、作戦とか考えるんですよね」
「うん、明日ね。いや〜生田、さっきいいこといったからね。私、嬉しかったよ」
新垣に褒められ、少し元気が戻ったのだろう、生田の顔色に血色が戻ってきた
「『できることからする』、その通りだよ、できないことを無理にする
 それって大変だから、余裕ができたときにすればいいんだよ
 はっきり言って、今日の作戦は無理があったのは認めざるを得ない
 今のリゾナンターを囮につかうとか、はっきり言ってリスクが高いからね」

833名無しリゾナント:2015/03/30(月) 21:18:26
「でも、それしか方法がないのなら聖達は」
最後まで言わないように新垣は首を振った
「いやいや、もうしないよ、約束する。あんな危険な賭けしても無駄だってわかったから」「そ、そうですか・・・」
譜久村は戸惑う、これが新垣が凹んでいた理由なのか?と

「じゃあ、新垣さん、えりに糸の使い方教えてくださいよ!!
 できるようになりたいんです!!えりは新垣さんみたいに強くならなきゃいかんとです」
急に立ち上がり声を荒げる生田に驚く譜久村と対照的に新垣は笑みを浮かべたまま
「うんうん、生田の気持ちわかるよ。でも、少しは落ち着きなさい
 ほら、フクちゃんも驚いちゃってるんだからね」
「ご、ごめん、みずき」

生田が座り、おしるこジュースを一口飲み、その甘さに舌がやられたのを譜久村はみた
「さて、生田の気持ちはわかった。精神操作、精神破壊、私と似た力だからね」
新垣は生田が甘さにやられていることに気づいていないようだ
「精神系能力、それは直接的な攻撃ではないが、使い方次第では反則的なダメージを与えることができる
 私が本気出せば、人格を崩壊させることも、別の人格を作り出すこともできるかもしれない
 ・・・したことはほとんどないけどね」
「は、はあ」
「その分、非常に繊細な部分も必要。人格を崩すほどの大胆さと緻密性、療法とも不可欠
 一朝一夕でできるようなものではないし、私だって人並みに使うには5年以上はかかった
 生田、あんたはまだ3年だから、焦る必要はないよ」

「さて、フクちゃん。フクちゃんの能力は『能力複製』だよね
 これまで生田や私みたいな精神系の力をコピーしたことはある?」
突然話が自分に飛んできたので驚いたが、一瞬、考えすぐに答えを出した
「あります。でも」
「うまくいかなかった」
譜久村が頷いた

834名無しリゾナント:2015/03/30(月) 21:19:06
「なんていうか自分自身の体じゃないものを、それこそ機械を操るみたいで、全然使いこなせませんでした
 どこをどうすればいいのかもわからなくて・・・糸を使うとかそんなところまで行きそうにもなかったんです
 えりぽんの力を試そうとしたときは、気持ち悪くなって・・・・動けなかった」
思い出したくない記憶の一つが生田の力をコピーした後の副作用
数時間、頭痛とめまい、脱力感におそわれ、見えない何かにつぶされるような幻覚に悩まされた

「精神系能力者の力は普通の能力者とは全く別。『ただ心を操る』『心を覗く』、そんなものではないの。
 耐えきれないほどの他人の心を自身の心をぶつかりあわせて、折れないように、かつ相手の心を崩さないようにする
 小手先の技術なんかじゃこの力は制御できない」
生田の目をみながら新垣はゆっくりと説う
「はっきり言う。生田、あんたはこの力に必要な繊細さが未熟だ
 今の生田じゃ、私には一生追いつけないし、一人前にはなれない」

「・・・わかっとうもん、そんなことは」
弱弱しく生田が眼に浮かべる
「わかっとうもん、えりは精神系能力者やけど、人の心を操る能力者やけど、人のこころがみえないと
 何をして笑って、何をして怒って、何をして悲しむか・・・わからんもん」
「えりぽん・・・」
「鍵穴のように、絡まったコードのように、かっちりと細かい技術が必要なのはわかっとう
 でも、えりにはそれは苦手なことっちゃ!!ドライバーで飛ばすのは得意やけどパターは苦手
 大胆なことは得意っちゃけど、繊細なことはできんとよ!!えりには」
それは隠していた思い。思わず零れてしまった弱音。
「えりは里保が羨ましいと、あんなにはっきりと闘える力があることを
 あゆみちゃんも小田ちゃんも羨ましい。前線に飛び込んでいける力やもん
 えりはこんな力望んでいないと!!もっとみんなにえりらしくなれる力がほしいと」
「甘ったれるな!!」
新垣が立ち上がり思いっきり生田の頬を殴り、生田は地面に倒れこんだ

835名無しリゾナント:2015/03/30(月) 21:19:38
「なにが『大胆なことは得意、繊細なことは苦手』だ
 『こんな力望んでいない』だって?ふざけるんじゃないよ!!
 それなら私だって、こんな力欲しくてもってるんじゃないんだよ
 生れたときからこの力は私の一部なんだよ、それを自分で要らない?こんな力じゃなくて他の力が欲しかった?
 生田、あんた、それでもリゾナンターなの?ちょっと見損なったよ」

「私だってこんな力、捨てたいなら捨てたい。でも、今の私があるのはこの力のためだ
 私の一部なんだ、私自身なんだ、変えられないんだよ。
 自分でできることをする、さっきそういったのは生田でしょ?それならそれも受け入れなさい
 少なくとも私が知っている生田はこんなことを言う子じゃなかった
 だからこそ、言わなきゃいけない、そう思って改めて場を作ったのに」
突然、立ち上がる新垣
「帰る。生田、あんた少し頭を冷やしなさい」
そして足早にその場をさっていく新垣

「ま、待ってください、新垣さん」
譜久村は新垣を走って追いかけた。生田を置き去りにして、今の新垣を追いかけるなんていつもの自分らしくない、と感じていた
しかし、気になってしまったのだ、いつもの新垣らしくないと
あの新垣里沙がこんなに強く、自分を慕う後輩に強く言うものか、と
その裏には何かがあるのではないか、と。

「ま、まってください」
急に立ち止まる新垣
「フクちゃん、生田を頼むね。あの子は本当に弱いから」
「は、はい・・・でも、新垣さんは何を本当は伝えたかったんですか?」
「・・・」
「こんな展開を予想しておられなかったと思うんですが、新垣さんは生田がしっかりと覚悟していると思ったんですよね?
 それなら何を」

836名無しリゾナント:2015/03/30(月) 21:20:10
「・・・フクちゃん、生田の言うことはある意味正解だよ
 向き、不向きがある。得意、不得手はあるよ。だから・・・私は生田に、私の後を追うのはやめろって言おうと思った」
「そ、それってどういうことですか?リゾナンターをやめろっていうことですか!!」
「違う、具体的にはワイヤーを使うのをやめろってこと・・・かな。
 あの子には人並み以上、それこそ私以上の身体能力がある。それを使っていけばいいんじゃないかってね
 ・・・だけど今の生田にはそんなことを考えさせる余裕はないね
 結局自分らしさを確立させていないんだからね。悩む年頃なのかもしれないけどね
 それに、フクちゃんも考えた方いいよ、自分の役割ってことを」
「え??それって??」
「生田がいってた参謀役、っていうのも悪くないよ」

自分自身が参謀??
考えられない、と思っているとふと残してきた生田が不安になって後ろを振り向いた
前を向くとすでに新垣は姿を消していた
(・・・)
夜風が身にしみた、涙が浮かんだが花粉のせいではないだろう

★★★★★★

「生田、フクちゃん、強くなるしかないんだよ。だって・・・愛佳の予知では」

837名無しリゾナント:2015/03/30(月) 21:22:52
>>
『Vanish!Ⅲ 〜password is 0〜』(9)です。
ベリロスしてた・・・有明コロシアム最高だった・・・
ようやく復活傾向。ゆっくり完結させますが、やはりネタ入れたくなる性分だなw

838名無しリゾナント:2015/03/30(月) 23:14:02
お帰りなさいまし
代行行ってきます

839名無しリゾナント:2015/03/30(月) 23:30:42
行ってきますた

840名無しリゾナント:2015/04/03(金) 13:59:46
【但し書き】
・〜コールドブラッド〜の二次創作的な何か
・原作の設定をお借りしておりますが完全に踏襲しているわけでもありません
・〜コールドブラッド〜を愛された読者の方々には不快な思いをさせるかもしれません
 前もってお詫び申し上げます
・〜コールドブラッド〜? 何それ食べたことないけど美味しいのという方も回避を推奨しておきます
・一応『Regret d'agonie』http://www35.atwiki.jp/marcher/pages/1217.htmlと同じ世界観を共有する話です



「二人っきりだね」

…ああ、そうやな
サイコフォース「リゾナンター」も私とさゆの二人しか残っていない
でもこの傷の具合だともうすぐさゆ一人に・・・・

…ダメだ
たとえ冗談でもこんなことを言っちゃあいけない
いまいちばん苦しいのはさゆなんだから
私なんかより辛いのはさゆの方なんだから

さゆは一連の事件の中心にいた「吸血鬼」の教育係を務めていた
一連の事件の黒幕だった中国籍の彼女と姿形が似ていたさゆは、日本の事情に疎かった彼女のことをけっこう気にかけていた
そしてなにより

さゆのいちばんの親友だった絵里が「リゾナンター」の中で最初に「吸血鬼」の毒牙に掛けられた
「吸血鬼」の「眷属」となった絵里は「リゾナンター」に牙を剥き、かつての「仲間」を手に掛けかつての「仲間」によって除去された
さゆにとって関わりの深い面々が一連の「吸血鬼」事件の犠牲者や加害者に名を連ね…いや違う

841名無しリゾナント:2015/04/03(金) 14:00:18

サイコフォース「リゾナンター」なんて大層な名前で呼ばれていたって実際は十人にも満たない集団だった
一人ひとりの隊員が他の誰かと何らかの関係が出来上がっていた。
疎遠な間柄だってあったけど逆にそのことがネタになってしまう。
そんな濃い関係が生まれるような時間を私たちは共有してきた
筈だった
だのに

いったい何がいけなかったんだろう
どこで間違ってしまったんだろう
上司と部下としてかなりの時間を過ごしながら「吸血鬼」の正体に気付かなかったこと?
「獣人」だった彼女が心の奥底に「人間」への憎悪と不信感を抱きながら生きていたことに気付かなかったこと?

…それともまだ絵里の消息が不明だった時点で「吸血鬼」に変貌していた場合の処分を決定してしまったこと…なんかな?

小春にはいろいろ悩まされた
配属された時から気ままだったあの子は教育係として付けたさゆを悩ませたり、他のみんなとも問題を起こした
それだけじゃなく裏付けの無い勘で動いたり、能力を悪用した性犯罪者に対して過剰な実力行使を行ったり
私が書いた始末書や進退伺の原因はほとんどあの子だ

そんなあの子を荒事の現場で目の届かない場所に置いておくのを恐れた私は編成変えまでして私と組ませた
最初の頃は捜査や除去の対象以上にあの子の動向には警戒した
でもその為に疎かになって背中から撃たれた私をあの子は守ってくれた

あの子とのコンビは李純や銭琳が「リゾナンター」に加わった時点で解消したが最後の頃はあの子のことを信頼してあの子に背中を預けていた
そしてあの子は私の信頼と期待を裏切らなかった
その逆に私があの子の背中を守ったこともある
あの子、小春は何をしたかったんだろう

842名無しリゾナント:2015/04/03(金) 14:00:50

もしもあの子が「人間」の世界に紛れ込んで生きるのが目的だったなら
その障害となる「リゾナンター」を解体するために潜入してきたのだとしたら
今回のような「吸血鬼」に焦点が当たるような真似をせずとも、簡単に私の寝首を掻くことが出来ただろうに
でもあの子はそうしなかった

あの子の口から真実を聞きたかった
でも仮にあの子が真実を語っていたとしても私にはその言葉が真実だと信用できなかったかもしれない


絵里は私にとってもいちばんの親友だった
私は任務を忠実に果たすことでしか自分の存在する意義を証明できないと信じて生きてきたつまらない女だった
能力者で編成された特殊部隊の班長という物々しい肩書の所為でともすれば自分が女であることを忘れてしまいがちだった
でも絵里と話している時間だけは自分が年相応の女性なんだという当たり前のことを実感できた
そんな絵里が「吸血鬼」の手によって連れ去られた時、私の心がざわつかない筈は無かった

見つける手段をどれだけ模索しただろう
「闇の眷属」に堕ちた仲間にどう対処すべきか口にするのにどれほどの逡巡があっただろう

「リゾナンター」が私一人だけだったなら
たとえ「吸血鬼」の眷属に変わり果てていたとしても絵里のことを助けたかった

でも現実には「リゾナンター」は私一人じゃない
「リゾナンター」はあくまで警察機関の部署の一つだ
上部組織があって、連絡機関があって、「吸血鬼」事件が発生した時点で九人の隊員が在籍していた
そしてこれはまだ誰にも話してなかったけど、今後何次かに渡って新人を配属していく予定があるとの内示もあった
私の一存で人類の「正義」に悖る行為を犯してしまったらいったい何人の「人間」に迷惑をかけることになる

幾度かの暴走による譴責を一身に引き受けてくれた管理官
法令的には明確にアウトな備品の便宜を図ってくれた会計課職員
市民の安全を守るため、それだけの理由で所轄の壁を越えて情報を提供してくれた捜査官たち
私たちなら「人間」をその脅威から守れると信じてくれた人たちを裏切ってしまうことが私にはどうしてもできなかった

843名無しリゾナント:2015/04/03(金) 14:01:21

…李純は私たちのことを裏切ってたんだろうか
彼女にとっては異国であるこの国で彼女の両親の命を奪ったのは「リゾナンター」だ
「人間」から見ればそれは不幸な行き違いがもたらした事故なのかもしれない
しかし理不尽な理由で血族の命を奪われた彼女の立場に立てば紛うことなき災厄であり禍そのものだ
もしもその禍「人間」の手によってもたらされたものなら彼女には復讐する権利がある
私刑を止める者がいるなら、その者は咎を負うべき者に裁きを与える
それが「人間」の法だ

しかし咎を負うべき者と裁きを与える者が同一であったなら
同一であったが故に法の下の裁きを免れたとしたら
彼女には復讐する権利が生まれるのが道理
でも「人間」の社会の秩序を守る為に彼女の復讐の権利は否定された

李純の両親を殺したのは私が選抜される以前の「リゾナンター」だ
私の手も私が率いた「リゾナンター」の手も彼女の両親の血で汚れてはいない
しかし私が先達の「リゾナンター」の築いた在所に立っている以上、リーダーとして負の財産も引き受ける覚悟はある
でも私以外のみんなは…

「…ちゃん、大丈夫。ごめんね私を助けようとして。なのに応急処置ぐらいしかできなくて」

そうか
自分が治癒能力を失ってしまったことを言ってるんかな
確かにさゆの能力が今も健在だったら失った左腕は戻らないまでも傷口を塞いで血も止めてくれただろうな
あるいはみんなの中にも死なずに済んだ者もおったかもしれん
でもさゆには悪いけど今の私はそこまでして生きたいとも思っとらんよ
こうして息をしていて、さゆが声をかけてくれているから死のうとは思わん
神様が生きていろというなら生きていよう
でももしも神様が許してくれるならこのまま逝ってみんなに謝りたいと思ってるし

「夜が明けたら、SATが駆けつけるから」

844名無しリゾナント:2015/04/03(金) 14:01:52

ああそうだっけ
警察の組織図では私たちと横並びの特殊急襲部隊も出張ってきてるんだった
能力への耐性が低い一般人で構成された SAT が敵に惑わされて私たちの足を引っ張ることのないよう付近で待機してたんや


「腕は何処? 私じゃ無理だけど外科の専門医だったらもしかして」


落とされた腕をさゆの能力でくっつけてもらったことがあったな
あん時は右腕やった
でも今度は無理やろうな
だって噛み千切られた私の左腕は李純の体内にある

“空間置換”
それが私の持っている能力
瞬間移動とか空間跳躍と思っている者もいるけど任意の空間と空間を置き換えるのが私の本当の能力
無傷で正常な状態なら二つの空間を置き換えることは比較的容易
だけど片腕を噛み千切られて正常な意識を保つのが難しい状態では置換する空間の座標を正確に認識するのは困難だった
だから認識しやすい固体である私の左腕を李純の心臓と置き換えた
血液を身体中に送り出すことが出来なくなった李純は糸の切れたマリオネットみたいに倒れて逝った

時間があればもっと違うやり方を見つけてたかもしれん
でもさゆには時間が残されていなかった
さゆが装備していた官給のブローニング25口径の装弾数は6発
私の耳が捉えた銃声は5発
用心深いさゆのことやから遊底を引いて弾薬を薬室に送り込んでから、弾倉に補充して1発余計に撃てるようにしてるやろう
それでも残り2発
その程度で李純を止めることは出来なかっただろう
だから自分の左腕を犠牲にすることに何のためらいもなかった
それにもう一度は生きていることを諦めてたし

845名無しリゾナント:2015/04/03(金) 14:02:22


でも…なんで私は生きているんだろう
なんでこうして生き延びてくよくよくよくよ振り返っはりできるんだろう
腕を喰い千切られた衝撃が血管を通って心臓に来て失神した
そんな私の心臓が完全に止まったかどうかなぜ確認しなかったんだろう
脈拍とか鼓動を確認するのが面倒だったんなら獣化した牙で頭蓋ごと噛み砕けばよかったのに
獣化したその爪で私の臓器を捌けばよかったのに
四足獣の力で四肢を切り離せばよかったのに


なあ李純
もしかしたらすべてを終わらせた後で蘇生させた私に「リゾナンター」の犯した罪を総括させてから命で贖わせるつもりだったんか?
それともリーダーである私には他のみんなよりも苦しみを味あわせてからあの世に送るつもりだった?
違う
私と向き合ったあんたの顔はやり場のない怒りに囚われている復讐鬼の顔じゃなかった
積年の恨みを晴らせる喜びなんか感じられんかった
あんたはわかっていた
いつかこうなることがわかっていた
こんな日が来ることがわかっていた
わかりあえるはずなんてないとわかっていながらそれでもなんとかわかりたいと願い続けていた希望が完全に消えてしまった
そんな敗残兵のような顔をあんたはしていた

ああ、まるで私とおんなじ
鏡に映っている虚像と実像
私とあんたじゃ心臓に流れてる「血」は違っていても心の奥底で思っていることはそんなに遠く離れてはいなかった
もしかして、もしかしてあんたは自分を止めて欲しかったんか

846名無しリゾナント:2015/04/03(金) 14:02:53


ごめんねってあんたに言った
最後の決着をつけるために姿を現したあんたに私はごめんねって言った
あん時あんたは呟いとったけど何て言ってたんや
私の耳には届かなかったけど…知りたいよ

もしもこの夜を生き延びることが出来たら

それはこんな私でも生きていろということやろう
生きていてもいいのか
大切な仲間を失っておめおめと生きていていいのか
でも、さゆがいる
さゆだけは何とか守ることが出来た
そんなさゆを一人残して逝ってしまっていいんやろうか
辛いことや面倒な後始末をさゆ一人に残して楽になってしまっていいのか

生きよう
生きなきゃ
最低でもみんなを弔ってさゆの身の振り方が決まるまでは生きていよう

でも私みたいな能力者は持って生まれた能力で社会に貢献できなければ生きていくことを許されないから
だから私は「リゾナンター」から完全に離れることは出来ん
もう現場に出ることは叶わないだろう
でも経験から得た教訓を後進に伝えることは出来る
こんな悲劇を二度と繰り返さないように
これから生まれいずる能力者の子供たちがこんなかなしみを味あわなくてもいいような
そんな世界を作ることが私ができる唯一の償いなんかな

847名無しリゾナント:2015/04/03(金) 14:03:23

早く夜が明ければいい
数時間前までは夜が明けて曝け出された醜い真実を突きつけられるのが怖かった
でも今は違う
どんな絶望的な真実でも受け止めて生きていくのが私に課せられた使命なんだろう


・・・一人になったね


小春?
今の声は小春なんか
もしかして最後の最期で「リゾナンター」を取り戻したんか?

ごめんな小春
私は一人じゃない
私はさゆを守れたんだ
歩けないさゆと片腕を失った私じゃあ、実戦では一人分の戦力にすらならんかもしれん
でも私たちは続けていく
新しい共鳴の担い手に思いを託して「リゾナンター」は続いていく

だから待っていて
あんたや李純
絵里や他のみんなに謝るのももう少し先になりそうやから

848名無しリゾナント:2015/04/03(金) 14:04:35


「一人になったね」


え、さゆ?
あんたまでどうしたん?



閉ざされた視界の中で私の耳が捉えたのは誰かが瓦礫を踏みしめる音
自力では立てない筈のさゆがそんな音を発する筈がない
SAT が到着したんならもっと物々しい音がする
もしかして「リゾナンター」の誰かが生き残っていたのか
それとも討ち漏らした「吸血鬼」が迫ってきているのか

「さゆ、いったい…」

「愛ちゃんが最後のリゾナンターだよ」

849名無しリゾナント:2015/04/03(金) 14:05:18
>>-
『Ultima resonancia』

【但し書き】
・〜コールドブラッド〜の二次創作的な何か
・原作の設定をお借りしておりますが完全に踏襲しているわけでもありません
・〜コールドブラッド〜を愛された読者の方々には不快な思いをさせるかもしれません
 お詫び申し上げます
・〜コールドブラッド〜? 何それ食べたことないけど美味しいのという方も回避を推奨しておきます
・一応『Regret d'agonie』http://www35.atwiki.jp/marcher/pages/1217.htmlと同じ世界観を共有する話です

850名無しリゾナント:2015/04/03(金) 20:45:08
■ インシュアランス -研修生- ■

「これは?」

旧エッグです…

「旧?」

かつて存在した次世代能力者の開発機関です…

「『わたしたち』とは違うのですか?」

同じです…
いえ、『同じに変質してしまった』…
本来のエッグの目的を忘れ…卑近な…
ごく短期間で実用に耐えうる【能力者】を『生産』するなどという…
表向きのお題目を真に受ける実に度し難いおバカさんたちがいましてね…

「あらら。」

まあその結果エッグは廃止…
蜜の味を忘れられぬおバカさんたちへのいわば目くらましとして
『研修生』という代替機関が作られました…
ですからその意味では同じです…

「本来の『エッグ』の目的とはどんなものだったんですか?」

『あなたと同じ』ですよ…
あなたが攻性とすれば…エッグは…
そうですね…
まあ名前そのもの、とでも言っておきましょうか…

851名無しリゾナント:2015/04/03(金) 20:46:48
「このひとたちは?」

彼女たちは『存在しない存在』…
沢山の『彼女たち』にチャンスを与えたのですが…
結局処置に耐えられたのは彼女たちだけでした…

「このひとは?」

…気になりますか?

「とても美しい…」

なるほど…彼女は特別です…
彼女だけが唯一の成功例と言っていいのかもしれない…
当時としては…

「当時?」

ええ…現在では…

「わたしはいいのですか?」

852名無しリゾナント:2015/04/03(金) 20:47:28
必要ありません…
あなたはあなた自身の【能力】だけで充分に最強だ…

「でも、このひとに私は敵わないように思います。」

その通り…彼女には…あなたは勝てない…
狙われたら最後…逃げることも不可能でしょう…

ですが…それでもあなたが最強だ…
彼女の強さはあくまで『我々の中で』ということにすぎない…
一方あなたは…『A』とわたりあえる『可能性が』ある…
この一事をもってすれば、他の理由なぞ…

853名無しリゾナント:2015/04/03(金) 20:48:46
「可能性…」

…そう…可能性です…
その可能性が零ではない…それだけで…あなたは最強だ…

「そのときに死ぬんですね?わたし。」

先ほど述べたとおりですよ…

「そうですか。」

怖いですか?

「わかりません…ただ…」

ただ?

「ただ…わたしは…」

―――わたしは―――

854名無しリゾナント:2015/04/03(金) 20:52:30
>>850-853

■ インシュアランス -研修生- ■
でした。

以上代理投稿願います

855名無しリゾナント:2015/04/03(金) 20:53:55
>>850に間違いがありました
再投稿します

856名無しリゾナント:2015/04/03(金) 20:55:04
■ インシュアランス -研修生- ■

「これは?」

旧エッグです…

「旧?」

かつて存在した次世代能力者の開発機関です…

「『わたしたち』とは違うのですか?」

同じです…
いえ、『同じに変質してしまった』…
本来のエッグの目的を忘れ…卑近な…
ごく短期間で実用に耐えうる【能力者】を『生産』するなどという…
表向きのお題目を真に受ける実に度し難いおバカさんたちがいましてね…

「あらら。」

まあその結果エッグは頓挫し…
蜜の味を忘れられぬおバカさんたちへのいわば目くらましとして
『研修生』という代替機関が作られました…
ですからその意味では同じです…

「本来の『エッグ』の目的とはどんなものだったんですか?」

『あなたと同じ』ですよ…
あなたが攻性とすれば…エッグは…
そうですね…
まあ名前そのもの、とでも言っておきましょうか…

857名無しリゾナント:2015/04/03(金) 20:55:41
「このひとたちは?」

彼女たちは『存在しない存在』…
沢山の『彼女たち』にチャンスを与えたのですが…
結局処置に耐えられたのは彼女たちだけでした…

「このひとは?」

…気になりますか?

「とても美しい…」

なるほど…彼女は特別です…
彼女だけが唯一の成功例と言っていいのかもしれない…
当時としては…

「当時?」

ええ…現在では…

「わたしはいいのですか?」

858名無しリゾナント:2015/04/03(金) 20:56:37
必要ありません…
あなたはあなた自身の【能力】だけで充分に最強だ…

「でも、このひとに私は敵わないように思います。」

その通り…彼女には…あなたは勝てない…
狙われたら最後…逃げることも不可能でしょう…

ですが…それでもあなたが最強だ…
彼女の強さはあくまで『我々の中で』ということにすぎない…
一方あなたは…『A』とわたりあえる『可能性が』ある…
この一事をもってすれば、他の理由なぞ…

859名無しリゾナント:2015/04/03(金) 20:57:12
「可能性…」

…そう…可能性です…
その可能性が零ではない…それだけで…あなたは最強だ…

「そのときに死ぬんですね?わたし。」

先ほど述べたとおりですよ…

「そうですか。」

怖いですか?

「わかりません…ただ…」

ただ?

「ただ…わたしは…」

―――わたしは―――

860名無しリゾナント:2015/04/03(金) 20:58:21
>>856-859
■ インシュアランス -研修生- ■
でした。

以上代理投稿願います

861名無しリゾナント:2015/04/03(金) 21:57:03
今北
行ってきます

862名無しリゾナント:2015/04/03(金) 22:09:26
何とか終了
インシュアランスってたしか保険って意味だっけ
代替用の保険という意味ならなんかブラックな感じがする

863名無しリゾナント:2015/04/03(金) 23:47:39
>>808-812 の続きです



四方八方を鏡に囲まれた、空間。
鏡の一枚一枚に映った糾弾者が、たった一人の犯人に一斉に視線を向けた。

「今…全てがわかりました」

春菜が、静かに言う。
そこには、いつもの弱弱しさなど微塵も見られない。

「だね。かのも今、はっきりと確信した」

そこへ続くのは香音。
戸惑うのは遥一人だ。

「なにが…わかったんだよ?」
「『金鴉』が化けてるのは…」

ほんの一瞬の、沈黙。
そして。

「くどぅー、あなたよ!」
「は?ちょ、ちょっと待てって!何でそうなるんだよ!!」

指差され、納得のいかない表情の遥。
一方妙なことをされまいと、香音と春菜が間を詰める。

864名無しリゾナント:2015/04/03(金) 23:49:22
「だってはるは、はるなんと一緒にいただろ!そん時に『金鴉』の野郎がべらべら喋ってたじゃんか!!」
「あのアナウンスが、予め用意されていたものだとしたら…それはアリバイにはならないよ」
「たとえその推測が当たってたとしても、そのことがはるを疑う確かな理由にはなんないだろ!ここに
いる全員が疑う対象だろ!!」

遥が、春菜と香音を交互に睨み付ける。
まるで、二人の中のどちらかこそが「金鴉」だと言わんばかりに。

「それに、これがはるが本物のはるだっていう動かぬ証拠だ!!」

そして、掲げられた右手。
手の甲には、彼女の主張と同じように、くっきりとした×印が刻まれていた。
これは、喫茶リゾナントでさゆみが後輩たちに教えた「本物と偽物の区別を付けるための」印。

「あん時道重さんが言ってたじゃん!!これさえあれば相手の『擬態』も怖くないって!!あの場所に
はるがいたってことは、この印が証明してくれるって!!!!」
「…決定的、だね」
「そうですね」

必死に無実を訴える遥だが、それを聞いていた二人は首を振る。

865名無しリゾナント:2015/04/03(金) 23:50:33
「何が決定的なんだよ、わかんねえよ!はる、今変な事言ったか?どうせそれもあの時の会話を盗聴さ
れてたら、とか言うつもりなんだろ!だから言ってんじゃん、そういうこと言い出したらこの場に居る
全員が…」
「違うんだよ。確かにそれもアリバイを崩す要素ではあるんだけど。でも、今現在進行中で、あなたは
致命的なミスを犯してる」

それまで汗をかき、必死に身振り手振りで否定し、涙目にまでなっていた遥が。
その時はじめて、本当の戸惑いの表情を見せる。

「な、何だよ。そんなデタラメなことで」
「あなたには聞こえないんでしょうね。この声が」

春菜と香音は、ずっと会話を交わしていた。
「遥」だけが、その会話に加わる事ができなかった。
それは、彼女たちの会話に、共鳴しあうものだけが感じることができる声が使われているから。

それが、「心の声」。

「は、はっ!そうか!それで勘違いしてんだ!違う、違うんだよ!今、はるにはその声が聞こえないん
だ!きっと『金鴉』のやつがはるに何かしたんだって!」
「確かに。だから、そうおっしゃる可能性もあるかと思って。仕掛けました」
「は?」

春菜が視線を、遥の背後に向ける。
遥の後姿が映っている鏡。その曲がり角から。

866名無しリゾナント:2015/04/03(金) 23:51:57
「『工藤さん』は、どうして私を正体がばれたから『逃げた』って言ったんですか?私、ずっとこんな
近くにいたのに」
「あ…」

姿を現す、さくら。
そう。彼女は、ずっと機を伺っていた。
「工藤遥」が言い逃れできなくなる、その瞬間を。

「心の声も聞こえない。千里眼も使えない。あなたは本当に『工藤さん』なんですか?」

さくらの投げかける言葉は、ついに。
偽装者の仮面を、剥がす。

「…いつから、気づいてた?」

それまで遥だった彼女が、姿を変えてゆく。
背が縮み、髪の毛が伸び、そして顔のつくりが融ける様に変化する。

「最初からです。だって、変じゃないですか。透過能力を持つ鈴木さんと、五感強化の飯窪さん。それ
に、千里眼の工藤さんが『選ばれたかのように』攫われる。まるで、犯人探しをしてくださいって言わ
んばかりに」
「…それだけで疑ってたのかよ」
「そうですね。私、ダークネスに居た頃に『永遠殺し』って人に教わったんです。『完璧な事実ほど、
疑うべき』だって」
「ちっ、あのおばちゃんが言いそうなこった」

867名無しリゾナント:2015/04/03(金) 23:53:28
春菜も、香音も。
最初に遥が敵の擬態である可能性をさくらに示唆された時、半信半疑の思いが強かった。
普通は、この状況で真っ先に遥を疑う判断材料を見出すことはできない。そこにはさくら独特のものの
考え方が根ざしていた。

工藤さんは、心の声を使わなかった。
大声を張り上げて自らの位置を知らせる遥に、さくらは真っ先に違和感を覚えた。
確かに心の声はそうそう連発できるものではない。大声を上げたほうが楽な場合もある。それでも。
他のメンバーが心の声を使う中、遥だけが敢えて心の声を使わない理由。さくらはその時点で、疑いを
遥に向けていた。

「小田イズム」と、半ばからかいがちに表現されるさくらの思考回路。
しかしそれが、張り巡らされた罠を打破する決定打となった。

『金鴉』が、本来の姿を取り戻す。
けれど、その表情にもう焦りの色はない。まるで策が破れたことすら想定の範囲だったかのような、そ
んな表情をしていた。

「あいぼんの言うとおりだった。やっぱり注意すべきは、新入りのお前。か」

「金鴉」の言葉を、さくらは本能的に怖れた。
正確に言えば。彼女の背後にいる人物を、だ。

868名無しリゾナント:2015/04/03(金) 23:54:56
さくらを除いたリゾナンターたちの情報は、既にダークネスによって存分に把握されているであろうこ
とは当人たちも承知の上。そう言った意味では、さくらは組織にとって未知なる存在。かつて手中に収
め、彼女についての研究が行われていたとは言え、今のさくらは組織にいた頃のさくらではない。能力
も変質し、そしてより人間味のある人物となった。
さくらはかつて組織の手の内にあった身ながらも、リゾナンターの「隠し玉」でもあった。

それが、今回のことでこちらの有利性は一気にひっくり返される。
「金鴉」が、いや、彼女に指示を与えた人間はそれを狙っていたのだ。

「ってことで。次のアトラクションに移動、だ」

言いながら、「金鴉」が右手を三人に翳した。

まずい。また、どこかに飛ばされる!?

身構える間もなく、抗えない力がさくらたちの身に襲い掛かる。
鏡にはもう、誰の姿も映ってはいなかった。

869名無しリゾナント:2015/04/03(金) 23:55:56
>>863-868
『リゾナンター爻(シャオ)』更新終了

870名無しリゾナント:2015/04/07(火) 19:01:01
■ チェリィブロッサム -研修生- ■

「この子たちはどなたなんですか?」

キッズ…そう呼ばれていた子供たちです…
とはいえ、この記録はだいぶ古い…みなさんあなたより年上ですよ…

「そうなんですか。」

こちらの子の【能力】が、今のあなたと似ています…
もっともそれは現象面において、ということですが…

「すごい、この方は『戻す』ことが出来るんですね。」

…より正確にいうと事象の確定を先延ばしにする…そして…
確定させるか…発現点まで無かったことにするかを選択する…

「へえ。」

そしてこちらの方もあなたと似た【能力】者です。

「『止める』力…私と同じだ…」

ええ…まあ…

「お二人とも随分と長く…私なんかまだまだなんですね。」

たしかに、あなたは、数秒が限界…
彼女は数分…この方の場合は数時間とも…数日とも…
誰も限界を知らない…そういった意味では大きな差がある…

871名無しリゾナント:2015/04/07(火) 19:01:37
「二人とも、一度お会いしてみたいな…」

…それは残念ながら…彼女たちは、すでに死亡しています…

「まあ…」

…【能力者】というものは、どれほど強力な【能力】を持っていたとしても、
その運用を誤れば、あっけなく…実にあっけなく敗北する…
彼女たちの死は実に…実に多くの教訓を含んでいる…そうは思いませんか?

「はい。」

まあいいでしょう…それと、先ほども少し触れましたが…
彼女たちは、あなたのもつ【能力】の…
『現在発揮されている機能』と『多少似ている』にすぎません…

「はい。」

幼少時より覚醒していたあなたには、あなたなりの【能力】の運用が、
すでに出来上がっている…
もちろん、それはとても価値ある機能だ…

「はい。」

872名無しリゾナント:2015/04/07(火) 19:03:44
ですが…知りたくはありませんか?
あなたの可能性を…あなたが『本来』どんな【能力者】になるはずであったのかを…

「はい。知りたいです。」

よろしい…
さて、記録は拝見しましたよ…ご家族は残念でしたね…
もっとも、あなたはさほど興味もないでしょうが…

「ふふ。」

そうだ…いつまでも番号というのでは味気がありませんね…
これからは名前でお呼びしましょう…

「いいんですかそういうのって。」

気にすることはありません…もうあなたは『研修生ではない』のですから…
もっとも、他になにか名乗りたい名前があるなら、それでもかまいませんが…
なにかありますか?

「特にないです。」

そうですか…
では行きましょう『さくら』さん…

『小田さくら』さん…

873名無しリゾナント:2015/04/07(火) 19:05:03
>>870-872

■ チェリィブロッサム -研修生- ■
でした。


以上代理投稿願います。

874名無しリゾナント:2015/04/07(火) 21:45:28
代理投稿行ってきます!

875名無しリゾナント:2015/04/10(金) 07:33:16
>>863-868 の続きです



「あ…」

突如現れたポニーテールの少女によって攫われたかと思われた、遥の姿が再び現れる。
転送したように、見せかけた。その意味も、意図も。ここにいるリゾナンターたちには理解する術はな
いが。

「くどぅーおかえりっ!」
「一瞬くどぅーの姿が消えたように見えたんだけど」
「そうだ、あいつ!!」

亜佑美に訊ねられ、遥が思い出したように叫ぶ。

「人の顔ぺたぺた触りやがって!挙句の果てに『お前の血はまずそうだなぁ』とか言っちゃってさ、む
かつくったらありゃしない!!」

何の意味があるかは解らないが、相手は遥を転送させた後にご丁寧にもといた場所に再転送したの
だという。その意図を、話を聞いている亜佑美と優樹が知る事はできない。

そんな中、思い出したように施設内の放送設備から甲高い声が流れる。

876名無しリゾナント:2015/04/10(金) 07:34:47
「せや。うちまだ名乗ってへんかった。うちの名前は『煙鏡』。ダークネスの幹部、やってるもんや。
ああケムリ言うても、煙の出るお線香なんて吸うてへんよ。って煙の出るお線香ってなんやねん。ほれ、
あれや。温泉旅行に行った時とか無性に吸いたなる、って何言わせてんねん。アホかボケナス。とにか
くまあ、お前らリゾナンター…生かして返さへんから。ほなまた」

言いたいことだけ言って、それきり沈黙してしまう、「煙鏡」と名乗った少女。
ダークネスの手の者であることは予想していたが、まさか幹部クラスのお出ましとは。
緊張と不安がメンバーの中を錯綜する。

一方。

「…なんなのよ。何だってのよ!!」

自らの計略を突如現れた邪魔者に全てひっくり返された、哀れなシンデレラは。
怒りのあまり、叫び声を上げる。

先ほど姿を現した少女に、花音は見覚えがあった。
いつぞやの会議の中で「要注意人物」としてホワイトボードに貼られていた写真。最近組織の一線に復
帰したという二人組の能力者の片割れだ。

となると。
花音の動きを知ってか知らずか。
彼女たちはリゾナンターたちとここで事を構えるつもりだったようだ。
言わば、計画と計画の正面衝突。
既に自分は主役の座から引きずり降ろされた。あまつさえ三下扱いされたことに理不尽な怒りは覚える
ものの、そこに拘っている場合ではない。すでに花音の感情は、怒りよりも理性が勝っていた。

どうする?ここは一旦立て直すか。
後輩たちが揃いも揃って枕を並べて敗北している状況。うち一人は花音自身が私刑を与えたのだが。と
もかく、これから勢い勇んで幹部狩り、という選択肢はないに等しい。

877名無しリゾナント:2015/04/10(金) 07:36:35
ならばこのまま立ち去るか。
相手はどうやらリゾナンターにご執心で、花音たちのことはどうでもいいらしい。テーマパークのあち
こちは火の海だ。面倒なことになる前に、この場を離脱したほうがいいかもしれない。

時間にして数秒にも満たない、ほんの僅かな逡巡。
だが、その迷いとあちこちから吹き上げる炎の柱が、花音の「隷属革命」の効力を弱めていた。彼女に
とって予期せぬ事態がすぐに、発生する。

「あれ…」
「ここどこ…てか、あの火の柱って!?」
「な、なんか、やばくない?」

花音に操られていた群衆たちが、次々と正気に返る。
夢から醒めて間もないような反応を見せる、花音がかき集めた観光客たち。
その隙を、亜佑美は見逃さなかった。

「今だ!!」

自らの内なる獣、青き獅子に呼びかける。
風を切る迅さはそのまま亜佑美のスピードとなり、それこそ目にも止まらぬ速さで人と人の間をすり抜
け、囚われの身となっていた聖を救い出した。

「しまった!」
「あんたのゲームは、もうおしまいだよっ!!」

得意のどや顔を披露しつつ、亜佑美が高らかに宣言する。
その間に聖は倒れている朱莉に駆け寄り、治療を始めた。

878名無しリゾナント:2015/04/10(金) 07:41:21
「くそ…くそ!あんたたち如きが、よくも、よくも!!!!」

感情が、再び激しく熱せられる。
花音の溢れる怒りは、止められない。
再びシンデレラの魔法を、しもべたちにかける勢いだ。

「福田さん…もう、やめにしませんか」
「うるさいっ!何がリゾナンターだ!エリートのあたしが、あんたたちに遅れを取るなんてありえない、
ありえないっ!!!」
「こんなことをしても、あなたの孤独は癒されない」

朱莉に手を翳して治癒の力を送り込みながら、まっすぐに聖は花音を見据える。
朱莉は、身を挺して自分のことを守ってくれた。そのことを考えると心がねじ切れてしまいそうだ。
でも。だからこそ。この因縁に決着をつけなければならない。突きつけなければならない。
花音と接することで、知ることができたすべてのことを。

突然の、聖の発言。
それを聞いて、花音は、大げさに顔の表情を歪めた。

「はぁ?フクちゃんの言ってる意味、わからないんですけどぉ?」

わざと相手を苛つかせるように、語尾を伸ばし気味に。
それでも聖には、今の聖には。理解できる。
それが、彼女自身を護る為の仮面に過ぎないことを。

879名無しリゾナント:2015/04/10(金) 07:43:04
「聖、思ったんです。福田さんは、きっと誰かに認められたい、見てもらいたい。そう思ってるんじゃな
いかって。だから」
「…何勝手に決め付けてんの?ばっかじゃない?」

群集が、次々に悲鳴を上げてこの場から逃げ去ってゆく。
花音の隷属革命は最早完全に影響力を失っていた。散発的な逃走は、やがて雪崩を打ったような人の波へ
と変わっていった。

花音の中で、膨れ上がる思い。
いつも四人で行動していたあの日。一人は、自由気ままに振舞っていた。一人は、自らが認めた相手の顔
色ばかり窺っていた。そして最後の一人は。

「福田さんが操ってた人たちから、感じたんです。福田さんの本当の気持ちを」
「はいはい、凄い凄い。妄想もそこまで来ると立派なもんだね」

そんな自分のことを思っている友人のことを、大切に思っていた。
だから。

「そういう風に考えたら、何だか福田さん自身の声が聞こえてきたような気がして。誰か、私のことを見
て、って」
「いい加減にしろよ。黙れ」

あたしは、ずっと一人ぼっちだった。
四人でいても、一人だった。
紗季は、自分の欲望のために動いていた。憂佳は、彩花のために動いていた。そして、彩花は。誰も。誰
も。誰も。あたしのためになんか、動いてくれない!!!!

880名無しリゾナント:2015/04/10(金) 07:44:06
「黙れ。黙れ黙れ黙れ。黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れだ黙ま黙れよおぉぉぉ!!!!!!!!!」

感情が、爆発する。
花音から弾け飛んだ黒い感情の流れが、一気に聖たちに襲い掛かった。
精神操作能力者が自らの力を律しきれなくなった時に発生する現象。

「やばい!すぐにここから離れないといけん!!」

その危険性を最もよく知っているのが、自らも能力を暴走させたことのある衣梨奈。
しかし、この黒い感情を自らの精神破壊で相殺するのはあまりにリスキーだ。

花音の感情の矛先は、当然のことながらその場にいるリゾナンターたちに向けられる。
対象の精神を屈服させ、思いのままに操る「隷属革命(シンデレラレボリューション)」。そのひれ伏せ
させる圧力が、天から落ちてくる途轍もない質量の大岩のように彼女たちに圧し掛かっていた。

「な、なんだよこれ!やめろよぉ!!」

感受性の高い遥が、自らの感情の乱れに戸惑い、泣き叫ぶ。
亜佑美も、聖も、衣梨奈も。なすすべもなく段々と黒い感情の渦に取り込まれていた。
そんな中、一人だけ平気な顔をしているメンバーがいた。

「いーひひひひ。こちょぱいこちょぱい」
「ま、まーちゃん!?」

まるでくすぐられているように、体を捩じらせる優樹。
自らも不快感に苛まれながらも、優樹を心配する亜佑美だったが。

881名無しリゾナント:2015/04/10(金) 07:45:06
「やっ…ほーたーいっ!!!!」
「あれ?」

目の前の景色が変わったことが、優樹の瞬間移動によるものだと気づいたのは、自分以外の全員が姿を消
したのを認識した少し後のこと。

「えっ?えっ?」
「やっ!ちょ、まーちゃん!?」

同じように転送された面々が、次々と姿を現す。
衣梨奈。遥。聖。そして聖に手当てを受けていた朱莉も。
予告なしに発動した能力発動に戸惑う、仲間たち。
そしてそれは、「彼女」も同様だった。

「これは、転送!? あんた、よくもあたしにそんなものを!!」

自らが優樹の「転送」によって移動させられたことに気付き、怒りを露わにする花音。
ただ、先ほどのような禍々しい感情を帯びてはいない。

「どうして…?」
「もしかして、これを狙って優樹ちゃんは」

気分転換の一つに、外の景色を見るという方法がある。
そこには視覚に刺激を与えることで、気持ちを一新させるという原理が働いている。
花音は、それを強制的にさせられたというわけだ。

もちろん、こんな方法は狙ってできるようなものではない。
ただ、ほんのわずかな景色の変化、状況の変遷が。花音の精神を闇から「ほんの少しだけ」ずらす。
彼女の心は、図らずも闇堕ちする一歩手前で踏みとどまっていた。
それでも、リゾナンターたちに対する敵意は消えていないが。

882名無しリゾナント:2015/04/10(金) 07:46:10
「いひひ、まーちゃん難しいこと、わかんない」
「…なるほどね。あたしを『しもべたち』から引きはがすことで無力化を狙ったわけか。でもね、そんな
の無駄。だって」

視界に入った人間すべてが、あたしの奴隷。
そう言おうとして、近くの人だかりに目をやったものの。

人が、玉蜂でも作るのではないかという勢いで一か所に集まっていた。
彼らのはるか頭上で「SEE YOU AGAIN!!」とデザインされた旗がひらひらと揺れている。
近くには、テーマパークのエリア同士を結ぶモノレールのレールが見える。
ここは、「リヒトラウム」の通用門だということは、見てすぐに理解できた。

人々は押し合い、圧し合い、人の波に揉まれ、かき分け。
我先にと外へ出ようとしている。

「…そうだ!あの炎の柱が!!」

最初はその光景を不可解な表情で見ていた亜佑美が、大きな声を上げる。
女王の城の向こうから見えた、立ち上る複数の炎の柱。あんなものを見たら、誰もがパニックに陥るはず。
だから皆、必死の形相で外へ逃げようとしているのだ。

押しのけ、服を引っ張り、引き倒す。
倒れた人を後からやって来た人が、踏みつけ超えてゆく。
首根っこを掴まれた男が激昂し、相手を殴り倒す。
自分が、自分だけが助かりたい。
群がる全ての人が、我を失っていた。

883名無しリゾナント:2015/04/10(金) 07:47:09
「こうしちゃいられん!えりたちもみんなの手助けするとよ!!」
「待てよ生田さん!」
「なん!?」
「何か、様子が変だ」

人だかりは、減るどころか、アーケードを駆け抜け逃げてきた人々を吸収しさらに大きくなってゆく。
なのに。その輪は縮まるどころかますます膨れ上がっていた。
なぜか。答えは、とても単純なものだった。

「出口が、塞がれてる」

遥の言葉は正確ではなかった。
出口は、確かに誰かが設置したと思しき分厚い鉄板によって塞がれていた。
ただし。一か所だけ隙間があった。それこそ、人一人が通れるくらいの隙間が。

「くそっ!あいつら、こんな恐ろしいことを狙って!!」
「ううん。もっと、恐ろしいことだよ」

施設内の放送をジャックした二人組が仕掛けた炎の罠がこんな状況を引き起こしている。
怒りを露わにする亜佑美に、聖がゆっくりと首を横に振る。
彼女が指を指した場所。

モノレールのレール。
本来なら円を描くように繋がるその軌道が。
すっぱり、綺麗に断ち切られていた。そして鋭く抉られたその切っ先は。
まっすぐに、そして狙い澄ますかのように、多くの群集が揉みくちゃになっている通用門へと向けられていた。

それが一体、何を意味するのか。
遠くで軋むレールの音が、まるで悪魔の讃美歌のように響き渡っていた。

884名無しリゾナント:2015/04/10(金) 07:48:41
>>875-883
『リゾナンター爻(シャオ)』更新終了

885名無しリゾナント:2015/04/13(月) 21:32:21
>>875-883 の続きです



まるで魔法の絨毯にでも乗っているかのようだ。
ただ一つ。絨毯がコンビニの入り口に敷かれていたダスキンマットであることを除けば。
逆に言えば、それがさゆみに現実感というものを齎していた。

風に乗り、さゆみを乗せて一定のスピードで飛行するマット。
それを巧みに操るは、足の長い、黒髪の美少女だ。

かそくどそうさ?で操ってるんさぁ。

ふわりと浮いたマットに乗るよう促したその少女は、さゆみとともにそれに飛び乗ると、軽快に空を
飛ばしていった。
危ういバランスで飛行しているような様子を不安げに見ていたさゆみに、少女が掛けた言葉がそ
れだった。

「加速度操作」。
そう言えば、先日春菜と衣梨奈が助けた能力者の少女の使う能力が、それだったはず。
さゆみは思い出す。彼女は。

スマイレージ。
警察組織が新たに対能力者の切り札として結成した「エッグ」の一部隊。

886名無しリゾナント:2015/04/13(月) 21:33:57
「道重さゆみさん、ですよね? はるなんからよく、話聞いてます」
「そういうあなたは。確か、和田…」
「彩花です」
「そう、彩花ちゃん。彩花ちゃんは、どうしてさゆみを?」

向かい風の強さに、思わず顔を顰めるさゆみ。
それでも「魔法の絨毯」の勢いは削がれない。彩花が加速度操作を巧みに使っている証拠だ。

彩花の同僚・福田花音は自分たちリゾナンターに並みならぬ敵意を抱いているという。
もちろん、彩花は花音ではない。けれど、それが彩花が敵ではないという証拠にはならない。が。

「かにょんが。『リヒトラウム』に向かってるんです。あやのせいで。あやは…あの子を止めなきゃ
いけない。スマイレージの、リーダーとして。そして何より」

さゆみは確信した。

「同じ苦しみを分かち合った、友として」

この子は、自分たちの敵では決してないということを。

しかし、気になるのは愛佳の「予知」だ。
彼女の話した内容をストレートに読み解けば、後輩たちは血の海に沈む。そんな未来が待っている。
そしてそれを望むのは、福田花音なのか。

887名無しリゾナント:2015/04/13(月) 21:44:55
わからなかった。わからなかったけれど。
ともかく、一刻も早く光と夢の国へと辿り着かなければならない。
ただ単に彼女たちが敵襲に遭うなら、そこまで急ぐ必要はない。なぜなら、さゆみは彼女たちに大き
な信頼を寄せているから。
ただ、愛佳の予知が外れたことなど一度もない。回避する手立てはあるけれど、手を打たなければ間
違いなく確約された未来が訪れる。その正確さは、愛佳と長い月日を歩んできたさゆみが一番良く知
っていた。

「ところで、彩花ちゃん」
「なんですか?」
「リヒトラウムは、こっちの方向であってるの? 何だか適当に飛ばしたようにも見えるけど」

彩花の扱う加速度操作はあくまでも「速度」を「操作」するものであり、物体を飛行させるものでは
ない。
つまり、この場合。最初の投擲が非常に大事になってくる。

「あやには。全てが『観ぇ』てるんさぁ」

まさか。
彼女も、二重能力者だというのか。
さゆみがかつて出会った前田憂佳という少女は、人工的に「造られた」二重能力者だった。
その同僚である彼女もまたそうである可能性は十分だが。

「なーんて。一度、言ってみたかっただけです。実は、あそこに大きな鉄塔が立ってるじゃないです
か。あそこの方向に、リヒトラウムがあるって、知ってたんです」
「なんだ、びっくりしたぁ」

二重能力者と聞くと、どうしてもさゆみは思い出してしまう。
かつて喫茶リゾナントにいた、頼もしいリーダーのことを。
皆を導いてくれた、光と影の狭間に立つ人のことを。

888名無しリゾナント:2015/04/13(月) 21:45:31
さゆみは、理想のリーダー像というものを模索していたことがあった。
眩いほどのカリスマ性と包容力でリゾナンターたちを率いてきた、高橋愛。
それとは違う形で、統率力と言うものを見せてくれた、新垣里沙。
二人ともリゾナンターのリーダーの名に恥じぬ活躍をしてきた。進むべき道を、背中で語ってくれた。

ならば、自分はどういう形を示せばいいのか。
悩み、迷い、底の見えない思考の沼地に足を取られかけた時。
かつて友が残した言葉が甦った。

― さゆは、さゆのままがいいよ ―

今も自らの病と闘い続けている、無二の親友の語ったことの意味。
ありのままの自分を体現することで、それが新たな後輩たちへの道しるべとなる。
そう思い至った。だから。

陰謀渦巻く光の国へ赴く。
歴代のリーダーたちが、そうしてきたように。
さゆみが後輩たちに、進むべき道を照らすために。

889名無しリゾナント:2015/04/13(月) 21:47:55
「…そろそろ、見えてきますよ。シンデレラの、お城が」

彩花の言葉に誘われ、前方に目を向ける。
広大な敷地に、色とりどりのメルヘンチックな建物が敷き詰められた光の都。
その中央に、白亜の城が聳え立っていた。

「シンデレラ?」

彩花の物言いに、首を傾げるさゆみ。
シンデレラの城は、もっと東にあるあの有名な遊園地にはるはずだが。

「シンデレラは、幸せにならなきゃいけないんです。必ず」

さゆみには、彩花の言っている意味が理解できなかった。
その真意は、彩花の胸の奥に。語られることは、なく。

890名無しリゾナント:2015/04/13(月) 21:48:27
>>885-889
『リゾナンター爻(シャオ)』更新終了

891名無しリゾナント:2015/04/14(火) 21:16:12

「魔術」や「魔女」という言葉に触れた時、あなたはどんな印象を受けるだろうか
リゾナンターによって「能力者」の存在が確定された現在では、魔法などファンタジーの領域に属する絵空事なのかもしれない
歴史上、「魔女」と呼ばれた女性が何人もいた
科学の光の届かぬ未開の共同体を円滑に持続させるためにまじないという名の魔法を施す呪術師
己の欲望を満たす為だけに何人もの人間の命を奪った毒婦
能力者としてこの世に生を受け、その能力を恐れられたがゆえに魔と称せられた女性
リゾナンターの前に幾度となくたちはだかった藤本美貴も魔女と呼ばれ恐れられてきた
時に暗黒魔女ヘケートとして、時に氷の魔女ミティとして呼ばれた彼女の足跡もリゾナン史研究家としては非常に興味深い

美貴様美貴様お仕置きキボンヌ エリソン・P・カーメイ


これまで紹介した新垣里沙の手記の日付

2007/5/13 i914の捜索を命じられるも抵抗する
2007/5/16 結局捜索任務を引き受けざるを得なくなる
2007/5/28 任務は不調 報告の為に戻った拠点で安倍なつみと対面
2007/5/31 i914が最後に目撃された地点を重点的に捜索する方針を決定
2007/6/1  i914を発見
2007/6/5  折角見つけたi914を組織が回収しないことに苛立つ
        i914こと高橋愛からの着信が多いことにも辟易
2007/6/6  i914から開業予定の喫茶店のスタッフに加わってくれるよう頼まれる
2007/6/9  組織は当面の間i914を泳がせておく方針を決定
      里沙は継続的な監視の為の拠点づくりを命じられる
2007/6/11 喫茶店への参画を正式に拒否 その際にi914の過去を聞く
2007/6/18 i914が一時期身を寄せていた喫茶店のマスターと敬愛する安倍なつみの人物像が重なったことに激高した里沙は藤本美貴とi914をぶつけることを画策

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892名無しリゾナント:2015/04/14(火) 21:16:44


2007/6/19
組織の中における私の地位は低い
低いというか嫌われているというか
人格そのものが否定されているというよりは能力が必要以上に警戒されているといった方がいいのか
そんな状況を不当だと考えたことはない
精神干渉
他人の心を凌辱して引っ掻き回すような力の持ち主など避けられるのが当然ってものだろう

安倍さんを除いて比較的フランクに私と接してくれるのは同系列の催眠能力を持つ吉澤さんと別格の存在感を持つ中澤さんぐらいのものだ
それ以外の幹部連に軽侮の眼差しで見られても、その人間に対して悪感情を抱くことは基本的に無い
私のことを秒殺できる実力者たちに不興を買いたくないという保身の気持ちがあるのは事実だ
だがそれ以上に向こうがどう思っていようと私は二つ名持ちの幹部連のことが好きなんだって気持ちが強いんだと思う
組織の大義の為に戦っているという点で私は同志だと思ってる
向こうは私のことを虫けらぐらいにしか思ってないかもしれないけど
逆に言えば組織より自分の利益を優先して行動している人間に対しては私は良い感情を抱いていない
たとえその相手が私に馴れ馴れしげに接触してくることがあってもだ  -----------------(注1)
藤本美貴はその最たる存在だ
あの女は常に自分の欲望を優先する
時には組織の利益に反するような行動さえ選択する
そんな自分勝手な狂犬がなぜ粛清もされず今日まで生き残ってきたのかといえば藤本が強いからに他ならない
戦闘者としての藤本故人の実力もさることながら、それ以上に評価されているのは擁している私兵の数とそれを支える資金の豊富さにある
一部の上層部には協力金という名目の賄賂を渡して籠絡しているという噂さえ耳にする
計算高い牝犬が

あの女の財力を支えているのが人狩りだ
お得意の結界とやらの中に誘い込んだ人間を私兵に狩らせて需要のあるところに売り飛ばす
頑強な男ならダイヤモンド鉱山や放射線に被曝する危険の高い現場へ
普通の体力の男なら眼球から心臓に至るまであらゆる臓器を売り捌く
そして女は…

893名無しリゾナント:2015/04/14(火) 21:17:19

人身売買のビジネスに私を協力させたいらしい藤本が馴れ馴れしげに話しかけて来た時、女性の獲物の末路について聞かされた時は本当に吐き気を催した
おぞましい
あの女は魔女だ
安倍さんが清廉な天使だとしたら藤本は不浄な魔女だ
だが私はそんな藤本でさえも利用してやろうと思う
あの女、i914の存在が気に食わない
あいつを監視する為に、安倍さんのいる拠点から離れて暮らさねばならないことも気に食わない
隠れ住んでいた山村から上京してきたあいつを助けた女性の人物像が安倍さんと重なることも気に食わない
だが何より私があいつを許せないのはあいつが無邪気に正義の味方を気取ろうとしていることだ
何がリゾナンターだ
ふざけるな
ピンチな時に助けを呼べば必ず駆けつけてくれる正義のヒーローなんて存在しない
あの日、安倍さんの翼が折れた時、私は自分の立場もわきまえず助けを呼んだ
だけど誰も助けてなんかくれやしなかった
駆けつけてさえくれなかった
正義のヒーローなんてこの世界には存在しない
そのことをあいつに思い知らせてやるため、藤本美貴にあいつをぶつけてやろう
ちょうど次の人狩りが迫っている
その現場の近くにあいつを呼び出して誘導してやろう
残念ながら私の能力では藤本の張った結界に侵入することは適わない
だけど瞬間移動の能力を保有するi914なら可能な筈だ
そしてi914の痕跡をトレースして私も結界の中に潜り込む
その上で二人の戦いの状況に応じて動く

理想的なのはi914が藤本によって生死の境目を彷徨うぐらいのダメージを与えられることだ
もしもi914が普通の日常生活を送れない状態になったらさすがの組織も回収せざるを得ないだろう
私の任務も終了、拠点に戻って安倍さんのお世話をしながら洗脳屋として暮らしていこう
命を落としたところで私は全然構わない
組織が長年追い求めていたi914を死なせてしまった責めを負うのは藤本だ
私は監視不備の責任を問われるかもしれないが、それだけで粛清される事態になるとは思えない
その程度の利用価値が私にはある筈だ

894名無しリゾナント:2015/04/14(火) 21:17:51

万が一、i914が藤本を倒したとしても私には実害は及ばない
不浄な魔女が評価を落とし、組織内での影響力を失う
ただそれだけのことだ

なんにせよ人狩りの正確な日時を探ることが先決だ
藤本の私兵のうちの何人かの情報は掴んでいる
そいつらの精神を揺さぶって、決戦の日時と場所を探り出そう


2007/6/19
少し手間取ったが人狩りの日時がわかった
場所が判明するのはもう二三日かかりそうだ
とりあえずその日のi914の予定だけは押さえておこう
どうせ友達もいないあの女はトレーニングでもしてるんだろう  ------------------(注2)
あるいは喫茶店の物件探しでもしているのか
それにしても一度に50人以上、それも少女ばかりを狩るとは藤本の奴血迷っているのか


2007/6/23
人狩りの現場が意外にあいつの仮住まいに近いのことに驚いた
好都合なのは事実だけどあまりにも都合が良過ぎて何か仕組まれている気さえする
いや藤本とi914を戦わせることを仕組んだのはこの私だ
ビビッていても始まらない
あいつを魔女の結界の中に送り込む手順を決めておこう


2007/6/25
5日後、6月30日のあいつの予定を聞いた
遊びに誘われたとでも勘違いしたのか嬉々として話すあいつの顔を見ていると少しだけ心が痛んだ
どうやらこんな私でも少しは良心の欠片が残っているらしい

895名無しリゾナント:2015/04/14(火) 21:18:26

2007/6/26
藤本の私兵の人員配置がある程度わかった
あの用心深い女はどうやら結界の外部にも何名か監視を置くようだ
まあ当たり前といえば当たり前だが
これで私自身があいつ i914を魔女の結界の近くまで誘導するってわけにはいかなくなったが何の問題もない
精神干渉と精神感応
私とあいつの能力は物凄く近い領域にあるし、重なっている部分もあるが決定的に異なるのは能力の方向性だ
私がラジオの放送局ならあいつはラジオの受信機のようなもの
まるで光と影の関係性みたいだ  
あいつは、私たちの出会いは偶然ではないとこの間言っていた -----------------(注3)
もしもあいつとの出会いが必然だというなら最大限に活用させてもらうことにしよう

人狩りの犠牲者を装った私の思念をあいつに伝えて魔女の結界に誘き寄せる
あいつは正義の味方を気取っている
そんなあいつは助けを求める声を辿った先に人間の侵入を拒む結界が存在したら必ず突入するだろう
後は成り行き次第だがどう転んでも私の不利益にはならないはずだ

896名無しリゾナント:2015/04/14(火) 21:25:31
>>891-895
あと1レスあるんですがNGワードとやらに引っ掛かった所為で書き込めませぬ
別に「死ぬ」とか「殺す」とかそんな物騒なのは含んでないと思うんですが

というわけで本スレへの投下は延期します
というか続きは断念するかもです

897名無しリゾナント:2015/04/14(火) 21:27:38
というかNGワードを割り出すためにチェッカーとして細切れに投下しますのでお見苦しいかもですがご容赦を


2007/7/1
バカな
もう一人能力者が現れただと
それも共鳴増幅という超レアな能力の持ち主と来たもんだ
そんな都合のいい偶然があってたまるか
もしかして今回の件は周到に仕組まれたものなのか
だったらいったい誰がそんなことを
まずは共鳴増幅を持つ女の情報集めをしよう
いやっその前に組織に報告すべきなのか
田中れいな
こいつの存在が吉と出るか凶と出るか
それを決めるのはこの私だ

898名無しリゾナント:2015/04/14(火) 21:28:08
しかしあの藤本美貴があっけなく敗れたのは意外だった  ------------------(注4)
油断したのかそれとも慢心?
本人は逃げ果せたようだが戦いに敗れたことで求心力が低下したのは間違いない
田中れいなによって打ち倒された多数の兵隊は警察に検挙された
大物ぶってた藤本が組織内での発言力が削がれたことだけは喜ばしい

899名無しリゾナント:2015/04/14(火) 21:28:44

(注1)新垣里沙はかなり厳しい視線で藤本美貴を捉えていたが、藤本美貴はかなり親しげに話しかけていたという記述が散見される
    リゾ文書(16)048 『スパイの憂鬱7(前編)』はその最たるものである。その内容の突拍子の無さから資料としての信憑性を
    疑われることもある『スパイの憂鬱』であるが今回発掘した新垣里沙の手記によってその信憑性が高まることを願ってやまない

900名無しリゾナント:2015/04/14(火) 21:29:42

(注2)ストイックなまでに己を鍛え上げた戦士、高橋愛。 そんな彼女のトレーニング風景を撮影した貴重な写真を添付しておく

901名無しリゾナント:2015/04/14(火) 21:30:58
判明
画像のリンクがアウトだったみたい
2ちゃんでもダメなのかしらん

902名無しリゾナント:2015/04/14(火) 22:17:53
続きが断念になるような残念な事態にならなくてよかった

903名無しリゾナント:2015/04/16(木) 12:03:05
>>885-889 の続きです



直線のみで描かれた、無機質な白い建造物。
その目と鼻の先に、天使の奪還部隊は降り立った。

「はは。りっちゃんのくせにやるやん。座標が驚くほど正確やね」

能力者たちの先頭に立つ、白スーツ。
対能力者組織の本部長の地位にあるつんくは、目の前に目標の建物があることに満面の笑みを浮
かべていた。
脇を固めるは、二人の護衛。一人は、和服姿が似合いそうな鋭利な顔をした女。そしてもう一人は、
歌のお姉さんのように優しげな表情をした女だ。そのうちの、鋭利なほうが何かに気づき、つんくに
声をかけた。

「…安心するのはまだ早そうですよ、つんくさん」
「うん?」

身を守るように、前面に躍り出る護衛・前田。
首を傾げるつんくの前に、いくつもの禍々しい気が満ち溢れた。
そしてあちこちに発生した黒い渦の中から身を捩り這い出す、禁断の獣たち。

904名無しリゾナント:2015/04/16(木) 12:04:19
「ちっ。『ゲート』か!」

歌のお姉さん風の女が、顔に似合わぬ荒い言葉を口にする。
能力者の介在なしに、あらゆる物体の転送を可能とする技術。しかし人間が通る場合、相当の精
神力を持ち合わせていなければ、出てくるのは精神が崩壊しきった廃人だ。

ただし、最初から壊れきっていれば話は別だ。
その意味においては「彼ら」はうってつけの人材と言えるだろう。

「何や。紺野のやつ、しっかりもてなしの準備しとったんかいな」

安全地帯からの建物突入だったはずが、一転して黒き獣たちによって取り囲まれる。
熊のような剛毛と、筋骨隆々とした肉体。そして、獰猛な肉食獣の牙。ダークネスが生み出した
戦の為に生き戦のために死ぬ哀れな獣。「戦獣」。

「俺が知ってるんより、随分えげつない姿になっとるなぁ。ま、ええ。とにかく、道…開けて」
「かしこまりました」

つんくが顎をしゃくるのを見たもう一人の護衛・石井が白き建物の門に向かって構えの姿勢を取
った。差し出した右手に握られた、鉄球。
一呼吸し一秒、二秒、三秒。徐々に石井の体を覆う黄色い光、そしてその光が構えた右手の手の
ひらに集まり。

凄まじい音を立てて、正面の門扉が破壊された。
本来であれば認証された組織関係者以外はアリ一匹通さない、強固な門。
それが石井の打ち出した拳大の鉄球により、いとも容易く風穴を開けられてしまった。

905名無しリゾナント:2015/04/16(木) 12:04:50
「相変わらずごっついな。自分の『電磁砲』」
「まあ、エスパーですから」
「なんやそれ。ほな、行こか」

前田と石井を引き連れ、建物の中に向かって歩き始めるつんく。
当然のことながら、それを許す戦獣たちではない。
侵入者たちを食い殺そうと、四方八方から襲い掛かった。

しかし。
その爪が引き裂く前に。その牙が突き刺す前に。
彼らの行く手は阻まれる。
5人の超人と、7人の異能によって。

かつて闇社会にその名を轟かせた存在。「スコアズビー」と「セルシウス」。
しかし、今は。
「ベリーズ」清水佐紀・嗣永桃子・夏焼雅・須藤茉麻・徳永千奈美・熊井友理奈・菅谷梨沙子。
「キュート」矢島舞美・中島早貴・岡井千聖・鈴木愛理・萩原舞。
正義の御旗の元に、悪を断つ。

「つんくさん、ここは私たちが!!」
「おう、頼んだで」

戦獣の顎を両手で押さえつけながら言う舞美に、つんくが後ろを振り返ることなく答える。
信頼の証か、それとも。いや、今はそんなことはどうでもいい。

自分達に新しい道を示してくれた恩人とも言うべき存在に、報いるだけ。

906名無しリゾナント:2015/04/16(木) 12:06:05
彼女たちはそれぞれが、能力者が虐げられない理想の社会を築くという目標を持ってダークネス
に仕えてきた。
そのためなら、自らの手を悪に染めることも厭わなかった。
今もその思いは変わらない。ただ一つ違うことは、闇の中に身を置かなくても夢を叶えることは
できる。
そのことを、知ったということ。

「はあああああっ!!!!」
「おぎょぼぐぎょぐげええええ」

舞美の強力な腕力によって引き裂かれた獣の上顎と下顎。
圧倒的暴力に晒された哀れな生き物が、言葉にならない断末魔をあげる。
裂きイカのように全身を破かれ飛び散る血飛沫が、戦いの幕が上がる合図となった。

つんくたちが建物内に入り込んだのを見計らったように、さらに戦獣の数が増えてゆく。
敵味方お構いなしに食い千切る獣の性質から、後方より敵の援軍がやってくる心配はないものの、
これだけの軍勢を相手にするのは普通なら絶望的状況。それでも。

「…そうこなくっちゃ」
「正直、何も障害がないなんてがっかりしてたとこなんだよね」

その巨体からは想像もつかない俊敏な動きで漆黒の魔獣の死角に飛び、巨大化した拳で横っ面を
叩く茉麻。ありえない力を加えられた頭部は、哀れぐちゃぐちゃのミンチに。
頭を失いなおも血肉を求めて彷徨う胴体。歪んだ技術のなせる、歪んだ形の生命力。

「ほんっとにしつこいね!!」
「潰してダメなら、焼いてみっか」

紫の炎が、吹き荒れる。
雅の放つ、骨さえしゃぶり尽くす業火の前に。
いかに屈強を誇る戦獣と言えど、ひとたまりもない。
黒く煤けた焼け滓を残し、跡形もなく消えてしまった。

907名無しリゾナント:2015/04/16(木) 12:07:02
「やるねベリーズ。うちらも負けてらんないか」
「ま、楽勝っしょ」

好敵手たちの活躍を目の当たりにし、俄然気合が入る「キュート」の面々。
舞が自らの体を鹿に変え、千聖がその背に跨る。そこから、一気に獣の群れを駆け抜けた。鹿の
角が肉を割き、光る弾丸が頭に爆ぜる。

屍が増えるペースに合わせるように、次々と送り込まれてゆく戦獣。
立ち向かう彼女たちの表情に、焦りはない。むしろ、自らの力を存分に発揮できるという喜びが
そこにはあった。

そんな戦の女神たちの活躍を、遠目で見ているものたちが。
赤と黒のツートンカラーの衣装に身を包んだ、経験浅い少女たちだ。

「どうする?うちらも行く?」

そう言って一歩踏み出す、やや猿に似た顔立ちの少女。
しかし、それを最年少らしき垂れ目の少女が制する。

「まだ駄目。だって私たちは『後輩』なんだから」
「えーっ、めんどくさい!あかり早く戦いたいー!!」

リーダーの決定を不服に感じたのか、凛とした顔立ちの少女が両手をぶんぶん上げて抗議した。
容姿と言動のギャップが何ともまた奇妙である。

「由加の言うとおりだよ…先輩さんたちが活躍してるのに、佳林たちが邪魔しちゃ…いたっ!」

駄々をこねるあかりを嗜めようと、おかっぱ頭の黒目がちな少女が発言しかけたその時。
額に、鈍い衝撃。ただでさえ泣きそうな顔が、ますます泣きそうになる。

908名無しリゾナント:2015/04/16(木) 12:07:56
「いたっ…何でデコピン!?」
「なんとなく」

少女にデコピンを放ったと思しき、ワイルドな顔をした少女・朋子
でも、そういうのって朋は私にしかしないよね?うれしい…
酷い仕打ちを受けたにも関わらずなぜか嬉しそうな佳林を捨て置き、リーダーである由加に訊ねた。

「でも本当にどうする?『後輩』だからって、少しは動かないと」
「待って」

由加の言葉に、全員が彼女の視線の先に目がいく。
キュートのリーダー、矢島舞美。
爽やかな笑顔。ちょっといい運動してきました、と言った感じの。健康美を売りにしているアイドル
のようにすら見えた。
ただ一点、両手が滴る黒い血によって染まってなければ。

「はー、いい運動になるなあ。ところでどうなの?最近のスマイレージは…」
「えっ?」
「あのっ!ジュ、ジュースジュースです!!」

自分たちのグループ名を間違えられたことに気付いた猿顔の少女・紗友希が、正式な名称を告げる。
ジュースジュース。警察の対能力者部隊では一番新しいグループだ。

「そっか。ジュースジュースっていうんだ。リーダーは?」
「…私です」

由加が、名乗りを上げる。
しばらく値踏みをするように見ていた。が。

909名無しリゾナント:2015/04/16(木) 12:09:41
「よぉし、腹筋チェックだ」
「は?」

言葉の意味を理解しかねている由加を余所に、手についた血を自分のTシャツで拭った舞美は。
由加の腹を無遠慮にぺたぺたと触り始めた。

筋肉に通じるものは、筋肉を知るという。
自らも鋼のような腹筋を持つ舞美は、相手の腹筋を探ることで何かを得ようとしていた。
ある意味、対話をするよりも手っ取り早い。

「お!意外と鍛えてるんだね。わ、硬ーい!」
「え、えっと、あの…?」
「うん、これだけ鍛錬してるなら大丈夫だね。じゃ、みんな頑張るんだよ!」

触り終えて満足したのか、そのまま爽やかな笑顔で去ってゆく舞美。
そんな様子をずっと不審な目で見ていた朋子。

「あれだけでうちらの力、見抜いたってこと?」
「まだわからない。けど、意外と早く動くことになるかも」

由加は、遠ざかる背中をじっと見ている。
困り顔の奥に潜む、冷徹な目で。

910名無しリゾナント:2015/04/16(木) 12:10:46
>>903-909
『リゾナンター爻(シャオ)』更新終了

911名無しリゾナント:2015/04/17(金) 01:20:23
http://www35.atwiki.jp/marcher/pages/1150.html#id_4fb8a7d8
のオマケです。

912名無しリゾナント:2015/04/17(金) 01:21:04





「ハァ……失敗、しちゃったな」

1人での帰り道
出てくるのは溜息とネガティブな言葉ばかり

「待ち伏せしたり能力を使ったり、色々考えて行ったのに……上手くいかないな」

私達は弱い
まだまだ強くならなきゃいない
その為にも石田さんに仲間になって欲しかったのに

歩きながら段々と視線が下がり、顔も俯いていく

バシッ

「痛っ!?」

何!?
おでこ痛っ!

突然の額への痛みに、思わず手で押さえ顔を上げる

「暗いよ、佳林ちゃん」
「と、朋!?」

いつの間にか目の前には仲間の金澤朋子
その右手は佳林の額の高さまで挙げられていた

913名無しリゾナント:2015/04/17(金) 01:22:06

「で、デコピン?」

多分この痛みは間違いない
痛みの原因に納得した所で

「なんかムカついてきたー!」
「えーっ!?」

ゴスッ

なぜか突然、朋に打たれた

もう訳がわからない

「やっぱり朋は暴君だわ」
「りんか、大丈夫かー?」

笑いながら現れた同じく仲間の高木紗友希と植村あかり

あーりー、全く心配してないよね?

「佳林ちゃん」
「ハ、ハイッ!」

普段はおっとりしているリーダー=宮崎由加の真剣な声に、思わず背筋が伸びた

「1人で勝手に動かないで。これでもみんな心配したんだよ」
「ごめん……でも、佳林の怪我のせいでみんなに迷惑かけちゃったから……」
「そう思うなら、ちゃんと言って。私達も頼りにしてもらえるようにするから。頑張ろうよ、みんなで」

由加ちゃんの寂しそうな、でも強い眼が佳林を捉えてる

914名無しリゾナント:2015/04/17(金) 01:22:42

「ま、宮本さんに比べたら私は新人ですしねー」
「うわ、急に後輩感を出してきたよこの暴君」
「朋はウチよりも後輩なんやから、ウチのお願いはなんでも聞かなあかんでー。って事で抱っこしてー!」
「「外でかよ!!」」

楽しそうにはしゃぐ3人
それを優しく見る由加ちゃん

頼りにしていない訳じゃない
みんなの事、信じてる
ただ、足を引っ張った分を取り戻そうとしたかった

「……ごめんなさい。佳林が1人で焦ってた。もう1人で抱えない。みんなで、この5人で頑張ろう!」
「うん、良い笑顔! じゃあ帰ろっか、みんなで」
「「「おー!!!」」」

あーりーが由加ちゃんと朋に飛びついて、2人が仕方ないなんて顔しながら歩いて行く

聖ちゃんが大切にしている今の場所
佳林にとっては、ここが大切な場所

「……なんだ」

意地を張ってたのは、佳林の方だったのかも
期待されても、思う様に結果が出せなくて

でも今の佳林の近くには、助け合える仲間が居る

「みんな、ありがとう」

恥ずかしいから、誰にも聴こえない位の声で呟く

915名無しリゾナント:2015/04/17(金) 01:23:18

「それ、ちゃんと言って欲しんだけど」
「紗友、え、聴こえっ」
「ま、フツー照れるか」

あっけらかんとした顔で由加ちゃん達に付いて行く紗友希

「うえむー、わがままばかり言ってると、お昼にメロン食べさせるよー」
「由加ー! 朋ー! きーがあかりの事いじめてくるー!」
「「はいはい」」

この5人で頑張るって決めたんだ
何があっても、ずっと

きっと聖ちゃんも決心したんだから、佳林は佳林の場所で生きていく
大好きなこの4人と

「みんなー! 佳林も仲間に入れてよー!」

916名無しリゾナント:2015/04/17(金) 01:28:34
>>911-915
side J でした。

先に爻さんに〝J〟を書かれてしまいました。
流石の早筆、尊敬の極みです。

余談ながら、以前テンプレに自作が載ってて小躍りしました。
ありがとうございます。
どのような意図があったのか、気になりますが。

917名無しリゾナント:2015/04/17(金) 12:02:55
昼休み〜なので行ってきます

918名無しリゾナント:2015/04/17(金) 12:15:36
行ってきました
ちゃんさんの救済というと大げさだけどほっとする話でした
でスパイの(ry

919名無しリゾナント:2015/04/17(金) 18:58:05
「この電車はいったい?」

四人の少女たちが乗り込んだのは過去から未来へと向う路線を走る列車だった
見知らぬ駅、奇妙な乗客

飛び降りてもいつのまにか戻されてしまう行き先不明のミステリートレイン

不思議な事態に戸惑ったのは少女たちだけではなかった

「あなたたち、どうして」

時間は過去から未来へと流れる大河
遡ることも留まることも人の身では到底叶わない筈だった・なのに

決して繰り返されるはずのない人生を何度も生きる者たちがいる
それはダ・ビンチの黄金比が示唆する世界の歪みの影響か
共鳴という呪いがその者たちを侵食してしまったのか

呪いという名の祝福を受け入れた者たちは新たなる呪いの連鎖を断とうとした
祝福という名の呪いに魅せられた少女たちは一つの未来を選択した

「もう逃げない運命を諦めない」
「もう逃げなさいなんて言わない私たちと一緒に戦って」

青春は選択を迫られる季節
そのど真ん中で少女たちが下した選択とは

スペシャルドラマ モーニング戦隊リゾナンター’15  第一夜 「青春小僧が泣いている」

♪いろんないろんな明日がある

彼女たちの掴む明日はどっちだ

920名無しリゾナント:2015/04/18(土) 18:57:16
13人の少女たちはリゾナンターとして一つになった
戦闘向きでない能力の持ち主もいたがそれを補うのがフォーメーション
心をひとつにすることで幾度の戦いを制し、戦いを制するごとに彼女たちの絆は深まっていった
しかしそこに一つの落とし穴があった

香音が不在の戦いでフォーメーションの穴を突かれたリゾナンター
以前の9人の時ならば誰かが欠けたなら残ったメンバーで補い支え合ってきた
しかし新しく加わった経験の浅い4人を抱えていてはそんな芸当は出来そうもない
ならば4人を分離して8人で戦うか
そんな隙を与えてくれる敵だろうか

個人として突出した実力を持つ鞘師里保が覚悟を決めて敵を引き付けるべく両手を上げたその時だった

「あなたはいったい?」

黒いショートカットの可憐な少女が香音のポジションを埋めフォーメーションが機能し始める
この子を信じていいのかと躊躇う暇など無い・ならば

「いけーーーーーーっ!!」

勝利したリゾナンターは名前も告げず去っていく少女の背を追った
それを遮るように降り出したにわか雨の向こうで少女を迎える四つの人影

スペシャルドラマ モーニング戦隊リゾナンター′15 第二夜 「夕暮れは雨上がり」

♪私もそうねあの子もそうよ だから負けられない  

運命と戦っているのは自分たちだけじゃないことを知ったリゾナンターの胸に仄かな希望の光が差した
ところで香音ちゃんは?

〜ちょっとさくらちゃん。 おいしそうなカレー屋さん見つけたからおいでって送ったのにどうして返してくれないの〜(T-T)〜

921名無しリゾナント:2015/04/19(日) 19:05:51
「この空はいったい」

世界を絶望から救う筈だった
青空の下、みんなで笑いあえるそんな未来の為に戦ってきた筈だった
戦いの果てに辿り着いた世界、そこは厚い雲が空を覆い日の光など降り注ぐことも無い
そんな色の無い世界が彼女たちの戦いの果てに勝ち取ったものだった

「私たちどこで間違ってしまったの」
「そうだもう一回やり直して…」

彼女たちの旅を支えてきた列車は最後の戦いで彼女たちを守り大地に打ち果ててしまった
大破した車両、折れ曲がったレール

「もうやり直すことはできないんだ・・・」

事態がわかるにつれ一人また一人力尽きたように大地に膝を落としていく
力を失った者を支えようとする者もまた…

「私たちならできると思ってたのに…」

長い長い沈黙

♪私たちは普通の女の子

一人の少女が歌を紡ぎだした
最初は力なくその歌声を聞き流していた少女たちもやがて…

♪運命も未来も切り開く

スペシャルドラマ モーニング戦隊リゾナンター’15  最終夜 「イマココカラ」

この無色の世界をどんな色に染めるかは彼女たち次第、すべては今ここから始まる

922名無しリゾナント:2015/04/20(月) 22:30:42
ベーヤンホールディング
それはこの国を影から支配するブラザーズ5の一員である堀内孝雄が一代で興した持ち株会社だ。
あのオイルショックをブラックマンデーをリーマンショックでさえ勝ち抜いた彼の相場観には一つの秘密があった。
「必敗不勝」
理不尽なまでの悪運を背負った人間を所有し、乾坤一擲の大勝負を行う際に所有権を放棄することで負け運を捨て去る
その倫理的に問題のある験担ぎは中国のさる大人から学んだものだ

だがしかしいくら運が悪くても「必敗不勝」と称せられるほどの不運な人間が存在するのだろうか
いや、いない
それは作られたもの
彼や彼女は虐待されるわけでも凌辱されるわけでもない
一定の監視の元、少なくとも金銭的には恵まれた生活を送っている
しかし彼が彼女が学業でスポーツで芸術で他の誰かと競おうとした時、闇の意志が介入する
捻じ曲げられる結果、歪められた運命
挫折の苦い味を堪能させられた彼や彼女は堀内から放逐されるまで強制された負け運を背負って生きていく
そんな一人に尾形春水がいた
親から引き離され豪華な山荘で乾ききった生活を送っていた彼女が興味を抱いたのはフィギアスケート
通うことを許された教室で素質を見出された彼女が初めて出場したジュニアの大会の結果は最下位だった
以降大会に出場する度、理不尽な不幸が彼女を襲った
彼女の演技直前に出場した選手が転倒した所為でリンクのコンディションが悪化したり、直前練習で死角からぶつかられ故障したり
悔しながらに負けを認めた春水は、そのあまりの不条理さに苦虫を噛んだ
だが春水がこれまでの他の誰かと違っていたのは、春水は異能力者の資質を抱きこの世に生を受けた原石だったのだ
歪められた運命は春水の心に傷跡を残す
傷ついた春水が世界にその傷跡を映そうとした時、その現象が初めて起こった

モーニング戦隊リゾナンター’15  Blu-ray版 【初回特典】「TIKI BUN」

♪ 炎上したってなんも恐れない

「火脚」
その炎こそ春水が創造(うみだ)した真実なのだから

923名無しリゾナント:2015/04/22(水) 00:00:18
一人の予知能力者がいた
彼女は未来に何が起こるかを視ることが出来た
自分が視ることで未来は確定すると思うに至った彼女はいつしか自分を神だと考えるようになった
未来の視えない自分以外の人間を彼女は嘲弄した
自分の視た通りの未来を実現する世界を彼女は軽蔑した
自分以外の全てを侮蔑する自分自身を彼女は憎んでいた

ある日彼女は世界の終わりを視てしまった
それは一人の政治家が画策した日本の核武装を契機に始まる軍事衝突が引き金だった
世界の終わりを視てしまった彼女は気づいてしまった
軽蔑していたと思っていた世界のことを愛していたということに

世界を守る為に彼女は自分の視た未来を変えようとした
自分が視た未来を否定するということは自分自身を否定するということだった
戦いの末に彼女は未来を勝ち取った
彼女自身の命を代償に守った未来は破滅と繁栄の境界線の上を危なっかしく進む運命の列車に託された

それは偶然だったのだろうか
彼女が籍を置いていた組織の能力者養成機関「エッグ」
資質を持った原石たちの養成プログラムと彼女は無関係だった
なのになぜか彼女の予知能力がエッグのうちの1名に継承されてしまった
それは闇に浸りきった彼女が光に手を伸ばしたことで共鳴という名の呪いが伝播してしまったのか

新たなる予知の力は彼女の能力を忠実に継承したものではなかった
彼女の力の残滓が少女の器の中で萌芽した時、その力は形を変えていた

モーニング戦隊リゾナンター’15  Blu-ray版 【初回特典】「3,2,1BREAKIn'OUT 」

時々、誰かの頭の上に現れては減少する数字の意味を牧野真莉愛はまだ知らない
誰かを好きになりたい、誰かを好きになれる自分を見つけたいというのが彼女のささやかにして不埒な夢
孵化した夢の卵の羽根開く場所を探し求めている

924名無しリゾナント:2015/04/22(水) 11:50:09
>>903-909 の続きです



一方、「金鴉」によって再度転送された香音・春菜・さくらの三人は。

明らかに違和感のある光景。
春菜は率直にそう感じた。見慣れたと言えば、見慣れた。当たり前と言えば、当たり前。
臙脂色の座席、ずらりと並ぶ白いつり革。窓の景色からは、流れ行く光の国の建物が見える。電車の中
であることには間違いないのだが。

「どうしてモノレールの上を電車が走ってるの!?」

リヒトラウムには、各エリアを結ぶモノレールがぐるりと敷地を一周するように走っている。だが、その車
両はこんなどこにでもあるような通勤列車ではない。

「えー、本日は当ダークネス列車をご利用いただき、まことにありがとうごしゃいます」

そこに聞こえてくる、変な声色を使った声。
声のするほうを見ると、車両の通路にチェック柄のバスガイド服を着た少女たちが立っていた。

「列車ガイドの、『煙鏡』でごじゃいます」
「同じく、『金鴉』でごじゃいます」
「……」

突拍子もないシチュエーション。
触れてしまうとややこしくなりそうなので、そのままスルーを決め込む春菜と香音。
しかしこの娘はやはり違っていた。

925名無しリゾナント:2015/04/22(水) 11:51:12
「あのー」
「はい、なんでごじゃりましょうか」
「電車なのにバスガイドって、おかしいですよね?」
「は?」
「電車だったらやっぱり車掌さんですよね」

真顔でそんなことを尋ねる、さくら。
すると、黒目がちな少女のほうは見る見る顔色を変えて。

「お前やっぱめんどくさいやっちゃな。のんの言うとおりや。ほなあれか。路面電車やったら満足か!
うぉううぉううぉうせいしゅーん、いーろいーろあーるーさーってか!!」
「うーん、ちょっと違うかも」
「ったく!ノリの悪い…まあええ。のん、さっさと着替えや」
「ん、もう終わり?」

「煙鏡」に促された「金鴉」が、右手を相方に翳す。
バスガイドの制服が、みるみるうちに黒を基調とした短パンへそ出し衣装に姿を変えた。

「不思議やろ?お前ら、こいつがただの『擬態』能力者やと思ってるんやろうけど」

意地悪そうな笑みを、「煙鏡」が浮かべる。
指摘の通り。遥そっくりの容貌に姿を変えた「擬態能力の持ち主」。彼女が使役する「転送能力らしき
力」は、もう一人の「煙鏡」を名乗る少女のものと思っていたが。

「のんの『擬態』は、能力の『擬態』でもあるんだよね」

自らも、「戦闘スタイル」へと変化した「金鴉」が、今度は右手を春菜たちに差し向けた。
何もないはずの空間から飛んでくる、冷蔵庫。洗濯機。炊飯器。

926名無しリゾナント:2015/04/22(水) 11:52:16
「あぶなっ!!」

咄嗟に香音が物質透過能力を発動させる。
三人に掠り傷すら与えることなく後方へ転がってゆく白物家電たち。だが「金鴉」の攻撃は終わりでは
ない。次から次と、当たるとただでは済まない投擲物を飛ばしてくる。

「鈴木さん飯窪さん、私に任せてください!!」

防戦一方の状況下、さくらが躍り出る。
「時間跳躍」。ほんの一瞬だけ止まった時を、軽やかに駆け抜けていった。しかし。

「ああっ!?」

予期せぬ、抵抗。
二人の少女に届くあと一歩というところで、見えない何かに阻まれる。
やがて、時は再び動き始めた。

「…さっそくやってくれたみたいやな。予め『張っといて』助かったわ」

何故突き抜けられなかったのか。
そんなことを考えている間に、「金鴉」がさくらを思い切り蹴り飛ばす。
咄嗟にガードした両腕に、ずしりと重い衝撃。

何この力…!!

力を振り絞り時を止める事で、インパクトの衝撃をずらしたさくらではあったが、それでもびりびりと
痺れるような痛みを免れることはできなかった。

927名無しリゾナント:2015/04/22(水) 11:53:26
「うちの能力は、『鉄壁』。言うとくけど、ただの結界と違うで? うちの精神力とシンクロした、い
わば無尽蔵のバリアや。そこのぽっちゃりの透過能力でも、すり抜けられへんやろな」

そんな…二人ともとんでもない能力者じゃないか!!

春菜の脳裏に絶望が過ぎる。
能力まで擬態できる擬態能力者だなんて、無茶苦茶だ。それじゃ多重能力者と何の違いもない。それに、
もう一人のほうの能力で絶大な防御力まで備えている。

今いるメンバーじゃとてもじゃないけど…勝ち目は無い。
チームのアタッカーである里保や亜佑美がいたとしても。いや。それ以上は今は考えないほうがいい。
この状況を切り抜けること。そのことのほうが大事だ。

「さて、アホみたいに青ざめたツラしてるとこ申し訳ないんやけど。この電車がどこに向かってるか…
知ってるか?」
「えっ?」

香音が周囲を見渡す。
電車はちょうど、停車場を高速で通過しているところだった。

「どこって…確かリヒトラウムのモノレールは環状になってるから」
「ぐるぐる回るだけ。ま、普通はそう思うわな…せやけど」
「ざーんねんでしたー!途中のレール、ぶった切ってやったぁ!!」

レールが切断されたということは。
すなわち、これだけの質量を持つ車両が高速で地面に落下するということ。

928名無しリゾナント:2015/04/22(水) 11:54:25
「しかもな。お前らも見たやろ?今、施設のあちこちで火の手があがっとる。そんなんでパニックに陥っ
た大勢の人間に、この電車が突っ込んでったら」
「びゅーん…ぐしゃ!!あはははは!!!!」

楽しげにそんなことを言う、二人組。
間違いない。三人は確信する。この人達は、まともじゃない。

そんな中、さくらは。
先程のミラーハウスでの罠を立案したのは「煙鏡」だと当たりをつける。
「煙鏡」の瞳は、人を陥れることを喜びとする人間特有の昏さを帯びていた。
彼女の言動には、十分気をつけなければならない。

と同時に、自分が元を辿れば「金鴉」や「煙鏡」と同じあの光射さぬ場所にいたことを思い出す。どこか
で、自分と彼女たちには何らかの共通点があるのではないか。そんな漠然とした不安が襲い掛かる。
黒く立ち込める暗雲を断ち切ったのは、香音の声だった。

「そんなこと、させない!!」

そうだ。
今の私は、リゾナンターなのだ。
出口のない迷路に誘われかけた心が、再び引き戻された。

929名無しリゾナント:2015/04/22(水) 11:55:30
「威勢だけは一人前やなあ、ぽっちゃり。せやけど、自分らどないしてうちの『鉄壁』を越えてくつもりや」
「前がダメなら…上があります!!」

春菜が電車の天井に目を向ける。
その瞬間、香音とさくらにその意図が伝わった。
春菜と香音、さくらの三人が座席とつり革、網棚を利用し跳躍。その瞬間に発動するさくらの「時間跳躍」。
邪魔するものはいない。時間跳躍が解かれた瞬間、香音の物質透過能力の影響下にあった三人の体は天井を
すり抜けていった。

ところ変わって、車両の屋根の上。
休む間もなく三人は車両の先頭を目指して走る。目標は電車の運転席だ。

「早く!あいつらに先回りされないうちに!!」
「はいっ!それにしても、ナイスコンビネーションでしたね!!『上がある』だけで全部伝わっちゃうなんて」
「だって、私たち、『響きあうものたち』じゃないですか!!」

さくらは言いながら、改めて実感する。
自分は今、リゾナンターという輪の中に確実にいる。
あの二人組とはもう、まったく違う存在だということを。

モノレールを走る車両が、段階的に加速されてゆく。
風を切る音が、轟音となって周囲に響き渡っている。
最早、通常運転ではありえないスピードで飛ばしていた。
レールから飛び出すことがあれば、大惨事を引き起こすこと間違いなしだろう。

「鈴木さん右に避けて下さい!!」

突然の、春菜の警告。
咄嗟に香音が身をかわすと、鋭い槍のような物体が天井を突き抜けた。
どうやら簡単には敵も先へは行かせてくれないらしい。

930名無しリゾナント:2015/04/22(水) 11:56:13
「あ、あぶなっ。もう少しで串刺しになるところだった…」
「私と飯窪さんでサポートします!とにかく先に!!」

いかに香音の物質透過があると言えど、不意を突く攻撃に対しては間に合わない。
そこで、春菜の聴覚強化を利用した攻撃ポイントの先読みを行う。それでも間に合わない場合はさくらの時
間跳躍がある。
二重、三重の防御は敵の執拗な嫌がらせを、まったくの無効にしていた。

「見えてきた!先頭車両だよ!!」

香音が指差す先に見える、尖った車両の鼻先。
ここまで来たら、あとは暴走列車の制御を止めるだけだ。

勢い良く、車両の継ぎ目から前方に向かって飛ぶ。
もちろん全員に物質透過の効力がかかっているため、そのまま屋根をすり抜けて車両内に。
そこで見た予想外の光景に、春菜が思わず口にする。

「え…そんな…」

「煙鏡」たちが明らかな妨害を仕掛けていたわけではない。
臙脂色の座席と白いつり革が整然と並んでいる、ごく普通の電車の風景。
ただ一つ普通と違うのは。

運転席にあたるスペースが、存在しないということ。

「何で!先頭車両のはずなのに!!」
「もしかしたら後部にあるのかもしれません!急いで引き返し…」

慌てて踵を返そうとしたさくらだが、見えない何かによって押し返される。
この力の感触は。

931名無しリゾナント:2015/04/22(水) 11:57:26
「せっかくの特等席やのに。『最期』までゆっくりしたらええやん」
「いつの間に!!」

まるで三人の退路を塞ぐように。
「煙鏡」と「金鴉」が立っていた。

「後ろ行って探しても無駄や。この車両はのんの念動力で動かしてるからな」
「ありえない…これだけの質量の物質を」
「ま、のんが動かしたのは最初の数メートルくらいかな。あとは摩擦係数がどうのこうのってやつの能力使
っただけだから。のんも自分で言っててわからないけど」
「簡単に言うと。外から勢い殺さんと、この車両は止まらへん」

俄かには信じがたい発言の数々。
中でも、最後の「煙鏡」の言葉は。ありていに言えば、死刑宣告。

「っちゅうことや。ほな、ええ死出の旅路を。のん、早よテレポート使えや」
「…あ。さっき使ったのでもう『打ち止め』かも」
「はぁ!?お前いい加減にせえよ!!」
「なーんちゃってー。麻琴から『大量にいただいた』からね。あと数回分はありまぁす」

おどけつつの、「転送」。
苦虫を噛み潰したような顔をしている「煙鏡」とともに、「金鴉」はまるで煙のようにその場から消えて
しまう。さくらが「時間跳躍」を使おうが、彼女たちには届かない。姿が消えるのを、黙って見ているし
かなかった。

932名無しリゾナント:2015/04/22(水) 11:58:14
「そんな…どうしよう」

残されたのは、絶望。
このままだと、三人とも車両ごと地面に激突。香音の物質透過で相殺できるようなダメージ量ではないのは
明らかだ。

「か、考えましょう!!考えればきっと何か…」

落ち込む香音を励まそうと、春菜が必死に声をかける。
そんな春菜自身がわかっていた。それがただの気休めに過ぎないことを。
だが、さくらの目の光は消えていなかった。

「鈴木さん!物質透過、使ってください!!」
「小田ちゃん?」
「もしかして私たちだけでも脱出するとか?無理だよ!これだけの速度を出してる電車から飛び降りるなん
て!!」
「違います!飯窪さんが引きちぎった電車の内装を、下に透過させるんです!!」
「抵抗力で減速ってこと!?そんな!危険だよ!!」
「でも、やらないよりはましです!!」

一か八かの、危険な策。
レールの終着点はすぐそこまで、近づいていた。

933名無しリゾナント:2015/04/22(水) 11:58:57
>>924-932
『リゾナンター爻(シャオ)』更新終了

934名無しリゾナント:2015/05/02(土) 01:26:50
■ チェリィブロッサム -生田衣梨奈・鞘師里保- ■

「うわぁ桜だ!桜だよ!えりぽん!」
「あーね」

「すごい!向こうまで続いてるよ!えりぽん!」
「あーね」

「ひゃぁ!水路だぁ!ん川かな?水綺麗だよ!えりぽん!」
「あーね」

はしゃぐ鞘師里保。
気のない相槌を繰り返す生田衣梨奈。
その眼は一点、手にした携帯端末に注がれ続けている。

「ほらっ!なんかちょっと潮の香りもしてない?えりぽん!」
「あーね」

「うれしいなぁ!地元だもんね!」
「あーね」

「いいなー!いいとこだねっ!博多っ!」
「…あーね」

935名無しリゾナント:2015/05/02(土) 01:27:48
わかっている。
互いにわかっている。
だから、はしゃぐ…だから、受け流す。
そう、それは、これから訪れる、その…



振動。



携帯端末。
画面には…

「里保」
「…うん」

端末を。

わかっている。

それは、鞘師がとるべきだ。
その端末は、鞘師里保が、とるべきなのだ。

そう、その端末が、戦いの―――

―――戦いの火蓋となる。

936名無しリゾナント:2015/05/02(土) 01:30:44
>>934-935
■ チェリィブロッサム -生田衣梨奈・鞘師里保- ■
でした。

以上、代理投稿願います。

※辛夷に加え椿
来ましたね
今年のハロプロも面白い
すごく面白い

937名無しリゾナント:2015/05/02(土) 01:41:43
代理投稿行ってきます

938名無しリゾナント:2015/05/02(土) 16:42:25
>>937
ありがとうございます

939名無しリゾナント:2015/05/02(土) 16:43:30
■ フオルナウト -田中れいな- ■

社務所の奥は広い道場となっていた。
すでに暖かな外の陽気は、
静謐で厳格な、この空間とは無縁のようであった。

「慣れない方に板の間での正座は御辛いでしょう?膝を崩されても結構ですよ。」
白衣に差袴、見たところ40代。
細身だが、引き締まった全身を、その白装束が引き締める。

「…これで、ええったい…」
田中れいなは、脛に走る鈍痛を堪え、そう答える。

「そうですか。」
微笑。

「おっしゃる通り、あの方からお預かりしたものはここに…」
変らず、微笑。

「時と場所は違えど、あなたと同様、私が応対させていただきました。」
微笑。

「失礼ながらお預かりしたものの内容は全て閲覧させていただきました…特に『見るな』とは、お約束しておりませんでしたのでね。」
変らぬ、微笑。

「興味深い内容でした。
我々のテリトリーの、目と鼻の先で、このようなことが…
かといって、明らかな協定違反とも言い難い…
今頃は本部のお歴々も、頭を抱えていることでしょう…」
微笑、心なしか嬉しそうに。

940名無しリゾナント:2015/05/02(土) 16:44:18
「さて、本題に入りましょう…
お預かりしたものの引き渡しについてですが…」

微笑、だが徐々に、変ってゆく。
その眼の光が、変ってゆく。

田中れいなは身じろぎもしない。
そうだ、知っていて連れてきた。
彼女も知っていて、同行してきた。
あのビジョン、あの場所…であれば、これは避けられない。

組織とは異なる集団。
安芸灘、伊予灘、周防灘…備前、豊前、筑前、筑後、そして…

弱小。

世界規模に触手を伸ばす『組織』とは、あまりに規模が違いすぎる。
だが、できない。
組織といえど、彼らの存在を無視、できない。

「ほう、その顔は『全て織込済み』といったところでしょうか。
では、話は早い、我々があの方に出した条件は一つ。
すなわち…」

それは、飲めるはずのない条件。
だが、交渉は成立した、それは最も無慈悲な、それは最も非情な、
いや、それこそが、そう、それこそが、最上級の。

941名無しリゾナント:2015/05/02(土) 16:46:01
奪いたければ奪うがいい!
やれるものなら!やってみるがいい!
ウチの子達は!そんなに!ヤワじゃないよ!

「塵は塵に…我ら『灰』に連なる結社は、
組織との不可侵条約により、あなた方とも、
表向き、互いに存在せぬものとして、互いに知らぬものとして、
今の今まで参ったわけですが…」

白衣の男が懐から取り出す、携帯端末。
田中が尻のポケットから取り出す、携帯端末。

「120分、3名、遺恨は無し…よろしいですね?」
「ああ、ええっちゃ。」
「では、おかけください。」

それぞれの端末が戦いの火蓋となる。

「私だ、回収しろ。」
「生田!鞘師!思いっきり!ぶちかませ!」

同時に切る。

「さて、このあとは、如何なさいますか?」
「きまっとろうが。」
「…でしょうな…では、謹んで…」

田中が立ち上がる。
白衣が立ち上がる。

942名無しリゾナント:2015/05/02(土) 16:47:23
「あの方との交渉において『私』が選ばれたのは、当然、
その【能力】を警戒して、という側面もありました。
結局、それは杞憂にすぎませんでしたが…」
足袋を脱ぎ、差袴の裾をからげる。

「あいにくと、れーぎなんか何もしらんちゃけん…お辞儀もせんよ。」
「結構、お手柔らかに。」

身を低く沈め…


今度こそ…今度こそ!

今度こそ!


【増幅(アンプリフィケーション;amplification)】

943名無しリゾナント:2015/05/02(土) 16:48:26
>>939-942
■ フオルナウト -田中れいな- ■
でした。


以上、代理投稿願います。

944名無しリゾナント:2015/05/02(土) 19:45:46
行ってきますかね

945名無しリゾナント:2015/05/02(土) 19:52:23
行ってめいりやした
大きく動き出したっで感じですね

946名無し募集中。。。:2015/05/04(月) 00:42:40
■ プリイジング -研修生- ■

イヤダ…イヤダ…

「輸液C投与…1705、覚醒を確認…バイタル正常…行けます。」

ヤリタクナイ…ヤリタクナイ…

「スポーン準備完了、No.01成人男性26歳、No.02成人男性37歳、No.3成人女性…」
「1705、スポーンNo.01認識…」
「よし、『スポーンを開放』、『猟犬』を放て。」

「【限界突破】第四次実戦検証実験、開始…」

――――

走らないと!走らないと!
なんだ?なんだ?俺はなんでこんなところに?
朝起きて、めしくって、そんで…なんだ?
…朝起きたっけ俺?そっからか?
いやそれどころじゃねぇ…ここどこだ?
息が…苦しい…
走らないと!追い付かれる!
あんな!デカイ奴!何頭も!殺される!殺される!
助けて!助けて!助けてえええええ!

――――

947名無し募集中。。。:2015/05/04(月) 00:43:16
「スポーン、死亡確認。」
「マインドセット、エラー、アビリティ発動、エラー。」
「データーが取れればそれでよい、実験を続行せよ。」

…ゴメンナサイ…ゴメンナサイ…

「1705、スポーンNo.02認識…」
「『スポーンを開放』、『猟犬』を放て。」
「1705、マインドセット、アビリティ発動待機…」

――――

痛でええええ!あし!脚があああ!
ちぎれる!くいちぎられるううう!
ああ!腕が!指が!あああ!助け…たすけてぇ!
痛い!痛い!いたいたいた!
死ぬ!しぬしぬしぬ!しぬうう!
殺される!ころされ…ころされるくらいなら…
ころされる…らいなら…
ころ…さ…ころ…

…なんだ?この…感覚…は?

948名無し募集中。。。:2015/05/04(月) 00:44:06
熱い…熱い…

痛く…ない?…
なんだ…なにを怖がっていたのだ俺は…やれる…やれる…
やる…やる…やっころ…ころ…ころ…ころっ…すっ…すすすすすすす…すすー!
おっほ!蹴り飛ばしてやった!
俺の足の肉ごと吹っ飛んだぞ!ひゃはー!楽しい!楽しい!たーのしーい!
ぶちのめーす!ぶっつぶーす!
あはははは!
ひきちぎーる!ふみつぶーす!
あはははは!
なんだ?こいつらおびえているのか?
あはははは!
ざまああねえなああああははは!
なににげてんだ!
あはははは!
にがすわけねええだろおお!
あはあはははははは!
もっと!もっと!ころさせろ!
もっと!もっと!あばれさせろ!
もっともっともっともっと!もっとおおおおおおお!

――――

949名無し募集中。。。:2015/05/04(月) 00:44:44
「『猟犬』の全滅を確認。」
「アビリティ発動確認、成功です。」
「スポーンNo.2、死亡確認…大量失血によるショック死と推定。」
「実験を続行する。」

…モウイヤダ…モウイヤダ…シンデシマウ…ミンナ…シンデシマウ…
…オウエンシテモ…オウエンシテモ…オウエンシテモ…タスケラレナイ…
…イヤダ…イヤダ…イヤ…

「1705、マインドセット、アビリティ発動待機…」

…ハイ…リア…ガンバリマス…
…リア…オウエンスルノ…スキ…
…ダカラ…ウレシイデス…リア…オウエン…ウレシイ…
…トッテモ…トッテモ…

「1705、アビリティ発動確認。」

…マリア…トッテモ…ウレシイデス…

950名無し募集中。。。:2015/05/04(月) 00:47:19
>>946-949

■ プリイジング -研修生- ■
でした。

951名無し募集中。。。:2015/05/04(月) 00:48:23
>>946-949

■ プリイジング -研修生- ■
でした。

以上、代理投稿願います。

952名無しリゾナント:2015/05/04(月) 12:41:50
>>924-932 の続きです



聖の不安は的中する。
けたたましい音を立て、はるか向こう側からやってくる赤く塗装された電車。
車両の下から、何本もの鉄の棒が垂れ下がり、下のアスファルトに擦れて激しく火花を散らし続ける。鉄の棒には
吊り皮のようなものが何列にも渡ってくっついていて、それが気の狂った鯉幟のように激しく揺れていた。

暴走列車の行く手の先には、聖たちとパニックに陥り死に物狂いで出口に殺到する群衆が。

「えりが、止めるっちゃん!!」

レールの最終地点に向かって走り出す、衣梨奈。
それを見て遥や亜佑美たちも後を追う。

「無茶ですよ、生田さん!!」
「無茶でも何でも、あの列車止めんとお客さんたちが危ないと!!」

遥の手を振り解き、切断されたレールの切っ先、その正面に立つ。
やるしかない。その強い意志が形になって現れるように、幾重にも展開される衣梨奈のピアノ線。だがその防護ネ
ットは、迫り来る巨大な鉄の塊の前にはあまりにも脆弱だ。

そんな中、こちらにやって来る電車に、自然と遥の視線がいく。
しかし発動した千里眼が捉えたのは、無人の車内。

953名無しリゾナント:2015/05/04(月) 12:43:00
「だ、誰もいない!?」
「ちょっとくどぅーどういうこと?」
「電車の中に、誰もいないんだよ!乗客も、運転手も!!」

遥の意外な報告は、ある一つの可能性を示す。
それは、車両が群集に突撃するという最悪の惨事を避けるために必要なこと。

「みんな!!」

遅れてやって来た里保が他のリゾナンターたちと合流したのは、そんな矢先の出来事だった。

「鞘師さん!!」
「里保、今まで何してたと!!」

メンバーの中でただ一人安否が不明だったこともあって、様々な反応を示すメンバーたち。
しかし里保は自分がまず最初にやるべきことを知っていた。この状況は、どう見ても尋常ではない。

「フクちゃん、状況は」
「うん。あそこのレールが『敵』に切断されてて。このままだと、電車が」

聖の言うとおり、モノレールのレールは不自然な場所ですぱっと切断されていた。車両が脱線すれば、大惨事を招
くのは自明の理だ。

954名無しリゾナント:2015/05/04(月) 12:44:05
そして。
聖が口にした「敵」が、最早福田花音ご一行でないことは明らかだった。
彼女は、いつの間にかやって来ていた「里保たちを襲った能力者」たちと一緒に、忌々しげな
表情でこちらを見ているだけだ。

「ふ、福田さん…うちら、どないしましょ」

縋り付くように花音に指示を求めるのは、結界の使い手である香菜。
一方、隠密の能力者・里奈は我関せずとばかりにスマホをいじっている。
そんな状況下で遠慮がちに発言するのは、芽実だ。

「いまさらあの人たちにリベンジ、って雰囲気じゃないもんね…そうだ、いっそのこと仲直り
してさ、あの人たちを助けるってのはどう?」
「お、それ明暗。さすがめいめい、一人で滝行するだけのことはあるわ」

しかし、それを見ていた花音は一言。

「…撤収」

とだけ、言った。
皮肉交じりの笑みを浮かべつつ。

「だってさ。うちらがあいつらのこと助ける義理なんてないじゃん。勝手に困って、勝手に死
ねばいい」
「…上への報告は、どうするんですか?」
「上なんてさ、今頃『天使の奪還』作戦でそれどころじゃないって。それよりも、こんな面倒
な場所からは少しでも早く撤収するのが、お利口さんってもんじゃない?」

955名無しリゾナント:2015/05/04(月) 12:45:08
里奈の指摘は、花音の痛いところをついていた。
しかし、リゾナンターの手助けをしているところを例の二人組に見られたら、こちらまで的に
かけられてしまうかもしれない。和田彩花というチームの攻撃の要が不在の今、組織の幹部と
事を構えるなんて、冗談もいいところだ。
花音は名より実を取る選択肢を、選んでいた。
しかし。

「そこの、おねーさん!!」

意外な人物が、花音に声をかける。
天下無敵の爆弾娘、佐藤優樹だ。

「…何よ、気安く話しかけないで欲しいんだけど」
「あの、あそこにいっぱい溜まってる人たちをなんとかしてください」
「はぁ?」

花音は、大げさに顔をしかめてみせる。
ありえない。誰が敵の利になるようなことをしてやるものか。
それに向こうだって、こちらの手を借りるようなことは望んでないはず。
花音の予測どおり、亜佑美がすかさず優樹を止めに入る。

「ちょっと、まーちゃん! そいつはうちらに襲い掛かってきた敵なんだよ?!」
「でも、今は敵じゃないでしょ」
「え…」
「今の敵は、あの変な格好した二人組でしょ。あゆみ、幸せと敵味方は天ぷらそばのように運
ばれてくるんだって」
「いや、確かにそうなんだけど…って何で天ぷらそば!?」

最後の例えはともかく、優樹の考えは至ってシンプルだが。
花音率いるスマイレージは、何度もこちらにちょっかいをかけてきている。
その遺恨。わだかまり。そう簡単に消えるはずも無い。

956名無しリゾナント:2015/05/04(月) 12:46:29
「…そうだね。優樹ちゃんの言うとおり。今は、いがみ合ってる場合じゃない」

納得いかない表情の亜佑美のそばに、聖が立つ。
そこに存在するのは、揺るぎない決断。

「聖ね、思ったの。こんな時、今までのリーダーだったら、どうするかって」
「譜久村さん…」
「福田さん。お願いします。福田さんの能力で、お客さんたちに迅速な避難を」

深々と、頭を下げる聖。
それを見た花音の感情に、再び白波が。

「ねえ。さっきさ、ふくちゃんあたしになんて言った?『孤独』?『誰か私を見て』? そこ
までコケにされて、その上あんたたちを助けるなんてことすると、思う?」

先程のような感情の暴走は伴なわないものの。
聖によって傷つけられたプライドは、未だなおその代償を求めていた。

「…聖の言葉が福田さんを怒らせたなら、謝ります。聖たちのことを助けてくれ、とも言いま
せん。けど、あの人達は、リヒトラウムに遊びに来ただけの人達は。聖たちに巻き込まれてこ
んなことに!!お願いします、あの人たちを助けてください!!」
「そういうのって、虫がいいって思わない? あたしたちは、ここにいる奴らを見殺しにして
も何のメリットデメリットもないし。むしろあんたたちを困らせることができるんだから、率
先してそうしてやりたいくらい」

花音の嗜虐心にはすでに火が点き、その炎の勢いは止められそうにない。
はずだった。

957名無しリゾナント:2015/05/04(月) 12:49:21
「福田さん…いい加減にしてくださいよ」
「…タケ!?」

聖の隣に立つ、朱莉の言葉だった。
自らの力で袋叩きにしたにも関わらず、意識を取り戻した朱莉の姿に内心安堵する花音。
ただ、それよりも先に出るのは面と向かって楯突かれたことによる不快感だ。

「何が、いい加減にしろだって?」
「スマイレージの功績のためにリゾナンターと戦う。納得はできなかったけど、しょうがない
って、そう思ったりもした。でも、何もしてない人たちを見殺しにするのは、嫌だ」
「タケにそんなこと言われるの、なーんかむかつくんですけど」

後輩からの思わぬ反撃。
そんなものはものともしない、といった態度の花音ではあったのだが。
花音の横に立っていた三人の後輩もまた、朱莉のほうへと移動する。

「香菜もたけちゃんの意見に賛成です。うちらは、罪の無い人たちを見殺しにするべきやない」
「だね。タケは顔も丸いし鼻も低いしおまけに頭も悪いけど、今回に関しては間違ったことは
言ってない」
「ちょ、朱莉は天才だし!!」
「福田さんっやっぱみんな助けましょうよ!そのほうがめいもいいと思います!!」

何だこれは。
どうしてそうなる。
ここに至るまでの誤算の連続。そして今、後輩の四人にまで離反されようとしている。
どうすればいい。何を、言えばいい。
悔しさと苦しみの中で導き出した花音の答えは。

958名無しリゾナント:2015/05/04(月) 12:54:12
「…できれば助けてやりたいけど。あたしには、できないんだよね」
「えっ」
「10人、100人。その程度だったら、何とかなる。けど。こんな大人数の群集の精神を操
る事なんて、できない」

要は簡単だ。
「やりたいんだけどできない」。そういう結論を出してしまえばいい。
あいつらの思い通りになるなんて、絶対に嫌。
実際の真偽など、どうでもいい話だ。

「あんた!前にその気になれば千人でも一万人でも操れるって言ったじゃないか!!」
「うるさいわね。そんなの方便よ、方便」

亜佑美の指摘にも、花音はまったく悪びれない。
そのうち、聖も亜佑美も優樹も花音に背を向けてしまう。
もう、それどころの話ではないのだ。

「まあ、精々頑張んなさいな。あんたたちにアレが止められるとは思わないけど」

精一杯の皮肉を込めて、花音は言う。
けれどその言葉を、最早誰も聞いてはいなかった。
そのこと自身を、花音が一番良く知っていた。
俯き、言葉を発しない後輩たち。反吐が出るほど最悪の状況だ。
それでも花音は自らの築き上げた高みに立ち続けなければならない。
たとえその場所が、脆く儚いものだったとしても。

959名無しリゾナント:2015/05/04(月) 12:55:34
轟音を上げながら、終焉へと突き進む暴走列車。
その鼻先が、すぐ、側まで来ていた。
遥から車内の無人状態を知らされた里保は、すでに列車に向かって走り出している。
群集に車両が突っ込むという最悪の展開を避けるためにやることは一つ。終点の手前でレール
を切断するしかない。

ところが。
あることに気づいた遥が、里保の決断を大きく鈍らせる。

「鞘師さん!ダメです!あの中に、は、はるなんたちが!!」
「!!」

全ての物を見通す遥の千里眼能力だが、決して万能ではない。
高速で動いているものの中身を透視した場合、その精度はどうしても落ちてしまうのだ。
しかし車両がこちらに近づくにつれ、はっきりと理解できる。
車両の中に、春菜と香音とさくらの三人がいるのを。

「早く脱出させないと!」
「いや、香音ちゃんの物質透過でもあの速度から投げ出されたら、無事じゃ済まない!!」

里保たちは必死に中の三人に「心の声」で呼びかけるが、返答はない。
おそらく彼女たちは彼女たちで、必死に列車を止める方法を考えているのだろう。大して役に
は立ってはいないが、車両から下方へと突き出しているつり革付きの鉄棒もその内の一つであ
ることは明らかだった。

水、大量の水が近くにあれば。
里保は列車の行く手に何枚もの水の防御壁を築くことで、電車の減速を試みるイメージを描い
てみる。けれど、いくらリヒトラウムが湾岸エリアに建設された立地とは言え、今の場所から
海まではかなりの距離がある。不可能だ。

960名無しリゾナント:2015/05/04(月) 12:57:45
里保だけではない。
今現在張られている衣梨奈のピアノ線の防護ネット。
亜佑美が呼び出した鉄巨人。
優樹のテレポート能力。
そのどれもが、この危機を脱するには足りない。
状況は、絶望的とすら言えた。

だから、誰もそんな結末は予想すらつかなかった。

「あれ…何か電車の速度が遅くなってる気がする」
「そんなこと!あ…」

遥の千里眼が最初に異常を捉え。
そして他の者たちも次々にそのことに気付く。

猛り狂う列車は、まるで最初からその場所に停車するのが決まっていたかのように。
ゆっくりと速度を落とし、やがて完全に動きを止めたのだ。

961名無しリゾナント:2015/05/04(月) 12:58:33
>>952-960
『リゾナンター爻(シャオ)』更新終了

962名無しリゾナント:2015/05/13(水) 00:32:08

(痛い──マジ、ありえねーし!)

声がする

誰?
誰の声?

(こんなトコで……じっとしてられるかよ!)

声がした方へ行くと、壁に手をつきながら片脚を引きずって歩く人が居た

「くっ……あーもう!」

ちょっと年上っぽい女の子
でも、髪はショートだし声はハスキーでボーイッシュな感じ

その女の子は、額に汗を滲ませながらゆっくり歩いて行く

「うわっ!」

ドタッ!

女の子が倒れた

「い……った、くそっ!」

引きずってた脚を、何度も何度も叩く女の子
眼には涙が溜まっている

「なんでこんな時に……!」
「大丈夫、ですか?」

963名無しリゾナント:2015/05/13(水) 00:33:03

気が付いたら、声を掛けていた

「君、なんでこんなトコに……?」

こんなトコ
ここは、ある条件を満たした子どもが集められた施設

「まさか……君は
「肩を貸します。ここを出ましょう」

女の子の背中に腕を通し、立たせようとする

「ごめん、無理だわ」

制された

「ここには、もう誰も居ませんよ」
「居るよ。ハルの仲間が、家族が戦ってる。ハル1人で逃げるなんて出来ない」

戦ってる?
誰と?
そもそも

「その脚で、何が出来るんですか」
「頑張っても絶対に上手くいく保証なんてない。それでも、頑張った先には何かがある。だから、ハルは行く」

上半身を起こし壁に寄り掛かるハルさん

「そんな状態になってまで、戦う理由があるんですか。歩く事も出来ないのに、普通じゃない」
「大切な家族を守るのに……正当な理由なんていらないんだよ」

964名無しリゾナント:2015/05/13(水) 00:34:44
>>962-963
見切り発車ですが、保全の一環という事で。

タイトルは完結後に。

965名無しリゾナント:2015/05/13(水) 00:35:50
>>964
大切な事を忘れていました。
代理投稿お願い致します。

966名無しリゾナント:2015/05/13(水) 00:43:52
行きます

967名無しリゾナント:2015/05/13(水) 02:35:06
>>952-960 の続きです



異変は、車両内にいた春菜たちにも伝わっていた。
何の前触れも無く、ゆっくりと動きを止める列車。その止まり方に、春菜は既視感を覚えていた。
もしかして、これは。

「鈴木さん、物質透過をお願いします!!」
「え?あ、うん、わかった!」

取り合えず外に出ようという判断なのだと悟った香音。
自身と春菜、そしてさくらに物質を透過させる力を与えた。

最初からそこに何もなかったかのように、車両のドアを摺り抜ける三人。
春菜は、先頭車両の鼻先に立っている女性を見て、思わず声をあげる。
この独特な雰囲気。見間違えるはずもない。

968名無しリゾナント:2015/05/13(水) 02:36:46
「あ、彩ちゃん!!」

和田彩花。スマイレージのリーダーにして、加速度操作能力の使い手。
やっぱり、という気持ちと同時に、まさかこんな場所で会えるなんて、という驚き。
スマイレージのリーダーとして、花音の手助けに来たのかも、などということは、これっぽっちも
考えなかった。

「やっぱりはるなんだ!はるなん!はるなん!!」

一方の列車暴走を止めた立役者である彩花もまた、春菜の姿を見つけてこちらに駆け寄る。手を取
り合い飛び跳ねている様は、緊張感の欠片もない。

「何ですか、あれ。あの人、確か生田さんと飯窪さんが助けたっていう。その時の恩返し、なんで
しょうか」
「さあ、どうなんだろうね」

その様子を遠巻きで見ながらも、警戒を怠らない香音とさくら。
そんなことを思われてるとはいざ知らず、美しき友情を展開している二人だが。

「今回はほんとに危なかったんです!彩ちゃんがいなかったら、どうなってたか」
「ううん、あや大したことしてないから」
「でもどうしたんですか、こんな場所に」
「んー。花音ちゃんたちが、あやに黙って勝手な行動するから連れ戻しに」

そこでようやく、春菜は今回の花音の襲撃がまったくの独断だったということを知る。
後から考えてみると、スマイレージのリーダーは彩花なのだ。彼女が不在だったという事実が不自
然なことだと気づくべきだった。

969名無しリゾナント:2015/05/13(水) 02:37:57
「そうだ、はるなんの先輩だっけ。道重さんと一緒に来たんだ。今、あっちのほうに行ってる」
「み、道重さんが来てるんですか!!」

さらに思いがけない事実。
どうして道重さんが、と思う前に、ある異変に気を取られる。
彩花が指差した方向には、リヒトラウムの入場門がある。
そこに、遠目からでもわかるくらいの人だかりと呼ぶにはあまりに多くの人間がひしめき合っていた。

「…とにかく、みんなと合流しよう。あの「金鴉」「煙鏡」とか言う2人組のことだ、きっと次の手
を打ってくるはず」
「じゃあ彩も。あっちのほうに花音ちゃんたち、いるっぽいし」

こうして完全に沈黙した列車から離れ、香音たちは入場門を目指すのだった。
一方、件の入場門の前には。

970名無しリゾナント:2015/05/13(水) 02:39:43
「みんな、大丈夫だった!?」
「道重さん!!!!」

聞き慣れた声に、耳を疑うリゾナンター一同。
白い肌に艶のある黒髪、はっきりした二重瞼。
喫茶リゾナントの主であり、そしてリゾナンターのリーダー・道重さゆみ。
彼女は間違いなく、リヒトラウムの地に立っていた。

まさか。でもどうして。とにもかくにも、ぎりぎりまで張り詰めた緊張の糸は、一気に緩むことと
なる。
じわじわとこみ上げる思い。感極まって、全員でさゆみを囲むような形を取ろうとした時。

「りほりほー!!」
「むぎゃっ!?」

さゆみは、「標的」へとまっしぐら。
お決まりのハグ、そして治療と称したお触りだ。
全身で喜びを表現しているさゆみと比較して、ただ身を硬くして目を白黒させている里保、という
光景は最早お約束である。

「愛佳がみんなが血塗れで倒れてる未来を視たから心配になって…でもさゆみは決してみんなのこ
とを信頼してなかったわけじゃないし、それに何よりも、りほりほ、怪我はない?敵に変なことさ
れなかった?」
「は、はあ…」

今まさに変なことをされているんですが。
全身にくまなくぺたぺた、さわさわと癒しの手を這わせるさゆみに、そんな言葉をかけられるはず
もなく。ただ、こうなると外野が黙っていない。

「やすしさんだけずるい!もうみにしげさんきらい!!」
「み、道重さん!あたし、リオンの出し過ぎでちょっと腰が…」

あっと言う間に、後輩たちに囲まれるさゆみ。

971名無しリゾナント:2015/05/13(水) 02:40:48
そんな中、相変わらず忌々しげにこちらを見ている花音と目が合う。

「あんた、確かスマイレージの」
「何ですか。あたしたちはもう、これから帰るところなんですけど」
「…リーダーの子が、心配してたよ」
「は?余計なお世話です」

花音は、さゆみの言葉が図らずも彩花がこの地に来ていることを示すものと悟る。
何であやだけ仲間はずれなの、と変な空気で詰問されるのはまっぴらだ。
彩花がいることで戦力の大幅増大、はいいけれども。さゆみがいる以上は共闘などという最悪の展
開すらありうる。
一刻も早く、この場から立ち去らなければならない。

一方、さゆみは花音を見て。
ひねくれた面倒臭そうな相手ではあるが、愛佳が伝えた悲劇の未来からはほど遠いように感じた。
第一、そのような圧倒的な実力を持っているようにも見えない。では、あの予知は。

まるでさゆみの疑問に答えるかのように。
その二人は突然、姿を現した。

「随分遅いご登場やないか」
「こっちは待ちくたびれたっつの」

空気が、重くなる。
それは地獄の使者が放つ、底知れぬ悪意のせい。

972名無しリゾナント:2015/05/13(水) 02:41:52
さゆみは現れた二人の少女、「金鴉」「煙鏡」の姿を一目見て、理解する。
この二人こそが、後輩たちを血の海に沈める未来を齎すものだということを。

973名無しリゾナント:2015/05/13(水) 02:42:43
>>967-972
『リゾナンター爻(シャオ)』更新終了

974名無しリゾナント:2015/05/14(木) 09:53:57
本スレ
>>604-605
の続きです。

975名無しリゾナント:2015/05/14(木) 09:54:29

ハルさんは壁に手をつき、少しずつ立ち上がる

「……!」

脚を押さえ、うずくまるハルさん
顔色は朱く、汗は滝の様に流れている

「これくらいの痛みがなんだ……心の痛みに比べたら全然っ!」

心の、痛み

「……どこが痛いですか?」
「え?」

ハルさんの側でしゃがみ、痛めた脚に手を当てる

──痛覚制御──ロスト・ペイン

「……痛みが、消えた?」
「怪我を治した訳じゃありません。痛みを消しただけです」

消せるのは身体の痛みだけ

「やっぱり君も……能力者」

人間を超えたチカラを持つ者
でも、中途半端なチカラ
役立たずなチカラ

「そんな事ないよ」

976名無しリゾナント:2015/05/14(木) 09:55:35
伸ばされた手で、頭を撫でられる

「痛みを消してくれて、ありがとう」
「──!」

そんな事、今まで一度も言われなかった
なのに、この人は

「よし!」

動きはぎこちないものの、立ち上がるハルさん
その眼は施設の奥を見ている

「……行っちゃうんですか?」

ハルさんが振り返る
その表情は、笑顔だった

その笑顔は、誰の為?

「家族が待ってっからさ」

行って欲しくない

「……一緒に行きます」
「危ないから君はダメ」
「危ない場所に、あなたは行くんですか?」

行かないで

977名無しリゾナント:2015/05/14(木) 09:56:27

「大丈夫! 実は、はるかケンカちょー強いんです! なんてね」
「……怪我してるのに」
「そこ突かれると痛いなー。ま、怪我は君のおかげで痛くないんだけどね。ナハハー」

だって、あなたは

「心細いかもしれないけどさ、ここで待っててよ」

初めて──

「必ず迎えに来るから」

そう言って、フラつきながら施設の奥へ走って行った

その背中を見ていたら、追い掛けたいと思った
ううん、追い掛けるんだ

そう思い一歩踏み出した、その時

「見つけたぞ」

後ろから声を掛けられた

「全員避難した。残るは君だけだ、羽賀朱音」

この施設の人

「直ちにこの場を離れるぞ」
「……はい」

978名無しリゾナント:2015/05/14(木) 09:57:30


──


施設を出ると、空は茜色に染まっていた

「最後の1人を確保、指定地点に到着しました。転送をお願いします」

通信機で話す施設の人

きっと、ここへは二度と来ないんだろう
見納めにと振り返る

「きれい……」

施設の影から少しだけ見えた太陽
徐々に消えて行くオレンジ色は、まるであの人の様だった

心地良い声
優しい言葉
温かい笑顔

誰かの身体の痛みを消した分だけ、自分の心が傷付いてた
無能力者からは嫌われ、能力者からは馬鹿にされてた

だけど、初めて〝ありがとう〟くれた〝はるか〟さん

あの笑顔に、もう一度会いたい

必ず再会する
その為に、朱音は──

979名無しリゾナント:2015/05/14(木) 10:05:12
>>975-978
『アカネ』完結です。

能力設定は以下から↓
http://www35.atwiki.jp/marcher/pages/1202.html

>>608
活躍、してませんよね……。

>>616
予想はいかがでしたでしょうか。

980名無しリゾナント:2015/05/14(木) 10:12:27
>>979
大切な事を忘れていました。(2回目)
代理投稿お願い致します。 (2回目)

>>966
代理投稿ありがとうございます。

981名無しリゾナント:2015/05/14(木) 19:06:16
行ってきます!

982名無しリゾナント:2015/05/14(木) 19:10:13
と思ったんだけどなんか規制されて書き込めない…どなたかお願いします

983名無しリゾナント:2015/05/14(木) 22:01:13
再度チャレンジ!

984名無しリゾナント:2015/05/19(火) 16:02:23
>>967-972 の続きです



ポニーテールと、ゆるふわヘアの二人組。
ゆるふわのほうがマント状の白いストールを翻して後退し、ポニーテールのほうが前に出た。
二人同時で何かをするつもりではないらしいが。

こいつ、強い。
遠巻きにその様子を見ていた花音は、ダークネスの幹部を名乗った少女を素直に評する。
そのような地位の人物と相対するのは二度目だが、発される威圧感は「赤の粛清」に匹敵するほど
のように感じられた。

「まずは…ご挨拶代わりに」

言いながら、ポニーテールの「金鴉」のほうが懐から何かを取り出した。
真紅の液体が詰まった、小瓶。

その中身を一気に飲み干すや否や、
人差し指と親指をピストルのように立てて、何かを発射する。
さゆみではなく、未だパニックに囚われ出口にひしめいている群衆のほうに。

「何を!!」

悪魔の弾丸は、里保の咄嗟の反応により着弾することなく一刀両断された。

「決まってるじゃん。景気づけに、ぶっ殺すんだよ。そいつら全員」

今度は、両手で。
しかし放たれる念動弾の数は、先程の非ではない。
圧倒的な、物量。

985名無しリゾナント:2015/05/19(火) 16:03:25
近くに水があるならともかく、これだけの量の弾丸を全て打ち落とすのは不可能に等しい。
里保だけではなく、他のメンバーたちも放たれた念動弾を処理しようと駆け出す。
だが、間に合わない。数が多すぎる。
弾に穿たれ、苦悶にのたうち回る人で溢れかえる未来は変えられそうになかった。

「…ちっ」

しかし。
後ろで見ていた「煙鏡」が不機嫌そうな顔をし、「金鴉」は思わず舌打ちをする。
高速で突き抜けるはずの念動弾は急に速度を弱めていた。その隙に、里保の斬撃が、衣梨奈のピア
ノ線が、亜佑美の呼び出す鉄の巨人が。飛来する弾を次々に打ち落としていった。

「間に合った!!」
「里保ちゃんたち!それに、道重さんも!!」

息を切らし駆けつけた香音、春菜、さくら。
そしてその後ろに立つ、加速度操作の能力者。

「邪魔なやっちゃな。ま、構う事あらへん。のん、やりぃや」
「りょーかい!!」

引き続き「金鴉」が、他には目もくれずにか弱き非能力者たちをその的にかける。
しかし、彩花の加速度操作によって漂うシャボン玉の如く。勢いを失った念動弾は里保たちによっ
て次々と無力化されていった。

986名無しリゾナント:2015/05/19(火) 16:05:28
一方で、彩花の登場に、明らかに不機嫌な顔になった花音だが。

「花音ちゃん」
「な、なによ」

不意に、彩花に名前を呼ばれる花音。
あたしを連れ戻しに来たのか。一体何の権限があって。リーダーだから? 知り合ったばかりの胡
散臭い黒ゴボウと意気投合しちゃうくらい、警戒心がないくせに。
言葉はいくつも浮かべども、口にすることができない。

「あやもずっと能力使ってるの、疲れちゃうから。その人達、花音ちゃんが操って外に出して」
「はぁ!?」

ストレート過ぎる要求。
彩花らしいと言えば聞こえはいいが。

加速度操作により極度に低速化された、念動弾の雨。
これを打ち落とす手勢に、新しいスマイレージの四人が加わっていた。

「みずきちゃん、あかりも手伝うっ!」
「あかりちゃん!」
「全部打ち返してやる!!」

言いながら、大振りなスイングでホームランを量産する朱莉。
こうなると他の三人も負けていられない。芽実が分身で手分けして弾丸の処理に当たれば、香菜が
防御用の結界を張る。また、里奈は持ち前の俊敏さで大量に降ってくる念動弾を着実に打ち落とし
てゆく。

987名無しリゾナント:2015/05/19(火) 16:06:04
共闘。
花音が最も恐れていたことだった。
何のためにここに来たのか。自分自身が否定されているような気さえする。

花音は、追い詰められていた。
これでは、今の自分はただの聞き分けの無い裏切り者だ。
彩花の様子を窺うと、疑いのない目でまっすぐにこちらを見てくる。
そうだ。その目でいつもあたしを。
花音の意識は、過去へと繋がる裂け目へ吸い込まれていった。

988名無しリゾナント:2015/05/19(火) 16:07:18


「海月のようにただふわふわと浮くことしかできない」はずの彩花が突如、本来の力を発揮し始め
たのは、能力者の卵たちであるエッグから実用に叶う人間を選出しチームユニットを結成すると発
表されてからすぐのことだった。

物体の速度を自在に操り、攻防ともに優れた能力。
彩花は選抜ユニット「スマイレージ」に選ばれることとなり、さらにはリーダーまで任されること
になる。幼少の頃よりエリートとして持て囃されていた花音が、それを面白く思うはずもなく。

「…どいてよ。邪魔なんだけど」
「あやはここに座りたいから座ってるだけだし、知らなーい」

花音と彩花は、そんな些細なことですら衝突を始める。
一方的に花音が突っかかっているだけとも言えるが、それがさらに花音の勘に障った。
だからと言って、花音はユニットを抜けたいなどと思う事は一度も無かった。理不尽な任務に対し
て根は上げる事はあってもだ。

まるで、支配者の瞳のようだ。
花音は彩花の視線を、密かにそのように捉えていた。
別に特別な能力があるというわけでもない。ただ、そのまっすぐな瞳で見据えられると、何となく
反駁する気が失せて結果的には相手に折れてしまう。
リーダーとしてリーダーシップを発揮したことなど、ほとんどないくせに。それでも、あの頃から、
スマイレージが4人だった時から。
彼女は、「リーダー」だった。

989名無しリゾナント:2015/05/19(火) 16:09:46
花音は、彩花に対し複雑な感情を抱いていた。
普段はどことなく抜けている、天然な彼女に対して、ある種の優越感さえ抱いていたのに。
しかし、裏を返せばそれは花音のコンプレックスでもあった。

あれだけの苛烈な試練を、何度も潜り抜けさせられてきた。
それなのに、彩花の心は少しも歪むことなく、育っている。
彼女のまっすぐな視線は、そのことを如実に表す。彼女が支配しようとしているのではない。投げ
かけられたものを素直に返すことができないから、何も言えなくなってしまうのだ。

彩花は自ら引っ張ってゆくようなタイプのリーダーではない。
かと言って、周りの人間が支えてゆかねば、と思わせるタイプでもない。
ありのままに行動し、ふるまう姿。
気が付くと、紗季も、そして憂佳もついていっている。
花音にはその光景自体が、眩しかった。
彩花を筆頭に、自分も含めた四人のスマイレージ。光のように眩しい、思い出。

けれど、認めるわけにはいかない。
それが、花音に残された最後の砦なのだから。

990名無しリゾナント:2015/05/19(火) 16:10:50


時間にして、数秒。いや、それよりもさらに短い時間だったかもしれない。
花音は、自分の思いが4人で活動していた頃に馳せていたことを意外に思った。憂佳や紗季は弱い
から、いなくなった。ただそれだけのことだと思っていたのに。

いやそれは嘘だ。
花音は「意図的に」自分の心にそう言い聞かせていただけだ。
本当は。本当は。

「帰ろう? 新しい『スマイレージ』を作るために。ゆうかちゃんや、さきちゃんが守ってきた、
『スマイレージ』を守るために」
「……」

別に、彩花に言われたからではない。
彩花に、誰かに言われて言われた通りにやるのは、癪だし納得できない。
だからこれは。自分の意思で、やるのだ。

今日は疲れた。早く帰りたい。
贔屓目に見ても、後輩の四人はまだまだだ。鍛えれば少しはましになるかもしれないが。
そのためにも、早く帰って色々やらなければならないことがある。

花音の放つ隷属革命が、恐慌状態の群集に降り注ぐ。
閉ざされた入口に折り重なりあっていたものたちも、互いの襟首を掴みあっていたものたちも、み
な一様に虚ろな顔になり、列を作り、並び始めた。

出入口を塞いでいた鉄板は、芽実の分身の一体が破壊し突破口を広く作っていた。
ゆっくり、しかし確実に。行儀のいい団体は、少しずつ敷地から押し出されるように出てゆく

991名無しリゾナント:2015/05/19(火) 16:12:21
「させるかよ!!」

なおも無力な群集たちに攻撃を仕掛ける「金鴉」だが、暖簾に腕押し。
彩花の加速度操作の前には、無力だった。
そんな攻防の中、春菜と彩花の目が合う。

「彩ちゃん」
「ごめんねはるなん、この人たちを無事に施設から出さなきゃいけないから手伝えないけど」
「ううん、いいんです。それより、その人たちのこと…お願いします」
「わかった。はるなんたちなら、きっと」
「はい、大丈夫です!」

道重さんがいるから。
その言葉を春菜は敢えて、胸にしまい込む。
さゆみが来た事で戦況に光明が見えたのは確かだけれど、それを彩花の前で口にするのはかなり
恥ずかしくも情けなくもあるからだ。

花音が群集を引き連れ、それを四人の後輩たちが護衛する。
里奈の「なーんだ、全員操れるんじゃん。わけわかんね」という毒吐きなどどこ吹く風。
新しいスマイレージたちは、一つの目的に一致団結を形作った。

「みずきちゃん、あかりたち行かなきゃ」
「うん…今度は、もっとちゃんとした形で」

そして聖と朱莉も。
次こそはうれしい再会になるように、約束を交わす。
そのためには。無事にこの状況から、切り抜けなけれなならない。

992名無しリゾナント:2015/05/19(火) 16:14:14
一方。
先ほどから緊迫した空気をぶつけ合う、さゆみと「煙鏡」。
そこに追撃をようやく諦めた「金鴉」が合流する。

「ようやくメインディッシュの時間や。これが人気マンガなら読者さんも待ちくたびれてるで」
「…つまらない茶番ね。あんたたちの書く筋書きなんか、10週で打ち切りなの」

さゆみは「金鴉」の顔に見覚えがあった。
以前、同僚の田中れいなに「擬態」した刺客が、彼女にとてもよく似た姿形だったことを記憶し
ていたからだ。しかし。
その横で厭らしい笑みを浮かべる「煙鏡」とは、まったくの初対面。

「改めて自己紹介といこか。うちは『煙鏡』。道重、お前をここに呼び出す絵図を書いた天才策
士や。めっちゃリアルやったろ? 『お前の後輩たちが血塗れで倒れている未来』は」
「それ、どういう」

「煙鏡」は待ってましたとばかりに、大きく相好を崩す。

「偽の予知やってん。お前のお仲間の…何やったっけ。予知能力持ってたやつ。のんがそいつに
接触して、あたかも予知で未来を見たかのように記憶を刷り込んだ」
「え…」
「お前をおびき出すためのエサ、っちゅうわけや。そこのクソガキどもをこの場所に呼び寄せ
たのもな」

相方の言葉に合わせ、自らの姿を変える「金鴉」。
それを見た優樹が、

「あ!福引きのおねーさん!!」

と大きな声をあげた。

993名無しリゾナント:2015/05/19(火) 16:15:33
この瞬間に、リゾナンターの全員が理解する。
商店街のくじ引きが当たったと言っていた優樹。手にした「プラチナチケット」。あれも、そう
だったのか。
全ては、敵の仕組んだ罠だったのかと。

「おっと。悔やんでる暇はないで? うちらもうひとつ用事あんねん。さっさと済まさなな」
「全員、ぶっ殺してやるよ」

「金鴉」が、大きく前に出た。
先に彼女と交戦した春菜が、叫ぶ。

「気をつけてください!この人、姿と能力の、両方を擬態できます!!」

相手の危険性を察知した全員が、「金鴉」を取り囲む形になる。
亜佑美が、衣梨奈が、そして里保が前衛となり、他のメンバーが彼女たちをサポートしようと一
歩下がった時のことだ。

「待って」
「道重さんっ!?」
「まずは、さゆみがあいつらの能力を…丸裸にするから」

さゆみはそう言いながら、意識を大きく裏側へと傾けた。
つんくから貰った薬により、本来ならば意図的には交代できない「人格」が表に現れた。

994名無しリゾナント:2015/05/19(火) 16:16:15
「…さゆちゃんの可愛い後輩は、私の可愛い後輩。無事で帰れるとは、思わないことね」

姿は変わらずとも、伝わる。
彼女はもう「道重さゆみ」ではない。
妖しい光を湛える瞳、そして黄泉の空気を纏っているのではないかとすら思えるような雰囲気。
人体の感覚に優れた春菜などは、気に当てられ冷や汗を流していた。

さゆみの姉人格・さえみ。
その柔らかな手は、生きとし生けるものを全て、灰燼に帰す。

「のん…頼んだで」
「へっ、これが噂の滅びの導き手ってやつか。上等じゃねーか!!」

「煙鏡」に促された「金鴉」が、滅びの聖女の前に立つ。
激戦の火蓋が今、切り落とされようとしていた。

995名無しリゾナント:2015/05/19(火) 16:17:35
>>984-994
『リゾナンター爻(シャオ)』更新終了

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