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もしもだーさくこと石田亜佑美と小田さくらが賞金稼ぎコンビだったら

1名無し募集中。。。:2016/03/06(日) 12:00:05
小田「賞金は山分けですよね?」
石田「は?あんた助手でしょ?」

2名無し募集中。。。:2016/03/06(日) 12:12:46
<あらすじ>
近未来の日本。震災と原発事故の影響で行政運営が破綻した東日本の某都市。
警察機構そのものが私企業に売却され、街はやりたい放題の無法地帯と化していた。
悪化する治安に対処するため、企業は独自の保安システムを構築する。
これはそんな現代の「賞金稼ぎ」の物語である…。

3名無し募集中。。。:2016/03/06(日) 13:22:38
オールド・センダイ署の外観は、警察というよりも軍隊の基地のようだった。
煉瓦の外壁には銃撃の痕跡があばたのように残っている。
前の道路に乱雑に並んでいるパトロールカーのほとんどはあちこち凹んで、傷だらけだった。

石田亜佑美は、ガソリンをがぶ飲みするワゴンを署に隣接する駐車場に入れた。
バッグをつかんで正面玄関に向かう。

亜佑美がコード化された“狩猟”許可証を正面玄関横のスロットに差しこんだ。
スロットはブーッという音とともに、許可証を吐き出して金属の門のロックを解除した。

ちょうど同じタイミングで囚人護送車が止まり、何人かの犯罪者を吐き出した。
進化論に逆らっているような連中だった。人間より猿に近い。

ひとりの容疑者がいきなり警護の係員を蹴飛ばした。
亜佑美はあっけに取られて見つめた。
容疑者は、手負いのサイのようにいきりたっている。
身体つきもサイのようにごつい大男だった。

大男は手錠をかけられたまま突進し、正面ドアに頭突きをかまそうとした。
そのとき、亜佑美の後方から小さな影が高々と跳びあがった。

影は怒り狂う男の股間を蹴りつけた。
背丈はやっと大男の肘までしかない。小柄だ。
亜佑美と同じくらい小柄である。

大男はうめきながらも手錠のはまった両拳で、その影を突き飛ばした。
その影、亜佑美と同じくらいの体格、しかも同じように女の子である

不意をつかれたその女の子はどさりと床に倒れたが、すぐさま警棒を片手に大男に突進した。
そして驚くほどの素早い動作で立て続けに大男を殴りつけた。
たちまちのうちに大男は血だるまになった。

「それ以上やると公民権侵害で訴えられるよ」
見かねて亜佑美が声をかけた。
ちょうど女の子が大男の頭に最後の一撃を食らわせたところだった。
大男は倒れ、椅子をひっくり返しながら床にのびた。

それが小田さくらとの最初の出会いだった。

4名無し募集中。。。:2016/03/06(日) 15:43:13
全員がおそろいの飛行服を着たように見える囚人を引率する係員たちが、記帳室を出たり入ったりしている。
てんやわんやの署内を取り仕切っている譜久村聖をようやく見つけられた。

さくらの姿を見るなり聖は、高い壇上にあるデスクから立ちあがった。
こちらに向かって歩きだしたが、3歩と進まないうちに、スーツ姿の女に阻まれた。
狡猾そうな顔つきの女だった。

「わたしの依頼人の件ですけどね。計画犯罪なんてとんでもありません。
これ以上の拘留は明らかにわたしの依頼人の人権侵害です」
聖はにこやかに微笑んでいる。
しかし紅潮した顔が内心の怒りを示していた。
「何回でも言ってあげますけどね。福田さん、あなたの依頼人はクズです。
あなたもクズです。ここにはここの規則があるんです。
クズが判事に話をするまでにはまだまだ日数があるんですよ。
さあ、とっとと出てってください。あなたは帰り、あなたの依頼人はここに残る」

弁護士の福田花音は不快感をあらわにしながら、聖をにらみつけた。
しかし、わざとらしくため息をつくと歩き去った。

さくらは思わず笑った。
聖は壇上から身振りしてさくらを呼び寄せた。
バッグに手をつっこんださくらは、なんの役にもたたない書類の束を取り出して、聖に手渡した。

「小田さくらです。オールド・ザマからの異動です」
聖はうなずいて、その書類をほかの役にたたない書類の山の上に置いた。

「いきなり仕事するなんて、熱心すぎるわね」
さくらが返事をする前に、聖がつづけた。
「ここの仕事にはちょうどいいくらいかな。さ、防具とスーツに着替えてきて」

「はい、感謝します」と、さくらはきびすを返しかけた。
聖はさくらの肘をつかんだ。「おっと、“ハンター”さん」
「はい?」
「楽しくやってね」

さくらは奥に向かい、大きな金属ドアをふたつ通り抜けた。
防具をつけているハンターたちを横目で見ながら、通路をぶらぶらと歩み進んだ。
さきほど見かけた女の子がいた。ハンターだったのか。

さくらは声をかけた。
「小田さくらといいます」
「あたし、石田亜佑美。いま手が放せないから」女の子はぶっきらぼうに答えた。

さくらは動じることなく亜佑美に尋ねた。
「わたしのロッカーはどこでしょう?」

亜佑美は不機嫌な表情でさくらを一瞥した。
そして手を伸ばし、左のロッカーから“鞘師”という名札をもぎとった。
「ここを使いな。いまのところ誰も使ってない」

5名無し募集中。。。:2016/03/09(水) 19:04:19
期待

6名無し募集中。。。:2016/03/20(日) 11:29:13
さくらはロッカーに薄紫色のスポーツバッグを放りこんだ。
背後では、壁に埋めこまれた2台のモニターが、オールド・センダイ市内の各地域からの情報を中継している。
低いハム音が絶えずあたりに流れていた。

さくらは後ろにあった木のベンチに腰をおろした。
ベンチは体重を支えきれないような派手な音をたてて、壊れんばかりにたわんだ。

「そこ、座らないほうがいいよ」と、左側にいたハンターが忠告した。「怪我する」
すぐそばで、3人のハンターが小声でなにごとか話し合っている。
さくらはゆっくりと防具を装着しながら、その会話に耳を傾けた。

「鈴木さんのこと、なにか聞いた?」
「まだ危篤状態だって」

さくらはボディスーツのパッドを調整し、窮屈な袖を引っ張った。
さくらの左側にいたハンターが、にっこりと笑いかけてきた。
「で、あなたなんでこの“楽園”にやってきたわけ?」
さくらはあいまいに肩をすくめた。
「人事異動です。アップフロントによる組織再建の一環だそうで」
「佐藤優樹」ハンターが名乗った。
「小田さくらです」

別のハンターが歩み寄ってきた。
胸のポケットに工藤という名前が縫いつけてある。
「組織再建?ふん、あんな連中に任せておいたら街はガタガタになるだけだよ」

「なんでもかんでも予算、予算だからさ」優樹が言った。
「こっちは使えるものなら戦闘機でも使いたいのに」
「嘘だと思うなら、困った時に援軍を呼んでみな」と工藤遥。皮肉っぽく笑っている。

遥が鼻を鳴らして続けた。
「鈴木さんが、先輩のハンターなんだけどさ、救護班を呼んだんだ。
1時間近く放っておかれたんだよ。誰かがやっと見に行く気になるまでね」

さくらは靴の紐をぎゅっと締めた。室内が静かになった。
さくらが顔をあげると、聖がむっつりした顔で段ボール箱を手に持ち、
鈴木と名札のついたロッカーに歩み寄るところだった。
聖は名札をしばらく凝視し、やがてゆっくりとロッカーの中身を箱にあけはじめた。

全員の視線が聖に集中した。ただ、聖に背を向けていた遥だけがそれに気づかず熱弁をふるい続けた。
「会社のアホどもに、どう対処したらいいのか教えてやるよ。
ストライキをぶつんだよ。うちらがいなきゃどうなるか思い知らせるのさ」

さくらは遥に“まずいですよ”と目配せした。
遥はゆっくりと後ろを振り返った。
聖が鈴木香音の荷物を箱に入れている。ロッカーの名札をはがし、それを香音の私物の一番上に置いた。

目を赤くした聖が、ハンターたちに向き直った。
さっきより10年は老けこんだような顔だった。
「葬儀は明日」と聖。感情を押し殺した声だ。
「参列できる人は全員お願い。遺族への弔慰金は…慣例通り払われる」

ハンターたちは全員が床をにらみつけた。懸命に怒りを抑える表情である。
箱を持ちあげて出口に向かう聖は、遥の前でちょっと立ち止まった。
「ストライキの話なんてしないで。治安を守るために働いてるのよ。そのことを忘れないで」

7名無し募集中。。。:2016/03/20(日) 13:04:27
オールド・センダイの法執行機関の職員は、とりわけカルテルに関してはひどく堕落していると評判だった。
カルテルの資金力は、警察官の稼ぎなどまったく問題にならない。

だが、恐ろしいのはカルテルの財産や人的資源だけではない。
カルテルは法の執行者を恐れない。あまりにも頻繁に誰でも殺すことを実地に見せてきた。
警察官、政治家、裁判官、ジャーナリスト。誰も安全ではない。

しかも直接的に問題となる人物を殺すだけでなく、その家族、関係者をも殺す。
信じられないほど陰惨な殺し方をすることが多かった。

しかし、だからといってオールド・センダイに正直な人間がいない、カルテルの犯罪行為に立ち向かう勇気ある人間がいないわけではない。

亜佑美は拳銃をホルスターにおさめ、ヘルメットをつかみ、ロッカーをばたんと閉めた。
そして遥の肩に手を置いた。
「考えこまないほうがいい。みんなイライラしてるんだから」
「ああ…そうだね」

大部屋に戻った亜佑美は聖に呼び止められた。
「あゆみちゃん」と、聖は話しかけた。「新しい相棒に、近所の地理を教えてあげて」

「よろしくお願いします」さくらは亜佑美の手をぎゅっと握り、上下に振った。
愛想よくにっこりと笑っている。

「いったいあの…」悪態が出てくる前に亜佑美はつばを飲んだ。
聖が眉を吊りあげた。「小田さくらちゃん、オールド・ザマでの“戦果”を調べた。完璧ね」

「ふん、こっちよ」亜佑美はそれ以上なにも言わずにさくらを完全に無視して、その脇を通り抜けた。
きつく握られた手が赤くなっている。
亜佑美は足早に部屋を抜けていく。さくらは小さくなってその後を追った。

聖がクスクスと笑っている。「お幸せに、おふたりさん」
楽しそうな口調で続けた。「お似合いのカップルだわ」

亜佑美とさくらは駐車場に入った。ガソリンの臭いと、一酸化炭素ガスが充満していた。
ハンターたちが次々とターボクルーザーに乗りこんでは急発進させていく。

「ピカピカですね」さくらが言った。
「先週、被弾したキズを修理したばかりだからね」亜佑美が応えた。
亜佑美は運転席に歩み寄ると、ぐいとドアを開けた。
「あんたがこのあたりの道を覚えるまでは、あたしが運転したほうがいいわね」

さくらは亜佑美の脇をすり抜けて、運転席に座った。
「新しいパートナーと組むときは、自分が運転することにしてるんです」
さくらはそう言ってドアを閉めた。

残された亜佑美は不機嫌な表情でさくらをにらんだ。
さくらがエンジンをかけると、諦めたようにぐるりと車体を回って助手席についた。

「あんた、ザマでもこういう車に乗ってたの?それとも向こうじゃ、おかかえ運転手つき?」亜佑美がからかい口調で言った。
答えるかわりに、さくらはアクセルを踏みこんだ。
タイヤをきしませながら、スロープを出る。

通りへの出口のところで、2台のターボクルーザーが停車していた。
さくらはニヤリと笑うと、2台の間をスレスレに通り抜け、一路北を目指した。

亜佑美はあっけにとられながらつぶやいた。
「…なかなかやるじゃない、新入りにしては」
ターボクルーザーはすべるように裏通りを走った。
背後の再開発された地区でスカイラインが太陽を浴びて輝いている。

オールド・センダイのスラム街にターボクルーザーが飛びこみかけた時、亜佑美はバックミラーを指した。
「文明社会にサヨナラを言ったほうがいいわよ」
さくらはバックミラーをちらりと見た。
「あれが文明と呼べるものなら」さくらがつぶやき返した。
「あんた…のみこみが早いんだね」亜佑美は苦笑いした。

8名無し募集中。。。:2016/03/20(日) 18:45:15
亜佑美はターボクルーザーの側面に寄りかかり、周囲の焼け落ちたまま放置されているビルを眺めた。
5年以上前のこの街は、まだ活気に満ちていた。
大勢の家族が住み着いており、何代にもわたって住み着いている古顔たちがたくさんいた。

頭上には暗くて不気味な雲が立ちこめている。
ポロポロと崩れていく過去の破片を見おろすような陽光が、雲の間から出たり、引っこんだりしていた。

この区画でたった一軒だけポツンと店を開いているバーガースタンドに、亜佑美は目をやった。
ヘルメットを脱いださくらが、2杯分のコーヒーの勘定をクレジットカードで済ませているところだった。

さくらがコーヒーを手にして歩み寄ってきた。
亜佑美にコーヒーを手渡し、ふうとため息をついた。
「なによ?」
訊かれてさくらは恥ずかしげに微笑した。
「コーヒー、苦手なんですけど。チャレンジします」

「ああ…あそこ、コーヒーしかないからね」亜佑美はコーヒーをすすった。
一口飲んで苦味に顔をしかめたさくらを見て、亜佑美はニヤニヤと笑った。
「お子ちゃまか」

さくらはじっと、この新しい相棒を見つめた。
「石田さん、どうしてこの仕事を?」
「さあね」
「“さあね”って、どういう意味ですか?」

亜佑美はコーヒーをすすり、一瞬考えこんでから答えた。
「この街をなんとか救おうと…そんなところね」
「善良な市民のために街を安全に」さくらはうなずいた。

「あんたこそ、どうしてなのよ?」
さくらが答えるより先に、車の計器盤が甲高い音をたててパッと点灯した。
さくらは、開けたままの運転席の窓に頭を突っこんだ。
グリッド上に情報が表示されはじめている。グリッドマップが点灯した。
移動する青い光点を追尾している。

“リンク”の通信回線がやかましい音をたてはじめた。
「周辺のハンターに通知――事案発生。112進行中。プレート701、サブセクター61にて北上中の白色のバンを追跡せよ」

運転席につこうとしたさくらを追い越して、亜佑美はするりと自分がハンドルの後ろへすべりこんだ。
「さあ、乗りなさい。置いてくよ」

ぶつぶつ小声でぼやきながら、さくらはターボクルーザーを回りこみ、助手席に飛びこんだ。
間髪を入れず、亜佑美はアクセルを踏みこむ。
もうもうと土埃と砂利をあとに残してターボクルーザーはバーガースタンドを離れた。

さくらは前屈みに“リンク”の方へ身を乗りだした。
「こちら石田と小田。本部どうぞ」
ピクピクと脈打つ青い光点をじっと見つめた。
計器盤上に表示されたセクターのグリッドをジグザグに横切っていく。

“リンク”の指令員の声は、冷静かつ能率的であった。
「了解。容疑者は複数で武器を所持している。当該容疑者は高性能爆発物を使用して強盗事件を起こし――」

ターボクルーザーの何ブロックか先方に、キズだらけの白色のバンがいた。
無法者集団と、武器と、焼け焦げた現金袋をすし詰めにして、裏通りを轟音とともに驀進していた。

9名無し募集中。。。:2016/03/20(日) 20:02:16
車体を傾けて走るバンが目視できる距離になった。
ターボクルーザーはバンを追ってぐんぐん近づいた。

そのとき、バンはスピードを落としはじめた。
ツイン・タービン車を振り切るのは無理だと観念したのか。いや、そうではないだろう。

さくらはM16自動小銃を構えた。首筋の後ろの毛が震えた気がした。
亜佑美は依然としてアクセルを目一杯踏みこんでいる。
「スピードを落としてください」と、さくら。
「なんでよ?連中に追いつきかけてるのに」と、亜佑美。

さくらは鋭い一瞥を亜佑美に向けた。
亜佑美は顔に平手打ちを食ったかのように、言われたとおりにした。

次の瞬間、バンの後部ドアが蹴り開けられ、ロケット推進式の擲弾が発射された。
バンの後方に煙が充満し、疾走してくるクルーザーがまったく見えなくなった。
その煙の中で無法者たちは目をパチクリさせた。
当然、フロントガラスが砕け散ったはずなのに、その音が聞こえない。
タイヤのきしむ音もない。ずたずたになった人間の肉片も見あたらない。

やがて徐々に煙が消散した。無法者一味は、まじまじとバンの後方を見つめた。
いるはずのターボクルーザーがいない。街路があるだけで、何もない。
「おい、あそこに追跡してくる車がいるって言ったよな」
「もちろんいたぜ。俺はこの目で見たんだ」

突然、ターボクルーザーが姿を現した。
街路の右側にある歩道から飛びでてきて、後部ドアを開けたままのバンの傍らを追い越していく。

さくらは、白色のバンに銃弾を射ちこみ、亜佑美はハンドルを握ったまま歯を食いしばった。
反撃に連射されてきた銃弾に、ふたりは本能的に頭を下げて、ターボクルーザーをバンから引き離した。

「大丈夫?」亜佑美が叫んだ。
「大丈夫です」さくらは応えた。「ひとりは仕留めたと思います」

バンの後部席では、一味がパニック状態に陥っていた。
「あう、ちくしょう!やられた!!」
バンがターボクルーザーに再攻撃をかけた。すると相手はまたもや姿を消した。

「なんだ、あいつら!幽霊か!?」
ターボクルーザーがまたしても突然現れ、大量の弾丸がバンの側面に降り注いだ。

「やつら、またスピードをあげはじめました」さくらが言った。
「怖がってるんだよ」亜佑美の声には追う者の強みがあった。
言うなり亜佑美はアクセルを踏む足に力をこめ、さらにスピードをあげた。

しかし、さくらには、何かが気にかかっていた。
弾倉を装填しながら、片方の目でバンをじっと見つめた。
その疑念を亜佑美に伝えようとした瞬間、不安が現実となった。

バンの後部ドアが開いたかと思うと、一味のうちふたりの身体が悲鳴をあげて、自らの仲間たちの手で道路に投げだされた。

「くそ!」亜佑美が目を見張った。
大きな図体が空を切り、疾走するターボクルーザーめがけてぶつかってきた。

10名無し募集中。。。:2016/03/20(日) 22:07:53
どすんと不気味な音と同時に、人間の身体がフロントガラスにぶちあたった。
衝撃でガラスが粉々に砕け散り、亜佑美とさくらは咄嗟に顔を両手で覆った。

悪党の身体は持ちあがり、クルーザーのボンネットを飛び越えた。
血とブヨブヨしたものの切れ端がクルーザーの中へ飛びこんでくる。
亜佑美がバックミラーに目をやると、すでに生命を失ったふたつの死体はグルグルと狂ったように街路上で回転していた。

この衝突のショックは、亜佑美に一瞬、疾走するクルーザーのコントロールを失わせた。
「しっかりつかまって!!」亜佑美は金切り声をあげて、アクセルとブレーキを同時に操作した。
スピンしはじめて道から飛びだしそうな車体をなんとか制御しようと必死に努めた。

ターボクルーザーは歩道に向かってスキッドしていく。
さくらの両目は飛びださんばかりに見開いていた。
目の前にはパーキングメーターが並んでいた。

金属ではなく新開発のプラスチック製のパーキングメーターであることを祈った。
ターボクルーザーはメーターの列に真正面から激突し、コンクリートの土台からメーターをすっぽりと切り取った。
「…プラスチックで助かりましたね…」

「繰り返す」亜佑美が身をかがめて“リンク”に声を送りこんでいた。
「容疑者の車を追跡中。応援を緊急要請。コード3」
本部の指令員からの応答はなかった。

「あのバン、どうなったかな?」
さくらはグリッドを調べた。青い光点は速度をあげて現場から遠ざかっていた。

あの悪党どもは、ドジなハンターのたった1台のターボクルーザーのスピードを落とさせるためだけに仲間を生け贄にした。
とんでもない連中だ。しかも市街地に入ってのゲリラ戦となれば勝ち目はない。

速度を落としていた亜佑美が、ブルルンと勢いよくツイン・タービンを始動させた。
なにがなんでもあのバンに追いつこうと決意を新たにした顔だった。

「バックアップは期待できないよ」亜佑美はさくらを振り向いた。
「わたしも初日から黒星とかごめんですから。あ、右が近道です」
「なんでそんなこと知ってるの?」
「…“出張”で何度か」
亜佑美はブレーキ音をきしませながら鋭く右折した。

「そういや、まだ聞いてなかったな」
「はい?」
「あんたがこの仕事をしている理由」
「ああ」

亜佑美はいきなり急ブレーキを踏み、さくらは危うくダッシュボードに激突するところだった。
「ずいぶん乱暴ですね――」
文句を言いかけたさくらは、目の前を砲弾が飛んでいくのを見た。

間一髪で砲弾を避けたターボクルーザーは、街路の噴煙と炎の中を突き抜けた。
爆発に次ぐ爆発が街路を揺るがし、あたりは爆煙と破片だらけになった。

「ずいぶん嫌われてますね」さくらがしみじみ言った。
「あたしを殺したいやつは、列に並ぶことになるからね」亜佑美は轟音を響かせながら裏通りを走り抜けた。

11名無し募集中。。。:2016/03/21(月) 11:29:04
「あった」と亜佑美が言った。
今は使われていない大きな倉庫の近くに、あの白色のバンが停車していた。
ドアは開いたままで、車内には誰もいない。

「寄せてください。ゆっくり」とさくらが言った。
亜佑美はターボクルーザーを進めて、バンの横を通り越した。
「誰もいない」
「あそこです」とさくらが耳打ちした。

亜佑美はターボクルーザーを倉庫の横に寄せて、エンジンを切った。
さくらは本部とつながっているコンピューター・マップに自分たちの座標を入力した。
ビュー・スクリーンが始動する――“全パトロール出動中――出動可能推定時刻は30分後”
亜佑美は肩をすくめた。「ダメだこりゃ」

亜佑美とさくらは、ヘルメットをかぶった。勝ち目はない。
だが、アドレナリンが全身を駆け巡っている。
まさに白鯨を追うエイハブ船長の心境だ。読んだことはなかったが。

ふたりはスーツの中で無線装置を作動させて、ターボクルーザーから降りた。
亜佑美は倉庫の正面入口を指した。
さくらはこくりとうなずき、銃口を2階へ通じる階段に向けた。
「連絡を切らないでよ」亜佑美が言う。
さくらはうなずいた。「了解」

亜佑美は正面入口の内側に姿を消し、さくらは目の前に伸びる錆びついた金属階段を見つめた。
自分の体重に持ちこたえてくれるだろうか…。
次の瞬間、猫のような優雅さでふわりと階段に飛び乗り、昇りはじめた。

倉庫の内部は暗かった。亜佑美は無言であたりを見回した。
今さら引きさがる気はない。
目の前には無数のコンテナが転がっている。これでは人工の迷路だ。
コンテナの山に沿って足早に前進した亜佑美は、ふと立ち止まった。
声…。男の声だ。亜佑美は歩調を落とし、自動小銃を握りしめた。

この墓穴に隠れているゴリラどもが、どれだけ大きく、どれだけ強いかは定かではない。
くねくねと折れ曲がるコンテナの列の迷路を忍び足でたどる。
亜佑美は話し声にじっと聞き耳をたてた。

亜佑美のいる階の上では、さくらが壁づたいに這っていた。
下方の床に目をやった。木箱の山を越えたところに動きの気配がある。
さくらは敏捷な動きで、無音のまま跳躍した。
男がふたりいた。どうやらマリファナを吸っているようだ。

見張りも置いていないとは、さくらは理解に苦しんだ。
強盗が成功して安心しきっているのか。
追跡してきたハンターも見事に撃退できたと思っているのかもしれない。
ネズミを丸呑みした蛇のように、気が弛んでいる。勝機あり。
さくらは、観察を続けた。

男のひとりが、囲いのない集荷用エレベーターの方へ歩み去るのを見守った。
ジーッとジッパーをさげる音が聞こえた。
小便をしている。その放尿が終わるのをさくらは待った。

頃合いを見計らって、さくらが矢のように跳ねあがった。
男の口を塞ぎ、胸骨の下にナイフを突き刺した。
男はズボンの股にシミをつけたまま、あっという間もなく絶命した。
さくらは、足もとを流れていく小便に顔をしかめた。

12名無し募集中。。。:2016/03/21(月) 12:58:58
もうひとりの男も、警戒どころかマリファナを吹かして、イヤホンの音楽に合わせてかすかに身体を揺すっていた。
さくらは背後から近づいて、胸に2回ナイフを埋めこんでやった。
最後の息を吐き出す低い音と、気管に血が流れこんでごぼごぼいう音がした。

ふたりの男が片づけられるまで、ほとんど音らしい音はしなかった。
さくらは自分の手際に、満足の念を抱いた。
ちょっとでも悲鳴らしいものが聞こえたら、技術的観点からは推奨に価しないのである。
騒がしい殺しはさくらの流儀ではなかった。

さくらの耳に、死んだ男のイヤホンから洩れてくる音楽が聞こえた。
曲は、大ヒットしたアイドル・グループのものだった。
「…アイドルには気をつけて」さくらは死んだばかりの男にささやいた。

同じ頃、亜佑美はマリファナに酔っている男たちに銃を突きつけているところだった。
「動かないで」亜佑美は命じた。抑揚のない落ち着いた口調である。
ひとりがショットガンに飛びつこうとしたが、余裕がなかった。
男の胸に銃弾がぶちこまれた。しばらくもがいたが、やがて動かなくなった。

亜佑美は自分の両手が震えている事実を隠そうと努力した。
やむを得ない事態だとはいえ、人を殺す現実はどうにも気に入らない。
強引に身震いから自分の心を引き離した亜佑美は、残るひとりに警告した。

「手順は分かってるでしょ?」空いている片手を背後に伸ばして、手錠を引っ張りだす。
つかつかと進みでた亜佑美が男に手錠をかけようとした時、背後で何かがカチャンと音をたてた。
この上なく聞き慣れた音だった。

痩せこけた男が姿を現した。ショットガンの銃口を亜佑美の首に押しつけた。
「武器を捨てたらどうかね?お嬢さん」
亜佑美は歯ぎしりをしながら手をゆっくりとさげて、自動小銃を手放した。

男たちがニヤニヤとほくそ笑みながら言った。
「たったひとりでここへ乗りこんでくるとはたいしたもんだ」
「へっ、殺す前に楽しませてもらうぜ」

亜佑美は心の奥底でさくらの身を案じていた。もう殺されたんだろうか…。

次の瞬間、凄まじい音響と同時に痩せこけた男の頭がばらばらに消し飛んだ。
そして、もうひとりの男の腹に弾丸が射ちこまれた。

猛然と突き進んできたさくらは、喚き散らす男の頭も吹き飛ばすと、心配そうに亜佑美に向き直った。
「怪我はありませんか?」

後頭部が削げ落ちた男の死体につまずき、亜佑美はよろめいた。
まじまじとさくらを見つめ、ようやく言葉が口から発せられた。
「あ、うん、怪我はしてない、うん」

13名無し募集中。。。:2016/03/21(月) 20:20:15
長かった1日が終わり、さくらはデスクのコンピューターで、オフショア銀行口座にアクセスした。
思っていたより高額の報酬が入金されていて、さくらは驚いた。

別のウェブページから“リスト”のデータベースにアクセスする。
今日、地獄へと旅立たせてやった類人猿どもは「大物」とまではいかなくとも、それほど雑魚というわけでもなかった。
そこそこ名を売っていた盗賊団だ。

さくらは“リスト”を眺めながら、売店で買ったバニラ・アイスクリームをひとくち食べた。
アイスクリームが半分こぼれ落ちそうになっていたので、さくらは急いで食べるはめになった。

ハンター稼業はフルタイムの仕事だが、1日24時間働くのは必要に迫られた場合に限られる。
今日の働きは、9時5時で働いている人ならきつい日だったと断言するだろう。
風呂とベッドの力を借りて心を落ち着けたかった。

まぶたが重くなってきたところで、さくらはコンピューターに目を向けた。
ソフトウェアが処理を終えていた。

さくらが頭の後ろで手を組み、椅子に座り直した。
亜佑美が声をかけてきた。
「あんた…“寮”に越してきたんでしょ?」
「ええ、そうです」
「帰るんなら一緒においでよ」

亜佑美が“寮”の前に駐車しながら、すぐには降りなかったので、
さくらは亜佑美が何を言いだすか察しがついていた。
「あのさ、小田…ちゃん」
「はい?」さくらは笑みを隠した。

口の中でもたついている言葉を言わずにすむ何かが転がっていないか捜しでもするように、亜佑美は視線を落とした。
「あんたには命を救われた。どうもありがとう」

さくらは無表情のまま、黙っていた。

「さ、さてと、部屋へ入ろう」
さくらは亜佑美が車から身体を半分出してから、口を開いた。
「そういうことって言いにくいものですよね」

「あんたも一度言ってみるこった」
亜佑美は背を向けたまま、答えた。

14名無し募集中。。。:2016/04/03(日) 15:25:24
起きる時間ではなかったが、亜佑美は堅いベッドで目覚めた。
決まった時間に寝る習慣がないのだから、こういったことには、無理やり慣れるしかなかった。
眠れるときに、眠れるだけ眠った。時間が充分でなければ、別のときに眠る。

この商売をはじめようと思ったときから、いつでもどこでも、どんな状況でも、
眠れるだけ眠ることが大切だと学んだ。
今でも実践している大切な教訓だ。

わざと呼吸を抑えて睡眠を促すという、自分で習得した重要なテクニックのひとつも駆使したが、
今日はそれも効かなかった。

亜佑美はいつものように服を着たまま寝ていて、バスルームに行き、服を脱いだ。
ストレッチをして、風呂に湯を張った。
バスタブが湯でほぼ満たされると、亜佑美は中に入った。
火傷しそうなほど湯は熱かったが、そのくらいが好みだった。

身体をゆっくり沈めて、首と両膝だけが水面からのぞくだけとなった。
神経が高ぶり、落ち着かなかった。
殺してきた連中がひどい人間であっても、完全に気が楽になることはない。

もっとも、不平を言える義理でないことは分かっている。
誰にこんな暮らしをさせられたわけでもない。
過去を考えるのは好きではないが、今の自分に至る道へ、自分の意思で足を踏み出したのだ。

亜佑美は目を閉じて、頭を湯にすっぽり浸けた。
“嫌なら、辞めればいい”単純な一言だが、そのとおりだ。
ごく最近、そう言われたことを思い出した。

好きであれば、さぞかし気も楽だろうが、面倒なことに嫌いでもないのだ。
おまけに、あまりにも多くの敵をつくってきた。
引退すれば、やわになり腕が鈍る。
襲撃を受けても、敵の姿さえ見えないかもしれない。

亜佑美は湯から顔を出した。入浴の鎮静効果が消えた。
考えすぎた代償だ。床に湯を飛び散らせて、亜佑美はバスタブを出た。

チーズ・サーモン・オムレツとキノコのブルスケッタを食べ、ビタミン剤やミネラルを加えた我流のシェイクを胃に流しこんだ。
腰のホルスターから拳銃を手に取り、分解し、順序立てて掃除してから組み立て直した。
やり慣れたことをして、気持ちが落ち着いてきた。

亜佑美はラップトップに番号を入力した。
通話がつながるまで、スピーカーからダイヤル・トーンを模した音が流れた。
「コール・センターです」退屈そうな女の声が応待した。
「こちら石田亜佑美ですが、伝言か今日の予定があれば教えてください」

15名無し募集中。。。:2016/04/10(日) 21:02:25
亜佑美が運転するターボクルーザーは、オールド・センダイの中産階級の住宅地を走っていた。
大半が穏やかな家庭を持つ、比較的安全な地域だった。

だが、20分も走ると風景は悪い方へと変わっていく。
汚れた庭のある古びた小さな家が並ぶ平地。
カラフルないたずら書きに覆われた低いビル。
いたずら書きにも、様々なものがあり、どうしようもないものもあるが、アーティスティックに描かれたものもある。

通りの人々は奇妙だった。
若かろうが年寄りだろうが、男だろうが女だろうが、
ふたりの乗ったターボクルーザーが通りすぎると、必ずそれを目で追った。
別の地域ではみんな他人のことなど無関心だが、ここは違った。
みんなが他人を見つめる。誰もが例外なく。恐怖や怒りの視線で…。
通りかかるものはすべてが脅威なのである。

さくらは、ターボクルーザーに乗る前にドーナッツを買っていた。
道路を見つめたままの亜佑美が箱のふたを開けてひとつ取り出した。
それを見つめると、まるで猫の寝藁の中から取り出したような顔をした。

「いつも、どんなやつがこんなものを食べるのか不思議だった」
毒々しいピンクの砂糖をまぶしたドーナッツに亜佑美は噛みついた。
「こういうやつですよ」さくらは唇を噛んでしまい、痛かった。

そのとき、前方の舗道にしゃれたバンがあるのが見えた。
バケット・シートの助手席側で、窓を巻きおろして顔をのぞかせている男と、若い女が話しこんでいる。
売春婦かもしれないし、そうでないかもしれない。
そのバンの車体にはワイキキの夕陽が描いてあった。アロハ。

亜佑美とさくらは、その女がバンの乗員ふたりを誘っているのかと思った。
ところが、その女の顔がこわばり、助手席の男が目を離したと思われるたびに、じりじりと後退りしていく。

本能的に、亜佑美は拳銃に手を伸ばした。
女が「嫌よ」とはっきり言ったのが聞こえた。もう充分だった。

亜佑美はターボクルーザーの外へ出た。
空のカップとドーナッツをさくらの膝にぶちまけながら。

一歩踏み出したところで、バンの助手席の男が片手に安物の拳銃を光らせて、いきなり舗道へ飛びだした。
もうひとりの男もやはり武装しており、女を車内へ連れこみ、サイド・ドアをぴしゃりと閉めた。

亜佑美とさくらは拳銃を抜き、バンの方へと大股で歩いた。
最初の男が大声でふたりに向かって叫んだ。「そこを動くな、バカ野郎!」

男の拳銃が火を噴いたが、ふたりは撃ち返さなかった。まだ早い。
亜佑美とさくらは汚れたアスファルトを踵で切るように前進した。
バンの薄い板金に流れ弾を貫通させるわけにはいかない。人質がいるあいだは。

安物の拳銃は幾度も幾度も発射されたが、そのたびに外れた。
見るからに慣れていない男は、ふたりの表情すら変わらない接近にすっかり狼狽えていた。

さくらは微笑を浮かべた。バンのフロントガラスがあらかた視界におさまった。
そこで女が後部座席に押しこめられているのを確かめた。

アイコンタクト。「解決方法はふたつ。その女性を放しなさい。さもないと――」
亜佑美が言い終わる前に、男は死体となって地面に倒れた。
「え?」拳銃は無害の道具となって舗道にガチャンと落ちた。
続けて、車内の男の頭部の残骸が人質のブラウスの上一面に撒き散らされた。

「ちょっと!なんなの!」女が悲鳴をあげ続けているので、亜佑美は大声になった。
「いや、撃てってことかと。違ってましたか」

「まったく」亜佑美は言った。「あんたと一緒のときはウェット・スーツを着てたほうがいいわね」
飛び散った血に亜佑美は顔をしかめた。
「ドーナッツのお返しです」さくらが言い返した。
「食べこぼしは自分の膝へ落としてください」

16名無し募集中。。。:2016/04/14(木) 07:58:08
おもしろい

17名無し募集中。。。:2016/05/23(月) 20:31:19
こんなスレあったのかw
というか狼のスレが落ちちゃったよ


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