したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |

男「お願いだ、信じてくれ」白蓮「あらあら」

1ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2016/01/20(水) 05:32:56 ID:GS4PMXIs
このSSは東方の二次創作であり、

男「どこだよ、ここ」幽香「誰!?」
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read_archive.cgi/internet/14562/1388583677/

男「なんでだよ、これ」ぬえ「あう」
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/14562/1400909334/l50

の続きとなっております。

そちらを先にご覧くださると幸いです。

また、オリジナル設定、オリジナルキャラ、東方キャラクターの死亡などが含まれますので苦手な方はご注意ください。

53以下、名無しが深夜にお送りします:2016/04/10(日) 11:48:18 ID:jbo/HYls
やっときたか

54以下、名無しが深夜にお送りします:2016/04/25(月) 15:24:06 ID:9YkbqNmE
すいません PCぶっこわれて書きだめ飛びました

もう少しお待ちください

55以下、名無しが深夜にお送りします:2016/04/26(火) 21:37:04 ID:/ThwwVQE
ゆっくり待ってる

56以下、名無しが深夜にお送りします:2016/05/04(水) 23:35:33 ID:QuqrGWh.
がんばっちょー

57以下、名無しが深夜にお送りします:2016/05/05(木) 12:12:19 ID:AbZeH2Vk
がんばっちょー

58以下、名無しが深夜にお送りします:2016/05/05(木) 13:58:00 ID:v.U5Cw56
PCめ、容赦のない心折りを……

59以下、名無しが深夜にお送りします:2016/05/08(日) 11:01:13 ID:VsAreBCo
俺はPCを許さないよ

60以下、名無しが深夜にお送りします:2016/05/25(水) 20:21:14 ID:TfwLNbrk
やっぱこっちのぬえも可愛い

61ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2016/05/31(火) 07:13:56 ID:Jc4HZI/k
リアルの忙しさがマッハなのでもうちょっとかかりそうです。

代わりといっては何ですがスカイプのID作りましたのでそちらで質問や生存報告、叱咤激励を受け付けます。

というかただ単に東方やSS好きな友達がほしいです。

ID:nuenueparuparu

62以下、名無しが深夜にお送りします:2016/05/31(火) 08:10:08 ID:SeQ9hJqg
生きてた良かった

63以下、名無しが深夜にお送りします:2016/06/01(水) 00:16:46 ID:51e6kvUY
>>61
後で追加する

64以下、名無しが深夜にお送りします:2016/06/01(水) 20:54:30 ID:GdYHPtts
俺も東方好きの友達ほしいよぉー

65以下、名無しが深夜にお送りします:2016/06/06(月) 11:13:30 ID:BszaEa2Y
スマガ臭を感じる

66以下、名無しが深夜にお送りします:2016/06/20(月) 19:11:39 ID:nLqS/0LE
もしもの方の書き溜めとかもあったりはしたんだろか

67ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2016/06/25(土) 16:17:00 ID:93fR5./2
一輪「はいはーい。カレーができたわよー」

何かを考えかけた瞬間、ふすまを足で開けてなかなかの大きさの鍋を持った水色の髪の少女と

水蜜「船幽霊カレーだよ。お肉もはいtt」

米櫃を抱えた黒い髪の少女が入ってきた。

白蓮「今、なんと?」

黒い髪の方の少女が聖の方を見て、小さく口を開けた。聖はそんな少女をにっこりとした笑顔で見ていたがその笑顔の裏に怒りを隠しているように見えた。

白蓮「今、なんと?」

いや、その怒りは隠れてはいなかった。表情は紛れもない笑顔のはずなのになぜか怒られているような気分になってしまう。

水蜜「た、托鉢だからセーフ! もらったものは全部食べないといけない、でしょ?」

一輪「そうです姐さん。親切な妖怪から貰ったんですよ。ねぇ、村紗」

ぬえ「こないだ村紗が狩りしてたよ」

水一「ぬえぇええっ!!」

ぬえの暴露に二人の顔が青ざめる。聖はそうですかと言いながら立ち上がりゆっくりゆっくり二人に近づいていった。

ぬえ「あ、カレーは私が持つから米は寅丸がお願い」

星「はい」

68ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2016/06/25(土) 16:26:20 ID:93fR5./2
ぬえと星が二人の持っている鍋と米櫃を奪い取るように受け取ったのを確認すると聖は二人の襟首を掴みそのまま引きずっていった。

引きずられていく二人の瞳に涙が浮かんでいるのが見え、これから何が行われるかをある程度察したため、心の中で手を合わせた。

響子「おなかぺこぺこです!!!」

そして最後に入ってきた声で俺を気絶させた少女が部屋の中を見回して首をかしげるのと同時にさきほどの二人の悲鳴と、何かを強くたたくような音が響いてきた。

ぬえ「南無三」

星「お腹すきました」

ナズ「あの二人はどうでもいいが、聖のことは待ちたまえよ、ご主人」

男「えーっと、あの」

ナズ「あぁ、気にしなくていい。彼女らの自業自得さ」

それから聖たちが戻ってきたのは10分程度あと。

頬を真っ赤に腫らした二人がしくしくと泣いており、対照的な聖の笑顔がひどく怖かった。

69ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2016/06/25(土) 16:49:16 ID:93fR5./2
聖「料理してしまったものはしかたがありません。感謝していただきましょう」

聖が上座に座りようやく全員がそろった。メンバーを見渡すと非常に髪の色がカラフルだ。

男「あ、カレーだ」

水色の髪の少女が皿に盛られたカレーを俺の前に置く。茶色のルーの中には目立たないくらいの野菜とゴロゴロとした大きな肉が入っていた。

神社では川魚程度しか食べていなかった俺にとって久しい贅沢な食事だ。

久しいといっても時間は巻き戻っているため、久しくはないんだが。

ナズ「カレーは嫌いかい?」

男「いや、カレーが出るなんて驚いただけだ」

ナズ「はは。贅沢に思えるだろう? だけれど残念。カレーしかできないんだ。調味料がいろいろ尽きてね。あるのは少しの醤油、塩コショウ。そして大量のスパイス」

それなら博麗神社と手を組めば贅沢なものが作れそうではあるがおそらく聖は博麗神社と手を組むことはないだろう。あくまで専守防衛だ。

水蜜「私のカレーはいくら食べても飽きないって」

ぬえ「あきた」

水蜜「うぉ」

そうぶっきらぼうに言い捨てるぬえの姿が微笑ましくて眺めているとぬえが怪訝そうな顔で見てきたので傷つく。

分かってはいる。わかってはいるんだけれど。

70ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2016/06/25(土) 17:25:50 ID:93fR5./2
聖「それでは男さん。自己紹介をお願いします」

男「え、あ。はい」

男「人間の、男です。妖怪を助けたくてここに来ました」

ぬえ「はいはーい。しつもーん」

突然手を挙げたぬえに驚いて一瞬言葉が詰まる。ぬえの行動をナズが制そうとする前にぬえはそのまま言葉をつづけた。

ぬえ「人間なのになんで妖怪を助けたいの?」

男「それ、は」

返答に窮する。正直言えば妖怪を助けたいわけじゃなくて、俺の知っている人を助けたいだけだからだ。

助け船は来ない。なぜならここで俺自身の言葉で言えなければ信用なんてものはなくなるからだ。

男「好きな、人がいて。好きな妖怪がいて。そいつら全員を助けるためだ」

ぬえ「へー。じゃあその好きな妖怪以外は助けないの?」

分かっている。好きな妖怪すら守れるか分からないんだ。だから妖怪すべてを助けるなんてことは無理。

だから

男「そいつらはみんなに任せたい」

男「頼む」

71ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2016/06/25(土) 17:32:29 ID:93fR5./2
ぬえ「話にならないね」

ぬえ「いくら土下座したって。あんたの土下座に価値なんかない。だよね」

ナズ「ぬえ」

ぬえ「ナズーリンは黙ってて。聖と星はお人よしだからわかんないだろうけどさぁ。私たちだって慈善事業してる場合じゃないんだ」

ぬえ「私たちに実利は?」

その言葉を否定するものはいない。聖ですら俺の言葉を待っている。

男「実利は。ある」

ぬえ「ただの人間。しかもよわっちぃ人間が? 戦えないから守れない。このままじゃただ飯ぐらいしかできないあんたが?。なんなのさその実益ってのは」

先を知っている俺の唯一の切り札。

俺がもたらせる実利はこれしかない。

だから卑怯なこの切り札を切るしかない。

男「ここにいる7人の命。救ってみせる」

72ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2016/06/25(土) 18:21:20 ID:93fR5./2
俺の言葉にある者は嘲笑、ある者は唖然、ある者は困惑、そしてまたある者は微笑んだ。

当たり前のことだ。

ただの人間が

大妖怪を守ると言ったのだから。

ぬえ「ちょっと待った。私の耳がおかしくなったのかもしれないから聞くけど。なに、あたしたちの命を助けるって?」

男「あぁ」

ぬえ「はっは、冗談の才能はないみたいだね」

一輪「姐さん。私もこの人が言ってることが」

水蜜「うん。私も」

白蓮「………男」

男「はい」

白蓮「あなたはどうやって我々を救うのですか?」

男「ここを離れます」

男「逃げましょう」

73ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2016/06/25(土) 18:28:38 ID:93fR5./2
今はこれしかない。

全員の命を救う選択肢は今俺が知ってる限りではこれしかない。

当然のことながら批難の声は上がった。

ここを捨てて逃げるわけにはいかないのは当然のことだ。

しかし。だがしかし。

ここで折れてしまえば俺はぬえを失う。

もしかしたら今度は命をも奪われるかもしれない!!

俺は机を両手で叩いて、俺に投げかけられる言葉を止めた。

男「みんなが言いたいことは委細承知。だけど、だけれど、それでも俺はここで折れるわけにはいかない」

男「証明はできない。根拠もない。力もない。何もない。ないない尽くしのこの俺はただただひたすら」

いやってほどに

男「結果を知っている」

74ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2016/06/25(土) 18:37:50 ID:93fR5./2
妄言 虚言 戯言。

みんなはこう捉えるだろう。

知っているのは聖とナズーリンだけ。

知らないもの多数。

ぬえ「どういう、ことさ」

男「みんな死ぬんだよ。聖も、ナズーリンも、そこのあんたもそこのあんたもそこのあんたも」

男「ぬえを除いてみんな死ぬ」

「っ!」

同じタイミングで俺の首に当てられた三本の手。

一輪「姐さんが死ぬなんて冗談は」

水蜜「笑えないなぁ」

ぬえ「あぁ、笑えない」

75ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2016/06/25(土) 18:41:12 ID:93fR5./2
花を手折るかのように俺の首をへし折ることのできる腕三本。

だけどこんな状況はもう慣れた。

男「あぁ。死ぬんだよ」

男「みんな、豊聡耳神子ってやつに殺される」

「!!」

三本の手が俺の首を獲物を捕らえる蛇のごとく狙う。

それを止めたのは聖でもなく、ナズーリンでもなく。

星「やめなさい!!」

沈黙していた星の一喝だった。

76ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2016/06/25(土) 20:04:39 ID:93fR5./2
星「ここで暴力を振るうようなことはこの私が許しません」

その星のまっすぐな眼差しに射抜かれた三人は不承不承ながらも俺の首から手を放した。

一輪「でも私たちが死ぬなんてふざけたことを言ってるし」

星「なぜそれがふざけたことと決めるけるのですか。たしかに気分が良いことではないかもしれません」

星「だからと言って暴力に訴えるようなど。そのようなことを聖はあなたたちに教えましたか!!」

再び星の一喝。

部屋中を震わす声に水色の髪の少女と黒髪の少女は一歩下がった。

星「ご迷惑をおかけしましたね。男さん」

星「しかし一輪達の考えもまた理解はできる。むしろ一輪達の考えの方が当たり前」

星「あなたはなぜ。私たちが豊聡耳神子に殺される。そこまで断定できるのですか?」

男「俺は………」

言っていいのだろうか。

俺は全てを言って―――

星「どんなことでも良い。教えてはもらえませんか?」

その言葉。その強く優しくまっすぐな金色の瞳は俺の葛藤を消し飛ばすには十分だった。

77ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2016/06/25(土) 20:07:25 ID:93fR5./2
ぬえ「信じられない」

一輪「同じく」

水蜜「同じく」

響子「どういうことでしょー?」

骨董無形な夢物語は当然のことながら信じられなかった。

しかし

星「私は信じますよ。あなたのことを」

一輪「え、なんで!?」

水蜜「いやいやいや、いくらお人よしだからって」

ぬえ「………はぁ」

響子「?」

星だけは他のみんなと違い信じてくれた。

その理由はわからない。

ただ星だけは信じてくれた。

そのことは俺に大きな安心を与えてくれた。

78ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2016/06/25(土) 20:51:18 ID:93fR5./2
一輪「でも寅丸だけ信じても」

ナズ「あ、私も信じてるぞ」

一輪「え?」

白蓮「私も信じていますよ」

ぬえ「三対三。だけど聖と寅丸がそっちいるならどうしようもないね」

ぬえ「でも! 私はあんたに命は預けないからね」

一輪「そ、そうですよ。いくら姐さんが言っても全部まるっきり信じるわけには」

水蜜「そうだって、だって人間なんだよ!?」

再び論争に火が付きそうになる。それを沈めたのは意外にも。

響子「あのぉ」

ぬえ「なにさ」

響子「お腹すきました…」キュルルル

可愛らしくなる腹の虫だった。

聖「食べましょうか」

ぬえ「………うん」

79ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2016/06/25(土) 21:03:16 ID:93fR5./2
なんとも煮え切らない雰囲気のなかで食事が始まる。

ナズ「あぁ。そういえば男に紹介をしてなかったね。ぬえ、一輪、水蜜、響子」

ぬえ「ん? あぁ、なんでか知らないけど私のこと知ってるらしいからパス」

一輪「………雲居 一輪」

水蜜「村紗 水蜜。以上」

男「あは、あはは」

分かってはいたがどうやら壁は厚いようだ。にべもない反応にがっくりと肩を落とす。

響子「幽谷 響子です! よろしくお願いします!!」

緑の髪の、響子だけが元気よく答えてくれた。

小さな娘のような反応に癒され―――

男「小さな、むす、め」

男「あぁ!!」

大切な事を思い出して立ち上がる。いきなりの行動に対面に座っているナズーリンが目を丸くさせていた。

80以下、名無しが深夜にお送りします:2016/06/25(土) 21:12:28 ID:nEq75F3M
乙乙!!!

81ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2016/06/25(土) 21:21:52 ID:93fR5./2
いつだ、いつだった。

俺が一番最初に迎えた絶望はいつ来た。

たしか、俺が来てから

男「明後日か、明後日だと!?」

時間がない。

ナズ「い、いきなりどうしたんだい」

男「明後日。明後日なんだよ!」

伝えられないことはわかっているけど、感情が空回りして、同じ言葉しか繰り返せない。

白蓮「男さん。深呼吸。深呼吸をしてください」

聖に言われた通り、深呼吸をする。少し過呼吸気味になった深呼吸のあと落ち着いた俺は明後日起きることを話した。

男「妖怪の子供たちが人間達に殺される」

そう。羽少年たちのことだ。

火に包まれたなんの罪もない少年たちのことだ。

82ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2016/06/25(土) 21:28:47 ID:93fR5./2
白蓮「今、子供たちが殺される、と?」

男「あぁ。妖怪の子供が数十人程度洞窟の中に隠れてるんですけど。その子供たちが人間の手によってやき」

フラッシュバック。

あの眩い火と黒く染まった笑顔。

そして焦げる匂い。

反射的に口を押える。

食事中だ、吐くわけにはいかない。

白蓮「明後日、ですね」

男「は、はい」

白蓮「私たちは何をすれば?」

男「映姫さんのところへ俺を連れて行ってください。あの場所を知っているのは映姫さんと小町だけです」

83ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2016/06/25(土) 21:34:54 ID:93fR5./2
一輪「待ってください姐さん。中立だから今まで戦いに巻き込まれてない私たちですよ!? それが博麗のとこと接触したら」

白蓮「男さん。私たちに逃げろと言いましたがもちろんどこに逃げればいいのかも教えてくださるのですよね?」

一輪の言葉を手で制し、聖が俺にそう問いかける。

逃げるべき場所。

その心あたりが一つだけある。

いったこともなければ、見たこともない場所。

だけどそこからも悲劇は始まった

男「逃げこむ場所はあります」

白蓮「どこですか?」

男「………」

男「地底です」

84ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2016/06/25(土) 21:44:57 ID:93fR5./2
地底。

たしか地底の住民が紅魔館の人たちと殺しあってみんな死んだはず。

ならばその地底の騒乱を事前に止めておけばかなりの人数が死ななくていいはずだ。

どうすればいいのかはわからないがおそらく今はこれがみんなが生き残るための最善手―――!

水蜜「地底!? あんなところへ!?」

白蓮「わかりました。それでは明日私が男さんと一緒に博麗神社へ行きましょう。水蜜、準備は頼みますよ?」

水蜜「へ!? あ、え!?」

なぜか戸惑う村紗。

とにかく明日は聖が連れて行ってくれるそうだ。

もし明日映姫さんと話せて、上手くゆけばあいつらは死なない。

あんなふざけた悪意に巻き込ませたりはしない。

決して!

85ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2016/06/25(土) 21:48:57 ID:93fR5./2
星「事情は分かりました。とにかく罪なき命が奪われるのは私としても是とは思いません」

星「私もできる限りの協力はしましょう。毘沙門天代理の名にかけて、わたしはその子を守護してみせる」

凛々しい表情の星。いや星さんはとても頼りになりそうだ。

星「お代わりです」

凛々しい表情の星さん。

頼りに、なりそうだよな?

凛々しい表情でカレーのお代わりを食べる星さんを見て少し揺らいだ。

86ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2016/06/25(土) 22:17:43 ID:93fR5./2
カレーの味は非常においしかったが肉は食べたことのない味だった。一体なんの肉を使っているのだろう。

食器を洗うことを申し出たがあっさり却下され手持無沙汰になった俺はもうすっかり暗くなった外を見ていた。

灯りは蝋燭と月に光。

散歩するには頼りない光だ。

ナズ「男」

男「おぉ、いたのか」

ナズ「小さくてすまなかったね。それより話が聞きたいんだ。いいかい?」

男「わかった」

ナズ「じゃあついてきてくれ」

87ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2016/06/25(土) 22:18:52 ID:93fR5./2
ナズの後ろに続いていく。長いしっぽが歩くのに合わせて左右に揺れていた。

ぎぃぎぃとなる廊下を十数秒ほど歩き、ナズーリンが立ち止まった。

ナズ「ここだよ。中で星が待ってる」

男「星さんが?」

ナズ「あぁ。君の今までについて聞きたいそうだ。さっき以上に濃い内容のすべてを」

男「分かった。一切の包み隠しなしで話そう。あの人なら信じてくれる」

ナズ「はは、主人は大変なお人よしなんだよ。下手したら聖以上に。だから私が苦労する。それじゃあ言ってきたまえ」

そういって開けたふすまの先にいたのは月の光に照らされキラキラと輝く星さん。

優し気ながら神々しいまるで生きた仏像のような星さんがそこにはいた。

88ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2016/06/25(土) 22:24:21 ID:93fR5./2
星「座ってください」

星さんの視線の先にあるのは一枚の座布団。

星さんから3メートルほど離れた対面に置かれてある座布団に俺は胡坐をかいて座った。

男「話が聞きたいそうですね」

星「えぇ。あなたをもっと信用するために」

男「なぜ星さんは俺を信用してくれるんですか?」

星「信じますよ。あのときのあなたは一輪や水蜜と同じ目をしていましたから。とらわれた聖を助けようとしたときの二人の目を」

男「捕まった? 聖さんが?」

星「えぇ。昔の話ですが。ではあなたの話を聞かせてください」

星「今まであなたがどんな思いをして、どんなに苦しんで、どれだけ愛したのかを」

男「………はい」

星さんに促され語り始める。

誰も救われない3級品の悲劇を。

89ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2016/06/25(土) 22:49:09 ID:93fR5./2
今日はここまでー

90以下、名無しが深夜にお送りします:2016/06/26(日) 11:28:41 ID:iPg1YPw2
乙乙乙!!

91以下、名無しが深夜にお送りします:2016/06/30(木) 01:54:16 ID:3F5dZeJ2
まってたー
おつ!

92以下、名無しが深夜にお送りします:2016/07/20(水) 17:41:59 ID:dRAp3Bv6
久しぶりに見たら更新されていた


93以下、名無しが深夜にお送りします:2016/07/23(土) 00:19:50 ID:0SXEkH7E
乙です!

94以下、名無しが深夜にお送りします:2016/08/02(火) 22:34:57 ID:702g.ROY
ゆっくり待ってますぜ

95以下、名無しが深夜にお送りします:2016/08/11(木) 04:06:56 ID:aINRd5.I
気長にね

96以下、名無しが深夜にお送りします:2016/08/15(月) 21:18:22 ID:xy.XIvU.
うんち

97以下、名無しが深夜にお送りします:2016/08/18(木) 22:13:26 ID:dS3MJYto
〜俯瞰視点〜

夜の闇に紛れるには黒よりも紺の方が良い。

しかし人の目から逃れるためには紺の服を着るよりもずっと良い方法がマミゾウにはあった。

狸の化生であるマミゾウにとっては山を進むなら下手に化けるよりも本来の姿で走った方がよっぽど都合が良い。

草をかき分ける四足の音はかすかであり、大きなしっぽも今は小さくしている。

誰も気づくはずがない。

誰も気づけるはずがないとマミゾウは自負していた。

実際その通りで妖怪の目も人間の目も掻い潜りマミゾウは目的の場所まで近づいていた。

マミ「やれやれ、老体にはなかなか厳しい世の中よのう」

月を背にして見上げるは長い階段。そのうえにあるのはこの幻想郷のルールである博麗神社。

マミゾウはぽんと軽い音をたてながらいつもの姿へとその身を替えた。

いつの間にか口にくわえた煙管から紫煙をくゆらせ、マミゾウはゆっくりと階段を上がっていった。

98以下、名無しが深夜にお送りします:2016/08/18(木) 22:23:20 ID:dS3MJYto
石でできた階段を疲れた様子無く登っていくマミゾウはふと足を止め後ろに広がる幻想郷の風景を眺めた。

マミ「出迎えかの」

霊夢「どうやって入ったの」

突然現れた―――そう、突然現れた霊夢に驚くことも振り向くこともなくマミゾウは煙管を思い切り吸い込みせせら笑った。

マミ「歩を進めて」

霊夢「聞いてるのは手段じゃなくて方法。結界で覆われている。博麗の巫女とスキマ妖怪の式の作る結界で覆われているこの神社にどうやって入ったの?」

マミ「もちろん結界を開けたまでよ。鍵はなくとも扉は開くからの」

その返答に対し霊夢は軽く下唇を噛みマミゾウの首元へ大幣を当てた。

霊夢「あなたを叩きのめせばいいのかしら?」

マミ「それは困るのう。やりたいことがあったからここに来たゆえ」

霊夢「やりたいこと?」

マミ「何、知り合いに会いに来ただけよ。敵意はない。それと霊夢。お主何か勘違いをしているんじゃないかね」

霊夢「何よ。勘違いしてることって」

マミ「一つはこの結界には隙がある。そしてもう一つは」

マミゾウは煙管から灰を落とし二度下駄で地面を打ち鳴らした。

99以下、名無しが深夜にお送りします:2016/08/18(木) 22:32:22 ID:dS3MJYto
マミ「ぶちのめす。ではなく」

霊夢「!」

階段の脇にある藪。そこからぎらぎらと輝くのは月を反射させる獣の瞳。

ひとつやふたつではない。数えることすら面倒なほどの数だった。

マミ「殺し合いゆえ、ぶっ殺すの方が適当じゃな」

霊夢「あんた―――」

霊夢は瞬時に状況を理解し左手を懐に伸ばしつつ三歩程度の距離をとった。

マミ「勘違いしないでおくれ霊夢。話に来ただけよ。博麗の巫女にも誰にも手を出すつもりはない。ただ害されれば答えるだけの話」

霊夢「あんたが何か悪だくみをしにここにやってきた可能性は?」

マミ「ないが証明のしようがない。さとり妖怪でも呼んでくるしかないじゃろうなぁ」

霊夢「――――――」

霊夢は視線を絶え間なく動かしたのち、一瞬目を瞑ってため息を吐いた。

霊夢「変な真似をしたらぶちのめすわよ」

マミ「手土産がないうえにこんな時間に来てしまい不躾ですまないのう」

そういってマミゾウはからからと笑ったが霊夢は眉をひそめこめかみを抑えた。

100ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2016/08/18(木) 23:12:04 ID:dS3MJYto
博麗神社の離れの一室。紫と映姫を机で挟み、マミゾウは二人と向かい合っていた。

小さくあくびをしながら紫が訪ねてきた要件を聞く。

マミゾウは白湯に近いお茶で唇を湿らし口を開いた。

マミ「聞きたいことが一つ、あとそれに関することで頼みが一つ」

映姫「聞きたいこと、とは?」

マミ「ある人間。外の世界の様相をした人間。何か知ってるのではないか?」

紫「知らないわ」

マミゾウの質問に対し、にべもない返答を紫が返す。

紫はにっこりと笑って同じことをもう一度繰り返した。

マミ「そうか。知らぬか」

マミゾウは深く頷いてもう一度お茶で唇を湿らせた。

マミ「その人間がの。妖怪の山で妖怪の子供が殺される。だから助けたいと言っているのじゃよ」

映姫「なぜそれを私に? 妖怪のことは管轄外―――」

マミ「ではないことはとっくに知っておる。この幻想郷で、人里や地底ならともかく山で、森で、儂に知らんことなどほとんどないわ」

マミゾウの丸眼鏡が隙間から入ってきた月の光できらりと輝く。その奥にある瞳はじっと映姫を見据えていた。

101ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2016/08/18(木) 23:22:29 ID:dS3MJYto
映姫「………わかりました。情報提供ありがとうございます。その人間の言ってることが本当かはわかりませんができる限りこちらでも対策を―――」

マミ「違う。そうではない」

映姫「と、いうと」

マミ「そのガキ共。こちらで保護させてもらう」

映姫「―――っ!?」

紫「へぇ。でもなぜ」

マミ「儂は理由は分からんよ。ただ儂はぬえのために行動してるだけじゃよ。理由は知らんが、儂が動くわけはある」

映姫「その人間、信用できるのですか?」

マミ「儂は知らんよ。ただ」

映姫「ただ?」

マミ「―――まぁいい。そっちが男を知らないのなら関係はなかろう」

紫「………男は、元気?」

マミ「あぁ、元気じゃよ」

紫「そう………。妖怪達にはこっちから伝えておくわ」

マミ「それは助かる。それじゃあ息災を願っておるよ」

102ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2016/08/18(木) 23:27:40 ID:dS3MJYto
映姫「待ってください」

去ろうとするマミゾウを映姫が呼び止めた。

その表情にさきほどまであった凛々しさはなく開けられた襖から射す光から見えるのは潤んだ瞳であった。

映姫「子供たちを、必ず」

マミ「はっ。こちらにいるのは幻想郷一のお人よし集団よ」

映姫「必ずっ!」

マミ「任せよ。毘沙門天と団三郎の名だけでは不満かね」

映姫「ありがとう、ありがとうございます」

映姫が深々と頭を下げる。

映姫「今度こそ―――」

そして頭を上げるとマミゾウの姿はすでになく、ゆらゆらと青々とした木の葉が落ちていった。

103以下、名無しが深夜にお送りします:2016/08/18(木) 23:56:24 ID:IsSRcK1U
おぉ、更新してる!
いつも楽しく読ませてもらってます

104以下、名無しが深夜にお送りします:2016/08/19(金) 01:21:03 ID:8r68Jpfo
キテター

105以下、名無しが深夜にお送りします:2016/08/19(金) 02:49:11 ID:E/2AKB8k
キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!

乙です!!

106以下、名無しが深夜にお送りします:2016/08/20(土) 02:32:43 ID:WKWDgVTk
おつおつ
待ってた

107以下、名無しが深夜にお送りします:2016/08/30(火) 20:05:07 ID:dFdkm2iY
これで子供たちは

108以下、名無しが深夜にお送りします:2016/08/30(火) 20:29:58 ID:MG2uN9IE
救われる?

109ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2016/09/08(木) 10:12:37 ID:WnM.9N46
暇が出来たので毎日更新を頑張ります。

110ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2016/09/08(木) 10:19:11 ID:WnM.9N46
〜男視点〜

月明かりだけを頼りに暮らす日々はもう慣れた。

人工の光すらないこの場所では月の光はいつも以上に明るく輝いてくれているからだ。

月ではウサギがもちをつくという話があるが幻想郷ならばありえるのだろうなぁなんてことを考えつつ開け放った襖から月を見ていた。

星さんの話のあと俺は六畳一間、家具は布団しかない部屋へナズーリンによって案内された。

まぁ、寝ることさえ出来れば十分だ。

問題は明日から俺がどう動けばいいか、だが。

今までの過去を振り返り星さんに伝えたこともあって眠気は現在かなりひどく俺の意識はゆらゆらと揺れていた。

星さんは俺の話を静かに聞いてくれていた。信じてくれているのかどうかは分からないがその金色の瞳はまっすぐ俺を射抜いていて頼りになりそうな気はした。

ナズ「やぁ男。まだ起きているかい?」

男「ん、あぁ。起きているが」

ナズ「どうだい一杯」

そういいながらナズーリンが片手で持ったものを左右に軽く振る。それは徳利だった。

男「酒? いやなんでそんなもんが?」

ナズ「ここは寺だ。禁酒の場所さ。だから酒は溜め込みやすいのさ」

111ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2016/09/08(木) 10:27:31 ID:WnM.9N46
そうイタズラじみた笑みを浮かべるナズーリンは尻尾をゆらゆらと揺らしながら俺のもとまで歩いてきた。

ナズ「さぁさぁ、まずは一杯」

手渡してきたお猪口にナズーリンがなみなみと酒を注ぐ。ゆらゆらとゆれる酒に俺の顔が映っていた。

お猪口を一息で干すと喉が焼けるような痛みを覚え、胃の中で酒がその存在を主張した。

男「くぅっ。かなりきついなこれ」

ナズ「はっはっは。酒飲みのための酒さ。こんなご時勢だ。酔わなきゃやってれない事だってある」

そう良いながらナズーリンは自分のお猪口に注いだ酒を軽く飲み干した。

男「で、なんのようなんだ」

ナズ「なに、酔えば口のすべりが滑らかになる。そう打算したまでだよ。んくっんくっ。はぁ。やはり酒はいいねぇ。いつだってこれさえあれば幸せにはなれる」

見た目は少女を下回り幼女とまで呼べそうな外見なのに軽く杯を干す。

外の世界ならば大変な問題なのだろうがここは幻想郷。いまさら違和感は覚えない。

ナズ「どうだい。もう一杯」

男「あぁ、頂くよ」

今度はなめるようにちびちびと飲む。味は美味しいのかも知れないがこのアルコールのきつさだ。酒を飲みなれていない俺では楽しめそうにない。

112ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2016/09/08(木) 10:34:11 ID:WnM.9N46
男「酔ったって話すことなんて何も無いよ」

ナズ「そうかい。まぁいいさ。飲みたまえ飲みたまえ」

話すことなら全て星さんに話した。俺がぬえをどう思っていたのかも全て話した。

だからこれ以上話すことなんかないのにナズーリンは俺のお猪口を空にはしてくれない。

男「だから俺にはこれ以上」

ナズ「構わないって言っただろう。飲みたまえよ」

ナズ「辛いんだろう?」

男「っ!」

その目は俺を訝しんでいた時の目と違い慈愛にあふれた目だった。

俺よりずっと小さいのに俺の心中を見透かしたかのような。

いつだってそうだ。

皆俺よりずっと小柄なのに俺よりずっと強くて大きくて優しくて。

ナズ「飲みたまえよ。さぁさぁ、一杯」

男「………あぁ」

それが嬉しくて辛くて俺は一杯、また一杯と酒を飲み込んでいった。

113ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2016/09/08(木) 10:53:41 ID:WnM.9N46
男「ん、あぁ、ふぇっくしゅんっ!」

俺は自分が起こしたくしゃみによって目が覚めた。

寒い。布団を被っていても体の芯まで凍えていてあまり意味を成さない。

確か昨日はナズーリンと酒を飲んで………

男「そのまま酔って寝てしまったのか」

それにしてもやけに寒い。なぜこんなに寒いのか。その疑問はすぐに分かった。

男「………ナズーリンも閉めて出て行ってくれたらよかったのに」

開け放たれた襖。そこから真冬の冷気が部屋中に満ち満ちていたからだった。

男「ん、あれ?」

昨日のお猪口と徳利が畳の上に転がっていた。

ナズーリンは几帳面に見えて実はそうでもないのか?

そんなことを考えていると。

もぞもぞ

男「うひゃぁっ!!」

布団の中。俺の右足に何かがまとわりついてきた。

114ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2016/09/08(木) 11:13:55 ID:WnM.9N46
なんだなんだと布団を剥ぐとそこには。

ナズ「んあぁ。さ、寒いぃ」

ナズーリンがいた。

身を縮こまらせながら剥がれた布団を手探りで探している。

男「………あのまま寝たのか」

可愛らしい………可愛らしい?

まぁいい。少女と同衾したという事実はあれどそういう趣味はないので興奮しない。

ぬえは別だ。

布団を探すナズーリンを右足から剥ぎ、布団をかけてやるともぞもぞと布団に丸まったのちすやすやと寝息を立て始めた。

男「あぁ、眠気も覚めちまったなぁ」

顔を冷水で洗うまでもなく眠気は寒さによって打ち払われていた。

男「………そういえば服はどうしよう」

着の身着のままでここへやってきた俺にはもちろん服なんてものはない。博麗神社では着ていた服と香霖―――霖之助から借りた服で何とかしていたが。

魔理沙がいない今会いに行っても服は貰えないだろうし………

男「聖さんに聞いてみるか」

115ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2016/09/08(木) 11:23:57 ID:WnM.9N46
男「ということなんですが」

聖「あら。それは失念してましたね。作務衣ぐらいしかないのですが」

男「いえ、なんでも構わないんですが」

聖「それならすぐ持ってきますね。その間に朝の水垢離でもいかがですか?」

男「いえ。遠慮しておきます」

この寒さだ。冷水なんか浴びてしまったら間違いなく風邪を引く。最悪心臓麻痺で死ぬ。

聖さんはそうですかと残念そうな顔をして小走りで去っていった。

男「さて、練習でもするか」

萃香がいないから一人での練習になるが。

まぁ萃香から教えてもらった型を一から仕上げるとしよう。

116ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2016/09/08(木) 11:37:45 ID:WnM.9N46
玄関へ行き靴を履いて庭にでると

響子「あっ。おはようございます!!!」

男「いっ! あ、あぁ、おはよう」

門前の妖怪。響子が掃き掃除をしていた。

響子「お出かけですか?」

男「いや、型の練習をするんだ」

響子「そうですか!!。頑張ってください!!」

男「掃き掃除お疲れ様」

早くこの場を後にしよう。

耳がおかしくなりそうだ。

そそくさと響子から逃げるようにして庭に向かった。

ここの庭は博麗神社よりも広い。気兼ねなく練習できそうだ。

117ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2016/09/08(木) 11:40:13 ID:WnM.9N46
出来るだけ障害物がないところを選び目をつぶって心を落ち着かせる。

そして瞼の裏に焼きついた萃香の動き。

最後の萃香の動きを。

男「すぅ―――」

大きく息を吸い込む。冬の冷たい冷気を力にして一歩踏み出す。

頭の中にいた敵を視界へ映し突き出された槍を半身でよけ肉薄。

腰に手を当て

押す―――っ!!

足りない明らかに力が足りない。

だからその姿勢を利用して腰に当てた手をさらに深く潜らせ思いっきり

引く―――っ!!

それだけで体勢は崩れる。だが決定打はなし。

敵のがら空きになった首筋へ肘を思い切りたたきこむ。

しかし四方から迫る刃は交わせない。

そのまま俺は空想の中の刃に滅多刺しにされ死んだ。

118ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2016/09/08(木) 11:45:45 ID:WnM.9N46
ダメだ。まだぜんぜんダメだ。

男「萃香に言われたとおりの動きをしなければ。

相手の動き、力を利用し、流れに乗せる。

絶えず周りを見。そしてもっとも有利な位置に自分を置く。

さすれば後手必殺も笑い話にはならない。

再び最初から繰り返す。

息を吸い。

妄想の敵を討ち。

妄想の敵に討たれ。

また妄想の敵を討つ。

やり直し、やり直し。

だが一手一手ゆっくりと最適解を模索していける。

そうして3人目を倒したときにはすでに全身は汗にまみれ俺は荒い息をついていた。

まったくなんて化け物なんだ。

伊吹萃香は。

119ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2016/09/08(木) 12:00:09 ID:WnM.9N46
聖「お疲れ様です」

男「あ、聖さん」

呼吸を落ち着けていると声がかかった。

縁側に座って作務衣を抱えながら聖さんがこっちを見ていた。

聖「男さんも戦うのですか?」

男「えぇ、まぁ。萃香………伊吹萃香に教えてもらって」

聖「まぁまぁ。それは素晴らしいですね」

聖さんが手を合わせて微笑む。

そして作務衣を置き、はだしのまま庭へ降り立った。

男「聖さん?」

聖「では手合わせを」

聖さんが両手を合わせて頭を下げる。あわてて俺もそれに倣った。

しかし聖さんが手合わせ? あんなおっとりとした人が―――

120ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2016/09/08(木) 12:05:36 ID:WnM.9N46
聖「では行きますよ」

男「え、あ、はい。わかり―――」

上段の蹴り。

聖さんから俺まで歩数にして十歩程度の距離。だが上段の蹴りは俺の頭を狙っている。

いつ、どうやって。

それはかなり単純な話だった。

俺が瞬きをした瞬間に距離を縮めただけの話。

極限まで圧縮したときの流れでそれを理解し、上段の蹴りを認識する。

萃香と練習をしていなければついてはいけなかっただろう。

いや、ついていけていない―――

回避は不可能。防御もまだ構えていない手では追いつかない。

いや覚悟があっても受けれるかどうか。おそらく無理。

つまり出来ることは覚悟だけ。

121ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2016/09/08(木) 12:09:00 ID:WnM.9N46
男「ぐうぅっはっ!」

俺の頭を凪いだ蹴りによってぐるぐると地面を転がり壁にぶつかってやっと停止した。

久しぶりのこの感覚。

聖「やはり鬼に鍛えられてあっただけありますね。意識を飛ばすつもりで蹴ったんですが」

まさかの聖さんかなり武闘派。だれが聖さんを見てそう思えようか。

男「降参です」

聖「それは残念です」

受けてもダメージが確実に通る相手に対してどう戦えと。

避けるのは不可能。

萃香………俺にはまだ化け物を倒せそうに無いよ。

122ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2016/09/08(木) 12:14:42 ID:WnM.9N46
男「強すぎませんか。聖さん」

聖「えぇ。誰かを守るためには力が必要ですからね」

その通りだが、まさか寺で聞くとは思わなかった言葉。

いや昔は武闘派の僧侶も多かったが………。

聖「それでは汗を流してきてください。朝ごはんにしますよ」

男「分かりました」

汗を流す………水垢離しかないのか。

聖「あ、ナズーリンを見かけませんでしたか?」

男「いいえ。見てないです」

俺に被害が及ばないようにそう答えた。

どうかナズーリン。見つからないでくれ。

123以下、名無しが深夜にお送りします:2016/09/08(木) 17:34:04 ID:qO3X0eMU
支援!

124以下、名無しが深夜にお送りします:2016/09/08(木) 18:00:28 ID:KDj5ovIs
掛け布団を風呂敷みたいにされて持ってこられるんじゃ……(汗

125以下、名無しが深夜にお送りします:2016/09/08(木) 19:21:52 ID:AJXrsJmY
乙!

126以下、名無しが深夜にお送りします:2016/09/08(木) 19:29:14 ID:fJJrY65o
更新、お疲れ様です!

127以下、名無しが深夜にお送りします:2016/09/09(金) 03:08:25 ID:YDgOS2Ss
乙ゥ��
更新頻度上昇ウレシイ...ウレシイ...

128ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2016/09/09(金) 23:47:43 ID:bJ8dafqg
聖さんに言われた通り水垢離を行う。

といっても滝行ではなく井戸水を使ってだが。

返事をしたはいいものの運動で熱くなった体とはいえ冬の井戸水だ。きっと身を切るような冷たさだろう。

恐る恐る水をくみ上げ釣瓶の中の水に指先を入れる。

男「………いや、無理だろこれ」

入れた瞬間に拒否反応を示すほどの冷たさ。これを全身に被る? 考えたくもないな。

「えいっ」

男「うひゃぁぉっ!?」

釣瓶を前に思案しているとそれを奪い取り俺にぶっ掛ける影が一つ。

ぬえ「早く来なよ。朝ごはんが食べれないんだからさぁ」

さぞ自分が困っているといった口ぶりだがその表情は笑みを抑え切れていない。

俺はあまりの寒さ―――痛さに震えながら頷く事しかできなかった。

129ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2016/09/10(土) 00:13:52 ID:Trb7DoPc
布で水をふき取り、作務衣に着替えると少しは寒気は収まったがそれでもまだ寒い。

博麗神社の温泉が懐かしかった。

聖「おかえりなさい、男さん。どうですか作務衣の調子は」

男「えぇ。十分です」

少し丈は短いがすごい気になるというほどでもない。贅沢は言ってられないためこれで十分だ。

聖「それでは昨日と同じ場所で皆が待っていますよ」

男「待たせてしまい申し訳ない」

聖「いえいえ、待つ程度で彼女たちの心は揺らぎませんよ。ほら」

聖さんが襖を開ける。するとそこには

130ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2016/09/10(土) 00:17:24 ID:Trb7DoPc
水蜜「げっ。負けたぁ!?」

一輪「これで朝ごはんのおかずを一品私がもらうわね」

朝ごはんのおかずをかけてジャンケンをしている一輪と水蜜の姿だった。

水蜜「初めから一品しかな―――」

聖「賭け事ですか」

一輪「なぁっ! い、いえ違うんですよ姐さん。賭け事じゃないですよやだなぁ」

聖「申し訳ありません。私は少しやることができたので先に食事をいただいていてください」

男「は、はい」

そうにこやかに言い、聖さんは一輪と水蜜を引きずって寺の奥へ消えていった。

ナズ「気にすることはない。良くあることさ」

男「ナズーリン。いたのか」

ナズ「君が最後なんだよ。早く席に着き給え」

男「すまない」

131ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2016/09/10(土) 00:25:40 ID:Trb7DoPc
急いで席に着くと星さんがにっこりとほほ笑んだ。

星「それではいただきましょうか。今日は特に忙しくなる日ですから」

「いただきます」

朝食のメニューは白米に大根を混ぜたものと味噌汁、大根の漬物。味噌汁の具はサツマイモか。

博麗神社と比べて………いや比べるのはダメだ。

星「貯蓄があるとはいえこうやって節約していかなければ持たないのですよ。特に私たちは殺生が許されない身分ですから」

男「いえ、別に文句があるわけでは」

ばっちりと見抜かれていた。慌てて訂正するもナズーリンの冷めた視線が突き刺さる。

ナズ「これだから外から来た人間はひ弱でいけないね」

響子「これでも十分美味しいですよ?」

ぬえ「やーい贅沢者〜」

まさかの全員から言われるとは。

この雰囲気が絶えれずかゆのようになったごはんを漬物で強引にかき込み、薄い味噌汁を飲み干した。

132ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2016/09/10(土) 00:32:33 ID:Trb7DoPc
男「ごちそうさま」

ナズ「食べ終わったなら支度をしたまえよ」

男「どこか行くのか」

マミ「あぁ、行くともさ」

ぬえ「マミゾウ!」

後ろを振り向くと丸い眼鏡をかけた女性………大きな狸のような尻尾のある女性がいた。

ぬえが呼んでいた名前はマミゾウ。そういえば昨日話の中で出てきたような気がする。

マミ「昨日は呼び出したのにいなくてすまなかったの」

―――そういえば呼び出されていたような気もする。すっかり忘れていた。

男「えっと、それでマミゾウさん?」

マミ「マミゾウで結構じゃよ」

男「どこへ行くんですか?」

マミ「分かるだろう。お主がしたいことを叶えてやろうとしているんじゃよ」

マミ「この世界を救いにさね」

133以下、名無しが深夜にお送りします:2016/09/10(土) 01:22:03 ID:rea/bNRU
寝落ちかな?

134以下、名無しが深夜にお送りします:2016/09/10(土) 04:29:22 ID:wQR0lZ7E
あっさり「この世界を救いに」とか言ってのけるとか格好良すぎでしょう?

135ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2016/09/11(日) 01:25:44 ID:Pbw97qso
マミ「動くにしても聖がいなけりゃ動けないからの。ちょっと儂に付き合ってくれんか」

そういってマミゾウが手招きをする。

とくに断る理由もないのでマミゾウに招かれるままついていくとマミゾウは庭に下り立ち、懐から煙管を取り出した。

マミ「構わないかね?」

男「えぇ」

マミゾウが煙管の先に指を差し込むと煙管から煙が立ち上り始めた。マミゾウは深く一服すると満足そうに口から煙を吐き出した。

マミ「最初に行っておくが、儂はお前を信じておるよ」

男「そりゃまた、なんで」

マミ「勘なんかじゃない。年寄りの知恵と知識ってやつさね。儂はお前がどういう奴かは知らんがどういう役割を持つかは大体わかった」

マミ「お主は儂等の切り札よ」

マミゾウが二度煙を大きく吐き出す。紫煙が冬の風に浚われ消えていった。

136ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2016/09/11(日) 01:33:11 ID:Pbw97qso
男「切り札なんて、そんな俺は大したことないし」

マミ「確かに、お主は大したことないよ」

その通りだが、少しグサリとくる

マミ「ただお主の経験と記憶は大したことがある。これからのことは変わっていくじゃろうがまずは我々が先手をとれる。これがどれだけ大きいことか」

マミ「それに変わらぬこともあるじゃろうて。それを拾い集めていけば我々はいったいどうなる。楽しみよのう」

マミ「さて男。儂等に何を求める。言ってみよ」

マミ「佐渡の団三郎。金も力も夢も、全て貸して見せようぞ」

マミ「さぁ、敵を化かしてみせようぞ」

137ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2016/09/11(日) 01:43:50 ID:Pbw97qso
男「じゃあ力を貸してほしい」

男「小さいことだけど。戦いには関係ないかもしれないけど」

でも、俺じゃあどうしようもないことで。

でもどうにかしなくちゃいけないことで。

マミ「簡単よ。すでに聖に話をしておるんじゃろ?」

男「あぁ、でもその場所がどこにあるか」

マミ「なんてのは簡単よ。のう」

「じゃなきゃあ、あたいが来た意味がないしねぇ」

男「その声は」

小町「やぁ、初めまして、じゃないのか。どういえばいいか困るねこれ。あたいにとっては初対面なんだけど」

男「小町!」

小町が困ったように頭を掻いていた。俺と小町の間にある温度差。理由は分かるがぬえ同様寂しいものだ。

小町「そんな寂しそうな顔しないでおくれよ。あたいが悪いみたいじゃないか」

男「すまん。別に小町が悪いわけじゃないんだ。ただ」

小町「いいっていいって。あたいだって本気で言ったわけじゃない」

138ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2016/09/11(日) 01:56:21 ID:Pbw97qso
小町「それよりも四季様は大丈夫って言ってたけどあたい個人はお前さんのことをよく知りはしないんだ」

小町「信用させてくれよ。なぜそうまでしてあの子供たちを助けるんだい?」

男「簡単だよ」

それは至極単純な事。

俺の心に残る棘。

男「遊んでやるって約束したんだ―――未来で」

小町「はぁ。やれやれ。傍から聞いたら妄想弁者の戯言。だけれどそんなまっすぐな目で見られたら断るわけにもいかないじゃないか」

小町「ま、四季様に言われた時点で断ることはできないんだけどね。それじゃあいくよ男!」

小町が鎌を振り上げ―――

小町「目標妖怪の山中腹。距離直線にして78キロ。障害物には気を付けて行ってきな!」

地面に真横の一文字を刻むように振り下ろした。

139ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2016/09/11(日) 02:02:09 ID:Pbw97qso
小町「行き方は分かるだろう?」

男「あぁ。いつも使ってた」

小町「やれやれ、なんだか不思議な気分だねぇ。初対面に人にこんな信頼されるとむず痒いったらありゃしないよ」

男「小町は信頼できるって知ってるからな」

小町「よしてくれよそんなこっぱずかしいこと」

小町はぽりぽりと頬を掻き「あたいはもう帰るから」と言って消えていった。

140ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2016/09/11(日) 02:04:22 ID:Pbw97qso
マミ「さてこれでいけるのう」

男「でもまずは聖を待たなくちゃな」

マミ「お主だけで言っても連れて帰るのは無理じゃろうしな」

男「マミゾウは来てくれないのか?」

マミ「儂は儂ですることがあるのよ。あぁ、そうそう」

男「なんだ?」

マミ「ぬえ。ぬえのことをどう思う?」

男「………俺が知ってるぬえは今のぬえじゃない」

マミ「今のぬえは嫌いかね」

男「いや、今のぬえも俺が知ってるぬえも同じぬえだ。大きく変わりはしないよ」

男「大好きだ」

マミ「その言葉ぬえが聞いたらどう思うかの」

男「はは、それは恥ずかしいな。今のぬえのことだからきっと「キモイ」とか言いそ、え?」

ぬえ「キモいキモいキモいよ! マミゾウこいつ気持ち悪いよ!!」

141ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2016/09/11(日) 02:11:48 ID:Pbw97qso
聞かれていた。ばっちり聞かれていた。

そのうえ極限までの拒否反応を示されている。

その反応がショックすぎて俺は膝から崩れ落ちた。

ぬえ「こんな奴と一緒にいられない! 私はいかないからね!!」

そういって消えるぬえ。

男「そんなぁ、そんなことって。うぇっ。あぁもうやばい。吐きそう」

マミ「これこれ泣くでない。いやお主泣きすぎじゃろう。目どころか鼻からもあふれ出ておるぞ」

男「だって」

マミ「気にするでない。ぬえの照れ隠しよ。お主のことを本気で嫌っているわけではない」

男「本当、なのか?」

マミ「本当よ。つまりぬえはお主のことを嫌ってはいない。安心するのじゃな」

男「それは良かった。本当に良かった」

立ち直れなくなりそうなほどの痛み。

それは萃香にぶん殴られたときよりもずっと痛かった。

142以下、名無しが深夜にお送りします:2016/09/11(日) 02:26:15 ID:mCuO5dGw
なんかワロタ



143以下、名無しが深夜にお送りします:2016/09/11(日) 04:07:58 ID:bgKriAt.
まみぞう

144以下、名無しが深夜にお送りします:2016/09/11(日) 04:13:33 ID:bgKriAt.
おのれタッチパネルめ……連投失礼
マミゾウさん。口から出任せじゃあるまいね?

145ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2016/09/12(月) 12:33:57 ID:8bvvbbwY
聖「お待たせいたしました」

半刻………30分ほど待っただろうか。聖さんがやってきた。

そういえば寺の奥から聞こえていた悲鳴ももう聞こえていない。

俺は心の中で二人に念仏を唱え小町が引いた線に向き直った。

男「行きますよ」

聖「えぇ」

マミ「頑張るんだよ」

線に体を半分進めると景色が急速に歪み、絵の具に別の絵の具を垂らしたかのような曖昧な風景へと変わる。

さらに体を進め完全に線を越えたとき俺の体は見覚えのある鉄門の前にいた。

146ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2016/09/13(火) 00:14:40 ID:G2rpitKw
聖「行きましょうか」

男「はい」

この鉄門の中にあいつらがいる。

生きて、笑って。

楽しそうにはしゃいでくれるあいつらがいる。

男「………今度こそ」

そう改めて誓いを立て俺は鉄門を開―――

男「んぐぐぐぐ」

開い―――

男「お、重いぃい」

開けなかった。

147以下、名無しが深夜にお送りします:2016/09/13(火) 00:19:49 ID:eQ5U8lKc
wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww

148ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2016/09/13(火) 01:05:48 ID:G2rpitKw
そういえばいつも小町か映姫さんに開けてもらっていたなぁ。

映姫さん。俺より力強かったのか。やっぱり閻魔辞めても人間よりは上みたいだな。

聖「私が開けましょう」

男「お願いします」

聖さんの強さは知っている。

さっき見た通りの強さで聖さんは普通の扉を開けるかのような気軽さで鉄門を開いた。

その中はいつか見た洞窟で、もちろん炎に包まれてはいない。

男「………こんにちは?」

洞窟の奥からは声がしない。

そうか俺が初めて来るから警戒をしているのか。

聖「進みましょうか」

男「えぇ」

149ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2016/09/13(火) 01:16:06 ID:G2rpitKw
洞窟の中は明るいとは言わないまでも壁に開けられた小さい穴から揺らめく緑色の炎が歩行や認識に支障が出ない程度には照らしてくれている。

大人一人が通れるのがやっとの道を進んでいくと急に開けた場所へ出る。

そこに子供たちがいた。

男「ひさ………初めまして」

そして子供たちを守るようにして一人の女性―――妖怪の女性がたっている。

最後まで子供たちを守ろうとした強くて優しいひとだった。

保母妖「初めまして。この子達の面倒を見ている保母妖怪です」

彼女が頭を下げる。俺も慌てて頭を下げるとこっちをじっと見ている羽少年がいた。

保母妖「四季映姫様から話は聞いております」

男「映姫さんから? じゃあ子供たちを」

保母妖「私としては反対なのです」

保母妖怪が一歩前に出る。俺との距離は1メートル程度。彼女がつけている丸い眼鏡が炎を反射して輝いた。

150ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2016/09/13(火) 01:24:42 ID:G2rpitKw
保母妖「あなた方の庇護をうけるということは妖怪の山の意思と反することです」

保母妖「私は良い。でもこの子達の未来はどうなるのでしょうか」

………そう、妖怪の山の子供を勝手に連れていくことはできない。さすがに妖怪の山から許可は出ないはずだ。

実際映姫さんだって連れ出そうとはしなかった。あくまで面倒を見るだけ。

だけれどここにいてはいけないということは分かっている。だから俺は

男「………聖さん。ご迷惑をおかけします」

聖「………えぇ」

保母妖「何を、する気ですか」

男「ここに存在する27名。この俺。男が独断で奪い受ける」

男「子供たちはあくまで被害者。あなたも完全に責任無しというわけにはいかないでしょうが被害者」

保母妖「では、それではあなたが妖怪の山へ」

白蓮「白蓮寺一同。罪なき命を守るためならたとえどのような汚名をかぶろうとも、どのような被害を受けようとも構いません」

白蓮「少なくとも私は今までそう生きてきました」

保母妖「………………分かりました」

保母妖「私、保母妖怪はあなた方に喜んで奪われましょう」

151ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2016/09/13(火) 01:39:07 ID:G2rpitKw
羽少年「先生。俺たちどうなるんだ」

保母妖怪「大丈夫。私が守って見せるから」

犬耳娘「で、でも怖いよう」

羽少年「大丈夫だ。俺が守ってやるからっ」

子供たちから怯えは消えていない。

男「なぁ、そこの少年よ」

羽少年「な、なんだ俺か!?」

男「あぁ、そこの一番好奇心が強そうで勇気に満ち溢れた君だ」

羽少年「なんだよっ」

こいつならこの言葉を聞くはずだ。

羽少年の好奇心に救われたあの日を。

男「―――俺、外の人間なんだ」

152ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2016/09/13(火) 01:42:48 ID:G2rpitKw
羽少年「っ! だ、だからなんだよっ」

そうやってそっぽを向いたところで一度動いた好奇心は止められない。

今にでも動く。すぐ動く。

うずうずと自分を抑えきれなくなる。

お前はそういう奴だったな。

男「外の世界にはいろんなものがあるんだ。聞きたくないか?」

羽少年「へっ。だからなんだっていうんだ―――」

羽少年「で、でも教えたいんなら教えてくれたっていいんだぜ?」

男「そうだな。じゃあ海の話を」

犬耳娘「!」

ぴこんと犬耳娘の耳が動く。

男「そうだな海ってのは―――」


新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

※画像アップローダーはこちら

(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)

掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板