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マト ー)メ M・Mのようです

1名も無きAAのようです:2013/09/28(土) 06:36:56 ID:a0hWVy360


  僕が彼女に出逢ったのは、あの暑い夏が終わり、秋の足音が聞こえ始めた頃だった。

  僕は今でも夏が過ぎ秋が訪れる度に彼女と出逢ってからのあの数週間の出来事を思い出す。
  もう記憶は所々曖昧になってしまっていて、細部は日記という記録に頼るしかないのだけれど、それでも目を閉じれば彼女の笑顔は浮かんでくるのだ。
  あの最後の時と同じように。


  誰かに友人を紹介しようとする時、何から話し始めるのだろうか。
  彼女について語ろうと思った際に僕は何から話せば良いだろうか。
 
  自分との関係性?――彼女と僕は赤の他人だった。
  その人の職業?――誤解を恐れずに言えば彼女は無職だった。 
  年齡や経歴?――それすら彼女にはなかった。
  なら名前?――そんなものでさえ、僕と出逢った時の彼女にはなかったのだ。  

  あの日、僕が出逢った少女は掛け値なく何者でもない誰かだった。
  誰でもない、彼女だった。
  何の記録も残っていないとしても彼女は確かにそこにいた。

382名も無きAAのようです:2014/01/18(土) 20:19:07 ID:un0.uF.U0

 彼女は言った。
 自分は忠告にやって来たと。
 僕達の歩みを止める為に現れた使者。

 沈黙した僕を見かねてか、ミィは僕の隣に立つと口を開く。


マト-ー-)メ「『後悔』は物事の後になってからしかできないものです。それに後悔するかどうかは私達の問題です」

(-、-トソン「その通りです。ですが、その物事の後に後悔できる状態だとは限りませんよ?」


 そう、例えば。


(゚、゚トソン「行方不明になったという、あなたのお父様のように」

(;^ω^)「!!」

(-、-トソン「そもそも後悔すらできないような状況に陥るかもしれない。だから私は忠告しに来たのです。『手を引け』と」

(;^ω^)「お節介にも、僕達のことを考えてか?」

(-、-トソン「その通りです」

383名も無きAAのようです:2014/01/18(土) 20:20:04 ID:un0.uF.U0

(゚、゚トソン「別にいいじゃありませんか。過去なんて分からずとも」


 「過去が分からなくても生きていけます」と彼女は続ける。
 仮に向き合わなければならない真実ならば必ずいつか対決することになるのだから、急いで探しに行く必要はないのだと。

 都村トソンは言う。

 知らないままならば、今のままでいられるのに。
 見ないフリをしていれば、ずっとこうして生きていられるのに。
 どうしてですか?と彼女は問い掛ける。


マト-ー-)メ「それでも私は【記憶(じぶん)】を探します。きっとブーンさんもそうです。私達にとって過去はそういう大切なものなんです」

(゚、゚トソン「これだけ言っても、まだ分かりませんか」

( ^ω^)「ご忠告は痛み入るが、僕達の行く道は僕達が決める。後悔するかどうかも、だ」


 僕とミィの言葉を受け、都村トソンは「そうですか」と目を伏せた。
 だが直後に顔を上げ言った。


(゚、゚トソン「口で言って分からないのならば仕方ありません。『ファーストナンバー』都村トソン――対象を撃滅します」

384名も無きAAのようです:2014/01/18(土) 20:21:05 ID:un0.uF.U0

 *――*――*――*――*


 え?
 言葉を認識する暇はなかった。
 疑問符を浮かべることさえ許されなかった。

 「一瞬」。
 そんな単語ではまるで表せない刹那の瞬間に全ては始まり――そして終わっていた。



マト; -)メ「がっ……ぁ……!」



 都村トソンの姿が消えた。
 低い音が響いた。 
 ミィが、壁に叩き付けられていた。

 何が起こったのかまるで理解できなかった。
 今の今まで隣に立っていたはずのミィが僕の背後で呻いている。
 首を締め上げられ宙に浮いた両足をばたつかせ苦しんでいる。
 あの都村トソンがそうしている。

385名も無きAAのようです:2014/01/18(土) 20:22:04 ID:un0.uF.U0

 彼女はミィと壁の方を向いている。
 こちらに背を向けている。

 だから僕は、即座に行動を起こした。
 予め取り出しやすい場所に入れておいたワイヤー針タイプのスタンガンを抜いた。
 だが。


(-、-トソン「大人しく見ていなさい」


 言葉に呼応し、電撃銃がひしゃげた。
 ゴミ処理場でしか聞かないような音と共に銃身がまるで何十倍もの重力に押し潰されたかのように用を成さない残骸へと変わった。


(゚、゚トソン「『未来予測』という能力は知覚(分析)、演算、予測という三つのプロセスから成るそうですね」

マト; -)メ「……ぃっ!!」


 都村トソンは語りながら片腕でミィを投げ捨てる。
 彼女は受け身も取れず毛足の長い絨毯に転がった。
 駆け寄る僕を冷めた目で見下ろし、史上最高の能力者は淡々と続ける。

386名も無きAAのようです:2014/01/18(土) 20:23:05 ID:un0.uF.U0

 ですが、と。


(-、-トソン「仮に一瞬で相手の攻撃を予測し終えたとしても、それだけでは意味がない」

(;^ω^)「ミィっ!! 大丈夫か、しっかりしろ!」

(゚、゚トソン「何故ならば予測しただけでは未来は変わらないから。相手の攻撃を避ける為には、先の三つのプロセスの後に『行動』が必要です」


 都村トソンがそこまで言ったところでミィが立ち上がった。
 咳き込んではいるが、無事らしい。


マト; -)メ「……だから私では、あなたには勝てない」

(-、-トソン「その通りです。あなたが私の次の一手を予測したとしても、あなたがその一手を避ける為の一手を打つ前に、私は行動を終える」

マト; -)メ「空間歪曲能力を用いた……ディーン・ドライブによる、亜光速移動……。それが、『ファーストナンバー』が最高の能力者足り得る理由……」

(゚、゚トソン「そこまで理解してなお、私の前に立ったことは尊敬に値します。いい覚悟です、感動的ですね。だが無意味です」


 ミィが未来を見通すのだとすれば、その未来を光速で書き換えるのが――『ファーストナンバー』都村トソン。

387名も無きAAのようです:2014/01/18(土) 20:24:08 ID:un0.uF.U0

 そう、これもどうしたって勝ちようのない勝負だった。
 それを理解したからこそミィはあれほどまでに都村トソンに恐怖していたのだ。

 都村トソンは勝負も覚悟も無意味だと告げた。
 だがそれでも。
 いや、だからこそ僕はミィの行動には意味があったと思う。

 それはつまり――どんな真実が待っているとしても、その過去と向き合うという覚悟と同じものなのだから。


(-、-トソン「忠告はしました。どんな選択をするかはあなた方の自由です。ですが今のまま進み続ければ、間違いなく後悔します。これが最後のチャンスです」

マト; ー)メ「……目に、見えています」

(-、-トソン「そうですか」


 一方はいつものような笑みを浮かべ。
 もう一方は、笑わなかった。

 彼女はそう言い残し部屋を出て行った。 
 それで終わりだった。
 後には僕達と、初めて足を踏み入れた時と何も変わらない静寂だけが残った。

388名も無きAAのようです:2014/01/18(土) 20:25:09 ID:un0.uF.U0

 *――*――*――*――*


 都村トソンとの邂逅から丸一日が経った。
 僕達は二人で夕陽を眺めていた。

 ある地方の展望台。
 肌寒い季節のせいか今日が平日なせいかどちらの要因が大きいのか分からないが、辺りには誰もいない。
 秋風に吹かれながら二人で沈み行く夕陽を見ていた。

 理由などない。
 なんとなく歩き続けている内にここに辿り着いてしまっただけだ。
 それだけのこと。
 意味なんてなくて良かった。


( ^ω^)「なあ、ミィ」

マト-ー-)メ「なんですか?」


 僕は問い掛け、彼女は応じる。
 この数週間で幾度となく繰り返したやり取り。

389名も無きAAのようです:2014/01/18(土) 20:26:31 ID:un0.uF.U0

 僕は紅い夕陽に、先月まで毎日見ていたはずの故郷の景色を妙に懐かしく思い出しながら言った。


( ^ω^)「あの都村トソンの言ってたことを全部信じるわけじゃあないが……でも、やめるなら今だと思うお」

マト-ー-)メ「ブーンさんこそ、後悔するかもしれませんよ? あるいは後悔できなくなるかもしれません」

( ^ω^)「かもしれないな。だから、やめるなら今だと思う」


 やめたいんですか?と彼女は訊ねる。
 どうだろうなと僕は答えた。


( ^ω^)「父のことは知りたい。だけど、命だって大事だと思うんだ。僕は臆病なのかな」

マト゚ー゚)メ「……いえ。人間は過去の為だけに生きるものではありませんから」

( ^ω^)「それは、そうかもな」

マト-ー-)メ「私は『現在』とは今この一瞬のことだけではないと思います。今の日常が『現在』なんです。過去も未来も、少しずつ『現在』に含まれる」

( ^ω^)「……なるほど。確かにそうかもしれない」

390名も無きAAのようです:2014/01/18(土) 20:27:11 ID:un0.uF.U0

 過去と現在も、現在と未来も。
 そこまで厳密に分けられるものではないのかもしれない。

 少なくとも人間が普段思う『現在』には、彼女が言うように過去も未来も少しずつ含まれている。
 大学に行ったり、友達と談笑したり、父の荷物を整理して悲しんだりする。
 それが僕の『現在』だった。

 だとしたら僕にとっての『過去』は何になるのだろう?
 父と過ごした日々だろうか?

 なら、『未来』は?


マト-ー-)メ「こうして生きていられる以上、『過去』よりも『現在』を重視することは当然のことなんです。それは悪いことではない」

( ^ω^)「そうかもしれないな」


 僕は呟き、けれどそれだけでは終わらず続けた。


( ^ω^)「……だけどさ、『過去』を知ることによって初めて開ける『未来』もあるんじゃないのかお?」

391名も無きAAのようです:2014/01/18(土) 20:28:05 ID:un0.uF.U0

 確かにこのまま生き続けていけば『現在』が緩やかに続いていくのだろう。
 続いていく先にある『現在』はそれも一つの『未来』だ。

 けれども、『過去』と向き合うことによって初めて選べるようになる『未来』もあるはずだ。
 僕はそう思う。
 だから。

 僕の言葉に彼女は笑った。


マト^ー^)メ「それも、そうかもしれません」


 あの特徴的な、掴みどころのないふわふわとした笑み。
 それが何よりも彼女の答えを表していた。

 最早、口にするまでもない。

 だからもう少しだけ進んでみよう。
 これからの『未来』を選ぶ為に。
 この先に、何が待っていたとしても。

392名も無きAAのようです:2014/01/18(土) 20:29:08 ID:un0.uF.U0

 僕も彼女もそれからしばらくの間、黙っていた。
 黙って夕陽を眺めていた。 


マト゚ー゚)メ「ブーンさん。どうせですから写真でも撮りませんか?」


 写真を撮るということは記憶を一つの記録に変える行為だ。
 父が大学時代の一枚をずっと持ち続けていたように。
 だから彼女との写真も僕にとって大切な思い出になるはずで。

 だからこそ、僕は言った。


( ^ω^)「……いや、今日はやめておこう。もう暗くなる。また何度でも来ればいいだけの話だ」


 そうだ。
 ここに来たことに意味なんてなくていい。
 たとえ後悔したとしても、これからも僕達は生き続けるのだから。

 何度でも訪れる今日には特別な意味なんてなくったっていい。

393名も無きAAのようです:2014/01/18(土) 20:30:05 ID:un0.uF.U0

 *――*――*――*――*



 ―――そして、終わりが始まった。


 始まりが唐突であったように、終わりも同じように突然だった。

 前触れなど一切なかった。
 伏線もお約束もない。
 始まりと同じように純粋な偶然が終わりを告げる。

 それはたまたま僕がミィと離れた時だった。
 二人で買い物に行って、たまたま買い忘れた物があることに気付き、一人で走って店へ戻る最中だった。


ミセ* ー)リ


 夜の街を走る僕は道の先に少女を見つけた。
 黒のパーカーを着た小柄な子で、フードを被っている為に顔は隠れていた。
 こちらへと歩いてくる少女と夜道で僕はすれ違う。

394名も無きAAのようです:2014/01/18(土) 20:31:07 ID:un0.uF.U0

 それだけのはずだった。



「―――なーんだ、こんな所にいたんだぁ」



 すれ違う瞬間に少女はそう口にする。
 次いで、パチンと指を鳴らした。
 その仕草に僕ができれば二度と会いたくない相手を思い浮かべた瞬間。

 僕は――その場に崩れ落ちた。


(; ω)「…………え?」


 膝から力が抜ける。
 呼吸ができない。
 意識が遠のく。 
 光が消える。
 コンクリートに打ちつけた肩だけが、熱く痛い。

395名も無きAAのようです:2014/01/18(土) 20:32:04 ID:un0.uF.U0

 目を開けているはずなのに何も見えない。
 声を出そうとしても喉は動かない。
 何が起こったのか分かるはずもない。

 どういうことだ?
 ……僕は、どうなった?




「―――ブーンさんっっっ!!」




 暗闇の中で最後に残った感覚が彼女の声を捉えた。
 ああ都村トソン、お前の言う通りだ。
 確かに後悔することになった。

 僕は泣き出しそうな声音のミィにどうすることもできないことを悔やみつつ、緩やかに意識を手放していく。

 もし今度目が醒めることがあったなら、泣いているであろう彼女をどうやって慰めようか。
 最後にそんなことを考えた。

396名も無きAAのようです:2014/01/18(土) 20:33:05 ID:un0.uF.U0


  この時の僕にとっての『現在』はあの住み慣れた家と大学を往復する日々ではなかった。
  この時の僕にとっての『現在』は即ちミィとの日常だった。

  街をぶらつき、買い物をし、喫茶店でコーヒーを飲み、他愛もない雑談をして、今日の宿を探し、明日以降の『未来』を夢見て眠る。

  『未来』を夢見る僕達は忘れていた。
  『未来』が夢見た通りのものではないかもしれないということを。
  ……分かっていたつもりになっていた。 

  後悔がないと言えば嘘になる。
  だけど、もう僕達のあの『現在』は――あの『過去』は、戻ってこない。




        マト ー)メ M・Mのようです


        「第七話:シ者」





.

397名も無きAAのようです:2014/01/18(土) 20:34:13 ID:un0.uF.U0

ラスト三話です(予定)。
よく考えたら次回予告したのに投下時間知らせてなかったですね、すみません。

398名も無きAAのようです:2014/01/18(土) 22:33:46 ID:M28cgDGM0
乙!!

399名も無きAAのようです:2014/01/18(土) 23:25:36 ID:MP6XHE4I0
乙です!
続きが気になる!

400名も無きAAのようです:2014/01/19(日) 00:25:53 ID:ITWXKTcA0
おつ!
トソン強すぎと思ったら一気に話し進んだな
楽しみにしてる

401名も無きAAのようです:2014/01/19(日) 00:33:55 ID:VSGE3dDA0

続きを楽しみにしてる

402名も無きAAのようです:2014/01/21(火) 07:12:27 ID:LURJ7k1I0

【現時点で判明している“少女”のデータ】

マト゚ー゚)メ
・名前:不明
・性別:女
・年齡:不明(外見年齡は15〜17程度)
・誕生日:不明
・出身地:不明
・職業:不明
・経歴:不明
・特記:『未来予測』の能力を持ち、限定的ながら未来が見える。精確に予測できるのは数秒先までで一分以上先のことは可能性が見えるのみ。
    能力を発動している間は瞳の色が変わるがデフォルトでもある程度未来は見えている。
・外見的特徴:身長160代前半。癖のある赤みがかった茶髪。白い肌。起伏の少なめな体型。整った容姿。ニット帽。ボーイッシュな服装。
       やや鋭めな双眸。瞳の色は橙に近いヘーゼル。能力発動中は左目が紫に輝き、更に集中すると色が濃くなり紅色に変わる。

・備考:
 気が付いた時には記憶(エピソード記憶)を全て失っていた。
 その当時の所有物は細工の入った銀の指輪のみ。 
 一人称は恐らく「私」。この国の言語で話しているので海外に住んでいたとは考えにくい。
 服を着る、買い物をする等のごく一般的な知識も備えている。
 知識(意味記憶)として一般には知られていない生体兵器についての知識を有する。
 顔立ち、特に目元が超能力の研究をしていたと言われる科学者『都村トソン』及びその娘に似ている。

403名も無きAAのようです:2014/01/21(火) 07:13:20 ID:LURJ7k1I0

【現時点までに使われた費用(日本円換算)】

・前回までの合計 14,921,520円
・宿泊費 約37,000円
・生活費 約8,000円
・武装費他 約22,000円
______

・合計 14,988,520円


【手に入れた物品諸々】

・情報

404名も無きAAのようです:2014/01/21(火) 07:14:05 ID:LURJ7k1I0

今の予定では九話の終わりに安価を実施するので、どうぞよろしく。
結末が変わる類のやつです。

405名も無きAAのようです:2014/01/21(火) 11:12:53 ID:54k.3/g.0
この安価は熱いでぇ…!

406名も無きAAのようです:2014/01/21(火) 19:15:43 ID:LIogIj56O
おつ
結末が変わるっておい、今から緊張してきたわ

407【第七話予告】:2014/02/04(火) 17:39:18 ID:uPTw4gTQ0

「……彼等は今の彼等が知らない過去によって出逢った。
 運命、偶然、因果、意図、あるいは――記憶。
 きっと彼等だけではありません。
 人間は誰だってそうなのでしょう。
 私達は自分で選択したわけでもないのに気付いた時には既に状況に拘束されている。
 そういうものです。

 ですが、それはそれまでのこと。
 それだけのこと。
 彼等が出逢った後で、彼等がどうするか、何を目的に生きていくかは彼等自身が決めることです。
 たとえトマトの一つに過ぎないような存在だとしても。

 何処へ行ったって同じ。
 今は嘘になんてなりはしない。

 だけど、いえだからこそ、できることならば彼等は何も知らないまま、自由に生きていて欲しかった―――」



 ―――次回、「第八話:Memorable Meme」

408名も無きAAのようです:2014/02/04(火) 17:40:12 ID:uPTw4gTQ0

第八話は2月6日夜〜深夜に投下予定です。
予定は未定。

2月中に終わればいいなー。

409名も無きAAのようです:2014/02/04(火) 18:19:56 ID:uZEybl360

待ってる。

410名も無きAAのようです:2014/02/04(火) 18:50:35 ID:2xzgv5D2O

マトマトだからトマトってか
楽しみだな

411名も無きAAのようです:2014/02/04(火) 19:48:59 ID:1huACYRAO
>>410
お前頭良いな

412作者。:2014/02/06(木) 21:27:12 ID:ZpAV6Pkw0


書き直したいところができたので投下は延期します。
満足の行く出来になり次第、また投下したいと思っています。

それでは。

413名も無きAAのようです:2014/02/06(木) 21:59:16 ID:Qzgu.j9w0
待ってる

414名も無きAAのようです:2014/02/07(金) 00:17:55 ID:BbEYPUScO
期待

415名も無きAAのようです:2014/02/08(土) 03:45:18 ID:iEUzuBzM0


  少し難しい話をしよう。

  古典的な決定論によれば未来は決定しており、そこに僕達の自由意思が介在する余地は存在しない。
  全てを知覚し全てを演算し全てを予測している知性のことをある数学者は『ラプラスの悪魔』と名付けた。


  少し難しい話をしよう。

  才人は運良く才能を持って生まれただけに過ぎず、成功はその才能がたまたま社会に需要されただけに過ぎず、故に社会は根本的に不平等だ。
  人間の人生の結果、その全ては究極的には偶然性に依っているのだとある哲学者は語り、現代経済学の礎を築いた。


  少し難しい話をしよう。

  全ての選択肢で世界が分離していくという量子力学的な多世界理論を取るとすれば、どのようなハッピーエンドも単に幸運な分岐が選ばれただけに過ぎない。
  個人の行動も選択も何もかもがなんの意味も成さない無限分岐の世界をある文学者は題材にした。


  少し難しい話をしよう。

  大いなる神が創りたまいしこの世界は神の摂理の下にあり、人の全ての歴史は神の配慮によって起きており、救済に与る者は遥か昔より決定している。
  神は選ばれし者の為だけに言葉を残されたのであり善行と救済は関係がないとある神学者は提唱し、現世に議論と改革を残した。

416名も無きAAのようです:2014/02/08(土) 03:46:06 ID:iEUzuBzM0

  未来は全て決まっている。
  人の意思には価値がない。
  それは、そうなのかもしれない。

  だけど僕はそれでも言いたい。
  僕達の選択が未来を作ると、未来への切符はいつも白紙なのだと。

  自由が無価値よりも遥かに過酷なことだとしても――僕はそう叫び続けたい。





        マト ー)メ M・Mのようです


        「第八話:Memorable Meme」




.

417名も無きAAのようです:2014/02/08(土) 03:47:07 ID:iEUzuBzM0

 
 ―――『過去』。

 『現在』。
 『未来』。
 選択、意思、人生、後悔、才能、価値、意味―――自由。


 ……ああ、そうだよな。
 分かってるんだ。

 僕は大して神を信じちゃいない。
 だから、こんな時だけ都合良くその神の使いとやらが現れて。
 行くべき道を。
 後悔しない選択を、示してくれるとか。
 そんなこと、期待するのも馬鹿らしいんだ。

 僕達は自由だ。
 だから自分で未来を選んでいくしかない。
 何も分からなくたって、そうしていくしかないんだ。

 だってそれが生きるってことだろう?

418名も無きAAのようです:2014/02/08(土) 03:48:06 ID:iEUzuBzM0

 だから。
 うん、分かってるよ。
 こんな暗闇で言葉を並べていたって何も変わりはしないことくらい。

 言葉っていうのは一人で悩む為にあるものじゃない。
 他人と繋がって考える為にあるものだ。

 あるいは――無知な自分を奮い立たせる為に、大切な誰かを慰めてその涙を止める為にあるものだから。


 ……さて、じゃあ。
 分からないことばかりだし、悔やんでも悔み足りないし、それはこれからも続いていくんだろうけど。
 もしかしたら今度こそ死んでしまうかもしれないんだけれど。

 それでもこれは僕の人生だから。
 まだ僕は生きているから。


 ―――そろそろ、目を醒まそうか。



.

419名も無きAAのようです:2014/02/08(土) 03:49:06 ID:iEUzuBzM0

 *――*――*――*――*


 右手の手の平が温かい。

 そんな感想を抱きながら僕は目を開ける。
 ぼんやりとした頭で考えるが、そのコンクリートの天井に見覚えはなかった。


( ^ω^)「ここは……」


 ここは何処だ?
 どうなったか、は幸いにも覚えている。

 明るさの足りない室内で僕は上半身を起こし、そこで気が付く。
 手の平に伝わる熱の正体。
 ベッド脇のパイプ椅子に座っている少女が僕の手を強く握っていたのだ。
 彼女の名前だって、僕はちゃんと思い出せる。


( ^ω^)「……ミィ?」

マト -)メ「…………」

420名も無きAAのようです:2014/02/08(土) 03:50:06 ID:iEUzuBzM0

 その名前を呼ぶ。
 答えはなく、彼女は俯いたままだった。

 寝ているのだろうか?
 だが直後にそうではないと気付く。
 小さな肩が震えていた。


マト -)メ「…………なさい」

( ^ω^)「え?」

マト -)メ「……約束したのに。守れなかった、ごめんなさい……」


 守れなかったというのは約束のことだろうか。
 それとも、僕のことだろうか。

 僕の彼女の契約。
 約束。
 僕達はお互いの目的の為に手を結んでいたわけで、それで。


( ^ω^)「何言ってるんだお。僕はこうして生きてる」

421名も無きAAのようです:2014/02/08(土) 03:51:06 ID:iEUzuBzM0

 それだけで重畳だし、と言いながら両手両足の感触を確かめる。
 一つもおかしな部分はない。


( ^ω^)「護衛としての役目には、まあ……不備があったかもしれないが、僕だって傷を負うことくらい覚悟してた」


 父親が失踪し。
 痕跡がなく。
 部屋が荒らされ。
 最初から危険など承知で、僕はこうして父の足跡を探している。

 無傷で安全に終われればそれが一番だったし、その為にミィを雇ったという面もあったが……。
 トントン拍子に上手くいくほど甘くないということは分かっていたつもりだ。


( ^ω^)「そんなに気にするほどのことじゃないお。僕はこうして五体満足なんだし」

マト -)メ「違うんです、ブーンさん……」

( ^ω^)「何が違うって言うんだ?」


 と。

422名も無きAAのようです:2014/02/08(土) 03:52:06 ID:iEUzuBzM0

 彼女がその答えを口にする前に部屋の扉が開いた。
 そこに立っていたのは顔に大きな古傷のある黒髪の少女だった。

 纏う底知れぬ異常さに思わず冷や汗が流れる。
 二度と遭いたくなかった相手。
 その少女は咥えていた棒付きキャンディをパキリと噛み砕き、僕に笑みを見せた。

 奴が、立っていた。


(#^;;-^)「なんや、えらい元気そうやん?」


 悪魔の右腕を持つ超越者。
 『殺戮機械』と呼ばれる少女がそこに立っていた。


(;^ω^)「…………なんで、お前が?」

(#゚;;-゚)「へぇ、なるほどなあ」


 彼女――という呼称が正体不明の奴に相応しいかは分からないが、とにかく彼女は言った。

423名も無きAAのようです:2014/02/08(土) 03:53:06 ID:iEUzuBzM0

(#^;;-^)「てっきり勘違いしとると思とったけど、そうでもないみたいやな」

( ^ω^)「何の話だ?」

(#゚;;-゚)「兄さんを襲ったていう奴、指鳴らしとったらしいやん。だから、うちと勘違いしとるんやないかってな」


 ああ、そのことか。
 首を振って僕は答えた。


( ^ω^)「あのパーカーの子はお前じゃない。確証はないが、それくらいは分かる」

(#゚;;-゚)「へぇ? 勘か?」

( ^ω^)「というよりも、印象の違い……と言うべきかな。姿を変えられる相手に印象も何もないだろうが」


 それでも、僕を襲った相手とこの『殺戮機械』は別人だと思うのだ。
 あの少女の異常性に気付いたのは意識が途切れる寸前の最後の一瞬だけだったが、威圧感があることは同じでも決定的に何か違う部分があった。
 具体的に何かは分からない。
 分からないが、きっと別人だと思う。

 『殺戮機械』のこちらの根幹の脅かすような恐怖とは、何かが違った。

424名も無きAAのようです:2014/02/08(土) 03:54:06 ID:iEUzuBzM0

( ^ω^)「それにミィが襲われるなら分かるが、お前には僕を襲う理由がないだろ? お前は『未来予測』の能力が目当てなんだから」

(#^;;-^)「おっしゃる通りやな。誤解を解く暇が省けて嬉しいわ。尤も、もし勘違いしとった場合は殴って分からせとったけど」

(;^ω^)「…………」


 殴って分からせる?
 確かコイツ、クレーン車でも動かすのが難しそうな巨大な棒を振り回していてなかったか?
 そんな力で殴られたら顔がアンパンのヒーローよろしく僕の頭が吹き飛ぶぞ。
 洒落になってない。

 一息置いて、僕は言った。


( ^ω^)「最初の質問に戻ろうか。どうしてお前がここにいる?」

(#゚;;-゚)「一言で言えば……成り行きやな。変わった魔力震を感じたもんやから行ってみたら兄さんが倒れとった」

( ^ω^)「……イマイチ分からないな」

(#゚;;-゚)「魔力震やなくて呪波とか揺らぎとかでもええんやけど、とにかく超能力使った痕跡ってことや。うちが持ってない能力のな」

( ^ω^)「で、それを収集する為にワープしたら、僕がいたわけかお」

425名も無きAAのようです:2014/02/08(土) 03:55:06 ID:iEUzuBzM0

 泣いとるお嬢ちゃんと一緒にな、とディは付け加える。


(#゚;;-゚)「で、まあ……扱いに困ったから今の寝床に連れてきた」

( ^ω^)「……じゃ、とりあえずお礼を言っておくお。ありがとう」


 僕の言葉に、彼女は薄笑いを浮かべた。
 ミィの笑顔とは全く異なる、ゾッとするような微笑だ。

 彼女は言った。


(#^;;-^)「そんなことよりも兄さんには礼を言うべきことがあるんやで。というよりも、頼むべきことか」

( ^ω^)「どういうことだ?」

(#゚;;-゚)「すぐに分かるわ。そのお嬢ちゃんがなんで泣いとるかもな」


 そうして『殺戮機械』は軽く指を弾く。
 乾いた音。
 彼女が能力を使う合図。

426名も無きAAのようです:2014/02/08(土) 03:56:07 ID:iEUzuBzM0

 そう。
 その瞬間だった。

 ―――僕が光を失ったのは。


「…………え?」


 暗闇の中、状況を理解できない僕に特徴的な口調が答えを教える。


「今、兄さんからうちが貸しとった力の一つを取り上げた。つまり今の状態がアンタの本当の状態や」

「いや、そんな……これは、」


 戸惑う僕に対して彼女は淡々と告げる。
 目の前の現実を直視できない。
 最早その「目の前」は認識できず、「直視」することも叶わない。


「ご愁傷様、失明や。五体満足には程遠いな。……もう二度と、その両目に何かが映ることはないんやから」

427名も無きAAのようです:2014/02/08(土) 03:57:06 ID:iEUzuBzM0

 *――*――*――*――*


 僕はどうにか口を開く。


「…………頼む」


 上手く言葉が紡げない。
 声音が震えている。

 暗闇がこんなに怖いものだとは知らなかった。
 何も見えないことがこんなにも恐ろしいだなんて。
 できることならば、知りたくなかった。


「何をや?」

「分かってるんだろ……頼む」


 必死で声の震えを止めて、僕は言う。

428名も無きAAのようです:2014/02/08(土) 03:58:06 ID:iEUzuBzM0

 視覚以外の感覚が異様に鋭くなったような錯覚。
 右手から伝わってくるミィの温度が熱い。
 その焼け付くような熱さを拠り所として言葉を紡ぐ。


「……僕の目を、見えるようにしてくれ」

「ええけど、効果は一時的やで?」

「構わないお」

「せやかてすぐにまたその暗闇に戻ることになるんや、そんなん何度も失明する恐怖味わうみたいなもんやん。そもそもさっきまでうちが使っとった能力は、」

「いいからッ!!」

「…………はあ。分かったわ」


 敏感になった聴覚が少女の特徴に口調と溜息を捉える。
 次いで、鼓膜が小さな破裂音に震えた。

429名も無きAAのようです:2014/02/08(土) 03:59:08 ID:iEUzuBzM0

 瞬間――僕の世界に光が戻った。

 視界に満ちる光の量に一瞬ふらつきながら、僕は思い切り右手を引く。
 ミィと繋がったままのその右手を。


マト; -)メ「え……」


 そうして僕は彼女を抱き寄せ、抱き締めた。
 僕と同じか、それ以上に恐怖に震えている少女を。

 自分自身に大丈夫だと言い聞かせ。
 そして、言う。
 精一杯の強がりを。


( ^ω^)「―――お前のせいじゃない。お前のせいなんかじゃ、ないから」


 強がりだっていいんだ。
 後で泣いたっていい。

 でも、今だけはそう言うんだ――大丈夫、男の子だろう?

430名も無きAAのようです:2014/02/08(土) 04:00:06 ID:iEUzuBzM0

マト; -;)メ「でも……ッ! ブーンさん、目が……!」

( ^ω^)「気にするな……って言うのは無理か。僕だって流石に気にするお。まったく、こんなことになるならボウリング場で……って、そうじゃないか」


 でも、と僕は涙を流し続ける彼女に告げる。


( ^ω^)「もし負い目を感じるなら、僕の目になってくれないか?」

マト; -;)メ「目……?」

( ^ω^)「ああ、そうだ」


 僕の目はどうやら見えなくなったらしい。
 今こそこうして君を見ることができるけれど、それも短い間のことだ。
 だから、その代わりを。


( ^ω^)「少しの間だけでいいから――僕の代わりに『過去』を見据え、僕と一緒に『未来』を夢見る、僕の目になってくれないか?」


 僕はそう言った。

431名も無きAAのようです:2014/02/08(土) 04:01:07 ID:iEUzuBzM0

 彼女は僕の腕の中で小さく頷く。
 どうやら涙も止まったらしい。

 それだけで、今はとりあえず良いことにしよう。


( ^ω^)「にしてもお前、酷い顔してるお。トイレに行って顔でも洗ってこい。いつものあの笑顔を見せてくれ」


 僕がそう続けると、ミィは再びコクリと頷いて部屋を出て行く。
 彼女の足音が遠くなったことを確認してから息を吐く。

 ミィもいないことだし、少しくらい泣いてもいいだろうか?
 ……いや駄目だ。
 ミィの瞳ならば同じ建物の出来事くらいは全て把握する。
 だから、我慢。

 もう一度溜息を吐いた時、ずっと立ったままだったディが言った。


(#゚;;-゚)「呆れるくらいの強がり……いや、そこまで行ったら一つの強さか。尊敬するわ、ホンマに」

( ^ω^)「そうか? 思ったことを言っただけだお」

432名も無きAAのようです:2014/02/08(土) 04:02:12 ID:iEUzuBzM0

 折角の強がりが無駄になるような余計なことを言われない内に、それよりも、と話題を変える。
 状況の把握に努めなければ。


( ^ω^)「……そもそも僕はなんで失明してんだお。何があった?」

(#゚;;-゚)「原因を訊いとるんやったら『分からん』とだけ答えられるな。ある意味でこれほど分かりやすいこともないんやけど」

( ^ω^)「どういうことだ?」

(#゚;;-゚)「兄さんに危害を加えたんはそのパーカーの女や。当然、今の状態もその女の能力の結果やな」


 やけど、と続ける。


(#゚;;-゚)「目を潰されたんやったら分かりやすいわな。眼球がないから見えない。やけど、そうやない。原因が一切不明なんや」

( ^ω^)「なんだか分からないが、『目が見えない』という結果だけがあるってことか。そしてそれは能力の結果だと」

(#^;;-^)「そういうことやな。まあ実際んところは、今すぐ心臓発作で死ぬ可能性はゼロやないってだけの話なんやけど……」


 そうして『殺戮機械』は語り出す。
 僕が意識を失った後、世にも珍しい能力を持つ少女が何を起こしたのかを。

 どんな風にモラトリアムの終わりが始まったのかを。

433名も無きAAのようです:2014/02/08(土) 04:03:08 ID:iEUzuBzM0

 *――*――*――*――*


 僕が倒れた後――いや厳密には、倒れる直前にはミィは全てを察して僕の元へ向かった。

 しかし如何せん気付くのが遅過ぎた。
 彼女が目にしたのは、アスファルトに倒れ伏した僕の姿。
 そしてその傍らに立つ小柄な少女。

 遅過ぎた。
 それだけは明白だった。



マト; -)メ「―――ブーンさんっっっ!!」



 駆け付けてきたミィを見て、少女は微笑む。
 戦慄したという。
 サイズの合っていないブカブカの黒のパーカー、そのフードの奥から覗く瞳を見て、ミィはゾッとした。

 いや、少し違うだろうか。
 アカイロに染まった両目で知覚した瞬間に背筋が凍り、実際に目の当たりにした時には心臓が止まりそうになったらしい。

434名も無きAAのようです:2014/02/08(土) 04:04:08 ID:iEUzuBzM0

 そう。



ミセ*^ー^)リ「こんな所で会うだなんて、奇跡的だねぇ」



 その鮮烈さに、少女以外の色が世界から消え失せたようだった。
 『未来予測』という能力を持つミィだからこそ分かる、少女が秘めたチカラの大きさ。

 それほどまでに――熾烈で。
 それほどまでに――強烈な。
 いっそ『絶望』と呼んでも過言ではないような、そんな在り方の化物だった。


マト; −)メ「ブーンさんに……何をしたんですか……!」

ミセ*^ー^)リ「そんなこと、その目で分かるでしょう? ねぇ、『プロヴィデンス』」


 宗教における摂理や因果を表す単語でミィを呼ぶと、少女はいとも無邪気に笑ってみせた。
 そして彼女の言う通りでもあった。

435名も無きAAのようです:2014/02/08(土) 04:05:07 ID:iEUzuBzM0

 「何をしたか」なんて、ミィの目を以てすれば自明だった。
 その時の僕の状態は言葉にはできない。
 不整脈を原因としたアダム・ストークス発作、原因不明の虚血性心疾患、心筋梗塞、脳貧血による意識障害……。
 医学的な単語だけを並べるだけでは実情を表すには至らない。

 詰まるところ、その瞬間の僕という人間は『運悪く死にかけていた』。
 心臓が動いておらず、呼吸の継続が不可能で、脳への血流が止まっていたのだ。

 ただ、『運悪く』―――。


ミセ*^ー^)リ「はじめまして『プロヴィデンス』。私は『クリナーメン』」


 それがどういうことなのかを、恐らく世界中の誰よりもミィは理解していた。
 だからこそ戦慄し恐怖したのだ。
 絶望した。

 ……例えば、自分の頭上に隕石が落ちてきて運悪くそこにいた自分だけが即死する確率。
 そんな死に方をした人間は歴史上にも数えるほどしかいないだろうが、もしかしたら一人もいないかもしれないが、それでも理論上はありえる。

 確率上では飛行機は一年間毎日乗り続けても一度も墜ちることがないくらいに安全な乗り物だが、それでも不運にも墜落事故で命を落とす人間はいる。
 毎日ハンバーガーを食べ続けても健康そのものな人間も、ポックリと心筋梗塞で亡くなってしまう人間もいる。
 極端な話になるが、量子力学におけるトンネル効果によれば壁にボールを投げ付けた場合、そのボールが壁を通り抜けてしまうことも可能性としては存在する。

436名も無きAAのようです:2014/02/08(土) 04:06:09 ID:iEUzuBzM0

 可能性はゼロじゃ、ない。
 そして、ゼロではないということは起こり得るということだ。

 原子論における偶然性を表す単語を名乗った少女、彼女が行ったのはつまり、そういうことだった。



ミセ*^ー^)リ「この奇跡的な出逢いに感謝しましょう? この素敵な偶然に」



 『量子干渉』。
 『確率変動』。
 『運命操作』。

 名称はなんでもいい。
 『クリナーメン』と自称する彼女は、偶然を操る異能を持っていた。


マト# −)メ「……!」


 そうして偶然にも――あるいは、必然に。
 因果に纏わる異能者と奇跡を服わす異能者は出遭った。

437名も無きAAのようです:2014/02/08(土) 04:07:07 ID:iEUzuBzM0

 *――*――*――*――*


 少し考え、僕は言った。


( ^ω^)「あのパーカーの少女は確率を操る異能を持ってたってことかお?」

(#゚;;-゚)「そういうことになるわな。コペンハーゲンなんちゃら的に言えば量子の不確定性に干渉する能力。だから兄さんが失明した理由もそういうことや」


 失明の原因が「分からない」というのはそういうことなのだろう。
 どういうことかと問われれば、ただの不運でしかない。
 あの少女が行ったのは僕にとって不幸な偶然が起こり得る確率を跳ね上げただけなのだ。

 心筋梗塞の危険因子なんて誰もが少しは持っている。
 いきなり心臓だか血管だかが御機嫌斜めになって死ぬ確率は誰だってゼロではない。
 極端に言えばそれは今日の運勢やラッキーアイテム次第だ。


( ^ω^)「『確率論(クリナーメン)』ね……」


 起こる可能性がある事象を、確率を操作することで起こりやすくする。
 壁に投げ付けられたボールがそのまま壁を通り抜けるという事象が確率的にはありえる以上、確率を操作できるならば全能と言っても過言ではない。

438名も無きAAのようです:2014/02/08(土) 04:08:07 ID:iEUzuBzM0

 僕は訊いた。


( ^ω^)「思った以上にヤバい相手だということは分かった。けど、その話の通りだと僕が死んでるんだが……」

(#゚;;-゚)「心臓動かなくなってもすぐ死ぬわけやないやん」


 そりゃそうだけども。
 そして僕は生きてるけども。


(#゚;;-゚)「その後、お嬢ちゃんはそのガキを相手にせんかった。応急処置せんと兄さんが危ない状態やったからな。で、ソイツは去っていったと」


 なるほど。
 彼女の賢明な判断に感謝するばかりだ。
 激昂して相手に襲い掛かっていたら、対処が遅れ、僕は本当に死んでいたかもしれない。
 やはりミィはちゃんと僕を守ってくれたのだ。

 それはそうと心臓が止まっている相手に対しての応急処置なんて、連想されるのは一つしかない。
 思わず、最早無意識的に自らの唇を指でなぞってしまう。

439名も無きAAのようです:2014/02/08(土) 04:09:07 ID:iEUzuBzM0

(#^;;-^)「一応言うとくと、うちは心を読むような能力を持っとるんやけど」

( ^ω^)「…………今発動していないことを祈るばかりだ」


 閑話休題したいという僕の思いを読み取ったのか、数え切れないほどの異能を持つ少女は話を再開する。


(#゚;;-゚)「その『クリナーメン』いう女が能力を使った瞬間、うちはそれを察知し現場へ向かった。えらい強烈な能力やったからな……」

( ^ω^)「お前が、『殺戮機械』とまで呼ばれる存在がそこまで言うほどか?」

(#゚;;-゚)「そこまで言うほどや」


 彼女は即答する。
 アレはヤバい、と。


(#゚;;-゚)「確率操作する能力なんて無敵みたいなもんやからな……。昔、『運命の輪』って能力を持つ奴がおったらしいけど、ソイツも相当やったらしい」

( ^ω^)「らしい?」

(#゚;;-゚)「当事者にとって不都合な運命を変え続けるって能力やったらしいから、うちみたいに害意を持っとる奴は出逢うことすらできんかったんや」

440名も無きAAのようです:2014/02/08(土) 04:10:07 ID:iEUzuBzM0

 自分にとって都合の良いように運命を変えていく能力。
 そんなもの、世界を支配しているのと何が違うのだろうか?
 そのなんとかという能力と同じではないだろうが、『確率論(クリナーメン)』という確率を操作する異能が彼女曰く「ヤバい」のは事実なのだ。

 ……そして多分、そんな力を察知して迷わず手に入れようと行動を起こしたこの『殺戮機械』も相当ヤバい。
 仮に運命が敵に回っても勝てる算段があったということなのだから。


(#^;;-^)「ただ上手く行かんもんでなあ。行動自体はすぐに起こしたけど、すぐには辿り着けんかった」

( ^ω^)「それも、例えば『邪魔が入らないような確率』を跳ね上げることで誰かが横槍を入れることを妨害したってことか? 無茶苦茶だな……」

(#゚;;-゚)「そやな。頑張って対抗して辿り着いた時には既にお目当ての相手はおらず、しゃーなしに兄さんを少し治療して、その場から退避したってわけや」


 やはり確率操作能力にも彼女なら対抗自体はできるらしい。
 同じ能力を持っていれば容易いか。
 向こうはサイコロの目を全部一に変えているようなものなのだから、それを元に戻すとは行かずとも、一の目を半分くらいにできればどうにかはなるだろう。

 だがとりあえず、お礼を言わなければならない。


( ^ω^)「何かしてくれたって言うなら、ありがとう。感謝するお」

441名も無きAAのようです:2014/02/08(土) 04:11:07 ID:iEUzuBzM0

 ん、とディは短く応じた。
 奪ってばかりだからか感謝されることに慣れていないのかもしれない。


(#゚;;-゚)「で、他にご質問は?」

( ^ω^)「お前と同じようにそのパーカーの少女も指を鳴らす癖があったらしいが、知り合いか?」

(#゚;;-゚)「知り合いやったらとっくの昔に能力奪っとるわ。必要とあらば命もな」


 サラリと恐ろしいことを告げて、次いで指を鳴らしてから言った。


(#゚;;-゚)「ゆーてもこんなん、探せば見つかる程度のありふれた癖やしなあ……。うちの場合も他人の仕草を真似したものやし」

( ^ω^)「なるほど……」


 『殺戮機械』と『クリナーメン』に共通している要素があるとすれば、有する異能力の膨大さだ。
 やろうと思えば大抵のことができてしまう。
 だとしたら、自分の中でメリハリを付ける為に一つ動作を挟むのは自然なこととも言える。
 指を鳴らすことで一つ一つを区切っているのだ。

442名も無きAAのようです:2014/02/08(土) 04:12:07 ID:iEUzuBzM0

( ^ω^)「なら、そのパーカーの少女は何者で、何処にいるのか分かるか?」 

(#゚;;-゚)「うちは分からんけども、」


 と、言い掛けてディは部屋の入り口へと視線を向けた。
 そこにはお手洗いから戻ってきたミィが立っている。
 残念ながら僕が望んだ笑顔ではないが、真剣な話題の最中だ、仕方がない。

 そうして彼女はあの『ファーストナンバー』にも似た毅然とした表情で告げる。


マト-−-)メ「『暗闇の底で、私はずっと、あなたが訪れるのを待っている』――そう言い残して去って行きました」

( ^ω^)「……待っている、か」

マト゚−゚)メ「はい。『ずっと待っていたし、ずっと待っている』と」


 言い残されたメッセージの意味を考えて僕は沈黙する。

 その言葉に偽りがないのならば。
 あの使者は、ミィが失った過去からの刺客だ。

443名も無きAAのようです:2014/02/08(土) 04:13:08 ID:iEUzuBzM0

 *――*――*――*――*


 ――『暗闇の底で、私はずっと、あなたが訪れるのを待っている』
 ――『過去も、未来も、全ての真実はそこにある』
 
 パーカーの少女はそんな言葉を言い残して去っていったとという。
 待っている、と。
 そのことを伝えに来たのだと。


マト-ー-)メ「私の『過去』や【記憶(じぶん)】の真実が分かるという確証はありませんが……ですが、関係者であることは間違いないと思います」

( ^ω^)「……そうだな。誘いに応じ、行くべきだ」


 全ての答えがそこにあるというのなら行かなければならないだろう。
 たとえ、罠だったとしてもだ。

 と。


(#゚;;-゚)「『行くべきだ』なんて甘いことが言える状況やないんやないの?」

444名も無きAAのようです:2014/02/08(土) 04:14:07 ID:iEUzuBzM0

 壁にもたりかかり、新たに取り出した棒付きキャンディーを味わいながらディが言う。
 ミィのそれとはまるで異なる嫌な笑みを浮かべながら。


(#^;;-^)「話聞いた限りでは、どう考えても脅しやん、それ」

( ^ω^)「脅しだって?」

(#゚;;-゚)「そや。気付かんか? その『クリナーメン』いう女が何者かは分からん。けど、口振りから察するに、うちと同じで用があるのはお嬢ちゃんだけや」


 ぶっちゃけ兄さんのことなんてどうでもええんや、と続ける。


(#゚;;-゚)「でもそしたら分からんことがある。なんで兄さんに危害を加えたのかが分からんのや。戦闘力もない相手にやで?」

( ^ω^)「それは……」

(#゚;;-゚)「無論、その女がキチガイ野郎で理由なく人を傷付ける奴って可能性はあるし、うちらが知らんだけで兄さんに恨み持っとったんかもしれん」


 だが、そうではないとしたら。
 もっと妥当な推測ができるのではないか?

445名も無きAAのようです:2014/02/08(土) 04:15:09 ID:iEUzuBzM0

 ……なるほど、そういうことか。
 脅し。
 その言葉を噛み締めつつ、僕は言った。


( ^ω^)「『来なければどうなっても知らないぞ』……そういうことかお」

マト゚−゚)メ「私が行かなかった場合には、またブーンさんを傷付ける、と?」

(#゚;;-゚)「そうやろな。わざと殺さずにおいたんや。『次はこんなもんじゃないぞ』って意味でな」


 要するにミィを動かす為の人質……のようなものだろうか。
 「その男に危害を加えられたくなければ、大人しく指示に従え」というわけだ。


(#゚;;-゚)「兄さんの命が惜しいなら、お嬢ちゃんに選択の余地なんてない。行くしかないんや」


 そう平然とディは言ってのけた。
 その様は状況を楽しんでいるようですらある。
 まるで他人事だなと思い、いや他人事なのかと思い直す。
 所詮、彼女にとっては他人事なのだ。

446名も無きAAのようです:2014/02/08(土) 04:16:13 ID:iEUzuBzM0

 そして、僕達にとっては自分のこと。
 自分で決めなければならないこと、だった。


( ^ω^)「そうまでして呼び寄せるってことは……やはり、罠かお?」

(#^;;-^)「どうやろなあ? 案外、茶でも一緒に飲みたいだけかもしれんで? ほら、同窓生とかで」

マト-ー-)メ「なんにせよ行くしかありませんね」


 ここでようやく、ミィはあの特徴的な笑みを浮かべた。
 ふわふわとした掴みどころのない笑顔。
 場違いだとしても、それでこそミィだと僕は思い、少しは気も楽になったのかと安心した。

 だが。
 直後にミィははっきりと宣言した。


マト゚ー゚)メ「ですが――行くのは、私一人です」


 有無を言わせぬような口調で彼女はそう告げた。

447名も無きAAのようです:2014/02/08(土) 04:17:06 ID:iEUzuBzM0

(;^ω^)「、」

マト-ー-)メ「『なんで』なんて、言わないでください」


 言葉通りに、有無を言わせぬ。
 ミィはその両の瞳に宿した能力を用いてか、僕が声を出す前に疑問の言葉を封殺した。

 そうして言うのだ。


マト゚ー゚)メ「ブーンさん。はっきり言って、ブーンさんが一緒だと迷惑です。邪魔でしかありません」

( ^ω^)「ミィ……」

マト-ー-)メ「先ほども述べられていましたが、なんの戦闘スキルも持たないブーンさんがついて来たところでマイナスにはなれどプラスにはなりません」

(  ω)「ミィ、もういい」


 分かってる、と僕は告げた。 
 分かっているのだ。
 だからもう、そんなことは言わなくていい。

448名も無きAAのようです:2014/02/08(土) 04:18:07 ID:iEUzuBzM0

 何が分かってるって?
 一緒に行ったところで何の役にも立たないこと?
 そんなこと、百も承知だ。
 言われるまでもない。

 僕が分かっているのはそうじゃない。
 そういうことじゃない。


( ^ω^)「辛辣な言い方をすれば僕が大人しく引き下がると思ったか? あるいは怒って見放すとでも考えたのかお?」


 あまり僕を舐めるなよ、と一拍置いてから言う。


( ^ω^)「そうやって必死に自分から、危険から遠ざけようとしてるんだろ? 僕を守ろうと」

マト −)メ「!」

( ^ω^)「……まったく。いつだったか言っていたように、お前は未来が見えるだけで他人の気持ちは全然分からないみたいだな」


 僕の言葉にミィは降伏するようにゆるゆると首を振る。
 そして「ブーンさんには敵いませんね」とあのふわふわとした笑みを浮かべた。

449名も無きAAのようです:2014/02/08(土) 04:19:14 ID:iEUzuBzM0

 僕はミィのように未来が見えるわけではない。
 いつだって分からないことだらけだ。
 でも、できることならば彼女の気持ちくらいは見えていたいと思っている。
 彼女の心の動きが『目に見えて』分かるようでありたいと。

 だから。


( ^ω^)「……僕が足手まといにしかならないことは分かってる。だから、お前一人で行くといい」


 情けなさに拳を握りしめて。
 無力感を噛み締めつつ、そう言う。

 でも、と僕は続けた。


( ^ω^)「代わりに僕はずっとお前の帰りを待ってる。真実も過去も、何も分からなくたっていいから。……だから、必ず帰って来い」


 真実なんて。
 過去なんて。
 これから先もずっと探していけばいいのだから。
 見つかるまでずっと一緒に探すから、と。

450名も無きAAのようです:2014/02/08(土) 04:20:07 ID:iEUzuBzM0

 彼女は顔を伏せ、暫し黙った。
 そうして一度息を吐くと、小さく、声を震わせて呟いた。


マト ー)メ「……本当に敵いませんね、ブーンさんには」

( ^ω^)「当たり前だお。僕はお前の雇用主なんだから」

マト ー)メ「そっか。そうですよね……」

( ^ω^)「ああ。だからもう一度契約だ。……必ず戻ってこい」


 お前のことだけを信じてる、と僕は言った。
 私もブーンさんのことを頼りにしてます、と彼女は応えた。


(#^;;-^)「……甘ったるくて付き合ってられへんわ。うちはもう寝るし、ここは好きに使ったらええ」


 僕達のやり取りを見ていたディは口元を歪めて笑いつつ、そう言い残すとさっさと部屋を出て行ってしまった。
 好きに使えと言われてもここにはベッドと椅子が一つずつしかなく、とても二人で眠れるようなスペースはないのだが……。
 狭量なのか寛容なのか分からない。

451名も無きAAのようです:2014/02/08(土) 04:21:07 ID:iEUzuBzM0

 二人っきりになった部屋。
 薄暗い室内で、改めて見つめ合うと何を話すべきか迷ってしまう。

 彼女の橙にも近い色合いの瞳。
 目が合った瞬間にふっと心が絡め取られて、目が離せなくなる。
 この両目の色はあの都村トソンと全く違うなあなんて、そんなことをぼんやりと考える。

 と、その時、ミィが言った。


マト゚ー゚)メ「ブーンさん。ブーンさんが勉強していることについて教えて頂けませんか?」

(;^ω^)「え? なんで、いきなり……」

マト^ー^)メ「なんだかそうした何気ない会話が大切なような気がして。折角なので、詳しく聞いておこうと思いました」

( ^ω^)「また何か未来が見えたのかお?」

マト-ー-)メ「いえ、そういうことではなりません。そんな気がしただけです」


 乙女のカンですよ、と彼女は笑って答えた。
 それを見て、僕はやはりミィにはこの笑顔が一番似合うと素直に思った。

452名も無きAAのようです:2014/02/08(土) 04:22:06 ID:iEUzuBzM0

 *――*――*――*――*


 それから何時間かミィと話しながら過ごした。
 話の内容は、なんてことのない、取り留めのないものだった。

 社会と個人の関係といった小難しいことから好きな食べ物に至るまで。
 特に目的のない話をして、一緒に時間を過ごした。
 いつも移動の合間にしていたような他愛のない世間話をして……。

 そしてふと気付いた時には、彼女は僕の隣で寝息を立てていた。


( ^ω^)「……良かったよ」


 もう二度と何も見えなくなるんだとしても。
 今、彼女のこんな寝顔を見ることができて良かったと。

 そんな風に思った。


( ^ω^)「感傷だな……」

453名も無きAAのようです:2014/02/08(土) 04:23:07 ID:iEUzuBzM0

 ミィを起こさないようにベッドから抜け出す。 
 『殺戮機械』の宿の一つであるという、この建物。
 打ち捨てられたテナントビルだと聞いた通りに、廊下に出ると使われていない建築物特有の寒々しさがあった。

 近くで見つけた階段を上ってみると、その先は屋上だった。
 いつだったかスーツと男と戦ったのもこういう場所だったなと思い出し苦笑する。
 たった数日前のことなのに酷く昔のことのようだ。
 あんな出来事も今では一つの『過去』だった。

 ドアノブを捻り屋上へと出ると、あの時と同じように先客がいた。


(#^;;-^)「なんや、えらい早いお目覚めやん」


 あの時よりもずっと狭い屋上に和傘を差した少女が立っていた。
 夜明け前の薄暗い空の下で一体何をしているのだろう?と疑問に思いつつ、ディの元へと向かう。


(#゚;;-゚)「でもええ時間に起きたな。そろそろ夜明けや。綺麗なんやで、ここから見る景色」

( ^ω^)「ああ……。なんて言えばいいか分からないんだが、ありがとう」

(#゚;;-゚)「朝日はタダやで?」

454名も無きAAのようです:2014/02/08(土) 04:24:17 ID:iEUzuBzM0

 心底不思議そうにそう返す彼女を見て、思わず笑ってしまいそうになる。
 なんでそうなるんだ。
 どうやら本当にお礼を言われ慣れていないらしい。

 そうじゃない、と僕は続けた。


( ^ω^)「宿を貸してくれたこととか、助けてくれたこととか……。そういうことに関しての礼だお」

(#゚;;-゚)「ああ、それか。別にええよ。うちの能力では兄さんの目は治せんかったわけやし」

( ^ω^)「……ひょっとして、良い奴なのか?」

(#^;;-^)「そんなわけないやん。単にあのお嬢ちゃんの近くにおったら『確率論(クリナーメン)』の能力奪う機会があるかもー、て思ただけや」


 僕の言葉を笑って否定する。
 それは威圧感もなく嫌な感じもしない、素朴な、人の良さそうな笑みだった。


(#゚;;-゚)「それはそうと、お嬢ちゃんが誰に似とるか思い出したで。今度会ったらそれを言おうと思っとったんや」

( ^ω^)「あー……それか」

455名も無きAAのようです:2014/02/08(土) 04:25:06 ID:iEUzuBzM0

 というか、そんなことわざわざ覚えてるなんて、やっぱり良い奴なんじゃないだろうか?
 戦闘以外の場面ではあの本能に訴えかけてくる恐怖が薄れていることもあるし、やはり怖いことは怖いのだが。
 でも怖くても良い奴がいてもおかしくないとも思う。

 そんなディは言った。


(#゚;;-゚)「あのお嬢ちゃん、纏間って奴に似とる」

(;^ω^)「…………なんだって?」


 初耳だ。
 誰だソイツは。


(#゚;;-゚)「でもアレやな、もう纏間、『都村』って名前になったんやっけか」

( ^ω^)「ああ、そのことなら知ってるお。『都村トソン』って名前の科学者だろ?」

(#^;;-^)「なんや知っとるんかいな。思い出した甲斐がないなあ」


 そうして「『纏間』っていうのはソイツの母方の名前や」と補足する。

456名も無きAAのようです:2014/02/08(土) 04:26:06 ID:iEUzuBzM0

(#゚;;-゚)「ソイツの娘も能力者で、今はなんとかって言う軍の部署におるんやけどな」

( ^ω^)「そのことも知ってるお。こないだ本人に会った」

(#^;;-^)「なんや、つくづく思い出し甲斐のない」


 なら、と彼女は続けた。


(#゚;;-゚)「その娘の同僚に精神干渉……記憶操作とかができる奴がおるって話も知っとるんか?」

(;^ω^)「……え?」


 それは、初耳だ。
 それこそ初耳の情報だ。

 記憶操作――ということは、つまり。


(#゚;;-゚)「もしかしたらあのお嬢ちゃんの記憶を奪ったのは、その娘――『ファーストナンバー』こと都村トソンやないかと思っとったんやけど」

457名も無きAAのようです:2014/02/08(土) 04:27:06 ID:iEUzuBzM0

 都村トソン。
 最初で最後の人工能力者。
 ミィのことを「よく知っている」と語った女。

 何かしら関係のあるものだと考えていたが……。
 もしかしたら、彼女がそうなのか?

 ミィの記憶を奪った、彼女の全ての過去と真実を知る黒幕―――。


( ^ω^)「……なんにせよ、行くしかないみたいだお」


 朝焼けに染まっていく空に僕は呟く。
 口に出して、「僕はついて行けないんだったか」と思い出し自嘲するように笑う。

 向かう場所に真実はあるのか。
 因果の集う先、暗闇の底へ向かう君に。
 ここで待つしかない僕に。

 一体、何ができるのだろう?
 一体、何ができたのだろう?

 僕は小さく彼女の名前を呼んで、その無事をただ祈る。

458名も無きAAのようです:2014/02/08(土) 04:28:06 ID:iEUzuBzM0


  明けない夜はない。
  止まない雨はない。
  それはきっと正しい。

  だが穿った見方をすれば、朝がいつか終わることも再び夜が訪れることも必然だ。
  止まない雨の向こうに必ず希望に満ちた空があるとは限らない。
  今日より明日が良い日になるなんて根拠は何処にもない。
  そう、誰も保証してくれやしないのだ。

  だけど、それでも僕達は、確かな『現在(イマ)』のその先に何かがあると信じてる。
  いつも、いつでもそうやって、まだ見ぬ『未来』の夢を見る。




        マト ー)メ M・Mのようです


        「第八話:この身に流れる知」





.

459名も無きAAのようです:2014/02/08(土) 04:29:07 ID:iEUzuBzM0

この作品が安価モノだったなら今回も選択肢が出たと思います。

 ①大人しくここで待つ
 ②ディと交渉し、一緒にパーカーの女を迎え撃つ
 ③ミィと一緒に行く(親密度70以上で選択可能)

今回は①を選んだわけですが、②や③でも話としては面白かったかもしれません。
ブーンはお留守番ということで今日はこれまで。



予定では次回、第九話の最後に、最初で最後の安価を実施します。
あくまでも予定では。

エンディングを決める安価。
二択です。
どっちがどんな終わり方なのかは選んでみてのお楽しみですが、何エンドと何エンドなのかは先に言っておいた方が良いのでしょうか……?

460名も無きAAのようです:2014/02/08(土) 04:47:49 ID:7z/eXkFQO
何故高橋裕之が警察から目をつけられないかわかるか?

簡単な理屈
書いていないと把握しているからだろ?

461名も無きAAのようです:2014/02/08(土) 10:23:26 ID:FyiZXd1EO

ミセリ怖すぎ

462名も無きAAのようです:2014/02/08(土) 13:02:47 ID:tYrKYNEc0

おもしろい

463名も無きAAのようです:2014/02/08(土) 13:42:25 ID:E2jxDmWg0

今回の安価だったら確実に②を選んでただろうなあ…
何エンドかは知らない方が楽しいかと

464名も無きAAのようです:2014/02/09(日) 01:47:43 ID:6M8ECO320
おつ
安価は選択肢だけに一票

465名も無きAAのようです:2014/02/13(木) 09:27:42 ID:qECNox/Q0
おつ
殺戮機械なんやかんや好きだなあ

466名も無きAAのようです:2014/02/13(木) 17:23:57 ID:EqzSeX3A0
ようやく纏間がまとまって読むのに気付いた

467名も無きAAのようです:2014/02/15(土) 06:48:34 ID:SQZb1LYQ0

【現時点で判明している“少女”のデータ】

マト゚ー゚)メ
・名前:不明
・性別:女
・年齡:不明(外見年齡は15〜17程度)
・誕生日:不明
・出身地:不明
・職業:不明
・経歴:不明
・特記:『未来予測』の能力を持ち、限定的ながら未来が見える。精確に予測できるのは数秒先までで一分以上先のことは可能性が見えるのみ。
    能力を発動している間は瞳の色が変わるがデフォルトでもある程度未来は見えている。
・外見的特徴:身長160代前半。癖のある赤みがかった茶髪。白い肌。起伏の少なめな体型。整った容姿。ニット帽。ボーイッシュな服装。
       やや鋭めな双眸。瞳の色は橙に近いヘーゼル。能力発動中は左目が紫に輝き、更に集中すると色が濃くなり紅色に変わる。

・備考:
 気が付いた時には記憶(エピソード記憶)を全て失っていた。
 その当時の所有物は細工の入った銀の指輪のみ。 
 一人称は恐らく「私」。この国の言語で話しているので海外に住んでいたとは考えにくい。
 服を着る、買い物をする等のごく一般的な知識も備えている。
 知識(意味記憶)として一般には知られていない生体兵器についての知識を有する。
 顔立ち、特に目元が超能力の研究をしていたと言われる科学者『都村トソン』及びその娘に似ている。

468名も無きAAのようです:2014/02/15(土) 06:49:16 ID:SQZb1LYQ0

【現時点までに使われた費用(日本円換算)】

・NO DATA


【手に入れた物品諸々】

・NO DATA

469【第八話予告】:2014/02/20(木) 14:00:32 ID:FBkACFcw0

「ミィ、お前は何処の国の人間なんだろうな。
 どの国で生まれ、どの社会で育ち、どの血や氏に連なる人間なんだろうな。
 ……自分の家族はまだしもそんなこと大して興味ないって?
 そんな風に言うもんじゃないお、国家や民族は個人に大きな影響を与える重要なファクターなんだから。

 例えばな、かつて西欧でルネサンスが盛んになった理由は、一説には『西洋人のルーツ探し』だと言われてるんだお。
 自分達が何から始まった何者であるのか……それを知りたくなったんだ。

 ただ残念なことに西欧人のルーツは西欧には存在しなかった。
 西欧に存在する物の大半は中東、主に肥沃な三日月地帯辺りとアジアから伝わった物だ。
 そりゃそうだお、そもそものところ文明のルーツ自体がメソポタミア、エジプト、インダス、黄河と、あとアメリカの先住民にしかないんだから。 

 だから西欧に西欧人の起源なんてあるわけがなかった。
 『自分は何者であるか』を西欧人は探したが、それで見つかったのは『自分は何者でもない』という真実だった。
 あれほど大切にしている神様や宗教すらユダヤから伝わったものだから当然と言えば当然だお。
 あるいはルーツが存在しないからこそ神話に本質を求めたのかな。

 西欧人はよく個人のアイデンティティはどうとか言いたがるが、それは民族に確固たるオリジナリティがないことの裏返しなのかもしれないお。
 …………あ、おいコラ、僕に勉強してること話せと言っといて寝るんじゃねーお―――                                」



 ―――次回、「第九話:Meaningless Monster」

470名も無きAAのようです:2014/02/20(木) 14:01:30 ID:FBkACFcw0

次回、第九話は2月24日の夜〜深夜投下予定です。
予定は未定。

安価は十話の最後になると思いますので、九話はほどほどにというか。

471名も無きAAのようです:2014/02/20(木) 15:17:12 ID:dAXYI6lMO

きたい

472名も無きAAのようです:2014/02/20(木) 15:20:27 ID:a92X5hlI0

待ってる

473名も無きAAのようです:2014/02/21(金) 03:31:37 ID:jThVflRAC
予想外に話が展開してた、結末も( ^ω^)もは安価しだいということか

474名も無きAAのようです:2014/02/24(月) 20:14:09 ID:4cu/qweg0


  僕は一体、彼女に何ができるのだろう?

  僕が彼女に出逢ったのは、あの暑い夏が終わり、秋の足音が聞こえ始めた頃だった。
  僕と彼女が一緒に過ごしたのは、肌寒い風が頬を撫ぜ始めた頃のほんの一時だった。

  ほんの数週間。
  一ヶ月にも満たない短い間。
  それが僕と彼女が作った『過去』だった。


  僕は一体、彼女に何ができたのだろう?

  こうして僕の語る物語もいよいよ終わりに近付いてきたが、実のところ、この物語における僕の出番はもうほとんど残っていない。
  失くした『過去』と対峙する為に旅立った彼女を僕は見送って、その後のことはもう、人伝に聞いた話でしかないのだ。

  あの月曜日以降は彼女の物語ではなく、彼女と僕、二人の物語なのだと彼女は言っていた。
  けれど、そうだとしても、結局その真実の待つ場所へと彼女は一人で赴いたのだから、やはり僕の語る物語は彼女が主役の彼女の物語なのだ。
  僕は所詮何者でもなく、この物語においてだって狂言回しに過ぎなかった。

  無理にでも彼女を引き止め、殴ってでも説き伏せて、意地でも最後まで彼女と一緒にいたならばどうなっていただろう?
  いつだったかも述べたようにそんな夢想をしたところで過去も現在も変わりはしない。
  それでも時折ふと、僕はそんな『もしもの可能性』に思いを馳せてしまう。

475名も無きAAのようです:2014/02/24(月) 20:15:01 ID:4cu/qweg0

  時間の長さが関係の深さに直結するとは思わないが、僕と彼女が共に過ごした日々があまりにも短いことは確かで。
  僕が語るのは彼女の物語。
  ここから先に僕の出る幕なんてない。

  ああ、だからこそ思うのだ。
  何者でもない僕は――あの時出逢ったひとりぼっちの少女の何かになれたのだろうかと。




        マト ー)メ M・Mのようです


        「第九話:Meaningless Monster」




.

476名も無きAAのようです:2014/02/24(月) 20:16:01 ID:4cu/qweg0

 「朝なんて来なければいいのに」。

 僕も人の子なので恥ずかしながらそういう風に思ったことが何度かある。
 苦手な数学のテストの前日や父親が仕事へと戻る前の晩。
 幼い日の僕はそんな時によく、今日がずっと続いていけばいいのにと願っていた。
 叶わぬ望みだとは分かっていても僕は朝なんて来て欲しくなかった。

 今も、そうだ。
 今ならはっきりと言える。
 僕は朝なんて来て欲しくなかった。


(  ω)「……朝なんて、来なければ良かったのにな」


 ああそうだ。
 今ならはっきりと言える。

 僕は父の死の真相なんて見つからなくていいと思っている。
 できることなら知りたいし、それなりの覚悟はしてきたつもりだ。
 だけど、僕ではなく彼女が傷付くというのなら過去なんて知らないままでいい。

 『現在』よりも大切な『過去』なんて、あるわけがない。

477名も無きAAのようです:2014/02/24(月) 20:17:09 ID:4cu/qweg0

 都村トソン、お前の言う通りだよ。
 僕は立ち止まる最後のチャンスを放り捨てた。
 こうして後悔することになった。

 きっと知らないままでも良かったんだ。
 見て見ぬフリをしてても許されたんだ。

 そりゃそうだろう。
 物事に対する意味を人間が付ける以上は、僕の出来事には僕しか価値を付けれないなら、幸せな『現在』を続けることも一つの答えだったんだ。
 緩やかに続いていった先の『未来』にも確かな価値があったんだ。
 それなのに。


(  ω)「……でも、どうすりゃ良かったんだろうな。なあ、『殺戮機械』」

(#゚;;-゚)「なんや」

(  ω)「神様目指してるお前なら分かるか? 僕は真実を知りたくて、傷付くことも覚悟してて、でも彼女を失うのは嫌で……」


 知るか、とディは一言吐き捨てた。
 僕の泣き言を切り捨てた。

 これも「そりゃそうだ」という話だった。

478名も無きAAのようです:2014/02/24(月) 20:18:10 ID:4cu/qweg0

 夜明け前の薄暗さが消え去っていく。
 朝焼けに街が染められていく。
 僕がどんなに願っても、時が止まることはなく、物語は続く。

 時間が戻ることはないし、戻ったとしても変わらない。
 この現在は過去の僕達の選択の結果なのだから。
 そう、何度やり直したとしてもあの日の僕達はあの時と同じ選択をして同じ場所へと辿り着く。
 自分で選び続けたからこそ、そのことはよく分かる。

 だからもう、これはどうしようもないことだった。


(#゚;;-゚)「……あのな。兄さんが何を悩んどるのかは知らんし、知るつもりもないし、知りたくもないけどな」


 慰めるのではなく、ただただ思ったままを述べるように。
 朝日に目を細めて和傘の少女は言った。


(#゚;;-゚)「もう始まってしまって、それは取り返しが付かないことかもしれんけど、まだ終わってしまったわけやないやん」

(  ω)「…………」

(#゚;;-゚)「兄さんの両目に関しては……残念やったけど、少なくとも兄さんが今心配しとる嬢ちゃんは五体無事や」

479名も無きAAのようです:2014/02/24(月) 20:19:03 ID:4cu/qweg0

 そう、か。
 それは確かにそうだ。

 続けて彼女は言う。


(#゚;;-゚)「嬢ちゃんを『信じとる』って言うたんは兄さんや。なら、後悔するのはまだ早いと思う」

(  ω)「……そうだな」


 その通りだよ、と僕は自嘲する。
 後悔するにはまだ、早い。


 彼女の言う通りだった。
 まだ何も終わっちゃいない。
 ミィを信じると言ったのは他ならぬ僕だ。

 だとしたら、僕はこれまでを後悔する前に、これからやるべきことがある。
 後悔は後からでも――後からしかできないのだから、だから、今は。

480名も無きAAのようです:2014/02/24(月) 20:20:01 ID:4cu/qweg0

 と。



マト ー)メ「―――その通りですよ」



 その時、後ろから誰かが僕を抱き締めた。
 コツンと小さな頭を背中に当てて、白く細い腕を腰に回す。


マト ー)メ「『信じてる』と言ってくれたじゃないですか。だったら、ちゃんと信じてください」


 彼女が誰かなんてわざわざ口にするまでもない。
 その声も、その温度も、その匂いも。
 何もかもを僕は知っている。

 僕の後ろに立つのは誰でもない彼女。
 世界の何処にも、他の記録にも記憶にも残っていないとしても、彼女は確かにここにいる。

 過去の全てを失くした少女は――僕の付けた呼び名と共に、ここに立っている。

481名も無きAAのようです:2014/02/24(月) 20:21:10 ID:4cu/qweg0

( ^ω^)「……そうだな。何を不安になっていたんだか。お前は僕が選んで、信じた相手なんだから」

マト-ー-)メ「はい。私が選んだブーンさんが選んだ私です。私が信じたブーンさんが信じた私です」

( ^ω^)「ああ、そうだお。だから僕は言う」


 何も心配することはなく。
 何も後悔することもなく。
 ただ、信頼だけをして。

 だから僕は言うのだ。



( ^ω^)「―――無事に帰って来いよ、ミィ」

マト^ー^)メ「―――もちろんです」



 それが、旅立つ彼女と交わした最後の会話だった。

 僕は彼女と再び出逢えることをただ信じ。
 彼女はこれまで幾度となく見せたあのふわふわとした笑顔を残し、一人で歩き出す。


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