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ミセ*゚ー゚)リ 怪異の由々しき問題集のようです

1名も無きAAのようです:2013/04/13(土) 20:57:11 ID:WM1TjCNg0


 たとえば『人外』と聞いて人はどういうものを想像するのだろうか。
 細かな辞書的あるいは専門的定義を抜きにするのなら『怪異』や『妖怪』や『魑魅魍魎』でも構わない。
 だがにべどころか取り付く島すらなさそうな言い方である『化物』だけは私個人的には止めて欲しいものである。
 兎にも角にも今から綴られる文章はそういった世の理を外れた……
 いや存在している以上は物理法則ではなくとも何かしらの法則には基づいている。
 基づいているのだが、そんなことは健全なる読者諸君には関知し得ないことであろうことである故指摘しないでおく。
 だからつまりこれは――夜の理に生きる人以外の者々の物語。
 より正しくは人と人以外のモノの関係によって引き起こされる問題を集めたもの、ということになる。

 問題を集めた、問題集。
 フィクションではなくノンフィクション。
 フェイクではなくファクトな物語だ。



.

519名も無きAAのようです:2013/08/05(月) 04:10:23 ID:kLA0APMA0

 死期を悟った人間が怪異として今生の別れを告げる。


(,,-Д-)「死後の未練を果たす為に幽霊になる話は多いけど、死ぬ直前で怪異となるのは珍しいよね」


 だから。
 きっと。
 それほどまでに彼女は息子のことを想っていたのだ。

 血が繋がらない、短い付き合いの相手だとしても。
 最後の瞬間に「約束を果たしたい」と願った。

 ギコさんは言った。



(,, Д)「本当に……大切に想っていたんだと思う。一人の『家族』として、彼女も彼のことを」



 言葉は、ただの気休めかもしれなかった。
 やはり現れた彼女は、ただの幻覚なのかもしれなかった。

520名も無きAAのようです:2013/08/05(月) 04:11:14 ID:kLA0APMA0

 だけど、定子さんは言ったのだ。
 「ありがとう」――と。
 泣きながら、涙を流しながら笑顔を浮かべて。

 自分のことを母親と認めてくれたなつるに向かって――「本当にありがとう」と。


ミセ* ー)リ「母親っていうのは……強いなあ」


 呟きながら、なつるに話してあげようと思った。
 気休めでもいいからきっと言おうと。
 間に合ったんだと、言葉には遂にすることはできなかったけど、お互いに想い合っていたんだと。

 なんて言えば上手く伝わるだとうかと、考えて。
 その時にやっと私は、目の前にいたギコさんだけじゃなく自分も泣いていることに気がついた。



 血は繋がっておらずとも母親は母親。
 家族は、家族だった。

 それは最後の瞬間だけだったかもしれないけれど、それでも確かにあの二人は『家族』だったんだ―――。

521名も無きAAのようです:2013/08/05(月) 04:12:11 ID:kLA0APMA0
【―― 0 ――】


「―――『人一日に千里を往くこと能わず、魂能く一日に千里をも往く』っと」


 会長さんはいつものように窓の外を見ながら、いつものように知った風に呟いた。

 彼女の嫌いな儒教の説話の一節だ、「范巨卿鷄黍死生交」という話に出てくる言葉。
 ……もしかすると会長さんとしては漢語文学ではなく、古文の作品の方から引用したつもりなのかもしれない。
 その漢文を元にした物語――『雨月物語』より「菊花の約」。

 それはある男が親友と会うという約束を果たす為に幽霊となるお話だった。
 情と約束の重さを教える為の草紙。


li イ*^ー^ノl|「儒教は嫌いなんじゃなかったんですか?」

「嫌いとは言ってないよ。僕には合わないと思ってるだけ」


 言葉の意味は、自分以外の人には合う人間もいるだろう、ということ。
 会長さんが思い浮かべている彼等のように。

522名も無きAAのようです:2013/08/05(月) 04:13:06 ID:kLA0APMA0

「ここの言葉での『千里』は漠然と遠い距離を表すらしいケド、当時は友情に男色も混じってたんだってね」


 次いで、今も混じってるのかな、と言い笑う。


「でもさ、そもそも感情って『○○だ』とか『××だ』とかはっきり言えないものなんじゃないかな?」

li イ*-ー-ノl|「……かもしれません」


 私が実の兄に抱く感情は本当に恋慕なのだろうか。
 たまに、分からなくなる。

 ……ああ。
 そう言えば、その兄の知り合いがいつだったかこんなことを言っていた。
 「愛情は人によって違って、相手によって違うんだ」と。

 本来は絶対に伝わらないはずのたった一つの愛を、どうにか伝えようとして――人は人を愛するのだと。


li イ*゚ー゚ノl|「実際は、曖昧なものなのかもしれませんね」

523名も無きAAのようです:2013/08/05(月) 04:14:04 ID:kLA0APMA0

 愛のような、恋のような。
 情のような、あるいは他の“何か”のような。

 何かはよく分からないけど、大切な何か。


 ……そんな風に漠然と思った私の心を読み取ったのかもしれない。
 会長さんは私の方に振り返り、悪戯好きそうな笑みを浮かべてこう言った。

 『家族』と同じように?――と。


li イ*゚ー゚ノl|「……会長さんは『家族』ってなんだと思うんですか?」


 私は、積み上げた時間と想いが家族である証明だと思っている。
 私に訊ねてきた彼女はどう思っているのかと気になった。


「決まってるよ」


 と。

524名も無きAAのようです:2013/08/05(月) 04:15:02 ID:kLA0APMA0

 彼女は、そう言って。
 私が予想していた「分からない」とか「知らない」とか「どうでもいい」ではない答えを、また知ったように口遊ぶ。



「『家族』っていうのは――結局、“家族である”ってことだよ。それだけでしょ?」



 ……なるほど。
 それは同語反復でしかなく、循環定義でしかないけれど、真理だった。


 元より不完全な存在である人間は、何を定義するにしてもその根幹の部分で「○○だから○○」という言葉を使わざるを得ない。 
 「××だから○○」と定義できるのは二次以降の概念だけなのだ。
 定義自体を定義することは不可能だし、最小単位を分割することも同じく不可能。

 ならば、儒学において人間関係の基礎と考えられた『家族』を改めて定義したり説明したりする必要は何処にもない。
 どう思うかは様々だとしても、どうであるかは唯一だ。

525名も無きAAのようです:2013/08/05(月) 04:16:07 ID:kLA0APMA0

 つまり――『家族』は“家族”だ、と。


li イ*-ー-ノl|「…………」

「より簡単に、現実に即した形で直すとすれば、『家族とはお互いが「家族」と思っている関係のこと』になるんじゃないのかな」


 血が繋がっていなかったとしても。
 どんなに短い時間の間柄でも。
 本人達が、お互いのことを『家族』と認めるのなら――それは家族。

 家族のような人間関係――は『家族』だし。
 家族みたいな人間関係――も『家族』なのだ。

 改めて確認するまでもなく、それは確かに『家族』なのだ。


「だから、多分ね」

526名も無きAAのようです:2013/08/05(月) 04:17:03 ID:kLA0APMA0

 彼女が次に何を言うのかは自然に分かった。
 きっと「他人はいつ『家族』になるのか?」という問いの答え。

 そして――それは。



li イ*^ー^ノl|「他人同士がお互いに『家族になろう』と思った時……既に彼等は『家族』になっている、でしょ?」

「あー、もう僕の台詞取らないでよっ!!」



 あの幽霊さんが言葉を声に出さなかったのは当たり前だ。
 だって家族というものは、想いが言わなくても伝わるからこそ、『家族』なんだから。






【――――そこまで。第六問、終わり】

527名も無きAAのようです:2013/08/05(月) 04:18:03 ID:kLA0APMA0


 「音に聞きて 一人で探る 君の影」


【歌意】
あなたのことを噂で耳にして、私は一人であなたの影を探し求めています。

【語法文法】
『音に聞き』は「音に聞く」という言い回しを連用形に変化させたものである。
意味としては「噂で耳にする」「噂に高い」のどちらかだが、今回は前者。
次の『て』は連用形に繋がる接続助詞。単純接続・原因・理由・逆接などの用法があるのだが、多くの場合は現代語の「〜て」のように訳せる。
『一人』は現代語と同じく「ひとり」や「独身」。稀に副詞として「自然に」という風にも使われる。
続く『で』は格助詞。厳密には四種類程度に分類できるが、先ほどの『て』と同じく大抵は現代語と同じように訳せる。
『探る』はラ行四段活用「探る」の連体形。終止形も同じく「探る」なものの接続されているのが体言なので連体形と分かる。
これは「指先で触って調べる」「尋ね求める」ような意味。
体言の『君』は代名詞で現代語と同じく「あなた」。名詞の場合は「主君」「天皇」と訳す。ただ和歌の場合は前者のことが圧倒的に多い。
『の』は格助詞で、これも現代語の「の」と同じ。
古語では最後の『影』の意味がかなり多く、バリエーションとしては「空間に浮かぶ姿」「姿形」「面影」「陰影」「光」「霊魂」など。
現代語でも同じく様々なニュアンスを有する単語なのであえて上記でも訳していない。

【特記】
参考にした歌は特にない。元々は「おとに聞き 一人で探す 君の影」という現代語の川柳だった。
現代語と同じ意味の言葉が多く出てきているのはその為である。

528作者。:2013/08/05(月) 04:19:10 ID:kLA0APMA0


この作品の原案を書いたのは一年以上前なのですが、改めて見ると、よく人が死ぬ話だなあと。
冷静に考えるとなつる君はここ二ヶ月くらいの間に先輩達と義母を失くしているわけで凄く災難な子ですね。
ちなみに次の話でも人が死にます。

そんなわけで第六話でした。
探せば色々とリンクネタが見つかると思いますが、本編にはほぼ関係ないので気にしないでください。



次は前後編ですが、もしかしたら一話、書き下ろしで一話完結の話を書くかもしれません。
……しかし話が重いからエロを入れる場所がないなあ。

529名も無きAAのようです:2013/08/05(月) 10:54:17 ID:LZ5EUbFM0
おつ!

530名も無きAAのようです:2013/08/05(月) 14:18:22 ID:7GDiotRYO
乙。なつるん…。

531名も無きAAのようです:2013/08/06(火) 23:16:29 ID:R8DfhT1QO
ひっさびさのフサだぜい


生きてたんだな(笑)


ってかこのニーイチワールド、各キャラの年齢、整合性ある?
微妙にズレとらんかや?

532名も無きAAのようです:2013/08/09(金) 06:17:04 ID:eBS2hVw20



 第六問。
 模範解答。



.

533名も無きAAのようです:2013/08/09(金) 06:18:12 ID:eBS2hVw20

・《面影》
 秋田県に伝わる生霊。
 人が死ぬ直前にその魂が本人そのものの姿になって親しい間柄の相手の元に現れたり下駄の音を立てたりするという。
 またこれは幽霊でありながら足のある姿で現れるとされる。
 似た伝承は岩手県や青森県にも伝わっており、特に戦争中などでは盛んに噂されていた。

 現実的に解釈をすれば、戦地や病院にいる大切な人のことを考えているうちに街を往く他人にその人の姿を重ねてしまって……というものなのだろう。
 だがなんにせよ人の情や絆を思わせるロマンチックな伝承ではある。 
 もしかすると、ここにいないはずの誰かの姿を見るという意味の慣用句「面影に立つ」はこの霊が由来なのかもしれない。
 

・《菊花の約》
 上田秋成によって著された妖怪小説「雨月物語」に納められた話の一つ。
 漢語作品の「范巨卿鷄黍死生交」という説話を原案に持つ。
 時代設定や人物は変更されているがどちらも友人と会う約束を果たす為に命を絶つ男の物語である。
 作中で引用されている「人一日に千里を往くこと能わず、魂能く一日に千里をも往く」はそれに関係している。

 この作品の主題は「交りは軽薄の人と結ぶことなかれ」という原作中の一文の通りである。
 軽薄な者と親交を持つべきではない(≒親交を持つのは約束を必ず守るような誠実な相手が良い)ということでその為に重い友情の比喩としても使われる。

534名も無きAAのようです:2013/08/09(金) 06:19:04 ID:eBS2hVw20

・《家族》
 住居を共にし纏まりを形成した親族集団。
 血縁関係を基礎にして成立する小集団。
 辞書的な定義では、上記のようになっている。

 社会を構成する基本単位ではあるが、この『家族』という概念は今も研究が続いている。
 そもそも類型すらないのではないかという意見もある――家族は家族なのだ。


・《怪異》
 この作品『怪異の由々しき問題集』のテーマの一つ。
 化物、妖、物の怪などとほぼ同じニュアンスで使われる。
 妖怪というものが存在しないと仮定して考えると、このような諸々の伝承は自然に対する畏敬や感謝の念、若しくは人の想いあるいは勘違いが形となったものであると言える。

 伝承は科学的視点や合理的根拠が欠かれたものが殆どであるのだが、教訓や背景を持つ話も多い。
 例えば「夜に口笛を吹くと悪いものが来る」という伝承は、一説ではかつて人身売買の売人を呼ぶ合図が夜中に口笛を吹くことだったため、とされる。
 また口裂け女などの都市伝説が広がった背景には、遅くまで塾に通うようになった子ども達に寄り道せず早く家に帰ってきて欲しいという家族の願いがあるとも言われている。
 怪異は科学的でも合理的でもないが、それを広める人間や社会は説明できることも多い。

 この作品においては、当然、怪異は存在する。
 が、現実でのその背景を考えつつ楽しんで頂ければ幸いである。

535作者。:2013/08/09(金) 06:34:22 ID:eBS2hVw20

自分の好きな言葉に「パスカルの賭け」というものがあるのですが、この第六話のタイトルを変えるとすれば、それだと思います。

この作品は怪異と人間の交流や妖怪との戦い、あるいは人間の悪い面やそれに対する皮肉のような、そういうものを描く妖怪モノではありません。
怪異はテーマの一つですが、やはり人間や社会や科学のようなSFでテーマにされることの多いものをメインに書いているつもりです。
そういうのが伝わっていたら嬉しいなーと思います。



>>531
数ヶ月単位のズレ(誕生日の設定ミス)などはあると思いますが、年齡自体はそんなにズレてないはずです。
でもミスってるかもしれないので気付いたことがあればご指摘頂ければ。

……ただ、明らかに年齡がおかしい場合は伏線の可能性もあります。
・未来の話だと思っていたら過去だった
・AAや喋り方が同じで同一人物だったと思ったらクローンだった
とか、そういう感じの。

536名も無きAAのようです:2013/08/16(金) 17:27:30 ID:vyIz1Uz6O
読み終わった、乙ンコ

537作者。:2013/08/31(土) 22:53:52 ID:6/P2h5hQ0

お久しぶりです。
突然ですが最近忙しいので続きの投下は遅れそうです。

この『怪異の由々しき問題集』の次の投下は九月の中旬になると思います。

次はブログで公開していたあの話なので、多分、早めに投下できるかと。
ではまた。

538名も無きAAのようです:2013/09/15(日) 23:32:09 ID:tz0ayHZc0




 落書き。 
 益体もない些細な出来事。

 「奥様は女子高生」





.

539名も無きAAのようです:2013/09/15(日) 23:33:15 ID:tz0ayHZc0
【―― 0 ――】


「―――あまり知られていないことだけど、常時性交渉が可能で、かつ自慰行為をする生物ってヒトだけらしいね」


 何処かのクラスの男子生徒から没収してきたというエロ本をパラパラと捲りながら会長は呟いた。
 神様が誤植したかのような蠱惑的な美貌は今日も今日とて顕在だ。
 どちらかと言えば「軽い女」に属する私からすれば、この人が持つ魅力は、そういうものが存在することが信じられなくて、興味があった。

 それは手を伸ばすことさえ躊躇われるような、凄惨な美しさ。
 花を手折ろうとする奴ははいても、太陽を手中に収めようとする人間は何処にもいない。


ミセ*-3-)リ「人間ってえっちな生き物なんですね〜」

「事はそう単純でもないんだよね」


 私の言葉に返答して、本を引き出しに仕舞うと(!?)会長はその引き締まった腕を組んだ。
 その双丘を支えるように。
 あるいは大きな胸を強調するように。

 ……うーん。
 それにしても、この人もかなり豊かだなあ……。

540名も無きAAのようです:2013/09/15(日) 23:34:14 ID:tz0ayHZc0

ミセ*-ー-)リ「(サイズ的には変わらないかもしれないけど――他が引き締まってる分、余計に大きく見える)」


 おまけに手足もスラリとしていて、背も高い。
 きっと会長のお母さんはスレンダーな人だったのだろう。
 多分父親も相当な美少年だ。

 ところで、と彼女は思い出したかのように言った。


「こないだね、ある生徒が女の子に『おっぱい揉ませてー』と声かけまくってたから、『じゃあどうぞ』って割り込んだら……逃げて行っちゃった」

ミセ;゚ー゚)リ「えぇ?」


 なんでだろうね、とおかしそうに笑う。
 実に不思議そうに。

 いや。
 いやいやいやいや……本当に不思議なのはその男子の行動ではなく、会長の行動なんだけど。
 この人、何やってるんだ。

541名も無きAAのようです:2013/09/15(日) 23:35:09 ID:tz0ayHZc0

「……ひょっとして小さい方が好きだったのかな?」

ミセ;-ー-)リ「そうじゃなくてですね……」


 天然かこの人。


ミセ*゚ -゚)リ「会長、そういうことしてるといつか心ない人達に襲われますよ?」

「どぉして?」

ミセ;゚ー゚)リ「どうしてって言われても……」


 口篭る私を見て再度会長は笑った。
 そうして、言う――「襲われたら襲われただよ」なんて。
 ……それは自分に頓着がないということではなく、ただ誰であろうと負ける気はないという自信の表れだ。

 さて、と話を戻す。

542名も無きAAのようです:2013/09/15(日) 23:36:05 ID:tz0ayHZc0

「実は哺乳類の中で胸が――乳房が常に大きい生物って、少ないんだよ」

ミセ*゚ -゚)リ「そうなんですか?」

「うん、らしいよ」


 次いで、それを気持ち良くなる為にしか使っていない君は分かりにくいだろうけど、とシニカルに言った。
 否定できないのが悔しいけど、否定するつもりもない。


「君のも、僕のも……本来的には授乳の為の部位なんだから、常時膨らんでる必要はない」


 お乳が必要な時だけ。
 つまり子供を産んで育てる時だけ、機能していれば良い。
 生物としては、それが普通。

 けど。


ミセ*゚ー゚)リ「だけど人間はいつも大きくて柔らかいですよね?」

「小さくて堅い人もいるけど、そうだね」

543名も無きAAのようです:2013/09/15(日) 23:37:08 ID:tz0ayHZc0

 駄乳キャラが聞いたらキレそうな相槌を打つ会長。


「知っているかな? 小さな子供がいるメスはほとんど排卵が起こらない」

ミセ*゚ー゚)リ「え?」

「正しくは妊娠前後は、だけど。授乳の時に分泌されるプロラクチンが影響して、排卵が起きず発情もしないんだって」
 

 ……考えてみよう。
 常識や倫理を捨てて生物学的な視点で考察してみよう。

 オスが狩りに出掛けていて、巣にはメスとその子が残っている。
 その時、他のオスが巣にやって来た。
 理由は「自分の遺伝子を残す為」だけど、肝心のメスは排卵も発情もしない。

 “さてこの場合、そのオスは大人しく帰ってくれるだろうか?”


「当たり前だけどそのオスは子を殺すことで強制的に発情させようとする。繁殖戦略だね」


 残酷とか言わないでよ?と会長は続けた。
 ……私は何も言えなかった。

544名も無きAAのようです:2013/09/15(日) 23:38:08 ID:tz0ayHZc0

「でも、もし常時乳房が膨らんでいたら。他の動物のように、相手が発情しているかどうかが分からなかったら」


 そうか。
 分かった、そういうことか。



「“他のオスに子を殺される可能性が限りなく低くなり、かつ、交尾をしたところで受精はしない”――ということになるわけだね」



 まるで推理小説のような。
 ここぞとばかりに相手を騙し出し抜くトリック。
 手品じみたシステム。

 私達が持つこの脂肪の塊は無駄ではなかった。
 快楽を得る為とか、見栄えが良いとかは関係なくて、純粋に理に適った進化の結果だった。


「ま、その所為で現代のメスは常に貞操の危機に晒されるというディスアドバンテージも得ちゃったケド……それにしても、凄いよね」

ミセ*-ー-)リ「……そうですね」

545名も無きAAのようです:2013/09/15(日) 23:39:05 ID:tz0ayHZc0

 女は強い、とよく言われる。
 私は女だけど、強いかどうかはよく分からない。
 でも。

 けれど、女は強くなかったとしても――きっと母は強いのだ。
 紛れもなく。


「……まあここまで言っちゃったケド」


 と、会長は知ったような笑みを浮かべ、言う。


「結局、これは『ヒト』の話で『人間』の話じゃないから、あんまり間に受けないほうがいいかもね」

ミセ*-3-)リ「えー……」


 いい話だったのに。
 うーん……まあ、そこそこに?

546名も無きAAのようです:2013/09/15(日) 23:40:14 ID:tz0ayHZc0

「『子供は自分で思っているより賢くはないが、大人が思うよりずっと賢いもの』っと」


 淳高五階、時計塔旧生徒会室。
 何かの台詞を引用したのか、私に背を向け窓から校門の辺りを見下ろしながら彼女はそう言った。
 似たような台詞をラノベで見たことがあるけど……多分、似てるだけで違うものだろう。

 そんなことを思っている私を知ってか知らずか。
 会長は、その引用したらしき台詞を改変してこんなことを言った。



「だとするなら、きっと人間もそうだよね――『人間は自分で考えているほど立派ではないが、自分で感じているほど愚劣でもない』」



 白黒つけようとしても、できない。
 この世には白も黒もなく、この世に存在しているものは、全部灰色なんだ。


「より文学的な言葉にするなら『人間は神と悪魔の間に浮遊する』かな。これはパスカルの言葉だね」

547名も無きAAのようです:2013/09/15(日) 23:41:12 ID:tz0ayHZc0

 さて、と。
 前置いて彼女は大きく伸びをした。
 その豊かな胸を揺らしつつ。

 そうして最後に、今日の雑談を纏めるように言った。



「誰かと付き合い始めた女の子の胸が急に大きくなるのは……愉悦による堕落の証左か、それとも母としての自覚、芽生えた愛の証拠か」



 どっちなんだろうね?と会長は言った。
 きっとそれは、「どちらもなんだろうね」と同義の言葉だった。
 知ったような結論だった。

 今日会長が見ていた子はどちらの比率が大きいんだろう。
 そして私はどうなんだろう。

 ……けど私は、堕落だって立派な愛の証明だと思うけどなあ―――。

548名も無きAAのようです:2013/09/15(日) 23:42:09 ID:tz0ayHZc0
【―― 1 ――】※閲覧注意


 ―――りぃん、りぃんと鈴の音が聞こえた。


 頭が溶けてしまいそうで。
 身体が壊れてしまいそうで。

 私は必死で歯を噛み締め口を両手で覆ってそれに堪えようとする。
 けど、ご主人様が。
 今は私の「恋人」になった彼が大きく腰を前後させるだけで、私は、あっさりと。


(;#// -/)「やっ、らっ――ひぅぅぅっっ!!!」


 内蔵がグチャグチャにされて引き摺り出されたような感覚。
 直後に陰茎が押し込まれ子宮が揺れる感覚。
 その強烈な刺激が悲鳴を隠せないほどの鋭い感覚を身体全体に送り、精神を蹂躙し、腰を跳ね上がらせる。

 一際大きく――鈴が鳴った。

549名も無きAAのようです:2013/09/15(日) 23:43:10 ID:tz0ayHZc0

 「逃げよう」と思っても、全然、力が入らない。
 そもそも「逃げよう」なんて考えられない。

 身体が、心も、正直に――悦んでしまっているのだから。


( *-Д-)「……ねえ、でぃちゃん」

(#// -/)「はっ……あ、う……」


 彼が私の胸を、勃起した乳首を弄ぶ。
 触れるか触れないかの優しい手つきで円を描くように。
 撫で上げられる度にぞわり、ぞわりと背中に快感が溜まっていく。


( * Д)「―――聞こえてる?」


 返事がないことに不服だったのか。
 唐突にご主人様は興奮して敏感になっている私の乳首をきゅう、と摘んで上に引き上げた。

 キモチイイが――弾けた。

550名も無きAAのようです:2013/09/15(日) 23:44:05 ID:tz0ayHZc0

:(#// -/):「ひっ……はぁぁぁっん!!」


 乳房が持ち上がってしまうほどの強さで引かれ、身体を弓なりに仰け反らせながら、痛みと快感で私は幾度目かの絶頂を迎えた。
 連鎖するように、膣内が収縮し彼のモノをより強く締め付ける。

 形が分かってしまうほどに、ギュッと。
 まるで「もっと犯してください」と懇願しているかのように。
 子宮にまで届いた振動で陰茎が震えたのが分かった。


( * Д)「っ――ふ、あ……」


 ご主人様は射精してしまいそうになるのをどうにか堪えたらしく。
 それは、このお仕置きがまだまだ続くことを意味していた。


 ……私は今、「お仕置き」の真っ最中だった。
 着ていた制服をほとんど剥ぎ取るように脱がされ、ベッドに転がされ、両手首を掴まれ啄むようなキスを唇や首筋にされた後――いきなり挿入された。

 痛みはほとんどなかった。
 日々の躾によって、私の恥知らずな部分は……キスをされるだけで濡れるように開発されていたから。
 彼ではなく私自身が望んで、そんな身体になっていたから。

551名も無きAAのようです:2013/09/15(日) 23:45:16 ID:tz0ayHZc0

 最初にベットに押し倒されたのも、耳を舐めるだけで身体全体の力が抜けてしまう反射を利用されてだった。
 体内を蹂躙する彼のモノの刺激に耐えながら、私はこういうのを「パブロフの犬」と言うんだっけ、とぼんやりと思っていた。

 犬じゃなくて、猫なのに。
 私はご主人様の猫だ。
 ……今もまた猫の耳と尾を出しながら久しぶりにあの首輪を付けられている。

 私が悶える度に、嘲笑するように鈴の音が響く。


( *-Д-)「ねえ、でぃちゃん」

(;#// -/)「っ……。は、ぃ……」


 ご主人様の問いかけ。
 小さいながら、今度はちゃんと返事をすることができた。
 ご褒美として顕現している猫の耳を撫でられる。


(#// -/)「ぁ……はぁ、ん……っ」

552名も無きAAのようです:2013/09/15(日) 23:46:58 ID:tz0ayHZc0

 ……この状態で何分が経っただろう。
 体位としては股を大きく開いた正常位だ。私がベッドの上で、彼は腰が大きく動かせるようベッドのすぐ脇に立っていた。
 私は逃げることもできずに、反り返るほどに勃起した彼の硬い陰茎で……ずっと身体を貫かれている。

 抵抗しようとする度に先程のように大きくピストンをされるか、乳首や陰核と言った敏感な部分を刺激される。
 もう、何分経ったのかも、何度イッたのかも分からない。

 珍しくご主人様が積極的な理由は分かっている(恥ずべきことだがいつもは私から誘っている)。


( * Д)「……でぃちゃん。なんで今日、俺のこと『お兄ちゃん』って、言ったの?」

(;#// -/)「そ、れは……っ!」


 言葉に、詰まる。

 私達は以前のような主従関係ではなく――いや最初から上下なんてなかったけれど――とにかく恋人同士。
 そしてもう、少し前に婚姻届も出している紛れもない夫婦だ。

 けれど私は今日、学校の人達の前でご主人様のことを『お兄ちゃん』と紹介した。
 それは無駄な混乱を招かないようにする為であり、余計な詮索をされないようにする為だった。
 別に嫌いになったとか、そういうのじゃない。

553名も無きAAのようです:2013/09/15(日) 23:48:06 ID:tz0ayHZc0

 けど。


( * Д)「俺を『恋人だ』って紹介するの……嫌だったの?」

(;#// -/)「ひっ……! ち、が……っ」


 う、までは聞いてくれなかった。
 ご主人様はもう一度、一際大きく腰を動かし私にお仕置きをする。

 して――くださる。

 私のやらしい身体を貫いていたモノが、膣壁を削るようにし変形させながら一気に十五センチほど引き出され。
 また直後に脳天まで貫通してしまいそうな勢いで――子宮口まで、押し込まれる。



:(#// -/):「だッ……ああッ、い――ぃひぐぅぅぅぅうううっ!!!」



 腰を掴まれていたから何処にも逃げられず、私は獣のような声を上げて――またイッた。
 ……あろうことか、失禁までしてしまいながら。

554名も無きAAのようです:2013/09/15(日) 23:49:15 ID:tz0ayHZc0

 だらしなく舌を出していた。口の端から涎が垂れているのが分かった。
 潤んだ両目には、焦点が上手く合わないけど、薄暗い部屋の中で私を見下ろすご主人様の姿が映っている。
 りぃんりぃんと脳に直接鈴の音が響き、ドクンドクンという彼のモノが脈打つ音が身体に直接響く。


(#// -/)「はぁ……。やぁ、ん……っ」


 好きな人に、こんな姿を見られたくない―――。
 そう思って顔を覆い隠そうとしても両腕は動いてくれない。
 力が上手く入らず痙攣するばかり。

 分かってるんだ。
 こういうのが、好きってことが。

 私は、こんな惨めでみっともなくいやらしい姿をご主人様に見られて、発情している―――。


(#// -/)「は、っ……。私、は……」


 だから言わないと。
 彼に――私の、大切な人に。

555名も無きAAのようです:2013/09/15(日) 23:50:07 ID:tz0ayHZc0

(#// -/)「私は……んっ……。恥ずかしかった、んです……」

( * Д)「…………それで?」

(#// -/)「でも……」


 でも。
 でもそれは、嫌いになったわけじゃ、ないんです


(#// -/)「それは……他の人に、知られるのが、嫌だっただけで……。ふぅ、はぁ……! だから……」


 だって、私は―――。



(#// -/)「私の全ては――ちゃんと、ご主人様のモノ、です……」



 だから安心してください。
 私はいなくなったりしません。
 私が終わる時は――あなたの傍ですから。

556名も無きAAのようです:2013/09/15(日) 23:51:19 ID:tz0ayHZc0

 私の現在も過去も未来も言葉も感情も身体も精神も良いところも悪いところもちゃんとした部分もやらしい部分も――全部。
 私の首はあなたの首輪を付ける為のもの。
 私の右手はあなたと繋ぐ為のもの。
 私の左手はあなたを守る為のもの。
 私の両足はあなたと歩む為のもの。
 私の両目はあなたの向かう方向を見る為のもの。
 私の口はあなたに口付けてもらう為のもの。
 私の両耳はあなたの声を聞く為のもの。
 私の身体はあなたに抱かれる為のもの。

 他の、恥ずかしくて言えないような部分は……ご主人様に愛してもらう為のもの、です。

 だから安心してください。
 私はあなたが、大好きです―――。


( *-Д-)「…………そっか」


 彼は久しぶりに子供のような声で呟いた。
 「ありがとう、安心した」――と。
 そして抱きかかえるようにして私をぎゅっと抱き締めた。

 更に深くまで私を感じるように。
 自分のモノとするように。

557名も無きAAのようです:2013/09/15(日) 23:52:09 ID:tz0ayHZc0

(#// -/)「はぁっ……や、ん……」

( *-Д-)「ごめんね……でぃちゃん。……で、俺そろそろ、限界なんだけど……」


 申し訳なさそうに彼が言った。
 私は精一杯笑って、こう返す。


(#// -/)「どうぞ、私で気持ち良くなって、私の中に好きなだけ出してください――あなた専用ですから」


 あなたのモノで。
 あなたの恋人で。
 あなたの妻――ですから。


( * Д)「ありがとう。それじゃ……本気でいくよ?」

(;#// -/)「えっ、あ、ちょっとは手加減して――ひっ、らめぇぇっっ!!」


 私の要求は聞き入れられずご主人様は思い切り腰を使い始めた。
 あどけない顔つきに似合わない凶悪なモノが、私の身体を刺し抜くように乱暴に、内蔵を掻き回すように何度も何度も出入りする。

558名も無きAAのようです:2013/09/15(日) 23:53:17 ID:tz0ayHZc0

:(#// -/):「ああッ、あッ、ぐぅっ……やあぁっ!」


 鈴の音が鳴る。
 水音も。
 指先までキモチイイが伝わって、身体が溶ける。


( * Д)「はっ、ふ……。でぃちゃん……気持ちいい?」

:(#// -/):「ああッ、ううあああッ! あっ、らめっ……うぅっ!!」

( * Д)「何処が気持ちいい? ねえ――」

:(#// -/):「うううっ!あっ、からだっ、壊れちゃうぅぅぅ!!」


 意地悪な問い。
 私の反応を見て気持ちいい所を探りながら、ご主人様が問いかける。


( * Д)「また俺の声……聞こえなくなっちゃった!?」

(;#// -/)「えっ、違っ――はぁッ、うぅぅぅ!!?」

559名も無きAAのようです:2013/09/15(日) 23:54:19 ID:tz0ayHZc0

 勃起した乳首を今度は両方共いっぺんに抓り上げられた。
 そのままクリクリと、人差し指と親指で潰される。
 突かれるのとは違う鋭い痛みと快感が走って神経がより敏感になっていく。


:(#// -/):「いぃ!気持ちいいです! あああっ!ううああぁっ!! もっと――もっと滅茶苦茶にしてくださぃっ、ご主人様ぁッ!!」


 嫌だ。
 恥ずかしい。
 許して。
 ごめんなさい。

 そして……気持ちいい。
 もっと痛く、激しく、私に――お仕置きして、ください。


( * Д)「―――よくできました」


 鈴の音と、彼の声が聞こえた。
 一際強いキモチイイのが身体中を襲った。

560名も無きAAのようです:2013/09/15(日) 23:55:07 ID:tz0ayHZc0


(#// -/)「や、やだッ!やッああああああっ!! あッ、ああ、ぃくううぅぅぅぅ――ッ!!!」



 ご主人様のモノが脈打って、大量の精液が私の中に広がって。
 真っ白な感覚――それを最後にして。

 私の意識は途切れた。

561名も無きAAのようです:2013/09/15(日) 23:55:41 ID:7uystHCM0
エロいな、支援

562名も無きAAのようです:2013/09/15(日) 23:56:22 ID:tz0ayHZc0
【―― 2 ――】


 俺の横では彼女が死んだように眠っていた。
 眠っている、というよりは、正しくは気絶してしまっていた。


(#// -/)「はぁ……。やっ……ん……」

( *-Д-)「…………ふぅ」


 ……やり過ぎたかな?
 そんな風に思うものの、虚ろな目で下腹部に手を当てたまま眠る彼女はとても幸せそうで、そうでもなかったかなとも感じる。

 ドロリとヒクつく穴の奥部分から白い液体が流れ出た。
 「ありがとう」という意味のキスを彼女の唇にして、身体を拭こうとタオルを取りに行く。
 制服くらいはちゃんと脱がせてあげれば良かったと今更に思う。

 でもこういう肌蹴た服装が男としては堪らないのだ。
 まあ俺の彼女もそういう変な嗜好はありそう――って、俺よりあるみたいだけど。


(;-Д-)「結構変態なんだよなあ……。可愛い顔に似合わず」

563名も無きAAのようです:2013/09/15(日) 23:57:31 ID:tz0ayHZc0

 ぬるま湯で絞ったタオルで彼女の身体を拭きながら呟いた。
 幼い感じも残していた彼女は、いつの間にかぐっと大人っぽくなっていた。
 顔は清楚であどけないけど……その、胸とかが。

 ちょっと前では平たい感じだったのに、知らない内に良い感じに俺の手に収まるような大きさに……。
 サイズはCか……Dかな?

 そんなことを思いながら、彼女の控えめだけど整った、柔らかい胸を拭くと悩ましげな吐息が漏れた。
 思わず二回戦目に突入したくなったけど、流石に悪いかなと自重する。
 今日は乱暴なことばっかりしちゃったから明日は彼女の言うことをなんでも聞いてあげることにしよう。

 ホントにごめんね、でぃちゃん。
 でも……ありがとう。


(#// -/)「はぁ……ふぅ……」

( *-Д-)「(……あ、でもおっぱいちょっと触ったりするくらいならいいかな……)」


 吸ったり、甘噛みしたり、頬擦りしたり。
 またお願いして色々させてもらおう。
 彼女は「あなた専用」と言っていたけど――俺だって、「でぃちゃん専用」なんだから。

564名も無きAAのようです:2013/09/15(日) 23:58:49 ID:tz0ayHZc0

 でも、触りたいなあ……。


(# ;;-)「…………いいですよ」

(;゚Д゚)「えっ?」


 唐突に聞こえた声に背筋が凍った。
 でも声の主は優しい……女の子という感じでもなく、女という感じでもない優しい声で。
 母親のような――声音で。



(#// -/)「あなたの為に頑張って大きくしたんですから……。触りたいなら、幾らでも……」



 その代わり敏感になってるので優しくしてくださいね?と俺の奥さんは言った。
 俺は「分かった、ありがとう」なんて言いながら、どうせノッてきたら「もっと激しくして」とか言うんだろうなあ、と内心笑っていた。

565名も無きAAのようです:2013/09/15(日) 23:59:57 ID:tz0ayHZc0

 ……ああ、もう。

 本当に。
 俺の彼女は、



( *-Д-)「可愛いなあ……」



 俺の猫耳と尻尾が付いてて、少し礼儀正し過ぎて、結構変態で、優しくて可愛い彼女。
 まさしく彼女が――「俺の嫁」だよね?

566名も無きAAのようです:2013/09/16(月) 00:01:09 ID:PCvdVUJg0
【―― 0 ――】


「―――ところでさ。ヒトの胸が常に膨らんでいるのには、さっき言った話以外の説もあるんだよね」


 そろそろ帰ろうかと生徒会室の扉を開けた、その時だった。
 巨乳僕っ娘の生徒会長が、いつものように知ったような口調で補足を加えてきた。

 振り返ってみる。
 彼女の目線はいつもとは違って、遠くを見ていた。
 商店街の方だろうか?


ミセ*゚ー゚)リ「それはいい話なんですか?」


 訝しむような私の問いに会長は「いい話だよ?」と微笑みながら答える。
 そうして直後に、ただし都合の良い話だけどね、なんて言葉遊び。


ミセ*-3-)リ「じゃあ聞きませんよ〜っだ」

567名も無きAAのようです:2013/09/16(月) 00:02:05 ID:PCvdVUJg0

「んー。でも君はこっちの方が気に入ると思うよ?」

ミセ*゚ー゚)リ「え?」


 会長は瞳を伏せて、何故かさもおかしそうに笑って言った。


「“人間の女の乳房が常に大きいのは『他の女の所に行かず、ちゃんと私の所に帰って来てね?』というメッセージである”……みたいな話」


 どういうことかは分かるよね?と続ける。
 もちろん分かる。
 それはそう、「いつだって発情してるから他のメスの所になんて行くな」ってことだ。

 言い方に品がないのならこう変えよう。


「『いつだってあなたと愛し合う準備はできているから、ずっと一緒にいてね?』――なんてねっ。オス側に都合が良過ぎて、綺麗過ぎるかな?」


 それは確かに都合が良過ぎで綺麗過ぎな解釈だった。
 けれど、会長は言っていた――“人間の女”と。
 さっきは“ヒトのメス”と言っていたのに、今は『ヒト』じゃなくて『人間』だと。

568名も無きAAのようです:2013/09/16(月) 00:03:07 ID:PCvdVUJg0

 だから私も『人間』の話であるなら……ありなんじゃないかなあ、と思う。
 反実仮想でも不可能願望でもなく、ただそうであって欲しいと願う。


ミセ*^ー^)リ「……良い話ですね」

「でしょ?」

ミセ*-ー-)リ「はい。とても、良い話だと思います」


 素直にそう思ったから正直にそう答えて、私は部屋を後にした。
 後ろでに会長の笑い声が聞こえた。

 彼女には誰か、好きな人がいるのだろうか?
 そんなことが気になった。 
 もしあの会長にもそんな相手がいるのなら、いつか、恋バナをするのも良いかもしれない。

569名も無きAAのようです:2013/09/16(月) 00:04:07 ID:PCvdVUJg0

 真実は一つじゃない。
 人間はいつだって好きな真実を選び取って生きている。
 だから私も、後者の説を信じようと思う。

 論理的でなくても、合理的でなくても、退廃的であったとしても。
 信じるのは私の勝手で、そっちの方がロマンチックだから。

 だって私も人間の女ですもの♪


 ずっと恋して。
 ずっと愛して。
 一生傍にいて。

 私もいつか、そういう風な物語の終わりみたいな結婚が――できるといいなあ。






【――――落書き、終わり】

570名も無きAAのようです:2013/09/16(月) 00:05:15 ID:PCvdVUJg0

エロ分補給のおまけでした。
別に投下しなくても良いかなーと思っていたのですが割と大事な伏線がいくつもある回だったので投下しました。
十八禁的なの嫌いな方は飛ばしてくださって結構です。

主題はエロなのに無駄に小難しい話があったりしてごめんなさい。

次は一転して、シリアスな話です。
九月中か、もしかしたら十月に二話連続で投下するかもしれません。

571名も無きAAのようです:2013/09/16(月) 00:10:02 ID:QxMMn.Lk0

次も待ってる。
エロかった。

572名も無きAAのようです:2013/09/17(火) 14:29:00 ID:/gX5BODgO
駄乳なんて言葉聞いたら、あいつが怒りそう

573名も無きAAのようです:2013/09/19(木) 03:54:20 ID:QwDmC5Uo0




ミセ*゚ー゚)リ 怪異の由々しき問題集のようです



※この作品には性的な描写が(たまに)出てきます。
※この作品は『天使と悪魔と人間と、』他幾つかの作品と世界観を共有しています。
※この作品は推理小説っぽいですが、単なる娯楽作品です。
※この作品はフィクションです。実在の逸話を下敷きにした記述が存在しますが現実とは一切関係ありません。





.

574名も無きAAのようです:2013/09/19(木) 03:55:07 ID:QwDmC5Uo0




 第七問。
 選択問題編。

 「幽屋氷柱の殺人」





.

575名も無きAAのようです:2013/09/19(木) 03:56:08 ID:QwDmC5Uo0




 霧れる雨 ふる我が思ひ もぞ知るる





576名も無きAAのようです:2013/09/19(木) 03:57:07 ID:QwDmC5Uo0
【―― 0 ――】


「―――恐ろしいことに他殺ではなく事故死でもなく、もちろん寿命その他が原因ではない不審死は自動的に『自殺』になるらしいよ?」


 一つ例を挙げると、
 「火の気のない玄関で人体自然発火現象を起こして燃え尽きるまで気管に煤が入らないようじっと息を止めて焼身自殺(東京)」など。

 本当の事例かどうかは浅学な私には分からないが、もし本当だとするなら世界でも随一という日本の警察も信用ならない。
 そんな死に方は常識的に考えてありえないのだから。
 どう考えても、私には理解もできないようなトリックか、あるいは常人ではまず不可能な大掛かりな仕掛けの元で達成されたに決まっている。


「そしてこの世界には魔法がある。けれど、大部分の人はそれを知らない」

リパ -ノゝ「…………まだしも陰謀論の方が救われる話ですね、」


 知った風に話すそれにすげなく言い放つ。
 そして携えていた長刀をちらと見た。
 『人斬り』と呼ばれる私達の、ほんの些細な決まり事を思い出した。

 それは“自分(絣)に殺されたと分かるように殺す”――ということ。
 だから私達は、「殺したのか?」と訊かれた際に嘘を吐かない。

577名も無きAAのようです:2013/09/19(木) 03:58:08 ID:QwDmC5Uo0

 けれど、魔法は。


リパ -ノゝ「…………あなたは魔術師達が、大衆が奇跡の存在を知らないのを良いことに、私利私欲の為に魔法を使ってきたと?」

「だからこその君達なんじゃないかな? 違った?」


 違わない。


リパ -ノゝ「…………『魔法』というものが公的に存在しないことになっている以上、犯罪として立証もできません、」

「今更世界レベルで社会システムを変えるわけにもいかないしねっ」


 数こそ少なくなってしまったが、現在も魔法は世界に存在している。
 言うまでもなくそれを使って成される犯罪も。

 いや――犯罪ではない、のか。
 立証できなかった犯罪は法学上では罪ではない。
 ただの結果だ。

 それは例えば「人が一人殺された」という、それだけの事実。

578名も無きAAのようです:2013/09/19(木) 03:59:09 ID:QwDmC5Uo0

リパ -ノゝ「…………しかしだからこその私達です。尋常ならざる犯罪相当行為を雪ぐ、公儀隠密です、」

「うん、凄いね」


 両手の親指と人差し指で長方形を作り、ちょうどカメラマンの方が構図を決める時のように辺りを見る。
 制服を身に纏ったそれは、ここ――淳機関付属VIP州西部淳中高一貫教育校の屋上に申し訳程度に設置された鉄柵に座っていた。
 常識知らずにもほどがある、両足を中空に投げ出すような形でだ。

 今背中を押せば、これを殺せる?
 いや、そんな簡単な相手ではないだろう。

 この化物女は。


「けどさぁ……ユキちゃん」

リパ -ノゝ「あなたにそんな親しげに呼ばれる筋合いはありません」


 「おーこっちゃって」なんて嘲笑するように言った彼女が狂気的な笑みを浮かべたことが分かった。
 早朝の日差しに照らされる姿はまるで全身に血を浴びたようで。
 そして、いつかの日々と同じように、幻想的で破滅的な美しさを有していた。

579名も無きAAのようです:2013/09/19(木) 04:00:07 ID:QwDmC5Uo0

「話戻しちゃうけど、それって結局魔術師達がやってることと変わらないんじゃないかな?」

リパ -ノゝ「………………」

「私利私欲の為ではないにせよ、大多数の人間の与り知らぬところで、しかも存在しないはずの手段で以て世界に干渉する」


 君達は本質的には君達が憎むべき敵と同一なんだよ、と。
 歌うように、そして謳うようにそれは言う。

 私に、揺さぶりをかけるように。


「今日も近くで誰かが人を殺したらしいケド……君はどうするのかな?」

リパ -ノゝ「無論、その罪を雪ぎます」

「あははっ。上から目線だねー」

リパ -ノゝ「存在する位相が違うだけです」

580名も無きAAのようです:2013/09/19(木) 04:01:13 ID:QwDmC5Uo0

「違うのはレベルじゃないかな? 『人間は自分のレベルに応じた形でしか世界を見ることができない』って」

リパ -ノゝ「レベルではなくステージでしょう。あるいは定位か」

「自分で分かってもない言葉を使っちゃダメだよ? 馬鹿に見えるから」

リパ -ノゝ「人を殺すことしかできない人間を馬鹿者でないとするのならこの世に馬鹿者は存在しませんね」


 まだ君は『人間』を名乗るんだね、と彼女は笑った。
 まだあなたは『化物』でありたいんですね、と私は笑わなかった。


「人間だの化物――人外だのって、結局そんなことは本人の認識次第だと思うケド」

リパ -ノゝ「それに関しては私も同じ意見ですが」


 人間。
 人外。
 誰かにとって、私達は何に見えるのだろう。

581名も無きAAのようです:2013/09/19(木) 04:02:07 ID:QwDmC5Uo0

リパ -ノゝ「…………なんにせよ、私の動揺を誘っても無駄ですよ、」


 踵を返し、背を向けつつ私は言った。
 夕陽と彼女の視線が背中に当たっているのを感じた。
 後者は気のせいかもしれなかった。


「君は、どうして人を殺すのかな?」


 彼女は問いを投げかけた。


リパ -ノゝ「仕事だからです。……少なくとも公的には」


 私はその飽きる程問いかけられた質問に当たり前のように返した。
 そして、次いで私は言った。



リハ -ノゝ「――――あなたとまた遭えることを、私は心の底から祈っています」

582名も無きAAのようです:2013/09/19(木) 04:03:07 ID:QwDmC5Uo0

 それは。
 我ながら珍しい言葉だった。
 普段なら、ありえない言葉だった。

 けれどそれは――彼女は大して気にする風でもなく「そう」と上機嫌な様子で言い。
 直後に呟くようなとても小さな声で、でも明らかに私に向けたと分かるような声音で、口遊ぶ。



「…………あの人はどぉして人を殺したんだろうね?」



 そんなことは知ったことではなかった。
 知らなかった。
 知るべきことでもなかっただろう。

 今のこの世界で私がやるべきことは秩序を乱した尋常ならざる人殺し共を一人残らず駆逐すること。
 つまりは、遥か昔からやってきたことと大方変わらない仕事だった。

583名も無きAAのようです:2013/09/19(木) 04:04:07 ID:QwDmC5Uo0
【―― 1 ――】


 梅雨らしい梅雨になった。
 六月が梅雨らしくない、あまり雨の降らない雨季だったことに関係しているのか、今、七月の始めは雨が降りまくる梅雨らしい梅雨だ。
 この夏らしくない初夏が終われば夏らしい夏がやってくるのだろう。

 雨の通学路、並んで歩む二つの傘。
 隣を歩いていた幼馴染、魚群なつるに考えていたことを言うとこんな言葉が返ってきた。


( -∇-)「お前、『いしあたまな石頭』みたいな言葉を使う感覚的に生きてる人間だな。つーか頭が悪い」


 ……とりあえず、中途半端にワックスがつけてある頭をグシャグシャと掻き回しておいた。
 いつの間にか二人の間には結構な身長差ができてしまっていたので、背伸びをして、覆い被さるような形になっての強襲だ。


 先月義理の母親を亡くしたなつるは一週間ほどは落ち込んでいたものの、案外早く立ち直り普通に戻った。
 「死んだ母さんが望んでない、なんて言うつもりはないけど、もうすぐ俺の季節だから」だそう。
 果たして誕生日が近いことが元気を取り戻す理由になりえるのかと言えば、それはかなり疑問なとこだけど。

 いやならないだろう。
 反語表現。

584名も無きAAのようです:2013/09/19(木) 04:05:07 ID:QwDmC5Uo0

 そう言えばコイツの名前って「夏が流れる」と書いて「夏流(ナツル)」なんだよなあ、なんて。


ミセ*゚ー゚)リ「……アレ、夏が流れるんなら夏じゃないんじゃない?」

( ・∇・)「初夏に生まれたから夏が巡って来て広がって行くって意味で『夏流』なんだよ」


 面倒そうに夏男は言った。

 なるほど、そう考えると「夏流」も中々に雅やかな名前だ。
 「水無月ミセリ」も「水無月美芹」と書けば結構……いやでも芹って草だしなあ。
 前にあの病葉先生が言っていたような意味があるとしても私だって恋が叶わない名前なんて嫌だ。
 
 と、そこまで考えてふと思う。
 隣の席の女の子のことを。


ミセ*-3-)リ「……『朝比奈でぃ』」

( ・∇・)「ん?」

ミセ*゚ー゚)リ「いや、でぃちゃんはなんででぃちゃんって言うのかなって」

585名も無きAAのようです:2013/09/19(木) 04:06:06 ID:QwDmC5Uo0

 ロミオとジュリエットかよ、と幼馴染は肩を震わせ笑う。
 傘に乗っかっていた水滴が幾つか落ちた。

 早朝から降り続いていた雨はほとんど止んでいて、今はもう纏わり付くような霧雨があるのみだ。
 周囲に人は誰も見当たらない。
 それは人通りの少ない通学路を選んでいるということもあるが、一番の理由は「もう一限目が始まっているから」だった。

 要するに遅刻だ、二人して。
 ……二人共が寝坊した理由は説明しなくてもいいかな?


( -∇-)「なんでって……さあ、親か誰かが付けたんだろ?」

ミセ*-ー-)リ「親とは仲が良くないらしいけどね」


 そうだ、と自分から振った話題をぶった切るように私は言う。


ミセ*゚ー゚)リ「……手、繋がない?」

( ・∇・)「は? 名前の話は?」

586名も無きAAのようです:2013/09/19(木) 04:07:07 ID:QwDmC5Uo0

ミセ*-3-)リ「それはもういいから。……手だよ手。繋ごうよ〜」

( -∇-)「お前脈絡なさ過ぎんだろ。馬鹿かよ」


 溜息を吐きながらも、なつるは右手を差し出した。
 私はそれを取ることはせず、代わりに彼の後ろをぐるりと回るようにし場所を変える(ちょうど左右が入れ替わった形だ)。
 そうして利き手で持っていた傘を持ち替え、空いた自分の右手を幼馴染の前に出す。


( ・∇・)「傘握ってんのが見えないのかお前は」

ミセ*-ー-)リ「右手で持てばいーじゃん」


 渋々、といった風に彼は傘を右手に移動させる。
 そうして左手で乱暴に、まるでひったくるように私の手を握った。


ミセ* ー)リ「やんっ」

( -∇-)「気色悪い声を出すな」

ミセ;゚ -゚)リ「冗談だよ……。ってか気色悪いって……」

587名も無きAAのようです:2013/09/19(木) 04:08:06 ID:QwDmC5Uo0

 地味に傷ついたぞ。


( -∇-)「あー、もうお前の馬鹿話に付き合ってたら二限にさえ間に合いそうにないんだけど」


 言葉に、私は右手にはめた腕時計を見る。
 ……確かに少し厳しいかも。


( ・∇・)「そういやお前右利きなのになんで右手に時計してんの?」

ミセ*゚ー゚)リ「テスト中に見やすいから」

(;-∇-)「左手に付ければ紙を押さえる時自然に見えるだろうが……」

ミセ*^ー^)リ「左手は肘ついてるから、む・り」

( ・∇・)「何処までも真面目に授業を受ける気がない奴だな」

ミセ*-3-)リ「それはそっちだってそうじゃん?」

( -∇-)「違いない」

588名も無きAAのようです:2013/09/19(木) 04:09:16 ID:QwDmC5Uo0

 雑談を続けながら、こんな話してるからどんどん遅れるんだろうなあ、と私は思った。
 なつるの方もそれには気づいていたと思う。
 だけどお互いに「なんならもっとゆっくりでもいいかな」とも思っていた。

 隣を歩む彼の気持ちは分からないけど、きっと思ってくれていた。
 私が左手を取った理由を察してくれているのなら、多分。

 そうでありますように、"May +主語+原形...!"。



「もう面倒になってきたし、学校行かずに帰るか……」

「どんなに遅れても放課後までには行かないと。先輩にCD返さなきゃ」

「……それ学校じゃなくても良くね?」



 お母さんの代わりにはならないけど寂しいのならいつでも傍にいてあげるからね。
 そんなことを心の中で呟きながら、私は指を絡ませた。

589名も無きAAのようです:2013/09/19(木) 04:10:22 ID:QwDmC5Uo0
【―― 2 ――】


 放課後。
 帰路につく生徒と部活動に向かう生徒の流れに逆らうように私は歩いていた。
 目的地は高等部三年特別進学科十三組の教室だ。

 当初の予定では借りていたCDは昼休みに返しに行く予定だったんだけど、最終的に学校に到着したのが昼過ぎだったので已むなく放課後に変えたのだ。
 ……しかし、我ながらのんびりし過ぎた。


ミセ*゚ー゚)リ「えーっと……十三組は一番奥、っと」


 持ち主である幽屋氷柱先輩は弓道部やら剣道部の助っ人やら新聞部や生徒会の手伝いなどと忙しい人なので、軽く早足で進む。
 別に今日返さないといけないわけではないんだけど、できることなら早く返したい。
 忘れない内に。
 私は大雑把というか、忘れっぽいタチなのだ。

 と。


ミセ*゚ -゚)リ「……あれ、会長?」

590名も無きAAのようです:2013/09/19(木) 04:11:24 ID:QwDmC5Uo0

 珍しく他のクラスと同じ時間に授業が終わった特別進学科十三組。
 その教室のすぐ外で、『一人生徒会』の彼女が廊下の窓枠に腰掛けていた。
 私に気づくと、「んー」と右手を挙げて挨拶の代わりとした。

 ……ていうか普通に危ないよその姿勢は。
 身体の三割くらいが外に出てるよ。
 私が出来心で会長の豊満な胸(私と同じかそれ以上)を押したら真後ろに真っ逆さまに落ちてしまいそうだ。

 考えて、やっぱり私は言うことにする。


ミセ;゚ー゚)リ「会長危ないですよ、うっかり落ちたら即死ですよ」

「ちゃんと両手でサッシ掴んでるから落ちないよ」

ミセ;゚д゚)リ「どう考えてもその姿勢で両手のみで全体重支えるのは無理ですよ!!」


 よしんばそれが可能であったとしてもさっき会長右手離してたじゃん!! 


「片手でも平気なんだよ。僕、片手で懸垂できるから」

ミセ;-ー-)リ「それは凄いですけど女子としてはどうかと思いますよ……?」

591名も無きAAのようです:2013/09/19(木) 04:12:41 ID:QwDmC5Uo0

 また右手を離し、力瘤を作ってみせる会長に私は呆れつつ言った。
 けど、白く肌理細やかな肌が眩しい彼女の腕は、太くは見えないけれど、今のように力を入れた状態では確かに鍛えられた様が見て取れる。
 ……ていうか普通に力瘤がムキッと盛り上がっていた。 

 会長の身体はいつだったかテレビで見たキックボクシングの女子プロ選手のよう。
 前に彼女の裸を見たことがあるが、腹筋が薄く割れていて、背中や脚には綺麗に筋肉が浮き出ていた。
 完全なアスリート体型だ。
 無駄のない肉体は純粋に彫刻のように綺麗だし、それでいて柔らかいところは柔らかいし、そういうのが好きっていう男の人もいるのだろう。

 あれ、でもこの人運動部だったか……?


「それで本題だけど、」


 と、弓道部にも一応籍を置いている会長は切り出してきた。
 無論状態はそのままである。


ミセ;゚ー゚)リ「えっと……何かお叱り事ですか?」

「叱られるようなことしたのかな?」

ミセ;-ー-)リ「一番最近では、今日は昼過ぎ登校でした……」

592名も無きAAのようです:2013/09/19(木) 04:13:25 ID:QwDmC5Uo0

 それは僕が怒るようなことじゃないよ、と会長は笑った。
 それもそうだ。
 ……というか、よく考えると会長に怒られたことなんて一度もなかった。

 前の地域環境研究会の視察の件で苦言を呈されたくらいかなあ。
 ちなみにアレはめでたく廃部になった。


「そうじゃなくてさ、」


 ぴょん、と飛んでやっと窓枠から下り廊下に立った会長は言う。
 今の腕の力のみで全身を持ち上げた気がするけど、面倒なのでもうツッコまない。


「氷柱ちゃんが今日休みだから、それを伝える為に待ってたの」

ミセ*゚ー゚)リ「え?」

「『今日は会えないと思う、ごめんね』だって」


 どうやらメールで受け取ったらしいメッセージをそのまま再生した会長。

 珍しいこともあるものだ。
 氷柱先輩は健康というか体調管理はしっかりしている感じの人なのに。

593名も無きAAのようです:2013/09/19(木) 04:15:12 ID:QwDmC5Uo0

ミセ*゚ -゚)リ「えっと、風邪か何かですか? 私、先輩のアドレス知らないから……」

「いや風邪じゃあないよ」


 それより酷い、と続ける。


ミセ;゚ -゚)リ「酷い病気……ということ?」

「酷いのは状況だよ」


 そうして。
 会長は大きく伸びをして、話の深刻さに全く不釣り合いなのんびりとした口調で、簡潔に状況を説明した。



「氷柱ちゃんは今朝方に死体の第一発見者になったから容疑者として警察に拘束されてる」

ミセ;゚ -゚)リ「…………え?」



 ……はい?

594名も無きAAのようです:2013/09/19(木) 04:16:14 ID:QwDmC5Uo0
【―― 3 ――】


 私が犯行現場に到着したのは昼前でその頃には既に粗方の捜査は済んでいた。
 別件で出張っていて遅れた私にも捜査員達は頭を下げてくれる。

 こんな若い女が上司だと不服だろうにありがたいことだ。


(‘、‘ノi|「しかし大きな家だ」


 背筋が伸びてしまうのは私がスーツを着ているせいではないだろう。
 純日本風の邸宅。
 それも家の敷地内に道場が――警察の剣道場よりも大きなサイズのものが――ある屋敷である。

 広い割に豪邸という感じがしないのは建築物の特性も勿論あるだろうが、おそらくは住んでいる人間の人柄の故だ。
 耳に挟んだ限りでは被害者は武道家なのだとか。

 捜査員達に会釈を返しつつ犯行現場に向かう。
 現場はその道場だという。
 じめじめとした空気を押し退けるようにして池を尻目に庭の奥へと向かう。

595名も無きAAのようです:2013/09/19(木) 04:17:07 ID:QwDmC5Uo0

 さて。
 と、いよいよ武道場の前に辿り着いた時に、入り口の前に弓が落ちているのを見つけた。
 証拠品であるらしく保存用の袋に入れられ番号が振られている。

 私は近くにいた若い男に声をかけた。


(‘、‘ノi|「……なあ、おい」

( ノAヽ)「これは警視。お疲れ様です」


 一際丁寧な礼をしてきた捜査員に礼を返し「これはなんだ?」と問いかける。
 彼はポツリと言った。


( ノAヽ)「弓ですね」

(‘、‘ノi|「それは見れば分かる」


 そこまで無知ではない。

596名も無きAAのようです:2013/09/19(木) 04:18:24 ID:QwDmC5Uo0

( ノAヽ)「失礼しました。梓で出来た梓弓です」


 また軽く頭を下げつつ彼は説明した。
 なんというか適当な説明だ。


(‘、‘ノi|「梓弓だから梓でできているのは当たり前ではないのか」

( ノAヽ)「『梓弓』は和弓そのものを指す場合がありますので……。近年の弓は一般的に真竹、黄櫨で造られるそうなので、『梓で造られていない梓弓』も有り得なくはないのです」

(‘、‘ノi|「難しいな」

(;ノAヽ)「……難しかったですか?」
 

 「いや大丈夫だ」と答えておいた。
 よくよく考えてみれば問題はそこではなかった。
 私が訊きたかったのは弓の名前や材質ではなくこれが凶器であるかどうかだ。

 咳払いをし、閑話休題をする。

597名も無きAAのようです:2013/09/19(木) 04:19:19 ID:QwDmC5Uo0

(‘、‘ノi|「わざわざ残してあるということはこれが凶器ということか」

( ノAヽ)「かも……知れません。その可能性があるので警視がいらっしゃるまで触らないでおいたのです」


 ただでさえ無意味に現場を掻き回し気味なのにそれは申し訳ないことをした。
 人の力は数の力なのだから私のようなスタンドプレーとワンマンプレー主体の人間は警察組織ではどちらかと言えば迷惑だ。
 以後は遅れないよう気をつけよう、と心に刻む。

 しかし言い方が引っかかる。
 「かもしれない」というのはどういうことだ。


(‘、‘ノi|「凶器の特定はできていないのか」

( ノAヽ)「正面から何かで一突きにされた後、日本刀で心臓の原形がなくなるほど幾度となく刺されたようなので。傷口からの特定は難しいですね」


 それはまたゾッとする死に方だ。


(‘、‘ノi|「つまり、その一撃目がこの弓であるかもしれないから残してあったということか」

( ノAヽ)「傷口が滅茶苦茶になっていたので『正面から一突き』というのも曖昧なのですが」

598名も無きAAのようです:2013/09/19(木) 04:20:17 ID:QwDmC5Uo0

(‘、‘ノi|「死体は仰向けだったのか」


 言いながら歩みを進め道場の中へと入る。 
 普段は厳粛であるはずのその場所は今は「騒然」が正しいような有様だった。

 死体こそなかったが一目見てここが犯行現場だと分かった。
 血塗れだった。
 道場の奥、刀が貫通したのか床に幾つも残る跡とそれを中心に広がる赤色。

 スプラッター映画のような有様だ。
 見たことはないが、おそらくこのような感じなのだろう。


( ノAヽ)「日本刀は被害者の持ち物だったそうです。殺害された時も手に持っていたらしいので」

(‘、‘ノi|「蒐集家か、居合道家か……」


 あの弓が凶器だった場合。
 まず被害者は弓で胸を射抜かれ、倒れたところで刀を奪われ、メッタ刺しにされた、と。

 ……いやおかしいな。

599名も無きAAのようです:2013/09/19(木) 04:21:16 ID:QwDmC5Uo0

(‘、‘ノi|「矢の方は見つかっていないのか」

( ノAヽ)「あの弓は第一発見者である女子高校生のものなのですが、手入れの為に持って帰っただけなので矢は持っていなかった……と」


 つまり死体に驚いて落としてしまったものを証拠品として抑えられているわけか。


(‘、‘ノi|「だが……その子供が犯人だとするならば、凶器である矢を隠滅した可能性があるのか」


 あるいはもっと他のもの……たとえば、槍か。
 傷痕を分からなくする算段があったのなら包丁でも構わないだろう。

 が、その時。
 私の隣にいた男が眉をひそめて言った。
 如何にも困った、という風に。


(;ノAヽ)「いや……その少女では、少し犯行は難しいと思いますよ」

(‘、‘ノi|「何故だ」

600名も無きAAのようです:2013/09/19(木) 04:22:26 ID:QwDmC5Uo0

 そりゃそうですよ、と彼は続ける。



( ノAヽ)「被害者は剣道八段の範士。しかも同時に居合道の達人です。……そんな人間を真正面から串刺しにできる高校生は流石にいないでしょう」



 被害者が真剣を持っていた謎は分かった。
 ただ、より難解な謎が出てきてしまった。

 掛け値なしの武道の達人を――――正面から何を使って、どうやって一突きにしたんだ?

601名も無きAAのようです:2013/09/19(木) 04:23:08 ID:QwDmC5Uo0
【―― 4 ――】


 冗談みたいな広さを有する淳高の一角。
 高等部と中等部の境、それでいて高校生も中学生も近寄らないような人目のつかない所にそれはある。

 部室棟から進んだ場所。
 落葉樹に隠されるようにポツリとある物置き小屋。
 使われていないその倉庫の傍らに、時代の流れから取り残されたような古めかしい焼却炉があった。

 私と会長はその焼却炉の前にやって来ていた。
 本題、氷柱先輩の話に入る前に雑務を終わらせたいと会長が言ってきたので、私は了承し彼女の仕事を見学しているのだ。


「最近は法律も厳しくなっちゃって、学校で燃やせるゴミが少なくなっちゃったから」


 言いながら会長は大きなゴミ箱傾け、何処となくパン工場を思い出させる穴に回収したゴミを入れていく。
 中身は木片や紙の切れ端が多い。
 つまり、それが彼女の言う「学校で燃やせるゴミ」なんだろう。

 会長が生徒会を実に地味に執行する中、私はぼんやりと話を聞いていた。
 ふと一つ質問してみる。

602名も無きAAのようです:2013/09/19(木) 04:24:12 ID:QwDmC5Uo0

ミセ*-3-)リ「じゃあ、もう焼却炉は撤去しちゃっていいんじゃないですかぁ?」

「ゴミの処理費用は学校の予算から出てるから、できるだけ少ない方がいいんだよね」


 そうなんだ……知らなかった。


「それに、ここは聖域だから。勝手に変えちゃ駄目なんだよ」


 ゴミ箱を下ろして足元に置いてから、会長は何かを想うようにそう言った。
 神様が誤植したような凄惨な美しさを持つ、『一人生徒会』たる彼女の言う聖域。

 言われて私は周囲を見回してみる。
 小さな森は天露に濡れ、水滴は木漏れ日に輝き、学校という圧倒的な現実から離れた雰囲気を纏っている。
 その神秘さは、確かに『聖域』と言っても過言ではない。

 なんて幻想的なんだろう、"How +形容詞...!"。


ミセ*-ー-)リ「……綺麗な場所ですねぇ。なんだか、神社みたい」

603名も無きAAのようです:2013/09/19(木) 04:25:31 ID:QwDmC5Uo0

 澄んだ雰囲気を率直に表しただけの言葉を会長は気に入ったようで、「そうだね」なんて相槌を打ち笑う。
 いつもの嘲笑じみた笑いではない、本当に思わず零れてしまったようなその笑みは、凄惨な太陽の美しさはないけれど、心動かされるものがあった。
 可愛らしい、女の子らしい笑顔だった。

 同性の私ですらドキリとしてしまうほどなのだ、まして並の男子であれば尚更だろう。
 "Aすら且つB、況んやCを乎"、抑揚系。


「神社の参道って言うのはさ、空間的な距離よりも心理的な距離が大事なんだってね」

ミセ*^ー^)リ「あ、それは知ってますよ。『奥』の話ですよね」

「……アレ? 僕、話したことあったかな?」


 こちらを向いて不思議そうな顔をする会長に私は言う。


ミセ*>ー<)リ「前にやった現国の過去問がそんな話でした!」


 理数科目が壊滅している代わりに文系科目は常に偏差値70前後。
 不真面目なのに成績優秀なのは、私の人生においての数少ない自慢と言える。

604名も無きAAのようです:2013/09/19(木) 04:26:35 ID:QwDmC5Uo0

 会長は「これは一本取られちゃった」とまた笑う。
 ……なんだか今日の会長はご機嫌だ。
 いつも笑っているけれど、今日は特によく笑っている気がする。


「じゃあもう説明するまでもないかもしれないケド……聖域というのは、空間的ではなく心理的な隔たりによって神聖化される場所なんだよ」


 結果ではなく、曲がりくねった参道を進む過程にこそ、意味がある。
 私が読んだ文章ではそう指摘していた。
 目的地に至るまでの過程により神秘性が演出され私達は深奥を感じるのだ、と。


「ちょっと違うけど道場なんかもそうだよね。普通の人は近寄り難い――だからこそ神聖に思える」

ミセ*゚ー゚)リ「会長が弓道をやる弓道場もそうなんですか?」

「どうだろうね。学校程度の道場じゃあんまりかも。それでも、神聖な場所ではあるけど」


 厳格で、静謐な。
 外界から遮断された空間。

605名も無きAAのようです:2013/09/19(木) 04:27:28 ID:QwDmC5Uo0

「この森には普段誰も来ないから。だから神社みたいに思えて……あの芸術家が好むんだよ」

ミセ*゚ -゚)リ「ゲイジュツカ?」


 いきなり出現した単語に私は戸惑う。
 芸術家……何かの比喩だろうか。

 心の中で生まれた私の疑問に彼女は指を指すことで答える。
 物置き小屋。
 この森の主はいつもあそこにいるんだよ、なんて。


「尤も今日は二週間に一度の焼却炉を使う日だし、いないんだけどね」


 どうやらデリケートな方みたいだ。
 そんなことを思ったその時、こちらに歩いてきた会長が唐突に怪訝そうな顔をした。
 私から見て向かって右、森の奥、樹木の一つに近づいていって、そうして振り向かないままで私に訊いた。


「君……この木の枝折ってないよね?」

606名も無きAAのようです:2013/09/19(木) 04:28:15 ID:QwDmC5Uo0

ミセ;゚ -゚)リ「えぇ? 折ってないですけど……そう言えば、折れてますね」

「折れてるね。怒るかなぁ」


 桜によく似た、灰色の樹皮を持つ落葉樹。
 その枝の一つが根元がら折られて薄茶色の内面を晒している。

 会長は目を細め、黙って傷口を撫ぜた。
 手当てでもするように。
 植物を愛でるタイプの女の子ではないと思っていたんだけど……。


ミセ*゚ー゚)リ「桜……じゃあ、ないですよね?」

「『水目桜』とは言われたりするけど桜ではないよ。科も属も違うし。特徴的な匂いに由来する『ヨグソミネバリ』って呼び方の方が有名かな?」

ミセ*-ー-)リ「それはぶっちゃけどうでもいいですけど……」


 呟いた私に会長は確認を取るように訊ねた。


「……本当に折ってないよね?」

607名も無きAAのようです:2013/09/19(木) 04:29:07 ID:QwDmC5Uo0

ミセ*-3-)リ「折ってないですって。私、毛虫とか苦手で、そういう木とか触らないようにしてるんです」


 昆虫系全般が苦手なタイプの女の子である私は、幼い頃友達が子供故の無邪気さで虫を殺しているのを見て、顔を顰めていたものだ。
 二割は「よくあんなもの触れるな」という気持ち、残り、大部分は「可哀想」という思い。

 感情移入する為には相手がある程度自分と似ている必要があるそうだけど……私って、昨日読んでた本の主人公みたいに虫系なのかなあ?
 いや、きっと感受性が豊かなだけだ。
 そういう感性があるからこそ、文系科目を得意としているんだろう。

 そんなことを会長に言うと、


「人間には珍しいくらいに優しいね。普通、愛着がないなら人間は人間以外をどうとも思わないのに」


 なんて、彼女はまた笑う。
 本当に今日は機嫌が良いようだ。


ミセ*-3-)リ「じゃあ会長は戯れに虫とか潰す方?」

「大した思いもなく殺しちゃうことは――道を歩いてて踏んじゃうみたいなことは――あると思うケド……。まあ、『いただきます』はちゃんと言う方、かな」

608名も無きAAのようです:2013/09/19(木) 04:30:07 ID:QwDmC5Uo0

 ……今時、そっちの方が珍しいんじゃ?


ミセ*゚ー゚)リ「ていうか、会長。人間には、って……人間以外を知ってるんですか?」 

「君も知ってるでしょ? 『化物』ってやつ。『人外』と言ってもいいのかな」


 今の今まで、聞きそびれていたけど。
 この人は――この人も、『怪異』を知っているのだろうか。

 世界の真実を。
 社会の裏側を。
 歴史の暗闇を。

 そういうものを――知っているのだろうか。


「いや、よく知らない」


 と。
 私の予想を裏切り、彼女ははっきりと言った。
 そんなものはよく知らない、と。

609名も無きAAのようです:2013/09/19(木) 04:31:07 ID:QwDmC5Uo0

 その代わりに。
 呟いて、その少女は知った風に続けた。



「人間みたいな化物と化物みたいな人間のことなら――――とてもよく、知っている」



 その時の彼女の表情は、まるで。
 笑顔なのに、まるで。
 あえて、そして、しいて笑っているような。

 いつだったか誰かが浮かべていた、表面上は笑顔なのに、今にも泣き出してしまいそうな。
 悲しい気持ちを全部押し殺してしまったかのような。

 あまりにも彼女に不釣り合いな――笑顔だった。


ミセ* ー)リ「…………そうなんですか」


 彼女の抱えている問題も。
 私の問題を解決してくれると約束したあの人達は、どうにかしてくれるだろうか。

610名も無きAAのようです:2013/09/19(木) 04:32:07 ID:QwDmC5Uo0

 そんなことを、思った。 


「今日は朝から久しぶりにそういうのに会って話をしたんだよね。人間は容赦なく殺すクセに虫は殺したがらない、変な奴とさ」


 しんみりとした気分になった私など知らないようで本物の笑顔に戻った彼女は続けてそう言った。

 なるほど。
 今日異常に機嫌が良さ気だったのはそういうことか。
 昔馴染に会って、嬉しかったんだ。

 人間離れした能力と天使近い容姿を持つ、我が校の黒●めだかこと『一人生徒会』が。
 知り合いに会って話しただけで一日上機嫌になっている。


ミセ*-ー-)リ「(会長、可愛いトコあるじゃん)」


 この人も人間なんだ、なんて。
 当たり前のことを当たり前に思う。

 きっとほとんどの人が知らない彼女の一面を見て、私も嬉しくなった。 
 ほんの少しだけ会長が近くに感じられて。
 私と彼女の似ている部分を、共通項を見つけられて、感情移入して、嬉しくなった。

611名も無きAAのようです:2013/09/19(木) 04:33:08 ID:QwDmC5Uo0

 ……いや、うん。
 本当にほんの少しだけど。
 私には容赦なく人を殺すような知り合いはいないしね。

 そんな人間がいてもらっては困る。
 もう嫌だ。
 私はもうあんな思いはしたくないのだ。
 あの仲良さげだった軽音部の人達のことは私の心の片隅に確かに残っている。

 しかし、「人間は容赦なく殺す」って、その知り合いは軍人かそれか殺し屋なのかなあ?
 まさか私が知っているはずもないけれど。


ミセ*゚ー゚)リ「用事が終わったなら早く行きましょうよ」

「うん。分かった」


 そうして私達はその小さな聖域を後にした。
 少し名残惜しくもあったけれど、今はここで寛いでいる場合ではない。

612名も無きAAのようです:2013/09/19(木) 04:34:07 ID:QwDmC5Uo0
【―― 5 ――】


 一目見て分かる異常者というのは存外に少ないものだ。
 三十代にはまだ遠い年齢で警視になった私でも一目見て分かる異常者はほとんど見たことがない。
 警察官として日々犯罪者として接している我々でもそうそうお目にかかることはない。
 恐らくはこれからもそうだろう。

 無垢で無辜な一般人諸子は勘違いしがちであるが大抵の事件は昨日まで一般人だった人間が起こす。
 多くの場合は突発的に、ごくたまには計画的に。

 彼等(犯罪者)の動機を私は逐一記憶しているわけではないし、そもそれは警察の仕事ではないので記憶しようともしていないが、とにかく。
 何人も、何十人も、呼吸をするように人を殺した凶悪な犯罪者はやはり数人しかいなかった。
 それでも数人はいたのだが、それでも全体から見ればごく少数だ。

 「きっと人間は人を殺すようにできていないんだ」と今まで関わってきた事件の見直しをする度にそう思う。
 それは幸運なことだし同時に不幸だ。
 何故ならば本来人を殺すはずのない人間が殺人を犯すということはそうせざるをえないような異常な背景があったということだからだ。

 犯罪者にだって犯罪の理由はある。
 当たり前のことだ。

613名も無きAAのようです:2013/09/19(木) 04:35:08 ID:QwDmC5Uo0

 いつだっただろうか。
 私は酒の席でそういう話を古い友人としていた。

 こんな話は縦令酒が入っていたとしても他人にするものではないが彼だけは別だ。
 学生時代からの性別を越えた親友である彼は、まあ所謂「職業軍人」というやつで、言ってしまえば私より人殺しに詳しい。
 そういうこともあって私は話題に出し彼も「そうだね」と相槌を打った。


『君の疑問に答えるとすれば、さあ。呼吸をするように人を殺す人間は数種類しかいないんだよ。だから大部分の人間は人を殺さない』


 ワインと日本酒を交互に口に運びながら彼は言う。
 まずありえない選択だがそういう妙なところも愛嬌だと思っていた。

 確か私は「数種類もいるのか」と返した。
 すると彼は、


『じゃあ三つかな』


 目を伏せて前言を補足した。
 三つならまだ分かるかもしれないと思いつつ先を促した。

614名も無きAAのようです:2013/09/19(木) 04:36:08 ID:QwDmC5Uo0

『一つ目は……欠陥人間、かな。罪悪感がなかったり、そういうの』

『二つ目は?』

『殺人が日常である人間――僕みたいな人間。多分、さあ。昔の人は皆そうだったんだと思う』


 僕の先祖もそうだったと思う、と続けた。
 私が警察官の家系であるように彼は軍人の家系だった。
 そして強要されたわけではなく、どちらも好き好んでその仕事を選んでいるわけだから血は争えない。

 カエルの子はカエルではなくオタマジャクシだが。
 人間の子は人間だ。


『三つ目はなんだ? なあ、おい』

『三つ目は人を殺したという自覚がない人間。大した殺意もなく人を殺す、人間の範囲が著しく狭い人間』


 疑問が顔に出ていたのか、彼は説明を加えた。


『昔の宗教家とか、さあ。自分は人じゃなくて蛮族を殺したんだと思っていただろうね』

615名も無きAAのようです:2013/09/19(木) 04:37:09 ID:QwDmC5Uo0

 人でなしを殺しただけ。
 少なくとも彼等の認識ではそうだった。

 「人を人とも思わない」という文句は異常者には適切ではなく、そういった人間にこそ相応しい。
 殺した相手をそもそも人と思っていなかった。
 タチの悪い悪役のようだな、と私は呟き、しかし考えてみればそういう人間は現代にも沢山いると気付く。

 そんなものなのだろうか。



『そんなものだよ。誰でも殺す人間は……人をなんとも思っていない』



 それはまた、箴言だ。
 その時私はただ、そんな風に感じていた。

 その当時はまだ、そんな人間を私は知らなかった。

616名も無きAAのようです:2013/09/19(木) 04:38:08 ID:QwDmC5Uo0

 ―――彼との会話を思い出したのは、道場から出て、身体がぶるりと震えた時だった。


(、 ;ノi|「ぐっ……」

( ノAヽ)「警視?」

(‘、‘;ノi|「気にするな。なんでもない……わけではないが、大丈夫だ」


 いる。
 そう思った。

 何がいるのかは言うまでもない。
 見るまでもない。
 私の知る数少ない「一目見て分かる異常者」があそこにいる。

 そしてあろうことか、そいつはその友人の妹だった。

617名も無きAAのようです:2013/09/19(木) 04:39:07 ID:QwDmC5Uo0
【―― 6 ――】


 門のすぐ外にそいつは立っていた。
 こちらを認識し会釈をする様を見ると「本当に見た目だけは可愛らしいな」と思う。


リパ -ノゝ「…………お手数をおかけ致します、」

(‘、‘ノi|「いや、」


 構わない、と返した。
 本心とは真逆の言葉だった。

 黒檀の如く黒い髪は短く、庇護欲を唆る可愛らしい顔立ちと小柄な体躯が相俟って中学生にしか見えない。
 身に纏った闇に溶け込む軍服がなければ、だが。
 どちらにせよ前髪とガーゼに隠されている左目とどろどろに濁った右目の所為で「普通の少女」には見えようもない。

 そして、これだ。


(、 ノi|「……っ」

618名も無きAAのようです:2013/09/19(木) 04:40:12 ID:QwDmC5Uo0

 この視認するまでもなく感じられる、向かい合えば余計に分かる、異常な雰囲気。

 武道家は殺気や敵意を気取ることができると聞くが、少し感覚の鋭い人間なら彼女の危険性は自然と理解できる。
 漂わせている鬼気と殺気が底なし沼に足を踏み入れてしまったかのような錯覚さえ起こさせる。
 底なし沼なんて入ったこともないが。

 しいて他のものに喩えるとするなら「迷宮」だろうか。
 無限回廊の暗闇に、この少女は似ている。


( ノAヽ)「……この女の子は?」


 警視のお知り合いですか?
 そういうニュアンスを含んだ問いかけに私は、


(‘、‘ノi|「軍部……諜報機関の方だ。所属が違う我々が諂う必要はないが協力はしてさしあげろ」


 とだけ答えておいた。
 怪訝そうな顔をした若い男は「はあ」と返事をし、その少女、絣はクレジットカード大の身分証明証を懐から取り出し見せた。
 事務局だか対策室だかそんなよく分からない部署が記されているそれを見、初めて彼は納得したらしく敬礼をした。


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