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ミセ*゚ー゚)リ 怪異の由々しき問題集のようです

1名も無きAAのようです:2013/04/13(土) 20:57:11 ID:WM1TjCNg0


 たとえば『人外』と聞いて人はどういうものを想像するのだろうか。
 細かな辞書的あるいは専門的定義を抜きにするのなら『怪異』や『妖怪』や『魑魅魍魎』でも構わない。
 だがにべどころか取り付く島すらなさそうな言い方である『化物』だけは私個人的には止めて欲しいものである。
 兎にも角にも今から綴られる文章はそういった世の理を外れた……
 いや存在している以上は物理法則ではなくとも何かしらの法則には基づいている。
 基づいているのだが、そんなことは健全なる読者諸君には関知し得ないことであろうことである故指摘しないでおく。
 だからつまりこれは――夜の理に生きる人以外の者々の物語。
 より正しくは人と人以外のモノの関係によって引き起こされる問題を集めたもの、ということになる。

 問題を集めた、問題集。
 フィクションではなくノンフィクション。
 フェイクではなくファクトな物語だ。



.

341名も無きAAのようです:2013/07/06(土) 22:43:05 ID:iJgDDcdQ0
【―― 6 ――】


 河原、大きな橋の下に私達を見つけて彼は「およ」なんて間の抜けた声を漏らした。


(・(ェ)・)「呼び出されたと思ってきてみれば……水無月、お前のアドレスってこと暫く思い出せなかったぜ」

ミセ*゚ー゚)リ「うん。初めてかもしれないね」


 熊谷さんにメールを送るのはこれが初めて。
 こんなものが初めてになってしまうのは、正直なんとも言えない。

 悲しかった。


 学校からは少し遠いこの河原。
 川の名前はなんて言うんだっけ、思い出せない。
 思い出す気もないけれど。

 西地区の最も東側、新都と住宅地を隔てる河川に架かった橋の下。
 それもここから南に行ったところにある人通りの多い大きな橋じゃなくて、あの橋ができるまで使われていた――つまり現在では交通の便が悪い為に使われない道路。

342名も無きAAのようです:2013/07/06(土) 22:44:05 ID:iJgDDcdQ0

 叫んでも誰も来てくれない場所で私達は向かい合う。


(‐(ェ)‐)「なんて悲しそうな顔してんだ、お前」

ミセ*゚ー゚)リ「え?」


 大柄な先輩が言った一言に耳を疑う。


(・(ェ)・)「ただでさえ不細工な顔が酷い有様だぞ」

ミセ*^ー^)リ「……酷いこと言うね」


 苦笑いしての私の返事に熊谷さんは眉間に皺を寄せて訝しむ。
 腕を組んで、目を細めて。


(‐(ェ)‐)「言い返せよ」

ミセ*゚ー゚)リ「…………」

343名も無きAAのようです:2013/07/06(土) 22:45:09 ID:iJgDDcdQ0

(・(ェ)・)「いつものお前なら、ギャーギャー言い返すはずだろ」

ミセ*-ー-)リ「……そだね」


 そういうやり取りを、よくしていたような気がする。
 でもそれはついこの間のことのはずなのにとても遠くて、靄がかかったように上手く思い描くことができない情景だった。
 もう戻ってこない風景だった。


ミセ* ー)リ「はぁ…………ふぅ」


 私は一度息を整えて、そして言った。




ミセ*゚ー゚)リ「熊谷さん……大丹生を殺したのはあなたですよね?」



.

344名も無きAAのようです:2013/07/06(土) 22:46:15 ID:iJgDDcdQ0

 ドラマなどで見ていてずっと言ってみたかった台詞。
 実際口に出してみれば、残ったのは言い知れぬ虚無感だけだった。

 熊谷さんはふぅ、と一息ついてから、


(‐(ェ)‐)「……そうだよ」


 まるで後悔しているかのような面持ちで、そう言った。


ミセ*゚ー゚)リ「言い逃れはしないんですか?」


 私の問いかけに彼は「まさか」と手を広げる大袈裟なリアクションを取って。
 一度そうしておいてから「しないさ」と呟く。


(‐(ェ)‐)「水無月。俺はお前のことを割と駄目な女と思っているが、それでも無根拠に他人を糾弾するような軽薄な奴とは思っていない」

ミセ*-ー-)リ「…………」

(・(ェ)・)「それに方法が方法だしな……」

345名も無きAAのようです:2013/07/06(土) 22:47:13 ID:iJgDDcdQ0

 右手を、上げる。
 そう言う彼の腕には濃い紫の大蛇がいた。
 あの時見たのと同じ、朧気な蛇の霊。

 大きく口を開けて私を威嚇するそれは、熊谷さんの意思など素知らぬ風で、怖かった。


(・(ェ)・)「しかしどうして俺が犯人だと分かった?」

ミセ*^ー^)リ「熊谷さん、『失ったものを懐かしむ感情』をポルトガル語でどう言うか知ってますか?」

(・(ェ)・)「いや……どう言うんだ?」

ミセ*゚ー゚)リ「『サウダージ』って言うらしいです。そう――分かんないですよね、知らないと。答えられないですよね、知ってないと」


 単語自体を知らなかった私が意識的にでも答えられなかったように。
 知ってしまっている人は、無意識でも真実を言ってしまう。


ミセ*゚ー゚)リ「熊谷さんは救急車を呼ぶ時に『友達が倒れてて、お腹を押さえて意識もないみたいで』って……」


 それと、同じ。

346名も無きAAのようです:2013/07/06(土) 22:48:21 ID:iJgDDcdQ0

ミセ*^ー^)リ「でも普通、頭から血を流している人間がいたら『頭を打ったみたいで』って言いませんか?」


 熊谷さんの言っていたことは正しかった。
 大丹生の死因は出血多量――特に内蔵からの出血が多い為のものだった。

 “けど、そんなことがあの時に分かるはずがない”

 パッと見では生死すら分からない人間を見て、そんなことを言う人はいない。
 正し過ぎたのだ。
 咄嗟に腹部のことを言ってしまったのは……他ならぬ自分自身がそれを引き起こしたから。


(‐(ェ)‐)「かもしれない。だが部屋に入ってもいない俺達なら、目に見える出血も少なかったみたいだし、ついパッと見た光景――人が腹に手を当てているのを見て……」

ミセ*゚ー゚)リ「ほら、また」


 私は続ける。

347名も無きAAのようです:2013/07/06(土) 22:49:06 ID:iJgDDcdQ0

ミセ*-ー-)リ「私の記憶が正しければ両腕とも伸ばされていましたよ。打った頭を抑えることもしないで」

(・(ェ)・)「それは扉が開いた瞬間のことだろう? その後意識を取り戻して頭や腹を抑えたのかもしれない」

ミセ*゚ー゚)リ「ありえませんよ」


 だって、その後は。
 部屋の中には大丹生以外の人がいて―――。



ミセ*゚ー゚)リ「だって右手は雨斎院先生が脈を取る為に持ってて、左手は病葉先生が抑えていたんですから」



 そう――その蛇を殺す為に。

 伸ばされた両腕はどちらも固定されていた。
 当然先生達がやるべきことを済ませた後は放されただろうけど、その頃にはもう熊谷さんは電話を代わっていた。
 頭を打った人間を動かすわけがないから弾みで戻ったはずもない。

 だから、ありえない。
 そんな発言は「最初から腹部が致命傷になると知っていた人間の勘違い」でしか、ありえない。

348名も無きAAのようです:2013/07/06(土) 22:50:05 ID:iJgDDcdQ0

(‐(ェ)‐)「参ったな……」


 犯人でしか――ありえない。

 熊谷さんは感心するようにもう一度「参った」と呟き、目を伏せた。
 天網恢々疎にして漏らさずってか、なんて自嘲するように笑って。


(・(ェ)・)「……お前、霊感ホントにあったんだな」

ミセ*゚ー゚)リ「え?」

(・(ェ)・)「なつるから聞いてたよ、幽霊が見えるって話。しかもまさかこんなモノまで知ってるなんてな……」


 自身の腕で寛ぐ蛇を見つつの一言に私は正直に答えることにした。


ミセ* ー)リ「私の力じゃないよ」


 幽霊は、確かに少しだけ見える。
 だけどそれだけじゃ今回の問題を解決することなんてできなかっただろう。

 だからこの問題を解いたのは―――。

349名も無きAAのようです:2013/07/06(土) 22:51:05 ID:iJgDDcdQ0
【―― 7 ――】


(,,-Д-)「―――『蛇蠱(へびみこ)』」


 蛇。

 爬虫綱。
 有鱗目。
 ヘビ亜目に属する生物の総称。


(,,゚Д゚)「漢字では少し難しい字を書くけど、なんて言うか、一般に言われている『憑き物』のイメージに合致する怪異だね」


 唐突に現れた第三者に熊谷さんは目を見開き驚いたが、その隣にいた少女を見て納得したように小さく頷いた。
 この問題を締め括るように登場したギコさん。
 もちろん、隣にいたのはでぃちゃんだった。
 
 きっと彼にも見えたのだろう。
 目の前の竹刀袋を携えた少女が纏う橙色の魔力と顕現している猫の耳と尻尾が。

350名も無きAAのようです:2013/07/06(土) 22:52:05 ID:iJgDDcdQ0

(,,゚Д゚)「日本のある地域に伝わる憑きもの筋で、その家系の人間が誰かに対して強い憎悪の念を抱くと蛇の霊が相手に取り憑く」


 そして最後には。
 取り憑いた人間の内臓を食い破り、殺してしまうという怪異。


(,,-Д-)「と、思うんだけど……どうかな」

(‐(ェ)‐)「その通りだよ。俺は憑きもの筋の生まれで……名前はよく知らないが、多分そうなんだと思う」


 蛇の霊。
 人を呪い殺すという怪異、蛇蠱。
 憑きもの筋。


(・(ェ)・)「なるほど、専門家がついていたのか。そりゃあバレるはずだよな」


 呪いは成就した。
 されど犯罪は完全にならず暴かれた。

351名も無きAAのようです:2013/07/06(土) 22:53:05 ID:iJgDDcdQ0

(#゚;;-゚)「あなたの罪は現在の法では立証することはできません。裁くことはできないのです」


 でぃちゃんの静かな声音が響く。


(‐(ェ)‐)「バレたら大人しく捕まろうと思っていたのに、無理なんだな」

(#゚;;-゚)「はい」

(・(ェ)・)「名乗りでても、無駄なんだな」

(#゚;;-゚)「はい。きっと誰も相手にしないのです」


 これは犯罪じゃない。
 罪ではあっても。
 人を呪い殺すという行為は罪ではあるが犯罪には成り得ない。

 自首することもできず。
 ちゃんと謝ることさえ……できない。

352名も無きAAのようです:2013/07/06(土) 22:54:04 ID:iJgDDcdQ0

( (ェ) )「それは……辛いな」


 「良かったね」だなんてなるはずがない。
 過去の行いを悔いているのに、そのことは誰からも許されない。 

 それは、なんて――罰なんだろう。


(,,゚Д゚)「……辛い?」

( (ェ) )「…………」

(,,-Д-)「そう。ならその辛い感情をどうか忘れないで」


 誰も君のことを責めてくれないのだから、せめて。
 ギコさんはそれだけを呟いて踵を返し、すれ違い様に私の肩をポンと叩いた。


 ……そうだ。
 後は私の時間なんだ。

 ここからは私だけが取り組むべき問題―――。

353名も無きAAのようです:2013/07/06(土) 22:55:33 ID:iJgDDcdQ0

ミセ*-ー-)リ「……熊谷さん。人間はその常識に応じて罪の重さが決まるそうです」


 誰も責めてくれないが故にそれは重く。
 誰も責めてくれないが故にそれは辛い。


ミセ*゚ー゚)リ「たとえ誰かが許してくれたとしても、その罪はずっと自分の心の中に残って痛み続けるんです」


 ねえ、分かっていたはずでしょう?


ミセ*゚ー゚)リ「熊谷さん。どうしてですか?」

( (ェ) )「…………」

ミセ* ー)リ「どうして、あなたは―――」


 だらりと下げられた両腕。
 蛇はもういない。

 静謐に閉じられた両目。
 光はもうない。

354名も無きAAのようです:2013/07/06(土) 22:56:17 ID:iJgDDcdQ0

 まるで彼の方が死人みたいだと私は思った。

 人を殺した人間は心が死んでしまうのだ。
 傷つけた時も同じ。
 与えた量と同じだけの傷を負う。

 そうだとしたら、一体どちらが不幸なのだろう。


 空虚な雰囲気。
 重苦しい沈黙。

 そうしてやっと彼の唇が動き出し、言葉を紡ごうとしたその瞬間だった。




ミセ;゚ー゚)リ「………………え?」




 私は。
 あの時と同じ、瞳に焼き付く赤を見る―――。

355名も無きAAのようです:2013/07/06(土) 22:57:07 ID:iJgDDcdQ0
【―― 8 ――】


 じゅぶり、という気持ちの悪い音を聞いた。
 それが気のせいだったのか、そうでないのかはもう分からない。 

 ただ覚えているのは焼きつくような赤。


(; (ェ) )「っ……ぁ……」


 掠れた声。
 搾り出したような。

 熊谷さんの腹部――背後から刀で一突きにされたその場所から滝のように流れ出る血液の赤。
 次いで口。
 刃は内蔵を貫通したのだろうか、それが抜かれた瞬間に熊谷さんは血を吐いて、赤く染まりつつある河原に倒れた。

 どさり、と。


(; (ェ) )「ぁ…………」

ミセ;゚ー゚)リ「え、あう――くまがや、さん……?」

356名も無きAAのようです:2013/07/06(土) 22:58:04 ID:iJgDDcdQ0

 意味が分からない。
 意味が分からない。

 なんだこれは。
 なんだこれは。

 だって今まではちゃんと話ができていて、熊谷さんも反省していて、それで―――!




『…………当たり前なことなのですが、後から反省するくらいならば人なんて殺さないでください、』




 ぐちゃぐちゃな思考の中で聞こえる飴玉を舌先で転がすような甘い声。
 でも朴訥に、抑揚もあまりなく、そして蚊の鳴くような声のそれは狂気に満ちていて。

 いや違う。
 これは。
 狂気じゃなく――“凶器”。

357名も無きAAのようです:2013/07/06(土) 22:59:04 ID:iJgDDcdQ0

(;゚Д゚)「でぃちゃんっ、救急車っ!!」

(;#゚;;-゚)「はい……!」


 それこそ無駄ですよ、と彼女が言う。
 私は助かるような殺し方はしないので、と彼女は言う。


 そこに立つ彼女。

 ……私と同じくらいの年か、それより下か。
 華奢で可愛らしい顔立ちからは年齢を読み取ることはできないが、前髪の奥から除く片目を隠した眼帯はただならぬ雰囲気を醸し出す。
 うなじが隠れるくらいの長さの黒髪は黒檀のように黒く、風に揺れていた。

 妖刀のような魔性、鬼気。
 間違いなく人間であるはずなのに、まるで人間らしくもなく。




リパ -ノゝ「…………表向きの法では裁けなくとも、罪悪は雪がれる運命です、」

358名も無きAAのようです:2013/07/06(土) 23:00:04 ID:iJgDDcdQ0

 大きく刀を振り、血を飛ばしたことで眼帯をしている方の瞳はまた髪に隠れた。
 けれど私を見ている――捉えているのか分からない、墨汁を煮詰めたようなどろどろとしたその目は、変わらなかった。


(,, Д)「ユキ……ちゃんっ……!」

リパ -ノゝ「…………お久しぶりです。一年ぶりくらいでしょうか、」


 怒りに満ちた表情のギコさんが彼女――「ユキ」と呼ばれた少女を睨みつけた。
 デタラメに長い刀を持ち、軍服のような黒い制服を来た少女。
 熊谷さんを刺した女。

 背後から一突きにされた熊谷さんの顔は見たこともないほどに蒼白。
 ハンカチで傷口を押さえたくらいでは血は止まらない。


ミセ*;ー;)リ「熊谷さん! しっかりしてくださいっ……!」


 必死で呼びかける私も何処かで分かっていた。
 理解して、しまっていた。
 ぐったりと倒れ伏したままの彼がもう助からないということを。

359名も無きAAのようです:2013/07/06(土) 23:01:05 ID:iJgDDcdQ0

 だって。



リパ -ノゝ「…………まったく。左目も見えず、右手も自由に動かないのでは上手く人も殺せません、」



 あそこにいる女は――死神なのだから。

 さながら底なし沼。
 一度飲まれたが最後、二度と出ることは叶わない。

 罪が消えないことを暗示するような、そんな。


(# ;;-)「殺すことは……なかったでしょう……。何も、殺すことは……」

リパ -ノゝ「…………今回で三人目だったそうです。呪殺という手段の悪辣さを見れば死刑は妥当だというのがこちらの判断です、」

(# ;;-)「っ!」

360名も無きAAのようです:2013/07/06(土) 23:02:06 ID:iJgDDcdQ0

 女の言葉が終わるのも待たずでぃちゃんは勢い良く竹刀袋から日本刀を取り出し、抜き放って構える。
 両の瞳が猫そのままに縦に裂け、狐火のような呪力が渦を巻く。


リパ -ノゝ「………………やりますか?」


 対し、長刀を構えることさえしない女は相変わらずの朴訥な口調で続けた。


リパ -ノゝ「…………私としては構いませんが、人斬りに殺意を向けるというのがどういう意味かはご存知ですよね、」

:(# ;;-):「……っ」

(,,-Д-)「でぃちゃん」

:(# ;;-):「でも、私は……っ!」

(,, Д)「―――でぃちゃん!」


 カラン、と。
 ギコさんに乱暴に肩を掴まれ揺すられて、その手から刀が落ちた。
 そして崩れ落ちるようにでぃちゃん自身も膝をつく。

361名も無きAAのようです:2013/07/06(土) 23:03:05 ID:iJgDDcdQ0

 威嚇のような、嗚咽のような。
 唸り声を残して。


リパ -ノゝ「…………何かご用件がある場合は最寄りの窓口までどうぞ、」


 そうして彼女は罪人に背を向け。 
 一瞬だけ、ちらりと倒れたままの熊谷さんを見て。


リハ -ノゝ「………………見積もって後二分。遺言はご自由に、」


 それだけを言って、そして。



リパ -ノゝ「それでは運が悪ければまたお遭いしましょう」



 もう二度と会わないことを私は祈っています、と。
 そんな風な一言を言い残し、刀も納めぬままで去っていった。

362名も無きAAのようです:2013/07/06(土) 23:04:05 ID:iJgDDcdQ0
【―― 9 ――】



 因果応報……だよな


 そんなことない
 だって、ちゃんと後悔して、反省してたじゃん


 関係ないって
 それに聞いただろう?
 もう、三人目だから……


 ……それでも
 それでも、だよ
 何人とかは関係ないよ、やり直そうと思えたら……


 駄目だって、もう
 いや最初から駄目だったのかな……

363名も無きAAのようです:2013/07/06(土) 23:05:14 ID:iJgDDcdQ0

 そんなことない
 そんなこと、絶対ないから


 水無月
 お前は勘違いしてるよ
 俺はそんなにいい奴じゃないんだよ
 大丹生もな
 こうして殺されることになって良かったかもしれない
 全部お前に知られずに済むんだから
 お前にもなつるにも、話さないでいいんだから


 …………


 「どうして」とか「なんで」とか訊くな
 知るとお前が傷つくだけだ
 アイツは死んだ、俺も死ぬ……それでいいじゃないか


 良くないよ

364名も無きAAのようです:2013/07/06(土) 23:06:13 ID:iJgDDcdQ0

 いいんだよ
 俺達のことなんてさっさと忘れろ


 忘れるなんてできないよ
 だって
 二人がどんなに悪い奴だったとしても、私達にとっては優しい先輩だったんだよ?
 私達にとってはただの素敵な先輩だったんだよ?
 忘れられるわけないじゃん


 それでも忘れろ
 無理してでもいいから忘れろ


 …………


 ああ、そろそろか
 目蓋が重い
 眠くなってきた……

365名も無きAAのようです:2013/07/06(土) 23:07:05 ID:iJgDDcdQ0

 最後だから言っといてやるけどな、俺はお前のこと憎からず思ってたよ
 なつるも同じだ
 いっつも馬鹿にして酷いこと言って……悪かったな


 気にして、ないよ……


 ……そっか
 安心した―――



 ………………熊谷さん?



.

366名も無きAAのようです:2013/07/06(土) 23:08:04 ID:iJgDDcdQ0
【―― 10 ――】


ミセ* ー)リ「…………そうだよね」


 なんで忘れていたんだろう。
 なんで覚えていられなかったんだろう。

 こんな――当たり前なことを。


ミセ* ー)リ「人が死ぬと、悲しいんだ」


 恋人が死ぬのも。
 親友が死ぬのも。
 先輩が死ぬのも。

 たとえ、ほんの一年くらいの付き合いの奴でも。
 一度言葉を交わした誰かと二度と会えなくなるのは悲しいんだ。

367名も無きAAのようです:2013/07/06(土) 23:09:04 ID:iJgDDcdQ0

ミセ* ー)リ「バッカみたいだよねー……私」

 
 そのことをちゃんと覚えていられたら。
 そしたら、もっと。

 ……もっと?

 どうしたって言うんだ。 
 どうすれば良かったんだろう。
 分からない。

 ああ、でも。


ミセ* ー)リ「…………いいよね」


 考える時間は、ある。
 いくらでも。

 これからの人生全てがその時間。

368名も無きAAのようです:2013/07/06(土) 23:10:04 ID:iJgDDcdQ0

 だから、さ……。



ミセ*;ー;)リ「今だけは、何も考えずに泣いても……いいよね……?」



 夕陽に照らされる世界。

 本当に世のことはままならないんだなあ、なんて。
 当たり前なことを思いながら、日が沈み切るまで私は子供のように泣いていた。

 名前も知らない川辺では芹が静かに揺れていた。






【――――そこまで。第五問、終わり】

369名も無きAAのようです:2013/07/06(土) 23:11:10 ID:iJgDDcdQ0


この話の原案を書いたのは多分一年以上前なんですが、冷静に読み返してみると色々な作品から影響受けてるなーと思います。
今期でやってる作品では『空の境界』のあるシーンを思い出させるような……というかミセリが諸に引用してますね、劇中の台詞を。

第五話はこれで終わりです。
一応。
この続きはまた近いうちに投下したいと思います。

370名も無きAAのようです:2013/07/06(土) 23:16:30 ID:Feu6dmxM0

一応ってことは続くのな、最初の天使のシーンも気になる

371名も無きAAのようです:2013/07/06(土) 23:27:16 ID:6fiERVXY0

続き待ってる。

372名も無きAAのようです:2013/07/07(日) 00:06:08 ID:KgUxIeKQO
雪最高!雪最低!


乙。

373名も無きAAのようです:2013/07/07(日) 03:05:36 ID:FOBxL5ZQ0
【―― 11 ――】


 学校の屋上だった。
 時刻にして六時半過ぎだった。
 二人の人間。

 ぼくと――その人。


 そして見透かしたような笑みで、会長は告げる。




「――――犯人は、お前だ」




 ……ぼくは。

 逃避も。
 弁解も。
 謝絶も。

374名も無きAAのようです:2013/07/07(日) 03:06:20 ID:FOBxL5ZQ0

 無意味で。
 無駄で。
 無価値だと知りながらも、それでも。

 精一杯の虚勢。
 やっとのことでいつもの笑みを作って返事をした。




*(‘‘)*「私が? 何の犯人だって?」




 会長は微笑んだままだ。
 憎らしいほどに整った顔立ちは今日は素直に不愉快だ。


「この期に及んでよく言うね」

375名も無きAAのようです:2013/07/07(日) 03:07:03 ID:FOBxL5ZQ0

 まったくだ。
 自分でもそう思う。


「まさに『言わせんな、恥ずかしい』だよ――沢近さん」


 微笑を嘲笑に変えて会長は続けた。




「君が軽音部の部長のナントカ君――自分の彼氏を殺した犯人だって、僕は言っているんだよ?」


.

376名も無きAAのようです:2013/07/07(日) 03:08:02 ID:FOBxL5ZQ0
【―― 12 ――】


 はあ?
 被害者の彼女が犯人?

 俺と同じく大学から研修にやってきていた友人、病葉トソン。
 この名探偵気取りの女子はあの呪いによって引き起こされた殺人事件の犯人は二人いたと言った。
 一人目はもちろんあの蛇を遣わした人間で、そしてもう一人が―――被害者の彼女。

 ぶっちゃけよく顔も覚えていないあの少女が……犯人?


(-、-トソン「プギャーさん、これは推理小説読みとしては当たり前な教養みたいなものなのですが……」

(;^Д^)「はあ」

(゚、゚トソン「『密室殺人』というものが物語で出てくる際に一番着目すべきなのは、言わずもがな『密室を作って得をする人間は誰なのか』なんです」

( ^Д^)「それは……そうでしょうよ」


 少し考えてみれば分かることだが、そもそも普通は密室なんて作らない方が良いのだ。
 だって、そりゃそうだろう。
 密室の中で誰かが死んでいる状況――事件性がないわけがない。

377名も無きAAのようです:2013/07/07(日) 03:09:03 ID:FOBxL5ZQ0

 室内で誰かが死んでいて、その部屋の窓が開いていたなら外部犯や物取りの犯行と考えることができる。
 だがそこが完全な密室の場合はそうはいかない。

 要するに『見るからに事件っぽい』のである。


( ^Д^)「でもですよトソさん。今回の場合は結果的に密室になってるだけで、別に密室でもなんでもないじゃないスか」

(-、-トソン「はい。部員全員が一つずつ鍵を――“with me(今持っている)”でこそないですが“have(所有している)”の意味では――持っていたわけですからね」


 でもだからこそですよ、と彼女は続ける。


(゚、゚トソン「たとえばあそこで他の部員の子どちらかが鍵を持っていた場合、持っていない女の子はまず疑われずに済むでしょう?」

(;^Д^)「あー……まあ」


 結果的にどちらも持っていなかったから意味がなかったが、まあ確かにそうだ。
 そうだけど……。

378名も無きAAのようです:2013/07/07(日) 03:09:53 ID:FOBxL5ZQ0

(-、-トソン「おそらくは部長の子が受けていた嫌がらせも彼女の仕業でしょうね。部屋に閉じ篭りたくなるように仕向けたんですよ」

( ^Д^)「いや、だとしても。だとしてもですよ? 今回の事件は呪いによるものじゃないですか」

(゚、゚トソン「蛇はいましたね」

( ^Д^)「まさかその女の子が憑きもの筋の人間を唆したー、とか言いませんよね?」


 それもあるかもしれませんが、と彼女は一旦言葉を切って。
 そして、もっと確実で直接的な方法も並行して行われていますよ、なんて微笑みながら言う。


(゚ー゚トソン「ところでプギャーさん。私、あと一つ二つ用事が終われば今日は帰りなんですが、何か食べに行きませんか? ユッケとか」 

(;^Д^)「はぁ? いや、俺ユッケ食べたことなくて……」


 それ以前に、なんかいきなり話飛んだぞ。


(-、-トソン「ならば是非とも食べに行きましょう。きっと美味しいですよ」

379名も無きAAのようです:2013/07/07(日) 03:11:02 ID:FOBxL5ZQ0

( ^Д^)「“きっと”?」

(゚、゚トソン「私は食べたことありませんからね。そして今日も食べるつもりはありません。もう沈静化しましたが、一時期危ないと言われていましたし」

(;^Д^)「っ――じゃあなんで誘ったんスか!? 無責任だn(-、-トソン「……そういうことですよ」


 もう一度彼女は繰り返す。
 ゆっくりと。
 言葉を噛み締めるように「そういうことですよ」と。


(゚、゚トソン「多分、あの女の子はそういうことを繰り返していたんです」


 そういうことを。
 何を?


(-、-トソン「プギャーさん。『未必の故意』――という言葉をご存知ですか?」

380名も無きAAのようです:2013/07/07(日) 03:12:03 ID:FOBxL5ZQ0
【―― 13 ――】


「知っての通り、僕は生徒会長なんだけど」

*(‘‘)*「その生徒会長さんは今日の部活はどうしたんですか? 弓道部でしたよね、確か」

「今日は休みの日だよ――って、もー口を挟まないでよね」


 随分と勝手なことを言ってから、会長は「でね」と閑話休題をする。
 子供らしい所作。


「僕は生徒会長に就任した時に――つまり去年の秋に――視察として一度全部の部活を見て回ったんだよ」


 それは……初耳だ。
 『一人生徒会』というアダ名は伊達ではないらしく、この会長は呼ばれる通りに一人で生徒会だったらしい。
 たった一人で全ての生徒会活動をほぼ完璧と言えるレベルで執行している。

 この学校では基本的に春と秋の二回に生徒会選挙があり、別名『歩く校則』のコイツは今は二期目。
 去年の秋ならおそらく就任直後のことだから、予算編成の為だったのだろう。


「それで、今日も一度見てきた」

381名も無きAAのようです:2013/07/07(日) 03:13:03 ID:FOBxL5ZQ0

 会長は微笑みながら続ける。


「いつの間にか随分と綺麗になってて……模様替えでもしたのかと思っちゃったよ」

*(‘‘)*「…………」

「聞いた話だと君がしたんだってね、大掃除。彼氏が部長だからってそんなに頑張ることもないと思うんだけど」 


 ぼくが、した。
 あの部室の掃除。


「お疲れ様。それで一つ訊きたいんだけどさ……」


 小首を傾げ、そして。



「―――どぉして君は部室をあんな風にしたのかな?」

382名も無きAAのようです:2013/07/07(日) 03:14:02 ID:FOBxL5ZQ0
【―― 14 ――】


 『未必の故意』――とは法学上の用語で、結果の実現が不確実ながらそれを容認した状態のこと、だ。
 それだけではイマイチ伝わりづらいが、俺がこの知識を仕入れた時と同じように――つまりは推理小説風に説明すれば幾らか分かりやすくなるだろうか。

 ――踵の折れやすくなったヒールを履かせること。
 ――落ちやすそうな場所に連れていくこと。
 ――食中毒になりそうな食べ物を冷蔵庫の中に置いておくこと。

 そういった風に、必ず起こる犯罪結果ではないけれど恣意的にそれを行い、また起こりうる結果を容認したことを「未必の故意」なんて呼ぶ。
 あるいはもっと直接的に『未必の殺意』と。
 狙った相手が死ぬ確率を高めることによって長期的に、偶然を作用させて殺人を成功させること。

 こういう犯罪は犯人を捕まえることどころか犯罪として立証すること自体が難しい。
 だってヒールをプレゼントすることもデートで高台に行くことも相手の家に賞味期限の切れそうな食品を置いておくことも、どれも犯罪ではないし、故意かどうか分からないのだから。

 蓋然性犯罪やプロバビリティーの犯罪と呼ばれる「殺意の証明が極端に難しい殺人行為」――完全犯罪に最も近い殺人。


(-、-トソン「―――たとえば、」

383名も無きAAのようです:2013/07/07(日) 03:15:03 ID:FOBxL5ZQ0

 トソさんは、語る。


(゚、゚トソン「どうしてアンプはあんな所に置いてあったんでしょうね? あそこに置いちゃうとソファーに座った時に足が伸ばせないのに」

( ^Д^)「どうしてって……座ってベースを弾きたかったんじゃないですか?」

(-、-トソン「なら、アンプ自体に座って練習すればいいじゃないですか。実際プロのミュージシャンなどはよくそうしていますよ」


 楽器が置いてあったのは向かって左側だった。
 なのに何故アンプだけはソファーの前に置いてあったのか。


(゚、゚トソン「他にも――ティーセット。どうしてあんな高い場所に収納してあったんでしょう」


 女性にしては身長の高いトソさんでも、頭の位置。
 百七十センチ近くある彼女が踏み台に乗って、やっと安定して取れるような場所に割れやすいカップを収納していた理由。


(;^Д^)「う……でも、俺の家も食器は割と高い位置にありますし」

(-、-トソン「そうですね。ですが私がカップを仕舞うとしたらまず間違いなく出入り口近くのケトルが置いてある棚にすると思いますけどね」

384名も無きAAのようです:2013/07/07(日) 03:16:01 ID:FOBxL5ZQ0

 そう言えば、ケトルは扉のすぐ横の小さい棚の上だった。
 その棚に何があったのかは覚えていないが、でも確かにあの棚に収納した方が勝手が良い。 


(゚、゚トソン「あとは机もおかしいですよ。あの大きさの部室に長机を、それも真ん中に二つ並べて置いちゃったら、多分練習の度に机を端に寄せることになります」

( ^Д^)「そう言えばちょっと狭かったような……」

(゚ー゚トソン「カップと一緒に置いてあったチョコの瓶だって毎日食べると分かってるんだから机の上にでも置いておけばいいのに。ね?」


 そうでないならば、せめて一番下の棚に置けば良い。
 今はまだ大丈夫だろうが……夏になれば、熱は上に溜まりやすいのだから、あんな高所にあるとすぐに傷んでしまうだろう。
 普通、お菓子は涼しい場所に仕舞う。

 流し台の下にある戸棚とか、そこら辺にだ。


(-、-トソン「一番おかしいのはあの踏み台ですよ。ただでさえ狭い部室で、どうしてパイプ椅子がそこにあるのに、壊れそうな古い踏み台が必要だったのか」


 一々椅子を動かすのが面倒だったのかもしれない。
 だから踏み台を持ってきた。
 だが面倒ならわざわざステップが必要な場所に普段使うものを置かなければ良い。

385名も無きAAのようです:2013/07/07(日) 03:17:02 ID:FOBxL5ZQ0

 ……不必要だ。
 あんな、体重の軽いトソさんが乗っても軋むような、危ない踏み台は。

 何処かから持って来る必要なんてなかった。


(゚、゚トソン「あれが部員全員での大掃除の結果でああなっているのなら、『頭が悪いなあ』という笑い話で済むんです」


 少し不便で。
 結構危ないけれど。
 別に使えないわけではないのだから。

 だけど―――。



(^ー^トソン「あの部室の模様替えが誰か一人によるものだった場合――『踏み台に乗っている時にバランスを崩して机かアンプに頭をぶつけて死んでくれ』と、言わないばかりじゃないですか?」



 それが一人の手によるものならば。
 そこには明らかに殺意があった。

386名も無きAAのようです:2013/07/07(日) 03:18:02 ID:FOBxL5ZQ0
【―― 15 ――】


 故意の不在証明。
 殺意の不在証明。


*(‘‘)*「……そうね。掃除したのは私だし、配置を変えたのも私だよ」


 だけど。
 殺意も故意も――あったことは証明できない。

 それが恣意的な行為であることは、誰も。


*(‘‘)*「けどそれはそれだけの行為でしかないし、第一そこまで上手くいくとは思えないよ」

「……そうだね」


 手近な場所に硬いものを置いておいたとして。
 踏み台が古いものだったとして。
 そして何より、それらが全て殺意によるものだったとして。

 狙った相手が丁度よい具合にバランスを崩して頭を打つだなんて、そんな都合の良いことが起こるだろうか?

387名も無きAAのようです:2013/07/07(日) 03:19:11 ID:FOBxL5ZQ0

「三人の部員の中で君の彼氏は一番小柄だから踏み台を使う確率は一番高い」

*(‘‘)*「大柄な熊谷君ならまだしも、なつる君だって百七十くらいだから横着しなければ踏み台は使うと思うけど?」

「それもその通りだよ」


 会長はずっと笑ったままだ。
 にやにやと。
 へらへらと。

 ……気持ちが悪い。
 吐きそうだ。

 事件の話をしていたら吐き気がぶり返してきたらしい……。


*(‘‘)*「それだけならもう帰っていい? ちょっと具合が悪くって……」

「うん、だろうね。恋人が死んじゃったんだから」


 だけど、と言って会長は続けた。


「その前に――その、君の近くに置いてある僕の鞄を取ってくれないかな?」

388名も無きAAのようです:2013/07/07(日) 03:20:03 ID:FOBxL5ZQ0
【―― 16 ――】


 そうかもしれない、と思う。
 あの部屋の掃除をした彼女ならわざと危険な配置にすることはできた。

 けれど「出来過ぎだろ」とも思うのだ。


( ^Д^)「いや今話してくれたことはそれっぽいですけど、ちょっと説得力が足りませんね」

(゚ー゚トソン「そうですか?」


 てっきり言い返すと思っていたが、トソさんは簡単に引き下がった。
 代わりに、


(-、-トソン「話は少し逸れますが……そこにある私の鞄を取ってくれませんか?」


 と言った。

389名も無きAAのようです:2013/07/07(日) 03:21:02 ID:FOBxL5ZQ0

( ^Д^)「え? ああ、いいっスけど」


 特に断る理由もなかったので、足元に置いてあった彼女のバッグ。
 何故か俺の足元に置いてあるそれを俺は「なんで廊下でずっと話し込んでるんだろうなあ」とか「もう薄暗くなってきたなあ」とか思いつつ持ち上げ。

 その瞬間に、思わず小首を傾げた。


( ^Д^)「……ん?」


 それなりに膨らんでいる肩掛けの鞄。
 なのに、妙に軽い。
 拍子抜けしたというか、驚いてしまった。


(-、-トソン「―――驚きますよね、そういう時って」

(;^Д^)「え?」

(゚、゚トソン「中身が入っていると思ったものを持ち上げて、それが思いの外軽かったり重かったりした時」

390名も無きAAのようです:2013/07/07(日) 03:22:10 ID:FOBxL5ZQ0

 水が入ってると思って空のヤカンを持ち上げてしまった時のような、そんな。
 

(-、-トソン「さて、では」


 この鞄が、もしも。
 あの部室にあったアレが、もしも。

 自分のものだったとしたら――俺はどうしただろう。



(゚、゚トソン「もしもその鞄が自分のものだったとしたら――あなたはどうしましたか?」



 入っているはずのものが入っていないということ。
 きっと俺は――いや大抵の人は。 
 今のように小首を傾げて、機嫌が悪い時なら舌打ちでもしながら、すぐに中身を見るだろう。

 “たとえそこが不安定な踏み台の上であっても”―――。

391名も無きAAのようです:2013/07/07(日) 03:23:14 ID:FOBxL5ZQ0
【―― 17 ――】


「…………そうだよ。今君がそうだったように、驚いちゃうんだよね」

*(;‘‘)*「っ……」


 ああ――決まりだ。
 この人は、全部見抜いている。

 ぼくの様子がおかしいとか、ぼくの過去がどうだとか、そういう理由じゃない。
 ぼくがやった仕掛けのことを見抜き、だからこそ犯人だと言ったんだ。


「どうしてあの日、あの時の現場にはガラスの破片があったのにチョコは一つもなかったのか」


 気持ち悪い。
 気持ち悪い。

 キモチワルイ。

392名も無きAAのようです:2013/07/07(日) 03:24:05 ID:FOBxL5ZQ0

「まさか、誰かが食べちゃったのかな? そう言えば出血も少なかったよね?」


 全身が震える。
 小刻みに。
 必死に平静を保ってきたのにここに来て……!

 くそ……っ。
 落ち着け、大丈夫だから。

 その仕掛けがそうだったとしても―――。


「結局ね、あの曇りガラスの瓶の中には最初からチョコは入ってなくて、だから―――」

*(#‘‘)*「いい加減にしなさいよ!!」


 誤魔化せ。
 はぐらかせ。
 証拠なんて何処にもないんだから、逆切れして有耶無耶にしてしまえば済むことだ―――!

393名も無きAAのようです:2013/07/07(日) 03:25:03 ID:FOBxL5ZQ0

*(#‘‘)*「チョコを抜いたのが私だって、どうして証明できるって言うの!?」

「……できないよ」

*(#‘‘)*「できないでしょ!? アンタの話は所詮推測だ!!」

「……うん」

*(#‘‘)*「彼が転んで頭を打ったのだって蜂が彼を刺したのだって――私が関わっていた証拠なんてない!!」


 ―――そこまで啖呵を切ったところで唐突に会長は笑い出した。
 弾けたように、思い切り良く。



「あはははっ! あはっ、はははっ!! あははははははっ!!!」



 滑稽だと言わんばかりの。
 おかしくて仕方がないと言うような。

394名も無きAAのようです:2013/07/07(日) 03:26:10 ID:FOBxL5ZQ0

 哄笑。
 巧笑。
 世界の果てまで響くような悪魔の如き笑い声―――。


*(#‘‘)*「何がおかしいって言うの!!?」

「はははっ! まだ気がつかないのかなぁ!?」


 指を指して、笑われる。
 心底馬鹿にしたように嘲笑われる。


「ねぇ、沢近さん……いくらなんでも昨日の今日で事故が報道されたりなんか、しないよねぇ? いやしちゃうのかなあ?」

*(#‘‘)*「は……?」

「まだ警察もいちおー調査中だし? 先生達だって、生徒を刺激しないように言われてるだろうし……ねぇ?」


 気持ち悪い。
 気持ち悪い。

395名も無きAAのようです:2013/07/07(日) 03:27:17 ID:FOBxL5ZQ0

 何が言いたいんだ、コイツは―――!?


「良いこと教えてあげよっか♪」


 そうして悪魔のように好戦的で、天使のように蠱惑的で、人間のように狂気的な満面の笑みを湛えたソイツが言った。




「君の彼氏の死因はね、スズメバチに刺されたことによるアナフィラキシーショックなんかじゃなく――原因不明の内臓破裂らしいよ?」




*(;‘‘)*「え……?」

「内蔵がぐしゃぐしゃになっててね、それで血圧が下がってショック状態になったんだって。頭からの出血もあったしね」


 嘘……?
 嘘だそんな。

396名も無きAAのようです:2013/07/07(日) 03:28:07 ID:FOBxL5ZQ0

 そんな馬鹿な。


「ねぇ、じゃあ犯人じゃない沢近さん。君さっき『蜂が彼を刺したのだって〜〜』って言ってたけど……何処から蜂なんて要素が出てきたの?」

*(;‘‘)*「あ……う……」

「あははっ。新聞で見たとか言わないでよ? 刺してない以上そんなこと報道されるわけないし」

*(;‘‘)*「それは……あ、ま、窓を割った時に……逃げてくのが、見えて…………」

「へぇ? ああ、そっか。蜂を逃がす為に割った窓はそういう風な言い訳にも使えるんだ、なるほどぉ――でもさ、」


 気持ち悪い。
 気持ち悪い。


「一般的に蜂が活動するのは秋で、スズメバチが羽化するのは早くても七月の終わりくらいらしいよ? 今梅雨入り前なんだけど……どぉ思う?」


 ……いるはずがない。
 野生の蜂なんているはずがないんだ。

397名も無きAAのようです:2013/07/07(日) 03:29:22 ID:FOBxL5ZQ0

 あ、う……あ……。


「残念だったねー、沢近さん。毎日消費期限が切れかけの食品を使ったお弁当を作ってきて、フグとかサバとか当たればヤバいものを食べに行ったりして」

*(;‘‘)*「あ、ああ……」

「学校歩く時だって湿気て滑りやすいところとか……あ、彼がよく通る階段近くに雑巾置いたりもしてたよね?」

:*(;‘‘)*:「うあ、あああ……」

「極めつけは香水だよー。香水って蜂の警報フェロモンと同じ成分が含まれてることがあるらしいけど、効果なかったねっ♪」

*(; )*「―――うわああああああっ!!!」


 気持ち悪い。
 気持ち悪い。
 気持ち悪い気持ち悪いキモチワルイ―――!

 違う違う違ぼくはあんな奴どうでも良くて違う違うただの仇で違う違う違う違うそうじゃない、違う―――!!

398名も無きAAのようです:2013/07/07(日) 03:30:03 ID:FOBxL5ZQ0

 屋上の扉を開けて。
 嘲笑を背に走る。
 階段を落ちるように降りて。
 逃げ惑うように走り。
 転んで。
 すぐに立ち上がって。
 必死で。
 走って。
 廊下のその角を曲がって―――。


*(;‘‘)*「―――きゃっ!?」

(^ー^トソン「おや、大丈夫ですか? 廊下を走ると危ないですよ?」


 踵を返す。
 反対方向に。
 走る。
 謝りもせず。
 あれは誰だっけ。
 ぼくは誰だっけ。
 何がしたかったんだっけ。

399名も無きAAのようです:2013/07/07(日) 03:31:02 ID:FOBxL5ZQ0

 走る。
 気持ちが悪い。
 吐きそう。
 垂れた涎が余計に不快感を煽る。
 廊下を曲がる。
 階段。
 早く帰らないと。
 何処に?
 家に?
 何をしに?

 ―――その時。




*(;‘‘)*「…………えっ?」




 何かを、踏んで。
 それで滑って。

 え嘘でsy

400名も無きAAのようです:2013/07/07(日) 03:32:05 ID:FOBxL5ZQ0
【―― 0 ――】


「―――あははっ♪ 人間の首って、階段から落ちただけでもあんなに曲がっちゃうんだねっ」


 首をあらぬ方向に曲げた後輩を見て愉しそうに笑う生徒会長。
 それに僅かな恐怖を覚えながらも「ああアレは無理だ」なんて冷静に分析している自分がいて。

 本当に、もう。
 何年経とうが何処にいようが何をしていようが。
 どうやら私の本質はずっと変わらず人でなしの人殺しであるらしい。

 それは吐き気のするような醜悪な事実だけれど――でももう受け入れたことだ。
 私は人を殺さない殺人鬼、それだけだ。


(-、-トソン「(まあ、それで分かったわけですし……)」


 少し前に、校門でこの子を見た時に分かった。
 「ああ、人を殺そうとしているんだな」ってなんとなく。

401名も無きAAのようです:2013/07/07(日) 03:33:06 ID:FOBxL5ZQ0

 相も変わらず、私はそういう類の人間を直感的に分かってしまうらしい。
 だから『鬼札』だの『死神』だのと呼ばれている。
 名探偵にならない限りは必要のない、人の悪意を感じ取る技術。
 あの蛇を遣わした男の子もそこそこの憎悪を持っていたみたいだけど、どうなったんだろうか。

 ま、どうでもいいか。


(゚、゚トソン「しかし、何を言ったんですか。この子さっき出会った時半狂乱でしたよ」

「あは♪ 何も言ってないよ――言う前にどっか行っちゃったし」


 一つの理由もなく、僅かな決意もなく、あらゆる過去もなく、万別の大義もなく、あるべき意識もない。
 屈託のない、あどけない笑みを漏らして。


(-、-トソン「どうせ酷いことを言ったんでしょう。知っていますか? 犯罪者にも人権というものがあって……」

「わざわざこっちに誘導した君に言われなくないけどね」

(゚、゚トソン「…………」

「酷いことするよね、わざわざトラップが仕掛けられたままの階段に行くように仕向けるなんてさ」

402名も無きAAのようです:2013/07/07(日) 03:34:03 ID:FOBxL5ZQ0

 確かに―――。
 私があそこにいなければ……いや、いたとしても廊下の途中だったなら、彼女は普通に私の横を通り過ぎていただろう。
 けど曲がり角で出合い頭にぶつかってしまって、つい方向を変えてしまった。

 それで自分の仕掛けた罠に引っかかり、こうして死ぬことになった。
 だからそこの彼女がこうなっているのは私のせいもあるかもしれない。



(-、-トソン「ですが――それこそ殺意の不在証明、未必の故意ですよ。私は歩いていただけなんだから」



 歩いているだけで罪ならば、人間は皆犯罪者だ。 
 歩いているだけで人を殺してしまうことはあるだろうけれど、やっぱりそれは罪に問われない。

 「人を殺したい」と思いながら歩いていたとしてもそれは同じくだろう。


(-、-トソン「……それに、それを言うならわざわざここだけ雑巾を置いたままにしたあなたも相当悪辣です」

「偶然だよ。こういうことは結構な頻度であるから僕だって回収し切れないんだ。保健委員会の清掃部門や掃除婦さんも仕事してくれてるんだケド……」

403名も無きAAのようです:2013/07/07(日) 03:35:04 ID:FOBxL5ZQ0

 僕も見回りは毎日してるんだけど、と呟くように言う。
 思えば私の高校でもたまにゴミが落ちていたりしたけれど、いつだっていつの間にかなくなっていた。
 生徒会の人が拾ってくれていたのだろうか。

 もしそうならば私は知らず知らずのうちに守られていたことになる。
 階下で目を見開き横たわっている彼女が示してくれたように、人間が死ぬ可能性は何処にでもあるのだから。


(゚、゚トソン「……そうだ」


 ふと思い、腕時計を見て時間を確認する。
 まだもう少しあの友人には待っていてもらうことにしよう。


(゚、゚トソン「会長さん、そもそもあなたは人を殺すことをどう思いますか?」

「え?」


 あのミセリという子にもした質問。

 蛇を遣わしたあの子なら、どう答えただろうか。
 そして死を世界に望んだあの子なら、どう答えたのだろうか。

404名も無きAAのようです:2013/07/07(日) 03:36:03 ID:FOBxL5ZQ0

「人を殺すということは人を殺すということでしかないと思うケド……『誰かの世界が狭くなること』くらいじゃないかな?」

(-、-トソン「なるほど。そうかもしれませんね」


 誰だって、誰かの世界を構成する一要素。
 意味合いは違えど、一つの欠片。

 人と出会う度に個人の世界は否応なしに広がって、別れを経験する度にその世界は狭くなる。
 少しずつ、少しずつ。

 彼がいなくなって。
 彼女がいなくなって。
 彼や彼女を知る誰かはどう思うのだろうか。

 ミセリという優しい少女は大丈夫だろうかと少しだけ気になった。


「んじゃ、僕からも質問なんだけどね」

(゚、゚トソン「はい」

「もし君がそこの女の子を殺すとしたら、それはどうして?」

405名も無きAAのようです:2013/07/07(日) 03:37:11 ID:FOBxL5ZQ0

 殺すとしたら、か。

 人を殺そうとした罪に対する罰、そんなものでは勿論ないのだろう。
 私は人が人を殺すことを容認している。
 それはコミュニケーションの最小で同時に最大、人間が人間である為に欠かすことのできないものだから。

 でも―――。


(-、-トソン「私達はこの学校の授業を見学させてもらったりもしていました。私が主に交流したのは三年生のクラス……理系進学科の子達で、」


 そして、そのクラスには。
 アキレス腱が切れたせいで選手生命が絶たれた生徒がいた。

 それは階段から落ちたせいらしくて、だから。


(゚、゚トソン「私は一生懸命な人が好きです。それはなんでも――たとえ憎しみによる殺人行為だとしても」


 けど。

406名も無きAAのようです:2013/07/07(日) 03:38:03 ID:FOBxL5ZQ0


(-、-トソン「それがなんであれ、自分の為だけに無関係な他人を犠牲にしても良いと思っているような人間は……大嫌いなんですよ」



 私がそこの女の子を殺すとすれば。
 きっとそんな些細な、けれど重大な理由なのだ。


「……ふぅん、そう」


 会長さんは満足気に笑った。
 今までの蠱惑的で悪魔の笑みではなく、思わず漏れてしまったような清々しい笑みだった。
 可愛らしい、笑顔だった。

 もう一度、腕時計を見た。
 ……いい加減友人を待たせておくのも悪い。


(゚、゚トソン「では私は失礼します。あとはよろしくお願いしますね、会長さん」

「んー……あ、最後に二つだけ教えてよ」

407名も無きAAのようです:2013/07/07(日) 03:39:04 ID:FOBxL5ZQ0

 そして小首を傾げてその子は言った。



「どう考えても殺す為だけの関係だったのに、なんでそこの女の子は――――あの時、あんなに悲しそうな顔をしてたのかなぁ……」



(、 トソン「……それは、」


 それは――きっと。

 たとえ、復讐の為の偽りの愛だったとしても。
 それが恋ではなく、故意でしかなかったとしても。


(-、-トソン「きっと分からなくなっちゃったんですよ――好きなのか、嫌いなのか」

「……え?」


 閉じた世界の彼女の恋。
 彼女は起こりうる結末を容認していたのだろうか。

 ―――密室の恋を。

408名も無きAAのようです:2013/07/07(日) 03:40:10 ID:FOBxL5ZQ0

(゚、゚トソン「最初は殺す為に近づいたのに、ずっと同じ時間を過ごすうちに……好きになっちゃったんですよ、きっと」


 あの沢近という子が行ったのはプロバビリティーの犯罪だ。
 スズメバチを仕込むだなんて殺意が疑われる行動なんてしなくても続けていけばいつかは目標を達成できたはずなのだ。
 それなのに何故、危険を犯してまで直接的な方法を取ったのか。

 それは多分、彼に早く死んで欲しかったから。
 時間が経つと憎しみが薄らいで、時を経るごとに好きな気持ちが強くなってしまうから。

 きっと彼女自身は分かってなかった。
 最後まで。
 だけど私はそう思うのだ。


「そんなこと、ありえるの?」

(-、-トソン「ありえますよ」


 自分の心なんてものは自分が思っているほどには思い通りにならないものなのだ。
 特に恋の場面では。

 私はそれをよく知っている。

409名も無きAAのようです:2013/07/07(日) 03:41:10 ID:FOBxL5ZQ0

 そうだ、誰だって誰かの世界を構成する一要素。
 人は一面的な存在ではなく、どこまでもどうしようもなく多面的な存在。

 ならば憎いはずの仇の違う面を好きになることも――あるだろう。

 あってしまうだろう。
 それが不幸なのか幸福なのかは分からないけれど。
 分かりようが、ないけれど。


「ふぅん……。結局世の中はままならないんだね」

(-ー-トソン「そうですね」


 本当に、この世の中は。
 人を馬鹿にしてるみたいに、上手くいかない。


(゚、゚トソン「それでもう一つの質問は? なんですか?」

「ああ、それはついで。時間気にしてたみたいだけど今から何処行くのかなー、って」

410名も無きAAのようです:2013/07/07(日) 03:42:05 ID:FOBxL5ZQ0

 なんだ、そんなことか。




(-、-トソン「―――今から友達と夕御飯を食べに行くんですよ。焼肉屋に、ユッケを」

「…………え。君、死体を見た後に焼肉って……図太いって言うか――罰当たりだね」




 放っておいてくれ。






【――――第五問、本当に終わり】

411名も無きAAのようです:2013/07/07(日) 03:43:07 ID:FOBxL5ZQ0


 「心すら 心に叶ふ ものならず」


【歌意】
(「心に叶う」なんて言い回しがあるけれど)この心でさえも、私自身の思い通りになるものではないのだ。

【語法文法】
『心』は現代語と同じように主に「精神」「感情」を意味する。
続く『すら』は類推や強調の意味の副助詞。今回は「…でさえも」という風に強調として訳している。
『心に叶ふ』は『心(名詞)』『に(格助詞)』『叶ふ(ハ行四段活用の動詞)』なのだが、一つのフレーズとして覚えてしまえば良い。
これは「思い通りになる」「思うままにできる」という意味である。
次の『もの』はそのまま「物」として良いだろう。
最後の『ならぬ』は断定の助動詞『なり』の未然形に打消の助動詞『ず』の終止形が付いたもの。
古文での「なり」の識別は難しいが、体言若しくは連体形に接続されているものは十中八九断定の「なり」である。
今回の場合だと「だ・である(断定)」+「ない(打消)」で「ものではない」ということ。

【特記】
参考にした歌は前回と同じく離別歌「命だに 心にかなふ ものならば なにか別れの かなしからまし」。
正確には、この歌を知り作者が抱いた感想を二つに分けたものが四話と五話の和歌もどきである。

私達は「思い通りになる」なんて言い回しを当たり前に使うが、考えてみれば、自分の思いこそが最も思い通りにならないものなのかもしれない。
百人一首に納められた和歌の多くは悲恋を詠ったものである。
恋をしてはいけない相手に恋をせずにいられたならば、恋の歌がこんなにも多く現代にまで残ることはなかっただろう。

412名も無きAAのようです:2013/07/07(日) 03:44:04 ID:FOBxL5ZQ0

『天使と悪魔と人間と、』とのリンクネタ。
・この話でトソンが触れている「水川芹亜」という少女が、向こうの第十話でハルトシュラーが持っていた写真に写っている先輩。
・トソンが非情なのはその水川芹亜の調子が悪くなっているから。「生きたくても生きられない人もいるのに、無関係な人を巻き込んでも構わないなんてふざけるな」ということ。
・彼女が話した「アキレス腱が切れたせいで選手生命が絶たれた生徒」が神宮拙下(ハロー=エルシール)。


というわけで『怪異の由々しき問題集』第五話でした。
この作品には希望を持たせた終わり方をする向こうとは違って、結構切なかったり辛かったりする結末の話が多い気がします。



あ、二話連続でエロがなかったので、要望が多ければ追加で書きます

413名も無きAAのようです:2013/07/07(日) 04:23:36 ID:.YO4ntNw0

トソンの神経は図太いな。
行動をすれば何らかの形で結果として帰ってくる。今回の場合は悪因悪果。
罪を受け入れてやり直すことも許されない。
そう考えるとやるせないです。

414名も無きAAのようです:2013/07/07(日) 10:43:16 ID:YjiWjqz60
書いて欲しいぶひ

415名も無きAAのようです:2013/07/07(日) 22:00:04 ID:v/c0oOhY0
おつ
上手く言えないけどひきこまれるんだよなぁ
エロまってますよ

416名も無きAAのようです:2013/07/07(日) 22:47:05 ID:y7jAf2Vw0
わっふるわっふる!

417名も無きAAのようです:2013/07/07(日) 23:43:59 ID:KgUxIeKQO
色なしさんがエロ書きたいなら、書けば良いと思うけど、
色なしさんの作品のキャラはエロで見て、素敵に見えるタイプではない気がする
エロが見えない方が結果的にエロく見える感じと云うか

418名も無きAAのようです:2013/07/10(水) 00:26:01 ID:awHQ3Esk0



 第四問&第五問。
 模範解答。



.

419名も無きAAのようです:2013/07/10(水) 00:27:11 ID:awHQ3Esk0

・《蛇蠱(へびみこ)》
 「ジャコ」とも呼ばれる香川県に伝わる蛇の憑き物の一種。
 この家系のものが特定の相手に憎悪の念を抱くと相手に蛇が取り憑いて苦しみだし、最後には内蔵を喰われ殺されるという。
 かつて海岸に長持が流れ着き、何人かの村人たちの間で取り合いになった。
 やがて公平に中身を分配しようと長持を開いたところ、中から無数の蛇が出それぞれの家に入り込みやがてこれが蛇蠱の家系となったとされる。

 人に危害を加えることの多い蛇の憑き物の中でもかなり直接的なことをする。
 そのせいなのか、香川県の一部のみの伝承であるのに割と有名。


・《憑きもの筋》
 日本の民間信仰の一つで、特定の霊を使役する家系のこと。
 その霊は総称として『憑き物』と呼ばれ、財宝を盗み家を裕福にしたり他人に危害を加えたりするという。
 大まかな分布図では東北では飯綱系、関東では尾裂狐系、中国四国地方では蛇蝎系。
 他の呪術と違って大きな準備が必要ないことが特徴でお供え物をするだけ、あるいは勝手に主の意思を読み取り行動するものが多い。

 民俗学的観点では病や富裕の差など理解困難な何らかの事象をどうにか理論的に理解しようとした結果として生み出された概念とされている。
 そういった経緯があるせいか、憑きもの筋は移住者の家系が圧倒的に多くまた差別の対象になりやすい。
 その他、詳しい解説は柳田國男など民俗学者の本を参照されたし。

420名も無きAAのようです:2013/07/10(水) 00:28:30 ID:awHQ3Esk0

・《プロバビリティーの犯罪》
 日本語に直した場合は『蓋然性犯罪』と呼ばれる。
 犯罪結果の実現が不確実ながらそれが実現されることを理解し行ったもの――つまり刑法における未必の故意を満たした犯罪の総称。
 たとえると「消費期限の切れた食品を冷蔵庫に置いたままにしておく」のような犯罪。

 より正しくは罪を定義することや罪に問うことが極端に難しい為に“犯罪”にはならないことが多い。
 探偵殺しで警察殺しな最も完全犯罪に近い犯罪行為。


・《未必の故意》
 認容説的定義においては「結果の実現が不確実ながらそれが実現されうることを理解しかつ認容した場合」のこと。
 逆に、予測こそしていたが容認はしていない場合は『認識ある過失』と呼ばれて区別される。
 後者であれば罪に問われない、というわけではないが罪の重さは全く違う。


・《アナフィラキシーショック》
 アレルギー反応の一つ。
 外来抗原に対する過剰な免疫反応が原因で毛細血管拡張を引き起こしショックに陥る症状のこと。
 蜂毒、食物アレルギー等が主な原因。

 対処法としては救急車を呼び、所持している場合は即座に自己注射薬を打つ。 
 最悪の場合には死に至るので本人以外に周囲も気を付けてあげた方が良いだろう。

421名も無きAAのようです:2013/07/10(水) 07:44:55 ID:gmKTa7Ko0
鵺の尾ともいうね。
長持ではなくて、ウツボ船だったとも。

422名も無きAAのようです:2013/07/11(木) 02:23:39 ID:PNLoOR3.O
この作品面白いな、エロはいいからこのままの路線を

423名も無きAAのようです:2013/07/27(土) 21:00:51 ID:ENCj2HLk0




 落書き。 
 益体もない些細な出来事。

 「でぃの一日 平日編」





.

424名も無きAAのようです:2013/07/27(土) 21:02:02 ID:ENCj2HLk0
【―― 0 ――】


「―――この日常が一番大切だー、って言うケド、そんなの当たり前だよね」


 会長にしては珍しく普通のことを言ったなあ。
 そんな風に思う私を後目に彼女は続けた。


「どんな非日常であっても続いていけば日常になる――だとしたら、『日常』は人生を形作る一番の要素で、それが大切じゃないわけがない」

ミセ*゚ -゚)リ「え……あ、確かにそうですね」


 と思ったら、やはり会長は会長で、普通のことなんて言わなかった。

 でも言われて見れば確かにそうなのだ。
 『日常』と言った場合に、私が思い浮かべるのは学校に行ったり帰って遊んだりする日々だけど、人によって『日常』なんて違う。
 何処かに旅行に行く度に事件に遭遇する漫画の探偵みたいな人がいたとしてもその人にとってはそんな日々が『日常』だ。

 私は誰かが誰かを殺したり、殺されたりするような『日常』は素直に嫌だと思う。
 そういうのは漫画の中だけで十分だ。

425名も無きAAのようです:2013/07/27(土) 21:03:02 ID:ENCj2HLk0

 だけど、例えば殺人事件を捜査する刑事さんにとっては死んだ人と殺した人に出会い続けるのが『日常』で。
 私なんかは『日常』と聞いて沢山の退屈と少々の刺激を連想して、そしてそれが嫌いじゃないんだけど、そんな人ばかりじゃないんだ。

 毎日のように誰かから蔑まれるいじめられっ子の日常は――『日常』であり同時に『地獄』だ。

 そんな『日常』に帰りたいなんて思えるはずがないし、私のように安心するとかなんて、いやポジティブな印象なんて何一つも抱けないだろう。
 ……そう言えば、あのライトノベルの変わった名前の主人公もそんなことを言われていた気がする。
 どんなに稀有で貴重な『非日常』だって、続いていけば、それはその人にとっての『日常』へと変わってしまうのだと。


ミセ*-ー-)リ「だとしたら『日常が一番大切だ』なんてぶっちゃけ勝ち組の台詞なんですね」


 結局のところ「日常って大切だなあ」と言えた二次元の登場人物達は皆幸せだった。
 幸せだった間には、日常に浸っている頃には気付けなかっただけで。
 「日常が大切だ」という台詞は、とても遠回しな勝ち組宣言でもあるのだろう。
 辛く苦しい日々が『日常』だった人々も存在するのだから。

 そして会長が言ったことで何より最悪なのが、どんな『日常』であれ大切だということだ。
 『日常』の大切さには幸不幸は全く関係ないと彼女は言っている。

 残酷なほどに美しく、嘲笑するように笑いながら。

426名も無きAAのようです:2013/07/27(土) 21:04:04 ID:ENCj2HLk0

 私達は、一瞬一秒の積み重ね。
 それまでの日々の集大成として現在の私達が存在する。

 だったら私達を構成する必要不可欠な要素は『日常(過去)』で――それが大切でないわけがない。


ミセ*゚ー゚)リ「望むと望まないに関わらず、幸不幸なんて関係なく、『日常』は大切なモノ」

「『日常』を大切に思えない人間は二種類しかいないと僕は思うよ。一つは、そんなことにも気付かないお馬鹿さんじゃないかな」


 ……学生の身には心に刺さる言葉だった。

 いや分かってるんですよ?
 今勉教しないと、受験の時に困るって。


ミセ*゚ー゚)リ「ちなみにもう一種類は? もう一つの方はなんなんですかぁ?」


 その事実から目を逸らすかのように私は訊いた。
 会長はなんてことはないように答えた。

427名も無きAAのようです:2013/07/27(土) 21:05:05 ID:ENCj2HLk0

 その――悲しい事実を。



「この日々の積み重ねが自分になると理解しながら大切に思えないんだから、結局、自分のことが大切じゃない人でしょ」



 ……なるほど。
 道理だ。
 そしてこれはこれで心に突き刺さる言葉だった。

 だとしたら私は幸福なのだろう。
 毎日がそれなりに楽しく、でぃちゃんに出逢って変化した日常も好きだと言える私はきっと。


ミセ*-3-)リ「会長や……それにでぃちゃんの『日常』は、どうなんでしょうね。会長はどう思っていますか?」

「決まってるじゃん。僕は僕のこと好きだから、毎日が大切だよ。君の友達に関しては僕以上に決まってるじゃん」


 そうして会長は屈託なく笑って言った。


「あの二人は今、幸せな『非日常』にいるんだから」

428名も無きAAのようです:2013/07/27(土) 21:06:04 ID:ENCj2HLk0
【―― 1 ――】



 ―――午前六時過ぎ


 カーテンの隙間から溢れる光が朝を知らせる。
 そろそろ起きないと、と比較的真面目な自分が思う一方で心の奥の甘えた私は「起きたくない」と駄々を捏ねている。

 理由は二つある。
 一つは単純に私が朝が苦手だから。
 もう一つは、今日は自分の部屋で寝ているからだ。


 私の部屋とご主人様の部屋は分かれている。
 この少し手狭な一室は勉強机や制服が置かれた私の私室。

 ご主人様の部屋には、彼が仕事をする為の机や、大きなベッドなどが置かれている。
 二人が一緒に寝るのは次の日が休みである時や行為に及んだ後。
 普段は、こうして別々の部屋で寝ている。
 ここに住み始めることになった際、私は同じ部屋が良いと言ったのだが、スペースの関係や「女の子なんだから私室くらい必要」という彼の意見や諸々で、今のようになってしまった。

 要らない気遣いなのにと当初は思っていたが、実際に住み始めてみると別の部屋で良かったかもしれないと考えることもある。
 ご主人様には絶対に見せたくないような行為――例えばお化粧などをしている時には特にそう思う。

429名も無きAAのようです:2013/07/27(土) 21:07:04 ID:ENCj2HLk0

 けど、それでも。


(# ;;-)「…………寂しい」


 甘えたくなるような匂いや。
 僅かに聞こえる心臓の音や。
 抱かれると心地良い体温が。
 感じられないということ。

 あの人が近くにいないことが堪らなく、寂しい。
 こうして一人で眠る度にそう思ってしまう私はきっと我が儘なのだ。


(# ;;-)「私は、我が儘なのです……」


 でも。
 我が儘な子だと思われても良いから。
 一緒に眠りたいと、思う。 

 私が「今日は一緒に寝たい」と言っても、きっと勝手に布団に潜り込んでも、ご主人様は怒らない。
 だけどそういう我が儘ができないのはそれ以上に嫌われたくないと思っているからだ。

430名も無きAAのようです:2013/07/27(土) 21:08:18 ID:ENCj2HLk0

 我が儘な子だと思われても良いから、一緒に寝て、抱き締めて、愛して欲しい。
 でも、それ以上に――嫌われるのは嫌だから。

 だけど。 


(# ;;-)「今夜は……一緒に寝たいのです……」


 目覚めたばかりなのに夜が暮れてからのことを思ってしまう自分がちょっと可笑しい。
 本当に私は、寝ても覚めても、考えるのはご主人様のことばかり。
 あの人の方もそうだったら、嬉しい。

 今日は勇気を出してお願いしてみようと考えて、笑ってしまう。
 ……私は馬鹿だ。



(* ;;-)「…………早く起きれば、それだけすぐにご主人様に会えるのです」



 どうやら少し、寝惚けていたようだ。

431名も無きAAのようです:2013/07/27(土) 21:09:18 ID:ENCj2HLk0
【―― 2 ――】



 ―――午前六時二十分


 私は毎朝シャワーを浴びることにしている。
 目が覚めるし、何よりご主人様とは綺麗な姿で会いたいから。

 ……一度怠ったことがあったのだが、寝癖が付いたままになっていた。
 朝食の時に非常に恥ずかしい思いをした。
 同じ轍を踏むまいと、それ以降は毎朝ちゃんとお風呂へ行くことにしている。

 もう今となっては日課の一つだ。


(* ;;-)「ん……」


 風呂場から出て、タオルで髪の水分を拭き取る。
 昔は髪が長くなかったので手入れも楽だったが今は少し大変だ。
 さらさらした髪を維持するのは手間がかかる。
 でも、私を抱き寄せて頭を撫でる度に「気持ち良い」や「綺麗だよ」とご主人様が褒めてくださるので、暫くは長いままにしようと思っている。

432名も無きAAのようです:2013/07/27(土) 21:10:20 ID:ENCj2HLk0

 でも、と脱衣所の鏡の前で思案を巡らす。
 折角ここまで伸びたのだから、ポニーテール以外にも何か別の髪型にしてみても良いかもしれない。

 ミセリさんに訊いてみようかな。
 ファッションのことにはかなり詳しいそうだから。
 一方で私は流行りには疎い。
 一応女子高生なのに。

 それでも、毎朝毎晩自分の体重を計るくらいの女の子らしさは持っている。


(;#゚;;-゚)「……行きます」


 少し前からちょっとずつ体重が増えてきているので、体重計には声に出して自分を鼓舞しないと乗れない。
 身体に巻いているバスタオルを取るかどうかで悩むくらいだ。

 そうして私が意を決して足を踏み出した瞬間。


(,,-Д-)「…………あ、」

(#// -/)「ひ――ゃぁぁぁあっ!!」

433名も無きAAのようです:2013/07/27(土) 21:11:04 ID:ENCj2HLk0

 脱衣所のもう一つの扉、廊下へと通じるドアがスライドして開かれた。
 入って来たのは勿論、私のご主人様だ。

 あんなにも会いたかった人なのに、今ばかりは勘弁して欲しい。

 幸運にもご主人様は私が何をしようとしていたかは気付かなかったらしい。
 はしたない叫び声を風呂上りを見られて驚いたと解釈したようで「ごめんね、でぃちゃん」と謝ってくる。
 裸なんて何度も見せているから今更なのに、こういうとぼけたところは昔と変わらない。


(;-Д-)「いきなり、ごめんね……」

(#゚;;-゚)「大丈夫です。気にしないで欲しいのです」

( * Д)「ごめん……」


 と。
 私の身体を隠していたタオルが落ちた。

 後ろからご主人様に抱き締められたことで結び目が解けてしまったようだ。


(#// -/)「ん……。どうし、たのですか……?」

434名も無きAAのようです:2013/07/27(土) 21:12:03 ID:ENCj2HLk0

 ああ。
 駄目だ。
 さっきは「裸なんて何度も見せている」と言ったけど、やっぱり……恥ずかしい。

 目の前の鏡には生まれたままの姿の私と、それを後ろから抱き締めるご主人様が映っている。
 こうして見ると、濡れた髪も、雫が滴る胸も、上気した頬も、何もかもがいやらしく感じてしまう。

 まるで――こうされる為の下準備としてお風呂に入ったみたいだと。


(;* Д)「最近、でぃちゃんがどんどん可愛くなってて……。いや前から可愛かったんだけどさ……」


 私を抱く力が少し増した。
 耳元で囁かれると、それだけで気持ち良い。


(;* Д)「可愛いなって思って……。ねぇ、でぃちゃん」

(#// -/)「なんですか……?」


 心臓の鼓動が、おかしくなっている。

435名も無きAAのようです:2013/07/27(土) 21:13:04 ID:ENCj2HLk0

 壊れてしまいそうなほど早く脈動している。
 好き、好き、好き。
 そんな言葉を繰り返してるみたいに。

 ご主人様は言う。


(;* Д)「チューしても、いい……?」


 こういうところは草食系で、気を使ってばかりだ。
 だから私はいつものようにこう返す。


(#// -/)「……勿論です。私は、あなた専用なのですから……」

(;* Д)「ありがとう。好きだよ」


 そうして、ご主人様は私の頬に口付けた。

 唇じゃないのですか?
 そんな風に言い掛けていた唇をご主人様の唇が塞いだ。

436名も無きAAのようです:2013/07/27(土) 21:14:11 ID:ENCj2HLk0
【―― 3 ――】



 ―――午前七時


 ……ああいう時のご主人様の自制心は心から尊敬する。
 とても男の方とは思えない。

 ご主人様は優しく甘く長いキスを終えて、「朝からごめんね」と恥ずかしそうに脱衣所を出て行ってしまった。
 今日は平日なので学校へ行かなければならない私を気遣ってくれたのだろう。
 ありがたいけれど、衝動に任せて滅茶苦茶にして欲しかったとも思ってしまうはしたない私も心にはいて。

 それよりも二人きりで、お風呂上りで、裸で……そんな状態で自制されてしまうと、女として少し自信を失ってしまう。


(#゚;;-゚)「(昔からそうなので気にしませんが。いつものことなのです)」


 トーストにバターを塗りながら自分を納得させる。
 色っぽい展開にはならないまま、いつも通りの朝食風景だ。

 ミセリさんには以前に意外と言われたが、私達の朝は大抵パンとサラダだ。

437名も無きAAのようです:2013/07/27(土) 21:15:05 ID:ENCj2HLk0

 私もご主人様も日本的な朝ご飯を作れるのだが、どちらも朝は苦手だ。
 それにどちらもこうしてゆっくり過ごす方が好きなので比較的簡単な食事になることが多い。
 学校へ持って行くお弁当は昨日の内に大体作ってある。

 どちらが準備するとは特に決まっていないので早く起きた方が朝食の支度をすることになっている。
 今日は、私が着替えている間にご主人様が準備してくださっていた。

 そのご主人様は、今は小さく切ったトーストを口に運びながらニュースを見ている。
 この人は昔からパンを千切って食べる癖があり、これはその名残りらしい。
 沢山の月日が流れて、変わったことも沢山あるけれど、それでも昔と変わらない部分が残っているのは何処か微笑ましい。


(,,゚Д゚)「……ん。どうしたの、でぃちゃん」

(* ;;-)「いえ」


 少し悩んで私は言った。


(* ;;-)「ご主人様も……カッコ良くなられました。そう思っただけなのです」

438名も無きAAのようです:2013/07/27(土) 21:16:08 ID:ENCj2HLk0
【―― 4 ――】



 ―――午前八時前後


 朝の心地良い空気を楽しみつつ自転車を漕ぎ、学校に辿り着くのは毎朝大体八時前くらい。
 昼間の喧騒が嘘のように静かな校内を歩いて二年文系進学科十一組の教室へと向かう。

 とは言っても、昼間よりも静かなだけ。
 練習を行っている部活も多いので、何処か遠く、中庭辺りからサックスの音が届いたりもする。
 校内を大きく回るように走っているのはバスケットボール部だろうか。

 そんなことを考えながら私達の教室がある校舎へと入り、階段へと向かう。


(#゚;;-゚)「(今日もいらっしゃるのです)」


 そこで、いつものように階段を上り降りする人影を見つけた。
 最初は驚いたが、毎朝のことなのでもう慣れっこだ。

 その二人は階段を走ったり、一段ずつ飛ばして上ったり、一歩一歩確かめるように下りたりしている。

439名も無きAAのようです:2013/07/27(土) 21:17:02 ID:ENCj2HLk0

 何か部活の練習かと思っていたが、そうではないと最近分かった。
 一人は学校していのジャージにシャツ姿で、もう一人は普通の制服だからだ。
 服装に統一感もなく、号令に合わせて行っているわけでもなさそうなので個人的な訓練なのだろう。

 制服姿の一年生が長袖を腕捲りして階段を軽快に上って行く。
 その場に残ったラフな格好の一年生に私は挨拶をする。


(#゚;;-゚)「おはようございます」

(  ・ω・)「おはようございます。いつも邪魔して申し訳ないです」

(#゚;;-゚)「いえ、邪魔になってなどいません。そんなことはないのです。ところでいつも何をなされているのですか?」


 なんとなく、訊ねてみる。
 つぶらな瞳をした濃い焦げ茶色の髪の少年は答える。


(  ・ω・)「インターバルトレーニングです。足腰……特に爪先を鍛える為に。本当は砂浜や山地が良いんですけど」

(#゚;;-゚)「そうですか。通りで……」

440名も無きAAのようです:2013/07/27(土) 21:18:03 ID:ENCj2HLk0

 パッと見ではただ育ちの良さそうなだけに見えるが、よく観察すると相当に鍛錬していることが分かる。
 ただ筋力がある、脚が速いというのではなく、何か一つの為に練り上げられた強さ。
 とても静かで大人しいが――その下には鋭い剣気が伺える。

 多分、この人は私と同じ。
 刀を使う人間だ。


(  ・ω・)「……良かったら、朝比奈先輩もご一緒にどうですか?」

(#゚;;-゚)「いえ。申し出は嬉しいですが、遠慮させて頂くのです」


 これでも飛んだり跳ねたりは得意なのです。
 半分は猫ですから。

 そう返そうかと考えて、やめておく。
 ただの冗談。
 ごく普通に別れを告げて階段を普通に上り始めた。

 それにしても、この学校には才能や能力を持った人間が多い。
 私も一度、剣道部の方々に稽古を付けてもらうと勉強になるかもしれないと思った。


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