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( ´_ゝ`)デザート×キャラバンのようです(´<_` )

1名も無きAAのようです:2012/11/23(金) 19:46:34 ID:tFLjG.4M0
ラノベ祭り参加作品

113名も無きAAのようです:2013/02/20(水) 20:07:02 ID:UWFaEmzk0





( ´_ゝ`)デザート×キャラバンのようです(´<_` )





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114名も無きAAのようです:2013/02/20(水) 20:07:44 ID:UWFaEmzk0





そのさん。  弟者は砂塵を駆ける




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115名も無きAAのようです:2013/02/20(水) 20:08:39 ID:UWFaEmzk0


――その昔、世界は魔王に支配されていたという。


人が生まれ、育ち、死ぬ。それよりもはるかに長い間、魔王による治世は続いた。
人間でたとえるならば十数代、精霊でたとえるならば生まれ一人前に育つまでの年月。
それだけ続いた魔王の統治はある日、唐突に崩れ去る。

勇者の出現。
彼の勇者が何者だったのかは、今となってはわからない。
人間だったのか、精霊だったのか、幻獣だったのか、魔族だったのか。
男か女かもわからないその何者かが、仲間とともに魔王を討ち取ったのが今から数十年前。

そして、魔王を倒した勇者は何処かに消え、世界には平和が戻った。
めでたしめでたし……といいたいところだが、現実は少し違っていた。

魔王によって長らく続いた支配は、世界から流通というものをことごとく奪い去っていた。
勇者の出現を恐れた魔王は人から船を、馬車を、そして、空を飛ぶための発明を次々と滅ぼした。
かつて一つの国によって統治されていたという世界は、魔王により小さな町や都市ごとに分断された。

そして、魔王の死後、人々はようやく流通の自由というものを取り戻した。
そこから先は、流通経路を手に入れたものがのし上がる、大交易時代の始まりだ。


兄者と弟者の暮らす、"流石"の街もそうして作られた街の一つ。
彼ら双子の母、母者=流石は砂漠を通り東と西をつなぐ経路の一つと、流通の要となる街をつくったことでのし上がった。


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116名も無きAAのようです:2013/02/20(水) 20:10:39 ID:UWFaEmzk0

ひび割れ、水気のほとんどない大地を双子は進む。
視界に映るものはことごとくが土色の世界。そこでは、たまにお目にかかる植物でさえも茶色に煤けている。
ここはまだかろうじて土も植物もあるが、もう少し先へと進めば、そこに広がるのは本格的な砂丘だ。


(´<_`;)「暑いな」


振り返れば、先程までいた懐かしの街と、池の姿。
こうして一歩踏み出して見れば、砂と岩石しか見えない荒地に立つ“流石”の街は、奇跡のような場所だ。


( ´_ゝ`)「ちぇー、ラクダよりもドラゴンがよかったー。
      俺のピンクたん……」

(´<_` )「まだ言っていたのか」


のそりのそりと歩くラクダに揺られながら、兄者は一人つぶやく。
街を出た直後は若干危なげな手つきであったが、今ではすっかり乗りこなしている。
たまにラクダの首筋に手をやり、「荒巻がんばれよー」などと声をかけて機嫌をとっている。


( ^ω^)「アニジャはずっとそうだおー」

(´<_` )「……」

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117名も無きAAのようです:2013/02/20(水) 20:12:07 ID:UWFaEmzk0

( ´ω`)「……オトジャー、そろそろブーンともお話してほしいおー」

(´<_` )「……」


風に乗りながら飛び回るブーンの言葉を聞き流しながら、弟者はマントのフードを深く被り直す。
太陽が支配する乾ききったこの大地では、脱ぐよりもゆったりとした衣装を纏ったほうがかえって涼しい。
弟者はフードの下にできた影に人心地つきながら、精霊というものはこの暑さの中でどうして平気なのだろうかと考える。


('A`)「ムダムダ。そこの冷血人間に話しかけるだけ、無駄なこった」

(;^ω^)「えー、でもオトジャだってアニジャと同じなんだから、今は無理でもトモダチになれるはずだおー」

('A`)ノ「はぁ? 兄者とあの弟者のどこが同じだって?
     あいつ、ものすげぇ冷血非道極悪暴力鬼畜弟だぜ」


Σ('A`;)⊂(´<_` )ガシッ


∩(´<_` )ポイッ               l l l
                        ('A×)アベシ



(;´_ゝ`)「ドクオーー!!!!」(^ω^;)

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118名も無きAAのようです:2013/02/20(水) 20:14:08 ID:UWFaEmzk0

(´<_`; )「やはり暑いな……」

(;´_ゝ`)「いや、それよりも他に言うことがあるよな! な!」


ラクダの頭上に着地したドクオを問答無用で投げ飛ばし、弟者はため息を付いた。
市場で時間をとったために、日はかなり高く昇ってしまっている。
このままでは一日で一番暑い時間を砂漠で過ごすことになりそうだと、弟者は半ば憂鬱な気持ちになる。


( ^ω^)「大丈夫かお?」

('A`)「オレ飛ぶの苦手なんだから、ラクダの頭に座ったって別にいいじゃねぇかよ」

(;´_ゝ`)「ほれ、ドクオこっちに来い。荒巻ちゃんの頭なら空いているぞ」

(;'A`)「でもオレがそっちに座ったら、ブーンが」

( ^ω^)「おっおー、ブーンは飛ぶから平気だお!」


弟者が憂鬱になる一方で、同行者たちはのん気なものだった。
先ほど投げ飛ばされたドクオは、ブーンに手を引っ張られてへろへろと飛んでいる。
たしかに本人の申告の通り、ドクオは飛ぶのが得意そうではない。あちこちを楽しそうに飛び回るブーンとは対照的である。


(*^ω^)「ブーンは風に縁があるから、もともと"飛ん"だり"飛ば"したりすることは得意なんだお」

(*´_ゝ`)「へー、じゃあドクオは?」

('A`)「……」

( ´_ゝ`)「ドクオ?」

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119名も無きAAのようです:2013/02/20(水) 20:16:29 ID:UWFaEmzk0

(゚A゚)「どうせ俺の領分は影ですよ!
   夜とか闇とかみたいにかっこよくないし。そもそも影って、影って!」


(*´_ゝ`)「おお、影とは涼しくなっていいではないか!」

(*'A`)「え? え? なにそれ」

( ^ω^)「ドクオはとっても後ろ向きだからほめられ慣れてないんだおー」


あいも変わらず賑やかな兄者と、精霊二匹。
その光景に兄者だけではなく、自分も馴染みつつあることが、弟者は気に食わない。


(´<_` )「まったく、兄者は」

( ´_ゝ`)「どうした?」

(´<_` )「別に」


ブーンやドクオと話している時の、兄者はたいそう楽しそうである。
別に、ブーンたちに限った話ではない。
物心ついた頃から兄者は、こういった普通の人間には見えない生き物や化物と呼ばれるたぐいの存在が好きだった。

――たとえば、ちょうど目の前を飛ぶ透き通った魚。
これなどいかにも兄者が好きそうではないかと、弟者は思い……


Σ(´<_`;)「――って、何ぃ!!!」

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120名も無きAAのようです:2013/02/20(水) 20:18:12 ID:UWFaEmzk0

空飛ぶ透き通った魚。
そんな話は聞いたことがないし、目にしたこともない。
しかし、弟者の目の前を、身をくねらせて泳ぐのは、確かに魚だった。


(*´_ゝ`)б「弟者、見ろ! 何か変なものが!」

(´<_`#)「そんなものなどいない! 魚は飛ばない! 透明じゃない!」

(;´_ゝ`)「えー、やっぱ見えてるじゃないか」


('A`)「あれはお前さんのお仲間か?」

(;^ω^)「んー、多分そうだおー。風の領域のお仲間だと思うお」


兄者は目を輝かせて、なんとか魚を捕まえようと手を伸ばす。
弟者は手にした鞭でそれを妨害しながら、元凶らしい生物の姿を睨みつける。


(´<_`#)

(;'A`)「おい、めっちゃ弟に睨まれてんぞ。ブーン」

( ^ω^)ノシ「わーい、オトジャがこっち見たお!」


(;'A`))「おいやめろ。むしられるか投げられるぞ!」

.

121名も無きAAのようです:2013/02/20(水) 20:20:09 ID:UWFaEmzk0


(*´_ゝ`)「いやぁ、砂漠なんてめったに出ないが、出かけるというのは楽しいものだな」

(´<_` )「俺は最悪な気分だ」


ラクダは空飛ぶ魚など見えないように、進んでいく。
そもそも見えていないのか。それとも、見えていたとしてもどうでもいいのか。
兄者は何度も振り返っては、魚の姿を名残惜しそうに眺めている。


( ;´_ゝ`)∩「俺の鈴木ダイオードちゃんが……」

(´<_`#)「名前をつけるな。それといくら振り返っても無駄だぞ」

( ^ω^)「鈴木? ダイオード?」

(;'A`)「……ひどすぎんだろ、名前」


ヾ(#´_ゝ`)ノシ「拾ってもいいじゃん、弟者のケチー。
          あと、ドクオ! 俺の考えたかっこいい名前がひどいとはこれいかに」

('A`)「え? かっこいいの、あれ?」


兄者が普通ではない生き物や化物が好きなためか。
それとも、兄者が普通ではない生き物や化物に好かれるのか。
兄者とともに行動すると、普通ではめったに見かけることの出来ない生き物に遭遇することが多い。

それが、無害なものであるのならばいいが。
――そうでないことも多いのが、現実である。

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122名も無きAAのようです:2013/02/20(水) 20:22:13 ID:UWFaEmzk0

(´<_` )「……ケチで結構」

( ´_ゝ`)「んー、どうした弟者?」


弟者はラクダを走らせる。
先ほどの魚から離れようとするかのように、ラクダに鞭を入れ速度を上げていく。
それを見た兄者が、慌てて弟者を追いかけはじめ、ブーンがそれに続く。
一方、兄者のラクダの上に座っていたドクオは残念なことに地に落ちかけて、あわててはい上がっていた。


(;´_ゝ`)「ちょ、早い、早いって!」

(´<_` )「……」

( ´_ゝ`)「おい、急にすねるなってー」

(´<_` )「すねてない」

(;´_ゝ`)「すねてるじゃないか!」


兄者の大声での問いかけに、弟者は言葉少なにしか応じない。
ただでさえ豊かではない表情を、さらに無表情にして弟者はラクダを走らせる。
余裕がなくなれば無くなるほど弟者が無表情になることを、兄者は長年の経験から知っていた。
そうであるため、兄者はラクダの速度をさらに上げ、なんとか弟者に追いつこうとする。


(;'A`)「おち、おちる……」

⊂二(^ω^;)二⊃「ドクオー!!!」


――そんな兄弟たちに振り回されるはめになった精霊二匹は、とても大変だった。
体の小さいこの二人にとって、ラクダの速さと振動はかなりの脅威である。

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123名も無きAAのようです:2013/02/20(水) 20:24:05 ID:UWFaEmzk0

――――――――――――――――
―――――――――――――――
――――――――――――――
――――――――――――



<*`∀´>「ウェー、ハッハッハ!!!!」


ほぼ同じ時刻、異国の服をまとった男は本日、数度目の高笑いを上げていた。


<ヽ`∀´>「古今東西に伝わるウリの名声を聞くがいい!」


と、男は威勢よく言うが、それに言葉を返す相方の姿はない。
ひび割れた大地に響くのは男一人の声と、ごうごうとなる風の音だけ。
感心してくれる者も、何をバカなことをと言ってくるような相手もいない。

ついでに言えば、待ち構えている獲物が来る気配も一切ない。


<ヽ`∀´>「……まだ、来ないニカ?」


目を焼く日差しの下、男の甲高い声だけがぽつりと響いた。

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124名も無きAAのようです:2013/02/20(水) 20:26:27 ID:UWFaEmzk0

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―――――――――――――――
――――――――――――――
――――――――――――


(;´_ゝ`)「弟者、休憩! きゅうけい!」


ラクダによる不毛な追いかけっこがしばらく続いた後、兄者はとうとう降参の声を上げた。

まるきりの素人というわけではないが、兄者は普段ラクダに乗ることはほとんどない。
そんな彼にとって、ラクダをなだめすかしつつ操る事自体が骨である。
首を揺らし、体をおもいっきり上下に動かして走り続けるラクダに乗り続けるのにも限界だった。


(; _ゝ )「ほんと、疲れたもうだめ」

(;'A`)「俺も無理ー。ラクダってなんでこんなに凶暴なん?」


⊂二( ^ω^)二⊃「ドクオはよくがんばったお」


兄者は自分の体の状態を、改めて確認する。
ずっと同じ姿勢でいた時や、久しぶりに運動をした後のように、体がやたらと固くなっている。
ちょっと動かそうとすると鈍く痛むし、ずっとラクダに乗っていた腰や尻など最悪の一言に尽きる。

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125名も無きAAのようです:2013/02/20(水) 20:28:48 ID:UWFaEmzk0

(;´_ゝ`)「弟者、(なんだかわからんが)俺が悪かった(ような気がする)から休憩しよう。
      そう休憩とは素晴らしいものだ。お前も、ちょっと休めばきっと気分もよくなるぞ」


言いたいことはいろいろあるが、それを何とか抑えこんで兄者は弟者に訴えかける。
声を張り上げた際に、どうも口に砂が思いっきり入ったようで、その言葉が終わった後も兄者は口をもごもごと動かしている。


(;'A`)「もう無理。地面、地面が恋しい。
    それが無理ならもう影に引っ込んでやるぅぅううう」

⊂二( ^ω^)二⊃「おー、どこの影に行くんだお?」

('A`)「この際、影ならラクダでも、そこのちゃらんぽらんな兄貴のやつでもなんでもいい」

ヽ(#´_ゝ`)ノ「お前にやる影なんかねーから!」


口々に疲れを訴えかける一同。
ブーンだけ余裕そうだが、他の二名についてはやかましいことこの上ない。
……それが軽口なのは、弟者もわかっている。
それでも、弟者は苛立ちのあまり叫びたくなる気持ちを何とか抑えこむ。

 _,
(´<_` )「……」

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126名も無きAAのようです:2013/02/20(水) 20:31:13 ID:UWFaEmzk0

ヽ(; ゚_ゝ゚)ノ「やば、落ちる」

⊂二(;^ω^)二⊃「アニジャしっかりするお!!!!」

(;'A`)「ラクダ―、もう俺には君だけしかいないー」


弟者から見た一同は、口やかましくあきらかに元気そうである。
実際のところは、不用意に両手を放した兄者がラクダから落ちそうになっているが、それ以外は概ね平和であった。
弟者は日の高さと、ソーサク遺跡の位置を見やり、しばらく考え込んだ後、小さくため息をつく。


(´<_` )「……少しだけだ」

(*´_ゝ`)「え、本当?! やったー、弟者たん大好きぃ!!」


弟者の出した声は小さかったはずなのに、兄者は即座に反応した。
よほど休憩がしたかったらしく、弟者の声の続きを待つこともなくラクダに足を止めさせる。
ラクダが不機嫌そうにうなり声を上げるが、兄者はもうそんなことはお構いなしである。


(*´_ゝ`)「流石は弟者だ、話がわかる!」

(*'A`)「休憩だと!」

⊂二(*^ω^)二⊃「やったお!」


(´<_` )「そんなに元気があるなら行くぞ」

(; ゚_ゝ゚)「それはらめぇぇ!!!」


あまりにも兄者が浮かれているので、つい投げかけた弟者の言葉は、悲鳴で返された。

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127名も無きAAのようです:2013/02/20(水) 20:32:59 ID:UWFaEmzk0

(;´_ゝ`)「ふぃー。
      もう体中がバキバキだ。尻とかすげぇいてぇ」


ラクダをその場に座らせて、兄者は固い地面に降り立つ。
久しぶりの地面の感覚に、兄者は危なっかしく体を右や左に揺らす。
しかし、それもすぐに落ち着いたのか、すぐに体を伸ばしたり、腕を回し始めた。


('A`)「今にも落ちそうだったオレと違って、お前は座ってただけだろ」

(;´_ゝ`)「めちゃめちゃ揺れるから! それに座るのにも体力を使う件について」


街を出てから、どれほどの時間がたっているのだろうか。
途中からラクダの速度を上げたから、もうかなり進んでいるに違いない――と、兄者は視線を上げる。
が、自分の予想よりもはるかに進んでいなことに気づき。すぐに考えるのをやめた。
こういうことの采配は自分よりも、弟者のほうが得意である。それに弟者本人もそういった役割を好んでいるのを、兄者は知っていた。


(´<_` )「日頃から鍛えないからだ」

(#´_ゝ`)「そもそも急に中嶋を走らせた弟者が悪いんじゃないか!
       叫んだから、口の中とか砂でじゃりじゃりだし」


少し遅れてラクダから降り立った弟に向けて、兄者は文句を言う。
といっても、兄者はそれほど本気では怒ってはいないようで、その表情はそれほど険しくなかった。

..

128名も無きAAのようです:2013/02/20(水) 20:34:27 ID:UWFaEmzk0

(´<_` )「……水、多めに使ってもいいぞ」

(*´_ゝ`))「水浴びは?」


案の定、兄者はそれほど怒ってはなかったようで、弟者の言葉にすぐ表情を変えた。
先程までとは一転して瞳を輝かせる兄者に、弟者は「ふむ」と考えこむ素振りをみせる。


(´<_` )「その前に、今後の天候」

( ´_ゝ`)ゝ「晴天。砂嵐なし。風、気温ともに良好。夕暮れに雨が降るけど、霧雨。地面には届かずだ」

(;^ω^)「おおお」

('A`)「なんだ、ありゃ」


(*´_ゝ`)b「特技です」


弟者の問いかけに、兄者は言い淀む様子もなく答える。
兄者の星読みと天候の予測は、女傑と呼ばれ恐れ敬われている母者でさえも信頼するシロモノだ。
弟者もこの二つについては、兄の能力を全面的に信用している。

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129名も無きAAのようです:2013/02/20(水) 20:36:15 ID:UWFaEmzk0

(´<_` )「じゃあ、許可。ただし、一回だけ」


残りの行程を、弟者は脳内で組み立てていく。

ソーサク遺跡の見え方と、街の遠ざかり具合。それから、まだ砂丘地帯へは足を踏み入れていないこと。
そこから、現在いる地点をざっと把握する。――結果、進み具合はかなり上等。
当初の予定よりも距離は稼げているし、かなり多めに水も積んできている。
ソーサク遺跡では水を補給できるから、無駄遣いする余裕は十分あるだろう。


(´<_` )「この後は、すぐ砂丘地帯に突入する。
      もう一度休憩する予定だが、兄者はどうする?」

\(*´_ゝ`)/「もちろん今浴びる――!!!」


兄者は我先にとラクダにくくりつけた荷物へと走りだしていく。
その様子に、ラクダ――兄者命名・荒巻――が、迷惑そうに口をもぐもぐと動かした。


(´<_` )「清々しいまでに本能に忠実だよな、兄者」

( ^ω^)「こういう時に、流石だよなって言うのかお?」

('A`)「いや、言わないだろ」

( ´_ゝ`)b「いや、ここは『流石だよな、兄者』だ」


('A`)「言うんだ……」

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130名も無きAAのようです:2013/02/20(水) 20:38:32 ID:UWFaEmzk0

(*´_ゝ`)ノシ「おっとじゃー! いっくぞー!!」


よいしょっと、掛け声をかけると兄者は水袋を傾ける。
普段からあまり体を動かさない兄者にはやはり重いのか、その体がフラフラと左右に揺れている。


(´<_` ;)「大丈夫か、兄者?」

(;´_ゝ`)「ぐ、だいじょーぶ、だいじょーぶ!」

( ^ω^)「ブーンもお手伝いするお!」


ブーンの力をちょっとだけ借りて水袋を抱え直すと、座り込んだ弟者の頭に向けて兄者は水をかけはじめる。

服は脱がずにその上から水をかけるだけという豪快極まりない水浴びだが、彼らにとってそれは一番の楽しみであった。
なにしろこの日差しに暑さ、どれだけ濡らしても水なんてものはすぐ乾く。
それならかえって服を着たままの浴びた方が、この地では涼しくなるのであった。


(*´_ゝ`)「水だばぁー!!!」

(*^ω^)「だばぁー」


(-<_- ;)「ちょっと黙ろうか、兄者」

('∀`)「だばぁー」


('∀`(⊂(-<_-#)ガッ

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131名も無きAAのようです:2013/02/20(水) 20:41:20 ID:UWFaEmzk0

('A`(#)「ちょっとしたお茶目心が……。
     なんであの弟はこっちを無視するくせに、殴るかなぁ。しかも物理攻撃で」

(;^ω^)アウアウ


水は弟者のマントに染み込み、その下の服を濡らし、肌まで伝わっていく。
適度に水がかかったのを確認すると、兄者は弟の頭をぺちぺちと叩き「ほい、終了」と告げる。
妙なところに水が入り込んだのか、弟者はしばらく薄緑の耳を軽く動かしてから、その細い目を開いた。


(´<_` )「……生きかえるな」

(*´_ゝ`)「母者にバレたら怒られるだけじゃすまないけどな」

(´<_` ;)「確実に殺されるな」


そのまま水袋の口を閉じようとして、兄者はふとその動きを止める。
兄者の表情がイタズラを思いついた子供のように一瞬止まり。その後すぐに、はじけるような笑顔を浮かべる。


(*´_ゝ`)ノ「ブーンもドクオもやるか?」

⊂二(*^ω^)二⊃「おおお、やるお! やるお!」


('A`(#)「え、何? 何を?」

.

132名も無きAAのようです:2013/02/20(水) 20:43:31 ID:UWFaEmzk0

(*´_ゝ`)「よーし、どっせぇぇい!」


兄者の掛け声とともに、ブーンとドクオたちに向かって水がかけられる。
といっても、体の小さい二人に水袋から直接水をかけるというのは流石に贅沢。
そういうわけなので、兄者は荷袋の中に入っていたポットを使いブーン達に水をかけていた。


(*゚ω゚)「おお!」

(*'A`)「これは……」

(*'∀`)b「最高だな」


(*´_ゝ`)「どっくんキメェ!!!」(^ω^*)

(´<_` )「……」


――兄者のそんな行動を、精霊二匹に辛辣なはずの弟者は止めなかった。

かわりに無言で様子をうかがっていた弟者の表情が、ほんの少しだけ楽しそうに緩む。
が、次の瞬間には自分でも表情の変化に気づいたのか、慌てて首を振ると、顔をしかめた。


(´<_` )「……いくらなんでも兄者に影響されすぎだ」


……そんな弟者の様子に、兄者やブーンやドクオは気づかなかった。

.

133名も無きAAのようです:2013/02/20(水) 20:45:42 ID:UWFaEmzk0

(*´_ゝ`)ノシ「おーい弟者! 次、俺な!」

(´<_` )「把握した」

( ^ω^)「ブーンは手伝わなくても、大丈夫かお?」


気がすんだのだろう。兄者は手にしたポットを片付けて、弟者に向かって手をふった。
弟者はその声に答えると、未だに体から水を滴らせた状態のままで水袋を抱える。
その動きは先ほどの兄者とは違い、少しもふらつくことがない。

  _,
( ^ω^)「むー、オトジャは力持ちだお」

(´<_` )「おい馬鹿、さっさと屈め」


そう言いながら、弟者は水袋の口を緩めるとその体に向けて、水をふりかける。
袋から飛び出した水が、乾いた大地に落ち。土の匂いが辺りに漂う。


(;´_ゝ-)「ちょ、弟者早いって。ってわー、いきなり掛けんなって!!」

(´<_`*)「油断した兄者が悪い」


(;'A`)「うわー、弟者キメェ」


チャッ(#´_>`)つ==|ニニニ二フ('A`;)

.

134名も無きAAのようです:2013/02/20(水) 20:48:11 ID:UWFaEmzk0


珍しいことにはしゃいだ声を上げた弟者に対し、ドクオは頭に浮かんだ言葉をそのまま告げた。告げてしまった。
悲しいことにドクオは精霊。人間の微妙な感情の動きなんてものはさっぱりわからない。
――そして、案の定こうなった。


(#´_>`)つ==|ニニニ二フ('A`;)


('A`;)「ええと、」


うっかり口から出た言葉とほぼ同時につきつけられたのは、一振りの刀。
片手に水袋を抱えたかなり不安定な体勢だというのに、弟者は目にも止まらぬ速さで動いた。
獅子の尾とも呼ばれる、優美な曲線を描く刀。シャムシールとも呼ばれるそれは今、ドクオの眼前できらめいている。


('∀`;)「お、俺が悪かったので、刀はしまって下さい」

(#´_>`)「今日という今日こそは息の根を止めてやる」


弟者の声に、ドクオは息を呑む。いや、呑んだような気がした。
今のドクオには、つきつけられた刀の刀身に刻み込まれた花や蔦の文様の美しさは何の救いにもならない。
むしろこれほどまでにこった細工がされているというのに、殺傷能力を秘めているという事実のほうが重要であった。


(;^ω^)「あばばばばば」

(#´_ゝ`)ノ「弟者ぁー、水止まってるぞー!! ――って、」

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135名も無きAAのようです:2013/02/20(水) 20:52:44 ID:UWFaEmzk0

顔にかかった水をぬぐっていた、兄者の言葉が止まる。
兄者の視線はまず弟者の顔を見て、次にドクオの姿を見て、それから弟者の手にした曲刀へと移った。
考えることしばし、兄者の表情はすぐに真っ青になった。


(; ゚_ゝ゚)て「刀やばい。ダメ絶対ぃぃ!!!」

( ´_>`)「止めるな、兄者」


すがる兄と、すげなく断る弟。
そして、紫の体を青に染めるという器用なまねをしてのける精霊が一匹。


(;^ω^)「おー、どうしてこうなったおー」

('A`;)「……死ぬ。これは死ぬ。
    ここ50年間は死ぬなんて一度も感じなかったのに、今日だけで二回とか……」


おろおろとして飛び回るブーンの内心には、もうどういう意味を持つのかわからない感情が動き回っている。
それはドクオとて同じようで、「死ぬ」と口では言いながらもその様子はどこか楽しそうである。


( ´_>`)「大丈夫だ、すぐ終わる」

(; ゚_ゝ゚)「らめぇぇぇぇぇ!!!!」


荒野の中に、兄者の悲痛な叫びだけが響いた――。

.

136名も無きAAのようです:2013/02/20(水) 20:54:26 ID:UWFaEmzk0

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<;ヽ`∀´>「まだ、こないニダ」


岩の影から顔を出し、男はため息をついた。
何やら「らめぇぇぇ」という叫び声が聞こえた気がするのだが、それらしき人影の姿はなかなか見えない。
気のせいだったのかと悟ると、男は今にも泣きたい気分になった。


<;ヽ`Д´>「いくらウリのことが怖いからって、いくらなんでも遅いニダ」


待ち構える獲物の姿は、未だに見えない。
視界に入るのは、岩と大岩と、何だかわからない骨やらだけ。
高笑いをしようにも、笑えば笑うほど口の中はからからに乾き、喉には砂が張り付いて不快感ばかりが増えていく。


<;ヽ Д >「……あぢぃー。ヤツらはまだニダ?」


ぽたりぽたりとかいた汗は、地面へと落ちることなくすぐに消える。
目を焼く日差しに顔を拭いながら、男は震える手で携行していた水を一口飲む。
ここが彼の故郷ならば水だってもっと豊かだった。飲む水に困ることがあっても、これほどの暑さに身を焼くことはなかった。
それが、どうしてこんなことに――と、男は考える。


<;ヽ Д >「このウリがこんな目にあわされるとは……
      なんて無礼千万なやつニダ! ウリ以上の悪党ニダ!」


そして、男はこうなった元凶が待ち構えている獲物であることに気づく。
彼は怒りに体を震わせながら、幾度目になるかわからない声を上げた。


<#ヽ`∀´>「あいつらは何をしてるニダ!!!」

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137名も無きAAのようです:2013/02/20(水) 20:56:07 ID:UWFaEmzk0

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一方、すったもんだの騒ぎの末に水浴びを浴びた“あいつら”は、枯れ草と木の枝を前にして苦心していた。
弟者が手にした火打石を打ち付け、兄者と精霊二匹がそれを覗いているのだが、先ほどから一向に火がつく気配がない。


(´<_` )「荷物の中に茶道具一式を見つけたまではよかったのだがな」

('A`)「それがごらんのありさ(*^ω^)「オトジャオトジャ、茶ってなんだお? オイシイのかお?」


(´<_` )「……」


ドクオに向けて拳を構えかけた弟者の行動は、ブーンの無邪気な問いによって阻止された。
弟者は何事か答えようと口を開きかけるが、何も言わないまますぐに口を閉ざす。
その代わりに火打石を見つめると、彼はため息を付いた。


(´<_` )「ツンは随分と気を使ってくれたようだが、これでは……」

( ´_ゝ`)「ふっふっふっー、火がなかなかつかないんだろ?
       このお兄ちゃんには、全てがお見通しだぞ!」

(´<_` )「うるさい」


お見通しもなにも一目瞭然の光景なのだが、兄者は嬉々とした表情でその場をくるくると回る。
ひとしきり回り終えた後で、弟者の傍らに置かれた鞄を兄者は「びしっ」といいながら指さした。

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138名も無きAAのようです:2013/02/20(水) 21:00:56 ID:UWFaEmzk0


(*´_ゝ`)b「ここは、マッチ一本分の火力の出番」


どうやら兄者は、街で購入した魔法石板を使えと言いたいらしい。
購入した石板のうち一つの効果は、確かにマッチ一本分の威力の火を出すものであった。


('A`)「なぜ回ったし」

ビシッ\( ´_ゝ`)>「なんかカッコイイような気がして」

\( ^ω^)>「たしかに、かっこいいおね」


(´<_`#)「……」


ブーンと楽しそうにはしゃいでいた兄者は、弟の表情が怒りの色を浮かべているのを見て、動きを止める。
相も変わらずの魔法嫌いと思いつつ、兄者は話題をそらすために辺りを見回す。


( ´_ゝ`)ハッ


兄者の目が、かすかに動いた小さな生き物の姿を捉える。
兄者は腕を伸ばしその生き物を思いっきり掴むと、弟者にその生き物の姿を見せつけた。

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139名も無きAAのようです:2013/02/20(水) 21:03:09 ID:UWFaEmzk0

(*´_ゝ`)「弟者、弟者ぁー! 見ろ、火トカゲだ!
       こいつさえいれば、火起こしもとっても楽に!」


兄者の手にしたそれは、トカゲによく似た生き物だった。
一見、赤い鱗を持つトカゲなのだが、その体はオレンジ色に揺れる炎のようなモヤを纏っている。
兄者の手にしたその生き物はうぞうぞとうごめくと、弟者に向けて口を開く。


(*´_ゝ`),(・)(・),∠ ノ)ノ,(ノi


てらてらと光る赤い舌が大気にさらされ、そこから赤と橙に輝く炎がごおっと上がる。
弟者はその炎を見つめ、火トカゲに手を伸ばすと――


(´<_`#)ノイ ポイッ


(*^ω^)o彡゜「投げたぁぁぁぁ!!!!」(゚A゚;)

( ;゚_ゝ゚)「俺のシャーミンちゃんがぁぁぁ!!!」


投げ捨てられた火トカゲの姿を見つめ、兄者は悲痛な声をあげた。
一方、投げ捨てられた火トカゲの方は何事もなかったかのように着地すると、近くの岩陰へと逃げこんでいく。


(´<_`#)「変なものを拾うな 名前をつけるな トカゲは火なんて吐かない」


(;´_ゝ`)「ああ、シャーミン松中ぁー」

('A`)「お前、本当に名前のセンスどうかしてるわ。
   俺なら“輝ける炎の申し子”とかつけるのに」

(;´_ゝ`)て「ドクオもひどっ!!」

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140名も無きAAのようです:2013/02/20(水) 21:05:18 ID:UWFaEmzk0

( ;´_ゝ`)「……やはり、ここは弟者の好きにするべきかと」

(;^ω^)「ですおね」

('A`)「だな」


その後もひとしきり大騒ぎをした末に、一同が出した結論はこれだった。
そもそも火を起こそうとしているのは弟者なのだから邪魔をしてはならないという理論である。


(´<_` )「……まいったな」

(;´_ゝ`)「大丈夫か?」


しかし、火打石を使う作業を再開したのはいいがやはり火はつかない。
弟者はこれ以上ないというほど渋い顔をして、嫌がっているのが明らかにわかる表情で鞄の中のものを取り出した。


(*´_ゝ`)ノ「はいはーい。俺がやる俺がやりたいー!!」

(´<_` )「却下」

(; ´_ゝ`)「弟者のケチー」


弟者は、鞄の中に入っていた石板を取り出す。
二枚の石板は見た目はほぼ同じだが、刻み込まれている文様だけが違う。
その文様に、弟者はじっと目を凝らす。

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141名も無きAAのようです:2013/02/20(水) 21:08:09 ID:UWFaEmzk0

黒の盤面。そこに刻まれた文様は、普通ならば読むことが出来ない。
――しかし、精霊を見ることのできる弟者の眼ならば、刻まれた魔力をある程度なら“見る”ことができる。


一方は、炎の術式。もう一方は、水の術式。


弟者は魔法使いではないため、術式の詳細までは読み取れない。
それでも、これが相当な魔力によって組み上げられた複雑な術式であるということはわかる。
紛れもなく本物。しかも、一級品。
――大商隊の到来でいくら賑やかだからとはいえ、たかだか砂漠の街で気軽に売られていいようなものではない。

兄者が惹かれるのも、当然の出来。
やはり、取引など応じず突き返しておくべきだったと、弟者は思う。


           川 ゚ -゚)「こっちも商売なんだから、《そんなことされては困る》」


この石板に比べれば、彼女が路上で仕掛けてきた暗示などは完全に子供のお遊びだ。
一体何者だったかはわからないが、出来れば二度と会いたくない相手である。


(-<_- )「……」


弟者は、黒の盤面に刻まれた文様をなぞっていく。
術式自体は既に吹きこまれているので、余計なことをする必要はない。
石板魔法に必要なのは、刻み込まれた魔法を起動するための最期のキーを指でなぞること。

魔力を吹き込む必要はない。
そんなことが必要なのは、大魔法を行使しようとする魔法使いくらいだ。

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142名も無きAAのようです:2013/02/20(水) 21:10:07 ID:UWFaEmzk0

( ´_ゝ`)「ちぇー、火をつけたかったなー」

( ^ω^)「また、次があるお」


右から左。
刻み込まれた凹凸を確かめるように。弟者は、静かに指を動かす。
指がたどる軌跡は淡い光を放ち……


(*^ω^)「おお」


……目の間の枯れ草が燃え上がったのは、最後の一角をたどり終えたのと同時だった。
誰一人として指を触れていないというのに、草はその身を捩り枯れ枝へ熱と炎を伝える。
魔法が発動したのは一目瞭然だった。


('A`)「便利なもんだ」

( ´_ゝ`)「だろー?」

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143名も無きAAのようです:2013/02/20(水) 21:12:16 ID:UWFaEmzk0


指先ひとつで叶う、お手軽な魔法の行使。
普通ではありえない奇跡の大盤振る舞い。

その威力や能力の違いはあれど、魔法石板は今や大概の商店や家庭で使われている。
西には魔法石板がないと生活が成り立たないという国すらあるらしい。



(´<_` )「どこが……」



奇跡、魔法、神秘、幻想。
そんな類が身近に触れられるところに、それこそ生活の一部として使われている。



(-<_- )「……」


――その事実に弟者は、いつも吐き気を覚える。

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144名も無きAAのようです:2013/02/20(水) 21:14:09 ID:UWFaEmzk0

広がる炎は、ポットの水を温めていく。
弟者はその中に茶葉と砂糖を投入し、しばらくしてから茶道具の中にあった香草を揉んで放り込んだ。


( ´_ゝ`)「ほれ、やっぱり便利だろ。文明の利器」

(´<_` )「知るか」

(;´_ゝ`)「ちぇー」


周囲には香草の強い香りと、それに紛れるように茶葉の匂いが漂いはじめる。
しかし、弟者の表情は先程からずっと動かない。
ああこれは完全に機嫌を損ねているなぁと兄者は思うが、あえて口にはしなかった。


( ^ω^)「なにしてるんだお?」

('A`)「また、食い物じゃないか?」

(*^ω^)「やっぱり、食べ物って楽しいもんなんだおね」


弟者の魔法嫌いは、筋金入りである。
それなのに、魔法石板を使うなんてこの弟は……などと兄者は思考する。
俺に任せばいいのにという言葉を、兄者はなんとか口に飲み込んだ。


( ´_ゝ`)「んー、まあ、楽しいっていえば楽しいんじゃないか?」

(*^ω^)「おー、ブーンも飲みたいお!」

(;'A`)「いや、お前は飲めないだろ」

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145名も無きAAのようです:2013/02/20(水) 21:16:08 ID:UWFaEmzk0

旦⊂(´<_` )「……できたぞ」

∩(*´_ゝ`)∩「流石だよな、弟者」


弟者が渡してきたカップを受け取り、兄者は口をつける。
まだ熱いその飲み物を口の中で転がすと、砂糖の甘さが口中に広がった。
それから少し遅れて、喉と鼻に抜ける香草独特の刺激。
ああ、これでこそ茶だよなぁと兄者はうんうんと頷く。


( ^ω^)「ブーンも飲みたいお……」

( ´_ゝ`)「じゃあ、飲むか?」

⊂二(*^ω^)二⊃「飲むおー!!!」


(*´_ゝ`)⊃旦「ほれ」

(;^ω^)「……ぉ」


( ´ω`)フルフル


(´<_` )「おい、やめろ」


兄者が差し出したカップに、ブーンは戸惑ったような表情を浮かべた後、首を横に振った。
どうやら香草の臭いが鼻をついたようで、ブーンはしょんぼりとした表情を浮かべる。
そんなブーンの様子に、お茶を沸かした当人は気分を悪くしたようだった。

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146名も無きAAのようです:2013/02/20(水) 21:18:10 ID:UWFaEmzk0

(;'A`)「だから、飲めないと言っただろ」

( ´ω`)「うー、でもー」


カラカラに乾いた喉にお茶が落ちると、喉に張り付いていた砂の感触が少しはましになる。
「ああ美味いなぁ」と兄者がつぶやくと、弟者の表情が少し和らぐ。
流石だな、弟者。我が弟ながら単純だ。――と、兄者は心のなかでつぶやく


(´<_` )「おかわりは?」

( ´_ゝ`)「おお。頼む」


カップを弟者に差し出すと、すぐに中身が注がれて返される。
二杯目の味は。刺激も甘みも少し抑え目だ。
再び注がれた茶に兄者は満足したように頷くと、腰に下げた袋から小さな包みを取り出す。


(*´_ゝ`)ノ「ふむ、弟者よ大儀である。
        褒美にこの菓子をやろう、西の国産の小麦の焼き菓子だ」

(´<_` )「なんと。兄者もたまにはよいことをするな」


(*´_ゝ`)b「流石だろ?」

(´<_` )「いや、別に」

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147名も無きAAのようです:2013/02/20(水) 21:20:22 ID:UWFaEmzk0


ヽ(#´_ゝ`)ノバカー         ヤメテ!(^ω^;)


(´<_` )モグ モグ


('A`)「なんて言うか、本当にお前らは楽しそうだな……」


ドクオは兄者の足元の影に腰を下ろすと、ふぅと息をはいて空を見上げる。
青い空に輝く太陽は、一面の砂の大地を照らしている。
光がなければ生まれることが出来ない影。その精霊であるドクオにとって、太陽はまさに恵みの存在である。


('A`)「あー、今日も天気がいいなぁ」

( ´_ゝ`)「ん、どうしたドクオ? 空に何」


か……という言葉は兄者の口からは出て来なかった。
――兄者は空へと視線を向けたきり、そのまま微動だにしようとしない。


(´<_` )「どうした、兄者?」

( ´_ゝ`)「……いや、……月がだな……」

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148名も無きAAのようです:2013/02/20(水) 21:22:16 ID:UWFaEmzk0

青空には太陽と、ドクオは見逃していたが白くぼんやりと輝く月の姿がある。
夜に見ることのできる月と違って、今にも消えてしまいそうな弱々しい月。
兄者は白い月の姿をじっと見つめ、それから何かを見つめるように視線を走らせていく。
北。南。それから、西と、東。


( ´_ゝ`)「……」


兄者は何も話さない。
天をぼんやりとながめたまま、動きもしない。

――星を見ているのだ。


と、弟者はしばし考えた末に理解した。
真昼の月と、この時刻ではほとんど見えない星をつなげて兄者は何かを読み取っているのだろう。


( ´_ゝ`)「あー、今日はダメだわこりゃ。
      星の動き最悪。今日は波乱の一日になるってさ」

(´<_` ;)「……出かける前に聞きたかったぞ、兄者」

(;´_ゝ`)「やー、昨日の段階ではいろいろあるけど、まあ良い一日でしょうって感じだったんだ。
     でも、途中でなんか変なの引っ掛けたらしくてな。星の巡りが変わったっぽい」


兄者が首を傾けながら空の一角を指さす。
それから、その指をすっと西へと動かす。

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149名も無きAAのようです:2013/02/20(水) 21:24:09 ID:UWFaEmzk0

( ´_ゝ`)「龍刻星がこっちだろ、それから狐狼星がこっちに動いて……
      でもって、月がここだからこれから動きを考えると」

(;^ω^)「ぶ、ブーンにはアニジャが何を言っているのかわからないお」

('A`)「安心しろ。オレもだ」

(´<_` )「要点は?」


弟者の言葉に兄者は腕を組んで、「うーん」と唸る。
それから何やら星らしきものの名前を呟いた後、残りのお茶をごくりと飲んだ。


(;´_ゝ`)「まぁ、……どうにかなるん……じゃないかなぁ……」

(´<_` )「それは兄者の感想だ。要点を頼むと言ったはずだが」

(; ゚_ゝ゚)「は、え?」


兄者は視線を左右に辿らせながら、ポットからお茶を注ぐと口を湿らせる。
それから、「どうしよっかなぁ」とモゴモゴと口を動かす。
これは明らかに何かを隠そうとしている。そう悟った弟者は、兄者を睨みつける。


(;´_ゝ`)「……えーと、とりあえず。今から、すこーしばかり危険かな☆彡」

(´<_` )「荷物をまとめろ。すぐ砂丘に出るぞ」


弟者の決断は素早かった。

.

150名も無きAAのようです:2013/02/20(水) 21:28:11 ID:UWFaEmzk0

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<;ヽ Д >「あ゛ち゛ぃ゛」


暑さにあえぐ男の鼻が、ふいに妙な臭いを捉えた。
鼻を突く刺激的な臭い――薬によく似たその香りを男は知っていた。
そう。これはこの地方でよく飲まれるお茶に入れる香草の臭いのはずだ。


<;ヽ ∀ >「……?」


それはいい。それはいいのだが、砂丘を目の前にしてのんびりと茶を飲む馬鹿なんているのだろうか。
男は強い視界に目を細め、今にも倒れそうなほどの暑さに顔をしかめながら、岩陰から飛び出す。
ただよう臭いの元を求めて嗅覚をとぎ澄まし――周囲に目を凝らす。


が、見つからない。
しかし、臭いがするのだ。そう遠くないところに原因があるはずだ。


<ヽ`―´>「……」

.

151名も無きAAのようです:2013/02/20(水) 21:30:19 ID:UWFaEmzk0

鼻を利かせながら、体勢を低くし周囲を見回す。
足音を殺しながら、所々にある大岩を超え進み――

やがて、待ち構えた獲物の姿を、見つけた。


まだ若い男の二人連れ。
片や20代になるかならないかくらいの、背の高い男。
もう片方は、それよりも年下――おそらくは弟であろう、顔のよく似た男。
間違いなく市場で見つけた、二人連れだった。


<*`∀´>「ここであったが百年目。一網打尽にしてやるニダ……」


二人連れの姿を、男は観察する。
乗り物はラクダ。その背には水であろうか、荷が括りつけられている。
兄らしき人物の腰には刀と鞄。弟らしき人物に武装は無し。
そして、二人の手には――カップが1つずつ。

やはりというか、なんというか。あの臭いの主はこの二人連れだったらしい。


<ヽ;゚Д゚>「アイゴー!!! 何、ニダ!
      何であのチョパーリたちは茶なんて飲んでるニダァァァ!!!」


獲物たちはすでに火の始末を終え、荷物を片付け始めている。
兄が指示を出し、弟がそれに従う。どうやら、ここから離れようとしているらしい。


<#ヽ゚∀゚>「許さん! この屈辱、決して許さんニダァァァ!」


許せないと男は思う。
男が暑さにあえいでいたというのに、あの獲物たちは呑気に茶を飲んでいた。それが許せない。
――二人連れを獲物と呼び、勝手に待ち伏せしていたのは男なのだが、それに彼は気づかなかった。

152名も無きAAのようです:2013/02/20(水) 21:33:07 ID:UWFaEmzk0

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(´<_` )「急げ、兄者」

(;´_ゝ`)「……急げって。ちょ、」

(;'A`)て「オレを置いていくんじゃねーぞ」


弟者に急かされて、兄者はラクダ――荒巻にまたがる。
突然のことに状況が理解できない兄者と違い、弟者は警戒するように視線を走らせている。


(´<_` )「ここは視界が悪い。その状況で狙われたらこちらが不利だ」

(;´_ゝ`)「だからって言っても、そんなに急がなくとも」

( ^ω^)「……そうだお。急にどうしちゃったんだお、オトジャ」


慌てて兄者のもとに飛んできたブーンが、首をかしげながら質問する。
が、弟者はそれに視線を向けただけ。かわりに厳しい表情のままラクダに乗り込むと、言った。


(´<_` )「兄者の星読みは、外れたことがない。
      ……間違いなく、狙われる。それも今すぐに、だ」

.

153名も無きAAのようです:2013/02/20(水) 21:34:29 ID:UWFaEmzk0


(;゚A゚)「なんだと……」

(;´_ゝ`)「だから、言うのは嫌だったんだ」


(´<_`#)「そういう場合はすぐ言えと、日頃から言っているだろう。手遅れになるぞ!」


そう言って、弟者がラクダ――中嶋を走らせようとした時。
すぐ近くの岩陰から、その男は飛び出して来た。


<ヽ`∀´>「ここで会ったが百年目ニダ!!」


濃い緑の体をした、目のつり上がった男だった。
白と黒。そして、ところどころ赤を配した、東方独特のはっきりとした色使いの長衣。
長衣の下には黒の下袴を履き、素足の上に先の尖った靴を履いている。

――そして、その手には銀の光を放つ無骨な刀。


('A`)「何かスゴイのがいるんだが……」

(´<_` )「……噂をすれば、もうお出ましか」


兄者と弟者の前に現れた男は、耳障りな甲高い声で高らかに笑い始めた。

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154名も無きAAのようです:2013/02/20(水) 21:36:22 ID:UWFaEmzk0

<*`∀´>「ウェーハッハッハ!
      この極悪非道なニダー様から逃れたければ、有り金と水と、その乗り物をおいていくニダ!」

(*´_ゝ`)σ「弟者見ろ。盗賊だぞ盗賊!」

( ^ω^)「おー! すっごい服だお」

(´<_` )「……指をさすんじゃない。見なかったふりをしろ」


刀を突きつけながらそう宣言した男に対する、兄者とブーンの反応は実にのんきなものであった。
星読みで、何かが起こるということは既にわかっていたためもあってか、驚く様子も怯える様子も見せない。
そんな一同の様子に、馬鹿にされたと感じたのか、男の顔が一気に赤く染まる。


<#`∀´>「ウリはお前らが来るのを一日千秋の思いで待っていたというのに、その反応は何ニダ!」

(;´_ゝ`)「いや、そう言われてもな。
      正直、お前さんが待ってたのなんて知らんかったし」

(;'A`)「……っていうか、誰だよこいつ」


男の怒りはどんどん激しくなっていく。
それとともに、手にした刀はぶるぶると震え、声もさらに甲高く耳障りなものへと変わった。

.

155名も無きAAのようです:2013/02/20(水) 21:39:01 ID:UWFaEmzk0

∩<#`Д´>∩「ウリは暑くて死にかけてるって言うのに、何でお前らは優雅にお茶とか飲んじゃうニダ!
         それにこっちのお茶臭くてクソマズイニダ! 変な草をお茶に入れるなんて言語道断ニダ!」


(#´_ゝ`)ノ「弟者のお茶は母者が入れる劇物と違って、めっちゃ美味いんだぞ!
        まあ、ダントツで美味いのは父者がいれたやつだがな」

(´<_` )「香草とかいれまくるから、こっちの茶は東方の茶とは味が全然違う件。
      あの香草は喉に張り付いた砂をとり清涼感をもたらし、また体を冷やす効果のあるもの。
      それを知らず、また慣れようともせずにクソマズイと言うのは不快極まりない。
      こっちから言わせてもらえば、お前らの方の茶こそ甘さが足りない。大体、茶というものはだな」

(;'A`)「……あの弟者が、語っているだと」

(*^ω^)「やっぱり、食べ物ってすごいんだお」


男が怒りの末に言い放った言葉はどこかズレていた。
そして、それに対する兄者たち一同の返事もやはりズレたものだった。


<#`Д´>「言ったニダね!!! そもそもウリの祖国では」


男は祖国で飲んだ最高のお茶の話をしようとして、言葉を止めた。
そもそも何故、自分はお茶の話をしているのだろうか。
そうなった原因を思い返し、そしてようやく男は自分が目的を見失っていることに気づいた。

.

156名も無きAAのようです:2013/02/20(水) 21:41:01 ID:UWFaEmzk0


<;ヽ`∀´>「……」


――そうだ、自分はこの獲物たちから大金をせしめるためにここに来たのだ。
それだというのにこの獲物たちは怯えるどころか、自分を小馬鹿にしているではないか。


<#ヽ`∀´>「ファビョーン!!!
       この屈辱、この恨み。未来永劫、子々孫々に渡ってゆるさんニダ!」


それに気づいた瞬間、男は先程よりも更に激しく怒り狂った。
興奮に赤く染まった顔で、男は手にした刀を握り直す。
細長い刃先の歪曲した鉄の刀。
青龍刀とも呼ばれるそれは、長年彼が愛用してきた最も信用する武器だ。


<#`∀´>「ウリを侮辱した罪、命で賠償シル!」


男は青竜刀を武装していない方の獲物――兄者へと向ける。
体を低くし足を引くと、兄者に向かって一気に駆け出した。

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157名も無きAAのようです:2013/02/20(水) 21:42:19 ID:UWFaEmzk0


('A`)「おい。こっちに向かってきてるぞ……」

( ^ω^)+「どうやらブーンたちは、奴を怒らせてしまったようだお」


ドクオやブーンの声を聞くまでもなく、弟者はラクダに鞭を入れ走りだしていた。
そのまま兄者の乗っているラクダの尻を打つと、語気するどく言い放った。


(´<_` )「一気に駆けるぞ!」

(;´_ゝ`)「――お、おう」


<#`∀´>「逃がさんニダ!!!!」


黄色に光る砂の丘陵に向かって駆け出す二頭のラクダ。
男はそれを見ると即座に、近くに転がっていた大岩を抱える。
そして、それをそのまま弟者たちに向かって――何と、投げつけた。


(;'A`)て「どんだけ、馬鹿力なんだよ!」


本来ならば男一人でようやく抱えられるそれは、勢いよく飛んでいく。
飛来する岩。それは、ぐんぐんと距離を伸ばすとラクダのすぐ脇をすり抜けて落下した。

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158名も無きAAのようです:2013/02/20(水) 21:44:27 ID:UWFaEmzk0

(;´_ゝ`)「うぇー、正気かよ」

<*ヽ`∀´>「ホルホルホル ウリに逆らった罰ニダ!」


乾いた大地から砂地に入っても、ラクダの速度は一向に落ちない。
そんなラクダたちに向けて飛来する、岩。


(;^ω^)「なんかめっちゃ飛んでくるお」

(´<_` )「……化物め」


飛来する岩は、一つでは止まらない。
駆けぬけるラクダを潰さんとする勢いで、岩や石が次々と飛来する。
幸いなことに岩が当たることはなかったが、ラクダたちの様子が次第に落ち着かなくなり始める。
手綱を外さんばかりに首を上下に動かし唸り声を上げ、激しく跳ねまわる。


(;'A`)「おいおい。ヤバイんじゃね、これ」


(´<_` )「兄者。ラクダ頼んだ」

(;´_ゝ`)「――はぇ?」


もう一匹のラクダが接近し、弟者がその上から手綱を差し出す。
兄者が差し出された手綱をなんとか掴んだ時には、弟者の姿は消えていた。

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159名も無きAAのようです:2013/02/20(水) 21:46:32 ID:UWFaEmzk0

( ;゚_ゝ゚)「ちょ、弟者!!!」


暴れまわるラクダの背になんとかしがみつきながら、兄者は弟者の姿を探す。
隣のラクダの背にはいない。だとしたら……
振り落とされないように必死でしがみつきながら、兄者は後ろに視線を向ける。


(´<_` )「……」


いた。
弟者はすでに曲刀を抜き放ちながら盗賊に向けて走り出している。
風と弟者自身が作り出す動きによって、薄紫のマントが鮮やかに翻る。


(;^ω^)「オトジャが行っちゃったお」

(;´_ゝ`)「わかってる。あいつ戦うつもりだ」


黄色い砂の大地を、疾駆する弟者の姿――それを、完全に見送ることができずに兄者は顔を伏せる。
ラクダは完全に暴走し始めている。このままでは、振り落とされるのは時間の問題だ。


( ;゚_ゝ゚)「ひぃぃぃぃぃいいいいいい!!!!!」


そんな状態なのに、弟者のラクダの紐を持たされるなんて正直洒落にもならない。
手綱を手にした腕が、千切れそうなほどに痛む。
兄者の腕では落ち着きを失ったラクダ二頭を同時に操ることなど出来はしない。
自分の乗っているラクダと、暴走するもう一頭のラクダに引っ張られて兄者の手は今にも引っこ抜けそうである。

.

160名も無きAAのようです:2013/02/20(水) 21:48:38 ID:UWFaEmzk0

そんな状況だというのに、変わらず岩は迫り来る。
もう距離はだいぶ離れているというのに、その飛行速度は落ちない。


( ;゚_ゝ゚)「もう無理、ぜったいに死ぬぅぅ!!!
      死ななくても落ちるか、腕がちぎれるぅぅぅ!!!!」


荒巻は走るばかりで、完全に止まる気配がない。
岩は今にも当たりそうな軌道をとっているというのに、荒巻は速度を上げるだけで避けるそぶりをみせない。
――岩の迫る音に兄者はぎゅっと目をつぶる。


ああ、
今度の今度は間違いなく死んだな


(#^ω^)   《飛べお!》


――という兄者の心配は、杞憂に終わった。

近くを飛んでいたブーンが、片手を岩へとつきだしその“力”を行使したためだ。
ぞわりと肌が粟立つ感覚とブーンの放つ奇妙な音が、兄者に魔力の行使を告げる。


(#^ω^)「アニジャ危ないお!!!」

(;´_ゝ`)「スマン!」

.

161名も無きAAのようです:2013/02/20(水) 21:54:27 ID:UWFaEmzk0

“飛ん”だり“飛ば”したりすることは得意――ブーンがそう言っていたことを、兄者は思い出す。
ということは、先ほどの岩もブーンが飛ばしたのだろうと、兄者はかろうじて理解する。


(; _ゝ )「ブーン。その力はどれくらい使える?」

( ^ω^)「まだまだいけるけど、ブーンじゃアニジャ一人を飛ばせるくらいが限界だお。
      あまりおっきい岩とか、ラクダとかはムリだお」

(;´_ゝ`)「把握した」


岩の飛来は止まらず、兄者の腕は相変わらず千切れそうなほどに傷んでいる。
今はラクダ――荒巻も中嶋も同じ方向に進んでいるから良いが、これが別の方向へと走り出したらもうどうしようもない。


(#^ω^)「く、《飛べお》! こっちくるんじゃないお!」

(;´_ゝ`)「ドクオ、そっちのラクダは任せ……」


弟者が合流するまで、中嶋を逃がすわけにはいかない。
兄者はもう一人の精霊に手助けを頼もうと声を上げて……ドクオの姿が先程からまったく見えないことに気づく。


( ;゚_ゝ゚)「って、どこ行ったぁぁぁぁ!!!!」

(;^ω^)「あいつ逃げたお!
      ドクオは逃げるのと隠れるのだけはすっごい得意なんだお!」

(♯゚_ゝ゚)「あんの、裏切りモノ!」


荒巻と中嶋が起こした砂煙の中で、兄者は怨嗟の声をあげた。

.

162名も無きAAのようです:2013/02/20(水) 21:56:14 ID:UWFaEmzk0

――――――――――――――――
―――――――――――――――
――――――――――――――
――――――――――――


弟者は砂塵を駆ける。
彼が地を踏むたびに、足元の砂がさらりと流れる。


< `∀´>「ウリナラに逆らおうとは笑止千万。
      そんなことしようものならば、ウリのオモニやアボジや一族全員がこの砂という砂を埋め尽くし、
      オマケにウリと起源を同じくする東の民たちが十万千万と駆けつけ、さらには属国である諸州の……」


一見穏やかそうな砂たちは、慣れぬ者であれば容赦なく足を引きずり込む。
人の足を阻むその流れの上を、弟者は半ば強引に駆け、あるいは飛び越えながら――腕を振るう。
ギン――という甲高い音。どうやら、初撃は受け止められたらしい。
体に走る衝撃を、弟者は体を回転させることで受け流す。


<;ヽ゚∀゚>「う――ひぃぃぃ」

(´<_` )「……」


そして、さらに一撃。
半ば不意打ちに放った攻撃は、男が手にした岩で受け止められていた。

.

163名も無きAAのようです:2013/02/20(水) 21:58:16 ID:UWFaEmzk0


男が弟者の接近に気づいた様子はなかった。

それでも視界に弟者の姿が入ると同時に、その攻撃を受け止めた。それが二度。
普通に考えればそれなりの技量の持ち主。
それにしては、様子が妙だ――と、弟者は分析する。


<;ヽ`∀´>「う、ウリはまだ話の途中ニダ!」

(´<_` ).。oO(試してみるか)


ペラペラとよく喋る顔面へ向けて、弟者は曲刀をなぐ。
それを目の前の男はぎょっと目をむいたあと「わわわ」と岩を落としながらも、その場から下がることで慌てて回避する。
――その動きで、これはおかしいと弟者は確信する。


<*`∀´>「ホルホルホル! このニダー様の油断をつこうなどその所業はまさに悪鬼魍魎の……」

(´<_` ).。oO(あれだけ反応が遅れたのに、回避した)

<;ヽ`∀´>「――って、聞くニダ! この偉大なる大国の王族……も認めたような気がするウリの」


半回転。
そこから再度、逆に回りながら腕を振るう。
しかし、その攻撃も男の手にした刀――青龍刀によって阻まれる。
手にかかる衝撃に、弟者は眉を小さくひそめる。


(´<_` ).。oO(これも止めるか)

.

164名も無きAAのようです:2013/02/20(水) 22:00:13 ID:UWFaEmzk0


<;ヽ゚∀゚>「あ、アイヤー!!! じゃなかった、アイゴー!!」

(´<_` ;).。oO(……厄介だな)

<;ヽ`Д´>「あばばばば」


何やら奇っ怪な叫びをあげる男を前に、どうすれば――と、弟者は逡巡する。
その時間はほんの数秒。しかし、そのほんの僅かな隙を突いて飛来するものがあった。
男の振るう、青龍刀。その切り裂くことに特化した刃が弟者に迫り来る。


(´<_` ;)「……くっ」


油断をしていた。
弟者はそう理解するよりも早く、青龍刀の軌道に曲刀を割りこませる。

そして、一際高い音とともに火花がはじけ飛ぶ。


( <_  ;)「……」

<*ヽ`∀´>「お?」


弟者の手には叩きつけられたかのような痛みと、肩にまで及ぶしびれ。
取り落としそうになる曲刀を握りしめながら、弟者は思考する。

.

165名も無きAAのようです:2013/02/20(水) 22:02:09 ID:UWFaEmzk0


この男の攻撃は重い。
岩を軽々と投げつけるほどの腕力。それを使った力任せの攻撃。
こんなものをまともにくらえば、ひとたまりもない。


<*ヽ`∀´>「……ひょっとしてこれは、千載一遇の機会?」


弟者は、足を引き、後退しながら曲刀の角度をずらす。
刀身をぶつけあっていた刀が少しずつすべりその位置を変え、やがて男と弟者の距離は離れる。


<*ヽ゚∀゚>「勝利は今来たれりぃぃぃ!!!」


男の動きは妙だ。それはもうわかっている。
今重要なのは、男が攻撃に気づくのが遅れても、その攻撃を受け止められるほど素早いということ。


<*ヽ゚∀゚>「食らうニダ!!」

(´<_` )「ならば」


ならば、――それよりも早く、動いてしまえばいい。


.

166名も無きAAのようです:2013/02/20(水) 22:04:33 ID:UWFaEmzk0


<;`∀´>「なにぃ?!」


上段から振りかぶられた青竜刀を、弟者は左に動くことで回避する。
男の攻撃は威力があるが、動作は大振り。これならば避けられないことはない。
しかし、当たれば大きな被害は避けられない以上、それよりももっと有効な手段がある。


早いならば、それよりも早く。
重いならば、それよりも重く。
足りないのならば、より多くの手数で。
――攻撃を受けられないのであれば、攻撃をさせなければいい。


(´<_` )「……」


未だしびれをうったえる右腕で曲刀を強く握ると、弟者は回転しながら刀を振るう。

弟者の振るう刀にとりわけ高度な技術はない。
あるのはがむしゃらな、あてるためだけの愚直な攻撃だけ。

――ただ、その一撃一撃が先ほどよりもずっと早くて、重い。


<;ヽ`∀´>「ア、アイゴー!」


正面で受け止められた刀を強引にひくと、その場で逆に回りながらもう一撃。
止められた曲刀を右上にひきあげ、勢いを殺さないままななめに切り下ろす。
それも無理ならば、曲刀を水平にし、左腹を薙ぐように斬りつける。

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167名も無きAAのようです:2013/02/20(水) 22:06:48 ID:UWFaEmzk0

息もつかさぬ弟者の攻撃に、男の表情にあせりの色が浮かぶ。
――弟者の動きはまるで、剣の舞だ。
くるりと回り、刀を振るい、それでもその動きは一向に鈍る気配はない。
右腕に、首へ、頭へ、心臓へと休むこと無く攻撃は繰り出される。


(´<_` )「……」

<;ヽ`Д´>「……く」


砂漠の民と、東方の男。
ともに向け合うは、形は違えど刃の反り返った曲刀。
繰り出される弟者の攻撃の苛烈さ。翻る銀の軌跡と、橙の火花。
風の音だけが響く無音の世界に、剣戟の音が高らかになる。

その光景はまるで芝居の一場面のように鮮やかだった。



(´<_` )つ==|ニニニ二フ



弟者の動きを受け、軽やかに翻る紫のマント。
――そして、彼の繰り出した愛刀は、人のなしうる速さの限界を超えて、男の腕に叩きこまれた。

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168名も無きAAのようです:2013/02/20(水) 22:08:18 ID:UWFaEmzk0





が、





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169名も無きAAのようです:2013/02/20(水) 22:10:10 ID:UWFaEmzk0


(´<_`;)「……くっ」


弟者は曲刀を下げると、即座に後ろへと飛ぶ。
全体重ののったブーツが乾いた大地をえぐるが、弟者の顔は男に向けられたまま動かない。
驚きのあまり引きつる表情を抑えながら、弟者は男の姿を観察していく。


(´<_`;).。oO(何だ?)


先ほど決まった、一撃。
――その手応えがあまりにもおかしかった。
人ではなく石や鋼にむかって打ち込んだかのような、その感触。


<;ヽ`∀´>「――って、あれ? 怪我が、ない?」


曲刀は確かに男の右手を切った――はずだ。
現に男は顔を歪め、そして今も腕をかばう素振りをしている。

それなのに、男の体には傷の一つもない。

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170名も無きAAのようです:2013/02/20(水) 22:12:33 ID:UWFaEmzk0

だがそれはおかしい。
弟者の持つ曲刀――シャムシールは、男の持つ青龍刀と同様に切り裂くことだけに特化した剣だ。
――あれだけの手応えがあったというのだ。
たとえ鎧や防具を仕込んでいたとしても、その上に着ている服が切り裂かれていないのはおかしいのだ。


( <_  ).。oO(これは……)


弟者は息を呑んで、目の前の男を見据える――。
エラの張った特徴的な顔、つり上がった眼、黒と白の鮮やかな衣装。
傷一つ無い体……


(´<_` )「……」

<;ヽ`∀´>「い、一世一代の攻撃だったようだが、ウリには無駄だったようニダね」


弟者の脳裏に、一つの確信が浮かぶ。
そして、これからとるべき行動も。


<*ヽ`∀´>「栄枯盛衰。厚顔無恥なお前らも、とうとう終わりの時が来たようニダ!!」


男が手にした青竜刀を上段へと構える。
――そして、弟者は愛刀を握り直すと足を踏み出した。

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171名も無きAAのようです:2013/02/20(水) 22:13:16 ID:UWFaEmzk0




時はまだ、昼前。
――彼らの波乱の一日は、まだ始まったばかりである。




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172名も無きAAのようです:2013/02/20(水) 22:14:11 ID:UWFaEmzk0




そのさん。  弟者は砂塵を駆ける


   おしまい


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173名も無きAAのようです:2013/02/20(水) 22:15:26 ID:UWFaEmzk0
そのさん投下ここまでー。
今回はオマケが6レスあるので、そっちも投下します。

174おまけ劇場   l从・∀・ノ!リ人 でざーと×しすたーのようです:2013/02/20(水) 22:17:47 ID:UWFaEmzk0

           __________
          //|‖‖‖‖‖‖‖‖‖
        /;/ ;| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
      /;;/   / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
     /;;;/ :::::::/    〃'´⌒`ヽ
   /;;;;/;::::::::::/   〈((リノ)))i iヽ 
  /;;;;;/:::::::::::::/   l从・∀・ノ!リ人
/;;;;;;/:::::::::::::::/    ⊂)二二(⊃ヽ)
 ;;;;/::::::::::::::::/      〈_l_) ((
;;;/::::::::::::::::::/        U U
/::::::::::::::::::/
:::::::::::::::::::::/


おまけ劇場   l从・∀・ノ!リ人 でざーと×しすたーのようです


.

175おまけ劇場   l从・∀・ノ!リ人 でざーと×しすたーのようです:2013/02/20(水) 22:19:43 ID:UWFaEmzk0


l从・〜・ノ!リ人「うむぅ。兄者たち、行っちゃったのじゃー」


l从‐ 。‐ノ!リ人「でも」


キラーン 十+l从・∀・ノ!リ人


l从・∀・ノ!リ人「妹者にはすっごくリッパなシメイがあるのじゃー!!」


∩l从・∀・ノ!リ人「妹者はおっきい兄者がダメにしたお花がみつかんないようにするのじゃ!」


グッdl从・ 、・´ノ!リ人「サスガだよな、妹者」


゜ミol从>∀<ノ!リ人o彡゜「今の、おっきい兄者そっくりだったのじゃー!!!」

.

176おまけ劇場   l从・∀・ノ!リ人 でざーと×しすたーのようです:2013/02/20(水) 22:22:00 ID:UWFaEmzk0

+ l从・∀・ノ!リ人「バレないように、みはりをするのじゃー!!」


じー l从・∀・ノ!リ人


l从・∀・ノ!リ人.。oO(がんばって、シメイをたっせいしたら……)


     ;'⌒ヽ、_ノ⌒ヽ、_ノ⌒ヽ、_ノ⌒ 、_ノ⌒ 、_ノ⌒ 、_ノ⌒ 、_ノ⌒ 、_ノ⌒ 、_
    /                                                 )
   (  (*´_ゝ`)「流石は俺の天使! 妹者たんかわいい! エラいすごいリッパ!」 (
    )                                                 )
   (  (´<_` )「やるではないか、妹者」                           (
    )                                                 )
   (  \(*´_ゝ`)/「よーし、お兄ちゃん高い高いしてあげちゃうぞー!!」      (
    )                                                 )
   (   (´<_`*)「……特別に妹者の好きな甘いお菓子をわけてやるからな」     (
    )                                                 )
    ヽ、_ノ⌒ヽ、_ノ⌒ヽ_ノ⌒ヽ、_ノ⌒~、_ノ⌒ヽ、_ノ⌒ヽ、_ノ⌒ヽ、_ノ⌒~ヽ_ノ~
                 O
               O
l从‐ 、‐ノ!リ人    .。o



l从・∀・*ノ!リ人「どうしようどうしよう、いっぱいほめられちゃうのじゃ!」


゚・*:.。. ol从>∀<*ノ!リ人o .。.:*・゚ キャー

.

177名も無きAAのようです:2013/02/20(水) 22:24:29 ID:UWFaEmzk0

+l从・∀・*ノ!リ人「みはるのじゃー!!」


じー l从・∀・ノ!リ人


l从・∀・´ノ!リ人「がんばるのじゃー」


じぃぃー ol从・∀・ノ!リ人o


l从・〜・ノ!リ人「うむむむむー」


あふー l从‐д‐ノ!リ人.。O


l从‐∀‐;ノ!リ人「……ねむいのじゃー」


じー l从・∀・;ノ!リ人

.

178名も無きAAのようです:2013/02/20(水) 22:26:32 ID:UWFaEmzk0


l从・∀・;ノ!リ人「妹者は、まだがんばれる」


l从>∀<;ノ!リ人「がんばれるのじゃぁ〜」


じぃぃ l从・∀・;ノ!リ人


うとっ Oo.l从-∀-ノ!リ人


すや〜.......l从- 、-*ノ!リ人


l从- 。-ノ!リ人「……ぐぁんばる……のじゃ……」



l从-〜-ノ!リ人 ムニャ ムニャ



でざーと×しすたー               おしまい

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179名も無きAAのようです:2013/02/20(水) 22:29:45 ID:UWFaEmzk0
本日の投下、今度こそここまで!
次回は三月中に投下ができたらいいなぁと思っている

あと、ブンツンドーさんにまとめていただけました。ありがとうございます!

180名も無きAAのようです:2013/02/20(水) 23:52:28 ID:3wG.kjZ60
いいとこで切るなー


181名も無きAAのようです:2013/02/21(木) 09:50:51 ID:kUKf2Dbk0
おつおつ

182名も無きAAのようです:2013/03/15(金) 12:33:53 ID:5V4RR1zYO
17日か18日に投下します
レス数多めなので、2回に分けて投下するかも

183名も無きAAのようです:2013/03/15(金) 20:57:26 ID:L5alWG.o0
ヒャッハー!

184名も無きAAのようです:2013/03/17(日) 21:55:51 ID:T2xLTBNg0
見直し終わったので投下開始
84レス+おまけ6レス。長いので途中で投下中断するかもです。

185名も無きAAのようです:2013/03/17(日) 21:59:45 ID:T2xLTBNg0


ラクダは砂丘を疾駆する。
こいつらどうしてこんなにも早いんだと嘆くと、兄者はラクダの首にしがみついていた顔をなんとか上げた。
ブーンが魔力を使う気配が先ほどからない。ひょっとしたらこれは――と、兄者は考える。


(;´_ゝ`)「ブーン、攻撃の方は?!」

(^ω^;)「もう何も飛んでこないお」


弟者はどうやら、あの盗賊の元へと到達したらしい。
ここからでは確認することができないが、弟者のことだから戦っているのかもしれない。


( ´_ゝ`)「……とりあえずは、ひとあ、あんしししっ」

( ;゚_ゝ゚)そ「……やばっ」


ぐらりと体が大きくゆれる感覚がして、兄者はラクダ――荒巻の首に回した手に力を込める。
荒巻たちの暴走を止めないことには、ろくに話も出来ないらしい。
兄者はあいも変わらずラクダの首にしがみつきながらも、顔だけをブーンへと向けた。



(;´_ゝ`)「ブーン。中嶋を任せられるか?」


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186名も無きAAのようです:2013/03/17(日) 22:00:46 ID:T2xLTBNg0





( ´_ゝ`)デザート×キャラバンのようです(´<_` )





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187名も無きAAのようです:2013/03/17(日) 22:01:46 ID:T2xLTBNg0




そのよん。 人生とは戦いの連続である



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188名も無きAAのようです:2013/03/17(日) 22:03:59 ID:T2xLTBNg0


(;^ω^)「お? でも、ブーンは」


砂漠を疾走するラクダが二頭。
その内の一頭に乗った兄者に見据えられて、ブーンは戸惑ったような表情を浮かべた。


( ´_ゝ`)「精霊のお前なら、動物と話せるだろ。
      正直、俺一人じゃ荒巻と中嶋は抑えられない……ってうへぇあ!」


兄者はブーンにそう訴えかけると、体のバランスを崩したようだった。
「もう死ぬ、ぜったいに死ぬぅー」と叫びながら、彼は荒巻の鞍にのった足に力を込める。
ラクダの背に乗り続けてるだけも、すでに必死なこの状況。兄者が弟者のラクダの手綱を手に持ち続けるのはそろそろ限界の様だった。


(;^ω^)「わかった、やるお」

( ´_ゝ`)b「流石だよな、ブーン。これで安心だー」

(; ゚ω゚)「手を話しちゃ危ないお、アニジャ!」


.

189名も無きAAのようです:2013/03/17(日) 22:05:40 ID:T2xLTBNg0


兄者の手から手綱を受け取ると、ブーンは中嶋の耳元に近づく。
それから、彼もしくは彼女が怯えないようにほんの少しだけ魔力を込めると、ブーンは口を開いた。


( ^ω^)「もう《大丈夫》だお」


《大丈夫》、という音の響きに中嶋の低い唸り声が止まる。
ささやかながらも込められた魔力は、発せられた言葉をほんの少しだけ真実にする。
ブーンの口にした言葉は、中嶋を安心させるためのごく弱い暗示となって響く。
ブーンの使ったそれは、ほんの小さな魔法だった。


( ^ω^)ノシ「もう大丈夫だおー、ナカジマ。
         石も飛んでこないし、安心だおー」


ブーンの小さな手が、中嶋の耳の後ろを撫でる。
羽を動かしながら飛び、中嶋の首筋をさすり話しかけていく。


( ^ω^)「ナカジマー、もう怖くないお」


怖くないという言葉の意味は、ブーンにはよくわからない。
それでも、こういう時は怖いって思うものなのだと遠い昔のブーンは知っていたような気がする。
かれこれ400年くらい前だろうか。兄者や弟者どころか、“流石”の街が生まれるよりもはるかに前のことである。

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190名も無きAAのようです:2013/03/17(日) 22:08:15 ID:T2xLTBNg0

( ^ω^)「だから、もう落ち着くお」


あのころ自分にあった感情はどこへ行ってしまったのだろう。と、ブーンは考える。
ブーンはこの400年何も変わっていないはずなのに、いつの間にか随分とわからないことが増えてしまった。


(*^ω^)「お?」


そんな思いをはせていたブーンの横で、中嶋の足が止まる。
大きなまつ毛を瞬かせながら、中嶋はブーンに顔を寄せた。


( ^ω^)「どうしたんだお?」


中嶋はその首をブーンにこすりつける。
その動きはまるでブーンを慰めているかのようだった。が、ブーンはそれに気づかない。


(;^ω^)「お、ブーンは食べ物じゃないお」


中嶋のごわごわとした毛の感触を感じながら、ブーンはラクダにかじられていたドクオの姿を思い出す。
そして、ドクオのようにかじられないといいなぁと、呑気なことを考えるのであった。

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191名も無きAAのようです:2013/03/17(日) 22:10:04 ID:T2xLTBNg0


(;^ω^)「ナカジマー、もういいかお?」


中嶋に首をこすりつけられた状況のまま、動けなくなっていたブーンの耳が聞き慣れた声を捉えた。
その声の主は……と、ちょっと考えこんでから、兄者の声かなとブーンは判断する。

“流石”の街の双子たちは、見た目以外で見分けようとするとかなり難しい。
なにしろ違いと言ったら、声の高さがほんの少し違うだけ。
声質も、精霊を見る眼も、魔力を感じ取った時の反応も、おそらく魔力も。そして、何より人を構成する上で最も大切な要素までも同じだ。
見た目が違うのが不思議に思えるほど、あの双子は同じ存在なのだ――と、ブーンは思っている。


(;´_ゝ`)ノシ「おい、ブーン!!!」

ヾ( ^ω^)ノシ「やっぱり、アニジャだお!」


……ブーンの予想の通り、姿を現したのは兄者だった。
そもそも状況から言っても兄者が来るほうが自然なのだが、ブーンは予想が当たったことが楽しいと思ったらしい。
中嶋の周囲を勢い良く飛び回りながら、ブーンは両腕を振った。


(;´_ゝ`)「今からそっち行くから、ちょっと待ってろ」

(*^ω^)「わかったお!」


砂丘の影からひょっこりと姿を表した兄者は、機嫌の悪そうな荒巻を引き連れていた。
兄者は荒巻とともにブーンのもとへと駆け出そうとして、――おもいっきり転んだ。

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192名も無きAAのようです:2013/03/17(日) 22:12:35 ID:T2xLTBNg0


(;^ω^)「あちゃー」


思わずその場で跳ねあがって、ブーンは兄者の様子を見守る。
兄者は苦笑いをしながら立ち上がると、荒巻の手綱を引き走りだそうとして――、ふたたび転んだ。


(; ^ω^)「大丈夫かおー?」

( ´_ゝ`)「あー、平気平気ー」


兄者は取り立てて慌てた様子もなく立ち上がると、砂を払う。
そして、同じ調子で歩き出したが、その動きはどことなくふらふらしており一歩踏み出すたびによろけている。
それでも、兄者は荒巻の手綱を手放さずに進み――、三度目の転倒をした。


(; ^ω^)「アニジャは歩いてるのかお? それとも転んでるのかお?」

( ´_ゝ`)「一応、全力疾走のつもりなのだが。……砂か、砂がいかんのか?!」

(;^ω^)「おー」


「そんな目で見るなー」と荒巻の手綱を持っていない方の手をふりながら、兄者は訴える。
そして彼のそんな動きに、荒巻は不機嫌そうにうなり声をあげた。

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193名も無きAAのようです:2013/03/17(日) 22:14:17 ID:T2xLTBNg0


(;´_ゝ`)「……仕方ないだろう。運動と名のつく能力の大半は弟者が持ってるんだから」


それからまた数回ほど転び、ぜいぜいと息を乱しながら、兄者はブーンと中嶋の元へと到着した。
荒巻にやられたのか、頭に被った飾り布の布地がよだれでべったりと光っている。
そして、ブーンと再会した途端、兄者は意味不明な泣き言を並べ立て始めた。


( ;_ゝ;)「あー、お兄ちゃん悲しいー
      お兄ちゃんにはもうかっこいいとこくらいしか残ってないわー」

( ^ω^)「大丈夫だお。アニジャはかっこいいだけじゃなくて、とっても楽しいお!」


( ´_ゝ`)「ブーン」

( ^ω^)「アニジャ」



ナカヨシー(*´_ゝ`)人(^ω^*)ナカヨシー


ドクオか弟者がいたならば確実に口を挟んだであろうが、この場には残念ながら二人ともいなかった。
兄者とブーンは互いに手を取り友情を深めると、これまで来た道を振り返った。

.

194名も無きAAのようです:2013/03/17(日) 22:19:23 ID:T2xLTBNg0


(;^ω^)「オトジャは大丈夫かお」

( ´_ゝ`)「弟者がやられることはないとは、思うが……」


ブーンの言葉に、兄者は目を閉じ黙りこむ。
普段賑やかな兄者が急に黙りこむと、ブーンはとたんに胸がざわざわとする。
そんな心境の変化にびっくりとして、ブーンはあわてて兄者の飾り布をひっぱった。


( ´_ゝ`)「どうした、ブーン?」

(;^ω^)「えーと、あと」

( ´_ゝ`)「落ち着かないのか?」

( ^ω^)「おちつかない」


兄者の言葉にブーンはきょとんとした顔を見せた。
しかし、その顔はすべて満面の笑みに変わる。
何が原因であるかはわからないが、兄者の言葉はブーンにとってどうやら嬉しいものであったらしい。


(*^ω^)「たぶん、ブーンは落ち着かないってやつなんだお!」

( ´_ゝ`)「おお、そうかそうか」

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195名も無きAAのようです:2013/03/17(日) 22:20:20 ID:T2xLTBNg0


そして、兄者は再び目を閉じた。
しばらく黙り込んだ後に、「んーどうしようかなー神様ー仏様ー母者様ー」などとつぶやいてから目を開く。
そして、うんと頷くと兄者は腕を上げた。


( ´_ゝ`)ノ「よし、戻ろう!」

( ^ω^)「戻るのかお?」

( ´_ゝ`)「今のところ怪我はしてないみたいだが、あいつにしては苦戦しているみたいだ」

( ^ω^)「そう、なのかお?」


兄者はどうやら自信満々のようだが、ブーンにはその理由がよくわからない。
ブーンの目ではここから離れてしまった場所にいる弟者の姿は見えない。
でも、兄者が言うのならばそうなのだろうと、とりあえずブーンは納得することにする。


( ´_ゝ`)「正直、俺が行ったところで足手まといにしかならんが。
      まあ、お出迎えがきたほうがあいつも嬉しかろう。多分、きっと、そうだといいなぁ」

(;^ω^)「それ、本当かお?」

(;´_ゝ`)ノシ「いや、別に今、適当にでっち上げたとかそんなことはないからな! な!」

( ^ω^)「それならいいおー」


ここにドクオがいたのならば、「そんなわけねぇだろ」とでも言い出しただろうが、残念ながら彼は未だ行方不明のままだ。
どうみても兄者の態度は不審なのだが、ブーンはニコニコとした表情で納得している。

.

196名も無きAAのようです:2013/03/17(日) 22:21:17 ID:T2xLTBNg0


(;´_ゝ`)ゝ「だいぶ弟者から、離れてしまったようだな」


足元の砂を踏みしめて、兄者は周囲を見回す。
これまで荒巻に乗ることに必死でわからなかったが、どうやらいつの間にやら本格的な砂丘地帯に突入してしまったらしい。
先程まで転がっていた岩たちは姿を消し、周囲には太陽の光に輝く砂ばかりが広がっている。


( ^ω^)つ「おー。でも、ずっとまっすぐに進んできたからすぐに戻れるお」

(;´_ゝ`)ゝ「ふむ。まっすぐか……」


ブーンの指差す方向を見て、兄者はため息をつく。
見るからに越えるのが大変そうな、巨大な砂丘。その砂で形作られた山の上に、荒巻たちの足跡が残っている。
一瞬、回り道はないものかと思ったが、そうすると道に迷ってしまいそうなので、兄者は諦めることにした。


( ´_ゝ`)「がんばれ、荒巻。今の俺達には君が頼りだ。
      ブーン、このまま中嶋のことを頼めるか?」

(*^ω^)「了解だお! ナカジマ、ブーンたちを頼むおー」


兄者の声に荒巻は低い唸りをあげ嫌がり、中嶋はおとなしく首を縦にふり答える。
ラクダたちの足は下が砂地でも関係ないのか、目の前の山にも怯むこともない。
荒巻の高い背に乗っても、視界を塞ぐ砂丘にため息をつきながら、兄者は荒巻の足を進めていく。

.

197名も無きAAのようです:2013/03/17(日) 22:22:43 ID:T2xLTBNg0


( ´_ゝ`)ゝ「んー、弟者はどこだー」

( ^ω^)ゝ「んー、もいっこくらい砂丘を超えなきゃいけないみたいだお?」


片手を目の上に軽く上げながら兄者がつぶやくと、中嶋の手綱を握ったまま飛んでいたブーンが答えた。
その言葉に兄者は「あーあ」と嘆くと、がくりと首を落とす。


(;´_ゝ`)「うえー、どんだけ走ったんだよ荒巻ぃー、中嶋ぁー」

(;^ω^)「むー、ナカジマもアラマキも怖かったんだから仕方がないお」

( ´_ゝ`)「……怖いねぇ」


「お」と表情を変えてブーンの姿を見やった兄者の表情が、ふと変わる。
荒巻と中嶋が登りはじめた砂丘。
その砂丘の一角。彼らが目指す方向とは少しずれたところに、一瞬鮮やかな色彩が見えた……ような気がする。


( ´_ゝ`)σ「ブーン、ちょっと待て。こっちこっち!」

( ^ω^)「どうしたお?」

( ´_ゝ`)σ「なんか、なんか見えた!」

  _,
( ^ω^)「おー」

.

198名も無きAAのようです:2013/03/17(日) 22:24:08 ID:T2xLTBNg0


( ^ω^)「なにも見えんお」

(;´_ゝ`)σ「いや、いるし!」


兄者は荒巻の手綱を引っ張ると、荒巻の進む方向を変える。
そのまま手綱を操って、先ほど何か色が見えた方に進んでいく。


( ´_ゝ`)「ほら、見ろ」

(;^ω^)「そう言われれば……」


砂丘の尾根の向こうには、さきほどまで彼らが休憩していたのと同じ荒野が見える。
それを望むようにして、人一人をすっぽりと覆えるような赤い布が広がっている。
そして、その下には何やら人らしき影……。それは、もう露骨に怪しいといわんばかりの光景だった。


( ´_ゝ`)σ「ブーン、行くぞ!」

(;^ω^)「え? 行くのかお?」


ブーンは戸惑った顔を浮かべるが、兄者は荒巻の速度上げ一人突き進む。
その姿を見て、ブーンは慌てて中嶋の耳元によると、兄者の後を追いかけるようにお願いする。


( ^ω^)「というわけで、お願いしますおナカジマ」


ブーンの声に中嶋は、優しい鳴き声で答えた。

.

199名も無きAAのようです:2013/03/17(日) 22:26:11 ID:T2xLTBNg0


( ´_ゝ`)「おい、そこの布っ!」


兄者の声に、地に横たわっていた赤い布は――いや、その下にいる人物はびくりと震えた。
赤い布がもぞりと動くと、その下にいる何者かが体を起こす気配がした。


(;´_ゝ`)「そ、そちらにいらっしゃるのはどなたでしょうか?
      あ、俺そんなに怪しいものじゃないですよ。兄者といいまして」

( A * )「……」


布の下に誰かがいると思っていなかったのか、それとも話しかけた後のことは考えていなかったのか……。
兄者は威勢よく掛け声をかけたわりには、弱気な態度で布の下にいた何者かに話しかけた。


(゚A゚* )「――あ」

( ;゚_ゝ゚)「へ?」


赤い布が落ちる。

そこにいたのは、妹者よりも少し大きいくらいの年頃の少女だった。
赤と白、そして黄を基調とした東方の服。
驚いたように目を見開いた顔には大きな猫の耳。よくみれば、その耳には赤い花をかたどった飾りをつけている。
薄紫色の毛並みに長い尾の、猫のような少女がそこにいた。

.

200名も無きAAのようです:2013/03/17(日) 22:28:04 ID:T2xLTBNg0


(; ゚_ゝ゚)「……」


どうして、子供がこんな所に……。しかも、たったの一人で。
兄者は呆然と少女の顔を見つめる。


キンッ


混乱して何も言えない彼の耳がぴくりと動き、かすかに金属音を拾う。
最初に脳裏に閃いたのは、弟の名前。
それから、先ほどの音が剣戟の音であるということに兄者は気づく。


(゚A゚* )「……あの」


状況は確認できないが、弟者とあの盗賊はまだ戦っている。
下手をしたら、ここが戦場になる可能性も高い。


(;´_ゝ`)「そこのお嬢ちゃん! ここは危ないぞ!!」

(゚A゚* )「へ、え?」

.

201名も無きAAのようです:2013/03/17(日) 22:30:08 ID:T2xLTBNg0


(;^ω^)「アニジャーっ、大丈夫かお?」

(;´_ゝ`)「俺は大丈夫だが……」


追いついてきたブーンと中嶋の姿を振り返り、兄者は何か思いついたのかはっとした表情を浮かべる。
ブーンたちの姿と自らが乗る荒巻の姿を交互に見比べ、それから兄者は少女を見つめた。
視線を受けた少女の表情が固まっていく。その様子を見て取って、兄者はその表情を笑みに変える。
少女が怯えないように、兄者は笑顔を浮かべたまま、できうる限りの優しい声で話しかけた。


(*´_ゝ`)「お嬢ちゃん。ちょっとの間、俺と一緒に来てもらってもいいか?」

(゚A゚; )「あの……」

   _,
(*´_ゝ`)「さっきも言ったけど、今ちょーっとだけ、ここは危ないんだ。
       ほんとーぉに申し訳ないんだが、ちょっとだけ。ちょっとだけだから、ね?」


どう見ても不審者丸出しの言葉。
しかし、兄者の名誉のために言うならば、彼は年端の行かない少女に欲情する趣味は持っていない。
単に、真剣を持った男二人がすぐ近くにいるような場所に、幼い子供が一人でいることを嫌っただけである。


( ´_ゝ`)「ブーン、いけるか?」

(;^ω^)「はへ?」

( ´_ゝ`)σ「あの子を荒巻に乗っけてやってくれないか?
        俺の鞍の前の方に乗せるから、ちょっと頼むわ」

.

202名も無きAAのようです:2013/03/17(日) 22:32:12 ID:T2xLTBNg0

少女の周りには同行者の姿はおろか、乗り物姿さえも見えない。
兄者とて砂漠の民であるから、その不自然さは十分理解している。
しかし、それでも彼はこの場に少女を放置することを選ばなかった。


( ^ω^)b「まかせるお!」

(゚A゚; )「え? あ、どないしはったんです?」


少女はこのあたりではほとんど聞かない言葉遣いで言った。
東の大都よりも、はるかに東。東の果ての島で使われるのに近い言葉。しかし、そのことを兄者は知らない。
ただ、この少女は随分と遠くから来たのだなぁとだけ兄者は理解する。


(;´_ゝ`)「緊急事態だ。しばらくの間我慢してくれ」

( ^ω^)つ 《飛ぶお》


ブーンの手が動き、言葉ともとれない奇妙な音が兄者の耳に響く。
魔力を感じ取るとき特有の肌がぞわぞわと粟立つ感触は、兄者にとってどうにも慣れない。
弟者が魔法を好まないのは、この体質も影響しているのではないかと兄者は思う。


((゚A゚; )「え、や。何?」

( ´_ゝ`)「おっと、余計なことを考えている場合ではなかったな」

.

203名も無きAAのようです:2013/03/17(日) 22:34:20 ID:T2xLTBNg0


兄者はその場からふわりと“飛んだ”少女の体を抱きとめると、自分の座る鞍の前の方に座るようにと誘導する。
少女の体は見た目よりもはるかに華奢で、力のほとんどない兄者でもどうにかなるくらいだった。


( ^ω^)「これでいいのかお?」

( ´_ゝ`)b「流石だな、ブーン。まさに完璧な仕事ぶりだ」

(゚A゚; )「えと、あの」


少女は兄者の手から離れて地面に降りようとして、荒巻の背の高さに怖気づいたようだった。
ラクダという生き物は、大人の男よりも背が高い。
その鞍の上となると体の小さな少女では、なかなか逃げられない。


( ´_ゝ`)「ここは今、盗賊と“流石”の自警団員が戦っていて危険だ。
      あのままあそこにいたら、巻き込まれる可能性が高い」

(゚A゚* )「……」

( ´_ゝ`)「だから、お嬢ちゃんの身柄は俺が一時的に保護させてもらう。
      まあ、ここは街でもないし、俺は弟者じゃないからそんな権限なんてないんだけどな」

  _,
( ^ω^)「アニジャが難しいこと言ってるお」

(*´_ゝ`)ノ「え? 俺って、超かっこいい? 照れるじゃないか!」

.

204名も無きAAのようです:2013/03/17(日) 22:36:03 ID:T2xLTBNg0


少女は兄者の言葉になにやら考え込んでいるようだった。
胸の前でぎゅっと小さな手を握り、兄者に問いかけた。


(゚A゚; )「えと、お兄さんはその、エライ人なん?」

( ´_ゝ`)「いやー、俺は別に偉くないけどね。
      でも、妹がいるから、こんなところで女の子が一人なのはほっとけないみたいな感じで」

ヾ( ^ω^)ノシ「オトジャのほうが多分エライおー」


ヽ(;´_ゝ`)ノ コノ ウラギリ モノー       ワーヾ(^ω^*)ノシ


少女はぎゅっと目を閉じる。
そして、砂丘の向こうの方向をじっと見てから、口を開いた。


(゚A゚* )「……その、ちょっとの間お世話かけます」

(*´_ゝ`)b「俺は兄者=流石。しばらくのあいだよろしくなー」

( ^ω^)∩「ブーンはブーンだお!」


彼らの挨拶に、少女はこくりと頷く。
……しかし、彼女は自らの名前を名乗ろうとはしなかった。

.

205名も無きAAのようです:2013/03/17(日) 22:38:13 ID:T2xLTBNg0

――――――――――――――――
―――――――――――――――
――――――――――――――
――――――――――――



<*ヽ`∀´>「ウェーハハハハハ! 千載一遇の好機!」


男が振り上げた青龍刀に力を込める。
それが目に入っているというのに、弟者は男にへと突っ込んでいく。



( <_  )つ==|ニニニ二フ



大地を踏みしめる足は、人の速さを超え――。
一撃を加えた時よりも、男が武器を振り下ろすよりも、はるかに速く。
弟者は瞬く間に男の真横を通り過ぎると、すれ違いざまにその腹を撫で切った。


<;ヽ`∀´>「……くっ」


男の口から苦痛のうめきがあがるが、弟者は立ち止まらない。
青龍刀の間合いから完全に外れる場所まで来たところで、弟者はようやく振り返ると立ち止まった。

.

206名も無きAAのようです:2013/03/17(日) 22:40:10 ID:T2xLTBNg0


(´<_` ).。oO(やはり、斬りつけても攻撃は通らない。か)


男との間の距離を図りながら、弟者は思考する。
男の長衣はどれだけ観察しても腹にあたる部分に血の染みどころか、傷ひとつない。
先ほどと同じ。確かに攻撃が通った感触があったというのに、切り裂かれた形跡はどこにもない。


( <_  ).。oO(魔道具か、もしくは魔法か。服だけじゃなく身体の強化もしているな)


弟者は奥歯を噛み締め、自分を抑えこむ。
今は激情に流されている場合ではない。ここで仕損じては、俺に危害が及ぶ。
弟者は、男の姿を見据えると口を開く。


<;ヽ`∀´>「い、一世一代の攻撃だったようだが、ウリには無駄だったようニダね」

(´<_` )「は、どうだか」

<#ヽ`∀´>「な、う、ウリは東の大陸の果てにある全ての起源の大国でも名のしれた男ニダ!
       お前らみたいな有象無象のへなちょこ野郎とは違うニダ!」


男の顔色が赤くなるのと見て取ると、弟者は口元に笑みを浮かべる。
口の端を吊り上げ、しかし視線は相手を見下したまま。感情を乗せない平坦な声を出す。


(´<_,` )「ふーん。で?」


.

207名も無きAAのようです:2013/03/17(日) 22:42:06 ID:T2xLTBNg0

その言葉の効果は劇的だった。
男の赤くなった顔が一瞬白くなり、それからすぐに怒りで沸騰する。


(´<_` )「その有象無象のへなちょこ野郎相手に、何もできないのは誰か。
      そうだな。小一時間ほど問い詰めたいものだな。一体何処の誰が、そんなマヌケなことをするのかと」

<#`∀´> >「――なっ」


(´<_`*)「まったく、ド低能にもほどがある」


声を上げて笑いながらも、弟者の目は男との距離を測り続ける。
そして、掲げた曲刀を鞘に戻すと、やれやれと肩をすくめて見せた。


(´<_,`*)「お前さんのご立派な国とやらの程度が知れるな」

<#ヽ ∀ >「もう許さんニダぁぁぁぁぁ!!!!」


男は青竜刀を頭上に掲げると、弟者に向けて走りだす。
一歩、二歩、三歩。
間合いに入ると同時に振り下ろされる刀を、弟者は後ろに下がって避ける。


<#ヽ゚∀゚>「絶対に殺すっ!!!」

.

208名も無きAAのようです:2013/03/17(日) 22:44:07 ID:T2xLTBNg0


そして、繰り出される右からの二撃目と、返す刀での三撃目。


( <_  )「……っ」


弟者の曲刀は鞘にしまわれている。
その無防備きわまりない状態のままで男の二つの攻撃を、後ろへと下がりながら回避していく。

一撃でもかすれば、おそらく最後。
そのギリギリの状況に弟者の頭からは血の気が失せ、息が上手くつけなくなる。
それでも、彼は余裕の表情だけは決して崩そうとしない。


<#ヽ゚∀゚>「これで最後ニダっ!!!」

(´<_` )「当たらん」


再び上段、めいいっぱいの力を込めて男の青竜刀が振り上げられる。
その攻撃を回避できる距離まで、弟者は渾身の力を込めると後ろへ跳ぶ。

着地。
それとほぼ同時に、体を反転。
男の攻撃の行く末は確認せずに、そのまま足に力を込める。


(´<_` )「お前では俺に追いつくことなど、出来ないからな」

<#ヽ ∀ > >「ぐぅぅ」

.

209名も無きAAのようです:2013/03/17(日) 22:46:24 ID:T2xLTBNg0


踏み出した足が、砂の感触を伝える。
ひび割れた大地が、砂だけで満ちた砂丘へと姿を変えていく。


<#ヽ゚∀゚> >「ぜったいに、逃がさんニダ!!!」

(´<_` )「いくらでも吠えろ、下衆が」


そして、砂を踏むじゃりりという音と、ぶんっという刀を振るう音。
その音を耳に捉えながら、弟者は砂塵を再び駆けはじめる。


<#ヽ゚∀゚>「待てぇぇぇぇ!!!!」


走りだした弟者の背を狙わんと駆ける、男の姿。
それを確認して、弟者は確信する。


――かかった。


男が追いつけそうで追いつけない、ギリギリの速さを見極めながら走る。
速すぎてもいけないし、遅すぎても命が無い。
命をかけた鬼ごっこなど、とても笑えたものじゃないな――この状況下なのにそんな軽口を思いつく自分に、弟者は呆れる。

.

210名も無きAAのようです:2013/03/17(日) 22:48:36 ID:T2xLTBNg0

息はつける。
頭の血の巡りも、今はもう良好。
あとは、最後の詰めでしくじらないだけ。


(´<_` )「そこで待つマヌケがいるか」


首元に手を伸ばす。
指に伝わるのは金属の感触。
気取られぬように細心の注意を払いながら、指を動かしその留め金を外す。


<#ヽ゚∀゚>「信賞必罰、とっととウリに首を差し出すニダァァァァ!!!」


やがて視界に広がりはじめる砂の丘。
弟者はそれをためらうこと無く、駆け上がる。
踏みしめるはじから崩れ落ちていく砂山を、弟者はこともなげに駆け登っていく。


<#ヽ゚∀゚>「ウリがこれくらいで力尽きるかと思ったニダ?!」


それから、少し遅れて男が砂の丘を駆け上がる。
足にも砂が絡みつくが、男の頭の中には弟者をしとめることしか残っていない。
素足に直接履かれた靴に、熱せられた砂が入り込むがそれにすら男は気づかない。


――そして、

.

211名も無きAAのようです:2013/03/17(日) 22:50:09 ID:T2xLTBNg0

顔を上げた男の目にうつったのは、一面の薄紫。
夕暮れの終わりに広がる空の色。しかし、当然のことながら今は夕方ではない。


――だとしたら、これは一体……。


……その時、男は完全に不意をつかれていた。
だから、その色彩が弟者の身に着けていたマントの色だと気づけなかったのは仕方のないことだった。


<;ヽ ∀ >「……くっ」


しかし、それでも男はマントの向こうから迫り来る何か――弟者の曲刀を、振り回した手でかろうじて受け止めた。
男の体に働く不可思議な作用は、不意打ちの攻撃でも刃を通さない。
男の体も、服も先程までと変わらず。切り裂かれた様子は一切ない。しかし、それでも痛みまでは完全に消せない。


<;ヽ ∀ >「――っ、たいニダ!」


バサリと音を立て男の顔にマントが落ちる。
男は痛みに顔を歪めながら布を顔からどけようとして、


何かに、足を



                        とられ、



――地に倒れ込んでいた。

.

212名も無きAAのようです:2013/03/17(日) 22:52:46 ID:T2xLTBNg0


下が砂地であるため、男の体にさほどのダメージはない。



<;ヽ`∀´>「――っ!?」


しかし、それでも彼には何が起きているのか、理解できない。
ただ、自分が地に倒れ伏しているという事実に男は狼狽し。


(´<_` )「お前のそれは刃は防げても、衝撃までは殺せない」


声と、
己の上へと落下してくる弟者の姿を見た――


(´<_` )「それに気づかなかった時点で、お前の負けだ」



衝撃。
痛いのかすらわからなくなるほどの振動と熱とともに視界が一気に狭くなる。
チカチカとする光、消えた音、吸えない息……男はなんとか息を吸おうと口を開き、


……それっきり意識は完全に途絶えた。

.


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