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スタンド小説スレッド3ページ

1新手のスタンド使い:2004/04/10(土) 04:29
●このスレッドは『 2CHのキャラにスタンドを発現させるスレ 』の為の小説スレッドです。●

このスレでは本スレの本編に絡む物、本スレ内の独立した外伝・番外編に絡む物、
本スレには絡まないオリジナルのストーリーを問わずに
自由に小説を投稿する事が出来ます。

◆このスレでのお約束。

 ○本編及び外伝・番外編に絡ませるのは可。
   但し、本編の流れを変えてしまわない様に気を付けるのが望ましい。
   番外編に絡ませる場合は出来る限り作者に許可を取る事。
   特別な場合を除き、勝手に続き及び関連を作るのはトラブルの元になりかねない。

 ○AAを挿絵代わりに使うのは可(コピペ・オリジナルは問わない)。
   但し、AAと小説の割合が『 5 : 5 (目安として)』を超えてしまう
   場合は『 練習帳スレ 』に投稿するのが望ましい。

 ○原則的に『 2CHキャラクターにスタンドを発動させる 』事。
   オリジナルキャラクターの作成は自由だが、それのみで話を作るのは
   望ましくない。

 ○登場させるスタンドは本編の物・オリジナルの物一切を問わない。
   例えばギコなら本編では『 アンチ・クライスト・スーパースター 』を使用するが、
   小説中のギコにこのスタンドを発動させるのも、ギコにオリジナルのスタンドを
   発動させるのも自由。

 ★AA描きがこのスレの小説をAA化する際には、『 小説の作者に許可を取る事 』。
   そして、『 許可を取った後もなるべく二者間で話し合いをする 』のが望ましい。
   その際の話し合いは『 雑談所スレ 』で行う事。

527ブック:2004/06/05(土) 02:10
     EVER BLUE
     第二十六話・GUN&BLADE HIGH−TENSION 〜試し合い〜 その二


 三月ウサギとタカラギコが、得物を握ったまま向かい合っている。
 ふたりは、まるで彫刻のように微動だにしない。

「……!」
 最初に均衡を破ったのは三月ウサギだった。
 両手に持っていた剣をタカラギコに投げつけ、
 さらに地面に突き刺さっている剣を取っては次々と投擲する。

「勘弁して下さいよ…」
 タカラギコが、それらを全て銃で撃ち落としていく。
 なんという精密射撃。

 しかし銃で剣を打ち落とすという事は、
 それだけ三月ウサギへの攻撃が手薄になるという事でもあった。
 三月ウサギがその合間を縫ってタカラギコとの距離を詰める。

「喰らえ…!」
 充分に接近した所で、三月ウサギが剣を振るった。
「くッ!」
 タカラギコが、その剣を右手の銃で受ける。
「!!!」
 三月ウサギが、もう片方の剣でタカラギコに斬り掛かる。
 タカラギコは、それも別の手の拳銃の銃身で防御した。
 響き渡る金属音。

「!!!!!」
 銃声。
 タカラギコが拳銃を発砲した。
 だが、攻撃の為に発砲したのではない。
 発砲の反動を利用して、受け止めている三月ウサギの剣を弾き返したのだ。

「ちッ!」
 三月ウサギがやや体勢を崩した。
 タカラギコはその隙にバックステップ。
 三月ウサギとの距離を取って、剣の間合いから離脱する。
「逃がすか…!」
 すぐさま三月ウサギはタカラギコとの間合いを詰めた。
 そのままタカラギコの胴体を左から切り払い―――

「!?」
 しかし、三月ウサギの剣はタカラギコの体をすり抜けて、
 次の瞬間タカラギコの体が消失した。
 これはッ!?
 いや、似たようなものを僕は一度見た事がある。
 確か、tanasinn島で『紅血の悪賊』に襲われた時に…

「!!!!!」
 刹那、三月ウサギの背後にタカラギコが出現した。
 三月ウサギに向かって銃の照準を合わせている。
「くっ…!」
 三月ウサギが振り向きながらタカラギコに剣を投げつける。
 だが、またもやタカラギコの体を剣がすり抜ける。
 これも虚像(フェイク)…!

「……!」
 三月ウサギがタカラギコを探して周囲を見回す。
 しかし、タカラギコの姿はどこにも見えない。
 音で探ろうにも周りには物音一つ立たず、
 気配でさぐろうにも嘘みたいに気配が掻き消えている。
 完璧な隠身術。
 本当にタカラギコはここにいるのかという錯覚すら覚えてしまう。

「!!!!!」
 三月ウサギの死角からあの光の線が発射される。
 まずい。
 このままだと、三月ウサギは―――

528ブック:2004/06/05(土) 02:11

「!!!」
 と、直撃の寸前で三月ウサギの体がその場から消え去った。
 いや、消え去ったと言うのは正しくない。
 語弊を恐れず言うが、三月ウサギの体が甲板の床へと『落ちた』のだ。

「!?」
 よく見ると、三月ウサギの消えた場所の床に
 黒い水溜りのような染みが生まれている。
 あの中に、三月ウサギは落ちたのか?
 !!
 まさか、あれが『ストライダー』!?

「!!!!!!!」
 次の瞬間、光線が放たれた場所目掛けて黒い水溜りから大量の剣が飛び出した。
 金属と金属の衝突音と共に、何も無い筈の空間で剣が弾かれる。
 そこから、徐々にタカラギコの姿が浮き出てきた。

「…褒めてやる。
 俺にここまで『ストライダー』を使わせた奴は、そう多くない…」
 黒い染みから、三月ウサギがゆっくりと這い出した。

「あなたこそ流石です。
 私の同僚にも凄腕の剣客の女性が居たのですが、
 あなたならば充分互角に張り合えますよ…」
 タカラギコが笑いながら言う。
 あの三月ウサギと互角に張り合える女!?
 一体それはどんな怪物なんだ。

「ほう。
 そんな女が居るのなら、是非とも会ってみたいものだな。」
 剣を構えながら三月ウサギが口を開く。

「…残念ですが、それは無理な相談ですね。」
 タカラギコが、不意に寂し気な表情を見せた。
 と、瞬く間にタカラギコの姿が再び消えていく。

「同じ手が何度も通用すると思うな…!」
 タカラギコが消えていくのを見て、
 三月ウサギがマントの中から大量の取り出して空に撒いた。
 一体、彼は何を…

「…オオミミ、そこの女、死にたくなければ動くなよ?」
 三月ウサギが僕達に目を向けずに告げる。
 一体、彼は何をするつもりなんだ?

「!!!!!」
 その時、僕はようやく三月ウサギの狙いに気がついた。
 空に撒かれた剣が、重力に導かれて上空より飛来する。
 それはまさしく、剣の雨であった。

「うわああああああああ!!!」
「きゃああああああああ!!!」
 オオミミと天が叫び声を上げる。
 しかし、剣の雨は二人の居る場所だけには降らなかった。
 何という技。
 いや、これはもはや技(スキル)なんてレベルじゃない。
 業(アート)そのものの領域だ…!

「くっ…!」
 舌打ちと共に、何も無い空間で剣の雨が弾かれる。
 タカラギコは、あそこか!

529ブック:2004/06/05(土) 02:11

「……!」
 三月ウサギがその場所に向かって高速で突進する。
「……!」
 タカラギコも最早姿を消しても遅いと考えたのか、
 姿を現して三月ウサギを迎え討つ。

「はあッ!!」
 三月ウサギが剣で斬り掛かる。
「ふっ!!」
 タカラギコが拳銃を抜く。
 お互いの距離が一瞬にして縮まり―――

「!!!!!!!」
 全くの同時に、三月ウサギとタカラギコが必殺の型に入った。
 三月ウサギは右手の剣をタカラギコの首筋に当て、
 タカラギコも拳銃を三月ウサギの眉間へと突きつけている。
 まさか、これ程までに伯仲した勝負だったとは…!

「……」
「……」
 三月ウサギとタカラギコは、得物を突きつけあったまま動かない。
 なのに、次の瞬間にもどちらかが死ぬかもしれないという圧迫感。
 見ているこちらが、先にどうにかなってしまいそうだ。

「……ふ。」
 と、タカラギコが微笑みながら銃を床に落とした。
「…ふん。」
 三月ウサギも、それに毒気を抜かれたのか剣を納める。
 どうやら、組み手はここで終わりのようだ。

「いやぁ、いい汗を掻かせて貰いました。
 またお手合わせ願いたいものですね。」
 タカラギコがにこやかに手を差し出した。
「……」
 しかし、三月ウサギはそれを知らん振りして後ろに振り返り、
 さっさとそこから去って行ってしまう。

「…嫌われちゃってますねぇ。」
 タカラギコが苦笑する。

「そうでもないと思いますよ?
 ああ見えて、三月ウサギは結構優し―――」
「オオミミ!
 適当な事を喋るな!!」
 オオミミの言葉を三月ウサギが遮る。
 あんな遠くからオオミミの声が聞こえるとは。
 長い耳は伊達ではないという事か。

「怒られちゃったね。」
 オオミミが舌を出しながら僕に囁く。
(君は余計な事言い過ぎだよ。)
 僕はそう相槌を打つのだった。

530ブック:2004/06/05(土) 02:12



     ・     ・     ・



「た、大変です歯車王様!
 奇形の奴が、勝手に出て行きました!!」
 軍服に身を包んだ兵士が、慌てた様子で歯車王の下へと駆けつけた。

「何ィ!?」
 信じられないといった風に答える歯車王。

「警備の者を強引に振り切り、
 一体の『カドモン』と数人の乗組員を脅して引き連れ、
 小型快速戦闘船『黒飛魚』を強奪した模様です!
 現在追跡隊を編成しておりますが、
 果たしてあの『黒飛魚』に追いつけるか…」
 軍人が顔を曇らせて告げる。

「貴様、何故おめおめとそのような事を!」
 電子音の入った怒声が、軍人に叩きつけられる。
 軍人が、その声を受けて身を萎縮させた。

「申し訳御座いません!
 ですが、あの奇形もスタンド使い。
 私達ではとても―――」
 軍人がそう弁解しようとする。

「言い訳は聞いておらぬ!
 首を落とされぬうちにさっさと奴を引っ立てて来い!!」
 歯車王が激昂する。
「は、はいっ!!」
 軍人は、逃げるように部屋を飛び出していった。



     ・     ・     ・



「速い!速い速い速い!
 流石は『黒飛魚』、金がかかっているだけはあるねぇ。」
 奇形モララーが、椅子にふんぞり返りながら満足そうに言った。

「き、奇形モララー様、本当にこのような事をなさって大丈夫なのでしょうか…」
 操舵士が不安そうに奇形モララーに尋ねる。

「あア?
 誰がお前に意見を許可した?」
 奇形モララーがその男を睨む。

「も、申し訳ございません!!」
 慌てて操舵士が謝る。
 その顔には冷や汗がびっしりと流れ出ていた。

「…う〜……うう…」
 と、奇形モララーの横に居る拘束具で包まれた人型の『何か』が、
 呻くような声を上げた。

「…はン。
 同族の気配を感じ取ってるようだなァ。
 しっかり仕事してくれよ…」
 奇形モララーが足で『何か』を小突く。
 『何か』がさらにくぐもった声を出して身悶えた。

「さて…
 大人しく待ってろよ、『成功体』ちゃんよォ…」
 奇形モララーが凄絶な笑みを浮かべる。
 その異様な雰囲気が乗組員の恐怖をさらに煽っていた。

「速いぜ速いぜ、速くて死ぬぜぇ…!」
 奇形モララーが舌なめずりをしながら呟いた。



     TO BE CONTINUED…

531ブック:2004/06/06(日) 00:37
 次の回からいよいよ血みどろの展開になる予定ですが、
 ちょっとその前に閑話休題。
 息抜きのつもりでどうぞ。
 あと勿論、このストーリーは本編とは一切関係がありません。



     番外・ときめきEVER BLUE 〜伝説の樹の下で〜
        出会い編


 やあ皆、僕の名前は『ゼルダ』。
 自他共に認めるオタクゲーマーさ。
 今日は新しい美少女ゲームソフトを買ってきたんだ。
 面白いゲームだといいなぁ…

(さて、と。)
 さっそく封を破り、ソフトを取り出す。
 僕が買ったのはあの有名なゲームメーカであるコ@ミのソフト。
 そう、もう言わなくても分かるよね。
 あの超有名な美少女ゲームソフトといえば…

(『ときめきEVER BLUE』…?)
 僕はパッケージに書かれてあるゲーム名を呼んで首を傾げた。
 ち、違う。
 似ているけど何か違うぞ!?

(ま、まあいいや。
 とにかく始めてみよう。)
 気を取り直し、ゲームをスタートする。
 あのお馴染みの曲が流れ…
 ではなく、黒の背景に何やら美少女キャラが太極拳みたいな踊りをし始めた。
 ちょっと待て。
 これってセンチメンタ(ryじゃねぇかよ!
 別の会社のゲームのパクリじゃねぇかよ!!

 そして画面に表示されるゲームタイトル。
 しかし、やはり何度見ても『ときめきEVER BLUE』。
 もういい。
 肝心なのは中身だ。
 オープニングにはこの際目を瞑ろう。

(まずは主人公の名前の入力か…)
 自分の分身である主人公の名前。
 これは結構重要な選択だ。
 さんざん悩んだ末、『オオミミ』と入力する。
 そして、いよいよゲームスタート。

「ふあああああああ…」
 主人公のオオミミの欠伸の声。
 どうやら、まずは主人公の自宅からストーリーが展開するらしい。
「さあ、今日は高校の入学式だ。
 新しい生活が始まるけど、楽しい毎日だといいなあ。」
 妙に説明臭い台詞。
 まあ、ゲームだから仕方無いか。

532ブック:2004/06/06(日) 00:37

「ちょっと、一人で何ぶつぶつ言ってるのよ。」
 画面が切り替わり、全裸の少女がベッドに横たわる絵が表示される。

 待てよ!!
 何でいきなり彼女がいるんだ!!
 しかももう既成事実作っちゃってんのかよ!!
 つーかこれエロゲーの展開じゃねぇか!!
 なのに何でパッケージに全年齢対象のラベルが貼ってあるんだよ!!

:名前『天』。
 主人公の幼馴染で、わがままな女の子。
 主人公と親密な関係になりたいと思っているものの、素直になれないでいる。

 身長162cm 体重48kg
 B82 W59 H83

 属性・幼馴染 お転婆 同級生:

 何だよこのキャラクター紹介は!
 親密な関係になりたいが素直になれないとかいってるのに、
 しっかりともうやってんじゃねぇかよ!
 しかも『属性』って何なんだよ!

「あ〜眠。
 アタシ今日学校休むわ。」
 入学式早々サボりかい。
 なんてただれた生活してるんだ。

「それじゃ、行ってきまーす。」
 両親に挨拶をしてオオミミが学校に行く。
 というか両親、高校生になったばかりの息子が家に女連れ込んでるのに、
 お咎めの一つも無しか。

「遅刻遅刻〜。」
 パンを口に咥えながら走るという、
 現実世界でこんな事やったらイタい奴確定の姿で登校するオオミミ。

「きゃあああああ!!」
 角を曲がった所で、女の子と激突する。
 ここまでくると、マンネリを通り越して予定調和の世界だ。

「痛たたたた…」
 頭を押さえてしゃがみこむ女の子。
 もちろん、サービスカットのパンチラは忘れない。
 純白の白いパンツ。
 だが、そんな事よりその後ろに担いだどでかい十字架は何だ?

1・「ご、ごめん。大丈夫!?」
2・「悪いけど急いでるんだ。じゃっ。」
3・「あア!?人にぶつかっといて詫びの一つも無しか!?
  しゃぶらすぞこのアマ!」

 突如出現する選択肢。
 これぞ美少女ゲーならではだ。
 しかし、三番目の選択肢は存在する事自体間違っているような…
 まあいいや。
 取り合えず1、と。

「ご、ごめん。大丈夫!?」
 僕が選んだ選択肢の通りにオオミミが発言する。
「え、ええ、何とか。
 こちらこそごめんなさい。」
 照れて顔を赤くする十字架女。

「ああ!もうこんな時間!!
 急がないと!!」
 十字架女はそのまま走り去ってしまった。
 あんな大きな物担いで、よく走れるものだ。

「おっと、こっちも急がないと!」
 躁鬱病患者のように、一々独り言を言ってからオオミミが行動する。

533ブック:2004/06/06(日) 00:38



 キ〜ンコ〜ンカ〜ンコ〜〜ン

 舞台が学校の正門前に移る。
「良かった、どうやら間に合ったみたいだ…」
 オオミミが画面の中でほっと息を吐いた。

「待ちな!
 そこの新入生!」
 と、そこに声が掛かる。
 現れたのは、長スカートを穿いた絶滅危惧種のヤンキー女。
「この学校で生活しようってのに、アタイに一つ挨拶も無しかい?」
 いきなり無茶な事を言い始めるヤンキー女。
 こいつ、学校でなく精神病院行った方がいいんじゃないか?

:名前『三月ウサ美』
 私立きらめき学園を仕切る女番長。
 スカートの内側に大量の剃刀を隠している事から、
 剃刀三月と呼ばれている。

 身長174cm 体重57kg
 B90 W62 H89

 属性・年上 上級生 不良 グラマー:

 キャラクター紹介が出たという事は、攻略対象キャラという事だろう。
 しかし、こんな変人攻略する奴いるのか?

「こら!お前達何をしている!!」
 そこへ、先生が駆けつけて来た。
「ちッ、先公が来やがった!
 今回だけは見逃してやるよ!」
 そのまま退場する三月ウサ美。

「君もすぐに入学式に行きなさい!」
 そのまま入学式へと画面が移行したのだが、
 特に何も無かったのでこの部分ははしょる。
 そして入学式を済ませたオオミミは、割り振られたクラスへと入っていった。

「よお、そこのお前。」
 いきなり、後ろの席の奴が馴れ馴れしく話しかけてきた。
「俺はニラ茶猫っていうんだ。
 よろしくな。」
 ああ、こいつはあれか。
 女の子の高感度とか、丸秘情報とかを教えてくれる便利キャラか。

「所でお前、この学校に伝わる伝説って知ってるかフォルァ?」
 突如として何の脈絡も無い話題を持ちかけるニラ茶猫。
 どうやらこのゲームのキャラは、精神破綻者の集まりらしい。

「何だい、それ?」
 オオミミが尋ね返す。

「良くぞ聞いてくれました!
 いいか、この学校にはな、『伝説の樹』っていうものがあるんだ。
 何で伝説なのかっていうと、
 卒業式の日に、そこで女が男に告白をしてだな…」
 ああ、そこで生まれたカップルは一生幸せになるとかいうのか。
 ようやくまともな恋愛ゲームっぽくなってきた。

「そこで振られた女が、計五人もその樹で首を吊ってるんだ。
 そして毎晩そこではその少女達の泣き声が…」
 全然ハッピーエンドじゃねぇじゃねぇかよ!
 そんな所で告白受けるのがこのゲームの目的かよ!
 つーかそれ、伝説じゃなくて七不思議の類じゃねぇかよ!
 切り倒せよそんな不吉な樹!!

「そうなんだ。知らなかったよ。」
 礼を言うオオミミ。
 何でそんな大きなニュースになってそうな事知らないんだよ!

「よーしお前ら、俺がこの教室の担任だ。
 早速だが転校生を紹介する。」
 何で入学式の日に転校生が来るんだよ!
 普通に新入生でいいじゃねぇか!

「それじゃ入って来い。」
 先生に促され、一人の女の子が教室に入ってくる。
 その背中には大きい十字架を背負っており…

「ああ〜〜〜!!」
 オオミミと少女が同時に声を上げた。
 登校中にぶつかった女の子だ。
 これまたなんつうベタベタな…

「?どうしたお前ら、知り合いか?」
 お約束の質問をする担任。

「いえ、別に…」
 バツの悪い顔で答える女の子。

「よし、それじゃあ自己紹介してみろ。」
 担任の先生がそう女の子に告げた。

「は、はい。
 名前はタカラギ子と言います。
 皆さん、どうかよろしくお願いします。」
 ペコリと頭を下げるタカラギ子。

:名前『タカラギ子』。
 大きな十字架を背負った転校生。
 不意に見せる寂し気な表情。
 何やら人に言えない秘密があるようだが…

 身長166cm 体重46kg
 B80 W56 H81

 属性・転校生 同級生 家庭的 暗い過去:

「よし、それじゃあお前の席はオオミミの隣だ。」
 担任が僕のオオミミの横の席を指差した。

「それじゃ、よろしくお願いしますね!」
 着席しながら、にっこりと微笑むタカラギ子。

 …こうしてこの糞ゲー、『ときめきEVER BLUE』は
 静かに幕を開けるのだった―――



     TO BE CONTINUED…

534丸耳達のビート:2004/06/06(日) 10:57
「じゃあ、戦闘系スタンドの招集よろしく頼んだデチ…」
 ぱさり、とクリップで留められた書類がデスクの上に放られた。

 診療所で久々にしっぽりまったりと愛を交わし合った後のこと。
徹夜で<インコグニート>の能力を書類にまとめ上げたせいで、二人の顔には深いクマが刻まれていた。

(無理は厳禁デチねぇ。眠いデチ…)
(ぎゃあ激しく同意を)
 『スタンド』の声でそんなしょうもない会話をかわすが、テーブルを挟んで座っているSPM構成員の顔に笑みはない。
ふと原因に思い当たり、笑みを浮かべてぱたぱたと手をふった。

「そんなに心配しなくても大丈夫デチよ。読んだりしないから」
「…左様ですか。承知いたしました」
 全然緊張を解かず、構成員が頭を下げた。

(…全ッ然、承知してないデチねぇ)
(ぎゃあ無理もないことかと)
 確かに、彼等がここまで恐れられること自体はそう珍しいことでもない。
赤の他人に心の奥底までを覗かれるなど、あまりされたくはないだろう。
「ぎゃあふさたん達はもう帰るので、後をよろしくお願いします」
「はい」

 用件は済んだし、これ以上いても大して意味はない。踵を返して、さっさとドアに向かった。

「…デチ?」
 ぐらり、と急にフサの身体が傾ぐ。
そのまま『チーフ』が振り向く間もなく、リノリウムの床に倒れ込んだ。

  ごどっ。

「フサ!?」
 人が倒れるような音ではない。
長い体毛はぴくぴくと痙攣を繰り返し、口の端からは涎が滴る。

  ひゅ、ひゅうーっ、ひっ、ぜぇーっ…!

「ぎ…あ…っ!クス…リィ…!」
「フサッ!…そこの君!水持ってきて!」
 呆気にとられる構成員に『力』を乗せて叫び、大慌てで内ポケットに手を突っ込んだ。
パッキングされた黒い錠剤をもどかしそうに取り出し、自分の口に含んで噛み砕く。

535丸耳達のビート:2004/06/06(日) 10:58

「水ですっ!」
 ひったくるようにコップを受け取り、口に含んで痙攣を繰り返すフサに流し込んでやった。
咳き込みながらも口移しで薬と水を飲み下し、ようやくフサの震えが収まったのは数分が経過した後。


「…大丈夫?」
「はい。…心配、かけましたね」
 真面目な口調で、フサが頷く。
何が起こったのか理解しかねている構成員に、『チーフ』が向き直った。

「そこの君…今起こった事は、誰にも言わないようにして貰えるデチか?」
「な…今のは、何なのですか!?」
 直後、構成員は自分の愚かさを後悔した。
外見だけなら自分の息子と大して変わらない『チーフ』からの殺気が、爆発的に膨れ上がったのだ。
「質問を質問で返すな。学校じゃ疑問形に疑問形で返せって教わったのか?
 これは頼みじゃない。命令だ。もしうっかり口を滑らせたりしてみろ…!
 クソの世話すらできない廃人に変えてやる」

「―――――ッ !! !!」                              ・ ・ ・ ・ ・
 心の底から、恐怖がわき出てきた。コイツは、いざとなれば躊躇なくそれをやる。
スタンド使いではない彼にもわかる。今自分が対峙しているモノは、もはや人間ではない。
 反射的に腰のホルスターに手を伸ばしかけ―――

「…ぎゃぁ…」

 ―――フサの呻きで、二人が我に返った。
「…イヤ、悪かったデチね。ゴメンゴメン。ともかく、誰にも言っちゃダメデチよ?…じゃ、また」
 そう言うと、まだぐったりをしているフサを担いでドアを出て行った。

 SPMの廊下で『チーフ』の背中におぶわれたまま、フサが小さく声を漏らした。
「…貴方まで…私に付き合う必要は無かったのですよ?
 いつ私のようになるやも解らないし…普通に歳を取れないのは、とても辛い事」
「馬鹿。死ぬときも生きるときも一緒だよ」
「………‥‥ぎゃあ」

536丸耳達のビート:2004/06/06(日) 10:59





 ほぼ同時刻、S市繁華街。
オヤジ狩りやクスリの密売に人気がありそうな路地裏で、一人のッパ族が絡まれていた。
ツバ カシジロウ
津葉 樫二郎…表の顔はケチな飲んだくれ、裏の顔もやっぱりケチなスリ師。仲間内ではッパと呼ばれている。

「おうコラァそこのふぐり野郎ァ」
「テメェ棚真会の金スろうたぁ…いい度胸やのぉ」

 ラメ入りスーツにオールバック。
 パンチパーマにサングラス。

(…つーても、スリが見つかったのはあっしのドジだから文句は言えないさねぇ)

「この落とし前、つけて貰わんとあかんなぁ」
 関西弁のパンチパーマが距離を詰める。
小柄なッパに比べれば、頭一つ分の差があった。

「ウダラ何ニヤついてンだッメェ!」
 がしりと財布を持っていた巻き舌のオールバックが、手首を掴む。
スられた右手の財布を奪い取ろうとして―――動きを止めた。

「あ…兄貴…コイツ…」
 財布に回されている指には、親指がある。人さし指がある。中指がある。薬指が小指がある。
そして、更にもう一本指があった。 ・ ・ ・ ・ ・
 小指の外側、更にもう一本細い六本目の指が付いていた。
「…片輪モンか。ちょうどエエな。…その手、押さえとけや」
 ばちん、と折りたたみ式のナイフを開く。

「極道も結構ユルくなったんやけどな。流石に金ギられて黙っとる程甘くないんや」

 壁に押さえつけられた六本指の手に、ゆっくりとナイフを近づける。
「ま、六本もあるんしの。コレに懲りて、カタギにでもなったらエエわ」
     ヤク
「どうせ麻薬で儲けた金でしょうが。それならあっしが貰っても問題はないでしょ」
「ンだとァテメェァ!」
 いきり立つオールバックを片手で制し、パンチパーマが静かに言った。
「ま、そうやろな。気持ちは判るわ。薄汚い金や。…けど、ワシらの金じゃ。棚真会のな。
 盗ろうとしたら、それなりのケジメってモンつけへんとなぁ」

 六本目の指にナイフが当てられる。刃が押され、皮膚が破れる寸前―――

「げぼっ!?」

 ―――突然、パンチパーマが吹き飛んだ。

537丸耳達のビート:2004/06/06(日) 11:00

 解放された右腕で、ポケットのチョコを取り出す。
口に放り込んで、倒れ込むパンチパーマを見下ろした。
「…薄汚い金、ね。そこまで判ってんのに、なんでそれを続けちまうのかねぇ。
 将来有望な少年少女にクスリ売って、それでも止めない…クズな人だ。
 …ま、スリのあっしも人の事ぁ言えないけど、ね」
「て…ッてめ…」
 ひくひくと二,三回パンチパーマが痙攣し、ぐたりと意識を失った。
顔面は蒼白、白目を剥いている。
「ンッ…の野郎ォ!」

 オールバックがッパの片手を押さえたまま、六連発のリボルバーを抜いた。
慣れた手つきでハンマーを上げ、ッパの側頭部に押しつけ、トリガーを引く。
弾丸の尻にある雷管が叩かれ、パン、と小気味良い音が鳴り―――ッパはその場に平然と立っていた。

 一瞬の自失。勘違いかと思い、もう一度引き金を引いた。
パン、と小気味よい音。ッパは平然と立っている。
 僅かに顔をしかめているが、これはただ単にうるさいだけ。血の一滴も流れてはいない。

  ―――いやまて、変だろ。

 通常、銃声という物はもっと大きい筈だ。
サイレンサーも付けてないのに『パン』なんて爆竹と変わらないようなショボい音がするはずはない。

「探し物は…コレですかい?」
 と、ッパが手を開く。
ころん、と弾丸が。ぱらぱら、と火薬が。
ッパの右手から零れてきた。

 驚愕に目を見開く暇もなく、巻き舌オールバックの意識はそこで途切れた。



「…ふぅーい」
 表通りに出て、溜息を一つ。

  カマカマカマ ハ・カ・マ〜♪

 ―――と、持っていた携帯から着歌が流れ出した。

「はいー、津葉ですー」
『ッパさん?私です』
「ああ、どーも」
 私です、で誰だか察したのか、当然のように挨拶を返す。
『ッパさん日本に住んでるんですよね。ちょっと依頼あるんですけど、いいですか?』
「『ディス』御大の命令でしょ?何でも言って下せぇ」
 少女の声に喜びが含まれる。
『ありがとうございます。……一人、捕まえて欲しい人がいるんです』

 親指が、人さし指が、中指が薬指が小指が、六本目の鬼指が、さわり、と蠢いた。


  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

538丸耳達のビート:2004/06/06(日) 11:01
          ___
         /    \
        |/\__\
       ○   (*★∀T)  更ニ簡略化ッ!
          と(⌒Y⌒)つ  コレデ次回から小ネタ活躍ガ…ッ!
             \ /
              V

           上半身のみのナヨいピエロ…
       実際のサイズはこのくらいなんだけどなぁ。
                ∨
               ∩_∩    ∩ ∩ 
              (´∀`;) 旦 (ー` )<何か貧相じゃの。
              / ============= ヽ
             (丶 ※※※※※※ゞノ,)
               ~~~~~~~~~~~~~~~~~


          ___
         /    \ 貧相ッ!?
        |/\__\
       ○ と(|i★дT)Σ
          と(⌒Y⌒)
             \ /
              V

         ああ、言っちゃいけないことを…
       っていうか何でおじいちゃん見えてるの?
                ∨
               ∩_∩    ∩ ∩ 
              (;´∀`) 旦 (ー` )<小ネタ時だけの心眼じゃ。
              / ============= ヽ
             (丶 ※※※※※※ゞノ,)
               ~~~~~~~~~~~~~~~~~

539ブック:2004/06/07(月) 00:25
     番外・ときめきEVER BLUE 〜伝説の樹の下で〜
        告白編


 入学式も終わり、家に帰って来る主人公のオオミミ。
 そこに、選択肢が現れてくる。

『これから何をしようか?』
 1・体力を上げる
 2・知力を上げる。
 3・容姿を上げる。

 おお?
 何かここら辺はまともっぽいじゃないか。
 そうだな…
 体力も知力も大切だけど、やっぱり女の子にモテる為には容姿だよね。
 3を選択、と。

『どうやって容姿を上昇させようか?』
 1・プチ整形で瞼を二重に。
 2・どうせならプチといわずに顔全部を…
 3・いっその事、マイケ@・ジャク@ンみたいに黒人から白人に!

 何で選択肢が整形ばっかりなんだよ!!
 いや、そりゃあそれ位しないと目だった効果は無いだろうけど、
 幾ら何でも生々し過ぎだろ!!
 もういい、だったら1の『体力を上げる』だ!

『どうやって体力を上昇させようか?』
 1・アンドリオル
 2・アナボル
 3・HCG

 全部ステロイドじゃねぇか!!
 お前ジャックハンマーにでもなる気か!?

(……)
 嫌な予感がするが、ならば2の知力はどうだ?

『どうやって知力を上昇させようか?』
 1・カンニングペーパー作成。
 2・替え玉にテストを受けさせる。
 3・教師の弱みを握って脅迫。

 知恵は知恵でも悪知恵なんかい!!
 つーか、普通に努力するような選択肢無いのか!?

 もうパラメーターを上昇させるのは諦めて、寝る事にする。
 ベッドにはまだ天が居たが、邪魔なので窓から放り捨てておいた。
 全く、先が思いやられるぜ…

540ブック:2004/06/07(月) 00:26

「ラギ!」
 と、いきなりベッドの中から変な女が飛び出してきた。
 何だよこいつ。
 というか、主人公は一体何人の女をベッドで飼っているのだ?

「お兄ちゃん酷いラギ〜!」
 お兄ちゃんなどと抜かす奇怪な生物。
 どう考えてもおかしいだろ?
 朝起きたとき、妹のいの字も出て来なかったじゃないか。

:名前『トラギ子』
 主人公の一つ下の妹。
 お金が大好きで寂しいと死んでしまう。

 身長156cm 体重41kg
 B78 W55 H77

 属性・妹 年下 守銭奴 寂しがりや:

 何なんだよこのキャラ紹介は…

「ラギは寂しいと死んじゃうラギよ!?
 さ、お兄ちゃん。
 今こそここで恥ずかし合体を…」
 いきなり服を脱ぎ始めるトラギ子。
 だから、何で全年齢対象ソフトでベッドシーンがあるんだ。

『どうしようか・・・』
 1・釘バットで殴り殺す。
 2・日本刀で刺し殺す。
 3・サブマシンガンで撃ち殺す。

 どうやら、どうあってもトラギ子を殺すしかないらしい。
 一々殺した時の感触が手に残るのもいやなので、3番を選択する事にする。

「おじさん、いかっちゃうぞ?」
 訳の分からない台詞と共に、オオミミのサブマシンガンが火を吹いた。
「ラギニャーーーーーーーーーーン!!!」
 蜂の巣になりながら、トラギ子が断末魔の悲鳴を上げた。

「さあ、明日に備えてゆっくりと休もう!」
 肉親を惨殺したばかりだというのに、さわやかな顔で眠りにつく主人公。
 どうだっていい。
 この程度の理不尽さなど、もう慣れた。

541ブック:2004/06/07(月) 00:26



 目覚ましの音と共に、シーンが次の日へと移る。
「さあ、今日も元気に学校へ行こう!」
 足元に転がるトラギ子の死体を無視して、オオミミが気合を入れる。
 そして、そのまま舞台は学校へと移行した。

「では、今回の授業はこれまで。」
 一時間目の授業が終わり、休み時間が始まる。

「あ、あの、オオミミ君…」
 そこに、一人の女の子が話しかけてきた。
 見ると、その頭には猫耳がついている。

:名前『みぃ』
 オオミミの同級生。
 最早説明の必要の無い猫娘。
 猫耳はいいものです。
 とてもとてもいいものなのです。
 はにゃーん。

 身長143cm 体重32kg
 B71 W49 H70

 属性・同級生 人外 猫耳 ちっこい つるぺた 従順 内気:

 キャラクター紹介が出たという事は、この子も攻略対象キャラか。
 しかし、この作者はよっぽど猫耳が好きなんだな。
 色々言いたい事はあるけど、取り敢えず死ねばいいと思うよ?

「どうしたの?」
 オオミミが聞き返す。
「あ、あの、相談に乗って欲しいんだけど、いいですか…?」
 おずおずとみぃが尋ねてくる。

『どうしよう?』
 1・いいよ、話してみて。
 2・後でゆっくり聞くから、今はパス。
 3・俺はお前の相談役じゃねぇんだ。
   チラシの裏にでも書いてろ、な?

 そうだな…
 ここで優しさをアピールしておけば、他の女の子の好感度も上がるかもしれない。
 ここは1、と。

「いいよ、話してみて?」
 主人公であるオオミミが、選択肢の通りに聞く。

「あ、あの…
 恋人の子供が出来たみたいなんだけど、どうすればいいのか、って…」
 何でそんなハードな相談、ただの同級生に持ちかけてんだよ!
 俺は金八先生かっつーの!!
 つーか、それってもうこいつには彼氏が居るって事じゃねぇか!!
 全然攻略対象キャラじゃないだろうが!!

『どう答えようか?』
 1・ちゃんと彼氏と相談するべきだよ。
 2・ああ、あいつなら産んでもいい、って言ってたよ?
 3・堕 ろ せ。

 これ以上面倒事に巻き込まれてたまるか。
 1を選択してとっとと女を追い払う。

542ブック:2004/06/07(月) 00:27


「よお、オオミミ。」
 と、今度は別の奴が話しかけてきた。
 どうやらニラ茶猫のようだ。

「いやー、さっき彼女から妊娠しちゃった、って言われてびっくらこいたぜ。」
 あれはお前の子かよ!
 避妊位しろこの猿が!
 というかびっくりしただけかい!
 もっと二人で話し合う事あるだろうが!!

「お前がジャンヌを傷つけた、って噂が流れてるぜ?」
 もうさっきの話題終了かよ!?
 つーかジャンヌって誰だよ!!
 何で会ってもいないような奴を、傷つけられるんだよ!!

「そうなんだ、ありがとう。」
 平然と答える主人公。
 いや、少しは疑問に思え。

 もういい。
 これ以上会話するだけ時間の無駄だ。
 さっさと自分の席に戻る。

「……?」
 と、オオミミが机の中に何かを見つけた。
 これは、手紙?
 何が書かれて…

『伝説の樹の下で待っています。』
 何でもう告白の手紙貰ってんだよ!!
 ゲーム開始から一日しか経ってないだろうが!!
 普通こういうのはデートとか積み重ねてから貰うもんだろ!?

「よし、宇宙へ行こう。伝説の樹の下に行こう!」
 どう考えてもいたずらとしか思えない手紙を鵜呑みにして、
 伝説の樹の下へと急ぐオオミミ。

 あはははは。
 こんな時にギャグを言うなよ、あははは。

「……!」
 樹へと駆けつけると、そこには一つの人影があった。
 あれが、手紙の差出人か。
 一体、誰が…

「私、あなたの事が…」
 突然の告白。
 その相手は―――

「ずっと好きだったぞ、フォルァ!!」
 ってお前か、ニラ茶猫!!!!!

「さあ、誓いのキスを…」
 唇を近づけてくるニラ茶猫。
 やめろ。
 来るな。
 やめろ。
 やめろおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!

543ブック:2004/06/07(月) 00:27





(うわああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!)
 僕は叫びながら目を覚ました。

「!?
 どうしたの、『ゼルダ』!?」
 オオミミが布団から跳ね起き、慌てて尋ねる。
 周りにみえるのは、お馴染みの『フリーバード』の船室。
 …今のは、夢だったのか?

(いや、何でもない。
 嫌な夢を見ちゃってね…)
 苦笑しながらオオミミに答える。
 そうだよ、あんな事が現実にある訳…

「それってもしかしてこんな夢か、フォルァ。」
 突然の声。
 見ると、ベッドの中には全裸のニラ茶猫が横たわっていた。

(うわああああああああああああああああああああああ!!!!!!)
 僕は、あらん限りの声で絶叫するのだった。



     NIGHTMARE NEVER END…





       __,,,,..-_─_一_-、、,,,,__
    ,r'´-_-_‐‐_‐-_-、`-、 ヾ`ヽ、   
   /,r',.-_‐_‐‐-_-、ヾ ヽ `ヾ 、ヽ
  /(.'´_-_‐_‐___-、ヾ ヽヾ)) )) ), )))ヘ
 l(i,i'´⌒ヾト、ヾ ヾヾ))_,ィ,'」 川 jノjノ}
 !iゝ⌒))}!ヾヽ),'イ」〃'″  フ;;;;;;;;;;;;;l  
 ヾ、ニ,,.ノノ〃ィ"::::::::::::::   /;;;;;;;;;;;;;;!  
/⌒ヽ  / ''''''     '''''' |;;;;;;;;;;;;;;;|  
|  /   | (●),   、(●)\;;;;;;;;|  好き勝手やり過ぎました。
| |   |    ,,ノ(、_, )ヽ、,,     | ごめんなさい。
| |   |    `-=ニ=- '      |  次回からは、ちゃんと本編に戻ります。
| |   !     `ニニ´      .! 
| /    \ _______ /  
| |    ////W\ヽヽヽヽ\
| |   ////WWWヽヽヽヽヽヽヽ
| |  ////WWWWヽヽヽヽヽヽヽ
E⊂////WWWWWヽヽヽヽヽヽヽ
E////WWWWWWヽヽヽヽヽヽヽ
| |  //WWWWWWWヽヽヽヽヽヽヽ

544ブック:2004/06/08(火) 00:01
     EVER BLUE
     第二十七話・LUCK DROP 〜急転直下〜 その一


「首尾はどうなっていますか?」
 山崎渉が、近くの兵士に声をかけた。
「はっ、現在索敵活動を行いつつ、戦力を集めております。
 しかし、まだまだ充分には…」
 兵士が言葉を濁した。

「…まあ、急に一ヶ所に兵を集めろと言っても、無理でしょうね。
 仕方がありません。
 出来るだけ、急ぎなさい。
 連中が馬鹿でなければ、私達の準備が整う前に安全圏に入ろうとするでしょうからね。」
「はっ!」
 その山崎渉の言葉を受け、兵士がいそいそと立ち去ろうとする。

「ああ、君、ちょっと待ちなさい。」
 と、山崎渉が兵士を呼び止めた。
「これからも、僕を応援して下さいね?」
 山崎渉がにっこりと微笑んだ。



     ・     ・     ・



「凄い闘いだったねー。」
 三月ウサギとタカラギコが去って行った後、
 オオミミの奴が呑気な声で言った。

「…あんたの所の船って、あんな怪物ばっかが乗ってる訳?」
 アタシはオオミミにそう尋ねる。
 荒事には疎いアタシでも、さっきのが尋常の域の闘いで無い事位は分かっていた。

「まさか。
 三月ウサギが特別なだけだよ。
 でも、その三月ウサギとあそこまで闘えるなんて、
 タカラギコさんも物凄いよ。」
 オオミミが笑いながら話す。
 こいつ、いっつも笑っているな…


     ドクン


「―――――!!!」
 突如、私の体の内側で大きな鼓動が起こった。
 これは…!?
 いや、知っている。。
 知っている。
 アタシはこれを知っている…!

「…?
 どうしたの、天、『ゼルダ』?」
 オオミミが心配そうに声を掛ける。

「何でもないわ…」
 必死で強がりながら、何とかそう答える。
 違う。
 何でも無いなんて事は無い。

 来る。
 来ている。
 間違い無くこっちに向かっている。
 来る。
 来る。
 『奴』が来る…!

 だけど、言えない。
 言える訳が無い。
 この船の人達に、こいつに、
 アタシの秘密を知られる訳にはいかない。

「?どうしたんだよ。
 二人共、何か変だよ?」
 オオミミが不思議そうな顔をした。

 …二人?
 そういえば、さっきもアタシと『ゼルダ』に大丈夫かと聞いていた。

 まさか、『ゼルダ』もこの事に気がついている?
 …いや、そんな事ある筈無い。

「アタシ、気分が悪いから部屋に戻っとくわ…」
 アタシはそう告げて、その場から離れるのであった。

545ブック:2004/06/08(火) 00:01



     ・     ・     ・



「凄い闘いだったねー。」
 三月ウサギとタカラギコが去って行った後、
 オオミミが呑気な声で言った。

「…あんたの船って、あんな怪物ばっかが乗ってる訳?」
 天が呆れた風にオオミミに尋ねる。
 失敬な。
 僕達の船は猛獣小屋か何かか。

「まさか。
 三月ウサギが特別なだけだよ。
 でも、その三月ウサギとあそこまで闘えるなんて、
 タカラギコさんも物凄いよ。」
 オオミミが笑いながら答える。
 全く君は。
 少しは同じ男として悔しいとか思わないのか…


     ドクン


(―――――!!!)
 突如、僕の内側で大きな鼓動が起こった。
 何だ。
 今のは何だ。
 一体僕に、何が起こった…

(あ     ア  A   あ
           あ A   アあaあ!!!!!)
 僕の意識に何かがなだれ込んでくる。
 いや、違う。
 これは、呼び起こされている…!?

 見た事も無い風景。
 聞いた事も無い声。
 なのに、どこか懐かしい―――

 何だ。
 これは何だ!?
 僕は、僕は一体何者だっていうんだ…!

「…?
 どうしたの、天、『ゼルダ』?」
 オオミミが、心配そうに声を掛ける。

(…大丈夫だよ、オオミミ。)
 本当は大丈夫じゃないが、無理矢理平気そうな声で答えた。
 駄目だ。
 この大変な時に、オオミミに心配をかける訳にはいかない…!

 だけど。
 この感覚は何だ。
 来る。
 来る。
 何かが来る…!
 いや、待て。
 この感じ、以前、どこかで…?

「?どうしたんだよ。
 二人共、何か変だよ?」
 …二人?
 そういえば、さっきも天と僕に大丈夫かと聞いていた。

 天も僕と同じ事を感じた?
 だとしたら、一体どうしてだ!?

「アタシ、気分が悪いから部屋に戻っとくわ…」
 僕がオオミミに天に質問するように言おうとした所で、
 天はそう告げてその場を離れていってしまった。


(オオミミ…)
 僕は、オオミミに囁いた。
「どうしたの、『ゼルダ』?」
 いつもと変わらぬ微笑で聞き返してくるオオミミ。

(僕達、友達だよね。)
 …僕は何を言っているのだ。
 こんな事聞いても、オオミミを困らせるだけじゃないか。
 でも、それでも僕は―――

「うん、そうだよ。」
 はっきりとオオミミがそう答えた。

 …ああ、僕は。
 だから、僕は君が。
 例え僕が何者であっても、君だけは…

(オオミミ…)
 僕は呟くように言った。
「ん?」
 オオミミが耳を傾ける。
(…ありがとう。)
 僕はそれ以上、何も言う事が出来なかった。

546ブック:2004/06/08(火) 00:02



     ・     ・     ・


〜三月ウサギとタカラギコが組み手をした次の日の夜〜

 ブリッジの椅子に座っている高島美和が、『シムシティ』のディスプレイを
 食い入るように見つめていた。
「……!」
 と、何かを見つけて高島美和の顔が強張る。

「船長。」
 高島美和がサカーナの方に顔を向けた。
「…来たか。」
 みなまで聞かずに、サカーナが告げる。
「はい。」
 頷く高島美和。

「で、敵さんの数は?」
 サカーナが彼らしからぬ真面目な表情で尋ねる。
「戦艦級が三隻。
 赤い鮫のロゴマークから、『紅血の悪賊』と見て間違い無いでしょう。」
 冷静な声で高島美和が答えた。

「やれやれ。
 『ヌールポイント公国』の寸前まで来て、奴らの出迎えかよ…」
 サカーナが肩を竦める。

「この船が『ヌールポイント公国』に入り、
 憲兵が騒ぎに気がついて駆けつけて来るまで、
 どれだけ短く見積もっても三時間との計算が出ました。
 率直な感想を述べますと、生存確率は1パーセントもありませんね。」
 高島美和が顔色一つ変えずに告げた。

「それって死ぬも同然って事じゃないですか〜〜!」
 カウガールが悲鳴にも似た声を上げる。
 口には出さないが、他の乗組員も同様の気持ちだろう。

「…0パーセントとは言わねぇんだな。
 その僅かな勝算は何だ?」
 サカーナが高島美和の顔を覗き込んだ。

「詳しい目的は分かりませんが、
 『紅血の悪賊』は私達の船にある何かを喉から手が出る程欲しがっており、
 一撃で私達の船を沈めるような攻撃はしてこない事。
 そしてそれを前提にした上での、
 あなたのスタンド『モータルコンバット』の力です。」
 高島美和がサカーナの顔を見返す。

「嬉しい事言ってくれるねぇ…」
 サカーナが顔を緩ませた。
「勘違いしないで下さい。
 私が頼りにしているのは、あくまであなたのスタンド能力だけです。
 そもそも、誰の所為でこうなったのかをじっくりと考えてみる事ですね。」
 高島美和がつっけんどんに言い放った。
「そっすか…」
 肩を落とすサカーナ。

「高島美和さん、素直じゃないです〜。」
 茶化すようにカウガールが言った。
「お黙りなさい!」
 即座に高島美和がカウガールを叱咤した。
 カウガールがてへへと頭を掻く。

「…まあ仕方がねぇか。
 久々に『モータルコンバット』を使わにゃなるめぇ。
 お前らに、俺の下についてきたのが間違いじゃなかったって事を
 きっちりと証明してやるぜ…!」
 サカーナが、ペキペキと手を指を鳴らしながら呟いた。



     TO BE CONTINUED…

547ブック:2004/06/08(火) 00:03


 番外
 ちびしぃの宿題の作文 〜私の家族について〜


  わたしは、みんなといっしょに大きな家にすんでいます。
 そこのみんなが、わたしのかぞくです。
 わたしは、いえのみんなが大好きです。
 大きなお母さんも、小さなお母さんも、
 かみのけのすくないお父さんも、
 ちびモナくんも、ちびモラくんも、ちびつーちゃんも、ちびふさちゃんも、
 みんなみんな大好きなかぞくです。
  そして、このまえいえに新しいかぞくができました。
 なまえは、トラギコおにいちゃんです。
 トラギコおにいちゃんは、とってもおもしろくて、強くって、
 それよりもっともっとやさしいおにいちゃんです。
 わたしは、トラギコおにいちゃんのことも大好きです。
 トラギコおにいちゃんは、おしごとがいそがしくってあんまり家にはかえってきませんが、
 家にかえってきたらいっぱいおみやげをくれて、いっぱいあそんでくれます。
  でも、おしごとからかえってきたトラギコおにいちゃんは、
 いつもなきそうな目をしています。
 みんなのまえではわらっているのに、とってもかなしそうです。
 トラギコおにいちゃんは、ほんとうは今のおしごとがきらいなんだと思います。
 このまえおにいちゃんにそのことを言ったら、
 『こどもはそんなこと気にしなくていいんだ』とおこられました。
  だけど、トラギコおにいちゃんがかなしいと、わたしもかなしいです。
 だから、わたしが大きくなったらいっぱいおかねをかせいで、
 トラギコおにいちゃんがはたらかなくてもいいようにしたいです。
 それで、みんなといっしょにいつまでもいれたらいいなと思います。

548アヒャ作者:2004/06/08(火) 22:16
合言葉はWe'll kill them!第九話―初めての吸血鬼戦その②

しばらく、アヒャと吸血鬼どもの間で睨み合いが続く。
お互い、相手の手の内がわからないから迂闊に手出しができない
(どうするべ・・・・ 早く倒す方法を考えて、んで被害を出さないようにしなくっちゃな。
 まず、波紋が使えねーオレとしては、太陽の光でこいつらを一掃したい。
 だけどよォ…今は夜の7時。神様でもない限り太陽を出すなんて不可能だ。
 さて、どうしたモンだ…。)

そして吸血鬼も作戦を練っていた。
(あのガキ・・・・想像以上に手ごわいぞ・・・。あっと言う間に2体もの屍生人を攻撃した。
 だから、まずヤツを倒すための作戦を考えなければナ。
 きっちりとした作戦をたてていけば、どんな戦いも勝利することが出来る。
 どんな手段を使っても、勝てばよかろうなのだッ!
 とりあえず、この状況での最善の方法は・・・・・
 ヤツの注意を屍生人どもでひきつけた後、ヤツの死角からオレが奇襲をかける!
 そして一撃で葬り去る!)

「行けィ!者ども!」
リーダー格の吸血鬼の叫びによって、「睨み合い」という均衡した状態は破れた。

「URRRYYYYYY!!」
コンビネーションもへったくれもない。三体の無傷の屍生人達は本能の赴くままに、血をすすろうと大口を開けて飛び掛ってくる。
「犬の卒倒・・・・ワンパターンだな。ただ突っ込んでくるだけじゃさっきの二体の二の舞だぜ!」
アヒャはスタンドのラッシュを叩き込んでやろうと身構えた。
しかしアヒャは最も重要な事を忘れていた。
そう、奴らが普通の人間じゃないという事を。

ドヒャアアアアッ!

「なっ・・・・何だァ!?」
屍生人の体から無数の血管針が飛び出してきた!
次々に襲い掛かる血管針は、まるで網を張るかのようにアヒャをを追い詰めていく。
しかしアヒャも負けてはいない。
血を集めて壁を作り出す!
そして襲い掛かってきた血管針はその壁に突き刺さってしまった。

「ボディが甘いぜ!」
アヒャは壁から飛び出すと屍生人にラッシュを叩き込んだ!
「ウシャアアアアアーッ!!」
バゴバゴバゴバゴォォォォッ!!
屍生人二体は頭部を大破してあっけなく動かなくなった。

しかし次の瞬間。
ガシィッ!
足首に何かが取り付いた。
(な、何ィ!?何だこの腕は!?・・・・殺されていた女!?)
「AHYAHAHAHAHAHAHAHA! ブァ〜〜〜〜カめがッ!吸血鬼に噛まれた人間は屍生人になる事を知らなかったか!」
しかも最悪のタイミングで頭上から始末し損ねた右腕が崩れた屍生人が飛び掛ってくる!
(しまった!身動きがとれねえ!)

次の瞬間、アヒャは頭を砕かれ、その生涯を閉じた。

アヒャ(死亡)

……マジですか?
当然ウソです。

549アヒャ作者:2004/06/08(火) 22:17

「!なんだぁコイツは・・・!?」
アヒャは生きていた。
しかし顔面はひしゃげ、グズグズに崩れていた。鼻が陥没し目玉が反転し、顎は千切れかけている。

「ギャハハハッ!騙されてやんのバ〜〜〜〜〜〜〜〜カッ!」
アヒャの体が一瞬でゼリーのように飛び散り、女と右手無しを捕らえた。
そう、壁を作ったときにアヒャはブラッドを自分に化けさせていたのだ。

「MUH!?」
屍生人たちは動かない。いや、全身を包み込まれ動けないのだ。
「……ガ、ガガァ〜……」
今や屍生人は地面に転がった血の色の粘土像だ。完全に全身を包み込まれてしまっている。
と、そこへ一撃!

「注意一秒、ケガ一生ってな!」

ドグシャァ!!

いきなりフリスビーの様にマンホールの蓋が飛んできた。
そして二体の頭にクリーンヒット!
「やりィ〜ビンゴ!」
両手にマンホールの蓋を持っているアヒャがガッツポーズを取った。
・・・・しかし奴がマンホールを軽々と投げれるほどの馬鹿力を持っていたとは。

(これで残りは吸血鬼のオッサンと屍生人一匹か………ン!?オッサンも屍生人も見あたらねぇ!?)
慌てて辺りを見回すが、それらしき姿は無い。
(チクショーッ、何処へ消えたんだ?)
その時背後からヒュッという音がする。
「後ろか!」
とっさに横に転がった。だが・・・・

 ガボォッ!!
突然の衝撃。左足の肉が……噛み千切られている!
 ブシュウウ……!

「うぐえええええええ! うおおおおおなんだああああああ……!?」
アヒャはおびただしい出血の激痛に絶叫した。
「ヘッヘッへ!もう自由に動き回れねーなぁ!」
吸血鬼は愉快そうに笑みを浮かべている。
「チクショオオオオ俺の足があああああ」
足は切り取られずに済んだが、肉と皮でどうにかぶら下がっている状態だった。
そこへ追撃!
死角から屍生人が一匹襲ってきた。
マンホールが脳を完全に破壊していなかったのだ。
アヒャは脇腹をえぐられた。

「うぐッ」
「俺たち吸血鬼ならともかく、お前ら人間は一度千切れた足は元通りにならねーよな!
 不便だねぇ〜。」
「クッ・・・・下半身が千切れた屍生人は何処へ?」
「ああ、アイツなら『仲間』を増やしに行ったぜ。ま、その必要も無いけどな。」
「チィ!絶体絶命だぜ!どうすりゃいいんだよォ・・・」
アヒャは傷口の血液を操作して神経、骨、筋肉を無理やり繋ぎ止める。
しかしすぐに動けるわけではない。
腹部のダメージも結構ひどい。
だけど吸血鬼は待ってくれない。躊躇無く襲ってくる。
何とか壁を作り防御するが、ダメージが大きい分スタンドパワーがいつ切れるか分からない。

550アヒャ作者:2004/06/08(火) 22:18
(このまんまじゃジリ貧だぜ…この状態であいつの相手ができるのかァ!?
 3択。ひとつだけ選びなさい、ってやつだな。
 答え①、逃げるんだよぉぉぉ〜〜〜
 答え②、仲間が来て助けてくれる。
 答え③、このままアイツのディナーに。現実は非情である…。
 さてと・・・・・
 答え①は・・・・・この足じゃ無理か。
 答え②・・・・さっき蜥蜴の旦那にあったけど、そんなちゃららっちゃら〜って都合よく来るわけないよなぁ〜
 となると答え③・・・・
 こっちの方がスタンド使える分有利に見えるけどスピードはあっちが上だ。おまけに仲間を連れてくるって言っていたな〜。
 俺の人生ここで終劇か!?)

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
            __,,,,_
             /´      ̄`ヽ,             /
             / 〃  _,ァ---‐一ヘヽ          ☆ +
          i  /´       リ}
           |   〉.   -‐   '''ー {!
           |   |   ‐ー  くー |
            ヤヽリ ´゚  ,r "_,,>、 ゚'}
          ヽ_」     ト‐=‐ァ' !< 貴方はもう死んでいます。
           ゝ i、   ` `二´' 丿
               r|、` '' ー--‐f´        η
          _/ | \    /|\_      (^^〉
        / ̄/  | /`又´\|  |  ̄\  / ̄/

   アヒャの内的宇宙におわす皇太子様が、死兆星を指差されました。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

(嫌〜!!こんな悲惨な人生の終わりなんて〜!!)
ってそんなこと考えているうちにッ!
 
シュゴオオッ! ドガドガッ!!
血の壁の一部が「空裂眼刺驚」によって穴を開けられた。
そしてアヒャの太腿を貫く。
・・・・・・アヒャちゃん踏んだり蹴ったり。
「うわあッ!」
あまりの激痛のせいで集中力がとぎれ、血の壁が崩れてしまった。

「おっし、壁が崩れた!行けぇぃ!」
吸血鬼の叫びと同時に屍生人が飛び掛ってくる。
もう絶体絶命!

551アヒャ作者:2004/06/08(火) 22:19

(ああ・・・・・死ぬ前にいいとも増刊号見たかったな・・・・。)
アヒャは死を覚悟して目をつぶった。
と、そこへ!

グサッ!
「ANGYAAAAH!!」
(・・・・・・ん?)

恐る恐る目を開けると屍生人の頭に一本の石でできた槍が突き刺さっている。
「な、何ぃ!?」
「やれやれ、間一髪と言った所か。」
矢の飛んできた方向には一人の男。
それは・・・・

「死んだはずのッ!」
そう、『矢の男』こと蜥蜴だった。
「旦那!」
「YES I AM!・・・って何を言わせるんだ。」

しかも蜥蜴だけではない。
さっき仲間を増やしにいった屍生人が首だけになって捕らえられていた。
「アア〜ッ!助ケテクレェェェッ!見ノガシテクレヨオォォォォッ!」
「うるせえッ!ギャーギャーやかましいんだよッ!」
蜥蜴が生首に一喝する。

(嘘だろ・・・・助けがきた!けどこれは夢かもしれねぇ・・・・ちょっとホッペを
 ・・・イテッ!・・・・間違いねえ 夢じゃねぇ〜〜〜〜ポヘ――ッ)

「ぎゃあああああああああああ―――!!!」
「わはははははははははははははははははははははははは」

 ドーン  ドーン  ドーン
  "JOJO" "HAPPY"

「やったァ――ッ メルヘンだッ!ファンタジーだッ!奇跡体験アンビリーバボーだ!
 こんな体験できるやつは他にいねーっ!」
アヒャは暫く痛みを忘れてうかれていたが、ふと疑問に思った。

「って言うか旦那、どうしてこの場所が?」
「さっきコイツに襲われたのさ。ま返討にしてやったけどね。
 その時上半身だけだったのが不思議に思っていろいろ問いただしてみたんだ。
 そしたら君がこの場所で戦っていることを教えてくれたのさ。」
その時アヒャは見た。蜥蜴の背後にたたずむスタンドビジョンを。

「シ、シ、シ、死ニタクナイヨオッ!」
生首がが必死の命乞いをする。
「馬鹿め、お前はすでに死んでいるんだ。」
ドゴォッ!
生首は蜥蜴のスタンドに殴られ、そして「消えた」
波紋で溶けたのとは違う。一瞬で消えたのだ。
「な!?旦那、今何をしたんですか?」
「俺の能力のほんの一部だ。気にするな。」

そしてあっけにとられている吸血鬼の方を向いた。
子供のころに吸血鬼に兄弟を殺された恨みからだろうか、蜥蜴のいる空間だけは、空気が張り詰めている。
「貴様のような吸血鬼はは……俺が断罪するッ!」



  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

552アヒャ作者:2004/06/08(火) 22:26
久しぶりに書いたら下げ忘れていました。すいません。

553ブック:2004/06/09(水) 00:02
     EVER BLUE
     第二十八話・LUCK DROP 〜急転直下〜 その二


 『フリーバード』の中に警報機が鳴り響く。
 船員達が、それを聞きつけて慌しく戦闘態勢を取る。

「親方!」
 オオミミが、ブリッジへと駆けつけた。
「おお、来たか。」
 サカーナの親方が待ちかねていたかのようにオオミミの方を向いた。

「…ついに来たか。
 『紅血の悪賊』が…!」
 ニラ茶猫が武者震いをする。
 僕も、深呼吸をしながら気合を入れていく。

「…敵は戦艦級が三隻と言っていたな。
 高島美和、どうするよ?」
 サカーナの親方が高島美和に尋ねた。
 いや、あんた船長なら少しは自分で考えろよ。

「先程も述べましたように、向こうはこちらを即座に討ち堕とす事はしない筈です。
 恐らく、急襲用迫撃射出錨(アサルトアンカー)による拿捕。
 もしくは前回のように吸血鬼が直接この船に飛び移るなど、
 内部から制圧する手法を取ってくると思われます。」
 高島美和がお茶を飲みながら告げる。

「へっ!殴り合いなら俺達の得意技だぜ!!」
 ニラ茶猫が拳を打ち合わせた。

「殴って倒す、そんな簡単な問題ではありません。
 まず、戦闘要員の数は向こうが圧倒的に上。
 しかも、その中にはスタンド使いもいるでしょう。
 私達の船にスタンド使いが居るというアドバンテージなど、無いものと思ってください。
 それに、あなたなら兵士を何人相手にしても大丈夫なのかもしれませんが、
 人質を取られたらどうしますか?
 見殺しにして闘うだけの覚悟はおありですか?
 仮にあなた一人が生き残ったとして、船の操縦はどうするつもりですか?
 機関室を破壊されたら、どうするつもりですか?
 もしくは、敵が私達が奪ったものを取り返すのを諦めて、
 『他の勢力に目当ての物が渡る位なら』と、
 一気に攻め立ててくる事も充分に有り得るのですよ?
 そうなっては、こんな船などあっという間に空の藻屑ですね。」
 ニラ茶猫の軽薄な言動を攻め立てるように、高島美和がまくしたてる。

「ご…ごめんなさい……」
 しょぼんとしょげ返るニラ茶猫。

「分かればよろしいのです。
 兎に角、向こうの歩兵をこの船に入れてしまった時点で、
 私達の負けはほぼ確定します。
 加えて、私達が向こうの船を撃沈するのは不可能。
 以上から、いかにして憲兵の到着まで持ち堪えるかが今回の勝利条件と考えます。」
 高島美和が大きく息をついた。

「…俺に異論は無い。
 で、どうするのだ?」
 三月ウサギが高島美和に聞いた。

「…本来ならこんな状況に陥らない事が一番の作戦なのですけど、
 こうなってしまっては四の五の言っていられません。
 三月ウサギ、船長、
 急襲用迫撃射出錨(アサルトアンカー)はあなた達に何とかして貰うとして、
 残るは上から飛び降りてくる吸血鬼ですが…」
 高島美和が視線を落として考え込む。

554ブック:2004/06/09(水) 00:03

「でしたら、それについては私に任せて貰えませんか?」
 そこに、タカラギコが立候補してきた。

「あなたが?」
 聞き返す高島美和。

「ええ。
 射撃には少し嗜みがありまして。
 なに、心配はいりません。
 残らず射ち堕としてごらんにいれますよ。」
 パニッシャーを担ぎながら、タカラギコが微笑んだ。

「…では、お願いしましょうか。
 信用がおけるかどうかは別として、あなたの腕前は確かなようですし。」
 躊躇いながらも、高島美和がタカラギコにお願いする。
 まあ、三月ウサギとあそこまで張り合える男だ。
 かなり心強い戦力という事は間違い無い。

「それではオオミミ、ニラ茶猫、
 あなた達は船内の警備をお願いします。
 万一船に敵が侵入してきた場合、あなた達が頼りですよ。」
 高島美和がオオミミとニラ茶猫の顔を見据えた。
 オオミミとニラ茶猫が、小さく頷く。

「カウガールはいつも通り船の操縦、
 私は、『シムシティ』を展開させながら皆さんのサポートを行います。」
 高島美和の周りに、四匹の目玉蝙蝠が出現した。

「敵機、接近中!
 間も無く戦闘射程圏に入ります!!」
 カウガールが舵を握りながら叫んだ。

「…よっしゃ、それじゃあそろそろ往くか!
 野郎共!!
 …死ぬんじゃねぇぞ!」
 そのサカーナの親方の言葉が終わると同時に、
 皆はそれぞれの持ち場へと散ってゆくのだった。

555ブック:2004/06/09(水) 00:03



     ・     ・     ・



「……」
 包帯とベルトでグルグルに巻かれた、とてつもなく巨大な何かを担いだ女、
 『ジャンヌ・ザ・ガンハルバード』が、小さな商船の甲板の上に佇んでいた。
 今は夜の為全身をコートで包む必要もなく、
 その美しい要望を余す事無く周囲に晒している。

「キイ、キイイ。」
 と、そこに小さな蝙蝠が女の下へと舞い戻って来た。
 蝙蝠はジャンヌの肩にとまると、キイキイとか細い声でジャンヌに何かを伝える。

「…そうか。
 よし、ご苦労じゃったな。」
 ジャンヌは蝙蝠の頭を指で撫でると、褒美にお菓子の欠片を与えてやる。
 蝙蝠が、嬉しそうにお菓子を頬張り始めた。

「あんたのペットかい?
 随分と変わったもの飼ってるんだな。」
 船の主らしき男が、後ろからジャンヌに声を掛けた。

「…親仁、頼みがある。」
 男の質問には答えず、ジャンヌが男の目を見て尋ねる。

「…?
 何だい?」
 きょとんとした顔で聞き返す男。

「この船を、ここから北東辺りの『ヌールポイント公国』の国境沿いにまで
 動かしてくれんか?」
 そのジャンヌの言葉を聞いて、男は見る見るうちに顔色を変えた。
「じょ、冗談じゃねぇや!
 あそこら辺には今、『紅血の悪賊』がたむろしてるんだぜ!!
 そんな所、自殺志願者でもなきゃ行かねぇよ!!」
 男が怒鳴るようにジャンヌに答えた。

「約束の金の倍…いや、三倍の額を支払うが、駄目か?」
 平然と口を開くジャンヌ。
「駄目なもんは駄目だ!
 幾ら金を積まれようが、命には代えられねぇよ。」
 男がつっけんどんに返す。

「…仕方が無い。
 まあ、ここまで近づければ大丈夫か…」
 と、ジャンヌがぶつぶつと独り言を言い出した。

「ああ?
 何だって?」
 怪訝そうに男がジャンヌに尋ねる。

「いや、こちらの話じゃ。
 親仁、無理言って送って貰ってすまなんだ。
 ここまでで結構じゃ。」
 ジャンヌが金を男に渡しながらそう言った。

「ここまで、って…
 あんた、こんな周りに島も無い所で一体どうする―――」
 そこで言うのを止めて、男は大きく目を見開いた。
 何と、ジャンヌは平然と甲板の柵の上に昇ったのだ。
 下は落ちたら助からない雲の海だというのに、である。

「お、おい!あんた!!
 危ないぞ!!!」
 男は必死に呼びかけるも、ジャンヌはそ知らぬ顔で柵の上に立ち続ける。
 彼女自慢の金髪が、夜風を受けて煌びやかにたなびいた。

「ラ・ウスラ・デラ・ギポン・デ・リルカ…」
 ジャンヌが呟くように呪文を唱えると、彼女の影から大量の蝙蝠が飛び出した。
 そしてそれらは次々と一つ所に集まり、
 黒い閃光と共に大きな一匹の蝙蝠へと姿を変える。
 『使い魔』(サーヴァント)。
 上級の吸血鬼だけが使える、吸血鬼の特殊能力の一つだ。

「な…あ……あ……」
 男が、その超常の光景を目の当たりにして放心状態に陥る。

「では親仁、世話になった。」
 ジャンヌはそんな男に一瞥をくれると、
 大きな蝙蝠の背に乗ってすぐさまその船から飛び去っていった。



     TO BE CONTINUED…

556ブック:2004/06/10(木) 00:42
     EVER BLUE
     第二十九話・LUCK DROP 〜急転直下〜 その三


 山崎渉は、三隻の戦艦のうちの真ん中の船のブリッジから、
 正面に『フリーバード』を見据えていた。
「山崎渉様、
 敵艦を急襲用迫撃射出錨(アサルトアンカー)の射程内に捉えました。」
 オペレーターが事務的な声で山崎渉に告げる。

「分かりました。
 急襲用迫撃射出錨発射準備。
 そして敵艦に錨を撃ち込んだ後に、
 両脇の艦を、敵艦を挟み込む形で配置するよう命令を伝達しておきなさい。」
 山崎渉がそうオペレーターに伝えた。

「了解。
 …急襲用迫撃射出錨、照準セット完了。
 いつでも、撃てます。」
 オペレーターが山崎渉に顔を向けた。

「結構です。
 それでは、急襲用迫撃射出錨、発射!」
 山崎渉が『フリーバード』を指差しながら叫んだ。
「了解。
 急襲用迫撃射出錨、発射。」
 そのオペレーターの声と共に、山崎渉の乗る戦艦から特大の錨が撃ち出された。
 膨大な質量を持つ金属の塊が、猛スピードで『フリーバード』へと飛来する。
 そしてそれはあっという間に『フリーバード』の甲板へと―――


「『モータルコンバット』!!」
 その時、襲い来る錨の前に一人の男が立ちはだかった。
 顔に大きな傷を持ち、右目を眼帯で隠した男。
 『フリーバード』の船長、サカーナである。
 その横には、青いプロテクターに身を包んだ男のビジョンが浮かんでいた。

 常識的に考えて、高速で直進する巨大な錨の前には
 唯の人間の力など及びはしない。
 その体ごと、甲板を撃ち抜かれるのが落ちである。
 しかし、それは『唯の人間』であった場合の話だ。

「!!!!!!!!!!!!」
 錨が今まさにサカーナに直撃しようとしたその瞬間、
 突如錨の進行方向が右方向に折れ曲がった。
 『モータルコンバット』は錨には触れさえしていなかったのに、である。

「!?」
 驚愕に目を見開く山崎渉。
 軌道を変えられた錨はそのまま直進し、
 『フリーバード』の代わりに山崎渉の乗る戦艦の左脇の船へと突き刺さった。

「……!
馬鹿な!
 一体、何が起こったのですか!?」
 山崎渉が信じられないといった顔をする。

「分かりません。
 ですが、恐らくは敵のスタンド能力と何か関係があるものと…」
 オペレーターが混乱した様子で口を開く。

「…そう簡単にはやらせないという訳ですか。
 ガードの固い恋人ですね。」
 顎に手を当て、山崎渉が苦虫を噛むような表情を浮かべる。
「急襲用迫撃射出錨を被弾した艦より通信!
 戦闘には支障は無いとの事です!」
 オペレーターが無線機を耳に当てながらそう伝えた。

「当たり前です。
 あれ位で撃沈されては、大枚叩いて立派な船を拵える意味がありませんよ。
 …仕方ないですね。
 両艦に伝達。
 両サイドから、それぞれあの船に向かって急襲用迫撃射出錨を発射するように
 連絡を入れて下さい。」
 山崎渉が落ち着いた声で命令する。

「了解しました。」
 それを受け、オペレーターが急いで残り二つの艦に連絡を入れる。
 程無くして、山崎渉の船へと通信が帰って来た。

「山崎渉様、発射の準備が整ったようです。」
 オペレーターが山崎渉に向いて言った。

「分かりました。
 きっかり二十秒後に、同時に発射するよう折り返しの連絡を入れなさい。
 しかし、面倒な事この上ない。
 撃墜するだけなら、どうとでもなるというのに…」
 山崎渉が忌々し気に舌打ちをした。

557ブック:2004/06/10(木) 00:43





「いや〜、見事命中ってなもんだぜ!
 流石俺、流石『モータルコンバット』!!」
 折れ曲がった錨が右の敵艦に直撃するのを見ながら、
 サカーナが自慢気な顔を見せた。

「調子に乗るのは後にして下さい。
 すぐにでも追撃が来るかもしれないのですから。
 それと、私の『シムシティ』が着弾地点、侵入角度諸々を計算して、
 どれくらい『傾ければ』いいのかをあなたにお伝えしたからこそ、
 今の結果が出せた事をお忘れなく。」
 無線越しに、高島美和の冷たい声がサカーナの耳へと届く。

「はあ、さいでがすか…」
 肩を落としてうなだれるサカーナ。

「…と、敵艦のうち三隻が、右と左に分かれました。
 どうやら、挟撃を仕掛けてくるみたいですね。」
 高島美和のその言葉に、サカーナが顔を曇らせる。
「ちっ、やっぱそう来たか。
 三月ウサギ!
 俺は右に回る!
 お前は左の方を任せたぞ!!」
 サカーナが向かい側にいる三月ウサギに向かって大声で告げた。

「…分かった。」
 三月ウサギが頷く。

「船長はそこから右にもう10メートル、
 三月ウサギは左に15メートル程移動して下さい。」
 高島美和が、『シムシティ』から送られてくる数値や記号の情報を元に、
 錨が着弾する位置をはじき出して二人に伝える。

「りょーかい。」
「……」
 サカーナと三月ウサギが、高島美和に言われた通りに場所を移す。

「……!
 敵船、急襲用迫撃射出錨発射!!
 来ます!!!」
 そう高島美和が叫ぶのが速いか否か、
 サカーナと三月ウサギが即座にスタンドを発動させた。

「『ストライダー』…!」
 三月ウサギが、錨を正面に見据えてマントを翻した。
「!!!」
 錨が、マントの中へと吸い込まれるように侵入していく。

「『モータルコンバット』!!」
 甲板の反対側で、同様にサカーナが叫んだ。
 同時に、青いプロテクターを着た男のビジョンのスタンドが右腕を突き出す。

 その時、信じられない事が起こった。
 『モータルコンバット』が腕を突き出した付近に一匹の虫が飛んでいたのだが、
 それが突然左90度に向きを変えたのだ。
 しかも、それは飛びながら向きを変えたというのではない。
 何の予備動作も無く、何の予兆も無く、
 いきなり『向きだけ』が変わったのだ。

「来たな…!」
 サカーナが獰猛な笑みを見せた。
 急襲用迫撃射出錨が勢いよく突っ込んでくる。
 だが、ある程度サカーナの『モータルコンバット』に近づいた所で、
 『虫の向きが変わった方向と全く同じ方向』に軌道が折れ曲がった。

「!!!!!!!!」
 そして向きを変えられた錨は、山崎渉の乗っている船へと撃ち込まれる。
 ブリッジの中では、山崎渉がその衝撃でバランスを崩した。

「へっ、どんなもんでぇ!
 来るなら来やが…」
 そう言いかけ、サカーナがハッと上の方を見上げた。

「しまっ…!
 いつの間に!!」
 『フリーバード』の上空を、小型プロペラ機が数機飛び回る。
 そして、そこから次々と人影が『フリーバード』甲板目掛けて飛来してきた。
 サカーナはそれを見ただけで、何が起こるのかを一瞬で理解する。
 忘れられる筈も無い。
 これは、つい先日『紅血の悪賊』の吸血鬼が取った戦法なのだから。

「まずい!
 あいつらを船に―――」

558ブック:2004/06/10(木) 00:43


 ―――!!!!!!!

 サカーナの言葉を、無数の銃声が掻き消した。
「GYAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!」
「OAAAAAAAHHHHHHHHHH!!!!!!!」
 12・7mm機関砲の掃射を浴びて、吸血鬼達が悲鳴を上げる。
 銃弾を体中に撃ち込まれた吸血鬼達は、
 そのまま『フリーバード』の甲板に着地する事無く奈落の底へと落ちていった。

「…吸血鬼は並外れた身体能力を持ち、銃弾すら回避するそうですが、
 羽でも生えていない限り、空中での軌道修正は不可能。
 自由落下という檻に囚われている下降中ならば、
 この距離から撃ち堕とすのはそう難しくありません。」
 パニッシャーを構えながら、タカラギコが誰に言うでもなく呟いた。

「さて、お次は…」
 タカラギコがパニッシャーを逆向きにして肩に担いだ。
 音を立て、パニッシャーの上の胴体部分が開く。
 その中から、ロケットランチャーの砲門が姿を見せた。

「いきますよ…!」
 銃口を飛来してくるプロペラ機の一つへと合わせ、髑髏型の引き金を引く。
 風を切る発射音と共に、ロケット弾が生き物のようにプロペラ機に襲い掛かった。

「!!!!!!!」
 着弾。
 ロケット弾が爆発し、プロペラ機がこっぱ微塵になって墜落していく。
「AAAAAAAAAHHHHHHHHH!!!!!」
 体を炎上させ、断末魔の悲鳴を上げながら、
 操縦していた吸血鬼がプロペラ機と共に遥か下の大地へと落ちていった。

「…まさに天国から地獄、ですか。
 ぞっとしませんねぇ。」
 苦笑しながら、タカラギコがパニッシャーを構え直す。

「さて、私の目の黒いうちには、易々とこの船には足を踏み込ませませんよ…!」
 さらに飛来してくるプロペラ機を見つめながら、タカラギコが呟いた。



     TO BE CONTINUED…

559:2004/06/10(木) 17:40

「―― モナーの愉快な冒険 ――   吹き荒れる死と十字架の夜・その6」



 ギコと『レイラ』は、日本刀を正眼に構えた。
 それに対し、山田は青龍刀の切っ先を下方に向けて構え、僅かに腰を落としている。
 いわゆる、下段の構えに近い。
 周囲は真夜の闇。
 だが艦に灯る明かりのおかげで、視界に問題はない。

「――行くぜ!」
 『レイラ』、そしてギコが駆けた。

 『レイラ』は大きく踏み込むと、刀を大きく薙いだ。
 山田は、俺の時のように柄で受け止める。
 あの防御の次に来るのは、攻防一体の斬撃――

「うおおッ!!」
 ギコは、その攻撃を『レイラ』の刀で受け止めた。
 大きく打ち負け、体勢が崩れる『レイラ』。
 さらに踏み込む山田の胴に向かって、ギコは鋭い突きを放った。
 『レイラ』の刀ではなく、ギコ本体が手にしている刀による突きだ。
「…!」
 山田はそれを青龍刀の刃で受けると、大きく背後に飛び退いた。

 そして、再び青龍刀を構える。
「スタンドと本体の連携攻撃… 初めて戦うタイプだな…!」
 山田は、微かな笑みを浮かべて言った。
 戦士の笑み。
 好敵手を見つけたという笑みだ。

「それにしても…」
 山田は、半身だけで甲板に転がっている俺に目線をやった。
 再生には、まだ時間がかかりそうだ。
「ここは侍の国だとは聞いたが… この国の少年は皆、そこまでの武芸を身につけているのか…?」

「俺が特別製なだけだ。そこのそいつもな」
 俺を指して、ギコは言った。
 そして、山田を真っ直ぐに見据える。
「――それと、今の打ち合いで3つ気付いた事がある」

「ほう?」
 山田は興味深げな表情を浮かべた。
 ギコは刀をくるりと回転させると、その切っ先を山田に向ける。
「まず1つ。お前の武器は、1対1の戦いに適していない。
 お前の戦いはそうだな… 大勢に1人で斬り込んで、一気に撫で斬りにする戦い方だ。
 圧倒的な『攻』のラッシュで敵勢を黙らせる。
 そもそも、その武器… 地上で扱うようなモンじゃないだろう?」

「…いかにも。この『青龍鉤鎌刀』、馬上で大勢を斬る為の武器だ」
 山田は、『青龍鉤鎌刀』を下段に構えたまま言った。
 軽く語っているようで、少しも気を抜いてはいない。
 もっとも、それはギコも同様だが。
「2つ目。お前のスタンドは、その『青龍鉤鎌刀』とやらだ。『レイラ』の刀を受け止めたからな。
 これはただの勘だが、物質と合成しているタイプじゃないか?」

「…その通り。この『青龍鉤鎌刀』、我がスタンドと空気中の炭素で構成されている」
 山田はあっさりと答えた。
 彼の技を破る上で、そんな事は重要ではない。
 それでも… 彼のスタンドにヴィジョンは存在しないという事だ。

 ギコは続けた。
「3つ目。お前は勝負を焦っている。
 普通に振る舞ってるようだが、斬撃に顕れる感情までは隠せねぇ。
 これも勘だが、スタンドに時間制限があるからだ。 …違うか?」

「…フッ」
 山田は軽く笑みを浮かべた。
「…それは違うな。『青龍鉤鎌刀』を構成している私のスタンド『極光』に、制限時間などはない。
 いったん『青龍鉤鎌刀』を精製してしまえば、破壊されない限り消失しない」

「ありゃ、外したか…」
 ギコは残念そうに呟いた。
 山田は、そんなギコを見据える。
「…だが、私が焦っているという指摘は間違ってはいない。
 その理由は… 今から5分後、この艦は私の仲間によって大規模な爆撃に見舞われるからだ」

「何だとッ!!」
 ギコは叫び声を上げた。
 山田は、下段に傾けている『青龍鉤鎌刀』を僅かに引いた。
 その構えからの殺気が増す。
「単独での艦制圧は私が申し出た。爆撃開始までに敵将全てを討ち取ってしまえば、この艦は制圧できる。
 みすみす沈める事もない…」

「んな事はさせねーよ…」
 ギコは、再び正眼に刀を構えた。
 そして、殺気を込めて山田を睨む。
「お前を追い返し、爆撃部隊とやらも叩き落とす」

 ギコの殺気を軽く受け流すように、山田は口を開いた。
「2つ教えよう。この『青龍鉤鎌刀』、スタンドをも斬れる以外は普通の武器だ。妙な警戒は不要。それと――」
 人差し指で、自らの額をトントンと叩く山田。
「――狙うならここにしろ。私は吸血鬼だ。頭部を破壊しない限り死ぬ事はない」

560:2004/06/10(木) 17:41

「余裕だな…」
 ギコは呟く。
「武士道と言ってもらえないか、サムライよ!」
 そう言って、山田は神速でギコの眼前に踏み込んだ。
 上段への大薙ぎ。
 『レイラ』が、その初撃を弾いた。
 山田は、その勢いのまま舞うように回転する。
 それに続く中段への薙ぎ。

「このッ!!」
 『レイラ』の刀で、『青龍鉤鎌刀』を受け止める。
 それでも、山田の勢いは殺しきれない。
 逆に、『レイラ』の刀が大きく弾かれた。
 そして、下段への薙ぎが繰り出される。

 ――流れるような三段薙ぎ。
 全て喰らえば、たちまち輪切りだ。

「うぉぉぉぉッ!!」
 ギコは手にしている日本刀で、下段を薙ぎ払う『青龍鉤鎌刀』を大きく払った。
 その隙に、体勢を立て直した『レイラ』が突きを放つ。
「…!」
 山田はその攻撃を『青龍鉤鎌刀』で受け止めた。

 そのまま、山田の『青龍鉤鎌刀』と『レイラ』の刀が何度もぶつかり合う。
 その激突に、本体であるギコの斬撃も混じる。
 『レイラ』で隙を作り、ギコ自身がそれを突くという戦法だ。

 刃と刃の応酬。
 激突した刃が、空中で火花を散らす。
 山田は『レイラ』とギコの刀を受け、それでもなお有利。
 『レイラ』の刀と『青龍鉤鎌刀』を激しくぶつかり合わせると、両者は素早く距離を置いた。

 山田は再び、『青龍鉤鎌刀』を下段に構える。
「その齢にして、本体、スタンド共にその腕前。一体、どれほどの鍛錬を積んだのだ…?」

 …そうなのだ。ギコがスタンドを身につけて、3ヶ月。
 長いと思うか短いと思うかは人それぞれだろう。
 そして、何度も激戦を繰り広げてきた。
 『レイラ』の腕が上がるのは分かる。
 だが、ギコ自身の剣の腕前も上がってはいないか…?
 とても、剣道で鍛えた程度のレベルじゃない。

「毎日、血を吐くまで最強の剣士とガチンコで打ち合ってたのさ――」
 ギコは、そう言って自らの背後に立つ『レイラ』を指差した。
「――こいつとな」

「…鍛錬がすなわち実戦だったという事か。剣士型のスタンドともなれば、相手にとって充分。
 なるほど、合点がいった」
 納得したように告げる山田。
 ギコは刀を山田に向けた。
「お前こそどうなんだ? 『人を1人斬れば、初段の腕』と俗に言うけどな。
 その武芸を身につけるまでに、お前は一体何人斬った…?」

 少しの沈黙の後、山田は口を開いた。
「正確に数えているわけではないが… 濮陽で400。烏巣で200。倉亭で400。陰安で200。
 常山で300。遼東で200。江夏で500。柳城で300。赤壁で100。そして、合肥で1200。
 …合わせて、3800人程度だ」

「…歴戦の勇将って訳か」
 ギコは呟くと、背後に『レイラ』を従えた。
「仕方ねぇ。これは切り札にしときたかったんだが…」

 日本刀を両手で構えている『レイラ』のヴィジョンが大きく揺らぐ。
 柄に添えていた左手を離すと、腰元に差していたもう1本の刀を抜いた。

「ニュー・モードってやつだ…!」
 ギコは言った。
 『レイラ』は、両腕を交差して2本の刀を構える。
 『鷹羽』と呼ばれる、心形刀流における二刀の構えだ。

「…二刀流か」
 山田は、『レイラ』の構えを見据えて言った。
「一応言っとくが、付け焼刃って訳じゃねぇ。侮ると死ぬぜ…」
 そう言いながら、ギコは構えた。
 正眼の構えではなく、それより僅かに右側に刀が開いている。

 ――『平晴眼』。
 天然理心流における、斬りと突きに即座に対応できる型だ。
 『レイラ』の『鷹羽』とギコの『平晴眼』。
 流派も用途も違う2つの構えを前にして、山田の動きが止まった。
 それぞれの型の欠点は明白。しかし、その複合は破り難い。

「来ねぇのか? 時間の余裕はないはずだがな…」
 ギコは言った。
 しかし、山田は微動だにしない。
 『青龍鉤鎌刀』を下段に構え、真っ直ぐにギコを見据えている。

「仕方ねぇ、こっちから行くぜ!!」
 なんと、ギコは腰側に回していたアサルトライフルの銃口を山田に向けた。
 そして、そのまま乱射する。

 山田は、完全に意表を突かれた。
 ここまで剣技の体勢に入った男が、まさか銃器を使うとは思わない。
「くッ…!」
 山田は『青龍鉤鎌刀』で、自らに向けられた弾丸を叩き落した。
 その振りに、大きな隙が生まれる。

 その瞬間、ギコと『レイラ』は大きく踏み込んだ。
「――心形刀流、『二心刀』」
 『レイラ』の2本の刀が、山田を捉えた。
 そのまま、山田の身体に2本の刀が振り下ろされる――

561:2004/06/10(木) 17:42

「はァァァッ!!」
 その瞬間、山田は大きく腰を落とした。
 そこから、『青龍鉤鎌刀』を大きく振り上げる。
 山田の周囲に、嵐のような上昇気流が発生した。

「うおッ!!」
 その風圧で、『レイラ』の攻撃が弾かれる。
 しかし、ギコ本体は『レイラ』の背後に退いていた。
 もう1歩踏み込んでいれば、嵐の直撃を受けていただろう。
 そして彼の刀は、戦闘の最中にもかかわらず鞘に納まっている。
 これは… 抜刀術!?

「――天然理心流、『無明剣』」
 ギコは山田の攻撃を右半身で受け流し、同時に抜刀した。
 神速の斬り上げ。
 山田は『青龍鉤鎌刀』を振り上げた体勢だ。
 胴部の大きな隙に、ギコの刀が迫る。

「…甘い!」
 山田は、ギコの腹に蹴りを見舞った。
 ギコの身体が大きくグラつく。
 その瞬間、山田は体勢を整えると『青龍鉤鎌刀』を構えなおした。
 そして、ギコの頭上に振り下ろす。

「くッ…!」
 ギコはそれを受け止めるように、頭上に刀を構えた。
 『青龍鉤鎌刀』での一撃を受け止める気だ。

 ――駄目だ。
 ギコの腕力で、あの一撃は止められない。
 完全に押し負け、そのまま両断される…!

「無駄だッ!!」
 山田の『青龍鉤鎌刀』が、ギコの刀と彼の頭上でぶつかり合った。
 勢い・腕力共に、向こうの方が上。
 ギコの刀は、振り下ろされる『青龍鉤鎌刀』を僅かに押し止めたに過ぎない。
 その一撃は、このままギコの頭部に――

「これでよかったんだよ。ほんの少し、勢いを緩めるだけでな…!」
 勝利の確信が込もった口調で、ギコは言った。
 その背後で、二刀を掲げた『レイラ』が躍る。
 そして、ギコが押し留めている『青龍鉤鎌刀』に向けて、二刀を交差させて振り下ろした。

「…最初から武器破壊が狙いかッ!!」
 山田は『青龍鉤鎌刀』を退こうとするが、間に合わない。
 その柄に、『レイラ』の斬り下ろしが直撃した。
 音を立てて真っ二つになる『青龍鉤鎌刀』。

「…」
 山田は、驚きの表情を浮かべて押し黙った。
 沈黙の中、その切っ先は甲板に転がる。

「信じられん…」
 山田は、刃を失いただの棒と化した『青龍鉤鎌刀』を呆然と見詰めた。

 ギコは勝ち誇って口を開く。
「…勝負あったな。お前は、武器と共に強くなったタイプだ。その『青龍鉤鎌刀』がないと、武芸を発揮できない」
 そして、手にした日本刀を山田に向けた。
「降伏するんだな。お前ほどの武人、好んで殺戮に身を任せてる訳じゃねぇだろう?」

 山田は目線を上げると、ギコを見据える。
「…ふむ。お主の言う通り。我が武、手慣れた刃がなければ振るえん」
「ああ。お前の『青龍鉤鎌刀』は完全にブチ壊した。これで――」
 ギコの言葉は、山田に遮られた。
「だが、私を屈服させたいなら… 同じ事をあと43回繰り返さねばならんな!」
 一転して、山田は笑みを浮かべる。

「…なんだって!?」
 ギコは眉を潜める。
 山田は、柄だけになった『青龍鉤鎌刀』を甲板に落とした。
 そして、何も持っていない右手を前方に構える。
「『極光』、第弐拾七番『蛇矛』…!!」

 一瞬の眩い光。
 それが収まると、山田の右手には1本の槍のようなものがあった。
 先端の刃は幅広で、蛇のようにくねった形である。

「…何をした?」
 ギコは、その様子を見据えて呟いた。
 慣れた手付きで、その槍を構える山田。
「――四十四の刃の1つ、『蛇矛』。
 これが我が『極光』の能力だ。『青龍鉤鎌刀』も我が刃の1つに過ぎぬ」

「…なるほど。43回繰り返すってのは、そういう事か」
 ギコと『レイラ』は、再び刀を構えた。
 その額に、一筋の汗が流れる

 あと43回…?
 『青龍鉤鎌刀』を破壊した時でさえ、ギコは捨て身に近かった。
 少しでもタイミングが狂えば、ギコの体は真っ二つだ。
 あれを43回だなんて、到底無理な話ではないか。

「人真似は好かぬが… 我が二刀、お見せしよう」
 山田は、さらに左手を大きく広げる。

「――『極光』、壱番『麒麟牙』!」

 一瞬の光の後、その手に1.5mはある大型の剣が収まっていた。
 片刃で弧を描いている刃は分厚く、かなり幅広である。
 本来は両手で扱う武器であろう。

 山田は、『蛇矛』と『麒麟牙』を交差するように構えた。

「――さて、参るぞ」

562:2004/06/10(木) 17:43


 俺の体は、ほとんど再生し終えた。
 右半身と左半身が、自分でも不気味なくらい元通りに結合している。
 それでも、この勝負には手が出せない。

 両者が同時に間合いを詰めようとしたその瞬間、空を切るような爆音が響いた。

「!!」
 山田を含む3人は、同時に音の方向を見上げた。
 水平線の彼方から、多くの黒い点が近付いてくる。
 間違いなく、航空機の群れだ。

「馬鹿なッ!! 予定の時刻より早いではないかッ!!」
 航空編隊を見据えて、山田は叫んだ。
 その憤りは、ギコに向けられた殺意よりも強いように感じる。

「この船はもはや死に体、さらに鞭打つと言うか…」
 山田は呟くと、ギコの方に視線を移した。
 いつの間にか、両手の刃は消えている。もう戦意はないようだ。
「――名乗られよ、少年」

「俺はギコ、こいつは『レイラ』だ」
 ギコは、自らを親指で示した。

「次に戦場で会う時まで、その命大切にせよ…とは言わん」
 山田は、乗ってきた馬に飛び乗った。
「我が『青龍鉤鎌刀』を破るほどの者に、そのような言など無用だろうからな…」

「望むところだ。テメェは、絶対に俺が倒す!」
 ギコは、馬上の山田に叫んだ。
「次に来る時は、馬に乗って来やがれ。相応に相手してやるぜ!」

 …ギコも馬に乗れたのか?
 いろいろ特技が多い奴だが、乗馬が趣味だという話は聞いた事がない。

「…次に仕合う時を楽しみにしている」
 山田は手綱を引く。
 彼の乗った馬は、甲板に乗り上げている戦艦の艦首に飛び移った。
 その禍々しい戦艦は、山田が乗り移ると同時に離れていく。
 後には、無惨に押し潰されたヘリ用甲板が残った。

「戦艦は攻撃してこない…? 弾薬を温存してるのか…?」
 ギコは呟く。
 確かに、この艦はボロボロだ。
 反撃能力など、ほとんど残されていない。
 弾薬の無駄だろうが… 爆撃にしても同じように思える。

 ギコは、俺の方に視線をやった。
「さて、再生も終わったみたいだな… ってか、治ったんなら加勢しろよゴルァ!!
 解説役に徹してんじゃねぇ!!」
 大声で叫ぶギコ。

「…加勢したらしたで、どうせ男同士の戦いに横槍入れるなとか言うモナ?」
 俺は抗議する。
「当然だゴルァ! 一対一の決闘を汚すつもりかゴルァ!」
 ギコは当たり前のように言った。
 理不尽な事を抜かす友人は無視して、俺は頭上を見上げる。
 さっきは点ほどにしか見えなかった航空機が、形状が認識できる距離まで近付いている。

563:2004/06/10(木) 17:44

 迫り来る爆撃機を控え、ギコは口を開いた。
「Ju87急降下爆撃機…!? 『悪魔のサイレン』か…!!」

 俺は、ギコに疑問を込めた視線を送る。
 それを受けて、ギコは言った。
「大戦中の機体は詳しくないんだが… 確か、ナチスドイツを代表する急降下爆撃機だ。
 急降下の時に放つダイブブレーキ展張時の音から、『悪魔のサイレン』と呼ばれて恐れられてたらしい」

「ナチス…? なんでそんなのが…」
 俺は思わず呟いた。
 ギコが肩をすくめる。
「俺が知るわけねぇだろ。そもそも急降下爆撃自体、もう歴史から消え去った戦術なんだ。
 高々度爆撃の方が効果的だし、何より現代には精密誘導兵器があるからな。
 今さらそんな戦術にこだわる奴は、頭のネジがぶっ飛んだ奴くらいだ」

 ともかく、俺達に高度2000mを飛行する爆撃機を落とす能力はない。
 この艦の対空ミサイルも、もう残ってはいないだろう。
 どうする…!?
「クソッ!! 何にも出来ないのかよッ!!」
 高速で急降下してくるJu87を見据え、ギコが叫んだ。

 爆音が響く。
 Ju87が艦尾へ向けて急降下して、そのまま突っ込んだのだ。

「…!?」
 俺とギコは、その様子を呆然と見つめていた。
 爆撃ではなく、体当たり…?

 しかし、俺の『アウト・オブ・エデン』は見逃さなかった。
 艦尾との激突の瞬間、人影がコックピットから飛び出したのを。
 航空機の機体は、艦尾に刺さり炎上している。
 主翼を真横に広げたその姿は、まるで十字架のようだ。

 炎を背に、人影はゆっくりと歩いてくる。
 そいつは、軍服を着用していた。
 そして、俺達に向けて機関銃を構える。

「Bluhe… deutsches Vaterland!! Uryyyyyyyyyyy!!」
 軍服の男は狂声を上げながら機関銃を乱射した。
「『レイラ』ッ!!」
 ギコのスタンドが、素早く弾丸を弾く。
 あいつは… 吸血鬼!?

 さらに、艦首にJu87が突っ込んできた。
 その衝撃で、『ヴァンガード』が大きく揺れる。
 爆発炎上する機体の残骸。
 次々に飛来するJu87。
 そして、コックピットから飛び降りる吸血鬼達。
 そいつらは全員が軍服に身を包み、銃器を手にしていた。

「カミカゼ・アタック… とは言えねぇな。パイロットは平気そうだし。
 いいだろう、ちょうど昂ぶってたとこだ…」
 ギコは背後に『レイラ』を従えると、自らも刀を構えた。
「…全員ぶった斬ってやるぜ!!」

 俺は、漆黒の軍服に身を包んだ吸血鬼達を見据えた。
 ヘルメット、バックパック、そして各部に収納された数々の武装…
 いわゆる、空挺装備というやつだ。
 だが、空挺に不可欠なパラシュートはない。
 こいつらは、慣性落下で着地しているのだ。

『…吸血鬼で構成された軍隊というのを考えています』
 奴の… 『蒐集者』の言葉が俺の脳裏に飛来した。
 何十年か何百年か前、奴はそう告げたのだ。

「これが、そうだと言うのか…?」
 俺は呟いた。
 『殺人鬼』は、以前言っていたではないか。
 『教会』の最高権力者は元ナチスのSS、そしてこの世で最も悪魔に近い男だと。

 『蒐集者』が思い起ち、枢機卿が完成させた忌むべき軍隊。
 それが、こいつらか――!!
 こいつらが『教会』の手先なら、滅ぼすべき敵だ。
 俺と、そしてリナーの為に。

 墓標のように甲板に突き刺さり、燃え続ける航空機。
 その灯りは、夜の闇の中で不死の兵隊達のシルエットを浮かべた。
 人を辞めたモノ。血塗られた吸血鬼。死を越えた肉体。そして、唯の塵。
 塵ならば、塵に還れ――

 俺は懐からバヨネットと短剣を取り出した。
 軽く手許で回転させると、逆手に構える。

「Dust to Dust… 塵は塵に。亡者は骸に。亡兵は戦場の闇に…!」

564:2004/06/10(木) 17:44



          @          @          @



 海上自衛隊護衛艦『くらま』。
 その艦内通路で、2人の男女が戦火を交えていた。
 高校生ほどの少女と、20代前半の男。
 ほとんど同じ世代に見える両者。だが、その実年齢は80ほど離れていた。

 リナーのP90と枢機卿のMP40が同時に火を噴いた。
 互いに銃弾を避けつつ、両者は短機関銃を連射する。
 その動作は、同一と言える程に似通っていた。

「『エンジェル・ダスト』は完全に解除しないのかな?」
 枢機卿は撃ちながら口を開いた。
「そちらこそ、『リリーマルレーン』は使われないのですか…?」
 火力を緩めずに、リナーは訊ねる。

「愚問だな…」
「そう、愚問ですね…」
 2人はそう口走った。
 リナーは撃ちながら距離を詰める。
 枢機卿も同様に間合いを詰めてきた。
 相手の銃は、そろそろ弾切れ。
 むろん、自分も同じ事だ。

 2人は手の届く距離まで接近すると、素早く短機関銃を投げ捨てた。
 そして、同時に懐から拳銃を取り出す。
 リナーのファイブ・セブンと枢機卿のワルサーP38。
 その銃口が、至近距離で互いの身体に向いた。

「…ところで、法儀式済みの弾丸はそろそろ切れたのではないかね?」
 リナーの手にしたファイブ・セブンの銃口を眼前に控え、枢機卿は言った。
「ええ。『教会』からの補給が断たれましたからね…」
 リナーは表情を変えずに答えた。
 すでに、法儀式が済んでいる武器は手許にない。
 枢機卿は、微かな笑みを浮かべて口を開く。
「…実は、私の武器には最初から法儀式などなされてはいないのだよ」

 その刹那、2挺分の銃声が響いた。
 2人は同時に引き金を引いたのだ。
 互いの服に穴が開き、血が溢れ出る。

「…!!」
 さらに銃口を向け、至近距離から引き金を引く両者。
 2人の身体に幾つもの穴が空く。
 何発もの銃声が響き、血飛沫が廊下を染めた。
「Liebster Gott… wenn werd ich sterben!!」
「うぉぉぉぉぉぉッ!!」
 ありったけの弾丸を、お互いの身体に叩き込む2人。

 弾が切れた拳銃を投げ捨てると、2人は同時に同型の軽機関銃を取り出した。
 そして、互いの腹に押し当てる。
「MG42…? 君は、ナチス関連の品は嫌いではなかったかな…?」
「そうでしたが… 貰い物ですよ。女性の機微が分からない男からのね…」
 両者は血を吐きながら会話を交わした。
 そして、同時に引き金を引く。
 艦の通路に、MG42独特の発射音が響いた。

 1分に1200発もの弾丸を発射する機関銃。
 その弾丸を、2人はその身で受けた。
 リナーの右腹が、ズタズタにちぎれて吹き飛ぶ。
 枢機卿も、右腹部に大きな穴が空いた。

 2人はよろけながら一歩退がった。
「ごほッ…」
 リナーは血を吐きながら、服の中からバヨネットを取り出した。
 そして、その刃を枢機卿の胸に叩きつける。
 同時に、リナーの胸をバヨネットが貫通した。

「効きませんよ、この程度ではね…!」
「私にもな…」
 2人は次々に服からバヨネットを抜くと、互いの身体に突き立てた。
 その胸に、腹に、肩に、足に、腕に…
 次々と、その身をバヨネットが貫いていく。
 両者は、よろけて背後に一歩踏み出した。

「効かんと言っている!!」
 枢機卿は再び踏み込むと、バヨネットをリナーの首に突き刺した。
 その勢いは首を貫き、刃先は背後の壁に達した。
 同時に、枢機卿の首に突き立てられたバヨネットが背後の壁に突き刺さる。

「ぐッ…」
 咳込みながら、2人はそれぞれの背後の壁に体重を掛けた。
 体を貫通して背側に突き出ていた無数のバヨネットが、壁に当たって抜け落ちる。
 床に落ちた何本ものバヨネットが、金属質の乾いた音を立てた。

 リナーは喉を貫通しているバヨネットを引き抜くと、正面の枢機卿に向かって大きく薙いだ。
 全く同じ動きで、枢機卿がバヨネットを振るう。
 バヨネットが空中で激突し、大きく弾け飛んだ。
 両者の首の穴から、大量の血がボタボタと零れ落ちる。

 その瞬間、艦が大きく揺れた。
 艦後部から爆音が響く。

565:2004/06/10(木) 17:45

「…これは?」
 リナーが天井を見上げた。
 艦は大きく傾く。
 爆発音も止む事はない。
 艦に異常があった事は明白だ。

「我が配下の爆撃部隊だ。ようやく来たか…」
 枢機卿は薄い笑みを浮かべて飛び退くと、そう呟いた。
 同様に飛び退いて、リナーは口を開く。
「爆撃部隊…? 何を企んでいるんです?」

 枢機卿は、無造作に口元の血を拭った。
「この艦… いや、自衛隊の艦隊を攻撃させていてな。どうやらこの艦に致命傷を与えたようだ」
「貴方の部下は、司令官が艦内にいるのにも構わず攻撃を仕掛けるのですか…?」
 リナーは呆れたように言った。
「信頼の表れと思ってもらいたいね…」
 枢機卿は軽く肩をすくめる。

 再び、艦が大きく揺れた。
 かなり大規模な爆撃を喰らっているようだ。

 2人は、同時に通路を駆け出した。
 リナーの真横を、まるで徒競走のように枢機卿が走っている。
「この判断まで同じとは… つくづく私は、いい弟子の育て方をしたな…!」
 枢機卿は通路を駆けながら、リナーにバヨネットを振るった。
 リナーも並走しつつバヨネットで応戦する。
「それはどうも。光栄な事です…!」

 通路を駆け、艦の後部甲板に出る2人。
 リナーは素早く周囲を見回す。
 周囲にはジェット音と爆発音が響いていた。
 そして、空を埋め尽くすような航空編隊。
 この艦は、あと1分も持たないだろう。

 枢機卿とバヨネットを交えながら、リナーはヘリ格納庫に駆け込んだ。
 格納庫内では、艦員が呆気に取られた顔で固まっている。
 奇抜な服を着た少女とナチの軍装に身を包んだ男が、剣を打ち合わせながら駆け込んできたのだから無理もない。
 格納庫の真ん中には、対潜ヘリ・SH−60Kの姿があった。
 シャッターでヘリの出口は閉じられている。

 リナーと枢機卿が、左右から同時にヘリ内に駆け込んだ。
 枢機卿は右操縦席、リナーは左操縦席に占位する。
 そして、真ん中の操縦パネルの上で2人はバヨネットを打ち合わせた。
 操縦パネルには、キーが刺さったままだ。
 枢機卿は、右腕だけで素早くパネルを操作する。

 メインローターが作動し、ヘリが格納庫内で浮き上がった。
 そのままゆっくりと前進すると、シャッターに激突する。

「おいおい、勘弁してくれよッ…!」
 先程の艦員が、柱のスィッチを押した。
 サビついた音と共に、シャッターが開く。
 ヘリは、そのまま夜空に飛び出していった。


「…さて、厄介な状況だな」
 枢機卿は、右手でヘリを操作しつつ左手のバヨネットを振るっている。
「…狭い機内。ここでは、決着がつきませんね」
 リナーは、バヨネットを打ち返して言った。
「ふむ、戦いはここまでか。ランデブーはまたの機会にしよう」
 枢機卿は襟元に手をやった。
 リナーの想定した戦闘パターン外の動き。
 どうやら無線機を操作しているようだが…
 その瞬間、リナーは枢機卿の意図を理解した。

「くッ、そうはいくか…!!」
 リナーは、枢機卿のバヨネットを弾き飛ばそうと大きく振るった。
「座り位置の問題だったな。こちらの方が近い…」
 そう言って、枢機卿は操縦パネルにバヨネットを突き立てた。
 同時に、操縦桿をヘシ折る。
 ヘリが大きく傾いた。

「…Auh Widekseh(それではごきげんよう)」
 枢機卿は操縦席から腰を上げると、真横の窓を破って外に飛び出した。
 落下する枢機卿の身体を掬い上げるように、Bf109が飛来する。
 そのまま、枢機卿はBf109の背に着地した。

「くッ…」
 リナーは、素早くヘリの操縦席に座った。
 そして、ヘシ折れた操縦桿の根元を掴む。
「何とか、体勢を…」
 フラフラと、前方に進むヘリ。

 下は海である。
 この高さなら、飛び降りても問題は無いはず。
 そう思った瞬間、前方に船が見えた。
 あれは、『ヴァンガード』…
 いや、しぃ助教授の乗っている『フィッツジェラルド』だ。
 前部甲板に、なんとか着艦を…!

566:2004/06/10(木) 17:46



          @          @          @



「何なんだ、オマエ… この僕の『ナイアーラトテップ』の前で、これだけ立ってられるなんて…」
 ウララーは、艦橋のてっぺんに立つしぃ助教授に言った。
 彼の背に生えた羽、『ナイアーラトテップ』から鮮やかな光が迸る。
「楽しいなァ。楽しいよ、オマエェェェッ!!」

「くッ!!」
 しぃ助教授は、『セブンス・ヘブン』でその光を逸らす。
 逸らし損ねた光が海を削り、艦にダメージを与えた。
 グラグラと艦体が揺れる。
「貴方こそ、大したものですね。この私が、守勢にしか回れないなんて…」

 この能力は… いや、この光は一体…
 『セブンス・ヘブン』で方向を変えられる以上、質量を持った攻撃なのには違いない。
 そう。質量のある光。

「どうしたァッ!? 守りを固めるだけかッ!!」
 ウララーは羽を大きくはためかせた。
 燐粉が飛び散り、周囲に光が乱反射する。

「このッ…!!」
 しぃ助教授は、その力を押し返した。
 宙に浮いているウララーの体目掛けて、光の方向を変える。

「跳ね返そうッたって、無駄だなァ!!」
 鮮やかな光が、ウララーの周囲を包むように広がった。
 しぃ助教授が跳ね返した光が、それに溶け込んでいく。
「攻防一体ってヤツさァッ!! さあどうする!? いつまで我慢比べやってるんだ!?
 いい加減、そのボロ船は見捨てろよ。アンタ1人なら、もっと楽しくできるだろうがッ!!」

「艦長が、艦を見捨てる? 冗談を言わないで下さい」
 しぃ助教授は笑みを浮かべた。
「…なら、死ぬだけだなァッ!!」
 鮮やかな光が、『フィッツジェラルド』を覆い尽くすように広がる。
 その、凄まじい重圧と破壊力。

「…!!」
 しぃ助教授はそれを抑えながら、唇を噛んだ。
 抑えそこなった鮮やかな光が、艦に当たる。
 甲板が砕け、砲塔が折れる。
 光に削り取られた鉄片が宙に舞った。

 …妙だ。
 個人のスタンドにしては、余りにも強力すぎる。
 これだけの破壊力、たった1人のスタンドパワーで生み出せるとは思えない。
 スタンドは決して魔法ではないのだ。
 となると、指向性を操作する『セブンス・ヘブン』と同じタイプ。
 自然界に元から存在する何らかのエネルギーを操る能力…!

「ダークマター…!?」
 しぃ助教授は呟いた。
「へぇ。知ってるのか…」
 ウララーは腕を組んで笑みを浮かべる。
 周囲に照散していた鮮やかな光が、一時的に収まった。

 しぃ助教授は、目の前に滞空しているウララーを見据える。
「宇宙全体に存在する物質の総質量というのは、数学的な試算で求める事が可能です。
 それには、2つの方法があります。各銀河の明るさから求める方法と、各銀河の運動から求める方法。
 ところが… この両者は、計算ミスでもないのに何故か一致しない。
 各銀河の運動から求めた質量の方が、各銀河の明るさから求めた質量より10倍近く多いんです。
 不思議ですよね。同じ値が出るはずなのに、一桁も違う答えが出るんですから…」

 ウララーは、腕を組んで薄笑いを浮かべている。
 しぃ助教授は続けた。
「これは、未だに宇宙物理学における大きな謎です。
 宇宙に存在する全ての質量を足しても、銀河を回転させるほどのエネルギーには手が届きません。
 ここから導かれる結論は1つ。この宇宙には、見えない質量が存在しているという事。
 その仮定の物質を、学者達は『ダークマター(暗黒物質)』と定義しました」

 しぃ助教授は、ハンマーをウララーに向けた。
「ダークマターの正体は、質量を帯びた光…!
 貴方の『ナイアーラトテップ』は、ダークマターを操るスタンドですね。
 直接対象に照射して破壊したり、周囲に展開して防御壁にしたり、推進力に変換したり…
 なにせ計算上、宇宙の総質量の9割はダークマターですから。その供給元は底なしでしょう」

「フ… フフフハハハ…!」
 しぃ助教授の言葉を聞いて、ウララーは大いに笑った。
「ハッ、ハハハハハハ!! その通り! 意外に博識じゃぁないか!!」
 しぃ助教授は笑みを浮かべる。
「『助教授』という肩書き、ただの飾りだと思いましたか…?」

567:2004/06/10(木) 17:46

「ハハハ!! それが分かったから… どうだって言うんだァァァッ!?」
 ウララーの叫びと共に、虹色の光が周囲を覆い尽くす。
 さらに大きな重圧が艦に向けられた。

「丸耳ッ!!」
 しぃ助教授は叫んだ。
 いつの間にか、前部甲板に丸耳の姿がある。
「…はい。『メタル・マスター』!」
 丸耳は背後にスタンドを浮かべると、軽く指を鳴らした。

 ウララーの頭上に、砲塔や瓦礫が雨のように降り注ぐ。
 先程、ウララー自身が破壊した艦の破片だ。

「何だい、そりゃ… 僕をナメてるのかッ!?」
 ウララーは羽を一閃させた。
 あっという間に、頭上に飛来した数々の鉄片が砕け散る。
「僕を潰したいんなら、軍艦でも落とすんだなァァァッ!!」

「…では、お言葉に甘えて」
 丸耳は再び指を鳴らす。
 ウララーの頭上の空間が裂け、150m近くある巨大な艦が空中に現れた。
 先程、『ヴァンガード』のミサイルが直撃して戦闘不能になった自衛隊艦だ。

「なッ…!?」
 流石のウララーも、驚きの表情を浮かべる。
 丸耳のスタンド『メタル・マスター』は、掲げていた右手を振り下ろした。
 ウララーの頭上に浮遊していた巨艦が、重力に縛られたように落下する。

「うおおおおおおおおおおぁぁぁぁッ!! ブッ潰れろォォォォッ!!」
 ウララーは、羽から大量の光を放った。
 その光は、落下してくる頭上の艦に照射される。
 鮮やかな光が艦を叩き潰し、引き裂いた。
 轟音と共に、艦は真ん中から真っ二つに裂ける。
 砕け散る艦体が周囲に飛び散った。

「『セブンス・ヘブン』!!」
 しぃ助教授は、『フィッツジェラルド』の上に降り注いだ艦の破片をウララーに弾き返した。
 破片といっても、1mを越えているものも多い。
 その鉄片は、高速の凶器となってウララーに飛来する。

「…徒労だァッ!! そんなものが通じるかァァァッ!!」
 艦の破片は、鮮やかな光の渦に呑みこまれる。

 バラバラになった艦体が、海面に叩きつけられた。
 総排水量5000トンを越える巨体。
 轟音と共に、津波と見間違うような水飛沫が上がる。

 ウララーの視界が、シャワーのように飛び散る水飛沫に染まった。
「ハハハッ!! どうだッ!! アハハハハハハハハハハッ!!」
 狂笑するウララー。
 その身体に、霧のような水飛沫を浴びる。

 ――背後から殺気。
 ハンマーを構えたしぃ助教授が、水飛沫に紛れて跳んだのだ。

「水飛沫は目潰しって訳かい!? そんなショボイ手が僕に通用するとでも――」
 ウララーは、虹色の光を背後のしぃ助教授に向けた。
「――思ッたのかァァァァァァァァッ!!!」
 質量を持った光は、空中でハンマーを振り上げているしぃ助教授に直撃する。

 ――手応えが薄い。
 光を浴びて、ニヤリと笑うしぃ助教授。
「な…!?」
 ウララーは声を上げた。
 その脳内に疑問が渦巻く。
 何故だ? 
 確かに、確かに確かに確かに身体に直撃させたはずなのに…!!

「光は微粒子に当たると散乱し、水面などでは屈折します。
 微細な水飛沫なんて、両方の性質を満たしていますよねぇ…」
 しぃ助教授はそのままハンマーを構えると、渾身の力を込めてウララーの身体に叩きつけた。
 ベキベキと骨の砕ける音が伝わってくる。
「光の性質くらいは知っておきなさい。仮にも、それを操るスタンド使いなのならね…!」

「が… ぐぉぁぁぁぁッ!!」
 ハンマーの直撃を受けたウララーの半身は、無惨なまでに潰れた。
 そのまま、『フィッツジェラルド』の前部甲板の方へ吹っ飛んでいく。
 全身から血を撒き散らしながら、ウララーの体は艦首に激突した。
 その余りの勢いに、艦が大きく揺れる。

「とは言え… もろに浴びたのは事実。こちらも無傷とはいきませんでしたね」
 しぃ助教授は空中で身体を翻すと、『フィッツジェラルド』の前部甲板に着地した。
 肋骨が何本か、そして左上腕骨が損傷したようだ。
 だが、倒れている暇はない。
 相手は吸血鬼。
 頭部以外への攻撃は、すぐに再生してしまうのだ。
 さっきの一撃すら、致命傷には程遠い。

 目の前の甲板に、血塗れのウララーがめり込んでいる。
「覚悟!!」
 しぃ助教授は、その頭部目掛けてハンマーを振り下ろした。

568:2004/06/10(木) 17:48

「ウォォォォォォォァッ!!」
 ウララーの周囲に、幾重もの光が広がった。
 甲板がベキベキと砕ける。
 振り下ろされようとしていたハンマーは弾かれ、甲板に落ちた。

「ぐゥゥッ…」
 フラフラと立ち上がるウララー。
 彼はゆっくりと頭に手をやる。
 ぬるりとした感触。
 その掌を、じっと眺めた。
 べっとりと血で濡れている手を。

「何だよ、これ…」
 ウララーは、熱に浮かされたように呟く。
 じっと、掌を凝視しながら。
「…何なんだよ。これ、血だぜ? 痛いじゃないか。痛いじゃないか。痛いじゃないか。
 痛いじゃないか。痛いじゃないか。痛いじゃないか。痛いじゃないか。痛いじゃないか。痛いじゃないか。
 痛いじゃないか。痛いじゃないか。痛いじゃないか。痛いじゃないか。痛いじゃないか。痛いじゃないか。
 痛いじゃないか。痛いじゃないか。痛いじゃないか。痛いじゃないか。痛いじゃないか。痛いじゃないか。
 ちゃァァァァァァァァんと痛いじゃねェェェェェェかァァァァァァァァァよォォォォォォォッ!!」
 叫び続けるウララーの周囲で、鮮やかな光が渦を巻いた。
 
「…抑えろッ! 『セブンス・ヘブン』!!」
 しぃ助教授はスタンドを発動させた。
 『セブンス・ヘブン』で散らしているにもかかわらず、その光は甲板を破壊する。
 ウララーが立っている艦首部分は、大きく抉られた。
 艦の破片が、そのまま海面に音を立てて崩れ落ちる。

 ウララーの体はゆっくりと浮かび上がった。
 そして、眼前に立つしぃ助教授を真っ直ぐに見据える。
「…決めた。『矢の男』の次はオマエだ。この痛み、65536倍にして返してやるよ…」
 そう言って、ウララーは背後を見せた。
 その背に、凶々しい蝶の羽が煌く。

「…楽しいなァ! こんなに殺したい奴がいるなんて、初めてだよ…!!」
 そう言って、ウララーは飛び去っていった。
 しぃ助教授は、瞬く間に遠くなっていくウララーの姿を見つめる。

 駆けつけてきた丸耳が口を開いた。
「…妙ですね。さっきの男、勝負を先延ばしにするタイプには見えませんが」
 しぃ助教授は頷く。
「…ええ。おそらく、ウララーの襲来は波状攻撃の第一波でしょう」

「では、第二波が…!!」
 驚愕の表情を浮かべ、しぃ助教授の顔を凝視する丸耳。
 しぃ助教授は、甲板に転がったハンマーを拾い上げる。
「…その確率が高いですね。丸耳、ただちにCICに戻って艦を指揮しなさい。
 私は、ここでギリギリまで攻撃を防ぎます」

「了解しました。お気をつけて!」
 そう言うが早いか、丸耳はたちまちのうちに姿を消した。
 その直後、前方から僅かな飛行音が響く。
「…来ましたね!」
 しぃ助教授は、夜の闇を凝視した。

 何か、飛行物体がフラつきながら近付いてくるようだ。
 あれは… 自衛隊の哨戒ヘリコプター!?
 動きから見て、操縦系統に損傷があるようだが…

 ヘリは徐々に接近してくる。
 狙いは、間違いなくこの艦だ。
 しぃ助教授は、その操縦席に座る人影を確認した。
 シートに座っている女と目が合う。
 あれは…!

「…『セブンス・ヘブン』!!」
 メインローターの回転を阻害し、機体を傾かせる。
 もともとフラフラだったヘリは、そのままバランスを崩して水没した。
 だが、操縦席に座っていた人影は墜落直前に脱出したようだ。
 しかもパラシュートを使わずに、ただの跳躍で。
「…チッ」
 しぃ助教授は舌打ちをした。
 人影は、驚くべき跳躍力で『フィッツジェラルド』の艦首に飛び移ってくる。

「…おっと、貴女が乗ってたんですか。それは気付きませんでした」
 しぃ助教授はその人影を見据え、笑みを浮かべて告げた。
「完全に目が合ったように思ったが… どうやら、その目は飾りらしいな」
 ヘリから飛び移ってきた女、リナーは表情を変えずに言う。
 その服は各所が破け、穴だらけである。

「…これはまた涼しそうな格好ですね。モナー君を誘惑でもする気ですか?」
 しぃ助教授は、挑発的な笑みを浮かべて言った。
 リナーはその視線を軽く受け流す。
「それなら、服1枚犠牲にしなくとも足る。
 …それより、もうすぐ『教会』の航空隊が押し寄せてくるぞ」

569:2004/06/10(木) 17:49

「まったく… 次から次へと」
 しぃ助教授はため息をついた。
 そして、素早く無線機を操作する。
「…私です。到着を急いで下さい。自衛隊の潜水艦は、まだ付近に潜伏していると思われます…」

「ASAの潜水艦艦部隊か?」
 リナーが訊ねる。
 しぃ助教授は無線のスィッチを切ると、リナーに視線を戻した。
「まあ、そんなとこですね。あれだけ暴れた敵潜水艦が、全く動きがないのは妙です」

「自衛隊の艦隊も、『教会』の航空部隊の襲撃を受けている。救援に向かったんじゃないか?」
 リナーは腕を組んで言った。
「…だとしたらいいんですがね。司令官たるもの、楽観的な判断を下すわけにはいきません」
 しぃ助教授はため息をついて視線を落とした。
 早々に護衛艦が全て沈められたのも、司令官たる自分のミスなのだ。
 被害だけを見れば、ASAの完全敗北に近い。


 前方から、航空機のエンジン音が響いてきた。
「…来るぞ!!」
 リナーは、銃口が大きく開いたスナイパーライフルを取り出した。

 ――バレット・M82A1。
 通称『バレットライフル』。
 12.7mm50口径弾を使用する、強力な対物ライフルだ。

「さて、サクサク落としますか…」
 しぃ助教授は、ハンマーを頭上で軽く回した。
 その背後に、『セブンス・ヘブン』のヴィジョンが浮かぶ。

 空は、たちまちにして敵機で染まった。
「落ちろッ!!」
 リナーの放った弾丸が、Bf109の主翼を直撃する。
 コントロールを失い、炎に包まれる機体。
 そのコックピットから、吸血鬼が飛び降りた。

「Hallelujaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!」
 空中で機関銃を乱射しつつ、軍服の吸血鬼は前部甲板に着地した。
 そのまま、しぃ助教授に飛び掛かる。

「やれやれ。ダンスの誘いは遠慮しておきますよ…」
 しぃ助教授は、その吸血鬼の頭部をハンマーで叩き潰した。
「…1人で踊りなさい」

 リナーが、次々に航空機を撃ち落していく。
 コックピットから飛び出した吸血鬼が、次々に甲板に降り立った。
 その頭部に、ハンマーを叩きつけるしぃ助教授。

「…私もヴァンパイアハンターみたいじゃないですか? こんな風にハンマー持ってると。
 これでありすの服でも着て…
 『汝、魂魄なき虚ろの器。カインの末裔、墓無き亡者。Ashes to ashes Dust to dust…』
 …なんて言うのも結構似合ってません?」
 しぃ助教授はハンマーを軽く振って言った。

「外見的に、20は若返らないと無理だな」
 リナーは、視線を合わせずに吐き捨てる。
「それより、次々に来るぞ。どうやら、艦を制圧するつもりらしいな…!」

 航空機から、次々に軍服の吸血鬼が飛び降りてくる。
 リナーはバレットライフルを甲板に投げ捨てると、バヨネットを取り出した。
 それを、十字の形に交差させるリナー。

「Dust to dust… 塵は塵。灰は灰。土は土。水は高きより落ち、万物はその至るところに終焉ず。
 塵たる貴様達の居場所など、世界のどこにもありはしない…!」



  /└────────┬┐
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  \┌────────┴┘

570丸耳達のビート:2004/06/12(土) 01:37

  くるっぽー。くるっぽー。くるぽっぽー。くるくるー。くるぽー。

 茂名王町西公園の一角に、数十羽の鳩が集まっていた。

  くーくるくるっ。くるるるっ。ぽぽー。ぽっくるー。

「ほーらお食べーおいしーよー」

 その中心で、車椅子に乗ったしぃが盛大にパンくずを撒いている。
「マルミミ君もどうー?」
「いや、いい…」
 鳩でみっしり覆われた車椅子。
誘惑に負けて血を吸ってしまってから今日で二日が経つ。
吸血鬼化も免れ、身体の麻痺も治まりかけてはきたものの、まだしぃの下肢には麻痺が残っていた。

 『マルミミが投薬を間違えた』と、ある意味本当のことよりもマズイ言い訳でとりあえず口裏は合わせてある。
あんまり閉じこもっていても体に悪いので、今日は買い物ついでの散歩だった。

(今頃は、もう退院できてる筈なのに…僕がもっと)「えいっ」

 やけに可愛らしいかけ声とともに、こっちに向かってパン屑袋が投げられてきた。
「え」
 反射的に受け取ってしまい、そこに向かって飛んでくる鳩鳩鳩鳩鳩鳩鳩鳩鳩鳩―――――
「うおぉぉわーっ!」
 平和の象徴だろうが何だろうが、徒党を組んで向かってくるモノは例外なく怖い。
遠慮も容赦も躊躇もなく飛んでくる鳩が、マルミミの身体をつつくつつくつつく。
「痛痛痛痛ッ!」
 慌てて逃げまどうが、鳩たちはパン屑袋に向かってくるっぽくるっぽと追いすがってくる。

こっちの葛藤も知らず面白そうに笑うしぃを視界の端にとどめながら、それなりに必死で走り回った。





「…あ」
「マルモラしゃん?どうしたんれすかぁ?」
 ベンチから少し離れた茂みの向こう。
マルモラと呼ばれた少年の呟きに、隣の女の子が舌っ足らずな声で答えた。
「ほら、アレ」
 す、と少年が、向こうの鳩の群れに追い回される丸耳の少年を指さす。
「おや、マルミミしゃんですねぇ。おぉ〜い」

571丸耳達のビート:2004/06/12(土) 01:38



「おぉ〜い」
 ―――どこからか聞こえて来た声で、ふと我に返った。
しぃに向けてパン屑袋を投げ返し、足を止める。

「マールミーミしゃぁーん」
 声のした方を見ると、髪を両側で束ねた幼い感じの少女と、丸耳のモララーが軽く手を振っていた。
「丸茂と…ののちゃん」
「よ、久しぶり。マルミミは今日学校いいの?」
「丸茂こそサボりでしょ。僕は休み…あ、紹介するね」
 二人の視線に気がついて、鳩と戯れるしぃを指し、
「シュシュ・ヒューポクライテ…ウチの患者さん。んで、」
 くるり、としぃに向き直って二人を指し、
      マルモ リョウイチ        ジン ノゾミ
「コイツが『丸茂 良一』で、こっちが『辻希美』ちゃん」
「初めまして」「よろしくなのれす〜」
 長身を折りたたんで丸茂が、舌っ足らずな声でののが頭を下げる。
「あ、こちらこそ」
 体中に鳩を止まらせたまま、しぃが恐縮したようにお辞儀を返した。


 マルミミ以外に同世代の人間と付き合っていなかった反動か、他愛もない雑談が始まった。
趣味は何だの、好きなタレントは誰だの、どのくらいで退院できるだの―――

「―――ちょっとマルミミ借りてっていい?」

 そんな下らない話を続けて数分程経った頃、急に丸茂がそう言った。
きょとんとした二人の視線に、笑って手を振る。
「ホラ、男同士女同士でしか喋れないこともあるし、十分くらいしたらまた戻ってくるから」

「…わかりました。行ってらっしゃいなのれす」
「うん、それじゃ」
そう言うと、マルミミの手を強引に引っ張って公園の奥へと消えていった。

「…どうしたんだろ?」
「ンフフン。男同士で秘密の会話なのれすよ〜」
どこかわかっていない様子のしぃに、ののが楽しそうに笑った。

572丸耳達のビート:2004/06/12(土) 01:40





 公園の奥で、丸茂がベンチに座る。
ここならしぃからは死角になっているから、込み入った話もできるだろう。
 長い脚をきざったらしく組み上げて、背もたれにふんぞり返りながら聞いてきた。

「…で、マルミミ。なんか相談したいって思ってただろ」

 顔を合わせて十分もしないのに見破られてしまった。…全くコイツは、人の心を読むのが上手い。
内心どきりとしながらも、冗談めかした口調で誤魔化す。
「相談というか聞きたいことは…ある、かな。ののちゃんの服にあった怪しげなシミとかシワとか掛け違えたボタンとか…」
「マ・ル・ミ・ミ」

 …笑いが消えた真剣な顔。話すべきか隠すべきか。
数秒ほど躊躇したが、結局真面目に相談することにした。

「…全部は言えない」
「それでもいいよ。マルミミの話を話せる分だけ聞いて、それで言えることだけ答える」

 ありがと、と小さく呟いて、どこから話すべきか考える。

―――いやぁ僕ホントは吸血鬼でさ、ケガした勢いで魔眼使って血ぃ吸っちゃったんだよねー。
     で、もしかしたらまた吸っちゃうかもしれないんだよ。すっごく美味しくて。

 …いやいや、口が裂けてもこんな事は言えない。
とりあえず当たり障りのないところをまとめて、口を開いた。

「…一昨日…しぃに、さ。酷いことしちゃったんだよ。本人は覚えてないんだけどね」
「覚えてないんだろ?普通にやってればいい」
 不思議そうに答える丸茂に、弱く笑いかける。
「簡単そうに言うけどね…怖いのは、僕がまた酷いことしちゃうんじゃないか…って事なんだよ。
 僕は、しぃの事を大事に思ってるんだと…思う。けど、それが純粋な想いなのか単なる欲望なのか解らないんだ」

 うつむいて話すマルミミに、呆れたように丸茂が言った。
「…馬鹿」
「なぁっ…!人が折角真面目に話してるのにっ!」
「そんなこと真面目に話してるから馬鹿って言ったんだよこの恋愛初心者の潔癖性」

 立て板に水の口調でさらさらさらさらと畳み掛けられる。
一言くらい言い返してやりたかったが、あいにく馬鹿も恋愛初心者も本当の事。

573丸耳達のビート:2004/06/12(土) 01:42

「ぅぅううるさいっ!学校サボって公園で青○やってる奴に言われたくないっ!」
 どうにか絞り出した反論に、丸茂はぴっと指を立てて頷いた。
「そ。僕だってそうだよ。ののを見てる目に欲望が無いか、って言えば…やっぱり、ある。
 けど、好きな娘を自分の物にしたいとか…そういうのは誰にでもある事だろ?
 そんなありふれた事で目一杯悩んでるんだから、恋愛初心者なんだよ。
 酷いことするんじゃないか…つまり、傷つけたくないって思ってるんだろ?なら、酷い事なんてする筈ない。
 保証してもいいけど、お前さんは善人なんだから。もっと胸張って接してやれ。
 さもないと…只でさえ小さい背が更に小さく見えるぞ」

 ばん、と強めに背中を叩かれる。慰めではない、本心からの言葉。

「―――ありがと。楽になった」
 そう言って、マルミミがにっこりと笑う。
「ならよかった。…じゃ、そろそろ戻ろ。ののが寂しがってる」
 とん、とベンチから立ち上がり、鳩の群れを散らしながら女二人の元へと戻る。
そのまま雑談会はお開きとなり、マルミミとしぃが公園から出て行った。


「…マルモラしゃん、何のお話してたんれすか?」
 自分たち以外は誰もいなくなった公園の真ん中、舌っ足らずな声でののが問う。
「青臭い恋の悩み…かな。けど…大して役には立たなかったみたい」
 溜息一つ、呆れ混じりの声。

…全くアイツは、自分の心を隠すのがヘタだ。
あそこまで悩んでた奴が、そんな簡単に『ありがと。楽になった』なんて言えるはずが無い。
顔色も声色も変えないのに…いや、変えないからこそ、嘘と見抜きやすい。

「まあ…最後の最後は、僕等の問題じゃ無いからね…」
 そう言うと、どこか呆れの混じった溜息を吐いた。

574丸耳達のビート:2004/06/12(土) 01:43



「今日のご飯…シチューでいいね?」
「うん」
 車椅子を押しながら、畑を耕しているおじさんに手を振った。
おじさんもでっかい声で、手を振り替えしてくる。
「おーぅ!マルミミ君、お使ぇか?」
「そうですー」
「偉ぇなぁ!」
「どうもー」
 しぃも散歩がてらに何度か挨拶したことがあるので、彼とは面識がある。
「…そういや、お嬢ちゃんどうした?この前は車椅子なんか乗ってなかったに」
「えーと…ちょっと医療ミス」
「あっはっは、そりゃ大ぇ変だ!」
 冗談と思ったのか、大声で笑い飛ばしてくれた。
実際は更に酷いことしたとは、口が裂けても言えない。

「ま、病気も怪我もうめぇモン食や治るわ!待ってろ、じゃがいも分けたるけ、早く治しゃあ」
「ありがとう。助かります」
 隣でも、しぃがぺこりと頭を下げる。
「何ぁーに、気にすんなや」

 もう一度深々と頭を下げ、畑を後にした。

更に近くの港や農場でも、
「おーう、マルミミ君!ブリのアラ持ってけ!」
「看病も大変だろ。タマゴどうだー?」
「お嬢ちゃん、怪我にいいよ!逝きのいいギコの干物やる!」

 畑や漁船のそばを歩くと沢山の人がマルミミに野菜や作物を放ってきた。

「…人気者だねぇ、マルミミ君」

 みんな、彼の身の上に起きたことを知っているのだ。
それはけして同情とか哀れみではなく…上手くは言えないが、人の繋がりとでも言うのだろうか。
虐待だの何だので物騒な世の中でも、ここの優しさだけは平和だと思う。
「…そうだねぇ」



 そして、茂名王町の商店街に着く頃には。
「…結局、どこにも寄らないで材料殆ど揃っちゃったな」
 商店街まで歩いて、何も買わずに帰るというのも無駄な気がして辺りを見回す。
と、『伊予書房』と看板が掛かった小さな本屋が目にとまった。
店の規模の割に品揃えも良く、隠れた穴場となっている。
もっとも、店主が茂名の茶飲み友達なのでエロ本を買えないのが難点と言えば難点か。
「本屋、寄ってこうか」
「はーい」
 きぃ、と音を立てて、階段横のスロープに車椅子を押した。

575丸耳達のビート:2004/06/12(土) 01:44


「こんにちわー」                        イヨ
 からこん、とドアベルが鳴り、本を読んでいた店主の伊予さんが愛想良く眼鏡を外した。
「ぃょぅ、マルミミ君。女の子連れで何をお探しかね?」
「スタンドに関する文献を…じゃなくて、適当に面白そうなもの買っていこうかと」
「そうかょぅ。ゆっくりしてけばいぃょ〜ぅ」
 軽く伊予さんに手を振って、車椅子を押したまま奥の棚へと進む。
と、絵本コーナーの前で車椅子のブレーキが引かれた。
「…しぃ?」
どうしたのかと前に回ると、しぃが一冊の絵本をじっと見つめていた。
「…『はなをなくしたぞうさん』…?」
「あ、ゴメン…懐かしくて、つい」
 ふっと我に返ったように、小さくマルミミへと笑みを返す。
「思い出の本?」
「…小さい頃ね。母さんに、よく読んでもらったんだ。一日に何回もねだって困らせちゃったのを覚えてる。
 懐かしいな…まだ、出版されてたんだ。―――むかし あるところに いっとうの としおいた ぞうが おりました―――」

 そう言うと、すらすらと本の中身を暗唱し始めた。
マルミミも絵本を手にとって、しぃの言葉に合わせて絵を追っていく。

 鼻をなくした一匹のぞう。
その一生を描いた、ほんのりと悲しい物語。

「凄いね…中身、全部覚えてるんだ。一字一句漏らさずに」
「記憶力には自信あるからね。…案外、これが始まりかも。…けど、ホントに懐かしいな」

 そっと本を裏返し、さりげなく値段を確認する。

…絵本って、高いんだなぁ。
(しかも、内容全部を暗記してるなら…あんまり意味無い…よねぇ…)

 『また今度ね』と言いかけた瞬間、B・T・Bの思考が割り込んできた。
(ナニ シミッタレタ 事言ッテルン デスカ。買ッテ アゲナサイ、御主人様。ケチケチ シナイノ)
(だってねぇ、B・T・B…僕の小遣い少ないんだよ…?)

(後デ茂名様ト 交渉シテ アゲマス カラ。ホラ、プレゼント シナキャ)
「そうなの…?うーん…じゃ、伊予さーん?コレ、買いますー」
 まいどありーぃ、と手を振る伊予さんを横目に、しぃが弾んだ口調で聞いてきた。
「え、いいの?」
「いいよ、別に。僕も欲しいって思ったし」
「…わぁ…ありがと!大事に読むから!」

―――ああ、そう言えば。しぃは診療所に来てから一度も何かをねだった事が無かった。
     そんなしぃが初めて物を欲しがったんだ。よっぽど、大事な思い出があったんだろう。

(そう考えると…この本も、まんざら高い買い物でも無かったかな)
 鼻歌交じりで大切そうに袋を抱きしめるしぃを後ろから見下ろして、ぽつり、とそう思った。



  /└────────┬┐
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576丸耳達のビート:2004/06/12(土) 01:45

  ∩_∩
 (・∀・ ) ∋oノハヽo∈
と(    つ  (´酈` ) 
   Y 人   ⊂   ⊃
  (_)_)  (__ (___)

マルモリョウイチ
丸茂 良一

長身痩躯を持つ、マルミミのクラスメート。
勉強・運動・恋愛を人並み以上にこなし、ルックスもイケメン。
初登場で○姦疑惑の羨ましい奴。

…なんか書いててイラつくことこの上ないので近いうちに死にます。
そして頭蓋骨を削られただけで助かります。


ジンノゾミ
辻 希美

童顔巨乳を持つ、丸茂の恋人。
おバカだけどいつもニコニコ。鬼畜な事をされてるけど純愛。
アイドルとは一切何の関係もありません。

…口調書いててイラつくことこの上ないので近いうちに死にます。
そしてSPMの科学力によって復活します。


はなをなくしたぞうさん

絵本。しぃが親元にいるとき、何回も読んで貰ったお気に入りの作品。
本作における重要なキーアイテム。嘘かも。
デッドマンズQの『鼻をなくしたゾウさん』とは一切関係とかありません。

577:2004/06/12(土) 20:55

「―― モナーの愉快な冒険 ――   吹き荒れる死と十字架の夜・その7」



          @          @          @



「敵は、吸血鬼ですッ!!」
 背後から、慌しい声が響く。
 ブリッジに駆け込むなり、艦員が叫んだのだ。
 立派な椅子に座っている男が、ゆっくりと顔を上げた。
 そして、息を切らしている艦員の顔を見据える。

「…確かに吸血鬼だな? スタンド使いでもその他の何かでもなく、吸血鬼なんだな?」
 第1護衛隊群の旗艦『しらね』。
 その艦を任されている海将補は、椅子から立ち上がって言った。

 ――吸血鬼。
 一般人ならいざ知らず、国防にかかわっている人間ならその実在は知っている。
 だが… 奴等は闇に潜む存在。西洋の古い町などで、ひっそりと屍生人を増やす連中なのだ。
 その吸血鬼が集団で襲撃を掛けてきたという事例など、初めて耳にする。

「間違いありません! 銃器で武装した吸血鬼です!」
 艦員は慌てた様子で告げる。
「すでに多数が艦内に侵入しています。指示をお願いします、司令!」

「軍律によって統制された吸血鬼か…」
 海将補は立ち上がると、ブリッジに備え付けられているコンソールを操作した。
 彼の肩章には、2つの桜が並んでいる。
 単にこの『しらね』の艦長というだけでなく、第1護衛隊群そのものの司令でもあるのだ。
 ここで判断を誤れば、艦隊は全滅する。

「僚艦は――?」
 コンソールを素早く操作しながら、海将補は訊ねる。
「大規模な爆撃と侵攻を受けていますが…
 ASAのミサイル攻撃を受けた『たかなみ』を除き、全艦がなんとか健在です。
 ただ、第2護衛隊群の旗艦『くらま』の損傷は大きく、すでに退艦命令が出されています…!」

「指揮権移譲か…」
 海将補は呟いた。
 自分の肩に、第2護衛隊群の運命までもがのしかかってしまったようだ。
 このままでは、制圧されるのも時間の問題。
 余裕があるうちに全員退艦の命を出すか?

 ――いや。
 15艦に及ぶ大艦隊の総艦員が退艦すれば、誰がそれを救助するのだ?
 4500人を超える人員だ。
 それだけの大人数を救助など、どう足掻いても不可能。
 まして現在の海水温度は低く、2時間も持たないだろう。
 本土からの救助船など、確実に間に合わない。
 下手に退艦すれば、全滅どころか全員死亡の可能性も――

 防衛庁のデータベースに接続し、情報を引き出す。
 ディスプレイに大量の文字が躍った。
 それを素早く参照する海将補。
「…よし」
 あらゆる情報を叩き込んで、海将補は視線を上げた。

 吸血鬼…
 その言葉に惑わされるな。
 相手は、ゴシックホラーの主役である妖怪などではない。
 闇夜にマントを翻す、貴族然とした不死の超越者などでは断じてない。
 石仮面により、未知の脳の機能を発揮した『元人間』なのだ。

 連中は、銀の弾丸もニンニクも流水も白木の杭も恐れない。
 ただ、日の光に身を焼くのみ。
 目から体液をウォーターカッターのように放ったり、体毛を刃物のように扱ったりするという例もあるが…
 己の身体を武器にするのは、野生動物の牙や爪と同じ。
 一般的な伝承のように、魔術を使ったりコウモリや霧に変化したりする訳ではない。

 吸血ならコウモリでもやる。
 再生なら原生生物ですらやってみせる。
 生物的強度は人間を遥かに越えるが、生物そのものを超越した訳ではない。
 確かに脅威の化物だが… 決して殺せない相手ではないのだ。

「艦内の発光信号用大型ライトを掻き集めて、予想侵攻ルート上に並べろ」
 海将補は部下に命令を下した。
 あれなら、微量ながら紫外線を照射できるはず。
 足止め程度にはなるだろう。
 あとは…

「艦員からただちに射撃経験者を集め、要所に配置だ。
 7.62mm弾で頭部のみを狙え。決して近接戦闘には持ち込むな。こちらに勝ち目はない。
 以上の内容を、至急全艦に通達せよ!!」
 海将補は指示を出す。
「はっ!!」
 艦員は敬礼すると、素早くブリッジから出ていった。

「外国との交戦経験は一切なく、スタンド使い、そして吸血鬼と初めて戦った軍になるとは…
 つくづく数奇な運命だな、我が国の軍隊は…」
 呟きながら、海将補は時計を見る。
 現在、午前5時。
 あと1時間30分ほどすれば、太陽が昇る。
 それまで何とか持ちこたえれば…

578:2004/06/12(土) 20:56



          @          @          @



「ゴルァ!!」
 『レイラ』の刀が一閃し、軍服の吸血鬼の上半身と下半身が真っ二つに分かれた。
 そして、甲板に転がった上半身の頭部に刀を振り下ろす。

 そのギコの背を襲う、機関銃の弾丸。
 俺はその射線に割り込むと、弾丸をバヨネットで叩き落した。
 弾きそこなった弾丸が、幾つか俺の身体にめり込む。

「…痛いモナッ!!」
 俺はすかさず踏み込むと、吸血鬼の顔面にバヨネットを突き立てた。

「ったく… キリがねぇな、これじゃ!!」
 ギコはM4カービンライフルを構えると、正面の吸血鬼の群れに掃射した。
 致命傷にはならないものの、向こうの体勢を崩す事はできる。
 俺はその隙に飛び込んで、次々に吸血鬼の頭部を『破壊』した。

 それでも、吸血鬼達は次から次へ降下してくる。
「ギコ! 後ろッ!!」
 俺は叫んだ。
 ギコの背後から、吸血鬼がスコップを振りかざしてまっすぐに接近している。

「直線の攻撃が、俺に通じるかゴルァァァァァッ!!」
 ギコは吸血鬼の腕を掴むと、そのまま背負い投げを掛けた。
 吸血鬼の体は甲板に叩きつけられ、そのまま柵を破って海面に落下していく。

「ハァハァ… 向こうの艦は大丈夫なのかよッ!!」
 ギコは、息を切らしながら叫んだ。
 俺は、『アウト・オブ・エデン』で『フィッツジェラルド』の様子を視る。

 甲板上を舞い躍るバヨネットとハンマー、そして山積みになった吸血鬼の骸。
「本当にもう… 次から次へとッ!!」
 しぃ助教授が、ハンマーを振り回している。
 次々に潰されていく吸血鬼。

「――我に求めよ。さらば汝に諸々の国を嗣業として与え地の果てを汝の物として与えん。
 汝、黒鉄の杖をもて、彼等を打ち破り、陶工の器物の如くに打ち砕かんと。
 されば汝ら諸々の王よさとかれ、地の審判人よ教えを受けよ――」
 リナーも、バヨネットで吸血鬼達を斬り刻んでいた。

「…どうだ、向こうは?」
 ギコが訊ねる。
「…詩篇2・8〜10節のフレーズも飛び出してノリノリモナ。あっちのコンビは、全然大丈夫!」
 俺は、バヨネットを構えて言った。
 ギコが、目の前の吸血鬼を斬り倒す。
「ヤバいのはこっちか… 今でこそまともに戦えてるが、長期戦になると…」

 そうだ。
 俺はともかく、ギコの肉体は普通の人間だ。
 何時間も戦い続けられるはずがない。
 ましてや、刀を振るうには多大な集中力も必要だろう。

「しかしこいつら、一体何なんだ!!」
 ギコは大きく刀を薙ぐ。
 俺は身を翻すと、正面の吸血鬼の首を斬り落とした。
「多分、『教会』の奴等モナ…」

「教会だと…ッ!」
 ギコの背後で、吸血鬼が短剣を振りかざす。
 ギコは素早く懐から拳銃を抜くと、振り向き様に射撃した。
 吸血鬼がほんの少しよろけた瞬間、『レイラ』の刀が脳天に振り下ろされる。
「畜生、くっちゃべってる余裕もないか…!」

579:2004/06/12(土) 20:59

 …!?
 不穏な気配を感じる。
 これは… 何だ…?
 とても、巨大な…

「どうした、モナー?」
 俺の動揺を感じ取ったギコが、声を掛けてきた。
 『アウト・オブ・エデン』が、またしても巨大な艦艇の接近を捉えたのだ。
 かなりの速度で、こちらに接近してくる。
 もう、今さら何が来ても驚かないと思っていたが…

 それは、350mを越える大きさの空母だった。
 『スーパー・キャリアー(巨大空母)』というヤツだ。
 おそらく、吸血鬼達の母艦…
 艦横部には、『Graf ZeppelinⅡ』と刻まれている。
 たぶんドイツ語だろう。
 『グラーフ・ツェッペリンⅡ』と読むのか…?

「ギコ、『グラーフ・ツェッペリンⅡ』について薀蓄を頼むモナ!」
 俺は、吸血鬼の攻撃を避けながら言った。
「『グラーフ・ツェッペリンⅡ』なんぞ知らんが… 『グラーフ・ツェッペリン』なら有名だ。
 ナチスドイツ初の航空母艦になる予定だったが、戦況の悪化にしたがって計画が中止になった…ッ!」
 背後に立った吸血鬼を斬り倒すギコ。
「もう少し語りてぇが、今は余裕がねぇッ!!」

 またナチスか。
 すなわち、『教会』の艦。
 カトリック教会とナチスドイツは、ある程度癒着していたという話は聞いた事がある。
 虐殺を黙認し、ナチス残党の国外脱出に手を貸したとか…

 …?
 妙な気配に、俺は空を見上げた。
 1機のヘリが飛行している。
 それも、押し寄せる航空機とは逆行する方角に…
 そう。『グラーフ・ツェッペリンⅡ』の方向だ。
 撃墜されないところを見ると、『教会』側の機体なのだろう。
 中に乗っているのは…

 …!!

「Sieeeeeeeeeeeeeeg Heeeeeeeeeeeil!! Uryyyyyyyyyyyyyyyyy!!」
 吸血鬼が奇声を上げながら飛び掛ってくる。
 俺は、その額にバヨネットを突き刺した。

 ヘリは一瞬のうちに飛び去っていく。
 中に乗っていたのは、5〜6人。
 その中に、よく知った顔があった。
 奴は微かな笑みを浮かべながら、この『ヴァンガード』を見下ろしていたのだ。

 独特にカールした前髪。
 ありふれた眼鏡。
 一見、知的そうな瞳。
 そして、見覚えのあるTシャツ。
 そう。ヤツも、『教会』側の人間なのだ。

「キバヤシィィィィィィィッ!!」
 俺は、ヘリが去った方角に叫んでいた。



  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

580ブック:2004/06/13(日) 01:17
     EVER BLUE
     第三十話・LUCK DROP ~急転直下〜 その四


「どうなっています?」
 山崎渉が、オペレーターに尋ねた。
「未だ敵船への乗艦は叶っていません。
 急襲用迫撃射出錨(アサルトアンカー)も、変な力に遮られて…」
 オペレーターが申し訳無さそうに告げる。
「…存外に苦戦していますね。」
 山崎渉が、呟くように言った。

「さて、このままではジリ貧の消耗戦。
 埒が開きませんね。」
 山崎渉が考え込む。
 そして、何か思いついたようにはっと顔を上げた。

「仕方ありません。
 福男と、ヒッキーをこれへ。」
 山崎渉がパチンと指を鳴らした。

「御前に。」
「オンマエニ…」
 全身を黒のスプリンタースーツに包んだ丸坊主の男と、
 暗い顔をした小柄な男が山崎渉の前に現れた。

「もう何を言われるかは分かっていますね。
 なかなか敵さんがしぶとくて困っています。
 全滅させろとまではいいません。
 その能力を活用して敵艦へ乗船、思うように埒を開けて来なさい。」
 山崎渉が二人を見据えて命令する。

「御意。」
「ギョイ…」
 福男とヒッキーが同時に返事を返す。

「それではお願いしますよ。
 あなた達のスタンド『テイクツー』と『ショパン』には、
 期待していますからね…」
 山崎渉が不気味な笑みを浮かべた。

581ブック:2004/06/13(日) 01:18



     ・     ・     ・



「AHHHHHHHHHHHHH!!!」
「GAAAAAAAAAAAAA!!!」
 プロペラ機から飛び移ろうとする吸血鬼達が、
 次々とタカラギコのパニッシャーに撃ち落されていく。
 辛うじて着艦した者もいはするのだが、
 その者達も即座に銃弾を叩き込まれて絶命した。
 しかし、そらより飛来する戦闘機の数は一向に減る気配は無い。

「やれやれ、藪蚊みたいにやって来ますね…」
 タカラギコが溜息を吐く。
 しかし、愚痴は漏らしても撃ち漏らしは決して生じなかった。

「……さて。」
 タカラギコが上を見上げて、プロペラ機の一つを見定めた。
 その飛行機から人影が跳躍してくる。
 手馴れた様子でそれに照準を合わせるタカラギコ。
 そのままパニッシャーのトリガーを引いて…

「『テイクツー』!!」
 タカラギコが目を見開いた。
 タカラギコの放った銃弾を、掛け声と共に飛来する人影から現れた人型のビジョンが
 その腕で弾き飛ばしたのだ。

「…!スタンド使い!」
 舌打ちをするタカラギコ。
 さらに引き金を絞りその人影にパニッシャーを乱射するも、
 その悉くを人影は弾き返す。

「!!!!!」
 人影が『フリーバード』の甲板に着地した。
 飛び移って来たのは二人の男。
 黒いスプリンタースーツの男と、それに背負われた小柄な男。
 そう、福男とヒッキーである。

「!!!!!」
 そのまま、福男は近くのサカーナへと向かって突進した。
「サカーナさん!」
 タカラギコが、サカーナに向かって叫ぶ。

「『テイクツー』!!」
 福男がサカーナに向かって自身のスタンドを繰り出した。

「『モータルコンバット』!!」
 サカーナがスタンドを出現させた。
 しかし、もう既に福男の『テイクツー』の右腕は直前まで迫り―――

582ブック:2004/06/13(日) 01:18


「!?」
 福男は驚愕した。
 完全にサカーナを捉えたと思われた彼のスタンドの右腕は、
 サカーナに命中しなかったのだ。
 それどころか、彼の打ち出した腕が180度折れ曲がる形で目の前の空間から出現し、
 逆に彼に襲い掛かる。

「なっ!?」
 咄嗟に福男が飛びのき、寸前で彼の拳をかわす。
 すぐさま自分の腕を確認したが、特に変わった様子は見られない。

「…それが、急襲用迫撃射出錨の向きを変えた能力か。」
 福男がサカーナを睨む。
「当たり。
 どういう原理かは、自分で考えるこったな。」
 サカーナが得意げに答える。

「…いいのか?
 そんなにのんびりしていて。」
 福男がそう口を開いた。
「ああ?
 一体何の話だ…」
 そこで、サカーナがようやく何かに思い当たったのかすぐさま後ろに振り返る。
 するともう彼の目前にまで、
 『紅血の悪賊』の戦艦から発射された急襲用迫撃射出錨が迫っていた。

「おわァ!?」
 サカーナが情けない声を上げながら『モータルコンバット』を発動させる。
 直角に進路を折り曲げ、スレスレでサカーナとの直撃を回避する。

「貰った!『テイクツー』!!」
 その隙をついて、福男が再びサカーナへと突撃した。
「しまっ…!」
 急襲用迫撃射出錨をかわす事に完全に気を取られていたサカーナには、
 迎撃の態勢が整っていない。
 タカラギコも、空から来る吸血鬼達を撃ち落すのに手一杯である。

「!?」
 今度こそ福男のスタンドの拳がサカーナに当たるかと思われたその時、
 いきなり福男の足元の床に円形の亀裂が走った。
 それにより、福男とそれに背負われたヒッキーが居る場所の床が抜け落ち、
 二人は切り抜かれた床板と共に『フリーバード』船内に落下する。

「なっ!?」
 思わず驚きの声を出す福男。
「悪いが、上の奴の邪魔をしねぇでくれるかなフォルァ。」
 驚く福男に、ニラ茶猫が声をかけた。
 その右腕からは、『ネクロマンサー』によって作り出した刃が生えている。
 先程はこれで、福男の足元の床をくりぬいたのだった。

「貴様…!」
 福男がニラ茶猫に向かって構える。

「モウヒトリイルヨ…」
 と、福男の背中のヒッキーが呟いた。
 見ると、オオミミが福男とヒッキーをニラ茶猫とで挟む形で立ちはだかっている。
 その横には、『ゼルダ』の姿が出現していた。
「コッチノオトコハボクガシマツスルヨ…」
 ヒッキーは福男の背中から降りると、愛用らしきライフルをその手に担いだ。

「そうか、任せた。」
 背中合わせの状態で、福男が答える。

「……」
 一瞬の沈黙。
 互いが、視線や構えで互いの相手を牽制し合う。
 しかし、それも長くは続かなかった。

「『ゼルダ』!!」
「『ショパン』!!」
 オオミミとヒッキーが跳ぶ。

「『ネクロマンサー』!!」
「『テイクツー』!!」
 それと同時に、ニラ茶猫と福男が激突するのだった。

583ブック:2004/06/13(日) 01:18



     ・     ・     ・



 時を同じくして、山崎渉の乗る艦の左側に位置する戦艦。
 その甲板で警戒態勢を取る兵士の何人かが、夜空より来る黒い影をその目に捉えていた。

「…!?
 何だ、あれは!?」
 その影を指差し、兵士達は銃を構える。
 そんなこんなしているうちにもどんどん影は近づき、その輪郭を顕にしていった。
 それは、大きな黒き翼だった。

「!!
 撃てーーーーー!!」
 掛け声と共に、その黒き翼に向かって銃弾が放たれる。

「!!!!!」
 しかし銃弾が命中する寸前に、その大きな翼は無数の小さな翼へと姿を変えた。
 そして兵士達は見ていた。
 翼が飛散する直前に、一つの人影がその背から飛び出していた事を。

「!!!!!!」
 ストンと、一人の女がその艦上へと着地した。
 あれだけの高さから、あれだけの速度で飛び移ったにも関わらず、
 まるで手品のように、優雅に、ストンと。

 輝くような金色の髪。
 血のように赤い瞳。
 透き通るような白い肌。
 黒を基調とした、艶やかなドレス。
 そしてそのような出で立ちには凡そ似合わぬ、無骨で巨大で凶悪な得物。
 その姿が、月明かりに照らされ更に美しく彩られていた。

「…退け。
 これ以上の暴挙は、この儂が赦さん。」
 女が短く兵士達に告げる。
 薄くルージュのかかった少女のような唇とは裏腹、
 そこから紡がれる言葉は冷たく、鋭い。

「貴様…!
 貴様は!!」
 兵士達が女に向かって一斉に銃を構える。

「貴様は、『ジャンヌ・ザ・ガンハルバード』!!!」
 逃げ場の無い位に向けられる銃口。
 しかし、ジャンヌはそれでも微動だにはしなかった。

「もう一度言うぞ。
 退け。
 同朋は、斬りとうない…」
 『ガンハルバード』を左手に持ち、ジャンヌが言った。

「同朋!?
 言う事に欠いて何をぬかすか、『同族殺し』(ガンハルバード)!!
 腰抜けの女王に首輪を繋がれた雌狗め!!」
 憎しみの込められた視線が、銃口と共にジャンヌに突きつけられる。
 最早、いかなる言葉もそこでは意味を成さなかった。

「馬鹿者共が…!」
 ジャンヌが歯を喰いしばりながら、
 二つ名を冠する得物(ガンハルバード)を構える。
 その顔には、悲痛な表情が浮かべられていた。



     TO BE CONTINUED…

584新手のスタンド使い:2004/06/13(日) 10:05
ネーノが大好きだったんで、ネーノ番外編勝手ながら書かして貰いましたー
(設定が違ってたりしたらニダーさんヨロスク)

〜NENO〜

―出会い編―

腹が空いた。もう時間の感覚さえない。
昨日、人を襲った。食い物を持ってなかったから体を食ってやった。
不味かった。矢張り無茶して食べる物じゃないか・・。
ココは・・ドコなんだ?そして今・・イツなんだ?

――貧民街。
俗にそういわれる街に俺は住んでいた。
どうしてココに居るのかわからない。
物心ついた時からココにいる。
もう何人人を殺したろう。・・覚えられる数は越したろう。

「お・・おい!ぼ・・ぼぼぼ・・坊主コラァッ!」
浮浪者の男がボロっちいコートを抱きかかえ、包丁を持ちながらコッチを睨み、叫んだ
「オッ・・オレッチのコートをぎ・・ぎ・・盗(ぎ)ろーったって!そうはいかねーぞッ!」
男は錯乱していた。まぁいつもこんな感じにワケのわからない因縁をつけてくる野郎が居る。

「邪魔・・」
ポツリとつぶやく
「ああッ!?聞こえねェよォ――!」
狂いながら包丁を振り下ろす男。
「邪魔だってつってんじゃネーノ?」
俺が手を振り下ろすと男の右腕が消える

「GYAAAAAAAAAAAAA!HYYYYYYYYYYYYYY!」
男はガタガタ震えながら叫び、腰を抜かす
「オレッチの・・腕が・・腕がァァァァ・・HYYYYYYY!」
しかし男の右腕がなくなるのと同時に、俺にも複数の穴がボツボツと空く
そして痛みが襲う。だが気にしてる暇なんて無い。俺の意思でしまえる『物』でもないしな・・。
「キ・・キッサマァァァァッ!」
男の目は変な方向に向いている。相当錯乱しているのか。

『ブーン』と羽音がした後に男の頭部が消え去った。
男がその場に崩れると、更に体が消え去る。
体がなくなるのを確認する前にひたすら走る俺。
このままじゃあ、俺まで『食われる』。まぁもう慣れっこだがな。

俺が走ってる途中に見えた人々は皆吹き飛んでいく
頭とか、腕とか足とか、胴体とか、目とか。色々。
そして500mくらい走りきった地点で『奴ら』が消える。
満腹になったのだろう。

疲れきった俺はその場にへたりこむ。
・・・・こんな事もう日常茶飯事だ。
だが、あの日だけは違った・・・。
俺が『あの人』と出会った『あの日』だけは・・。

585新手のスタンド使い:2004/06/13(日) 10:06
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

・・腹が減った。そう想い腹を押さえながら歩いていると前から人がやってきた。
真っ白なローブで包まれている茶色い毛が生えたギコ。
ローブに身を隠しているがそのローブは真新しく高級品だ。
貧民街の連中になりつくそうったってそうはいかねぇ。間違いない。コイツは
――外から来た人間だ。

「SYAッ!」
俺はソイツに襲い掛かる。
だが華麗な身のこなしでよける男。
ム・・流石『外』の連中・・浮浪者どもとは身のこなしが違う。
・・だが、それだけじゃあ無いな。

「フム・・。どうやら血の気の多い奴は矢張り居るらしいな・・。」
『外』の人間はふぅ。とため息をついて身構える
見た事の無い特殊な構え。一体・・?

「妙な構えとったって・・無駄なんじゃネーノォッ!?」
俺は一気に突っ込んで行く
「ただ道として通り抜けたかっただけなのだがな・・。」
次の瞬間俺は驚愕する

背の高い男・・いや、顔についている画面状の物に『TO』と表示され、本体と酷似した外見をし、手の長い物体。
そいつに首根っこを掴まれているのだ。
「・・体中の水分を吸い込まれるのと、体の水分量を増やして内部から爆破されるの、どっちが良い?」
男はニヤリと微笑みながらつぶやく。
馬鹿な。何を言い出すのだコイツは!?

「くそッ!コイツの手を・・離しやがれェーッ!」
『奴ら』を出現させる俺。
無数の穴が男の手に空いていく
「何ィッ!?ば・・馬鹿なッ!貴様も・・『スタンド』をォッ!?」
男はバク宙しながら4〜5歩分間合いを取る

「アァ?『スタンド』何を言ってるかわかんないんじゃネーノッ!?」
こうしている間にもあの男の体にはボツッボツッと穴が空き続けている
しかし平然とする男。
馬鹿な。
何故そんな涼しい顔して立っていられるのだ。

「フム・・軍隊型の虫で遠距離操作型と見たが・・精密動作性は低い様だな。俺の頭を一撃で食い尽くさず、それで居てお前は距離をとっている。
きっと近づくとお前も食われてしまうのだろう。」
見事に当てる。
だが何を言っているのだ?全くわからん。
「まぁこの程度じゃあ・・僕は倒せんよっ!」
男が体中に力を入れると『奴ら』が吹っ飛んでいく。
ありえない程の血管が男に浮き出て行く。

586新手のスタンド使い:2004/06/13(日) 10:07
「ハァァァァァァッ!」
アドレナリンが多量に出ているのだろうか。
出血が一瞬で止まる。
だが、甘いな。そんな風に『奴ら』を退けると・・『闘争本能』に火をつけるぜ。

俺の予想通り男に突っ込んでいく『奴ら』。
しかしその一撃は奴の背後に居る者にさえぎられる。
とてつもないスピードで全匹掴まれた。驚異的スピード。だがソレはあの背後の者のスピードではない。
奴の方だ。あのローブの男・・奴のスピードに背後の者は合わせたのだ。

「どんなに速く・・顎が強かろうが・・たかが虫。流石に人の拳を遮るほどのパワーは無い様だね・・?」
微笑む男。
「クソッ!いけすかんッ!その笑顔・・食い尽くしてやるんじゃネーノッ!」
まだ数百匹残っている『奴ら』ならアイツの顔くらい貫ける。
あのスカし顔を二度と見ない様にさせてやるよォッ!

「これだから若い奴は血の気が多くていかんな・・。」
ククッと笑う
「おい坊主っ!無駄に本気を出すなよっ!・・こちらも本気を出しかねん。」
今までとは全く違う真剣な表情で、それでいて地を這う様な低い声で言う。
「黙りやがれッ!その口も聞けない様にしてやるんじゃネーノォッ!」
負けじと相手を指差し威嚇する俺

「んじゃあ口が聞けなくなる前に聞いとこうかな?坊主っ。お前・・名は?」
「ネーノ・・ネーノだッ!」
男はうつむき、少し微笑むと
「俺の名は『トオル』っ!超巨大掲示板サイト『2ちゃんねる』の支配者ひろゆき様の親衛隊であるッ!」
指を指してくる男

「『ディープ・ウォーター』・・。乾き尽くせッ!」
・・名前。そうだ。俺も奴らに『名前』を・・
「・・インセクト・・『インセクト』ッ!アイツを・・あのスカし顔を・・くらい尽くすんじゃネーノッ!」
今思えば、最悪で最高の出会いだったのかもしれない・・。
『トオル』さんとの『出会い』は・・。

TO BE CONTINUED

587丸耳達のビート:2004/06/13(日) 14:24


  ―――――全て…いや、ある一点を除けば全て計算通り。

 希薄な意識の中で、ゆったりとそう考える。
全くもって、忌々しい。あの道化どもがいなければ、今頃は王座で高笑いできただろうに。

 …いや、しかし問題はない。既に力は手に入った。駒も動いてくれる。布石もばらまいた。
二十年近い歳月をかけた計画…今さら遅れようと、さしたる苦でもないだろう。

 しかし、主よ。
貴方は私を従えて世界を手に入れた後…何をする気だったのだろうな。
最後の最後まで、私の主はそれを話してはくれなかった。

 今になっては解らない。結局のところ、主は誰も信用してはいなかったのだろうか。

 それも寂しい物だな、と薄く笑い、まだ再生しない右手に力を集めながら眠りについた。

588丸耳達のビート:2004/06/13(日) 14:25





  同時刻―――日本。

 空港で、二人の少女とガリガリに痩せた男がスーツケースの上に座っていた。
二人の少女はとても似た顔立ちをしていたが、片方はどこか焦点の合わない目で虚空を見つめている。
 それでも、二人は仲がよさそうに肩を組んでいた。

「ねぇ、キキーンのおじさん?いいよねぇ、『ディス』の御大は。税関のあの待ち時間ナシで通れるんでしょ?」
 痩せた男に向けて、少女が話しかける。
「何…シャム。これが、分相応、と…言うものだ」

 痩せた男が答えた。不健康そうな、かすれた声。
「上を見れば…キリは、ない。旨い…飯が、食える…それだけ、で…満足する、のが、幸せだ」
「…ま、それも一つの真実…かな?ねぇ、お姉ちゃん」

 返事はない。隣の少女はただ虚ろに、そして幸せそうに笑っていた。
「あ、みんな来たみた…い…」
「ックク…怪しげ…だな。通、報…されても、文句は、言えない…」

 引きつった表情の少女にそう言うと、ベンチに座ったまま歩いてくる集団に手を振った。
種族も性別もバラバラだが、半数を超える人間がコートをしっかりと羽織っている。
 残りも顔中に包帯を巻いていたりサングラスにマスクをしていたりと、とんでもなく怪しい。
大勢の旅行客でごった返すロビーの中、彼等の周りだけぽっかりと空白地帯が作られていた。
 こっちだ、と手を振る痩せた男に気付き、集団がこちらへ歩いてくる。
                               エクス
「お待たせ。途中で取り調べ受けちゃってさ…御大と『X』は?」
「VIP待遇、で…先に、行った…よ」
 顔面を包帯でぐるぐる巻きにした女に答える、痩せた男。

 不健康なその声を、異様に背の低い男が妖しい色気を含む声で笑った。
「うふふふ…僕みたいな奴でも無いのに相変わらず物が食べられないようだね」
「黙れ…糞眉」
「しかしねぇ…シャム?何でまたこんな極東の島国に呼びつけたんだ?」
「そうだよなぁ。SPMへの復讐にしたって、もそっとでっかいトコ潰した方が良いんじゃないか?」
 コートを羽織った二人の少女が、男じみた口調で言った。
二人とも、片方の袖がぷらぷらと揺れている。

589丸耳達のビート:2004/06/13(日) 14:26

「甲ちゃん乙ちゃん…サラウンドで文句を垂れるものではありませんよ」
 二人の少女をぽんぽんと撫でながら、角帽にコートの男がたしなめる。
「…しかし気になりますね。私達は、本部を派手に潰す実力も有しているのに…」
     ウラギ
「ええ、浦木さん…『ディス』御大きっての希望なの。ここには、彼がずっと求めていた…『変動因子』がいる」
 ざわざわと、集団にどよめきが走る。


  吸血鬼と波紋使いの間で生まれた変わり種。

  才能もなしに『矢』の洗礼を受けながら、生き長らえる、可能性のジャグラー。
                      運 命 の 歪 み
  常に確率論を無視し続ける、『ディスティニー・ディスティネーション』。
                         トリックスター
  我等の御大がずっと探し続けてきた『変動因子』がここにいる―――――!


「SPMの奴らが隠蔽してたんだけどね。とうとう見つかったらしいよ。今もッパさんが動いてるみたい」

 その言葉に、サングラスとマスクの少女が首を傾げる。
「…けど、腑に落ちないね。それにしたって、 私達が雁首をそろえる程の事じゃないよ?
  トリックスター                                 エクス
 『変動因子』の確保なら御大の『エタニティ』だけで、復讐にせよ、『X』の『エデン』だけで充分でしょ?」

「メクラ…裏、2ちゃんねる、くらい…見ておけ…いや、無理…だった、な。仕方、ない。説明、して…やろう。
 茂名王町の…スタンド、使い…を…増やして、いる…『矢の男』が…進化、した。御大は…彼も、倒す、つもりで…いる…」
「うむ、我等も見ましたぞ。世界征服を企んでいるそうじゃな。
 確か<インコグニート>と言うたか… 『名無しさん』じゃな。 あんなの、デマじゃ無かったんですか?」

 足下まであるロングコートを着た男が、どこかバラついた声で言う。
「ええ。本気だそうだ。世界征服だろうが何だろうが、それは私達をも縛るかもしれない。
 私達『ディス』の目的は、ただ自由である事だけ…だから、それを妨げようとする奴らは…潰す」
「そう…全ては…我等、『ディス』御大の、為…行くぞ」
 一同が頷き、とんでもなく怪しい集団はぞろぞろと空港を後にした。

590丸耳達のビート:2004/06/13(日) 14:27






 …日本、茂名王町、診療所への帰り道。舗装のされていない道路のそばには、綺麗に手入れされた竹林が広がっている。
そっ、とB・T・Bを具現化し、しぃの心臓に何発か打ち込んだ。
「はにゃ…っ、ぁん」
 色っぽい声を上げて、かくん、と首が折れる。
五感までが完璧にシャットアウトされた、これ以上ない程の熟睡状態。
  B ・ T ・ C
 静寂のビート…これで、揺すぶろうがひっぱたこうが水をぶっかけようが、何があっても当分は目を覚まさない。
くるりと振り向いて、後ろを歩いていたッパと目を合わせる。
   ツ
「…尾行けてるのは判ってるよ。おじさん」
 その言葉に、がさがさと竹笹を揺らしながらッパが顔を出した。
「あっしは三十五…まだまだ華の三十代なんですけどねぇ」
「四捨五入すれば立派におじさんでしょ。…で、何かご用?」

 ゆらり、とッパの背後にある空間が蜃気楼のように揺らめいた。

「人違いじゃ困ることなんで…茂名・マルグリッド・ミュンツァー君…で、よろしいですね?
 あっし等の御大の命令でね。アンタのことを生け捕りにさせて頂きやす。
 殺しゃしませんから、大人しく捕まって頂きたいんですが…」

 上唇をぷるぷると指で弾きながら首を傾げるッパを、鋭い目つきでにらみ据える。
「…ヤダ…って言ったら?」
「変わりやせんねぇ。無理矢理連れてきます」
 揺らぎが広がり、形を作る。筋骨逞しい人型のヴィジョン。
「『プライベイト・ヘル』ッ!」


                 B ・ T ・ H
 太陽はまだ高い。ここで情熱のビートでも使おうものならこんがりと焦げついてしまう。
隣には車椅子のしぃがいる。今逃げても、診療所に着く前には追いつかれてしまう。

―――やるしか、無いか…!

すっ、とポケットにある『ジズ・ピクチャー』の写真を三枚取り出した。

 一つは太くて長い化け物みたいなリボルバー、二つはプラスチックの玩具みたいなオートマチック。
SPM謹製、454カスール弾使用の化け物拳銃『セラフィム』と、38口径弾使用の低反動拳銃『ケルビム』。

 二丁の『ケルビム』をB・T・Bに放り、マルミミは『セラフィム』を腰だめに構える。

591丸耳達のビート:2004/06/13(日) 14:29



 狙いを付け、引き金を絞り―――「うぁ痛ぁーっ!」爆音と共にかなり明後日の方向へ着弾した。
考えてみれば当然だろう。銃などセイフティの外し方と弾込めくらいしか習っていない。
銃の撃ち方は知っていても、弾の当て方などは知らなかった。

 その上、この化け物みたいなリボルバー『セラフィム』は454カスール弾使用。
パワー狂の銃器マニアが道楽で撃つような物で、こんな物を実戦で使う奴はまずいない。
普通はパワー型のスタンドに撃たせるような代物で、生身の今なら肩が外れないだけ大したものだろう。

「痛った〜…!」

 ジンジン痺れる掌をさするマルミミに構わず、B・T・Bが両手の『ケルビム』を連射する。
反動を極限まで抑えてあるため、B・T・Bの細腕でも十分に扱えた。
(流石SPM 、イイ 仕事ヲ シテ イマスガ…)

(丸耳の坊ちゃんは銃に慣れてない…スタンドの銃弾はあっしでも充分に防げる)

 銃を乱射するこちらに構わず、悠々とッパは距離を詰めてくる。
だが、問題は無い。
 もともと銃弾だけで倒せるなどとは、露ほども思っていなかった。

 『生命のビート』を分析するための、時間稼ぎができればいい。
両手の『ケルビム』を放り捨てた。伝わってくる『生命のビート』に干渉させるため、生命エネルギーを拳に集める。

 サ・ノ・バ
「Son・of・a…」

 そして、ッパの足が『一メートル』のラインを超えた。
ビ――――ッチ
「Biiiiitcccch !!」
                    B ・ T ・ C
 神速のラッシュ。狙い違わず『静寂のビート』の拳は、全てッパの胸へと突き刺さり…

592丸耳達のビート:2004/06/13(日) 14:29

「悪いね」

 完璧に心臓を止められた筈のッパは、何事もなかったかのようにスタンドを動かした。

「ナ…ッ!」

 一瞬の驚愕。B・T・Bが全ての動きを止めていることに気付く間もなく、とん、とマルミミの胸に軽い衝撃。
「え…?」

 視界が暗転する。息が苦しい。
肺で吸収された酸素が、身体に運ばれていかない。
意識が遠のき、地面へとへたり込む。

「坊ちゃん…スらせて貰ったよ」

 びくん、びくん、と『プライベイト・ヘル』の掌で蠢く肉塊。
おじいちゃんの医学書に載っていた。握り拳くらいの大きさで、永遠に疲れることのない器官―――

「心…臓…ダトッ!?」
「っこの…!返…!」
「悪いね…坊ちゃん」

 鳩尾に衝撃。スタンドを使わずに、ッパの右拳がめり込む。
そのままぐったりと倒れ込み、マルミミの意識はぷっつりとそこで途切れた。


  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

593丸耳達のビート:2004/06/13(日) 14:31

〜丸耳達のビート・オマケ劇場〜

                   『黄昏』

          ___
         /    \
        |/\__\ ズズッ
       ○  ( ★д)コ ∩
           ( ⌒Y⌒) /
             \ /
              V
                    ∩_∩
                   ( ´−`) 旦~
                   / ============= 
                  (丶 ※※※※※ゞノ,)

      じっと、考える。B・T・Bの帽子の中身を。


① 丸耳
             ∩_∩
           ( ★∀T)<ンフフン。
           ( ⌒Y⌒)
             \ /
              V
   確かに僕の母さんも丸耳だったし、かなりあり得る。



② 猫耳
             ∧_∧
           ( ★∀T)<ハニャーン♪
           ( ⌒Y⌒)
             \ /
              V
    いやしかし、スタンドが必ず本体に似るとは限らないよね。

594丸耳達のビート:2004/06/13(日) 14:32

③ アフロ…と言うかパーマ?

           (⌒⌒⌒⌒)
           (        )
           (( ★∀T))<ォゥィェ
           ( ⌒Y⌒)
             \ /
              V
    やっぱりピエロだし、もこもこヘアーなのか?



④ 三倍角
                 /|
              //
           ( ★∀T)<足ナド 飾リデス
           ( ⌒Y⌒)
             \ /
              V
     …いや、赤いし、速いし、足無いし…



⑤ ハゲ
            +  +
           +/ ̄\+   サノバビ――――ッチ
         Σ∩( ★ДT)∩<Son・of・a・Biiiiitcccch!
          ヽ( ⌒Y⌒)/
             \ /
              V
     …………………………………………。



          ___
         /    \
        |/\__\
       ○   (;★∀T)<アノ、何カ?
           ( ⌒Y⌒)つ旦
             \ /
              V
                    ∩_∩ ヤッパ ハズスノ ヤメトコ…
                   (´д`;) 旦~
                   / ============= 
                  (丶 ※※※※※ゞノ,)

             …どれも微妙にキモイ…ッ!


                                                     続かない。

595:2004/06/13(日) 19:12

「―― モナーの愉快な冒険 ――   吹き荒れる死と十字架の夜・その8」



          @          @          @



 『フィッツジェラルド』のヘリ整備員は、空を見上げていた。
 空を埋め尽くす程の航空機、そして降下してくる吸血鬼。
 その中で、1機の黒いヘリが縦横無尽に駆けていた。
 あれは、『ブラックホーク』。
 多くの国の軍隊で採用されている、優良な汎用ヘリコプターだ。

 どれだけ性能のいいヘリでも、戦闘機を敵に回せばひとたまりもないはず。
 だが、そのブラックホークは違った。
 海面スレスレの超低空飛行で、巧みに敵ミサイルのホーミングを逃れている。
 戦闘機の死角を熟知し、低空に占位している。
 そして、対地ミサイルであるヘルファイアを降下中の吸血鬼に命中させている。
 あのヘリは一体…
 我がASAのヘリではないし、自衛隊のものでもないようだが。

 しかしそれだけの神業でも、敵数の多さには抗えなかった。
 囲い込むように発射されたサイドワインダーの直撃を受け、たちまちのうちに炎上したのだ。
 いかに耐弾性が重視されたヘリといえども、ミサイル相手ではひとたまりもない。
 そのままブラックホークは海面に突っ込むと、水没していった。

「…」
 ヘリ整備員は、海面を眺める。
 だが、他人の事を心配している余裕はない。
 この艦が沈むのも時間の問題なのだ。

 がっしりと甲板の柵を掴む手。
「!?」
 それを直視して、ヘリ整備員は驚愕した。
 海から、何かが這い上がってきたのだ。
 あれは… ぃょぅ族の男?

 そのまま、ズブ濡れのぃょぅは甲板に上がってきた。
 口から水をピューと噴き出す。
 そして、ヘリ整備員の方に視線をやった。
「ぃょぅ!」
 シュタッと片手を上げるぃょぅ。

「…ぃょぅ」
 ヘリ整備員は、困惑しながら挨拶を返す。
 ぃょぅは甲板に置いてあるV−22・オスプレイに目をやった。
 ヘリと航空機の性能を合わせ持った、ASAの誇る機体だ。
 スタスタと歩くと、オスプレイの操縦席のドアに手を掛けるぃょぅ。

「あっ、ちょっと…」
 ヘリ整備員は、慌ててぃょぅに声を掛ける。
「この機体、武装はされてるのかょぅ?」
 ぃょぅは、ヘリ整備員に視線をやって訊ねた。

「あ、はい。しぃ助教授が、アパッチと同程度の武装は備え付けろとおっしゃったので…
 って、あの… ちょっと!!」
 ぃょぅはヘリ整備員の制止にも耳を貸さず、オスプレイに乗り込んだ。
 このオスプレイは、ASAにも1機しかない機体だ。
 そして、しぃ助教授のお気に入りでもある。
 この機に何かあれば、責任者である自分はどんな目に合わされるか…

「ちょ、ちょっとッ!!」
 ヘリ整備員は、オスプレイに飛び乗った。
「…整備員が同乗してくれると助かるょぅ」
 操縦席に座って、ぃょぅが言う。

「そういう事ではなくてですねぇ…!」
「離陸するょぅ」
 ぃょぅは、操縦席に並ぶパネルを操作した。
 オスプレイの機体が、ゆっくりと浮かび上がる。

「操縦性も優良、良い機体だょぅ」
 ぃょぅは満足そうに言った。
「…それはどうも」
 ヘリ整備員は肩を落とすと、副操縦席に力無く腰を下ろした。

596:2004/06/13(日) 19:14



          @          @          @



 『教会』の新鋭原子力空母『グラーフ・ツェッペリンⅡ』。
 その甲板上に、枢機卿は立っていた。
 周囲を護衛するように、機関銃・MG42を手にした軍服の吸血鬼5人が控えている。
 そして、その眼前にメガネを掛けた男が片膝をついていた。

「…『解読者』、報告は受け取った」
 ほとんど乾いたSS制服の襟を正して、枢機卿は言った。
「はっ。『Monar』より、奪い返した『矢』はここに…」
 『解読者』は丁寧な口調で告げると、古めかしい『矢』を差し出す。

「ふむ…」
 枢機卿は『矢』を受け取ると、懐に仕舞った。
「残る『矢』は、『アルカディア』によるコピーか。確か『異端者』が所持しているという事だが…」

 『解読者』は片膝をついたまま視線を上げた。
「『異端者』や『Monar』及びその仲間の反撃は激しく、我々といえど無傷で殲滅は不可能と判断しました。
 こちらに死者がでる可能性がある以上、私の判断で事態を展開させる訳にもいかず…」
「お前が丁寧な口調を使っていると、何かを取り繕っているような感じがしてならんな…」
 枢機卿は冷薄な笑みを浮かべると、『解読者』の言葉を遮った。

「…御冗談を。それほど不遜ではありませんよ」
 『解読者』は静かにメガネの位置を直す。
「とにかく、『異端者』側の勢力も無視してはおけません」

「…そういう訳らしいな、山田殿」
 枢機卿は、背後に控えている山田に話を振った。
 彼の手にしている青龍刀は、今までとは異なる形だ。
 普段愛用している『青龍鉤鎌刀』は、どうやら破壊されてしまったらしい。

「…私が相対した少年は、類稀なる武芸を誇っていた」
 山田は静かに告げた。
「あれを討ち取るのは、そこらの吸血鬼では困難であろう」

 それを聞いて、枢機卿は顎に手をやる。
「ふむ… 山田殿がそうまで言うのなら、『異端者』側も相当にやるのだろうな」

「はい。 …そういう訳で、『異端者』追討はなりませんでした」
 言いながら、『解読者』はゆっくりと周囲を見回した。
 『ロストメモリー』の面々は、艦上で思い思いの行動を取っている。
 こちらを注視している者、風景を眺めている者、横たわって眠っている者…

「…では、次の任務は後ほど言い渡す。しばらく休むがいい」
 枢機卿はSS制服の裾を翻すと、背を向けて告げた。
「はっ…!」
 『解読者』はうやうやしく頭を下げる。
「…ですが、1つ伺いたい事があります」

「…何だ?」
 枢機卿は背後を向いたまま、『解読者』の方に視線をやった。
 『解読者』は少し間を置いた後に口を開く。
「我等が『教会』は、吸血鬼を殲滅することを目的とした機関。
 何ゆえ、その『教会』が吸血鬼を製造するのです? 納得できる回答を伺いたい」

 枢機卿は僅かに笑みを見せた。
 呆れたようにも受け取れる。
「『解読者』ともあろう者が、愚かな事を…
 元より吸血鬼を悪魔的、異端的なものとして捉えたのは、『教会』が絶対正義を行使する為であろう?
 神の楽園を守る為、汚れた者は排除する。分かりやすい物語こそ、大衆は必要とするのだ」

 『解読者』は視線を上げた。
 枢機卿の目をまっすぐに見る。
「千何百年もの間、人心を支配する為の… 方便に過ぎなかったとおっしゃられるのですか?
 そこに信仰心など欠片もないと?」

597:2004/06/13(日) 19:14

「フフ…」
 笑い声を漏らしながら振り返る枢機卿。
 胸の前で組んでいた両腕が、ゆっくりと下がる。
「…知れた事。信仰とは、統治の為の手段に過ぎん。
 己を十字架から降ろす事すら出来なかった男に、一体何が出来ると言うのだ…?」

「だから、自身も吸血鬼になられたという訳ですか…」
 『解読者』は、懐から何かを取り出した。
 あれは… 何の変哲もないワイングラスだ。

「ならばその御身、塵に還させて頂く――!」

 『解読者』は、そのままワイングラスを甲板に落とした。
 ガラスの破壊音が周囲に響く。

 その瞬間、5人の護衛が一斉に動いた。
 素早い動きで、枢機卿の頭部に機関銃の銃口を突きつける。
「…!!」
 枢機卿は即座に拳銃を抜くと、瞬時に護衛吸血鬼達の頭部を撃ち抜いた。
 頭を失った5人の吸血鬼が、ドサドサと力無く甲板に転がる。

「裏切るかッ! キバヤシッ!!」
 枢機卿の両耳からは、血が流れ出ていた。
 ワイングラスが割れる瞬間、自ら鼓膜を破ったのだ。

「…職務を実行しているに過ぎません。代行者は、吸血鬼を滅ぼすために存在していますので。
 強いて言うなら、裏切ったのはあなたの方かと…」
 『解読者』・キバヤシは、身を翻して立ち上がった。

 肥満した男が、素早くキバヤシに走り寄る。
 この男も『ロストメモリー』の1人であろう。
「ガァァァァァァァァッ!! この曙の前で…!」

 キバヤシは、甲板に自らの靴を強く擦り付けた。
 高い音が周囲に響く。

「なッ!!」
 曙と名乗った男の背後に、がっしりとしたスタンドのヴィジョンが浮かぶ。
 そのスタンドは、本体である曙の頭部に強烈な張り手を食らわした。
「…」
 曙の頭部は粉々に吹き飛び、その巨体は甲板の上に横たわった。
 吸血鬼といえど、ここまで頭部を破壊されては再生は不可能である。

「俺と相対した時から、既に勝負は決まっていたんだよ…!」
 キバヤシは、不様に転がった曙の亡骸を見下ろして言った。

「覚悟――ッ!!」
 山田の青龍刀が、隙だらけのキバヤシに迫る。
「させんよッ!!」
 その瞬間、キバヤシの影から1人の男の姿が浮き上がった。
 手にしている狙撃銃・ドラグノフで、青龍刀での一撃を受け止める。

「…ッ!」
 男は、その余りの勢いによろけて1歩退がった。
「大した威力だ。全ての影を一点に集めて、なお受け切れんとはね…」
 素早く体勢を立て直す男。

「…すまんな、ムスカ」
 キバヤシは男に告げた。
「礼は後にしろ! 来るぞ!!」
 ムスカは叫ぶ。

「キモーイ!」
「キモーイ!」
 酷似した2人の女学生が、キバヤシとムスカを囲むように立った。
 さらに、山田の第二撃が迫る。
 キバヤシは、懐から拳銃を取り出した。

「そのようなもので、我が斬撃が止められるかァッ!!」
 山田が咆哮する。
 ムスカの反応は間に合わない。
 その青龍刀が、キバヤシの頭部に振り下ろされる…

「退け、山田殿ッ!! ヤツの『イゴールナク』は、音に暗示を重ねる能力だッ!!」
 枢機卿が怒鳴る。
「…!?」
 だが山田が退くより、キバヤシが銃を撃つ方が僅かに早かった。

 銃声が響き、その銃弾は甲板にめり込む。
 元より誰かを狙ったわけではない。
 山田は、その銃声を至近距離で耳にしてしまった。

「…!」
 山田は素早く転進すると、女学生の1人に斬りかかる。
「…キモーイ!!」
 女学生がスタンドを発動させる間もなく、山田は女学生を斬り伏せた。
 返す刃で、もう1人の女学生の身体を両断する。

「…もらったよ、お嬢さん」
 ムスカはドラグノフを軽く回転させると、2人の女学生の頭部を撃ち抜いた。
 法儀式が施され、波紋の威力を帯びた弾丸だ。
 女学生2人の体はたちまち塵と化した。

「うぉぉぉぉぉッ!!」
 そのまま、山田は枢機卿に斬りかかる。
「くッ!!」
 枢機卿は、懐から指の間に挟んで4本のバヨネットを取り出した。
 そして、山田の攻撃を受け止める。
 青龍刀とバヨネットがぶつかり合い、激しい音を立てた。

「…さすが山田殿。我が剣術では、及ぶべくもないか…」
 枢機卿のバヨネットが4本とも砕け落ちる。
 その右腕は根元から断ち切られ、甲板の上に落ちた。
 すかさず、山田が斬りかかる。

598:2004/06/13(日) 19:15

「歯車王!!」
 枢機卿は、飛び退きながら叫んだ。
 彼の背後から、山田目掛けバルカン砲が発射される。
 完全に攻撃態勢に入っていた山田は、その弾丸を不意討ちに近い形で受けた。
「ぐゥッ!!」
 胴部にバルカン砲の掃射を食らい、山田は甲板の上に崩れ落ちる。

「行け、歯車王!!」
 枢機卿は自らの右腕を拾うと、背後に立つ円筒状の機械人形に命令した。

「…私/我々ハ排除スル。オマエ達、『教会』ニ仇ナス異端者ヲ…」
 歯車王は、ローラー移動でキバヤシとムスカに高速接近する。
 そして、胴部に備え付けられたバルカン砲を掃射した。

「機械…? あれも『ロストメモリー』かね? 過去に命を落としたスタンド使いには見えないが…
 ラピュタ王である私の前で、王を名乗るとは何事だッ!! 『アルハンブラ・ロイヤル』!!」
 ムスカは、影の盾を眼前に展開した。
 バルカン砲の弾丸は、影の盾によって叩き落される。

 その瞬間に、歯車王はムスカとキバヤシの目前まで接近していた。
 ボディーから突き出した腕部の先に、高出力のレーザーで構成された剣が突き出る。
「『デウスエクスマキナ』… 破壊/解体/殲滅ヲ実行スル…」

「機械には暗示が効かないとでも…?
 随分と俺の『イゴールナク』を過小評価しているな、枢機卿!!」
 キバヤシは懐から硬貨を取り出すと、歯車王に向けて弾いた。
 硬貨は歯車王のボディに当たり、軽い金属質の音が響く。

「…? 我ハ我ハ/我々我々ハ我々々々々々々々/々々々々々…」
 突如、歯車王は暴走を始めた。
 キバヤシとムスカをすり抜け、そのまま直進していく。
 歯車王は甲板から飛び出し、そのまま海中に没した。

「プログラムの基幹部に、何箇所かヌルポを埋め込んだ。デバッグでもしてやるんだな…」
 キバヤシは、枢機卿を見据えて言った。

 その瞬間、遥か彼方から銃声が響く。
 ――狙撃。

「…!!」
 ムスカは、頭部目掛けて放たれた弾丸をドラグノフのストックで弾き飛ばす。
「チッ! 気取られたかッ!!」
 艦橋に立って狙撃銃PSG1を構えていた男が、大きく舌打ちした。
 軍装からして、おそらく米海兵隊だ。

「ムスカ、何か言ってやれ」
 キバヤシは軽い笑みを浮かべて、ムスカに視線を送る。
「…『暗殺者』の私を暗殺しようなど、10年は早いんじゃないかね?」
 狙撃銃の男を見据え、ムスカは言い放った。

「油断するなよ、ハートマン軍曹… 『暗殺者』の異名、伊達ではないぞ」
 枢機卿は、艦橋に立つ狙撃銃の男に告げる。
「キサマ、この俺の前でソ連の銃など持ちおって…
 この、アカ野郎がッ!! クソでできた心根を叩き直してやるわぁぁぁッ!!」
 ハートマンは、艦橋から飛び降りた。

「すまんな、キバヤシ… 少し離れるぞ…!」
 ムスカはドラグノフの銃身下部にバヨネットを嵌めると、突進してくるハートマンの方向に駆け出した。

「さて…」
 キバヤシは、枢機卿に視線をやる。
 バルカン砲を食らい、倒れていた山田がゆっくりと起き上がった。
「…私は、何を…?」
 困惑した様子で周囲を見回す山田。

「…ヤツの放つ音に注意しろ。我々ならば音に暗示が含まれているかどうかを、届く前に何とか察知できる」
 枢機卿は、山田に警告する。
「了解した。もう、その術は通じんぞ…!」
 山田はキバヤシを見据えると、青龍刀を下段に構えた。

「ここで我々全員を討ち取るつもりか…?」
 枢機卿は両袖から拳銃を抜くと、キバヤシに訊ねた。
 その右腕は元通り再生している。

599:2004/06/13(日) 19:15

「そんな面倒な事はしない。…ただ、この空母を沈めるだけなんだよッ!!」
 キバヤシは指を鳴らした。
 彼の影から、ヌケドときれいなジャイアンが飛び出す。
「影の中に息を潜めていたか…!」
 枢機卿と山田は素早く飛び退いた。

 奇抜な衣装とメイクで身を固めた男が、ゆっくりと前に出る。
「頼んだぞ、ヌケド…!」
 黄色い背中に声を掛けるキバヤシ。
 ヌケドは軽く頷くと、大きく両腕を広げた。
「『カナディアン・サンセット』… 表へ出ろ」

 ヌケドの声と共に、海面が大きく隆起する。
 海は波立ち、空母が大きく揺れた。
 ゆっくりと、海中から何かが…

「クマ――――!!」
 咆哮とともに、海中から80mはある大きさのクマが姿を現した。
 そのクマは甲板に並んでいた飛行機を掴み上げると、無造作に枢機卿の方向に放り投げる。
 機体は甲板に激突し、小規模な爆発が起きた。

「くッ…!!」
 枢機卿は素早く飛び退き、爆発から逃れる。

「クマ――――!!」
 さらに、クマは甲板に爪を叩きつけた。
 破壊音が響き、甲板に爪跡が刻まれる。
 その衝撃で、空母の艦体が大きく傾いた。

「う、うわぁぁぁぁぁぁッ!!」
 ヌケドは甲板を転がり柵に激突する。
 そのまま柵を乗り越え、海中に没するヌケド。

「クマクマクマ――――!!」
 さらに、クマは爪を何回も艦体に叩きつけた。
 甲板が無惨に凹み、さらに激しく空母が揺れる。
「相変わらず、こっちの被害もお構いなしだな…」
 揺れる艦体によろけながら、キバヤシは呟いた。

「…『ビスマルクⅡ』、あのクマを潰せ」
 枢機卿は無線機で指示する。
 10Km離れた位置で航行していた『ビスマルクⅡ』から、トマホーク巡航ミサイルが発射された。
 その数、30発。
 時速900Kmで、『グラーフ・ツェッペリンⅡ』を攻撃しているクマに向かって飛来してきた。

「ボクは『音界の支配者』…」
 きれいなジャイアンが、ギターケースからギターを取り出す。
「…『クロマニヨン』!!」

 周囲に奇妙な高音が響き渡った。
 クマ目掛けて飛来してきたミサイルが、次々に空中爆発する。
 一瞬の間に、30発のトマホークは全て空の塵となった。

 きれいなジャイアンは口を開く。
「ミサイルの起爆について勉強しよう。
 ミサイル先端の信管から放った電波は、目標物に当たって反射するんだ。
 この時、ドップラー効果によって周波数が変わるんだよ。
 この急激な振動数の違いを探知し、信管が作動するんだ…」

 きれいなジャイアンは、目を輝かせて涼やかな微笑を浮かべた。
「このドップラー効果を、同周波数で擬似的に発生させてやれば…
 ミサイルは目標物に当たったと錯覚するんだよ。ボクが今やった通りさ」

「なら、お主を斬れば済む話だ…!」
 山田は青龍刀を下段に構えると、大きく踏み込んだ。
「無理だよ。ボクの超広帯域空気振動は、絶対に避けられない…」
 ギター型のスタンド、『クロマニヨン』から強力な振動波を放つきれいなジャイアン。

「…!!」
 山田は、素早く青龍刀を甲板に突き立てる。
「――『極光』、壱拾番『月妖』!」
 一瞬の光の後、その手には華美に装飾された大型の横笛があった。
 それを素早く口許に当てる山田。
 『月妖』から放たれた美しい旋律が、『クロマニヨン』の超広帯域空気振動を掻き消す。

「避けれなくとも、中和することは出来たようだな…」
 『月妖』を手許で回転させ、山田は言った。

「…すごいなぁ。ボクのスタンド能力を防ぐなんて」
 きれいなジャイアンの爽やかな笑みが、少しだけ崩れる。
「武人とて、雅楽を解さないという訳でもないのでな」
 山田は、きれいなジャイアンを見据えた。

 空母が再び大きく揺れる。
 クマが空母に膝蹴りを見舞ったのだ。
「さて、この空母… 『カナディアン・サンセット』の前でいつまで持つかな…?」
 キバヤシは揺れる艦に立って言った。
 それに対し、枢機卿は冷たい笑みを見せる。
「特に問題はない。私が呼んだのは、トマホークだけではないのでな…」

600:2004/06/13(日) 19:16

 遥か彼方から高速で飛来する影。
「あはははははははははハハハハハハハハハァァァァァッ!!」
 それは、笑い声を上げながらクマにぶち当たった。

「クマァ――――ッ!!」
 飛翔物の直撃を腹に食らったクマは、大きく吹っ飛んだ。
 轟音を立てて海面に激突するクマの巨体。
 水飛沫が巻き上がり、大きな津波が発生する。

「やれやれ、今度は怪獣退治か…」
 美しい蝶の羽を翻し、空母の上に浮遊するウララー。

「…クマッ!!」
 クマが起き上がろうとする。
「今は冬だッ!! クマは大人しく冬眠してなァッ!!」
 ウララーの『ナイアーラトテップ』から、虹色の光が幾重にも迸る。
 その直撃を受け、さらに吹き飛ぶクマ。

「ハハッ…! どうだどうだどうだァッ!!」
 狂声を上げながら、鮮やかな光を周囲に照射するウララー。
「ク、クマ――――ッ!!」
 光を浴びてよろけながらも、クマはウララーに突進する。
「な…ッ!」
 そのまま、クマはウララーの身体を掴んだ。

「クマ――――ッ!!」
 そして、渾身の力を込めてウララーをブン投げる。
「うおおおおおおォォォォォォッ!!」
 ウララーの体は、凄まじい勢いで海面に叩きつけられた。


「…戦いに巻き込まれては敵わん。ただちに、この場から離れろ。
 進路は… そうだな、ASAの艦艇の方向だ」
 枢機卿は、無線機でCICに指示を出す。

「そうはさせないんだよ!!」
 キバヤシは、携帯電話を取り出した。
「これが、俺の切り札だ…!」
 キバヤシは携帯に向かって何かを喋ると、無造作に甲板上に投げ捨てた。

「…!!」
 山田が音に警戒して、素早く背後に飛び退く。
 しかし、携帯が甲板に落ちる音に暗示は含まれていないようだ。

「…どこに連絡した?」
 枢機卿は口を開いた。
 キバヤシは静かに腕を組む。
「すぐに分かるさ。それより、いいのか? 俺達にいつまでも構っていて…」
 
「…!! 時間稼ぎか!!」
 枢機卿は大声を上げた。
 キバヤシは笑みを浮かべる。
「言ったはずだ。この空母を沈めるのが目的だってな。
 そろそろ、スミスと阿部高和がCICを制圧している頃合だ…」

「山田殿ッ!!」
 枢機卿が叫ぶ。
「承知!!」
 山田が、艦橋に向かって駆け出した。
 その瞬間、山田の足が逆方向に曲がる。

「…!?」
 バランスを崩し、山田は甲板に倒れた。
 だが、すぐに再生できる程度の負傷だ。

「…すでに仕込んでいたか。たった1人で、我々2人を足止めするとはな…」
 枢機卿は、腕を組んで立ちはだかるキバヤシを見据えた。

「くッ…!」
 山田は立ち上がると、素早く青龍刀を構える。
「止めておけ。奴への直接攻撃は、スィッチになっている可能性が高い…!」
 枢機卿は山田を諌めた。

「下手に動かない方がいい。俺の暗示は、言葉の呪縛だ…」
 枢機卿と山田を正面に見据え、キバヤシは告げた。
「人間は、火とともに言葉を武器にした。
 言語を解する生物である限り、『言葉』と言う呪縛からは逃れられないんだよ…!」

601:2004/06/13(日) 19:16



          @          @          @



 スミスと阿部高和が、艦内通路を駆ける。

「Uryyyyyyyyy!!」
 軍服に身を包んだ吸血鬼の集団が、正面に展開して機関銃を構えた。

「…お前達は、人海戦術しか能がないのか?」
 通路に、瞬時にして沢山のドアが並ぶ。
 そして一斉にドアが開き、大勢のスミスが出現した。
 スミス達は皆、大型拳銃・デザートイーグルを手にしている。

「疲れたろう。もう眠りたまえ」
 集団で、一斉にデザートイーグルを掃射するスミス。
 専用の50AE弾は、頭部に当たれば吸血鬼ですら殺せる威力を持つ。
 まして法儀式済みなので、吸血鬼などひとたまりもない。
 たちまち、弾丸を浴びた吸血鬼達の体は塵と化した。

「さて…」
 スミスが一歩踏み出した瞬間、爆音が響いた。
 先頭にいたスミス3人が吹き飛び、背後に並ぶスミス達に激突する。

「…クレイモア(指向性対人地雷)か」
 阿部高和は呟いた。
 その瞬間、部屋の隅から気配を察知する。
「おっと、誰だい…!?」

「俺も以前、大型のタンカーに潜入した事がある…」
 通路に男の声が響く。
 しかし、姿は見えない。

 突如、スミスの1人が頭を撃ち抜かれて倒れた。
「どこだ…?」
 スミス達は周囲を見回す。
 その瞬間、また1人スミスが倒れた。
 だが、どこにも狙撃手の姿はない。

「こういう場所での戦闘は、慣れなければ難しい。
 室内戦のセオリーがそのままでは通じないからな…」
 別の方向から、男の声。
 次々にスミスは倒れていく。

「仕方ないな…」
 スミスはデザートイーグルの銃口を自らの額に当てると、その引き金を引いた。
 彼の頭がスイカのように割れ、噴き出した血がシャワーのように周囲に散る。
 通路は、たちまちのうちに血塗れになった。

「…俺に色でも付けようと言うのか? それとも、血の池に浮かぶ足跡で動きを察知しようと?」
 再び、至近距離より男の声。
 銃声と共に、スミスの頭部が撃ち抜かれた。
 血塗れの廊下にびちゃりと横たわるスミスの亡骸。

「…ウホッ! 単に、透明になれるスタンド能力って訳じゃないみたいだな…」
 阿部高和は、表情を歪めて言った。
「こりゃ、頭の中がパンパンだぜ…」

「構う事はない。吸血鬼なら、葬るだけだ…」
 スミスは、減った人数を補充するかのように数を増やした。

「お前と違って、俺は1人しかいないんだよな…」
 阿部高和は呟く。
「まあ元々が強い奴ほど、『メルト・イン・ハニー』で強力なスタンドに変換できる。
 アンタがどんなスタンドになるか、楽しみだぜ…!」



  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
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602ブック:2004/06/14(月) 01:38
     EVER BLUE
     第三十一話・MIGHT 〜超力招来〜


「『ネクロマンサー』!!」
 ニラ茶猫が、右腕に生やした刃を福男目掛けて薙ぐ。
「『テイクツー』!!」
 自身のスタンドで、その斬撃を苦も無く受け止める福男。
 そのまま、受けに使ったのとは別の腕でニラ茶猫に拳を突き出す。

「くッ!!」
 左腕で、ニラ茶猫がその一撃を受ける。
 しかし生身の体では近距離パワー型のスタンドの力に敵う筈も無く、
 ニラ茶猫の体は勢いよく後方に吹っ飛ぶ。

「がはッ…!!」
 壁に叩きつけられ、ニラ茶猫が苦悶の声を上げる。
 受けに使用した左腕の骨は無残に砕け、
 その皮膚はない出血でどす黒く変色していた。

「ちッ!
 この野郎が…!」
 打撃による損傷は、斬撃や銃撃のそれと比べて修復が難しい。
 『ネクロマンサー』を砕けた骨などに擬態させて治癒を行うも、
 その再生速度は遅かった。

「…!オオミミ!!」
 と、ニラ茶猫がヒッキーと闘っているであろうオオミミの方を心配そうに見やる。
 しかし、オオミミは既に闘いの場を移したらしく、
 既にさっきまで居た場所には居ない。

「…人の心配をしている余裕があるのかな?」
 福男が嘲笑を浮かべながら口を開いた。
「へっ、ほざいてろ。
 さっきのはラッキーパンチってやつだフォルァ。
 手前なんざ、あと一分で蹴散らして…」
 そこでニラ茶猫はようやく自分の左腕の異変に気がついた。
 左腕の『テイクツー』の拳を受けた部分が、締め付けられたように縮んでいる。
 普通骨折をした場合には、その箇所が腫れ上がるものなのだが、
 今回は逆にしぼんでいるのだ。
 これは、明らかに異常だった。

「なっ!?
 これは…!!」
 ニラ茶猫が驚くのとはお構い無しに、左腕はどんどん圧縮されていった。
「うあああああああああああああああ!!!」
 肉が、骨が、中心めがけて収縮していく。
 その圧力に耐え切れなくなり、皮膚が裂けて血がそこから噴出する。

 ―――グシャリ。

 音を立てて、ニラ茶猫の左腕がレモンの絞りかすのように潰れきった。

「ぎゃああああああああああああああ!!!」
 ニラ茶猫が発狂したかの如く叫んだ。
 打撃、斬撃、銃撃。
 彼も今までに幾つもの痛苦を味わってはきたものの、
 流石に今回のそれは初めて受ける痛みであった。
 当然といえば当然である。
 体の一部が圧縮されるなど、余程の拷問でもない限り味わう事は無い。

「『テイクツー』!」
 痛みに苦しむニラ茶猫に、福男が止めを刺すべく飛び掛かる。

「うあああああああああああ!!!」
 身を捩じらせ、ニラ茶猫が寸前で追撃を回避する。
 いや、それは最早『回避』というよりも『避難』といった方が近かった。

603ブック:2004/06/14(月) 01:39

「畜生がああぁぁぁ…!
 それが、手前の能力か…!!」
 息を切らしながら、ニラ茶猫が福男を睨む。
 その左腕から滴り落ちた血が、足元に赤い水溜りを作っていた。

「だとしたら?」
 構えを取る福男。
 ニラ茶猫との間の距離は凡そ十五メートル。
 互いに、一足飛びに攻撃できる距離ではない。

「…どうやら、そのスタンドのお手手には迂闊に触れられない方がよさそうだな。
 頭までこの左腕みたいになるのは勘弁だぜ…!」
 『ネクロマンサー』で、ズタズタになった骨や筋肉を復元しながらニラ茶猫が呟いた。
 痛みは、『ネクロマンサー』を脳内麻薬に擬態させる事で和らげる。

「…お前も吸血鬼か何かか?」
 ものの十秒程で復元されたニラ茶猫の左腕を見て、福男が尋ねる。

「へっ、さてなァ。」
 ニラ茶猫が懐からドリンク剤の瓶を何本か取り出し、一気に飲み干した。
「…?」
 その余りに突飛な行動に、首を傾げる福男。

「心配すんな。
 これは只の、何の変哲も無いドリンク剤さ…!」
 直後、ニラ茶猫が大きく跳躍する。
 闘うには問題無い位に復元した左腕からは『ネクロマンサー』の刃を生やし、
 右手にはドリンク剤の空き瓶を持っている。

「らあァ!!!」
 上段からの振り下ろし。
 福男が、それをスウェイバックでかわす。
「せいッ!!」
 そこから返す形での切り上げ。
 しかし、そのニラ茶猫の攻撃を虚しく空を切る。

「無駄だ!
 近距離パワー型に、その程度の体術が通用するかっ!!」
 福男が反撃に打って出ようとする。
 寸前、ニラ茶猫はそんな福男の眼前にドリンク剤の瓶を投げつけた。
 それと同時に、ニラ茶猫は後ろへと飛んで福男から距離を離す。

「小細工をっ!!」
 福男が腕でその瓶を薙ぎ払おうとする。
 彼のスタンド『テイクツー』の腕が、瓶に触れ―――

604ブック:2004/06/14(月) 01:39


「!!!!!!!!!」
 その瞬間、ドリンク剤の瓶が大爆発を起こした。
 ガラス片が飛び散り、血飛沫が周囲に舞う。

「…ニトログリセリン。
 大変危険な為、その扱いには充分注意を払いましょう。
 俺の切り札は、ドリンク剤の中身じゃなくて空き瓶の方だったんだよな。」
 そう、ニラ茶猫は空になった空き瓶の中に、
 『ネクロマンサー』をニトログリセリンに擬態させて入れておいたのだ。

「さて、オオミミの方に加勢しに行く…」
 そこで、ニラ茶猫は言葉を止めた。
 爆発時に生じた煙の中に、立ち上がる人影を発見したからだ。

「…やって……くれたな…」
 全身を黒こげにしながらも、福男がよろめきながら立ち上がる。
 火傷が、徐々にではあるが回復していった。

「…だからお前らって嫌いなんだよ。」
 呆れたように肩を竦めるニラ茶猫。
 だがそんな軽薄な態度とは裏腹、その首筋には冷や汗が伝う。

「『テイクツー』!」
 目を血走らせ、福男がニラ茶猫目掛けて突進する。
「ちっ!!」
 接近戦では分が悪いと判断したニラ茶猫が、後方へ飛びずさる。
 しかし急所には命中しなかったものの、
 『テイクツー』の拳はニラ茶猫の右足を捉えた。

「!!!!!!
 ぐああぁッ!!!!!!!」
 悲鳴と共に、ニラ茶猫の右足が音を立てて潰れていく。
 片足を失ったニラ茶猫は、バランスを崩して地面に倒れた。

「死ね…!」
 そこに襲い来る福男とそのスタンド。
「おわあア!!」
 床を転がりながら、ニラ茶猫が何とかその一撃をかわそうとする。
 しかし完全には避け切れず、修復したばかりの左腕が再び圧壊していった。
 それでもなおニラ茶猫は転がり続け、
 その勢いを利用して地面を跳び、片足で着地する。

「逃がすか!」
 福男がニラ茶猫を追いかけながら、スタンドの拳を繰り出す。
「!!!!!!!!」
 刹那、福男の眼前で閃光が迸り彼の目を灼いた。
 マグネシウム。
 火を点ける事で、激しく発光しながら燃え上がる金属。
 ニラ茶猫は着火剤としてリンを使う事で、
 マッチやライター不要のお手製閃光弾を作ったのだ。
 リンならば、指先で擦るだけでも充分に発火させられる。

「なッ…!
 糞…!!」
 視界を奪われ、一時的に前後不覚になる福男。
 ニラ茶猫は、その隙に福男から命辛々距離を取って再生を始める。
 このダメージは、かなり大きい。

605ブック:2004/06/14(月) 01:40

(ひいいいィィィィィィィィィ…
 ひいいいいいいいいいいイイイイイイイィィィィィ…!
 痛え。
 痛えエェ…
 ぅ痛うぇえええええええええええええええええええ!!!!!!!)
 位置を悟られる訳にはいかないので、
 絶叫を何とか喉の位置で外に出さぬよう押し込める。
 『ネクロマンサー』で痛みを消し去る事も出来ないでもないが、
 過度の麻酔の投与は戦闘に重大な悪影響を及ぼす。
 動くのに差し支えの無いギリギリの量で、ニラ茶猫は何とか我慢する事にした。

(で、どうするよ…
 恐らく奴の能力は、触れたものをその中心を基点に圧縮する事。
 あの拳で頭や胴体を触られたら、その時点でアウトだ。
 三月ウサギなら、触らせる間も無く解体出来るんだろうが…
 俺には無理だ。
 接近戦じゃ勝ち目はねぇ。
 かといって逃げる訳にもいかねぇし…)
 『ネクロマンサー』に擬態による回復を急がせながら、ニラ茶猫が思考を巡らせる。

(毒ガス攻撃…
 …駄目だ。
 この船の中じゃ、俺だけでなく他の奴らまで巻き添えだ。
 それに、あいつに通用するかも分からねぇ。
 糞。万事休すかよ…!)
 ニラ茶猫が小さく舌打ちする。

「…そこにいたのか。」
 視界を取り戻した福男が、ニラ茶猫に向き直った。
「お早いお目覚めで…」
 軽口を叩きながらも、内心大焦りのニラ茶猫。

(兎に角、もう少しで肉や骨への擬態が完了する。
 だけど、回復してるだけじゃ奴には勝てねぇ…
 …待てよ。
 『肉』と『骨』に擬態だって!?)
 ニラ茶猫が、はっと顔を見上げた。

「これで決める!!」
 そんなこんなしているうちに、福男が飛び掛ってくる。
「ちッ!!」
 横に跳び、ニラ茶猫が寸前で拳をかわす。
 『テイクツー』の腕が、深々と船内の通路の壁に突き立てられた。

「おおらあああああああああああ!!」
 がら空きになった胴に福男の、ニラ茶猫が『ネクロマンサー』の刃を突き出す。
「当たるかッ!」
 しかし、福男は後ろに跳躍してその刃を軽々と避けた。

(糞がッ!
 だけど、もう少しだ。
 もう少しで、何かが繋がる。
 『ネクロマンサー』の、新しい可能性が…!)

「!!!!!!!!」
 その時、先程『テイクツー』の拳が突き刺さった周囲の壁が、奇妙に盛り上がった。
 ニラ茶猫がそれに気づくも、もう遅かった。
 通路の壁が次々と盛り上がり、ニラ茶猫を巻き込む形で中心目掛けて潰れる。
 ニラ茶猫の体は、たちまち潰れていく壁の中へと飲み込まれた。

606ブック:2004/06/14(月) 01:40


「…流石にこうなっては、自慢の再生も役には立たないだろう。
 おあつらえの棺桶といった所か。」
 ひしゃげた通路を眺めながら、福男が呟いた。
 通路は跡形も無く圧縮され、最早見る影も無い。
 当然、その中のニラ茶猫も―――

「!!?」
 その時、押し潰された通路から、一つの刃が突き出された。
 目を見開く福男。
 見間違える筈も無い。
 それは、ニラ茶猫の腕から生えていた―――

「!!!!!!!!」
 轟音と共に、潰れた通路の壁が吹き飛んだ。
「…礼を言うぜ。
 ここまで追い詰められて、ようやく『ネクロマンサー』の新しい応用を思いついたぜ。
 何で、こんな簡単な事に気がつかなかったんだろうなぁ…」
 その中から、一つの人影がゆっくりと姿を現す。
 特徴的な緑の頭髪。
 それは紛れも無く、ニラ茶猫のトレードマークであった。
 しかしその体躯は二周り以上にも肥大し、
 その表皮は亀甲の如く硬質な鎧で覆われている。
 刃を精製する応用で、全身を鎧に包み込む。
 この硬い皮膚こそが、先程の壁からニラ茶猫を守ったのだった。

「…!!」
 福男が絶句する。
 最早それは断じて人ではなく、怪物との呼び名こそが相応しかった。
「何を驚いてんだよ。
 ちょっとした、ドーピングみたいなもんさ。」
 怪物が、笑う―――

「!!!!!!!!!」
 直後、福男の体が紙切れのように吹き飛んだ。
 『ネクロマンサー』を筋肉に擬態。
 それにより引き出される驚異的な膂力と敏捷力。
 それらを余す事無く注ぎ込んだ、腕の一振りが福男に叩きつけられたのだ。

「……!!」
 悲鳴を上げる暇も無く、血と臓物を撒き散らしながら福男がすっ飛ばされる。
 そのまま福男は壁に叩きつけられ、
 赤黒い色の版画を壁に貼り付けて絶命した。

「…俺に触れる事は死を意味する、ってか。」
 ニラ茶猫は力なく笑うと、床に肩膝をついた。
 スタンドの酷使によって『ネクロマンサー』の擬態が強制的に解除され、
 彼の体が見る見る元の姿へと戻っていく。

「がはッ…!」
 口から血を吐き、その場に倒れるニラ茶猫。
「…やっぱ、スタンドパワーにも俺の体にも、
 相当の無茶だったみてぇだな……」
 力無く、ニラ茶猫が口を開く。
 それでも満身創痍の体に鞭を打ち、彼は何とか立ち上がった。

「…寝てる暇はねぇのが辛い所だよなぁ、ほんと。
 待ってろよオオミミ。
 すぐにいくぜぇ…」
 ニラ茶猫はそう呟きながら、体を前へと引きずるのであった。



     TO BE CONTINUED…

607ブック:2004/06/15(火) 03:10
     EVER BLUE
     第三十二話・SIDEWINDER 〜魔弾〜


 僕とオオミミは、暗い顔の小柄な男に向かって構えを取っていた。
 男の手には、木製グリップのやや古めかしい狙撃銃。
 あれが、男の得物という事か。

「…ボクノナマエハヒッキー。
 キミハナノラナクテイイヨ。
 ドウセ、ココデシヌンダカラ…」
 男が自己紹介しながら銃口をこちらに向けた。
 それに耳を傾けながら、オオミミがじりじりと距離を詰める。
 それでも、ヒッキーとの間合いはまだ二十メートル近くある。
 この距離では、こちらの攻撃は届かない。

「ぎゃああああああああああああああ!!!」
 後ろの方から、ニラ茶猫の悲鳴が聞こえてくる。
 まさか、彼の身に何かあったのか!?

「ヨソミヲスルナ…!」
 ヒッキーの狙撃銃から、激発音と共に銃弾が放たれた。
「『ゼルダ』!」
 オオミミが叫ぶ。
「応!」
 僕の右腕で、飛来する銃弾を弾き飛ばす。
 フルオートによる斉射なら兎も角として、
 この程度の銃撃ならば僕でも充分に防御は可能。

「…退くならば、俺は追わない。」
 オオミミが低く呟く。
 あの狙撃銃では、自分を倒せないと確信しての言葉だろう。

「ヨウスミノイチゲキヲカワシタクライデ、ナニヲイイキニ…」
 ヒッキーが再び銃を構えた。
 何のつもりだ?
 そんな銃など僕には通用しない事は、さっきので分かっているだろうに。
 だけど、彼からの殺気にハッタリの風は無い。
 気を抜く訳にはいかないようだ。

「レッドスネークカモンカモン…」
 ヒッキーが呟くと、半透明の赤い管のようなものが幾つか周囲に出現した。
 その管はまるで蛇のようにグネグネと蠢いている。
 これが、奴のスタンドか…!

608ブック:2004/06/15(火) 03:11

「コレガボクノ『ショパン』…
 キミハモウ、ニゲラレナイ。」
「!!!」
 半透明の赤い蛇が、オオミミに襲い掛かる。
 咄嗟に僕は腕でオオミミを庇おうとした。

「!?」
 だが、僕の腕には何ら手応えが感じられなかった。
 見ると赤い蛇は僕の体をすり抜け、オオミミまで伸びている。

「なっ!?」
 思わず声を漏らすオオミミ。
 どういう事だ?
 この蛇はみたいなスタンドには、お互いに干渉出来ないのか!?

「シンパイシナクテイイヨ。
 ソノヘビノカラダニオサマラナイサイズノモノニハ、マッタクエイキョウハオヨバナイ。
 ダケド…」
 ヒッキーが赤い蛇の胴体目掛けて照準を合わせる。
「コノジュウダンナラバ、ヘビノドウタイノナカニジュウブンオサマル…!」
 ヒッキーが狙撃銃の引き金を引いた。

「!!?」
 発射された弾丸が蛇の胴体へと収まった瞬間、銃弾が突如その軌道を変えた。
 いや、これは、赤い蛇の中を通って来ている!?

「くッ!!」
 弾丸が、蛇の胴体の中を進みながら僕達へと向かってくる。
 だけど、速度自体はさっきのと一緒だ。
 構わず弾き飛す。

「!!!」
 しかし、弾丸の弾かれた先には既に半透明の蛇が待ち構えていた。
 弾丸が蛇の胴体に取り込まれると、
 再びその中を通って僕達に襲い掛かる。

「ぐあッ!!」
 弾丸はそのまま蛇の体を通り、オオミミの肩口へと喰らいついた。
 オオミミが痛みに顔を歪める。

「!!!」
 しかし、それだけでは終わらなかった。
 ヒッキーがさらに銃弾を撃ち出してくる。
 蛇の胴体へと入り込み、その中を突き進んでくる弾丸。
 そして、蛇自体もその身に弾丸を宿したまま僕達に襲い掛かる。

(あの蛇から離れろ!オオミミ!!)
 僕は叫んだ。
 どうやらあの半透明な蛇の中に入った物体は、
 その体内に沿う形で移動するらしい。
 それは逆に言えば、弾丸は必ずそこを通るという事だ。

「!!!!!」
 オオミミが、必死に赤い蛇から逃れようとする。
 だが赤い蛇はそれを許さじと、僕達に向かって襲い掛かる。
 胴体をくねらせ、その姿を自在に変える蛇。
 しかも、そのスピードはかなり速い…!

(オオミミ!!)
 半透明の蛇の胴体が、オオミミの左腕と重なる。
 そこを高速で通過する弾丸。

「ぐぅッ!」
 咄嗟に僕が腕で弾丸を止めようとするも間に合わず、
 銃弾がオオミミの左腕を貫いた。
 そして、貫通した弾丸はまたもや半透明の蛇の胴へと潜り込み、
 僕達へと突き進んでくる。

「ムダダヨ。
 ボクノ『ショパン』カラハノガレラレナイ…」
 弾込めをしながらヒッキーが呟く。
 そうかい、なら…

「直接、本体であるお前を叩く!!」
 オオミミがヒッキー目掛けて突進した。
 これ以上、向こうお得意の間合いに付き合う必要などありはしない。

「サセナイ!」
 蛇の胴体がオオミミの眼前を遮る。
 そこを一瞬にして通過する銃弾。
「うわあ!」
 オオミミが、慌てて立ち止まった。
 その鼻先を銃弾が掠める。
 あと少し停止が遅れたら、頭を打ち抜かれていた所だ。

609ブック:2004/06/15(火) 03:11

「!!!!!!」
 だが、そこで動きを止めたのがまずかった。
 立ち止まったオオミミの足に、
 蛇の体の中をカーブしながら進んできた銃弾が喰い込む。
 しまった。
 いつの間にか足元にも蛇を配置されていたか…!

「……!!」
 足にダメージを負い、床に横転するオオミミ。
 しかし、このまま倒れていては鴨撃ちだ。
 僕の足をオオミミと重ね、そのまま後ろへ跳躍する。

「!!!!!」
 そこに襲い来る赤い半透明の蛇と、その中の銃弾。
(無敵ィ!!)
 僕はすぐさま拳を振るい、蛇の体内を駆ける銃弾を叩き落そうとする。

「!!!!!」
 しかし僕の拳が弾丸に触れる直前で、
 蛇の体が大きくよじれた。
 スカを食らう僕の右拳。
 だが銃弾は止まらない。
 オオミミが身をかわそうとするも、
 銃弾は蛇の体内を通りながら無慈悲にオオミミの脇腹へと突き刺さった。

(オオミミ!!)
 がっくりと膝をつくオオミミ。
 内臓を痛めたらしく、その口からは一筋の血が伝う。

「ククク…イイキミダ……」
 ヒッキーが嫌らしい笑みを浮かべる。
 糞。
 僕がついていながら何て様だ…!

「サテ、イツマデイキテイラレルノカナ…」
 ヒッキーが狙撃銃の引き金に指をかけた。

「…『ゼルダ』。」
 オオミミが、小声で僕に囁いた。
(…分かってる。)
 そう、オオミミの言いたい事は分かっていた。
 あのヒッキーのスタンドは、銃撃と組み合わせる事で威力を発揮するスタンド。
 ならば銃撃さえ封じてしまえば、そのスタンドは全くの無力と化す。
 そして、僕の能力による結界ならばそれが可能。
 問題は、能力が完全に発動するまで持ち堪えられるかどうかだ…!

「『ゼルダ』…!!」
 オオミミが、精神を集中させる。
 場を支配していく圧迫感。
 結界を張る為の力場が、周囲に展開していく。

「ナニヲスルツモリダ…!?」
 勿論、その隙を逃す程敵も馬鹿ではない。
 オオミミ目掛けて、次々と銃弾を撃ち込んでくる。

「無敵ィ!!」
 僕はその弾丸を何とか防ごうとする。
 しかし、能力の発動の為に大半の力を注いでいる上に、
 変幻自在の軌道で襲い掛かる銃弾。
 僕に出来るのは、何とか急所だけは外す事ぐらいだった。

「…!!」
 オオミミの体に、次々と銃弾が突き刺さる。
 だが、それでもオオミミは集中を解かなかった。

610ブック:2004/06/15(火) 03:12

「宿し手は宿り手に問う。汝は何ぞ。」
 痛みと闘いながら、オオミミが結界展開の為の詠唱を開始する。
(我は業(チカラ)。道を進まんが為の、業なり。)
 それに答える形で、僕も言葉を紡ぐ。

(宿り手は宿し手に問う。汝は何ぞ。)
「我は意志(チカラ)。道を定めんが為の意志なり…!」
 脂汗を流しながら、オオミミが詠唱を続ける。

「ナニヲゴチャゴチャト…!」
 ヒッキーが更に銃弾を放つ。
 蛇の中を通って飛び掛かる銃弾。
「……!!」
 オオミミが、咄嗟に身をよじる。
 しかし弾丸は彼の背中へと着弾した。
 オオミミが大きく体を崩す。

(業だけでは存(モノ)足らず。)
「意志だけでは在(モノ)足らず。」
 徐々に展開されていく力場。
 あと少し。
 あと少しだ…!

「孤独な片羽は現世を彷徨う。」
 銃撃を受け、体勢を崩しながらも、オオミミは詠唱を止めない。

(ならば我等一つとなりて。)
「業と意志で存在(ヒトツ)となりて。」

「高き天原を駆け巡らん!」(高き天原を駆け巡らん!)

「クタバレ…!」
 撃ち出される弾丸。
 そして、それが次々とオオミミの体に穴を開ける。
 痛み痛み痛み痛み痛み痛み痛み痛み。
 それでもなお、オオミミは歯を喰いしばって耐える。

 あと少し。
 あと少し。
 あと少し―――!

「折れし翼に安息を。」
(傷つきし翼に祝福を。)

「翼失いし心に羽ばたきを!」(翼失いし心に羽ばたきを!)
 僕は、溜め込んでいた力を一気に解放した。

「!!!!!!!!!!!!!!!」
 空間に、
 いや、世界に亀裂が走った。
 そしてそのひび割れた部分がガラスのように崩れ落ち、
 別の空間を構築していく。

「ナッ…!?」
 狼狽するヒッキー。
 だが、もう遅い。
 僕の能力は、既にここに完成した…!

(我は最早人ではない。)
「空手に入れし、鳥(ツバサ)なり―――」


「…the world is mine.(かくて世界は我が手の中に)」

611ブック:2004/06/15(火) 03:12





 ――――――――空。

 辺りに広がる、一面の空。
 何処までも続く、永遠の青。
 これはオオミミの内的宇宙の具現。
 …『ゼルダ』である僕の力。

「ナッ、コレハナンダ…!」
 ヒッキーがオオミミを睨む。

「…これが俺の『ゼルダ』の力だよ。」
 血塗れになった体で、オオミミが一歩ヒッキーへと歩み寄る。

「クソ!コレシキノコトデ…!」
 ヒッキーがスタンドを発動させ、狙撃銃の引き金を絞った。

「!?」
 ヒッキーが驚愕する。
 いくら引き金を引いても、銃弾が発射されなかったからだ。

「…悪いけど、この空間では銃を使えないように『ルール』を決めさせて貰いました。」
 息を切らしながら、オオミミが告げる。

「『ルール』…!?」
 思わずヒッキーが聞き返す。

「そう。
 だから、ここでは俺も銃は使えない…』
 オオミミがさらにヒッキーに近づいた。
 このダメージ。
 オオミミの体はそろそろ限界だ。
 もうあまり長くは結界を持続させる事は出来ない為、早く決着をつける必要がある。

「…!
 ジュウヲフウジタクライデ、ソノカラダデボクニカテルトデモ…!」
 ヒッキーが銃を捨て、満身創痍のオオミミ目掛けて飛び掛かった。
 だが―――

(無敵ィ!!!)
 遅い。
 三月ウサギやタカラギコの速さに比べれば、
 止まっているようなものだ。
 いくら本体のオオミミが傷ついているとはいえ、それしきで僕が倒せるか…!

「無敵無敵無敵無敵無敵無敵無敵無敵無敵無敵無敵無敵無敵無敵無敵ィィィィ!!!」
 続けざまにヒッキーに拳を打ち込んでいく。
 体に残された僅かな力を全て攻撃に注ぎこむ!

「ウボアマーーーーーーーーーーー!!!」
 全身を挽肉に変えながら、ヒッキーが吹っ飛ぶ。
 殴り飛ばされたヒッキーは地面に落ち、そのまま二度と動かなくなった。

612ブック:2004/06/15(火) 03:12



「……!」
 オオミミががっくりと膝をついた。
 それと同時に、スタンドパワーが底をついて張り巡らした結界が解除される。
 一面の空から、景色が見慣れた船内の通路へと戻っていった。

(大丈夫か!?オオミミ!!)
 僕はオオミミに声をかけた。
「…大丈夫。
 まだ、やれるよ。」
 力無く微笑みを返すオオミミ。
 馬鹿。
 嘘ばかり言いやがって…!

「…!
 ちょっとあんた、大丈夫なの!?」
 と、そこへあまり聞きたくない声が響いてきた。
 天の声だ。

「天、何でこんな所に!
 危ないから物置の中に隠れてろって…!」
 珍しくオオミミが語尾を荒げる。
 個人的には、この女には闘いに巻き込まれて死んでくれればスカッとするのだが。

「あんたの情けない悲鳴が聞こえてきたから、
 わざわざ助けに来てあげたってのに、何よその言い草。
 大体、今はあんたの方が危ないんじゃなくて!?」
 偉そうにのたまう天。
 うるさい余計な事言うなシバくぞ。

「オオミミ!」
 そこに、ニラ茶猫も駆けつけてきた。
 どうやら、向こうも片付いたらしい。

「ニラ茶猫…」
 オオミミがニラ茶猫へと顔を向ける。
 壁にもたれ掛かりながら、ひこずるように体を動かしながらやってくるニラ茶猫。
 『ネクロマンサー』での回復が出来なくなる程、
 力を使い果たしてしまったらしい。
 これでは、オオミミの怪我を治してもらうのは無理か。

「酷くやられたな、フォルァ。」
 ニラ茶猫が苦笑する。
「ニラ茶猫だって…」
 掠れた声で受け答えするオオミミ。

「…治癒してやりてぇのは山々だが、
 見ての通り自分の頭の蝿も追えねぇ有様でな…
 悪いが、ちょっと我慢しといてくれ。」
 ニラ茶猫がすまなそうに言う。
「大丈夫。
 これ位、なんて事無いよ…」
 明らかになんて事ある体で、オオミミが答える。
 全く、やせ我慢も程々に―――


     ドクン


(―――!!)
 僕の内側を、覚えのある鼓動が襲った。
 これは、三月ウサギとタカラギコとの稽古の後の―――
 だが、その時よりずっと大きくなっている…!

「……!」
 天も、体を震わせている。

 何だ、これは。
 何なんだこれは。
 来る。
 来ている。
 何かが来る…!!

「『ゼルダ』、天…?」
 オオミミが不思議そうに尋ねた。

(オオミミ…気をつけろ。
 何かがヤバい…!)
 何の根拠も無い、
 しかしコーラを飲んだらゲップが出る位に確実な予感が、僕の脳裏をよぎっていた。

「『ゼルダ』…?」
 オオミミが心配そうに僕に声をかける。
 しかし、その間にもなお、
 不吉な予感はさらに影を大きくするのであった。



     TO BE CONTINUED…

613N2:2004/06/15(火) 14:59

━━━━━━━━━━━━━━

 まもなく
 『ギコ兄教授の何でも講義 2時限目』が
 始まります

              ∩_∩
━━━━━━━━━ |___|F━━   ∧∧
              (・∀・ ;)        (゚Д゚;)
        ┌─┐   /⊂    ヽ    /⊂  ヽ
        |□|  √ ̄ (____ノ   √ ̄ (___ノ〜
      |   |  ||    ━┳┛  ||   ━┳┛
 ̄ ̄ ̄ ̄|   | ====∧==========
    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
    | あのさ、あれって一発ネタじゃなかったっけ?
    \____              ∧
         / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
         |  ………だよなあ。
         \________________

614N2:2004/06/15(火) 15:01

 椎名先生の華麗なる教員生活 第3話 〜運命の出会い〜

暗い部屋に、一人。
視覚も、嗅覚も、聴覚も、触覚も絶たれて、
私は暗い部屋に一人。

ああ、これは夢だ、と私はすぐに気が付く。
今まで何度も苦しめられてきた、いつもと同じあの夢に決まっている。
しかし、それは『彼』の夢ではない。
それよりも、もっと陰湿で、果てしなく悲しい夢。

おぼろげな気配。
それは無邪気な子供たち。
しかし、その心中には果てしない程の邪気。

浮かび上がる子供たちの姿。
私には分かる。
この子らが私にどんな悪意を抱いているか。これから何をするか。
ああ、私に近寄るな。

「てめえッ、親が偉いからって図に乗るんじゃねえ!!」
私に近付くなり、私の顔を殴りつける一人の少年。
一人が動けば、皆が動く。
皆で動けば、怖くない。
良心の呵責が仲間外れの疎外感に負け、
一撃の痛みが更なる痛みを連鎖する。
響く邪気に満ちた声々。

「あんた、『おやのななひかり』ってやつで自分が目立ってるとか思ってるでしょ?
…そういう態度が気に入らないの!!」
「『こっかいぎいん』の娘だか何だか知らないけど、所詮はお前も『しぃ』だ!」
「『しぃ』はおとなしく殴られてればいいって、お父さんが言ってたぞ!」
「みんな、やっちゃえやっちゃえ!!」

殴られ、蹴られ、張り倒され、言葉の雨に打たれ続け…
痛い。辛い。悲しい。
もうやめて。



新しい気配。
それは大人たち。
傷付く私の姿を見る目は、しかし凍り付いていた。

「しぃってうざいよね〜」
「だよね〜、あの娘も誰か殺してくれないかな?」
「ったく、サルみてーな不細工な顔引っ下げて歩いてんじゃねーよゴルァ!!」

痛い。痛い。痛い。
もうやめて。

615N2:2004/06/15(火) 15:02

「えーマジしぃ族!?」
「キモーイ」
「しぃ族はどこまで行っても被虐キャラだよねー」
「キャハハハハハハ」

耐え切れない。私は…一体何なの?

私は…何で生きているの?

私は……


暗闇から浮かび上がるお父さんの姿。
私の唯一愛する、私の唯一信頼出来るお父さん。
助けて、と腹から叫んだ。
しかし、声は出ない。
口から出た途端、私の言葉は何か得体の知れないものにかき消された。

お父さんは私を見ている。
今まで見せたこともない、氷細工のように冷たい目で。
お父さんは、動かない。
傷付く私を見て、少しも救おうと動きはしない。

そして…嘲笑。
無言でお父さんは去って行く。
私の唯一愛するお父さんは、私を愛していない。
そして、遂に私はひとりになった。

私は…何の為に生きている?
私は…誰の為に生きている?

愛されたい。愛され尽くしたい。
愛したい。愛し尽くしたい。
誰か、私に愛を。

否、私に生の価値は存在しなかったのだ。
無価値なゴミに、愛は要らない。



 ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆



「ジリリリリリリリ!!!!」
枕元で騒がしく鳴るベルが、私を深い眠りから覚ました。
真っ先に私は、びしょ濡れになったパジャマに不快感を覚える。

「夢…か…」
恐怖の体験が真のものではなかったと知り、私はほっと溜め息を吐いた。
しかし、それは今確かに体験した現実ではなくとも、
私自身の心には過去の現実として刻み込まれている。

616N2:2004/06/15(火) 15:04



私の父は、国会議員だった。
地元民の圧倒的な支持を得て、父は『国』の一部になった。
私はそんな父が誇らしかった。

母は私が生まれてすぐ、病気で亡くなったと聞く。
だから私は、母を写真でしか知らない。
父と写る母は、とても幸せそうに、穏やかな笑みを浮かべている。
私は決して手に入れられない、母の優しさに飢えていた。

父は非常に生真面目な人間だった。
物事の道理に敵わないものは、頑として拒絶した。
例え相手が自分よりも年上であれ、目上であれ。

結果、父は敵を増やした。
地元民の利益よりも国益を優先し、露骨な活動を続けた結果、
期待を裏切られた支持者達はその怒りの矛先を私に選んだ。

学校で親の差し金としか思えぬいじめの数々。
謂れの無い誹謗・中傷など受けなかった日を思い出すことが出来ない。
暴力を受けずに過ごせた日など、あっただろうか。

父はそんな私をいつも励ましてくれた。
大丈夫だ、気にすることはないと。
そして大きな腕で、私を抱きしめてくれた。
でも、私は幼心に思っていた。
本当なのか、と。

父は私が大学在学中に死んだ。
まだ若すぎる死だった。
葬式では、一度も会ったことの無い親族が上辺だけのお悔やみを述べ、
遺産を全てかっさらっていった。
私はこの時初めて父の世間での評価を体感したと言っても良い。

その日からである。
あの悪夢を見るようになったのは。
私を殴り、蹴り、蔑み、そして見捨ててゆくものども。
そしてそんな私を無関心に置き去りにしてゆく父。
勿論、父は生前私にそのような仕打ちをしたことは一度として無かった。
それでも私の妄想は、実体験した現実の過去よりも真実であった。

『彼』に走ったのも、それが一番の原因だったのだろう。
私に優しく、父親のように暖かく接してくれた『彼』。
私は彼を本気で愛した。
それは、本気で愛されたかったから。
でも、私には完全な「Only One」であった『彼』にしてみれば、
私は「One of 数ある遊び相手」でしかなかったのだ。
『彼』は私を捨て、私はまた一人になった。

『愛が、欲しい』
今の私には、それしかなかった。
新しい恋人が欲しい、とかそんな事ではなく、
それが私の今生きる唯一の理由でもあった。

617N2:2004/06/15(火) 15:05



 ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆



いつも通り、何も変わらぬ日常がスタートした。
いつも通りの朝会、いつも通りのつまらない会議。
しかし、そんな中に唯一つ明確な変化があった。
熊野がまだ戻らない。
既に失踪から1週間近くが経っても、何の進展も無いと言う。
熊野は一体、どこへ消えてしまったのか?
真相は闇の中だ。

「熊野さん…まだ戻らないらしいわね。
昨日もご両親が学校までお出でになっていたわ」
隣からモネ姐がどことなく沈んだ声で話してきた。
何だかんだ言ってもモネ姐と熊野の付き合いは結構長いらしい。
憎たらしい相手ではあるが、そんな奴でも突然姿を消せばモネ姐でも心配になるようだ。

…二度と戻って来なくても良い。
私は、しかし残酷にも自然にそう思っていた。

「ええ、そうらしいですね」
私は本心を隠してそう返事をした。

「…こういう事言うのも何だけど、熊野さんやっぱり何かあったんじゃないかしら?
最近集団失踪事件がここまで大事になっているんだし、何か事件に巻き込まれたとしか…」
ちなみに、この時点で失踪者数は既に200人を超えていた。
連日町内では全国ネットのTV局クルーが最新情報を求めて町内を慌しく駆け回っている。

「かも…分かりませんね。
でもこればかりは気を付けようがありませんから、もし本当にそうだとしたらお気の毒としか…」
この時、失踪事件は新たなる段階へと突入していた。
外出中の人だけでなく、一家全員が丸ごと一晩の内に消えてしまうというケースが現れたのだ。
こうなると、最早集団登校とか休校とかでは対処出来なくなる。
当然国のお役人さんとか警視庁の公安当局だかが直々にお出でになって調査しているようだが、
進展という進展は全く見られていなかった。

618N2:2004/06/15(火) 15:06



「えー、皆さんお早う御座います。
今日も皆さんお元気なご様子で…と言いたいのですが、
今日も熊野先生はお休みのようですね…」
初ケ谷校長の話が始まった。
今日も話の始まりは熊野についてである。
しかし、今日の話はこれまでのものとは趣旨が違った。

「さて、熊野先生が失踪されてから今日で丸一週間が経ってしまいました…。
我々としては先生の一日も早い復帰を…まあ…願わなくてはならない訳ですが、
いつまで先生がすぐに戻って来るとの見込みをあてにしているだけでも色々と問題が御座いまして」
あれでも熊野は校内の様々な事務を受け持っていた為、
奴が消えたお陰でそのつけは我々に降りかかって来た。
正直なところ、人手がもう一人だけでも欲しいと皆が思っていただろう。

「それで、突然の話ですが今日から非常勤講師の方がいらっしゃることになりました。
まだお若いですがどうやら相当優秀な方だそうなので、
まあ皆さんとにかく仲良くして下さいね」
突然の校長の宣言には、我々全員が驚いた。
普通、そういう人が来るのであれば前以って連絡するのが普通であろう。
それが当日朝に発表されるなんて話、聞いたことがない。

「何とも無茶苦茶な話ですね…。
本当にそんな事で大丈夫なんですかね?」
私はちょっとニヤつきながらモネ姐にそう言った。
昨日の今日で決まったような話では、どこまでその非常勤講師も当てになるか分からない。

「あら、そう? それだけ急に決まる位優秀な先生かも知れないじゃない。
…それに、『まだ若い』って…!楽しみじゃない…!!」
モネ姐は私よりも更にほころんだ顔をしていた。
ああ、この人もこういう趣味があるのか、と私は始めて思い知らされたと同時に、何だかがっかりした。

「そんな、第一まだ男だとも言われてないのに期待してて…」
私は軽い軽蔑の意も込めた薄ら笑いをして、
机の上に乗せたカバンから荷物を取り出しながらそう言おうとした。
その時、校長が私の言葉を遮るように叫んだ。

「それじゃあ、入ってきて貰いましょう。
どうぞー!」
校長に呼ばれ、職員室の扉が開く。
私はその様子に興味を示すことなく、必要なものを机の上に置いてゆく。

「おお……!」
「カッコいい…!」
どこからともなく、そんな呟きが聞こえてくる。
しかしその時の私には、ノートの間に隠れた筆箱の行方の方が大事だった。

どよめきを掻い潜り、乾いた足音が少しずつ近付いて来る。
そしてそれは校長の辺りで止み、今度は若い男の声が届いた。

「本日からこちらで働かせて頂くことになりました、毛利と申します。
経験不足故に皆様にはご迷惑をお掛けすると思いますが、どうかよろしくお願いします!」
ハキハキして活き活きとした、力の有る男の声。
それに呼応して、職員室内には盛大な拍車が巻き起こった。
私もそろそろ何事かと思い、いい加減その男の姿を見ることにした。

619N2:2004/06/15(火) 15:08



驚愕、としか言いようがなかった。
長い美しい髪に、整った極めて美しい顔立ち。
そして全身から醸し出される知性的な空気。
そこには、完璧な美が存在した。

「えー、では親睦を深める為にこれから先生へいくつか質問してみることにしましょう。
どなたか質問のある方は?」
熱気が冷め止まぬ内に校長がそう言うと、早速神尾先生が手を上げた。

「あの、えっと、猫田先生はどちらの大学を出てらっしゃるんですか?」
いつもは強気な彼女が珍しくモジモジしている。
下心は丸見えだ。

「…東京ギコ大学です。
それと、私は猫田じゃありません。毛利です」
不機嫌そうに毛利先生は言う。
だか彼のそんな気も知らず、周囲からは、おお、という溜め息が漏れた。

「え…っと……、次は私から………」
神尾先生よりも更に恥ずかしそうに、静川先生が手を上げる。

「あの……犬飼先生は…今…おいくつなんですか……?」
静川先生と今一番年が近いのは私である。
この間の一件があったとは言え、年下の女とでは流石に友達にはなりにくい(無論、彼にとってはの話だが)。
彼も年の近い仕事仲間が欲しいのだろう。

「…今年で23になります。
それと、私の名前は犬飼でもありません。毛利です」
彼の言葉に私はかなり度肝を抜かれた。
まさか、私よりも年下だなんて。
若いとは言っても、まさかここまでだとは思わなかった。

「……凄い…! それじゃあ大卒で教務員試験を一発合格したんですか…!?
…凄いなぁ……。僕なんて3年も落っこちてようやく先生になれたから……。
あ…あの……、これから仲良く…して……下さい…」
静川先生は完全に赤くなってしまった。
でも、彼なりには精一杯やったのだろう。
私達の中には、そんな彼を馬鹿にする者はいなかった。

「…ええ……考えておきます…。
名前さえ覚えて下されば……」
そして毛利先生は再び名前を間違われたことでそろそろ頭に来ているようであった。
だが、そこに更なる一撃が加わった。
それをしたのは八木先生だった。

「えーと、海老沢先生…っしたっけ?
海老沢先生はどちらの出身なんっすか?」

そこに質問された訳でもない先の二人が反撃する。
「ちょっと、八木先生! この人は猫田先生ですが、なにか?」
「あ…あの…、この人は犬飼先生だから……」

そう言われて、八木先生も頭に来たのか二人を怒鳴りつけた。
「馬鹿言うんじゃねえ! この人は海老沢先生だッつーの!」


「…毛利です…毛利…」
大乱闘にまで発展した三人を恨めしそうに眺めながら、毛利先生はそう呟いていた。

620N2:2004/06/15(火) 15:09

「まあまあ、そう気を落とさないでくれよ。
俺だって名前のことでいつも苦労してるんだからさ」
そんな毛利先生に鳥井先生が優しく声を掛ける。
同じ悩みを持つ者を放っておけないのだろう。

「すみません、余計な心配をお掛けして。
これからもよろしくお願いします、鳥井先生」
…あ、言ってはいけないことを…。

予想通り、ペチューンという勢いのある音が辺りに響き渡った。
何をされたのか分からない毛利先生と、顔に青筋を立てている鳥井先生。

「なんだよ!人の痛みがわかるやつだと思ってたら期待を裏切りやがって!
苗字で呼ぶなコラァ!」
鳥井先生は結局そのままドンチャン騒ぎを続ける三人の横を素通りして、そのまま机に戻ってしまった。
そろそろいい加減にしないと毛利先生がマジ切れしそうだ。

「え…えっと…それじゃあとりあえず毛利先生には熊野先生の席を使って貰いましょう」
差し迫った事態に危機感を覚え、校長が強引に話を締め出した。
毛利先生もそれに静かに頷く。

(ほら、言わんこっちゃないわ、いい男じゃない!)
モネ姐が子供のように無邪気な笑みを浮かべて機嫌良さそうに言った。
…この人にも、こんな一面があったのか。
呆れた私は荷物を出し終えたカバンを机の下へと潜り込ませ、
1時間目の算数の仕度を始めようと立ち上がった。
と、そこへ、何も前触れも無しに毛利先生が歩み寄ってきた。

「始めまして。椎名先生ですよね?」
柔和な笑みを浮かべて毛利先生が挨拶してきた。

「…ええ、はい。そうです。
これから、よろしくお願いしますね」
過剰なまでに親しみの込められた言葉に、私は同じ様に親しみを込めて返すことが出来なかった。
馴れ馴れしさにどこか不気味さを感じていたのであろうか。
しかし、毛利先生はそんな私の気も知らず、何か考えているような面持ちで
私の顔をじっと見つめていた。

「あの…以前お会いしましたっけ?」
彼の表情は、まさにそういう経験をした人のそれである、と考えた私は
思い切って彼にそう尋ねてみた。

「いや、今日こうして会うのが初めてです」
彼はあっけらかんとした感じであっさり言い切った。

「…そうですか…」
では、彼は一体何を考えているのだろう。
逆に考え始めてしまった私の耳に、私だけに聞こえる声で、
思いも寄らぬ言葉が飛び込んできた。

(ただ、貴女はとても美しい、と思いまして)

思考が混乱し、立ち尽くす私をよそに、毛利先生はそのまま元熊野の席へと静かに歩き始めた。
ただその場に呆然と静止している私に、モネ姐が心配そうに尋ねてきた。
「ちょっと椎名先生どうしたの?
顔赤いみたいだけど、どっか具合でも悪いんじゃない?」

左耳から入る声はそのまま右から抜けていったが、私の意識は歩く彼の姿を完全に認識していた。
突然の、告白。
何故?どうして?
恥ずかしさと疑問と性的興奮がぐるぐると全身を巡り続ける。
私には暫くの間、この1分ちょっとのやり取りで交わされた彼との言葉を頭の中で渦巻かせることしか出来なかった。

  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

621N2:2004/06/15(火) 15:10

何故前回こいつらだけ見落としていたのか…。

              、 l ,シャイタマシャイタマ !
             - (゚∀゚) -
                 ' l ` ∧∧
             ∧∧ ヽ(゚∀゚)/シャイタマ !
    シャイタマ〜 ! ヽ(゚∀゚)/  | |
                vv     W

NAME シャイタマー

擬古谷第一小学校に9月付けで転校してきた小学1年生。
クラスは3組(担任は椎名)。
理由は不明だが3人は血の繋がりもないのにいつも一緒に生活し、
本来別々のクラスに入るべきところを各々の親までもが強く希望したことにより
特例で同じクラスに入ることとなる。
3人は生まれついてのスタンド使いではないが、ずっと一緒に暮らしている内に
いつの間にか全く同じスタンドが発現してしまった。
それが種族的な理由なのか、はたまた前世の因縁なのかは誰にも分からない。

擬古谷町には夏休みの内から来ていたが、そこで『もう一人の矢の男』に
スタンド能力を見出され、亡霊に取り憑かれて洗脳される。
とは言え元々も子供だし取り憑いたのも子供の霊だったので
殺人などの凶行に及ぶことはなかったが、
主人の命によって標的であるギコ屋達に対しては一切容赦しなかった。

622N2:2004/06/15(火) 15:11
1/11

/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
|  地獄の底から甦った、ギコ兄教授の何でも講義。
\__  _________________
━━━∨━━━━━━━━━━━━

      どんどんいくでー

                ∩_∩
━|;;::|∧::::... /━━━━━ |___|F━━  ∧∧
  |:;;:|Д゚;) / ∇      (・∀・ #)      (゚Д゚,;)
  |::;;|;│つ::..┌─┐   /⊂    ヽ   /⊂  ヽ
  |::;:|;;;|:::.::::::.|□|  √ ̄ (____ノ √ ̄ (___ノ〜
  |:;::|::U.:::::::::|   |  ||   ━┳┛  ||   ━┳┛
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|   | ====∧==========
    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
    | だからさ、こりゃ一回ポッキリで終わりじゃなかったのかと小一時間(ry
    \____              ∧
         / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
         |  ちゃんとそれなりの理由があるんだろうな?
         \________________

2/11

/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
|  理由は簡単、絶賛の声が有ったからだ。
\__  _________________
━━━∨━━━━━━━━━━━━

 421 名前: 新手のスタンド使い 投稿日: 2004/05/23(日) 17:10

 ワロタ。N2氏乙!

 ※スタンド小説スレッド3ページより抜粋
                ∩_∩
━|;;::|∧::::... /━━━━━ |___|F━━  ∧∧
  |:;;:|Д゚;) / ∇      (・∀・ #)      (゚Д゚#)
  |::;;|;│つ::..┌─┐   /⊂    ヽ   /⊂  ヽ
  |::;:|;;;|:::.::::::.|□|  √ ̄ (____ノ √ ̄ (___ノ〜
  |:;::|::U.:::::::::|   |  ||   ━┳┛  ||   ━┳┛
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|   | ====∧======∧===
    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  ̄ ̄
    | 絶 対 こ れ 宛 じ ゃ な い ! !
    \__________________

623N2:2004/06/15(火) 15:12

3/11

/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
|  ま、雑談ばっかじゃ何の為の小説スレか分からんから
|  いい加減本題入るぞ。
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 考察・小説スレ各作品のサブタイトルについて

                ∩_∩
━|;;::|∧::::... /━━━━━ |___|F━━  ∧∧
  |:;;:|Д゚;) / ∇      (・∀・ #)      (゚Д゚,;)
  |::;;|;│つ::..┌─┐   /⊂    ヽ   /⊂  ヽ
  |::;:|;;;|:::.::::::.|□|  √ ̄ (____ノ √ ̄ (___ノ〜
  |:;::|::U.:::::::::|   |  ||   ━┳┛  ||   ━┳┛
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|   | ====∧==========
    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
    | そもそも先代したらばスレで小説スレを立てた上に
    | 小説スレでの文とAAの比は1:1とか言い出したのは
    | どこのどいつかと小(ry
    \____              ∧
         / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
         |  …で、こんな問題起こしそうな内容で何話すんだ?
         \________________

4/11

/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
|  ご存知の通り、小説スレ連載中のほとんどの作品には
|  サブタイトルが付いている。
\__  _________________
━━━∨━━━━━━━━━━━━

 各作者のシリーズ物作品一覧

 「モナーの愉快な冒険」:さ氏
 「合言葉はWe'll kill them!」:アヒャ作者氏
 「丸耳達のビート」:丸餅氏
 「救い無き世界」「EVER BLUE」:ブック氏
 「―巨耳モナーの奇妙な事件簿―」:( (´∀` )  )氏
 「スロウテンポ・ウォー」:302氏

                ∩_∩
━|;;::|∧::::... /━━━━━ |___|F━━  ∧∧
  |:;;:|Д゚;) / ∇      (・∀・ )      (゚Д゚,,)
  |::;;|;│つ::..┌─┐   /⊂    ヽ   /⊂  ヽ
  |::;:|;;;|:::.::::::.|□|  √ ̄ (____ノ √ ̄ (___ノ〜
  |:;::|::U.:::::::::|   |  ||   ━┳┛  ||   ━┳┛
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|   | ====∧==========
    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
    | 一応言っとくけど、小説スレ参加順に並んでるよ!
    \____              ∧
         / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
         |  ま、これが一番妥当だろうな。
         \________________

624N2:2004/06/15(火) 15:12

5/11

/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
|  ところが………
\__  _________________
━━━∨━━━━━━━━━━━━

 N2の連載中作品
 「モナ本モ蔵編」「逝きのいいギコ屋編」

                ∩_∩
━|;;::|∧::::... /━━━━━ |___|F━━  ∧∧
  |:;;:|Д゚;) / ∇      (・∀・ ;)      (゚Д゚,;)
  |::;;|;│つ::..┌─┐   /⊂    ヽ   /⊂  ヽ
  |::;:|;;;|:::.::::::.|□|  √ ̄ (____ノ √ ̄ (___ノ〜
  |:;::|::U.:::::::::|   |  ||   ━┳┛  ||   ━┳┛
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|   | ====∧==========
    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
    |         ……………あ。
    \____              ∧
         / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
         |  すっかり気が付かなかったぞゴルァ…。
         \________________

6/11

/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
|  では、どうしてこんな事になってしまったのか?
\__  _________________
━━━∨━━━━━━━━━━━━

   ちゃんと理由は存在するッ!

                ∩_∩
━|;;::|∧::::... /━━━━━ |___|F━━  ∧∧
  |:;;:|Д゚;) / ∇      (・∀・ )      (゚Д゚,,)
  |::;;|;│つ::..┌─┐   /⊂    ヽ   /⊂  ヽ
  |::;:|;;;|:::.::::::.|□|  √ ̄ (____ノ √ ̄ (___ノ〜
  |:;::|::U.:::::::::|   |  ||   ━┳┛  ||   ━┳┛
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|   | ====∧==========
    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
    |   あ、そうなの?
    \____              ∧
         / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
         |  是非ともお聞かせ願いたいもんだな。
         \________________

625N2:2004/06/15(火) 15:13

7/11

/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
|  長引かせたくないから表でまとめたが、1つ目はこれだな。
\__  _________________
━━━∨━━━━━━━━━━━━

  N2「モナ本モ蔵編」連載開始
     ↓
  さ氏、連載開始
     ↓
  N2「逝きのいいギコ屋編」開始
     ↓
  アヒャ作者氏「合言葉はWe'll kill them!」開始
     ↓
  さ氏、「プロローグ・〜モナーの夏〜」完結
  作品名「モナーの愉快な冒険」と命名
     ↓
  自分の作品のタイトルなんてろくに考えないまま月日が経過
     ↓
  みんなサブタイトル付いてる
     ↓
  (+д+)マズー

                ∩_∩
━|;;::|∧::::... /━━━━━ |___|F━━  ∧∧
  |:;;:|Д゚;) / ∇      (・∀・ )      (゚Д゚,;)
  |::;;|;│つ::..┌─┐   /⊂    ヽ   /⊂  ヽ
  |::;:|;;;|:::.::::::.|□|  √ ̄ (____ノ √ ̄ (___ノ〜
  |:;::|::U.:::::::::|   |  ||   ━┳┛  ||   ━┳┛
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|   | ====∧==========
    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
    |   要するにN2のミス、と…。
    \____              ∧
         / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
         |    言わずもがなでしょ…。
         \________________

8/11

/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
|  ところが、もう1つ理由がある。
\__  _________________
━━━∨━━━━━━━━━━━━

 N2が本編のあらすじ製作中にサブタイトルが無い作品を
 「○○編」としたことにより、本編関連のモ蔵は元より
 本編との絡みを予定しているギコ屋も
 サブタイトルを付けようなんて思わなかった

                ∩_∩
━|;;::|∧::::... /━━━━━ |___|F━━  ∧∧
  |:;;:|Д゚;) / ∇      (・∀・ ;)      (゚Д゚,;)
  |::;;|;│つ::..┌─┐   /⊂    ヽ   /⊂  ヽ
  |::;:|;;;|:::.::::::.|□|  √ ̄ (____ノ √ ̄ (___ノ〜
  |:;::|::U.:::::::::|   |  ||   ━┳┛  ||   ━┳┛
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|   | ====∧==========
    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
    | …でさ、結局何が言いたかったの?
    \____              ∧
         / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
         |  作者の意図が分からん…。
         \________________

626N2:2004/06/15(火) 15:14

9/11

/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
|  ま、言いたい事はこれだ。
\__  _________________
━━━∨━━━━━━━━━━━━

 サブタイトル無くても(゚ε゚)キニシナイ!!

                ∩_∩
━|;;::|∧::::... /━━━━━ |___|F━━  ∧∧
  |:;;:|Д゚;) / ∇      (・∀・ #)      (゚Д゚#)
  |::;;|;│つ::..┌─┐   /⊂    ヽ   /⊂  ヽ
  |::;:|;;;|:::.::::::.|□|  √ ̄ (____ノ √ ̄ (___ノ〜
  |:;::|::U.:::::::::|   |  ||   ━┳┛  ||   ━┳┛
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|   | ====∧======∧===
    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  ̄ ̄
    | 気 に し て い る の は お 前 だ け だ ! !
    \__________________

10/11

/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
|  お、そろそろ時間のようだな。
|  んじゃ、宿題はこれだ。
\__  _________________
━━━∨━━━━━━━━━━━━

 近日、剣士系(刀)のキャラを登場させる予定があるが
 いまいちナイスで強そうなキャラが見つからないので
 良さげなキャラを知ってたら報告すること

                ∩_∩
━|;;::|∧::::... /━━━━━ |___|F━━  ∧∧
  |:;;:|Д゚;) / ∇      (・∀・ ;)      (゚Д゚,;)
  |::;;|;│つ::..┌─┐   /⊂    ヽ   /⊂  ヽ
  |::;:|;;;|:::.::::::.|□|  √ ̄ (____ノ √ ̄ (___ノ〜
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    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
    |       …ちょっと待った。
    \____              ∧
         / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
         |  それ、俺達じゃなくて読者に言ってないか?
         \________________

11/11

━━━━━━━━━━━━━━━━

         ,. -─- 、   なんだ
       (⌒) ┃┃ ヽ-、   もんくあるか
    .rt-;ヘ! ゙:,'' ∇ '' !‐'
   .,rl. | ! !  _,ヽ_,.ノ‐、
   ヽ!_f_i_,」‐´ _ ̄)ー‐ '

                ∩_∩
━|;;::|∧::::... /━━━━━ |___|F━━  ∧∧
  |:;;:|Д゚;) / ∇      (・∀・ #)      (゚Д゚#)
  |::;;|;│つ::..┌─┐   /⊂    ヽ   /⊂  ヽ
  |::;:|;;;|:::.::::::.|□|  √ ̄ (____ノ √ ̄ (___ノ〜
  |:;::|::U.:::::::::|   |  ||   ━┳┛  ||   ━┳┛
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|   | ====∧======∧===
    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  ̄ ̄
    |        待 て ッ ! !
    \__________________


  /└─────────┬┐
. <   To Be Continued...?  | |
  \┌─────────┴┘


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