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スタンド小説スレッド3ページ

1新手のスタンド使い:2004/04/10(土) 04:29
●このスレッドは『 2CHのキャラにスタンドを発現させるスレ 』の為の小説スレッドです。●

このスレでは本スレの本編に絡む物、本スレ内の独立した外伝・番外編に絡む物、
本スレには絡まないオリジナルのストーリーを問わずに
自由に小説を投稿する事が出来ます。

◆このスレでのお約束。

 ○本編及び外伝・番外編に絡ませるのは可。
   但し、本編の流れを変えてしまわない様に気を付けるのが望ましい。
   番外編に絡ませる場合は出来る限り作者に許可を取る事。
   特別な場合を除き、勝手に続き及び関連を作るのはトラブルの元になりかねない。

 ○AAを挿絵代わりに使うのは可(コピペ・オリジナルは問わない)。
   但し、AAと小説の割合が『 5 : 5 (目安として)』を超えてしまう
   場合は『 練習帳スレ 』に投稿するのが望ましい。

 ○原則的に『 2CHキャラクターにスタンドを発動させる 』事。
   オリジナルキャラクターの作成は自由だが、それのみで話を作るのは
   望ましくない。

 ○登場させるスタンドは本編の物・オリジナルの物一切を問わない。
   例えばギコなら本編では『 アンチ・クライスト・スーパースター 』を使用するが、
   小説中のギコにこのスタンドを発動させるのも、ギコにオリジナルのスタンドを
   発動させるのも自由。

 ★AA描きがこのスレの小説をAA化する際には、『 小説の作者に許可を取る事 』。
   そして、『 許可を取った後もなるべく二者間で話し合いをする 』のが望ましい。
   その際の話し合いは『 雑談所スレ 』で行う事。

367:2004/05/19(水) 17:01

「―― モナーの愉快な冒険 ――   そして新たな夜・その6」



 レモナは高速で飛翔していた。
 そのスピードは、すでに音速に達している。
 前方に、F−22が2機。
 ようやく追いついたようだ。

「さぁて…」
 レモナは、2機のF−22の動きをチェックした。
 航空機における最小戦術単位は、2機編隊である。
 1機がリーダーで、もう1機がウィングマン(寮機)として後方からの援護を行うのが普通だ。

「…リーダーはあっちね」
 レモナは並走して飛ぶ2機の内、片方に狙いをつけた。
 両機とも、高速接近してくるレモナの存在は感知しているはず。
 一般に、空戦においては背後をとった方が優勢。
 その点で、レモナは多少有利と言える。
 だが、まだ距離が遠い。
 仕留めるには距離が開きすぎている。

 向こうはどう出てくるか。
 得体の知れない追撃者に恐れをなし、この場から離れるか。
 それとも、仕掛けてくるか…

 2機の高度が上昇し始めた。
 高度を稼ぐためには、速度を犠牲にする必要がある。
「最適な上昇率。やる気みたいね…」
 レモナは呟いた。
 どうやら、向こうに逃げる気はないらしい。

 リーダー機が大きく旋回した。
 その速度が大きく落ちる。
「…今ね!」
 レモナは、高速でリーダー機に接近した。
 そして、リーダー機とウィングマン機を結ぶ直線上に占位する。
 これでウィングマン機はレモナに攻撃できない。
 リーダー機を巻き込む可能性が高い為だ。

 レモナに対して、完全に正面を向くリーダー機。
 F−22の固定兵装であるバルカン砲が稼動し始めた。
 通常なら、この距離でバルカン砲を掃射されれば勝負は決まる。

「もらった…!!」
 それにもかかわらず、レモナは呟いた。
 さらに接近速度を上げる。
 F−22リーダー機の間近まで…

 リーダー機のバルカン砲が火を噴いた。
 レモナは、臆する事なく突っ込んでいく。
 バルカン砲は、最大発射速度に達するまでに0.3秒を要する。
 そして、その速度に至るまでは弾道が安定しない。

 ――0.3秒。
 通常の戦闘機相手なら、問題にもならない時間。
 だが『レモナ』という兵器を相手にするのに、その隙は大きすぎた。

「落ちろッ!!」
 レモナはバルカン砲をかわしながら、大腿部から対空ミサイルを発射した。
 リーダー機との距離、僅か50m。
 向こうに抗う術もない。
 避けるどころか、パイロットの脱出する時間すら与えられないだろう。

 対空ミサイルが、F−22リーダー機の胴部に直撃した。
 爆発炎上するF−22。
 主翼が折れ、胴部から離れる。
 その機体は紅蓮の炎に包まれ、そのまま失速していった。
 レモナの視界が火の赤に染まる。

「あと1機…!」
 残るF−22に向き直ろうとするレモナ。
 その瞬間、彼女は異常な電波を感じた。
「これは… アクティブ・レーダー!?」
 レモナはウィングマン機に素早く視線をやった。
 F−22の胴体内兵器倉からは、既にミサイルが突き出ている。

 次世代中距離空対空アクティブレーダー・ホーミングミサイル、AIM−120C。
 通称『AMRAAM(アムラーム)』。
 100%に近い命中率を誇る、脅威の対空ミサイル…!

「こんな近距離でロックオンしてくるなんて…!!」
 レモナは速度を上げた。
 同時に、AMRAAMがレモナ目掛けて発射される。
 超音速で接近してくるAMRAAM。

 F−22は、そのままレモナに並走している。
 AMRAAMは、機体から誘導する必要はないにもかかわらず。
「撃墜を最後まで見届けようってわけ…!?」
 レモナはさらにスピードを上げ、憎々しげに呟いた。
 その背後にAMRAAMが迫っている。
 AMRAAMのマッハ4以上もの速度と脅威の追尾能力は、レモナの運動性を大きく上回っているのだ。
 このミサイルから逃れるには、ミサイル自体を撃墜するより他に方法はない。

368:2004/05/19(水) 17:01

「当たれッ!!」
 大腿部から、対空ミサイルを発射するレモナ。
 その赤外線シーカーが、目標をロックした。
 レモナの放ったミサイルは、AMRAAM目掛けて高速直進する。
 ミサイル同士が激突する寸前、AMRAAMは大きく軌道を変えた。
 レモナが放ったミサイルを避けるように、左方に大きく旋回する。

「…かわした?」
 レモナは呟いた。
 AMRAAMには、迎撃ミサイルを避ける機能が備わっているのだ。
 彼女の放ったミサイルは、そのまま直進していった。
 レモナの間近にAMRAAMが迫る。

「ま、いいか… 相打ちだし」
 レモナは笑みを浮かべて言った。
 先程彼女が放ったミサイルは、AMRAAMの迎撃を目的にしたものではない。
 彼女の放ったミサイル『サイドワインダー』がロックしたのは、並走してくる敵機F−22である。

「最初にサイドワインダーがそっちのAMRAAMに向かったのは、ただの慣性移動。
 本当の狙いは、そっちよ…
 ミサイルにロックされてる私が、それを無視して敵機の方を狙うとは思わなかったでしょ?」
 レモナは、F−22を見据えた。
 その機体に、先程レモナが放ったサイドワインダーが迫る。

 レモナの身体に、AMRAAMが直撃した。
 マッハ4以上の動体の激突は、レモナの左半身を引き裂く。
 それに続く爆発をまともに喰らうレモナ。
 同時に、F−22ウィングマン機はサイドワインダーの直撃を受けた。
 F−22の機体は爆炎に包まれる。

 レモナの身体は失速していった。
 その目に、炎上しながら墜落するF−22の姿が映る。
「撃ってすぐに逃げてれば、自機撃墜なんてのは避けられたのにね…」
 落下しながら、レモナは呟いた。

 そのまま、レモナの体は地表に叩きつけられる。
 いかに頑丈なレモナの体とはいえ、AMRAAMの直撃と地表への激突衝撃には耐え切れない。
 各部が粉々に砕け、全身が四散した。
「…完全回復に、あと30分ってとこかしら…」
 頭部だけで、レモナは呟く。

 かなり離れたところで、大きな爆発が起きた。
「さっきのF−22か…」
 レモナは、爆発の起きた方向を見た。
 噴き出した炎が夜空を赤く染める。
 バラバラになった機体の破片が、周囲に散らばっているようだ。

「相打ちは相打ちだけど、その重みは全然違うわね…」
 レモナは呟く。
 撃墜した2機とも、パイロットが脱出した様子はなかった。

「さてと…」
 ダメージは大きい。しばらく、ここから移動できなさそうだ。
 レモナは周囲を索敵した。
 付近に航空機の類は全く見当たらない。
 脱出用のヘリが戦闘機によって撃墜される可能性は回避されたようだ。
 さすがに、2機のF−22以外の戦闘機は投入していなかったらしい。
「まあ、最強のF−22が2機とも撃墜されるとは思ってもみなかったでしょうけどね…」
 レモナは、そう呟いてため息をついた。

369:2004/05/19(水) 17:02



          @          @          @



 CH−47JA輸送ヘリが、空き地の真ん中に着陸する。
「まったく… どこが200mほど離れた地点なんだよ…」
 モララーは不満を込めて呟いた。
 首相官邸から200mほど離れた地点で、脱出用ヘリが待っている。
 官邸内で、リル子はそう言った筈だ。
 だが、ここは官邸から1kmは離れている。

「当初はそういう予定だったのですが、敵の数はこちらの予想を超えていました。
 用心の為、ヘリの着陸地点を遠ざける必要があったんです」
 リル子は表情を変えずに言った。
「いや、リル子さんに文句を言った訳じゃないからね!!」
 モララーは慌てて発言を撤回する。

「さて、急いで乗って下さい」
 局長は、要人たちに告げた。
 要人の列が、ヘリに向けて進み始める。

 ギコ達は、周囲に展開して目を光らせていた。
 ヘリに乗り込む時が、最も危ないと言われている為だ。
「どうだ、つー?」
 ギコは、敵意を感じ取ることのできるつーに呼びかけた。
「アア、ダイジョウブダ。500mイナイニハ、マッタク テキイヲ カンジネェ…」
 つーは言った。

「対空攻撃部隊には特に注意を払って下さい。離陸した瞬間に撃墜されでもしたら…
 私達は何とかなるにしても、要人は全員死亡ですからね」
 局長はギコ達に注意を促した。
 ヘリのタラップを駆け上がっていた要人の1人が、嫌そうな表情を浮かべる。

「全員、乗りました」
 リル子は局長に告げた。
「それでは…」
 局長が、ギコ達に呼びかけようとする。
 その瞬間、異常は起きた。

 ピシッという軽い音。
 ヘリの操縦席のガラスに、指先サイズの穴が開いた。
「…!?」
 局長は、操縦席の方に視線をやった。
 ガラスに、赤いものが粘りついている。
 それも、内側から…

「うわぁぁぁぁぁッ!!」
 操縦士の悲鳴が上がった。
 このヘリは、2人の操縦士を必要とする。
 操縦席のドアが開き、操縦士の1人が飛び出した。
「あ、相棒が撃たれたぁぁッ!!」
 操縦士は、叫びながらヘリから離れる。

「迂闊に動くんじゃない!!」
 局長は叫んだ。
「!!」
 ギコ達が身構える。
 その瞬間、外に飛び出した操縦士の側頭部に穴が開いた。
 身を反らせ、側頭部の穴から血を撒き散らしながら、操縦士は地面に倒れる。

「狙撃かッ…!!」
 ギコは周囲を見回した。
「コノ チカク ジャネェ!! モット トオクカラダ!!」
 つーは叫ぶ。
 第3撃はない。どうやら、狙撃は終わったようだ。

「…あそこからでしょうね」
 局長は、そびえたつ首相官邸を見上げた。
 一瞬、官邸の屋上に人影が見えたのだ。
 この距離から、ヘリ内部の操縦士を狙撃できるほどの男はただ1人。

「ソリッド・モナーク、先程のお返しという訳ですか…」
 局長は、首相官邸の屋上を凝視して呟いた。
 そこには既に人影はない。

「どうすんだ!? 操縦士が2人とも…」
 ギコは慌てる。
「私が何とかします。全員、ヘリに乗って下さい!」
 リル子は、開いているドアから操縦席に滑り込んだ。

「…?」
 困惑しつつ、ギコはヘリのタラップを駆け上がった。
 モララー、しぃ、つーが後に続く。
 全員がヘリに乗り込んだのを確認してから、局長はタラップを上がった。

「でも、どうするんだ…?」
 ギコは、操縦席に目をやる。
 リル子はシートに座ると、アタッシュケースを膝の上に置いた。
 そして、ケースから取り出したコードをヘリの操縦機器に繋ぐ。

「…管制システムとリンクしました。私のスタンドで動かせます」
 リル子は計器をチェックしながら言った。
「離陸します。多少揺れますので、注意して下さい」

 メインローターが回転し、ヘリの機体がゆっくりと浮かび上がる。
 そのまま、ヘリは北西の方向に移動し始めた。

370:2004/05/19(水) 17:02

「これで一息だね…」
 モララーが安堵のため息をついた。
「本当、緊張した…」
 しぃが呟く。
「まあ、ちょっと前まで女子高生やってた身分からすりゃ、パニック起こさなかっただけでも立派なもんだ…」
 『アルカディア』が、機体の内壁にもたれる。
「いや、今でも現役の女子高生なんだけど…」
 しぃは不服そうに呟いた。
 普段の調子が戻ってきたようだ。

 要人達も、やっと落ち着いたらしい。
 彼等の中の数人が、会話を交わしている。
 もっとも、蒼白のまま固まっている者も何人かいるが。

「…無線が入りました。レモナさんのようです」
 運転席のリル子は言った。
「レモナ? 俺が出る…!」
 ギコが操縦席に駆け寄った。
 そして、リル子の手から無線機をひったくる。

「おい、レモナ! そっちはどうだ!?」
 ギコは無線機に呼びかけた。
『ちゃんと2機とも落としたわよ。でも、こっちもダメージ食らって、しばらく動けないみたい』
 あっけらかんとしたレモナの返事。
「動けない…? 大丈夫なのか!?」
 ギコは大声で訊ねた。
『30分もしたら全快するわ。全然大丈夫』
 当のレモナは、平気そうに告げる。
 どうやら、本当に心配はいらないようだ。

「…そうか。で、合流はできそうか?」
 胸を撫で下ろしてギコは言った。
『そっちの機体を補足してるから、回復次第そっちに向かうわ。そっちの周囲にも、敵機はいないみたい。
 暇つぶしに周囲の電波を妨害しとくから、そっちのヘリが敵に補足される危険もないはずよ』
 レモナは告げる。
「…それは助かりますね。乗り換えの手間が省ける」
 横から聞いていた局長が言った。

『私の活躍、ちゃんとギコくんの口からもモナーくんに伝えといてね。じゃ、また』
 そう言って、通信は途切れた。
 ギコは、無線機をリル子に渡す。
「電波妨害は本当に助かりますね。F−22クラスの戦闘機に補足されれば、輸送ヘリでは流石に手も足も出ませんから」
 リル子は無線機を受け取って言った。

「…そのスタンドがあれば、何でも運転できるのか?」
 ふと気になって、ギコはリル子に訊ねる。
「ある程度の電気的アビオニクス(統制機器)を搭載している機体なら、問題はありません。
 自動車とか、機能の特化したシステムになると無理ですけど」
 リル子は、前方を向いて言った。
「ふーん、便利なスタンドだなぁ…」
 ギコは呟く。
「その代わり、本体が高度な情報処理能力を持っていないと使いこなせませんが。フフ…」
 リル子は、自慢とも取れるような事を口にした。

「それで、このヘリはどこに向かってるの?」
 モララーは、局長に訊ねる。
 ギコは局長の方に視線をやった。
「…秘密基地ですよ」
 局長はニヤリと笑う。
「ひ、秘密基地だって!?」
 その甘美な言葉の響きに、モララーが目を輝かせた。
「ええ。ASAと『教会』が激突した時の拠点として用意していたんですが、こんな時に役に立つとはね…」
 局長は窓の外を見下ろして言った。
「あと20分で到着します。それまで、ゆっくり休んでいて下さい…」

371:2004/05/19(水) 17:03

 ヘリは、あるBARの駐車場に着陸した。
「店の規模の割りに、デカい駐車場だな…」
 ギコが呟く。
「ええ。ヘリが着陸できるようにね」
 そう言って、局長はヘリから降りた。
「さてみなさん、降りますよ…」

 ギコや要人達が、ぞろぞろとヘリから降りる。
「監視衛星とか、大丈夫なのか?」
 ギコは局長に訊ねた。
 駐車場にこれだけ人が集まれば、衛星にキャッチされても不思議ではない。
「問題ありませんよ」
 局長はそう言って、BARに向かって歩き出した。
 全員が後に続く。

 局長は、立派な木製のドアを開けた。
 カランカランと鐘の音が鳴る。
「BARぃょぅにようこそだょぅ… あっ、お帰りだょぅ」
 マスターらしき人物は、局長の姿を見て言った。

「要人奪還は成功しましたが… 米軍まで出張っていましたよ。厄介ですねぇ…」
 そう言いつつ、局長はつかつかとカウンターに歩み寄った。
 そして、カウンターの中に入る。
「米軍と自衛隊が共同で動いているとなると、政治的取引も難しくなるょぅ。
 米国も、スタンド使い排斥に動いているのかょぅ…」
 マスターらしきぃょぅは表情を曇らせる。
 そして、入り口に立つギコ達を見た。
「ギコ君達の事は、局長から話は聞いてるょぅ。そんな所で突っ立ってないで、中に入るょぅ」

「お、お邪魔します…」
 しぃは困惑しながら告げた。
 こういう店に入るのは初めてなのだろう。
「君も、公安五課の人?」
 モララーはぃょぅに訊ねた。
 ぃょぅは頷く。
「君の事は、バーテン仲間から聞いているょぅ。カツカレーは無ぃょぅ」
「ちぇっ…」
 モララーは視線を落とした。

 カウンターの中にいる局長が、大きな業務用の冷蔵庫を開ける。
「じゃあ、この中に入って下さい」
 局長はギコ達の方に振り返って告げた。

「…!?」
 ギコは困惑した。
 これは、どういう嫌がらせだ?
 だが冷蔵庫の中を良く見ると、地下へ続く階段のようなものが見える。

「…なるほど。それが秘密基地の入り口って訳か」
 ギコは言った。
 局長は頷くと、冷蔵庫の中の階段を降りていく。
 ギコ達が後に続いた。
「要人の皆さん方も、中にどうぞだょぅ」
 ぃょぅはカウンターをフルに開けると、要人達に言った。
 自分自身は降りないようだ。

 要人の最後列の人が、冷蔵庫の中に消えていく。
 ぃょぅはそれを確認して、冷蔵庫の扉を閉めた。
 ただ1人残った女が、カウンター席に座る。

「…ウォッカ・マティーニ」
 リル子は、ぃょぅに告げた。
「…大変だったみたいだょぅ」
 ぃょぅはため息をつきながら、背後の棚を開ける。
「でも、飲み過ぎは良くないょぅ。店内で暴れるのは、もう勘弁してほしいょぅ…」

372:2004/05/19(水) 17:04



          @          @          @



 長い長い階段を降りるギコ達。
 階段自体は、しっかりとしたものだった。
 だが照明が薄暗いので、足元がどうも不安である。
 降りるにつれ、空気が薄くなっていく感じ。
 無論、錯覚であることをギコは理解している。

 ようやく、階段の終わりが来たようだ。
 地下5階分は降りたであろう。
「公安五課、秘密基地へようこそ!」
 局長は振り返ると、仰々しく告げた。
「…その恥ずかしいネーミングはどうにかならないのか?」
 ギコは呆れて言った。
 もっとも、モララーは気に入っているようだが。

 ――だだっ広い事務所。
 そういう表現が、一番当て嵌まるだろう。
 部屋内に多くのデスクが並び、電話機やPCが備え付けられている。
 20人程度なら、余裕で収容できる広さはあるようだ。
 天井も高く、床は綺麗である。
 だが、地下特有の息苦しさは消えてはいなかった。

「窓がないってのは、落ちつかねぇな…」
 ギコは呟いた。
 モララーは、少し肩を落としている。
 おそらく、彼の脳内の秘密基地のイメージと違ったのだろう。
「結構、広いんだね…」
 しぃは感心したように呟いた。

 局長は、要人達の方を振り返る。
「皆さんには、しばらくここで暮らして頂きます。
 皆さんは今や完璧なお尋ね者ですから、なるべく外出は控えて下さい。
 地下である為、不便な点はありますが… 命の危険がない分、首相官邸よりはマシでしょう?」

「…仕方ないな。中央を追われた身はこんなものか」
 首相が嘆息する。
 要人達は、部屋中に置かれた椅子に腰を下ろした。

「先行きはどうなると君は考えている?」
 パイプ椅子に腰を下ろした官房長官が、局長に訊ねた。
 局長は僅かに表情を曇らせる。
「私の当初のプランでは…
 皆さんを保護した上でマスコミに働きかけ、自衛隊が独断で動いている事を明らかにするつもりでした。
 その上で国連に働きかけ、自衛隊の暴走を止めさせようとね」

 首相は口を開いた。
「君も見ての通り、米軍が派遣されている。アメリカ本国もスタンド使いの排除に乗り気だ。
 それだけではないね。他の国も、ASA及びスタンド使い打倒に動いていると見ていい。
 各国首脳、よほどスタンド使いの存在に手を焼いてたんだろうな…」
 そう言って、笑みを見せる首相。

「でも、スタンド使いだからって悪いことするとは限らないのに…」
 しぃは言った。
「国家を転覆させるだけの力を持つ者というのは、その存在だけで国家にとって毒なんだよ。
 当人の意思にかかわらずね…」
 要人の1人は、しぃを諭すように告げる。

 局長は口を開いた。
「とにかく、状況が違ってきています。
 常任理事国であるアメリカがスタンド使い排斥に動いている以上、国連決議に頼ったところで結果は見えている。
 やや手詰まりの感がありますね…」
「…」
 要人達は、揃って沈黙した。
「フサギコ…、やってくれますね。暴走しているように見えて、根回しは完璧だったとは…」
 局長は呟く。

373:2004/05/19(水) 17:05

「これもオヤジのせいだ。すまねぇ…」
 ギコは要人達に頭を下げた。
 この状況は、全て彼の父親が引き起こした事なのだ。
 しぃは、ギコの複雑な心中に気付いた。

「君は… フサギコ統幕長の御子息なのかね…?」
 首相はギコに視線をやった。
「…ああ」
 ギコは頷く。
 それを聞いて、首相はため息をついた。
「…頭など下げんでいいよ。こっちが悲しくなる。
 私の孫のような年齢の君が、親の責任まで抱え込む事はない」

「ギコ君…大丈夫だよ」
 しぃは、肩を落としているギコに呼びかけた。
 官房長官が口を開く。
「そこの娘さんの言う通りだ。軍人のクーデターで揺らぐほど、我が国は軟弱じゃない。
 50年に渡って中央政権に君臨し続けた与党の力、奴らに思い知らせてやるさ」
「そうですよ、ギコ君。責任論は事態が収拾してからでいい。今は前を向く時です」
 局長は、珍しく他人を思いやる旨の言葉を口にした。

 思いの他、要人達は協力的であるようだ。
 首相官邸に監禁されている間に、かなりの鬱憤が溜まっていたらしい。
 自衛隊員に銃を突きつけられる中、団結心も芽生えていたのだろう。
 彼等は、先の事について協議し始めた。

「まず外交ルートを駆使して、どれだけの国が自衛隊に賛同しているか調査する必要があるな…」
 外務次官が口を開く。
「相当数の筋は向こうに抑えられているだろう。意向を聞き出すだけで一苦労だな」
 官房長官がため息をついた。
「この年まで官僚をやってきたんだ。信頼できる独自のルートなんていくらでもある」
 そう言って、自身ありげに頷く外務次官。
 局長は、要人達に告げた。
「では、皆さん方は現状把握の方をお願いします。くれぐれも軽率な行動は慎むようにして下さい」

「マア、オレタチニハ カンケイナイ ハナシ ダケドナ…」
 つーは、大きなソファーに座り込んで言った。
 ギコは複雑な思いを抱いているだろうが、彼ら自身はあくまで助っ人なのだ。

「…ところが、そうは行きませんよ」
 局長は笑みを浮かべて言った。
「素顔をさらして首相官邸に乗り込んだんですから、簡単に素性が割れるでしょう。
 君達も、立派なお尋ね者ですよ。 …まあ、一蓮托生で頑張っていきましょう」

「テメェ! ハメたな!!」
 ギコは怒鳴った。
 思えば、それは当然の成り行きなのだ。
 ギコは、そんな事が見抜けなかった自分自身を反省した。

「じゃあ、僕達もしばらくここで暮らせってこと!?」
 モララーは局長に詰め寄った。
「…ええ。そうなりますね」
 局長はあっさりと認める。
「皆さんの家には、今頃は自衛隊員か米兵が詰め掛けているはずです」

「どうしよう…!! 家には、お母さんと妹が!!」
 しぃが悲壮な声を上げた。
「僕も、家にパパとママと妹がいるんだよ!?」
 続けてモララーも叫ぶ。

 局長は無線機を取り出すと、何やら操作した。
「心配は無用ですよ。既に公安五課が身柄を保護して…いない!?」
 局長は珍しく驚きの声を上げた。
 そして、無線機に語りかける。
「どういう事です!? …先に保護? 一体誰が…」

 しぃが、泣きそうな顔で局長を見つめている。
 局長は慌てて言った。
「いや、保護されているのは確かなようです。それが、公安五課の手によるものではないだけで…」

「おいおい、何だそりゃ。とんでもねぇ不手際だな…」
 ギコは怒気をはらんで言った。
 家族を保護するような人員をあらかじめ配置していた以上、全ては局長の予想通りと言ったところだろう。
 この男は、あらかじめ自分達を巻き込むつもりでいたのだ。その結果の不手際である。

「保護したのはASAって事はないの…?」
 モララーは焦りながら言った。
 流石に、彼も家族の事が気に掛かるようだ。

「その可能性は高いでしょうね。張り込んでいた局員も、ASAのスタンド使いの姿を見たと言っています。
 彼らも、自衛隊の動向に目を光らせているはずですし」
 局長は言った。
 しぃとモララーは、とりあえず胸を撫で下ろす。

374:2004/05/19(水) 17:06

 突然、内線電話が鳴った。
「…どうしました?」
 局長は受話器を手に取る。
『レモナさんと言う方が来てるょぅ。地下に案内していいかょぅ?』
 電話の向こうで、ぃょぅは告げた。
「ああ、もう着いたんですか。構いませんよ」
 局長はそう言って、受話器を置く。

「ヤレヤレ。メンドクセェ コトニ ナッチマッタナ…」
 そう言いつつも、つーは少し楽しそうである。
 これから、暴れる機会が増える事を予期しているのだろう。

「皆さんのロッカーも用意してありますよ」
 局長は、部屋の端を示した。
 大きなロッカーに、『ギコ』、『モララー』といったネームプレートが貼られている。
「…そんなもんまで用意してやがったのか。最初から、とことん抱き込む気だったんだな」
 ギコは、もう文句を言う気力もない。
 つかつかとロッカーに歩み寄ると、その中にM4カービンを仕舞った。

「女性の方には、ロッカーの代わりに個室を用意してあります。いろいろ大変でしょうからね…」
 局長は告げる。
 しぃは安心したような表情を浮かべた。
「…オレハ?」
 性別不詳であるつーは訊ねる。
「フレキシブルに対応できるよう、貴方には個室とロッカーの両方を用意していますが…」
 局長はそう言って腕を組んだ。

 しぃは、壁にかけられた時計を見る。
 午前6時。そろそろ明るくなる頃だ。
「モナー君達は大丈夫かなぁ…」
 しぃは呟く。
「心配はいらんだろ。ASAの奴等もついてるんだし」
 ギコは腕を組んで言った。
 彼らにも、この場所を連絡してやる必要があるな…

「まあ今頃、大海でバカンスを楽しんでるんだろうが…」
 ギコはそう言ってため息をつく。
 そんなはずがない事は、誰もが分かっていた。
 彼等は… 大丈夫なのだろうか。

「あんまり遅いようなら、少し様子を見に行ってやるか」
 ギコは言った。
「私も行く〜!!」
 いつの間にか来ていたレモナが口を挟んだ。
「オレモ!オレモ!」
 つーがはしゃぐ。
「おいおい、遊びに行くんじゃないんだ。それに、多人数で行くとここの守りが不安だろ?」
 ギコは2人を諌めた。
「それに、あくまで帰りが遅かった時の話だゴルァ」

 ギコは、広い部屋内を眺めた。
 要人達の多くは、電話機を手にして何かをしゃべっている。
 家族への連絡か、調査等の依頼や命令か…

 ギコはソファーに座り込むと、額に手を当てた。
 ヘリの中で、局長からモナークの話を聞いた。
 要人暗殺が目的だったにしては、腑に落ちない事が多すぎる。
 彼は、何者だ?
 あそこで、何をしていた?
 ギコは自問した。

 ――『教会』の影。
 そう。最も不気味な組織が、未だに表舞台に現れていないのだ。
 …奴等は何を企んでいる?

「…まあ、モナー達も大丈夫だろ」
 ギコは、言い聞かせるように言った。
 まるで、自身に根付いた嫌な予感を払拭するように。



  /└────────┬┐
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  \┌────────┴┘

375:2004/05/21(金) 23:28

「―― モナーの愉快な冒険 ――   吹き荒れる死と十字架の夜・その1」



 ASA第14艦隊、旗艦『フィッツジェラルド』。
 しぃ助教授は、その艦のブリッジから窓の外を眺めていた。
 眼下には真っ暗な海がどこまでも広がっている。
 遥か前方に、ありすが艦長のイージス艦『ヴァンガード』の姿がうっすらと見えた。

「…モナー君の様子は?」
 しぃ助教授は、外に視線をやったまま丸耳に訊ねる。
 後ろに控えていた彼は、素早く口を開いた。
「ねここの報告では、大人しく部屋で眠っているようです。
 どうやら、1日か2日でこの任務が終わると思い込んでいたとか…」

 しぃ助教授は微笑んだ。
「…モナー君らしいですね。で、帰るとか言い出しませんでしたか?」
 丸耳は首を振る。
「いえ。そのような事は無いようです。リナーさんを同乗させた事が功を奏していますね…」

「彼には、働いてもらわないといけませんからねぇ…」
 しぃ助教授は、腕を組んでため息をついた。
 ここから見える海は、無限に広がっている。
 そして、この海のどこかに確実に敵がいるのだ。

 丸耳は時計を見た。
 現在、午前5時。
 もうそろそろ、夜も明ける頃だ。
 彼は地図に視線をやった。
「横須賀から第1護衛隊群、佐世保からは第2護衛隊群の出港が確認されています。
 明日の夜には、危険海域に入るでしょう」
 丸耳は、海を眺めるしぃ助教授の背中に告げた。

「両艦隊共に、イージス艦が配備されていますね…」
 しぃ助教授は、艦長用の椅子に座りながら呟いた。
 丸耳は静かに頷く。
「…はい。そして、敵は海上自衛隊の艦隊のみとは限りません。
 本部ビルに海上からミサイル攻撃を仕掛けてきたのは、ロシアのバルチック艦隊でしたし」

「米海軍の第7艦隊に遭遇するのだけは避けたいですね…」
 しぃ助教授は大きく背伸びをして、そのまま頭上で腕を組む。
 丸耳は、地図をチェックしながら言った。
「そういう事態を避ける為、モナー君に乗ってもらったんでしょう?
 彼の探知能力は、用途によってはイージス艦搭載のフェーズド・アレイ・レーダーをも上回りますから」

「監視衛星が使えないのは、痛いですね…」
 しぃ助教授はため息をつく。
 ASAの所有する監視衛星は、米軍の電子戦部隊によってハッキングされたままなのだ。
「戦略衛星兵器『SOL−Ⅱ』はハッキングを逃れました。それだけでも幸いですよ…」
 丸耳は慰めるような口調で告げる。


 ブリッジに、職員の1人が駆け込んできた。
「各監視班から連絡が入りました。しぃとモララー、レモナ、つーの家を米兵が包囲しているようです!」
 職員は、報告書に目を通しながら告げる。

 しぃ助教授と丸耳は、同時に顔を上げた。
「米兵が…?」
 しぃ助教授は顎に手を当てる。
 丸耳は、しぃ助教授に視線をやった。
「米軍内だけで処理する気なんでしょう。なにせ、官邸に侵入した賊の1人は統幕長の息子ですからね。
 自衛隊の方には、そこらの報告は行かない可能性が高いと思われます」

「統幕長の息子が加担している事が自衛隊側に漏れれば、いろいろと面倒な事態になる…ってとこですか。
 とにかく、彼等がノコノコと家に戻るわけがないでしょうに…」
 しぃ助教授は艦長席から立ち上がると、再び窓の外を眺めた。
 考え事を抱えている時、彼女には遠くを眺めるというクセがあるようだ。

「しぃとモララーは家族と同居しています。その家族は現在も在宅中で、迅速な保護が必要です。
 監視班だけでは、家を包囲している米兵に太刀打ちできないと思われますが…」
 職員は続けて報告した。
 しぃ助教授は、表情を曇らせて顎に手を当てる。
「しかし、そっちに回せる兵員は…」

 丸耳が顔を上げ、無言でしぃ助教授を見た。
 まるで、何かを訴えるように。
 しぃ助教授は微笑んで言った。
「…許可します。貴方1人だけなら、ここからでも行けるでしょう?」

「了解しました。10分ほど席を外します」
 丸耳の背後に、彼のスタンド『メタル・マスター』のヴィジョンが浮かび上がる。
 その直後、丸耳の姿はスタンドと共に虚空に消え去った。
 ブリッジから、丸耳の気配が完全に消える。

「監視班は撤退してもらって結構です。彼が保護しに行きましたから」
 しぃ助教授は、報告に来た職員に告げた。
「はっ!」
 職員は一礼すると、ブリッジから出ていった。

「ギコ君達は、公安五課と結託しましたか。まあ、正面から敵対しないだけマシですかねぇ…」
 しぃ助教授は、誰もいなくなったブリッジで1人ため息をついた。

376:2004/05/21(金) 23:29



          @          @          @



 俺は、机から顔を上げた。
 荒廃した夜の教室。
 いい加減、見慣れた風景だ。

「今度は、何の用モナ?」
 俺は、教卓にもたれている男に訊ねた。
「…今度は、とは心外だな。私が意図して君を呼んだのは、まだ2回目だ」
 『殺人鬼』は、ぬけぬけと口を開く。
 つまり、前回は俺の方から勝手に来たと言いたいのだろう。
「それで、何の用モナ? 手短に頼むモナ」
 俺は、奴を見据えて言った。

「君の体の事で、伝えなければいけない事柄がある」
 『殺人鬼』は、珍しく即座に本題に入ったようだ。
 奴はそのまま言葉を続けた。
「…まず、君は吸血鬼にもかかわらず痛覚を持っている」

「え…?」
 俺は困惑した。
 そういえば、皮膚感覚は人間だった頃と変わりはない。
 『殺人鬼』は、当惑する俺を尻目に言った。
「それは、私がそういう風に君の回路を繋いだからだ。
 君のような緊張感のない人間が痛覚を失えば、戦闘において不利な面が多いからな。
 痛みというのは重要なシグナルだ。その感覚を大切にするがいい」

 緊張感のない、というフレーズに文句を言おうと思ったが、押し留まる。
 日中にカーテンを開け、危うく塵になりかけた事もあったのだ。
 確かに、我ながら緊張感がないとも言える。
 『殺人鬼』はさらに言った。
「それと、もう一つ。食事に関する感覚も、人間時のものに戻した。
 空腹感や満腹感、味覚等、人間だった頃と変わらないはずだ。
 血に関する過剰な欲求も、君の精神回路から排除してある。
 何故そうしたかは… あの娘を見ていれば分かるな?」

「…」
 俺は無言で頷いた。
 ここは、礼を言うところだろうか。
 しかし精神回路を他人にいじくられるのは、これっぽっちもいい気はしない。
「無論、私が手を伸ばせるのは君の感覚だけだ。
 血の摂取が不要になった訳ではないから、その点を誤るな」
 『殺人鬼』はそう補足した。
 昼食や夕食の時の疑問が、これで解けたようだ。

 …ともかく。
 俺は、こいつに謝らなければならない事がある。
 いかに『殺人鬼』がいけ好かない奴とは言え、この体は奴のものなのだ。
 しかし、その事に奴は触れてこない。

「…怒ってないのか?」
 俺は、『殺人鬼』に訊ねた。
「何をだ?」
 『殺人鬼』は聞き返す。
「お前、代行者だったんだろ? なのに、俺がこの肉体を吸血鬼にして…」
 俺は、躊躇しながら言った。

「…そんな事を気にするような感情は、とっくに削ぎ落とした」
 そう言って、『殺人鬼』は口の端を歪ませる。
「自身を存続させる為に、私自身の『殺す』という属性をより強化する必要があった。
 『蒐集者』が、愚鈍にも『最強』を追求し続けたようにな」

 俺は、無言で『殺人鬼』を見据えた。
 その表情は変わらない。
「――故に、今の私はこのザマだ。
 もはや、私はただの『殺人鬼』。殺す事のみを目的とした単一目的生物。
 『破壊者』としての理念や誇りなど、すでに私には無い」

「…」
 奴を真っ直ぐに見据える俺。
 知ってしまったのだ。
 こいつが何者なのか。
 そして、『蒐集者』との関わりを。

 『殺人鬼』は、俺の視線を振り払うように言った。
「それに、『アウト・オブ・エデン』は人間だった頃の君にはオーバースキルだった。
 吸血鬼の強靭な肉体と精神力があれば、以前より使えるようになるだろう」
「使えるようにって… 前からお前は言ってるけど、良く分からない。
 『アウト・オブ・エデン』は、視えるものを破壊できるスタンドじゃないのか?」
 俺は訊ねた。
 このやり取りは、今までに何度なされたのだろう。

 『殺人鬼』は口を開いた。
「私は、『蒐集者』を殺す為に存在する。
 故に『アウト・オブ・エデン』が『アヴェ・マリア』に劣るという事は絶対にない。
 何度も言うが、『アウト・オブ・エデン』は『視たものに干渉できる』スタンドだ」
「だから、それが…!!」
 俺は口を挟む。
 こいつの謎かけには、もう付き合っていられない。

「視たものを『破壊』できる以上、その逆も可能なのだ」
 『殺人鬼』は、俺の文句を封じるように告げた。

 ――その逆?
 『破壊』の反対は…

「『創造』だ」
 奴にしては珍しく、あっさりと答えを口にした。
 『創造』…?
 『アウト・オブ・エデン』で、一体何を造り出すというんだ?

377:2004/05/21(金) 23:30

 『殺人鬼』は、俺の疑問に答えるように言った。
「以前も言ったが、君は無意識にそれをやっている。
 君は『異端者』の戦闘技術を自身の肉体に『創造』し、それを自然に活用している。
 学校の屋上で『蒐集者』と戦った時には、『私』の戦闘技術を『創造』し奴を解体した」

 それも…『アウト・オブ・エデン』の能力?
 それが、視たものを『創造』するという事なのか?

「『異端者』と言えば…」
 『殺人鬼』は話を変えた。
「あの娘が助からないのは、君自身『アウト・オブ・エデン』でもう分かっているだろう?」
「…」
 俺は口篭る。
 そう。
 そんな事は分かってる。
 今さら、こいつに言われるまでも無い。

「だから、もうあの娘には構うな。どうせ抱こうともしない女だろう?
 君があの娘と最後の距離を置くのは… それ以上近寄れば、消えて無くなる予感があるからだ」
 『殺人鬼』は告げた。
 いつもの顔で。
 そのままの無表情で。
 俺は、奴を睨みつける。
 そんな事で、奴の言葉が止まるはずがない事は分かっていた。

「その予感はある意味正しい。思い残す事が無くなった人間など、脆いものだ。
 だが、結局は同じ事だぞ? 君がどう思おうが、結果は変わらない。それなら――」
「それなら、諦めてリナーを放っぽり出せって事か…!?」
 俺は机を叩いて立ち上がる。

 『殺人鬼』は言葉を続けた。
「殺した方がいいと言っている。あの娘自身、それを望んでいるはずだ。
 ならば、君自身の手でそれを――」
「黙れッ!!」
 俺は『殺人鬼』に駆け寄ると、その襟首を掴んだ。
 腕に力が込もる。
 『殺人鬼』の身体が、教卓にぶつかった。
 大きな音を立てて倒れる教卓。
 それでも、奴は涼しい顔を崩さない。
「お前には、殺す事しかないのかッ! リナーの事を知ってるくせに…!
 リナーがどんな生き方を強いられたか知っているくせに、お前はッ…!!」

「殺せないなら、君が守れ。最期の瞬間まで、命を賭けてな――」
 そんな事を、『殺人鬼』は言った。
 憤慨する俺を見、どこか安心したような表情を浮かべて。

 俺は、腕の力を緩めた。
 そして、奴の襟首から手を離す。
 『殺人鬼』は、襟元に手をやりながら言った。
「あの娘を闇に引き込んだのは、他ならない私だ。
 私が、あの娘を『教会』という闇に導いた。
 己の才覚… スタンドという異能ゆえに捨て子となっていた身。
 その忌み嫌われた異能を、少しでも活かせる場所を与えてやりたかったのだが… それも適わなかった。
 与える振りをして、私は彼女から奪ったのだよ。人並みの人生と、幸福な生活をな」

 俺は『殺人鬼』の顔を見た。
 奴も、俺の顔を見据えている。
 俺の目に、先程までの怒りはないだろう。

「あの娘は、自分が君を闇に引きずり込んだと自責しているが―― 最初に引きずり込んだのは私なのだ」
 『殺人鬼』は告げた。

 それは――
 それは違う。
 こいつのやった事は、間違ってはいない。
 こいつは… 人と異なる能力が、持ち主の人生を破壊する事があるという事を知っていた。
 その力が大きければ、大きすぎる程に。
 こいつが捨てられていたリナーを見つけた時、何を重ねたのか。
 『蒐集者』の姿か、それとも自分自身か。

 こいつは、教えたかっただけだ。
 世の中には、暗い事ばかりじゃないという事を。

「私が拾わなければ、あの娘は幸せに生きる事ができたのか――?」
 『殺人鬼』は自問するように言った。

「悪いのはお前じゃなく、『蒐集者』が…」
 俺の言葉は、言い終える間もなく否定される。
「あいつの変調に寸前まで気付かなかったのも、この私だ。
 『教会』の腐敗、『蒐集者』の崩壊、枢機卿の暗躍。それを見過ごした私の罪。
 あいつをあそこまで追い込んだのも、おそらく私だろう」
 そう言って、窓の方に歩み寄る『殺人鬼』。

 そんな救えない話があるか?
 リナーは『蒐集者』の手に落ち、こいつは『殺人鬼』に身を落とした。
 『蒐集者』を殺す為だけに――
 そのように自らを定義したのだ。
 そう、誰も救われない。

378:2004/05/21(金) 23:31

「あいつは、もう死んだ方がいい。無論、私もな…」
 窓枠に手を添え、外を見ながら『殺人鬼』は言った。
 まるで、闇に包まれた夜空に何かが見えているかのように。
 俺は、その背中に何も言えなかった。

 そして、『殺人鬼』は俺の方を向く。
「君とあの娘との出会い。これは『教会』の長、枢機卿に仕組まれたものだ。
 以前の私と関わりのあった娘を送り込む事で、『私』の覚醒を促したのだろう」

 やはり、偶然じゃなかったのか。
 仕組まれた出会い。
 それも、薄々気付いていた事だ。

 『殺人鬼』は言葉を続けた。
「そして、それは『教会』の目論見通りとなった。
 君は『私』の強さを徐々に取り戻し、『私』自身も存在がより明確化した。
 だが… ただ1つだけ、向こうが意図していなかったことが起きた」

「…?」
 『殺人鬼』の顔を見る俺。
 奴は、俺の目をしっかりと見据えて言った。
「それは、君と『異端者』が愛し合ってしまったことだ」

 …!!
 真面目な顔をして、こいつは何を…!!

「そ、それは関係ないモナ!!」
 俺は思わず叫んだ。
「何を照れている? 戦闘において、色恋沙汰は多いに有効だ。
 惚れた女を守る際、男は不相応な力を発揮するものだと相場は決まっている」
 少しだけ、ニヤついているようにも見える。
 明らかに俺をからかっているのだ。
 こいつ、格好つけて何が『感情を削ぎ落とした…』だ!
「モ、モナは、そんなんじゃなくて…!」
 俺はとにかく否定する。

 『殺人鬼』は、一転して真剣な表情を浮かべた。
「私は、周囲を不幸にすることしかできなかった。
 『蒐集者』も、あの娘も、その妹も、誰1人救えなかった。だから――」
 確かな目線で俺の顔を見る『殺人鬼』。
 その目には、確固たる意思が宿っていた。
「――君が救え。せめて、あの娘だけは君が救うんだ」

「…ああ、約束する」
 俺は頷いた。
 確か、しぃ助教授とも同じような約束したはずだ。
 まさか、こいつが同じ事を口にするとは…


 突然、地面が大きく揺れた。
「地震…!?」
 俺は、教室の床に視線を落とす。

『朝だよー!!』

 どこからか素っ頓狂な声が響いてきた。
 女の子の声だ。
 どこかで聞いた事があるような…

「現実世界の君は、ASAの艦内で就寝中だ。賑やかな事だな…」
 『殺人鬼』は、呆れたように言った。

『朝――ッ!!』

 教室が崩壊する。
 天井が、窓が、床が、机が、椅子が、ガラガラと崩れ…

「―――――――−−…」
 そして、『殺人鬼』は俺に何かを訊ねた。
 奴は何と言ったのか――

379:2004/05/21(金) 23:31



          *          *          *



「起きろ――!!」
 腹に衝撃。
 俺は、ベッドで眠っていたはず。
 一体何事だ…!?

「朝――!!」
 この声は… ねここだ。
 ねここが、俺のベッドの上でぴょんぴょんと飛び跳ねている。
 大きな声で、朝の到来を訴えながら。
 たまに腹や足を踏んづけるので、かなりのダメージだ。

「お、起きてるモナ…! 止めるモナ…!」
 俺は動転して言った。
 何だこれは。
 ASAでは、これが普通の起こし方なのか…?

「いたた…」
 俺は呻きながら体を起こした。
 保健室に似た、窓のない部屋。
 ここは、ASAが所有するイージス艦『ヴァンガード』。
 ゲストである俺に与えられた部屋だ。

「おはよう! 今日もいい天気だよ」
 ベッドに乗っかったまま、ねここは元気良く言った。
「ああ… おはようモナ」
 俺は、ねここに挨拶を返す。


「…朝から何を騒いでいる?」
 リナーの声。
 同時に、俺の部屋のドアが開く。

 これはヤバイ。
 そう。
 俺のベッドの上には、ねここが乗っかっているのだ。
 宇宙ヤバイ――

 ドアが完全に開いた。
 そこには、リナーが立っている。
「こここ、これは違うモナ!!」
 何が違うのかは分からないが、俺はとにかく叫んだ。
 同時に『アウト・オブ・エデン』を発動して、猛攻に備える。

「…Va te faire foutre」
 リナーは俺とねここを見てそう呟くと、ドアを閉めてしまった。
 その残響音が部屋中に冷たく響く。


「…さすがモナーさん。朝からラブコメ爆発ですね」
 ねここは他人事のように言った。
「…誰のせいだと思ってるモナ」
 俺は嘆息する。
 なんで、朝の早くからこんな目に…

「さっきのリナーさんの言葉の日本語訳、聞きたいですか?」
 ねここは、ようやくベッドから降りて言った。
「頭痛がしそうだからいいモナ…」
 やれやれ。
 何とか誤解を解かなければならない。
 まあ… ギコと違って、こちらにやましい事はないのだ。
 説明すればきっと分かってくれるだろう。

「朝食は、食堂で適当に済ませて下さいね」
 ねここは言った。
 食堂の場所は、昨日の夜に案内されている。
「…で、モナはいつ働けばいいモナ?」
 俺はねここに訊ねた。
 それに対し、少しだけ真剣な表情を浮かべるねここ。
「まだ、この艦隊は安全域にいます。今日の夜には危険域に入るでしょう。
 モナーさんの出番はその時ですね…」

「それまでは、適当に過ごしていいモナか?」
 俺は訊ねた。
 ねここは頷く。
「…じゃあ、私は朝の配達人から副艦長に戻ります。
 リナーさんに塵に還されるのはイヤなので、今朝の誤解は解いといて下さいね」
 そう言い残して、ねここは素早く部屋を出ていった。

 …だったらやるなよ!
 と、ねここの出ていったドアに向かって呟いたのは言うまでもない。
 さて、夜までは自由と言っていたな。
 …と言っても、特にする事はない。
 ねここの仕事の邪魔をするのも悪いし、ありすは怖いし、他に知り合いもいないし…
 やはり、リナーと仲直りするのが先決のようだ。

 ふと、鏡の中の自分と目が合った。
 何も変わらない普段の俺の顔。
 そして、『殺人鬼』として存在を特化させた『私』の顔。
 『殺人鬼』は、さっきの夢の中で最後にこう言ったのだ。

「彼女にとって『死』が救いとなるならば、君は本当にそれが出来るのか――?」と。


 俺は大きく首を振った。
 くすぶっていた眠気が、俺の体から離れていく。
「やれやれ、朝からリナーのご機嫌取りモナか…」
 俺は呟きながら、ベッドから腰を上げた。
「さ〜て、どうするモナ…?」
 どうしたら機嫌を直してくれるのだろう。
 武器庫から銃器を失敬して、プレゼントするとか…

 俺は、欠伸をしながら部屋を出た。
 日光は浴びれないが、今日もいい天気だ。



  /└────────┬┐
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380丸耳達のビート:2004/05/22(土) 01:38




  さああああっ―――――…

 SPM財団がスポンサーとなっている、とある高級ホテル。
最上階のスイートで、一人の少年がシャワーを浴びていた。
普通の三倍はありそうな浴槽に、無数のしぶきが小さく踊り散った。

  さあああああっ―――きゅっ。

 シャワーを止めて、ざっと頭をかき上げる。
水音が途切れ、しぶきが波紋へと穏やかに変わっていった。

 頭のてっぺんに付いた丸い耳が、ぴくり、と揺れる。
ふぅ、と溜息を一つ、浴槽のカーテンを開けて―――

「お風呂好きですねぇ。君は」
 ―――開けた先に、一人の少女がタオルと着替えを持って立っていた。
唇の端をつり上げた薄い笑みを浮かべ、全裸の少年を遠慮の欠片もなく眺めている。

「…人の浴室に勝手に入ってきて…何、やってるの?」
 とりあえずタオルを受け取って、丁寧に水滴を拭った。
お互いに、異性に裸を見られて大騒ぎするほど上品な環境で育ってはいない。
「あはは、『人』じゃあないでしょう?」
 着替えを渡しながら、少女が笑った。
「揚げ足を取らない…で、どしたの。僕の裸眺めに来たって訳じゃないでしょ?」
「それも目的でしたけどね。…お客さんが来てますよ」
 薄い笑みを浮かべたまま、少女が続ける。
「変な人でしてねぇ。右腕も顔もなかったとかシャムが言ってました」
「…そう…会ってみようかな」

  ひくくっ。

 あまりに考え無しな少年の声に、少女の笑いが引きつった。
「あ…あのですね…?別に君が直接会う必要は無いのですよ?
 追い返すかどうか判断してくれればいいだけだし、
 そもそもそんな怪しさ大爆発な人に面会して何するんですか。
 自覚ないみたいだけど、君は『ディス』の…私達のリーダーなんですよ?」
「あはは、大丈夫だって。だいたい僕達だって、その手の怪しさなら負けてないでしょ?」
「いえ、ですからそう言う問題ではなく…」
 言葉を遮るようにばさりとジャケットを羽織り、少女の頭を撫でた。
「僕の能力…忘れた?」
 今だ幼さを残した顔が笑みを作り、頭の上で先の丸まった耳がぴこぴこと揺れる。

「生きるか死ぬか…ガチンコの戦いで僕の『エタニティ』に勝てる奴はいないだろ?」
 困ったように笑う少女を後ろに、上着の裾を翻して部屋を出て行った。

381丸耳達のビート:2004/05/22(土) 01:38




 診療所のソファに、茂名が肩を落として座り込んでいた。
軽い焦燥の浮かんだ顔に、ぺとりと冷たい感触。
 見ると、スポーツドリンクの青い缶が視界の右半分を埋めていた。
更に首をめぐらせると、小柄な体に細い腕。

「差し入れです」
「…なんじゃ、ジエンか。…フサも来とるようじゃの」
 差し出されたスポーツドリンクを受け取り、キャップを外す。

「まあ、『ロリガン』なら地球の裏側でもひとっ飛びですからね…ところで、彼女の容態は?」
「峠は越したのぅ。肌がちょびっと白くなって、日焼けをしやすくなる…それだけじゃ。
 銀のでアレルギーが起きるでもなし、波紋で苦しみのたうち回るでも無し…
 日常生活に影響はない。…で…マルミミは、どうなる?」

 心配そうに、ジエンと目を合わせる。
誰も死者は出ていなかったとはいえ、マルミミは人を食いかけた。
いつの日かその時が来るかもと、覚悟は決めている。
それでも、いざとなれば浮かぶのは『人喰い』の姿ではなかった。
父と母が死んで初めて会った日、『鍛えてくれ』と頼まれた時の真っ直ぐな瞳。
虐待された女子供を運び込むときの、哀しみと信念に満ちた瞳。


 そんな茂名の葛藤を余所に、、全く口調を変えないままジエンが答えた。
「心配は無いでしょうね。マルミミ君は対吸血鬼用のワクチン研究に欠かせない存在…
                                      トリックスター
 SPMが彼を抹殺することはあり得ません。彼は唯一無二の『変動因子』ですからね」

 何となく肩すかしを食らった気分で、肘をついていた茂名の頭がずり落ちた。

「つまり…『お咎め無し』じゃと?」
「まぁ、そうなりますね。」
「なんじゃい…せっかく人が葛藤してるのに、あっさり無罪宣告とはのぉ」
 何やら不謹慎な茂名の言葉に苦笑して、ジエンがたしなめた。
「無いならば無いで良いではありませんか」
「ま、そうじゃがのぉ…」
 手慰みに、片手でスチール缶をぐちゃり、と握り潰す。


 『対吸血鬼用ワクチン』の開発は、SPMの課題の一つだ。
彼の息子…茂名 二郎も、嫁の為にプロジェクトに関わっていたらしい。
 だが、まだ現在は吸血鬼や屍食鬼に堕ちた人間を治せるほど開発が進んではいない。
しぃが人間まで戻れたのは、吸われて一分も経っていないうちからの迅速な処置と、
茂名という波紋使いや病院内という好条件のおかげだった。

 遺伝子までを蝕む『石仮面』の呪いに太刀打ちできる薬の開発はまだ遠い。
その為に、『人間』と『吸血鬼』の遺伝子が拮抗しながらも共存するマルミミの肉体は、これ以上ないサンプルだった。
 通常、吸血鬼と人間の間で子を成すことはほぼ不可能と言っていい。
SPMの記録によれば過去にも何人かは生まれたらしいが、殆ど人間同士の交配と言っていいものらしい。

 そんな中でただ一人だけ、人間を超える運動能力、再生力、生命力、吸血能力を持つ変わり種…
彼の希少価値は、これ以上なく高い。                    ヒ ラ
 以前にも何回か体液などを提供したことがあるが、研究局の方では解剖きたいと言うのが本音だったらしい。
もっとも茂名の眼が黒いうちはそんなことをさせる気は毛頭無いし、それ以来はそんな通告も来ていない。
とにもかくにも一安心し、顔を上げてスポーツドリンクを一口あおった。

「で…『チーフ』とフサはどうした?」
「彼等はしぃさんの記憶を消してる最中です」
「そうか…」

382丸耳達のビート:2004/05/22(土) 01:40




「ぎゃあ七時までには帰るといった筈なのに、ぎゃああの人はふさたんとの約束などどこ吹く風とばかりに残業を〜…」
「ええい黙るデチッ!」
 一声叫ぶと、文字通り獲物を掴み取る鷲のごとくフサの尻を鷲掴みにした。
「ひぎゃあっ」
「あんまりガタガタ言ってるとボクの山芋でその口塞いで自然薯汁ブチ込むデチよ」
「ぎゃぁっ、ふぁ、ひんっ」
「判ったら静かにしてるデチ。ボクだってシッポリマッタリしたいのはヤマヤマデチ」

 ぶつぶつとぼやきながらも、『チーフ』が呼吸を整える。
しぃの頭に手を置いて、静かにスタンドを呼び覚ました。

  タブー
「『禁忌』―――――」
                 コード デーモン
  SPM財団危険度評価D、呼称『悪魔』。
持続力も数分程度で、ヴィジョンもないために物理的な破壊力はB・T・B以下…と言うよりも、全くのゼロ。
 それでも彼の能力を知るSPM構成員で、彼を恐れない者はいない。

「失礼するよ…」

 その能力は、ほぼ全てのスタンドが持つ基本的な物の延長線上に過ぎない。
思念を送っての意思疎通、スタンドでの会話…一般的な言葉を使うならば、『テレパシー』。
 だが、その干渉力は桁が違う。
マルミミのB・T・Bも鼓動を読みとる読心術を使うが、それはあくまで『逆算』と『推測』を経た物だ。
 彼の『タブー』は、そんな過程をすっ飛ばして直接心を覗く。
表層心理の下らない妄想も、古くに付いた心の傷も、魂の底に澱む己の本性も―――
全てを、白日の下にさらけ出す。                         タブー
 それは一人の人間が持つにはあまりにも過ぎた能力―――すなわち『禁忌』。


 目を閉じる。
彼女の体が水溜まりに変わり、その中に体ごと沈む自分自身をイメージした。
 ぽたりぽたりと落ちる点滴の音も、鼻につんとする病院の匂いも、全てが遠のいていく。
五感を全て切り離し…ずるん、と自分の精神をしぃの中へ侵入させた。
 『チーフ』の体からくたりと力が抜け、それをフサが慣れた手つきで支える。


 しぃの眉がぴくぴくと顰められ、また通常の寝顔に戻る…記憶の操作が終わった証拠だ。
『タブー』の発動からここまで、僅か数秒足らず。
 抱えられたままの『チーフ』が低く呻き、


―――――うわ
                                 嫌だ
               何                    こんな傷が
                       傷が    消えない        哀しみ
            傷が                 やめ              痛い
                     傷が                 傷が         傷が
                 ぅあ  ああ         ああああああああああああああ―――ッッッッッ !! !!



 ずきん、と激しい頭痛がフサを襲った。
頭の中に、感情の奔流が凄まじい勢いで流れ込んでくる。

383丸耳達のビート:2004/05/22(土) 01:40
 証拠の隠滅だの何だのに非常な便利な能力ではあるものの、『タブー』には一つだけ『副作用』があった。
精神干渉によって自我が緩む―――すなわち、思念の流出。

 何時だったか、その勢いに当てられた一般人が発狂したと聞いた事がある。
「ぎあっ…!?落ち着いて!」
 自分の腕の中で必死に暴れる『チーフ』を、ぎゅっと抱きしめる。
「うわっ…あっ…!」
「落ち着いて…!息を吸って…吐いて…はい、2・3・5・7・11・13・17―――――」
 その甲斐あってか、だんだんと『チーフ』が落ち着きを取り戻してきた。
流れ込む思念が弱まり、潮の引くように頭痛が治まっていく。

「…どうした…?貴方ともあろう者が、そこまで取り乱すとは。彼女の精神に、何か?」
「『何かあった』なんて物じゃないよ…!」
 お互いにふざけた言葉遣いも忘れ、かたかたと震えながら二人が息を吐いた。
                    ト ラ ウ マ
 心の中に流れ込む、桁外れの心的外傷。
本来なら外に向けられてるはずの憎悪だの何だのが、全部内側に向かっている。
 そのせいで、消えていくはずの傷がいつまでも治らずにあちこちで腐り始めていた。
マルミミや茂名も相当な『歪み』を持っているが―――


  ―――『腐臭』に満ちた精神なんてモノ、生まれてこの方見たこともない―――!



 がちがちがちがち、焦点の合わない目で奥歯をならす『チーフ』を見る。

 人の心の、本人すらも気付かないような『澱み』。
それを見てしまった人間は、はたしてどんな思いを抱くのだろうか。

 二、三回ほど深呼吸して、冷や汗を拭う。
「…とにかく、記憶の処置は終わったよ。『吸血』に関しての記憶は繋がりを切ってあるから、
 後は大量の血を見せたり…刺激を加えない限りは忘れてる筈…出るよ」

 こつこつと部屋を出る間際、もう一度しぃの方を振り向いた。

「無力な…モノだね。異能の力を持ってても、女の子一人救えない」
「『タブー』で傷を消すことは?」
「無理だよ。『タブー』でやれるのは『繋がりを切る』…『忘れさせる』事だけだ。
 僕の能力で『傷』の記憶を断ち切っても、また何かのきっかけで思い出す。
 そうしたら、余計に傷が広がるだけだ。
 『心の傷』っていうのは、本人がどうにかして乗り越えていかないといけないんだよ」
「彼女に…それが出来る?」
「さあ…ね。この診療所には、優しい人が沢山いるけど…可哀想にね。
 彼女は『傷』に邪魔されて、受け止められるはずの優しさも見えてないんだ。
 …綺麗なモノが見えない人間と、醜いモノまで見えてしまう人間と…一体、どっちが不幸なんだろうね」

「…私には、判らないよ」
「デチねぇ…人間は楽しいことだけやって生きてればいいんデチよ」
 そう言うと、ずりずりとフサを隣の病室に引きずり込んだ。
「さて…記憶消した時点で本日の勤務はおしまいデチ。よって…」
「ぎゃあ何をするのかと聞くことにも意味はなく」
 がぱり、といつの間にやら持っていたアタッシュケースが開かれた。
中に入っているのはお約束の如く、可愛らしい色に凶悪なデザインの―――

「初登場以来のシッポリ マッタリ デチ〜♪」
「ぎゃあシリアス空気ぶち壊し」

―――ちなみに翌日、イロイロでエラい事になったベッドシーツを二人で片づける事になったのは言うまでもない。





  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

384丸耳達のビート:2004/05/22(土) 01:43
〜オマケ〜 丸耳達のビート Another One 
          ―――の、そのまた Another One:あの時アレがコレならば



/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| 今ならまだ間に合う。
| 『魂食い』を渡せば殺しはしない…

   ̄ ̄ ̄|/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                       yahoooo!yahoooo!
     ∧∧                    ((从ル))
    (,,゚Д゚)                  ル*´∀`)リ   ∩_∩
    (|  |)                 ノミ.三三つ   (´ー`;)
   〜|  |                   ミ===)     (   ヽ
     し´J                   (ノ ヽ)    と_と_    つ
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                                    |\
                              / ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                              | 必死こいて走り回ってたから…
                              | …気付いてなかったろ?
                              | 小さく小さく…ビルが揺れてるの。
                              \______________

385丸耳達のビート:2004/05/22(土) 01:43
           __ ヽヽ   ―――
          /  /      ____                                  │ │
           /           /              ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・     │ │
          /           /     \\ /                     │ │
                     /         /                      ・  ・
/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| なっ…!地震だと!?
| こんな時に!

   ̄ ̄ ̄|/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                               て
     ∧∧                    ((从ル))  そ
    (;゚Д゚)Σ                ル;´д`)リて  ∩_∩
   ⊂   ⊃                 ノミ.三三つ   (´ー`;)
  〜(  ノ⊃                   ミ===)    (   ヽ
    U                      (ノ ヽ)  と_と_    つ
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                                    |\
                              / ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄
                              |   …ハズレ。
                              \________

386丸耳達のビート:2004/05/22(土) 01:45


                                   ガラガラッ


                                      | │ | |
 / ̄ ̄ ̄                             | │ | |        
 |  あ。                             | │ | |        
 \                                       
    ̄|/ ̄                           /`´ヽ,`フ   ゴッ!
     ∧∧                    ((从ル))   |;`(´ ` ;゛]  
    (;゚Д゚)Σ                ル;´д`)リ  └,_ヽ_`,コ て
    (⊃ ⊃                 ノミ.三三つ   (´Д`;)  そ
  〜(  ノ⊃                   ミ===)    (   ヽ  て
    U                      (ノ ヽ)  と_と_    つ
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                                    |\
                              / ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                              | シャマードを只の人食いとしか
                              | 見てなかった…
                              | それがお前の敗い ブッ
                              \___________

387丸耳達のビート:2004/05/22(土) 01:45



                                  /`´ヽ,`フ
     ∧∧                    ((从ル))   |;`(´ ` ;゛]  
    (;゚Д゚)                 ル;´д`)リ  └,_ヽ_`,コ 
    (⊃ ⊃                 ノミ.三三つ   ( Д ;)
  〜(  ノ⊃                   ミ===)    (   ヽ
    U                      (ノ ヽ)  と_と_    つ
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄




/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| 結局…何がやりたかったんだ…?

   ̄ ̄ ̄|/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

                                       ∩_∩
     ∧∧                    ((从ル)) ?     (*´∀`) ウワァイ キレイナ カワダヨー
    (;゚Д゚)                 ル;´д`)リ       ( )
    (⊃ ⊃                 ノミ.三三つ       (
  〜(  ノ⊃                   ミ===)         )
    U                      (ノ ヽ)   ⊂⌒~⊃。Д。)⊃
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

388ブック:2004/05/23(日) 01:18
     EVER BLUE
     第十五話・CLOUD 〜暗雲〜


 薄暗くじめじめした石造りの牢獄のような部屋の中に、一人の男が投げ込まれた。
 すぐさま鉄格子が施錠され、男が部屋の中に閉じ込められる。

「…が……」
 男は力なくうつぶせに倒れ、低く獣のように呻く。
 男の体には、二つの頭と口、そしてみっつの耳と足があった。
 それは紛れも無い奇形だった、

「ふん。たったあれしきで力を使い果たし、
 あまつさえろくな成果も残せぬとは…やはり、出来損ないだな。」
 メタリックカラーのドラム缶のような体の男が、部下らしき者を横に倒れた男を見下す。
 その声には、電子音が混ざっていた。

「……ねぇ…」
 男の目がギラリと光った。
 次の瞬間、奇形男がドラム缶男目掛けて飛び掛かる。

「俺は出来損ないなんかじゃねぇええぇ!!!」
 しかし、男の突進は堅牢な鉄格子によって阻まれた。

「GYAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!」
 ドラム缶男が取り出したスイッチを押すと、
 奇形男につけられた首輪から高圧電流が流れた。
 男が苦悶の表情を浮かべて絶叫する。

「それだけの力が残っているならば、少しは成果を残したらどうだ、奇形モララー?
 『カドモン』を創るのも、育てるのも、飼うのも、只ではないのだぞ。
 それを、貴様は失敗の為だけに使いおって…」
 悶絶する奇形男を、ドラム缶が睨みつけた。

「…歯車王様、そろそろ。」
 と、ドラム缶男の横に居た長耳の男が、ドラム缶男に声をかけた。

「ああ、そうだな。
 いつまでもこんな出来損ないに構っている暇は無い。」
 歯車王と呼ばれた男が奇形男に背を向けた。

「てめえええええええええぇぇぇぇぇああぁ!!!!!」
 奇形モララーが食い下がろうとする。
「GHAAAAAAAAAAAAA!!!」
 しかし、再び電流が彼の行動を封じた。
 黒焦げになり、奇形モララーは今度こそ失神した。


「…やれやれ。手間のかかる奴だ。」
 気絶した奇形モララーを一瞥もしないまま、歯車王は歩き出した。
 その横を、長耳の男が併行する。

「しかし、あの『カドモン』を失ったのは正直痛いな。
 あれ程の成功例、果たして再びあ奴に生み出せるかどうか…」
 歯車王が顎に手を当てる。

「ご安心を。
 選りすぐりの腕利きを寄越しましたので、必ずや手元に戻ってくるかと。」
 長耳男がうやうやしく進言する。

「…だが、いかんせん時間がかかるのではないか?
 時は、無限ではないのだぞ。」
 歯車王が渋る。

「その点はいたしかたありません。
 あまり派手に動いては、他の国に感づかれてしまう可能性がありますので…」
 長耳男が諌めるように告げる。

「…ままならんものよな。」
 歯車王が溜息をついた。

「焦っても解決はしません。
 今は、吉報を待ちましょう。」
 長耳男はそう言って、不気味な笑みを浮かべるのであった。

389ブック:2004/05/23(日) 01:19



     ・     ・     ・



 僕とオオミミ達はこれから先の進路を定めるべく、ブリッジに集合していた。
「…で、どうするんだ?」
 三月ウサギが、サカーナの親方の方を向く。

「取り敢えず、これを見てくれ。」
 サカーナの親方が高島美和に指示を促す。
 すると、ブリッジのディスプレイに世界地図が映し出された。

「いいか、野郎共。
 俺達は、今この辺りにいる。」
 赤いマーカーが地図のやや南東部分を指差した。
 その部分の周りは空の海だらけで、申し訳程度に小さな島がポツポツとある位だ。

「見ての通り、ここら辺には大きな島も無く、治安もあまり良ろしくねぇ。
 こんな所をちんたら渡ってたら、『紅血の悪賊』(クリムゾンシャーク)の連中に
 どうぞ襲って下さい、って言ってるようなもんだ。」
 誰の所為で襲われる破目になったんだ、とも思ったが、
 言っても事態は大して変わらないので黙っておく事にした。

「そこで、だ。
 まずは近くの国の勢力圏に入るのが先決だと思うんだが、どうだ?」
 サカーナの親方が皆の顔を見回した。

「私は特に異論有りませんね。
 一度どこかの国家勢力圏に入れば、
 『紅血の悪賊』も憲兵を気にして大きくは出て来れないでしょうしね。」
 高島美和が静かにお茶を啜った。

「問題はどこの国に行くのか、だなフォルァ。」
 ニラ茶猫が軽く背伸びをした。

「だったら、『ヌールポイント公国』はどうですか?
 あそこならある程度の力もありますし、
 中立的な立場の国ですから『紅血の悪賊』以外にも、
 他の国からも手出しし難くなると思いますし。」
 カウガールがはきはきとした声で答えた。

「俺もそれが良いと思う。」
 オオミミもカウガールの意見に賛同した。

「私はそういう事には疎いので、皆さんにお任せしますよ。」
 この船の乗組員でもないのに、何故かしたり顔でタカラギコが口を開いた。
 その背中にはあの巨大な十字架を担いでいる。
 どうやら、サカーナの親方から正式にパニッシャーを貸し出して貰えたらしい。

「…しかし、いいんですか?
 私にこんな大層な武器を渡してしまって。」
 タカラギコが試すような視線をサカーナの親方に向けた。

「なに、使って貰えた方が、その得物だって嬉しいだろ。
 それに…」
 サカーナの親方が目を細める。

「そんな得物を使った所で、俺の『モータルコンバット』は殺れねぇよ。」
 一瞬サカーナの親方から湧き出る殺気。
 直接殺気を向けられた訳でもないオオミミの背筋に、ぞわりと鳥肌が立つ。

「それはこわいですねぇ…」
 対して、殺気を直接受けた筈のタカラギコは普段と変わらぬ感じで飄々と返す。
 あれだけの殺気を受けて平気とは、この人本当に何者なんだ?

「…それで、結局『ヌールポイント公国』に行くのか?」
 サカーナの親方の殺気のせいで固まってしまった空気を払拭するかのように、
 三月ウサギが尋ねた。

「そうですね…
 恐らくそれが無難な線でしょう。」
 高島美和が頷いた。

「ま、それがいいんじゃねぇか?」
 ニラ茶猫も首を縦に振る。
 つーかお前何も考えてないだろ。

「…おっしゃ、決まりだな。」
 サカーナの親方が近くの手すりを一度叩いた。
「あと一時間程で『あぼ〜ん島』ってとこに着く。
 本来なら寄り道してる暇は無いんだが、どうやらガス欠みたいだからよ、
 そこで燃料、武器の補給だ。
 そっからはノンストップで『ヌールポイント公国』まで突っ切るぞ!」
 サカーナの親方が激を飛ばした。

「それじゃ、各自解散!!」
 その親方の鶴の一声で、各人がそれぞれの持ち場へと戻って行った。
 さてオオミミ、まだ少し時間があるみたいだし、部屋でゆっくりと…

「天、ちょっと待って。」
 と、オオミミが思いもよらぬ行動に出た。
 オオミミ、何だってそんな女に話しかけるんだ?

「何よ?」
 迷惑そうな顔で、天がオオミミに聞き返した。
 こいつ、人にはずけずけと話しかけるくせに、何て態度だ…!

「少し聞きたい事があるんだけど、いいかな…」
 オオミミが、真面目な顔でそう天に告げるのだった。

390ブック:2004/05/23(日) 01:19



     ・     ・     ・



「マジレスマンを連れて参りました。」
 縛られたマジレスマンを引っさげて、山崎渉が男の前へとひざまづいた。

「ご苦労だったな。」
 男が山崎渉を下がらせる。
 男の瞳はまるで猛禽類のような鋭さで、その口からは二本の牙が覗いていた。

「お…お許しを…!
 しばし時間を下さい!
 そうすれば必ず取られたモノを取り返して…」
 しかし、マジレスマンの言葉はそこで止まった。
 それと同時に、マジレスマンの首が独りでに後ろに曲がっていく。

「あ…やめ……助け…!」
 マジレスマンが必死に許しを懇願するも、
 その首は止まる事無く後ろに捻じれ続けた。

「ひぎぃ!」
 ついに負荷に耐えられなくなったマジレスマンの首の骨が、鈍い音を立てて破壊された。
 それでもなおマジレスマンの首はさらに捻られ、
 丁度一回点半した所でようやく動きを止めた。

「…捨てておけ。」
 汚い物でも見るような表情で、男が山崎渉に告げた。

「はっ。」
 山崎渉がマジレスマンの死体を担ぐ。

「後の指揮はお前に任せる。
 せいぜいそこの死体の尻拭いをしてやる事だ。」
 男が山崎渉に顔を向ける。
 その目は、まるで氷の様に冷たかった。

「はっ…」
 山崎渉は一礼すると、男の前から去って行った。
 部屋の中に、男だけが残される。

「…さて、この失策がどのような方向に転がるのか……」
 男が呟いた。
 その言葉は、薄暗い部屋の闇の中に静かに溶け込んで消えていくのであった。



     TO BE CONTINUED…

391N2:2004/05/23(日) 12:20

━━━━━━━━━━━━━━━

  まもなく
  『ギコ兄教授の何でも講義』が
  始まります

              ∩_∩
━━━━━━━━━ |___|F━━   ∧∧
              (・∀・ ;)        (゚Д゚ ;)
        ┌─┐   /⊂    ヽ    /⊂  ヽ
        |□|  √ ̄ (____ノ   √ ̄ (___ノ〜
      |   |  ||    ━┳┛  ||   ━┳┛
 ̄ ̄ ̄ ̄|   | ====∧==========
    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
    | …えーっと、これ、どゆこと?
    \____              ∧
         / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
         |  …俺にもよく分からんぞゴルァ…
         \________________

392N2:2004/05/23(日) 12:21

 リル子さんの奇妙な見合い その④

少女がリル子さんへと突進した。
さっきリル子さんが「肉体強化型」のスタンドだと言っていたが、
どうやら強くなっているのは彼女の体毛だけではないらしい。
歳相応の運動能力を遥かに超越した速さで、少女が駆ける。

「…なかなか面白いスタンドですわ。
こういう類のものは使用者が少ないですからそれなりに楽しめそうですわね」
(最近戦ったのはザコばっかしだったからなあ…)
リル子さんはそんな少女を余裕を持って観察している。
必死に抑えているようだが、「戦」に対する興奮が口元にうっすらと現れているようにも見える。

「串刺しみるまらー!」
対する少女も針の隙間から覗く顔は異様な明るさを誇っている。
二人ともそんなに戦うのが好きなのかい。

間合いが詰まり、少女のパンチがリル子さんの胸目掛け繰り出される。
まともにヒットすれば、心臓が穴だらけになって即死ものだ。
が………

「ですが…」
(だがな…)
――あえてギリギリまで拳を引き付けて

「戦いには年季の差というものが…」
(だてに三十路を過ぎてるわけじゃ…)
――実力差を見せ付けるように寸での所で拳をかわし

「存在するのですよッ!!」
(ねえんだよッ!!)
―――拳を糸で絡め、全身ごと畳に叩き付けた。

胴から落っこちた為、肺に強い衝撃を受けて少女が苦しそうに咳き込む。
針で全身をガードしていたにも関わらず、あれだけのダメージ。
生身で受けていたなら一発で再起不能になっていたのだろう。

「…ゴホッ、ゴホッ、ゴホッ
お前、だれ?」
彼女もオレ達を狙って来たのに全く関係の無い(と思っている)女に痛め付けられて、
自分の予定が大幅に狂ってしまったことに混乱しているらしい。
今にも泣きそうな顔で少女が聞く。

「そうですね…喩えるなら」
(そうだな…率直に言えば)
リル子さんがやたらと嬉しそうに少女の元へと歩み寄り、
勝ち誇った顔で彼女を見下ろす。

「『サザンクロス・悪の主役』…とでも言っておきましょうか?」
(スーパー完璧美人アナウンサーにして『サザンクロス』真のボスである
ハイパーワーキングウーマンリル子様に決まってんだろ!ガキが!!)
控えめ、と言うよりかは自虐的なコメントをリル子さんは吐いた。
…が、そこには彼女の余りに自尊的で奢り高ぶった本心が見え隠れしている。
つーかあんたはそこまで自意識過剰だったんかい。

「…リル子さん、カッコいいんだな!!」
(何だかよく分からないけど強い女性ハァハァ)
モララーは事態を全く把握していないようだが取り敢えずリル子さんが優勢ということは分かるようだ。
ここで騒ぎ立てられたら事態が悪化しかねないだけに、こいつが馬鹿で助かった。
褒められたリル子さんはリル子さんで、愛想笑いすらしてあげない。

393N2:2004/05/23(日) 12:24

さて、対する少女はどうしたかと言うと、
今度は非常に落ち込んだ表情をしてなにやらぶつくさ言っている。
「批判要望板はスクリプトでうめられた。
今みんなで再建している。
思い出したくないんだ。みんな口にださない。」

…何者だ、こいつ?
「みるまらー」という訳の分からんフレーズを連発したかと思えば、
今度は笑ったり落ち込んだり。
こいつには、確固たる感情とかそういう物が無いのだろうか。

ともかく、変人揃いの「サザンクロス」に居ても
ここまでデムパ(・∀・)ハイッテル奴に会うことはそうそうある事ではない。
さしものリル子さんも少女の行動には僅かながら不気味に感じるものがあるらしい。

「…よく分かりませんけど、あなたが我々『サザンクロス』に牙を剥くのであれば、
私はあなたを全力で駆逐するまでですわ」
(なによこの子、泣いたり笑ったりしててキモッ!)
そう言ってリル子さんの手から再び糸が噴き出す。
そして少女の全身を絡め取ろうとした、その時…

「みる、みる、みるまらーーー!」
「……ッ!!」
(危ないッ!!)
リル子さんの一瞬の油断と隙を突き、少女が突如大振りの鎌をどこからか取り出したかと思うと、
彼女の首を斬り落とす形ですれ違おうと飛びかかった。

「喰らいませんわッ!!」
リル子さんはそのまま糸で鎌の柄を捉えるとそのまま奪い取った。
だが少女はその間に障子を乱暴に閉めて部屋の外へと逃げて行った。

「逃がしませんわよ!!」
すぐにリル子さんの追撃が始まる。
少女を逃がすまじ、とモララーを放って追いかけるリル子さん。

だがまずい!
ギコ兄がおせっかいにも部屋の外にまでカメラを設置してしまったから、
少女が外で罠を張って待ち構えているのがオレ達には分かる!
行っちゃ駄目だ!!

394N2:2004/05/23(日) 12:27

オレ達の願いも空しく、リル子さんが再び威勢良く障子を開け放つ。
その瞬間、彼女の正面から無数の針が飛来した。

「引っ掛かったー!ギコ屋じゃなくたってその仲間なら即抹殺ものだよー!!」
まんまとリル子さんが罠に掛かり、大喜びする少女。

だが、目前に迫る針千本を前にして、リル子さんは決してうろたえなかった。
やれやれ、と疲れたような表情を一瞬見せたかと思うと、彼女は叫んだ。

「『トリビュート・トゥ・ベノム』!!」

リル子さんの全身から、おびただしい量の糸が噴き出す。
生々しくて怪しい粘液を垂らしながら。
そして針は全て粘った音と共に絡め取られ、決して本体に届くことはなかった。

「わざわざヴィジョンを形成しなきゃいけないだなんて、面倒ですわ…」
(手こずらせやがって、とっととくたばれよこのガキ!)
そう言ったリル子さんの横で、糸が急速に収束してゆく。
そしてそれは、毒々しい色をした異形のモンスターと化した。
ついでに、額には超人プロレス漫画よろしく「毒」の一文字が入っている。

(出たぞ…リル子のスタンド『トリビュート・トゥ・べノム』。
あいつがヴィジョンを出すってことは本気モードに入ったってことだ)
大将が誰に言うでもなく呟いた。

「そんなことしても無駄無駄無駄ァ!!だよー」
少女の挑発と共に、再び無数の針がリル子さんへと飛んでゆく。
だが、リル子さんは微動だにしない。

「無駄無駄無駄…って、今こうして針が食い止められたのに
まだ同じ攻撃を繰り返すつもりですか?
…進歩の無い方ね」
(こいつ、二番煎じが通用するとでも思ってんのかよ!?)

リル子さんの言葉通り、針は全て糸に受け止められてしまっている。
それこそ、こいつのやってる事の方が無駄な行動であろう。
だが、それでも少女の攻撃は止まない。

「…本当に諦めの悪い子ですわね。
幾らあなたの針を飛ばしても私のこの『蜘蛛の糸』が全て受け止めてしまいますわ」
リル子さんもそろそろ飽きてきたらしい。
ところがその言葉を聞いて少女が不適な笑みとともにぽつりと呟いた。

「…誰が『needle』しか出せないって言ったの?」

オレ達は目を疑った。
彼女の前方にはあの裁縫針サイズのトゲなどではなく、
むしろ杭と呼ぶべきサイズの大きな針が用意されていたのだ。

「ちっぽけな針がガード出来ても、ここまでおっきな針が飛んできたら…
どうかな?」

特大の針が、小さな針と同じ速度で発射される。
あれじゃあ、糸の壁を貫通してリル子さんに直撃してしまう!
かと言って、あのスピードではもう回避することも敵わない!
どうすんだ、リル子さんッ!!

「…誰が『粘っこい糸』しか出せないと言いましたか?」
(…決まったな!屈辱的な『セリフ返し』!!)

彼女の腕から再び糸が放出される…のだが、
それはあのネバネバしていたまさしく『蜘蛛の糸』などではなく、
硬く頑丈で清潔そうな、言うなればワイヤーのようなものであった。

「だからって糸なんかじゃ針には対抗出来ないよ!
貧弱、貧弱ゥ―――!!」
確かに少女の言うとおり、リル子さんの糸で巨大な針に太刀打ち出来るとは思えなかった。
のだが……、

395N2:2004/05/23(日) 12:28

「……『ウェブカッター』」

リル子さんの手中で収束した糸は、その形状を細身の剣のように変えた。
そして、飛来してくる糸を、一閃、二閃、三閃…。
針は微塵に砕け、やはり彼女の手前でその勢いを失った。
こりゃ一体、どういう事だ!?

「ウソ!ウソだよ!!
糸が針を壊せるはずが…」

動揺しうろたえる少女に、すかさずリル子さんの追撃が入る。
まともに入れば少女の身体を二分していた一撃を、彼女は寸での所で回避した。
逃げ遅れた彼女の髪が宙に舞う。

「蜘蛛の糸…と言うとよくネバネバしていて飛んで来た獲物を逃さない、
っていうイメージを抱く方が多いでしょうから、
それで中にはあの糸は全部が粘着性の強いものだとお思いの方もいらっしゃるようですけど、
本当は違うのですわよ。
蜘蛛の巣は蜘蛛自身が歩く必要もありますから、縦糸は切れにくくてツルツルした糸、
横糸は飛んで来た獲物をくっ付ける粘着性のある糸、という風になっているんですわよ」
(ハッ!どうせこんなガキだからこの程度の事も知らなかったんだろうよ)
とっさに後ろへと跳んだ少女を壁際にじわり、じわりと追い詰めながら、
リル子さんが得意げに語る。

「そして私の能力『トリビュート・トゥ・べノム』はそれら2種類の糸を使い分ける能力!
相手の攻撃の威力を殺す粘っこい横糸に、
相手の防御を打ち砕く強く頑丈な縦糸!!
…どう考えても分が悪いようですわね。但し、あなたがですけど」

完全に少女は塀の角へと追いやられた。
再びリル子さんがスタンドのヴィジョンを形成する。

「それじゃ、そろそろ年貢の納め時というやつですわね…」
(覚悟は出来てんだろうな、オラァ!!)

396N2:2004/05/23(日) 12:29

リル子さんが糸を放出すると共にそれを少女目掛け飛ばす。
少女の動きを封じ、一気にタコ殴りにするつもりなのだろう。
だが、少女はその糸を高くジャンプすることで回避した。
そして更に……!

「みる、みる、みるまらーーー!
わむてさん、地球!」
少女の背中から、純白の翼が生える。
あれも針能力の一環…って訳じゃなさそうだ。

「み、み、みるまらっっ!!!」
途端に、彼女の翼から無数の羽根が舞い落ちる。

「みる、みる、みるまらーーー!」
そして羽根は彼女の号令と共に、無数の針の雨と化してリル子さんに降り注いだ。

「…面倒臭い攻撃をしてくれますわね。
これで私を足止めすると同時に自分は逃げようという腹ですか?」
(…このド低脳DQN策士め…)
リル子さんの言葉どおり、少女はその隙に羽ばたいて逃げようとしている。
だが、リル子さんがそれをみすみす見逃す筈も無い。

「…無駄ですわね」
リル子さんの右手中で、瞬時に糸が絡み合い、それは一つの明確な形を創り上げた。
縦糸による骨に横糸による布を組み合わせた、『糸の傘』。
全ての雨が、それによってリル子さんに触れることはない。
そしてオレ達がそちらへと気を取られている内に、
当のリル子さんは左手から伸びる糸で既に少女を捕らえていた。

「ここまで暴れておいて、もうお帰りになるだなんて、ちょっと虫が良すぎませんこと?」
(たっぷりと痛い目に遭わせてやろうじゃねえかよォ〜〜!!)
彼女が手を引くと、少女がそれに釣られて引き寄せられる。
空中で完全にバランスを失い、何もすることが出来ない。
そして、そのままリル子さんの射程内まで入ってしまい、

『オラァッ!!』

顔面にスタンドの拳がクリーンヒット。
だがそれでもリル子さんの手は止まない。

『オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ
オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ
オラァ―――――ッッ!!!!』

『トリビュート・トゥ・べノム』によるラッシュ攻撃。
少女も必死に身体に針を生やして防御するのだが、
その針も拳で破壊され、ほとんど役に立っていない。
最後の一撃で吹っ飛ばされるも、その身体にはまだきっちりと糸が繋がれている。

「まだよ。まだ終わりませんわ。
この横糸、付けるも剥がすも私次第ですもの」
(こんだけじゃ気が治まらねえんだよ!!)

再び少女の身体が引き戻される。
恐らく、これで決着が付くだろう。
オレらの内で、誰もがそう思っていた。

だがしかし、少女は更なる切り札を隠し持っていた。

397N2:2004/05/23(日) 12:30

「み…み…
みるまらー
Iフィールド」

彼女の容姿が再び変化する。
何やら近未来的な雰囲気を漂わせる彼女の前方から、
正体不明のレーザービームが発射された。

「………危ないですわね」
(この期に及んで…往生際の悪いッ…!!)

どこからエネルギーを捻出したかも分からないレーザービームは、
それでもリル子さんの糸を焼き払ってしまった。
已む無くリル子さんもそれを回避する。

「…こ…こまで…痛い目に…遭わされて………!
絶ッ…………対に…許…さんの……だァ……ッ…!!」
少女は完全に怒りに燃えている。
顔面パンチは彼女のプライドを損なうには十分だったらしい。

「みる…みる…」
再びもう聞き飽きたあのフレーズを唱え始める少女。
だが、今回はどこか様子が違う。

「みる…みる…みる…」
彼女の身体に異変が現れ始める。
首から下の部分が徐々に変質してゆくのだ。

「みる…みる…みる…みる…」
それは徐々に衣服の繊維質な質感から、ぬめぬめつるつるした生々しい質感へと変化し…

「みる…みる………みるまらーーーーーーーー!!!!」
彼女の雄叫びと共に、その姿は完全に異形のモンスターと化した。
顔は元の少女のままだが、首から下があたかも蛇のような姿になっている。
そしてその高さは、まさしく「屋根より高い」。

(こいつは…ラミアか!?
ギリシャ神話における子喰いのモンスターを持ち出すとは、
何たるセンスをしている…)
久々にギコ兄の解説キャラっぷりが発揮された。
…ってかさ、それ以前に羽根生えたりビーム撃ったり、
挙句モンスター化するそのとんでも人間っぷりの方を先突っ込めと。

「みるまらーーー!!」
満身創痍から一転、超強化された肉体を得た彼女がリル子さんを攻める。
さっきまでからは想像も付かない破壊力を持つ拳が、
軽々しくガードすることの出来ないリル子さんを今度は壁際へと追い詰めてゆく。

「…この子…何て破壊力…ッ!」
(クソッ、これじゃあスタンドガードするわけにもいかない…!)

少しずつ少しずつ、塀がリル子さんに近づいてゆく。
そしてとうとう、リル子さんは袋小路に追い詰められた。

398N2:2004/05/23(日) 12:32

「ここまで来れば、もうどこにも逃げられないよ!
ここまで痛い目に遭わされたからには、『痛い』なんかじゃ済まさないよ!
みる、みる、みるまらーーー!」
彼女は、その身をアルマジロの如く丸めだした。
そしてそれが巨大な球状になると、そこから再び無数の針が生えた。
…しかし、今度は身体そのものが巨大化しているが故に、
その針一本一本があの杭サイズと同じ位の大きさをしている。
とてもじゃないが、横糸の壁を作っても串刺し必至だ。

「…参りましたね。まさかここまで追い詰められるとは思いもしませんでしたわ」
リル子さんが、いつになく泣き言を言う。

「謝ってももう許さないよ!
みる、みる、みるまらーーー!」
遂に少女が転がり始めた。
もう駄目か!?リル子さん、万事休す!!

「…で、誰が負けると言いました?」
突然態度を豹変させるリル子さん。
…さっきの弱気は何だったんだ。

「無駄無駄ァ!このサイズのトゲボールを避けることは
絶ッ〜〜〜〜〜〜対に出来んのだァ〜〜〜!」
少女は更に走行スピードを速める。
リル子さん、本当にどこへと逃げるつもりだ!?

「…『トリビュート・トゥ・べノム』」
三度リル子さんのスタンドが現れた。
今度は登場して早々、何やら足に力を込めている。

「見せてあげますわ…!
伊達に強化スーツを着込んでいる人をヴィジョンにしている訳じゃないって事を!」
途端、『トリビュート・トゥ・べノム』が跳躍する。
するとリル子さんの身体も、並外れた高さまで飛び上がった。
それは、軽くトゲボールの高さを越えている。
…そして更に、彼女のいた場所には正真正銘『蜘蛛の巣』が張られていた。
そこへと見事に少女が突っ込んでしまう。

「…!!」
リル子さんの策に気付いても、時既に遅し。
彼女はまさしく、完全にリル子さんの獲物となってしまった。
粘着性の高い横糸に捕まり、彼女は完全に動きを封じられた。

「…巣を支える四隅の糸の内二本は地面にくっつけておき、
残り二本は私が手に持っています…どうしてでしょう?」
少女を飛び越え、着地するリル子さん。
それにより、蜘蛛の巣は見事に少女の上から覆い被さる形となった。

「そ…そんな事分かるわけないよ!」
もがきながらも反論する少女。
そんな彼女を、リル子さんは嘲笑するような顔で見据えた。

「それはね…こうするためなんだよォ―――ッ!!」
巣と地面を繋いでいた残り二本の糸も回収する。
それにより、少女は最早網に入ったスイカ状態となってしまった。

「『トワールヤンク』ッ!!」
その少女を、リル子さんはスタンドでブンブン振り回す。
高速回転の気持ち悪さによってか、少女のスタンドはいつの間にか解除されていた。

「いやややゃゃゃゃ
もうやめてー」
悲痛な叫びを上げる少女。
しかしリル子さんの攻撃は止まらない。

399N2:2004/05/23(日) 12:34

「…そしてここに縦糸で制作した『糸の壁』を作っておきました…。
さて、私はこれからどうするでしょう?」
再び少女にリル子さんが問う。

「そ…ッ!!そん……な…の…わか……!
オエッ」
吐き気を催しながら、彼女にはそこまで言うので精一杯のようだ。
その様子を、リル子さんは大そう機嫌良さそうに眺めていた。

「分からない?分からないでしょう、あなたみたいな子供程度には分かるはずないですもんね」
遂にリル子さんの暴言が表面化した。
…ああ、もうこれはどうにも止められなさそうだ。

「んだったらその身で味わってるんだなッ!!」
大方の予想通り、少女は『糸の壁』に叩き付けられた。
もちろん、それだけでリル子さんの怒りが収まるはずもない。

『オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ
オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ
オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ
オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ
オラァ―――――ッッ!!!!』

怒号と共に、少女の肉体は何度も何度も硬そうな壁に叩き付けられ続ける。
見てるこっちの方が痛そうだ。
そして最後の一撃で、彼女は壁へとめり込んでしまった。
…それでも、リル子さんの怒りは収まらない。

『オラッ!!』
そのまま壁ごと少女を殴り上げ、それを追い越すように再びハイジャンプ。

『オラァッ!!』
上空で飛んで来る少女を迎え撃ち、腹目掛け強烈なかかと落とし。

『…オオオオオオオオォ―――ッ!!』
そして空中で落下の速度を拳の威力に加算する。

『オラァ――――――――――――ッッ!!!!』
最後に全ての威力を右手に封じ込め、少女の身体に衝撃を叩き込む。
あの頑丈な壁はその余波だけで木っ端微塵に砕け散り、
少女自身は大きく喀血してそのまま動かなくなった。

「…十億年早えんだよッ!このガキッ!!」
(…また十年くらい経ったらお越し下さいね)
やるだけのことをやってどうやらリル子さんもスッキリしたらしい。
気が抜けたのか、最後の最後に本音が口から飛び出した。
と言っても今更誰も驚かないが。

400N2:2004/05/23(日) 12:34



「いやー、凄かったよリル子さん!
僕には何が何だかさっぱり分からなかったけど、
とりあえずリル子さんが凄く頑張ってたのだけは『理解可能』!だったよ!」
(超能力戦士リル子さん萌え、いや燃えるぜハァハァ!)
部屋に戻ったリル子さんを、モララーが温かく出迎える。
…こいつも、スタンドが見えないのによくついて来たもんだ。
そこの部分だけは感心するよ。

「…まあ…その…ありがとうございます」
(…お前に褒められても全然嬉しくないわい!)
リル子さん、かなり嬉しくなさそうである。

「…ところでモララーさん、私の願い事、一つ聞いてくれませんこと?」
突然、リル子さんがモララーに尋ねる。
その瞬間、彼の中であらゆる妄想が暴走した。

「そッ…そりゃあリル子さんの願い事だったら何だって聞いてあげるさ!
それで何だい?高い指輪?式場の準備?それとも…?」
(もしかして『本番』ですかーッ!?
(*´Д`)ハァハァハァハァ/lァ/lァ/lァ/lァ/ヽァ/ヽァ/ヽァ/ヽァ ノ \ア ノ \アノ \ア ノ \ア!)
…どうやら、完全に勘違いしてるようだ。
南無阿弥陀仏アメーン。

『オラッ!』
リル子さんの右手に集まった、『トリビュート・トゥ・べノム』の塊。
それを高速でぶん投げると、ヒット直前その頭がぬるり、と伸びる。
そして、ぶつかった衝撃の直後高速噛み付きの連撃!!
哀れ、モララーはその牙に噛み砕かれていく。

『オラァ――――ッ!!』
そして最後に、拳で吹っ飛ばされる。
「ヤッダーバァアァァァァアアアアア」
断末魔の叫び声を上げながら、モララーは血飛沫を撒き散らしながら宙を舞い、
頭から壁に突っ込んでめり込んでしまった。
…が、まだヒクヒク動いている。何つう生命力だ。
同族として、誇りに思うと言うか…いや!その前に情けないと言うか…。



(しかし、結局これで見合いはご破算ということらしいな)
熱狂的なバトルが終わって、ふとギコ兄が呟いた。
あ、そういや最初の目的はそれだったんだ。

(大将、これ以上ここにいてもしょうがありませんよ。
早くリル子さんに気付かれないようにここから脱出しましょう!)
ギコが大将に進言する。
大将もそれに頷き、コソーリと逃げようと動き始めた、その時…


「…で、どうしてあなた方がここにいらっしゃるのですか?」
(…逃げられるとでも思ったんですか?)

401N2:2004/05/23(日) 12:35

………!!!!
ピシャリと障子を開く音の後に、怒気のこもった女の声。
まさかッ、これはッ!!

「リ…リル子…これはその…あれだあれ、
一つの社会勉強の一環として…だな…」
青ざめて必至に言い訳をする大将。
だが、それでリル子さんが許してくれるはずが無い。

「………で?」
殺気に満ちたリル子さんの瞳。
やばい、リル子さんは今さっきの少女の時以上に怒っているッ!!

「……悪く思うな、『サザンク……』」
大将がスタンドを発現させようとする。
…が、リル子さんがその前に先手を取る。

『オラァッ!!』
触手のように伸びる『トリビュート・トゥ・べノム』の拳。
そしてそれは、大将がスタンドを出す前にその本体へと届いた。

「ガハァッ!!」
まともに拳を喰らい、大将がダウン。
そんなッ、頼みの綱の大将がやられただとォ――――ッ!?

「心に負い目を持った者は、スタンドの力も激減する…。
いつもそうおっしゃってましたよね?」
ピクリとも動かない大将を見下ろして、リル子さんがそう尋ねた。
大将は何も答えない。

「そして……」
リル子さんの目がこちらへと向けられる。

「覚悟は出来てんだろうな、オラァ――――ッ!!」
リル子さんの全身から、先程のバトルでは見せなかったほどの量の糸が噴き出す。
それに絡め取られ、オレ達三人は身動きが取れない。

『オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァ――――ッ!!』
リル子さんのスタンドと本体のダブルラッシュが繰り出された。
…その後オレ達がどうなったか、それは敢えて言うまでも無かろう。

402N2:2004/05/23(日) 12:38



 ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆



部屋の中では、ある女による男三人虐待ゲームが繰り広げられている。
それを子供三人は、子供特有の冷酷さで冷ややかに眺めていた。
ほったらかしにされた料理を独占しながら、三人がふと呟いた。

「確カニ今回、 イイ『社会勉強』ニハ ナッタヨ・・・」

「『女ハ怖イ』ッテコトガヨォーーー・・・」

「YES! YES! YES! ”OH MY GOD”」

┌─────────────────────────────────────────────────┐
|                                                                          │
|  ・逝きのいいギコ屋・相棒ギコ・ギコ兄                                        │
|  リル子さんに散々痛めつけられる。                                                │
|  本来ならば再起不能になりかねなかったのだが、そこはギコ兄弟の能力でどうにかなったらしい。             │
│  ちなみに、ギコ兄弟の傷はギコ兄が治療したが、彼がギコ屋の治療は拒否したため            .│
│  その傷は相棒ギコが波紋で治療した。                                                   │
│  再起可能。                                                               │
│                                                                          │
│  ・大将                                                                      │
│  一発でダウンしたのは実は見せかけで、その後に控えるラッシュを喰らわないためであった。                 .│
│  しかしそれを見抜いていたリル子さんに、見合い会場・庭園・そして自分のラッシュで荒らした会場の隣の部屋の ....│
│  修理費を全額押し付けられてしまう。                                                    │
│  占めて一千万円超の経済的負担。(金銭的に)再起不能。                                       │
│                                                                          │
│  ・キッコーマソ                                                                  │
│  秋にもなって池に落とされたお陰で、大風邪を引く。                                         │
│  しかもそれなのに帰ってから同罪ということできっちりリル子さんのラッシュを喰らう羽目に。                    │
│  心身ともにダメージが大きく、しばらく再起不能。                                           │
│                                                                          │
│  ・リル子                                                                      │
│  これに懲りず、いつか阿部本人と見合いをしようと目論んでいるようだ。                            │
│  一説には、高級な和室や庭園をブッ壊してスキーリしたとかしてないとか…。                             │
│                                                                          │

403N2:2004/05/23(日) 12:38
│  ・お見合いするモララー                                                          │
│  病院送り。職場への復帰はまだ先らしい。                                             │
│  だがリル子に対する執着心は再起可能。                                              │
│                                                                          │
│  ・みるまら(わむて・葱看)                                                           │
│  余りにダメージが酷く、放置していれば間違い無く死んでいたのだが、                             │
│  見るに耐えられなくなったギコ屋がギコ兄に治療を依頼。                                   │
│  しかし彼が全面的に拒否したため、相棒ギコが波紋で治療する。                                  │
│  と言っても、それは状況が「最悪」から「宇宙ヤバイ」くらいになった程度だが…。                        │
│  少なくともギコ屋達がこの町に滞在している間は、再起することはないだろう。                          │
│                                                                          │
│  ・手を負傷した仲居                                                               │
│  気絶している内にギコ兄が治してあげた。                                                 │
│                                                                          │
│  ・シャイタマー・ジサクジエン                                                                  │
│  この後、食べきれない料理をパックに詰めてもらい、歩いて自宅へと帰った。                           │
|                                                                          │                                                                        
└─────────────────────────────────────────────────┘

  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

404N2:2004/05/23(日) 12:40

                    〃ノノ^ヾ
                    リ´−´ル
.                   (  l:l )
                     |__,l'l_|
                    |___|
                    .し´J

NAME リル子

まず最初に、彼女が椎名編の神尾と同一人物ではないことを記しておく。

地元TV局に所属する女子アナで、「サザンクロス」の実質No2。
穏やかで礼儀正しい口調とは裏腹に、考えていることは余りにどぎつい。
表向きは身分に従っているが、腹の内ではいつ下克上しようと考えているかも分からず、
大将も彼女の動向には結構気を配っているようだ。

見合い・ニュース番組・料理番組と何かとモララー族と接する機会が多く、
さらにどいつもこいつも下ネタ連発で自分に言い寄ってくるため、
完全にモララー族に対しては拒否反応が出ている。
その為か、個人的な恨みなどは全く無いのだが、ギコ屋に対しては
丸耳なのにどうもギコ2人よりも冷たく厳しく当たっているとの噂。

ただ、戦闘実績も高い為、周りからそういう意味では信頼されているのもまた事実である。

405N2:2004/05/23(日) 12:40

                                 使用前
                                 ___
                                <_葱看>
                              / i レノノ))) \
                                人il.゚ ヮ゚ノ人 みるまらー
                                  ∪Yi
                                  く_ :|〉
                                  し'ノ

                                  ↓

                                 使用後
                                   ____
                                 <_葱看>
                                / i レノノ)) ヽ
                                  人il.゚ - ゚ノ、   みるまらー
                                 fヽ{:::::::::::}ノ
                                 (ヽ::::: ::::::|/)
                                  |::|:: ::::::|::ヽ
                                  ヽ::ヽ:::::::| |:::|
                                  ___|::|:::::::| ヽ:ヽ
                                 /:::::||.:::::::|  ||
                              ノ´:::::::::::N):::::::|  /|
                             /:::::O::::::::ヽ|::::::::|  |ノ
                            ノ::::::::::::::::@::::::::::::ノ
                            |:::::::::::O:/ ̄ ̄
                            ヽ::::::::::/
                             ` ̄´

NAME みるまら(わむて・葱看)

2chでみるまら荒らしが流行した頃、ギコ屋町にも現れた謎の少女。
街中でなんかピコピコやってたかと思うと、通行人の首を鎌で斬り落としたりしていたらしく、
噂は街中に広がっていた。
正体は『もう一人の矢の男』の末端の部下で、ギコ屋達が料亭「伍瑠庵」へと向かったという情報を受けて
そこへと向かったはいいが部屋を一つ間違えたお陰でえらい目に遭う
(とは言え部屋が正しかったならば『クリアランス・セール』『バーニング・レイン』『カタパルト』
それにジサクジエンと『サザンクロス』を一気に相手する羽目になっていたので余計悲惨な結果に終わっていたかも知れないが…)。

名前を言わなかったが彼女のスタンド『new model』は肉体を強化してジョジョ第一・二部の吸血鬼のような真似が出来る
肉体強化型・ヴィジョン無しのスタンドである。
…ぶっちゃけ読んで分かったかと思いますが、最初はただの針を出すスタンドの予定でした。
でもそれだとバトルがすぐ終わってしまうので、結局途中から路線変更してこんなとんでも能力に…。
でもまあ、スタンドを強調する為に途中のとんでも肉体強化は当初全面排除の方針だったので、これもまた良し…か?

406N2:2004/05/23(日) 12:41

                  ∧_∧
                 ( ・∀・)
                 ( <V> )
                 | | |
                 (__)_)

NAME お見合いするモララー

リル子と共に『2ch News』に出演する地元テレビ局のアナウンサー。
長年リル子と仕事を続け、同時にリル子にアタックも続けてきたのだが
ことごとく無視され続けて来た。
今回、かなり姑息な真似をすることで強引に見合いへとこじつけたが、
その代償はかなり大きかったようだ。

本来このキャラはアナウンサーとは別人のはずであるが、
展開上同一人物とした。

407N2:2004/05/23(日) 12:42

             ∧蜘∧
            i´((>Ж<))   ∧毒∧
            | |ж#W⌒)  (_》 《_)ヽ
            |J ノ|J\\  WW/>")
            | | |   \⌒~WW/  ⌒)
            ∪∪     ⌒l Ж /# /
                     〉   WW )
                    /  ∧  ヽ
                    (  ( ヽ  ヽ
                    /  /  ヽ ヽ
                   WW )   ( WW

┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
┃          スタンド名:トリビュート・トゥ・ベノム           ┃
┃               本体名:リル子                  .┃
┣━━━━━━━━┳━━━━━━━━━┳━━━━━━━━━┫
┃  破壊力 -A    .┃   スピード -A  ....┃  射程距離 -D    .┃
┣━━━━━━━━╋━━━━━━━━━╋━━━━━━━━━┫
┃  持続力 -C  ....┃  精密動作性 -C......┃   成長性 -D     .┃
┣━━━━━━━━┻━━━━━━━━━┻━━━━━━━━━┫
┃強化スーツに身を包んだ某アメコミのキャラがヴィジョンのスタンド。.┃
┃強度に長け、収束させることで絶大な硬度を生み出せる『縦糸』と  ┃
┃粘着性が強く、相手を捕らえることの出来る『横糸』を放出する。   .┃
┃糸で制作出来るものは幅広く、縦糸は鋭い剣にも硬い盾にもなるし..┃
┃横糸は防御網にも捕縛網にもなる。                   ┃
┃またスタンド自身の運動能力は非常に高く、それを利用して      ┃
┃本体が超人的な動きをすることも可能である。               ┃
┃なお、イメージAAにある蜘蛛男はキャラを分かりやすくするため  .┃
┃だけの存在であって(単にコピペ後編集しなかったとも言う)、     ┃
┃実際にはヴィジョンには含まれてはいない。                    ┃
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛

408N2:2004/05/23(日) 12:42

┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
┃             スタンド名:new model                    ┃
┃               本体名:みるまら                    .┃
┣━━━━━━━━┳━━━━━━━━━┳━━━━━━━━━┫
┃  破壊力 -− ......┃   スピード -−  ..┃  射程距離 -−   . ┃
┣━━━━━━━━╋━━━━━━━━━╋━━━━━━━━━┫
┃  持続力 -B    .┃  精密動作性 -− .┃   成長性 -B   ..┃
┣━━━━━━━━┻━━━━━━━━━┻━━━━━━━━━┫
┃肉体を変化・変質させる、ヴィジョンの無いスタンド。            .┃
┃本体は主に肉体から無数の針を生み出す攻撃を使っていたが、   ┃
┃その他にも翼を生やす・ビーム・蛇化などといったことも可。     ┃
┃端的に言えば、吸血鬼みたいな事が出来ると考えて貰って       ┃
┃差し支えない。                                  ┃
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛

409N2:2004/05/23(日) 12:43

以下、以前の話に出てきて紹介し忘れた分を一挙に載せてしまいます。



                  /⌒⌒ミ
                 _|_J_ミ
                  (´∀` )
                  ( ̄| | ̄)
                  |___| |___|
                  (_(_)

NAME 空条モナ太郎

ご存知、スピードモナゴン財団に所属する海洋研究家。
かつてDIOと戦い、その後も『矢』に関して世界中を調査する。
彼のスタンド「スタープラモナ」は時を止める能力を持ち、最強との呼び声も高い。

擬古谷町へは『矢』を持つ者がもう一人いるとの情報を受けてやって来て、
そこで『もう一人の矢の男』、更に彼と戦うギコ屋を発見した。
そして彼の実力に期待し、また本人達の希望もあって
ギコ屋ら3人に『もう一人の矢の男』討伐の協力を依頼する
(丸餅氏の設定の出来た今にして言えば、<仲介人>の契約を結んだと言うべきか)。

また大将とはどうやら昔からの知り合いらしく、
ギコ屋達に「サザンクロス」入団を勧めたのも彼である。

410N2:2004/05/23(日) 12:44

                   /|/|/|
                   /| .//|
                 /// / |
                 ヽ─0─//
              ______ |´∀`||]
              \@ /ヽ ̄ ̄ /\@ /
              / ̄_| ̄| ̄ ̄|  ̄\
              |  _ュ ) |   /\__  |
               \_ノ _|___| (_/
                  ヽ_|_/
                    ミ┴/

┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
┃             スタンド名:スタープラモナ                 ┃
┃              本体名:空条モナ太郎                 ┃
┣━━━━━━━━┳━━━━━━━━━┳━━━━━━━━━┫
┃  破壊力 -A    .┃   スピード -A  ....┃  射程距離 -E   .┃
┣━━━━━━━━╋━━━━━━━━━╋━━━━━━━━━┫
┃  持続力 -A    .┃ 精密動作性 -A   .┃  成長性 -完成 ......┃
┣━━━━━━━━┻━━━━━━━━━┻━━━━━━━━━┫
┃余りにも凄まじいスピードを誇り、時を2秒ほど止める事が出来る。...┃
┃またパワー・精密動作性も素晴らしく、ダイヤモンドほどの      ┃
┃硬度を誇る鉱石を素手で破壊したり、薄暗い写真の背景にいる   ┃
┃蝿の姿を正確に模写することも出来る。                     ┃
┃多くを語る必要の無い、余りに有名なスタンド。               .┃
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛

411N2:2004/05/23(日) 12:44

                      (   ▲∧
                     ⊂、⌒⊃゚ヮ゚)⊃

NAME ミィ

『もう一人の矢の男』の忠臣の一人。
半角で喋るので話が理解しにくいことこの上ない。
相手を感染・同化されるという恐るべき種族的能力を持ち、
更にスタンドも相手をミィ化されるウイルスを放出するというとんでも能力である。
しかし、ギコ屋曰く「ってそれスタンドの意味無いやん」。
戦っている最中に「聖母たちのララバイ」を歌ったのは
単に知っていただけなのか、はたまたその世代の人間だからなのか。

『もう一人の矢の男』に異常なまでの忠誠を誓い、彼の命には何の疑いも持たずに従っていた。
その結果、皮肉にも捨て駒として使われてしまった挙句、
ギコ兄によってでぃの脳細胞を植え付けられ完全に思考がでぃ化してしまい、
最後は『電気スタンド野郎』によってギコ屋達もろとも建物ごと強烈な電気を落とされ、
不死キャラであるにも関わらず完全に塵も残らずに焼失してしまった。

412N2:2004/05/23(日) 12:45

┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
┃          スタンド名:シック・ポップ・パラサイト            .┃
┃                 本体名:ミィ                    ┃
┣━━━━━━━━┳━━━━━━━━━┳━━━━━━━━━┫
┃  破壊力 -A    .┃   スピード -C   ┃  射程距離 -E   .┃
┣━━━━━━━━╋━━━━━━━━━╋━━━━━━━━━┫
┃  持続力 -C  ....┃  精密動作性 -E ...┃   成長性 -D     .┃
┣━━━━━━━━┻━━━━━━━━━┻━━━━━━━━━┫
┃感染した者をミィ化させるウィルスを全身から撒き散らす。       ┃
┃ウィルスは呼吸・皮膚接触等あらゆる方法で感染するが、       ┃
┃空気中で生存していられる時間は極めて短い。                ┃
┃と言っても感染力は非常に高く、身体のパーツの一部が        ┃
┃既にミィ化してしまった時にはそこを切り落としても             .┃
┃手遅れである可能性の方が高い。                     ┃
┃本体による感染能力は接触ないし自身の虐待・虐殺が         .┃
┃条件であるのに対し、こちらはすぐ死ぬとは言えそれなりの       .┃
┃距離までウィルスは届くため、一応このスタンドに意味はある。    .┃
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛

413N2:2004/05/23(日) 12:46

                     ,∧_∧
                    X ノ ハヘ X
                     |゚ノ ^∀^)
                    §,     )
                     !!|  Y |
                     (__)_)

NAME 暗殺者(レモナっぽい)

ひろゆきの命でジョナ=ジョーンズを擬古谷町まで暗殺しに来た女。
どうやら本当に女だそうだが、彼女よりもジョナの方が
余程女らしく見えていたようだ。
手裏剣のスタンド『スカイ・ビューティーズ』で彼を殺そうとするも、
冷気で攻撃を全て防がれた挙句、わざと見逃されてしまう。
そのことで逆上した彼女は背後から奇襲をかけるのだが、
何故か逆に彼女が負傷し、最期はジョナに雷ギロチン
『王妃マリーの悲しみ』を落とされ、黒焦げになる。
しかもその上遺体をギコ兄に解析され、女としてのプライド丸潰れ。アーメン。

だがそもそも何故ひろゆきは彼女を使ってジョナを暗殺しようとしたのか?
肝心の部分については、まだ何も明らかにはなっていない。

ちなみに(レモナっぽい)というのはレモナと断言すると本スレでレモナを使う人が出た時に
不都合が出かねない(そして実際使う人が現れたが)ということを考慮した結果である。

414N2:2004/05/23(日) 12:47

┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
┃          スタンド名:スカイ・ビューティーズ            ┃
┃           本体名:暗殺者(レモナっぽい)               .┃
┣━━━━━━━━┳━━━━━━━━━┳━━━━━━━━━┫
┃  破壊力 -B    .┃   スピード -A  ....┃  射程距離 -C  ....┃
┣━━━━━━━━╋━━━━━━━━━╋━━━━━━━━━┫
┃  持続力 -E   .┃  精密動作性 -A  .┃   成長性 -D     .┃
┣━━━━━━━━┻━━━━━━━━━┻━━━━━━━━━┫
┃手裏剣の形状をしたスタンド。                        .┃
┃本体の意志によって多数発生し、相手向かって飛行し、攻撃する。..┃
┃なおどうやらこれは手裏剣の姿をした群体型スタンドではなく、   .┃
┃その都度本体がスタンドパワーを消費して新しく作っているようだ。 .┃
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛

415N2:2004/05/23(日) 12:49

予告編:ギコ兄教授の何でも講義

1/11
/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
|  んじゃ、講義を始めるぞ。
\__  _________________
━━━∨━━━━━━━━━━━━
       よろしくお願いします

                ∩_∩
━|;;::|∧::::... /━━━━━ |___|F━━  ∧∧
  |:;;:|Д゚;) / ∇      (・∀・ )      (゚Д゚,,)
  |::;;|;│つ::..┌─┐   /⊂    ヽ   /⊂  ヽ
  |::;:|;;;|:::.::::::.|□|  √ ̄ (____ノ √ ̄ (___ノ〜
  |:;::|::U.:::::::::|   |  ||   ━┳┛  ||   ━┳┛
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|   | ====∧==========
    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
    |  一体何する気なんだろう…?
    \____              ∧
         / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
         |  変な真似だけは勘弁だぞ…。
         \________________

2/11
/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
|  今日は『今後の作品予告』についてだ。
\__  _________________
━━━∨━━━━━━━━━━━━
        いつ書けるか分からないのに予告
                ∩_∩
━|;;::|∧::::... /━━━━━ |___|F━━  ∧∧
  |:;;:|Д゚;) / ∇      (・∀・ ;)      (゚Д゚ ;)
  |::;;|;│つ::..┌─┐   /⊂    ヽ   /⊂  ヽ
  |::;:|;;;|:::.::::::.|□|  √ ̄ (____ノ √ ̄ (___ノ〜
  |:;::|::U.:::::::::|   |  ||   ━┳┛  ||   ━┳┛
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|   | ====∧==========
    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
    |  それだけの為にこんな大掛かりなセットを…?
    \____              ∧
         / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
         |  つーか、兄貴の頭身が…。
         \________________

416N2:2004/05/23(日) 12:50

3/11
/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
|  今後の予定は、次のようになっている。
\__  _________________
━━━∨━━━━━━━━━━━━
      『兄弟の絆』(仮)
      『痛みを分かち合う会』(仮)
      『デムパ(・∀・)ハイッテル』
      『快楽殺人鬼との戦い』(仮)
      以下、最終決戦へ…?

                ∩_∩
━|;;::|∧::::... /━━━━━ |___|F━━  ∧∧
  |:;;:|Д゚;) / ∇      (・∀・ )      (゚Д゚,,)
  |::;;|;│つ::..┌─┐   /⊂    ヽ   /⊂  ヽ
  |::;:|;;;|:::.::::::.|□|  √ ̄ (____ノ √ ̄ (___ノ〜
  |:;::|::U.:::::::::|   |  ||   ━┳┛  ||   ━┳┛
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|   | ====∧==========
    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
    |  (仮)ってのはほぼ間違い無くタイトルが変わると思って欲しいんだな!
    \____              ∧
         / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
         |  まあ、一部好評だった『デムパ〜』はそのままで通すらしいが。
         \________________

4/11
/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
|  ちなみに、そこへと何話か椎名編が割り込んでくるから、覚えておくように。
\__  _________________
━━━∨━━━━━━━━━━━━
       椎名編、忘れてませんか?
                ∩_∩
━|;;::|∧::::... /━━━━━ |___|F━━  ∧∧
  |:;;:|Д゚;) / ∇      (・∀・ :)      (゚Д゚ ;)
  |::;;|;│つ::..┌─┐   /⊂    ヽ   /⊂  ヽ
  |::;:|;;;|:::.::::::.|□|  √ ̄ (____ノ √ ̄ (___ノ〜
  |:;::|::U.:::::::::|   |  ||   ━┳┛  ||   ━┳┛
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|   | ====∧==========
    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
    |  普通は忘れてるって…。
    \____              ∧
         / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
         |  ありゃほとんど空気と化してるからな…。
         \________________

417N2:2004/05/23(日) 12:51

5/11
/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
|  ちなみに、我々ギコ屋編も番外編を入れようかと考えているところだ。
\__  _________________
━━━∨━━━━━━━━━━━━
       聞いて驚くなかれ
                ∩_∩
━|;;::|∧::::... /━━━━━ |___|F━━  ∧∧
  |:;;:|Д゚;) / ∇      (・∀・ )      (゚Д゚ ;)
  |::;;|;│つ::..┌─┐   /⊂    ヽ   /⊂  ヽ
  |::;:|;;;|:::.::::::.|□|  √ ̄ (____ノ √ ̄ (___ノ〜
  |:;::|::U.:::::::::|   |  ||   ━┳┛  ||   ━┳┛
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|   | ====∧==========
    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
    | へー、どんな話?
    \____              ∧
         / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
         |  嫌な予感…。
         \________________

6/11
/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
|  それはこれだァ―――――ッ!!
\__  _________________
━━━∨━━━━━━━━━━━━
       『遥かなる旅路さらば擬古谷町よの巻』

                ∩_∩
━|;;::|∧::::... /━━━━━ |___|F━━  ∧∧
  |:;;:|Д゚;) / ∇      (・∀・ #)      (゚Д゚#)
  |::;;|;│つ::..┌─┐   /⊂    ヽ   /⊂  ヽ
  |::;:|;;;|:::.::::::.|□|  √ ̄ (____ノ √ ̄ (___ノ〜
  |:;::|::U.:::::::::|   |  ||   ━┳┛  ||   ━┳┛
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|   | ====∧======∧===
    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  ̄ ̄
    | お    い    ッ    !    !
    \__________________

418N2:2004/05/23(日) 12:51

7/11
/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
|  ちなみにこちらがサブタイトルとなっている。
\__  _________________
━━━∨━━━━━━━━━━━━
       〜ピンク玉も出るよ〜
                ∩_∩
━|;;::|∧::::... /━━━━━ |___|F━━  ∧∧
  |:;;:|Д゚;) / ∇      (・∀・ #)      (゚Д゚#)
  |::;;|;│つ::..┌─┐   /⊂    ヽ   /⊂  ヽ
  |::;:|;;;|:::.::::::.|□|  √ ̄ (____ノ √ ̄ (___ノ〜
  |:;::|::U.:::::::::|   |  ||   ━┳┛  ||   ━┳┛
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|   | ====∧==========
    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
    | ってタイトルは決定事項かよ!
    \____              ∧
         / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
         |  つーかピンク玉っつったらあのキャラしかいねえじゃねえか!
         \________________

8/11
/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
|  ん?それがどうしたと言うんだ?
\__  _________________
━━━∨━━━━━━━━━━━━
       なんだ もんくあるか

                ∩_∩
━|;;::|∧::::... /━━━━━ |___|F━━  ∧∧
  |:;;:|Д゚;) / ∇      (・∀・ #)      (゚Д゚ ;)
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    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
    | ラスボスも倒してないのに擬古谷町見捨てる気か、クラァ!!
    \____              ∧
         / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
         |  このセリフってやっぱり…。
         \________________

419N2:2004/05/23(日) 12:53

9/11
/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
|  まあ、深い所は(゚ε゚)キニシナイ!!
\__  _________________
━━━∨━━━━━━━━━━━━
       番外は番外
                ∩_∩
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    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
    | こら、ちゃんと質問に答えろ!
    \____              ∧
         / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
         |  放っとけ、もう何言っても答えないぞ…。
         \________________

10/11
/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
|  お、そろそろ時間のようだな。
\__  _________________
━━━∨━━━━━━━━━━━━
       長いようで短かった授業も、
       これでお終いです
                ∩_∩
━|;;::|∧::::... /━━━━━ |___|F━━  ∧∧
  |:;;:|Д゚;) / ∇      (・∀・ ;)      (゚Д゚ ;)
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    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
    | 結局何がやりたかったんだよ…。
    \____              ∧
         / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
         |  お前は「ピンク玉」と言いたかっただけとちゃうんか、と。
         \________________

420N2:2004/05/23(日) 12:53

11/11
/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
|  んじゃ、これが宿題だ。
\__  _________________
━━━∨━━━━━━━━━━━━
       『私とギコ兄』のタイトルで
       400字詰め原稿用紙10枚以上に
       作文を書いてくること
                ∩_∩
━|;;::|∧::::... /━━━━━ |___|F━━  ∧∧
  |:;;:|Д゚;) / ∇      (・∀・ #)      (゚Д゚ ;)
  |::;;|;│つ::..┌─┐   /⊂    ヽ   /⊂  ヽ
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    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
    | 何で最後にそういう方向に行くんだ!
    \____              ∧
         / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
         |  ある意味俺には有利な宿題だな…。
         \________________


  /└─────────────┬┐
. <   Not To Be Continued... Maybe | |
  \┌─────────────┴┘

421新手のスタンド使い:2004/05/23(日) 17:10
ワロタ。N2氏乙!

422:2004/05/23(日) 21:37

「―― モナーの愉快な冒険 ――   吹き荒れる死と十字架の夜・その2」



          @          @          @



 丸耳は、しぃの家に足を踏み入れた。
 土足だが、この際仕方ない。
 モララーの家族は、無事に保護してASA本部ビルに送り届けてある。
 防衛面ではやや不安だが、これから戦場に赴く軍艦に乗せるわけにもいかないだろう。
 後は、しぃの家族を保護するだけだったのだが…

 異常は、すぐに感じ取った。
 しぃの家を包囲しているはずの米兵は、1人も見当たらない。
 引き返したにしても、しぃの家族を拘束したにしても、余りに早すぎるのだ。

 丸耳は廊下をゆっくりと進んだ。
 むせ返るような血の匂い。
 そして、家中に散乱する米兵達の死体。
 総じて、死体の損傷は酷い。
 その手足は、まるで食い千切られたかのように散らばっている。
 一体、ここで何があったのか…

 丸耳は、米兵の傍に転がっていた自動小銃を手に取った。
 そのマガジンは空である。
「交戦した… という事は、相手が見えていた?」
 丸耳は呟いた。

 迷彩服の死体に埋もれて、倒れている女性を発見する。
 丸耳は慌てて駆け寄った。
 女性に息はある。特に外傷もない。
 単に気絶しているだけのようだ。
「まあ、これを見れば仕方ないか…」
 丸耳は、血と挽き肉の洪水である周囲を見回した。

 年齢と風貌からして、この女性はしぃの母親に違いないようだ。
「よっ…と」
 丸耳は、しぃの母親を肩に抱えた。
 あと、この家にしぃタナがいるはず…

 1階はくまなく調べ終わった。
「ここに危険はないようなんで… しばらく失礼しますよ」
 丸耳は、しぃの母親を階段の脇に寝かせた。
 そして、ゆっくりと階段を上がる。

 ――僅かな声。
 女の子のすすり泣き、そして呟きが、丸耳の耳に入った。

「…ここか」
 丸耳は、警戒しながら声の聞こえる部屋のドアを開けた。
 女の子らしく、可愛く飾り付けられた部屋だ。
 多少、過剰ともいえるほどに。
 電気はついていない。
 丸耳は、ゆっくりと部屋に踏み込んだ。

 赤いカーペット。
 元々の赤か、血の赤かは判別がつかない。
 部屋の一番奥に、しぃタナは屈み込んでいた。
 その周囲には、跡形もないほど引き千切られた米兵の死体が散乱している。

「私じゃない… こんなの、絶対に私がやったんじゃない…」
 しぃタナは、すすり泣きながら何度も呟いていた。
「誰ッ…!?」
 そして、丸耳の方を見る。
 ようやく彼の存在に気付いたようだ。
 しぃタナの瞳は、何かに対して怯えきっている。

「私は敵じゃありません。正月にモナー君の家で会ったでしょう。覚えてますか?」
 丸耳は両手を広げて、敵意がない事を示した。
「貴方達を保護しに来ました…」
 そう言いながら、丸耳は『メタル・マスター』のヴィジョンを背後に浮かべた。
「な…何、それ…!?」
 しぃタナは、丸耳の背後に視線をやる。

 ――やはり、見えている。
 無意識の発動。
 米兵達を葬ったのは、彼女の仕業に間違いない。
 米兵にも見えていたらしき事からして、物質融合型か?

 丸耳は、しぃタナに手を差し出した。
「…ASAへようこそ、しぃタナさん」

423:2004/05/23(日) 21:37



          @          @          @



 朝食を済ませて、俺は食堂を出た。
 リナーは、ねここが俺のベッドにいた事を誤解しているだろう。
 彼女の部屋に行く前に、機嫌を直す材料を用意しておくか…
 俺は、武器庫へ向かった。

 当然ながら、武器庫の扉には鍵が掛かっている。
 仕方ない、こっそり『破壊』するか…
 俺はニヤリと笑って、懐からバヨネットを取り出した。

「おや? 何をされてるんです?」
 クルーの1人が、俺に声をかけてきた。
「い、いや! 特に何も…!!」
 俺は、慌ててバヨネットを背中に隠す。

「もしかして、武器が御入り用ですか?」
 武器庫を任されているらしい、このクルーは言った。
 俺は無言で頷く。
 すると、クルーは鍵を開けてくれた。
「では、どうぞ…」
 そう言って、クルーが先に武器庫に入っていく。
 俺は恐縮しながら、彼の後に続いた。

 一体、俺の存在はどんな風に伝わっているのだろう。
 驚くほどの優遇振りだ。

「どうぞ。どれでも持っていってください」
 クルーは銃器を示して言った。
 沢山のラックに、大小様々な銃が並んでいる。
 俺は、飾ってあるリボルバーに目をやった。
 そう言えば、リナーがリボルバーを使っているところは見た事がない。
 彼女は、リボルバーは嫌いなのだろうか。

 何となく、大型拳銃の1つを手に取った。
 どれがリナーのお気に召すか、素人の俺にはさっぱり分からない。
「えーと、女の子へのプレゼント用に最適なのは…?」
 俺は銃をラックに戻すと、クルーに訊ねた。

「女性へのプレゼントですか…?」
 クルーは目を丸くしながら、小型の拳銃を手に取った。
「このM1910はどうです? 少し古い型ですが、軽量で女性にも扱いやすいですよ」

「いや、そういう意味じゃなくて…」
 俺は首を振る。
「ああ、なるほど。そういう事ですか…」
 クルーは、ようやく理解したように頷いた。
「それは難しいな。GAU−8/Aの立射カスタムを所持しているような人ですからねぇ…
 あの人が満足する品があるかどうか…」

 どうやら、彼は正確に理解してくれたようだ。
 それにしても… しぃ助教授は俺達の事を何と説明したんだ?

「これなんてどうです?」
 クルーは、奥の棚からやけに古臭いマシンガンのようなものを引きずり出した。
「MG42。第二次大戦中、連合軍兵士を震え上がらせた由緒ある一品です。
 ここまで美麗な状態のMG42というのは、ちょっと無いですよ」

 俺は、そのMG42とやらを受け取った。
 これなら、リナーは気に入ってくれるだろうか。
 どうせ、俺が見たって分からない。この人を信じるとしよう。

「…ん? これは?」
 俺は、机の上に置かれていた短剣に目をやった。
 何か、すごく惹きつけられるものがある。

「ナチスS・A(突撃隊)の装飾短剣です。装飾刀と言っても、切れ味は折り紙付きですよ」
 クルーは説明してくれた。
 俺は、木製の柄を手に取る。かなり軽い。
 刃には、『Alles fur Deutschland』と刻印されている。
 意味は分からない。
 おそらく、ドイツ語だろう。

「お気に召したのなら、差し上げますよ」
 クルーは、刃に見惚れている俺に告げた。
「えっ、いいモナか!?」
 俺は喜んで、その短刀を懐に仕舞う。
 これって、ASAの備品じゃあ…
 そんなにホイホイ他人にあげてもいいんだろうか。
 このクルーが後ほどしぃ助教授に折檻されては、申し訳ないどころの話ではない。

「では、鍵を閉めますので…」
 クルーは言った。
 俺はMG42を手に取ると、武器庫を出た。
「いろいろすまないモナね…」
 俺は、クルーに礼を言う。
「いえいえ。あなた方の働きに期待していますよ」
 クルーは、そう言って去っていった。
 1回り以上も年齢が上の人にそんな事を言われ、俺は大いに恐縮する。
 さて、リナーの部屋に行くか。

424:2004/05/23(日) 21:39

 リナーの部屋をノックした。
 中から返事がある。
 俺は、恐る恐るドアを開けた。

 リナーは、銃を机の上に並べて整備していた。
 俺の方を横目でちらりと見る。
「何か用か…?」
 リナーは、立ち尽くす俺に冷たく告げた。
 明らかに機嫌が悪い。

「プ、プレゼントモナ…」
 俺は何ら気の利いた言葉もなく、リナーにMG42を差し出した。
「…?」
 きょとんとした表情を浮かべるリナー。

「…君の意図が読めないが、とりあえず受け取っておく」
 リナーはMG42を受け取ると、机の上に置いた。
「それにしても… 女性に銃をプレゼントするとは、君はどういうセンスをしているんだ?」
 
「…」
 何と言っていいか、返答に困る。
 だが、リナーの機嫌はかなり直っているようだ。

「ところで、このイージス艦の武装について教えてほしいモナ」
 俺は、さらに追い討ちをかけた。
 彼女の好きそうな話題に持っていき、完全に機嫌を直してもらおうという策略だ。
 この艦で戦闘に赴く以上、艦の武装は頭に入れておいた方がいいだろう…というのもあるが。

「…ちょっと待て。長期戦になるだろうから、お茶でも入れてこよう」
 リナーはそう言って椅子から立つと、素早く部屋を出て行った。
 ――本気だ。
 どうやら、完全に臨戦態勢に入るようだ。
 もしかしたら、地雷を踏んでしまったのかもしれない。

 リナーは、すぐにお盆を持って戻ってきた。
 やけに日本的な湯呑みを2人分携えている。
 俺はベッドに腰を下ろすと、湯飲みを手に取った。
 その横に、リナーが腰を下ろす。

 お茶を軽くすすって、リナーは口を開いた。
「イージス艦の装備を語るには、まずこの艦が必要となった時代背景を語る必要がある。
 そうすると、話は大艦巨砲主義の崩壊に遡る…」
「ええっ! そこまで遡るモナか!?」
 俺は思わず口を挟んだ。
 大艦巨砲主義の崩壊とは、『航空機が強いから、重くて金のかかる戦艦なんていらなーい』という事だったと思う。
 それは、確か第二次世界大戦の時の話だ。

「…文句があるのか?」
 リナーは俺を鋭く睨んだ。
「いえいえ、そんな滅相もない…」
 俺は慌てて首を振る。

 それからリナーは、長い長い長い話をしてくれた。
 開戦当時の軍事産業の偏り、日本軍部の戦略目標の誤り。対米早期講和政策の失敗。無条件降伏の承諾。
 戦後のソ連の台頭。『核』がもたらした軍事バランス。アジア共産化の脅威。頻発する米ソの代理戦争。
 東西冷戦。そして、『鉄のカーテン』の崩壊…
 ギコがいれば、さぞかし話は弾んだだろう。
 要は、ソ連の対艦ミサイルや潜水艦の脅威に対抗して作られた水上艦が、このイージス艦という事らしい。

「…イージス艦は、長射程ミサイルや攻撃原潜を迎撃する為に生を受けた。
 この艦は、超精密化したシステムと最先端テクノロジーの産物なんだ」
 リナーは、何故か誇らしげに言った。
 俺は、無言で冷たくなった茶をすする。

「さて、それではいよいよこの艦の武装の話をしよう。その際に避けて通れないのが、ミサイルの運用だ…」
 リナーは腕を組んで言った。
 なんと、まだ本題に入らないのか。
「一概にミサイルと一括りにしているが、その種類は多い。
 映画等では、区別をつけず滅茶苦茶に撃っている場合が多いがな。
 対艦、対空、対地、対戦車と、用途ごとにミサイルの性質は全然違ってくる。1つ1つ説明していこう…」
 リナーはそう言って茶をすすった。
 あれも、すっかり冷めているはずだ。

 湯飲みをお盆の上に置くと、リナーは口を開いた。
「まず、対艦ミサイル。水上艦の破壊を目的としたミサイルだ。
 徹甲榴弾と成形炸薬弾の2種類がある。両者とも、爆発でダメージを与えるタイプだ。
 なにぶん攻撃目標が大型だから、炸薬量もそれに応じて増える。
 一部例外を除き、そんなに速度は速くない。攻撃目標となる水上艦は、急激な移動ができないからな」
 ふむふむ。
 対艦ミサイルは、スピードは速くないが威力は高い…と。

 リナーは説明を続ける。
「次に、対空ミサイル。航空兵器を撃墜するためのミサイルだな。
 これは、ほとんどが破片榴弾だ。もともと、対空ミサイルは目標に大ダメージを与える事を目的としていない。
 空を飛んでいるものというのは、少しでもバランスを狂わせれば落ちるからな。
 そして航空機を追尾する以上、その速度は凄まじい」
 なるほど。
 対空ミサイルは、スピードは速いが威力は高くない。それでも、飛行機を落とすには充分…と。

425:2004/05/23(日) 21:40

「そして、対地ミサイル。地上攻撃用だ。
 まあ爆弾のようなもので、破片榴弾が主流だ。
 対地ミサイルというのは、さらに用途が分かれるので一概に説明は出来ない。
 射程1万kmを超える対地ミサイルはICBM(大陸間弾道ミサイル)と呼ばれるな」
 ほう。
 対地ミサイルは、種類も一杯…と。

「最後に、対戦車ミサイル。その名の通り、戦車を破壊するミサイルだ。
 現代の第三世代MBT(主力戦車)は、通常の砲撃では撃破し難いからな。
 このミサイルには、HEAT弾と呼ばれる成形炸薬弾を使用している。
 言わば、対装甲用に特化した専用弾頭だな」
 ふむ。
 対戦車ミサイルは、戦車破壊に特化したミサイル…と。そのままだが。

「これらのミサイル攻撃を防ぎ、また自らも幾多のミサイルで武装した艦が、このイージス艦だ」
 いよいよ本題という風に、解説に力を入れるリナー。
 俺は、何となく姿勢を正した。
 リナーは解説を続ける。
「このタイコンデロガ級イージス艦には、スタンダード艦対空ミサイルとハープーン対艦ミサイル…
 そしてトマホーク巡航ミサイルが装備されている」

「でも、どこにあるモナ?」
 俺は、『アウト・オブ・エデン』で艦の外観を視る。
 ミサイルの発射台のようなものはどこにも見当たらない。
「前部と後部の甲板に、正方形で区切られた区画が見えるだろう…?」
 リナーは言った。

 確かに、前部甲板の真ん中に1.5mほどの正方形の部分がズラリと並んでいる。
 その数、約60個。これは、何かのフタか…?
 後部甲板にも同じものが並んでいるが。

「それが、VLS(垂直発射システム)。ミサイルの格納庫と発射口を兼ねている」
 リナーは解説した。
 なるほど…
 あのフタがパカッと開き、ミサイルが飛び出すわけか。
 フタは、とんでもない数である。
 あの中に、無数のミサイルが…

「で、他の武装だな。艦の前後に1門ずつ装備されているのが、127mm単装艦載砲だ。
 対艦ミサイル、水上艦、陸上目標の破壊とオールマィティに使える。
 君はたった1門しかないとか不平を垂れていたが、1門しかないのは増やす必要がないからだ。
 あの砲は、イージス・システムとのリンクにより同時に100以上の目標を捕捉・撃破できる」

「それは、すごいモナね…」
 俺は、素直に感嘆した。
 砲門数が少ない=弱いという考えは、それこそ大艦巨砲主義の過ちそのものだろう。
 戦闘に於いて、外見で判断するというのは論外である。
 俺は大いに反省した。

「で、艦橋に備え付けられているのがCIWS20mm機関砲だ」
 リナーは説明を続ける。
 あの、ガトリング砲のオモチャみたいなやつか。

「あれは近距離防衛用だ。寸前まで迫った航空機やミサイルを叩き落す役目だな。
 射程距離は1.5Kmと短いが、毎分3000発の発射速度と高い命中率を誇る。
 捜索・探知・脅威度評価・追尾・発砲・弾着修正・撃破確認・次目標探知を全て自動でこなし、
 イージス・システムとリンクして、多数の目標を同時捕捉できる。
 航空機10機程度なら、20秒で叩き落せるな。
 とは言え、この兵装には威力の低さという弱点があるが」
 リナーは一息で言った。
 聞いているこっちも、段々疲れてくる。

 リナーは、言葉を切るとお茶を口にした。
 やはり、喋り続けていると喉が渇くのだろう。
「他にも、対潜ロケット・アスロックを装備しているので、潜水艦とも互角以上に戦える」
「対潜ロケット…? ミサイルとは違うモナか?」
 俺は訊ねた。
「まあ、魚雷のようなものだ。ロケットとミサイルの区別は非常にややこしい。
 映画はもちろん、報道メディアでも混同している場合が多いな。
 無反動砲や携帯ミサイル、誘導と非誘導ミサイル、さらにグレネードランチャーまでごっちゃになっている場合がある。
 さらに、バズーカと呼ばれる対戦車ロケットの固有名詞呼称問題なども無関係ではない…」
 リナーは言った。
 俺はふと時計を見る。何と、もう12時。
 すでに昼時だ。

「リナー、昼食を食べに行かないモナ?」
 俺は、リナーの話が途切れるタイミングを見計らって食堂に誘った。
「あまり食欲はないが… まあ、たまには普通の食事も悪くないな」
 リナーは承諾したようだ。
 俺とリナーは、連れ立って部屋を出た。

426:2004/05/23(日) 21:41


 食堂に入る。
 中は、一息ついているクルー達で賑わっていた。
 長い机といい椅子といい、まさに食堂と言うイメージだ。
 とても最新テクノロジーの結晶、イージス艦の艦内とは思えない。
 俺達は、カウンターに並んだ。
 昼食はうどんとケーキのようだ。

「おっ! あんたが噂の!! 大食いなんだってねぇ。ケーキのイチゴおまけしてあげるよ」
 食堂のオッサンは、ケーキにイチゴを2個乗せてくれた。
 …俺は、どんな風に伝わってるんだ?
 俺達は盆に載せたうどんとケーキを携えて、空いている席を探した。

「あっ、モナーさんとリナーさん!」
 ねここの声。
 彼女は、席についてうどんをすすっていた。
 クルー達はみな同じような格好をしているので、猫の顔を模した帽子はよく目立つ。
 その隣には、無表情のありすの姿があった。
 
「…」
 俺は、つい無言でリナーの方を見た。
 ありすとねここの正面の席は、うまい具合に空いている。
 ここで座らねば、明らかに不自然である。
 リナーは、特に気にしていない様子だが…

「よいしょ…」
 俺は、ありすの正面に腰を下ろした。
 その隣にリナーが座る。
 恐る恐る、周囲の雰囲気を視た。
 別に、不穏な気配はないようだ。
 同時に、何か悲しくなってきた。
 何で、俺がここまで心を痛めなければならないんだ…?
「頂きますモナ」
 俺は割り箸を割ると、うどんを一気にすすり込んだ。

「それにしても… 随分長い間、愛の語らいを続けてましたね」
 ねここは嬉しそうに言った。
 俺はうどんを吹き出す。

「か、監視カメラ…!?」
 俺は、慌ててねここを見据えた。
「ふふふ…」
 ねここは、露骨に目を逸らす。
 …まあいい。
 ねここの言葉からして、会話内容までは聞こえていなかったのは確かだ。

 ふと、渋い顔で固まっているありすの顔が目に入った。
 ありすは、先程から不動でうどんと睨みあっている。
「ありすは、猫舌なんです」
 俺の目線を追って、ねここは言った。

「…で、敵艦隊の規模はどの程度なんだ?」
 リナーは、おもむろにねここに訊ねる。
 ねここの目が僅かに真剣さを増した。
「…第1護衛隊群と第2護衛隊群の出港は確認できました。
 モナー君にも言いましたが、今日の夜には危険域まで到達します」

「護衛隊群…? それって、強いモナか…?」
 俺は何となく訊ねた。
 リナーは俺に視線を向ける。
「第1護衛隊群の旗艦はDDH『しらね』。第1護衛隊にDD『むらさめ』、『はるさめ』、『いかづち』。
 第5護衛隊にDD『たかなみ』、『おおなみ』。
 第61護衛隊にはDDG『はたかぜ』、そしてDDG『きりしま』。ちなみに『きりしま』はイージス艦だ。
 第2護衛隊群の旗艦はDDH『くらま』。第2護衛隊にDD『やまぎり』、『さわぎり』。
 第6護衛隊に『ゆうだち』、『きりさめ』、『ありあけ』。
 第62護衛隊に、DDG『さわかぜ』とイージス艦であるDDG『こんごう』だ」

「…よく知ってますね」
 ねここは、感嘆した様子で言った。
 …いや、艦名を羅列されてもサッパリなんだが。
「あの… もう少し分かりやすく説明して欲しいモナ。DDとかDDGって何モナ?」

「強いのか?なんて曖昧な聞き方をするからだ。強い弱いで言えば、確実に強い。
 DDとかDDGと言うのは、艦種記号だ。
 DDは駆逐艦。まあ、通常の戦闘艦だと思って構わない。
 DDGはミサイル駆逐艦。DDのミサイル複数搭載型だ。イージス艦もDDGに分類される。
 DDHは、DDのヘリコプター搭載型。対潜ヘリは、潜水艦の天敵だ。
 …で、ASAは潜水艦部隊を所有しているのか?」
 俺に解説していたリナーが、ねここに視線をやった。

「…ひみつです」
 ねここは、リナーから目を逸らす。
 うわっ…、火に油を注ぐような事を…!

「そうか…」
 だが、リナーはあっさりと引き下がったようだ。
 何故?
 ブチ切れてもおかしくないと思ったのに…

427:2004/05/23(日) 21:41

「うどん、あつい…」
 そう呟きながら、ありすはようやくうどんを食べ始めた。
 俺も、うどんをすすり込む。

「まあモナー君の『アウト・オブ・エデン』があれば、敵艦隊なんてものの数じゃないですよ」
 ねここは、とんでもない事を言った。
 何と言うか、俺に期待されても困る。
「モ、モナは海戦の事なんて分からないモナ!」
 俺は慌てて言った。
 ねここは、俺に笑顔を見せる。
「私もしぃ助教授も、そんな事は分かってますよ。こちらで全部指示するし、難しい事は全然ありません」
 その言葉を聞いて、俺は胸を撫で下ろした。
 とは言え、俺に何をさせる気なのか…

「ともだち…」
 ありすはそう言いながら、俺をじっと見た。
 そして、俺のケーキに視線をやる。
 ありすは、自分のケーキは食べ終えたようだ。
 皿の上にイチゴのヘタが転がっている。

「…? モナのケーキ、欲しいモナ?」
 俺は、イチゴが2個乗っているケーキの皿に手をやった。
 こくこくと頷くありす。
 ケーキは俺の大好物だが、ここで断るのはあまりに大人気ない。
「じゃあ、あげるモナ」
 俺は、ケーキをありすに差し出した。

「ありがと、ともだち…」
 そう言って、ありすはケーキをもしゃもしゃと食べ出した。
「…モナの事をともだちと呼ぶのは勘弁してほしいモナ。
 モナはウィルスをバラ撒いたり、西暦を終わらせたりはしないモナ…」
 俺はありすに告げた。
 そんなのは無視してケーキを食べ続けるありす。

「…さすがモナーさん。相変わらず女の子に優しいですね」
 ねここは、ろくでもない事を言った。
 しぃ助教授といい、ねここといい…
 俺は、ASAに恨みを買うような事をした覚えはないが。

 俺は、ふとリナーの方に視線をやった。
 この程度、別に怒ってないよな。
「ああ、全然怒っていないさ…」
 リナーは笑顔で言った。
 ほら、大丈夫だ。
 金属製のスプーンが不自然に曲がっているのは、この際見なかったことにしよう。

「ごちそうさま!」
 ねここは、ケーキのスプーンを置いた。
「じゃあ、私はお昼の涼風人から副艦長に戻ります。行こう、ありす!」
 ねこことありすは席を立つと、食堂を出ていった。
 見れば、リナーも食べ終わっている。
「じゃあ、モナ達も部屋に戻ろうモナ…」

 部屋に戻る途中で、俺はリナーに訊ねた。
「それにしても… ねここに『ひみつです』って言われた時、よく怒らなかったモナね」
「別に怒る理由はない。潜水艦部隊の有無は、向こうにとって軍事機密だからな。
 逆に、そんな事を簡単に教えるようでは器が知れる…」

 俺は感心した。
 なるほど。色々あるんだなぁ…
「だが十中八九、ASAは潜水艦部隊を所持しているだろうな」
 リナーはそう断言した。

428:2004/05/23(日) 21:43


 俺達は、再びリナーの部屋に戻った。
 夜まではヒマである。
 リナーは、ゆっくりとベッドに腰を下ろして言った。
「さて、先程は途中になってしまったが…
 愛称が一般名詞化してしまい、混同を引き起こす事例について説明しよう」

 ゲッ! まだ終わってなかったの!?
 俺は思わず後ずさる。

「まあ座れ。先程はバズーカに触れたが、ガトリングとバルカンも混同され…」
 リナーは語り出した。
 もう、しばらくは止まらないだろう。



          @          @          @



 そして、日が暮れた。
 もはや何の話かも良く分からない。
 窓がないので見えないが、時計は7時の針を回っている。

「もう夕食の時間か… すこし中断するか」
 リナーは、時計を見て言った。
 俺はベッドから腰を上げる。
 7時間近く座りっぱなしだったので、腰が痛い。

「リナーは夕食はどうするモナ?」
 俺はリナーに訊ねた。
「食欲はないが… 君に付き合う事にしよう」
 リナーはベッドから立ち上がる。
 俺達は、揃って食堂に向かった。


 今度は、ねここ達には会わなかった。
 夕食はカレーである。
 食堂のオッサンは、量をサービスしてくれた。非常にありがたい。
「今日は金曜日… 金カレーか」
 リナーは、良く分からない事を口にした。


 俺達は、夕食を済ませて再び部屋に戻ってきた。
「いよいよモナね…」
 少し緊張する。
 一体、何をやらされるのだろう。

 ドアがノックされた。
「モナー君、御指名でーす!」
 やけに陽気なねここが顔を出す。
「持ち物は何もいらないので、前部甲板に来て下さい!」
「…分かったモナ」
 俺は返事をする。
 ねここの顔は、すぐに引っ込んだ。

「じゃあ、行くモナ」
 俺は、リナーに声をかける。
 リナーは頷いて立ち上がった。
 俺達は、遊ぶ為にこの艦に乗ったのではない。
 ASAの手伝いに来たのだ。
 心の中で気合を入れると、俺は部屋を出た。
 当然、リナーも一緒だ。

 俺とリナーは、前部甲板に出た。
 夜風が冷たい。
 何か、上に羽織るものを持ってくればよかった。
 甲板の真ん中には、ねここが立っている。
 俺達は、ねここの傍まで歩み寄った。

 風で帽子が飛ばされないように、ねここは左手で帽子を押さえていた。
「はい、どうぞ」
 ねここは、俺に無線機と小冊子を渡す。
 無線機はともかく、この本は…?
 疑問に思いながら、俺は無線機のイヤホンを装着する。
 無線機本体は、胸ポケットに固定した。
「無線機は、もうスィッチが入っています。今は、しぃ助教授に繋がっています。
 あっちに伝える時は、このボタンを押しながらしゃべって下さい」
 ねここは、無線の使い方を説明してくれた。

『聞こえますか、モナー君?』
 イヤホンから、別の艦に乗っているというしぃ助教授の声がした。
「うん、聞こえるモナ」
 俺は返答する。

『では、さっそく働いてもらいましょう。渡した冊子の12ページを開けて下さい』
 しぃ助教授は言った。
 まるで、遠足のしおりだ。

「12ページ…?」
 俺はパラパラと冊子を開いた。
 1ページにつき1機、飛行機の写真がカラーで載っている。
 しぃ助教授が指定した12ページには、胴部に大きな皿のようなものを乗せた飛行機があった。
 かなり特徴的な外見である。
 E−2Cと記されているのは、この飛行機の名前だろう。

『その飛行機、周囲に飛んでませんか?』
 しぃ助教授は言った。
「ちょっと待ってモナ。えーと…」
 俺は、『アウト・オブ・エデン』を発動させた。
 とりあえず、360度完全に把握できる範囲にはいない。
 そこから先は、双眼鏡のように極端に視界が狭くなる。

 俺はもう1度写真を見た。機体の形状を頭に叩き込む。
 そして、再び顔を上げた。
 普通に視るのではなく、周囲の空間をサーチする。
 他の風景は一切無視して、この航空機だけを視界に捉えるように…

429:2004/05/23(日) 21:43

「いたモナ!!」
 俺は思わず叫んだ。
 『アウト・オブ・エデン』は、350Kmほど先に飛行しているE−2Cとやらを捉えた。

「大体でいいので、この艦の進行方向を中心にした角度でしぃ助教授に知らせてあげて下さい」
 ねここは、真剣な表情で言った。
 俺は無線機のスィッチを押す。
「え〜と、右115度の方向、362Km先モナ」
 俺はしぃ助教授に、捉えた飛行機の位置を教えた。
 少しの間。
 メモでも取っているのだろう。
『…やはり、いましたか。他には?』
 しぃ助教授は訊ねてきた。

「他は… いないみたいモナね」
 『アウト・オブ・エデン』で周囲をサーチして、俺は言った。

『では、次に7ページをお願いします』
 俺は、7ページを開く。
 片方の羽根に2個、合計4個のプロペラがついた特徴的な飛行機だ。
 P−3Cとある。

「これを探すモナか?」
 俺は訊ねた。
『ええ。そこそこの数がいると思います』
 しぃ助教授の返答。
 俺はその飛行機の外観を頭に叩き込むと、周囲をサーチした。

 コツは先程掴んだので、今度の捜索は早い。
 …400Km離れたところに1機発見。
 その近くに、もう1機。
 別の場所にもいる。
 探知可能領域には、全部で8機だ。

「8機いるモナ」
 俺は、しぃ助教授に伝えた。
「やっぱり、対潜部隊が動いていますか…」
 ねここが息を呑む。

『じゃあ、その8機の位置を教えて下さい』
「分かったモナ。1機目は…」
 俺は、しぃ助教授に全ての飛行機の場所を伝えた。
『さすがモナー君! すごいですね〜 予想以上の成果ですよ〜!』
 無線機の向こうから、上機嫌なしぃ助教授の声が伝わってくる。
「いやぁ…」
 何となく照れてしまう俺。

『こっちから聞きたいのはそれだけですが、他に何か不審な飛行機は飛んでませんか?』
 しぃ助教授は訊ねてきた。
「え〜と…」
 俺は、『アウト・オブ・エデン』を展開させる。
 飛行機、飛行機、飛行機…と。
 …!!

「…1機いるモナ」
 『アウト・オブ・エデン』は、380Km離れた位置に飛んでいる機体の姿を捉えた。
 胴体がずんぐりとした特徴的な機体…
 俺は、小冊子をパラパラとめくる。
 24ページに、合致する飛行機が載っていた。

「EA6−Bってのが、左12度、382Kmの位置にいるモナ」
 俺は、しぃ助教授に告げた。

「『プラウラー!?』」
 ねこことしぃ助教授は同時に声を上げる。
『プラウラーって、米空母艦載機ですよね…?』
 イヤホンから、隣にいるねここの声が聞こえてきた。
 それに、しぃ助教授が答える。
『ええ、そのはずです。機体を海上自衛隊に貸与したか、もしくは…』

「モナーさん、周囲に大艦隊はいませんよね…?」
 ねここは俺に訊ねた。
「う〜ん、いないモナね…」
 周囲をサーチした後、俺は答える。

『そうですか…』
 しぃ助教授は、安心したように言った。
『じゃあ、今日のモナー君の仕事はこれで終わりです』

「えっ… もう終わりモナ!?」
 俺は、さっきから無言のリナーに視線をやった。
 彼女は、渋い顔で腕を組んでいる。

「これが、モナーさんの役割ですよ。これから毎日お願いします」
 ねここは言った。
「任せるモナ!!」
 俺は胸を張った。全然楽な仕事だ。

「その冊子と無線機は、モナーさんが持っていてください。では、おやすみなさい!」
 ねここは、元気良く艦内に戻っていった。
 俺とリナーだけがその場に残る。

430:2004/05/23(日) 21:45


「それで… 君は良かったのか?」
 リナーは俺に言った。
 俺は、首をかしげる。
 良かったか、とはどういう意味だ?

「…何が? すごく楽な仕事…」
 その瞬間、俺は思い至った。
 俺がやった事の意味。
 ASAは、敵飛行機の位置を聞いてどうする?
 そんなの、決まっているじゃないか。

「まさか…!!」
 俺は『アウト・オブ・エデン』を展開して、さっき見つけた数々の航空機をサーチした。
 いない。
 1機たりとも、飛んでいない。
 ただ、海上に残骸のようなものが…

「E−2Cって、どういう飛行機で何人乗りモナ…?」
 俺は、リナーに背を向けたまま訊ねた。
 リナーは少し躊躇して答える。
「…E−2C・ホークアイ、早期警戒機だ。乗員は4名で非武装。半径480Kmの索敵範囲を持つ」

 4名の乗員…
 しかも、非武装…

「P−3Cは?」
 俺はさらに訊ねた。
「P−3C・オライオン。乗員は10名。潜水艦を発見、攻撃する為の機体だ」

 10人… それが8機。

「EA6−B…」
 俺は呟くように訊ねる。
「EA6−B・プラウラー。乗員は4人、通信妨害やレーダー撹乱を主とした機体だ」

 …これで4人。
 合わせて、乗員は88人だ。

「俺が、その88人を殺したのか…?」
 俺は声を震わせながらリナーに言った。
「…君が直接手を下した訳じゃない」
 リナーは告げる。
 でも…
「同じ事だろ? 俺が位置を教えなければ、その88人は死ななかった…」

 そうだ。
 完全に失念していた。
 戦争に協力するという事は、こういう事なんだ。
 俺の指摘で、確実に人が死ぬ。
 そんな事に、今頃気付くなんて…

 リナーは、そんな俺を見据えて言った。
「『空爆の最大の障害は、想像力だ』という言葉がある。君は余計な事を考え過ぎだな。
 軍用機に乗っている時点で、彼等は死ぬ事も任務のうちだ」
「でも、俺は軍人じゃない…」
 俺は言った。

 そして、思わず自分の手を見つめる。
 楽な仕事だと… 思ってしまった。
 戦争に手を貸すというのが、どんな事か全く分かっていなかった。
 そんな自分が許せない。
 俺はリナーを守る為、警官を2人殺した。
 『殺人鬼』だった時は15人もの人間を殺している。
 だが… さっきのは、信念も何もない殺害への加担だ。
 楽な仕事だと思いながら、88人を殺すのに簡単に手を貸した。
 リナーの為なら殺すのに躊躇はしないと誓ったが、さっきのは余りにも…

「E−2Cは確かに非武装だが、この機体が収拾した情報は母艦の武器になる。
 あの機の集めた情報で、この艦が沈められる可能性も充分にあった。
 君は、この『ヴァンガード』の乗員360名の命を救ったとも言える」
 リナーは言った。
 突き放したような言い方だが、さっきから彼女なりに慰めてくれているのだ。

「そうモナね… 敵は敵、きっちり区別は付けるべきモナ」
 俺は気を取り直して言った。
「まだこの艦に乗って1日だけど、武器庫の人とか、食堂の人とか…
 色々な人に、モナはお世話になったモナ。その人達を死なせたくないモナ」

 リナーは微笑む。
「それでいい。守るべき者の事さえ考えておけば、例え人を殺す事になったところで…
 決して道を誤りはしない。少なくとも、君はな」
 俺は、リナーの言葉に強く頷いた。

「さて、そろそろ艦内に戻るモナ…」
 俺は、リナーに言った。
 これ以上こんな所で2人っきりでいたら、ねここにどんなからかわれ方をするか分かったものではない。
 俺達は、艦内に戻っていった。

 明日も明後日も、俺はASAに協力して広範囲索敵を行うだろう。
 その度に、飛行機が落とされる。
 だが、それがこの艦を守る事になるのだ。
 俺は、もう迷わない――

431:2004/05/23(日) 21:46


 ――この時は、そう誓った。
 だが次の日、俺の予想を裏切る事態が起きた。
 先程の誓いは、全く無駄になったとも言える。

 飛行機の姿が、1機も視えないのだ。
 しぃ助教授の推論によれば、向こうは相当に警戒しているという事だった。
 向こうにしてみれば、レーダーの探知範囲外から一方的に撃墜されたのだから、当然と言えば当然だろう。
 稀に飛行機を発見しても、すぐに探知外へ消えていくのだ。

「初日の航空機撃墜で、『アウト・オブ・エデン』の探知可能範囲が割り出されちゃったみたいですね」
 しぃ助教授は言った。
 俺は、複雑な気分だった。
 俺の指示で、人が死ぬという事はない。
 だが、この艦にとって役立つ事もできない。
 そんな葛藤を抱え、大きな出来事もなく10日が過ぎた。

 そして、1月21日――
 この日、事態は大きく急変した。 



          @          @          @



「…どうぞ、研究の成果です」
 『蒐集者』は、枢機卿に書類を手渡した。
 航空母艦『グラーフ・ツェッペリンⅡ』。
 その甲板に、黒いコートの男とSS制服の男は立っていた。
 枢機卿の背後には、山田が影のように控えている。

「ふむ、かなり早いな。相当急いでまとめたと見える…」
 枢機卿は、受け取った書類をパラパラとめくった。
「究極生物と吸血鬼、そして『BAOH』のハイブリッド(三種混合体)…
 本当に問題はないのだな?」

 『蒐集者』は笑みを浮かべて頷く。
「ええ。ぽろろの『エンジェルズ・オブ・ジ・アポカリプス』さえあれば…
 あの遺伝子に関与するスタンドならば、何も問題はないはずです」

「やけに、あの子に肩入れするな…?」
 枢機卿は、冷笑を込めた目で『蒐集者』を見た。
「これでも、子供好きなものでね…」
 『蒐集者』は腕を組んで呟く。
 夜風で、漆黒のロングコートがはためいた。

「それにしても… この海域まで来てもう10日でしょう。随分長く待機していますね?」
 『蒐集者』は、周囲の闇を見回した。
 枢機卿は海の彼方を見つめる。
「ASAと海上自衛隊の艦隊が睨み合っているからな。もう少し見届けるのも面白い。
 これを待っていた…というのもあるがね」
 枢機卿は、受け取った書類を示した。
「2月8日にはまだまだ時間がある。まあ、のんびりやるさ…」

「『伝説の傭兵』ももう戻ってきたようですし、準備は万端と言ったところですか…?」
 『蒐集者』は、甲板に不自然に置かれたダンボールに目をやった。
「…ああ。むしろ、予定よりも早く済んでしまった。後は先行した代行者が戻ってくるのを待つのみだ。
 本格攻撃は2月8日より後にしたかったが、まあ仕方あるまい」

「それと… 1さんとやらに会いましたよ」
 『蒐集者』は告げる。
「ほう、それで…?」
 枢機卿は表情を変えない。

「とぼけてくれますねぇ…
 『Model of Next-Abortion Relive』が1体だけではなかったなんて、彼に会うまで知りませんでしたよ」
 『蒐集者』は歪んだ笑みを見せる。
 枢機卿は呆れたように言った。
「…それは知らないはずだろう。私が伏せていたんだからな」

「私を滅ぼす為…ですか?」
 『蒐集者』は、枢機卿を見据える。
 枢機卿は笑った。
「当然だろう。次の世に、お前の居場所があるとでも思ったか? 幻の最強を求めし道化師よ…」

「偽りの理想を求める貴方に、それを言われる筋合いはありませんがね。
 『教会』による至福千年の平和統治など、所詮は夢物語に過ぎない」
 『蒐集者』のコートが軽くはためく。
「貴方が動いた後に残るのは、千年の平和などではない。破壊と殺戮と、幾億の屍のみですよ」

432:2004/05/23(日) 21:47

 枢機卿は、組んでいた腕を下ろした。
 袖元に仕込んである拳銃のグリップを軽く握る。
「59億が死のうが、1億は生き残る。それでも少し多いがね。
 そろそろ、この辺で文明を後退させねばなるまい。過ぎた玩具は愚民に毒だ」

「それで貴方が…? 誰よりも『戦争』を知っている貴方が…?」
 『蒐集者』は笑った。
 枢機卿も笑みを見せる。
「誰かがやらねばならんのなら、私が… 『教会』がやるしかあるまい。
 我々こそが、神に選ばれし神罰の地上代行者。絶対殺害権を行使する者。
 私こそが真の平和主義者。あらゆる争いの根絶を心から願っているのだよ」

「随分と夢想家な事だ… 実に面白い。『戦争』に呪われているのは、人類ではなく貴方の方だというのに」
 『蒐集者』は甲板に並ぶ航空機や、随伴する超々弩級戦艦『ビスマルクⅡ』に視線をやった。

「お前の方こそ夢物語だ。お前の求める最強こそ、世界のどこにもない。
 この世の者を殺し尽くし、残ったお前が最強か?」
 枢機卿は、『蒐集者』を見据える。
 その視線を薄笑いで受け止める『蒐集者』。
 枢機卿は、『蒐集者』の方に一歩踏み出した。
「お前は、すでに神に背を向けし者。『教会』の道を阻むと言うなら、この場でその身を滅ぼしてくれる」
 枢機卿の背後の空間が歪む。

「面白い。ここで私と一戦交えようと…?」
 『蒐集者』のコートが大きくはためいた。
 枢機卿の背後に控えていた山田が青龍刀を構え、鋭い殺気を向ける。

 『蒐集者』は、周囲から幾多もの強い殺気を感じ取った。
 戦闘機の羽の部分に、不敵な笑みを浮かべた男が座っている。
 艦橋部分では、軍装の男が狙撃銃でこちらを狙っていた。
 甲板に置かれたダンボールの中にも、裏の世界で勇名を轟かせた男が潜んでいる。
 他にも、甲板には2人の女学生、肥満した男、包丁を手にした狂人、円筒状の身体を持つ機械人形などの姿があった。

「…なるほど。流石は『ロストメモリー』、一筋縄ではいきそうにないですねぇ…」
 『蒐集者』は軽く両手を広げる。
「それだけではない。お前を敵に回すならば… 『リリーマルレーン』、使わざるをえんだろう」
 枢機卿は、SS制服の裾を翻した。
「さて、どうする…? この場で事を構えるか?」

「…止めておきましょう」
 『蒐集者』は笑みを浮かべて言った。
「貴方の『リリーマルレーン』を完全に消滅させるのは面倒すぎる。
 それに、ここで『ロストメモリー』に欠員でも出したら、私の予定も違ってきますしね…」

「その方が私も助かるな。ここで血を流すには、まだ少し早い…」
 枢機卿は、山田を押し留めるように片手を差し出した。
 行く必要はない、という合図だ。
 山田は青龍刀を下ろす。

「…では、私はこれで。ぽろろに関する事以外、同盟は破棄という事でいいですね」
 『蒐集者』は背を向けた。
「ああ。『教会』はお前を異端と認定する。神の名において滅ぶがいい」
 枢機卿は告げる。
「その時を、楽しみにしていますよ…」
 『蒐集者』の姿は、夜の闇に溶け込むように消えていった。

433:2004/05/23(日) 21:48

 枢機卿はため息をつく。
「…山田殿、奴をどう見る?」
 そして、後ろに控える山田に訊ねた。

「隙だらけだな。容易く斬れる…」
 山田は即座に答えた。
「…だが、斬った後が思い浮かばん。斬ってどうなるのだ、という疑問すら浮かぶ。
 我らも既に人ではないが… あれは、一体何者だ?」

「大した事はない。道を踏み外した求道者に過ぎん…」
 枢機卿は呟いた。
 山田は枢機卿を見据える。
「そう言えば… 『リリーマルレーン』だったか。貴殿の能力も聞いてはおらん。
 能力を容易く他人に教えないのは当然だろうが、護衛に対しては話が別だろう?
 貴殿の得意とする間合いや苦手な間合いを知っておかねば、守るものも守れぬ」

「なるほど、それもそうだな。では、私の護衛を解任しよう。私に護衛は必要ない」
 枢機卿は笑って言った。
「…!!」
 山田は表情を歪ませる。
「…そうまで私は信用がないのか?」

 枢機卿は腕を組んだ。
「そうではない。 …私は、自らのスタンド能力が嫌いなのだよ」
「自らに害を及ぼす類の能力か?」
 山田は訊ねた。
 枢機卿は首を横に振る。
「…いや、単に嫌いなだけだ。
 文献によれば、『過去の記録』を掘り起こすスタンドというのがあったという。
 また、『屋敷幽霊』という異空間に入り込めるスタンドが存在したそうだ。
 この2つを合わせたようなスタンド… と、今は言っておこう」
「異空間だと…? それは、随分と大仰だな」
 山田は言った。

「『リリーマルレーン』の中にある物はこの通り、いつでも取り出せる」
 枢機卿の前の空間が歪み、何か黒いものが突き出た。
 それは、そのまま甲板に突き刺さる。
 ――MP40。
 『シュマイザー』と渾名され、ドイツ戦線で猛威を振るった短機関銃だ。

 枢機卿は、その銃を手にした。
「こんな風に、山田殿のスタンド能力と良く似た戦い方も可能だ」
「…!!」
 山田は目を見開いた。
「『極光』の使い方をご存知であったか…」

「フフ… 互いに、隠し事が多い」
 枢機卿は、MP40を空中に放り投げた。
 そのまま、空間の歪みに消えていく。

 戦闘機の羽に座っていた男が、甲板に飛び降りた。
「ところで… 僕らの出番はまだかい? 10日もこんなところにいたら、潮風でサビちまうよ」

「のんびりと構えるは飽きたかね、ウララー殿?」
 枢機卿は、ウララーの方を向いて言った。
 ウララーは枢機卿を睨みつける。
「そりゃそうさ。僕は壊したくて仕方ないんだ。いい加減にしないと、この船を壊すよ?」

「それは勘弁したまえ。総建造費がいくらかかったと思っている…?」
 枢機卿は冷徹な笑みを浮かべながら、甲板に置いてあるBf109に歩み寄った。
 外見こそ60年前のレシプロ機と同じだが、性能は別物と言っていい。

「仕方ない。そろそろ始めるか…」
 枢機卿は、Bf109に飛び乗った。
 無造作にキャノピーを開けると、操縦席に座る。

「じゃあ、行っていいのかい…?」
 ウララーが歓喜の表情を見せた。
「北海道にある6つのレーダー・サイトは、君が潰すと言っていたな。 …行きたまえ。煉獄の始まりだ」
 枢機卿は告げた。

「フフフフフ… あっはっはっはっは!!」
 ウララーは、笑いながら甲板を歩く。
 そのまま柵を乗り越え、甲板の縁ギリギリに立った。

434:2004/05/23(日) 21:49

「…『ナイアーラトテップ』」
 ウララーが、自らのスタンド名を呟いた。
 周囲に、大きな衝撃が発生する。
 柵が吹き飛び、彼の立っている付近の甲板に無数の亀裂が走った。

 ウララーの背中から、大きな羽根が突き出た。
 それは天使のような翼ではなく、蝶の羽根に酷似している。
 その羽根が大きく羽ばたいた。周囲に黒い燐粉が飛び散る。

 この羽根こそが『ナイアーラトテップ』。
 彼のスタンドである。

「はっ、ははははははははははは!!」
 空母の甲板を蹴り、ウララーの体は大きく飛翔した。
 そのまま、高度を上げ、高度を上げ、高度を上げ――
 燐粉を撒き散らしながら、とてつもない速度で上昇していく。
 彼の体は対流圏を突破し、成層圏に到達した。
 上昇するにつれ、温度が高くなる。
 やがてウララーの体は熱圏を振り切り、そのまま外気圏に飛び出した。

「あはははははは!! 久し振りだけど… 調子はいいみたいだね!! はははは!!」
 彼の背中に生えた『ナイアーラトテップ』から、燐粉が飛び散っている。
 それは、ウララーの体を守るように周囲に広がった。
 狂笑を上げながら、なおも直進し続けるウララー。
 唯一の衛星、月が彼の目前に迫る。

「月…!!」
 ウララーは、そのまま月の重力圏に突入する。
 眼下に広がる巨大なクレーター。暗い砂漠。生物の存在しない死の世界。

「はははッ!! 人類にとっては大きな一歩だが…」
 ウララーは羽根を翻して月の地表ギリギリまで接近すると、その地を大きく蹴った。
「僕にとっては小さな一歩ってヤツだァッ!!」

 とてつもない衝撃。
 渦を描きながら巻き上がる砂塵。
 ウララーの進行方向が真逆になる。
 そのまま、彼は真っ直ぐに飛翔した。
 再び月の重力圏を出る。

 ウララーは、目の前の深蒼の星に向かって宙空を駆けた。
 そのまま、彼の体は大気圏に再突入する。
 北半球、ユーラシア大陸の近くの小さな島国。
 その、さらに小さな北の島目掛けて。
 多大な熱と羽根が反応し、乾いた音を立てる。
 徐々に周囲の温度が下がる。等温層に入ったようだ。

「来たぞ、来たぞ、来たぞ、来たぞ、来たぞォォォォォォォォッ!!」
 まるで彗星のように、ウララーの体は落下していった。
 そのまま、彼は地表に激突する。
 その衝撃は、まるで爆発のように大地を砕いた。
 周囲の建造物は全て吹き飛び、緑の大地は荒涼な砂漠と化す。
 まるで、先程の月の地表のように。

 それでもなお、ウララーの勢いは衰えない。
「チッ… 田舎か…!!」
 ウララーは高速滑空しながら舌打ちした。
 遥か彼方に、明かりが見える。
 街だ。それも、かなり大きい…!!

435:2004/05/23(日) 21:49

「あははははははァ!! 混沌に呑まれろォォォォォッ!!」
 ウララーは、街目掛けて飛翔した。
 明るい光で彩られた夜の街が、みるみる近付いてくる。
 建物の明かりや店のネオン、車のライトが彼を迎えた。
 ウララーの羽根から飛び散る燐粉が、鮮やかな光を放つ。
 その光は乱反射し、質量を持って地上物を破壊した。
 光の直撃を受け、派手に吹き飛ぶ車。
 崩れていく建物。
 削れていく道路や地面。
 そして、人形のように吹き飛んでいく人間達。

「…面白いなァ!! どうだ人間!! お前達も面白いだろう!! あははははは!!」
 ウララーの体は、高層ビルに激突した。
 その瞬間、ビルは光に包まれる。
 『ナイアーラトテップ』から放たれた光に削られ、高層ビルは吹き飛んでいった。
 舞い散る瓦礫。
 パニックを起こし、逃げ惑う人々。
 そして、それらを平等に呑み込んでいく鮮やかな光の渦。
 街は、混沌に包まれた。

「なぁ、凄いだろう。どうだい、僕の『ナイアーラトテップ』はッ!!」
 ウララーは、建造物… いや、地表ごと破壊しながら空を一直線に駆けた。
 すでに街は過ぎ、彼の体は山に突入する。

「さて… そろそろ仕事でもするか…」
 ウララーは、少しだけ進行方向を変えた。
 木を吹き飛ばし、山を削り、破壊の限りを尽くしながら、彼は直進する。
 目の前に、ドーム状の建物が見えてきた。

「フン… あれが、レーダーサイトか」
 ウララーは呟く。
 何かが、彼目掛けて高速で接近してきた。

 ――ペトリオット地対空ミサイル。
 航空自衛隊が有する防空兵器である。
 それが、6発。

「そんなものがなァァァァァッ!!」
 ウララーの周囲に燐粉が舞った。
 鮮やかな光が周囲の空間を包み込む。
「通用するワケねーだろォォォォォォッ!!」

 光に巻き込まれ、ペトリオットは全て爆散した。
 それだけだはなく、光の渦はレーダーサイトをも包む。

「壊れろ、潔く、潔く、潔く、僕の前でなァァァァァ!! アハハハハハ!!」
 ドームに巨大な亀裂が入る。
 過大な重圧を受けたように建物が崩れ、周囲に広がる鮮やかな光に削り取られた。
 瞬く間に、レーダーサイトは爆砕する。

「まず1つ、と…」
 ウララーは数えるように指を折る。
 周囲の森林も軒並み削り取られ、山肌は茶色い土を晒していた。
 その様子を滑空しながら満足げに眺め、ウララーは笑みを浮かべた。

「さぁて… あと5つか」



  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

436ブック:2004/05/24(月) 01:38
     EVER BLUE
     第十六話・TALK 〜探り合い〜


 オオミミと天が一緒に甲板に出て来た。
 天が甲板の手すりに背中を預ける。

「そういえば、あの時の天のスタンドって凄かったね。
 あれ、一体どういう仕組みなの?」
 オオミミが天に尋ねた。
 僕の予想では、これは本題ではない。
 いきなり本題を切り出すのも何なので、軽い世間話から入ろうという腹だろう。

「…自分の能力をペラペラ話すスタンド使いが居ると思うわけ?」
 不機嫌そうな顔で、天が答える。
 内心ムカついたが、天の言う事も尤もだ。

「ご、ごめん。
 でも、あんなに凄い力があるのに、
 どうして捕まってた時に能力を使って逃げなかったんだろう、と思って…」
 オオミミが言葉を濁す。
 言われて見ればその通りだ。
 あれだけの力、使わずに大人しく捕まるなんて、この女の性格から見ても考えられない。

「何でアタシが一々あんたの疑問に答えないといけない訳?」
 オオミミを見据える天。
 糞生意気な女め。
 鼻から親指突っ込んで、奥歯ガタガタいわせたろか。

「ごめん…」
 オオミミがしょぼくれる。
 だから、君がそうやって下手に出るからこの女が付け上がるんだよ。
 何回言ったら分かるんだ?

「…アタシの能力は、二重の意味で一人じゃ使えないのよ。」
 天がやれやれといった風に口を開いた。

「え…?」
 オオミミが不思議そうに聞き返す。

「だーかーら、アタシのスタンドは個人プレイが出来ないって言ってるの!
 同じ事何回も言わせる気!?」
 天がやや怒り顔になる。
 こいつがオオミミの質問に答えるとは、意外だ。

「特別にもう一つだけヒントあげるわ。」
 そう言って、天は懐から何やらごそごそと取り出した。
 それをオオミミに突きつける。

「傘…?」
 オオミミが呟く。
 そう、何の変哲も無い折り畳み傘。
 これが、能力と何の関係があるのだ?

「そう、傘よ。
 じゃあ、何であんたはこれを傘だと思ったの?」
 天がオオミミに質問した。
「え?だって、これどっからどう見たって傘…」
 オオミミが訳が分からないといった顔で答える。
 何を言ってるんだ、この女は。
 禅問答でもするつもりか?

「…つまりは、そういう事よ。
 これがアタシの『レインシャワー』の力。
 後は自分で考えなさい。」
 天がそう言って会話を打ち切る。
 結局どういう事なのか皆目見当がつかない。
 全く、勿体つけやがって。

「あの、何で俺にこんな事を?」
 オオミミが尋ねた。
「別に。あんたになら少々教えた所で害は無さそうだし。」
 そっけなく答える天。
 つまりは、オオミミが自分にとっては敵にすらならない腑抜けと言いたい訳か?
 どこまで厭味な女なんだ。

437ブック:2004/05/24(月) 01:39

「…そんな事より、こんな事を聞くためにわざわざ呼びつけたんじゃないんでしょう?」
 天がオオミミに向き直る。
 やはり、天も今のが本題ではない事には気づいていたみたいだ。

「…うん。」
 オオミミが天から視線を逸らす。
「あの、さ。
 天はサカーナの親方には、あの『紅血の悪賊』が何を運んでいたのか知らない、
 って言ってたよね。
 でも、あの女吸血鬼も、男の吸血鬼も、天に変な視線を送ってただろ?
 だから…」
 意を決したようにオオミミが口を開いた。
 というかオオミミ、こんな女に遠慮する必要は無いぞ。

「だから、何よ?
 本当は何か知っているのかこっそり教えてくれ?
 教えないと酷いぞ?
 それともアタシの弱みでも握ったつもりかしら?」
 天が責めるようにオオミミをなじる。

「違う!
 俺は、天が言いたくないなら皆にはこの事は黙っておくつもりで…」
 オオミミが必死に否定する。
 馬鹿、オオミミ。
 そんな事、皆の前でバラしてやればよかったのに。

「…呆れたお人好しの偽善者ね、あんたって。」
 天が大きく息を吐いた。

「ごめん。こんな事、聞かない方がよかった。
 だけど、『紅血の悪賊』や帝國の狙いが何なのか分かれば、
 対策の立てようがあるかもしれない。
 だから、出来れば教えて欲しいと思って…」
 オオミミが呟くように天に言う。

「…悪いけど、本当にアタシは何も知らないわ。
 大方、『紅血の悪賊』が何か勘違いしてるんでしょ。」
 天がもたれ掛かっていた手すりから離れる。
「話は終わり?
 なら、そろそろ部屋でゆっくりさせて貰うわね。」
 天はそう言い残すと、そそくさとその場を離れようとした。

「ごめん…」
 天の背に、オオミミが何度目かの謝罪の言葉を向ける。

「……」
 と、天が急に足を止めた。
「…アタシこそ、ごめんなさい。」
 …ごめんなさい?
 何に?

「天―――」
 オオミミが天を引きとめようとしたが、天はそのまま走り去ってしまった。
 オオミミが一人、その場に取り残される。

(オオミミ、何であんな奴にそんなに気を使うんだよ。)
 僕はオオミミに文句を言った。
 オオミミはあの女の尻にしかれてばっかりだ。
 ここは一つ、僕がきっちり言っておかねば。

「…ごめん、『ゼルダ』。」
 オオミミが呟いた。
 本当に君は、そうやって誰にでも謝ってばっかりだな…

438ブック:2004/05/24(月) 01:40



     ・     ・     ・



 オオミミが甲板から降りてから少しして、三月ウサギが物陰からぬるりと現れた。
 三月ウサギのマントが、風を受けて緩やかにはためく。

「盗み聞きなんて、趣味が悪いですよ。」
 と、後ろから軽い声がかかった。
 大して驚きもしない様子で、三月ウサギがゆっくりと振り返る。

「人の事は言えないだろう。」
 三月ウサギが静かに告げた。
 後ろに立っていたのは、タカラギコだった。

「あらら、ばれちゃってましたか。
 姿だけでなく、気配も消しておいた筈なんですけどねぇ。」
 タカラギコが笑いながら頭を掻く。
 三月ウサギは、そんなタカラギコを冷ややかに見つめた。

「…で、どうするんですか?
 今のを、サカーナさんに伝えておくんですか?」
 タカラギコが三月ウサギに尋ねた。

「…ふん。
 あの親父だって間抜けじゃない。
 あの女の嘘なんざ、とっくに見抜いているだろう。
 それに、無理矢理秘密を聞き出した所で、
 『紅血の悪賊』に狙われている事は変わらん。
 それに相手は、『盗んだものを返すから見逃してくれ』、
 などという取引が通用するような相手じゃない。
 どの道戦うか、逃げるか、死ぬかしか選択肢は無いんだからな。
 ならば奴らが何を狙っているかなど、今の所聞くだけ無駄だ。」
 事も無げに、三月ウサギが答える。

「兎に角今は安全な場所に移動して、
 詳しい事を聞くのはそれから、ですか。」
 タカラギコが肩をすくめた。
「ふん、さてな。」
 三月ウサギが手すりに腕を置く。

「しかし、内心気が気ではないのではないですか?
 オオミミ君があなたを差し置いて女の子と二人っきりでお喋りして。」
 タカラギコがからかうように言った。

「…今ここで死ぬか?」
 三月ウサギがマントの中から剣を取り出す。
 無数の刃物が、甲板に突き刺さった。
「ちょ、ちょっと、冗談ですよ!
 暴力はいけません暴力は。」
 タカラギコが慌てて三月ウサギをなだめる。

「……」
 タカラギコの余りに情けない声に気を削がれたのか、
 三月ウサギは無言で刃物をマントの中に戻した。

「いや失敬。
 どうも昔から私は一言多いみたいでしてね。
 同僚にもよく注意されましたよ。」
 タカラギコが剣を収める三月ウサギを見て胸を撫で下ろす。
 三月ウサギは完全にやる気を無くして溜息を吐いた。

439ブック:2004/05/24(月) 01:40

「…貴様、どこまで知っている?」
 三月ウサギが、話題を変えた。
「知っている、と言いますと?」
 そう聞き返すタカラギコ。

「とぼけるなよ。
 帝國の軍事機密が何なのかは私にも全く分からない、
 などという言葉を、完全に信用しているとでも思っているのか。」
 三月ウサギがタカラギコを睨む。
 しかしタカラギコはその視線を軽く受け流した。

「そんな恐い顔しないで下さいよ。
 ただでさえ、さっきのサカーナさんの気迫に圧されて
 肝を冷やしたばかりなのですから。」
 よくもまあ抜け抜けと、と三月ウサギは思った。
 タカラギコは意図的に自分の実力を隠していると、三月ウサギは考えていた。
 むろん、彼もタカラギコと闘って負けるとは考えてはいない。
 だが、何と言うかタカラギコは底が知れないのだ。
 強いとか弱いとかという問題では無く、もっと、別の何か…

「…前に言ったように、こちらもまだ手札を全て見せるという訳にはいきません。
 色々ややこしい問題もありますので。
 ですが、今の所私はあなた達の敵ではありません。
 その点だけは、信用して頂けませんか?」
 タカラギコが三月ウサギの顔を見た。
「『今の所』、か。
 ずいぶんとまあ胡散臭い言葉だな。」
 皮肉気に三月ウサギが呟く。

「すみません。
 こちらもこれから状況がどう変わっていくのか分かりませんので、
 どうしても曖昧な言葉を使わざるを得ないのですよ。」
 タカラギコが申し訳無さそうに言う。

「信用がならない、という点においては信用出来るというやつだな。」
 三月ウサギがタカラギコを見据える。
「これは手厳しい…」
 タカラギコが苦笑する。

「まあ、私があなたの立場なら、矢張り私のような人間は信用しませんけどね。
 ですがまあ、ご一緒させて頂く以上は全力であなた方を護衛させて頂きます。」
 タカラギコが微笑みを浮かべた。

「好きにしろ。」
 三月ウサギがそっぽを向いて答える。
「…だが、少しでもおかしな真似をしてみろ。
 その瞬間、貴様の頭と胴が切り離されるぞ。」
 三月ウサギが低い声で告げた。

「…肝に銘じておきます。」
 タカラギコは相変わらずの笑顔のままでそう返す。


「…そろそろ、島に上陸のようだな。」
 三月ウサギが呟く。
 甲板からは、島の港がすぐそこまで近づいているのが見て取れるのだった。



     ・     ・     ・



 ややくたびれた感じのホテルの廊下を、数人の男が慎重に歩いていた。
 その手には、十字架を模した銃や剣が握られている。
「……」
 先頭を歩いていた男が、手を出して後続の進行を止めた。
 そして、廊下の奥の方にある部屋の一つを指差す。

「…これより、突撃する。
 いいか、相手はあの『ジャンヌ・ザ・ガンハルバード』だ。
 決して気を抜くな。
 日中とはいえ、並みの吸血鬼以上の力を持つと思え。」
 先頭の男の言葉に、後ろの男達が頷く。

「行くぞ…!」
 男達が、部屋のドア目掛けて駆け出した。



     TO BE CONTINUED…

440:2004/05/24(月) 23:07

「―― モナーの愉快な冒険 ――   吹き荒れる死と十字架の夜・その3」



          @          @          @



「月…?」
 モララーは、BARの窓から夜空を眺めた。
「…どうかしたのかょぅ?」
 マスターのぃょぅは、そんなモララーを不審そうに見る。
「…いや、何でもないよ」
 モララーは視線を逸らした。

 ギコは、カウンターに座ってどこかに電話をかけていた。
 地下の秘密基地の電話を使わずに、自分の携帯電話を使っている。
 おそらく、私用だろう。

「10日もBARに入り浸りなんて、ただれてるよね… 僕ら」
 モララーは呟く。
「それにしても、進展がないね…。モナー君達もなかなか帰ってこないし」

 しぃはオレンジシュースを一口飲むと、グラスをカウンターに置いた。
「学校だって休みのままだし… どっちにしても、学校に行ける身の上じゃないけど」
 そう言って、ため息をつくしぃ。

 ここのマスターであるぃょぅは、未成年には絶対にアルコールを出そうとしない。
 その件でモララーがかなり噛み付いたが、ぃょぅは頑として受け付けなかった。
 ちなみに、レモナとつーはぃょぅの『未成年』の範疇には当て嵌まらないらしい。
 それ以前に、2人は人間ですらないが。

「…おう、分かった。じゃあ」
 ギコは、電話を切った。
「誰にかけてたの? 女?」
 モララーが訊ねる。
 しぃの目が鋭く光った。

「まあ、女ってのは確かだが… 人外の一種だ。しぃ助教授とちょっとな。
 明日、モナー達の様子でも見に行こうと思って」
 ギコは携帯を仕舞いつつ言った。
「だから、そんなに睨むなよ…」
 そして、しぃに怯えた視線を向ける。

「えっ!! 僕も行く!!」
 モララーは叫んだ。
 露骨にため息をつくギコ。
「だから、ここの守りはどーすんだよ。俺達は、お尋ね者なんだからな。
 大体、大人数で行ったらあっちに迷惑じゃねーか」
 レモナとつーにも、同じ事言わなきゃならないんだろうな…
 …などと思うと、嫌になってくる。

「でも、かなり陸地を離れてるんでしょ? どうやって乗り込むの?」
 しぃは首を傾げて訊ねる。
「ぃょぅが、ヘリで送ってあげるょぅ」
 カウンター内で話を聞いていたぃょぅは言った。
「マスター、ヘリの操縦できるの?」
 モララーはぃょぅに視線を向ける。
「昔、ヘリの操縦士をやってた事があるょぅ」
 ぃょぅは胸を張った。
「じゃあ、乗っけてってもらおうかな」
 ギコは腕を組んで、店の端に置かれたソファーにもたれた。

「で、モナー君はどう? 危険な目に合ってない?」
 モララーは訊ねる。
「こっちと同じ。膠着状態だそうだ」
 ギコはため息をついた。

「どうも、自衛隊側の動きが緩慢なんですよねぇ…」
 鐘の音と共に、BARの入り口の扉が開く。
 コンビニに買い出しに行っていた局長が帰ってきたようだ。

「向こうが何か企んでるって事か…?」
 ギコは、局長に視線をやる。
 局長はギコに煙草の箱を差し出した。
「そうでしょうねぇ… 吸いますか?」

「…ギコ君は未成年だょぅ」
 ぃょぅは局長を睨んだ。
 ギコが口を開く。
「煙草は止めた。俺は仮にもスポーツマンだし、しぃも嫌がるしな…」

 局長はカウンター席に座ると、煙草に火をつけた。
 リル子とレモナは、後ろの丸テーブルで飲み続けている。
 どうやら、この2人はウマが会う様子だ。
 レモナが酔わないのは当然として、リル子に全く潰れる気配はない。

「虎…!」
 その様子を見て、ギコは呟く。
「お酒強い女の子って、ステキだよね…」
 モララーは瞳を輝かせて言った。
 つーは部屋でおやすみ中である。
 早寝早起きがモットーらしく、妙なところで健康的だ。

「自衛隊は大人しいし、米軍とどの程度結託しているのかも分かりませんしねぇ…」
 局長は紫煙を噴き出した。
 首相官邸に現れたモナークの事も気に掛かる。
 彼は、一体あそこで何をしていた…?

「まあ… 明日ASAの艦に行くんなら、そこら辺の意見も聞いてきてくれません?
 貴方なら、向こうの信用もあるでしょうし」
 局長は、灰皿を手繰り寄せながら言った。
「ああ…」
 ギコは頷くと、腰を上げた。
 その手には、以前にリナーから貰った日本刀がある。

「…辻斬りですか?」
 局長が怪訝な目を向ける。
「…駐車場で素振りだゴルァ! なんつーか、新しいモノが産み出せそうな感じなんだよ…」
 ギコはそう言うと、BARから出ていった。

441:2004/05/24(月) 23:08



          @          @          @



 俺は、カレンダーを見た。
 今日は1月21日。
 もう、10日もこの艦に乗っている事になるのか…

「朝ですよー!! …って、もう起きてますね」
 ねここが、ノックもせずにドアを開けた。
「フフフ… 全てが貴様の思い通りに行くと思うなモナァッ!!」
 俺は、腰に手を当て勝ち誇る。

「今日、ギコさんが様子を見に来るそうですよ」
 そんな俺を無視して、ねここは意外な名を告げた。
「えっ、ギコが…!?」
 俺は思わず声を上げる。
 彼と会うのも久々だ。
 まあ様子を見に来てもらったところで、こっちは別に激戦を繰り広げているという訳でもないのだが。 

「いつ頃こっちに来るモナ?」
 俺はねここ訊ねた。
「え〜と… 確か、今日の夜頃に到着するようです」
 ねここは答える。

「じゃあ、今日の夜もよろしく頼みますね!」
 ねここはそう言って、俺の部屋から出ていった。
 今夜もよろしく…か。
 フフフ…

 俺はベッドに腰を下ろした。
 どうせ、今日も飛行機は見当たらないだろうな…
 …などと思った頃が最も危ない。
 その位は、俺にも分かっていた。
 俺はベッドに寝転がる。
 どうせ昼間はやる事がない。と言うか、甲板に出られない。
 このまま2度寝するか…


 そして、リナーと無為に過ごす午後。
 何故か、銃の解体スピード勝負で盛り上がってしまった。
 銃を解体する速度は、意外な事に俺の方が早かったのである。
 もちろん、『アウト・オブ・エデン』を使った事は言うまでも無いが。
 リナーの負けん気が大いに刺激されたらしく、何度も勝負を挑んできた。
 だが、分解や解体にかけては俺の方が上だ。

「ま、まさか… この分野で君に負けるなんて…」
 分解された30挺近くの銃を周囲に散乱させながら、リナーはがっくりと肩を落とした。
 俺に負けたのが相当に悔しいようだ。
 気がつけば、すでに夕食時である。


 そして、夕食も終えた夜の8時。
 俺とリナーは、甲板に立った。
 背後には寒そうなねここがいる。
 この10日間で日常となった光景であった。

「いないとは思いますが… 念の為にお願いしますね」
 ねここは言った。
「いやいや、これをやる為にモナがいるモナよ…」
 そう言いながら、俺は『アウト・オブ・エデン』の視線を展開した。
 そして、飛行機をターゲットにして周囲をサーチする。
 普通に360度全ての視界を把握するなら、50Kmが限度。
 しかし目標物を絞ったサーチならば、500Kmまでは索敵できる。

 中心は、当然この艦『ヴァンガード』。
 右側の少し離れたところに、しぃ助教授の乗る同型艦『フィッツジェラルド』。
 この艦が旗艦、すなわち艦隊のリーダーらしい。
 そしてこの2隻を囲むように、4隻の艦が展開している。
 この10日、艦隊はずっとこの配置だった。
 リナーの話によれば、中央に主力を集め護衛艦で囲むのを輪形陣と呼ぶようだ。
 ともかく、敵飛行機の機影は見当たらない。

「…やっぱり、いないモナね」
 俺は言った。
『そうですか。では、今日はこれで…』
 無線のイヤホンからしぃ助教授の声がする。
 相変わらず、俺がサーチできる半径500Km以内には航空機は1機もない。
 だが…

「あの… サーチするのは飛行機だけでいいモナか?」
 俺は、背後のねここに訊ねた。
「え…? 何かいましたか?」
 ねここは首をかしげる。

「すぐ近くに、潜水艦がいるモナ…」
 困惑しながら俺は告げた。
「…!!」
 ねここの血相が変わる。

442:2004/05/24(月) 23:09

『無音潜航ですって…!? モナー君、距離と方位、そして深度は?』
 しぃ助教授は早口で言った。
 その様子は尋常ではない。
「右12度、距離3Km、深度200mモナ…」

『3Km!! いつの間に…!!』
 しぃ助教授の焦りや当惑が伝わってくる。
 ねここは素早く無線機のボタンを押した。
「副艦長よりCIC(戦闘情報指揮センター)へ! 至急、対潜準備! 探信音を打って下さい!!」
 そう指示を出すねここ。

『感あり、1隻います!! 距離3000!! 艦種、海上自衛隊『おやしお』型!!』
 イヤホンから、張り詰めた声が伝わってきた。
 CICにいる通信士だろう。

 俺は、『アウト・オブ・エデン』で潜水艦の動きを探る。
 まるで潜んでいるように、その場から動かない。
 その機体横部の発射口が開き、何か円筒状の物体が…
 これは、もしかして…!!

「魚雷モナ!!」
 俺は叫んだ。
「転舵――!! 面舵一杯です!!」
 ねここは大声で指示を出した。
 艦が大きく進路を変え、魚雷の回避を…!!

 その瞬間、艦が大きく傾いた。
 凄まじい衝撃。
 爆音と共に、10mほどの巨大な飛沫が上がる。
 艦がグラグラと揺れ、俺は甲板に転がった。
「…大丈夫か?」
 リナーが即座に俺を引き起こす。

『右舷に被弾!!』
 通信士の必死な声が無線のイヤホンから伝わってきた。
「ダメージコントロール、被害状況を報告して!!」
 ねここが叫ぶ。
「右舷損傷、被害は軽微です! システム・オール・グリーン! 航行に支障はありません!!」
 クルーからの返事。
 どうやら、大した損傷はないようだ。

『全艦、全速前進です!!』
 しぃ助教授の指示が飛んだ。
 この艦を含む艦隊の各艦が、急速にスピードを上げる。

「敵潜水艦は、どこへ…!!」
 ねここは、俺の顔を見た。
 俺は慌てて『アウト・オブ・エデン』を展開する。
 敵は…!!

「しぃ助教授の艦の真下モナ!!」
 俺は叫んだ。
 魚雷を放つと攻撃と同時に、急浮上してきたのだ。
 何の意図で、そんな所にいるんだ?

『真下…!? いつの間に!!』
 しぃ助教授が叫ぶ。
『敵艦確認しました! 距離10、深度30!! 艦底ギリギリの位置です!!
 先程の急速発進の際、スクリュー破泡音に紛れて接近したようです!!』
 これは、しぃ助教授の艦の通信士の声だろう。
『あの一瞬で、そんなギリギリまで接近を… 向こうの艦長は化物ですか!?』
 しぃ助教授の、驚きを帯びた声が伝わってきた。

「このままじゃ、しぃ助教授の艦が…!!」
 俺は、叫び声を上げる。
「大丈夫です。あそこまで接近していれば、逆に向こうも攻撃できません。
 水上の衝撃がモロに伝わる深度にいますから…」
 ねここは言った。
 だが…
 そうなら、こっちからも攻撃できないという事だろう。
 しぃ助教授の艦を巻き込んでしまうのだから。

 リナーが口を開いた。
「最初の攻撃は威嚇同然だ。それによってこちらの船足が早まるのを誘い、その隙に接近した。
 あの位置に入れば、向こうは攻撃を受けない… 向こうの艦長、かなりの凄腕だぞ」
「簡単に言いますが… 距離10mまで接近してるんです。
 ちょっとでも操艦を誤れば、艦底に激突ですよ…?」
 ねここは汗を拭いて言った。

「ああ。信じられん戦法を取る奴だ」
 リナーは、海面に視線をやる。
「しかも、たった1隻で挑んでくるとは…」

 俺は、しぃ助教授の艦『フィッツジェラルド』にぴったりとくっついている潜水艦を視た。
 今度は、何を仕掛けてくる気だ…?

 再び、魚雷発射管が開く。
「…また魚雷が来るモナ!!」
 俺は、声を振り絞って叫んだ。

443:2004/05/24(月) 23:10



          @          @          @



 『フィッツジェラルド』のCICは混乱に包まれていた。
 真下に、敵潜水艦が張り付いているのだ。
「敵潜水艦に動きは…?」
 しぃ助教授は、クルーに訊ねた。
「まだ、動きはありませんが…」

『…また魚雷が来るモナ!!』
 無線機から、モナーの叫び声が聞こえた。
「水側長! 報告を!!」
 丸耳は叫ぶ。

「…敵潜水艦、魚雷発射を確認!! 目標は…」
 水側長は、ディスプレイを注視した。
「当艦でも、『ヴァンガード』でもありません!! 僚艦の『ヘミングウェイ』ですッ!!」
 大声で報告する水側長。
「『ヘミングウェイ』回避運動を取っていますが… 間に合いません!!」

「くッ…!」
 しぃ助教授は唇を噛んだ。
「命中…!! 『ヘミングウェイ』、炎上しています。あれでは、航行は不可能…」
 水側長が告げる。その声は徐々に沈んでいった。

「このコバンザメ、こっちが攻撃できないと思って…!!」
 しぃ助教授は怒気をはらんだ声を上げる。
「…安全な位置に陣取って、先に周囲の僚艦を葬る気でしょう」
 丸耳は状況を素早く分析した。
「このままでは、他の僚艦も危ない…!!」
 しぃ助教授は頷くと、素早く無線機を手に取った。
「全艦散開!! 各艦、陣形を大きく取りなさい!!」

 続けて、しぃ助教授は操舵手に指示を出す。
「速度を上げてジグザグ航法を取りなさい。これ以上、真下には付けさせません!!」
 そして、再び無線機を手に取った。
「このままでは狙い撃ちです!! 全艦、ランダムに蛇行運動!!」

 しぃ助教授は、周囲の海域を捉えたディスプレイを見た。
 3隻の護衛艦が、ジグサグに航行している。
 その中で、『ヴァンガード』だけが高速前進していた。
 しぃ助教授の指示を完全に無視している。
 これは…?
 独自の判断は構わないが、一体どういう意図があって…

 しぃ助教授は、無線機を手に取る。
 そしてスィッチを押そうとした瞬間、通信士の絶叫が響き渡った。
「僚艦『ヘルマン・ヘッセ』、『スタンダール』、『シェイクスピア』、撃沈です…ッ!!」

「…何ですって?」
 しぃ助教授は、ディスプレイを見た。
 表示されているはずの光点が、影も形もない。
 …信じられない。
 これは、何かの間違いか?
 たまたまロストしただけではないのか…?
 3隻の巡洋艦が、一瞬にして葬られるなんて…

「間違いなく、敵の魚雷攻撃です。各艦、2発ずつ直撃を受け…」
 通信士は暗い声で告げた。

「…」
 しぃ助教授は、無言でハンマーを手に取る。
「しぃ助教授、何を…!?」
 丸耳が慌てて声を上げた。
「敵潜水艦は私が沈めてきます。艦隊指揮は貴方に任せましたよ…!」
 しぃ助教授の肩は、怒りに震えていた。

 丸耳は、その肩を押さえる。
「落ち着いて下さい! いくらしぃ助教授でも、それは無理ですよ!!」
「…止めないで下さい!! あの潜水艦、海の藻屑にしてやります!!」
 必死で喰らい付く丸耳を引き摺りながら、しぃ助教授はずかずかとCICの出口に歩み寄る。
「深度30mにいる相手に、何が出来るんですか!!」
 丸耳は、必死でしぃ助教授を押し留めた。

「…」
 ようやく冷静さを取り戻したのか、しぃ助教授はハンマーを置いた。
「まさか、潜水艦1隻にここまで…」
 そして、落胆した表情で呟く。

「そもそも、たった1隻でこっちの艦隊に挑んでくる事自体が異常だったんです。
 世界一の錬度を誇るという海上自衛隊の中でも、この相手は別次元ですよ」
 丸耳は言った。
 しぃ助教授はため息をつく。
「『ヴァンガード』は敵の攻撃を避けたんですね。たった2艦で、この状況をどう打開するか…」
「こちらの潜水部隊が接近していますが、間に合うかどうか…」
 丸耳は、光点が表示されているディスプレイを見ながら言った。

「しぃ助教授!! 大変です!!」
 クルーの1人が大声を上げた。
「…今度は何です?」
 しぃ助教授は、声を落として言った。
 今より大変な状況があるのだろうか。

 クルーは、ディスプレイをチェックしながら告げた。
「こちらに接近してくる複数の艦影を捉えました! 『こんごう』型DDGを2隻確認!
 他にも、『しらね』型DDHが2隻、『はたかぜ』型DDGが1隻、『たちかぜ』型DDGが1隻!
 その他多くのDDが10隻!! 海上自衛隊第1護衛隊群と第2護衛隊群です!!」

444:2004/05/24(月) 23:11

「…!!」
 しぃ助教授は息を呑んだ。
 ディスプレイに表示される、複数の光点。
 それは、囲い込むように周囲から接近してくる。
「…1隻たりとも逃がす気は無し、って事ですか…」
 しぃ助教授は、ディスプレイを凝視して呟いた。



          @          @          @



「先行していた、『ヘミングウェイ』が沈みました…」
 ねここは、暗い顔で言った。
 ショックを受けるのは無理もない。
 同じASAの仲間であり、沈んだ艦の中にも多くの知り合いがいるのだろう。

『全艦散開!! 各艦、陣形を大きく取りなさい!!』
 イヤホンから、しぃ助教授の指示が伝わってきた。
『このままでは狙い撃ちです!! 全艦、ランダムに蛇行運動!!』

 俺は、『アウト・オブ・エデン』を展開した。
 敵潜水艦は今…

「蛇行じゃない、全速前進だッ!!」
 俺はねここに叫んだ。
 全艦が動き出した瞬間、潜水艦は護衛の3隻とこの艦にそれぞれ2発ずつ魚雷を撃ったのだ。
 蛇行のために減速すれば、魚雷の直撃を受ける…!!

「…!?」
 ねここは、俺の方を見た。
 そして、無線機のスィッチを押す。
「副艦長よりCICへ! このまま直進、機関最大戦速!!」
 ねここは、CICにそう指示を出した。
 俺の言葉を信じてくれたのだ。
 『ヴァンガード』が、大きく前方に進む。

『敵魚雷、接近感知!! 距離2000!!』
 通信士の声が伝わってくる。
 俺は、唾を呑みこんだ。
『このまま前進で回避可能…!! ………………やった、回避成功しました!!』

「…ふぅ」
 俺は額の脂汗を手の甲で弾くと、大きなため息をついた。
 ねここも安堵のため息をついている。
「ありがとう。モナーさんの指示が無ければ、今頃は…」

 しかし、俺の『アウト・オブ・エデン』は息をつく余裕さえ与えない。
 展開している3隻の護衛艦が、たちまち撃沈される光景を捉えたのだ。

 CICから、力の無い連絡が来た。
『僚艦『ヘルマン・ヘッセ』、『スタンダール』、『シェイクスピア』、大破炎上…
 3隻とも航行は不能。現在、乗員が退艦しています…』

「そんな、まさか…」
 そう呟いて、ねここは硬直する。
 リナーは口を開いた。
「あれだけ蛇行して海面を乱せば、魚雷のセンサーは相当に狂うはず。
 だが、それを問題にせずに3隻を撃沈した。こちら側の操舵を完全に読んでいる、凄まじい偏差射撃だ。
 相手は、トップクラスのサブマリナーだぞ…」

「…ん? あれは…」
 俺の『アウト・オブ・エデン』は、異常を捉えた。
 50Km先に、1隻の艦が…
 それも、明らかに軍艦だ。
 俺は、艦船を目標にして周囲をサーチする。

「…大艦隊モナ! 囲まれてるモナ!!」
 俺は叫んだ。
 50Km前方に、8隻の大艦隊。
 後方からも、同規模の8隻の艦隊が高速接近している。
 俺の通常探知ギリギリの場所に、今まで待機していたのだ。
 ASAの艦隊を囲い込むように展開しながら…
 そして敵潜水艦の霍乱によって陣形が崩れた今、一気に接近してきた…!

『前方より、大艦隊接近!! 後方からも…!!』
 少し遅れて、CICからの報告。
 ねここは息を呑んだ。
「こちらはイージス艦とはいえ、たった2隻…!」

「でも、やるしかないだろう…?」
 リナーの横には、いつの間にか彼女が持ち込んだ特大ガトリングガンがある。
「潜水艦よりは、まだ戦いやすい相手だ。いざとなれば、接舷して白兵戦で制圧すればいい」
「…本気で言ってるモナ?」
 リナーならやりかねないのが怖いところだ。

 艦橋からの扉が開いて、艦長であるありすが甲板に姿を現す。
「…さすが三幹部、危険に対する嗅覚は並外れているらしいな」
 リナーは、場違いな衣装を着た少女を見て言った。
 ありすは、ゆっくりとこちらへ来る。
 久し振りに感じる、この威圧感と圧迫感。
「サムイ…」
 ありすは、いつものように呟いた。

「…リナーさんの言うとおりです。くじけていてはいけませんね」
 ねここは大きく頷いた。
「ありすの『ゴッド・セイブ・ザ・クィーン』の射程なら、対艦ミサイルの撃墜は可能ですし。
 攻撃に専念すれば、敵の半分くらいは…」

445:2004/05/24(月) 23:13

「…ああ、やってやるモナ」
 俺はバヨネットを取り出した。
 だが、我ながら何をやるのだろう。
 正直、俺はこれっぽっちも役に立ちそうにない。

 無線機のイヤホンから、しぃ助教授の声が伝わってきた。
『全艦…って、もう『ヴァンガード』だけですね。とにかく、全艦に通達です。
 イージス艦の全兵装及び各員のスタンド能力を駆使し、敵艦隊の全艦を撃沈します。
 各員、己の身の防御を最優先にしつつ… 派手にブッ潰してやりなさい!!』

「はは… 結局、こうなるんですね」
 ねここは笑った。
「相変わらずだな、そっちの大将は…」
 リナーはため息をつく。
 そして、夜空に浮かぶ月を見上げた。
「奴等には… 吸血鬼に対して、真夜中に喧嘩を売った事を後悔してもらうか…」



          @          @          @



 非常に狭い空間。
 コーンという音が、定期的に周囲に響いている。
 慣れない者が足を踏み入れば、息が詰まってしまうだろう。
 ここは、潜水艦の艦内である。

 大きなヘッドホンを嵌めている男が、ディスプレイと向き合っていた。
 彼はこの艦の水測長、海中の僅かな音を拾い取る重要な役割だ。
 いわば潜水艦の耳である。
「3隻目の沈没音を確認… ASAのヴァージニア級巡洋艦、3隻とも撃沈です!!」
 水測長は静かに告げた。

「…ヨシ」
 でぃは、ディスプレイを見つめて大きく頷く。
「後は… イージス2隻のみですな、でぃ艦長」
 副艦長は、でぃに言った。

「タイキ…」
 でぃは呟く。
「機関停止、この場に待機だ」
 副艦長は素早く指示を出した。


 でぃは、光点の浮かぶディスプレイを見つめる。
 ここまでは、見事に型に嵌った。
 孫子の教えに、『囲師は周することなかれ』というものがある。
 敵を包囲する時は、一箇所だけ空けておけという事だ。
 完全に追い詰めてしまえば、思わぬ反撃を受ける可能性がある…というだけではない。
 意図的に、相手に逃げ道を用意しておく事で、敵の動きをそこに誘導できるのだ。

 例えば、敵を3箇所の出口しかない家に閉じ込めたとする。
 そして、出口を3箇所ともに火を付けてしまえば、相手の動きが読めなくなる。
 だが、あえて1箇所だけ火を付けなかったら… ほぼ間違いなく、敵はそこから脱出を図るはずだ。

 ASAの敵司令官の指示や対処は的確だ。
 だが、余りに的確過ぎる。幾つかある手段のうち、一番的確な手を選ぶのだ。

 先制攻撃を食らわせれば、追撃を避けるために加速した。
 向こうにとって、一番的確な手だ。
 敵の加速に乗じてギリギリまで接艦すれば、振り切るためにジグザグ航法を取った。 
 向こうにとって、一番的確な手だ。
 ジグザグ移動による海面の乱れに紛れて僚艦を撃沈すれば、艦同士の距離を大きく取った。
 向こうにとって、一番的確な手だ。
 そして海面は大きく乱れ、ソナーがろくに使用できない状態に自らを追い込んだ。
 後は、目の見えない相手を殴るようなものだ。
 こちらは、巻き起こった航跡群を目標に殲滅するだけ。

 完全に、こちらの誘導通りに動いている。
 こちらが意図的に用意した逃げ道に、見事に駆け込んでいるのだ。
 向こうの司令官はスタンド使いとしては優秀かもしれないが、軍司令官としては余りに未熟。
 戦場を肌で感じていない。戦いを自分で組み立てていない。
 現在の向こうの惨状は、全てマニュアル的な判断が招いた事態だ――
 でぃは、ディスプレイに映る敵艦の光点を見つめた。

446:2004/05/24(月) 23:14


「…キタ?」
 でぃは水測長に訊ねる。
「ええ。味方艦隊が接近しています。後は、波状攻撃を浴びせて終わりですよ…」
 ディスプレイをチェックし、笑って告げる水測長。
「手負いの獣は危険だ。まして相手はスタンド使い。接近した時が一番怖い。それを忘れるな」
 副艦長は、そんな態度を戒めるように言った。
「はっ! 甘い認識でした!」
 水測長は慌てて姿勢を正す。

 不意に、クルーの1人が告げた。
「管制機よりデータリンク。距離7000、国籍不明艦を確認。こちらに接近しているようです。
 かなり大型… これは、戦艦クラス!?」
 彼は大声を上げる。

「戦艦クラスだと…?」
 副艦長は、報告をしたクルーの後ろに立った。
「画像は来ているか?」

「…ええ」
 クルーは、機材を操作する。
 ディスプレイに、黒い艦影が表示された。
 副艦長がそれを覗き込む。
 どこからどう見ても、重武装の戦艦だ。
「これは… アイオワ級か…?」

 クルーの1人が口を開いた。
「いいえ… この主砲塔の数、艦橋の形… これは、『ビスマルク』です!」
「『ビスマルク』だと…? ナチスドイツの戦艦を、なぜ今さらASAが模造した…?」
 副艦長は顎に手を当てて呟く。

「…」
 でぃは、ディスプレイを見つめた。
 大ドイツ帝国海軍、超弩級戦艦『ビスマルク』。
 当時のヨーロッパで最強を誇ったとは言え、今ではもはや骨董品だ。
 まともな戦力になるはずがない。

 …これは、本当にASAの艦なのか?
 こんなものを、今さら投入する必要がどこにある?
 彼の嗅覚は感じ取った。
 この戦艦は、ASAに籍を置く艦ではない。

 何か…妙だ。
 こちらの味方でもASAでもない艦が、なぜ接近してくる?
「…コワイ」
 ディスプレイを凝視して、でぃは呟いた。
 漆黒の艦影。甲板にずらりと並ぶ砲塔。
 その姿はまさに、時代の亡霊だ。
 その威容に、でぃは禍々しいものを感じた。



  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

447ブック:2004/05/25(火) 01:44
     EVER BLUE
     第十七話・TROUBLE MAKER 〜歩く避雷針〜


 僕達を乗せた船は、無事島の港まで着いた。
「よし、錨を下ろせ。」
 サカーナの親方の声に従い、乗組員が錨で船体を港に固定する。

「さて、それじゃあ俺は、燃料だの砲弾だのの交渉に行って来るわ。」
 サカーナの親方が上着を羽織る。
「それでは私もご一緒させて頂きます。
 あなただけに財政を任せては不安ですので。」
 高島美和がサカーナの前に出た。
 まあ、彼女が一緒なら安心だろう。

「2〜3時間は停泊しているのだろう?
 ならば俺は少し島の街に寄らせてもらう。
 剣の補充をしたいのでな。」
 マントをたなびかせながら、三月ウサギが告げた。

「構いませんが、個人の武器の購入は自腹ですよ。」
 冷たい声で高島美和が返す。
「分かっている。」
 無表情で答える三月ウサギ。

「それじゃ、俺もちょっくら外へ散歩に行くとするか。
 この島を出たら、当分娑婆の空気は吸えそうにないしな。」
 ニラ茶猫が軽く背伸びをした。
「あ、なら俺も一緒に行くよ。」
 オオミミが続く。
 全く、君といいニラ茶猫達といい呑気なものだな。
 君達は、『紅血の悪賊』に狙われている真っ最中なんだぞ?

「でしたら、私もご一緒させて頂きましょう。」
 タカラギコが包帯とベルトに巻かれたパニッシャーを手に取り、背中に担ぐ。
 いつも思うのだが、
 この優男のどこにこれだけの大きさの得物を振り回すだけの力が隠されているのだ?
「この得物だけではどうにも小回りに欠けますしね。
 手頃なサイドアームを手に入れなければ。」
 タカラギコが巨大な十字架をコツコツと手で叩いた。

「…外に出るのは勝手だが、お前ら絶対に目立つような事するんじゃねぇぞ。」
 サカーナの親方が僕達を睨む。

「ふん。こいつらと一緒にしないで貰おうか。」
 三月ウサギがオオミミとニラ茶猫の方に視線を移す。

「おい、そりゃどういう意味だフォルァ!」
 ニラ茶猫が三月ウサギに突っかかった。
「事実を述べたまでだが?」
 皮肉気に返す三月ウサギ。
 それにしても失敬な。
 この僕がついているのに、オオミミをニラ茶猫と同列に語るとは。

「まあまあ、二人とも落ち着いて…」
 オオミミが険悪なムードになった二人の間に入る。

「ふん。」
「けっ。」
 ニラ茶猫と三月ウサギはしばし目線を合わせて火花を散らした後、
 ほぼ同時にお互いそっぽを向いた。
 この二人、仲がいいのか悪いのか…

「…そんなんだから心配なんですよ。」
 高島美和が呆れたように呟く。

「天はどうする?」
 オオミミがふと天に尋ねた。
「アタシは遠慮しとくわ。
 また前みたいに恐いおじさん達に追いかけられちゃたまんないし。」
 天が首を振る。

 良かった、こいつが一緒じゃなくて。
 僕は密かに胸を撫で下ろした。

「兎に角、だ。
 くれぐれも騒ぎは起こすなよ?」
 サカーナの親方が念を押す。

「心配すんな。
 俺が居る限り大丈夫だって。」
 胸を張るニラ茶猫。
 いや、お前が一番心配なんだって。

448ブック:2004/05/25(火) 01:45



 僕とオオミミと三月ウサギとタカラギコの三人で、街中の刀剣屋の品を物色していた。
 ニラ茶猫は三月ウサギと一緒に歩くのが嫌だったのか、船を降りたとたん
『ロイヤルミルクティーと生ハムメロンで潤ってくるぞフォルァ。』
 などと訳の分からない事をぬかしてさっさと行ってしまった。
 まあ三月ウサギとニラ茶猫が一緒だと、
 サカーナの親方が心配していたように騒ぎを起こしてしまう可能性があるので、
 一人でどっか行ってくれて内心ほっとしているのだが。

「ふあ〜ぁ。」
 戦闘に武器を使わないオオミミが、退屈そうに欠伸をついた。
 僕もこういう分野には興味が無い為、いささか辟易している。

「ふむ…」
 タカラギコが大刃のナイフを手に取り、軽く手の平で遊ばせる。
 握り心地を確かめているのだろうか?

「……」
 と、タカラギコが何か訴えるような目で三月ウサギを見つめた。
 何だ?
 こいつらホモか?

「…何だその目は。」
 迷惑そうな顔で、三月ウサギが言う。

「いや、あのですね、恥ずかしながら私、一文無しなのですよ。
 ですから、優しい足長おじさんが何かプレゼントしてくれないかな〜、と。」
 縋るような視線を三月ウサギに送るタカラギコ。
 あんた、金も持ってないのに買い物について来たんかい。
 つーか、最初から人に奢らせるつもりだったのか?

「親父、そこの棚にある剣全部寄越せ。」
 三月ウサギがタカラギコを無視して店主にそう言った。

「ああ、そんな…」
 恨めしそうな声を出すタカラギコ。

「そこの棚の剣を全部?
 お客さん、冗談も大概に…」
 そこで三月ウサギが金色に輝く像をカウンターに叩きつけ、店主の言葉を遮った。
「代金はこれで充分だろう。
 分かったらさっさと剣を売れ。」
 ちょっと待った。
 その金の像って、確か…

「やばいよ三月ウサギ。それ、確か『紅血の悪賊』の船から取ってきた…」
 オオミミが小さな声で三月ウサギに耳打ちする。
 それにしても、三月ウサギはいつのまにそんなもの持って来たんだ。
 それとも、最初からマントの中に隠していたのか?

「こんな趣味の悪い像が、軍事機密な訳はあるまい。
 それに、これぐらい正当な報酬の範疇の内だ。」
 涼しい顔で答える三月ウサギ。
 やれやれ、サカーナの親方がこの事を知ったらどんな顔をする事か。

「…分かりました。
 ですがお客様、こんなに沢山の剣をどうやって…」
 棚に掛けられた大量の刃物を見やりながら店主が尋ねる。

「ふん。」
 質問には答えず、三月ウサギは次々と剣をマントの中に入れ始めた。

「あ、あの、それは一体…」
 その光景に、目を丸くする店主。
「気にするな。ちょっとした手品みたいなものだ。」
 剣を収納しながら三月ウサギが口を開く。

「手品…手品…
 うん、そうだよな。
 こんなの手品に決まってる…」
 現実逃避しているのか、店主がブツブツと独り言を言い始めた。
 この異様な現象を、無理矢理手品とこじつけて納得するのに必死なのだろう。

「いやあ、便利な能力ですねぇ。
 本当に羨ましいですよ。
 私なんか、こんな重いものを一々担がないといけないんですから。」
 背中のパニッシャーに目を向けながら、三月ウサギが溜息を吐く。

「…おだてても、お前の武器は買わんぞ。」
 冷徹に三月ウサギが言い放つ。
 三月ウサギに図星を突かれたのか、タカラギコががっくりと肩を落とした。

「オオミミ君…」
 タカラギコが、今度はオオミミに目を向けた。
「…ご、ごめんなさい。
 俺も小遣い程度しかお金持ってないし、
 果物ナイフみたいなものしか…」
 手を振りながらタカラギコの期待を退けるオオミミ。
「そうですか…」
 タカラギコが残念そうに呟いた。

449ブック:2004/05/25(火) 01:45


「…俺、先に店を出とくよ。」
 退屈が限界に達したのか、タカラギコの視線に耐えられなくなったのか、
 オオミミが外に出ようとした。
 それがいい。
 三月ウサギが剣を全部マントの中にいれるにはまだまだ時間が掛かりそうだし、
 外で何か冷たいものでも飲むとしよう。

「ああ、お気をつけて。」
 タカラギコはオオミミにそう言うと、再び三月ウサギに訴えるような視線を向けた。
 どうやら、まだまだ武器を奢って貰うのは諦めていないらしい。

「うん。俺、この店を出た所から見える位置には居るから、
 終わったら声を掛けてよ。」
 そう言うと、オオミミは刀剣屋の出入り口のドアを潜った。

(さて、どうするオオミミ?)
 僕はオオミミに尋ねた。
「そうだね。
 前にパン屋さんがあるし、そこで何か食べ物でも買おう。」
 オオミミがパン屋を指差した。
(賛成。)
 僕とオオミミは一心同体。
 本来スタンドである僕は食べ物など必要無いが、
 オオミミの感覚を共有する事で味覚を楽しむ事も出来る。
 だから、オオミミが食べた物を僕が味わう事も可能なのだ。

「それじゃ、買いに行こうか『ゼルダ』。」
 オオミミが小銭の詰まった財布を握り締めてパン屋に向かう。
 早く、オオミミ。
 僕はもう待ちきれな―――


「!!!!!!!!!!!!」
 次の瞬間、オオミミの体が何者かの腕に掴まれた。
 驚く間も無く、首に腕を回されて体を捕らえられる。
「…!?」
 自分を捕まえた人を見ようと、咄嗟にオオミミが首を後ろに向ける。
 全身を分厚いコートに包んだ、奇妙な風貌。
 背中には、パニッシャーと同じ位に大きな何かを担いでいる。
 顔はフードを目深く被っている上に、サングラスまでかけているので、
 ぱっと見ただけでは判別がつかない。
 だがオオミミの背中に当たる柔らかな二つの膨らみからして、どうやら女性のようだ。

「…!貴様!!」
 と、そこに数人の男達が駆けつけてきた。
 その手には、十字架を模した武器を持っている。

「動くな!!」
 男達が詰め寄ろうとした瞬間、オオミミを捕らえた女が声を張り上げた。
 その言葉に動きを止める男達。

「動くでないぞ。
 妙な真似をすれば、この者の首をへし折る。」
 凍りそうな程冷たい声。

 …どうやら、騒ぎを起こすのは三月ウサギでもニラ茶猫でもなく、
 僕とオオミミになってしまったようだ。
 畜生。



     TO BE CONTINUED…

450丸耳達のビート:2004/05/25(火) 22:06


 丸耳の少年が、椅子に腰を下ろした。
テーブルを挟んだ対面には、顔も右腕もない男が座っている。

「いらっしゃい…だいぶお疲れのようだけど、欲しければ飲み物くらいは出すよ?」
「いや…必要ない」
 そう言うと、少年の向こう側に座った男が首を振った。
砕け散った右腕に、のっぺらぼうの白い顔。
「そう…ところで、なんて呼べばいいのかな。…あ、名乗りたくないなら構わないよ。
 こっちで勝手に呼ばせて貰うから。『のっぺらぼうさん』『白塗りさん』『片腕さん』…
 いや、『片腕さん』ってのはウチのメンバーとかぶる…」

「…<インコグニート>だ。そう呼んで貰おう」
「『名無しさん』って…僕の偽名ネーミングセンスはそれ以下なのかな?」
「ええと…君の悪口は言いたくないのでノーコメントです」
「それは言ってるのと同じだよ〜…」
 テーブルにのの字を書き始める少年に、<インコグニート>が答えた。
「本名だよ。私が私自身につけた、な」
「あ、そう…で、はるばるこんな所に来たんなら、僕らに用があるんでしょ?」
 のの字を書いていた指が、気を取り直すようにこつん、とテーブルを叩き、中空にくるりと円を描く。

「そうだ…私の用件は二つ。まず、私に敵対するSPM構成員の排除と…『エタニティ』の能力を貸与して欲しい」
 す、と隣に佇んでいた少女の体に緊張が走った。
軽く右手を挙げていきり立つ少女を抑え、そっと口を開く。
「人生っていうのは…何事もギブ・アンド・テイクってものだよね。
 それが見ず知らずの、たった今初めて会ったばかりの奴なら尚更…。
 僕が敵を消して能力を貸せば、その見返りに何をくれる?」

 沈黙。

 お互いに黙ったまま、空気だけが張りつめていく。
永遠とも思える時が過ぎ―――<インコグニート>が答えた。
 world
「世界だ」

「はぇ?」
 少年の後ろで、少女が素っ頓狂な声を出した。

451丸耳達のビート:2004/05/25(火) 22:08

「聞こえなかったか?世界をやろう」

「世界…?」
「そう、世界だ…元々私は『帝王になる』事だけを目的として生まれた存在だからな。
 支配した後のことなど、実のところさしたる興味はない」
「えーと…要するに、『プラモ作るのが好きだけど、場所取るから作ったのくれる』とかそんな感じ?」

 何やらえらく平和な例えになってしまい、少年以外の二人の顔に汗が浮かんだ。
「…いや、その比喩は…」
「待って下さい。話を聞くに、貴方の最終的な目的は『世界の帝王になる』と?」
 今まで話し合いに参加していなかった少女が、初めて自分から口を開いた。

「そうだ」
 情報は隠さない。協力を求めている以上、『信頼』を見せねばならないのだ。
「貴方、自立型スタンドですよね」
「…そうだ」

 …ふと感じる威圧感。目の前の少女に、敵意が宿っている。

「本体が、死亡したのは?」
「千九百…八十七年だったか」

 チリチリチリチリ、肌が焼けるような感覚。
少女の口元に浮かんでいた、薄い笑みが消えていた。

「本体の、名は?」

 しばしの躊躇い。
全てのカードを晒す訳でもないし、彼の名を明かすのには問題はないだろう。

 そう判断し、口を開く。


「―――ディオ・モランドー」


  ―――――!


 その名が出た瞬間、少女の敵意が爆発した。

452丸耳達のビート:2004/05/25(火) 22:09
「貴様ァァァァ―――――ッ!」
 絶叫しながらテーブルを駆け上がり、周囲の空間に揺らぎが生まれる。
「なっ…!」
 驚く間もなく揺らぎが肥大化し、スタンドヴィジョンが浮かび上がった。
ぼんやりとした輪郭の人型スタンド。
わああああん、とざわめきのような音が聞こえる。
 即座に『思念の刃』を展開させ、防御に備え―――


「縛れ―――『エタニティ』!」


 少年の叫びと共に具現化した鎖が、二人の動きを封じた。
ごろりと少女がテーブルに転がり、<インコグニート>の刃と体も椅子に縛り付けられる。

「ふあっ…!」
 締め付けられた少女が、テーブルの上で甘い吐息を漏らした。
鎖の端は空中へ融け込むように同化しており、一ミリも動かせなくなっている。

「ぅぁ…何故、止めるのですか…!コイツのせいで、私達『ディス』は地獄を見たのですよ!!」
「…彼のせいじゃない。彼は只のきっかけだよ。彼がいなくたって、いずれ他の人間がそうなってた」
「しかし…!」

 縛られたまま、憎悪の籠もった目で<インコグニート>をにらみつける少女。
やれやれと溜息を一つ、<インコグニート>へと向き直る。

「済まないけど…『名無しさん』。この話、無かった事にして。
 『世界をやろう』なんてとても信用できないし、万一できても僕らは世界なんていらない。
 ただ今のままでいられればいいんだよ。だから、双方不干渉って事でいいでしょ?」
「…そうか…残念だ」
 言っているものの、断られるのがわかっていたのかあまり悔しそうな口調でもない。
      ディス
「悪いね。僕等のメンバーも納得しそうにないから…お引き取り願うよ」
 そう言うと、刃と体を縛り付けていた鎖『エタニティ』が消滅した。
ふっと刃を消し、<インコグニート>が席を立つ。
「では…また会おう」

  ―――また?

 眉をひそめる間もなく、<インコグニート>は部屋から消えていた。

453丸耳達のビート:2004/05/25(火) 22:10

  ―――また?

 眉をひそめる間もなく、<インコグニート>は部屋から消えていた。

「『また会おう』って…不干渉って言ったんだけどな…あれ?」
 少女に鎖を絡ませたまま<インコグニート>の座っていた椅子を見ると、封筒が一つ置かれていた。
手紙に使うようなものよりも少し大きめの、色気もそっけもない茶封筒。
「…忘れ物?」
「返す必要なんてないです。あんな奴が『エタニティ』を貰おうなんて―――」
「ちょっと黙ってなさい」

 そういうと、『エタニティ』の鎖を少しだけ締め付けてやる。
「ゃあ…ふあンッ!」

「さて、と…」
 卓の上で悶える少女を余所に、椅子の上の封筒を取り上げた。
「…ま、いいよね、ちょっとくらい見ても…」
 爪を使ってぺり、と封を切り、中身を取り出す。
「写真…?」
 中には、輪ゴムで止められた数枚の印画紙が中にまとめられていた。
ぱちんとゴムを外し、中の写真を覗き見る。

 そして―――その中の二人を見て、顔色を変えた。


  長毛種の少年―――『チーフ』。

  丸耳の少年―――『茂名・マルグリッド・ミュンツァー』。


        ・ ・ ・ ・ ・   ・ ・ ・ ・
―――――また会おう、必ずまた、な…


            インコグニート
 顔と右腕のない『名無しさん』の声が、聞こえた気がした。

454丸耳達のビート:2004/05/25(火) 22:11




「…ぅん…」
 ぱちり、と目を開けた。

 右手を上げて目を擦ろうとするが、酷く重い。
目の前に上げて握り拳を作ろうとするが、ぴくぴくと軽い痙攣を起こすだけだった。
そうこうしているうちに力尽き、顔の上に右手を落とす。
 感覚が全くない。
顔面に右手が乗っている感覚はあるのに、右手で顔面を触っている感覚が感じられない。

「…うわぁ…気持ち悪…」

 一人表情を歪めていると、病室に誰かが入ってきた。
「…気付かれましたか」
「ジエン…さん?…えと…私、なんで寝てるの?」
「ええ…と、『ヨーダイガキューヘンシタ』という奴ですよはい」
「HAHAHA、マルミミのドアホウが薬間違えてのぉ。
 数時間もすれば…明日の朝には感覚が戻ってくるじゃろ。
 首のバンソーコーは取ってはいかんぞ。絶対」
「二人とも…何か、隠してます?」


  ぎくんっ。


「………さあ、何の事やら」
「………人を疑うなんて無礼じゃぞ♪」

 辛うじてとぼけていると言っていい状態。
だが、ジエンは冷や汗でスーツがビショビショになっているし、茂名に至っては露骨にキャラが変わっていた。
「…別にいいですよ、話したくないなら」

 ジエンと茂名が顔を見合わせ、ほっと一息。
「まあ、寝てる間に血を抜いて売ったりとかそういう事はしとらんから安心せい」
「ぅぇぁ…そんな事してる人がいるんですか?」
 顔をしかめるしぃに、ジエンが答えた。
「昔はあったらしいですよ。半身不随の人が、足から血を抜かれて…」
「いや〜…聞きたくない〜…」
 おどけて首を振り、ジエンと茂名が笑う。


 実際はそれより酷いコトされたとは、口が裂けても言えなかった。

455丸耳達のビート:2004/05/25(火) 22:12




―――そして、その酷いコトをした張本人はといえば。

「うう……」

 ベッドの上で枕を抱いて、一人思案に暮れていた。

  ―――――胸、凄かったなぁ。たゆーん、って。

(って違う違う違うっ!)
 ピンキィ
 桃色思考の首に縄を繋いで、本来の考えへと引き戻す。
彼女の服をはぎ取って牙を打ち込むまで、全て鮮明に覚えていた。

 今こうして枕を抱いて悶々としているのも『僕』ならば、しぃの首に牙を立てたのも『僕』。
自業自得とはよく言ったものだけれど、この場合はどうなるんだろう。

(あ、また脱線してる…)


―――ひぁ…ぁ、洗っても、洗っても…男の人達の…感触が…消えな…くて…
     汚れた躯…ふぁ…マルミミ君に…好きに…なって…貰えない…!


 思い出す。暗い病室での、しぃの言葉を。

(…やっぱり、これって…告白…だよね。)

 男手一つで育てられたから、女性との付き合いなんて近所のオバさんと虐待されたしぃ族くらい。
学校だって、子供じみた外見のせいで評判は『カワイイ』…
 生まれてこの方、女の子とつきあった事など一度もなかった。

(で…僕は、どう思ってる?)
 …嬉しくないわけは、ない。
しぃ族の女の子は沢山見てきたけれど、その中でも彼女は綺麗だった。
 十四歳という話だったが、とてもそうは見えない大人びた外見。
でも、中身はやっぱり十四歳の女の子…そのギャップが、見る者を引きつける。

                ・ ・ ・ ・ ・ ・
 けれど、それは本当に人間である僕の、人間に向ける愛なんだろうか。
        ・ ・ ・ ・ ・ ・        ・ ・ ・
 それとも、吸血鬼としての僕の、非常食に向ける食欲なのだろうか。


 愛なのか、欲望か―――そこで思考は停止する。
わからないまま前にも進まず、ゴールの無い迷路のようにぐるぐるぐるぐるただ迷う。


  ―――――けどやっぱり凄かったなぁ。サイズの合うブラ家に無かったもんなぁ…って待て待てっ。


 三度脱線する思考を引き戻すが、いつしかうとうとと眠りについていた。




  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

456丸耳達のビート:2004/05/25(火) 22:13

                           @@@@
   @@@@     @@@@      @@@@  (゜д゜@
   (゜д゜@アラヤダ @゜д゜)     ∩゜д゜)   ┳⊂ )
(( ⊂ ⊂丿    (つ  つ ))  ヽ ⊂丿  [[[[|凵ノ⊃
   (_(_)    (_)_)     し'し'    ◎U□◎

 近所のオバさ(ブツッ) 奥様方

                ウルワ  マダム
茂名診療所の近所に済む逞しき人妻達。
男ヤモメの茂名診療所によく晩ご飯を作りに来てくれる他、
しぃのような入院患者の衣服なども無償で提供するなど、     @@@@
茂名診療所は彼女らによる無償の愛で成り立っているのだッ! (゜д゜@ …ケド、デバン ナイノヨネェ…

457ブック:2004/05/26(水) 00:06
     EVER BLUE
     第十八話・CEMENT 〜ガチンコ〜 その一


「『ジャンヌ・ザ・ガンハルバード』…!」
 男達がオオミミを掴む全身コート女を睨んだ。

「…ふ。」
 僕とオオミミを抱えたまま女が後ろに大きく跳躍した。
 いや、大きくなんてものじゃない。
 その距離実に十メートル以上。
 オオミミを抱え、助走無しでのこのジャンプ。
 明らかに人外のそれである。

「くっ、貴様!」
 男達が僕達へ駆け寄ろうとする。

「動くなと言っておる!」
 女がオオミミの首に回した腕に力を込めた。
 オオミミが、苦しげに声を上げ、その様子を見て男達が悔しそうに動きを止める。

「では、な。」
 女が再び飛翔した。



 まるで風のような勢いで、女はオオミミを抱えながら街中を飛び進んだ。
 街の人々が、驚いた様子でそれを眺めるが、
 女は一向に構わぬ様子でそのまま駆け抜けて行く。

「…そろそろいいじゃろう。」
 そう呟くと、女は薄暗い裏通りで足を止めた。
 そして、オオミミをゆっくりと地面に下ろす。

「……!」
 オオミミが警戒態勢を取る。
 僕も、いつでも出現出来るように準備しておく。
 あの怪力、あの身のこなし、そして陽光を嫌うようなこの格好、
 この女、間違いなく吸血鬼だ。
 まさか、『紅血の悪賊』か…!?

「そう固くなるな、小僧。
 別に取って喰ったりなどせぬ。」
 と、思いがけず和やかな口調で女が喋ってきた。
 その声色に、思わず肩透かしを食らう。

「あの、あなたは…」
 オオミミが何か言いたそうに女に声をかける。

「名乗る程の名は持ち合わせておらぬよ。
 …そうじゃ。
 行きがかり上とはいえ、さっきはすまなんだな。」
 女がオオミミに巾着袋を投げ渡した。

「……!」
 オオミミがその入れ口を開けてみて仰天する。
 巾着袋一杯に、ぎっしりと詰められた金貨。
 何で、吸血鬼がこんな大金を?

「あの、俺、こんなのは…!」
 オオミミが慌てて金貨の詰まった巾着を返そうとした。
 馬鹿、オオミミ。
 君は何でせっかくの儲けを棒に振ろうとするんだ。

「いいから持っておけ。
 先程の迷惑料じゃ。
 子供は素直に駄賃を受け取るのが、可愛げというものじゃぞ?」
 クックと含み笑いを漏らす女。
 その口からは二本の白い牙が覗く。
 フードを被りサングラスをかけている為、顔はよく見えないが、
 恐らく相当の美人だろう。

458ブック:2004/05/26(水) 00:07


「…そういえば忘れる所じゃった。
 お主、この辺りで『紅血の悪賊』に狙われている船があると聞いておるのだが、
 何ぞ知らぬか?」
 …!
 この人も、僕達を追っているのか!?
 だが、今の質問の仕方からして、『紅血の悪賊』ではなさそうだ。
 なら、この人は一体何者なんだ?

「し、知りません…」
 露骨に動揺した様子で答えるオオミミ。
 駄目だ。
 僕から見ても、隠し事してるのがバレバレだ。

「…どうやら、お主は嘘を吐けない性格のようじゃな。」
 女の声が冷たいものへと戻り、一歩オオミミへと近寄る。
 オオミミは後ろに下がろうとするも、背中に壁が当たりそれを阻んだ。

「う、嘘じゃないです。
 俺は、本当に何も…」
 オオミミが冷や汗を流す。
 女は既にオオミミの目と鼻の先まで接近していた。

「!!!」
 いきなり、女がオオミミの顔を伝う汗をその舌で舐め取った。
「この味は、嘘を吐いておる味じゃぞ。」
 汗を舐めただけで嘘か本当かを見抜いた?
 この女、変態か?

(無敵ィ!!)
 このままではヤバい。
 咄嗟に僕が外に出て、女を突き飛ばすべく腕を伸ばす。

「!?」
 しかし、その一撃が当たる事はなかった。
 命中の寸前で、女が紙一重でそれを避ける。

 僕の姿が見えた?
 まさか、この女スタンド使いなのか!?

「!!!!!!!」
 直後オオミミが首を掴まれ、そのまま壁に押し当てられた。

「…驚いたぞ。
 可愛い顔して、スタンド使いだったとは。
 じゃが、どうやら大きな魚が網に掛かったみたいじゃな。」
 女が静かに口を開く。

「さて、すまぬがお主の知っている事、
 洗いざらい唄って貰おうか?」
 女が軽くオオミミの喉を掴む手に力を込めた。

「…本…当に、知らな…い……」
 オオミミが苦しそうに言葉を搾り出す。
 このままだと、非常にまずい。

(無敵ィ!!)
 女に目掛けて左のフックを放つ。
「甘い。」
 しかし、女は背中に担いでいる巨大な「何か」で、巧みにその拳を防御した。
 この人、強い…!

459ブック:2004/05/26(水) 00:07

「…仕方無い。
 あまりこういう真似はしたくないのじゃが…」
 女がサングラスを外した。
 怖気も奮うような、極上の美人。
 しかし、残念ながら今はその美顔に見とれている状況ではない。

「……」
 女が猛禽類の様な瞳で、オオミミの目を覗き込んだ。

「……!!!」
 オオミミがビクンッと痙攣する。
 同時に、彼の意識が一気に遠のいていくのが感覚を通じて分かる。

(……!)
 彼の感覚に同調する形で、僕の意識も持っていかれそうになった。
 遠く遠く遠く遠く遠く遠く遠く遠く。
 心地よい魂の眠りへと…

 …!!
 まずい。
 これは、
 催眠術(ヒュプノシス)…!

「さて、答えて貰おう。
 お前は、何を知っている?」
 女がオオミミの目を見つめたまま尋ねた。
「…はい。その船は、俺達の―――」

(しっかりしろ、オオミミ!!)
 心神喪失状態のオオミミに向かって、僕はあらん限りの声で叫んだ。
「!!!」
 オオミミが、僕の声を受けて正気に返る。

「…!!
 儂の瞳術が破られた!?」
 女の顔が驚愕に歪む。
(無敵ィ!!!)
 そこに生まれる一瞬の隙。
 僕の右拳が、今度こそ女の顔を捉える。
 女性の顔をグーで殴るのは気が引けるけど、今回はまあ不可抗力だ。

「くっ…!」
 殴られた右頬を押さえ、後方に跳ぶ女。
 さっき拳を交えた時の感じからして、
 多分相手の方が戦闘能力に関しては何枚も上手。
 しかも、相手は吸血鬼。
 人間を軽く屠る事が可能な超常生物だ。

「……!」
 ゆっくりと間合いを測るオオミミ。
 だが、勝機は無い事もない。
 今は日中。
 太陽の光は吸血鬼の致命的な弱点だ。
 それならば、僕達で何とか出来る!

「…先程の無礼は詫びよう。
 しかし、儂とて子供の使いでここに来ている訳ではない。
 すまぬが、どうあってもお主には知っている事を話して貰……」

460ブック:2004/05/26(水) 00:08


「!!!!!!!!」
 突然女がその身を翻した。
 次の瞬間、さっきまで女が居た場所に無数の剣が突き刺さる。
 この剣、
 まさか―――

「それ以上の相手は、この俺だ。」
 黒いマントをたなびかせ、建物の屋根から隻眼の男が僕達を見下ろす。
 三月ウサギ、来てくれたのか…!

「お主、何者じゃ!?」
 女が背中の大きな「何か」の包帯とベルトを外した。
 そこから、変な形の凶悪な得物が顔を覗かせる。
 何だ、これは。
 銃とハルバードが合体したようなそんなとてつもないような…

「…俺に銃は効かんぞ。
 そして、この距離ならば投擲(こっち)の方が速い。」
 女に銃口を向けられても、少しも動じぬ様子で三月ウサギが告げた。
 その両手には、既に剣が握られている。
「成る程、大した自身じゃ―――」

「!!!!!!!!」
 刹那、女が巨大な得物を持っているのとは別の手で、
 懐からリボルバー式の大型拳銃を取り出して何も無い空間に向けて構えた。

「…いやはや、折角姿を消していたのに、
 いきなり見つけないで下さいよ。」
 何も居ない筈の空間から聞こえてくる声。
 すると、そこから徐々に人の姿が現れてきた。

「タカラギコさん…!?」
 驚くオオミミ。

「どうやら間に合ったみたいですね。
 いや、実によかった。」
 タカラギコはパニッシャーを女に向けて構えている。
 しかし、彼は一体いつからそこに居たのだ?

「……!」
 張り裂けそうな圧迫感。
 重苦しく圧し掛かる沈黙。
 視線と視線が、
 銃口と銃口が、
 殺気と殺気が交錯する。
 一触即発の緊張感が、あたりを静かに包み込んだ。

461ブック:2004/05/26(水) 00:08



     ・     ・     ・



 ―――三月ウサギとタカラギコがオオミミとジャンヌの元に辿り着くより少し前―――


 俺は噴水前のカフェで、ロイヤルミルクティーと生ハムメロンで潤っていた。
 優雅な一時。
 まさに上流階級の俺に相応しい。

「あいつら今頃武器屋で買物してんのかねぇ。
 ま、どうでもいいけどなフォルァ。」
 本当は少し寂しいのだが、悲しくなるのでその事は努めて考えないようにしておく。

「……?」
 と、通りの向こうが何やら騒がしいのに気がついた。
 何か、事件でもあったのだろうか。
 何気なくそちらに目を向けてみると…

「ブゥーーーーーー!!!!!」
 俺は口に含んでいたロイヤルミルクティーを全部噴き出した。
 オオミミが、全身コートの変人に誘拐されているのが目に飛び込んできたからだ。
 あの野郎、何だってあんな面倒な事に巻き込まれやがる。

「しょうがねぇ奴だな…」
 ほっとく訳にもいかないので、面倒だが助けに行く事にする。
 渋々と席を立ち上がり…

「!!!!!!!!」
 突如、俺は背後から殺意を感じ取った。
 即座に後ろに振り向く。

「あんた誰だよ、おっさん。」
 後ろに居たのは、頭の天辺から一本だけ毛が生えた髭親父だった。
 その顔に、丸い眼鏡をかけている。

「おお、これは失礼。
 実は人を探していましてな。」
 禿親父がピカピカに輝く頭に手を当てた。

「それで、俺に何か関係があるのかフォルァ。」
 警戒態勢を取りながら、禿親父に尋ねる。

「ええ、その探している人の人相が、
 耳の大きい少年、頭に大きなリボンをつけた少女、
 全身黒コートの片目の男、
 …そして、頭に緑色の毛の生えたギコの亜種の男でしてな。」
 …!
 こいつ、『紅血の悪賊』の一味か!

「さあ?
 そんな奴、周りにいくらでも居るだろ?」
 俺はわざと白を切る。

「そう。
 だから…」
 禿親父の殺気が大きくなった。
「お前で五人目だ!!」
 禿親父の横に浮かび上がる人型のスタンドのビジョン。

「『ネクロマンサー』!!」
 俺もスタンドを発動させる。
 蟲を鋼に擬態させ、腕に即席の刃を形作る。

「『アンジャッシュ』!!」
 男がスタンドの指先を俺に向けた。
 キラリと光る指先。

「!!!!!」
 次の瞬間、俺の右肩に小さな痛みが走る。

「…?針!?」
 見ると、俺の右の肩口には細長い針が突き刺さっていた。

「へっ!こんなチンケな得物で、俺を殺れるとでも…」
 すぐに針を引き抜く。
 これしきの傷、『ネクロマンサー』で回復させるまでも…

「があぁ!!!?」
 しかし針を肩から引き抜いた瞬間、そこに直径三センチ程の穴が肩に穿たれた。

「くっ!!!」
 穴から吹き出る血。
 何だ、これは。
 今のが、奴のスタンドの能力か…!?

「儂のスタンドに興奮したか!!」
 禿親父が誇らしげに声を張り上げた。



     TO BE CONTINUED…

462ブック:2004/05/26(水) 23:46
     EVER BLUE
     第十九話・第十八話・CEMENT 〜ガチンコ〜 その二


「くあああぁ!!」
 肩に開けられた穴から血が流れ出す。
 馬鹿な、どういう事だ?
 あんな細い針に刺されただけなのに、針を抜いた途端穴が開くなんて…

「うわ!?」
「きゃあああああ!!」
 俺の様子と、只ならぬ雰囲気に気づいた周りの奴等が、慌ててその場から逃げ出す。

「手前…!」
 肩を押さえながら禿親父を睨みつけた。
 『ネクロマンサー』が、肉に擬態して風穴の開いた傷口を修復する。

「…ずいぶん変な体だな。」
 やや驚いたような表情で禿親父が呟く。
「頑丈だけが取り柄でね。」
 俺はおどけながら答えた。

「お前、『紅血の悪賊』の手合いか…?」
 構えながら、禿親父に尋ねる。
 こんな真昼間に軽装の服で闘いを挑むとは、どうやら吸血鬼ではなさそうだ。
「そうだったら?」
 禿親父が俺と視線を合わせる。
 俺達の近くには既に人は居らず、かなり離れた所に野次馬が囲いを作っている。
 辺りは静まり返り、カフェの前にある噴水の水の音だけが俺の耳に入って来た。

「くっ。お前ら、本当にどこにでも居るのな。」
 うんざりしながら俺は口を開いた。
 全く、こんな辺鄙な島にまで出張って来てんじゃねぇよ。
「それはすまなかったな。
 だが、儂もここで貴様らの足止め、加えて戦力の削減を仰せつかっておる。
 残念だが、貴様にはここで死んで貰おう。」
 禿親父のスタンドが、ゆらりと禿親父の傍に現れた。

「『アンジャッシュ』!」
 そんなこんな考えているうちに、禿親父のスタンドの指から再び針が放たれる。
「ちっ!!」
 避けるのは間に合わない。
 『ネクロマンサー』を擬態させる事で創り出した刃で針を受ける。
 奴のスタンドの右手の五本の指から放たれた五本の針が、
 次々と腕から生えた刃に突き刺さった。

「糞が!」
 一々針を抜いている暇は無い。
 そのまま禿親父に向かって突進する。

「うるぅうぅあぁあ!!!」
 大上段からの振り下ろし。
 禿親父の光り輝く脳天目掛けて刃が襲い掛かる。

「『アンジャッシュ』!!」
 真剣白刃取り。
 禿親父のスタンドが、俺の『ネクロマンサー』の刃を両手で挟んで受け止めた。
 このスピード、近距離パワー型か…!

463ブック:2004/05/26(水) 23:48

「フォルァ!!」
 足の甲の部分で『ネクロマンサー』を刃に擬態。
 そこに生えた刃をで斬りつける様に、禿親父に向かって蹴りを繰り出す。

「いたずらばっかりしおって!」
 禿親父のスタンドが、刃の生えていない部分に足を当てて俺の蹴りを受け止めた。
 だが、ここでは止まらない。
 続けて腕の刃で禿親父の首を狙う。

「馬鹿もーーーん!!」
 禿親父が叫んだ。
 同時に、俺の『ネクロマンサー』の刃に刺さっていた針が引き抜かれる。

「!!!!!!!!!!」
 直後、刃に五つの大きな穴が穿たれ、
 『ネクロマンサー』の刃が虚空に散った。

 これは!?
 いきなり、針が勝手に抜け落ちた?
 いや、それより、
 今開けられた穴は、さっき肩に開けられた穴よりずっと大きい…!

「…!!」
 俺の刃に刺さっていた針が、宙を舞いながら禿親父の指に戻る。
 よく見ると、針の根元には細い糸のような物がくっついていた。
 あれで、針を引き戻したのか。

「!!!!!」
 今度は男の左手の指先が俺に向けられた。
 五本の指から飛び出す針。
 まずい。
 刃で受けようにも、擬態が間に合わ―――

「がっ!!」
 咄嗟に回避行動を取るも、かわし切れずに針の一本が俺の左目に突き刺さる。
「ちぃ!!」
 急いで針を引き抜く。

 ―――ボヒュン

 音を立て、俺の左目ごと頭をくり抜かれる。
「ぐああああああああああああああああ!!!」
 脳を一部を抉り取られ、思考が一瞬濁る。
 加えて、左側の視界が完全に奪われた。

「くううぅ…!」
 追撃を喰らうのは危険だ。
 朦朧とする頭で、何とか禿親父から距離を離す。

「!!!!!!」
 その時、俺の足元の地面がいきなり消失した。
 穴に足を捉えられ、無様にその場に倒れる。

 …!!
 地面に、あの針を打ち込んでおいたのか!

「『アンジャッシュ』!!」
 倒れた俺目掛けて、禿親父のスタンドが針を放つ。

「うおお!!」
 穴から足を引き抜き、何とかかわそうとするが、
 左腕の二の腕に針が一本刺さってしまう。

「くっ…!」
 今度は針を引き抜かない。
 これまで、針を抜いた途端にそこに穴を開けられている。
 恐らく、奴のスタンドの能力は針を刺し、
 それを抜いた瞬間に周囲に穴を開ける能力。
 ならば、針が刺さったままならば、大したダメージにはならない。
 兎に角、今は体勢を立て直す。

464ブック:2004/05/26(水) 23:48

「…吸血鬼も真っ青の再生能力だな。」
 俺の頭に開けられた穴が修復していく様を見ながら、
 禿親父が呆れ気味に口を開いた。
 既に、眼球も殆ど再構築しかかっている。
 我ながら、ぞっとしないスタンド能力だ。

「羨ましいだろ?」
 右腕に刃を生やしながら、禿親父を見据える。
 しかし、ここまでにかなりの『ネクロマンサー』を使ってしまった。
 このままでは、再生しきれなくなってお陀仏になりかねない。

 …だが、何故だ?
 頭の針を抜いたとき、さっき俺の刃に開けた位大きな穴を開ければ、
 いくら俺の『ネクロマンサー』といえど危なかった。
 なのに、何であの時はあんな小さな穴しか開けなかったんだ?
 いや、そういえば、
 今まで開けられた穴の大きさは大きかったり小さかったりまちまちだ。
 …何か、穴の大きさには法則性が有るのか?

「左腕の針を抜かなくてもいいのかな?」
 禿親父がニヤニヤと笑う。
「その手に乗るか。
 針を抜いた途端にそこに穴が開く位、もう気づいてるんだよ。」
 しかし、相手はこの針を引き戻す事で自在に引き抜く事が出来る。
 だとすれば、攻撃の最中に引き抜かれてダメージを受けるよりも、
 今の内に自分で抜いておく方がいいかもしれない。

「ちっ。」
 舌打ちしながら、針を引き抜いた。
 ダメージを受けると分かっていながら自分で針を抜くのは癪だが、仕方な―――


「!!!!!!!!!!!」
 抜いた瞬間、今までで一番大きな穴が左腕に穿たれた。
 その余りの大きさに、腕が千切れて地面に落ちる。

「があああぁ…!!」
 筆舌に尽くし難い程の痛み。
 糞、何故だ。
 何で今回はこんなに大きな穴が。
 いや、考えろ。
 何か法則は有る筈だ。
 さっきの頭の時の穴と、今の穴と、何が違う?
 何か、針を抜く時に違いは…

「!!!!!!!!!!」
 …そうか、そういう事か。

「針が刺さっている時の時間…!」
 歯を喰いしばりながら、俺は呟いた。
 針が刺さっている時間が長ければ長い程、抜いた時に大きな穴が開く。
 それなら、今迄の事も説明がつく。
 頭に刺さったとき、俺はすぐに針を抜いたから穴が小さくて済んだ。
 対して、今の左腕や、刃に刺さった時は、
 すぐに針を抜かずに刺さったままにしておいたから、
 大きな穴が開いたんだ。

「正解。
 だが、それでどうするのだ?」
 禿親父が嘲るように言い放つ。

 その通りだ。
 こんな事が分かったからといって、どうだというのだ。
 禿親父の攻撃への対策にはなっても、勝利の決め手にはならない。
 糞。
 考えろ。
 勝利への道筋を、奴を殺す方法を。

 思考思考思考。
 千切れた左腕からは、噴水のように血が流れている。
 …血……噴水……
 ……噴水………水…

「!!!!!!!」
 そうだ。
 きっと、これなら…!

465ブック:2004/05/26(水) 23:48

「うおおおお!!!」
 俺は千切れた左腕を振るい、そこから迸る血を禿親父に叩きつけた。
「!?」
 血の目潰しを喰らい、僅かに怯む禿親父。
 すかさず、右腕の刃で斬りかかる。

「カツオォ!!」
 しかし相手も近距離パワー型のスタンド使い。
 訳の分からない名前を叫び、紙一重で俺の斬撃を回避する。
 俺の刃は禿親父の服を少し切り裂いただけで、体を両断するには至らなかった。

「たわけめ!服を掠っただけ…」
 そう、『服を掠った』。
 それが出来れば充分だ…!

「ぐああああああああああああ!?」
 次の瞬間、禿親父の服が勢い良く炎上した。

 これこそが、俺の狙い。
 さっき血を撒き散らしたのは、目潰しが本来の目的じゃない。
 俺の血の中に潜む『ネクロマンサー』を、奴の服にくっつけるのが目的だったのだ。
 そして、奴の服で『ネクロマンサー』をリンに擬態させる。
 リンは非常に発火温度が低い物質。
 ちょっとした摩擦熱でも、充分に火を点ける事が出来る。

「おのれ…!!」
 禿親父がカフェの前の噴水に駆け込む。
 そう、お前はそうやって服に点いた火を消すと思ったよ。
 そして、それこそがお前の地獄への片道切符だ!

「『ネクロマンサー』!!」
 左腕を修復する分だけの蟲を残し、残りを全てとある物質へと擬態させる。
 俺の右腕に生まれる、鈍色に輝くコンクリートブロック大の物体。
 これが、俺の切り札だった。

「!!!!!!」
 噴水に飛び込み、体に点いた火を消化する禿親父。
 そこに、作ったばかりの鈍色の塊を放り込んでやる。

「!?」
 水に投げ入れられた塊を、不思議そうな目で見る禿親父。

「…冥土の土産に教えてやる。
 その物質の名前はな―――」
 物質の周囲の水が、沸騰したように泡だった。

「―――金属ナトリウム。」
 そう、水に接触する事で、激しく反応する化学物質。
 その大きな塊が、今大量の水の中に―――

466ブック:2004/05/26(水) 23:49



!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!



 耳をつんざく様な爆発音。
 それに伴い、噴水からとてつもない大きさの水柱が立つ。
 噴水の中の水が一瞬にして空になり、
 空に巻き上げられた水が天のように地面に降り注いだ。

「おわあ!!」
「ぎゃあああああああああああ!!!」
 野次馬達が悲鳴を上げる。
 どうやら、爆発のショックでバラバラになった禿親父の肉片も、
 水と一緒に落ちてきたみたいだ。
 まあこっちだって命懸けなのだ。
 これ位は勘弁して貰おう。

「化学の勝利、ってやつだなフォルァ。」
 千切れた腕をくっつけながら、勝利の余韻に浸る。
 これこそが、俺の『ネクロマンサー』の闘い方。
 その真骨頂。
 だけど、何か肝心な事忘れているような…

「あ。」
 思い出した。
 サカーナの親方に、絶対に騒ぎを起こすなと言われていたのだ。

「…ま、しょうがねぇわな。
 不可抗力不可抗力。」
 深く考えるのは止そう。
 そんな事より、今はここから逃げなければ。
「逃げるが勝ち、ってやつだフォルァ。」
 俺はそそくさとその場を立ち去るのであった。



     TO BE CONTINUED…


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