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狂気の沈黙科学者〜マッド・サイレンティスト〜

1黒椿:2011/10/24(月) 22:17:53 HOST:59-166-114-239.rev.home.ne.jp
お初にお目にかかります。黒椿という者です。
現代ファンタジー作品となっているこの作品が、皆さんに楽しんでいただければ何よりです。
登場人物 主人公:宮井 耀(みやい よう)
     ヒロイン:ジュエル・サイレント
時代設定 21世紀末の日本
とりあえず、今挙げた基礎設定だけ存じ上げていただければ、後は本編のほうで説明を加えていきます。

諸注意
・荒らし、AA等を書き込むのはやめてください。
・チェーンメール等を書き込むのはやめてください。
・見ている方が不機嫌になるような書き込みをするのはやめてください。
・その他、マナー違反はご遠慮ください。
・この作品は不定期更新です。
・グロテスクな表現はなるべく控えるので、よろしくお願いします。

一作目なので、温かい目で見守っていただけると幸いです。
ちなみに「サイレンティスト(沈黙科学者)」とは、私の造語となっておりますのでよろしくお願いします。

2黒椿:2011/10/24(月) 22:18:58 HOST:59-166-114-239.rev.home.ne.jp
「あー、えっと・・・」
言葉も出てこなかった。逆に今の状況で気丈に振舞いつつ、ジョークのひとつでも言える人間だったのならどれだけ楽だったか。
耀にとっては、それほどに緊急事態だった。普段どおりに家に帰ってきて、二回にある自分の部屋に荷物を置いて、洗面所でうがいをしてからなにげなく入ったリビング、に何を隠そう今現在、堂々と少女が座り込んで茶を啜っていたのだ。
「・・・どなた様ですか?」
気まずい沈黙に耐え切れなくなった女性経験ゼロの耀が、がんばってのどの奥から言葉を搾り出すと、少女はやっと耀に気づき無言で振り向く。
その動作だけでも、目を引かれるものがあった。日本人にはありえないほど色素の薄いパールグレーの髪の毛をしているが、外国人にしてはまったくの手ぶらだった。
一言その少女を形容するなら―――――美しかった。「とても」とか、「絶世の」とかいくらつけても取るに足らない、言葉も要らないぐらいに。
そんな少女は、さっきから耀のことを見つめて離さない。その癖、耀の質問に答える気配はまったくなかった。ここにいることがさぞ当たり前のように居座るその少女は、耀の狼狽をじっくり楽しんだ後、電話の横に歩いていき、紙とペンを手に取った。

3黒椿:2011/10/24(月) 22:21:42 HOST:59-166-114-239.rev.home.ne.jp
『おめでとうございます。ヨウ様、ドンスポイント30点加算です』
無機質なアナウンス音が流れると共に、耀の頭の上にポップな文字で加算ポイントと現在の累計ポイントが表示される。
その電子文字を眺めながら耀は小さくため息を吐くと、自分流にカスタムしたバイクに乗り込む。
道には浮遊車や飛行ユニットなど、洒落た乗り物がたくさん行きかいしているが、
耀は俄然バイク派だった。
エンジンをかけ、仄かに香り鼻腔を擽るガソリンの匂いを感じながら、耀が走り出そうとした瞬間、
『起床3分前になります。速やかにログアウトしてください』
先ほどと同じアナウンス音が、耀にとってのいやな知らせを招いてくる。耀が仕方なくログアウトを速やかに済ませると世界が暗転し、気づくと耀はベッドの上でまぶしい朝日を浴びていた。
いままで耀が入っていた世界、『ドンス』と呼ばれる世界は『ドリーム・オペレーション・ネットワークシステム』の略で、夢の中でも意識を持ってインターネットを利用できるようにしたシステムだった。
それが生み出されたのは、今より少し昔のこと―――――――

人間は長生きを求める生き物であり、時代を経るごとにそれはエスカレートしてきた。その研究により人々はひとつの結末に至った。それは寿命を延ばすのは不可能だということ。
だが人間は、そこであきらめるような生き物ではなかった。
そこで次に考えたこと、それが人生のうちの無駄な時間を削ることだった。それにより生

4黒椿:2011/10/24(月) 22:23:09 HOST:59-166-114-239.rev.home.ne.jp
人間は長生きを求める生き物であり、時代を経るごとにそれはエスカレートしてきた。その研究により人々はひとつの結末に至った。それは寿命を延ばすのは不可能だということ。
だが人間は、そこであきらめるような生き物ではなかった。
そこで次に考えたこと、それが人生のうちの無駄な時間を削ることだった。それにより生み出されたのがドンスだった。
今まで、夢という曖昧にしか残らない記憶のかけらは手に入れていたが、その時間をもっと有効活用しようとしたのだ。
ドンスは、そんな夢の中の自我や記憶を現実に持ち帰ることのできる唯一の手段であり、利便性の高さから利用者は日本だけで3000万人以上いた。
「もう一回寝よっかな・・・」
運動も勉強も優れた才能を抱いていない耀は、せめて夢の中ならと、小さいころからドンスに入り浸っていた。
ドンスの中なら、時間をかけただけ必ず報われる。耀のなかにはそんな疑心暗鬼がかかってしまっていたのだ。
それでも時計を見ると、一応学生である耀にとってはなかなかに遅刻ぎりぎりの時刻だったので、気だるい体に鞭を打ちまくって耀は制服に手をかけた。

5:2011/10/25(火) 15:07:20 HOST:zaqd37c5e4d.zaq.ne.jp
おお!!

何やこれ!!?

新作やんw

6黒椿:2011/10/26(水) 18:20:21 HOST:59-166-114-239.rev.home.ne.jp
燐 様:》コメントありがとうございます。
ここで書かれている皆様にあこがれて投稿させていただきました。

お気に召されたなら、いつでもコメントお待ちしております。
感想、誤字脱字の指摘でも、お待ちしています。

7:2011/10/26(水) 18:25:44 HOST:zaqd37c5e4d.zaq.ne.jp
おお!!頑張れ頑張れww

何か登場人物書いた方がエエと思うねんけど・・。

てか、何人出てくるん?

8黒椿:2011/10/26(水) 18:35:39 HOST:59-166-114-239.rev.home.ne.jp
「オッス!キング!!」
朝早くの廊下で、後ろから元気よくクラスメイトに話しかけられる。
ドンスのゲーム界で超有名な耀のアバター、通称『キング・ヨウ』から、学校でもそう呼ばれていた。
勿論最初は不服を申し立てた。
だがクラスのみんな曰く、軽い挨拶をしようとすると「よう!耀」などと面白い挨拶になってしまうから、という理由で押し切られていたのだ。
「ああ・・・」
「何よ、朝から暗いわね・・・ほら耀、シャキッとしなさい!!」
朝が弱い耀が限りなく低いテンションで手を挙げ返すと、後ろからもう一つ声が飛んでくる。
「何だ、真紀か・・・」
「何だとは何よ!!人が心配してあげてるって言うのに!!」
真紀は、純粋無垢な奥手の耀が唯一普通に話せる、小学校時代からの腐れ縁の少女だった。
みんなは真紀のことをかわいいと褒めるが、耀にとっては唯の『幼馴染』でしかなかった。
そんな他愛もない会話を教室の前で繰り広げていると、案の定チャイムがなりみんなバタバタと席に着き始める。
仕方なく耀も席に着くと、HRが始まる前に机に突っ伏した。

9黒椿:2011/10/26(水) 18:45:29 HOST:59-166-114-239.rev.home.ne.jp
燐 様:》アドバイスありがとうございます。
今のところのメインキャラとしては、1スレ目にも書いた
主人公・・・宮井 耀 ヒロイン・・・ジュエル・サイレント
の他
・耀の幼馴染である堀高 真紀(ほりたか まき)
・ドンス界の友人の『ショウマ』、『タカミネ』、『ヨダ』(アバター名)
・新任教師の小闇 沙理菜(こやみ さりな)
・天才プログラマー ドレイド・フォウン
といった人物を設定しております。
登場まで少々時間がかかるキャラもいますが、お見知りおきを。

10:2011/10/26(水) 18:47:42 HOST:zaqd37c5e4d.zaq.ne.jp
おお!!4人ぐらいかなw

長編ぐらいの人数は最低でも8人程度じゃないとアカンよ。

うんw

私も初心者の時、そうやったしw

ま、何かめっちゃ上から目線やけど・・ごめん(>_<)

11黒椿:2011/10/26(水) 20:51:45 HOST:59-166-114-239.rev.home.ne.jp
『いや〜、ヨウさんがいると心強いですね〜』
チャット越しにだが褒められて、少しだけ耀はこっぱずかしくなる。
好感度アップのためにやってきた初心者級のゲームレベルでは、少し物足りないものを耀は感じていたが、人のためになれる嬉しさもあった。
『いえいえ、それじゃあ次のクエストにでもいきましょうか』
耀がのってきた所で提案した瞬間、強制ログアウトの文字がアバターの上に出る。
驚く暇もなく、耀の意識はドンスから引き戻された。
「・・・ラ!宮井!!起きろ!!」
耀が心地よい睡眠から目覚めたのは、教師に思い切り叩かれたからだった。
1時限目の物理の授業が退屈になった耀は、ドンスでフィーバーしている途中だったため、起こされてムカッときた。
「馬鹿になっても知らんぞ!!」
ぶつぶつと愚痴を言いながら板書を再び始める物理教師の姿を眺めながら、「学力なんか諦めてるよ」と耀は呟く。
そしてもう一度耀が眠りにつこうとすると、今度は隣の真紀に叩かれる。
「体起こさないとまた寝るでしょ!?」
「寝る気だったんだから良いだろ?卒業できりゃそれで良いからさ・・・」
「減らず口たたかないの!まったく、あっちじゃ秀才なのに・・・」
耀はさすがに自信家ではなかったため、ドンスで有名人であることは誰にも言っていなかった。
だがそれが明かされてしまったのは、高校に入ったつい最近のこと。耀が異様に睡眠を求めるのが気になったのか、真紀が耀と同じゲームに入ってきたのだ。
基本本名登録のドンスのアバターで、無論耀も本名と同じ名前にしている。それに気づいた真紀がしてきた質問に、耀はうっかりと口を滑らせてしまったのだ。
それにより耀は一気に現実世界でもちょっとした有名人になってしまった。

12黒椿:2011/10/26(水) 20:52:25 HOST:59-166-114-239.rev.home.ne.jp
結局あんたあの後も寝てたでしょ、先生もあきれてたわ」
確かに耀はその後の授業も殆ど寝過ごし、人生の時間を削っているのか、有効活用しているのか全く分からない状態だった。
そんな状態のまま、結果的にもう二人は帰路についていたのだ。
日が赤く染まってしまうほどたっぷりと睡眠を楽しんだ耀は、今日家で寝られるか心配になる。
「そうか、でも仕方ないよな。気づいたら授業が終わっていたんだから」
「こういうとき、言い訳しないのあんたぐらいなものよ・・・」
長い付き合いで、お互いのことは分かっている。だからこそ無理強いはよくないと、なんだかんだで真紀はいつも耀を見逃していた。
「ドンスはおれの魂だからな。ベッドの下の本を全部持ってかれてもやめないぜ!」
「何恥ずかしいことを大声で・・・そういうところが社会不適合者予備軍とか言われるのよ」
『社会不適合者予備軍』。それは耀がドンスに入り浸りすぎたため、友人たちから冗談で張られたレッテルのひとつだった。
耀自身自覚はあったため何も言わなかったのだが、本気の意味に取るともの凄いイタい奴に成り代わってしまう。
耀はまだ学校にいってるだけいいが、行ってない奴に向けたら凶器と呼べるに等しい言葉だった。
「一応言っておくわ。普段どおりと違う生活をするのも大切よ。と、いうわけで明日は早起きてまじめに授業を受けてね」
家の近くの分かれ道で、家の方向が違う真紀はそういい残すと去っていった。
『いつもと違う生活』その言葉が耀にとって重過ぎる言葉になるとも知らずに――――――

13ライナー:2011/10/26(水) 21:07:50 HOST:222-151-086-004.jp.fiberbit.net
初めまして、この掲示板で一つの作品を書いているライナーと申す者です^^
作品見せて貰いました!
文章力に力ありですね、設定も面白いです。

では、次に述べさせて貰うのはアドバイスです。
一つ目は、改行です。
人間というものは文章を読む、と言うことなどの一般的に面倒臭い作業は嫌う主義なんですね。
その主義を持つ多くの人は、作品の内容がどんなに面白くても、見ようとするのを止めてしまいます。
ですので、なるべく読者に優しい文章作りをするためには意味のある改行をしましょう。
だからといってむやみな改行は止めましょう。
文章がスカスカになり、逆に悪いイメージを与えてしまいます。
ですので、その行に意味の共通する文書を分けてあげましょう。

二つ目はキャラクターです。
この小説のキャラクターは、残念ながら読んでいて話を進めるための駒のようになっています。
つまり、キャラクターの個性が足りないのですね。
小説というのは設定を書くものではありません。ドラマのようなものです。
ですので、そこで読者が引きつけられやすい、共感を持ちやすいキャラクターを作ると良いでしょう。
ここで分かりやすく例を上げましょう。
まず、これがあると強いというのは欠点です。これがあるとキャラクターの深みがグッと強まります。
人間だって必ずしも完璧な人間はいませんから、キャラクターの欠点に共感できる。とこんな感じですね。

何かと上から目線なアドバイスでしたが、参考にしていただければ幸いです。
ではではwww

14黒椿:2011/10/27(木) 17:27:48 HOST:59-166-114-239.rev.home.ne.jp
ライナー様:》コメントありがとうございます。
語彙の活用や並びなどを考えるあまり、改行のタイミングがつかみにくくなっているのは私の勉強不足が否めません。
とてもためになるアドバイスをいただけて嬉しい限りです。
気に入ってくださったなら、コメントは無くてもまた読みにきてくれると嬉しいです。

ライナー様の作品も読ませていただきます。

15黒椿:2011/10/31(月) 17:45:05 HOST:110-133-210-156.rev.home.ne.jp

第一章「大きすぎた躍動」
1.「武士(もののふ)たちの沈黙」
「あー、えっと・・・」
言葉も出てこなかった。逆に今の状況で気丈に振舞いつつ、ジョークのひとつでも言える人間だったのならどれだけ楽だったか。
耀にとっては、それほどに緊急事態だった。普段どおりに家に帰ってきて、二回にある自分の部屋に荷物を置いて、洗面所でうがいをしてからなにげなく入ったリビング、に何を隠そう今現在、堂々と少女が座り込んで茶を啜っていたのだ。
「・・・どなた様ですか?」
気まずい沈黙に耐え切れなくなった女性経験ゼロの耀が、がんばってのどの奥から言葉を搾り出すと、少女はやっと耀に気づき無言で振り向く。
その動作だけでも、目を引かれるものがあった。日本人にはありえないほど色素の薄いパールグレーの髪の毛をしているが、外国人にしてはまったくの手ぶらだった。
一言その少女を形容するなら―――――美しかった。「とても」とか、「絶世の」とかいくらつけても取るに足らない、言葉も要らないぐらいに。
そんな少女は、さっきから耀のことを見つめて離さない。その癖、耀の質問に答える気配はまったくなかった。
ここにいることがさぞ当たり前のように居座るその少女は、耀の狼狽をじっくり楽しんだ後、電話の横に歩いていき、紙とペンを手に取った。
耀がいることなど分かっていて、何も思うことがないようにその少女のペンだけがスラスラと進む。
『上がってるわ。先にお茶を一杯もらったけど気にしないで』
ぴんと伸ばされて少女の手の先に掲げられたメモ帳には、丁寧な字でそう書かれていた。
数秒間いろいろなことが頭の中をめぐるが、数あるつっこみの中の選択肢から耀は一息飲み込んでから、口を開く。
「電気ぐらいつけろ!!」
耀は別に取り乱したわけではない。いわばつかみジョークのようなものだった。
・・・が、少女はまじめに考え込み、メモ帳に字を書くと見せてくる。
『ごめんなさい。耀が帰ってくる前に電気代を消費するのは気が引けたから・・・』
(そういうことじゃねぇんだよ!!)
耀は心の中で思い切り叫ぶ。だが一人でボケてスベるイタい奴のフォローをしてくれるやさしい者などいない。
自分には学力や運動神経どころか、人を笑わせることもできないのかと、耀は膝をつきたい気分だった。
「ごめん。せめて君の名前くらい教えてくれ・・・」
表情一つも変えてくれない少女の目が見られなくなった耀は、普通の質問に移った

※2スレ目と内容が同じところがあるのは仕様です。

16黒椿:2011/10/31(月) 17:46:34 HOST:110-133-210-156.rev.home.ne.jp
『ジュエル』
メモ帳にはそれだけがポツリと書かれていた。
「・・・本名?」
完璧100%純粋な外国人であるこの名前を呼称とするのはなんだか気恥ずかしいが、耀
が聞くと少女は首を縦に振った。
「じゃあ次の質問・・・何で筆談?」
数ある疑問の中からこれを選んだのは、もちろんこの少女が人間が獲得したステータスである言葉を発さないかであった。
喉の病気とか、喉が潰れてしまっているとか、軽々しい理由などひとつも思い浮かばないが、耀にとってはただの好奇心からだった。
『生まれつきで理由は分からない』
耀の気遣いむなしく、ジュエルは案外ケロッとした様子で答える。
それ以上根掘り葉掘り聞くのは気が引けたため耀は聞かなかったが、人といるときの沈黙というのは気持ちいいものではなかった。
『そういえば』
ジュエルが何か思い出したかのように目にも止まらぬ速さでメモを書く。
『ここは御伽市(おとぎし)3丁目の宮井家で合っているの?』
「へ?」
突然かつ的確なというに耀は思わず声を上げる。
ドンスで変なウイルスに引っかかったのでは?と危惧もしたが、この少女が漏れ出た情報をあてになぜここに来たのかも不思議だった。
どうにしろ親が不在の今、とりあえずは耀が対応するしかなかった。

17黒椿:2011/11/04(金) 12:15:29 HOST:110-133-206-199.rev.home.ne.jp
「そうだけど・・・」
そういえばさっき、名前も呼ばれていたことにいまさらだが耀は気づく。
「さっきといえなぜ俺の名前を知ってるんだ?何か悪さをした覚えはないんだが・・・」
『あなたは、キング・ヨウ?』
「あ?ああ・・・」
質問返しをされ耀が豆鉄砲を食らったような顔をしていると、ジュエルはメモ帳を手放して白衣の中からありえないくらい薄いパソコンを取り出す。
キーボードを打ち、空白のページに書き込まれた分を耀に示す。
どうやら普段はこちらで会話をしているようで、メモよりも早いスピードで返信が来る。
『あなたはドンスの常用者』
「ああ・・・」
常用者という言葉を使われると薬のような印象を受けるので不服だったが、どうもこの少女の表情には逆らえない。
好奇心をまったく隠さない核心を求めるようなジュエルの顔が、耀には絶対的に見えたのだ。
『はっきり言う。あなたは世間から社会不適合者だと思われている』
「なんだと!?」
ジュエルの一言にさすがに耀もカチンと来る。
とはいえ、それが世間の目であるということは、ドンスをはじめてしばらくたってからなんとなく分かっていた。
『おちついて。私もわざわざあなたを怒らせるためにここに来たんじゃない』
そのために来たのであれば、耀とて手が出るのを押さえることはできなかっただろうが、それ以上に続きが気になった。
『ドンス常用者=社会不適合者という考えは、もはや世間の常識になってしまっている』
「ふむ・・・」
この考えは、一昔前のpcネットワーク世界でも言われてきたことで、勘違いに過ぎないのに、定着して離れないのが定めだった。
『だからこそ、世間の考えをただすためには、ドンス界の有名人に偉業を成し遂げさせればいいの』
(・・・ん?)
確かに世間のみんなを説得して回るよりは現実的な手段であり、確実なのかもしれないが、この話の流れに少しだけ耀はいやな予感を抱いた。

18黒椿:2011/11/04(金) 12:16:01 HOST:110-133-206-199.rev.home.ne.jp
「・・・ジュエルさん?そりゃあまさか俺に・・・」
『そう。ドンス界でも有名なあなたがその役目を負うの』
その言葉を聞く、いや見た瞬間に、耀はひざをつく。
絶望しているわけでもない。無論嬉しいわけでもない。
ただ、現実世界じゃとりえがないからドンスに入り浸った一介の少年に、ゲーム以外のことで活躍しろというのがムリだった。
だからこそ、諦めと同時に耀の頭の中には面倒ごとに巻き込まれたことへの悲しみが強かった。
『勿論、一人でやれなんていってもできないでしょう?だから私が今日からここに住んでサポートをする』
「ほぇ?」
広範に衝撃の文面があったため、耀の喉から予想外にかわいい声が出る。
「ごめん・・・聞き間違いか後半をもう一度言ってもらっても?」
ジュエルはなんらの疑問や動揺がないのか、コクリとうなずくと目に見えない速さのタイピングでもう一度さっきの文を打ち込む。
確かにそこには―――――
「・・・ここに住む?」
間違えるはずのないデジタル機器の活字でそう書いてあったのだ。
「はぁぁぁぁぁぁ!?」
少しの間をおいて文の意味を理解した耀は、頭を抱えて叫ぶ。
しばらくしていると、やっと耀の狼狽の意味を理解したのかジュエルが焦りを少しだけ見せて画面を示してくる。
『ごめんなさい。いきなりすぎた。ご両親にも了解は取ってある』
「そういう問題じゃない!!」
『家事はちゃんとする』
「それでもだめだ!!」
『それに、本部からドンスポイントが10000ポイント加算されるわ』
「・・・え?マジで?」
ジュエルの最後の一言に、耀は思わず反応する。
こうして耀は愚かにも説得を受け入れて、これからのことなど考えなかった。

19黒椿:2011/11/17(木) 14:57:49 HOST:110-133-204-51.rev.home.ne.jp

「ふぅ〜、終わったぜ・・・」
耀は腰をぽんぽんとたたく。
ジュエルのために使われていなかった物置状態だった一室をかたずけて居住スペースとするため、普段は使わない耀の筋肉が悲鳴を上げた。
正体の分からない小娘に部屋などあるか!!といって、ソファーなどを使わせるほど耀の神経は図太くもなかったからだ。
『ありがとう』
行儀よく部屋の前で正座していたジュエルが画面を示す。
「おう・・・おぅ!?」
耀が「気にするな」とかっこつけようかと思った矢先、目に入ってきたものがそれを拒み驚嘆に姿を変える。
さっきまで何もなかった廊下の一角に、今日から自分の家であるかのごとく大量の荷物があったのだ。
引越し業者も来ていないし、耀の知る限りジュエルはずっとここにいた。
「これは・・・なんだ?」
『何って、家具一式』
超単純明快なジュエルの回答に、耀はガクリと肩を落とす。
「そうなんだけど、そうじゃなくてどうやって持ってきたのかってことをだな・・・」
『どうやってって、テレポートだけど』
「は?」
ドンスのゲームでしか聞いたことのない言葉をジュエルはさぞ当たり前のように発する。
耀のしるかぎり、テレポートとは物質が質量をほぼ持たなくなるまでものを分解し、運びやすくすることで瞬時に各地に運べるシステムのことだ。
「つまりあれですか?未来に存在するかも分からない技術を使って今運んできたと?」
ジュエルは首を縦に振る。
「じゃ、じゃあ、お前は未来の住人だとでも言うのか!?」
『そうよ』
耀のあてずっぽうのありえない質問に、ジュエルはすべてうなずいた。
(イタイ娘なの?本気なの?からかってるの?)
耀の頭の中にはてなマークがたくさん並んだ。

20黒椿:2011/11/17(木) 14:58:26 HOST:110-133-204-51.rev.home.ne.jp
『落ち着いて、マスター』
取り乱す耀に、ジュエルは呼んだこともない名前でなだめてくる。
「マスターとは何だ!!マスターとは!」
『じゃあ・・・キング?』
「それだけはやめろ!!」
今度は耀が一番嫌いな呼び方をしてくる。
この少女は意外と天然肌で、耀の脳内をかき乱すのだが仕方なく耀はその場に座り込んだ。
「一回落ち着くから、俺が分かるように説明してくれ」
耀があきらめたのを確認すると、ジュエルは少し長めのキーボードタッチの後、それを耀に示した。
『理解した。あなたは両親が家にいなかったから、私の説明文があなたに届かなかったのね』
「くそっ、あのふたり・・・」
耀は思わず舌打ちをする。
耀の両親は変わり者と呼ばれる人間で、基本的に家にはいない。
それどころか音信不通になることも多く、こういった大事な知らせが来ていることも知らせてくれないことも多かった。
『1から説明をする。まず私はあなたが言ったとおり未来の人間。このテレポートという技術も未来から持ってきた物だけど、システムができてないから多用はできない』
「未来、ねぇ・・・」
最早常識は通用しないと考え、耀は軽く頬杖をつく。
『さっきあなたをサポートするといったけど、それも『未来の』ドンス会長の命令なの。今ここでいうことはできないけど、とある事情でドンス界の偉人が必要になったの』
つまり、未来のドンスのために耀はこの少女と同棲をさせられることになったのだ。
勝手に決められたのは至極気に食わないが、自分の大好きなドンスがなくなってしまうならと、納得してみた。

21黒椿:2011/11/24(木) 17:33:43 HOST:59-166-118-86.rev.home.ne.jp
「オーケー、事情は分かった。その上で言わせてくれ」
耀はジュエルの説明が終わると同時に重々しく口を開く。
ジュエルが未来の人間だというところから始まった信じがたい説明。
それから早2時間も足ってやっと一通りが終わったところで、聞いてるだけの耀もさすがにクタクタだった。
「ひとーつ!俺は馬鹿だから今の説明の意味が8割理解できなかった!」
『仕方ない。あなたの偏差値は理解している。何度でも説明させてもらう』
カチン!耀の脳内にそんなポップな効果音が響く。
やっぱり自虐ならいいが、人に言われると腹が立つことはたくさんあるらしい。
(落ち着け!宮井 耀!!お前はお前だろ!!)
そんなことを自分に言い聞かせて何とか怒りを納めると、少しにやけ加減になるまで表情筋を緩める。
「そうだ。だから学校内偏差値42の俺にでもわかるように、俺から質問させてもらう形でもいいか?」
『どうぞ』
「よし・・・じゃあまず、何で俺なんだ?ドンスの有名人って言っても俺は日本のゲーム界のキングというだけだぞ?」
喋り終わった後で、耀は自分自身のポリシーが崩れたことに気づく。
『キング』と言ってしまった。
耀が一番嫌いな言葉。というかトラウマの言葉。それを口にしてしまったことを悔いる暇もなく、ジュエルは話を進める。
『確かに偉業を成し遂げさせるなら、ドンスのみで経営してくる大手企業のカリスマ社長たちのほうが楽だと思う。実際に私ではないサポータが行ってるかもしれない』
「じゃあ・・・なんでだよ」
『そんな人に偉業を成し遂げさせても話題性がない。普通の科学者がノーベル賞とった時位のちょっとの騒ぎ様なだけ』
考えてみれば、確かに新聞の記事に載るぐらいでは意味がないのかもしれない。
それでは人々は目をすぐにそらしてしまうだろう。
『ショッキングであればあるほどに人々の目を引く。あなたのような娯楽ジャンルの人が偉業を成し遂げれば話題性は格段に上がる』
そこでやっと頭のほうが追いついて耀は理解した。

22黒椿:2011/11/24(木) 17:34:23 HOST:59-166-118-86.rev.home.ne.jp
結論。落ちこぼれがすごいことをすれば話題性がある。
少しダイレクトだが、すなわちジュエルの言葉はそういう意味だった。
正論だったので反論もできないのが耀には少し悲しかった。
「それは分かった。俺が知りたいのはあと一つだ」
『何?私はサポーターだからできる限りのことには答える』
ジュエルのその言葉を聞いた瞬間、耀は隠れてガッツポーズをする。
首をかしげるジュエルの前で咳払いをすると、少し緊張気味に耀は問う。
「それは・・・お前のことだ」
『私は未来から着たあなたのサポーター。説明したはず』
「違う。もっと詳しくだ」
耀は自分でも不思議なぐらい分析的かつ高圧的な口調になる。
「これからここに住む以上話せるだけのことは話してもらうぞ!年齢とか上司の名前とか趣味とかスリーサイズとか!!」
一息に言い終わったところで耀ははっとする。
興奮するあまり、文の最後に思わず本音が出てしまったのだ。
『年齢は17歳。上司の名前は言えない。趣味は発明。スリーサイズは上から76、57、80』
変態ッ!!などと画面上で示しながら殴られないように。
あるいは下心が読まれないようにポーカーフェイスを保ち、防御の体制に入る耀など気にせず、ジュエルは存外普通に答える。
それも耀の想像の2割増しの回答で。(・・・何とはいえないが)
「っま、まぁそれだけわかりゃいいや。何か・・・ごめんな」
なんだか自分の緊張と空回りが恥ずかしくなり、耀は足早に話を進めた。
『それだけでいいの?もっと色々な数値でも教えられるけど』
「―――――っいいんだよ!!もうおわり!!な?」
天然最強説。そんな夢現だと思っていた回りの男共の幻想が耀の中で別の形で構築されてしまった。
わざとやってるわけでもないのに、ジュエルのペースには乱されてしまう。
耀はそそくさとジュエルを部屋に押し込むと、自分の部屋に戻った。


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