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こちら葛飾署亀有公園前派出ロワイアル

1トンダゴメンッス:2009/09/13(日) 23:38:14 ID:???
1番 秋本・カトリーヌ・麗子
2番 麻里 愛
3番 大原 大次郎
4番 擬宝珠 纏
5番 左近寺 竜之介
6番 戸塚 金次
7番 寺井 洋一
8番 屯田 五目須
9番 中川 圭一
10番 日暮 熟睡男
11番 ボルボ西郷
12番 本田 速人
13番 両津 勘吉

2トンダゴメンッス:2009/09/13(日) 23:38:44 ID:???

 いい春の日和、まったりとした雰囲気の派出所。
 だが、今日も平和な筈の葛飾の歯車は、狂い始めていた。



「まったく、両津の起こすトラブルで胃が痛いわい」

「部長さん大変ね〜、胃薬があるんですけど、いります?」

「おお、助かるよ麗子君……うぐっ!!」

 大原部長が部下の麗子の薬を飲んだ途端に血を吐いて倒れた。

「うふふ、ごめんなさいね部長さん……だけどもうバトルロワイアルは始まっているのよ」

 麗子は邪悪に笑った。

 だが、次の瞬間、銃声とともに麗子が倒れる。

「ごめんね、麗子さん……だけど、僕には残り30年の家のローンと妻と息子と娘がいるんだ」

 派出所勤務の一人、寺井は引きつった笑いと共に後ずさる。
 そして、1時間前の事を思い出して身震いした。


――葛飾署署長室にて


「私は葛飾署署長、屯田 五目須だ。
 大原君は、孫の入学式で出所は遅れるそうだが……まあ、愛する孫との最後の別れだしの」

「署長? 最後ってどういう事なんすか?」

 署長に対し、問題児筆頭である両津が手を挙げて質問する。

「ふふ、両津、そして、公園前派出所関係者の諸君、君達の問題行動は目に余る。
 よって、君達にはこれから殺し合いをしてもらう。勝った者には二階級特進とボーナスをやろう。
 さあ、この首輪をつけたまえ」

「ボーナス!? おい! みんなさっさとつけろ!!」

 両津とその仲間達は首輪をつけた。

「では、この首輪の効果を教えてやろう」

 署長がスイッチを押すと戸塚の首輪が爆発し、彼は絶命した。

 署長室に悲鳴があがる。

「では、今から30分後がスタートだ! バトルロワイアルを始めたまえ!!」


戸塚 金次
大原 大次郎
秋本・カトリーヌ・麗子  死亡  残り10人

3age:2009/09/29(火) 08:50:17 ID:???
age

4トンダゴメンッス:2009/12/12(土) 23:39:20 ID:???

 第一話「よろしく愛愁」


「両サマ……どこにいるのですか?」

 麻里愛こと、マリアは愛する男、両津を探していた。

「おっ、マリアじゃないか」

「両サマ! 会えて嬉しいですわ!」

 マリアは不安と戸惑いの表情が崩れ、微かな喜びを浮かべる。
 抱き合う二人。
 はたから見れば、恋人同士のように見えたかもしれない。

 だが、金の亡者でああり、先程、同僚の戸塚の死を目の前にした両津の感覚は麻痺していた。

「悪いな」

 誰にも聞こえぬであろう声で謝罪を述べる両津。
 彼はマリアを殺害するために、隠し持った出刃包丁を取り出し、マリアの背中に振り下ろした。

「っ!?」
「うおっ!?」

 マリアは、違和感を感じたのか、間一髪で両津を突き飛ばした。
 咄嗟の出来事で、両津はマリアを放してしまった。

「な……何をなさるのですか、両サマ?」

 戸惑いの表情で、条件反射で得意のキックボクシングの構えを取るマリア。

「くそっ……わしは、死にたくないんだ……悪いな……」

 両津は動揺を押し隠すように出刃包丁を構え、再びマリアを仕留める為に距離を詰めるようににじり寄る。
 マリアは、両津に対する構えを解く。

「分かりましたわ……両サマ」

「何が分かった、というんだ?」

「両サマは、人を殺せないという事を」

「わしの運動神経とタフさは、お前も知ってるだろう?」

「ええ、ですが、両サマも私がキックボクシングのチャンプだった事を知ってますでしょう?」

「ああ、そうだな」

「なら、私と両サマが組めば、誰にも負けませんわよね?」

「何だと?」

 驚く両津に、淡々と話すマリア。

「生き残れるのは、一人なんだぞ?」

「ええ、そうですわね……だから」




「だから、最後の一人になったら、両サマ、私を殺して下さい」

5T:2009/12/13(日) 08:00:33 ID:RO9K5kkM
おっ更新ktkr!

6トンダゴメンッス#:2010/05/05(水) 11:48:20 ID:???

 第二話「堕ちた鬼」


「ひっく……いつもこうなんだ……先輩のせいで僕は貧乏くじをひくんだよぉ」

 本田速人は、泣きべそをかきながら、浅草商店街を歩いていた。
 すると、大男が本田の行く手を遮る。

「そうかよ。なら、二度とそんな目に会わなくて済む所に送ってやるぜ」

 ジャージ姿の大男の名は、左近寺 竜之介。
 彼は柔道師範の腕前を持つ、かつては鬼の左近寺と恐れられた署内でも屈指の武闘派警官であった。
 彼は、自慢の腕力で本田の首を締めあげた。
 本田は、悲鳴を上げようとしたが、声も漏らす事も出来ずにやがて絶命した。

「フフフ、本田もバイクに乗ってなきゃ、目じゃないな」

 左近寺は、本田の死体を地面に下ろすと、人を殺めた高揚感と緊張感で額に浮いた汗を拭った。
 その手は震えていたが、彼は自分の手の震えをおさめるように両の手で握りこぶしを作る。

「俺は、生き残らなくちゃいけない……何故なら、明日はドキドキメモリアル新作の発売日だからな……。
 沙織のフィギュア付き初回特典も予約済みだ……俺は死ぬわけにはいかんのだ」

 左近寺は、ドキドキメモリアル初回特典の引き換えチケットを握りしめると、欲望に塗れた笑いを浮かべるのだった。


 本田速人  死亡  残り 9人

7トンダゴメンッス:2010/05/05(水) 23:58:05 ID:???

 第三話「人間のクズ」


「なんて事だ……まさか、私も殺し合いに参加する事になっていたとは」

 署長である屯田 五目須(とんだ ごめす)は、火のついた葉巻きをガラス製の灰皿を押しつける。
 彼は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべ、署長室の自分の椅子に腰かけていた。
 机の上に無造作に置かれているのは、拳銃ブローニングハイパワーであった。
 これは、彼の支給品であり、当たり武器ではあるが、まさか自分が殺し合いに参加するとは思ってなかった彼の顔は暗かった。
 何故なら、自分が参加者であると知った他の人間達は、まず屯田を狙う事は当然である。
 故に、彼は生きた心地がしなかった。

「ふん、いい気味だ」

 ガチャリとドアを開けて入ってきたのは、男勝りの女警官、擬宝珠 纏(ぎぼし まとい)であった。
 屯田は、そんな彼女に何所か冷めた視線を送りながら、鼻で笑った。
 部屋の外で、屯田の独り言を聞いていた彼女は、憎悪の籠った瞳で屯田を睨むと、おもむろに腰のホルダーの拳銃を抜く。

 ぱん、と乾いた銃声と硝煙が署長室に巻き起こる。
 そして、拳銃が床に転がった。

「くそ……」

 銃を構えていたのは、屯田五目須であった。
 擬宝珠纏は、屯田の銃撃で、持っていた拳銃を弾き飛ばされたのだった。

「ふっ、入署して一年足らずのキミが叩き上げで署長に成り上がった私に勝てるとでも思ったのかね?」

 屯田は、椅子から立ち上がると、上から見下ろすように擬宝珠を見やる。
 その口調は、凍てつくような寒さを感じさせるもので、悔しそうに睨んでいた擬宝珠ですら背筋に冷たいものを感じていた。

「……時にキミは随分と口の利き方を知らないようだね。少し、教育が必要なようだね……」

「や、やめろ…………くっ、勘吉……」

 屯田は、ネクタイを緩めながら、いやらしい顔で擬宝珠に覆いかぶさっていった。
 署長室に、擬宝珠の悲鳴が上がる。

 どうせ死ぬなら、好き勝手にやってやる。
 警察署長、屯田 五目須が外道に堕ちた瞬間であった。

8トンダゴメンッス:2010/05/06(木) 21:42:58 ID:???

 第四話「戦争」


 浅草雷門の境内では銃撃戦が繰り広げられていた。
 だが、それは一方的な展開となりつつあった。
 
「くっ……!」

 全てにおいてパーフェクト人間である中川財閥総帥子息、中川圭一は、サブマシンガンを握りしめ、苛立たげに銃撃の音を聞きながら息をひそめていた。
 彼が相手にしていたのは、元グリーンベレー所属のボルボ西郷であった。
 ボルボの獲物は、ランサーアサルトライフルという化け物のような銃であったのだ。
 ライフルはマシンガンのように連射でき、ライフルの先には銃剣のような刃がついているデザイン。
 更にその威力はコンクリートの壁を容易く撃ち抜くものだ。

 プロの軍人であったという経歴ですら厄介であるのに、武器もまた極悪なもの。
 更に、ボルボは中川を標的として認識して、攻撃を仕掛けている。
 攻撃すれば、位置が完全にばれてしまうと感じた中川は息を潜めて、逃走の機会を窺う以外に手はなかったのだ。
 中川をもってしても、クレー射撃ではオリンピック級の腕前を持っているし、射撃訓練でも好成績を記録してきた。
 だが、相手は戦争のプロであるのだ。
 アマチュアである自分が勝てる道理はない。

「くそっ……なんで、エリートである僕がこんな目に……!」

 あんな戦争馬鹿を相手にしてられるか、両津や左近寺、本田だってバイクに乗りさえすればボルボに対抗し得る力がある。
 わざわざエリートである自分が手を下す必要もないのだ。
 馬鹿どもは馬鹿どもで潰し合い、自分は華麗かつ優雅に最後の勝ちを奪い取ればいい。
 そんな事を考えている中川の胸中は、逃亡の二文字で占められていた。

「とにかく、チャンスを待つしかない……」

 そう思った矢先の事であった。
 いきなり、ボルボの銃撃が収まる。

 中川は思う。
 もしてかして、敵は去ったのではないかと。 

 だが、中川は耐えた。
 これはボルボの罠ではないかという疑念があったのだ。
 ボルボはその場から立ち去ったかのように見せて、自分をおびき出そうとしているのではないかと。
 中川は、息を潜めて生唾を飲み込む。
 ボルボは、戦争のプロだ。
 囮、罠、陽動、犠牲を最小限に敵を倒す手の内は幾らでも持っているのだ。
 だから、中川は待つ。

9トンダゴメンッス:2010/05/06(木) 21:43:22 ID:???






 銃声が止んで、一時間経っただろうか。
 慎重に慎重を重ねた中川は腕時計を確認して、静かに息を吐く。

「ここまで待っても動きがないという事は、ボルボさんはもういないと思ってもいいだろうな……」

 そう思い、中川がゆっくりと辺りを警戒しながら物陰から姿を現す。



 刹那、激しい銃撃音が起こった。



 中川は顔面をミンチにしながら、どさりと倒れた。


「甘いな、中川」

 同じく境内の物陰でライフルを構えたボルボ西郷は、中川を仕留めたのを確認し、ゆっくりと息を吐いた。
 元グリーンベレーである彼は、作戦の為に、密林の中で丸一日以上、待機していた事もあるのだ。
 こんな過ごしやすい場所で一時間、敵を待つ事ぐらい彼の強靭な忍耐力の前では朝飯前だった。
 アサルトライフルを両手で持ち何時でも撃てる構えのまま、ボルボは中川の遺品を回収する為に近づく。

 次の瞬間、一瞬だけボルボは目が眩んだ。
 金属を反射したような光――その光をかつて感じた事のあるボルボは、すぐさま身を伏せた。
 そして、コンマ一秒後に起こった銃撃。

 ボルボは、自分が狙撃手の的になっている事に気付き、条件反射的に身を伏せたのだ。
 そうしなければ、自分の命は既になかった事に冷や汗をかきながら、彼は周囲を観察する。
 そして、ボルボは銃撃の角度から、狙撃手の位置を割り出し、銃口を向ける。

 三百メートルほど離れた商店の二階の窓に隠れる影があり、それが犯人であるとボルボは理解した。
 同時に、ボルボはその距離が圧倒的なまでに自分の射程距離外である事に舌打ちをする。

「敵の中で狙撃の腕を最も警戒すべきだった中川は、ここで俺が始末した……狙撃手の元までの遮蔽物は幾らでもある……俺の敵ではないな」

 ボルボは、そう判断を下し、邪魔な狙撃手を始末する為の行動に移るのだった。


 中川圭一  死亡  残り 8人

10トンダゴメンッス:2010/05/07(金) 00:18:12 ID:???

 第五話「事後」


 署長室に、局部を露出した中年の男の遺体があった。
 男の頭部は血塗れで、そのすぐそばに血液のこびりついたガラス製の灰皿が転がっていた。

 男の名は、屯田五目須。
 彼の人生の幕の引き方は、実に無様なものであった。

 そのすぐそばで、衣擦れの音が聞こえる。
 屯田の遺体に背を向けた擬宝珠纏が乱れた着衣を直していた。
 彼女こそが屯田署長を殺害した張本人であった。


 屯田五目須  死亡  残り 7人

11トンダゴメンッス:2010/05/07(金) 01:05:52 ID:???

 第六話「鬼のめざめ」


「両サマ……大丈夫なのですか?」

「ああ、日暮の力をうまく使えば、勝ち残るなんて簡単だ!」

 両津とマリアは人っ子一人存在しない、にこにこ独身寮の中を進んでいく。
 そして、立ち止まった部屋は、密林の覆い茂る不気味な部屋だった。
 表札に書かれた名前は、『日暮 熟睡男(ひぐらし ねるお)』
 それは、四年に一日だけ目を覚ますといわれる超能力の使い手――サイキック刑事なのだ。

「わしらも強いが、軍人のボルボや武術の達人の左近寺、あの本田でさえバイクに乗って本気で殺しにかかってくれば、わしらでさえどうなるか分からんからな……」

「な、なるほど……」

 考えてみれば、ボルボ、左近寺、本田の戦闘力は両津の言うとおり。
 大原部長は柔剣道の達人だし、中川や麗子も銃の腕はプロ並みだし、この部屋の主である日暮も恐ろしい超能力の持ち主なのだ。
 大半がその気になれば、それなりの戦闘力を有した存在だという事にマリアは気付き、身震いする。
 そんな奴等への対抗手段として、寝ている日暮を起こし上手く利用するという作戦を両津は考えたのだった。

 両津は、ドアノブをガチャガチャと回したが、部屋の中に茂る植物が邪魔で、ドアを開ける事が出来ない事を知ると、どこからともなく取り出したバーナーでドアの鍵を焼き切るのだった。

「さあ、入るぞ」

 そう言って、南国に生える植物のようなもの達を掻き分けて進んでいく両津の後から、マリアが続く。
 そして、リビングにたどり着いた両津達の前にいたのは、布団の上であぐらを組んで座る日暮であった。

「よ、よう、起きてたのか」

 日暮が既に目ざめている事に驚きを隠しきれぬ両津は、少し上擦った口調で挨拶をした。
 日暮は、鷹のような鋭い目で両津達を一瞥し、口の端をにやりと吊り上げて笑うと、口を開く。

「来ると思っていたよ、両津」

 ふん、という気合と共に日暮が両津に向けて手を掲げると、両津は頭を押さえて床の上にしゃがみ込んだ。

「がああぁ! あ、頭が……痛い! ぐあ、割れるようだ……!!」

 それは、日暮が超能力で、両津の脳を圧迫した為だ。

「両津、署長が俺達に殺し合うよう告げた場面を俺は念視により見ていた……ずる賢いお前が俺を利用する為にここに来る事は既に予想済みだったよ」

 日暮は、遠い目をしながら語り出す。
 自分の考えが見抜かれていた事に両津は心の中で舌打ちをする余裕もなく頭痛に苦しむ。

「俺は、予知夢を見た……この殺し合いで、何者かに胸を刺されて死んでしまう悪夢だった……俺を利用して、最後にはその包丁で俺を殺すつもりだったんだろうが……」

 両津は、どんどん頭痛が酷くなっていき悶え苦しんでいた。
 苦しみながらも日暮の方を見た両津は、日暮の視線が、自分の腰――そのベルトにさしてある包丁を見ている事に気付き焦る。

「お前の知り得ぬところで、中川、麗子さん、本田、大原部長、署長は既に死んだ……次はお前の番だ!!」

 日暮は、掌に力を込めて、握り潰すように拳を作る。
 ぼん、と両津の頭が風船が破裂したかのように無くなっていた。
 リビングの入り口に、首のない真っ赤な人間噴水の完成である。

「りょ、りょうサマ!!!!」

 マリアは絶望の声をあげる。
 両津の為に生きて、死のうと決意した矢先の出来事である。
 彼女の眼からは次第に光が消えていった。
 だが、虚空をうつすその瞳の中に底冷えするような冷たい何かを感じ、日暮は攻撃の手を一瞬だけ躊躇した。

「……悲しむ必要はないぞ。麻里 愛、次は貴様の番だ……!!」

 寮が激しく揺れ、壁や床に亀裂が出来ていく。
 日暮が禍々しいオーラに包まれながら、宙に浮かびあがる。


 両津勘吉  死亡  残り 6人

12トンダゴメンッス:2010/05/07(金) 21:22:31 ID:???


 第七話「ダークホース」


「クソッ、流石にボルボさんは手強いな……」

 浅草雷門通りにある商店の二階の窓際に人影があった。
 その眼鏡を掛けた小太りの男は、舌打ちをしながら渋い顔をした。
 男の名前は、寺井 洋一。
 愛する家族の為に、同僚を手にかけ優勝を誓った修羅の男であった。 

 両手で、大原部長に与えられる筈であったスナイパーライフルを担いだ彼は、ライフルを構えて、こちらに向かってくるボルボを見て、ギョッとした。
 先程の自分の狙撃の回避といい、元軍人のボルボを侮っていたと寺井は感じていた。
 慎重な性格、天性の勘、凄まじい忍耐力、軍隊仕込みの戦闘能力、どれをとっても寺井がボルボに敵う素質がある筈もない。

「彼と出会っては駄目だ……」

 寺井は感じた事を口にする。
 ボルボとの遭遇は、即ち死を意味する。
 寺井の頭に、先程ボルボに殺された中川の姿がよぎった。

 故にこの場は逃げなくてはならない。 
 だが、このまま店を出てもすぐに追いつかれるだろう。

 寺井は、とにかく考えた。
 時間はあまりない。
 その上で出来る事を考えた。
 そして、考えた末に行動した。

13トンダゴメンッス:2010/05/08(土) 00:08:53 ID:???

 第八話「鬼達の宴」


 にこにこ独身寮が光に包まれたと思うと、次の瞬間には寮はガレキの山と化していた。
 ガレキの山を見下ろすように空に浮かぶ日暮は、禍々しいオーラに包まれており、その表情はまるで鬼神のようであった。

 マリアは、日暮に上空から見下ろされる中、ガレキの山を掻き分けながら、何とか這い出てくる。

「やはり生きていたか……しぶといやつだ」

 日暮は、鬱陶しいゴミ屑でも見下ろすようにマリアを見ると、掌に収束させた力を解放する。
 念動力により、浮かび上がった幾つものガレキ――巨大なコンクリートの塊がマリアに降り注ぐ。
 マリアは、その攻撃を身軽なフットワークを生かして避け続ける。
 更に、日暮はサイキックで鉄パイプや先の鋭い鉄棒などを上空に浮かび上がらせ、それが矢の雨のように降らせる。

「…………!?」

 冷や汗を浮かべ、それらを紙一重でマリアは避けていく。
 マリアを仕留めそこなった即席の矢の雨がガレキの上に突き刺さり剣山のように増えていく。
 彼女が喋る事はない、嘆きの言葉を吐いたりしないし、怒りの雄叫びを上げる事もない。
 ただ、その目は日暮という存在を捉えて離さない。
 悲しみも憎悪をも超えた、絶望という感情が彼女を侵食していた。
 だが、絶望だけでは動けない。
 人を動かすには足らない感情だ。
 だが、そんな彼女が何故動くのか――それは絶望と共にある復讐という感情だった。
 絶望故に、その先には何もない事を彼女は理解していた。
 だが、あの男に殺されてやるのは我慢ならない。
 だからこそ、彼女は、復讐という感情を激情としてではなく、冷静に受け入れたのだった。

 恐らくは、先程両津を殺した能力を使う為にはかなり近くまで接近しなければいけない。
 だから、こうやって飛び道具で自分の消耗を誘っているのだ。
 マリアは、そう静かに判断する。

 日暮もまたキックボクシングのチャンプという過去のあるマリアに距離を許す事を恐れているのだ。
 だから、両津を始末した直後、マリアに攻撃を仕掛けるというリスクを冒さずにすぐさま寮を崩壊させて、距離を取らざるを得なかったのだ。

 だが、マリアが幾らキックボクシングの元チャンプでもスタミナは無限ではない。
 彼女の動きが少しずつ鈍ってきた。

「麻里愛、動きが目に見えて鈍ってきたな」

 そろそろとどめを刺す頃合いか、日暮がそう思った矢先の出来事だった。

14トンダゴメンッス:2010/05/08(土) 00:09:08 ID:???
 
 ごん、と鈍い音が聞こえたのだった。
 その音と共に日暮の意識が掻き消えていく。
 そして、彼は落下した。

「がはっ……!」

 落ちた先には、ガレキの上に突き出た先端の鋭くなった鉄棒があり、運悪く日暮の胸に突き刺さる。
 それは、日暮自らが降らせた鉄棒の一本だった。
 彼は、血を吐き白眼を剥いた。

「チッ、寮をぶっ飛ばしやがって……俺の大事なドキメモグッズをどうしてくれるんだよ……」

 憎々しげに呟いたのは、左近寺竜之介だった。
 彼の投げた拳大の石ころが日暮の頭部に直撃した為、日暮は落下した。
 それだけの事であった。

 左近寺は、息も絶え絶えに立ってるのがやっとといった状態のマリアの存在に気付く。

「マリアか……お前に恨みはないが、ドキメモの為だ……始末させて貰うぜ」

 ボキボキと拳を鳴らすと、両手を掲げて、柔道の構えを取る柔道師範の左近寺。
 彼は、宝物であったドキメモグッズの消失という多少の精神的ショックはあるものの万全の体調だった。

 対するマリアもキックボクシングの構えを取ろうとする。 
 だが、寮の崩壊に巻き込まれ、加えて日暮との戦いで消耗しており、万全とは程遠いコンディションだった。
 しかし、両津が死に、仇敵であった日暮も死んだ。
 ならば、せめて格闘家として死ぬのも悪くないな、そんなどうでもいい事が頭に浮かんだからだ。

 達人級の力を持つ左近寺もマリアの不調ぶりは手に取るように分かった。
 彼は、互いに万全の状態ならば、良い勝負が出来たのにな、と惜しい気持ちになりながらも雄叫びを上げて、マリアに飛び掛かろうとする。

「ぐ……ぐふっ」

 刹那、左近寺の呻き声と共に、彼の胸に真っ赤な花が咲く。
 そして、その中心には、先端の鋭い鉄パイプが生えていた。
 その鉄パイプは心臓の部位を貫いており、左近寺は一瞬にして、その命を散らしたのだった。

 左近寺を迎え撃とうとしたマリアは愕然とした。
 そして、倒れた左近寺の後ろにいたのは、最後の力の念動力で彼の命を刈り取った日暮の姿であった。
 日暮は、皮肉げな表情でにやりと笑うと、がくりと力無くその息を引き取るのだった。


 左近寺 竜之介
 日暮 熟睡男   死亡  残り 4人

15トンダゴメンッス:2010/05/08(土) 21:56:35 ID:???

 第九話「窮鼠猫を噛んで絶対なる弱肉強食の摂理に飲まれる」


 ボルボは、遠くで何かが崩れる音を聞いて多少動揺する。
 だが、狙撃手との戦いの最中に、余所へ注意を向ける事は、それは死を意味すると考え、目の前の敵に集中した。

 彼は、慎重に身を隠しつつ進軍し、狙撃手が籠城する商店の直ぐそばまで接近していた。
 狙撃手の影は、窓際にある。
 壁を背にこちらからの攻撃には死角となるように姿を隠している。

 時折、敵の行った狙撃をボルボはことごとく回避していた。
 だが、ボルボの接近と共にその狙撃は起こらなくなっている。
 敵は、依然窓際に姿を隠したままだ。

 ボルボは、それを敵の罠だと認知した。
 狙撃種は、家屋の中にボルボを誘っている。
 狭い屋内戦に持ち込まれては、銃という兵器の有用性は半減する。
 という事は、狙撃手は格闘戦に大きな自信を持った相手だと彼は判断した。

「俺は、自分の顔とこのランサーアサルトライフルの存在を見せてここまで来た……」

 ボルボは、素早い動作でライフルの銃口を窓際の影に目掛けて撃った。
 銃弾の雨は、木造建築の壁を容易く貫通し、敵に命中した。

 両津は、格闘戦も強いが、銃火器にも詳しい。
 故に、この分厚いコンクリートをも容易く撃ち抜くライフルを見れば、そんな手は取らないだろう。

 という事は狙撃手の正体は絞られる。

 キックボクシング元チャンプのマリア。
 もしくは、柔道師範の左近寺であったのだろう。

「奴等が相手ならば、幾ら俺でも格闘戦に持ち込まれれば、危ないところだっただろうな…………ん?」

 勝利の気分に浸りかけたボルボに疑問が浮かんだ。
 壁ごと撃ち抜いた筈の人影が微動だにしないのだ。

 まさか、と思いボルボは警戒しつつ狙撃手の根城へと踏み込んだ。

 入り口の戸を蹴破り、銃を構えながら階段を駆け上がり、狙撃手のいるだろう部屋の壁を蹴破る。
 次の瞬間、彼の視界が真っ白に染まった。
 ボルボは、何が起きてるのか分からず、パニックに陥ったように銃を乱射する。
 息を吸い込み、喘息のようにむせて咳き込む彼には、その白いモノの正体を理解した。

 それは、小麦粉であった。
 どこにでもある市販の小麦粉。
 ドアを開けると小麦粉がばら撒かれる単純な目潰しトラップであった。

 そして、窓際の影の正体は、ハンガーに掛けられた背広。
 自分は、こんな間抜けで幼稚な罠にかかったのだ。
 ボルボは、苛立ちを隠せずに部屋の中の家具を蹴り飛ばす。

16トンダゴメンッス:2010/05/08(土) 21:58:01 ID:???

 ボルボは、顔にかぶり、口の中で唾液を含んでネチャネチャと不快な存在となった小麦粉を洗い流す為に水場へと向かった。
 行き着いた先は、台所。
 水道の蛇口をひねり、口に含もうとしたところで、彼の手が止まる。

 何故手を止めたのか。
 それは彼の中の苦々しい記憶だった。
 傭兵時代に、戦場で敵のゲリラに井戸に毒を撒かれて、味方が大きな打撃を被ったのだ。

 無論、常識的に考えれば、在り得ない思考だった。
 在り得ない程までに慎重であり、実は臆病な性格である彼特有の思考である。 

 ボルボは、舌打ちしながら、蛇口を締めて冷蔵庫の中を探る。
 そして、何の躊躇もなくひとつのペットボトルを選んだ。

 そして、封の閉じられたキャップを開けて口に含み、口内の不快な存在を洗い流そうとした瞬間――。

 ボルボは、吐血して倒れた。

「な、なぜ―――」

 そして、ボルボは苦しげな表情のまま息を引き取った。



「うひひひひひひひひ………やった!
 やったぞ! 僕の勝ちだぁぁあぁ!!!」

 家屋の裏手へと続くドアから、狂喜の笑いと共に顔を出したのは、寺井だった。
 彼は、絶叫をあげながら、ボルボの死体を蹴飛ばすと、麗子の支給品だった毒の入った小瓶を取り出して、にやりと笑った。

 ボルボは、慎重な性格。
 その戦闘能力は全てにおいて、寺井のポテンシャルを上回っていた。
 そんな中、寺井にとって、ボルボに対して唯一、優位に立てるものがあった。

 それは、情報だった。

 寺井は、自分の敵がボルボである事を知っていたし、彼の性格や内面の事も両津を通じてよく知っていた。

 対するボルボの持っていた情報は、この家屋に狙撃手が隠れているという事だけ。
 狙撃手の正体も分からないし、窓際の背広を例えフェイクだと思っても、慎重な性格の彼は、それを警戒せざるを得ない。
 そして、小麦粉の目潰し。
 全ては、フェイクだった……本命である毒の入った水を飲ませる為の。

 慎重なボルボは、必ず封を切っていないペットボトルを選ぶと思っていた。
 だから、わざとひとつのペットボトルを残し、他のボトルの封を切り、封を切ってないペットボトルの底に小さなあなを開ける。
 あとは、そこから麗子から奪った毒を入れてテープで塞ぎ、あとは毒を飲んでボルボが死ぬのを待つだけ。
 大原部長が口に含んだと同時にその命を奪った毒だ、口に含めさえば良かった。

17トンダゴメンッス:2010/05/08(土) 21:58:23 ID:???

 例え、作戦がうまくいかなくても寺井は裏手からこっそりと逃げればいいだけだった。

「あーっはっは! まさか、こんなにも上手くいくとはおもってなかったけどね!!」

 普段は温厚で、本来は草食動物であるはずの寺井がボルボという肉食動物を倒したという事で勝利の美酒に酔っている。
 先程のボルボの銃声に加え、今現在の寺井の馬鹿笑い。
 それは、致命的な隙だったかもしれない。

 いつの間にか、寺井の背後にいた人物は、ドスッと寺井の背中から胸の位置に包丁を突き立てていた。
 突然沸き起こる痛みに寺井は驚愕に目を見開く。

「凄いじゃない……よく勝てたね」

 声の主は、血を吐いて事切れているボルボを見て、冷淡に言った。
 そして、寺井には、その声に聞きおぼえがあった。

「ま、まといちゃん……」

 それは、擬宝珠纏だった。
 寺井は、自分の身体から急速に力が抜けていく事に恐怖を覚えていく。
 纏は、寺井の背中から力任せに包丁を抜きとると、倒れる寺井に銃口を向ける。

「……ははは、駄目だなぁ……ぐすっ、結局、僕は……何やっても……ドン臭いままだったなぁ…………ごめんよ、みんな……ぐすっ、ごめんね……――」

 寺井は自分の不甲斐なさからか、しゃくり上げるように目に溢れる涙を浮かべていた。
 纏は、彼の謝罪の相手が、命を奪った者に対してか、それとも、残し逝く彼の家族に対してかは分からない。
 恐らく両者なのだろう、そう思い、纏は引き金に手を掛けた。

「最後に教えてくれ、勘吉を知らないか?」

「両、さん……? 知らないよ……殺し合いが始まってからは会ってない……」

「そう……」

「ははは……両さんかぁ……今、何やってんだろうなぁ……」

 寺井の眼には愛する家族との想い出、そして、両津や、彼を中心とした人物達との想い出が蘇っていた――いわゆる走馬灯というやつだ。
 トラブルメーカーで、周りの人間達に迷惑ばかりかけていた両津――その周りの人間の中のひとりに無論、寺井も含まれている。

「色々あったけど……でも、もう一度会いたかっ……――」

 纏がとどめを刺すまでもなく、寺井は死んだ。


 ボルボ西郷
 寺井 洋一    死亡  残り 2人

18トンダゴメンッス:2010/05/09(日) 01:52:01 ID:???

 第十話「終焉への序曲」


 擬宝珠纏は、戦闘で負ったダメージはないが、その心はボロボロになっていた。
 原因は、署長、屯田五目須による凌辱と、かつての同僚、寺井の凶行の目撃とそれを手にかけた事へのショックだった。

 だが、彼女には唯一の心の支えがあった。
 かつて、婚約し、結婚目前までいったが、その男とは実は従兄妹という関係だったという事実が分かった為、中止になったしまった。
 その時は、互いに馬鹿な事を言い合って、馬鹿な事をやっても笑い合える――そんな関係であれば良いと思ってしまった。

 だが、今では彼女の擦り切れそうな心の中では、そんな存在がとても愛おしく思えてきていた。
 故に、狂った同僚を手にかけた。
 それ程までに、その存在を守りたかったのだ。

 彼女の向かっている先は、にこにこ独身寮のある場所だった。
 雷門通りにある寺井とボルボの死体が転がっている民家へ向かう途中に聞いた、独身寮が崩れ落ちる音。

 そんな無茶苦茶な事が出来るのは、無茶苦茶な人間――両津勘吉がいるに違いないと思ったからだ。

 纏は、身体を引き摺るように歩く。
 やがて、彼女は、ガレキと化した独身寮を目の当たりにするのだった。

 そして、そこで佇むように立つ麻里愛の姿を発見する。
 マリアの目は、どこか虚空を見ていて、纏の存在など眼中にないようだった。

 纏は、銃口をマリアへと向けながら口を開いた。

「……勘吉はどこ?」

 その言葉で、やっとのこと纏の存在を認知したマリアは、ゆっくりとガレキの山を指差した。

 纏が見つけたのは、ガレキの上に転がる二つの男の死体だった。
 ひとりは左近寺、もうひとりは、日暮だと彼女は認識した。
 共に、胸に細い鉄骨が突き刺さっており、二人が絶命する瞬間を目の当たりにしていない纏にもそれが死因である事が分かった。

 共にマリアが殺したのか――そんな考えが浮かんだが、そんな事はどうでもいいと思った纏は、改めて問い直す事にした。

「……もう一度聞く、勘吉はどこ?」

 低いトーンの質問に対する答えも似たようにトーンが低かった。

「死にました……ガレキの中にいますわ」

「…………は?」

 間の抜けたような言葉をあげる纏がマリアの言葉を理解するまでに数秒の間を要した。

「な、何を言ってるんだよ……建物の倒壊に巻き込まれた位で……か、勘吉が死ぬ訳ないだろ……ガレキの中にいるなら、助けないと」

 纏は力無く笑うと、ふらふらと独身寮のガレキの山を掻き分けようとする。
 マリアは、その姿を少し哀れに感じながらも纏の背中に決定的な言葉を投げつけた。

「両サマは、日暮さんの力で、私の眼の前で頭部を爆発させられた上で、ガレキの中に消えていますわ……倒壊した寮に巻き込まれたのが直接の死因ではありませんのよ」

 纏は、その言葉を聞き、その手を止めた。
 彼女は、憎悪の眼でマリアを睨みつけて、マリアの眼の前まで走り寄り、そのまま拳銃をマリアの喉元に突きつけた。

「嘘をつくな!」

 今にも引き金を引きかねない形相の纏をマリアは冷めた目で見ていた。
 そして、感情の籠らない声で言った。

「撃つならば撃ちなさい……私は両サマのいない世界に興味はないですから」

 纏は、そんなマリアを睨みつけた。
 そして、纏は、マリアが両津の事を本気で好きだった事を知っていた為に、マリアの言う事が真実であるという受け入れ難い事実を認めかけていた。
 纏は、悔しさで胸が締め付けられそうな気持ちが込み上げていた。
 何故、自分が殺し合いなどを受け入れたのか。
 何故、皆がこうも簡単に殺し合いを始めたのか。

 そのどれもが理解出来なかった。

 そして、やがて、纏は、マリアに突きつけていた拳銃を下ろしたのだった。

19トンダゴメンッス:2010/05/09(日) 01:52:17 ID:???
















「……それでは困るのだよ」



 突然上空から聞こえてきた低く響き渡る声にふたりは顔を見合わせて、上空を見上げた。

 空は黄金のまばゆい光に包まれていた。
 そして、天から降りてくるのは、杖をついた老人。
 老人の名前は、花山里香――天上界に住む魔法使い。

 本来、男性であったマリアを女性へと生まれ変わらせた正真正銘の魔法使いである。

 マリアも纏もその存在を知っていた故に、固唾をのんで、花山の声を聞いていた。

「……我々は、そのような結末を望んでいるわけではないのだ。
 だが、最後のふたりになったキミ達に戦意がないのでは話にならん。
 故に、私は、ここまで生き残ったキミ達にご褒美をあげようと思っておる。
 キミ達の片方どちらか勝利した方に、キミ達が望む人間を誰か一人蘇らせる権利をプレゼントしてやろう」

 マリア、纏が今の状況を理解し、その言葉の意味を理解し、戦意を持ち直すのには暫くの時間がかかった。
 ふたりとも、戸惑っているのだ。

「それでも殺し合う気が起きぬのならば、そういう結末だったと諦めよう」

 それだけ言い終わると、花山は霧のようにその姿を消した。

 そして、空の輝きは失われ、暗雲に包まれていく。

20トンダゴメンッス:2010/05/09(日) 01:52:39 ID:???

 エピローグ


 どしゃ降りの雨の中、ふたりの間に言葉はなかった。
 約5メートルの距離を空けて、纏とマリアは、静かに互いを見つめていた。
 その眼には憎悪がこもっているわけでもない。
 何故なら、ふたりの間に相手を憎むという感情はなかったから。
 たまたま好きな人間が同じで、失った愛おしいものが同じで、それで、ただ取り戻したいモノが一緒なだけだったから。

 無論、ふたりとも黒幕の存在が気にならない訳ではない。
 だが、その黒幕の誘惑は、二人にとって、楽園の蜜を凌駕する程までに魅力的なものであったのだ。

 最初に動いたのは、纏だった。
 手に持った拳銃の銃口をマリアに向け、引き金を引こうとする。

 同時にマリアが動き、足元にあったガレキの破片を蹴り飛ばす。
 弾丸のように放たれたガレキの破片は纏の手に握られた拳銃を弾いた。
 そして、マリアは、一瞬にして5メートルもの距離を詰めると、纏の懐まで潜りこむ。
 更に、鋼のような硬さで握った拳を纏の胴に叩きこんだ。

 纏は息をする事も出来ずに、身体を”く”の字に曲げた。
 ストマックへの強烈な一撃により、胃液が逆流し、纏は無様に吐癪物を撒き散らした。
 そして、後方へ下がり、立つ事すら出来なくなってそのまま崩れ落ちた。

 いや、崩れ落ちそうになった瞬間に、マリアは纏の髪の毛をひったくるように掴み、その顔面に膝蹴りを見舞った。

 打撃音などという生易しいものではない。
 何かが潰れるような重苦しい音と共に、地面に纏の血が飛び散る。

 髪を掴んだ手を放されてしまい、支えを失った纏は、吹っ飛んで、倒れた。
 地面に飛び散った血も降り注ぐ雨で、消えていく。

 マリアが纏を本気で殺しにかかっている事は誰が見ても明らかである。

 マリアは、カツカツとハイヒールのかかとを鳴らし、纏の傍まで近づく。
 そして、マリアは纏の頭を掴もうと手を伸ばそうとした。
 その狙いは、纏の首の骨をへし折りとどめを刺すためだ。

 だが、マリアは地面に転がる纏と眼が合ってしまった。
 まだ意識があるのか――そう思ったマリアは、すぐさま纏の顔面に蹴りを放つ。

 纏は、奇跡的にも両手で蹴りをガードしていた。
 だが、彼女は両手を防御に使った為に受け身すら取る事すら出来ずにごろごろと、にこにこ寮の敷地の中を転がり、倒れる。

 ごほごほと咳き込む纏は、全身を駆けめぐる鈍い痛みを耐え辺りを見回した。
 纏は、まだ諦めていなかったのだ――それが何に対しての諦めか――生きるという事に対してか、両津をか。
 だが、纏には微かにだが、戦う意思が残っていた。
 彼女は、すがるように辺りを見回す。
 すると、視界の隅にそこそこの長さの鉄パイプを見つける。
 それは、日暮が辺りに放ったモノの一本であった。
 それが手を伸ばせば、手に届く距離にある事を知り、纏の心に再び闘志が沸いた。

 纏が最も得意とする武器は、薙刀である。
 全長一メートルと五十程度の長さの鉄パイプ――薙刀に比べれば程遠いリーチだが、銃よりは扱いやすい。
 そう思い、鉄パイプを手にとって、素早く立ち上がり、構えを取る。

 だが、纏が自慢の薙刀術を披露する事はなかった。
 ぱん、ぱん、と乾いた音が鳴り響き、纏はずるりとすっ転んだ。

 何が起きたのか――纏の両の脚が撃ち抜かれていたのだ。

 纏の目の前に立つのは、硝煙を吐く拳銃を構えるマリアだった。

 その武器がマリアの支給品だったのか、それとも、どこかで手に入れたのか、纏の手から弾かれたものなのか、分からない。

 だが、マリアの眼は余りにも冷徹で、纏はその瞳を見ているだけで、身体中に震えが走った。

21トンダゴメンッス:2010/05/09(日) 01:52:59 ID:???

(……ああ、そうか――)


 纏は、気付く。
 マリアの両津に対する執念の凄まじさに。

 彼女は、自分が両津と出会うずっと前に出会い、性別という壁の前にも諦める事もなく、克服したのだ。

 マリアは一言も口を開かない。

 心が諦念に支配されていく纏が口を開ける筈もない。





 マリアの持つ拳銃が纏の頭に向けられた。

 そして、再び、乾いた銃声が起こった。

 それは、足を撃ち抜かれてから数瞬の間の出来事であったが、


 纏にとっては、それが永遠のように感じられた。
















  両サマ――

       ――愛しているよ、マリア




   アイシテイルヨ  まり、あ――




         ―――――ああ、両サマ……!





     擬宝珠 纏   死亡
     麻里 愛    優勝  残り 1人


                        完

22トンダゴメンッス:2010/05/09(日) 01:53:50 ID:???

















<殺害数ランキング>
一位 擬宝珠 纏   …二人
一位 寺井 洋一   …二人
一位 左近寺 竜之介 …二人
一位 日暮 熟睡男  …二人   
五位 麻里 愛    …一人
五位 ボルボ 西郷  …一人
五位 秋本 麗子   …一人

23トンダゴメンッス:2010/05/09(日) 01:57:58 ID:V3fD1OfY
開始から、8ヵ月という長きにわたる長期連載でしたが、
何とか簡潔に完結に、こじつける事が出来ました!
ここまで読んでくれた方がもしいらっしゃれば、感謝!
ありがとうございました!

24T:2010/05/09(日) 20:43:05 ID:pJs1rVQw
執筆ありがとうございました!テンポがよくてスラスラと読むことが出来ました。
両さんを軸に物語が進むのかと思えば割と早めの死・・・
しかし終わってみればやはり両さんが軸だったという着地が気に入りました。
そして最弱と思われた寺井の活躍も読んでてとても面白かったです。

とても楽しかったです。ぜひ、また気が向いたらぜひ執筆してください。

25トンダゴメンッス:2010/05/11(火) 21:13:29 ID:V3fD1OfY
Tさん、応援や感想ありがとうございました!
読んでくれて、とてもうれしいです^^
両津の死は、物語の核となる部分ですね。
主人公の死亡の周りに与える絶望感は、割と大きかったようです。
寺井は、自分自信が弱い存在だと知ってたので、直接の戦闘を避けた戦い方を選んでたんですが、最後は詰めが甘かったですね。
序盤は、割と軽いノリで書いてたんですが、途中から割と重い話になってしまいました。
つぎこそは、軽いノリで書いてみたいですね^^
ありがとうございました!


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