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こちら葛飾署亀有公園前派出ロワイアル

18トンダゴメンッス:2010/05/09(日) 01:52:01 ID:???

 第十話「終焉への序曲」


 擬宝珠纏は、戦闘で負ったダメージはないが、その心はボロボロになっていた。
 原因は、署長、屯田五目須による凌辱と、かつての同僚、寺井の凶行の目撃とそれを手にかけた事へのショックだった。

 だが、彼女には唯一の心の支えがあった。
 かつて、婚約し、結婚目前までいったが、その男とは実は従兄妹という関係だったという事実が分かった為、中止になったしまった。
 その時は、互いに馬鹿な事を言い合って、馬鹿な事をやっても笑い合える――そんな関係であれば良いと思ってしまった。

 だが、今では彼女の擦り切れそうな心の中では、そんな存在がとても愛おしく思えてきていた。
 故に、狂った同僚を手にかけた。
 それ程までに、その存在を守りたかったのだ。

 彼女の向かっている先は、にこにこ独身寮のある場所だった。
 雷門通りにある寺井とボルボの死体が転がっている民家へ向かう途中に聞いた、独身寮が崩れ落ちる音。

 そんな無茶苦茶な事が出来るのは、無茶苦茶な人間――両津勘吉がいるに違いないと思ったからだ。

 纏は、身体を引き摺るように歩く。
 やがて、彼女は、ガレキと化した独身寮を目の当たりにするのだった。

 そして、そこで佇むように立つ麻里愛の姿を発見する。
 マリアの目は、どこか虚空を見ていて、纏の存在など眼中にないようだった。

 纏は、銃口をマリアへと向けながら口を開いた。

「……勘吉はどこ?」

 その言葉で、やっとのこと纏の存在を認知したマリアは、ゆっくりとガレキの山を指差した。

 纏が見つけたのは、ガレキの上に転がる二つの男の死体だった。
 ひとりは左近寺、もうひとりは、日暮だと彼女は認識した。
 共に、胸に細い鉄骨が突き刺さっており、二人が絶命する瞬間を目の当たりにしていない纏にもそれが死因である事が分かった。

 共にマリアが殺したのか――そんな考えが浮かんだが、そんな事はどうでもいいと思った纏は、改めて問い直す事にした。

「……もう一度聞く、勘吉はどこ?」

 低いトーンの質問に対する答えも似たようにトーンが低かった。

「死にました……ガレキの中にいますわ」

「…………は?」

 間の抜けたような言葉をあげる纏がマリアの言葉を理解するまでに数秒の間を要した。

「な、何を言ってるんだよ……建物の倒壊に巻き込まれた位で……か、勘吉が死ぬ訳ないだろ……ガレキの中にいるなら、助けないと」

 纏は力無く笑うと、ふらふらと独身寮のガレキの山を掻き分けようとする。
 マリアは、その姿を少し哀れに感じながらも纏の背中に決定的な言葉を投げつけた。

「両サマは、日暮さんの力で、私の眼の前で頭部を爆発させられた上で、ガレキの中に消えていますわ……倒壊した寮に巻き込まれたのが直接の死因ではありませんのよ」

 纏は、その言葉を聞き、その手を止めた。
 彼女は、憎悪の眼でマリアを睨みつけて、マリアの眼の前まで走り寄り、そのまま拳銃をマリアの喉元に突きつけた。

「嘘をつくな!」

 今にも引き金を引きかねない形相の纏をマリアは冷めた目で見ていた。
 そして、感情の籠らない声で言った。

「撃つならば撃ちなさい……私は両サマのいない世界に興味はないですから」

 纏は、そんなマリアを睨みつけた。
 そして、纏は、マリアが両津の事を本気で好きだった事を知っていた為に、マリアの言う事が真実であるという受け入れ難い事実を認めかけていた。
 纏は、悔しさで胸が締め付けられそうな気持ちが込み上げていた。
 何故、自分が殺し合いなどを受け入れたのか。
 何故、皆がこうも簡単に殺し合いを始めたのか。

 そのどれもが理解出来なかった。

 そして、やがて、纏は、マリアに突きつけていた拳銃を下ろしたのだった。


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