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二題噺スレ。

1快天の宣言:2007/01/15(月) 18:15:53
三題噺スレのキーワードが二つのバージョンです。
二つの題を決めて、その題から記述や話を作って書きます。
題はいつでも自由に提示ができます。二つ続けて題を提示しても良いし、過去に出された題に遡って書くのも良いです。
また出された題の意味がわからずとも、あえて調べずにあてずっぽうで書いたりわざと誤解して書いても良いかもしれません。
二つの題を文中に用いる、というルール以外の縛りはありません。存分にゆらがせましょう。

3提示:2007/01/15(月) 22:13:28
「ダルスカーム」「誤った選択」

4言理の妖精語りて曰く、:2007/01/16(火) 00:25:08
日が暮れようとしていた。
森の中を走っていたダルスカームはふと立ち止まって自分の掌を広げて見た。
「メクセトの旦那が俺を見捨てたのは本当みたいだな。」
手の平には何十本もの皺が刻まれ、肌にツヤはなく、骨は細く心許ない。
彼の実年齢からすれば、これらの兆候は自然なものだ。しかし、
昨日までの彼はその自然から免れていた。彼が第一の主としていた魔人は
配下たるダルスカームに不老の呪をかけていたのである。
第二の主ハルバンデフが死にさえしなければ、彼はもう少しの間若くいられたかもしれない。
ダルスカームはその場に座り込んでそこにあった岩によりかかった。
メクセトの加護が失われたことで、実年齢の重みが徐々に肉体に覆いかぶさってきている。
あれほど軽かった足腰が思うように動いてくれない。これは同年代の男ならみな
寝ている時以外はいつも感じている日常のものだ。だが、年相応の苦労であっても
つい昨日まで壮年の肉体を有していた男にとっては苦しいどころではない。
意識が朦朧としている。迫り来る急激な老いにさらされながら何時間も歩きづめだった。
もう立ち上がる気になれない。今日はこのあたりで夜を過ごさなければなるまい。
「ハァハァ…畜生、馬を乗り捨ててくるんじゃなかった……。」
彼は半日前に後方に置いて来た馬のことを思った。いい馬だった。
そこらの有力者ですら滅多に乗れない名馬だ。そして彼はそれに乗ることを
許された有力者の中の有力者であったのだ。つい昨日までは。
「一つ目巨人の覇王様が死んでくれるなよぉ。」
仕えていた相手に向けてひとりごちた。が、次の瞬間には震え上がって後悔する。
忠義を思い出したわけではない。思い出したのは人界の覇王ならんとする巨人の
姿、眼光、立ち振る舞い。全てにおいて人間離れした地上の魔王の記憶だ。
全てを見透かし、反抗の意思を眼差しだけで摘み取るあの目がダルスカームの脳裏を舐めつくした。
「……でも化け物だよなぁ、でも、人間だったんだよなぁ。」
自分はどんなふうに見られていたのだろう。常に顔を隠し、メクセトから賜った
人間離れした魔力を衆目の前で揮うこともあった。
「魔王の従者くらいには見られていたに違いないよな、うん。
覇王サマがもう少し生き延びて俺にも権限をくれた後で老いぼれてくれたら、
その時ゃむしろ不老で神秘な俺が魔王に適任だ。はは。」

「くだらん、自力で“化け物”になれる男だったら、今お前はここにはいない。」

「誰だ!」突然の声にダルスカームは腰を抜かしそうになった。
どこから発されているのかがわからない。どの方向に首を振ってもそれらしき姿が見当たらない。
それでも声が持つ威圧に対し精一杯の虚勢を込めて大声を張り上げる。追っ手だとしたら、逆に
目にものを見せてやるだけだ。まだ、メクセトの魔力まで失われてはいないはず。
「いや、メクセトばかりの力でないぞ!
俺は自分の意思で余人にはできないことをやってのけた!
一つの部族をメクセトへの贄として、力を得たのだからな!
一人や二人じゃあない。部族ひとつだ!それも俺自身の術でだ!俺一人で全員殺った!
俺の力で得たのだから出所は違っても俺の力であることに変わりはないのだ!」
「お前は殺したくないと思える者を持てなかっただけだ。その努力もしなかった。
そうでなければ、いやしくも同胞を悪魔の餌食に出来るわけが無い。
誤った選択を俺に誇るな。その上に勘違いと驕りを積み上げただけに過ぎぬ人生もな。」
腹が立った。怒りが一瞬で沸点に達した。必殺の呪文をぶつけてやりたい。
だが憎き敵がどこにいるのかわからない。どこを対象とすればいいのか。
迷いが焦りと入り混じり、怒りによってさらに意識が燃え上がる。
「出てきやがれ、大口を叩くくせに出てこれねぇ小心者なのか、お前は!」

「俺は、こうなりたくなかった。」

言葉と共に突き刺すような激しい痛みを感じる。足元の影に何か黒いのたくるものが見えたが、
ダルスカームはそれ以上意識を保つことができなかった。

5提示:2007/01/16(火) 19:05:53
「冬の魔女」「プリエステラ」

6言理の妖精語りて曰く、:2007/01/16(火) 22:54:57
ハイダルマリクのあった場所は、砂漠となり荒れ果てた死の大地となりました。
ですが、そんな土地にも咲く花はあります。

プリエステラ。
「砂漠に咲く花」として有名な、樹木の神レルプレアの加護を受けた霊草です。
薄青の四枚の花弁は大きく、地面の下の根は非常に強靭です。
砂漠の悪環境でも生き残る事が可能なこの草は、雨を効率よく吸収する為にとても広範囲に根を伸ばします。
半径数キロに渡って地下で伸びた根は、降り注ぐ天の恵みを余す所無く受け止めるのです。
ですが、そんなプリエステラにも抗えないものがあります。
それは、寒さです。
砂漠の冬は寒く、厳しい。
悪意を込めるかのような冬の魔女の呪いはプリエステラを蝕み、やがては枯れさせてしまいます。
ですが、それでもプリエステラはまた戻ってきます。
冬の前に花粉を飛ばしたプリエステラは、春になると新たに花を咲かせるのです。
根を深く長く伸ばしたプリエステラは、枯れてしまった前の根を吸収し養分としつつ、すくすくと育ち花を咲かせます。
うっすらと青く、満面の笑顔のような美しい花を。

7投下:2007/01/17(水) 01:26:51
「ラクルラール」「ラヴァエヤナ」

8言理の妖精語りて曰く、:2007/01/21(日) 20:40:33
魔女は、砂浜に佇んでいた。
冬の海、その場所で、静かに、ただ静かに立ち尽くす。
ふと視線を落とせば、小さな花。
青と赤を絶妙な比率で混ぜ合わせたかのような、深みのある紫紺色。
プリエステラ、とその花は呼ばれている。
魔女は花から目を逸らすと一歩を踏み出した。
彼女の名を、コルセスカといった。
コルセスカは海に身を投げるつもりでこの場所へやって来た。
冬の魔女と呼ばれ、迫害された彼女。暴君のつまらぬ悪意と人々の恐怖心が彼女を絶望の淵へ追いやった。
コルセスカは海へ歩む。 裸足が海水に濡れ、その冷たさに身を震わせながら、彼女はそっと、海の中へ頭を突っ込んだ。
彼女は掌を海にあてがった。すると、海は凍りつき、凍り付いた海の中、彼女の頭部は閉じ込められる事になった。
暫くして、凍り付いた海を調べに国の調査団が派遣された。
彼らは海に顔を突っ込んだまま生き絶えている魔女を見つけ、こう叫んだ。

見ろ! あいつは海水を飲み過ぎて死んでしまっているぞ!

9言理の妖精語りて曰く、:2007/01/21(日) 20:41:52
>>8
ごめんプリエステラ適当でごめん。

10題語:2007/01/22(月) 00:55:24
「白トカゲ」「青空」

11mitira:2007/02/05(月) 19:13:39
白トカゲを見たら、龍だと思え。
そう教わって育てられてきた遠雷は、龍殺しになった。
当たり前だが、白トカゲが龍であるわけがない。そもそも龍は爬虫類ですらない。
それでも白トカゲは、そうやって警戒するだけの危険性を持つ。
白色のトカゲは、大気を呪う。
生物を呪うのではない。彼らが呪うのは世界に満ちる空気、大地より上に満ち満ちた、大いなる空。
白トカゲをみると、青空が曇り出すという格言そのままに、彼らは空を呪い汚れた雲を招き寄せる。
そして、その汚れた雲からは、邪悪なる亜龍どもが群を為してやってくる。
白トカゲは、亜龍どもの尖兵なのだ、と遠雷の父は言っていた。
白秦遠雷。 今年で20になる青年は、今日を以って龍殺し見習を卒業した。
遠雷は今からこの旅仙の里を離れ、遠く離れた【砕駆龍】へ旅立つのだ。
九龍家が支配するその地では、数多の龍が跋扈し悪事を働くという。遠雷の住む里では毎年龍殺しが育て上げられ、かの国に派遣される。
遠雷は先立った同胞たちに習い、龍を撃滅する為に存在する。
彼の役割は、尖兵狩り。
白トカゲを狩り、未然に亜龍の襲撃を阻止する。
そのための訓練は積んだ。血の滲むような試練を乗り越え、十年の歳月を経てようやく龍殺しにまで登りつめたのだ。
いよいよここからだ、と遠雷は意気込み、彼方に見える砕駆龍へと旅立った。

12言理の妖精語りて曰く、:2007/02/07(水) 09:01:14
「アレ」「アルセス」

13泥がささやく。:2007/02/07(水) 18:55:51
白秦遠雷は糧食を食べ終えると、座っていた円形の石から腰を上げた。
その石はきれいに加工されており、人工物であることがわかる。
見れば遠雷の周囲には白石の石柱やその他の建材が朽ちたまま転がっている。
これらはかつて僧院だった。遠雷の傍らに倒れた碑には
「アレは問う神、アルセスは答える神。二柱は一なる双子。
交わされる言葉ががふたりを繋ぐ。
アレが問わなければアルセスは答えず、
アルセスが答えなければアレは問いを発しない。」
という文が刻まれている。アレ(在零)とアルセス(在世主)は
汎言音系神話の神々であり、遠雷の向かうサイクロン(災駆龍)では異教の邪神とされる。
なぜなら汎言音の神はサイクロンの敵であるグレンテルヒ(紅蓮照日)族が信奉する神々であるからだ。
とくにアルセスは名前が似ているというかなりいい加減な理由で真鍮魔人アロセスと結び付けられた過去がある。
この真鍮魔人はかなり古い時代から紅蓮照日に関わり、様々な援助をしていたらしい。
アロセスはサイクロンの英雄・熊沢丈児に倒されたが、その直前に恐ろしい呪いをかけ彼を殺してしまった。
不幸なことにそれと同一の存在とされるアルセスは災駆龍人にとって英雄殺しの大悪魔ということになる。
先の戦争で災駆龍人はアレとアルセスに捧げられた神殿や寺院を我先にと破壊し、略奪していった。
もし戦乱がなければ、この僧院も美しい姿で旅人を迎えたのかもしれない。
頼めば異教徒の自分だって宿を借りることができたかもしれない……そう思うと
災駆龍の所業が憎くたらしくなる。白秦遠雷はここ何週間もまともな寝床を得ていない。
進むべき旅路に目を向けると、そこは見渡す限りの平原だった。
住居も無く田畑もなく、まばらに木が生えているだけの光景。だが見飽きた風景の先には
昨日までとは違うきらめきがある。ずっと先にある川が太陽の光を反射しているのだ。
一度深呼吸すると遠雷は歩み出した。

14泥がささやく。:2007/02/07(水) 20:53:48
「落とし穴」「水滴」

15泥がささやく。:2007/03/05(月) 21:13:50
落とし穴は絶対に目の前の穴に相手が落ちる呪い。
ダメージ判定±0。1ターン行動不能。

16泥がささやく。:2007/03/14(水) 23:32:27
「悪魔」「ロノウェ」

17泥がささやく。:2007/03/15(木) 01:24:33
ぴとり、ぴとりと水滴の落ちる音がする。若き族長はとある洞穴の奥で座っていた。
その傍らには、うっすらとした光を放つ霧が漂っている。その霧は人語でもって族長に語りかけていた。
「彼らはお前の部族の戦士たちには及ばないが、だいぶ恐ろしいことをしているな。
盗みをおこない傷害を繰り返し……一生消えない傷を負わせたことも少なくは無い。
彼らとの乱闘で片目を潰された者もいる。若いのに嘆かわしいことだ。」
「とても悪魔の言葉とは思えないね。ロノウェ。」
「何度も言うが、それは『大妖術師』の馬鹿らしい後付けだ。私には本来の名があるのだ。
お前にも伝えたいが、それができないように呪われている。
せめて悪魔とは言ってくれるな。本当はロノウェと呼ばれるのも嫌なのだが……
まぁこの話はここで打ち切ろう。私には彼らを部族の戦士の中に組み込めるとは
思えない。時間をかければ私の力でお前たちの言葉を彼ら全員に教えることは可能だ。
だがな、不安なのだ。いつ喉元の刃となるかわかったものではない、そんな気がする。
言葉が通じたところで既にできてしまったわだかまりが解けるとも思えん。」
「ロノ。試せるものは試さなければならない。彼らを放っておくのはもっと危険だと思うけどね。
まず、食うに困ったら彼らは確実に群盗になる。彼らの乗り物も問題だ。見られるだけならまだしも、
あれがからくり使いのエビ人間どもの手にわたったらロクなことにならない。」
「あの機械を真似て再生産するのは紅蓮照日にも無理だが、手を加えることはできるかもしれないな。
そうでなくともアレは我々の知らないアイデアの宝庫だ……。」
「俺だって災駆龍が危険だと思っている。だからこそ目に届くところに置いておきたいんだ。
それに100人もいないとはいえ、再教育して鍛え上げれば戦力にも……いや、そこまでは期待しないでおくか。」

18泥がささやく。:2007/03/15(木) 11:02:42
「魔王」「勇者」

19泥がささやく。:2007/03/15(木) 22:08:58
『大妖術師』は「勇者」により「魔王」として倒された。
配下たる真鍮魔人どもは大きな力と呪縛を失い、姿を消した。
しかし大妖術師は死に際して最後の呪いを残した。
空の果てから呼び寄せられた暗雲は、大陸を覆い、
天の光を遮った。これから始まる百年間を『暗雲期』という。
常に暗闇、ときに薄明、これでは地の草木は絶えてしまう。
そこで神は雲下に小さな太陽を遣わした。
太陽たちは地上にて子をなし、太陽の子らは王となった。

20泥がささやく。:2007/03/16(金) 16:50:38
「クザリル」「アロセス」

21言理の妖精語りて曰く、:2007/03/16(金) 23:41:35
竜人『紅坐璃流(クザリル)』は魔人矢守(アロセス)との戦いにおいて、納豆の束を用いたと言う。
納豆とは大豆を醗酵させたものであり、食用として普及している。
しかし竜人は納豆を武器として用いた。
異界の妖術を用いる矢守をして梃子摺ったその粘度は後に伝説となり、竜は納豆を好み納豆と親しむという言い伝えが残った。

22泥がささやく。:2007/03/17(土) 12:02:50
二人の人間が灯りを手に暗い通路に踏み込んだ。
その通路の先、縁から光のこぼれる扉を開くと、そこには大量のガラクタが置かれていた。
「その魔導器はこの中にあります。今から持ってきますね。」
そう言うと、年若いほうが部屋の奥に消えていった。
それと同時にもう一方、壮年で大柄な男の体に変化が現れ始めた。
表面が淡く光りはじめ、輪郭がぼやけていく。直立させた海老にも似た形は
失われ、形の無い霧への変じ、そこからまた確固たる別の形へと変容していく。
「これが、ケウィレムがいる領域への門を開く魔導器です。」
年若いほうが肢に分厚い書物を抱えて帰ってきたが、彼もそれに驚くことは無い。
彼の目の前で変容は進む。やがて壮年の男は金ぴかの体と真っ赤な両目を持つ怪物となった。
その体型は人間というよりむしろ、人間の敵たる『アザミの民』や『災駆龍』のそれに近い。
「手間をかけさせてすまない。クザリルよ。」
しかし怪物は目の前の人間の労をねぎらってみせた。
「汎言音の神話にある竜人『紅坐璃流(クザリル)』の伝説、あれは事実だ。
私は魔人矢守としてかつて彼に敗れた。しかし奇遇なものだな。
かつての宿敵と同じ名を与えられた人の子に助けられるとは。」
「今と昔では事情が違います。もしアロセスどのがいなかったら、僕らは今頃、国を失ってます。
ですが、もしこれを試すなら、僕らはあなたを失いかねません。」
アロセスと呼ばれた怪物の顔はまさに金属製の人形のそれであり、元々表情は無い。
だが、そのさらに奥底から、苦々しさを噛みしめるような感情が伝わってくる。
「熊沢丈児は『竜覚』を持つ。そして竜覚を持つものを殺せるのは、竜の力だけだ。
竜の中で竜覚を持つ者を殺す力となり得るのは……追放され、
牙を奪われた者・ケウィレムをおいて他にない。
かつて、ケウィレムはその大罪の報いに全ての牙を抜き取られたという。
牙を失ったケウィレムはそれでも肉を喰らおうと、硬い筋肉や骨を解かす力を発明した。
ケウィレムの力を用いれば、私が死んでもあの熊沢を殺すことができる。
もし用いなければ、私もお前たちも、けしてヤツを殺すことはできない。
竜の力に守られた不死身の戦士のもと、奴らはさらに勢い付くだろう。」
クザリルはもはや言葉を返すことはなく、無言で書物を開いた。そして呪文を唱え始める。
詠唱が進むにつれ、目の前の光景が歪み始めた。やがて黒い炎で縁取られた楕円が形成される。
その楕円の先には、絵の中から切り取ってきたような不毛で禍々しい荒野の風景が広がっていた。
「僕にできるのは、ここまでです。」
「十二分によくやった。私も負けずに頑張らなくてはな。」
こうして真鍮魔人アロセスは悪竜ケウィレムの領域に足を踏み入れた。

23泥がささやく。:2007/03/20(火) 22:07:02
「知恵」「砦」

24泥がささやく。:2007/05/08(火) 13:57:27
『太陽の子ら』の時代に建てられた『知恵の砦』は知識を保存する場であると同時に
危険な知識を無害な知恵に変換する場でもあった。抽象化され神話に変えられたそれは、
解法に近づく者に示唆を与えるにとどまる。それ自体には物語として以外、何の力も持っていないのだ。
砦が生まれた理由は、「残しておくには不安だが、それが存在していたことは憶えていてもらいたい」という
『太陽の子ら』の希望によるものだとも、知恵の先にある知識にたどり着ける者を選別するためだとも言われている。

獅子頭のアロセスは『太陽の子ら』の敵たる真鍮魔人でありながら、『砦』に分け入り
多くの発明にたどりついたと言われる。その産物の数々はグレンテルヒ族に伝わった、
とアザミの伝承は伝える。無論、グレンテルヒ側はそれを虚言であるとして認めていない。

アロセスと砦に関するこの話は、紅蓮照日(グレンテルヒ)以外の地域では「知識は手に入れるを選ばない」例として挙げられるそうである。

25泥がささやく。:2007/05/08(火) 14:07:33
「パンテクウトリ」「名人ならば徒手空拳で獲る」

26泥がささやく。:2007/05/13(日) 01:37:34
「名人ならば徒手空拳で獲る」?
それは全くの誤解です。逆に名人に近づくほど適正な装備は欠かしません。
大人のパンテクウトリのパンチは軽く人間の甲羅を割ってしまうんです。
甲羅にひびが入るだけでも、そこから雑菌が入る可能性がありますから、細心の注意が必要です。
生まれながらにある天然の殻だけでは安全に漁なんてできません。

我々の仕事は罰ゲームでも肝試しでも通過儀礼でもなく、継続して食っていくための営みなのです。

27泥がささやく。:2007/05/13(日) 01:50:04
「呪い」「名前」

28泥がささやく。:2007/05/13(日) 23:46:19
「loveしやがってんの?」「……は?」

29泥がささやく。:2007/05/14(月) 00:04:07
大陸に蔓延る生ける伝説がある。大太刀を引っ提げ、突如現れた狂戦士。
人の鋳型に千の呪いを流し込んだ“それ”の名前は、■■と呼ばれた―――。

30泥がささやく。:2007/05/14(月) 00:08:29
「氷」「松明」

31泥がささやく。:2007/05/14(月) 00:16:19
「loveしやがってんの?」「……は?」
「だから、意味はないってんだろ。素に戻るのはよせよ。
意味が無い状態を保つのがキモなんだからよ。
意味を帯び始めたらloveを捨てて、別の文字列を探さなければならなくなる。
それが―――を語る条件だ。ところでお前、loveってなんだと思う?」
「全然わからないですね。つい今朝から使い始めたばかりですし……。」
「それでいい。わかるようならお終いだ。」

32泥がささやく。:2007/05/14(月) 00:24:04
―――銀の物語、最終章『騎士と魔女』

魔女の腕には、絶対零度の氷血の呪(まじない)
騎士の腕には、神火明光の松明の剣(かむい)
少女は、無言で涙を流し
少年は、無言で剣を抜く。

銀の森の冷たい廃墟の中で、物語は虚ろな終焉へ向かう・・・。

33泥がささやく。:2007/05/14(月) 02:38:39
「墜落」「石」

34泥がささやく。:2007/05/15(火) 23:53:00
石はかつて、空を飛ぶものであった。
岩ほど大きくなると流石に重過ぎて無理が出てくるが
石といわれる程度ならば、その浮力は石を空に連れて行ってくれたのだ。
しかしそこに人類が通りかかったことで、石と空の蜜月は終わりを告げる。
石は一つにまとめて岩としない限りは、浮力を持ち続ける。
その特性に気付いた人間は石を服のポケットにつめて、空を目指した。
その果て、空と天とを隔てる天蓋にまでたどりついた人間たちは、
それでも満足せず、穴を開けてその先に到達しようとした。
すなわち、神によって天を任された小さき太陽たちの領域に。
太陽たちは空より下では摂理の法を自在に設定できるほど強大な存在だったが、
自分たちの坐す天の定めに手を加えることはできなかった。
もし、人間が天に達しようものなら、収拾がつかなくなる恐れがあった。
小さき太陽は合議の結果、「石は岩とならない限り浮遊する」という定めを無くした。
その瞬間、身に石を散りばめ天を目指す人間どもは石とともに墜落した。

35泥がささやく。:2007/05/16(水) 02:37:43
「縁もたけなわ」「装甲縛り」

36泥がささやく。:2007/05/18(金) 00:08:21
縁もたけなわ、私は怪しげな男に縛られることになった。別に変な趣味ではなく、
私もこんなことは望んではいない。だが、その男ディルノラフはなぜか父に気に入られており、
しかも父はどうやら彼を我々兄弟の先生にしたがっているようなのだ。
何の因果か私は運悪く、人間の殻を絶妙に縛り上げることで
(なんかこう力学的に)強度を向上させるという「装甲縛り」の
実験台にされることになってしまった。本人は古代の英雄もこぞってこれを施し、
南方の学院でもその実用性が学問的に証明されているなどと言うが、この山師の言う事に
真実などあるわけもない。
父に気に入られているからといって調子に乗りすぎているのには不快の念を禁じえない。
これが終わったら、この男をひとつ懲らしめる方策を練らねばなるまい。

37泥がささやく。:2007/05/18(金) 10:40:13
「王」「王子」

38言理の妖精語りて曰く、:2007/05/19(土) 00:28:22
あの本に出てくる、妖術にすぐれた偉大なる王、は言わずもがな『大妖術師』のことです。
戦士たる七十一人の王子と一人の王女、は真鍮魔人のことを指します。
ちなみに三人の病弱な王子、というのはアマイモンとコルソンとジミニアルです。
この三人は何かの事情があって真鍮の入れ物に体質か何かが合わなかったらしいんですが、
それが原因でカビた倉庫みたいな薄暗い場所に押し込められていたそうです。
これは物語では「常に暖められた部屋で学問と作法を学び続けることになった」と
記されている部分にあたります。物語ではその後、魔物との戦況が変化したことで王は
三人の王子を引っ張りだすのですが、この時王は彼らに伝書鷹の使用で
戦う兄弟たちを援助せよ、と命じます。自分たちにも金色の鎧が与えられ戦えると
期待してたのに結局やることはこれかよ、という気持ちもわからなくはありません。
しかも彼らはまだまだ若かったのです。それに七十二人の兄弟のひとり(恐らくガープのことです)
は統率力にも優れた戦士であり、なおかつ三人よりも伝書鷹の扱いが達者だったのですから、
わきあがる嫉妬の念とやるせなさははかりしれないものであったでしょう。
それでも彼らは絶対的な王である父の命には逆らえず、渋々ながら受け入れたのでした。

39泥がささやく。:2007/05/21(月) 01:23:21
「お話」「作り方」

401/2 ◆hsy.5SELx2:2007/06/12(火) 22:58:10
>>39
 【穴掘】で有名なアレプフィノだが、最近彼女に関する不思議な話を聞いた。聞いたのが肌寒い曇り空の日だったせいか、話の中の出来事も、そんな薄暗い日に起こったことのような気がする。
 アレプフィノはまだ幼いころから物語を作るのが好きだった。五歳でもう、絵物語を書いては親や友人に見せてまわっていたという。そんな彼女にもスランプはあった。十四歳のとき、長期休暇を利用して書いていた長編小説がどうしても先に進まなくなってしまった。彼女は悩んだ。気分転換に旅行に出てみたりもした。絵を書いて気を紛らわせようとしたが、絵のほうもスランプに陥っていた。文章も絵も全然自分で納得いくものになってくれなかったのだ。食事もろくに喉を通らない日々が続いた。家族は心配したけれど、他人が心配したくらいでどうにかなれば世の芸術家たちは何も苦労しない。長期休暇の残りはむなしくも減っていき、彼女の焦りはどんどん募った。
 その日、たまたま家族は街へ出ていて、家には彼女一人が残った。いつもとはうってかわって静まりかえった居間に立ち尽し、彼女は誰にともなく呟いた。
「神さまでもなんでもいい。誰か、わたしにお話しの作りかたを思い出させてくれるものは居ないかしら」
 そして世界は反転した。華麗なるオーケストラとともに、幼なくもあり、年老いているようでもある、奇妙な女性の声。
「呼んだ? 呼んだ、呼んだよねー。呼んでねえったららんらんらん」
 家具も壁も床さえも消え、あたり一面新品のキャンパスみたいに真っ白。アレプフィノは呆然として目の前の少女を見つめた。
「……あんた、誰?」
「あれれあれれのノエレッテ。あんたがあたしを呼んだのよう。気付いてないとはお馬鹿さん。それとも未来の大天才?」
「あたし、あんたなんか、呼んでない」
「いえいえちゃんと呼んでます。わたしは世界の落書き屋。永劫線からやってきた。全てのものの洗濯屋。いえいえ違うわ選別屋。世界を書きかえお話つくる、めんどくさいけどたまにゃやる」
「お話? お話の作りかたを教えてくれるの?」
 ノエレッテの笑みがにいっと深くなった。
「さあさあそいつはどうでしょう。お話作りのこつとやら。掴むかどうかはあなた次第。あたしに出来るのお手伝い。書いては散らすお手伝い」
「わたし、自分がどうやってお話を書いていたかわからなくなってしまったの。書きたいことは沢山あるのに、いざ文字にすると何か違う気がして」
「おやおやおやっとあたし思う。書きたいことがあるならば。心配無用感無量。たとえばどんなお話を?」
「そうね……例えば、宮殿。美麗な王侯貴族が集まるなか、一人の老人が若い女性に恋をする。でも、老人は自分の気持ちをうちあけられない。だってそうでしょう? 自分はこんなにも醜く、年老いていて。それに……」
 そうこう言う間に彼女の周囲の景色はどんどん変わっていった。まず宮殿が現われ、金銀財宝で飾りたてられた大広間で貴族たちが雑多な会話を始める。そうして壁ぎわにつつましく立つ老人。彼はそっけなさを装って、反対側の壁ぎわにいる少女を眺めていた。
 アレプフィノはあまりのことに目を真ん丸に見開いた。
「なに、これ」
「ここはこれぞの永劫線。全部があって全部無い。つまり結局なんなのか。言葉で切りとるそのままに。どんな世界も現われる」
 貴族も老人も少女も、彼女たちにはまったく気付かずに談笑を続けていた。そんななか、なにか悲痛な決意を表情に湛えて、老人が壁ぎわを離れた。一歩一歩、慎重な足取りで、少女の方へと近づいていく。
 アレプフィノは頭ががんがんするような違和感を感じて叫んだ。
「やめて!」
 その瞬間、渦に吸いこまれるようにして全てが消えた。ノエレッテは楽しそうに笑った。
「おやおやおやっとおかしいな。あなたが望んだこの世界。書こうと思ったこの世界。なにか問題ありましたー?」
「わたしが書きたいのは、こんな陳腐な恋物語じゃないの。そりゃ、みんなはこういう話、喜ぶと思うけど、違うの……」
「ふむふむなるほどもっともだ。それでは今度はどうします? どんな世界も望むまま。便利楽しい永劫線」

412/2 ◆hsy.5SELx2:2007/06/12(火) 22:58:45
「そうね……」
 アレプフィノは、今度は慎重に考えた。
「ひとりの小説家が、辺鄙な村に住んでいるの。その小説家は自分のことを小説に書くのだけど、どんなに写実的に書こうとしても、文章と現実の間に齟齬が生じる。その齟齬を生めようとして彼は色んな人のもとを訪ねまわるのだけど、そのうちに現実と小説の区別が曖昧になっていって……」
 再び、めまぐるしく景色が変わった。枯れた草の匂いがする畑がどこまでも続く。みすぼらしい家がまばらに立ちならぶ。村人はみな疲れた表情をしていながらも、憂鬱という風ではない。こういうものだと諦め、割り切っている。一軒の、とりわけみすぼらしい家の中へと場面は変わる。ろくでもない風体の男が机に向かって頭を抱えている。その内、男の家のなかには猫や竜が消えたり現れたり、その度に男はわけのわからないことを呟いたり、哲学的な思索を延々とノートに書きつけたり。
 アレプフィノは再び頭が痛むのを感じた。叫んだ。
「違う、違うわ!」
 そうしてまた、景色はみんな渦に飲まれて消えさった。まだらな色が染みついたキャンパスみたいな平板な景色だけが残った。
「おやおやおやっとこれも違う。一体全体どうしたの? なにか問題ありました?」
「わたしが書きたいのは、こんな小難しいだけで何の面白みもないような話じゃないの。そりゃ、こういうのを好む人もいるのはわかるけれど……」
「ふむふむなるほどもっともだ。さてはてこいつは困ったね。それじゃあ一つお試しに。あなたの心を映しましょう」
「え?」
 彼女がなにかまともなことを答える暇もなく、「それ」は始まった。
 風景。彼女がいままで暮らしてきた家がキャンパスに立ちあらわれる。失恋の記憶。初恋の少年。文字列がぐるぐると頭の周りを飛びかう。猫の姿を想像。そいつが鼻から口へにゃんと抜ける。祖父が死んだとき、魂のことを考えた。魂は彼女の足もとでぐずぐず泣いた。景色は空へと変わる。空へ落ちれたら素敵かな、なんて考えた瞬間もう墜落している。ぶよぶよの空で身体が跳ねた。アルセスってかっこいいのかな。アルセスが笑いかけた。そっと誰かの頬を撫でた。あれは誰? ああそうか。文字は炎竜みたいに火を吹く。家が燃えて、学校。男の子が使える魔法、そう、そういうこと……。
 景色はあとからあとから、まるで頭の中を全部塗りつぶすくらいの勢いでやってきて、段々アレプフィノはわけがわからなくなってきた。そのくせ全部わかったような気がした。脳味噌を全部ぶちまけて目の前に広げられ、それを凄い勢いで飲みこみ直していた。つまり、そういうことだと、わかったのかわかっていないのかもわからない頭でアレプフィノは考え、気付いたときにはもう、もとの居間に戻っていた。
「……あれ?」
 景色はいつもとなんら変わりない。ノエレッテとか名乗る変な女も消えていた。あれはわたしの幻覚だったのだろうか。そもそもノエレッテとはキュトスの魔女の名前ではなかったろうか。ぼんやりとそう考えたけれど、それどころではなかった。
「……なんだ、そんなことか」
 先程の記憶は早くも薄れ始めていたけれど、そんなことは本当にどうでもよかった。彼女は全速力で走って自室に戻り机の前に座ると、もの凄い勢いでペンを動かし始めた。
 書きながらも彼女は「つまり、そういうことだ」と呟いてみた。結局のところわたしはわたしの頭の中にある以上のものを生みだすことなんて出来やしないのだ。馬鹿みたいだ。そんなら、わたしはわたしの読みたいものだけ書いてやる。
 そうしてこのとき書きあげたアルセスと「三兄弟」との濃厚なカラミのシーンが、のちの【穴掘】の原型となったという。

 本当かどうかは、わからないけれども。

42泥がささやく。:2007/06/13(水) 22:11:41
「ガロアンディアン」「あなた誰?」

43泥がささやく。:2007/06/14(木) 21:31:43
「今日はガロアンディアンの歴史をお勉強しますよー」
スースー
「あら、セラティスちゃん?寝ているの?」
「ふははははは我は虚無の王女セラティスなり!」
「寝言いってないで起きましょうねー」
「我が虚ろな魂の鼓動は太鼓の連打が如く!心臓もバクバク」
「お〜い」
「愚民共めが、平伏せ、そして崇めよ!」
「おきなさ〜い」
「ドミナントバスター!」
「・・・ぐすん いいもんいいもん」
「で、結局あなた誰?」

44夜辻の影がささやく。:2007/06/17(日) 23:23:02
「ゲシュタルト」「グルメ」

45夜辻の影がささやく。:2007/08/31(金) 05:20:06
>>44その1

  ゲシュタルトが自我というものについて考えるようになったのは、自分の名前の由来を父親に尋ねたときからだった。
 発掘現場の監督を務めていた父は、ゲシュタルトにこう語った。
「あれは俺が十代のころ、まだ人類型発掘重機すら普及してなかったころだ。あの頃の発掘現場は、原始的な作業機械がデカイ顔して現場に鎮座していてな、今とは作業のスピードも能率も段違いに劣っていやがった。まあ、それでも毎日を汗水垂らして働いていた俺たち穴掘り師のおかげで、ときにはすごいモンが発掘されることもあったさ。お前のイカした名前も、そうやって発掘されたものさ」
 ――発掘現場から発見されるモノ。それは用途不明の古代のガラクタであったり、不定形のエネルギーの塊であったり、生きた魔女であったり、朽ちた死屍であったりする。さらには、伝説級の発掘現場であれば、神そのものが発掘されることもあるといわれている。
 当時、まだ単なる作業現場員であったゲシュタルトの父親が発掘したもの、――それは、名前だった。
「こんくらいの」父親は自分の顔ほどの長方形を両手でえがいて、ゲシュタルトに示した。「大きさの石板だった。まだ駆け出しもいいとこだった俺は、飛び上がって喜んだな。ついに自分も神話の遺物を発掘したんだ! とな」
 日焼けた顔に生えた不精髭をなでながら、父親は大きく口を開けて笑った。ゲシュタルトは早く話の先が聞きたいと、父親に続きを促した。
「うん、それで、その石板には文字が書いてあったんだが、まあ、古代文字なんて俺に読めるわけがない。だが、大人しく現場の監督に渡しちまったら俺がそこに書かれた意味を知る機会は永遠に消えちまう。そこで俺は、その石板をこっそりと現場から持ち帰る決心をした」
 そんなことをして大人に怒られなかったのか、とゲシュタルトが聞くと、父親は「そりゃ怒られただろうさ! 見つかったらの話だけどな」と言った。
「監督にバレればクビは免れなかっただろうが、あの時は俺も若かったからな」
 ――そして彼は、石板を誰にも知られずに現場から持ち出すと、幼馴染の住む家へと向かった。彼女は彼と同じくまだ若かったが、熱心な勉強家で、特に古代文字についてはある程度までなら読み解くことができた。
「彼女は天才だったね。そして街一番の美人だった。――勿論、今では彼女は、お前の母親であり、俺の自慢の女房ってわけだ。つまるところだな、これは俺たち夫婦のプロポーズの話でもあるわけだ!」
 話の中心がずれてきたことをゲシュタルトは心配したが、上機嫌で昔話を語る父親に文句を言うのも気が引けた。結局、ゲシュタルトは大人しく父親の話の続きを待つことにした。
「それで、彼女の家へとやってきた俺は、彼女にこう言ったんだ――」

46夜辻の影がささやく。:2007/08/31(金) 05:24:54
>>44その2

 ――彼女の家の扉を叩きながら、俺は言った。
「とびっきりのプレゼントを持ってきたぜ!」
 …………扉が開いて、彼女が俺を出迎えてくれた。発掘作業から飛んできた俺の姿(泥と煙でひどい姿になっていた)を見て、彼女は開口一番にこう言った。
「家の中が汚れるから出て行って!」
 ……その日は、大人しく帰ったよ。その仕打ちで現場で覚えた興奮もどっかに行っちまったからな。ただし、例の石板だけは窓越しに渡しておいた。明日またやってくるから、できるなら今夜にでも読んでみてくれ、って言葉と一緒にな。
 やっぱりその時は大発見に舞い上がっていたんだろうな。一晩で古代文字の内容を解読するだなんて、いくら彼女でも簡単なことじゃない。翌日になってそのことに気づいた俺は、あまり期待せずに彼女の家を改めて訪ねた。勿論、今度は仕事場から一旦、家に帰ってからだ。
 扉をノックして彼女の返事を待とうとすると、驚いたことに一秒と経たずに扉が開いたんだな。そして目の前には、興奮が抑えきれないといった様子の彼女が立っていた。
「そんなとこで何突っ立っているの? 早く家の中にあがんなさいよ!」
 うん。お前の母さんは好きなものが目の前にあると目の色が変わっちまう人種なんだな。ただし、この時は俺じゃなくて石板に夢中だったわけだが。
 部屋に通された俺に、彼女は一方的に話しかけた。
「貴方は奇跡的な大発見をしたのよ! あれだけ複雑な学問、というより哲学が人類史以前にあった証拠はまだどこでも発見されてないわ! 私にはあれに書かれた全てが理解できるわけじゃないけど、でもとても思慮深くて、聡明な学者が残したものに違いないわ。貴方にも分かるように説明するとね、つまり複雑な人類の精神を要素に分解して解明しようとしていた従来の考え方とは根本的に違って、全体性や構造性こそ人類を理解するうえで欠かすことのできない重要な概念ということが、この小さな石板一枚に書かれているのよ。固有名詞や細かい語感なんかはまだぶれてるんだけど、大まかな文章の主旨はそんなところよ。これが世に発表されたら、目をひんむくほどに驚く学者が何千といるわ」
 というか、固有名詞や語感があやふやなのに、そこまで読み取れるキミのほうこそすごい奴だな、と俺は思ったし、そのまま素直に彼女に言ってみた。彼女は大したことでもないように、「解読ってのは勘が九割、知識が一割の作業だから」と言ったものだ。お前の母さんは昔から天才だった。
 それから俺と彼女は、この石板をどうするかについて話し合ったが、これは簡単に二人とも納得する結論が出た。俺が明日の発掘作業のときに、改めてあの石板を発見したフリをすることにした。この大発見が世に知られることと、俺が発掘品を無断で持ち出した事実の隠蔽を同時に達成できるってわけだ。
 そしてその話し合いが一段落したところで、彼女が思い出したように言った。
「そうそう、実はこの石板の裏側には全然別のことが書いてあったの」
 彼女はなぜか俺の顔を見てにこにこし始めた。美人の彼女に笑顔を向けられて、そりゃあ俺だって悪い気分じゃなかったが、理由もわからずにこにこされるのも変な感じがするもんだ。俺は聞いたよ、石板の裏側に何が書いてあったのか、ってな。
「ちょっとまってて」
 そう言って、彼女は奥へと引っ込んでいった。
 待つこと数分。
 彼女は鍋を抱えて部屋へと戻ってきた。

47夜辻の影がささやく。:2007/08/31(金) 05:25:55
>>44その3

「お待たせ」
「そ、それはなんだ?」
 俺の声が震えていたのは、それが明らかに彼女の手料理だったからだ。学問一筋に生きる彼女は、その頭脳とは反比例して、極度の味音痴だった。幼馴染のよしみでよく手料理をご馳走になっていた俺は、そのことを誰よりも知っていた。
「あのね、不思議なことなんだけど、石板の表側には哲学について、裏側には、たぶん美食って意味の単語と、なぜかシチューのレシピが書いてあったんだ。さすがに人類史以前のレシピだけあって、足りなかたり正体不明の材料とかが書いてあったけど、そこは私の想像力を駆使して適当にそこらへんにあったモノで間に合わせたから。ね、いいものを持ってきてくれた貴方に、最初に味見してほしいんだ!」
 彼女にとっては、これは最大級のお礼なんだろうな。ああ、しかし、俺は彼女の殺人級の料理の腕を知っていた……。
「私さ」俺の心を知ってか知らずか、彼女はシチューを皿につぎながら、予想もしていなかったことを言った。「貴方がよろこんでくれる料理が作れるようになったら、貴方にプロポーズしようと思ってたんだ。本当はね、石板の表に書かれたことよりも裏に書かれたことを解読できたときのほうが嬉しかった。これでやっと、貴方にプロポーズできる料理が作れるぞ、って」
 そんなことをうっとりとした優しい眼差しで言われちまったら、男として後には引けないってもんだ。
 彼女が俺の前に置いてくれたシチューを見て、大きくつばを飲み込んだ。どす黒いスープの色と、鼻をつんとつく辛い匂いが命の危険を知らせてきたが、覚悟を決めた俺はスプーンをシチューに運ぶとともに、正面に座る彼女に無理に微笑んで、そして、――食った。
「おいしい?」
「おいしいよ」
「よかった。――ねえ、結婚しよ?」
 俺は勿論、頷いた。
 だらこそ、お前が今ここにいるわけだ。
 ん、そのときのシチューの味?
 ――そんなもの、プロポーズされた瞬間には忘れちまったよ。

 ……こうして長い昔話を経て、ゲシュタルトは自分が生まれるきっかけとなる挿話を知ったのだった。
 ただ、自分の最初の質問がないがしろにされていたことには少し傷ついた。そして、もう一度同じ質問を父親に聞いてみた。
「ああ、お前の名前の由来だったな。話の途中に出てきた、石板の表側に書かれてた学問の中にな、お前の名前が出てくるんだよ」
 全体性を備えた形態、という意味が自分の名前に込められているとゲシュタルトは知った。
 ゲシュタルトは自分の出自について、二重の知識を得たのだった。自分が生まれるきっかけとなる出来事と、自分を表す記号としての意味を。
 それ以来、ゲシュタルトは自我というものについて考えるようになった。それは自分一人について考えることだけでなく、自分の出自から、自分をとりまく世界そのものを俯瞰するように考える思索だった。全体性を持つことこそが、自分であると、ゲシュタルトは自然にそう考えるようになったのだった。しかし、それはまた別の話である。
「――さあ、話はこれでおしまいだ」父親はゲシュタルトにそう言って立ち上がると、家の中を食堂へと移動した。
「そろそろ晩飯だな。母さんの美味いシチューをはやく食いたいだろう?」
 ゲシュタルトは父親の言葉に頷きながら、それにしても、と思った。
 自分の出自が、ゲシュタルトという言葉と、グルメという言葉が表裏に刻まれた奇妙な石板によって作られていたなんて考えもしなかった。
 世界というのは不思議なものだと、子供心に彼は感じていた。

48夜辻の影がささやく。:2007/10/27(土) 23:35:34
「電線」「蟻の子」

49夜辻の影がささやく。:2007/10/28(日) 16:03:04
彼らの用いる言語には、音声が無い。
マーブラーミグが生み出した無限砂漠とその地下王国に住まうのは、蟻の子たちの楽園。
神の眷属にして昆虫の王者たる蟻の子(アリノス)種族は、緩やかな衰退を迎えている。

高度に発達した魔法は科学と区別が付かない。
白は静かに呟いたものだ。
一方の黒はそうは思わぬと主張する。
例えばこの円形刻印。アリノスたちの生活を保全し、安全を確保する生命維持機構。
これはあきらかなる魔的術式である。
しかしと白は呟く

この過剰なまでに天に張り巡らされた電線。これは科学文明の結晶ではあるまいか。

円形の国であった。マーブラーミグは円形の魔術を好む。象形の魔。模った円をドルネスタンルフより借り受け、国土を円形とすることで完成したその地下国家は魔術王国サークルスフィア。

円には意味がある。鉄球。砲弾。投石。戦争において円は武器。球形は兵器。
黒の主張にはこの国の発展の基礎が円によるものだという厳然とした事実に基いたものだ。
だが、今現実にこの国は破滅の時を迎えようとしている。
女王蟻であるマーブラーミグはとうの昔に反逆者によって斃された。
今は朽ち掛けの老兵たちが死を待つばかりという時に顕れた新たな統治者、円形書架の魔女と蟻の姫は風統べる魔女王によって討伐された。

衰えたる魔術に替わる力として、白は人の科学を持ち出した。黒は反対したが、押し切られた。地天と地中を繋ぐ高層ビルディング。三次元的に入り乱れる電線。水道が引かれ、インフラが次々と整っていく。
しかし都市の発展とは無関係にアリノスたちは衰退していく。
不可避の運命だ。白は呟く。
お前の方針が失敗しただけだ。黒は叫ぶ。政策の転換を図ればまだ立て直しは可能だ!!

必然だ。いずれにせよ崩壊を免れる事は叶わない。
白は諦観の色だ。
黒は希望の色だ。

彼らは、そうして色彩で言葉を交わす。
色彩だけが、彼らの意思を表すのだ。

50土中の種子がささやく。:2008/02/04(月) 23:59:25
「女王蟻」「世界の終わり」


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