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二題噺スレ。

401/2 ◆hsy.5SELx2:2007/06/12(火) 22:58:10
>>39
 【穴掘】で有名なアレプフィノだが、最近彼女に関する不思議な話を聞いた。聞いたのが肌寒い曇り空の日だったせいか、話の中の出来事も、そんな薄暗い日に起こったことのような気がする。
 アレプフィノはまだ幼いころから物語を作るのが好きだった。五歳でもう、絵物語を書いては親や友人に見せてまわっていたという。そんな彼女にもスランプはあった。十四歳のとき、長期休暇を利用して書いていた長編小説がどうしても先に進まなくなってしまった。彼女は悩んだ。気分転換に旅行に出てみたりもした。絵を書いて気を紛らわせようとしたが、絵のほうもスランプに陥っていた。文章も絵も全然自分で納得いくものになってくれなかったのだ。食事もろくに喉を通らない日々が続いた。家族は心配したけれど、他人が心配したくらいでどうにかなれば世の芸術家たちは何も苦労しない。長期休暇の残りはむなしくも減っていき、彼女の焦りはどんどん募った。
 その日、たまたま家族は街へ出ていて、家には彼女一人が残った。いつもとはうってかわって静まりかえった居間に立ち尽し、彼女は誰にともなく呟いた。
「神さまでもなんでもいい。誰か、わたしにお話しの作りかたを思い出させてくれるものは居ないかしら」
 そして世界は反転した。華麗なるオーケストラとともに、幼なくもあり、年老いているようでもある、奇妙な女性の声。
「呼んだ? 呼んだ、呼んだよねー。呼んでねえったららんらんらん」
 家具も壁も床さえも消え、あたり一面新品のキャンパスみたいに真っ白。アレプフィノは呆然として目の前の少女を見つめた。
「……あんた、誰?」
「あれれあれれのノエレッテ。あんたがあたしを呼んだのよう。気付いてないとはお馬鹿さん。それとも未来の大天才?」
「あたし、あんたなんか、呼んでない」
「いえいえちゃんと呼んでます。わたしは世界の落書き屋。永劫線からやってきた。全てのものの洗濯屋。いえいえ違うわ選別屋。世界を書きかえお話つくる、めんどくさいけどたまにゃやる」
「お話? お話の作りかたを教えてくれるの?」
 ノエレッテの笑みがにいっと深くなった。
「さあさあそいつはどうでしょう。お話作りのこつとやら。掴むかどうかはあなた次第。あたしに出来るのお手伝い。書いては散らすお手伝い」
「わたし、自分がどうやってお話を書いていたかわからなくなってしまったの。書きたいことは沢山あるのに、いざ文字にすると何か違う気がして」
「おやおやおやっとあたし思う。書きたいことがあるならば。心配無用感無量。たとえばどんなお話を?」
「そうね……例えば、宮殿。美麗な王侯貴族が集まるなか、一人の老人が若い女性に恋をする。でも、老人は自分の気持ちをうちあけられない。だってそうでしょう? 自分はこんなにも醜く、年老いていて。それに……」
 そうこう言う間に彼女の周囲の景色はどんどん変わっていった。まず宮殿が現われ、金銀財宝で飾りたてられた大広間で貴族たちが雑多な会話を始める。そうして壁ぎわにつつましく立つ老人。彼はそっけなさを装って、反対側の壁ぎわにいる少女を眺めていた。
 アレプフィノはあまりのことに目を真ん丸に見開いた。
「なに、これ」
「ここはこれぞの永劫線。全部があって全部無い。つまり結局なんなのか。言葉で切りとるそのままに。どんな世界も現われる」
 貴族も老人も少女も、彼女たちにはまったく気付かずに談笑を続けていた。そんななか、なにか悲痛な決意を表情に湛えて、老人が壁ぎわを離れた。一歩一歩、慎重な足取りで、少女の方へと近づいていく。
 アレプフィノは頭ががんがんするような違和感を感じて叫んだ。
「やめて!」
 その瞬間、渦に吸いこまれるようにして全てが消えた。ノエレッテは楽しそうに笑った。
「おやおやおやっとおかしいな。あなたが望んだこの世界。書こうと思ったこの世界。なにか問題ありましたー?」
「わたしが書きたいのは、こんな陳腐な恋物語じゃないの。そりゃ、みんなはこういう話、喜ぶと思うけど、違うの……」
「ふむふむなるほどもっともだ。それでは今度はどうします? どんな世界も望むまま。便利楽しい永劫線」


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