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二題噺スレ。

46夜辻の影がささやく。:2007/08/31(金) 05:24:54
>>44その2

 ――彼女の家の扉を叩きながら、俺は言った。
「とびっきりのプレゼントを持ってきたぜ!」
 …………扉が開いて、彼女が俺を出迎えてくれた。発掘作業から飛んできた俺の姿(泥と煙でひどい姿になっていた)を見て、彼女は開口一番にこう言った。
「家の中が汚れるから出て行って!」
 ……その日は、大人しく帰ったよ。その仕打ちで現場で覚えた興奮もどっかに行っちまったからな。ただし、例の石板だけは窓越しに渡しておいた。明日またやってくるから、できるなら今夜にでも読んでみてくれ、って言葉と一緒にな。
 やっぱりその時は大発見に舞い上がっていたんだろうな。一晩で古代文字の内容を解読するだなんて、いくら彼女でも簡単なことじゃない。翌日になってそのことに気づいた俺は、あまり期待せずに彼女の家を改めて訪ねた。勿論、今度は仕事場から一旦、家に帰ってからだ。
 扉をノックして彼女の返事を待とうとすると、驚いたことに一秒と経たずに扉が開いたんだな。そして目の前には、興奮が抑えきれないといった様子の彼女が立っていた。
「そんなとこで何突っ立っているの? 早く家の中にあがんなさいよ!」
 うん。お前の母さんは好きなものが目の前にあると目の色が変わっちまう人種なんだな。ただし、この時は俺じゃなくて石板に夢中だったわけだが。
 部屋に通された俺に、彼女は一方的に話しかけた。
「貴方は奇跡的な大発見をしたのよ! あれだけ複雑な学問、というより哲学が人類史以前にあった証拠はまだどこでも発見されてないわ! 私にはあれに書かれた全てが理解できるわけじゃないけど、でもとても思慮深くて、聡明な学者が残したものに違いないわ。貴方にも分かるように説明するとね、つまり複雑な人類の精神を要素に分解して解明しようとしていた従来の考え方とは根本的に違って、全体性や構造性こそ人類を理解するうえで欠かすことのできない重要な概念ということが、この小さな石板一枚に書かれているのよ。固有名詞や細かい語感なんかはまだぶれてるんだけど、大まかな文章の主旨はそんなところよ。これが世に発表されたら、目をひんむくほどに驚く学者が何千といるわ」
 というか、固有名詞や語感があやふやなのに、そこまで読み取れるキミのほうこそすごい奴だな、と俺は思ったし、そのまま素直に彼女に言ってみた。彼女は大したことでもないように、「解読ってのは勘が九割、知識が一割の作業だから」と言ったものだ。お前の母さんは昔から天才だった。
 それから俺と彼女は、この石板をどうするかについて話し合ったが、これは簡単に二人とも納得する結論が出た。俺が明日の発掘作業のときに、改めてあの石板を発見したフリをすることにした。この大発見が世に知られることと、俺が発掘品を無断で持ち出した事実の隠蔽を同時に達成できるってわけだ。
 そしてその話し合いが一段落したところで、彼女が思い出したように言った。
「そうそう、実はこの石板の裏側には全然別のことが書いてあったの」
 彼女はなぜか俺の顔を見てにこにこし始めた。美人の彼女に笑顔を向けられて、そりゃあ俺だって悪い気分じゃなかったが、理由もわからずにこにこされるのも変な感じがするもんだ。俺は聞いたよ、石板の裏側に何が書いてあったのか、ってな。
「ちょっとまってて」
 そう言って、彼女は奥へと引っ込んでいった。
 待つこと数分。
 彼女は鍋を抱えて部屋へと戻ってきた。


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