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二題噺スレ。

4言理の妖精語りて曰く、:2007/01/16(火) 00:25:08
日が暮れようとしていた。
森の中を走っていたダルスカームはふと立ち止まって自分の掌を広げて見た。
「メクセトの旦那が俺を見捨てたのは本当みたいだな。」
手の平には何十本もの皺が刻まれ、肌にツヤはなく、骨は細く心許ない。
彼の実年齢からすれば、これらの兆候は自然なものだ。しかし、
昨日までの彼はその自然から免れていた。彼が第一の主としていた魔人は
配下たるダルスカームに不老の呪をかけていたのである。
第二の主ハルバンデフが死にさえしなければ、彼はもう少しの間若くいられたかもしれない。
ダルスカームはその場に座り込んでそこにあった岩によりかかった。
メクセトの加護が失われたことで、実年齢の重みが徐々に肉体に覆いかぶさってきている。
あれほど軽かった足腰が思うように動いてくれない。これは同年代の男ならみな
寝ている時以外はいつも感じている日常のものだ。だが、年相応の苦労であっても
つい昨日まで壮年の肉体を有していた男にとっては苦しいどころではない。
意識が朦朧としている。迫り来る急激な老いにさらされながら何時間も歩きづめだった。
もう立ち上がる気になれない。今日はこのあたりで夜を過ごさなければなるまい。
「ハァハァ…畜生、馬を乗り捨ててくるんじゃなかった……。」
彼は半日前に後方に置いて来た馬のことを思った。いい馬だった。
そこらの有力者ですら滅多に乗れない名馬だ。そして彼はそれに乗ることを
許された有力者の中の有力者であったのだ。つい昨日までは。
「一つ目巨人の覇王様が死んでくれるなよぉ。」
仕えていた相手に向けてひとりごちた。が、次の瞬間には震え上がって後悔する。
忠義を思い出したわけではない。思い出したのは人界の覇王ならんとする巨人の
姿、眼光、立ち振る舞い。全てにおいて人間離れした地上の魔王の記憶だ。
全てを見透かし、反抗の意思を眼差しだけで摘み取るあの目がダルスカームの脳裏を舐めつくした。
「……でも化け物だよなぁ、でも、人間だったんだよなぁ。」
自分はどんなふうに見られていたのだろう。常に顔を隠し、メクセトから賜った
人間離れした魔力を衆目の前で揮うこともあった。
「魔王の従者くらいには見られていたに違いないよな、うん。
覇王サマがもう少し生き延びて俺にも権限をくれた後で老いぼれてくれたら、
その時ゃむしろ不老で神秘な俺が魔王に適任だ。はは。」

「くだらん、自力で“化け物”になれる男だったら、今お前はここにはいない。」

「誰だ!」突然の声にダルスカームは腰を抜かしそうになった。
どこから発されているのかがわからない。どの方向に首を振ってもそれらしき姿が見当たらない。
それでも声が持つ威圧に対し精一杯の虚勢を込めて大声を張り上げる。追っ手だとしたら、逆に
目にものを見せてやるだけだ。まだ、メクセトの魔力まで失われてはいないはず。
「いや、メクセトばかりの力でないぞ!
俺は自分の意思で余人にはできないことをやってのけた!
一つの部族をメクセトへの贄として、力を得たのだからな!
一人や二人じゃあない。部族ひとつだ!それも俺自身の術でだ!俺一人で全員殺った!
俺の力で得たのだから出所は違っても俺の力であることに変わりはないのだ!」
「お前は殺したくないと思える者を持てなかっただけだ。その努力もしなかった。
そうでなければ、いやしくも同胞を悪魔の餌食に出来るわけが無い。
誤った選択を俺に誇るな。その上に勘違いと驕りを積み上げただけに過ぎぬ人生もな。」
腹が立った。怒りが一瞬で沸点に達した。必殺の呪文をぶつけてやりたい。
だが憎き敵がどこにいるのかわからない。どこを対象とすればいいのか。
迷いが焦りと入り混じり、怒りによってさらに意識が燃え上がる。
「出てきやがれ、大口を叩くくせに出てこれねぇ小心者なのか、お前は!」

「俺は、こうなりたくなかった。」

言葉と共に突き刺すような激しい痛みを感じる。足元の影に何か黒いのたくるものが見えたが、
ダルスカームはそれ以上意識を保つことができなかった。


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