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邪気眼少女の攻略法。
311
:
心愛
:2013/03/05(火) 17:00:41 HOST:proxyag109.docomo.ne.jp
>>ピーチ
………ぇ(゚_゚)………?
いやいやいやそんなことぜんっぜんないよ!
つい自分と真逆の容姿のキャラを作ってしまうんだよ…。
ピーチこそ可愛い子だと思うよ!
312
:
ピーチ
:2013/03/10(日) 17:18:14 HOST:EM49-252-15-7.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>
うっそだぁー!
でも分かる自分可愛くないからつい真逆に…みたいな!
ぜんっぜん可愛くないぞ多分顔見れたらその瞬間に失望するぞ!←何からだ
313
:
心愛
:2013/03/10(日) 19:11:33 HOST:proxyag118.docomo.ne.jp
>>ピーチ
…うーん、ここあの顔面レベルはヒナの自己評価と近いかも←
どうせ地味ヅラですが何か?(逆ギレ)
だからか、オーラばりばりの華やかな子を多く書いちゃうんだよねー(つд`)
ピーチは可愛いよ!
ここあが保証するわ、会ったことないけど!
だっていい子だもん!
314
:
たっくん
:2013/03/11(月) 10:16:17 HOST:zaq31fa58ac.zaq.ne.jp
>>1
さん
糞スレ終了ですよ
糞ですよ糞
私に小銭を払ってとっとと去りなさい
315
:
ピーチ
:2013/03/12(火) 14:46:53 HOST:EM1-114-198-155.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>
いやあたしの場合ヒナさんの自己評価以下ですから!
どーせブスですから!←
オーラばりばりもいいけどあたしは控えめ且つおっそろしい美人を作っちゃうw
316
:
心愛
:2013/03/12(火) 18:53:09 HOST:proxy10066.docomo.ne.jp
>>ピーチ
大丈夫それはない!
…あ、ここあはむしろレイさんかも! 地味具合が!
恐ろしい美人…天音ちゃん系?
317
:
ピーチ
:2013/03/13(水) 05:02:39 HOST:EM114-51-28-190.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>
いやまさか!
だってあたし同学年の男子に嫌われてるんですぞ? わーい←
天音は恐ろしい美人の代表格かもw
318
:
心愛
:2013/03/13(水) 22:03:11 HOST:proxy10010.docomo.ne.jp
>>ピーチ
思春期なんだよ、きっとみんなシャイなんですよw
ほら、ほんとに可愛い子よりノリよくて雰囲気が可愛い子の方がモテる時期だしね(なにげにひでぇ
天音ちゃん!
クールビューティー!
319
:
ピーチ
:2013/03/15(金) 05:48:40 HOST:EM49-252-224-96.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>
シャイも何もないのがうちのクラスなの!
可愛くなくてノリ悪いクラスの浮き者ですw←
天音はクールビューティだよね! 見た目は!
320
:
心愛
:2013/03/16(土) 11:08:15 HOST:proxy10068.docomo.ne.jp
>>ピーチ
ピーチはきっと自己評価が低いんだよ!
み、見た目は!?(笑)
321
:
ピーチ
:2013/03/16(土) 20:52:42 HOST:EM114-51-179-122.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>
低くないよ! ちゃんと自分をわきまえてるよ!
見た目はなの! あたしのキャラはみんな!←
322
:
心愛
:2013/03/16(土) 23:02:35 HOST:proxyag051.docomo.ne.jp
『デート……?』
約束の日曜日。
照りつけるような夏の日差しが眩しい駅の広場に到着した俺は、自分の格好がおかしくないかもう一度チェックする。
メールのやり取りで決めた待ち合わせの時間までかなり余裕はあるけれど、時間を潰すのもそろそろ限界だった。
何しろいつもより数時間早く目が覚めてしまい、無意味に自分の部屋を右往左往してみたりと家にいてもなんだかそわそわ落ち着かなくて、彩に気取られないうちにさっさと外に出掛けたはいいものの駅に着いてしまったのが待ち合わせ三時間前で、どうせだったらと『行きたいところ』にちょうどいいような良さげなレストランを見て回り、それでも時間が余ったから本屋にぶらりと立ち寄って適当に物色して、それもはっと気づいたら手に持って立ち読みしていた雑誌が『今熱い! イチ押しデートスポット特集』だったりして、落ち着けってデート違うだろバカ! 俺のバカ! と一人ツッコミを入れてみたりしていたのだから。
……こうやって冷静に回想してみると、なんか無性に恥ずかしくなってきた。
何やってんだよ俺。これだから彩にヘタレヘタレ言われるんだよ、ったく。
気温のせいとはまた違う要因で火照る頬をぺちぺち叩きながら歩き、目印である銅像の前に辿り着く。
時間になるまでベンチに座って待っていようかと思ったいたのだけれど、そこにはすでに先客がいた。
―――さら、と絹鳴りを思わせる音が小さく響く。
ベンチの隅にちょこんと座っていたのは、黒蜜みたいに艶やかで、濡れたように煌めく髪を持つ女の子。
優しく淡い色合いのラベンダーとピンクが愛らしい、細かい花柄のトップスの上に羽織っているのは華奢なレースつきの透けるカーディガン。
ふわふわフリルたっぷりで、花びらみたいに広がるピュアホワイトのミニスカートからは、刹那的な儚さのある、病的にまでに細く白い脚が伸びていた。
……たとえ顔が見えなくとも、凛と冴えた雰囲気を持つ彼女は明らかに、そこらの人間とは一線を画する美人だった。
道行く人が皆振り返り、見惚れるのが分かる。
チェーンバッグを膝の上に置き、俯いて気怠げにケータイを弄る指は信じられない程に華奢だ。
……どこかで見たような光景、だな。
失礼なのを承知でまじまじと見つめる。
やがて彼女が自分に向けられる視線に気づいたらしく、両手で包めそうに小さな顔をぱっと上げた。
しっとり透明な艶のある肌、薔薇色の頬。
精巧な陶製人形(ビスクドール)を連想させる美貌―――
あ、あれ?
なんかものすっごい既視感。
長い睫に縁取られた、漆黒に煌めく二つの宝石みたいな瞳。
大粒のそれは金の粉を散らした夜空の如く、吸い込まれそうなくらいに透き通っていて―――
「ヒナ! まだ待ち合わせより30分以上早いじゃないか!」
聞き覚えのある可愛らしい声が、驚いたように言う。
それは紛れもなく、彼女の小振りな唇から発せられたものだった。
「……あ………え、ええと、ぼくがこんな時間からここにいるのは、そう、どうしても何もすることがなくて暇で暇でしょうがなかったからで、」
美少女が赤くなり、ぱたぱた腕を振って何やら言い訳を開始。
「それにしても君はさっきからどこを見て…………あ、も、もしやこの服装のことか? ち、違うんだ。ぼくは非常に不本意だったのだが、美空に言われて仕方なく、本当に仕方なくだな」
さっきから俺に向かって何言ってんだろこの娘(こ)、暑さで頭おかしくなっちゃったのかな。
「だ、だからなんなんださっきから! ぼーっとしていないで何か言え!」
はっ!
…………うん、大丈夫。俺は冷静だ。
美空先輩身長縮んだ? とか考えてなんていない。まったく考えてなんていないさ。
女の子をひとまず放置し、スマホを取り出して迷わず指を滑らせる。
「もしもし美空先輩?」
『お、圭くーん! どうよどうよびっくりしたー?』
すぐに電話口の向こうから、朗らかな美声が聞こえてくる。
「一つ、訊きたいんですけど」
ぎゃんぎゃん騒いでいる美少女のつむじ辺りを、俺はじっと見下ろしながら。
「―――もしかして先輩、もう一人妹います?」
「はああ!?」
323
:
ピーチ
:2013/03/16(土) 23:45:35 HOST:EM114-51-31-109.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>
いやいや失礼だからねヒナさん!?
電話していきなり「もう一人妹います?」はないでしょ! 明らかに美羽ちゃんでしょ!
……どんだけ早起きしてんだよ、二人とも…
324
:
心愛
:2013/03/18(月) 17:07:10 HOST:proxyag095.docomo.ne.jp
>>ピーチ
どんだけ意識してんだよって話だよねw
ヒナ、動揺のあまりかなーり失礼なこと言ってますが…?
325
:
心愛
:2013/03/18(月) 17:07:39 HOST:proxyag096.docomo.ne.jp
『ぷっ……く、あははははっ!!』
電話口から、美空先輩の大爆笑が聞こえてきた。
『ひーおなか痛……うわ危なっ、今椅子から落ちそうになった……っ』
「こんなときまでドジ属性発揮しないでくださいよ……」
『だ、大丈夫だってば。……ちょっと昴! そんなに言わなくてもいいでしょー? 大丈夫大丈夫!』
傍に昴さんもいるらしい。
美空先輩は昴さん相手に二、三言会話を交わした後、
『それ、美羽ちゃんだよ』
「ヒナ! さっきから美空と何を話しているんだ! ぼくはぼくだぞ、高貴なる吸血姫(ヴァンパイア)ミウ=黎=リルフィ―――」
……などと俺の胸より低い位置で叫び、黒い瞳を怒らせている美少女を、見る。
少なくとも容姿には痛々しさなんて欠片もない、初恋の“ミウ”がそのまま成長したみたいな、恐ろしく可愛い女の子を、もう一度見て。
………。
…………………。
「まっさかぁ」
『そのまさかです』
「ヒナ! 契約を交わした主が分からないとは何事だっ」
……確かに台詞を聞いてみれば、いつもの美羽だ。
それだけじゃなくて、声も顔も体格だってそう。
でも、まだ信じられない。
だって、あの美羽がだよ? どや顔でゴスロリ着て学校来ちゃう美羽がだよ?
まさか、こんなにまともな格好をしてくる日が来るだなんて。
そりゃあ文化祭では浴衣も着てたけどやっぱりいつもの“美羽らしさ”はあったわけで、今日とは全然違う。
人って、身に着けるものの色だけでこんなに変わるものなんだろうか。
呆然としてしまう俺に、美空先輩が簡単に解説してくれる。
『最初はゴスロリで行こうとしてたんだけどね。あたしが“どうせ二人で出掛けるならそんなカッコより、こういう方が圭くん喜んでくれると思うけどな〜?”って脅したら、大人しく言うこと聞いてくれたんだー。服に合わせてカラコンも取り上げちゃった』
「美空っ!? 今絶対余計なことを言っただろう!?」
スマホを奪おうとするように頑張って手を伸ばし、ぴょんぴょん飛び跳ねて憤慨している美羽。
それでも身長差のせいで届かないけど。
美空先輩の笑みを含んだ声が、耳をくすぐる。
『今まで誰がいくら言っても聞かなかったのに、圭くんの名前出したら楽勝で丸めこめたんだよ。やっぱり、圭くんの存在は相当大きいんだね』
「や……そんな、」
謙遜の言葉を言いかけながらも、正直少し、嬉しくなってしまう。
全部を真に受けるつもりはないけど、美羽がそれなりに今日を楽しみにしてくれていて、ちょっとでも服装に気を遣ってくれたというのは、多分本当なんだろう。
「……美空先輩」
それから。
美羽の気持ちも嬉しいけど、何より。
目の前にいるのは美羽張本人で、今日の服装はどうやら美空先輩のチョイスらしい―――ということをようやくきちんと頭で理解した俺は、感動で目を潤ませる。
「俺、一生先輩について行きます」
『うむうむ。ついて来るがよいぞ、我が弟子よ。今日は存分に、この絶好のチャンスを生かしてくれたまえ』
「ありがとうございます師匠!」
二人して変な演技をしつつ簡単に別れの挨拶を済ませ、通話を切る。
改めて下の方を見ると、美羽が膨れっ面で横を向いていた。
「……なんだ、一生って」
ぷくっと頬が膨らんでいる。
何に不満を覚えているのか分かんないけど……くそ、可愛いじゃないかよちくしょう!
「……ヒナ?」
「え、あ、……ご、ごめん。あの、つい動転しちゃって」
って違う。とりあえず謝るのが先だろ俺!
恨みがましい声と共に見上げられ、慌てて頭を下げた。
「ふん。結野家に新たな娘が追加されたという、ぼくも知らなかった新事実についてか?」
「ほんと、すみません……」
美羽の言い分を全部スルーして本人の正面でその姉に電話をかけ、挙げ句に「もう一人妹います?」はないよね……。
我ながらどんだけ酷いリアクションだよ。いくら罵られても文句は言えない。
326
:
ピーチ
:2013/03/19(火) 05:44:02 HOST:EM114-51-140-40.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>
ヒナさん落ち着けー!?
…ここまでくると動揺の域を超えて見えるのはあたしだけか←
327
:
下平
:2013/03/19(火) 13:51:41 HOST:ntfkok217066.fkok.nt.ftth4.ppp.infoweb.ne.jp
ピーチ
328
:
心愛
:2013/03/19(火) 19:42:37 HOST:proxy10065.docomo.ne.jp
あ……でもこれだけは言っておかなくちゃ。
「……じゃ、なくて。その……あんまり珍しいカッコしてたからさ」
途端、美羽は不安そうな、哀しそうな影を端正な顔に落とした。
困り果てたように俯き、純白のスカートの裾をいじる。
「そ、そんなに変か」
しゅん、と小さい身体をさらに小さくする。
「ち、ちがっ……!?」
「うぅ……やはり美空の言いなりになるんじゃなかった! 少し待て、一ノ瀬に連絡していつもの着替えを持ってきてもらう!」
「違うって!」
大きな声を出すと、びくっと細い肩が震えた。
「ごめん」と声量を落とし、自分を落ち着かせるためにゆっくり深呼吸してから。
「いや、……普通に似合ってるし……いい、と思う」
……なんか無愛想な台詞になってしまった。
なぜだ、なぜなんだ俺。
ここで「“かわ”いい」とでも自然な感じで言えたら、好感度上げられたのかもしれないのに!
さっき読んだデート攻略本に「彼女のイメチェンに気づいたら、『可愛いね』『似合ってるよ』などと必ず声をかけてあげましょう」って書いてあったから実践してみたのに! デートでも彼女でもないけど!
くそう、俺にはまだ難易度高すぎたかっ?
一人脳内で頭を抱えていると。
「そ、……そう……か」
美羽は頬を染めて小さく呟き、それから、はっと正気に戻ったように早口でまくしたてる。
「ふ、ふん。真の実力者は闇の装束を身につけていなくとも、魔力を帯びることができるからな。支障はない」
よかった。どうやらこの反応で満足してもらえたみたいだ。
ほっとして息を吐き、それからふと疑問を覚えて首を傾げた。
ってことは……その設定だと、いつもゴスロリじゃなくてもいいってことになっちゃうんじゃ。
美羽も気づいたようで、「……あ」と小さく漏らして。
「きょ、今日だけだからな!」
「えー」
そんなぁ。
がっかりして肩を落とすと、美羽が不思議そうに見てくる。
「む……君もやはり、ぼくがこういう格好をして来た方が良いと思うのか?」
「え」
そりゃそうだ―――と普通に頷きそうになったけれど、俺はいったん言葉を止めて考え直す。
「……んー……美羽はやっぱり、いつものままでもいいんじゃない?」
もし美羽の気が変わって、ゴスロリをやめて学校に来たりなんかしたら。
この類い希な美少女ぶりに、勘違いする男が急増するだろう。それは、俺としてはちょっと避けたい。
ついこの間、姫宮が「まいちゃんにあんまり可愛くなられると、嬉しいけど困るんだよね……」とか言っていて、ただのノロケじゃねぇかよとあのときは軽く聞き流していたけど、今彼の気持ちがすごく良く分かった気がする。
可愛すぎたり綺麗すぎたりする彼女がいる彼氏って、いつもこういうことを思っているのかもしれない。
「もちろん、それはそれでいいと思うけど。新鮮で」
「それもそうだな。戯れにこのような装いをするのも、少しなら悪くない」
見るからに機嫌が良くなった美羽が小さなバッグをぽすぽす叩いた。
「それで? 行きたいところがあるのだろう?」
「あ、そうそう。一人じゃ入りにくくってさー」
……………嘘も方便って、素晴らしいことわざだよね!
意識的に歩幅を合わせながら、美羽を先導して歩き出す。
広場と駅の中を抜け、反対側に出ると。
「……ねこかふぇ……?」
看板の広告を見て、美羽が立ち止まった。
俺も足を止める。
「猫が店の中に放し飼いにされてるカフェだよね、確か」
「なっ」
美羽が黒水晶の瞳を大きく見開いた。
「この腐れた世界に、そ、んな理想郷(アルカディア)が……?」
衝撃を受けたように、長い髪がわなわな震えている。
……あー。
「行ってみる?」
こくこく! と嬉しそうに頷いた美羽は次いで、『あれ?』という顔をした。
「君が言っていたところというのは―――」
「あーうん、そう、ここ!」
明らかにおかしいにもかかわらず、浮かれているらしい美羽は「そうなのか!」とすぐに納得してくれた。
嘘を上塗りしちゃって申し訳ないけど、どうせ行くなら美羽が楽しいところの方がいいよね。
329
:
心愛
:2013/03/19(火) 20:16:16 HOST:proxy10052.docomo.ne.jp
>>ピーチ
落ち着け落ち着けw
でもやっぱり異性関係はこんな感じが書きやすいここあでした←
330
:
ピーチ
:2013/03/19(火) 22:07:14 HOST:EM114-51-160-122.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>
良かった冷静さ取り戻したねヒナさん!
ネコカフェ…あたしは死んでも入れない←
331
:
心愛
:2013/03/20(水) 10:11:51 HOST:proxy10055.docomo.ne.jp
>>ピーチ
そっか、動物嫌いなんだっけ←
ここあも入ったことないんだけどね! 気分気分!
332
:
心愛
:2013/03/20(水) 10:53:34 HOST:proxy10029.docomo.ne.jp
俺って結構動物好きだし、あんまり抵抗はない。
ここにバカでかい広告があるのは知っていたので、ちょっと興味があったくらいだ。
……まさか美羽と来ることになるとは思いもよらなかったけど。
そんなわけでまたしばらく歩いて目当ての建物を見つけ、さくっと入店。
スリッパに履き替えて、入り口近くの受付に向かう。
「……はゎ……」
「美羽さーん?」
額縁に飾られている猫の写真を見ただけでそわそわしている美羽に代わり、仕方なく俺が代わりに店員の人から説明を聞く。
おためし10分100円からスタートして1時間600円、2時間1200円などと時間ごとに料金が決まるらしい。
「閉店は22時、か。日曜は何時間いても3500円は超えないらしいぞ……?」
「何時間いる気だよお前」
明日学校だからね?
「む……面倒だな。こうなったら貸切にするか、むしろ店ごと買い取って」
「やめんか」
意味不明なことを口走る若い客にぽかーんとしていた店員から入店証を受け取り、愛想笑いで適当にその場を誤魔化してから早速中に足を踏み入れた。
外観もそうだったけど、内装も普通にお洒落な喫茶店風。
向かって右手には喫茶ブース、向かって中央から右手に大規模な猫用の遊具がある。
「わ、わ」
グレーの猫がガラス玉みたいに透ける瞳でこちらを見、てくてく歩いてきた。
ぱああっと美羽の顔が輝く。
おそるおそる差し出された美羽の指に鼻を近づけ匂いをかぎ、敵じゃないと認定したようで頬をこすりつけてきた。
ふにゃーっと表情が蕩ける。
「猫、好きなの?」
「ふ、ふん……まあ、な。猫とは元来高貴さの象徴であり古代エジプトの時代から神聖視されつつも一方では魔性の獣ともされるという相反する属性を兼ね備えることから《純血の薔薇(Crimson)》に所属する一級魔女の使い魔として最もふさわしい動物と言えるだろう」
肉球めっちゃふにふにしながら力説されましても。
「あー……俺、あっち座ってるわ」
「ん」
ソファに腰掛け、メニューを眺める。
フリードリンクやデザートなんかは別料金で注文するらしい。
パスタなんかもある。
まだ時間が早いせいでお腹すいてないけど、場合によっては頼んでみてもいいかもね。
こうして見ていると、意外とカップルも多い。
写メを撮ったり、寝ている猫を撫でたりと思い思いにくつろいでいる。
「お、マンガもあるじゃん……」
数百冊はあるんじゃないかな。
マンガ好きな俺にはありがたい心配りだ。
本読みながら時に猫を愛でられるっていうのがこの店の売りらしい。
と、茶色い毛並みの猫が一匹、俺の方に近寄ってきた。
遊んでほしいアピールなのか、脚にまとわりついてくる。
……か、可愛いじゃん。
顎の下を人差し指で撫でてやると、気持ちよさそうに目を細めた。
「可愛らしい彼女さんですね」
「えっ? い、いや、そんなんじゃ」
急に店員のお姉さんににこやかに話しかけられ、キョドってしまう。
地を這うかの如き俺のコミュニケーション能力が憎い。
それにしても、や、やっぱり同じ年頃の男女が連れたってこんな場所に来たら、そういう関係性だと思われるんだろうか。
今日の美羽は文句なしに可愛いし。
嬉しいような恥ずかしいような……。
で、当の美羽はといえば黒猫を抱き上げ、真剣な顔つきで何やら言い聞かせていた。
「ケルベロス、今に見ていろ。きちんと一から特訓すれば秘められた力が目覚め、背から翼が生えてくる。そのときにはぼくの眷属にしてやろう」
「人様の猫に名前つけんな。変な調教施すな」
あと俺って猫と同列なの?
……むしろ喜ぶべき?
「……?」
俺と美羽を見比べる、店員さんの不思議そうな目が痛かった。
333
:
ピーチ
:2013/03/20(水) 19:20:52 HOST:EM1-114-57-214.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>
そーなの、猫嫌いなの!←
気分か! あたしも似たようなことある!
……ヒナさん、猫と同列か…
334
:
心愛
:2013/03/20(水) 23:30:29 HOST:proxyag095.docomo.ne.jp
>>ピーチ
大好きってことだよw
…普通に見たらアレだけどね。
はいデート回終了! 実質待ち合わせして猫カフェ入っただけだけども!
とりあえず美羽の意識が変わったってことで一つ←
335
:
ピーチ
:2013/03/23(土) 09:48:49 HOST:EM1-114-3-215.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>
大好きなんだよね!
デートなんだ!? これデートに分類されるんだ!?←
336
:
心愛
:2013/03/23(土) 18:58:47 HOST:proxy10069.docomo.ne.jp
>>ピーチ
だからタイトルに? がついたんだなw
ほんとのデートができる日はくるのか…。
頑張れヒナ! そしてここあの頭と指!
337
:
ピーチ
:2013/03/23(土) 21:50:39 HOST:EM49-252-247-164.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>
なるほどそんな理由があったかw
ほんとのデート…来てくれ!
いや、ここにゃんの頭は問題ないと思う。指は疲れない程度に!
そして時間よ止まれ!←
338
:
心愛
:2013/03/24(日) 00:04:43 HOST:proxy10055.docomo.ne.jp
>>ピーチ
先は長そうだね…(~_~;)
ほんとに時間がほしい!
止まれー!
…いっそ世界中の時計を壊してしまえば時間という概念がなくなr(ぇ
339
:
ピーチ
:2013/03/24(日) 00:15:23 HOST:EM49-252-247-164.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>
先は長い方が面白い! あたしが気長に待てれば!
だよねー! 時間なんてありすぎるように見えて全くないもんね!
…その手があったか! さすがここにゃん!←おい
340
:
心愛
:2013/03/24(日) 18:17:06 HOST:proxy10051.docomo.ne.jp
>>ピーチ
ねー!
今のスレは今月中に完結できたらいいなーなんて考えてたのに、まだ半分いったかどうかだもんね…。
夏までに終わるかな(´・ω・`)
よし、まずは家の時計を破壊するか(ぇ
341
:
ピーチ
:2013/03/25(月) 21:03:52 HOST:EM1-114-34-228.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>
だよねー!
やっぱり考えが似てる人が居ると安心する!←
家の時計を破壊したらお母さんが鬼になる(おい
342
:
心愛
:2013/03/25(月) 22:16:17 HOST:proxyag113.docomo.ne.jp
>>ピーチ
うん、うちも怒られるのに加えて病院に運ばれるかもしれない←
精神科w
小説は楽しいしいつまでも趣味にしていたいけど、いかんせん時間がね…。
343
:
ピーチ
:2013/03/25(月) 22:41:53 HOST:EM1-114-34-228.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>
怒られるで済むかな、うち…←
精神科あり得るかも!
あたしはできれば作家になりたいなぁ…と思ったけどここにゃんで趣味だったらあたしにゃ無理だw
344
:
心愛
:2013/03/26(火) 10:53:48 HOST:proxy10043.docomo.ne.jp
>>ピーチ
作家とな!
なれるよ絶対なれるよピーチなら!
で、なったら教えて、サインもらいに行くわ(ぇ
ここあはピーチのファンだよ!
ピーチは余裕でなれても、ここあのコレは完全に趣味でしか片付けられないからなぁ…。
でもこうやって一年以上やってきて、誰かに見てもらうって楽しさを覚えちゃったわけで←
ほんとは今年でバッサリやめるはずだったんだけど、いつかちゃんとした小説サイトに投稿したりしてみようかな…。
いくら下手でも楽しいんだからしょうがないじゃん! っていうw
345
:
ピーチ
:2013/03/26(火) 13:55:47 HOST:EM114-51-147-230.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>
作家ですそうです!
なのに文才が哀しいという←
頑張って読書してんのに、勉強そっちのけで(おい
ここにゃんこそ余裕でなれそうじゃん!
346
:
心愛
:2013/03/26(火) 17:15:00 HOST:proxyag105.docomo.ne.jp
>>ピーチ
あれだけのもの書ける学生ってそうそういないと思うよピーチ!
自信持とうよ!
読書はほら、国語の勉強だからねヽ(≧▽≦)/
仕方ない仕方ないw
ここあのレベルでは到底無理な話ですよ…←
でも好きなもの書いてお金もらえるとか素敵だよね!
347
:
ピーチ
:2013/03/26(火) 21:54:49 HOST:EM114-51-188-154.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>
まず周りに小説書いてる友達が少ないっていうw
しかも書いてる友達が後輩で、その後輩にまで負けるっていうねw
だよね! 読書は国語だよね!
ここにゃんだったら絶対プロなれるのに! 謙遜ばっかはよくないぞ!
だよねー! 作家さんとかうらやましいよねー!
348
:
心愛
:2013/03/27(水) 13:33:54 HOST:proxy10025.docomo.ne.jp
>>ピーチ
まず、小説書いてる友達がいる時点でうらやましいよ…。
ここあ、親にバレたら殺されるしね!
というかピーチを超える人っているの…? いなくね?
後輩さん恐ろしい! どんなもの書くんだ一体!
っていうか、作品に優劣とかないと思うけどねw
思い入れが強い方が勝ちだよ、多分!
……将来、一歩も家から出ずに好きなもの書いて過ごしたい……無理だけど。
349
:
優佳
◆k9BuPe0hZk
:2013/03/27(水) 21:11:27 HOST:zaq31fbd3c6.zaq.ne.jp
どうも!
心愛さん>>文章読みやすくていいです!
内容も凄い!
350
:
ピーチ
:2013/03/28(木) 07:02:27 HOST:EM114-51-160-221.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>
居たんだよ嬉しいことに!
あたしは親公認(?)だから!←
居る居る、居すぎて泣きたいくらいw
思い入れは強いつもりだよ、一応!
何でー? ここにゃんだったらあっさりできそうだよー?
351
:
心愛
:2013/03/29(金) 09:39:40 HOST:proxy10050.docomo.ne.jp
>>優佳さん
初めまして!
こんなのを読んでくださってありがとうございます(*^-^)ノ
これからよろしくですw
>>ピーチ
いーないーなーw
うん、きっと自分のキャラをどれだけ愛せるかということさ(意味分からん
いやぁ、うち親厳しいから…←
それにここあの落書き程度じゃ逆立ちしたって無理だよ(*´д`*)
352
:
優佳
◆/78g8W0Be6
:2013/03/29(金) 19:18:11 HOST:zaq31fbd3c6.zaq.ne.jp
こんな小説だなんて!凄すぎます(*^_^*)
美羽ちゃん見たいな子が現実にいたらいいだろうなぁ♪
353
:
ピーチ
:2013/03/29(金) 20:59:51 HOST:EM114-51-148-105.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>
仲間居ることだけは嬉しいw
そだね愛せてるよ多分!←
うちはそこまで厳しくないよー
逆立ちしたらここにゃんの最高のアイディアがばら撒かれそーだねー!
354
:
心愛
:2013/03/30(土) 14:53:59 HOST:proxyag073.docomo.ne.jp
>>優佳さん
まだまだ全然ですよー(=_=;)
そう言っていただけると嬉しいですw
美羽が現実にいたら…色々面倒そうですけどね!
>>ピーチ
いいなーw
いやぁああああ!
ばらまけるほどないけどっ、ここあのギリギリ崖っぷちなアイディアがぁぁあーーー!
355
:
心愛
:2013/03/30(土) 14:54:39 HOST:proxyag073.docomo.ne.jp
『夏祭り』
「なぁ、オレ、思ったんだけどさ」
窓を突き抜けるセミの鳴き声に辟易とする生徒たちが集う教室。
冷房のお陰で冷たくなった机で、各自だらけている。
「これ、夏休みじゃなくて夏勉強期間じゃね? オレ、部活以外勉強しかしてないんだけど……」
確かに、せっかくの夏休みなのに、夏期課外という意味分からん催しに強制参加させられている俺たちの体力はもはや限界と言ってもいい。
何しろ小テストは毎日、中規模でも成績に反映するテストは毎週、さらに定期試験が毎月。
その間に校内模試が挟まってくる上に、無慈悲にも積み上がる課題の山。
私立の中高一貫校よりは幾分マシなのかもしれないけど、青春もへったくれもない高一の夏休み。
課外は午前中で終わるのが唯一の救いだ。
「……百点満点で赤点九割以下とか頭おかしいよね? 先生たちも暑さで相当イッちゃってんじゃないの?」
「忘れがちだけど、『元・(地域名)の神童』の巣窟だからなここ。先生も期待してるんだよ迷惑極まりないけども」
「『元』ね……」
「『元』だな……」
かったるい授業に加えて、この猛暑。
太陽はそんなに人間を焼き肉にしたいんだろうか。
まったく、こんな日はキンキンに冷えた部屋で一日中だらだらマンガ読むに限る。
「そうそう、課題のこの問題集、今年で絶版になったらしいぜ? 難しすぎて、扱える学校がないんだと」
「むしろ使わずにブッケオフに売った方がよくね?」
「バーカ、価値出るまでぴっかぴかな状態で取っといてオークションにかけるに決まってんだろ」
「使わないも何も、提出しないと居残りじゃん……」
ぼそっと呟いた俺の覇気のないツッコミはスルーされた。
「ぼくの妖気をもってしても消すことができないとは、何という暑さだ……」
それにしても暑い。
エアコンはついてるけど、暑いものは暑い。
でも気温というよりは、窓から差し込む日差しの強さと、狭い教室に押し込められたクラスメイト40人のせいのような。
あ、窓ガラス曇ってる。
「ふっ、向こうがその気なら仕方ない。ぼくは灼熱の宴に興じるとしよう……」
「その気って何だよ……」
隣では、黒白ずくめのゴスロリ少女・美羽が頬を赤く火照らせて机にでろーんと伸びていた。
暑いなら、もうちょっと涼しい格好すればいいのに。
「ところでヒナ」
「んー?」
突っ伏したまま、小さな声で呼びかけてくる美羽。
少しためらうように口を噤んでから、
「………夏祭りというものが、あるらしいな」
「ああ、うん。毎年彩に付き合わされるよ」
俺の町では毎年、駅前の商店街辺りでなかなかに大きな夏祭りが開かれる。
道路を通行止めにしたり有名人による企画があったりと、この地域では最も賑やかなイベントだ。
「…………」
「…………」
「………………あー……行ってみる?」
「ふ、ふん、仕方ないな!」
黙ってもの言いたげにじーっと視線を寄越していた美羽がぱっと顔を輝かせ、それを取り繕うような声を出す。
確かに、せっかくの夏休みだし。
一回くらい、美羽との思い出があってもいいかもしれない。
「ヒナがどうしてもと言うなら仕方ない。主であるぼくが付いて行ってやろう」
「はいはい」
そんなに行きたかったのか……。素直じゃないなぁ。
「え、ヒナたちどこ行くの? 僕たちも一緒に―――」
「そうそう、なんかヒナと結野ちゃんってば最近仲良くね? 姫宮ちゃんに続いて結野ちゃんまで取られちゃったら俺泣くよ!」
「なっ、べ、別に良くはっ」
「ふぅん……? 誰が夕紀と美羽を取るつもりだったって?」
「だ、大丈夫だよまいちゃんっ、僕はまいちゃん一筋だよっ」
「お、柚木園がやる気にっ? いいぜドンと来い! 思いっきりッ!」
爽やかな笑顔で拳を握る柚木園を見て、春山が嬉しそうに目を輝かせる。
……奴が姫宮の問いを上手く流してしまったような気がするのは、俺の考えすぎだろうか。
356
:
ピーチ
:2013/03/30(土) 21:01:37 HOST:EM114-51-184-84.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>
それ以外は色々とうるさいんだけどね、特に勉強に関して
大丈夫! 仮にばら撒かれてもあたしが拾い集めてネタ盗んでから返すから!←こら
357
:
心愛
:2013/03/31(日) 20:24:21 HOST:proxyag113.docomo.ne.jp
「彩、ほんとに行かなくていいのか?」
「うん! 新作の乙女ゲーやるからさ!」
出発前に今日何度目かの確認を取ると、やはり満面の笑みが返ってきた。
多分、美羽が行くと聞いて気を遣ってるんだろう。
「……確かにいつまでも兄妹でってのもおかしいよな。次からは、彼氏できたら一緒に行けよ」
「え、いるよ?」
きょとんとする彩。
え? ……うん?
イルヨ? 要るよ? い、る……………
「えッッ!!??」
「うわびっくりしたぁ!」
彩が耳を両手で押さえているけど、そんなことには構っていられない。
「ただねー」
驚愕に硬直する俺と対照的に、彩は恋する乙女みたくピンク色の吐息を漏らし。
「―――恥ずかしがって画面の中から出てきてくれないの」
「ゲームキャラかよッ!」
がっかりだよ!
「せいかぁい。たっくんは彩の嫁!」
「騙された……!」
「あははっ! ねぇねぇお兄ちゃん。もし、彩がほんとに彼氏連れてきたらどうする?」
連れてきたら、って。
そりゃあ……。
「殴る」
「殴るんだ!」
え、ここそんな驚くとこ?
「……でも、そうだなぁ。それで不幸にならないって、お前が自信持って言うなら……殴らない、かな」
「ちょ、ちょっとちょっと、実の妹ルートに突入してどうするのさお兄ちゃん! 彩じゃなくて美羽さんを惚れさせなきゃ!」
「分かってるよ! 分、かっ……て、るんだけど、ね……」
それができれば苦労しないよ……。
「あ、そろそろ出なきゃ。なんか買ってきてほしいものある?」
「お土産? んーとねー、焼きそばでしょ? たこ焼きでしょ? あとはー、お兄ちゃんの思い出話ってことでひとつ」
「分かった分かった、焼きそばとたこ焼きな」
「お兄ちゃんの意地悪ー!」
゚・:*:・。☆゚・:*:・゚☆。・:*:・゚・:*:・。☆゚・:*:・゚☆。・:*:・゚
「わ、悪い。待たせたか」
離れた場所で車を降りてから歩いて来たらしい美羽に、「よっ」と片手を上げる。
息を切らせている彼女は普通にゴスロリだった。
……いや、普通にゴスロリって表現はおかしいような気もしますけども。
「テレビで見たときより、人が凄いような気がする……」
「あれ、初めて?」
そういえば、誘われた(?)ときも、そんな感じの口振りだったような。
っていうか、なんで初めてなのに身内の美空先輩じゃなくて、俺と来ようとしたんだろうか。嬉しいけど。
と、いう疑問が顔に出ていたのか、美羽がすぐに早口で弁解を始める。
「ち、違う! 最低限のパーティーにしか出ないぼくと違って美空は何かと忙しいが、特に予定もなさそうなヒナを連れて一回くらい行ってみてもいいかと思っただけ―――じゃなくて、ヒナに付いて行ってやろうと思ってだな!」
今サラッと結野姉妹のセレブ生活の一部が垣間見えてびびったけどそれには触れず、「そ、そか」と言うに留めた。
その後、漂う甘い匂いに釣られて蝶みたいにふらふら屋台に引き寄せられてしまった美羽とわたあめを購入。
最初は棒に纏わりつくふわふわした物体をしげしげと眺めていたものの、
「……甘い」
おっかなびっくり、ちょっとずつなめては嬉しそうに相好を崩す。
なんか和む光景だった。
「おっ! そこのお嬢ちゃん、ヨーヨー釣りやってみない?」
ゴスロリ少女が相手でもさすがのお祭りテンションと言うべきか、もの凄くイイ笑顔を向けてくるおじさん。
人見知りモードが発動し、困惑して後ずさる美羽の背中を押して彼のもとへ。
流れで一応釣り紙は持ったものの、やり方が分からない様子で固まっている。……マジですか。
「貸して」
仕方なく、後ろからそれを奪い取る。
「ひぁっ」
「どれがいい? ……って……あ」
と、しゃがんだ彼女の背中がびくっと震えるのが分かるくらいに密着してしまっているのに気づき、遅れてどっと汗が噴き出してきた。
この体勢はまずい。色々と、まずい。
「こ、これ? これだねっ?」
早くしないと心臓がもたない。
俺は釣り紙を握りしめ、さっさと終わらせようと躍起になったのだった。
358
:
心愛
:2013/03/31(日) 20:35:57 HOST:proxyag112.docomo.ne.jp
>>ピーチ
残念ながら盗む価値のあるアイディアは微塵もないと思うよ!
ストーリーのオリジナリティがほしい…←
やっと次から夏が終わり始めるかな!
…季節感ねえー。
359
:
ピーチ
:2013/03/31(日) 20:49:39 HOST:EM114-51-186-14.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>
ヒナさん頑張れ! こーゆーときの美羽ちゃんはいつも以上に可愛いんだから!←
盗むアイディアがありすぎる気がする!
大丈夫! 季節感ないのはあたしも一緒だ!(こら
360
:
心愛
:2013/04/01(月) 21:14:55 HOST:proxy10034.docomo.ne.jp
>>ピーチ
美羽可愛い? そうだといいな←
と言いつつもこれでお祭り終了という鬼進行w
ヒナの健闘を祈ろう!
アイディアも何もただの思いつきと言うかなんと言うか…
ほんとにカスばっかりだよ!
361
:
ピーチ
:2013/04/01(月) 21:41:38 HOST:EM114-51-206-242.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>
可愛いじゃん! めっちゃ可愛いじゃん!
お祭り終わったよ早いね!
いやこの神文章のどこを捕まえてカスと言う言葉が出てくんの!?
362
:
心愛
:2013/04/02(火) 12:46:55 HOST:proxy10050.docomo.ne.jp
>>ピーチ
次のデートもどきっていうか進展ありのイベントは、旅館にお泊まりになるかなw
徹頭徹尾すべてを通してカッスカスだよ!
363
:
ピーチ
:2013/04/02(火) 18:58:45 HOST:EM114-51-136-117.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>
イベントーw
旅館だー!←
ここにゃんでカスだったらあたしのゴミにさえなれないじゃん!
364
:
心愛
:2013/04/03(水) 15:55:34 HOST:proxy10034.docomo.ne.jp
『試験勉強』
「いいか彩。お前は俺と同じで頭は良くない」
「あっさり!」
べたりと机の上に倒れ込む彩を「まぁ聞け」と促し、俺は腕を組んでちょっと威圧的に言ってみる。
「けどな。凡人は天才にはなれない。でも、秀才にはなれるんだ」
「なんだろう、なんか凄く深いこと言われた気がする!」
夏休みも終わりかけのこの時期、彩がいつまでもだらだらだらだらしていて勉強をちっともしないので、兄による説教タイムが始まったところだった。
休み明けにはテストが控えてるのに、何やってるんだよこの愚妹。
「だって彩、勉強嫌いなんだもん……。英語とか、日本ではやんなくても生きていけるよ……」
「英語なんかパターンと単語分かれば一番点取りやすくて楽しい教科じゃんか。何が嫌なんだよ」
「嘘だ! 少なくとも彩にとっては一番点取りにくいよ!」
「そう言われても俺、中学まで英語で95点以下とか取ったことなかったし……」
「変人がいるぅー!」
めそめそ泣く彩。失礼な。
「うう……英語はもういいよ……。他の教科で、なんかやる気出る勉強方法とかないの?」
「試験範囲の問題集を全部暗記する勢いで頭に叩き込め。目ぇ瞑ってても問題と答えが浮かんでくるくらいになれば、テスト終わってもそこそこ記憶に定着するから」
「彩は人間だよ!?」
「たった5教科だろ? 全部95点以上で100点2、3教科取れば学年1位はほぼ確定。頑張れ」
「赤点回避すれば十分なんだけど!」
「情けないこと言うなバカ。お前俺の妹だろ」
「彩はお兄ちゃん大好きっ子だけど、こればかりはお兄ちゃんの妹に生まれてきたことを心底後悔するよ……」
彩は何故かどんより暗い影を背負っていた。
「もー、お兄ちゃんじゃ話にならないよ! ちゃんとしたアドバイスくれる人はいないの?」
「えー……なら美羽にでも訊いてみる?」
言って、スマホを手に取る。
美羽に電話をかけるのも随分と慣れてきた今日この頃です。
『……勉強のコツ?』
突然の通話を迷惑がることもなく、美羽は少し考えてから。
『努力あるのみ、だな。悪いが、特に効率的だったり、変わったことをしているわけでもない』
「あ、やっぱり?」
言動の残念さを除けば割と真面目で努力家な彼女らしい答えが返ってきた。
「でも、美空先輩に教えてもらったりしないの?」
確か、先輩は相当頭良いって話を聞いたことがある。
美羽にべったりだし、そういうこともあるんじゃないのかな。
もし時間あれば、是非とも彩の家庭教師をお願いしたいくらいなんだけど―――
『いや、美空は教えるのが壊滅的に下手なんだ。自分が完璧に理解していても、相手がどうして分からないのかさっぱりでな。もう諦めた』
「……あー」
なるほど、そういうタイプか。
俺はなんとなく納得する。
『で、その美空と言えば、だが』
美羽が明日の天気でも話すみたいに何でもないような口調で―――こんな衝撃発言を繰り出した。
365
:
心愛
:2013/04/03(水) 15:56:41 HOST:proxy10045.docomo.ne.jp
『この前の模試で、総合科目全国1位を取ったらしい』
「……………は?」
なにそれ、え?
……いや。いやいやいや。
「えええええええええ!?」
『にゃわっ』
数秒遅れて、『うるさい! 耳が壊れるかと思ったじゃないか!』という怒った声が聞こえてくる。
「……美空先輩が、……ぜんこく……? え、模試ってあれでしょ? 最高峰の学校しか受けないっつう……まさか、冗談だよね」
「残念ながら本当だ。あいつは昔からぼくに遠慮するところがあるから、こそこそ隠していたが」
マジですか……。
美空先輩はドジ属性を抜けば、飄々としていて何でも器用にこなすイメージがあったけど。
身近にそんな凄い人がいるって、いまいち現実味が沸かない。
「そういうのって都内のエリート高校じゃないと有り得ないと思ってたよ……」
『うちでもごく稀な快挙だそうだ。……ああ。受験前に、教師陣にかなり手酷く叩き込まれたらしいがな』
「そ、そうだよね! 授業とは別に特訓とかしないと無理だよね!」
『いや、ケアレスミスと名前の書き忘れの注意を』
…………。
「うん、次元が違うってことが良く分かったよ」
どうやら先輩の今回の成績は、天性のドジを発動せず、本来の実力を発揮した結果ということらしい。化け物か。
電話越しに美羽は『まあな』と笑い、
『ぼくは一生、美空と同じ世界を見ることはできない』
「………」
一瞬、かける言葉をなくす。
確かに、そんな優秀な姉を持つとなれば、美羽にかかる圧力だって尋常ではないだろう。
美空先輩の名声は、美羽を守るだけじゃなくて、彼女を追い詰める凶器にもなる。
『……でも、昔からあいつの背中ばかり見てきて、いつからかこう思うようになったよ』
なのに、美羽の声は劣等感なんて微塵も感じさせないくらいに―――不思議な程に、優しいものだった。
『大抵のことは、天才の何十倍もの努力をすれば、いつか凡人でも必ず追いつける―――と』
プライドが高く、良くも悪くもまっすぐで、“理想”のためには努力を惜しまない。
美羽が今の美羽になったわけが、なんとなく分かったような気がした。
その先輩にかける想いはきっと、先輩が美羽を大切にする気持ちと同じくらいに強い。
「……自慢のお姉さんだもんね」
『……ふん。一応、尊敬はしている』
照れ隠しにそっぽを向く様子が目に見えるようだ。
今の、美空先輩が聞いたら喜ぶだろうなぁ。
美羽が大好きで優しくて、本当に非の打ち所がない、良いお姉さんで―――
『ドジだがな』
「ドジだけどね」
うん、そこは忘れちゃダメだけど。
美羽に礼を言ってから通話を切る。
それにしても、当初の目的が消し飛ぶくらい、凄い話を聞いてしまった……。
彩に偉そうに話してたのが、今になると若干恥ずかしい。
「……彩、勉強します……」
「……分かってくれて何よりだ」
でも、元々の目的は達成されたので良いとしよう。
366
:
ピーチ
:2013/04/03(水) 21:27:21 HOST:EM114-51-142-165.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>
嘘でしょヒナさん!? あたし英語なんて赤点取らなかったことないよ!?
そして美空先輩!? 全国で一位ってどーゆーことですかっ!?
…………彩ちゃんの気持ちがよーく分かるのはなぜだろう←
367
:
心愛
:2013/04/03(水) 22:17:05 HOST:proxy10060.docomo.ne.jp
>>ピーチ
マジか(・∀・)
ここあは中学時代、95…と言いたいとこだけど94点以下は取ったことないんだぜ! 英語だけは!
ちなみに、基本的にヒナと同じ考え方のここあは友達に「キモい」と言われました。悲しいね。
一回得意になっちゃえば、頑張ったぶんだけ点数が伸びる教科だと思うよ英語!
美空は、ここあの学校の先輩が去年全国1位取っちゃって騒ぎになったからそれを使わせてもらいました! ごめんね先輩!
…さらにちょっと自慢すると、ここあは今年、とある模試の国語で全国5位だったんだよ(*´д`*) えへん。
数学は底辺だけども!
まあここあでも奇跡的にこんな順位取れるんだから、美空もいけるさ! と頑張らせてみた(*^-^)ノ
…「学校のお勉強ができる」と「頭がいい」ってのはまた別物だけどね←
長文すみませんw
368
:
ピーチ
:2013/04/03(水) 22:48:38 HOST:EM114-51-142-165.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>
いーないーなー! あたしなんか英語の単元テストで堂々の10点取ったことあるんだぞー!←
キモいんじゃなくて何でそープラス思考で考えられんの!? ってことで驚きですはい。
一回も得意になれない教科だと思うよあたし……
美空先輩何でもできるもんね! ちょっとドジだけど!
369
:
心愛
:2013/04/04(木) 21:15:35 HOST:proxyag102.docomo.ne.jp
>>ピーチ
大丈夫さ! 今から巻き返せばいいだけのことだよ!
ここあ的には数学が一番恐ろしい…。
苺花と比べると、美空は先天的な才能が大きい「なんでもできる」子ですねw
でもちゃんと努力はしてるよ(`・ω・´)
370
:
ピーチ
:2013/04/04(木) 21:43:46 HOST:EM49-252-234-200.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>
今から巻き返せる…かなぁ?
数学理科英語この三教科凶器デスネ←
努力家の天才…羨ましいよぉ…
371
:
心愛
:2013/04/05(金) 15:55:33 HOST:proxy10025.docomo.ne.jp
>>ピーチ
大丈夫だよ、あれだけの小説書ける頭があるんだから!
自信を持てー!
372
:
心愛
:2013/04/05(金) 15:55:56 HOST:proxy10026.docomo.ne.jp
『進路アンケート』
「将来就きたい職業……ねぇ」
進路指導部から出された提出必須のアンケート。
第一志望大学、平日休日の勉強時間なんかの中に、そんな欄を見つけた俺はシャーペン片手に唸った。
どうしよう、分からん。
「なんて書いた? これ」
「闇の女王」
「美羽に訊いた俺が馬鹿だったよ」
担任からの呼び出しは確実だ。
「なんだとっ」
「……え、えーと、姫宮は?」
後ろを振り返って、紙の該当箇所を見せてもらう。
丸っこい字で書かれていたのは―――
「看護師?」
「うん。家が医療系だから、なんとなく」
この笑顔で看病されたらどんな病気でも一瞬で治りそうだ。
癒し効果ってことで姫宮セラピーとか新しく始めてもいいんじゃなかろうか。
「小さいときはお花屋さんかケーキ屋さんになりたかったんだけどね」
乙女か。
と思っていたら、その隣の柚木園がびくっと反応していた。
「……柚木園?」
「えっ? い、いや、まさか! 子供の頃とはいえ、私がそんな夢見るわけがないでしょっ?」
……こいつも乙女か。
「まいちゃんかわいー」と姫宮が嬉しそうに微笑んでいる。お前もな。
「なるほどなるほど。あとひとつはもちろんお嫁さ―――」
「な、な、なんで知っ……じゃない! 違う! ぜんっぜん違うからそんな目で見るのやめてよヒナ!」
まさかの正解。
なんか柚木園が可愛いんですがどうしましょう。
耳まで赤く染めて涙目になってしまった柚木園。
可愛いけどさすがに可哀想なので、罪滅ぼしに彼女のペースに戻してあげようと俺は口を開く。
「ホストとかヒモとか向いてそうだよね。性別隠せるならだけど」
「うん、是非ともやりたい。女の子を幸せにできる仕事がいいなぁ………でも、ね」
ひも? と首を傾げている姫宮を見て、柚木園はふっと微笑んで。
「それはあきらめるしかないか」
「ん。それがいいと思う」
「具体的な職業っていうと、私も迷ってるんだよね。未定って書いとこうかな」
「じゃあ素直に『お嫁さん』って書けばいーじゃん! 心配しなくても姫宮ちゃんが貰ってくれ―――あふんっ」
ゴスッ。
登場と同時に殴り飛ばされた春山が床に転がった。
この間僅かに二秒。
柚木園は拳を握りながら、ビキビキに引き攣った笑顔を作る。
「少し頭、冷やそうか」
「ど、どうどう」
そして名前が挙がった当の姫宮はというと、真っ赤になってもじもじしながら。
「あ、あのね? 男は18歳からしか結婚できないし、そういうのは大学を卒業してから考えることで、ね……?」
「もうやだこのクラス!」
あまりの羞恥に耐えきれなくなったらしい柚木園が耳を押さえて喚く。いやあ、青春だね。
「で……春山は? やりたい仕事」
床でハァハァしている変態は、満面の笑みで親指を突き出して。
「犬」
「え、えと、春山くん? だ、大丈夫……?」
「夕紀、それは頭がってこと? それとも顔? 人格?」
「全部だろうな」
「せめて一つに限定しろよっ?」
春山には特に遠慮がなく冷たい柚木園と美羽。
悦ばせるだけで逆効果なのに。
「やだなぁ、いくら俺でも自分が霊長目ヒト科だってことくらいわきまえてるから! 下僕と書いてイヌと読む方だって!」
「分かってるよ! 分かってるから引いてるんだろ!?」
高校生が将来の夢に動物を希望していたら色々問題だ。
叶うとしたらそれは来世の話だろう。
「そー言うヒナはどうなんだよ」
「えー……」
ほとんどなんの参考にもならなかった自由な回答たちを思い出し、
「……今のところは公務員にしておくよ。堅実に」
「地味だな」
「ツッコミようがないねー」
「高校生のうちくらい、こういうとこでボケといてもいいんじゃない?」
「空気読もうぜー、ヒナ」
「お前ら全員公務員の皆様に謝れ!」
一番まともなのになんで非難されなくちゃならんのっ?
373
:
にゃにゃですが
:2013/04/05(金) 16:53:43 HOST:zaq31fa522f.zaq.ne.jp
↑お前のスレつまらん
ゴチャゴチャぬかすな
>>1
毎度毎度糞スレ御苦労様
374
:
ピーチ
:2013/04/05(金) 21:00:17 HOST:EM114-51-47-243.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>
何でだろうヒナさんがもの凄く哀れに見える!
あたしも小さい頃は花屋とかケーキ屋とかそこらへんの人が書いてたのを真似してた気がする←
確かに公務員の方々に悪いね、それはw
375
:
心愛
:2013/04/11(木) 22:42:10 HOST:proxyag115.docomo.ne.jp
>>ピーチ
ヒナは哀れなポジションだからねw
花屋ケーキ屋は小さい女の子の夢だよね!
男と男装少女の夢としてはアレだけどね!
ここあは昔は歌手になりたいとか言ってた気がする(つд`) …なんでやねん←
376
:
ピーチ
:2013/04/12(金) 05:48:54 HOST:EM114-51-151-123.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>
いや哀れすぎるでしょいくら何でも!?
うーん、ちょっと男の子はなー…←
あたしなんか色んな仕事掛け持つ、とか言ってたからね!←
377
:
心愛
:2013/04/12(金) 19:09:07 HOST:proxy10029.docomo.ne.jp
>>ピーチ
掛け持ちか!
それだけ聞けばデキる女っぽい(`・ω・´)
さてさて、旅行編スタートだよ!
378
:
心愛
:2013/04/12(金) 19:09:50 HOST:proxy10029.docomo.ne.jp
『温泉旅行』
「そろそろ修学旅行のシーズンだねー」
くてーっと机に突っ伏した姫宮がこちらを見上げてくる。
そのほわほわした笑顔に、同じくほわほわした気分になりながら。
「高校生で一番のイベントだよなー」
「高二の人が羨ましいよねー」
ほわほわーっと微笑みあった後―――二人して声を揃える。
「「なんでうちはないんだろ……」」
そう。俺たちの学校、南高に修学旅行はない。
分かってたことだけど……学校生活が楽しくなってきた今、それを思い起こすとちょっと悔しいというか虚しいというか。
「まあまあ。勉強合宿とかないだけ感謝しようよ」
柚木園がさらりと大人の発言。
姫宮は唇を尖らせる。
「でもやりたかったなぁ……。みんなでお泊まりって楽しいよね」
「うん、特に夕紀はそういうの好きそう」
姫宮は「好きだよー」とにっこりし、
「中学のときは旅館に泊まったんだ。でもみんなでお風呂だーって楽しみにしてたのに、僕が行ったときには誰もいなくて……残念だったな」
「そりゃ良かった」
「えっ? なんで!?」
いくらこいつとそこそこ仲がいい俺だって、姫宮が男湯に入ってきたら動揺しない自信はない。
「旅館っていいよね。私はホテルだったよ」
「わ、なんか豪華な感じだー」
柚木園の話ににこにこした姫宮が、次いで俺に話を振ってくる。
「で、ヒナはなんかいい思い出とかないの?」
「……俺の、修学旅行の思い出かー……」
俺はふっと微笑み、目を霞ませて遠くを見る。
修学旅行。修学旅行ね……。
「憂鬱すぎる班決め……人数合わせで無理矢理放り込まれた俺+仲良し三人組……みんなが盛り上がってる中寝たふりをした新幹線……」
「ひ、ヒナ?」
「悪夢の自由行動……きゃっきゃしている三人の後ろを数歩離れてついていく俺……特に行きたくもない寺巡り……『みんなで写真撮ろーぜ! ……あ、日永君いたんだ! 撮ってくんね?』……っつーか班で俺だけ名字呼び……」
「ひ、ヒナ! 戻ってきてーっ! こっちの世界に戻ってきてぇー!」
必死になった姫宮にガクガク肩を揺らされるも、俺はぼーっとしたまま思い出話を吐き続ける。
「『すげ、お前あいつと話せんの? マジ勇気あるわー』『だって一回話したことあるもん、この前の罰ゲームで』『え、名前なんだっけ?』……はっ!」
覚醒した。
「ちくしょう、いい思い出なんかあるかよバカーッ!」
「ごめんねヒナ! 僕が悪かったよ!」
「その思い出は胸の奥にそっと封印しておいて!」
力いっぱい叫ぶ俺をとりなす二人。
うぐ……べ、別に自分の話でうっかり傷ついてなんかないんだからね!
「美羽は? どうだった?」
話題転換のつもりなのだろう、今までだんまりをきめこんでいた美羽に、柚木園がさり気なく話し掛ける。
それに。
俯いた美羽は、きゅっと軽く拳を握った。
「……行ってない」
なかった、でもなく。
暗い声でぽつりと紡がれたその一言は何故か、ずっしりと重くて。
「え、えーと、……」
何かしらの事情を察知した俺と柚木園が瞬時にアイコンタクトを交わし、間を保たせようと口を開いた、その矢先に。
「やり直そうよ!」
姫宮が元気よく声を上げた。
はい? と目を丸くする俺たちに、姫宮は満面の笑みで提案してくる。
「京都とか奈良とかまでは行けないけど、このメンバーでお泊まりしてみない? ちゃんと旅館取ってさ!」
「お、おお……! すげえ、なんかリア充ぽい……!」
とてもまともかつ素晴らしい案に感動する俺に続き、柚木園もにこりと笑う。
「ただの旅行だけど修学旅行気分で、ってことか……。私はもちろん賛成だけど、どう? 美羽」
急速に展開する話に、驚いたように赤い瞳を見開いていた美羽が、数秒遅れてこくんと頷いた。
「あ、……あの……そういうことなら、美空も一緒でいいか? あいつなら、宿泊する場所も上手く話をつけてくれると思う」
「そうなの? もちろん大歓迎だよっ」
任せてくれ、と言う美羽は、やっぱり少なからず嬉しそうだった。
379
:
ピーチ
:2013/04/13(土) 19:16:45 HOST:EM114-51-187-34.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>
今はそんな世間知らずなこと言えるわけないけどね!←
ヒナさーん! 戻ってきてぇー!
哀しいよそれ無茶苦茶哀しいよ!
380
:
心愛
:2013/04/14(日) 19:59:55 HOST:proxyag059.docomo.ne.jp
「一ノ瀬、さん……ですよね。お世話になります」
「こちらこそ。姫宮様と柚木園様でよろしいですか? 美羽様から常々お話は伺っております」
「一ノ瀬! 余計なことを言うんじゃない!」
広々としたリムジンの車内。
連休を利用して、俺たちは予定通りに旅館へと向かっていた。
グレーのボタンダウンシャツにジャケット、細身のデニムというラフな装いの昴さんが運転席から涼しげな微笑みを向けてくる。
高校生だけでは不安だと考えた美羽たちのお父さんが、保護者兼運転手として彼を任命したらしい。
昴さんに好感を持っている俺としては嬉しい誤算だ。
「美羽ちゃんは照れ屋さんだからねー。でもあんまりつれないことばっかり言ってると、女の子の友達できないぞ?」
昴さんの隣の助手席で、水色のミニワンピース、ブラウンカラーのブーツ姿の美空先輩が振り向いて「圭くんはいいけどねー」とにやにや笑う。
案の定、後部座席の美羽はすぐに噛みついた。
「誰が照れ屋だっ! それにそんなもの、苺花だけで十分でっ―――………………あ」
……あれ、そういや美羽が柚木園のことをちゃんと呼んだのって初めてじゃね?
「……み、美羽〜〜〜っ!」
「ち、違う! こ、これはっ、……ぁ、わ、だ、抱きつくな! 抱きしめるな! く、くるし……っ」
口を片手で覆う美空先輩がこらえきれず「くふふ」とほくそ笑んでいるのが見える。
……まさか、今のって先輩の誘導……?
いや、それより。
「……俺、負けてない?」
幸い俺の呟きは、賑やかな後ろの二人や、早くも俺の隣ですぅすぅ寝息を立て始めた姫宮(昨日楽しみで眠れなかったとか可愛いことを言っていた)には聞かれることはなかったようだ。
それにしても男女混合で旅行とか、勝ち組ぽいよなーとか考えて、一人でテンションを上げてみる。
だって年頃の、しかも気心が知れた仲間と旅行だ。否が応でもわくわくしてしまう。
「ふ、ふ……っ、そんな攻撃、ぼくの物理障壁にかかればなんてこと……っ」
「あーもう美羽は可愛いなー! 膝に乗せたくなってくるよ……ぎゅーっ」
「すっかりキャラが変わっているぞっ? いつもの王子キャラはどこへ行ったんだ!? そう簡単に捨ててい……ひゃわっ」
「ん、あれ? 旅館ってもっとあっちの方じゃなかったっけ?」
「いえ、合っているはずですよ。……お嬢様はドジでいらっしゃる上に、極度の方向音痴なのですから……」
「なにそれひどーい! バカにしないでよ、今日は朝から三回しか転んでないんだから!」
……ちょっとだけ、メンバーが強烈すぎるような気もするけども!
これに『男三人で一緒にお風呂だとッ!? しかもお泊まり、ちょっ、きゃっほぉ――――うッッ!!』と奇声を上げていた彩を追加したらどんなに恐ろしいことになっていただろう。想像したくもない。
「―――圭様、あと10分ほどで着きますよ」
「え、マジっすか! 意外とそこまで遠くないんですね」
窓の外の景色を眺めることしばらく、昴さんがミラー越しに薄く微笑んできた。
多分姫宮が寝てしまって話し相手がいない俺を気遣ってくれたんだろう。昴さん優しすぎる。
「そうそう。結構いいとこだから期待してて大丈夫だよ」
「……っていうか先輩、そこそこ人気の旅館を無料で完全貸切とか、どんな荒業使ったんですか?」
そう。美羽の言った通り、急な話にもかかわらず、美空先輩はあっという間に最高の条件で手配を済ませてしまったのだ。
そんな上手い話、裏があるようにしか思えないんだけど……。
「え、別荘のが良かった?」
「べっ……!?」
「今から行くとこって、特別観光地ってわけでもないからね。でも別荘は夏の方がいいなー。せっかく海あるんだし」
ぽんぽん飛び出すとんでもないセレブ発言に間いた口が塞がらない。
「あ! そういえばこの辺に新しいホテル出来たんだよね。そこもあたし顔利くんだけど、今からでも無理やりねじ込―――」
「旅館サイコーッ!」
ケータイを探しだした先輩の台詞を遮り、俺はぐっと拳を握る。
なんか良く分かんないけどこれはやばい、と俺の本能と止まることのない冷や汗が告げていた。
381
:
心愛
:2013/04/14(日) 20:07:34 HOST:proxyag059.docomo.ne.jp
>>ピーチ
夕紀の中学の修学旅行でお風呂に誰もいなかったのは、どこかの会員の皆さんの仕業なんだぜ……?
悲しかったぶん、ヒナには今回ちゃんと楽しんでもらおう! うん!
そして始まりました旅行編、今回名前も登場してない某クラスメイトがいるような気もしますがここは気にしない方向で!
美空は無敵だよ! ドジさえなければ!
382
:
ピーチ
:2013/04/15(月) 05:14:54 HOST:EM114-51-25-234.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>
まさかの会員さんの仕業か! それは可哀そうに!
苺花ちゃん王子キャラはどこ行ったの!?
……あ、ドジさえしなければ無敵、ね…←
皆様方がそれぞれにキャラ濃いようで! 昴さん除いて!
383
:
名無しさん
:2013/04/15(月) 12:29:44 HOST:zaq31fa522e.zaq.ne.jp
【気合いと合気道】
単刀直入に言いますが、
貴方、武術やりませんか?気合いと根性に自信ありますか?
もしあれば合気道をどうぞ
合気を行う際、気合い入れましょう。
気合い入れて!やぁ!!
格ゲーをご存じの方は
一度、藤堂香澄および風間飛鳥という人物を想像してみて下さい。
彼女らをイメージし合気技を行うとより効果的です
384
:
名無しさん
:2013/04/15(月) 12:32:07 HOST:zaq31fa522e.zaq.ne.jp
時々ガラの悪そうなおっさんが
来ますが気にしないで下さい。
悪そうな・・ですよ。
こんな事言っちゃヤバイかな・・・
まあとにかく関西で一緒にやりましょう。
私、関西です。
385
:
名無しさん
:2013/04/15(月) 12:36:44 HOST:zaq31fa522e.zaq.ne.jp
以前、門下生1人、救急車で運ばれました。
稽古がハード過ぎたのかな〜?
技くらい過ぎてダウンし病院直行!
私も気をつけます。
それにしても合気のコーチむちゃくちゃです
加減を知らないから困る。
ちょっとヤリ過ぎてしまうのがたまに傷ですね
ある意味空手コーチより凄まじいです。
一緒にやりましょう。
ただし保険はかけておきましょう。
怪我した時とかに役立ちます。
386
:
心愛
:2013/04/16(火) 21:31:39 HOST:proxy10047.docomo.ne.jp
>>ピーチ
どんな荒業〜のくだりで、美空がサラッと流したのも隠れポイントなんだぜ!
何かと世渡り上手なとこも書けたらなーと……ドジもしっかりやらせつつ←
みんなキャラ濃すぎて早くも大惨事の予感だね!
ヒナと昴に頑張ってもらうしかないね!
387
:
ピーチ
:2013/04/17(水) 05:12:00 HOST:EM114-51-166-96.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>
気付きましたよ怖いよ美空先輩! 無理矢理ねじ込むってどーなんですかね!?
世渡り上手すぎじゃないですか美空先輩……?
うん、確かに彩ちゃんは入ってなくてよかったかも←
キャラ濃いのはいいことだよ! 薄くて忘れられる存在よりずっといいよ!
…とか何とかいいながら自分がそうだったり←
388
:
名無しさん
:2013/04/17(水) 11:18:25 HOST:zaq31fa5058.zaq.ne.jp
またクソスレか?
誰も見てねーよカス
いい加減にしろ
それより白人女性の話しないか?
389
:
心愛
:2013/04/18(木) 21:26:46 HOST:proxy10048.docomo.ne.jp
>>ピーチ
ありがとう気づいてくれたか!
多分ホテルの重役とかにも知り合いがいるんだと思うよw
美空の世渡り上手な令嬢ぶりは…早く本格的に書きたいなぁ←
や、キャラ濃すぎですよね…w
390
:
心愛
:2013/04/18(木) 21:27:27 HOST:proxy10047.docomo.ne.jp
「夕紀、ほら」
「んゅ?」
起きたばかりでまだぽーっとした姫宮は寝ぼけ眼で首を傾げた後、柚木園が差し出した手にぽんっと自分のそれを乗せた。
「あはは、違うって」
貸して、と姫宮の持っていた荷物を笑顔で掠め取り、自分のものと共に両手にぶら下げてさっさと歩き出す柚木園。
ジャガード柄のカーディガンにカーゴパンツの後ろ姿は文句なしにカッコ良く、さすがはすべての女の子を愛するフェミニストといった風格だ。……実際の性別はともあれ。
「うん? ……え、えっ? 待ってまいちゃん! むしろそれ僕の役割だよ!」
凛々しすぎる彼女を、やっとのことで我に返った彼氏が慌てて追いかけていく。
「なにやってんだよあいつら……」
「確かに、女性に持たせるわけにはいきませんね。私も声を掛けてきます」
「いやいやっ、これ以上荷物増やしてどうするんですか! 美羽のぶんくらい手伝いますよ!?」
自分のものに加えて美羽と美空先輩、三人分の大型バッグを抱えて運転席から出てくる昴さん。
成人男性にしては細いし非力そうに見えるのに、表情には割と余裕がある。
「美羽のとか特に重そうだし……」
「仕方がないだろう。闇の装束はその機能性に見合った重量があるんだ」
「自分で持てないものを持ってくるなよ!」
「ありがとうございます。ですがこれも私の仕事ですので、お気になさらず」
にこりと微笑む昴さん。大人だ……。
一行を先導する美空先輩に続いて、駐車場を出て目的の建物へ。
小綺麗で洒落た感じのエントランス前に辿り着くと、外に出てわざわざ待機していたらしい女将さんが深々と頭を下げてくる。
「ようこそいらっしゃいました。結野様ですね? 常々お話は伺っております」
「はい。無理を言って申し訳ありませんでしたー」
にこやかに挨拶する先輩だけど、な、なんか……怖い。
無言の圧力みたいなものが、華奢な身体からゆらゆら立ち上ってるようなイメージだ。
「え、と……美羽たちのお父さんって、確かアパレル会社の社長さんなんですよね? 旅館となんか関係あるとは思えないんですけど……」
何かしらの権力を行使したんだろうけど、それってなんの?
俺の隣で声量を落としながら、昴さんが微苦笑。
「旦那様の御兄弟や親戚の方もそれぞれ大規模な会社を営まれていますので、その関係でしょう。とにかくお嬢様は人脈が広いですから」
「へ、へー……」
……なんかもう、財閥?
*・゚゚・*:.。..。.:*・゚゚・**・゚゚・*:.。..。.:*・゚゚・**・゚゚・*:.。..。.:*・゚゚・**・゚゚・*:.。..。.:*・゚゚・*
女将さんの案内について館内を歩いても、他の客と全然すれ違うことはなかった。
「本当に貸切なんですね……」
「うん。でも一人一部屋ってのも寂しいからねー、これくらいでちょうどいいでしょ?」
今回俺たちが使うのは女部屋がひとつに、姫宮と俺で一室。
それから、さすがに高校生のガキと同じ部屋というのは昴さんに悪いだろうということで、もう一部屋確保してある。
「これでタダって……。なんか申し訳なくなってくるんですけど」
「えー、だって少しでもお得な方がいいじゃない?」
「良心の呵責みたいなのないんですか先輩」
「んー、特にないかなー」
「マジすか……」
「例外はあるけどね」
美空先輩は悪戯っぽく漆黒の瞳を輝かせて。
「こういう特別扱いじゃなくて、なんて言うか……ちゃんと純粋な、一人のお客さんとして楽しみたいかな、ってとこは、あたしにもあるよ」
「? 旅館の話ですか?」
「そうそう。すっごく可愛くて頑張りやの若おかみさんがいるんだけどね、もうほんと可愛いの!」
「二回言いましたね」
まるで美羽のことを話すときみたいに、美空先輩は楽しそうだった。
よっぽどその子のことが気に入っている……のかもしれない。
「そこもまた誘うから!」
「まだここ来たばっかりなのに、気が早いですよ」
そう笑い返しながら。
もう次の、みんなで遊ぶ予定を話せるなんて、なんとなく―――いいなぁ、なんて思った。
391
:
ピーチ
:2013/04/20(土) 23:11:20 HOST:EM49-252-202-34.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>
何でだろう夕紀ちゃんがすごくかわいく見える!
そして苺花ちゃんはどこまでも王子様だね!
……世渡り上手過ぎないですかね、美空先輩?
ありがとうございます彩織を出してくれてありがとうございます!
392
:
心愛
:2013/04/22(月) 22:45:19 HOST:proxyag073.docomo.ne.jp
>>ピーチ
お手w
苺花は、これからちゃんと女の子してもらうんで今のうちに王子させといた!
美空はドジ属性抜いたらただの天才だからね! ただの天才だったらつまんないし(ぉい
彩織ちゃん、これくらいしか出せなくてごめんねー!
393
:
心愛
:2013/04/22(月) 22:48:36 HOST:proxyag070.docomo.ne.jp
姫宮と二人だけで贅沢に使わせてもらう予定の、定員七名の和室。
襖で仕切られた川沿いの部屋は眺めも良く、窓を開けると風情のある緑の木々が見える。
「なんか落ちつくねー」
姫宮と二人でまったりしながら、水のせせらぎに耳を澄ませる。
なんかもう何もかも忘れてぼーっとしてたいような……。
「何かお手伝いすることはありませんか? 何でもお申し付けください」
「え、ええ……っ?」
が、全然落ちつけてない人が一名。
知的な風貌の美青年に真摯な眼差しを向けられ、年配の仲居さんが顔を赤くする。
「ちょ、昴さん!」
「はい?」
不思議そうに振り返る彼。
いや、はい? じゃなくて。
「せっかくなんだからゆっくりしましょうよ。お客さんに手伝うなんて言われたら困っちゃいますって」
「そ、そうですか? 申し訳ありません」
心なしかほっとした様子の仲居さんが出ていった後、昴さんはまたそわそわし出す。
進んで荷物の整理を手伝ってくれた彼を、どうせなら一緒にくつろごうと引き留めたはいいけど、どうやら結野家の優秀な執事さんは働いていないと気が済まないようで。
「緑茶です。よろしかったらどうぞ」
「あ、ども……」
漆塗りのテーブルに、コトリと置かれる湯呑み。
い、いつの間に淹れたんだろう……。
「少し早いですが、お布団を敷いておきました」
「えっ!? ちょっと待っ、ええっ!?」
驚いてバッと見れば、一瞬で畳の上にキッチリ綺麗に並ぶ二枚の布団が出現していた。
早業なんてレベルじゃない。
「浴衣はこちらになります。着付けが上手くいかないようであれば―――」
「ストーップ! 昴さんストーップ!」
止まる気配のない昴さんに、たまらずストップをかける。
「少しは休みましょう、ね!? お客さんじゃなくなってますよ!?」
「す、すみません。落ち着かなくて」
しゅん、とすっかり恐縮してしまう昴さん。
姫宮はというと、彼の業績を見ては「すごーい」と目をキラキラさせて感嘆のため息をついていた。
「ですが、実は備品の手入れに少々納得がいかない箇所がありまして……。それも兼ねてやはり先程の方に掃除用具をお借りし―――」
「よっし早速お風呂行きましょうか! 露天風呂がいいらしいですよ!」
「おふろおふろー!」
「け、圭様っ!? 姫宮様!?」
失礼を承知の上で、俺たちは昴さんをずるずると引っ張って部屋を出た。
゚・:*:・。☆゚・:*:・゚☆。・:*:・゚・:*:・。☆゚・:*:・゚☆。・:*:・゚
着替えやタオルを持って、ラウンジや卓球場、売店やなんかを横目に、まっすぐに大浴場へ。
……しかしあれだよね。創作では、こういう旅館のお風呂って、だいたい混浴だったりするよね。
男女交替の時間が決められてて、それに気づかず入ってきちゃったヒロインと二人きりで鉢合わせ、とかね。
お約束だよね……!
「……って、普通に男女別かよ……」
「うん? ヒナ、なんか言った?」
「いや別に」
……と思いきや、まさかの健全ルートだった。
別にいいけどさ。
そんなことを話しながら、男湯、と書かれた青い暖簾をくぐる。
「わー、脱衣所まで広いねー」
「そうだな……………ってちょっと待てぇ――――いッッ!」
わ、忘れてたぁああああああ!!??
「どしたの?」
シャツに手を掛けながら、きょとん、と首を傾げる美少女(ただし性別は♂)。
「どしたのじゃない! とにかく脱ぐなここ男湯!」
「うん、だから脱がないと入れないよね?」
「いーやーあー! この年で犯罪者にはなりたくないぃぃぃー!」
頭を抱える俺。
「何事も平常心ですよ、圭様」
言って、昴さんが涼やかな笑顔を向けてくる。
「お嬢様が次々と巻き起こす奇想天外なトラブルに比べれば、容姿が女性の男性の裸体を見るくらい、なんてことはありません」
「ま、眩しい……! その悟りきった微笑みが眩しい……!」
「今容姿が女性って言いませんでした!?」
昴さんの言葉には、何故か無駄に説得力があった。
394
:
ピーチ
:2013/04/23(火) 04:38:10 HOST:EM114-51-23-101.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>
いや犬じゃないからね人だからね!
いや王子すぎるだろあの人!
美空先輩凄いよね! ドジさえ抜けば完全無欠!←
こんなに出してくれてありがとうー!
395
:
心愛
:2013/04/24(水) 19:00:30 HOST:proxyag117.docomo.ne.jp
木漏れ日が差し込む、広々とした露天風呂。
不透明な湯の中でゆったりと手足を伸ばす。
岩肌に腕をつき、ほっと一息。
「ふー……」
「ヒーナー? なんで向こうばっかり見てるのさー」
「ひぎゃぁあああ―――――ッッッ!?」
視界に白いものが映り込み、俺は唐突に絶叫を上げてずざざっと湯の中で後ずさる。
「来るな寄るな近づくなぁあああっ…………あ?」
「だから何なのっ」
俺が逃げた方向に先回りして、ぷんすかしている姫宮の肩が目に入る。
予想通り白くなめらかな肌やほっそりした腕をしているものの、その骨格は明らかに少女でなく少年のもので。
「……ひ、姫宮がちゃんと男、だと……? なにこれ夢? 白昼夢?」
「ヒナは僕をどんな目で見てたの!?」
ぷくーっと膨れる顔はやっぱり可愛らしいけど、こうしてちゃんと見れば女子と間違われることはまずないだろう。
まさに“可愛い男の子”って感じだ。
「……いーなー。筋肉うらやましい……」
ぽけっとしてしまう俺をよそに、本人は不満そうに自分の腕を眺めていた。
「隣、いいですか?」
「あ、どうぞどうぞ」
失礼します、と穏やかに微笑み、昴さんも俺の横に腰を下ろす。
ギリシア彫刻のように優美なシルエット、薄いながらも立体的に陰影のついた筋肉のラインが美しい。
「たまには、こうやってゆっくりするのもいいですね」
「そうですよ。仕事なんか忘れて―――」
と、突然仕切りの向こうから、聞き覚えのある元気な声が響く。
『美羽ちゃんこっちこっちー! おいでー』
『聞こえているから騒ぐな! そして走るな滑ったらどうする!』
男サイドに立ち込める沈黙。
「……女湯って……このすぐ向こうだったり……」
「……そのようですね」
こちらとあちらを隔てるのは薄い仕切り一枚。
賑やかな会話が思いっきり丸聞こえだった。
『おっ、意外とあるじゃん! 王子ってば着やせするタイプ?』
『きゃ、い、いきなり何するんですかっ』
『身体検査ー! ……んん? 待って王子、もしかしてあたしより腰細くない?』
『……この世は不条理だ……』
『そんなのどうでもいいです、それより美羽がすっかり黄昏ちゃってますよ!』
『やだもー美羽ちゃんだって可愛いよ! つるぺただって需要あるよ!』
『うるさいこっちに来るな! 目の暴力だ!』
「…………」
気まずげに視線を泳がせる昴さん、なんとなく正座の俺、体育館座りの姫宮が一様に赤面。
なんか水温が上昇したような気が。
「……認めるよ姫宮……! お前は男だ!」
「ヒナ! やっと分かってくれたんだね!」
小声のまま握手を交わす俺たち二人。
この恥ずかしさ、いたたまれなさは男同士でしか分かるまい。
『私の癒しは美羽だよ……っ。あー、落ち着く……』
『苺花も抱きつくんじゃないっ! 背中に当たっ……、て……、……………ひっく』
『……えっ、もしかして泣いてる!? 泣いてるのっ?』
『うわぁぁぁあああああん!』
ざっばあ! と派手な水飛沫が立つ音、濡れた床を駆け去る小さな音が立て続けに聞こえてきて。
『み、美羽ちゃんっ!? 追いかけなきゃ……王子、あたし先に上がるね!』
『は、はあ……って先輩、危険ですから走らないでくださいよ!』
『大丈夫だいじょっぷぎゃっ!?』
『ほんとに期待を裏切りませんね!?』
そして最後に、びったぁん! というお馴染みの音。
「え、と……心配だし、ゆいのんたちの様子見てくるよ」
「……そ、そか。じゃあ頼むわ」
「……では、私からもお願いします」
それぞれの想い人が起こした残念すぎる一連の出来事に、俺と昴さんは現実逃避の道を選んだ。
396
:
ピーチ
:2013/04/25(木) 03:40:30 HOST:EM114-51-8-105.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>
男湯だけだとこんな思いしなくていいかもなのにね!
ほんと女子って元気だよねー…←
397
:
たっくん
:2013/04/25(木) 13:32:22 HOST:zaq31fa48ea.zaq.ne.jp
今2チャンネルのほうで歌ってきました。
やっぱり人間としてやるべきことはちゃんとやらないと
私は常識を守りたいです。
やっぱり人間としての常識ですからね
コミュニケーションというのは大切ですからね
皆もちゃんしなきゃ駄目だよ
398
:
たっくん
:2013/04/25(木) 13:32:57 HOST:zaq31fa48ea.zaq.ne.jp
また別のサイトでも歌ってきます。
アホのピーチ♪(笑)
アホのアーバン♪
399
:
たっくん
:2013/04/25(木) 13:33:17 HOST:49.250.72.234
人間としての常識ですからねこういうのは
皆もちゃんとしなさいよ
400
:
あ
:2013/04/25(木) 14:50:50 HOST:ntnara044190.nara.nt.ftth4.ppp.infoweb.ne.jp
実は、1ケ月くらい前にヤバイことがあったんです。
学校のテストで赤点だった私は、K君と二人で居残りをさせられました。
K君は、運動神経抜群で、しかもルックスもよくて私の友達のなかにも
K君が好きな人はたくさんいます。もちろん私もその一人です。
なので、私は正直うれしくてたまりませんでした。
先生は、私たちに「そのプリントやったら帰っていいから、気をつけて帰れよ。」
とだけ言ってどこかへ行ってしまいました。
私は20分くらいでプリントを終わらせました。
でも、K君はまだ終わってません。
だからと言って待っていてもしかたがないので、私は
「あの・・・えっと・・・わ、私・・・もぅ終わったから・・・先・・・行くね・・・。」
と、顔を真っ赤にしながら言いました。
すると、K君は意外なことを言い返してきました。
「5分だけ待ってくんない? ・・・あ、いや・・・なんでもない・・・。」
私は、びくっりしました。
でも、少し考えてから
「いいよ。 でも、待ってどうするの?」
と聞き返しました。
K君は
「暗いし、一緒に帰った方がいいかなぁって思って・・・。」
と言いました。
私は、うれしくなりました。
そして、5分くらいたって
「はぁ〜あ!!やっと終わったよ。よし!!じゃぁ、いこうぜ!!」
というK君の声につられて私たちは教室を出ました。
私の家とK君の家は、歩きで5分くらいの近さです。
そして、K君の家のほうが学校の近くにあります。
歩いて行くと、K君の家が近ずいてきました。
そこで、私は、K君から「目を閉じろ」と言われました。
なんの抵抗もなく目を閉じた私をK君がゆうどうしてくれます。
私は、K君の手と声をたよりにゆっくりと足を進めます。
しばらく歩くと、いきなりソファーのようなものの上に押し倒されました。
私は、あわてて目をあけるとそこはなんとベットの上でした。
そしてK君が裸で私の服を脱がせます。
おっと!!
これ以上は恥ずかしいので、この文をコピーしてこの掲示板と他の掲示板に1つずつ
はって下さい。
すると、『 』にアドレスが出て、が青くなってクリックできます。
そして、30分ぐらいの動画が見られます。内容は、胸をもんだり・・・・
前、似たようなのなのやったけどできなかった
401
:
心愛
:2013/05/02(木) 23:23:51 HOST:proxyag053.docomo.ne.jp
>>ピーチ
たぶん同じ状況で、相手が他人の女子だったら「うぜえ…」って考えると思うよここあ←
自キャラの美人さんたちだから騒いでても仕方ない!
温泉ネタは一回書いてみたかったw
402
:
心愛
:2013/05/02(木) 23:24:21 HOST:proxyag053.docomo.ne.jp
その後、静かになった露天風呂を出て大浴場に行ってみたりと一通りぶらついてから、そろそろ上がると昴さんに声をかける。
「せっかく来たんですから、昴さんはもう少しいたらどうですか? たまには美空先輩のお守りから解放されてゆっくりしてもバチは当たらないと思いますよ」
「……では、お言葉に甘えて」
あ、お守りってとこ否定しないのね……。
そんなこんなでさっさと着替えて脱衣所を後にすると、女湯の暖簾から出てきた柚木園と鉢合わせした。
「あれ、ヒナ」
水分を含んだ髪の間から覗く折れそうに細い首筋、しっとり透明なつやのある肌が妙に艶めかしい。
さっきの会話を聞いてしまった後だからか浴衣姿の柚木園が女っぽく見えて直視できず、微妙に視線を逸らしながら小さく片手を上げて。
「偶然じゃん。美羽たちの後?」
「そうそう。二人ともすぐに出ちゃったからね、一人で満喫してきた」
うん知ってる。と言いたい衝動をぐっと抑える。
「これから暇なら、こっちの部屋来たら?」
「え、女部屋に?」
「異性の部屋に遊びに来てわいわいやる、っていうの、修学旅行の醍醐味じゃない? 見回りの先生に見つからないように隠れたりして」
「先生誰だよ」
役割的に昴さんが一番近いような気がするけど。
「まぁ、私は女の子の部屋にいても何も言われないから今まで関係なかったけどね。こればかりは自分の性別に感謝するよ」
「あそう……」
そんなくだらないことを話ながら、柚木園に付いて広々とした廊下を歩く。
やがて一つの襖にたどり着き、
「美羽、先輩? ただいまで、……す?」
部屋の中を覗き込んだ柚木園、そして俺が、揃ってフリーズした。
くてっとテーブルに突っ伏して、赤い顔でふにゃふにゃ言っている美羽。彼女を見ながら端正な顔を気まずげに引き攣らせている美空先輩。
そして。
部屋の中に仄かに漂う―――アルコール臭。
「「お酒は二十歳からッ!?」」
動転のあまり、二人して変なツッコミをしてしまった。
「ちょ、何やってるんすか先輩!?」
「わ、わざとじゃないの!」
ぴょこんっとツインテールを跳ねさせながら、しどろもどろに言い訳タイムに入る美空先輩。手にはジュースの(いや、そう見えるだけの)缶。
「あの、ね……? みんなで飲もうと思って勝手に家から持ってきてたジュースを開けたら、それがお酒だったみたいで……」
「ドジにも程がありますよっ!?」
分かりにくいとこでドジられるのも困るもんだね! 学習した!
今日のドジが少なかった、っていうのはこのための伏線だったのか!?
「だ、だってお風呂上がりに冷たいもの飲むと美味しいじゃない? ……ってことで、美羽ちゃんもだけど、ついて来てくれた姫にもあげちゃった」
「をい」
しかも被害拡大させてやがった!
唖然とする俺と柚木園に向けて「……え、えへ?」と小さく舌を出してこつんっと頭を叩いてみせる。悔しいけど可愛い。
「んー……なんかあたしまでやばいかも。だんだん暑くなってきた」
「だ、大丈夫ですか?」
「大丈夫……だとは思うんだけど。外行って涼んでくるから、その間美羽ちゃんよろしくね」
「はああ!?」
アルコールに強いのか特別酔っているようには見えなかったけど、美空先輩がひらひら手を振って出て行ってしまう。
残されたのは絶賛潰れ中の美羽と俺ら二人。
ど、どうすれば……。
しばし無言でアイコンタクト会議をした後、柚木園がそろそろと手を伸ばし、美羽の肩を遠慮がちに叩く。
「みーうー」
「……うー……?」
意識はあるようだ。
美羽はとろん、とした熱っぽい瞳で柚木園を映すとふらふらしながら近寄り、彼女にぼふっと抱きついて顔をうずめ………………………え?
「か、か、かわいいいいいい」
口に片手を当てキラキラその表情を輝かせる柚木園。
うにゅーっとかなんとか言いながら頬擦りしている美羽。
……なんだこれ。
立ち尽くす俺はアルコールの恐ろしさに戦慄を隠せない。酒の威力すげえ。
403
:
ピーチ
:2013/05/03(金) 16:00:07 HOST:EM114-51-9-68.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>
あたしも一緒だ仲いい人以外は!←
美人さんだから許されるw
ていうか美空先輩!? いくら何でもアルコールは!
404
:
黒ネコ
:2013/05/05(日) 09:18:56 HOST:softbank220024115211.bbtec.net
どうも、黒ネコです^^
いや、なんかもう「知ってますよ、貴方のこと」って思われてもイイほど皆さんの小説に顔出してます←
今回は、心愛さんの作品に顔を出させて頂きました ̄▽ ̄
文も読み易いし、学生の淡い恋話が楽しく読めました(笑)
っあ、それと、400スレ達成おめでとうございます^^
これからも、お体に沿わない程度に頑張って下さい
応援していますっ!
405
:
心愛
:2013/05/07(火) 22:26:13 HOST:proxy10054.docomo.ne.jp
>>ピーチ
ドジィ……
うん、いくら美人でもアルコール間違えちゃいけないね!
お酒は二十歳からっ!
>>黒ネコさん
またまたこんにちは(*^-^)ノ
恋愛というか基本アホしかやってませんけどね!
頑張って完結までこぎつけたいものです←
406
:
ピーチ
:2013/05/09(木) 04:40:55 HOST:EM114-51-29-243.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>
ちょっとくらいのドジなら可愛さとか引き出せるけどこれはちょっと←
どれだけの美人でもちょっとね……
でもあたしも間違えそうになったことあるような(こら
407
:
心愛
:2013/05/10(金) 22:07:24 HOST:proxy10047.docomo.ne.jp
>>ピーチ
やっぱり転ぶくらいに留めておかないとねw
割と見た目的に普通の炭酸飲料に近いやつあるよね(`・ω・´)
美空はただの不注意と運の悪さだろうがな!
408
:
心愛
:2013/05/10(金) 22:07:52 HOST:proxy10047.docomo.ne.jp
「……お前、彼氏はどうしたよ」
それでも必死に平静を装いつつ半眼で聞けば、柚木園がやっとこっちの世界に戻ってきてくれた。
「わ、私としたことが、つい美羽の可愛さに負けて色々忘れてしまった……!」
「安心しろ、お前いつもそんな感じだから」
全然『私としたことが』になってないと思う。
「み、見てくる!」
言い残して柚木園が廊下へ消え、あれ? と思ったときには既に、個室に美羽と二人だけになっていて。
しまった俺のバカ! 何やってんだよおい!
この状態の美羽と二人きりとか―――完璧に嫌な予感しかしない!
「んー……」
「み、美羽さん……? 眠いなら寝てていいんだよ……?」
俺が恐る恐る声を掛けても、むにゃむにゃ言いながらしきりに寝ぼけ眼をこすっている美羽。
……ダメだ、言葉が通じない。
「まだ早いけどそこに布団敷いてあるし―――って昴さんいつの間にこっちまで!? 仕事モードやべぇ!」
「う?」
きょとん、と一人全力で叫びまくる俺を見上げた後、ふるふると首を振る。
「え、えーと……寝ないってこと?」
熱っぽく潤む瞳は星の瞬く久遠の黒。
風呂上がりだからかアルコールの所為なのか、ほんのり染まった頬。
こくんと頷いた拍子に、濡れ羽色をした髪がふわりと広がり、甘い香りが鼻先を淡くくすぐった。
そんな場合じゃないってことは分かっているのに、勝手に心臓が早鐘を打つ。
「……そもそも美羽は炭酸飲めないし飲食物に対する警戒心も強いから、これだってほんのちょっと舐めたくらいのはず。だとしたら身体に害はないだろうし、だいたいこういうパターンの話ってヒロインが酔っぱらってるのは最初のうちだけで、一晩たったら綺麗さっぱり何も覚えてないってのが大抵ってことを考えるとここはやっぱり一回完全に寝てもらって―――」
「うー……?」
煩悩を抹消するためにひたすらぶつぶつ早口で喋りながら顎に手を当てる俺を、美羽は不思議そうにじっと見つめている。
くそ、いつもの中ニ病要素はどこに行った! これじゃまるっきり別人じゃないか!
「美羽ー? や、やっぱりあっちに」
「う―――」
「いや『う』じゃなくてねっ?」
思わず頭を抱える。
いつものヴァンパイアバージョンの方がずっと扱いやすいんだけど何これ! 普通の男子高校生には荷が重いよ!
「ひなー……」
「ふへっ!?」
今度は、ぎゅっと細い腕を回して正面から腰に抱きついてきた。
……え、え、えええッ!?
「ちょ、ちょちょちょちょぉッ!? 待っ、は、離れ」
「や」
ご満悦なようで、ピュアっ子版美羽さんはにこにこしながらきっぱり拒否。
くっ、これは可愛い―――じゃない! しっかりしろ俺!
「……美羽、よーく聞けよ? 何故か幼児化してるみたいだけど、俺たちは子供って年じゃない。高校生の男女がこういうことするのは色々問題があるわけ。分かった?」
頑張って言い聞かせるけれど、美羽は頬を膨らませてぷいっとそっぽを向く。
拗ねたようなその仕草がいつもの彼女のものと一瞬だけ重なって、顔が急激に熱くなる。
「っ、いい加減に、」
「や―――!」
このままではまずいと半ば無理矢理引き剥がし、じたばたしている美羽に語気を強めて言い放つ。
「俺、自分の部屋帰るから。この部屋で大人しくしてて!」
「………」
それを聞いた途端に、美羽がぴたりと固まった。
ショックを受けたように、大きな瞳が見開かれ―――
「えっ」
「……ごめんなさい」
みるみるうちに、じんわりと涙が溜まっていく。
な、なんで!? どうして!?
「もう、わがまま言わないから、……ひとりにしないで……っ」
力なくしゃくりあげながら、拙い謝罪の言葉を繰り返す。
「きらわれて、ひとりになるのは、……やだ、よ……!」
「………」
ガツンと頭を思いきり殴られたような衝撃を受けて、俺は黙り込んだ。
409
:
ピーチ
:2013/05/11(土) 12:09:25 HOST:EM114-51-32-43.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>
転ぶのもどうかと思うけどなー…←
あるある! だって匂いは果物のお酒なんてよくあるもん!
ヒナさん、墓穴掘っちゃったねw(おい
410
:
心愛
:2013/05/24(金) 15:05:03 HOST:proxyag022.docomo.ne.jp
>>ピーチ
死にかけてるものの、ここあ再び参上(・∀・)
なんかもうほんと久々な感じがする!
見た目も香りも分かりにくいお酒は危険だよね!
あ、ちなみに次ので一応一段落で、今度は番外編で苺花と昴視点をちょろっとお届け予定←
411
:
心愛
:2013/05/24(金) 15:05:40 HOST:proxyag022.docomo.ne.jp
もしかして、今喋っているのは、弱い部分の美羽……?
強気に振る舞いながら、本当はいつも、こんなことを思っていたのか?
“ミウ”と、美羽。
綺麗で強くて、なのに酷く傷つきやすくて、怖いくらいに純粋な、心。
「わ、悪かったよ……」
小さな頭に手を乗せ、あやすように優しく叩く。
「置いてかない。置いてかないから……約束する」
「……ほん、と?」
一拍遅れ、濡れた瞳が上げられる。
「一緒にいてくれる?」
「う、うん」
それを聞くや、美羽はぱああっと顔を明るく輝かせた。
「約束ね!」
うわあ……。
くらっときた。
至近距離で見るには刺激が強すぎる笑顔だった。
姫宮のみたいに純粋で可愛らしい好意の滲み出るその表情は、不慣れな身にとってはたまらない。
「………! ………っ!」
「ヒナ?」
「やー何でもないっ!」
あははと空笑いしながら、美羽をくっつけたまま廊下に出る。
「どこ行くの?」と不思議がる彼女に適当に返し、見覚えのある一つの部屋の前に辿り着き、
「―――……柚木園ヘルプッ!!」
スパーンッ! と全力で襖を開け放った。
胸を張って言おう、俺はもう限界だ! これ以上この状態を続けたら俺の中にお住まいの理性さんが家出してしまう!
でも一応女同士だし、柚木園なら何とかしてくれるさきっと!
という少々情けない考えの末に目的の人物を探しに来た俺はすぐに彼女の姿を見つけた、けど。
「………ぅえ?」
変な声出た。
視界に入ったのは―――あ、と焦ったようにこちらに視線をくれる柚木園、そして彼女の赤い顔の両側に腕をつき、布団の上に押し倒す形で覆い被さっている姫宮。
二人の体勢は、えーと、アレだ。十中八九、旅行先で人目を忍んで今にも致そうとしているカップルのそれで。
つー、と背中に汗が伝う。
「……面目しだいも御座いませぬ。どうぞごゆるりと」
「キャラ変わってる!?」
きょとんとしている美羽の背中をそっと押し、退場しようとしたところで必死な声に止められた。
「ま、待って待って! 助けてよ!」
「……は? 助……?」
良く見れば、柚木園は姫宮の下でじたばたともがいている。
あれ? 合意の上じゃないの?
「ヒナってば!」
「あ、あーうん」
我に返った俺は美羽に裾を引っ張られてコケそうになりながらも、二人に近づいていって姫宮を引き剥がす。
意外と簡単に離れてくれた姫宮は、ふにゃ、とそのまま崩れ落ちた。
その頬は熱に浮かされたようにほんのり色づいている。
「姫宮……?」
「やっぱり酔ってるみたい。私を見た途端にくっついてきてさ……」
恥ずかしそうに浴衣の乱れを直しながら、柚木園。
明らかにくっついてきたとかそういうレベルの話じゃなさそうだけど、あんまり触れられたいことでもないだろうし深入りはしないことにする。
「それは大変だったな……。正直びびったよ」
「私も……。夕紀が酔うと怖いってことが良く分かった」
「やっぱ未成年が飲んじゃいけないってのは道理なんだなー」
二人でしみじみと頷き合う。
……いや、そんなことしてる場合じゃないのは分かってるけどね。
「んー……まいちゃん、どこー……?」
「ちょっとなにこの馬鹿力! 痛い痛い痛いっ」
「ひ、ヒナ!? 大丈夫っ?」
「うー……やーだー! ヒナといるー!」
「美羽も落ち着いて!」
「……み、皆様……? 一体何を……」
「「あ」」
どうやら部屋の前を通りがかったらしい。
荷物を手に持ったまま入口に立ち尽くす昴さんの、戸惑いの視線が痛かった。
412
:
ピーチ
:2013/05/24(金) 22:44:09 HOST:EM1-114-1-127.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>
久しぶりー! 寂しかったよー!←
だよねお酒は要注意だね!
ちょっと待てヒナさんたちー!
みんな可愛すぎるけどそれとこれとは話が別だー!←
413
:
心愛
:2013/06/06(木) 19:52:32 HOST:proxyag074.docomo.ne.jp
>>ピーチ
で、大変なことになった後すぐに後日談という鬼進行w
明らかに変なところは優しい心で見なかったことにしてくれ!(ぇ
414
:
心愛
:2013/06/06(木) 19:53:18 HOST:proxyag073.docomo.ne.jp
「それにしても僕、あのときいつから寝てたんだろ……?」
連休明けの教室で、姫宮が不思議そうに首を捻った。
「朝気づいたら布団に寝てたし、それまでのことって全然覚えてないんだよね。おかしいなぁ」
「そ、それはよかった……」
「まいちゃん? なんで目を逸らすの?」
昨日からなんか変だよ? と柚木園の顔を覗き込もうとして、ばっと全力で避けられている姫宮。
……察してやれ。
「実は、ぼくも記憶が曖昧なんだ」
「うん、その方が幸せだと思う」
世の中には知らない方がいいことだってたくさんあるよね。
美羽は不満げにむむむと唸った後、
「はっ! ぼくの力を畏れる何者かによって消されたのかもしれない!」
「ねぇよ」
「くっ、人間界だからといって油断した……! ヒナ、主の危機だ! 眷属として今すぐ旅館の関係者に電話して、洗いざらい調査を―――」
「しねぇよ」
やっぱり俺の予感通りだったらしく、朝起きた美羽も姫宮も、あの夜のことは綺麗さっぱり忘れてぴんぴんしていた。
良くも悪くも美羽は今日も通常運転で、あの頼りなげな様子の面影もない。
うーん……俺の気にしすぎ、かな。
「あ。そういやお詫びも兼ねて、美空先輩がまた企画するってさ。おすすめの旅館らしいよ」
「ほんと? それは楽しみ……ってお詫び?」
……しまった!
この件については大事にしても面倒だから、天然ピュアっ子たる姫宮と超箱入り娘の美羽だったら「え、あの缶? 普通にジュースだろ。それより急に寝ちゃったけど多分疲れが出たんだな、もう大丈夫?」とか言って騙し通せるだろうって残りのメンバーで(っていうか美空先輩が)隠すことを決めたのに……!
柚木園が黙って顔を引き攣らせている。
い、今からでもごまかさないと!
「おいおいヒナー、何の話してんだよー! 旅館が何だって?」
「いっ?」
と、誰かがバシッと後ろから肩を叩いてきた。
振り返れば、にまにま笑っている春山のツラ。……なんか、妙に久しぶりに見た気がする。
俺が困ってるのを見て声掛けたとか……いやまさか、こいつはそんなキャラじゃないよな。
でも一瞬そう考えてしまうくらいには、偶然では済まないくらいにいいタイミングだった。
「よう。随分と楽しそうだな、ヒナ」
「その話、詳しく聞かせてくれるか?」
「まさか俺らを差し置いて、男女で仲良くお泊まりなんて素敵青春イベントを体験してきた……なんてことは、ないよなぁ」
「絞殺刺殺射殺銃殺毒殺圧殺殴殺撲殺惨殺轢殺扼殺」
「久々の展開!」
悪ノリしたクラスメイト男子に素早く拉致され、俺は教室の隅に追い詰められる。
「ちょ、待てよ! なんで俺だけ!?」
「柚木園は女だし、結野さんも別にいい。姫宮は………なんか違う」
「なんか違うってどういう意味!?」
……確かに、女子に縁のない男が嫉妬をぶつける相手には、姫宮はちょっと……。
いやむしろ、
「結野だけでなく姫にまで手を出すとは……許すまじ!」
「なんで!? なんで僕が入るの!?」
……やっぱり、羨ましがられる理由に入ってるよね。
これで美空先輩の名前も出そうものなら本気で殺されそうだ。
「いーなー。俺も誘ってくれればよかったのにー」
「冗談は存在だけにしておけ」
「俺の存在って冗談だったの!?」
この空気を作り出した張本人である春山はといえば、いつの間にか美羽に絡んでいた。
「ひでーよ結野ちゃん……俺のことキライ?」
「君の霊魂が天に召された暁には死神とダンスを踊ってやってもいい」
「どや顔でふられた! しかも結構言ってること酷くね!?」
台詞だけ聞けば春山の方がまともに思えるけど、これで物凄く嬉しそうな顔をしているのだから手に負えない。これだからドMは……。
415
:
ピーチ
:2013/06/07(金) 03:55:03 HOST:em114-51-132-176.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>
まさかの鬼進行w
いや絶対変なところないから! 読んでてやべぇやっぱ神だこの人とかは思ったけど!←
……ヒナさんも夕紀ちゃんもある意味立場似てたね、今回(え
416
:
たっくん
:2013/06/07(金) 11:44:14 HOST:zaq31fa529e.zaq.ne.jp
昼飯の時間・・
腹をすかせたピーチは母親が朝早く作ってくれたお弁当を開けます。
すると・・何と祖父(おじいちゃん)の入れ歯が入っているではありませんか。
昨夜ポリデントにつけてあったおじいちゃんの入れ歯を
ご飯の上にのせ口に入れた・・すると
案外うまかった
417
:
心愛
:2013/06/07(金) 19:09:01 HOST:proxyag084.docomo.ne.jp
「美羽と夕紀にちょっかい出さないでくれる……?」
「おー柚木園! やっぱいいねその目! ゾクゾクする!」
「夕紀、この生命体の行動パターンに黙るって選択肢はないのかな」
「うん、賑やかで面白いよね!」
「ふふん、そうだろー。なんと言っても俺、通知表に6年連続で『落ち着きがありません』って書かれた男だからな!」
ツッコミ不在のカオス。
次々と飛んでくる質問をスルーしながらこっそり傍観していた俺は、耐えきれずにぼそりと呟く。
「……俺、春山ほどバカな奴見たことないかも」
「よせよ照れるぜ」
「褒めてねぇ!」
眩しいシャイニングスマイルで、ぐっと親指を立てられた。顔だけ見ればワイルド系のイケメンなのが非常にムカつく。
「―――日永圭はこのクラスかっ!」
「誰っ!?」
さらに突然ドアをぶち壊しそうな勢いで開け放ち、屈強そうな男子生徒がぞろぞろ入ってきた。
ずらりと並ぶいかつい顔は、学校の中で見たことあるような気もするけど……?
「貴様、姫と温泉旅行に行ったそうだな?」
「え、どこから情報を!?」
「そんなもの、この教室の天井裏に潜んだ会員からの連絡を得れば容易なこと」
「おまわりさーん!」
この学校忍者までいんの!?
「同じクラスだというだけでも許し難いのに、一日でも姫と寝食共にするなど言語道断!」
「ファンクラブに加入していない男が姫の半径二メートル以内に近づくな!」
「そ、それは席順の都合上無理が……って、え? ファンクラブ?」
『いかにも! 我々は非公式の姫ファンクラブ―――正式名称《我らが天使にして希望の光・姫宮夕紀を草葉の陰から愛で、戦い、全力で守護する会》である!』
「助けてぇぇぇえええええ!」
「? ヒナ、どうしたんだろ?」
「……関わらない方が良さそうだね」
「何を言う、主を庇うのが眷属だろう。自分の危機は自分で何とかしろ」
「この卑怯もだぎゃ―――――!」
巻き込まれたら面倒そうと悟るや、すぐに俺を解放して退散するクラスメイトたち。薄情極まりない。
あと姫宮、お前の耳はどうなってるんだ。
「大切なクラスメイトが一方的な体罰を受けるなんて、見過ごすことはできない……! 先輩方さぁカモンっ! その怒りを俺に全力でぶつけてくださいっ!」
「自分の欲望全開じゃねーかちくしょー!」
南高11組は、今日も平和です。
418
:
心愛
:2013/06/07(金) 19:10:26 HOST:proxyag083.docomo.ne.jp
>>ピーチ
いやいや、違和感ありまくりでごめんw
可哀想ポジ←
419
:
ピーチ
:2013/06/09(日) 08:27:33 HOST:em49-252-253-153.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>
いや無茶苦茶うまいんですけど! むしろ違和感ないんですけど!
ヒナさん哀れだ……! そして春山くんはどうなんだろう…←
420
:
心愛
:2013/06/19(水) 20:52:43 HOST:proxyag014.docomo.ne.jp
>>ピーチ
番外編で、春山もアホなだけじゃないんだなーってわかってもらえたら幸いだ!
…アホだけどね!
そろそろ最終話なムードに突入するかもしれないw
それまでの息抜きってことでいつものバカ極まりない話をどぞ(`・ω・´)
421
:
心愛
:2013/06/19(水) 20:53:03 HOST:proxyag014.docomo.ne.jp
『現代社会』
昼休み明けの最初の授業。
すーすーと可愛らしい寝息を立てて、姫宮が居眠りしていた。
無理もない、特に眠くなる時間帯に加えてこの先生の声は生徒をまどろみに誘うことで有名だ。暖房入れてるからあったかいし。
現代社会はほぼ全員受験に使わない科目というのもあり、みんな最初から先生の話そっちのけでそれぞれ自習に励んでいる。これでまったく気づかず喋り続けられる先生も凄いけど。
俺は開いた国語の問題集の上にシャーペンを転がし、姫宮を揺すり起こそうと手を伸ばしかけて、
『(バカ、起こすな!)』
いくつものアイコンタクトによって阻まれた。
せっかく気持ち良さそうに寝てるのに、無理矢理起こしたら可哀想だってことだろうか。
……何だかんだで、いいクラスだよな。
でも今珍しく次のテストのポイントとか言ってるし、これは聞いておいた方が自分のためにな―――
『(寝顔鑑賞会が中止になっちまうだろ!?)』
訂正。つくづく最低なクラスだ。
『(おいこらヒナ! ふざけんな!)』
『(俺らの安らぎタイムをどうしてくれる!)』
『(まあ落ち着け。ここにとある組織から買収した姫宮の限定ブロマイドとポスターがある。これをじっくり鑑賞して心を休めるんだ)』
『言い値で買おう』
最後、複数の男子が一斉に思いっきり声に出して取引を成立させていたけど先生も気づかないしいちいちツッコむのも面倒になってきたので、俺は姫宮の肩を揺すって目を覚まさせる。
「うーん……? ハンバーグでいいんですか……?」
「どんな寝ぼけ方だよ」
ふにゃふにゃ言いながら目をこする姫宮。
「うにゅー……あれぇ、ヒナがいるー」
「そりゃいるだろ教室なんだから。ほらメモれ、田中結構大事なこと言ってるぞ」
「ふぁーい……?」
うとうとしながらも、その指先は器用にも教科書に付箋を張り出したので大丈夫だろうと判断し、前に向き直る。
重点的に出題する問題集の範囲なんかを一通り把握した後、俺は姫宮の他にももう一人、心ここにあらず状態の男を見つけた。
春山だ。
なんか一時期の柚木園みたいに、何も耳に入らないような様子でぽけーっと虚空を見つめている。
もう先生は社会情勢がうんたらとかいうどうでもいい話に移ってしまっていたから聞く必要はないけど、なんとなく気になった俺は春山の金髪にぺしっとチョップを叩き込んだ。
え、遠慮? そんなものこいつ相手に必要ないし。
「っ…………うおっ!?」
春山は攻撃自体にはほぼ無反応だったのに、何故か俺を見てから大げさにのけぞった。
「な、なんだヒナか! ちょ、びっくりさせんなよー、心臓から口が飛び出るかと思った!」
「それは是非とも見てみたいな」
正しくは口から心臓ね。
呆れる俺をちらっと見、春山は安心したように息をつく。
「……いくら似てないように見えても、兄妹ってやっぱ似るんだな……。あぶね、一瞬間違えそうになったわ」
「は? なんか言った?」
「いや何も?」
へらっと笑ってごまかす春山。……釈然としない。
こいつのこういうとらえどころのなさとか、たまに彩と似たようなものを感じることがある。
「寝不足? 永眠はしっかり取った方がいいぞ?」
「ヒナの珍しい優しさが痛い! でもそれが快感!」
「黙れ変態!」
ちなみに、ここまでの会話は全て小声でお送りしています。
422
:
心愛
:2013/06/19(水) 20:54:02 HOST:proxyag037.docomo.ne.jp
「えー、ではこのへんで、抜き打ちの小テストを行います。全員教科書類を机にしまっ―――」
―――教室に衝撃走る。
「春山、行ってこい」
「なんか俺の扱い犬っぽくね?」
「それはそうかもな。人権ないから」
「え、俺には日本国憲法適用されないの?」
それでもこちらは慣れたもので、嬉しそうに軽口を叩く春山が勢い良く挙手。
「はいはいはい先生質問!」
「春山君? これからテストですからまた後に」
「どうしても今知りたいんです! 八十三ページの自由記述の問題なんですけどー」
渋る先生を強引に押し切り、時間稼ぎを開始する。
質問に対する回答が終わっても、息をつく間もなくすぐさまそれっぽい口上をぺらぺらと並べ立てて、また違う問題の解説に移らせていた。
……あいつ案外頭いいよな。
でも、授業終了まであと30分。
それより春山のネタが底を尽きる方が早いだろう。
春山GJ、と親指を立て、俺たちは早急な対策を考えるべくアイコンタクト会議を行う。
誰か他にこの状況を打開してくれる人は、いや、それは無理だとしてもせめて、新しい質問ができるくらい授業に真面目に取り組んでいて春山の助けになるような人は―――
「美羽!」
「黙れ。ぼくは今、天狼(シリウス)を召喚する魔法陣を描くのに忙しい」
「ダメだ使えねえ!」
熱心にノートになんか書いてると思ったら!
「じゃあ、ゆ―――」
「………」
こういうときに役に立ちそうな優等生たる柚木園は、本格的に集中モードに移行していた。
参考書に没頭してしまっていて、ちょっとやそっとの声ではとても気づかせることができそうにない。
『(………やるか?)』
こうなったら仕方ない、なんとしてでも絞り出して、一人ずつ質問責めにするしか―――
「うん? ヒナ、どうしたの?」
不思議そうに首を傾げている姫宮が目に入る。
「あ、そういえばまだテスト始まらないねー」
「姫宮、先生に質問できる!?」
がしっと肩を掴みそうな勢いで迫れば、紅茶色の瞳をぱちくりさせて。
「え、質問? 今?」
「そう!」
「質問、質問……今日の朝ごはんは? とか聞けばいいんだよね?」
「いいわけあるか! 飯から離れろ!」
まだ現実と夢を混同してるの!?
「もっとちゃんとした、時間稼げるようなやつだよ!」
趣旨を理解しているのかいないのか、姫宮は「分かった!」と満面の笑顔を見せ、大きく手を挙げた。
……心配だ。物凄く心配だ。
「えー、春山くん、もういいですか? では、姫宮」
「先生の、1日のスケジュールを教えてください!」
『天然――――っっっ!』
確かに回答に想定される時間は長くなったよ! でもそういう問題じゃない!
ガックリする俺たちを見て、姫宮は「え? え?」としきりに首を捻っていた。
くっ、姫宮に任せたのが失敗だった! バカな質問をするなって怒られる可能性も―――
「私の平日の過ごし方ですか? そうですねぇ」
『…………え?』
先生は白いチョークで黒板にぐるりと円を書き、それに起床時刻やら通勤時刻やらを付け足し始めた。
……………マジで?
「あ! 僕と夕ご飯の時間一緒だ!」
天然と天然が絡むとこういうことになるのか……。
授業終了のチャイムまで残り五分。
現代社会が天然ばかりになったら、世界は平和になるかもしれない、と思った。
423
:
たっくん
:2013/06/20(木) 12:02:25 HOST:zaq31fa4b08.zaq.ne.jp
お前らのくだらんスレなんざ見る気にならんから
424
:
たっくん
:2013/06/20(木) 12:09:35 HOST:zaq31fa4b08.zaq.ne.jp
アホピーチと豚ピーチスレ・・
ご利用下さい。
425
:
ピーチ
:2013/06/22(土) 09:49:31 HOST:em114-51-154-201.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>
まさかの人権なし!? え、ちょっと待ってそれで喜ぶ春山君もどうかと思いますけど!
それと夕紀ちゃんの天然さが可愛い! あと先生の天然は笑える!
……毎回毎回思うけど、ここにゃんってやっぱ天才だよね…←
426
:
心愛
:2013/06/24(月) 16:09:55 HOST:proxyag109.docomo.ne.jp
>>ピーチ
それが春山だから仕方ないw
夕紀の天然は書いてて割と楽しいです←
現代社会の先生のボケはここあの実体験!
男子が授業を妨害するためにスケジュール聞いたら、本気で黒板に書き出したというw
あの人の授業は楽だったな…(遠い目)
凡才以下ですが何か?
427
:
ピーチ
:2013/06/25(火) 06:52:41 HOST:em114-51-24-71.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>
彩ちゃんと居たときの印象が消えつつあるよ!?
天然は誰がどう書いても楽しいよねーw
まさかの実体験来た! え、それってどうなの!?(おい
うちの学校の社会担当の先生にそれ言おうものなら授業長引くよきっと…
じゅーぶんすぎるくらてんさいです!
428
:
たっくん
:2013/06/25(火) 12:13:16 HOST:zaq31fa50e8.zaq.ne.jp
[ピーチさんがお亡くなりになられたら]
ピーチさんが死んであの世へ旅立ちました。
本人はおそらく自分が天国へ行けない・・。きっと地獄だろう・・?と思ってらっしゃる。
しかし!しかしですね・・どうか御安心下さい。
もしピーチさんが地獄へ落とされそうになったら
私が閻魔大王様に頼んで差し上げましょう。
『閻魔様・・お願いします!どうかピーチさんを許してやって下さい。
ああ見えても根はいい奴なんです。お願いします!天国へ行かせてやって下さい』と
そうなる日を祈っております。
429
:
心愛
:2013/06/27(木) 21:16:46 HOST:proxyag081.docomo.ne.jp
>>ピーチ
そう思わせるのも春山の実力さ…!(多分)
次から長めの最終話になります(`・ω・´)
急にちょっとだけシリアス風味入るけどごめんね!
あとテストなんでまた更新率落ちると思います←
430
:
心愛
:2013/06/27(木) 21:17:09 HOST:proxyag082.docomo.ne.jp
『かくして、少年と少女は微笑みを交わす』
.:*・゚★.。.:*・゚★.。.:*・゚.:*・゚★.。.:*・゚★.。.:*・゚
教室に入ると、クラスメイトは一瞬だけこちらを見てくるも、すぐに何もなかったかのように視線を逸らした。
自分の椅子に座れば、遠くから悪意のある囁きがいくつも聞こえてきた。
―――“僕”は、軽いいじめに遭っていた。
でも、いじめといっても上履きや道具箱を隠されたりする程度の軽いもので、どちらかといえばシカトされている、の方が近かったのかもしれない。
クラスメイトたちにとって僕は意味のないものだったていう、ただそれだけで。
でも、クラスの中心となっている男女のグループと自分しかいないときだけは、面と向かって酷い言葉を投げつけられることもあった。
近寄るな。ウザい。学校になんか来なければいいのに。
幼さゆえの残酷さ。
多数で一人を叩くことで優越感に浸るという、一種の遊びを覚えたばかりの彼らは言い返されないのをいいことにして、僕を玩具同然に扱った。
彼らの表情に本物の嫌悪感はなく、全員がにやにやと楽しそうな笑みを浮かべているのが、その証拠だった。
授業が終わり、クラスメイトたちが帰り支度を始める。
重苦しいため息をつき、僕はランドセルを背負った。
また絡まれる前に一秒でも早く教室を出てしまいたくて、爪先を出口へと向けた―――そのとき、だった。
『それでさぁ―――……うわっ』
誰かが遊び半分に振り回していたらしい箒(ほうき)が飛んできて、一瞬、激しい衝撃に目の前が赤く染まった。
とっさに瞼を閉じた顔からは眼鏡が滑り落ち、がしゃん、と床で音を立てる。
『あ……』
どうやらわざとではなかったらしい。
少しぼやけた視界で探れば、賑やかな例のグループの中でも一際目立つ、人気者の少年だった。
さすがにまずいと思ったのだろう。いつも僕を馬鹿にして笑っているそいつが、ばつの悪そうな顔をしている。
ごめん、の形に唇が動きかけるも、直前で耐えるようにぐっと引き結ぶ。
それはそうだ、こんなところで嫌われている僕に謝ったりしたら、自分の面子がなくなってしまう。
『……っ』
そう理解した瞬間、言葉にしようもない悲しみ、苦しさ、孤独感がガラスの破片のように、胸を突き刺した。
もう、限界だった。
壊れた眼鏡をひっつかみ、無理やりポケットにねじ込む。何も言わずにクラスメイトたちに背を向け、その場を逃げ出した。
チャイムが鳴るなか学校を飛び出し、ひたすら走る。
やがて行き着いたのは、普段から良く来る古びた公園。
ふらふらと引き寄せられるように中に入り、ブランコに腰掛けた。鎖を握る。
差し込む光、鮮やかな夕焼けの色に染まった遊具。静かで美しい、僕にとっての安らぎの場所。
そこで、僕が出会ったのは―――
.:*・゚★.。.:*・゚★.。.:*・゚.:*・゚★.。.:*・゚★.。.:*・゚
「っ―――!」
自室のベッドの上で、俺はがばっと跳ね起きた。
しばらく状況を整理できずに呆然としてから、くしゃりと前髪を書き上げる。
「夢、か……」
背中にぐっしょりと汗をかいていて、不快な感覚に思わず顔をしかめ―――ギィ、という小さな音が聞こえてそちらを見やった。
ドアが開き、ひょこっ、と色素の薄い猫っ毛が覗く。
「あれ、お兄ちゃん起きてたの? おはよ!」
「……ノックくらいしろ」
俺がまだ寝ていたら起こそうと思ったらしい。
勝手に俺の部屋に侵入してきた彩は「ごめんごめん」と全く反省していない声色で謝ったが、俺の顔を見た途端におふざけの表情を消した。
「……どしたの?」
「あー、いや……ちょっと嫌な夢見ただけ」
「へー。せっかくのクリスマスの朝に変な夢見るとか、お兄ちゃんもついてないねぇ」
へらりとしたいつもの笑みを浮かべ。
「じゃあそんなお兄ちゃんのためにー、この彩ちゃんが特別にカルペスの原液を持ってきてあげよう! 疲れたときには甘いものだからね、ちゃんと全部飲むんだぞっ?」
「原液である意味はどこに!?」
大げさに爆笑しながら階下へ向かう速めの足音。
少し遅れて、俺はふっと笑う。
「……分かりやすい気遣いしてんじゃねぇよ、バカ」
431
:
ピーチ
:2013/06/28(金) 06:41:31 HOST:em114-51-13-90.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>
春山君どっか違った実力の持ち主だよね!?←
やっぱ彩ちゃん優しいよね! 彩ちゃんみたいな妹欲しい!
てかクラスメイトありえねーわ普通謝るだろ好き嫌いのまえに((
432
:
心愛
:2013/07/04(木) 07:56:47 HOST:proxy10003.docomo.ne.jp
>>ピーチ
春山だから仕方ないw
彩みたいな妹いても大変だと思うよ…?
次の次から、シリアスモードスタートかな!
433
:
心愛
:2013/07/04(木) 07:57:09 HOST:proxy10004.docomo.ne.jp
―――忘れかけていた、いや、無意識のうちに忘れようと封じ込めていた記憶。
別に大したことじゃない。こんな体験よりもっと、ずっと酷い目に遭っている人だってたくさんいるはずだ。
ただ、子供の鋭敏な感性を以てすれば、どんな些細なことでも小さな傷にはなってしまうわけで。
何だかんだあって彩と朝食を摂りながら、俺は鋭い妹に気取られない程度にぼんやりと考えていた。
でもあの一件がなかったら、美羽―――“ミウ”と出逢えなかったんだから、あいつらには感謝すべきなのかもしれない。
先に食器を片付け、さっさと身支度を済ませてコートを羽織る。
「じゃ、俺これから出掛けるから」
「あ、美羽さんとデートなんでしょ? お兄ちゃんのくせにやるぅー」
「このメールを見てもそう言えるか?」
「ごめんなさい」
昨日の夜届いた呼び出しメールを見せると彩が素直に謝罪した。……内容は想像にお任せする。
☆゜:*:゜☆゜:*:゜☆゜:*:゜☆゜:*:゜☆゜:*:゜☆゜:*:゜☆゜:*:゜☆゜:*:゜☆
「この世界に生を受けて数万年……。ついに、この刻が訪れた……」
「あー、遅いってことか。一応時間前なんだけどね」
人工的な光を浴びて、サラサラ零れる艶やかな黒髪。
ふんわり柔らかそうなカシミヤのカーディガン、適度な長さのスカートに膝上まであるロングブーツを合わせ、ポンポンつきの白いマフラーを巻いている。
清楚さと幼さ、甘さとが絶妙に入り混じった文句なしの美少女は、先ほどから周囲の視線を集めまくっていた。二つの意味で。
「ふん、別に責めている訳ではない。眷属にも事情があることは承知している。だが今宵こそ、忌まわしき聖夜の光を穢す血誓の宴を―――」
「クリスマスにわざわざ呼び出して悪いな、ってこと?」
そろそろ俺も翻訳業が板についてきたよね。
あとまだ夜じゃないから。周りめっちゃ明るいから。
横を通り過ぎるカップルの方々が皆、『あぁ、電波か……』という可哀想なものを見る目をこちらに向けている。
そりゃあ俺だって、俺を見つけた途端に芝居がかった仕草で手を広げて大仰な台詞で語り出したから何かと思ったけども。
「クリスマスとかいっても基本家にいるから、俺には関係ないようなものだし。……で? 用ってなに」
「む」
呼びつけておいて、用件を告げていなかったことを思い出したらしい。
少しだけ気まずそうに俯く美羽。
「……どうせヒナは暇を持て余しているだろうから、毎年恒例の予定に付き合ってもらおうかと思っただけだ」
「予定? 美羽の?」
美羽さん、ここで本日何度目かのどや顔。
「ああ。なにしろぼくには、リア充共が目の前を通り過ぎるたびに『……ちっ』と舌打ちしつつ横目でガンを飛ばすという重要な任務があるからな」
「どんだけ悲しいクリスマスだよ!」
あまりの器の小ささに涙が出た。
こいつ、本当に俺の初恋の人だよね?
「名づけてリア充狩り、という」
「物騒なネーミングだけど全然狩れてねぇしむしろ枯れてるしってか美羽にしては安直なつけ方だな!」
だからこそ字面の恐ろしさが際立つってものだ。やってることとてつもなくしょぼいのに犯罪臭がするよ。
……ほんと、どんだけ暇なんだお前―――って言いたいところだけど。
これは美羽なりの、俺を誘う下手な口実だったり……とか、自惚れてもいいのかな。
いや別に変な意味じゃなくて、単なる遊び相手としてワガママを言って気軽に連れ回すことができるくらいには、俺のことを認めてくれてるんじゃないか、なんて考えちゃうんだけど。
「……とにかく、リア充狩りはなしな。今日はどこでも付き合うから」
「……」
「放っといたらさみしがりやの誰かさんが可哀想だし?」
大人しくなっていた美羽がそれを聞くなり髪を逆立てて激昂。
「だっ誰がさみしがりやだ、誰が!」
「一言も美羽とは言ってないけどね」
「……う、ぐ」
434
:
ピーチ
:2013/07/05(金) 03:10:45 HOST:em1-114-73-103.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>
弱みさえ握られなきゃ可愛い妹じゃないかー!
メール……何か美羽ちゃんらしいのはふつうに創造がつくw
435
:
心愛
:2013/07/25(木) 16:29:53 HOST:proxy10016.docomo.ne.jp
>>ピーチ
弱み握られたら最後だけどねw
ソラが無事に完結したんで、こっちに集中していきますよー!
多分次の次からシリアス展開←
436
:
心愛
:2013/07/25(木) 16:30:23 HOST:proxy10015.docomo.ne.jp
それなりに煌びやかなイルミネーションの中を二人で歩く。
男女でクリスマス、といえばなんか甘美な響きだけれどもそんな雰囲気もへったくれもなく、まあつまり、いつもの俺たちだ。
邪気眼要素が絡まなければ基本言葉少なな美羽に、クリスマスといえば、と俺が話題を投げかける。
「サンタさん捕まえようとしたんだっけ」
「……よく覚えているな」
そりゃ覚えてるよ。
そんな衝撃的な話を忘れるわけがないし、何より、初めて美羽がちょっとでも心を開いて、俺に話してくれたことだし。
「そもそもなんでそんなことを? 好奇心旺盛だったにしても凄いよな」
「別に、大したことじゃない。プレゼントに違和感を感じるようになって、こうなったら自分でサンタクロースの正体を暴いてやろうと思ったんだ。……美空に聞いてもはぐらかして教えてくれなかったしな」
確かに、美空先輩ならサンタさんは親なのかと訊かれても、妹の夢を壊さないように上手く誤魔化してしまいそうだ。
「プレゼントって?」
「ドールハウスやアクセサリー、それに玩具のティーセットとか」
「……普通じゃね?」
いや、もちろん女の子の好みは知らないけどさ。
昔の彩だったら喜びそうなものばっかりなんだけどな。
「……ぼくが毎年、探検セットや双眼鏡、雪女などばかりを頼んでいたにもかかわらずだぞ」
「今じゃ考えられない健全ぶり! あと雪女ってなに!」
小学生男子にも勝るやんちゃぶり、っていうか雪女の存在が気になりすぎる。本当にもらったらどうするつもりだったんだよ。
そんなある意味純粋無垢な女の子が、今はこの惨状か……。
「う、うるさい! ……あの黒歴史と言うべき子供時代を思い返すと、ぼくも頭が痛いが」
「今も黒歴史絶賛更新中だと思うけど」
「何か言ったか、ヒナ」
「何でもないです」
ぎろりと睨まれ、あんまり怖くないけど一応口を噤む。
「あー、まあ確かに、頼んでたものと違って怪しみ始めるってのはあるよな。でも女の子らしい趣味のものあげたかったんだろ、良い親御さんじゃん」
「それもそうなんだが、」
言い、美羽が遠い目をする。
「……ぼくが調査を決行したその前の年のプレゼントは、ゴールドのクレジットカードだったんだ」
「……わーお」
そりゃあ美羽も怪しむわ。どんだけ夢のないチョイスだよサンタさん……ってツッコむ箇所はそこじゃないな。
結野家の金銭感覚はどうなってるんだ、おい。
゚・:*:・。☆゚・:*:・゚☆。・:*:・゚・:*:・。☆゚・:*:・゚☆。・:*:・゚
その後は、美羽に寒い外を歩かせるのもどうかと思ったので、デパートなんかを中心に適当にぶらついた。
さも当たり前のように猫カフェに向かおうとする美羽を「また今度な?」と宥めたり、何か買うでもなく雑談しながら駅前の店内を歩いたり。
とりあえず出ようかと出口に向かったそのとき、俺のスマホに彩から電話がかかってきた。
「では、ぼくは向こうの雑貨店に行っている」
別に大した話じゃないだろうから気を遣ってくれる必要はないと言えばないんだけど、せっかくの申し出だ。
「ごめん」
有り難く乗らせてもらうことにして、外に出てから一旦美羽と別れる。
で、彩の話の内容は、やっぱり全然大したことなかった。
現在に至るまでの状況やら今いる場所やらを根掘り葉掘り訊かれ、
『はあ!? なにそれ完全にデートじゃん! お兄ちゃんなんか買ってあげなよ、ポイントアップのチャンスだよ!』とかなんとか。
怖いくらいいつも通りの妹をあしらいつつ、さっさと通話を切った。
液晶の時計を見て、説明している間に結構時間がたってしまっていたことに愕然とする。どんだけ丁寧に話してたの俺。
「っと、美羽は……」
指定された店に向かおうとして、その途中に小さな人だかりができていることに気づいた。
数人の、柄の悪そうな男の中に美羽の姿を見つけ、サッと血の気が引く。
「な……」
美羽は、そのうちの一人と話しているようだった。
たちの悪いナンパか、不良に絡まれているのかと思った……けど、どうもそんな感じじゃない。
嫌な予感がする。
437
:
たっくん
:2013/07/25(木) 18:48:43 HOST:zaq31fa59cb.zaq.ne.jp
アホピーチ
438
:
たっくん
:2013/07/25(木) 18:49:01 HOST:zaq31fa59cb.zaq.ne.jp
ピーチは頭が悪いです
439
:
ピーチ
:2013/07/25(木) 19:00:18 HOST:em1-114-139-120.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>
ヒナさん美羽ちゃん久しぶりぃー!←
サンタさんからのプレゼントにクレジットカードはないよね!
……さも当たり前なのね、ネコカフェ
何か美羽ちゃんが話してる人が何となくだけど想像できちゃうのはなぜ!?
440
:
心愛
:2013/07/26(金) 16:47:34 HOST:proxyag114.docomo.ne.jp
>>ピーチ
え、想像できちゃう!?
さすがピーチ!
シリアスシーン一回分で終わらせるはずだったのに長くなりそう(つд`)
441
:
心愛
:2013/07/26(金) 16:47:59 HOST:proxyag114.docomo.ne.jp
「―――そっか、南高か。結野、頭良かったもんな」
「美羽!」
はっきりと発音し、さりげなく男たち数人を押しのけ割って入る。
「ごめん、待たせて」
言いながら、あれ? と思った。
大きく着崩したシャツやがっしりした体格からもうちょっと大人かと思ってたけど、顔つきを見るとまだ若い。もしかしたら、全員俺と同じくらいかもしれない。
「ひ、ヒナ……」
それより俺が驚いたのは、美羽と向き合う位置に立って、俺を見て目を丸くしている男だった。
清潔感があって爽やかで、いかにも感じの良い好青年といった風貌。
すらりと背が高く、なかなかの二枚目だ。
美形ではないけど、造作を例えるなら昴さんに最も近い。
この集団の中にこんなイケメンがいたとは、今になるまで全然気づかなかった。
「……知り合い?」
そっと尋ねれば、美羽はこくりと頷いた。
顔色が悪く、声も硬い。
「……中学のときの同級生だ」
人見知りで他人との接触を嫌うところがあるけど、美羽がここまで露骨に苦手意識を出すのを見るのは初めてだ。
やはり、彼女にとって彼らとの再会は歓迎すべきものではないらしい。
なんとかしてここから美羽を連れ出そうと愛想笑いを浮かべつつタイミングを窺っていると、件の男が口を開いた。
「結野、その人彼氏?」
俺をじっくり眺めてから、笑う。
こんな日に二人で出掛けてて、しかも自然に名前呼びしてたら誤解されるのも仕方ない。
けどこいつは今、『結野美羽が連れている男』を見て笑ったんだ。
少し遅れて、徐々に不快感が込み上げてくる。
「……違うけど」
「ふーん?」
興味を失ったように、そいつはすぐに俺から視線を外す。
そして美羽に向き直ると、むかつくくらい爽やかに、にこりと笑った。
「じゃあさ、やっぱり俺と付き合わない? 結野」
「ふざけるな」
面白そうににやにやする周りの男たちや、衝撃的な発言に唖然とする俺と対照的に、間髪入れずそれを一蹴する美羽。
その瞳に曇りはなく、文字通り、こいつがふざけてこんなことを言っていると解釈しているようだった。
「つまらない冗談はよせ。……そんなにぼくが嫌いか、愛川(あいかわ)」
顔を上げ、相手をきつく睨む。
「まさか、本気だよ。今は本気で、付き合ってもいいかなーって思ってる」
愛川とか言うらしい男は、にこやかにそんなことを言ってのけた。
「だって、結野すっごい変わったし。服も普通に可愛いし、一瞬結野先輩かと思った」
「だよなー」と男たちが頷き合う。
当初の毒々しい雰囲気が少し薄れ、美羽が大分親しみやすくなったことを言ってるんだろうけど。
どうも、その言い方が引っかかる。
「やっぱり中身は一緒だけど、そのくらいなら目瞑れるしね」
「……ぼくの容姿が気に入ったのなら、美空にしたらどうだ」
じり、と美羽が一歩下がった。
見せかけの怒りより、内心の怯えが色濃く出る動作。
弱った獲物を追い詰め、傷口を抉り取るように。
残酷な笑みを口元にはりつけ、愛川は決定的な一言を投下した。
「いいじゃん。だってさ、俺のこと好きだったんでしょ?」
……え?
彼の言葉がまったく理解できず、思考が一旦ふつりと途切れた。
「―――――!」
カッと白い頬が熱に染まる。
屈辱か、羞恥か。
スカートの横で握りしめた拳を震わせ、
「……違う」
「嘘。結野、すげえ分かりやすかったもん。みんなだって知ってるよな?」
「違う!」
痛ましい悲鳴。
愛川は一瞬機械のような無表情になるも、すぐに笑顔を取り戻した。
「……あー。もしかしてさ、まだあのこと気にしてんの? 許してよ、わざとじゃなかったんだって」
「あ……あのことって、何すか」
見ていられなくなって口を挟んだ。
愛川はやっと俺の方を見ると、わざとらしく、困ったように苦笑する。
「うーん……でも、結野を傷つけるかもしれないから」
……何をいけしゃあしゃあと。
けれど美羽は実際に、これから告げられる真実に心底恐怖しているように黙り込み、青ざめていた。
442
:
ピーチ
:2013/07/26(金) 22:41:51 HOST:em114-51-65-67.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>
何となくだったけどいやーな予感してた……まさか当たるとは…←
つか新キャラさんに悪いけど愛川くんムカつく!
美羽ちゃん傷付ける気ならさっさとお家帰りなさ((
443
:
心愛
:2013/07/27(土) 14:18:48 HOST:proxy10019.docomo.ne.jp
>>ピーチ
当たっちゃったw
うん、愛川は思いっきり嫌ってくれていいよ! この時点ではそういう役割ですから!(・∀・)
ただ愛川の心情も事件の内容も分かりにくいと思うんで、後から救済措置とりますw
444
:
心愛
:2013/07/27(土) 14:19:06 HOST:proxy10020.docomo.ne.jp
「―――おかしい、って言ったんだよ」
……なん、だって?
「中学になってもこんな口調で、自分の作ったキャラに酔ってて。おかしいじゃん、どう考えても。だから、教えてあげたんだよ」
「……」
「さすがにみんなの前で言っちゃったのは、悪いと思ってるけどさ」
笑みを絶やさない愛川の最後の台詞に、男たちが一斉に反応した。
「あれはカワイソーだったよな」
「『俺のことホントに好きなら、そういうの全部やめなよ。そしたら付き合ってやる』……だっけ?」
「ちょ、誰だよそれ。そこまで酷くないって」
「でも大して変わんねーだろ」
「え、マジで? そんなこと言ってたんかお前」
「そーそ、それもみんな揃った教室で。やばくね?」
「やべーわ。愛川マジやべーわ」
「あんまり言うと帰るぞ。今日の主役いなくなってもいいわけ?」
「ふざけんな、お前いなかったら女釣れねーだろ!」
げらげらと笑いあう彼ら。
俺は言葉を失った。
まさか美羽が、そんな目に遭っていたなんて。
俺が体験したものの比ではない。
次いで、心無い言葉を放った男が美羽本人を目の前にしても笑っていられるその無神経さに、ふつふつと怒りが沸いてくる。
「でも、俺は本当のことを言っただけだしね。世の中そんなに甘くないよ。ずっとソレやってたら、こんな風に損することくらい、結野だって分かってるだろ?」
「……」
悔しげに俯く美羽に追い討ちをかけるように、
「……へえ。やっぱり、そんなにショックだったんだ、あれ」
「……黙れ」
「登校拒否になっちゃうくらい?」
「黙れと言っている!」
鋭く相手を睨みつけ、声を張る美羽。
否定することができない自分の弱さに、焼けるような悔しさを、嫌悪を、感じている。
肉に食い込むような激痛が、俺の胸にも突き刺さってくる。
―――ああ、そうか。
すとん、と何かが胸に落ちる。
美羽は本当に、こいつのことが好きだったんだろう。
だから、こんなに傷ついた顔をしているのだろう。
きっかけは分からないけど、確かに見た目は格好良いし、クラスの中心にいて注目を集めるリーダーみたいなタイプだ。
何かの弾みで好感を持ってしまっても仕方ないだろう。
それに対して、憤りはしない。
けれど、何より問題なのは。
「……正直、顔ならタイプなんだよね」
愛川が追撃を放つ。
「もう、すぐにやめろとは言わない。少しずつ、分かり合っていけばいいと思うんだ―――って話。……あぁ、俺のことなんてもう好きじゃないか」
お前は何様なんだ。
どうして、そうやって笑っていられるんだよ。
―――美羽は、好きになった奴に、恋をした奴に、裏切られた。
自分の好きなものを、自分そのものを貶され、詰られた。
ずたぼろに傷つけられて、この美羽が、学校に行けなくなるくらい思い詰めて。
「……ははっ、何その顔。結局、偉そうなの口だけじゃん。あのときだって尻尾巻いて逃げたしさぁ」
―――『美羽ちゃんはまた、自分が傷つくことになる道に進もうとしてる』
美空先輩が、喫茶店で俺に言った言葉。
今なら、その意味が分かる。
美羽が愛川から酷い仕打ちを受けたのは、美羽が中二病だったから。
美空先輩は美羽の身に起こったことを勿論知っていて、もう二度とこんな経験をさせないように、妹を正しい方に導こうとしたんだ。
『あたしは美羽ちゃんに、誰かを好きになれるようになってもらいたいの!』
『このままじゃ、美羽ちゃんは誰も―――圭くんのことだって、好きになれないんだよ!?』
恋に臆病になってしまった美羽は、人との関わり合い方が分からない、と叫んだ。
『特定の誰かに必要以上に入れ込んで、そいつが取り返しがつかないくらい、大きな存在になってしまってから……いつか嫌われて、置いて行かれるのが怖いんだよ……っ』
憎んでいない、憎めない。
間違っているのは自分だから。
どうしようもなく、暴力的なまでの“正”を、突きつけられて。
445
:
ピーチ
:2013/07/27(土) 16:51:36 HOST:em114-51-141-181.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>
まさかの当たるし! これだけは当たって欲しくなかったし!
よしヒナさん今すぐ愛川くんをぶん殴ろう!←
いやなに、美羽ちゃんを傷付けるんだから問題ないさ!((大あり
446
:
心愛
:2013/07/27(土) 18:22:02 HOST:proxyag036.docomo.ne.jp
>>ピーチ
…ここあはピーチが恐ろしくて仕方ないよ…!(ガクブル
さあ期待に答えろ主人公!
447
:
心愛
:2013/07/27(土) 18:23:12 HOST:proxyag035.docomo.ne.jp
『ひとりにしないで……っ』
『きらわれて、ひとりになるのは、……やだ、よ……!』
旅館で見せた、弱り切った素顔。
俺に嫌われ、置き去りにされることに対して怯えて、震えていた。
「―――……何度も言わせるな」
はっとして見れば、美羽が顔を上げていた。
躊躇から、決意へ。
力強い視線で、愛川をまっすぐに見据える。
「以前はどうであれ、ぼくは、君のことなど何とも思っていない」
足を踏ん張って、気丈に言い放つ。
誇り高い吸血姫がこれ以上情けない姿を晒してたまるかと、上を向く。
……そう。
あんな絶望を味わったのに、なのに美羽は、またゴスロリを着て、カラコンをつけて、きっと中学のときよりずっと痛々しくカッコつけて、入学式に臨んだ。
美空先輩の心配をはねのけて、時間をかけてだろうけど、それでも自分の足で、立ち上がったんだ。
“理想”への意志を、想いを、さらに強く固め直して。
『君は―――強いよ』
……なんだよそれ。
お前こそ、どんだけ、……どんだけ強いんだよ。
不器用な、ただの弱い女の子のはずなのに。
なんでこんなに、バカみたいにまっすぐなんだよ。
「正直に言って不愉快だ。ぼくの事情に口出しをしないでもらおうか」
不愉快だ、だって。
真似をして耳障りな笑い声を立てる彼らに一瞥をくれ、美羽が俺を見上げる。
「行こう、ヒナ。時間の無駄だ」
冷たい声は、必死に震えを隠してる。
……分かるよ。この数ヶ月間、ずっと傍にいたんだから。
俺の手を取り、引っ張る。
ひゅう、と男たちが口笛を吹くのを、はっきりと無視して長い髪を翻す。
……ぞっとするほど美しくて、そして強い。
でも本当は弱くて脆い、ガラス細工のような女の子。
「……ごめん」
俺は。
そんな美羽が、好きだから。
「ごめん、美羽」
小さな手をそっと振り解いた。
安心させるように、精一杯の笑顔を作る。
「ほんとごめん。先、帰っててよ。用事できたから」
「……ヒナ?」
黒い瞳に広がる困惑。
主を困らせるとか眷属失格だよなぁ、とかぼんやりと思った。
「俺、……どうしようもないバカだからさ」
マジで、美羽よりずっとバカだわ俺。器小さい、バカ。
だから、
だから、ちょっと……我慢、できないかも。
美羽をその場に残し、無言で一歩を踏み出す。
何かを察した男たちが笑うのをやめ、不穏に目をギラつかせる。
美羽が小さく息を呑む音が聞こえた気がした、その瞬間。
通行人の悲鳴が上がる。
派手な衝突音がし、床に叩きつけられた愛川が、顔を押さえて呻いた。
―――拳が、痛い。
「……何も知らないくせに」
本当の美羽を、見抜けなかったくせに。
美羽の心を追い詰めて、傷つけて、弄んだくせに。
お前が。
お前、ごときが。
「お前が美羽を―――語ってんじゃねーよ」
448
:
たっくん
:2013/07/27(土) 20:13:14 HOST:zaq31fa4ab4.zaq.ne.jp
またクソスレか・・?
いい加減にしろよ
449
:
ピーチ
:2013/07/27(土) 21:40:44 HOST:em49-252-182-76.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>
恐ろしくないよただの平凡以下の人間だよっ!?←
ヒナさん強い! 美羽ちゃんのためならさらに強くなれるよね!
450
:
心愛
:2013/07/28(日) 09:25:58 HOST:proxy10016.docomo.ne.jp
>>ピーチ
怒ったガラ悪い人たちからのフルボッコルートまっしぐらですけどね!
ヒロインのために無力な主人公が立ち上がるっていいよねw
ヒナの一番の見せ場かもしれなかった←
451
:
ピーチ
:2013/07/29(月) 13:43:47 HOST:em1-115-85-149.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>
フルボッコルートでも何でも美羽ちゃんのためにやり抜きそうだよね!
ヒナさん無力じゃないよ! 大丈夫だよー!?
うちの彩織に比べればなんてことないさ!←
452
:
心愛
:2013/07/29(月) 17:46:33 HOST:proxyag020.docomo.ne.jp
……あーあ。
不思議と、頭は笑えるくらい冷静だった。
喧嘩どころか、今まで本気で怒ったことすらない俺が、まさか人を殴る日が来るとは。
周りを取り囲むのは血気盛んそうな憤怒の形相の男たち。
で、対する俺は腕力も体力も中の上。こりゃ病院送り決定だな。
ああ、カッコ悪い。
「……っにしてくれてンだよ!」
「調子くれてんじゃねぇよ!」
友人をやられて激昂した一人に胸ぐらを掴まれ、頬を殴られた。血の味が滲む。
「ヒナっ!」
後方から聞こえる美羽の声に泣きが混じる。
「やっ……やだ! やだあ……っ!」
バカ、来んな。
近づこうとする小走りの足音に焦り、振り向こうとして。
無防備になった俺へと、拳が迫る。
「―――させねぇよ?」
金色が視界を遮った。
パアンッ、と小気味よい音。
「一対五って、ヒキョーじゃね? やるからにはタイマンが基本っしょ」
「は……春山?」
口元にうっすら笑みを浮かべる男。
その軽薄そうな話し方は、間違いなくお調子者のクラスメイトのものだった。
「俺、自分から殴んのってあんまり好きじゃないんだこどね。気ィ変わったわ」
突き出された腕が風を切る。
「あっは。俺のダチと遊んでくれたサービス料、みたいな?」
上背もあるし、いかにも喧嘩慣れしていそうな風体。
男たちが警戒して後ずさる。
四人まとめて相手をする気らしい春山を唖然として見ているうちに、あと一人足りないことに気づいて血の気が引く。
「美羽っ―――?」
後ろを見ると、瞳に涙を溜める美羽を、誰かが背中に庇っていた。
「―――女の子を泣かせるなんて」
中性的で、良く通る美声。
「最低だね、君」
くす。
朱色の唇から、艶を含んだ吐息が零れる。
「このお礼は高くつくよ?」
細くすらりとしたシルエット。
お綺麗な顔で笑うそいつ。
「柚木園! おま、なんで……っ」
「話は後で、ね!」
言いながら、鮮やかな蹴りを放つ。
そういえばコレで春山をぶっ飛ばしてたよな、とかそんなことはどうでもいい。
主力の春山をサポートする形で柚木園が応戦。
が、そのどちらとも無意味な攻撃はせず、突っ込んでくる相手を最小限の動きでいなすような感じだった。
喧嘩売るだけ売って、何もできずに突っ立っている俺よりよほど逞しくて……頼りになる。
……ん?
待て、愛川は?
「いやっ―――」
美羽の小さな悲鳴。
いつの間に混戦を抜け、近づいたのか。愛川は美羽のすぐ目の前にいた。
しかし、怯える彼女に向かって勢い良く伸ばされた愛川の手を、美羽の後ろから突然現れた影が弾く。
「……ゆいのんに触らないで」
ぱしっ。
大きな瞳を怒りに染める、姫宮だ。
美羽が呆然と呟く。
「……夕紀」
それを聞いて我に返ったように、愛川が笑顔を作った。
「……どうしたの? ここは危ないよ。早く逃げた方が―――」
「バカに―――しないでよっ!」
明らかに姫宮を女の子扱いする愛川を睨み、威勢良く啖呵を切る。
「言われるまでもないよっ。ゆいのん、こっちっ」
心配そうに双眸を揺らす美羽がこちらを見るも、腕を引っ張られて。
愛川を振り切り、姫宮について走り出した。
それを、愛川は追いかけるでもなく黙って見送って。
「……根本、佐藤。みんなも……もういいよ」
その弱々しい声は不思議と全員の耳まで届き、男たちが動きを止める。
「通報されたらどうするんだよ」
「で、でも、こいつらが」
「こっちが退けばいい話だろ?」
「はあ!? お前、やられっぱなしでいいってのかよ!」
騒ぐ声を無視し、周りのギャラリーにちらりと視線をやる。
「ほら、見られてる。警察が来るのも時間の問題だ」
うっと言葉に詰まる彼ら。
あちらもさすがに警察沙汰は御免だろう。
俺を一発殴り返してもいいってのに。
静かに凪ぐ双眸の、何かに耐えるような淋しげな色に誰かの影が重なって、消えた。
453
:
心愛
:2013/07/29(月) 17:53:42 HOST:proxyag019.docomo.ne.jp
>>ピーチ
…やっぱり頼りになるのは仲間だよね!(大汗)
春山が不良スタイルなのも苺花が男勝りなのも、もとはと言えばこのときに使いたかったからなのですw
でも大丈夫、ヒナも最後にはちゃんと決めてくれるはずさ! 多分!
そ、そんな感じで、次から早速番外編に移って愛川編やります!
このまま完結しても気持ち悪いかなーということで、悪役の救済を先にもってきちゃうよ←
オスヴァルトとかユーリエ、ジルとかと同じで、悪い奴では…ないんだ…!
454
:
ピーチ
:2013/07/29(月) 19:55:02 HOST:em114-51-149-36.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>
春山くんかっこいい! 苺花ちゃん凛々しい! そして夕紀ちゃんが!
……愛川くんっていいひとなの←こら
ねぇどうしよう色々思いながらも春山くんがかっこいいっていうのが一番大きいんですが!((
455
:
心愛
:2013/08/01(木) 18:36:49 HOST:proxy10014.docomo.ne.jp
>>ピーチ
ありがとうごぜえます!
こういうアホっぽいけど頭よくて実はいい人、みたいなキャラが慌てたり照れたり(彩相手とかね)かっこよく決めてくれたりするの大好きなんです!
ちょっとでもかっこよく見えたならよかったよ!
男装の麗人が敵を華麗に撃退! みたいな苺花はここあの趣味ですすみません←
夕紀も天然ほんわかにしては頑張ったよ! ちゃんと怒れたよ!
このシーンはずっと書きたかったから嬉しいなーw
仲間大事!
456
:
心愛
:2013/08/01(木) 18:37:18 HOST:proxy10014.docomo.ne.jp
『ごめんなさい尾(つ)けてました』
「この暇人どもめッ!?」
所変わって人目のつかない建物の隙間スペースにて、俺は事情聴取を行っていた。
「だってクリスマスに、ゆいのんとヒナが二人でお出かけだよ? 気にならない方がおかしいよ」
「まったく尾行の動機として成り立たないことはとりあえず置いといて、そもそも何でそのこと知ってんの!?」
「あー、俺が彩ちゃんから情報仕入れたんだよ。そんで柚木園と姫宮ちゃん誘ったの。さっきヒナと結野ちゃん見つけたのも、場所を電話で教えてもらって」
「彩ァ―――っっ!」
あのガキ、さっきの電話であれこれ聞き出したのは春山たちに伝えるためだったのかよ!
「つーか何で彩が春山と連絡取り合ってんの!?」
「い、色々あって?」
俺は額に手を当て、はーっと白い息を吐き出す。
彩がなんで春山と連携するようになったのかとか、柚木園と姫宮も誘われたからってほいほい乗るなよとか、言いたいことはたくさんあったけど。
「まあ全部……結果的には助かったから、いいけどさ」
釈然としないけど、こいつらがいなかったら今頃俺はどうなっていたか分からない。
素直に感謝するにはちょっと引っかかりがありすぎるけれども。
「春山は意外とケンカ強かったし、姫宮も姫宮なりに頑張ってたし、柚木園も登場とか完全に王子だったし」
「え、意外!?」
「えへへぇ。僕頑張ったよ!」
「私は別に、大したことはしてないよ。さすがに力では敵わないし怪我をさせるわけにもいかないから、ほとんど足払いとかで流してただけ」
確かに、春山と柚木園に傷一つないのはもちろん、相手にも怪我はなさそうだった。派手なケンカ、っていうよりは軽い取っ組み合いみたいなものだったのかもしれない。
いや、それより。
「意外ってなんだよヒナぁー! 俺そこそこ強いんだぜ、不良なめんなよ!」
「黙れドM」
……あれだけキレてたのに、手加減できるってどんだけよこいつ。
「っつーか、なんでせっかくこんな日なのに、他人事に首突っ込むんだよお前らは」
「もともと、僕とまいちゃんは一緒に遊びに行くつもりだったからちょうどよかったよ。ね?」
「ちょっ、夕紀! なんでそれ言っちゃうの!?」
「……ん? あれ、ヒナと結野ちゃん、姫宮ちゃんと柚木園ってことはもしかして……俺、ぼっち?」
「もしかしなくてもぼっちだろ」
「うわぁんヒナがひどぉい! 春山寂しい! 結野ちゃん慰めて!」
誰もがなかなか話に入れることができずにいた美羽に、果敢にも春山が突っ込んでいく。
こういうときの春山のテンションというか、気配りは絶妙だ。
「……気色悪い声を出すな。その状況を楽しんでいるくせに何を言う」
「結野ちゃんも冷たいー! でもそこに痺れる憧れるぅ!」
「うぜぇ」
いつものやり取りに、ふっと小さく笑ってみせる美羽。
それでも中二病発言が飛び出さないのだから、相当堪(こた)えているのは誰の目にも明らかで。
「それじゃこれからも暇な俺たちは、二人の予定を全力で邪魔するとしますかね!」
「おいやめろ」
三人は美羽が心配なのだろう、話が一段落ついても離れようとしなかった。
春山の言う通りというか何というか、俺たちはあてもなく、店から店を巡り歩いた。
女の子をナンパしようとする春山を柚木園がシバいたり、柚木園に渡すつもりだったらしい紙袋を春山に指摘されて、赤くなってしまった姫宮をからかったり。
いつも以上に賑やかだったけど―――その間誰も、ついさっき別れたばかりの愛川たちに関することや、美羽の事情に踏み入るようなことは、一言も口にしなかった。
「じゃーなヒナ! 結野ちゃんのことちゃんと送ってやれよ!」
「……分かってるっつの!」
別れ際、春山のさりげない台詞に隠されたメッセージにそう返して三人を見送ると、隣の美羽に話しかける。
「あのさ、美羽。これから時間、ある?」
反応して顔を上げた美羽を見て、俺は安心させるようににこりと笑った。
「行きたいとこ、あるんだ。最後に、俺のワガママにもつきあってよ」
457
:
ピーチ
:2013/08/01(木) 20:47:41 HOST:em114-51-47-231.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>
かっこいいんだよ春山くんケンカも強いし!
苺花ちゃんも凄いよね、結構派手にできそうなのに←
……というよりあたしは最初の台詞にびっくりしたぞ!
ごめんなさいが最初だったから何事かと思った!((
458
:
心愛
:2013/08/02(金) 20:40:23 HOST:proxyag011.docomo.ne.jp
>>ピーチ
ごめんなさいから始まるというw
春山と苺花は戦闘要員!
次からやっと…! ってとこだけどまた長くなりそうだうわあああああ(TOT)
459
:
心愛
:2013/08/02(金) 20:41:59 HOST:proxyag012.docomo.ne.jp
「……ここは……」
美羽がぽつりと呟く。
赤い光の乱舞の中、艶を帯びる黒い髪がふわりと広がった。
それだけで胸が詰まり、目頭が熱くなる。
……あのときと同じ、光景。
「ぼくが引っ越す前、良く来た公園じゃないか。奇遇だな、ヒナも知っていたのか」
「……まあ、ね」
しばらく黙って、懐かしそうに目を細め、美羽はブランコや木々、夕焼け空を眺めていた。
そして、俺が口を開くよりも先に。
「ヒナ」
俺を呼ぶと、くるりと振り返って。
「ぼくは今まで、眷属という名の鎖で、君を縛りつけていた」
……何を、言い出すんだ。
美羽が切ない微笑みを浮かべ、言葉を失う俺を見る。
「君は優しすぎるから。嫌がることもせずに、ぼくの理不尽な要求を何でも聞き入れてくれたな」
鮮やかな光を浴びる美羽は、幻想的で、儚くて。
「ぼくは恐れていたんだ。試していた、と言ってもいいかもしれない。……いつ、君がぼくを見放して、嫌うようになるのかと」
眷属の義務だとか主の命令だとか、上から目線で今まであれこれ言いつけていた理由が分かり、絶句した。
美羽は俺を疑っていたのか。
本当にこいつを信用してもいいのか、と。
「でも君は、決してぼくを軽蔑することはなかった。……ぼくのすべてを丸ごと受け入れてくれたのは、君が初めてだったんだ」
美羽は不自然なほどに明るく、にこりと笑う。
「とても、嬉しかった。……でも、もう、無理をしてくれなくていい」
さらりと零れ落ちた髪を指で払い、
「ぼくがいなかったら、君はもっと自由にこの世界を羽ばたける。ぼくと違って、君にはその素質がある」
これは……罪悪感からの言葉、なのか?
愛川と再会したことで、俺への信頼が揺らいでる。
俺が……無理をしている、だって?
「これ以上、自分の欲で君を縛りつけたくない。……契約を解消しよう、ヒナ」
結野美羽という少女を形成する輪郭が儚く霞み、弱々しく曖昧な線へと変質していく。
それはまるで、暗闇に人知れずひっそりと咲く花のように。
「―――ふざけんじゃねぇよっ!」
その瞬間俺を襲ったのは、愛川と対面したときよりも激しく純粋な、怒りだった。
けれどあまりの剣幕に驚いて目を丸くする美羽を見て、すっとすぐに頭が冷える。
「……あ、ごめん。驚かせるつもりじゃなくて……」
「あ、ああ……」
美羽相手にも大きい態度をとれない自分が、ちょっと情けなくなる。
でも。
ここで言わなきゃ、男じゃない。
俺は、覚悟を決めた。
「美羽。これから俺がする話は、簡単に信じられないかもしれないけど……ちょっと黙って、しっかり聞いてて」
「……なんだ、急に」
話の流れを断とうとする俺の台詞に、美羽が怪訝な顔になる。
俺はゆっくり深呼吸して気持ちを落ち着けると、ようやく、告げた。
「俺、ここで……美羽と、逢ったんだ」
「……は……?」
ぽかんとした表情。
それはそうだろう、こんなことを急に言われたって戸惑うだけだ。
「昔……小学生の頃の話だよ。一人で悩んでたときに、俺は美羽に逢って、すごく助けられたんだ」
感情が抜け落ちた瞳を見つめ、俺は身体中がじんわりと汗ばむのを感じながら、さらに言葉を紡ぐ。
「“理想”を探してる、って笑った美羽に、俺はあの日、かけがえのない大切なものをもらった」
“理想”を追いかける少女のまっすぐさ、まばゆいまでのひたむきさ。
それが俺を勇気づけて、ここまで支えてくれたんだ。
「キモいって思ってくれて構わない。小学校でも中学校でも、ずっと美羽を探してた。だから偶然一緒の高校になって、死にそうなくらい嬉しかった」
「……、っ」
「美羽がいるっていうから保健室にまで押しかけたけど、結局本当のことは言えなかった。それでも、どうしても美羽との繋がりが欲しくて、口実みたいに眷属の話を」
「ま……待て! 」
急に止められ、俺は口を噤む。
460
:
ピーチ
:2013/08/03(土) 16:17:41 HOST:em49-252-217-74.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>
暇人どもめもちょっと笑っちゃったことは言わないw
昔の公園だー! ヒナさんと美羽ちゃんが出会った場所だー!
うわどーしよヒナさんが本気で怒鳴ったの初めて見た!←おい
461
:
名無しさん
:2013/08/03(土) 16:46:17 HOST:zaq31fa482b.zaq.ne.jp
またクソスレかい? 心愛さんよwww
あんたのスレ見る度にヘドが出るぜww
462
:
京都出身
:2013/08/03(土) 16:47:05 HOST:zaq31fa482b.zaq.ne.jp
貴方そんな事言っちゃいけませんよ
可哀想じゃないですか〜
463
:
七紙
:2013/08/03(土) 16:47:45 HOST:zaq31fa482b.zaq.ne.jp
メガビという以上、仕方ないですな〜
俺は静岡に住んでいますよ〜
京都からだと結構遠いっすね〜
464
:
名無しさん
:2013/08/03(土) 16:48:26 HOST:zaq31fa482b.zaq.ne.jp
おいっww
それさっき聞いたぞww
465
:
七紙
:2013/08/03(土) 16:49:02 HOST:zaq31fa482b.zaq.ne.jp
そうだっけ?
466
:
京都出身
:2013/08/03(土) 16:54:45 HOST:zaq31fa482b.zaq.ne.jp
七紙さん
ネオジオの話どうなったんですか?
467
:
七紙
:2013/08/03(土) 16:55:48 HOST:zaq31fa482b.zaq.ne.jp
ネオジオと思い出したけど・・・
昔ドリフターズに荒井ちゅうって人いたの知ってる?
468
:
京都出身
:2013/08/03(土) 16:56:58 HOST:zaq31fa482b.zaq.ne.jp
荒井さん知ってますよ(笑)
志村けんさんの前にいた人でしょう?
いや〜懐かしいですね〜
469
:
京都出身
:2013/08/03(土) 16:57:36 HOST:zaq31fa482b.zaq.ne.jp
そういえばアライチュウで思い出しましたけど・・
ピカチュウさんはどうしてるんでしょうね〜?
470
:
七紙
:2013/08/03(土) 16:59:50 HOST:zaq31fa482b.zaq.ne.jp
今年、劇場最新作公開されるんでしょう?
ミューツー再びとか・・
ちょっと質問していい?
荒井ちゅうとピカチュウどう繋がりがあるのよ?
471
:
京都出身
:2013/08/03(土) 17:02:14 HOST:zaq31fa482b.zaq.ne.jp
僕らの世代の3大用語をお教え致しましょう
ピカ・チュウ
ジコ・チュウ
アライ・チュウ
自己中というのは自己中心の略ですが・・・
472
:
京都出身
:2013/08/03(土) 17:02:44 HOST:zaq31fa482b.zaq.ne.jp
それで思い出したんです
チュウさんの事を
473
:
七紙
:2013/08/03(土) 17:05:03 HOST:zaq31fa482b.zaq.ne.jp
なるほどな〜納得した
ドリフの荒井ちゅうさん良かったよな〜
俺、彼と同年代だもんな〜
474
:
京都出身
:2013/08/03(土) 17:06:34 HOST:zaq31fa482b.zaq.ne.jp
ところでネオジオソフトはもう発売されないのでしょうかね〜
475
:
七紙
:2013/08/03(土) 17:07:14 HOST:zaq31fa482b.zaq.ne.jp
そうだな〜
まあ荒井ちゅうさんはいい人だもんな〜
476
:
京都出身
:2013/08/03(土) 17:08:06 HOST:zaq31fa482b.zaq.ne.jp
そう言えば
サトシとピカチュウって付き合い長いですよね〜
477
:
心愛
:2013/08/03(土) 20:54:59 HOST:proxyag101.docomo.ne.jp
「い、意味が分からない……っ! 君は結局、何を言いたいんだ!」
かなり混乱しているらしくそんなことを言ってくる美羽に、「マジか……」と俺は頭を抱えた。
「ここまで言ったんだから察せよ、もー……」
「だから何を!」
「だから、」
頭が痛い。顔が熱い。心臓がうるさい。
拳を握り、ぐっと足に力を入れて。
俺は十年越しの想いを、告げた。
「―――美羽は俺の、初恋なんだ」
言葉に詰まり、呆然と見つめてくる美羽に、俺は胸の内を打ち明けていく。
「どんなに失敗しても、くじけそうになっても立ち上がって、また理想を求め続けるところが好きだ。バカみたいにまっすぐで、純粋で、強いところも」
「……ぼくは、強くない!」
悲鳴のように叫び、美羽はカタカタと震える。
俺を信じられずに、怯える。
「自分に都合のいい空想の世界に逃げ込んで、みんなに守ってもらうばかりで……っ。今日だって、何もできなかった!」
美羽の声には、小さな嗚咽が混じり始めていた。
歯を食いしばり、さらに続ける。
「ぼくが吸血姫(ヴァンパイア)なのも、魔術組織の魔女なのも、全部全部作り事だ! そんなの分かってる!」
全てを吐き出すように。
美羽は呼吸を荒げ、指で眦を拭った。
「でも、やめられないんだ! 弱いぼくは、この期に及んでも、まだ自分の理想を諦められない……っ!」
おそらく、自分でも何を言っているのか分かっていないのだろう。
ぐちゃぐちゃな思考で、ぐちゃぐちゃな声で、美羽は叫び続ける。
「ぼくは、周りに迷惑をかけるだけなんだ! そんな人間に、誰かに好きになってもらう資格なんてない!」
「もう一回言う」
美羽を遮るようにして、はっきりと声を発した。
「俺は美羽の“理想”に、救われたんだ」
美羽が息を呑む。
俺は彼女に、静かに語りかけた。
この想いが届くように、願いを込めて。
「柚木園と姫宮、それに春山。クラスのみんなだってそうだ」
俺と美羽を取り巻く仲間たち。
妙に個性的で、バカ騒ぎばかりでうんざりすることもあるけれど。
「あいつらは確かに、優しすぎるところがあるよ。でもさ、美羽と一緒にいるのが面白くて仕方ないから、やたらと構ってくるんだろ? 美羽がいい奴だって分かるから、色々絡んでくるんだろ? いるだけで迷惑がかかって、何とも思ってない奴とつきあうほど、あいつらだってお人好しじゃない」
さらに続けて、美羽にとって一番身近な例を持ち出す。
「美空先輩だって、美羽のことが大好きじゃないか。確かに美羽の全部を肯定してるわけじゃないかもしれないけど、それも美羽のことを一番大切に考えてるからだし」
迷惑なんかじゃない。
むしろ、逆なんだ。
ごく単純に、美羽といるのが心底楽しいから、俺たちは美羽を喜んで受け入れる。
「確かに美羽のソレは、世間様から見たら良くない、今すぐやめるべきことだって言われるよ」
美羽のことを良く知らない人なら、いや、たとえそうでなくても、それは普通のこと。
美羽のことを心配するからこそ、安全で正しい道へ導こうとする。
「でも、俺はそうは思わない。美羽が望んでやってることなら、それが一番いいと思ってる」
「……どうして」
うーん、と俺は考え、ひとつの答えを弾き出した。
「たとえば。美羽がそうやって、“理想”に近づくための演技を始めた理由って、格好良いって思ったからだよね」
「……そう、だが」
すぐに剥がれるくらい薄っぺらで、なのに強い意志で固められた仮面。
美羽がそれで、本来の自分を隠すようになったのは。
格好良くて、憧れるから。それもある。
他人を遠ざけ、自分の身を守るため。それもある。
でも多分、もっと根本的な理由があると思うんだ。
「美羽は、さ。本当は……強くなりたかったんじゃないかな」
美空先輩に、二人の過去を教えてもらったことを思い出す。
お父さんの会社の事情でクラスから仲間外れにされ、その反動で、人を寄せつけないようにするキャラを作るようになった、と。
そんな美羽を一番近くで、一生懸命に支えたのは、美空先輩だった。
478
:
心愛
:2013/08/03(土) 20:56:17 HOST:proxyag020.docomo.ne.jp
「美空先輩や、他にも家族の人たちとかさ。みんなに守られているばかりだったから、自分が強い、ヒーローみたいな存在になって、みんなを守りたいって思ったんじゃない?」
さっきも、『守られてばかりで』と零した。
美羽はそういう意識が強いから。
ただ感謝するんじゃなくて、その気持ちを自分の力で返したいって、考えたんだと思う。
それがきっと、美羽の“邪気眼”の始まり。
“理想の自分”とは、孤高のダークヒーロー。
大切なひとたちを、守りたかったんだ。
悲痛なほどの優しさでできた美羽の意志を、どうして否定することができようか。
「そ、んな……こと、」
「もちろんこれは、ただの俺の推測。本当は違うかもしれないよ」
動揺に瞳を揺らす美羽。
俺は彼女を見てきっぱりと言い切る。
「でも俺は、小さいときにそう考えてもおかしくないくらい、美羽が優しい奴だってことを知ってる」
今まで、美羽は他人を遠ざけてきた。
失わないために、持ってはならない。
そして、相手を自分のせいで傷つけないために、近寄ってはならない、と。
美羽はそれだけ、心根のまっすぐな人間だ。
「それで結局、そのひとたちを守れたか、っていったらどうか分かんないけどさ。少なくとも俺やクラスの奴らは、今の美羽と一緒にいられて、幸せだって思ってる」
だったら。
「誰かを幸せにしてる時点で、それは空想でも、虚像でもない。立派な“結野美羽”そのものなんだよ」
誰に異常だって言われても、それでも俺は美羽を肯定し続ける。
世界で一人でもいい。俺は美羽の理解者なんだって、胸を張って宣言してやる。
「それに俺は、そういうの全部ひっくるめて、一人の女の子として、美羽が好きなんだ。……それでも、俺の十年間を否定するつもり?」
肩が跳ねる。
やっと俺の、真剣な気持ちに気づいたかのように、かっと白い頬が赤らんだ。
不安そうに見上げるその瞳を、喰いつかんばかりに激しく見つめ返す。
黒い、瞳。
俺が昔、この場所で好きになったその色が、あのときと同じ夕暮れの光を取り込み煌めいている。
気が遠くなるような時間のあと。
さみしがりやのくせに、他人から好意を向けられることを恐れる少女はこくりと喉を鳴らし、
「ふ……ぇ、ぅあ……っ」
ぽろぽろと涙を零した。
ひく、ひくと時折しゃくりあげながらも、震える唇が言葉を紡ぎ出す。
「ぼくは、……ぼくも……きみ、のことが、」
―――すき、
声にはならなかったけれど、俺の耳にはしっかりと届いた。
全身の神経に甘い戦慄が走る。
火照った顔にさらに血が昇るのが分かる。
「あ……りがと」
違うだろ俺! もっと気の利いたこと言えよ!
でも仕方ない。何しろ、あまりのことに俺の脳はショート寸前なのだ。
頭の中がぐるぐる回る。
そんな俺には気づいていないらしい美羽は涙を拭うと、ちらりとこちらを窺った。
「あの、……ヒナ。契約という形がなくても、ぼくと共にいてくれるか?」
「あ……当たり前だろ!」
つまり……主と眷属じゃなくて、その、そういう関係になりたいってことで……合ってる、よな?
そんなことを言い出す美羽が嬉しいし可愛いしで、ここでスマートに抱き寄せたりできたら完璧なんだけど、残念ながらあまりのことに内心動転しまくり、うわーうわーっと大合唱な俺の手はイメージ通りに動いてくれなかった。
これだから彩にヘタレって言われるんだよまったく。
「では、改めて」
夕焼け空をバックに大仰に腕を広げ、美羽は朗々と声を張る。
「此れなるは《純血の薔薇(Crimson)》一級魔女にして偉大なる吸血姫(ヴァンパイア)、ミウ=黎(ローデシア)=リルフィーユ」
……それでこそ美羽だ。
思わず、俺の頬が緩む。
「たとえ幾千の刻を隔てようとも、我、永遠に汝と共に在ることを誓う」
涙を光らせながら微笑む美羽に、俺も笑って手を差し出した。
「これからもよろしく、美羽」
最初とはまた違った意味を持つ握手。
恥ずかしそうな美羽の笑顔はあのときみたいに、可愛くて、優しくて、綺麗で、何よりもまばゆかった。
479
:
心愛
:2013/08/03(土) 21:04:06 HOST:proxyag020.docomo.ne.jp
>>ピーチ
美羽のためなら、ヒナも本気になるんだね!
ってことでついにやりましたヒナ! ここまで長かったああああああ! このヘタレがああああ! (落ち着け
これにて『邪気眼少女の攻略法。』完! っていいたいとこだけどごめんねもうちょい続くよ!
美羽はここあキャラの中で一番複雑な子でした…。自分でも自分のこと完全に分かってないんだからここあにも分かるかよちくしょう! と歯ぎしりしつつ頑張りましたw
ヒナ、これからも美羽を頼んだぞ!
480
:
ピーチ
:2013/08/04(日) 06:27:48 HOST:em1-114-170-159.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>
ここにゃんそれヒナさんに酷くない!?
ほんとに春山くんがぼっちになったー! 彩ちゃんとくっつけてあげてぇー!←
作者様! いくら自分でも分かってなくても作者様だから!
ヒナさん! これからも美羽ちゃん守ってあげてね!
481
:
心愛
:2013/08/04(日) 20:44:13 HOST:proxyag102.docomo.ne.jp
『いやあやってくれたね圭くん! あたし今最高の気分だよ!』
テンション最高潮の美空先輩の声が、電話越しに俺の耳を圧迫する。
『ほんとはあたしがぶん殴りたいとこだったんだけど、変な噂になっちゃったら困るなーって必死に我慢してたんだよ! まさか圭くんが代わりにやってくれるなんて!』
さてはあいつか。
なんとなく察したらしく、目を逸らしてひゅーひゅー口笛を吹いている情報漏洩の達人を、俺は横目でギロリと睨んだ。
春山から彩、彩から美空先輩……ってどんだけ俺の妹は俺の友人関係掌握してんだよ。
っていうか先輩、噂がなければ殴る気満々だったんですね……?
『しかもあれでしょ? ついに美羽ちゃん攻略しちゃったんでしょ!? もー! 圭くんってばどれだけあたしを喜ばせれば気が済むのかな! 今すぐ感動のハグしてあげるよそっち押しかけていい!?』
「遠慮しておきます。……あ、そうだ。その代わりってわけでもないんですが」
俺は人差し指で頬を掻き、
「ちょっと頼みがあるんですけど」
゚・:*:・。☆゚・:*:・゚☆。・:*:・゚・:*:・。☆゚・:*:・゚☆。・:*:・゚
「―――ごめん。殴ったりして」
「お前、馬鹿じゃないの?」
目の前に座る爽やか系のイケメン様が冷たい一瞥をくれる。
こちらのテンションは最悪だ。
こいつのせいで、さっきから小声で「ちょっと、あの人カッコよくない?」「ほんとだー! でもその前の子は微妙だね」とか囁きが交わされている。ほっとけ。
「いや、いくら腹が立ったとはいえあれはさすがにやりすぎたかと思って。……でも、よく来てくれたよな。絶対断ると思った」
下げていた頭を元に戻しつつそう言うと、イケメン、もとい愛川は不機嫌そうに顔をしかめる。
「……別に、結野先輩に脅されたからだよ。……殺されるかと思ったし」
愛川の連絡先を調べ上げてコンタクトをとり、前にも先輩と入ったことのある喫茶店に来るよう話をつけてくれたのは、もちろん美空先輩だ。
小声で付け足された物騒な一言に、一体どういう手段を用いたのかは言及しないことに決める。
「痛い? それ」
「別に。お前の方が酷いんじゃないの」
つっけんどんだけど、お仲間にやられた俺の頬を心配するような台詞を吐くあたり、根っから悪いわけじゃないんだよなぁ、と俺は苦笑する。
今の愛川は猫を被っていないみたいだけど、こういうさりげないところ、いかにもモテそうだ。
そんな整った顔にうっすらとアザができているのを見て、いたたまれなくなる。
「俺は並みのツラだからいいけど、イケメンの顔に傷つけたとか、こう、後から罪悪感がですね」
「うっせ。……女の子との待ち合わせが、主役がこれじゃ、ってことでパスできてよかったくらい」
「あー、エサにされたのか。チャラチャラしてるように見えてそういうの苦手なのな」
「まあね。……って、なんで俺はお前とこんな話してるわけ?」
すごい。こいつこう見えて、いじりやすさは昴さんレベルだ。
分かりやすい不機嫌オーラを放出する愛川はしかし、店員の女性がアイスティーを持ってくると笑顔で会釈して受け取って、彼女が立ち去ると同時にまた不機嫌な表情になる。
なにこれ、超面白いんだけど。
「……で? どういうつもりだよ」
「うん?」
「なんで俺を呼びつけたんだって話。普通、こんな奴となんか二度と会いたくないはずだろうに」
自嘲してみせるその顔に、姫宮に連れられていく美羽を見送ったときのどこか寂しそうな表情、そして、古い記憶の面影が重なり、ちらついて―――
俺は確信すると、愛川にこう問いかけた。
「なあ。俺の名前、なんだと思う?」
「は? ヒナ、だろ」
「それあだ名!」
大して興味もなさそうな様子でストローを弄びながら言われ、ばんっとテーブルを拳で叩いた。
毎回ヒナヒナ言われてると最近感覚が麻痺してきたけど、ヒナって名字もそういう名前の男もそうそういないと思うんですがね!
「そうじゃなくて。俺の名前、日永、圭なんだけど」
「それがどう―――」
愛川は怪訝そうな眼差しで俺を見て、直後、はっと大きく目を開いた。
482
:
心愛
:2013/08/04(日) 20:50:35 HOST:proxyag101.docomo.ne.jp
>>ピーチ
彩と春山はそこそこいい感じになってるよ多分!
ただお兄様がそれを知ったらどうなるか(・∀・)
ヒナ、がんばって美羽のためにヘタレ卒業してくれたまえ!
悪役を放っておかないここあですw
愛川はコツつかめば割とちょろい←
483
:
ピーチ
:2013/08/04(日) 23:24:36 HOST:em49-252-221-171.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>
美空先輩が怖いー!? ちょっとまってぶん殴りたいって! ついでに年下とはいえ男脅すって!
根っから悪い子じゃないならすぐ美羽ちゃんに謝るのが妥当だと思うなあたしは!←しつこい
ヒナさん……とうとうあだ名が名前に…((
484
:
心愛
:2013/08/05(月) 18:59:11 HOST:proxyag012.docomo.ne.jp
>>ピーチ
殴るっていうか、裏から潰す方が性に合ってるかもしれないね!
それができちゃうのが美空ですからw
うん、素直に謝れたらいいんだけどね…←
それができないのが愛川ですからw
次↓、衝撃の事実が明らかに! ってわけでもないかな…。ばればれだった?(´・ω・`)
ヒナと美羽初登場時から、共通点として愛川のことは決めてたんだよね!
ますますヒナ、簡単に許しすぎじゃね? って疑問はあれど後から補足するから大丈夫!
485
:
心愛
:2013/08/05(月) 18:59:37 HOST:proxyag011.docomo.ne.jp
「え……? お前……まさか、日永!?」
素っ頓狂な声を上げる愛川を、「気づくの遅っ」と笑ってやる。
「うそ。だって、眼鏡……」
「コンタクトだよ」
目の辺りを指差しつつそう言えば、向かいの相手はまじまじと俺を見て、小さく呟いた。
「変わった……な」
「だろ?」
愛川は、俺の予想通り―――小学校の頃、俺をいじめていたクラスの中心グループに所属していた、人気者の少年だった。
……ほんと、すごい偶然だよな。腐れ縁っていうか、運命の陰謀めいたものを感じるわ。
昔美羽と出逢った日、あの公園に駆け込む前に俺とちょっとした揉め事を起こした張本人だ。
すぐに眼鏡のことを気にしたのも、その罪悪感があったからなのかもしれない。
そんな、かなり曰く付きの相手だけど―――今は堂々と、愛川のことを見ることができる。
「まあそういうわけで、同じ小学校出身ってことで、仲良く話でも」
ようやくのことで理解して、居心地悪そうに視線を下に落としていた愛川が途端、顔を上げてキッと俺を睨めつけた。
「……意味分かんない」
「何が」
「何がって……決まってるだろ!?」
感情的に声を荒げる。
「俺……お前に、あんなことしたのに。その上、結野まで傷つけて、怒らせて。……それなのに、まだそんな、平気そうに」
「美羽のことは置いとくけど、別に、俺のことはどうでもいいし」
「はあ!?」
「んー、もう割り切ったっていうか。全然気にしてない」
あの一件だって、あのときの俺が妙にこだわっちゃっただけで、本当はただの事故だしね。
愛川はしばらく唖然とし、次に信じられないものを見る目を向けてくる。
「お前……ほんと、バッカじゃないの?」
「そうだよ。それくらいのバカじゃなきゃ、あの美羽と一緒になんかいられないっての」
その返しに、愛川はちょっとだけ、むっとしたような様子を見せた。
俺は再び、美空先輩がこの店で言った台詞を思い出す。
『分かっちゃうんだよねー。たまにいる、あたしじゃなくてその後ろに隠れてる美羽ちゃんの方を狙う子』
「―――お前さ。美羽のこと好きだったんだろ」
率直に言うと、分かりやすくびくりと肩が跳ねた。
「この前も、俺が彼氏だって勘違いして突っかかってきたんじゃないの?」
「……え? 違うのかよ?」
ぽかんとする愛川。
……え、と。
「いやー……まぁ、えーと、あのときは違ったというか、最近違くなくなったっていうか、」
「もういい。だいたいわかった」
愛川はうんざりしたように言い、色々と諦めたらしく大きく嘆息して。
「……結野のあんな顔、初めて見たんだ」
美羽を取り囲むようにしていた愛川たちの集団に俺が割って入ってきたとき、美羽の見せた表情にどうしようもなく苛立った、と愛川は言う。
「俺なんかに絡まれて、困ってたとこを助けられて……安心してる顔。心底、お前を信頼してる顔だった」
切なく物憂げな眼差しは妙に様になっていて、頻繁にこういう表情をしていることを窺わせた。
「そんなに俺と話すのが嫌かよ、って、すごいムカムカして……自業自得なのにな。ああ、今の結野にはちゃんと、そういう顔見せる相手がいるんだ、って」
―――多分、羨ましかったんだと思う。
最後に、愛川はそう零した。
この前言ってた中学のときの話聞かせて、と試しに頼んでみれば、ぽつりぽつりと語り出す。
自分目当てに群がる女に辟易としていた愛川は、よりにもよって、クラス中に嫌われる美羽に惹かれてしまった。
で、だんだん美羽といい感じになってきたのに、最終的には女友達の策略には嵌り込み、美羽を言葉の暴力で傷つけた。
「……うん? つーかさ、その女友達……ヤナセ? さん? がそもそも一番の原因なんじゃないの?」
「いや。あいつはどんな手段を使ってでも、俺をモノにしたかっただけ。自己中心的っていうか、いじめられてる子なんか眼中にも入れないような奴だから。俺のことがなかったら、結野を攻撃することもなかった」
486
:
ピーチ
:2013/08/05(月) 21:22:28 HOST:em49-252-183-216.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>
怖いです美空先輩落ち着いて!←
ヒナさんと愛川くんまさかの小学校時代の同級生!
……ヒナさんに対しても美羽ちゃんに対しても、愛川くんって維持はってばっかだよね((こら
487
:
心愛
:2013/08/05(月) 22:25:58 HOST:proxyag064.docomo.ne.jp
>>ピーチ
そういうことなのですw
その意地の張り具合が全部悪い方向に向いちゃってるんだよ…(=_=;)
でも、だんだんヒナにはある意味素直になってきたぞ!
488
:
心愛
:2013/08/05(月) 22:26:37 HOST:proxyag064.docomo.ne.jp
苦悩の顔で、でも、きっぱりと言い切る。
「悪いのは全部、中途半端に結野をその気にさせて、なのに自分可愛さに負けて、柳瀬の企みに乗った俺」
……ほんと、悪い奴じゃないんだよなぁ。
俺は同情に満ちた表情で、悔しげに俯く愛川を見た。
「そっか……愛川も、つらかったんだな」
「ひ、な……が」
「で、それなんだけどさ」
次いで、俺は慈愛に満ちた表情でにこ。と微笑み、
「―――ごめん、やっぱもっかい殴っていい?」
「なんでだよ!」
お、なかなかのツッコミ。
なんかこういうとこ俺と似てない? ……え、似てない? そうかなぁ。
「だって、つまり毎日嫌になるくらいモテるから、その分大人しい美羽に目が行ったってことだろ? ヤナセさんの行動も、ただのヤキモチじゃんか。同じ男として腹立つ」
「知るか!」
愛川はすっかりご立腹である。
うん。……さて。そろそろ、かな。
俺は後ろにちらりと視線をやってから、声のトーンを落とした。
「……それに、どんな理由があっても、美羽にしたことは到底許せることじゃないし」
「……分かってるよ、そんなこと」
からん、と氷が虚しい音を立てる。
愛川の顔が暗い翳りを帯びた。
「俺だって、悩んで悩んで、何度も謝ろうと思った。でも、結野はそれっきり学校に来なくなって……。家を訪ねて行こうにも怖じ気づいて、結局できずに終わった」
深刻に沈み込む声。
「クリスマスの日、偶然結野を見かけたときに声かけたのは、今度こそ謝ろうって思ってたからなんだ。……でも友達がいたから、上手く切り出せなくて。焦ってたとこに日永が来て、ついイラッとして……また、同じことを繰り返した」
愛川はくしゃりと乱暴に前髪を掻き上げた。
「……っとに、最低だ、俺」
顔を歪ませ、苛立ったように吐き捨てる。
「情けない。自分が嫌になるよ。余計なことはすらすら言えるのに、なんで大事なことは言えないんだろ」
愛川がいけなかったのは、美羽の中二病を受け入れられなかったところじゃない。
いくら美羽の本質を見抜いて好きになっても、それでも美羽の言動をおかしいと思うのは当然といえば当然だし。
それをやめてほしい、なんて、美空先輩だって言っていたこと。
ただ、愛川はほんのちょっと思っていただけのそれを、トラウマになるような状況で、何倍もの酷い言葉にしてしまっただけ。
人前で好きな子を相手にすると特に素直になれずに、流れるように笑顔で嘘をつく。
ここまでくると、いっそ天才的なまでの不器用さだ。
「お前、さてはあれだろ。好きな子ほどいじめちゃうタイプだろ。小学生男子かよ」
「……うるさい」
茶化したらぎろりと睨まれた。
俺は懲りずになおも続ける。
「……え、待てよ。じゃあもしかして小学生のとき、実は俺のことも―――」
「キモいこと言うんじゃない!」
「はいはい、ツンデレツンデレ」
「誰がツンデレだ!」
まあそれは冗談としても、俺のことを心底嫌ってはいなかったことは確かだ。
この様子だと、むしろ逆もありえるんじゃないかな。
なのにただ周りに流されて、したくもないのに同じことをやっていただけ。
協調性の点では満点なんだろうけど。
「ほんと、不器用だよなーお前。人生損してる」
「……ひねくれてて悪かったな」
「ほんとだよ。せっかく美羽のいいとこに気づいたのに、うっかり手放しちゃったんだもんなー。あーあもったいない」
そのおかげで、俺は美羽とこういうことになれたわけですけどね。
にやつく俺を見て愛川が黙って額に青筋を立てたので、とりあえず話を戻すことにする。
「……とにかく。謝る、っていうか、お前が今更殊勝なこと言っても美羽もすんなり信じるとも思えないから、もう仕方ないんじゃね? それより、また変なこと言っちゃったらどうするんだよ」
489
:
ピーチ
:2013/08/06(火) 06:33:21 HOST:em1-114-157-74.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>
……愛川くん、ほんとに損するタイプなんだね。モテるせいで←おい
てかヒナさんも寛大だよね! あたし自分いじめてた奴だったら罪悪感ナシに殴って終わるわ!((
490
:
京都出身
:2013/08/06(火) 12:34:54 HOST:zaq31fa4a0d.zaq.ne.jp
【ピーチさんのシールダス20円】
シールダスというのは昔のカードダスの仲間です。
しかし今回のシールダスは以前のシールダスとは異なり、
ピーチさんの体内から放出された汁、すなわち液体を意味します。
シルとシールをかけたシャレです(笑)
有料ですが料金は一回20円、お手頃価格でご提供致します。
業務用自販機として設置させて頂く予定ですが、
何か問題ありますか?
491
:
心愛
:2013/08/06(火) 21:01:27 HOST:proxyag020.docomo.ne.jp
>>ピーチ
…ヒナも、ただバカみたいに寛大なわけじゃないんだぜ?(・∀・)
愛川のことは気に入り始めてるけど、ちゃんとケジメはつけますよ!
なんと、次の次くらいで完結だよ! やったー!
このぶんだと美空編もできそうだ…!(つд`)
492
:
心愛
:2013/08/06(火) 21:01:55 HOST:proxyag020.docomo.ne.jp
「そう……だよな」
愛川は落ち込んだようで、声の抑揚を落とした。
しばらく氷が溶けていくグラスを見つめながら、ぼんやりと考えたあと、
「……結野はずっと、誰からも理解されずに、一人で生きていくんだと思ってた」
入学式からしばらくの間、美羽は確かに浮いていたし、孤立していた。それはもう、話しかけるのもためらうくらいに。
もし柚木園や姫宮の協力がなくて、俺も美羽に接触する勇気を出せずにいたら、ずっとその状態が続いたのかな、なんて考える。
「これでも、結野のことは本当に好きだったから。悔しいし、ムカつくし、まだわだかまりはあるけど」
言い、愛川は本当に少しだけど、ふっと笑ってみせた。
「今は、結野が日永みたいな奴と逢えて、良かったと思ってる」
好きになった子の幸せ―――って言ってもいいのかな―――を祝福する。
渋りながらも結局、あれこれと話してくれた愛川が今日、一番素直になった瞬間だった。
自分が不幸にしてしまったという負い目もあるんだろうけど、その真剣でまっすぐな思いはきちんと、俺の胸に届いた。
「悪かったよ、色々と。……って、結野にも言えたらいいのにな」
後半、複雑そうな顔をする愛川。
俺は、それを聞いて。
本日最高レベルの、満面の笑みを浮かべた。
「―――だってさ、美羽」
「…………は?」
すると。
俺と背中を向けあう形で座っていた、すぐ後ろの席の少女がスッと立ち、黒髪を靡かせてこちらのテーブルに歩いてきた。
少し気まずそうな表情。
小柄な彼女は今まで、愛川から見えないよう俺の身体の後ろにすっぽり隠れていたのだ。
動揺した愛川が椅子を蹴飛ばす勢いで、ガタンッと勢い良く立ち上がる。
「結野……っ!?」
うんうん、今日も俺の彼女は可愛いなぁ。いつにもまして気合い入れまくったゴスロリだけど。
「な……なに、その服」
「闇の装束だが、何か問題が?」
「は?」
それにしても、自分の中二病を貶した相手の前に、堂々とフリフリ白黒ファッションで現れた美羽はちょっと凄いと思う。
愛川が混乱状態に陥るのも無理はない。
「って違う! い、いつからそこに」
「……最初からだ。悪いが、話はすべて聞かせてもらった」
愕然とし、端正な顔を引き攣らせる愛川。
油断して話した今までの内容(実は美羽のことが好きだった、とか)を本人に聞かれていたとは、世間体や人の目を気にしたり、本心を隠してしまうところがある彼にとって、この上ない衝撃のはずだ。
あまりの屈辱と羞恥に俯き、わなわな震える愛川は見ものだった。
やがて、ばんっ! とテーブルに千円札を叩きつけ、
「……帰る!」
取り繕うことさえできず大股で歩き去る彼の後ろ姿を、俺はにやにや笑って見送る。
「ざまぁ」
「君は案外性格が悪いな……」
美羽に呆れたような目で見られてしまった。
「あ。誤解されないように言っとくけど、これ、提案は美空先輩だから。……俺もノリノリだったけど」
タダで今までのこと、っていうか美羽のことをチャラにしてやるほど、俺だって甘くはない。
でも、一番の弱点を遠慮容赦一切なく抉ってやったのだ。これくらいで許してやってもいいだろう。
暴力的制裁より遥かに平和的で効果的。
さすがは美空先輩、嫌がらせに関してもプロだ。……それがいいのか悪いのかは置いといて。
「やー、このアイスティー500円もしないのに、あいつ太っ腹だなー。臨時収入臨時収入」
俺は愛川の置き土産をほくほく顔で回収しつつ。
「さすがに可哀想だしお詫びのメール送っとくわ。メアドも美空先輩に聞いといてよかったー。あの人ほんと恐ろしいよなぁ……よし、と。『死ね』とか返信来そうだよねー。照れ隠し乙」
「ぼくにとっては十分ヒナも恐ろしいのだが……」
邪気眼翻訳機にツンデレ翻訳機も兼ねてるとか、俺って高性能すぎじゃない?
493
:
ピーチ
:2013/08/06(火) 23:01:48 HOST:em114-51-177-71.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>
鬼だ! ヒナさん鬼だ!
初めてヒナさんが鬼だと思った!←
…そして愛川くんが可哀そうに思えた((
美空先輩相変わらず美羽ちゃんのためならとんでもないこと考えますね!
494
:
京都出身
:2013/08/07(水) 11:48:01 HOST:zaq31fa5a9b.zaq.ne.jp
ピーチさんの曲です。お聴き下さい♪
作詞・たくや
【いい湯だな&さよならするのはツライけど】
ババアが死んだ〜♪ババアが死んだ〜♪
いい気味だ〜♪いい気味だ〜♪
さよならす〜るの〜は〜ツラいい〜いけど〜♪
寿命だよ♪仕方がない♪
ピーチが逝くまでごきげんよう♪
ピーチが死んだ〜♪ピーチが死んだ〜♪
いい死に顔だ〜♪いい死に顔だ〜♪
突如おばあさんがピーチの背中に〜♪
久しぶり♪久しぶり♪
ここは温泉♪さんずの湯♪
ババンババンバンバン♪ババンババンバンバン♪
いい湯だな〜♪いい湯だな〜♪
さよならす〜るのは〜ツラ〜いい〜けど〜♪
時間だよ!仕方がない!
ここは上州、草津の湯♪
495
:
京都出身
:2013/08/07(水) 11:48:18 HOST:zaq31fa5a9b.zaq.ne.jp
ピーチさんの曲です。お聴き下さい♪
作詞・たくや
【いい湯だな&さよならするのはツライけど】
ババアが死んだ〜♪ババアが死んだ〜♪
いい気味だ〜♪いい気味だ〜♪
さよならす〜るの〜は〜ツラいい〜いけど〜♪
寿命だよ♪仕方がない♪
ピーチが逝くまでごきげんよう♪
ピーチが死んだ〜♪ピーチが死んだ〜♪
いい死に顔だ〜♪いい死に顔だ〜♪
突如おばあさんがピーチの背中に〜♪
久しぶり♪久しぶり♪
ここは温泉♪さんずの湯♪
ババンババンバンバン♪ババンババンバンバン♪
いい湯だな〜♪いい湯だな〜♪
さよならす〜るのは〜ツラ〜いい〜けど〜♪
時間だよ!仕方がない!
ここは上州、草津の湯♪
496
:
京都出身
:2013/08/07(水) 11:50:10 HOST:zaq31fa5a9b.zaq.ne.jp
>>ピーチ
ピーチさん
ちゃんと聴きなさいよ
あんたの曲なんですからね
497
:
京都出身
:2013/08/07(水) 11:56:12 HOST:zaq31fa5a9b.zaq.ne.jp
ピーチが死んだ〜♪ピーチが死んだ〜♪
いいザマだ〜♪いいザマだ〜♪
じいさんが天国からふらりと舞い降りた〜♪
寿命だよ♪仕方がない♪
ここは温泉、さんずの川♪
ババンババンバンバン♪
498
:
名無しさん
:2013/08/07(水) 12:25:56 HOST:zaq31fa5a9b.zaq.ne.jp
心の旅のサビ部分
替え歌メドレー
【もしもピーチさんがお亡くなりになられたら・・】
もしも許されるなら〜♪眠りについたピーチを〜♪
かんおけに詰め込んで〜♪火葬場に入れ込んだ〜♪♪
あ〜♪だから今夜だけは〜♪ピーチを見ていたい〜♪
あ〜♪明日の今頃は〜♪かんおけ〜のなか〜♪
499
:
名無しさん
:2013/08/07(水) 12:27:26 HOST:zaq31fa5a9b.zaq.ne.jp
あ〜明日の今頃は僕は汽車の中〜♪
500
:
心愛
:2013/08/07(水) 17:58:30 HOST:proxyag114.docomo.ne.jp
>>ピーチ
最終回の前の回になって主人公の新たな一面が!
…結局、愛川は損しまくってるだけだと思うw
可哀想な子なんだよ…!
でもこれでスパッと許しちゃったんで、ヒナが押しまくって友人関係築いちゃうかもw
愛川は嫌がりそうだけどね! 表面上は!
501
:
心愛
:2013/08/08(木) 20:47:27 HOST:proxyag044.docomo.ne.jp
「おはよ」
休み明けの教室。
入り口でうろうろしている小さく黒い影を見つけ、俺はすかさず声をかけた。
「……おはよう」
びくっとし、顔をちょっと赤らめて観念したようにこっちに歩いてくる。
あんなことがあった後では、三人と顔を合わせづらかったのかもしれない。
でも彼らがそんなことを気にするわけがなく、美羽の姿を認めるや、まず春山がアホくさい挨拶をかました。
「結野ちゃんおっはよーん! 元気ー?」
「美羽! 良かった、今日休みかと思ったよ」
ほっとしたように微笑む柚木園の隣、姫宮がにこにこ嬉しそうに笑っている。
「ゆいのん、いつも通りだね!」
蝶と薔薇をモチーフにしたレースやフリルたっぷりのゴスロリに、リボンつきのヘッドドレス。
いつも通りすぎる衣装に身を包む美羽は、戸惑いをすぐにしまうと誇らしげに胸を反らした。
「……ふん、このぼくが闇の装束を纏わなくなるとでも―――」
「思ったよ?」
「む」
口を『ヘ』の形に曲げる美羽。
ちょっと不満そうだったけれど、そう言われても仕方ないと思い直したようで。
「その……心配をかけたな」
小さい声で言った後、少し時間をかけてから顔を上げる。
「だが、もう大丈夫だ。あの件も、自分の気持ちも、全部解決した」
「……それは、良かった」
言い切る美羽の表情はすっきりと晴れやかで、憑き物が落ちたかのようだった。
……良かったよ、本当に。
「あれはやりすぎだがな、ヒナ」
「なんのことっすかねー」
ジト目を向けられたので、形だけとぼけておいて。
「……でも、あのくらいやんないと気が済まなかったっていうか。美羽に嫌な思いさせたとか、やっぱりそう簡単には許せないし」
「……は、恥ずかしいことを言う奴だな!」
「え、なんで?」
ぼわわわっと赤くなる美羽を見て、俺は首を傾げた。
俺、なんか変なこと言ったっけか。
「おーっ? ヒナと結野ちゃんがなんかイイ感じですよーっ?」
「君は余計なことを言うな!」
イイ感じ? ……ああ、そういえば。
俺は少し前から考えていたことを思い出し、手を打った。
「みんなー。ちょっと聞いてくれる?」
春山にぎゃんぎゃん噛みついていた美羽をはじめ、談笑していたクラスメイトたちが静まり返る。
……今までのクラスには悪い思い出しかなかった俺が、こんな賑やかな空間の真ん中に今立っていることが不思議で、胸がむずがゆいけど悪くない感覚で。
不思議そうにこっちを窺う美羽をちらりと見て、俺はさらに声を発した。
「そのー……ひとつ報告、っていうか」
……美羽に怒られるかもな。
でも、これははっきりさせておきたい。
俺たちの距離は、実を言えばあんまり変わってないけど。
美羽を迎え入れてくれたこのクラスになら、俺たちの新しい関係を話してもいいかなって思ったんだ。
柚木園が感づいたように切れ長の双眸をキラキラさせ、姫宮がきょとんとしてそんな柚木園を見ている。
……ざわざわざわ。
クラスが騒然とし、次第に一部から殺気が漂い始めた。
そして唐突に春山がシャウト、男子生徒がそれに続いて拳を振り上げる。
「彼女持ちはーっ?」
『我らの敵!』
「地球温暖化はーっ?」
『リア充のせい!』
「我らの悲願はーっ?」
『イケメン抹殺!』
「ちょ、待てよみんな。それじゃヒナが入らないだろ?」
「おいこらそこ」
相変わらず、団結力が嫌な方向にばっちりな集団だ。
彼らの熱い叫びを聞いて、姫宮があわあわと慌てている。
「まいちゃんどうしよう……! 彼女持ちは敵だって!」
「大丈夫だよ夕紀。そういう意味なら、私の方が狙われる可能性は高いから」
「どういう意味!?」
そういう意味だろ。……とかツッコんでる場合じゃなく。
502
:
心愛
:2013/08/08(木) 20:48:36 HOST:proxy10001.docomo.ne.jp
俺は「しーずーかーに!」と再び喧騒を静めると、微妙に照れながらも声を張り上げて、
「実は俺、美羽と付き合うことになっ―――」
「待て、ヒナ」
「ぅえっ?」
変な声出た。
俺の勇気ある宣言を急に遮った美羽は、俺をじっと見上げると。
「さっきから聞いていれば、君たちは何を言っているんだ?」
「え?」
ぽかんと呆ける俺に、美羽は無情な一言を告げる。
「―――ぼくと君は、付き合ってなどいないだろう」
「……………え? …………………えええええええっっっ!?」
この状況で衝撃の事実が発覚した!
俺は恥も外聞もなく美羽に詰め寄る。
「だって、え!? 俺たち両思いじゃないの!?」
「ああ、相思相愛らしい。素晴らしいことだな」
「だったら!」
「だが、付き合おうなどと言われた覚えはない」
「そういうこと!?」
た、確かにそれを口に出しては言ってなかったかもしれないけど!
でもその場の空気とか、無言の了解とか、とりあえずなんかそういうのあるじゃん! ねえ!?
っていうか俺、今までずっと一人で勘違いしてたの!? なにこれすごい恥ずかしいんだけど!
「じゃあっ、お、俺とつ、付き合ってください……っ」
俺、予定大幅変更でまさかの公開告白である。
ライフが限りなくゼロに近づいている俺を、美羽はこれまたバッサリ切り捨てた。
「だが断る」
「なんでだよ!」
怒っていいよね!? 好きな人とか関係なく怒っていい場面だよねこれ!
むきゃーっと頭を掻きむしる俺に、美羽は平然と。
「恋愛的な意味で好きあっていて、それを双方が承知しているからといって、交際しなければならないという決まりはないだろう」
「そりゃそうですけど……そうか!?」
普通、ほとんどイコールみたいなものじゃないかな!
「って待て待て、眷属じゃなくなるってそういうことじゃなかったの!?」
「同格の存在、つまり魂を分かち合った半身同士になったという意味だ」
「あそう……」
俺はがっくりと肩を落とした。
何気に俺、今ものすごく酷い仕打ちっていうか、辱めを受けてる気がするんですけど。
「ヒナがふられてるー」
「よっ! ふられ男!」
「ちくしょぉおおお――――――っっ!?」
ぎゃはははは、と男女入り混じった爆笑。
……俺の恋は、まだまだ前途多難なようだ。
「日永ー、授業始めていいかー?」
「あれっ!? すみません!」
いつの間にかチャイムが鳴っていたようで、釈然としないまま慌ただしく席につく。
全員が落ち着いたのを確認して先生が出席を取り始め、
「―――水瀬。……森田。……結野」
「………」
「結野?」
「あ。……はい」
ぼーっとしていたのか少し遅れて、美羽が焦ったように返事をする。
すぐに俯いてしまったその表情は髪で隠れているけれど、その隙間から覗く耳がほんのり色づいていて。
……ああ、なんだ。
俺はなんとなく理解する。
……まだ時間がほしい、ってとこか。
思わずくくっと笑ってしまう。
美羽はヴァンパイアがどうのこうのと偉そうな口を叩くくせに妙に内気で、自分に向けられた愛情を受け取るのに慣れていないのだ。
なんといっても俺は、自分でも呆れるくらい気が長い。
この関係に名前をつけるのが、美羽にとって早すぎるというのなら。
いつか彼女の覚悟ができるまで、いくらでも待とう。
……まったく。目の前が眩しすぎて、終わりなんか見えやしない。
不確定で、今もこれからも、ずっとずっと続いていくこの未来。
その中でただひとつ、確かなことがあるとすれば。
「……さっきから、何をじろじろと見ているんだ」
「べっつにー?」
―――思った以上に面倒な邪気眼少女の攻略は、まだ始まったばかりだってこと、かな。
503
:
心愛
:2013/08/08(木) 20:54:44 HOST:proxy10002.docomo.ne.jp
これにて『邪気眼少女の攻略法。』完! 結! です!
結局進んだのか進んでないのかな感じになりましたがきっと進んでます多分(・∀・)
ずいぶんと長くなってしまいましたが、とりあえず無事にまとめられてほっとしてます…!
今までありがとうございました!
これから、番外編だけちょろっと続く予定です(`・ω・´)
ヒナたちに幸あれー!
504
:
ピーチ
:2013/08/08(木) 21:59:15 HOST:em49-252-150-48.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>
ヒナさん最後の最後でふられてるー!? 美羽ちゃん最後だよっ!?
進んでます思いっきり進みまくってます! ただ美羽ちゃん、凄い照れ隠しですな……←
美空先輩が聞いたらお腹抱えて笑い転げそうな感じだよねこれ((
505
:
たっくん
:2013/08/09(金) 00:02:02 HOST:zaq31fa5a9b.zaq.ne.jp
アホのピーチさん元気ですか・・?
近々、ピーチさんストーリー作るんで期待してて下さい。
506
:
たっくん
:2013/08/09(金) 00:03:40 HOST:zaq31fa5a9b.zaq.ne.jp
アホピーチ・・?
聞いてるか・・?
シカトするなよ
507
:
心愛
:2013/08/09(金) 21:30:39 HOST:proxyag013.docomo.ne.jp
>>ピーチ
照れ隠しなんです←
確かに爆笑しそうだね美空!
ただ、笑いすぎて壁かなんかに激突しそうw
さっそく番外編始めたんでよろしくです(*^-^)ノ
508
:
ピーチ
:2013/08/12(月) 00:09:43 HOST:em49-252-7-184.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>
照れ隠しだって分かるとまた可愛いんだよね美羽ちゃん!
……笑い過ぎてもちゃんと周りは見てくださいね美空先輩!←
509
:
心愛
:2013/08/12(月) 21:11:22 HOST:proxy10009.docomo.ne.jp
>>ピーチ
なんかちょっとだけお久しぶりな気がしますーw
ありがとう!
照れ隠しってわかんないとただのツンツンしたキャラだけどねw
美空は周り見てても流れるようにドジるからね…(・∀・)
510
:
ピーチ
:2013/08/12(月) 21:50:58 HOST:em114-51-39-50.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>
久しぶりだよね! また三日四日くらい来れなくなるけど!←
ツンツンしてても可愛いってどういうことですか美羽ちゃん!
流れるように……確かにそれじゃ笑うしかないよね…?((
511
:
たっくん
:2013/08/13(火) 14:58:57 HOST:zaq31fa533d.zaq.ne.jp
【ピーチさんが田代まさしさんを救うスレッド】
ピーチさん・・もし貴方が本当に人間としての心を持つ者
あるいは人の気持ちを理解できる人間なら、
私の頼みを聞いて下さい。
依頼内容は『田代まさしさんを救う』です。
ピーチさんにお願いがあります。
田代さんのYせつ行為に耐えてあげて下さい。
田代さんが芸能界に復帰する方法はただ一つ・・
少女に思う存分イタズラをさせてあげる事。これ一点に尽きる!
問題なのは、誰にやらさせるかです。
自ら希望する少女はまずいないでしょうし・・・。
そこで思い出したのがピーチさんです!
こうなったらピーチさんがソッセンしてやらせてあげるしかないと思います。
ピーチさんの身体を田代まさしさんに授けてみてはいかがでしょうか。
貴方を犠牲にする事で田代まさしさんが救われるなら安いもんです。
というわけで宜しくお願いします。
不正行為を認める他ないです。
そうでもしなければ彼のストレスは積もる一方
512
:
たっくん
:2013/08/13(火) 15:06:56 HOST:zaq31fa533d.zaq.ne.jp
【意外にもピーチさんが田代まさしさんを救ってしまうスレ】
ただしピーチさん、これだけは約束して下さい。
田代まさしさんに何をされても、田代さんがどんな行為に出ても
我慢して耐え抜いて下さい。
どうか彼を訴えるのだけはカンベンしてあげて下さい。
もし訴えたらピーチさん、一生恨みますからね。
4 名前:たっくん:2013/08/13 15:05:00 IP:49.250.83.61
もしピーチさんが訴えたら
フリダシに戻ってしまって、
私のせっかくの計画が全てパァ!になってしまうので
宜しく!
513
:
心愛
:2013/08/13(火) 19:26:15 HOST:proxyag012.docomo.ne.jp
>>ピーチ
それは残念だ!
ここあはちまちま更新してるよー(*^-^)ノ
514
:
ピーチ
:2013/08/14(水) 00:54:48 HOST:em1-114-0-148.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>
お盆の間だけ出かけるからコメも更新もできないのです←
でも読みたいよー! ここにゃんの神文よみたいよー!
515
:
心愛
:2013/08/14(水) 19:15:13 HOST:proxyag003.docomo.ne.jp
>>ピーチ
残念ながらそのご期待には応えられなそうだよー!
お出かけか!
ごゆっくり……といいたいとこだけど早く帰ってきてくれたら嬉しいな(チラッ
516
:
ピーチ
:2013/08/19(月) 21:40:43 HOST:em1-114-111-160.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>
応えて欲しいけど我儘は厳禁!←
ただいまー! たぶん(?)早く帰ってきたよー!((
517
:
たっくん
:2013/09/12(木) 10:55:10 HOST:zaq31fa4b03.zaq.ne.jp
>>516
ピーチさんおはようございます。
カレーを食べてカレーを出すスレです。
念の為に書き込みしておきますね
【カレーを食べてカレーを出すスレッド】
ピーチさん&千春さん、おはようございます。
昨日、カレーを食べた後は必ずカレー(廃棄物)が下から出ると申しましたが
今だに出ません。もうしばらく時間がかかりそうです。
一応念の為に、現状をお伝えしておきますね。
心配されてる方もおられると思うので・・。
現代は情報社会ですからね
何でも情報を入手しておいて損はないと思いますよピーチさん&千春さん♪
次回はピーチ&千春&エルぼんの
無能スレッド設立する予定です。
お楽しみに
無能に生きた小説家たち
3 :たっくん:2013/09/12(木) 10:53:50 HOST:zaq31fa4b03.zaq.ne.jp 【ダイアナ・ストーリー】
突然ですがこれから貴方達の事をダイアナと呼ばせてもらって宜しいでしょうか。
理由は・・貴方達の身体の一部にウンコが出る穴があるからです。
ありますよね?ないとは言わせません。別サイトで女性に質問しました。
ウンコ→大(だい)→ウンコを出す穴→大の穴→だいのあな→だいあな
それを片仮名で表記しますと、ダイアナ〜♪
とまあこのようになります。
品のない言い方をするとケツ穴なんです。
さて・・ここで問題になってくるのは
何故私がこの発言を避けたか・・?御存じですか?
別サイトでこの話したら
ある人が『それだったら最初からケツ穴って言えばいいじゃないか。何故遠まわしに言うんだ?』なんでおっしゃってました。
わたくし下品な発言はあまり好まない性格でして・・
こう見えても結構、上品なんですよ(笑)
だからあえてケツ穴とは言わなかったのです。
大穴(だいあな)のほうが上品かな〜なんて思いまして
518
:
たっくん
:2013/09/12(木) 11:01:08 HOST:zaq31fa4b03.zaq.ne.jp
ピーチさんは肛門およびオマ●コが他者より大きいので
大根一本入ってしまう。実験したわけでありませんが、
私はそう確信しています。
これほどスケールの大きい女性、大の穴(だいのあな)に相応しい人物を私は知りません!
まさにダイアナですねピーチさんは
ついでに、千春とエルぼんも
519
:
たっくん
:2013/09/12(木) 11:09:40 HOST:zaq31fa4b03.zaq.ne.jp
貴方達が言いたい事、私にはよく分かります。
つまり、私にカレーを食べるな!とおっしゃりたいのでしょう?
でもそんな事、貴方達に言われる筋合いはないです。
余計なお世話ですよ。
カレーを食べる食べないは私が決める事であって
君らが決める事じゃない!
そしてカレーを下(肛門)から出すのも私の勝手ですよ
520
:
たっくん
:2013/09/12(木) 11:41:39 HOST:zaq31fa4b03.zaq.ne.jp
世間のグルメマニアの方々に一言・・・
食べる話ばかりじゃなくてたまには『出す』話もしましょうよ。
いくら料理好きだからと言っても食べっぱなしじゃいけませんよ。
廃棄物を出さないと
食後は確実にウンコが出ますからね間違いないですよこれは
それはぜったい避けられない宿命です
宿命から逃げては駄目なんですよ皆さん
だからたまには出す話もしましょう。
カレーを食べた後は必ずカレーが出る
常識です
食べて終わりじゃないんです。
トイレへ行って下から出て、はじめて間食なんです。
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