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邪気眼少女の攻略法。
1
:
心愛
:2012/09/16(日) 13:17:20 HOST:proxy10069.docomo.ne.jp
こんにちは、または初めまして。
心愛(ここあ)と申します。
拙くて見るに耐えない駄文ですが精一杯頑張りますので、よろしくお願いします。
感想等戴ければ泣いて喜びます。
ですが、ここあは非常に小心者です。一つの批判にもガクブルしてしまうと思われます。
なので、厳しい御言葉はできるだけオブラートに包んで戴けると嬉しいです(>_<)
また、ここあが不要と判断した書き込みは、誠に勝手ながら反応しないことがあります。申し訳ありません。
話の内容としてはゆるゆるな日常系ラブコメを目指しています。
キャラクターについては、後から少しずつ紹介していきたいと思います。
【心愛(元 月波)の過去作品】
『紫の乙女と幸福の歌』
『紫の乙女と愛の花束』
【関連作品】
『紫の歌×鈴扇霊』(上記作品のピーチとのコラボ)
『パープルストリーム・ファンタジア 幸運の紫水晶と56人の聖闘士』(同じく彗斗さんとのコラボ)
2
:
ピーチ
:2012/09/16(日) 13:26:33 HOST:nptka202.pcsitebrowser.ne.jp
心愛さん〉〉
いぇーい!元つっきーの新小説ー!
タイトル的に面白そうだよねー!
あ、あたし何て呼べばいーかな?
3
:
心愛
:2012/09/16(日) 14:15:02 HOST:proxyag110.docomo.ne.jp
>>ピーチ
ここあでも、ここにゃんでも何でもどーぞ(笑)
自分では「ここあ」って呼ぶけどねw
4
:
心愛
:2012/09/16(日) 14:15:48 HOST:proxyag110.docomo.ne.jp
.。.:*・゚★.。.:*・゚★.。.:*・゚.。.:*・゚★.。.:*・゚★.。.:*・゚
黄昏の光に包まれた公園で、僕はひとり、ブランコを漕いでいた。
ゆっくり足を曲げて、それからゆっくり伸ばして。
真横には僕から伸びるちっぽけな影が揺らめき、キィィィ、と鎖がもの悲しいな音を奏でた。
ぎゅっと唇を噛んで、靴の裏で地面を踏み締め、ブランコの動きを止める。
……僕は、軽いいじめにあっていた。
お父さんにもお母さんにも言えていない。
だって、学校にいてもずっと一人ぼっちで、クラスの皆が僕を無視してるとか、遠くから僕の悪口を言って笑う声がするとか、たまに上履きがなくなってたりするなんて、そんなの、恥ずかしくて言えるわけない。
必死に笑って、毎日すごく楽しいよって先生にも、親にも嘘までついて。頑張って隠してきた。
でも、もう限界だった。
僕はチャイムが鳴るやいなや学校から飛び出して、こうしてただ、公園の時計の針が進むのを眺めているところだった。
自分がみじめで、情けなくて、目の奥が熱くなって。湧き出てくるものを抑えるみたいに、空を見上げた。
鮮やかなオレンジと、赤のグラデーションに染まった背景。
それはなんだか、
『―――……怖いくらい、きれいだよね』
僕はびっくりして振り向いた。
そこに立っていたのは、
『ね。そう思わない?』
僕と同じくらいの年齢の、凄く可愛い、女の子だった。
冗談かと思うくらい長い睫(まつげ)と、つぶらな瞳が際立つ小さな顔。
ふっくらした薔薇色の唇、つんと上を向いた鼻。
少し生意気そうな、でも文句の言いようがない程整った顔立ち。
背丈に比べて明らかに長い、細くて華奢な、白い脚がシンプルなワンピースから伸びていた。
彼女が小首を傾げると、長くしなやかな黒髪がその動作に合わせてサラサラと揺れる。
『……思う』
『だよね』
この世の全ての輝けるものが全部映り込んでいるかのように煌めく、深く透明な黒瞳(こくどう)に見つめられ。
どうしようもなくどきどきして、変な動悸を押さえつけるように胸に手を当てた。
『きみ、いくつ?』
『……六さい、だけど』
『うそ、いっしょだ』
その女の子はすべすべで真っ白な頬を仄かに赤く上気させ、心から楽しそうに笑った。
5
:
心愛
:2012/09/16(日) 14:17:14 HOST:proxy10006.docomo.ne.jp
彼女はひょい、と僕の隣のブランコに腰掛けて、艶やかな髪を風に靡かせながら。
『風ってどこから生まれるんだろうね』
彼女は不思議な子だった。
身の回りの色々なことを良く見ていて、感受性が強くて、純粋で、自分に正直で、子供っぽくて、一つ一つの仕草が妙に洗練されていたりした。
僕は彼女の話に耳を傾け、共感して頷いたり、時には自分の意見を言ったりした。
他の子と一緒にいるより、ひとりで遊ぶ方がずっと好きだったはずなのに。時間も何もかも忘れてしまうくらい、彼女と話すことが、すごく、すごく楽しくて。
『わたしはね、“自分”をさがしてるの』
内緒だよ、と彼女は笑った。
『……自分?』
『そう、自分』
ブランコから軽やかに降りると、彼女は両腕を思いっきり広げて夕焼け空を振り仰いだ。
『わたしが一ばん、こうありたいって思える自分。他人におしつけられる、いい子の自分じゃなくて、わたしが心から、なりたいって思える自分……。そんなリソウの自分を、ずうっとさがしてるんだ』
眩しかった。
赤い空が、まっすぐに生きる彼女が眩しくて仕方なくて、僕は思わず目を細めた。
『きっと見つかる』
だから、僕も笑って言った。
『ううん……ぜったい、見つかるよ』
『ありがとう!』
いつの間にか彼女の満面の笑みに見惚れていた自分に気づき、なんだかどぎまぎしてしまって、ついパッと逃げるように視線を逸らす。
『……あ』
『帰る時間?』
『うん。あんまりおそいと怒られるから』
時計の針が指し示す数字を見て、僕はブランコから立ち上がる。
それを聞いて、残念、と少し寂しそうに、彼女は手を振ってみせた。
『……あの!』
僕はありったけの勇気を出して叫んだ。
『また、会えるかな』
このまま別れるなんて嫌だ。
もっといっぱい、彼女の隣で、一緒に話していたい。
そう、思ったから。
でも、彼女は首を横に振った。
『ごめんね。……むりなの。明日、ちがう町に引っ越すから』
『え』
『今日も、ここにさいごのお別れをしに来たの』
眉を下げる彼女は儚くて、目を離したら今にも、この空に溶けて消えてしまいそうに見えた。
『だったらっ』
僕は必死だった。
もう、会うことができないのなら、せめて。
彼女の手掛かりを、一つでも手に入れたいと思った。
『名前、おしえて』
『ミウ』
白いワンピースの裾が、ばさり、と音を立ててはためいた。
『ユイノ、ミウ。あなたは?』
『……日永(ひなが)』
普通の小学生にしてはちょっとだけひねくれていた僕は、何となく自分の下の名前を素直に言うのは恥ずかしくて、敢えて自分の名字だけを告げた。
彼女―――ミウは不思議そうに瞬きして。
それから、大輪の花が綻ぶように、柔らかく微笑んだ。
『―――じゃあ、“ヒナ”ね!』
その笑顔は、可愛くて、優しくて、綺麗で、何よりもまばゆくて。
―――それが、初恋だった。
.。.:*・゚★.。.:*・゚★.。.:*・゚.。.:*・゚★.。.:*・゚★.。.:*・゚
6
:
ピーチ
:2012/09/16(日) 14:26:18 HOST:i121-118-221-80.s11.a046.ap.plala.or.jp
ここにゃん>>
い、今までつっきーだったから……難しい……!!
って一人称小説ー!?
あたしは折れかかってるよ今、一人称で←
7
:
心愛
:2012/09/16(日) 14:44:07 HOST:proxy10008.docomo.ne.jp
>>ピーチ
ここあもうっかり月波って打ちそうになるよ(^^;;
一人称って難しいね…。
主人公の容姿とか自分だとダラダラ説明できないしねー…。
ゆるゆる日常になるのはかなり後になりそうw
8
:
ピーチ
:2012/09/16(日) 16:59:33 HOST:nptka207.pcsitebrowser.ne.jp
ここにゃん〉〉
あはは、確かに難しいよねーw
一人称で容姿説明できるのって、自己中くらいだよねw
9
:
心愛
:2012/09/16(日) 17:05:34 HOST:proxy10065.docomo.ne.jp
>>ピーチ
相当なナルシストさんに違いない(笑)
ヒナが通うのはここあの高校そのままです←
制服ない生活に慣れちゃったから、普通の学校は書きにくい<(_ _)>
10
:
ねここ
◆WuiwlRRul.
:2012/09/16(日) 18:18:51 HOST:EM117-55-68-188.emobile.ad.jp
タイトル見て新作だー!って舞い上がっちゃいましたw
今回もお邪魔させてもらいますねここですどうもおおお←
さっそくだけどミウちゃん可愛すぎてやばいですw
ヒナくん良い恋をしましたね←
それでは!
あんまり長々書くと自分でも止められなさそうなのでここらへんで失礼しますw
新作もがんばってください!
11
:
ピーチ
:2012/09/16(日) 18:26:19 HOST:i121-118-221-80.s11.a046.ap.plala.or.jp
ここにゃん>>
ナルシーww
大丈夫だよ!ここにゃんならどんなジャンルでもどんな書き方でも書けるから!!
レイさんで証明してくれたから!←
12
:
心愛
:2012/09/16(日) 18:59:20 HOST:proxyag114.docomo.ne.jp
>>ねここさん
あああありがとうございます!
また是非とも宜しくお願いしますー!
ミウかわいいですか?←
でもあとでそのお言葉を盛大に裏切ることになるのですが…(*_*;
相変わらずなカス文章ですが、精一杯がんばりますっ(*^-^)ノ
>>ピーチ
レイさーん!(笑)
いや、やっぱ全然思うようにいかんわ…。
み、見捨てないでねピーチ!(つд`)
13
:
ピーチ
:2012/09/16(日) 19:50:23 HOST:i121-118-221-80.s11.a046.ap.plala.or.jp
ここにゃん>>
レイさーんww
絶対見捨てないから!!むしろ見捨てらんないから!!←気になりすぎてw
14
:
彗斗
:2012/09/17(月) 00:23:57 HOST:opt-183-176-175-56.client.pikara.ne.jp
心愛さん>>
おお!?
これがあの呟いていた新作ですか!
しかも一人称とは……感服致しましたm(_ _)m
15
:
心愛
:2012/09/17(月) 10:57:34 HOST:proxyag109.docomo.ne.jp
>>ピーチ
ありがとう…!
ずっとよろしくね相棒!((だからやめろ
>>彗斗さん
新作ですー。
「ソラの波紋」と、ピーチのコラボと同時進行なのでまったり行きますがよろしくです←
一人称ってホント大変ですね…。レイさん然り。
16
:
ピーチ
:2012/09/17(月) 10:59:17 HOST:i121-118-221-80.s11.a046.ap.plala.or.jp
ここにゃん>>
あいぼーうっ!!←うぜぇ
相棒やめないでね!?←だからうぜぇ
17
:
心愛
:2012/09/17(月) 11:04:51 HOST:proxyag109.docomo.ne.jp
>>ピーチ
やめないよー!
たとえ受験戦争が始まろうとも、小説全部ネタ尽きようとも遊びに来るよー!
18
:
ピーチ
:2012/09/17(月) 11:05:59 HOST:i121-118-221-80.s11.a046.ap.plala.or.jp
ここにゃん>>
受験戦争w
あたしは来年だww
19
:
彗斗
:2012/09/17(月) 18:18:51 HOST:opt-183-176-175-56.client.pikara.ne.jp
心愛さん>>
こちらこそヨロシクです☆
マッタリか……私もそんな感じで更新続けたい……(泣)
20
:
心愛
:2012/09/17(月) 20:31:29 HOST:proxy10042.docomo.ne.jp
>>ピーチ
ここあも来年だ…w
ただ小説書いてると成績下がりそうなんだよね(^_^;)
上手く折り合いつけないと!
>>彗斗さん
どうしてもノッてるときはバーッと書きたくなって困ります←
でもこの「邪気眼少女」の次の回がほとんど動きないんで、書いててつまんないんですよねー。
ここあの学校の情報をどこまで明かすかも難しい(´・ω・`)
21
:
ピーチ
:2012/09/17(月) 20:54:44 HOST:i121-118-221-80.s11.a046.ap.plala.or.jp
ここにゃん>>
受験ヤダ―――!!!
小説書いてるお陰で成績下がるキラン☆←何だそれ
22
:
心愛
:2012/09/18(火) 16:24:04 HOST:proxyag059.docomo.ne.jp
『入学式(はじまり)は桜と共に』
視界を染める、純白に紅を一雫だけ落としたような薄桃色の破片。
桜の花を透かして、うららかな陽光(ひかり)が零れ、差し込み。
穏やかな風が梢を揺らして千々の花びらを舞わせ、俺の足下にまで運んできた。
ザッ、と音を立て、新品の革靴で地を踏み締める。
まさしく万感の思いで、体育館の入口に掲げられた看板の文字を見やった。
“県立南高等学校 入学式”
県立南高等学校、略して南高。
全国での偏差値は優に七十を超える、名実共に県下トップのエリート校。
……まさか本当に、この俺がここに受かってしまうなんて、思いもしなかった。
合格発表の日の言葉に表せないくらいの嬉しさを思い出し、それから入学式の今日になってやっと、この学校の生徒になるんだという実感が沸いてきて、思わず顔がにやけてしまう。
今だけは神様に全身全霊で感謝を捧げたい気分だ。
俺―――日永圭(ひなが けい)は、入学式が終わったので一人さっさと体育館を出て、昇降口に向かうところだった。
クラス発表の紙もそこに掲示してあるらしく、結果に大騒ぎしている奴らの賑やかな声が一歩踏み出すごとに近付いていく。
さて。南高の特色としては、大学と同じように、単位制度を導入していること、それから完全なる私服通学を採用していることが挙げられる。
とはいえ入学式当日に私服を着てくる非常識人というか勇者はそうそういないので、見掛けるのは中学のときの制服らしききっちりした学生服や真新しいスーツなど、無難で落ち着いたものばかりだ。
数少ない女子はといえば、『なんちゃって制服』とか言うらしい、普通より派手めの制服もどきの子がほぼ十割。
特に取り決めはないけど、南高の入学式は毎年こんな感じだと聞く。
いかにも“優等生”で“マジメ”な南高生、多数派に従って空気を読むのにも長けているってわけだ。
「っ、」
「あ、すみません」
友達と楽しそうに談笑していた女生徒と肩がぶつかり、軽くよろめく。
「いえ……」
つい、他人に話し掛けられたときの癖でびくっとしてしまうが、謝られた手前、とりあえず軽く頭を下げておいた。
それでも何となく気まずくて、その娘(こ)を抜かしてしまおうと足を速め、その際にちらりと視線を投げると、
「……うーわ……」
それ穿いてる意味あんの? と聞きたくなるくらいハンパなく短いスカートに、くるくる巻いた、むしろ赤に近い色の茶髪。
ひっ……化粧、濃っ! 化け物か!
「?」
不審そうな目で見られたので、慌てて顔を逸らして立ち去る。
……あ、あんな奴もいるのか、広いな南高……。
ああいうのに限って、俺より頭良かったりすんのかもね……。
それにしてもさ。何で変に髪弄っちゃうんだろうなぁ。
俺は女子高生っつったら断然黒髪ストレートだと思うんだけど。
女の子らしい清純さとか、初々しさとか、……そういうのも大事だと思うんだよね。
―――……あの、“ミウ”みたいにさ。
記憶の片隅に残る少女の面影が目の前にちらつき、ゆっくりと頭を振る。
今は感傷に浸っている場面じゃない。
―――……俺は、変わるんだ。
過去を振り切って、完全に生まれ変わって―――最高の高校生活を送ってやる。
俺には大分無理があった難関を受験したのも、同じ中学の奴がほとんど受けないから。
今までの『俺』を知る奴は、誰もいない。
堂々と胸を張れ。
やましいことなんかない。
大丈夫、今の俺ならきっとできる。
「よっし……!」
小声で気合いを入れ直し、俺は真っ直ぐ前を見据えた。
23
:
ピーチ
:2012/09/18(火) 18:07:44 HOST:i121-118-221-80.s11.a046.ap.plala.or.jp
ここにゃん>>
にゅーがくしきー!!←
うん、黒髪は認めるけどストレートのみはやだな、あたし的にはww
24
:
心愛
:2012/09/18(火) 20:08:20 HOST:proxy10037.docomo.ne.jp
>>ピーチ
人の思考って、ちょっとしたことで結構簡単に移ろうし、いろいろどーでも良いことも考えてそうだなーということで。
黒髪ヒロイン大好き!←
くるくる茶髪さんは、実はうちの学年にモデルいますw
話したこともないんだけど、彼氏とっかえひっかえとか悪い噂しか聞かないので正直あんまり良い印象はなk((ry
25
:
心愛
:2012/09/18(火) 20:09:02 HOST:proxy10038.docomo.ne.jp
『うっそマジー!? 一緒じゃーん!』
『絶対4組遊びに行くから!』
新年度のクラス発表というのはどこの学校でも同じようで、ぎゃあぎゃあ大げさな悲鳴を上げたり、友人同士で親しげに肩を叩き合ったり……。
見えないっつーの!
後ろから爪先立ちしてみるも意味はなく、仕方なしに、タイミングを見計らって集団の中に潜り込む。
ったく。見終わったらさっさとどけよ、後から来る奴のことも考えろや。
実際に口に出したらアブない人路線まっしぐらなことを考えつつ、バカでかい白い紙に印刷された文字を視線で辿る。
ひ、日永、……あった、11組。
8クラスもある割には意外と簡単に見つかった。
ちなみに南高では2年の3組だったら23組、という具合に、クラス名は二桁で表す。
だから、11組は実質1年1組ってことだ。
あとは自分の出席番号を確認すれば、どこのクラスか調べておく友達もいないのだからもう用はない。
はず、なんだけど。
無意識のうちに、毎年繰り返していることをまたやっている自分に思わず苦笑する。
もはや一つの癖だ。
―――日永、よりも後に書いてある名前を、ひとつひとつ慎重に眺めていく。
ユイノ、ミウ。
昔、小さい頭に必死になって叩き込んだその音を、そっと唇に乗せた。
自分でもバカじゃないのかと思う。
初恋の女の子の名前が何かの間違いで同じクラスの名簿に載っていたりしないかどうか、探してしまうなんて。
飽きもせずに毎年毎年。
……ホント良くやるよな、俺。
「ゆ……いの、」
“No.39 結野美羽”
―――心臓が、止まったような気がした。
「っ……」
結野。
“ゆいの”って、読め……ない、か?
「うっ……―――」
そだろ、と、熱い息を吐き出した。
思考が纏まらない。
目を見開いて、ぼうっと突っ立っている俺をどかそうと、誰かが迷惑そうに押してくることさえも、頭では多分理解しているはずなのに身体が全く動かない。
「は、」
落ち着け!
早鐘を打つ心臓を服の上から押さえつける。
カラカラに渇いた喉にごくんと唾を送り込み、瞼を閉じた。
……同姓同名の他の女子、ってことだって十分有り得ることだ。
決めつけるのはまだ早い。
でも、
……もし、
“ミウ”ともう一度逢えるなら。
あのときみたいに、いや、もっと、ずっとずっと近くで、話ができるのなら。
また、一緒に笑いあえるのなら。
「神様、俺のこと好きすぎだろおい……」
口元に笑みを浮かべ、俺はパッと身を翻した。
―――この目で、真実を確かめるために。
26
:
ピーチ
:2012/09/18(火) 20:30:54 HOST:i121-118-221-80.s11.a046.ap.plala.or.jp
ここにゃん>>
黒髪ヒロイーン!!
おぉっ!!ミウちゃん発見!!
後は確認だけだーww
27
:
心愛
:2012/09/20(木) 16:33:29 HOST:proxy10057.docomo.ne.jp
―――その女子は、俯いてケータイを弄っていた。
黒蜜のように艶のある髪が、さながら彼女と外界とを遮るヴェールのように、その横顔を神秘的に隠している。
彼女が身に着けているのは、黒を白を基調にしたフリフリのドレスみたいな服―――そう、ゴシック・ロリータ。
ゴージャスな姫袖のブラウスに、甘いシルエットで魅せるアシメトリーなデザインのコルセットスカート。
頭には薔薇のケミカルレースとグログランリボンのヘッドドレスがちょこんと載っている。
……いやいや待て待て。
駅前とかならともかく、なんで入学式の日の教室にゴスロリがいるわけ?
黙っているだけのその少女はしかし当然のことながら、教室中に存在感と違和感と異彩を放ちまくっていた。
椅子に座った誰もがもの言いたげに、チラチラと彼女を見やっている。
……困ったことに、俺の右隣の席の奴だった。
ちょっと、いやかなり緊張しながら、入口で呆然状態に陥っていた俺はそそくさと、廊下側から二列目、後ろから二番目の席に座る。
あ、はは、は、は、……。
……なんだか猛烈に嫌な予感がするのは、俺だけか?
全40人のクラスで、結野美羽の出席番号は39番。
ということは、廊下に繋がる窓に沿った、教室の左から数えて一番最後の列の、後ろから二番目―――
俺の、隣。
つつーっと背中を滑り落ちる冷たい汗の感触に耐えながら、俺は恐る恐るとゴスロリ女を横目で伺う。
座高の低さから、女子の中でもかなりの小柄であることが伺える細身の体型。
ケータイを操作する指はほっそりとして仄白く透き通っている。
……で、でも、コレが“結野”だったとしても“ミウ”だとは限らないし……。うん。
顔を見れば分かるのかもしれないけど、幸か不幸か、……ええと、結野は頑なに下を向いていて、画面から目を逸らそうとしないので、全くそのチャンスがない。
それにしても何でこんな、さっきの茶髪さんが可愛く思えてくるレベルの奇抜すぎるファッションを、わざわざ高校の入学式に?
電波入っちゃってんの? それともなんか特別な事情があんの?
いや、ゴスロリ着る特別な事情ってのも全く想像つかないけどさ。
仮に“ミウ”と同一人物じゃなくて、全然関係ないにしても気になるものは気になる。
でも、綺麗な黒髪や対照的に真っ白い肌、こぢんまりとしていて華奢な体躯は、今もなお鮮やかに蘇る記憶の中の少女のものに、怖いくらい良く似ていて。
……や、やっぱり、……?
誰ひとりとして喋ろうともしない、不自然な程に静かな教室に、新しいクラスメイトが入ってきては結野の格好に気づいてぽかんと口を開け、それから我に返ったように視線を逸らして自分の席に着いていく。
やがて全員が揃った頃、遅れて来た担任が勉学がなんとかとか生徒手帳やら書類がなんとかとか話し出しても、内容なんてほとんど頭に入ってこなかった。
結野は退屈そうに頬杖をついて、自分のすぐ右にある窓をじっと眺めている。
「ええと、どうかな? みんな、もう近くの席の人と話とかしたかな?」
この雰囲気でできるわけないだろが、という生徒たちの無言の圧力を感じたのか、初老の担任が引き攣った愛想笑いを浮かべて軽く後ずさる。
「あ、あーうんそうだよね! まだお互いのこと良く知らないもんね!」
テカる額をハンカチでせわしなく拭いながら、担任はアハハと笑って逃げるように言った。
「……よし、じゃあ早速みんなに自己紹介してもらおうか! 出席番号1番の人から、教壇に出て下さい」
……そっか、自己紹介……!
順番に前に出て話すということは、当然。
正面から、結野の顔が見られる。
“ミウ”と“結野美羽”が本当の本当に違う人物じゃないのか、すぐに確かめることができる。
28
:
心愛
:2012/09/20(木) 16:35:27 HOST:proxy10057.docomo.ne.jp
>>ピーチ
ヒナ、まだ確認はできておりませんw
さてさて、どうなるのでしょう(笑)
次更新したらキリが良くなるから、そしたらまた他の小説に手を付けます(*^-^)ノ
29
:
ピーチ
:2012/09/20(木) 21:19:42 HOST:i121-118-221-80.s11.a046.ap.plala.or.jp
ここにゃん>>
ちょっと待てー!?ミウちゃんか―――!?
どうなるのでしょうじゃなくて気になる!!
お、次違うの行く?楽しみだにゃあww
30
:
心愛
:2012/09/20(木) 22:34:19 HOST:proxyag080.docomo.ne.jp
>>ピーチ
こうなったらだいたい予想ついちゃうよねえええ←
タイトルがタイトルだしねー!
ちなみにここあの学校では入学式は見たことないけど、卒業式で本格派のゴスロリの人がいたよw
31
:
ピーチ
:2012/09/20(木) 22:39:31 HOST:i121-118-221-80.s11.a046.ap.plala.or.jp
ここにゃん>>
予想つきすぎて怖いぃぃぃ!!
………………卒業式で本格派ゴスロリ?なぜ?←
32
:
心愛
:2012/09/20(木) 23:31:22 HOST:proxy10035.docomo.ne.jp
>>ピーチ
…ここあの主役キャラに、まともな人格を期待してはいけないのだよ…。
うん、何でだろうね←
一人だけ超目立ってたからよく覚えてる(^_^;)
ここあはゴスロリ肯定派だけど、最低限のTPOも大事だと思うなw
美羽をノリノリで書いてるここあが言えることではありませんがww
33
:
ピーチ
:2012/09/20(木) 23:55:02 HOST:i121-118-221-80.s11.a046.ap.plala.or.jp
ここにゃん>>
いやいやいやいや!?だったらあたしのキャラ(主役に限らず)はどーなんの!?
あ、美羽ちゃんノリノリで書いてたんだ…
34
:
心愛
:2012/09/21(金) 13:28:55 HOST:proxyag116.docomo.ne.jp
自己紹介は、最初の方の奴の努力もあってか比較的和やかかつスムーズに進んだ。
軽いジョークを飛ばして笑いを取りに掛かる男子や、「仲良くしてください」と笑顔でアピールする女子。
趣味や入りたい部活、など一人が結構たくさん話していて、その誰もが、不安と期待が入り混じったような―――どこかキラキラした顔をしている。
長い受験勉強から解放されて、ようやく巡ってきた春だもんな。
つい、つられて俺まで表情が柔らかくなる。
……結野の存在を思い出してビクッとするけど。
彼女に気を取られているのはもちろん俺だけではなく、教室の端でそっぽを向き、窓とにらめっこしている結野をちらっと見てから、気を取り直したように話し始める奴が大半か。
―――と、余計なことを考えているうちに俺の順番が来てしまったので慌てて立ち上がり、教卓の前に出る。
やば、どうしよう。
「えーと、……初めまして、日永圭と言います。中学は―――」
小学校の頃から、大勢の前で話すのがどうしても苦手で、嫌いだった。
どこかで陰口を言われているんじゃないかと思うと身が竦んで、ろくに言葉も出なくなってしまうときもあった。
でも、少しぎこちなく話す俺を見る、クラスメイトたちの目は、驚くほど優しくて。
―――良い奴なんだ。みんな。
改めて、この学校に入れて良かったと心から思った。
こわばっていた頬が自然に緩み、言う予定ではなかったことまで、するりと口から出てくる。
「特に部活などは考えていませんが、漫画とかゲームとかが好きです。同じような趣味の人は、話し掛けてくれたら嬉しいです」
……結野の細い肩が、やはり表情は読めないけれど、ぴくんと小さく動いたように見えたのは気のせい、だろうか。
まばらだけどあたたかい拍手の中、俺は歩いて席に戻り、ふうっと一息。
二番目の心配事、俺自身の自己紹介は終わった今、気になることはただひとつ。
申し訳ないけれど、俺の後の人たちの話は聞き流してしまった。
「―――……あー、次は……結野(ゆいの)さん、かな? お願いします」
そして、待ちわびたその瞬間が来る。
前の生徒が戻り自分の順番が来ても席を立とうともしない結野に、気を使ったらしく担任が声を掛けた。
……ゆいの、って読み方でやはり合っていたみたいだ。
それでも結野は動かない。
黙って窓を睨み続けるだけ。
教室がにわかにざわめき出す。
「ゆ、結野……さん? 体調が悪いのかな?」
担任の声がちょっと泣きそうになったとき―――
仕方ない、とでも言うように結野が盛大な溜め息をついて、すくっと立ち上がった。
35
:
心愛
:2012/09/21(金) 13:29:51 HOST:proxy10057.docomo.ne.jp
彼女が歩み始めると、まるで示し合わせたように、しん、と教室が静まり返る。
一歩を踏み出すごとにゴシック・ロリータの裾のフリルが翻り、極上の絹糸のように艶やかな黒髪が肩から零れ落ちて、ふわり、と風を孕んで靡く。
彼女が小さな漆黒の靴を高らかに鳴らして教卓の前に辿り着き。長い髪の奥に秘められていたその顔を、ゆっくりと上げる。
―――教室中が、息を呑んだ。
一流の職人が丹念を込めて削り上げた硝子細工みたいに美しく透き通った真珠の肌、つんと尖った形の良い鼻、愛らしく綻んだ花弁の唇。
そして。小さな顔に奇跡のように完璧な配置で嵌め込まれた、宝石の如く深い色に輝く―――紅(あか)い、赫(あか)い、双眸。
物凄い、美少女だった。
なんかもう、「クラスで一番可愛い」とか「結構美人」とかいう次元じゃない、完全なる、生粋の、美少女。
―――“ミウ”だ。
直感で解(わか)った。
目の色も格好も雰囲気も全然違うけど、間違いなく、“ミウ”だ。
あの日一度あったきりの、……俺の、初恋の女の子。
その瞬間。彼女の正体を確信してしまった俺だけではなく、みんな、特に男子諸君が、本当は何か事情があってこんな痛々しい格好してるんじゃないかとか、『実はウケ狙いだったんですぅ〜』とかテヘッて笑いながら言い出すんじゃないかとか、そういう淡い願望を一斉に抱いたことはまず間違いないだろう。
……でも、甘かった。
耽美で、可憐で、どこかアンバランス。
猛毒を秘めた花のような、精緻な美貌を持つその少女は、この世の全てを見下しているかのように挑戦的に赤い瞳を眇(すが)め。ふんっ、と華奢な顎を傲然と突き上げて。
やがて鮮やかな薔薇色をした唇が開き、小鳥のさえずりのような美声で、
「……初めまして、と言うべきかな。
ぼくのこの世界での名は結野美羽。またの名を、ミウ=黎(ローデシア)=リルフィーユ―――魔術組織《純血の薔薇(Crimson)》の一級魔女にして吸血姫(ヴァンパイア)、赤の十四番《黄昏(イヴ)》。
……下等な人間共と慣れ合うつもりは微塵もないが、まあ一応、宜しくとでも言っておこうか」
『自分今最高に格好良いこと言った!』的な、いわゆるどや顔を炸裂させて自信満々に乏しい胸を張る結野。
痛い沈黙。
……薄れゆく意識の中、俺はこう思ったよ。
―――……神様。アンタ俺のこと嫌いだろ。
36
:
ピーチ
:2012/09/21(金) 20:02:06 HOST:nptka103.pcsitebrowser.ne.jp
ここにゃん〉〉
………圭君、神様に嫌われるようなことした?
“ミウ”ちゃん登場だー!
37
:
心愛
:2012/09/21(金) 20:45:33 HOST:proxy10068.docomo.ne.jp
>>ピーチ
ミウを健気に想い続けて約十年、奇跡的にまた逢えたと思ったら、純粋だった彼女は今や末期中二病患者になっていたという哀れすぎるヒナさんです←
シュオンと境遇は似てるけど裏切られ方がはんぱないよね!
美羽が何考えてこんな言動しちゃってるのかとかは、また後々(≧∀≦)
38
:
ピーチ
:2012/09/21(金) 22:04:33 HOST:i121-118-221-80.s11.a046.ap.plala.or.jp
ここにゃん>>
あぁぁぁぁ……哀れだ、哀れすぎる……!!
シュオン様は目の前でソフィア様が連れて行かれるのを見てたからね←
美羽ちゃん……今はまだ何考えてんのか分かんない((汗
39
:
心愛
:2012/09/22(土) 16:13:30 HOST:proxy10055.docomo.ne.jp
>>ピーチ
そんな哀れなヒナを早く救ってやらなければ(笑)
美羽は、イタ可愛い子を目指してこれからがんばります!
40
:
ピーチ
:2012/09/22(土) 17:22:21 HOST:nptka305.pcsitebrowser.ne.jp
ここにゃん〉〉
哀れっていうと何故かレイさんが出てくるw
何でだろーネww
41
:
心愛
:2012/09/24(月) 21:04:12 HOST:proxy10055.docomo.ne.jp
>>ピーチ
レイさんは哀れな人の代表格だからね!
ヒースもジルもだけど←
でもちゃんと全員、可愛い女の子あてがってるから許してくださいw
ヒナは哀れな人からは早めに脱却するかも?
42
:
ピーチ
:2012/09/24(月) 22:32:27 HOST:i121-118-221-80.s11.a046.ap.plala.or.jp
ここにゃん>>
うん、確かにネ←今そう思った奴ww
ヒナさんは早めの脱却?良かったネww
43
:
彗斗
:2012/09/25(火) 22:31:41 HOST:opt-183-176-175-56.client.pikara.ne.jp
心愛さん>>
うわぁぁぁぁぁっ!!
ミウちゃんがどうしてこんな事に……←(一体何を知っていてこんな事言ってるんだww)
これからどんどん悪化して行くのかな……!? ギャァァァァッ!! 考えるだけでも恐ろしい……(泣)
これ以上は悪化しませんように……
44
:
心愛
:2012/09/27(木) 16:25:03 HOST:proxy10036.docomo.ne.jp
>>ピーチ
ただ、更新速度遅いから、脱却がすぐにできるかどうかは(´・ω・`)
とりあえず、こっち優先するんであとのはもうちょっと待っててください!
キリはいいんだけど、展開的に中途半端すぎるから美羽パートにいくまで集中的にがんばる(つд`)
>>彗斗さん
元中二病患者さんの古傷を抉るあまりに痛々しい美羽さんです。
ここあは中二病肯定派なんですけどね!
自身もちょっと危ないし←
ノリノリで美羽の自己紹介に出てくるアレな単語考えてましたし←
…彼女の病気がこれ以上悪化しないよう祈っていてくださいませ((ぇ
すでに一人称に挫折気味なここあです(^_^;)
でも一人称ならではな表現もあるでしょうし、あきらめないでしぶとく続けます←
今まで以上に読みにくいことこの上ないですがご容赦を!
45
:
心愛
:2012/09/27(木) 16:30:25 HOST:proxy10057.docomo.ne.jp
『姫宮夕紀』
―――妄想や自分の好きな漫画やアニメ、ライトノベルやゲームなどの影響によって現実の自分に妙な設定を付けたり、それを他者に対して演じて主張するような行動を、『邪気眼』と呼ぶ、らしい。
スマートフォンの画面から目を離し、俺は黙って肩を落とす。
―――高校の入学式、やっとのことで再会した初恋の女の子が、中二病こじらせて邪気眼発症してました。
はい状況説明終わり。
「はあああああー……」
……調べてみると、意外なことに、憧れるあまりに特定のキャラと一体化するようなキャラ設定を自演してしまう人、痛々しい言動を振り撒く人っていうのは結構多いらしい。
赤いカラコンにゴスロリを装備し、口調も僕っ娘(ぼくっこ)らしくしていた結野のアレにも、もしかしたらちゃんと、モデルのキャラがいるのかもしれない。
いや、そんなことはどうでもよくて。
「はー…………どうしよ……」
昇降口で上履きに履き替え、深い深い溜め息をつく。
昨日の最悪の空気は結野の後の生徒がなんとかして改善してくれたけど、家に帰ってから一人でうだうだ悩んでみても結局何も結論は出せずに、すっきりしない気分のまま、また登校して来てしまった。
「中二病ってすぐ治るもんなのかなー……」
廊下を歩き、そのまま真っ直ぐ教室へ。
暗く沈んだ顔でガラリとドアを開ける、と。
―――席に座った全員が、勉強していた。
「うわ何これきっしょ!?」
しまった正直な感想が!
だ、だってこの光景異常すぎんだもん!
まだ授業開始の八時二十五分には三十分もあるのにほとんど全員揃ってて、誰も喋らずに前向いてただカリカリカリカリ―――
おかしいだろ!
皆は一斉に、バッと俺を振り返ってから顔を見合わせ、
「……だよなー! いやあ暇だったからつい癖で」
「妙に静かで落ち着かなかったから……今日テストだし」
「あたしは着いたらみんなやってたからつられて、ってか入学式の次の日にテストっておかしくね?」
おかしいおかしい、と今更ながら笑い半分でクラス中が騒ぎ出す。
「順位出るんだっけー?」
「出るらしい。俺は捨てっけど」
「マジで? 俺も捨てよっかなー」
そんな中、一人のチャラそうな男子生徒が振り返り、ニカッと笑って親指を立てた。
「日永、ナイスツッコミ!」
「そうそう! みんな薄々思ってたけど、誰も言い出せなかったもんねー」
うわ、もう俺の名前覚えてくれたんだこいつ……。
じんわりとあたたかくなる心をごまかすように、名前も知らない男子に「ありがたいお言葉をいただき恐悦至極」とふざけて笑い返した。
クラスメイトたちが思い思いに席を立って談笑し始めるのを見届け、俺は鞄から荷物を取り出す作業に移る。
―――なんとなくだけど、この一年は上手くやっていけそうな、そんな気がした。
空っぽの結野の机を眺め、よしっと拳を握る。
ただ、結野が変わった変わったって嘆いてたってしょうがない。
できるだけ早めに、何か行動を起こさないと。
実際話したら、意外と話が合ったりするかもしれないし。
……合わない可能性しかないような気もするけど、それでも何もしないよりは良いだろう。
46
:
心愛
:2012/09/27(木) 16:31:35 HOST:proxyag065.docomo.ne.jp
一人意志を固めていると、
「あのー、日永くん?」
「はいィ!?」
急に、つんつん、と誰かに背中をつつかれて変な声が出た。
「……っあはは! なにその声、やっぱり日永くんって面白いねっ」
振り返ると、楽しそうにけらけらと笑っている後ろの席の女子と目が合う。
清潔感がある栗色の髪をショートにした、とびきりの美少女だった。
大きな紅茶色の瞳に、子供みたいに無垢な顔立ち。
キラキラ輝く眩しい笑顔は、天に翼を置き忘れてきた天使のように清純にして可憐。
飾り気のないジーンズに合わせた、だぼっとしたパーカーも、まるで計算され尽くしたように見事に彼女の体格の華奢さを際立てている。
「ちょ、ひどくね? 急にだったからびっくりしただけだし」
余裕ぶって笑ってみせながらも内心は超パニクり状態。
女子に話し掛けられたのなんか何年ぶりだろとか、 ってゆーかこんなレベル高い子が結野以外にもいたのかよとか、やべえ俺この子の名前知らないじゃんとか。
そんな俺の焦燥もつゆ知らず、「ごめんごめん」と彼女はスマホを片手に微笑んで。
「でね。良かったら、なんだけど。メアド交換しよ?」
……メ、メアド、だと……?
「え、あ、あーうん分かった! 了解!」
全く思いも寄らなかった提案に一瞬フリーズしてしまった。
いやちょっと待てスマホどこ行った!?
全然使わないから確か鞄の奥に……
……あ、あった!
「赤外線でいいよね?」
せ き が い せ ん ?
ナンデスカソレハ。
「……赤外線……?」
「あ、もしかして日永くんケータイ初心者?」
いや、小六から持ってます。
妹くらいしかメールする相手いないしネットとメールと電話以外使ったことないけど。
「ま、まあ」
「じゃあちょっと貸してくれる? だいじょぶ、変なとこ見ないから」
彼女はにっこり笑って俺のスマホを受け取ると、手慣れた様子で操作し始めた。
「……うん、とりあえずこれでおっけー。そしたらね?」
「あ、うん」
わざわざ立ち上がって隣まで来てくれ、画面を俺に見せて説明しながら無防備に顔を近づけてくる彼女。
栗色の髪からふわりとフローラルな香りが立ち上って、思わずどぎまぎしてしまった。
「はい、送ったよー」
「お、ありがと」
画面に表示された名前は―――『姫宮夕紀(ひめみや ゆき)』。
可愛い子は名前まで可愛いんだな、と思った。
性格も朗らかで優しいし。
同年代の人間……特に女子と会話することには苦手意識があった俺だけど、自分の中で少し認識を変えることができたかもしれない。
……これが家族以外の初アドレスだというのは情けないので言わないでおこう。うん。
47
:
ピーチ
:2012/09/27(木) 19:56:57 HOST:i121-118-221-80.s11.a046.ap.plala.or.jp
つっきー>>
ヒナさーん!!
うん頑張って!応援してるから!!
あ、何か夕紀ちゃんかわいー←
クラスに馴染めて良かったね☆
ナンデスカソレハw うけたww
48
:
心愛
:2012/09/28(金) 18:58:07 HOST:proxy10069.docomo.ne.jp
『王子』
『っきゃあああああ!』
突然、語尾に大量のハートマークがくっついていそうな黄色い女の子の悲鳴が廊下に響き渡った。
なんだなんだ、と教室にいる奴らが出口の方を見る。
俺と、自分の席に戻った姫宮も例に漏れず、ぽかんと口を開けて首をドアに向けた。
きゃいきゃい騒いでいる大量の女子の後ろ頭が窓から覗いていて、
「ごめんね……。もうお別れの時間みたい」
飛び出てすらりと背が高い人物が困ったような口振りで言った。
「そんな……! 柚木園(ゆきぞの)君と別れるなんて耐えられないよ……!」
「王子と離れるのなんて嫌っ」
「ああ、そんなに悲しそうな顔をしないで……。お願い、笑顔を見せてくれないかな。君たちの微笑みが、何よりも私の心を癒やすんだから」
…………えええええ。
聞こえてくる歯の浮いた台詞に愕然とする。
「柚木園くん……!」
「ゆっきー……!」
「そう。すっごく可愛い」
あ、あれでメロメロになれる女子の感性が分からん……。
「……また会おうね、私のお姫様方」
『きゃ―――――!』
「王子ー!」「抱いてー!」などと飛び交う声をバックに、悠々とそいつは教室に入ってきた。
……イケメンだ。
もの凄いイケメンだ。
頭部があまりにも小さい所為で実現してしまった八頭身の黄金バランス。
切れ長で綺麗な二重の瞳、蔭(かげ)るほどの長い睫に端正な鼻筋。
シャープさと甘さが一体となって、見る者をさらに惹き込む涼しげな面差し。
女が好きそうな優男、と言ったらそれまでだが、少し垂れ目がかった目元は何故か、柔和というよりも危険とも思える色気が強い。
高校生よりも、モデルやホストなどの肩書きの方がずっと似合いそうだった。
『…………チッ』
モテない男子諸君―――クラスの男共が下を向いたまま一斉に舌打ちする。
言うまでもなく俺もだ。
くそ、漫画みたいなモテ方しやがってイケメンめ……!
「おはよう」
「おはよー」
「え? あ、お、おはよ」
と思いきや爽やかな笑顔で姫宮、そして俺にまで挨拶してくるイケメン……えーと、ユキゾノ。
……ええと、意外と良い奴……なのかもしれない。
ユキゾノとやらは、入ってすぐの俺の斜め後ろ、姫宮の隣の席に鞄を下ろした。
……おお、美形二人が並ぶと絵になるな。
「君は、……初めまして、だよね」
中性的で耳に心地良い声を弾ませ、艶々(つやつや)した白い歯を健康的に輝かせる。
「あー、うん。俺日永」
「私は柚木園。柚の木の園って書くんだ。よろしくね、日永君」
柚木園が少々気障(キザ)なウインクを決めると、それに合わせて背景に水玉と星が散る。
な、なんていうか……。
「それにしてもすごいモテっぷりだよねぇ、柚木園くん。同中の子からは“王子”って呼ばれてるんだって」
姫宮の言葉に納得した。
恐ろしいくらいしっくりくるあだ名だ、“王子”。
そういやさっきもそう呼ばれてたような気もするし。
「そう言う姫宮さんだって、“姫”って呼ばれてたじゃない。昨日聞いたよ?」
「聞いてたの!? ううう……い、嫌だって言ってるのに……! 忘れてっ」
「姫って……まんますぎんだろ」
「すぎないよ! 全然似合わないのに! ……は、恥ずかしいじゃん、こんな名字だからって……うー」
涙目で可愛くぷんすかしている、若干天然入ってるような気もするけどピュアな正統派美少女“姫”と、
「ううん、とっても似合ってるよ。名字とか関係なくたって、姫宮さんはお姫様みたいに可愛いもの」
「うわああああん全っ然可愛くなんかないいいいい!」
普通の男が言ったら100%の確率で「なにこいつきもっ」となる台詞も難なく使いこなすイケメン“王子”。
結野のことも含め、やたらと目立つ二人に囲まれた俺の高校生活は、どうも一筋縄ではいかない模様です……。
49
:
心愛
:2012/09/28(金) 19:05:13 HOST:proxy10070.docomo.ne.jp
>>ピーチ
うけたかww
一気に新キャラ二人投入です!
姫こと夕紀は、「ソラの波紋」のユリアスとはまた違った良い子だよ!
ぴゅあっぴゅあの天然って書きたかった…←
王子こと柚木園くんは、微妙にシュオンの面影があるものの節操ないハーレム王子様。
名前出してないのはわざとなんです←
うん、ここあがこんな完璧人間を二人も書くわけがないだろうって感じだよね!
大丈夫、二人ともとてもアレな裏設定ありますよー。
…ここまで書いたら分かっちゃうような気もするなぁ(・∀・)
真相は、美羽とヒナが普通に話せるようになるまでお待ちを……いつだよ!
50
:
ピーチ
:2012/09/28(金) 20:12:53 HOST:nptka405.pcsitebrowser.ne.jp
ここにゃん〉〉
うけw
ヒナさん大変だ!まさかちょー目立つ人に囲まれるとは!
天然少女wあたしもはまってるww
51
:
心愛
:2012/09/28(金) 23:21:44 HOST:proxyag110.docomo.ne.jp
>>ピーチ
ヒナはヒースや空牙と同じようなポジションだからね…。
天然といえばシェーラか、ときにはクロードか。
この二人とまた違うようにしなくては←
次から美羽登場します!
朝長いな!
52
:
心愛
:2012/09/28(金) 23:23:30 HOST:proxyag109.docomo.ne.jp
『結野美羽』
「……………」
授業開始十分前になった頃、結野が登校してきた。
賑やかだった教室が自然と静まり返り、皆一様に困惑の視線を彼女に投げる。
……眼帯だ。
左目だけを隠すように、非常にわざとらしく付けられた眼帯。
昨日と同じ赤のカラーコンタクトが入った右の瞳、それからデザインは違うのかもしれないが、似たようなフリフリふわふわのゴスロリ姿。
「………………」
むっつりと不機嫌そうに押し黙り、俺の隣の席に着くとすぐに、表紙が真っ黒いノートを机の上に出す結野(with眼帯)。
そのままページを捲り、シャーペンを取り出して何やら書き始めた。
なんだ勉強か、とほっとしたのも束の間。
『(……………違う!)』
クラスに緊張が走る。
結野はノートを見つめ、何か小さく呟くように唇を動かしながら、サラサラと何事かを書き付けていく。
でもその独特な音、手の動きは、文字を書くときのものとはまた違う。絶対違う。
そう、たとえば―――……
二日目にして奇跡の以心伝心、もの言いたげに見てくるクラスのみんなに「わかってる」と小さく頷き返し、
あくまでさり気なく、ちらっと真横に視線を走らせると、
(……魔法陣だぁ―――――!?)
フリーハンドなのに綺麗な大きな円の中に、三日月やら星やらとごちゃごちゃ書かれている複雑な図形。
結野はそれに、難しい顔をしながら小さな円をさらに書き加えていく。
……だ、駄目だこいつ完全に終わってる……!
「日永くん、ちょっといい? 柚木園くんも」
真剣な様子の姫宮に呼ばれた柚木園と俺は顔を見合わせ、彼女と共にそっと席を立って教室の隅っこに移動した。
『どうだったんだよ!』と必死に念を送ってくる皆さんには、とりあえず死んだ魚のような目を向けてお答えしておいた。
これでだいたい通じるだろう。
「……なに」
「二人とも、結野さんのこと……どう思う?」
思わずびくっとする俺とは対照的に、柚木園は無駄に整った顔に爽やかな微笑みを浮かべて、テンション高くのたまう。
「可愛いよね! あんな可愛くて綺麗な子、そうそういないよ! 肌が綺麗で小さくてまるでお人形みたいで、でもガード固そうななのがまたそそるよねぇ。電波入っちゃってるのがちょっとだけ残念だけど、それにさえ目を瞑れば」
「ちょっとどころじゃなくね……?」
「なに言ってるの日永くん。可愛いは正義。可愛いは絶対。つまり女の子はどんなことをしても何をしでかしても許されるんだよ?」
「その理論破綻しまくりだからな?」
さすが王子、結野のアレすぎる言動も許容範囲内らしい。
53
:
ピーチ
:2012/09/28(金) 23:38:17 HOST:i121-118-221-80.s11.a046.ap.plala.or.jp
ここにゃん>>
うん、確かにシェーラちゃんは天然っぽいww
……クロード殿って天然?
ヒナさあぁぁぁぁん!? 初恋の人でしょー!?
死んだ魚の目送っちゃだめ―――!!
あ、良かったらあたしが今二つ同時進行で書いてる小説も読んでみてくれないかな?←いきなり何だ
54
:
心愛
:2012/09/29(土) 17:25:38 HOST:proxy10034.docomo.ne.jp
>>ピーチ
クロードは生真面目すぎるって意味で天然なんじゃないかなw
変なとこで抜けてるしね!
ここあも奇才・ピーチの作品にはとても興味はあるのだけど、今のところは難しいかな…。
何かと忙しくて、自分の小説もろくに書く時間なくて。
今も学校の帰りなんだけど、歩きながら打ってるんです←
いつもピーチには一方的にお世話になってるのにほんとにごめんね<(_ _)>
55
:
心愛
:2012/09/29(土) 17:27:56 HOST:proxy10067.docomo.ne.jp
「ちょ、ちょっと二人とも、声大きいって! 聞こえちゃうよ」
姫宮は「しーっ」と唇に人差し指を当てて(可愛い)、声を潜めた。
俺らに気を遣ったらしいクラスメイトたちは、遅ればせながらもやや音量を上げた雑談を再開する。
……うう、良いクラスだ……。
「ひ、日永くん、急に目ぇ潤ませてどうしたの? ……何でもない? ならいいんだけど」
気を取り直すようにこほんっと咳払いしたあと、姫宮は結野の後ろ姿を見やり、
「結野さんって……ええと、変わってるよね、色々」
「言うまでもないだろそんなの」
「そう……だけど、そうじゃなくて」
姫宮は困ったように首を傾げる。
「多分、このままだったら……きっと結野さん、ひとりぼっちになっちゃうと思うんだ」
「……………」
俺は黙り込む。
そりゃそうだ。
誰が好きで、昔の“ミウ”ならともかくあんな生意気そうな邪気眼電波女と友達になりたいと思うだろう。
いくらお人好しが多そうなクラスだとはいえ、たとえ同性でも、話しかけるだけで相当な勇気がいるはずだ。
このままいったら、間違いなく結野は孤立する。
でもそれは、自分が好きでやっていることなんだろうから、俺らが気にかける必要なんてない。
ない、はずなんだけど。
「そう……だよな」
俺は、その寂しさを知っている。
楽しいはずの空間にいても、楽しいと感じられない、誰かと楽しさを共有できないという―――寂しさ。
“一人”が好きな奴はいても、
―――本当に“独(ひと)り”が好きな奴なんて、そうそういないはずなんだ。
「ああいう格好して変な喋り方してるのも……まさか嫌われたくてやってるわけじゃないんだろうし。あそこまでやるからには、なにか理由があるのかも」
柚木園も頷く。
「別に一人が好き、ってわけじゃないって可能性もあるよね。目立ちたくて、みんなに自分を見てほしいって思ってる……とか」
確かに、あの日の“ミウ”だって、良くも悪くも変わっていたと思う。
不思議で神秘的なところがあって、……あまり、誰とでも仲良くなれるようなタイプには見えなかった。
でも、一人が好きそうだったかといえば……多分だけど、違うような気がする。
“ミウ”は、俺と話しているとき、楽しそうに笑っていた。
めったにいない、自分と話が合う人を見つけて嬉しくてたまらない、とでも言うように。
「結野さんには結野さんなりの考えがあるんだろうし、それを想像したり、理解したりするのは難しいけど……」
「私たちにもできることはある、ってことだよね」
姫宮の言葉を、柚木園が引き継いでにっこり笑う。
「困ってる女の子を放っておくなんてできるわけないよ」
「良かった! だからね、柚木園くんと、それから結野さんの隣の日永くんと一緒に、結野さんをちょっとずつサポートできたらなぁって。嫌がられちゃったらそれまでだけどね」
頼もしく微笑む柚木園と、それから姫宮。
「姫宮、柚木園……お前ら、ほんっとに良い奴だな……!」
過去の出来事を引きずる俺と違って、二人は何の関係もないにも関わらず、ただのクラスメイトにすぎない結野を心から心配しているらしい。
なんだか……胸にじーんと来てしまう。
「え、えっ? そんなことないよっ」
「皆さんおはようございます、テストの準備は万全ですか?」
ようやくチャイムが鳴り、担任が入ってくる。
赤くなって慌てる姫宮に了承の旨を伝え、俺は自分の席へと戻った。
56
:
ピーチ
:2012/09/29(土) 17:46:16 HOST:i121-118-221-80.s11.a046.ap.plala.or.jp
ここにゃん>>
ゆきちゃん達優しいね!!美羽ちゃんのために頑張れるって!
ヒナさん……中学のこと思い出したのかな
57
:
心愛
:2012/09/29(土) 18:19:47 HOST:proxy10046.docomo.ne.jp
>>ピーチ
おお、そこに気づくとはさすがピーチ!
ヒナの中学時代のことは、もうちょいしたら本人の口から話させるよ(o^_^o)
ここあの実体験も入ってるんだけどねー。
みんなが笑ってるときに、合わせて笑っててもほんとは楽しいって思えないのは寂しいものだよ(^^;;
58
:
ピーチ
:2012/09/29(土) 20:20:59 HOST:i121-118-221-80.s11.a046.ap.plala.or.jp
ここにゃん>>
まさかのここにゃん実体験!!
いや、あたしなんか興味さえなければ見向きもしないよ!←
59
:
心愛
:2012/09/30(日) 12:47:35 HOST:proxyag109.docomo.ne.jp
次の日。
「本当に大丈夫なのかよ……?」
「私がやっても良いんだけど……」
「だいじょぶだいじょぶ! 任せて!」
初めての授業日の昼休み。
一緒に食べようとダメ元で声を掛けてみるつもりだったのだが、授業が終わるとすぐに結野は教室を出て行ってしまった。
仕方なく昼飯を食べながら作戦会議をし、三人で待つことしばらく。やっと結野が戻ってきたところで姫宮が立ち上がったというわけだ。
「そんなに上手くいくのかなぁ……」
「大丈夫だって! まず結野さんと話してみないことにはなにも分かんないもん。上手く話題選ぶし!」
意気込んで結野のもとに向かっていく姫宮を、柚木園と二人ではらはらしながら見守る。
「結野さん!」
姫宮の声に、ケータイを弄っていた結野が驚いたようにパッと顔を上げる。
ボリューム満点のサイドの五段フリル、さらに細かな薔薇模様のレースを贅沢にあしらったシャーリングワンピース。
首もとには光沢のあるグログランリボン、ベロアとバックサテンの異素材を組み合わせて美しい黒を表現した―――早い話がゴスロリ。
「……ぼくに何か?」
赤い瞳で疑わしげに、屈託なくにこにこしている姫宮を見やる。
一体何を話すのか。
俺らだけでなくクラス中が固唾を呑んで凝視しているのに気づいているのかいないのか、姫宮はマイペースに口を開いた。
「―――結野さんって、ほんとにバンパイアなの?」
『(このド天然がぁ―――!?)』
耐えきれなくなった奴らがガタンッガタンッと席を立つ音が立て続けに響く。
なんで!? なんでよりによってその質問!?
姫宮は空気読める子じゃなかったの!?
「……バンパイアではない」
……って……あれ?
俺は内心首を捻った。
だって確か、結野本人がそう言ってたよな?
もう自分的流行の設定が変わったのか?
椅子に座った状態の結野は、鋭い目つきで姫宮を見上げる。
ふわり、と梯子レースのカチューシャに付いたリボンと、一筋の髪が静かに揺れ、
「―――バンパイアではない。ぼくは暗闇と純血を愛する―――ヴァンパイアだ」
『(そこなの!?)』
本人にとってはとても重要なことらしかった。
「……へ? 暗闇? 純潔?」
「だっ……だから『バ』じゃなくて『ヴァ』! 『う』に点々に小さい『あ』だと言っている! あと漢字で表記するときは同じ『きゅうけつき』でも『き』は『鬼』ではなく『姫』だからな! 間違えるんじゃないっ」
ものすごいこだわりようだった。
勢い良く机を叩いた拍子に「いっ……」と手のひらを押さえて涙目になったと同時、エキサイトした結野は激しく咳き込み、ぜえはあと苦しそうに呼吸する。
体力なさすぎだろうこいつ。
「え、大丈夫っ?」
「けほっけほっけっ………ふ、ふん……。ぼくは《純潔の薔薇(Crimson)》が誇る一級魔女、ミウ=黎(ローデシア)=リルフィーユだぞ? これしきのことで死になどしない……っけほ」
偉大な魔女様がちょっと大声出しただけで死んだらびっくりだよね。
「へー、すごいねー! じゃあ、ゆいのんって呼んでいい?」
見事なまでに文脈繋がってねえ。
「……ふん、良いだろう」
『(良いんだ!?)』
つーんとそっぽを向いてクールぶった横顔を晒す結野。
でも、漆黒の髪に良く映える、白く透き通った肌にはほんのりと赤みが差していた。
姫宮がこっちを向いて、「やったよー!」とでも言いたげににっこり笑ってピースサインをしてくる。
「ゆ、結野さんがデレた……」
「あれが天然の実力か……」
恐るべし、姫宮夕紀。
予想していた反応と違ったらしく、姫宮は四方八方からの戦慄の視線の中で「?」と不思議そうに瞬きしていた。
60
:
ピーチ
:2012/09/30(日) 17:57:10 HOST:i121-118-222-157.s11.a046.ap.plala.or.jp
ここにゃん>>
まさかの天然キャラ!!
……凄いこだわりようだね
61
:
心愛
:2012/10/02(火) 14:31:36 HOST:proxy10033.docomo.ne.jp
>>ピーチ
夕紀よりも美羽の方が書きやすいここあです←
美羽のこだわり方は色々考えたけどね←
62
:
心愛
:2012/10/02(火) 14:33:56 HOST:proxy10034.docomo.ne.jp
「ゆいのん!」
六限目の教室、学年集会へ向かうクラスメイトたちを避けるようにさっさと歩き出した結野を、姫宮が呼び止めた。
「待って、一緒に行こ! ねっ」
振り向いた彼女に、すかさず俺の隣に立った柚木園が言う。
「嫌じゃなかったら、私たちも一緒でいいかな。私は柚木園で、こっちは日永くん。よろしくね」
その一発で世界中すべての女性を昇天させてしまいそうな、甘く蕩ける微笑みを湛えた柚木園を、吟味するように冷たい瞳で見つめ、
結野はそれから、姫宮、俺とゆっくりと視線を移してぷいっと横を向いた。
「……やめておいた方が良い」
小さく呟いたその言葉に刺々しさはなく。
結野は俺たちに向き直り、嘲(あざけ)るように唇の端を上げる。
「ふん、ぼくのことを案じているのならば余計なお世話だ。……君たちこそ、いつぼくの魔力が暴走するか分からないからな……人間の身体で、ぼくに必要以上に近づかない方が身の為だぞ」
痛々しい台詞は格好つけるためじゃなくて、ただ俺たちを突き放す、その純粋な目的のためだけに発せられたように思えて。
何故だろう―――結野がひどく、弱々しく、寂しそうに見えた。
「えー、そんなこと言わないで―――」
「じゃあ仕方ないな。姫宮、柚木園、行こう」
「え? 日永くん?」
きょとんとする姫宮を促し、歩き出す。
「……そうだね。残念だけどまたの機会ってことで」
「え、え? 待ってよ二人ともっ」
姫宮が慌てて追い掛けてくる。
それでいい、とでも言うように結野は彼女を一瞥し、そのままひとり教室を出て行った。
「……なんで?」
ぷくっと頬を膨らませる姫宮に、柚木園が苦笑しながら諫めるように。
「無理に誘うのは良くないでしょう?」
「だって、ゆいのん嫌だとは言ってなかったよ!」
その通りだ。
結野は、俺たちを完全には拒絶してはいなかった。
……でも、結野が何を考えていたのか、肝心なことが俺にはさっぱり分からない。
「でも、俺らが嫌、ってよりは……」
「結野さんは優しいんだよ」
そっと紡がれた柚木園の言葉に、目を見開く俺と姫宮、二人の視線が向く。
「……どこが?」
「うーん……私は色んな女の子を見てるから、こういうのは良く分かっちゃうんだよね……」
柚木園は大人びた微笑を浮かべる。
「まだ分からないことは多いけど、少なくともこれは断言できるよ。結野さんは、本当はすっごく優しくて良い子だって」
「どういうことだよ」
「日永くん、姫宮さん。結野さんの後を付いて行ってみよう。それできっと、分かるはずだから」
63
:
ピーチ
:2012/10/02(火) 17:20:51 HOST:i121-118-222-157.s11.a046.ap.plala.or.jp
ここにゃん>>
ゆきぞの君根拠ありあり!?
でもまぁ、優しいんだろうね、なんせここにゃんキャラだからww
64
:
心愛
:2012/10/02(火) 18:17:21 HOST:proxyag101.docomo.ne.jp
>>ピーチ
なんせここあキャラですからw
美羽は優しさが分かりにくいんだけどね(^_^;)
オスヴァルト系?
65
:
ピーチ
:2012/10/02(火) 18:26:01 HOST:i121-118-222-157.s11.a046.ap.plala.or.jp
ここにゃん>>
やさしさをおもてにださない←読みにくいww
あ、確かにネw
オスヴァルト系かww
66
:
心愛
:2012/10/02(火) 19:24:28 HOST:proxy10049.docomo.ne.jp
柚木園の憂いを含んだ声音の意味を、俺たちはすぐに目の当たりにすることになる。
「……ちょっと見てあれ」
「うっわぁ」
「頭おかしいんじゃないの」
侮蔑、嫌悪、嘲笑、
あちこちで生まれる囁きや咎めるような視線もどこ吹く風と、結野は背筋を伸ばし、長い髪を天上の羽衣のようにきらきらと靡かせて歩いていく。
一種の威厳すら感じさせる、堂々たるその歩み。
小さな後ろ姿は人混みに紛れ込むことなく、ぽつんと浮いていた。
「見た? 今の」
「なんだっけ、あれ……あ、そうだ、ゴスロリっしょ? やばくない?」
「ちらっと見えたけど目ぇ赤かったよ」
「カラコン? 相当キてんじゃんそれ」
「南高にもあーいうのいんだぁ、なんかやだー」
「あの子うちらと同じ新入生でしょ? 入学式からあのカッコなんだってさ、式には出なかったらしいけど」
「出させてもらえなかったんじゃないのー?」
くすくすという笑い声と共に交わされる心無い言葉の響きが、温度が、熱を伴って疼き出した俺の傷痕を深く抉っていく。
喉が急速に渇き、胸の奥深くに不快感が込み上げ、ざわめきのひとつひとつが明瞭に聞こえる―――あの気が遠くなるような感覚が甦り、
「……って日永くん、大丈夫っ?」
「………、」
俺の異変に気づいた姫宮に顔を覗き込まれ、時間をかけてこくりと頷いた。
ゆっくりと深呼吸をして、新鮮な空気を肺に取り入れる。
俺はもう、あのときの俺じゃない。
こうやって心配してくれる奴だってできた。
大丈夫。
速まっていた鼓動が落ち着き、ふうっと息を吐き出した。
「も、大丈夫だから。……にしても、ひどいな」
ある程度予想はしていたけど、実際に体感するのとは全然違う。
結野がどんな目で見られるのか―――
これでもまだ生ぬるい方なんだろうけど。
「うん……」
姫宮も痛ましげに、胡桃(くるみ)色の睫(まつげ)を震わせた。
―――もし今、俺たちが結野と一緒にいたならば……
「ね、優しいでしょ?」
柚木園が柳眉を落とし、淡く笑む。
なんで、赤の他人である俺たちの世間体まで気遣えるような奴が、つらい思いをしてまで、あの格好や態度を貫くのか。
それが、俺にはどうしても分からなかった。
67
:
ピーチ
:2012/10/04(木) 00:36:41 HOST:i121-118-222-157.s11.a046.ap.plala.or.jp
ここにゃん>>
サイテーだーっ!! 同級生サイテーだーっ!!
その点、ヒナさん達は優しい!!←
68
:
心愛
:2012/10/04(木) 17:19:56 HOST:proxyag118.docomo.ne.jp
>>ピーチ
同級生の反応の方が適切な気がするけどね!
ヒナたちは優しすぎるような←
69
:
心愛
:2012/10/04(木) 17:22:44 HOST:proxyag117.docomo.ne.jp
差し込む光、舞い散る桜花。
結野についてのあれこれで頭を悩ませている俺でも、ついなんとなく柔らかな気分になってしまう―――そんな春の美しい光景。
これからの楽しい高校生活を予感させるような、穏やかで心地良い風が吹き抜け、頬を撫で―――
『―――高校は遊ぶ場所ではありません!』
なんでやねん。
スピーカーでがなりたてる学年主任(三十代女性、ちなみに結構美人)の声に心の中で突っ込んだ。
『皆さんは県最難関の本校の入学試験を突破してきた人たちです。いずれは社会、そして日本を引っ張っていくリーダー的存在となることは必須でしょう』
はあ。
『そんな皆さんは南高在学中はもちろん、社会人になれば遊ぶ暇は確実にありませんので―――大学に行ってから遊んでください。部活動との両立も大いに結構ですが、くれぐれも勉学を怠ることのないようにお願いします』
「……すっごいスピーチだねぇ」
「青春に対する夢も希望も根こそぎむしり取られていくな」
隣で苦笑いする姫宮とこそこそ会話を交わす。
……こういうときに話せる相手がいるなんて、ちょっと感動ものだ。
『―――よって、学力は言うまでもなく互いに切磋琢磨することで精神をも鍛え―――』
「……結野さんっ?」
突然悲鳴じみた柚木園の声が聞こえ、ハッとして後ろを振り返る。
顔を青ざめさせた結野が地面にしゃがみ込んでいた。
「……うるさい……」
呻きながら立ち上がろうとするが、すぐにふら、と華奢な身体の軸がぶれる。
「別に、立ちくらみくらい誰だってするだろう……大げさに騒ぐな人間。これ以上ぼくに構うんじゃない」
「顔色悪いよ、保健室まで運んで行こうかっ」
「ば、な、は、はこっ……!? ふっふざけるな、死んでも断るっ」
ごく真面目な表情でお姫様だっこの体勢に入っている柚木園に、赤面しながら小声で噛みついているところを見ると、特に深い意味もなく、純粋に目眩がしただけだったようだ。
大事じゃなくて良かったけど。
「……ふ、ふん……その光が強いほど、影もまた濃くなることを忘れるな……っ」
柚木園を振り切って苦し紛れの捨て台詞を残し、結野は危なっかしい足取りで列から抜け出ていく。
保健室に向かうのだろう。
声を掛けずとも、常識のある同級生たちは奇異な格好をした結野から少しでも遠ざかるように、自然と道を開けた。
「大丈夫かなぁ、ゆいのん……。身体弱そうだもんね」
「……うん……」
ドレスの背中を編み上げるリボンが、風に煽られて寂しげに揺れている。
そのちっぽけな姿が見えなくなるまで、俺は先生の話にも構わずに彼女を視線で追い続けた。
70
:
ピーチ
:2012/10/05(金) 07:00:29 HOST:i121-118-222-157.s11.a046.ap.plala.or.jp
ここにゃん>>
え、ゆきぞの君が何か凄い←
うん、優しすぎるねヒナさん達!
71
:
心愛
:2012/10/05(金) 17:52:25 HOST:proxy10066.docomo.ne.jp
>>ピーチ
柚木園くんは王子だからね!
シュオンと違って根っからの(・∀・)
次から美羽パート佳境に入ります←
ヒナと美羽をくっつけるプロジェクト、ようやく始動w
72
:
心愛
:2012/10/05(金) 17:58:04 HOST:proxy10065.docomo.ne.jp
『かくして、少年と少女は約束を交わす』
「―――爆発しろ」
「……第一声がそれってどうよ……」
保健室のベッドで、上半身を起こした結野は赤い瞳で俺をキッと睨みつけ、早速暴言を吐いた。
「黙れリア充。ぼくの視界に入ってくるな。キラキラした青春を謳歌してる奴の顔を見るとわけもなく吐き気がしてくる」
「酷い言われようだな俺!?」
この口が悪くてちんまいゴスロリが初恋の女の子だという事実に涙が出た。
「……って、え?」
あれ……今こいつ、俺になんて言った?
「リア充? 俺が?」
「は? どこからどう見てもリアルが充実してしまっている類の忌々しい人間だろう君は。まず見た目からしてそうだし、あろうことか女子とチャラチャラ親しげに喋ってるし」
死ぬほど冷たい目で見てくる結野。
……そっか、良かった。俺、ちゃんとリア充に見えてるのか……。
他人に無関心なように思えた結野が俺のことを見ていてくれて、そう評価したってことは、
場違いな感想だけど……正直ちょっと嬉しかったりする。
ふと結野は、何かに気づいたらしくハッとしたような顔をして「……あ」と呟きを漏らし。
それからいそいそと姿勢を整え、俺を見下すような微笑を浮かべ、
「それで、ただの人間風情が偉大なる吸血姫(ヴァンパイア)であるこのぼくに何の用かな?」
「いやそういうのは良いから」
中二スイッチが入ってしまった様子の結野に嘆息する。
「……これプリント。先生に持ってくように頼まれて」
実を言えばそれは完全に嘘で、結野の机の上に置いてあったプリントを、放課後になってから勝手に持ってきてしまっただけなのだが。
「ふん、御苦労だっ……」
結野はそこで息を呑み、カッと目を見開く。
「待て……。この空間には、魔力がない者は入れないよう強力な結界が張ってあるはずだが……?」
「保健医のおばちゃんも魔法少女なのかよ」
「……………」
結野はぴたっと硬直し、それからダラダラと脂汗を流した。
「ま、魔力を持っているのは魔族か悪魔だから魔法少女ではないぞっ」
「そっか。じゃああのおばちゃんは魔族か悪魔だったんだな」
「…………ふ、ふん。あの者については、《純血の薔薇(Crimson)》の一員として良く監視する必要があるようだな。……後々」
さいですか。
ちなみに保健医の先生は「まぁ、まぁまぁまぁ、そうなの、あの子のお見舞いに! うふふ、若気の至りっていう言葉もあるけど、万が一のことがあっても先生は何も責任は持てないからー、良く考えて行動するようにね?」とにっこにっこして隣の準備室に入っていってしまった。
何やら妙な誤解をされた予感がひしひしとします。
……と、とにかく、そういうわけで今この部屋には結野と俺の二人きりである。
苦しそうにごまかす結野を見ていたら、緊張していた―――二つの意味で―――気持ちが少し和らいだ。
俺はここにわざわざ来た本来の、とある『目的』の前に、話題づくりと言うわけでもないけど、笑って彼女に問い掛けてみる。
何事もまずはコミュニケーションだ、きっと。
「―――で、それってなんのコスプレ?」
「殺す」
ひいいっ!?
結野の全身から禍々しい殺気が噴き出し、ルビーみたいな大粒の双眸にはあからさまな敵意の炎が燃え上がった。
「ちょ、な、なに急にキレちゃってんだよっ?」
「これはコスプレなどという低俗なものではない! ぼくの中に潜在する魔力を最大限に引き出す為の闇の装束だ! ふざけたことを抜かすんじゃない愚か者がッ!」
「あーはいはい闇のしょーぞくねしょーぞく! 分かったから落ち着け!」
「それでも分からないと言うのなら貴様を闇に葬り去る」とでも言わんばかりに黒髪を揺らめかせ、羅刹、いや般若の表情をした結野を必死になだめる。
……コミュニケーションは失敗したようだった。
73
:
ピーチ
:2012/10/05(金) 21:47:51 HOST:i121-118-222-157.s11.a046.ap.plala.or.jp
ここにゃん>>
……シュオン様は外見だけの王子様か
金髪碧眼って何気に王子っぽいぞ!?←
お、美羽ちゃんパート突入ー!!
74
:
心愛
:2012/10/06(土) 15:26:11 HOST:proxy10022.docomo.ne.jp
>>ピーチ
シュオンは外見と猫かぶってるときだけ王子キャラだよね←
やっと『紫の歌』に近いノリ(悪い意味で)が書けるようになったよ!
まあちょいシリアスに長くいきますけどね(o^_^o)
このシーンが書きたくて始めたような話だしw
75
:
心愛
:2012/10/06(土) 15:27:12 HOST:proxy10021.docomo.ne.jp
俺の言葉を聞いて、結野はきょとんとしてぱちぱちと瞬(まばた)いた。
「……本当に分かったのか?」
「分かったって」
「本当か?」
「ほんとほんと」
「ほん……って待て! 何故さぞ当たり前のように椅子を用意して座ろうとしているんだ君はっ!?」
あ、ばれた。
「いいじゃん、ちょっと話くらい付き合ってくれても」
「良いわけあるか! それならぼくはもう帰るぞ、そんなに座りたいなら一人で好きなだけそこに座っていろっ」
「まあそう言わずに」
袖口のフリルを揺らしながら腕をぱたぱたさせて怒る様子は、見た目相応に……えっと、あれだ、……結構可愛い。うん。
「用はもう済んだのだろう! 君ならぼくとじゃなくても話なんかいくらでもできるじゃないか、さっさと出て行け!」
「で、結野に聞きたいことがあるんだけどさ」
「……っ何なんだ君は本当に!」
小さな顔を火照らせて怒鳴る彼女は音叉のようにぷるぷる震えていて、しかもちょっと涙目になっている。
「ぅ、ぅぅ……っ! 何の力も持たない下級種族が、ぼくを愚弄する気か! このことが《純血の薔薇》に知れたらただでは済まないぞっ!」
「実はずっと気になってたんだけど」
「人の話を聞けっ!」
結野は体力を使い切ってしまったらしく、ぜえぜえと肩で息をした。
「……ああもう! こうなったらとっととその聞きたいこととやらを話せ! そしてすぐに出てけ!」
「分かった分かった」
無事に本人から了承を得たところで、俺はやっと本題を切り出す。
「―――結野って、小さいときはどんな子供だった?」
「……………は?」
呆然として固まること数秒、結野はひくっと口元を引き攣らせた。
俺からできるだけ距離を取るようにずざざっとベッドの上で後ずさると壁にぴったり背をつけ、
「……見た目で騙されてしまったが……君はあれか、ロで始まってンで終わる今世紀最大の謎生物だったのか……」
「違ぇよ!」
軽蔑と怯えが絶妙に入り混じった何とも言えない微妙な顔をする結野。
「いや……君がどんな特殊な性癖を持っていようとぼくには何の関係もないのだが……しかし……」
「だから誤解だって! 邪推すんなよ、純粋な意味! 普通の疑問!」
「保健室で休んでいる、隣の席とはいえほぼ初対面のクラスメイトの女子のところまで訪ねて来て無理に居座り、『ずっと気になってた』などと真剣な様子で幼少時代のことを聞いてくる男というのはどう鑑みても邪推以外しようがないと思うのだが」
「確かに!」
言われてみれば完璧に変態の行動だった!
「でっでも違うからマジで! ほら、結野は昔からこんなんだったのかなーって、その、どうしても気になって」
「こんなんとはなんだこんなんとは!」
意外と単純らしい結野は明らかにおかしい箇所でなく、ありがたいことに全然違うところに食いついてくれた。
「……ふん……事情は良く分からないが、そこまで言うのなら特別に教えてやろう。そしてぼくの偉大さに畏れ慄くが良い」
結野は深呼吸して落ち着きを取り戻すと、吸血姫ver.でゆったりと喋り出す。
思わず、ごくんと唾を呑み込んだ。
―――かつての“ミウ”がどのようにして、そしてなぜ、今の結野になったのか―――
「そう、ぼくは幼い頃から、この膨大な魔力を悪用しようとする数々の組織に追われていた。……時には魔神を、時には大悪魔を。同じくぼくの力を狙う輩を自力で撃退しながら冥界を彷徨い、その果てに辿り着いたのが《純血の薔薇》の本部だった。ぼくは命を守られたこの組織に報いることを決め、結果、空位であった赤の十四番の位を賜り」
「真面目にやれ!」
「ぼくは大真面目だ!」
「余計悪いわ!」
76
:
ピーチ
:2012/10/06(土) 20:02:08 HOST:i121-118-222-157.s11.a046.ap.plala.or.jp
ここにゃん>>
あ、そーゆー意味ね…
悪い意味での近いノリか、楽しみだー!ww
77
:
心愛
:2012/10/07(日) 11:38:10 HOST:proxyag051.docomo.ne.jp
俺は叫んでから、はーっ、と深いため息をついた。
「……な、なんだ」
「……ごめん、ほんと悪いんだけど……本気で答えてくれないかな」
おそらくかなり真剣な顔つきになっているだろう俺を見て、結野がびくっと身を震わせて黙り込む。
「俺は、……本当の結野のことを、もっと知りたいんだよ」
じっと乞うように、結野を見つめると、
「…………っ!?」
首から顔へと綺麗なグラデーションを経て、子供みたいに小さな顔が真っ赤に染まり上がった。
「ぅ、……き、君という奴は……っ」
「なんだよ」
「なんでもないっ」
結野は一通りあわあわしてから、何度かわざとらしい咳払いをして。
「……つ、つまり君は、人間としての仮の姿である“結野美羽”についての話が聞きたいと」
「そう! そうなんだよ、なんだ意外と話せんじゃん結野っ」
「かっ顔が近い!」
つい勢いで身を乗り出したら怒られてしまったので、椅子にきちんと座り直す。
「んん……そうだな……」
結野は悩むように眉根を寄せ、
「……小さい頃は、好奇心が旺盛だったと思う」
尖った顎に指を当て、天井を見上げた。
「例えば、夏休みの自由研究の為に一人でツチノコやカッパや雪男の捜索にと外へ繰り出した結果迷子になって家の者に叱られたり」
「うぉい」
「クリスマスにはサンタクロースを捕獲して闇オークションにでも売り飛ばそうと考えて大規模なトラップを部屋中に張り巡らせたのは良いものの、それに夜中プレゼントを持ってきた父が掛かってしまったり」
「アホの子じゃん! しかも動機が中途半端にブラックだな!」
「君が聞きたいと言ったんじゃないか!」
赤い顔の結野は口を『△』の形にして、ニーソックスに包まれた細い脚をぱたぱたさせた。
「恥ずかしいのを我慢して話してるのに……!」
「ご、ごめんなさい」
「ううう、あの頃のぼくは本当にどうかしているっ」
「今もどうかしてると思うけど」
「なにか言ったか!?」
「いやなにも?」
うー、と疑うように恨めしげにこちらを睨みながら、結野は再びしぶしぶと口を開く。
「あとは……空を眺めたり、風の音を聴いたりするのも、好きだったな」
……息を、詰めた。
言うや、俯いて懐かしそうに瞳を霞ませる結野の眼差しは―――
「引っ越す前は、良く家を抜け出して近所の公園に遊びに行った。そこで、一人考え事をしながら―――」
「―――理想の自分を、探してた?」
結野は弾かれたように顔を上げた。
「何故それをっ?」
「……んー、なんとなく?」
あははと笑ってとぼけてみせる。
やっぱり、結野は俺のことを覚えていない。
未練たらしく、過ぎ去ってしまったたった一日の出来事を引きずっているのは―――俺だけ。
それは当たり前のことなのに、
少し、……ほんの少しだけ、寂しいような、気がした。
「……結野」
警戒するように顔をしかめた結野が、ちらりと視線を投げて寄越す。
一瞬、言うかどうか迷った。
けれどそれを押しのけて口から出てきたのは、ここ数日間ずっと俺を蝕んできた、率直な疑問だった。
「結野はさ。なんのために、こんな格好してるんだよ」
なにかを話し出そうとした結野を遮るように、俺は容赦なく言葉を続ける。
「まさか気づいてないわけじゃないだろ? みんな結野のこと変な目で見てる」
「――――――」
漆黒の髪束がさらりと零れ、彼女の横顔を覆い隠す。
「……知ってる」
囁くように。
あまりに弱々しい、淡い呟きがその唇から漏れた。
長い睫(まつげ)が震える。
小さな彼女はその服装に不釣り合いな白いシーツに儚く溶け込み、今にも消えてしまいそうに見えた。
78
:
ピーチ
:2012/10/07(日) 12:45:32 HOST:i121-118-222-157.s11.a046.ap.plala.or.jp
ここにゃん>>
えー!?まさかの美羽ちゃん凄い悪戯好きだったかんじですか!?
いやいや、クリスマスのトラップはお父さんが可愛そうだって←
79
:
心愛
:2012/10/07(日) 15:36:36 HOST:proxyag120.docomo.ne.jp
>>ピーチ
サンタでなくお父さんを生け捕りw
一応悪気はなかったんだ!(笑)
80
:
ねここ
◆WuiwlRRul.
:2012/10/07(日) 16:26:34 HOST:EM117-55-68-140.emobile.ad.jp
正直ヒナくんがすごくタイプですw
更新されるたびわくわくしながらみてます!
がんばってください。
81
:
ピーチ
:2012/10/07(日) 18:01:07 HOST:i121-118-222-157.s11.a046.ap.plala.or.jp
ここにゃん>>
まさかのお父さんを生け捕り!?
そこは一応なの!? ねぇ!?
82
:
心愛
:2012/10/07(日) 18:24:32 HOST:proxyag109.docomo.ne.jp
そう。
こいつは、結野美羽は、他人から自分がどのように見られているのか分からないほどバカじゃないのだ。
「じゃあ、俺が言うことじゃないけど……そういうの、やめなよ。これからもっとつらくなるのは結野だし」
彼女がどんな空間にいようと、どんな人たちに囲まれていようと、結野を蔑視する視線は絶えずつきまとうだろう。
常識に反した存在の彼女が、自分が望んでやっているにしても、その奇異な言動ゆえにつらい目に遭うのを、俺は見たくない。
「今ならまだ間に合う。明日からでも、何もなかったような顔して普通に学校に来ればいいじゃん。基本優しい奴らばっかだし、きっと受け入れてくれるから。だから、もう―――」
「―――やめない」
固い、固い意志を込めた赤い瞳が、怖いくらい静かに俺を見返した。
カーテンがふわりと浮き上がる窓からは黄昏の仄かな光が差し込み、黒く艶を帯びた髪を淡い金色に透かせる。
「……どうして」
「何故君がそこまでぼくに執着するのかは理解できないが、なにも考えなしに言っているわけではないことは分かった。でも、君には悪いが、何と言われようともぼくはやめないよ」
「……だからなんでだよ、自分では格好良いって思ってるかもしんないけど周りはそうは―――」
「なにが格好良くてなにが格好悪いかは、ぼくが決めることだ」
言い放ち、結野はベッドの上で膝を抱えて顎を乗せる。
「……それでは今度はぼくから問おう。君は昔、ヒーローごっこをしたことがあるか?」
「は?」
彼女の質問の意味が分からずに眉を潜める。
「そりゃ、人並みには」
なんとか戦隊なんとかレンジャーみたいなのは、多分どんな男の子でも夢中になる要素があると思う。
努力すればヒーローになれると本気で信じて、こっそり必殺技を練習したときもあったっけ。
「……その延長線上にあるのがぼくだよ」
結野は自身を嘲弄するような冷笑を浮かべる。
「小さな子供がヒーローや美少女戦士の真似事をするのは全く当然のことだろう? 人の手によって盛大に美化された虚像に憧れ、自分もそのような存在になりたいと願う。その理由はただ一つ、すごく単純だ。格好良いからだよ」
薔薇の唇が流れるように、彼女の本音を紡いでいく。
「バカみたいだとか気持ち悪いとか、大人になれとか。端から見たらどう思われるかなんてことは、ぼくが一番分かってる。でも、やめないんだ」
結野はまっすぐ俺の目を見つめ、凛然と声を張った。
「これが、この姿が、このぼくが、心からこうありたいと思える自分なんだ。周りの評価なんて関係ない。自分に嘘は吐(つ)きたくない」
……そっか。
俺にも、やっと分かった。
こいつは、
「だから、ぼくは逃げない。諦めない。誤魔化さない。絶対に、ぼくの信念を曲げない。これがぼくなんだから」
自分に正直で、
「笑いたければ笑え。バカにしたければ思う存分バカにすればいい」
子供っぽくて、
「誰になんと文句を言われようと、ぼくの気持ちは変わらない」
たまらなく純粋で。
「―――これが、ぼくがずっと探し求めてきた、“理想”の自分なんだ」
バカらしくて痛々しくてたまらないのに―――
すべてを吹っ切ったその堂々たる姿は、なんだか妙に、格好良くて。
―――……変わったのは、結野じゃなくて。
―――俺の方、だったんだ。
『わたしはね、“自分”をさがしてるの』
不思議で、素直で、誰よりもまっすぐで。
―――あの日の“ミウ”が、確かに今、ここにいた。
83
:
ピーチ
:2012/10/07(日) 18:46:53 HOST:i121-118-222-157.s11.a046.ap.plala.or.jp
ここにゃん>>
美羽ちゃんがゴスロリしてた理由がやっと分かったー!!
うん、自分の意志を貫くって大変なんだね←
84
:
心愛
:2012/10/07(日) 21:39:39 HOST:proxyag117.docomo.ne.jp
>>ねここさん
ヒナですか!←
奴は基本的にノーマル属性なので地味ですが、お褒めの言葉ありがとうございます!嬉しいです!
ご期待に少しでもお応えできるよう精進したいです<(_ _)>
>>ピーチ
わかってくれてありがとう!
美羽は決して悪い子じゃないんだ、ちょっと努力する方向がアレなだけなんだ…!
85
:
彗斗
:2012/10/08(月) 00:09:03 HOST:opt-183-176-175-56.client.pikara.ne.jp
心愛さん>>
なんかすごく久しぶりです!
美羽ちゃんはイタイだけの子じゃなくて凄くカッコイイし大胆な子だったんだね……でも結局の所、痛々しい事には変わりないかもしれないけどねww
それにストーリーが凄く凝ってますよ! 身近で分りやすいし……何回見ても私のと比べたら……私のレベルが低過ぎて目から塩水が出てくるよww
86
:
心愛
:2012/10/08(月) 09:06:57 HOST:proxy10060.docomo.ne.jp
理想の自分を追い掛けていた、“ミウ”。
『きみ、いくつ?』
俺の答えを聞いて、一緒だと嬉しそうに笑ったあのときも、彼女は俺に『きみ』と呼び掛けていた。
なのに、
『ユイノ、ミウ。あなたは?』
二回目のときは、俺のことを『あなた』と呼んだんだ。
まるで、本当は今まで『あなた』と言ってきたのに、無理に意識して『きみ』と呼んでいるみたいに。
……あのときの“ミウ”は、一生懸命に自分を変えている途中だったのかもしれない。
らしくない背伸びをして、本来の喋り方まで変えて。
―――なにが一番『わたし』らしいだろう、一番格好良いだろう。
どうやったら、理想の自分になれるだろう―――
考えて考えて、ようやく見つけた“理想”がこの姿。
あのときからずっと、この“結野美羽”を続けているとしたら、
なんて―――強い。
蔑まれることも、笑われることも、憎悪を向けられることも、数え切れないくらい、何回もあっただろう。
でも、結野は負けなかった。
ずっとずっと一人で耐えて、決して屈せず、平気な顔をしながら、自分のポリシーを貫き通してきた。
その強く純粋な心はすべてをはねのけて、
今もなお、まばゆく輝き続けている。
「……はは……」
ああ、くそ。
格好悪いな、俺。
一丁前に常識人ヅラをして、今の結野を受け入れようとしなかった。
なにも知らないくせに、頑張っている結野を拒絶した。
そりゃあ、頑張ってる方向性はおかしいよ。
正直どうかしてると思う。
でも、さ。
たとえ他人にどう思われようと、自分の好きなものや、自分の在り方にそこまで情熱をかけられるっていうのは、ある意味ものすごいことなんじゃないのか?
……こいつは、こいつは本当に―――
「……バッカだなあ」
思わず笑いが漏れた。
「そうだよ」
『素』の結野が、ひどく華奢な肩をすくめてみせる。
「自分で考えた設定になりきって。この年になっても、虚勢を張り嘘で自分を隠すことが格好良いと信じてる。バカだから、大人に押し付けられる良い子の自分には我慢も納得もできない。ぼくは愚昧で身勝手で、………どうしようもなく、バカなんだ」
『わたしが一ばん、こうありたいって思える自分。他人におしつけられる、いい子の自分じゃなくて、わたしが心から、なりたいって思える自分……。そんなリソウの自分を、ずうっとさがしてるんだ』
頑固だと言われようがプライドが高いと言われようが、
誰にだって、絶対に譲れないなにかがある。
それが理解しがたいものなら、無理矢理肯定しなくたっていい。
でも、
そいつを、そいつの人生そのものを、頭ごなしに否定するってのは……それはちょっと、間違ってるんじゃないのか?
「……少し、話しすぎてしまったようだ」
ふっと笑む結野が言う。
「どうしてだろうな。こんなに喋るつもりは全然なかったのに……」
俯いた拍子に、耳に掛けられていた一筋の髪がはらりと零れ、ひんやりと透き通る頬を力なく打った。
「君といると……なんだか無性に懐かしいような、変な感じがするよ」
ゆっくりと噛み締めるように呟かれたその言葉が、空気を震わせた瞬間、
―――なにかが胸の奥深くで、響いたような気がした。
87
:
ピーチ
:2012/10/08(月) 20:06:36 HOST:i121-118-222-157.s11.a046.ap.plala.or.jp
ここにゃん>>
美羽ちゃん……! 何年間も理想の自分で居ることが凄い!!
あたしとかって絶対無理だし←
88
:
心愛
:2012/10/08(月) 23:01:40 HOST:proxy10040.docomo.ne.jp
>>彗斗さん
お久しぶりです!
美羽はイタカッコイイ中二病患者を目指してます←
いや、ホンモノの方はどんなこと考えていらっしゃるのかここあごときには想像もつかないので美羽は完全にここあの創作ですが!
ストーリーに凝っていると思っていただけたなら何よりです(・∀・)
序盤から、学園ラブコメらしからぬ結構深いとこまで突っ込んでみたりしてますので。
いやいやここあなんて自分の不甲斐なさに穴という穴からシュオン作の毒物のごときスライムが(以下グロ描写につき自粛)
>>ピーチ
うん、ここあも無理だな←
美羽は心の強い子なので…
ここまで自分を貫き通せるっていうのはある意味すごいよねw
明らかに非常識な美羽を正当化するのは結構大変だったり。
ほんの一瞬でも、美羽の(ほぼここあの)めちゃくちゃな論理に、ヒナみたくだまされてくれたら嬉しい!
……プロローグの『きみ』と『あなた』は、あくまで自然に、できるだけ気づかれないようにねじ込んでみたのですがお気づきでしたでしょうか?(笑)
89
:
心愛
:2012/10/09(火) 07:56:33 HOST:proxy10028.docomo.ne.jp
「……結野」
赤い双眸がこちらを向く。
彼女のしなやかな強さに、そしてかつての“ミウ”の面影に触れ、
今や、俺はこの痛みを一人で抑え込むことが、できなくなっていた。
「俺、昔さ。いじめられてたんだよね」
結野が目を見開く。
こんなこと話したって、彼女を困らせるだけ。
なにも良いことなんてないのに。
何故だろう……どうしても、結野に聞いてもらいたくなってしまった。
勢いがついてしまえば、情けない言葉の吐露はもう止まらない。
「いや……あんな程度をいじめって言うのは、ほんとにいじめに遭ってる奴に失礼かもしんないけど」
ははっ、とできるだけ明るく……みっともなく、笑う。
「俺、小さいときからみんなと一緒っていうのがどうしても好きになれなくて。学校でもつれなくしてたらさ、いつの間にか、自然とみんなの方も俺を『いないことにする』ようになっていった。……それは別に良かったんだけど、わざと聞こえるように悪口言われたり、あからさまに避けられたりした」
結野は一瞬だけ、泣き出しそうにその整った顔をくしゃりと歪めた。
……つくづく最低だな、俺。
結野は俺なんかよりもずっとつらい思いを経験してきたというのに、こんなにも強く眩しく、まっすぐに生きていて。
俺はと言えば、自己満足のために弱い自分の胸の内を女々しくぶちまけている。
……本当、最低だ。
「それで、そんなことなら最初っから孤立してればいいって気づいて。それからは、常に同年代の人間とは関わらないように気を配ってたから……小学校でも中学校でも―――ずっと、一人だった」
九年間。
自分の席の周りだけ、ぽっかりと穴が開いているような気がした。
ひそひそと囁かれる声、笑い声を聞くたびに、自分のことではないかといつも怯えていた。
卒業式の日だって、
みんなが泣いて、別れを惜しんでいる中で―――
俺は、これっぽっちも、悲しいと思えなかった。
悲しいと思えないことが、一番悲しかった。
「結野は俺のことリア充って言ってくれたけどさ、これで分かっただろ。……さすがに高校はこのままじゃまずいって思って、見た目とか、悪い癖とか必死に変えて。今もへらへら笑って精一杯……みっともなくあがいてるだけってわけ」
今までの俺を知る人が誰も適わないくらい頑張って勉強して、思惑通り俺の中学ではたった一人、この南高に合格した。
それからも勇気を出して近所の床屋じゃなくて美容院に行ってみたり、ださい眼鏡をやめてコンタクトにしたりした。
……でも、肝心の中身は全く、なにも変わってなかったんだ。
「ほんと、結野とは大違いだよ。結局、嫌なことから逃げただけ。どんなに見た目が変わっても、俺は暗くて、弱いままの―――」
「―――くだらないな」
凛とした、氷のように冷たく透き通った美しい声。
今まで俺の話を黙って聞いていた結野は、ふん、と小さく鼻を鳴らして、
「言いたい奴には言わせておけばいいんだ。
君のどこが暗いって? 君が弱い? はっ、笑えない冗談だな」
絶句した俺を、心底馬鹿にしたようにせせら笑う。
「本当の弱虫なら、まずぼくに近づこうともしないだろうし、自分を変えようなどと思いつきもしないよ」
……もしかして、このひねくれた、優しい少女は、
「そんな意味の分からないことで悩んでいる時間が勿体無いだろう」
俺を、励まそうとしているのか?
結野の強い眼差しが、厳しい声が、
身体中に、優しい温もりを沁み渡らせていく。
「君は、自分の道を選択したのだろう? あとは進むだけなんだろう? なら胸を張って、前へと進めばいいだけの話じゃないか」
憐憫も気遣いもなく、ただ当たり前の、ちっぽけな真実を語っているだけのように―――結野は続ける。
90
:
心愛
:2012/10/09(火) 07:57:28 HOST:proxy10024.docomo.ne.jp
「君は自分自身の意思で、自分を変えようとしたんだ。愚かな夢に囚われただけのぼくとは確かに違うけれど、……君は過去を振り切って、“理想の自分”への一歩を踏み出したじゃないか」
結野は瞳に宿った強烈な光で俺を射抜き、きっぱりと告げた。
「―――君は、強いよ」
……多分俺は、心のどこかで、誰かにそう言われるのを待っていたんだと思う。
俺のしていることは、間違ってなんかいないって。
認められたかった。力強く、背中を押してもらいたかった。
だから、俺と同じ、もしくはそれ以上の苦しみを味わって、その気持ちを痛いほど理解しているだろう結野は―――みじめで格好悪い、はた迷惑な野郎にすぎない俺を、こうして不器用な形で、救ってくれたんだ。
完敗、だった。
「……ありがと、結野」
「礼を言われる筋合いはないが」
照れたように鼻の頭をほんのり赤くして、勢い良くそっぽを向く。
あのときと変わらない、黒絹みたいに艶やかな髪がふわっと浮き上がった。
「……ふん。こんなにも長い間、低俗な愚民と無駄話をしてしまうなんてぼくの人生最大の汚点だな」
「人生って人の生って書くけどそれでいいのか? ヴァンパイアなんだろ?」
「う、そ、それは……この姿は人間界に入る為に造った仮の肉体であって、だから厳密にはっ」
言い訳するように早口でまくしたてる結野を笑っていなす。
……痛い? キモい? 見てて不愉快?
―――余計なお世話なんだよクソが。
一度しかない人生、今の自分が望む自分であろうと努力することを、なぜ否定されなきゃいけない?
あとで自分がどれだけ後悔しようが、今他人にどう見られていようが。
いっぱいいっぱい考えて―――それでも、どうしても譲れないから、あきらめられないから、結野は今こうしてるんだ。
つまらない大人になるくらいなら、一生バカなガキのままでいてやるよ。
自分が格好良いって思うものを信じて、全力でぶつかっていける―――
それは本当に、悪いことなのか?
子供の未来のためだって、無理矢理排除すべきことなのか?
夢をひたすらに追い掛け、それが無意味だと分かっていたとしても―――しぶとくあきらめずに立ち上がる。
それができる、強い心を持った奴は、この広い世界にどれだけいるのだろう。
一時だけの痛い勘違い?
大いに結構じゃないか。
結野の言葉じゃないけどさ、笑いたきゃ笑えばいいよ。
―――俺は“ミウ”の、このまっすぐさに惚れたんだから。
「……まだ帰らないのか? 幸せな奴だな、ぼくが怖くないなんて」
結野は本格的に演技モードに入ったらしい。
その素直じゃない口とは裏腹に、少しだけ寂しそうに瞳を曇らせ、
「君がどんなに強い力の持ち主でも、これ以上この結界の中に入り浸れば君の精神力が磨耗する。吸血姫(ヴァンパイア)の眷属以外はどんな種でも確実にダメージを受ける、強力な結界だからな。……ふん、恐ろしいだろう? その羽虫のような命が惜しければ、二度と『こちら側』に近づかないことだ。分かったな?」
つまり―――
これ以上自分と一緒にいれば、俺までハブられるからとっとと出てけ、と。
せっかく新しくできた俺の立ち位置がなくなるから、もう関わってくれるな、と。
……ああ、もう。
いっそ清々しいくらいのバカだ、こいつは。
姫宮に話し掛けられたときもあんなに嬉しそうにしてたのに、気を遣って自分から離れようとした。
自分と一緒にいたら、相手に迷惑が掛かるから。
だから、きっと結野は、自分の考えを曲げないかぎり、理想と友人、両方を得ることは絶対にない。
これから、ずっと。
だったら。
ひとりぼっちで、本当はすごく、すごく優しくて、でも最高に格好良い、どうしようもないバカのために―――
―――俺も思いっきり、バカになってやるよ。
91
:
ピーチ
:2012/10/09(火) 18:17:55 HOST:i121-118-222-157.s11.a046.ap.plala.or.jp
ここにゃん>>
絶対無理だ←
でもでもでもでも!! 美羽ちゃんかっこよすぎる!!←
何気にヒナさんも優しかったりww
92
:
心愛
:2012/10/09(火) 20:01:25 HOST:proxy10054.docomo.ne.jp
>>ピーチ
美羽かっこいい?
ありがとう!
美羽はカッコよさと強さ、あと優しさと弱さ……相反する要素を持つ子なんです←
痛さと可愛さもいいかんじのバランスを保てたらなw
ヒナと美羽、二人ともまた違う弱いところと優しいところを持った良い奴らなので、好きになってやってねお願いします!
93
:
ピーチ
:2012/10/09(火) 22:34:49 HOST:i121-118-222-157.s11.a046.ap.plala.or.jp
ここにゃん>>
美羽ちゃん&ヒナさんすっごくいい人じゃん!!
ゆきちゃんとかゆきぞの君とかも!
やばい続きめっちゃ気になる!!←
94
:
心愛
:2012/10/09(火) 22:52:47 HOST:proxy10070.docomo.ne.jp
>>ピーチ
ありがとうっ…!((涙
まだ序盤なんだけど、一段落ついたらやっとのことでキャラわんさかな日常編に入ります!
あ、その前にコラボとソラの波紋進めないとね(^_^;)
95
:
ピーチ
:2012/10/09(火) 23:07:30 HOST:i121-118-222-157.s11.a046.ap.plala.or.jp
ここにゃん>>
いやこちらこそありがとう!
日常編! わんさかってことはにぎやかになりそう←
だよね! コラボとソラの波紋も楽しみだよっ!!
96
:
心愛
:2012/10/10(水) 20:58:40 HOST:proxy10066.docomo.ne.jp
「……その眷属ってのになれば、結野の近くにいても平気ってこと?」
結野は、意味が分からないと言うように目をぱちくりさせた。
「む、む? ……まあ、ぼくと同じ《属性》になれば、ぼくの魔力の影響は受けなくなるから……」
「じゃあ」
俺はにやりと笑って―――
バカそのものの台詞を、言い放った。
「―――……俺を、結野の眷属にしてくれないかな」
「……ふぇ?」
ぽかーんと呆けた結野は可愛いんだか間抜けなんだか良く分からない声を漏らす。
「だめ?」
「え、だ、だめとかそういう……」
「じゃあいいの?」
あうあうと口をぱくつかせ、頼りなげに視線をさ迷わせる彼女。
なんとも面白いので、膝に頬杖を付いてそのまま観察することしばらく。
「……どうして」
結野は俯いて、ぽつりと呟いた。
まばゆいオレンジ色の残光が、彼女の弱々しい身体を柔らかく包み込む。
「君はどうして、……ぼくに―――」
「これからずっと、結野と一緒にいたいから」
どんなにおかしな格好をしていても、
どんなに気丈に振る舞っていても、
どんなに強い心を持っていても、
……それでも結野は、普通の女の子なんだ。
まっすぐで優しい、脆(もろ)くて寂しがりやの女の子。
できることなら俺は、ものすごいうぬぼれだけど……そんな彼女を支える存在になりたい。
強さと弱さを併せ持つ彼女の、一番の理解者でありたい。
そのためなら、結野の傍にいてもいいって証がもらえるのなら、『友達』なんて決して認めないだろう彼女の、お遊びに付き合うのも悪くない。
九年の歳月が経った今でも―――
どんな姿になったとしても、俺はやっぱり、こいつのことが好きなんだ。
「……な、な、な、」
白いレースがたっぷりあしらわれたカチューシャに付いたリボンが、わなわなと震える彼女に合わせて揺れる。
「……どしたの?」
「ど、どうしたのかだとっ? 君の数秒前の言葉を良く振り返ってから言え!」
「『どしたの』?」
「その前だその前ッ」
「えー……なんだっけ」
「うう、もういいっ」
涙目の結野は真っ赤な顔で、八つ当たりするようにぺちぺちとシーツを叩く。
「ぼくの聖域(テリトリー)にずかずかと入って来るし図々しいし……。君には調子を狂わされてばかりだ、まったくっ」
「で、結局どうすんの? 俺のこと」
「本当に図々しい奴だな!?」
怒鳴ると同時に、ぽすっ! と枕を投げつけてくる。
「わ、あぶね」
顔面すれすれまで飛んできたそれを慌ててキャッチした。
「……っああ気が乗らない!」
「それまたなんで」
「当たり前だっ! ……ぼくは……ぼくは他人が怖いんだよっ」
叫ぶや、結野は今にも泣きそうに唇を噛み締めた。
「ぼくはやっぱり、全然強くなんかない! ぼくの所為で、誰かが傷つくところなんて見たくない! ……ずっと一人だったからっ、人との関わり合い方なんて分からないんだ……っ」
強気のメッキが剥がれ落ち、その奥に秘められていたほんの少しの弱さが顔を出す。
「特定の誰かに必要以上に入れ込んで、そいつが取り返しがつかないくらい、大きな存在になってしまってから……いつか嫌われて、置いて行かれるのが怖いんだよ……っ」
「俺もだよ」
なにかに気づいたように息を呑み、結野が俺の目を見た。
「俺だって怖いんだ」
本気で好きな人であるほど、拒まれたときの痛みは大きいと思う。
一緒にいたいとか調子に乗ったことを言いながら、結野に嫌われるのを心底恐れている自分がいる。
俺たちは同じなんだよ、結野。
もうすでに心は決まっているのに。
決定的な、最後の……いや、ある意味では最初の一歩を、いまだに踏み出せずにいる。
でもさ―――決めたのなら、前に進むだけだって言ってくれたのは……結野、お前だろ?
97
:
ピーチ
:2012/10/11(木) 13:49:37 HOST:i121-118-222-157.s11.a046.ap.plala.or.jp
ここにゃん>>
うわあぁぁ美羽ちゃん可愛いー!!
ふぇ? って何かシェーラちゃんを思い出させる←
98
:
心愛
:2012/10/11(木) 18:43:35 HOST:proxy10035.docomo.ne.jp
>>ピーチ
ありがとーう!
美羽は油断したときにシェーラ系の声が出ますw
キャラいっぱい出てくるよ!
やることがたくさんだー…幸せな悲鳴(´ー`)
土日は用事があるから更新できないんだ(´・ω・`)
また溜まるー(^^;;
99
:
ピーチ
:2012/10/11(木) 18:57:17 HOST:i121-118-222-157.s11.a046.ap.plala.or.jp
ここにゃん>>
油断した時か!←
でもさ、「む?」ってやつはルイーズ王女に似てるww
100
:
心愛
:2012/10/11(木) 22:24:51 HOST:proxyag117.docomo.ne.jp
>>ピーチ
おお、さすがピーチ!
美羽はルイーズの影響をちょっと受けておりますw
いろんな要素があるからねー(・∀・)
まだ序盤なのに100レスいっちゃいました!
皆さんご協力(?)感謝です!
『紫の歌』みたく記念SSはやれませんが(^_^;)
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