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剣―TURUGI―

229竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/10/30(日) 16:57:44 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
ライナーさん>

こめんとありがとうございます^^

『十二星座〜』とかカテリーナが言ってたので、『十二星徒(じゅうにせいと)』はなるべく星座の名前を入れようと思います。
その典型的なのが、超乙女チックな女の子ですが((
さて、超乙女チックと戦うのは魁斗なのか!それとも別の誰かか!

ああ、確かに。
ザンザはちょいと出したかっただけですね。
意味が無いと言えば、確かに無い……。気をつけます。

230竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/10/30(日) 21:26:56 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp

「うおおおおおおおっ!?」
 学校を飛び出した魁斗は、叫び声を上げながら街中を全力で駆け抜けていた。
 彼は天子と呼ばれる存在で、脚力が極端に高く、それは走力においても例外ではない。
 彼が叫び声を上げたのは、全力で走っていたからではない。
 後ろから走ってくる超乙女チック少女の早乙女瑠璃が彼の脚力を前に、ほぼ同じ距離を保ちながら走っていたからだ。
「待ってよカイト君!なーんも照れることなんてないよー!」
 何か勘違いしている台詞を吐きながら、早乙女は魁斗を追っている。
 何故か目が酷くギラギラしていて、女の子がこんなにも怖いと思ったのは初めてだった。
(バケモンかアイツ!?俺、全速力ですよ?俺、天子ですよ?それでも振り切れないって……どんだけだよ!?)
 彼女が魁斗を必死に追跡しているのは、彼のことを本気で好きだからだ。
 実は彼女自身はそれほど走りに自信があるわけではないのだが。
(くそ!何なんだよ、この状況!)
 女の子に好かれる事は嬉しいが、ここまで執拗になるととても複雑な気持ちだ。

「早乙女さんのピアスが、おとめ座のマーク!?」
 一方、レナ達は沢木の言葉に反応していた。
 沢木は、おとめ座のマークだけは覚えていたらしく、彼女の耳にそのマークのピアスがあったのを偶然見つけてしまったのだ。
 カテリーナの話が本当ならば、早乙女がおとめ座を司る『十二星徒(じゅうにせいと)』とほぼ断定できる。
「まずいな。今の切原君が早乙女さんと戦えるとは思えない」
「エリザさんみたいに、最初から明確な敵意を持っていない人をいきなり攻撃しろと言われても、カイト様は恐らく戦えません」
 桐生とレナは冷静に魁斗の人柄を見て、そう判断する。
 早乙女の恋心に気付かずとも、自分に好意を持って接してくれていることには気付くだろう。魁斗がそれに気付いていれば、魁斗が早乙女を斬る確率は、極めて低い。
「だったら早く追わないと!」
「そうね。手遅れになる前に、追わないと……」
 藤崎の言葉にカテリーナが賛同し、全員が動き出そうとしたところで、
「貴方達。いつまでこんな所にいるの」
 不意に声をかけられる。
 声のした方向に振り返ると、一人の女生徒が立っていた。
 腰くらいの長い黒髪に、両サイドの髪の先をリボンでくくり前に垂らしている。目はきりっとしていて、スタイルも良い方に入るであろうその少女は、左腕に『生徒会会長』と書かれた腕章がある。
 久瀬詩織。
 魁斗達が天界から戻った際に、無断で学校を休んだことを厳しく叱った、二年でありながら、生徒会長を務める少女だ。
「もうすぐ五時間目が始まるわよ。こんなトコにいて、遅刻しないわけ?早く戻りなさい」
「でも……」
「でも何よ?」
 レナが何か言おうとしたところで久瀬が問い詰める。
 レナは口をつぐみ、何もいえなくなるのを見れば、久瀬は溜息をつく。
 沢木は空を見上げて、何かを垣間見る。
「わ、分かりました!今すぐ戻りますよ!」
 そう言って、レナ達を無理矢理引き連れて去っていく。
「ちょ、沢木さん!?カイト様は……」
「大丈夫です」
 レナの言葉に沢木は短くそう返答した。
「大丈夫なんです。ここには今、もう一人心強い仲間がいますから」

「あり?」
 早乙女はある河川敷で足を止めた。
 その河川敷は、魁斗達が沢木を救出するためにメルティという情報屋とともに修行をした河川敷だ。最初の副隊長と遭遇した場所でもある。
 早乙女は魁斗の姿を見失ったと言わんばかりに辺りをキョロキョロと見回している。
「もー、照れ屋さんなんだからぁー!逃げなくてもいーのに。にしても見失っちゃった。何処に行ったの―――」
 唐突に空から竜巻が襲い掛かる。
 寸前で気付いた早乙女は、後方に跳んで竜巻をかわす。
 上を向いて、目つきを僅かに鋭くした早乙女は問いかける。
「誰!?」
 しかし、答えの声は上からではなく前方から聞こえてきた。
「外したか……。ま、そうでなくちゃ面白くないもんね」
 土煙で見えない前方に映る影は、槍のような薙刀のような武器をくるくると回している。シルエットと声からして女性だろう。
「さーて、アンタが最初の『十二星徒(じゅうにせいと)』ね?カイト君を狙うなんて随分と考えたモンだけど……残念でした」
 人影が槍のような薙刀のような武器を振るい、土煙をはらす。
 人影の容姿は黒い長髪に、スタイルのいい体型。手には緑の柄の薙刀が握られている。
 沢木が空を見上げた時に見つけたのは、薙刀にまたがって空を飛んでいるハクアだったのだ。
「……アンタ、誰?」
「それはこっちの台詞よ。ま、答えなくていいわ」
 ハクアは悠然と笑って、
「アンタは私に倒される。名前は名乗る必要がない」

231竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/11/04(金) 18:45:31 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第六十六閃「ハクアVS早乙女瑠璃」

 魁斗は街中を走っていた。
 いつしか、早乙女との距離を振り返って確かめず走っていたせいか、隣町にまで突入していた。
 魁斗は天子の脚力を最小限に抑えながら、
(……まさか、隣町にまで来ちまうとは……ずっと真っ直ぐ走ったし、そんな複雑な走り方はしてないから大丈夫だろうケド……)
 魁斗は内心『ちゃんと帰れるかな』と不安になっていた。
 そこへ、急に遠くの方から強い魔力の放出を感じ取る。
 魁斗はあちこち見回すが、距離が遠すぎて、いまいち何処か分からない。
 しかし、その魔力を魁斗は覚えていた。
「……、ハクアさんか」
 それに、魁斗には感じ取った魔力の側にいる人物の僅かに漂っている魔力にも、覚えがあった。
「……嘘だろ……。これって……」

「ッ!?」
 別の教室で、レナ、沢木、藤崎、桐生、カテリーナの五人はハクアの魔力を、魁斗と同様に感じ取っていた。
 戦うことが出来ない沢木はには『何かぞっとした』程度だったが、それがハクアのものだと何となく気付いたらしい。
(……沢木さんが大丈夫って言った理由はハクアさんか……)
 教室で隠れるように笑みを零すカテリーナを見て、僅かに溜息を吐く桐生。
 彼も彼で、色々と考えていたのだ。
(……まさか、最初の『十二星徒(じゅうにせいと)』が早乙女さんだとは……ま、ちょっと知り合った僕らが戦うより、全く面識が無いハクアさんが戦う方がいいだろうけど……)
 そこに、マナーモードにしていた桐生にメールを知らせるバイブが鳴る。
 先生に見つからないように確認すると、メールを送ったのは魁斗だ。
 内容は『道が分からなくなった!帰り迎えに来てくれ!』というSOSメールだ。
(……ッ!何故……、何故僕なんだ……ッ!?)
 こめかみに青筋を立てる桐生だったが、常識を考えて授業中に叫んだりはしなかった。

 ハクアと早乙女が河川敷で向かい合っている。
 突如現れたハクアに、早乙女は睨み付けるような目つきで見ている。
 一方のハクアは、大して表情も変えず笑みを浮かべたままだった。
「……貴女が、『十二星徒(じゅうにせいと)』?最初にカイト君を狙うなんて……でも、狙うなら単体でいる私を狙った方が良かったかも―――」
「貴女はどういう関係?」
 早乙女の不可解な言葉にハクアは眉をひそめる。
 それから、早乙女はもう一度確認するかのように、
「貴女は誰!カイト君の何!どういう関係!?」
 そこまで聞いてハクアは、何となく全てを理解したようだった。
(……なるほど、彼女はカイト君にご執心なワケね。カイト君を狙ったのも、彼がリーダー的存在だからじゃなく好意を寄せてるから、か……。なら、)
 ハクアの笑みが悪戯っ子のような可愛らしさと怪しさを含む。
 きらーん、という効果音が似合いそうな目つきで、彼女は唇を動かす。
「……貴女、カイト君が好きなんだー。でも、カイト君は貴女に興味ないわよ?」
「なぬ!?」
 だって、とハクアは続けて、
「(レナが)カイト君と同棲してるし」
 がーん、と早乙女の表情が絶望に染まる。
 彼女の作戦は『目一杯絶望させて戦意を削いでやる!』という若干誠意に欠ける戦い方だ。
「さらに、(レナが)キスもしたし……」
 早乙女は気絶しそうになる。
 ハクアのずるい所は、自分じゃなくレナを使うことだ。その方が、効果的ではあるだろうが。
「ぬぬぬぬ……!破廉恥な……!」
「ふふふ、どう?嫉妬した?」
「殺すっっ!!」
 純情なハートが燃え盛った早乙女とハクアのマジバトルが幕を開けた―――。

232竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/11/04(金) 23:42:19 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 刀を構え、斬りかかる早乙女を薙刀をくるくると回しながら待ち構えるハクア。
 早乙女の手に握られている刀が、彼女の『剣(つるぎ)』だろうか。にしても可笑しなデザインだった。
 柄はピンク色で、鍔は丸型で、肝心の刀身はままごとで使うような、何も斬れないちゃちな作りだ。
 このまま、本気で薙刀を振るえば壊れてしまいそうだが、それを武器のように使っている時点で、何だか壊すのに若干の躊躇いが見えるハクア。
 彼女は、とりあえず薙刀の先を下に向け、風の逆噴射を利用し、空高く飛び上がる。
「ぬっ!?」
 上空に首を向ける早乙女。
 ハクアは素早く、薙刀を縦から横に向け、魔女が箒で飛ぶ時のようにまたがった。
 早乙女は、上空のハクアに叫ぶ。
「にー!空に逃げるだなんて、卑怯だぞ、この泥棒猫ー!」
「カイト君はアンタの彼氏でもないだろーが!!」
 実際彼女が言ったことを何一つ行っていないハクアだが『泥棒猫』は流石に嫌らしい。
 彼女の柄にも合わず、叫んでしまう。
 にしても、何だか一般人に見えて仕方が無い早乙女を攻撃するのはハクアも抵抗がある。
 ハクアは軽めに、風の玉を投げつけて攻撃しようとする。
「ッ!?」
「一応、仕置き程度よ」
 風の玉を投げ、見事早乙女に直撃する。
 音と巻き上がった煙がそうでもない事から、威力もさほど高くは無いが非戦闘員的な少女を気絶させるにはこれの方がいいだろう、と考え、彼女のいた場所から距離を取って着地する。
 もくもくと上がる煙を、ハクアは見つめる。
(……やりすぎー、かな?いや、でもあんな風の玉、きっとレナならしゅばっ!!とかわすだろうし、エリザさんならばぁん!!と打ち消すだろうし。そもそも、こっちの常識を向こうの人間に押し付けるのが間違いか。死んではないと思うけど……やべぇ、不安になってきた。……煙の中から人影が全然見当たらないんですけど……)
 意外と小心者のハクアだったが、不安は一気に払拭された。
 煙の中から、凄まじい速度で、細く、長い切っ先が襲い掛かり、ハクアの腹部に突き刺さったからだ。
「……ッ!?」
 ハクアは腹部に走る痛みを堪え、苦痛に顔を歪めながらも切っ先を引き抜く。
 そして、凶刃が飛び出した煙の方へと視線を向ける。
「んもー、何ですか今の攻撃は。余裕のつもり?それって、単なる驕(おご)りですよね」
 煙の中から、通常の長さの細い刀を持った早乙女が、無傷で立っていた。
(……無傷……!?馬鹿な……!)
 ハクアは更に、顔を歪めた。
「きょーれつな一撃が出ると思ったから……用心して無責任?あ、違う。損か!」
 早乙女は言葉を思い出し、手をポンと叩く。
 ハクアは血が出る腹部を押さえながら、
「……複数の……『剣(つるぎ)』を、使うの……?」
 搾り出すような声で、早乙女に尋ねる。
 一方で、決定的な一撃を与え、上機嫌になっている早乙女は、その言葉をしっかりと耳に捉え、ニヤリと笑みを浮かべる。
「ふっふっふっー。違うのですよ、これ見てわっかるっかなー!?」
 早乙女の持っていた刀が光を放ち、姿を変えていく。
 光の中で、刀のシルエットはどんどん丸みを帯び、遂には球形になって、発光が収まる。
 早乙女の手にあったのは、手の平サイズの水色の水晶玉だ。
 ハクアは、それを見て唇を動かす。
「……変形型『剣(つるぎ)』……『武具変晶(ぶぐへんしょう)』……。カテリーナさんが見たら、飛びつきそうな逸品ね……!」

233ライナー:2011/11/05(土) 11:34:09 HOST:222-151-086-004.jp.fiberbit.net
コメント失礼します、ライナーです^^

早乙女さんすごいっすね!
にしてもハクアさんが戦うことになるとは、一体どうなるやら……

次も楽しみにしております!
ではではwww

234竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/11/05(土) 12:06:11 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
ライナーさん>

コメントありがとうございます^^

はい、魁斗はまず戦えなさそうだし、早乙女のペースに乗せられそうだから『あ、コイツ使えねーな』みたいな感じで斬り捨てでs((
他の奴らは学校ですしw
いけるのはハクアくらいでしたw
多分、今のところ作中で一番強いのがハクアだろうから、きっと勝ちますよw

次も頑張りますね!

235竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/11/05(土) 14:39:07 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 ハクアは腹部から伝わる痛みに顔を顰めながら、早乙女の出方を窺っていた。
 早乙女の使用する水晶型の剣(つるぎ)『武具変晶(ぶぐへんしょう)』は自分の想像した通りの武器に水晶が形を変えるという、つまり型がない武器なのだ。自分の位置に合わせて最も戦いやすい武器で相手に挑むことが出来る。想像次第では『絶対に折れない剣』や『絶対にかわす事が出来ない弾を撃つ銃』や『絶対に何でも切断する斧』など何でもありだ。
 だが、早乙女はそんなものを想像しない。
 彼女が使うのは『乙女チックな武器』である。彼女の武器は自身が読んだ漫画のキャラが使用していた物や、乙女らしい武器がモチーフとなっている。最初の刀が玩具のように見えたのはそのせいだ。
 だったら攻撃を防ぐ時は、乙女に傷が似合わないとかいう理由で『絶対に何でも防ぐ盾』を想像しただろう。現在、彼女が無傷なのも、恐らくそんな盾を想像したからだろう。
(……参ったね)
 ハクアは腹部の痛みに耐えながら、状況を分析する。
 腹部の傷が冷静さと体力と神経を少しずつ削っていく。
(……思い通りに変形する『剣(つるぎ)』……こんなレアなモンをこんな奴に持たせるなんて……でも、恐らく戦いは素人。刀の構え方もマトモに出来てなかったし……こいつの想像力に任せてるってワケか)
 普通にやり合えば、ハクアは何て無い涼しい顔で一気に決着を着けることだろう。
 だが、彼女の無双の想像力の前にはハクアは成す術は無い。
 もしも『絶対に身体を護る鎧』などを想像されたらただの消耗戦になり、体力が尽きたところを畳み掛けられるに決まっている。
 だからこそ、体力の消耗を抑えるためにも下手に動けないのだが、ただ立ってるだけでも、腹の傷の痛みで体力は削られている。
 ハクアは吹くの袖を切って、強引に不出来な状態で腹の傷の止血に使うために腹に巻きつける。
「ふふん。そんなことしても私には勝てないよ、泥棒猫さん!」
「だから、違うっての」
 ハクアは慎重に息を整えながら、対抗策を考える。
 一気に強力な技で決める、もあるが『絶対に防ぐ盾』で防がれる。下手すれば、ずっと盾で篭城戦を続けられるかもしれないのだ。
 だったら、
(……だったら……そうか、その手があるわね)
 ハクアがニヤリ、と笑みを浮かべる。
 怪しく、諦めてない笑みを。
「だったら、これしかないわね。来なさいよ、もの泥棒猫を倒してみたいでしょ?」
「……倒してみたい、じゃなく!倒すの!」
 早乙女は再び刀をなってない構えで、持ちハクアに突っ込む。
 早乙女が薙刀のリーチ内に入ると、ハクアは、迷わず薙刀を振るう。それを、ぎりぎりで後方へかわす早乙女。
「ふふっ!だったら、盾を出してずっと待ってりゃ―――」
「させると思う?」
 続けて、ハクアが薙刀を振るう。
 しかも、一度ではない。連続で振るい、相手に休む暇を与えないような、連撃を繰り出していた。
 いつしか、かわすことに精一杯になっていた早乙女は刀から次の形へと変えることが出来ない。
 ハクアが思いついた作戦は、『相手を想像させる余裕をなくすくらいに攻める』だ。
 戦いが素人の早乙女にとって、攻め続けられるのはかわすことで精一杯になり、他の事に頭が回らなくなる。
「はんっ!戦う相手が悪かったわね!レナとかカイト君とか、真面目な奴があいてならこんな荒々しい答えは出さなかっただろうけど……悪いね、私は」
 カァン、と乾いた音を立てて、ハクアが早乙女の持っていた刀を弾き飛ばす。
「しまった……!」
「私は、カイト君達の中で一番……不真面目な女なの!」
 ズドン!!と早乙女の腹にハクアが薙刀の柄の先で突きを繰り出す。
 早乙女が口から息を漏らして横向けに倒れる。
「あ、こいつらの目的訊くの忘れちゃった……まあいいか。後でで」
 ハクアは早乙女を肩に担ぐと、早乙女のポケットから何かが地面に落ちる。
 ハクアがそれを拾い、落ちた物をよく見る。
「……これは?」
 早乙女のポケットから落ちたのは、ネックレスのような物で、円盤の部分におとめ座のマークが刻まれている物だった。

236竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/11/05(土) 21:45:36 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 ハクアと早乙女の激闘の翌日、学校が終わった後にハクアに呼び出された魁斗達は目の前の光景に絶句していた。
 何故なら、そこにあるのは、椅子に座らされて腕を後ろに回し拘束され、口にはガムテープを貼られて喋ることが出来ない、いつでも尋問の準備オッケーですよと言わんばかりの早乙女瑠璃がいたからだ。
 今から何が行われるかというと、早乙女を倒した後に彼女のポケットから落ちたおとめ座のマークが刻まれたネックレスについての詰問だ。
 この場にカテリーナはいない。彼女は用事があるらしく、早々にどこかへ去ってしまった。
「……ハクアさん、これ……」
 若干引き気味にハクアに訊ねようとする魁斗。
 ハクアは、魁斗が何を言いたいのか分かったようにコクリと頷くと、
「戦利品」
 一言で言い切った。
 人を物として扱っているような言い方だが、恐らく彼女の冗談だろう。そうでなくてもそうであってほしい。
「瑠璃ちゃぁん?君のポケットから出てきたんだけど……このネックレスは何?」
 早乙女はずっと黙っている。
 というかガムテープで話せないのだ。彼女はずっと『んー!んー!』と何やら唸っている。
 話せない理由に気付いたハクアがガムテープを剥がすと、
「誰が教えるか!この泥棒猫!」
「……ほほぅ」
 ハクアは目を細め、早乙女の脇に手を伸ばす。
 それから、指を器用に動かし、ハクアによるくすぐり地獄が始まった。
「ひぁっ……ひゃああああああ!?や、やめてよぉー!」
 ハクアは悪魔のような笑みを浮かべて、止める様子が無い。
「やめてほしいなら話しなさい!」
「にゅー……だ、誰が話すかぁー!」
 ハクアは脇から手をどけて、早乙女の靴を脱がす。
 脇の次は足の裏をくすぐり始めた。
「きゃあああああああっ!?ぎ、ぎぶぎぶ!ぎぶですぅー!話す、話すってばぁ!あっ……らめぇー!」
 ハクアのくすぐり地獄から開放された早乙女は息を整えている。
 呼吸が落ち着き始めると、ネックレスについて話し出す。
「……私達『十二星徒(じゅうにせいと)』のメンバーは全員、これと同じようにそれぞれの司る星座のマークが刻まれたネックレスを持っているんです。それを『守護の証』って言います」
「―――『守護の証』?」
 早乙女の言葉に魁斗達が眉をひそめる。
 十二星座というものは、黄道が通る十三の星座のうち『へびつかい座』を除く十二の星座のことである。
「私も、組織の事はよく分からなくて……リーダーの顔も名前も性別すらも知らないんです」
 そこで勘付いた魁斗は、もしやと思って訊ねる。
「……じゃあお前、目的も知らないんじゃ……」
 コクリと早乙女は頷く。
 目的も何も知らない少女が戦うために使われ、負けても仲間は知らん振り。魁斗達は言葉を失ってしまった。
「……ふざけやがって」
 魁斗は思わず呟いていた。
 拳を強く握り締め、歯を食いしばり、見れば誰もが怒っていると分かるくたい顔を顰めていた。
 魁斗は早乙女の頭に手を置いて、
「お前を許したわけじゃねぇけど、利用されてたってことは分かった。後は任せろ」
 早乙女は涙を溜めた目で魁斗を見つめる。
 魁斗は早乙女を目を合わすと、フッと笑みを浮かべて、
「『十二星徒(じゅうにせいと)』は俺らが潰す!お前は安心してろ。もう変な事すんじゃねーぞ!」
 早乙女は、そこで耐えられなくなったのか、思い切り涙腺が緩み、涙を流す。
「……カイト君……!」
 とりあえず魁斗達はそこで別れ、カテリーナには後で桐生が連絡を入れることで話がついた。

 カテリーナはビルの屋上で、携帯電話を耳に当てていた。
 コール音の後に電話に出たような音が鳴ると、
「うぃーっす!ザンザ、元気ー?」
『……相変わらず無駄に元気だな。その様子だと、上手くやってるみてェじゃねェか』
 電話の相手はザンザだ。
 彼には状況報告をしようと電話をしていたのだ。
『んで、そっちはどォだ』
「あー、ハクアさんが一人倒したよ。おとめ座の『十二星徒(じゅうにせいと)』を」
 その言葉を聞いたザンザは、ほぉ、と感心の言葉を上げて、
『まァアイツなら心配はいらねェし、そっちにいる中で一番強いからな』
「私じゃなくて?」
 当たり前だろ、とカテリーナがツッコまれる。
 僅かな沈黙の後に、ザンザが話を切り出す。
『リーちゃん、この電話が終わった後に、天子に連絡出来るか?』
「……出来るけど?」
 カテリーナはきょとんとした様子で答える。
 ザンザは答えを聞いて言葉を続ける。
『だったら伝えてくれ。俺の名前は面倒だから出すなよ』
 うん、とカテリーナが頷く。
 意識してか、無意識か、ザンザは僅かに早口で伝えた。
『天子を天界に連れて、フォレストの小屋へ行け』

237竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/11/06(日) 13:21:45 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第六十七閃「教会に潜む十二星徒」

 魁斗は不機嫌な表情で、公園にいた。
 目の前にいるのはカテリーナだ。夜に電話があり『明日天界に行くぜー』とだけ伝えられ、強引に連れてこられたのだ。
 この調子で学校は大丈夫だろうか、魁斗はかなり不安になっていた。
 また久瀬会長に怒られそうだ、と心の中で怯えていると、カテリーナが天界へと繋ぐ扉を開く準備が終わっていた。
 カテリーナは、小さく息を吐いて、
「さー、準備できたよ!行こうぜ天界!」
「ちょい待て」
 勇み足のカテリーナを魁斗が呼び止める。
「何で俺が天界に行かなきゃいけねぇんだ?」
 カテリーナは魁斗の質問に当然というような調子で答える。
「決まってんじゃん。だって皆学校だし」
「俺だって学校だっつの!!」
 カテリーナの言葉に魁斗は思わず叫んでしまう。
 そもそも、こっちの世界で学校などを気にせず使える人はハクアだけなのだが、勝手に人を変えるとザンザが怒りそうなので、魁斗を連れて行くことにした。魁斗からすればいい迷惑だ。
「ザンザの頼みってのもあるし、フォレストさんのご指名でもあるの。文句はフォレストさんに言って」
 魁斗は息を吐く。
 とりあえず、魁斗はカテリーナの出した天界への扉をくぐって、天界へと向かう。
 着いた場所は、前回来た時と同じような一面に緑の景色が広がる森だ。ここは確か『迷いの森』と呼ばれていた気がする。
「さー、行くよ。と言ってもはぐれちゃいけないから、手を繋ごう!」
 カテリーナが魁斗の手を握り、先導するように歩いていく。
 それに連れて、魁斗の足も動くが、握られている手の方に意識が集中してしまう。
 そんなこんなで魁斗の目に見覚えのある小屋が映る。
 フォレストが住んでいる小屋だ。前回来た時にはなかった看板には『forest house』と書かれている。
 カテリーナが扉に手を当て、元気良く扉を開け放つ。
「やっほーい!やあやあ、元気かね!?」
 
 目の前の光景に魁斗とカテリーナが硬直する。
 何故なら、着替え中で、下着もパンツだけしか履いていないフォレストが後ろ向きで、顔だけをこちらに向けている状態で立っていたからだ。

「な……っ!?」
 魁斗はその光景に顔を赤くするが、顔を逸らすという信号が遅れない。
 カテリーナも同じように顔を赤くして、顔を逸らしていない魁斗の腹に蹴りを食らわす。
「カイト君、何ジッと見てるのよ!?」
「ぐほっ!」
 魁斗は腹を押さえてその場に崩れ落ちる。
 一方、ほぼ裸状態を見られたにも関わらず、顔を赤くしていないし、全くと言っていい動揺していないフォレストは、
「そんなに怒らなくても。僕は全然怒ってないんで、むしろ見せてあげてもいいくらいです」
 カテリーナはそんな事を言うフォレストを必死に説得して、急いで服を着せる。
 フォレストが着替え終わった頃には、魁斗も腹の痛みがマシになってきたのか、顔を上げている。
 カテリーナが出て行くと、小屋に魁斗とフォレストだけが取り残される。
 いつまでも立たせるわけにはいかないので、フォレストは、
「どうぞ、座ってください。立ち話も嫌でしょう?」
「あ、ああ……」
 裸を見られたことについて怒ってないようでよかった、と胸を撫で下ろしフォレストと向き合う形で魁斗は椅子に座らせてもらう。

238竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/11/06(日) 17:01:27 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 魁斗が座るなり、フォレストは飲み物を出す準備をしている。僅かに漂う香りからコーヒーだろう。
 魁斗は頬杖をつきながら、フォレストに問いかける。
「なあ、何でお前は俺を指名したんだ?」
 魁斗の質問にフォレストは魁斗の方をチラッと見る。
 飲み物が出来たのか、二人用のコップを持って、席へ戻ってくる。
「別に。ただ、いても気まずくないからです。貴方とはちょこっと話をしたことありますし、そういう点で、僕は貴方のこと信頼してるんです」
 どうぞ、と言ってフォレストはコップを魁斗の前に置く。
 やはり、コーヒーだった。
「砂糖はいりますか?」
「え、いや。このままでいいよ」
 魁斗はそう言うと、一口コーヒーを口に含む。
 フォレストは角砂糖の入った器から、角砂糖を八個程度、コップの中にどばどばと入れていく。
 苦いのが嫌なら飲まなきゃいいのに、と思った魁斗だが、言ったら睨まれそうなので、心の中に留めておく。
「で、俺を呼んだのは?」
「一緒に戦ってもらうためです」
 フォレストはコーヒーを飲みながら答える。
 うぇ、とまだ苦かったらしく僅かな声を漏らす。フォレストは更にコップに角砂糖を二個投入した。
「一緒にったって……今も戦ってるんじゃ?」
「だから、間接的にでなく、直接的にです」
 魁斗の言葉を否定するようにフォレストはそう言い放つ。
「……それって、タッグを組むってことか?」
「分かりやすく言えばそうですね。エリザさん達に頼んだところ、彼女達は彼女達で忙しいみたいなんで」
 ふーん、と魁斗は返事を返す。
 カテリーナも人間界に来てはいるものの、戦う事はしようとしていないし、天界と人間界の情報を繋ぐ中継役のような役割を担っているだけのように思える。
 フォレストは丁度いい甘さになったのか満足げに頷いて、
「ま、元『死を司る人形(デスパペット)』組は情報収集。僕ら無所属組は戦い専門、みてぇな感じですかね」
 確かに、情報の収集は向こうの方が向いているかもしれない。
 だが、彼ら以上に向いている人物が一人、天界にはいる。
 そう、幻の情報屋であるメルティが。
 今は関係のないことだが、今彼女は何をしているのだろう。
「で、俺と一緒に戦うにあたって、『十二星徒(じゅうにせいと)』が何処にいるか、とか目星はついてるのか?」
「勿論です」
 フォレストはコクリと頷く。
「この森の付近にある、山。そこにいます」
「山!?」
 魁斗はフォレストの言葉を聞いて、思わず叫ぶ。
 フォレストはコップの中のコーヒーを飲み干して、
「はい。そうですが。山と言っても頂上にある教会にいるらしいですよ。山のてっぺんなんで、教会自体はほとんど使われてねぇみたいですけど」
 フォレストは足をぱたぱたと動かしながら言った。その行動がとても可愛らしいものに見える。
「……教会に関係ある十二星座ってあんの?」
「さあ?僕はその辺り詳しくないんで良く分かんないんですけど……行ってみれば分かりますよ」
 フォレストは立ち上がって、出かける準備をする。
 『死を司る人形(デスパペット)』との戦いの際はスカートだったのだが、今は短パンである。今から戦いに行くため、わざわざ戦いやすい衣装を選んだのだろうか。
 小さな袋の中に、傷薬を詰め込み、肩に担ぐようにして背負う。
「さあ、早いトコ行って、とっとと片付けちまいましょうよ」
「ああ、そうだな」
 魁斗もフォレストの言葉に頷き、彼女と一緒に小屋を出る。
 魁斗は再びはぐれないように、兄妹のような感じでフォレストと手を繋いで森を歩く。

239ライナー:2011/11/06(日) 17:13:38 HOST:222-151-086-024.jp.fiberbit.net
コメント失礼します、ライナーです^^

何かが動き出しそうな予感ですね……フムフム
ふぉ、フォレストさん。鍵くらい掛けておこうよ……
にしても魁斗君がぞんざいな扱いをされて、ただいま同情真っ最中です(笑)

久々にアドバイスをします。
今回は2つありますが、1つは文章についてです。
全体的に分かりやすい文章に構成しており、僕はこの作品見ながら焦っているんですが、注意点が1つ^^;
分かりにくい文章って奴です。
そいつらは、いつ何時でも文章の中に潜んでおり、推敲という罠をくぐり抜けてくる……と言うことなんですが(笑)

例えば、本作のこの文章。

何故なら、そこにあるのは、椅子に座らされて腕を後ろに回し拘束され、口にはガムテープを貼られて喋ることが出来ない、いつでも尋問の準備オッケーですよと言わんばかりの早乙女瑠璃がいたからだ。

この文章は言ってみれば、区切りを付けながら一息で読めと言っている文書です。
何故かというと、「。」が少ないんですね。
これが少ないと読者が文章の中で何度も読み返しながら混乱してしまいます。僕の知っている中では、ある作品がこのようなことをすると今までのファンまで消えると言うとんでもない代物だったりします^^;
例を挙げた文章を手直しすると、こうなります。

何故なら、そこにあるのは、椅子に座らされて腕を後ろに回し拘束され、口にはガムテープを貼られて喋ることが出来ない早乙女瑠璃。
見るからに、いつでも尋問の準備オッケーですよと言わんばかりの姿であった。

2文に分けるならこんな感じですね。
ですので「。」の使い方を心がけると良いでしょう。だいぶ見やすくなってくるので^^

次は、ストーリーですね。
日常模写がまた消えているような気がします。そのため、バトルシーンになっても同じような読み応えで新鮮さに欠けますね。
思い切って、日常だけのギャグ(読み切り形式的な)ものを作ってみると良いですよ。
それと、バトルシーンその物にも迫力が欠けます。これは今僕も苦戦中なのですが、ピンチの作り方ですね。
ピンチを作るときに効果的なのは、自分の持っている能力を無効化されるなどの時です……とりあえずこれも例を挙げましょう。

主人公が炎の能力を持っていたとしましょう。
その炎は勿論のこと水に弱く、そんな技を使う強敵が出てきました。
戦うことになった主人公は、そんな敵の水をどうにかしなければありません。
それを主人公が努力し、何とかするというのですが、あまり参考になりませんでしたね^^;

用は、自分の攻撃パターンが全て効かなくなった時どうするかです。
竜野さんのピンチの作り方だと、あまり深みが無くまた同じピンチが繰り返されてる場面があるような気がします。

ではでは、長くなりましたがwww

240竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/11/06(日) 17:47:23 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
ライナーさん>

コメントありがとうございます。

魁斗の二度目のラッキースケベです。
未だにレナや沢木とのラッキースケベがないのにね((
最近は何か可愛そうな役回りばっかですねw

その文章ですね。
自分もこれ読みにくいかな、と思ってましたが、たまに本文が長すぎてエラーになってしまうんですよ……。
だから纏めた方が短縮できると思ったのですが……以後気をつけますね。

あー……日常模写については返す言葉がございません。
そうですよね。カテリーナがせっかく出て来たんだから、それを使わねば……。

あ、例えば桐生の相手が炎を使うとかですよね。
……今のところ予定無いな((
出来るだけ増やしてみよう。

ありがとうございます。
久しぶりにためになるアドバイスありがたくいただきますね^^

241竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/11/06(日) 21:47:42 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 魁斗とフォレストは手を繋いで、森の中を歩いていた。
 今日で女子と手を繋ぐのが二回目になった魁斗は、今まで女子とそういうイベントがなかったからか、結構心臓がバクバクと動いている。
 フォレストは顔を赤くしている魁斗を横目で捉えて、
「心臓の音、聞こえてます」
「ええっ!?」
 かなり恥ずかしい事に気が付かれたからか、魁斗は顔をより赤く染めて叫ぶ。
 しかし、フォレストは口元に手を当てて『冗談ですよ』と言う。
 魁斗がオーバーに驚いてしまったために、かなりドキドキしていることがバレてしまった。
 そして、会話が途切れてしまった。
 魁斗とフォレストが話したと言っても、カルラの襲撃があったため、そんなに長話をしたわけではない。自分の無力さが原因で夢が潰(つい)えた、みたいなことを言っていたような気もするが、今する話ではない。
 そこで魁斗はふと思ったことを口にする。
「……なあ、フォレスト」
「僕のことは『フォーちゃん』と呼んで下さい。で、何ですか?」
 フォレストは目線だけを魁斗に向ける。
「お前って何歳?」
 意外な質問だったのか、常に無表情のイメージがあるフォレストの眉が僅かに動いた。
 フォレストは目線を前に向け直し、答える。
「……十五です」
「十五なの!?てっきりもうちょい下かと思ってた……」
 十五歳といえば魁斗より二つした。言われてみればそんな気もするが、聞いてみれば以外だと思う。
 そんなこんなで何とか山に辿り着き、ここからは登山が始まる。
 森を抜けたため、手を繋ぐのを止めた二人だが、魁斗の手にはフォレストの小さい手の温もりが残っていた。
 山をちょっと登り、フォレストが僅かに息を乱し始める。
「キツイなら背負おうか?女子には厳しいだろうし」
「……お願い出来ますか」
 『必要ありません』と言われると思っていたため、意外な返事が帰って来た魁斗はきょとんとする。
 素直なフォレストを背負い、魁斗は歩き始める。
 身長が低いせいか、彼女自身も結構軽かった。それで、内心安心している。
「……密かに『コイツ重たかったらどうしよう』とか思ってました?」
「い、いや!そんなことないって!」
 フォレストの言葉を慌てて否定する。
 若干ジト目のフォレストがやけに怖い。
 ならいいです、と言ってフォレストは抱きつくように腕を魁斗の首の辺りに回す。
 密着した成果、魁斗の背中に柔らかくて小さい物の感触がかなり伝わる。
(……こ、この感触はまさか……!?」
 魁斗は顔を真っ赤にする。
「……変な想像とかしてませんよね」
 フォレストの言葉にドキッとする魁斗。
 例えば、とフォレストが言って、
「『胸が背中に当たってる』……とか―――」
「してない!してない!」
 魁斗は首を横にぶんぶんと振って否定する。
 一方のフォレストは全く信じてないが、これ以上攻めると可愛そうなので止めておいた。
 何て話をしていると、教会へと辿り着いた。
 魁斗はそこでフォレストを下ろして、二人は教会へと入る。
 中はテレビなどでよく見る、並べられた椅子など無く、奥にある窓から光が差し込んでいた。教会内の電気が点いていないため、光が眩しく感じられる。
 そして、その窓の前に立ち、光を背中に受けて立っている人物が一人いる。
 身長は高めだが、何となく女性らしいラインが際立っている。スタイルも良く見えるし、綺麗な金髪が腰の辺りまで伸びている。顔は仮面をしていて良く分からないが、耳にうお座のマークを模したピアスをしている。
「……あれって何の星座のマークだ?」
「多分うお座です」
 星座の知識に疎い魁斗はフォレストに問いかけ、答えを聞いて『教会と関係ないのか』と思う。
 目の前の人物はフッと聞こえるように笑って、
「お気楽な奴らだな。戦っても愉しそうだ」
 魁斗はその言葉を聞いて、二本の刀を構える。
(……アレ?)
 しかし、フォレストは別のことに気を取られていた。
(……この声、聞いたことある……?初めて聞いた声じゃない……)

242竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/11/11(金) 19:44:33 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp

「ねーねー、桐生クン」
 学校で、一時間目が終わった後の休み時間。桐生の隣の席に座っていたカテリーナが桐生に話しかける。
 二人は席が隣なのも関わらず、カテリーナが問題を解けなかった時だけ会話する程度で、クラス内での二人の関係はあまり良いとは言えない。
 妙に甘ったるい声を掛けられた桐生は、溜息をついてカテリーナへと視線を向ける。
「カイト君とフォレストさん。上手くやってると思う?」
「どうだろうね」
 桐生は指で眼鏡の位置を調節しながら言った。
 机の中から次の授業の教科書を取り出しながら言葉を続ける。
「そもそも、何でフォレストさんは切原君を呼んだんだ?こっちの世界に学校が無いって思ってるわけじゃないだろ」
 カテリーナはうーん、と唸って、
「まー、ザン君……じゃねぇや。ザンザが言うにはー」
「呼びやすい方でいいよ。誰か分かるし」
 僅かに躊躇いが見えたカテリーナに、桐生はそう告げる。
 カテリーナは苦笑いを浮かべて、再び話しを続ける。
「ザンザが言うには『切原魁斗は学校っつく面倒なモンがあるから、選ぶ時は考慮しろ』って言ったらしいけど、フォレストさんは『天子でお願いします。一番話しやすいんで』って言ってカイト君をご指名したんだって。ま、そうじゃなけりゃハクアさんしかいないから、選ばせる意味なくなっちゃうしねー」
 ザンザとフォレストの言葉だけ何故か若干真似をした節がある。
 ともあれ、共闘するとなれば一番接しやすい相手が良いのは誰でも分かる。
 桐生も全然話した事がない相手とより、まだ面識がある相手との方がまだまだやれそうな気がする。
「フォレストさんってカイト君のこと好きなのかなー?」
「そんな理由で選んだ訳じゃあるまいし」
「でもでも、カイト君って結構好かれてるよねー。彼に女難の相が見えるよ」
 カテリーナは何故か目を細めて同情の眼差しをしている。
 だが、視線を向けられている桐生からすれば複雑な心境だ。
「レナさんってさ、カイト君のこと好きだと思う?」
「どうだろうね。尊敬以上の感情を持ってそうだけど……今日はまた随分と突っ込んでくるね」
 ふふ、とカテリーナは笑って、
「だってさー、カイト君が他の女の子と一緒にいるんだよ?養育係さん的には!一日中負のオーラ発生中じゃない?」
 そんな馬鹿な、と桐生は鼻で笑う。
 だが、案外カテリーナの推理は合っていてレナは机に顔を突っ伏せていた。

 一方、天界にある山の頂上の教会内で魁斗とフォレストは仮面をした『十二星徒(じゅうにせいと)』と対峙していた。
 魁斗は二本の刀を構えながら、相手に問いかける。
「仮面、取った方がいいぜ」
「フッ。それは対等に戦うためか?」
「それもある」
 魁斗は一度言葉を区切って、
「アンタの強さはイマイチ分からねぇけど、二人を相手にするんだぜ?仮面つけたままじゃ視野も狭まるし」
 魁斗の言葉に不満の声を漏らす。
 だが、それは仮面の女ではなくフォレストだった。
「女性を寄ってたかって二人でやるつもりですか。そんなイジメに僕は参加しませんよ」
 おい、と魁斗はフォレストにツッコミを入れる。
「お前はどっちの味方だよ!?」
「今は彼女です」
 フォレストはいたって真顔だ。
 この表情が彼女の真剣さを引き出していた。
 魁斗はほぼヤケクソ気味に息を吐いた。
「わーったよ、俺一人でやるよ!でも、とりあえず仮面は取れ!何かやりづらい!」
「フッ。しゃーねーな」
 女は仮面に手を掛ける。
 仮面を取る手を止めて、女は二人に話しかける。
「だが良かったよ。少年が相手で。そっちの女の子じゃ……私を倒す事は不可能だからな」
 女が仮面を取り、放り投げる。
 顔立ちはかなり綺麗で、金色の目が彼女の美しさを際立たせている。仮面をしているのが勿体ないくらいだ。
 そう思っていた魁斗だが、彼女の顔を見た瞬間に、フォレストの表情が驚愕に染まる。
「……?どした、フォレスト?」
「……ぅあ……、う、嘘だ……」
 フォレストの言葉は震えている。
 魁斗が彼女を呼んだ時の定番『フォーちゃんと呼んで下さい』のやり取りが出来ないくらい、彼女は驚いていた。
「……あ、貴女は……」
 金髪の女は、フッと笑って、
「久しぶりだな、フォーちゃん」
 ただただ、混乱する魁斗をよそにフォレストにそう告げた。

243竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/11/13(日) 02:52:44 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第六十八閃「揺れる心」

 目の前に素顔を見せた、うお座の『十二星徒(じゅうにせいと)』を見てフォレストは目を大きく見開いたまま固まっていた。
 信じられないものを見るかのような、そんな目で相手を見つめている。
 魁斗は明らかに様子が可笑しいフォレストの肩に手を置いて、問い質す。
「おい、フォレスト。どうしたんだよ」
「……」
 だが、フォレストは答えなかった。
 ただずっと嗚咽のように声を漏らしているだけだ。
 肩に手を置いて、初めて分かったことは彼女が小刻みに震えていることだ。
 彼女の表情も驚愕という他ないが、目には涙を溜めている。『恐怖』ではなく『喜び』の涙だ。
「……おい」
「……知ってましたよね」
 魁斗が再び声をかけた瞬間に、フォレストが口を開く。
 首を傾げている魁斗に、徐々に落ち着いてきたフォレストが説明する。
「……僕の夢です……。僕を拾ってくれた恩人と一緒に、薬草師をするのが夢だって……」
 確かそんな話をしたような気がする。
 『死を司る人形(デスパペット)』を倒すために天界に乗り込み、早々にストリップ巫女(カルラ)の襲撃を受け、助けてもらったお礼を言おうとした時に話してくれた。
 でも、その恩人は今……。
「……言いにくいけど……お前自分で……」
「はい。僕の無力のせいで……でも、信じれますか?」
 フォレストの目から大粒の涙が零れ、頬を伝う。
 涙を拭うことも忘れ、フォレストは言葉を続ける。
「……大好きだったクーラさんが……目の前にいるんですよ……?」

 瞬間。目の前に槍を振るおうと構えているクーラが立ちはだかる。

「ッ!?」
 いきなりのことで、きょとんとしたまま動く事が出来ないフォレスト。
 何とか反応できた魁斗がタックル気味にフォレストを突き飛ばして、クーラの槍の一撃を刀で受け止める。
 ぎりぎり、と金属と金属が擦れ合い、鍔迫り合いの状態になっている。
「……!」
 フォレストの頭が理解まで追いついていない。
 何故こんなことをしているのか。話が全然理解出来ないまま物語の最終回を見たような感覚だ。
「……何で……」
「何で、だって?」
 魁斗に押し返され、後方に跳んだクーラは距離を取って、槍を肩に担ぐ。
「敵だろ、今は。私は『十二星徒(じゅうにせいと)』のうお座。双魚宮を護りし者」
 槍の先を魁斗に向けて、クーラは続ける。
「お前らを討つ、女の名だ」
 魁斗は自身の脚力を利用し、相手が反応できない程速く、懐に潜り込む。
 それに気付いたクーラは素直に賞賛の言葉を述べる。
「へぇ、速いな。で、潜り込んでどうする?」
「言うかよ。アンタがフォレストの恩人だってことは分かった。だから、傷つけずに倒すからせめて抵抗は―――」
「無理だよ」
 刀の峰を相手の腹に叩き込むつもりで動かしていた魁斗の手が止まる。
 そこへ、フォレストの叫びが響く。
「待ってください!その人はクーラさんなんです!攻撃しないでください!!」
 魁斗の戦意が、フォレストのか細い声で一気に失われた。
 完全に止まった魁斗の腹にクーラの槍の柄の先端が食い込み、後方に飛ばされ、壁に激突する。
「……ぐぅ……」
 魁斗は僅かに呻き、身体を起こす。
「そーそー、そーだよな。お前は私を攻撃できないし、攻撃を受けさせようとしない」
 クーラは怪しく笑みを浮かべ、告げる。
「私はフォーちゃんの恩人だから、アイツは私を護ろうとするんだよ」

244竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/11/13(日) 14:32:20 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 少女はずっと一人だった。
 物心ついた時から周りに『ヒト』の姿は無く、見えるのは葉っぱの緑色と樹木の茶色のみ。植物以外のイキモノは大抵寄ってくる事はなかった。
 晴れの日も雨の日も雪の日も曇りの日も。少女はずっと一人で森の中にいた。
 『ヒト』を見る事は無く、身体は徐々に衰弱していき、しまいには倒れこんで起き上がることさえ辛くなった。
 そんなある日のことだった。
 イキモノとは違う足音を聞いた。
 それが『ヒト』の足音だと、気付くまでどれほどの時間を有するのだろう。少女は『ヒト』の足音を初めて聞いた。
「……おい、大丈夫か!?」
 近づいてくる足音は少女を拾い上げた。
 それから何の迷いも無く、少女を抱えて自分の小屋へと向けて走り出したのだ。

「……っ」
 少女は目を覚ます。
 記憶にあるのは金髪の人物が自分を抱えて走ったところまで。
 映る光景は木材の天井。
 身体を起こそうとしても、腕に力が入らず、上手く起こす事が出来ない。
 少女は転がるように身を捻って、自分が寝かされていたベッドから落ちる。
 それから四つん這いになって自分がいた部屋の扉を開ける。
 目の前にいたのは、金髪の女性。
 扉を開けようとしていたためか、勝手に開いた扉にきょとんとしているようだった。
「……目覚ましたか。フッ、良かった。いきなり意識失うから死んだのかと思ってたぜ」
 女性は少女を抱きかかえて、椅子に座らせる。
 椅子の前にはテーブルが置かれており、テーブルの上にはパンがあった。
 しかし、少女にはそれが何だか分からない。
「食えよ。腹減ってるだろ」
「……これは食物なのか……」
 女性はフッと笑って頷く。
 少女の痩せ方が尋常無いため、食器を使わない物を選んだのだ。少女は恐る恐る手を伸ばし、一つ手にとって口に含む。
「美味いか」
 少女はコクリと頷いて、もぐもぐと頬張っていく。
 食べれば食べるほど我慢していたお腹が音を鳴らす。
 その音を初めて聞いたのか、少女は肩をビクッと震わせて辺りをきょろきょろ見回している。
 その光景に女性はただ笑みを浮かべていた。
「……何で、助けたんですか……」
「オイオイ、飯平らげた後にする質問じゃねーだろ」
 女性は呆れ気味に、少女にそう言う。
「……私なんて拾っても……何の得にもならないし……。……一体何が目的で……」
「じゃあお前は助けて欲しくなかったのか」
 少女は目を大きく見開く。
 ハッとして、女性の顔を見た。
「私はお前を助けたいから助けたし、お前の声が聞こえた気がした。目的も目論みも企ても何もねぇ。見返りも必要としてねぇ。ただ、助けたいから助けた」
 少女は申し訳なさそうに俯く。
 そんな少女の頭を女性は軽く撫でて、告げる。
「……一緒に暮らそうぜ。私なら、お前を護ってやれる。それに、よく見たら結構可愛いしな」
 女性は笑みを浮かべて少女に言った。
 女性・クーラと少女・フォレストはこの時出遭った―――。

245ライナー:2011/11/13(日) 15:00:32 HOST:222-151-086-022.jp.fiberbit.net
コメント失礼します、ライナーです^^

何だか、いろんな人の過去が出てきて面白いですね。
今回はフォレストさんですか、楽しみにさせて貰いましょう。

今回も少しアドバイスを。
えーと、キャラについて何ですが、デスパペの奴らが仲間になったところなのですが、またもやメインキャラが増えてきていますね。
これだと以前言ったローテーションを駆使しても、ある程度のキャラクターが空気キャラになりかねません。
この場合どうしたらよいか、残念ですがキャラを自然に消していくしかないんですね^^;
小説では、過去のキャラクターが消えていくのは自然なことなんです。
消えていかないとしても、それは少数精鋭のキャラクターを率いた小説です。
次の敵を倒し、仲間を増やすのは良いです。確かに展開としては面白いです。しかし、それの犠牲となって今までのキャラが消えることも覚えておいて下さい。
なので、幾つかは消えることを覚悟して書いた方が良いと思います(誠に残念ですが)
もう1つ言うと、サブキャラにも限界があるので気を付けて下さい。
ではではwww

246竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/11/13(日) 16:35:40 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
ライナーさん>

コメントありがとうございます。

フォレストの過去については詳しくやる、と宣言していたので、今回書かせてもらいました。

なるべく空気にならないように他のキャラを満遍なく出しているのですが、どうも藤崎だけ話に織り込むことができないんですよ……。あのアイドルもどk((
デスパペのメンバーも五人の隊長が出てこなかったり、小隊隊長にいたっては二人意外でなかったり、キャラを消すのは頑張ってるんですけど……。まだ、し切れてないって感じですかね。
消そうとするキャラほど愛着が出てきてしまうことがあって中々消す事g((
はい、参考にさせてもらいます。

毎回アドバイスありがとうございます。

247竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/11/19(土) 19:23:07 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp

「オラオラァ!!」
 クーラの大声とともに、彼女の手に握られている槍が力強く振り回される。
 その槍の攻撃を、魁斗は自慢の足とレナと出会ってから嫌という程鍛えられた瞬発力でかわし続ける。
 しかし、余裕という程の軽々しさはなく、むしろ紙一重というギリギリのところでかわし続けていた。
 槍を振ってはかわされ、振ってはかわされ。そのつまらない応酬にクーラが痺れを切らしたように舌打ちを打つ。
「オイオイ、いつまでお前は逃げるつもりなんだよ。逃げてばっかじゃ勝ちは掴めやしねぇぞ」
(……んなもん分かってるっつーの……)
 魁斗は心の中でクーラに悪態をつく。
 攻撃しようと思えばいつでも出来る。だが、それは一人の時だけだ。
 今は一人ではなく、後ろにフォレストがいる。
 『攻撃しないでください!!』というフォレストのか細い声が妙に頭にこびりついている。
 クーラは自分が攻撃できないと知りながら、わざと隙を作り、魁斗に攻撃の隙を与えている。
 出来もしない、攻撃の隙を。
「……アンタは、本当にフォレストの師匠なのかよ……!?」
 魁斗はふとそんな言葉を投げかけていた。
 クーラはきょとんとした表情で固まっている。
 だが、やがて笑みを浮かべ、言葉を返す。
「決まってんだろ。フォーちゃんと遭った時も覚えてるし、自分が死んだことだって理解出来てるさ」
「……アンタは、何でこんなことやってるんだ……。『十二星徒(じゅうにせいと)』ってのは、弟子を敵に回さなきゃいけなくなるほど、圧倒的な存在なのかよ」
「いいや、それは違うな」
 フッと笑みを浮かべて、クーラはそう返す。
 彼女は続けてこう言った。
「私は自ら望んで入ったんだ。勿論、フォーちゃんがそっち側だなんて知らなかったし、遭う事もないだろうと思ってたぜ?」
 クーラの表情に嘘は感じれなかった。
 魁斗はチラッと後ろのフォレストを見る。
 彼女は今だ心配そうな表情で、握りこぶしを胸の中心に当てている。
 目は切なく、幼馴染の男子二人が自分を取り合って殴り合っているのを見ているようだった。
 そんな表情をしている女の子に戦わせるわけにはいかない。
 魁斗は心の中でそう誓い、出来もしない攻撃の構えを取る。
「……フォレスト、心配すんな。俺の事はいいから、自分の事だけ考えてろ」
 フォレストは魁斗の言葉に涙が出そうになる。
 自分の弱さで、彼が傷ついている。自責の念に駆られている。

「……クーラさん。何で私は薬を作るのに携わせてくれないんですか」
 フォレストはむすっとした表情で、クーラに訊ねる。
 現在の二人は、晩ご飯を食べている途中で、スープをすくい、口に運ぶ手を止め、クーラは呆れた息を吐く。
「だから、何度も言ってるだろ。まだ無理だって。ちょっとの分量の間違いがとんでもない劇薬を作っちまうことだってあるんだから。それに、私の事は『クーちゃん』って呼べって言ってるだろ」
 クーラはスープをすすって、ホッと一息をつく。
「フォレストはまだ小さいだろ。薬が目に入って失明でもしたら大変だしな」
 その言葉にフォレストはとんでもなく、頬を膨らます。
「私は子どもじゃないです!大人な五歳なんです!」
「充分子どもだ」
 白熱するフォレストの熱を、クーラが一言で冷ます。
 フォレストは落ち着いて、口を尖らせた状態で俯くと、
「……自分の名前で呼ぶのは嫌いだから『フォーちゃん』って呼んでくださいって言ってるじゃないですか」
「嫌だ。私はお前の名前好きだし、それにそう呼んでもらいたいならお前も私を『クーちゃん』と―――」
「嫌です。名前好きなんで」
 鸚鵡(おうむ)返しをされた。
 これ程切ない気持ちになるのか、初めて鸚鵡返しを受けたクーラは冷たい風が通り抜けたような感じがした。
「……名前が嫌いなら、好きなように呼ばせればいい。お前に言わなきゃ良かったな」
 クーラは失策を悔いて、息を吐く。
 してやったと言わんばかりにフォレストは笑みを浮かべている。
 実に楽しそうな笑みを。

248竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/11/20(日) 20:41:34 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第六十九閃「ボクノキヲク」

 ごく平和な日常。
 クーラは一人では決して味わう事の出来ないこの幸せに、目を細めていた。
 嬉しそうにスープを飲み干そうと器を傾けているフォレストにクーラは質問をする。
「なあ、フォレスト」
 フォレストは丁度スープを飲み干し、満足げに息を吐く。
 それから、クーラの方を向いて、話を聞く体勢を作った。
「……もし、の話だ。もし私が、お前の前から消えたらどうする?」
 フォレストはその言葉にきょとんとして、表情を固まらせてしまう。
 訂正するかのように、クーラは『いや』と付け足して、
「死ぬとかじゃないんだ。ここへ出ることになったりしたらってこと。そん時お前は―――」
「考えませんよ」
 クーラの言葉を遮るように、フォレストはそう告げる。
 フォレストは言葉を続けて、
「クーラさんは最強の人です。絶対死なないし、負けないし。それに、たとえ何処へ行こうとも私はずっとついて行きます!」
 『ついて行く』。
 クーラはその言葉に胸を打たれる。
 その様子に気付かないフォレストは、無邪気に自分の意見を並べる。
「私はクーラさんの弟子です!何処へでも行きます。だから、『僕』も!絶対につれてってください!!」
 にこっと微笑んでフォレストはそう告げる。
 フッとクーラは笑みを零す。
 嬉しかったのか。ただ笑えたのか。泣きそうになって誤魔化すために笑ったのか。それは覚えてない。
 クーラはフォレストの頭に手を乗せて、耳元で囁くような言葉で告げる。
「―――ありがとう」

 その時は、そんな都合の良い言葉を並べれた。
 あの時までは、クーラが最強だと思っていた。
 絶対に負けるはずが無いと信じていた。
 何処までもついて行くと決めていた。
 だが、現実は無残にも彼女の目の前で幻想を打ち砕いた。
 最強だと思っていた人は血塗れで、負けないと思っていた人は床に伏し、何処までもついて行くと言ったのについて行けないところに行ってしまった。
 フォレストは師を抱きかかえる。
 彼女の最期の言葉を、フォレストは一言一句逃さず聞いていた。

 その言葉を今、思い出す。
 目の前には大好きな師と、彼女にいいようにやられている仲間の少年。
 彼女がとるべき行動は一つ。
 自分の手でクーラを討つ。それだけだった。
「……はぁ……はぁ……」
 魁斗は荒々しく息を吐きながら、それでも握っている刀だけは手放さない。
 その様子を息を吐いて、呆れ気味にクーラは見つめている。
「いい加減諦めろ。お前じゃ俺には勝てないってことだ」
「……うるせぇよ……!お前は俺が倒す!何も心配すんなって、フォレストに言ったからな……!」
「だったら」
 クーラが突っ込み、槍を振りかぶる。
 かわそうとする魁斗だが、足が上手く動かず、かわすのに完全に遅れた。
「ここで死ね」
 そこへ、矢を構えたフォレストが二人の間に割って入る。
「「ッ!?」」
 二人は大き目を見開いて、驚く。
 僅かにクーラの攻撃の手が躊躇う。
「……フォーちゃん……そこをどいて……!」
 しかし、フォレストは師の言葉を聞かない。
 目の前のよりも、胸に有る師の方を信じた。
「『私は、お前に何も出来なかった。それは不甲斐ないと思っている。だが、私のお陰でお前が前を歩めるなら、私はそれでいいと思うことが出来る。お前は最期まで私を『クーちゃん』と呼ばなかったな。だから、私もお前を『フォーちゃん』と呼ばない』」
 フォレストは大好きな師を思い出し、涙を流す。
 涙を溜めた、覚悟の瞳でクーラを見つめ、攻撃を放つ。
「……クーラさん、は……何があっても、僕を『フォーちゃん』と呼ばない!!僕の名前を、大好きだと言ってくれたから!!」
 少女の鋭い、覚悟と想いが籠った矢が、偽物の師を貫く。

249ライナー:2011/11/20(日) 22:32:35 HOST:222-151-086-004.jp.fiberbit.net
コメント失礼します、ライナーです^^

フォレストさん、本当は、本当は……フォーちゃんじゃなくても良いと思っているんじゃないですか?(オイッ)
いや、にしても何でなんだクーラさん。
クーラって聞くとドラゴンボールのフリーザの兄貴を思い出しまs((殴
これから2人の間に何があるか楽しみです!
続きをお待ちしております!

ではではwww

250竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/11/21(月) 00:33:56 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
ライナーさん>

コメントありがとうございます。

いや、フォーちゃんと呼んでほしいんです。
自分の名前は嫌いだけど、クーラが好きだと言ってくれたから……みたいな感じですね。
え、そうなんですか?
ドラゴンボールはあんまり見て無いから知らなかったです。にしてもフリーザの兄か……((

はい、続きも気合入れて書きますね!

251竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/11/25(金) 19:51:27 HOST:p6105-ipbfp4104osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 矢で貫かれ、後ろへと倒れるクーラの身体。
 彼女の表情は自分がやられた、というよりフォレストが自分を攻撃した、ということに驚いているような顔だ。
「……ちく、しょう……!」
 その言葉とともに、クーラの目が閉じられる。
 すると、彼女の身体からするり、と小魚のような物が飛び出す。
『ちくしょぉー!!』
 その魚はそのまま上へ上へ上って行く。
 空中を泳ぐ魚。人間界では決して見れない光景だ。さすがは天界、といったところか。
「アレは何だ?」
「……天界に生息する人語を話す魚です。人に憑く事があるんだとか。名前は『ハート』。恐らく、アイツが身体に憑いてクーラさんを操っていた……」
「そうか」
 魁斗はそれだけ聞くと、頷く。
 それから、上へ逃げて行く『ハート』を睨みつけて、
「後は任せろ」
「……え、任せろって……」
 フォレストが疑問を投げかける前に、魁斗は行動に移る。
 魁斗が取った行動は、脚に思い切り力を込め、『ハート』に向かって跳んだ。
 天子の驚異的な脚力を使った跳躍力は、やはりすぐに『ハート』に追いついた。
『魚(ぎょ)エェ!?』
「よぉ」
 魁斗は不適な笑みを浮かべて、刀を振りかぶっている。
「さーて、どうなるかは、大体予想ついてるよなァ?」
『待て!待ってくれ……!』
「断る」
 魁斗が巨大な光を纏った刀を振るう。
 勿論、『ハート』は跡形も無く消滅する。
 魁斗は着地すると、仰向けに倒れていたクーラを抱きかかえているフォレストに視線を向ける。
「……」
 クーラはゆっくりと目を開けて、目の前に映る泣き出しそうなフォレストの顔を見つめ、フッと笑みを零す。
「……なんつー顔してんだよ……その顔、二度も向けるんじゃねぇ……」
 クーラの声はドアを開けた時の音よりも小さく、ふとしたことで消えてしまいそうだった。
 その声をフォレストは聞き逃さない。
「……いいじゃないですか、泣いたって……女の子ですよ……?」
 クーラは『そうだな』と呟く。
 それから彼女の視線は、魁斗へと向けられる。
「……良かったよ、フォレストにも君みたいな友達がいて……師匠としては、一安心だな……」
「友達っつーか、戦友?……それでも友達か」
 フッとクーラは笑みを浮かべる。
「……私の首に、うお座の守護の証がある……それを取っていけ。どーせ、私にはもういらないしな……」
 フォレストは言われたとおりに、クーラの首に掛けられていた『守護の証』を取る。
「……少年、フォレストの事、頼んだぜ……」
「……言われなくても。仲間だからな」
 魁斗はフォレストの頭に手を乗せる。
「頼まれた!」
 クーラは満足そうな笑みを浮かべ、視線を再びフォレストに向ける。
 フォレストは俯きながら、涙を拭って、ちょっとしたことでまた泣きそうな顔を上げる。
「……もう泣きませんっ!」
「……次泣いたら、デコピンな……」
 クーラはいつもやるようなやり取りをした後、スッと目を閉じ、呼吸するたび浮き沈みする腹の動きも止まる。
 彼女の閉じた目は二度と開かれる事はなかった。
 クーラはフォレストの膝の上で、静かに眠る。

252ライナー:2011/11/26(土) 15:52:06 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
コメント失礼します、ライナーです^^

ま、まさかの魚が取り憑いていただって!
にしても、魚本体が弱くて良かったですw

って……クーラさん……な、何でなんだー!!(泣)
これからは、フォーちゃんとと呼ばせて頂きます。フォーちゃんガンバw

続きを楽しみにしております、ではではwww

253竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/11/26(土) 17:05:56 HOST:p6105-ipbfp4104osakakita.osaka.ocn.ne.jp
ライナーさん>

はい、よくありますよね。
本体は弱いっていう展開。しかもクーラさんの剣(つるぎ)の名前出そうと思ってたのに出してないし((

おお、それはフォレストも喜ぶと思いますよ。
出来れば、クーラもクーちゃんと呼んでやってくださi((

はい、頑張りますw

254竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/12/03(土) 00:47:03 HOST:p6105-ipbfp4104osakakita.osaka.ocn.ne.jp

「……え、僕が持ってていいんですか?うお座の守護の証」
 フォレストは目の前の魁斗を見上げそう言う。
 クーラ戦の翌日、早々に『用事が済んだら戻ってね』という連絡をカテリーナからもらい、うお座の守護の証も手に入れたことだし、人間界に帰ることになる。
 今はうお座の守護の証を、フォレストが持つか、魁斗が持つかの相談だ。
「僕が持ってても、向こうに行くわけじゃあるまいし。貴方が持ってた方がいいんじゃ?」
「いや、お前が持っててやれよ」
 うお座の『十二星徒(じゅうにせいと)』はクーラだった。
 魁斗は、クーラも自分よりフォレストが持っている方が喜ぶ。とそんな気がしたのだ。
 散々渋っていたが、フォレストはうお座の守護の証をきゅっと握って、胸に寄せる。
「……分かりました。じゃあこれは僕が……」
 フォレストは少し俯いて、そう言う。
 それから、別れの言葉を魁斗に掛ける。
「今回はわざわざすみませんでした。向こうから赴いてくれて、ロクなことも出来ず……。本当に、貴方には迷惑ばっか掛けてますね」
「んな事ねーって。ストリップ巫女の時はこっちも迷惑掛けたし……お互い様だ」
 魁斗の言う『ストリップ巫女』とは元『死を司る人形(デスパペット)』のカルラだ。
 実際に彼女が脱いで、そのあだ名がついたわけではないが、フォレストと戦い、彼女が結果的に素っ裸にされたため、そのあだ名が定着した。
「……そうですか……そう言ってくれると嬉しいです」
 フォレストは魁斗を見上げて、笑みを零す。
 そして、一歩前へ踏み出し、魁斗の胸へ両手を当てる。それから、背が低い彼女は背伸びをして、目を閉じ、唇を魁斗の頬へと付ける。
「ッ!!!???」
 魁斗は突然の事に顔を真っ赤にする。
 耳まで真っ赤にした彼は、思い切り動揺して、口を離したフォレストを前に何も言えない。
 一方で、頬を微かに赤く染めるフォレストは、少し照れた様子で、
「……僕も一応女の子なので……あんま優しくすると、こうなりますよ……?」
 魁斗は何も言えない。
 それを汲み取ったのか、そんな魁斗をよそにフォレストは人間界への扉を開く。
「お世話になりました。これからも、どうぞ宜しくです」
「……あ、ああ……」
 魁斗の顔はまだ赤い。
 魁斗はいそいそと扉をくぐり、、扉の先に姿を消した。
 扉が閉じ、巨大な扉は姿を消す。
 フォレストはふぅ、と息を吐いて、
「……出てきてくださいよ。わざと、一人になったんですし」
 フォレストの言葉を受け、スッと森の茂みから一人の人影が姿を現す。
 目元以外を露出させておらず、身体全体を漆黒の衣装に包んだ、いかにも怪しい雰囲気の男だ。
 そんな相手の様子を確認し、フォレストは腕を組む。
「で、何の用ですか?うお座の守護の証ですか?それとも……」
「貴様の命だ」

 瞬間、男の二本の刀がフォレストの首に左右から襲い掛かった。

255月峰 夜凪 ◆XkPVI3useA:2011/12/15(木) 16:02:09 HOST:softbank221085012009.bbtec.net
ここでは初めてのコメントですねノ
というか、コメントが遅れてしまい申し訳ないです;

とても楽しく読ませていただきました!
戦闘描写も相変わらず上手くて、とにかく尊敬です←
キャラはみんな素敵なのですが、特に桐生くんとフォーちゃんがお気に入りです^^
『死を司る人形(デスパペット)編』を読んでいた時は「桐生くんはカッコよすぎる!!」だったのですが、今では「フォーちゃんかわいいよフォーちゃん」も追加されましt((蹴

さて、フォーちゃんに敵が来たわけですが、圧勝するフォーちゃんも見たいけど、ピンチから逆転するフォーちゃんも見たいという、ちょっと欲張りな事を考えていたり((
このままではフォーちゃんの事で埋め尽くされてしまいそうd((
それはさて置き、続き楽しみにしています! これからも頑張ってください^^ノ

256竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/12/16(金) 18:25:45 HOST:p6105-ipbfp4104osakakita.osaka.ocn.ne.jp
月峰 夜凪さん>

コメントありがとうございます^^

楽しく読んでいただけるなんて、とても嬉しいです。
戦闘描写にはそれなりに力を入れているので、評価してくださってありがとうございます!
わーお、まさかの桐生とフォーちゃん推しですか!
こう考えると主人公が割と不人気気味でs((
桐生とスノウの戦いに力入れ過ぎたなー、とか思っているのですが、今ではそれもいい方向に転がっているようで((
フォーちゃんは僕もお気に入りなので、出てくる時は愛を込めて書いております^^

敵来ましたねー。
だいぶ他人事のような調子で言ってますが……。まあ、ここからはあんまフォーちゃん活躍しなi((
その代わりに同じロリ要員のメルティが出るかな((
はい、頑張らせていただきます。
これからもお互い頑張りましょー^^

257竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/12/17(土) 09:46:23 HOST:p6105-ipbfp4104osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第七十閃「襲い来る雷撃」

 魁斗が天界から帰ってくる日。
 桐生は学校へ向かう朝から機嫌が悪かった。
 理由は一つだけだ。
 朝携帯電話を開くと、メールが届いていた。カテリーナからのものだが、彼女がこっちの世界に来てからは、珍しくもない。
 彼が機嫌を悪くしたのは、彼女のメールの内容だ。
『今日私ズル休みしたいから。適当な理由つけて休みだって事伝えといて!なーに、桐生君頭良いから朝飯前でしょ』
 一瞬、桐生は『本気で殴ってやろうか、こいつ』と思った程だ。
 そんなこんなで、今は機嫌がひどく悪い。
 今ならすぐに中学生の喧嘩っ早い桐生仙一に戻れる気がする。
 そう思っていた彼に、二人の少女がぶつかりそうになる。
「おっと!」
「うわっ!」
 その少女は桐生の胸くらいの身長だ。二人の身長はほぼ変わらない。
 容姿は、肩くらいのショートカットの少女と、長さは肩くらいなのだが、左側の髪を一まとめにくくっている少女。二人の顔つきはよく似ていて、双子というやつだろう、と桐生は考える。
 自分の不注意もあったせいで、桐生は相手の少女に声をかける。
「ごめん。考え事をしてて……。怪我はないかい?」
「あ、はい!ぜんぜん大丈夫ですよ!」
「こちらこそ、しっかり前を見てなくて。申し訳ありませんでした」
 二人の少女はぺこっと頭を下げる。
 彼女達も通学中なのか、セーラー服を着ていた。しかも、老人達が見たらあまり快く思わないであろう何かをかたどったおそろいのピアスを、二人の少女はつけていた。
 桐生がその形に見覚えがあったが、
「では、私達はこれで!」
 ショートカットの方の子が、そう告げて去っていく。
 桐生も大して考えないように、振り返らずに、足を学校へと運ぶ。
 すると、後ろから恐ろしいほど、無垢で。純粋で。無邪気な殺気が襲い掛かる。
 桐生は剣(つるぎ)を出すことも忘れ、振り返る。
 襲い掛かったのはさっきの左側の髪をまとめていた、さっきの少女だ。
 そこで、桐生は思い出す。

 彼女達のつけていたピアスが、『ふたご座』のマークをかたどったものだと。

「あっれー?」
 藤崎は携帯電話に耳を当てて、疑問の声を浮かべる。
 彼女が電話をしていたのは桐生だ。
 普通ならすぐ出てくれるはずだが、最近会ってないし、という可愛らしい理由で、事務所に向かう車内で電話をかけていた。
 だが、受話器から聞こえてくる音はコール音ばかり。
 藤崎も諦めて、携帯電話を閉じ、ポケットにしまう。
 むっすー、と明らかに機嫌を悪くする藤崎の顔を、運転手の二十代の青年は見逃さなかった。
「……不機嫌だね、恋音ちゃん。彼氏にでもフラれた?」
 瞬間、藤崎は『ぶっ!?』と噴出してごほごほ、とむせる。
「ち、ちち違いますっ!桐生君と私はそういう関係じゃなくて、ただの友達です!恋愛ネタでからかうのやめてくださいよ!」
「ハハハ。これは失敬」
 藤崎は運転手と友達のような感覚で話す。
 運転手の斉藤春一(さいとう はるいち)は藤崎が芸能界デビューしてきた時から、ずっと彼女を支えてきた、藤崎にとって良いお兄さんのような人だ。
「……で、その桐生君。だっけ?恋音ちゃんは、彼のこと、結構信頼してるんだ」
「え、あ……はい。いつもなら、すぐ電話に出てくれるんですけど……」
 斉藤の目が僅かに細くなる。
 それから、彼は口を切った。
「……まさか、女が出来たとか―――」
「だからそういうネタでからかうのはやめてくださいっ!!」
 車内に藤崎の叫びが反響する。

258ライナー:2011/12/17(土) 10:19:15 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
コメント失礼します、ライナーです^^

おお、いよいよ双子座登場ですか。双子座だけあってホントに双子が担当している!
ってか、桐生どうなる!? 相手は2人いますが、是非、勝って欲しいものです。
双子の剣の能力も気になりますね……

続きも楽しみにしております。ではではwww

259竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/12/17(土) 10:25:56 HOST:p6105-ipbfp4104osakakita.osaka.ocn.ne.jp
ライナーさん>

ふたご座は『十二星徒編』思いついた時から「よし、双子にしよう!」と決めてました。
あと、桐生と戦わせるというのもw
桐生君は強いので、多分大丈夫です。状況しだいで、魁斗より強いはず((
双子の剣(つるぎ)の能力は……明かせるかなぁ?
そこはちょっと考えてますね^^;

しかも恋音が桐生にデレ始めてる件w
斉藤さんもきっと大変です……。

260竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/12/17(土) 22:36:59 HOST:p6105-ipbfp4104osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 ふたご座のマークをかたどったピアスをつけている中学生、双葉結花(ふたば ゆいか)と妹の双葉解花(ふたば ほどか)は街中を手を繋いで歩いていた。
 二人ともセーラーの制服を着込んだままなので、昼過ぎの街中で彼女達はかなり目立っている。
 街の人の視線をいちいち気にする解花に、結花は面倒そうな口調で告げる。
「……解花。いちいち気にしないの。死ぬほど面倒だから」
「だって、結花姉。ちらちら見てくるんだもん。私は結花姉を他の奴に見られたくないの!」
 その言葉を聞いた結花は、無表情な表情を一つも変えずに、解花を頭を撫でてやる。
 撫でられた解花は『うにゃー』と幸せそうな声を出して、結花の腕にしがみ付くようにくっつく。
「ねーねー、桐生だっけ?あいつ、死んだと思う?」
「……どうだろうね」
 二人の会話は、先ほど仕留めた相手の話へと変わっていく。
「死ぬほど痛めつけて、死ぬほどボコって、河川敷の鉄橋の下に置いてきたから。動くのはしばらく無理だろうね」
 その言葉を聞いた解花はにっこりと笑みを浮かべる。
 嬉しそうなのは表情だけではない。声までも嬉しいのが伝わり、彼女は楽しそうに話し出す。
「だねー。これで私達もリーダーに褒められるねー」
「……まあ私達、リーダーが誰だか死ぬほど知らないけど」

 藤崎は自分が出る歌番組の楽屋で、リラックスしていた。
 彼女は収録前に必ずすることがある。
 一つは、楽屋でリラックスすること。二つは、友達の写真を見ることだ。
 何でも、自分の自己暗示かもしれないが、友達の顔を見れば安心するらしい。
 藤崎は携帯電話のフォルダに入っている、魁斗達の写真を見る。
 すると、急に着信が入る。
「ッ!!!???」
 大きく肩をビクッと動かして、椅子から転びそうになる。
 表示された名前は『桐生仙一』。
 藤崎は慌てて、電話に出る。
「ひゃ、ひゃい!?ふ、藤崎ですですけども!?」
 かなりおかしな日本語になってしまった。
 いきなり電話がかかってきたことに驚いて、かなりテンパっているらしい。
 電話の向こうの声は、そんな様子に気づかないのか、こう返してきた。
『……ああ、元気そうで良かった……。そっちは、何とも……ないようだね』
 藤崎は電話越しの声に違和感を感じる。
 どこか力を振り絞るように聞こえる。
「……桐生君?大丈夫?」
『……僕は何ともないよ……。少し、食らったけど……向こうの詰めが甘くて助かった……』
 藤崎は不安な表情を隠せずにいる。
『……携帯を見てみたら、着信が入ってたから……。手遅れじゃないなら、用件を聞くけど……』
「えぇっ!?あ、いや……。今日仕事でさ、最近会えてないから……ちょっとでも話してリラックスしたくて……」
 受話器から桐生のフッという笑いが聞こえる。
『そうか……。ならいいけど……かえって不安を煽るような結果になってごめんね……』
「ううん、いいの。……本当に大丈夫?」
 大丈夫だよ、と桐生は返す。
 それから立ち上がるような力んだ声が聞こえた。
『……仕事、頑張ってね……。応援してるよ』
「うん。わざわざありがとう。じゃね」
 藤崎は安心したような調子で電話を切る。
 その様子を見た、斉藤は悪戯のように呟く。
「彼氏、ですか?」
「だ、だから違いますって!!」
 藤崎は慌てて否定する。
 だが、他の人が見れば今の会話の内容は、カップルみたいだった。

 桐生は、河川敷の鉄橋の下で、刀を杖代わりに地面に突き刺し、身体を支えていた。
 僅かに息を乱しているが、今の彼にゆっくり休む暇などない。
 彼は指で眼鏡を上げて、軽く深呼吸をする。
「……さて、年下の女の子へ。お仕置きしにいくか」
 桐生はよろよろとしながら、中々おぼつかない足で歩き出す。
「女の子を苛める損な役回りは、僕の仕事だ」

261竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/12/18(日) 17:40:35 HOST:p6105-ipbfp4104osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 日も落ちてきた夕方、双葉結花と解花の二人は河川敷を歩いていた。
 この河川敷の鉄橋の下に、二人は桐生仙一を置いてきたのだ。
 今彼はどうしているのか、そう考えて生きていたなら殺すし、死んでいたらそのまま放って置く。どちらにしても、彼の運命は決まっていた。
 二人は死んでいるだろう、と意見を一致させ、鉄橋の下へと足を運ぶ。
 だが、そこには人一人どころか、何も無かった。
 血痕も、誰かがいたであろう痕跡も、何一つ残っていない。
「……?」
「あれ!?ここにいた、桐生仙一は?何で?何で何も無いの!?」
「落ち着いて、解花」
 慌てる解花に、結花は優しく語り掛ける。
 自分たちが置いた場所に間違いないはずだ。
 反対側かもしれないが、反対側にも赤いもの、つまり血痕は見えないし、桐生仙一らしき人影も見当たらない。
 すると、結花の携帯電話がポケットの中で振動する。
 誰かからのメールを受信したようだ。
 結花は冷静に携帯電話を開いて、メールの内容を確認する。
 メールの送り主は『K.S』と表記されていた。
 『十二星徒(じゅうにせいと)』のリーダーだ。
 結花は届いたメールの文面を口にする。
「……『貴女達に伝え忘れた桐生仙一の情報について。彼は元『死を司る人形(デスパペット)』の隊長である、スノウに修行をつけてもらっていた。当時の彼は、今と比べ物にならないくらい、鋭く尖っていて、強く輝いていて、引き際も往生際も諦めも人相も、全て超がつくほど悪い人物だった』……?」

「待ってたよ」 
 
 メールを読み終わると、言葉とともに、結花と解花の二人は背筋に何か寒いものを感じる。
 氷じゃない。水でもない。殺気に似た、身の毛もよだつような、気配だ。
「「……ッ!?」」
 二人は急いで振り返る。
 彼女たちより十メートル程離れたところに、一人の人影が立っていた。
 水色の髪に、細めの身体つきの、眼鏡が似合いそうな少年。
 そう、桐生仙一だ。
 彼は顔に、手当てしたような形跡があるが、目は鋭くしっかりと二人を捉えていた。
「……!」
 結花と解花の二人は言葉を失う。
 だが、相手は手負いだ。
 二人で一斉にかかれば、楽に倒せるはず。
 結花は指輪になっている剣(つるぎ)を発動させる。
 双剣の片方を、解花に渡す。
 二人の剣(つるぎ)『双雷閃(そうらいせん)』は、攻防一体の刀だ。
 現在、結花が持っている方が『攻』の刀、解花の方が『防』の刀だ。
 二人は絶妙なコンビネーションで、桐生を追い詰め倒した、というわけだ。
 二人は刀を構え、左右逆に走り出し、桐生を挟撃する。
 『防』の刀でも、攻撃は出来るのだ。
「お前はもっかい、結花姉と私にやられちゃえ!」
「……復活とか、死ぬほどウザイし」
 二人の攻撃を待ち構え、桐生は刀を地面に突き刺す。
 たったそれだけだ。

 だが、結花と解花の二人の動きを縫い止めるように、肌を傷つけないように服だけを貫くように、氷の氷柱が地面から生える。

 桐生は、身動きが取れない二人に、告げる。
「……同じ相手だと思うな。今の桐生仙一は、君らの知ってる桐生仙一じゃない」

262ライナー:2011/12/18(日) 17:55:21 HOST:222-151-086-008.jp.fiberbit.net
コメント失礼します、ライナーです^^

ついに桐生君のバトルスタートだ!
桐生ファンとして、無傷を望m((殴
攻と防に分かれているとは、というかそれ以前に2対1なんてひきょーだぞ! 双子め!(実は自分は双子座)
いや、桐生君なら強いから2人なんて余裕だ! と思います。

ではではwww 続きを楽しみしております。

263竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/12/18(日) 19:55:55 HOST:p6105-ipbfp4104osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 桐生は上から落ちてくる何か光る物を手でキャッチする。
 落ちてきたものは二つ。
 どちらも歪な形の物がくっついたネックレスだ。桐生はその二つのマークをくっつけてみる。
 ふたご座のマークだ。
 桐生は下から氷柱を出した際に、二人のネックレスを上に弾いていた。『守護の証』が手に入れば、桐生としても双子に用はない。
「……じゃあな。時間が経てば、氷も消えるさ」
「……待て……ッ!!」
 歯噛みしているような振り絞る声。
 後ろで、黄色い光が瞬く。
 桐生が振り返ると、双葉結花の方が、電撃を放ち氷を砕いて、動けない状態から脱出した。
 だが、氷を砕くために電撃を流したのと、氷柱で衣服を貫かれたのとあって、彼女の服はあちこちが破けていた。横腹や太もも、左肩。見られて困るようなところは大丈夫なようだ。
 結花はかなり鋭い目つきで、ギロっと桐生を睨みつける。
「……まだやる気か」
「……諦めるか。私はお前を、死ぬほど叩き潰したいんだ……!そして、死ぬほど後悔させてやるッ!」
 桐生は小さく息を吐き、断言した。
「お前には無理だ。今ので分かったろう?お前と俺とじゃ差が開きすぎている」
 桐生の言葉に、すぐさま結花は言葉を返した。
「そ、そんな事あるもんか!私達は、お前に一回勝った!お前に死ぬほど電撃を浴びせた!だから、もう一回勝つ事だって死ぬほど楽な―――」
「ああ、不意打ちだったらな」
 桐生の言葉に、勇んでいた結花の言葉は詰まる。
 解花は姉に加勢すべく、氷から開放されようともがいている。
「……、じゃあ、じゃあせめて、『守護の証』を返し、解花を開放しろ」
「……じゃあ誓え。二度と俺達の仲間を攻撃するな」
 桐生の言葉に、結花は小さく頷いた。
 それを見て、桐生は解花を囲っていた氷柱を砕き、持っていた『守護の証』を空高く上へと投げる。
「……ッ!」
 結花と解花の視線は上へと集中される。
 二つを合わせた『守護の証』は空中を舞いながらも、形を保ったままだ。
 上へと意識が集中する二人に衝撃が走る。
 目に見えない、心に走ったものではなく、彼女達の身体に走った。
 下から出てきた氷の棒に、二人は強く顎を突かれる。
「……ッ!?」
 二人は強い衝撃に、そのまま後ろへと倒れこむ。
 落ちてくる『守護の証』の首を通す部分に、桐生は刀身を通す。
「……お、お前……!」
 結花が振り絞るような声で、倒れながら桐生を見る。
 桐生は刀身に通した『守護の証』をポケットにしまい、
「……言ったはずだ。『今の桐生仙一は、君らの知っている桐生仙一じゃない』ってな」
 つまり、と桐生は一度言葉を区切って、告げた。
「卑怯な手も使うさ」
 桐生はその場を去っていく。
 騙された結花は歯を食いしばり、強く地面を叩く。
 涙さえも、悔しみの言葉も、何も出なかった。

「お疲れ様」
 桐生仙一に一人の女性が話しをかける。
 桐生がそちらへ振り返ると、ハクアが立っていた。
 どうやら戦いを全て見ていたらしく、戦っているのが桐生だから手を出さないでいたらしい。
「……見ていたんですか。加勢してくれても良かったのに」
 そこでハクアは見た。
 桐生仙一が、いつもの彼に戻るのを。
「やっぱアレは演技だったので。わざと悪役ぶっちゃって、下手っぴよ?」
「……勘弁してくださいよ。僕にはアレが限界なんですから」
 ふふ、とハクアは笑みを浮かべる。
「……手当て、ありがとうございました。では」
 桐生はひらっと手を振って、帰っていく。
 ハクアはその桐生の後姿を見ながら、ポツリと呟いた。
「……なーんか、もうちょっとカイト君みたく表情を表に出していいと思うんだけどなぁ」

 一方、天界でも一つの戦いが終わりを迎えようとしていた。
 突如現れた双剣を使う男と、フォレストとの戦いだ。
 だが、結果は同じとは限らない。
「……はあ……はあ……」
 二人の人影がある。
 一人は怪我を負い、肩膝をつき、息を乱している、少女。
 もう一人は、それをつまらなそうに見下ろしている、男性だ。
 そう、天界の方では天子側ではなく、『十二星徒(じゅうにせいと)』側が勝利しようとしていた。
「……案外つまらんな。貴様」
 男の言葉に、フォレストは悔しそうな表情で、相手を睨む。

264竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/12/18(日) 19:59:50 HOST:p6105-ipbfp4104osakakita.osaka.ocn.ne.jp
ライナーさん>

コメントありがとうございます!

桐生君は女の子と戦うのが苦手な人です。
スノウの時はそれを感じれなかったけど、スノウさんは別です。あの人は普通じゃないからです。
それがふたご座なんです。
あの子達はどっちかが欠けたらどうにもなんない、面倒な奴らです。しかも両方シスコンです((
意外と桐生君は余裕ありますからね。
ハクアさんや、エリザに次いで、余裕ありますよ(多分)。

265竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/12/22(木) 21:58:00 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第七十一閃「孤立無援」

 自分を見下ろす、二本の刀を持つ男を、膝をつき、傷を負っているフォレストは見上げるような形で、相手を睨む。
 現在、フォレストの武器である『銀嶺光矢(ぎんれいこうや)』は手元にない。
 彼女の武器である弓は、後方に転がされてるも同然と言った様な形で、置かれている。
 正確に言えば『置かれている』ではなく、『弾き飛ばされた』が正しい。
 相手の猛攻を耐えるために、弓で相手の攻撃を防いでいたフォレストだが、やはり十五歳の少女の腕力が耐えられるものではなkったらしく、簡単に弾き飛ばされてしまった。
 つまり、手元に武器がないと言う事は今のフォレストに戦う術がない、ということだ。
「……」
 フォレストは、相手に気づかれるか気づかないかくらいの微妙な動きで、後方へと振り返る。
 移るのは弾き飛ばされた自分の頼もしい武器。
 勿論、念じても拝み倒しても武器は、自分が取りに行かない限り、自分の元に戻らないだろう。
 彼女は懐に手を突っ込み、ごそごそと何かを取り出そうとしている。
 それを、男は心底つまらなそうな表情で見下ろしている。
「……何をしている、貴様。まさか、ここまできてまだ無駄な足掻きを行おうとしているのか」
 フッと、フォレストは不適な笑みを見せた。
 余裕とも取れるほどの、不適な笑みを。
「無駄かどうかは、見てから決めてくださいよ」
 フォレストは手を引き抜く。彼女の小さな手には、黄色い玉が掴まれていた。
 フォレストは、その玉についてあるピンを口で引き抜くと、地面に落とすように、パッと手を離す。
「……ッ!?まさか、手榴……!」
 男の言葉はそこで止まった。
 玉が落ちると、起きたのは爆発。ではなく、眩いほどの光だった。
 フォレストが使用したのは、閃光弾だ。
 こんなこともあろうかと。
 ザンザとクリスタが訪れた際に、武器を数個受け取っていたのだ。
 フォレストは弾が光ると同時に、後ろへ駆け出し自身を弓を掴み取る。
 掴み取った瞬間だった。
 気を緩めていた彼女の首の左右に、後ろから鋭い刀の刃が向けられる。
「……、後ろを向いて、どうする気だ、貴様。作戦は良かったが、詰めが甘いな」
 フォレストの動きが、弓を掴んだままで止まる。
 振り返って、自身の魔力で矢を生み出し、矢を引いて放つより先に、相手の刀が自分の首を切り落とす方が早いのは明確だ。
 だからこそ、下手に動けないのだ。
「……」
 フォレストは相手に気づかれないように、歯を食いしばった。
 男は当然それに気づいていない。
「……終わりだ、貴様」
 男が左右の歯をフォレストの首に食い込ませようとした瞬間だった。

 ドッと、強烈な音とともに、男の横っ腹に光の球体がぶつかり、男の身体が横向きにくの字に折れ曲がる。

「……何……?」
 男は状況が理解出来ないままに、横へ飛ばされ、木にぶつかり、そのまま木をへし折ってしまった。
 状況が分からないフォレストが目を点にして、吹っ飛んだ相手を見つめていると、後方から声が飛んでくる。
「まったく、その子は死なせたくないのよ。何故かって?薬の補給路が断たれるじゃない」
 後方からの声は、幼い声だった。
 フォレストよりも幼く、それでいてどこか甘ったるい。だが逆に、その声を聞いたら、自然にも悪寒が走るような、寒気も感じさせる。
 だが、フォレストは寒気を感じることはない。
 何故なら、この声の持ち主を知っているからだ。信頼できる相手と分かっているからだ。仲間だと説明しなくてもいいからだ。
 フォレストは、相手の名前を口にしながら、振り返る。
「……エリザさん……!」
 後方にいたのは、金髪の髪をツインテールのように分けている幼女と、見た目十八歳程度の、黒髪をポニーテールにした、右目に眼帯を当てている女の二人だ。
「んにゃー、大正解。クリスタもいるけどねー」
「助けに来た、と。ベタに言った方がいいかな」

266竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/12/23(金) 13:31:30 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 現在、森の中で一人の人物を左右から挟むように、二人の人物が立っている。
 一人はアフロヘアーで、サングラスをした男。もう一人は強面のガタイがいい大男だ。
 アフロヘアーの方の男はナイフを、ガタイがいい男は矛のような武器を構えている。
 彼らの間にいるのは、一人の少女。
 銀髪の髪を持ち、ハルバード型の武器を担ぐように持った、見た目十六歳程度の少女だ。
 少女は今の状況を把握し小さく息を吐く。
 数で押せば勝てると思ったのか。負けるはずがないのに。
 銀髪の少女、メルトイーアは溜息をつきながらそう思っていた。
「ヘイ!どーしたんだヨ!溜息ついちゃって。ミー達に勝てないと思ったからかい?」
「……モォ」
 アフロヘアーの男が陽気に話すのとは対照的に、大男は小さく唸っただけだった。
 メルティは二人を交互に三度見てから、
「いや、別に。たださ、アンタ達って何者なのって思っただけよ」
 アフロヘアーの男のサングラスが、キランと光ったように見えた。
 待ってましたよ、その質問!と言いたげな感じで、男は答える。
「ミー達はユー達の新たな敵!『十二星徒(じゅうにせいと)』だぜ!」
「……ぶぅ」
 またまた大男は小さく唸る。
 アフロヘアーの男の回答に、メルティは『へー』と小さく返す。
「……その十人生徒が何の用?ってか学級閉鎖じゃん」
「ノーノー!十人生徒はノット!まァ、俺らが何者か名乗ったところで理解はしなくてもいいケドな!」
 メルティは面倒そうに息を吐いて、頭をかいている。
 二人の男が武器を再度構え直し、ナイフの切っ先と矛の切っ先をメルティに向ける。
 メルティの身体から、余裕が消え真剣さがみなぎる。
「……ユーはここで殺られんだぜ」
「……俺、我慢できない……!……早く、殺したい……!」
 大男が始めて長い言葉を話した。
 普通の人からすれば、長くない言葉だが、さっきから短い唸りを繰り返してきたところしか見ていないメルティには、長い言葉に感じられた。
 メルティは自身が持っているハルバード型の斧を、担ぐのをやめ、両手で持つ。
「やっと休めると思ったのに。ホーント、私ってば情報屋だから人気だわ」
 メルティの斧に、雷が纏う。
 バチバチ、と電撃が走る音が連続して、メルティと男二人の耳に届く。
「さってと、せめてウォーミングアップ程度は手伝ってよね!」

 エリザは槍状の武器『蓮華(れんげ)』を手で回しながらフォレストの横まで歩み寄る。一緒にいたクリスタも同じようにエリザについてくる。まるで付き人みたいだ、とフォレストは思った。
「……大丈夫?フォーちゃん。ところでさ、アイツ何?」
 エリザは不機嫌そうな顔で、立ち上がる男を睨みつける。
 男は何事もなかったかのように立ち上がり、二本の刀を構える。
 効いてないのかよ、と僅かに悪態をつきながらも、エリザは闘志を見せる。
「……クリスタ。フォーちゃんを治療してあげてね」
「……構わないが、お前がアイツと戦うのか」
 エリザはこくりと頷く。
「ここで一番強いのって私でしょ。少しでも勝率が高い私が行った方がいいてのは、アンタも分かるでしょ?」
「……そうだな。任せた」
 クリスタは目を閉じ、フォレストをお姫様抱っこで抱えると、木にもたれさせ、配慮のためか、戦いを見れるような体勢にした。
 十五メートル程の間を空けて、二本刀の男はエリザを睨みつける。
「ハロー。さっきの効いた?」
「……少し」
 男は刀を構え、そう答える。
 エリザはやれやれ、と言った調子で額に手を当てる。
 それから『蓮華(れんげ)』の切っ先を相手に向け、光の球体を作り出す。
「もっと痛い目見てもらうか。オニーサン♪」
 ニィ、と無邪気で無垢で純粋な笑みを浮かべた。

267ライナー:2011/12/23(金) 17:36:26 HOST:222-151-086-004.jp.fiberbit.net
コメント失礼します、ライナーです^^

何やらバトルがてんこ盛りですね!
個人的にはアフロヘアーの人物がメチャクチャ気になります(笑)
喋り方も個性的で、敵のオシメンはこの人で決まりですな (−v−)〜♪

アドバイスの方も少し……
バトル展開が広がってきて面白いのですが、登場人物が出過ぎているというのが少し残念です。
登場人物が出過ぎると、読者の理解が間に合わず、この人誰? と言うことになってしまいます。
例えば、複数のものを数えるとき、1つずつ出てくればそれをゆっくりと数えれば良いですが、一気に出てしまっては数えづらくなりますよね? これと同じ理由です。

それと、視点移動についてですが、正直多すぎると思います。
視点移動が多いせいで、さらに文章の理解が難しくなっています。
ちなみに、竜野さんが使っている手法の視点移動は、ほぼ、漫画がでしか使われない手法ですので、あまりに多い視点移動は止めましょう。
視点移動をする分には、その展開のバトルが終わってからなど、分かりやすい区切りを付けてあげましょう。

最後は、その視点移動の根本的なところです。
この小説の主人公は魁斗だと思いますが、出番が少なすぎます。
小説は主人公を視点に描くものであって漫画とは違います。漫画なら絵でどう登場人物が出ているか分かりますが、小説は文章で伝えるのはプロでも困難です。
今の状況だと、その主人公が、ただ話の流れを掴むもので、仲間がアクションを起こす。こんな役割配分に見えてしまいます。
あくまで主人公視点なので、主人公に見える範囲の状況をなるべく描きましょう。
主人公以外の視点を描くときは、その主人公の行動に直接関係している人物を単体で書く場合なので、そこらをもう少し注意して書く必要があると思います。

全く少しでないアドバイスでしたが、少しでも分かって頂けたらと思います^^;
ではではwww

268竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/12/23(金) 17:47:36 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 藤崎恋音は日が暮れ始めた頃、仕事も終わり帰りの電車に乗っていた。
 電車の窓から外を見れば、家の電気や外套の薄明るい光、落ちていく夕日のオレンジ色が街を照らしている。
 綺麗だな、と藤崎が率直な意見を心の中で浮かべていた。
 彼女は仕事へ行くときは車だが、帰りは電車で帰っている。
 何でも斉藤春一は、藤崎を車で仕事場へ連れて行き、仕事が終わるまで待ってくれてはいるのだが、そのまま自分の家へ帰ってしまうのだ。
 仕事場まで連れて行ってくれるだけで嬉しいのだから、帰りはなるべく電車を利用することにしている。
 すると、藤崎の鞄の中で鈍い音が聞こえる。
 藤崎が鞄を開けて、中を漁ると携帯電話の振動音だった。
(……何だろ?)
 藤崎は携帯電話を開けて、着信かメールの受信かを確認する。
 メールの受信だった。しかも相手は桐生仙一。
「ッ!!」
 藤崎は僅かに肩を震わせて、急いでメールの内容を確認する。
『今日は色々と心配かけてゴメン。そっちは何ともないようで本当に良かったよ。じゃあ、会えたら明日学校でね』
 何とも素っ気無い、桐生らしい文面だが藤崎にとってはそれだけで幸せだった。
 しかし、彼女はハッとして首を横に振る。
(だー、違う違う!桐生君はただの友達であって、そういうんじゃないんだから!何過剰に意識してんのよ私ーっ!!)
 すると、電車が藤崎の降りる駅に停車する。
 藤崎が鞄を持って、電車から降りる。
 階段を下り、ポケットから定期を取り出して、改札に定期を通す。彼女から駅から出ると、藤崎は目を疑う。
 夕暮れの駅だというのに、人が一人も見当たらない。
 それどころか、雨が土砂降りと言ってもいいほど降っているのだ。
 藤崎の記憶にある今日の天気は午後の降水確率は0パーセント。しかも、電車の中で見た景色では、雨は降っていなかった。
(……どういうこと?もしかして、『剣(つるぎ)』の能力?)
 切原魁斗達と知り合って以来、彼女は『死を司る人形(デスパペット)』という組織と死闘を繰り広げた。更に現在でも『十二星徒(じゅうにせいと)』という組織と戦っている。
 急に雨が降っているし、地面には少し水が溜まっていた。
 こんな奇天烈な出来事、『剣(つるぎ)』の能力以外では考えられない。
 だが、天候までも操れる強力な『剣(つるぎ)』があるのか。藤崎が考えていると、何処からか音が聞こえる。
 水が溜まった地面を歩く音。それとともに何かを引きずるような音だ。
 藤崎が音の方向に振り返ると、一人の人物がこっちに歩み寄ってきている。
 背は藤崎よりも低く、中性的な顔つきの少年だ。彼が引きずっているのはサソリのハサミを巨大化したようなもので、右手に纏わり付いている。
 藤崎の直感が告げている。
 いや、切原魁斗の仲間なら、誰でも彼のことをこう思ったはずだ。
(……『十二星徒(じゅうにせいと)』だ……!)
 少年は藤崎から二十メートル程離れたところで足を止め、藤崎を見つめる。
「初めまして、藤崎恋音さん。いやー、写真や雑誌で見るより全然可愛いなぁ。ハッキリ言ってタイプですよ」
「……だから?」
 藤崎は素っ気無い返事を返す。
 相手が敵だと分かっているからだ。現に今の彼女の手には刀が握られている。
 少年は笑みを浮かべて言葉を続ける。
「僕は『十二星徒(じゅうにせいと)』メンバーのさそり座を担当してます、名前はそのまんま。サソリです」
「だから何って言ってるのよ!アンタが敵なら、私はただ、倒すだけよ!」
 藤崎が突っ込む。
 彼女はまだゲージが溜まっていないため、自身の魔力で炎を作り出す。炎を纏った刀で、サソリへと思い切り振り下ろす。
 が、
 彼女の刀はサソリの巨大な右腕によって止められていた。
 しかもそれだけじゃない。
 彼女の刀に纏った筈の炎が跡形もなく消えている。
「ッ!?」
「あらあら、大変ですね」
 サソリは不適な笑みを見せ、こう告げる。
「こんな雨が降って湿気が溜まってる場所じゃあ、炎なんて扱えませんねー」

269竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/12/23(金) 18:01:07 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
ライナーさん>

はい。
『死を司る人形(デスパペット)』編でもやったような、敵が来てそれを倒す、みたいな展開ですが……。
ちなみに、アフロさんはおひつじ座。大男はおうし座です。
大男は気付いてもらえるように、開口一番『……モォ』と言わせています。
気付いたでしょうか?
現在、藤崎さんがヤバメです。メルティとエリザのロリ二人は心配ないです((

あー、だからなるべく、『十二星徒(じゅうにせいと)』編に入ってから、今まで出てきたキャラが出るたびに、容姿を説明させているのですが……。
それだけじゃちょっと足りないですかね?

これ言っちゃいけないと思うんですけど、正直全員分の戦い書くのつらi((
だから次に視点が戻った時に、決着つきましたよ、的な感じにしようと思ったのです。
でも、多すぎるというのが問題なんですよね。
少なくするように心がけなくては。

はい、仰るとおり魁斗君です((
>>268を書いてる時に名前を出して気付きました。
『あ、最近コイツ見ねぇな』って((
彼は桐生戦、エリザ戦、メルティ戦、藤崎戦が終わってから出そうという予定なのですが、さすがに出番がないですね……。
この四人でここまで時間がかかるとは……。まあ四つもあるし((
一方でハクアは出てきたけど、高校生組が出ない((
レナとかサワは何してるんだろう。藤崎さんのお友達、國崎さんも出番が……。

いえいえ、むしろダメな点を多く指摘してくださった方がこちらとしても助かります。
意外とダメなところは自分では気付かないので……。
ありがとうございました^^

270ライナー:2011/12/23(金) 19:11:11 HOST:222-151-086-004.jp.fiberbit.net
とりあえず、疑問を解決するべくコメント返しておきます。

容姿ですか、むしろ容姿は無いか少なめで良いと思います。
小説には、読者に想像させるという裏の顔を持ち合わせ、僕のようなこの小説にはまっている読者はほぼ想像しちゃってます^^;
ですので、そこら辺は作者の自由と言うことになるので、大丈夫です。
大切なのは存在感です。
コイツはこういう名前で、こういう性格で、こういう能力(武器)を持っている。といった情報を分かりやすくすると良いでしょう。

やはり全員分は辛いでしょうね^^;
人数が多いので、以前も言いましたが何人か自然にカットすることをお薦めします。
それと、この話ではコイツとコイツのサブキャラを出そう、などあらかじめ出すキャラクターと出さないキャラクターを決めると良いでしょう。
例に挙げると、ブリーチなどが良い例です。
あまり詳しくは知らないのですが、死神の時と通常の人間の時で世界が違うためキャラの変更をしやすいです。
竜野さんもせっかくそう言った世界観があるので、天界と人間界の2つでステージを分けるとより一層分かりやすくなりますよ。

いえいえ、自分なんかのアドバイスで喜んでいただけるとは恐縮です。

それとお詫びが……
擬音に関してですが、「!」は1つなら使用が可能らしいです。本当に申し訳ありません。
さらに、繰り返し言葉以外の擬音の使い方として、一番メジャーで無難なのが、溜めてドンです。
―――(擬音)
てなかんじです。

例を挙げると……

俺は銃を持ち上げ、ゆっくりとターゲットに向かって引き金を引いた。
―――カチッ
撃鉄の乾いた音が、額に冷や汗を浮かべさせる。

このように、引き金を引いたなら銃声がする、と言う常識が擬音によって何でカチッ? と、疑問を持たせることで、興味を持たせ、より読みやすくなるのですね。
ご参考までに^^

ではではwww

271竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/12/23(金) 20:04:10 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
ライナーさん>

あ、そうなんですか。
久々に出てくるキャラなどはちょこっと説明を入れた方がいいと思っていたり……。
魁斗を含むメインキャラ(レナ、ハクア、桐生、藤崎、沢木)は結構出るので、説明は不必要と自己解釈してますが、メルティとかフォーちゃんとかエリザとか(ry
説明を入れた方が、いいかなと思ってました。
むしろ、名前、性格、能力などを入れた方がいいのですね^^

僕の場合、結構行き当たりばったりな感じがします((
本来ならば、エリザとか出す予定なかったけど……、今出とるし。
藤崎さんは最初からさそり座と戦わせる予定でした。
さそり座はもっと、アイドルオタクっぽい奴にしようと思ってました((
ブリーチは僕も知ってますし、大好きな作品です。
言われてみれば、ソウル・ソサエティと人間界でのキャラの使い分けは上手いと思います。

そうなんですか。
擬音もそういう使い方があるとは……。
これから参考にさせていただきます^^

272竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/12/24(土) 12:52:46 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 森の中を二人の人物が並んで歩いている。
 元『死を司る人形(デスパペット)』の部隊長を務めていた、ルミーナとゲインの二人だ。
 特に接点もなく、あまり会話もしたことがない異色の組み合わせである。
 二人はエリザからの頼み(命令)で、ある人物の捜索を頼まれていた。
 それが『幻の情報屋』と謳われている、メルティを見つけるためだ。
 現在の『死を司る人形(デスパペット)』残党組のエリザ達は、主にザンザが方々を駆け回って情報を仕入れている。彼によると、この森でメルティらしき人物を見かけた、という情報が最も有力らしい。
 何にしても、どんな情報でも提供できるメルティがいてくれれば、情報面でも心強い。
 しかし、森の中を彷徨い小一時間。一向に見当たる気配はないし、人影すらも見つけれない。
「はー、ホンマにこんなトコにおるんかいな。メルティちゃん」
「……さあ。……でも、ザンザ君が頑張って教えてくれたんだし……」
 諦めかけていたゲインの言葉に、ルミーナが返事をする。
 ぶっちゃけると、ルミーナも少々諦めかけている。
 だが、仲間の努力を無にしないために、諦めていない素振りを見せているのだ。
 ゲインは溜息をついて、ルミーナにある提案をする。
「……もう帰らへん?」
「だ、だめです!それは絶対にだめ!もうちょっとだけ探しましょうよ!!」
 ルミーナは必死に反抗して、もうちょっとだけ探すことを提案する。
 女性に弱いゲイン(今はハクアにベタ惚れだが、可愛い子には頭が上がらない)は、ルミーナの提案にしぶしぶ乗ることにした。
 すると。後方の方から、草を掻き分ける音が聞こえる。
 現在森の中はかなり静かなので、その微かな音さえも鮮明に耳に届いた。
 二人は振り返って、いつでも戦えるように『剣(つるぎ)』を発動する。
 だが、出てきた人物は意外な人物だった。
 銀髪の髪に、ハルバード型の武器を持った少女。
 そう、メルティだった。
「……おや?奇遇だね、お二人さん。デート中だった?」
 彼女は後ろの襟を掴んで、アフロヘアーと大男の『十二星徒(じゅうにせいと)』を引きずって登場した。

「ほらぁ!」
 一方、人間界では藤崎恋音とサソリが戦いを繰り広げていた。
 駅の近くだというのに、人が一人もいない。そのためか、サソリも容赦なく攻撃しているように見える。
 彼はハサミ型の大きな右腕を振り回して、水の刃を放つ。
 藤崎が身体を逸らしてかわすと、水の刃は電柱に当たり、電柱が綺麗に切断された。
(……電柱が……っ!)
 藤崎は綺麗に切断された電柱を見て、背筋に寒気を感じる。
 あんなもの食らえば、藤崎の華奢な身体も綺麗に真っ二つだ。
「……くっ!」
 藤崎は距離を取って、刀を前方に構える。
 サソリはそれを笑みを浮かべながら見つめている。
「いやぁー、雨に濡れて制服が透けてるね。良い感じに色っぽいよー」
「やかましい!戦いに集中しなさいよ!」
 藤崎は相手の言葉に顔を赤くして、手で胸の辺りを覆う。
(……こんな状態じゃ炎を生み出せない。さっきから何度も試してるけど、ちょっとの火も灯せなかった。しかも、水場で動きにくいし……)
 今の戦場は藤崎にとって、状況の悪い戦場だ。
 水場で雨が降り、湿気が充満してるため、炎を使った攻撃が全く出来ない状況だ。
 炎を使うことが出来なければ、藤崎の『剣(つるぎ)』もただの刀になってしまう。
(……、室内に移動した方がいいかな)
 藤崎は戦えそうな場所へ移動するために走り出す。
「鬼ごっこ?いーよ、僕鬼ごっこ大好きだしさ」
 サソリも藤崎を追うために、走り出す。
 藤崎は走りながら、ポケットの中から携帯電話を取り出そうとする。
「……とりあえず、アイツと私じゃ相性が悪すぎる……!誰かに助けを求めて……」
 そこで、藤崎の足が止まる。
 ふとした疑問が彼女の心に浮かんだからだ。
 『切原君達と会ってから、自分は一人で勝った事がないんじゃないか?』
 ザーディアの時だって、桐生に助けてもらって勝ったし、エリザ戦では負けた。ルミーナの時だって、フォレストの助けがなければ殺されていたかもしれない。
「……だめだ。誰かに頼るようじゃ……私はまだ、だめだ……!」
 藤崎が俯いて、歯を食いしばる。
 その時、後ろからサソリの巨大な右腕が襲い掛かってきた。

273ライナー:2011/12/25(日) 15:44:44 HOST:222-151-086-008.jp.fiberbit.net
コメント失礼します、ライナーです^^

サソリの水の威力が恐ろしいほど凄いことになっていますね^^;
電柱が切れるとは……クワバラクワバラ……
にしても変態ですな、サソリさん。負けたら藤崎さんが襲わr((殴

さてさて、どうなる事やら。これからも楽しみにしております!
ではではwww

274竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/12/25(日) 20:36:31 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
ライナーさん>

サソリのハサミから出る水は『ウォーターカッター』というものと酷似しています。
でも連発は出来ないので(( せめて三秒程度間を空けないと無理です。
サソリ君は変態ではなく、ただエロいだk((

はい、期待に沿うよう頑張ります^^

275竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/12/29(木) 19:31:00 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第七十二閃「RE-ON!'s Victory!」

 サソリの背後からの奇襲を何とかかわし、その後の猛攻も全てかわし切った藤崎は右肩を押さえながら息を切らし、雨が降りしきる駅の付近を走っていた。
 今は何とかサソリの追撃を振り払い、身を隠そうとしているところだ。
 右肩は追撃を振り払う際に、僅かに水の刃に切りつけられた。傷は浅いし、何とも無い。
(……どうする?)
 ビルにもたれかかって、藤崎は考える。
 どうすれば相手に攻撃を与えられるか。
 隙ならば今までも何度かあった。それだけ相手が自分に手加減をしている、という表れだ。だが、その隙を有効に活用できない。
 攻撃しようとすれば、リーチと幅が大きい右腕に防がれてしまい、今度はこっちに隙が出来る。相手もその隙を見逃さず、すぐに反撃へと転じてくる。
 まず相手の巨大な右腕と大きいだけの刀じゃ、リーチどころか威力も違ってくる。
 藤崎は、ほとんどの面でサソリに負けている。
 藤崎はポケットに手を当て、中に入っている携帯電話の感触を確かめる。
 桐生仙一、レナ、ハクア。今の藤崎には頼れる強い仲間が存在する。
 だが、藤崎は決めていた。
(―――、ダメだ!)
 藤崎は刀の柄を握る手に、力を改めて強く込める。
(―――、私の力で勝つんだ!!)
 藤崎がそう誓い、再びサソリのところへ行こうとした瞬間、

 ―――シュカン、と。
 綺麗な切断音が藤崎のすぐ近くで聞こえた。
 見れば藤崎が今までもたれていたビルの壁が綺麗に真っ二つに裂かれている。

「……ッ!」
 この状況で、今の状況で犯人は一人しかいない。
 藤崎が前方を見据えると、睨みつけるようにこちらを見ているサソリがいた。
「……いい加減さぁ……鬼ごっこも終わりにしようよ。大丈夫。君は殺さないよ。でも、その代わりに君が僕の物になってくれればいいからさ」
 サソリが水が溜まってきた地面を歩く。
(……勝つんだ)
 一歩一歩ゆくりと、藤崎に歩み寄るサソリ。
(……勝つんだ!)
 彼の右腕のハサミが、口のように、大きく開閉する。
 藤崎は脚に力を込めて、思い切り地面を蹴る。
(絶対に勝つんだ!!)
 藤崎は刀を振りかぶって、サソリに突っ込む。

 一方、天界ではエリザと二刀流の男が激突していた。
 男の表情は伺えないが、エリザは楽しんでいるように口元に笑みを浮かべていた。
「……ここで悠長に戦ってていいのか、貴様」
「……?」
 男の不意の言葉に、エリザが眉をひそめる。
 お互いが十分に距離を取り、睨みあっている。
「……ここで戦っている間にも、人間界での仲間の危機は迫っている。今は藤崎恋音が標的だ」
「……恋音ちゃんが?」
 エリザが反応する。
 彼女にとって藤崎恋音の存在は、自分が初めて対等と認めたライバルだ。自分以外に、藤崎恋音がやられてほしくない。
 エリザの頭にそんな思考がよぎる。
 だが、
「んー、恋音ちゃんなら心配ないかな。だって強いし」
 エリザは相手が拍子抜けするほどの軽い言葉を返した。
 勿論、エリザとしても何の考えもなしに言ったわけではない。
「……正気か、貴様。桐生仙一は傷を負い、レナとハクアは藤崎恋音が戦っていることに気付いていない。切原魁斗も帰ってきても気付かんだろう」
「……だーかーら。大丈夫なんだって。確かに、今挙げた四人は助けに行けない。私とクリスタとフォーちゃんだって無理だし、ルミーナとゲインとメルティじゃ今から行っても間に合わないでしょ」
 なら、と一度言葉を区切って、
「私は何で余裕を見せてると思う?まだいるでしょ?アンタが忘れるほどの、影がうっすーい可哀想な子達が、ね!」
 
 人間界で、藤崎とサソリの戦いに近づいてくる影が二つあった。
 一人は身の丈ほどの大きな刀を背に背負い、もう一人はポニーテールの髪型だ。
 大きな刀を背負った方。恐らく男だ。
 彼は、面倒そうに呟いた。
「―――、行くぜ。くっだらねェ戦いを幕引きにすんぞ」

276竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/12/30(金) 11:15:00 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 藤崎とサソリが戦っているのを、遠くのビルの屋上から双眼鏡で眺める一人の人物がいる。
 髪は短めの白髪で、ハットを被り、スーツを着ている、見た目三十代後半の男だ。
 普通に見れば一般的な男性だが、彼が両手を置き、杖のようにしている一本の刀が『一般的』を潰していた。
 彼も『十二星徒(じゅうにせいと)』の一人。やぎ座の八木という男だ。
 そして不自然な点がもう一つあった。
 藤崎とサソリが戦っているところは雨が降りしきっている。だが、八木のいるところは雨どころか、雨粒の一つも落ちてこない。実に綺麗な夕焼けが見えるだけだ。
「……どうやら、惑っているようですな」
 八木は戦況を見ながら、一人で呟いた。
「私の剣(つるぎ)は、空間を作り出す。貴女にとって、とても不利な空間を作らせていただきましたよ、藤崎さん」
 八木が言うに、今の藤崎とサソリがいるところは、八木の剣(つるぎ)が作り出したこの世に存在しない空間らしい。
 それもそうだ。
 何処の世界に夕方の駅前だというのに、人が一人もいないなんていう駅があるか。
 雨が降り、水が地面に溜まり、湿気が多く火が灯せない無人の駅前。そういう空間を八木は作り出したのだ。
「……これで、天子側の一人は脱落ですね。まったくサソリも、私の力を使わないで勝ってほしいものですが……」

「いいんじゃねェの?仲良さそうで」

 ふと、八木の後ろから声がかけられる。
 そこにいたのは巨大な刀を背に担いだ男、ザンザだ。
 彼の鋭い目つきが、八木を睨んでいるからか、より鋭く感じられる。
「……馬鹿なッ!貴方は今天界にいるはず……!」
「その天界にいる上司から、命令くらったのよ」
 八木の隣にカテリーナが降り立つ。
 そう。エリザが人間界の助っ人として送り込んだのは、ザンザとカテリーナだ。
 ザンザは背中の刀をゆっくりと引き抜きながら、笑みを浮かべている。
「……さァ、覚悟はできるよなァ……?」
「……!」
 ザンザがそのまま刀を八木に向かって振り下ろす。
 剣(つるぎ)を持っている以外は、普通の男である八木は、咄嗟にかわすことも出来ず、刀が迫るのを待つしかなかった。
「うわあああああああああああっ!?」
 しかし、響いたのは切り裂く音ではなく、鈍い打撃音だった。
 ザンザの巨大な刀を利用した広い幅で、八木の頭を叩きつけたのだ。
 八木はそのままぐしゃ、と崩れ落ち、ぴくぴくと僅かに痙攣していた。
 ザンザは八木の首からネックレスを奪い取る。
「これがやぎ座の『守護の証』か」

 一方、藤崎とサソリの戦況にも変化が起きていた。
 雨が止み、地面に溜まっていた水が一瞬にして消えたのだ。
「「ッ!?」」
 そこで、事実を知るサソリだけが辺りを見回し、慌てだす。
(……八木!?あのオッサン、やられやがったッ!?」
「……ふぅん」
 サソリはハッとして振り返る。
 そこには満面の笑みの藤崎がいた。
 ここでお馬鹿なアイドル藤崎恋音は、何か勘違いをした。
 今までのは全て幻覚だ、という平和な勘違いだ。
 振ってた雨は幻覚で。水が溜まっていた地面も幻覚で。相手が出していた水の刃も幻覚で。濡れている服は、まあどうでもいいや。そんな平和な勘違いをして、藤崎は一気に距離を詰める。
 サソリが右腕を突き出し、水の刃を出そうとしたが、
「遅いよッ!!」
 藤崎が下から上に弾き上げるように、強く右腕を弾いた。
 上に腕を上げられ無防備になるサソリの顔に藤崎の刀の峰が直撃する。
 そのまま仰向けに倒れるサソリを見て、藤崎は力強く叫んだ。
「RE-ON!'s Victory!」

277ライナー:2011/12/30(金) 15:59:56 HOST:as02-ppp22.osaka.sannet.ne.jp
コメント失礼します、ライナーです^^

藤崎嬢勝ちましたね!
最後の言葉は名言ですなこりゃw
にしても、八木さん何か一瞬でしたが、出番これで終わり!? 何となく八木さん支持しますw

さて、今度はエリザさんの番でしょうか?
続きが楽しみです。頑張って下さい!
ではではwww

278竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/01/03(火) 21:55:24 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
ライナーさん>

藤崎嬢の勝利は結局、誰かの力を借りてまs((
いつかは一人で勝てるように頑張らせますw
ちなみに、本編の中でもちょろっと出ましたが、藤崎の英語の成績は赤点ギリギリセーフなので、あんま良くないです。この子は漢字しか出来ません((
……八木さんは一瞬ですね。後はカテリーナに懐漁られるくらいしか出番が((

次はエリザが決着&出来れば忘れ去られた主人公も帰還させます。
はい、頑張らせていただきます^^

279竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/01/03(火) 22:23:37 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 ザンザは携帯電話を耳に押し当てていた。
 耳元ではコール音が鳴り響き、しばらくして相手の声が返ってきた。
『もしもし?』
 幼い少女の声だ。
 ザンザは予想通りの相手が出たことに一応安心する。
 彼女は自分の上司であるエリザだろう。
「報告だ。吉報だらけだぜ?まず一つ。藤崎恋音が勝った。さそり座の『守護の証』も同時に手に入れてる。それと、もう一つ」
 ザンザはチラッと視線を横に向けて、告げた。
「やぎ座も撃退した。コイツは一瞬で済んだぜ」
『そーか。じゃあ私もお報せー』
 甘ったるい少女の声の後に、お報せは返ってくる。
『こっちも一人片付けたよ。多分かに座。後ね、ルミーナとゲインの報告も。メルティがおひつじ座とおうし座片付けたって!』
 ザンザは受話器の向こうでは余裕の勝利を収めたエリザの前で、かに座の『十二星徒(じゅうにせいと)』がコテンパンにされて倒れているだろう、と想像する。
 エリザの報告と、自分達の成果、そして魁斗達の情報を全て整理して、
「つー事は、残るは……」
『うん。てんびん座、しし座、みずがめ座、いて座の四つだね』
 フッとザンザは受話器の向こうでは分からないような笑みを零す。
「いよいよ大詰めだなァ。そろそろ決着も近いぜ」
『そーだね。ラストスパートがんばろー!』
 自分の上司の激励の言葉を聞いて、ザンザは電話を切る。
 携帯電話を折りたたみ、ポケットにしまってから視線を倒れている八木の方へと向ける。八木の方へ向けると、自然にカテリーナも視界に入ってきた。
 何故なら、倒れてるオッサン(八木)の懐を、少女(カテリーナ)が漁っているからだ。
 今にもこの場から走り去りたい気分に駆られたザンザは引いたような口調で、カテリーナに訊ねる。
「オイ、カテリーナ。お前何でオッサンの服の中漁ってんだよ」
「んー?珍しいモンがあるかなー、って」
 ザンザは溜息をつく。
 これは彼女とずっと仕事をしているから知っていることだが、彼女は倒した相手の懐を老若男女構わず漁りだす。答えは簡単だ。
 
 珍しい剣(つるぎ)を持っているかもしれないから。

 彼女は剣(つるぎ)マニアで、元『死を司る人形(デスパペット)』のメンバーも、彼女から武器を貰った者は多い。エリザ、ルミーナもカテリーナから剣(つるぎ)を貰っている。
 彼女が探しているのは武器に留まらず、ハクアが沢木に渡した『神王の聖域(しんおうのせいいき)』やメルティの『時の皇帝(タイムエンペラー)』などの神具(しんぐ)も探している。
「お、これは珍しー!」
 カテリーナが珍しく可愛らしい声を出す。
 彼女が見つけたものはブレスレット状の物で、それを見つけたカテリーナの瞳はキラキラと輝いていた。
「何だよ、それ」
「知らないの?付けてると一時的に魔力を底上げする神具で……」
「分かった。とっとと帰るぞ」
 ザンザはぷい、と身体を背けて歩き出す。
 置いていかれたカテリーナは叫びながら、ザンザの背中を追いかける。
「ちょ、待ってよ!置いていかないでザンくんー!」

 天界では、包帯を傷のあった部分に巻いているフォレストが棚の中の薬を整理していた。
 棚の中には瓶などが所狭しと敷き詰められ、これの何処をそう整理するのだろう、と思ってしまう程である。さすがに高いところは脚立を上って整理するらしい。
 その状況を見たクリスタは、思わず溜息をついてしまう。
「……仕事熱心だな。だが、今お前は怪我人だぞ?そんなに無茶をしなくても……」
「これが、僕の仕事ですから」
 クリスタの言葉を遮るようにフォレストが言った。
 その言葉には強さと、決して揺らがない意志が篭っており、クリスタもさすがに言い返すことが出来なかった。
 すると、整理しているフォレストの手がぴたり、と止まる。
「……、どうした?」
 クリスタが訊ねる。
 フォレストが顎に手を添え、唸るように声を出してから首を傾げる。
「……瓶が、一つ減ってます。誰かが盗んで行きやがったみてぇです」
「……盗難、か?良くある事か?」
 フォレストは再び考え出して、答えを導き出した。
「いいえ、今はあんまり。クーラさんの時はよくあったみたいですけど」
 その言葉からは、若干皮肉が感じ取られた。

280竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/01/06(金) 17:40:24 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 人間界の上空から。
 絶叫が聞こえる。その叫びはどんどん大きくなっていっているように聞こえるが、それは語弊だ。正しくは、叫びが近くなってきている。
 今、上空から落ちてきているのは一人の少年。
 切原魁斗だ。
 彼がこのまま下に落ちれば鉄骨だらけの工事現場に落ちてしまう。もしそんな所に落ちれば、落ちた衝撃で鉄骨やらが降って生き埋めになるかもしれないし、そもそも鉄骨に当たって無事で済むだろうか。少なくとも、骨は数本折るはずだ。
 そんなことを考えながら、魁斗が落ちるスピードは増していった。
「……ちょ、ちょ、ちょ……ちょっと待てぇぇーーー!!さすがにあそこに落ちるのはヤバイって!つーか、公園から天界に行ったのに何で帰る時はこんなわけ分かんねぇ場所なんだよ!?」
 魁斗の身体があと数十メートルで、家のように組み立てられた鉄骨に当たりそうな時、
 ふわっ、と身体が風のようなものに救い上げられるのを感じた。
 魁斗がそれに気付いた時には、襟を掴まれ、空中でぶら下がっている状態だった。
「何とかセーフね。怪我はない?」
 魁斗が声に振り返ると、襟を掴んで助けてくれたのはハクアだった。
 ハクアはそのまま魁斗を持ち上げ、自分が乗っている薙刀上の剣(つるぎ)の上に座らせる。
「ハクアさん?」
「そーよ?私以外に剣(つるぎ)をこんな画期的な使い方する奴が何処にいるのよ」
 画期的な、は乗り物として使っている事だろうか。
 ただ移動が面倒なだけじゃないか、とツッコミそうになったが、魁斗はそこをぐっと堪えた。
「ところで、向こうで『十二星徒(じゅうにせいと)』倒せたの?」
「……ああ、随分と戦いにくい相手だったけど。何とか」
 ハクアは、よろしい、と言ってから、手を差し出す。
 まるで、おつかいから帰ってきた子供に、おつりを渡せ、と言っている様に。
 だが、魁斗は首を傾げている。何を渡せばいいのか分かっていないようだ。
 ハクアは溜息をついて、
「『守護の証』よ!『十二星徒(じゅうにせいと)』って言ったら、それしかないでしょ!?」
「……あー」
 勿論、魁斗も『守護の証』を忘れたわけではなかった。
 ただ、今手元に無いから首を傾げたのだ。手元にあったら即座に渡しているだろう。回収元がハクアなのは、不明だが。
 どうしたの?と問いかけるハクアに、魁斗は答えにくそうに答える。
「……フォレストに……預けました……」
「……は?」
 時が、止まった。
 すると、ハクアは魁斗の胸倉を掴んで叫ぶ。
「君は何をしてるのかしら!?何で持って帰ってこないのよ!馬鹿なの?君は馬鹿なの!?」
「ちょ、苦し……つか、操作……!」
 ハクアが薙刀の操作をせずに、魁斗を問い質したため、統率がなくなった薙刀は落下寸前だった。
 ハクアもそれにはさすがに驚いて、急いで操作に戻る。
「……色々あったんですよ……」
 咳き込みながら魁斗が答える。
 若干むくれているハクアは不機嫌そうにしながらも、納得してくれた。
「そーだ。さっきカテリーナさんから連絡あってね。メルティさんがおうし座とおひつじ座、エリザさんがかに座、恋音ちゃんがさそり座、カテリーナさんろザンザ君がやぎ座を倒したから、残る『十二星徒(じゅうにせいと)』は四人だって」
 ハクアの報告に魁斗は反応する。
 自分の知識を総動員して、残りの星座を割り出す。
「ってことは、残ってるのは、てんびん座、しし座、みずがめ座、いて座の四つか」
「そーゆー事」
 そこで、魁斗はさっきのメンバーを思い返して、ハッとする。
「……あのさ、もしかして『十二星徒(じゅうにせいと)』倒してないのって、俺だけ?」
 ハクアは、んー?と間延びした声を出して、
「あー、そんな事になるわねー。桐生君だってふたご座倒したし。あ、でも君以外に一人いるわよ?」
 魁斗が誰?と聞き返す。
 ハクアは、何で気付かないんだろう、という風な口調で告げた。
「レナよ」
「……あ……ああ……」
 納得したような、残念なような、判断が難しい返事を魁斗は返す。
「レナとサワちゃんに帰ったって事伝えなさいよ?あの二人、学校にいる間ずっと憔悴気味だったからさ」
 そこまで元気なくなるか?俺って二人にとってどんな存在?と大きな好意を寄せられているにも関わらず、純情で鈍感な魁斗には、いまいち理解が出来ていなかった。

281月峰 夜凪 ◆XkPVI3useA:2012/01/06(金) 21:11:54 HOST:softbank221085012009.bbtec.net
コメント失礼しますノ

八木さん……!あなたの事は一生忘れないz((物っ凄くどうでも良いことですが、月峰は山羊座だったりしまs←
それにしても、前々から思っていたのですが、ザンザさんとカテリーナちゃんのやり取りが好きですw そもそもこの二人が好きでs((

さて、十二星徒を倒していないのは魁斗くんとレナさん……つまり、主人公と準主人公ということは、これから活躍&強敵フラグという事でしょうか……!?
そして、最終的に魁斗くんはレナさんとサワちゃんどっちを取るのでしょう。恋愛面でも楽しみです!

続き楽しみにしてます^^

282竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/01/06(金) 21:23:58 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
月峰 夜凪さん>

コメントありがとうございます^^

やぎ座なんですか?だったら、もう少し八木さんの出番多くても良かったかな……でもあれ以上出番増やせそうにないz((
僕もあの二人は結構気に入ってるんですよ。今では普通に名前で呼び合ってますが、『ザン君』『リーちゃん』と呼び合ってた時期もありましt((
そこら辺の話しも出来たらしますかね^^;

魁斗君は主人公なんで、ちゃんと見せ場作りますよー!いやー、腕が鳴ります((
レナさんは……最近ボケキャラへと劣化してしまいました……。クールキャラで通すつもりだったのに……
ラストまでは結構考えてるんですけど、その三角関係はいまいちまとまりません((
でも、眼鏡とアイドルはくっ付かせます!絶対に!

はい、頑張らせていただきます^^

283ライナー:2012/01/07(土) 23:11:00 HOST:222-151-086-019.jp.fiberbit.net
コメント失礼します。

さーて、あと四つどうなりますかね。
と言うか、天界からの帰還、ご苦労様ッス魁斗さん^^;
自分は天界には行く気がしません、帰りが怖いかr((殴
行きはよいよい帰りは怖いってこの事ですね(笑)

やっと主人公動きますか、見せ場というか、小説の主人公が基本視点なので、見せ場はもっと充分に作った方が良いと思いますよ……(人のこと言えないんですが^^;)
にしても、レナさんクールキャラだとは初耳です!
結構ドジっ娘キャラだと思ってました(汗)

ギャグも程良く入っていて面白かったです。
続き楽しみにしております^^
ではではwww

284竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/01/07(土) 23:17:55 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
ライナーさん>

コメントありがとうございます^^

天界から帰ってくる場合は必ず落下しますw
一回目もああやって人間ピラミッドできましたしねw
今回、人間界にハクアがいなかったらどうなっていたことか((

そうですよね……^^;
こっから魁斗君バンバン活躍するはず、です((
意外とクールなんですよ。
二話目からボケてますが、初めは茶目っ気のあるクールにしようと思ったのですが、中々上手くいきませんね((
今ではボケ&ドジっ娘+天然ですね。わあ、萌え要素がたくさんd((

はい、続きも頑張らせていただきます^^

285竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/01/08(日) 01:26:36 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第七十三閃「帰還と訪問」

 魁斗は家の扉を開ける。
 ハクアによると『レナとサワちゃんが憔悴してた』らしいので、帰ったらとりあえず励ましてやらないと。そう考えながら、ドアを開ける。
 すると、何かが飛んできた。
 物ではなく、人だ。
「カイト様ー!!」
 長い銀髪の髪をなびかせ、抱きつくような態勢で憔悴してたはずのレナが飛んできた。
 これなら心配ない、と魁斗が心の中で頷き、ひらりと華麗にかわす。
 抱きつく相手がいなくなったレナの身体は空中でブレーキが効かず、そのまま顔から床に倒れた。
 魁斗がそのままレナをスルーして部屋へ戻ろうとすると、レナが鼻を押さえながら涙声で引き止める。
「ちょ……カイト様……?冷たくありません?私の事はスルーですか?」
「……今はお前の抱擁を優しく迎えられるほどの体力は残ってねー」
 レナは鼻を押さえているせいか、鼻声のような声で話す。
「……向こうで戦われたのですね……。大分苦戦されたのですか?」
 いや、と魁斗は言葉を否定する。
 それから遠い目でずっと昔の思い出を思い出すように、語りだす。
「強いて言うなら、カテリーナにどつかれたな。フォレストにはおちょくられるし……」
 はは、という自嘲もすごく悲しいものに思えた。
 思えば天界に行ってから良いことが起きてないような気がする。これも強いて言うなら、フォレストからキスしてもらったくらいだろうか。
 こんなことを言えばレナの反応が大変になりそうだし、自分から言うほどの勇気もない。
 魁斗はこの事だけを胸にしまい、部屋へと戻っていった。
 部屋へ戻ると、とりあえず沢木に電話をしてみる。元気付けてあげないと、と思い電話をかけると、
『ふぁ、ふぁい!?こ、こちら沢木ですけど……』
「あー、サワ?大丈夫か?すんごい甲高い声が聞こえたけど……」
『だ、大丈夫、大丈夫です!それより、カイト君も大丈夫?』
 ああ、と魁斗は頷く。
 声を聞く限り、相手も思ったより元気でよかった、と魁斗は思う。
『……あの、明日学校来てくれる……?』
「ああ、行くよ。心配すんな」
『分かった……じゃあまた明日』
 沢木はそう言って電話を切る。
 明日、もう一度『十二星徒(じゅうにせいと)』の残りメンバーを整理しなければならない。
 それぞれ、思うことは別々だ。
 天界の方でも、今頃エリザが作戦会議をしていることだろう。
(―――あと、四人)
 魁斗は気持ちを新たにして、残りの『十二星徒(じゅうにせいと)』と戦う決意を固めた。

「どーなってるの?」
 電気が全く点いていない、暗い部屋の中で、椅子に腰をかけ、机に脚を乗せている少女がそう呟く。
 その少女は腕を組んでおり、左腕には何かがくっついている。
「残り四人って……藤崎恋音も倒せなかったってことよね?まったく、あの娘が一番弱いのよ?一番弱い奴倒せないでどうするのよ」
 部屋にはその少女以外に、三人いた。シルエットからして二人は男、もう一人は女だ。
 その少女の苛立ちは納まらない。
 恐らくは、この少女が『十二星徒(じゅうにせいと)』のリーダーだ。
 少女は溜息をつき、部屋にいる女へと視線を移す。
「……アンタ、いけるわね?切原魁斗を叩きなさい」
 女はフッと笑みを浮かべ、少女に言葉を返した。
「了解っさー」

286竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/01/14(土) 19:40:35 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp

「それじゃあ、ちゃんとノートを写して、明日返してくださいね」
 魁斗が帰還してきた翌日の学校からの下校中、魁斗と一緒に校舎から出てきた沢木は人差し指をぴんと立ててそう言う。
 魁斗が休んでいる間(一日程度だが)の、授業のノートを魁斗に渡し、家で写してくるように説明しているところだ。
 ちなみに、普段魁斗達が下校する際はレナや、稀に桐生と藤崎も一緒なのだが、レナは図書室に用があって『先に帰っててください』と言われ、桐生は藤崎に呼び出しをくらったらしく、今は魁斗と沢木の二人だけだ。
 今日写しても良かったのだが、運が悪いことに今日の時間割は、昨日とは全く違う時間割なので、時間割どおり忠実に教科書を入れている魁斗は他の用意を持ってきていないのだ。
「しかし、悪いなサワ。お前だって勉強しなきゃいけねーのに」
「いいんですよ。私に出来ることは任せてください」
 沢木は魁斗に笑顔を向けながら、そう言う。
 そんな事を話しながら校門へと向かっている魁斗と沢木の目に怪しい人物が目に入る。
 校門のところで、長身の男性が立っている。
 遠目なので見た目の年齢は分からないが、ハットにスーツを着た、長身の男だということは分かる。
 しかし、その男の怪しいところは見た目ではない。
 何やら校門の前できょろきょろとしている。
 完全に不審者だろう、と思った魁斗は同じく相手を見て表情を引きつらせている沢木に耳打ちする。
「(いいか。門をくぐる時、絶対にアイツを見るなよ。きっとややこしい事になる)」
「(は……はい)」
 二人は真っ直ぐに前を見て、相手を視界に入れようとせず、門をくぐろうとする。そのため何処か不自然な感じになっている二人だが、当の二人は気付くはずも無い。
 校門を出ようとしたところで、
「……ちょっといいかな」
「は、はいっ!?」
 結構特徴のある独特な声で、長身の男に声をかけられ、沢木が甲高い声を上げた。
 そんな沢木に魁斗は再び耳打ちをする。
「(アホかー!何で返事するんだよ!)」
「(す、すいません……。つい……)」
 返事してしまったなら仕方ないので、魁斗と沢木は長身の男に目をやる。
「……何でしょうか?」
「君達はここの学校の生徒だよね。悪いが、職員室まで案内してくれるかな」
 挙動が不審だった割には、意外と普通なお願いだった。
 魁斗と沢木は顔を見合わせて頷き、それくらいなら、と先導して長身の男を案内する。

「娘さんが……ですか?」
 校舎に向かう途中に、どういう理由で来たのかを、魁斗と沢木は長身の男に聞いていた。
 なんでも、自分の娘がこっちの学校に転入するので、そのための手続きのためらしい。
「うん。上手く馴染めるか心配だが……君達の学年は?」
「二年です」
 そう答えると、長身の男は嬉しそうな表情を浮かべた。
「実は私の娘も二年でね。もし同じクラスに転入することになったらよろしく頼むよ。葛城千(かつらぎ せん)という名前なんだ」
 初対面の割には、かなり気さくな人で話しやすかった。
「ちなみに、貴方の名前は?」
「私かい?私は葛城獅郎(かつらぎ しろう)というんだ、いやあ、よろしくね」
 魁斗の質問に、長身の男・葛城は答えてくれた。
 二人は職員室の前まで案内し、そこで葛城と別れることとなった。
「いやあ、ありがとうね。助かったよ。最後に、君達の名前を聞いても良いかな?」
 二人は僅かに戸惑った後に、名乗るだけならいいか、と思い、自分の名前を口にする。
「切原魁斗です」
「沢木叶絵です」
 葛城は二人の苗字を復唱し、暗記する。
「切原君に沢木さんだね。分かった。娘に君達と仲良くするように言っておくよ」
 葛城は職員室のドアをノックし、部屋の中へと入っていく。
 それと時を同じくして、階段から降りてきたレナが未だ校舎内にいる、魁斗と沢木を見つけて、名前を呼びながら手を振っていた。

287ライナー:2012/01/15(日) 14:29:06 HOST:222-151-086-008.jp.fiberbit.net
コメント失礼します、ライナーです^^

おおっ!? 新キャラ登場でしょうか、どんな人だか楽しみです^^
それと、『十二星徒』の動きも気になりますね。さてはて、これからどうなる事やr((

続きも楽しみにしております、ではではwww

288竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/01/15(日) 21:08:17 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
ライナーさん>

コメントありがとうございます^^

ただの娘思いのお父さんです。
これからも登場しますので、活躍にご期待ください!
『十二星徒』の方はもう終盤に向かってます。
次の戦いは、魁斗とてんびん座の戦いになりそうですw

289竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/01/28(土) 13:56:28 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 午後五時過ぎ。
 街の雑貨屋に制服を着た男女二人がなにやら話し合っている。
 その二人は桐生仙一と藤崎恋音。
 行き交う人々は、藤崎恋音が男子高校生と一緒にいる、ということで足を止め、数秒見てから再び歩き始める。
 どうやら、桐生のルックスに自分が勝てない、と分かってしまったようだ。
 忘れられがちだが、眼鏡イケメンの桐生仙一は、意外とモテるのである。
 桐生と藤崎が、雑貨店で選んでいるのはカチューシャだ。
「ねーねー、桐生君。どっちがいいと思う?黄色か白か」
 一方で、特に雑貨店で欲しいものはない桐生は、店内をきょろきょろと見渡して、藤崎の方に視線を向けると、
「白」
 と短く答える。だが、
「えー、私的には黄色がいいんだけど……あ!こっちの赤いのもラメ入ってて可愛いかも!」
 女との買い物には慣れている。
 大体、自分の意見は相手に否定されることも分かっていた。
 だが、分かっていたが予想通りになると、急に苛立ちがこみ上げてくる。
「久々の休みだって言うから……そもそも何で僕を誘ったんだい?女子と一緒の方が楽しいだろう?」
 桐生は、やや不満げな声で藤崎に言う。
 藤崎はカチューシャを選ぶのに必死であるが、一応質問は聞いていたらしく、返答する。
「だって、沢木さんとレナさんは切原君と一緒にいたいだろうし……。学校に女友達いないもん」
「同じクラスの……えっと、國崎さんだっけ?彼女は?」
 あー、と藤崎は小さく間延びした声を漏らす。
「何か、最近来なくなったの。先生が言うには風邪とかの連絡は受けてないみたいだけど……」
 友達のことだから気になるのか、藤崎は困ったような表情で俯く。
 桐生は元気が無くなった藤崎の頭を、軽く撫でる。
「気にすることはないよ。何か用事があって、忙しくて連絡が出来ないだけじゃないかな。きっとまた学校に来てくれるよ」
「……でも」
 藤崎の元気は戻らない。
 桐生は軽く息を吐いて、
「お腹減ってない?今日は機嫌がいいから、奢るけど?」
「ホントに!?」
 急に藤崎の元気が戻った。
 表情を引きつらせて、桐生は苦笑いを浮かべる。
「……分かりやすいな、君は……」
 二人は雑貨店を出て、何処で食事をするかの店選びを始めた。
 すると、二人と一人の巫女装束を着た女子がすれ違う。と、
「ッ!?」
 桐生の背筋に寒気が走った。
 明らかに敵だという反応。桐生の直感がそう告げていた。
(……今のは、まさか!)
 桐生の予感が、自然と身体を振り返らせていた。
 だが、人ごみのせいかそれらしい女性の姿は見えない。
 
 目立つ巫女装束の姿を着た女性を、見つけることが出来ない。

 桐生は、眉間にしわを寄せて、顔をしかめている。
(―――『十二星徒(じゅうにせいと)』か―――?)
 見間違いでなければ。
 彼女の首に、てんびん座のネックレスがあったような気がした。

290竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/01/28(土) 21:14:12 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 途中の道で沢木と別れ、魁斗とレナは二人で家へと向かっていた。
 特に何も話すこともなく、二人はただ黙って歩いている。
 その状況に耐えられなかったのか、レナは口を開く。
「あの……カイト様」
 レナの呼び掛けに魁斗は顔をレナに向ける。
 呼んだからといって、特に何も話すことがないのだが、沈黙よりはマシだろうと思ったのだ。
 レナは自然に口から出た言葉を、思わず言ってしまう。
「……何だか、少し会わなかっただけなのに……久しぶりに会ったような気がします」
「……は?」
 レナはハッとして、急に頬を赤く染める。
 恥ずかしいのか、魁斗から顔を背け頬に手を当てている。
 何かいつもと違う、と思い、魁斗は溜息をつく。
「大丈夫か、お前。俺が帰ってきてから可笑しくね?」
「お、可笑しくなんかありませんよぉ!?私はいたって普通です!!」
 と言っているが、顔は背けたままだ。
 すると、レナの鞄からメールを受信した時の着信音が鳴り響く。曲は藤崎の曲だった。
 レナは鞄から携帯電話を取り出して、メールの内容を確認する。
「……ハクアから呼び出しメールです。しかも私だけ」
「内容は?」
「『買い物したいんだけど人手がほしー。だから来てちょ☆手伝ってくれたら何か奢ってあげるから!』だそうです」
 ほう、と魁斗は小さく返す。
 顔を見せていないが、魁斗はレナがどういう表情をしているか大体予想がついた。
 多分『奢る』という言葉に釣られ、ニヤけていると思う。
「……行っていいぞ。一人で帰れるし」
「そ、それは出来ません!もしお一人の時に襲撃されたら……!」
 レナはそこで勢いよく振り返ってしまう。
 まあ、必然的に顔も見えてしまうわけで。やはりレナの表情はニヤけていた。
 自分の下心が丸出しの表情にがっくりするレナの肩に、魁斗はぽんと手を置く。
「行ってこい。大丈夫。人間なんてそういうもんだ」
 レナは『はい』と元気が無い声を出し、うわーん!!と声を上げながら走り去っていった。
 例のアイドルも、眼鏡少年の『奢る』という言葉に釣られているのだから、決して悪いことではない。
 一人になった魁斗の耳に、女性の言葉が響く。
「やーっと一人になってくれたさねー!」
 魁斗は勢いよく振り返る。
 声は上からだ。電柱の上に立っていた人影が、そこから飛び降りて、華麗に地面に着地する。はずが、
「ひゅべっ!?」
 足を滑らせ、甲高い声を上げて地面に倒れこんでしまう。
「……あのー……」
 こんな登場をする人は初めてだ。
 魁斗もそれなりに低姿勢で相手に声を掛ける。
「……あいたたたー……。やっぱ高すぎたねー。塀からにすべきだったかなー。いや、でもそれじゃ迫力にかけちゃうし」
「……」
 降りて来た人影は、身体を起こして座り込みながら一人で反省会をしている。
 にしても、奇抜な格好だ。巫女装束に薄紫の髪を、後ろで三つ編みに結っている。見た目は二十代の女性だ。
 その女性は魁斗の視線に気付き、きょとんとした表情を向ける。
 それからハッとして、すぐに立ち上がる。
「いっけね。忘れるとこだった。私は『十二星徒(じゅうにせいと)』のてんびん座。天草秤(あまくさ はかり)さ」
「……こりゃまた、面倒な奴が来たな……」
 思えば、自分は変な『十二星徒(じゅうにせいと)』にばっか絡まれているような気がする、と魁斗は感じていた。

291竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/02/17(金) 22:07:21 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第七十四閃「天子VS天秤」

 天草秤、と名乗った巫女服の女は、魁斗の事をじーっと見つめている。
 一度目が合ったと思えば、自分の違うところに目を移したり、自分の事を凝視しているのは分かるのだが、あまり気味のいいものではない。
 天草は顎に手を添えて、一人で勝手にうんうんと頷いている。
「……Bだね。付き合うのに丁度いいルックスだよ、君は」
「……はい?」
 天草のいきなりの言葉に目を点にする魁斗。
 自分を凝視したのは、ルックスの判断のためだけか?と僅かにがっかりする。相手の戦い方のための準備だと思っていた自分が馬鹿みたいだ。
「友達ならさ、どのランクでもいいんだけど、やっぱ恋人となるとAかBが丁度いいよね!Sランクってさ、ちょっと重くない?テレビで活躍してるイケメン俳優とか、アイドル歌手とかさー。世間から嫉妬の視線を永久的に向けられるんだよ?耐えられないよねー」
「知るかッ!!」
 天草のマシンガントークに痺れを切らした魁斗が、思わずそう怒鳴る。
 怒鳴られた天草は、ありゃりゃと声を漏らし、眉を下げた。
「……お前は『十二星徒(じゅうにせいと)』なんだろ?だったら、俺を狙いに来たんじゃねーか?」
「君はどうよ?」
「あ?」
 やはり会話が噛み合ってない。
 狙われたことに対して『どうよ?』と聞かれてるのかもしれないが、天草の口から出たのは予想外すぎる言葉だった。
「君は女の子と付き合うなら、SからFのどのルックスの女の子がいい?」
「だから知るかって!お前は戦いに来たのか、雑談に来たのか、どっちだ!」
 忘れてた、と天草が言うと、彼女は十字の形をした槍を構える。
 だが、槍の先はそれほど鋭さを感じさせるものではなく、先が少しだけ丸みを帯びている。
 魁斗は相手の槍を見て、十分に警戒をする。
「……それが、お前の剣(つるぎ)か」
「そう。私の名前は天草秤。『十二星徒(じゅうにせいと)』の―――」
「てんびん座だろ?ちなみに名前もさっき名乗ってたぞ」
 当然のように語る魁斗に、天草はぎょっとする。
「何で君が私の司る星座を知ってるのー?しかも名前も知ってたって……何者!?」
 魁斗は思った。
 ―――ああ、コイツ。今までの敵で一番面倒くさいな、と。
 魁斗は溜息をついて、双剣である二本の刀を構えた。
「……とりあえず、始めようぜ。天草秤」
「ひゅー。いきなりフルネームを覚えてくれるかー。名前で呼んでくれても良かったのにー」
 生憎だな、と魁斗は呟きながら地面を思い切り蹴る。
 たったそれだけで、十数メートルあった魁斗と天草の距離が一気に縮まる。
(わお、さすがに速いね)
 天子の脚力の高さに、僅かに驚く天草。
 話には聞いていたが、ここまでとは予想外だったらしい。
 魁斗の横薙ぎに振るわれた刀を、天草は十字型の槍で防ぐが、強力な光を纏っている魁斗の力に負け、天草は横方向に飛ばされてしまう。
 だが、天草はすぐに体勢を立て直し、電柱を蹴って、思い切り空に跳び上がった。
「なぁっ!?」
 魁斗の視線も、自然と空中に舞い上がった天草へと向けられる。
 彼女は宙で身体を舞わせながら、上空から槍先を地上の魁斗に向けた。
「ッ!?」
 その状態で、天草は歌うように、短い言葉を紡いだ。
「獄中火葬(ごくちゅうかそう)―――『炎天(えんてん)』」
 言葉と同時に、天草の槍先から巨大な柱のように、炎が噴出した。

292竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/02/19(日) 11:46:42 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp

「獄中火葬(ごくちゅうかそう)―――『炎天(えんてん)』」
 天草の掛け声とともに、十字槍の先から巨大な炎の柱が噴き出す。
 どんどん迫ってくる炎の柱を、魁斗は刀に光を纏わせ、受け止める。
「ぐ……っ!」
 魁斗が歯を食いしばり、両方の刀を使い始める。
 そして、纏わせた光をいっそう大きくして、刀を横に薙ぐような形で振るう。
 すると、炎の柱は打ち消される。
 だが、魁斗が上空に目をやると、さっきまでいたはずの天草の姿が見えない。
 魁斗が相手の姿を追おうと、視線を這わせると、不意に後ろから声が飛んでくる。
 先程と同じような詠唱を始めとした、先程と同じような技名が。

「天地鳴動(てんちめいどう)―――『雷天(らいてん)』」
 
 魁斗が後ろを振り返ると同時に、頬のすぐ横を、黄色い電撃が一直線に走る。
 動きを止める魁斗に、天草は槍を構えながら突っ込む。
「ッ!」
 天草の突進に何とか魁斗は反応し、相手の攻撃を刀で受け止める。が、そこで魁斗は相手の意図に気が付く。今まで離れて攻撃していた相手が、急に接近戦に持っていった事に、早めに気付くべきだった。
 ―――槍の先が、こちらへと向けられたまま鍔迫り合いになっている。
 ニィ、と怪しげな笑みを浮かべ、天草はゆっくりと口を開いた。
「裂空激昂(れっくうげっこう)―――『風天(ふうてん)』」
 その攻撃は、魁斗の予想通りのものだった。
 槍の先から竜巻が起こり、魁斗はそのまま後方へと吹き飛ばされる。飛ばされながら何とか体勢を立て直そうと思う魁斗だが、天草は畳み掛けるように、再び上空へと飛び、槍の先を自分に向けている。
(しまった……!これじゃかわせない!)
「獄中火葬―――『炎天』」
 再び炎の柱が魁斗に向かって放たれる。
 魁斗は抵抗できぬまま、相手の炎の柱を正面から受け、土煙が舞い起こる。
 天草は着地して、その土煙の方へ視線を投げる。
「……君、ルックスはBなのに戦いはDだね。そんなんじゃ、私は倒せないっさよー」
 楽しそうな笑みを浮かべる天草。
 魁斗は刀を杖代わりに地面に突き刺し、口の端から垂れる血を手の甲で拭いながら立ち上がる。
「……うるせぇよ……!」
 魁斗は、久しぶりの実践で感覚を取り戻したのか、口の端に笑みを浮かべる。

293竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/02/19(日) 13:56:28 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 立ち上がった魁斗に、天草は楽しそうな笑みを見せる。
 魁斗も立ち上がってすぐは攻撃しようとしない。相手の剣(つるぎ)の能力を探ろうとしているのだ。
 相手に正面きって訊ねて、相手が答えてくれるかも分からない。いや、自分の手の内を晒すような真似は、相手だってしないだろう。
「いやー、聞いてた通り結構粘るよねー。私の剣(つるぎ)、『七乱十字(しちらんじゅうじ)』の能力を分かったとしても、君に勝ち目はないってのよ?」
 魁斗だって、相手の剣(つるぎ)の能力が全く分かっていないわけではない。
 天草が技を出す前の掛け声に合わせて、それに対応した属性の技が出るということは何となくだが分かっていた。
 今のところ分かっているのは三つ。『七乱十字(しちらんじゅうじ)』というからには、あと四つあるのだろうか。
「悪いことは言わないよ。諦めなさいって。たとえ私達を倒して『十二星徒(じゅうにせいと)』の真相に辿り着いたとして、君達に何が出来るのさ。希望を潰すようで悪いけど、君の中の誰もリーダーには勝てない。絶対にね」
 天草は絶対の自信を持って告げた。
 そこまで自分のリーダーを信じているのか。魁斗としても、天草はかなりの実力者だと分かる。そんな彼女に『強い』と言わしめるほどのリーダーが強いのは分かる。
 だが、今まで仲間が何人もやられているのに、一向に動こうとしないリーダーを、魁斗ならば信用はしない。
「私にここまで追い詰められている時点で、君のリーダーへの勝機は限りなく薄いよ。諦めなさいって。時には大人の言う事を聞くのも肝心さ」
「……やってみなけりゃ、分かんねぇだろ……!」
 魁斗の言葉に天草の表情が変わる。
 今まで笑みを浮かべていた彼女の表情が、きょとんとした顔になった。
「……確かにお前は強いよ。そんなお前を下に置いてるリーダーはもっと強いってのは分かる。だけどな、俺達は勝たなきゃいけないんじゃねぇ……、勝つんだよ。お前にも、そのリーダーにも、『六道輪廻(ろくどうりんね)』にも、全部にな!!」
 天草の表情に笑みが戻る。
 だが、先程までの『楽しい』笑みではなく、『愉しい』笑みだ。
「いいねぇ、そういう気迫!危うく惚れちゃうとこだよ!」
 天草は十字槍の先を地面に突き刺し、再び詠唱から始まる技名を口にした。
「氷牢閉鎖(ひょうろうへいさ)―――『氷天(ひょうてん)』」
 掛け声とともに、魁斗を氷の檻が囲う。
 魁斗は刀を、檻に向けて思い切り力を込めて、横に薙ぐ。氷の檻は音を立てて砕けていく。
 天草は地面に槍を突き刺したまま、ニッと笑みを浮かべた。
「残念だったねぇ。『氷天(ひょうてん)』は、砕かれて次の技が出せるようになるんだよ。氷牢決壊(ひょうろうけっかい)―――『水天(すいてん)』」
 言葉とともに氷が一点に集中し、水の塊と化す。
 その水の塊は、魁斗の腹に吸い込まれるように、突っ込んでいく。
「ぐふっ……!」
 魁斗は腹の痛みに耐えながら、体勢を崩さぬように持ちこたえる。
 だが、一瞬の隙も与えようとしない天草は、再び魁斗へと突っ込んでいく。
 天草が突き出すように、槍を前に出すと魁斗は顔を逸らして攻撃をかわしただけだった。
「同じ手にかかるかよっ!」
 魁斗は刀の峰を天草の腹に叩き込み、相手を後方へと飛ばす。
 天草は後方に飛ばされながらも、槍先を魁斗に向ける。
「……天地鳴動(てんちめいどう)―――『雷天(らいてん)』」
「待ってたぜ、その技」
 魁斗は刀を構え迫り来る電撃を、片手の刀で弾いた。
「この技は威力は弱いが、早い。だからこそ俺は、アンタを飛ばしてその技を出させたんだ。威力が弱けりゃ飛ばされる方向と逆に出しても、反動で遠くに飛ばされないだろうからな」
 そして、魁斗は反撃に移る。
 天子の高い脚力を利用して、思い切り地面を蹴り、一気に天草へと突っ込む。
(―――速いッ!)
「戦いはDだって?上等だ」
 魁斗は巨大な光を刀に纏わせ、相手の十字槍を狙う。
 巨大な光を纏った刀を十字槍に叩きつけ、相手の剣(つるぎ)を破壊する。これで天草はもう戦えない。
(……しまった……!)
「俺のDは、ど根性のDだ!」

294館脇 燎 ◆SgMmRiSMrY:2012/02/19(日) 15:06:35 HOST:222-151-086-004.jp.fiberbit.net
コメント失礼いたします。 筆者が竜野様だったので拝見させて頂きました!

竜野様は更新率が多くて、アイディアの豊富さに憧れます。キャラクターも様々な人物が居て、とても面白いです!
僕が一番好きなキャラクターは桐生です。氷系は結構好きなので。

次の更新も楽しみにしております。

295竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/02/19(日) 15:39:15 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
館脇燎さん>

コメントありがとうございます。
もうすぐ300レスだというのに、相変わらずスローテンポなこの作品を読んでくださり、とても嬉しいです^^

ぶっちゃけて言うと、作品を更新する際は、大体三〜四割は思いつきで放り込んでます。そのため、最初から思っていたものとだいぶ違うものになってたりしますw
キャラの個性は一度指摘があったので、出来るだけ目立たせるようにしていますw 一番個性が弱いのは魁斗だと思ったr((

僕も桐生は結構お気に入りキャラですw 彼と恋音を絡ませている時が、一番楽しかったりしますw
氷系つながりでは、まだスノウしか出てませんね……。これから氷系は出てくるのか((

はい、続きも頑張らせていただきます!

296竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/02/19(日) 20:23:19 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 武器が壊されてしまった天草は、そのまま地面に尻餅をつくような体勢で、倒れてしまう。
 戦う術がなくなってしまい、天草は剣(つるぎ)を破壊した魁斗を見る。
「……甘いさね……」
 魁斗は天草の言葉に、反応する。
 天草は尻をついたまま、起き上がろうともせずに、言葉を紡いでゆく。
「……私を直接狙わず武器だけを狙って……情け?それとも、敵でも女だからって優しさを見せたつもり?言っとくけどね、そんな中途半端な情けは必要ない!女を攻撃する勇気がないのなら、初めから戦うな!」
「……別に、情けをかけたわけでも、優しさを見せたつもりでもねーよ」
 魁斗は静かにこう切り出した。
 魁斗は自分の持っていた二本の刀をブレスレットに戻し、尻餅をついたままの天草に手を差し出す。
「ただ、何となく嫌だったんだ。アンタを傷つけるのは。本当の悪人って感じがしなかったから」
 何?と天草は眉間にしわを寄せる。
 魁斗自身も、今の自分が何を言っているのか、理解しながら喋っているわけではないだろう。
「俺だって、根っからの善人ってわけじゃない。一目見ただけで、その人が本当に良い人だってのも分かるわけじゃない。でも、戦ってる内に何となく分かるさ」
「知った風な口を……!私はアンタを殺すつもりで攻撃した!本気の本気で―――」
「それは嘘だ」
 魁斗が相手の言葉を遮るように言った。
 何かを言おうとしていた天草も、途中で言葉が詰まる。魁斗の言葉に圧されたのか、魁斗の言葉には言い聞かせるようなニュアンスが含まれていた。
 魁斗は、言葉を続ける。
「俺を殺すチャンスならいくらでもあったはずだ。最初の『炎天(えんてん)』の後、俺の背後に回って『雷天(らいてん)』を出したよな。わざわざ威力の低い技を出さなくても良かっただろ。しかも、あの時俺は振り返るのに精一杯でかわすことが出来なかった。つまり、アンタは俺を狙って『雷天(らいてん)』を当てることも出来たし、違う技で攻撃も出来たはずだ」
 確かに、魁斗の言う通りかもしれない。
 背後から、全くかわすことが間に合わない相手になら、大技を出すだろう。少なくとも、あそこで『炎天(えんてん)』を出していれば、決定的なダメージは与えれた。
 『水天(すいてん)』の後に、接近戦に持ち込まずに、『風天(ふうてん)』か『炎天(えんてん)』かで、遠距離で攻撃することも出来たはずだ。
 天草がそれを実行しなかった理由は一つだ。
「―――アンタが善人だから、そうしたんだろ」
 天草は顔を逸らして、噛み砕くように呟く。
「……そんな事ない……私は、私は……」
 天草は悔しさを隠しきれていない。
 そんなところを見せるのも、彼女が全くの悪人ではなく、人を殺すことに躊躇いを持っているからだ。
「剣(つるぎ)なら、俺の知り合いに剣(つるぎ)マニアがいるんだ。そいつなら、治せる人を知っているかもしれない。お前の剣(つるぎ)だって、また使えるかもしれないぜ」
 魁斗は、差し伸べた手を一度も引っ込めずに、未だ伸ばしたままだ。
 その差し伸べた手は、天草に『立て』と言っているのと同時に、『仲間にならないか』と言っているようにも見えた。
「……天草。お前さえよければ一緒に戦ってくれ。お前がいれば心強いし、『十二星徒(じゅうにせいと)』の情報だって、入手できる」
「……、私は……」
 天草の右手が、ピクッと動く。
 天草はゆっくりと差し伸べられた手に、自分の右手を伸ばしていく。
「……いいの……?私なんかを、仲間に入れても……?」
「ああ」
 天草の疑問に、魁斗は即答した。
「説明なら俺がするし、皆だって納得してくれるさ。俺に任せとけ」
「……ありがとう」
 天草は僅かに頬を染めて、自分の伸ばした右手を、魁斗の差し伸べた手に重ねる。
 魁斗は尻餅をついたままの天草を引き上げて、立ち上がらせる。
「大丈夫か?」
「ふ、ふん!心配されるまでもないっさね!私はそんなにダメージは受けてないし、君の方が大丈夫か心配っさ!」
 天草は腕を組みながら、そう言った。
 魁斗はその様子に、僅かに笑みをこぼす。
「そういや、今レナはハクアさんと一緒なんだよな……。まずは二人に連絡して、天草の事を説明するか」
 魁斗は携帯電話を開いて、レナとハクア(電話をかけたのはレナの携帯電話)に連絡する。
 その時、天草秤は上空からの冷たい視線に悪寒を感じる。
 だが、その事は、魁斗に言えず、大きな恐怖を感じながら、彼女は口を塞いでいた。

297竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/03/02(金) 21:31:13 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第七十五閃「本当の仲間」

 天草秤の一件以降、レナのご機嫌はナナメ状態だった。
 元『十二星徒(じゅうにせいと)』であるとはいえ、今では武器もないし、反抗の意志もない。更に少ないとはいえ敵方の情報を得られるのは彼女だけではなく皆にとっても利点である。それはいいのだ。
 だが、彼女が問題視しているのはそんな利点だらけのところでもなく、天草が仲間になった事でもない。
 現在、学校の昼休み。
 この時間魁斗達は、屋上に集まって昼食を摂るのがお決まりになっていたため、ハクアも屋上に来ている。
 そして何故か、変装など全くせず、巫女装束のまま来た天草秤が、思いっきり魁斗に抱きついている事だった。
 レナの心境は今こうだ。
(……この野郎……!!)
 普段表情には出さないレナにとって、悟られる事は少ないが、長年の付き合いであるハクアにはお見通しのようだ。
 いや、親友でなくとも、自分の主が最近知り合った女に抱きつかれているのだ。平静でいられるわけがない。元敵であるなら余計にだ。
「……しかしまあ、切原君。君は良く好かれるよね、変人系の敵に」
 桐生が紙カップの飲み物を飲みながら言う。
 それを聞いた天草は、桐生に詰め寄り、ほとんどヤクザみたいな言い方で桐生に言葉を投げかける。
「ああん?誰が変人っさね。私の何処を見て変人だと決め付けとるさ?」
 巫女装束に特徴的な口調。
 何処と言われても答えに困るほどだ。まず、どこからツッコんでいいか分からない。
 ずっと黙っていたら天草に勝ち誇った顔をされた。面倒が減って助かったが、あれはあれで表情に異様に腹が立つ。。
 大人な桐生は、特にそこを気に留めずにいられるあたりがすごい。
「ところでさ、天草さん。聞きたい事があるんだけど、いいかな?」
 ハクアが小さく手を挙げてそう言う。
「『十二星徒(じゅうにせいと)』のリーダーってどんなのなの?」
 それは魁斗達が今一番欲しい情報だ。
 その質問に、天草は僅かに黙り込む。
「……私でも分かる事は限られるっさ。ただ、女の人で、年は高校生ぐらい。こんだけしか分からんっさね」
 どれも新しい情報だ。
 一番最初に捕えた早乙女からは性別すらも聞く事は出来なかったのだから。
 ただ、高校生ぐらいというのは少し驚いた。
「高校生かぁ……一気に近くなったね」
 藤崎が溜息混じりに呟く。
「そうですね。もしかしたらこの学校に潜んでるかも知れませんし……」
「どの道、注意しても悪い事はないね」
 沢木に続き、桐生がそう言う。
 なんにしても、年齢と性別が分かったところで、相手を判断する事は不可能だ。
「それと、リーダーさんが言ってた事があるっさ」
 全員が眉をひそめる。
 天草は、人差し指を立てて説明しだす。
「名前は覚えてないけど……しし座の『十二星徒(じゅうにせいと)』が結構強敵らしいっさ」
「……しし座……か」
 まだ戦ってない相手だ、と魁斗は思う。
 最後の方に厄介な奴が残ってしまったな、と魁斗は溜息をついた。
「とりあえず、一人で行動すんのは危ないかもね。桐生君と藤崎さん、私とサワちゃん、カイト君とレナと天草さんのチームで行動しない?」
 ハクアの提案に、レナは少し大きめな声で意見を述べる。
「私もハクアと沢木さんチームでいいです」
 その言葉に、妙にピリピリしてると思った魁斗は、
「……どうしたんだよ、レナ。何か怒ってんのか?」
「私は怒ってなんかいません」
 ぷい、とレナは魁斗から顔を逸らしてしまった。
 天草の行動に乙女の怒りはマックスなのである。そんな女心に気付かない魁斗であった。
「レナがいいならいっか。じゃあ桐生君と藤崎さん、私とレナとサワちゃん、カイト君と天草さんチームで行動しましょ」
 だが、彼らは後に知る。

 このチーム編成が、悲劇を生む事になると―――。

298竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/03/03(土) 10:04:19 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 学校が終わった後に、魁斗達はハクアの言ったチームで家へと帰宅していった。
 男子と二人きりの状態である藤崎は僅かに頬を赤くして、魁斗と一緒の天草はご機嫌である。だが沢木とハクアの二人と一緒のレナは、相変わらず不機嫌なようだ。
 三人で歩いているにも関わらず、ハクアとも沢木とも話そうとしない。
 それを見かねたハクアが口を開く。
「……アンタまだ怒ってんの?折角カイト君と一緒にしてあげたじゃない」
「そんな事じゃありません」
 レナは少々苛立ったような口調でそう返す。
 ハクアはもしかして、と思いレナに質問をしてみる。
「天草さんと一緒が嫌だったの?」
 レナは僅かに黙り込み、俯いてしまう。
 ありゃ、案外図星?とハクアが思っていると、レナは小さく口を開く。
「……分かっているんです。私は別に、天草さんが仲間になったことを批判しているわけではないのです。……自分に手を差し伸べてくれたカイト様に好意を寄せるのも分かります」
 ただ、とレナは一度言葉を区切る。
「……ただ、分かっているのは彼女が良い人だという事……そんな彼女に嫌悪感を抱く自分が、分からないのです……」
 恐らく、レナは天草を好きになれていないというより、信用できていないといったところだろう。
 初めて会った人間に好意を抱くのは難しい。実のところ、桐生も藤崎もハクアも沢木も、天草を好きになれていないだろうし、心のどこかで信用できていないかもしれない。ただ、魁斗が信用しているから。彼らもつられて信用してしまっているだけかもしれないのだ。
 ハクアは溜息をついて、
「馬鹿ね。そんな事、アンタの大親友である私が気付かないとでも思ってたワケ?」
 ハクアはレナを言い聞かせるように口を開いた。
「だからわざわざアンタと天草さんを一緒にしたんでしょうが。二人じゃ気まずいだろうから、二人の事を本当に信用しているカイト君も一緒にね」
 そういう事を初めから考えて。
 だからこそ、ハクアは天草とレナを一緒にしたのだ。彼女はあくまでもレナの事を考えて、チームを編成していた。
「ま、初めて会った人と仲良く出来るなんて相当の猛者よ。普通の人じゃまず無理だわ。カイト君は単に好かれやすいだけなのよ。敵からも味方からも。良い意味でも悪い意味でも、彼は好かれるのよ」
 レナは未だに俯いている。
 ハクアはそのレナを見て、頭を軽くグーで殴る。
 殴られたレナは頭を押さえて、思わず怒鳴ってしまった。
「な、何をするんですか!?デリカシーゼロですか!?今やっと『私は良い友達を持った』と改めて思っているところだったのに!!」
「いーつまでも辛気臭い顔してんじゃないわよ!こっちまで薄幸になったらどうするの!?」
 その言葉を引き金として、二人はぎゃあぎゃあと言い合いを始めてしまった。
 しかし、どんどんと話の軸がズレて、違う事で文句を言い合っている。
「そんなんだからアンタはたまにカイト君に引かれた目で見られるのよ!」
「な、人の事言えないでしょう!?ハクアだってカイト様に『うわー、何だこの人』みたいな目で見られてますよ!」
「はぁ?この完璧お姉様のハクアちゃんがそんな目で見られるわけないでしょ?」
「言いますけど、貴女は結構抜けてるところが多いですよ!?」
 その言い合いを見ていた沢木が口を開く。
 いつものように、笑みを浮かべて。
「……何だか、二人って姉妹みたいですね」
 その言葉にレナとハクアが言い合いを途端に止める。
「ハクアさんがお姉さんで……レナさんが妹で」
 沢木のその言葉に、ハクアがぷっと笑う。
「そう?そんな事初めて言われたわ」
「そうですね。髪の色も、顔も。全然違いますからね」
 えへへー、と沢木は笑みを浮かべたままだ。
 ハクアは腕を組んで、レナに言う。
「とりあえず『十二星徒(じゅうにせいと)』との戦いが終わったら、天草さんと仲良くさせるプログラムを考えなきゃ」
「大丈夫ですよ。自分で何とかしますから」
 三人は、沢木の家へと向かって歩いていく。

299館脇 燎 ◆SgMmRiSMrY:2012/03/03(土) 16:41:21 HOST:222-151-086-004.jp.fiberbit.net
コメント失礼致します。

天草さんが仲間に加わって、一層賑やかになってきましたね。
妬いているレナがちょっと可愛いです^^
獅子座の方も気になります。獅子座の方がリーダーなのでしょうか?

続きも楽しみにしております。

300竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/03/03(土) 23:37:33 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
館脇 燎さん>

天草さんね、結構喋らせて楽しいんだけど台詞がそれほど多くないっていうこのトラップw
初めてと言っていいほど、レナが不機嫌になってますw可愛いと言って貰えると、嬉しいです^^
しし座の『十二星徒(じゅうにせいと)』さんはそろそろ出てきます。
やはり戦うのは……我らが主人公といったところでしょうかね。

はい、頑張らせていただきますね^^ノ

301ライナー:2012/03/06(火) 19:40:58 HOST:222-151-086-019.jp.fiberbit.net
久々にコメント失礼しますね、ライナーです^^
このところ勉強が忙しく、友人にパソコン貸し出し放置状態になっておりまして……(−−;)

天草さんが仲間に加わって、一波乱ありそうですね。
レナの嫉妬を書くことで、新キャラのイメージが強まっていて良いと思います。
ですが、前回も言ったとおり、人数を意図的に減らしていかないと読者にキャラクターのイメージが追い付いてきません。
第七十五閃「本当の仲間」では少し主要キャラが出ていますが、他に出ていないキャラが空気キャラになってしまっています。
キャラを意図的にカットするには、幾つかの方法があります。まあ、これは誰でも思いつく範囲内ですが……
・学校側のキャラクターを転校させる。
・天界側に何か理由付けして、主人公と一時別れる。
・戦闘時に死亡(これは話が重くなるので、使いすぎに注意)。
・天草さんを『十二星徒(じゅうにせいと)』編だけのサブキャラクターにする。(後も敵が仲間になる場合はこの方法を使用する)
それと、これ以上仲間を増やす場合があるなら、現状で二人以上のカットは必要です。キャラクターが深く掘り下げられていないですので。天草さんが口調でしか差別化できなくなっています。
最後に言っておくと、バトルシーンがあるのは良いのですが、ほぼ何の努力も無しに魁斗達が勝利してしまっています。
ですので、修行シーンを増やすとより心の葛藤なども書きやすく、主人公達の苦労が伝わりやすくなります。

302彗斗:2012/03/06(火) 22:42:33 HOST:opt-183-176-177-115.client.pikara.ne.jp
コメント失礼します

質問なのですが前作品を見ないと話は分かりませんか?

303竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/03/09(金) 21:39:21 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
ライナーさん>

コメントありがとうございます。
本当にお久しぶりですね^^

既にレナの頭の中は天草への嫉妬で波乱状態だと思いますw
彼女の心は意外と嫉妬しやすく、ヤキモチも妬きやすいのでw そういうところでしか彼女の可愛さが見出せなi((
天草さんは『十二星徒(じゅうにせいと)』編が終わったら多分出てきません。
っていうか出せなくなるような……。最低でも二人ですか。
天草……と誰がカットできるだろうか??そこは熟考しておきますね。
それに主要キャラ(魁斗、レナ、ハクア、桐生、藤崎、沢木)の出番も増やさねば……。
ああ、問題が山積みd((

毎回貴重なアドバイスありがとうございます。
これからも頑張らせていただきますね^^


彗斗さん>

コメントどうもです。

いえいえ、大丈夫ですよ。
前作品や、他の作品とはまったく関係のないものなので。

304竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/03/09(金) 21:57:58 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 藤崎恋音の心臓は張り裂けそうだった。
 何故かといえば、若干気になっている男子の桐生仙一と一つ屋根の下、しかも桐生の家で当分暮らす事になったからだ。
 相手が相手だからこうも緊張しているのか。修行の時などはそんなに気にならないはずなのにどうして?とそもそもシチュエーションが違うから、という事に気付かない少々おバカな藤崎だ。
 隣同士で座っているにも関わらず、どちらも話そうとはしない。
 今の二人は、まるで初めて付き合ったカップルのようだ。
 そんな二人の腰掛けているソファの後ろから、妙に聞き覚えのある声が飛んでくる。
「あららー。二人ともどしたの?何緊張してるの?」
 声の持ち主は、ピンク色の髪をポニーテールにした、二人にとってなじみがある人物だ。
 桐生はこめかみに青筋を立てて、彼女の胸倉を掴む。
 女子といえど、そこら辺は容赦が無い。
「何でいるんだ?ここ僕の家だよな?何でだ?何でお前が僕の家の合鍵を持っている?渡した覚えはないが?」
「……ま、まーまー……落ち着きなさいって……!」
 少し首が絞まっているのか、ピンク髪のポニーテール女ことカテリーナはしんどそうな声で言った。
 藤崎の制止があって、桐生が彼女の胸倉から手を離す。カテリーナは床に四つんばいになって、首を押さえながら涙目で咳き込んでいる。
 カテリーナは正座をして、桐生と向かい合うように座った。
「えー、何故私がここにいるか、という事でございますが、ハクアさんからこのようなメールが届きまして」
 カテリーナは携帯電話を開いて、メールの内容を見せる。
 それを覗き込んだ桐生と藤崎が、声に出してメールを読んでみる。
「『元敵の天草さんが仲間になりましたぜよー。彼女から手に入れた情報が超ビッグ!なんとしし座の奴が激強だって!だから固まって行動しちゃってよ!』か……大体の理由は分かった。だが」
 桐生は眼鏡を指先で上げて、再びカテリーナの胸倉を掴む。
「何で僕の家なんだ?天界に帰ればいいだろ。向こうにはエリザさんやザンザさんや、クリスタさんもいるはずだ」
「ちょ、ちょちょ、タンマタンマ!何で今日の桐生君はこんなにもコワイの!?」
 いつも通りじゃない桐生の様子に、カテリーナは激しく動揺する。
 藤崎は再び桐生を止めて、話しを本筋に戻す。
「とりあえず、君は僕達と一緒に行動したい、と。だったら不法侵入しなくても直接言ってくれればいいのに」
「だぁってぇ。年上なのに年下の子に『家に泊めて』ってお願いするの恥ずかしいもん」
 年上?と桐生と藤崎は首を傾げる。
 カテリーナは状況が飲み込めてない二人にきょとんとした表情を見せる。
「……ああ、多分十八歳ってことよね。びっくりしたぁー」
「だよね。冷静に考えればいいんだ」
 藤崎と桐生が納得しかけたところで、カテリーナが首を横に振った。
 二人は再び頭に疑問符を浮かべる。
「んにゃー、違うよ?私は二十一です」
「何で貴様が学校に来てんだよ?あぁ?」
 桐生仙一が、昔の桐生仙一に戻ってしまった。ご丁寧に眼鏡も外している。
 彼は再びカテリーナの胸倉を掴んでいる。だが、今回は掴むだけじゃなく、掴んだ上に持ち上げている。
「んにゃー!恋音ちゃーん、助けてー!」
「わー!桐生君落ち着いてー!」
 とても騒がしい夕暮れだった。
 こんなどうでもいいような、騒がしいやり取りだが、一人だけホッとした人物がいた。
 言うまでも無く、以上にどきどきして心臓が張り裂けそうになっていた藤崎だ。
(……良かった……)
 彼女は誰にも気づかれずに、心の中でそっと呟いた。
(……桐生君と二人きりなんて……意識しすぎて無理だったもん……!)

305竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/03/23(金) 22:03:04 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 天草と一緒に帰っている魁斗は、どこか落ち着かないような表情をしていた。
 それもそのはず、天草とはついこの間知り合ったばかりだし、自分に好意を持ってくれているのは分かっているが、何か異様にベタベタしすぎている気がする。
 魁斗は溜息をついて、現在も自分の腕に纏わり付いている天草に声を掛ける。
「……あのさぁ、天草……。もうちょっとだけ離れてくんない?歩き辛くて……」
 その言葉を聞くなり、天草は頬を膨らませて魁斗を見つめる。
 まるで、遊んでくれなかった親にせがむような、子供の目つきに近い。
「いーじゃーん、別にー。私だって若い男の子に甘えたいモンさー。それが女って奴っさねー」
「それは人によると思うけどな。まあ、一応肯定しておこうか?」
 まるで会話の内容も親子のようだった。
 だが、年齢は逆転していて、天草が我侭な子供、魁斗がそれを疲れきっているのか華麗に流す親のように見えた。
 しかし、天草の仕草は若い男の子に甘える、というより兄か弟にくっ付いているようにも見える。
 そう感じたのか、魁斗は天草に問いかける。
「……お前って、兄とか弟とかいたのか?」
「……、うん……。まあ……ね」
 今まで快活な喋り口調だった天草にしては珍しく、何処か不鮮明な言葉が混じった。
 濁すようなごまかすような。そんな言葉を聞いて、魁斗はドキッとするが、天草は続けて口を開いた。
「……弟がね……いたん、だけども……。あの子、高校卒業したら何処かに出て行っちゃって、それ以来音信不通……。生きてるかどうかも分かんないし……」
 珍しく、天草が顔に悲哀の表情を浮かべる。
 魁斗は生まれてからずっと一人っ子で育ったため、兄弟や姉妹がいる感覚は正直分かりかねるとこだが、レナを自分の姉と見立てて考えてみた。
 今の生活で、レナがいきなりいなくなったらどれだけ不安か。どれだけ寂しいか。音信不通の状態で、どれだけ心配か。
(……まあ、そりゃ……いても立ってもいらんねーよな。もしかして、こいつが『十二星徒(じゅうにせいと)』なったのも……?)
 魁斗は考え始める。
 もし、彼女が弟を探す、という理由で『十二星徒(じゅうにせいと)』に入っていたとしたら……。

 ―――彼女は、本当に悪いだけの奴なのか。

 天草はハッとして、ごまかすように慌てた口調で話し始める。
「あ、ごご、ごめんさね!?ち、ちっとばかし暗い話にしちゃったね!あ、そーだ。喉渇いてない?私がコンビニで買ってきてあげるさよ」
 そう言う天草に、魁斗は厚意に甘える事にし、天草に頼む。
 天草は嬉しそうな表情を浮かべ、コンビニへと走っていった。とりあえず、彼女が戻るまでここにいることにした魁斗だが、天草の言っていた『兄弟がいなくなったら』の話を少しだけ思い出してみる。
 そして、自分に置き換えて、考えてみる。
(……兄弟か……。レナが急にいなくなる事はないと思うけど……でも、)
 ―――でも、いつかは―――。
 分かっている。そんな事は分かっている。言われなくても分かっている。
 いつかはレナも、自分の前からいなくなってしまう事は。
 彼女がここに来た理由は、自分の中にある『シャイン』を狙う敵の集団から、自分を守ること。脅威が去ったら、レナも天界に帰ってしまうだろう。
「……なぁーんか……今まで気付かなかっただけに不思議だよなぁ……」
 魁斗は、誰にというわkでもなくただ呟いた。
「俺にとってレナって、こんなにも大切な存在だったんだ」
「おや、君は」
 魁斗の後ろから聞き覚えのある特徴的な声が飛んでくる。
 魁斗が後ろを振り返ると、そこにいたのは以前学校に来ていた、転入する予定の生徒の親である、葛城獅郎だ。
 警戒しながら振り返った魁斗としては、ホッとした気分になる。
「久しぶりだね。誰か待ってるのかい?」
「ええ、ちょっと知り合いを」
 魁斗は葛城の言葉に答える。
 ならちょっといいかな?と葛城は魁斗に訊ねる。
「ちょっとした世間話さ。場所も変えずに、ここで話そうよ」
 葛城は、にっこりと笑みを浮かべてそう言った。

306Mako♪:2012/04/29(日) 00:17:26 HOST:hprm-57422.enjoy.ne.jp
コレ、ちょー面白いです!!
あ、申し遅れましたが、私はMako♪、まこです。
続きを楽しみにしています!!
では。

307竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/04/29(日) 00:23:59 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
Makoさん>

コメントありがとうございます。

かなり下がってgdgdになってましたが、コメントをいただけるのはありがたいです。
続きは出来ているのですが、文章にするのに少し手間取ってまして……。
もう少しで更新できると思いますので、それまでお待ちください^^

308竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/05/05(土) 19:12:14 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 魁斗は困っていた。
 それもそのはず、娘の転校手続きのため、学校の職員室まで案内した際にちょっとだけ話した人とする世間話など、話題がほとんどないに決まっている。
 しかもその上、年齢も確実に二十以上は違うだろうし、そもそも相手がどの手の話題を知っているかさえ、魁斗には考えられなかった。
(どーしよー!どーすんだ、俺ー!?ここは相手が話しかけてくるまで待つか?そして分かる話なら乗って、分からないなら適当に合わせてやる!)
 魁斗は頭の中でそんな事を考えていた。
 しかし、一方で葛城の方もニコニコと笑みを浮かべたままで、何も話してきそうにない。
 この空気、耐えられんぜ、と魁斗が諦めかけた時に、
「君、アイドルとかって興味あるかい?」
 ふと、葛城からそんな質問がかけられた。
 質問の内容が意外だったのか、魁斗はしばらくきょとんとしてから、『普通です』と答えた。
「そうか。君くらいの年なら、興味があっても不思議じゃないのに。中でも、RE-ON!ちゃんだっけ?彼女は君と同じ学校の生徒だそうじゃないか」
 つか、連絡先とか知ってるんですけど、と魁斗は心の中で思いながら、乾いた笑いを返す。
 葛城は楽しそうな口調で、更に話を進めていく。勿論、彼に悪気などはまったくない。
「いやぁ、娘がね。彼女の大ファンで、『RE-ON!ちゃんと同じ学校に行ける!サインとかもらいたなー』と楽しそうに話しているんだよ。私も娘の影響で、彼女のファンになりつつあるんでね」
「……そ、そうですか……・そういや、サワもファンだったなー……」
 サワというのは、この前一緒にいた茶髪の子かい?と訊ねてきた葛城に、魁斗は頷く。そういやサワとは面識があったんだっけ、と魁斗は改めて思い出す。
 アイドルの話ももう特に話すことは無いのか、すぐ終わってしまった。
 すると、葛城は次の話題として、魁斗のブレスレットに視線を落としながら会話を始めた。
「ところで、一つ聞きたいんだが、君のそのブレスレット。中々見ないデザインだが、どこで買ったものだい?」
 その質問に魁斗はドキッとする。
 別に触れられてほしくなかったわけじゃない。ただ、これを付けてるのが今となっては普通すぎて、今更これを指摘されるとは思わなかったからだ。
 本当の事を話しても、理解出来ないだろうし、魁斗は半分真実、半分虚構の説明をする。
「えっとですね、これは親戚のお姉さんからもらったんです。なんでも、手作りだそうで……」
 今の説明で真実なのは『もらった』というところだけである。
 レナは親戚のお姉さんじゃないし、手作りなわけがないし。とりあえずは、これで誤魔化せればいいだろう、と思い魁斗は引きつった笑みを浮かべた。
 それを真に受けた葛城は、『へぇ』と短く感嘆の声を上げた。
「手先が器用なんだねぇ。これほど精巧に作れるとは。君の親戚のお姉さんは素晴らしいよ」
 だったら、と葛城が小さい声で呟くように独り言を言う。
 とても、聞き逃す事が出来ないような言葉を。
「―――思ったより早く殺れそうだ」
 え?と魁斗が聞く暇もなかった。

 気が付けば魁斗の目の前に刀の切っ先が迫っている。
 かわすことも『剣(つるぎ)』を発動するのも間に合わない魁斗は、そのまま状況が理解できず立ち尽くすしかなかったが、

「カイト君!」
 天草の叫びと共に、天草が魁斗に飛びつき、そのまま横方向へと魁斗の身体が移動した。
 勿論、魁斗の顔を捉えていた葛城の刃は、虚空を一閃し、葛城が僅かに驚いた表情をしている。
「あ、天草……!」
「大丈夫っさね?すまんっさ。こいつが近づいている事に、もう少し早く気付くべきだったさ」
 知ってんのか?と魁斗は天草に問いかける。
 今の状況で、何故葛城が自分を狙ってきたのかが分かっていない魁斗は、未だに葛城を『娘思いの少し変な父親』としか認識できていない。
 天草は、魁斗の質問に軽く頷き、
「奴はとてつもなくヤバイっさよ。今名前を思い出したさね!しし座の『十二星徒(じゅうにせいと)』、葛城獅郎!!」
 天草の言葉に、葛城は歪んだ笑みを浮かべた。
「……面白い。本当にそっち側についたのかい、天草秤!」
 魁斗には信じられなかった。
 こんなにも人当たりの良い人物が、自分達の敵である『十二星徒(じゅうにせいと)』のメンバーだという事を。

309竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/05/26(土) 22:33:24 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 二人は睨み合っていた。
 今の天草秤の目には、大好きな魁斗の存在など映ってはおらず、同じく葛城獅郎の目にも、話し相手になってくれていた魁斗など映ってはいない。
 今の両者の視線の先にあるのは、お互いだけだ。
「……まさか、とは思っていたが……君が私達を裏切るとはね。どういうつもりだい? 天草秤」
「どういう事もないっさね。私はただ、アンタらと一緒にいるより、カイト君達と一緒にいる方が何億倍も楽しいっさよ!」
 天草の反論に、葛城は肩をすくめた。
 まるで、『UFOを見た!』の一点張りで、無理矢理に納得するように子供に言われている親のように。
 彼は腕を組んで、天草を説き伏せるように言葉を紡ぎだした。
「理解できないな。君だって本当は分かっているだろう? 確かに、私達と一緒よりそっちの方が楽しいだろう。だがね、そっちにいても何も得る物なんてないんだよ」
「なくて結構っさ! それに、今から戻ったとしても、リーダーが私にどういう決断下すかはアンタにも分からん事さよね? どうなるか分からん処置を待つより、こっちで楽しく過ごしながら、アンタらに反抗の牙を向けてる方がまだ将来はあるっさ!」
 天草の反論に、葛城は更に困ったように溜息をついた。
 面倒くさいなぁ、と呟いても可笑しくない葛城の表情が、一瞬にして冷たいものに変わった。魁斗の知ってる『娘思いの父親』の姿は微塵も残されていなかった。
「まあ、君の言い分も分からない事はない。戻って殺されたりなんて嫌だろうし」
 だがね、と葛城は言葉を区切った。
 天草がこういう反論をした時に、言い返す台詞を用意していたかのように、彼の口からすぐに言葉が出てきた。

「まさか、僕が粛清されるかもしれない状況の君を、何の交渉材料も無しに連れ戻しに来た、とでも思っていたのかい?」

 『十二星徒(じゅうにせいと)』のリーダーは、天草が今更戻っても何もしない。少なくとも、殺されはしないだろう。
 つまり、彼は戻ってきても天草は殺される事はない、という条件を交渉材料に持ってきていたのだ。
 さらに、畳み掛けるように葛城の言葉が、天草の耳に突き刺さる。
「それに、私達なら君の弟だって探し出せるさ。なぁに、難しい事じゃない。弟の捜索をしてもらいたかったら、そこにいる男を殺せ」
 天草の決意が揺らぎ始める。
 天草は心のどこかで、弟の事をまだ気にかけていた。それもそうだ。弟の事が心配にならない姉なんていないだろう。
 彼女の心が、葛城にわしづかみにされたように、大きくぐらぐらと揺さぶられている。
「……わ、私は……!」
「さあ、結論を出したまえ。そこの少年を殺すか、我らに牙を剥くか」
 錯乱する天草の肩に、魁斗の手が置かれる。
 彼は、錯乱し震えている天草を気遣うように、優しく声をかけた。
「あんな奴の言葉に、耳なんか貸すんじゃねぇよ」
「切原魁斗くん。君は何故そうやって私の邪魔をする? 君にとっても、彼女は邪魔なんじゃないのかい?」
 んなワケねーだろ、と魁斗は葛城に言葉を返す。
 彼は天草の頭に軽く手を置き、二刀の剣(つるぎ)を片手に持ちながら発動する。
「今まで散々仲間がやられたっていうのに、天草がやられた時だけ連れ戻すなんて随分と優しいじゃねぇか。他の奴には声すらかけなかったんだろ?」
 魁斗は知っている。
 敵に破れ、仲間から救援が来なかった『十二星徒(じゅうにせいと)』を。早乙女瑠璃という少女を。双葉結花・解花という双子を桐生から聞いた。サソリという少年を藤崎から聞いた。八木という男性を、ザンザとカテリーナから聞いた。他にも、やられた『十二星徒(じゅうにせいと』はまだいるはずだ。
 なのに、天草だけ連れ戻そうとするのは可笑しいじゃないか。
「お前らは、本当に他の奴らを仲間だと思ってんのか? 何でそいつら見捨てて、天草だけを連れ戻そうとしてんだよ!」
「……無駄に熱いね。そういうの、私は苦手なんだ」
「はぐらかしてんじゃねぇよ! 何で他の奴らに、救いの手を差し伸べなかったのかって聞いてんだ!」
「助けるわけないだろう。ただの捨て駒を、君はいちいち拾っていくのかい?」
 その言葉に、魁斗の憤りは限界地を越えた。
 メーターを振り切り、魔力を開放して刀に巨大な光が纏い始める。
「……ほぉ」
「カイト君?」
「……許さねぇ……!」
 魁斗は噛み付くように呟く。
 キッと力強く葛城を睨みつけて、魁斗は力強く宣言する。
「仲間を捨て駒なんて言う奴に俺は負けねぇ! 葛城獅郎、お前は俺がぶっ飛ばす! 本当の仲間がどういうもんか、テメェに教え込んでやるぜ!!」

310Mako♪:2012/05/26(土) 23:37:51 HOST:hprm-57422.enjoy.ne.jp
待ってました!
キャー!仲間思いの魁斗君対、葛城獅郎!勝ってくれ、魁斗君!!!!
竜野さん、頑張ってくださいね!

311竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/05/27(日) 10:24:45 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
Mako♪さん>

コメントありがとうございます。

魁斗が出会った敵の中で、一番仲間を道具としか思ってない奴ですね、葛城さんは。
仲間を大事、というか一緒に戦うべき友達、と思っている魁斗からしてみれば、葛城さんは外道の極みです。
だからあんな怒るのも納得できて……あれ? エリザとか一回ザンザとカテリーナ殺しかけてたような……((
魁斗はなんだかんだで、一人で戦う時は勝っちゃう奴です。
だから、今回もきっと大丈夫! なはず((

はい、続きも頑張らせていただきます^^

312森間 登助 ◆t5lrTPDT2E:2012/05/27(日) 12:20:30 HOST:222-151-086-008.jp.fiberbit.net
 またも久々なコメント、元ライナーの森間です。

 ついに獅子座の方が出ましたか。しかも意外な登場 Σ(°0°) 読者に不意を突かせると言う点ではずば抜けて凄いですね……感心いたします^^
 にしても魁斗が熱いですね! お前こそ本当の男だよとか言いたくなるレベルの((
 バトル展開が楽しみですが、正直魁斗のモノホンの剣がそろそろ見たいですねー、読者としてはw いつ頃出るんでしょうか……

 簡単にアドバイスをしますと、、「〜『UFOを見た!』の一点張り〜……」の部分ですが、シリアスな雰囲気を壊してしまうので、注意が必要ですね。場の雰囲気に合わせた比喩表現を心がけてみては如何でしょう?

 では、続きを待っておりますw

313竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/05/27(日) 21:15:21 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
森間登助さん>

コメントありがとうございます。
そして、お久しぶりです。

気付ける人は気付いたと思いますよw 下の名前に『獅』って入ってますしねw
まあこの方は初めて出そうという時から、しし座の『十二星徒』に決定していました。
魁斗VS葛城、のカードはもうちょい後かと((
いやぁ、このままじゃ魁斗がボロ負けしそうな感じがします。ので、ちょっと準備期間ですね。
魁斗の剣は『祓魔の爪牙』で決定です。
レナからもらったものなので、彼はこれを一生使い続けるかと((

思いついた表現がそれだったので……比喩表現については僕もまだまだ修行が足りんなぁ、と思わされるところがありますw
以後、気をつけますね。

はい、続きも頑張らせていただきます^^

314竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/06/01(金) 22:47:10 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第七十六閃「七日の余暇」

 魁斗は鋭い眼光で、敵と化した葛城を睨みつける。
 天草は自分のために立ち上がってくれた魁斗を見つめており、一方で葛城は構えもせず刀を下に向けたまま余裕を見せている。
 魁斗が今まさに足を踏み出そうとした瞬間、葛城は刀を指輪に戻して、くるっと背中を向けた。
 その行動に、魁斗は勿論納得できない。
「……何のマネだよ」
「何って、撤退だよ。今日は君と戦うつもりはない。結果は見えてるからね」
 その言葉に魁斗が反応する。
 確かに、相手が強いのは言わなくても分かる。現に、先程も不意を突かれたとはいえ、かわせなかった。かわすことが出来なかった。かわすという思考すら出せなかった。
 不意を突かれなければかわせた、とも断言できない。
「……結果は見えてるって……やってみなきゃ分からねぇだろ!」
「分かるよ。君と私では実力に差が開きすぎている。それはもはや君の得意な根性論じゃどうにもならないんだよ」
 葛城は優しい口調で語った。
 だが、いくら言葉を重ねられたところで魁斗の意志は揺るがない。
「だから、やってみなきゃ……!」
「……勝てないっさよ」
 食い下がる魁斗を止めたのは、意外にも天草の言葉だった。
「勝てないっさ。私でも、葛城には勝ててないっさ。私相手に苦戦してるカイト君は、奴には天地がひっくり返っても勝てないっさ。……今の状況じゃ」
 分かったろう、と葛城は息を吐く。
 葛城は振り返らずに、背中だけで語る。
「天草の制止もあるんだ。とりあえず、私は君と戦わない」
 魁斗は、葛城と天草の言葉に刀を下ろす。
 しかし、葛城の言葉は終わらなかった。それは、魁斗が勝てないと示すような言葉ではなく、ただの宣戦布告だ。
「七日間、君に時間を与えよう。ま、せいぜいすぐにやられないように腕を磨きたまえ」
 そう言って、葛城は姿を消した。
 現場に残ったのは魁斗と天草の二人のみ。妙な静寂が二人を包む。
 魁斗は思い出したように、携帯電話を開いて電話をかける。かけた相手は人間界の人物ではなく、天界の人物だ。
 電話が繋がり、この静寂をぶち壊すようなド派手で可愛らしい声が飛んできた。

『ハッアーイ! いっつもニコニコ貴方のために働く女です! 可愛い可愛い貴方だけのメルティちゃんですよ!』

 とんでもない挨拶だ。
 だが、今はそれを気にしている暇ではない。魁斗はいつもならツッコむ相手の言葉を無視して、一方的に用件を伝える。
「ああ、メルティ。忙しいってのは分かってるんだけど、一つ頼まれてくれないか?」
 メルティはしばらく黙って、言葉を紡いだ。
『……えーっと、意外だねぇ。カイト君が私に頼みだなんて……まあいいでしょう。調べも一通り済んで、丁度することがないしね。カイト君の頼みは断る理由がないよ』
 魁斗はホッとしたような表情を浮かべると、用件を話し出す。
「そうか、話が早いよ。じゃあ、突然で悪いんだが……一週間、俺の師匠になってくれ」
『…………………………………………はい?』
 メルティの驚愕の言葉は、魁斗の受話器に空しく響く。
 更に、メルティは言葉を重ねた。

『はい?』

 先程と何も変わらない、彼女にしては珍しい間の抜けた声を。

315森間 登助 ◆t5lrTPDT2E:2012/06/03(日) 08:33:57 HOST:222-151-086-008.jp.fiberbit.net
 コメント失礼します、森間です。

 久々のメルティ登場ですね、最近は簡単な描写でしか見なかったので完全に忘れていました((

 ちょっと気付いたんですが、『十二星徒』の目的が主人公のシャインを狙うためという事になっていますが、わざわざ強くなるまで待つのでしょうか? それにシャインの目的もまだ主人公達の予想段階でしかないような気がしますし。
 何故強くなるまで待つのか明確な理由が欲しいところですね。確かに少年漫画によくある手法だったりしますが、安易に使い過ぎかと思います……
 それと魁斗の剣は『祓魔の爪牙』で決定とありますが、魁斗に天界の過去があるなら専用の剣があっても良いような…… 少し残念です。
 さらに進行具合から言わせていただきますと、悪の組織を倒すと言う単純な作りになっているため、読んでいる内に物足りなさが少々。魁斗の過去が不明になっているならば、それを物語の中に入れても良いような気がします。ですので、もっとバトル以外のストーリー要素を入れられるようになると良いかな〜なんて((

 全体的に纏めて言わせていただきますと、全体的なストーリーの流れをキャラクターが動かせていないと思います。
 この小説はライトノベル寄りだと思いますので、キャラクターが大切だと思うのです。ですので、なるべくキャラクターの性格を軸にストーリーを書いてみては?

 長くなり、またうざったい内容を書いているなと思われたでしょうが、参考にしていただけたら有り難いです。
 ではではwww

316竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/06/03(日) 10:58:42 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
森間登助さん>

コメントありがとうございます。

自分としてもメルティは確かに久々ですね。
魁斗が一番修行のしやすい相手を選んだ、といった感じですね。レナやハクアの人間界メンバーは現在複数で行動しているため、魁斗も修行を頼み辛かったんでしょうね。

『十二星徒』の明確な目的は後から判明します。
実際葛城は『十二星徒』のリーダーからちゃんとした目的を聞かされていません。だから葛城の魁斗への敵意も『少し興味があるので、成長した彼と戦ってみたい』という感覚ですね。
ぶっちゃけると、『十二星徒』のリーダーと面識があるのは、メンバー内でほとんどいません。
魁斗の天界でのことは、十二星徒編が終わった後にちょこっとだけ話させていただきます。
といっても、真相までは明らかにならないんですが。
魁斗専用の剣は、コメントを頂いてから出そうと考えています。が、かなり後になる恐れが……。

こっから魁斗の修行に入るので、ちょこっとバトル以外のストーリーが入れられると思います。
自分も、バトル描写よりも日常描写の方が結構好きだったりしますので……あ、また魁斗が空気になる予感しかしなi((

ああ、それは自分でも反省すべき点が……。
実際この作品のキャラって動かし辛い奴ばっk(( 戯言は置いといて、キャラを上手く動かせていないということは、自分でもまだキャラの性格をはっきりと認識できていないのか? と思っていたり。
キャラクターの性格を軸に……ですか。難しいですが、やってみます。

いえいえ。いつも参考になるようなアドバイスばかりでありがたいです。
小説をただ読んで、『良い』や『悪い』を表現するだけでは、こちらとしてもどう改善した良いのか、どこの雰囲気を持っていったらいいのか分かりませんし。
続きも頑張らせていただきます^^

317竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/06/08(金) 21:15:56 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 魁斗の修行の相手として呼び出されたメルティは、かつてアギトと戦った河川敷で、魁斗と数メートル離れて向かい合っていた。
 正直、魁斗の修行相手になるのをメルティ本人は潔しとしない。
 理由は二つあるが、その内の一つは明らかに私情である『魁斗が好きだから戦いたくない』である。誰でも好きな人と争ったりするのは嫌だろう。メルティの心中にもあることで、異常な程までに魁斗に恋心を寄せているメルティとしては『力になりたいが、自分は戦いたくない』といったところだろうか。
 そして理由のもう一つは、自分の本気が出せない事である。これは相手が好きだから、という理由ではなくキルティーアとの戦闘で『時の皇帝(タイムエンペラー)』が暴走したのが大きな理由である。
 メルティはキルティーアとの戦いで暴走してから、『時の皇帝(タイムエンペラー)』の使用を控えていた。その証拠に、現在は十六歳の姿で、以前『十二星徒(じゅうにせいと)』に襲われた時だって、十六歳の姿で挑んでいる。
 以上の点を踏まえ、メルティは溜息をついて魁斗に言う。
「……あのさぁ、カイト君。これは忠告になっちゃうんだけど……私手加減できないよ?」
「それでいい。いや、むしろそっちの方がいい。お前が本気にならないと、意味がないんでな」
 それでもメルティは乗り切らない。
 乗り切らない、というより彼とは本気で戦えない。そう思ってるからこそ、相手が『本気でいい』と言っているのに、戦えない証拠だ。
「俺は、葛城から皆を守れるくらい強くなりたいんだ。だから、一番強いお前で来い」
「……はぁ。どうなっても知らないからね」
 そこで、メルティは『時の皇帝(タイムエンペラー)』を解放する。
 綺麗で長い銀髪を後ろで束ねた、ハルバートを手にした女性。二十五歳のメルティだ。
「……お前、十年近くでかなり変わるんだな」
「まーね。いつまで経っても子供じゃいられないでしょ? さってと、じゃあ始めるけど……いい?」
「ああ、すぐにでも―――」
 言おうとした瞬間、魁斗視界からメルティが消える。
 魁斗がその光景に驚いている間に、姿を消したメルティは魁斗の背後に移動していた。
(―――速ッ?)
 
 ドッ!! と魁斗の横っ腹に鈍い衝撃が走る。

 魁斗はそのまま数メートル飛ばされ、最終的に地面に身体を滑らせるような感じで止まる。
「……そりゃ、いつまでも子供じゃいられないよ。カイト君にだけは無垢で可愛い私をみせていたかったけど、仕方ないな」
 魁斗h半分睨みつける様な視線で、メルティを見つめている。
 ハルバートを肩に担ぐように持ったメルティは、そんな魁斗を冷たい瞳で見つめながら言葉を放つ。
「カイト君の次の相手はカツラギシローだっけ? 『十二星徒(じゅうにせいと)』の中でもかなり強いんでしょ? 相手が私でよかったね。さっきの一撃がカツラギシローだったら、お前死んでるよ」
 メルティが、今まさに教官とかした瞬間を魁斗は見た。

318竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/06/10(日) 11:26:12 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 魁斗とメルティが修行開始とほぼ同時刻、天草は沢木の家の前で、沢木と話していた。
 魁斗は葛城獅郎が与えた七日という猶予をフルで修行に費やすそうで、ハクアが提案したチーム編成が出来なくなったのだ。そのため、魁斗から『サワなら泊めてくれると思う』と言われ、彼女のところに頼みに来ていた。
「全然大丈夫です。むしろ、私も人が増えた方が楽しいですし」
 答えは案の定オーケーだった。
 ほっと安堵の息を吐いて、天草は家の中に上がる。
 家のリビングには、ハクアとレナが座っていた。レナは、天草へ一度視線を向けると、僅かに不機嫌になってから目線を逸らした。
「まー、カイト君ならこーなるんじゃないかと思ってたけど、まさか予想通りになるとはね」
「……それより、葛城獅郎……という名のしし座の『十二星徒(じゅうにせいと)』と遭遇したというのは、本当のようですね」
 レナの問いに天草は頷いた。
 魁斗と天草が葛城と出会ってから、魁斗はレナと桐生、更に天界にいる何人かにも情報を伝達していた。しし座の『十二星徒(じゅうにせいと)』の正体を。
 それを聞いた時、沢木は驚いたようだったが、彼女も何故わざわざ自分達に接触してきたのか、何となく分かってきたようだ。
「……カイト君は今メルティって人と修行してるさ。……大丈夫だと思う?」
 天草は心配そうな表情でレナ達に問いかけた。
 そして、ハクアと沢木が間髪いれずに答えを出した。
「んまあ、大丈夫でしょ。メルティさんなら」
「はい。心配はいりませんよ」
 二人の早すぎる解答に天草は目を丸くした。
 二人はメルティが魁斗にそれなりの好意を抱いている事に感づいている。だが、それを差し置いてもメルティなら大丈夫だと断言した。
 何故なら、
「メルティさんなら、カイト君の事をよーく見てるから。限界になったら休憩挟むだろうし、心配要らないよ」
「でも―――」

「大丈夫だと言っているでしょう」
 天草の言葉をレナが遮った。

 天草はレナに視線を向けると、レナは息を吐いて、
「ちゃんと、カイト様だけではなく、私達も信頼してください。『秤さん』」
 信頼の証、となるようなものをレナは口にした。
 普通なら、信頼できないような相手にを下の名前で呼ぶことはないだろう。だが、レナは不器用なりに『天草を信用している』という証明のため、彼女の名前を呼んだ。
 苗字ではなく、下の名前で。
 レナの言葉に天草は表情を綻ばせて、力強く頷いた。
「……うん!」
 その光景を見ていたハクアが、レナの耳元で囁くように話しかける。
「(……うふふ、レナってもしかしてツンデレ?)」
「(……なっ、貴女が『仲良くしなさい』とか言うからでしょう!?)」
「(……あららー、人のせいにしちゃって。でも、よくやったんじゃない?)」
「(……褒めるなら、もうちょっと分かりやすくお願いします)」

319森間 登助 ◆t5lrTPDT2E:2012/06/10(日) 14:37:26 HOST:222-151-086-011.jp.fiberbit.net
 コメント失礼します、森間です^^

 ついに修行編、楽しみにしております。
 それと、沢木宅のガールズトークがなんか和みますね。

 >>316で引っ掛かったところがあったので、少し意見させて貰いますね。
 葛城の『少し興味があるので、成長した彼と戦ってみたい』という動機ですが、少々不純かなと思いました。動機というのは本来読者に共感を訴えるものですから、それだけでは読者が納得してくれません。もっと一般人が納得できるような理由を混ぜるといいと思います。
 また、リーダーが仲間内でも不明なのはちょっと…… と思ってしまいました。まず、姿の知れない強大な力を持った何者かなんて着いていきたいと思うのでしょうか?
 まだ脅しを掛けられているから脱退できない、とかなら分かりますが、裏付けさえもされていないので不安定かなと。

 主人公の出番が無いのはズバリ言っちゃいますと、その主人公が動かしにくい性格に設定してしまっているということです。
 厳しいことを言っちゃいますと、動かしにくいキャラは主人公向きではありません。こういう場合は、もっと単純なキャラ(極端に熱血、クールなど)にした方が動かしやすいですよ^^

 ではでは、ご参考までにw

320名無しさん:2012/06/10(日) 17:06:12 HOST:ntfkok244208.fkok.nt.ftth4.ppp.infoweb.ne.jp
>>1
中二臭いよ中坊www

321竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/06/23(土) 00:36:51 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
森間 登助さん>

コメントありがとうございます。

修行編……ぶっちゃけ魁斗が本気のメルティ相手に死なないか不安でいっぱいです((
レナとハクアの会話は書いてても、何だか和みます。さてさて、天草がどう入っていくか……。
ガールズトークの輪に入れない、恋音とカテリーナ(( 桐生がハーレムじゃねぇk((

次に書こうと思っていたところをご指摘いただきました。
いや、葛城さんの戦いたい理由の方じゃなく、『十二星徒(じゅうにせいと)』のリーダーの話ですね。
ぶっちゃけ、葛城さんはリーダーさんに弱みを握られています。
ただ、素顔を知らないだけで、面識自体はあるので(>>285参照 この場にいるのは、リーダーとその側近と葛城、天草です)。

単純なキャラ……結構熱血だと思うんですけどね……。
アイツ、いまいち熱くなりきれてないのか。松岡○造の力が必要d((

貴重なアドバイスありがとうございました。

322竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/06/23(土) 00:58:57 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 電気が全くついていない暗い部屋の中で、一人の少女が顔を机に突っ伏して、睡眠を取っていた。
 そんな彼女の首元に、スッとナイフの刃が寄せられる。
 ナイフを握る人物が、彼女の首を掻こうとした瞬間、後ろから唐突に声を掛けられる。
「……何をしている?」
 後ろから掛けられた声は割りと若く、大体高校生くらいの少年の声だろう。
 仮面をつけているため、顔までは確認できないが、黒髪の痩身であることは見た目で分かる。
 ナイフを握っていた男も、仮面をつけており、表情は確認できない。
 だが、
「参ったね。まさか、君がいるとは予想外だったよ」
 特徴的な声のせいで、仮面の効果が全くない。
 ナイフを持っていたのは葛城獅郎だ。
 葛城はナイフを床に放り捨て、少年から距離を取る。
「……貴様、まさか殺そうとしたのか?」
「まさか。彼女がその程度で殺せるわけないだろう。さっきので私が殺せたら、既に『十二星徒(じゅうにせいと)』の誰かが殺してるさ」
「そーゆーこと」
 いつの間にか、葛城が殺そうとしていた少女が彼の背後に立っている。
 音も無く、誰にも気付かれず、本当に『いつの間にか』だ。
 葛城は仮面を外し、少女へと視線を向ける。
 少女は、仮面をつけたまま、腕を組み愉しそうな口調で告げた。
「さっきのアンタの話だと、私って相当嫌われてるみたいね。まったく、どいつもこいつも……私の何が気に食わないんだか」
 少女は伸びをしながらそう言った。
 隙だらけだ。無防備で、無邪気で、無垢で。今なら殺せそうな気がしないでもない。
 だが、葛城にはどうしても彼女を殺せない理由があった。
「そーいえば、そろそろなんじゃない? アンタの娘が転校するのって」
「ああ、そうだね。私は娘の保身のために君らに協力しているんだ。娘が危険な目に遭ったら……その時は分かってるね?」
「あーはいはい。分かってるってば」
 少女は面倒くさそうに答える。
 それからしばらく考えて、彼女は少年の方に質問をした。
「ねぇ、向こうで残ってる奴らって誰がいたっけ?」
 向こう、というのは恐らく魁斗達の戦力の事だろう。
 少年は僅かに逡巡し、答えを導き出す。
「天界でなら、エリザ、ザンザ、クリスタ、ルミーナ、ゲイン、フォレストの六人。どれも厄介な奴らです。人間界では、切原魁斗、レナ、ハクア、桐生仙一、藤崎恋音、カテリーナ、メルティ、そして天草秤です」
「……そ♪」
 少年の言葉に、少女は面白そうに返事をした。
 彼が天草の名前を出したのは、恐らくもう彼女の事をどうとも思っていない理由だろう。仲間でなければ、ただの抹殺対象。そうう認識しか、彼らには出来ないのだ。
 少女は、出口へ向かって歩き出し、室内にいる二人に告げるように言う。
 独り言のような一言を。
「……葛城が与えた猶予って、確か七日よね。七日後、葛城。アンタは真っ先に天草を狙いなさい」
 指名された葛城は、ニッと笑みを浮かべて、最終確認のように問いかけた。
「裏切り者は即刻排除、ですか?」
 少女は間髪いれずに答えた。

「当たり前じゃない」

 驚くほど、感情の篭っていない無表情で無感情な声で。

323竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/07/08(日) 14:28:12 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 現在、桐生の家にはその家の住人である桐生仙一とハクアの組み分けにより、彼と行動を共にする事になった、藤崎恋音の二人だけである。
 本当はカテリーナなども居候していたのだが、今はいない。いつもなら学校から帰ってきたら、おもむろに部屋の中を(何か食べながら)物色しているのだが。
 今日は家に帰ると、彼女の代わりにテーブルの上に彼女の残したであろう置手紙が置かれてあった。
 『エリザ様から召集かかっちまったぜ! てなわけでバイビー』と書かれてあった。
 文面だけでもイラッときたが、とりあえずいなくなってくれてよかった。
 桐生はそう思っていたが、一人だけこの二人きりの状況を良く思っていない人物がいた。

 言うまでもなく、藤崎恋音だ。

 実を言うと、彼女は桐生とペアになった時点でどきどきしており、カテリーナがいてくれた事により、その心臓の鼓動を抑えていたのだが。
(もー、カテリーナさんの馬鹿ー! これじゃ結局同じじゃん! 二人になると余計に意識しちゃうんだってば!)
 彼女の頭の選択肢には『意識しない』という解答はないようだ。
 藤崎は顔を赤くしながら、桐生との距離を空けながらソファにちょこん、という効果音が似合いそうな様子で座っている。
 彼女の顔が赤いことに気付いた桐生は、心配そうな表情をして、
「大丈夫かい、藤崎さん? 顔が赤いけど……熱でもあるの?」
「へ!? べ、別に……私は全然大丈夫だけど……」
「そうか。……何かあったら言ってよ。遠慮とかしないでいいから」
 桐生のその言葉に藤崎はこくりと頷く。
 部屋に再び沈黙が訪れる。

 そんな中、桐生はいろんな事を頭の中で考えていた。
(……しし座の『十二星徒(じゅうにせいと)』との戦いに備え、切原くんはメルティさんと修行してるって聞いた……。ということは、彼は自分の力の足りなさを感じているということか。……また、置いていかれてしまうかもな)
 桐生は魁斗より戦っている期間は長い。
 しかし、最近ではその魁斗よりも自分の方が弱いと感じてしまう。
 『死を司る人形(デスパペット)』との決戦では、自分はスノウと戦ったが、彼はそのスノウより強いディルティールと戦い勝利を収めている。
 やはり、置いていかれている。
「……僕は一体、切原くんに何が出来るんだろう……?」
 言葉が、口から出ていた。
 その言葉を聞いた藤崎が、口を開く。

「そんな、気負う事ないよ」
 いつの間にか、彼女は自分のすぐ隣にまで来ていた。
 藤崎は桐生をじっと見つめたまま、彼の左手にそっと自分の右手を重ねる。
「何でもできる。力になることも、隣で一緒に戦うことも、傍で支えてがえることも。桐生くんなら何でも出来るよ」
「……藤崎さん……」
「自分に自信を持って! その方が、桐生くんらしいって、私は思うよ!」
 にっこりと笑いながら、彼女は伝えてくれた。
 桐生はフッと笑みをこぼしながら、藤崎を見つめて一言だけ告げた。
「ありがとう。何だか、自分への自信と、元気をもらったよ」
「いやいや、力になれてこっちも良かったよ!」

 一方、天界でも動きがある。
 敵の、ではなくエリザ達の動きだ。
 現在この場には、エリザ、ザンザ、カテリーナ、クリスタとフォレストが集まっていた。
 代表のエリザが口を開く。
「しし座の『十二星徒(じゅうにせいと)』の撃退は、とりあえずカイト君達、人間界の人達に回そう。私達は、彼らがしし座を倒した後、すぐに残りの奴らを倒せるようにアジトを探す」
「まあ、その方がいいだろうな。その方が私達も人間界と天界とを右往左往せずに済むだろうしな」
 エリザの言葉に、腕を組んだまま聞いていたクリスタが同意した。
 次に、カテリーナに抱きかかえられ、不機嫌な顔をしているフォレストが口を開く。
「ですが、実際どうすんですか。情報収集に特化しているメルティさんは、現在天子の修行に大忙し。僕らだけで特定できるような場所に陣を構えているとも考えられませんが」
「うん。だから最初にこの事を伝えておいたルミーナとゲインには先に捜索に当たってもらってるんだけど……中々連絡が来ないのよね」
「そう簡単に見つかっちまっても面白くねェしなァ」
 エリザはしばらく考えて、結論を出す。
「だから私達も手分けして情報を集めるわよ。私とザンザ。カテリーナとクリスタとフォレストちゃんで、分かれるわよ」
 その提案に異を唱えるものはいない。
 五人は二組に分かれて、捜索を開始する。

 エリザとザンザの二人に、黒い影が迫っている事は誰も知らない。

324計ちゃん:2012/07/11(水) 18:02:25 HOST:ntfkok253193.fkok.nt.ftth4.ppp.infoweb.ne.jp
アナタ、シコシコ文章、いつもご苦労様ですね。
あなたのシコりには、感動させられました。

325計ちゃん:2012/07/11(水) 18:03:57 HOST:ntfkok253193.fkok.nt.ftth4.ppp.infoweb.ne.jp
もちろん、良い意味でのことですよ。
悪い意味で言うような、浅はかな女等どもとは違いますから。

326竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/09/08(土) 21:05:40 HOST:p8152-ipbfp4204osakakita.osaka.ocn.ne.jp

ハクア「ひっさびさのハクアお姉さん登場ー!!
いやぁー、このレス随分ご無沙汰ですなぁ。駄目な作者がずっと放置しててごめんねー。
つーわけで、今日からちょこっとやる気出すらしいわ。実のところ『こっからどうすっかなー』って考えてたらしいから。
しかしこっから始めても、もっかい読み直すのツライじゃん?
ってなわけで、簡単なあらすじを紹介するわ。
紹介っていっても、私がやるわけじゃないのよ? 『説明なら私にお任せ! 動く広辞苑』ことレナちゃんに頼むわ!」

レナ「どんだけ適当なやり方ですか! もう、いいです。やる気がないようですし。
この物語は、私とカイト様が出会うところから始まります。
脚力が高いことだけが自慢のごく平凡なイケメン高校生カイト様は―――」

魁斗「オイコラ。誰がイケメン高校生だ。変な属性追加すんじゃねーよ」
レナ「あら、違いました?」
恋音「つーかこれじゃ一向に進まないわよ? 本当に大丈夫?」
仙一「大丈夫じゃないだろうね。君ら知ってる? これって文字制限あるんだよ」
魁斗「それを早く言えよ! あー、まともにあらすじ紹介してねぇじゃねぇか!!」
レナ「ですから、最初から私がやった方が―――」
ハクア「いやー、今のは無いと思うわー」
レナ「責任を丸投げした貴女に言われたくありません!!」

メルティ「ねーねー、再開だって言うから来たのにさ、いつになったら私の出番?」
フォレスト「ずっと準備してんですけど。もう僕ら待ちくたびれてますよ」
エリザ「私らも来たんだよー? ね、ザンザ。カテリーナ」
カテリーナ「そうだよー。私らの出番くれくれー!」
ザンザ「つーかこれさ、番外編みてーに全員集合してるけどいいのか? いい加減本編始めようぜ」

沢木「では、あらすじは私が!
脚力が高い少年、切原魁斗は天界からやって来た女性・レナと出会い、自分が天界の王の子、天子であることと、自分の身体の中に『シャイン』があると知らされる。
彼はレナやハクア、その他大勢の仲間達と死闘を繰り広げ、『死を司る人形(デスパペット)』をついに倒したのだ!
しかし、次に現れたのは『六道輪廻』! さらには『十二星徒(じゅうにせいと)』とも戦うことに!
カイト君は最強の『十二星徒』葛城獅郎と戦うために、修行を開始したのですっ!!」

全員「あらすじ言われたぁぁぁっ!!」



すいません、おふざけで書きました。
次レスから再開いたしますm(_ _)m

327竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/09/08(土) 21:28:26 HOST:180.5.55.152
第七十七閃「約束は破るために」

「……」
 ザンザはエリザと歩きながら、どこからどう見ても、十人中十人が分かるくらい不機嫌な顔をしていた。
 彼の視線の先には傍らにいるちっこい上司に向けられたものではなく、横や後ろの方へと巡らされている。
 彼の視線に気付いた上司であるエリザは、ごく軽い調子で彼に訊ねた。
「どうしたの、ザンザ。随分と不機嫌かつ警戒してるわね」
 まさかコイツ気付いてないのか、みたいな視線をしたザンザはエリザの方を見ずに、前を見ながら歩いている。
 彼の不機嫌さは一向に晴れない。むしろ足を前に進ませれば進ませるほどに彼の不機嫌は募っているようにも見える。だが、上司のエリザを話す時だけは、僅かに苛立ちを緩和させて、落ち着いた口調で話す。
「……いや、なんつーか……」
 その様子にエリザは子供らしくくすくすと可愛らしく笑う。
 自分の前に萎縮する部下を見て可愛らしいと思っているのだろう。彼女はおそらくドが付くSだ。
「……随分楽しそうに笑ってんなァ。まさかエリザ様、気付いてねェわけじゃねェだろ?」

 ぴくっと、エリザの肩が動く。

 ザンザの言葉に彼女は楽しそうに口の端を歪めながら、辺りをきょろきょろと見回している。
 恐らくは敵の位置を見つけようとしているのか、彼女はちょっとだけふざけて手をかざしながら『どこかなー?』などと言っている。この程度の挑発では敵も乗ってこないだろう。
「オイ、そんなんじゃダメダメだってのッ!!」

 ザンザは背負っている巨大な刀を振り回す。
 ザン!! と鈍い音を立てて、木が三本切り倒される。大きな音を立てながら巨大な木が地面へと落ちる。

「とっとと出て来ねェと、ここの木全部切り落とすぞ!!」
「やめなよザンザ―――」
 彼が再び刀を振り回した瞬間、
 ガァン!! という金属と金属の鈍い音が辺りに響き、彼の斬撃がエリザの槍によって阻まれる。

「―――あァ?」
「え?」

 止めているエリザ自身も驚いていた。
 二人は状況を把握するため、数秒固まっていたがザンザが落ち着いた口調で問う。
「―――どういう事っすか、エリザ様」
 彼の目は怒ってはいなかった。
 むしろ『止めるなら口で言ってください』と言っているような。
 しかしエリザは弁解する。自分の意志でやったんじゃない、と。
「い、いや違う! 今のは私がやろうとしたんじゃなくて、何がなんだか分からないけど身体が勝手に―――!」

 ズン!! と何かを貫く気味の悪い音。
 ザンザの腹部から血が流れ、彼の腹部にはエリザの槍が深々と突き刺さっていた。刺したのは言うまでも無い、エリザ本人だ。
 彼女の幼女らしい小さな手が、しっかりと槍の柄を握っている。

328竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/09/09(日) 21:28:21 HOST:p8152-ipbfp4204osakakita.osaka.ocn.ne.jp

「「……え……?」」
 エリザとザンザは同じ声を同時に漏らした。寸分の狂いも無く、小さい頃から一緒にいる親友のように、以心伝心してるとでも思わせるような、ズレが全く無い、本当に声が揃っていた。
 ザンザの腹部にはエリザの槍が、刃の根元まで突き刺さっている。その腹部からは赤い鮮血がぽたぽたと森の地面に生えた草を赤く染めていく。
 刺されている側のザンザも、槍の柄を握ったままのエリザも状況が把握出来ていないような表情のまま固まっている。
 『何故自分は今刺されている?』というのがザンザの心情で、『何で自分は部下を刺している?』というのがエリザの心情であった。
 ザンザは口の端から、一筋の血を流しながら、
「……オイ、どォいうことだよ……ッ!」
「わ、分からないよ……! 私だって、いつの間にか貴方を刺してて―――」
「んな冗談が、通じると思ってんのかよ……ッ!」
 ザンザがエリザを睨みつける。
 部下から信用されなくなったとほぼ同じ感覚に陥ったエリザは何も言うことが出来なかった。
 そんな中、がさっと草を踏みしめる音が二人の耳に届くと同時、若い男の声が届く。

「彼女は嘘をついてなどいない。主を信ずることこそが―――臣の務めではないか?」

 現れたのは、高校生ぐらいの少年だ。黒髪の痩身で、一見すると優男という印象を与える少年だ。彼は『十二星徒(じゅうにせいと)』のリーダーの側にいる少年だ。
 そのことを知らない二人は、キッとその少年を睨みつける。
 少年は余裕さえを感じさせる笑みを浮かべながら、自分の首からぶら提げているネックレスへと視線を落とした。
「しかし、あの方から頂いたこの神具(しんぐ)の効果は本物だ。『使用者の姿が対象者に見えていなければ、対象者の動作を自在に行える。しかし、自害のみ不可能』。それがこの『動作の決定権(コントロール)』という神具だ」
 エリザは眉間にしわを寄せ、少年を睨みつける。
 十歳前後の少女とは思えないほど、鋭く怖ささえも感じさせる眼光で。
「……つまり、これはアンタがやったってこと? ザンザの攻撃を防がせたのも、今彼を刺しているのも!」
「今更気付いたか、低脳な小娘め。実力は本物でも知能までは浅ましいただの餓鬼と同じようだな」
 少年は僅かに笑みを浮かべながらそう言った。
 辛辣な言葉に、エリザは表情を変えることは無い。ただ、彼女は槍の柄から手を離し、手に幅の広い刀を握る。
「……アンタが姿を見せたってことは、もう神具の能力は使えないってことよね。判断を見誤ったわね。貴方は、今姿を晒すべきじゃなかった!」
「……ならばどうする。まさか貴様のそのオンボロ刀で私を倒せるとでも?」
「倒す、じゃないわよ。殺す!!」
 エリザが言った瞬間だった。

 ドッ!! と彼女の背中から腹へと刀が貫いた。
 エリザは背後に立つ犯人の顔を確認する前に、地面に倒れこみ意識を失う。

「うおおおおおおおおあああああああああッ!!」
 自身の上司を倒されたザンザは、巨大な刀を背後の襲撃者に向かって振り回す。前に、
 背後からの襲撃者が一瞬でザンザの目の前に現れ、彼の身体を切り裂いた。
 地面に横たわる二つの身体を見ながら、少年は呆れたように呟く。
「……動くな、と言ったはずですが? 運動不足を理由にしないでくださいよ?」
「えー、言い訳封じられた……。まあ、理由をつけるとしたらそうねー……『約束は破るためのものだから』かな?」
 背後からの襲撃者は女子だった。
 『十二星徒』のリーダーの声だ。彼女は気持ちよさそうに伸びをしながら、そう答えた。
「でもこれって、切原魁斗を焦らせることも出来るんじゃない?」

 少女は二人の血を使い、紙切れにメッセージを残しその場を去っていった。


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