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剣―TURUGI―

129竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/09/04(日) 21:27:51 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第四十二閃「石門の守護者」

 魁斗達は現れたエリザにいろいろな思いを抱いていた。
 エリザはそれを知ってか知らずか、煽り立てるように言ってみせた。
「ちぇー!何も反応ないんじゃつまんないよー!子どもはいつだって遊んでほしーのにー!」
 それでも魁斗達は反応しない。
 はぁ、と重苦しい息を吐いて、エリザは口を尖らせる。
 それは徐々に不機嫌になってきている証だ。
(……短気なのは全員直したみたいだけど……乗ってこないんじゃ挑発しても意味ないか。にしても、全員いい表情ジャンしてるじゃん。これは以前より楽しめるかな)
 エリザは幅の広い剣(つるぎ)『光薙(こうなぎ)』の切っ先を魁斗達に向けて、
「反応しなくてもいいや。それより、ここを通るには私を倒して門の強度を弱めるしかないんだけど……どーする?前みたいに五人でくる?それともタイマン?」
 エリザの言葉に、ようやく魁斗が返す。
「はっ。俺らはお前を倒すために強くなったんだぜ?全員でなんてするわけねぇだろ。ここは俺が……」
 前に出ようとする魁斗の前に腕が伸びる。
 その腕を追っていくと、伸ばしているのは藤崎だ。
「ここは私がいく。切原君は休んでなさい」
 藤崎は剣(つるぎ)を解放して前に出る。
 何故か藤崎の表情は楽しそうに見える。遊園地で長い時間を待って乗りたいアトラクションに乗る時のように。
「……思わず譲っちまったけど…何でいきあんり戦おうとしたんだ?」
「簡単だよ」
 魁斗の言葉に桐生は眼鏡を上げながら答える。
「僕らは会ったのは二、三回あるけど、負けたのは一回だけだ、そう。藤崎さんを除いてね」
 そう。
 藤崎がエリザと戦いたがっている理由は、負けたからだ。
 一回は魁斗達と一緒に五人で挑んだ時。手も足も出ず、まったく歯が立たなかった、あの時。そしてもう一回は、

 彼女とタイマンを張った時。

 つまり、藤崎がエリザに対する執念は魁斗達の倍以上だ。
「えぇー、アイドルちゃん?私は天子君と戦いたかったのに……」
 するとエリザの顔の横を何か熱いものが横切る。
 後ろの門にぶつかり、彼女は振り返る。
 ぶつかったと思われる場所からは煙が出ている。門には少々焼けたような跡が残っている。
「……」
 エリザが静に藤崎を見ると、明らかに何かをしたようなポーズをしている。
 彼女が火の玉を放って、エリザを挑発したのだ。
「……ガッカリさせないから、安心しなよ」
 いや、と藤崎は一度区切る。
「安心させる暇も、与えない!!」
「やってみな、最弱のアイドル風情が」
 唾を吐くようにエリザは不機嫌な表情で藤崎を睨む。

130竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/09/09(金) 17:18:23 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 藤崎は片手で器用に刀の柄の部分を回している。
 余裕にも見えるその光景を背後から見ている魁斗達はただならぬ緊張感を抱いていた。
「……まあ、藤崎がエリザと戦いたがるのは分かるけどさ……勝てるのか?」
「私は最後に見たのはアリス戦までだからね。私の知る中では勝てないかな」
 魁斗の言葉にメルティはそう答える。
 聞こえてるかどうか分からないが、藤崎の肩がぴくっと動く。
 彼女は、柄を回すのをやめて両手で柄を握り、構える。
 対してエリザは『光薙(こうなぎ)』を構えたまま、笑みを浮かべている。
「来なよ」
 『敬意を込めた先制攻撃』ではなく『相手を下に見ての先制攻撃』。
 藤崎は眉間に僅かにしわを寄せて、エリザに突っ込む。
(……ばーか)
 エリザは真っ直ぐ向かってくる藤崎に向かって『光薙(こうなぎ)』を前に突き出す。それと同時に三角形の平たい光の刃が藤崎に向かって飛ぶ。
 しかし、藤崎は避けもせず、刀で軽々と光の刃を弾いた。
「!?」
 エリザの目が僅かに見開かれる。
 続いて、懐から『鎖砲牙(kすありほうが)』の刃を射出する。
 藤崎は身体を横に逸らして、これもまたかわす。
 エリザの前にやって来た藤崎が刀を振るおうとした瞬間、

 エリザがまさに『神隠し(かみかくし)』を横に傾ける寸前だった。

 ガァン!!と耳を突くような金属音が響く。
 その音の正体は藤崎がエリザの『神隠し(かみかくし)』を完全に横に傾ける寸前に、弾き飛ばした音だった。
「……ッ!!」
 がら空きのエリザに藤崎は刀を横に振るう。
 だが、エリザは後ろへ一歩退き、それをかわす。退いてすぐに、懐から『蓮華(れんげ)』を突き出す。
 咄嗟に反応した藤崎が横へ逸れ、僅かに頬を掠める。
 二人は一気に距離を開け、お互い睨み合う。
 エリザは『蓮華(れんげ)』を持ち、他の剣(つるぎ)を横合いへと放る。
 つまり『他の剣(つるぎ)は決して使わない』という意思表示だ。
「……ふ」
 エリザは僅かに笑みを零し、
「ふふふふふ……。あっははははは……面白い、面白いよ」
 不気味な笑いだ。
 十二歳の少女が出すとは思えないくらいの不気味な笑い。藤崎や魁斗達は背筋に何か冷たいものが這うような寒気を覚える。
「まっさかここまで成長してるとは思わなかったなー。あの時とは別人じゃん」
「そりゃあね。切原君も言ったけど、私達はアンタを倒すために強くなった。つまり、アンタが目標……」
 藤崎はエリザに刀の切っ先を向ける。
「そのアンタを倒せないで、先へ進めるなんて思ってないッ!!」
 ふーん、とエリザは適当に相槌を打つ。
「だったらぁ……見せてみなよ。その手に入れた『強さ』を本気の私に!!」

131竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/09/09(金) 21:27:24 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp

「スゲェ!藤崎の奴、いつの間にあんな強くなったんだ!?」
 魁斗はエリザと互角、もしくはそれ以上の戦いぶりに歓声を上げていた。
 レナ達も安心したように息を吐く。
「君が見てない間に強くなったのさ。僕がずっと修行に付き合ってたからね。今の彼女の強さは僕がよく知ってる」
 桐生は眼鏡を上げながらそう言う。
 ハクアは黒い髪を手でなびかせて、
「でも、問題はここからよ」
「うん。情報によるとエリザは『蓮華』を使いだした時が本気。つまり、今までのは小手調べって奴だね」
 メルティお得意の情報で解説する。
 魁斗達も息を呑む。
 一気に緊張感が辺りを包む。
 藤崎とエリザは数秒睨み合い、お互いに踏み出したところで、緊張の糸が切れる。
 藤崎の刀とエリザの槍が何度もぶつかり合い、激しい音が響く。
「……ここでも互角、ですね」
「いや。よく見れば藤崎さんは結構精一杯だ。それにエリザは表情からしてまだ余裕がある」
 桐生の言うとおり、藤崎の表情からは頑張っている、という感想が出るような歯を食いしばって相手の攻撃を防いでいるが、エリザは笑みを浮かべたまま、激しい連撃を繰り返している。
 エリザの強烈な一撃を刀で防いだ藤崎は、立ったまま滑って、何とか踏みとどまる。
 息切れが目立つ藤崎に対し、エリザは息が切れていない。
 ここでも実力差が明らかになってしまう。
「ふーん、まあ前よりは出来るようになったんじゃない?前は小手調べでグロッキーだもんね」
「はは、褒めてくれてありがと」
 藤崎は引きつった笑みを浮かべながらそう言い返す。
 エリザは首を鳴らして、
「んー?褒めたつもりはないんだけど……むしろ『無駄な努力をどうも』みたいな感じかな?だって……」
 エリザは軽く空を槍を上に向けて横に薙ぐ。
 すると、薙いだ場所に鋭利な光の矢がたくさん現れる。
「ッ!?」
「『蓮華(れんげ)』の能力は光でいろんな物質を構築、およびそれを使役した上での攻撃なんだよ。だぁーかぁーらぁー!」
 エリザが上に向けたままの槍の切っ先を藤崎へと向ける。
「こういうことも出来る。飛べ。『千光矢(せんこうや)』」
 思ったよりも矢の速度が早く、藤崎にかわす暇を与えなかった。
 藤崎はかわせずに、その場が土煙で包まれる。
「藤崎!!」
 魁斗は思わず叫ぶが、煙の中から藤崎の返事は無い。
 誰もが最悪の状況を想定した。
「さぁーて、次は誰が……」
「勝手に終わらせるなぁ!!」
 煙の中から声がする。
 そこにいたのは多少の傷は負っているものの、案外元気そうな藤崎だ。
 エリザもこれくらいで倒せると思っていなかったらしく楽しそうな笑みを浮かべている。
「げほげほ、防ぐのにちょい炎を使ったか……」
「藤崎さん」
 桐生の言葉が藤崎の耳に届く。
 藤崎は振り返ると、桐生は眼鏡を上げながら伝える。
「そろそろアレ、出してもいいんじゃない?」
 アレ?と全員が首をかしげる。それはエリザも同じだ。
 藤崎だけは分かったように笑みを見せながら頷き、再びエリザの方を見る。
 振り返った彼女の手に握られている刀には炎が纏っていた。
「っしゃー、いっくぜー。藤崎恋音ちゃんの新技『煉獄(れんごく)』!!」

132竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/09/09(金) 22:41:25 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第四十三閃「煉獄」

「……煉獄……?」
 藤崎が言った新技の名前に藤崎と桐生以外は首を捻る。それはエリザも例外ではなかった。
 藤崎の自信に満ち溢れた表情を見るに、期待できるが、それを直に見ていない魁斗達にはいまいち実感が湧かない。
 気になった魁斗は桐生に、
「なあ、その煉獄ってどんな技なんだ…?」
 桐生は、軽く息を吐いて答える。
「ああ、期待していいよ。老朽化しているとはいえ、廃ビルを一つ消し去るほどの威力だったからね。僕は実際に見てるし」
 桐生の言葉に全員が絶句した。
 廃ビル一つを消し去るなど、到底出来ることではない。魁斗は当然無理だと思ったし、レナ達も出来ないような顔をしていた。
 エリザは桐生の言葉が聞こえたのか、珍しく引きつった笑みを浮かべている。
「藤崎さん。今の炎のメーターはどれくらいだい?」
「……うーん」
 藤崎は僅かに言い淀む。
「大体、今なら五割はいけるかな」
 充分だ、と桐生は笑みを浮かべる。
 藤崎もニッと笑みを浮かべて、刀を覆っていた炎が一際強く燃え上がり、巨大な炎の塊が刀を包む。
「な……!?」
 炎の大きさに声を上げたのはエリザだ。
 さすがにここまでとは思っていなかったのだろう。一方で、炎を出している藤崎も辛そうだ。
「……コレ出すと……強制的に魔力が座れて炎の威力が上昇する……!だから、この一撃で決めさせてもらうよ……っ!」
 藤崎は走り出して、空へと飛び上がる。
 刀の炎を逆噴射させて、上空でエリザへと狙いを定める。
 エリザも藤崎を視線で追う。
 藤崎は炎を構えて、大きな声で言い放つ。
「煉獄ッ!!」
 
 ドォン!!という轟音が辺りに響き、地面が僅かに揺れる。
 エリザの立っていた場所は真っ赤な炎に包まれ、影すらも見えなくなっていた。
「……………」
 威力に魁斗達は口を大きく開けて、硬直していた。
 着地した、藤崎は僅かにふらつくが、笑みを見せる。
「イェーイ!!」
「……ねぇ、恋音ちゃん……。アレ、エリザ死んじゃったんじゃないの?」
 ハクアの指摘で藤崎は『あ』と言葉を漏らす。
 振り返ると、エリザのいた場所は火の海状態。
 藤崎の表情がどんどんと引きつった状態になり、

 ズン!!と藤崎の腹に光の球体がめり込む。
「……ッ!!」
 藤崎は僅かに声を上げたが、そのまま後方へと勢いよく飛ばされる。
 彼女を襲った光の球体の正体は、考えるまでもなく答えは出た。
「……つーかさぁ、他人に『勝手に終わらすな』とか叫んでおきながら……人のこと言えないじゃん」
 火の海から右腕で槍を前に突き出したエリザが現れる。
 彼女のダメージは案外軽いものだった。
 足取りは軽く、顔も全然無事そうな涼しい表情だ。左腕だけが、かなりの火傷を負っているが。
 恐らく『蓮華(れんげ)』で光の壁を作った際に利き腕とは逆の左腕と共に防いだため、ダメージが軽くすんだのだろう。
「続けようよ」
 『天童』の異名を取る彼女は、咳き込んで、立ち上がろうとしている藤崎に冷たく言い放つ。
「左腕の代償は、高くつくよ」
 彼女の目は、幼女とは思えない冷徹さを帯びていた。

133ライナー:2011/09/10(土) 00:26:39 HOST:222-151-086-011.jp.fiberbit.net
コメントのお返しです^^ライナーです。
煉獄スゲェ……!!てか、それを耐えるエリザさんがスゲェ……!
次の展開が楽しみです。
僕としては、もう申し分のない出来だと思います。(まるでアドバイスしなきゃいけないような言い草)
僕も、読み応えのあるバトルを実現していきたいと思います^^
ではではwww

134竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/09/10(土) 00:48:53 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 藤崎は光の球体が当たった腹部を押さえながら、よろよろと立ち上がる。
 だが、立ち上がった時には既にエリザは距離を詰めて立っていた。
 藤崎がそれに気付く間もなく、藤崎の横っ腹にエリザの鋭い蹴りが繰り出される。
 勿論、かわすことも何も出来なかった藤崎は、横へ転がる。それでも立ち上がろうとする彼女を見て、エリザは呆れたように溜息をつく。
「諦めなさいって。実際よくやったしさ……そこまでムキにならなくてもいいんじゃない?他に五人もいるんだし、アンタがやられても、気にしゃしないって」
 それでも藤崎はエリザの言葉など聞き入れず、刀を強く握り締め、彼女に斬りかかる。
 しかし、あっさりとエリザにかわされてしまい、通り過ぎざまに、腹に肘鉄を喰らう。
「……ッ」
「いい加減、楽になりなって」
 さらにエリザは『蓮華(れんげ)』の柄で藤崎の顎に打撃を加える。砕けたりはしないだろうが、藤崎は僅かに浮いて、仰向けに地面に倒れる。
「アンタは私に勝てない!それが全てなの!」
 魁斗は歯を食いしばって、拳を握り締めて前へ出る。
 だが、桐生は勇み足の彼の肩を掴んで止める。
「……離せよ、桐生」
「離したら、助けに行くだろ」
「……ダメなのかよ」
「行っちゃいけない。君は藤崎さんに『休め』と言われたはずだ」
「……このまま藤崎がやられてもいいっていうのか……!仲間だろ!!」
 そこへ魁斗の腕を掴んで、メルティとレナが魁斗を少し離れた所へと連れて行く。
「……何だよ」
「カイト様。気持ちは分かりますが、ここは桐生さんの言うとおりにしましょう」
「ッ!お前まで……」
「違うよ、カイト君」
 メルティは魁斗を止める。
 これ以上悪化させれば仲間割れにつながりかねない。
「……桐生君だって助けたいんだよ。でも、恋音ちゃんが行くって言ったから、それを信じてるから。きっと、誰よりも彼女を助けたいと思ってるはずだよ」
 魁斗は改めて桐生を見る。
 彼は表情には表してないものの拳を強く握り締め、僅かに血が垂れ落ちている。
 そして再び藤崎とエリザへと視線を戻す。
 藤崎はエリザに攻撃してはかわされて、カウンターを喰らって、倒れて、また攻撃して。それの繰り返しだ。
 満身創痍の藤崎に対し、エリザはようやく僅かに息を切らしてきたところだ。その息切れも『疲れ』ではなく藤崎の粘りの『しつこさ』による息切れだ。
「鬱陶しいなぁ!もう終わりだって言ってるでしょ!」
 エリザは槍をくるくると回して、
「眠れ!!」
 思い切り、藤崎の頭へと槍の打撃を浴びせる。
 藤崎は横向きに倒れて、荒々しい呼吸を繰り返す。
 同じく息を切らしているエリザは、そんな藤崎を尻目に、
「アイドルちゃん戦闘不能。所詮、中途半端な力じゃ私は倒せないよ」
 エリザは魁斗達の方へ向いて、戦闘態勢を整える。
 中途半端。
 不意にエリザから放たれた言葉に藤崎は懐かしさを覚える。
(……中途半端……か。……そうだ、昔の私だ……)
 朦朧(もうろう)とする意識の中、藤崎は呆然とそう思う。
 空を仰いだまま、動かない身体で、まだ僅かに頭は動いていた。
(……そうだ、この言葉……。この言葉があったから……今の、私があるんだ……)

 そう、私が、まだアイドルになる前―――。
 下積みとか、売れない時期じゃなく、ただの一般人だった…あの時。この言葉は大嫌いだけど、私を立ち直らせてくれた言葉だ。

 藤崎恋音。小学三年生―――。

135竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/09/10(土) 00:51:31 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
ライナーさん>

コメントありがとうございます^^
廃ビル一つ消し去る技なのでね…。でもちょっと強力すぎたかも…。
そのせいで、エリザが急に化け物みたいになったし…w

そちらもバトル展開は上手いと思いますよ!
こっちはぐだぐだ進行で長いですが、そちらはスピード感があっていいと思います。それぞれ自分の持ち味ですからね。

136竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/09/10(土) 08:37:04 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
 今回の話は恋音が語り手となっております。
 このやり方は初めてですが、下手だと感じたのなら、もうコメントとかどんどん書いてくださいね。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
 
 私は、小学生の頃は普通の女子だった。
 『普通』よりはちょっと暗い、教室の隅でいつも本を読んでいるような、どこにでもいる根暗な女の子。
 そんな私でも好きな人が出来た。
 三年生の頃、同じクラスになって席が隣同士になったことで、告白するチャンスがあった。
 勿論告白してみた。でも、その子の返って来た言葉は、
『顔は可愛いのに、他はダメだよな。中途半端だし』
 一瞬だった。
 私は今までも、何か自分でも出来るようなことを探していた。楽器だったり、塾だったり、スポーツだったり。
 でも、どれも長続きはしなかった。やっぱり私は中途半端なんだ。何でもすぐに諦める自分が、今となって嫌だと感じた。
 そんな時、私の目があるチラシを捉える。
 子役のオーディションのチラシ。
 これならやれる、これなら私でも続けられるかも。そう感じて、私は両親と相談してオーディションを受けることにした。
 顔は良いんだし、後は声と性格をどうにかするだけ。頑張ってハキハキ喋るようにして、性格も明るく振舞うようにした。
 結果、受かることが出来た。
 早速、ドラマの出演が決まった。ほんの数カットだけの出演だけど、楽器を弾いてるより、塾で勉強しているより、スポーツで汗を流すより、とても楽しかった。
 中学生になって、私は他の女子に人気だったサッカー部のキャプテンに二度目の恋をした。
 私は話せる機会を得て、彼に告白してみた。
 その時は、私の名前も大分知られていたし、学校でもかなり声をかけられるような、自分で言うのが恥ずかしいくらい人気者だった。
 でも、
『芸能人ってなー。何か、確かにいいけど、あくまで憧れで終わるんだよ。重いしさ』
 またしても一瞬だった。
 中途半端じゃなくっても、こうなるんだ。
 それ以降、私は人と接するのが苦手になった。番組のスタッフの人達や出演者以外は関わりたくない、と避けてきた。
 それが丁度、仕事が忙しくなって来た頃。
 今は昔みたいに、恋をする暇なんてない。私があんなことで傷つくことは、多分もうない―――。

(……それでも、それでも諦められるか……!)
 藤崎は刀を握る手に、立ち上がるために足に、力を込める。精一杯の力を。
 動いただけで、骨が軽く折れてしまいそうなくらい、もしくはもう一本くらい折れてるかもしれない。そんな身体を無理矢理に動かす。
(……切原君は、こんなひねくれてる私を助けようとしてくれた……。……レナさんと沢木さんは私なんかのファンでいてくれた……。……ハクアさんとメルティちゃんは私に気さくに接してくれた……。……桐生君は私の修行に付き合ってくれた……)
 藤崎は刀を杖代わりに地面に突き刺して、自分の身体を立たせる。
(……中途半端なんか言わせない……!私は……)
 足に力を込めて、立ち上がった藤崎は叫ぶ。
「勝つんだ!!」

137竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/09/10(土) 21:37:54 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第四十四閃「女の意地」

 エリザは倒れている藤崎を確認して、彼女に背を向ける。
「さーて、次は誰?もうこうなったら誰でもいーよ」
 魁斗達は答えない。
 それよりも、何故かエリザの後ろを見ているような視線だ。
 エリザはハッとして振り返る。
 彼女の予想通りに藤崎恋音が立ち上がっていた。
「……うそでしょ…」
 荒々しい呼吸を繰り返す藤崎を見て、エリザは引きつった笑みを浮かべる。
 叩きのめした、潰した。壊し尽くした。そう思っていた。だが、藤崎恋音という敵は今まさに自分の前に立っている。
「……桐生、君……」
 藤崎は小さい声で名前を呼ぶ。
 すると、自身の髪をポニーテールにしているリボンを解いて、桐生の前に歩いてくる。
「これ、持ってて……。大事な物だから……」
 藤崎はリボンを桐生に預ける。
 戦いで傷つくのが嫌だったのか、桐生はそう思って藤崎の言葉に頷く。
 安心したように藤崎は振り返って、エリザの方を見る。
「……続き、やろっか」
 藤崎は真っ直ぐに刀を構える。
 しかし、それを見たエリザが感じたのは、恐怖でも焦りでもない。
 ただの余裕だ。
「っふふ。あの状態から立ち上がった精神力は称賛に値するよ。けどね、何が出来るっていうのさ」
 藤崎はボロボロで立っているのがやっとの状態だ。現に呼吸は荒いし、一瞬でも気を緩めれば膝から崩れ落ちそうなくらい足が小刻みに震えている。
 一方のエリザは多少の火傷は負ってるものの、重傷なのは左腕だけだ。それも『まともに動かせない』ではなく『ある程度は動かせる』状態なのだ。
「あの技…『煉獄』だっけ?大した威力だけど、もう出せる体力無いだろうし、炎のメーターを溜めることも出来やしない」
 エリザの言葉を藤崎は黙って聞いていた。
 図星だと思ったのだろうか。
 だが、エリザの言葉が終わった後に藤崎から出たのは、
「……バッカじゃないの」
 という言葉と僅かな笑みだった。
 藤崎は続ける。
「勝算はあるわよ。ったく、何のために刀を振り回していたと思ってるの?」
「ッ!!」
 その言葉にエリザはぎょっとする。
 一見無駄に見えた、煉獄を使った後のエリザと藤崎の攻防。あれは炎のメーターを溜めるための布石だった。
「もう九割くらい溜まってる。これで、決める!!」
「…………面白いじゃん」
 エリザは笑みを浮かべて、
「だったらこっちも全力でいくよ!!」
「決まるわね」
 ハクアの言葉に魁斗達は振り返る。
「次の一撃が、恐らく二人にとっても限界。最後に立ってるのはどっちか」
 魁斗達にも緊張感が走る。
 藤崎恋音とエリザ。
 二人の戦いは今、決着を迎えようとしていた―――。

138竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/09/10(土) 23:02:44 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 エリザは藤崎恋音を見つめながら思っていた。
(……初めてだ……。自分とここまで互角に渡り合っている人は。……ホント、いくら称賛しても足りないくらいだよ)
 でも、とエリザは心の言葉を一度区切る。
(勝つのは私!私には負けられない理由があるんだから!)
「……いくよ」
 藤崎はそう呟いて、両手で刀を握り締める。
 すると、急に刀の刀身を真っ赤な炎が包み、藤崎自身が炎に包まれているような錯覚を起こすぐらいの炎が燃え盛る。
 その熱風は後ろにいた魁斗達にも襲い掛かっていた。
「熱ッ!?」
「……ここまで風がくるなんて…!」
「……それだけ本気ってことだね。もちろん、相手も加減はしないようだ」
 藤崎の炎を見たエリザは笑みを浮かべる。
 そして、槍に眩いほどの光を纏わせる。僅かに電撃が奔るような音が聞こえる。
 エリザの剣(つるぎ)は光であらゆる物質を作ることが出来る。今のは巨大な光の塊といったところだろうか。
 藤崎とエリザの両者はほぼ同時に前へと踏み出した。
 二人は渾身の一撃を相手に向かって放つ。
「煉獄ッ!!」
「悪滅光(あくめっこう)!!」
 二人の技がぶつかり合い、巻き上げられた土煙で視界が遮られる。
 魁斗達は土煙に目を閉じ、目をゆっくりと開くと藤崎とエリザはすれ違った状態で止まっていた。
「………」
 静寂が辺りを包む。
 そして、ふらぁっと身体が横に揺らぎそのまま倒れる。最初に倒れたのは、
 
 藤崎恋音だ。

「………ッ!」
 魁斗達は思わず叫びそうになったが、それより先にエリザが言葉を発する。
「……まったく、最後まで立ってた方が勝ち、か……。そんなの、信じないぞ……」
 エリザの槍にヒビが走り、そのまま砕ける。
 エリザはダメージを負いながら続ける。
「剣(つるぎ)を壊すだけじゃなくて、私にもダメージを与えて……こんなの誰が見ても……勝敗は決まってるじゃん」
 エリザは視線を藤崎へと移して、一言。
「アンタの勝ちだよ、藤崎恋音」
 そして糸が切れたように倒れる。
 魁斗達はハッとして倒れた二人に駆け寄る。

 その光景を離れた所から望遠鏡で覗いている者がいる
 魁斗達が歩いていた迷いの森からだ。
「ふむふむ。結局エリザは負けたか」
 男は望遠鏡から眼を離し、
「さて、と。では当初の予定通りに事を進めるかな」
 その男は、白い衣装に身を包んでいた。
 彼の名前は―――。

139竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/09/11(日) 02:16:28 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp

「………………」
 エリザはうっすらと目を開ける。
 感覚からして、自分は寝かされているらしいことが分かり、目を開ければ空が広がっていることから仰向けということが分かった。
 だが、ここがどこなのかは分からない。魁斗達もどこへ行ったのか分からない。
「目ぇ覚めたか」
 不意に飛んできたのは男の声だ。
 だが、それは自分がかけてもらえるはずのない人物の声だ。
 エリザはそちらに視線を向ける。
 彼女に話しかけたのは切原魁斗だ。
 エリザは上体を起こして、自分の腕や足に巻かれている包帯を訝しげに見ている。
「……何で、治療したんですか」
「仕方ねーだろ。藤崎の奴が『エリザちゃんも!』って言うんだから」
 すると、エリザ横に藤崎が寄る。
 彼女はエリザの隣に座って、彼女を真っ直ぐに見つめ、告げる。
「負けた」
 エリザはその言葉にきょとんとした。
「いやー、惜しいトコまではいったんだけどなー。あと一歩だった。やっぱ強いね!」
「……何で……。……私は、負けた……!私の剣(つるぎ)は折られたし、あのまま続いてたら……」
「あのまま続かなかったでしょ?今回は。だから、今回はエリザちゃんの勝ちだよ」
 藤崎は柔らかな笑みを浮かべて言う。
 しかも敵としての呼び方ではなく、友達という意味合いが強い感じで『エリザちゃん』と呼んでいた。
「……でも」
「でもじゃないよ。次はもっともっと強くなるから!そしたら、もっかい戦お!」
「…………嫌だよ」
 藤崎の言葉にエリザは小さく呟く。
 ちょっと残念そうな顔をする藤崎だったがエリザは、
「だって、毎回戦うたびにこんなにボロボロになるんじゃ、耐えらんないよ。修行程度ならいいよ」
「ありがとぉっ!!」
 藤崎は思わずエリザに抱きつく。
 ふわっ!?と甲高い声を上げるエリザだったが、心地よさに目を細める。
「ところでエリザ。藤崎が負けたって事は、俺らはこの先に通れないのか?」
「ううん、通れるよ」
 魁斗の質問にエリザは短く返す。
「最初に言ったと思うけど、この門は私の魔力を通わせてるから耐久度が強いの。今なら普通に壊せるよ。番人の私も君らと戦う体力残ってないしね」
 エリザは藤崎の服の裾をきゅっと握ったまま説明する。
 つまり、番人であるエリザはもう戦えないため、魁斗達の通過を許可する。といったところか。
 魁斗は剣(つるぎ)を発動して、石門の前に立つ。
「っしゃ、お前ら覚悟はいいか?」
 全員が一斉に頷く。
「頑張ってね。私はもう抜けるつもりだし、いっそのこと潰しちゃえ!」
 ああ、と魁斗は返事をする。
「行くぞ、こっからが本番だ!!」
 魁斗が刀を振り、石門を破壊する。
 魁斗達は作った穴から、敵のアジトへ向かって一直線に走り出す。
 エリザはその背中をずっと眺めていた。
 そして立ち上がり『迷いの森』の方へと足を進める。

140竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/09/11(日) 12:19:03 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第四十五閃「第八部隊」

 エリザは思い足取りで、通称『迷いの森』を歩いていた。
 強いといってもまだ十二歳の少女だ。体力には限界があるし、他の隊長と比べて消耗も早い。
 エリザは息切れしながらも、森を歩いていく。
 しかし、その足を唐突に止めて、近くにある木にもたれるように寄りかかる。
「……いつまでついてくんの?マルトース」
 エリザが振り返りながら言う。
 後ろの木の影から出てきたのは真っ白な衣装に身を包んだ、第五部隊隊長のマルトースだ。
 彼はいつものように怪しげな笑みを浮かべながら、
「いつから気付いていた?」
「確信したのは目が覚めた時。戦ってる時も覗いてるの気付いてたし」
 そうか、とマルトースは呟く。
「何しに来たの?門を通らせたことに対する処罰?でもアレは仕方ないよ。どーせ続けてもすぐに負けただろうし」
「いやぁ、私が来たのは君に罰を与えるためじゃあない」
 じゃあ何?とエリザは問いかける。
 マルトースは笑みを浮かべたままに、
「君に与えるのは……『死』だ」
 瞬間、マルトースが突っ込みマントの中から刀や槍、いわゆる暗器が飛び出す。
 何とか反応できたエリザは『神隠し(かみかくし)』を発動して、横へ傾ける。能力でマルトースの背後に回るが、背後に回ったエリザの後ろに、もう一人マルトースがいた。
「ッ!?」
 後ろから暗器で突き刺され、うつ伏せに倒れる。
 エリザが何とか視線を後方へ移すと、三人。マルトースがいた。
「一人で来ると思ってましたか。甘いですよ」
「貴女程の実力者相手に、一人でいくわけないでしょう」
 エリザは仰向けになって、痛みに耐えながら何とか言葉を紡ぐ。
「な、何で……私を狙うの?」
「私は、貴女が邪魔だと思っていますから」
 だったら良いじゃない、とエリザは睨みながらそう言う。
「私はもう『死を司る人形(デスパペット)』を抜ける。邪魔者はもういなくなるのよ」
「それじゃダメなんですよ」
 エリザは眉をひそめる。
「貴女が死ななければ。これからの私の計画には貴女は完全に邪魔になる。だから、今から消さなければいけない」
「……計画……?」
 マルトースは笑みに一層怪しさを秘めて、
「私は『死を司る人形(デスパペット)』などもうどうでもいい。私には、他に帰るべき場所がある」
「……何よ、そこ……」
「答える必要が、ありますかね?」
 マルトースの刃がエリザを襲う。
 エリザは動けずにただ、自分を襲う刃を待つしかなかった。

141竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/09/11(日) 13:39:48 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 エリザの小さい身体をマルトースの視界を覆う程の刃が襲う。
 身体が動かせずに呆然とするエリザ。
 しかし、彼女の身体は迫り来る刃に貫かれも、刺されも、斬られも、ましてや傷がつくことすらなかった。
 
 何故なら、突如として空から降ってきた黒い影がマルトースに突き刺さり、彼を粉砕してしまったからだ。

「ッ!?」
 エリザと残った二体のマルトースは一斉に辺りを見回すが、人影すらも見当たらない。辺りは森で木が影になって人影が隠れているかもしれない。激突した衝撃によって巻き上げられた土煙で、マルトースを粉砕したのは何か分からない。
 次には呆然としている一体のマルトースに黄色い電撃が走り、機械であるマルトースを行動不能に陥らせた。
「……」
「何だ!?一体、誰なんだ!?」
 ようやく土煙がはれ、一体目を粉砕した黒い影の正体が分かる。
 突き刺さっていたのは巨大な刀だ。
 その刀はエリザには見覚えがあった。
 そして、一本の木から声が響く。
「ったく、簡単に俺達の目の前で負けてもらっちゃこまるんだよ。アンタには、常に最強であってほしいからなァ」
「そーそー。それこそが、私達のリーダーなんだからさ!」
 木から響く声の正体は、その木から飛び降り、地面に降り立つ。
 いたのは二人。
 一人は茶髪で、前髪が右目を隠してしまうほど伸びており、左目はかなり鋭い青年。もう一人はピンク色の髪をポニーテールにている男と同じくらいの女性。
 エリザはこの二人に見覚えがあった。見覚えがあったのはエリザではなくマルトースも同じだ。

 エリザの窮地を救ったのは消息不明となっていた、ザンザとカテリーナだ。

「……ザンザ……?……カテリーナ……?」
 エリザは呆然と呟く。
 ザンザはエリザの前に突き刺さっている自身の刀を引き抜き、肩に担ぐ。
 そして、エリザへと視線を落として、
「……まァ無事ってワケでもねェみてェだな」
「だって恋音ちゃんとの連戦でしょ?そりゃいくらエリザ様でも追い詰められるって。三対一なら尚更ね」
「何故だっ!?」
 ザンザとカテリーナの出現にマルトースは顔を蒼くする。
「何故貴様等が生きている!?いや、今はそれはいいか。何故エリザを助ける?お前らはそいつによって殺されかけたというのに!!」
 マルトースの怯えきった声に、ザンザは小さく笑う。
「だからどォした。俺らを殺そうとした奴を、何で助けちゃいけねェんだよ」
「……その女はもう『死を司る人形(デスパペット)』じゃないんだぞ。助けたとて、お前らには何のメリットもない!!」
「メリットなんざいらねェ」
 ザンザはマルトースに即座に言葉を返す。
「『死を司る人形(デスパペット)』じゃない?助けてもメリットはねェ?だからどォしたってんだ」
 ザンザは刀の切っ先をマルトースに向ける。
 そして、真っ直ぐに睨みながら告げる。
「いいか、分からねェよォだから言ってやる。俺のリーダーはこの人だけだ。俺らは何があっても…エリザ様だけは裏切らねェ!!」
 カテリーナはエリザに手を差し伸べて、
「立てますよね。貴女を超えるまで、負けないでくださいって言ったでしょ?だから、それをきっちり守ってください!」
「……うん」
 エリザはカテリーナの手を取り立ち上がる。
 ザンザは肩に刀を担いで、笑みを浮かべてエリザに問いかける。
「……隊長、命令は?」
 エリザはキッとマルトースを睨みつけて、
「いくよ、野郎ども!マルトースを……ぶっ潰す!!」
 
 エリザのではなく、第八部隊の反撃が開始した。

142竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/09/11(日) 20:35:31 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 完全にまずい状況に陥っていた。
 マルトースは目の前の第八部隊の三人を見ている。
 こんなはずではなかったはずなのに。
 本来ならば、手負いのエリザを消してそれで一件落着としたかったのだが、ここでザンザとカテリーナの救援が入るとは思いもしなかった事態である。そもそもエリザが余力を振り絞って思いのほか奮闘した時のために、用意した二体のマルトースも二人によってあっけなく破壊されてしまっている。いくら隊長のマルトースでも実力は下の方。小隊隊長二人と手負いの『天童』相手に勝てる自信などあるわけがない。
 エリザは痛むのか、右肩あたりを押さえながら、
「で、どうするの?立てたけど、あんまり派手に動けないよ?」
「心配すんな。俺達だってそんなに負担かけたりはしねェよ。助けるために来てんだからな」
 足手まといはもう卒業、と言ってカテリーナは両腰に挿している刀を引き抜く。
 よく見ると、一本ずつではなく、二本の刀の柄の先が鎖で繋がれている。しかも彼女の持ってる刀はそれぞれが元々一本だった『帯雷剣(たいらいけん)』と『魂狩り(たまがり)』である。
「……カテリーナ、それ…」
 刀に気付いたエリザはカテリーナに問いかける。
 カテリーナはニッと笑みを浮かべて、
「ああ、気付きました?そうです。刀匠の人に頼んで繋いでもらったんですよ。『魂狩り(たまがり)』で削った魔力を『帯雷剣(たいらいけん)』へ流す鎖です」
「言ったろ、足手まといにはならねェ」
 ザンザは笑みを浮かべて、
「俺達が潜伏していた間、何もしなかったってわけじゃねェんだぜ?」
 エリザは今この二人の存在をありがたく思う。
 きっと一人ではどうにもならなかった。二人がいるからこそ、今の自分がいて、二人がいたからこそ、大事なものに気付けた気がする。
「さーてと、どうすっかな。合体技でもいっとくか」
「オーケー。もちろん、三人でだよね?」
 当たり前だ、とザンザは適当に返す。
 打ち合わせをしたわけでもなく、ザンザとエリザはお互いの刀の切っ先を合わせる。
 『光薙(こうなぎ)』と『大宝の御剣(だいほうのみつるぎ)』。二つとも光の刃を出すことが出来る能力。
「「だぁっ!!」」
 二人は声を合わせて、二本分の威力の光の刃を射出する。二本分の威力のせいか一本で出すときよりも威力が上がっているような気がする。
「それっ!」
 皿にカテリーナが電撃を光の刃に纏わせて威力を強化させる。
「……何だと!?」
 マルトースは暗器の一部であろう盾を出し、雷を纏った光の刃を受け止める。
 だが、威力が数段に上がっているものを止められるはずもなく、盾はヒビで使い物にならなくなり、跡形もなく砕ける。
「第八部隊、合体技……『八光雷(はっこうらい)』」
 眩い光と共にマルトースがいた所は爆発して、エリザ達に勝利を告げる。
 ザンザはマルトースのいた場所へと歩み寄る。
「……ちっ」
 低い舌打ちをして、エリザとカテリーナの方へと振り返る。
「やっぱ機械だ。あの野郎、とことん自分自身は戦わないってワケか」
「いつものことでしょ?今更機械でしたって言われても驚きもできないし」
 カテリーナは呆れた調子で言う。
 それから、ザンザはエリザの前で跪いて、
「今まで帰還できず、申し訳ありませんでした。事の失敗を思うと、どんな顔をして会えばいいのか分からず……」
 ザンザを見てカテリーナも同じように跪く。
 エリザは笑みを浮かべて、二人の頭をぽんぽんと撫でる。
「……いーよ、気にしてない。二人がいなくて寂しかったけど……私も悪いし。ごめんね」
 ザンザとカテリーナは顔を上げるが、まだ申し訳なさそうな顔をしている。
 呆れて息を吐き、エリザは言葉を続ける。
「ザンくん、リーちゃん。また私と一緒にいてくれる?」
 懐かしい呼び名だった。
 エリザにニックネームで呼ばれるのは、何年以来か。
 ザンザとカテリーナは、懐かしさに表情を綻ばせ、
「「もちろんですよ」」
 そう告げる。
「まずは、エリザ様の手当てから始めねェとな」

143竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/09/16(金) 19:35:33 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第四十六閃「遭遇」

「しっかし……」
 ザンザは座り込みながら呟く。
 カテリーナはエリザの手当てを行っていて、エリザの身体に包帯を巻いたり、ガーゼを当てたりしていた。
「見てんなら助けてくれても良かったんじゃねェの?クリスタさんよォ」
 そう言うと、木の影からクリスタが姿を現す。
 クリスタがいたことに気付かなかったエリザとカテリーナは僅かに驚いたような表情をした。
 彼女は微かに笑みを浮かべ、
「お前達が来たから助けなかっただけだ。一種の信頼というやつだな」
「ハッ。俺らが殺られれば自分が助けた、てか。随分とセコイ真似すんじゃねェか」
 どう思おうが構わない、とクリスタは返す。
 アジトの方へと視線を向け、再びザンザ達に視線を戻したクリスタは、
「『死を司る人形(デスパペット)』はもう終わる。どうだ。私達で終わりを見届けに行かないか」
 その言葉にザンザ達は眉をひそめる。
「いいのかよ。十人いる隊長の一人が終わるとか言って。俺らは抜けるつもりだから何言っても……」
 そこでザンザの言葉が止まる。
 彼は納得したように『ケッ』と言葉を漏らすと、
「そうか、お前もか」
 クリスタも抜けるつもりだ。
 隊長を殺そうとした奴と一緒にいるのは堪えられない。しかも、当のマルトース本人の姿がアジト内に見当たらないのだ。嫌な予感がして、外に出れば案の定マルトースはエリザを攻撃していた。エリザの魔力が弱まったのを感じてアジトを出たらしいが。
「どうする?」
「俺は嫌だぜ。女三人の中に男一人ってのも結構気まずいんだよなァ」
「それなら心配はいらないな」
 クリスタが親指を自分の背後を差すと、第十部隊隊長の、関西弁で喋るゲインが姿を見せた。
「僕もおるから安心してや。ちゅーか、女の子だらけの方がえーやん!ハーレムやん!」
「お前と一緒にすんな」
 エリザの手当ても終わり、クリスタ一向(実力で言えばエリザがリーダー)はアジトへ向けて、歩き始める。
「さあ、世話になった『死を司る人形(デスパペット)』の葬式だ」

 一方、魁斗達はアジトの扉前の下っ端を片付けていた。
 数はざっと百五十程度。だが、今の魁斗達には時間稼ぎにもならなかった。
「実力は大したことないのに、数だけは多かったわね」
「こーゆーのお約束って言うんだよね」
 ハクアとメルティがそう言っている。
 エリザ戦で結構消耗していた藤崎は息切れしている。桐生は、そんな彼女を気遣っていた。
「大丈夫かい、藤崎さん」
「あ、大丈夫……。なんともないよ」
 笑みを浮かべるが、明らかに無理をしている。
 だが、心配を掛けたくないのか、彼女は無理矢理強がって見せた。桐生もその気持ちをわかっているのか、それ以上の言葉はなかった。
「さーてと、いよいよ本番になりそうだぜ」
「ですね」
「気を引き締めないとね」
 魁斗達に一気に緊張感が走る。
 息を呑んで、魁斗は扉を開け放った。

144竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/09/16(金) 21:28:51 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 開け放った扉の先に広がるのは広間のような場所。
 入ってきていきなり、と思っていた敵の姿は見当たらない。敵の代わりに、六つの入り口が横に並んでいた。
「……結構、肩すかしだな。各部屋に一人ずつ隊長がいて倒して進んでいくとばかり思ってたが……」
「そうでもないみたいね。ま、それならそれで私達は六人、向こうは九人でかなり不利になるけど」
 魁斗とハクアがそう口にする。
 六人、ということは絶賛重傷中の藤崎も数に入っているようだ。今の状況で彼女が戦えば即負けだろう。
 そして、彼らは知る由もないが、第九部隊隊長のクリスタ、第十部隊隊長のゲインは『死を司る人形(デスパペット)』を抜けており、マルトースはアジト内にいないようなので、実際の人数は六人である。
「扉が六つ……」
「随分と用意周到だね。元から六つだったのか、それとも僕らの攻撃に合わせて六つにしたのか」
 レナと桐生は冷静に分析している。
 扉が六つということは、一人一人扉の中を通って、一人で戦っていかないといけない、ということになる。
 魁斗達はそれぞれ、扉の前に立つ。
「……生きて帰ってこいよ」
「まだ死ぬわけにはいかないよ」
 魁斗の言葉に桐生はそう返す。
「そーそー。サワちゃんが待ってるわけだしね!」
 ハクアが笑顔でそう言う。
 続けてレナが、
「そうですよ。だから、私達は何が何でも生きて帰らなければいけません」
「うあー、プレッシャーかかるなあ」
 メルティは参ったように呟くが、顔は笑っている。
 藤崎は深呼吸をして、
「よしっ!気合は入れ直した!」
 その言葉に魁斗は笑みを零して、
「んじゃ、また会おうぜ」
「そうですね」
「だから死ぬ気はないって」
「永遠の別れみたいね」
「だからこそ、の約束でしょ?」
「アイドルなめんな!」
 レナ、桐生、ハクア、メルティ、藤崎は魁斗の言葉にそれぞれ言葉を返して扉の中へと消えていった。
 隊長達との決戦が始まる、合図だ。

145竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/09/17(土) 00:40:19 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 レナは廊下を駆けていた。
 果てしなく思うほど長い廊下だ。いくら走っても終わりが見えないような長さ。
 そんな廊下を走りながらレナは思っていた。
(……一体、どれだけ走ればいいんでしょうか……。これで体力を消耗させる、ということはなさそうですが……)
 レナは走っている先に出口らしい、四角く区切られた光を見つける。
 あそこが出口か、そう思ってレナは一気にスピードを上げ、その光へ飛び込む。が、

 そこにいたのは、黒コートに黒いマフラーをした、目つきの悪い青年と肩くらいの黒髪に、モノクルをかけた執事風の青年の二人が立っていた。
 入ってきたレナに黒コートの青年は怪訝な表情を向ける。
 そして一言。
「あ?」
 彼は手に持っている薙刀を肩に担ぐようにして、
「何だ、一人じゃねぇか。オイオイ、どうするよ」
 一方、モノクルをかけた男は僅かな笑みを浮かべて、
「さあね。とりあえず、二人でやればいいんじゃない?」
 第六部隊隊長ガルフ。第七部隊隊長ホーネスト。
 レナはいきなり隊長二人にぶつかってしまった。
 その頃、ハクアは……、
「もぉーッ!!何で追われてるわけぇー!?」
 たくさんの敵に追われていた。

「むむ!」
 メルティは二つに分かれている廊下を眉間にしわを寄せて凝視している。
 どっちに行くか、相当悩んでいるようだ。
 彼女が見つめているのは、右の廊下。こっちから魔力を感じるらしい。
(……でも、待てよ……?この魔力って……)
 曖昧な確信を得て、メルティは右の廊下を突っ切っていく。
 自分の答が、正しいかどうかを確かめるために。

「くっ……!」
 レナは追い込まれていた。
 この二人、正反対な性格に見えて、攻撃はかなり息が合っている。
 まず、ガルフが牽制して、隙が出来たところにホーネストが打ち込んでくる。一人に気を配っていると、もう一方がおろそかになる。二人に気を配っていたら、手が回らない。これが彼らの戦略かもしれない。
「……ッ!」
 二人同時に来たのを見て、レナは後ろへかわす。
 すると、ガルフの薙刀とホーネストの双剣が交わる。
 二人は見詰め合って数秒、いきなりただならぬ空気をかもし出した。
「……邪魔してんじゃねーよ、エセ執事」
「邪魔は君だろう。その武器、長くてうざったいんだけど」
 二人の間で火花が散る。
 この怒りの矛先が何処に向けられるか知っているからこそ、レナは慌てだす。
「大体、アイツをしとめるのも俺だけでいいんだよ。お前は邪魔だ、すっこんでろ」
「それは全てこっちの台詞だね。君こそ潔く引いたらどうだい?」
 『何だとコラ』『やんのかコラ』とメンチの切り合いと罵声の応酬が続く。
 そして、二人の視線はレナへと移る。
「要は、コイツをお前より先に叩ッ斬りゃいいんだなぁ?簡単じゃねぇか」
「そーだね。僕も、簡単なルールが見つかって大助かりさ」
 二人の思考は『レナを倒す』ではなく『こいつにだけは負けたくない』に変換されてしまっている。
 レナはたじろいで、
「…・・・いえ、あの…・・・」
 二人が一斉に襲い掛かる。
「私は何一つ納得していませんがっ!?」
 レナの声も、ヒートアップ中の二人には効果など発揮するはずもなかった。

146竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/09/17(土) 13:45:39 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第四十七閃「嵐の如く」

 レナが二人の隊長相手に苦戦している頃、ハクアは大量の敵に追われていた。
 図体の大きい男や、細身の男、見た目だけで違いが一目瞭然の奴もいるが、他はどれも似たり寄ったりで特徴がない。
(……何よ、こいつら。何で私を執拗に追いかけてくるわけ?……もしかして、人生最大のモテ期?でも……こんなトコで使いたくないなぁー……)
 泣きそうになりながらハクアは敵から逃げている。
 魔力が他の奴らより大きいのが五人程度。恐らく小隊隊長か副隊長が混じっているのだろう。
 ハクアは後ろを向きながら走っていたが、唐突に前方から女の声が飛んでくる。
「オーッホッホッホ!!」
 ハクアが前を見るとそこにいたのは豪奢な衣装を身に纏った(実年齢は三十代だろうが、若作りをしようと頑張りすぎているため老けて見える)女だ。
 その女は手を口元に当てて、高笑いしながら、
「ここから先は、この第七部隊第五小隊隊長のカルメンが通さ……ッ!?」
 カルメンと名乗った女の言葉は途中で途切れる。
 何故なら、ハクアがカルメンの顔を踏み台にして、前へ突き進んだからだ。
 カルメンはその場に仰向けに倒れる。後ろでは彼女の名を叫ぶ部下の声が聞こえるが、倒したかどうかの確認をするほどハクアは暇ではない。
「あー、もうっ!!早くどこか行ってよー!!」

 荒々しく息を切らしながらも、レナは二人の隊長を眺めていた。
 隊長一人なら上手く立ち回れるだろうが、二人となると今の実力では無理だ。体力はみるみる削られ、身体のあちこちに傷を負っている。
 二対一では相手も退屈なのか、ガルフに至っては、興味なさ気に欠伸をしている。
 それを見たホーネストは、
「やる気がないなら下がっててよ。後は僕が始末しておくからさ」
「あー?誰がお前に譲るか。お前に譲るくらいならミジンコに譲った方がマシだ、ボケ」
 再び二人の間で火花が散る。
 二人とも本気で自分を潰しにかかっているため、一切の容赦がない。
 例えば、コンビネーションなどを使ってくれれば、かわすことも出来たり隙を突くことも出来るのだが、二人の攻撃は正反対で回避するのも至難の技だ。二人の仲が険悪なため、うっかり仲間を傷つけても構わない、という考えがある。
 しかも、二人はまだ『どっちが先に倒すか』をまだ続けている。
「……あの、そんなに喧嘩ばかりなら……じゃんけんで決めてはいかがでしょう……?」
 そう敵に提案するのも可笑しなことだと自分でも思う。
 だが、意外と二人は『その手があった』的な顔で納得してくれた。
 早速、ガルフとホーネストの二人はじゃんけんを開始するのだが……、
 パー、グー、グー、チョキ、グー、パー、チョキ、チョキ……といつまでもあいこ続きで中々決まらない。二人のイライラもどんどん積み重なっていく。
(……今だ)
 せこいと言われるかもしれないが、レナは今のうちにここから脱出しようと思う。ただの消耗戦では自分が不利だ。だが、
「「どこ行く気だコラァー!!」」
 ガルフとホーネストの斬撃がレナの行く手を阻む。
「……まさか、俺達があいこをし続けると、予想して……?」
「中々の策士だね……。恐ろしいよ」
 二人の見当違いもいいとこだが、二人の目は充分な殺気が宿っていた。
「……面倒くせぇ。とっとと殺るか」
「二度と、こんなセコイ真似を考えないようにね」
 二人の本気は、レナの肌に痛いほど突き刺さる。

147竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/09/17(土) 16:37:56 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 廊下を走り続けていたハクアは、遂にその足を止めてしまう。いや、止めざるを得なかった。
 彼女が辿りついた先は行き止まりだった。走っている途中で道が分かれている所はなかったはずなのに。
 つまり、彼女が選んだ道は最初からゴールなど用意されていなかったのだ。
 息を切らして、敵の方へ振り返るハクア。
「……あーあ。突入前日におみくじでも引くべきだったかしら」
 ハクアと十数メートルくらいの間隔を空けている敵の大群は、じりじりと距離を詰めてくる。
 ハクアは冷静に今の場所を分析する。
 狭い場所。行き止まり。大量の敵。多対一。
 この分析した四つの事柄があれば充分だった。
 彼女がこの逆境を切り抜けるための、材料としては。

「おらぁ!」
 レナの刀がガルフの薙刀を防ぐ。
 その瞬間にぐん、とレナの身体が地面に吸い寄せられるように、背中から地面に倒れ込み、その衝撃でレナは苦しそうに息を吐き出す。
 急いで身体を起こそうとするレナの顔の真横をガルフの薙刀の刃が突き刺さる。
「ッ!?」
 レナは転がるように起き上がって、ガルフから距離を取るが、移動した先には既にホーネストがいた。
(……動きが読まれて……ッ!?)
 レナの横腹にホーネストの鋭い蹴りが突き刺さる。
「ぅ……、ぐっ……!」
 レナが僅かに呻き、地面に倒れこむ。
 さらに、追い討ちをかけるようにレナの左腕の丁度間接がガルフに強く踏みつけられる。
「ぐああああああああっ!?」
 理解不明な傷みにレナは断末魔にも似た叫びを上げる。
 ホーネストはくくっ、と笑みを浮かべて、
「いやあ、美しい者は叫びも美しいね」
 ガルフは億劫そうに息を吐いて、
「お前。この前『この女はソソられるものがないね』とか言ってやがったじゃねぇか」
「それは昔の意見だよ。今は彼女の髪と瞳の美しさに胸を打たれてるよ」
 はぁ、とガルフは再び息を吐く。
「なあ……とっとと殺そうぜ」
「そうだね。どっちが殺す?」
 ガルフは飽きたように背を向ける。
「弱った奴に興味ねーし。お前の好きにしろ」
 そうかい、とホーネストは柄を繋げた双剣を器用に片手でくるくると回している。
「悪く思わないでね。これが僕達の仕事だからさ」
 でも、と一度区切って、
「一瞬で終わらせてあげるよ。君の綺麗な……髪と瞳は残してあげるから」
 ホーネストの刃がレナの腹を貫こうと振り下ろされた瞬間、
 ピシッ、と壁に小さなヒビが入る。
 それに気を取られたホーネストは、レナの腹に突き刺さる寸前で刃を止めた。
 そして、そちらへ視線を向ける。
 そのヒビはどんどん広がっていき、爆発のような轟音と共に壁が大きな風穴を開けて吹っ飛ぶ。
「なっ……!?」
 穴から複数の人間が放り出される。
 ホーネストはその人物に見覚えがあった。
 そして、次に飛んできたのは、女の声。
「ごめんごめーん!私の仲間が優勢だったら許してねーっと!」
 その声にレナは酷く聞き覚えがあった。
 黒い髪と、薙刀を携えし、女性は、片手に敵の首根っこを掴んで、
「って、あれ。レナじゃん!」
「……助かりましたよ、ハクア」

148竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/09/17(土) 18:34:56 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 友人の姿を見つけたハクアからは笑みが零れていた。
 だが、状況を見て、その笑みもすぐに消え去った。全身から激しい闘志が迸(ほとばし)っている。
 ハクアは薙刀状の『帝(みかど)』を回しながら、
「……胸クソ悪いわね」
 吐き捨てるように呟いた。
「鬱陶しい奴を一掃して。ようやく仲間を見つけたと思ったら殺される寸前で。しかも二対一で負けたっぽいし」
 ハクアの言葉からいつものような元気とも、快活とも、お転婆とも取れない感情が混じっている。
 ハクアは、キッとガルフとホーネストの二人を睨みつける。
 それから、二人に問いかける。
「どっち?」
 言葉の意味が分からない二人は首をかしげている。
 ハクアはふぅ、と息を吐いて、
「友達を痛めつけられた怒りを全身に刻み込まれたいのは、どっちだって言ってんのよ」
 口調は厳しいものでも、怒鳴っているものでもなかったが、ガルフとホーネストの背に寒気が走る。
 フッとホーネストは笑みを浮かべて、
「それは、僕らがやられる前提の話ですね。だったら答えるまでもありません。何故なら、負けるのは貴方達の―――」
 ホーネストの言葉は最後まで続かなかった。
 彼の顔にハクアの薙刀の攻撃が叩き込まれたからだ。
 ホーネストはノーバウンドで吹っ飛び、壁に身体を叩きつけられる。
「……が……ぁ!」
 ホーネストの口から呻き声が漏れる。
 ハクアはホーネストの方へと近づいて行く。
「立て」
 彼女の口調は元の彼女のものとは全くの別のものになっていた。
「……僕の相手が貴女……ですか。いい具合に、分かれましたね……!」
 彼が懐から何かのスイッチを取り出し、そのスイッチを押す。

 すると、天井から巨大な壁が丁度部屋を分割するように落ちてくる。

 壁によってレナはガルフと、ハクアはホーネストと戦うことになった。
 レナは何とか立ち上がって、刀を構える。だが、左腕は使わない。
「……おいおい、本気か。お前、その状態で俺と戦うつもりなのかよ」
「無論です」
 レナは深呼吸をして、ガルフを見据える。
「でないと、私は前には進めません!」
 ガルフはニッと笑みを浮かべて、楽しい獲物を見つけたようにレナを見る。
「いい根性だ。見直したぜ」

「穴から飛んできた人達……僕の部下ですね。どうやって倒したんですか?」
 ハクアはホーネストを睨んだまま、
「簡単よ。行き止まりに当たったからね。狭い通路を利用して、風を起こし、それを暴走させて複数の奴らを巻き込んだ。統率力のある奴がいなかったから、まさに烏合の衆って感じでラクだったけど……」
 ハクアは薙刀を構えて、
「アンタはそうはいかなそうね」
 ホーネストは笑みを浮かべる。
 獣のような、引き裂かれた笑みを。
「お察しがいいようで。せめて、愉しんでくださいね」

149竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/09/17(土) 21:22:35 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第四十八閃「相性」

 ガルフは立ち上がったレナを見つめていた。
 どういう気持ちで見つめているのか、レナは分からない。だが、相手の表情からしたら、馬鹿にしているとは思えない。恐らく、対等に見てくれているのだろうか。
「……惜しいな。俺はアンタと戦うなら、万全な状態の時が良かったぜ」
 対等に見ているから出る言葉か、もしくは万全な状態でも勝てる故の余裕か。
 レナは軽く息を吐いて、
「同感ですね。ですが、私が消耗してるからといって、手加減はしないでくださいね」
 安心しな、とガルフは言って、
「アンタの真っ直ぐな目を見てたら、そんなことすんのは失礼だろ!」
 ダッ!!と二人は同時に駆け出し、二人の武器がぶつかり合う。
 僅かに軋む音が鳴り、再びレナの身体が地面に吸い寄せられそうになる。
「ッ!?」
 しかし、同じ手は通じないと言わんばかりに、レナは片方の足を後ろに下げて、自分自身も数歩後ろに下がり、地面に倒れるのを何とか堪えた。
 まだ息を切らしているものの、集中力は切らさずに、刀を真っ直ぐに構えている。
「ほぉ……。さすがに二度もやられねぇか。聞いてた通り頭も相当キレるようだな」
「……その剣(つるぎ)、風を操る能力ですか……」
 フッとガルフは笑みを浮かべて、
「惜しいな。目の付け所はいいんだが……『風』じゃねぇ。今操ったのは『気流』さ」
 気流?とレナは眉をひそめる。
「『空気』って言った方が分かりやすいか?さっきのも今のも、空気を利用してお前を斜めに押したのさ。だからお前の身体は地面に吸い寄せられるように倒れこんだ。結構便利なんだぜ?空気を操れるってことはよ……」
 ガルフが突っ込み、薙刀を振るう。
 しかし、レナも反応できないわけがなく、軽々と攻撃を受け止める。
 が、ふわっとレナの足が地面から数センチ浮かぶ。
「!?」
「こうやってアンタを打ち上げることも出来れば……」
 ガルフは浮いたレナを上へと押し返し、レナを天井近くへと打ち上げる。
 そして、足に思い切り力を込め、蹴るとレナのすぐ近くまで接近した。
「こうやって高いところまでジャンプできる」
 ガルフはレナの腹目掛けて、薙刀の一撃を食らわす。
「げほっ!」
 レナは腹を叩かれ、息を一気に吐き出す。そして、腹を叩かれた衝撃で、地面に叩きつけられた。
 ガルフは軽々と着地し、レナを見ている。
「だから言ったろ。アンタとやる時は万全な状態がいいって。アンタが弱ってちゃ、こうも実力差がハッキリしちまうんだよ」
 レナは必死に起き上がろうとしながら、ガルフを睨んでいる。

 壁を隔てたもう片方では、ハクアとホーネストが戦っていた。
「はぁっ!」
 ハクアが薙刀から竜巻を繰り出す。
 しかし、ホーネストは一歩も動かず双剣を二つに分けて、スッと宙に弧を描くように空を裂く。
 すると、その場に黒い渦が現れる。
「?」
 その渦にハクアの放った竜巻は吸い込まれる。
「な……?」
「さあて、返してあげますよ」
 ホーネストはさっきと逆の刀で、宙に弧を描くように空を裂く。
 すると、さっきと同様に黒い渦が現れ、ハクアの竜巻が変換される。
「ぐっ!」
 ハクアは何とかかわし、相手の剣(つるぎ)の能力を考える。
「……空間転移?しかも、さっきの竜巻、闇の属性が僅かに付加されてた……」
「空間転移とは違いますね。僕の剣(つるぎ)『姫妃(ひめきさき)』の能力は、そんなちゃっちい能力じゃありませんよ」
 ホーネストは笑みを浮かべながらそう言う。

150竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/09/17(土) 22:53:07 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp

「では、説明いたしましょう。僕の剣(つるぎ)『姫妃(ひめきさき)』の能力を」
 ホーネストは軽い調子でそう言う。
 彼はネクタイを整えて、小さく咳払いをした後に話し出す。
「『姫妃(ひめきさき)』お能力はいたって簡単。ただ相手の攻撃を吸収して闇の属性を付加させて変換する。それだけです」
 ハクアの予想は外れていたが、闇属性の付加は当たっていた。
 能力を聞いたハクアは笑みを浮かべて、
「ハッ。変換、ね。可愛い名前の割には随分と小賢しいモンね」
「どう仰っても結構。そんな子どもの挑発に乗る程、僕は幼くありませんよ」
 ハクアは低く舌打ちをする。
 こっちの風での攻撃は、すべて吸収され、跳ね返されてしまう。かといって、『帝(みかど)』を振るうだけで勝てる相手とも限らない。
 彼女は軽く息を整えて、ホーネストに突っ込む。
「ほう、そうきましたか」
 ハクアの薙刀とホーネストの刀が激突する。
 ただ攻撃したわけではない。ハクアにはちゃんとした考えがあった。放って吸収されるのなら、零距離で風を起こしたらどうなるのだろう。
 ハクアの薙刀の刃に風が渦巻く。
「!」
「これなら、どうするの?」
 ハクアは勝ちの確信を得たが、そうはいかなかった。

 丁度、薙刀と刀の接している部分から黒い渦が生まれる。

「ッ!?」
 ハクアは身を引こうと、後ろへ下がるが、風は既に放たれた後だった。
 風は黒い渦に吸い込まれ、もう一方の刀によって生まれた黒い渦から闇属性が付加された竜巻が、ハクアへと襲いかかる。
 彼女は身を引くために一歩下がった後で、身動きが取れない。
「ほら、そこ。当たりますよ」
 竜巻はハクアを飲み込み、粉塵を巻き上げる。
 粉塵がはれると、ハクアはうつ伏せに倒れていた。しかし剣(つるぎ)はしっかりと握ったままだ。
「ここまでくれば脆いですね。もう終わりですか?」
 嘲るようなホーネストの言葉にハクアは顔を上げる。
 鋭い眼光でホーネストを睨みながら。

「はあっ!!」
 レナの刀が耳を突くような音を響かせて、ガルフの薙刀をぶつかり合う。
 つばぜり合い状態になっているレナは、ガルフから見ても分かるくらい体力を消耗し、息を切らしていた。
「何度きても、同じだ」
 ガルフはレナの刀を弾き、風をレナの腹に叩き込む。
「ぐぅ……?」
 レナは膝を突いて、腹を押さえながら咳き込む。
 ガルフはレナを見下ろして、
「アンタの剣(つるぎ)は見えない風には意味がない。俺と相性が悪すぎるんだよ」
 だから諦めろ、とガルフは呟く。
 しかし、レナは聞いてないかのように立ち上がり、ガルフを見つめる。
「……相性が悪い……。確かにその通りです。貴方の剣(つるぎ)と私の剣(つるぎ)は酷く相性が悪い……」
 ですが、とレナは区切る。
「それが諦める理由に繋がりません」
「何?」
「相性が悪い。体力の違い。実力の違い。だから何だと言うんですか!相性が悪いなら、活路を見出せばいい!体力が少ないなら、上手く立ち回ればいい!実力が違うなら、補えばいい!」
 レナは珍しく語調を強くしていた。
 彼女は常に冷静で、声の大きさもいつも一定だったのだが、何故か今は強く怒鳴っていた。
「私は、カイト様を守るためなら強くなる!カイト様を守るためなら、何度でも立ち上がる!仲間を守るためなら、勝つまで決して負けはしない!!」
 レナの身体から魔力が迸る。
 ガルフはその圧に圧されそうになるが、ここで圧されていては勝てはしない。
 強く、揺らぎのない瞳で、自分を見つめるレナとガルフは目を合わせる。
「……いいね。その根性」
 今までの余裕はなく、もはや敬意に値する言葉だった。
「見せてあげますよ。相性も、体力も、実力も関係のない、勝利を!!」

151竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/09/18(日) 10:08:25 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
間違い発見しました。
>>150の四行目
「『姫妃』お能力」となってますが、正しくは「『姫妃』の能力」です
すいません…

152竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/09/18(日) 10:28:14 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 二人は睨み合う。
 ただ睨み合っているだけではない。相手の動きを考え、その上での打開策を練り、掴みかけの勝利を完全に手にするために考えている。
 だが、今のレナにそんな余裕はなかった。
 レナはガルフの元へと一気に突っ込む。
「ちっ!無策っぽいじゃねぇか!」
 ガルフは薙刀で突きをかわすが、レナは横へシフトしてこれをかわす。
 そして、刀のリーチ内まで踏み込むと、一気に刀を横へ払うように斬りかかる。
 だが、反応できたガルフは半歩後ろへかわし、レナの攻撃を避けた。
「……満身創痍の割にゃ、随分といい動きするじゃねぇか」
「……いえ……結構、私自身も……限界に近いです」
 相変わらず荒々しい呼吸を続けるレナに、ガルフは彼らと敵対した時から抱いていた疑問をぶつける。
「なあ、聞いた話じゃアンタはあの天子の養育係なんだろ?」
「……そうですが」
 じゃあ聞かせてくれ、と一度区切って、
「あの天子は、アンタがちゃんと命を張るに値する男なのか?」
「……」
 レナは驚いたような表情をする。
 まるで、今まで言われたことのない言葉を急に言われたように。
「俺だったら、ただの天子になんか命を張れない。教えてくれ。お前が、天子のために命を張る理由」
 レナは黙っている。
 答えられないわけじゃない。考えたことがないわけじゃない。
 ただ、嬉しかった。
 今まで自分が相対してきた人間とは違う『命を張る理由などない』ではなく『命を張る理由』を訊かれたから。
「簡単ですよ」
 レナはうっすらと笑みを浮かべ、答える。

「カイト様がそこにいるから」

「……」
 ガルフはきょとんとして、相手の返答の意味を確かめる。
 だが、レナは続ける。
「私はあの人の養育係になった時から決めていたんです。ずっと、この方を守ろうと。何があっても、命に代えてでも、守ると。カイト様が別の世界に送られた時は酷く泣き叫びましたよ」
 だから、と区切って、
「私は、カイト様がそこにいるだけで、守る理由なんです。カイト様が戦われるなら、それが私の命を張る理由になるのです」
 レナの返答にガルフは思わず吹き出していた。
 友人との会話で、面白い話をしている時のように。
「……くくく…最高だよ、アンタ。いや、レナさんよ」
 ガルフの表情からはレナに対する敵意は微塵もなかった。
 むしろ、レナを対等と尊敬すべき相手としてみているようだ。
「さあ、そろそろ決着といくか。手加減する気ねぇから、覚悟しとけ」
「はい。ですが、その態度はいただけませんね」
 二人は声を揃えて、

「勝つのは俺だ!!」
「勝つのは私です!!」

153竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/09/18(日) 11:30:10 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第四十九閃「帝、完全解放」

 レナは、ガルフとの距離を詰めるため、一気に突っ込む。
 そして、それの迎撃のためガルフは再び空気の塊を飛ばそうと薙刀を前に突き出そうとする。
 いくらレナが策を練っていようと、体力的に限界なのは間違いない。そもそも、最初にホーネストと一緒に彼女を攻撃していたので、ボロボロの相手に負けたら何かかっこ悪い気がしてならない。
 勝つ理由は『対等と認めた女を超える』ではなく『自分の面子』の方が強かった。
 ガルフは薙刀を勢いよく前に突き出す。すると、レナも同様に刀を前に突き出し、ガルフの刃の切っ先と、レナの刀の切っ先がぶつかり合う。
「ッ!?」
 そのことの表情を変えたのはガルフだ。
 こんなことして何になる。そう言おうとした瞬間に、レナが口を開く。
「確かに、私の剣(つるぎ)は吸収の際に、見えなければいけません。空気など見えませんからね」
 ですが、とレナは一度区切って、
「攻撃の瞬間は必ず切っ先を通ります。ですから、切っ先同士を合わせると……どうなるかお分かりですよね」
「!!」
 ガルフがぶつけようとした、空気の塊がレナの刀に吸収される。
「うおおおおっ!?」
 ガルフは急いで薙刀を引っ込め、数歩後ろに下がる。
 レナは相手の攻撃を吸収した刀を構えている。
(……嘘だろっ!?そんなの思い付きじゃねぇか!もし違ってたら……切っ先が合わなかったら、槍と刀のリーチなんか差がありすぎる!貫かれるの覚悟だってのか!!全力で……命をかけてるのか!?)
「さあ、終わらせましょう」
 ガルフは焦りにも似た笑みを浮かべる。
 だが、この程度で自分の勝利が消えるわけじゃない。
「やってみろよ。体力じゃまだまだこっちが有利だ!俺の攻撃をちょっと吸収したくらいで……!
「『神浄昇華(かみじょうしょうか)』増華(ぞうか)」
 すると、カテリーナの時と同様にレナの刀から炎が噴き出す。
 レナの剣(つるぎ)は相手の攻撃を吸収し、それを炎へと変えて解き放つ。
 だが、この炎の量は吸収した量より明らかに大きすぎる。
「増華(ぞうか)は吸収した技を強制的に引き上げる技です。その分、使うとかなり疲れるんですが……引き上げられる量は、元のおおよそ五倍」
「ッ!!」
「確実に勝つための、切り札ですよ」
 ガルフは歯を食いしばって、レナへと突っ込む。レナも呼応するように走り出す。
 ガルフの薙刀には竜巻のように風が渦巻いている。レナの刀にも膨大な炎が纏っている。
 思い切り薙刀を振るうガルフに対して、レナが行った攻撃は下から救い上げるように、ガルフの薙刀を遠くに弾き飛ばす攻撃だった。
「………ッ!」
 ガルフは絶句する。
 もはや敗北を確信し、語る言葉など無いと言外に宣言するように。
「……貴方と戦えたこと、感謝します」
(ハッ)
 ガルフはレナの言葉に心で笑みを浮かべる。
(……感謝だぁ?そんなもんこっちがすべきだろうがよ。とても綺麗で美しい誇りを持った……アンタと戦えたことに、感謝するぜ)
 ガルフは心で呟き、レナの斬撃を受ける。
 そして、仰向けに倒れ自分の敗北を確信した。
「……強ぇ。とてもじゃねぇが、追いつけそうにねぇな……」
 レナVS第六部隊隊長ガルフ。

 勝者、レナ。

154竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/09/18(日) 11:34:48 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
またまた訂正です;
>>152の七行目
「ガルフは薙刀で突きをかわすが」ではなく「ガルフは薙刀で突きを繰り出すが」です。
このままじゃレナもガルフも攻撃してないのにかわしてますね…
誤字が多く、申し訳ありませんorz

155ライナー:2011/09/18(日) 11:39:15 HOST:222-151-086-019.jp.fiberbit.net
コメント失礼します、ライナーです^^
おお!!レナ勝ちましたね!めっちゃ感動です(笑)
次の戦闘も楽しみですね^^
実に読み応えのある戦闘模写でした。
自分ももう一作だけ増やしてみようかな〜?
ではではwww

156竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/09/18(日) 12:10:07 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
ライナーさん>

はい、やっぱ勝たせないとと思いましてw
この話書くまではガルフ普通だったのに、急に好きになりましたねw
多分もう出番はないと思いますけd((

おお、それは楽しみです!

157竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/09/18(日) 13:03:48 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 一方、ハクアとホーネストの戦いにも終止符が打たれようとしていた。
 ハクアは『帝(みかど)』を杖代わりに地面につき、立ち上がる。そして、僅かに切れている息を整えて、ホーネストを睨みつける。
 ホーネストは呆れたように、
「……残念ですよ。さっきから竜巻を放っては返され、放っては返されの応酬じゃないですか。勘弁してくださいよ」
 ハクアの服はところどころ破れたり、くすんだり、汚れたりしている。彼女の身体も傷だらけだ。
 それでも、ハクアの目は光を失ってはいなかった。
「……うっさい!部下を使って私を追ってた時も、レナと戦ってた時も、自分は楽するような戦いしてた奴に言われる筋合いないわよ!」
「…苦しいですね。それは一つの戦術というやつですよ。まあ僕とガルフのところにレナさんが一人で来たのは予想外でしたが」
 ハクアは再びホーネストを睨みつける。
 そして、再び竜巻を放つ。
「何度やっても無駄です」
 ホーネストは全く同じ要領で竜巻を黒い渦で吸収し、別の渦で相手に闇属性を付加させて跳ね返す。
 ハクアの足取りも遅くなり、かわしてはいるが、地面にぶつかった竜巻の爆風で地面を転がってしまう。
「ガッカリですよ。まさか、貴女がここまで無知だとは思いませんでした」
 咳き込みながらハクアは立ち上がる。
 荒々しい呼吸を繰り返しながら、ハクアはホーネストを睨んだままでいる。
「まだやるんですか?もう終わりでしょうに」
「うっさいって言ってるでしょ!」
 ハクアは相手を怒鳴り、無理矢理黙らせる。
(くそっ……こりゃ本格的にヤバイ。レナはどうなったかな。元々やられそうだったから、長くは持たないはず……手っ取り早く済ますしかない)
 そしてハクアは『帝(みかど)』を強く握り締める。
(……アレを、出すしかないわね)
 ハクアはポケットを漁りだす。
 ホーネストが何か新しい武器を出すのかと身構えているが、ハクアがポケットから出したのは髪を束ねるためのゴムだ。
 彼女は『帝(みかど)』を地面に突き刺し、長く黒い後ろ髪を束ね始める。
「……一体、何をしているのですか?そんな悠長なことをする時間はないでしょう」
「そうよ。だからちょっと待っててくれる?」
 ハクアは髪を束ねながら落ち着いた調子で答える。
 髪を束ね終わると突き刺していた『帝(みかど)』を引き抜いて、構えなおす。
 ホーネストの目には、見慣れないポニーテールのハクアが映っている。
「そんなことしても強くなるわけじゃないでしょう」
「そうね。私には、生憎と髪を束ねたら強くなるなんて特殊能力も無いし。ただ邪魔だったのよ」
 ホーネストはハクアの言葉に眉をひそめる。
「今から私が出すのに、髪がなびきまくったら邪魔なのよ」
 ハクアを中心として、周りの空気が渦を巻く。
「……?」
 ホーネストは眉をひそめたまま、ハクアを見つめている。
 すると、『帝(みかど)』は黄緑の淡い光を発する。
「いくわよ、相棒」
 ハクアは『帝(みかど)』の柄に軽くキスをすると、
「『帝(みかど)』、完全解放!!」
 ゴッ!!とハクアの言葉と共に強力な風が吹く。

158竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/09/18(日) 16:02:04 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 ハクアを中心に風が渦を巻いている。
 それのせいか、辺りが揺れている。それは、立っているレナやホーネストは勿論、倒れているガルフにも感じ取れるほどの大きな揺れだった。
 ホーネストは、ハクアの迸る魔力にも溜息をついて、
「何をしても無駄ですよ。貴女の攻撃は全て防がれてしまうのです。いくら攻撃力を上げたって、所詮は無駄な足掻きですよ」
「どうかしらね」
 ハクアの『帝(みかど)』の竜巻が纏う。
 淡い黄緑の光を放ち、風を纏っている『帝(みかど)』を握り締め、ハクアはホーネストに突っ込む。
 しかし、ホーネストも相手の攻撃を防いで黒い渦を出せば、それでいい。
 『完全解放』と言っていたのを考えると、強力な攻撃であることは間違いない。吸収して、跳ね返せば一撃で倒すことも可能だ。
 ハクアの薙刀とホーネストの刀がぶつかり合う。
(……やった!これで勝てる!)
 ホーネストは自信に溢れ、黒い渦を出そうとしたが、

 ボキン、と鈍い音が鳴る。

 その音に気をとられ、僅かに注意が緩んだホーネストは押し返され、勢いよく壁にぶつかる。
「ぐあ……!」
 ホーネストは呻き声を上げるが、さっきの音の正体は分からない。腕もそれほど痛くないので、骨が折れたことはないだろうと、立ち上がると、
 刀が折れている。
 さっきの鈍い音は刀が折れる音だったのだ。
「………」
 ホーネストは絶句する。
 ハクアは笑みを浮かべて、
「さあ、どうするの?『吸収して跳ね返す』。じゃあさ、吸収できなくなったら?アンタの剣8つるぎ)、見たところ殺傷能力は高そうに見えないし……チェックメイトね」
 ハクアは『帝(みかど)』に大きな竜巻を生み出す。
 ホーネストは『待ってくれ!』と叫ぶが、最早勝利を確信したハクアの耳には少しも届かない。
 そして。生み出した竜巻をそのままホーネストにぶつける。
 その衝撃で部屋を二つに分けてた壁が壊れ、レナとハクアは再び合流する。
「ハクア!無事だったので……」
 レナの言葉が途中で切れる。
 その理由はハクアが髪をくくっていたからだ。
 レナは戦いでハクアが髪をくくる理由を知っている。
「ハクアッ!!まさか、完全解放使ったんですか!?あれは肉体への負担が大きいからダメだって言ったじゃないですか!!」
「えーい!うるさい、うるさい!勝ったんだからいーじゃない、もー!!」
 ハクアは髪を束ねていたゴムを解き、再びポケットへとしまう。
 それから、『帝(みかど)』を担ぐように持って、
「さーて、行くわよ!先へ!」
「ええ」
 レナと共に先へ進む。
 ハクアVSホーネスト。

 勝者、ハクア。

「……さっきの揺れは……何だろ……」
 ほとんど壁を手すり伝いにして歩いている藤崎はそう呟いた。
 歩くのだけでもかなりきついのに揺れてしまっては余計にきつくなる。
 仲間のことも心配だが、今一番心配されるのは自分だろう。
 藤崎は気合を入れなおして、光がある奥の部屋へと入る。すると、
「ひゃっ!?」
 入った気配に部屋にいる赤い髪の少女はビクッと肩を震わせた。
 藤崎がきょとんとして彼女を見ていると、少女は涙目でこちらに振り返る。
 その可愛らしい容姿に藤崎は、
「……な、何かラッキー……?」
 しかし、藤崎は知らなかった。
 彼女がフォレストの言っていた要注意人物、

 『第四部隊隊長のルミーナ』であることを―――。

159竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/09/18(日) 19:48:50 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第五十閃「ルミーナ」

 藤崎は明らかに怯えている赤髪の少女を見て、目を丸くしていた。
 その理由はたった一つ。
 『何故こんな可愛らしい子がこんなところにいるのか』という疑問が浮かび上がったからだ。
 アジトに入ってすぐあった六つの扉の先には絶対に隊長がいると、もしくは隊長しかいないと思っていたが、彼女はどう見ても隊長には見えない。小隊隊長にも見えない。でもエリザが隊長をやっているのだから可笑しいことではないという考えも出来るが。
「……あの、」
「ひっ!」
 藤崎が少し声をかけただけでこの有様だ。
 語調が強いわけでも、睨みつけたわけでもなく、初対面の人と話すときのように、僅かに笑みを浮かべて声をかけただけだ。
 やはり隊長じゃないのでは?藤崎は言葉を続ける。
「…貴女は、隊長?」
 少女はコクリと小さく頷く。
 藤崎は面食らったが、この子なら、何とか戦わずに先へ行けるかもしれない。その状況は今の藤崎にとってとてもありがたい展開だ。
「……私、出来れば貴女と戦いたくないの。だから…無理だと思うけど、ここ。通してくれないかな」
 少女は一瞬の躊躇いもなくコクリと頷いた。
「わ、私も……出来るだけ戦いたくないです……!血とか、見たくないし……」
 何でこんな平和主義な子が隊長なのか、本気で考えてしまうが今はそこは気にしない。
 藤崎はホッと息を吐いて、
「だよね。まだ子供だし、そりゃ戦いたくないわよね」
 はは、と苦笑いして部屋の出口へと向かおうとした、瞬間、
「―――子供?」
 驚くほど冷たい声が藤崎の耳に届く。
 藤崎が少女を見ると、少女は俯いていた。だが、彼女の身体にわずかに青いオーラが見える。
「……何?」
 藤崎は思わず剣(つるぎ)を発動して、構える。
 俯いたままの少女は、
「……誰が子供だよ。お前が子供だろうが」
 今までの彼女のものとは違い、冷たく、刃物のように鋭い口調だった。
 彼女が顔を上げると同時、赤い髪は青に変色し、下に垂れているアホ毛は上にピンと立った。目もまん丸とした柔らかい印象はなく、キリッとした鋭いものへと変わった。
「私はこれでも十八だ!お前よりも大人なんだよ、小娘がぁ!!」
 少女は思い切り叫び、大剣の剣(つるぎ)を発動して襲い掛かる。
「くっ、やっぱ戦わないといけないの!?」
 
 分かれ道を走っているメルティはビクッと肩を震わせて、立ち止まる。
「……この気配、只者じゃない。エリザより上……もしかしたらそれ以上かも!」
 しかし、メルティは今はそっちに気を割いている暇はない。
 メルティは奥を目指し、再び走り出す。

「ぐあっ!?」
 藤崎は地面を転がり、壁にぶつかってようやく止まる。
 何とか立ち上がろうとするが、エリザ戦のダメージもあって、身体が上手く動かない。
 そんな藤崎へ担ぐように大剣を持っている少女は、
「あのさぁ、なめてる?そんな状態で、私に勝とうなんて馬鹿にしてるよね?」
 藤崎は地面に伏しながら、彼女を睨む。
「……そんなわけ……ないでしょ……!貴女が、誰か知らないのに……!!」
 ほぉ、と少女は眉をひそめる。
「いいわぁ……。だったら教えてアゲル」
 少女は不気味に笑みを浮かべて、呟くようにそう言う。
 彼女は真っ直ぐに藤崎を見下ろして、
「私はルミーナ。第四部隊隊長のルミーナよ!」
(ルミーナ!?)
 その言葉に藤崎は絶句した。
 フォレストの言葉を思い出したのだ。
『第四部隊の隊長が要注意ですよ。ま、どんな奴か知りませんが『四』って数字が酷く恐ろしいですね』
(……この子が……第四部隊隊長……!)
 藤崎は顔を顰めて、歯を食いしばる。

160竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/09/19(月) 00:01:24 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 爆発音が部屋に何度も響く。
 連続して響く爆発音と共に、女の昂ぶった怒鳴り声が一緒に聞こえてくる。
「オラオラァ!!背を向けながら腰振ってんじゃねぇよ!!手に持ってる刀(そいつ)は飾りかァ!?」
 青い髪の第四部隊隊長ルミーナは大剣を振り回しながら、自分の目の前で逃げ回る藤崎にそう罵声を浴びせる。
 藤崎はその罵声に言い返すことなく、相手の攻撃をかわし続ける。
 この状態が長引けば藤崎は圧倒的に不利になるが、相手の小さい体格を利用すれば、相手を自分と同じくらい消耗させられるかもしれない。
 そうなった時が勝負どころだ。
「ったく、面倒くさいなぁ。ちょこまかとネズミみたいに逃げやがって。私は猫じゃねーんだよ」
 ルミーナは刀を肩に担ぐようにして、藤崎を睨んでいる。
 首を鳴らして、息を吐き、
「つーか使わないんだったらしまいなさいよ、剣(つるぎ)。邪魔くさいでしょ?」
「いいや、捨てない」
 藤崎の返答にルミーナは舌打ちをする。
 ルミーナは刀の切っ先を藤崎に向け、
「ま、いいや。どーせ叩き潰すんだし。ついでに刀も鉄くずにしてやるよ」
 ルミーナは地面を思いっきり蹴って、上へ跳び上がる。
 刀には真っ赤な炎が燃え盛っている。
「まさか……あれを下に!?」
 ニィ、とルミーナの口の端が不気味に歪む。
 藤崎の予想は的中したのだ。
「『紅炎焼葬(こうえんしょうそう)』!!」
 炎は三日月のような形の斬撃となって、藤崎へと放たれる。
 しかし、藤崎は逃げもしなかった。
 彼女は刀を前に突き出して、炎が迫るのを待つ。
「でも、炎だったら……私にとって相性がいいわ!!」
 炎の斬撃が藤崎の刀の切っ先に触れると同時、炎は藤崎の刀に吸収される。
「おおおおおおおおっ!!」
 藤崎は叫びながら、迫る炎の熱と圧に耐え、何とか全て吸収しきる。
「っしゃあ!どんなもんだ!」
 しかし、上を見ても前を見てもルミーナの姿は見えない。
 そして、後ろにある殺気の気配に気付く。
「ッ!?」
 藤崎は急いで振り返り、ルミーナの斬撃を防ぐ。
 しかし、傷を一つも負っていないルミーナに勝てるわけもなく、藤崎は吹っ飛ばされて壁に激突する。
 藤崎は倒れ込みながら咳き込み、手足に力を込めて、再び立ち上がり、刀を構える。
 ルミーナは軽く息を吐いて、
「無駄に粘るなぁ。そんなことしても無駄だってのに」

 アジト内に一人の人影が現れる。
 背は低く、首から下はマントに包まれ、衣服の様子は窺えない。
 その人影は、ブーツでも履いているのか、歩くたびにこつこつ、と音が鳴る。
 そして、しばらく六つの扉を見ていた人影は一つの扉の前で立ち止まる。
「……まったく、面倒なことになっちまってるみたいですね。薬があるからって、無理していいわけじゃないってのに」
 その人影は愚痴を零すように呟くと、扉の中へと走っていく。

161ライナー:2011/09/19(月) 00:23:04 HOST:222-151-086-020.jp.fiberbit.net
コメントしに来ました、ライナーです^^
ルミーナさん怖ェェ!怒らしたら怖いんですね〜^^;(これってお嫁さん貰うときにも重要かも)
えー、気が早すぎる( )付けはいいとして、フォレストさんなんですか!?
もしフォレストさんだったなら言っておきたい、今度こそ、守るべきもん守ってk((殴
炎は熱いや……『紅炎焼葬』恐るべしですね(何が何だか)
今回はアドバイスもキチッとやります(眠いけど)
今まで感動に次ぐ感動していた戦闘模写についてです。
戦闘模写は、風景が伝わりやすく書いていて良いんですが、小説では無効化される場合があります。
小説ってものは本来アクションに向きません。ですので、頭脳戦を入れた戦い方が主流となります。(自分は入れているつもりなんですが、伝わっているでしょうか^^;)
もし、アクションだけを書き続けたらどうなるでしょう?
どう頑張っても、映画や迫力のあるアニメには物足りなさを感じさせてしまいますね。
ここで重要なのが、個性でもあります。
戦闘する登場人物の、欠点、長所を生かしながら書くと良いでしょう!
ではではwww

162竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/09/19(月) 01:04:57 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
ライナーさん>

コメントありがとうです^^

はい。彼女に『子供』って言ったらもうスイッチ入ります。『ガキ』とかじゃ入らないけどw
さあ…フォレストかもしれないし、違うかもしれない((
まあ、大体喋り方で分かると思うんですけどね…

言われてみれば、自分はラノベくらいしか読まないんですけど、ほとんど日常を描いたストーリーが多いですね。
バトル物になれば、ぱっと思いつくのが二つしかないですし…
頭脳戦かぁ…魁斗には永遠に無理だろうがn((
毎回アドバイス、ありがとうございます^^

163竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/09/19(月) 01:38:22 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 ルミーナは傷だらけの状態で刀を構えている藤崎を見て、呆れたように溜息をつく。
「立って何か意味あるの?」
 ルミーナの言葉に藤崎を首をかしげる。
 息を吐いて、藤崎にも伝わるように、言葉を選びながら、再び問う。
「だから、立ち上がって何かあるのかって訊いてるの。勝算があるわけでもなさそうだし、ましてや負ける覚悟をしてる様子でもない。一体、お前は立ち上がって何がしたいんだよ」
 藤崎はそれでも首をかしげている。
 あぁ!?と叫びそうになるルミーナだが、ここは怒りを堪える。
 藤崎はんー、と考える仕草をして、
「負けてないから。負けてないし、立てるし。動けるうちは、私は何度だって立ち上がる」
 ルミーナはうざったそうに頭をかく。
 藤崎の言葉に嫌気が差したようだ。
 彼女は『正義』だの『友情』だの、そういう言葉が嫌いだ。正義感がある、と言われてた人は自分を避けた。友達だと思っていた人は逃げていった。所詮形が無いもの。崩れ去っても拾い集める必要も無いし、いっそ壊してしまえば背負わずにいれる。ルミーナはいつの間にか人と深く関わらなくなっていた。
 彼女に対して、藤崎の言葉は苛立ちを煽るものでしかなかった。
「あーあ、聞くんじゃなかった。耳障りだよ、その言葉」
「だったら耳塞げば?」
 藤崎は先ほど吸収した炎をルミーナへ向かって放つ。
 しかし、横に飛んで軽くかわされてしまい、ルミーナの刀に再び炎が纏う。
「何度きたって無駄よ!!」
「どーかな?」
 ルミーナは口の端に怪しい笑みを浮かべる。
 強がりだと藤崎は思う。
 ルミーナは先ほどのことなど忘れてしまったように、炎の斬撃を飛ばす。
 対して、藤崎はだっきと同じく刀の切っ先を前に突き出した。
 刀の切っ先に炎が触れた瞬間、炎が藤崎の刀に吸収される。
 はずだった。

 しかし、切っ先に炎が触れると、藤崎の身体に電流が走ったような衝撃が走り、炎を吸収できず、そのまま炎の斬撃を喰らってしまう。

「ふ……アハハハハハハハハハ!!」
 ルミーナは腹を抱えて、笑う。
 藤崎は刀を杖代わりにして、何とか立っているが、自力ではもう立てないだろう。
「面白いわー。ホント、面白いぐらい引っかかってくれちゃってさー」
「……い、一体……何をしたの……?」
 藤崎は徐々に言うことを聞かなくなってきている身体を無理に動かし、必死に言葉を発する。
 ルミーナはふふ、と笑って。
「簡単よ。私の剣(つるぎ)の能力を考えればね」
 藤崎は眉をひそめている。
 ダメージで頭が上手く回転してないからかもしれない。
 ルミーナは刀を上に掲げて、
「私の剣(つるぎ)『紅の紫電(くれないのしでん)』は炎を使う攻撃の際、自分の好きに電撃を纏わせることが出来る」
 藤崎は言葉を失う。
 最初の一撃は炎だけの攻撃。それで自分の剣(つるぎ)が炎を使うと安心させて、二撃目は本命の炎だけじゃない攻撃。
 藤崎は、面白いぐらいにルミーナの策略に嵌っていた。
「終わりよ」
 ルミーナは藤崎の前に立って、思い切り横腹に蹴りを入れる。
 嫌な音が鳴り、藤崎は横の壁に叩きつけられて、倒れこむ。
 藤崎は蹴られた横腹を苦しそうな表情で押さえている。
「んー、感触的には骨何本か逝った?まー、死ぬんだから何百本でも逝かせてあげる」
 ルミーナは刀を上に振り上げる。
 藤崎にはかわすほどの余力は残されていない。
「バイバイ」
 ルミーナの冷徹な言葉の後に、非情の刃は振り下ろされる。が、

 突如として飛んできた物に、ルミーナの刀は弾き飛ばされる。

「!?」
 二人は一瞬何が起こったか理解できていなかった。
 飛んできたものの明確な場所は分からないが、恐らくは入り口だ。案の定、そちらに人影が見える。
「無茶しすぎです。僕の薬は特効薬じゃないんですから」
「……誰だ、お前」
 ルミーナの鋭い眼光が乱入してきた人影を睨みつける。
 150センチ前後の身長に、小柄な体格、肩くらいの黒髪に、マントを羽織っている、特徴満載の乱れた敬語を使う彼女は―――。
「僕は『迷いの森』で薬草師やってます。フォレスト。でも、呼ぶ際は『フォーちゃん』って敵でも呼んでくれたら、感動しちまいますね」

164竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/09/19(月) 10:08:46 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第五十一閃「フォレスト参戦」

 桐生は長い廊下を走り、ある扉の前で立ち止まっていた。
 一見して何の変哲もないただの大きな扉だが、中心に氷の結晶が描かれている。
 隊長の中に自分と同じく、氷の剣(つるぎ)を使う人がいたのか。そう考えながら桐生は扉を押す。
 案外少しの力で開けることが出来、桐生は中にいる人影を見つめる。
 手入れを怠っていないほど綺麗な白い髪を腰まで伸ばし、先をリボンでくくっている女性が桐生に背を向けるように立っていた。
「……君が、ここの番人でいいんだね。まずは名乗ってもらおうか。そっちはこっちの情報を知っているだろうから、僕は名乗らなくてもいいと思うけど」
「……ふぅん…」
 白い髪の女性は微かに笑みを浮かべる。
 桐生は眉をひそめて、剣(つるぎ)を発動する。
「言ってくれるじゃない。私としても、本当に君かどうか確認したいからさ」
 女性はくるっと振り返る。透き通った青い目を持っているのは、第三部隊隊長のスノウだ。
「!!」
 桐生は途端に目を大きく開いて、驚く。
 刀を握る手が僅かに震えだした。
「……そんな、あ……貴女は……!」
 スノウはフッと笑みを浮かべるだけだ。

 フォレストは入り口から、藤崎を庇うように彼女の前に立つ。
 ルミーナは二人から距離を取るため、数歩後ろへ下がる。
 フォレストは懐から薬が入っている瓶を取り出し、後ろにいる藤崎へと投げる。
 藤崎は右手は横腹を押さえているため、左腕でその瓶をキャッチする。
「……これは?」
 瓶のラベルには英語で『peinkiller made in forest』と書かれてある。
 最後の部分でフォレストが作ったことは分かったのだが、その前の英単語が常に英語は赤点ギリギリセーフの藤崎には読めない。桐生だったらいとも簡単に読んでしまうだろう。
「それは鎮痛剤です。さっきから押さえてる横腹にでも塗っちまってください。大体十五分で効き目が出ます」
 何故この局面で鎮痛剤を渡したのか。
 それは何となく想像が出来た。
 フォレストも一人であの少女に勝てる自信はなかったのだ。
「ところで、あのとてつもなく怖い女の子は誰ですか。隊長みたいですけど」
「うん。第四部隊隊長ルミーナ」
「なるほど。第四部隊隊長ですか。……第四部隊?」
 フォレストは思考にブレーキをかける。
 そして、魁斗達に自分の言ったことを思い出す。
「はああん!?馬鹿かお前は!!第四部隊隊長は危険だって言ったでしょ!?何で戦ってるんですかぁ!?」
 フォレストは藤崎の胸倉を掴んで前後に激しく揺さぶる。
 藤崎は胸倉を掴んでいるフォレストの手に、タップサインを行うが、まったく話してくれない。
「あのさぁ、もう始めてもいいかな?」
 ルミーナが痺れを切らしたように、苛立った声で訊ねる。
 フォレストは藤崎の胸倉から手を離し、振り返る。
「何だ。待っててくれたんですね。配慮が足らず申し訳ありません」
「いやいや、別に背後から叩っ斬っても良かったんだけど、それじゃお前らだって納得しないだろ?」
「そんなことありませんよ。むしろ、不意打ちぐらい戦いでは常識でしょう?」
 ルミーナとフォレストは睨み合いながら、僅かな笑みを浮かべている。
 面白いから、嬉しいから。そういった無邪気で無垢なものではなく、相手と戦うことを心底『愉しそう』と思った、戦闘狂の笑みだ。
「貴女は早く鎮痛剤を塗って、出来る範囲で僕と一緒に戦ってください」
「十五分っかるんでしょ?フォレストさんはどうするの?」
 僕のことは『フォーちゃん』でお願いします、と前置きして、
「僕は十五分彼女を引きつけます。安心してください」
 フォレストはマントを脱ぎ捨てる。
 マントの中の服装は白い簡素なTシャツに腰くらいの黒のジャケット、下はミニスカートで、黒のストッキングを履いており、ブーツを着用している。
 フォレストは自身の剣(つるぎ)である、弓矢を構えて、
「十五分、貴女には指一本たりともアイツに触れさせはしませんから」

165竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/09/19(月) 12:52:27 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp

「さーてと、とっとと済ませちまいたいんで。早速大技いきますよ」
 フォレストは手の平に光の玉を作り、矢を引くように玉を引っ張る。
 すると、引っ張られた光の玉は矢のような形に変わり、徐々に大きくなっていく。その姿は鳥のようにも見えた。
 ルミーナはその矢の形を見て、
「なるほど。己の魔力で矢を生み出すってわけか。どうでもいいけど、そんなんじゃ私は倒せない!」
「どうですかね」
 弦がきりきり、と軋む音を上げる。
 フォレストはルミーナに狙いを定め、巨大な鳥と化した矢(もう矢と呼べる形ではない)をルミーナに向けて放つ。
「『銀の朱雀(しろがねのすざく)』!!」
 放たれた鳥の形をした矢は、白い光から徐々に赤い光を放ち、やがて真っ赤に染まった鳥の矢になる。
 ふぅ、とルミーナは軽く息を吐き、
「銀色なのか朱色なのか……どっちだよ!」
 ルミーナは高く跳んで、矢をかわす。
 ルミーナは刀の切っ先をフォレストに向け、巨大な炎の塊を作り出す。
「『紅火砲球(こうかほうきゅう)』!!」
 その玉をフォレストに向けて、放つ。
 フォレストは思わず、弓矢を放てって、防ごうとするが矢を引いて打つだけの時間がなかった。
 かわすタイミングさえも失い、動けないフォレストはやられる覚悟をしたが、
 
 とっさに、前に藤崎恋音が現れる。

「ッ!?」
 藤崎は刀の切っ先を炎の前に突き出して、相手の炎の玉を吸収する。
「な、何やってんですか!十五分待ってろって……」
「だって、かわせなかったでしょ?それに、初めから二人でやるつもりなんだから」
 ルミーナは地面に着地して、刀を担ぐように持つ。
 それから、鋭い眼差しで藤崎を睨みつける。
「へぇ、死にぞこないと薬草師のガキか。そんなんで、この第四部隊隊長を倒せると思ってんのか?」
 藤崎は刀を、フォレストは弓をそれぞれ構える。
「―――勝てると思ってんのか、だって?」
「思ってますよ。じゃなきゃ、貴女の前に立ったりしません」
「仲良く二人であの世逝きを望んでるってわけか」
 違う、と藤崎とフォレストは声を揃えて言う。
「……死にぞこないだからってなめるな!」
「薬草師のガキだからってなめないでください」
 二人は大きく息を吸う。
 それから、再び声を揃えて、

「「お前を死にぞこないのガキにしてやらぁ!!」」

166竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/09/19(月) 20:23:41 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp

「くく……今の自分達の状況を分かってないようだな。死にぞこないはお前らだろ」
「僕は違います」
 ルミーナの言葉にフォレストは素早く返す。
 藤崎はフォレストの背に合わせて、身を屈める。
「……で、どうする?」
「無理に身長を合わせようとしなくて結構です。かなり自分を責めちまうんで」
 フォレストはじとっとした目で藤崎は見る。
 ごめん、と藤崎は軽く謝り、フォレストの返答を待つ。
 彼女はこちらを睨んでいるルミーナを見つめる。
「……そうですね。まず、こっちの攻撃はほとんど当たらないってのは事実です。ですから、逆に当たらないのを利用しましょう」
 フォレストは藤崎に小さい声で作戦を伝える。
 ルミーナは作戦会議をしている相手を見ている。
 その気になればあの二人を今すぐ斬ることは出来るのだが、なんなら真っ向から相手の作戦を打ち破ってからその上で叩き伏せる。ルミーナは確実に勝ち、圧倒的な力でねじ伏せる。彼女の目には『勝ち』しか映っていなかった。
 作戦を聞き終えた藤崎は、顔を青くして、
「で、出来るの?そんなことが」
「やるしかないでしょう。僕の小さい脳で考えられるのは今のトコそんだけです」
 分かった、と藤崎は小さく頷いて、刀を構える。
「さあさあ、最後の作戦が始まりましたねぇ!とっととこいよ、さっさと終わらせてやる!」
「終わるのは……アンタだ!!」
 藤崎はルミーナに突っ込む。
 ルミーナは相手が何をしようとしてるかはすぐ分かった。
 何故なら、相手の刀に炎が纏っている。恐らく、あれを至近距離でぶつける気だ。
「くらえ!」
「甘いんだよ!!」
 ガン!!と炎を纏った藤崎の刀とルミーナの刀がぶつかり、技を相殺し合う。
 ルミーナはすかさず、隙が出来た藤崎の腹の中心に蹴りを入れる。
 藤崎の身体がくの字に曲がり、後方へと吹っ飛ばされる。
「こんなもんが作戦かァ!?こんなんで私を倒そうなんざ……」
 そこでルミーナは気付く。
 フォレストが弓よりも巨大な光の矢を放とうとしていることを。
「この女は囮か!?」
 フォレストはニィ、と笑みを浮かべて、
「『金麗銀弓(きんれいぎんきゅう)』!!」
 フォレストは巨大な矢を放つ。
 ルミーナは刀に炎を纏わせ、これを迎撃しようとする。
「こんなんでも……私を倒すことは出来ないんだよ!!」
 ルミーナは巨大な矢を刀で受け止める。
 歯を食いしばり、圧で足が後ろに押されるがそんなものは気にしない。
「うおおおおおあああああああああ!!」
 バァン!!とフォレストの矢が弾ける。ルミーナの刀も後方に弾き飛ばされる。
 力を使い果たしたフォレストは、膝から地面に崩れ落ちるように倒れる。
 ルミーナは笑みを浮かべて、
「だから、言っただろ!お前らじゃ私には勝てないって―――」
 ルミーナの言葉が止まる。
 彼女の懐にもぐりこんだ藤崎が刀の峰でルミーナの腹を狙っていたからだ。
「……ッ!?」
「言ったでしょ。終わるのは、貴女だって」
 藤崎の刀がルミーナの腹を殴る。
 彼女は後方へ飛ばされ、地面に背中をぶつける。
 まだ立ち上がろうとしていたが、力が入らないのか、立ち上がれず、そのまま気を失う。

167竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/09/22(木) 21:28:46 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第五十二閃「信じられるために」

「や、やったぁー!!」
 藤崎は大きく声を上げて、そのまま仰向けに倒れこむ。
 倒れたまま、顔を動かしてうつ伏せに倒れて動かないフォレストの方を向く。
 藤崎は彼女に向かって囁くように呟く。
「……やったよ、フォレストさん。貴女の分まで……」
「死んだみたいな言い方しないでください」
 フォレストは藤崎に向けて顔を上げる。
 そして同じように倒れている藤崎を見つめる。
「ま、よくやりました。二人ともボロボロで立てやしませんけどね」
 フォレストは溜息混じりに呟く。
 薬を出そうにも手が上手く動かない。
 先ほどの攻撃で魔力をほとんど使い果たし、上手く身体が動かないのだ。
 それに対しては藤崎も同様のようで、倒れてからほとんど動いていない。恐らく『倒れた』ではなく『倒れてしまった』なのかも知れない。
 動けないお互いを見つめあいながら、二人は同時に息を吐く。
「……ちょっと寝ようかなぁ……」
 藤崎がポツリと呟いた後に、音が鳴る。

 立ち上がったような、地面を踏みしめる音だ。

 フォレストではない。
 彼女は相変わらず倒れたままだ。だが。横方向を向いて、驚いているようにも見える。
 藤崎が何とか上体を起こして、その方向へと視線を這わせる。
 そこには、
 腹を押さえたまま、息を切らし、立っているルミーナがいた。
「……!!」
 藤崎とフォレストが絶句する。
 自分達は動けない。この状況で彼女に立たれては、打開策がないに等しい。
 ルミーナの標的は、いつでも倒せる状態のフォレストではなく、自分の腹に一撃を加え、上体を起こしている藤崎だ。
 ルミーナは弾き飛ばされていた自分の刀を掴み、ゆっくりと藤崎に歩み寄る。
 藤崎は動こうとしない。いや、動けない。
「……甘いんだよ…。腹に峰打ち叩き込んだだけで……勝った気になってんじゃねぇよ!!」
 ルミーナは藤崎の前につくと、刀を振り上げる。
「……うそ……」
 藤崎の顔が引きつる。
 フォレストは動こうとするが、身体が言うことを聞かない。
「……やめろ!やるなら、僕からにしろ!!」
 フォレストにしては珍しく、敬語も混じっていなかった言葉だった。
 ルミーナはフォレストに視線を向け、
「関係ない。お前はいつでも殺せる。だから、お前は後だ」
 ぎりっとフォレストは歯を食いしばる。
 自分はまた守れないのかと。自分の無力さを目の前で見せ付けられるのかと。
 ルミーナはそんなフォレストの心情も知らずに、藤崎へと凶刃を振り下ろす。

168竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/09/23(金) 02:57:58 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 振り下ろされた刃は藤崎の身体を裂くことはなかった。
 藤崎が何をしたわけでもない。ただ、かわすことを諦め、真っ直ぐとルミーナを見てるだけだ。濁りない清らかな瞳で。
 ただそれだけなのに、ルミーナの手は止まった。彼女の握っている刃は、藤崎の目の前で止まっている。
 眉間にしわを寄せ、ルミーナは藤崎を睨む。
 藤崎はルミーナを見つめたまま、
「何でやらないの?」
「どういうことよ……!何で、すぐ側にある刀を握らない……ッ!」
「だって、握る必要がないから」
 何?とルミーナの顔がより険しくなる。
 藤崎は右手の側にある刀を握ろうともせず、ルミーナを見つめたまま言葉を続ける。
「だって、今の貴女。髪が赤色なんだもん」
 今まで藤崎と戦っていたルミーナの髪は青になっていた。
 藤崎が『子供』と言ってしまったため、ルミーナのスイッチが入り、酷く好戦的で残忍な。いわば『裏』のルミーナが出てきた。一方で赤い髪のルミーナは戦いには消極的で、むしろ戦わずにここを通そうとさえしていた。
 つまり、髪が赤だということは彼女は『戦えない』というサインなのだ。
 ルミーナじは、歯を食いしばって、
「それがどうしたんですか!戦ってくださいよ……!まだ、戦えるんでしょう?」
「うん。でも、今の貴女とは戦えない。貴女が、戦えないって知ってるから」
「甘ったるいんですよ!!そんなので、救えるものなんてないんです!私は……、勝たなきゃいけないんです……!勝たなきゃ、信じてもらえないから……!」
 ルミーナは俯いて、泣きそうな声デで呟く。
 フォレストは、身体を起こそうとしながら、
「……どーいうことですか…」
「……私は、小さい頃からこんなのでした……。昔から『子供』って言われると、青い私が出て、暴れ尽くす。隠すのも無理が出てきて、皆は逃げるし、友達も遠くに行っちゃって……。そんな私を、拾ってくれたんです。零部隊の隊長さんは……」
 『零部隊隊長』。
 メルティでさえも名前も性別も掴めない謎の人物。
 ルミーナは続けて、
「……私は、勝たなきゃ信じてもらえないと思っています……。だって、勝っていった方が高い地位にいけるし、だから……私は、負けだけは嫌なんです!!勝たないと……誰も、私を信じてくれない……。みんな、はなれてっちゃう……」
 ルミーナの目から涙が零れる。
 藤崎は人差し指でルミーナの涙を拭い、彼女を優しく抱きしめる。
 ルミーナは驚いたような表情をしたが、藤崎は気にしていない。
「……大丈夫だよ。私は信じるよ。わざと、刀を止めてくれたでしょ?あれは私が刀を取らなかったからじゃない。貴女の中の『戦いたくない』気持ちが止めてくれたの。勝たなくたっていいじゃん。私だって、一回。いや、三回、エリザちゃんに負けたよ」
 ルミーナは『え?』と僅かに声を漏らす。
「石門の前でも負けた。でも、それでも。切原君達は、私の言葉を信じて最後まで手を出さずに、私に戦わせてくれた」
 藤崎はルミーナに言い聞かせるように言う。
「本当の仲間は裏切ったりしないよ。負けただけで裏切るような奴は仲間じゃない。私なら、貴女を信じられる。ちょっとずつでいいから……私の事も信じてくれる?」
 こくこく、とルミーナは何度も頷いて、藤崎に抱きついて泣く。
 今まで溜めていたものを、全て吐き出すように。

「さーて、いこうか。フォレストさん」
 少しずつ体力が回復してきた藤崎とフォレストは奥に進むことにした。
 勇んで部屋から出ようとする藤崎の袖に何かが引っかかったように突っかえる。
 振り返ると、僅かに頬を赤くしたルミーナが藤崎の袖を掴んでいた。
 『信じてくれる?』の早すぎる有言実行だ。
「……どーしよ、フォレストさん」
 小さい子の扱いには全然慣れていない藤崎は戸惑う。
 フォレストは腕を組んで、
「連れて行けばいいじゃないですか。元は敵なんですし、敵方の事情も多かれ少なかれ知ってんでしょ」
 こくり、とルミーナは頷く。
 フォレストは納得したように息を吐いて、
「だったら、こっち側の情報、向こうの情報。両方あった方が色々便利だと思いますけどね」
 藤崎はルミーナを見る。
 ルミーナは藤崎の腕にしがみつくように引っ付いている。意地にでもついて行く気だ。
「随分懐かれてますね」
「むぅー……仕方ない。つれていくか!!」
 藤崎恋音&フォレストVSルミーナ

 両者、戦意喪失のため引き分け。

169竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/09/23(金) 14:58:16 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 桐生は信じられないものでも見るかのように、目の前にいるスノウを見ている。
 彼は彼女に見覚えがある。
 いや、正しくは、彼女は彼の師であり、恩人にも当たる人物だ。
 桐生は、慎重に言葉を選んで、
「……何で、貴女がここに……?何で貴女が、『死を司る人形(デスパペット)』なんかにいるんですか!?」
 スノウは溜息をついて、
「相変わらずね、仙一。状況が飲み込めない時に、そう声を荒げるところはさ」
 スノウの口調は軽いものだった。
 まるで『幽霊を見た』と言い張っている子供と接するかのような、そんな感じだった。
 彼女は腰に挿している、鞘に納めた刀の柄を撫でる様に弄(もてあそ)びながら、
「何でって、聞かれてもね。理由なんかないに等しいんだけど……ここにいればいつか君に会えると思ったから。じゃあ、ダメかな?」
「ふざけないでください!!」
 桐生はスノウの言葉に叫び返す。
「また会えると思った?だったら何であの時、僕らの前から姿を消したんですか?知ってるんですか?貴女がいなくなった後、どうなったか!」
 桐生はいつものような冷静さを失っていた。
 彼女と過去に何があったのか、それは分からない。
 ただ二つだけ判明したことがある。
 一つは、スノウという女性と桐生の間に何かがあり、桐生は彼女をよく思ってないこと。
 二つ目は、メルティの言っていた『こっちの人間を気にかけている人物』がスノウで、『こっちの人間』が桐生だということだ。
「まーまー、まずは落ち着きなさいって。それがダメなんだってば」
 スノウの言葉に桐生はすぐに斬りかかる。
 桐生は顔を顰めて、スノウに斬りかかったが、スノウは鞘から刀を抜かず、そのまま桐生の攻撃を防いでいた。
「……まさか、私を倒す気?」
「だったら何だと言うんですか」
「言ってくれるわね」
 スノウの蹴りが桐生の腹に突き刺さる。
 僅かに呻きを上げて、桐生は後方に飛ばされるが、体勢を立て直して、地面に着地する。
 蹴られた腹を押さえながら、桐生はスノウを睨みつける。
「アンタ達に戦い方を教えたのは誰よ?私でしょ?弟子が師匠を超えるなんて、ごくごく稀にしかないのよ」
 今度はスノウが桐生に斬りかかる。
 桐生は刀で防いで、やや押された状態の鍔迫り合い状態になる。
「……師匠というなら、何であの時貴女は来なかったんですか?あの時、貴女が着ていれば香憐(かれん)はあんな目に遭わなかったのに……!」
 急にスノウの力が上がり、桐生が後ろの壁へと飛ばされ、叩きつけられる。
 桐生の口から、一気に息がもれ、それと同時に、僅かに血を吐く。
「……なーんだ、妙に力が入ってると思ったら、仙一。アンタはまだ引きずってたの?忘れちゃいなよ。死んだ女のことなんか」
 スノウの言葉に桐生は怒りをあらわにして、刀を地面に突き刺す。
「……誰のせいで……」
 突き刺した刀の柄を思い切り強く握り、
「誰のせいで死んだと思ってるんだッ!!」
 勢いよく地面から氷の牙が次々と生え、スノウの方へと近づいて行く。
 スノウも同じように、地面へと刀を突き刺して、一言告げる。
「君のせいでしょ」
 ドッ!!と迫る氷の牙をスノウはたった一つの巨大な氷の牙で迫る牙を粉砕する。
 スノウは呆れたように息を吐いて、
「だから、言ってるでしょ?君は私には勝てない。四年前にも言ったようにね」

 四年前―――。
 桐生の側には、今の仲間とは違う一人の少女がいた。
 彼の幼馴染である、同い年の、世話焼きで、おせっかいで、明るく元気な少女が。
 名前は彩崎香憐(さいざき かれん)。
 桐生仙一と彩崎香憐とスノウ。
 三人の人物の関係は四年前から始まっていた―――。
 桐生仙一が『今』の彼になる時に。

170竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/09/23(金) 16:29:08 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第五十三閃「変わった四年前」

「仙一!せーんーいーちー!」
 学校から出て行く少年を一人の少女の声が止めようとする。
 その少年は『今』と違って眼鏡はかけておらず、髪は肩くらいまで伸びていた。彼は肩に担ぐように鞄を持っている。目つきもかなり鋭い。
 そんな彼を追う少女は焦げ茶色のツインテールに背が低めの少女だ。
 彼らが出てきたのは中学校。まだ授業はやっているようだが。
「何の用だ」
 少年の方は鋭い口調で彼女に問い質す。
 少女の方はその口調にも怯えることなく、
「まだ授業中だよ?途中で帰っちゃ先生も心配するし」
「俺を心配する教師なんざ何処にいる。いいからお前は連いて来ずに、さっさと校舎に戻れ。何気に鞄持って一緒に帰ろうとするな」
 『その時』の彼は一人称さえも違っていた。
 それでも少女はめげない。
「ダメだよ。ここ数日まともに登校してないじゃん!」
「必要ないからな」
 彼女の言葉を無視して、少年はすたすたと歩いていく。
 ぶー、と相手にしてくれない少女は頬を膨らませて、
「バカ、アホ、スケベ!!」
「スケベではない」
 少年は必要以上な言葉は返さずに家へと向かって歩いていく。
 少女も駆け足で少年の後を追っていく。
 そんな二人に不意に声がかかる。
「オォーイ…桐生クンよぉ。授業はどぉした?」
 現れたのは少年の通う中学の三年生三人だ。
 私服でいあるのを見ると、学校には来ていなかったようだが、彼らは少年を快く思っていない。学校では騒ぎを起こすと何かと面倒なので、昨日彼の帰宅中に襲ったのだが、あっさり返り討ちにあったのだ。そのため、顔には怪我の跡が残っていたりする。
 当時の『彼』は腕っ節が強かった。
 少年は息を吐いて、
「まったく懲りてないな。鼻の骨を折ったほうが身に染みるか?」
「やってみろや!」
 真ん中の男が少年を殴りかかるが、少年はあっさりとかわし、彼の鼻っ柱に拳を叩き込む。
「ぐあああああっ!?」
 男は鼻から血を流し、膝から崩れ落ちる。
 少年は軽く息を吐いて、
「いいからとっとと帰れ。俺は忙しいんだ」
「くそ……!やれ!」
 少年と一緒にいた少女の後ろから三人とは別の男が現れ、少女を人質に取る。
「なっ……お前ら!」
「へへっ!彼女を傷つけられたくないなら、俺らに殴られろ!」
 少年に拳が襲い掛かる。
 だが、少年はその拳を受けなかった。かわしもしなかった。

 しかし、殴ろうとした男の顔に唐突に膝蹴りが飛んできたのだ。

 膝蹴りをしたのは肩より少し長めの白い髪に、透き通った青い目をした少女。歳は十八前後程度だろう。
 少年はきょとんとして、その少女は不良達に、
「一人を三人で囲んで、一人の女の子を人質に……。何て卑劣な手なのかしら!」
 少年は隙を見て、少女を人質に取っていた男から、少女を救出する。といっても相手を殴っただけだが。
 一方で乱入してきた白髪少女も三人の男を片付けたところだった。
「あの人、仙一の知り合い?」
「そんなわけないだろ。少なくとも、あんな白い髪をした人物を忘れることはないよ」
 白髪少女は二人の方へと振り返って微笑みかける。
「大丈夫カナ?お二人さん!」
 これが、当時荒れていた『桐生仙一』と。彼の幼馴染の少女『彩崎香憐』と。四年前の『スノウ』。三人の出会いだった。

171竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/09/23(金) 21:16:50 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp

「で、何でアンタはここにいるんだ?」
 ここは桐生の家。
 何故か知らぬ間に連いて来られて、勝手に家に上がって来ている白髪少女のスノウに桐生は眉をひそめる。
 どさくさに紛れて、彩崎も上がって来ているが、そこはとりあえずスルーだ。
「いやー、助かったよ。ありがとね、上げてくれて」
「上げた覚えはない!」
 桐生は机を軽く叩いて反論する。
 彼はギロッとスノウを睨んで、
「アンタは何者だ。どっから来た。まず名を名乗れ」
 桐生の連続する質問にスノウは僅かに慌てた素振りを見せる。
 それから、息を吐いて、
「分かった。説明するから。ちょっと落ち着きなさい」
 スノウは説明を始める。
 天界のこと、自分の名前、そしてここに来たこと。
 一連の説明を終え、桐生は、
「なるほど。つまり、アンタは天界という異世界からこの世界に来て、別に外国人というわけでもないから、こうも日本語が流暢。そして名前はスノウと」
 うんうん、とスノウは満足げに頷く。
 彼女自身も結構上手く説明できた、と自負しているのだ。
「うん。まあ、あれだ。とりあえず名前以外は理解できないから帰れ」
「ええっ!?」
 桐生の言葉にスノウは驚きの声を上げる。
 桐生は極めて落ち着いた様子で、
「馬鹿馬鹿しい。異世界だって?そんなものの存在を高校生で素直に信じる奴がいるわけ―――」
「天界ってどんなとこですか?」
 彩崎がくいついた。
 勿論必然的に、桐生の言葉は途中で切られてしまう。
 彩崎の質問に嬉しそうに笑みを零すスノウは、悪意のある笑みを桐生に向け、
「……いるわけが、何?」
「そいつは別だ。そいつは高校生の皮を被った小学生だ」
 桐生は、横に首を振って、
「大体、信じてほしいなら証拠を見せろ!お前が天界っていう世界の人間という証拠を!」
 ふふ、とスノウは笑って承諾する。
 彼女はポケットを漁りだし、中から指輪を取り出した。
 桐生と彩崎を揃って首をかしげている。
「これはなんでしょーか?」
「指輪だろ。見れば分かる」
「見なくても分かるよ」
 いやそれは無理だろ、と自信満々に言い放った彩崎に桐生は的確なツッコミを入れる。
 対してスノウは、
「そう、指輪。でもね、天界ではこういう指輪は……こうなるの♪」
 スノウが指で指輪を上に弾くと、鞘に納まった刀の形に変わる。
「ッ!?」
 桐生と彩崎は目を見開いて驚く。
 しかし、これだけで認めるほど桐生は簡単な男ではない。
「これでいいでしょ?」
 桐生は、スノウを見つめて、
「まだだ。俺はまだ認めてない。次はその刀で天界の人間だという証明をしてみろ」
 うーん、とスノウは考えるような仕草をして、
「ここって砂場とかある?」
「公園にある規模でいいなら」
 じゃ案内して、というスノウの言葉に、桐生と彩崎は三人で外に出る。

172竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/09/24(土) 17:11:50 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 桐生達が出てきたのは家の近くにある公園だ。
 公園に人はおらず、人通りも少なかった。まだ学校をやっている時間だからだろうか。
 スノウは砂場に立って、
「ねぇ、ここ最近雨降った?」
「いや。今月一回も降ってないよ」
 ならいいよ、とスノウは鞘に納めてある刀を抜く。
 彼女は刀の峰で肩をとんとん、と叩きながら、
「言った通り、ここには雨が降ってない。つまり、この砂場は水気が全くない状態なの」
「だからどうした。まさか水を出すとかじゃないだろうな」
 ふふん、とスノウは笑って、
「もっとすごいものよ」
 スノウが刀を砂場へと突き刺す。
 すると、砂の中から巨大な氷の柱が生えた。まさにタネも仕掛けも全くないマジックだ。
 スノウは刀を鞘に納め、元の指輪に戻す。
「これで信じてもらえた?マジックや手品とかじゃ説明できないと思うけど?でさ、私がここに来た理由はこっちの世界の人にこの天界の武具、剣(つるぎ)を渡すためなの!」
 桐生と彩崎は僅かに肩を揺らす。
 先ほどの光景を見てこの剣(つるぎ)と呼ばれるものがどれほどの物かは分かった。だが、かといって欲しいとは思わない。車にまったく興味がないのに、昔に使われていた有名な車を見せられた時と同じだ。凄いとかカッコイイとか感想は出るが、興味がないのに欲しいと思うだろうか。
 桐生はくるっと、家の方へ歩き出して、
「要らない。俺にはそんなもの、必要ない」
「あるのよ、必要」
「一体何を根拠に……」
 唐突に桐生の背後に熊に似た黒色の化け物と呼ぶに相応しいものが現れる。
「……ッ!?」
 桐生は突然のことに身動きが取れない。
 かわすことも出来ず、熊に似た化け物の手が桐生に襲いかかる。
 しかし、桐生の前にスノウが立ち、地面に刀を突き刺して、地面から氷の牙を生やす。その牙で熊に似た化け物を下から串刺しにした。
 化け物は声を上げて、霧のように消えていった。
 スノウは振り返って桐生を見る。
 桐生は上手く言葉が出ない。あんなものが出てしまえば、それもそうだろう。彩崎も離れたところで震えている。
「……不覚にも君らは私と接触しちゃった。魔物は弱い奴から狙う習性がある。だから、剣(つるぎ)を持ちなさい」
 スノウは桐生の前にネックレスを差し出す。
 チラッと彩崎を見て、
「……彼女を、救いたいでしょ?だったら、強くなれ!少年」
 桐生は目の前に差し出されたネックレスを見つめる。
 桐生はスノウに会ってからのことを思い出していた。
 あの時、この女が割って入ってこなかったら、上級生に絡まれていた自分と彩崎はどうなっていただろうか。さっきも、この女がいなかったら自分は死んでいたし、彩崎も逃げ切っているとは思えない。
 桐生は、軽く息を吐いて、
「分かった。お前の口車に乗ってやろうじゃないか!ただし、俺はお前の弟子じゃにからな。勘違いするなよ」
「オッケー。天界を知っている人以外に見せちゃダメよ?」
 桐生は奪い取るような形でスノウの手からネックレスを取る。
「子ども扱いするな。そんなこと、猿でも分かる」
 スノウはその後、彩崎にもブレスレッドを渡す。

「ぐあ!」
 桐生は吹っ飛ばされて、地面を転がる。
 スノウはつまらなそうに肩に刀を担いで、
「馬鹿じゃないの?だから、勝てないって言ってるじゃない。何で分かんないかな?」
 桐生は、刀を地面に突き刺して杖代わりに立ち上がる。
「知るか。そんなもの、僕には関係ない!僕は、貴女を倒す。ただ、それだけだ!!」
 桐生はスノウに突っ込む。
 スノウは重い息を吐いて、
「だから、無理なんだってば。君じゃあね」

173ライナー:2011/09/24(土) 18:41:00 HOST:222-151-086-004.jp.fiberbit.net
コメントしに来ました、ライナーです^^
桐生君の過去……スノウとの過去とも通じていたんですね。
次の更新、心待ちにしております!!

174竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/09/24(土) 21:12:24 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第五十四閃「君のことをずっと」

 桐生はスノウに斬りかかりながら、思い出していた。
 前にもこんなことがあったと。
 そう、四年前にも―――。

「うおおおおお!」
 桐生はスノウに斬りかかる。
 しかし、桐生が刀を振るうが、桐生の刀が斬り裂いたのはスノウの残影だ。
 スノウは彼の後ろに回っていた。
(……何…?)
 桐生の背中にスノウの蹴りが叩き込まれ、桐生はうつ伏せに地面に倒れてしまう。
 桐生は荒々しく息を吐きながら、立ち上がろうとするが、今までの疲労もあってか上手く立ち上がれない。
「はいはい、終わり。ちょっと休みなさいって」
 スノウの言葉に桐生は、急いで立ち上がって、刀を構えなおす。
 その光景にスノウは呆れて重い息を吐いた。
「……まだ、いける!続けてくれ!」
「あのねぇ、根詰めればいいってもんじゃないんだし。それに香憐の修行もあるからさ」
 桐生はスノウの言葉に言い返せなくなる。
 スノウは納得したような桐生を見て、溜息をつく。
「ま、香憐の修行の後ならいいわよ」
「……じゃあ、それで」
 スノウは『りょーかい』と返すと香憐の修行に移る。

「……はー、はー、はー、はー……」
 桐生は修行場所である河川敷に仰向けに倒れ、荒い呼吸を繰り返していた。
 彼の顔を香憐の無垢な顔が覗き込む。
「仙一、だいじょ−ぶ?」
「……大丈夫に見えるか?」
 見えないから聞いたの、と香憐は返す。
 桐生は少しずつ息を整えて、身体の状態を起こし、辺りを見渡す。
 そして、スノウがいないことに気付いた。
「……アイツは?」
「帰ったよ。仙一の家に」
「どーでもいいが、何でアイツはごく当然のように俺の家に上がりこんでいるんだ」
 桐生は頭を抱えだす。
 彼女と会ってから、毎回家にあの女が知らぬ間に上がりこんでいる。
 大抵は学校から帰るといるが、風呂に入っている間に上がっていたり、最短時間で侵入してきた時はトイレから出た時だ。それは流石に桐生も驚いた。
「ねぇ、今日私も家に行っていい?」
 最近、というかスノウが来てから香憐もよく家に来るようになった。
 前まで学校を途中で抜け出すと、一緒について来て、家の前までついてくることが大半だったが。
 これもあの女のせいなのだろうか。桐生は不快に思っていたが、今ではこの生活が結構楽しいと思っている。

 案の定、家に戻るとスノウがいた。
 何してんだこの野郎、と言いたくなるがとりあえず心にその言葉はしまっておく。
 桐生はいつものように晩飯を出前で済ませようとチラシを見ている。
 ちなみに今見ているのは寿司のチラシで、横にいる香憐がキラキラした顔で覗き込んでいる。
 食べ終わったら、桐生は急に眠けに苛まれ、寝てしまう。
 意識はしてないが、そのまま横に倒れこんでしまったので、桐生の頭の下に香憐の膝がある。
「……うぅー…どうしましょう、スノウさん」
「別にいいじゃない。嫌じゃないんでしょ?」
 スノウの言葉に香憐は僅かに頬を染めて、
「……嫌じゃないですけど……恥ずかしいです」
「ふふ。香憐は仙一が好きだもんね」
 香憐の顔が一気に赤くなる。
 香憐は手をぶんぶんと振って、
「ち、違います!!好きとかじゃなくてぇ、ただ、気になるだけなんです……」
 それが好きだろ、とツッコミそうになるスノウだが、これ以上いじると本当に泣きそうなのでやめておいた。
 自分も案外この二人が好きだな。そう思いつつスノウも眠ってしまう。

 桐生は目が覚めた。
 ふと自分の頭に敷いているのが、香憐の膝であることに気がつくと顔を赤くして飛び起きる。
 そして、修行後と同じようにスノウがいないことに気付く。
 まずは部屋を見回して、そして一室一室探していく。
 トイレを開ける時だけは妙にドキドキした。入っていたら半殺し確定だったろう。
 だが、何処にもいない。
「……何処に行ったんだ」
 僅かな心配を寄せる桐生だが、今はどうでも良かった。
 そもそも、彼女の強さを知っていれば心配など必要ないのだから。
 学校開始まで一時間前。
 とりあえず、彼は香憐を起こして学校へ行く仕度を整える。

175竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/09/24(土) 21:16:04 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
コメントありがとうございます^^

ええ、そろそろ過去の話が終わると思います。
自分的にはラストの話を上手くかけるかどうかが課題になりますが…。

にしても主人公を出す場面が無い…orz
どうしようアイツ。何がしたいんだろうアイツ。
もう名前忘れられてるんじゃないだろうk((

176地獄の女王様的な人 ◆2aSSR13lE2:2011/09/25(日) 10:31:36 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp

「……スノウさん、何処行っちゃったんだろ?」
 学校からの帰り道、桐生と一緒に帰っていた香憐はポツリと呟いた。
 今日は珍しく、桐生も学校を途中で帰らず、授業が終わるまでいたようだ。学校から出る生徒の中に二人は紛れている。
 桐生は軽く息を吐いて、
「知らない。それの、俺達が心配することでもないだろ。アイツの強さを、俺達はよく知ってるはずだ」
「……そうだけど」
 そうは言われても、何も言わずに出て行くなんて、やっぱり不安だ。
 桐生は表情が曇っていく香憐を見て、更に溜息をついた。
 すると、何かを思い出したように香憐が鞄を漁りだす。
 何してるんだ、と桐生が訊く前に、香憐が口を開く。
「あのさ、今日は仙一にプレゼントがあるの!」
「俺の誕生日はまだだぞ?お前の方が近いじゃないか」
 ううん。それとは別、と言って香憐は鞄から眼鏡を取り出す。
「これ、あげる!」
 香憐は中から眼鏡を取り出して、桐生にスッと差し出す。
 しかし、一方の桐生は全然嬉しくなさそうだ。
「俺は目、悪くないぞ」
「いいからいいから!絶対似合うからかけてみなって!」
 香憐に無理矢理眼鏡をかけさせられる桐生。
 度が入っていないレンズのいわゆる伊達眼鏡だった。そして、眼鏡をかけた桐生は、『今』の桐生に限りなく近づいていた。
「ほらー!似合う!」
「そんなの言われても嬉しくないな」
 桐生は眼鏡を取って、相手に返そうと思ったが、それはそれで面倒なので鞄の中にしまっておく。
 それでも香憐の、マシンガントークは終わらない。
「今日さ、一緒に修行しようよ!スノウさんもいないしさ!」
「断る。お前じゃ相手にならないからな」
 えー、と不満の声を漏らす香憐。
 そして、桐生の家の前に着き、香憐とはそこで別れることとなった。
 桐生は自分の部屋に上がって、机に鞄と携帯電話を無造作に置く。
 それから窓の外を眺めて、
(……まったく、何処に行ったんだ。あの女。俺らに知らせないで天界にでも帰ったか?)
 それならそれで知らせてほしいと思う。
 修行も中途半端だし、今はまだお世辞にも強いと言ってもらっていない。
 寝るか、と思ってベッドに入ろうと思った桐生の携帯電話が急に着信音を鳴らす。
 画面を開くと表示されていた名前は『彩崎香憐』とあった。
 電話に出なかったら何度もかけてきそうだな、と思い、電話に出ると、
『……助けて!!』
 その叫びだけが聞こえて電話が切れる。
 壊れるような音がしたため、落として壊れてしまったのだろう。いや、壊されたのか。
 一体、誰に。何故、戦っている。
 桐生は首から提げ、ネックレスになっている剣(つるぎ)を確かめ、家を飛び出す。
(……無事でいてくれ、香憐…!)

177竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/09/25(日) 10:32:24 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
すいません、別の掲示板の名前使っちゃいました。
>>176は僕です…。

178竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/09/25(日) 13:27:06 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 スノウと修行する河川敷で、香憐は膝をついていた。
 彼女の前に立っているのは、金色の髪に僅かに銀色が混じった、無理矢理金色に染めたような髪を腰の辺りまで伸ばし、黒いコートを身に纏っている男が立っていた。
 香憐は戦ってすぐに気付いた。
 こいつは魔物ではない、と。
 生身の人間と戦うのは今までスノウとだけだった。それも、彼女は手加減しているし、本気で戦ってたら手も足も出ずに修行は終わってしまう。
 つまり、魔物ではない彼と戦うのは香憐にとって状況が悪い。
「……ふん。所詮はガキか。命令どおり、消させてもらう。アイツの命令というのが、気に食わんがな」
 男は持っている刀身が真っ黒の刀を上に振り上げる。
 このまま振り下ろして、香憐を斬るつもりだ。
 だが、咆哮と共に、何者かが男に斬りかかる。
 男はその攻撃を刀で防ぐ。
「……何だ、貴様は」
「仙一!!」
 男の横から飛んできた桐生は、相手に攻撃を押し返され、距離を取るような形で相手から離れる。
 それから、香憐に視線を移して、
「大丈夫か!?」
「……うん。あの人、魔物じゃないよ……」
「分かってる。くそ、こんな時にスノウがいれば……」
 そこで桐生は思う。
 他人に頼りきっているのではダメだ。自分が何とかしなければいけない。と。
 そもそも、自分が剣(つるぎ)を手にしたのは何のためか。それを思い返す。
 今が『大事な人』を護る時だ。
 桐生が刀を構えると男は、
「女を救うために力の差を省みずに攻撃するとはな。見上げた勇敢さだ。だが、」
 男は桐生に突っ込む。
「勇敢と無謀は違う」
 ギィィィン!!と攻撃を受けた桐生の刀を伝って、桐生の腕にも痺れが伝わる。
 その痺れに桐生は顔を顰めて、
(……なっ、重すぎだろ……!!)
 桐生は二歩、三歩後ろに下がるが、更に男の攻撃が桐生を襲う。
 続く衝撃に、桐生の手から刀が弾き飛ばされ、桐生は地面に尻餅をつき、男は桐生の目の前で刀を止める。
(………ッ)
 桐生は息を呑む。
 男はニヤリと笑って、
「先ほどの女と違ってまあまあ楽しめたよ。アイツの命令だ。お前とあの女にはここで消えてもらう」
(……アイツ?)
 桐生は眉をひそめる。
 そして、一番想像してはいけないことを想像してしまった。
 突然消えたスノウ。それを見計らったように現れた男。男の言う『アイツ』。まさか、
「死ね」
 男が桐生を突き刺そうと刀を前へと突き出す。そこへ、
 
 香憐が割って入り、彼女の左胸に刀が突き刺さる。

「「……ッ!」」
 桐生と男は目を大きく見開いて驚く。
 香憐は貫かれながらも、突き刺さっている刀を両手で掴み、相手を動かさないようにする。
「なっ……」
「……せん、いち……。は、やく……。……私ごと、こいつを刺して……!」
 桐生はその言葉に耳を疑う。
 あの香憐がこんなことを言うと思わなかった。だからこそ桐生は、
「馬鹿か!そんなこと、出来るわけがないだろ!そんなことしたら、お前が……!!」
「………いいの…」
 香憐は無理矢理に笑みを作って、桐生に言う。
 背を向けたまま、彼に言う。
「……こいつに殺されるより……仙一に、殺された方が……まだ、マシだよ……早く…私の。意識がある内に……」
 桐生は固く目を閉じて、刀を素早く前へと突き出す。
 香憐の右胸を貫いて、その先にある男の左胸を突き刺した。
「ぐ……!?」
 男は左胸を押さえて、後ろへ下がる。
 それと同時に香憐に突き刺さっていた、刀も抜かれる。
 男は憎しみに満ちた顔で桐生と香憐を睨みつける。
「……桐生仙一……!……彩崎香憐……!いつか、絶対に殺してやるからな……!」
 男はそう言い残して、消えていった。
 桐生は倒れている香憐を抱きかかえて、
「……香憐、何でこんな無茶を……」
「………はは。だよね……私、無茶したよね……」
 香憐の声は今までずっといた中で聞いていたどの声よりも力が無かった。
 香憐は血塗れの手を、桐生の頬に当てる。
「ずっと……ずっと言いたかった……。好きだよって……仙一が、大好きだよって……」
 桐生の頬に当てていた香憐の手が徐々に下がっていく。
「……こんなことなら、早く言えばよかった……。ずっとずっと……言いたかったのに…」
 香憐は無理矢理に笑みを浮かべて、
「……君のことがずっと……好きでしたって…」
 香憐の手が落ちる。
 それと同時に、香憐の口から呼吸が途絶え、目が堅く閉じられる。
「……香憐…香憐ーーー!!」
 桐生の叫びが河川敷に響く。
 
 香憐の目は、二度と開かれることはなかった―――。

179竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/09/25(日) 14:42:03 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
このレスのみ、桐生のナレーションで進みます。
ちょっと短いですが、話の一部なので、飛ばさないでくださいね。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 香憐が死んでから、僕は何のために戦ってきていたのか考えた。

 始めは、香憐を護りたかった。

 いつも迷惑をかけてしまい、いつも心配させて、そしていつも側にいてくれた。

 そんな彼女を、僕は護りたかった。

 だが、結果は。現実はなんて惨(むご)いものだろう。

 何のために強くなろうと頑張った。何のために力を手にしようと踏ん張った。なんのために刀を握り締め歯を食いしばった。

 強さも、力も。そして、大切な人さえも失った。

 僕に残っているのは何だ。何もありはしない。何かあってはいけない。

 だったら、これから作っていけばいい。

 最後に彼女に会いに行った。何とか『優しさ』と呼べるもの。それを育めばいい。

 彼女からもらったプレゼントは常に身に付けておこう。

 そして。僕は『今』の桐生仙一になったのだ。

 大切な人が持っていた、たった一つの。そして、僕のもう一つの武器をもって―――。

 今、ここに立っている。

 かつて、僕に戦いを教えてくれた、彼女を。スノウを倒すために―――

180竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/09/25(日) 16:06:02 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第五十五閃「氷装・氷姫」

 スノウは桐生の攻撃を刀で防ぐ。
 しかし、押されている桐生の力は次第に弱まり、最初は両手で刀を握って止めていたスノウも今は片腕だけで止めている。
 スノウは桐生の攻撃を押し返し、相手を壁まで吹っ飛ばす。
 彼女は溜息をついて、
「どんだけやられれば気が済むのよ。いい加減諦めなさい」
 桐生は刀を杖代わりに立ち上がる。
 だが、たったそれだけの動作でも十秒以上かかってしまった。
「諦めるわけにはいかない。僕は、皆のためにもここで勝たなくちゃね」
「随分簡単に言ってくれるわね。でもね、言うのだけは簡単なのよ。貴方に、それを実現できる力は無い!」
 スノウはたくさんの氷のつぶてを生み出し、それを桐生に向かって放つ。
 足が上手く動かず、桐生はかわせずに、氷のつぶてを喰らってしまう。
 しかし、それでも桐生は立ち上がる。足に精一杯の力を込めて。
 その光景に、スノウは息を吐いて、
「やめなさいって。どうせ貴方は私には―――」
 スノウに桐生の刀が襲い掛かる。
 だが、スノウは軽くかわし、彼の腹へと膝蹴りを叩き込む。
 前かがみになる桐生の腹に、更に蹴りを入れる。
 桐生の身体はその蹴りの衝撃で、後ろへと飛び、地面を転がる。
「どうせ私には勝てないんだから。貴方はそこで寝ておきなさい。貴方の仲間に危害を加えるつもりなんてないし」
 桐生は歯を食いしばって、必死に言葉を紡ぐ。
「……諦めないって言ったでしょう?僕は、たとえ勝率がどれだけ下がっても、砂粒程度の希望があるなら、僕は諦めない!貴女に勝つ秘策なら僕もちゃんと用意している!」
「言ってくれるじゃない」
 スノウが刀の峰を指でなぞり、刀の切っ先でその指を止める。
 彼女は真っ直ぐに桐生を見つめて、
「だったら私も手は抜かない。全力で、貴方を倒してあげる」
 スノウの身体に冷気が纏う。
 その冷気は氷へと姿を変えて、スノウの身体に纏う。
 腕に脚に胴体に。氷へと姿を変えた冷気はまるで鎧のようにスノウの身体を包んでいく。
 最後には、氷の冠がスノウの頭の上に乗る。
「……」
 その光景に桐生は絶句していた。
 そこにいたのは『氷の姫』と呼ぶに相応しいスノウの姿があった。
「私の剣(つるぎ)、『氷雨万華(ひさめばんか)』最終奥義。『氷装・氷姫(ひょうそう・ひひめ)』。触れたもの、斬ったものを全て凍てつかせる絶対零度の鎧。貴方の剣(つるぎ)よりも強力よ」
「……最終奥義、ですか。さすがに手加減なしですね」
 桐生の顔には笑みさえ浮かんでいた。
 その笑みは、絶体絶命の状況であるにもかかわらず、一つの勝機を導き出した者が出す笑みだ。
「……僕は貴方に勝つために今の自分を捨てます」
 桐生は眼鏡を外して、横合いへ投げ、髪をくしゃくしゃとかく。
 そしてポケットへと手を入れ、自分の剣(つるぎ)をネックレスに戻す。
「言ってくれるじゃない。でも、勝ち目がどこにあるって言うのよ!」
「ありますよ」
 桐生はポケットからブレスレットを取り出す。
 スノウには見覚えがあった。
 彼が取り出したブレスレットは自分が彩崎香憐に渡したものだ。確か、属性は炎。
「……力を借りるぞ、香憐」
 桐生はその剣(つるぎ)を発動し、スノウを見つめる。
「アンタを倒すために、『俺』は昔に戻る!!」

181ライナー:2011/09/25(日) 17:47:49 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
コメント失礼いたします、ライナーです^^
桐生の心意気に涙が止まらないんですがー!!
今世紀最大の感動だと思います(;△;)
勝ってくれ桐生!!これからは桐生押しに転向!
コメント失礼しましたwww

182竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/09/25(日) 20:18:52 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
コメントどうもです^^

いや、桐生ならこんな感じかな、と思ったんで。
こんなもので涙していただけるなんて、嬉しいです!
今世紀最大ってw
そんな大層なもんじゃないですよ。今世紀最低だと思います…

ところで、話は変わりますが明日は桐生君のお誕生日です。
明日の前に、今日でスノウ戦は終わらせたいと思います。

183竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/09/25(日) 20:42:53 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 スノウは少々焦っていた。
 このまま桐生が自分の与えた『絶対零度(ぜったいれいど)』を使っていれば勝負は完全に自分の勝利で決まっていた。
 だが、香憐の使っていた剣(つるぎ)を使われたのなら、話は別になってくる。
 彼が今使っている剣(つるぎ)の属性は炎。スノウじゃ何があっても勝てない。氷と炎の勝敗など、小学生でも分かる。だが、
「ふ、ふふ」
 スノウの口から笑みが零れる。
 桐生はスノウのその行動に眉をひそめる。
「遂にそんな荒業に出たのね、仙一。でも言っておくわ。貴方は一回その剣(つるぎ)で失敗している。炎の剣(つるぎ)はアンタと相性が悪いのよ」
 桐生はその言葉に言い返さない。
 さらにスノウは続けて、
「それに、相性が悪いのを使うと暴発の恐れがある。今のアンタに、暴発した時に耐えれる体力なんて残って無いはずよ!」
「その通りだ」
 桐生はスノウの言葉に即答する。
 いつもの桐生仙一とは違う、『昔』の桐生仙一だ。
「だから、これは切り札だ。どうしても自分で勝てないと判断した時に、最後に使おうと思っていた最終兵器」
 桐生は刀の切っ先をスノウに向ける。
「暴発するなら好都合だ。氷の鎧を纏ったアンタが、どうなるか楽しみだ」
「ッ!まさか……」
 桐生が自分と相性の悪い剣(つるぎ)を使う目的は一つ。
 暴発だ。
 自分も巻き込まれるが、相手も巻き添えを食らう。それで倒せれば運が良い。
 勝てなくてもいい。彼が望んでいるのは、スノウを倒すことだけだ。
「……言ってくれるじゃない」
 スノウの笑みに焦りが混じる。
 スノウは刀を構えなおして、
「だったら、暴発させるがいいわ!アンタの最期も、私が見届けてあげる!」
「……残念だが」
 桐生が脚に力を込める。
「お前は俺の最期を見届けることは出来ない。何故なら、お前も俺と一緒に散るんだ」
 桐生が地面を思い切り蹴り、スノウに突っ込む。
 スノウは刀を握る手に力を込めて、
「隊長三強の……『氷帝(ひょうてい)』スノウをなめるなぁ!!」
 二人の刀がぶつかる。
 通常なら、スノウの『氷姫(ひひめ)』時に刀がぶつかり合えば、相手の刀も凍らせることが出来る。
 だが、今の桐生の刀を凍らすことが出来ない。
(……香憐の使っていた『炎霊架(えんれいか)』は灼熱の刀。刀身自体が熱を帯びる。だったら凍らせられない。しかも、この状態で長時間戦うのは正直キツイ……)
 絶対零度の鎧といっても、自分の身体に氷を纏わせているのだ。
 服の上からでも充分に体力は削られる。
 そのため、刀を何度も振るうだけで、体力は削られる。どうせ、体力がなくなるなら、技を連発して、戦えばいい。
「氷刃(ひょうじん)……『三日月』!!」
 桐生に向かって、三日月形の氷の刃が飛んでいく。
 だが、彼はかわそうとせず、タイミングを見て、刀を振るう。
 すると、三日月の氷の刃は解けて、地面に力なく水となって落ちる。
 桐生の刀には炎が纏っていた。灼熱で刀身が赤くなり、その赤い刀身に更に紅い炎が纏っている。
「……これは、本格的にマズイかも。だったら」
 スノウが刀の切っ先を上に向ける。
 すると、水色の光が切っ先を中心として、どんどん大きくなっていく。
「『氷装・氷姫(ひょうそう・ひひめ)』の時に発動できる正真正銘の大技で片付けてやる」
 水色の光は形を変えていく。
 牙、目、尾。その形を変えた姿は、氷の竜だった。
「姫を守護せし、氷の竜。貴方はこの子に食われるのよ」
「食えるモンなら食ってみろ」
 桐生は刀を構えて、氷の竜を睨みつける。
「火傷してもいいならな」
「『氷姫の凶竜(ひひめのきょうりゅう)』!!奴を食え!!」
 スノウの命令と共に、氷の竜は口を開けて、桐生に襲い掛かる。
 桐生は、炎を纏った刀で、竜の迎撃体勢に移る。

184竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/09/25(日) 21:16:27 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 桐生に氷の竜が食らいつく。
 耳を打つ轟音と共に、冷気が撒き散らされ、辺りが見えなくなる。
 勝敗はスノウにも、そして、この場にいたとしても誰にも分からない。

「うおっ!?」
 氷の竜が地面にぶつかった震動はアジト全体に広がっていた。
 そして、アジト内の廊下を走っていた魁斗も揺れに転びそうになってしまう。
「何だぁ…今の揺れ。まさか、誰か負けたりしてねぇよな?」
 魁斗は仲間を信じて、さらに走り出す。
 その先にいる隊長と戦うために。

「……はぁ、はぁ……さすがよ、仙一」
 スノウの眼前に広がるのは勝利を確信してもいい光景。
「こんなに追い込まれたのは……いつ以来かしらね」
 桐生のいたところは、巨大な氷が張り付いていた。
 外からじゃ、中の様子は窺えない。
 スノウは肩で息をして、深い溜息をつく。
「そして初めてよ。君みたいな男も」
 巨大な氷がぴし、と音を立てて、ヒビを走らせ始める。
 そのヒビは広がり、ガラスが割れるような音が鳴り、巨大な氷は砕け散る。
 その中から、桐生が飛び出したのが分かる。
 彼は炎を纏った刀を振りかぶって、スノウに向かって攻撃を放とうとしている。
「……お前は言ったな。『弟子が師匠を超えることはない』と。じゃあ…」
 桐生は一度言葉を区切って、
「弟子じゃない俺がアンタに勝ったらどうなるんだ」
 スノウはフッと笑みを浮かべて、
「『少年が氷帝(ひょうてい)を超えた』かしらね」
 桐生が刀を振るう。
 スノウの氷の鎧ごと、スノウを斬りつける。
 もちろん、氷の鎧は砕け、斬られたスノウもそのまま地面にうつ伏せに倒れる。
 桐生は剣(つるぎ)をブレスレットに戻して、ポケットにしまう。
「……有言実行ね……。憎らしいほど強くなっちゃって……」
 スノウは仰向けになるように、転がる。
 彼女の呼吸は荒い。だが、氷の鎧を纏っている時より辛そうではない。
 桐生は、眼鏡を拾い、再びかける。
「貴女のお陰ですよ。僕に力を与えてくれたのには感謝していますから」
 ぷっとスノウは笑って、
「……師匠じゃないって言ったくせに」
「ええ。師匠ではありません。貴女は僕からしたら、いいお姉さんですよ」
 スノウから幸せそうな笑みが零れる。
 言ってくれるじゃない、とスノウは呟く。
「……信じてくれないかもしれないけど、言っておくわ。四年前、香憐を殺したのは―――」
「知ってますよ」
 え?とスノウは桐生を見る。
 桐生はスノウの方へと振り返って、
「貴女の差し金じゃないことくらい。あの時は色々あって、貴女だと決め付けていました。貴女を倒す直前までは」
 桐生は、スノウの横でしゃがんで、
「貴女の気持ちが刀を通じて伝わってきました。勘違いかもしれないけど、貴女じゃないってのはハッキリと分かりました」
 スノウはくすっと笑って、桐生の頭を撫でる。
 そのことに顔を赤くする桐生だが、
「……そうよ。犯人は他にいる。私はそいつを探すためにここにいたのよ。情報の少しでも掴めると思ってたけど、無理だった見たい」
「その仕事は僕が引き継ぎます」
 桐生は立ち上がって、出口の方へと視線を向ける。
「香憐の仇討ち、とは言いません。ただ、貴女の手伝いをさせてください。今なら、僕も貴女の力になれますしね」
 桐生は出口へ向かって走り出す。
 その背中を見つめて、スノウは誰もいなくなった部屋で呟く。
「……バーカ」
 スノウは僅かに頬を赤くして、
「カッコイイこと言ってくれるじゃない。……私は、教え子の好きな人は取らないんだから」
 桐生仙一VSスノウ。

 勝者、桐生仙一。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
やっとスノウ戦終わったぁ。
この話だけ今までの隊長戦より力を入れた気がする。
何にしても、ここで主人公お久しぶりの登場w

185竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/09/30(金) 18:35:15 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第五十六閃「懐かしき人」

 メルティは巨大な扉の前で立ち止まり、その扉を見上げるように眺めている。
 扉の中心にはこの先の隊長が誰なのか、すぐに分かるように大きく『二』と書かれている。
「……この先にいるのは、第二部隊の隊長か。ってことは私の相手は第二部隊の隊長…」
 メルティはそう呟くように言ってから、扉を押すように小さな手を添える。
 しかし、
(……でも、何でかな。気のせいだったらいいんだけど……この先の魔力。何となく、懐かしい気がする。どこか……優しくて。会ったことあるような……)
 メルティはそれでも首をブンブンと振って、思考を一切遮断する。
 そして気合を入れ直し、扉を押し、開ける。
 その先にいたのは、銀髪の髪を後ろで束ねている優しげな笑みを浮かべている二十代の男だ。
 その人物を前に、メルティは凍りつく。
 睨み付けられたわけでも。気圧されたわけでも。ましてや相手に動きを止める能力があるわけでもない。
 ただ、止まった。
 いや、止まってしまった。
 だって、目の前にいる人物は…、
「……やはり、僕のところにはお前が来ましたか。メルティ」
 男の口調には『初めてらしさ』がなかった。
 初対面に『お前』というのは、この男の優しげな表情からは想像できない。
 次に、メルティが発した言葉は、
「……やっぱり。イマイチ確信なかったのよ……。貴方だったんだ……。キルア兄ちゃん!」
 メルティは睨みつけるように、第二部隊隊長のキルティーアを睨みつける。
 メルトイーアとキルティーア。
 どこか似た感じのある二人の名前。
 キルティーアは軽く息を吐いて、
「…会っていきなり睨みですか。そういうところは変わってませんね」
「うっさい!」
 キルティーアの言葉にメルティは噛みつくように叫ぶ。
 兄妹のようだが、メルティは相手のことを兄のように思ってないようにみえる。
「……兄に向かって、結構厳しいですね」
「うるさいうるさい!アンタのことを兄だなんて思ってない!何で何も言わずに私の前からいなくなったの!?」
「やることがあったんですよ」
「やることって何!?こんなところで、カイト君の命を狙うこと!?」
 メルティは泣きそうになりながら、キルティーアに問いかける。
 キルティーアは答えない。
 メルティは、ぎゅっとハルバードに似た自身の武器を握り締め、突っ込む。
「答えろ!じゃないと、私がアンタを……!」

 急に、メルティの頭上から、無数の刃が雨のように降り注ぎ、メルティの小さな体に傷をつけていく。

 メルティはそのままうつ伏せに倒れてしまう。
 キルティーアは呆れたように息を吐き、
「……甘いんですよ。お前じゃ、僕を倒すには足りませんよ」

186竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/09/30(金) 22:00:02 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 廊下を歩きながら、ハクアは転びそうになりそうなところを、レナに支えてもらっている。
 レナは彼女に肩を貸すように歩いている。
 レナは、足元がフラフラなハクアを見て、
「…大丈夫ですか?やっぱり、ちょっと休んだ方が……」
「大丈夫よ。私らが一番最後だったら何か嫌じゃん。それに、私は自分よりメルティさんが心配だなぁー」
 え?とレナはハクアの言葉を聞き返す。
 しかし、レナとしては、ハクアとは違う意見を持っていた。
「心配ならむしろ、藤崎さんでしょう?だって、先にエリザさんと一戦交えて、それからまた戦うとなると…」
「それはそれで心配いらないわ」
 ハクアは溜息でもつきそうな言い方で、
「自分が疲れきっているってことは、それだけ自分も追い込まれて、短気決戦を望むでしょ?だったら、むしろ楽観せずに戦えるのよ。負けちゃえば、それで終わりだけど」
 じゃあ何故、と聞こうとしたレナだが、ハクアが続けて放った言葉の方が早かった。
「メルティさんの場合、戦いを楽観してるかもしれない。彼女は実年齢より、子供っぽさがある。それが仇になるかもってことよ。それに、もしそうなら更にまずいわ」
 ハクアは一拍置いて、答える。
「彼女の剣(つるぎ)。持ち主の精神と同調する……もし焦りすぎたり、舐めてかかったりすると、痛い目みるのは間違いなく、彼女なのよ」

 メルティは地面にうつ伏せで倒れている。
 彼女の身体にはあちこちに切り傷が走っている。それもハサミなどでつけられたような浅いものではなく、ナイフで切りつけたような鋭利なもので切り裂かれたような傷だ。
 血塗れで地面に伏している自分の妹を眺めながら、キルティーアは、
「……まったく、何も考えずに突っ込みすぎですよ。だから、お前は甘いんです」
 降り注いだ刃がキルティーアの持っている刃の無い刀の刀身を形成するように戻っていく。刀身が形成された刀の形は、さながら関節剣のようなものになっていた。
 キルティーアはメルティの指が僅かに動くことに気付く。
「……全っ然効いてないよ……!私を倒したいなら……せめて戦車でも持ってきなよ……!」
 そう言って、手に力を込め、メルティは立ち上がろうとする。
 だが、

 ぐきり、と嫌な音が鳴り、メルティの左の手の甲がキルティーアの足に踏みつけられている。
 
「…………ッ!?」
 メルティの口から、叫びともとれない声が漏れる。
 キルティーアはさらに痛みを増すように、足をぐりぐりと動かす。
 動かすたびに、メルティの顔が苦痛に歪む。
「無理なんですよ。お前が僕に勝つこと自体が。そう思おうとすることさえ、愚かな行為です」
 メルティは強く歯を食いしばる。
 聞こえたわけではないが、ぎりっという音が聞こえてきそうなほどの勢いだ。
 メルティは踏みつけられている手に力を入れ、足を払いのけようとする。
「……無理?勝てない?ねぇ、聞いてもないこと…勝手に答えないでよ……!」
 徐々に力は増し、キルティーアの足が手によって上がっていく。
「私は、貴方には負けない……!だって、大好きな人が…頑張っているんだから!!」
 メルティはキルティーアの足を払いのけ『時の皇帝(タイムエンペラー)』による時間操作を行う。
 彼女がなったのは十六歳の自分だ。アギトを倒した時の年齢と同じである。
 その姿を見たキルティーアは大して驚きもせず、
「無駄ですよ。そんなことしてもお前は僕には勝てない」
「だから勝手に……」
 メルティは自身の剣(つるぎ)に雷を纏い、高く飛び上がる。
 バチバチ、と電撃が走る音が鳴り、その雷の塊は徐々に大きくなっていく。
「私の限界を決めるなぁ!!」
 メルティはそのまま、雷の塊をキルティーアにぶつける。
 かわそうとする素振りも見せなかったキルティーアの元に、雷の塊はぶつかる。
 膨大な土煙が舞い上がり、メルティは倒れそうになりながらも地面に着地する。
 そして、土煙の方向に目を向けてすぐ、
「なるほど、いい攻撃です」
 キルティーアの声が響く。
 すると、土煙の中に黒い影が浮かぶ。
 キルティーアは関節剣を繭のように伸ばして、自分の身体を全方位で護っていた。
 キルティーアは刀を伸ばしてメルティの左腕に絡み付ける。
「ッ!?」
 メルティにはこの状態が何を意味するか分かった。
 どう考えても、嫌な想像しか出来なかった。
 キルティーアは関節剣を締め付け、メルティの左腕に絡まった刀を、メルティの腕に食い込ませる。
「ぐああああああああああああああッ!?」
 メルティの口から甲高い叫びが放たれる。
 ぎりぎり、とメルティの腕が複数の刃で成される刀身が食い込む。
「……」
 キルティーアはその光景に、あえて何も言わなかった。

187竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/10/01(土) 22:24:33 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp

「ぐぅ……!」
 メルティは、強引に自分のハルバード状の斧で、関節剣を断ち切り、腕を自由にする。
 それから、自分の腕に絡まったままの関節剣の一部を外していく。
 彼女の左腕は血で、赤く染まっていた。ズキズキと、傷が痛む。
「……ほぉ、まさかそうするとは思いませんでした」
 メルティは、左腕の痛みに顔を歪めながらも、キルティーアを睨みつける。
 相変わらずゆったりとした笑みを浮かべている彼を見て、
「……はっ。この程度で勝った気にならないでよ……。言ったでしょ?私を倒したいなら、戦車でも持ってきなさいって……。まあ、それでもその持ってきた戦車を壊すのがメルティちゃんクオリティなんだけど……」
 キルティーアは軽く息を吐いて、
「まったく、昔からお前はそうですね。僕には出来ないことを軽々とやってのけ、僕には言えないことをお前はどうってことないように言い放つ」
「……それがどうしたの?」
 いえ、とキルティーアは小さく言葉を漏らす。
 キルティーアは、メルティを見つめて、
「こう言いましたよね。『ここに来た理由は何。やりたことは何』と」
 メルティは小さく頷く。
 キルティーアは目を閉じて、
「じゃあこうしましょう。僕にダメージを与えるたびに一つずつ答えていく。それでどうですか?貴女が僕を傷つける度に、貴女は一つずつ知っていく」
「……いいね、分かりやすくて。小難しいのは大嫌いだしさ。燃えてきた」
 メルティは高く跳び、その時には既に斧に雷が纏っていた。
「『電千鳥(でんちどり)』!!」
 メルティが弧を描くように斧を振るうと、小さな鳥の形をした電撃がキルティーアに襲い掛かる。
 彼は、それを華麗にかわしていく。
 だが、かわした先の上からメルティが急降下してきた。
「こっちは行き止まりだよ」
「そうですか、残念です」
 キルティーアはにっこりと笑って、
「上からの侵入は禁止ですよ」
 キルティーアの頭上に関節剣から離された刃が、華を形作って浮いている。
 メルティの、目が大きく見開かれる。
 空中ではかわすことはできない。
「『刃華昇天(じんかしょうてん)』」
 キルティーアがそう言うと、メルティに向かって、刃の華が、形を失って、一つ一つの小さな刃となって襲い掛かる。
 メルティは無数の刃に切りつけられ、血を流しながら、力なく地面に倒れる。
「用心をしてください。これだからお前は僕に……」
 しかし、メルティが倒れた場所にあったのは、彼女の上着だけだ。
「……?」
 キルティーアが首をかしげていると、メルティが後ろから、斧で彼の背中を突き飛ばし、遠くの壁に吹っ飛ばす。
 メルティは、ニッと笑みを浮かべて、
「用心もしないし、策も練らない!そんなの、私じゃないからさぁ!!」
 メルティは笑みを浮かべながら、起き上がるキルティーアはを見つめる。

188竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/10/02(日) 12:54:41 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第五十七閃「銀色の悪魔」

 キルティーアは大して痛がっている様子も無く、立ち上がる。
 立ち上がりながら、自分を鋭い目で睨んでくる妹のメルティと目が合う。
「……約束だよ。私の知りたいことを答えて」
「そうですね」
 キルティーアは鼻で軽く息を吐いて、
「何が知りたいですか?」
「お兄ちゃんが『死を司る人形(デスパペット)』にいる理由」
 やっぱりね、とキルティーアは目を閉じる。
 メルティはキルティーアが話し出すのを待っている。
 彼は口を開いて、
「お前を探すためですよ」
「嘘!!」
 キルティーアの言葉にメルティはすぐに叫び返した。
 キルティーアは叫んだメルティに驚いていると、メルティは続けて叫ぶ。
「お兄ちゃんが出てったのは十年前!私を探すためなら、別に出て行く必要なかったじゃない!」
「嘘ではありませんよ。これは本当です」
 ぎりっと、メルティは歯を食いしばって、
「嘘だ!私は信じない!探すためなら、何で出て行ったの?したいことって何!?」
 泣きそうになりながら叫ぶメルティにキルティーアは、
「今ので一つ目は終了。もう一つ聞きたいなら、僕を攻撃しなさい」
 メルティは、キルティーアが言い終わると同時に走り出す。
 斧には既に雷が纏っており、技を出す準備も出来ていた。
 だが、
「無駄ですよ」
 キルティーアが関節剣を伸ばして、メルティの太股に突き刺す。
「ッ!?」
 がくん、と体勢を崩して肩膝をついてしまうメルティ。
 キルティーアは素早く、太股に突き刺した関節剣を戻して、メルティの首に緩く締め付ける。
 勝敗は決した。
 今の状況で、メルティが勝つなどと言える人物はいないだろう。
 キルティーアは勝利を確信し、いつでもメルティを殺せるし、勝てる今の状況で口を開く。
「終わりですよ。所詮、お前は僕には勝てない」
 メルティの口から言葉は出ない。
 出すことが出来ない。
「大好きな人が頑張っている。そう言いましたよね。それは、あの天子ですか。言っておきます」
 キルティーアは言葉を区切って、
「今のお前じゃ彼の足元にも及ばない。僕らは一番弱いのは藤崎恋音だと思っていましたが、違うようですね。一番弱いのはお前ですよ」
 キルティーアが首に巻かれている関節剣で締め付けようと、関節剣を引こうとする。
 メルティはどうする事も出来ない。
 この状況を打破することも。覆すことも。首の高速から逃げ出すことも。出来そうに無い。
 だから、思考が停止する。
(……ヤダよ……まだ、死にたくない……。まだ、みんなと……)
 メルティの『生きたい』という本能が無意識に作動し、

 不意に、『時の皇帝(タイムエンペラー)』を強制的に解放させる―――。

189竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/10/02(日) 19:29:47 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 メルティは気がつけば真っ白な光に包まれていた。
 そこは、何処を見回してもただただ眩いほどの光が目に映るだけだった。自分の手にはいつもと同じようにハルバード状の剣(つるぎ)がある。が、目の前にいたキルティーアはいなかった。
(……どこだろ……ここ……)
 寝ぼけたように頭が回らないメルティ。
 すると、一気に目を覚まされるように、自分の右手で握っている剣(つるぎ)が何者かに奪われる。
「ッ!!」
 いきなりのことで反応が出来ず、するりと自分の手から剣(つるぎ)が奪われ、メルティの横から奪ったと思われる銀髪の人影が前へと駆けて行く。
「……な、誰!?返してよ!!」
 光の先へと消えていく人物は、視線を後ろへ向ける。
 逆光で顔は分からず、性別も判断できなかったが、女性のようなシルエットだと思った。
 謎の人物はメルティに視線を向けたまま、告げる。
「やっぱお前じゃダメだ」
 その人物は続けて、
「私がやる。お前はそこで指くわえて見てな」

 ガッ!!と首に緩く巻きついている関節剣をメルティの腕が掴む。
「……?」
 キルティーアが不審そうに眉をひそめていると、
「……まったく、下手糞なんだよお前。殺す気でいかねーと、こっちが死んじまうだろうが」
「……誰ですか、貴女は?」
 いつもと違う妹の口調に、キルティーアは僅かに焦りを見せながら問いかける。
 銀髪の女は『ああん?』と不機嫌な声を漏らして、顔を上げる。
「テメェの妹だよ」
 顔を上げた瞬間、銀髪の女は鋭い拳をキルティーアの腹部に叩き込む。
 くの字に曲がり、下を向いてしまったキルティーアの顔面に次は膝蹴りが突き刺さり、更に、キルティーアは後ろの壁へと蹴り飛ばされる。
 その蹴りの威力で、関節剣が強引に引きちぎられ、首の拘束が無くなった銀髪の女は、
「あーあ、苦しかったぁ。頚動脈(けいどうみゃく)イッてたらどーすんだっつの」
 腰までの先に軽くウェーブが掛かった白よりの銀髪に、鋭い眼光。更に耳には大き目の金色のイヤリングがつけてあった。
 キルティーアは、口の血を左の手の甲で拭い、睨みつけながら告げる。
「……もう一度訊きます。お前は誰だ」
「だーから言ってんじゃねーかよ」
 女はニィ、と怪しげな笑みを浮かべて答える。

「メルトイーアだよ。二十八歳のなぁ」

190竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/10/02(日) 20:43:51 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 目の前に現れた銀髪の女の口にした名に、キルティーアは何も言えなかった。
 ただ単に信じたくなかっただけかもしれない。
 こんな凶暴な女が、将来の自分の妹だと。
「ハッァーイ、オニイチャン?あ、違うよなぁ。今私は二十八歳でぇ、確かオニイチャンは二十六か。じゃあ私が年上じゃん!」
 メルティは一人でぶつぶつと呟き、笑みを浮かべたり、首を傾げたりとハタから見れば、かなりシュールな光景だ。
 キルティーアは、刀を構えて、
「貴女はメルティ、で合ってるんですよね?」
 そう問いかけた。
 メルティは鋭い眼光をキルティーアに向け、
「だったら何だよ。文句あるぅ?」
「……なら」
 キルティーアの刀から離された刃の一つ一つが、メルティを囲うように、浮いている。その刃のどれもがメルティに向いていた。
 それでもまったく表情を変えずに、状況に首を傾げているメルティにキルティーアは、
「戦いの続きをしましょうよ。まだ、勝負はついてませんよ」
「いーや、ついてるよ」
 メルティは前髪をかきあげ、
「お前が勝てるワケねーじゃん」
 瞬間、囲っていた刃が一斉にメルティに襲い掛かった。
 刃がメルティの身体を見せないほど突き刺さり、キルティーアはフッと勝利の笑みを浮かべたが、
 物が壊れるような、耳を突く音とともに、メルティが剣(つるぎ)を振るい、刃を弾き、無傷で立っていた。
「……」
 キルティーアの口から言葉が失われる。
「オイオイ、こんなモンで終わらせようとすんじゃねーよ」
「くっ……」
 キルティーアは続けて、刃で巨大な鳥を作り出す。
 それを見たメルティは、ニッと楽しそうな笑みを浮かべる。
「『刃鳥朱雀(じんちょうすざく)』」
 刃の鳥は凄まじい勢いで、ジェット機のようにメルティへと襲い掛かる。
 だが、メルティは両手でハルバード状の剣(つるぎ)を握り締め、
「おらぁ!!」
 思い切り振るう。
 またもや、物が壊れるような音とともに、刃の鳥が無残に砕け散っていった。
 キルティーアは目を大きく見開き、驚いている。
(……雷を纏ってなら、まだ分かる……!だが、そのままで、だと……?)
 キルティーアの技を打ち破ったメルティの剣(つるぎ)には雷は纏っていない。
 つまり、これが二十八歳のメルティとキルティーアの実力の差。
「……あのさぁ、意外とつまんないから。とっとと終わらせる形でオーケー?」
 気だるそうに問いかけるメルティに。キルティーアは思わず構える。
 だが、メルティはそんなこと全く気にもかけず、
「構えるんじゃダメだよ。逃げろよ」
 メルティは高く跳び、ハルバード状の斧に、雷を纏わせる。
 恐らく『電千鳥(でんちどり)』だろうが、今纏っている雷は先程の比ではなかった。
「『雷鳥降地(らいちょうこうち)』」
 雷は巨大な鳥となり、メルティが剣(つるぎ)を横へ薙ぐと、その鳥はキルティーアに向けて、襲い掛かる。
 鳥が地面に激突した音とともに、アジト全体が大きく揺れ、メルティとキルティーアの戦いは決した。

191竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/10/07(金) 18:48:50 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第五十八閃「最強の隊長」

 メルティとキルティーアが戦っていた場所は土煙で何も見えなくなっていた。
 はれていくと同時に、一つの影が佇んでいる。
 二十八歳のメルティだ。
 彼女はただ一つの方向を見ている。そこにあるのは、仰向けに倒れているキルティーアだ。
 メルティはニヤリ、と怪しげな笑みを浮かべ、
「……まだ生きてるのかよ。つーか、さっさと死んでくんないかなぁ?こっちだって暇じゃねーってのに」
 メルティは頭をかきながらキルティーアに近づいて行く。
 キルティーアは荒々しい呼吸をしながら、なんとか目線をメルティへと向けた。
「……すいませんね……。僕は、結構しぶといんで……」
「そーだな」
 メルティはハルバード状の剣(つるぎを上へと振り上げた。
 冷たい眼でキルティーアを見下ろしながら、
「んじゃ、とっとと殺しちゃうけどいーかな?遺言とかあれば聞くけど?」
 キルティーアは、口の端から血を流しながら、笑みを作る。
 そして、一言。
「ありません」
「あっそ」
 メルティの剣(つるぎ)が振り下ろされる。
 その時、

 ふらっと、メルティの身体が後ろに揺れる。
 彼女の手から剣(つるぎ)が離され、二十八歳から十六歳のメルティへと姿を変えた。

「……!?」
 キルティーアはその様子に驚きながらも、何とか身体を起こして、倒れる彼女の身体を抱きとめようとするが、身体が動かない。
 だが、彼が身体を動かすこともなくなることを、キルティーアは知る。
 何故なら、入り口から矢のような速さで飛び込んできた切原魁斗が彼女の身体を抱きとめたからだ。
「……っ、セーフ……」
 魁斗は僅かに冷や汗をかきながら、ホッと息を吐く。
「すげー土煙が奥から出てくるから何かと思えば……メルティだったのか。コイツ傷だらけだけど大丈夫か?」
 ふと、魁斗はキルティーアに視線を移す。
 相手もボロボロで、倒れているところを見ると、メルティが勝った事を何となく理解した。
 魁斗は壁にもたれさせるように、気を失ったメルティを座らせる。
「……アンタ、何かメルティと似てるよな。もしかして兄貴か?」
「ええ、ご名答」
 キルティーアは上体を起こして、そう答える。
 『妹を気にかける隊長がいる』とメルティから聞いていた魁斗は、こいつがそうか、と納得する。
「貴方が、切原魁斗さん……ですよね」
「ああ。そうだけど?」
 キルティーアは、目を閉じて、
「……後で、メルティに伝えておいてください」
 ?と首を捻る魁斗にキルティーアが続ける。
「僕が。『死を司る人形(デスパペット)』にいた理由を」

192ライナー:2011/10/07(金) 23:01:17 HOST:222-151-086-019.jp.fiberbit.net
ども、ライナーです^^

ついに魁斗君出ましたね、にしてもメルティが……^^;
未来って何があるか分からないもんですね。

続きを楽しみにしております!
ではではwww

193竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/10/08(土) 00:07:14 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
ライナーさん>

コメントありがとうございます^^

はい、やっと主人公出てきました!
といっても、桐生とスノウの戦いで一瞬出ましたけど…中々出す機会がなくて…
ですよねぇ。
あんなお子様なメルティがああなるとは……十二年後に何があったのやら((

はい、ありがとうございます!
お互い頑張りましょうね!

194竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/10/08(土) 00:32:04 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp

「メルティの奴は……お前がここにいる理由を知りたがってたのか?」
 ええ、とキルティーアは浅く頷いて、
「戦闘中に何度もしつこく言及されました。その度、うやむやにして答えるのは控えましたが……彼女の『時の皇帝(タイムエンペラー)』のせいでこの有様ですよ」
 はは、とキルティーアは軽く笑い飛ばす。
 魁斗はキルティーアを見つめて、
「じゃあ話してくれ。俺も、メルティが知りたがってるなら教えてやりたいし」
「ええ。十年前……十歳差の僕ら兄妹は、貧しいながらも、普通に過ごしていました。母はメルティを産んで三日後に、父はその三年後に他界しました。僕は、メルティを守って生きてきたんです」
 ですが、とキルティーアは一度区切る。
 彼の目線は、気を失ったまま座らされているメルティのブレスレット―――、つまりは『時の皇帝(タイムエンペラー)』へと移った。
「彼女が手にしている『時の皇帝(タイムエンペラー)』は相当希少でしてね。家に何度も奪おうとする奴らが来たんですよ。僕は彼女を守るために、家を出て、『時の皇帝(タイムエンペラー)』を狙う盗賊や集団を片っ端から潰していきました」
 一つ、は駄目だ。
 一つ潰したところで、噂の伝染の拡大は期待できない。これ以上狙う奴らが現れないようにするためには、一つでも多く潰して『「時の皇帝(タイムエンペラー)」を狙うとロクなことがない』と思わせる必要があったのだ。
 魁斗はキルティーアの言葉を聞いて、
「それが、ここに入った理由か?」
「いえ、まだ続きがあります」
 キルティーアは続ける。
「僕が家を出たのが十年前。その二年後、家に戻ると、彼女の姿はありませんでした。僕は大きな組織に入り、少しでも彼女の居場所を突き止めようと尽力したのですが……」
「突き止めたのは六年後。そんで、敵として。ってワケか」
 はい、とキルティーアは頷く。
「何で自分から話さないんだよ。アイツだって、お前から聞きたいに決まってるだろ」
「僕にはその資格がありません。守ろうとした人を放って、傷つけて、寂しい思いをさせて。そんな僕に兄として語る筋合いはありませんよ」
 魁斗は深い溜息をつく。
 溜息をついてから、キルティーアに向かって、ただ一言告げた。
「馬鹿野郎が!」
 その言葉と共に、キルティーアの頭に重い衝撃とやけにコミカルな音が響く。
 突然のことで意味が分からず頭を押さえ、キルティーアは魁斗を見る。
「んなことでウジウジ悩んでんじゃねぇよ!自分から語る資格がないだぁ?真実を言うのに、何で資格が必要なんだよ!」
 魁斗は怪我人であるキルティーアを気にもせずに、彼の胸元を掴み、引き寄せる。
 キルティーアは驚いたような表情で硬直してしまっている。
「……アイツを守りたいって思ったんだろ。傷つけたって分かってるんだろ。寂しい思いをさせたって気付いてんだろ。だったら、それを謝るために自分で語るべきだろ!人任せにしてんじゃねぇよ!そんなことぐらい自分で話しやがれ!!」
 大きな部屋に魁斗の声が反響する。
 やがて、キルティーアの胸倉を掴む手を離し、出口の方へと歩を進める。
 そんな魁斗を引き止めるようにキルティーアは口を開く。
「なるほど、メルティが興味を持つのも頷ける。切原さん。ここから先、いるのは最強の隊長と謳われる第一部隊の隊長です」
「……ソイツを倒せば、丸く収まるのか」
「恐らくは」
 ニッと魁斗は笑みを浮かべて、
「じゃあ行ってくるぜ!傷が痛くてしょうがない時は、メルティの持ってるフォレスト作の薬を使うと良い!」
 魁斗は自慢の脚力で、最強の隊長がいる部屋へと走っていく。
 彼の背中を見えなくなるまで追っていたキルティーアは、メルティに視線を移す。
「……良い人ですね。メルティが、恋愛感情を寄せるのも分かる気がします―――」
 キルティーアは立ち上がり、魁斗とは別の、つまりは入り口へと歩いていく。

195竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/10/08(土) 09:43:26 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 魁斗は長い廊下を走り、ついに廊下の出口で、最強の隊長とやらが待っているらしい部屋の扉が見えてくる。丁寧なことに既に開いていた。
 魁斗は突っ込むようにその扉をくぐり、目の前に立つ男を見つめる。
 いるのは、オールバックで前髪が少しだけ出ている右目に縦に走る傷がある三十代の男だ。その男は口にタバコをくわえていた。体型はかなりがっしりしていて、キルティーアとはまた全然別の印象を与える男だ。
 自分を見つめる魁斗に、男は面白そうに笑みを浮かべて、
「よォ、待ってたぜ。もー、来ないのかもと思ったが、待ちくたびれてよかったってワケだ」
 魁斗は僅かに笑みを見せて、答える。
「よく言うじゃねぇか。ここに来るって分かってたからずっといたんじゃねぇの?」
「ハハハッ。案外そうかもなァ。きりばらかいと!」
「きりはらだッ!!苗字で間違えられるの初めてだぞ!?」
 魁斗は思わず叫んでしまう。
 とは言っても、名前で間違えられたことはあまりない。少し言い淀むこともあるが、大体は呼んでくれる。
 男はタバコの煙をふかしながら、
「あれ?そーだっけ?勘弁なぁ。名前覚えるの苦手なんだよ、俺」
「そういうレベルか!?まあいい……」
 魁斗は溜息をついて、剣(つるぎ9を構える。
「さあ、始めようぜ。まず名前を名乗ってもらおうか!」
「おう、いいぜ。ようやくやる気になってくれたか!」
 男も大剣状の剣(つるぎ)を発動する。
 刀身は真っ赤で、見ただけで炎属性の剣(つるぎ)だと分かってしまう。
「第一部隊隊長のディルティールだ!仲良くしようぜ、小僧!!」
「切原魁斗だ。二度と間違えんじゃねぇぞ、オッサン!」
 二人はほぼ同時に突っ込む。
 光を纏った天子の刀と、炎を纏った最強の隊長の刀が激しくぶつかり合った―――。

「!」
 レナは何かに気付いたように顔を上げ、辺りを見回す。
 その様子に肩を僅かに震わせ、ハクアは驚く。
「……どーしたのよ、急に。ビックリするわね」
「いえ……カイト様が…」
 レナから『カイト様』という言葉が出る時は、心配してる時だ。
 むしろ、敵の本拠であるにも関わらず、自分の主を心配しない従者はいないだろう。もっとも魁斗とレナの関係は主従などという堅苦しいものではないが。
 ハクアは、レナの肩に手を当てて、
「大丈夫よ。メルティさんや、怪我を負っている恋音ちゃんほど、心配はしなくてもいいわよ」
「わっ、私は別に心配など……!」
 思わず叫びそうになるレナの頭にハクアは手を置いて、
「はいはい。そーね。少しでもカイト君のことを思うなら、先へ進むわよ」
「……ハクアは、心配じゃないんですか…?」
 その言葉にハクアは、レナの方を振り返って、
「心配じゃないわよ。だって、カイト君だもん」
 そう言うと、ハクアは再び歩き出す。その後をレナも追う。

196竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/10/08(土) 17:11:51 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第五十九閃「天子VS最強」

 魁斗とディルティールは何度も刀をぶつかり合わせていた。
 力比べのつもりなのか、二人ともまだまだ本気ではないのが分かる。ディルティールの表情には僅かな笑みすらあった。
 熾烈、とは言い切れない斬撃の応酬の中、魁斗はあることを感じていた。
(……可笑しい。コイツの斬撃にムラがある)
 常に炎を纏っているものの、常に同じ威力の衝撃が腕に伝わってこない。
 同じ、ではなくても戦っている時は大体同じ力で攻撃してくるはずだ。気を抜けない相手だと分かっているなら尚更。
 現に、ザンザの時も、カテリーナの時も、レナとの修行の時も、どの斬撃もほぼ同じ力だった。
 魁斗は距離を取るように、数歩後ろへ下がって、二本の刀を構える。
「……力の微調整なんかすんじゃねーよ!余裕のつもりか」
 問われたディルティールはきょとんとして、
「ん、微調整?ハハハッ。冗談よしてくれ!俺はそんな細かい事したことねーよ!つーか、微調整ってどういう意味?」
 大人として『微調整』の意味が分からないのはどうかと思う。
 が、今はそれどころではない。
 しかし、言葉の意味すら分からないし、細かい事はしたことない。相手の表情を見る限り、嘘ではないだろう。
 だったら、
「……だったら、お前の斬撃のムラは何だ?強めだったり、弱めだったり、俺と同じくらいだったり」
「あー、気付いたのか、それ。中々やるじゃねーの」
 は?と目を丸くする魁斗。
 ディルティールはタバコの煙を吐いて、
「俺の剣(つるぎ)の能力なんだよ。俺の剣(つるぎ)『一騎当千(いっきとうせん)』は刀の炎の力が毎度毎度変わっていくんだよ。一人分の力から千人分まで。だからムラがあったっつーワケ」
 つまり、相手の力は常にマックスは出せないということだ。
 毎度毎度変わる。それは常にマックスの魁斗にとって、好都合だ。
「じゃあ、お前の力は最高でも千人分しかいかねーってことだな?だったら、こっちにも勝機が……」
「オイオイ、あんま勘違いすんじゃねーぞ」
 魁斗の言葉が途中で遮られる。
 ディルティールは、鋭い眼光で魁斗を睨みつけ、
「俺のバカみてーな魔力分を上乗せしたときを…考えとけってーの」

 ディルティールの刀に、今までの比じゃない程の炎が纏う。
 赤く燃え、紅く辺りを照らしている、その神々しい炎を、ディルティールは一気にぶつける。

「ほらよ、五百九十二人分だ」
 耳を突く轟音と共に、魁斗の元へ巨大な炎の塊が飛ばされる。
 彼の脚力を活かしても、この炎の塊は避けられなかった。
 いや、あまりの圧に圧倒され、動くことが出来ずにいたのだ。
「ぷはぁ」
 ディルティールの間の抜けた声が部屋に響く。
 どれほどの魔力を使ったのか分からないが、彼の顔色に疲れた様子は無い。
 彼の視線は黒い煙が上がる、魁斗のいた場所だ。
「いやぁー、派手にやりすぎたな。さっきからアジトが何回も揺れてっけど……こりゃここもヤベーかもな」
 ディルティールはまるで誰かに話しかけているように話す。
「なあ、切原魁斗」
 黒い煙の中に、二本の刀が纏う光で攻撃を緩和し、何とか立っている切原魁斗が見える。
 魁斗は息を切らしながら、彼を睨みつける。
「……俺に振るんじゃねーよ」

197ライナー:2011/10/08(土) 17:22:43 HOST:222-151-086-004.jp.fiberbit.net
コメント失礼します、ライナーです^^

キルティーア……何だか大変な人生歩んでますね。
自分も兄妹柄、兄なのですがここまで妹思いにはなったことがないです^^;
ディルティール面白いですね、能天気な性格結構好きかも^^
これからどんな技を見せてくれるか楽しみです!

ではではwww

198竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/10/08(土) 17:45:22 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
ライナーさん>

コメントありがとうございます^^

はい、キルティーアは妹を殺そうとするけれど、実は妹思いなお兄ちゃんなんです。多分彼はシスコンでs((
そうなんですか?まあ、ここまで妹思いになるのは難しいですよ…w
オジサンは能天気というか、ただのお馬鹿さんです((
最強というからには、とてつもないことをさせてみようと思います^^

199竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/10/09(日) 00:11:38 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp

「さーてと、次はどんだけの量が出てくれるかなぁー?」
 ディルティールはいかにも楽しそうな口調で、刀の切っ先を上に向けてくるくると回している。
 先程の攻撃で、既にかなりのダメージを受けている魁斗だったが、それを気にしている暇は無い。
 魁斗は刀を構えて、相手の出方を窺う。
「……いくぜ。二百七人分だ」
 ディルティールが炎の塊を放つ。
 しかし、大きさ的にもかわせない大きさではないし、速度も自分の脚力なら充分にかわせる。だが、

 途中で、大きな炎の塊が、複数の火の玉に割れ、一斉に魁斗に襲い掛かる。

「何だとぉ!?」
 不意を疲れた攻撃に魁斗は慌てて、動き回り、何とか全てをかわす。
「あー、逃げんなよ。当たらねぇじゃねーか」
「アホか!逃げるっつの!」
 相手が敵だということを忘れてしまいそうなくらい、仲間にツッコむ時と同じトーンで相手にツッコむ。
 しかし、かわせたとしても不利なのには変わりが無い。
 魁斗は先程の攻撃でダメージを負っているが、かなりの魔力を消費したと思われるディルティールは息一つ乱していない。むしろ、楽しそうな笑みさえ浮かべている。
(……、相手はまだ俺を下って見てる。つーことは、手加減してるってことだ……一か八かやってみっか)
 魁斗は脚に力を込めて、思い切り踏み込む。
 自慢の脚力を活かして、一気にディルティールとの距離を詰め、刀を強く握り締める。
 ディルティールは笑みを崩さずにkろえを迎え撃とうとする。
「ははっ。やってやろうじゃねぇのぉ!」
 ディルティールが刀を横薙ぎに振るい、魁斗を斬りつけようとしたが
 魁斗がニッと笑みを浮かべる。
 魁斗はハードルを飛び越えるような軽やかさで、ディルティールの頭上を飛び越え、彼の背後に回りこむ。
「んなぁ!?」
 その思いもしない行動にディルティールは驚きの表情を隠せない。
 そして、魁斗は刀での攻撃ではなく、足を振りかぶった。
「サッカーとか苦手だけどな、ボール回されたらかなりのスピードで蹴れるんだぜ?」
 魁斗の高い脚力ならではの蹴りがディルティールの背中に炸裂し、彼はそのまま吹っ飛び、壁に激突する。
 ふぅ、と軽く息を吐いて、魁斗は刀を構えなおす。
「来いよ、これで倒せたなんて思っちゃいねぇさ」
 ディルティールは『いてて』と背中の辺りを軽く摩りながら、立ち上がる。
 それから、刀を構えて、ニヤリと笑みを浮かべる。
「はは……まあな。んじゃ、そろそろ本気、出すとすっかぁ!!」
 一気にディルティールの雰囲気が変わる。
 魔力が一気に放出されたのだ。
 獲物が来ていない時に、まどろむ獅子から、獲物を見つけた時の相手を追い掛け回す獅子へと変貌していった。
 彼の刀には魁斗が受けた時とほぼ同等の炎が纏っている。
「そーだよなぁ。これで終わったらつまんねぇもんな。さっさと始めようぜ。第二ラウンドだ」
「……何だよ、オイ。随分と面白いことになってきたじゃねーか……」
 魁斗の表情には笑みが浮かんでいたが、このめちゃくちゃな状況に対して、笑うしかない時の苦笑だった。

「ッ!?」
 ルミーナは肩をビクッとさせて、辺りを凄い勢いで見回す。
 ルミーナと手を繋いでいた(強制的に相手が握ってきた)藤崎も必然的に動きが止まり、ルミーナを見る。
「……どうしたの?」
 二人が足を止めたことにより、一緒にいたフォレストも足を止め、振り返る。
「どうしたんですか。まさか、ここに来てビビッてるなんてことは……」
 フォレストはルミーナを見て、気付く。
 彼女の身体が小刻みに震えていることに。
「……さん、が……」
 震えている声でルミーナは言葉を紡ぐ。
「……ディルティールさんが、本気を出した……いくら天子さんでも……」
 ルミーナは震える声でただ、
「………………勝てないよ……」
 一言、告げた。

200竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/10/09(日) 10:33:53 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp

「―――何だ、この魔力は……?」
 桐生はアジト全体に迸るとてつもない魔力に気付き、足を止める。
 彼の顔には僅かな冷や汗さえも浮かんでいた。
「……何というか、説明のしようがないな……。危険で、猛々しくて……目に映るもの全てを焼き払うような魔力……!」
 桐生は指で眼鏡を軽く上げる。
「誰だ、こんな奴と戦ってるのは―――?いや、一人しかいないか」
 桐生は再び走り出す。
 考えるのが面倒になった。仲間の勝ちを諦めた。だから走ったのではない。
 考えついて、仲間の勝ちを信じたからこそ、彼を信じて走ったのだ。
 そう、切原魁斗の勝利を信じて。

 魁斗はディルティールの刀に纏う真っ赤に燃え上がる炎を見て、息を呑んでいた。
 魁斗が今持っているレナから貰った剣(つるぎ)『祓魔の爪牙(ふつまのそうが)』は魔力によって纏わせた炎や、光の能力を自身の魔力の最大限分を常に纏わせる能力だ。しかし、逆に言えば、最大限分を常に出しているから、これ以上のパワーアップは望めない、ということだ。
「……スゲーな……やっぱ、最強って言われるだけあるじゃねーか……」
 魁斗は無理な笑みを浮かべて、そう言う。
 彼自身も、今の状態で勝てるとは思っていない。でも、勝たなければいけないのだ。
 魁斗は脚に思い切り力を込めて、相手に突っ込む。
 刀を振りかぶる、ディルティールの前で横薙ぎに払おうとした瞬間、ディルティールの横薙ぎの攻撃が魁斗の刀を二本とも弾き飛ばした。
「……な……」
 ディルティールはニィ、と笑みを浮かべて、
「お前じゃ、まだまだ俺には早かったかな?」
 ディルティールの蹴りが魁斗の腹に入り、魁斗の身体がくの字に曲がる。そこへ、畳み掛けるように、魁斗の顔にディルティールの膝蹴りが叩き込まれ、魁斗の身体は宙を舞う。
 それから力なく、地面に仰向けに倒れてしまう。
 僅かに呻きと呼吸が聞こえるが、立てる状態じゃない。
 ディルティールは、タバコの煙を吐き出しながら、
「……ここまでだ。これが俺とテメェの差だ」
 ディルティールガ踵を返し、歩き出そうとした瞬間、

「……、待てよッ!!」

 魁斗の叫び声がディルティールの耳を突く。
 彼が勢いよく振り返ると、魁斗は荒々しく息を吐きながら立っていた。
 しかも、ただ立っているだけじゃない。
 魁斗の身体を柔らかく包むように、淡く白い光が魁斗の身体を包んでいる。
(……何だ、あの光は……?)
 ディルティールは見たことのない現象に眉をひそめる。
(……まさか、アイツが天子だってことも関係してんのか……?)
 魁斗は遠くに弾かれ、転がっている自分の剣(つるぎ)を拾い、刀を構える。
 それと同時に、魁斗を包んでいた光は消えてしまう。
 魁斗は刀にありったけの光を纏わせ、
「―――さあ、続けようぜディルティール。そろそろ、決着つけようじゃねぇか!!」
「……ははっ。面白ぇ!最高に面白ぇぞ切原魁斗!!」
 
 二人の戦いは、決着を迎えようとしていた―――。

201ライナー:2011/10/09(日) 15:01:41 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
コメント失礼します、ライナーです^^
一日おきコメントになってしまい済みません^^;

では、200レス到達おめでとうございます!
もうそろそろなんですかね、最終回。
そんな感じがします(違ったら済みません)

お馬鹿さんと天子君の決着がどうなるか楽しみです!

ではではwww

202竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/10/09(日) 15:10:33 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
ライナーさん>

コメントありがとうございます^^

ありがとうございます!
自分でもよくこんなに続いたなー、とか思いますw
……いや、まだ最終回ではありません!
確かにこの第三章の最終回は近いですけど……

はい、もう決着がつきます!
お楽しみにしていてください!

203竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/10/09(日) 15:31:52 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第六十閃「炎を打ち砕く光」

「うおおおおっ!!」
 魁斗は刀を光を纏わせて、咆哮を上げながらディルティールに突っ込む。
 ディルティールも刀の切っ先を上に向け、くるくると回している。
 そんな彼は僅かに笑みを浮かべていた。
「はははっ!いいね!そうだよ、お前みたいな強い奴はそうでなくちゃなぁ!!こんなところで終わっちゃあ、つまんねぇよなぁ!!」
 刀を回すのを止め、自身の魔力で大きさを変えた炎の塊を魁斗に向かって放つ。
 だが、魁斗は高く跳んで、この炎の塊をかわす。
 そしてそのまま、刀を振りかぶって急降下してくる。ディルティールも、ただ待っているだけじゃない。
 魁斗は光を纏った刀を、ディルティールは炎を纏った刀を、ぶつけ合う。
 今度力負けして刀が弾かれたのはディルティールの刀だ。
 魁斗はディルティールから距離を取るように離れると、
「……拾っていーぜ。公平な条件で倒さねぇと、意味ねぇからな」
「……こいつ……」
 魁斗の口からそんな言葉が出たのは、余裕があるからではない。
 ただ、相手を認め、自分より強いと分かっていても、本気でぶつかり合って、倒したいと思ったからだ。刀がない相手を倒すなんていう卑怯な手は使いたくない、と思っていたのだ。
 ディルティールは刀を拾い、肩に担ぐように持つ。
「……よォ、天子。そろそろ限界なんじゃねぇの?隠そうとしても、肩で息してんのバレバレだぜ?」
「……隠そうとしてねぇよ……」
 魁斗の体力は限界に近かった。
 ディルティールは魁斗より魔力を使っているだろうが、魁斗との魔力の量が違う。ディルティールはほんの僅かに息を切らしているだけだ。
 それに、魁斗はディルティールより、明らかにダメージを負っている。
 恐らく、持久戦にもつれ込んでしまっては、魁斗の勝利はゼロに近い。
 ディルティールは、タバコを吐き、靴底で灰の部分を消すと、
「んじゃ、俺も最後の一撃だ。次の一発、それに全力を込めるぜ」
 ディルティールの刀に巨大な炎が纏う。
 恐らく炎の量は千人分で、自身の魔力も付加させてるから、倍以上の威力を誇るだろう。
 相手の本気を見た魁斗も自身の刀に光を纏わせる。
「俺だって、負けるわけにはいかねぇんだよ!!」
 刀に纏う光が大きくなり、魁斗の身体が光に包まれたように眩しく輝く。ディルティールも、炎の量が大きくて、彼自身が炎になっているように見える。
「いくぜ」
 二人は同時に突っ込み、刀を振りかぶる。
 そして、光の刀と炎の刀がぶつかり、アジト全体が大きく揺れる。

204竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/10/09(日) 16:33:51 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 二人の刀はぶつかり合い、衝撃でアジトが揺れ、爆風が起こり、地面に細かいものや、大きいヒビを走らせていった。
 魁斗とディルティールの咆哮が重なり、鍔迫り合いの状態が解かれる。
 負けたのは魁斗だ。
 魁斗の刀が弾き飛ばされ、回転しながら宙を舞う。
 ここでようやく、勝利を確信したディルティールが笑みを浮かべる。
 しかし、
「……まだだぜ」
 ディルティールが魁斗の言葉で視線を落とした時だった。
 魁斗の左手にはまだ刀が握られている。
 ディルティールが自分の弾き飛ばした刀へと目を向けると、宙を舞っている刀は、一本だけだ。
 ディルティールが攻撃態勢に移ろうとしたが、もう遅かった。
 魁斗は両手で刀の柄を握り、ディルティールの刀へと思い切りぶつける。当然、ディルティールの手から刀は抜けて、魁斗の刀と同じように宙を舞う。
「……言っただろ」
 魁斗が左から、右手へと刀を持つ手を変えて、振り上げる。
「負けるわけにはいかねぇって」
 魁斗が刀を振り下ろし、ディルティールの身体を斬りつける。
 斬りつけられたディルティールは、倒れそうになる身体に踏ん張りを利かせ、倒れずに、何とか立った状態で耐える。
「なっ……」
「……はは……。まだ、続けようぜ……!」
 魁斗はディルティールのしぶとさに圧倒されていたが、宙を舞う相手の刀を見て、
「いや、どうやら決着はつくみたいだぜ」
 魁斗の視線をディルティールも追う。
 自分の刀か、と思いディルティールは眺めている。その刀はやがて、地面に刺さる。刺さると同時に刀の刀身が砕けてしまう。
「ッ!」
 魁斗はフッと笑みを浮かべて、刀を肩に担ぐようにして持つ。
「な?言っただろ?」
 ディルティールもしばらくきょとん、としていたがやがて口に笑みが戻る。
 笑みが戻り、
「っははははははははははーっ!!」
 大声でいきなり笑い出した。
 今度はそのディルティールに魁斗がきょとんとする。
「確かに、お前さんの言うとおりだ!こりゃ、俺の負けだな!」
 ディルティールは、その場に座り込み、
「行けよ。仲間が待ってるかもしれねぇぜ?さっきから負けてるのは、うちの連中だけみたいだからな」
 魁斗は弾き飛ばされた自分の刀を拾い、剣(つるぎ)をブレスレット状に戻す。
 それから、出口へと歩いて行きながら、
「ここにいるのって、悪い奴だけじゃねーんだな。エリザだって、キルティーアさんだってそうだった。アンタだってそうなんだろ?」
 魁斗は笑みを浮かべながら、ディルティールに問いかける。
 ディルティールはタバコに火をつけて、
「……自分で『俺は良い奴』って言う奴いねーだろ。俺は、ただ強い奴と戦えりゃ満足だからな」
 魁斗フッと笑って部屋を出る。
 切原魁斗VSディルティール。

 勝者、切原魁斗。

205竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/10/09(日) 21:25:45 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 ディルティールは、自分以外誰もいなくなった部屋でタバコを吸いながら、自分だけの時間をくつろいでいた。
 それから入り口の方に視線をやると、何かに勘付いたように声を出す。
「……で、アンタはいつまでそこにいる気だよ、お譲ちゃん」
 その言葉に、入り口から『ふえ?』という甲高い声が聞こえる。
 入り口から顔をひょこっと顔を覗かせたのは、何故か少々困った顔をしている十六歳のメルティだ。
 先程の『時の皇帝(タイムエンペラー)』の強制解放で、通常行く事ができない二十八歳に行った為、今は上手く制御出来ず元の年齢でいるのだ。
 メルティは中へ入ると、ディルティールに近づいて行く。ディルティールは、メルティが近づくと、配慮か、タバコの煙を消す。
「何で天子の前に姿を現さなかったんだよ。恥ずかしいのか?」
「その前にどっか行っちゃったんだもん!アジトの揺れで目が覚めたら、お兄ちゃんもいないし!」
 ディルティールは楽しそうに笑っている。
 それに不機嫌になったのか、メルティは頬を膨らませ『ぶー』と唸っている。
「しっかし、あのガキ強いな。お前らの中で間違いなく最強だ。だって俺に勝ったし」
「……それって、自分が最強って認めてるってこと?」
 まーな、とディルティールはあっさり肯定する。
 メルティは呆れたように息を吐く。
「ねえ、ここの零部隊の隊長。私の情報網でも尻尾すら掴めてないんだけど……何か知らない?」
「知らねーよ」
 メルティの質問にディルティールは即答した。
 適当にも、面倒そうにも取れるような調子で。
「俺だって奴のことはほとんど知らねぇ。どんな容姿してんのか、年齢も、性別も、声も、剣(つるぎ)も。奴に関することは何も知らねぇ。マルトースなら何か知ってるかもな」
「マルトースって……第五部隊の隊長?」
「さすが情報屋。よーく知ってるじゃねぇか。俺は零部隊の隊長より、マルトースの方が気になるぜ」
 ディルティールは参っている声で呟く。
 メルティは、懐からフォレストに貰った薬の瓶を出して、相手の側に置いていく。
 首を傾げているディルティールに、メルティは出口へ向かいながら告げる。
「使って良いよ。今の私には必要ないだろうから」
「何だよ、こりゃ」
「傷薬。すぐに効くワケじゃないけど、無いよりはマシでしょ?」
 ありがとよ、とディルティールは短く礼を言う。
 薬の代わりとでも言うように、ディルティールは口を開く。
「……次の敵は零部隊の馬鹿になるかもな。どんな奴か知らねぇが、気を付けろよ」
 メルティはコクリと頷いて、部屋を出て行く。
 ディルティールは新しいタバコに火をつけて吸い始める。
「さーて、俺はこっからどうすっかなー」
 その言葉は、これから先の希望を楽しむようにも聞こえた。

206竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/10/10(月) 12:48:34 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第六十一閃「仮面」

 レナとハクアは長い長い廊下を走っていた。最初の方は歩いていたが、だんだん傷も楽になってきたのか、走っても平気なぐらい回復したが、戦うにはまだ不十分である。
 二人は巨大な扉の前で立ち止まる。
 その扉は何の装飾もなく、ただただ大きいだけの扉だ。
 レナはその扉を見つめて、思わずといった調子で呟く。
「……何だか、普通ですね。装飾がついていないというのも、可笑しいですし……」
「ま、気にしてもしょーがないでしょ」
 ハクアは風を纏った薙刀を振りかぶっている。
 レナに嫌な予感が走り、止めようとするが今から言っても遅かった。
「だぁっ!!」
 ハクアは薙刀を扉にぶつけ、扉を強引に開く(というか壊す)。
 扉の下半分は壊れ、人一人が余裕で通れる位の大きさの穴が出来た。
 レナとハクアの二人が通る前に、残った扉の上半分が落ちて、下に瓦礫のように無造作に転がった。
 ハクアは何でもないかのように扉をくぐっていき、レナは少々遠慮気味に通っていった。
 部屋の中には大きさや、高さや、形が様々なブロックが置いてある。ただ、人より小さい物はなく、どれも正方形や長方形の形で、三角形などはない。色も真っ黒だ。
 薄暗い部屋にそのブロックだらけが見える部屋で、
「不気味ですね。このブロックが何を意味するか分かりませんが……」
「中からエイリアンみたいなのが出てきたら面白いわよね」
 どこが、とレナは思わず叫んでしまう。
 だが、ハクアの『出てくる』は案外外れではなかった。
「何や、まだ二人かいな」
 レナとハクアの耳に関西弁の女性の声が響き、薄暗い闇の中から細い刀身が伸び、レナへと襲い掛かる。
 何とか反応できたレナはそれをかわし、刀を構えて叫ぶ。
「誰です!?」
 ハクアも薙刀を構えなおし、辺りを見回す。
「おー、怖い怖い。女の子は、そんな怖い顔してたらアカンよ?」
 薄暗い部屋に明かりがつき、攻撃してきた人物の姿が明らかになる。
 その人物は縦の長方形のブロックの上に乗っており、長い紫の後ろ髪を全て前に垂らしている狐の仮面を被った女性だ。顔は分からず、年齢まではっきり分からない。
 何の装飾も無いドレスのような衣服に、身を包んだその女は、依然睨みつけているレナに向かって、
「まーまー、落ち着き。ちゃーんと話すで」
 恐らく仮面の中では笑っているようなトーンで告げる。
「皆揃ったらな」

207竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/10/10(月) 17:37:31 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 レナは白いドレスの狐の仮面を被った女性と睨み合っている。
 女性の表情は窺えないが、恐らく笑みを浮かべているだろう。怪しく不気味な、どう思っているか分からないような笑みを。
「皆が揃ってから、正体を明かす……ですか。それは結構ですが、私達は二人います。怪我を負っていようと、簡単に負けることはありませんよ」
「どうやろなー。案外君ら楽にやられてくれそうやし、むしろ手抜いても勝てるんちゃう?」
「見くびられたものですね!」
 レナは狐の仮面の女性へと突っ込む。
 女性は刀を伸ばしたまま、動き回るレナを斬りつけようと刀を振るうが、上手く相手に当たらない。さすがに、手元と遥か下の刀身では動きが伝わるのに時差がある。腕を振るうタイミングが良かったとしても、刀身が動く頃にはタイミングがずれてしまう。
 レナは思い切り跳んで、空中で女性とほぼ同位置にたどり着く。
 思い切り刀を振りかぶって、横薙ぎに刀を振ろうとした瞬間、
 
 横から、巨大な金棒を振りかぶった猫のような仮面を被った、黄緑色ツインテールの小柄な人物が襲い掛かる。

「ッ!?」
 レナが何とか反応し、金棒の攻撃を刀で受け止めるが、あっさりと力負けし再び下の方へ飛ばされ、背中をブロックにぶつける。
 レナの口から僅かに呻き声が聞こえるが、相手はいちいち気にしない。
 さらに金棒の追撃がレナを襲う。今度は立ち上がって、相手の攻撃をかわす。
「二人、いたのですか!?」
「相手の余裕の理由はこれね。まったく、面倒ね!」
 狐の仮面の女は仮面越しでも分かるような、笑みをこぼして、
「そーやでー?ちなみに、二人だけとちゃう。ほれ、止まっとると、また来るで?」
 相手と距離を取り、完全に気を緩めていたレナの背後から、トンファーを振りかぶった、くすんだ金髪の狼の様な仮面を被った人物が襲い掛かる。
「レナ!!」
 ハクアが叫ぶが、レナの防御もハクアの援護も間に合わない。
 相手のトンファーがレナの頭を捉え、思い切りトンファーを振るうが、黒い影がレナを連れ去り、相手の攻撃は空を裂く。
「?」
 レナを攫った黒い影はブロックの上に乗り、レナを叩きつけるようにブッ録の上へと落とす。
 レナは自分を助けた人物に信じられないような目を向ける。
「……ざ、ザンザさん!?」
 名前を呼ばれたザンザは低く舌打ちして、不機嫌そうな表情を浮かべている。
 更に部屋には、カテリーナ、エリザ、クリスタ、ゲインの四人が入り、数の優劣はあっという間に覆された。
 優劣がひっくり返りるが、関西弁の狐女はおsれでも他の二人に指示を飛ばす。
「数なんてどーでもええよ。まずは手負いの奴等から片付けるのが定石っちゅう―――」
 女の言葉は途中で切られる。
 何故なら下半身と刀が急に氷付けにされたからだ。
 女は勢いよく入り口に視線を向ける。そこには、刀を突き刺し、眼鏡をかけた人物が立っていた。
「君の刀は封じたよ。数の優劣が何だって?」
 そう、桐生仙一が。
 レナとハクアは仲間の登場に笑みを浮かべる。
 そして、動きを封じられた女の代わりに動こうとした、ツインテールの少女と金髪の女の首元に、それぞれ刀が突きつけられる。
 藤崎恋音とルミーナだ。
 魁斗達と元『死を司る人形(デスパペット)』のメンバーで、謎の仮面集団の動きを封じる。
 そして、そこへ最後の人物が入ってくる。
「な、何か仲間の数増えてねーか?」
 入ってきたのは、魁斗とメルティだ。
 仮面集団を倒す間もなく、全員が揃った。

208ライナー:2011/10/10(月) 18:05:58 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
コメント失礼します、ライナーです^^

何だか凄い展開ですね、何だ謎の仮面集団!!
とりあえず、みんな頑張れ!そしてザンザが特に頑張れ!

でも、女性キャラではレナさんが大好きd((殴
ハクアさんも大好k((殴
メルティだってd((殴
一推しはレナさんです!

ではではwww

209竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/10/10(月) 19:11:30 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
ライナーさん>

コメントありがとうございます^^

>>207は結構ゴチャゴチャした感があったのですが…しかも今読み返せばフォレストの名前を書き忘れてた…orz
多分、今後元『死を司る人形(デスパペット)』で活躍するのはカテリーナだと思いまs((
でもなるべくザンザも活躍させます。ザンザとカテリーナは二人で一人なので!

何か女性キャラが多くなってしまって…僕はハクア推しでs((
自分が作ったキャラなので、大抵皆好きですがw
キャラを好いてくださって嬉しいです!

210竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/10/10(月) 19:46:29 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp

「ん?」
 部屋に遅れてメルティと一緒に入ってきた魁斗は、目を丸くして辺りを見回す。
 レナ達とは別に、違う意味で『見慣れた』相手が何人かいる。
 そう、かつて敵としてぶつかった、三人が。
「って、何でザンザとカテリーナがいるの?エリザまで……しかも見たこと無い眼帯と小さい子までいるし!」
 魁斗のよく分からない言葉に反応したのはクリスタだ。
「貴様は空気を読め!!何なんだ、貴様は!?緊張感を台無しにするな!!」
 何だと!?と魁斗とクリスタが睨み合いを展開する。
 この二人はちょっとのことですぐカッとなるため、ある意味似てるのかもしれない。
「ちょっと、話が進まないんで喧嘩なら後に回しちまってくださいよ」
 二人に鋭いツッコミを入れて、とりあえず二人を黙らせたフォレストは三人の仮面集団を見る。
 この場にいる誰もが、硬直して、動こうとしない。
 そこへ、
「アメージングです!!まさかまさか、『死を司る人形(デスパペット)』の隊長と小隊隊長が裏切るとは!!」
 テンションの高い声とともに、一人の男がブロックの上へと降り立つ。
 真っ白い衣装に身を包み、マントをはためかせたマルトースだ。
「……、お前は」
 魁斗とレナには見覚えがあった。
 沢木を乗っ取ったプルートを撃退した後、現れたからだ。さすがに敵といえど、真っ白い衣装の人間をそう忘れることは無いだろう。
「おや、覚えててくれたようですね。天子さん。まあ、養育係さんも片隅に置いてくださってるようですが」
「ケッ。結局、今回のは全部お前の手の平の上ってか?」
 ザンザは皮肉るような笑みを浮かべてそう訊ねる。
 対して、ふふんと鼻で笑って、マルトースはシルクハットのつばに軽く手を添え、答える。
「そうではありません。するつもりがなかったのが、貴方達が上手く手の平の上に来てくれたのです」
 その答えにザンザは軽く舌打ちをする。
 表情には表さないが、エリザとカテリーナも心の中では舌打ちをしているだろう。
「そのとーり!全ては、貴方達のお陰なのよ!」
 更に、別のブロックの上に一人の人物が降り立つ。
 巫女服を着た、マルトースの部下であるカルラだ。
 彼女を知らない者は、この中には誰一人としていない。彼女を見て、フォレストが思わず叫ぶ。
「お前は、ストリップ巫女!」
「誰がよ!!つーかアンタがストリップにしたんでしょ?私の事は『カルラたん』と呼びなさい!!」
 こほん、とカルラは咳払いをして、話を進める。
「さて、それでは私達が今どのような立場にあるのか、説明してあげる。私達は『死を司る人形(デスパペット)』の上の組織に今は属しているの」
「上だと?」
 クリスタの復唱にカルラは頷く。
 エリザ達もそんな組織の存在は聞かされていない。
 笑みを浮かべながら、マルトースは続ける。
「皆さんご存知ないでしょう?私達が属するのは、『六道輪廻(ろくどうりんね)』。そう!貴方達が誰も知らない、第零部隊の隊長がリーダーを務める、最強の集団なのです!!」
 魁斗達は絶句する。
 言葉が何も出ない。その組織が今まで戦ってきた『死を司る人形(デスパペット)』よりも強大な気がしたからだ。
 対して、ザンザだけは冷静だった。
「……よく分かんねェけどよ、要はお前らを潰せばいいんだろ?」
「そうではありません」
 ザンザの言葉にマルトースは否定する。
 今まで黙ってた黄緑色の髪をツインテールにした少女が、元気よく手を挙げて、
「はいはい!今日は宣戦布告っていう難しい言葉をしにきただけなのだ!だってだって!今君達と戦っても勝ちは見えているのだからなのだ!」
「ま、そーゆーこっちゃ。今日は堪忍な」
 狐の仮面の女はそう言って、下半身を凍らせていた氷を強引に砕き、他のブロックにいた全員がマルトースの元へと集まる。
 マルトースは全員集まると、より一層笑みを深くして、
「それではまたの機会に会いましょう」
 指を鳴らすと、マルトース達が姿を消す。
 新たな敵『六道輪廻(ろくどうりんね)』。
 まだ見ぬ強大な存在に魁斗達は今後の対策を考えるまでも無く、立ち尽くしていた。
「―――『六道輪廻(ろくどうりんね)』」

 魁斗は、新たな敵勢力の名を小さく呟いた。

211竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/10/19(水) 16:53:22 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第六十二閃「一時の終結」

 『死を司る人形(デスパペット)』との戦いが終わり、『六道輪廻(ろくどうりんね)』という勢力の判明してから、魁斗達はフォレストの小屋で二日間傷を癒していた。
 しかし、魁斗達だけならまだしも、そこにザンザやカテリーナ達、『死を司る人形(デスパペット)』脱退組も一緒のため、小屋の中はかなりすし詰め状態だ。
「……つーかよ」
 狭い小屋で、人数が多くさらに狭く感じられる小屋で魁斗がポツリと呟いた。
 その言葉はたった一人の人物へ向けられる悪態の切り出しの言葉だ。
「何っでお前までいるのかなー?お前らが来たせいでさらにここが狭いんだよ!」
「うっせ、知るか!狭さに不満があんならお前が出てきゃいいだろうが、天子クン?」
 悪態の言葉が向けられたのはザンザだ。
 当初は敵として対立していたが、今は単に仲が悪い対立となっている。何故だか、この二人には共通する何かが感じられる。
「まーまー、カイト様。落ち着いてください」
「ザンザもホラ!喧嘩しない!」
 そんな子どもみたいな二人を親のようになだめるのが、レナとカテリーナだ。
 二人はいがみ合う似ている二人を止めながら目を合わせると、呆れたような溜息を同時についた。
「……お前、よくあんなメンバーの中で埋もれずにいられるな」
 椅子に座って魁斗達の方を見ていた桐生にクリスタが話しかける。
 桐生は僅かに息を吐いて、
「話すのも見るのも初めてだね。クリスタさん、だっけ?僕が『埋もれてない』じゃなくて、皆が僕に合わせてくれてるんじゃないかな?貴女も、一緒にいるメンバーは中々濃いと思うけど?」
 クリスタは桐生の問いに少しの間も開けずに答えた。
「そうでもないな。私が何のために眼帯をつけていると思っている。これがあればキャラが立つだろう」
 傷があるとか、そういう理由だと思っていた桐生は呆れたように苦笑する。
 仲が良いように見える桐生とクリスタを不機嫌そうに眺める藤崎に、横に座っていたルミーナが口を開いた。
「なーんか、恋音ちゃん機嫌悪いね。もしかして、あの眼鏡の男の人のこと……」
 途端に顔を赤くする藤崎。
 バッと一気にルミーナの方を向き、口を塞ごうとしたが、ルミーナの後ろからハクアが口を塞ぐ。ルミーナは突然のことに『んん!?』と目を大きく開けて驚いていた。
「……セーフ。これでいい、恋音ちゃん?」
「ふぅ……ありがと、ハクアさん」
 藤崎は溜息をつく。
 藤崎の桐生に対する感情を僅かに悟っているハクアが安堵の溜息をつくと、横からゲインが、
「やっぱ綺麗やわ。なーなー、ハクアちゃん。良かったら僕と連絡先でも……」
 ハクアがゲインの言葉を遮るように、彼の顔面を薙刀の柄で思い切り殴る。
 ゲインがその場でうずくまって悶える光景を見て、目が合ったメルティとエリザは笑みを零す。
 魁斗とザンザは未だに睨み合って言い合いをしており、レナとハクアはその二人を止め、桐生とクリスタは談笑をして、藤崎とルミーナは恋愛話で盛り上がり、ハクアはゲインを踏みつけている。
 そんな平和な光景を横目に捉えながら、フォレストは薬の瓶の整理をしている。
 整理をしながら、彼女は心の中で呟いた。
(……まったく、今まで対立してたことも忘れちまってますね。平和ボケしなけりゃいーですが……ま、たまにはこーゆーのも悪くないって思っちまうのは、まだ僕が戦いに慣れてないせいですかね……)
 フォレストは僅かに笑みを零しながらそう思っていた。
 そして翌日、魁斗達は天界から帰ることも。フォレストだけでなく、全員が何となく勘付いていた。

212竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/10/22(土) 00:38:24 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 魁斗達は、フォレストの小屋から出て、メルティに向こうの世界へと繋ぐ扉を出してもらい、扉の前に立っていた。
 帰るのは天界に来たメルティ以外の五人。
 扉を出すために出てきたメルティだけでなく、他のザンザ達、元『師を司る人形(デスパペット)』のメンバーもきていた。
 ザンザは言いにくそうに、溜息をついてから唇を動かした。
「オイ、天子。今回はお前らと共闘するかもしんねェが、忘れんな」
 ザンザは右の拳をスッと、前に差し出して、
「お前と俺は敵同士。これは変わっちゃいねェ。全て終わったら、俺はお前を潰すぞ」
「ハッ。『終わったら』なんて言わず、いつでも来いよ」
 余裕のつもりか、それもと修行相手になってもらうつもりか、または何も考えていないだけか。魁斗はそう答えた。
 それから、挨拶をするように魁斗はごく自然な動きで、ザンザの拳と自分の拳を突き合わせた。
 その様子を横目で捉えていたカテリーナは、レナに向かって呟くように言う。
「……実際、私の目標もレナさんなんだよねー」
 言葉に気付いてレナがカテリーナの方を向く。
 カテリーナは笑みを浮かべて、レナの手を握ると、言葉を続ける。
「私もザンザと同じで、レナさんのこと、ライバルだと思ってる!だから、私が勝つまで負けないで!」
 レナは『ライバル』と言ってもらえたのが嬉しかったのか、表情を綻ばせ数秒固まると、はっきりとした笑みを見せて、コクリと頷いた。
「カテリーナさんも。負けないでください!」
 桐生は小屋の中と同じように、クリスタと話していた。
 何故か気が合い、会話が弾んで仲が良くなったらしいのだが、どうもこのツーショットは有り得ないと思う。
「次は貴女達の力も必要になりそうだ。手を貸してくれますよね、クリスタさん」
「ああ、断る理由もないな」
 二人は力強く握手を交わす。
 二人には、それ以上の物は何も必要ない。言外にそう語っていた。
「じゃあね、ルミーナちゃん!何かあったら私達を頼ってね!すぐ助けにいくから!」
「……はい、じゃあ、また……」
 小さく手を降るルミーナに、藤崎は微笑み返す。
 ルミーナも小さく表情を綻ばせる。
 一方で、ハクアはいつまでも付きまとうゲインに嫌気が差していた。
 むしろ、嫌気が差さない人物を見て見たい気もするが。
「あー、もう鬱陶しい!何回断れば気が済むのよ!」
「だってぇー!連絡先だけやん!それぐらい教えてーなー!」
 このままじゃいつまで経っても、帰れない。
 ハクアは溜息をついて、譲歩したように、
「分かった。次の戦いで成果を挙げたら教えてあげる」
 ホンマ!?とゲインの目が眩く光る。
 やっと解放されたハクアは脱力している。
「……」
 魁斗は思い残すことの無いような表情で、最後に告げた。
「じゃあな、天界!!そして、皆も!世話になったぜ!!」
 魁斗の言葉を合図として、扉をくぐっていく。
 それは、戻るための一歩であり、未来へための一歩であり、戦いから解放される一歩でもある。

 それと同時に。この一歩は彼らを新しい戦いへと誘(いざな)う―――。
 そんな、激動の一歩。変動の一歩。死闘の一歩。
 これは、束の間の平和。束の間の休息。
 そして背後から、忍び寄るは
 『次ノ戦イヘト誘ウ、妖シク蠢ク死色ノ影也』

213竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/10/22(土) 12:41:50 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 魁斗達が住んでいる、天界で言うところの『人間界』。
 時刻は午後五時過ぎ。丁度学校も終わり、街には学生や晩ご飯の買い物に出かけた人の姿なども見える。
 住宅街の中にひっそりとある、幼児達が遊ぶような公園の上空から声が降りてくる。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!?」
 落ちてきたのは、魁斗だ。彼はうつ伏せに倒れ、起き上がろうとする前に、桐生、ハクア、レナ、藤崎の順でどんどんと魁斗の上に人が積み重なっていく。
 一番上で、特に何の重さもない藤崎は(まだ乗ったままだからレナの背中に)座って、辺りをキョロキョロと見回している。
 それから、公園の景色を思い出したように、
「あ、そーだ!ここ私達が天界に行くときに扉くぐった公園だ!」
 ぽん、と手を叩いて言う藤崎だったが、乗られている方からすれば、早く退いてほしいわけで。一番下の魁斗が何を思っているかは誰でも想像できるだろう。
「……藤崎さん……。と、とりあえず……まず降りて……」
 桐生が振り絞るような声で告げる。
 それから、藤崎は自分の下に皆がいたことに気付かないような顔を向けて、僅かに顔を蒼くすると、短い悲鳴を上げて、急いで人の山の頂上から降りた。
 やっと人のリアルな重みから解き放たれた魁斗は深い溜息をついて、藤崎と同じように辺りを見回す。
「……確かに、俺らが行くときに使った公園だな」
「ですね。誰もいなくてよかったです……。もしいたら……」
 空から降ってきて、後に出来上がった人間山を見られたら、恥ずかしくて外を歩けない。
 それに、魁斗と桐生はそれほどでもないが、レナとハクアは見た目的にかなり特徴があるし、藤崎はテレビに出てるアイドルだ。アイドルが人間山の一角を担っていると知れたら、流石に大変なことになる。
 ハクアは公園にある時計を見て、
「ねぇ、この時間って学校終わってるよね」
 午後五時過ぎ。
 確かに、六時間目までの学校なら終わっているだろう。部活動などならば、まだ続けているかもしれないが、大抵は恐らく帰っている。
「終わってるんだったらさ、行こうよ。あの場所」
 魁斗達は分からぬまま、ハクアの先導について行く。

 街に建っている、一つの家。
 一般的な二階建ての家で、住むのには充分すぎるほどの大きさが見た目だけでもありそうだが、とても大家族が住んでそうには見えない。そもそも、中から声が全く聞こえないのが、原因の一つでもあるだろうが。
 その家の二階には一人の少女が机で宿題のようなものをやっている。
 淡い茶髪に、首からネックレスのような物をぶら下げている、一人の少女。
 沢木叶絵。
 彼女の家は現在両親とも何処かに行っていて、彼女が家に帰ってもいつもと言っていいほど一人だ。親は滅多に帰らず、帰ったと思えば、気付いたらまたいなくなっている。それの繰り返しだ。
「……ふぅ」
 沢木は僅かに息を吐いて、ペンを動かす手を止めて、思い切り伸びをする。
 それから、天井を見上げたまま、考え事をしてみる。
(カイト君……みんな。大丈夫でしょうか……?私が行っても何も出来ないことは分かってる……でも)
 彼女の頭と心は色々は感情が渦巻いていた。
 だが、一際大きいのは、ただただ単純な『不安』だ。
 天界に行ったみんなのことを考えると、泣きそうになってしまう。そんなしんみりモードの沢木の耳に、

 ピンポーン!というインターホンが聞こえる。

 沢木は思わず椅子から落っこちてしまい、尻餅をついた。
 沢木は起き上がって、階段を降り、玄関の前に立って、扉を開ける。
 そこにいたのは、
「ほーら、やっぱいた。ね、来てよかったでしょ?」
 自慢げな表情のハクアに、そんな彼女に呆れ顔の魁斗達の姿があった。
 沢木は息が止まるかと思った。
「……あ……あ……」
 上手く言葉が出ない。
 一気に『不安』やその他の感情が消し飛び、彼女の頭と心にある感情が、皆がいるという『喜び』に変わった。
「サワ。んな顔すんじゃねーよ、今にも泣きそうじゃねーか」
 魁斗は頭をぐしぐし、とかいて、全員と目を合わせると、みんなの代表のように、一言告げる。
「ただいま」
 沢木は目から溢れる涙を拭って、泣きそうになる自分を必死に抑えながら、魁斗達に向かって、微笑みかける。
 彼女が告げる言葉も、ただ一言だった。
「おかえりなさい」


To be next stage...

214竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/10/22(土) 13:32:08 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
<小休止>

とうとう、長かった『死を司る人形(デスパペット)』との戦いも終わりを迎えることが出来ました!
レナと出会うところから初めて、色んな戦いを乗り越えて、魁斗達も心身ともに成長したと思います。

さあ、次の敵は『六道輪廻(ろくどうりんね)』になるわけですが、まだです!
まだ本格的に『六道輪廻編』が開始するわけじゃないんです!
実は、次から始まるのは、『十二星徒(じゅうにせいと)編』なんです。
『十二星徒』……。初めて出てくるキーワードでありますが、こいつらの正体は本編で!
それでは、ここで新たに始まる『十二星徒編』の予告であります!

平和が戻った魁斗達。
だが、次の敵『六道輪廻』がいつ動き出すか分からない。
そんな折、魁斗達の学校に二人の転校生!?
しかも、片方は見たことのある人物で、もう一人は魁斗にメロメロ!?
―――そして、天界である噂が。
謎の組織『十二星徒』。

十二星徒編、始。

215竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/10/22(土) 17:28:59 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第六十三閃「転校生フィーバー」

「おはよう、切原君」
 『死を司る人形(デスパペット)』との戦いから一週間が過ぎようとしていた。
 学校への道を欠伸をしながら、鞄を肩に担ぐ形で歩いている魁斗に桐生は後ろから声をかけた。
 天界から帰って来た魁斗達を待っていたのは、二日間の無断欠席という事で、生徒会長の久瀬詩織(くぜ しおり)からの説教だった。その説教を受けたのは魁斗、レナ、桐生の三人で藤崎は仕事でその日は学校を休んでいた。まあ、翌日に説教を喰らったのだが。
 桐生は魁斗の左右を見て、
「今日はレナさんか沢木さんは一緒じゃないのかい?」
 『今日は』ということは、いつも一緒にいるイメージでも定着しているのだろうか。
 レナは間違っていないのだが、沢木は学校で一緒にいるというだけである。
 魁斗は眠たそうにしながら、
「……サワは俺より先に学校についてる。今日はちょっと寝坊したから、レナも先に行ったよ」
「そろそろ、生活リズムを戻さないといけないんじゃないのかい」
 うるせー、と魁斗は悪態をつく。
 そもそも、戦いから一週間も経っていれば普通に生活リズムは整えられる。
 今日の寝坊の理由は、ただ単に昨夜遅くまでレナに勝つまでオセロをやっていただけである。結果的に0勝49敗となってしまった。
 魁斗と桐生は、学校の玄関に来て、靴箱のロッカーを開ける。
 すると、桐生の手が止まる。
 魁斗がロッカーの中を覗き込むと、二枚の封をしてある手紙が置かれてあった。
「それって、ラブレターじゃねーの?」
「……帰ってきてから妙に増えてね。しかも、学年もばらばらだ」
 桐生は溜息をついて、手紙を鞄の中へとしまう。
 とりあえず二人はそこで別れて、昼休みに屋上で集合ということになった。
 そこへ、ふっと深緑の髪をポニーテールにした女子と魁斗がすれ違い、その彼女が何かを落としたのを視界の端に捉えたので、魁斗がその女子を呼び止める。
「あの、すいません。ハンカチ、落としましたよ」
 魁斗が廊下に落ちたハンカチを拾い、すれ違った女子に声をかける。
 その女子は足を止めて、魁斗の方へ歩み寄ると、笑みを浮かべて答える。
「あら、どうもありがとうございました。母から貰ったものなので、とても大切にしているんですの」
 お嬢様口調で返され、僅かに面食らう魁斗だったが、魁斗は彼女に見覚えがあった。
 確か、二年B組の風藤五月(かざふじ さつき)。
 美化委員長を務めている、風藤グループの社長令嬢であるお嬢様だ。
 ほんのりと漂う香水の香りに圧倒されつつも、魁斗はハンカチを風藤へと渡す。
 風藤はお辞儀をし、顔を上げると、
「また会えるといいですわね。親切な後輩さん」
 優しく、温かい笑みを向け、去っていった。
 今まで、レナやハクアやメルティといった変な女が周りを囲っていたため、典型的なお嬢様に心が惹かれそうになる魁斗であった。

「転校生フィーバーだな」
 魁斗はレナと沢木と話しながら、窓の景色に目をやりながら呟く。
 レナと沢木は目を丸くして、硬直してしまった。
 それから勇気を振り絞るかのように、沢木が口を開く。
「あの、どういう意味ですか?」
「だって、つい最近レナも来たし。今回桐生のクラスとうちのクラスに一人ずつ来るんだろ?フィーバーじゃん、祭りじゃん」
 魁斗の微妙なテンションに顔を引きつらせるレナと沢木。
 レナは引きつった笑みを浮かべながら、
「ま、まあいいじゃないですか…。このクラスに来る人とも仲良く出来たらいいですね」
 レナがそう言うと、先生が入ってくる。朝のHRの合図だ。
 生徒が全員席へ着き、静かになると先生が口を開ける。
「えー、皆の耳にも届いてると思うが、今日は転校生が来ている。とても元気な子だ」
 すると、教室の扉が開き、転校生が入ってくる。
 桃色の髪に小柄な体型で、頭頂部からは先が渦を巻いているアホ毛が立っている。その姿がとても可愛らしい少女だ。
 その子は黒板に自分の名前を大きく書き始めた。
「……えーっとぉ、早乙女瑠璃(さおとめ るり)っす!!超乙女チック少女、瑠璃たん見参!仲良くしてちょ!」
 出だしからいきなり皆に引かれている。
 この瞬間、レナは魁斗に言った言葉を撤回したくなり、魁斗と沢木は関わりたくないと心の底から思ってしまった。

216竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/10/22(土) 22:10:16 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 授業中。
 一限目は現代文だ。本読み以外で当てられることはないので、授業自体は静かで、あまり勉強できない魁斗もホッと安心していた。
 転校生の早乙女瑠璃は魁斗の隣の席で一生懸命に版書をしている途中だ。
 すると、手の甲に消しゴムが当たり、消しゴムが下に落ちてしまう。
 それに気付いた魁斗は消しゴムを拾い、早乙女の方を向く。
「お前のか?」
 というか明らかに消しゴムを落としてしまった、的な顔をしているので、訊くまでもなかったが。
 魁斗は相手が差し出した手の平に消しゴムを置くと、
「気を付けろよ」
 それだけ言って、再び版書に移る。
 だが、早乙女の頬は僅かに赤くなっていて、ずっと魁斗を見つめている。
 彼女の心の中で、恋に落ちる音がした。
 今日の彼女の星座、おとめ座は。恋愛運が一位だった。

 一限目が終わり、思い切り伸びをする魁斗。
 休み時間になると、自然に魁斗の周りにレナと沢木が集まる。席も近いので、集まるより振り返るの方が正しいかもしれない。
 と、休み時間の休息を遮るかのように教室の扉の方から、聞きなれた声が魁斗達三人に届く。
「切原君、沢木さん、神宮さんはいるかい!?」
 神宮さん、はレナのこっちの世界での苗字だ。
 扉の方から、誰かがずかずかとこちらへ寄ってくる。
 声の持ち主は、桐生だ。
 彼は教室の距離が遠いわけでもないのに、息を切らしていた。
「……来てくれ」
 桐生は魁斗達に息を切らしながら告げる。
「とんでもない人が来たぞ」

 魁斗達は桐生のクラスに足を運び、例の転校生を見に来た。
 数秒、転校生の正体を知った魁斗達が硬直してしまった。
 何だか、すごく見覚えがある人物だった。
 淡いピンク色の髪をポニーテールにしている、茶髪の目つき悪い男といつも一緒に居るようなイメージが定着してしまった、
 カテリーナだ。
「何でお前がここにいるんだよッ!?」
 魁斗は思わず叫ぶ。
 教室中の注目を集めているが、今はそんなこと気にならなかった。今は何故カテリーナがいるかの方が気になったからだ。
 カテリーナは頭をかきながら、苦笑する。
「いやぁー、実はこっちにも色々事情があるのよ。とりあえず、話が長くなるから昼休みにさせてもらうけどさ」
 何だか煮え切らない魁斗だったが、説明するならいいか、と歯がゆい気持ちで昼休みを待つことにした。

 街中を、一人の少女が歩いていた。
 少女なのだが、何故か学ランを羽織り、制服は男物の制服を着用している。
 くすんだ金髪のその少女は照りつける太陽を睨むような眼光で、空を仰ぐ。
「……っくしょー」
 それから悪態をつくような口調で、ポツリと呟く。
「……まだあっちぃ。学ラン羽織るんじゃなかったぜ」

217竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/10/23(日) 11:20:34 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 授業中、藤崎恋音はいたって普通の生徒だ。
 学校に居る時だけは、アイドルという自身の職業も忘れ、周りの人と同じように授業に取り組み、友達と話したり、普通に食堂に行ったりもする。時折、授業中に目が合った時、微笑みかけるというサービス精神も忘れていない。
 最近の学校は楽しい、と思えるようになった彼女は、前までアイドルという肩書きだけで寄って来た友達と言えるかどうか分からない人じゃなく、ちゃんとした友達もクラス内にいる。
 藤崎が教室内の時計を見て、ポツリと思う。
(……あと十分、か)
 ポケットに入っている携帯が授業中に何度かバイブで震えていたため、恐らくマネージャーからの仕事の連絡だろう。後で確認しなければ、などと思っているところに、急に教室の扉が開く。
 入ってきたのは、くすんだ金髪に学ランを肩に羽織っている男子の制服を着た女子だ。目つきはかなり悪く、真正面で向き合っていると睨まれている感覚に陥りそうになる。
 藤崎はその少女を見つめながら、
(……なーんか、どっかで見たことあるよーな。気のせいかな……?)
 そう思いながら、隣の席の女子に小さい声で問いかける。
「……ねぇ、あの娘って誰?」
「ああ、恋音ちゃんは知らないか。國崎梨王(くにさき りおう)さん。恋音ちゃんが来たときに限って休んでた……って言っても通常でも結構休んでるけど」
 ふーん、と藤崎は相槌を打つ。
 それから、自分の席へ向かう國崎と目が合う。
 皆にするのと同じように微笑みかけるが、國崎は鼻で息を吐き、完全に無視した。他の人なら同じように笑みを浮かべていたのに、見た目が不良なのでそういうのは通じないのか、と藤崎は思う。
 授業が終わり、休み時間中に藤崎はずかずかと勇み足で國崎の席へと近づいていった。
 周りの生徒が驚きの声と止めるような声が聞こえるが、藤崎の耳には届かない。
 國崎の席に寄って、國崎が藤崎に視線を向けると、藤崎を唇を動かす。
「國崎さん、でいいよね?私、藤崎恋音っていうんだけど―――」
「だから何だよ」
 言葉が終わる前に遮られた。
 名乗ったところで別にどうということは無いが、名乗った後に手を差し出して、よろしくの握手でもしようとしてたのだが、真正面から計画が崩された。
 それでも、藤崎はめげない。
「えーっとね、その、仲良くしよう!みたいな感じで声かけたんだけど……」
「知るか。俺に関わってんじゃねーよ。ほら、周りも若干引いてるぜ?」
 國崎は藤崎に周りを見回してそう告げる。
 そんなこと藤崎はとっくに気付いている。だが、何故だか分からないが、藤崎は國崎と友達になりたいと思った。
 だからこそ、諦めずに声をかける。
「ねえ、下の名前……梨王ちゃんって呼んで良い?私の事も恋音ちゃんって呼んでいいからさ!」
 國崎は重い溜息をついて、席を立つ。
 怒ったんじゃ?と思い、クラスの皆が警戒するが、國崎は特に何もしようとせず教室の扉へと向かう。どうやらトイレのようだ。
 去り際に、國崎は藤崎に告げる。
「どーぞご勝手に。お前を呼ぶことなんかねーと思うけどな」
 藤崎は教室から去っていく國崎の背中を目で追いかけていた。
 そんな中で密かに呟く。
「……絶対諦めない!」
 その呟きを耳に入れてしまった一部の生徒はほんの一瞬、こんな思考が頭をよぎった。

『藤崎さんって、同性愛者なのかな?』と。

218ライナー:2011/10/23(日) 14:04:30 HOST:222-151-086-004.jp.fiberbit.net
コメント失礼します、ライナーです^^
新しい場面は入りましたね!
転校生か……この言葉で思い出すのが、学校とかに「転校生」か来るらしいと言う噂を聞いて、女子だと分かると何故か男子生徒が校内をウロチョロして後でガッカリする場面ですね(この前見た自分状況)^^;
しかも、凄い苗字ですね。自分もこんなカックイイ苗字が良かっt((殴
ではではwww

219竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/10/23(日) 14:10:03 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
ライナーさん>

はい、新章突入ですね。
この話で新キャラが三人、そして名前だけ出たのが一人ですね。
で、カテリーナを転校生とした理由は、さすがにザンザとエリザはないだろうな、と思いましたw
クリスタもそんなキャラじゃないだろうし…。
カックイイですか?名前は結構気を遣ってるので、褒めてもらえて嬉しいです^^

220竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/10/23(日) 15:07:14 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第六十四閃「十二星徒」

 昼休み。カテリーナは屋上のフェンスから手をかざして、街中の風景を眺めていた。
 おー、と感嘆の声を僅かに上げて、表情をほころばせている。
「いいなー、いいなー。カイト君達っていっつもこんな景色見ながらご飯食べてるんだー」
「カテリーナさん」 
 風景を楽しんでいるカテリーナの背後から、突如やや不機嫌そうな声が飛んでくる。
 振り返ると、そこに立っているのは飲み物とパン数個を持った桐生だ。
「おー、さんきゅー!」
 カテリーナは桐生の手から飲み物とパンを二つほど受け取ると、嬉しそうな笑みを浮かべて、座り込んでパンの袋を開ける。
 桐生もカテリーナと同じように座り込んで、
「……まったく、初めてだよ。転校生に購買に行かされたのは」
「じゃんけんで負けた方が買いに行くって納得したじゃん」
 カテリーナは頬を膨らませているだろうか、パンをくわえているため、あまり分からない。
 そこへ、更に魁斗とレナと沢木が屋上にやって来た。
「お、お前らもういたのかよ」
「僕はさっき来たばっかだけどね」
 沢木はちょこんと座ると、辺りを見回して小さく呟く。
「あれ、恋音ちゃんは?」
 そういえば、という顔で全員がはっとする。
 学校には来ているようだが、今日はまだ姿を見ていない。出来れば、カテリーナの話があるので、全員で聞いておきたいところだが。
「……藤崎さんには、後で僕が伝えておくよ。カテリーナさん、話してくれるかい?」
「……うん」
 カテリーナは口に含んでいるパンを、飲み物で一気に飲み干すと、ふぅ、と息を吐く。
 それから、魁斗達の方を向いて、告げる。

「忘れた」
 この後、カテリーナは魁斗にポニーテールを引っ張られ、桐生に頬をつねられるという悲劇が起こってしまった。

 一方で、藤崎は國崎の前の机の椅子を借りて、彼女と向かい合うような状態でサンドイッチを頬張っている。
 向かい合っている國崎は怪訝な表情で飲み物を飲みながら、藤崎に問いかける。
「オイ、お前いつまでそうしてる気だ」
「どーゆー意味?」
 首をかしげて問いかける藤崎に、國崎は苛立った感じで答える。
「だから、特に話すこともねぇのに、いつまで俺と向き合ってメシ食ってんだって訊いてんだよ」
 國崎の口調はかなり苛立っていた。
 その様子に教室にいる生徒はかなりビクビクしている。
 しかし、藤崎は全然怯える様子も見せず、
「だって、誰かと一緒に食べた方が美味しいでしょ?一人で食べるよりさ」
 ふふー、と笑みを浮かべる藤崎。
 それでも國崎の苛立ちは収まらない。この程度で収まるわけがない。
「何で俺に付きまとう?」
 再び首をかしげる藤崎。
「二時間目と三時間目の終わりの休み時間。それに今の昼休み。俺の返事が生返事でも、お前は常に楽しそうに声をかけやがる。理解に苦しむんだが」
「……友達になりたいの、梨王ちゃんと」
 國崎の表情が揺らぐ。
 まるで信じられないものを聞いたかのように、懐かしい人の声を聴いたように、真意を突かれる言葉を言われた時のように。
「何でかよく分かんないけど……直感で思ったの。気が合うって思ったかもしれないし、優しそうって思ったかもしれないし、私に無いものを持ってそうって思ったかもしれないし」
 國崎はずっと藤崎の言葉を聞いている。
「友達になろうって思うことに理由なんていらないよ。声をかけたら仲が良くなってることもあるじゃん?」
 藤崎はニッコリと笑いながら、國崎に言う。
 國崎はそんな言葉を聞いて、溜息をつく。呆れたような溜息じゃなく、やれやれといったような、そういう優しい溜息だ。
「……アホらしい。アイドルって皆そんななのか」
「ううん、多分私限定だよ」
「ぷっ。何だそりゃ」
 國崎は思わず笑ってしまう。
 今の彼女達を見て、友達じゃないと思うものは恐らく一人もいない。
 藤崎と國崎の間に、僅かな友情が芽生えた。

221竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/10/23(日) 17:44:30 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp

(……友達になりたいの)
(友達になろうって思うことに理由なんていらないよ)
 五時間目の授業中、國崎の頭の中に、藤崎の優しく暖かい言葉が何度も何度も再生される。
 國崎の席は窓側の一番後ろで、彼女は頬杖をつきながら、窓から見える外の景色をボーっと眺めていた。特に何も思うことはない。授業はつまらないし、ノートを写すのも面倒だし。ただただ上の空なだけだ。
(……友達、か)
 國崎は心の中で呟くように、言葉を続ける。
(……いいモンだな。そういうのも)
 表情には表さないが、國崎は笑みを浮かべそうになっていた。
 そこへ、窓の外に意識が集中している國崎に、現在授業を行っている数学の教師が國崎を指名する。
「おい、國崎。結構余裕だな。次の問題、ちょっと難しいが―――」
「3だろ?」
 相手の言葉を遮るように國崎は問題の答えを即答した。
 あらかじめ問題を解いていたわけでも、答えをしっていたわけでもない。
 ただ彼女は、一瞬問題を見てそれからすぐに答えを導き出しただけのことだ。
 こんな性格だから色々勘違いされているが、彼女は実は勉強が出来る子なのだ。
「すっごーい!!」
 チャイムが五時間目終了の合図を告げる。
 それと同時に大声を出して國崎に近づいてきたのは、言うまでも無く藤崎だ。
 先ほどの数学での即答でビックリしたのか、藤崎は目を光らせて彼女を見つめている。
「すごいね!梨王ちゃん、勉強できるんだ!私理数系だけは駄目なんだよねー」
 はは、と苦笑してみせる藤崎。
 國崎はそんな藤崎に応じるかのように僅かに笑みを浮かべて、
「まあ理数系だけが出来るわけじゃねぇ。この前英語の小テストあったろ?アレ、俺満点だったし」
「すごいすごい!!ホントに頭良いんだ!!」
 藤崎はあまりの感動で我を忘れ、國崎の肩を掴んでがくがくと前後に揺さぶる。
 國崎は激しい揺れに襲われ、藤崎に止めるように促すが彼女は全く気付いていない。

「……だぁー」
 脱力した声とともに、魁斗は机に突っ伏す。
 傍らでレナと沢木が苦笑しているが、魁斗は対して気にしていないようだ。
「……結局カテリーナが内容を忘れたせいで放課後ザンザに連絡するまで先延ばしかー。ああ、歯がゆいー!!」
 魁斗は妙にむしゃくしゃしている。
 この調子だと、五時間目の授業は対して頭に入らなかったことだろう。
「まあ、気長に待ちましょうよ。あと、一時間ですし……」
 沢木は魁斗を慰めている。
「……ですが、気になりますね。今何が起こってるのか。もしかしたら『六道輪廻(ろくどうりんね)』が動き出したかもしれませんし……」
「ああ、有り得るな」
 魁斗達は心の準備をして、放課後を待つことにした。
 桐生は教室で隣に座っているカテリーナに問いかける。
「本当は忘れてなんかないくせに」
 含み笑いをして、楽しそうに誤魔化すカテリーナ。
「だって、どーせ話すならさ、恋音ちゃんもハクアさんも居た方がいいでしょ?」
「それだったら、後で連絡するって言ったじゃないか」
 それじゃ駄目なの、とカテリーナは断じる。
 指先でペンを弄びながら、言葉を続ける。
「ちょこーっとややこしいからね。私が口頭で全部説明した方がいいのよ」

222竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/10/28(金) 23:55:00 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 学校が終わってから、魁斗達は別クラスの藤崎、桐生、カテリーナと合流する。魁斗とレナと沢木は同じクラスなので合流などは必要なかったが、何故か走り回った後のように三人の表情は疲れ切っている。
 その三人に、桐生達は首を傾げるが、とりあえず駅へと向かう。
 駅で何かするわけでも無いが、一応カテリーナがここでザンザに電話をするために立ち寄ったらしい。実際は、本当に伝えるべき内容を忘れていた。色々伝えなければいけない、ということは辛うじて覚えていたらしいが。
『アホかァ!!』
 電話越しにザンザの怒鳴り声がカテリーナの耳を突き刺す。
 カテリーナの前に立っている魁斗達も少々耳を傷めたため、耳元で聞いていたカテリーナの鼓膜は大丈夫だろうか、と本気で心配になってくる。
 カテリーナは慌てた様子で電話の応対をしている。その大変さは、彼女の連続でしているお辞儀で何となく分かる。
 終わったのか、彼女は携帯電話を仕舞って軽く息を吐いた。
「で、今天界で起こってる事はね、ある組織が動き出した。その名は『十二星徒(じゅうにせいと)』。十二星座って知ってるよね?その星座一つ一つを司る者達のことよ」
 カテリーナの声色が突然変わる。
 学校で聞いた、飄々とした天真爛漫な声ではなく、戦いに長年身を投じているような、貫禄のある戦士の様な声だ。
 カテリーナは続けて、
「詳細は不明なんだけどね、天界では何度か騒がれているのよ。出てきては消えるイタチごっこで、目立った被害がないんだけど……レナさんなら知ってるでしょ?」
 カテリーナの問いにレナはコクリと頷く。
「私も何度か耳にしたことはあります。何がしたい集団なのか分からない、とか」
「そう。今回も……って言いたいトコだけど、エリザ様の考えが、カイト君にあるんじゃないかって思ってるのよ」
 全員の視線が魁斗に集中する。
 そう、かつてはカテリーナやザンザも彼の命ではなく、彼の中にある『シャイン』という未だ謎が多く残されている物質を狙っていたからだ。元敵であるエリザらしい着目であるとも言える。
 桐生は、眼鏡を上げると、
「でも、敵も生半可な奴じゃないはずだ。天界での僕らの戦いは知っているだろうし、それこそ今まで小規模な被害を起こさなかった半端な連中ばかりじゃないだろうね」
 藤崎も軽く頷く。
 沢木は胸の辺りで右手で左手を包み込むように握り締める。
「……このこと、ハクアさんに言わなくていいんですか……?」
「実はね、ここで召集してないって言ったらあとでエリザ様が話してくれるって」
 そのことに一応安心する沢木。彼女もハクアの強さは知っている。彼女がいれば、心強い事は間違いない。
 すると、状況を見計らったように、一人の人物が現れる。

「お?カイト君じゃまいかー!!」

 途中で国名を挟まれたが、魁斗とレナと沢木にはこの声はとても聞き覚えがあった。
 今の状態なら誰か即答できる自信がある。
 桃色の髪に小柄な体型、頭頂部に先が渦を巻いたアホ毛が立っている、超乙女チック少女の瑠璃たんが見参してしまった。
 今の会話を聞かれていないだろうか、と思う魁斗達だがその悩みは一気に解消する。
「もー、いつの間にか校舎からいなくなるしぃー!帰ってたんだ!皆カイト君のお友達ー?」
 瑠璃はレナと沢木以外に視線を向ける。
 あの会話を気にする様子は無いため、恐らく聞かれていない。
 にしても、最初魁斗達が疲れていたのは、追跡する彼女を撒く為に体力を使い果たしたからだった。三人が逃げるために、三人が力を合わせて、結局全員が疲れてしまった。
「あ、恋音ちゃんだー!私ファンでね、CDも持ってるんだー!サインとかしてもらっていいかなー?」
 藤崎も少々驚きながらも、サインをする。
 ここでも芸能人である事は忘れていないようだ。
 桐生は話がコロコロと変わっていく彼女を見て、息を吐く。
「……誰だい、彼女は?酷く絡みにくい娘なんだけど……」
「うちのクラスに来た転校生だよ」
 魁斗が疲れきった声で返す。
 聞いたら殴られそうだが、何だか彼女は魁斗にご執心のようだ。
「……で、彼女は何で切原君に興味を持ってるワケ?」
「あ、やっぱり聞きます?」
 レナの声も疲れきっていた。
 魁斗は早乙女に抱きつかれて、完全にホールドされ、今にもお持ち帰りされそうな雰囲気だが、そこは無視してレナは説明をする。
 
 発端は、現代文の授業の時だった―――。

223竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/10/29(土) 12:48:31 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 一時間目の現代文の授業中、魁斗は隣の席に座った超乙女チック転校生早乙女の消しゴムを拾ってから、隣の席から熱い視線を送られていた。
 それが気になって気になって仕方が無いのだが、早乙女の方を振り返ると、彼女は凄い勢いで顔を逸らす。その光景からして『こっち見んなよ』などと言える程魁斗は勇気がない。
 結局一時間目は隣からの視線を気にしながらも、何とか乗り越えた。
 一時間目終了後にレナと沢木が魁斗の机に集まるより早く、早乙女が口を開いた。
「……あ、あの!」
 その声に魁斗は振り返る。
 レナと沢木も着いた直後に早乙女の方へと視線がいっている。
 早乙女は顔を赤くして、少々俯きながら、唇を動かす。
「……さ、さっきはありがとうございました……。
 ああ、と何とも曖昧かつ適当な返事を返す。
 レナと沢木から『さっきって?』と聞かれれば、消しゴムを拾ったことと説明をする。
「……よ、良かったらお名前を……」
「切原魁斗」
 何となく相手の言うことが分かったのか、魁斗は途中で遮って悪いと思いながら自分の名前を告げる。
 次に、早乙女は携帯電話を取り出して、
「連絡先を、交換していただけますか!?」
 やたらと押してくる相手に少々戸惑いながらも魁斗は携帯電話をポケットから取り出す。
 それから連絡先を交換し、早乙女は魁斗の手を握って、
「か、カイト君ですね!えと、あの……」
 何だか上手く言葉が紡ぎ出せない(ように見える)相手に魁斗は苦笑して、
「……そんなかしこまらなくても……気軽にいこうぜ、早乙女」
 その言葉に余計に顔を赤くして早乙女は魁斗に顔を近づける。
「ありがとう!カイト君!」

「それから、一時間目が終わるたび、話をかけられています。席が隣だというにも関わらず、メールがほとんど毎回来てますし」
 それを聞いた桐生はどう反応していいか分からなかった。
 同情すべきか、労るべきか、励ますべきか、慰めるべきか、応援すべきか。彼は指で眼鏡を上げ、
「まあ……いいんじゃないかな、そういう娘も。少々異常だけど……」
「少々か!?席が隣なのにメールが来るのは充分可笑しいだろが!!」
 魁斗は抱きついている早乙女の顔を押しながら、桐生に叫ぶ。
 早乙女は顔を押されながらも、あることに気がつく。
「そーだ!私そろそろ帰らなきゃ!丁度駅がそこだし、じゃあまたね!」
 結局彼女が去った後は騒がしさが残った。
 腕時計を確認した藤崎も『あっ』と声を上げて、
「私も!今日雑誌の取材があるんだった!じゃあ、来れたらまた明日ね!」
 藤崎も軽く手を振って、駅の中へと走っていった。
 残った魁斗達は息を吐いて、
「じゃあ俺達も帰るか。つーか、カテリーナは泊まるアテとかあんの?」
 すると、カテリーナはきょとんとした顔で魁斗を見つめる。
 というか、突然予定を変更されたような目だ。
「……何だよ」
「いや、カイト君。泊めてくれるんじゃないの?」
「いつ俺が泊めると言いました!?」
 カテリーナは魁斗が泊めてくれる前提で来ていたため、泊まる場所などない。魁斗の家もレナがいる時点で既に結構いっぱいいっぱいだ。
 桐生に助けを求めたが、彼も『女性と一緒に住むのは抵抗がある』と断る。
 ぎゃあぎゃあと言い合う魁斗達に沢木は、小さく手を挙げて、声を上げる。
「……あ、あの。カテリーナさん。私の家でよければ……」
 沢木の僅かな勇気で場は収束した。
 
 というか、ザンザやエリザも『カイト君なら泊めてくれるっしょ』などと思っていたのだろうか。

 建物の屋上で、一人の人物が携帯電話を耳に当て、話している。
 長い黒髪に、右耳にピアスをしているスタイルのいい女性だ。
 彼女は、天界の住人でレナと親友のハクア。カテリーナの言ってた通り、エリザはハクアに連絡していたようだ。
「……なるほどね。つまり私達は『六道輪廻(ろくどうりんね)』より先に『十二星徒(じゅうにせいと)』をどーにかしないといけないワケか……分かったわ。また、何かあったら連絡ちょうだい」
 ハクアはポケットに携帯電話をしまい、ピアス状の剣(つるぎ)を発動し、薙刀の剣(つるぎ)の上に椅子に腰をかけるような体勢で乗る。
 それから空に飛び立って、
「……カイト君達にはカテリーナさんがついてるっぽいし、まあ安心か。にしても、彼といるとホント退屈しないのねー」

224竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/10/29(土) 19:15:21 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第六十五閃「沢木叶絵とカテリーナ」

「おおー!」
 沢木の家に入ったカテリーナは思わず感嘆の声を上げる。
 二階建ての大きめな家。だが、いるのは沢木一人で父親と母親はいない。親は帰ったと思えばまた何処かに行ってしまう、その繰り返しだ。そのため、沢木は親とまともに会話をしたことがない。
 カテリーナは沢木に出されたスリッパを履いて、部屋の中へと入る。
「へー、いい家ね。ここに住んでるの?」
「はい。私の部屋以外は空いてるので、好きに使ってくれていいですよ」
 その声にカテリーナは止まる。
 先ほど説明があったが、カテリーナは彼女の親が家に帰っていないことを知らない。
 そのことを沢木から知らされたカテリーナは、目に涙を浮かべて、沢木を抱きしめ始める。
「ッ!!!???」
 いきなりのことで、上手く頭が働かない沢木。
 それもそのはず。話し終わったら聞いていた相手が涙を堪え、急に自分を抱きしめ始めたのだから。
「あ、あの!?カテリーナ……さん?一体……」
「辛いでしょ?今まで寂しかったでしょ?よし、今は存分に泣きなさい!私がこの胸で受け止めてあげる!!」
「え、えーと……」
 これは説明しても無駄だな。そう判断し、沢木はカテリーナのホールドが終わるまで目を閉じていた。
 不思議なもので、嫌な気分は全くせず心が温まり、安らぐ。自分に姉がいて、今一緒に住んでいたらこんな感じだろうか、と沢木は考える。
 沢木の悲しさと寂しさ(カテリーナの勘違いだが)を汲み取ったカテリーナは沢木の部屋で過ごすこととなった。
 が、事件は夜に起きた。
「ちょ、カテリーナさ……大丈夫ですよ……私が床で……」
「いいのいいの!沢木さんはベッドで!しかも、沢木さんが『一緒に入りましょう』なんて言うから……めっちゃ狭いし」
 現在、沢木の部屋にある一人用のベッドで沢木とカテリーナは寝ていた。
 と言っても、一人用を無理矢理に二人で使っているため、ベッドの中は結構窮屈だ。それを見越してどちらかが床で寝るか揉めていたのだが、どっちも譲らず結局二人で入ることとなった。
 カテリーナとしては、泊めてもらっているし、お風呂も先に入らせてもらったし、晩ご飯の片付けもしてもらったし、居候らしいことを何一つ出来ていないので、むしろ床で寝かせてほしいのだが。
 ここは一応、カテリーナが沢木を壁側に寝かせ、自分が落ちやすいベッドの際で寝ることにした。
 翌朝、カテリーナが落ちていた事は言うまでも無い。

 天界。
 通称『迷いの森』にある薬剤師の小屋で、三人の人影が見当たる。
 一人は肩くらいまでの黒髪に、ショートパンツとニーソを履いている見た目の歳相応の格好をしている、小屋の家主であるフォレスト。
 二人の内一人は、右目に眼帯をし、黒い髪をポニーテールに纏めている十八歳前後の女、クリスタ。もう一人は茶髪に長い前髪で右目が隠れている青年のザンザだ。
 二人は、フォレストから瓶をいくつか受け取ると、小屋を出る。
「……案外すんなりと協力してくれたな。まあ、こっちとしてはそれで大助かりだが」
「まあな。相手の強さが分かんねェし、向こうも天子と知り合いなら狙われない可能性もゼロじゃねェ」
 身の危険は感じてるってことだ、とザンザが付け足す。
 クリスタが鼻で息を鳴らし、腕を組む。
「どう思う?カテリーナはちゃんとやっていると思うか?」
 クリスタの質問にザンザは不機嫌な表情になる。
 カテリーナが嫌いなワケではないが、彼の不機嫌さは調子を狂わされたようなニュアンスの不機嫌だ。
「知るかよ。ま、俺がやるよりは上手くやってんだろ。俺だったらすぐに天子と衝突するだろうしなァ。アイツは意外とホイホイ懐きやがるから、心配はいらねェよ」
 言い終わると、クリスタの表情に悪戯っ子のような笑みが宿る。
「そうかそうか。お前がエリザに天界との中継役でお前を選んだ時に拒んだのは、天子と衝突するからか」
 真意を疲れたザンザはクリスタを睨む。
 が、クリスタは笑みを浮かべたまま、ニヤニヤしている。
「う、うるせェ!理由はどうだっていいだろが!とっととエリザ様んとこ戻るぞ!」
 ザンザはずかずかと進んでいく。
 足取りが何故か早く感じ取られ、クリスタは親のような目線でザンザを見て溜息をついている。
「……意外と可愛いとこあるじゃないか」
 クリスタは小さく呟いてザンザを追う。
「ちなみに、お前逆方向だぞ」
「あッ!?真顔でついて来ずに言えよ!!」

225竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/10/30(日) 11:32:49 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 あるアパートの一室。
 その部屋にいる人物は日が暮れ始めるまで電気は点けない、という節約を心がけた信念を持っており、今は電気が点いていない。そのため、テレビの光が妙に明るく感じられるくらいだ。
 アパートの住人はテレビを食い入るように見ている。
 今はニュース番組の占いのコーナー。住人が、毎日欠かさずチェックしているコーナーだ。
『今日の一位はおとめ座のあなた!今日は気になる異性と急接近できるかも!ラッキーアイテムは新品のアクセサリーです!』
「にょ!」
 住人は自分の星座が壱位だったことに反応し、ラッキーアイテムを探し出す。
 偶然、新しいアクセサリーがあったりするのだ。
「……むむー、これは自分の初デートでつけるつもりだったんだけど……。でも、チャンスを逃すワケにはいかない!」
 住人はピアスを取り出して耳につける。
 それから朝ごはんを食べ、歯を磨き、顔を洗い、制服を着て、念入りに鑑で自分をチェックしている。
 ピンク色の髪に、ちょこんと立ったアホ毛が気になるが、チャームポイントとしてそのままにしている。
「うしっ!今日も私は乙女チック全開だぜー!」
 乙女チック全開の少女は、今日も勇んで学校へと向かう。
 
 カテリーナがベッドから落ちた日、つまりこっちの世界に来た翌日の昼休み。カテリーナ達は魁斗達を集めて校舎裏で話していた。
 昨日の話で何となく分かっていたが、今日は休み時間中ずっと追い回されていたらしく、魁斗はレナに肩を貸してもらう形でぐったりしている。
 その様子に全員は最初引いていたが、カテリーナが咳払いをすると、話しに集中する姿勢に変わる。
「……さっき電話があったんだけど、いきなり進展があったわ」
「……『十二星徒(じゅうにせいと)』か……」
 魁斗は消えてしまいそうな声で問う。
 一応返事をしておいたカテリーナだが、『カイト君はちょっと黙ってて』と冷たいながらも相手を気遣う。
「進展って……天界でエリザちゃん達が戦ったってこと?」
 藤崎の言葉にカテリーナは言葉を詰まらせる。
「へ、えーと……そういう進展じゃなくって。見分け方……かなぁ?」
 見分け方?と沢木は首を傾げる。
 いまいちよく分かっていないメンバーに説明するように、カテリーナは続ける。
「うん。ルミーナさんと一緒に行動してるゲインさんが手に入れたらしくてね、『十二星徒(じゅうにせいと)』は性別関係なく自身の司る星座のマークをかたどったアクセサリーをつけてるらしいの」
「そんなこと言ったって、見た目じゃ分からないよ。十二星座全てのマークを覚えてるわけじゃないし……」
「それもそうなんだけど……」
 説明したカテリーナが申し訳なさそうになる。
「それも十二人いるし……見つけ出すのに困難なのは変わりないよ」
「ですが、一人見つけて倒せば相手も攻撃してくる可能性が高まります。何にしても一人見つけ出せば後は楽になる可能性もありますよ」
 藤崎の言葉にレナはそう返す。
 真剣な作戦会議の場に、招かれざる客が乱入する。
「あー!カイト君みーっけ!」
「ッ!?」
 肩を貸してもらっていたぐったり魁斗が肩を大きく震わせ、顔色が悪くなる。
 ものすごい勢いでこっちへ走ってくる乙女チック少女早乙女。
 魁斗は肩を貸してもらう体勢をやめて、すぐさま走り出す。
「レナ、五時間目まで戻ってくる自信ねぇから……早退したことにしといてくれ!!」
 魁斗が自慢の脚力で逃走を開始する。
 それに負けじと、残ったレナ達を横切って早乙女は走り去っていく。
 そこで、沢木は早乙女の耳に何か光る物を垣間見た。
「……!」
 沢木は早乙女が見えなくなるまで、背中を目で追っていた。
「はー、カイト君も大変ね」
「昨日の話聞いてたら、何となく分かってはいたけどね」
 カテリーナは溜息をついて同情し、藤崎は苦笑いを浮かべて労る。
「……沢木さん?」
 すると桐生が沢木の微妙な変化に勘付いたのか、声をかける。
 沢木は、震える唇を動かす。
「……あった」
 沢木の小さな声に全員が反応を示す。
 何があったのか、聞く前に沢木が答えを言う。

「……、早乙女さんの耳に、おとめ座のマークのピアスがあったんです!!」

226そら ◆yC4b452a8U:2011/10/30(日) 11:40:16 HOST:p180.net112139158.tokai.or.jp
初めまして、こんにちは。
文章力が凄いですノ読みやすいし、面白いですノ
これからも頑張ってくださいノ応援してます。

227竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/10/30(日) 11:51:02 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
そらさん>

コメントありがとうございます!

もう大分進んじゃってますが……。
褒めてくださって嬉しいです!たまにごちゃって読みにくくなることもあると思いますが……。

はい、これからも頑張らせていただきます^^

228ライナー:2011/10/30(日) 16:42:18 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
コメント失礼します、ライナーです^^

いきなし『十二星徒(じゅうにせいと)』一人目見つかっちゃいましたね。
後が楽d((殴
展開の切り替えもだいぶ上手くなってきたと思います。
しかし、展開の遣り取りがあまり意味のあるものだと思えないので、主人公視点以外のギャグの使用は控えた方が良いですね。

ではではwww


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