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ここだけ能力者達の物語投下所part1

1管理者 ◆uWNBJr8dA2:2017/05/04(木) 23:06:46
作品投下所です。

【作品名】こちらに掲載する話のタイトルを。無ければ空白でも。
【元スレ名】こちらには舞台になるスレの名前を。複数あるならそちらも記載。
【注意事項】描写等に注意事項あれば。グロ注意等。

各自好きなように物語を書いて頂いて結構です。

あなたのキャラだけが物語に登場する訳ではないかもしれません。
他者のキャラを物語上に使用する時は悪意のある使い方をしない事。
もちろん、話の都合上扱い方が雑になる事もあるでしょう。
そうした方が面白い話が書ける事もあるでしょう。
もちろん、投下した方が何のキャラをやっていたかなんて書く必要はありません。
しかし、他の人のキャラを扱う時は良識ある使い方をしてあげてください。
気になるなら注意事項に書いてあげてください。

不快になる作品は見なければ良い。
但し、不快になる人がいるかもしれないと思うなら注意書きを。

なりきりスレまとめwiki:現在更新停止中の様です。
ttps://www16.atwiki.jp/ikutomisan/pages/1.html

2名無しさん:2017/05/10(水) 09:53:59
【作品名】包帯男の過去
【元スレ名】ここだけ平行世界、ここだけ世界の境界線
【注意事項】現在の境界線の設定と異なる部分があると思います。

とある世界があった。文明はあまり発達しておらず、大部分が砂漠、現代の基準からみたら古代文明と同等といったところか。この世界にも能力者は存在するが、数が少なく一つの一族に一人の能力者しか存在できない程であった。また、能力は代々受け継がれていくものであった。
この世界にある一族の一つ、紫の一族。能力を使った怪物退治を生業としている一族だ。この一族に伝わる能力は【光の右目】(ライトアイ)と呼ばれるもので、右目に宿り、右半身に光を纏いそれを変化させて戦うというものだった。この能力は、一族の男児が16歳になったら父親から継承されることになっている。それは強力な能力で、カノッサ機関や様々な組織に狙われることも多々あった。だが彼らは強く、能力を取られることは無かった。そんな一族に、一人の男児が生まれる。

男児の名は紫狼。紫狼は生まれた時から元気が有り余っているといった雰囲気で、父親の紫越(しえつ)、母親の紫桜(しおう)も手を焼くやんちゃな子へと成長した。

紫越「紫狼っ!何をやっておる!」

紫狼「うっせぇ!ハゲ!」

紫狼のイタズラに怒声を飛ばすこともしばしばあった紫越。そんな紫越を紫狼はあまり好きでは無かった。だが、【光の右目】には興味を示しており、早く使いたいと思っていた。
ーー時は過ぎ、紫狼の16歳の誕生日。この日に能力継承の儀といったものを行う決まりだった。

紫狼「めんどくせぇーさっさと能力使わせろよ。こんな形だけの儀式に何の意味があんだよ?」

紫越「ぶつぶつ言うな。始めるぞ。」

祭壇で儀を行う二人。だが、紫狼は心底退屈そうだ。紫越は、そんな紫狼に能力を継承するのを少し不安に思うが、自分の息子を信じれないなど父親失格だ。そう考え直し、紫狼に能力を継承する。

紫狼「へへっ!ついに念願の能力を手に入れたぜ!」

紫越「……調子に乗るでないぞ。その能力は傷つけるための物でない、一族を守る物だ。いいか、能力者としての誇りを忘れるな。」

紫越はいつも、口癖のように言っている。一族を守るための誇り高い能力だと。紫狼はこれにうんざりしており

紫狼「分かってるって。親父は心配性だな。俺にかかりゃ、パニック股間とかいう奴等も敵じゃないっての!」

紫越「カノッサ機関のことか?奴等には手を出すな。奴等はそもそも……」

紫狼「はいはい、わかったって。んじゃ、俺ちょっくら能力を試してくるぜ!」

話を聞かずに祭壇から出ていく紫狼。完全に調子に乗っていた。

紫狼「来やがったな!カニミソ機関!」

祭壇を出て、砂漠の方へ向かった紫狼の目の前に現れたのは、以前から【光の右目】を狙っていたカノッサ機関員達だった。彼らは、紫越を倒すのは難しいと判断し、能力を継承するこの日を調べ、能力の扱いに慣れていない紫狼を狙う計画を練っていたのだ。

機関員「光の右目!今日こそ貰うぞ!」

紫狼「やってみやがれ!発動、光の右目!!」

光を纏った右手で殴りかかる紫狼。だが、機関員はそれをヒラリと避ける。

紫狼「ちっ!避けてんじゃねえっ!」

再び右手で殴りかかるが、それもあっさり避けられる。それもそのはず、紫狼の攻撃は、紫越に比べて大振り過ぎるのだ。

紫狼「ちくしょう!なんで当たんねぇんだよ!?」

機関員「やはりこの程度か。予想通りの弱さだ。いや、予想よりも弱いな。終わりだ!」

侮辱の言葉と共に、機関員の攻撃が放たれる。それは、対能力者用のネットだ。

紫狼「くそっ!離しやがれっ!!」

紫越「紫狼っ!」

騒ぎを聞き、父親の紫越が駆けつけたが、時すでに遅し。機関員は紫狼に催眠ガスを浴びせ、静かにすると異世界への扉を開き、何処かへと去って行ってしまった。

紫狼「親……父……」

紫越「紫狼っ!!紫狼ーーーっ!!」

3名無しさん:2017/05/10(水) 09:56:43
目が覚めた紫狼は、何処かの世界のカノッサ機関の研究所にて拘束されていた。

紫狼「う……ここは……?」

機関員「これから死ぬ奴に知る必要は無い。」

紫狼「てめぇは!おい!俺をどうするつもりだ!?」

機関員「さっきも言った筈だ、これから死ぬ奴に知る必要は無い。」

壁に繋がれた紫狼の前には、細長い透明な筒のついた妙な機具を持った機関員の姿があった。機関員は、それを紫狼の右目に近づけると……

紫狼「ぐああああっ!?」

なんと右の眼に入り込み、能力の宿った右目を抉り取ってしまった。そして、紫狼はあまりの痛みに再び気を失う。

気がつくと、今度は牢獄のような場所。辺りには横たわる人の姿が。紫狼は声をかけようと、それに近づく。

紫狼「おい!あんた、大丈夫かよ!?おい!?……こいつ、死んでる……」

だが、既に息絶えていた。どうやらここは、必要の無くなった生物の処分場のようだ。

紫狼「マジかよ……俺、死ぬのか……?」

自分もこうなるのかと、今までの行いを後悔する紫狼。

紫狼「親父の言うことを聞いて、機関員からすぐに逃げればよかったんだ……俺が、調子に乗ったせいで……」

絶望する紫狼。そんな時、新たに処分場へ運ばれて来た能力者が居た。いや、能力猫と言った方が正しいだろうか。その猫は、開かれた扉から処分場へ向け投げ込まれた。
全身に包帯を巻き、その包帯が蠢いているという奇妙な猫だ。だが、今にも息絶えそうだった。恐らく、生物兵器として連れてこられたが、コントロールが難しく廃棄処分となったのだろう。

紫狼「こいつ……能力が使えるのか……」

一目でわかった。こいつの能力で助けて貰えば、そう考えたがこの猫は動ける状態ではない。

紫狼「おい、猫!動けないのか、おい!……駄目か……くそっ!能力さえ、能力さえ使えたら!」

こんな時なのに、昔近所の悪ガキと喧嘩し負けた時に、同じような台詞を言った事を思い出してしまった。

紫狼「なんでこんな時に……走馬灯って奴か……?あの頃は早く継承の日来いって思ってたな……いざ来てみたら……こんなことになったなんてな……」

最早諦めかけた紫狼だったが……

紫狼「待てよ……継承……そうか、その手があったか……」

この猫の能力を自分が継承し、使用すれば……そうすれば、この絶望から脱け出せる。継承可能な能力なのか分からないが、最早それに賭けるしかない。そう考え、猫に話しかける。

紫狼「おい!猫、聞いてくれ!このままじゃお互いくたばっちまう!でも、俺があんたの能力を使えば逃げ出せるかも知れねぇんだ!頼む、協力してくれ!」

だが、猫は答えない。先程までの紫狼と同じで、最早諦めているようだ。

紫狼「……どうしても駄目なのかよ。俺は能力を取り戻したいんだ。そして、元の世界へ帰りたい。あんたには、帰りたい世界はないのか?飼い主がいるんじゃないのか?
諦めんなよ!能力者としての誇りを忘れんなよ!家族を守る為の能力だろ!?」

いつも紫越が自分に言っていたように、紫狼は猫に向かって言った。

猫「……」

その思いが通じたのか、猫はそっと紫狼に触れる。すると、紫狼の腕に猫に巻かれている包帯と同様の物が現れた。

紫狼「サンキュー……猫。これなら……」

能力【ストレンジ・バンテージ】を手にした紫狼。その狙いは、時々見回りに来る機関員。そいつが鍵を持っていることは、猫が投げ込まれた時に確認済みだ。その機関員を倒せば……
やがて、見回りの機関員がやってくる。紫狼と猫は、死んだフリをし、その機関員を油断させようとする。尤も猫の方は実際に死にかけているが……

紫狼「……」

見回り「くたばったか……?」

本当に死んだか確認しようと牢獄へ近づく機関員。今がチャンスだ。

紫狼「今だ!バンテージ・ウィップ!」

包帯は牢獄の隙間から飛び出し、鞭のように機関員を打つ。たまらずその場に倒れた。ここからは簡単だ。包帯で持っている鍵を奪い取るだけ。

紫狼「あった!鍵だぞ!」

鍵を奪い取り、直ぐ様処分場から脱出する。能力を取り戻したいが、命の方が大切だ。途中、機関員に見つかるが戦闘員ではなく研究員だったため、難なく撃破。一人と一匹は無我夢中で走り抜ける。

4名無しさん:2017/05/10(水) 09:57:27
気がついたら、岩と砂が溢れる世界であった。だが、紫狼の出身世界ではない。

紫狼「……助かった……俺達助かったんだ!!」

この世界で見つけた病院の屋上で、歓喜の声をあげる。空には星が広がっている。紫狼も猫も助かったのだ。

紫狼「サンキューなマジで助かったよ。あんたがいなけりゃ、俺は今頃……とにかく、助かったよ猫。って、いつまでも猫ってのも駄目だよな。よし!お前は今日からマウだ!」

マウは嬉しそうに紫狼に擦り寄る。紫狼がマウに感謝しているのと同じように、マウも紫狼に感謝しているのだ。

紫狼「……なあ、一緒に機関と戦ってくれないか?俺は無能力者になっちまったから、戦う術が無いんだ。お前もまた機関に狙われるかもしれないし、悪い話じゃねぇと思うんだけど……もちろん、無理にとは言わねぇ。」

当たり前だ、とでも言うかのようにマウは紫狼の肩に飛び乗った。

紫狼「……サンキューマウ。そして、よろしくな俺の相棒。」

こうして、二人と一匹の物語は始まったのであった。

5名無しさん:2017/05/10(水) 10:04:06
【作品名】鬼になった理由
【元スレ名】ここだけ世界の境界線
【注意事項】現在の境界線の設定と異なる部分があると思います。

歳桃園太郎ーー彼が生まれた世界は、妖怪が世を乱し、人々がそれと戦いを繰り広げている世界だった。彼の両親は、この世界ではなかなかの実力を持った妖怪退治屋で、式神を扱う能力が高く評価されていた。だが、この妖怪退治が忙しいらしく、園太郎の面倒は式神達に任せる事が多かった。そのため、園太郎と両親はあまり仲がよくなかった。
やがて、園太郎の妹雛子が誕生する。だからといって、妖怪退治を疎かにする訳にはいかず、雛子の面倒もやはり式神任せが多かった。
数年たってもそれは変わらないが

雛子「お父さんもお母さんも、私達より妖怪退治の方が大切なのかな……」

園太郎「きっとそうだよ。だけど、僕は違う。僕も父さんから、式神の使い方は習っているし、いずれ妖怪退治をすることになるだろうけど……僕は絶対に雛子の事を式神に任せっきりにしたりしないよ。ずっと雛子の側にいるから。」

雛子「ありがとう、お兄ちゃん。」

そのぶん雛子と園太郎の仲は良かった。


雛子が11歳になる頃。雛子の身体に変化が起こる。

雛子「う……ああ……」

まるで鬼の腕のような形へと変化した雛子の右腕。それはなんの前触れもなく起こったのだ。直ぐ様医者を呼ぶ両親。

医者「鬼化症候群ですな……」

【鬼化症候群】とは、身体の一部が鬼の様な化け物のものに変化してしまう病で、変化した部分は暴走を始める。そして、徐々に身体を蝕んでいき、やがて人では無くなってしまうという不治の病だ。原因は不明だが、医者は退治した妖怪の呪いの可能性が高いと言う。

父「つまり、雛子はもう助からないと……」

医者「残念ですが……」

園太郎「嘘だ……嘘だ……雛子が助からないなんて……人ではなくなるなんて……」

それは、雛子と仲がよかった園太郎にとっては、受け入れ難い事実であった。

父「……園太郎、残念だが雛子はもう」

園太郎「そんな筈は無い!」

母「仕方の無いことなのよ……」

園太郎「どうして……どうしてそんな事言えるんだ!!」

そんな園太郎に対する両親の対応は、あまりに冷たいものだった。雛子を入院させたその後も、見舞いなど殆ど行かずに以前と変わらない仕事優先の生活を続けるほどだ。

園太郎「僕は諦めない……ずっと雛子の側にいるって誓ったんだ……」

だが、園太郎だけは違った。

園太郎「何かあるはずだ……不治の病と言っても、治す方法が見つかっていないだけなんだ……」

雛子を助ける方法を探し、園太郎は歩き出す。

6名無しさん:2017/05/10(水) 10:05:16
園太郎は、雛子を助ける方法を探し、様々な医者や学者を訪ね、様々な文献を漁った。だが、当然不治の病の治療方法など見つかる筈がなかった。
そんな時ーー奇妙な服装の男が園太郎の前に現れる。その腕には見たこともないエンブレムのついた腕章。それはまるで、別の世界からやって来たようで……

奇妙な男「やあやあ、お困りのようだね。君の噂は聞いているよ。たった一人の妹を助ける為に、西へ東へ奔走しているらしいじゃないか。いやぁ、健気だねぇ。泣かせるねぇ。でも、それじゃあ駄目だ。雛子ちゃんは助けられないよ。」

園太郎「なんだお前は!?何故僕の事を……それに雛子を助けられないだと!?」

奇妙な男「おおっと、怒らないでくれよ。“その方法では”助けられないって事だよ。」

園太郎「まさか……助ける方法があるのか!?」

藁にも縋る思いだった園太郎は、この怪しげな男の話に耳を傾けてしまう。

園太郎「つまり……雛子を助けたければ、そのカノッサ機関という組織に協力しろってことか?」

男の正体は、カノッサ機関員。本当に違う世界からやって来たのだ。彼曰く、鬼化症候群は能力の一種だと言う。そして、カノッサ機関は能力を消し去る研究をしているとも言った。この研究が進めば、雛子の鬼化症候群も消すことが出来るらしい。
到底信じ難い話であったが、彼が見せたこの世界に存在しない魔法のような能力や、同じくこの世界に存在しない精密機械の数々を見てしまっては、信じざるを得なかった。

機関員「ああ、そうさ。残念ながら、今の機関では鬼化症候群を抑える薬を作るので精一杯だ。だが、様々な世界の能力者のデータやサンプルを手に入れ、それを解析すれば能力を消し去る方法が見つかる筈さ。」

園太郎「その能力者調査や能力者狩りを僕にやれと……?」

能力者狩り、機関の別の部所では能力者を殺すことを指す場合もあるが、彼が所属する研究所では能力者の捕獲の事だ。
それは、生死を問わず、生きたまま捕獲された能力者も酷い実験の末、死んでしまうことも多いという、機関の残酷な面が見える仕事で、園太郎は直ぐに引き受けると返事をすることが出来なかった。

園太郎「でも……僕はそんなこと……」

機関員「そうかぁ、残念だなぁ……まぁ、君がそう言うならしょうがないねぇ。あーあ、可哀想な雛子ちゃん。ご両親だけじゃなく、お兄ちゃんにも見捨てられちゃうなんてねぇ。」

そう言って、立ち去ろうとする機関員。だが、その言葉を聞き、園太郎はすぐに機関員の肩を掴み引き止める。

園太郎「待って!僕は……僕はカノッサ機関に入る!」

園太郎(どうせ……どうせ世の中は父さんや母さんのように、冷たい奴等ばかりだ……どうなっても別に……それに……それに僕は雛子を絶対に助けるんだ……)

機関員「……うん、やっぱり君は優しいお兄ちゃんだ。」

こうして、歳桃兄妹は故郷の世界から姿を消した……


カノッサ機関新世界支部第三研究所。それが、この機関員が所属する研究所であった。

機関員「君は機関員にしては優しすぎる。だからほら、これを被りなよ。」

その機関の研究所にて、鬼を模した仮面を手渡される。

機関員「これを被ればあら不思議!君は優しいお兄ちゃんから、恐ろしーい鬼になれる!」

園太郎「鬼に……」

機関員「それから、能力を消し去る研究が成功するまでは雛子ちゃんに能力抑制薬を投与することになる。だけど、薬もタダじゃあない。だから、君がキチンと能力者の調査や狩りをしてくれないと渡すことが出来ないんだ。
要するに、ノルマを達成しろってね。まぁ、ノルマと言ってもそんな難しいモノじゃない。君が鬼になれば、楽にこなせるだろう。」

園太郎「……ああ、分かったよ。」

園太郎(そうだ……僕は鬼だ……鬼になるんだ……)

その日から、カノッサ機関に鬼仮面と呼ばれる人物が新たに加わった。

7名無しさん:2017/05/21(日) 23:40:17
【作品名】8月31日
【元スレ名】ここだけ日常世界
【注意事項】

8月31日、長かったような短かったような、色々な事があった夏休みも残り僅か、皆が残り少ない夏休みを惜しみながら過ごしていた。
この少年、鷹村剣(たかむら つるぎ)もそうだ。明日からまた始まる高校生活、高校三年生ということもあって、受験のことなど大変なことも沢山ある。そう考えると、ため息が出る。

「あーあ、終わっちゃうなぁ。まぁ、仕方がないことだけど」

アパートの自室で、冷たい麦茶を飲みつつ、物思いに耽っていると、突然部屋の扉が勢い良く開いた。

『剣兄ちゃーん!!』

入ってきたのは、近所に住む小学生、
華山一太郎(はなやま いちたろう)だ。剣とは、一太郎が赤ん坊の頃からの付き合いだ。元々、母親同士が仲が良く、その縁で知り合ったのだが、子供好きの剣が、一太郎の面倒を見るようになり、いつの間にか兄弟のような間柄になっていたのだ。
そんな一太郎が、慌てた様子で剣の住むアパートまで来たのだ、何事かと心配そうに剣は尋ねる。

「うおっ!?一太郎!?どうした?」

『夏休みの宿題が終わらないよー!!』

「えぇ……」

なんだそんなことか、と肩を落とす剣。だが、一太郎本人にとっては、一大事だ。なにせ、このまま終わらなかったら、母親にも先生にも怒られてしまう。
しかし、宿題は自力でやるべきだと剣は思う。手伝ってやるのは、一太郎の為にはならない。

「でも、一太郎さ、宿題は自分でやるもので……」

そこまで言って、考える。そもそも、一太郎が、宿題を終わらせられなかったのは、自分が遊びに誘ったりしたことも、一つの原因じゃないか、と。それに、子供の勉強を見てやるというのは、教員志望の自分にとって、意味のある経験になるのではないか、と。

「まぁ、仕方ないな。手伝うよ。それで、何が終わってないんだ?」

『ええと、自由研究と読書感想文と絵日記!』

「おい……夏休みの友(ドリル)以外全部じゃないか……」

『えへへー』

「笑って誤魔化すなよ。はぁ……まぁ、一度やるって言ったし、ちゃんと手伝うよ。」

『ありがとう剣兄ちゃん!いや、剣先生かな?』

「!?剣……先生……良い響きじゃないか!な、なぁ、一太郎、もう一回!もう一回言ってくれ!」

『え?ええ!?』

こうして、二人の夏休み最後の一日が、幕を開けた。



8名無しさん:2017/05/21(日) 23:40:48


街の図書館。適度に冷房が効いていて、過ごしやすく、机なども多くあり、そこそこの広さの街の図書館であるため、蔵書もなかなかのもの。勉強するには、もってこいの場所で、剣もよくここへ勉強しに来ていた。
しかし、今日は違う。まずは、読書感想文を終わらせるべく、一太郎と剣はこの場へとやって来たのだ。

『とうちゃーく!』

「こら、一太郎。図書館では静かに、だろ。」

『あ、ごめん、つい。』

「分かれば良いんだ。それより、感想文は何の本で書くのか決まったのか?」

『ううん、まだ。』

「それじゃ、ぱぱっと決めちゃうか。」

『オッケー』

そうして、一太郎は本を探しに歩き出す。剣は、その間、椅子に腰掛け、家から持ってきた英単語帳を読み、勉強する。

『剣兄ちゃん。いくつか持ってきたよ。』

「どれどれ……」

暫くして、一太郎がいくつかの本を持ってきた。一太郎のことだから、漫画でも持ってきた可能性がある。図書館でも、昔の名作漫画等は置いてあるのだ。一応、確認しておくか。そう考え、剣は一太郎の持ってきた本を手に取り見る。
一冊目、「ホントの心霊写真」。ありとあらゆる心霊写真を集めた一冊で、一枚一枚に、霊能者の胡散臭いコメント付き。写真も人目で合成だと分かる物も多い。

「……いや、これでどう書くんだよ。」

恐らく、夏の恒例の心霊番組を見て、影響され、興味を持ったのだろうが、これで感想文を書くのは難しいだろう。

『えぇ?駄目かなぁ?』

「別のにしようぜ。さ、次々……」

二冊目、「新・恐竜図鑑」。最新の研究に基づいた恐竜の復元図が満載の一冊。表紙を飾るのは、ふさふさの毛が生えたティラノサウルス。剣が昔持っていた図鑑に乗っていた姿とは、随分と違っている。これはこれで、可愛いと剣は思うが、かっこよさは減ったと思う。

「いや、一太郎……そもそも、図鑑は駄目じゃないかな。」

恐竜、小学生の男の子なら、好きな子も多いだろう。一太郎も、その一人。夏休み中に、恐竜展に連れていってもらう程だ。しかし、いくら好きだからといって、感想文を書くのに適しているかと言うと……

『えぇー、これも駄目?』

「感想文を書くんだから、なるべく物語が良いんじゃないかな。図鑑とかじゃ、書きにくいだろ?」

『うーん、確かにそうかも。それじゃ、取って置きのこれ!』

三冊目、「怪談シリーズ その3」。人気の児童向け怪談を集めたシリーズの3作目。学校の図書室にも置いてあるが、人気が有りすぎて、すぐに貸し出し中になってしまう。

「うん、まぁ、これなら大丈夫かな。」

『よーし、書くぞー』

これなら問題は無さそうだと判断され、まずはその本を読み終える。そして、一太郎は原稿用紙と向き合った。
暫く用紙に向かい合ったかと思えば、文章に悩み剣に相談し、分からない漢字があれば聞きに行き……

『できたー!』

「どれどれ……」

苦労の末、感想文は完成する。漢字の間違いなど無いか、それをチェックする剣。その感想文の最後には……

でも、ほんとうにおばけが出てきても、きんじょのつるぎ兄ちゃんが、おきょうとかとなえて、なんとかしてくれるとおもいます。

などと、書かれていた。

「一太郎……お前、俺を何だと思ってるんだ?……お経分かんねぇよ……」

『えっ』



9名無しさん:2017/05/21(日) 23:41:38


読書感想文の最後は、無難なものに訂正させ、終わらせた。さて、次は自由研究か。

「で、何の研究をするのか決めたのか?」

『うん、決めたよ!今から、剣兄ちゃんにも見せるから、待ってて!』

図書館を後にし、華山家で自由研究の題材について尋ねる剣。それに対し、一太郎は、もう決まっていると答える。
そして、一太郎が持ってきたのは、数枚の写真。写っているのは、夏休み中に撮った様々な写真。一太郎はその中から、恐竜の化石や復元模型など、この間行ってきたという、恐竜展の写真を取り出すと剣に見せた。

「へぇ、恐竜の研究か。良いんじゃないか。」

『うん!』

それから、一太郎は恐竜展の思い出を、剣に語りながら、自由研究を進めた。写真を貼ったり、文章を書いたり、やることは沢山あったが、剣の手伝いもあって、どうにか終わらす事が出来た。



『終わったー!!これで、もう大丈夫だ!』

「あれ?一太郎、絵日記も終わってないって言ってなかったか?」

『あ、そ、そうだった……』

しかし、外はもう夕暮れ、残された時間は少ない。それまでに、絵日記を終わらせるには、この夏休みのことを思いださなければならないが……

『ど、どうしよう……終わらないよ!いつ、何があったかなんて、すぐに思いだせないし……』

焦りもあり、絵日記を書くことが出来ない。こんなことなら、ちゃんと絵日記を書いておくんだったと、後悔する。
そんな一太郎に、声をかけるのは、やはり剣であった。その手には、一太郎が持ってきた写真があった。

「落ち着けよ、大丈夫だ。何のために、俺が居ると思ってるんだ?」

『剣兄ちゃん……』

「幸い、ここに写真もある。これで、思い出せるだろ?」

『ありがとう、剣兄ちゃん!』

それから二人は、思い出した。夏休みにあった様々なことを――
夏休みが始まってすぐ、二人でプールへ行ったこと。
夏祭りで屋台のくじ引きを引き、大きなぬいぐるみを当てたこと。その後に、花火を見たこと。
恒例の心霊番組を見て、怖くなって夜にも関わらず剣に電話をかけたこと。
恐竜展で、大きな恐竜の化石と並んで写真を撮ったこと。
家族旅行で、牧場に行き、ソフトクリームを食べたこと。その帰りに、剣にお土産のぬいぐるみを買ったこと。
一太郎の父親が、カブトムシを買ってきて、カブ太郎と名付けたこと。剣のバイト先のペットショップで、カブ太郎用のゼリーを買ったこと。
そして、今日、剣に宿題を手伝ってもらったこと。
どれもが、輝かしい思い出だった。そして、いつの間にか絵日記は終わっており――

『やっと終わったー!!』

「ふぅ、なんとかなったな。」

気付けば、外はもう真っ暗。帰ろうとした剣だったが、一太郎の母親の提案により、夕食を食べていくことに。そして、暫くの夕食を楽しんだその後――

『今日はありがとう、剣兄ちゃん!』

「ああ、だけど、来年はちゃんと計画的に終わらせるんだぞ。」

『はーい。』

「それじゃ、またな。」

『うん!またね!』

こうして、二人の夏休み最後の1日は幕を閉じた。

10名無しさん:2017/10/26(木) 00:03:33
【作品名】It's All Over But The Crying 1
【元スレ名】ここだけ能力者の集まる高校


燃えている。人が、建物が、───やっと見つけた、彼の小さな世界が。
四十人ものエージェントを捕らえて殺し、三十人もの人間を拷問に掛けてやっと掴めた組織『カノッサ機関』。この焔は、彼等の計画によるものだろう。
そしてこの世界の犠牲もまた、彼等の思惑通りの事なのだろう。

──────A.D.2074 ドレスデン郊外

剣呑な焔に巻かれ、今まさに地図から消えようとしている長閑な農村。その大通りにて取っ組み合う、焔に照らされた人影二つ。
否、勝負は今まさに決しようとしている所であった。満身創痍で、首に手を掛けられた片方の死によって。

「昔っから変人のくせに頑固だと思っていたが……。ハハ、ここまでとはな……」
『こ……の台詞だ……まっ…く……!』

地に押さえつけられもがく男の、華奢な身体は動かない。機械の肉体を持つ偉丈夫に伸し掛られれば、きっと誰でもそうなるだろう。
それはもう一人の方も同じだ。今大きな抵抗をされれば、片腕はもげて肉も爆ぜた身体は、その身に宿る意思に関わらずアッサリと命を刈られるだろう。

残った血塗れの掌で、あの頃とは相も変わらない白く華奢な首を握る。───そこから先が勝者たる機械の身体の偉丈夫、三橋翼にはどうしても出来なかった。
同情ではない。他人の命を奪う覚悟など済ませている。肉体の不調や千日手とも少し違う。ほんの少し力を込めれば、何の問題もなく眼下の男はいずれ窒息死する。
では何故か。───偏に、目の前の敵が、嘗ての友、桐生真雄その人だったからでしかない。



11名無しさん:2017/10/26(木) 00:06:29


思えば彼の人生はロクなものではなかった。実験用の少年兵として、まだ歯も全て生え変わっていない頃から過酷な環境に置かれていたのだ。
同じ環境にいたのは彼一人だけではなかった。ウマの合うヤツも、気の良い年上(と言っても一、二歳の差だが)の友人も、気になる少女もいた。
そう、『いた』のだ。皆この手で殺した。そうしなければ生きられなかったからだ。

運命とは自分で切り開くものではあるが、時として抜き差しならない状況に、否応無く放り込まれる事がある。過去の三橋がそれだ。
昨日まで共に過ごし、励まし合っていた友人と管理者の命令で殺し合った。でなければ自分が死ぬからだ。強制進化ウイルスに侵され、蠢く緑の肉塊となった少女に自身の異能を叩き込んだ。でなければ自分も死ぬからだ。

その反動か、償いのつもりなのだろうか。あの地獄を生き延びた、彼の磨り減った精神に刻まれた個人的な誓い、『友人は決して殺さない』という呪いが生まれたのは。


そして時は流れて今、嘗て袂を分かった友人が目の前で死にかけている。敵として。
突如現れた得体の知れない連中の話、異世界の軍勢と対抗する。そんな馬鹿げた事を彼は信じ、走狗として世界を駆け、そして今自分を仕留めに来た。何処にも属さない『はぐれ』たる異能力者の自分を仕留めに。

死ぬ訳にはいかなかった。だから戦った。
あの高校にいた時、時折していた模擬戦とは全然違う。ヒロイックさも爽快感も無い、泥臭くブルタルな殺し合いを繰り広げた。
腕を落とされ、目を潰し、腹を斬り裂かれ、筋を噛み千切った。
互いに揉み合い、取っ組み合い、血に塗れて得た勝利などに、しかし高揚感も安堵も微塵もなかった。

『早く……だい……?……くは……だろう』
「……出来たらやってる」
端子に入る微かな声は、ザアザアというノイズに掻き消されて元の声音すら分からない。
顔に妙に力が入る。限界が来たかと思ったが、意識に反して湧き上がる激情によるものだった。

「───何で──ッ!何であんな奴等に着いていったッッ!!!」
喉を逆流する血に咳き込みながら怒鳴る。やり場のない想いを、せめて最後にブチ撒ける様に。
「分かっていた筈だ!奴等が俺等の事を考えて、助けたいと思って近付いた訳ではない事を!気付いていた筈だ!いつかはこうなっちまうって!!」

堰を切った様に恨みつらみが溢れ出る。歪んだ目尻は、流せぬ泪を無理に出そうとしているのか。
「何でよりによって……、お前がこのオレの前に出てきた……ッ!」


ふと、白い血塗れの避けた頰に触れる手に気が付いた。
血で滲む視界が真雄の顔を捉える。数十年経っても変わらない、あの頃の様な微笑みを。

『───良いんだ』
先程まで、肉を裂き骨を砕く殺し合いをしていたとは思えない程、穏やかな声。
『───僕には僕の──、やるべき事があった。君も同じだろう───?』
まるで嵐の後の晴れ間の様にノイズは失せ、はっきりとその言葉は耳に入って、脳を揺さぶる。
聴きたくはない。オレに、俺のその行為を正当化させないでくれ。哀願する様に目が見開かれ、赤い瞳は輝きを増す。
『───君に殺されるなら───』


無慈悲な焔に舐め尽くされ、地図から消えた農村の跡。未だ燻る通りにて膝をつく、血に染まった満身創痍の人物。
人と建物の焼けて生まれた黒い煙の下、深い深い絶望の坩堝の中、それでも遠い情景とはあまり変わらない笑顔を浮かべたまま果てた、友だった男。
嗚咽は無い。涙は流せないからだ。慈悲は無い。そうせねばならなかったからだ。では憤怒は、後悔は───。
「────AAAAAAAAAAAAARRRRGGGGGGHHHHH!!!!!」
朱に染まった顔で天を仰ぎ、鬼は叫びを上げるしかなかった。



12名無しさん:2017/10/26(木) 00:10:11


「……あ。翼…」
「終わったぜ。……立てるな?また、直ぐに発たねばならん。
 さっさと準備を整えておけ。一ヶ月ぶりの長旅だ」

村外れの廃品置場。不法投棄された大型バンのドアを開けて、中に隠れていた人物、少女を引っ張り出す。
何の手違いかこの世界に召喚され、自分と寄り添う事となった憐れな淫魔の少女。これが友を殺し、血の混じった戦場の泥を啜ってでも生き延びようとする理由だ。
彼女は自分を慕っている。それ故に、あの瓦解していく学園に置いて行く事も出来なかった。平和な所まで辿り着き、彼女が幸福な生活を得るまで護り、そして去る。それが今の彼を突き動かす決意だ。
彼女が幸福になるのなら修羅にでも、鬼にでも成る。何処までも堕ちてみせる。それが自分の責任だ。生きる目的だと。意固地になっていた。


「…なに、考えてたの?」
「そう見えたか?大した事じゃない。本当、そんな言う程の事ではないさ。マジで。
 強いて言うなら、持ち主の死んだ物品を掻っ払うのは気分が良いって事ぐらいさね。早く乗れ」


「……一つだけ、やくそく、してほしい」
「一つしかない缶詰肉を寄越せって事以外なら。何だ?」
「あまり抱えこまないでほしい。それだけ」
「善処するさ。…ありがとな」

乾いた自嘲の笑い溢れる古ぼけた軽トラ。灰となった村の中で見つけた、唯一動く車両。
秋晴れの青空の下、二人の流民を乗せたトラックは宛てもなく道を走る。逃げて、逃げて、逃げ延びるために。

13名無しさん:2017/10/26(木) 00:17:15
【作品名】It's All Over But The Crying 2
【元スレ名】ここだけ能力者の集まる高校


燃えている。人が、大地が、───人であるための最後の縁、度し難い罪人たる彼の祈る唯一の者、その全てが。
この世界を舞台にした戦争経済は留まる所を見せず、アメーバが周りを取り込んでいくかの様に拡がっていった。

戦火は主要都市の大半を焼き尽くし、今や堂々と様々な軍隊に混じって活動するカノッサ機関により、異能力者は重要なリソースとして扱われていった。
怨嗟と憎悪は酸の様に世界を浸していき、副産物として生まれる利益は、巧妙に隠された多世界からの使者達が掠め取っていく。地獄さながらの地だからこそ、其れは産まれたのだろう。

──────A.D.2077 オールド・トーキョー 名も無き集落

この地には戦火を逃れた人達のキャンプが築かれていた。
キャンプと言っても、実態は人のいなくなり荒廃した廃墟に住み着いた人々の集落の事で、その収容人数は百を優に超える。
人種も、歳も、異能の有無さえバラバラだが、戦から離れたいと思う気持ちだけは皆に共通していた。
だからこそ、護るべき人を連れた三橋は此処を次の目的地に選んだ。仮初めの平和なのは分かっていたが、それでも縋る様に。


「ゴーン、ゴーン、エヴリワン、ゴーン……。ってか……。
 畜生…、畜生、畜生畜生……ッ!ここは俺達の…!」
燃え盛る建物は、件のキャンプのものだ。重機に穿かれた大穴に棄てられる亡骸は、ここに住み着いていた者達だ。
風が届ける遠くの銃声を聴きながら、煤と泥、自他問わず大量の血に塗れた三橋は、大量の血で湿った土の上を這っていた。

漸く見つけた安息の地も長くはない。中に裏切り者が混ざっていたが、敵の探知力が上回っていたか。
兎に角このキャンプは襲撃を受けた。丁度、彼が来た二年後の日に。


始まりは覚えていない。彼女に買い物を任せて部屋で寝ていたら、いきなりズドンだ。
此処を襲ったのが何処の国の軍隊で、どんな思惑があったのか、最早当事者以外には分からないだろう。
重要なのは、此処ももう焼け落ちるという事だ。ならば逃げ出すしかない。彼女を連れて。



14名無しさん:2017/10/26(木) 00:22:39


殺した。殺した。殺した。銃で。刀で。拳で。身を貫く弾丸も、身体を斬り裂く刃物も、焔も、彼には問題ではなかった。
夥しい量の血を流しながら、ただ護りたい者の為に走る。ここに来て芽生えた純粋な感情は死にかけの身体に鞭打ち、力を与えていく。

そうだ。何故早く素直になれなかったのか。屍山血河を築いたのも、二十年余りも彷徨っていたのも、そして友を絞め殺したのも、全ては彼女と共に生きる為なのだ。

いつだったか、自分に救われたと彼女は言っていたが、それは此方も同じだ。人の身も残っていない機械仕掛けの自分を受け入れてくれた。度し難い獣性を抱えた自分を受け止めてくれた。───必要としてくれた。
なればこそ、認めないにしろ、惹かれない道理は無い。いつしか彼女の存在は親友や自分より大切で、尊いものとなっていたのだ。
そうだ。愛している。彼女が大切だ。だから動け。足掻け。全てが終わったら、思う存分休ませてやる。


───もっと早く、それに気付くべきだった。少なくとも、当の本人が物言わぬ骸になる前までには。



出くわす兵士を退け、瓦礫を越えてきた死に体の彼を迎えたのは、また地獄だった。
襲撃された時そのままだろう、マーケットだった燃え盛る道路に斃れる何人もの骸。その屍たちの中に見知った碧色の髪を見た時、三橋翼の人としての心は完全に折れたのだ。

精神折れた者に出来る事などない。全身の細胞が死滅していくかの様な感覚、嘔吐感に襲われて膝をつく。立ち上がる事も出来ない。
限界は、彼の想像よりずっと近く、すぐそこまで来ていたのだ。


「……髪が乱れてるぜ……。もう少し気を使えよ」
ズルズルと、蛞蝓が這った様に白い血の跡を残して骸に近付き、血に汚れた頰を撫でる。人に近い見た目だからか、魔族の淫魔でも血は赤い。
燃え盛る木材が倒れ、焔が迫ってきていた。だが彼は逃げない。逃げる余力も、あったとしてもその気もない。

「前に聞かれたよな?…俺もお前と同じさ。生きる価値も、俺自身という存在も、意義も、何もかもをお前から貰った」
苦心して身体を起こし、彼女の上体を、血に汚れたその貌と、もう開く事のない眼を抱き寄せる。
焔は辺りの亡骸を呑み込み、特有の嫌な臭いを辺りに充満させる。その只中にも関わらず、彼は物言わぬ唇と自分の唇を重ねた。初めて、自分から。



15名無しさん:2017/10/26(木) 00:26:09
「愛している…。もう言う事も出来なくなるから、一度しか言えなくて悪いが」
数秒の後、放された二つの唇の間を伝うのは赤い赤い魔族の血だ。人間とは比べものにならない量のマナに満ちた、魔力の濃縮体。
亡骸の口内に残っていたそれを吸い上げた三橋の身体は、高濃度のマナにより変化を始めていた。
内なる憎悪が文字通り自分の身体を変えていくのが分かった。額が熱を持ち、肉体を突き破る様にナニカが伸びる。それももう、確かめる気は起きない。あるのはただ身を焼く程の憎悪と、微かな後悔のみ。

「お前は望んでいないかもしれないが…。俺には、無理だ。この感情を棄てられないんだ。
 …望まないどころか、怒るかもな。愛想を尽かすかもな。それでもいい」
「これから俺が行う事に、一切の救済も救いも善行も無い。ただ獣が駄々をこねる様に、あの地獄の中へ飛び込むだけだ。
 これは何度も言ったな…。天国(むこう)か、来世では……。もっとマトモな人に出会えるといいな…。心から祈ってる。…本当さ」

呟く口が大きく開く。後悔に塗れ、逆流する血に汚れた鋭い歯は、何を訴える事も出来ない愛しい人の肩に食らいついた。
止める事は、彼にももう出来ない。本能か、脳に埋め込まれた機械か。どちらかが感じたのだろう。世界が只々憎いと。その世界を壊すだけの力を獲る為に、『コレ』が使えるのだと。

一口肉を嚙み千切り飲み込む毎に、力が漲る。一口血を口に含み飲み込むごとに、傷が塞がり、内から歪んだ内部骨格が飛び出てくる。
通常、機械に魔力が満ちる事はそうそう無い。水が雨合羽に浸透出来ない様に、科学の力の塊たる機械と非科学的な魔力が溶け合う事は無い。単純に相性が悪いのだ。
だが、今の彼の身体は謂わば破れた雨合羽だ。科学も魔術も関係無く、ただ力を求め、混ぜ合わせて自身の物とする憎悪の撹拌器だ。
だから叶ったのだろう。彼の機械の肉体が許容範囲を遥かに越える魔力に冒され、冒涜的な程にその有様を変えていく事が。





まだ見える片目の視界が滲む。涙かと淡い期待も湧いたが違う。人の身体を持たぬ、機械の兵器である事の証左、サイボーグ用のホワイトブラッドだ。
身体に行き渡るマナにより、不要となった血液がその目から排出されているのだ。

───終に、真っ当に哭く事も、叶わなかったか。
自嘲の嗤いを漏らそうとしたが、出てくるのはグルグルと喉の鳴る音のみ。
それもそうだろう。血溜まりに写った己を見よ。貌は剥がれ、歪み捩れた内部フレームが角の様に内から伸びている。何本も。
人間らしい感情を抱くのも、機械の無機質さを持つのも可笑しい、忌まわしい鬼そのものではないか。
残った自我も憎しみに上塗りされて、失せた記憶と共に消えていくのが判る。その前に、その前にやる事がある。

震える手が、顔面を貪られて骨の見えかかった淫魔の首を掴んで指でなぞる。何度も、何度も、戒めろと躾けようとするかの様に。
大きく見開かれ、虚ろに周囲の地獄を写す霞んだガラス玉の様な目には、しかしこの無惨な死骸しか入らない。上塗りされた記憶にも刻み込もうとするかの様に。

「───◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️!!!!」
鮫めいて尖った牙の生えた口が咆え───常人の数倍の脚力で焔の中から飛び出した。
黒いスパークの走る四肢に力が篭っていく。燃えるマーケットの屋台から引き裂いた赤い布で、膂力漲る背中を隠す。
かくして一人の男の心は折れ、一匹の獣が産まれたのだ。

この地は、この世界は本来の宇宙の予定より遥かに早く終わる。
だが、終わる世界だからこそ其れは産まれたのかもしれない。全ての事象、人、生き物、世界そのものを憎み、嫌悪し、破壊しようとする獣。

そして怨嗟と後悔は酸の様に、彼に残った人の心を蝕んでいく。人間性を餌に、獣の殺意は膨れ上がっていく─────。

16名無しさん:2017/10/26(木) 00:27:49
【作品名】It's All Over But The Crying 3
【元スレ名】ここだけ世界の境界線


燃えている。人が、人が、奴等の世界が。
───否、『燃やした』のだ。彼、彼だったモノが。
憎悪を叫び、怨嗟を取り込む怪物。世界を跨ぎ、また破壊する化け物。それが今の三橋翼だ。彼だったモノだ。
同じく世界を渡る者達、越境者と呼ばれる彼等は、其れを『グラッジ』と呼び、警戒を続けているが、そんな事は最早どうでもいい。

──────遠い世界 何処かの研究施設

幾つもの世界を越えて、その身体は肥大化と変形を繰り返していた。
膨大なマナで変異したとはいえ、元はナノマシンの塊。運良く同系の物が手に入れば、粘土細工の様に取り込み自分の物と出来る。
膨らんだ肉体───ナノマシンと人の負の感情の集合体は、生命を奪われた者達の憎悪を取り込み、更なる糧としていく。
その集合体の一部を適当な人間の身体へ打ち込めば、数分しか保たないとは言え、筋系神経系を弄って意のままに動かせる事にも気付いた。

いつしか其れは、たった一人にして一国の軍隊と同等の戦闘力を有するまでと成り果てていたのだ。



17名無しさん:2017/10/26(木) 00:30:08


燃え盛る建物は、元々は何らかの施設だったらしい。襲って、殺して、適当に暴れていたら、何らかの装置か薬品に引火しドカン。
自我は喪われたが、その記憶はまだ肉体に遺っている。其れは生成した触手を突き刺し、傀儡と化した兵士達に火の元を探させ、被害を更に広げさせた。
効率的な人の殺し方を、其れは知識として持っていたし、実行に移すだけの知能もあったが、何故知っているのかは自身にも分からない。
重要なのは、どうすれば大量の人を殺し、世界を殺せるかだけだ。記憶など、不要極まりない。


銃声と悲鳴、液体の跳ねる音の中、グラッジは施設を彷徨っていると鏡を見つけた。反射する自分の鏡像に牙を剥くほど愚かではないが、ふと立ち止まり、閉じなくなった光る右眼で見据える。
血や埃で汚れた鏡面に、人の身を無理矢理残した、異形の肉体が写り込んでいた。黒い角の生えた髑髏の様な顔。集合体と臍の緒じみて繋がる膨らんだ背中。真っ赤な襤褸布の外套。
───そして、そんな自分の肩に抱き着き、目を閉じて寄り添う一人の碧色の髪の少女。

勿論、傍にはそんな人物などいない。過去その様な者がいた事もないし、これからもいないだろう。
だのに何故───。何故自分は、この女に見覚えがあるのか。



18名無しさん:2017/10/26(木) 00:31:55


黒ずんだ鉛色の拳を叩き込まれ、甲高い音を上げて鏡が砕ける。
下らない幻想を振り払ったグラッジの朱い眼から流れるのは、ヘドロの様にドス黒い血だ。

古くなった血がマナと共に流れ落ちるだけ。ある種の生理現象、それだけに過ぎない筈だ。───筈なのだ。
「───◾️◾️◾️……」
喉が一人でに鳴る。獣の唸りじみた、普通の人にとっては不快な音だ。
「◾️◾️◾️◾️……!」
割れたガラス片の食い込んだ拳から、黒い血が滲み出る。感覚など鈍くなっている筈なのに、嫌に響く。

「────◾️◾️◾️◾️◾️◾️────ッ」
言葉ですらない憎悪の唸りを上げ、グラッジは踵を返した。ただ一人、地獄へ舞い戻る為に。
迎え入れるのは焔と暗闇のみ。殺意と憎悪、怒りこそが力与える原動力なれば。地獄へ堕ちるのは其れ一人だけであろう。

やがて獣は、再び越境者達と見えるだろう。死ぬ為だけに。殺して貰う為に、止めて貰う為に───。
その時まで獣は歩む。愛も情も記憶さえも無くした、愚かで哀しい獣は歩む。

19名無しさん:2018/10/06(土) 21:57:23
【作品名】Time After Time
【元スレ名】ここだけ世界の境界線


銃声に眼を閉じる。口に含む酒の風味は、酷くシケたものに感じられた。
遠くから下卑た笑いが聴こえてくる。殺し、戦い、死ぬ為だけに歩く兵士達による無意識下の挽歌か。
燃え盛るスクラップヤード。死者の嘆きと伸ばされる手には眼もくれず、ソーマタージは一人自室で酒を呷る。

「──────よっ、元気?」
声が聴こえた。どこか懐かしく、頭の中を掻き回す不愉快な明るい声が。
振り返らなくても声の主は解ってる。何の脈絡もなく現れ、彼の意識を掻き乱す者だ。
「……失せろ、この野郎」
「ありゃりゃ、何か不機嫌そう…。どうかした?ボクで良ければ聞いてあげるよ」

ギリリ、と鋭い歯が噛み合わせられた。怒りが一瞬でソーマタージの頭を温め、身体を追従させる。
振り向きざまに投げられるまだ酒の入ったグラス。顔にブチ当たり中身と破片、血を散らすはずだったそれは、背後の人物の顔面──────貌の無い、トンネルじみた空洞をすり抜けて壁に当たった。
「危な…っ!いきなりなにするのさ!?顔はやめてよ」
「黙ってろ!そのツラ以外挽肉にしてやろうか!」

普段は飄々とし、気紛れで好意と殺意をコロコロと写すソーマタージの顔。その顔は今や、宿敵と相対したかの様に揺るぎの無い敵意に歪んでいた。
「何度も出てきても無駄だ!生憎と俺の頭の中はもう満員なんだよ、唐変木のカマ野郎!
 その産まれる前にタマ落として親父に犯されたみてえな面と全身引っ込めて犬に喰われておっ死にやがれ!」
ゴシックロリータに覆われた身体を指差して怒鳴り散らす。それでも、目の前の少年は困った様に頭を傾けて白い髪を微かに揺らすばかり。
「参ったな……。どうかした?流石にらしくないぜ、つば──────」
「その名前を!口にするな!!」


電光石火の速さで伸ばされた手が貌の無い頭を掴む。ギリギリと、握り潰してやろうかと力を込めたのに指が固定されたかの様に動かない。硬すぎる。
「何なんだ手前は!ズケズケと現れやがってデカい口は効く、人を小馬鹿にした様な態度はする、ふざけた考えに殉じやがる───!」

「何で───! 何でオレに殺されたのにそうしていつも通りに振る舞える───!」


♦︎

20名無しさん:2018/10/06(土) 21:57:50
♦︎


空いた手が金髪を掻き毟る。思い通りにいかず癇癪を起こす子供の様に。
歪んだ顔に浮かぶのは怒りだけではない。身を焼き尽くさんばかりの自責の念、後悔の波、終わらない疑問。それらが一緒くたになったものだ。
「───何でお前は、あの時オレを赦したんだ……!」
力無く膝を付き項垂れる。顔を掴んでいた手は高さが変わった事により、少年の両肩を掴んだ。

「──────君には君の……」
「それはもう聴いた、やめろ! その口を閉じろ!オレを憐れむのを止めろ!オレを赦すのを止めろ!
 お前の両腕をへし折った男をいつもみたいにからかうのを止めろ!お前の武器を砕いた男の身を案じるのを止めろ!お前の……お前の首を潰して血の泡に沈めた男を、これ以上気遣うのはやめろ!」
絞り出す様な叫び。それは最早怒号ではなく嘆願だ。
何故、何故こいつは袂を分かった自分の事を案じたのか。あの日以来、三橋翼にとってはそれが一番の苦痛だというのに。

「あの時……。信じていた筈の友達を殺して、あの学校を捨てて逃げたオレ達を、お前とその仲間は追ってきた。
 だから殺した。お前にとっては取るに足らない任務だっただろうが、オレにとっては生き延びる為に必要な行動だった!」
「怒れ!罵れ!理不尽にお前の同行者を殺したオレを恨め!
 死体も埋めずにお前をあの燃える村に棄てて行ったオレを呪え!」

最早人影は無い。土下座するかの様に蹲り、今にも泣き出しそうな声で三橋は叫び続ける
彼を覆うのは暗闇のみ。己を責め続ける髑髏も、視界の端から引きずり込もうと伸ばしてくるミイラの如き亡者の手も無い、塗り潰した様な暗闇。
「オレを…、オレを赦さないでくれ……。 それすらも叶わないのなら──────」


♦︎


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