したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |

ここだけ能力者達の物語投下所part1

14名無しさん:2017/10/26(木) 00:22:39


殺した。殺した。殺した。銃で。刀で。拳で。身を貫く弾丸も、身体を斬り裂く刃物も、焔も、彼には問題ではなかった。
夥しい量の血を流しながら、ただ護りたい者の為に走る。ここに来て芽生えた純粋な感情は死にかけの身体に鞭打ち、力を与えていく。

そうだ。何故早く素直になれなかったのか。屍山血河を築いたのも、二十年余りも彷徨っていたのも、そして友を絞め殺したのも、全ては彼女と共に生きる為なのだ。

いつだったか、自分に救われたと彼女は言っていたが、それは此方も同じだ。人の身も残っていない機械仕掛けの自分を受け入れてくれた。度し難い獣性を抱えた自分を受け止めてくれた。───必要としてくれた。
なればこそ、認めないにしろ、惹かれない道理は無い。いつしか彼女の存在は親友や自分より大切で、尊いものとなっていたのだ。
そうだ。愛している。彼女が大切だ。だから動け。足掻け。全てが終わったら、思う存分休ませてやる。


───もっと早く、それに気付くべきだった。少なくとも、当の本人が物言わぬ骸になる前までには。



出くわす兵士を退け、瓦礫を越えてきた死に体の彼を迎えたのは、また地獄だった。
襲撃された時そのままだろう、マーケットだった燃え盛る道路に斃れる何人もの骸。その屍たちの中に見知った碧色の髪を見た時、三橋翼の人としての心は完全に折れたのだ。

精神折れた者に出来る事などない。全身の細胞が死滅していくかの様な感覚、嘔吐感に襲われて膝をつく。立ち上がる事も出来ない。
限界は、彼の想像よりずっと近く、すぐそこまで来ていたのだ。


「……髪が乱れてるぜ……。もう少し気を使えよ」
ズルズルと、蛞蝓が這った様に白い血の跡を残して骸に近付き、血に汚れた頰を撫でる。人に近い見た目だからか、魔族の淫魔でも血は赤い。
燃え盛る木材が倒れ、焔が迫ってきていた。だが彼は逃げない。逃げる余力も、あったとしてもその気もない。

「前に聞かれたよな?…俺もお前と同じさ。生きる価値も、俺自身という存在も、意義も、何もかもをお前から貰った」
苦心して身体を起こし、彼女の上体を、血に汚れたその貌と、もう開く事のない眼を抱き寄せる。
焔は辺りの亡骸を呑み込み、特有の嫌な臭いを辺りに充満させる。その只中にも関わらず、彼は物言わぬ唇と自分の唇を重ねた。初めて、自分から。




新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

※画像アップローダーはこちら

(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)

掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板