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ここだけ能力者達の物語投下所part1

15名無しさん:2017/10/26(木) 00:26:09
「愛している…。もう言う事も出来なくなるから、一度しか言えなくて悪いが」
数秒の後、放された二つの唇の間を伝うのは赤い赤い魔族の血だ。人間とは比べものにならない量のマナに満ちた、魔力の濃縮体。
亡骸の口内に残っていたそれを吸い上げた三橋の身体は、高濃度のマナにより変化を始めていた。
内なる憎悪が文字通り自分の身体を変えていくのが分かった。額が熱を持ち、肉体を突き破る様にナニカが伸びる。それももう、確かめる気は起きない。あるのはただ身を焼く程の憎悪と、微かな後悔のみ。

「お前は望んでいないかもしれないが…。俺には、無理だ。この感情を棄てられないんだ。
 …望まないどころか、怒るかもな。愛想を尽かすかもな。それでもいい」
「これから俺が行う事に、一切の救済も救いも善行も無い。ただ獣が駄々をこねる様に、あの地獄の中へ飛び込むだけだ。
 これは何度も言ったな…。天国(むこう)か、来世では……。もっとマトモな人に出会えるといいな…。心から祈ってる。…本当さ」

呟く口が大きく開く。後悔に塗れ、逆流する血に汚れた鋭い歯は、何を訴える事も出来ない愛しい人の肩に食らいついた。
止める事は、彼にももう出来ない。本能か、脳に埋め込まれた機械か。どちらかが感じたのだろう。世界が只々憎いと。その世界を壊すだけの力を獲る為に、『コレ』が使えるのだと。

一口肉を嚙み千切り飲み込む毎に、力が漲る。一口血を口に含み飲み込むごとに、傷が塞がり、内から歪んだ内部骨格が飛び出てくる。
通常、機械に魔力が満ちる事はそうそう無い。水が雨合羽に浸透出来ない様に、科学の力の塊たる機械と非科学的な魔力が溶け合う事は無い。単純に相性が悪いのだ。
だが、今の彼の身体は謂わば破れた雨合羽だ。科学も魔術も関係無く、ただ力を求め、混ぜ合わせて自身の物とする憎悪の撹拌器だ。
だから叶ったのだろう。彼の機械の肉体が許容範囲を遥かに越える魔力に冒され、冒涜的な程にその有様を変えていく事が。





まだ見える片目の視界が滲む。涙かと淡い期待も湧いたが違う。人の身体を持たぬ、機械の兵器である事の証左、サイボーグ用のホワイトブラッドだ。
身体に行き渡るマナにより、不要となった血液がその目から排出されているのだ。

───終に、真っ当に哭く事も、叶わなかったか。
自嘲の嗤いを漏らそうとしたが、出てくるのはグルグルと喉の鳴る音のみ。
それもそうだろう。血溜まりに写った己を見よ。貌は剥がれ、歪み捩れた内部フレームが角の様に内から伸びている。何本も。
人間らしい感情を抱くのも、機械の無機質さを持つのも可笑しい、忌まわしい鬼そのものではないか。
残った自我も憎しみに上塗りされて、失せた記憶と共に消えていくのが判る。その前に、その前にやる事がある。

震える手が、顔面を貪られて骨の見えかかった淫魔の首を掴んで指でなぞる。何度も、何度も、戒めろと躾けようとするかの様に。
大きく見開かれ、虚ろに周囲の地獄を写す霞んだガラス玉の様な目には、しかしこの無惨な死骸しか入らない。上塗りされた記憶にも刻み込もうとするかの様に。

「───◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️!!!!」
鮫めいて尖った牙の生えた口が咆え───常人の数倍の脚力で焔の中から飛び出した。
黒いスパークの走る四肢に力が篭っていく。燃えるマーケットの屋台から引き裂いた赤い布で、膂力漲る背中を隠す。
かくして一人の男の心は折れ、一匹の獣が産まれたのだ。

この地は、この世界は本来の宇宙の予定より遥かに早く終わる。
だが、終わる世界だからこそ其れは産まれたのかもしれない。全ての事象、人、生き物、世界そのものを憎み、嫌悪し、破壊しようとする獣。

そして怨嗟と後悔は酸の様に、彼に残った人の心を蝕んでいく。人間性を餌に、獣の殺意は膨れ上がっていく─────。


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