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0さん以外の人が萌えを投下するスレ

1名無しさん:2010/05/07(金) 11:07:21
リロッたら既に0さんが!
0さんがいるのはわかってるけど書きたい!
過去にこんなお題が?!うおぉ書きてぇ!!

そんな方はここに投下を。

24022-849 貿易港そばのグラウンド 2/2:2011/11/27(日) 04:25:26 ID:PDDxumjc
俺が今になってあいつのことを思い出すのは、彼が去り際に投げつけた言葉のせいなのだ。
あのとき、いつものように無視をして通り過ぎようとする俺の腕をあいつは痛いほど掴んで引き留めた。
「俺は国に帰らなくてはならない」
何かを確かめるように、あいつは慎重に言葉を紡いだ。
あいつの瞳は変わらずに綺麗なビー玉のままで、俺はおそらくそのせいで身じろぎもせず続きを待った。
けれどじっとあいつの瞳を見ていると、昔にはなかった意志の光が静かに宿っているのがわかった。その目で強く俺を見据えてあいつは言った。
「今の俺にはお前の側にいる力がないけれど、いつか俺が戻るまで待っていてくれないか」
「嫌だ」
考えるより先に言葉が口をついて出た。何らかの予感が心臓を突いて全身の血を熱くさせていた。
何かを言わなくてはならなかったが、それがなんなのかは自分でもわからなかった。だから拒絶した。
俺は嫌だ。もう一度はっきりと低い声で言うと、あいつを突き飛ばして俺は逃げた。

そしてこんな風に感傷的な気分になるのも、明日になったらあのグラウンドが立ち入り禁止になると聞いたからだ。
なんでも、どこぞの若い実業家が買い上げていったらしい。何に使うのかは知らないが、おそらくグラウンドは潰されてしまうのだろう。
正直心残りではあるけれど、それでなくてもここ数年この辺りでは開発が進んでいる。
海にほど近い寂れた土地が対象となるのは、どちらにせよ時間の問題だっただろう。
俺はふと思い立って、仕事前にグラウンドに足を向けることにした。

茜色に燃える空に、何の因果か大人になっても俺はひとりきりだった。
無人のグラウンドに立って目を閉じると、まぶたの裏に血のような赤が張り付いている。
宇宙人はいない。
外国人は行ってしまった。
約束は存在しない。
成長した俺だけがここに取り残されていた。
不意に、哀しみが暴れだす。どうしようもない寂しさが胸に突き刺さって痛む。俺は歯を食いしばり、ゆっくりと数を数え始める。
昔のように百まで数えたら俺は帰れるだろうか。
幾つまで数えた頃だろうか、俺の後ろから微かな物音が聞こえる。どうやら足音のようだが、俺は数えるのをやめない。
こんな時間にこんなところにやってくる酔狂な人間は、俺以外にいるはずがないからだ。
思わぬ幻聴のせいで数がわからなくなったので、とりあえず七十くらいから再開することにする。
だんだん足音が大きくなっているのはやはり気のせいなのだろうか。その歩幅は広く、成人男性のように思える。
だけどほら、もう足跡は止んだ。
しんと静まり返ったグラウンドで俺は百まで数え終わる。そしてもう逃げられなくなっておもむろに目を開ける。
眩しい光が目の中に流れ込んできた。
「……ただいま」
夕日をバックに、金髪の男が屈託なく笑っている。
俺は立ち竦んでいる。
お前なんでいるんだよとか、いくらなんでも成長しすぎだろうとか、言いたいことはたくさんあるのに、
どれもこの場にはふさわしくない気がして俺は口をつぐんでいる。
戸惑う俺に、あいつの手がまっすぐに差し出される。恐る恐る掴むと力強く握り返された。
俺は泣く。
嗚咽を噛み殺す。
失ったと思っていた大切なものが今日帰ってきたので、俺はまるで少年のように泣いてしまったのだった。

24122-869 1/2:2011/11/29(火) 20:24:39 ID:fM0mxOr2
すでに投下されてたのでこっちに




どんよりと曇った空の下、彼は黙って花を置いた。
栄華を誇った都市の、その面影が静かに風に吹かれて消えていく。
本当に何も残っていない。それを再確認して、彼の頬を涙が伝った。
故郷を捨てた。友を捨てた。愛した恋人すら捨てた。
そんな自分に涙する資格などないのだ思いながらも、落ちる雫を止めることもできなかった。

どれほど時間が経っただろうか。
彼は花に背を向け、歩いてきた道を戻り出した。
『もう帰るのかい?』
耳に響く優しい声。
たまらず振り返ると、そこには捨てたはずの恋人の姿があった。
最後に見た時と同じ、皮肉げな笑みを浮かべていた。
「…俺を、恨んでるだろう?」
やっとのことで絞り出した声は震えている。

『君はいつもそうだ。僕の言葉なんて聞かないんだから』
「そうだ、俺はいつもそうだった。だから、逃げ出したんだ」
すると恋人は、なんだかひどく優しい顔をした。
「やめろよ…そんな顔で見るな!罵れよ!臆病者って、二度とここにくるなって、罵れよ!」
『君は本当に馬鹿だなあ』
そう言って、くすりと笑う。

24222-869 2/2:2011/11/29(火) 20:25:21 ID:fM0mxOr2
『そんなこと、できるわけないじゃないか。僕は君が生きていてくれていることが嬉しいんだから』
「嘘だ!」
彼はその場に崩れ落ち、悲鳴じみた声で叫んだ。
「俺は…ここから逃げ出した!滅びることがわかってて、それでもなんとか食い止めようとするお前たちを見捨てて一人逃げたんだ!」

『今となっては、君の判断が正しかったんだ。あれこれ苦悩してみたものの、結局滅びは止められなかった』
それは、聞いたこともないほど優しい声音だった。
『君が自分を責める必要なんてないんだよ』
「俺を、恨んでないと?」
『そうだね…』
どこか遠くを見つめるような顔をして、恋人はつぶやく。
『恨んでるってことにしてもいいよ。だから…』
俯いた彼の頬に、細い指が伸ばされた。誘われるように顔を上げると、微笑む目に囚われる。
『たまには、みんなのために花でも持ってきて。それから、僕のことは忘れて、でも僕たちが滅んだことは覚えていて』
その言葉の意味を数秒考え、彼もまた笑った。
「お前らしい、無茶な注文だ」
『そう?』
悪戯っぽく首を傾げる恋人を見て、ただ頷く。
それを見届けると、恋人の姿はかき消えた。

再び誰もいなくなったその場所で、彼はつぶやく。
「誰が忘れるか」
そうして立ち上がり、また歩き出すと、
『君は本当に馬鹿だなあ』
そんな声が聞こえた気がした。

24322-879 昔の攻めの結婚前夜:2011/12/01(木) 15:00:13 ID:KhXHPikk
規制酷いんでこっちに書く




「悪ぃ、俺、ゲイじゃなかったみてーなんだわ」
そう言って合鍵を放り投げて去った彼から、見慣れぬ葉書が来た。
正しくは来ていた。僕が入院している間に。

なにが悪かったのか胃にデカイ穴が開いたので塞いできた。
久しぶりの我が家に帰ってたまりにたまった郵便物をチェックしていたとき、それはひらりと床へ落ちた。
眩しいくらいに真っ白で、黄色い花の絵に彩られた招待状。配達ミスかと思うほど、僕の部屋には似合わなかった。
上品な名前と並んで、彼の名前があった。
結婚式、披露宴と、おだやかじゃない文字が並ぶ。間がいいのか悪いのか、そこには明日の日付が書かれている。
過ぎたことならもう少し、平静を保っていられただろうに。

僕の勤めるバーに、客としてやってきたサラリーマン。
当時の彼女にフラれてヤケになった彼となあなあで関係を持ち、ほどなくして付き合った。
くたびれたスーツが色気を醸して、たまらなく大好きで。

自分の性的嗜好に悲観気味、かつ世間にビビってる僕みたいな暗いゲイに普通のサラリーマンなぞ勤まる訳もなく、だからこそ彼のスーツ姿が好きだった。安物の、汚れの目立たないグレーのスーツ、それに僕の買ったネクタイ。
ぶっきらぼうで、カラオケ好きで、セックスが雑で、僕の部屋に転がり込んでカーテンをヤニで染めた彼。
笑い上戸で、手が大きくて、故郷が好きな、二つ年上の彼。

彼が好きだった、病めるときも健やかなる時も、それ以外のどんな時だって。
誓うべき神は、いなかったけれど。

気が付いたときには、玄関にしゃがみ込んで泣いていた。
明日が晴れますように、そう言って葉書を破いた。

24422-879 昔の攻めの結婚前夜:2011/12/01(木) 21:11:59 ID:ZcsIa3fE
いよいよ明日だな。さすがのお前も緊張してるだろ?
結構経ったよな、あれから。そりゃ結婚の1つ2つくらいするわな。
それにしても、ここ2,3年でお前も随分丸くなったよなあ。あの人のおかげだな、確実に。
俺は、あの頃の抜き身の刀みたいなお前に魅入られたクチだけど――まあ、そんなことはともかく。
あんなにあったかい心と笑顔の持ち主はそうそう居ないぞ。
せっかく巡り会えたひとだ、絶対手放すんじゃねーぞ。
……言うまでもないことか。
お前は今も昔も、大事なものを大事にする所は変わってねーもんな。
バカな俺が、それを無碍にしてしまっただけで。
お前と居た時のことを思い返すと、感謝してもしきれないし……いくら後悔しても、しきれない。

白状するけど、俺はお前にずっと想われていたかった。
よく「死がふたりを分かつまで」って言うけど、それ以上のことを望んでしまってた。
俺がいなくなった後のお前を見てると、悲しくて、申し訳なくて……でも、少し嬉しかった。
傍に居なくても、自分がお前の中に在り続けられる気がして、
俺もお前も哀しみ続けることが分かち難い愛の証になるんだって、思い込んじまってた。
今思えば歪みまくってるよな、全く。
しかしまあ、時間の力っていうのはやっぱり大きいもんだな。
だんだんと、お前への気持ちはそのままに、そういう歪んだ喜びみたいなのだけが消えてった。
俺たちが過ごした日々ってもんの存在は絶対取り消せないし、そこから伸びる線の先に今のお前が居るんだって、
なんとなく納得できたんだと思う。
その頃にはお前もあの人と出逢って、少しずつ笑うようになってた。
あの人がいい意味で俺と正反対だったのも良かった。いや、奇特な人だよ、ほんと。
とにかく、いつの間にかお前の、お前たちの幸せを願える程度には、俺も気持ちの整理がついたってわけだ。

だめだ、このままだと明日までウダウダ居残っちまいそうだ。
いくらって思い切れたって言っても、いざお前たちの晴れ姿を見たらポルターガイストを起こさないとも限らない。
せっかくの式を台無しにしないうちに、そろそろあっちへいこうと思う。
最後に、これだけは言わせてくれ。
勝手に死んでごめん。あんだけ事故るなって言ってくれてたのに、約束破ってごめん。
俺にとってお前は、たった一人のひとだった。
もし生きていられたら、俺は、今もきっと――
いいや、続きは向こうで言うわ。気になっても、あと百年くらいは来るんじゃねーぞ?
じゃあ、そのときまで、またな

24522-879 昔の攻めの結婚前夜:2011/12/02(金) 12:02:36 ID:C9/ajx5w
 カレンダーを見るまでもなく、頭の中のカウントダウンは「結婚式まであと一日」を光らせていた。
 とうとう、明日が大輝の結婚式。
 おだやかな夕闇が窓に広がる。天気がいいといいんだが、このぶんなら大丈夫じゃないか。

 大輝は、学生時代の元彼だった。
 真性の俺と違って、当時からノンケだったのを強引に落とした。
 ガタイがよくて癒し系、優しい性格につけ込んだらあっさりいけた。
 半同棲に持ち込んでどこもかしこも相性バッチリ。一年も続いた、今でも忘れられないいい男だった。

「翔太はもてるから」
 だから、別れ話は意外だった。
 いつもと変わらない優しい目で俺に言う大輝の意図が、最初はさっぱりわからなかった。
「妬いちゃってる? 浮気疑ってる? 俺、大輝ひとすじだってば」
「その、他に誰かいるとか思ってるんじゃないよ、でも……俺……」
 浮気はしてなかった、本当に。友達は男も女もいっぱいいたけど、誰とも大輝が気にするような事実はない。
 つまり言いがかりだ、と思った。
「大輝こそ、最近仲良いよね、ゼミのさくらちゃんだっけ」
「……共同プロジェクトだから、普通に話したりはするよ、それも五人グループだし」
「俺のも、友達でしょ?」
「友達とは手を握ったり……キスしたりはしない」
 内心、ため息つく思いだった。大輝は固いのだ。
「やってないよ?」
「俺は、翔太だけが好きだった」
「俺も。大輝だけだよ」
 俺が飲み込んだため息を、大輝は我慢することなく吐き出した。
「……翔太みたいな人たちがそういう風だとはよく聞くけど、それなら、俺には無理なんだよ」

 大輝は、あっという間にお互いの部屋の荷物を一人で片付けて、あとは学内で会っても、電話をかけても無視だった。
 正直、こんな後味悪い別れ方は初めてだった。結構傷ついた。
 周りの友達がからかい半分、モーション半分であれこれちょっかいかけてきて、大輝が見たらなんて言うだろって
 期待したりした。
 大人しくしてればいつかまた、と思って、ちょこちょこメールを送り続けて半年、我ながら柄にもなくけなげじゃん。
 俺の誕生日に送ったメールに、たったひとこと「おめでとう」って返信が来た時は嬉しかったな。
 少しずつ、返信が増えて、会っても話すようになって、卒業をまたいでも学生時代の仲間で飲み会セッティングしたり。

 別れて三年、そろそろ、なんて思ってたところに降ってわいた大輝の結婚だった。
 ショックがなかったと言えば嘘。でも、気にするな、ドンマイドンマイ、って自分に言い聞かせた。
 結婚したって友人関係に影響はない。俺達は、今は男同士の友達なのだ。
 嫁さんにも、誰にも文句は言わせない。相手、どんな女か知らないけど。

 晩飯を考えつつ、一応送っとくか、とメールを打つ。
『いよいよ明日! 結婚おめでとう!』
 恥ずかしいほどキラキラにハートでデコって、ニヤニヤと送信ボタンを押した。
 珍しくすぐに返信が来た。
 大輝からの返信は早くて一時間、遅けりゃ来ないくらいなのに。
 いつもの、絵文字もなにもないそっけない文面が薄暗くなった部屋の中で光る。

『もう、メールも電話も受け取らない 今までありがとう』
 驚いた。大輝の話はいつも突然だ。
『なんで? 友達じゃん 絶交宣言? なんで?』
 すぐ送った。またすぐに返信が来た。
「うぬぼれかもしれないけど、結婚するんで翔太とはつきあえない』
『男同士だからいいじゃん? 友達でしょ?』
『俺は、本当に翔太のことが好きだった。だからつきあえない』
 好き、という文字が目に飛び込んできた。じゃあなんで?
 続いてすぐ次のメールが来る。馬鹿みたいな着信音をぶっちぎって確認する。読んでるうちに次の着信。
『もっと早くこのメールを送るべきだった。俺は、本気だった。翔太はそうじゃない。わかってほしい』
『好きだったから、離れられなかった。俺は卑怯だった』
『ありがとう。本当に大好きだった。これで最後になる』
 文の最後に、脈絡もなく唐突な赤いハートの絵文字。初めて見た……

 ぼんやり眺めていたら鼻がツーンとして、慌てて返信を作った。
『俺が好きならまたつきあおう』
 急いで打って、何もつけずに送信する。
 ──宛先がない。メールを拒否られた。きっと、電話もかからない。
 なんてひどいんだ。涙が流れた。何が悪かったんだ。どこで間違ったんだ。
 友達でいいじゃないか。大輝、ねぇ。
 泣きながら、俺は無意識になぐさめてくれる奴を探して携帯を握り……目をつぶって壁に投げた。

24622-900 なにその変な所で無駄にハイスペック:2011/12/04(日) 04:34:08 ID:0xTf9SwQ
いきなりで何だがオレの恋人兼バイト先のコンビニの同僚はネパール人の留学生だ
こんなこと言うのもアレだがスゲーイケメンだ
日本語もかなり達者だ。もちろん英語もできる。当然ながらネパール語も話せるからトライリンガルだ
よくよく考えればこれだけでもかなり高スペックだな
なんてことを考えながらレジを打っていた。今日は恋人と二人きりのシフトだ
まあわりと忙しい店だからいちゃついたりする暇はないんだけどね
と、なんか南アジア系の人たちが集団でやってきた。そしてレジのオレのところにきて何か聞いてきた
???
英語ではない。何だろう、この言葉は? オレは途方に暮れて硬直していた
そうしたら、別の仕事をしていた恋人がすぐに来てその客と会話した。無事に解決したようだ
「道を聞いてたみたいだよ」
「今のネパール人?」
「いやインド人よ」
「言葉は通じたの?」
「僕はヒンズーもいけるのよ」
と、今度は妙な民族衣装を着た人たちが入って来た・・・これは見覚えがあるぞ・・・
そうだ! こないだ来日したブータン国王が着ていた民族衣装だ
おいおい、こっちに向かってなんか話しかけて来たぞ! あわわわわ!
そうしたら、別の仕事をしていた恋人がすぐに来てその客と会話した。無事に解決したようだ
なんか今日は厄日だな。と、レジに並んでいたのは白人女性
あ、いらっしゃいませ! ・・・? おい、ここは日本だ。日本語で話せ。ドイツ語なんか知らん・・・
そうしたら、別の仕事をしていた恋人がすぐに来てその客と会話した。無事に解決したようだ

バイトを終えて帰宅後。夜のオレの家での寝室にて
「あれ、言わなかったっけ。僕インドの大学に行っていたからヒンズー語できるね」
「あっ・・・くっ・・・」
「それと日本に来る前にドイツに居たからドイツ語もできるね」
「はっ、はっ、はっ・・・」
「あと親戚にブータン人が居るからゾンカ語もオーケーよ」
「あっ・・・あーっ」
「今はコンビニの接客くらいしか使い道がないけどねw」
「・・・」
オレは恋人のハイスペックぶりを聞きながら逝き果てた

24722-899 雪の降る町降らない町 1/2:2011/12/04(日) 21:25:01 ID:VjLbMnlE
書いてたらお題から24時間経過しちゃったので、こちらに。


------------
ピッ
「もっしもーし!!オレオレ!わかる?」
『…詐欺なら間に合ってます』
「ちょw冷たいww」
『なんの用だ』
「んー?別に用事はないけど、どうしてるかなと思ってさ。元気?」
『ああ、特に変わりない』
「北の大地はどうよ?やっぱ寒いの?」
『いや、むしろ暖かい。建物の気密性もすごいし暖房器具も充実してるからな』
「へー、そうなんだ」
『あと、ゴ○ブリもいない。快適』
「寒がりで黒い悪魔の嫌いなお前にはぴったりの土地ですねw」
『沖縄のGはでかすぎる』
「まあね〜、こっちのは怪物級だよねww」
『そういえば、今日、雪が降った』
「雪!?マジで雪!?すげー!!!」
『積もったから、いま外は一面真っ白だ』
「えー!いいないいな!写メくれ写メ!」
『ああ、後で送るよ』

24822-899 雪の降る町降らない町 2/2:2011/12/04(日) 21:28:59 ID:VjLbMnlE
「やっぱ雨みたいに空から降るの?ふわっふわなの?」
『降り始めは、小さい欠片がヒラヒラ降る感じ。
そのあと塊みたいなのが、ボトボト空から落ちてきた。』
「はー、いいなぁ。やっぱ綺麗だった?」
『ああ。空を見上げたら、白い綿みたいなのが、はらはらはらはら降ってくるんだ。花びらみたいに軽そうなのに、身体にあたると張り付いて溶けて冷たくて重くて…なんか不思議な光景だった』
「いいな〜オレも見たいわ〜」
『…でも少し、物悲しくなるぞ?』
「はっはーん、つまりお前は雪が降るのを見て人恋しくなって、
俺に電話しようかしまいか携帯を握って考えていた結果、
さっき電話に出るのが異常に早かったわけか〜」
『…俺、お前のそういうところ嫌い』
「オレはお前のそういうとこも大好きよwww
も〜、距離が離れるんだから、寂しくなったらすぐ連絡しろって言ったデショ!」
『…雪のせいだと思ったから』
「関係ないさー、距離のせいでも雪のせいでも何のせいでも、まず電話!
そしたら俺が愛のパワーで寂しさとか不安とか吹っ飛ばしてやるから!」
『…うん』
「あ、そうそう。オレ、とうとうA判定出たよ!このまま頑張れば、来年にはそっちの大学行けるから!
…来年は、手つないで一緒に見ような!雪!」
『うん』

24922-899 雪の降る町降らない町:2011/12/04(日) 22:43:54 ID:J7MYJRIk
「雪が見てみたい」
『突然どうしたんです』
「此処は雪が降らない。私は文献の記述でしか、雪というものを知らない」
『そうなんですか。僕は知ってます。こちらではたくさん降りますからね』
「嫌味な奴だな」
『そんなつもりで言ったんじゃありませんよ。気に障ったのなら謝ります』
「雪とは冷たいものだそうだな。雨よりも冷たいのか」
『それはまあ、気温が低くないと雪にはなりませんからね。雪も雨も元は同じものです』
「お前の手よりも冷たいのか」
『さあ、どうでしょう。ああでも、僕が冷たいと感じるのだから、僕の手よりも冷たいのかも』
「そうか。まったく想像がつかん。お前の手より冷たいものなど存在するのか」
『それ、僕は喜んでいいんですか?それとも悲しむべき?』
「好きにしろ。……お前は雪が好きなんだな」
『は?』
「雪はお前よりも冷たいのだろう。お前は、お前より優れたものが好きだと前に言っていたではないか」
『これはまたえらく飛躍しましたね。冷たいというのは事実であって、僕の評価じゃありませんよ』
「雪を知らない私にとっては同じことだ」
『それに、雪が降るところには降るところの苦労がいろいろあるものです。
 それにしても意外ですね。そちらは雪が降らないのですか』
「当たり前だろう。雲の動きを考えろ」
『でも、そちらには何でもあるじゃないですか。無いものを探す方が難しいくらい』
「そんなことはない。此処には何もない」
『うーん、それはこちらに対する嫌味にならないんですかねえ』
「そんなつもりは無い。私は常日頃から感じていることを正直に言っている」
『貴方の正直さはいつも美しい』
「心が篭っていないな。お前はいつもそんな調子だ。だから信用ならん」
『その上で僕を愛して下さる貴方のことが、僕は大好きですよ』
「本当に空っぽだな、お前は」
『残念ながら、篭める心が無いもので。……それで?』
「なんだ」
『貴方は死ぬのですか?』
「……。なぜそうなる」
『急に雪が見たいと仰った。僕の手の冷たさを思って下さった。普段の貴方は、下界に関心など持たないでしょう』
「…………」
『僕は僕より優れたものが好きですが、それは僕と貴方が元は同じものだったからですよ。
 貴方は僕より優れていて、僕より温かくて、僕など比べ物にならないくらい正直で。でもそれだけだ』
「私が雨で、お前が雪か」
『そういうことです。だから、貴方の考えていることは分からなくても、感じているものは解ります。
 貴方とこんな風に話が出来るのは、僕をおいて他には居ない。自惚れの特権のようなものです』
「おめでたい奴だ」
『貴方が雪が見たいというのなら、僕が迎えに行きましょう。今すぐにでも』
「……お前と通じていることが同胞にバレた」
『ああ……それはそれは』
「此処にもはや私は不要だ。私は、否、我らは、死に染まった同胞を許すことはない。
 我らを堕落させる貴様らを、許すことはない。此処には何も無い。それが全て」
『いつ聞いても大袈裟な口上ですねえ』
「真実だ。私の評価ではない」
『僕らの仕事は真実と虚構を掻き混ぜる事なので真と否はさして重要では無い。
 初めてお会いしたときにそう言いましたよね。憶えていますか?』
「ああ、憶えている」
『貴方はもっと高望みしても良いと思いますよ』
「だからお前とこうして話をしているだろう。私の最後の我侭だ」
『それは光栄なことです。……雪、こちらでは今ちょうど降っていますよ。とても、とても静かです』
「そうか。羨ましいことだ。此処では太陽しか見えない」
『ああ、解けても良いから、あのとき貴方を攫えば良かった』

25022-909 滅亡する王朝の少年皇帝の最期:2011/12/05(月) 15:07:11 ID:rinx5Ew2
それを望んだのは、彼だった。
そうでなければ私のような者が、彼をこの手に抱くことなど無かっただろう。

病に侵され深い眠りに付くときに、私の歌を聞いていたいそうだと、皇帝の側近から告げられた。
正確には、私でなく私の母の歌だ。
母は若い頃、楽師としてこの宮中に出入りしていた。
琵琶の腕前では右に出るものはなく、当時の皇帝から名指しでお声をかけていただくほどであったと聞いた。
母がよく歌ってくれたのが、山向こうの遊牧民たちから聴き覚えた子守唄だった。
そんな母は舞楽の仲間達数名と共に他国へ向かい、道中山賊に殺されてしまった。だからもうこの子守唄を歌える者は私しか残っていない。
宮廷の下の下仕えである私が宮殿内へ入ることなど、あとにも先にも今だけだろう。
そうでなくともこの国は、もうすぐ幼き皇帝のものではなくなる。

先代皇帝が病に伏したとき、国は悪しき高官たちによって荒れに荒れた。
幼き皇帝が彼の側近によって守られ皇位を継承した頃には、もうこの国に未来は無く、人民の前には闇が広がるばかり。
それでも幼き皇帝は、民を愛し、国を愛した。
我々の考えなど遠く及ばないほどに深い慈悲でもって、この国には今ひとたび、ささやかではあるが幸せという名の灯がともったように思えた。国の最期へと向かう、穏やかな日々だった。
彼はその時既に、父と同じ病に侵された、自らの天命の限りを知っていたのだという。

彼は初めて会った私に、兄上、と声をかけた。
私が驚いていると、私の母をそれほどまでに慕っていたと教えてくれた。息子がいることを母から聞き、私に会いたかったとも。

私が促されるまま枕元に腰を下ろすと、手を握り、抱きかかえるよう言われた。絢爛な衣の上からも、やせた彼のか細さが伝わってくる。
私の目元が母にそっくりだと言って、柔らかな指先で私の睫毛を撫でた。
母の奏でる琵琶は風に似て、その声は旋風の中を舞う花弁の様であったと懐かしんでくれた。
それほどまでにおっしゃってくださることが恐れ多く、私はじわりと汗をかいた。
幼き皇帝は、金糸銀糸に彩られた袂で私の汗を拭い、消え入るように「歌って下さい」と言った。

母のしてくれたように体をゆっくりと揺らし、背中の手で拍子を取る。
幼き皇帝は期待感からか、私を見つめ子供のように笑った。
なぜだかは知らないが、私は本当に彼の兄であるような心地になり、彼がただ一人の少年であるような気になった。
馬鹿げたことだ、恐れ多いことだと思いながらも、私の目からは、溢れ出る涙が止まらなかった。
震える声で母を思い出しながら歌っていると、彼もまたうっとりと瞼を閉じ、私と同じ母を見ていた。

私の歌が終わる頃、彼は大きな役目を果たし、短い短い生涯を終えた。
出来うる限り人を愛し、あらん限りこの国に尽くした。
そうしてまたこの国も、長い長い、歴史を終えた。

今思えば、彼ほどにあの国を愛した者はいなかっただろうと思う。
いや、まだこの国と呼ぶべきか。
彼は短い生涯にあれだけの民を愛しながら、隣国へ私たちの未来を託した。
人民は誰も傷付く事なく、なにも失う事なく、国はやがて穏やかな村となった。
彼の功績は最後の皇帝がもたらした奇跡として語り継がれている。
今日もまた、村には風が吹き、花が舞うばかり。

25122-939 ツンデレ攻め×鬱受け:2011/12/08(木) 21:35:12 ID:6xMIQAUw
「五月」
「……なんだあんたか。なんか用」
「最近お前が閉じこもりがちだと聞いてな。様子を見に来た」
「別に。だりーから寝てるだけ」
「また五月病か」
「うるっさいなー…だるいもんは仕方ないでしょ」
「連休のときはあんなに元気だったじゃないか」
「あーもー…」
「確かに月初に連休があると中旬以降は辛いかもしれないが、土曜と日曜は
 普通にあるだろうが。六月と八月は祝日が全く無いのに元気にやっているぞ」
「あいつらと一緒にしないでくれる」
「なぜ」
「八月はほぼ夏休みだから元気で当たり前。能天気に遊んで休みのツケは九月に投げてさ。
 六月は結婚式だ披露宴だって他人の幸せ見てニコニコしてる偽善者で」
「捻くれた考え方をするな。八月はああ見えて盆の行事はきちんとやっているし、なんだかんだで宿題は終わらせる。
 六月は他人の幸せも心から祝福しているんだ。自分は雨男だからと、てるてる坊主で願掛けまでして」
「あー…そうだね。俺が最低なだけだわ」
「誰もそんなことは言ってないだろう」
「わかってるよ。皆が俺をうざいと思ってるって。あんたは特にそうだろ」
「何だと?」
「働けることに感謝しましょう、働く人に感謝しましょう…だっけ?立派だと思うよ本当に。
 だから、あんたから見たら俺はただやる気がなくてウダウダしてて、すげー腹立つんだろうなって」
「…………」
「俺のことなんて放っておいた方がいいんだ」
「本気でそう思ってるのか」
「そーだよ」
「俺達がお前を鬱陶しがっているだって?馬鹿も休み休み言え。そういうのは四月の領分だ」
「いいから。もう帰ってよ」
「俺が嫌いな奴の為に遠い距離を出向いてくると思うのか。一番遠いお前のところまで、わざわざ」
「帰れって」
「俺は、お前の作る柏餅が好きなんだがな」
「………」
「まあ、今日のところは帰るが。だがあまり閉じこもってるようなら、先生を連れてくるからな」
「脅しかよ」
「ああ、脅しだ。……また来る。ではな」


「知らねーよ…あんたの好みなんか……」

25223-9 原始人×サラリーマン:2011/12/11(日) 18:36:59 ID:jRHgUOkE
目が覚めると、そこは原始時代だった。
なんだ夢かと思って、もう一度寝ようとしたが、地面は石だし、
砂埃も凄いし、動物に襲われそうになったので慌てて逃げた。
俺は普通のサラリーマンである。
人と違う所はインドアで多少オタク趣味があるくらいだろうか。
だからこそ、こんな奇抜な設定でも冷静にいられるのかもしれない。
タイムスリップ漫画の知識を総動員して、とにかく現代に戻る方法を考える。
まずはここでの衣食住を確保しなければと思い、周辺を歩き、そのうちに川を見つけた。
木も生い茂っていて、身を隠す場もありそうだった。
俺はしばらくここで生活することにした。
川の水は綺麗だったので、思い切って口にした。現代の水よりも遙かにうまかった。
明かりは無かったから、日の出と共に起き、日の入りと共に寝た。
食べ物は木の実や、魚でなんとかなった。
こんな健康的な生活は何年ぶりだろう。
俺が生まれるべきだったのは、本当はこっちの世界だったんじゃないかとまで思い始めた。

川の下流に進むと、木をくりぬいただけの稚拙な作りだが、カヌーらしきものがあった。
文明らしきものを見いだして感動した。
言葉は通じないだろうけれど、
身振り手振りでコミュニケーションはどうにかなるかもしれない。
俺は一縷の望みをかけて人を探した。
人はいた。筋肉のついた色の黒い男だった。男は興奮していた。
見慣れない奴がいるのだから当然だろう。どうすれば落ち着くのだろうか。
興奮した男は、ひとしきり興奮した後、どこかに行ってしまった。
不振に思って仲間を連れてくるのかと思ったら、何故か食べ物らしきものを持ってきた。
肉である。しばらく食べられなかった肉である。
現代人の自分には到底手に入れることが出来なかった肉である。
さすがにギャート○ズの肉ではなかったが、今の俺にはごちそうに思えた。
これを食えと言っているように思えたので、恐る恐る口にした。うまい。
味はないが、空腹は最大の調味料。かつ、肉がしまっている。
夢中で食べていると後ろから男が抱きついてきた。
ああ、原始人って本能に素直なんだよなあ。
食欲が満たされたら、性欲かあ、などと冷静に分析している自分もいたが、
身の危険を感じて大慌てで離れようとする。
しかし、原始人にひ弱な現代人が勝てる訳がない。
獣のようにやられた後に、俺は男の仲間の所に連れて行かれた。
男はリーダー格の人間だったらしく、他の男に差し出されはしなかった。
彼らに現代人は色が白く、歯も白く、神秘的に見えたらしい。
俺は神のようにあがめたてられた。
そして今は骨で占いらしきことをしている。
男は惜しみなく俺に肉をくれる。その後は本能の赴くままだが。
俺の人生って本当にこれで良かったのかな。
まあ、いいけど。

25323-29 熱々あんかけ対決:2011/12/15(木) 11:36:21 ID:7kI6qjpc
「おい勝負だ!」
 あるアパートの一室で、今夜も料理対決のゴングが鳴る。
 お題は「あんかけ」。対戦するのは板前見習と大学生だ。

「店の片付けで疲れてない? 別の日でもいいんだよ」
「バーロー、お前に勝ち逃げされてたまるか! つか卒論抱えてるくせに余裕だなお前」
「真面目な学生だからね。はい、それじゃ大家さん審査よろしく」
「おんやまあ、今日もかい? 二人の料理を食べられるのは嬉しいねえ」
「ばーさん、審査は公平に頼むぜ」
「じゃあ、スタート!」

 ――奴の料理はあんかけ炒飯だった。
 玉子とネギだけのパラパラ炒飯に、エビのとろとろ熱々あんかけ。
 炒飯もあんかけもどっちも美味しいのに、まるっと全部一緒に食べると、咀嚼する度に小気味よい食感が味わえる。最初は炒飯のぱらぱら感とエビのぷりぷり感が歯に心地良く、咀嚼が進むにつれて双方の風味が渾然一体となって口の中に広がる。そして飲み込む時ののどごしを、あんかけが心地良くしている。
 はっきり言って奴の料理はうまい。天才だ。俺は胃袋を奴に掴まれていると言っていい。
 米の炊き方も包丁の握り方も知らなかった奴に料理のいろはを教えたのは俺だが、奴は瞬く間に上達して俺を飛び越していった。
 きっと料理人になったら沢山の人を幸せにできるだろうに、奴は元来の夢をかなえる為に故郷に戻って、可愛い嫁さんを貰って家業を継ぐ。
 俺じゃない誰かを幸せにするんだろう。
 それに苛立って、料理対決をしかけてる。
 ‥‥こんな風にじゃれあうのも、奴が大学を卒業するまでの事だ。


 ――彼の料理はあんかけうどんだった。
 人参の紅に絹さやの緑、大根の白、椎茸の黒、出汁の琥珀色が美しい。
 薄い色合いだから淡泊かと思いきや、出汁が利いている。それでいて濃すぎず、あんのとろみで味がまろやかになっていて、つるつると食べられる。
 難点があるとすればうどんのコシの弱さ――讃岐うどんに慣れた僕にとってコレはちょっと不満だけど、審査員の大家のおばあちゃんの歯が弱いのを考えてだろう。僕に作ってくれた時のうどんは、コシがしっかりしていたから。
 こういう気配りは、彼には敵わない。
 料理ができなくて弁当ばかりだった僕に暖かい料理を差し入れてくれて。
 さしすせそを知らない僕に料理を教えてくれた時も、口は悪いけれど褒める時はしっかり褒めて、駄目な時は叱って、だから迷わず楽しく料理に挑戦できた。
 彼のぶっきらぼうな優しさに、ずっと前から心臓を鷲づかみにされてる。
 故郷と家業への愛着が、揺らぐほどに。


 今夜の料理対決は彼の勝ちだった。
 大家の部屋を辞して、二人の部屋に戻る。
「次は来週だからな」
「また対決するんですか」
「お前が卒業するまでに星を五分に戻しておきたいんだよ。言っただろ、勝ち逃げは許さねぇって」
「その事ですが」
「ん?」
「君には言いそびれていましたが、僕、院に行くんですよ」
「‥‥つまり」
「だから、もう暫くお世話になります」
 そう言うと、彼は嬉しそうな顔で「さっさと言えよばかやろー!」と笑った。

254名無しさん:2011/12/15(木) 13:33:39 ID:z4b61Y7I
0以外253
最後の笑い顔が浮かぶようだったよ
爽やかかつ美味しそうなお話GJでした!

255名無しさん:2011/12/15(木) 13:34:11 ID:z4b61Y7I
間違えました…えろうすんませんorz

25623-49 付箋を貼る:2011/12/17(土) 16:07:02 ID:wWIlTno2
規制ひどいんでこっちに

授業中に、大事だと思うとこには付箋をつけろよ、と牧野先生が言ったので、すぐそこにあった後藤の左手に貼った。
訝しげな顔をして小声で、星くんなにすんの、と聞くので大事なものに貼るんだろと答えたら、びっくりしたのか付箋の貼られた手を高々とあげて牧野先生に怒られていた。
真っ赤になって俯く後藤にピンクの付箋がよく似合って、にやけていたら不機嫌そうに睨まれた。
そのあと僕は、付箋は顔に貼るものじゃない、と牧野先生に怒られた。
冤罪です先生。

25723-59 行き止まりでの出会い:2011/12/20(火) 21:55:54 ID:80bCOhIA
足が疲れて絡まりそうになる。走る。逃げる。走る。
路地裏に逃げ込んで、俺は先に進めなくなった。
追っ手の声がして、俺は今来た方向を振り返った。すると背中からドアの開く音がした。
「あ……」
ドアから出てきたのはゴミ袋を持った若いバーテンダーだった。
とまどっている男を問答無用で押し込み、俺は扉を閉め鍵をかける。
「え?ちょっと……」
「助かった。ありがとよ」
「てめえ!ふざけんじゃねえぞ!逃げ切れると思ってんのか!」
ドアを叩く音と蹴る音、罵詈雑言が聞こえたが無視する。
「出口はどっちだ?」
「……勝手に裏口から店に入って、注文もせずに出口をきくなんて横柄なお客様ですね」
「ああ、すまん。今はこれしか手持ちがないんで勘弁してくれ」
俺は財布から札束を取り出して男の胸元に押し付けた。だか男は受け取らない。
「もらう理由がありません」
「礼だ」
「もらえません」
「うるせえな。金はあって困るもんじゃねえだろ」
「私は今困ってます」
「俺は急いでるんだよ。その金で一番高いボトルでもいれとけ」
「それでも余ります」
「十本でも二十本でも入れられるだけ入れりゃいいだろ。じゃあな」
「あっ、待って!」
後ろで男がゴチャゴチャ言っていたがそれも無視した。
気がついたらパトカーの音がして、俺を追いかけてくる奴らはいなくなっていた。

数日後、俺は様子をみるためにその店へ軽く変装をして行った。
男は俺を見るとすぐに苦笑いをして
「ああ、この間の……」と言った。
「そんなにすぐわかるか?」
「名前も言わず何本もボトルを入れられるお客様は少ないので」
「そりゃそうだわな」
「ポチ様で入れておきました」
「ポチ……」
「もういらっしゃらないと思っておりましたので嬉しいですよ、ポチ様」
どうみても迷惑そうに愛想笑いを浮かべて男は言う。
「あの後、俺のオトモダチが来なかったか?」
「来てましたよ」
男はサラリと言うが、ただ来ただけではないだろう。
だが男は話題に出すのを拒否しているように思えた。
「そうか、すまなかったな」
「いえ、別に」
目の前にグラスが差し出される。
「どうぞ、ポチ様」
どうもポチ様で押し切られるらしい。
あの日、警察を呼んだのはお前だろ?
そう聞きたい気持ちもあったがやめた。
男はあの日の事を聞かず、オトモダチの事も聞かなかった。
お酒はどういうものがお好きなんですか?
何か一緒につまんだ方がいいですよ……
そんな風になんとなく続く緩やかな会話。
気がつけば予定の時間よりも長く店にいた。

「このペースだと何年かかるかわかりませんよ」
「何が?」
「うちに入れたボトルを空けるのが」
「ああ……」
もうこの店に来るつもりはないと薄々気がついているだろうに、男は俺にそんな事を言う。
「お待ちしています」
男はにっこりと笑って見送ってくれた。
最後にポチ様とつけるのを忘れずに。

25823-179 勇気を下さい!:2012/01/10(火) 10:00:17 ID:rTVrua6s
「お父さん!勇気くんを僕に下さい!絶対幸せにします、お願いします!」

目の前で必死に頭を下げる青年を、私は複雑な気持ちで見ていた。
それなりに真っ当に育ててきたつもりだった次男が、幼馴染である一也くんにもらわれていく。
二人を興奮気味に見守る妻と、ふすまの向こうにいるであろう長男。
男女男男男。本日はお日柄も良くお父さん息子さんを僕に下さい系土下座。
自分のいる空間の奇妙さに軽いめまいを覚えながら、一緒になって頭を下げている次男を見る。
いつの間にこんなに大きくなったのか。
小さい頃から泣き虫で、長男にけしかけられては色々と危ないことをさせられていた。
妻に似た切れ長の目元は、笑うたび綺麗に下がる。
二人が一緒にいるところは、昔から良く見かけた。
勇気の目尻は幸せそうに下がり、一也くんもまた、彼の家族皆がそうであるように口を大きくあけて笑っていた。
これから先の不安や問題など、問うだけ無駄なのだろうと二人の姿から思い知らされる。
「律儀な男だね、君も」
そう呟くと、場が一層静まり返る。
次の言葉に威厳はどのくらい必要かと悩みつつ、神妙な顔をする二人をもう少し困らせてやろうとも思う。
皆にとって一世一代のイベントだ。
私はおそらくラスボスという奴だろうから、夕飯のことでも考えて、難しい顔をしていよう。
祝い事だからやっぱり寿司か?
勇気はやっても穴子は譲らんぞ、息子達。

25923-249 かえりたい:2012/01/27(金) 23:40:42 ID:KsMLYn2w
ロクでもない人生でも、オレにはお前が居た。
ヒッソリと生きていたのに、どうしてだ?
あの日、今まで信じていた事が嘘となり世界が変貌し壊れていった。
お前と共に……。
幸せになりたい、全てをなかった事にしたい、なんて贅沢は言わない。
ただ、あの日に帰れるものなら帰りたい。
そうしたら、今度はお前の側に居るから。
たとえ何が起きても、お前の手を掴んで離さない。
お前1人だけに、つらい思いをさせない。
非力なオレだけど、お前の為に精一杯頑張るから。
どんなに酷い現実でも、一緒に受け入れるから。
だから、あの瞬間にかえりたい……。

26023-349:2012/02/02(木) 20:17:31 ID:gVYyMpGc
私が中学生の時、君は小学生だった。
今では考えられないくらいの弱虫で、泣き虫で、いじめられているところを班の年長の僕がよく庇った記憶がある。
縮こまりながら泣きじゃくる君を見て、守ってあげなきゃという気持ちになった。
私が高校生の時、君は中学生だった。
今では茶色く染められた長い髪が黒い短髪だったとき、君はサッカーに熱中していた。
ゴールめがけてボールとともに走る姿を僕はとてもかっこよく思った。
私が大学生の今、君は高校生だ。
守ってあげたいとか、かっこいいと思っていた僕を殴り殺したいくらい後悔させてくれる君は、毎日僕の実家に通ってくる。
そして毎日食後に妹のさやかの部屋に移動する。
幸い僕が実家に帰っている時にそういった声がしないからいいものの、もしソレに近い行動をしたのならぶっ殺してやると思うくらいには僕は妹想いだ。
そう、君は僕の庇護対象からも賞賛対象にもならず、妹に近づく下種野郎になってしまった。
妹は君には渡さない。君を妹にも渡さない。
妹の料理をおいしいおいしいと食べる君に、今度は僕が手料理を振舞ってやろうと心に誓った。

26123-359 日本刀1/2:2012/02/05(日) 01:45:13 ID:v.TLS2Xc
あの箱には決して触れてはいけない。
子供の頃、探険ごっこと称して、家の中を荒らし回ったことがある。
その遊びは和室の一部屋に隠すように置かれていた桐箱を手に取ったとき、祖父の一喝と共に終わることになった。
祖父は僕たちの悪戯を叱りつけながら、きつくきつく言い含めた。
あの箱には決して触れてはいけないよ、と。
次にその箱を目にすることになったのは高校生の時だった。
兄と何かの会話の弾みにふいと、昔見たあの箱を覚えているかという話になった。
一度思い出してしまえば中身が気になって仕方がない。
二人の記憶をすり合わせ、かつてと同じ場所にあった桐箱を引っぱり出した。
箱を閉じていた紐を解き、いざ蓋を開けてみれば中にあったのは一振りの日本刀だった。
電光を受けて黒光りする鞘。手に取るとずっしりと重い。
何故こんなものが家にあるのだろうと訝しがったが、
僕たちの目は初めて見る「道具」に恐れながらも惹かれていた。
おまえ、ちょっと抜いてみろよ。
兄の提案に逆らえず、少しだけ、柄を持つ手を引いた。
瞬間、ぎらりとした凶悪な光に僕は息を飲んだ。
ただの電光の照り返しとは思えないほどの異様な輝き。
それはどんなものよりも僕の目を焼いた。
――睨みつけられた。そう思った瞬間にばしんと強く障子が開け放たれた。
振り向いた僕たちが見たのは、その刀を抜いたのかと問う祖父の姿だった。
祖父は昔より強い調子で僕たちを叱り飛ばし、
これは妖刀だから決して鞘から抜いてはいけない、と告げた。
そして、もうこれのことは忘れてくれと、祈るような声でこぼした。
祖父が去り気まずい静寂が続く中、僕はただ、見たか?とだけ問うてみた。
兄は、何を?と返した。何を見たかは、答えられなかった。
突然の乱入に驚いた拍子で刀を鞘に納めたため、刀身を見たと祖父が知ることはついになかった。

26223-359 日本刀2/2:2012/02/05(日) 01:45:53 ID:v.TLS2Xc
数年経ち、僕は滑り止めの大学に辛うじて引っかかった。
あれ以来、楽しいものや美しいものに心を留めることもなくなった。上の空になることが増えた。
ただ、あの時の輝きを思い出すだけの数年だった。
妖刀とはこうやって人を惑わすものなのかとどこか感心しつつ、
この件に決着をつけなければならないと感じていた。
そのためには彼に――そうだ、本能的にあの刀が男であることを知っていた――
彼に、もう一度会う必要があった。
さすがに高校生のときの一件があったからか、例の桐箱はあの和室にはなかった。
しかし、僕は祖父の所有している離れの蔵があることを知っており、
そこへの忍び方も、昔の悪戯の経験から、これまた分かっていた。
今はもうたやすく思い出せる箱。今度は一人きりで紐を解く。
彼を持ちあげる手が震えて震えて仕方なかった。
力を込めてゆっくりと鞘から引きぬくと、月明かりを受けて刃の上を光が流れていく。
そうして現れた全身を目にした時、
僕は、彼が妖刀だということを忘れた。――刀であるということさえ頭から消し飛んだ。
彼の姿はほっそりと澄んだ鈍色をして、久しく忘れていた美への感動を思い出した。
あの時とは違う優しい目の輝きと、ただただ見つめ合っていた。
どれほど時が経ったか、不意に彼の先端が服の襟元に触れた。
そのままボタンをぷつぷつと弾けさせながら降りていき、彼の目の前に裸の胸が晒されることになった。
彼自身を握っているのは僕なのに、彼の動きに僕の意志は全く関与していない。
肌に触れる、冷たくぴりぴりとした指先。
喉仏や胸元を特に好んでくすぐっている。
こうして彼は人を愛してきたのだろう。触れられたところからじわじわと深い陶酔が広がっていく。
その胸を撫ぜた手は鳩尾を滑り、くっ、と腹の上で止まった。
お前を鞘にしてもいいのかと、決意を問われているのが分かった。
ここまで強引に事を進めておいて、何を今さらと笑う。
彼にされることならば何も怖くはない。与えられる全てを愛することができる。
手に力を込めて、受け入れる。


ぐわん、と脳が揺さぶられる感覚がし、数瞬遅れて頬の熱さと兄の姿を知覚した。
気づけば彼は既に僕の手の中にはなく、真っ赤な顔をした兄がぶるぶると震えるほど固く握りしめていた。
あのとき探険をしなければ、祖父の言いつけを守っていれば、刀を抜かせなければ、
俺が兄だから止めなければ、守らなければならなかったんだと、全てを悔いて泣いていた。
夢心地の中で聞いた兄の独白も、僕の何を変えることもなかった。
ただ彼を納めるはずの体の中心から、とうとうと血が流れ出ていくのを感じていた。


あれから祖父の手により彼は二度と僕の目に触れないようにと、どこか遠いところへ追いやられてしまった。
だけど僕は彼を探し求め、程なく彼を見つけることができるだろう。
なぜなら、腹の傷が今もうずいて呼んでいる。呼ばれている。

26323-399 中東情勢1/2:2012/02/11(土) 04:42:53 ID:Bvpshl.w
街は瀕死の状態だった。建物は全て壊れていた。生き残った壁らしきものは蜂の巣になっていた
きっと美しい街だったのだろう……一緒に回りたかった……涙がこぼれてきた
ガイドの運転する車は更地の前で止まった。ガイドは「ここが目的地だ」という意味のことを言った
オレは震える手足と高鳴る動悸と乾く口と色んな心身の緊張を感じながら意を決して車から降りた

マラークという名前はアラビア語で天使を意味する。マラークはオレにとってまさに天使だった
出会ったのは去年の夏のことだ。河川敷で大学の仲間とバーベキュー大会をしていた
飲んで泥酔したオレは正体不明になり川に真っ逆さまに転落してあっという間に流された
もうダメだと思ったが、対岸で釣りをしていた若い男性に助けられた。それがマラークだった
マラークは中東出身の23歳。留学生だ。元水泳選手で国家代表の候補になったことがあるそうだ
ちみなに留学は私費だそうだ。実家は向こうの観光地のホテル経営に関わっているお金持ちらしい
日本を留学先に選んだ理由は「YAOI」だそうだ。マラークはゲイだったのだ
中東ではゲイがゲイとして生きることはまず不可能だ。マラークは故郷から離れることを選んだ
そして「YAOI」のある日本なら自分でもゲイとして生きられると考えて留学先を選んだらしい
マラークは髭を生やしていない。アラブの男は基本的に髭を生やす。髭を生やさないとゲイ扱いされる
マラークは敢えて髭を生やしていないのだ。マラークの顔を見てつくづく思うのだが、アラブ人は白人だ
学問的にはゲルマンでもラテンでもスラブでもなくセムという系統の人たちだそうだが間違いない
イタリアのサッカー選手をさらに濃くて少しだけ東方の血を混ぜたような感じだ
そんなこんなでオレとマラークは恋仲になった。オレの方が明らかにマラークにのめり込んでいた

26423-399 中東情勢1/2:2012/02/11(土) 04:43:29 ID:Bvpshl.w
去年の年明けから中東は揺れに揺れた。マラークはとても情勢を心配していた。オレも心配だった
夜にマラークとの行為を終えた後にネットに繋いでは、BBCやアルジャジーラを見ては情報を集めた
その最中に今度は日本が揺れた。マラークは在日アラブ人のコネクションを駆使して募金を集めてくれた
日本と世界が異常に揺れた年にマラークの故国も民主化運動で大揺れだった
デモ隊に軍が発砲して死傷者多数という痛ましいニュースは連日のように伝えられた
デモ参加者の14歳の少年が軍から壮絶な拷問を受け見るも無残な遺体になったというニュース映像も見た
マラークの故郷は以前から宗教的マイノリティが多く居住する地域で反政府運動が盛んだった
そしてとうとう始まってしまった。政府は反政府運動を徹底的に殲滅するために街に空爆を始めた
街の住民=反逆者というスタンスで徹底的にやるようだった。国際社会は何もできなかった
マラークは帰国すると言い出した。オレは止めようと思いつつ止めなかった
止めることはできないと思ったし、止めてはいけないと思ったからだ
「親族の無事を確かめて安全地帯に脱出させて必ず戻ってくる」と笑いながらマラークは成田から飛び立った
オレはその笑いがオレに心配をかけまいと必死に作っているように見えた
そしてマラークにはもう二度と会えないような気がした。その予感は的中した
マラークは両親や妹たちと親族宅に身を寄せて脱出の機会を伺っていたが、そこに空から爆弾が降り注いだ
建物は一瞬にして全壊した。遺体はどれが誰かを判別するのが困難なほどに損壊していたという
マラークの留学していた大学から訃報を知らされたのはマラークの死から二ヶ月ほど経った後だった
現地は混乱の極みだっただっだろうから連絡が遅れたのも仕方ないだろう
マラークは大学側に「もし自分に何かあったらこの人に知らせて欲しい」とオレの連絡先を伝えていたそうだ

オレが今、立っているのはマターラの遺体が発見された場所だ。瓦礫は全て片付けられていた
乾いた風が通り抜ける。空は何事もなかったかのように雲ひとつない快晴だ
マラークの死後から程なくして突然に国際社会が軍事介入して独裁政権を無理矢理に倒してしまった
世襲の大統領が国外逃亡して政権が崩壊したその日はオレがマラークの死を知らされた日でもあった
混乱の中で犠牲者の遺体はまとめて大きな墓穴に埋葬された。その中にマラークの亡骸も含まれていたらしい
ここに来る前に献花を済まして来た。しかし、それが何だというのか? どうしようもない無力感に襲われていた
鳥のさえずりが聞こえて来た。きっとマラークも聞いた鳥のさえずりだろう
オレに何ができるか分からない……でも何とかしてこの国の再建のために一人の日本人として役に立ちたい……
オレは落涙した。涙は地面に落ち、あっという間に蒸発した。ガイドは何事かとオレを見つめていた

26523-409 殺したくないけど殺す:2012/02/12(日) 00:25:22 ID:OGPkB9hU
二月だというのに、暖かく晴れた日。
両親と兄と僕と、家族総出で食事に出かけた。
そこで顔を合わせた男性に、僕は息を飲むほど驚いく。
数年間、会いたかった人だった。
僕が初めて付き合った彼と別れて、飲み屋で泣きながら飲んでいた夜。
たまたま隣の席に座ったオジサンが、「生きてると嫌な事も泣きたい事も沢山あるな」と慰めてくれた。
クヨクヨするな、泣くな!といった励ましでも、我慢しなくていい、泣いてもいいんだと甘やかすでもない、自然体で慰めてくれて僕の気分は随分と楽になった。
もう一度会いたくてその店に通ったけど二度と会うことは無かったし、店長に聞いても初めての客だったらしく覚えてもいなかった。
その人が今、目の前に居る。
奥さんは五年前に病気で亡くされ、一人娘を男手一つで育ててきたそうだ。
知りたかった名前も、年も、住所も知る事が出来た。
けれど……。
芽生え始めていた僕の恋心は、押し止めなくてはならない。
好きというこの気持を、殺したくはないけど殺す。
何故なら、その人は僕の義姉となる人の父親だった。
僕と違ってちゃんと会社に勤めている真面目な兄と可愛いタイプの彼女は、きっと幸せな家庭を築くだろう。
この二人の為にも、結婚を喜び楽しみにしている僕の両親と彼女の父親の為にも、僕はほのかな片思いに終止符を打つことにした。
再会できた喜びよりも、失恋のにがい苦しみが心に広がっていった。

26623-419 まとも×電波(1/2):2012/02/13(月) 00:55:50 ID:moLg4026
血の臭いが嫌いだと言う。
だったらその場に留まっていないでさっさと離れれば良いと薦めたのだが
「そしたら血の臭いで僕だけ浮きだってデフレスパイラルだ。ストレスで血を吐く」
と返って来たので、それきりその提案はしないでいる。
血の色も服が汚れて目立つから嫌いだと言う。
その割にいつも白地のパーカーを着ていることを指摘すると
「服が白くないと僕は夜から出られなくなる。何も見えない。カラスは鳥目だから」
と返って来たので、服についてはもう何も言わないことにして、よく落ちる洗剤を買ってやった。
臭いが付いたり服が汚れたりするのが嫌なら、せめて返り血をなるべく浴びないようにしろ、
そんな忠告をしてみたところ
「努力してみる」
と素直に頷かれた。たまに会話が普通に成立する分、この男は厄介だ。

俺はビルの階段を昇っている。
一階でエレベータのボタンを押してみたが、案の定、無反応だった。
こんなに歩かせやがってあの野郎、と俺は心の中で悪態をつきながら目的地である七階まで辿り着く。
表向きは、ナントカいう横文字の小洒落た名前をした株式会社の事務所だ。裏向きには……なんだったか。
ドア脇の呼び鈴らしきものを押したが、やはり何の反応も無い。というか、鳴った手応えすらない。
ノックもしてみる。反応なし。
まあ、反応が無いことはわかりきっていることなのだが。
ゆっくりとドアを開ける。すると、咽返るような血の臭いが鼻に付いた。
これは誰だって嫌になるレベルだろうと、俺は毎回思う。
「また派手にやりやがって」
わざと大きめに声を張りながら、俺は注意深く、奴の姿を探す。
目の届く範囲には見当たらなかったので、奥の部屋へと進む。
その部屋の入り口で中をざっと見回して、俺は部屋の隅にあるロッカーに目を留めた。
床のものを踏まないようにしながら、俺はロッカーの前まで足を運ぶ。
そして、ノックをした。
「……入ってます」
数秒の後、ロッカーの内側からくぐもった声が返って来た。俺はため息をついて、その扉を開ける。
そこには白いパーカーを着た青年が、すっぽり収まっていた。
状況によって驚愕にも恐怖にも笑いにも転がりそうな、奇妙な光景。
俺は一瞬だけうんざりしたが、顔には出さない。
「入ってます」
ぼそぼそと同じセリフを繰り返しているが、俺は無視する。
「お前、前に自分は閉所恐怖症だって言ってなかったか」
男は俯けていた顔を少しだけ上げて俺を見た。
「閉じられているのは世界だ。だから僕はずっと閉じこもっている。物理的閉塞は意味が無い」
瞳の色は漆黒だが、その眼にカラーコンタクトが装着されていることを俺は知っている。
「わかったから、さっさとそこから出てこい」
言いながら俺は腕時計を確認する。
時間にはまだ余裕があるが、ここから離れるのが早いに越したことはない。
何より黒服を纏った『処理班』の連中とコイツを引き合わせるのは気が乗らない。
「ほら」
右手を差し出して促す。
男は俺の手をじっと見つめて、何を思ったのか己の右腕を凄い勢いで持ち上げた。
ひゅ、と空を切る音がして、俺の手首ギリギリにナイフの刃先が向けられる。
「おいこら」
みっともなく後ずさりしなかった自分を褒めてやりたい。

26723-419 まとも×電波(2/2):2012/02/13(月) 00:57:15 ID:moLg4026
男の右手には大振りなナイフが握られていて、その刃は血糊で酷く汚れていた。
一体、何人分の血だろうか。
このロッカーに至るまでに床に転がっていた死体の数をカウントしようかと考えて、やめた。
「テメエ、俺の手首も掻っ切るつもりか」
とりあえず睨みつけて凄んでみたが、男は少し首を傾げただけでまるで動じない。
「間違えた。太陽に届く方だった」
ぼそりと呟いて、ナイフを持っていない左腕をあげて、俺の右腕を掴む。
俺は大きくため息をついた。
ため息はコイツと話すときには重要な役割を果たす。これのお陰で、俺はいろいろなことを諦めることができる。
「まったく。少しは自分から動け」
そのまま軽く腕を引けば、男は抵抗もなくロッカーから出てくる。重みは殆ど感じない。
この華奢な男のどこに大の男を何人も殺し続ける体力があるのか、不思議でならない。
上の連中はどうやってコイツの才能に気がついたのか。

俺の心中に頓着した様子もなく、男はそのまま部屋の中を見回している。
その表情には明らかな嫌悪が浮かんでいた。
いつもはぼんやりと宙を彷徨っている目が、このときばかりは忙しなく左右に動く。
そして平坦な声色で――それでも彼にしては感情的に――吐き捨てる。
「血の臭いは嫌いだ」
「…………」
お前がやったんだろうとは、俺は言わない。
何も言わずに、パーカーのフードを立てて奴の頭に被せてやる。フードの内側は幸いにも白いままだ。
「行くぞ。黒服の連中と鉢合わせするのは御免だろ」
「服の色は大した問題じゃない。重要なのは明日をどう生きているか、そして夕飯のおかず」
「お前な。自分でテメエの服は白限定だとか言っておいてそれはないだろうが」
俺はさっさと出入り口へ向かって歩き出す。後ろで男がついてくる気配がした。

男の才能を見出した上層部に対して、俺は慧眼だと感服するべきなのかもしれない。
しかし、今のところは節穴だと罵倒したい気持ちの方が勝っている。
どこでこの男を拾ったのかは知らないが、なぜこうやって平然と抱え込んでいられるのか。
こんな、不安定な状態で常時安定しているような男を手駒として使おうなんて正気の沙汰じゃない。
そしてコイツのお守に俺をあてがっているその采配にも、俺は文句を言う権利がある。
しかし仮に俺が何を喚いたとしても、現状、その役目から解放される見込みはない。
もう一度、大きなため息をついた。
すると、俺の少し後ろを歩いていた男が、聞き取りづらい音量で
「ため息をつくと幸せが逃げてしまうよ」
と言ってくる。
俺は立ち止まって振り向く。フードに隠されて男の表情はよく見えない。
稀に、本当に稀にまともなことを言う。話が通じると錯覚してしまう。
そのお陰で俺は上に文句を言うタイミングを逃し続け、この男と縁を切れないでいる。

「……。帰ったらそれを洗濯をするぞ。お前は今度こそ大人しく風呂に入れ」
「重要なのはおやつ。そして洗剤はアルカリ性に限り、洗濯機は閉じた世界であるべきだ」
「心配しなくても蓋閉めないと安全装置で動かねえよ。いいからまず風呂。飯はそれからだ、いいな」
「わかった。努力する」

たまに会話が普通に成立する分、この男は厄介だ。

26823-469 妹が、お前のこと好きだって:2012/02/18(土) 13:38:05 ID:PdvG22iY
「お前彼女いんのか?」
「はっ?」
大学に入って、お世話になっていた叔母の家を出て一人暮らしを始めた。
いつまでも迷惑をかけられないと、両親の遺してくれた俺のための預金は学費を払うのには十分足りたし、バイトで生活費を稼げばなんとかやっていけるもんだった。
 理由はそれだけじゃないけど。
「なんだよ、急に来ていきなり……」
「いやーさすがに大学入ったらなあ。自ずと出来るもんじゃないのか?」
「圭さん、それ俺の友だちの前で言ったらぶっ飛ばされる」
「おっ? じゃあお前はいるのか?」
圭さんの頭の後ろに、わくわくという文字が浮かんで見える。そう輝かしい目で見つめられたってなあ。本当に、こっちはひとつもおもしくない。
「残念ながらいないよ。作る気もない」
「えー、マジかよ。若いのに有り余る性欲どこで発散すんのお前!」
「うるさいな! そんなこと言うためにわざわざ来たんですか」
圭さんが、んなわけないだろー、とニコニコと笑う。見慣れた笑顔。
見慣れすぎてちょっと鬱陶しいくらいだ。そう思うようになるくらい、このひとはいつだって笑っている。
「梨子がさ、お前出ていってからたまに寂しそうにしてんの」
「梨子? なんで?」
「お前がいないからだろ、単純に」
さっき俺が入れたコーヒーを、ティースプーンでくるくると混ぜながら圭さんは言った。カチャカチャと、無機質な音が未だ慣れないワンルームに響く。
「……それで」
「今度の休みに梨子に会ってやってよ」
 時々、というかここのところはほんど、圭さんはあのときのことを忘れてしまったのだろうか、と途方にくれる。
それにしたって、あのとき一瞬見せた驚きの表情は相当なものだと窺えたし、確かにあれから俺は何もアクションを起こさなかったけれど。
「圭さん」
「んー……、っうお」
あれは確か、俺が中学のときだった。あの頃に比べれば、俺は随分身長も伸びたし精神的にも大人になった。
けれど、あのとき一時の気の迷いだ、と一蹴された言葉は、未だにあのときと同じままの気持ちで口にすることしか出来ない。
「圭さん、好きだ」
「……お前なあ、だからって急に押し倒す奴がいるかよ」
ほらまた。そうやってしょうがないな、みたいな顔で笑う。眉を曲げて、頬を緩ませて、ありったけの情愛の籠った目で、俺を見つめる。
違うんだ、俺はそんな顔を向けてもらえるような、そんな綺麗な感情であんたを見てるんじゃない。
組敷いて、乱暴に足を開かせて、ぐちゃぐちゃに犯したい。泣かせてやりたい。
「……梨子には会わない。変に期待させたって、あいつのためにならない」
俺は、あんたみたいに生殺しみたいに、相手の気持ちを引きずらせたりなんてしない。そうしたら、何年だってその想いを引きずることになる。
「……何か言ってよ」
「ん、いや、お前も梨子も大事だからな、どうするのが一番なのかねって思って」
頭を撫でられて、その手のひらの大きさと暖かさに、大人の狡さを感じた。
俺は自分のことしか考えられないし、あんたしか欲しくない。

26923-479 最近もっぱら受けばっかやってる元攻め:2012/02/19(日) 04:07:42 ID:oMUugvhU
会話の、返事が不自然なものになる。
これ以上ないほど真っ赤な顔をして、ちらちらとこちらを見るくせに目が合うとぱっとそらす。
……分かりやすい。
歩み寄り、奴の座る柔らかなソファーの開いた空間に腰掛ける。
人ひとりの体重を受けて沈む音に全身を強張らせた奴の、その首に手を回せば、よりいっそう身が縮んだ。
顔を寄せ、キスをする。おどかさないように、掠めるだけの一回。確かめるためにもう一回。
何をするか想像はついてたろうに、呆然としている。
さらに一度キスをして、間抜けに開いた口に舌を潜り込ませた。
唾液をすすって舌を愛撫していくと互いの口から熱い吐息がこぼれる。
唇を離して甘く笑うと、眉は困ったように垂れ下がり、目にはどうしようもないやりきれなさを滲ませていた。
その情けないざまをいとおしく思いながら、片手で自分自身のシャツのボタンを外していく。
体を擦りつけ手を取って、奴の服にこすれた感触で勃った乳首に触れさせた。
歯を食いしばって、今にも死にそうな顔をしている。いつか見た表情。
こいつは自分が情欲を抱くこと自体が悪だとさえ思っている節がある。
俺がしたこれより凄いことも酷いことも、される立場なら戸惑いながらも笑って受け入れてさえしてたのに。

あの日、今にも死にそうな顔をして「お前を抱いてみたい」と言われたとき、
驚きや戸惑いよりもただ圧倒的な感慨が俺を襲い、迷うことなく承諾した。
だけど初体験なんてお互い上手くいかないもので、
俺は俺で生娘のようにぎこちなく、奴は奴で触れることさえいちいち許可をとろうとした。
終始、奴の顔は苦しさと負い目に縛られていて、それがひどく腹立たしかった。
いっぱしの意地が俺に誘いをかけさせた。「もう一度、お前に抱かれたい」と。
奴の自制心という名の傲慢さなんて吹き飛ばして、手加減なしで求めさせてやりたい。

だから、奴に抱かれるときはことさら放埓にふるまってみせる。
触られるままに声を上げ、体をよじり、
持てる全てを使って気持ちいいと、俺をお前の好きにしていいのだということを伝えてみせる。

「……すまない」

ついに漏れた、苦しさと負い目混じりの――それでも容赦がない声にぞくりとする。
ただ一言つぶやくのはこいつが全てを手放すサインだ。
俺の頭から小賢しい手管が吹き飛んでいく。
手をまわす。しがみつく。受け入れ、喘ぎ、食い締める。
そうして、溺れきった、必死な顔をして腰を揺するお前をかすむ意識の端で見て、ようやく俺は満足する。
俺だけが、求めているのかと思っていた。
人のいいお前はただそれに付き合ってくれているだけかもしれないと思った。
何もかも忘れたお前に思うさま求められることが、今の俺の喜びで、幸せなんだ。

27023-589一刀両断:2012/03/06(火) 20:34:34 ID:G/eRo5iI
否定型
「好きです、付き合って下さい!」
「俺とお前は男だろ」
「でも好きなんです!」
「考え直せ、まだ間に合うぞ」


設問型
「好きです、付き合って下さい!」
「まずは理由からだ、俺のどこが好きだ」
「潔さです」
「よしわかった、付き合おう」


天然型
「好きです、付き合って下さい!」
「分かった。どこにつき合えばいいんだ」
「僕の家に」
「よし、家に遅くなると連絡入れたからな」


肉食型
「好きです、付き合って下さい!」
「俺も好きだ、やらないか」
「アッー!」


草食型
「好きです、付き合って下さい!」
「俺も好きだ、でも友達からだ」
「じゃあ、交換日記から始めましょう」
「よしわかった、このノートから始めようか」


否定→肯定型
「あれから考え直しました。でもやっぱりまだ好きです、付き合って下さい!」
「何で俺なんだ」
「理由はありません、あなたがすきなんです、それだけです!」
「わかった、そこまでいうなら試しに付き合おうか」


結論
まとめて幸せになれ

27123-629 あなたさえ居なければ:2012/03/10(土) 18:22:09 ID:IoF7Ue7o
本スレにうまく書きこめないのでこちらに失礼します。
※ヤンデレ注意

恋に狂うのは、ひどく罪深いことだ。
あの人を見ているとそれがよくわかる。
あの人の相談を受け始めた当初、薄い恥じらいの表情が空気を幸せの色に染め、僕はその時間が大好きだった。
あの人が彼を手に入れてからも僕への相談は続いていたが、しばらくはただの惚気で、半分呆れながらも微笑ましく話を聞いていた。
いつからおかしくなったのだろう。
もしかして、あの人は、はじめからーー彼に恋をはじめた時からーーおかしかったのかもしれないと、今になって考えてみる。
僕には見えていなかっただけで。
あの人は彼のいろいろなものを奪っていった。
友人、家族、生活、時間。彼を監禁し始めたようだった。
僕への相談の時間が、赤黒い、苦しい色に染まるようになった。
僕はあの人が罪を犯しているのを知りながら、止めることが出来なかった。
あの人は苦しみながら、狂いながらも、幸せそうだったから。
事情が変わったのは、あの人が命を奪い始めたとき。
彼の可愛がっていたマンチカンを殺したのだという。
彼の膝の上に寝そべり、自分を見下す眼差しが憎かったのだと。
このままだと、あの人はいずれ人をも殺めてしまうかも知れない。
背筋が凍った。
僕は決意し、あの人が帰らない時間を見計らい、彼の許へと向かった。
彼は、思いのほか自由にされていた。
予想を裏切り、手枷や足枷はつけられていなかった。
しかし、理由はすぐに明らかになった。
彼は茫然自失の状態で座り込んでおり、目から光は失われていた。
憐れな彼の真ん中に僕は刃を突き入れ、僕ともども彼が赤く赤く染まるのを見ていた。

僕は我に返ると、判断を誤ったことに気がついた。
だって、あの人は僕を殺すだろう。
あの人を人殺しにしたくなかったから、彼さえいなくなればと思ったのだけれど……。
彼を殺した僕を、あの人が殺すのなら、結局、あの人は。


恋に狂うのは、ひどく罪深いことだ。
あの人を見ているとそれがよくわかる。
恋に狂ったあの人も、僕も、掌が、血に染まる。

27223-549 天秤座×水瓶座:2012/03/12(月) 22:32:40 ID:.6LZYHp2
「『獅子座のあなたは、頼られるのが大好きな親分肌!』」
「何そのファンシーな本」
「妹の本棚にあったやつ。『でも時にそれが見栄になっちゃうことも。力が足りないときは、認める勇気もたいせつ!』」
「わははいうこと割と容赦ないな。獅子座って誰かいるっけ?」
「あいつあいつ、児島」
「あー。あー、あー。」
「うん」
「いや児島基本的にはいい奴なんだよ?」
「うん、まあ、うん。 君何座だっけ」
「俺? 天秤座。なんてなんて」
「てんびん……『天秤座のあなたは、理知的でバランス感覚に優れた人!』」
「おおー」
「まんざらでもない顔」
「なんだよいいじゃん」
「『でも、優柔不断で八方美人になりがちなことも。好きな子には、気持ちをはっきり言わなきゃ伝わらないゾ!』」
「怒られた」
「『気持ちをはっきり言わなきゃ伝わらないゾ!』」
「なぜ2回」
「大事なことかなと」
「余計なお世話感やばい」
「ひどい。どこが八方美人だ」
「お前は九方向目なんじゃないの。……その本貸して」
「はい。俺水瓶座」
「だれがお前のところを見ると。
 ……『水瓶座のあなたは個性的! 誰とでも仲良くなれる公平さが魅力の人!』」
「なんだかんだ読んでくれる君が好きだよ」
「…………、……ありがとうよ。
 『でも、そのせいで好きな子とお友達の区別がつけづらいカモ? 好きな子を特別扱いしてあげて!』」
「ほう」
「『してあげて!』」
「あんまり自覚がないなあ。してるつもりなんだけど」
「……こうも書いてある。『納得できないとちょっぴり頑固になっちゃうこともあるから要☆注意!』」
「先回りされた」
「あなどれないな」
「ああ、でも相性いいんだって。90%だって」
「誰と誰が」
「……誰と誰がって」
「『はっきり言わなきゃ伝わらないゾ!』」
「…………。俺と、お前が」
「でもまあ、占いで相性なんて調べても所詮本人同士の」
「…………」
「蹴らないで。蹴らないで」
「『好きな子を特別扱いしてあげて!』」
「…………うん。好きな人といいって言われると嬉しいよね、占いだけどさ」
「だろ」
「うん」


「水瓶座と獅子座は相性30%だ」
「児島……」
「……いい奴だよ児島」
「八方美人め」

27323-549 天秤座×水瓶座:2012/03/12(月) 22:39:05 ID:.6LZYHp2
すいません失敗。

「先回りされた」
「あなどれないな」
「そこまで言われたら認めるしか」 << この行追加でお願いします。
「ああ、でも相性いいんだって。90%だって」

27423-689 枕返し(1/2):2012/03/23(金) 00:43:39 ID:nZxK1Rxo
「あれま、まだ起きてんのか」
深夜。能天気な声が頭上から聞こえてきて、僕は机の上の問題集から顔をあげた。
振り返ると、男が一人、まるで鉄棒にぶら下がっているかのように天井から釣り下がっている。
男の腕は天井を透過していて、その先の手までは見えない。天井裏の梁にでも掴まっているのだろうか。
ものすごく異様な光景だが、僕は動じない。もう慣れたからだ。
黙ったままの僕に痺れを切らしたのか、男は場の空気を取り繕うようににかっと笑った。
「いやはやどうも。なんかよーかい?」
「……それはこっちのセリフ」
僕は溜息をついた。
「いつから天井下りに転職したんだよ」
問えば、男は更に愉快そうに笑う。
「天井から下がれば天井下りだろうなんて、安直だねえ。奴らが聞いたら怒るよ?」
そう言って、両腕を上げたまま身体を大きく前後に揺らしたかと思うと
男は「えいっ」という掛け声と共に前方に飛び出して、空いていたベッドの上に着地した。
見た目にはそれなりの衝撃がありそうなのに、ベッドからは軋む音ひとつしない。
ふざけたようにポーズをとって「十点」などと呟いている男に向かって、僕は言葉を投げる。
「何しにきたんだよ」
「何って、俺が人様の家にあがる目的は一つでしょうよ。知ってる癖に」
笑いながら傍にあった枕に手を伸ばして、男はベッドに腰を下ろす。すぐ降りるつもりはないらしい。
「僕はまだ起きてるけど」
「いやあ、あんたいつもこの時間には寝てるからさ、ちょっくらご機嫌伺いにと思ったんだけどね」
へらへら笑う男は自分と同い年か少し上にしか見えないのに、喋り方は妙に老けている。
身に着けているのもあまり見かけない類の服で、強いて言えば作務衣に似ていた。
まだ夜中は肌寒いというのに、寒そうな様子はない。こっちはどてらを着込んでいるというのに。
(見てるこっちが寒い)
そんなことを思っていると、男は背筋を伸ばして僕の手元を窺うような仕草をした。
顔にニヤニヤとした笑みが浮かんでいる。
「けどあんたが夜更かしなんて珍しいな。なんだい、いやらしい本でも読んでるのかい」
「試験勉強中だ。邪魔しにきたのなら帰れ」
むっとして机に向き直ると、男が苦笑する気配がした。
「冗談だよ。本当にお前さんはこの手の冗談が通じないな。そういうところは弦一郎にそっくりだ」
弦一郎というのは祖父の名だ。この男は祖父の代からうちを訪れていたらしい。
一体いくつなのかという疑問は、随分前に通り過ぎた。
「もっとにこやかにならないとモテないよ。寡黙なんて今の世は流行りじゃないだろう」
「うるさい」
「けど真面目な話、夜更かしは身体に毒だよ」
その言葉に、男を横目で見る。

27523-689 枕返し(2/2):2012/03/23(金) 00:45:19 ID:nZxK1Rxo
彼はベッドの上で胡坐をかき、枕を両腕で抱きかかえていた。
先程の面白がるような笑みは消えていて、妙に真面目な表情をしている。
「勉学に励むのも結構だけど、身体壊しちゃ意味がないと、俺は思うけどねえ」
労わるような目をしているように見えるのは自分の気のせいだろうが、言っていることは至極正論だ。
試験前日の一夜漬けにも限度があることも、寝不足がマイナスに働くことも、自分が一番よくわかっている。
「……もう少しやったら寝るよ」
不承不承頷くと、男は殊勝な表情をすぐひっこめて「そうそう。こっちも商売あがったりだからね」と喜んだ。
そっちか。
「さてと、それじゃあ俺は一旦退散するとしますか」
僕がもう少しで就寝するとわかって満足したのか、男は丁寧に枕を元の位置に戻して立ち上がった。
ぴょんとベッドを飛び降りて、そのまますたすたと部屋のドアの方へ歩いていく。
「天井から帰るんじゃないのかよ」
予想外の動きに思わずそう訊くと、男はドアの手前でこちらを振り返った。
「せっかく来たし、たまには弦一郎に挨拶でもしようと思ってね」
「え」
「駄目?」
許しを請うように首を傾げたその顔に、僕は一瞬言葉に詰まる。
しかしすぐになんでもないように装って「別にいいけど」と答えることができた。
「ただし、父さんと母さんを起こさないでくれよ。もう寝てるんだから」
ぶっきらぼうにそう付け加えたのは、自分でも不思議なほど動揺していたのを隠すためだったが、
男は特に突っ込んではこない。
「ご安心を。人を起こすのは俺の本分じゃないさ」
ただそう言い残して、男はドアを開けることなく部屋から消えていった。
部屋がしんと静かになる。
僕は少し迷って、結局再び机に向き直った。だが、問題集の内容は頭に入ってこない。

さっき「駄目か」と訊いてきた男の顔は笑ってはいたが、その目は酷く寂しそうに見えた。
あれも自分の気のせいだろうか。それとも、本心からあんな表情を浮かべることがあるのだろうか。
人が寝ている間に枕元に現れて、枕を弄んで、気付かれないまま去っていく――そんな性分のやつでも。
祖父が亡くなってもうすぐ一年経つ。
あの男が自分の前に姿を見せるようになってからも、もうすぐ一年だ。
(あいつも寂しいとか、思うことあるのかな)

それから数十分後には、僕は勉強を切り上げてベッドに入ったのだが、
そんなことをぐるぐると考えてしまいなかなか寝付くことが出来ず。
結局、その夜『枕返し』は出なかった。


二日後の朝に、リベンジのごとく現れたことを知ることになるのだけど。

27623-719 異端審問官(1/2):2012/03/25(日) 16:07:47 ID:EIFbeL3M
個人的萌えワードだったので妄想を語る。
(※注意:宗教的な知識は殆どありません。非常に偏った・間違ったイメージです)

「教会」「信仰」「司教」「異教徒」「異端」「狂信者」が出てくるような世界観が好きだ。
また「諮問機関」「懲罰委員会」などの集団が出てきた日には単語だけでwktkする。
だから、「異端審問官」はそのどっちも兼ね備えている存在であると言える。
もうその響きからしてかっこいいよ!(※個人的に)

「異端審問」とは、異端者(異教徒)の疑いのある者と裁判にかけるシステムらしい。(wikiより)
よって、それを執り行う「異端審問官」をキャラクターとして考えると次のようなポイントがある。
----------
1.信仰心
 信仰の代理人として異端を取り締まる職に就いているのだから、勿論、自身の信仰は疑うべくも無い。
 よく言えば「信心深い」「忠誠心の塊」、悪く言えば「妄信的」「頑固」。
 何かを絶対の拠り所にしているキャラは簡単には揺らがず、厄介だ。
 相手によっては、それは狂気に似たものと映り畏怖の対象になるだろう。

 同胞相手だと穏やかで慈悲深くて優しいのに、異端と見なしたものには冷徹冷酷。だとギャップ萌え。

 また、忠誠の対象が「教え」そのものであるのか、4.で述べる上司などの「個人」までも含まれるかで
 そのキャラクター性に微妙な違いが出てくると思う。(心を許すような人がいるのかいないのか)
 それから、忠誠が強固だからこそ、それが揺らいだときの不安定さを思うとそれも萌える。

2.疑うのが仕事
 疑わしきものを罰するのが仕事なので、恨みを買うことが非常に多いと思われる。
 完全に黒ならまだしも、白に近い灰色を黒と断じて裁くこともあるかもしれない。
 己の役目を「信仰のため」と割り切って淡々と処理する冷静キャラでもよいし
 常に葛藤し、心の奥底に罪悪感や人間らしい悲しみを押し込めて仕事をしているパターンでもいい。

 それまで仲良く接してきた相手が「異端者」となってしまいそれを罰することになってしまうかもしれない。
 異端と見なしたとたんに白黒きっぱりと応対が変わり、相手がそれに驚き怯え絶望してもいいし
 相手に「どうして?」と問いながらも最後には自分で手を下してしまってもいいし
 異端者となった相手を「自分を裏切った」とある意味斜め上の解釈をして病んだ反応をしてもいい。

27723-719 異端審問官(2/2):2012/03/25(日) 16:08:49 ID:EIFbeL3M
3.戦闘能力
 「罰する」とは究極の場合、相手の命を奪うことだと思われる。
 日本の裁判のように相手が身動き取れない状態だと楽かもしれないがそんなことばかりではないだろう。
 つまり、戦闘能力が高い異端審問官キャラがいても不思議ではないのではないか。
 また、一所にとどまって日々仕事をする以外に、異端者の集う場所(例えば村一個とか)に赴く、
 いわゆる出張型の異端審問官がいてもおかしくない。
 その場合は一対多数、または数人対大多数になるので、並みの腕では返り討ちにあってしまう。
 
 ごっつい武器を持ち込んでもいいけど、暗器も捨てがたい。 
 一見温厚そうな男が、神父服(牧師服?)の下にナイフとか拳銃とか隠してたり
 携帯してる聖書の間から薄い剃刀的なものが仕込まれているとか、萌えませんか。

 自分の行う殺生と信仰心の折り合いをどうつけているのか、それは2.のように色々パターンがあると思う。

4.あくまで実働部隊、組織の一員
 異端審問官とは、異端審問の実働部隊に属する一員である。
 その組織の中でリーダー的な地位などは存在するだろうが、それでも異端審問官は全体のトップにはなりえない。
 つまり「上司」「指令をしてくる人間」がいるわけであるし、同じ仕事の同僚もいるだろうし
 同じ信仰者ながら、異端審問とは離れた職に就いているキャラもいる筈である。

 本人を理解してくれてた上で遣っている出来る上司、
 汚れ仕事だと異端審問官を忌み嫌い蔑んでいる同胞、
 仕事は認め合っているけどどうも性格の反りが合わない同僚、
 過酷な仕事を心配して辞めさせようとするも本人信仰の塊なんで言う事きかず、頭を痛めてるお節介。
 また、元異端審問官で現異端者という「逃亡者」的立ち位置のキャラもありえる。

 異端審問官という身分を知っている組織内の人間でこれだけ相手がいるので
 これに「組織云々には疎い一般市民」を加えると更にパターンが多くなるのでは。
---------- 
このように、一言に「異端審問官」と言ってもいろいろと妄想が広がると思いませんか。
また、今回は異端審問官を主に据えて考えたが、敵役としても立つキャラだと考えます。
寧ろ敵役・悪役の方が似合うのかもしれない。

以上。

27823-729 竜と人間1/2:2012/03/27(火) 12:42:33 ID:uDh3kQ7.
規制されて書き込めなかったので、ここに

*****************

私が傷だらけの彼を連れ帰ると、集落の誰もが顔をしかめた。

「そんなものを拾ってきて、どうするつもりだ」
「傷を癒して故郷に帰す」
「やめておけ。お前も知っているだろう、残忍で獰猛な一族だ。」
「しかし、このままでは死んでしまう」
「死なせておけばいい」
「それなら私たちの方が余程残忍だ。可哀想に、こんなに弱って……」
「いずれ息を吹き返せば、お前に牙を剥くぞ」
「構わない。見たところまだ子供だろう、小さな牙だ」
「奴らの成長は早い。姿を覚えれば、やがて力をつけて復讐に来る」
「それでも一匹だ。私たちの敵ではない」
「群れで攻めてくることだってある」
「しかし」
「村に災いが訪れた時、お前はその責任を取れるのか」
「……」

私が押し黙ると、彼は首をもたげて不安げな表情を私に向けた。
私と彼の間には言葉がない。
しかし、彼の潤んだ瞳を見れば、彼が今すがれる存在は本当に私だけなのだということを切実に痛感できた。
……大丈夫だ。そう言い聞かせたかったのは彼になのか、私になのかは分からない。
私が必ず彼を守る。きっとそれは、あの森の奥で、か細く助けを呼ぶ声を聞いたその時から決まっていた事だったのだ。

「仕方ない、それならば」

堅い決意をはらんだ私の声色に、集落の空気が刹那ざわついた。

「せめて彼の傷が癒えるまで、この村の離れで暮らすことを許してほしい。そして、彼の回復を待って……」

異様な空気に彼が怯え、体を私にぴたりと沿わせる。
私はその小さな頭に頬を寄せながら、残りの言葉を静かに吐いた。

「私はここを出ていく。そして彼が二度とこの村に足を踏み入れぬよう、この身をもって寿命の終わりを見届けよう。……先に私の寿命が尽きるのであれば、彼を殺してでも。」

27923-729 竜と人間2/2:2012/03/27(火) 12:44:42 ID:uDh3kQ7.
忽ち豪豪とした非難の嵐が私と彼を襲った。
ある者は目を剥き血管を浮かせ、ある者は私に襲いかかろうともした。
私の一族は代々その高い誇りが支えていた。その名折れとなる私の罪は、それほどの罵詈雑言をもってしてもなお購えなかったのだ。
しかし、村長だけはただ一人静かに目を瞑り、やがて口を開いた。

「魅入られたか」

その深長な響きに、あれほどざわついていた場が波が引くように静かになる。
村長は群衆に向き直ると、鎮痛な面持ちで述べた。

「もう彼に私たちの言葉は通じぬ。こうなってしまってはもう終わりなのだ。どれほどの罵倒も、どれほどの迫害も彼の意志を動かせぬ」

村長は私に振り返り、言葉を続けた。

「それが、その生き物の魔性なのだ。最早私は、お前を仲間とは思わぬ。傷が癒えるまでだと?甘い、今すぐここから出ていくがいい」

私は彼を抱えたまま、迷いなく踵を翻した。
だがその背中に投げ掛けられた言葉は、その後いつまでも耳に残り続けることとなった。

「ただ……それがお前だったのは残念だったよ」



彼の息はまだ浅い。そうだ、泉を探そう。そこで、薬草を摘もう。……この前足では上手に拾えないかもしれないけれど。
私たちは彼の一族のように涙を流すことができない。しかし、張り詰めるように引き結んだ眉間に何かを悟ったのだろう、彼は柔らかい薄橙の前足を私の頬に添えてくれた。

「……哀れんでくれるか。なら……」

あぁ、きっとこの言葉は彼には理解できないだろう。
しかし私はまるで先程の彼のように、一心にすがり求める存在だった。ただただ、救いが欲しかった。

「お前たちの一族がするように、愛や誓いの……印がほしい」

少しの沈黙の後、彼は小さい花びらのような唇を私につけた。

28023-739 ツンデレの逆襲 1/2:2012/03/30(金) 01:22:39 ID:/BiUw3/w
(同じく規制でした)


「受野さん、とうとう俺たちも卒業ですね」
「そうだな。これでお前との鬱陶しい毎日ともおさらばだ」
「何でそんなこと言うんですか!俺はこんなに受野さんが好きなのに」
「それが鬱陶しいって言ってるんだろ。言うにつけてはやれ『受野さん好きです』だの『受野さん愛してます』だの……」
「だって、本当に好きなんですよ。言ってるでしょ、入学式であなたを見た時から俺は」
「その話も聞き飽きた。何度お前に愛を囁かれてもだ、とにかく俺は……」
「受野さん……」
「……いや、いい。何にせよ、この話をするのも今日で最後だ。今日ここで、俺はお前との関係に蹴りをつけようと思う」

そう言って受野さんが指を鳴らすと、突如物陰から大勢の男達が現れた。
ラグビー部や柔道部で見た厳めしい顔や、逆に学校では滅多にお目にかかれないような筋金入りの不良までいる。
中でも背筋を震わせるのは、皆が皆俺を見ては嫌な笑みを浮かべたり、指を鳴らしたり、ポケットからナイフを出し入れしたりしているところだ。
遠くには、黒塗りの車で乗り付けてこちらを伺っている者もいる。
似たような情景を、俺はテレビや小説で見たことがあった。これは……『御礼参り』だ。

28123-739 ツンデレの逆襲 2/3:2012/03/30(金) 01:26:11 ID:/BiUw3/w
「はは、お前のような馬鹿でもさすがに察しがつくようだな。」

受野さんが、見たこともないような鋭い笑みを浮かべて呟いた。

「そうだよ、今日だけのためにこれ程の人数を集めたんだ。なぁ……いい加減理解できただろう。俺はな、お前が鬱陶しくて堪らなかったんだよ。」
「……それは……」

喉がカラカラに渇き、指先が冷えて震える。
今すぐにでも膝をついてしまいそうな絶望は、果たして自分が私刑を受ける恐怖からか、それとも此ほどまでに受野さんに嫌われていた現実からだろうか。

「これでようやく言えるよ。攻山、本当はな……」

不良の一人がナイフを構えるのが、目の端に映る。
受野さんはゆっくりと息を吸い、叫んだ。


「俺の方がずっと好きだったよ!!」


……え?
固まる俺。
崩れ落ちる膝。
歓声が上がる暴漢の群れ。

狂喜乱舞の騒ぎの中、当の受野さんは耳まで真っ赤になりながらなおも言葉を続けた。

「それが何だ!お前は口を開けば好きです愛してますと!鬱陶しい、まるでお前の方がずっと俺を好きみたいじゃないか!そんな事は断じてなかったのにだ!」
「鬱陶しかったよ!最高に鬱陶しかった!俺の気も知らず遠慮もなしに気持ちを伝えてくるその不躾さも!その割にいつまでも敬語で話しかけてくる腰の低さも!……いつまで経っても名前で呼んでくれない余所余所しさも……」

そこまで言うと受野さんは少し涙声になり、ぐすりと鼻を鳴らした。
すると、受野さんの後ろに控えていた屈曲な男達は急に静かになり、小声で「がんばって!」「もうちょっと!」などと応援し始めた。……まさか、この男達は御礼参りのために呼ばれたのではなく……

28223-739 ツンデレの逆襲 3/3:2012/03/30(金) 01:32:58 ID:/BiUw3/w
「いいか!俺は今日でこんな毎日とはおさらばする!攻山、俺と……付き合え!」

目の前には、ただ男らしく突き出された受野さんの手のひらがあった。
地べたにへたりこみ未だ呆然としたままだった俺は、その手の上に操られたように自分の手を載せる。
途端、今度こそと言わんばかりに校舎を割るような雄々しい歓声が上がった。

「受野先輩おめでとうございます!」
「受野くん、よかったねぇ!」
「これで俺たち『受野・攻山を見守る会』もようやく本懐を遂げられるよ!」
「受野さんったら最後の最後で俺たちに『ついて来てほしい』なんて言うんだもんなぁ」
「可愛いよなぁ全く」
「受野さん、車のトランクにケーキ積んできましたよ!」
「じゃあ早速ケーキ入刀ですね!」
「スンマセン、こんなちっさいナイフしか用意できませんでしたが……」
「俺、ピアノ弾きますね!」

真っ赤な受野さんと真っ白な俺とを残して、『受野・攻山を祝福する会』の垂れ幕が盛大に掲げられる。
たまらず突進してきた男達の群れに揉まれ、受野さんと二人高々と胴上げされながら、俺はこの先の……幸せで、そして予想以上に騒々しいであろう日常に思いを馳せたのだった。

28323-819 朴訥無口×わかりにくくデレる俺様 1:2012/04/11(水) 01:02:04 ID:7J7MKBtU
規制にひっかかりましたのでこちらで書かせていただきます。



「この小説って実体験が元になってんの?」
「あ、いや、違う・・・」
「ふーん。お前も兄貴亡くしてるだろ?この辺のカズヒコの喪失感って自分で感じたことじゃねーんだ」
「違うけど、その時の担当さんも少し私小説ぽいって・・・」
「やっぱ言われたのか。つか私小説でよく賞もらえたな」
「その後の展開、俺と全然違うから…」
「確かに、年齢誤魔化して夜働くタイプじゃないもんな。じゃあそんな見当違い言われてムカつかなかったのか?」
「・・・少し、似せた自覚あったし」
「兄貴のことくらいだろ?今の編集の・・・児島さん?お前の意向とかちゃんと汲めてんの?てかお前そんな言葉ったらずで
 よく小説家なんてなれたと思うわ。賞までもらってそこそこ売れて、この度めでたく処女作が映画になって、幸運残ってんの?」
「どうだろう・・・」
「まあ、俺と付き合ってる時点で幸運を超えた奇跡を手にしてるか。いざとなったら
 贅沢のぜの字も知らない田舎ものの引きこもり一人くらい俺が養ってやるから感謝してヒモになれよな」
「あ、ありがとう」

『―鯨幕に風花が散り、桜のようだと学生服の参列者が漏らした。肩に地面に落ちる間もなく消えるそれらは、
 もうすぐ本物の花弁に変わるだろう。冬と春の境界の雪だ。そして、兄は永遠にこの線を越えられない。
 真白い顔を眺めながらカズヒコは、兄が不在の残りの人生を考える。―』
「・・・北海道ってこの時期でもそんな寒いのか?分厚い上着いるか?」
「いるかも・・・さくら君行くの?仕事?」
「まあなー。これのさー・・・」
「あ、ごめん電話・・・児島さんだ」
「タイミング悪ぃなあ。とれば」
「ごめん・・・はい、もしもし…」




「・・・お待たせ…あの」
「何だよ」
「さくら君、カズヒコ役って」
「あ?あー電話それか。本当にタイミング悪いな」
「あの・・・」
「んだよ、そりゃこんな冴えない芋男とはいえ一応賞もらった人気作家の初映画化で話題あるし、だから
 俺に是非って話がきたんだよ。コテコテのカンドー作に出るのも悪くないしな。俺の演技の幅も見せられる」
「・・・」
「で、カズヒコの為に髪まで黒染めしたってわけ。どっかの誰かは気づきもしないけど」
「えっあ、似合ってると思ってた…」
「はいはい。でな、このロケから戻ってすぐ舞台あるから明日からその稽古ぶっ通すんだ」
「あ・・・じゃあ」
「うん、しばらく来れない。お前が寂しいだろうな、と思ってやりくりして休み作って来てやったわけ」
「ありがとう・・・」
「しとく?明日は読みあわせであんま動かないから」
「うん・・・えっ!・・・うん」
「じゃあ風呂入る。お前も来れば」

28423-819 朴訥無口×わかりにくくデレる俺様 2/2:2012/04/11(水) 01:03:14 ID:7J7MKBtU
『先生お疲れ様です。え?いえいえ締め切りの話じゃないですよーあの、朝倉春哉さん。今結構ドラマや雑誌によく出てる売れっ子なんですが
 ああ、よかったご存じでしたか!その朝倉さんなんですが、今度の映画是非主演やらせて欲しいって突然監督さんにご本人から連絡あった
 らしいんです。先生は全てお任せするって言ってみえましたけど、えーっと、朝倉さんってカズヒコのイメージと少し違うから。もし
 ひっかかるようなら私から監督さんに伝えることもできるので・・・という、電話ですが・・・・・・あ、いいですか?あはは、即答ですね、実はファン
 だったりしますか?へえ…いえ、なんかイメージになかったので…とにかく良かった、了解しました、伝えておきます。』


「おい、何ぼさっとしてんだ。常々思ってたけど俺の隣でぼさっとするか普通」
「あ…ごめん」
「はいはい口だけだなー。そうだ、俺あっちからちょくちょく電話すると思うから、ちゃんと携帯電源入れとけよ」
「え、うん…珍しいね?」
「細かい確認。平凡カズヒコの気持ちはお前がよくわかってるだろ。やるからには完璧に演技したいんだよ。」
「でもカズヒコは俺ってわけじゃ」
「そうじゃなくても、お前が書いたんだろ、ばか。監督の方針優先にはなるけど、原作者の意見も尊重する役者でいたいし。まあ何より
 一番に自分のセンスを信じてるけど。」
「それでいいと思うな」
「撮影入ったら俺時間そんなとれないんだから、電話すぐ取れよ。あとテキパキ喋れよな」
「う、うん」
「とりあえず本一通り読んで、カズヒコが強がりなのかふっきれてるのかわかんないとこあったから、後で聞く。脚本で変わってくるかも知れないけどな」
「うん・・・あの」
「何」
「俺、さくら君が演じてくれるの嬉しいよ」
「ん・・・やるからには100万人泣かせる大ヒットにしてやる。」

(だから、俺が聞いたらちゃんと答えろよ。北海道に置いてきた自分の事も、口では絶対話さないくせに1冊本にするような、もう居ない、兄貴のことも。)

28523-859 お前が受けなの!? 1/3:2012/04/17(火) 19:56:53 ID:UeGclwNQ
萌えたものの間に合わなかったのでコチラで供養させてください

−−−−−−−−−−−−−−

「き、緊張する、よなぁ」
「…………」
コイツは、とてもクールな男だ。
初めて会った、一目見た瞬間から、何故か分かった。
コイツは無愛想で無骨で無表情で無口で、そして、一本気で一途な格好良い男なんだろう、と。
俗に言う、一目惚れ、というやつらしい、と紆余曲折を経て気付き、紆余曲折を経て距離を縮め、
紆余曲折を経て互いに同じ思いを共有していたことに気付き。
そんなこんなでようやく迎えた今夜、今日もコイツはとてもクールだった。
ヘラヘラ笑いつつ変な汗を掻く自分と違って、さほど表情に変化はないし、言葉も少ない。
これだからコイツのくれる想いに長らく気付かなかったのだが、今では多少は分かるようになった。
例えば今、身体はベッドの上で向かい合いつつも、顔はプイと横に向けてしまっている、これは「恥ずかしながらその通り」ということだ。
多分、そういうことだ。
……というか、コイツの感情を勝手に解釈する権利を、コイツはオレにくれたのだ。
『全部、お前の好きな風に取っていい』
コイツがそう言ったから、オレは好きな風に…"お前はオレの事が凄く好きで、愛しちゃってるのだと解釈するぞ”と伝えたら、コイツはそれに頷いた。
あまつさえ僅かに微笑んですら見せた。
とてもクールな男であるコイツが、だ。それまで口の端一つ上げた事の無いコイツが、だ。そこが大事だ。
コイツが手をそわそわさせていたので、手を握ったり。
コイツが腕をフラフラさせていたので、腕を組んだり。
コイツが足をグラグラさせていたので、膝に乗ったり。
好きなように解釈して、そうする度にコイツは少しだけ微笑んでくれた。
そのことがとても嬉しかったから、オレも嬉しさ全開で笑った。
オレが犬なら多分今頃シッポなど激しく振りすぎて彼方へ飛んで行っている。
そのくらい嬉しくて、楽しくて、幸せで……オレたちはこれでいいのだとコイツの微笑みがいつも教えてくれた。
コイツが出す小さなサイン、時には目にも映らないサイン、それをオレが読み取って、こうだろうなと、時にこうだといいなと解釈し、それを事実として受け止める。
それでいいのだと。
そして、今夜、だ。

28623-859 お前が受けなの!? 1/3:2012/04/17(火) 19:57:36 ID:UeGclwNQ
俗に言う初夜、と言うヤツだ。
いや、結婚したわけではないから正しくは違うのだろうが、初めては初めてなのだ。
彼とするのが初めてなのは勿論、正真正銘、人生で初めてなのだ。
彼もそう言っていて…お互いに…初めての…同性だけど、心底惚れた相手との…せっくす。
改めてそう思うと嬉し恥ずかし過ぎて、ワーキャー叫んで走り出したいような、そんな気分で高揚する。
しかしあまりにもアホ過ぎる姿は見せたくないので、ワハハ、と何となく笑って誤魔化す。
彼はこんな時も変わらない。
クールでクールでクールだ。ついでにクールだ。
でも多分内心はテンパってる。オレがそう解釈するならそうなのだ。
笑っているオレに『何がそんなにオカシイんだ?』そんな疑問を抱いている。
「悪ぃ、オレもギリギリでさ。でも、凄い…嬉しいっていうか」
『……俺も、嬉しい』そんな事を、考えてる。
「どうしよ。やっぱ……ここは、キスから、かな?」
『……多分』不安混じりの同意を。
とか、全部オレの一人芝居みたいなもんなんだけど。
でも、そこには確かに、彼がいるから。
「………あーッやっぱ緊張する!!!ホテルとか!ベッドの上とか!夜景見えちゃってるとか!」
耐えきれずベッドの上で立ち上がって、つい、バインバイン飛び跳ね出すオレ。そう、アホなのだ。大丈夫、分かっている。
分かっちゃいるけど止められないのが大丈夫じゃないけれど。
「恥ずかしーーーーーーーーーー!!!」
初夜なのと、アホなのと、両方の意味で何だか彼と面と向かっていられなくて、シーツの中に顔を鎮める。
シーツが冷たいのか、オレの顔が熱いのか、やけに気持ちいい。
しばらく、彼の視線に耐えられるまで、そうしていようと思って、しばらくそうした。
少しは落ち着いて、何事も勢いだと、バっと顔を上げる。
相変わらず無表情な彼。先程から1㎜も動いていないようにも見える鉄面皮。
でも。その風情が何となく不安そうに見えて。
『オレとするのが嫌になったか?』と言っているようで。
「べ、別にお前とヤるの、嫌になったわけじゃないぜ!?うん!むしろ、オレがどんだけこの日を待ったかと…
 いや、だからってド淫乱ビッチ野郎だと思われるのも嫌なんだけど…!!」
「…………」
「オレ、お前と!その……セッ…クス、したいから…!」
そうだ、オレはコイツと、セックスがしたいのだ。
コイツがそうしたいなら、その、オレのケツだって、差し出してもいい。
多分、半端なく痛くて気持ち悪くてオェッてなりそうだけど。
コイツのなら、いい。
コイツの身体が発する全ての望みに、オレの身体の全てで応えたい。
脳みそが沸騰するほど、コイツが好きだ。
好きで、好きで、好きで…好きだ。
オレは無口じゃないけどアホだから、あまり上手い言葉が浮かばない。
こんな想いを、どうやって言葉で伝えられる?
分からないから、ただじっと見つめた。
鉄面皮が、僅かに俯く。
『……良かった』そう言った気がした。
「…なぁ…お前も、オレと……したい?」
『ああ、したい』そう思ってくれてる。コイツなら。
言葉はない、表情も変わらない。
でも不意に、きゅ、と、手を握られる。
腕力握力共に並以上のコイツにしてはあまりに弱いその触れ方に、胸の奥がキュンとした。
「なぁ…お前がしたいこと、全部して。お前なら、何でもいい…何でもして…」
うっとりした気分でそう言った。
本気だった。

28723-859 お前が受けなの!? 3/3:2012/04/17(火) 19:59:06 ID:UeGclwNQ
「………………」
それから、数分。
もしかしたら、数十分。
どうなったかというと、どうにもなっていない。
弱々しく握られた手以外、指一本触れられない。
無表情な顔が、いつもより少し強張っているようにも見える。
勝手に解釈するなら。
「……オレ……魅力ない?」
泣きそうになりながら聞くと、コイツは首を振った。
魅力が無いわけではないらしい、が、何だか変な顔をしている。
といってもやはり無表情なので、何となくそんな気がしただけなのだが。
困惑したようなその雰囲気を、何とか解釈してみるとするならば。
『……何でも、していいのか?』とかだろうか?
「………えっと………さすがに、その、あんまマニアックなのは、初っ端はちょっとアレだけど……
 いや、どーしてもお前がしたいならさ、そりゃ、オレも何とか頑張ってみるけど、っていうか…」
『そうじゃなくて…』
どうも、違うらしい雰囲気だ。
何だろう。
勝手に解釈して良い、というのはこういう時に難しい。
何か行動があれば解釈しやすいのだが、さっきからコイツはピクリともしない。
普通、好き合ってる同士でベッドの上にいて、熱烈な愛の言葉を告げられたら、もう少し何かあっても……
と、そこまで考えて、思った。
もしかして。
「……お前、ひょっとして、オレと同じ事考えてた…?」
「……………」
「オレになら、何されても良いって?何でもしてほしいって?
 触られても、舐められても?……ケツ、掘られても?」
ぎゅっと、握られた手に力が込められる。
少しだけ寄った眉間。
「……………」
それでも辛抱強く待ってみると、コクリと、小さく頷いた。
沈黙。
のち……爆笑。
「あははははは!!!そっか…お前も、そうだったんだ…!
 分かんねーよ!だって!お前、男だし!メッチャ男だし!!そりゃ、オレも男だけどさー!
 ってお前も分かんなかったよなーそりゃそうだ!!」
よく見れば、コイツもほんの少しだけ口の端が上がっている。
苦笑いにしてはやけに優しく見えるそれは、いつもオレの勝手な解釈を許してくれたけれど。
勝手に、都合良く解釈する事の、させる事の、根底にある意味。
卑怯だよな、オレも、お前も。
好き合ってるのに、何やってんだか。
オレは何だかとても爽快な、一皮向けたような気持ちになった。
「やっぱさ、お前、口下手なのは分かるけど、もうちょい頑張れ!
 んでさ、言おう!したい事をさ!オレも、お前の気持ち伺うの止めるから!
 オレ、お前の事好きだし!先に進んでいきたいし!」
「………分かった」
「足りない!」
「……………………………………好き、だ」
オレは今まで恋人から、そんな言葉も聞いた事がなかったのだ。
嬉しい。嬉しい、嬉しい、嬉しい!
「お前が、好きだ……………」
確かめるように噛み締めるように言葉を絞り出すコイツが、イトオシくて堪らない。
「オレさぁ、お前を触りたいし、触られたい!」
「………オレも」
「もうちょい!」
「………さ、……触りたい。お前に…触られ……」
「よし!そうしよう!!!」
今まで、楽しかった。
あれはあれで良かった。
でも、多分これからはもっと楽しくなる。
そんなことを思いながら、オレ達はしたい事をして、そうやって初夜を迎えたのだった。


結果。
「お前が受けなの!?」
オレ達の悪友でありオレ達の恋愛の立役者でもある女が、俺たち2人を交互に見てそう宣った。
どうもオレ達の夜は、傍から見て意外過ぎる所に着地したらしい。
根掘り葉掘り聞いたのはソッチのくせに、失礼な反応だと思う。
「でも、俺達が、そうしたいから」
そう言ったコイツを、オレは好きで好きで、好きだ。
多分、今までよりも、ずっと、ずっと。
愛したい。
そう思う。

28823-879 ずっと友達:2012/04/20(金) 22:03:13 ID:leHmlLyU
 テレビで、コンビの芸人がわめいている。
 相方のことが大好きなんだと、臆面もなくうそぶいて、司会者にも他の出演者にも、そしてくだんの相方にまで手酷くツッコまれている。
 藤田が眠っていてよかった。でなければ俺は結構なうろたえを見せただろう。

 ──なぜ、友人と仲良くなりすぎてはいけないのか。

 今日、俺と藤田は釣りに行った。防波堤から簡単に釣るやり方が面倒でなくていい。
 釣果はたくさんの小アジ。昼過ぎには切り上げて、そろいで買った小出刃でふたり、ひいひい言いながらぜいごと頭を落とした。
 塩とこしょうで唐揚げにして、半分は砂糖と醤油と酢をかけて南蛮漬け。
 汚れたクーラーボックスを洗うついでに風呂に入って、日差しの強かった昼間の乾きをビールで埋めて、アジを際限なく食いながらテレビを見る。
 たぶん、今日も藤田は帰らない。
 職場でも何かと引き合いに出されるほど、俺達は仲の良い友達だった。
 こんなふうに週末いっしょに遊んでお互いの家に泊まる、学生時代は良かったが最近では人に話すと驚かれるようなつきあいが、もう十数年続いている。
 腐れ縁ともいうべき、同じ大学から同じ社に就職した藤田とは、もう離れる気がしない。
 何度かの異動もあったし、藤田が地方に赴任した期間もあったが、友情は変わることなく今も続く。

 ──強すぎる友情は、別の名で呼ばれるべきなのか。

 昼間の暑さと満ちた腹のせいで、さっさと寝っ転がった藤田と同様、俺も半分眠っている。
 思い出すのはこの一週間のこと。ああ、今週も忙しかったなぁ、今日のアジはそのご褒美だったな……なんて。
 実に忙しかった一週間だった。そんな中、煮詰まった残業中に馬鹿話になった折、生意気な後輩が俺をからかったのだった。
「アヤシイんじゃないですか?」
 あの後輩はつまらないことをよく言うのだった。気に留めるような価値もない軽口だ。
 彼女もいない俺が、おなじく独り者の藤田とばかり遊んでいるなんて、それはいわゆる同性愛ではないか。
 言って後輩はぎゃあぎゃあ笑った。
 そんな……馬鹿な、本当に愚にもつかない話。みんな笑って修羅場が和んだ、それだけの話。

 ──大人の男が友人を持ってちゃいけないのか。

 上司や仕事先に結婚を促されてヘラヘラする。合コンにも誘われ、適当に行く。
 女に興味がないわけじゃない。性癖はいたってノーマル、誰だって俺のPC見ればわかる。
 結婚だってしないつもりじゃなかった。単に出会いがなかったのだ。俺の人生において確定しつつこの状況は不本意である。
 もう何年かすれば四十才になる、出世もしそうになく格好良くもない俺に、嫁は来ないだろう。親も何も言わない。
 不況のこの時代、世相は暗く、その日を暮らすのにせいいっぱい。
 たまの週末に友達と好きなことをするくらい、許されてもいいじゃないかと思う。
 結婚した友人達はそろって幸せそうでもあり、大変そうでもある。ただ一点、普通に世間に溶け込んでいることがうらやましい。
 いつの間にか異端となった俺は、何も悪いことなどしていないのだ。

 ──俺達の関係は、とがめられるようなことなのか。

 夜になって冷えてきた。昼間暑いと反対に夜は冷える。
 見れば藤田が縮こまっている。小さな毛布をとってきて、かけてやる。
 ──相方になら俺、抱かれてもええと思ってるんです。
 さっきのテレビが脳裏によみがえる。
 あのとき、藤田が眠っていてくれて本当によかった。……そう思うのはなぜなんだろう。
 天井に顔を向けて眠る藤田は、目をつぶっていてもまぶしいのか眉を寄せたしかめっ面だ。
 初夏の日差しに一日で日焼けした赤黒い頬には、俺同様、年齢に応じたたるみが見える。
 こいつも社内で何か言われたりするんだろうか。
 それなりにいい男だとは思うのだが、状況的に藤田にも彼女はできないだろう。
 それなら。
 ずっと友達で……いいか? 藤田。
 この先あと三十年近く、定年まで勤め上げるとして、その間一緒にいてくれるか、俺と。

 ──いつまでも続く友情は、愛とは違うのか。

 ……くだらない。
 たったひとつわかるのは、藤田と俺の関係が間違いなく友情で、そして、だからこそ、かけがえのないものだってことだ。
 この年になって、新たな友人など作れない。ましてや彼女や結婚など、もう面倒だ。
 ずっと友達。藤田がいればそれでいい。
「……ッ」
 急に涙がこみ上げてきて、眠る藤田を見ながら声を出さずに俺は泣いた。
 今、すごく幸せだと思ったのだ。

28923-929 いっしょにごはんをたべよう:2012/04/26(木) 17:49:36 ID:SaDsTj4g
人の機嫌を損ねないようにといつも自信なさげに喋る鴨居が、今日はいつにもまして気遣わしげな視線をよこす。
心配ごとでもあるのだろうか。不思議に思いながらも「どうかしたのか」と直接に聞くことはせず、大池は缶の中に僅かに残っていたコーヒーを飲みきって口を開いた。
「休みだよ、そりゃ」
「だよな、土曜日だもんな」
「いや、実際土曜休めるのとか久しぶりだよ」
「そうか」
鴨居が焦った顔になった。失言だった、と早くも後悔しているらしい。また迷ったように視線を泳がせ、右手に持ったままの手帳を開いたり閉じたりしている。
高校時代によくつるんでいた友人たちは、鴨居のこういったのろさを面白がって、ときには少し馬鹿にすることもあり、悪い言い方をすれば笑いもの扱いだった。
彼らの意識としては友達同士ののりでからかっているだけだし、鴨居も一緒になって笑っていた。しかし大池はそれがいつも気に食わなかった。
だから誰かを交えて鴨居と話すより二人だけでのんびりと喋る方が好きだった。

自販機の横にあるごみ箱に向かって歩き出したら、鴨居がとことことついてきた。大池が「これ捨てるだけ」と言って空き缶を示すと、鴨居が慌てて「ごめん」と謝った。
会社から帰る途中、乗り換えをする駅のホームでばったり会って、彼が手帳や携帯をいじりながらそれとなく質問するのに応えるという形式の立ち話が始まり、既に十分ほど経過している。電車もいくつか逃した。
特に用がないならここで別れて帰ればいいのだが、彼が何か言いたそうにしている気がして、大池は「じゃあまた」と言いだせずにいた。
缶を捨てて鴨居に向き直ると、彼と一瞬だけ目があった。運動音痴という自称を裏付けるような彼の小柄な体格は、社会人になってスーツを着ていてもどこか頼りなげだった。
大池としては、鴨居が話したいことを話せるまで待つつもりだが、心配症の彼は大池の気を悪くするからと遠慮して途中でやめてしまうかもしれない。
できるだけ話しやすいようにと大池は「もうすぐ四月終わるなあ」と何でもない一言を挟んだ。
「あのさ」
鴨居がようやく意を決してくれたようだ。
「明日俺も休みだし、一緒に飯とか、どうかな」
十分かかって切り出す話がそれか。
怒られることでもしたみたいに縮こまって返事を待つ鴨居の俯いた顔を見ながら、大池が少し笑った。
「俺もちょうど誘おうと思ってたんだ」
鴨居が視線を上げて大池を見た。彼は「そうか」と呟き、安心したようにやわらかく微笑んだ。
高校を卒業しても鴨居のことばかり思い出していたのは、その顔を見るのがとても好きだったからだ。
次の電車が来るまであと二分ある。同じホームで乗り換える大池と違い、鴨居は階段を下りて地下鉄に乗るはずだ。
ここに留まっているのは大池が電車に乗り込むのを見送るつもりなのだろう。
鴨居に悪い気がしたが、あと少しの間でも何となく一緒にいたいのは大池も同じだったので、二人で並んだままホームの時計を見ていた。

290名無しさん:2012/04/28(土) 22:09:31 ID:uVFmN8R2
本スレ>>950です。初投下でたくさんのGJをいただき大変嬉しかったので、続編を投下してみます。一応カプには絡みませんが、モブで一瞬女の子が出てきますので注意。



やあみんな!部長だよ!趣味はサークルで女の子と遊んだり女の子と遊んだり女の子と遊んだりすることだよ!それともう一つ、おれのマイブームをご紹介するぜ!

我が愛しい部室に入ると、火村が退屈そうにスマホをいじっているぞ!風谷と一緒じゃないとは珍しいな!こいつらこの間の焼肉でやっとくっついたっぽいからな!おれが気を利かせて2人にしてやっただけあるぜ。

「おーす!風谷は?」
「買い出し行ったよー…あーヒマだわー、部長面白い事言ってー」
おぉーっとネタ振りだ!これは期待に応えなきゃな!それでは渾身のネタを一発!

「お前と風谷ってもうセックスした?」
「っ⁉ぶほ‼ゲホッ‼」
おお、むせてるむせてる☆
「いやー!まぁお前ら2人が仲いいのは全然良いけどね?サークルの企画もお前らのおかげで最近充実してるし」
「げほ…部長には関係ないだろ…ほっとけよ」
おお♪食いついてきましたね!これは楽しくなってきましたヨ!
「関係なくないよ?おれ風谷好きだしー」
「…は?」
おれを見る火村の目が燃えるようです!これは怒ってますねー!ここからが腕の見せ所ですよ!
「はっきり言ってお前に風谷の隣は渡せないなー。お前童貞だし?優しく出来るのかなー?風谷、いつもみたいに苦労するだろうなー…お前さ、」
ここでたっぷり溜めてかーらーの!

「風谷のこと、幸せに出来るの?」

「っ!……」
はい決まったー!火村君の燃えるようだった目は涙が浮かんでおります!
ここでおれは部室を出る!おっと、同じサークルの女の子だ!
「あれー?部長じゃないですかぁー、楽しそうですねぇ」
「うん!最近ハマってることがさっきものすごく上手くいったんだー!」
「何にハマってるんですかー?水野部長ー」
「んー?消火活動☆」

29124-19攻め大好きな不良受け:2012/05/07(月) 03:12:21 ID:aYj2p476
間に合わなかったのでこちらに


煩いくらい鳴っている目覚ましを
ほとんど叩く様に止めて時間を確認した。
7時ぴったりを示した時計をみつめてもぞもぞと起き上がる。
顔を洗って歯も磨いてからほぼ金色に近い髪をセットする。
7時30分
朝飯をゆっくり食べてから制服に腕を通す。
ワイシャツの前を盛大に開け、アクセサリー置場にあるものを片っ端から着けていく。
7時50分
学校へは歩いて20分ほどで着いてしまうので暫くコーヒーを飲みながらテレビをみる。
遅刻ギリギリの時間を見計らってから俺は家を後にした。
学校が見えたところでチャイムがなった。
校門までダッシュで走ると門を閉めようとしていたやつが俺に気がつきため息を吐いていた。
「ギリギリセーフ!!」
息を切らしながら俺は目の前の風紀委員長に笑うと委員長はもう一度ため息を吐いた。
「ギリギリ過ぎですね。それに服も髪もアクセサリーも校則違反ですよ。」
眼鏡をクイッと持ち上げ困った顔の委員長に俺はニッコリと笑いかけた。
「わかってるよ!放課後指導だろ?風紀室でいいんだよな!」
「全く君って人は何回目ですか」
「んー10回目?」
「12回です。大事な放課後を指導なんかで潰してはつまらないでしょうに…」
「そーでもねぇーよ?」
「今日も校則の復習ですよ?」
「わかった!じゃあまた放課後な!」
「全く…」
やれやれと委員長は小さく首をふったが俺はにやける口元を押さえつつ校内へと走った。
放課後が楽しみでしかたない。
だって髪を染めてるのもアクセサリーをジャラジャラつけてるのも、
朝わざと遅れてくるのも全部この放課後の為だ。
委員長が大好きだから、かまってほしいから。
そして今日こそは気持ちを伝えるんだ!
そんでもって委員長を押し倒してやるんだ!
俺はそんな事を考えながら教室へと向かった。



この時の俺はまだ知らない。
放課後、気持ちを伝えて押し倒そうとしたのを逆に押し倒され足も腰も使い物にならず委員長におぶられて帰ることを。

29224-79皆の人気者×一匹狼:2012/05/14(月) 01:19:31 ID:2S0UtCog
流れそうなフインキなのでこちらで。



どんなに煩い人ごみの中でも、お前のいる場所はすぐわかる。
お前が話すと、空気がやわらぐ。
お前が歩くと、空気が流れる。
お前が笑うと、空気が光る。

…下駄箱の向こうから、がやがやと声が聞こえる。
帰りにどこそこへ寄ろうだの、なんやかやを食べようだの。
全くお前は見かけるたびに誰かに何か誘われている。
「あー悪りい、今日用事あるから!」
つれないお前の返事の所為で、残念な空気がその場を覆うのが手に取るようにわかる。
罪な野郎だ。
同情の視線を横に流すと、大股で近づいてくるその影ひとつ。
馬鹿馬鹿しくも、胸がどきんと打った。

「よっ!おひとりさま?」
「……。」
「じゃあ、いっしょ帰ろ!」
「…用事は?」
「え?」
「用事があるって、今。」
「あーいや、てかあれ、お前と帰るから。」
「は」
「ね?」
「ね、って」
「教室からお前が下駄箱向かうの見えてさ」
「…」
「なんかさ、人とかいっぱいいてもお前はすぐに見つかるんだよね。やっぱ愛の力かな〜」
「…知るか馬鹿」

他人と慣れ合うのは、弱い奴だと思っていた。
誰かと空気を共有するのなんて御免だった。
一人が楽だった。
筈なのに。

お前の空気になら、飲まれてもいい。
そんなことを思いながら、ひと気のない道を選んで帰った。
つないだ手が、あたたかかった。

29324-79 みんなの人気者×一匹狼:2012/05/14(月) 11:40:35 ID:uIdkXa2U
水遁食らってしまって書き込めませんでした。
代行お願いできれば助かります。遅刻申し訳ありません


コンクリートがむき出しの雑居ビルの中は、走っても走っても先が見えない。
ぜえぜえと自分の吐息ばかりが響いて、
それを聞きつけて今にも奴が迫ってくるのではないかと言う恐怖が繰り返し思考を停止させた。
違う、落ち着け、逃げるのをあきらめるな。
ああ。正義の味方、だなんて甘い響きの言葉で武装する連中など、これだからくそったれなのだ。

連中は「正義のヒーロー」だ。とどのつまりは、国家が雇った、軍より自由な傭兵でしかないのだけれど。
最新式の武器と暗視スコープ、一糸の乱れもない組織立った捜索でこちらを確実に追い詰める。
それを自分は何度も見てきた。
裏町で自分を育てたあの気のいい小さなマフィアの連中も、そのあとに自分を利用した薄汚いゲリラ連中も、
思想には共感したが行為がいささか強行だったレジスタンスの連中も、みんな、みんな。

刺すような視線が自分の妄想なのか、本当にどこかから監視されているのか、もうわからなかった。
半ばやけのような気持ちで足を止め、手近の一室に座り込む。ごつりと壁に預けた背中から、じわじわと熱が逃げた。
上着はとうに手放して、相棒の銃のカートリッジはもう最後だ。
破れたシャツからむき出しの腕に無数の擦り傷がある。これだけで済んでいるのはむしろ幸運と思うべきだった。
大勢で「力をあわせて悪を殲滅」するのが連中の常套手段なのに、あいつは今日、たった一人で俺の前に現れた。

ちくしょう、と小さくつぶやいた声が部屋に消える。
自分のようなちんけな悪党など、一人で十分とでも言うのだろう。そのとおりだくそ、ついでに見逃しておけ。

「そういうわけにもいかないからね」

不意に扉の向こうから声がした。
身構えるより早く、ドアがどかんと大きな音とともにゆがみ、もう一度爆音を立てて崩れ落ちた。
最新鋭のスコープと、薄く軽いくせにショットガンくらいには耐える装甲。
正義のヒーローがそこにいた。

「……仕事熱心だな」


吐き捨てて銃を構える。こけおどしにもならないことは分かっていたけれど。
疲労と絶望で目がかすむ。
表情の見えない暗視スコープの、その向こうで奴がどんな顔をしているか。
思い出そうとしたけれどあきらめた。

自分の中では、まだガキのころのあいつの顔のままなのだ。

29424-79 みんなの人気者×一匹狼:2012/05/14(月) 11:41:06 ID:uIdkXa2U
じり、と後ずさりながら相手と距離をとる。
「ガキの頃はミサだって適当にしてたくせによ。随分立派に成長したもんだ、ヒーロー」
「真面目にやれって怒ったのはあなただろ。だからこうして職務に励んでいるのに」

苦笑の気配だけが伝わる。そうして、無造作に一歩、長いレンジで距離を詰められた。
反射的に引き金を引く。きんと硬い音だけが響き、ヒーローは微動だにしない。

同じ町で育った、弟分だった。唯一のともだちだった。そのはずだった。
あのファミリーがなくなって、道が分かれるまではの話だ。

さらに一歩。壁に追い詰められる。相手の表情は見えない。

「……見逃せよ。おれはもうどこの組織にも属してない。単なるちんぴらだ」

ああ。なんてことだ、あの洟垂れに命乞いだなんて! けれどもそれしかないのだ!
もういちど、笑う気配だ。今度は吐息の音が聞こえるほど、顔が近かった。
そうして奴は見えない笑いと一緒に言った。わかってるよ。

「おれが、そのために、みんな潰してきたんだ」

目を見開いた。
自分を育てたあの気のいい小さなマフィアの連中も、そのあとに自分を利用した薄汚いゲリラ連中も、
思想には共感したが行為がいささか強行だったレジスタンスの連中も。

「な、」

口を開きかけたところで腹に重い一撃が来た。
げほ、と咳き込んでくず折れる。暗く沈んでいく意識の向こう、笑いを含んだ声が聞こえた。

「だからもう、あんたは俺のところに来るしかないだろう?」



(翌日の新聞には、殺人・強盗の疑いで男が捕らえられたことが、ごくごく小さく報じられた。
 国家保安隊の特例措置により、ある士官の監督下におかれることも)

29524-169 宇宙人:2012/05/25(金) 22:27:02 ID:VNYfHvLg

「あぁっっっっちぃー」
熱帯夜だというのに、俺は友人の星野に呼ばれて近所の高台にある公園にきていた。

「なぁに言ってんだよ宇野!今日は流星群だぞ⁉宇宙人からの何らかのメッセージを見逃したらどうすんだよ!」
星野は昔から宇宙人が大好きで、流星群なんか起きた日にはテンションが上がりまくる。その度に連れ回される俺のことも少しは考えてほしい。

星野に腕を引かれながら、この町で一番高い公園の丘を登る。
いつもは体を触られることなんて滅多にないのに。この時だけはなりふり構わないようだ。

頂上で空を見上げると、ちょうど星が流れ始めているところだった。
「うおおおおおおおスゲー‼宇宙人よ、オレの前に現れてぇぇぇぇ‼」
星野は流星群に夢中だ。だから気づかない。俺が星野の顔を見つめている事も、俺がどんな気持ちで星野の宇宙人狂いに付き合っているのかも。
星野の関心を全て奪う、宇宙人なんかいなければいい。星野がたまには俺の方を見てくれますようにと、流星に祈った。

296名無しさん:2012/05/29(火) 00:41:49 ID:YGc4iCl6
被ってスレ汚しして申し訳ありませんでした……
一応分割したのの続き含めて、投下しておきます

 しゃっ、と鉛筆が紙の上を滑っていく音が聞こえる。その音が、何を描いているのか俺には見えない。だからただ、鉛筆をころころ変えていく先輩をぼーっと見つめていた。
 どうせすぐ汚れるから、なんて安物のシャツばかり着ているくせに、どこか洗練された雰囲気と。
 大変機嫌良さそうに和んだ、端麗な顔。
 その顔が俺の方を見て、手を止めて、笑う。自分が軽くときめくのが分かって、なんか悔しい。
「……やー、本当にナオ君っていい体してるよね」
「んな、そういう言い方やめてくださいってば」
 音声がつくだけで雰囲気が台無しだから。
「え、褒めてるんだよ、ナオ君の筋肉凄いって。好みだよ」
「いや、俺のことじゃなくて」
「そういえば、そろそろ寒いでしょ。もう上着ていいよ、モデルありがとう」
 俺の言葉をさらっと流して、先輩はまた鉛筆を握る。マイペースな様に脱力しつつ、俺は椅子の背にかけていたタンクトップへ手を伸ばした。
 服を着て椅子に座り直したところで、手を動かしながら先輩がまた話しかけてくる。
「あ。そういえばナオ君、専門は陸上だっけ」
「そっすよ」
「だからかな。触った感じだと、下半身も逞しいんだよね」
「え」
「こないだ暗くてあんまり見えなかったからさ」
「ちょっとせんぱ、ストップ」
「今度は明るいところで見」
「わーわーうわーーーー!!」
 ここ校内ですから! 誰か聞かれたらどうするんだよ!
 思わず立ち上がった拍子に、椅子に足を引っ掛け転がしてしまった。騒音の二重奏に先輩は目を見開いて、それからさもおかしそうに笑う。
「ナオ君、本当に可愛いなあ。そういう所も好きだよ」
「……先輩が楽しそうで嬉しいっすよ」
 起こした椅子の背にぐったり凭れて、俺は熱くなる耳を両手で塞いだ。

297296:2012/05/29(火) 00:45:14 ID:YGc4iCl6
24-189 芸術学部生×体育学部生

を名前に入れ忘れていました
重ね重ね申し訳ありませんでしたorz

29824-209 ツンデレ×ツンデレ:2012/05/31(木) 11:55:59 ID:CWtpoLIo
「何、こんな時間に。」
ほろ酔いの俺をそう言って迎えたのは、眉間に皺を寄せた恋人だった。

「終電なくなってさ、タクシーなら俺の部屋よりこっちのが近いんだよ。」
突然悪かった、と言い訳する俺に、恋人は容赦がなかった。

「野宿すればいいのに。」
「……何が哀しくて誕生日にホームレス体験せにゃならん。」
「何事も経験だよ。これでまた一つ寿命に近づいたわけだし。」
「お前、おめでとう位言えねーのか。」
「こんな時間まで遊んでくるやつに言うおめでとうはないね。」

恋人の口調はあくまで軽いが、どうやら結構怒っているらしい。
くりくりとした大きな瞳は全く笑っていなかった。

「お世話になってる上司がご馳走してくれるって言うの、断れないだろ。」
言い訳のような事情説明をしながら、水を取り出すために冷蔵庫を開ける。
と、綺麗にリボンのかかった箱がど真ん中に鎮座していた。
そう、それはどう考えても、誕生日ケーキだった。

そりゃ不機嫌な筈だ、と内心頭を抱えながら呆然としていると、リビングから声がした。深夜番組に夢中な彼は、俺が冷蔵庫の中を見た事には気付いていないらしい。

「でも残業終わってから飯食って飲んでって、どこの店?会社の近くあんまり良いとこないじゃん。」

「あー、ほらこないだお前とも行ったじゃん。アンチョビのピザがウマいとこ。」
あぁ。と納得したような返事のあと、
「あれ?」
という声がして、しまったと思った。
案の定、にやにやと笑みを浮かべた男が近づいてくる。
「あそこからって、うちのほうが近かったっけー?いつの間にそんなルート出来たのかなー?」
「……うるせー。」
「誕生日に僕の顔が見たかったって素直に言ったら?」

そんな恥ずかしいこと言ってたまるか。心のなかで呟く俺に、すっかり機嫌の治った恋人はニヤニヤ笑いをやめない。

「全く、昔っから素直じゃないんだからもう。仕方ないから僕1人で食べる為に買ったケーキ、ちょっとだけあげても良いよ?」

「……お前もたいがい素直じゃないな。」
「何か言った?」
鼻歌混じりに冷蔵庫を開ける恋人に、思わず苦笑した。
意地っ張りはお互い様だ。
END

29924-259 受けに乳首責めされて喘ぐ攻め:2012/06/07(木) 12:39:26 ID:gglyJ1io
規制で泣いてこちらに。長文妄想です。
=======
喘ぎ攻めに萌える!
ここはひとつ主従関係、主×従でどうだろう。下克上要素が二度美味しい!

例えば攻めは冷えた焔のような王。
自信に溢れた燃える獅子の瞳と牙を隠さず、しかし世の勝利者が必ずそうであったように、
機を窺い獣の息を殺す慎重さは凍えるほどに冷静で、ひとたび燃え上がれば勢いは破竹。
誰もが彼を敬い、恐れ、生きた伝説──怖ろしい神のように周りの人間は魅了された。

そんな君主には、古くから影のように付き従う部下が居た。
一見目立たず、有用な奏上を皆の前で行うわけでもなく、外地で華々しい戦果を挙げるわけでもない。
しかし王は彼を重用し、遠征の時には彼に内地の全権を任せ、第一の者だと言って憚らない。

古株であるだけの腰巾着。王が彼を手放さないのは、使い慣れた道具なだけに『具合が良い』のだろう……、
そのように謗る声は隠されようともしなかったが、部下は静かな無表情を崩そうともしない。
ただ、過去に彼のことを引き合いに王自身を謗る者があった時、相手を叩き切らんとする烈火の如き怒りを見せたこともあるが、
王のとりなしを受けて以後はそのような事もなくなった。

傍目にも親密過ぎるような王と部下に、しかし体の関係はない。
いや、なかった。
部下は、王に長らく身を焦がす劣情を抱いていた。
王の、鍛えぬかれた美しいからだと触れるだけで切れそうな魂の輝きに、己の身を焼かせ、燃え尽きてしまいたかった。
強く、神のように崇められる王の、誰も知らぬひと欠片の脆さを愛していた。

王が部下に触れたのは、ある大戦に勝利した夜だった。
王がまだ若き日に、瞳を燃え立たせて、今の部下となった男に語った将来の計画。
まさに大陸の覇者となるまであと一歩まで迫ったその日の晩、したたか酔った王は寝屋まで王を運んだ部下の腕を引き、無理やりに組み敷いた。

部下は抵抗した。全力で抗い、それでも王の身に傷をつけないように爪も拳も用いなかった。
己を押さえつけて貫く王に、身が引き裂かれる思いをしようとも、王自身の体にはひとたびも触れなかった。
押さえ込んでいた劣情が顔を覗かせ、王を求めて熱く身を捩じらせても、掠れた一声すら発しなかったのだ。

吐精し、部下を押さえ込んでいた指先を緩め、王は呟いた。
「──おそろしいのだ」
傷付き、疲れ果てた身を横たえていた部下は、その夜一度も合わせなかった瞳を、のろりと王のもとへと上げた。
王の顔は、暗がりの中でよく見えない。

おそろしい。私は、おそろしいのだ。小さな、常の王では考えられない細い息が繰り返し漏れる。
部下はぼんやりとそれを聞き、それから震えた。
このひとが、今夜己を求めた理由。あの王が、全てを手に入れようとしている王が、ただの一人の男になってまで己を貫いた理由を、その一声で理解したのだ。

「……」部下は、きしむ身を起こして、王の耳元に囁きを寄せた。一言、──王として出会う前の、一人の男の名を呼んだ。
王の…彼の身が揺らぐ。来たる嵐に怯える子どものようなその身を、抱き締めるのに今は躊躇うことなどなかった。
抱き締め、髪を撫でて首筋に口付け、落ち着かせるように寝かせながら、彼の厚い胸元に舌を這わせる。
日ごろ考えられない脆さで従った体が、胸を啜られ僅かに捩れた。

「──」王が、彼が、最愛の友の名を呼ぶ。
部下は、再び愛しく脆い太陽の名を囁き、胸元を執拗なほどにただ愛撫を重ねる。
「…ないてください」
部下の小声に、僅かに上がった王の息が止まった。構わずもう一度、声を向ける。
「啼いてください。あなたは涙を流せない。だから、せめて、わたしの前でぐらい、……わたしの為に」
彼の、力が抜けた雄を掌で包み、胸を唇に含んで舌先で転がすように吸い上げる。
闇の中、震えた王の唇が、掠れた声を零した。
低く甘やかな声に、部下は裂かれた下肢までもが疼くような熱さを覚える。声を聞きたい。ないた声を、あなたの弱さを、わたしだけがすべて。
胸を舐めるたびに、泣くような息が零れ、抑えた涙のように声が零れた。

──続きは妄想で!

30024-279 二人がかりでもかなわない:2012/06/09(土) 14:05:29 ID:ZVZ7KrbE
昼休みの教室内、トイレから戻ると、むさ苦しい友人たちが顔を寄せ合っていた。
なにかおぞましい儀式でも行われているのかと近付いてみると、そこにあったのは幼い頃からよく見慣れた光景だった。
「なにやってんの?」
劣勢と思しき二人が声を上げる。
「あ、上原!加勢してくれよ!」
「おかえり!放課後のラーメンかかってんの!」
「ふーん」
ごく一般的な表現をするならばそれは腕相撲と呼ばれるものに似ていた。
ただし行われていたのは多対一、つまり小中高と野球一筋の体育会系代表である日野の右腕に、友人の森と園部がなりふり構わずぶら下がっていた。
「上原が入ったぐらいで負けるかっつーの」
明るく笑う日野に煽られ、園部が余計ムキになる。
「来い上原!三本の矢作戦だ!」
三本の矢とは力を込めるのが人だから使える言葉であって、象だの虎だのハリウッド仕込みのゴリラだのを相手にしても意味はないのだ。
従ってモテたいだけのバスケ部員二人に根暗バンドマンが一人加わったところで、校内屈指の強打者に勝てる訳もない。
「あと10秒で倒せなかったら俺の勝ちだからな」
白い歯を見せて笑う日野。
なぜか吸い寄せられるように、上原はその横顔へ口付けた。
「…へ?」
力の均衡が崩れ机が大きくガタン、と揺れた。しゃがんでいた園部が尻餅をつく。
「うえはら…」
日野はそれだけ呟くとぽかんと口を開け、子供のような顔をしている。耳まで真っ赤だ。
「俺らの勝ち?」
上原の声にはっとしたように森が横から「ラーメン!」と叫んだ。
日野は呆然としたままで「わかった、放課後な」とだけ答える。
5分前を知らせる予鈴が鳴り始めると、教室は一層騒がしくなった。
森と園部に続いて、上原も自分の席へ戻る。
手を引いてそれを止めたのは日野だった。まだ頬が赤い。

喧騒に消えた言葉の先は、他の誰にも聞こえなかった。

30124-299 何考えてるのか分からない受け:2012/06/12(火) 18:00:52 ID:lZgq9ngo
《日本人は何を考えているのかわからない》
というのは、外国人にとって共通認識としてあるらしい。
わからないでもない。
日本には、はっきりと言葉にしないでも空気読めよ的な文化があるから。

俺が今いる大学の寮には様々な国から来た留学生がいる。
英語圏の人間は、世界中どこでも言葉が通じると思ってる。
日本に留学しに来てるなら、もう少し日本語の勉強して来い。
《日本人はミステリアスだ》と言って、
自分の勉強不足をこっちのせいにするなとは思う。

特に俺と同じ部屋で生活している金髪の男には声を大にして言いたい。

《コージは日本人だから仕方がないけど、たまには愛の言葉も言っていいんだよ》
じゃねーよ。
百歩譲って愛の言葉を言うにしてもお前にじゃないから。
お前には言ってるから。俺はお前が本気で嫌いだって言ってるから。
誰だよ。「いやよ、いやよも好きのうちなんだ」とか言って、
こいつに間違った日本語の意味を教えたのは。
言葉が余計通じなくなったじゃねーか。
《日本人は無表情で何を考えてるか読み取れない》
とか言って抱きつくんじゃねーよ。
俺の眉間のしわが見えないのかよ。スキンシップなんかいらないから。
《日本人はシャイだ》みたいに自分に都合よくとるな。
俺が怒れば怒ったで
《君が怒る理由がわからない。一体僕が何をしたっていうんだ?》
とか言うな。俺の勉強の邪魔はするわ、俺に近づいた女は蹴散らすわ、
やりたい放題じゃねーか。
大学の寮っていうのはなあ、勉強するところなんだよ。
昔の日本と違って、今は就職サバイバルなんだよ。
俺は同室のお前にこれ以上振り回されたくないんだよ。
そう訴えると
《もう一度ゆっくり言ってくれる?》
と返されたので、説明する気力が失せた。
俺にはお前が何を考えているのかさっぱりわからない、と口にしたら
《英語の勉強ならベッドで習うのが一番上達するよ、カモンコージ》
とベッドから俺を手招きするので、俺は思い切り頭を叩いてそいつを部屋から追い出した。

30224-349 低身長×高身長:2012/06/17(日) 03:14:05 ID:TOXnNMRA
君に関する僕の特権。

一つ。抱きつくと君の心臓の音が聞けること。
触れるたび君が生きてる証拠を聞けるなんて最高だ。
君は僕らが抱きしめあうと僕がコアラ状態になることを気にしてるみたいだけど、僕は君に抱きしめられ
るのが好きだから、全く問題ないんだよ。

二つ。キスするときに背伸びできること。
男の身に生まれながら、彼氏にキスするときのオンナノコゴコロを味わえるなんて、なかなかお得な人生
じゃないか? 少なくとも僕はそう思っているよ。
散々恥じらってから僕のために屈んでくれる君のキスを待つのも大好きだ。

三つ。セックスのときに君のやさしさを全身で感じられること。
重いから、っていつも下になって、でも無反応はいけないって、いつも一生懸命応えてくれる君が、僕は
いとおしくてたまらない。とても、とても恥ずかしがりやの君なのに。
不慣れなころ、君の体が逃げてしまって、ずり上がって、ベッドヘッドに頭をぶつけて、思わず二人で笑
い合ったのはいい思い出だね。

四つ。君の好きなところを挙げていくと、こんな風に、嬉しいのと恥ずかしいのとでしゃがみこんだ君の
つむじを見られたときの嬉しさ。
君にはわからないだろう? 見慣れてしまっているからね。
伏せていた顔をあげたときの可愛さといったら! 見ているだけで幸福が胸に満ちるよ。

ほんとうはもっとあるんだけれど、言い尽くせないくらい君が好きだよ。
愛しているんだ。
君と、ずっと一緒に生きていきたい。
だから、そんなに泣いていないで、顔をあげて、返事を聞かせてよ。
……お願い。

303302:2012/06/17(日) 03:18:21 ID:TOXnNMRA
すいません、名前欄ミスりました
24-329 です

30424-339 ぱっと見A×Bと見せ掛けて略:2012/06/19(火) 21:45:50 ID:.Q6oJVIE
ぱっと見A×Bと見せ掛けて実はB×Aなのかと思ったらやっぱりA×B


「なあ、俺、お前のことすきだよ」
二人で宅飲みをした夜、話のついでにひょいと言ってみたときの、奴のポカン顔ときたら最高だった。

「……………、………は、?」
次の発言までたっぷり40秒。パズーなら鳩逃がして家を出るレベル。
あーそのジワッジワ赤くなる顔とかすばらしいね、連写モードで撮影したい。
そんでコマ撮り動画にしてやりたい。
俺が表情を真顔から一ミリも崩さず、だまってじっと見つめていたら、
奴の顔はとうとう鎖骨のあたりから額まで真っ赤になってしまった。
「なん、なに、……いきなり、……」
ようやく何やら突っ込もうとしているようだけど、焦りすぎて言葉がわやわやだ。
かわいー奴め。

ほんとうに、こいつは言葉で感情を表現するのが不得手だ。
口に出す前にやたら考え込むし、
考えすぎて結局何が言いたいかよくわかんなくなるのもしょっちゅうだ。
おまけに表情を作るってスキルがすこんと抜け落ちてるもんだから、
初めて会う人にはいちいちいちいち誤解される。
だから、その白い顔が透かせる血色が、伏せられがちな目線が、
じつはなによりこいつの心を反映することに気がついたのは、多分俺くらいなもんだと思う。

「ふはは。顔真っ赤」
笑って、指先でつっと奴の頬に触る。あっつい。発火しそうだ。
ますます困ったように奴の視線が揺らぐ。
「おま、……お前、また、からかって……」
「うん? あれ、バレた?」
好きだよ、と同じくらいの温度でさらりと言ってみたら、指先の下ですっと表情が冷えた。
揺らいでいた視線が一点を見つめて固まる。
ああほんとこいつはわかりやすい。
ちゃんと見れば分かる。何も言わない分、目線に、肌に、こいつの心は透けている。

冷えた頬を、そのまま手のひらで包む。指先に、こいつの薄い耳たぶが柔らかく当たる。
「嘘だよ。ほんとだよ」
「……、……ぁ、……、………?」
混乱しきった目で奴が俺を見上げる。ちょっとぞくぞくする。
もっといじめたい気持ちをぐっとこらえて、相手の顔に額を押し当てた。
「からかったのが嘘。すきなのがほんと。
 お前が俺のことすきなのくらい、わかるよ、わっかりやすいもんお前」
ゆっくりささやくと、間近の目が見開かれるのが気配だけで分かった。
奴の手のひらがおれの手に重なる。ちょっと震えているもんだから笑ってしまう。
ああ、ほんとにかわいい奴。

そんな風に余裕ぶっこいて考えてたから、キスされたのは不意打ちだった。
「っ! ばか、待っ」
しかもいきなりどぎついやつだ。待て、と言おうとした口に舌が潜り込んで中を探る。
閉じる間もなかった目が至近距離でかち合う。ばかやろうお前は閉じろ。
目が合うとだめだ。
感情を透かしやすいこいつの目が、必死さをこれでもかってくらい伝えてくるもんだから
引き剥がそうとした腕がほだされる。

不器用に、俺の歯並びを全部覚えようとでもするみたいに、口の中をあいつの舌が這い回る。
呼吸が苦しくなって唇を逃がす。追いかけられてまた塞がれる。
「……、……」
せわしい口付けの合間の奴の吐息が、俺の名前を呼んでいるのに気がついて、腰からざわっと何かが這い登った。
言葉で感情を表現するのが苦手なこいつは、愚直に幾度も俺の名前だけを呼ぶ。
俺の反応をこんなときばかり目ざとく感じ取った奴は手のひらをおれの腹から背中へと這わせてくる。
肌が直接触れ合って震える。ぞくぞくする。
ああ。もう。

「っ!」
一瞬の隙を突いて口付け返すと、奴は身体全体を強張らせて息を呑んだ。
その期に乗じてぐいと相手に体重をかける。
不意を突かれたあいつは、目を丸くして俺を見上げながら倒れこんだ。
「ふ、……きょとんとしちゃって」
ささやく声は少し上ずっている。あーやばいな、これは俺がやばい。
奴の腿に跨って、顎の先に口付ける。奴が驚いたように身じろいだ。
「……なん、」
あいつの声も震えている。軽く齧ったらびくっと跳ねた。
「……なんでって? 俺だってお前すきだもん。キスさせろよ。
 お前ばっかりしまくってずるい。そうだろ?」
俺が問いかけると、奴は何か言おうとして、考えるように視線をさまよわせた。
口に出す前に、言葉を選んで、咀嚼して、再検討して。
させませんけど。
言葉がまだくすぶってるあいつの口を、俺はふさぎなおす。
「……っ、……」
考える余裕なんて与えてはやらない。このままなしくずしだ。

お前の攻略法なんてとっくの昔にシミュレート済みです。
そのわっかりづらい感情表現、ここまで読み解けるのは俺だけだ。
ここまで来んのに、どんだけお前のこと見てきたと思ってんの。なめんなよ。

30524-369 背中合わせ:2012/06/25(月) 00:07:11 ID:.FrmVSsM
「あらら、見事に囲まれてんな、俺ら」
「ざっと20頭はいますね。しかもみんな尻尾が赤いですよ。
 レッドテイルキメラ、キメラの中でも一番どう猛な種類ですね」
「この辺りにはツノツノネズミしかいないって情報、やっぱりガセだったか。
 どうもうさんくさいと思ったんだよな、あの商人…」
「まんまとはめられてしまいましたね。貴方は喧嘩っ早くて
 すぐ手が出るからあちこちで恨みを買っていますものね」
「恨みを買ってるのはあちこちで毒舌吐きまくってるお前の方じゃねーの?」
「僕は正しいと思うことを正しい表現で伝えているだけですよ……って、
 その話は後にした方が良さそうですね。
「だな。んじゃ、俺の右手の方向が若干手薄っぽいからあそこを突破しようぜ。
 合図したら突っ込むから魔法で援護頼むわ」
「それはいいですけど、えーと、その…腰の方は大丈夫ですか?
 すみません、昨夜、月明かりの下で見る貴方があまりにも魅力的だったもので
 つい度を過ごしてしまいました…」
「あぁ、気にすんなって。つか俺絶好調よ?魔法使いの精ってなんか活力の
 素でも含まれてんじゃねーの?てくらい」
「そうですか、ならよかった。というかそれ興味深い仮説ですね。
 今度ゆっくり研究してみましょうか…」
「そのときは喜んで協力するぜ。とりあえず、今は…」
「はい」
「行くぜ!」

30624-369 背中合わせ(1/2):2012/06/25(月) 00:46:46 ID:kZUnIqKQ
扉をぶち破った俺の目に飛び込んできたのは、剥き出しの背中に焼印を押し付けられている彼の姿だった。


「他人の背中というものは、こんなにも温かかったのですね」
彼はそう言って、こちらに身体を傾けてきた。
俺は少しだけ前のめりになったが、ぐっと腹に力を入れて押し留まる。
すると彼はくすくす笑いながら、更に体重をかけてくる。まるで子供がふざけているようだ。
「おい」
軽く諌めると、背中から「すみません」と苦笑交じりの声が返って来た。
「こういう事は初めてなものですから、とても新鮮で」
「俺だってこんな状況ねえよ」
男二人、後ろ手に縛られてまとめて鎖でぐるぐる巻きに拘束される状況など。
目の前にある鉄の扉に思い切り蹴りを入れた。当たり前だがびくともせず、足に痺れがはしる。
全身に力を込めてみたが、鎖の戒めが緩むこともなかった。人の身ではどうすることも出来ない。
不自由なことこの上なかった。暴れだしたい衝動を舌打ちしてやり過ごす。
と、こちらが大きく動いた所為か、背中越しに彼が小さく呻いた。
俺ははっとして緊張させていた背の力を抜き、後ろに問いかける。
「傷むのか、背中」
「いえ、大丈夫です。なんともありません」
すぐに答えが返ってきたが、それはきっと嘘だ。

あのとき。
牢獄に踏み込んだあのとき、彼の背中にあった羽は既に斬り落とされていた。
純白の、綺麗な羽だった。
俺はその柔らかさがとても気に入っていた。俺には無いものだったから。
本人には一度も言ったことがなかったが。
今、その羽のあった場所には、忌々しい烙印が焼き付けられている筈だ。
背中越しにあの焼印の熱が伝わってくるような気がして、俺は顔をしかめた。

「……勿体無いことしたな」
半分は本音、半分は誤魔化しで、俺はそう言った。
彼は可笑しそうに「勿体無い、ですか」と笑う。
「そうですね。貴方に撫でて貰えなくなるのは、確かに少し残念です」
彼らにとっては命に等しいものの筈なのに、背中から聞こえる声に陰りはない。
「けれど失わなかったとしても、撫でてくれる人がいなくなっては、意味がありませんから」
どちらにせよ同じことです、と軽い調子で返される。
一体、羽と何を天秤にかけたのか――かけさせられたのか、俺は訊かなかった。
聞けばおそらく、俺は衝動を抑えられなくなる。

30724-369 背中合わせ(2/2):2012/06/25(月) 00:48:13 ID:kZUnIqKQ

きつく奥歯を噛み締める俺をよそに、「それに」と彼は言葉を続ける。
「すっきりしたお陰で、こんな風に貴方の背中に思い切り寄りかかれるようになりました。
 誰かに背中を預けることがこれほど温かくて心地よいものだなんて、羽があった時は分からなかった」
「…………」
「本当に、貴方と出会ってから、私は色々なことを知ってばかりです」

ふと、後ろで縛られた手に彼の指先が触れた。探るようにして、優しく掌を重ねてくる。
「貴方が助けに来てくれて嬉しかった。私は幸せ者ですね」
「それは、結局のところ助けられなかったことへの嫌味かよ」
「そうですね。半分くらいは」
からかうような声と共に、背中が少しだけ揺れた。俺がよく使う言い回しを真似たつもりらしい。
「お前な……」
「でももう半分は本心です。最後の最後まで貴方と一緒に居られて、私は本当に幸せだと」
指と指を絡め、強く握り締められる。
「ありがとうございます」
しっかりとした声音が、牢の中に響いた。
その声に処分を待つ者の怯えや恐れは感じ取れなかった。俺への恨みの響きも無い。迷いも痛みも後悔も。
どんな顔で感謝の言葉など紡いでいるのか。確かめてやりたかったが、この体勢ではそれも叶わない。
ただ、彼の体温が伝わってくるだけだ。

なぜ『奴ら』が俺とこの男を引き離さずに二人一緒に縛り上げて閉じ込めたのか。
簡単だ。この密着した状態では『化け物』は本性を現さない。
鉄の扉を切り裂く鋭い爪も、狭い壁など吹き飛ばせる刃の如き翼も、
現したと同時に背にある者の身体を傷つけ引き裂いてしまうだろう。
だから愚かな化け物は本性を現さない。理性を総動員して、本能に近い破壊衝動を必死で抑え込む。

狙いは半分は成功している。しかし、もう半分は失敗だ。
奴らは正しく理解していない。
自分達が切り捨てた『同胞』は、『化け物』の理性の留め金であるのと同時に、引き鉄でもあることを。

不意に泣き出したい衝動にかられた。
これから男が続けて何を言おうとしているのか、俺には察しがついている。
処刑を待つこの絶望的な状況下で、彼がなにを望むのかもわかっていた。
聞きたくないと思った。しかし、聞きたいとも思っていた。
俺は彼の何もかもが好きで、だから背中の彼を感じながら、ただ目を閉じる。

「もう我慢しなくて良い。さあ、貴方は此処から逃げなさい」

羽を失ってもなお凛とした声が、俺に命じた。

30824-399 死ぬまで愛してると、死ぬほど愛してる:2012/06/29(金) 12:10:09 ID:ccN5p/TY
「死ぬまで愛してる」
そういった草野は死んだ、トラックとキスして。
馬鹿な奴。相手のドライバー居眠りじゃないかってまぁそいつも死んじゃったワケだけど。
ああもう俺は誰を恨めばいいのかとか。
誰も恨まないで良いように草野が運転手まで連れてっちゃったのかとか。
もう8年も、瞼の裏には横断歩道の黒と白、それに本来加わるはずの無いお前の赤。
フラッシュバックがなんだお前に会えるなら安いもんだ。
トラウマがなんだ、俺はまだこんなにもお前を愛してる。

「死ぬまで愛してる」
そう言った草野。
難しいことを考えるのが嫌いだった草野。
なぁおい死ぬまでって、誰がだよ。俺かよお前かよ。
お前だったらもう8年も経っちゃってさ、乾パンだって期限切れるっつうの。
それとも俺が死ぬまでかよ、なんとか言えよ草野。
お前知らねえの?俺まだあの部屋住んでるんだぜ二人で借りてた2LDK、家賃高えし、お前の会社のが近いし、大体広いし。どうしてくれんだバカヤロウ。
俺が死ぬまで愛してるって言えよ、夢枕に立てよ。
砕けた骨でも崩れた顔でもこの際ウェルカムだよ、昔みたいな白い歯がみたいとか言わねえよ。
愛してるって、俺が死ぬまでだって言えよ。言わないといい加減あと追うぞ。俺は死ぬほど愛してんだからさぁ。

30924-429 満月手前:2012/07/04(水) 18:47:43 ID:9RRHU/9s
「淳くんはどの月が一番好き?」
授業が終わり、駅へ向かう夜道の上で、横を歩く慧に不意に尋ねられた。
「月?」
「ほら、半月とか新月とか色々あるじゃん」
月の好みなど考えたこともなかった。
慧と知り合ってもうすぐ一年だが、未だに彼の言うことはよくわからない。よくわからないが、面白い。
「んー……三日月?」
「へー、なんで?」
「まあ、なんとなく」
何故かすぐに思い浮かんだのだが、理由までは分からなくて言葉を濁した。
「僕はね、あのくらいが一番好き」
慧が指さした先には、青白い月が冴え冴えと浮かんでいた。
少し歪な輪郭は、満月手前といったところか。
「意外だ」
「なんで?」
「もっとはっきりした、わかりやすい形のが好きだと思った」
俺が言うと、慧は「なにそれ」と少し憤慨してみせた。
「……咲きかけの蕾と一緒だよ。今から満ちてくって希望があって、完璧じゃない。
 それくらいが一番いいんだよ。いっそずっと今のままならって、思うくらい」
「満月にならないほうが良いってことか?」
「そうかもしれない。一度完璧になってしまえば、後は欠けていくのを恐れなきゃいけない。
 だったらいっそ、満月なんて来なくていいって思うんだ。僕はこう見えて臆病者だからね」
満ちきらない月を見上げたまま、慧は歌うように言った。
口調の軽さとは裏腹に、その横顔はどこか苦しそうだった。

俺は決して鋭い方ではないが、慧はただ月の話をしているのではないような気がした。
何か悩んでいるのだろうか。わからないが、そうだとしたら、少しでも力になりたい。

「慧」
「んー?」
「欠けてく月を見るのが怖いなら、俺も傍で見ててやる。
 そうやって新月の夜もやり過ごしたら、今度は一緒に月が満ちるのを待てばいい」
未完成の月を見ながら、つぶやくようにそう告げた。
慧は何も答えない。嫌な気分にさせてしまっただろうかと、少し焦って顔を戻すと、
「……」
彼は黙ったまま、真顔で穴が空くほど俺の顔を見つめていた。
「なんだよ」
「いやー……反則でしょそれは」
「何が」
あまりに熱心に見つめられるので、なんだか居心地悪くなってぶっきらぼうに返す。
「なんでも。あー、淳くんにそんなこと言われたら、満月怖いとかバカらしくなってきた。
 うん、むしろ見たいね満月!」
そう言いながら、妙に浮かれた調子で肩を組んできた。
さっきとは一転して明るい表情にホッとして、されるがままになっておく。
「今でもだいぶ丸いから、もうすぐ見れるぞ」
「うん。……きっと、もうすぐ見えるね」
俺のすぐそばで、慧は笑っていた。細められた眼が三日月に似ていると、その時気づいた。

31024-449 似た者同士:2012/07/08(日) 13:32:06 ID:jCmXqLMM
「なあ、徹平」
耳の後ろで名を呼ぶ声がした。暖かい。人間の体温は心地が良い。
「何ですか、先輩」
変わらぬ体勢で俺は返事をする。腕の中にいる人は一寸の身動ぎもせず、
ふたりぼっちだな、と短く息を吐いた。
この人はいつも、考えて考えて結論が出た後にどうでもいいような台詞を口にする。
そしてそのどうでもいいことが、きっと一番掬い上げてほしい部分の薄皮一枚こちら側にあるのだ。
俺はあえてそれを拾わない。この距離感が俺達には必要で、越えてしまったが最後、
只でさえ足場のない関係はどうしようもない傷口の舐め合いになるだろうことは間違いなかった。
そして、俺がそれを知っていて解っていてしないということを、この人はよく理解している。
「‥‥狡い人です」
ふう、と今までに数巡は廻らせている思考をもう一度なぞってから溜め息を吐くと、
彼はゆっくり身を起こした。
同じような焦げ茶の瞳に自分が映る。同意と謝罪の言葉が紡がれる前に、俺はその唇を塞いだ。

31124-489 コドモっぽい大人×オトナな子供:2012/07/15(日) 17:35:49 ID:fs1VbmyU
規制で書き込めずもたもたしてる内に時間過ぎたので、ここに投下。


 まだ騒がしい屋敷を出て倉の裏手に回り、雑木林の中。藪をかき分け少し歩いた先にある小さな池のほとり。案の定そこに人影があった。先程の騒ぎの元凶の彼、この家の次期当主は、そこで暢気に鼻歌を歌っていた。こちらが声をかけるより先に、僕に気付いた彼がぱっと笑った。
「怜治、いいところに来た」
「井坂さんがお呼びです。屋敷にお戻り下さい」
 無駄と知りつつ言ってみたが、意に介した様子もない。こっちに来いと、猫の子でも呼ぶように手招きをする。
「結構です。僕の役目は坊ちゃまを屋敷に連れ戻すことであって、坊ちゃまと一緒に木陰で涼むことではありませんから」
 殊更に「坊ちゃま」を強調して言えば、彼は拗ねたように口をとがらせた。
「いやみったらしくそんな呼び方をするな」
「あんな騒ぎを起こすような方には『坊ちゃま』で十分だと思います」
「見合いだって断ってきたんだからそんなに怒るな」
「論点をずらさないでください! だいたいあれは断ったのではなくてぶち壊したと言うんです! それに! 僕がいつ見合いを断ってくれって言いましたか!」
「そうだな。だが、私はお前以外と添い遂げる気など無い」
 言い切られて絶句する。
「いっそ二人で駆け落ちしてもいい」
 目眩までしてきた。
「だから頼む、お前まで、私に見合いしろなどと言わないでくれ」
「あなたは、この家の跡取りなのですよ」
 ようやっと絞り出したが、歯牙にもかけない。
「そんなのは関係ない。お前が私の側にいさえすればいい」
 あぁ、この人はなにも分かってはいないのだ。
 世間知らずのボンボンと元陰間、二人手に手を取って逃げたところで、どうなるというのか。行き着く先は見えている。
 この人に、後悔などして欲しくない。
 頭一つ以上大きな体が、腕が、僕の体を優しく包んでくれる。僕を暗闇から救い出してくれた、優しい手。この場所を手放したくはない、手放したくはないけれど。
「怜治っ」
 焦った声が頭上からふってくる。意味を持たせて這わせた手に、彼の顔がびっくりするくらい赤くなってうろたえていた。
「だからな、お前が大人になるまでは、こういうことは、まだはやいんだ」
 僕がこの家に来る前に何をやっていたのか知っていながらそう言ってくれるのが、嬉しかった。
 けれど今は。
「駄目、ですか。太一郎さん」
 目に浮かんだ涙をそのままに見上げれば、次の瞬間、息も出来ないほど強く抱きしめられた。嬉しくて、また涙がこみ上げてくる。噛みつくような口づけがふってきて、僕はうっとりと目を閉じた。
 たった一回だけでいい。その思い出だけで、きっと生きていけるから。
 彼の着物に手を差し入れながら、今日この屋敷を出て行こうと、心に決めていた。

31224-489 コドモっぽい大人×オトナな子供:2012/07/17(火) 17:16:26 ID:B7z81h/s
ぴーんぽーん。
「こんにちはー。」
どんどん。どんどん。
「こんにちはー。千崎さーん。」
がちゃ
「・・・ふぁい。」
「また寝てたんですか。」
「・・・すいません。」
「寝癖ついてますよ。」
「あ、え、どこに。」
「ここです。」
わしゃ
「・・・どうも。」
「入っていいですか。」
「え、あ、すいません。どうぞ・・・。」
「相変わらずのお部屋ですね。」
「どうも。」
「褒めてません。ごみ出しくらいしてください。」
がさ
「甘いものばかりは太りますよ。」
「すいません。」
「しっかりしてくださいよ。じゃ今から作りますんで。」
「・・・どうも。」
じゃっ
とんとんとんとん
じゅうぅぅぅぅ
かちゃ、とん
「どうぞ。」
「いただきます。」
ふうっ、はふ
「おいしい!」
「何日ぶりの野菜ですか。」
「三日、あ、四日です。」
「そうですか。もっときちんと食事をしてください。」
「はい。」
ふうっ、はふ
はふ、はふ
「ずいぶんおいしそうに召し上がりますね。」
「そりゃおいしいですから。ごちそう様でした。」
「お粗末様です。」
「いやそんな。」
じゃあぁぁ
かちゃ、かちゃ
「・・・いまだに信じられないですよ。」
「またその話ですか。僕もです。」
「ですよねえ。俺が町田さんより年上だなんて。」
「十も、ね。」
きゅっ
かちゃ
「よし、と。じゃあそろそろ。」
「そうですか。ありがとうございました。」
「原稿は。」
「あ、いつものとこです。」
「靴箱の上ですね。ああ、ごみも持っていっちゃいましょうか。」
「すいません。」
「いえいえ。じゃあまた来週、同じ時間に。」
「はい。」
がちゃ、ばたん
「・・・。」
がさがさ
びっ
ばりばり
がつがつがつがつ
「・・・。」
言えるわけがない。
本当は料理が好きだったなんて。
甘い菓子は、ごみを出そうと腐心して食べているなんて。
ごみが無くなってきちんとした家になってしまったら
君は来なくなるかもしれない。
不規則な生活も、大量のごみも、空っぽの冷蔵庫も
すべては君の来る日のためだなんて。

31324-529 太平洋のイケメン:2012/07/21(土) 15:41:01 ID:ljg0BuuY

「おおっ」

担任の先生が名の読み上げを止め、名簿を見たまま声を上げた。
「お前達3人、頭文字とると太・平・洋になるな!がはは!」
静かだった教室が、少しだけ笑いに包まれる。
新学期でまだお互いの名前を知らない者が多い中。
どうしたって遠慮がちになるのは仕方ない。
そして僕も周りに合わせて微妙に笑いつつも、
担任の言った事実に少なからず驚いていた。

すると僕の二つ前に座る男が、急に後ろを向いた。
僕が洋野だから、彼が太のつく名字なんだろう。
彼は間の男を見て、そして僕を見て。
僕と目があうとなぜかニコーッと笑った。
人懐こそうな、満面の笑みだった。

それが最初。
いつも僕達3人はひとまとまりにされる事が多いから、自然と3人つるむようになり仲良くなるまで時間はかからなかった。

「なぁチョコいくつもらった?俺はな、25個!」
太田が言った。
「……18個」
平沢が眼鏡のズレを直しながら言った。
「あ、えっと僕は…21個…」
僕も後に次いで報告する。
それを聞いて太田はヨッシャ!とガッツポーズをとった。
「俺が一番だぜ!
平沢よぉ、おまえはもっと女子と喋れ!交流を持て!」
「…興味ない」
平沢はそう一蹴して、持っていた参考書に目を落とす。
やれやれとポーズを取りながら大げさにため息をついた太田が、今度は意気揚々と僕の肩を強く抱いた。
「俺らはそこそこ女子と話すもんな!来年も負けねぇようにしような洋野?」
太田の人懐こい笑顔が近い。
勢いにおされてつい頷く。

「…くだらん」
参考書から目を離さずにぼそりと呟く平沢。

「くだらんとは何だお前。勉強ばっかりしやがってお前」

また睨み合ってる二人に苦笑する。

乱暴でがさつだけど、大柄で運動センス良くて優しい一面もある太田。
寡黙で落ち着いていて、常に成績トップのインテリ系な平沢。
そして何でも平均な僕、洋野。
イケメン二人が女子にきゃあきゃあ言われるのはよくわかるけど、なんで僕ももてはやされてるんだろう。
女子って不思議だ。

31424-539 鶴×亀:2012/07/23(月) 19:03:38 ID:VXHdbCR.
鶴亀算って言葉があるくらいだ。
昔の人は鶴×亀って発想があったのかもしれない。
「そこで、ね。試してみない?」
「お断りします」
「ちょ、鶴さんつれなくない!? 部屋から池垣に半日掛けて抜け出してきたんだよ?」
およよと泣こうとして腕がと足が短くてできないことに気がついた。
「ちぇーつまんないのーつまんないのー」
「だいたい鶴亀算は……」
「理屈はいいの!」
と大きな声を出して僕は甲羅に篭った。
つまんないつまんないと呪詛のように甲羅の中でつぶやいているとハーッとため息をつかれる。
なんだよ子供だと思って鶴は千年亀は万年っていうしいつか君の年を追い越してやんだからな!
大人になったら振り向いてくれるよね?
遊んであげるから出ておいでと声をかけてくる鶴さんに子ども扱いしないでよーと言いながら僕は頭を渋々出した。

31524-569 平和主義と戦闘狂:2012/07/28(土) 10:25:19 ID:Vld23336
なるべく命を奪わなくて済むのならそれに越したことはない?
よくも言う。
己が生きるためという名目の下、その手をどれほど血に染めてきたというのか。
それなのによくもそんな寝言をのたまうものだ。

誰より赤い光景を作り上げ、血に濡れぬ日々などなかっただろう?
いつぞや集団で襲い掛かられた時など、まさに鬼神と称するに相応しい戦いぶりだったぞ。
そして何よりそういう時のお前は、まるでそれが生き甲斐であるかの如く最も活気に満ち溢れていたではないか。
だというのに、実は誰より殺生を好まぬというのか。

――いいだろう。
その下らぬ理想を貫くというのなら見せてみるがいい。
どちらに転ぶのか最後まで見届けてやろう。
お前と私は一蓮托生。
結果がどうあれお前の選んだ道に付いて行くのみ。

31624-589 餃子×焼売×春巻:2012/07/31(火) 17:10:10 ID:DNP4wVWI
俺達は今日も中華料理店で販売されていた。
一番人気は餃子。現地では餃子=ご飯的存在らしいけどここは日本。
おいしい中華のご飯の友だ。
「ちくしょう……ちくしょう」
おいしそうな餃子を見て涎を垂らしている俺は春巻き。
ご飯と食べてもいいけどそのまま食べてもおいしいマルチタレントだ。
「今日も売り上げは餃子だ一番か〜いいな〜」
のんびりした様子で喋るのは俺のマイスイートハニー焼売。
たとえベッドでの立場が反対でも俺にとってはハニーだ
「おっ、焼売じゃん。久々に今夜俺の部屋来ないか?」
「殺すぞ」
たとえ売り上げ的に圧倒的格差があったとしてもここは譲れない。
焼売を部屋に呼びたかったら俺を倒してからにしろ。
「ん? ああ、お前が今のこいつの棒?」
「は?」
棒? なにそれ?
「ちょっ、餃子やめてよ! 昔のことはもう関係ないじゃん!!」
いつものおっとりとした雰囲気をかなぐり捨てて焦る焼売。
「え? 棒? え?」
「いや、春巻き、それはちがっ……」
いきなり餃子が焼売のケツを撫ではじめた。
「裏山……じゃなくてお前何してんだよ!!」
「こいつ、俺の元セフレ。お前は?」
「え……」
その質問を理解したくなかったのか湯島聖堂孔子像の格好のまま固まってしまった。
ようやく頭が回ってきた。セフレはわかる。元ってことは昔そういう関係だったってこともわかる。
でも、棒って?
俺はのんきにそんなことを考えながら現実逃避をしていた。
その疑問に答える光景が目の前にあるにも関わらずに。

31724-639 自己完結:2012/08/08(水) 14:19:41 ID:SvVrfmfM
夏休み、14時22分。最寄り駅まであと10分。
汗で張り付いた制服のシャツを、いっそ脱いでしまおうかと思案していると、土手の方からの川風に交じって耳慣れた声がした。
「好きだ」
と、思ったよりも近く。
右隣、多分滝野の口から。
というか今は、滝野しかいないから。
いや、でも。
空耳か?空耳だよな?
…うん、空耳だよ。
きっと牛丼食いたいとかそんな話を俺が聞き逃したんだよ、そうだろ滝野。
「滝野…?」
想像の500倍くらい情けない声で呟くと、普段と変わらぬ冷めた感じで「なに」と聞き返された。
続けて「お前、顔色悪いぞ、熱中症か?貧血か?」と普段と同じに聞いてきた。
ああなんだやっぱり空耳か、空耳ならいいんだ。
だって俺たちは男子だもの男子高校生だもの、17歳になって全身まるきり男になって、それでだって「好きだ」なんてやっぱりちょっと辻褄が合わないし。
だって俺を好きなら滝野はもっと、もっとそれなりに焦ったりしてるはずだし。
それでだって俺たちは今夏期講習の帰り道だし、滝野は今度から野球部で新主将に…ああ違うこれは関係ないんだ。
だって滝野って巨乳派だって言ってなかった?村上なんとかみたいなふっくらした子が好きだって俺だって筋肉ないわけじゃないから割とゴツっとして村上なんとかには程遠いし…。
いやでもあれはタカちゃんに言わされてただけ?
わかんねえ俺が好きならもっとこう、もっとわかりやすく記号化された数式がabの違う、サインコサインタンジェント、違う!
ああもうぐちゃぐちゃだよ滝野、どうしてくれんだよ。
「…滝野ヒマだろ、俺かき氷食いたい。日野屋で」
「いいけど、具合は」
「元気元気、超元気。ヤリも投げられそう」
「…あっそ」
歩き出した滝野の思い切りのいい歩幅に俺はすぐ抜かされて、でもそれから少し合わせてくれて。狭くもない道で寄ってくる滝野にやっぱこいつ俺のこと好きなのか?って思ったり。
それから日陰を歩かされてることに気付いてやっぱ好きなんじゃん!って思ったり。

だけどかき氷食ったら頭冷えたよ、ちゃんとわかったよ。
やっぱ空耳だ、俺が言って欲しいだけっぽい。

31823-629 戻らない:2012/08/08(水) 17:23:11 ID:v4pRFWNs
好きだと伝えてしまったら、戻れないのはわかっていた。

あの日からあいつは、俺のノートを借りにこない。
俺の飲みさしのペットボトルを奪わない。
出会い頭のヘッドロックもかましてこないし、意味もなく浮かれて体当たりもしてこない。
戸惑ったように揺らぐ目をして、奇妙に引きつった挨拶をよこし、
手が触れない細心の注意を払った位置で、うわっつらの笑みを浮かべるばかりだ。

戻れないのはわかっていた。俺はあいつの友達ではなくなった。

無邪気な友達の距離間は、俺の高校生活にささやかな幸せをくれたけれども
それがいつまでも続くものではないことに、高校時代の友人なんて繋がりのその脆さに、
気づくのをいささか遅らせた。
愉快で楽しい遊び仲間でなく、いちばんのともだちになれていたなら、もう少し違っていたろうか。

戻れないのはわかっていた。かまわないのだ、戻る気などない。

お前は東京の大学に行くっていう。幼馴染のあいつと一緒に、夢を追いかけるという。
そんなにあかるい顔をして、お前は俺のいない未来を語る。
きっと俺は、いつまでたっても、お前にとっては友人Aだ。

もう一生触れなくていい。まぶしいくらいに笑いかけてくれなくてもいい。
それでもいいからなかったことにしないでくれ。
嫌うでもいい、見下すでもいい、もう一生友達に戻れなくてもそれでいい。
お前を泣くくらい好きだったことを、単なる友達じゃあなかったことを、お願いだ、知ってくれ。

好きだといったらもうきっと、楽しい友人には戻れない。
戻らないと、決めたのだ。


ごめんな。

31924-689:2012/08/16(木) 16:36:19 ID:QGPbGlg2
「先生、卒業したら俺を男として見てくれるっていったよね」
卒業式も終わり、クラスの生徒ももう帰っていった教室。
教壇にのしかかって、上から押さえつけてくる石神に答えを出せない。
目を逸らして窓の外を見る。
既に夕陽も落ちて、昼夜変わらぬ桜だけがハラハラと風に飛ぶ様が見える。
「…気の、迷いだ。卒業したんだから、そんな冗談…」
「3年間。ずっと迷うわけないだろ!」
ドンと教壇を叩く肘の音に情けないくらい震える。
「石神…」
「先生、好きだ」
ぎゅうと抱き締められる腕に、応える事は出来ない。
思春期に大人に対する憧れの延長で、身近な教師に対する尊敬を錯覚する事など良くある話だ。
確かにそれは恋かもしれない。
だがしかし、一過性の熱で将来に持ち得る本当の恋人や家族を奪うような事は、教師として大人として人間として決してしてはならない。
「石神、…気を持たせて悪かった。冗談だと思ってたんだ」
だから諦めろ。
こんな事はいつか過去にして、笑い話にしてしまえばいいよ。
「じゃあっ、…抱かせろよ。一回でいいから」
似つかわしくない声に目を上げる。
初めて会った時には幼いばかりだった顔が、今では覚悟をもって成長をした青年へと変わっていた。
石神には出会った時のイメージで記憶が止まっていたんだと、この瞬間思い知らされた。
今初めて石神という男と出会ったような、不思議な感覚。
じゃあさっきまでの石神を思い出せるかと言われれば、酷く曖昧で。
背中に冷たくあたる教壇と、熱い石神の吐息と指。
お前は31日までは僕の生徒なんだよと言えば、こんな事はなかったのか。
この結果を先延ばしに出来ただけなのか。
石神以上に求めてしまう、煮えた頭では答えをだせない。

32024-699シナモンの効いたアップルパイ:2012/08/18(土) 17:52:39 ID:4LnM.VSw
一回行っただけじゃ覚えれない様な辺鄙な場所にある小さな喫茶店。アンティーク調の落ち着いた店内には珈琲を点てる音だけが響いている。場所は忘れてしまうけど忘れられない味と評判のケーキは店主の手作りだ。30代後半くらいの渋目のおっさんがケーキ作りしてる姿は少々笑えるが何せケーキが絶品なのととある理由で俺は足繁く通っていた。この店を見つけたのは1年前の冬だ。受験のため大学に向かってる最中、有ろう事か迷ってしまった俺は大学に辿り着くことが出来ず戦う前に破れ意気消沈しながらフラフラと彷徨っていた。寒さと虚しさの中歩いているとふとシナモンの香りがした。香ばしく甘い香りに誘われる様に出向いた先がこの喫茶店だった。寒さで真っ赤になった鼻を啜りながら中に入るとそこにあったのは優しく柔らかな笑顔と甘いアップルパイ。「特別な日にしか焼かないんだ」おっさんは寂しそうに笑うとシナモンがたっぷりのアップルパイとダージリンを俺に出した。「今日は嫁の三回忌でね」悲しげだが綺麗に笑う姿は凄く眩しく見えた。俺は一回り以上も離れたおっさんに一瞬にして恋に落ちてしまった。それから1年かけて店に通い愛を伝えた。毎日毎日。気の迷いですぐに冷めると言われた。そんな事より勉強しろとも。勿論勉強もした。そして1年経ってもおっさんへの愛は深まるばかりだった。俺は一大決心をして受験の前日喫茶店とむかった。「受験に受かったら俺と付き合って欲しい」そう伝えるとおっさんは顔を真っ赤にしながら困った様に笑った。それから喫茶店には行っていない。今日は合格発表日。通い慣れた道を歩く足取りは軽い。が、やはり不安だ。おっさんはどう反応する?気が付くと俺は1年前と同じ場所にいた。そして鼻を掠める香ばしく甘い香りに気が付き俺は愛しいあの人が待つ店へと足早に向かった。今日が俺とおっさんのアップルパイ記念日になるだろうと予想して。

32124-699シナモンの効いたアップルパイ:2012/08/19(日) 11:32:38 ID:m6k8X4pA
改行忘れたのでもう一度投下



一回行っただけじゃ覚えれない様な辺鄙な場所にある小さな喫茶店。
アンティーク調の落ち着いた店内には珈琲を点てる音だけが響いている。
場所は忘れてしまうけど忘れられない味と評判のケーキは店主の手作りだ。
30代後半くらいの渋目のおっさんがケーキ作りしてる姿は少々笑えるが何せケーキが絶品なのと
とある理由で俺は足繁く通っていた。
この店を見つけたのは1年前の冬だ。
受験のため大学に向かってる最中、有ろう事か迷ってしまった俺は
大学に辿り着くことが出来ず戦う前に破れ意気消沈しながらフラフラと彷徨っていた。
寒さと虚しさの中歩いているとふとシナモンの香りがした。
香ばしく甘い香りに誘われる様に出向いた先がこの喫茶店だった。
寒さで真っ赤になった鼻を啜りながら中に入るとそこにあったのは優しく柔らかな笑顔と甘いアップルパイ。
「特別な日にしか焼かないんだ」

おっさんは寂しそうに笑うとシナモンがたっぷりのアップルパイとダージリンを俺に出した。
「今日は嫁の三回忌でね」
悲しげだが綺麗に笑う姿は凄く眩しく見えた。
俺は一回り以上も離れたおっさんに一瞬にして恋に落ちてしまった。
それから1年かけて店に通い愛を伝えた。
毎日毎日。
気の迷いですぐに冷めると言われた。
そんな事より勉強しろとも。
勿論勉強もした。
そして1年経ってもおっさんへの愛は深まるばかりだった。
俺は一大決心をして受験の前日喫茶店とむかった。
「受験に受かったら俺と付き合って欲しい」
そう伝えるとおっさんは顔を真っ赤にしながら困った様に笑った。
それから喫茶店には行っていない。

今日は合格発表日。
通い慣れた道を歩く足取りは軽い。

が、やはり不安だ。
おっさんはどう反応する?
気が付くと俺は1年前と同じ場所にいた。
そして鼻を掠める香ばしく甘い香りに気が付き俺は愛しいあの人が待つ店へと足早に向かった。
今日が俺とおっさんのアップルパイ記念日になるだろうと予想して。

32224-749 妖怪と天使:2012/08/25(土) 18:25:13 ID:lG2jsHbc
規制中なのでこちらに投下します。


「驚いたな。本物を見たのは初めてだ」
頭上から淡々と降ってきた声に、〈男〉は地に伏したまま憮然として顔をあげた。
黄金の髪が絹糸のように流れ落ちる。
「お前は誰だ」
「さて」
食いしばった唇から漏れた問いは、飄々とした口調でいなされてしまう。
憤りに任せて身じろぎをしようとすると、途端に四肢を虚脱感が襲った。
纏わりつくように鬱蒼とした草の感触。
――動けない。
じわり、と焦燥が広がる。
一段と緑の匂いが濃くなったような気がした。
この〈場所〉はおかしい。
否、場所だけではない。
「……お前は〈何〉だ? 私に何をした」
「何もしてないだろう? これからのことは知らないが」
〈それ〉はおかしげに肩をすくめてみせる。
闇色に揺れる髪。だが印象はそれだけだ。
年の頃、体格、顔立ち、その人物を表す特徴を捉えようとすると、それらはひどく不鮮明になった。
そのくせ、その得体のしれない存在感は、まるでその場所と一体化して男の体の自由を奪っているようだ。
「お前が動けないのは、俺のことを〈畏れ〉ているからだ。人の感情の中に産声を上げ、山の暗闇の中で育つ、曖昧で不純なものに」
男の思考を読んでいるかのように、それは言葉を続けた。
いや実際に読んでいるのか。
「何を……」
「この場所に加護はない。光は照らさない。世界中のありとあらゆる場所に届くお前の主の力は」
「我が主は、世界のすべてをお創りになった……!」
「では祈れ」
「く……っ」
不意にその口調が変わった。纏わりつく空気が重くなる。
力の入らない四肢が、体中が、強い力で地面に縫いとめられてぎしぎしと悲鳴を上げた。
強引に顎を掴まれる。
いつの間に近づいたのか、恐ろしいほど端正な顔が間近にあった。
だが、ようやく認識したそれの容貌を観察する余裕は男にはなかった。
「なあ」
「……ッ」
ちらりと開いた口の中で、赤い舌がいやに艶めかしく動いた。
「天使っていうのは〈穢れ〉たらどうなるんだ?」

32324-789 さよならの歌をうたう:2012/09/03(月) 22:30:00 ID:V2cDApTE
ドアの向こうに佐伯の背中が消えるのを確認して、藤野はマイクを置いた。
近頃の佐伯は何かと言えば電話、電話だ。
忙しく話し込んでいる先は実家の家族と職場が多い。
2人でいるときくらいと言ってしまえたら楽だが、そんな約束はしていないので、黙っている。
そもそもそんな必要があるわけでも、文句を言える関係でもない。

演奏停止のボタンを押して、次の曲を呼び出した。
次は佐伯の順番だが、いつ戻るかわからない者を待ってやる必要もない。
初めて一緒に来たとき取り合って、結局一緒に歌うように落ち着いた古い曲。
ワンフレーズめを歌いかけて、藤野はまた演奏を停止した。
他の部屋から漏れ聞こえる歌声と若い男女のはしゃぎ声に、どうしようもなく落ち着かない気分になる。
リモコンの履歴を手繰っては戻り、自分では歌わない歌を送信しては停止する。
いつも、すぐにかすれてしまう声を照れたように誤魔化す佐伯を思い浮かべた。

「なに遊んでんだよお前は」
何度か繰り返した頃、佐伯が部屋に戻ってきた。
体をぶつけるようにして、リモコンを覗き込んでくる。
「遊んでるっていうか……何歌おうかなっていうかさ」
迷う振りをしながら思い出していたのは、何度も聴いた曲だった。
「なんか新しいのある?」
「いや、別に」
「ないのかよ!」
「ていうかちゃんと歌えっかなって」
「ふーん」
佐伯が好きだと言った曲の、次に収録されていたあの歌。
聴きたかったけれど飛ばされるので、隠れてCDを買った。
車の中で見つかって、気に入ったなら貸したのに、と言った後、でもお前多分返さないよなと笑われた。

「あ、俺の入れたの消しちゃったんだ? ま、いいや、休憩ー」
大きくため息をついて、佐伯が隣に沈み込む。
リモコンを見る振りで横目で確認した表情は、少し疲れているようだった。
「電話、なんだった」
「あー……母ちゃん」
「……帰ってこいって?」
「……いや、何も言われてない……まだ」
「ふーん」
ページを送って目当ての曲を探す。今、佐伯のために探しているのは、極めてよくあるタイトルだ。

「なあフジ、俺ちょっと寝てもいい?」
「だらしねえなあ、まだ日付変わってねえぞ。今日は朝まで付き合えって言ったじゃん」
「今日はっていうか、お前いつも言ってるじゃん」
「お前だっていつも言ってるじゃん」
「はいはいごめんごめん、次は起きてられるようにするから」

次、来たときか。
次に会う時には、その次の約束はできるのか。その次は。
言えるわけのないせりふを飲み込んで、送信ボタンを押す。
悲しい歌のタイトルが点滅するのを確認して、藤野は置いたままだったマイクを握った。

「……まあ別に寝ててもいいけど、聴いてろよ」
「何だよそれ」

目を細めて佐伯が笑う。

「おい佐伯、聴いとけよ」
ハイハイ、と生返事を残して、腕を組んだ佐伯が目を閉じた。
つぶやくようにイントロが始まる。何度も何度も聴いたけれど、歌うのは初めてだ。
声が震える理由がわからないように、何度か咳き込む振りをする。

それでも届くように歌うからよく聴いてくれ。できれば最後まで目を開けずに。

324武家×軽業師:2012/09/04(火) 01:42:57 ID:ME5lb6gU
語りたくなりました。まわしついでに語るレベルですみません。
しかもハッピーエンドでもありません。

◇◇◇

軽業師とお武家様は本来身分が違う者同士。

出会いは町中。軽業師が綱渡りをしている場にお武家様が出くわす。
軽業師の華麗な技にお武家様は虜になってしまう。
そのうち軽業師の方も武士が気になってきて、ある日声をかける。
そしていつしか軽業師から誘って一夜の関係をもつ。幸せな一夜を過ごす。
だがお武家様はそれ以降、町には来なくなる。傷つく軽業師。


軽業師の技が話題となって、あるお殿様の屋敷で芸を披露することになった。
だがそこは軽業師を馬鹿にするようなゲスな武士ばかりの宴だった。
軽業師は顔に笑みを浮かべつつ武士に対し腹立たしい。特にお殿様は下品な人だった。
綱渡りの最中に武士の中に、関係をもったお武家様を見つける。
動揺して綱から落ちる。見ていた武士たちからは馬鹿にされる。

宴の後、心配したお武家様が軽業師の様子を見にくる。
怪我は軽かったので平気だと言う軽業師。
お武家様は「あんな危険な芸はやめろ。こんなことで命を落とすなど無駄死にだ」と言ってしまう。
軽業師のプライドを傷つける一言だったので、思わず
「あのお殿様とやらは、あなたが命をかけるにふさわしい人ですか?
あんな人に命をかけているあなただって私と同じ犬死にをするようなものだ」
「無礼な!」
と言い争い。
軽業師は手を出して金をよこせとお武家様に言う。
「ただで楽しもうなんてむしが良すぎでしょう」
怒りを隠しきれないお武家様。懐から銭を投げ捨てる。軽業師を辱める言葉も吐き捨てていく。
銭を拾いながら自嘲する軽業師。
お互いに好きな気持ちはあるのに、世界が違うのだと思い知る。
それ以降二人は会うことはなかった。

それでも軽業師はたまに綱の上から誰かを探してしまう。決しているはずのない人なのに。

お武家様は戦で亡くなる。殿は兵を置いて逃げてしまった。
「ああ、おまえの言ったことは本当のことだった…」と最後に軽業師を思い出して息絶える。

32524-809 武家×軽業師 1/4:2012/09/04(火) 10:59:07 ID:bxDDdcrQ
〈中世〉
高麗や唐土や天竺や波斯よりさらに西の果てから使節団が来朝した
俺は北面武士として、使節団が宿泊する屋敷の警備に当たっていた
端的に言うと一目惚れだ
使節団への歓迎の宴席で警備をしていたときだ
使節団に同行していた軽業師の少年が歌舞を演じ始めた
その美しさは言葉に表しようがなかった
髪は見たこともない白金色
瞳は秋晴れの澄んだ空の色
口さがない輩は「鬼のようだ」などと陰口を叩いていた
俺にはまさに極楽で神仏に仕える小姓の如く見えた
そして、その日の夜に警備係の職権を悪用して……夜這いした
無理矢理に向こうの獣の毛皮で織られた服を剥がすと下には雪のような肌が広がっていた
俺は夢中でその雪原に手と足と舌で跡を付けた
本当はどう考えているかは分からないが、はっきりと俺を拒んでないのも確かだった
それから連夜に渡って俺は体を重ねた
しかし、とうとうその日が来た
使節団は予定の日程を終え、故国に帰朝することとなった
明日の朝に都を離れる
やるのなら今夜しかない
俺は意を決した
少年を無理矢理に連れ出したが、すぐに気付かれてしまった
一時的な潜伏先として予定していた廃寺に潜り込んだが、すっかり周りを検非違使たちに囲まれていた
色に狂った男の末期として俺が自刃するのは当たり前だ
ただどうして自分が恋しい人をこのように巻き込んでしまったのか
「俺はこれから死ぬが、お前は全く死ぬ理由がないから生きて欲しい」
「俺に無理矢理に訳も分からず連れ出されたと言えばお前が罰されることもないだろう」
言葉が通じたかどうか分からないがそういう趣旨のことを俺は伝えた
いよいよ検非違使たちが踏み込んで来るようだ
ありがとう、一炊の夢だったが実に楽しかった
俺は小刀で首を切り裂いた
鮮血が溢れ、意識がかすみ始めた……
その最期の刹那に少年が俺が自刃に使った小刀を手に取って自らの首に刺したのが見えた

32624-809 武家×軽業師 2/4:2012/09/04(火) 11:01:39 ID:bxDDdcrQ
〈近代〉
俺の父親は箱館戦争で五稜郭に立て篭もって最後まで戦った武士だった
祖先を遡ると鎌倉時代辺りまで遡れる由緒正しい武士の家柄だ
ただ江戸の頃には貧乏な御家人に落ちぶれていたようだった
父親は五稜郭で死に損なって刀を置いてそのまま箱館に居ついて商売を始めた
俺は父親が髷を切ってから箱館で生まれた
父親はそれでも武士を完全に止められなかったようで、土地を借りて時代錯誤な剣道場を開いた
場所は露国の教会の目の前だった
一つだけ忘れられない思い出がある
俺が十五歳くらいの頃だったと思う
教会の催事で露国より軽業師の一団がやって来ていた
ご馳走も振舞われるとかで俺も信者でないのにちゃっかり客として紛れ込んだ
そこで凄いものを見た
剣を持って踊っている少年がこの世の物とは思えない美少年だった
俺は息を飲んだ
食べ物目当てだったのに食欲はどこかへ消え失せた
大鍋にたっぷり入った紅い汁物や露国風具入り揚げ饅頭が配られ始めていた
俺はそれを無視して夢中でその少年を探した
なぜか少年は大人たちから離れて教会裏手の白樺の林で一人で佇んでいた
俺はもう居ても立ってもいられなくなって……犯してしまった
一通りの行為を終えると少年は俺のことを責めることもせずにそそくさと教会の方に走って行った
俺はしばらく余韻に浸ってから教会に戻ると、食べ物は全てなくなっていた
少年は大人に告げ口などはしなかったようで、その後にお沙汰は何もなかった
あの少年はどうしているのか……ずーっと心に引っかかったまま時は流れた
その後に俺は地味に商売をしつつ父親から継いだ剣道場の師範も続けた
そして、お迎えがいつ来てもおかしくない齢になった
気がかりは樺太に引っ越した末の息子夫婦と孫のことだ
そろそろ時局の雲行きも怪しくなってきた
早めに樺太での仕事は切り上げて内地に戻って来いと何度も手紙を出したがどうなることやら

32724-809 武家×軽業師 3/4:2012/09/04(火) 11:03:23 ID:bxDDdcrQ
〈終戦直後〉
俺には一つだけ気がかりなことがあった
それは樺太で唯一できたロシア人の友だちのことだ
豊原にあった俺の家の隣家に住んでいたロシア人一家
そこに俺と同い年のロシア人の少年がいた
それはそれは凄い美少年だった
少年雑誌の冒険小説に出てきそうな白皙の美貌の持ち主だった
一家は元々はモスクワで代々続く軽業師の一族だったらしい
ところがロシア革命の混乱で赤軍から弾圧されそうになった
そして流れ流れて東の果てにまでたどり着いたそうだ
きっかけはよく覚えてないけどアイツとは子供のときからよく遊んでいた
親父さんは豊原の競馬場やら料亭の宴席なんかで芸をして生計を立てていた
アイツも親父さんと一緒に芸を見せていた
新しい芸を覚えると最初にこっそり俺にだけ見せてくれた
俺は俺でアイツに祖父から習った剣術を見せたりした
いよいよ戦局が激しくなっても、俺とアイツの友情は変わらなかった
そして日本は戦争に負けた
状況はよく分からなかったが、とにかく豊原に居続けたら危ないようだった
俺は両親と一緒に北海道に引き揚げることになった
アイツとはお別れだ
引き揚げ船に乗るために豊原を出発する前日に最後のお別れの挨拶をしに行った
もう二度と会えないことは何となく分かっていた
合意の上で近所の廃屋の中で体を重ねた
互いに果てて何とも言えない時間を過ごしていた
と、その空間の弛緩を銃声が破った
ソ連軍が侵攻して来たのだ
それからのことは余り記憶にない
ただ逃げることと家族を探すことに夢中だった
アイツに最後の「さよなら」を言うことができなかった
幸運にも北海道へと向かう引き上げ船に両親と一緒に乗ることができた
今はただただアイツの無事をひたすら祈るしかない

32824-809 武家×軽業師 4/4:2012/09/04(火) 11:06:12 ID:bxDDdcrQ
〈現代〉
俺は北海道で一番サッカーが強い高校のサッカー部のキャプテンなんかしている
今日は来日中のロシアの名門クラブのユースチームと試合をすることになった
一番の要注意はユースのロシア代表にも選ばれているフォワードの背番号11の選手だ
とにかくトリッキーなボール捌きが上手でディフェンダーをひょいひょい抜いてしまう
それで付けられたあだ名が『軽業師』なんだそうだ
ちなみに父親はロシアサーカスの芸人で代々続く軽業師の一族と言うのはコーチからの情報
俺も実は家計図なんか残っている武家の末裔だから、そういうのを聞くと燃えるな
さてそろそろグラウンドにあちらさんたちが到着したようだ
その刹那に俺は強烈な視線を感じた
視線の主は……アイツだ
あれが噂の軽業師か?
うわーっ、なんかラノベとかに出てきそうな銀髪の美形の凄いイケメンだわ
……何だろうか、この感じは?
初対面のはずなのにずーっと大昔から知ってた気がする
と、軽業師はいきなり俺の方に向かって猛ダッシュして来た
そして俺に思いっきり抱きついて大声で言った
「ヤットアエタネ!!! コンドコソゼッタイニハナサナイ!!!」
初対面十秒でいきなり凄いことになった
ただ俺もこの軽業師を絶対に離したくないとその瞬間から強く思うようになっていた

32924-869 潔癖症だった攻め:2012/09/11(火) 23:36:32 ID:oMkTkJSM
自分以外のものが不潔に思えて仕方のない時期があった。
例えば、ジュースの回し飲みなんてありえなかったし、ちょっとした物の貸し借りすら苦痛だった。
携帯用の除菌スプレーがお守り代わりだった。
潔癖症を隠したくて周囲から一歩退いていたら、「気難しい孤高の人」というレッテルを貼られていた。

お前と出会ったのは、その頃だ。
明るくて人懐っこくて、ぎこちない態度の俺にも屈託なく話しかけてきた。
お前は俺の対極にいて、俺の理想だった。うらやましかったし、憧れていた。

興味があると言っていたCDを貸した。「すげー良かった!」と笑顔で言われて、つられて笑った。
寒い冬の日、風邪気味だと言ったら巻いていたマフラーを渡された。ほんのり残った温もりが心地よかった。
お前の部屋で、二人で鍋をつついた。その日以降、誰かと同じ器から物を食べても平気になった。

除菌スプレーを持ち歩かなくなった頃、自分の欲を自覚した。
お前を俺だけのものにしたい、お前に触れたい、お前とつながりたい。
最初は信じられなかった。
今まで眠っていたそういう欲求が、一番身近なお前に向いただけじゃないかと思った。
自分の変な錯覚にお前を巻き込みたくないと思って、距離をおいた。
すごく身勝手な振る舞いだったと、今になって思う。
誘われるまま合コンに行って、女の子と知り合った。何度か二人で会って、そういう雰囲気になった。
でも違った。以前他人に感じていた、どうしようもない不潔感は消えていたが、ただただ「この子ではない」という違和感があった。
そこでようやく、俺は馬鹿な遠回りをしていたことに気付いた。彼女には、本当に申し訳ないことをした。

単純なことだ、順番が逆だったんだ。
潔癖症が治ったからお前を好きになったんじゃない、お前が好きでしょうがなかったから、潔癖症を乗り越えてしまったんだ。

本当はまだ、誰かと触れ合うと緊張する。だからうまくいかないかもしれない。それでも、俺は――



なおも言い募ろうとした彼の唇に、オレはそっと人差し指を押し当てた。
告白された時は、これ以上幸せなことはないだろうと思っていたのに、ヤバい、今、泣きそうだ。
訥々と語られたのは、彼の過去、彼の心、そして彼の変化の原因が他でもないオレという嘘みたいな事実。
「いいよ。おまえ相手なら、うまくいかないなんてありえねーもん」
言うなり、ガバリと抱き寄せられた。彼の鼓動が間近に聞こえる。
「ああ、本当に、お前はどこまで俺に甘いんだ」
耳元で囁かれて、思わず顔を上げる。目の前の瞳は、俺と同じくらい潤んでいて。

最初のキスは、二人分の涙の味がした。

33024-959 踏み台になる:2012/09/22(土) 21:55:26 ID:rf5rlYIw
規制ひどいんでこっちに投下



「はい原くんどうぞ」
横矢が壁に背をついて、バレーのレシーブのように腕を構えた。手は足を乗せるため上に向けられている。
「…横矢お前、マジちゃんとついてこいよ?」
「わかったから原くん、早くのぼって」
「一人で帰んなよ!?」
「わかったってばあ」

いつからだろう。横矢がこんなふうになったのは。
自然と踏み台になり、高いものには必ず手を伸ばす、悲しいほど当たり前になってしまったこの身長差。
見下ろされる居心地の悪さ。
こいつに威張り散らす俺をどこまでも滑稽なものに変えてしまう目線の差。
思春期と呼ばれる俺には吐き気がして当然の違和感だった。

深夜の学校に忍び込もう、そう言ったのは俺だった。
下らない度胸試しの一つで、先週バスケ部の森崎がやったばかりだった。校庭に忍び込み白線で書いた「森崎最強」。
もちろん森崎は翌日には校長教頭揃い踏みの中で土下座をするハメになったわけだが、校内での奴の好感度はあがった。田舎の娯楽だ。
それから何度か忍び込もうとした生徒がいたが、皆あえなく大人たちに捕まった。
森崎のあとに続ける者は未だ現れていないのだ。
それはちっぽけな自信をくじかれかけた自分にはチャンスに思えた。
ここで偉業をなしとげて、ひょろ長い図体をした横矢に負けない自分になるのだと、馬鹿げた鼓舞をした。
そして横矢にそれを見せ付けて、その時こそ安寧を手に入れられるのだと。

だがそんな夢物語の薄っぺらな脚本は、早々に破り捨てられた。
警備員だ。
当直室の様子は先程確かめてきたばかりだ。
故に声を荒げながらこちらへ走ってくるあの男は、教員ではない。
まさかここまで徹底されているとは。
「おい、横矢降ろせ!警備員!」
「うそ!?」
「撤収な!」
叩きつけるような心臓の音を聞きながら、汗だくになってもペダルを漕ぎつつけた。
そうして俺にはこんなこともできないのかと悔しさやぐちゃぐちゃとしたものが込み上げてきた。
涙になりそうだったそれを声にかえて吐き出した。文字にもならない叫びが人気のない道路に吸い込まれていく。

自分のことさえ持て余した俺は、その夜横矢がどうしたかなんて、気にもかけなかった。

次の朝ざわつく教室から見えたのは、校庭にいっぱい真っ白な「好き」の文字。
横矢を見ると目を細めて、俺の頭に手を置いた。
なぜだかそれは心地がよくて、胸には消し飛んだ不安の代わりにくすぐったいような予感。
自信ありげな横矢の顔にも、なぜかいらつくことが出来ない。
「今度は置いて行かないでね?」
お前が俺を置いていくから、と、言いかけてやめる。
「置いてかねえよ」
横矢が笑う。
俺も笑う。
季節はもうすぐ本当に秋。
肌寒い廊下の風の奥から、教頭の怒鳴り声が聞こえた。

33125-59 俺のこと好きなんだろ?:2012/10/04(木) 06:25:16 ID:o22jxjt.
私は常識を逸脱したものが著しく嫌いだ。
2年C組の原田は、私の理解の範疇から一歩、いや何歩も踏み外している。
何度注意しても直さないボサボサの金髪。
ゴムで縛った前髪が、教壇から一番遠い最後列とは言え、非常に目障りだ。
そして何より座り方がおかしい。
椅子の上で、ある時は体育座り、ある時は胡座、またある時は正座。
数学の授業なのにこいつが腐心しているのは間違いなく、難しい解を求めることよりも、難度の高い座り方に挑戦することだ。
今は坐禅を組もうとして、必死に右足の上に左足を乗せようとしている。
おい、落ちるぞ。

気づくと、教室のあちこちから含み笑いが聞こえる。
「先生、板書間違ってます」
「え?…」
黒板に目をやると、『原田からの距離』という、紛れもない自分の文字が飛びこんできて、息が止まりかけた。
「あ、あぁ…すまん」
慌てて『原点からの距離』と書き直す。
恥ずかしさで耳が熱い。
私がこんなミスをするなど初めてだ。意味がわからない。

突然、教室の後ろからガタッと大きな音がした。
やっと坐禅を組むのに成功したらしい原田が、バランスを崩しかけて机にしがみついた音だった。
生徒の目線は原田に集まり、その体勢を見て教室は笑いに包まれる。
私も思わず苦笑がもれる。
照れたように笑っていた原田の目が、いきなりこちらを向いたかと思うと、なぜかパアッと明るくなった。
「先生、笑った」
え?
「やっぱさー、先生、」
何だ。
「俺のこと好きなんだろ?」
何を言い出すんだこいつは。

一斉に笑い声が起きる。
「何言ってんだよ」
「原田が先生のこと好きなんだろ」
「お前数学の授業しか出ねーじゃん」
囃し立てる生徒の声がやけに遠くに聞こえる。
原田が何を考えているのかも、自分が次に取るべき行動も、何一つわからない。
こんなの、完全に私の理解の範囲外だ。
私はやっぱり、原田のことが大嫌いだ。

33225-139 軽薄色男受けが本気になる瞬間:2012/10/15(月) 00:31:05 ID:hLv8qZ.A
トロトロ書いてたら被ったのでこっちで萌え語りさせて下さい


恋愛的な意味や性的な意味で本気になる軽薄受けも萌えますが
個人的には戦闘的な意味で本気になる受けを推したいと思います
軽薄で色男、きっと情報を仕入れたり助っ人にするには重宝するけど
一生背中を預ける相棒としては心もとない微妙な存在なのでしょう
そしてそういう性格になったのにも暗い過去やらトラウマやらがあるのでしょう
そんなめんどくさい受が本気になる程惚れるまで攻は相当苦労したと思います
「そいつは止めとけ」と周りに反対され、実際に何度か受けに裏切られ
それでも受けを信じ背中を支え預ける事の出来る男前な攻めさん
そんな攻が瀕死のピンチになり逃げる事も出来ない絶体絶命の時こそ受けが本気を出すのです
明らかに格上の敵に囲まれ、攻めに「僕なんか置いて逃げろ!」と言われ
それでも引かずに出せる限りの本気で戦う覚悟を決める受け
「昔ならお前さんなんか簡単に見捨てれたのになぁ…」
なんて攻めにぎこちなく笑いかける受けはさぞ美しい事でしょう
その後は覚醒した受けが一人で勝っちゃうような愛の力最強展開も萌えますし
受もボロボロになった頃何かが切っ掛けで助かる負けイベント展開も美味しいと思います
(ボロボロの二人で「負けちゃったな」「負けちゃったね」な会話が入るとさらに良いと思います)
またボロボロになった受を見て愛の力で攻復活→力を合わせて逆転勝ち展開も素晴らしいですし
勝ち目が無いと悟った二人が心中するようなBADENDもそれはそれで良いと思います
ですが個人的には勝ち目が無いと悟った受けが最後の力で攻めを回復させる展開が好きです
回復した後「カッコよく護ってあげられなくてごめん」と言い残し死んでしまう受け
肉体は護られたが心は酷く傷付いた攻と肉体は死んだが心は報われた受の対比
そしてビターなEDは今まで軽薄だった受だからこそ生み出せる結果だと思います

つまり何が言いたいかというとたった一人の攻にだけ本気で尽くせる軽薄色男受めっちゃ萌える

33325-209 どんなぱんつはいてんの? 1/2:2012/10/25(木) 03:33:44 ID:9xOU8aik
「どんなパンツはいてんの?」

真夜中に女装して歩いてる所を幼馴染の亮に見られた
慎重に、慎重に、と気を使っていたつもりだったが努力は無駄だったようだ
性癖を除いてだが今まで真面目に生きて来たこの十数年もここで終わる
そういう覚悟を決めて今まで隠してきた全部を亮にぶちまけた
その結果返ってきたのが「どんなパンツはいてんの?」という言葉だ
「…僕の話聞いてた?」
「ん、聞いてたから、下着も女物なのか気になった」
「……普通のトランクスだよ」
呆然とした頭で半ば条件反射のように僕は答えたが
返ってきたのは「ふーん」という気の抜けた返事と
「お前心は女なの?」という更なる質問だった

「さっきも言ったろ!?男だよ!
 男なのに女の服着て喜んでる変態なんだよ僕は!
 やっぱり僕の話聞いてなかったんじゃないか!」
みっともない位取乱した僕といつも通り淡々とした態度の亮との
違いが悔しくておもわず感情のままに捲くし立てた
「いやお前"女装癖がある"とはいったけど心が男か女かは言わなかったじゃん
 ていうかさ、オレがお前の話ちゃんと聞かなかった事とかあったっけ?」
やっぱり亮は嫌味な位冷静で淡々としていて、僕は心底情けない気分だった
「…ないけどさ」
泣きそうな声でポツリと言うと
「だよなぁ」
何だか少し楽しそうな声が返ってきた

33425-209 どんなぱんつはいてんの? 2/2:2012/10/25(木) 03:34:43 ID:9xOU8aik
「こんな女装男と居る所見られたら君まで誤解されるよ
 大体亮だって僕が変態だって知って幻滅しただろ…、もうさっさと帰ってよ」
やっぱり泣きそうな声でそう言った瞬間堪えきれなくなった涙が一粒足元に落ちた
いい歳した男が女装して幼馴染の前でメソメソ泣いてる、本当になんて情けないんだろう
「まあオレもゲイでネコだからさ、変態同士って事でそんな気にしなくてもいんじゃない?」
感傷と絶望に浸っていた僕はサラリと告げられたとんでもない発言に弾けるように顔を上げた

「なッ、何それ!嘘!?僕の事からかってる!?」
「オレがお前に嘘ついた事とかあったっけ?」
「ないけどさ!ないけどさぁ…!!!」
夜中って事も忘れて大声で叫ぶ僕の口にしーっと人差し指を当てる亮
「そんなに信じらんないなら好みのタイプでも教えようか?
 えーと、真面目な慎重派で鈍感で思いつめやすい手のかかる感じの…」
「うわあ!いい、もういい!何かリアルでヤダ!」
余りにも衝撃的過ぎる展開に感傷と涙は引っ込んでしまった

僕は亮の手を引っ張って早足の大股でズカズカ家へと向う
「と、とにかく一回ちゃんと話しようよ、今日は僕の家に泊まって貰うからね!」
「なあ、さっきの続きさぁ、自分の事より他人の心配ばっかする様な奴が好みだよ、オレ」
「それはもういいってば!幼馴染の好みの男性像とか聞きたくないよ僕!」
すっかり忘れてたけど僕今女装中だし亮に色々聞かなきゃいけないし
速く部屋まで戻らないと、いつも通りゆっくり歩く亮を半ば引き摺るように進む
「…はぁ〜、にぶちん」
「え?亮なにか言った?」
「さあ、空耳じゃないの?どうでもいいけどさ、今日月綺麗だね」
言われて夜空を見上げてみると確かに今日の月は濃い黄色が綺麗だった
「ん、ほんとだ綺麗、言われるまで気付かなかった」
「ダロ」

(…やっぱ、にぶちん)

335強がらない:2012/10/27(土) 19:41:45 ID:9P9LIwa.
沢田は昔から強がりだ。

俺は今、沢田が大学で1番の美女に一世一代の告白をした河原の土手にいる。
沢田は隣に座っている。見てる奴なんか誰もいないのに、泣かない。沢田は幼稚園の頃から一度も、人前で泣かない。

しかし泣きたいのは本当は俺の方だ。
何が悲しくて10年も片想いをしている奴の告白を見届けなければならなかったのだ。
フられてホッとしているなんて、沢田には死んでも言えない。

でも。沢田と違って強がれない俺は、好きな奴が悲しそうなのを見て、そして、俺が1番言われたいことをあんな女に言っていたのを見て、懸命に涙を我慢している。

「しん、なんでお前が泣きそうなんだ」
沢田は俺の顔なんか見なくても、俺が泣きそうなのをわかっている。
「お前が強がって泣かないからだ」と答える。本当は違うが。

「じゃあ、お前が泣けないと言うのなら、おれはもう強がらない。泣くよ。お前も泣け」

驚いて隣を見ると、沢田は初めて俺の前で泣いていた。ただ静かに、涙を流していた。

だが、俺は泣かなかった。
沢田、知っていたか?
俺は、お前が俺の目の前で安心して泣けるような男になるのが、小さい頃からの夢なんだよ。
大きく息を吸って、沢田の手を握った。

「沢田、俺はお前の事がずっと」

336暗殺者と虐殺者:2012/10/31(水) 12:16:44 ID:5jva7xIM
暗殺者は受けた仕事を淡々とこなし感情は込めないし仕事を選ぶこともない。
虐殺者のほうは自分の価値観で仕事を選び、許せないと思った奴だけを残虐な殺しかたで殺す。
全然違う人種なのにお互いを「人殺しは斯くあるべき」と尊重していた。

顔も名前も知らなかった2人が偶然出会い、同業者ならではの鋭さでお互いに正体を知られ、自分を偽ることなく関係を築き上げていき、今までの罪と向き合い2人で足を洗うかと悩みだしたその時、それぞれに対して殺意を向ける復讐者が現れ、暗殺者には虐殺者暗殺の依頼が、虐殺者には暗殺者虐殺の依頼が届く。



…という心中ENDまっしぐらな設定を数分で思いついた。
誰か最後まで完成させてくれたらいいのに。

33725-459 京都人×東京人:2012/12/04(火) 06:48:56 ID:KoHSiJGY
地元の人から見たら京都弁が間違ってる感じがありまくりですが
脳内補正していただけると助かります。
==========

出会ったのは夏の頃、その1年後に同棲することになった2人。
「食事の支度は交代で」というルールになり、最初のうちは
「はぁ? なんでお出汁取るのに昆布使わへんの?」
「えー、そんな薄い色の醤油使った煮物なんて美味しくなさそう」
とか言いつつ少しずつ妥協点を見出してきたのだけど、
大晦日の晩に正月用の雑煮の仕込みをしているときに
作り方の決定的な違いに気がついてケンカになった。
「嫌やわぁ、切り餅なんてめっそうもない。
 ましてやお醤油色の雑煮なんて絶対あきまへんえぇ!」
「おい、それ味噌汁に餅入れただけだろ、
 そんなの正月じゃなくても食えるじゃねーか!」
そのままケンカは互いの実家のお節料理の違いにまで発展し、
「もういい! 黒豆のちょろぎを馬鹿にする奴の顔なんか見たくない、
 ここから出ていけ!」
「出てけとは何様どすか?! いも棒の美味しさを分からへん人のことなどもう知らん、
 言われなくても行くわぁ!」
と京都人の方が家出することになった。

当初はお互い頭が沸騰していて気がつかなかったけど、
あとは餅を茹でて入れるだけの状態まで作った白味噌雑煮の味見をした東京人、
実は普段食べている味噌汁よりも奥深い味わいで美味しいことに気がつき、
慌てて部屋を飛び出して京都人を探しに行く。
一方の京都人、あまりに慌てていたので上着を着るのを忘れ、
東京人が飛び出したのと入れ違いにこっそり部屋に戻ってきた。
自分が雑煮を仕込んでいた鍋とは違う鍋が台所のコンロに乗っているのを見つけ、
そこには東京人が仕込んだ澄まし雑煮の汁が入ってたので何気なく味見。
実は「あまりに醤油の色をつけたら食べにくいだろう」と思って
東京人が京都人に合わせて薄口醤油で仕上げてあることに気がついた。
やはり京都人も慌てて東京人を探しに部屋を出ようとしたところ、
玄関先で鉢合わせ。
「お前何やってるんだよ?」
「さぶいぼ立つほどひやこいさかいに上着取ってこよか思うて。
 あんさんこそ何してますの?」
「探しに行くのにむやみに歩き回るよりはと思ったから自転車の鍵を取りに…。
 というかさぁ、互いに作った雑煮を1杯ずつ食えばいいんじゃないか?」
「ああ、それがええ。ほなそうしましょ」
翌朝互いに作った雑煮を交換して食べたが
「うっぷ。さすがに餅4つは多い…」
「あーしんどい。他のごっつぉ入らんわぁ」
と苦しいお腹をさすりながら足を伸ばし、
こたつに入ったまま畳に寝転ぶ姿はどちらの地方も差がないのだった。

この2人は毎年正月の雑煮をそうやって2杯食べるといいと思うよ。

33825-639 酌み交わす:2012/12/20(木) 13:00:17 ID:8oJIvay6
萌え語りさせてください
1.忘年会で返杯につぐ返杯で、酔ってタメ口になって和気藹々と明るく酌み交わすリーマンが一番に浮かぶけど

2.バブルの頃のクリスマス
デートの予定もないしバカ騒ぎのパーティも苦手で不参加の男同士(両片思い)が食事でもと出かけるが、どの店も満席で入れない
どっちかの家に行くのもなんか気恥ずかしくて、街うろついてやっと見つけたのは純和風の小料理屋
店の雰囲気でビールではなく熱燗頼むけど、お銚子や杯の扱いに慣れてなくてぶつけたり入れすぎたりと、ぎこちなく酌み交わして数十年
一緒に暮らしてる二人が、こんな冬の夜にコタツに入って熱燗をごく自然に酌み交わしながら鍋つついて暮らしてる、なんてのもいい

3.それなりの地位のライバルが、お前がまさかこんな所にくるのかって路地裏の屋台で鉢合わせ
帰るのは自分が逃げるみたいで嫌で、気に入らないけど同席することに
やる気のない店主が二人の間に一升瓶置いて仮眠してしまう
「冷かよ!」と文句言いながら飲むんだけど瓶の手酌は注ぎにくくて、会話はないのに自然と酌しあってコップ酒を酌み交わすとか

冬、男同士、酒って萌えの宝庫だ!

33925-699 あいみての のちのこころに くらぶれば:2012/12/28(金) 14:07:22 ID:hHGhJdFs
規制にひっかかってダメでした。700さんじゃありません。

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百人一首漫画にのせられて、競技カルタをはじめてみた。
やってみたら面白くなってしまって、俺は才能もあったみたいで
トントン拍子に勝てるようになってしまった。
運動神経もいいし、耳もいいし、勘もいい。地元では敵なしだった。
あまりにもちょろかったから俺は天狗になっていたんだろう。先輩から軽く戒められた。
「お前は確かに強い。でも、もっと強い人はたくさんいるぞ」
そりゃあいるのだろうけれど、そうですねと流していた。

ある日、お前の競技スタイルと違うから参考になるだろうと、先輩がDVDを持ってきてくれた。
テレビ出演してる時点で相当うまい人なんだろうとは思っていた。
だが、予想よりも強かった。本当に強かった。
こんな札の取り方があるんだ、守り方があるんだと、驚いた。
しばらく声も出なくて、やっと出た一声は
「この人と対戦するにはどうしたらいいんですか?」だった。
「お前、名人戦に出るつもりなのか」と先輩に笑われた。
その頃の俺は、名人戦にはどうやったら出られるのかも知らなかった。

彼とはじめて対戦するのは、それほどかからなかった。
別に俺が名人戦に出られるようになったわけじゃなく、
彼が地元に招待されて記念試合を若手としてくれたからだ。
あっさりと俺が負けた。彼は礼をしてニッコリしながらさっさと席をたってしまった。
俺はこんなに弱かったんだと茫然自失だった。

それ以降の俺は人が変わったように練習の虫になってしまった。
地元では練習相手が見つからず、カルタの為に引っ越していた。
もう一度、彼と戦いたくて。
もう一度、彼に逢いたくて。

『「逢ひ見ての のちの心に くらぶれば 昔はものを 思はざりけり」
恋しい人と逢瀬を遂げてみた後の恋しい思いに比べれば、昔の恋心などなかったようなものです―――』

女とやったら忘れられなくなりましたなんて、エロ思考な歌だと思っていたけれど、
それぐらい夢中になれる人に会ってしまったんだな。

数年たち、俺の目の前には彼がいる。
「よくここまでこれたね」
「頑張ったんで」
「思ったより遅かった」
今までの、冗談ではない本当に血のにじむような努力が頭の中を駆け巡り、
カチンときた俺はふてくされながら
「はあ?そうですか? 俺は思ったより早かったですけど」というと
「僕が年をとってから来れられても、卑怯だよ」と彼はさらりと答える。
そのくらいのハンデをくれたっていいじゃねえかと俺は心の中で毒づいた。
「じゃあ、よろしく」
「よろしくお願いします」
礼をして、俺は耳を澄ませた。
あとは、札を読む音と、畳のなる音だけが響いた。


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