したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |

本スレに投下するか迷ったような作品を投下するスレ

1名無しさん:2009/04/25(土) 07:55:51
このスレッドでは本スレで投下すると荒れると思ったような作品など
本スレで掲載しずらい作品を掲載するためのスレッドです

・掲載可能ジャンルは本スレッドに準じ「人外と人間」のカップリングとします。
・エロ、非エロは問いません
・作品には属性、プレイなどの説明を本文の前に1レス書いてください
・できれば名前欄に識別できる言葉(作品名,カプなど)を書いてNG指定可能な状態にしてください。
・このスレでは作品の投下、およびその作品への感想レス以外の書き込みは控えてください
・本スレにURL形式でリンクを張ることも可能です
・スレ違いには絶対スルー推奨。

2859 ◆93FwBoL6s.:2009/04/30(木) 18:32:35
本スレに投下している人外アパート話絡みではありますが、大分趣旨が違うのでこちらに。
アパートに引っ越す前、ヤンマと茜が初体験する話。いつも通りのイチャラブです。
昆虫人間×女子中学生の和姦です。

3卒業 1 859 ◆93FwBoL6s.:2009/04/30(木) 18:33:56
 鬼塚池は、空と同じ鉛色だった。
 ちらほらと落ちてくる雪が冷え切った水面に触れると、音もなく溶け、重たく濁った水がまた一滴量を増した。
こんな空では、飛ぶに飛べない。体温維持用に羽織った分厚いコートのポケットに上両足を入れ、顎を閉じた。
下両足に履いているブーツからも寒さが染み入り、外骨格が鈍く軋み、体液の循環が鈍っているのが解った。
 やはり、寒さだけは苦手だ。ヤンマは複眼を下げ、凍りかけた水面に映る黒のコートを着た異形を見下ろした。
外に出ているのは頭部だけで、上両足は袖に通され、羽と中両足はコートの中で縮まり、人間に似た格好だった。
保温性は非常に高いが生地が分厚いため、動きづらくて敵わない。だが、これを脱いでしまうと冬眠してしまう。
 鬼塚池の背後に広がる森では、雪を被った針葉樹が並んでいる。時折、たわんだ枝から雪が崩れ落ちている。
色らしい色はなく、白と黒だけの世界だ。今日は一段と雲が厚いらしく、昼間とは思えぬほど光量が少なかった。

「…さむ」

 独り言を漏らしたヤンマは、頭を振って触角に付いた雪片を払った。

「これで、いいんだよな?」

 鬼塚池に映る異形を見つめながら、ヤンマは呟いた。この池はヤンマが孵化した場所であり、もう一つの実家だ。
現在親兄弟と暮らしている実家は、鬼塚池に程近い古びた日本家屋で、鬼塚と名乗るためには不可欠な場所だ。
 エメラルドグリーンの複眼、黄色と黒の外骨格、四枚の羽、六本の足。見ての通り、ヤンマは人間ではなく昆虫だ。
ヤンマの一族は古くからこの地に住み着いているが、人間として認識されるようになったのは近代に入ってからだ。
それまでは、人外には良くある話で鬼扱いだった。だが、差別とは少し違っていて、恐れられながらも敬われていた。
空を飛べる上に山を荒らす獣を捕食していたので、結果として人家や作物を守ることになり、農民達からは慕われた。
 けれど、近頃はそうでもない。昆虫人間はそれほど珍しいものでもなくなったし、人間も知恵を付けるようになった。
昆虫人間に頼らずとも身を守れるし、獣も追い払える。厄介者として扱われることはないが、敬われることはない。
少し変わった隣人、程度の認識だ。昆虫人間同士の抗争を除けば、至って平穏に暮らせているのだから文句はない。
 しかし、それで終わるのは頂けなかった。日々同年代の昆虫人間とのケンカに明け暮れ、縄張りを守り続けてきた。
それでいいと思っていたし、それぐらいしか能がないと思っていたし、それ以外にやるべきことはないのだと思っていた。
だが、戦い続けても戦い続けても何も拓けない。縄張りも実力も拮抗し続けていて、最早体裁を保つための戦いだった。
 このまま、この街で戦い続けても先はない。そんなことに気付いたのは、高校を卒業するための試験を終えた頃だ。
ぎりぎりの成績で入学した高校を、やはりぎりぎりの成績で試験に受かったヤンマは、与えられた暇を持て余していた。
遊ぶのにも飽きて、戦うのにも飽きたから、珍しく考え事をした。そして、現状維持ではいずれ腐ってしまう、と悟った。
 そう思ったら、居ても立ってもいられなくなった。同じ土地で同じ顔触れと同じ戦いを繰り返しながら、朽ちたくはない。
だから、家を出ようと思い、両親にも兄弟にも話した。長男ではないので反対はされなかったが、賛成もされなかった。
金だけは与えられたが、住む場所や働き口は自力で探せと言われた。だが、いざ街を離れると決めると無性に寂しくなる。
 胸と言わず全身の体液が抜けたかのような空虚さに襲われたヤンマは、鬼塚一族が幼少期を過ごす鬼塚池を訪れた。
だが、埋まると思ったものは埋まらなかった。原因は解りきっているのに、目を逸らそうとしている自分が情けなかった。
 柔らかな雪を踏み締める足音と、荒い呼吸が聞こえた。ヤンマが振り返ると、息を荒げている少女が立ち尽くしていた。
赤いマフラーを巻き、ハーフ丈のダッフルコートの下では紺色のプリーツスカートが揺れ、ボブカットの髪が乱れている。
子供っぽさが色濃く残る顔立ちの中で特に目立つ大きな目は、最大限に見開かれ、外気の寒さで頬に紅が差していた。

「茜」

 ヤンマが少女に向き直ると、少女、茜はヤンマに歩み寄り、呼吸を整えた。

「しーちゃんから、聞いた」
「何をだよ」
「何って、決まってるじゃないの!」

 茜は中学校帰りらしく、背中には重たい通学カバンを背負ったままだった。

「上京するってこと、どうして私には言ってくれなかったの!」
「言うほどのことでもねぇだろ」

 ヤンマが顔を背けると、茜は顔を歪めた。

4卒業 2 859 ◆93FwBoL6s.:2009/04/30(木) 18:34:52
「友達じゃないの、教えてくれたっていいじゃない!」
「教えたって、どうなるものでもねぇだろうが」

 ヤンマは背を向け、顎を軋ませた。茜はヤンマに近付き、走ったために掠れた声を張る。

「なんで勝手に決めちゃうの! どうして何も言ってくれなかったの!」
「中坊に話しても意味ねぇだろ」
「そりゃ、そうかもしれないけど…」

 茜は俯き、鼻を啜った。ヤンマは複眼の端に茜を捉え、言った。

「高校の卒業式が終わり次第、引っ越すからよ」
「でも…どうして?」
「お前に言ったって解らねぇよ」
「解るもん!」

 茜はヤンマに歩み寄り、その左袖を掴んだ。

「だって、私はずっとヤンマと一緒だったんだから! ヤンマのこと、一番良く解るもん!」
「馬鹿抜かしてんじゃねぇよ」

 茜の手を振り払おうとしたが、出来ず、ヤンマは声色を落とした。

「お前に俺の何が解る」

 お決まりの言葉を吐いてしまった自分に呆れ、ヤンマはぎちぎちと顎を鳴らした。なぜ、こんなことしか言えない。
ヤンマの上左足を掴んで項垂れている茜が痛々しかったが、上手い言葉が思い付かず、結局は黙り込んでしまった。
 茜との付き合いは長い。ヤンマがヤゴだった頃、近所に住む茜は親に連れられて鬼塚池によく遊びに来ていた。
そのうち、茜は一人でも来るようになった。水の中でしか生きられないヤンマと、愚にも付かない話をするためだった。
どちらも幼かったから、会話などあってないようなものだったが、閉じた世界で暮らすヤンマには良い刺激になった。
 ヤンマが成虫と化し、茜が成長しても、その関係は変わらなかった。近所に住む幼馴染み。それだけに過ぎない。
だから、そのまま終わった方が良い。人型であろうと、所詮虫は虫だ。前途のある茜を、ヤンマが束縛してはならない。

「じゃあ、ヤンマは私の何が解るの?」

 茜はヤンマのコートに顔を埋め、肩を縮めた。ヤンマは彼女を見下ろし、語気を弱めた。

「解るから、言わなかったんじゃねぇかよ」
「意地悪」
「男の意地と言え。その方が、まだ様になる」
「じゃあ、これから言うこと、解る?」
「大体はな」

 ヤンマが腰を曲げて目線を合わせると、茜は潤んだ目を瞬かせ、ヤンマの胸元に額を当てた。

「…大好き」

 恥じらいと寂しさが混じった告白は、枝から落ちた雪の音で掻き消され、雪の粒と共に淀んだ池に吸い込まれた。
ヤンマは茜の肩を支えながら、分厚いコート越しに染み入る体温を感じた。触れた部分から、隙間が埋まっていく。
 思った通り、空虚さの原因は彼女だった。街を出ると決めてから、茜とは出来る限り顔を合わせないようにしていた。
街を出る決心が揺らがないように、と考えてのことだったが、言葉も交わせない日々が続くと体液が抜け落ちていった。
他のもので埋めようとしても全く埋まらず、余計に空しくなった。けれど、そこで茜と会うと決心が砕けると思っていた。
 擦れ違っていた日々の寂しさを埋めるため、茜はヤンマにしがみ付いた。小さな手で、コートをきつく握り締めている。
もう、引き離せるわけがない。ヤンマは己の心の弱さを実感しながら、茜から染み渡ってくる体温と感情を味わった。
 茜が好きだ。

5卒業 3 859 ◆93FwBoL6s.:2009/04/30(木) 18:37:01

 ストーブに火を入れても、なかなか部屋が暖まらなかった。
 畳の上に胡座を掻いたヤンマはコートを脱げないままで、茜もまた通学カバンは下ろしたがコートは着たままだった。
あのまま外にいてはどちらも凍えてしまうので、ヤンマは自宅に茜を連れて帰ってきたが、どちらも喋り出さなかった。
茜は目を腫らしていて、切なげに眉を下げている。思いを伝えても、ヤンマが答えてくれなかったから不安なのだろう。
だが、ヤンマは茜の告白に答えなかったのではない。答えようと思ったのだが、茜が愛おしすぎて感極まってしまった。
おかげで、何も言えなくなった挙げ句に自宅に引っ張り込んでしまった。茜を自宅に突き返すよりは良いと思ったからだ。

「ヤンマ」

 沈黙を破ったのは、茜だった。

「やっぱり、私はただの友達ってこと?」

 不安げに身を乗り出してきた茜に、ヤンマはぎちりと顎を噛み合わせた。

「いや…そういうんじゃねぇよ」
「じゃあ、何?」

 期待と不安の入り混じる瞳に見つめられ、ヤンマは若干腰を引いた。

「お前は、ダチじゃねぇよ」
「だから、何なの?」
「だから、だな…」

 ヤンマが考えあぐねていると、茜はコートを脱いで通学カバンの上に投げ、ヤンマの前にやってきた。

「教えて?」
「う…」

 言葉に詰まったヤンマは、茜を見下ろした。寒さとは違った意味で頬が染まり、薄い唇がかすかに開いている。
いつもの快活な表情とは正反対の弱り切った顔が、罪悪感を生んだ。同時に、物凄く情けなくなってしまった。
好きだと言われたし、茜が好きだと解っているのに、困らせてどうする。答えたいが、上手く言葉が出てこなかった。

「悪ぃ」

 どうしても言えなかった。だから、ヤンマは茜を抱き寄せて顎を開き、舌を伸ばして唇の間に滑り込ませた。
上両足に抱かれた茜は、いきなり口中に入ってきた異物に戸惑い、己の舌や歯で異物を押し戻そうとしてきた。

「ぶはっ」

 ヤンマの舌を吐き出した後、茜は一気に赤くなった。

「にゃ、な、うぁ…」
「これで、言ったことにはならねぇか?」

 舌を戻して顎を閉ざしたヤンマが気弱に呟くと、茜は火照った頬を押さえた。

「なら、ない、よぉ」

 だが、意図は確実に伝わったらしく、茜はちらちらとヤンマを窺ってくる。ヤンマはその視線を感じ、恥じ入った。
もう少しまともな手段はなかったのか、と後悔するがもう遅い。それ以前に、あれはキスと言うには強引すぎた。
顎をぶつけるよりは優しいが、中学生相手に行うにはかなり卑猥だ。それ以前に、同意を得ていないではないか。

「でも、うん、嬉しい」

 茜は赤面したままだったが、頬を緩めた。

「だから、茜。俺は」
「食べてもいいよ」

 ヤンマの言葉を遮るように、茜は言い切った。真摯な眼差しが、複眼に注がれる。

「私のこと」
「…食べる、って、そりゃ」

 もちろんあっちの意味だろう。ヤンマが狼狽すると、茜はもっと狼狽した。

「だって、このまま離れちゃうの嫌だし、ヤンマじゃなきゃ嫌だし、だから…」
「でっ、でもな、いきなりそれは早すぎねぇか? お前はまだ中坊だろうが!」
「だあっ、だけどぉ、我慢出来ないんだもん!」

 自分の言葉でますます赤面しながら、茜はスカートを握り締めた。

「放っておかれるのかなぁ、とか、一人になっちゃうなぁ、とか、考えるとなんかもうすっごくダメなんだもん!」
「にしたって、なぁ」
「嫌?」

 茜が泣きそうになったので、ヤンマはすぐさま否定した。

6卒業 4 859 ◆93FwBoL6s.:2009/04/30(木) 18:39:02
「いやいやいやいや、そういうんじゃねぇ! ああ、だから、嫌っつーわけじゃなくてよ!」
「恥ずかしいし、怖いし、痛いのは嫌だけど、でも、ヤンマだったら」
「言っておくが、俺は虫だぞ」

 ヤンマが自制を込めて言うと、茜はむくれた。

「だから好きなんじゃないの!」
「俺が言うのも何だが、男の趣味悪ぃな」
「そんなことないもん! ヤンマは格好良くて強いんだから! イケメンの中のイケメンだもん!」

 拳を固めて力説した茜に、ヤンマは噴き出してしまった。

「なんだそりゃ、てか言い過ぎだぜ」
「笑わないでよ! 本気でそう思っているんだから!」

 茜はむきになり、ヤンマににじり寄ってきた。ヤンマは背を曲げ、笑いを堪えた。

「けど、俺のことを買い被りすぎてねぇか? 虫の中でも俺は大したことねぇんだぞ、ツラもナリもな」
「でも、私の一番はヤンマだもん」

 茜はヤンマの前に正座すると、ヤンマの顎を両手で挟み、引き寄せた。

「さっきのお返し」

 固く閉ざした顎に、小さく薄い唇が当てられた。目の前にある茜の瞼は閉ざされ、目元を縁取る睫毛の長さが解った。
当てているだけで精一杯なのか、茜の体は強張っていた。ヤンマはコートを脱ぐと、上両足と中両足で茜を抱き寄せた。
胸部の外骨格に、紺色のセーラー服に覆われた茜の胸元が接した。鼓動が恐ろしく速まり、体全体が熱を持っていた。

「本当にいいのか?」

 ヤンマが問うと、茜はぎこちなく頷いた。

「うん。ヤンマじゃなきゃ、嫌」
「後で後悔しても知らねぇからな」
「するわけないよ」

 茜は笑顔を見せたが、緊張が滲んでいた。ヤンマは雑然とした自室を見渡したが、生憎、昆虫人間は布団を使わない。
その上、ヤンマはトンボなのだ。羽を痛めてしまわないために、眠る時は寝転がらずに床に直接俯せになって休むのだ。
だから、布団はない。そして、親兄弟の部屋も同様だ。客間に行けばあるが、今から運んでくるのは億劫だし、後で困る。
客間に戻す時に、親兄弟に見つかっては言及される。考えあぐねた末、ヤンマは自身が着ていた長いコートを広げた。

「ここに寝っ転がれ」
「でも、汚しちゃうかも」

 茜が目を伏せると、ヤンマは畳を小突いた。

「そんなもん、構わねぇよ。畳よりは冷たくねぇし、痛くねぇはずだ」
「うん…」

 茜はセーラー服のスカーフをしゅるりと引き抜き、畳に落とした。

「えっと、脱がしてみる?」
「無論だ」

 即答したヤンマは、正座している茜に向き直った。茜は脱がしやすいように両腕を広げたが、掴み所が解らなかった。
ヤンマの高校の女子の制服はセーラー服ではないし、中学校時代に女子の制服を脱がすような機会も経験もない。
しばらく茜を眺め回していると、茜は少し落胆した顔でセーラー服の脇にあるファスナーを上げ、袖口のスナップを外した。

「これで引っこ抜けば脱げるよ」
「すまん」

 ヤンマは苦笑いしてから、茜のセーラー服を掴んで引き上げた。頭と袖が綺麗に抜けて、下の服が露わになった。
冬場なので、ブラウスの上にニットベストを着ていた。ヤンマはそれを剥いでから、ブラウスを脱がそうとして爪を止めた。
まず、スカートを脱がさなければ脱がせられないではないか。プリーツスカートのホックを外そうとしたが、また爪を止めた。
この状況なら、スカート捲りも許されるかもしれない。そう思ったヤンマは茜のスカートを思い切り捲り上げ、中身を見た。

「んだよ、生パンじゃねぇのか」
「当たり前だよお! ていうか、いきなり何やってんのー!」

 茜はスカートを押さえ、防寒性の高い毛糸のオーバーパンツに覆われた下半身を隠す努力をした。

「まあ、ジャージ履きじゃないだけまだマシか」

 あれは色気なさ過ぎだ、とヤンマが付け加えると、茜は唇を曲げた。

「もうちょっとムードってのを大事にしてよ! 台無しじゃない! この変態!」
「男は総じて変態だ」
「開き直らないでよー!」
「んじゃ、仕切り直すとするか」

7卒業 5 859 ◆93FwBoL6s.:2009/04/30(木) 18:41:41
 ヤンマは茜のスカートを下ろすと、ホックを外してファスナーを下げて脱がせ、黒く長いコートの上に横たわらせた。
ブラウスの下から覗く色気のないオーバーパンツも剥がしてしまうと、茜は小柄な体を力一杯縮めて頬を赤らめた。

「急に恥ずかしくなってきた…」
「そう、だな」

 ヤンマは茜の姿を見下ろし、言葉を濁した。幼い頃からの付き合いなので、何度か茜の裸身は見たことがある。
もちろん、それは茜が幼児だった頃の話だ。池のほとりで無邪気に水遊びをしていた時は、膨らみなど皆無だった。
だが、今は違う。肉付きはまだまだ頼りないが、手足はすらりと伸びて全体的に丸みを帯び、可愛らしい乳房がある。
そう思った途端、抗いがたい衝動が込み上がってきた。ヤンマは上両足で茜の両手を掴んで押さえ、覆い被さった。

「全部脱がす!」
「うん」

 茜は心底恥ずかしげだったが、頷いた。ヤンマは中両足の爪でブラウスのボタンを全て外し、肌着を捲り上げた。
幾重もの服に覆われていた素肌が、ようやく曝された。ブラジャーに収まるのは、茜の手で隠せるほど小さな乳房だった。
茜は気恥ずかしげに顔を歪めたが、ヤンマはそれを無視してブラジャーを押し上げ、乳房とは言い難い膨らみを出した。

「なあ、茜」
「なぁに?」
「茜はオナったことがあるのか?」
「え?」

 茜が目を丸めると、ヤンマは首を傾げた。

「何がどうなるのか解らねぇと、そっちも困るだろ? まさか、中三にもなって何もしてねぇってことはねぇよな?」
「馬鹿! なんで今そんなこと聞くの! 超変態!」
「先に聞けるか、こんなこと。んで、どうなんだよ、茜」
「…うー」

 茜は顔を背け、消え入りそうなほどの小声で答えた。

「…ある、けど」
「そうか、なら安心だ」
「何が!」
「ちゃんと感じるんなら、ちゃんと濡れるってことだろ」

 ヤンマはぎちぎちと顎を鳴らしながら、茜の胸元にまで顔を下げた。小さな乳房を爪で握るのが怖かったからだ。
ヤンマの爪は、いずれも鋭い。茜の肌など容易く切り裂けてしまうし、力が強すぎると肉や骨までも切ってしまうだろう。
だが、顎ならまだ加減が出来るはずだ。ヤンマは大きく顎を開いて舌を伸ばし、茜の平べったい乳房に絡み付けた。

「ふひゃっ」

 外気とは違う冷たさに茜が仰け反ると、ヤンマはその両手首を軽く握った。

「我慢しろよ。すぐにお前の体温で温くなる」
「うん…」

 茜は深く息を吸い、唇を締めた。自分の手で胸をまさぐるのとは全く異なる感触に、慣れるまでは気色悪かった。
相手がヤンマだと解っていても、冷たく細長いものが這い回ってるのだから、背筋がぞわりと逆立ってしまった。
だが、茜自身の体温でヤンマの舌が温まると変わった。成長途中で硬い乳房を痛めないように、緩く締めてくる。
外気温と刺激によって尖った乳首にも絡められ、絞られる。中左足の爪の腹では、もう一方の乳首を潰してくる。
 自分で触った時とは、比べ物にならない。どこをどう触られるのか解らないし、羞恥心も手伝って感覚が鋭敏だ。
いつのまにか息が荒くなり、今まで出したことのない声が漏れてしまい、茜は口を閉じて懸命にその声を堪えた。

「下、脱がすぞ」

 ヤンマは茜の右手首を押さえていた上右足を外し、茜の下着に手を掛け、引き摺り下ろした。

「ふあ…」

 陰部を外気に曝された感覚で瞼を上げた茜は、クロッチに薄く付いた染みを見、戸惑った。

「やだ、こんなに…」
「大していじってねぇんだけどなぁ、早漏か?」

 茜の下着を見下ろしながらヤンマが言うと、茜はむくれた。

「そんなわけないじゃない! 何なのもう、さっきから!」
「すまん。俺もしたことないから、何言っていいんだかよく解らねぇんだ」

 茜の下着を制服の傍に置いたヤンマは、茜に顔を寄せ、舌先で唇をぬるりと舐めた。

8卒業 6 859 ◆93FwBoL6s.:2009/04/30(木) 18:43:45
「んう」
「下も舐めた方が、楽に入るよな?」
「たぶん、でも…」

 茜は太股を閉ざそうとしたので、ヤンマは太股の間に長い腹部を差し込んで阻んだ。

「いきなり突っ込んでも、入るわけねぇしな」
「解った」

 茜は躊躇いつつも小さく頷き、おずおずと膝を上げた。ヤンマは茜の両手から上両足を外し、上体を下げた。
部屋の明かりは敢えて付けていなかったので、光源は外から差し込む日差しだけであり、当然薄暗かった。
少ない光を受けた陰部は、滲み出た体液で光沢を帯びていた。体格に相応の狭さであろう、茜の中心だった。
浅い茂みの下では、触れてもいないのに充血した肉芽が濡れている。汗とは異なる、甘酸っぱい匂いがした。

「んで、茜はいつもどうやってんだ?」

 舌を伸ばしながらヤンマが問うと、茜は目線を彷徨わせた。

「穴の方に指を入れるのは怖いから、その、上にあるのを…」
「じゃ、そっちを責めればいいんだな」
「そうじゃなくて!」
「じゃあ、どうなんだ?」
「うー…」

 茜は顔を両手で覆い、背を丸めた。表情が見えなくなるのは惜しかったが、今のうちに慣らしてやらなければ。
ヤンマは茜の腰に爪を立てないように気を付けつつ、押さえ、初々しいピンク色の割れ目に舌を這わせてやった。
茜はびくっとしたが、足は閉じなかった。ヤンマは茜の言葉通り、茂みの中で存在を主張しつつある肉芽を舐めた。

「あ、あ、あ、あぁああ…」

 切なげに喉を震わせ、茜は身を捩った。

「うぁ、あ、ん、ヤンマぁ…」
「その声で呼ぶんじゃねぇよ」

 強張っているが熱く濡れた胎内を舌で探りながら、ヤンマは堪えた。彼女が慣れるまで、耐えきれなくなってしまう。
実際、長い腹部の先からは生殖器官が出ている。なんとか自制しているが、本音を言えば今すぐにでも入れたい。

「ひゃうっ!」

 茜はヤンマの頭を掴み、首を左右に振った。

「あ、もお、いやあっ、そこ、ダメェ、もう、ああああっ!」

 ぎち、とヤンマの外骨格に爪が立てられ、茜は薄い胸を反らした。

「おい、茜」

 舌を抜いてヤンマが顔を上げると、茜は涙の滲んだ目元を拭った。

「ごめん、なんか、凄くって」
「感じすぎだろ、馬鹿」
「だって、どうにも出来ないんだもん。ヤンマがしてくれたから」

 茜は眉を下げ、唇を押さえた。その仕草にヤンマはぎくりとし、中途半端に出ていた生殖器官が全部出てしまった。
最早、引っ込められなかった。ヤンマは茜の太股を押し上げて足を広げさせると、腹部を曲げ、熱い陰部にあてがった。

「入れるぞ」
「え、待って、そんな急に」
「力、抜いとけ。でないと、辛いぞ」

 ヤンマは出来る限り慎重に腹部を押し出し、つぷ、と浅く挿入した。茜は目を見開き、涙を滲ませた。

「う、あっ」
「痛いか? だったら一旦抜くが」
「が、頑張るぅ」

 茜はヤンマの首に腕を回し、抱き付いた。

「だから、全部、入れてぇ。ヤンマにあげるの、全部あげるのぉ」
「…どうしようもねぇな」

9卒業 7 859 ◆93FwBoL6s.:2009/04/30(木) 18:47:21
 茜の背を支えながら、ヤンマは顎を噛み締めた。処女で発達途中の体では、挿入されるだけで痛いだろうに。
茜の内側は筋肉が硬く、ヤンマの生殖器官が押し戻されそうになる。なぜ、それでも入れてくれと懇願出来るのか。
目元に溢れた涙を舐めてやると、茜は脂汗が滲んだ頬を緩めた。抜いてしまえば、茜の気持ちを無駄にしてしまう。
 時間を掛けて、奥へ、奥へと進めていく。熱くぬめった筋肉に弾かれそうになりながら、茜の中心に迫っていった。
途中で何かに引っ掛かり、途切れた。茜はヤンマに抱き付く腕の力を強め、声を堪えるかのように歯を食い縛った。
恐らく、処女膜だったのだろう。ヤンマは茜を貫いている生殖器官を見下ろし、じわりと滲み出した赤い筋を認めた。

「このまま動いたら、本気で裂けちまいそうだぞ。だから、もう抜いちまった方が」
「いやあっ!」

 茜は力の入らない足をヤンマの腰に絡め、首を横に振った。

「動かなくても良いから、抜かないでぇ!」
「だが、茜」
「だって、だってぇ」

 茜はヤンマを見つめ、ぼろぼろと涙を落とした。

「抜いたら、ヤンマが離れちゃう。ヤンマがどこかに行っちゃう。だから、抜いちゃ嫌ぁ…」
「お前には参るぜ」

 ヤンマは爪の背で茜の頬をなぞり、笑みを見せるように顎を開いた。茜は、懇願するような眼差しを注いでいる。
これでは、抜くわけにはいかない。ヤンマは生殖器官を突き立てたまま、声を殺して泣き出した茜を抱き締めた。
 体の下から、何度となく好きだと言われた。子供の頃からどんなに好きだったか、嗚咽に乱れた声で話してくれた。
その言葉を一つも聞き逃したくなくて、ヤンマは動かなかった。茜が全身で示す好意を、知らなかったわけがない。
物心付いた頃から、ヤンマの世界には茜がいた。そして、茜の世界にもヤンマがいた。ただ、それだけのことだ。
 ただ、幼い頃のように友達でいられなくなっただけだ。ただ、向け合う感情が変わっただけだ。それ以外は同じだ。
ヤンマはヤンマであり、茜は茜だ。虫であり、人だ。幼馴染みであり、幼馴染みだ。そして、掛け替えのない人だ。
 だから、恋に落ちるのは当たり前のことだ。

10卒業 8 859 ◆93FwBoL6s.:2009/04/30(木) 18:47:58
 どさり、と屋根から雪が落ちた。
 部屋の前に一瞬影が過ぎり、軽い震動が起きた。ストーブを使っているから、その熱で屋根の雪が緩んだのだ。
ストーブの前に陣取っている茜は、すっぽりと毛布にくるまっていて、湯気を噴きながら熱いミルクココアを啜っていた。
ココアを作ったのは、ヤンマである。茜が泣き止んでから生殖器官を抜き、服を着せて、落ち着けるために与えたのだ。
大して動いていないはずなのだが、茜は足腰が立たないらしく、ストーブの前に座り込んで一歩も動こうとしなかった。

「なんか、腰が変」

 茜はココアを一口飲んでから、顔をしかめて腰をさすった。

「今の今まで、ここの筋肉を使ったことがなかったからかなぁ」
「そうなんじゃねぇのか? 俺はなんともないが」

 茜の血が絡んだ愛液を拭ったティッシュをゴミ箱の奥深くに沈めてから、ヤンマは返した。

「甘くない…」

 ココアを啜りながら茜が眉根を顰めたので、ヤンマは少しむっとした。

「文句言うな。俺はそういうの飲まねぇから、味の加減が解らなかったんだよ」
「よし、決めた」

 大きく頷き、茜は宣言した。

「私も一緒に上京する! でもって、ヤンマに責任取ってもらう!」
「…あ?」

 何を唐突に。ヤンマが顎をあんぐりと開いていると、茜はにんまりした。

「だって、ファーストキスも処女もあげちゃったんだもん。結婚しなきゃ嘘ってもんでしょ!」
「あ、あの、茜さん?」
「高校はあっちの学校に入学すれば問題ないよ! 二次試験があるしね! そうと決まれば願書書かなきゃ!」
「いや、だから、なんでそうなるんだ?」
「さっき言ったじゃんか。私、ヤンマと離れたくないんだもん。連れて行ってくれなきゃ、追い掛けていっちゃうよ?」
「それは…」

 追い掛けられたら、嬉しいけど困る。ヤンマが答えられずにいると、茜は笑った。

「ヤンマも高校を卒業したし、私ももうすぐ卒業だもん。だから、ただの幼馴染みも卒業するんだ!」

 その言葉に、ヤンマは笑うしかなかった。もちろん、茜の言葉が嬉しくて嬉しくてたまらなかったからである。
茜は毛布を引き摺りながらずりずりと這い寄ってヤンマに寄り添ってきたので、ヤンマは勢い良く茜を抱き締めた。
ココアの入ったマグカップを取り落としかけたが、なんとか零さずにテーブルに置き、茜はヤンマに腕を回してきた。

「大好き」
「俺もだ。好きで好きでどうしようもねぇや!」

 ヤンマは首を倒して茜の唇を塞ぎ、言葉にすることすらもどかしい感情を表した。茜も身を乗り出し、深めてくる。
茜の両親に反対されるかもしれないが、行けるところまで行ってしまおう。茜は半身だ、欠いてしまうわけにいかない。
無論、上京するのはどちらも初めてだ。同じ国とはいえ、土地が違うのだから、二人にとっては別世界のようなものだ。
一人きりだったら耐えられないことも、二人ならば乗り越えられる。今までがそうだったのだから、これからも、きっと。
 年の差も、種族の違いも、気持ちだけは阻めない。

11859 ◆93FwBoL6s.:2009/04/30(木) 18:51:38
以上。処女と童貞の会話ほど恥ずかしいものはない。
その後は本スレで御存知の通り。

12名無しさん:2009/05/01(金) 01:17:52
こちらで感想書いたほうがいいかな
なんというGJ! お互い初めての甘酸っぱさに色々と悶えたが
茜はヤンマ好き過ぎだろうJK
いいものをありがとうございました!!

13名無しさん:2009/05/01(金) 13:26:33
茜もヤンマも初々しくて可愛すぎる!!
超GJでした。

14オカンな悪魔:2009/05/15(金) 02:04:50
非エロなのでこちらに投下します。

悪魔×少女
NG指定はタイトル「オカンな悪魔」でお願いします。

15オカンな悪魔:2009/05/15(金) 02:15:11
ネットオタク界では召喚された悪魔というモノは大概「契約」と称して召喚主の女の子を犯すものだと相場が決まっている。
たまによれた安スーツと黒縁眼鏡で「どーもどーも、このたびはお呼び頂きありがとうございました。」と出てくる中年サラリーマン風の悪魔もいるようだが、好色、不真面目、高慢が一般的な悪魔のイメージだ。
だから、友人とノリで呼び出した悪魔が学校から帰ってきた彼女を白い割烹着姿で出迎え、玄関で正座して「お帰りなさいませ、お譲様。」と言ったのを見たとき、優香が思わずマンションの作り付けの下駄箱に頭を打ちつけたのは致し方のないことだった。


「今日の学校はどうだった?」

今日も玄関で彼女を出迎えた、白い割烹着を着た身長二メートルはある男の身体に黒い牛の頭が乗った悪魔モウンが彼女の学生カバンとサブバックを持って部屋に入ってくる。
彼の論理からすると「お嬢様」は箸より重い物を持ってはいけないらしい。

「うん、まあまあだね。」
「いつも、まあまあなのだな。」

サブバックから汚れた体操服とタオル、水筒を取り出し、中に消臭剤を吹き付けると、今度は学生カバンから教科書とノートを机の上に出し、クロスでカバンを磨き始める。

「だって、いつものように授業とお昼ご飯と部活の三連続だよ。別に変わったこともないし。」
「そこに「友人との会話」ではなく、「お昼ご飯」が入るのが優香らしい。」

モウンはボソリと呟くと磨き上げてピカピカにしたカバンを勉強机に掛ける。
部活動帰り、初夏の陽気に汗で黒いショートヘアが優香のこめかみに貼り付いている。
それを一瞥すると大きな黒い鼻を鳴らした。

「シャワーで汗を落として来い。着替えは脱衣所に既に用意してある。」
「いつも、ありがと。」
「汗臭いのは「お嬢様」では無いからな。」
「悪かったわね。」

むっと睨みつける優香をモウンはどこ吹く風と流し、眉一つ動かず告げる。

「着替えが終わったら、リビングに来い。紅茶とマドレーヌを用意しておく。」

言い方は高圧的だが内容はメイドの台詞以外何物でもない。

「夕食は七時からだ。今夜の献立は鰤の照り焼きと味噌汁、かぼちゃの煮転がしに青菜の胡麻和え、ぎせい豆腐。時間厳守。八時以降の飲食は太る素。太った「お嬢様」は美しくない。」
「はいはい。」
「「はい」は一つだ。正しい日本語の使い方もきちんと学べ。」
「はい。」

口うるさいが料理の腕は天下逸品。夕食はカロリー控え目が一番と和食しか作らないのが、育ち盛りの女子中学生には今一つ物足りないが、文句を言うつもりは無い。
大人しく返事を返す優香に頷き返すとモウンは部屋を出ていった。

16オカンな悪魔 2:2009/05/15(金) 02:22:18
シャワーの音が風呂場に満ちる。モウンがここに来た次の日、近所のドラックストアで買ってきた無香料、保湿成分入り、アレルギー肌にも優しいボディソープを泡立て、全身を擦りながら優香は小さく笑みを漏らした。
悪魔を呼び出したのは友人との悪ふざけの延長だった。マンションで一人暮らしの優香のところへ泊り掛けで遊びに来たオカルト好きの友人が愛読書のオカルト本を試したのがきっかけである。自宅では家族に見つかるからと友人に頼み込まれ、悪魔召喚の魔方陣をキッチンの床に描いたのだ。
召喚の呪文を二人で読み上げ、床から魔方陣の縁に沿って白い煙が立ち上がったときには、さすがにヤバイと思ったが、結局その夜はそのまま何も起こらなかった。
しかし、泊まった友人と翌日学校の放課後別れてから帰宅すると、割烹着姿の悪魔が玄関で正座して待っていたのである。
モウンが言うには、今時契約主を犯し、堕落した魂を連れて魔界に戻るのは時代遅れなのだという。
魔界では今や絶滅危惧種とまで呼ばれる「お嬢様」の魂にこそ高いプレミアが付いているのだ。
品行方正、見目麗しく、おしとやかで何よりも穢れが無い。そんな魂がコレクションアイテムとして持て囃されているのだという。

「…しかし、だからってあたしを「お嬢様」に仕立て上げなくてもいいのに…。」

脱衣所に用意されていたワンピースを着て、全身を鏡に映しながら優香はぼやいた。
モウンが「お嬢様」御用達のブティックで買ってきたというワンピースは、今流行りの肌を露骨に見せるものではなく、清楚な、いかにも高原の別荘で夏のバカンスを楽しむ女性が着ているような上品な仕立てのものである。
だが、目鼻立ちははっきりしていて可愛いが、サッカー部の連日の練習で小麦色に日焼けし、髪も焼けてパサついている優香にはどうにも似合わない。

『そんなに「お嬢様」が良いなら他のもっと良い家の綺麗な女の子を契約主にすればいいじゃない。』

そう言ってモウンに都心でも有名なお嬢様学校の名前をいくつも教えてあげたのだが、彼の話では呼び出した契約主を変えるのは魔界において最も恥ずべき行為であるらしい。

まあ…あたしも生まれは「お嬢様」なんだけどね…。

小さく肩を竦めて脱衣所を出て、リビングに入るとテーブルにマドレーヌが可愛い花模様の皿に乗せて置いてある。
ソファーに座るとモウンがポットを傾けて、紅茶をカップに注いだ。

「ありがとう。」

礼を言って紅茶を一口すする優香を見て、モウンが割烹着のポケットからメモ帳を取り出すと鉛筆を走らせる。

「日焼け止めにトリートメント…と。日焼けケア用のローションも居るな。」

自分を眺めながら買い物のメモを取る悪魔の姿に思わず頭痛を覚えて、優香は頭を抱え込んだ。

17オカンな悪魔 3:2009/05/15(金) 02:38:07
就寝は十時、それ以降は肌に悪いと追いやられたベッドで布団にくるまりながら、優香は天井を見上げた。
部屋の隅ではカーテンの隙間から差し込む月明かりの中で、モウンが腕組みをして壁にもたれて座っている。
いくら防犯設備完備のマンションとはいえ、少女の一人暮らし。もしものことがあって優香が純潔を散らしては、折角手を掛けた労力が水の泡と、モウンは夜は彼女の部屋で見張りをしている。
優香は布団に顔を埋めると小さな溜息をついた。
彼女がこのマンションに一人で住んでいるのは理由がある。本当は父方の祖母と二人で住む予定だったのだ。
その祖母は、初めてのセーラー服姿の優香といっしょに中学校の入学式に出席した晩、突然倒れあっさりと帰らぬ人となった。
優香は見た目は普通のどこにでもいる元気そうな女の子だが、生まれは「お嬢様」だ。
父はいくつものグループ企業を持つ大企業の社長、母は政財界に大きな影響力を持つ有力議員の一族の娘、その間に生まれた一人娘である。
最も、父も母も周りの思惑と自分達の利益の為に結婚しただけで、彼女を生んだのも二人が社会人としての体面を整える為だったが。
仕事に遊びに忙しく、帰ってきたと思えばそれそれの愛人を家に引き込む父母に代わって、彼女を育ててくれたのは優しい祖母だった。
祖母は、このまま父母の元に居たら孫がダメになると感じ、家を出てこのマンションを買い、彼女を普通の中学校に入学させた。
だが…二人っきりの楽しい生活が始まると思った矢先に、祖母はいなくなった。
残された優香は父が二日に一度寄越す家政婦に家事をして貰いながらずっと一人で暮らしていたのだ。「お嬢様」を欲しがる奇妙な悪魔を呼び出すまでは。

18オカンな悪魔 4:2009/05/15(金) 02:43:43
モウンは優香が「お嬢様」になったら、コレクションとして魔界に連れて帰ると言っている。

コレクションになったら、あたしはどうなるのだろう…。

父の薄暗いコレクションルームが脳裏を過ぎり、優香は身震いをすると部屋の隅のモウンに目を向ける。
モウンは項垂れて動かない。眠っているようにも見える。そっとベッドから降りて、部屋の隅に近づくと、彼は顔を上げた。

「なんだ、睡眠不足はお肌の大敵だといつも言っているだろう。」

眠れないというのなら子守唄でも歌ってやろうか?至極真面目な顔で言う悪魔の前に優香は座った。

「コレクションになったら、あたしをどうするの?」

モウンが訝しげな目で彼女を見下ろす。

「魔界の俺の城に来て貰う。」

彼はあっさりとそう答えた。

「お城!?」

優香が目を丸くする。

「お城持ってるの!?」
「小さいがな、一応俺は爵位を持っている。」
「ええっ、じゃあ公爵様なの!?」

貴族、爵位というとそれしか浮かばない優香が大声を上げる。

「いや、男爵だ…。」

モウンがボソリときまり悪そうに下位の爵位を呟いた。

「でも貴族なんでしょ、なのに、どうしてこんなに家のことがいろいろ出来るの!?」
「規則正しい生活と食事での肉体管理が俺の趣味だ。」

モウンが大きな鼻を鳴らし、ぐっと太い腕を曲げて力瘤を作る。

「そうなんだ…。」

優香が戸惑いつつも納得する。道理でやたら健康管理にうるさいわけだ。

「でも、そうなるとあたし、魔界のお城に行ったら変な液体に沈められて陳列されたり、モウンにアレやコレやされた後、飽きたら魔物にアンナコトされたりするの?」

恐々と上目使いに訊ねる優香にモウンが呆れた溜息をつく。

「…お前、最近ネットで妙なサイトばかり覗いてないか?」

健全な「お嬢様」の精神の為にもフィルタリングを導入しなければならんな。妙に人間界馴れした悪魔が優香の机の上のパソコンをちらりと見る。

「お前は俺の格を上げる為の大事なコレクションだ。そんなことをするか。」

モウンが首を振って、嘆きの息をつく。

「そうなんだ…大事にしてくれるんだ…。」

優香は膝立ちになると彼に詰め寄った。

「じゃあ、ずっと側にいてくれる?」

優香の瞳に揺らめく強い光に戸惑いつつモウンが頷く。

「まあ、俺の城に共に住むのだからな。」
「そっかぁ!!」

優香は思わずモウンの太い黒い首に細い腕を回して抱き付いた。モウンが目を丸くして自分を凝視している。
その顔が何故か可愛くて、思わず笑い出すとそのまま彼の顔に自分の顔を近づける。
ピンクの柔らかな唇が悪魔の大きないかつい唇に重なった。

「お休み!夜更かしはお肌の大敵だもんね!」

優香がモウンから離れるとベッドに飛び跳ねるように戻る。
布団に潜り込む彼女を見つつ硬直している彼に

「頑張って早くモウン好みの「お嬢様」になるね。」

と微笑みかけると目を閉じた。
しばらくして少女の小さな寝息がベッドの中から部屋に流れ出す。

「参ったな…。」

唇を指で撫でボソリと呟く悪魔の声が少女の寝息に混じり、消えていった。


(了)

19オカンな悪魔:2009/05/15(金) 02:47:47
以上です。

失礼しました。

20名無しさん:2009/05/15(金) 18:41:01
>>14
GJ
ほんのり萌え。
モウンがツンデレに思えるのは気のせいかw

21名無しさん:2009/05/16(土) 23:18:04
>>14
半獣型悪魔ktkr
モウンさんは明らかにめいどg(ry じゃなかった 家政ガイ。
お持ち帰りした後のラブエロもみたいです師匠!

22名無しさん:2009/05/18(月) 01:18:05
>>14
優香がどんなサイトででそんな知識を付けたか気になるぜw
GJでした。

23名無しさん:2009/05/29(金) 01:08:34
こういうのも大好物です。GJ!

24オカンな悪魔2:2009/05/31(日) 04:09:41
微エロとストーリー上、話の殆どで人外が人に化けているのでこちらに投下します。

悪魔×少女
NG指定はタイトル「オカンな悪魔2」でお願いします。

25オカンな悪魔2 /1:2009/05/31(日) 04:15:12
『これで冷やせ。』

何故か自分を見て玄関の作り付けの下駄箱に頭を思いっきりぶつけた少女に冷凍庫のアイスノンを手渡す。

『…ありがとう。』

第一印象のショックが大き過ぎたせいか、少女はそれ以上騒ぐことはなくあっさりと礼を言って受け取り、
頭に乗せて『本当に出て来ちゃった…。』と顔を顰めた。

やはりな…。

モウンは赤い瞳を歪めた。
キッチンの床に残っていた稚拙な魔方陣の跡、あんなモノで本当に悪魔が呼び出せるはずがない。
召還の呼び掛けもごく軽いモノだった。本当に、ちょっとした遊びだったのだろう。

だが、利用させて貰う。

少女に見えないように口端に小さい曲線を描く。
モウンの男爵家は元は古代妖魔との戦いで数々の武勲を揚げた侯爵だった。だが時代が流れ、古代
妖魔を地下に封印し、魔界に温い時が流れるようになった今、未だに忠誠心を失わない多くの魔獣軍を
持つ侯爵家はその力を恐れる中央の貴族達の姦計に乗せられて没落、辺境の田舎貴族と成り果てている。

魔王達に媚を売ることしか能が無い連中にここでちょっと一泡噴かせてやるのも面白い。

モウンはゆっくりと口を開いた。

『契約を言え。どんな望みも叶えてやる。だが、望みを果たしたらお前は俺の「お嬢様」コレクションに
なって魔界に来て貰うことになる。』

『望み?どんなことでも良いの?』

少女はアイスノンを頭から外して置くと周囲を見回した。片付き過ぎた部屋に小さく息を吐くと考え込む。

顔立ちは悪くない。スタイルはこれから発育させれば良い。肌が浅黒いのは日焼けだ。襟元の肌の白さと
きめ細やかさに思わず笑みが零れる。それにこの魂の輝きときたら…。

『あたしの望みはね…。』

少女が口を開いた。黒い牛の顔の割烹着をきた大男を見上げ、くすりと笑う。

『あたしをいっしょにこの家で暮らしてくれること。』

こうして悪魔と少女の奇妙な共同生活が始まった。

26オカンな悪魔2 /2:2009/05/31(日) 04:22:28
薄く立ち上る線香の煙の中、黒いワンピース姿の優香が灰色の墓石に白房の数珠を掛けた両の手を合わせている。
蝉時雨が鳴り渡る墓地の、大小様々な墓の間の狭い通路をぶらぶらと歩きながら、モウンは石の弾く
強い夏の日差しに顔を顰めた。
八月半ば、旧盆の昼前。気温は今日も殺人的にグングンと上がり、花活けに飾られた供花がぐったりと
項垂れている。

…まあ、磨けば光る原石だとは思っていたがな。

墓石の間から、ここ五ヶ月間の自分の仕事の成果を眺め、彼は満足げに鼻を鳴らした。
外出の為、モウンは人間の男に変化している。浅黒い四角い顔に大きな鼻、角刈りの身長二メートルは
ありそうな黒いスーツの大男が『「お嬢様」は箸より重いものを持ってはいけない。』という彼の信念から、
優香の可愛らしい女性向けのバックを手に歩いているのを見て、すれ違う参拝客が顔を強張らせ、
こそこそと道を譲っていく。
今日は二人は優香の祖母の墓参りに来ていた。
マンションを出てから、途中の花屋で白い小菊の花束を買い、墓についてから周囲の草むしりと掃除をし、
花を活け、ロウソクと線香を手向けた。その間中、周りの注目を集めまくる連れに、

『モウン、悪いけど少し離れていて。』

と優香が困った顔で頼み、彼は彼女に日傘を離さないよう、しつこいくらい言い聞かせると側を離れたのだ。

しかし…五ヶ月でここまでになるとはな。

少女の横顔を眺め、目を細める。
パサついていた黒髪は光沢を帯び、浅黒く焼けていた肌はうっすらと白さを取り戻している。
発育不良気味だったスタイルも少しは育ち、へこむところはそのままに、出っ張らなければならない
ところは若干サイズアップしている。面立ちも最初に会った頃に比べ、更に明るくなり、
時折浮かんでいた不安げな表情が消えて、落ち着きが漂うようになった。

このまま育てれば…。

自分を小馬鹿にしている連中のコレクションの「お嬢様」を思い浮かべ、ほくそ笑む。

ただ見栄えばかりが良い白痴美人等、比べ物にもなるまい。金と権力の乳母日傘の下ぬくぬくと育ち、
悪魔の保護下で蝶よ花よとふわふわと生きている「お嬢様」等、俺の優香に比べれば…。

モウンが自分を呼び出した二人の少女のうち、彼女を選んだのは魂の輝きの違いからだった。
父母にこれだけ存在を無視され、ただ金だけを与えられている娘なのに、優香は明るさを失わない。
金銭は豊富にあるのだから父母への反抗に堕ちようと思えばいくらでも堕ちられるのに、むやみに乱れることもない。

よほど祖母とやらの育てが良かったのだな。

自分が育てた「お嬢様」に他の悪魔達が目を剥く様を描き、モウンは彼女の前の墓に感謝の意を投げ掛けた。

後はあれに女の色香が漂えば…。

白い肢体を腕に抱く様を思い浮かべる。あの小さなピンクの唇と柔らかな口内を厚い青黒い舌で、
思う存分蹂躙し、知識と拙い自分の手ぐらいでしか知らないだろう悦びを一つ一つ、身体に
教えて込んでいく。そして、いずれは黒い瞳を潤ませ、甘い息を吐きながら擦り寄るように…。
そこまで想像してモウンは奥歯を噛み締めた。ギリッと鈍い音が頭の中に響く。

どうかしている…「お嬢様」は無垢でなければならないというのに…。

欲望と快楽は悪魔の専売特許。だからこそ、「お嬢様」を手元に置くことにはコレクションとしての意義がある。
清らかなモノを汚し堕落させたいという悪魔の本能を押さえ、どこまで「清い」まま手元に置き続けられるか、
これもコレクターの評価の大きな一つなのだ。

なのに…。

あの晩以来、自分の中に澱のように溜まっているもどかしい思いにモウンは顔を顰めると深い息を吐き出した。

27オカンな悪魔2 /3:2009/05/31(日) 04:28:22
「ん…?」

今は周囲に合わせて黒色に変えているモウンの瞳が微かに歪む。

「呼ばれてきたか…。」

夏の日差しに照り光る墓の周りがいくつか陽炎のように揺らめいている。燃えるような暑さの中、
陰気な気配がうっすらと辺りに漂った。
死者の念だ。幽霊と呼ぶにも至らない、残留思念のようなモノである。たぶん、盆参りの人々の故人への
呼び掛けに釣られて出てきてしまったのだろう。蝉時雨と眩しいまでの陽光の中をいくつもふわふわと浮いている。
モウンは鼻を鳴らして、足早に歩き出した。悪魔にしてみれば羽虫ほどにもならない、
空気の揺らぎ程度のものだが、精神的に弱っている人間には悪い影響を与えることもある。
念の為、自分の契約主の少女の元に戻る彼の前を念が過ぎった。
手で払うまでもない、通り過ぎるだけで悪魔に触れたそれはあっけなく消えてしまう…が、周囲を
いくつも漂うそれが一箇所に集まりつつあるのを感じ、モウンは顔色を変えた。

「…優香…。」

その先には優香がいた。祖母の墓の前にうつむいている。胸の前で数珠を握り締めた手が小さく小刻みに
震えているのが見えた。漂う陰気な念は次々と集まり、そんな彼女に纏わり付こうとしている。

「優香!!」

鋭い声で少女の名を呼ぶが聞こえてないのか、顔をあげない。暗い気を背負った少女に引き寄せられるように
念は集まり、その気配を濃くしていく。濃くなった念は徐々に死霊へと変化する。
死霊は弱った人間に憑くと、憑かれた者を更に弱らせ、自分達と同じ世界…死の世界へと誘う。

「優香!!」

死霊に囲まれつつある少女を抱き寄せ、近づくものを目だけ元に戻した悪魔の赤い瞳で追い払う。
しかし数が多い。墓地のあちらこちらから旧盆の迎え火に便乗してやってきた念が次々と集まり彼等を包む。

「おばあちゃん…。」

優香の口からポツリと呟きがこぼれた。彼女の立っていた足元がこの暑さの中濡れている。
小さな顎に手を掛けると指がぬるりと濡れた。顔を上げさせるとうつろな黒い瞳が彼を見上げる。
頬全体が濡れ、わななく口から祖母を呼ぶ声が漏れる。
モウンは奥歯を噛み締めた。どうやら糸が切れたらしい。たった一人、彼女を愛してくれた祖母を亡くして一年半。
ずっと一人で頑張ってきた張りがプツリと切れたようだ。無理もない、まだ14歳、普通でも不安定な年頃だ。

「…おばあちゃん…おばあちゃん…。」

祖母を呼ぶ声が、嘆きと悲しみの念が、祖母ではなく周りの陰気な念を呼び、死霊へと変えている。
モウンは小さく舌打ちをすると口の中で力ある言葉を呟いた。


『優香!!』

遠くで呼ばれる声が少女の頭を通り抜けた。
墓参りに来た彼女の目に映ったのは灰色一色の祖母の墓だった。
旧盆も終わりの一日、周りの墓は花が飾られ、ロウソクと線香が上げられた跡が残っているというのに、
祖母の墓には何一つ置かれていない。

おばあちゃんもひとりぼっちなんだ…。

そう思った途端、何かが自分の中で壊れた。

おばあちゃんもひとりぼっち…あたしもひとりぼっち…。

祖母の墓に祈っているうちにいつしか涙が溢れてきた。
何も無い墓に、たったひとりで暮らしていたころの自分が重なる。

きっとあたしがあのまま一人で死んじゃってもお父さんもお母さんも、おばあちゃんのように
放って置くんだろうな…。

両親には家族など何の意味も持たない。その事実が彼女を只一人愛してくれた祖母の墓にはっきりと印されていた。

『優香!!』

また声がした。と、同時に何か大きくて暖かいものが自分を抱き締める。
太い腕が背中をしっかりと抱える。顎を軽く摘まれ持ち上げられた。

もう、いやだ。こんなところいやだ。おばあちゃんのところへ行きたい…。

「…おばあちゃん…おばあちゃん…。」

祖母を呼ぶと小さな舌打ちの音が聞こえた。少し間を置いて、すっと蝉時雨の音が遠のく。

『…優香…。』

小さな、だが優しい声が耳に響くと唇に大きな暖かなモノが重なった。

28オカンな悪魔2 /4:2009/05/31(日) 04:36:43
暖かい…。

自分を包み込むモノが重なるモノが暖かくて、手を大きな何かに回してギュッとしがみ付く。
何かが自分の背中を優しく撫でている。

…手…?

大きな手が自分の背中の感触を味わうように上下している。上から下へ、下から上へ、ゆっくりと背骨に
そって太い指が動く。

「…あ…。」

気持ちが良い。ぞくぞくするような感覚が背中を駆け上り、息が軽く乱れる。小さく漏れた声を
重なる大きな唇が吸い取る。

「…あ…ん…。」

手は一つはしっかりと優香の腰を抑え、もう一つは彼女の反応に答えるように更に下に下がる。
黒いワンピースのスカートの上から、大きな手が今度は彼女の小ぶりな尻を撫で回す。

「う…ん、…あ…。」

気持ち良さと恥ずかしさに小さく身じろぎをするが腰の手ががっちりと彼女を抑えていて動けない。
手は撫でるだけでなく、指で弾力を楽しむように柔肉を押してくる。

「…やっ…だめ…。」

押される度に甘い感覚が沸き起こる。喘ぎつつ抗議するが声は全て吸い取られてしまう。
しかし、それはしっかり相手には伝わっているらしく、手の動きは段々大胆になっていく。

「…やだ…あん…は…ふ…。」

尻全体を揉みしだかれる。太い指が割れ目に入り柔肉を押し広げなから上下する。
撫でられる度に感覚がますます鋭くなり、ビクリ、ビクリと背中が震える。
いやらしいことをされていると解かっているのに抵抗が出来ない。包み込むような逞しい胸が暖かくて、
重なっている唇が心地良くて、腰に回された手が優しくて、気持ち良くてたまらない。
しがみ付く手に力が篭る。息がますます荒くなってくる。下腹部と足の付け根がだんだんと熱を帯びて、
そこも触れて欲しくなる。
熱い息を吐きながら優香は目を開けた。いつもの黒い牛顔の自分の悪魔の顔がそこにある。
顔を見下ろす赤い瞳は何故か怖いくらい真剣だ。優香は再び目を閉じると自分から伸びをして
唇を押し付けると囁いた。

「…モウン…もっと…。」

その声に手がスカートの中に入り込む。ゆっくりと太ももを外から内側に指が這い上がる。

「…あ…あん…!」

さやさやと鳴る衣擦れの音がひどく恥ずかしい。なのに身体はもっと強い刺激を欲しがる。
そっと閉じた足の力を抜く。それを合図のように指がショーツの縁に掛った。

『お母さん!早く!!』

パタパタと軽い足音が聞こえてくる。小さな男の子の声が側を駆け抜け、次の瞬間二人は慌てて離れ、
互いに飛び退いた。

29オカンな悪魔2 /5:2009/05/31(日) 04:42:07
大きく深呼吸をすると優香はスカートの乱れを直した。ちらりと横目でモウンを見上げると彼は顔を背けて
眉を顰め、何かブツブツと呟いている。

「「お嬢様」は「清らか」でないといけないんじゃなかったの!?」

気持ち良さに負けてつい自分から誘ってしまった恥ずかしさから、つい責める口調で文句を言うと
悪魔はやむえない手段だっただの、不可抗力だの、もそもそと言い訳を始める。

パシン!!

突然、空気の鳴る音がした。さっき自分達を邪魔して…もとい、止めてくれた親子連れが薄い膜のような
揺らぎの向こうで驚いた顔でこちらを見ている。

「調子ついてきたな。」

モウンが周囲を睨み、舌打ちする。

「あっ〜!!」

突然、優香が悲鳴を上げた。

「モウン、元の姿に戻ってる!!それに、もしかしてさっきの皆に見られてた!?」
「…今頃、そこに気が付くか?」

呆れた声に優香は周囲をきょろきょろと見回した。親子連れの他にも墓地にはちらほらと花や桶、
ヒシャクを持った参拝客の姿が見える。少女の顔が真っ赤に染まった。

「やだあ!!もうお嫁に行けない!!」
「行かんでいい!!お前は俺のコレクションだろうが!!」

何故か大声を出した後、モウンが眉間を揉む。

「大丈夫だ、ここは元の世界から薄紙一枚程隔てた異空間だ。こちらからは外が見えるが、向こうからは見えない。」

その答えに優香は赤い頬を両手で押さえつつ、ほっと息をついた。

パシン!!バチン!!

また音が鳴る。バンバンと壁を手の平や拳で叩くような音が重なる。
気味の悪さに慌ててモウンに飛び付くと、彼はしっかりと彼女の肩を抱き寄せた。

「ラップ音だ。死霊が調子ついて鳴らしている。こちらの空間に気付いて、入り込もうとしているモノもいる。」
「死霊?」
「なんなら見るか?今、目の前に沢山並んでいるぞ。ちょっと霊感を高めれば見れるが。」
「…夜、眠れなくなるから辞退致します。」

ぶるりと身震いして優香が丁重に断る。

「そうか。なに、お前が正気に戻ったなら心配は無い。追い払うから待っていろ。」

優香の肩を抱いたまま、モウンは軽く手を振った。ゴウッと音がして参拝客の悲鳴が上がる。
熱い風が墓地を吹き抜ける。墓の前の供花達が大きく揺れた。
風に音が次々と消える。恨みがましい悲鳴のようなものが聞こえ、優香は彼にしっかりとしがみ付いた。
モウンが指を鳴らす。目の前の揺らぎが消え、つんざくような蝉時雨が降ってくる。

「もう、大丈夫だな。」

ギュッと肩を抱く手の強さに隣の悪魔を見上げると、いつの間にか人の姿に変化し直した彼は大きな手で
ワシワシと優香の頭を撫でた。

30オカンな悪魔2 /6:2009/05/31(日) 04:44:14
風に流された日傘を探しに行った悪魔が戻ってくる。

「ちゃんと差していろ。紫外線は肌の大敵だ。」
「うん。」

大きな手からそれを受け取ると優香はモウンの顔を見上げた。
小さく日傘を回して微笑む。

「おばあちゃん…。」

優香は祖母の墓に向き直った。

「あたし、もうひとりぼっちじゃないから。」

甘えるように隣の悪魔の腕に腕を絡める。

「ねえ、モウン。」
「…まあな。」

むすっと答えるモウンに明るい笑顔を向けると腕を離し、もう一度日傘を回して歩き出す。

「お昼食べに行こう!この近くのカレー屋さん、インド風のチキンカレーとナンがおいしい店を教えて貰ったんだ!」
「ああ。」

優香の細い足が弾むように石畳を蹴る。さっきの暗い気から立ち直り、笑顔ではしゃぐ少女を、
悪魔が眩しそうに見詰める。
優香の日傘が細い道を曲がり、木造りの寺の門へと消えた。

「…まさか…この俺がな…。」

モウンの口から真剣な声が漏れた。頭に浮かんだ認めたくない答えに首を振ると、ふと背中に揺らぎを感じる。
優香の祖母の墓、日差しにキラキラと煌く小菊の間に陰気を帯びない念が揺らめきながら現れる。
悪魔は黙ってそれを眺めた。大きく息を吐く。

「早く〜!!何してるのぉ〜!!」

優香の声が自分を呼んでいる。クルリと踵を返し、そちらに足を向ける。

「心配するな。もう決して一人にはしない。」

低い呟きともとれる声が蝉時雨の中、しっかりと響いた。


(了)

31オカンな悪魔2:2009/05/31(日) 04:46:12
以上です。

失礼しました。

32名無しさん:2009/05/31(日) 12:54:18
いいよいいよ!GJ!
お嬢様を育てる悪魔ってのがとてもいいシチュだ!

33オカンな悪魔終:2009/06/14(日) 03:20:41
「オカンな悪魔」の最終話です。

悪魔×少女
和姦 挿入無し。
NG指定はタイトル「オカンな悪魔終」でお願いします。

34オカンな悪魔終:2009/06/14(日) 03:22:57
繊細なバイオリンの旋律のクラシックが会話を邪魔しない程度の音量で静かに流れている。
ピンと張られたシミ一つ無いクロスが敷かれたテーブルには香りを押さえた花が飾られ、
壁には美術展で見るような重厚な質感の油絵が掛けられている。
東京ミシュランにも掲載された創作フランス料理の高級レストラン。
価格破壊の激しい最中、ワインだけで十万円以上取られるレストランの個室で、
優香は目の前の白い皿の濃厚なソースの掛ったステーキを苦労して腹に収めていた。
去年の春から同居している、口うるさいが料理の腕は天下逸品の悪魔の作る薄味の和食のせいで、
夕食に重いモノは胃が受け付けてくれない。
お腹に溜まる食事に小さく息をつくと最後の肉片を飲み込み、背の高いグラスから水を飲んだ。
食が中々進まないのはテーブルに同席している一組の男女のせいもある。
ブランドのスーツを普段着のように自然に着こなした薄い顔の男と、一回ン十万円のエステのお陰で
未だに一つの皺も弛みも無い整った顔の女。

「うむ…例のミシュラン掲載以来、少々味が濃くなったな。」
「押し掛ける大衆客向けに味を変えたのかしら。」

お互い作ったような笑顔で自分に笑い掛ける二人…自分の両親に優香は聞こえないよう深く息を吐いた。

35オカンな悪魔終 /2:2009/06/14(日) 03:26:22
最後に運ばれてきたデザートにほっと息をつくとスプーンを取り上げる。
これまた濃厚な味ののムースに胸焼けしながらも、これで最後と無理をして食べていると、
隣で食後酒を飲んでいる父がチラリと優香を見た。

「お前も今年で中学三年生か…。」
「えっ?そうなの?」

母が驚いた声を上げる。そんな母に小さく苦笑を口端に刻むと父は、彼がいつも取引相手に
そうするように優香を上から下まで値踏みするような目付きで眺めた。

「進学先は決めておくから、今度のテストの結果を送れ。成績次第では受験まで学習プランを立てねばならん。」
「…学校はどこにするの?」

優香の消え入りそうな声の問いにグラスを傾けつつ唸る。

「如月グループの娘に相応しいところだ。全く母さんにも困ったものだ。
あんな平凡な学校に決められたお陰で三年間が無駄になってしまった。」

無駄ときっぱりと言われ、優香の持つスプーンが小さく震え、皿に固い音を立てる。

「だから私が言ったでしょ。海外の学校が良いって。お母様ったらそれでは優香が一人で
可哀想なんていうんだもの。今度こそ海外のお嬢様学校にしましょうよ。良い自慢になるわ。」
「…それじゃあ、今のお友達と離れちゃうよ…。」

小さく抗議する娘に母がコンマ一ミリ単位で整えた細い眉をピクリと動かす。

「あんな一般の学校の子なんてどうでもいいでしょう。新しい学校でもっと格式のある家の子と
付き合えば良いじゃない。」

優香は小さく唇を噛んだ。
いつもこうだ。父と母は自分言うことなど少しも聞きはしないし、自分の気持ちを考えることなど
最初からしようとすらしない。
虚しさの漂う会話に、もうこんな不快な時間は早く終わらせようと無理矢理、皿のムースを口に押し込む。

「それと最近お前のマンションに一緒に住んでいるという男のことだが…。」

父の言葉に優香の口の動きが止まった。

「やだ、この子ったらこの歳で男を部屋に引っ張り込んでいるの?」

母が嘲るような笑みを父に向ける。「誰に似たのかしら?」

「お前だろう。」

あっさりと眉一つ動かさず父は母に言ってのけると優香に向き直り言葉を続ける。

「母さんの知り合いの親戚の男という触れ込みらしいが調べはついている。
どこの馬の骨かはしらんが早々に追い出すからな。代わりに家庭教師兼任の家政婦を入れる。
今度は住み込みで勉強も生活面も厳しくしつけてくれる者をな。」

…モウンと別れさせられちゃう…。

スプーンを握る指が震えながら白くなる。微かにぼやけ始めた視界の向こうで父と母がお互いに
皮肉りながら自分の進路を話し合っている。
完全に自分を置いてけぼりにした会話を聞きながら、優香は必死に二人の前で泣き出してしまわないように
唇を噛み締めていた。

36オカンな悪魔終 /3:2009/06/14(日) 03:29:27
「遅い。」

マンションの入り口でオートロックを開けて、自分の部屋の玄関のドアを潜った途端、
玄関で正座で待ち受けていた割烹着姿の黒い牛頭の悪魔が文句を言う。

「ごめんなさい。」

小さく謝ると大きな手を伸ばし優香の手のバッグを受け取る。

「お前に言っているんじゃない。全く中学生をこんな夜中まで引き回してお前の両親は何を考えているのだ?」

既に日付が変わった時計の針を睨むモウンに、「自分達のことしか考えて無いよ。」と答えそうになって
優香は口をつぐんだ。

「風呂が沸いている。入って来い。着替えももう用意してある。」
「うん。」

いつものように手際の良い悪魔に素直に頷く。
次々と先回りして世話を焼いてくれるモウンの隣がいつも以上に心地良い。バッグの手入れをする為、
自分の部屋に向かう大きな背中に急にすがりつきたくなって手を伸ばしかける。

…別れたくない…!!

先程見た父の薄い笑みが脳裏を横切る。少女は一つ息をつくと腕を下ろし風呂場へと向かった。


風呂場は柔らかなラベンダーの香りが満ちていた。
この一年の付き合いでモウンは、彼女が両親と会ったときは心身共に疲れて果てて帰って来るのを知っている。
薄紫色のお湯に満たされたバスタブで細い手足を伸ばして、優香は湯気の向こうの白い壁を眺めた。

『優香ちゃん、お風呂が沸いているから入ってらっしゃい。』

優しい祖母の声が聞こえる。祖母も彼女が両親と出掛けて帰って来た時は、
この香りのするお風呂を用意してくれていた。

「おばあちゃん、あたしね、モウンに出会ったとき、おばあちゃんの代わりをしてくれる人に会えたと思ったの…。」

小さな声が風呂場に響く。

「でも…今は違うんだ…。」

あの、いっしょに居てくれると言ってくれた晩のキス以来、モウンの態度はわずかながら優しくなってきている。
初めは自分のコレクションの「お嬢様」を育てる為の、手は込んでいるが事務的な世話だったのが、
少しずつ優香の気持ちに合わせてくれるようになっていた。
いつもどんなに遅くなっても玄関で待っていてくれる。落ち込んでいると黙っていても
優香の好きな食事を作ってくれ、なるべく側にいてくれる。
いつも態度はそっけないが、そこには自分への気持ちが込められている気がした。

「…別れたくない、離れたくないよ…。」

声が涙を帯びていく。
ずっと側にいて欲しい。世話を焼いてくれなくていいから、「お嬢様」コレクションのひとつでいいから、
ずっとずっといっしょにいて欲しい。

「…モウン…。」

喉の鳴る音が重なる。湯気以上にぼやけた視界に優香は両手を顔に当てた。ずっと堪えていた涙が零れ落ちる。
しかし、父はやるといったらやる男だ。いずれは自分がそうしたように自分の都合良く嫁がせる
一人娘に悪い噂が立たないよう、モウンをどんな手段を使っても優香から引き離すに違いない。

「やだよ…だって…あたし、モウンのこと…。」

父や母からすれば今の自分の想い等、爪の欠片程にも気にならないモノだろう。
手で顔を覆ったまま優香はどうにも出来ないむなしさにポロポロと泣き続けた。

37オカンな悪魔終 /4:2009/06/14(日) 03:31:54
風呂から上がってパジャマに着替えリビングに入ると、テーブルの上に可愛い花柄のカップが置いてある。

「ジャスミンティーだ。口の中がさっぱりする。」

隣に座った世話焼きな悪魔の声に暖かな金色のお茶を啜る。涼やかな花の香りと共に
口の中に粘ついたまま残っていたムースの味が溶けて流れていく。

「後、これも飲んでおけ。胃薬だ。お前は夜中に重い食事を取ると必ず胃がもたれるからな。」

トレイに乗せて差し出された水と粉薬を受け取り飲み込む。薬の苦味に顔を顰めてジャスミンティーの残りで
口をゆすいでいると大きな黒い手が頭の上に乗った。

「いやに長風呂だと思っていたら、泣いていたのか?気にするな。お前の両親等、俺にかかればどうにでも出来る。」

内容は物騒だが優しい響きの声に顔を上げる。赤い瞳はあの墓参りの出来事以来、どこかいつも自分に暖かい。

…モウン…。

優香は思わず彼に飛びついた。

「おい!?」

いきなり首に抱きついてきた少女にモウンが驚きの声を上げる。
それに構わず優香は彼の背中に手を回すと思いっきり叫んだ。

「あたしを今すぐ魔界に連れて行って!!」
「はぁ!?」
「お願い!あたしを今すぐにモウンのお城に連れていって!!」

抱きつく手に力を込め、呆然としている悪魔に訴える。

「お願い、向こうでモウン好みの「お嬢様」になるから、もしなれなかったらメイドさんでもなんでもやるから、
あたしをモウンの側に置いて!!」
「…おい、優香…。」
「お父さんがモウンをここから追い出すって…。」

また涙が零れ出す。

「お父さんはするっていたら、何でもやってしまう人なの。あたし、モウンと別れさせられちゃう…。」
「おい、お前は俺をいったい何だと…。」
「別れたくないの!!離れたくなんてないの!!」

ギュッとしがみ付き、暖かな大きな肩に顔を埋める。

「…あたし、モウンが好きだよ。大好きだよ。だから、お願い、ずっと側に居させて。」

赤い瞳を丸くしている悪魔に顔を上げ、涙に濡れた目を向ける。
優香はそっと柔らかなビロードのような短い毛に覆われた首から頬へと手を撫でるように回した。
そのままモウンの頬を両手で挟む。ゆっくりと顔を近づけ自分の唇を彼のいかつい唇に重ねると、
目を閉じて強く押し付けた。

38オカンな悪魔終 /5:2009/06/14(日) 03:34:34
…全く、この娘は…。

目を閉じ、すがりつくように自分に口付ける少女の背に腕を回して抱き寄せる。

…どこまで、俺を惑わせれば気が済むんだ…。

いつもなら、連れて行けと訴えた段階で嬉々として魔界に連れて行くところだ。…普通の人間なら。
ゆっくりと唇を動かし、優香の小さな下唇を挟む。そのまま上唇を上げて少女の口を開けると舌を
暖かな口内へと滑り込ませた。

「…んっ…。」

モウンの厚い舌に優香が小さく呻く。チロチロと舌を動かし中をまさぐるとおずおずと彼女は自分の舌を絡めてくる。
一度唇を離し、今度は彼女の口を覆うように口を重ねる。モウンは再度舌を彼女の口の中に潜り込ませた。
拙い動きの優香の舌に強引に舌を絡める。舌を離すと歯列を頬の内側を舌先でなぞる。
クチャリと湿った音がお互いの頭に響いた。

「…ふ…っ…。」

塞がれた口から篭った呻き声が漏れる。
小さな少女の口には余る大きな牛の舌を受け入れているというのに優香は引こうとはしない。
手を首に回しすがりつく少女の身体をモウンはしっかりと抱き締めた。
自分と契約した様々な人間の顔が浮かぶ。永遠の美貌と若さを求め、自ら淫魔となることを望んだ少女、
悪魔の与える快楽を求め身体を投げ出した女、自分から見れば、つかの間の現世での富と名誉を求め
悪魔を喚んだ男、すべて望みを敵えた時点で自分の格を上げる魂のコレクションとして魔界に連れて帰った。

だが…。

暖かな少女の口内を思う存分味わいながらモウンは満たされるような心地良さに酔った。

この娘は、優香は違う。

大きな手で少女の身体をまさぐる。背中から前へ、未発達な小ぶりな胸を軽く揉むと腕の中の細い身体が
ビクリと跳ねる。だが、優香は唇を離そうとしない。小さな舌が口の内を嘗め回すモウンの大きな舌を撫でている。

この娘が求めているのは俺自身だ。

手を少女の股下に伸ばす。パジャマのズボンの上から股間を後ろから前へ何度も撫でる。

「…ふあっ…!」

甘い刺激に反射的に離れようとした頭の後ろに手を回し、強引にキスを続ける。

こいつは俺を…俺そのものを欲しがっている。

太い指で秘裂をなぞる。探り当てた肉芽を指で押し潰すと細い身体が仰け反った。

「…ああっ!!」

強い刺激に優香が思わず口を離す。唾液の糸が二人を繋ぎ、プツリと切れた。
息を乱した少女が濡れた目で自分を見上げている。
モウンは小さく笑むとその細い身体を思いっきり抱き締めた。

39オカンな悪魔終 /6:2009/06/14(日) 03:37:09
「魔界に連れて行けというのなら、連れて行ってやる。」

少女の柔らかな背中を撫でながら、モウンは言い聞かせるように黒い髪の耳元で話し掛けた。

「しかし、本当に良いのか?後悔はないか?人としてやりたいことは残っていないのか?」

畳み掛けるような質問に優香は顔を上げた。

「どうして…そんなことを聞くの?」
「俺は泣いたままのお前を魔界に連れていくつもりはない。」

モウンは顔を顰めると真っ直ぐな優香の視線から目を反らせた。

「どうせなら笑顔の方が良い。その…いつもの笑顔のお前を連れて行きたい。」
「でも…。」
「父親のことなら気にするな。さっきも言ったが俺は悪魔だ。人間の心を変える等造作もない。」
「優しいんだ、モウン。」

優香は思わず笑い出した。両親に今日の夕方、学校から強引に食事に連れていかれて以来、初めて笑ったなと思う。
悪魔は腕の中の少女の笑顔をチラリと横目で眩しそうに見ると大きく息を吐いた。

「…自分でも最近知ったが、どうやら俺は惚れた女にはとことん甘いらしい。」
「え?」

優香は目を丸くした。目の前の悪魔の牛の耳がピクピクと震えている。ゆっくりと言葉の意味を考え、
気がついた瞬間、少女の顔が赤くなった。

「それって、もしかして告白?」
「…うるさい。」

モウンが更に顔を顰める。

「…モウンって照れるとしかめっ面になるのよね。」
「…やかましい。」

むっとした声に笑い出す。明るい弾けるような声でひとしきり笑うと悪魔の胸に寄り添い身体を預けた。
学校の友人達の笑顔を思い浮かべる。つい先日彼岸の墓参りに行った祖母の墓も。

「…皆と同じ高校に行きたいな…後、おばちゃんのお墓もひとりぼっちにしたくない…。」
「契約変更だな。」

モウンがニヤリと笑い、優香に真っ直ぐ顔を向けた。

「俺はお前の側にいてお前を両親から守る。その代わり、お前にはその高校とやらを終え、
祖母の墓をどうするかを決めた後、俺の「花嫁」として魔界に来てもらう。」

モウンの口から出た「花嫁」という単語に優香の頬が再度赤く染まる。

「…もう「お嬢様」にはならなくていいの?」
「これを知ってしまったからな。」

モウンの太い人差し指が優香の股の間に入り込み、まだ痺れが残る肉芽を弾く。

「やぁん!!」

再度与えられた刺激に優香が大きな胸にしがみ付く。

「うずいているだろう。イカせてやろうか?」
「…うん。」

恥ずかしさから胸に顔を伏せ頷く腕の中の少女に悪魔の喉が更に楽しげに鳴り響いた。

40オカンな悪魔終 /7:2009/06/14(日) 03:43:58
優香をソファーに寝かせ、剥き出しにした細い足の太ももに手を掛けて大きく割り開く。
まだ女に成り切らない少女の秘所を眺めてモウンが小さく鼻を鳴らした。
浅い茂み、男を知らないピンク色に割れ目には小さな肉芽が触れて欲しそうに顔を覗かせている。

「…は、恥ずかしいよぉ…。」

消え入りそうな優香の抗議を無視して秘裂を指で開く。

「…ん…。」

小さく呻く声を聞きながら、そっと奥の窪みを指でつついた。

「…つっ!!」

優香が痛みに息を飲む。

「まだまだ、ここはお子様だな。」

ボソリと呟いた悪魔に「その、お子様にいやらしいことしているのは誰よ!」と声が上がる。

「どれ、どのくらいのモノになるか確かめてみるか…。」

モウンは青黒い大きな牛の舌をヌラリと出すとざらついたそれで優香の秘所を下から上へと舐め上げた。

「ひやぁ!!」

覚悟していたとはいえ、予想していたより遥かに大きく甘い刺激に優香が声を上げる。
ゆっくりと表面を軽く覆うように舐めながら、手をパジャマの中に入れる。
下着の中に手を入れるとまだ未発達な胸を撫で回した。

「…うっ…ああ、あっ、ううん…。」

秘所と胸に与えられる刺激に優香が小さく身じろぐ。薄い胸を寄せるように撫で回し、頂に指を触れさせると
更に甘い声が響く。
太い指で両方の頂きをこね、ヌラヌラと舌を動かし秘裂を開くと壁に丁寧に舌を這わす。
ゆっくりと形を確かめるように花弁を嘗め回し、ぷっくりと膨れた肉芽をつついた。

「…あっ!!ああん…はぁ…。」

優香の顔が歪む。小さな手がすがるものを欲しがり彷徨い、
パジャマ越しに下腹に当たるモウンの牛の角を掴むとしっかりと握り締めた。
膝裏に手を掛け、足を高く持ち上げる。大きな舌が少女の太ももを這い上がる。
所々強く吸い付き、赤い跡を散らすと優香が甘さを伴う微かな痛みに小さく呻く。
左右の足の付け根に吸い付き、そこにも跡を残す。舌を秘所に戻し
ほぐすように丁寧に窪みの上をなぞり、つつくと乱れた息と同時に細い身体が震えた。
小さく指を鳴らし、脳裏に自分が愛撫する優香の姿を映し出す。
舌先で肉芽をつつき、くすぐりこねる。最も敏感な部分を弄られて優香が甘い声を上げつつ
反射的に足を閉じようとする。
太ももに掛けた手に力を込めて、それを押し返すと彼女は大きく身をよじり、
角を掴む手に更に力が篭り指が白く染まった。

41オカンな悪魔終 /8:2009/06/14(日) 03:44:54
「ほお…色っぽいな…。」

感心の声を上げると与えられる刺激に敏感になった肉芽に掛った息だけで感じてしまうのか、
優香がぎゅっと唇を噛んで首を振る。ショートヘアの髪がソファーの布に当たりパサパサと音を立てた。

「なかなかのものだ。」

再度股間に顔を埋めると、牛頭の男の角を握り締め、快楽に細い眉を顰め、
閉じた紅色に染まった瞼を震わせて鳴く少女の姿が脳裏に映される。
小さな口は初めて他人から与えられる甘い刺激に大きく開き、喘ぎ声と共に透明な唾液が口端から零れた。

「ああ…ああっ…やだ…あん…やだぁ!!」

細い身体が弓なりに仰け反る。ザラザラとした獣の舌に執拗に秘所を嘗め尽くされ、足の指がビクビクと跳ねる。
固く閉じた瞼から涙が零れ落ちた。

「やだぁ…やだよぉ…。」

想像以上の強い快楽に耐え切れず少女が泣き出す。だが、身体自体は反対に素直に刺激に反応し蜜を零す。
それを見て、まだ何も入ったことの無い胎内に悪魔の舌が滑り込んだ。ヌラリとした感触にヒクッっと喉が鳴る。

「して欲しいと言ったのはお前だろう?」
「でも…でもぉ…っ!!」

もう一度、舌が胎内に入り込む。大きな牛の舌は微かな痛みを伴いながら彼女の身体を開き、中で蠢く。
不可解な、だが確かな今までもよりも身体の奥底に響くような未知の快楽に優香は大きく首を振った。

「やだ!!…やだ、やだぁ!!」

太い指が秘裂を割り、壁を走り、肉芽を撫でる。胎内では大きな舌がうねうねと動く。
直接与えられる鋭い刺激と奥を掘り起こすような刺激、重なる二つの快楽に幼い腰が動き始める。

これは、なかなかのモノになりそうだ…。

上物を手に入れた予感にモウンの口端が綻ぶ。しかも心も自分に夢中の娘だ。

「もう、やだ…やめて、やだ!!…あっ…ああっ!!」

否定の言葉が悪魔をより喜ばせているとは解からず少女が叫ぶ。
自分の身体がより深い快楽を求めて動き出しているとも知らず、腰を振りながら喘ぐ。
奥から蜜が湧き出し、悪魔の舌を刺激する。

ここまでにしておいてやるか…。

ヒクヒクと震える喉と零れる涙に愛おしさを感じながら、モウンは大きく舌を動かし優香の胎内を嘗め上げた。
同時に指で肉芽を摘み押し潰す。

「あっ…あああっ!!」

少女の身体が大きく跳ね、悪魔の舌を締め付ける。甲高い甘い悲鳴の後、細い身体はぐったりとソファーに落ち込んだ。

42オカンな悪魔終 /9:2009/06/14(日) 03:53:33
口の周りについた優香の蜜を青黒い舌で舐め取るとモウンはまだ身体を震わせている少女を抱き締めた。
荒い息をしている口元の唾液を舐め、そのまま軽く口付ける。

「…あの…モウン、その…もう終わり?」

戸惑いつつも聞いてくる声に「最後までして欲しかったのか?」と問うと優香は困った顔で眉を顰めた。

「俺をその辺の年中発情中のがっついた餓鬼と同じにするな。お子様の身体に無理を強いるつもりはない。」
「…お子様じゃないもん…。」

優香がむっとしたように頬を膨らます。「それが、お子様だ。」からかうような悪魔の声に
今度は口を尖らせる。

「どうせ、お前は俺のモノだ。これからゆっくりと教え込んでやる。」

モウンは楽しげに喉を鳴らした。

「このまま処女のまま開発して、挿れて欲しさに自分で股を開いてよがりながら、
俺の上に跨るように仕立て上げても良いな。」
「モウンの変態…。」

頬を染めて抗議する少女に赤い瞳がいたずらめいた笑みを含んだ。

「悪魔を惚れさせたんだ。それくらい覚悟しろ。」
「…う〜。」
「悪魔に惚れたんだ、それくらい我慢しろ。」
「…う〜。」

不満げに唸りつつも自分から離れようとしない少女の頭をモウンは優しく撫でた。

「風呂場に連れていってやるから、身体を洗って、もう寝ろ。お子様はとっくにねんねの時間だ。」

脱がしたズボンと下着を拾って、腕の中の少女に言い聞かせる。

「…お子様じゃないもん。」
「明日は特別好きな時間まで寝ていていいぞ。起きたら軽い食事を用意しておく。」
「うん。」

口では子供では無いと言いつつも優香は幼女のような甘えた笑みを浮かべる。

「高校とやらは自分で決めろ。お前には俺がついている。父親に化けて手続きを取るのも、
後で両親に自分が納得して了解したんだと暗示を掛けるのも簡単に出来るからな。」
「うん!」

心底安心した顔で嬉しそうに笑う優香を黒い牛顔が覗き込む。悪魔はニヤリと笑うと大きく鼻を鳴らした。

「その代わり、これからは「お嬢様」ではなく、俺の「花嫁」に相応しい「淑女」になって貰う。
…もちろん、夜の方もだ。」

黒い手が剥き出しの下腹を撫でる。

「…ん…!」

小さく身を捻り、優香が自分の悪魔を睨み付ける。

「…変態。」
「諦めろ。」

モウンが喉を鳴らして笑った。

「絶対に離さんからな。」
「うん。」

腕を伸ばし、太い首に抱きつく。モウンが優香を抱き上げ、廊下を歩き出す。
二年ぶりに出来た暖かな居場所に少女の顔に花のような笑みが零れる。
優香は自分の悪魔の腕の中に全身を預け、頭を寄せると抱きつく手にしっかりと力を込めた。


(了)

43オカンな悪魔終:2009/06/14(日) 03:55:50
以上これで完了です。

失礼しました。

44名無しさん:2009/06/14(日) 05:10:33
リアルタイム乙
モウンのおかんで紳士なとこが大好きだわ
二人とももっと幸せになっちゃえばいいのに

45変態紳士:2009/06/14(日) 22:17:12 ID:6LRruSgE
GJ!
悪魔なのに優しいモウンに萌えました。

46変態紳士:2009/06/14(日) 22:18:41 ID:6LRruSgE
へ、変態紳士が名前欄w

47変態紳士:2009/06/14(日) 22:47:42 ID:G.DTpj32
GJでした!
顔しかめ&耳ピクピクさせて照れるモウン萌えw
二人でお幸せに〜

48変態紳士:2009/06/14(日) 22:51:13 ID:G.DTpj32
名前欄が 名無しさん→変態紳士 に変わったんだな
びっくりしたw

49859 ◆93FwBoL6s.:2009/06/16(火) 16:36:54 ID:s8VVcypg
絵板67氏のイラストを元に書いてみました。
非エロなのでこちらに投下。ヒーロー×少女で、NGは Hero of Hero!で。

50Hero of Hero! 1 859 ◆93FwBoL6s.:2009/06/16(火) 16:38:14 ID:s8VVcypg
 サニー・サインドはヒーローである。
 誰から決められたわけでもないが、物心ついた頃には、その自覚を持ち合わせて生きてきた。
銀色の体は鋼よりも頑丈で、拳は一撃で岩を粉々に砕き、両足で大地を蹴れば空まで跳躍する。
 人並み外れた力を持ち得て生まれた彼は、当然ながら、良からぬ連中から目を付けられている。
有り体に言えば悪の組織だが、世界征服を目論む彼らにとってヒーローであるサインドは厄介だ。
悪の組織が放つ怪人達は頻繁にサインドへと差し向けられているが、どれもサインドの敵ではない。
理由は簡単、サインドが強いからだ。強くなければヒーローとなど名乗れず、正義など行使出来ない。
 しかし、そんな彼にも唯一の弱点がある。それは、目の前で仁王立ちしている仏頂面の少女だった。
小柄で華奢で、裾がふんわりと広がった少女らしいワンピースの上に青いカーディガンを羽織っている。
少しだけクセの付いた髪は二つに分けて結ばれ、ワンピースに合わせた色のシュシュを付けている。
見るからに非力で、守ってやりたくなるような愛らしさがあるが、今ばかりはそう思えそうになかった。

「たったの三日間、顔を見せなかっただけなのに」

 少女、戸末りくは眉間のシワを深く刻み、小さな唇を曲げ、控えめな胸を張った。

「どうしてこんなに散らかってるんですかっ、サインドさん!」

 二人の現在位置は、サインドの自宅でありリビングであるが、その全てはモノに埋め尽くされていた。
リビングテーブル、ソファー、床、戸棚、テレビ台、引いては電話台に至るまでがゴミに襲われている。
その大半は酒類の空き缶と食料品のパッケージで、リビングと隣接したキッチンまでがゴミ溜めだった。
 りくにじっと睨み付けられたサインドは、やりづらくなって顔を逸らそうとしたが、咳払いが聞こえた。
渋々、オレンジのバイザーを彼女に向けると、りくはゴミを蹴散らしながらサインドに歩み寄ってきた。

「あなたはヒーローなんですから、もうちょっと自覚を持って下さい!」
「持ってる持ってる、持ってるからこうなるんだろうが!」
「いい加減、自分の身の回りぐらいはきちんとしたらどうですか! いい歳してみっともない!」
「だから、俺が何かやろうとすると、決まって怪人が現れてだなぁ!」
「現れたらどうだって言うんですか、怪人が現れない時間の方が明らかに長いじゃないですか!」
「一戦交えたら疲れるんだよ、面倒になっちまうんだよ!」
「それは言い訳です! せめてゴミはゴミ袋に入れて下さい! きちんと分別して下さいね、ヒーローなんですから!」
「だから、しようと思ったらあいつらが出てきて…」
「だから言い訳は聞きません、自堕落なのはあなたの責任です!」

 りくは、サインドの目の前に人差し指を突き出した。

「世界の平和を守る前に、あなたの部屋の平和を守って下さい、サインドさん!」
「…世界に比べりゃ、俺の部屋が汚ぇことなんて」
「何か言いましたか」
「いや、別に」

 サインドはりくの前から一歩身を引き、肩を落とした。りくの言うことは至極もっともで、反論出来ない。
だが、部屋を片付けようとすると、本当に都合悪く怪人が出現して街中で暴れ出してしまうのである。
警察や消防や市長から通報があるので、ヒーローである以上はそちらを優先しなければならない。
そして、怪人と激闘を繰り広げて帰宅すると、当然ながら疲れているので適当に酒を喰らって寝てしまう。
 りくが部屋に訪れなかった三日間はその繰り返しで、自分でもダメだと思ったがどうにも出来なかった。
ヒーローであろうと、所詮は自堕落な独身男である。仕事のために生活が二の次になるのは仕方ない。
その辺のことをりくに理解してほしいと思ったが、口にしたらもっと怒られるので、言えるわけがなかった。
 戸末りくはサニー・サインドの助手である。彼女が怪人に襲われたところを助けたことを切っ掛けに知り合った。
命を助けてもらった恩を返すために、と、りくはサインドの日常や戦闘をサポートする役目を買って出てくれた。
それは非常にありがたいし、おかげでまともな生活を送れるようになったのだが、口うるさいのが難点だ。
だが、それらは全てサインドを思ってのことだと解っているので、鬱陶しいどころかちょっと嬉しかったりする。
 りくはぶつぶつ言いながらキッチンに入り、ガスレンジやシンクの惨状を見て大いに嘆き、冷蔵庫を開けた。
案の定、空っぽだった。何枚もの写真の貼られたドアを閉め、戸棚を開けたが、目当てのゴミ袋はなかった。
これでは、片付けようにも片付けられない。りくは腰を上げてスカートを払うと、部屋の主に言い付けた。

51Hero of Hero! 2 859 ◆93FwBoL6s.:2009/06/16(火) 16:39:46 ID:s8VVcypg
「買い物に行きますよ、サインドさん」
「だったら、プロミネンサーでも出すか?」
「近所のスーパーに行くだけなんですから、最大時速五百キロで空も飛べて賢くて良い子なスーパーなバイク
は必要ありません。近所なんですから、歩いていった方が早いです」
「言ってみただけだ、本気にするなよ」

 サインドは呟きながら、ソファーの背に引っ掛けてあったジャケットを取った。だが、当人は割と本気だった。
りくと買い出しに出ると、荷物が相当な量になるからだ。大半は食材で、その次に多いのが日用品である。
それもこれも、サインド自身がろくに買い出しに行かないからだ。理由は至って簡単で、面倒臭いからである。

「ほら、行きますよ!」

 りくはサインドの袖を掴むと、玄関へと引っ張っていった。 

「へいへい」
「返事は一回です!」
「はいよ」

 サインドはやる気なく答えると、玄関に転がしてあったブーツを履き、りくに続いて部屋を後にした。
早々に階段まで行ってしまったりくは、サインドを急かしてきたので、サインドは自室のドアに鍵を掛けた。
 ビル街の奥に立ち並ぶレンガ造りのアパートを出て並んで歩きながら、りくは延々と説教してきた。
少女の小さな背を追うように歩きながら、サインドはその言葉を半分は聞いて半分は聞き流していた。
 せっかくなんだから並んで歩けばいいのに、とサインドは思うが、りくはサインドと並んで歩こうとしない。
助手としての立場を頑なに守っているので、サインドが馴れ馴れしくしようともあしらわれてしまうばかりだ。

「可愛い顔してんだから、そんなに怒ったら台無しだぜ」

 サインドはりくの背後に寄り、肩に手を回そうとしたが弾かれた。

「そんなことを言っても無駄です、部屋の掃除はサインドさんにしてもらいます」
「そんなんじゃねぇんだけどなぁ」
「じゃあどういうつもりですか、夕ご飯に注文を付ける気ですか」
「何、カレーでも作ってくれんのか?」
「サインドさんの働き次第では考えてあげてもいいですよ?」
「あ、でも、ニンジンは入れるなよ。絶対にだ」
「もちろん入れます、たっぷり入れます。ヒーローなんですから、世のお子様のお手本になるべきです」
「…きっつう」

 サインドは首を竦めてから、りくの横顔を窺うと、不機嫌そうに唇を尖らせていて態度は緩みそうにない。
眼差しは険しく、歩調も早かったが、サインドの歩調に比べれば遅いので彼女に合わせて歩いていた。
いくつかの角を曲がり、車が行き交っている大通りを渡ると、目当てのスーパーマーケットが見えてきた。
店に入ったら、りくは早々に買い出しを終えてしまうだろう。要領も手際も良く、無駄なことはしないからだ。
サインドには、それが残念だった。今日は休日で敵も現れていないのだから、ゆっくりしてもいいではないか。
 ヒーローだって、平穏を味わいたい。

52Hero of Hero! 3 859 ◆93FwBoL6s.:2009/06/16(火) 16:41:02 ID:s8VVcypg
 小一時間後、買い出しが終わった。
 はち切れんばかりに食料品が詰まったエコバッグと、それに入り切らなかった日用品はレジ袋に入れた。
その二つを抱えたサインドは、割と軽いものを持っているりくの背を見下ろしながら、帰路を辿っていた。
買い出しの最中も、サインドは事ある事に叱られた。それというのも、酒とその肴を買おうとするからだ。
 機械の体といえど、人間以上に人間臭いサインドは経口摂取が可能で、分解して動力機関で燃焼させる。
本人にも今一つ構造が解り切っていない内部機関は、消化器官もないのに栄養成分をきっちり摂取する。
そのため、機械の体のくせに酒精は素通りせずに吸収出来、それはもう気持ち良く酔うことが出来てしまう。
もちろん、四六時中飲んでいるわけではないが、ヒーロー稼業は結構ストレスが溜まるので不可欠なのだ。
だが、りくはそれを許してくれない。酒など飲んでいてはヒーローらしくない、というのが彼女の主張である。
確かにその言い分は解らないでもないのだが、ヒーローも生き物なのだから気晴らしがあっても良いだろう。
だが、この数日で酒の買い溜めが尽きてしまった。だから、りくが帰った後にでも買いに出る必要がある。

「サインドさん」

 不意に足を止めたりくは、目を据えて振り返った。

「私が帰った後に、お酒を買いに出ちゃダメですからね。ヒーローなんですから」
「うぐっ」

 あっさり見抜かれ、サインドは呻いた。

「ストレス解消だったら、もっと建設的なことで解消して下さいよ。トレーニングとか必殺技の練習とか」
「俺は実戦こそ最大の訓練だと思うんだがね。戦えば戦うほど強くなるんだよ、俺は」
「だったら、どうして先々週は苦戦したんですか?」
「ありゃ、怪人との相性が悪かったんだよ。水っぽくてぐにゃぐにゃした野郎だったから」
「おまけに光線技も効きませんでしたもんね、あのクラゲの怪人は」
「そうそう、そうだろ? プロミネンサーで体当たりしても跳ね返されるし、ソードで切っても再生しちまうし、
突きも蹴りも大してダメージを与えられないし、あれは傑作の怪人だったぜ」
「だから、私が作戦を立てたんじゃないんですか」

 りくは、少し自慢げに唇の端を持ち上げた。

「ああ、感謝してるぜ。あれは俺じゃなきゃ出来ない戦いだった」

 サインドは先々週の戦闘を思い出し、マスクフェイスの下でにやけた。りくの立てた作戦はこうである。
サインドは、物理攻撃はおろか光線技も効かないクラゲ怪人、ジェロゲに海へ誘い出されるふりをしたのだ。
そして、海中に引きずり込まれたサインドは、動きの鈍る水中で交戦したがやはり劣勢は続いていた。
当然、ジェロゲの攻撃は激しさを増し、度重なるダメージで動きの鈍ったサインドは海底へと投げられた。
だが、それこそが作戦だった。サインドはりくから教えられた海底ケーブルを利用し、ジェロゲに電撃を与えた。
同じ海中にいたサインドも多少なりとも電撃のダメージは受けたが、そこはヒーローなので無事に生還した。

「でも、本来ならサインドさんがそういうことを考えなきゃならないんですからね?」

 りくの強い言葉に、サインドは辟易した。

「助手に志願したのはりくの方だろ? お前の方こそ、そういうことを考えるのが仕事だろうが」
「ええ、そうですね。私としては、もっともっと戦いのことを考えていたいのですが、サインドさんがどうにも
こうにもダメな人なので、私はやるべきことも出来ずに家政婦代わりを努めているというわけです」
「いちいち怒るなよ」
「怒らせているのはどこの誰ですか」
「別に俺は、家のことまでやれっつってるわけじゃねぇんだけどなぁ」
「ああも汚されたんじゃ、嫌でもやりたくなりますよ。それが常識ある人間なら尚のことです」

 りくは路地の角を曲がったが、急にその足が止まった。サインドが駆け寄ると、角の先には異形がいた。
サインドは荷物を置いてりくの前に立ち塞がり、身構えた。オレンジのバイザーに映った者は、怪人だった。
 うねうねと蠢く金属の糸が絡み合った人型の物体は単眼のスコープアイを動かし、ぎゅっとピントを合わせた。
引き摺るほど長い両手足からは、イトミミズのように跳ねる鈍色の金属糸が零れ出し、不規則に揺れていた。
機械と称するには奇妙な外見の怪人は、ぎしぎしと糸同士を軋ませながらサインドを見据え、丸く口を開いた。

53Hero of Hero! 4 859 ◆93FwBoL6s.:2009/06/16(火) 16:42:20 ID:s8VVcypg
「ききききききき。待ち兼ねたぞ、サニー・サインド」
「デートの約束なんてした覚えはねぇぞ」

 サインドが毒突くと、奇妙な怪人はぎゅるりと左腕を回転させて絡み合わせ、いびつなドリルを成した。

「我が名はメタリング、貴様を葬るために生み出された刺客!」
「もう聞き飽きたんだよ、その枕詞は!」

 サインドは駆け出し、メタリングに殴り掛かろうとしたが、拳が頭部を抉る寸前で頭部が弾け飛んだ。
否、糸が解けた。ぶわりと大きく広がった金属糸は、サインドの拳が中空を殴り付けた瞬間に収縮した。
途端にサインドの右腕が糸の中に捉えられ、固定された。解こうとしても、ぎりぎりと硬く締め付けてきた。

「なっ…」
「きききききき、死ねぇっ!」

 左腕のドリルを振り上げたメタリングは、サインドの頭部を狙ったが、サインドはメタリングの胸を蹴った。
メタリングの姿勢を崩させて上体を反らし、その攻撃は回避したものの、右腕はがっちりと固定されたままだ。
それどころか一際締め付ける力が増してきて、このままでは腕自体が圧砕されてしまう、との予感が走った。

「サインドさん、これを!」

 りくはエコバッグからオリーブオイルの瓶を取り出すと、サインド目掛けて放り投げてきた。

「気が利くぜ!」

 サインドは左手でオリーブオイルを受け取り、メタリングの頭部に思い切り叩き付けて瓶を粉々に割った。
器を失ったオリーブオイルが糸の一本一本を伝い、広がると、サインドの右腕を戒める金属糸が少し緩んだ。
僅かな遊びが出来たことを見逃さなかったサインドは、左手でメタリングの頭部の糸を強引に押し広げた。
そして、右腕を引き抜き、油による光沢を帯びたメタリングの頭部を強かに殴り付けてアスファルトに埋めた。
 アスファルトに倒れたメタリングは、ぐしゃりと潰れて頭部の糸が崩れ、赤いスコープアイにヒビが走った。
これなら、倒せないこともない。サインドはジャケットの襟元を直してから、油にまみれた右手を握り締めた。

「さあて、部屋の掃除の前哨戦だ。十秒で片付けてやる」
「ききききききき…」

 金属同士が擦れるような耳障りな笑いを上げたメタリングは、頭部を元に戻し、サインドを仰いだ。

「片付けられるのは貴様が先だ」
「いやあっ!?」

 背後で悲鳴が上がり、サインドが振り向くと、りくが何本もの金属糸に絡み付かれていた。

「いた…ぁ…」

 細い両手足に容赦なく鋼鉄の糸が食い込み、身を捩るとその度に食い込みが増していくようだった。
先程のサインドと同じ状態だが、りくでは訳が違う。彼女の肌や肉など、あっさり切り裂かれてしまう。
露出した手首や脹ら脛には痛々しく赤い跡が付き、もう一息擦られれば、血が噴き出してしまいそうだ。
恐らく、サインドが本体に集中している隙に、メタリングは己を構成する金属糸を放ってりくに絡めたのだ。

「りく!」

 サインドが彼女に駆け寄ろうとすると、ぎゅるりとメタリングは広がり、サインド自身を拘束してきた。

「ききききききき、貴様は確かに強いがアレは別だ。我らの敵にもならぬ、脆弱な人間だ」

 ぎりぎりと締め付けられるサインドの顔の脇に、暗い光を宿した赤いスコープアイが迫る。

「貴様は我らの同胞を倒しすぎた。貴様がしてきたように、アレを切り刻んでくれる。ききききききき、一瞬だぞ。
ききききききき。綺麗だぞ。ききききききき。骨も肉も千切れるんだぞ。ききききききき」
「お前ら怪人は、倒されても仕方ねぇことをしてっからだよ!」

54Hero of Hero! 5 859 ◆93FwBoL6s.:2009/06/16(火) 16:45:22 ID:s8VVcypg

 サインドは関節を軋ませながら抗うが、メタリングは笑い続ける。

「ききききききき。貴様も同じことだ。ヒーローと呼ばれていても、所詮は我らと同じ。我らと変わらぬ。だから、
俺とも変わらない。ききききききき」
「黙りなさい!」

 メタリングの卑屈な笑い声を、りくの叫びが断ち切った。

「サインドさんとあなた達を一緒にしないで!」
「ききききききき。耳障りだ。ききききききき。ならば、その喉から切るぞ。ききききききき。一瞬だぞ」

 メタリングの視線がりくに向くと、りくの体を戒める糸が一本解け、白い首を締め上げた。

「うぐぅっ!」
「調子扱いてんじゃねぇぞ変態がっ!」

 サインドは渾身の力を込めて右腕を上げ、拳にエネルギーを込めてメタリングの頭部を殴り付けた。
りくに気を向けていたためか、まともに拳を受けたメタリングは、サインドに絡めていた解き、戻した。
だが、まだりくの拘束は緩んでいない。それどころか、サインドが攻撃したために強くしたようだった。
バイザーに映るりくの様子は芳しくなく、一刻も早く倒さなければ。だが、未だ勝機が見つからない。
 メタリングは糸で体を成している、切っても再生するだろう。金属なのだから、電撃は通用しないだろう。
ならば、手段は一つだ。サインドはりくに駆け寄り、横抱きに抱えると、地面を蹴って高々と跳躍した。

「ちょっと我慢しろよ、りく!」

 サインドの腕の中でりくは小さく頷き、目を閉じた。背後を見やると、メタリングは追ってきていた。
全身の金属糸を伸ばしてサインドを掴もうとするが、金属糸自体の長さが足りないので届かなかった。
雑居ビルの屋根や給水塔を蹴り、飛び跳ねたサインドは、アパートに隣接したガレージを見据えた。
ガレージの正面目掛けて着地すると、サインドに続いてメタリングも現れ、ぐにょりと潰れて着地した。
 サインドはりくを抱えたまま指を弾くと、ガレージのシャッターが騒音を撒き散らしながら独りでに開いた。
外界からの光が差し込み、闇が晴れると、サインドの外装と近しい色合いの大型バイクが控えていた。
どるん、とエンジンを噴かしてマフラーを鳴らしたバイク、プロミネンサーは忠犬のように主に添った。

「行くぜ、プロミネンサー!」

 りくを抱えたサインドはプロミネンサーに飛び乗ると、片手でスロットルを回してエンジンを噴かした。

「シャイニングバーストォオオオオッ!」

 サインドを中心に赤い閃光が迸ると、プロミネンサーはその名に相応しい炎の鎧を全身に纏った。
焦げるほど高速回転したタイヤがアスファルトを噛み、凄まじい熱量を持った戦士とマシンが飛び出した。
メタリングとの距離は十メートルもない。一瞬と呼ぶには速すぎる速度で両者は接し、一方が蒸発した。
 悲鳴にも似たブレーキ音を立てながら停止したプロミネンサーは、炎を解き、エンジンを咆哮させた。
サインドが振り返ると、メタリングの影はなく、どろどろに溶解して真っ赤に熱した金属の海が出来ていた。
その中に赤い単眼が沈み、弾けた。サインドが彼女を見下ろすと、りくを戒めていた金属糸が外れていた。
喉を解放されたりくは、げほげほと咳き込んでから、前髪をいじって恨みがましくサインドを見上げた。

「サインドさん。前髪が焦げたんですけど」
「文句言うなよ、これしか手段がなかったんだ」

 なあ、とサインドが声を掛けると、主に答えるようにプロミネンサーはヘッドライトを点滅させた。

「プロミネンサーが偉いのは認めます。でも、サインドさんの扱いは荒すぎます」

 サインドの胸を押して下ろさせたりくは、プロミネンサーのカウルを撫でた。

「ねえ、プロミネンサー?」

 りくが微笑みかけるとプロミネンサーは鋭く警笛を上げたので、サインドは唸った。

「…お前らなぁ」
「早く戻らないとせっかく買ったものが盗られちゃいますよ、サインドさん」

 りくが曲がり角の先を示したので、サインドはプロミネンサーから下りた。

55Hero of Hero! 6 859 ◆93FwBoL6s.:2009/06/16(火) 16:47:10 ID:s8VVcypg
「解ってるさ、それぐらい」
「私も用事がありますから行きますけどね。さっき、オリーブオイルをダメにしちゃいましたから」

 りくがサインドに続くと、プロミネンサーが存在を主張するように前輪を上げた。

「プロミネンサーは良い子でお留守番しているんですよ。ね?」

 りくが窘めるとプロミネンサーは素直に従い、バックしてガレージの中に消え、シャッターが閉まった。
その様を、サインドは若干複雑な気持ちで見ていた。相棒が助手に懐いたのは良いが、懐きすぎた。
プロミネンサーはサインドよりもりくの言うことを利くようになってしまい、今ではサインドは二番目だ。

「なあ」

 サインドはりくの少し前を歩いていたが、一旦立ち止まって彼女に向いた。

「なんですか、サインドさん」
「たまには俺を労ってくれよ、今だって頑張って戦ったんだぜ?」
「もちろん、それは認めていますよ。サインドさんは、世界を守るために不可欠な男です」
「そう思うんだったら、もうちょっと、こう、あるだろ?」
「何がですか」

 訝しんだりくに、サインドは腰を曲げてマスクフェイスを寄せた。

「ない、とは言わせないぜ?」

 オレンジのバイザーに映るりくの顔は、不愉快げにしかめられたが、頬の血色が良くなっていった。

「もう…。今回だけですからね」

 りくは苛立ちを押し殺したような、だが心なしか上擦った声で呟き、かかとを上げてサインドに近付いた。
冷ややかな銀色のマスクに花びらのような唇が触れたが、それは数秒にも満たず、りくはすぐに離れた。

「おう、充分充分」

 サインドが笑うと、りくは足早にサインドの横を通り過ぎた。

「私は買い直しに行きますからね! サインドさんは荷物を持って帰って、掃除をしていて下さいね!」
「りくのカレーのためだ、頑張るっきゃねぇだろ」

 サインドがその背を見送りながら呟いたが、りくの背は角を曲がっていったので、聞こえなかっただろう。
金属の肌で感じられるのは、彼女の暖かな体温と吐息ぐらいなものだったが、それだけでも満足だ。
サインドはりくに何かしらのことを言わせる気だったが、まさかキスをしてくれるとは、思い掛けない幸運だ。
意地っ張りで気の強いりくのことだから、言うよりも楽だからそうしたのだろうが、それはそれで嬉しい。
 サインドは姿が見えなくなったりくに目掛けてキスを投げてから、荷物を放置してきた場所を目指した。
りくを落とすのは怪人を倒すよりも厄介だが、だからこそやりがいがあるというものだ、と内心でにやけた。
 世間から注目されているヒーローである以上、言い寄られた女性の数も少なくないが、りくだけは特別だ。
鋼鉄の板の如く靡かないし、滅多に弱みを見せないが、その一方でサインドへの好意を隠し切れていない。
それがまた可愛らしいから困らせてみたくなるが、あまり困らせすぎると本気で怒られるから自重している。
早く部屋に戻り、部屋中を片付けて、りくのお手製カレーを頂こう。それが、今のサインドには最重要事項だ。
 世界は大事だ。だが、愛すべき助手はもっと大事だ。

56859 ◆93FwBoL6s.:2009/06/16(火) 16:52:00 ID:s8VVcypg
以上。特撮と言うより、朝八時台の子供向けアニメみたいな雰囲気を目指しました。
絵板67氏のイラストでニヤニヤと妄想が止まらなくなったので。
サインドさんを崩しすぎた気がしないでもないですが、後悔はしていない。

57変態紳士:2009/06/16(火) 19:42:14 ID:hFzHG5lM
67です、本当にありがとうございます!
イメージぴったりです。
妄想至らないグレーゾーンを描写して頂いたので相乗してこちらも妄想膨らみました!
貴重な小説ありがとうございました!

58変態紳士:2009/06/17(水) 21:33:44 ID:x9l94LN6
これはニヤニヤせざるを得ない、GJ!!

59変態紳士:2009/06/18(木) 07:30:47 ID:uA0A7yNM
GJ!元ネタイラストに萌えてただけに小説もめっちゃ楽しめました!

60859 ◆93FwBoL6s.:2009/06/23(火) 17:39:46 ID:QbIv7UDA
規制中につきこちらに投下。
河童×少女の和姦で、NGは河童と村娘で。

61河童と村娘 番外編1 859 ◆93FwBoL6s.:2009/06/23(火) 17:40:43 ID:QbIv7UDA
 夏の日差しよりも眩しい、白無垢を纏った花嫁が歩いていた。
 付き人の手で赤い番傘を差し掛けられ、母親に手を引かれ、新郎を伴って神社の前を過ぎていく。
新婦の後ろに付いている父親と思しき年配の男性は、紋付き袴に身を包み、厳かな表情だった。
その後ろには親族や参列者が二列に並んでずらりと連なっていて、花嫁の門出を祝っていた。
角隠しを被った花嫁の背後では、穂を膨らませた稲が風に揺らされ、さわさわと波打っていた。
空はどこまでも高く、清々しい青だ。これで雨が降れば狐の嫁入りだよな、と清美は思っていた。
 現世と常世の境目である神社の境内で、最も大きな木である御神木の枝に清美は座っていた。
白い半袖ブラウスと紺色のプリーツスカート姿で、ローファーを揺らしながら花嫁行列を眺めていた。
夫である清滝之水神はその名の通りの水神なので、ぱらりと雨を降らせることなど造作もないだろう。
だが、その妻であろうと清美はあくまでも人間だ。神になる修行もしていないので、神通力などない。
花嫁行列に連なる参列者の一人が御神木を一瞥したが、目線を彷徨わせ、訝しみながら前に向いた。
常世の者である清美は現世の者には見つからないと解っていても、こういう瞬間は少し緊張する。
 花嫁行列は、祝言を挙げるために神社に戻ってくるはずだ。見てみたいが、山に戻らなければ。
うっかり勘の鋭い人間に見つかりでもしたら、清美も困るが、清美を守っているタキを困らせてしまう。
清美が御神木の枝から立ち上がり、スカートを払っていると、ぎしりと背後の枝が軋んで葉が落ちた。

「タキ!」

 清美が振り返ると、揺れの残る枝の上に、緑色の肌と皿と甲羅を持った異形が立っていた。

「清美。祝言か」
「うん。昨日から神社が騒がしかったから、何かなぁって思って」

 清美はぽんと跳ね、河童のいる枝に飛び移った。

「そしたら、花嫁行列だったの。お嫁さん、見たことない人だったから、村の外から入ってきたんだね」
「祝言の終いまで見るつもりか」
「いいよ、そこまで気になるわけじゃないし。神社に長くいたら、私もタキも誰かに見つかっちゃうよ」

 清美は風に乱された長い髪を掻き上げ、耳元に掛けた。

「でも、いいなぁ。お嫁さんかぁ」
「おぬしは儂の嫁だ」
「そりゃそうだけど、やっぱり一度は着てみたかったかも。白無垢とかドレスとか」
「何故に」
「だって、綺麗じゃない」
「そうか」

 タキは少し長めに瞬きしてから、クチバシを開いた。

「清美」
「ん、なあに?」
「しばらく外へと赴く。案ずるな、儂がおらぬとも山は乱れぬ」

 それだけ言い残し、タキは両足を曲げて枝を踏み切ると、大柄な体格に見合わぬ身軽さで跳んだ。
直後、水気を含んだ風が一瞬吹き付け、清美が閉じかけた瞼を開くと既にタキの姿は消え失せていた。

「…いってらっしゃーい」

 清美はいずこへと消えた夫の背に向け、手を振っていたが、御神木から降りて別の木に飛び移った。
せめてどこに出掛けるかぐらい言い残してくれればいいのに、と思ったが、意味が解らないのも事実だった。
 神々は未だに古い地名を使っているので、地理や日本史に明るくない清美にはちんぷんかんぷんなのだ。
だから、以前タキが神々の集まりで遠出する時にも行き先を教えられたが、聞いた傍から混乱してしまった。
清美が現代の地名に言い直させようとしても、タキは現代の地名が解らないらしく、今度は彼が混乱した。
なので、タキは地名に関しては清美に理解させることを諦めたのか、最近ではどこに行くか告げなくなった。
夫としてそれでいいのか、と思わないでもないのだが、必ず帰ってくるので問題ないだろう、とも思っていた。

「タキがいないと、暇だなぁ」

 青い葉が生い茂った木々の枝を飛び跳ねて山の斜面を昇りながら、清美は少し機嫌を損ねていた。
心底惚れ合ってしまったタキは別としても、他の神々とは話が合わず、顔を合わせても話が弾まない。
時には女の子らしい雑談をしたいと思っても、丁度良い相手がおらず、喋り足りなくて悶々とすることもある。
その点、タキは清美がぐだぐだと垂れ流す話を辛抱強く聞いてくれるので、清美には何よりもありがたい。
だが、タキがいなければ暇潰しの下らない話を聞いてくれる相手がおらず、退屈が凌げなくなってしまう。
 現世とは違い、常世には漫画もなければゲームもテレビもない。以前拾った携帯ラジオも電池が切れた。
退屈過ぎて、時折荒ぶる神々の気持ちが解ってきた。滞った時間が長すぎるため、刺激が欲しくなるのだ。
けれど、清美は荒ぶることも出来なければ現世にも出られないので、悶々とすること以外にやることはない。
 夫が帰るまでの辛抱だ。

62河童と村娘 番外編1 859 ◆93FwBoL6s.:2009/06/23(火) 17:42:44 ID:QbIv7UDA
 一週間後。清滝之水神が帰ってきた。
 その日は雲もないのに朝から弱い雨が降っていたので、清美もなんとなく夫の気配を感じ取っていた。
タキの依り代でもあり二人の住処でもある、石碑の中の洞窟から出た清美は、湿った空気を肺に入れた。
石碑から程近い川の上流に向かい、顔を洗って髪を整え、襟を直していると、あの水気のある風が吹いた。
風が吹き抜けてから振り返ると、タキが現れた。清美はタキに駆け寄ろうとしたが、彼の手元に気付いた。
 タキは、見慣れぬ箱を抱えていた。清美には読み取れないほど達筆な字が書かれた、桐の木箱だった。
お帰りなさい、と言ってから、清美は両腕で抱えるほど大きな桐の木箱と表情の解らない夫を見比べた。

「タキ、これってなあに?」
「開ければ解る」

 タキはぺたぺたと水掻きのある足を鳴らし、朝露の付いた雑草を踏みながら、古びた石碑に向かった。
清美もそれに続いて石碑から中に入り、ある種の異空間の中に成されている薄暗い洞窟に入った。
洞窟の中程に至ったタキは、定位置の石に腰を下ろし、桐の木箱を傍らに置いて清美を見上げた。

「清美。おぬしのものだ」
「ってことは、プレゼント?」
「うむ」
「わーい、ありがとう!」

 清美はタキの傍に座ると、箱を受け取り、骨董品か上等な反物が収まっていそうな桐箱の蓋を開けた。
だが、箱に入っていたのは予想に反した真っ白い布で、取り出してみると裾の広がったドレスだった。
ドレスの下からはヴェールまで出てきたが、箱の底にあったというのにどちらも型崩れしていなかった。
同じく純白のハイヒールとガーターベルトにストッキングまで入れられていて、花嫁衣装一式が揃っていた。
柔らかな絹のウェディングドレスは丈が短く、清美は体に当ててみたが、制服のスカートよりも短かった。
バレリーナのチュチュのように裾が大きく広がったタイプのドレスだが、膝上十五センチかそれ以上はある。
清美が戸惑っていると、タキはどことなく自慢げな眼差しで清美を見上げていたので、その意図を察した。

「これ、タキが作ってきてくれたの?」
「少し離れた山に、機織りの神がおる。儂の膏薬と引き換えに成してもらった」
「でも、なんでドレスなの? 神様だったら、白無垢の着物とか打ち掛けとかを作りそうなもんだけど」
「儂が申し出たのだ」

 タキがいつもの調子で述べた言葉に、清美はきょとんとした。

「へ?」
「機織りの神は、儂に比べれば現世のことに明るいのだ」
「だから、ドレスも作れるってわけ?」
「うむ」
「でも、なんで、タキがドレスを頼んだの? だって、なんかそういうキャラじゃ…」
「儂はおぬしの伴侶よ。嫁を飾り立てようと思うのは当然だ」
「ふえ」

 今まで、そんなことを言われたことはなかった。清美が赤くなると、タキは促してきた。

「さあ、着て見せよ。儂の嫁よ」
「うん!」

 清美はドレス一式が入った桐箱を抱えると、洞窟の奥に向かい、込み上がってくる笑みを押し殺した。
村の中を行く花嫁行列を見た時に零しただけなのにドレスを作ってきてくれるなんて、タキは本当に優しい。
着物であっても嬉しかったが、ドレスはもっと嬉しい。見せる相手はタキだけだが、彼一人いれば充分だ。
 タキに嫁いで水神の妻となったが、その際に祝言を挙げることもなく、二人でひっそりと契りを交わした。
神々の世界ではそれが当たり前なので、清美も文句は言えなかったが、本音を言えば祝いたかった。
けれど、あまり我が侭が過ぎてタキに愛想を尽かされたくはないので、言うに言えずに黙っていたのだ。
 その願いが、こんなことで叶ってしまうとは。一週間大人しくしていた甲斐があった、と清美は歓喜した。
滑らかな手触りのドレスを古びた姿見に掛けてから、ブラウスを脱ぎ、スカートを落とし、下着も全て外した。
ガーターベルトは下着の上から付けるものだと知っていたので、裸で付け、その上に再度ショーツを履いた。
両足に白いストッキングを履き、ガーターベルトのストラップで留めてから、ドレスを下から引っ張り上げた。
ドレスはノースリーブで襟ぐりが大きく開いていて、ミニスカートの割には大人っぽい雰囲気があった。
サイズが合うかどうか心配だったが、寸法合わせもしていないのに胸回りも腰回りもぴったりと填った。
ファスナーを上げても、きつくなるどころか丁度良い。清美は腰を捻って、布地に遊びがあることも確かめた。

「おおー!」

 清美は感嘆し、ヴェールを被ってハイヒールを履き、タキの元へと戻った。

63河童と村娘 番外編3 859 ◆93FwBoL6s.:2009/06/23(火) 17:44:16 ID:QbIv7UDA
「タキー、凄いすごーい! 全部ぴったりだよ、靴も丁度良いー!」

 慣れない靴に転びかけたが、姿勢を直し、清美はタキの前に立ってくるりと回った。

「これでちゃんとメイクが出来たら良かったんだけどなぁ、あー、写真撮りたぁい!」

 ドレスの裾を持って頬を緩める清美に、タキは返した。

「無粋なことを申すな」
「えー、なんでなんで?」
「着飾ったおぬしを目にするのは、儂一人で良い」
「…うぅ」

 そこまで言うか。清美は先程以上に赤面し、唸った。

「どれ、儂に見せよ」

 タキが手招いたので、清美はタキに近寄って裾を持ち上げた。

「どう? 似合う?」
「無論だ。儂の見立てだからな」
「えへへへへ」
「儂のおらぬ間、何もなかったか」
「うん。山も川も普通だし、他の神様達も何もしなかったよ」
「そうではない、おぬし自身のことだ」

 タキの分厚い瞼が狭まり、目が細められたが、どことなく意地の悪い表情だった。

「…え?」

 清美が答えに迷っていると、タキは太い指を白い太股に這わせた。

「どれ、確かめてくれる」
「ひあぁっ」

 太股をなぞる冷たい指先の感触に、清美はぞくぞくした。彼は、一体何を確かめると言うのだろう。
いや、解っている。解っているから、逆らう気は起きず、清美は下着に滑り込んできた指先を感じた。
水よりも温いが人間よりは冷ややかな指の腹が、柔らかく陰部をなぞり、清美は唇を噛み締めた。
程なくして、じわりと体の奥から溢れ出してきたものが下着と指に絡み、粘ついた異音を立て始めた。

「相も変わらず、良く滴るものよ」
「だ、だってぇ…」

 清美はタキの肩に縋って立っていたが、膝が折れるのは時間の問題だった。

「ふむ」

 清美の下着の中から指を引き抜いたタキは、自身の水気とは異なる水分を眺め回した。

「手慰みはしておらぬようだな」
「なんで解るの、そんなこと?」
「儂は水神だ。おぬしから溢れるものとはいえ、これも水の内よ。解らぬことなどない」
「解っても言わないでよぉ…」
「何故に」
「だって、恥ずかしいから」
「先日は、おぬしの方から儂に跨ってきたではないか」
「あ、あの時は、なんかこう我慢出来なかったからで、それとこれとは違うっていうか…」

 清美がタキの甲羅に額を当てて呟いていると、タキの指が再び下着に押し入ってきた。

「ん、あ、ぁっ」

 充分に潤った陰部に太い指がぬるりと吸い込まれ、ぐじゅぐじゅと掻き回された。

「あ、あぁ、くぁああっ」

 タキの指は陰部をほぐすように緩く動かされ、その度に膝から力が抜け、頭に血が上ってくるようだ。
たったの一週間離れていただけなのに、寂しくて切なくてたまらなかったが、何もしないで我慢していた。
退屈すぎて息苦しくなる夜もあったが、それでも堪えて、こうして彼に慰められる時を待っていたのだ。
当然、自分でするよりも余程良いからだ。陰部に詰め込まれた指が二本に増えると、とうとう膝が折れた。
だが、どれほど陰部を乱そうとも、肉芽には触れてこない。意地悪なのか、焦らしているだけなのか。
けれど、事を始めるにはドレスを脱がなければ。だから、堪えられるだけ堪えよう、と清美は強く思った。

64河童と村娘 番外編4 859 ◆93FwBoL6s.:2009/06/23(火) 17:46:38 ID:QbIv7UDA
「どれ」

 タキは清美の胸元を覆う布地を下げると、触れられもしないのに尖った乳首をさすってきた。

「あぁあっ!」

 だが、少しも持たなかった。清美が崩れ落ちそうになると、すかさず腰を支えられた。

「して、何を求めるか」

 タキの低い声に囁かれ、清美は薄く汗を浮かべながら喘いだ。

「お願い、触ってぇ…」
「具体的に申せ」
「そんなの、とっくに解ってるくせにぃ…」
「さて、どうだかな」

 タキはにやりと目を細め、じゅぐ、と陰部から白濁した愛液にまみれた指を抜きかけた。

「あ、やだやだぁっ!」

 清美はタキの腕を掴むが、タキは指を引き抜いてしまった。

「おぬしが申さぬから、儂には解らぬのだ」
「うぅ…」

 清美は火照った体を持て余し、喘ぐうちに垂れた涎を拭った。

「いつもはそんなこと言わないのに、なんで急に…」
「整いすぎておると、乱してやりたくなるものでな」
「それが本音?」

 清美がむくれると、タキは汚れていない左手で清美の頬を包んできた。

「気に障ったか」
「ちょっとは。せっかく綺麗なドレスなのに、汚すこと前提で来られちゃ私だって困るよ」
「汚れたとしても、儂の力を与えた水で清めれば元通りになる」
「型崩れしちゃったりしない?」
「その服自体にも神通力が込められておるからな。滅多なことでは破れもせん」
「そう、かもしれないけど…」

 清美は少々困りながら、ドレスの裾を抓んだ。汚れても水洗いで元通りになるのなら、もっとやるべきか。
だが、やはりドレスはドレスなのだ。清美が迷っていると、タキは清美を持ち上げて膝の上に座らせた。

「これは下げぬ方が良かろう」

 タキは大きく広がって膨らんだスカートの下から手を差し込み、潤いが染みた下着を横にずらした。

「そのまま入れちゃうの?」

 清美が期待と躊躇いを交えて漏らすと、タキは充血した肉芽を抉ってきた。

「その前にこちらではないのか?」
「ふぐぅ、あぁっ!」

 高ぶっていた箇所に訪れた強烈な快感に、清美は掠れた声を発した。

「どれ、もっと鳴いてみせよ」
「んぐぁ、あ、あああっ!」

 肉芽を潰されたまま陰部にも指が押し込まれ、清美はタキの腰に絡めた足に力を込めた。

「も、もおダメぇ、それ以上はぁ」
「ならば、儂を求めるか」
「入れて、お願いだからタキの入れて、でないと収まらないぃ…」
「その前に、成さねばならぬことがあるのではないのか?」

65河童と村娘 番外編5 859 ◆93FwBoL6s.:2009/06/23(火) 17:49:43 ID:QbIv7UDA
 タキは清美の胎内から指を抜き、膝の上からも下ろした。

「おぬしを貫こうにも、儂のものが現れなければ出来ぬというものよ」
「あー…」

 タキの股間を見、清美は心底落胆した。彼の胎内に没している男根が、先端すらも出ていなかった。
いつもならとっくに出ているのに、これは妙だ。タキを見上げると、目元は意地の悪い表情のままだった。
となると、先程のことも意地悪なのか。少し腹が立ったが、このままでは収まりが付かないのは本当だ。
 清美はヴェールと一緒に髪を掻き上げ、タキの股間に顔を埋め、男根が没している箇所に口付けた。
端から見れば、実に卑猥な光景だ。神とはいえ、爬虫類の親戚のような異形に花嫁が奉仕しているのだ。
しかも、その中身は女子中学生と来ている。我ながら恥ずかしくなってきたが、清美は愛撫を続けた。
 薄い唇で厚い皮を挟み、体内に潜むものを吸い出すつもりで吸うと、赤黒い逸物が現れてそそり立った。
体液でてらてらと光る亀頭を含み、男根全体を飲み込もうとするが、清美の口では全て受け止められない。
中程まで銜えるのが精一杯で、根元ははみ出してしまうので、残った部分は両手で丁寧に撫でさすった。
しばらく続けていると、男根全体が硬さを増した。もう少しで出そうだ、と察した清美は、根元をきつく握った。

「…ぐ」

 すると、喘ぎなど一度も漏らしたことのないタキが小さく呻いた。

「出しちゃダメ。出すんだったら、私の中で出してよぉ」

 清美は甘ったれた声を出し、タキの男根の根元を握ったまま跨ると、腰を落として陰部に飲み込んだ。

「ふぁ、あああ…」

 だが、手は緩めない。清美が腰を揺すり始めると、タキは目を上げた。

「清美」
「ん、なぁに」

 清美がにんまりすると、タキはクチバシを開いた。

「その手を外してくれぬか」
「だぁめ。だって、タキだって私に意地悪してきたじゃない。おあいこだよ」
「だが…」

 タキが言葉を濁すと、清美は手を緩めぬまま、タキに迫った。

「ね、なんで着物じゃなくてドレスにしたの? 教えてよ」
「大した理由はない」
「嘘だぁ。こんなに短いスカートのドレスなんて、普通は頼まないよ。着物じゃないってことからして引っ掛かるもん。
私にドレスを着せてしたかったんでしょ? ねえ、そうでしょ?」
「儂はそのつもりではなかったのだが」
「じゃあ、どんなつもりでミニスカのドレスなんて頼んだの? ねえ、タキ?」

 清美がくすくす笑うと、タキは苦々しげに答えた。

「ただ、おぬしを喜ばせるようと思うてその服を作らせたのだが、おぬしを見ているうちに妙な気がもたげてな」
「つまり、綺麗な格好をした私にムラムラ来ちゃったってこと?」
「…うむ」
「ふふふふふ、なんか可愛いー」

 清美が肩を震わせると、タキは目元を歪めた。

「何故に」
「だって、タキがそんなこと思うなんて思わなかったんだもん」

 清美は男根の根元を握っていた手を外すと、タキの首に腕を回した。

「もういいよ、一杯出していいからね」
「申されずとも」

 タキは清美の腰を抱き締めると、一息に奥まで貫いた。

「あぁんっ!」

 清美が甲高い声を上げると、タキは清美を組み伏せ、足を大きく広げさせた。

「どれ、乱れてみせよ。儂の嫁よ」
「もう、充分そうなってるってばぁ!」

 荒々しく突かれながら清美が喚くと、タキは言った。

「まだ足りぬ」

 その言葉に、清美は身震いしそうになった。短い一言だが、あらゆる感情が込められていたからだ。
一週間山を空けていたことに対する詫びや、清美に対する並々ならぬ思いといった生々しい感情だ。
普段は表情だけでなく、言葉でも感情を表そうとしない彼だからこそ、やたらと嬉しくなってしまった。
だが、清美にはその気持ちを言葉に出来るような余裕はなく、ドレスに生温い染みが付くほど乱れた。
 夫が愛おしいからだ。

66河童と村娘 番外編6 859 ◆93FwBoL6s.:2009/06/23(火) 17:52:44 ID:QbIv7UDA
 水で清められたドレスが、風を受けてはためいていた。
 青く茂った木々の中に混じる純白のドレスは、山の光景には不釣り合いどころか物凄く異様だった。
だが、洞窟の中は湿気が多くて乾きが悪いので、風通しの良いに干さなければ元通りにならないだろう。
スカートの内側がひどく汚れて型崩れしかけていたが、タキの言葉通り、普通に洗ったら綺麗に落ちた。
それはタキ自身の力なのか、機織りの神の力なのかは解らないが、どちらにせよ神通力とは万能だ。
いつもの制服姿の清美は、手近な木の枝に腰掛けてドレスを眺めながら、意味もなく足を揺らしていた。

「ねーぇ、タキー」
「何用か」

 清美が声を掛けると、眼下に流れる川で泳いでいたタキが立ち上がった。

「今度、私も外に連れていってよ。山の中で留守番しているだけじゃつまんないんだもん」
「おぬしは外に出ずとも良い。必要とあらば、望むものを手に入れてやるが」
「あー、だからドレスなんてプレゼントしてくれたんだぁ。私のご機嫌取りするために?」
「それだけではないのだが…」

 タキは少々ばつが悪そうに語尾を弱めたので、清美は畳み掛けた。

「そりゃ、ドレスは嬉しかったし、ぶっちゃけ毎日退屈だけど、タキがいてくれないと意味がないよ」
「ふむ」

 タキは清美を見上げていたが、クチバシを開いた。

「だが、おぬしを連れられる場所は限られておる。それでも良いか」
「うん。言い付けはちゃーんと守るから」
「ならば、手始めに山神の元を訪れねばならんな」
「え…」

 清美が若干身を引くと、タキは平坦に述べた。

「山神は近隣の山地を統べ、儂らも統べておる神だ。訪ねるのが道理というものよ」
「でも、山神様ってあれでしょ、ヒス持ちで女嫌いなんでしょ? 大丈夫かなぁ…」
「それはおぬしが現世の者であったからだ。常世の者となったのだから、以前ほど嫌われてはおるまい」
「だと、いいんだけど」

 清美が不安げに眉を下げたので、タキは目を細めた。

「何、恐るることはない。おぬしは儂の嫁なのだからな」
「うん、そうだよね。そうだもんね」

 清美は笑みを取り戻すと、ぽんと枝を蹴って飛び降り、タキの泳ぎの波紋が残る水面に身を投じた。
高く水柱が上がったが、清美の体には水面と衝突した際の衝撃は訪れず、水は柔らかく迎えてくれた。
水中に没した清美はプリーツスカートと長い髪を漂わせながら、タキにしがみつき、クチバシに口付けた。
タキは清美の唇を塞ぎ返す代わりに抱き寄せると、水に弄ばれている髪を太い指で優しく梳いてくれた。
 清美は幼すぎて妻の役割を果たせているとは思えないし、水神の妻の身の振り方など知るわけもない。
ドレスの件も、結果として清美の我が侭でタキを振り回してしまったし、これからもそんなことがあるだろう。
そのままタキに甘えて生き続けるのは楽かもしれないが、そんなことではタキの妻になった意味がない。
常世のことや神々については何一つ解らないが、時間は余るほどあるのだから、ゆっくり知っていけばいい。
 そして、愛し合えばいい。

67859 ◆93FwBoL6s.:2009/06/23(火) 17:58:34 ID:QbIv7UDA
以上。通し番号ミスってしまった。
迷惑を被ったのは、タキに無茶振りをされた機織りの神。

68変態紳士:2009/06/23(火) 19:10:37 ID:BqAN82OM
GJ!番外編キタ━━(゚∀゚)━━!!

69変態紳士:2009/06/24(水) 04:21:29 ID:zmruqjJ.
GJ!!! タキの良夫ぶりがいい!!

70植物SHOCK 0:2009/07/05(日) 16:30:40 ID:LNbr9U4c
投下。
姪と叔母さんが植物に巻きつかれる話で、残念ながらあまりエロくないです。
人外アパートを出しましたが、世界観壊したかもしれません。
このレス除いて5レス。NGは「植物SHOCK」でよろしく。

71植物SHOCK 1:2009/07/05(日) 16:31:16 ID:LNbr9U4c
若いのに気難しく、親戚一同と疎遠になっている叔母さんが、派遣切りに遭って引っ越したそうだ。
人づてにそれを聞いた父さんは、叔母さんに連絡をとってうちへ来ることを薦めたらしいが、
断られたのだという。
「まったく素直じゃない妹なんだから……。香織さんとは大違いだね」
「まあっ、典彦さんったら……」
父さんの言葉に母さんが頬を赤らめてぽかぽか叩く。えっと、いつまでこの調子なんだこの二人は。
長年このやりとりを見せられてきた私ですら時々居づらくなる。
「叔母さんが来たがらないのも分かるなぁ……」
「「何か言った? 典香ちゃん」」
二人が微笑んでこっちを見た。
「いや、別に……」

そんなわけで、私は叔母さんの様子を確認しにアパートへやってきた。
「ちょっとボロいなー……」
まぁネカフェ難民とかになるよりはマシなのかもしれないけど。
今は昼間だからただボロいだけだけど、夜になるとお化けでも出そうな……。

ヒュードロドロドロ……

「へっ?」
幽霊が出てきそうな効果音が響いた。慌てて辺りを見渡すと……、
UFOがすぐ近くまで降りてきていた。
「なんと!」
私はあんぐりと口を開けて立ち尽くした。と、後ろから声をかけられた。
「通行の邪魔です、立ち止まらないでください」
「すみません!って叔母さん!?私です典香でーす、お久しぶりで……、じゃなくてそれより
叔母さんUFO!あれUFO!」
「典香……ああ、兄さんの娘ですか」
叔母さんはあくまで無表情に言った。いやそんなことよりUFOが!
「あれ見て叔母さん、UFO!」
「騒がしいですよ、典香」
叔母さんが制すので私は黙り込む。うーむ、この辺りではUFOとか珍しくもなんともないのかも知れない。
しかし、叔母さんは呆れたように私を諭す。
「UFOだなんてサイエンス・フィクションの存在ですよ」
「じゃ、じゃああれは何?」
私は再び空に舞い上がろうとしている銀色の半球を指差した。
「なんですか、もう……」
気だるげに叔母さんも半球の飛んでいく方向に視線を移す。
「あれは飛行機です」
至って真面目に叔母さんは言った。えー……。

72植物SHOCK 2:2009/07/05(日) 16:31:53 ID:LNbr9U4c
叔母さんのアパートには、他にも不思議な現象がたくさんあるようだ。叔母さんの部屋に行く途中も
妙な住民と何度もすれ違った。
「ロボットがなんか喋ってるよ!」
「最近のおもちゃはよく出来ていますね」
おもちゃが、あんな気さくに挨拶してくるかなぁ?

「犬が服着て歩いてる!」
「飼い主の悪趣味だと思います」
すっごく自然に二足歩行してるんだけど……。

「あの人羽生えてる!」
「仮装でしょう。確かコスチューム・プレイというのでしたっけ?」
こんなとこでコスプレする意味は!?

「でっかい虫がいるー!」
「え?」
ここで叔母さんは眉をひそめた。
「バルサンを炊かなくてはいけませんね」
「いやいやいや!」
バルサンが敵いそうなでかさではない。
……なんだこのアパート。
しかし叔母さんは、どんな変なことが起きても現実的な捉え方をするなぁ。その頭の固さに尊敬だ。

部屋に着き、小さなちゃぶ台の前に腰を下ろす。普通に部屋に入れてもらえたことを考えると、
私はそこまで邪険にされてはいないらしい。叔母さんはノートパソコンを立ち上げた。
「叔母さん、今仕事は?」
「アルバイトをしながら新しい仕事を探しています。兄さんにもそう言ったはずなのですが」
「そ、そう……」
淡々と叔母さんは答えた。画面を覗くと、早速職探しをしているらしい。
この熱心さがあればすぐに就職出来そうなもんなのにな……。
父さんによると生真面目過ぎて要領が悪い人なのだという。
「な、何か家事とか手伝うことはない?」
「ありません」
「……」
キーボードの音だけが聞こえてくる。私は窓の外のベランダを見た。ツタみたいな植物が目に入った。
「あ、叔母さん、なんか育ててるの?」
「いいえ。何も」
「じゃあ外のあの草は雑草か何か?」
「隣のお宅のが、こちらまで伸びてきたのでしょう」
視線を画面から外さずに叔母さんは言う。
「お隣ってどんな人?」
「あまり面識はありませんが植物学の博士と、外国人の奥さんが住んでいます」
「ふーん……」
私は立ち上がって、何気なく窓を開けた。

73植物SHOCK 3:2009/07/05(日) 16:32:27 ID:LNbr9U4c

ひゅるるるるる!

「ギャー!」
ツタ動いた! 巻きついた!
ビビった私は植物の絡まった足をバタバタさせた。
「ちょっと叔母さんッ!なんかこれ変!動く!」
「食虫植物だったら、触れたら閉じるのではありませんか」
「そういえばそうだね!」
そっかこれ食虫植物かぁ! って、人間襲う食虫植物ってかなり危険じゃない?
食虫っていうかこいつ触手みたいだし……。
とか考えているうちに、両足両腕に茎が巻きついていて、なんかヤバい状態になっていた。
体が浮かび上がり、ベランダに出された。
「うわああああああ!」
「騒がしいですよ。……え?」
叔母さんがようやく顔を上げた。目をぱちくりとさせている。ようやく驚いた。
そのうちに新しい茎が窓から侵入し、叔母さんも巻き上げられてしまった。
「大丈夫っ?」
「だだだいろうぶでふ!」
相当動揺してるな。あの動じない叔母さんがぶるぶると震えている。これは助けを呼ばなくては。
「誰かー! 助けぐふっ」
大声をあげようとした私の口に、茎の先が突っ込まれた。
「むー! むー!」
むー……諦めるか。
叔母さんに巻きついている方の茎は、叔母さんの胸にふわりと絡みついた。
しっかりアイロンが掛かっているシャツに深い皺が寄る。
「ぁ……」
叔母さんが小さく声を漏らす。そして、その自分自身の声にはっとしたように、
必死で手足を動かして抵抗を始めた。
「い、いけませんお嫁に行けなくなってしまいます……あん……っ」
お嫁に行くこと考えてたんだ、意外。茎は叔母さんの大きな胸を揉みしだくように、いやらしくうごめいている。
「あふぅ……んああッ……!」
私はというと、そんな色っぽい声を出す叔母さんに見とれてしまっていた。
叔母さんはいつもきっちりした服を着ていて、人並み以上にある胸は威圧的で固そうに見えた。
でも、植物の茎が食い込み、されるがままになっている叔母さんの巨乳は、とても柔らかそうなのだ……。
ぼんやりと叔母さんの様子を見ていると、私の口内からずるりと茎の先が抜かれた。
そして、茎の先はそろそろと私の胸に向かってくる。
あ、私も叔母さんと同じ目に?! 私はごくりと唾を飲み込んだ。しかし、

すかっ

茎は私の胸をかすった。
一瞬の停止の後、再び胸に茎が当たるが、軽く服の上を撫でただけに終わった。
ちょっと萎れたみたいだった。
私は悲しくなってきた。いくら私が掴み所のない胸をしてるからって!Aカップブラが余るぐらいだからって!
切なさのあまり私は暴れた。
茎はびくっと震えたが、今度はふっと縛りを緩めた。
「に、逃がひてくれる、の……?」
その考えは甘かった。
うねうね。茎が一斉に波立つ。

「ぶっひゃっひゃっひゃっひゃー!」
私は爆笑した。いや、させられた。体中をやわらかい茎が這い回るのだ。
特に、足の裏と脇の下は繊細な動きでくすぐられている。
「うひーひーひーひー……」
我ながらキモい笑い声だ。鼻水噴いたかもしんない。叔母さんとは別の意味で嫁に行けない。

74植物SHOCK 4:2009/07/05(日) 16:33:01 ID:LNbr9U4c
再び叔母さんの方に目を向けると、叔母さんはぐったりとして目を閉じていた。気絶したのかな、心配だ。
その時、ガラガラと窓の開く音が聞こえ、
「ショクロー! ヤメナサイ!」
片言の女の人の声がした。その声に植物はひるむようにしゅるりと先を丸めた。
犬が尻尾を丸めるみたいだと思ったけど、そう呑気に思ってる場合ではなかったっけ。
「助けてくださーい! あ、HELP! HELP!!」
隣のベランダに出てきた、ほっそりとした人影に向かって助けを求めた。
おそらく外国人の奥さんだろう。
「申シ訳アリマセン、ウチノショクローガゴ迷惑ヲ……」
ひたすら謝るその人は、なんと薄緑の肌に、花びらのような髪をしていた。
と、言っても"外国人"だと聞かされていた人が実は植物人だったなんて、もはや大した驚きじゃないよね。
植物は逃げるように高く高く茎を伸ばし……って、私の体も高々と持ち上げられて怖い!
「降リテキナサイ!」
奥さんは植物を掴んで引っ張り出した。……茎がブチッといっちゃいそうでそれはそれで怖いなー。
はらはらしながら見守っていると、
「ただいまー」
間延びした男の人の声が聞こえた。
「アナタ! ショクローガ!」
「んー、どうしたどうしたー」
呼ばれて出てきたその人は、中年くらいの男の人だった。眼鏡、白衣、ボサボサ髪なところを見ると
博士に間違いない!
「おおー、ついにお外出て遊ぶようになったか、わが息子よ」
博士は絡まれている私達をシカトして目を細めた。つーか、息子って言った?
「ア、アナタ、ソンナ事ヨリオ隣サン達ガ!」
「あ、どうもこんばんはー」
博士は私と叔母さんに向かって会釈したが、それより早く助けてよ。私は足をじたばたさせた。
「おーいショクロー、ミネラルウォーター買って来たぞー」
博士がそう言った途端、私の体が急速に下がっていった。植物が隣のベランダへ戻っていくようだ。
ベランダに着くと私はすぐに解放され、気絶している叔母さんは奥さんがベンチに寝かした。
「ごめんねー、うちの子まだ生まれたばっかだからさー」
博士はそう言いながら、植物の生えた大きな鉢にたっぷりミネラルウォーターをかけた。
「うちの子って……」
「うん、ボクと妻の子。ショクロー」
「……そう見えないんですけど」
人間の形してないじゃん。
「まー今はそうだろうね。ショクローはまだ、普通の植物でいうと子葉の状態だから」
「しよう?」
「朝顔とか昔育てなかった? 芽が出て一番最初は、本来の葉っぱとは違う形の双葉が出てくるでしょ。
それと似た感じだね」
ショクローは二本の茎を揺らした。
「へー……ってことは成長したら……」
「しばらくたったら、多分うちの妻似の美形になるだろうね」
そう言って、博士は奥さんの肩を叩いた。奥さんは緑の頬をピンクに染めて博士の背中を叩き返した。
「モー、アナタッタラ……」
あ、この二人うちの両親と同じ匂いがする。
「あのー、元の部屋に戻りたいんですけどー……」
私がおずおずと申し出ると、博士は、
「あー、そうだった。ショクロー、今晩の肥料調合しとくから、そのうちにお隣さん達を部屋に送っといてくれー」
とショクローに声をかけた。
正直あんまり送られたくなかったけど、今度は丁重に扱ってくれたので良かった。

75植物SHOCK 5(最後):2009/07/05(日) 16:33:38 ID:LNbr9U4c
「んん〜、んー……っ!」
「大丈夫かなぁ……」
私はうなされている叔母さんを見下ろした。
植物人(と人間のハーフ)の子に胸揉まれるとか尋常の経験じゃないからな……。
相当怖がってたし、トラウマになってるかもしれない。
「はっ」
一声あげて叔母さんが起き上がった。
「あ、気付いた?」
「……やはり、夢でしたか」
「えっ?」
「あのような獰猛で野蛮な植物がこの世に、しかも隣のお宅なんかに存在するはずがありません!
悪い夢を見ていました」
いやいや夢オチじゃないよ。
「夢じゃなくてさ、さっきまで私達……」
言いかけて私は口をつぐんだ。夢だって信じたいなら信じさせておけばいいだろう。
っていうかこの叔母さんに説明して納得させるのが難しい。

私はさっき、お隣の夫婦からお詫びとして貰った謎のフルーツを切り分けて持ってきた。
水色にオレンジの斑点というありえない色をしていたので、食べるのにはちょっと勇気が必要だった。
「おいしいですね、典香」
「……うん、意外と普通だ」
スイカっぽい食感のオレンジ味だな……。
私は狭い部屋をぐるりと見回した。すっかり暗くなった窓の外を、流れ星かUFOが横切っていく。
叔母さんの引っ越し先は、なんだか色々と変なアパートだった。
でも、時々様子を覗きに来るくらいなら、楽しい所なのかもしれないな、と私は思った。  (終)

76変態紳士:2009/07/06(月) 02:51:35 ID:kXYAswkQ
GJ!!
巨乳好きの赤ちゃんか、叔母さんのキャラもよい。

77変態紳士:2009/07/06(月) 17:46:30 ID:rjsvy7l2
GJ。
堅い叔母さんの、ある意味徹底ポジティブさに噴いた。
子葉レベルでおっぱいを見分けるとはw 萎えるとはw 将来大物になるな。

78桜嫌い:2009/07/11(土) 01:56:38 ID:vdHuvjRQ
前半が長いうえに非エロなのでこちらに投下します。

・触手型宇宙人×OL
・二人とも二十代前半
・前編は非エロ、エロは後編から
・純愛モノ

NGは「桜嫌い」でお願いします。

79桜嫌い (前編) 1:2009/07/11(土) 02:01:15 ID:vdHuvjRQ
「…そう、こっちに来たの。遊ぼうって、今はね〜桜が咲いているでしょ。
私、桜が嫌いだから、この時期、外に出るのはちょっと嫌なのよね。
そんなこと言って彼とデートじゃないかって?
違うよ、篤とはこの前別れたの。うん、まあ一年の付き合いで遠距離恋愛になっちゃったってのが
無理だったんじゃない?やっぱり会えないってのは大きいよ。
ん?無理してないかって、ううん、私もなんとなく離れたときからこうなる予感はあったし。
なら、余計にどこか出掛けようって?でもなぁ〜。
昔は桜が好きじゃなかったかって?アイツを連れて蕾のころから散る頃まであちらこちらで
花見してたじゃないかって…まあね、でも今は桜餅すら見るの嫌いなんだよね。
アイツ?ああ、アイツなら二年前に自分の星に帰ったよ。うん、それから音沙汰無し。
薄情モンだよね。小学校に中学、高校、大学までいっしょに過ごして世話焼いてやったのに。
うん、ああ、そうなんだ。あさってまでいるんだ。
それなら明日、超大作立体映画の録画キューブ持って来てやるって?
じゃあ、こっちはお菓子とおつまみとビールを山ほど用意しておく。
うん、まあ失恋の愚痴でも聞いてよ。待ってるから、駅に着いたら連絡して迎えに行く。
うん、じゃあね、ありがとう。明日は宜しく。」

ピッと一人きりの静かな部屋に通信カードの通話を切る短い電子音が響く。
私は窓に歩み寄ると薄いレースのカーテンを少し開けた。指先で窓に触れ、偏光ガラスのスイッチを切る。
防犯という意味もあるがこの時期はいつもカーテンを閉め、偏光ガラスを曇の状態にしている。
それはこんなよく晴れた休みの土曜日でもそうだ。
ふわりと春風が舞い、部屋に入り込む。キラキラと明るい日差しに細波を煌かせる大きな川の向こうには、
淡い紅色の花を零れんばかりにつけた桜の木が並んでいる。
私は下唇と小さく噛むとカーテンを引いた。
さっきの大学時代の友人との電話どおり昔は…そう大学四年生の春までは私は桜が大好きだった。
アイツと蕾の頃から満開、散り零れる頃まで桜の名所と呼ばれるところを次々とハシゴし、
花見を始まりから終わりまで思いっきり楽しんだものだ。
そう…あの春までは…。

『美幸、こいつがさ、美幸のこと好きみたいなんだ。付き合ってみたらどうかな?』

そう言って、アイツが別れた彼を引き合わせ、『後はお二人でどうぞ。』と背を向けて
夕日に光る桜並木の下を去って行くまでは…。
その後、空っぽの心のままで夜桜見物をしたあの日までは。
ピンポーン。玄関のチャイムが鳴って私はこの時期はどうしても思い出してしまう
あの夕日の桜の下の背中を頭から慌てて消し去るとドアに向かった。

「誰だろう…。」

来客の予定は無い。宅配だろうか、ここしばらくはネットで通販はしていない。
両親が何か送ってきたのか、それともこの前に出したサイトの懸賞が当たったのか、首を捻りながら
玄関のドアに近づくとチェーンを掛けたまま、慎重にドアカメラのパネルを操作し
モニターに外の様子を映し出した。

『…美幸、居る?』

ドア越しに人の近づいた気配を悟ったのか、私の脳にダイレクトに男の…懐かしい男の声が響く。
ドアホーンを使わず、いや使えず、直接頭に話し掛けてくる男などアイツしかいない。
モニターの向こうにはひらひらと灰色の細い紐のようなものが揺れていた。

「まさか…。」

そうだとしたら二年ぶり、いや三年ぶりだ。あの夕日の桜から私はアイツを意識的に避けていたから。
大学を出ての春、故郷の星に帰るときも出発の宙港のロビーから通信カードに

『長い間、本当にありがとう。美幸と会えて良かったよ。僕は今から星に帰ります、さようなら。』

とメールが届いただけだった。
見送りも出来なかった、させて貰えなかったアイツがなぜ、今…。
息を飲むと震える手でドアを開ける。

『美幸、久しぶりだね。』

春の風が吹き込んでくる。頭に優しく響く穏やかな声と共にそこにいたのは
私を桜嫌いにさせたエイリアンの幼馴染だった。

80桜嫌い (前編) 2:2009/07/11(土) 02:05:05 ID:vdHuvjRQ
『ごめん。連絡も無く急に来ちゃって。』
「ううん、どうせ暇だったから。本当に久しぶりだね、ドラム。」

三年ぶりの幼馴染をリビングに上げた後、私は逃げるようにコーヒーを淹れにキッチンに入った。
思ってもみなかった、しかもまだ心のしこりを抱えたままの対面にどう接すればいいのか
頭が混乱している。
ワザと時間の掛かる旧式のコーヒーメーカーを出し、震える手で粉をフィルターに入れる。
コンロでお湯を沸かし、それを注いでフィルターの粉を蒸らしながら、私は大きく息をついた。

どうして…。

生まれ故郷の星に帰ったドラムが今更、なぜ目の前に現れたのだろう。
しかもあの時付き合うように引き合わされた篤と一週間前に別れた、絶妙のタイミングで。
そっとリビングを覗き込むとドラムは小さなテーブルの前で身体の正面についたモノアイを
キョロキョロさせて部屋を見回していた。

『…美幸ってこんなに綺麗好きだっけ?いつも部屋を散らかしっ放しにしてたから、
てっきり一人暮らしでもバタバタにしてると思ったよ。』

頭に響く陽気な声に「馬鹿…。」と小さく呟きつつ、返事を返す。

「一人暮らしして二年だからね。それなりにしっかりするようにもなるよ。」

確かにこの二年の実家を離れての一人暮らしで家事もきちんとするようになった。
実家の母も「しっかりしてきたものね。」と驚いている。
だが、ここ一週間は酷かった。篤の最後の電話を受けた晩から、罪悪感とそして少しの安堵感、
それに対する更なる罪悪感でまるで家のことなどする気も起きなかった。
ただ、職場と家のベッドを往復するだけの日々。家では食事すら取って無い。
今朝、さすがにこれでは駄目だと思い直し、新規一心を計るつもりもあって
リビングからキッチン、風呂場にトイレ、ベランダまで全部掃除したのだ。
その大掃除で見つけた棚の隅に二年間どうしても捨てられずの置いてあったマグカップを取り出す。
軽い強化プラスチックのカップに黄色い蓋、長い透明なキューブ状のストローがついているそれは、
よく実家に遊びに来て入り浸っていたドラムが使っていたものだ。
二年前、このアパートに引っ越すとき持っていく食器の荷造りをしていたときに、
星に帰ったドラムのカップを母が「これ、どうしようかしら?」と困ったように出してきたのを見て、
思わず貰ってきてしまった。
出来たコーヒーを自分のカップとドラムのカップに注ぐ。冷蔵庫からミルクポーションを一つ出して、
彼のカップにだけ入れてスプーンでかき混ぜる。無意識に冷凍庫から氷を三つ出して
それをカップに入れ溶かしながら、コーヒーをドラムの飲める好みの温度にしている
自分に気がついて苦笑を浮かべた。
そう、小学生の頃から遊びに来る度に、こうしてホットミルクを作ったり、
コーヒーを淹れたりしてきたので身体が彼の好みを覚えてしまっている。
かき混ぜるスプーンを上げ、先から落ちる雫に小さく息をつくとストローを差した蓋を被せて、
私は二つのカップをトレイに乗せて重い足取りでリビングに戻った。

81桜嫌い (前編) 3:2009/07/11(土) 02:14:26 ID:vdHuvjRQ
『そのカップ、持っていてくれたんだ。』

懐かしそうな声を私の頭に響かせて、ドラムは灰色の触指を伸ばすとカップの取っ手を握った。
ライトグリーンのモノアイの瞳が嬉しそうに輝く。
どうしてこんな三流SF映画のヤラレ役に出てきそうなエイリアンが未だに忘れられないのだろう。
私は自分のカップを持って、それを啜りながら懐かしい幼馴染を眺めた。
ドラムは異星人。正確にはM77銀河アリアス星系の第三惑星エアロ星人。
その形状から触手型宇宙人と他の異星人と一纏めで呼ばれることもある。
見た目はまるで歩く小型のドラム缶。灰色の太い胴体に脇から支えるように四本の短い足がついている。
ドラムの名前もそこからきている。本当の名前は地球人では発音出来ないので、
私がつけたあだ名を彼の父がそのまま彼の地球名にしてしまったのだ。
上から四分の一の位置にライトグリーンの瞳の光る単眼がついていて、その少し下、
三分の一の位置から今は二本の触腕が生えている。
自分が地球人の一部に生理的に嫌悪感を覚えさせる容姿をしていることを良く知っている為、
普段は地球人に合わせて調度腕に当たる位置の触腕しか出さないのだ。
しかし、本当はその他に前面、横後方、後面と八本の触腕を持っていることを知っている。
前面四本は先が五本の触指に別れ、それが地球人の手や指の働きをすることも、
後ろの四本は筋肉の束で一本一本が地球人の大人の男一人を容易に吊り上げられることも、
左腕当たる触腕の一番端の触指がどうにも動きが鈍くて困っていることも、
それでいて困ったときや照れたときにモノアイの下を掻くのがその触指だということも。
透明なチューブを頭頂にある口腔に入れて、ミルク入りのコーヒーをドラムが啜る。

『ちゃんと温くしてくれたんだ。』

頭に響く嬉しそうな声に頷き返す。ドラムは声帯を持たないので会話はテレパシーだ。
最も頭に声が響くからといっても人の思念を読み取ったりは出来ない。
口はイソギンチャクと同じように体の天辺にあり、中は歯舌がぐるりと周囲に生えていて、
それで食べ物を噛み潰す。筒のような口だから熱いものは食べられない。
実家によく泊まりに来ていっしょに食事をしたときはドラムに合わせて、
母が彼の分の御飯を冷ましていたものだ。

「どうして地球に?星に帰ってあっちで就職したんじゃないの?」

途切れがちになる会話の沈黙が重くて訊ねると、ドラムはライトグリーンの瞳を
何故かきょときょとと回した。

『今度、うちの会社がこっちに地球支社を出すことになって、
それで地球でずっと暮らしてきた僕が支社の社員に派遣されたんだ。』
「そう…じゃあ、これからはまた地球暮らしなんだ。」
『うん、もう美幸の実家の隣の家は売っちゃったから、今は一駅先の町のおんぼろアパートに住んでいる。
ぼろいけど僕みたいな異星人や亜人が多くて、家賃も安いから住み易いんだ。』
「そう…。」

私はコーヒーを一口飲んだ。いつも以上に苦い味がする。
ドラムの会ったのは小学三年生の頃、異星人街の近くにあった実家の隣に父親の転勤で
家族で越してきたのがきっかけだ。
お隣同士ということもあり、向こうの両親に地球に慣れない息子と仲良くしてやってくれと
頼まれたこともあり、異星人の友達という物珍しさもあって、いっしょに遊んでいるうちに
気が合っていたのか、いつの間にか一番の友達になっていた。
学校の放課後は毎日、日が暮れるまで二人で遊んだし、夏休みもお互いの家でずっといっしょに過した。
花火見物に夏祭り、夏休みの最後、山のように残った宿題を手伝ってくれたのも彼だ。
そのまま同じ校区の中学に上がり、いっしょに受験勉強しながら同じ高校に入った。
学校での友人付き合いの悩みも、勉強の悩みも一番に話せて、一番良く聞いてくれたのも彼、
そして大学は星間貿易の仕事に就きたいと希望していたドラムを追って同じ大学の星間経済学部に入った。

『美幸、こいつがさ、美幸のこと好きみたいなんだ。付き合ってみたらどうかな?』

あの日、毎年の恒例の二人の花見の約束にドラムが同じゼミの篤を連れてきて言った言葉が蘇る。
ぎゅっと手を握り、私は頭の中をこだまする忘れたくても忘れられない言葉を打ち消した。

82桜嫌い (前編) 4:2009/07/11(土) 02:18:41 ID:vdHuvjRQ
「ドラムは向こうに帰ってどうしたの?彼女でも出来た?」

そんな過去にしがみ付いたままの自分が嫌でわざと明るい口調で聞く。
肯定の答えなら…やっと諦められる。別れた篤には悪いけどやっと区切りがつける。

『ううん、仕事が忙しくてさ、出来なかった。相変わらずの寂しい一人身だよ。』

ドラムの困ったような声に思わず安堵が胸を満たす。
それと同時に自分が三年前とちっとも変わってない思いをまだドラムに抱いていることに驚いた。

馬鹿みたい…どこまで私、馬鹿なんだろう…。

苦い、苦いコーヒーを飲み干す。

『美幸は?篤とうまくいってる?』

ドラムのどこか探るような声に私は素直に答えた。

「ううん、一週間前に別れたの。篤、就職して直ぐに支店に転勤になっちゃって。
ダメよね、一年そこそこの付き合いで遠距離恋愛なんてね。
結局、連絡が途絶えちゃって、向こうで新しい彼女が出来たんだって。」

一週間前の後悔と罪悪感が蘇る中、務めて明るく答える。

『そうなんだ…。』

何故かドラムの声が篭ったように響く。コーヒーのカップを置くと彼は小さく左端の触指を震わせた。


『悪い、美幸。こっちで彼女が出来たんだ。別れてくれ。』

篤が電話を掛けて来たのはちょうど一週間前の土曜日、彼が私の家に泊まりに来る日の夜だった。
その日は離れてから尚更感じるようになった彼と会う前の重い気持ちを振り払うように、
朝から掃除をして、買い物に行き、二人分の夕食を作って篤を待っていた。
中々到着の連絡をしてこない篤にこっちから電話を掛けようか迷っていたときに
通話カードの篤用の着信音のメロディーが流れたのだ。
別れの言葉はそれだけだった。多分、それが篤の優しさだったのだろう。
そして彼がわざと私が彼に会う用意を終えたころに電話を掛けたのは
彼の精一杯の私への仕返しに違いない。
心の中でいつまでも他の男のことを考えている私へ、いつも彼をその男と比べている女への。

『そう、そうなんだ。解った。新しい彼女を大事にね。』

『ごめんなさい。』と謝り出してしまわないうちに、私はそう答えて直ぐに通話を切った。
それは篤に余りに失礼だし、彼の男としてのプライドをとことんまで傷つけてしまう。
忘れられない相手が、比べていた相手がエイリアンだなんて。
通話を切って一番最初に胸を満たしたのは安堵だった。
もう無理をして恋人のふりをしなくて済む。本当は好きでもないのに篤の求めるままに抱かれなくて済む。
その後、襲ったのはそう感じる自分へのひどい罪悪感だった。
でも、全く失望は感じなかった。夕日の桜並木の向こうの彼の背中を見送った時のような
胸が空っぽになる思いは微塵も感じなかった。
…そう、無理して付き合っていたのだ。彼が『付き合ってみたらどうかな?』って言ったから、
彼が進めてくれた相手だったから。彼を…友人にしかなれないと知った彼を諦める為に。
でも、篤は彼の代わりにはならなかった。
花火見物のとき浴衣を着て不慣れなゲタで歩く私の横で篤はさっさとスニーカーで歩いていった。
彼はゆっくりと歩調を合わせて、『きばっておしゃれしなくても良いのに。』と笑いながらも
時々立ち止まって休ませてくれたのに。
人込みの中でも、ただグイグイと手を引くだけの篤と違って、彼は私が人に押されて転んだり
倒れたりしないように側にぴたりとついて伸ばした触腕を腰に回してしっかりと守ってくれていた。
具合が悪いときも、落ち込んでいるときも彼は、黙っていれもすぐに察して優しく声を掛けてくれた。
篤との付き合いで知ったのは皮肉にも彼以上に私を見ていて、気に掛けてくれている男が他にいないことと、
そんな彼へいつの間にか抱いていた自分のどうしょうもない思いだけだった。
触手型宇宙人にとって私は恋愛どころか異性としての対象にすらならない。
彼にとっては私を好きな男を紹介出来る幼馴染の友人でしかないというのに。

83桜嫌い (前編) 5:2009/07/11(土) 02:22:42 ID:vdHuvjRQ
「今日はどうしてここに来たの?」

私の問いにドラムは焦ったように触指をそわつかせた。

『久しぶりに地球に来たら、美幸の顔が見たくなってさ。
おばさんに聞いたら意外と近くに住んでいたものだから、
それなら久しぶりに良い天気だし、いっしょに花見にでも行こうかと思ったんだ。』
「ごめん、私、桜が嫌いなんだ。」

精一杯の彼への抵抗で言ってみる。ドラムはライトグリーンの瞳をまん丸にして私を見た。

『嘘…小さい頃からずっと桜が大好きだったじゃないか。二人で毎年いろんなところへ
花見に出掛けたのに…。』
「でも、今は桜餅すら嫌いなの。」

私はぴしゃりと言い切った。

『そんな…。』

ドラムがおどおどと瞳を動かす。左の触腕の一番端の触指がモノアイの下を掻く。
私はそんな彼から視線を逸らした。
だって、だって、ドラムが桜の下であんなことを言うから、恋人でなくても良い、
異性に見られなくても良い、ただいっしょに居るだけで良かった私にあんなことを言うから、
どうあがいても伝わらない思いだということをあの時はっきりと示したから…!!
息苦しさともどかしさに立ち上がる。

「ごめん、用事思い出したの。帰ってくれる?」

私の突然の言葉にドラムがオロオロと触腕を振る。

『暇だって言っていたのに?』
「明日、友達が来るの。その仕度に買い物に行かなくちゃいけないの。」
『だったら、そこまでいっしょに行こう。駅まで見送りくらいしてくれないかな?』
「ごめん、まだ掃除も残っているし。」
『手伝うよ。僕、暇だし。』
「いいから帰って!!」

私はドラムに背を向けてリビングを出て廊下を玄関のドアに向けて歩き出した。
後をドラムが短い四本の足を器用にちょこまかと動かしてついてくる。

『美幸、何を怒っているんだい?』
「怒ってなんかない。」

私は玄関のノブに手を掛けた。
諦めよう、どうあがいても無駄なのはあの時知った。
今日、ドラムに会ったのはきっとこれで諦めなさいということ。
明日は友達と立体映画見て、愚痴って、ビール飲んで、そしてこれからはきれいさっぱり彼を忘れて、
ちゃんと私を異性と見てくれる男と付き合おう。
ノブを回そうとした瞬間、私の体にドラムの触腕が絡みついた。
後方の触腕、重いものでも軽々と持ち上げられる筋肉の束の腕だ。
そのまま、あっという間に廊下へと戻される。とんと背中にドラムの厚い皮膚に覆われた
胸が当たった。シュルシュルと今度は前方の四本の触腕が私の身体に纏わりつく。
細い触指が私の手に重なった。

「ドラム!?」

驚いた私の声に答えるように触腕がギュッと私の身体を抱き締める。

『美幸…。』

聞いたことの無いドラムの熱っぽい声が私の頭に響いた。


(続)

84桜嫌い (前編):2009/07/11(土) 02:24:45 ID:vdHuvjRQ
以上です。

後編は近いうちに投下します。

失礼しました。

85変態紳士:2009/07/11(土) 21:54:37 ID:y/qdLELQ
gj
萌えた。やっぱ過程もいいやなぁ。

86桜嫌い (後編):2009/07/18(土) 15:33:02 ID:n7uOkRAg
後編を投下します。

・触手型宇宙人×OL
・二人とも二十代前半
・エロは4レスあたりから
・純愛モノ

NGは「桜嫌い」でお願いします。

87桜嫌い (後編) 1:2009/07/18(土) 15:35:33 ID:n7uOkRAg
『美幸…。』

頭に響くドラムの声はあるはずもない吐息が感じられるほど熱い。

「ドラム…どうしたの?」

息が詰まりそうな沈黙に問い返すとドラムはギュッと更に触腕に力を込めた。
ドクドクと背中越しに彼の心臓の音が聞こえてきそうだ。

「ドラム、苦しい…。」

いくら手代わりの触腕と言えども、四本の巻きつかれて締められるとさすがに辛い。
小さく身じろぎをしてそう告げるとドラムは『ごめん!!』と触腕を引いた。
慌てて目の下の二本を体の中にしまう。何を焦っているのかグルグルと四本の触腕から別れた触指が絡む。
…自分の腕を絡ます触手型宇宙人って初めて見た気がする。
振り返って廊下に座ったまま唖然としている私の前でなんとか触腕を仕舞うと
ドラムは『あ〜、え〜とぉ〜。』と困ったように、いつもの左側の端の触指で目の下を掻く。
…もしかして…。彼の熱い声と触腕の強さに微かに感じた希望に私は賭けた。

「もしかして、本当は私の顔を見る以外にも何か用があって来たの?」

ビクリとライトグリーンのモノアイが震える。
彼の目の下で動いている不器用な触指をそっと掴んで引き寄せるとドラムは観念したように
瞬きして、私の首から頬に右の触指を這わせた。

『美幸にどうしても会いたくて来たんだ。』

柔らかな触指の感触が懐かしい。

『美幸にどうしてももう一度会いたくて、上司に頼んで地球支社の社員にして貰ったんだ。』
「ドラム…。」

ピクリと手の中で触指が震える。

『篤とうまくいっているんなら、もう黙っていようと思った。でも…さっき別れたって聞いて、
そうしたら我慢出来なくなって、もう一度あの三年前の花見をやり直したくなって…。』

ドラムの触腕が背中に伸びる。そのまま私の身体を彼は自分の身体に引き寄せた。
ドラムの灰色の胸が暖かい。今度は力を込め過ぎないように優しく触腕を絡ませると
ドラムの真剣な声が頭に響いた。

『こんなこと言っても美幸には迷惑なだけかもしれない。でも…。』

希望が少しずつ確信に変わる。私は小さく息を飲んだ。

『美幸、僕、美幸のことが好きだ。』

88桜嫌い (後編) 2:2009/07/18(土) 15:39:41 ID:n7uOkRAg
『ごめん。こんなこと言って。』

頭の中に苦しげなドラムの声が響く。彼は私の身体から触腕を引くと、
ただ目を見張ることしか出来ない私を見詰めた。

「…それって、昔のように幼馴染の友達として…?」

震える声で恐る恐る確認する私にドラムがモノアイの下の瞼を引くつかせる。
これは彼の緊張したときの癖だ。私の声同様震える声が頭の中に響いた。

『違う。異性として、女性としてだ。』

思っても見なかった、でも欲しくてたまらなかった言葉に息が詰まってしまう。
そんな私の強張った顔を嫌悪と取ったのだろう。ドラムは目を逸らして『ごめん。』ともう一度謝った。

『気持ち悪いだけだろ。触手型宇宙人にこんなこと言われても。
ずっと、すっと好きだったんだ。でも僕は地球人にとっては気味が悪いだけの存在だから。』

ライトグリーンの瞳が震える。幼馴染だからこそ、いつもいっしょにいたからこそ知っている
彼に浴びせられた地球人の偏見を思い出して胸が痛む。

『友達で良いって、そばに居られれば良いって思ってたんだ。
美幸は可愛いから他の地球人の男にモテたしね。』
「嘘…。」

そんな記憶は微塵も無い。ふるふると首を振って見せるとクスリと小さな笑い声が頭に響く。

『美幸は余り男性に興味無かったからね。でも本当にモテたんだよ。
その度に美幸を遠慮なく好きになれる男達が羨ましくて仕方が無かった。』

そうか…たぶんそれは私がドラムしか見てなかったからだ。
他の男なんて地球人だろうと宇宙人だろうと見えてなかったからだ。…ずっと彼が好きだったから。

『特に篤は美幸に夢中だった。アイツなら美幸を幸せに出来るって思ったんだ。
だから、美幸を諦めるためにもアイツを美幸に紹介した。』
「だから、あの時、私に篤の恋人になれって言ったの?」

…『美幸、こいつがさ、美幸のこと好きみたいなんだ。付き合ってみたらどうかな?』…

夕方の桜の下のドラムの背中がよみがえる。
小さくドラムが頷く代わりに瞳を上下させる。

『でも、諦めきれなくて、どうしても諦めきれなくて、星に帰って同じ種族の女の人を好きになろうと
頑張ったけど、それも出来なくて…美幸にもう一度だけ会いたくてとうとう戻って来てしまったんだ。』

ドラムがまた私の身体に優しく触腕を這わす。私の唇を触指がそっと撫でる。

『ごめん、美幸。本当にこんな気持ち悪い話をしてごめん。
…でも嫌がらずにちゃんと聞いてくれてありがとう。』

言いたいことを言って気持ちが落ち着いたのか、ドラムは穏やかに瞳で微笑む。

『さようなら。』

ポツリと一言頭の中に呟いて、ゆっくりと短い足を動かして私の横を通り過ぎる。
私は手にまだ残ったドラムの一番不器用な、でも一番彼の感情を素直に表す触指を引っ張った。

『美幸?』

ドラムが振り返る。

「私の返事を聞かなくて良いの?」

私の声に手の中の触指が震える。

『良いよ。解かっているから。大丈夫、もう美幸の前には現れないからさ。』

彼はおどけた声で、しかし微かに語尾を震わせながら告げると背中を向けた。
あの夕日の桜の背中が重なる。私はすがりつくように、それに腕を回した。
あの時、本当はしたかった、でも出来なかったことが今なら出来る。

『美幸!?』

驚いた声が頭に響く。私はそっと触指を離すとそのまま膝を廊下について立ち上がり
彼の頭頂の唇に自分のそれを重ねた。

89桜嫌い (後編) 3:2009/07/18(土) 15:44:19 ID:n7uOkRAg
『美幸…。』
「私もドラムのことが好きだよ。男として。」

私の返事にドラムの身体がビクリと震える。触腕が伸びて、包み込むように私の身体に絡まってくる。

『本当に?』
「馬鹿ドラム。」

優しい触腕に抱かれて、私はわざとおどけたようにドラムのモノアイの下に唇を付けた。

「私がこんなこと冗談でも言わないのはドラムが一番良く知っているでしょ。」
『…うん。』
「ずっと好きだったんだよ。あの時、ちゃんと告白してくれれば篤と無理して付き合わずに済んだのに。」
『…楽しそうに見えたけど…無理してたんだ。』
「だから、桜が嫌いになったんだもの。」
『そうか…本当にごめん。』

謝るドラムの身体にもう一度唇を押し付ける。ドラムがそっと触指で私の手を持ち上げた。

『僕達は愛情表現に地球人のキスの代わりにこうするんだ。』

そっと左の触指が左手に絡まる。最後の一番端の触指が手の端でピクピク動くのを見て
私は小さく笑うと右指で摘んで小指に絡めた。

『美幸、愛してる。』
「私もドラムのこと愛してる。」

暖かな触指が手を包む。代わりに私はドラムの身体に唇を何度も押し付けた。

ドラムの触指がゆっくりと私の身体をなぞるように這っている。
時々ためらう様に胸や足に触っては引いていく様子に私は思わず笑い出した。

「したい?」
『え…?』

目を瞬かせてドラムが聞き返す。

「セックス。」

そう言うとドラムは慌てたように触指を振った。

『でも…!!』
「したいんでしょ。」

重ねて訊くと困ったように左端の触指が目の下を掻く。

『…うん。』
「私もしたい。」

私は灰色の筒のような身体に抱きついた。地球人の男とは全く違う形の身体、でも温かい肌に指を這わす。

「ちゃんと男と女として愛し合えるか確かめたい。」
『僕も。』

私は立ち上がった。そのままドラムの触腕を引いて寝室のドアを開ける。
中に入って窓に歩み寄り、曇の状態の偏光ガラスにカーテンを引く。
薄暗くなった部屋で私はキョトキョトと挙動不審に瞳を動かすドラムを見下ろした。
触腕が部屋の床をソワソワと這っている。
小さく笑うと思い切ってスカートのホックを外した。ストンと床に輪を描いて布が落ちる。
ベッドに腰掛けて靴下を脱ぐとブラウスのボタンに手を掛ける。
さすがに見られながらは恥ずかしいのでドラムに背を向けて全部外して脱ぎ、
軽く畳んでスカートの上に置く。
ちょっとためらった後、ブラの後ろのホックも外した。
私の露になった胸にドラムが目を見張るのが解かる。

「この身体で出来る?」

立ち上がって彼の側に座り、不安に思って訊くとドラムはモノアイの縁を赤くして答える。

『美幸を意識し始めてから、地球人の女の人の身体の方に興奮するようになっちゃったから、
エアロ星人としては変人だけどね。』
「良かった。」

ブラをブラウスの上に置くとドラムに向き直る。

『綺麗だよ。美幸。』

ドラムが瞳を微笑ます。

「ごめん、初めては篤にあげてしまったけど…。」
『良いんだ。意気地の無かった僕が悪かったんだから。』

だからこそ、思いが通じた今、彼に抱かれたい。ずっと内心嫌々ながら篤に抱かれていたから、
大好きなドラムに思いっきり抱いて欲しい。
ドラムが八本の全て触腕を身体から出す。優しく私の身体にそれを這わすとそのまま抱き上げて、
私を自分の元に引き寄せた。

90桜嫌い (後編) 4:2009/07/18(土) 15:49:51 ID:n7uOkRAg
ドラムが私の身体を宙に持ち上げる。力のある後方の四本の触腕が両足のふくらはぎと
お尻を持ち上げて、私は空中でちょうど膝立ちの状態にされた。

「ドラム、愛してるわ。」
『僕もだよ。美幸。』

もう一度言い交わすと彼の頭頂の口へ口付ける。初めは触れる程度に、次に何度も吸い付く。
チュパ、チュパと小さな音が寝室に響く。
私は唇を開いた。舌を出して口の周りを舐めるとドラムがいつもはしっかりと閉じている口腔を開く。
その中に舌を伸ばして入れる。ザラザラと歯舌の生えた中を舌で嘗め回すと
お返しのようにドラムが口腔を広げたり縮めたりしてくる。
と同時に私の裸の上半身を彼の前四本から別れた二十本の触指が撫で始めた。

「…ふっ…ん…。」

深い口付けを続けながら、思わず鼻から甘い息が漏れる。
柔らかな触指が裸の上半身をくまなく撫で回す。胸を触指が這い、こねるように揉まれる。
頂に触れられると思わず彼の口から唇を離して甘い声を上げてしまう。

『ここが良く感じるんだね。』

ドラムが私の胸の頂に触指を絡めて揉み始める。
キュッキュッとリズミカルにこねる様に揉まれると甘い刺激に身体が震える。
篤と遠距離恋愛になって二年。ここ半年は誰にも肌を触れられていない。
自分で慰めたことはあるが、それに物足りない身体がいつも以上に敏感に貪欲になっているようだ。

『ここも弱いみたいだ。』

触指が背中を這う。背骨をなぞるように撫でられると思わず身体が仰け反る。
触指で脇腹を覆われ、私は高い声を上げた。

「…あふっ…ド…ドラム…。」
『気持ち良い?』
「…うん…あっ、ああんっ…。」

恥ずかしいくらい甘い声が出てくる。篤のときは半分演技だったのに、
ドラムだと自然に身体が反応して抑えることが出来ない。
大好きな人にようやく触れられて抱かれている。そのことにひどく興奮している。
上半身をくまなく撫でられて、下半身が、あそこが熱くなってくる。
もどかしさに太ももをすり合わせるとドラムのからかうような声が頭に響いた。

『そこも触って欲しい?』
「…うん。」

小さく頷くとドラムの触指が布越しにそこを襲う。何本もの触指に一度に這われ、腰が跳ねる。

「…あああっ!!」

容赦無い刺激に思わず腰が引ける。だが、がっちりと足に絡みついた触腕がそれを許さない。
お尻を支えていた触腕が腰に絡みつき、逃げる身体を押さえつける。

「やぁ!…あっ、ああっ!!…ダメ…スゴすぎるっ!!」

布越しなのに頭がクラクラするほどの快感が襲う。私は目の前のドラムの身体にしがみ付いた。
身体がこの刺激に喜んで蜜をたっぷりと溢れ出させてくる。

『スゴイ、美幸。こんなに濡れてきてる。』

湿ったショーツにドラムの嬉しそうな声が頭に響くが答えられない。
喘ぐしかない私に小さく感情を抑えたような声が聞こえた。

『篤のときもこんなだった?』
「…違うっ!!」

思わず大声で答える。

「ドラムだからすごく気持ち良いの!」
『そうなんだ。』

嬉しそうな満足したような声が頭に響き、ショーツの布と肌の間からドラムの触指が入ってくる。
ヌルヌルと濡れた私のあそこを何本もの触指が蜜をまとって這い回る。

「…あああああっ!!!」

肉芽も花弁もいっしょくたに撫で回される。甲高い声で鳴く私の胸を更にドラムの触指が揉む。

「やあっ!!だめっ!!」

頂きを触指が絡み付く。あそこでは隅々までくまなく触指が這い回る。
肉芽が一番感じると知ったドラムがそこを重点的に責め始めた。

「…やあっ!!あっああああ!!!やめ、ドラムやめて!!!」

91桜嫌い (後編) 5:2009/07/18(土) 15:53:42 ID:n7uOkRAg
敏感な三点を同時に責められて頭が真っ白になる。
無意識に激しい愛撫から逃れようとする腕を突っぱねるとドラムの触腕が押さえ込む。

『ここがこうかな?』

探るようにドラムの触指が肉芽を何度も何度も擦り上げる。
『それとも…。』声が響くと根元を触指が這いキュッと締め上げられる。

「あっ!あああっ!!おかしくなる!!もうおかしくなっちゃう!!」

必死に叫ぶがそれが返ってドラムを興奮させてしまうようだ。
鳴く私を思う存分楽しむようにドラムはグチュグチュと水音を鳴らし、胸を揉む。

「ドラム!!ドラムぅ!!」

強過ぎる刺激が全身を駆け巡る。ガクガクと震える足に更に動きは激しくなる。
息も出来なくなるくらいの快楽の中私は必死にドラムにしがみ付いた。

「も、もうダメっ!!イクっ!!イッちゃう!!」

私の声に胸の頂、肉芽に触指が何本も絡みつき同時にギュッと締め上げ押し潰された。
ぐっと大きく身体が仰け反る。喉から自分でも聞いたことのないような声が上がる。
今までに無い高い絶頂の瞬間、自分の身体が大量の蜜を吐き出したのを私は感じた。


『スゴイな、美幸。もうベトベトだ。』

荒い息を繰り返すしか出来ない私の足からぐっしょりと蜜が染み込んだショーツを外しながら
ドラムが嬉しそうな声を響かせる。

『そんなに気持ち良かった?』

ぼぉっとした頭で小さく頷く。ドサ…と恥ずかしい音を立てて服の上に脱がされたショーツが落ちた。

『よく見せて。』

ぐっと腰が持ち上がる。腰とお尻を支えたまま大きく足を開かされる。所謂M字開脚というヤツだろう。
空中で私は足を開かされ、あそこをドラムの前に晒された。

「ひっ!!」

ドラムの触指がイったばかりの敏感な所を探る。割れ目を大きく開かされ、
蜜まみれのそこをじっくりと隅々まで見られる。

『綺麗な色をしている。篤とはそんなに寝てなかったんだ。』

コクリと頷く。ようやく息を整えた私は全てを晒された恥ずかしい格好のままドラムに尋ねた。

「ドラムのは?どうなってるの?」
『それは…。』

ドラムの短い足の間、前二本の間から棒のようなモノが付いた触肢が出てくる。
地球人の男性器によく似たモノに太い紐がついたようなものだ。

「これがドラムの?」

そう訊くとドラムは目の縁を赤くした。

『そう僕の生殖肢。』

私はそれに手を伸ばした。『美幸!?』と驚く声を聞き流して口に含む。

『みゆ…!?』

舌をチロチロと頭に這わす。思いっきり奥までほうばって口内を締める。
ほうばり切れなかった部分を指でなでながら私はドラムのさっきのお返しとばかりに
ドラムのモノに愛撫を始めた。

『み…美幸…ん…。』

苦しげな声が頭に響く。形状同様感じるところも地球人の男と変わらないようだ。
頭の割れ目に舌を出し入れしながら、全体を指でなぞる。

『う…うん…っ…。』

私を支えるドラムの触腕がブルブルと震え始める。

「気持ち良い?」

口からドラムのそれを外して、指で愛撫しながら訊くとドラムは瞳を上下させた。

『…でも、どこでそんなにうまくなったんだい?』

少し怒ったような声に「ごめん。」とただ謝るとドラムは小さく笑った。

92桜嫌い (後編) 6:2009/07/18(土) 15:59:45 ID:n7uOkRAg
『これからは僕だけだよ。』
「もちろん、…最初はあげられなかったけど、ドラムで最後にするから。」
『じゃあ、ここももう僕だけのものだ。』

ヌルリと胎内に触指が入る。「ああっ…。」久しぶりに身体の中に何かが入ってくる感触に
ビクリと全身が震えた。
ヌルヌルと触指が胎内で蠢く。『気持ち悪くないかい?』ドラムの声に私は頷いた。

「すごく、良い…。」

蠢く触手が胎内をくまなく探る。普通の地球人の女性なら嫌悪感を伴う感覚だろうと思う。
でも、身も心もドラムにゆだねきった私の身体は普通では味わえない快楽を素直に受け入れる。
力が抜けた上半身を腰を抑えていた触腕がそっと斜めに支えてくれる。

『美幸は良い子だね。ご褒美あげなきゃ。』

ズルリと更に二本、触指が入ってくる。

「…ああ、あああ…。」

増えた触指に素直に甘い息を吐き出すとグチュリ、グチュリと音を響かせて
それは私の胎内を確かめるように動き回った。
奥に響く愛撫に身体が答えドラムの触指をぎゅっと締め付けるのが解かる。

「…はあ…あっ…あああ…。」

空中に身体を横たえ、M字に足を開かれ、そこに三本も触指入れられて喘いでいる私は
きっとAV女優にも劣らない淫らな姿を晒しているに違いない。

「…気持ち良い、ドラム…気持ち良いの…お願い…もっと…。」

なのに口から出るのはおねだりの言葉だ。ドラムがクスリとからかうような笑い声を響かせる。

『僕への御奉仕は?』

言われるままに手を休めて胸の上の乗せていたそれを口に含む。しゃぶるように舐め回すと、
ドラムの呻き声が響いた。
グチャリ、グチャ…私の上と下で湿った音が鳴る。それに混じって篭った呻き声が響く。
ドラムのモノから塩辛い液が溢れてくる。それを私は喜んで啜り、嘗め回した。

『ちょっ…美幸…待って…。』

制止の声が頭に響くがそれを無視して私はドラムのソレに吸い付く。

『うわぁ!!ちょ、ちょっと出る、出るって!!』

ドラムが慌てた声を上げて、私の中をグイッと抉る。

「ああっ!!!」

それがちょうど中の感じる場所で私は口を大きく開けて声を上げた。
慌ててドラムが私の口から自分のモノを引く。

『危なかった…。』

安堵の声に私はジンジンとうずく胎内に喘ぎながら答えた。

「飲んでも良かったのに…。」
『ダメ。これから嫌というほど飲ませてあげるから、今日はこっちで飲んで。』

ドラムのソレが私の割れ目当てられ上下する。ヌチャリと響く音に私は甘い息を吐くと頷いた。

93桜嫌い (後編) 7:2009/07/18(土) 16:01:36 ID:n7uOkRAg
ドラムの触腕が動き、私の身体を支え直して、もう一度空中で膝立ちの状態にされる。
今度は思いっきり足を開かされた状態だ。
濡れたあそこを固くなったドラムの生殖肢の先が水音を立てて撫で回している。
快楽とこれからの行為への期待に喘ぎながらドラムの円筒形の身体にしがみ付いた私に彼の声が響く。

『美幸、もう一度キスしてくれないかな?』
「…うん。」

もう一度、ドラムの頭頂の口に唇を重ねる。細く開いた口腔に舌を差し入れる。
夢中でドラムの口の中を嘗め回す私の頭にドラムのうっとりとした声が響いた。

『挿れるよ、美幸。』

ぐっと固いものが私の中に侵入する。「あああっ!!!」半年振りの男に仰け反る私の頭を
ぐっとドラムの触指が押さえ付ける。
そのまま、押さえられたまま彼の口の中への愛撫を続けさせられる。
グイグイと入ってくるドラムに腰が揺れる。

「…はっ、んんんっ!!」
『…すごい、美幸の中、僕をどんどん飲み込んでいくみたいだ…。』
「んんっ、ふ…んんん!」

まるで飢えているように私の胎内がドラムを締め付ける。

『…美幸、すごいよ、美幸。やっと美幸を僕のモノに出来る…。』

嬉しそうな声が聞こえる。その声に私はドラムの口腔を貪り、腰を揺らしながら答えた。

「ん!!んんんっ!!!」

ドラムに深い口付けしたまま、私は叫び声を上げた。
彼のモノが奥に、奥の奥に突き進んでいる。
触指のときとは全く違う、太くて固いモノで奥を押し広げられる感覚に足が震える。

『…!!…どこまで…入ればいいのかな…!?』

グイっと奥を抉られ、腰が跳ねると押さえ付けるドラムの触指から逃れようと必死に頭を振る。
だが、彼も今は私を気遣う余裕は無いようだ。『……さっきの感じ…だと…。』
喘ぐ声が聞こえ、更に奥に突き進む。

「んん!!んんんっ!!!」

くぐもった声で叫ぶ私の奥を彼は開いていく。何かが最奥に当たる。

「んんんっ!!!」
『…ここが…美幸の…一番深いところだね…。』

ギュッと触腕が私を抱き締めた。

94桜嫌い (後編) 8:2009/07/18(土) 16:05:39 ID:n7uOkRAg
『…僕はどう?美幸。』

ドラムの少し不安げな声が頭に響く。

「…良い…すごく良いよ…奥までしっかり入っている…。」

ようやくディープキスから開放されて、そう答えるとドラムの安堵した息が頭に響く。
自信の無い子供のような彼に私は思わず笑ってしまった。

『動くよ。』

少し拗ねたような声と共に動き出したドラムに水音が鳴り響き、甘い声が部屋にこだまする。
私の頭の中にはドラムの荒い声が響いてくる。

『ここ…ここ、だよね…美幸の弱いところ…。』
「うっ、うん…ああっ!!」

さっき触指で探り当てられた一番感じるところをドラムのソレが擦り上げる。

「ああ…熱い…あっ、もっと…もっと、ドラムぅ…。」

私は大きく腰を振った。先程からの篤では知らなかった深い快感に貪欲に身体が動き始める。

「…気持ち良い…気持ち良いの…ドラムのが…ドラムが…良いの…。」

うっとりと彼にしがみ付き、腰を動かす私にドラムの笑い声が響いた。

『もう…僕じゃないと…美幸はダメだね。』
「だって…だって…ドラム…良過ぎるもの…。」

この一回でもう私の身体は地球人の男では到底満足出来なくなってしまっただろうと思う。

『美幸…もっと…もっと気持ち良くしてあげる…。』
「…えっ!?あっああああああ!!!」

触指がまた全身を這い始める。胸をあそこを這う。肉芽に絡まれて頭の中に火花が散った。

「無理!!無理、ドラム!!ああっあああ!!」

必死に彼にしがみ付く。重なる刺激に達してしまい胎内がドラムを締め上げる。
なのに止まらない。私の頭が再び真っ白になる。

『美幸、もう僕も限界…イクよ…。』

こっちはとっくに限界を越えている。ドラムの動きがそれまでの愛撫から自分が射精するものに変わる。
ぐんぐんと奥を突かれて、私は仰け反った。
もう、何も解からない。身体は更に高みを登り始める。
口から自分とは思えない声と唾液が零れ、頭が空っぽになり、夢中で腰を振る。

「ああっ!!またイクぅ!!ああっドラム!!ドラムぅ!!!」

辿り着いたことのない遥かに高いところに持ち上げられ、叫び声を上げ、私は宙を仰いだ。

『僕も…美幸っ。』

絶頂の波に飲まれ意識が飛ぶ。その時ドラムの熱いものが私の胎内にほとばしったのを感じた。

95桜嫌い (後編) 9:2009/07/18(土) 16:08:48 ID:n7uOkRAg
気がつくと私は裸のままベッドに寝かされていた。すぐ目の前にドラムが灰色の瞼を閉じて眠っている。
彼から伸びた触腕が身体に何本も絡み付いている。
疲れて寝てしまったんだ…。気だるい全身に思わず苦笑する。
あの後、意識が飛んだ私をドラムが風呂場に連れて行ってくれた。
勝手が解からない彼が私を洗おうとして冷水のシャワーを捻ってしまい、それで意識が戻った後、
二人で子供の頃のように洗い合ったのだが…まあ…その…つい、また身体を交えてしまった。
二度目で完全に私がダウンしてしまい、その後、ドラムがベッドまで運んでくれて
ついでに自分も寝てしまったらしい。

『ずっと、よく眠れなかったんだよ。』

身体を洗っているときにドラムが恥ずかしそうに白状した。
地球に来てから私に会おうか、会うまいか、散々悩んで夜中に部屋を歩き回るので、
アパートの人達にうるさいと怒られていたらしい。
そんな彼を起こさないようにそっと身体から触腕を外す。
閉じたままピクピクとひくついている瞼に軽く口付けて私はベッドから出た。
タンスから音を立てないように服を取り出すとそれを身につけ私は部屋を出た。
リビングに行き、カーテンを開けて偏光ガラスを透明に変える。
ガラリと窓を開けると春風と共に夕方の日差しに映える桜並木が目の前に広がった。

「綺麗…。」

思わず感嘆の声が出る。窓の側に座って私は今まで見ることを避けていた夕陽の桜を眺めた。
金色の光に川の水面が光る。薄紅色の桜が川面に腕を差し伸べんばかりに枝を伸ばし、
ぼんぼりのような花を咲かせている。
ちらちらと散る桜の花びらさえ見えそうな光景にうっとりと私は見入った。

『美幸。』

優しい声が頭に響く。ペタペタとフローリングを歩く足音が背後から近づくと
隣に灰色の円筒形のエイリアンが座る。柔らかな触腕が肩を抱いた。

「ごめん。起こしちゃった?」
『…目が覚めたら美幸が居ないからさ。不安になっちゃって…。』

グイと引き寄せられる。『また夢かと思った。』ドラムの情け無い声に笑い出す。

「あんなに気持ち良いことをたくさんしたのに?」

笑いながらライトグリーンの瞳を覗くと目の縁が真っ赤に染まった。
左の一番端の触指がモノアイの下を掻く。

『夢じゃないよね。』
「夢じゃないよ。」

夢のような幸せな時間だったけど夢じゃない。これからもずっと続くのだから。
私はドラムの身体に寄り掛かった。

『綺麗だね。…桜嫌い治った?』

いっしょに桜を眺めるドラムの声が頭に響く。

「うん。」

頷いて腰に回った触腕を握る。

「ドラム、今夜は泊まっていってよ。私、もう少ししたら夕飯作るから、
それを食べたらいっしょに夜桜を見にいかない?」
『良いね。三年ぶりに二人で花見に行こう。』

そう、あの日の花見をやり直そう。今度は本物の恋人になった二人で。
ドラムの触指が左手に絡む。やっぱり端の触指がうまく絡めず手の甲を撫でる。
それを摘んで小指に絡めてあげる。小さく微笑むとドラムも瞳で笑みを返してくる。
彼の身体に腕を回すと優しく触腕が私の身体を抱える。
長い思いが叶った恋人の側で幸せに胸が満たされるのを感じながら、
三年ぶりに大好きに戻った夕陽の桜を私は存分に眺め続けた。


(了)

96桜嫌い (後編):2009/07/18(土) 16:09:27 ID:n7uOkRAg
以上です。

失礼しました。

97変態紳士:2009/07/19(日) 23:06:09 ID:w0f0lZJg
GJ!すれ違いのちラブラブは王道
焦って自分の腕を絡ます触手型宇宙人萌えw

98変態紳士:2009/07/26(日) 20:20:55 ID:GewvX79.
本スレで書いて欲しい作品だなあ、GJ!
エロシーンもそれ以外のシーンも丁寧で色々萌えた。
純愛イイネイイネ!

99903 ◆AN26.8FkH6:2009/10/21(水) 05:49:38 ID:4zUkeVhg
再開

100アンダーグラウンド4  903 ◆AN26.8FkH6:2009/10/21(水) 05:53:22 ID:4zUkeVhg
 極秘開発プロジェクト『イシオス』。近接特化戦闘用バイオノイド、イシオスシリーズ100体は全て廃棄された。それは念入りに処理された。だから、現存しているはずがないし、勿論市井で平和に暮らしているはずがない。戦闘用バイオノイドの開発プロジェクトの中でも、イシオスプロジェクトだけは別格だ。コストがかかりすぎる。元々がプレ開発なのだ。後続機を作るための試作機で一応の完成を見たら、全てを廃棄、後続プロジェクト『バークル』に引き継がれる。徹底的に彼ら『イシオス』は廃棄された。最初から廃棄される為に生れ落ちたと言ってもいい。
 だから、何故ここで一体だけ残っているのか。『私』はそれが知りたい。おそらく、彼女もだろう。どこにも記載されていない、正真正銘最後の生き残り、そして、生き証人。彼の存在は、致命的な物証だ。非人道的極まるプロジェクトである事を開発者達は勿論承知していた。


 それでは、再開しよう。
 
パーシヴァルwrite

101アンダーグラウンド4  903 ◆AN26.8FkH6:2009/10/21(水) 05:54:06 ID:4zUkeVhg
 泣かせて、追い出して、そのままにしておけばいいのに余計な罪悪感とか、そんな
どうしようもないものに追い立てられて結局探しに行く自分が滑稽すぎて涙が出そうだ。
 ああもう、二次元の住人になりたい。多少のドタバタと結末の決まったぬるま湯の作品
で苦労せずモテモテになったり女の子に取り合いされたりパンツ見て怒られたり転んで胸を
もみし抱いたりしながら最後には本命の子とくっついて幸せに暮らしました的な
エンディングを迎える主人公になりたい。ごめん嘘をついた、特にはなりたくない。
ああいうのは外からそのぬるま湯具合を楽しむがいいのであって当事者になんてなりたくない。
 そうだ、俺は全然全く当事者にも主人公にもなりたくなんてないんだ。エンディングなんて
来ない。ゴールなんてない。人生は死ぬまでクソみたいなシナリオのまま延々と続いていく。
底辺に居ても底辺なりに何もかも続いていくのだ。だから俺は、何にもなりたくない。意味の
あるものになんて全く。


 俺の視界の中にリサが居た。仕事帰りに作業着のままで散々周辺の公園だの繁華街だのを
探し回って、最後にもしやと思って回ってみた例のゴミ処理場。遠くからでも集音マイクが
拾った悲鳴を聞きつけて走った。ああもうちくしょう、ヲタに運動させんな、余計なエネルギー
消費すんだろうがバカ野郎! ただでさえ燃費が悪いのだ。毒づいて、入口のフェンスを
くぐったその向こう、数人の同僚がノロノロとゴミ山を掘っていた。その目には何の光もなく、
意思もなく、ゾンビのようだった。そして、その奥にはぐったりと横たわった半裸のリサと、
その上に覆いかぶさろうとしていた黒ブルゾンのバイオノイド。どこかで見たことが
あるような、ないような。
 そいつは、俺のほうへゆっくりと顔を向けた。

「ん?お前も混じりにきたのか? 俺が全部の穴に突っ込んでからなら回してやってもいいぜ」
「うるせえ黙れ死ね」

 反射的に返して、足元にあったひん曲がったパイプを拾う。外見はそこらの作業用
バイオノイドと大差ない。だが、わかる。識別信号も認証コードも一切俺からは読めないが、
こいつは俺の、同類だ。軍用バイオノイド。周りのゾンビ化した同僚達。あれは多分強制
コードで徴兵されているのだろう。軍用、それも士官クラスになると、周囲の民間バイオノイド
を強制徴兵することができる。意思のない、忠実な兵隊として。だが様子を見る限り、
戦闘プログラムを叩き込まれた戦力としてではあるまい。

102アンダーグラウンド4  903 ◆AN26.8FkH6:2009/10/21(水) 05:54:52 ID:4zUkeVhg

「あんたさあ、アレだろ? アレ、ほら、廃棄された例のシリーズ。何で民間にいんの? 
一体残らず処分されたって聞いてたぜぇ?」

 ヘラヘラと黒ブルゾンが笑う。その下でリサは意識を失ったままだった。唇が切れて流血し、
頬が赤く腫れ上がり、腹も似たような状態だった。ひどく殴りつけられたのだろう。クソ、
女殴ってんじゃねえよ、どういう教育プログラム通ってきたんだコイツ。下手したら内臓破裂
して死ぬっての。俺がイライラとパイプを握り直したのと、周囲のゾンビ達が一斉に
襲い掛かってきたのは同時だった。それまでのノロノロした動きからは想像も出来ないような
素早さで飛び掛ってくる。

 ガキィン!!

 俺は手前の奴の足を払い、そいつの背を踏み台に横から来た奴の頭を蹴り飛ばして走り出した。

「へえ? 回路焼かれてねーの?」

 面白そうな声で醜悪な性器をおったてたまま、黒ブルゾンがリサの上から立ち上がる。
俺にも同じのついてんだけどな。あーちくしょう、イシオス系の後継機でビンゴだ。
考えてみてもくださいよ、同系機体があるとするじゃないですか。シリーズ最新機と
旧モデルプロトタイプで単純比較した場合スペック差がどんくらいあるかって話ですよ。
 スラックスのジッパーを上げる奴の首めがけて振り降ろしたパイプが途中で止まった。
黒ブルゾンが首を捻ったまま、肩口で受け止めたのだ。奴の両手は塞がっていたが、
そのまま余裕でジッパーを上げ、ベルトまで調えやがった。

「なーんだ、やっぱ制限されてんのかよダッセ。そんなんで俺をどうにかできんのか
センパイさん」
「るせェ、女置いて巣に帰れクサレガキ!!」

 我ながらDQNなセリフを吐いて俺は右膝で奴の腰を蹴り上げた。ジョイント部分をひっかける
ようにして蹴り飛ばすと「うぉ?!」と間抜けなセリフを吐いて黒ブルゾンが吹っ飛ぶ。
 いくらこいつが同じモーションや同じ格闘ソフト積んでたって、経験だけは埋めようがない。
それだけが俺の有利な点か。有難すぎて涙出るわボケ。
 格闘技の達人と同じモーションを入れたところで、一瞬で同じような達人になれるかと
いうと別な話だ。俺達は便利な入れ物ではあるが、自分の身体で体験していないことってのは
結局借り物でしかないのだ。その分技術を研鑽し、習得していくしかないってこった。
とはいえ戦闘プログラムに行動制限かけられた俺がどのぐらいやれるかっていったら可能性は
かなり低い。なんとかリサを抱えて逃げ切れたらミッションクリアってか。クソシナリオにも
程がある。シナリオライターのリコールを要求する。もしくはセーブポイント。
 俺はブルゾンが吹っ飛んだと同時にリサのところへかけよった。わずかに上下している
薄い胸が、彼女の生存を示していて、俺は安堵の余り息を吐いた。呼吸なんかしてないのにな。
 素早く彼女を肩に担ぐと、足元に影が落ちた。ゴミ山の一つが、こちらへ倒れこんできて
いた。三階建ての建物ほどもありそうな小山が、ガラクタの山がゆっくりと雪崩れ込んでくる
下を俺は喚きながら全力で駆け出した。サーフボードでもあればジャンク・ライドできる
かもな、試そうとは思わないが。

103アンダーグラウンド4  903 ◆AN26.8FkH6:2009/10/21(水) 05:55:27 ID:4zUkeVhg
 
「馬鹿野郎! 生身の人間がいるんだぞ巻き込むつもりか!!」

 俺の前に飛び出してきた同僚の頭に、足元に転がってきた小型炊飯器を叩き込む。ゴガッと
いい音がして転がるその身体を踏み台に、足元にスライディングしてきたもう一体の
タックルを避け、その背中を蹴りつけた。大変申し訳ない。申し訳ないのだが、俺には彼らの
徴兵用強制コマンドをキャンセルするのは無理だった。
 俺が両足と片手でやりあっている間にも、肩に担いだリサの身体は力なく揺れていて、
このままぐんにゃりと滑り落ちるんじゃないかとヒヤヒヤする。軽くて、冷たくて、本当に
生きてんのか不安になってきた。人間はモロくて死に易い。

「リサ! リサ起きろ、起きろってば!!」
「無理じゃね? そいつ、アバラとか多分バッキバキじゃね?」

 俺に掴みかかっていた一体が、表情の乏しいはずの顔を歪めて笑った。転がっていた何体かが
、痛めた関節を無視してガクガクと無理やり立ち上がってくる。全員、笑っていた。

「テメェ……まさか」

 ゾンビだった彼らは、一様に同じ表情で同時に喋りだした。黒ブルゾンと同じ、嫌らしい
喋り方で。

「同期に時間かかっちまったけど、もう完璧に掌握したぜコイツら」
「大人しくソレこっちに寄越すなら、アンタは見逃してやってもいいぜ?」
「なーんて嘘に決まってっけどな、クハハハハ!!」
「アンタの手足ブチ折って頭引っこ抜いて、目の前で女の腹パンパンになるまで出しまくって、
ぐっちゃぐちゃにぶち込んでやっからよ」
「その為の集団ボディ……ってこいつら作業用だったっけ。チンコなかったわ、まーそこらに
落ちてるモン適当に拾ってつっこんでみるってのも面白いかもな?」

 ゲラゲラと下卑た笑い声を立てて、同じ顔で笑っていたそいつらはもう同僚じゃなかった。
戦闘用ならともかく、一般作業用バイオノイドの人工脳はそこまで大容量じゃない。上から
黒ブルゾンのコピー人格を上書きされたのだろう。彼らの元の人格もメモリもぶっ飛んだ
はずだ。
 こいつは、なんなんだ? 戦時下でもないのに、街中で強制コマンドを発令する権限を
持ち、徴兵したバイオノイドの頭ぶっとばしてもどうとも思わない粗暴で攻撃的な人格持ちで。
とても軍属だとは思えない。倫理プログラムがこいつの頭の中に入ってるようにはとても見え
ない。
 イシオスの後続機? 冗談じゃない、『俺達』は、少なくともマトモだった。『俺達』は
『兵士』だった。『俺達』はーーーーーー……何だったんだろうな?

104903 ◆AN26.8FkH6:2009/10/21(水) 05:56:44 ID:4zUkeVhg
しばらくエロがない展開が続くので今後はこっちで投下していきます。
まったりお待ちください。

105903 ◆AN26.8FkH6:2009/10/21(水) 05:58:38 ID:4zUkeVhg
投下スペースは遅いと思うので、ここ使用予定の職人さんは気にせず投下してください。
中途半端に投下してすいません

106変態紳士:2009/10/21(水) 17:00:17 ID:kHeTIOmc
続きキテタ!
読みごたえのある作品は好きなので、まったり待ってます。

107変態紳士:2009/10/21(水) 19:50:35 ID:4BlVR2zY
投下乙です。続きが楽しみです。
いつまでも気長にお待ちしております。

108859 ◆93FwBoL6s.:2009/12/22(火) 21:24:03 ID:eIXSK2fg
本スレでまた規制を喰らっていたのでこっちに投下。
ケルベロス×魔法少女の和姦で、NGは冥府の番犬と魔法少女で。ぶっちゃけ獣姦です。

109859 ◆93FwBoL6s.:2009/12/22(火) 21:26:43 ID:eIXSK2fg
 冥王の前に、一人の少女が立ち尽くしていた。
 淡い金髪のツインテールにフリルがたっぷりと付いたパステルピンクの衣装を着ていて、足元にステッキも転がっている。
ツインテールの結び目にはハートの髪飾りが付き、体格の割に大きな胸元にも同じようなデザインのブローチが付いていた。
両耳には小さな星のイヤリングが下げられ、少女が些細な動作をするたびに揺れていた。彼女は、いわゆる魔法少女だった。
 魔法少女を見下ろしているのは、冥王だった。無数の亡霊が飛び交う玉座に身を委ねる冥王は、少女を眺め回していた。
人の姿をしているものの、天を突くほどの巨体だった。その周囲を固める近衛兵もまた、冥王を守るに相応しい巨体を持っていた。
当然ながら玉座の間もまた巨大であり、高層ビルなど楽に収まるほどの容積を持っていて、その中に立つ少女は一際小さく見えた。
冥王が身を委ねる玉座から伸びる血のように赤黒い敷布の脇には、亡者に鎧を被せて槍を持たせた兵士が規律正しく並んでいた。
 そして、ただ一人冥王の目前に立つ魔法少女は両手足を重たい鎖に拘束されているが、怯えるどころか唇を引き締めていた。
派手な衣装に負けないほどの美貌を備えている魔法少女は、冥王に視線を据えていて、冥府の者達と戦う意志を表していた。
魔法少女は太く重たい鎖が巻き付けられた両手を握り合わせてから、浅く息を吸い込み、小さな体を震わせて声を張り上げた。

「冥王さん!」

 魔法少女は更に息を吸ってから、上擦り気味の叫びを玉座の間に響かせた。

「けっ、ケルベロスさんとお付き合いさせて頂けないでしょおか!」
「…な」「ん」「で、俺?」

 冥王の御前であることを忘れ、当の本人であるケルベロスが唖然とすると、冥王は足元のケルベロスを見下ろした。

「いやにあっさり捕まってくれたと思ったら、そういうことだったか。せっかくだ、大事にしてやりなさい」
「俺の意志を」「無視しないで頂けませんか」「陛下!」

 ケルベロスが三つの頭を全て使って反論するが、冥王は笑うだけだった。

「いいじゃないか。人間界に侵攻するのは暇潰しだったし、これ以上冥府を人間界に近付けたら天界から本気で襲い掛かられる。
それに、戦いを始めたことで冥府の民も潤ったことだしな。お前達も、毎週のように慣れない人間界に行ったことで疲れただろう」
「ですが」「だからって」「この娘に俺を差し出すおつもりですか!」

 ケルベロスが主に吠え立てるような勢いで喚くと、玉座の反対側に控えていた次男のオルトロスが二つの頭を上げた。

「いいじゃないの、兄さん」「独り身なんだし、そろそろ身を固めたらどう?」
「俺は」「人間なんか」「好みじゃない!」

 ケルベロスは三つの頭を振り回して否定するが、ケルベロスの背後に控えていた姉のキマイラが背を叩いてきた。

「気に入らなかったら喰っちゃえばいいだけでしょ、ケル」
「そうそう」「喰っちゃえ」「喰っちゃえ。性的な意味で」「だって俺達」「それが仕事だし」「ねえ兄ちゃん?」「いいなぁ嫁さん、俺も欲しいな」「嫁! 俺の嫁はどこ!」

 オルトロスの背後から百の頭を出したのは、三男のラードーンだった。茶色の肌を持つ、これまた巨体の竜である。

「死ねリア充」

 エキドナの背後からにょろりと巨体を引き摺り出した末弟のヒュドラは、九つの頭をぐねぐねと揺らしながら毒突いた。

「馬鹿」「言って」「んじゃねぇよどいつもこいつも!」

 ケルベロスは兄弟達に三つの頭を向け、それぞれに言い返した。

「大体な」「俺には冥府の門番という重要な仕事があって」「こんな人間の小娘に構っている暇などないんだ!」
「じゃ、休暇あげるよ。今後百年、門番はオルトロスに任せよう」

 冥王がさらりと言ってのけると、ケルベロスは呆れた。

「そんなんで」「よろしいのですか」「陛下…」
「冥府の住人だって、休息は必要さ。じゃ、余はこれで。オルトロス、引き継ぎをお願いね」
 
 冥王は気楽に手を振った後、玉座から巨体を消してしまった。オルトロスは景気良く吠え、尻尾を大きく振った。

「冥王陛下の」「御命令とあらば」
「んじゃ、私らも仕事あるから。後は若い二人だけで御自由に」

 キマイラも姿を消すと、ラードーンはずるずると敷布と兵士の後ろを這いずっていった。

110冥府の番犬と魔法少女 2 859 ◆93FwBoL6s.:2009/12/22(火) 21:28:09 ID:eIXSK2fg
「俺の嫁ー」「探しに行くか二次元にー」「いや三次元かもよー」「むしろ四次元」「いや五次元!」「六次元!」「七次元!」「それどこだよ!」「異次元に俺の嫁!」
「死ね兄貴」「死ねリア充」「死ね駄犬」「死ねよもう」「死ねなくても死ねよ」「死んでくれよウザいから」「死ねば」「死んでも死なないけど死ね」「とにかく死ね」

 ヒュドラは陰険に吐き捨ててから、ラードーンに続いて玉座の間を出ていった。

「おい」「おい」「おい…」

 冥府の住人らしからぬ気楽さに呆れたが、ケルベロスは皆を見送るしかなかった。兵士達も解散し、玉座の間を出ていった。
そして、最終的に玉座の間に残されたのはケルベロスと魔法少女の二人だけとなり、ケルベロスは一つの頭を彼女に向けた。
ケルベロスを始めとした冥府の住人と敵対していた魔法少女まじかるかれんは、気恥ずかしげに目線を左右に彷徨わせていた。
 事の起こりは数時間前に遡る。魔法少女まじかるかれんは、人間界と冥府を繋ぐ門を開こうと画策する冥獣達と交戦していた。
まじかるかれんは神族の下っ端によって魔法の力を与えられた存在であり、人間でありながら冥府の住人と戦う力を有していた。
魔法少女に相応しい衣装を生み出すアイテムや奇跡を起こす魔法を起こせるステッキを手に入れた、高校二年生の女の子なのだ。
冥王直属の部下であるケルベロスも何度も人間界に赴き、冥獣を使って人間達を陥れるが、その度にまじかるかれんに阻まれた。
毎週のように兄弟の誰かが冥獣を率いて出撃するが、どこで何をしようともまじかるかれんが現れて、徹底的に叩きのめされた。
そんな状態が一年近く続いたので、いい加減に人間界侵攻作戦にもまじかるかれんとの戦いも決着を付けようと一斉出撃した。
だが、まじかるかれんは、大量の冥獣を人間界に送り込むために作り出した冥府と人間界を繋ぐ門を呆気なく魔法で破壊した。
負けっ放しでは帰るに帰れない、ということで冥獣の一人がまじかるかれんを冥府に引き摺り込み、冥王の御前に差し出した。
 それまでは良かった。だが、まじかるかれんは何をとち狂ったのか、ケルベロスと付き合いたいと冥王に直談判してしまった。
ケルベロスにはその気はない。それどころか、生理的に嫌だ。ひんやりした死者達に比べ、生身の人間は生温くて気持ち悪い。

「あの…」

 まじかるかれんは頬を染め、十メートル以上はあろうかという巨体の冥獣、ケルベロスを見上げた。

「か」「え」「れ!」

 一息で言い放ったケルベロスは、壇上から下りてまじかるかれんに吠え立てた。

「俺の権限で門を開いてやるから」「人間界に帰れ!」「冗談じゃない!」
「でも、私、本気なの!」

 まじかるかれんは物怖じせず、ケルベロスに言い返した。

「本気だろうが」「なんだろうが」「俺はお前に興味がない!」

 だが、ケルベロスも言い返す。

「好きだから、ここまで追い掛けてきたのに…」

 まじかるかれんが俯くと、ケルベロスは三つの頭を全て背けた。

「俺は」「そんなこと」「頼んじゃいない!」
「じゃあ、何をすれば好きになってくれる?」

 まじかるかれんはケルベロスを探るように見上げてきたが、ケルベロスは彼女に背を向けて座り込んだ。

「だから言ってるじゃないか」「俺はお前には興味がない」「ていうか、生身の人間自体に興味がない」
「だったら、なんで人間界に侵攻してきたの?」
「冥王陛下の」「御命令だからだ」「それ以外の理由があるか」
「でも、その命令は冥王さんの暇潰しだったんだよね?」
「だからって」「俺が人間を」「嫌っていないってわけじゃない」
「じゃあ、一日だけ! それならいいでしょ?」

 まじかるかれんの縋るような目線を注いできたので、ケルベロスはしばらく迷ってから承諾した。

111冥府の番犬と魔法少女 3 859 ◆93FwBoL6s.:2009/12/22(火) 21:29:39 ID:eIXSK2fg
「一日だけか」「それだけなら付き合ってやる」「但し一日だけだぞ」
「ありがとう、ケルベロスさん!」

 まじかるかれんは破顔すると、鎖が絡まった両手を差し出した。

「じゃあ、これ、外して? 凄く重たいし、鎖が肌に擦れちゃって痛いの」
「外さない」「それとこれとは」「話が別だ」

 ケルベロスは四つ足を伸ばすと、長い尻尾を揺らしながら歩き出した。

「さっさと来い」「行くぞ」「置いていっちまうぞ」
「どこへ?」
「俺の部屋だ」「いつまでも御前にいるわけには」「いかねぇだろうが」

 ケルベロスは前足で扉を開けて回廊に出ると、まじかるかれんに出るように促すと、彼女もケルベロスの後に続いた。
だが、両足が鎖に拘束されているので上手く歩けず、正面から転んだ。痛みで呻く彼女に、ケルベロスは尻尾を伸ばした。
遅れられては面倒なので尻尾で持ち上げて背に乗せると、割り当てられている部屋を目指して石畳の回廊を歩き出した。
冥府の番犬に相応しい巨体を持つケルベロスの背は、まじかるかれんには小山のようで、深い毛並みに埋もれてしまった。
足を縛られているので上手く座れないらしく、時折滑り落ちそうになったので、その度にケルベロスは尻尾で支えてやった。
神族の加護を受けた魔法少女なので簡単には死なないが、ケガでもされて泣き喚かれたら鋭敏な聴覚が痛んでしまう。
 ただ、それだけの理由だった。



 一日、一緒に過ごしてしまうと、二日、三日、一週間と共に過ごすようになった。
 そして一ヶ月も過ぎてしまえば、ケルベロスはすっかりかれんに愛着が湧いていた。かれんもまた、冥府での暮らしに慣れた。
ホームシックになるかと思いきや、亡者や冥獣が溢れた重苦しい冥府に馴染んでしまい、ケルベロスの兄弟達とも親しくなった。
つい先日まで敵対していた相手とは思えないほどで、キマイラに至っては冥王城に女っ気がなかった反動からか可愛がっていた。
ケルベロスも、冥王から唐突に与えられた百年間の休暇の退屈凌ぎに丁度良いと思うようになり、かれんを構うようになった。
 地獄を巡る散歩を終えたケルベロスは、かれんでも食べられそうなものを掻き集めて首の一つにぶら下げ、冥王城に帰った。
かれんのことは冥王が公認しているので、冥王軍の兵士や使用人からは冷やかされはしないものの、奇異の目で見られていた。
それまでは冥府の門番に対して敬意と畏怖を込めた目を向けていた者達も、かれんの件を知ってからは変人を見る顔になった。
だが、ケルベロスも逆の立場だったのなら似たような反応をするだろうと思っていたので、城内の者達を咎めることもなかった。
 冥王城はひたすら巨大だ。冥府の主の権力を見せつけるために、亡者と冥獣を酷使して創り上げた、死と絶望の満ちた城だ。
亡者にもなれず、冥獣にもなれなかった者達の空虚な魂が分厚い石造りの壁を擦り抜け、凍えるほど冷たい回廊に流れていく。
冥王城を囲む岩山は鉄臭い異臭を漂わせ、遙か彼方の頂きからは溶岩がどろどろと溢れ、森を成す木々は全て腐敗している。
禍々しい獣が雷鳴の如く吠え、醜い鳥が女の悲鳴のような鳴き声を立て、ヘドロの湖と川から這い出したヘドロの固まりが呻く。
それでも、見た目ほど混迷していない世界だ。人間界のような混沌はなく、神族の世界のように絶対的な正義を必要としない。
冥府の住人には心休まる光景だが、人間にはあらゆる嫌悪感を催す光景だと教えられていたが、かれんはそうではないようだ。
 ケルベロスは自室に戻ると、見上げるほど背の高い両開きの扉の前に立つと、赤い錆の浮いたドアノブが独りでに回った。
部屋に入ると、最初に壁飾りの骨が出迎えた。次に天井から垂れ下がった赤いドレープ、その奥に天蓋付きのベッドがあった。
冥府故に日の差さない窓のカーテンが開けられていて、かれんは人間には大きすぎる出窓に腰掛け、外の景色を眺めていた。

「おい」「どうか」「したのか」

 ケルベロスが荷物を下ろしてから声を掛けると、かれんはケルベロスに振り返り、もじもじした。

「うん、なんでもないんだけどね」
「じゃあ」「なんだよ」「気にさせるな」

 ケルベロスは頭の一つをかれんの前に出して乗せると、かれんが自力では登れない高さのベッドに座らせた。

「なんでもないんだけど、なんでもないの」

 かれんは自身を一飲み出来るほど大きなケルベロスの頭に両腕を回し、冥府の空気が染み込んだ体毛に顔を埋めた。

112冥府の番犬と魔法少女 4 859 ◆93FwBoL6s.:2009/12/22(火) 21:30:45 ID:eIXSK2fg
「なんだ」「そりゃ」「面倒臭ぇな」

 ケルベロスはかれんが抱き付いた首をそのままに、残り二つの首を下げた。気持ち良いのか、かれんは甘えた声を零している。
日常生活を送っている時は当然ながら魔法少女の変身を解いているので、かれんは人間界から連れ去られた時の服装のままだ。
カトリック系私立高校の制服で、スカートも膝丈で清楚な雰囲気の服装だ。髪の色もまた、金髪から艶やかな黒髪に戻っていた。
 鼻先をくすぐる匂いは生温く、生易しい。牙を一刺ししてしまえば、骨も筋も皮も砕け散って鉄臭い血潮が飛び散ることだろう。
体毛越しに伝わる体も軟弱で、手応えというものがない。どこもかしこもふにゃふにゃで、体温があることも冥府には馴染まない。
ケルベロス自身も冥府の住人に相応しく、体温がかなり低い。だから、抱き付いたところで気持ち良いものではないように思えた。

「あのね」
「なんだ」「今度こそ」「ちゃんと言え」

 ケルベロスが急かすと、かれんは恥じらいながら呟いた。

「また、して?」
「お前ってやつは」「全く」「どうしようもないな」

 ケルベロスは尻尾を一振りしてから、体格を縮めて人間大に変化させると、軽く跳躍してかれんの前に降りた。

「だってぇ…」

 赤面したかれんはプリーツスカートの裾を上げようとしたので、ケルベロスはその裾を噛んだ。

「その前に」「やることが」「あるだろ」
「物好きなんだから」

 かれんは照れ笑いしてから、ハートのブローチを掲げて変身し、まじかるかれんに姿を変えた。

「これでいい?」
「ああ」「それで」「いい」

 ケルベロスはまじかるかれんのミニスカートの下に真ん中の頭を突っ込むと、薄い下着に覆われた陰部に鼻先を押し当てた。

「ひゃんっ」

 まじかるかれんはくすぐったがり、膝を緩めた。ケルベロスは左右の頭で太股を甘噛みし、生臭い唾液の滴る舌を這わせた。
前足を伸ばして華奢な体をベッドに押し付け、鼻先を更に埋める。ひらひらしたミニスカートの奥には、狭い陰部が隠れている。
下着に牙を立てて一息で引き裂くと、まじかるかれんは少し抵抗したが、両の太股を押さえ込まれているので動けなかった。

「もう、いちいち破らないでよぉ」
「邪魔」「だから」「だ」

 ケルベロスは真ん中の頭をスカートから出して破れた下着を捨てると、まじかるかれんの陰部に厚い舌をねじ込んでやった。
ケルベロスの唾液以外のものを帯びた舌は難なく奥まで滑り込み、筋肉も緩んでいて、押し戻されるようなことはなかった。

「あ…」

 舐める必要もないほど潤っていたことを知られ、まじかるかれんは恥じらった。

「物好きなのは」「どっち」「なんだよ」

 少女の体液を掻き出すように舌を前後させながら、ケルベロスは言った。最初に体を求めてきたのは、かれんの方だった。
その時はかれんは変身していない姿であり、ケルベロスも巨体のままだったので、満足するまで舐め尽くすだけで終わった。
ケルベロスは最初はその気ではなかったのだが、滴るほどの唾液にまみれたかれんの痴態がやたらと気に入ってしまった。
甘ったるい鳴き声を零すことも上擦った声で名を呼ばれるのも楽しく思えたので、それからは体の大きさを合わせるようになった。
かれんは魔法少女に変身しなくてもいいと言い張ったが、融通が利かない状態で体を重ねて傷付けてしまっては後が面倒だ。
それに、敵対していた相手を蹂躙出来るのは単純に面白い。刺激を受けて強張った肉芽を吸うと、まじかるかれんは仰け反った。

「ひぃんっ!」
「次は」「どうするか」「解るな?」
「うん…」

113冥府の番犬と魔法少女 5 859 ◆93FwBoL6s.:2009/12/22(火) 21:31:44 ID:eIXSK2fg
 まじかるかれんは薄く汗ばんだ太股を開き、体を反転させて四つん這いになると、肉の付いた尻を高く持ち上げた。

「こうしないと、入らないもんね」
「単純に」「俺が」「やりやすいからだ」

 ケルベロスはまじかるかれんの背に覆い被さり、腰の後ろに付いた大きなリボンを腹で潰しつつ、その陰部に男根を擦り付けた。
三つ首でさえなければ、美しいほど引き締まった筋肉を持つ体付きの猟犬が少女を貪らんとする様にも似ていて、背徳感が募る。
彼女の陰部を舐め回すだけでは、それほど滾らない。芯に骨が入っている逸物とはいえ、充血しないままでは突き立てられない。
まじかるかれんの奥から溢れ出す体液に擦り付けてやると、時折先端が肉芽に引っ掛かり、彼女は切なげな甘い声を零した。
その反応に気を良くしたケルベロスは往復する速度を上げると、引っ掛かる回数も増え、体の下でまじかるかれんは身を捩った。
だが、敢えて陰部には突き立てなかった。次第に腕の力を保てなくなってきたのか、まじかるかれんは肘を曲げて俯せになった。

「ちょっ、やぁん、焦らさないでぇ」
「俺は」「まだ」「出来上がっちゃいない」
「こんなに硬いのに、意地悪ぅ…」

 シーツに顔を埋め、まじかるかれんは喘いだ。ケルベロスは左の頭を下げ、まじかるかれんの首筋をべろりと舐め上げた。
右の頭では裸の肩と二の腕に甘く牙を立てながら、空いている真ん中の頭を下げると、まじかるかれんの耳元で低く囁いた。

「お前は何のために魔法少女になったんだ。俺とまぐわうためか? 違うだろう?」
「うん、違う、そんなんじゃなかった…」

 シーツに涎と涙を染み込ませながら、まじかるかれんは物欲しげに腰をくねらせた。

「でも、ねぇ、ケルが格好良かったからぁ、好きになっちゃってぇっ…」
「馬鹿な娘だ」
「だあってぇん…」

 まじかるかれんは首を曲げてケルベロスの真ん中の頭部と目を合わせると、熱を帯びた眼差しを上げた。

「あひぃっ!」

 前触れもなく男根を陰部に押し込むと、まじかるかれんは甲高い悲鳴を上げた。

「お前は何が好きなんだ。モフモフとかいうやつか、それとも俺の剣か、そうでなければ見た目か?」

 左右の頭で首筋と肩を噛みながらケルベロスが捲し立てると、まじかるかれんは律動に腰を揺さぶられながら答えた。

「それもあるけどっ、ああっ、やんっ、やっ、あっ、好きだから好きなのぉっ」
「理由になっていないな」
「ひゃっ…!」

 一際強く突き立てると、まじかるかれんは涙の滲んだ目をきつく閉じた。

「あ、あぁ…」

 熱い迸りが白い内股を伝い、シーツに染み込んだ。一度出てしまった小水は勢いが緩まず、浅い池が広がっていった。
まじかるかれんの熱い体液とケルベロスの冷たい体液が混じった黄金色の飛沫は、徐々に拡大して胸元の下にまで及んだ。
達した快感と羞恥心でがくがくと足を震わせるまじかるかれんに、ケルベロスは冥府の住人らしく禍々しい笑みを見せた。

「また漏らしたな。俺の部屋を何度汚す気だ」
「ごめんなさいぃ、後で洗濯するからぁ…」

 まじかるかれんはか細く謝るが、ケルベロスは容赦なくその胎内を責め立てた。

「当たり前だ」
「あっ、やぁああっ、また出ちゃう、やだぁあっ!」

 まじかるかれんはシーツを握り締めるが、ケルベロスはその髪を噛んで強引に顔を上げさせ、右の頭を出して言った。

「出せ。俺を悦ばせたいのならな」
「いやぁっ…」

 まじかるかれんは胸元を大きく開いた衣装から零れた乳房を震わせ、膀胱から押し出される飛沫の残滓に顔を歪めた。
スカートの前部分は小水の池に浸り、水気を吸い取って重たく垂れていた。そこに新たな雫が落とされ、小さな水音を立てた。
その音はぐちゅぐちゅと忙しなく擦り合わせる陰部の水音に紛れたが、まじかるかれんは愉悦と羞恥心で泣き声を上げ始めた。
 求められたら最後、倒れるまで責めてやる。魔法少女に変身している限りは、かれんはそう簡単なことでは死なないからだ。
人間大に体を縮めたとはいえ、ケルベロスの逸物は大きい。最後まで飲み込ませるためには、それなりに気を配る必要がある。
それ以上に、長い退屈が紛れるからだ。ケルベロスの逸物を包む陰部が収縮し、まじかるかれんはそれと同じように痙攣した。
頃合いを見計らって込み上がった精液を存分に注ぎ込むと、まじかるかれんの痙攣は一層激しくなり、上げる声も苦しげになった。
ケルベロスは一旦抜くと見せかけて、力強く最深部に突っ込むと、まじかるかれんは許しを請うようにケルベロスの名を呼んだ。
 その声に、ケルベロスは慢心の唸りを零した。

114冥府の番犬と魔法少女 6 859 ◆93FwBoL6s.:2009/12/22(火) 21:33:17 ID:eIXSK2fg


 腹部の体毛に埋もれる少女は、疲れ果てて眠っていた。
 こうなると、動くに動けない。元の大きさに戻ったケルベロスは、灰色の空から弱々しい日差しが注ぐ窓際で丸くなっていた。
その腹部には、制服から灰色のワンピースに着替えて下着も取り替えて素顔に戻ったかれんが寄り掛かり、眠り込んでいた。
責めて責めて責め抜いて気を失うまで責め立てると、少しは満ち足りる。体温のない体に、かれんの体温が優しく馴染んだ。
目尻に涙の名残があるかれんの寝顔を眺めつつ、ケルベロスは、なぜ気に入られてしまったのかを考えてみることにした。
 人間界でまじかるかれんと敵対している時、ケルベロスは人間界に寸法に合わせるために体格を人間大に変化させていた。
三つある頭部も一つにまとめていたが、それでも外見は獣人だった。かれんと初めて会った時もその格好だったように思う。
しかし、それだけなのだ。一体何がかれんの琴線に触れたのか、結局見出せなかったケルベロスは前足に三つの顎を載せた。

「ん」

 かれんが身動きしたのでケルベロスが目を向けると、かれんはケルベロスの右の頭に手を伸ばした。

「ケルぅ…」
「なんだ」「寝て」「なかったのか」
「寝て起きたの」

 かれんはケルベロスの右の頭の耳をなぞり、引き寄せると牙の並ぶ口元に唇を寄せた。

「ケル」
「だから」「なんだ」「ってんだよ」
「キス、して?」
「我が侭」「言う」「んじゃない」

 そうは言いつつも、ケルベロスは三つの頭を順番に伸ばし、かれんの頬と唇に口元を当てた。

「ふふふ」

 かれんは唾液がべったりと付いた唇を舐め、再び腹部の体毛に寄り掛かった。

「優しいね」

 ケルベロスはその言葉に返さず、六つの目を閉じた。気のない振りをしても、尻尾は正直に揺れていた。

「あのね」

 薄く目を開いたかれんは、互いの体液と熱い疼きが残る太股を擦り合わせ、頬を染めた。

「私、神様なんか信じないことにしたんだ。冥府の人達や冥獣と戦っても戦っても、毎日のように必ず誰かが死んでいっちゃうし、
魔法なんか使っても誰も幸せに出来ないから。その時はなんとかなったとしても、その場凌ぎの幸せなんてすぐに壊れちゃうの。
それに、神様が魔法の力を与えたのは私だけじゃなかったの。私が冥府と戦わなくたって、きっとすぐに他の女の子が戦いに来る。
そういうことを知っちゃったから、全部がどうでもよくなっちゃったの」
「それと」「俺を気に入った理由は」「関係があるのか」
「うん。大有り」
「だったら」「なんだ」「教えろ」
「いいよ。私と皆が戦い始めてすぐに、冥府の門が開きかけた時があったでしょ?」
「ああ」「あったな」「それがどうかしたのか」
「その時、ケルが言ってくれたことが忘れられないの。愚かな神に使役された無様な小娘が、って」
「それは」「ただの」「罵倒だ」
「でも、本当のことだよ。私に魔法の力をくれた天使も、神様も、私のことを持ち上げるだけで本当のことは言ってくれなかった。
何のために冥府と戦うのか、誰のために戦うのか、私が犠牲になることで誰が幸せになるのか、聞こうとしてもはぐらかされた。
だけど、ケルは違ったから。おかげでやっと解ったの、私は随分馬鹿なことをしているんだなぁって」

 かれんはケルベロスの体毛に指を差し込み、丁寧に梳いた。

「魔法少女なんて言っても、所詮は異世界の住人に擦り切れるまで利用された挙げ句、切り捨てられるだけだもん」
「それが解るだけ」「お前はまだ」「賢い部類だ」
「嬉しいな、褒めてもらえた」

 かれんは頬を緩めたので、ケルベロスは尻尾を伸ばしてかれんの小さな体に被せてやると、かれんはとろりと瞼を下げた。
程なくして寝息を立て始めた少女を眺め、ケルベロスは喉の奥で唸った。天界の神が冥府に手を出すのは、いつものことだ。
正と負の均衡を保つため、聖と魔の絶対量を崩さないため、互いの力関係を拮抗させ続けるための揺らぎとして戦いを起こす。
双方の世界に挟まれた人間界が戦いの影響を受けることも珍しくないが、割を食うのは決まって年若い少年少女達なのだ。
時代に応じて、勇者として、聖女として、聖騎士として、聖戦士として祭り上げられるが、最終的には両者の戦いの犠牲となる。
神と冥王にとっては人間一人の犠牲など些細なものであり、誰も疑問は抱いていないが、ケルベロスは初めて疑念を感じた。
かれんは冥府に身を投じたことで、その戦いからは解放されているので、疑念を感じるだけ無駄だったと思い直して払拭した。
板挟みの戦いから解放され、生きながら死んだのだ。その事実に訳もなく安堵しつつ、ケルベロスは緩やかな眠りに落ちた。
 百年間の休暇は、有意義に過ごせそうだ。

115859 ◆93FwBoL6s.:2009/12/22(火) 21:35:42 ID:eIXSK2fg
以上。通し番号どころかタイトル自体もミスってしまった。
近頃寒いから、ツンデレでモフモフな人外が書きたかっただけかもしれない。

116変態紳士:2009/12/22(火) 21:48:50 ID:1htzwBQk
GJ

117859 ◆93FwBoL6s.:2009/12/26(土) 17:42:20 ID:kV1pGc4o
引き続き規制中につき、こっちに投下。
少し早いけど大晦日ネタで、人外アパートです。
人間×リビングメイル、人間×インテリジェンスソード♀です。
NGはリビングメイルと魔剣と大晦日で。

118859 ◆93FwBoL6s.:2009/12/26(土) 17:44:28 ID:kV1pGc4o
 クリスマスを終えると、途端に年の瀬が押し寄せる。
 イルミネーションの色も白がメインになり、飾り付けが赤と緑から紅白に変わり、ツリーが消えて門松が姿を現してくる。
商店街に流れるBGMも軽快なクリスマスソングから、どことなく格調高い琴の音色になり、店頭に並ぶ商品も変わる。
新年は明日に迫った大晦日ということもあり、商店街に軒を連ねる店舗には買い物客が多く、いつにも増して賑やかだった。
 鎧坂祐介は商店街を通り、家路を急いでいた。大学は既に冬休みだったが、アルバイトは年内一杯シフトが入っていた。
例年通りならシフトを断って帰省していたのだろうが、今年は帰省しなかった。愛すべき恋人、アビゲイルがいるからだ。
リビングメイルである彼女は、抜けているところもあるが心優しい女性なので、祐介が帰省すると言えば止めないだろう。
だが、祐介の実家は現在の住まいからは遠方なので、移動には半日以上掛かり、短くても三日は留守にすることになる。
その間、アビゲイルを一人にするのは忍びない。彼女のことだから、聞き分けの良いことを言って寂しさを隠すに違いない。
その様を考えただけで申し訳なくなるので、祐介はその旨を実家に伝えたが、これといって文句を言われることはなかった。
元々、祐介は実家で重きを置かれていない。大学に進学した時も、入学金は払うが後は自力でなんとかしろ、と言われた。
だから、授業料や生活費などの諸経費を確保するために高校時代からアルバイトに精を出しながら、日々勉学に励んでいる。
おかげで、アビゲイルと一緒に暮らすようになるまでは精神的にも肉体的にも一杯一杯だったが、今では余裕が出てきた。
理由は他でもなく、アビゲイルが家事全般をしてくれるからだ。彼女が出迎えてくれることで、どれほど気が休まったことか。
 商店街を出て進んだ祐介が緑地公園に差し掛かると、その入り口に金色の全身鎧を従えた黒装束の少女が立っていた。
それは、アパートの隣室に住まう秋野茜のクラスメイト、若き魔女の綾繁真夜とその恋人である聖騎士アーサーだった。

「こんにちは、祐介さん」

 落ち着いた雰囲気のゴシック調の黒いワンピースを着た真夜が礼をすると、アーサーは右手を差し伸べてきた。

「御機嫌麗しゅう、祐介卿」
「どうも、真夜ちゃん、アーサー」

 祐介も手を伸ばし、アーサーの右手を取った。西洋式の挨拶が抜けない彼に合わせることに、すっかり慣れてしまった。
アーサーの手はアビゲイルと同じく金属で出来たガントレットだが、大きさが二回りも大きく、手自体もずしりと重たかった。

「これから旅行にでも行くのか?」

 祐介がアーサーが担いでいる大きなボストンバッグを差すと、真夜は笑った。

「旅行というより、お父さんとお母さんに会いに行くと言った方が正しいですね。今年はどうしても帰ってこられないからって、
私とアーサーの分の航空券が送られてきたんです。だから、今年の年越しは空の上ですね」
「真夜の御両親がおられるのはフランスでな。私の祖国は遠き昔に魔女の手で亡ぼされたが、祖国の領土を取り込んだ国だ。
だから、祖国の気配だけでも感じ取りたくてね。それに、今後のためにも真夜の御両親に挨拶しておかねばなるまい」

 アーサーが語気に笑みを含めると、真夜は白い頬に赤みを差した。

「そりゃ、うちの親もそのつもりだからアーサーを呼ぶんだろうけど、だからって何も祐介さんの前で…」
「いいじゃないか、公認の仲で。それで、俺に何か用事でも?」

 祐介は二人の仲の良さににやけながら話を切り出すと、真夜は小さく咳払いしてから言った。 

「はい。魔剣ストームブリンガーについてのお話です」
「ストームブリンガーの?」

 久々に耳にした魔剣の名に祐介は戸惑ったが、聞き返した。

「あれを、どうにか出来るのか?」
「いえ。私も両親に何度か相談してみましたが、あれほどの力を持つ魔剣を完全に封じるのは不可能です」

 真夜は体の前で組んだ手に力を込め、悔しさを滲ませた。

「我が聖剣、エクスカリバーとて万能とは言えぬ剣だ。ストームブリンガーの持つ混沌の力には敵わぬ。奴の刀身を砕けたのは、
祐介の愛情がアビゲイルの心を繋ぎ止めていたからに他ならない。刀身本体を放射性廃棄物と共に太陽に投棄したとはいえ、
奴の刀身と鞘は現存している。それはアビゲイルを生かすためではあるが、遠からず奴は力を取り戻すであろう」

 アーサーは腰から提げた聖剣の柄に手を掛け、首を横に振った。

119リビングメイルと魔剣と大晦日 2 859 ◆93FwBoL6s.:2009/12/26(土) 17:46:27 ID:kV1pGc4o
「だったら、俺には尚更どうにも出来ないよ」

 祐介が曖昧な笑みを作ると、アーサーは聖剣から手を離し、祐介に一歩近付いた。

「だが、そうとは言えぬかもしれんのだ。奴はこれまで、アビゲイルに近しい者達を殺しては魂を奪い、吸収し、その力をアビゲイルの
命を繋いでいた。私はその様を何度となく目にしてきた。しかし、今回は違う。現に、祐介は命を長らえているではないか」
「長い長い年月を経て、ストームブリンガーも落ち着いてきたのかもしれません。奴の本体は精霊ですし、意志を持っていますから」

 真夜は黒いアイラインに縁取られた目を上げ、真っ直ぐに祐介を見据えた。

「話せば解ってくれる、とか言うんじゃないだろうな?」

 それで済むのなら、誰も苦労はしない。祐介が変な顔をすると、真夜は少し首を傾げた。

「ええ、まぁ…。ですが、やってみる価値はあるんじゃないでしょうか」
「命を削り合い、魂を鬩ぎ合う戦いだけが、生き延びる術ではない。互いを癒やし、満たすこともまた必要ではないのか?」

 アーサーがもっともらしく頷いてみせるが、祐介には信じがたかった。

「だけど、話すって言っても何を話すんだよ。あんな凶悪な魔剣と」
「あくまでも参考に、という話なので、私達も確証があるわけじゃないんです。ですが、物は試しと言いますか」

 珍しく歯切れの悪い言葉を繰り返す真夜に、アーサーも同調した。

「うむ。奴と通じ合えとは言わぬが、親交を持つのは無駄ではないと思わんかね?」
「ストームブリンガーが鞘と柄だけでも残っていることは、君達にとってそんなに都合が悪いのか?」

 祐介が突っ込んでみると、真夜は気まずげに頬を引きつらせた。

「ええ、まあ…」
「ストームブリンガーは恐るべき魔剣であるからして、真夜と真夜の御両親が在籍する世界魔術師協会にとっても重要な案件でな。
見つけ次第完全に破壊するか封印すべし、という通達があったようなのだが、真夜はそれを失念していたのだ」
「だって、あの時はアーサーがアビーさんを斬っちゃったから、それどころじゃなくて…」

 真夜が情けなさそうに呟くと、アーサーが続けた。

「だが、我らには奴を破壊する術もなく、封印する力もない。ということで、最後に頼れるのは祐介だけなのだ」
「俺がストームブリンガーと解り合えなかったらどうなるんだ?」
「世界が滅びます。世界魔術師協会によって姉妹剣であるモーンブレイドが発見されたので、そのモーンブレイドとストームブリンガーが
一体となって使用されてしまえば、この世界は崩壊し、無に帰してしまいます」
「やっすいラノベみたいだな」

 突拍子もなさすぎて祐介は半笑いになったが、真夜は真顔だった。

「ですので、世界の覇権は祐介さんに掛かっていると言っても過言ではありません」
「我が愛しの魔女、真夜の生きる世界だ。命に代えても守りたまえ」

 アーサーは念を押してから、旅立ちの時は近い、と公園の時計を示したので、真夜は頭を下げた。

「では、これで失礼します。良いお年を」
「ああ、また来年」

 祐介が手を振ると、真夜はアーサーと共に私鉄の駅に向かっていった。魔女なのに、空を飛ばずに普通に電車で向かうらしい。
二人の後ろ姿が遠ざかるのを見送ってから、祐介は首を捻ってしまった。世界が滅ぶと言われても、どの世界が滅ぶのだろうか。
確かにストームブリンガーは恐ろしい魔剣だが、この世界を崩壊させるほどの力があるとは思えず、にわかには信じがたかった。
一介の大学生の危機感を煽るには、世界がどうのと言われるよりも、単位が足りないだのバイト代が出ないだのと言った方が良い。
真夜は非日常的な力を持つ魔女だが、現実離れした性分ではない。信じるべきなのだろうか、と悩みながら、祐介は歩き出した。
 買ったばかりの重箱が、紙袋の中で揺れていた。

120リビングメイルと魔剣と大晦日 3 859 ◆93FwBoL6s.:2009/12/26(土) 17:49:10 ID:kV1pGc4o


 アパートもえぎの202号室に戻ると、甘い匂いが充満していた。
 その発生源は、石油ストーブの上に置かれた鍋だった。それは、昨夜のうちにアビゲイルが仕込んでいた黒豆の入った鍋だった。
居間に面した台所には既に出来上がった昆布巻きの入った鍋もあり、伊達巻きに使うための巻き簀も洗いカゴで干されていた。
祐介はただいまと声を掛けてから部屋に上がると、アビゲイルはベランダで洗濯物を取り込んでいて、祐介に気付いて振り向いた。

「お帰りなさい、祐介さん」
「ただいま、アビー」

 祐介は改めて帰宅の挨拶をしてから、乾いた洗濯物をカゴに入れている銀色の女性型全身鎧に近付いた。

「ねえ、祐介さん」

 アビゲイルは両手で洗濯カゴを抱え、雲一つない冬空を仰ぎ見た。

「結局、うちにはサンタクロースさんは来なかったわね」
「そりゃ来ないだろ。俺もアビーも成人しているわけだし、子供に配るだけで手一杯なんだよ」
「でも、来てほしかったわ。お願いしたいことがあったのよ」
「俺のプレゼントだけじゃ不満だったのか? 新しいエプロン」
「違うわ、そうじゃないのよ。そんなことないわ、とっても嬉しかったわ。それに、そんなに重要なことでもないから」
「俺にはそうは思えないけど。クリスマスはとっくに過ぎたんだから、白状してもらおうか」

 祐介がアビゲイルににじり寄ると、アビゲイルは肩を縮めた。

「大したことじゃないのよ、本当よ」
「本当に?」

 祐介がアビゲイルのマスクに手を添えると、アビゲイルは観念し、小声で答えた。

「私、こんな体じゃない? 祐介さんに一杯触ってもらっても、柔らかくもなんともないし、暖かくもなんともないし、中身は空っぽ。
そんな体だから、都合が良いこともあるけど、やっぱり思ってしまうのよ。せめて味が解れば、って」
「味覚が欲しかったのか?」
「そうよ。だって、祐介さんがおいしいって言ってくれても、いつも自信が持てないのよ」

 アビゲイルはヘルムを上げ、祐介の肩越しに石油ストーブの上で煮える黒豆の鍋を見つめた。

「お正月のお料理だって、図書館で沢山本を借りて調べて、ちょっと練習してから作ってみたけど、分量が合っていても加減が
合わないってことがあるじゃない? 祐介さんは私が作るお料理をなんでも綺麗に食べてくれるけど、それが本当においしいのか
どうか知りたいのよ。だから、サンタクロースさんに味が解るようにしてほしかったんだけど、やっぱり我が侭は言えないのね」
「馬鹿だなぁ」

 祐介はアビゲイルを抱き寄せ、その兜をぽんぽんと叩いた。

「旨くなきゃ、全部食べないに決まってるだろ。余計な心配をしなくてもいい」
「でも…」
「重箱買ってきた。プラスチックのだけど。せっかくアビーが頑張って作ったおせち料理だ、器もそれらしくしなきゃ勿体なさすぎる」

 祐介が紙袋を掲げると、アビゲイルは恐縮した。

「まあ、重箱だなんて! そんなに立派なものじゃないわ、普通のお皿で充分よ」
「俺の実家だって、あんなに気合い入れて作らないぞ? ヤンマも茜ちゃんもほづみさんも帰省したから、食べるのは俺しかないのに」
「だ、だって、沢山作らないと要領が解らないから…。やっぱり、多すぎたかしら?」
「どれもこれも日持ちする料理だから、気長に全部食べるとするよ」

 祐介はアビゲイルから離れ、居間に戻って重箱入りの紙袋をテーブルに置いた。

「あ、祐介さん。お雑煮の味って何が良いかしら? 調べてみたら色々な味があったから、どれにすればいいのか解らなくて」

 洗濯カゴを抱えたアビゲイルも居間に戻ったので、祐介はマフラーを外してコートを脱ぎながら返した。

「うちのは醤油味だったな。大根にニンジンにネギに焼いた角餅に寒ブリ、だったかな」
「じゃあ、そうするわね。早速準備しなくっちゃ」

 洗濯物は後で畳みましょうっと、とアビゲイルは祐介の勉強部屋兼寝室の六畳間に洗濯カゴを置いてから、台所に向かった。
祐介はアビゲイルの背を見、まろやかな安心感を覚えた。幼い頃に、実家の母親が料理をする様を見ていた気分に似ていた。
全身鎧のリビングメイルであるからか、生々しさが少なく、女を通り越している。だが、母親に対する甘えた気持ちにはならない。
その代わり、日々忙しく働く彼女を思い切り甘えさせてしまいたくなる。近頃では外に働きに出るようになったので、尚更だった。
包丁にまな板を出して手際良く雑煮の材料を切り始めたアビゲイルを横目に、祐介は正月料理が詰まった冷蔵庫を開けてみた。

121リビングメイルと魔剣と大晦日 4 859 ◆93FwBoL6s.:2009/12/26(土) 17:51:26 ID:kV1pGc4o
 黄色が鮮やかな栗きんとん、照り良く煮えたエビ、ダシ醤油が染みた数の子、ゴマが香ばしい田作り、甘酸っぱい紅白なます。
年越しソバに使うための生麺も入っていて、ネギも小口切りになって小皿に入っている。これなら、真っ向から正月が迎えられる。
 訳もなく気持ちが浮き立ちながら、祐介は脱いだコートとマフラーとショルダーバッグを抱えて六畳間に戻りかけ、足を止めた。
ビニール傘が何本も突っ込まれている傘立ての中で異彩を放つ、漆黒の魔剣ストームブリンガーがうっすらと埃を被っていた。
アビゲイルには何が何でも触れるなと強く言い聞かせているので、大掃除をしてもあの柄と鞘にだけは触らなかったようだった。
そのことに安堵したが、アビゲイルを狂わせ、アーサーを追い詰め、死をもたらす魔剣と話し合えと言われたことを思い出した。
話して解るような相手だったら誰も苦労しないよ、と内心で真夜とアーサーに言い返してから、祐介は六畳間に入って襖を閉めた。
 黒豆の甘い匂いは、六畳間も浸食していた。



 二人だけの年越しは、穏やかなものだった。
 祐介しか食べないのでいつもと同じ分量の夕食が作られたが、メインのおかずに出されたのは小振りな鯛の煮付けだった。
味噌汁の代わりに澄まし汁が出され、白飯は祐介の実家から送られてきた新米も並び、年越しの夜に相応しい夕食だった。
アビゲイルは祐介が食べる様を満足げに眺め、祐介は視線を注がれながら食べることに少し困りながらも、全力で褒めた。
だが、やたらにおいしいと言い続けているだけでは信憑性に欠けるので、どこが良かったか、を具体的に言い表していった。
おかげで祐介は自分の語彙の少なさを痛感したが、一つ褒めるたびにアビゲイルが喜んでくれたので祐介も嬉しくなった。
 夕食を終えて片付けた後、祐介はアビゲイルと隣り合ってぼんやりとテレビを見ていた。それ以外にすることがないからだ。
二年参りに行くにしてもまだ時間が早すぎるし、年越しソバを食べるには胃が重たく、かといって勉強する気にはならない。
アビゲイルの傍にいるために帰省しなかったのだし、襖一枚とはいえ離れてしまうのは寂しいし、アビゲイルもそう言ってきた。
だから、出来る限り離れなかった。石油ストーブと祐介の体温で暖められたアビゲイルは、人肌程度の温もりを持っていた。

「ん…」

 缶ビールを開けて傾けていた祐介に、アビゲイルが寄り掛かり、かくんと頭を落とした。

「色々忙しかったもんな」

 祐介は缶をテーブルに置いてから、寝入ってしまったアビゲイルを支えると、横たわらせた。

「大掃除におせちの仕込みに買い出しと、俺が出来ないことを全部やってくれたんだからな。ありがとう、アビー」

 表情が全く変わらないヘルムを見下ろし、祐介は頬を緩めた。自分にだけは、気の抜けた寝顔が見えるような気がする。
アビゲイルを起こさないように気を遣いながら立ち上がった祐介は、先に布団を敷いておこうと六畳間の襖に手を掛けた。
すると、後頭部に硬いものがぶつかったので何事かと振り返ると、真っ黒で縦長の分厚い物体が祐介の目前に浮かんでいた。
それは、玄関の傘立てに差してある魔剣ストームブリンガーだった。だが、アビゲイルは眠っているので彼女の仕業ではない。
かといって、この部屋に祐介とアビゲイル以外の者がいるわけがない。となれば、ストームブリンガーは自力で浮いているのだ。
 祐介は開け損ねた襖から離れて後退ると、ストームブリンガーは音もなく宙を滑り、祐介をすぐさま窓際に追い詰めてしまった。
結露の浮いた窓に背を付けた祐介はベランダに出て逃げることも考えたが、自分が逃げたら事が面倒になる、と腹を括った。

「何の用だ?」

 祐介が戸惑いつつも問い掛けると、ストームブリンガーは悪魔の翼を思わせる形状の鍔に填った赤い宝石を光らせた。

「あなたを殺したい」

 雄々しささえ感じる風貌とは裏腹に、魔剣が発した声色は少女のものだった。

「殺したいの。血を啜りたいの。肉を切り裂きたいの。骨を砕きたいの。魂を喰らいたいの」
「お前、喋れるのか?」

 平坦ながら殺意の漲る言葉を浴びせられ、祐介は後退りながらどうでもいいことを言ってしまった。

「そりゃそうだよな、魔剣なんだから」
「そうよ、私は魔剣。世界を滅ぼす剣の片割れ。混沌より生まれ出でた混沌の化身。そして、死と破壊を求める黒き刃」

 ストームブリンガーは金属的で涼やかな声を連ねながら、祐介との間を詰めていく。

122リビングメイルと魔剣と大晦日 5 859 ◆93FwBoL6s.:2009/12/26(土) 17:53:09 ID:kV1pGc4o

「このエルリックは私の役に立たない。私は数多の世界を生きて数多のエルリックと逢瀬を重ねたけど、このエルリックはまるでダメだわ。
混沌に溺れもしなければ、法に酔いもしない。自らの欲望と渇望を満たすために私を使っただけで、最後には呆気なく殺されたのよ。
神をも殺せる私には、聖剣エクスカリバーなんて敵ではなかったのに。なのに、このエルリックは死んだわ。私を満たす前に」

 きち、と鍔が僅かに上がり、滑らかな漆黒の剣が鍔と鞘の隙間から覗いた。

「私は目覚めきっていなかった。だから、エクスカリバー如きに砕かれた。だから、私はまた眠りに付いた。このエルリックから流れ込む
生命力を貪り喰い、破損した刀身を再生させ、力も蘇らせた。そして、私は改めて目覚めたのよ。だから、あなたを殺したい」
「ちょっ、と待て!」

 祐介はストームブリンガーを押し止めようと手を伸ばしたが、触れる寸前で手を引いた。以前、触れた時には火傷したからだ。

「どうして俺が死ななきゃならないんだ?」
「決まっているわ。あなたを殺してこのエルリックを混沌に引き摺り込まなければ、私は混沌に満たされないからよ」
「それと、エルリックエルリックって言うけど、ここにいるのはアビゲイルだぞ、アビー」
「エルリックはエルリックよ。そんな名前は、あなたがこの子に付けたものに過ぎないわ。この子の本当の名はエルリックよ」
「俺にとってはアビーだ」
「エルリックよ」
「アビゲイルだ!」

 祐介は恐怖と苛立ちを交えて声を荒げ、ストームブリンガーを睨んだ。

「私が私であるがためには、剣の使い手がいなければならないのよ。ここにいるエルリックはどうしようもないエルリックだけど、
剣の使い手としての才はあったわ。だから、エルリックがいなければならないのよ。私は混沌を招き、世界を滅ぼすのが役目だから」

 だが、ストームブリンガーは動じずに淡々と返してくる。

「どうして滅ぼすんだ? お前とモーンブレイドとかいうのは、人間が嫌いなのか、それとも世界自体が嫌いなのか?」

 祐介は荒い口調で聞き返すが、ストームブリンガーは冷淡に続けた。

「私は滅びと死を招くために生み出された剣。モーンブレイドも同じ。だから、滅ぼさなければならないのよ」
「けど、こうして俺と話している以上、お前にもちゃんと意志があるんだろ?」
「意志はあるわ。けれど、私は血を吸うために生まれたのよ。血を吸って、混沌を作り出して、死をもたらすの」
「モーンブレイドもそうなのか?」
「ええ、そうよ。私と妹は一対であり、同一でもある存在。同じことを考えるのが必然」
「でも、考えることは出来るんだな?」
「ええ、そうよ。私は魔剣だもの。人智を越えた世界から生まれ、人智を越えたものを望む者」

 話は全く通じないが、会話は一応成立している。祐介は会話している間にやや落ち着いてきた恐怖心を鎮めるため、深呼吸した。
アビゲイルを窺ってみるが、身動き一つしていなかった。彼女が目覚めないのは、ストームブリンガーが覚醒しているからだろう。
言いくるめることは出来ないかもしれないが、なんとか話すだけ話してみよう。世界が滅ぼされてしまったら、たまったものではない。
ストームブリンガーと対峙すると、魔法の才がなくても圧倒的な力を感じる。真夜とアーサーの話を疑う余地など一瞬で吹っ飛んだ。

「アビゲイルを、どう思う?」

 会話の取っ掛かりを見つけるため、祐介は話題を変えて切り出した。

「それはさっき言った通りよ。このエルリックはどうしようもないエルリックだけど、私の使い手に相応しい剣の腕があるわ」

 ストームブリンガーは、やはり抑揚を変えずに答えた。

「あなたを殺せば、エルリックは私が注ぐ力と背徳で混沌に誘われるわ。そうすれば、この世界を滅びに導けるのよ」

 どうあってもアビゲイルとは呼ばないらしい。祐介は意地になり、彼女の名は頑なに愛称で呼び続けた。

123リビングメイルと魔剣と大晦日 6 859 ◆93FwBoL6s.:2009/12/26(土) 17:56:05 ID:kV1pGc4o

「世界が滅べば、当然俺やアビーも死ぬんだな?」
「いいえ。エルリックは死なないわ。けれど、あなたは死ぬわ。私に殺されるから」
「逆に聞くが、どうすれば世界を滅ぼさずにいてくれるんだ?」
「私を殺せばいいわ。それだけのことよ」
「それが出来ないから、俺も皆も苦労しているんじゃないか」
「あなたは私を殺したいのね。それはエルリックのため?」
「そりゃそうだ。お前さえいなくなれば、アビーは魔剣から解放される」
「鎧に染み付いたエルリックの仮初めの命を繋いでいるのは私の力よ。だから、その答えには大きな矛盾があるわ」
「俺だって、それぐらい解っている。でも、そう思うんだよ」

 アビゲイルの無機質な寝顔を見下ろし、祐介は張り詰めていた気分を少しだけ緩めた。

「お前を殺せば、俺はアビーをただの女に出来る。でも、俺にはそんなことが出来るほどの力はない。アビーが死ぬって解っているから、
出来たとしても最後の最後で躊躇うに決まっている。だけど、出来ることならそうしたい」
「私は殺されないわ。エルリックを使うのは私だけ。私を使うのはエルリックだけ。けれど、エルリックは血を求めない。だから、私は
エルリックに血と戦いを求めさせるのよ」
「剣の持ち主を憎しみと怒りで煽り立てるために、俺みたいな近しい人間を殺してきたのか?」
「ええ、そうよ。このエルリックの傍でも、他の世界のエルリックの傍でも、同じことをしたわ。だって、私は魔剣だもの」
「ということは、お前はアビーが好きなのか?」
「好き? いいえ、好意なんて感じないわ。私を扱うのは、エルリックが相応しいと言うだけのことよ」
「それを好意って言うんだ。かなり歪んでいるけどな」
「では、あなたはエルリックをどう思っているの? エルリックを通じてあなたを感じていたけど、理解しがたかったわ」
「俺はアビーが好きだ、好きだから好きなんだ」
「理解しがたいわ」
「しようとしないからだろうが」
「理解する必要がないわ」
「本当にそうか?」
「相反する感情も理解しないことには、混沌とやらも理解しきれないんじゃないのか?」
「そんなことはないわ。混沌とは万物を内包しているもの。相反するものすらも混沌は内包しているわ」
「そう来たか。じゃあ、話の方向性を思い切り変えるが、ぶっちゃけ、俺とアビーがベタベタしているのを見ていて面白いか?」

 自分でも突拍子もないと思ったが、思い付いたものは仕方ない。祐介がアビゲイルを指すと、ストームブリンガーは答えた。

「そうね、面白くないわ。私はエルリックと感覚の一部を共有しているけど、全て感じ取らないで排除しているわ。不快だからよ」
「具体的には何がどう面白くないんだ?」
「あなたとエルリックが触れ合うのが面白くないわ。私には誰も触れてこないのに、エルリックだけ触れられるのは不公平だわ」
「他には?」
「あなたとエルリックが愛し合うのが面白くないわ。私には誰も愛など注がないのに、エルリックだけ愛されるのは不公平だわ」
「じゃ、その次は?」
「あなたとエルリックが求め合うのが面白くないわ。私のことは誰も求めてくれないのに、エルリックだけ求められるのは不公平だわ」
「んで?」
「あなたとエルリックが睦み合うのが面白くないわ。私には睦み合うべき相手もいないのに、エルリックだけ睦み合うのは不公平だわ」

 要するに、妬いているらしい。祐介は急にストームブリンガーに愛嬌を感じたが、魔剣なのだと思い直した。

「それじゃ、俺はどうすればいい?」
「殺されなさい。そして、私に血と魂を捧げなさい」
「それ以外でだ。やれる範囲で努力するから」
「だったら、あなたは私を慰めなさい。エルリックにしてきたように」

 ストームブリンガーの要求に、祐介は面食らった。

「…は?」
「跪きなさい。そして、舐めなさい。私を慰めなさい」
「つまり、俺に剣とヤれと?」
「慰められないのなら、殺されなさい。それがあなたの存在意義なのよ」
「少し考えさせてくれ」
「夜は長いようで短いわ」
「解った解った、だけどちょっと待ってくれ。心の準備ってものがある」

124リビングメイルと魔剣と大晦日 7 859 ◆93FwBoL6s.:2009/12/26(土) 17:57:50 ID:kV1pGc4o
 祐介は片手を上げてストームブリンガーを制してから、嘆息した。いくらなんでも、剣を相手に欲情するのは難しすぎたからだ。
アビゲイルはまだいい。銀色の金属で出来た全身鎧だが人型だし、ちゃんと胸もあり、尻もあり、太股など色気が溢れんばかりだ。
だが、ストームブリンガーは違う。世界を滅ぼす魔剣だが、ただの黒い鉄板だ。少女の声で喋るが、それでも無理なものは無理だ。
変態上級者のところでやってくれないか、と祐介は言いかけたが、ここで引き下がっては本当に世界が滅ぼされるかもしれない。
そうなれば、祐介は真っ先に殺されるだろうが、アビゲイルが丹誠込めて作ってくれたおせち料理も食べずに死ぬわけにいかない。

「ごめん、アビー」

 祐介はせめてもの償いにとアビゲイルに深くキスしてから、ストームブリンガーに向き直った。

「じゃ、脱げ!」
「何を脱げと言うの。私は魔剣よ」
「鞘があるだろうが、鞘が!」

 祐介は半ば自棄になり、ストームブリンガーの鞘を掴んだ。だが、灼熱に似た冷たさは襲い掛からず、手も焼けなかった。

「人間の分際で、私に刃向かうというの」
「自分からヤれって言っておいてその態度はないだろう」

 ほれ、と祐介がストームブリンガーを引っ張ると、ストームブリンガーはぱたりと畳の上に横たわった。

「解ったわ。けれど、傷は付けないでね。あなたが死ぬわ」
「というか、俺の方が怖いけどな。俺の手足なんてぽんぽん切れちまうだろうから、お前の方こそ間違っても暴れないでくれよ」

「解ったわ」



 ストームブリンガーは鍔を少し上げ、かきん、と鞘から刃を少しだけ抜いた。気を許してくれた証なのだろう。

「しかし、何をどうしたものか」

 どこからどう見ても剣だ。祐介は体の下で横たわる魔剣を見下ろし、思い悩んだ。責めようにも、責めるべきポイントが解らない。
アビゲイルなら頭もあるし、首も胸も尻も股間もある。だが、魔剣にあるのは柄と鍔と刃だ。頭が柄なら、鍔は腕と肩と言うべきか。
だが、それは単なる推測に過ぎない。祐介はしばし迷っていたが、ストームブリンガーを収める鞘に手を掛け、柄を握って浮かせた。

「脱がすぞ」
「ええ…」

 ストームブリンガーの零した声色はかすかに弱り、剣の重みが祐介の手に訪れた。

「調子狂うなー…」

 祐介はやるせない気持ちになりながら、魔剣の鞘を引いた。分厚い両手剣を包み込む鞘なので、鞘自体も分厚く、重たかった。
鞘を引いていくと恐ろしく滑らかな刃が現れ、難なく抜けた。鞘を置いた祐介は、完全に再生した魔剣を目にし、浅く息を飲んだ。
 ストームブリンガーは、疑いようもなく美しかった。世界中の闇を凝らせて造り上げたような刀身は、誇らしげに真っ直ぐ伸びていた。
刃以外の刀身にびっしりと刻み付けられたルーン文字は、意味こそ解らなくとも、その美しさを引き立たせるタトゥーに思えてしまう。
人を斬って血を吸い込めば、漆黒の刀身に連なるルーン文字に朱が入り、悪魔じみた魅力を彩る化粧になるのは間違いないだろう。
両翼を広げた悪魔が塗り込められたかのような鍔には毒々しい赤の宝石が輝き、女の手でも握れる太さの柄には妙な色香がある。
今になって、祐介はストームブリンガーが女だと実感した。これもまた魔剣の力なのか、とも思ったが、魅入られては元も子もない。

「どこをどう触ろうと、文句を言うなよ。お前から言い出したんだからな」

 祐介はストームブリンガーの柄に触れ、先端に付いた飾りをなぞった。反応はない。次に、柄に添って手を這わせていった。
これもまた反応がない。なので、鍔の宝石に触れて鍔全体を柔らかく撫でてやると、ストームブリンガーは短く声を漏らした。

「ん…」
「あっ」

 それに重なって、聞き慣れた甘い声がした。祐介が振り返ると、アビゲイルがヘルムを押さえていた。

「そういえば、共有しているとか言っていたな」

125リビングメイルと魔剣と大晦日 8 859 ◆93FwBoL6s.:2009/12/26(土) 17:59:38 ID:kV1pGc4o

 となると、アビゲイルの反応でどこが感じるのか解るはずだ。活路を見出せたことを密かに喜びながら、祐介は手を動かした。
鍔の上部をなぞると、アビゲイルはくすぐったげに腕を曲げる。鍔と刀身の繋ぎ目をなぞると、アビゲイルは悩ましげに腰を捻る。
そして、手を切らないように細心の注意を払いながらルーン文字だらけの刀身を撫でてやると、アビゲイルは内股を擦り寄せた。

「あ、ぁ…」

 調子に乗った祐介は、ルーン文字の一つ一つを触っていった。どれもこれも形が複雑だが、指の腹で丁寧に文字の形を辿る。
ストームブリンガーががたがたと揺れたので柄を掴んで押さえてから、祐介は古文書を読み解くようにルーン文字を丹念に辿った。
数がやたらに多いので時間は掛かるが、その分手間を掛けられる。何十個目かの文字に触れた瞬間、アビゲイルが身を捩った。

「いやぁんっ、祐介さぁん!」
「…っふ」

 アビゲイルの甲高い喘ぎに隠すように、ストームブリンガーが吐息に似た声を零した。

「そうか、ここか」

 弱点を見つけられたことで変な自信が湧いた祐介は、そのルーン文字に唇を寄せた。王に傅く騎士のようだ、と頭の隅で思った。
だが、実際には魔剣に奉仕する愚かな男だ。たかが剣に良いようにされた屈辱感も手伝い、祐介はルーン文字をしつこく責めた。
アビゲイルにそうしてやるように唇を付け、吸い、舌先で文字をなぞる。アビゲイルの肌よりも有機的な、生臭さのある鉄の味だった。

「あっ、やうっ、んあっ」

 祐介の背後ではストームブリンガーを通じて感覚を受け取るアビゲイルが悶え、鼻に掛かった喘ぎに荒い呼吸が混じり始めた。
ストームブリンガーに顔を付けているからその様は見えないが、彼女の声だけでも充分扇情的で、股間が素直に反応していた。

「どうだ、ストームブリンガー。これがお前が羨んでいたものだぞ」

 勝ち誇るように祐介が囁くと、ストームブリンガーは鍔の宝石を淡く光らせた。

「憎悪。違う。嫌悪。違う。殺意。違う。好意。少し…違う」
「気持ちいい、ってそれだけなんだろ?」
「理解しがたいわぁっうっ!」

 平静を保とうとしたストームブリンガーに、祐介は唾液に濡れたルーン文字を弾いた。

「きゃぁんっ!」

 すると、アビゲイルが胸を反らして仰け反り、腰を突き出した。

「あっちも可愛がってやりたいんだが、今はお前だ。何せ、散々困らせてくれたからな」

 祐介はアビゲイルに触れたい気持ちを堪え、ストームブリンガーの柄を硬く握り締めていた手を緩め、柄を撫でさすった。

「あなたはおかしい。殺したい。殺したいわ。殺さなきゃあっ…!」

 慣れない感覚に怯えるかのように、ストームブリンガーは震えた。祐介は彼女の鍔を握り、畳に押し付けた。

「今、俺を殺したら生殺しだぞ。その方が辛くないか?」
「生、殺し…」
「そうだ。どこをどう感じているのか良く解らないけど、お前がイきそうだってのは解る。アビーの反応で」

 祐介はストームブリンガーを組み敷きながらアビゲイルに向くと、アビゲイルはヘルムを押さえて体を縮めた。

「ふぇあぁ…祐介さぁん…」
「ああなると、ちょっと触っただけでも凄い声出すんだよなぁ。それが可愛いんだけど」

 アビゲイルへの愛おしさで祐介が笑うと、ストームブリンガーは声色を低めた。

「それが面白くないのだわ」
「だったら、ずっとアビーと感覚を繋げておけばいい。アビーと一緒に可愛がってやるから」

 ストームブリンガーを制しているので余裕が出てきた祐介が軽口を叩くと、ストームブリンガーは長い間の後、小声で呟いた。

「…そうね」

126リビングメイルと魔剣と大晦日 9 859 ◆93FwBoL6s.:2009/12/26(土) 18:01:07 ID:kV1pGc4o

 妥協か、或いは諦観か、もしくは凋落か。祐介にはストームブリンガーの真意は計りかねたが、一気に責め落とすことにした。
散々責めたルーン文字とその周囲のルーン文字に何度もキスを落とし、丹念に舐めながら、刀身を全体的に手のひらで撫でた。
柄と鍔をぬるりと撫で、抱き起こすように刀身を浮かせた。次第にストームブリンガーの反応は高ぶり、アビゲイルも同様だった。

「くぅ、っ…」
「もうダメェ、祐介さぁんっ、やぁあああんっ!」

 びくん、と一際大きく痙攣したアビゲイルと同時に、ストームブリンガーは祐介の手からずるりと落ちて畳に転げた。

「あ…」
「満足したか、ストームブリンガー?」

 ストームブリンガーから離れた祐介が口元を拭うと、ストームブリンガーは刃が触れて少し千切れた畳に刀身を埋めた。

「解らないわ。でも、興味深いわ」
「なんでもかんでも殺すから、お前は誰にも好かれないし、愛されないんだ。これ以上誰も殺さないと誓ったら、またしてやる」
「愚かな取引だわ。そんなもので、この私が屈するとでも」

 元の調子に戻りかけたストームブリンガーに、祐介は弱点のルーン文字を指で弾いた。

「ひぃんっ!?」
「充分屈してるじゃないか」
「これは、エルリックの感覚が逆流しているからでっ…!」

 それらしいことを言うが、ストームブリンガーの声色は明らかに甘ったるく上擦っていた。

「意地っ張りめ」

 祐介がルーン文字を潰すように押さえると、ストームブリンガーは柄を浮き上がらせた。

「あうんっ!」
「俺はお前を使うつもりもないし、誰を殺す気もない。だが、お前がいなくなればアビーが死ぬ。アビーが死ねば、俺は最高の恋人を
失うことになる。アビーを守るためになるなら、魔剣だろうが何だろうが可愛がるしかないだろう」

 祐介がねちっこく刀身を撫でながら言うと、ストームブリンガーは最後の意地で言い返した。

「あ、あなた、おかしいわ!」
「今更言われるまでもない」

 祐介は勝利を確信し、にやけた。そして、ストームブリンガーの濡れに濡れたルーン文字を力一杯弾くと、魔剣は陥落した。

「いやぁあああああっ!」
「あぁあああっ!」

 同時に、アビゲイルも達してしまった。祐介は自分の傍で身悶える魔剣と全身鎧を見比べたが、当然、アビゲイルを優先した。
魔剣はずるずると這いずって鞘に入ろうとしているので、放っておいても良さそうだが、アビゲイルはそうもいかないようだった。
目を覚ましてもいないのに祐介が近くにいないことに気付いたらしく、熱に浮かされたように、祐介さん、祐介さん、と繰り返した。
祐介は息も絶え絶えの恋人を抱き上げてから、ストームブリンガーに目を向けると、頼りない浮かび方で傘立てに向かっていた。
言い返しもしないところを見ると、やり込めることが出来たらしい。安請け合いしたのはまずかったか、と後悔したが、腹を括った。
それも全て、アビゲイルのためなのだ。祐介がアビゲイルのヘルムに頬を寄せて冷たさを確かめていると、彼女は小さく呻いた。

「ん…」

 アビゲイルは間近にある祐介の顔に気付いた途端、逃げだそうとした。

127リビングメイルと魔剣と大晦日 10 859 ◆93FwBoL6s.:2009/12/26(土) 18:02:38 ID:kV1pGc4o

「やぁんっ!」
「おいこら、逃げるな」

 祐介がアビゲイルに覆い被さって取り押さえると、アビゲイルは両手で顔を覆った。

「だ、だってぇ、私、祐介さんが傍にいるのにあんな夢見ちゃって、声も出ちゃって、やだもう恥ずかしい!」
「そういえば、良い声で鳴いてたなぁ」

 ストームブリンガーのことをはぐらかすために祐介が茶化すと、アビゲイルは身を縮めた。

「やだぁ…」
「俺だって嫌だよ。このまま放っておかれるのは」

 祐介がアビゲイルの肩に額を当てると、アビゲイルは手を伸ばし、祐介の股間で強張る性器に触れた。

「あら」
「こんなんじゃ、初詣どころじゃないだろ」
「うふふ、それもそうね。…凄いわね」

 ジーンズの上から祐介の強張りを確かめたアビゲイルは、慣れた手付きでファスナーを開け、熱く充血した男根を外に出した。
ストームブリンガーを責めている間、触れてほしくてたまらなかった手だ。冷たいのに優しく、硬いのに柔らかな仕草の彼女の手。
勢い余って反り返った性器を下から上へと愛撫しながら、もう一方の手では粘液を滲ませ始めた先端を包み、指先で穴を抉る。
口がないので頬張れない分、手淫の技術を上げている上、アビゲイルは祐介が弱い部分や好みの刺激の強さを覚え込んでいる。
ともすれば、自分の手よりも良い。アビゲイルからの惜しみない愛情を一心に感じた祐介は、アビゲイルの上半身をきつく抱いた。

「離れた方がいいと思ったけど、無理だ」
「ええ、私もその方が良いわ」

 アビゲイルの手が祐介の男根を、搾り取るように擦っていく。祐介はアビゲイルに縋り、込み上がった精液を余さずに放った。

「すまん…」
「謝らないで。私は嬉しいから」

 ぼたぼたと白濁した熱い飛沫が胸と腹に散ったアビゲイルは、手にべったりと付いた精液を舐めるようにマスクに添えた。

「本当に、味が解ればいいのに」
「アビー。外に出る前に、一度風呂に入ってくれ。綺麗に洗わないと、匂いも落ちないからな」
「勿体ない気もするけど、神様のお社にお参りするんだもんね。綺麗にしておくに越したことはないわ」
 
 アビゲイルは祐介の体の下から起き上がると、銀色の肌に飛び散った大量の精液を見下ろした。

「これだけあれば、間違いなく妊娠出来そうね」
「言うな、恥ずかしい」

 祐介は自分のものをしまいながら、アビゲイルに背を向けた。

「あ」

 気付けば、テレビの年越し番組が終わっていた。当然、年も明けていた。

「あらまぁ」

 アビゲイルも祐介の肩越しにテレビを見てから、壁掛け時計を見上げた。

「もうちょっとまともな年越しにするつもりだったんだけどなぁ…」

 祐介が赤面すると、アビゲイルはにんまりした。

「いいじゃない。次こそはちゃんとすればいいんだから」
「うん、次だな」
「ええ、来年よ。年が明けたばかりだけどね」

 お風呂を暖めてくるわ、とアビゲイルは精液も拭わずに風呂場に向かった。

「そうだな、来年だ」

 年が明けたばかりでこんなことを言っていては、鬼が大爆笑しそうだが。祐介は玄関の傘立てを見、彼女の平静を確かめた。
アビゲイルが離れたから殺しに来るかと思ったが、やはり来なかった。純粋に負けたことが悔しかっただけなのかもしれないが。
このまま大人しくしていてくれ、と願いつつ、祐介はテーブルの上から飲みかけの缶ビールを取り、気の抜けた苦い液体を煽った。
 神社で年神に祈ることは決まっている。命の息吹を失ったが心の息吹は失わないリビングメイルとの日常の安寧と継続だ。
それを守るためなら、魔剣にさえ身を捧げてみせよう。アーサーのように戦えず、ヤンマのように空も飛べないが、体は張れる。
風呂場から聞こえるアビゲイルの鼻歌に耳を傾けながら、祐介は台所に向かい、舌の上に残る鉄臭さを消すために水を飲んだ。
魔剣には勝利したが、浮気したような後ろめたさがまとわりついた。それをなんとかするためにも、後でアビゲイルと体を重ねよう。
 混沌に魅入られないように、触れて、愛して、求めて、睦み合おう。

128859 ◆93FwBoL6s.:2009/12/26(土) 18:05:41 ID:kV1pGc4o
以上。前回と同じミスした挙げ句改行ミスってもうやだこんな自分。
最初に書き忘れましたが、イチャラブな和姦です。3Pみたいだけどたぶん3Pじゃありません。
Wikiでストームブリンガーの記述を見ていたらヤンデレ少女にしか思えなくなったので書いてみたけど、誰得にも程がある。

129変態紳士:2009/12/26(土) 20:18:04 ID:gYrFbO0Y
GJ
剣かわいい

130変態紳士:2009/12/27(日) 16:13:09 ID:Ii9AhDbk
GJ
ヤンデレ剣可愛いよ

131変態紳士:2010/01/09(土) 02:25:44 ID:LF0b1xtw
GJでした!!

132859 ◆93FwBoL6s.:2010/02/22(月) 17:14:50 ID:jHrtyczo
随分前に書いたけど放置していたSSを投下。
以前に投下した「リビングメイルと魔剣と大晦日」に繋がる話なので、こちらの方が良いかと思いまして。
これまた以前に書いた「正義の味方とオペレーター」の二人が登場します。
ロボ×女性の和姦で、例によってイチャラブです。

133魔剣と正義の味方とその愛妻 1 859 ◆93FwBoL6s.:2010/02/22(月) 17:16:20 ID:jHrtyczo
 アパートもえぎの、203号室。
 割り当てられた部屋を見上げ、アパートの全貌を二度三度と確かめてから、織部綾子は荷物を掛けた肩を下ろした。
目の前にあるアパートは木造二階建てで、鉄製の階段は当の昔に塗装が剥げていて赤茶けた錆が所々浮いていた。
壁も屋根も色褪せていて、風雨に曝された年月の長さを物語っている。周囲の家屋は新しいので、尚更古さが目立つ。
少なく見積もっても、築三十年は超えていそうである。昨日まで暮らしていたマンションとは、天と地ほどの差があった。
今すぐにでも3LDKのマンションに戻りたかったが、既に荷物は運び込まれているし、住所も移し替えられた後なのだ。
それに、この引っ越しは地球防衛軍から命じられた任務の一部なのだ。綾子が渋面を作ると、傍らの夫が励ました。

「気を落とすな、綾子!」

 がっしと綾子の肩を掴んできた手は分厚く、純白の装甲に包まれていた。

「遅れてきた新婚生活だと思えば良いではないか!」
「…そう?」

 綾子は渋面を保ちつつ、彼に向いた。綾子の背後で笑みを見せているのは、地球防衛軍に所属する金属生命体だった。
その名もブライトウィングと言い、防衛部隊の主戦力であり、正義の金属生命体達を統率している優れたリーダーでもある。
敵対する悪の金属生命体デスロニアンを追って五年前に地球を訪れた際に戦闘機のデータを得たので、翼や機首がある。
本来の姿は全長十五メートルの巨大ロボットなのだが、金属細胞を自由自在に伸縮出来るので今は綾子と同等の体格だ。
大きさを変えたところで、彼の戦闘能力は劣らない。敵の作戦で巨大化出来なくなった時も、人間大の大きさで敵を圧倒した。
白銀の顔は間違いなく美形で、翼やブースターの付いた背を支える腰も細く、足もすらりと長く、外装は強度に反して端正だ。
そして、つい半年前に地球の危機を救ったヒーローであり、誰からも慕われる正義の味方だが、名実共に綾子の夫である。
 本来、機械生命体と人間は結婚出来ないのだが、ブライトウィングがヒーローの立場を利用して国連を揺さぶったからだ。
惚れられたからと言ってそこまでされるのは、と綾子は思ったが、綾子にも好都合なことが多いと知ってからは受け入れた。
ブライトウィングの士気に関わるから、と政府上層から命じられた綾子は、オペレーターから防衛部隊特別顧問に就任した。
といっても、やることはオペレーター時代とほとんど変わらず、防衛部隊の後方支援で忙しく働いている。はずだったのだが。

「なぁんでこうなるかなぁー…」

 綾子はアパートもえぎのを見上げ、首を捻った。

「このアパートで、多次元宇宙を超越する物質と、次元超越を行った際に発生する反物質素粒子の発生が確認されたのだ。
危険も多かろう、私が直々に調査することに疑問はない」
「だからって、なんで私も一緒に引っ越すわけ? こんなボロアパートに」
「都合の良いことに、このアパートには人間と人ならざる者が多く同居している。だから、私達もそのような行動を取れば
なんら疑われることはなかろう。それに、私一人で住んだところで寂しいではないか」
「それが本音?」
「うむ」

 恥ずかしげもなく肯定したブライトウィングに、綾子は目を逸らした。

「単身赴任だと思えばいいじゃない。私のマンションから大して遠くないし、あんたなら一瞬で飛んでこれるはずだし」
「そういう問題ではない。私が任務を終えて帰還する部屋に、綾子がいてくれないと」
「はいはい解った、その辺は後でじっくり聞くとして、今はさっさと部屋に行こう。でないと報告書も上げられない」

 綾子はブライトウィングを引っ張り、アパートの階段に向かった。ブライトウィングは不満げだったが、綾子に続いて歩いた。
平日の昼下がりという半端な時間帯であるため、住人達はそれぞれの日常を送っているらしく、アパートは静かなものだった。
件の多次元宇宙超越物質が存在する202号室のドアを注視した後、綾子は今日から自宅となった203号室の前に立った。
ブライトウィングも綾子の背後に立ったが、背中から生えた立派な翼が雨樋に引っ掛かってしまったらしく、腰を曲げていた。
自分はともかく、彼は適応するのは難しそうだ。そう思いつつ、綾子は地球防衛軍長官から渡された鍵を錆びたノブに差した。
 世界平和のために、住人達とは上手くやらなければ。

134魔剣と正義の味方とその愛妻 2 859 ◆93FwBoL6s.:2010/02/22(月) 17:18:19 ID:jHrtyczo

 その日の夜、綾子とブライトウィングは挨拶回りに出た。
 もちろん、相手はアパートもえぎのの住人達だ。無難なタオルの詰め合わせを夫に抱えさせ、綾子は各階の部屋を回った。
最初に向かったのは、隣室であり調査対象である202号室である。綾子がチャイムを鳴らすと、すぐに返事が返ってきた。
ドアを開けたのは、銀色の女性型全身鎧だった。そして、靴箱の傍の傘立てには、無造作に魔剣が刺さっていた。

「はぁい」
「夜分遅くに失礼します。今日、引っ越してきました、203号室の織部綾子と申します」
「綾子の夫であり、地球防衛軍防衛部隊隊長のブライトウィングだ」

 綾子が礼をすると、ブライトウィングは敬礼してからタオルの詰め合わせの箱を渡した。

「まあ、ありがとうございます!」

 銀色の女性型全身鎧は丁重に箱を受け取ってから、居間に声を掛けた。

「祐介さん、新しいお隣さんが御挨拶にいらしたわよ」
「今行くよ。どうも初めまして、鎧坂祐介です」

 銀色の女性型全身鎧に呼ばれて現れた青年が名乗った後、銀色の女性型全身鎧も名乗った。

「アビゲイルと申します」
「今後ともよろしくお願いいたします」

 綾子が再度頭を下げてから目を上げると、祐介はひどく真剣な顔でブライトウィングを注視していた。

「凄い、本物だ…」
「私は存じ上げないけど、祐介さんはブライトウィングさんのことを知っているの?」

 アビゲイルが首を傾げると、祐介は頷いた。

「だって地球防衛軍だぞ、ブライトウィング隊長だぞ! 知らないわけがない!」
「それは嬉しいな」

 ブライトウィングがにこやかに返すと、祐介は少年のような表情を浮かべた。

「これからも頑張って下さい!」
「その言葉が、私の正義を支える力となる。君こそ、麗しき鋼の彼女を大事にしたまえ」
「はいっ!」

 祐介は興奮した様子で、力一杯頷いた。アビゲイルは祐介の反応が理解出来ないらしく、ブライトウィングを眺めていた。
国家も民族も超越した史上最強の防衛組織、地球防衛軍は、日頃からその活躍をオープンにしているので認知度が高い。
ニュースでも頻繁に情報が流され、メタロニアンの戦士達の姿も惜しげもなく曝され、彼らも休日には市街地に降りている。
デスロニアンによる地球規模の危機を阻止するだけでなく、あらゆる緊急事態に対処して地球に住む人間達を守ってきた。
おかげで、今や地球防衛軍は平和の象徴である。そして、見栄えのするロボット型異星人の戦士達の評判も上々だった。
隊長であるブライトウィングは、ヒーローに心酔する子供達だけでなくロボットアニメ世代の大人からも熱烈に好かれている。
だから、祐介のような反応が当たり前であり、表情は見えないがきょとんとしているであろうアビゲイルの反応の方が珍しい。
だが、驚くことでもない。地球防衛軍の諜報部隊による事前調査で、アビゲイルの正体とその素性も全て掴めているからだ。
中世時代に死んだ男装の王女の魂が魔剣の力で癒着した全身鎧で、数ヶ月前の事件で一度記憶が消え、再度目覚めた。
人格こそ出来上がっているが、記憶喪失の影響で現代社会に関する情報を習得しきっていないので別段不自然ではない。

「では、また会おう」

 ブライトウィングは気障ったらしく言い残してから、201号室に向かった。綾子は二人にまた礼をしてから、夫に続いた。
202号室のドアは閉められたが、祐介の舞い上がった声が聞こえてくる。正義の戦士に会えたのが余程嬉しかったのだろう。
 201号室のドアのチャイムを鳴らすと、今度はトンボの昆虫人間が現れた。彼は綾子とブライトウィングを見、触角を立てた。
部屋の主、鬼塚ヤンマである。彼は挨拶もそこそこに居間に駆け戻ると、部屋着姿の少女を引き摺って玄関に戻ってきた。

「ほれ見ろ茜、凄ぇぞ本物だ! メタロニアンだ!」
「おおー」

135魔剣と正義の味方とその愛妻 3 859 ◆93FwBoL6s.:2010/02/22(月) 17:22:08 ID:jHrtyczo
 ヤンマのテンションの高さとは裏腹に、少女、秋野茜の反応は薄かった。綾子は先程と同じ挨拶をし、夫に箱を渡させた。
茜は丁重に箱を受け取ってから、すっげーマジすっげー、と言い続けるヤンマの首を掴んで強引に頭を下げさせ、礼をした。

「こちらこそ、よろしくお願いします」
「写メっていいっすか! うーわーすっげぇー、やっぱ超カッケー!」

 興奮冷めやらぬヤンマが顎を全開にしたので、茜はヤンマの上右足を引っ張った。

「失礼でしょーが! ていうか何やってんの、ヤンマらしくもない! そういうのはしーちゃんの役割でしょ!」
「だって地球防衛軍だぜ地球防衛軍、アースディフェンスフォース、略称EDF! 俺達を守る正義の味方じゃんか!」

 ヤンマは茜に引き留められるどころか、逆に茜をひょいっと持ち上げてエメラルドグリーンの複眼を迫らせた。

「お前も見ただろ、二年前のデスロニアンとのオイルでオイルを洗う最終決戦! 全世界同時衛星中継でよ!」
「そりゃ見たけど、私にはただの戦争にしか見えなかったもん」
「戦争なんかじゃねぇよ、侵略者に立ち向かうヒーローだ! 同族でありながら反発し合うデスロニアンとの戦いだ!」
「やっぱり戦争じゃない」
「地球どころか、俺らみてぇなのを全部背負って戦ってくれたんだぞ! 感謝しろ、でもって燃えて燃え滾れー!」

 ヤンマは茜に詰め寄るが、茜はブライトウィングを横目に見てから、ヤンマを押しやった。

「守ってくれることには感謝してるし、地球を救ってくれたのは本当に凄いことだと思うけど、私にはそうは見られないよ」
「なんでだよ」

 茜の反応の鈍さに若干苛立ったヤンマが顎を軋ませると、茜はヤンマの足を振り解いて玄関に降りた。

「見た目と戦い方が格好良いからって、それだけで済ましちゃうのは悪いじゃない。見た目はロボットだけど異星人さんだし、
色んな苦労もあるだろうし、軽々しくはしゃいじゃうわけにはいかないよ。ブライトウィングさんは隊長だけど、ほら、上と下の
板挟みの中間管理職じゃない? それに、ここに引っ越してきたってことは、地球防衛軍の財政事情も不況の煽りを受けて…」

 もっともらしく語り出した茜に、ヤンマは慌てた。

「お前の方が失礼だ!」
「ま…まあ…楽な仕事ではないな」

 ブライトウィングが答えに詰まると、綾子は取り繕った。

「た、確かに不況の影響もちょっとはないわけじゃないけど、地球はちゃんと守っていますから安心して下さいね」
「では、今後ともよろしく頼む。行くぞ、綾子!」

 ブライトウィングは二人に敬礼してから、綾子を連れて階段に向かった。綾子は愛想笑いを保ちつつ、二人に一礼した。
201号室から離れても、ヤンマと茜の言い合いは続いていた。こちらは茜が答える分、ヤンマがヒートアップしていった。
地球防衛軍がいかに凄いかを叫ぶヤンマと、その熱の入りようにどんどん冷めていく茜は、話が噛み合わなくなっていった。
後でケンカにならなきゃいいけど、と綾子は若干不安になりながら、一階で唯一部屋が埋まっている103号室に向かった。
103号室のチャイムを鳴らすと、ブラウスとタイトスカート姿の女性が現れた。仕事上がりらしく、化粧も落としていなかった。
103号室の住人、稲田ほづみだ。きつい印象を与える顔立ちだが美人で、身長も高く、綾子よりも均整の取れた体付きだ。

「ああ、道理で上が騒がしいわけだ。お二人は新しく引っ越してこられた方ですよね?」
「ええ、そうです。お騒がせしてしまい、すみません」

 綾子は平謝りしつつ、夫と自分の自己紹介と挨拶をしてからタオルの詰め合わせの箱をほづみに渡した。

「いえいえ。ここ、見ての通り壁が薄いですから、騒がしいのには慣れっこですから気にしちゃいません」

 ほづみは朗らかな笑顔を浮かべてから、綾子とブライトウィングを見比べた。

「ご夫婦ですか?」
「ええ。結婚したのはしばらく前ですけど」
「羨ましいですね。私にも丁度良さそうなのが一匹いるんですけど、いかんせん歳が離れすぎていて」

 苦笑を交えたほづみに、ブライトウィングは綾子の肩を引き寄せた。

「それを言えば、私と綾子の年齢など地球歴に換算しても五百万年も離れているのだ。それに比べれば些細なものさ」
「それを聞いて安心しました。でも、あいつが高校出るまでは我慢した方がいいですね。世間的にも」

136魔剣と正義の味方とその愛妻 3 859 ◆93FwBoL6s.:2010/02/22(月) 17:24:36 ID:jHrtyczo

 それでは失礼します、とほづみは頭を下げてから、ドアを閉めた。綾子も頭を下げ返し、ブライトウィングは敬礼を返していた。
三つの部屋の中で、最もまともな対応だった。事前調査の情報では、稲田ほづみは気が強くてヒステリックな性格だとあった。
調査資料と実際の印象に差があるのは珍しくないし、ほづみの性格は水沢シオカラという少年とのやり取りで算出したものだ。
ヤンマと同じくトンボの昆虫人間であるシオカラと接している時のほづみは、生き生きしているが感情の高ぶりが激しかった。
どうやら、ほづみはシオカラにだけは弱いらしく、他の人間や人外が相手では感情的にならなくてもシオカラには負けてしまう。
考えるに、好きな相手には意地を張りがちな性分なのだろう。厄介ではあるが、それがほづみという女性の魅力に違いない。
 挨拶と引っ越しの品を配り終えて203号室に戻った綾子は、居間に入り、データ整理のために支給されたパソコンに向かった。
ブライトウィングもまた、多次元宇宙超越物質、識別名称ストームブリンガーに関する実地調査データの集計を行い始めた。
彼の場合は脳そのものがコンピューターなので思考するだけで良いが、綾子はそうもいかず、黙々とキーボードを叩き続けた。
 引っ越し初日の夜は、互いに仕事に追われるだけだった。


 アパートもえぎのに引っ越してから、一週間が経過した。
 その間、異変は起きなかった。木製の古い壁越しに魔剣ストームブリンガーが存在していても、多次元宇宙は崩壊しなかった。
それどころか、魔剣ストームブリンガーによって命を繋ぎ止めているリビングメイル、アビゲイルからやたらと優しくされてしまった。
アビゲイルは事ある事にお裾分けをしてきて、おかげで料理の腕が今一つな綾子の食卓が華やかになり、食生活も安定した。
ゴミの日や近所のスーパーの品揃えや商店街の特売日なども教えてくれ、引っ越したばかりの街で綾子が困ることもなかった。
だが、決して出過ぎることはなく、隣人としての程良い距離を保っていた。そんなことが続くと、綾子はアビゲイルに心を許していた。
調査対象に深入りするべきではない、と思っていても、ここまで親切にされてしまうと気を許してしまいたくなるのが人情である。
 一週間目の夜。ブライトウィングは緊急出動したまま、帰ってこなかった。綾子も出動しようとしたが、長官から止められた。
だが、今日の任務は危険だ。デスロニアンの残党が現れ、地球の衛星軌道上に直径三十キロメートルもの小惑星を出現させた。
ブライトウィングの部下で、ワープ空間を自在に操る能力を持つエスケープの働きによって小惑星の地球への落下は回避された。
しかし、危機は去らず、小惑星ごとワープさせた先ではデスロニアンNO.2の実力を持つデスポートに襲い掛かられ、苦戦した。
デスポートは二年前の戦いで倒したはずだったが、ワープ空間に逃れ、満身創痍の体を癒やして復讐の機会を待ち侘びていた。
今までの戦いでも、卑怯な手を使うデスポートによって何度も苦戦した。負けるわけがない、と思っても、今度ばかりは、とも思う。
地球防衛軍の司令室に直結しているので、居間のパソコンにオンラインで情報が届いているが、戦況は悪化する一方だった。
なんとかしてやりたいが、綾子には何も出来ない。オペレートすら出来ないので、綾子はパソコンの画面と睨み合うしかなかった。
モニターにずらずらと並ぶ情報の羅列を見ていると恐怖と不安しか湧いてこないので、六畳間の寝室に入って、布団を被った。

「ブリィ…」

 夫の愛称を呟いた綾子は、枕に顔を埋めた。ここに引っ越してきてからは任務ばかりで、ブライトウィングと触れ合わなかった。
ブライトウィングにはこの任務の他に通常訓練や今回のような緊急出動もあるので、元から一緒にいられる時間は少なかった。
だから、夫婦らしいことはあまり出来ずにいる。二人の休暇を寄せ集めてやっと行けた新婚旅行でさえも、襲撃で頓挫してしまった。
デスポートにやられはしないかと思うと涙が出てきたが、枕に吸い込ませて我慢した。戦士の妻が泣いているわけにはいかない。
辛いのはブライトウィングであり、その仲間達だ。綾子は涙を拭って深呼吸し、目を閉じたが、気持ちは弱っていくばかりだった。

「んー…」

 綾子は身を捩り、眠気に意識を集中させようとした。だが、不安で神経が高ぶってしまったため、眠気はさっぱり起きなかった。
その上、変に頭が冴えて落ち着きがなくなってしまい、綾子は何度も寝返りを打ったが三十分以上過ぎても寝付けなかった。

「ちょっとは構ってよ、ブリィ」

137魔剣と正義の味方とその愛妻 5 859 ◆93FwBoL6s.:2010/02/22(月) 17:25:58 ID:jHrtyczo

「ちょっとは構ってよ、ブリィ」

 ナツメ球の光が広がる天井を見上げ、綾子はまた泣きそうになった。互いの忙しさは知っているから、なかなか甘えられない。
増して、ブライトウィングの任務は地球を守ることだ。彼やその部下達が戦わなければ、地球など呆気なく滅ぼされてしまうだろう。
けれど、寂しいものは寂しい。綾子は切なさを紛らわすように深く息を吐いたが、胸の重苦しさは抜けるどころか痛みすら生じた。
ブライトウィングから最初に好意を示された時には、自分に好意を寄せてくれる異性に対して感じる程度の好意しか感じなかった。
それからトントン拍子に結婚してからもあまり変わらず、オペレーターと異星人の戦士との間にある隔たりを埋めきれずにいた。
もう少し若ければ思い切って甘えたり弱音も吐けたのだろうが、綾子は今年で三十一歳になるので、大人としての立場があった。
それに、戦いで疲れているブライトウィングに余計な負担も掛けたくないと思ってしまい、甘える言葉をついつい飲み込んでいた。
 今ほど、それを後悔したことはない。綾子はたった一人で無人の惑星に取り残されたかのような寂しさに襲われ、両腕を抱いた。
今頃、ブライトウィングはどうしているだろうか。綾子は体を横たえて背を丸めたが、夫を思うあまりに体の奥底がじくりと疼いた。

「そんなこと、考えてる場合じゃないでしょ」

 と、自戒してみるが、まるで効果はない。綾子は少々後ろめたさを感じたが、気晴らしにと素直に体の欲求に従うことにした。
腕を抱いていた手を解いて、パジャマのズボンに差し込んで股の間に入れた。近頃では、自分でもあまり触っていなかった。
夫には内緒で新調した下着の上から、二つに割れた柔らかな肉の膨らみをなぞる。ほんの少しの刺激なのに、胸が高鳴った。
薄いレース地と浅い茂みに隠れた肉芽を探り、中指で潰した。指先でこね回していると、疼きが増して熱を持つようになった。
それを続けていると、その下の割れ目から潤いが滲んだ。綾子は呼吸を荒くしながら、その潤いを広げるように指を動かした。
生暖かい愛液をねっとりと肉芽に絡み付かせ、陰部に指をそっと入れる。夫のものや指よりも細いが、少しだけなら満たされた。

「んっ…くぅっ!」

 小さな絶頂を迎えた後、綾子はちゅぽんと指を抜いた。正直物足りないが、肝心の夫が帰ってこないのであれば仕方ない。

「ブリィが悪いんだから」

 余韻に浸りながら綾子が呟くと、襖越しに答えがあった。

「それはすまなかった」
「ひえっ!?」

 本気で驚いた綾子が飛び起きると、居間に繋がる襖が開き、人間大の大きさに変化したブライトウィングが立っていた。

「い…いつ、帰ってきたの?」
「三十分前に戦闘は無事終了し、デスポート及びデスロニアンの残党は逃亡した。だから、エスケープの能力を使って
地球防衛軍基地に帰還し、最低限の点検と機体洗浄を終えて帰還したのだ。何か、不都合だったか?」

 暗い寝室では一際目立つサファイアブルーの目を細め、ブライトウィングは綾子の前に片膝を付けた。

「う、ううん。お帰りなさい」
「ただいま戻った、綾子」

 穏やかな笑みで答えるブライトウィングに、綾子は寂しさが緩んで顔を綻ばせた。

「いつもご苦労様」
「綾子や皆を守るためなのだ、あれしきの戦いなど苦ではない」

 ブライトウィングは綾子の右手を取ろうとしたが、綾子は慌ててその手を下げた。自分の体液が付いているからだ。

138魔剣と正義の味方とその愛妻 6 859 ◆93FwBoL6s.:2010/02/22(月) 17:27:31 ID:jHrtyczo
「どうした?」

 ブライトウィングに訝られ、綾子は取り繕った。

「なんでもないの、なんでも。今日の戦闘の報告書はこれから仕上げるんでしょ? 私、手伝うから」

 一度、手を洗わなければ。綾子が立ち上がろうとすると、ブライトウィングはその腕を掴んで鮮やかに引き倒した。

「やっ」

 思い掛けないことに綾子が戸惑うと、綾子の上に覆い被さったブライトウィングは綾子の両腕を冷たい両手で押さえてきた。

「隠すことはない。寂しがらせてすまなかったな、綾子」
「い、いつからいたの? ていうか、やっぱり知っていたの?」

 綾子は赤面しながらブライトウィングから目を逸らすと、ブライトウィングは白銀色の整った顔を近寄せてきた。

「私のセンサーを舐めてもらっては困るな」
「じゃあ、知っていても言わないでよ。もっと恥ずかしくなるから」
「なぜだ? 私と君は生涯の伴侶ではないか、隠し立てするような事柄が今更あるものか」
「夫婦だって、プライベートぐらいあるでしょ。だから、もう放っておいてよ。そっとしておいてよ」
「無理を言うな」

 ブライトウィングは綾子の右手を取ると、湿り気の残る中指に金属製だが柔らかな舌を這わせた。

「ひ、ぁ…」

 恥ずかしさと嬉しさが混在した綾子が悲鳴に似た声を漏らすと、ブライトウィングは綾子の左腕を解放して右手も離した。

「私とて、寂しかったのだ。同じ空間で寝起きを共にしながらも、多次元宇宙超越物質に関する情報収集にばかり時間を割いた。
挙げ句に、今日の緊急出動だ。事後処理もせず、報告書も上げずに切り上げることなど、以前の私では考えられないことだった。
戦いの最中ですらも、綾子のことばかりが思考回路を駆け巡った。いや、それは今に始まったことではないか。綾子に心を奪われた
時から、私の士気を支えるのは他でもない綾子なのだから」

 ブライトウィングは高揚を抑えた口調で囁きながら、綾子のパジャマのズボンに手を掛け、ショーツごと一息に脱がした。

「それって、正義の味方として物凄くダメじゃない?」

 素肌を曝された綾子が恥じらいながら呟くと、ブライトウィングは綾子の素足の前に屈み、左足を軽く持ち上げた。

「金属細胞の肉体と電子回路の頭脳とプログラム言語による意識を持っていても、私は所詮男に過ぎないのだ」
「うぁ…」

 素肌の左足に金属の唇が添えられ、綾子は息を飲んだ。ブライトウィングは左足の親指を含み、唾液の出ない舌を動かした。
それだけで背筋がぞくぞくするほど感じてしまい、潤いの残る体の中心に新たな疼きが起きたが、羞恥心が勝って顔を覆った。
ブライトウィングは足の甲にも唇を当て、次にくるぶし、アキレス腱、と続き、脹ら脛に及び、太股の内側に至り、そしてついに。
だが、肝心な陰部には触れてくれなかった。内心で落胆した綾子が指の間から夫を見やると、ブライトウィングは顔を起こした。

「綾子の口で私を潤してくれ。私も綾子を潤そう、だから上になってくれ」
「うん、解った」

 綾子が腰を浮かせると、ブライトウィングは両翼とブースターを動かして背面部の凹凸を減らしてから、仰向けに横たわった。
ブライトウィングの上に跨った綾子は、夫の顔の上に尻を突き出して俯せになった。これで、どれだけ濡れたか知られてしまう。
いつ触れられるかどきどきしながら、綾子は目の前にあるブライトウィングの股間にキスしてやると、その部分の装甲が開いた。
そこから現れたのは、外見と同じく純白で太い円筒の部品だった。人間の生殖器のように反り返りがない分、口に入れやすい。
小さな穴が空いて丸みを帯びた先端を唇で包み、そのままぬるりと口中に導く。金属ではあるが、顔の部分のような弾力がある。
生命体と言えど分泌液のないメタロニアンは、どれほど刺激しても全く濡れないので、綾子は自分の唾液をたっぷり擦り付けた。
滴り落ちた唾液が股間近辺の装甲を濡らし、シーツにも数滴が吸い込まれた。早く陰部に触れてほしくて、綾子は懸命に奉仕した。
それでも、ブライトウィングは触れてこない。ようやく触れてきたと思ったら、丸い尻を掴んで綾子の陰部を横に広げるだけだった。

「それ、嫌だって言ったじゃない」

139魔剣と正義の味方とその愛妻 7 859 ◆93FwBoL6s.:2010/02/22(月) 17:29:22 ID:jHrtyczo
 唇と顎をべっとりと濡らしながら綾子がむくれると、ブライトウィングは妻の肉付きの良い尻の下で笑った。

「私と綾子が繋がり合えるかどうか、確かめているだけだ。君達も、私と部下達の合体に不備がないように点検するではないか」
「それとこれとは違うと思うんだけど」
「何も違わないさ」

 ブライトウィングは引き締まった口角を少し上げ、横に押し広げた陰部に吸い付いた。

「ふあっ!」

 下唇で肉芽を押さえられ、冷たい舌をねじ込まれ、綾子は仰け反りそうになった。待ち望んでいた刺激が嬉しいが、強すぎる。
ブライトウィングは綾子の太股を掴み、足を閉ざさせようとしない。綾子は引きつった声を殺すため、夫の疑似男性器を頬張った。
そうでもしないと、夜中なのに叫んでしまいそうだった。全力疾走を終えた後のように息を荒げながら、綾子は純白の棒を握った。
意図していない唾液が口の端から零れ落ち、夫の股間だけでなく両足の駆動を行うシリンダーを濡らし、透明な染みが広がった。
執拗に責められた綾子は膝から力が抜け、腰を上げていることが出来なくなり、夫の顔に尻を押し付けると開き直ることにした。
機械そのものだが人間的に整った顔立ちを尻で挟み、腰を捻るようにして夫から与えられる刺激に自分の力による刺激も加えた。
綾子の体温が移ったブライトウィングの顔に擦り付けると、ぐちゅぐちゅと粘ついた異音が溢れ、太股の内側を一筋伝い落ちた。

「やっと素直になってくれたか」

 ブライトウィングは綾子の尻を浮かせて離すと、白濁気味の愛液に濡れた顔を手の甲で拭った。

「だって…あんまり焦らすからぁ…」

 自分から迫ってしまった恥ずかしさで綾子は顔を伏せると、ブライトウィングは綾子を抱え、膝の上に座らせた。

「ならば、繋がろう」

 くちゅ、と生温く濡れた白い先端が赤らんだ陰部を広げ、時間を掛けて押し込まれた。綾子はその手間さえも惜しいほどだった。
自分から体重を掛けようとするが、ブライトウィングの両手に腰を掴まれているので奥まで飲み込めず、もどかしい思いをした。
人間の体重など、メタロニアンの腕力には軽すぎるほどだ。不満と焦りで綾子が夫を睨むと、ブライトウィングは綾子を撫でた。

「それほど私が欲しかったのか?」
「…うん」

 躊躇いつつ、綾子は小声で肯定した。乱れた髪を撫で付けるブライトウィングの手付きは優しく、愛情に満ちていた。

「ならば、今度からは私の綾子専用合体ジョイントを分離させて待機させておこう。無論、感覚は無線通信で直結させておく」
「えっ、ちょっと、それは…」
「冗談だ。そこまで求められているのであれば、応えてやりたくなるものではないか」
「べ、別にそこまでしたいってわけじゃないし、今日のアレは、ブリィが心配で寝付くに寝付けなかったからで…うん…」
「不安がらせてすまなかった。だが、私を信じてくれ。それこそが、私に揺らがぬ信念を与えてくれる力となる」
「こういう半端な状態で言うセリフ?」

 綾子が半分ほどしか入っていない純白の逸物を見下ろすと、ブライトウィングは綾子の腰を力強く引き寄せた。

「んあぁうっ!?」

 ずん、と胎内に重みが訪れ、綾子は充足感で熱い吐息を漏らした。

「はぁあっ…入ってきたぁ…」
「拭いた方が良いか?」

 ブライトウィングが顔を拭おうとすると、綾子は両手でブライトウィングの顔を挟んで身を乗り出した。

140魔剣と正義の味方とその愛妻 8 859 ◆93FwBoL6s.:2010/02/22(月) 17:32:22 ID:jHrtyczo

「平気。だって、自分のだし」

 腰をゆっくりと回しながら、綾子はブライトウィングの唇に噛み付いた。夢中でキスをしていると、パジャマのボタンが外された。
ブライトウィングは綾子の上半身も脱がし、裸にすると、硬い腕で抱き寄せた。薄く汗の浮いた肌と滑らかで硬質な肌が重なる。

「ブリィ、ブリィ、ブリィ!」

 熱に浮かされたように夫の名を繰り返し、綾子はブライトウィングの上で腰を上下させた。

「ああ、寂しかったぁっ…! そう、これ、これなのぉっ!」
「綾子っ!」

 ブライトウィングは綾子を押し倒し、一際強く貫いた。

「ブリィイイイッ!」

 体の芯を貫通したかのような快感に胸を反らし、重たい乳房を震わせた綾子は、ブライトウィングの腕に爪を立てた。

「もっと、もっとお願いぃっ、でないと足りないのおっ!」
「これが私の愛だ、全て受け止めてくれ!」

 ブライトウィングは綾子の腰を掴んで引き寄せ、更に深く押し込んだ。擦り合わせていくにつれ、純白の棒が熱を帯びていった。
それはブライトウィング自身の熱でもあり、綾子の体温でもあった。ブライトウィングに抱き締められながら、激しく揺さぶられる。
声を抑えることも忘れ、任務すら忘れ、綾子は夫を貪った。メタロニアンにも皮膚感覚はあるので、その肌に何度もキスを降らせた。
ブライトウィングもまた、誇り高き戦士の顔付きではなくなっていた。惚れた女を一心に貪る、どこにでもいる男でしかなくなった。
熱を帯びた冷却水をたっぷり注がれ、気が遠くなるほどの絶頂を終えても、綾子はブライトウィングの疑似男性器を離さなかった。
 地球を守る正義の味方への、精一杯の独占欲だった。



 腰のだるさと頭の重さで、綾子は目を覚ました。
 目尻には涙の跡が残り、口の端には涎の跡があり、股間にはまだ重みがある。綾子は布団の下に手を伸ばし、触れてみた。
後ろから貫かれたまま眠ったため、強張りを失わない夫のものが綾子の陰部をきつく広げていて、乾いた体液が絡み付いていた。
身を捩ると、精液代わりの冷却水が滲み出した。これを抜いてしまえば、激しいセックスの余韻が消えてしまいそうな気がした。
だが、起き上がらなければ一日が始められない。綾子は腰を浮かせて引き抜こうとすると、背後から伸びた手が腰を押し下げた。

「ふぁっ…」

 電流に似た快感が陰部から背筋に駆け抜け、綾子は寝起きの気怠い体に似付かわしくない吐息を零した。

「んはぁ…。もう、意地悪しないでよぉ…」
「私を銜え込んで離そうとしなかったのは、綾子の方ではないか」

 綾子の腰を押さえ込んでいるブライトウィングは、綾子の頭上から穏やかに声を掛けた。

「ブリィだって、自分から抜こうとしなかったじゃない」

 綾子は腰をくねらせ、更なる快感を求めた。

「仕方あるまい」

 その要求に優しく応えてやりながら、ブライトウィングは笑った。

「愛しているよ、綾子」
「…うん。私も愛してる」

 顔を火照らせた綾子が呟くと、ブライトウィングは綾子の腰を引き寄せた。望んでいたものに、綾子は掠れた嬌声を上げた。
それから二人は、ひとしきり愛を交わした後、ようやく体を離した。気付いた頃には朝は過ぎ、時計の針は昼前を差していた。
そんな状態では仕事になるわけがないので、その日はデータ収集はパソコンに接続している各種センサーに任せることにした。
ブライトウィングも報告書の提出とメンテナンスを受ける予定が入っていたのだが、翌日に投げて、丸一日綾子と愛し合った。
デスロニアンとの戦闘が起きないことを祈りながら、綾子はブライトウィングに思い切り甘え、ブライトウィングもまた同様だった。
いつ、また平和を脅かす戦いが起きるか解らないのだ。だから、綾子も、ブライトウィングも、思う存分互いを満たし合った。
 正義の戦士の信念を揺らがせないために。

141859 ◆93FwBoL6s.:2010/02/22(月) 17:39:04 ID:jHrtyczo
以上。通し番号間違いだけじゃなく、一部セリフが重複してしまいました。
ブライトウィングは、勇者ロボとトランスフォーマーの合いの子のようなロボットです。
個人的には三十路のヒロインもいいものだと思う。

142変態紳士:2010/02/24(水) 08:24:25 ID:dT0animA
GJ!
三十路ヒロイン好きだ。
熟年人外カップルも良いと思う。

143変態紳士:2010/02/24(水) 20:26:23 ID:Ha8YWGCg
GJでした!!
ほづみさんとシオカラも上手く行ってるみたいで良かったです。

144変態紳士:2010/03/08(月) 21:42:26 ID:ySpRAzWE
遅れたけどGJ!
この二人の話がまた読めて嬉しい

145859 ◆93FwBoL6s.:2010/03/25(木) 17:23:25 ID:NWxdMXRc
人外アパートの登場キャラが増えてきたので、キャラ紹介と整理を兼ねたものを投下。
雑談スレではスレ違いだし、かといって本スレでは申し訳ないので、こちらに。
興味のない方はスルーで。

146859 ◆93FwBoL6s.:2010/03/25(木) 17:25:45 ID:NWxdMXRc
人外アパート 登場人物紹介

■アパートもえぎの

≫101号室 未定

≫102号室 未登場

≫103号室

稲田ほづみ
二十七歳のOL。人間。派手好きで気が強いが、その割に寂しがり屋でナイーブ。家事は一通り出来るが料理はイマイチ。
長身でスタイルが良い美人だが、若干印象がきつい顔立ち。一回り年下の昆虫人間である水沢シオカラと交際している。

≫201号室

鬼塚ヤンマ
二十歳のフリーター。人型オニヤンマ。縄張り意識が強く、近隣の昆虫人間と頻繁にケンカをするが勝率は五分五分。
根は真面目だがやたらと柄が悪く、少々乱暴。が、幼馴染みで同棲相手である秋野茜には滅法弱く、でれんでれん。

秋野茜
十七歳の高校二年生。人間。中学卒業と同時にヤンマと共に上京し、同棲を始めた。二人共、出身地は中部地方の田舎町。
明るく元気で物怖じしないが、それ故に馴れ馴れしすぎる部分も。ヤンマにベタ惚れしていて、他の男はまるで眼中にない。

≫202号室

鎧坂祐介
二十歳の大学二年生。人間。アパートの前で倒れていたアビゲイルを拾い、成り行きで同居するようになった。出身は関西。
どこを取っても普通の青年で、突出した部分はない。紆余曲折を経て愛し合うようになったアビゲイルを大事にしている。

アビゲイル
年齢不詳のリビングメイル。銀色の女性型全身鎧。生前の名はエルリック・メルニボネ。王子として育てられた王女だが、
魔剣ストームブリンガーに心身を侵されて暴走した末、聖剣エクスカリバーを持つアーサーに殺されるが、その際に身に付けていた
全身鎧に魂が癒着してリビングメイルと化す。紆余曲折を経て過去の記憶の一切を失い、祐介の恋人となる。心優しく家庭的。

魔剣ストームブリンガー
中世時代に生み出された魔剣であり、アビゲイルを主とする。混沌と死を欲していて、主の負の感情を喰らいたいがために
あらゆる平行世界を渡り歩き、主となった人間の親しい者達を殺してきた。漆黒の刀身に無数のルーン文字が刻まれている。
姉妹剣にモーンブレイドが存在しており、一体となれば世界を滅ぼせる。人格は女性でいわゆるヤンデレ。

≫203号室

ブライトウィング
年齢不詳のメタロニアン(金属生命体)。地球防衛軍で防衛部隊の隊長を務めていて、戦闘機に変形し、合体も可能。
金属細胞が伸縮自在なので、全長十五メートルの巨大ロボから人間大の大きさに変化出来る。多次元宇宙超越物質である
魔剣ストームブリンガーの監視と調査のため、妻と共に引っ越してきた。正義感に溢れているが、若干気障ったらしい。

織部綾子
三十一歳の地球防衛軍職員であり、ブライトウィングの妻。人間。元々はオペレーターだったが、ブライトウィングと結婚後は
防衛部隊特別顧問となる。ブライトウィングと同じく魔剣ストームブリンガーの監視と調査任務のためにアパートもえぎのに
引っ越したが、離れがちな夫と過ごせることを喜んでいる。職務に忠実で理知的だが、仕事を離れてしまえば年相応の女性。


■その他

ヘル
四十代後半の人型ヘラクレスオオカブト。元々は観賞用として密輸入された幼虫だったが、羽化後にすぐさま逃亡し、
流れ流れてヤクザの用心棒となる。黒と金の外骨格と三メートル近い巨体を持つため、近寄りがたいが、実は面倒見が良い。

葉月
二十代前半。人間。元々はソープ嬢で、歓楽街でヘルに拾われてからは一緒に住むようになったが恋愛には至っていない。
丸顔で体系も柔らかく、美人と言うよりも可愛い雰囲気の女性。心中の空虚さを紛らわすために痛みを好む、いわゆるメンヘラ。

水沢シオカラ
十七歳の男子高校生。人型シオカラトンボ。ヤンマと茜と同郷で、家族ごと引っ越してきた。二人とは幼馴染みで兄弟のような関係。
力のなさを自覚していて常にヤンマの陰に隠れ、言動はいわゆるチャラ男だが純朴で優しい。ほづみが好きで好きで仕方ない。

綾繁真夜
十七歳の女子高生。人間。茜とシオカラのクラスメイトで、魔術師一家に生まれた将来有望な魔女。タロット占いが得意。
魔女に相応しい妖しげな色気を持つ長い黒髪の美少女だが、中身は至って普通。リビングメイルのアーサーと同居し、恋仲。

アーサー・ペンドラゴン
年齢不詳のリビングメイル。金色の大柄な全身鎧で聖剣エクスカリバーを帯刀しており、魔剣ストームブリンガーを滅ぼすことを
使命としていたが、紆余曲折を経てアビゲイルと和解する。真夜のキスによって永い眠りから目覚めてからは、真夜と同居する
ようになる。戦闘だけでなく家事全般も得意で騎士道精神溢れる男だが、抜けている。

147859 ◆93FwBoL6s.:2010/03/25(木) 17:27:25 ID:NWxdMXRc
以上。
投下し始めた当初は、こんなにキャラが増えるとは思ってもいませんでした。

148859 ◆93FwBoL6s.:2010/04/03(土) 20:52:03 ID:9iBNnFeg
本スレに投下しようとしたら規制中だったのでこちらに。
人外アパートの大学生×人魚で、非エロです。釣りデートに行く話。
NGは人魚と魔術師見習いで。

149人魚と魔術師見習い 4 1 859 ◆93FwBoL6s.:2010/04/03(土) 20:53:19 ID:9iBNnFeg

 円柱形のアクアリウムには、色鮮やかな魚が泳いでいた。
 吹き抜けを貫くようにそびえ立ち、円柱形に造られた分厚いアクリル板の内には人工の水域が形成されていた。
両手に買い物の荷物を抱え、秋野茜はアクアリウムを見上げていた。ショッピングモールを行き交う人々は多いが、
足を止めて魚達を見上げる目は少なかった。ここが水族館なら別だろうが、買い物を目的に訪れる場所でじっくりと
魚を鑑賞しようとする人間は少ないだろう。一匹のピラルクがゆったりと泳ぐ様を眺めていると、後頭部を小突かれた。

「魚なんて見て面白いか?」

 振り返ると、ヤンマが立っていた。その上両足には二人分のソフトクリームがあり、小突いてきたのは中右足だった。

「だって綺麗じゃない」

 茜はストロベリーとチョコのミックスを受け取ると、アクアリウムの手前にあるベンチに腰掛けた。ヤンマも腰を下ろし、
長い腹部を垂らした。春物の服が詰まった紙袋を置いてから、ソフトクリームを舐めた茜は、ヤンマの複眼を見上げた。

「ね、ヤンマ」
「んだよ」
「新しく引っ越してきた人ってさ、人魚さんと住んでいるんだよね。大学一年生の魔法使いで」
「それぐらい、知らねぇわけがねぇだろ。それがどうした」
「だから、真夜ちゃんに人魚さんの話を聞いてみたら、童話の人魚姫ってある程度までが本当なんだってさ」
「王子と結婚しなきゃ泡になって消える、っつーやつか?」
「うん、そうらしいよ。てっきりおとぎ話だとばっかり思っていたけど、ちゃんと元ネタがあったんだね」
「人魚っつっても人間大の大きさの生物だろ? それを泡にするには、結構な量の強酸が必要じゃねぇのか?」
「やだそれ生々しい。ファンタジックな会話が一気に殺伐とした雰囲気になったんだけど」
「自分から言い出したんだろうが」

 ソフトクリームを三口で食べ切り、顎を大きく開いてコーンを噛み砕いたヤンマは、長い下両足を組んだ。

「で、茜は何が言いたいんだ」
「えーと、なんだっけ」

 茜は溶けかけたソフトクリームを舐め取ってから、話を続けた。

「ああ、そうそう。童話の中じゃ人魚姫は声と引き替えに足を手に入れて陸に上がってきたけど、現実には人魚は
ほとんど陸に上がってこないんだって。そりゃ、生活習慣の違いもあるし、完全な水陸両用じゃないから人魚は陸じゃ
暮らしづらいのは違いないけど、魔法も科学も発達したから、多少制限はあっても陸上生活は可能なんだよね。現に、
ミッチーはちゃんと暮らしているし」
「ミッチー? って、ああ、そうか、ミチルだもんな。あの人魚の姉ちゃん」
「そう、だからミッチーね」

 茜は混じり合ったクリームを舐め尽くしてふやけてきたコーンに到達すると、囓り取った。

「真夜ちゃんが言うには、ミッチーみたいな人魚はもっと増えるべきなんだって。その方が人魚族と陸上生物双方の
繁栄に繋がるし、魔法も科学も発達するから、ってことなんだけど、人魚族は考えが古いからー、だってさ。難しいね」
「どこの世界でも、そういうのは変わらねぇんだな」

 ヤンマはかちかちと顎を小突き、遊泳するピラルクを複眼に映した。遠い昔、ヤンマの祖先である人型オニヤンマが
鬼として恐れられ敬われていたが、現代ではただの昆虫人間に成り下がったように、時代の推移には順応すべきだ。
守るべき部分はあるだろうが、変えるべき部分は変えなければならない。それが、生きるということではないだろうか。
 不意に、円柱形の水槽が陰って魚よりも大きな影が飛び込んだ。軽やかに水を蹴って降りてきたのは、人魚だった。
ショッピングモールの社員証をビキニの水着の胸元に付けたポニーテールの人魚は、来客達に笑顔を振りまいてから、
魚達に餌を与えた。茜が彼女に手を振ると、人魚は気安く手を振り返してくれた。人魚は艶やかなウロコに覆われた
下半身を揺らして泳ぎ回ってから、澄んだ声で歌い始めた。
 海の言葉で紡がれる、海の歌だった。

150人魚と魔術師見習い 4 2 859 ◆93FwBoL6s.:2010/04/03(土) 20:54:43 ID:9iBNnFeg

 予定通り、釣りに行った。
 実家から運び出した釣り道具を抱えて電車に乗り、海に向かった。引っ越してきたばかりで地理がよく解らないので、
私鉄の路線図だけでなく海岸沿いの地図も入手し、釣りが出来るポイントに当たりを付けて出発した。
 電車から降りた広海は、陸続きの島に向かった。砂浜もあるが、島の裏手に回れば岩場もあるので、釣りをするには
絶好のポイントだ。これなら、持参した釣り道具だけでなんとかなりそうだ。問題は、釣り場に他人がいるかいないかだ。
広海は島の周囲を歩いて岩場に向かい、見渡すが、天気が良い割に釣り人は思ったよりも少なかった。となると、ここは
それほど釣れないポイントなのかもしれない。それはそれで困るな、と思いつつ、広海は釣り道具を広げて支度してから、
海に狙いを定めてミチルを召喚した。魔法は格好がそれらしくなくても使えるが、完全な釣りの格好では何か妙だった。
 広海が召喚術を放った地点の海面が噴き上がり、爆ぜると、花見の際にプレゼントした水着を着たミチルが降ってきた。
ミチルはするりと海中に飛び込んでから、滑らかに泳いで広海のいる岩場の下に近付いてきた。

「やあ」

 広海が無難な挨拶をすると、ミチルは海水を含んだ髪を掻き上げた。

「温い海ね」
「まあ、春だしね。で、ここは釣れそうかな」
「さあ? この海にどんな魚がいるかなんて知らないし、あんたの腕が悪ければ一匹も引っ掛からないんじゃない?」
「まあねぇ…」

 広海は否定出来ず、曖昧に答えた。実際、広海は大して釣りが上手いわけではない。

「僕が釣っている間は、その辺りで泳いでいなよ。捕まえられそうな魚がいたら」
「勝手に喰うわよ。陸のものばっかりで飽き飽きしてたところだし、あんたが釣るのを待っていたら日が暮れちゃう」

 ミチルは尾ビレを広げながら転身し、飛び込んだ。波間に没した彼女の尾ビレはすぐに見えなくなり、影すらも岩場に
紛れて解らなくなった。きっと、深く潜ったのだろう。もう少し話したかったんだけどな、と残念がりながら、広海は岩場に
来る前に買ったゴカイを出し、釣り針に刺した。うねうねと動く虫を眺め、そういえばミチルはこれも食べるのだろうか、と
思った。きっと食べるだろうが、さすがにゴカイやアオイソメを食べる様を想像したくはない。野性味が溢れすぎている。
 考えるんじゃなかった、と払拭してから、広海は振りかぶって餌を付けた釣り針を投げ込んだ。ちゃぽんと波間に小さな
飛沫を上げて波間に吸い込まれ、程なくして手応えがあったので引っ張ってみると、なぜかミチルが釣れた。その手には
今し方広海がゴカイを刺したばかりの釣り針があり、ミチルは困り顔だった。

「…何よ」
「もしかして、それ、食べたいの?」
 
 広海がミチルの手中で蠢くゴカイを指すと、ミチルはむくれた。

「こんなにおいしいものを食べるなって言う方が無理に決まってる!」
「ああ、やっぱり食べるんだ、ゴカイ…」
「当たり前よ」
「じゃあ、一つ食べる?」

 広海がパックの中から新鮮なゴカイを一匹つまみ出すと、ミチルは目線を彷徨わせたが釣り針は離さなかった。

「別に、そんなに欲しいわけじゃないし」
「僕のはともかくとして、他の人の餌を横取りされちゃ困るから」
「見損なわないでよ、そこまで恥知らずじゃないわ」
「じゃあ、僕のを食べなよ」

 岩場から身を乗り出した広海がゴカイを差し出すと、岩場に手を付いて昇ってきたミチルは口を開けた。

「仕方ないわね」

 欲しがったのは君の方じゃないの、と、広海は言いかけたが、尖った歯の並ぶ口に活きのいいゴカイを落とした。
ミチルはゴカイに食らい付くと、ずるりと啜って咀嚼し、飲み込んだ。

151人魚と魔術師見習い 4 3 859 ◆93FwBoL6s.:2010/04/03(土) 20:56:30 ID:9iBNnFeg

「まあまあね」

 ミチルはまた岩場から海中に飛び込み、姿を消した。広海はやれやれと思ったが、彼女の魚らしさになんだか笑いが
込み上がった。ゴカイを食べたいのなら、素直に言えばいいのに。ミチルなりに広海に甘えてきてくれているのだろうか。
だとしたら、この前のことは気にしてないのかもしれない。広海も自分の蛮行を忘れようと努めているし、ミチルの方も
あの出来事については何が言ってくる気配はない。言いたくないほど嫌なのか、蒸し返したくないほど興味がないのか。
 花見と言うには物足りないがそれなりに充実した散歩の後から、ミチルの態度が変わったような気がしてならない。
肌を隠すための水着をプレゼントしたからか、ほんの少しだが付き合いが良くなっている。以前なら受け流されていた
会話も続くようになったし、滅多なことがない限りは一緒に食卓を囲んでいる。ミチルに指を舐められたせいで欲情した
挙げ句に押し倒し、無理矢理キスをしたのは、なかったことになっているのかもしれない。思い出せば思い出すほど
後悔に襲われるが、ミチルがなかったことにしているのなら、それに越したことはない。広海は少しだけ手応えのあった
釣り竿を引き、リールを巻いたが、釣り針からは餌が外れていた。最初はこんなものだよな、と妥協し、広海は次の餌を
付けて海中に投げ込んだ。それからしばらく待ったが、まるで引きがなく、やはりこの岩場は外れだったのかもしれない。
 潮風に吹かれていると、緊張しきりだった気持ちが緩んできた。慣れない大学生活や都会での生活で張り詰めていた
神経が解けていくのが感じられ、肩の力が抜けてきた。ミチルも広々とした海で泳ぐのが気持ち良いらしく、釣り人達の
邪魔にならないような場所で泳ぎ回っている。これがデートかどうかは解らないが、少なくとも自分とミチルの気晴らしに
なるようだ。これからも釣りに来よう、次はもっといいポイントを探そう、と弛緩した頭の片隅で考えていると、広海の竿の
先端が曲がってウキが沈んでいた。竿を持ち上げてリールを巻き取ると、銀色のウロコを輝かせた魚が釣り上がった。
 小振りながらも活きのいいアジだった。


 釣果は上々だった。
 だが、上々すぎて広海が持参したクーラーボックスはひどく重たくなった。ミチルをリヤカーに乗せて運ぶ時にも使った
軽量化の魔法を使わなければ、肩が砕けていただろう。今日、釣れたのは主にアジやサバで、大きさは大したことは
なかったが数が凄かった。広海以外の釣り人はそれほどでもなかったので、不思議といえば不思議だが、そのカラクリに
感付けないほど鈍くはない。恐らく、海中で遊んでいたミチルが魚を追い込んでくれたのだろう。素直に嬉しかったが、
ミチルは自分が食べる分の生魚を確保するために広海に釣らせていたのだろうと思うと、少々複雑な気持ちになった。
 一人で食べるには多すぎるし、冷凍保存しようにも冷蔵庫が狭すぎて溢れるので、広海はこれまでの御礼を兼ねて
釣れた魚を202号室のアビゲイルに分けることにした。アビゲイルは喜んで受け取ってくれ、茜ちゃんにもお裾分けして
いいかしら、と聞いてきたので快諾した。ミチルもアビゲイルとは仲が良いので、ちゃんと話せば解ってくれるだろう。
 自室に帰った広海は荷物を置き、フロートジャケットなどを脱いでから、ミチルを居間のビニールプールに召喚した。
水飛沫を散らしながら降ってきたミチルは、遊び回ってさすがに疲れたのか、ビニールプールに身を沈めて程なくして
寝入った。広海はその寝顔を眺めて頬を緩めたが、釣ったアジを加工もせずに放っておくのは良くないと思ったので、
アジを調理して夕食を作るついでに加工した。冷凍保存するため、頭を落として内臓を出して水洗いしなければならない。
釣りと同様に子供の頃から海に慣れ親しんだおかげで魚の処理は出来るので、広海は手早くアジの頭と内臓を外した。

「…ん」

 ごぽ、と小さく泡を吐き、ミチルが目を覚ました。長い髪から水を滴らせながら起き上がり、広海を見上げた。

「結構釣れたのね」
「うん、だから処理しておこうと思って」

 広海がアジの頭を切り落として腹を裂いていると、ミチルは身を乗り出した。

「ちょうだい」
「ああ、これ? 身じゃなくていいの?」

 広海がボウルに溜まったアジの頭と内臓を指すと、答えずにミチルは手を伸ばした。遊んで眠ったから腹が減った
とは、生理現象としては正しいが子供っぽくもある。広海は微笑ましく思いながら、アジの頭と内臓をミチルに渡した。

「人間は勿体ないことするわね。食べないで捨てるなんて」

 ミチルはアジの頭を難なく噛み砕き、飲み込んだ。広海は魚の血と脂にまみれた手を洗い、返した。

152人魚と魔術師見習い 4 4 859 ◆93FwBoL6s.:2010/04/03(土) 20:57:57 ID:9iBNnFeg

「残念だけど、食べるに食べられないんだよ。歯や顎もだけど、体そのものの構造が違うから」
「つまんないわね」

 ミチルは大きく口を開き、アジの内臓を放り込んだ。いずれもアジの新鮮な血にまみれているので、おのずとミチルの
口元や顎にはアジの血混じりの水が伝い落ち、肉食魚らしい様相になった。だが、広海は怖いとは思わず、血の赤さに
彩られた唇や雫が散らばる胸元に目を惹かれた。ミチルは一心にアジの頭と内臓を食べているので、広海の視線には
気付いていないようだったが、広海はなんだか気まずくなってアジの処理作業に戻った。
 アジだらけの夕食を終えた広海は、釣り道具の手入れをしながらミチルの傍にいた。ミチルは話し掛けてくることは
なかったが、こちらに気を向けているらしく、たまに付けっぱなしのテレビから目を外しては広海を窺ってきたが、目が
合いそうになると慌ててそっぽを向いた。広海は水洗いして砂と塩を落とした竿を拭きつつ、ミチルに声を掛けた。

「楽しかった?」
「退屈凌ぎ程度にはね」
「じゃ、また行こうか。今度は別のポイントで釣ってみようと思うんだ」
「勝手にすれば」
「うん、勝手にするよ。ミチルがどうしても行きたくないって言うなら、召喚しないけど」
「ばっ…!」

 ミチルはざばっと水を散らしながら腰を浮かせたが、広海が怪訝な顔をするとまたビニールプールに戻った。

「馬鹿じゃないの。私が広いところで泳ぎたくないわけないじゃない」
「そっか」
「当たり前でしょ」

 ミチルは冷ややかに言い返したが、語尾が弱っていた。広海はミチルの表情を見ようとするが、ミチルはすかさず
身を捻って顔を見せようとしなかったが、機嫌がいいのか尾ビレは揺れている。広海は竿をケースに片付けながら、
今まで訊くに訊けなかったことを訊いてみた。

「ミチルってさ、歌は歌うの?」
「そりゃ、人魚だもの。歌うわよ」
「どういう歌?」
「魔術師になりたいくせして、そんなものも知らないわけ?」
「人魚の歌がどんな歌かは知らないわけじゃないけど、細かいことまではね。僕が専攻しているのは技巧魔術で、
魔術文化じゃないから。良かったら、歌ってくれない?」
「なんで私がそんなことしなきゃならないの」
「だって、聴いてみたいし」

 広海は好奇心に任せて迫るが、ミチルは渋った。

「大したもんじゃないし、人に聴かせるほど上手くはないし、それに…」
「でも、歌は歌じゃない」
「仕方ないわね。但し、一度だけよ。二度は歌わないからね」

 ミチルは赤らんできた頬を隠すため、広海に背を向けた。歌を聴きたいと言われたのは初めてだが、正直言って
恥ずかしくてたまらなかった。もちろん、ミチルもそれなりに歌えるが、人魚の歌は人間の歌とは概念が異なっている。
人間は娯楽と芸術のために歌うが、人魚の歌は攻撃と威嚇、求愛行動だ。歌なんて歌ったら、広海に対する好意が
剥き出しになってしまう。人魚族の言語で歌えば広海には歌詞は解らないだろうが、それでも恥ずかしいものは
恥ずかしい。ミチルはしばらく迷ったが、深く息を吸って肺を膨らませると、近所迷惑にならない程度に歌い始めた。
 愛の歌だった。


 階下から聞こえる歌声に、茜はメールを打つ指を止めた。
 真夜から送られてきたメールに返信した後、耳を澄ませた。茜を下両足の胡座の上に座らせているヤンマも
触角を立てて、歌声に聞き入っている。声こそ違うが、メロディーと歌詞はショッピングモールで魚の世話をしていた
ポニーテールの人魚が歌っていた歌と同じものだった。茜は携帯電話を閉じてから、ヤンマに寄り掛かった。

「ミッチーの歌だね」
「違いねぇ」

153人魚と魔術師見習い 4 5 859 ◆93FwBoL6s.:2010/04/03(土) 20:59:26 ID:9iBNnFeg
 ヤンマは背を丸めて茜の背に覆い被さると、彼女の後頭部に顎を載せた。

「俺はこういうのはさっぱり解らねぇが、綺麗だな」
「うん、凄く」

 茜は目を閉じ、ヤンマに身を委ねた。ミチルの喉から紡がれる歌声は、伸びやかでありながら繊細で、確かな情熱が
込められていた。人間では到底出せない音階を容易に操り、空気を震わせる。ヤンマも茜も人魚族の言語はさっぱり
解らないが、ショッピングモールで魚の世話をしていた人魚の女性従業員、アサミによれば、この求愛の歌だそうである。
 あなたを愛しています。出会えたことを喜びます。母なる海よ、この運命を祝います。だから、どうか、愛する人よ、
この歌を受け取って下さい。身も心もあなたに捧げます。それが私の愛の証です。
 それが、アサミが歌っていた歌であり、今正にミチルが歌っている歌でもあった。だが、ミチルの歌はアサミの歌とは
違い、細く紡がれた声が切なげに震えていた。不安げでもあり、悲しげでもあり、必死ささえある歌声だ。聴いていると、
次第にミチルの感情に引き摺られそうになるほどだった。
 茜はヤンマの足に縋り付くと、ヤンマは茜を抱き寄せてくれた。ミチルは間違いなく恋をしている。思い人は他でもない、
岩波広海だが、彼女が伝えたい思いを乗せた歌は届いていないのだろう。だから、ミチルの歌声は、今にも千切れて
しまいそうな糸のように危うかった。
 近いからこそ、届かないものもある。

154859 ◆93FwBoL6s.:2010/04/03(土) 21:01:23 ID:9iBNnFeg
以上。エロくなるのは次回からです。

155変態紳士:2010/04/04(日) 06:28:44 ID:2TUzCEW.

期待

156変態紳士:2010/04/04(日) 11:21:15 ID:Mvhlzo3g
GJ
次回が楽しみ。

157859 ◆93FwBoL6s.:2010/04/04(日) 21:13:50 ID:xUatSwsI
引き続き投下。
人外アパートで、大学生×人魚の和姦です。
NGは人魚と魔術師見習いで。

158人魚と魔術師見習い 5 1 859 ◆93FwBoL6s.:2010/04/04(日) 21:15:34 ID:xUatSwsI
 広海は忙しくなってしまった。
 仕送りだけではままならないため、生活費を稼ぐためのアルバイトを始めたからだ。だから、おのずと
ミチルは一人にされ、居間に置かれたビニールプールで丸まっていた。テレビを見ていてもつまらないし、
水に濡れた手では本は読む以前の問題だし、家事をしようにも水から出られないと来ている。まるで役に
立たない自分と社会に交わる広海を比較し、情けなさが苛立ちに変わったミチルは下半身を抱えていた。

「やっほー、ミッチー!」

 すると、明るい声が庭から掛けられた。ミチルが身を起こすと、二階の住人、秋野茜が顔を出した。

「あら、茜」

 ミチルは不機嫌さを隠して応対した。他の住人には慣れたが、茜にはまだ慣れなかった。馴れ馴れしい
どころか、ミチルに妙な渾名を付けてきたからだ。ミチルとはあまり合わないタイプだが、悪い人間では
ないので普通に接するようにしている。茜は広海の配慮で日中は鍵が開いている掃き出し窓を外から
開けると、居間に上半身を入れてきた。

「おはよう、ミッチー。ヒロ君は?」
「今日からバイトよ」

 しかも広海に対しても馴れ馴れしい。思わずミチルが頬を引きつらせかけると、茜はにんまりした。

「今日はね、ミッチーにお客さんを連れてきたの。ちょっと待っててね」

 茜はアパートの外に出て、すぐに戻ってきた。茜に連れられてアパートの狭い庭に来たのは、茜よりも
少し背が高い若い女性で、薄手のパーカーにジーンズ姿だった。人間にしては派手な青紫の長い髪を
ポニーテールに結んでおり、両側頭部には見慣れたヒレが生えていた。彼女は愛嬌のある紫色の瞳を
ミチルに定めると、笑った。

「ミチル、元気してたぁー?」
「…え」

 ミチルは限界まで目を見開き、硬直した。顔といい、態度といい、髪の色といい、記憶に間違いがなければ
彼女は泡になって死んだはずの幼馴染み、アサミだった。なぜか、アサミの下半身は人間のような二本足に
変わっていて、タイトなジーンズに包まれ、スニーカーまで履いていて、人間と同じように直立歩行をしている。
ミチルが呆気に取られていると、アサミはスニーカーを脱いで居間に上がってきた。

「どう、陸の暮らしは?」

 昔となんら変わらない笑顔を振りまくアサミに、ミチルは混乱しすぎて後退った。

「え? え? ていうか、あんた、死んだんじゃなかったの? 泡になって海に溶けたんじゃ?」
「それについては聞くも涙語るも涙の話が、ってあるわけないじゃなーい!」

 アサミはミチルの肩をばしばしと叩いてから、脇に抱えていた紙袋を突き出した。

「これ、お土産! これでも食べながら、ゆっくり話してあげる!」
「ありがとう。それはそれとして、どうしてあなたと茜が知り合いなの?」

 ミチルが茜とアサミを見比べると、茜は気恥ずかしげに笑った。

「この前、山籠もりから帰ってきたヤンマと買い物デートしたんだけど、アサちゃんが御仕事していた水槽の前に
買ったものを忘れちゃったんだよね。で、仕事から上がったアサちゃんがそれを届けてくれて」
「さくっと友達に!」

159人魚と魔術師見習い 5 2 859 ◆93FwBoL6s.:2010/04/04(日) 21:17:34 ID:xUatSwsI

 アサミがぐっと親指を立てると、ミチルは二人の気兼ねのなさに少し気後れした。

「ああ、そう…」

 そういえば、アサミは昔からそんな性格だった。好奇心を抱くのは陸の世界だけでなく、これだと思った方向に
突き進む性分だった。子供の頃から冒険と称して一万メートル級の海溝に突っ込んでみたり、海流に身を任せて
無謀な旅をしてみたり、と、ミチルはそんなアサミに振り回されてばかりいた。考えてみれば、茜もアサミに通じる
部分があるので、二人の気が合うのは自然の摂理なのだろう。

「じゃ、これ食べて。おいしいよ!」

 アサミは紙袋を探り、タイ焼きをミチルに手渡し、茜にも手渡した。

「わーい、いただきまーす」

 アサミの隣に座った茜は、タイ焼きに齧り付いた。アサミもタイ焼きにかぶりつき、尖った歯で噛み砕いた。
ミチルは見知らぬ食べ物を観察したが、物は試しと食べてみた。表面は歯応えがあり、香ばしく焼けているが、
噛み千切ると柔らかく、中にはカスタードクリームが詰まっていた。広海が買ってきてくれたお菓子を食べてみた
ことはあったが、カスタードクリームは大抵は冷たかったので、暖かく香ばしい皮に包まれているものは初めて
だった。魚の形だが魚ではないこともまた面白く、ミチルは一心にタイ焼きを囓った。

「んで、話は戻るけど」

 二つめのタイ焼きを取り出したアサミは、粒あんの詰まったキツネ色の魚を頬張った。

「結論から言うと、見ての通り私は死んでなかったのだ。死んだって言われたのは、親から勘当されたからだね。
まあ、別にそれはどうでもいいんだけど」
「どうでもよくない気もするけど。じゃあ、アサミが死んだ海に散らばっていた泡とウロコは?」
「泡はあれだよ、中途半端に覚えた空間超越魔法のせいで空気が大量に転送されちゃったのだな。ウロコも
空間超越する時に空間の裂け目に尻尾が引っ掛かっちゃって、剥がれちゃったのさ」
「魔法? じゃあ、その足も魔法で?」
「そりゃそうだよーん。まさか整形手術ってわけにもいかないし? でも、おかげで陸の世界を自由に動き回れる
ようになったし、働き口も見つけられたし、良いこと尽くめだね。当てがあったわけじゃないけど、思い切って陸の世界に
出てみて良かったよ。まあ、ちょっといいなーって思っていた男の人は妻子持ちだったから、初恋は完膚無きまでに
玉砕して海の藻屑と消え去ったけどね。で、今はその後に出会った人と付き合ってるのさ」
「そうだったの…」

 ミチルは安堵したが、ちょっと腹が立った。アサミが死んだと聞かされてから、どれほど悲しんだことか。

「んで、ミチル。あんたの方はどうなのさ? 男の子んとこに転がり込んでるみたいだけど、進展してないみたいだし」

 アサミはタイ焼きの尻尾を咀嚼し、飲み下した。赤面したミチルはタイ焼きを握り締めてしまい、クリームが零れた。

「なっ、アサミには関係ないでしょ! 私のことなんだから!」
「あー、もしかしてさぁ、告白したら泡になるーとか信じちゃってるの?」

 アサミに詰め寄られ、ミチルはぎくりとした。

「だって、あれは」
「あーれーはーぁ、大昔に陸に上がったお姫様が使った魔法が不完全だったからであってぇ、今は魔法も
発達したから、魔法を使って足を生やしたって声も潰れないし痛みもないし泡にもならないの。だから、迷信!」
「…えぇ」

 それでは、今まで悩みに悩んだ意味は。ミチルが脱力して肩を落とすと、アサミはにやにやした。

「だから、もう告っちゃいなよ! そこまで好きなら、やることは一つだけでしょ!」
「大丈夫だって、ミッチーとヒロ君なら!」

160人魚と魔術師見習い 5 3 859 ◆93FwBoL6s.:2010/04/04(日) 21:19:27 ID:xUatSwsI
 茜もにやけていて、ミチルに詰め寄ってきた。ミチルは二人と距離を取ろうとしたが、ビニールプールに阻まれた。

「でも、広海は私のことなんて」
「好きじゃなかったら、一緒に住んだりしないって」

 茜は自分のことも思い出し、照れ笑いした。

「私もね、ヤンマが上京する時に無理言って連れてきてもらったの。だから、大丈夫だよ。ヒロ君、優しいし」
「そんなの、茜に言われなくても知ってるわよ」

 ミチルは語気の弱まりを誤魔化すため、半分のタイ焼きを頬張った。広海が優しいのは今に始まったことではない。
無理矢理契約しても怒らなかったし、素っ気ない態度を取っても嫌う素振りは見せないし、細々とミチルの世話を
焼いてくれる。だが、それが好意に直結しているとは思わない。けれど、少しでも希望があるのなら。
 ミチルは二つめのタイ焼きを食べ、アサミと茜と取り留めのない話をしつつ、頭の片隅でどうやって広海に好意を
伝えようかと考えていた。だが、二人との会話はひたすらに明るく、楽しかったので、今までに溜まった憂さを晴らす
かのように笑い転げてしまった。そうしていると、泡になることを恐れすぎて頑なだった自分が馬鹿らしく思えたが、
泡と化すことを恐れるのを言い訳に広海に本心を見せることから逃げていた自分にも気付き、素直になろうと誓った。
 出来る範囲で、だが。


 まともな労働は、学業とは違った意味で疲れた。
 広海は重たい体を引き摺るように歩き、アパートを目指していた。初日でこれでは明日の仕事が不安になったが、
採用してもらえたのだから働くしかない。慣れないことばかりで神経がすり減っているのに、この上でミチルから
冷たくされたらさすがに辛い。今日ぐらいは優しいと良いな、と心の隅で願いながら、広海はアパートもえぎのに
到着して自室のドアを開けた。

「ただいま」
「お帰り」

 返事が返ってきたことに驚いて広海が顔を上げると、居間ではミチルがやりにくそうな顔をしていた。

「あ、うん」

 広海はドアを閉めて鍵を掛けてから、悩んだ。こんなにあっさり願いが叶うとは、ミチルに何かあったのだろうか。
でなければ、広海の機嫌を取って何かを要求するつもりなのか。だとしても、嬉しいことには変わりないので、
広海は靴を脱いで上がった。ビニールプールに身を収めているミチルは、着替えがなければ困るだろうと思って
新たにもう一枚プレゼントした水色のタンクトップビキニを着ていた。肌が隠れているのがちょっと勿体ないな、と
つい思ってしまったが、それが陸の世界では正しいのだ。下世話な自分に辟易しつつ、広海は居間に戻った。

「ちょっと待ってて、すぐに夕飯にするから」

 ミチルは台所に向かう広海の背に声を掛けようとしたが、言葉に出来ず、飲み込んだ。素直になると決めてから、
言いたいことをまとめていたのに、いざ広海が帰ってくると上手く言葉に出来なくなった。アサミと茜が帰った後に
一人で練習してみた時は上手くいっていたのに、本番となると照れてしまって喉が詰まる。台所で忙しく働く広海の
背を横目でちらちらと見ながら、ミチルは声を掛けるタイミングを計ったが、とうとう話し掛けられないまま夕食が
始まった。ビニールプールに横付けされたテーブルで二人揃って食べながら、広海は初めてのアルバイトの話や
外での出来事を話してくれたが、ミチルには内容がさっぱり解らなかった。返事らしいものはしたが、記憶にない。
 そうこうしている間に夕食が終わり、広海が風呂に入る時間になった。広海はミチルの様子が変だと感じている
らしく、しきりにこちらを気にしてくれるので逆にやりづらかった。風呂が溜まり、広海が腰を上げたので、ミチルは
慌てた。着替えを出すために寝室に向かおうとする広海のジーンズの裾を掴み、ミチルは声を上げた。

「ちょっと!」
「何?」

 ジーンズの裾を力一杯握られた広海は、期待と戸惑いを交えてミチルに振り向いた。

161人魚と魔術師見習い 5 4 859 ◆93FwBoL6s.:2010/04/04(日) 21:21:39 ID:xUatSwsI
「…あの、ね」

 照れが極まったミチルが俯くと、広海は答えを待った。

「ミチル、僕に話すことでもあるの? 焦らなくてもいいし、僕も逃げないから」
「ちょ、ちょっと待って!」

 ミチルは高ぶりすぎて痛む胸を押さえ、肺とエラの双方を使って深呼吸してから、広海を見上げた。

「お風呂!」
「もしかしてとは思うけど、一緒に?」

 広海が目を丸めると、ミチルは無言で頷いた。それ以上はとても言えず、裾を握り締める手も震えていた。
これだけのことを言うだけなのに、嵐の海を泳ぎ切るよりも疲れてしまった。ミチルは広海の顔を直視出来ず、
裾から手を離して熱した頬を押さえた。広海はミチルの顔を見たくてたまらなかったが、下手に見てしまっては
怒らせてしまうと思い、まずは彼女の要求を叶えることにした。

「ちょっと、ごめん」

 広海は袖をまくり、ミチルの浸るビニールプールに手を差し入れて彼女の体を抱えた。

「ひぃあっ!?」

 前触れなく持ち上げられてミチルがぎょっとすると、広海はミチルを横抱きにしながら苦笑した。

「ミチルは先に運んでおかないと、一緒に入れないだろ」
「…うん」

 ミチルは精一杯体を縮め、広海から顔を背けた。暴れ回る心臓の音が聞こえやしないかと不安になると、更に
鼓動は早くなって息苦しくなった。居間から浴室までのほんの数メートルがやたらに長く感じられたが、程なくして
浴室に運ばれた。手狭な風呂場に収まっている浴槽には人間の入浴に相応しい温度の湯が溜まっていて、
昇る湯気が立ち込めており、人魚にはそれだけでも熱かった。広海はミチルをまずは脱衣所に座らせてから、
浴室のドアを開けて既に溜まっている湯に水を足していった。

「こうしないと、熱いだろうから」
「…うん」

 先程と同じことしか言えず、ミチルは泣き出したくなった。気のないふりをする文句なら、いくらでも言えるのに。

「じゃ、先に入ってて」

 広海は再びミチルを持ち上げると、いくらか温くなった湯船に入れてくれた。

「僕はほら、脱がなきゃならないから」

 と、言い残してからドアを閉めた広海は、服を脱ごうとして躊躇った。この流れだともしかして、とは思ったが、
いやでもミチルだし、だけどここまで来て、と考え込んだ。自分から好きだとも言っていないし、ミチルからも好きだ
とも言われていない。それなのに、一緒に風呂に入りたいとは。ただ構って欲しいだけなら、ミチルの方から広海に
ちょっかいを出してくるはずだ。甘えたいにしても、なんだかミチルらしくない。かといって、抱かれたいわけがない。
 広海は、自分でも情けなくなるほど男らしさがない。顔付きも子供っぽく、体格も同世代に比べれば一回りは
小さく、骨格自体が細かった。ミチルを抱き上げられるのはミチルが自分よりも小柄で体重が軽いからであって、
ついでに言えば多少の魔法で手助けしているからだ。性的魅力に欠けるどころか、コンプレックスの固まりだ。
だから、ミチルに欲情されるわけがない。それもあるから、なかなか好意を示せなかった。しかし、この流れで
何もしないのは却って男らしくないのでは、と広海は散々悩んでから、ようやく服を脱いだ。 
 広海が風呂場に入ると、ミチルはぬるま湯に浸っていた。水を多く足したせいで浴槽からは溢れ出していて、
浴槽に入りきらなかった尾ビレの先から水滴が落ちている。部屋の蛍光灯とは異なる淡いオレンジ色の電球に
照らされた肢体は、恥じらいが滲み出た表情と相まって悩ましかった。風呂場にはしっくり来ない水着に包まれた
乳房がぬるま湯の中で浮いているらしく、胸元の膨らみ方がいつもより増していた。

162人魚と魔術師見習い 5 5 859 ◆93FwBoL6s.:2010/04/04(日) 21:23:50 ID:xUatSwsI
「早く来たら」
「あ、うん」

 広海はメガネを外すべきか迷ったが、外さないことにした。乱視混じりのド近眼なので、外してしまうとミチルの
顔はおろかどこに何があるのかも解らなくなるからだ。広海は風呂場のドアを閉め、シャワーを出して体を流したが、
ミチルが気になって落ち着かなかった。意識すればその時点で下半身が反応する、だからなるべく考えるな、と
自分を制しようとしたが、その努力も空しく血液が集中した。

「ねえ」

 ミチルは背を向けて前屈みになった広海を見やり、首を傾げた。

「ええと…とりあえず、ごめん」

 情けなくなってきた広海が項垂れると、ミチルは浴槽から身を乗り出してきた。

「あのね」

 ミチルは広海の背に近付き、爪を立てないようにしながら手を触れた。暖かく柔らかな、人の肌だ。

「謝るのは私の方なの」

 腰を浮かせたミチルは、広海の背に寄り掛かった。

「何を?」

 背中に感じる彼女の重みと冷たい体温に、広海は反り返るほど強張ったが辛うじて平静を保った。

「人魚は人間に思いを伝えたら泡になるってずっと信じていたけど、本当はそうじゃなかったの。先に陸に上がった
幼馴染みから教えてもらったんだけど、大昔の人魚のお姫様が泡になって死んだのは、足を生やす魔法が不完全
だったからだって。だけど、私はそれが本当のことだって信じていて、だから、本当のことを言えなくて」

 ミチルは広海の腰に手を回し、目を伏せた。

「陸に上がりたかったのも、一緒にいたかったから。きついことばっかり言っていたのも、泡になりたくなかったから。
だから、広海は私のことなんて好きじゃないだろうけど、私、ずっと前から」
「勢い余って君を押し倒した僕が、君を嫌いだと思う?」
「あ、あれは、物の勢いだとばっかり…」
「でも、良かった。嫌われてないみたいで」

 広海は安堵し、しがみついてくるミチルに振り返った。ミチルは今まで以上に赤面して広海から離れると、顔を
両手で覆って浴槽の隅に逃げようとしたが、浴槽自体が狭いので意味はなかった。広海が向き直ってきたので、
おのずと彼の体の中心でいきり立つ性器も目に付き、ミチルは固まった。

「広海、それって、アレ?」
「うん。僕としてはこのまま、って思うんだけど、ミチルが嫌なら今日のところは」
「そんなことない。でも、ちょっと怖い」

 ミチルが水掻きの付いた指の間から広海を窺うと、広海は浴槽に入ってきた。

163人魚と魔術師見習い 5 6 859 ◆93FwBoL6s.:2010/04/04(日) 21:25:18 ID:xUatSwsI

「それは僕も同じだよ。したことないし」
「私だってしたことないもの。だから、何をどうしたらいいのか…」
「でも、その前にちゃんと言わせてくれるかな。でないと、悪い気がするから」

 広海はミチルと向き合い、濡れた髪を撫でてから言った。

「最初に会った時から、僕は君が好きだった」
「うん…」

 ミチルは頬を包む広海の手に触れ、硬さに感じ入った。外見は男らしくないかもしれないが、彼は確かに男だ。
広海はミチルの下半身を両足で挟むように腰を下ろし、溢れ出すほど溜まったぬるま湯に身を浸してミチルの体に
腕を回してきた。ミチルは広海に縋るように抱き付くが、爪を立てないように気を付けた。

「あっ」

 抱き合うと下腹部に熱を持って膨張した性器が接し、ミチルは戸惑ったが、広海の手が背中から下半身に
下がってきたので今度はそれに戸惑った。

「そこも触るの?」
「触るよ。だって、今まで触るに触れなかったから」

 広海の両手が、人間に似た皮膚と魚らしいウロコの境目を確かめるように撫でてから、脂肪の付いた臀部に
向かった。腰骨と股関節に似た骨格があるために人間と同じように肉が付いた部分をなぞり、広海はミチルの
長い髪に隠れた首筋にも顔を埋めてきた。音を立てて水気の多い肌を吸われ、ミチルは小さく声を漏らした。

「…っあ」

 広海の背に回した腕に力を込め、ミチルは甘い痺れを堪えた。滑らかなウロコに覆われた下半身を探っていた
手が上がると、水着の上から乳房を掴んできた。最初は乳房の柔らかさを確かめるように握っていたが、次第に
強くなり、尖ってきた乳首を潰してくるようになった。

「なんか、やらしい」

 ミチルが広海の肩に顔を埋めると、広海はミチルの水着を捲り上げて丸い乳房を露わにした。

「そりゃあね。我慢してたから」
「私に触るのを?」
「それ以外に何があるっていうのさ」
「でも、そんなの…」
「嫌?」

 広海がミチルを覗き込むと、ミチルは首を横に振った。

「そうじゃない。嬉しいけど、嬉しいんだけど、困るっていうか。私、そんなに良い体じゃないし、魚だし」

 ミチルが顔を逸らそうとすると、広海は肌が赤らんだ乳房を握った。

「どこを見てそう思うんだか」
「だって、ぇ…」
 
 広海に乳首を吸われ、ミチルは浴槽の縁を掴んだ。恥ずかしすぎて頭が煮えてしまいそうで、不慣れな感覚に
尾ビレがばたばたと暴れたが、広海はミチルの抵抗も気にせずに責め続けた。人間とは色素の種類が違うので
血管が透けそうなほど白い肌には、広海に吸われたために赤い痕が散り、特に強く吸われた乳首は赤らんでいた。

「ここ、だよね?」

 ミチルの下半身の前面を這っていた広海の手が止まり、ウロコの間に隠れた産卵管に触れた。

「指、入れるけど、いいよね」
「うん。頑張る」

164人魚と魔術師見習い 5 7 859 ◆93FwBoL6s.:2010/04/04(日) 21:26:45 ID:xUatSwsI
 ミチルは呼吸を整え、力を抜いた。ぬるま湯よりも粘り気のある体液が滲む細い入り口を、広海の指が掻き分け、
ぬるりと浸入した。自分の指よりも太く硬い異物はぬるま湯を注ぎ込むように動き回るので、ミチルは堪え切れずに
切なく喘いだ。広海の指が上下するたびに気泡が浮かび、分泌される体液は増え、背筋を昇る刺激は鋭くなった。

「あぁ、あ、あう」

 ミチルは広海にしがみつき、腰をくねらせた。

「ミチル、気持ちいい?」
「うん、うんっ」

 広海に問われ、ミチルは熱に浮かされて頷いた。顔を上げて広海の唇を塞ぐと、広海もミチルに舌を伸ばした。
舌を絡め合うと、互いの唇の端から溜まった唾液が溢れて顎を伝った。これまでまともに触れ合えなかった分を
補うため、ようやく交わった思いを注ぎ合うため、夢中でキスをした。

「するの? 私、広海とするの?」

 じゅぶりと産卵管から指を抜かれ、ミチルは潤んだ瞳で広海を見つめると、広海はミチルの腰を抱えた。

「たぶん、中で出ちゃうだろうけど、後で怒らないでね」
「そんなことない、ないよぉっ」

 ミチルの産卵管に添えられた硬い生殖器が、ず、ず、と押し入ってきた。指よりも遙かに硬く、熱く、重たい彼の
男根が奥へと迫り、ミチルは身震いした。さすがに初めてなのできついのか、狭い入り口にぴりっとした痛みは
あったが、中に収まってしまうとそんなものは消え失せた。

「はぁ…」

 ミチルは熱い吐息を零し、広海の腰に手を回した。

「凄い、ちゃんと入ったぁ…」

 人魚の内はきつく、冷たかった。処女膜こそないが、全体的に筋肉が緊張していた。だから、挿入を終えただけで
広海は搾り取られるような感覚に陥ったが、すぐに果ててしまうのは勿体ない。ミチル自身の緊張が解れるように、
じゃれるようにキスを交わした。唇や首筋だけでなく、鼓膜を覆う側頭部のヒレの付け根や髪の生え際に唇を当て、
華奢な腰を抱き寄せてやり、ミチルも広海に触れてきた。そのうちにミチルの産卵管の締め付けが落ち着いたので、
広海は出来るだけ慎重に腰を動かし、ミチルを責め立てた。

「辛かったら言ってね」
「大丈夫、痛いことなんてないもんっ…」

 赤く上気した頬に水気混じりの汗を浮かばせたミチルは、広海の邪魔をしないように、風呂場の壁や浴槽の縁に
頭をぶつけないように気を付けながら、彼の欲望を受け止めた。硬く勃起した男根に産卵管の内壁を力強く擦られ、
ミチルの粘膜と広海の体液が混じり合い、ぬるま湯に溶けた。浴槽の中は波打ち、二人も入ったことで限界近くまで
昇っていた水位が破られ、広海が動くたびに溢れ出していた。
 忙しない水音と、肌が擦れ合う音と、互いの荒い息が風呂場に反響した。言葉にするよりも即物的だが確実で、
二人は長らく同じ水の中で交わった。ミチルは何度も達し、広海も何度も彼女の内に放ったが、二人は離れなかった。
これまでの近付きすぎていたが故に遠かった距離を狭めるために、存分に満たした後もきつく抱き合っていた。
 泡と化して消えたのは、不安と躊躇いだけだった。

165859 ◆93FwBoL6s.:2010/04/04(日) 21:32:33 ID:xUatSwsI
以上。
幼馴染みが泡になって死んだような気がしたが別にそんなことはなかったぜ!
ついでに登場人物紹介に追加。

■アパートもえぎの

≫102号室

岩波広海
十八歳の大学一年生。人間。職業魔術師を志していて、魔術大学に進学するために上京し、アパートに引っ越した。
地味で大人しいが、大胆な面もある。童顔で小柄でメガネの青年。ミチルに一目惚れして以来、ミチルに逆らえない。

ミチル
十代後半の人魚。広海の使い魔として契約しているが、従者らしいことは一切せずに逆に広海を尻に敷いている。
藍色の髪とマリンブルーのウロコを持ち、耳の部分にヒレが生えている。きつい態度は好意の裏返しのデレツン。

■その他

アサミ
十代後半の人魚。ミチルと同郷だが、ミチルよりも早く陸に上がって魔法を覚え、足を生やして陸上生活を送っている。
あっけらかんとした性格で、物事を深く考えないので遠慮もなければ思慮もない。青紫の髪にディープパープルのウロコ。

以上。
保管庫さん、いつもいつもありがとうございます。

166変態紳士:2010/04/05(月) 05:38:05 ID:/R1rzEyU
GJ!!!
デレたミチルが可愛い過ぎる!
保管庫の管理人さん、素早いお仕事ありがとうございます。

167859 ◆93FwBoL6s.:2010/04/05(月) 20:35:47 ID:FGEk/ISY
引き続き投下。
人外アパートで、大学生×人魚の和姦です。これがラストです。
NGは人魚と魔術師見習いで。

168人魚と魔術師見習い 6 1 859 ◆93FwBoL6s.:2010/04/05(月) 20:37:31 ID:FGEk/ISY
 夢ではない証が、全身に染み付いていた。
 体温の抜けた精液が産卵管の奥底に溜まり、互いの体液が混じり合ったものがウロコに付着していた。
ビニールプールに張った水に身を沈めているミチルは、火照りが抜けなかったせいで寝付けず、ぼんやりと
天井を仰いでいた。カーテンの隙間から差し込んだ朝日が埃っぽい空気を輝かせ、ほのかに水を温めていた。
その温もりは広海の体温とは程遠いが心地良く、ミチルはごぼりとエラから水を吐き出しながら感じ入った。
 上体を起こすと、髪と肌から水が滴った。不自然な姿勢で力んでいたせいか、背中や腰だけでなく尾ビレも
筋肉が重たかったが嫌ではなかった。改めて広海と交わったのだという実感が湧き、今度は恥ずかしくなる。
胸元や首筋に散る赤い痕は広海が押し殺していた情欲の強さを思い知らせるようで、そこまで欲情されていた
というのは嬉しいやら照れるやらだ。広海の寝室である六畳間から物音は聞こえず、広海はまだ目を覚まして
いないようだった。なんだか寂しくなったミチルは、水を零さないようにしながらビニールプールから這い出し、
畳を濡らさないためにカーテンレールのハンガーに引っ掛かっていたタオルで体全体を丁寧に拭いてから、
襖を開けてみた。薄暗く狭い部屋では、広海が布団を被って熟睡していた。ミチルは彼を起こさないように
気を付けながら、襖の隙間から体を滑り込ませ、ざらついた畳を這って広海に寄り添った。
 不意にめくれかけた掛け布団の下から手が伸び、ミチルを引っ張り込んだ。思い掛けないことにぎょっとした
ミチルが身を固くすると、メガネを掛けていないせいでやけに目付きの悪い広海がミチルを抱き締めてきた。

「ミチル、泡になってないよね? それが心配で、良く寝付けなかった」
「だったら、確かめてみればいいじゃない」

 心配された嬉しさで胸が詰まりながらミチルが呟くと、広海はミチルの湿り気の残る下半身に手を滑らせた。
昨夜と違って間に水が入っていないために直接肌に触れる手の温かさに、ミチルは甘ったるい余韻が蘇って
背筋がざわめいた。広海の体に腕を回して抱き締め返すと、初めての性交に夢中だった時には解らなかった
骨格の太さが腕に伝わってきた。触れ合うだけの浅いキスを交わしていると、広海の乾いた指がミチルの潤った
産卵管に差し込まれ、内壁に付着している混じり合った体液と少し固まりかけた精液を掻き回した。

「く…ぅ、あっ…」

 ミチルが懸命に声を殺そうと広海の肩に顔を埋めると、広海はミチルの内から指を抜いて顔をしかめた。

「やっぱり、ちゃんとしないとダメだね」
「なに、がぁ?」

 呼吸を速めながらミチルが問うと、広海は再度深く指を入れ、白濁した固まりをミチルの内から掻き出した。

「ほら、これ。ミチルは僕のじゃ受精しないだろうけど、でも、中に入れっぱなしになるのは良くないから」
「広海の、出しちゃうの?」
「人間相手でもまずいけど、人間じゃないミチルにはもっとまずいだろ。だから、今度からはちゃんと準備するよ」
「私は、別に」 

 ミチルは広海を抱く腕に力を込め、頬を染めた。中に注がれた方が、彼に染められるようでいいのだが。

「あ…でも、これは僕がやらない方がいいかな」

 広海は精液の固まりを掻き出した指を枕元のティッシュペーパーで拭いながら言うと、ミチルは首を横に振った。
自分でやるよりも、やられた方が余程良い。広海は赤面し、朝っぱらからやることじゃないような、とも思ったが、
ミチルの頼みを無下にするのはよくないと自分に言い訳して再び彼女の内に指を入れ、たっぷりと注ぎ込んだ精液を
出来る限り丁寧に掻き出した。潤いが残る陰部をぐちゅぐちゅと掻き回され、最深部ではないが奥まった部分を
指の腹で強くなぞられたミチルは、寝起きとは異なる意味で目を潤ませて広海に縋り、尾ビレで布団を叩いた。

169人魚と魔術師見習い 6 2 859 ◆93FwBoL6s.:2010/04/05(月) 20:39:00 ID:FGEk/ISY

「ひぁっ、あっ、んあっ…あぁっ!」

 びくんとミチルが痙攣し、腕の中で脱力すると、広海はおのずと股間が反応した。昨夜、あれだけ酷使したにも
関わらず、寝て起きたら元に戻っているのは若さの成せる業か。ミチルは達した余韻で浅く速い呼吸を繰り返し、
広海に噛み付くようにキスをした。広海はミチルに応えつつ、寝間着と下着を下げて硬く充血した性器を押し付けた。

「そんなに強くはしないし、出す前に抜くから」
「うん…解った」

 ミチルはしおらしく頷き、力を抜いた。広海は彼女の変わりように支配者じみた優越感を覚えてしまい、自分の
欲望の罪深さをつくづく思い知った。好きだなんだのと言う以前に、美しい人魚を手に入れたかっただけなのかも
しれない。それもまた恋の一端かもしれないが、あまり真っ当ではない。広海はミチルの少し冷たい内側に熱く
膨れた異物を浸入させながら、ミチルを優しく抱き締めた。

「ミチル」
「ん、なあに、広海ぃ」

 ミチルは息を弾ませ、広海と至近距離で見つめ合った。ぼやけた視界の中のミチルを見据え、広海は自嘲した。

「僕は最低だ」
「んっ…ぁあっ!」

 ぐい、とミチルの奥深くを突いた広海は、ミチルの乱れた長い髪に指を通した。

「もっと早くに好きだって言っておけば、こんなにひどいこと、しなくて済んだだろうに」

 もう一度深く突くと、ミチルの肢体は跳ねた。

「くあぅっ!」

 ミチルが喉を仰け反らせると、広海はミチルを離すまいと細い腰を引き寄せ、緩やかに打ち付けた。

「だって、君は人魚だ。魚人族の亜種で、本を正せばれっきとした魚だ。繁殖方法は海中に産んだ卵に精子を
掛けて受精させるわけだから、本当はこんなことはしない。なのに、僕がしたいからってだけで…」
「しないけど、し、したかったのぉ、広海とじゃなきゃ、こんなことしない、したくない!」

 ミチルは広海に離されまいと、その腰をぐっと抱き寄せた。

「だから、そんなこと言わないでぇっ!」
「でも、もう、そろそろ」

 込み上がってきた熱い固まりに気付いた広海がミチルの内から抜くと、ミチルはすかさず体を折って布団の中に
潜り込み、口を開いて銜え込んだ。広海が慌てて布団を剥ぎ取るが、ミチルは広海の性器を懸命に吸っていた。
人間よりも薄く冷たい舌がぎこちなく動き、硬い歯の先端が皮に触れ、宝石の粒のような雫が付いた髪を垂らした
頭が上下する。広海はミチルを引き剥がそうとしたが、とうとう出来ず、ミチルの口中に迸らせた。

「…無理しないでよ」

 息を上げながら広海が漏らすと、ミチルは生臭さと苦みに眉根を歪めながら嚥下し、ぬるついた口元を拭った。

170人魚と魔術師見習い 6 3 859 ◆93FwBoL6s.:2010/04/05(月) 20:42:04 ID:FGEk/ISY

「中に出してくれないんだったら、こうすればいいだけよ」
「全く、もう」

 広海はミチルの強引さに呆れかけたが、ミチルは身を起こし、小さく咳き込んだ。

「それだけ好きってことなんだから、つまんないこと気にしないでくれる? 癪に障るから」
「解ったよ」

 広海は下着と寝間着を引っ張り上げてから、ミチルを後ろから抱き寄せた。

「解ればいいの」

 ミチルは広海に覆い被さられながら、水着の胸元を握り締めた。口中にはまともに飲んだ精液の味が濃く残り、
喉には熱い固まりを飲み下した違和感が残っていたが、幸福感で涙が出そうだった。寝付くに寝付けなかった
せいで何度となく見た虚ろな夢の中では、ミチルは泡と化して海に溶けた。その度に目を覚まし、精液の温もりと
広海が付けた肌の痕を確かめずにはいられなかった。広海に髪や頬を撫でられながら、ミチルは頬を緩めた。
 彼の腕の中は、春の海のように温かかった。


 見慣れない道具が、縁側にずらりと並んでいた。
 爪ヤスリ、ヘアブラシ、コンコルド、シュシュ、ヘアピンだと稲田ほづみは説明してくれたが、どれがどれなのかも
ミチルには把握出来なかった。だが、持ってきてくれるように頼んだのは自分なので、まずはどれが何なのか
見分けを付けることから始めることにした。ほづみから教えてもらった名前とその物を一致させるのは苦労したが、
なんとか覚えられた。ミチルは銀色に輝く金属製の爪ヤスリを取り、眺めていると、ほづみはミチルの手を取った。

「これはね、こうやるの」
「…うっ」

 ざらついた金属板に爪先をごりごりと擦られる違和感にミチルが呻くと、ほづみは笑った。

「大丈夫大丈夫、すぐに慣れるから」
「でも、なんか、指まで削れちゃいそうな気がして」

 ミチルが怖々と目を上げると、ほづみはミチルの硬い爪先を丹念に擦って滑らかにした。

「そんなことないって。ほら、もうちょっとで仕上がるから」

 仕上げの細かいヤスリで擦ってから、はい出来上がり、とほづみに手を解放され、ミチルは指先を見つめた。
憎らしかった爪が丸くなり、刃物じみた鋭さも取れて鈍角になっている。ほづみは、爪ヤスリをミチルに渡した。

「じゃ、次からは自分でやってみてね。やり方は今の通りだから」
「人間って凄い道具を使うんですね」
「こんなのは大したことないって。もっと凄いのがあるけど、それはまた今度ね。一度じゃ覚えきれないし」

 ほづみはミチルの藍色の長い髪にヘアブラシを通していたが、爪ヤスリを凝視するミチルの横顔を覗き込んだ。

「だーけど、微笑ましいったらないわねー。綺麗にしたいから教えてくれ、だなんて」
「何もしないままでいるのは、なんだか広海に悪い気がして」
「解るわー、その気持ち」

171人魚と魔術師見習い 6 4 859 ◆93FwBoL6s.:2010/04/05(月) 20:43:27 ID:FGEk/ISY
 ほづみはミチルの長い髪を一掴みにしてまとめると、くるくると捻ってまとめてからコンコルドで留めた。

「ただ着飾るのも楽しいけど、見せる相手がいると張り合いが出るもんだしね」
「ほづみさんの相手って、確か、茜の友達の」

 あの調子の良いトンボの、とミチルが付け加えると、ほづみは明るく笑った。

「そうそう、アレよ、アレ。ちょいと頭は軽いけど本当に馬鹿ってわけじゃないし、結構良い奴だから、ミッチーも
気が向いたら付き合ってあげてね。もちろん、優先順位は広海君が上だろうけど」
「考えておきます。それと、結局、ミッチーで決定なんですか?」
「呼びやすいに越したことはないし、その方が親しみがあっていいじゃない」

 ほづみはミチルの髪からコンコルドを外し、お団子にしてから太いヘアピンを差し込んで固定した。

「こんなんでどうかしら」

 ほづみはミチルの後頭部に鏡を翳し、ミチルに手鏡を手渡した。ミチルは合わせ鏡に映った自分の髪型を見、
まじまじと眺めてから、ほづみに振り返った。

「あなたは魔法使いですか」
「まさか。こんなこと出来る人間なんていくらでもいるって」

 ほづみはシュシュを広げ、お団子の根本に柔らかく填めた。

「この道具は使い古しだし、処分するよりいいからミッチーに譲るわ。練習しないと出来るものも出来ないし」
「そんなのって」

 いいんですか、と言いかけたミチルに、ほづみはにんまりした。

「綺麗な歌を聴かせてくれた御礼よ。人魚の歌なんて、そう滅多に聞けるもんじゃないでしょ?」
「ありがとうございます、ほづみさん」

 ミチルが頭を下げると、ほづみは妹を見るような眼差しで目を細めた。

「これからも色々とあるだろうけど、頑張りなよ。私や茜や祐介君は逆の立場だけど、苦労は変わらないから」
「はい!」

 ミチルは顔を上げ、頷いた。

「私さぁ、彼氏にトンボを選ぶなんてこれっぽっちも考えたことがなかったんだよね」

 ほづみはミチルの前髪を分けて整えてやりながら、穏やかに述べた。

「世の中、そこら中に変なのが生きているけど、相手にするはずがないって思っていたのよね。偏見があった
わけじゃないけど、縁がなかったのよ。シオの前に付き合ったのは全部人間だったし、友達も人間ばっかりで、
人外と付き合う機会なんてなかったんだわ。でも、いざ付き合ってみると、ただの人間よりも何十倍も面白いんだわ、
これが。人生を損してた気がするわ」
「広海もそう思ってくれているんでしょうか」
「そうかもしれないけど、まあ、人それぞれだからね」

 それはそれとして、とほづみは声を潜めてミチルに顔を寄せた。

172人魚と魔術師見習い 6 5 859 ◆93FwBoL6s.:2010/04/05(月) 20:46:39 ID:FGEk/ISY

「今度からはもうちょっと大人しく励んでね? でないと、色々と気まずいから」
「え、あ、あっ!?」

 間を置いてその意味に気付いたミチルが固まると、ほづみは身を引いた。

「とにかく壁が薄いのよ、ここ。私らも他人事じゃないけど」
「広海にも、そう言っておきます…」

 赤面しすぎて茹だったミチルは俯き、ビニールプールに映る自分と向き合った。髪を上げたのは初めてで、
普段は髪に隠れている両側頭部のヒレの根本や首筋も露わになっていて、ちょっと恥ずかしかったが、広海に
見てもらいたくなった。ミチルはほづみから慰めとも冷やかしとも付かない言葉を掛けられ、受け答えながら、
少しだけだが自信が持てるようになった。華やかなラインストーンが付いたコンコルドは、広海と主従の契約を
交わしたために十五歳の成人の儀式をしないままだったミチルに与えられた、成人の証のように思えた。
 隣家の庭に咲く散り際の桜が、また一枚、花びらを落とした。


 二度目の釣りも大漁だった。
 広海は桟橋から釣り糸を垂らしつつ、適当に見繕ってきた昼食を摂っていた。桟橋に腰掛けているミチルは、
自分で捕まえてきた生魚に喰らい付いている。骨の一本もヒレの一枚も残さずに食べるので、無駄がない。
大型連休を終えた次の週末だからか、釣り人はまばらだった。それもまた、釣果が冴えている理由なのだろう。
 ミチルの後頭部には人魚の遊泳速度で泳いでも崩れないほど見事に丸められたお団子の髪が載っていて、
水着に合わせたヘアピンが刺さっている。もちろん、海水でも錆びないように魔法で処理済みだ。一線を越えて
からすぐ、103号室の住人である稲田ほづみから髪の結い方を教わったミチルは、髪を上げるようになった。
充分似合っているし、美しく豊かな髪が汚れないで済むのでいいことだと思うのだが、その理由が解らなかった。

「ねえ、ミチル」

 広海はペットボトルのお茶で喉を潤してから、手前に座るミチルに問い掛けた。

「なんで、髪の毛いじるようになったの?」
「これだけ伸びたのに切るのは勿体ないでしょ」
「そりゃ、まあ。でも、それだけじゃないような気がするんだけど」
「だったら、当ててみたら?」

 振り向いたミチルは、血に汚れて紅を差したような唇を舌先で舐めた。その勝ち気な表情と仕草に、広海は
ぎくりとした。それ以上見てしまったら妙な気持ちになりそうなので、目を逸らしながら広海は懸命に考えた。
たっぷり間を置いてから、やっと感付いた。人魚姫の童話に登場する人魚姫の姉達は、髪を切って魔女に渡し、
王子を殺す短剣を手に入れた。それは、姉達が己の純潔を捨ててまでも人魚姫に現実を知らしめる暗喩だと
されているが、現実の人魚族でもそれほど遠い意味ではないと大学の図書館で読んだ研究書に書いてあった。

「髪が短い人魚は既婚だ、ってやつ?」

 広海はそう言ってから、がたっと折り畳み椅子を揺らした。

「え、ええ!?」
「意味が解ったんなら、責任取ってよね。どうせ、私は海には戻らないつもりだし」
「切ってないってことは、ああつまりそうか、ちゃんと結婚したら髪を切るってこと?」
「そうに決まってんでしょ」
「ちょっと待って、うん、ちょっとだけ待ってね」

 広海はミチルの潔さに少しだけ臆したが、気を取り直した途端、何かが弾けた。

「ああもう好きだ大好きだぁああああっ!」
「ちょっ…!」

 ミチルは目を剥いたが、広海に飛び掛かられて桟橋から海に落下した。どばぁん、と荒々しい水柱が上がり、
広海が垂らしていた釣り糸は吹き飛んで大量の水飛沫が散った。細かな泡に包まれながら浮かび上がった
ミチルを、広海は力一杯抱き締めてきた。

「馬鹿」

 ミチルが照れてそっぽを向くと、広海はフロートジャケットのおかげで浮きながら苦笑した。

「あー、そうかも…。帰りのこと、考えてなかった」
「でも、言ったからね! ちゃんと言ったからね! だから、責任取らなきゃ許さないんだから!」
「はいはい」

 広海は頑なに顔を見せようとしない彼女の腰と肩に手を回し、笑った。

「僕なんかで良かったら、いくらでも」

 海の中にも、陸の上にも、王子様なんていやしない。いるとすれば、何があろうとも傍にいてくれる相手だけだ。
その相手を見つけることは出来ても、結ばれることはそう簡単ではない。だから、童話の住人となった人魚姫は
海に身を投げて泡に戻ってしまった。だが、世界は変わり、海と陸の隔たりは薄くなりつつある。広海とミチルは
その狭間で揺らぎ、迷い、悩んだが、嵐が過ぎてしまえば凪いだ海が待っているものだ。
 そして、宝箱のような結末も。

173859 ◆93FwBoL6s.:2010/04/05(月) 20:48:53 ID:FGEk/ISY
以上。これにて完結です。
最後までお読み頂き、どうもありがとうございました。

174859 ◆93FwBoL6s.:2010/04/05(月) 20:52:36 ID:FGEk/ISY
今し方誤字脱字を発見。

×「これからも色々とあるだろうけど、頑張りなよ。私や茜や祐介君は逆の立場だけど、苦労は変わらないから」
○「これからも色々とあるだろうけど、頑張りなよ。私や茜ちゃんや祐介君は逆の立場だけど、苦労は変わらないから」

ほづみの茜に対する二人称を間違えてしまいました。

175変態紳士:2010/04/06(火) 21:03:58 ID:.qT7mq5c
GJ!!!
うまくいって良かった。
人外アパートの面々との絡みも面白かった。

176変態紳士:2010/05/01(土) 06:18:44 ID:I2RJvCyQ
こっち来てるのに気付かなかった
遅ればせながらGJ!ハッピーエンドで良かった

177変態紳士:2010/05/22(土) 13:47:25 ID:CbeZE.kU
アンダーグラウンドの続きはまだだろうか…。
ヒロインの名前が変わっても待ってます!

178859 ◆93FwBoL6s.:2010/05/31(月) 16:20:23 ID:2kwiZbLg
本スレに投下しようと思ったら、また規制中につきこちらに投下。
人外アパートで、住人達がそれぞれの恋人についてダベるだけのSS。
なので、カプ要素も薄ければエロもありません。NGは人外成分談義で。

179人外成分談義 1 859 ◆93FwBoL6s.:2010/05/31(月) 16:21:51 ID:2kwiZbLg
「物足りないなぁ」

 秋野茜はストローを銜え、溶けかけたチョコシェイクを啜り上げた。

「だったら、追加注文すればいいじゃない。高いものでもないんだし」

 その隣では、綾繁真夜が紙ナプキンで油と塩に汚れた指先を拭っていた。

「てか、そんなに喰い足りないんすか? 茜も結構喰ったのに」

 二人の向かい側では、人型シオカラトンボの少年、水田シオカラが顎を開いてざらざらとポテトを流し込んだ。

「そういうんじゃなくってさ」

 茜はストローを口から離し、冷えた舌で唇を舐めた。中間テスト期間中だけあって、ハンバーガーショップの店内には
三人と同じような目的で集まった中高生で溢れ返っていた。狭いテーブルに参考書やプリントを広げていたり、テストの
成果を話題に盛り上がっていたり、或いはテストそのものから逃避するように遊ぶ相談をしていたりと、いつも以上に
騒がしかった。茜らは、この店で腹拵えをしてから一番集中出来そうな真夜の家に移動して勉強する予定なのである。

「なんていうのかなー、こうっ!」

 茜が両手を上向けて妙な格好をすると、真夜は少し残ったアイスコーヒーを啜った。

「だから、何がよ」
「もしかしてあれっすか、兄貴が御無沙汰だからっつーことっすかマジでマジで」

 シオカラがにやけると、茜はシオカラを引っぱたいた。

「違うよ、そういうんじゃないってば。全くもう、しーちゃんは」

 アイスコーヒーのカップを置いた真夜は、零れ落ちてきた黒髪を耳元に掻き上げた。

「差し当たって、茜は何が足りないのよ?」
「うーん、だからね、そのね」

 茜は気恥ずかしげに、半袖セーラー服のスカーフを抓んだ。

「……もふもふしたいなぁって思っちゃって」
「あーそりゃ確かに兄貴にはないっすね、てか俺っちにもないっすね。もふもふマジパネェ」

 シオカラはダブルチーズバーガーを一度で半分以上囓り、ほとんど固まりのまま嚥下した。

「もふもふ、ねぇ」

 真夜がちょっと笑うと、茜は力説した。

「そう、もふもふ。そりゃ、ヤンマは硬くてゴツくてでかくて飛べて男前で強くて可愛くて馬鹿でそりゃもう好きで好きで
世界なんか小指の先でひっくり返せそうなレベルなんだけど、たまーに、たまぁーに、もっふもっふした生き物のお腹に
顔を埋めたくなっちゃうの。ふっかふかの毛並みとぬっくぬくの体にぷにっぷにの肉球にぴこぴこ動く耳とふにゃふにゃ
した尻尾とかがとにかくビックリするほどユートピアっ! って生き物にさぁ」
「要するにネコ科っすか」
「そう、にゃんこ! もふにゃんこぉ!」

 シオカラの言葉に茜は力一杯同意して腰を浮かせかけたが、すぐに座り直した。

「にゃんこな人達ともっふもふするのはヤンマに悪い気がするんだけど、衝動は抑えきれなくて」
「そういえばマヨリンって、マジ変身とか出来ないんすか? ガチ魔法少女だし」
「何よ、そのマヨネーズの妖精みたいな愛称は」

180人外成分談義 2 859 ◆93FwBoL6s.:2010/05/31(月) 16:24:03 ID:2kwiZbLg
 シオカラのいい加減な渾名に真夜は少しむっとしたが、茜に向いた。

「そりゃ、私は魔女だし、変身術もそれなりに覚えたけど、期待に応えられるほどのものには変身出来ないわ。
やろうと思えばネコには変身出来るけど、あんまりもふもふにはなれないし、それに……」
「あ、そっか。真夜ちゃんは全裸になるんだ! ネコは服を着ないもんね!」
「知っているなら大声で言わないでよ!」

 茜の無遠慮な物言いに真夜は赤面しかけたが、体面を保った。

「と、とにかく、そういう理由だから。いくら友達同士っていっても、無防備な姿の時にいじくられるのはちょっと」
「それはそれでマジ萌えるんだけど。にゃんこマヨリンと茜のイチャコラ」
「だからその頭の悪い愛称をやめてくれないかしら。触角引っこ抜くわよ」

 真夜は唇を曲げ、シオカラの触角を本当に引っ張った。シオカラは頭を振って真夜の手を払い、紙ナプキンで顎を拭った。

「うへへ、サーセン。てか、マヨリンは物足りないもんとかあるっすか? てかないっすよね、アーサーの兄貴が相手じゃ」
「……ロボ」

 真夜は店内の騒がしさに紛れるほど小声で呟き、視線を彷徨わせた。

「う、うん、もちろん、アーサーに不満なんてないわ。強いし格好良いし紳士だし夜は凄いし炊事洗濯は得意だしちょっと
ドジで抜けてるところもすっごい萌えて全人類なんて余裕で敵に回せちゃうんだけど、茜のアパートに最近越してきた、
ブライトウィングさんっていらっしゃるじゃない? 地球防衛軍の。で、そのブライトさんが変形したり巨大化したりするのを
見ていると、ああうちの人もこうだったら、って考えちゃうの」
「真夜ちゃんって、ロボットものとか好きなの?」
「ええ、まぁ。それなりに。アーサーは理解出来ないって言うから、最近はそんなに見てないんだけど」

 真夜がやりづらそうに付け加えると、茜は腕を組んだ。

「それは難しい問題だね。まさか、アーサーさんにオールスパークの洗礼を浴びせるわけにもいかないし」
「そうなのよねぇ」

 真夜は悩ましげに目を伏せていたが、シオカラに向いた。

「そういうシオカラ君はどうなのよ? ほづみさんに不満なんてなさそうなもんだけど」
「いやぁー、それがそうでもないんすよね」

 シオカラはダブルチーズバーガーの包み紙をぐしゃぐしゃと丸め、ポテトの紙ケースに突っ込んだ。

「そりゃ、ほづみんはマジ愛してるっすよ。性格可愛くて良い体してて美人でエロい匂いがしてエロくてエロくてエロくて
万年発情しちゃうぜヒャッハーって勢いなんすけど、ちらっと思うことがあるんすよ。ほづみんが空を飛べたら、俺っち
みたいに羽根があったら、一緒に飛び回れるのになーって。虫系だったらリアル妖精っ! 鳥類だったらリアル天使っ!
 ああもうほづみん最高っ! ガチパネェ! これで勝つる!」
「それは解るなぁ。私もヤンマと一緒に飛び回れるしーちゃんが羨ましいし」

 茜はすっかり溶けて液体と化したチョコシェイクを啜り終え、カップを空にした。

「あれ、茜ちゃん達じゃないか」

 その声に三人が顔を上げると、トレイを持った鎧塚祐介と岩波広海が立っていた。二人は大学帰りらしく、どちらも
教科書で重たく膨らんだバッグを提げていた。

「祐介兄ちゃん、ヒロ君! ちょっと待ってね、片付けるから」

 茜は包み紙や紙ケースを片付け、もう一つ椅子を引っ張ってきて四人掛けの席を強引に五人掛けにした。

「はいどうぞ!」
「なんか悪いな、邪魔しちゃって」

 祐介が座ると、広海は躊躇いながらも座った。

「ごめんなさい、気を遣わせちゃったみたいで」
「いいんですよ。どうせ、私達は食べ終わったところですから」

 真夜が微笑むと、祐介は広海を示した。

「広海とは帰りの電車で一緒になったから、ついでにちょっと話していこうって思ってさ」
「主な話題はミチルのこととかアビーさんのことですけどね」

 広海は斜めにトレイを置き、落とさないように気を付けながらハンバーガーの包み紙を開いた。

「それで、何の話をしていたんだ?」

 コーラにストローを刺しながら祐介が尋ねると、シオカラがぎちぎちと顎を鳴らした。

「いやーそれがっすね、相手に物足りないものっつーかで。まさか祐介兄貴にはないっすよね、そんなん」
「俺まで兄貴呼ばわりにしなくても。まあ、いいけど。俺がこれ以上アビーに求めるものなんて、あるわけが」

 ない、と、祐介は言いかけたが、少し間を置いて言い直した。

181人外成分談義 3 859 ◆93FwBoL6s.:2010/05/31(月) 16:26:51 ID:2kwiZbLg
「いや、あるなぁ。そりゃ、アビーは新妻で主婦でピュアでキュートで艶々ボディでおしとやかで結構エロくて
過去はアレだけどそれすらも素敵でもうお前のためなら平行宇宙なんて滅びていいやって思うけど、所帯染みすぎて
新妻を通り越して熟女に到達しそうなんだよな……。もちろん、この時代の生活に慣れてきたのはいいことだし、
そうあるべきなんだけど、あの初々しさがなくなっていくのはちょっとなぁって」
「ええ、解ります」

 同じくリビングメイルの恋人を持つ真夜は、心から同意した。

「話の流れで聞いちゃうけど、ヒロ君はどう?」

 茜が広海に話を振ると、広海は答えた。

「僕は、特に。ミチルはちょっと困った性格だけど、あれはあれで可愛すぎるし世間知らずなところが最高に可愛いし
最近おしゃれを覚えて究極に可愛いし一途なところが無量大数可愛いしでミチルのためなら海で地上を覆い尽くし
ちゃってもいいやって思うくらいで、不満なんて上げたら囓られちゃいそうだし。あ、でも、強いて挙げるとするなら、
ミチルのウロコの範囲かな。ミチルのウロコは凄く綺麗だから、上半身もすっぽりウロコに覆われていたら、もっと
ミチルは美人だったなって思ったことがあるな。もちろん、今のミチルも充分美人だけど、いっそのことインスマス顔の
半魚人でも可愛いんじゃないかなぁって。目がぎょろっとしていて唇が厚くて口が尖っていて背ビレが生えていて……」

 インスマス顔のミチルを想像し、広海はうっとりした。

「でも、それはミッチーには言わない方がいいんじゃないかなぁ」

 茜が苦笑すると、広海は残念がった。

「うん、それは僕も解っているよ。でも、ウロコは多い方が色気があって素敵だと思うんだけど」
「先程から聞いていたが、君達はパートナーに対する敬いの気持ちが足りないようだな」

 いきなり別の声に割り込まれ、皆が揃って振り向くと、衝立の向こう側の席に座っていたブライトウィングが立ち上がった。

「な、なんでここにいるんですか? ていうか、メタロニアンは物を食べないんじゃ」

 驚いた祐介ががたっと椅子を引くと、ブライトウィングは身を乗り出してきた。

「その情報は古いぞ、祐介君。私のボディは綾子との幸せすぎて思考回路はショートどころか吹っ飛びそうな結婚生活を
円滑に送るために改造を施し、その結果、人間と同じように傾向摂取出来るようになったのだ」
「ああ、ヒカリアン仕様ですね」
「うむ。よくぞ知っていたな、祐介君」

 ブライトウィングは自分のトレイを持って五人の座る席にやってくると、隣の席の客がいなくなったのを見計らって
テーブルと椅子を引き寄せてくっつけ、そこに腰掛けた。

「君達の話に便乗させてもらうが、私は綾子に不満を抱いたことは一度もない。綾子は美しく賢く繊細で精密で清冽で
清潔で、全宇宙の美辞麗句を並べても綾子の魅力を表現するのは不可能だ。よって、綾子は完全なのだ。その綾子に
対する不満など、私の思考回路からは弾き出されん。おこがましいではないか」

182人外成分談義 4 859 ◆93FwBoL6s.:2010/05/31(月) 16:27:40 ID:2kwiZbLg

 そう言いつつ、ブライトウィングは五個目のハンバーガーを不慣れな仕草で頬張った。

「たとえ、綾子が苦労して作成した料理が見るからに失敗作であり、私の高性能な味覚がそれを食品として検知しなくとも、
甘んじて嚥下するのが夫の努めではないか。近頃はアビゲイルとの反復学習のおかげで改善されてはきたが」
「てか、綾子さんってそうなんすか?」

 シオカラが意外に思うと、ブライトウィングはカップの蓋を開けて氷をざらざらと口に入れた。

「普通の料理は上手くいくんだが、手を掛けたら掛けた分失敗するらしくてな。だが、そこがまた愛おしい」
「皆、色々あるんだねぇ」

 茜はしみじみと頷いたが、不満を拭えたわけではなかった。それは皆も同じらしく、揃って何かを考えている顔だった。
二箱目のチキンナゲットを開けて食べ始めたブライトウィングは、いかにして不満を抱かずにパートナーを愛するかと
いう演説を始めたが、ほとんどが綾子の惚気だったので聞き流された。
 異種族の恋人を愛する気持ちは変わらないが、愛しているからこそ欲するものもある。とりあえずヤンマにもふもふした
ものでも着せてしがみつこうか、と茜は思案し、アーサーを変形ロボにする魔法ってないかしら、と真夜は割と本気で考え、
ほづみんに羽根を付けさせたら蹴られるっすね、とシオカラは諦め、アビーが熟女化しても愛せるよな俺は、と祐介は決心し、
ミチルは深きものどもに知り合いはいないのかな、と広海は深淵に思いを馳せ、こんな店で口直しをしている時点で私は
夫として失格だ、とブライトウィングは内心で恥じ入りながら大量のファストフードを詰め込んだ。
 そんな、ある日の昼下がり。

183859 ◆93FwBoL6s.:2010/05/31(月) 16:36:41 ID:2kwiZbLg
以上。101号室の住人も考え中です。

184変態紳士:2010/06/01(火) 10:17:55 ID:rv0rXfso
投下乙。まさかの浮気フラグ…。

185変態紳士:2010/06/01(火) 11:03:48 ID:xK37wFGM
投下乙ッス
よりによって魚界一グロきもい半魚人だったとしても愛せる広海パネェっすマジパネェ

せっかくだから俺はロイガーを崇拝してみるぜ!

186変態紳士:2010/06/01(火) 16:02:01 ID:WTjXWh4w
広海は素晴らしい男だ。
魚鱗いいよな魚鱗。

187変態紳士:2010/06/01(火) 19:53:29 ID:a7PrI46.
ブライトウィングさんの登場に、トキメキ度がより高まったwww
だが、みんなの惚気っぷりに始終ニヤニヤww

188859 ◆93FwBoL6s.:2010/08/05(木) 17:03:28 ID:uqGfeIY6
本スレに投下しようと思ったら規制されていたのでこちらに。
人外アパートの番外編でヤンマと茜が主役ですが、河童と村娘とも繋がっています。
昆虫人間×少女の和姦ですが、茜がちょっとだけ清美にいじられます。
NGは鬼と山神で。

189859 ◆93FwBoL6s.:2010/08/05(木) 17:05:19 ID:uqGfeIY6
 濃い青空、そそり立つ入道雲、けたたましいセミの声。
 縁側に座ってスイカを囓り、甘い果汁ごと種も啜り込む。瑞々しい青臭さを触角と舌の双方で感じ取りながら、
鬼塚ヤンマは隣に座る秋野茜の様子を複眼で捉えていた。子供の頃から変わらず、茜はスイカを食べるのが下手だ。
種なんて飲み込んでしまえばいいのに、いちいち取り出すものだから手がべたべたになっている。顎から伝った汁気が
首筋にまで垂れているし、ハーフパンツを履いた太股にも赤い雫がいくつも落ちている。

「おい」

 ヤンマはスイカが載っていた盆から濡れ布巾を取り、茜の顎から首筋に掛けてぐいぐいと拭いた。

「何すんの、もう」

 茜は乱暴に拭かれた肌を手の甲で擦り、むくれた。ヤンマは残った皮も食べてから、自分の爪を拭いた。

「見るに見かねたんだよ。いつになったらスイカを喰うのが上手くなるんだ、お前は」
「いいじゃん、別に。ヤンマには関係ないじゃん」
「ガキ臭ぇんだよ」
「そのガキ臭いところが好きなくせに」
「馬鹿言ってんじゃねぇ」

 ヤンマは茜の頭を小突くと、茜はにやけながらスイカの残りを頬張った。そうは言うものの、反論出来ないのが悔しい。

「ここ、なーんにも変わらないねぇ」

 裸足の足をぶらぶらさせながら、茜は実家の庭先から見える風景を一望した。

「何百年も同じだったんだ、これから先も同じなんだろうよ」

 ヤンマは下両足を組んで胡座を掻き、透き通った四枚の羽を下げた。実が膨れてきた稲穂が揺れる田んぼと、ナスや
キュウリがたわわに生る畑、爽やかな風が吹き下りてくる深緑の山。肺に入れる空気は澄み渡り、嗅覚をなぞる臭気も
田舎のものだ。ちょっと車を走らせて街中に入ればそれなりに栄えているが、ヤンマと茜が生まれ育ったのは郊外の集落だ。
見知った顔ばかりで構成された狭い世界だが、居心地は悪くない。都会に比べれば、明らかに時間の流れが遅かった。
 二人揃ってお盆休みに帰省することにもすっかり慣れた。酒の席で鬼塚家と秋野家の親から結婚を急かされるのも、
茜が高校を出るまでだと半笑いで言い返すのも、茜が親の気の早さに呆れるのも、双方の親戚から夫婦扱いされるのも。

「明日は神社のお祭りだっけ」

 スイカを食べ終えた茜が皮を渡してきたので、ヤンマはそれを躊躇いもなく喰った。

「毎年のことだから、もうなんとも思わねぇけどな。大した祭りでもねぇし」
「神隠しに遭わないように気を付けなきゃね」
「つっても、あれは三十年近く前の話だろ? 茜の母さんの同級生の女子が祭りの途中で行方不明になったのは」
「でも、それっきり見つかってないんだもん。きっと、神様に気に入られちゃったんだね」
「この辺の川じゃなくて、山の沢に泳ぎに行ってたらしいしなぁ。だから、あっち側に引っ張られちまったんだな」

 例年通りの会話を交わし、ヤンマは二切れ目のスイカを囓った。神隠しに遭った娘の話は、この集落ではリアリティのある
怪談だ。数年前、市町村合併によって大きな市に吸収される前は、この集落を含めた一帯は小さな村だった。その頃、
一人の女子中学生が祭りの夜に突然姿を消した。その名は河野清美といい、活発で明るい性格で誰からも好かれていた。
泳ぎも上手く、神隠しに遭う直前には水泳大会で好成績を残すほどだった。だが、彼女は何の前触れもなく姿を消した。
その後、十年に一度と言われる記録的豪雨が降ったために捜索を始めるのが遅れたせいか、何度捜索を行っても遺骨
すら見つからなかった。だから、毎年のように大人は子供に言い聞かせる。夏の山に入るな、山神に隠されてしまう、と。

「隠されちゃったらどうする?」

 茜は口元の汚れを拭ってから、ヤンマに寄り掛かってきた。

「俺は鬼だぞ。引き摺り出せるに決まってんだろ」

190鬼と山神 2 859 ◆93FwBoL6s.:2010/08/05(木) 17:06:15 ID:uqGfeIY6

 ヤンマは茜を押し返さず、姿勢を保った。茜は笑い、ヤンマの冷たい外骨格に頬を寄せた。

「ただのでっかいトンボのくせに。でも、その時はよろしくね」
「言われるまでもねぇ」

 ヤンマはぎちりと顎を擦り合わせ、茜を抱き寄せた。鬼塚一族が鬼として扱われていたのは、人外の存在が人間社会に
馴染みきっていなかった時代のことだ。ただの巨大なトンボだと知られてからは敬われも恐れもしなくなったが、そうなる前は
本物の鬼だった。遠い昔、正体を突き止められなかったもの、人智の及ばないもの、天変地異は名を与えられて妖怪と
なっていたという。だから、ただの巨大なトンボだと知らしめられる前は、鬼塚一族も人間から見ればあちら側の住人だった。
 もしも、そのままだったらどうなっていただろう。茜を始めとした集落の人間から恐れられたら、ヤンマは鬼と呼ばれるに
相応しい男になっていたのだろうか。茜もヤンマを恐れたりするのだろうか。前者はともかく、後者は有り得ないだろう。茜は
幼い頃からヤンマにべったりで、ヤゴだった頃も成虫になってからも一度も恐れたことはない。だから、ヤンマが本物の鬼と
化していたとしても、茜は同じことをしていたに違いない。そして、行き着く先も変わらないはずだ。
 ヤンマはヤンマで、茜は茜なのだから。


 祭り囃子に巫女の舞、縁日、御輿。
 何もかもが例年通りで、目新しいものはない。出店も見慣れた顔触れで、テキ屋が地元の子供達と親しげに会話する様も
いつものことだ。山神に奉納するために舞う巫女は、醜女の面を被り、祭事用の豪奢な扇子を広げている。神楽を演奏する
神官達は神楽鈴を鳴らし、おごそかな雰囲気を醸し出している。篝火と提灯の明かりが本殿を朱色に染め上げ、非日常を
見事に生み出していた。本殿を見下ろす御神木がざわりと葉を揺らし、夜気混じりの風が熱っぽい祭りの空気を乱した。
 奉納の舞が終わり、見物客達が去っていくと、境内の人混みは少し落ち着いた。ヤンマは短い触角を動かして空気の流れを
感じ取りつつ、左上足を掴んで片足立ちしている茜を見下ろした。

「一旦帰るか? そんなんじゃ、歩くに歩けねぇだろ」
「うー……」

 浴衣姿の茜は、千切れた鼻緒を持って片方の下駄をぶら下げていた。

「でも、まだ来たばっかりだし。出店だってほとんど見てないもん。そんなのつまんない」
「だからって、俺に捕まって片足ケンケンしてるつもりか? サンダルでもスニーカーでもいいから、履き替えてこいよ」
「浴衣にサンダルって格好悪いじゃん。そっちの方がやだよ」
「俺の方が嫌だ。お前の体重を片方に受けっぱなしだと、筋がイカレちまいそうだ」
「あー、ひっどーい。そんなに重くないって言って、いつも抱えて飛ぶのはどこの誰?」
「あれとこれとじゃ具合が違うんだよ。とにかく帰るぞ、すっ転んで泣かれると後が面倒だ」

 ヤンマは茜を引っ張り、歩き出した。茜は不満げだったが、ヤンマの肩を借りて石段を下り始めた。最初、茜は片足だけで
跳ねて下りようとしたが、バランスが悪すぎるので観念して裸足で石段を踏んだ。行き交う人々に足を踏まれないように、
ヤンマは茜を庇いながら狭い石段を下っていった。茜の足元が気になっていたので下を向いていると、複眼の両脇を過ぎる
人影が不意に失せた。本殿で打ち鳴らされている太鼓の音も縁日のざわめきも遠ざかったかのように聞こえなくなり、
心なしか空気も冷え込んだ。石段の両脇の杉林から響き渡っていたセミの声も沈黙し、木々の隙間から見える空の色も
暗くなっている。日没が過ぎたばかりだというのに、星も見えないほど濃い闇に支配されていた。

「……あれ?」

 茜も異変に気付いて足を止め、ヤンマは触角を曲げた。

「とにかく下りるぞ」

 早くこの場を去らなければ、拙いことになる。根拠はなかったが、外骨格の裏側にざらついた違和感が貼り付いている。
茜の足取りが遅すぎるので横抱きにし、軽く羽ばたきながら石段を駆け下りていくが、いつまでたっても石段が終わらない。
子供の頃に茜と一緒に段数を数えた時には五十五段だったのを思い出したので頭の中で数えるが、百や二百を超えても
終わらない。石段の先に地上は見えず、振り返っても縁日どころか鳥居も見えない。

「ヤンマ」

 不安げに縋ってきた茜に、ヤンマはぎちっと顎を噛み合わせた。

「心配するな、大したことはねぇ」

 空まで出れば、どうにかなるはずだ。そう思い、ヤンマが羽を震わせて飛び上がろうとするが、空気がいやに粘ついて
羽で叩いても手応えがなかった。びいいいいん、と羽音だけが空しく響き、下両足の黒い爪は石段を噛んだままだった。

191鬼と山神 3 859 ◆93FwBoL6s.:2010/08/05(木) 17:07:28 ID:uqGfeIY6
「鬼だ」

 不意に頭上から声が掛かり、ヤンマは茜を強く抱いて身構えた。複眼が動くものを捉えたので視点の中心を据えると、
杉の木の枝に人影が腰掛けていた。白い半袖ブラウスに紺色のプリーツスカート、白いハイソックスにローファーを
履いた中学生らしき少女だった。その顔は、行方不明者として張り出されている色褪せた写真と同じだった。

「鬼か」

 また別の声が聞こえたので複眼を向けると、反対側の杉の木の根本から、音もなく異形が姿を現した。皿の載った頭に
鋭いクチバシ、甲羅、水掻きの張った指、ぬるりと湿った緑色の肌。成人男性ほどの体格の河童だった。それを見た途端、
ヤンマは羽の震えが止まった。近付いてはならない、見てはならない、と生き物の本能が喚き、関節という関節が固まって
身動き出来なくなった。逃げなければならない。しかし、どこに逃げればいいのか。

「鬼の子とその伴侶よ」

 ぺちょり、と水気を含んだ足音を立て、河童はヤンマに歩み寄った。

「おぬしらは、山神に見初められてしもうた。相も変わらず、困った御方よの」
「退屈だから、山まで連れてこいって言われちゃった。全く、人使いが荒いんだから。あれ、神様使いかな?」
「どちらでも良かろう」

 河童が少女を見やると、少女は身軽に枝から飛び降り、ヤンマと茜の進行方向を塞ぐように立った。

「てなわけだから、ちょっとだけ付き合って? やることやったら、ちゃーんと現世に返してあげるから」
「あんた、まさか、河野清美……?」

 ヤンマが後退ると、少女は明るく笑った。

「うん、そうだよ。私ね、タキの奥さんになったの。あ、それとね、山に入ってからは名前を呼び合っちゃダメだよ。山神様に
名前を教えちゃうと、本当に帰れなくなっちゃうからね」
「や、やる、って何を?」

 茜が怖々と清美に尋ねると、清美はちょっと言いづらそうに頬を掻いた。

「えーと、C……かな?」

 ヤンマは辛うじて意味が解ったが、茜にはさっぱりだったらしくきょとんと目を丸めていた。大昔の隠語でセックスだが、
なぜ、そんなものを神様が求めているだろう。確かにそういったものが御神体になっている神社も多いが、この集落の神社は
山岳信仰の色合いが強く、御神体も山そのものだ。だから、不可解でならず、ヤンマはぎちぎちと顎を軋ませてしまった。
タキと呼ばれた河童は心底呆れているらしく、頭の皿から水を零さずに頭を横に振っている。清美も気まずいのか、茜を
覗き込んでは励ましていた。事態の不可解さと相手の要求が理解出来ないのか、茜は困りすぎて半泣きになってヤンマに
縋り付いてきた。ヤンマも似たような心境だったが、うっかり逆らって山神に祟られたくはない。どうせ、家族のいない間に
事を致すつもりでいたのだから、それが少し早まったと思えばいいだけだ。
 ギャラリーがいなければ、もっと良かったのだが。


 清美とタキに先導されて昇ると、間もなく石段が途切れた。
 あれほど長く伸びていたはずの石段がほんの数段で終わったが、鳥居もくぐらず、境内に出なかった。その代わりに二人を
待ち受けていたものは、小さな石碑が入り口に据えられた洞窟だった。いつのまにか小雨が降り出していて、ヤンマは窒息
しかねないので慌てて洞窟に入った。茜は鼻緒が切れた下駄ともう一方の下駄も脱いで手に提げ、ヤンマに続いて洞窟に
入り、恐る恐る中を見回した。外が狭いわりに中は意外に広く、清美の寝床なのか、柔らかな青草を重ねた上に木綿の布地が
被せてあった。だが、空気がやたらに重たく、ヤンマは雨水で気門が詰まったのかと疑うほどだった。辛うじて吸い込めても、
雨上がりの匂いを煮詰めたような青臭さと泥臭さばかりで苦しくなった。茜も息を詰め、ヤンマにぴったりと体を寄せていた。

「山神さまぁー、お連れしましたよーう」

 清美が軽い足取りで洞窟の奥に向かうと、タキは二人に甲羅を向けて胡座を掻いた。

「儂は何も見ぬ、聞かぬ。今宵の祭りは、山神に捧ぐものであるからな」
「ほんに鬼の子じゃのう」

192鬼と山神 4 859 ◆93FwBoL6s.:2010/08/05(木) 17:09:28 ID:uqGfeIY6

 清美の背後、一際重たく凝った闇から、草色の浴衣に白い面を被った女、山神が歩み出してきた。

「おぬしは鬼塚の子よの。あれはほんに跳ねっ返りでのう、妾の手に負えぬ輩であった。おぬしは、その血を連ねておるわ」
「……俺の名字、知ってんじゃねぇか」

 ヤンマが顔をしかめるようなつもりで顎を開くと、清美が苦笑いした。

「下の名前まで知られなきゃ大丈夫だから」
「じゃ、じゃあ、本当にヤ、鬼だったの?」

 茜はヤンマの名を言いかけて飲み込むと、山神は茜の目前に面を被った顔を突き出した。

「鬼でなければ鬼と呼ばれぬ。娘、おぬしは百姓の子か。小綺麗にしておっても、血に染みた泥の匂いは隠せぬわ」
「そんなんはどうでもいいっすから、なんで俺らを連れてこさせたんすか」

 ヤンマは茜を背に隠して山神から遠ざけると、山神はす、と身を引いた。

「清滝之水神の嫁に伝えさせたじゃろうに、忘れてしもうたんかえ。妾は暇で暇で仕方のうてのう」
「だから、今、神社でお祭りをやっているんじゃないんですか?」

 茜が言うと、山神は袖で口元を押さえた。

「あんなもの、何百年と見せられては飽きもする。故に、妾はもっと心躍るものが見とうてのう」
「無茶振りにも程がないっすか」
「無茶だろうと粗茶だろうと、神の願いを叶えるのが現世の者共の役割じゃろうに」
「で、でも、やることやったらちゃーんと代償ってのがあるんすよね? ギブアンドテイクで」
「常世から現世に五体満足で戻してやろうと言うておろうに、何が不満なのかえ。それ以外に望むものがあるならば、御魂でも
寄越してくれぬかのう。さすれば、叶えてやらぬでもないが」
「……すんません」

 相手が悪すぎた。ヤンマが素直に引き下がると、山神は洞窟の奥に戻り、腰を下ろした。

「さあ、妾を楽しませておくれ。鬼の子よ」

 そう言われても、すぐに出来るものでもないのだが。清美に促され、ヤンマと茜は草の上に布を敷いた寝床に座らされた。
心地良い夏草の匂いが立ち上り、並みの布団よりも柔らかく、寝心地は悪くないので、何をしたとしても大丈夫そうだった。
茜はヤンマの前に正座したが、目元に涙を溜めていた。気持ちは痛いほど解るので、ヤンマは茜を抱き寄せて慰めた。
二人きりなら慣れたものだから、恥じらいはあっても躊躇いはない。だが、この場には山神がいるし、清美もタキも傍にいる。
誰も彼も初対面だが、かといってそう簡単に吹っ切れられない。ヤンマの胸部に頬を押し付けている茜は、恥じらいではなく
怯えが顔に出ていた。安心させてやりたいが、ヤンマも不安と畏怖で上手い言葉が出てこなかった。

「ちょっとごめんね」

 清美は茜の背後に腰掛けると、後ろから茜に腕を回した。

「山神様、手伝ってあげてもいいですか?」
「良きかな」

 膝を崩して頬杖を付いている山神が頷くと、清美は固まっている茜を優しく抱いた。

「鬼さんもごめんね。服の上だけにしておくから、あんまり妬かないでね?」

 大丈夫だから、と清美は茜の耳元で囁いてから、腕を緩めて茜の控えめな胸を掴んだ。

193鬼と山神 5 859 ◆93FwBoL6s.:2010/08/05(木) 17:10:40 ID:uqGfeIY6

「うひゃっ」

 茜が身を跳ねると、清美は浴衣の布越しに乳房を揉みほぐすように手を動かした。

「うわ、可愛いなぁ」

 自分でもヤンマでもない手に体を探られるのが恥ずかしく、茜は発熱したかのように赤面した。浴衣の袂が広げられると、
襦袢の上からさすってきた。清美はほとんど力を入れずに撫でるだけに止めていたが、緊張と恐怖で気が立っていた
茜には充分だった。女でなければ解らない力加減で丸みをなぞられ、刺激に応じて尖った乳首の先端を軽く押され、
おまけにヤンマが真正面から見ている。茜はくらくらするほど頭に血が上り、前のめりになってヤンマの胸に顔を埋めた。

「やだぁ、恥ずかしい……」
「安心しろ、見ている方も恥ずかしい」

 ヤンマは茜の顔を上げさせ、ぐばりと顎を開いて舌を伸ばした。喘ぎを殺すために唇を引き締めていた茜は、冷たい
舌先で唇を舐められると、唇を少しだけ開いた。その間にすかさず滑り込ませ、絡めると、雨水よりも重い水音が反響した。

「こっちはどうかな?」

 清美は茜の緩みかけた膝を割らせて裾を開き、クロッチの上から人差し指を這わせた。

「んぁっ」

 薄い羽で掠められたような、弱く繊細な愛撫だった。それを何度も繰り返されると、茜は吐息が弾んできた。

「う、ふぁっ、あっ」
「ほらほら、見てるだけでいいの?」

 清美は茜の襦袢も広げて肌を曝させると、茜は居たたまれなさそうに顔を背けた。罪悪感と背徳感が入り混じる横顔に、
ヤンマは妙な感情がざわめいた。自分だけのものだと思っていた茜が、河童の嫁だという少女の手で感じさせられている。
状況が状況だし、女同士なので、嫉妬するのはおかしいと思ったが、腹の底がむず痒い。そして、泣きそうになっている茜が
無性に可愛らしく、自分以外の愛撫を受ける様は初々しささえある。

「ほぅら」

 清美の手が、これ見よがしに茜の浴衣の裾に覆われた太股を撫で下ろす。茜のショーツのクロッチはうっすらと湿り、
あの匂いが零れ出している。ヤンマは茜の腰に回した長い腹部を巻いてぐいっと引き寄せると、清美は呆気なく手を離して
くれた。ヤンマの元に戻ってきた茜は気まずそうに身を縮めたが、汗ばんだ首筋に舌を這わせると上々の反応が返ってきた。

「あうぅんっ」
「俺じゃなくても楽しめるみたいだな?」

 ヤンマがにやけながら毒突くと、茜はふるふると首を横に振った。

「そうじゃないよぉ、見てるからだよ」
「俺が見せられてたんだよ」
「違うよぉ……」

 茜はヤンマの逞しい腰に腕を巻き付け、硬い外骨格に口付けを落とした。

「お前は俺が好きなんじゃなくて、ただ、いじられるのが好きなだけなんじゃねぇの?」
「んひっ!」

 裾の下から入り込ませた腹部の先端で陰部を小突くと、茜は悲鳴に似た声を上げた。

「違う、違うよぉっ」
「さあて、どうだかな」

194鬼と山神 6 859 ◆93FwBoL6s.:2010/08/05(木) 17:12:09 ID:uqGfeIY6
 ヤンマは顎を広げて威嚇とも笑みとも取れる表情を見せると、茜は眉を下げた。

「怒ってるの?」
「怒っちゃいねぇ。どうにも面白くねぇだけだ」
「相手は女の子だよ、それに仕方ないことだって、ぁん!」

 言い返してきた茜の陰部に、ヤンマは腹部の先端から飛び出させた生殖器を抉り込ませた。

「女だろうが何だろうが、自分の女をいいようにされて嬉しい男がいるかよ」

 上両足ではだけていた浴衣の袂を完全に押し広げ、ブラジャーをずり上げると、日焼けしていない白い乳房が零れた。
茜は唇を歪め、ぎゅっと目を閉じた。ヤンマはこれ以上の成長が望めなさそうなものを噛み千切るかのように顎を開き、
硬く充血した先端を舌で舐め上げた。同時に、ショーツを破らんばかりに生殖器も突き立てる。

「うぁああっ!」
「なんか面倒臭ぇな」

 ヤンマは中右足で茜のショーツを下げると、茜は片足を上げて引き抜いた。

「うん……」
「見せるってんなら、こうした方がいいじゃねぇの?」

 ヤンマは茜の体を背中から抱えて持ち上げ、山神に向けて両足を広げさせた。途端に、茜は羞恥で硬直した。

「やっ、やだぁっ! これ、恥ずかしいなんてもんじゃないよ! 末代までの恥レベルだよぉ!」
「神様に連れ去られてこんなことをさせられている時点で恥だろうが」
「そりゃ、そうだけど」

 茜は首筋を甘噛みしてきたヤンマを横目に、山神を窺った。洞窟の中には明かりはほとんどないが、不思議と山神の姿は
くっきりと浮かび上がって見えた。山神自身が発光しているのかもしれない。だから、きっと、茜の濡れた陰部もよく見える。
幼子が小便をさせられるかのような格好にさせられたせいか、陰部に溜まっていた愛液がてろりと落ちた。何も収まって
いないのが物足りなくて、無意識に入り口の筋肉がひくつく。顔を覆ってしまいたくなったが、両手首はヤンマの爪によって
押さえられた。洞窟の冷えて湿っぽい空気が火照った肌に優しい。

「ほれ、早うせぬか」

 山神は冷ややかな面の奥で、かすかに目を細めた。

「あぁ、あっ、ぅああっ!」

 濡れてはいたが解されていない陰部に硬い生殖器を押し込まれ、茜はびくんと痙攣した。

「ひぃんっ!」

 ぐいっと生殖器が上がり、膀胱を裏側から押される。

「あ……?」

 だが、続きはなかった。茜が訝ると、ヤンマは茜の耳朶をべろりと舐めた。

195鬼と山神 7 859 ◆93FwBoL6s.:2010/08/05(木) 17:13:24 ID:uqGfeIY6

「俺ばっかりがやってもつまんねぇだろ。好きに動いてみろよ」
「うっかり出しちゃっても、知らないからね?」

 茜は腰を落とし、ヤンマの生殖器を根本まで飲み込んだ。

「あ、はぁっ……んっ」

 満足げに熱い吐息を零した茜は、練るように腰を回し始めた。分泌された愛液もこね回されているのか、肉と水気が
交わる音が重なる。見られて焦らされて煽られたせいか、足元に滴る雫が普段より多く感じる。次第に腰が浮くようになり、
擦り合わせる速度も速まっていく。足を広げていては辛かろうとヤンマが膝の上に座らせると、茜は一層激しく動いた。

「ね、ねぇっ」
「ああ?」

 ヤンマが聞き返すと、茜は夢中になるあまりに唇の端から涎を落としていた。

「こんなんでっ、いいのかなぁ? だって、これぇ、私達だけが気持ちいいのにぃっ!」 
「それは神様の勝手だろう、よ!」
「くぁあんっ!」

 ヤンマが強く奥を突くと、茜は仰け反った。

「少なくとも、俺は楽しい」
「うん、うんっ」

 茜は何度も頷き、腰を止めようとしなかった。背中に胸郭が接しているヤンマの声と外骨格の軋みしか聞こえず、視界も
ぼやけて山神の姿もよく見えない。けれど、見られている。視線がありとあらゆる部分に刺さり、素肌で草に触れたかのように
ちくちくする。鮮明なのは、痺れるほど熱した陰部から駆け巡る情感ぐらいだった。汗と愛液でとっておきの浴衣が汚れても
気にならないほど、ヤンマに貫かれていたかった。山神の言う通り、鬼というなら確かに鬼なのだろう。
 人間と違って、絶対に萎れないのだから。



 気が付くと、揃って御神木の傍にいた。
 悪い夢でも見ていたかのように頭が重たく、疲労が全身に蓄積している。ヤンマに寄り掛かる茜も同じらしく、寝苦しげに
眉根を寄せていた。山と神社を隔てる石垣に腰掛けているので、本殿の屋根越しに祭りの明かりと喧噪が届いていた。
途中までは覚えているのだが、展開が変だった。茜の下駄の鼻緒が切れていたから、履き物を変えるために一旦帰ろうと
石段を下りた。だが、石段を下りても下りても終わりが訪れず、何かおかしいと思っていたら、神隠しに遭った河野清美と
清滝之水神という名の河童が現れ、洞窟に連れ込まれ、山神と思しき者の前で。

「……ひっでぇ夢」

 そんなに溜まってたのかよ俺は、と自嘲しながらヤンマは茜を支えようとすると、茜は急に目を開けた。

「ひゃああああっ!」

 唐突に悲鳴を上げた茜は石垣から転げ落ちるように駆け出し、顔を覆ってしゃがみ込んだ。

「何これ何あれ何なの何なの何なのー、恥だよ恥すぎるよ恥ずかしいなんてもんじゃないよ有り得ないよぉー……」

 浴衣の襟から覗く茜の首筋は赤らんでいて、耳元まで血が上っていた。

「おい、大丈夫か」

 ヤンマが恐る恐る声を掛けると、茜は涙目で振り向いた。

196鬼と山神 8 859 ◆93FwBoL6s.:2010/08/05(木) 17:15:52 ID:uqGfeIY6
「へ、変な夢、見ちゃった。石段が終わらなくて、いきなり真夜中になって、女の子と河童に洞窟に連れ込まれて、そしたら」
「俺もだ。ていうか、あれは夢だよな? 夢じゃなきゃいけないよな? 山神の前で一発ヤらされるなんてのは」
「夢だと思いたい、けどぉ」

 茜は立ち上がったが、ふらりとよろけて小さな祠に縋った。足に力が入らないのか、少し乱れた裾の下で茜の膝は
細かく震えていた。ヤンマが見るに見かねて茜を支えると、茜はヤンマの胸に額を当てて俯いた。

「凄く、気持ち良かった」
「右に同じ」

 ヤンマは茜の乱れぶりを思い起こしただけで、腹部の先端から生殖器が出そうになった。

「すぐに正夢にしてやらぁ」

 ヤンマは身を屈め、茜と舌を交えるキスをした。夢の余韻なのか、少し触れ合っただけで茜は早々に息を弾ませた。
膝も折れそうになり、甘ったるい声で名前も呼んできた。これで我慢出来る方がおかしいよな、とヤンマは茜を横抱きに
して羽を震わせて浮き上がると、茜のつま先から鼻緒が切れた下駄が転げ落ちた。一度降下してその下駄を拾ってから、
再度浮上して夜の闇に紛れるように飛んだ。今日はどちらも祭りの用事で家人が出払っているので、遠慮することはない。
 樹齢千年近い御神木の上を過ぎて境内を通り越し、鳥居を通り過ぎる瞬間、複眼の端に草色の浴衣と白い面が掠めた。
見えていたのは一瞬にも満たないはずなのに、ヤンマの脳裏には面の奥で笑みを浮かべる目が鮮明に焼き付いていた。
とりあえず山神は満足してくれたらしい、とヤンマはほっとしたが、今更ながら怖くなった。山神の所在を確認することすら
恐ろしくなり、ヤンマは力一杯羽ばたいて実家を目指した。
 神様に関わるのは、二度とごめんだ。

197859 ◆93FwBoL6s.:2010/08/05(木) 17:22:27 ID:uqGfeIY6
以上。鬼だろうが水神だろうが、土地の者である以上は山神に逆らえません。

198変態紳士:2010/08/12(木) 19:23:17 ID:tgLpbk5g
GJ!タキと清美の登場もうれしい

199変態紳士:2010/08/23(月) 02:12:06 ID:8G0st54s
GJです!!

200意地悪なでくのぼう 0:2011/08/16(火) 22:18:29 ID:iSIEyV/E
忍法帖規制が面倒そうなので来ました。
ロボット×女の子、自慰要素有り。
これ除いて6レスくらい、NGとかは「意地悪なでくのぼう」で。

201意地悪なでくのぼう 1:2011/08/16(火) 22:19:07 ID:iSIEyV/E
耳をそばだてると、ママと知らない男の人の声が仲良さげに喋ってるのが聞こえる。
また「若い男のコ」を連れてきてるんだ。もう慣れてる。
私は、新しいパパ候補にするなら、もっと歳の人の方がいいと思うんだけど。
って、そう言ったら、ママは「あら、真夜子ちゃん羨ましいの?」って聞き返されたけど、そういうことじゃない。
ママは遊んでるだけなんだ。この間なんて、撮影用にうちの使用人ロボットまで呼んでた。
羨ましいとしたらむしろそっち……、なんでもない。
男のコたちは私の部屋の隣の隣、ママの寝室に連れ込まれて、それから……、それから……。
……ううぅ。
そういう、想像は収まらない。
私はベッドで何度か寝返りをうつ。
寝……なきゃ。今日こそ何も知らないいい子のままで。
そう思うのに、何かに操られたみたいに私の伸びた爪をした指は、パジャマのズボンをくぐり
下腹をするっと撫でて、両足の間に辿りつく。あああ、もうだめ。
そう思いながら、毛をかきわけ、小さな突起にそっと触れる。

……初めは、やり方をネットで見かけて、興味本位だったんだ。
だけど、何度もやっているうちに、いけないことをしている思いでいっぱいになってきて、
最近ではついに相手のイメージまで明確になってきた。
その相手というのが……。とても恥ずかしいことに、情けないことに、使用人ロボットなんだ。

「ロボットとはいえ、あんまりイケメンだったら男のコたち嫉妬しちゃうわよねー」
そう言ってママが使用人に選んだのは、全身こげ茶色のシンプルなロボットだった。一応人型だけど、
ちっちゃい子が積み木積んで作っただけのような、そんな感じ。クッション素材が全身に入ってて、
抱き枕としても使えるらしい。ママは一度、腕だけ取り外して枕にしたけど合わなかったらしい。
顔の部分には目の代わりに大きなカメラが一つ、口は喋ってる時に腹話術人形みたいにぱかぱか開くんだけど、
口の中は暗くてよく見えないし、私はまともにロボットの顔を見たことがないから分からない。
名前は、ママの「木の人形みたいだし、あんまり使えないから木偶の坊君って呼びましょ♪」の一言で「デク」に決まった。
ママひどい。

そんな奴を、……を弄っている時に思い浮かべてしまう。
なんなんだろう、これは。なんなの。
あいつのカメラでじーっと覗きこまれたい。意地張らないで一度抱き枕にさせてもらえば良かった。
そういう、願望や後悔が頭をぐるぐるする。
指が湿ってきて、小さく水音をたてはじめる。あ、う。何度もやっていくうちに、濡れるのが早くなってきた気がする。
「ぁ……」
小さく喘ぎ声を漏らす。自分でも聞こえるかどうか分からないくらいの。
寝室の壁は防音対策がされてるから大声で……してるはずのママたちの声だって聞こえたことない。
でも、声を出しているという、緊張感。
「んんんっ」
指が何度も割れ目をなぞる。だめ、だめ……入っちゃだめ……
「デ、デクぅっ……」
初めて奴の名を漏らした……。

202意地悪なでくのぼう 2:2011/08/16(火) 22:19:46 ID:iSIEyV/E
ガチャ。
『お呼びですか、真夜子サン』
あ、ああ私の想像力はドアを開けて入ってくるロボットの姿をはっきり映し出して声まで……?
「ひゃん!」
私は急いで手を引っ込めて布団を被る。これ想像じゃない本物だ! 血の気が引いた。
「あの、ちょっと寝苦しくって、えっともういいから大丈夫出てって」
言い訳をでっちあげる。うん、こいつならこれでも信じてくれ、
『わたくしとの交接をシミュレートしながらマスターベーションに耽っていたということですか』
「うん?」
何言った、こいつ。
『ああ、要するにわたくしをオカズにオナニーしていたのですか、ということです』
「―――――!」
声にならない悲鳴が出た。分かるの? そういうこと分かるの?
パニックになりかけてる私に、奴はとどめに一言言い放つ。

『不潔ですね』
と。
い、嫌、ロボットに軽蔑されるなんて! カメラの目が冷たく私を見下ろしている。
「あ、ああ……」
私の体は、だけどそれに興奮して、どんどんあそこを熱くさせていく。
ロボットは布団に手を突っ込み、隠した私の手首をぐいっと引き寄せた。
そして、ぬらぬら光る濡れた指先をじっと眺め、
ぱくっと……咥えた?!
「ふぇ……? あ……」
驚きにまともな言葉が出せないうちに、私の指はちゅぱちゅぱと念入りに舐められた。
口をすっと離して、奴は言う。
『このように長い爪で性器を触ると、膣を傷つけかねないのでたいへん不潔です。
とりあえず今消毒はしましたけど』
……不潔って、そういう……? 私は妙な安心感と、ロボットにこんな行為の注意をされてる
気まずさで力が抜ける。
『では下も消毒させていただきます』
ロボットは私の布団を剥がした。すうーっと股の辺りが涼しくなる。
さっきからずれっぱなしの下着をカメラが捉えた。顔がそのまま近付いてくる。
口元から舌のような器官がのぞく。
「や、やだっ!」
『それは何に対しての抵抗ですか』
聞かれて私は戸惑う。ロボットにこう、見られることはさっきまで私が願っていたことじゃないの。
舐めるのだって、ただの消毒だって言ってる……。ただの……消毒?
「しょ、消毒って言葉! それが嫌なのっ」
一瞬ロボットは動きを止める。
『つまりニュアンスの問題ですね。真夜子サンはわたくしに「消毒」ではなく「クンニリングス」をさせたいと、
そういうことですか』
「うん!」
私は頷いた。……あれ?

203意地悪なでくのぼう 3:2011/08/16(火) 22:20:30 ID:iSIEyV/E
奴の指が私の、あそこの毛を掻き分ける。毛は、粘っこく指に絡みついて、すごくいやらしい。
私のあそこはすこし触られただけでひくついてしまう。それが分かってなのか、ロボットは
『じっとしていて下さいよ』
と私に言い聞かせ太ももを掴む手に力を込める。でも、私は、彼の舌がちょんと触れただけで、
「ひうっ」
なんて叫びをこらえながら、身体を思いっきりびくつかせてしまう。
『すごい量が出ていますよ。真夜子サンの……』
あう、あ。毎晩のように、自分で触ってて、だから、身体が勝手に……っ。
ロボットの舌は、割れ目から溢れる私の、あの汁をふき取るように撫で続ける。
「も、もっと奥ぅ!」
なんてことを言うんだ、自分ながら……。ロボットはその通りに、私の中へ、舌をズズッ、ズッと出し入れする。
「あはぁ……、ひやあ……」
自分の声がすごく喜んでるのが分かる、それがまた恥ずかしい。でも、ロボットはすぐにそれをやめてしまった。
「え、あ……なんで?」
まだ……まだ、もっと気持ち良くなりたい……!
『これで完了です。あなたの膣は清潔になりました』
そういうことじゃなくって、その……! 私の高ぶった気持ちは、どうすればいいの!
思わずロボットの腕にすがりつく。私の指が柔らかい肌に食い込む。
「意地悪……」
『では真夜子サンはこれ以上わたくしに何をさせたいのですか。具体的にお答えください』
言葉に詰まる私に、更にロボットは追い打ちをかける。
『あなたが先ほどまで想像上のわたくしとしようとしていた行為は何ですか』
「…………せっくす」
そこまで、はっきり妄想してたわけじゃないけど。辿りつくことが出来るなら……せっくす……したい。
『ふん』
ロボットは……笑った? 一瞬口元をゆるませたような気がした。カメラが私から視線を外し、
彼の股間へと移される。私もつられてそこを見る、とさっきまで何も無かったそこに、黒光りする棒がぬっと突き出していた。
びっくりして飛び退く。
「何、それ……!」
『わたくしのペニスですが』
淡々と言ってのけるけどそんなの見たことないしあることなんて知らなかった!
『内蔵型なので必要とされなければ出しませんし』
あ、ああ……。私はそれを、期待のこもった目で見つめてしまう。ネットで見た人間のとは違う、綺麗なかたちをしている。
『性能は悪くありませんし、あなたの膣内を測ったところ、普段からの自己開発の成果か、
それほどの負担にはならないと思われます』
こくこくと頷きながら、彼のモノから目が離せない。
『……そんなにわたくしにおチンチンがあったのが嬉しいんですか』
あ、呆れられた? かあっと顔が熱くなる。カメラに映ってる私の顔は、どんな風なんだろう。
『では真夜子サン。わたくしにご命令を』
「命令?」

204意地悪なでくのぼう 4:2011/08/16(火) 22:21:04 ID:iSIEyV/E
『これまでとは違い、ペニスを使えばあなたの身体を傷つける恐れがある……微小ながら出血もあるでしょう。
ですから、基本的に人間を傷つけてはいけない規則のあるロボットに具体的な性行為をさせるには、
はっきりした命令が必要なのです』
「そうなんだ……」
めいれい……なんだか、恥ずかしいな……。命令っていうか、
『もっともあなたの性格では命令というよりおねだりにしかならないでしょうけど』
見透かされている!
『さあ、おねだりをどうぞ』
ロボットは……デクは、私の顎を優しく撫でる。あ、だめだ、ぽーっとなる。
「抱いて下さい……」
『分かりました』
そう言うと、デクは私の体をパジャマの上から抱きしめた。……ああ、布が、邪魔。
「……脱がして」
『何をですか? 具体的にお願いします』
「えー……? パジャマをだよ、分かるでしょ」
『はい』
そう言うと、デクは私のパジャマのボタンをひとつひとつ丁寧に外しはじめた。
じれったい。わざとかと思うくらいゆっくりだ。私の身体は火照っていくのに。
私を下着姿にして、パジャマを畳みだしたから本当にわざとだと思った。
「いじわる……!」
『どこがですか』
「どこがって、こんなに待たせて……、その……」
『待ったといえばわたくしの方が長かったのですがね。……次は何を脱がせばいいんですか?』
「し、下着……、下着も脱がして」
いちいち言わなきゃいけないのか? いや、もしかして、言わされてる……?
そんな気がしてるうちに、元から乱れていた下着は簡単に取られてしまった。
『ふむ』
デクが裸になった私の身体を上から下まで凝視する。
「な、何なの? 興奮でもしてるの?」
ちょっと期待を込めて、最近膨らんできた胸を張りだす。
『81のBカップ。大体予測通りです』
……。
「他に感想とかないの?」
『言ってほしいんですか?』
んー……もう! 私は、デクに裸を見せつけてるのが恥ずかしくなってきて、いっそ抱きついてしまうことにした。
『おおっと……』
デクが飛び込んだ私を抱える。ふふ、ちょっと動揺させた。
デクは私の頭を撫でて、ぎゅーっと抱き返してくれた。
彼の身体は表面がすべすべしてて、密着するとふかふかして気持ちいい。さすが抱き枕に使えるだけある。
硬いデクのあれだけが、私のお腹をぐいぐい押す。
「ん……」
中に欲しい。そう、おねだり……。

205意地悪なでくのぼう 5:2011/08/16(火) 22:21:35 ID:iSIEyV/E
「デクの、入れて……」
『何をですか』
「と、とぼけないでよ……」
デクは口を閉ざす。……ああ、またはっきり言わなきゃいけないのか。私は、この時になってまで躊躇う。
言葉を、口に出さなきゃいけないっていうのが、どうしても……。ううう、いいや! 一度だけだし!
「デクの、おちんちんを私のおまんこの中に! 入れて、ください……!」
『最高音質で録音しました』
「なっ……!」
『それでは接合しますね』
硬いのが、私の割れ目にあてがわれる。舌とはまた違う感じだ。
「あ、はうぅ…………」
入ってくる! あれが……、デクのおちんちんが……。
私はもう、十分濡れているのに、まだ彼を求めてあ、愛液を生産し続けている。
中が擦れて、どんどん気持ちが、快楽に支配されていく。
「あっ、ああああッ?」
私の指では、到達したことがない場所を突かれた。
『所謂Gスポットはこの辺りでしょうね』
「あううっ! あっ」
声の調子を変えずに解説してくれるロボットにずるい、と思いながらも、私は喘ぐことしか出来ない。
数度ゆっくり出し入れされた後、耳元で囁かれた。
『ではピストン速度を速めますね』
「あ、あ、あ、やあっ! あっ、ああ!」
はあ、ああ、気持ちいいよう……。
『これがあなたの思い描いていたわたくしとの関係ですか』
「あぅ、あ……そうで、す……」
もうためらうことなく、そのまま認めてしまう。うん、いい……。
『では実際のわたくしはそれを越えなければなりませんね』
すっと身体から、デクのが抜かれた。急に喪失感を覚える。
「あう……?」
『真夜子サン涎が出ていますよ』
デクに顎から唇の端にかけて舐められ、そのままちゅーされた。
カメラのレンズの中に一瞬見えた私の顔は、とろけそうなくらいうっとりしていた。
『後ろを向いて下さい』
言われるがままに背中を向ける。デクが私のお尻をぐっと揉んだ。
「ひゃん! ……ああっ?」
デクのおちんちんが、後ろから入ってきた。私はもうこれの感触をもうしっかり覚えてしまったみたいだ。
『それでは真夜子サンに後背位も愉しんで頂きましょうか』
こう、はい……ちょっと考えてそれが後ろからされることだと分かった。動物みたいで、恥ずかしい体位だ。
「やっ、そんなっ……あっ、ふあっ」
拒む間もなく、後ろからガンガン突かれだした。機械的な動きに、ロボットに犯されているんだってことを
嫌でも認識させられる。こいつは使用人ロボットなのに、こんな、こんな格好で!
『わたくしから見れば、真夜子サンもケモノですからねぇ』
……あれ、なんだか言い方が意地悪になってきた気がする……。うう。
「あっ、あああ! あああ!」
『真夜子サン、淫らでとてもいいですよ』
さっきは見ても平然としていた私の胸を、今は執拗に揉んでくる。先端を指で、摘まれる。
「はうう」
どんな顔をして揉んでるんだろう。でもこの体勢じゃお互い顔は見れないはずだ。
さっきより歪んだひどい顔になってると思うけど、カメラに映されずに済む……! と思ったのに。
ころり。デクの生首が目の前に落ちてきた。
「――――!?」
『腕の着脱が可能なことから推測出来ると思いますが、わたくし、このように首を外すことも出来るのです』
デクの顔が私の目を覗きこみながら言った。
『あなたの表情を真正面から捉えながら、後ろから犯すだなんて画期的な体位でしょう!』
「やああっ、あっ、んあああっ」
顔を逸らそうとするけど、カメラから目が離せない。

206意地悪なでくのぼう 6:2011/08/16(火) 22:22:09 ID:iSIEyV/E
なんとか抗議の声を振り絞る。
「へ、変態!」
デクは転がった首を傾げる。
『変態、とは異常な方向に性欲を発揮させている、変態性欲が旺盛な者のことですよね。
ならば真夜子サンの方がよほどその言葉に相応しいかと』
「ああ、ふあああっあ、んあっ……?」
『わたくしを思いながらマスターベーションに耽る。手の届かない相手ではなく、すぐ隣にいるわたくしを。
いくらでも言うことを聞かせることが出来る、使用人の立場にいるこのわたくしを。最中にわたくしの名を呼ぶなど、
わたくしの理解の範疇を超えておりました。あなたは紛うことなき変態です』
「くっ、何をっ、あっ、あああっ」
言い返そうとすると動きを激しくされて、まともな言葉が出なくなる。デクは流暢に説明を続けるのに。
『真夜子サンが夜な夜なマスターベーションをして嬌声を上げるのを拾い聞きしたわたくしは、あなたの望むお相手を
特定し、その相手に容姿を近づけようと計画していました。特に芸能人などの有名な人物であればマスクなどの
パーツが市販されていますし比較的仮装は容易ですからね』
「え、あっ、それって……あんッ」
私の、ことを……。
『ええ、遅かれ早かれ手に入れるつもりでした。ただし真夜子サンが変態性欲の持ち主で、
よりにもよってこのわたくし自身を思っていらっしゃったとなると……』
「あっ、あっ、ふあああっ! デク!」
『自分の幻など追い出して、本物を刻み付けたくなるものです、真夜子サン』
「あ、ぁ、イっちゃう! イかされちゃう!!」
あああ、私は変態だ、でも幸せだ……!
『どうぞ』
デクは一際強く私の奥を突いた。
「―――ああああああッ!」
私は、果てた。

デクの腕枕は、まるで特注の枕みたいに頭にしっくり来た。
見上げればそこにカメラのついた顔がある。
……寝にくいな。
「デクは、寝ないの?」
『ええ眠りません。ですので真夜子サンの無防備な寝顔を録画しつつ卑猥な寝言を録音していようと思います』
「は? え?」
寝顔はともかく……いや嫌だけど……寝言?
『気付いてらっしゃらないと思いますが、あなたは覚醒時に猥語を抑圧する傾向がある分、
寝言では淫らな言葉を連発しています。今夜はわたくしの名も呼んでくださ』
「嘘!」
私は茫然とした。
「で、出てって!」
思わず起き上がって言うものの、デクは動かない。
『わたくしの耳は、部屋の外からでもあなたの音声を拾えるので無意味です。よろしければこれまでに録音した分を
お聞かせしましょうか』
私はぶんぶん首を横に振った。うううー。
やり場のない恥ずかしさでいっぱいになった私は、とりあえずデクの柔らかい身体をぽふぽふ殴ることにした。
……ああ、こいつサンドバッグにも使える。


(終)

207変態紳士:2011/08/26(金) 15:59:10 ID:QuKKXwx6
ふたりとも馬鹿らしいほどにどすけべだな!
でもかわいいから許す!

208変態紳士:2011/09/03(土) 20:29:28 ID:F3PzWUmg
まったくもってけしからん変態ロボ紳士だな!
超絶GJ!!

209うぉッまぶしッ:うぉッまぶしッ
うぉッまぶしッ

210うぉッまぶしッ:うぉッまぶしッ
うぉッまぶしッ

211うぉッまぶしッ:うぉッまぶしッ
うぉッまぶしッ

212うぉッまぶしッ:うぉッまぶしッ
うぉッまぶしッ

213うぉッまぶしッ:うぉッまぶしッ
うぉッまぶしッ

214うぉッまぶしッ:うぉッまぶしッ
うぉッまぶしッ

215うぉッまぶしッ:うぉッまぶしッ
うぉッまぶしッ

216859 ◆93FwBoL6s.:2016/04/18(月) 16:33:59 ID:zIR7hNx.
なろうで人外アパートシリーズの続きを書いております。
http://novel18.syosetu.com/n9226ck/

217人妻 男性無料出会:2017/01/27(金) 14:03:53 ID:LJgLRwCU
逆サポート掲示板で逆サポ出会い
http://aeruyo.2-d.jp/zds12/00/

人妻逆援助交際掲示板
http://aeruyo.2-d.jp/zds15/00/

熟女出会い系サイト
http://galscom.eek.jp/aeruyo/zds08/000/

テレクラdeツーショット・テレフォンセックス
http://aeruyo.2-d.jp/adaruto/deai03/2syotto01/005/

人妻から高齢熟女まで出会い掲示板
http://aeruyo.2-d.jp/zds07/0001/

人妻 男性無料出会い系サイト&掲示板
http://aeruyo.2-d.jp/zds06/0001/

地域別|セフレ募集出会い
http://aeruyo.2-d.jp/sefuredeai/0013/

エロ写メ
http://aeruyo.2-d.jp/free/adult/1/

人妻書き込み一覧
http://aeruyo.2-d.jp/sefuredeai/sex/hitozemzdeai/

セフレ募集書き込み一覧
http://galscom.eek.jp/aeruyo/zds05/000/

218うぉッまぶしッ:うぉッまぶしッ
うぉッまぶしッ

219うぉッまぶしッ:うぉッまぶしッ
うぉッまぶしッ


新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

※画像アップローダーはこちら

(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)

掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板