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本スレに投下するか迷ったような作品を投下するスレ

161人魚と魔術師見習い 5 4 859 ◆93FwBoL6s.:2010/04/04(日) 21:21:39 ID:xUatSwsI
「…あの、ね」

 照れが極まったミチルが俯くと、広海は答えを待った。

「ミチル、僕に話すことでもあるの? 焦らなくてもいいし、僕も逃げないから」
「ちょ、ちょっと待って!」

 ミチルは高ぶりすぎて痛む胸を押さえ、肺とエラの双方を使って深呼吸してから、広海を見上げた。

「お風呂!」
「もしかしてとは思うけど、一緒に?」

 広海が目を丸めると、ミチルは無言で頷いた。それ以上はとても言えず、裾を握り締める手も震えていた。
これだけのことを言うだけなのに、嵐の海を泳ぎ切るよりも疲れてしまった。ミチルは広海の顔を直視出来ず、
裾から手を離して熱した頬を押さえた。広海はミチルの顔を見たくてたまらなかったが、下手に見てしまっては
怒らせてしまうと思い、まずは彼女の要求を叶えることにした。

「ちょっと、ごめん」

 広海は袖をまくり、ミチルの浸るビニールプールに手を差し入れて彼女の体を抱えた。

「ひぃあっ!?」

 前触れなく持ち上げられてミチルがぎょっとすると、広海はミチルを横抱きにしながら苦笑した。

「ミチルは先に運んでおかないと、一緒に入れないだろ」
「…うん」

 ミチルは精一杯体を縮め、広海から顔を背けた。暴れ回る心臓の音が聞こえやしないかと不安になると、更に
鼓動は早くなって息苦しくなった。居間から浴室までのほんの数メートルがやたらに長く感じられたが、程なくして
浴室に運ばれた。手狭な風呂場に収まっている浴槽には人間の入浴に相応しい温度の湯が溜まっていて、
昇る湯気が立ち込めており、人魚にはそれだけでも熱かった。広海はミチルをまずは脱衣所に座らせてから、
浴室のドアを開けて既に溜まっている湯に水を足していった。

「こうしないと、熱いだろうから」
「…うん」

 先程と同じことしか言えず、ミチルは泣き出したくなった。気のないふりをする文句なら、いくらでも言えるのに。

「じゃ、先に入ってて」

 広海は再びミチルを持ち上げると、いくらか温くなった湯船に入れてくれた。

「僕はほら、脱がなきゃならないから」

 と、言い残してからドアを閉めた広海は、服を脱ごうとして躊躇った。この流れだともしかして、とは思ったが、
いやでもミチルだし、だけどここまで来て、と考え込んだ。自分から好きだとも言っていないし、ミチルからも好きだ
とも言われていない。それなのに、一緒に風呂に入りたいとは。ただ構って欲しいだけなら、ミチルの方から広海に
ちょっかいを出してくるはずだ。甘えたいにしても、なんだかミチルらしくない。かといって、抱かれたいわけがない。
 広海は、自分でも情けなくなるほど男らしさがない。顔付きも子供っぽく、体格も同世代に比べれば一回りは
小さく、骨格自体が細かった。ミチルを抱き上げられるのはミチルが自分よりも小柄で体重が軽いからであって、
ついでに言えば多少の魔法で手助けしているからだ。性的魅力に欠けるどころか、コンプレックスの固まりだ。
だから、ミチルに欲情されるわけがない。それもあるから、なかなか好意を示せなかった。しかし、この流れで
何もしないのは却って男らしくないのでは、と広海は散々悩んでから、ようやく服を脱いだ。 
 広海が風呂場に入ると、ミチルはぬるま湯に浸っていた。水を多く足したせいで浴槽からは溢れ出していて、
浴槽に入りきらなかった尾ビレの先から水滴が落ちている。部屋の蛍光灯とは異なる淡いオレンジ色の電球に
照らされた肢体は、恥じらいが滲み出た表情と相まって悩ましかった。風呂場にはしっくり来ない水着に包まれた
乳房がぬるま湯の中で浮いているらしく、胸元の膨らみ方がいつもより増していた。


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