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「誰が彼女を殺したか?」のようです

1 ◆uYo/ERXRhs:2017/08/26(土) 14:53:10 ID:29PVt6sU0



妹が殺された。

かわいい妹。
大好きな妹。
たったひとりの私の大切な家族。


.

32 ◆uYo/ERXRhs:2017/08/26(土) 15:12:21 ID:29PVt6sU0

ξ゚⊿゚)ξ「あの……そろそろ乗らないと、電車、行っちゃいますよ」

(;'A`)「あ、本当だ!」

そう言って男は慌てて電車に向かうが、すんでのところで間に合わなかった。
発車を告げるメロディは鳴りやみ、無情にも電車は男を乗せずに行ってしまった。

('A`)「……」

ξ゚⊿゚)ξ「……行っちゃいましたね」

('A`)「……時間あるんで、次の、待ちます」

男は近くにあった椅子に座る。
ツンもその隣に腰を下ろした。

ξ゚⊿゚)ξ「私のせいで電車、行っちゃいましたから。よかったら少しお話ししませんか?」

(;'A`)「……え、いや、俺はその……あんまり人と話すのとか得意じゃないし……」

ξ゚⊿゚)ξ「いいじゃないですか、なんてことない暇潰しです。
      ……私一人暮らしなんで、人と話す機会がもっとほしいんですよ」

男はしぶしぶといった様子で頷いた。

まずは互いに軽く自己紹介をした。
あのスーパーで働いているということは、生活圏も被っているはずだ。

33 ◆uYo/ERXRhs:2017/08/26(土) 15:12:53 ID:29PVt6sU0

男は鬱田ドクオと名乗った。
ツンも自身の名を告げ、会話を続ける。

ξ゚⊿゚)ξ「……大学生なんですね、しかも私の妹と同じ学校」

('A`)「妹さんがいるんですか?」

ξ゚⊿゚)ξ「……いろいろあって、一緒には暮らしてないけどね」

(;'A`)「あ、あの……すみません……」

ξ゚⊿゚)ξ「どうして謝るんですか。別に、気にしてませんから」

(;'A`)「……」

ドクオは言葉を詰まらせる。
先程から何度も見てきた様子だ。
ツンと話すのが嫌というより、本当に人と話すのが苦手なのだろう。

ξ゚⊿゚)ξ「そうだ、私、あなたに言い忘れてたことがあるんです」

('A`)「え?」

ξ゚⊿゚)ξ「以前あなたのバイト先のスーパーで私が転んで立ち上がれなかった時、
      最初に声を掛けてくれましたよね」

(;'A`)「あ、あの時のこと……覚えて……」

34 ◆uYo/ERXRhs:2017/08/26(土) 15:13:20 ID:29PVt6sU0

ξ゚⊿゚)ξ「ありがとうございました。
      あなたが私に気付いてくれなかったら、たぶん処置も遅れていたでしょうから」

('A`)「俺は何も……」

ξ゚⊿゚)ξ「私は心から感謝しているんですよ」

そろそろいい時間だ。
電車が駅のホームに近付いてくる音が聞こえる。

ξ゚⊿゚)ξ「それにしても……こんな時間に出掛けるなんて、夜遊びですか?」

(;'A`)「今日は友達と映画を見に行くだけです。夜しか時間が合わなかったんで……」

ξ゚⊿゚)ξ「映画、好きなんですか?」

('A`)「え、まあ、それなりに……」

ξ゚⊿゚)ξ「もし、またお話しする機会があったら、おすすめの映画を教えてください。
       私も映画、時々見に行くんですよ」

(;'A`)「ま、またお話しって……」

ξ゚ー゚)ξ「あまり年下とお話しする機会がないんです。
      妹のことを思い出せるような気がして……楽しかったです」

35 ◆uYo/ERXRhs:2017/08/26(土) 15:13:43 ID:29PVt6sU0

(;'A`)「……それって」

電車が停止する。
ドアが開き、乗客が次々と降りてくる。

ξ゚⊿゚)ξ「ほら、また電車行っちゃいますよ。お友達と待ち合わせしてるんでしょう?」

ツンはドクオの背を強引にぐいぐいと押した。
ドクオは何も言わず、されるがままだ。

そのまま電車のドアは閉まり、ドクオはぼんやりとツンに視線を向けている。

ξ゚ー゚)ξ

ツンは笑顔で手を振りながらそれを見送った。

36 ◆uYo/ERXRhs:2017/08/26(土) 15:14:17 ID:29PVt6sU0



('、`*川「あら、ツンさんったら機嫌いいわね」

ξ゚⊿゚)ξ「そうですかね?」

('、`*川「昨日よりずっと楽しそうよ。いいことあった?」

ξ゚⊿゚)ξ「ええ……まあ。妹と同じ大学に通ってる子と少しお話し出来て」

('、`*川「そう……。でも無理はしないでね。困ったことがあったら、ちゃんと相談するのよ」

ξ゚⊿゚)ξ「お言葉はありがたいですけど……そんなこれ以上迷惑はかけられませんよ」

('、`*川「だーめ。これは先輩命令。
     何かあったらちゃんと私でも、他の誰でもいいから頼ること。いいわね?」

ξ゚ー゚)ξ「……はい」

仕事の一段落ついたツンはペニサスとの雑談に興じていた。
今は仕事も落ち着いていて、精神的にも気苦労の多かった最近のツンにはありがたいことだった。

('、`*川「そうだ、今日はお昼一緒にいかない? もちろん私のおごりよ」

ξ゚⊿゚)ξ「ぜひご一緒させてください。ペニサスさんの選ぶお店、いつも楽しみにしてるんですよ」

37 ◆uYo/ERXRhs:2017/08/26(土) 15:14:38 ID:29PVt6sU0

('、`*川「あらあら。私ったらちゃんと立ててくれる素敵な後輩をもって幸せ者ね」

ξ゚⊿゚)ξ「お世辞じゃありませんよ」

ツンは手元の書類をしまうと、席を立つ。

ξ゚⊿゚)ξ「準備してきますね」

ツンはそそくさとお手洗いに向かった。
その様子を見送って、ペニサスは溜息を吐く。

('、`*川「妹のこと、まだ引きずってるじゃない」

自身も昼食に向かう準備をしながら、ツンの机の上を見る。
ツンの机には写真立てが一つ。
まだ幼さを残したツンと妹、そして彼女らの両親とが映った写真だ。

緊張して顔が強張るツンの隣に、柔らかな笑顔の少女が立っている。

('、`*川「……」

38 ◆uYo/ERXRhs:2017/08/26(土) 15:14:59 ID:29PVt6sU0

ツンがこの会社に入って以来、ペニサスはずっとその様子を間近に見てきた。
彼女の口から出るのは可愛い妹の話ばかりで、それをシスコンだと笑いながらも微笑ましく思っていた。
弟のことを話すとブラコンだと反撃されるのさえ心地よかった。

('、`*川「今の私に出来るのは、せいぜい美味しいご飯で嫌なことを忘れさせることくらいよね……」

ペニサスも席を立つ。
今日の目的地は、ペニサス一押しのランチのある店だ。

39 ◆uYo/ERXRhs:2017/08/26(土) 15:15:24 ID:29PVt6sU0



モララーはとある公園にいた。
のどかな真昼の公園、周囲には散歩中の親子連れや老人、そして昼食を楽しむサラリーマンやOL達の姿。

しかしそれらで今のモララーの心情が穏やかになることはない。
右手に持ったお茶の入ったペットボトルがみしみしと音を立てている。
ブーンに外の空気を吸って来いなんて言われたが、それで気分が晴れることはない。

捜査は上手くいっていない。
女子大学生がストーカーに殺されたかもしれないとのことでマスコミも一時は騒ぎ立てた。
それが余計にモララーを苛立たせていた。

あいつらがいなかったら、犯人にもっと近づく機会があったかもしれないのに。
そんなことを思ってもみるが、それもやはり負け惜しみのようなものでしかない。
過ぎてしまったことは取り返せない、だから、何としても犯人に辿り着かねばならない。

( ・∀・)「……」

ぼんやりと映る目の前の風景。
しかしそこに、女性の姿が、少女の姿が重なる。

あの、モララーに対して警戒心しか見せないツン。
そして、モララーには怯えたような様子ばかり見せていたデレ。

40 ◆uYo/ERXRhs:2017/08/26(土) 15:15:47 ID:29PVt6sU0

モララーは半年前、事件の被害者であるデレにもきつく事情を聞いた。
悪意はなかった、そう強く接するのが刑事の仕事だと思っていたからだ。
しかし今となっては、もっとブーンの言葉を聞き入れていた方が良かったのかもしれない。

後悔先に立たず、しかし先に後悔出来たら人は間違いを犯さないのに。
モララーは無為な時間を過ごしながらそう思う。

( ・∀・)「ツンさんには、本当に合わせる顔がないな……」

そう呟いてみるが、その言葉に意味はない。過ぎたことはどうしようもないのだ。
そして、実際に会えばまた余計なことを言ってしまう自分の姿がありありと想像できる。

モララーはのろのろと立ち上がる。
ずっとここにいてもどうしようもない。

一度戻って、やはり半年前の事件の資料をよく調べてみよう。
そう決めた時、見知らぬ男に声を掛けられた。

(´・ω・`)「すみません、少しお時間いただけますか?」

( ・∀・)「なんですか?」

(´・ω・`)「刑事の、毛利モララーさんですよね? あなたにお話しがあるんです」

( ・∀・)「……あなたは、何者なんですか?」

41 ◆uYo/ERXRhs:2017/08/26(土) 15:16:12 ID:29PVt6sU0

周囲には人が多くいる。
会話は聞き耳を立てないと聞こえないような声量だが、
まさかここで事を荒立てるような男ではないだろうと考え、直球に尋ねた。

(´・ω・`)「私は眉下ショボン。まずは落ち着けるところまで行きましょう。詳しい話はそこで」

男は名乗っただけで、それ以上の自己紹介はしなかった。
さらには、自分と落ち着いて話をしたいと言う。

自分が刑事であることを知っているのだ、警戒心を抱かないはずがない。
それはショボンにはっきり伝わっているようで、彼は小声でモララーの心を動かそうとした。

(´・ω・`)「津出デレさんのこと、知りたいんでしょう?」

(;・∀・)「……!」

モララーは自身の動揺がショボンに伝わっていることが嫌でもわかった。

(´・ω・`)「何も、犯罪行為の片棒を担がせようってわけじゃありません。
      いやむしろ……これから起こるかもしれない事件を止めてほしいんです」

(;・∀・)「これから起こる、事件……?」

モララーの背筋に悪寒が走る。
この男は、何を言っているんだ。
事件は、もう起きたじゃないか。そしてそれを止められなかったから、こんなに悩んでいるんじゃないか。
そう言えばいいはずなのに、喉がひりついて上手く言葉が出ない。

42 ◆uYo/ERXRhs:2017/08/26(土) 15:16:32 ID:29PVt6sU0

(´・ω・`)「近くに信頼できる知人のやってる喫茶店があります。私について来てください」

ショボンはそう言うと歩き出してしまった。

( ・∀・)「……」

怪しい男だ。そんな奴に、仕事に関わる機密事項を話すわけにはいかない。
しかし、ショボンはモララーの心情を見透かすようなことを言ってきた。

( ・∀・)「乗らないわけ、いかないじゃないか」

捜査は行き詰っていた。男の話は、真実なら渡りに舟である。
まずは話を聞くだけでも、そう考えてモララーは男の後を追った。

43 ◆uYo/ERXRhs:2017/08/26(土) 15:17:04 ID:29PVt6sU0



久しぶりに街に出ての買い物帰りのツンは、駅に向かう途中で見知った顔を見つけた。

(;'A`)「え、またかよ!?」

耳に当てたスマートフォンに向かって大声を出す男は、先日ひと時を共に過ごしたドクオだ。

(;'A`)「おい! あいつ……切りやがった……」

悪態をつくドクオの様子は、普通の男といった風だ。
ツンに見せていたおどおどとした様子はない。

ξ゚⊿゚)ξ「ドクオさん、こんにちは」

しかしツンが声を掛けると、彼はあからさまに動揺してみせた。

(;'A`)「え、え、ツンさん!? ど、どうして、こ、こんなところに……」

ξ゚⊿゚)ξ「今日は土曜日ですから。久しぶりにちょっと遠出してるんです」

(;'A`)「あ、あの……今の、見てました?」

ξ゚⊿゚)ξ「……ええ、ばっちり。お友達ですか?」

('A`)「……はい。あいつ、しょっちゅう約束すっぽかすんです。
    これから映画を見る予定だったんですけど……」

44 ◆uYo/ERXRhs:2017/08/26(土) 15:17:28 ID:29PVt6sU0

そう言ってドクオが視線を自分の左手に落とした。
その手には二枚、映画のチケットが握られている。

ξ゚⊿゚)ξ「もう買っちゃったんですね」

('A`)「はい……料金は後から貰う予定だったんでまとめて……」

ξ゚⊿゚)ξ「映画、今から見るんですか?」

('A`)「楽しみにしてたんで、一人でも見ます」

そう言うドクオの手から、ツンはチケットを一枚ひったくった。

ξ゚⊿゚)ξ「これ、いくらですか?」

(;'A`)「え?」

ξ゚⊿゚)ξ「ドクオさんがそんなに楽しみにしている映画、私も見てみたいなと思って」

('A`)「それって……」

ξ゚⊿゚)ξ「ええ、あなたさえ良ければ、一緒に映画を見ませんか?」

ドクオの動きが制止した。
その動揺が、ツンには面白いほどに伝わってくる。

ξ゚ー゚)ξ「あなたのおすすめの映画、私も見たいんです」

45 ◆uYo/ERXRhs:2017/08/26(土) 15:17:54 ID:29PVt6sU0

にっこり笑顔のツンに、ドクオは小さく頷いた。
ツンから彼の表情を窺い知ることは出来ないが、きっと顔を真っ赤にしているのだろう。
ドクオの耳を見て、そう思った。

映画の内容はサスペンスだった。
恋人を殺された女の復讐劇だった。

今を時めく若手女優の演技は冴えていて、ツンはすっかり感情移入しながら映画を見終えた。
「面白かった」、そう言うと、ドクオは照れくさそうに笑った。
昼食を取るために入った喫茶店、向かい合って座った二人の会話はよく弾んだ。

ξ゚⊿゚)ξ「まさか、あそこであんな手掛かりが出てくるなんて思いませんでした」

('A`)「そうなんですよ! 原作だとさりげない描写だったのが大胆にアレンジされてて、
    映画ならではの表現が輝いてました」

ξ゚⊿゚)ξ「……本当に、映画が好きなんですね」

('A`)「ま、まぁ……数少ない趣味なんで……」

主に映画に関する話題で盛り上がりつつ、二人は食事を共にした。
ツンは映画が特別好きというわけではなかったが、今日見た映画は純粋に面白いと感じられている。

ξ゚⊿゚)ξ「今日はありがとうございました」

ツンはそう言って立ち上がる。
伝票を持っていこうとすると、それをドクオに止められた。

46 ◆uYo/ERXRhs:2017/08/26(土) 15:18:21 ID:29PVt6sU0

(;'A`)「お、お会計は、俺がやります」

ξ゚⊿゚)ξ「何言ってるんですか。今日は素敵な映画を教えてもらったお礼に奢らせてください」

(;'A`)「それならチケット代は貰えません」

ξ゚⊿゚)ξ「気にしないでください。それに私、社会人なんですよ。
      学生さんに支払わせたらかっこつかないじゃないですか」

ドクオは財布を取り出そうとした手を止め、何か言おうとしている。
しかし何も思いつかなかったのか、頭を下げる。

('A`)「ご、ごちそうさまでした……」

ξ゚⊿゚)ξ「どういたしまして」

しつこく頭を下げるドクオに手を振って、ツンは彼と別れた。
今後、特に会う約束はしていない。
しかし生活圏が被っている、きっと近いうちにまた会う機会もあるだろう。

帰りの電車の中、ふいに思い出して映画のパンフレットを取り出してみた。
ぱらぱらとめくってみる。
そして、今日の映画が面白かったことを一人噛み締める。

47 ◆uYo/ERXRhs:2017/08/26(土) 15:18:57 ID:29PVt6sU0



日が徐々に伸びてきた。
もうそろそろ暦の上では冬も終わりだ。

ツンは一人墓前に立っていた。

ξ゚⊿゚)ξ「デレ、なかなか来られなくてごめんね」

デレが大好きだった花を墓前に供えた。
白く小さな花をたわわにつけたカスミソウだ。
その可憐な様子は、在りし日のデレの面影をたたえているようにも見える。

ξ゚⊿゚)ξ「もうすぐ春よ。……と言っても、まだまだ寒いけれど」

そう呟いて身震いした。

ξ゚⊿゚)ξ「デレ、父さん、母さん……」

ξ゚ー゚)ξ「もうすぐ、そっちに行くね」

48 ◆uYo/ERXRhs:2017/08/26(土) 15:19:26 ID:29PVt6sU0



从 ゚∀从「それでさ、ドクオくん……って、話、聞いてる?」

ハインは隣を歩く男の顔を覗き込む。

('A`)「あ、ああ……」

从 ゚∀从「もう、しっかりしてくれよな。それでさ、うちの兄ちゃんがさ……」

今日のドクオはずっと上の空だ。
そもそも、普段からあまり人の話を真剣に聞くような人間でもないのだが。

('A`)「あのさ、ハインさん。ずっと聞きたかったことがあるんだけど」

从 ゚∀从「ん?」

('A`)「なんでさ、俺に声かけたの?」

从 ゚∀从「なんでって……深い意味はないぜ。
      偶然席が近くて、そん中で一番ちゃんとノート取ってそうで、一人だったから」

('A`)「そっか……」

从 ゚∀从「どうしたんだよ、急に」

('A`)「いや、最近さ、妙な偶然が多くて」

49 ◆uYo/ERXRhs:2017/08/26(土) 15:19:48 ID:29PVt6sU0

从 ゚∀从「ふーん。ドクオくん、酷いな。私と友達になったのも、偶然だって言うのかよ?」

('A`)「……」

ドクオが何か考え始めてしまう。
そうすると会話はぱったり途切れてしまって、それが落ち着かなくて、ハインは唐突に天気の話を始めた。
しかし当然、何やら考え事をしている人間がそんなくだらない話に興味を惹かれることもない。

从;゚∀从「ご、ごめんって。きっと私はドクオくんがドクオくんじゃなくても友達になってたよ……」

自分でも何を言っているのかわからない。
そんなフォローでドクオは納得したのかしていないのか。

('A`)「最近、年上の友達が出来たんだ」

从 ゚∀从「おお! ドクオくんから話を振ってくれるなんて珍しいな!」

('A`)「その人と、特に約束してもないのによく会うんだよ」

从;゚∀从「……ストーカー?」

ハインが顔色を悪くしながら尋ねる。

('A`)「もしそうだとして、あんなきれいな人がなんで俺なんか……って引っかかるんだよな。
    ここ二回は連絡先も交換したからおかしくないんだけどさ」

从;゚∀从「きれいな人って……女の人!?」

50 ◆uYo/ERXRhs:2017/08/26(土) 15:20:25 ID:29PVt6sU0

ハインは驚きを隠せなかった。
青褪めていた顔は一気に赤みを帯びる。
思わず出した大声に、近くをすれ違った人々が一斉に二人に視線を向けた。

現在、二人が歩いているのは大学のキャンパス内である。
偶然にも同じゼミに所属することとなった二人は、すでに春休みであるにもかかわらず一緒に登校していた。

(;'A`)「こ、声でかいって!」

从;゚∀从「ごめん……あんまり驚いたもんだからつい……」

ハインは慌てて腕を口元に当てる。
今更意味はなく、周囲は早くも勝手なことを言っている。

(*゚ー゚)「やだ……修羅場かしら?」

(,,゚Д゚)「こんな往来のど真ん中でやるなよな」

从;゚∀从「ち、違うぞ! 私はドクオくんと付き合うなんて絶対無理だからな!!」

(;'A`)「俺もハインさん好きじゃないけど、そこまで言われると傷付く……」

結局そのドクオの発言は更にハインの言葉を生み、二人は好奇の目に晒された。
しばらくしてやっと移動するということを思いついた二人は、
どうにかこうにか近所のファストフード店に逃げ込んだのだった。

51 ◆uYo/ERXRhs:2017/08/26(土) 15:20:59 ID:29PVt6sU0



(´・ω・`)「ほんとに良かったの、ここで?」

窓の外の景色をぼんやり見つめてショボンが問う。

ξ゚⊿゚)ξ「ええ。久しぶりね、ここに来るのは」

周囲は喧騒、とても落ち着いて食事の出来る場所でないが、ツンはここにショボンを誘った。

(;´・ω・‘)「スーツで来なきゃ良かったな……。なんかみんなに見られてる気がする」

ξ゚⊿゚)ξ「気のせいよ、気のせい。あんた、探偵になってから自意識過剰になったんじゃないの?」

(´・ω・`)「……それもあるかもしれない」

手元のハンバーガーをかじりながらショボンは答えた。
ツンも同じようにチーズバーガーを食べる。熱々のチーズがおいしい。

ξ゚⊿゚)ξ「学生時代はよくここで時間を潰したわよね」

(´・ω・`)「そうだね。講義の間の暇な時間はいつもここに来てた。先輩によく奢ってもらったなぁ」

ξ゚⊿゚)ξ「あんた、バイトの給料日前には私にもたかってたわよね」

(;´・ω・`)「や、やめて、黒歴史だから! それにお金は給料日の次の日には返してたでしょ」

ξ゚⊿゚)ξ「だから安心して貸してたんだけど、でも計画性ない奴だってずっと思ってたわ」

52 ◆uYo/ERXRhs:2017/08/26(土) 15:21:25 ID:29PVt6sU0

(;´・ω・`)「う……だからもう勘弁してよ……」

かつて、ただの友人だった頃のように、そして恋人であった頃のように。
ショボンとの雑談と思い出話は弾んだ。
大学にほど近いファストフード店を選んで良かったとツンは思っていた。

ξ゚⊿゚)ξ「ねぇ、ショボン」

(´・ω・`)「どうしたの、ツン」

ツンが唐突に発した真剣な声音。
ショボンはそれをちゃんと感じ取って、真剣な返事で返した。

ξ゚⊿゚)ξ「今更こんなこと言ってもまったく説得力も真実味もないと思うけど、
      私、あなたのこと本当に好きだったのよ」

(´・ω・`)「……ありがとう」

ξ゚⊿゚)ξ「恋人として、そしていつか家族になると考えると合わないところもあったけれど、
      あなたと関われたことを後悔したことはない」

(´・ω・`)「……そうなんだ」

ξ゚⊿゚)ξ「今日は久しぶりにあなたと昔のように話せて楽しかったわ」

(´・ω・`)「……僕もだよ」

53 ◆uYo/ERXRhs:2017/08/26(土) 15:21:50 ID:29PVt6sU0

ショボンはツンの言葉に相槌を打つだけだった。
それでも彼が自分と同じように感じてくれていることはツンにはわかった。
長い期間ではないが、すぐ隣で過ごした男の考えがわからないはずがなかった。

ツンは席から立ちあがる。
ショボンは黙って座ったまま、ツンを見上げた。

ξ゚ー゚)ξ「ショボン、今日はありがとう」

(´・ω・`)「こちらこそ、僕に付き合ってくれてありがとう」

ξ゚⊿゚)ξ「それじゃあ、私は行くわね」

そう言ってトレイを持ち上げたツンをショボンが引き留めた。

(´・ω・`)「ツン、どうか危ない橋だけは渡らないで」

ξ゚⊿゚)ξ「……そうね。ご忠告どうも」

ツンはもう振り返らなかった。
最後に見たショボンの顔はまだ何か言いたそうで、
きっと聞いたら決意を揺るがすようなことを言ってくると感じてしまったのだ。

ちょうど店を出ようとしたところで、聞き覚えのある声に呼ばれた。

从 ゚∀从「ツンさーん!!」

54 ◆uYo/ERXRhs:2017/08/26(土) 15:22:21 ID:29PVt6sU0

大声で手を振っているのはハインだった。
彼女の向かいの席にも見知った男が座っている。
彼は周囲を見渡してから、ツンに向かって軽く会釈した。

ξ;゚⊿゚)ξ「ハインさん、声」

从;゚∀从「あ!」

ハインは今更口を手で覆うが、意味はない。
大声で一瞬集まった注目も今はなくなり、それぞれに食事や談笑に意識は向かっていた。

ξ゚⊿゚)ξ「まさかハインさんとドクオくんが知り合いだったなんて驚いたわ」

从 ゚∀从「ツンさん、ドクオくんのこと知ってるんですか?」

ξ゚⊿゚)ξ「ええ。家の近所のスーパーで働いているのよ」

(;'A`)「ハインさん、それはどうでもいい話だろ……」

从 ゚∀从「ていうか、まさか……ドクオさんの年上のお友達ってツンさんですか?」

(;'A`)「だ、だからそういう話は……」

ξ゚⊿゚)ξ「あら、ドクオくん、私のことそういうふうに思っていてくれてたのね」

ツンが笑うとドクオは顔を背けた。きっと照れているのだろう。

从 ゚∀从「たしかになぁ……。ツンさん、きれいだよなぁ……」

55 ◆uYo/ERXRhs:2017/08/26(土) 15:22:59 ID:29PVt6sU0

ハインはツンの頭から足元まで視線を走らせた。

从 ゚∀从「これは好きになってもしょうがないかぁ……」

ハインの呟きはドクオには聞こえていないらしく、彼から反論の言葉はない。
ツンも聞き流すことにする。

ξ゚⊿゚)ξ「二人とも元気そうで何よりだわ。私は用事があるから、そろそろ行くわね」

从 ゚∀从「お元気でー!」

元気に手を振るハイン、そして会釈するドクオ。
対照的な二人だが、仲が悪そうには見えなかった。

ツンにはそんな二人の様子が、まるで理解出来ない。

56 ◆uYo/ERXRhs:2017/08/26(土) 15:23:24 ID:29PVt6sU0



今日の天気は晴れ。
雲一つない憎らしいほどの快晴、最高の冬晴れだ。

( ^ω^)「しかしあの話、本当なのかお?」

( ・∀・)「ええ、僕らの方で持っている情報と矛盾する点はありません」

(;^ω^)「やっぱり僕は賛成できないお。確証もないのに動くなんて……」

( ・∀・)「それで人を一人殺しておいて、まだ言いますか?」

(;^ω^)「……モララーくん、それは」

ブーンが言いよどむ。
それ以上は言えないと思ったのだろう。。
モララーがあのストーカーの一件を特に気にしているのはよく知っているはずだ。

( ・∀・)「あ、ツンさんが出てきましたよ」

アパートから一人の女性が出てくる。
それは黒いロングコートを着たツンだった。

ドアに鍵をかけ、周囲を見渡す。
そして、駅の方向に歩き出した。

モララーとブーンも気配を消して彼女の後を追う。
刑事たるもの、尾行は手慣れたものだ。

57 ◆uYo/ERXRhs:2017/08/26(土) 15:24:06 ID:29PVt6sU0

( ^ω^)「目的地の見当はついてるのかお?」

( ・∀・)「ええ。候補はいくつか。ショボンさんが挙げてくれたものと、
      聞き込みで写真を見せてくれた方がいまして。
      いずれにしても行き先はデレさんとの思い出の場所でしょう」

二人はツンの尾行を続けた。
ツンは電車に乗り、何度か乗り換えて海の方へ向かった。

やがて、今にも倒壊しそうな程に年季の入った駅舎を持つ無人駅でツンは電車を降りた。
モララー達も気付かれないように慎重に後を追う。

( ・∀・)「今日は私服で良かったでしょう?」

(;^ω^)「本当に。いつものスーツじゃ完全に不審者で警察の厄介になりかねないお。
      ……いやまあ、大の男が平日の昼間っから電車に二人で乗ってるだけでも
      結構目立ってる気はしたけど」

周囲に人はいない。
冬の寒い風が吹き抜ける駅をツンは足早に出て行った。
それを追う、二人。

少し歩いて、ツンは立ち止まった。
まるでドラマの撮影に使われそうな場所だった。
断崖絶壁、遥か眼下には青黒い深淵の海。

切り立った崖の上の一人の影。
ツンはそれに静かに語り掛けた。

58 ◆uYo/ERXRhs:2017/08/26(土) 15:25:02 ID:29PVt6sU0

ξ゚⊿゚)ξ「今日は話があって呼んだの」

影の返事はない。

ξ゚⊿゚)ξ「ねぇ、聞かせてよ。
      私はどのみち、これからデレに全てを報告しに行かなきゃならないんだからいいでしょ」

影が口を開く。

从 ゚∀从「……わかった。私の知ってることを全部、お話しします」

ハインはいつもの元気な様子が感じられない、落ち着いた声で言った。

ξ゚⊿゚)ξ「……そこに隠れているつもりのお二人も、どうか聞いてください。
      デレについてのとても大切な話、刑事さんたちには聞く権利があるはずです」

( ・∀・)「ばれてたか」

(;^ω^)「いつから?」

ξ゚⊿゚)ξ「ここの駅に着いてから。あんなに静かなところで後ろに人がいたら気付きます」

モララーは内心胸を撫で下ろした。
自分たちの技術の問題というよりはロケーションの問題だったようだ。

ξ゚⊿゚)ξ「では始めましょう。答え合わせを」

ひときわ冷たい風が、四人のすぐそばを通り抜けた。

59 ◆uYo/ERXRhs:2017/08/26(土) 15:25:36 ID:29PVt6sU0

ξ゚⊿゚)ξ「あの日のこと、あなたは知ってるんでしょ?」

ハインが頷く。ひゅるりと通り抜けた風が彼女の赤茶色の髪を靡かせた。

从 ゚∀从「あの日学校が終わって、私はデレの家に呼ばれたんだ。
      特に用事もなかったから、それにのったよ」

視線の先はツン。ツンもまた、ハインと目を合わせて静かに聞く。

从 ゚∀从「デレはあの日、何かに怯えてた。きっとあいつがまたツンの近くをうろつきだしたからだ」

( ・∀・)「ストーカーか……」

从 ゚∀从「だから私がそばについてなきゃって思った。
      でも買い物に寄って、遅れて私が行った時にはすでに……」

从 ∀从「あの子は……」

ハインが押し黙る。
ツンはただそれを見つめている。
下を向いてしまった少女に対して掛けるべき言葉はない。

( ^ω^)「君のせいじゃないお。デレさんが亡くなったのは、おそらくストーカーのせいだお」

ブーンは俯くハインを慰めようと言葉を掛ける。
そのストーカーをいまだ捕まえられていない警察の人間が言っても白々しいだけの言葉ではあるが。

从 ゚∀从「私が、私がもっとしっかりしてれば、デレは、デレは……」

60 ◆uYo/ERXRhs:2017/08/26(土) 15:26:02 ID:29PVt6sU0

ξ゚⊿゚)ξ「……」

从 ;∀从「ツンさん、ごめんなさい。ごめんなさい……デレを助けてあげられなくて」

ξ゚⊿゚)ξ「それは私の言葉よ。一番そばにいたのは私。助けられなかったのは、この私」

从 ;∀从「違う、私が……私が、一番の友達だったのに……」

ξ゚⊿゚)ξ「違うわ。ねぇ、ドクオくん?」

从 ;∀从「!?」

(;・∀・)「ドクオ、だって!?」

(;^ω^)「どういうことだお……」

ツンの出した名前を聞いて、ハインだけでなく二人の刑事も大げさに驚いている。

ツン、そして三人が視線を向けた先、木陰から姿を現したのはドクオだった。

(;'A`)「つ、ツンさん……これは、いったい……」

ξ゚⊿゚)ξ「あなたは知っているんでしょう? デレと、ハインの関係を。
      この間、私にはたっぷりお話ししてくれたじゃない」

(;'A`)「……」

ドクオは黙っている。

61 ◆uYo/ERXRhs:2017/08/26(土) 15:26:31 ID:29PVt6sU0

しかしツンは知っている。
ここに来る前に全ての下準備は済ませている。
ドクオから事の真相はすべて聞き出しているのだ。

从 ゚∀从「……」

ハインはドクオを見つめている。
先程の泣き顔はすっかりなりを潜めている。
射抜くような冷たく鋭い視線はツンが初めて見るもので、真実を知っていても思わず怖気が走ってしまった。

(;'A`)「……デレさんは、自分に嫌がらせをしているのがハインさんではないかと疑ってました」

(;・∀・)「な、なんだって!? ストーカーはおまえじゃないのか!?」

モララーはドクオにそんな言葉を投げつける。
ツンは溜息を吐くしかなかった。
警察というのは、ここまで無能なものだったのか。
その片鱗は嫌というほどに見ていたものの、確信だけはしたくなかった。

(;'A`)「お、俺は、途中までは、本当にデレさんにストーカーと思われてもしょうがないことをしてました。
    で、でも! でも、デレさんは、そんな俺のことを、許してくれたんです……」

从 ゚∀从「何言ってんだ。デレを殺したのはお前だ」

(;'A`)「ち、違う! デレさんを、デレさんを殺したのは……!」

62 ◆uYo/ERXRhs:2017/08/26(土) 15:27:00 ID:29PVt6sU0

そう叫ぶドクオにハインが飛びかかった。
まるで獲物を捕らえる獣のような俊敏な動きでドクオを押し倒す。
けして大柄ではないハインであるが、
予想もしていなかった急襲にドクオは避けることさえも許されなかった。

从 ゚∀从「嘘を吐くな。なんで親友の私がデレを殺すんだ? そんなのあり得ない」

揉み合う二人を止めるべく刑事たちが動く。
ブーンがドクオに馬乗りになったハインを引きはがそうと背後から組み付いたが、
ハインはそれらを振りほどこうと激しい抵抗を見せた。

ξ゚⊿゚)ξ「証拠ならいくらでもあるわ」

見かねたツンが背後から声を掛ける。
鞄から一つ、何かを取り出してハインに見せつける。

最初はそれが何か分かっていなかったハインだったが、
やがて理解したのだろう、今度はツンに襲い掛かろうと暴れ出す。

( ・∀・)「ツンさん、どうしてあなたがそんなものを」

モララーはなんとかドクオがハインから逃れるのを助け、ツンの元に歩み寄った。

ξ゚⊿゚)ξ「私がドクオくんを犯人と信じ、そして、警察というものを一切信じていなかったから」

ツンが取り出したのは、小さなカメラだった。
ツンがストーカーの動向を探るために、デレにさえ言わずに半年前に玄関に設置したもので、
その存在はツンさえしばらく忘れていた。
引っ越しの準備を始める時になって、ようやく思い出したものだった。

63 ◆uYo/ERXRhs:2017/08/26(土) 15:27:46 ID:29PVt6sU0

从 ゚∀从「ツンさん、どうして私を信じてくれないんですか。
      デレを失った悲しみを共有してくれたあなたなら、私のことを分かってくれると思ったのに」

ξ゚⊿゚)ξ「馬鹿じゃないの。私にとってあんたは所詮妹の友達よ。
      かわいい妹より信用するなんて、そんなことあり得ない。
      それより嘘泣きはもういいの? 今の般若みたいな顔、デレに見せたら泣き出しそうだけど」

从 ゚∀从「……うるさい」

眉間に皺を作り犬歯を剥き出しに吐き出したハインの声は、いつもよりだいぶ低いものだった。

从 ゚∀从「お前にはわかんないだろう……。私が、デレをどんな目で見てたか……」

ブーンに取り押さえられながらもハインは吠える。

从#゚∀从「羨ましかった! 私にないものを持って、それでも優しいデレが、大好きだった!!」

从 ;∀从「いっそ嫌な奴なら嫉妬なんかしなかった……! 全部持ってるデレが……大嫌いだった……」

ハインの体からがくりと力が抜けた。
それを支えるブーンと共に地面に膝をつき、それでもハインは続ける。

从 ;∀从「女の子らしくて可愛くて……勉強だって出来て……。
      ストーカー男を許して友達になるくらい優しくて……」

ξ゚⊿゚)ξ「……醜い」

64 ◆uYo/ERXRhs:2017/08/26(土) 15:28:19 ID:29PVt6sU0

从 ;∀从「デレの友達でいるのが惨めだった。デレが大好きだから、だから大嫌いだった……
      一緒にいるとね、周りがみんな比べてくるんだ。
      デレと違って、おまえはなんて劣ってるんだ、って」

ξ゚⊿゚)ξ「そんな……自分本位な理由で人を殺して……それでものうのうと生きて……
      私とも何でもないみたいに話して……。あんたは、おかしい」

从 ;∀从「……」

ツンが一歩、そしてまた一歩と地を踏みしめながらハインに近付く。

ξ゚⊿゚)ξ「死ぬべきはデレじゃなかった。本当に死ぬべきは……」

ツンが右手を鞄に差し入れるのをモララーは見逃さなかった。

ξ゚⊿゚)ξ「ハイン、あんたよ」

ツンが振り上げた右手を、素早く飛び出したモララーは一瞬で捻り上げた。

ξ゚⊿゚)ξ「ばーか」

(;・∀・)「え?」

(;^ω^)「やらせないお!!」

モララーが見たツンの右手、そこには何もなかった。
ぱっと開いた手のひらに何か意味を見出すことは出来ない。

65 ◆uYo/ERXRhs:2017/08/26(土) 15:29:03 ID:29PVt6sU0

次に見たのは必死の形相で前に飛び出たブーンだった。
迫りくる何かからハインを守るように立ちふさがろうと行動を起こした姿だった。

では、ハインを狙うものは何か。

ξ;゚⊿゚)ξ「……!」

ツンの息を呑む音が耳に届いた。
それと同時、ハインに向けた視界に入ったのは黒い影。

(;'A`)「死ね!」

息を切らしながら叫んだ男の手には包丁が握られていて、そしてそれは深く深く、突き刺さっていた。

从 ∀从「う……」

ハインの体が崩れ落ちた。
包丁は庇おうとしたブーンの衣服を僅かに裂いてハインの腹部に届いていた。

ξ;゚⊿゚)ξ「ドクオくん……あなた、どうして……」

ツンの左手には大振りのナイフが握られていた。
右手はフェイク、油断させるために、最初からすべては左手で行う予定だった。
行き場を失った左手はだらりと垂れ、僅かに遅れて地面に金属の落ちる音が響く。

('A`)「デレさんを殺したのが誰か分かった時から、こうしようって決めてました」

そう言って、ドクオは地面に座り込んだ。

66 ◆uYo/ERXRhs:2017/08/26(土) 15:29:38 ID:29PVt6sU0

モララーが救急車を呼んでいる声が、ツンにとっては遥か遠くの出来事のように感じられた。
ブーンがハインを介抱している様子が、まるで幻のように思えた。

('A`)「ツンさんには勇気をもらいました。だから、手を汚すのは俺だけでいいんです」

ξ゚⊿゚)ξ「……」

ツンは何も言えなかった。
何も出来なかった。
ただ、黙って立ち尽くしているしか出来なかった。

いつの間に様相を変えたのだろう、重苦しい灰色の空から雨の粒が落ちてきても、
ツンには何も出来なかった。

67 ◆uYo/ERXRhs:2017/08/26(土) 15:30:13 ID:29PVt6sU0



















.

68 ◆uYo/ERXRhs:2017/08/26(土) 15:30:48 ID:29PVt6sU0



('、`*川「ほら、もう落ち着きなさいよ」

ペニサスから渡されたハンカチを、ツンは受け取れなかった。

ξ;⊿;)ξ「だって……私が余計なことをしなければ……こんなことには……」

('、`*川「ドクオがそれを望んだなら、あなたが気に病むことじゃないでしょ」

ξ;⊿;)ξ「でも……」

('、`*川「あのね、ツンさん。こう見えても私、ドクオの姉なのよ。
     あなたより付き合いは長いし、あの子の気持ちは私の方がずっとわかってる。
     あなただってデレさんの話をされたら、同じように思うでしょ?」

ξ;⊿;)ξ「ペニサスさん……」

('、`*川「あなたが本当に申し訳ないと思ってくれてるのなら、あの子の選んだ道を受け入れてあげて。
     そうすれば、きっとあの子も少しは救われるわ」

ξ;⊿;)ξ「でも、ペニサスさんはそれでいいんですか……?」

('、`*川「……ドクオにここまでさせたのはハインって子なんでしょ。
     もう死んだ相手にどうこうできないわよ」

ξ;⊿;)ξ「……」

69 ◆uYo/ERXRhs:2017/08/26(土) 15:31:20 ID:29PVt6sU0

ツンは俯いて目の前のテーブルに視線を移す。
テーブルの上には先程注文したレモンティー。
自分の涙が入ってしまったような気もするが、どうせ飲む気にはなれないだろうからどうでもいい。

あの日、全ては終わった。
ツンはハインを殺して自分も死のうと思っていた。
しかしそれは、ドクオに邪魔されてしまった。

決行前日、ツンは人知れずドクオと語り合った。
直接会っては警察の目に触れるかもしれないと考え、事前に電話番号を交換していたのだった。

ドクオはデレの友人だった。
かつてはストーカーだったというが、それに気付いたデレが彼との和解を選び、
ドクオ自身も恋人でなくてもせめて、と考えて友人となったらしい。

デレがストーカーに初めて直接的な危害を加えられたあの日、
デレを助けたのはもう一人のストーカーであるドクオだった。
ツン自身、ドクオのことは忘れていたが、スーパーで再会した際に思い出したのだ。
ドクオの方はツンにデレの面影を見ていたものの、
面識があることには言われるまで気付かなかったようだが。

ドクオのことはハインも詳しくは知らないようだとのことだった。
デレはハインが自身に向ける視線の意味を理解していて、
きっとドクオと親しくなることを快く思わないと判断したのだろう。
そう、ドクオは考えているのだとツンに言った。

('、`*川「……もう少し、互いが互いのことを理解出来ていたのなら、
     ここまでの悲劇は起こらなかったのかもね」

70 ◆uYo/ERXRhs:2017/08/26(土) 15:32:16 ID:29PVt6sU0

ξ゚⊿゚)ξ「それは、デレとハインのことだけではなくて?」

ペニサスは静かに頷いた。

('、`*川「あなたとハインも、あなたとドクオも、ドクオとデレさんも。
     それに、私もあなたとドクオ、どちらも止められなかった」

ξ゚⊿゚)ξ「……失礼だとはわかっていますが、言わせてください。
      私もドクオくんも、ペニサスさんの説得はどんなものであれ受け入れなかったでしょう。
      それだけ、私達にとってデレの存在は大きかったんです」

('、`*川「そうね……特にツンさんは、生まれてからずっとデレさんを見てきたんだものね」

ξ゚⊿゚)ξ「姉、ですから」

ツンにはペニサスの言わんとすることの一端がわかった。
だって、ツンはデレの姉だから。
形は全く違うが、今この場にいる二人の姉は、互いに大切なものを失ってしまった。

ペニサスの後悔、それは防げたかもしれない事象を、手をこまねいて見過ごしてしまったこと。
ツンがデレのストーカー問題を解決できなかったことと重なるようだった。
もっと自分から手を伸ばしてみたら届いたかもしれないという奢りのような後悔だ。

('、`*川「ツンさん、今日はありがとう。あなたと話せて良かった。
     月曜日からもよろしくね」

ξ゚⊿゚)ξ「ええ。私こそ、ペニサスさんとお話し出来て少し整理がつきました。ありがとうございました」

71 ◆uYo/ERXRhs:2017/08/26(土) 15:32:48 ID:29PVt6sU0

互いに疲れた顔だった。
それでもすこし口角を上げる努力をして、ツンはペニサスを見送った。

この後はショボンと会う約束をしている。
改めて自分の格好を見てみると、普段着のタートルネックにジーンズというもので、
この少しこじゃれた喫茶店には似つかわしくないような気がしてきた。

意味もなく襟を正し、すっかり冷めてしまった紅茶に口を付けてみた。
たっぷり入れたミルクとガムシロップの甘みが、レモンの味を覆い隠すほどに効いている。

カツカツと、気に障るような靴音と共に待ち人は現れた。

ξ゚⊿゚)ξ「待ったわよ」

(´・ω・`)「……ごめんね」

ショボンはきっと気付いたのだろう。
ツンの頬には、きっと涙の後が残っている。
別にショボン相手なら隠すことではないので、化粧直しもしなかった。

先程までペニサスの座っていた椅子に腰かけたショボンは、真っ先に額をテーブルに擦り付けるようにした。

(´・ω・`)「ツン、ごめん。僕の浅はかな行動で君の邪魔を……」

ツンは内心笑っていた。
ショボンの一番の落ち度は最後の行動ではない、そもそも真犯人を見付けられなかったことなのだ。

72 ◆uYo/ERXRhs:2017/08/26(土) 15:33:17 ID:29PVt6sU0

ξ゚⊿゚)ξ「いいのよ、もう終わったことだから。
      それに、どちらにせよ証人として呼んでたドクオくんが通報して全部明らかになってたでしょ」

(´・ω・`)「……それだけじゃない。僕は自分の我を通す為に、君の想いを邪魔したんだ。
      人を殺すことは悪だと、そういう正義から行ったことじゃない。
      僕は自分自身の為に、あの刑事を利用して君を止めさせた」

ξ゚⊿゚)ξ「……別に、怒ってないわ。私が殺せなかったのは残念だったけど、でも結果は同じ。
      それに、きっとあなたが何もしなくても、
      ドクオくんを巻き込んだ時点で結末は同じだったと思うのよ」

ツンがドクオをあの場に呼び出した理由、その中の最も大きなものが、外堀を埋めることだった。
ドクオの証言をハインに突きつけることで逃げ場を塞ぐのが目的だったのだ。

そもそもツンの知るドクオがもっと気性の激しい人物だったのなら、あの場に呼び出すことはしなかった。
そうしたらきっと自分の復讐の邪魔をされるだろうと、そのくらいの予想はつく。
少し関わった中の彼は人に積極的な危害を加える人間と思えなかったからこそ、利用しようとしたのだ。

ξ゚⊿゚)ξ「それにね、本当に結果として良かったこともあるのよ。
      あの二人の刑事がいなかったら、暴れ狂うハインを
      二人がかりでも止めるのは難しかったかもしれない」

負け惜しみでもなんでもなく、本当にそう思っている。
それでも申し訳なさそうに元々垂れ下がった眉を一層下げて
こちらを窺ってくるショボンにだんだんと苛立ってきた。

ξ゚⊿゚)ξ「一つ納得がいかないのは、私に何の罪もつかなかったことね。
      ドクオくんとなぜかモララーさんも庇ってくれたせいで、
      持ってたナイフも護身用ってことにされちゃったわ」

73 ◆uYo/ERXRhs:2017/08/26(土) 15:33:49 ID:29PVt6sU0

紅茶はまだ半分ほど残っている。
ぼんやり眺めていると、ショボンが口を開いた。

(´・ω・`)「あのさ、ツン。良かったら、もう一度やり直さない?」

ξ゚⊿゚)ξ「は?」

(´・ω・`)「今回いろいろあってさ……やっぱり僕は君が好きなんだなって、思ったんだ。
      今日はこの話をしたくて君を呼んだんだよ」

ξ゚⊿゚)ξ「……憐れんでる?」

(´・ω・`)「違うよ。僕はそんな優しい人間じゃない。
      ただ純粋に、もう一度君と時間を共有したいと、そう思ったんだ」

ξ゚⊿゚)ξ「私のこと馬鹿にしてるの?」

(´・ω・`)「そうじゃないんだ。ただ、よく言うじゃないか。
      死者の為に前を向くことだって出来るはずさ」

ξ゚⊿゚)ξ「私は……」

自身の企みを阻止したことに対する謝罪は想定の範囲内であったが、
新たなショボンの提案はまったく予想から外れたものだった。

だが、そんな幸せな未来のことなんて、微塵も考えられないことだ。

74 ◆uYo/ERXRhs:2017/08/26(土) 15:34:26 ID:29PVt6sU0

ツンの願いは遂げられなかった。
大切な妹を守れず、復讐さえ叶わなかった。
こんなすべてが中途半端な状態で夢を見られるほどツンは達観していない。

ξ゚⊿゚)ξ「ねぇ、ショボン。誰がデレを殺したか知ってる?」

(´・ω・`)「ハインという、デレちゃんの友達だった子だね」

ξ゚⊿゚)ξ「じゃあ、そのハインを誰が殺したか知ってる?」

(´・ω・`)「それは……ドクオくんという、デレちゃんの友達だよね」

ξ゚⊿゚)ξ「私はデレが殺された時何も出来ず、ハインを殺して復讐を為すことさえ出来なかった。
      私なんかにあなたはもったいないのよ。
      顔も性格もそこそこのあなたなら、いくらでも添い遂げられる人はいるわ」

ツンは鞄とコートを手に取り、席を立つ。
追いかけようと立ち上がったショボンを視線だけで制し、冷たい声で言う。

ξ゚⊿゚)ξ「さよなら、ショボン。私達は、きっともう二度と会わない方がいいわ」

ショボンは無言だった。
ポケットに入れていた千円札を出して机に置くと、
ツンはショボンの顔を一瞥もせずに背を向け二度と振り返らなかった。

75 ◆uYo/ERXRhs:2017/08/26(土) 15:35:03 ID:29PVt6sU0



ξ゚⊿゚)ξ「結局、私は何も出来なかった」

店を出ての小さな呟きは、冷たい風に掻き消されてしまった。


.

76 ◆uYo/ERXRhs:2017/08/26(土) 15:35:46 ID:29PVt6sU0
これでおわりです
ありがとうございました

77 ◆TflJu3mvXc:2017/08/27(日) 01:29:46 ID:7aUvGJmI0
【業務連絡】

主催より業務連絡です。
只今をもって、こちらの作品の投下を締め切ります。

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http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/21864/1500044449/295

78名無しさん:2017/08/28(月) 19:49:04 ID:P3CRhGiY0
おつ

79名無しさん:2017/08/28(月) 19:50:55 ID:P3CRhGiY0
面白かったよ
投票これに入れる

80名無しさん:2017/08/29(火) 18:55:25 ID:ST5YqKhQ0
やるせねーな……


81名無しさん:2017/09/07(木) 02:46:28 ID:aoVsbhbI0



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