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Last Album
1
:
◆xh7i0CWaMo
:2014/09/28(日) 21:14:58 ID:jDTTQVVk0
収録作品
1.墓碑銘(Prelude)
2014年08月作 01KB
2.涙を流す日
2011年10月作 83KB
3.午前五時(Interlude 1)
2013年04月作 03KB
4.雷鳴
2012年09月作 28KB
5.ちぎれた手紙のハレーション
2014年08月作 31KB
6.聖夜の恵みを(Interlude 2)
2011年11月作 03KB
7.明日の朝には断頭台
2014年09月作 28KB
8.壁
2012年07月作 27KB
9.ジジイ、突撃死
2014年09月作 26KB
10.ノスタルジック・シュルレアリスム(Interlude 3)
2014年08月作 03KB
11.葬送
2012年03月作 78KB
12.最初の小説(Interlude 4)
2013年04月作 03KB
13.どうせ、生きてる
2014年09月作 31KB
投下スケジュール
#1〜#2 09月28日夜
#3〜#4 09月30日夜
#5 10月01日夜
#6〜#7 10月03日夜
#8 10月04日夜
#9 10月06日夜
#10〜#11 10月08日夜
#12〜#13 10月10日夜
2
:
◆xh7i0CWaMo
:2014/09/28(日) 21:16:20 ID:jDTTQVVk0
1..墓碑銘(Prelude) 20140801KB
此処に墓碑を打ち立てよう。
家族のために。恋人のために。友のために。
そして何よりも自分のために。
此処に墓碑を打ち立てよう。
これから生まれる者のために。
これから死にゆく者のために。
此処に墓碑を打ち立てよう。
全ての物語の終止符のために。
新たな物語の祝福のために。
此処に墓碑を打ち立てよう。
打ち拉がれた青春のために。
漠然とも見えぬ未来のために。
此処に墓碑を打ち立てよう。
嘗て燃やした情熱のために。
失踪を宣告された情熱のために。
此処に墓碑を打ち立てよう。
行方不明の自分のために。
未だ死に損ねている自分のために。
此処に墓碑を打ち立てよう。
それは羞恥を問わず、価値を問わず。
ただ自らの意思故に、ただ自らの夢故に。
勇気を持って名を刻もう。
3
:
◆xh7i0CWaMo
:2014/09/28(日) 21:17:29 ID:jDTTQVVk0
2.涙を流す日 20111082KB
振り返ってみると……。
私にはもっと、言うべきことがあった気がする。
私は私が語った中で殊更に主張した事柄以上に、大切な事実を隠し持ってしまっているのではないだろうか。
しかし、最早何も分かるまい。
死んだ後に意識がどうなるか、とか宇宙の果てがどうなっているか、とか、
その手のビッグ・クエッションはモラトリアムな人々のための産物だ。
私などは、ほんの少し前にそれらを捨てた。
だから今みたいにビッグ・クエッションに面と向かって立ち会わなければならなくなってしまった時、
私はどことなく卑屈っぽい態度をとって、
パーソナルな話題にまで規模を縮めて語らざるを得なくなってしまったのだ。
世間的には、おそらくこう言うのを、処世術と呼ぶのだと思う。
そういうわけだから、最後まで言いそびれてしまった事実を、最初に書き留めておく。
次の一行に限っては、おそらく誰しもにとって役立つ一行ということになるだろう。
もうすぐみんな死ぬ。気をつけて!
※ ※ ※
4
:
◆xh7i0CWaMo
:2014/09/28(日) 21:18:09 ID:jDTTQVVk0
記憶よりも遙かに時間のかかった旅路のせいで、目的地に着いた時にはもうすっかり日が暮れていた。
単行車両が滑り込むには贅沢すぎる巨大なプラットホームに降り立ったのは私一人だけで周囲には誰も居ず、
何だかこれから肝試しでもするかのような怖気が走る。
十年以上昔に一度だけこの駅には来たことがあるはずだったが、明確な記憶ではない。
あの時は電車の車両もホームの幅一杯に停まっていたし、
至る所が観光客でごった返していたのだから仕方ないのかもしれないが。
タブロイド誌で得た情報と、そこから膨らませた想像だけを頼りにして来たおかげで、
三十八度線並の警備体制をイメージしていたが、現実は呆気ないものだった。
あまりにも広々とした改札口に守衛らしき若い男が二人立っていたが、
彼らも、私に幾つかの質問を投げかけただけで、存外あっさりと通してくれた。
_
( ゚∀゚)「乗り過ごしかい」
彼らの質問は、まずそこから始まった。
(´・ω・`)「いや。ちょっと、人を探しに来たんだ」
_
( ゚∀゚)「人を探しに」
5
:
◆xh7i0CWaMo
:2014/09/28(日) 21:19:08 ID:jDTTQVVk0
彼は復唱してから私を眺め、軽く頷いた。
_
( ゚∀゚)「そうか。探してるのは奥さんか、子どもさん?」
(´・ω・`)「そんなところだね。……何か、手続きは必要なのかな?」
_
( ゚∀゚)「駅を出るのに手続きなんてあるわけない。いつものように歩いて行けば、それで構いやしない」
(´・ω・`)「ふうん。そうか、ありがとう」
_
( ゚∀゚)「ここにはどれぐらい滞在するつもりかね」
(´・ω・`)「早めに帰るべきなんだろうけど……。話の長さによるかな」
_
( ゚∀゚)「そりゃそうだな。健闘を祈るよ」
彼らは一度も笑わなかったが、会話自体は和やかなものだった。
彼らは恐らく、訪れる全員に同じような質問を投げかけているのだろう。
飽くまでも公共の場所である駅に私的な守衛が立っていることは少々奇妙だが、
業務委託の類いと思えば納得できなくも無い。事実、駅員らしき者は誰もいないようなのだ。
6
:
◆xh7i0CWaMo
:2014/09/28(日) 21:19:56 ID:jDTTQVVk0
灯りの絞られた構内を抜けて外に出ると、まず巨大なバスターミナルが眼に入る。
かつてはここに、多くの観光バスが出入りしていたのだろう。
しかし今やターミナル内には乗り捨てられたような車両が幾つかあるのみで、活気の残滓も見当たらない。
設備自体は今でも十分使用に耐えうるものであり、
廃れ具合も多少浮いている錆びに認められる程度なので、無人であることが一層不気味に感じられた。
右を見遣ると惑星を模したオブジェを頭に載せた巨大なショッピングモールが鎮座している。
昔ここに来たとき、母が多くの土産物を購入していた場所だ。
真っ白い壁面は薄汚れてはいるものの、静かな佇みには堂々とした風格さえ感じられる。
無人空間における人工物の美学、とでも言うべきか。
左には、下から見上げると不安になるほど真っ直ぐに伸びている高層ホテルがある。
嘗て宿泊した際、小市民である私たち一家は六階だか七階だかに部屋を取ったが、
最上階付近には好況に任せ、贅を尽くしたスイートルームが用意されているのだと聞かされた。
当時は憧れもしたが、今となっては何とも思わない。
この先の人生にそのような場所へ泊まる機会が無いことも確信しているが、さしたる淋しさも無い。
7
:
◆xh7i0CWaMo
:2014/09/28(日) 21:20:57 ID:jDTTQVVk0
ターミナルの向こう側には、片側三車線の広々とした道路が真っ直ぐに伸びている。
この街の目抜き通りであり、これに沿って進むと道沿いにある主要施設を探訪することが出来、
また街最大の観光資源まで真っ直ぐ向かえるのだ。
たった一人、或いは一企業によって街の基礎が作られたせいか、その構造は極めてシンプルだ。
しかし、広大であることには変わり無い。
繁栄の末期に作られた海岸沿いの別荘地まで含めると、とても徒歩で回れる規模ではない。
建物内部までを考えれば、それだけで気が遠くなる。
思えば、勢い任せでここまで来たのがいけなかった。
本気で目的を果たすつもりであったならば、もう少し準備を整えてから来るべきだった。
だが、今更引き返すわけにもいかない。私とて、追われる時間に常々苛まれる人生を送っているのだ。
旅の疲れとも取れる若干の身体の重さを引き摺りながら、私はともかく、前へ進むことにした。
※ ※ ※
8
:
◆xh7i0CWaMo
:2014/09/28(日) 21:21:53 ID:jDTTQVVk0
街について。
かつて、私がまだ生まれてもいなかった頃、この街に目を向ける者は誰もいなかった。
目立った産業に恵まれなかったこともあり、若者は次々と都会へ移り住んでいった。
唯一の強みは誰の手も加わっていない美しい海岸線と、自然の戯れによる無数の洞窟群だったが、
あまりにも手が加わっていないため危険であること、また主要都市からは、
電車を乗り継いで二時間以上かかるという交通の便の悪さゆえ、それすら活かすことが出来ずにいた。
誰もが、数ある過疎地と同じようにその街が人知れず消失することを確信していた。
しかし三十年前、ある発見を境にこの街の運命は一変した。
無数に穿たれた洞窟の一つ、その最も奥まった場所の広大な岩壁に、
幾何学模様を描く美しい発光現象の存在が確認されたのだ。
残念ながら、その美しさについて描写するだけの十分な表現の幅を私は持っていない。
しかし、誰だって知らないはずが無いのだ。
何せ、それが発見されてから二十年ばかり、その地に国内外からの観光客が途絶えた事は一度も無いのだから。
ただ岩壁に映る色とりどりの光が、何故かくも多くの人々の心を惹きつけたか、誰にも分からなかった。
私が思うに、きっと神か何かが人間を作った際、その頭にこんな風に植え付けたのだろう。
「人間よ、こういう感じの景色を見たら感動するように」と。
9
:
◆xh7i0CWaMo
:2014/09/28(日) 21:23:12 ID:jDTTQVVk0
いつしか、その発光現象に『彩色の奇跡』という名がつけられた。
この名前には二つの意味がある。一つは無論、その現象が世界中の人々を釘付けにしたという意味。
そしてもう一つは、それに伴う類い稀なる商業的成功を称える意味である。
最初にこの現象を発見したのは、ある高名な実業家だった。
考古学的な趣味を持っていたその男が誰も探索しようとしていなかったその場所に初めて足を踏み入れ、
『彩色の奇跡』を見つけたというわけだ。
彼はそれを発見するや、自らのコネクションと財力、
その他あらゆるものを利用して自身が発見した奇跡を世界中へ喧伝した。
それと同時に、その周辺の大開発に乗り出したのである。
その時点で、実業家が現象の価値に気付いていたか、それは分からない。
しかし、そのギャンブル精神のようなものこそが実業家たる所以なのかもしれない。
私のような小市民には想像の及ばぬ領域だ。
ともかく、彼は周辺の土地を買い占め、老人と共に死にゆくのみだったその街を、
巨大な観光都市へと変貌させたのである。
駅周辺にはホテルやショッピングモールが立ち並び、海岸線も整備された。
『彩色の奇跡』へ続くコンクリートの道も敷設され、美術館をも用意して芸術的な価値を高めることにさえ成功した。
全ての準備が整ってからの熱狂ぶりは、年がら年中万博を開催しているにも等しかった。
人種や年齢、性別を問わず、誰もがその地を訪れた。最終的な集客数は、延べ十億近くに上るとも言われている。
私もその一人だ。
十五年ほど前の当時、私はまだ中学生で、両親と共に格安のパックツアーで訪れただけだったが、
あの現象の素晴らしさを目に焼き付ける事は出来た。何が素晴らしかったかというと、とにかく素晴らしかったのだ。
先に述べたような特殊な経緯のため、街に占める産業は殆どその実業家が掌握していた。
そのため、世界各地から訪れた旅客の落とす莫大な金銭は、その殆どが彼の儲けとなった。
彼の得た収入は、およそ天文学的な数字だったとまで言われている。
10
:
名も無きAAのようです
:2014/09/28(日) 21:24:31 ID:v1F0rCAI0
サブカル女どころか前albumドブに捨てちゃったのん……?(´・ω・`)
11
:
◆xh7i0CWaMo
:2014/09/28(日) 21:26:23 ID:jDTTQVVk0
ところで、この発見には無論、科学的な人々も興味を持った。
奇跡には、その名にふさわしく奇妙な点がいくつかあったのだ。
何よりの関心事であるのは、先にも書いたとおり、この現象が何故多くの人々にとって魅力的に映るのか、という点。
また、発光現象のメカニズムについても定かではなく、地理的な特徴も見出せなかったのである。
しかし実業家は、この現象に科学的な検証の介入を頑なに拒んだ。
彼はこう主張した。『彩色の奇跡』すらも科学的に解明してしまえば、
この世の中に科学の窃視を被らないところは無くなってしまう。
我々はここが美しいことを知っている。それで十分ではないか。
その押し問答が繰り返されたのが発見から二十年、産業として確立されて十五年が経過していた。
今から十年前のことになる。論争は長きに渡ったが、その最中、奇跡は唐突にして終わりを迎える。
12
:
◆xh7i0CWaMo
:2014/09/28(日) 21:28:22 ID:jDTTQVVk0
五年前のその日、多くの観光客が見ている目の前で、光は消えた。それきり、二度と復活しなかった。
その後研究者による調査が行われたが、そこに残っていたのは何の変哲も無い岩肌だけだった。
斯くして奇跡の廃墟には、ただひたすら訪れづらいだけの、平凡な観光都市だけが残される結果となった。
誰も予想していなかったこの、ある種の揺り戻しは、世界規模の経済に少なからぬ衝撃を与えた。
勿論、最も影響を受けたのは当の都市そのものである。
異様なまでの伸び率で多くの観光客を動員した勃興の際と同様、減退の速度もおよそ光速に匹敵し、
一ヶ月後には誰も訪れぬ閑古鳥の巣になっていた。莫大な投資による膨大な維持費、人件費も相まって、
都市全体の運営はたちまち滞ってしまった。
実業家は事実上、事業の継続を断念し、そこで働いていた全ての労働者に少なからぬ補償をした上で、
その全員を解雇した。彼はここで、それまでに手にした利益の殆どを溶かしてしまったと言われている。
残ったのは買い手のつかない巨大な観光街だけだった。
こうして、文字通りの奇跡的なおとぎ話は一旦幕引きを迎えた。知っている話ばかりで退屈したかもしれない。
しかしこれも、私自身が頭の整理をするために必要な過程だったとして、勘弁してやってほしい。
※ ※ ※
13
:
◆xh7i0CWaMo
:2014/09/28(日) 21:29:55 ID:jDTTQVVk0
通りに沿って立つプラタナスは、手入れを放棄されて好き放題に生い茂っている。
その下を歩いていると、宵闇の暗さも相まって、何か絶望のような空気に抑えつけられている気がした。
誰もいない。本当に、人っ子一人見当たらなかった。
守衛にもう少し詳しい情報を聞き出しておくべきだったかもしれない。しかし今更引き返すのも億劫だ。
片側にはシャッターが犇めいている。かつては土産物屋や飲食店、ブティックなんかも軒を連ねていたのだろう。
しかし、あらゆる装飾の取り除かれた街路の景色は、没個性をも遙かに凌ぐほど殺風景だ。
もっともそれ自体は、
この街の機能が全て『彩色の奇跡』を際立たせるために存在しているのだと考えれば不思議ではない。
私はぼんやりと歩き続けていた。このまま進めば件の洞窟に到達してしまう。
案外と、目的地はすぐそこであるのかもしれない。
しかしそれは、あまりにも神秘的過ぎるのではないか。
歩きながら思考すると、考えがまとまるようでまとまらない。紙とペンが欲しくなってきた。
私が今、何をするべきか……。
14
:
◆xh7i0CWaMo
:2014/09/28(日) 21:31:56 ID:jDTTQVVk0
やがて、オープンカフェの名残であるらしい丸テーブルと椅子を見つけたので、
どっかと腰を下ろして深いため息を吐く。どれぐらい歩いただろうか。洞窟まであとどれぐらいだろうか。
十五年前はこの道をバスで走ったからいまいち見当がつかない。
記憶の捜索から、唐突に現在の両親へ想いが行く。父は昨年会社を定年退職し、今やすっかり隠居の身である。
どちらかというと仕事人間だった父は、これから多くの自由を満喫すべきだったのだろう。
それを妨げているのが私たちであるというのは、何とも情けない話だ。
全てがどうしようもない。どうにかする方法など、何一つ無い。
悲嘆を形成しようとする頭の代わりに、私は持ってきた肩掛け鞄の中身をがさがさと混ぜ返す。
何しろ無計画な往路であったものだから、めぼしい道具は何一つ持ち合わせていない。
あるのは財布と電源の落ちた携帯電話……それから家族写真。ミネラルウォーター……。
私はそのペットボトルを取って一気に半分ほどを飲み下した。
静けさのせいで、喉の鳴る音が一層鼓膜に響く。その一瞬、よくわからない愉悦のような感情が込み上げてきた。
こんなところで何をしているのだろう……何のためにここに来たのだろう。私の目的とは、一体何だったろう。
考えているうちに許容を超える水が口で渦巻き、思わず咳き込む。
それからまた歩き出した。
ともかく、『彩色の奇跡』までは向かってみようという決心がついたのだ。
例の現象が失われ、剥き出しの岩肌を見て面白くないと思い浸るのも悪い話ではあるまい。
15
:
◆xh7i0CWaMo
:2014/09/28(日) 21:35:05 ID:jDTTQVVk0
そうやって見栄えの変わらないシャッター通りを歩いていると、向こうから足音が聞こえた。
それに加えて、カツカツと響く金属音。杖でもついているのだろう。私は思わず身構えた。
やがて見えてきたのは腰骨の酷く曲がった六十過ぎと思しき老婆だった。
頼りにしている杖の先端だけを見つめ、ゆっくりゆっくりと此方に近づいてくる。
そしてそのまま私に気付かず通り過ぎていこうとしたところへ、慌てて声をかける。
(´・ω・`)「あの、すみません。ちょっとお尋ねしたいことがあるんですが」
('、`*川「……なんだね」
喉を患っているかのような嗄れ声で、老婆は応じた。
('、`*川「いや、言わなくてもいい。わかっとる。誰を探しに来たんだ。妻か、娘か」
(´・ω・`)「妻です。ご存知なんですね」
('、`*川「お前のことなど知るはずないだろう。けれど、お前のようにこの街にやってきて、
迷子になる奴らはよう知っとる」
老婆は大儀そうに私を見上げ、吐き捨てる。
('、`*川「面倒臭い奴らめ」
16
:
◆xh7i0CWaMo
:2014/09/28(日) 21:36:31 ID:jDTTQVVk0
(´・ω・`)「お気持ちは察しますが、私としては、個人的でかつ重要な問題であるものですから……」
('、`*川「分かっとるわ。行くぞ」
(´・ω・`)「どこに?」
老婆は私が辿ってきた道の方を指さす。その先には、暗がりに敢然と聳える件のホテルがあった。
('、`*川「この時間は皆で夕食を摂っているはずだ。いい加減、案内板でも建てた方が良いのかも知れんな」
これは迂闊だった。灯台もと暗し、などとつまらない形容の仕方をするしかない。
やはり、何も考えずに人を探すというのはあまり合理的では無いようだ。
私はまるで人生のように、元来た道を引き返すことにした。
※ ※ ※
17
:
◆xh7i0CWaMo
:2014/09/28(日) 21:38:58 ID:jDTTQVVk0
街についての続き。
ゴーストタウンと化した街は、都合三年ばかり放置されていた。
街に付随していた、例えば別荘用の不動産や観光地にふさわしい小売やサービス業、その他細々とした産業は、
一挙に衰退を余儀なくされた。公共交通機関の運行も大幅に縮小されたが、それでも赤字続きだったという。
そのため、一時は廃駅なども検討されたのだそうだ。
あらゆる媒体から街の名前、及び『彩色の奇跡』は姿を消し、
もう二度と人々の話題に上ることは無いように思われた。
元々失われる運命だった街が、三十年ばかりの長い夢を見ていた……そんな、ちょっとした感傷を残して。
それが二年前、ある事件の発生によって街は再び取り沙汰されることとなった。
発端はある地方新聞の記事である。
行方不明になっていた若い女性が、その街で歩いているところを保護された、という内容だった。
その女性は数週間前に家族の前から忽然といなくなり、夫が捜索願を出していたのだ。
記事はそれ以上のことを何も書いておらず、続報も無かった。
無論、その事件自体は女性が保護されたことによって終わったものであり、
それ以上何の話題性も無いのだから当然であろう。
しかしそれからというもの、今度は二流、三流のタブロイド誌に舞台を移し、
街は幾度となく語られることとなった。
行方不明になった人々が、廃墟となったかつての観光街に集まっているという、奇妙な噂を引っ提げて……。
私の見た記事にはある男の体験談が掲載されていた。それは、次のような具合だ。
18
:
◆xh7i0CWaMo
:2014/09/28(日) 21:40:42 ID:jDTTQVVk0
(-@∀@)「嫁が、ある日突然いなくなったんだ。俺には何の心当たりにも無い。勿論、DVなんてしたこともねえよ。
前夜までは、そりゃもう仲の良いものだったさ。それが翌朝、突然いなくなってた。
居間のテーブルに短い書き置きがあって、そこには『分からないために向かいます』とだけ書いてあった。
もう俺にはさっぱりだよ。家が荒らされた形跡もないし、拉致や誘拐ってわけじゃなさそうだ。
警察に掛け合っても、まともに取り合っちゃくれない。もうどうしようもなかった。
自力で探すにしてもまるっきりアテがない。携帯は家に残されたまんまだ。手がかりゼロ。
取り敢えず警察に捜してもらうよう頼んで、それきりさ。
もう俺、毎晩泣き明かしたよ。だって俺、愛してたんだぜ、嫁を。
何一つ進まないままに月日が経過した。そして丁度二ヶ月目の真夜中に、俺の携帯が鳴った。
出てみると嫁の声だ。おい、お前何やってんだ。問い質しても、嫁の答えはどうも要領を得ない。
どこに居るんだって言ったら、例の……『彩色の奇跡』の名前を出した。
よし、じゃあ今すぐそっちに行くぞ。嫁ははっきりと拒みやがった。
そして言ったんだ。別れてほしいと。
そりゃ……ねえ。二ヶ月も行方知れずになった挙句、
久々の電話で離婚を告げられた日にゃ、俺だって頭にくる。
おい、そりゃ一体どういう了見だ、馬鹿野郎。男が出来たのか。嫁は何とも答えなかった。
それどころか、淡々と離婚の手続きについて話し始めた。
巫山戯た話でしょう。しかし、同時にそれが嫁の本心だというのが伝わって……
なんというか、気後れしちまった。
嫁は言った。財産分与は放棄する。必要なら、慰謝料も払う。
そうまで言われちゃ、男として形無しでしょう。
けど俺だって嫁と別れたくない意地は残ってたから、離婚はしないって言い張ったんだ。
そしたら嫁はそれでも構わないと。けれど、そちらに戻るつもりもないし、その余裕も無いと。
そして、電話は切れた。それっきりさ。俺はもうどうすりゃいいのか分からんよ。
無理に踏み込んでも、何も解決しない気がするんだ」
19
:
名も無きAAのようです
:2014/09/28(日) 21:42:13 ID:oGBVGmiw0
読むぞ
20
:
◆xh7i0CWaMo
:2014/09/28(日) 21:44:03 ID:jDTTQVVk0
掲載雑誌の質の問題もあり、体験談の一切を鵜呑みにするわけにはいかない。
しかし、その記事を口火に、あらゆる週刊誌、及びオカルト系専門誌に、
似たような話題が続々と取り上げられるようになった。
街へ向かう行方不明者には幾つかの共通点があった。
行方不明者には明確な動機が無い。皆、その直前までごく普通の生活を送ってきた一般人だ。
そして、姿を消す際には必ず『分からないから向かいます』という短い書き置きを残す。
そしてしばらくすると、ごく事務的な電話がかかってくる。
もう戻れないという旨、そしてそれに関する問題事項を解決する旨が、
その人に最も近しいと思われる人に伝えられる……。
街に乗り込んだ人は、私以前にも何人か居たようだ。
しかし彼らは全員、電話と同じような内容を行方不明者本人から淡々と述べられ、
体よく帰されてしまったという(中には不明者と共に街へ住み着いた者もいるというが、真相は定かでない)。
これらは全てタブロイド誌レベルの規模でしか報じられず、
テレビや新聞でこの話題が取り上げられているのを、少なくとも私は見たことが無い。
理由は幾つか考えられるが、その最たる者は行方不明になること自体に、事件性が無いということだろう。
不明者は必ず現れるし、彼らは全員完全なる自由の身でいる。誰かに脅迫されているような形跡は一つも無い。
意識の変遷に些か疑問が呈されるが、あまりにも説得力に欠ける。
それ以上のものが事実として何も見えない限り、大マスコミが追及するネタでもない。
それらは、背後にあらゆる陰謀を夢想する人達の役割だ。
21
:
◆xh7i0CWaMo
:2014/09/28(日) 21:45:34 ID:jDTTQVVk0
かつて『彩色の奇跡』という、史上最も大規模で不可思議な現象の起きたその土地は、
超常現象の土壌にはうってつけだったのである
事実、面白おかしく取り上げている雑誌群はカルト教団や国際組織、
果ては秘密結社の影を指摘したりもしたが、証拠らしい証拠は何一つ無く、
むしろ取材すればするほどそれらから無縁であることが判明する有り様だったようだ。
最も真実味を帯びていたのはかつてその地で一大産業を築き上げた件の実業家の陰謀という説だったが、
それにも確たる根拠があるわけでもなかった。
斯くて、一連の報道はオカルトの域を出ない話題性と、
ニュースバリューそのものの減退によって徐々に誌面での存在感を潜め、
結局は初出から一年足らずで完全に姿を消してしまったのである。
※ ※ ※
22
:
◆xh7i0CWaMo
:2014/09/28(日) 21:47:53 ID:jDTTQVVk0
ホテルへ戻る途上、私は老婆に質問攻めを仕掛けることにした。
(´・ω・`)「雑誌で見ました。ここに、全国から行方不明者が集まっていると」
('、`*川「全国というより、全世界だな。色んなところから色んな人種が集まっているよ。
もっとも、数自体はそれほど多くないが」
(´・ω・`)「貴方もその一人ですか?」
('、`*川「ふん、どちらでもないな。だが、ここで暮らす権利はある」
(´・ω・`)「権利? ここで暮らすには何か資格が必要なのですか?」
('、`*川「下らない話だがね。その資格を決めたのは、別に神様というわけじゃない。
しかし、資格は資格だ。誰にだって従ってもらう」
(´・ω・`)「彼女……妻にはその資格があったのでしょうか」
('、`*川「だからここへ来たんだろう」
(´・ω・`)「そのことは、雑誌には書かれていなかったな」
('、`*川「当然だ。今まで誰にも話していない。間違っても売文の連中に話すものか」
(´・ω・`)「では、それを私に話したのは、私にその資格があるからですか?」
('、`*川「いや。ただ、もう隠し通す必要もなくなっただけでね……
そういえばお前、風邪でも引いているのかい。ぼうっとした顔をしているが」
(´・ω・`)「まあ、似たようなものです。ところで、貴方は何をしていたんです? 随分遠くに行っていたようですが」
('、`*川「ちょっとした野暮用さね……」
23
:
◆xh7i0CWaMo
:2014/09/28(日) 21:50:48 ID:jDTTQVVk0
老婆が言葉を濁した辺りで、私たちは駅に隣接した巨大なリゾートホテルの前に到着した。
外からは灯りを確認できない。黒く聳え立つその影を例えるならば墓標か、頑健な焼失……
或いは、データセンター。いずれにせよ、飲み込まれるには多少の度胸が要る。
('、`*川「客を接待する機能はとうの昔に失われておるからな。節電も兼ねて、必要外の電灯は全て消してあるんだ。
だからお前のように、あちこちうろつき回る奴がたまに出てくる。何とも面倒な話だよ」
(´・ω・`)「その点については謝ります……しかし、それではここにいる人達は何処に集まっているんです?
食事すら暗闇で行うわけではないでしょう。ラマダンじゃあるまいし」
('、`*川「地下に宴会場として使われていた広間がある。皆、そこで飯を食うんだ。そして、話し合う」
(´・ω・`)「何を話すんです?」
('、`*川「おかしなことを言う」
老婆は私の方を向いて目を細めた。
('、`*川「話すことなど幾らでもある。話さない方が難しいくらいだ。
……しかしあんたは良い時に来たね。今なら、益々話が盛りあがっとる筈だよ」
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